自動車部品メーカーが、中国における事業体制の手法において大きく舵(かじ)を切り始めている。それは、生産設備の増強や研究開発部門の強化といった取り組みに加えて、ここにきて現地企業との合弁を解消して単独資本に切り替える動きが目立ってきたことに表れている。自動車業界における成長のカギを握る新興国市場。日系完成車メーカーにとどまらず、グローバルで存在感が高まっている中国の現地メーカーの取り込みを狙うことに加え、最近クローズアップされてきた労務費の課題を解決するためには、迅速な経営判断が求められているからだ。
「中国への対応は、日本からのオペレーションだけではもはや対応しきれない」―。ある部品メーカーの関係者は、中国市場を取り巻く現状についてこのように話す。
自国の産業保護を目的に、かつては外国資本単独での進出が認められてこなかった中国。このため、日系完成車メーカーの現地生産に合わせて現地拠点を立ち上げた部品メーカーも、現地企業と合弁の形をとることで進出を果たした。
インド、ブラジル、ロシアとともにBRICsとして、新興国として名乗りを上げた中国。自動車産業に限って言えば急激に存在感を高め、いまや生産、販売ともに世界最大規模にまで成長してきた。こうした動きを受けて、日系にとどまらず世界の完成車メーカーは、生産規模の増強を急ピッチで進めてきた。同時に部品メーカーも新工場の建設や新たな生産設備の投入などを積極的に進めてきた。
ここまでの動きであれば、既存の経営体制でも対応可能であった。しかし、想定を上回る中国自動車市場の成長が、経営体制を見直す動きに拍車をかけた。
この最大の要因となったのは、中国の現地メーカーの存在だ。
「地場メーカー向けのビジネスを展開するためには、生産だけでなく研究開発や設計に至るまでのインフラを構築しなければ対応できない」と別の部品メーカーの関係者は話す。こうした経営基盤の強化を矢継ぎ早に展開する最短ルートとなるのが、単独資本による中国法人の運営だ。
また、企業によっては、これからの新興国市場向けの低価格部品の製造・開発における「マザー機能」を中国に置こうとする動きも見られ始めているなど、グローバルでのビジネスにおける存在感を高めるためにも中国事業の体制強化は必要不可欠なものとなっているといえる。
この動きとあわせて今後、何らかの取り組みが不可欠となっているのが、上昇基調にある労務費対策だ。実際、ここにきて日系の自動車関連企業でも労働者の賃金に対するトラブルが起きはじめている。「そろそろ、人件費の上昇に対して多少のリスクは負わなければならないだろう」(前出の部品メーカー関係者)。こうした問題を円滑に解決していくためにも経営体制の見直しは不可欠であるといえそうだ。
(編集第二部 嶺井 政敏)
[2010年6月28日 4時29分 日刊自動車新聞 ]