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[10364] ドラゴンボールMAGI(ネギま×ドラゴンボール)     其ノ四十五 更新
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2010/06/30 11:25
全国の読者の皆さ~ん♡お久しぶり ボヤッキーですよ~、じゃなかった界王様じゃ!
何!?ワシを知らんとな!?ついこの間テレビ出たばっかじゃよ!?見とらん奴は確認してこーい!!
っと、そうじゃなかった。皆の衆は当然ドラゴンボールという作品は知っとるな?大抵の人はアニメはZまでは見たことあると思うけど、なんかGTってのまで出とるよね、あれナレーション以外でワシの出番なかった気がするからあんまり好きじゃないんだが・・・(ちなみに作者は肯定派です♪)それはさておき、一応はGTで物語は完結しているわけじゃが、今回はそれから200年後のある人物が主役じゃ!!そう、皆さんご存じのあの人・・・えっ?分からない?しょうがないの~じゃあ、ヒント!!

①元悪役 ②宇宙人 ③緑

・・・これで分からん奴はワシをダジャレで笑わせなければ許してやらないもんね~

そういえば、あやつは地球爆発の際、伝説のドラゴンボールとともに散ったあと、地獄に閉じ込められた孫悟空を助けにわざわざ地獄に身を落とし、そのままそこの番人になったんじゃったな・・・実は今回そやつがなんとどういうわけか異世界の地球にとばされてしまうんじゃ!・・・しかも、そこは某魔法先生の世界!!いったい、あやつはあの世界でどんな大暴れを見せてくれるのか!?乞うご期待!!
・・・って、最後がかなり強引に終わらせた気もするんじゃが、まあいっか・・・ジャマイッカ・・・ジャマイカ・・・、プププのプ♪やっぱワシってギャグの天才♪

おっと本編を始める前に作者から注意事項があるぞ~い!

*この作品は作者独自のオリジナル要素が多少入るかもしれません。できるだけ入れないよう努力はしますが・・・・・・

*今回の主役は来訪キャラだけとは限りません

*来訪世界がドラゴンボールの世界観に侵食される恐れあり

*恋愛要素入れるなどの細かい設定は未定

*登場人物のキャラは作者が独自に判断して作っているため、所々おかしくなる恐れがあるので、どうしても気になる方は感想でソフトに指摘して下さるとありがたい

*更新ペースはモチベーションによるために基本バラバラ

以上じゃ!!
・・・えっ、ワシの出番ってこれだけなの!?ちょっと作者どういうこと?・・・ふむふむ、ずっと界王様の口調は疲れるって?つうかムズクて上手くマネできてないし?別に音声拾うわけじゃないから地の文は拘んなくて良くね?・・・って、ちょっwwwおまwwwww
チクショー!!!!!こうなったら意地でもここに返り咲いてやる!!いつか必ず・・・!!



あとがき

作者です・・・衝動的に書いてしまったあと思った。俺って才能ねえorz
正直大層なこと言ってるように見えますけど、中身が読み返せば読み返すほどやんなってくる!!ホントにこのまま続けられるんでしょうか?頼むっ、みんなの元気をわけてくれ!!



[10364] プロローグ
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/07/18 00:07


ここは地獄・・・・・・宇宙のありとあらゆる所からやってくる悪人の魂が一斉に集う場所
この世界を統べる閻魔大王のオフィスがある宮殿で、今一人の男がここの主である閻魔大王本人と対面していた。

彼の名はピッコロ・・・・・・かつては地球征服を企んだ大魔王の後継者として生まれたものの、地球育ちのサイヤ人孫悟空に敗れてからは彼を始めとするZ戦士とともに数々の強敵と闘ってきた伝説のナメック星人である。
最期に彼はかつて自分の分身であった神が作り出してしまった伝説のドラゴンボールの始末をつけるため、爆発する地球と運命を共にした。本来ならその魂はそのまま天国に行くはずであったが、戦友孫悟空がドクターゲロらの策略により地獄に閉じ込められた時に、その危機に天国から駆けつけ彼を現世に戻した。結局、天国に戻れなくなってしまったピッコロはそのまま地獄に居座り、暴れまわる罪人たちを相手とする番人として戦いの日々を送ることとなった。
彼が助けた孫悟空も、地球で起こった邪悪龍との戦いに勝利した後、地上から姿を消し、この地獄で一度顔を見せたときを最後に二度と会うことはなかった。現世では悟空の捜索が広範囲で行われたようだが、誰もその姿を見たものはいなかった。しかし、悟空が消えた後も地球では長い平和が続き、時が流れるにつれ当時を知る者も次々と亡くなっていった。今ではあれからもう200年が経とうとしていた・・・・・・


