2010年7月1日0時1分
歴史に残る「名宰相」とその構想は、毀誉褒貶(きよほうへん)を伴いつつ、その時代に夢と希望を与え、国民もさまざまな階層で議論を行った。結果として国民は積極的に政治に参加した。
戦争放棄と文化国家の建設という目標を掲げた吉田茂、国民所得の倍増を説き実行した池田勇人。日米安保条約の改定に政治生命を賭け、日米関係の重大さを説いた岸信介。沖縄返還を実現した佐藤栄作。
田中角栄はインフラ整備で地域格差の是正を目指し、日中国交正常化に取り組んだ。「小泉・竹中」コンビは小さな政府で、民営化を推し進めた。
その時々のテーマの多くは、今日まで受け継がれ、国家運営の根幹をなしている。
だが、安倍、福田、麻生と内閣は迷走。自民党に夢をなくした我々は、民主党鳩山政権を選んだが、またもや短期間で菅直人首相に交代した。
この間、我々は国の具体的な将来像、進むべき道筋を聞かされたことがなかった。聞かされるのは場当たり的な対策と、対立政党への批判合戦ばかり。巨額の借金に頼る我が国の財政は、破綻(はたん)寸前だ。この危機から脱出するには健全な経済成長しか手段はない。
菅新首相は「経済」「財政」「社会保障」の強化を掲げ、医療や介護、福祉、環境などを新成長分野と位置づけた。だが、鼎立(ていりつ)する課題を一気に解決するのは不可能だし、医療や介護といった分野の急成長は困難だ。
我が国の経済成長はまず新技術を伴った製造業の国内生産力の回復が必須の条件だ。輸出産業が当面、日本経済を主導しなければならないのは明らかだ。付加価値の生産による経済成長という原点にかえることが肝要だ。(樹)
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「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです。