日本政府が、核拡散防止条約(NPT)に未加盟のインドとの原子力協定締結への交渉開始を決めたことに対し、長崎原爆被災者協議会など長崎県の被爆者5団体は28日、「NPT体制の根幹を揺るがす」などとして締結構想を破棄するよう求める要請文を、菅直人首相、岡田克也外務相、直嶋正行経済産業相にあてて送付した。
要請文では、「NPT加盟国であれば原子力発電で産出されるプルトニウムなどは国際原子力機関(IAEA)の管理下に置かれるが、未加盟国では原子力技術が核兵器開発に使われない保証がない」と強調。「唯一の被爆国がなすことか」と怒りを前面に出し、「政府はインドに核兵器を早期に廃絶してNPTに加盟するよう働きかけるべきだ」としている。
■「NPT骨抜きに」長崎
日本政府はこれまで、被爆国として核拡散防止条約(NPT)に基づく核軍縮・不拡散を主張してきた。先月の条約再検討会議にも、長崎から多くの被爆者が会場となったニューヨークを訪れ「核兵器なき世界」を訴えた。その直後のNPT未加盟国で核保有国インドとの原子力協定締結交渉入り。被爆地・長崎では同条約を骨抜きにする動きとして、戸惑いと反発が広がっている。
同協定が締結されれば、日本の原子力技術が核兵器開発へ流用される恐れは否定できない。世界平和アピール七人委員会委員の土山秀夫・元長崎大学長(85)は「被爆国にあるまじき行動で、理念を金で売り飛ばすに等しい」と政府を厳しく非難する。
岡田克也外相は25日の会見で国際的には「(インドが)NPTの全く外にいるより、一定の範囲で責任をとらせ、国際的不拡散体制に取り込む」流れにあるとした。交渉にあたり政府は核不拡散・軍縮の条件を求める意向だ。だが、NPT再検討会議に首相も外相も派遣せず、存在感を示さなかった政府に対し、長崎では「核軍縮を軽視しているのではないか」と不信感が高まっている。
菅直人首相は、所信表明で「核なき世界へのリーダーシップ」を宣言した。その言葉と今回の交渉入りに矛盾はないのか。政府の「本気度」が問われている。
=2010/06/29付 西日本新聞朝刊=