「おい、話とは一体何だ?まさか、またいつものゴミ(罪人)掃除のことじゃないだろうな?」

ピッコロが、デスクに両肘をついて深刻そうな顔の前で手をくんだ状態の閻魔大王を見上げながら口を開いた。

「ああ・・・まあ、やることは確かにそうなんだが、今回はちと厄介かもしれん・・・・・・」

「厄介・・・だと?」

閻魔は少し間をおいた後、重い口を開いた。

「近頃一部の罪人たちに不穏な動きがある。ここしばらくの間はおまえのおかげで

罪人どもも大人しくしていたんだが、最近になってどうも妙な装置を監視官の目を逃れて製造しているらしいという情報が入ったのだ。」

「妙な装置だと・・・まさか・・・」

「もしかしたら、あのときのように地獄と地上をつなげるなどという恐ろしいことをやろうとしているかもしれん。」

「首謀者とかはわかっているのか?フリーザやセルとかなら確かに厄介だが・・・」

その問に閻魔は唸りながら答える。

「お前もよく知っているだろう?・・・大魔導師バビディ・・・」

「何!?バビディだと!?」
大魔導師バビディ・・・その昔地球に封印された魔人ブウを復活させ、人々を恐怖に陥れた大悪人である。もっとも、復活させたブウに最期には殺されてしまったが。

「しかし、やつは少し小賢しいまねができるだけの三流だぞ?そこまで心配する必要があるとは思えんが?」

当時、バビディと相対したことのあるピッコロにとってはバビディは魔人ブウが居なくてはほとんど何もできない小悪党の印象しかなかった。

「ピッコロよ・・・忘れてはいないか?やつの恐ろしい能力を・・・やつは悪の心をもつ者を自分の意のままに操ることができるんだぞ!?」

そのことを聞いてピッコロはハッとなった。そういえば、あの当時ベジータがやつの術によって一時的に支配下に置かれたことがあった。ベジータ自身のプライドの高さ故に完全に支配されたわけではなかったが、それでも完全体セルと同レベルの実力をもつダーブラさえ従えたほどの術だ。強力な罪人たちを手下にしている可能性も十分ありえる。

「だとすれば、確かに厄介かもな・・・。今回は用心したほうが良さそうだ。」
言葉とは裏腹に、ピッコロは口に不敵な笑みを浮かべた。(こいつは久々に面白い戦いになりそうだ・・・・・・)


ピッコロは閻魔からの情報にあった現場に到着した。あたりは渓谷だらけであったが下を眺めると、谷底に大きなタワー状の建造物を見つけた。どうやら、情報は本当だったらしい。

「しかし、よくこれほど完成するまで放置されていたな。まあ大方、見つけた物を口封じに消していったんだろう。」

「だとすれば、正面から突破するのは危険だな。気を消して隠れながら移動するとしよう。」

ピッコロは岩陰に隠れると、すぐさま気配を消し、建造物に近づいて行った。
しばらくすると、見張りらしき人影がはっきり見えるようになった。ピッコロはそれらの目を巧みにかわしながらタワーの足もとにある大きな岩陰に身を潜めることに成功した。岩陰から様子をうかがうと案の定、自分のよく知る人物がそこにいた。

「ヒヒヒヒヒィ♪ついに、ボクの念願のディメンジョンデストロイヤーが完成したんだね。これで地獄ともおさらばサ♪」
建造物を見上げながら、満足そうに声をあげるチビ・・・彼こそがこの事件の首謀者バビディである。

