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【コラム】

筆洗

2010年6月30日

 <メーデーや東京タワー古びたる>(相子智恵)。高さ日本一の座を東京スカイツリー(東京都墨田区)に奪われた東京タワー(港区)は、下町にそびえ立つスカイツリーの人気の前に、やや影が薄くなった感がある▼「はとバス」などは今夏、建設中のスカイツリーを見学する観光バスを三路線、相次いで定期運行するという。世界一の高さになるスリムな鉄塔が日々変化する姿は胸躍るが、東京タワーの鉄骨むき出しの荒々しさにも捨てがたい味がある。ライトアップで闇に浮かぶもう一つの顔も魅力的だ▼東京タワーが一年三カ月かけて完成したのは一九五八年十二月。鉄骨の一部に、米軍の戦車のスクラップが使われたことを作家半藤一利さんの『ぶらり日本史散策』に教えてもらった▼五百万人近くが死傷した朝鮮戦争は五三年七月に休戦。不要になった戦車の払い下げを受けた日本の業者が、三百台を買い取って解体。製鉄会社が溶かして再生した鉄骨を二百五十メートルの特別展望台より上に使ったという▼朝鮮戦争は二十五日で開戦から六十年を迎えた。三月の韓国軍哨戒艦の沈没事件を機に、韓国と北朝鮮の関係は極度に悪化、一触即発の緊張感が続いている▼民族同士が血を流し、いまだ休戦状態にある戦争の完全な終結は、一層遠のいてしまった。東京タワーが視野に入ると、戦車が思い浮かぶようになった。

 

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