今井正という映画監督がいた。戦後間もなく「青い山脈」を撮って民主主義をうたい上げ、その後も「ひめゆりの塔」「橋のない川」など、反戦、差別問題に正面から向き合った。
今井監督が一九四五年に朝鮮人監督と共同制作した「愛と誓い」を見た。戦争末期、朝鮮の若者に神風特攻隊への志願を呼び掛けた国策映画だ。韓国の映画社にフィルムが残され、日本では初公開という。
朝鮮に住む一人の日本人青年が特攻隊員になり戦死する。新聞社の見習いだった朝鮮人の若者が遺族の取材をして心を打たれ、自らも「後に続く」と特攻隊に志願する−。
「内鮮一体」が叫ばれた植民地時代ではあるが、ヒューマニズムあふれる今井作品を見てきた私には衝撃だった。
ただ、少し擁護すると、戦意高揚を感じる映画ではなかった。戦闘場面はほとんどない。むしろ、幼子と二人残された若い妻の悲しみが抑制された表現で描かれていた。息子を入営させる朝鮮人の両親が壮行会で周りの日本人から激励され、戸惑う様子もあった。
この映画を撮った監督の反省が戦後の創作活動につながったのかもしれない。
特攻隊で戦死した朝鮮人は十六人確認されている。韓国では「日本帝国主義への協力者」という見方が強いが、最近ようやく「父やおじは戦争の犠牲者だった」と名乗りを上げる子孫が出てきた。 (山本勇二)
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