「ホーホッホッホッホ。さようでございます、バビディ様。あとは、これの試運転が済み次第、計画を実行に移しましょう。」

「フハハハハハ。地獄中の邪念パワーをここに集め、エネルギー波として打ち込むことで時空に穴をあける。そこからわれらの軍団が地上に侵攻するというわけだ。今の今まで平和ボケしてやがる地上のやつらが恐怖に慄く姿は見ものだろうなあ。」

そして、かつての強敵たち、フリーザとセルの姿もあった。当然2人の額にはバビディの僕としての証であるMのマークがあった。

「ちっ、やはりやつらも来てやがったか!!思ったとおり、時空に穴をあけて地獄と地上をつなげる気だ!!もう完成しているということはウカウカしてられんぞ・・・」

ピッコロはすぐにでも打って出られるように、修行用の装備を脱ぎ始めた。
すると、部下らしき者が報告に現れた。

「申し上げます!ディメンジョンデストロイヤーの試運転が完了いたしました。」

「フーヒヒヒヒヒィ♪よし!御苦労さん♪これから計画の最終段階に移行するよ。ディメンジョンデストロイヤーのエネルギー砲を発射準備だ!!」

「「ははっ」」
部下たちがそれぞれの配置に付きだした。

「よしっ、いくぞ!!」
ピッコロが気を解放する。

「むっ、この気はまさか!?ピッコロか!!」
セルが感づいたようだ!!

「ウワタァァァァ!!!」
岩陰から現れたピッコロはバビディにとびかかった!

「お、おまえはあのときの緑色!?」
バビディは不意打ちに驚きを隠せない。

「そうはいきませんよ、ナメック星人!!特選隊の皆さん!!やっておしまいなさい!」

フリーザの掛け声とともにギニュー特選隊(200年後もなぜかギニューいないけど)の面々が立ちふさがった。

「どけえ!!雑魚どもォ!!カァァァー!!!」
ピッコロが口からエネルギー波を繰りだした!

「「「「ちょ!?なんでこうなるのー!?」」」」
特選隊は登場早々エネルギー波に飲み込まれ消滅した。

「キィィィィィ!!どうやらかなり腕を上げたようですね。こうなれば、我々が相手ですよ!!」

「ピッコロよ!!俺たちのパワーを思い知るがいい!!」

「フンッ!吠え面かかせてやるぜ!!」
フリーザとセルが2人がかりでピッコロに挑みかかる。

「キヤァァァァァ!!」 「ブルァァァァァ!!」

「ウワタタタタタタァァァァ!!!」
3つの影の突きや蹴りが残像になって映る。傍から見たら、何をしているのか全く見えないであろう。それほどまでに凄まじいラッシュの嵐であった。
しかし、2対1であるにも関わらずピッコロは一歩も退いていなかった。いや、実際の戦況からいったらむしろ徐々に押しているのである。この200年間ピッコロは番人としての仕事のかたわら片時も修行を欠かしていなかった。その実戦と修行の成果が、フリーザはおろか生前は足元にも及ばなかったセルすら圧倒する力を手に入れていたのだ。

「何ですって!?」「馬鹿な!?この俺が打ち負けるなど・・・!!」

「そろそろ終わりにさせてもらうぜ!!デアァ!!!」
ドゴンッという轟音が鳴り響いたと思ったら、ピッコロの右拳が前のセルの鳩尾に、左肘打ちが後ろのフリーザの腹に決まっていた。

