【介護保険法を根拠に個人情報が収集される】 自治体に対する、他の機関からの照会は刑訴法に基づくものだけではない。公安調査庁が「破壊活動防止法第27条に基づく破壊的団体の規制に関する調査」を理由に、外国人登録原票のコピーを自治体から入手した事実があり、尼崎市も同庁にコピーを提供している(朝日新聞阪神版2001年9月6日)。 介護保険法にも、厚生労働大臣や都道府県知事が「介護給付等に関して必要があると認めるとき」、居宅サービスなどを行った者に対して、「報告若しくは当該居宅サービス等の提供の記録、帳簿書類その他の物件の提供を命じ、又は当該職員に質問させることができる」(第24条)、「厚生労働大臣又は都道府県知事は、市町村に対し、必要があると認めるときは、その事業の実施の状況に関する報告を求めることができる」(第197条)という規定がある。 愛媛県介護保険課はこの規定を適用し、新居浜市が重度障害者に発行(市単独事業)したタクシー利用券の利用者名簿、「介護サービス利用票」といった個人情報を本人に無断で同市から提供させたたことがある。同県個人情報保護条例も、個人情報は「本人から収集する」のが原則だが、県は「原則の適用外である『法令の定めがある場合』に該当する。法令違反を発見するために必要である」と説明している。この調査は、県と対立関係にある介護タクシー業者の利用者に関して行われたものであった。同県は「介護タクシーは介護保険制度になじまない」という姿勢であり、情報の収集先は、利用者にこの介護タクシー業者を紹介したケアマネージャー。結局、違反は発見されず(朝日新聞愛媛版2003年3月19日)、「いやがらせ」と受け止めている人もいる。 【アクセス・ログも非開示?】 住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)導入にからんで、自己情報コントロール権を守るために「アクセス・ログ(自分の情報をだれが見たのかの記録)」の開示を求める動きがある。だが、警察からのアクセスの存在すら非開示という尼崎市の対応が法的に認められるとなると、「警察からの照会があったかどうかがわかる」という理由で、同じ役所内の他の部署やその他の官庁からの照会も含めて非開示にされかねない。 確かに、捜査照会を情報公開したり、本人情報開示の請求に応じたりすれば、捜査に支障が出ることは否めない。が、捜査目的のためなら「何でも調べられる」「何でも秘密」というわけにはいかないだろう。家宅捜索や逮捕には裁判所の許可がいるように、人権とのバランスをとる必要がある。実際、警察の捜査や官庁の調査に関する法律の内容は漠然としたものであり、乱用のおそれが否定できない。これらの乱用から「自己情報コントロール権」を守るための法制度の整備が必要ではないだろうか。 |