関連記事

進まない処分豚舎収容限界 川南の男性

(2010年6月7日付)

■ワクチン接種、飼育1000頭成長 消毒も追われ疲弊

 口蹄疫の感染拡大を防ぐため、殺処分を前提としたワクチン接種。川南町の養豚農家の男性(51)方は5月24日に接種を終えたが、殺処分のめどは立っていない。感染疑いの家畜の殺処分が進まないからだ。「豚が成長し過ぎて豚舎に収容できない」と悲鳴を上げる男性。処分が一日延びる分、成長する豚、積み重なる疲労、感染への恐怖―。先の見えない時間との勝負に、再開を考える余裕すらない。

 千頭を飼育する男性の豚舎では、出荷がストップして1カ月以上になる。「豚舎が四つありますが、どれも満杯です。出荷できなくても餌をやらんわけにはいかんので、112キロで出荷していた豚が今は150キロを超えている。ぎゅうぎゅう詰めで豚が豚舎から逃げ出すかもしれない。今でも月150頭の子豚が生まれている。本当はやりたくないが、人工中絶も考えないといけない」

 豚舎は自宅と同じ敷地にあり、殺処分後は自分の敷地に埋めることを決めた。

 「(自分の敷地に埋却することに)近所の同意は取れましたが、『井戸水に影響はないのか』『ほかの場所はないのか』と聞かれる。豚のことだけでなく、そのことでも悩みは尽きない。においが心配なので、せめて自分の家の方に寄せて埋めようと思う。早く殺処分を進めてほしくて、穴を掘る重機の手配も自分で済ませた」。電話の男性の声は暗く、ため息が交じる。

 ワクチン接種後も抗体ができるまで2、3週間かかる。「朝7時に豚舎に行って1頭1頭、鼻をつまみながら感染していないか調べます。その間は何とも言えない不安に襲われる。消毒作業も重労働。豚舎の周りに石灰をまいても、雨が降ったら流れてしまう。消毒液の散布も、毎日何回もやらないといけない。こんな状態が1カ月以上続いているんです。家内は精神的にも疲れ、豚舎に近づけない。全部1人でやっているから、私も限界です」

 男性は30年前に豚40頭から始め、妻と2人で規模を広げてきた。「苦しいときもあったけど、豚のおかげで3人の子どもを育てられた。口蹄疫が広がってから、普通の暮らしがどれだけぜいたくなことか、身に染みて分かる」

【写真】ぎゅうぎゅう詰めの男性の豚舎。「このままでは豚が豚舎から逃げ出してしまう。体力も精神力も限界」(写真は男性提供)