「ぐあああ!!!!」「あがああああ!!!」
それぞれが、ダメージを受けたところを押さえ、うずくまった。

「これでとどめだ!!超爆力魔波!!!」
両手のひらを2人の敵にむけると光がそこに収束されていく。
しかし、そのとき

『アーハッハッハッハ♪もう手遅れだよ♪』
突然流れたスピーカーの音に驚き、音源に目をむけると、そこには邪悪なオーラを周囲から吸収し、発光するタワーの姿があった。

「な、何だと!?」

『ボクが何年かけてこいつを作ったと思っている?今更、邪魔をされるわけにはいかないんだよ!!』
塔の最上階にてコントロールパネルを操作するバビディの姿があった。

「くそっ、させるか!!(バシッ!)グッ!?」
ただちに向かおうとするピッコロだったが、ダメージから立ち直ったフリーザたちに取り押さえられてしまう。

「今ですバビディ様!!発射スイッチを!」

「クソッ、離せぇ!!」

『パッパラパ~♪エネルギー砲発射!!』

スイッチが押された!!
塔の頂上に付いている発射口から紫色の光線が放たれていく。するとどうだろう。光線が通った空間が歪みだしブラックホールのような穴が出現した。

『やった!ついにやったぞ~!!このまま穴を広げれば地上が・・・』
バビディが歓喜の声を上げる。

「ヌゥゥゥゥゥ!!!ハァァァァァ!!!!!」「「なあ!?」」
ピッコロがフルパワーで気を発散したことでフリーザたちが吹き飛ばされる。

「こうなれば装置ごと破壊するまで!!」

そう言うと人差し指と中指の2本を額にあてる。

「ヌウォォォォォ!!!」

2本の指先に体中の気を集中させる。すると、指先が球状の閃光に包まれ、激しいスパークを起こす。

『あっ!?あいつこれごと破壊する気なのか!?そ、そんなことしたら時空の歪みが大きくなりすぎてどうなるか分からなくなるぞ!!』
ピッコロの意図に気付いたバビディは焦り出す。

「くらえ!!これが!!ピッコロ様の!!超魔貫光殺砲!!!!!」
ついに突き出した指先から自身最高の技が繰り出された!!

『ばっ馬鹿!!やめろ~!!!!』
指先から出た閃光は元々の技と同じ螺旋を描いているが、閃光の太さが段違いである。悟空のカメハメ波くらいはあるだろうか。それが、塔に直撃する。

ゴ、ゴ、ゴ、ゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォ!!!!!

バチバチ、バチチチィィィィィィ!!!!!

塔を支えている大地がふるえ、塔の周りで電流がはしる!!

キュイィィィィィーン・・・・・・ドゴォォォォォーン!!!!!

すると、発射口から先ほどの数倍の出力のエネルギー波が発射された!!!
すると、それまでゆっくりと広がっていた穴が急激に広がり、周囲のものを吸いこみはじめたのだ!!

「のあっ!?なっ何が起こっている!?」

『ははははは・・・・・・もう、お終いだ・・・時空の歪みから異空間に放り出されるぞ!!一度入ったら最後二度と出られないよ・・・』
バビディの狂ったような呟きとともに穴は建造物をも飲み込み始めた。ピッコロも舞空術で必死に踏みとどまろうとするが、徐々に引っ張られていく。

「くっ、クウゥゥゥゥ!!!クソ~ッ!!!!!(ドゴン)ノワッ!?し、しまった~!!!」

飛んできた瓦礫に激突してしまい、とうとう堪え切れず穴に吸い込まれてしまう。

「ガァァァァァ!!!」

ピッコロの叫びも暗い暗い異空間の中へと消えた・・・
穴はあらゆるものを飲み込んでいき、やがて、周囲のものをすべて飲み込むとさっきまでのがまるで夢かのように跡形もなく消えた・・・・・・



あとがき

プロローグなのに長っ!?・・・・・・すみません。なんか設定考えるのにえらい苦労した上に、戦闘描写が上手く書けませんでした・・・OTL
だいたい、なんなのよこの堅苦しい表現!?自分のボキャの無さに泣いた・・・

今の私には皆さんの温かいコメントが必要です。みんなオラに元気をわけてくれ~(それしか言えない・・・)



[10364] 其ノ壱   運命の出会い!!  超戦士と英雄の息子
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/07/18 22:18



