中国新聞オンライン
中国新聞 購読・試読のお申し込み
サイト内検索

日印の原子力協定 被爆国の責務はどこへ '10/6/27

 核拡散防止よりもビジネスを優先するということか。政府は、インドと原子力協定締結に向けた交渉を週明けから始める。原子力発電関連の輸出に道を開くのが狙いである。

 インドは核拡散防止条約(NPT)に加盟しないまま核実験などの核開発を進めてきた。そこへ原発の機器や技術を輸出すれば、核拡散に加担することになりかねない。核なき世界の実現を先頭に立って訴えるべき被爆国の責務を置き去りにしてはいないだろうか。

 NPTは、五つの核兵器国による核軍縮、非核兵器国の原子力平和利用、核不拡散の義務―を柱とする。日本を含む原子力関連技術の輸出国グループ(NSG)は、非加盟国への原子力関連の輸出を規制し、NPT体制を支えてきた。

 ところが、原発ビジネスを進めたい米国の思惑で、経済発展が著しいインドを例外扱いする流れが出てきた。NSGは2008年、インドへの輸出解禁を認めてしまう。

 インド側は、核実験を停止し、民生用の原子力施設のみIAEA(国際原子力機関)の査察を受けるとの条件。軍事用は対象外である。

 NPTの枠外にいて、原子力関連技術や核燃料を輸入でき、核兵器開発はほぼノーチェック。そんな例外をつくれば、核開発に駆り立てられる国への歯止めが失われ、NPT体制の形骸(けいがい)化を招きかねない。批判の声が、被爆地はじめ日本国内で高まったのも当然だろう。

 このため、米国やフランスはインドと原子力協定を結んだが、日本政府は協定に対して慎重な姿勢を取ってきた。民主党も昨年7月の政策集で「北朝鮮やイランなどに誤ったメッセージを送ることになりかねない」と協定を批判している。

 民主党政府が政策を転換した背景には、新成長戦略の一環として原発輸出による企業進出を推進する狙いがあるのは間違いなかろう。日本企業の技術力が欠かせない米、仏からの要請もあったようだ。

 岡田克也外相は「日本だけが違う判断を行うのは困難になった」と会見で述べた。インドと話し合う中で、核不拡散について一定の歯止めを設けたいとの考えも示した。ただ、輸出を認めながら、どれほどの条件が付けられるだろうか。

 被爆国の政府がなすべきことは、あくまでもインドにNPT加盟を強く求めることである。




MenuTopBackNextLast
安全安心