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警察官や役人は、市民の個人情報を自由に見る権限があるのか?

新浜一郎2004/02/12
「法令の定め」という例外規定は、自治体職員や警察官などが、条文を根拠に、それらを恣意的に運用する危険性がある。
日本 人権 NA_テーマ2
 【「法令の定めがある場合」に乱用のおそれ】
 異なる官庁同士、あるいは同じ官庁でも異なる部署の間で市民の個人情報が本人に無断でやりとりされる。こんなことが許されてよいのだろうか。都道府県や市区町村の個人情報保護条例は「個人情報は本人から収集する」のを原則としながら、「法令の定めがある場合」を適用外としているものが少なくないからだ。「法令の定め」という例外規定は、自治体職員や警察官などが、包括的かつ漠然とした条文を根拠に、それらを恣意的に運用する危険性がある。
 
 兵庫県尼崎市のある市民の調べによると、刑事訴訟法に基づく警察から市への身上調査、捜査関係事項の照会が2002年に4261件もあったという。人口47万人の都市で120人に1人が毎年捜査対象になっているという計算だ。また、31万人の那覇市の1999年の照会件数は2776件(琉球新報2000年11月4日)で、市民110人に1人の割合である。これらすべてが正当なものなのか、市民は確かめようがないのが実態である。
 
 尼崎市のある市民が2002年夏、同市公文書公開及び個人情報保護条例を使って「1999年以降警察から○○(本人)に関しての照会文書」を開示請求したところ、「文書の存在を含めて非公開」(いわゆる「グローマー拒否」)という決定だった。

 警察の照会文書は、刑事訴訟法第197条第2項に基づいており、「(国や他の自治体などとの間における)協議、協力、依頼等に関する情報であって、公にすることにより、市と国等の協力関係又は信頼関係が損なわれると認められる情報」(条例第7条第5項)、「公にすることにより、……犯罪の予防その他公共の安全と秩序の維持に支障が生じると認められる情報」(同第10項)に該当する、というのが理由だ。

 この市民は異議申し立て(02年11月12日)をし、それから1年余過ぎた03年11月26日、市側は、市公文書公開等審査委員会に「非開示理由説明書」を提出した。2月中にも、異議申し立て人による意見陳述がある見込みだ。

 【あなたは「捜査対象」かもしれない】
 刑訴法197条2項は「捜査については、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる」というものだ。非開示理由説明書は「尼崎市長が被照会者本人に本件公文書の開示を認めることになれば、本来秘匿で行われている捜査活動を白日の下にさらすことになり、捜査機関の行っている捜査活動を妨害するとともに尼崎市長と国等の機関との協力関係を損なうことになる」とし、捜査への協力は「市長に要請されている事務である」と述べている。

 さらに、「本件公文書は警察が犯罪があると思料したときに、犯罪捜査のために公務所等に照会するものであり、内偵捜査の段階の照会も含まれ、高度に秘密性が高いものである。何らかの犯罪を犯した者が、犯行が露見していない段階で、警察から捜査の対象とされていることを知れば、逃走又は証拠隠滅を図ることは十分予想される」。

 「公文書の存否」についても「非開示としながらも文書の存在を認めてしまうと……捜査対象とされていることが分かり」、「文書の不存在を理由に非開示決定をすると、被照会者本人が捜査の対象となっていないことが分かり、何らかの犯行を企図している場合、それを実行することも予想され」ると説明している。
 
 『刑事訴訟法入門』(第3版、藤木英雄、土本武司、松本時夫著、有斐閣双書)は「照会事項の制限はない。この照会は相手方の承諾を前提とするものではなく、照会を受けた公務所または公私の団体は報告の義務を負う」としながら、「強制する方法もないので一種の任意捜査」と解説している。
 
 自治体には、戸籍や住民票に限らず、公立図書館の閲覧カード、国民健保、国民年金、介護保険など数多くの個人情報が蓄積されている。もし、「捜査の都合」だけで個人情報が警察に渡り、しかも、照会の事実すら本人に非開示となると、本人の知らぬ間に権力に監視されているのではないのか、という恐怖を感じざるをえない。
 
 実際、権限乱用の事実もある。兵庫県警の暴力団担当の警察官が2000年12月、捜査照会で電話会社から携帯電話の契約者の住所を入手し、知人にそれを漏らし、見返りに5万円をもらい、加重収賄容疑で逮捕されたケース(共同ニュース2003年10月20日)だ。同県警は01年12月、「照会書」に関する例規を作成し、すべての照会書についてどんな理由で照会したかを記録、保存することを義務づけた(毎日新聞03年10月21日)としている。

 また、那覇市には、戸籍の身上照会の個人名を非公開としながらも、警察などの照会機関を公開した例がある(琉球新報同上)。が、市民に自己情報コントロール権が保障されている状況にはまだほど遠いと言わざるを得ない。
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