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社説:G20財政目標 日本こそ必要な危機感

 主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が財政健全化に向けて大きくかじを切った。「先進国は2013年までに財政赤字を半減させ、16年までに債務の増加を止める」。首脳宣言には、期限付きの具体的な目標が明示された。

 金融危機を受け、新しい協調の舞台として浮上したG20は、危機克服を最優先に、なりふり構わぬ景気刺激策を打ってきた。しかし副産物として借金が積み上がり、新たな危機の種になった。今度はこの種を除こうというわけだ。サミットはG20が転換点に立ったことを印象付けた。

 財政健全化をどこまで強く推し進めるべきかを巡っては、参加国間に隔たりがあった。ギリシャ発の信用不安に見舞われた欧州勢は、何より財政再建を急ぐべきだと主張。米国は主要国が一斉に財政をしぼれば世界経済が二番底に陥りかねないとして、景気刺激策の継続を呼びかけた。

 財政再建か成長か--。首脳宣言には双方に配慮した文言がちりばめられ、「成長に優しい財政再建」なる新語も登場した。しかし、議長国カナダが提案した数値目標が最終的に宣言に入ったことは、市場への明確なメッセージとなったはずだ。

 問題は日本である。財政状況が飛び抜けて悪い日本は、目標の対象外という特別扱いになった。同じ目標を課しても守れるはずがないからだが、先進国で唯一の“落ちこぼれ組”である。

 落ちこぼれは、人並み以上の努力をしないと合格点に近づけない。ところが、日本以外の国の方がはるかに強い危機感で財政再建に取り組んでいる印象だ。英国では5月の総選挙で誕生したばかりの連立政権が、来年1月からの付加価値税(消費税に相当)引き上げや歳出の大幅削減をすでに決めた。ドイツは国内総生産に対する公的債務残高が80%程度(日本は約180%)だが、戦後最大規模の財政健全化策に着手しようとしている。このままでは、菅直人首相が呼びかける「超党派による協議」が結論を見る前に、他の先進国は健全化を達成しそうだ。

 幸い日本は国債の金利が一段と低下しているため切迫感がないが、これがいつまでも続くという保証はない。金利が低い理由の一つに、日本の増税余力がある。消費税がすでに20%近辺の欧州諸国と違い、日本には増税で財政を改善できる余地が残っている。ただ、余地はあっても「実行は政治的に厳しそうだ」と格付け会社や市場がみなせば、金利が急上昇することもあり得る。

 政治的に困難なことを実行できない国とみなされることは、財政に限らず国際舞台を主導するうえでも、大きな損失となろう。

毎日新聞 2010年6月30日 2時31分

 

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