「えっ・・・・」


少年はただ立ち尽くしていた。目の前の光景が信じられなかった。






自分はさっきまで村の外れにある湖で釣りを楽しんでいた。

あまりにも熱中していたせいか、大好きな姉が久しぶりに帰ってくるということをすっかり忘れてしまい、気がつけば大分遅い時間になっていた。

村では姉が首を長くして待っているにちがいない。急いで帰ろうと駆け足で村にもどってみて愕然とした。

村が燃えていたのだ・・・・・・



はっと我を取り戻した少年は姉の名を呼びかけ、知りあいを求めて走りだす。

だが、彼を待ち受けていたのは残酷な現実であった。





「み、みんな・・・」


目に映るのは石化された村人たち。

戦っていたのであろうか、杖を持ち、立ち向かおうとしたその姿のまま・・・

それはまだ幼い少年にはあまりにも辛すぎる光景だった


「僕が・・・僕がいけなかったの?
 ピンチになったらお父さんが助けに来てくれるなんて思ったから・・・
 僕があんなことを思ったからみんなが・・・」


少年には物心ついたときから両親がいなかった。しかし、彼の父親は魔法界では偉大な英雄であった。


『あなたのお父さんは、とっても有名な英雄(ヒーロー)なの。
 誰かがピンチになったら何処からともなく現れて、必ず助けてくれるスーパーマンみたいな人なんだから』


姉から父のことを聞くたびに少年は父への憧れを強くしていった。

本当は彼の父親は故人であるとされていたが、幼い彼にわかるはずもない。

少年は自分がピンチになれば父が助けに来てくれるかもしれない。一度もあったことのない父に会えるかもしれない。そう信じていた・・・・・・




しかし、その自分勝手な願いが罪もない村人を悲劇に巻き込んでしまった・・・

少年は自責の念にかられた。

だが、どう見ても彼に責任があろうはずがない。おそらく、村人の誰かに恨みを持つ者の仕業にちがいない。もしくはその恨みは少年の父親に向けられたものなのかもしれない。






そんなことを考えているうちに少年にも危機がせまる。

村を襲撃した悪魔たちが少年の存在に気づいたのだ!!

偉大な英雄の息子である彼に対する仕打ちだ。もしかしたら「石化」程度では済まないかもしれない。



少年はこちらに向かってくる悪魔の軍勢に背をむけ、子供の足ながら、全速力で走りだす。

少年は後ろを振り返らずに走った。すると、たちまち大きな影が目の前に立ちふさがった。


「オイオイ、ボウヤドコニイクンダイ?」


見上げると、少年の何倍も大きな体をもった、頭に2本の角を生やした悪魔がニヤニヤと笑いながら自分を見ていた。

少年は驚き、すぐさま引き返そうとするが、すぐ後ろはすでに数匹の悪魔が固めていた。

どうやら、少年は囲まれてしまったらしい。

どうしようもない絶望・・・・少年はその場でへたりこんでしまう。


「ケケケ、ガキヲイタブルノハヒサシブリダゼ。サア、ドンナカオヲミセテクレルカナ~?」


少年の前にいた悪魔が拳を振り上げる。

少年は恐怖呆然となる思考の中で悟った。   

ああ、僕はもうここまでなんだ・・・・・・


あの大きな手で繰り出されるパンチが自分に激突するのだ。

ついに拳が振り切られる瞬間少年は咄嗟に目をつぶった。

そして、心の中でもう願ってはいけないとは思いつつも




「助けて・・・助けてよお父さん」




そう念じずにはいられなかった。








鳴り響く轟音


しかし、いつまで経っても痛みがこない・・・

さすがにおかしいと思った少年が目をあけると・・・






いつの間にか白いマントをつけた男が立ちふさがっていた。

さっきまで少年の前にこんな人物はなかったはずなのだが・・・まあそれはいい。

少年が驚愕したのはそのことではない。




なんとその男は自分に襲いかかってきたあの悪魔の巨大な拳を片手だけで防いでいたのである。

拳の大きさだけでも軽く男くらいの大きさがあるはずなのに、受け止めた手はびくともしていない。


「あれっ!?え、えっ!?」


少年はわけも分からずうろたえ出す。

そんな様子の少年を余所に、人影は空いたほうの拳を握りしめ、腰だめに構える。

とたん、腕の筋肉が盛り上がる。

と思った次の瞬間、





ドオオオオン





人影の突き出した拳とともにまたも轟音がひびき、悪魔の巨体が遠くまで吹き飛ばされていた。

悪魔はそのままはるか遠くの家屋に激突し、土煙があがった。







ふと、気がつくと男は構えをとき、こちらを振り向いた。





「小僧、怪我はないか?」





ようやく見えたその姿をみて少年は目を見開いた。


背に羽織ったマントの下は紫色の道着に身を包んでいた。


頭には見たことのない帽子・・・といってもこの世界ではターバンという名前でちゃんと存在しているのだが・・・をかぶっている。


そして何といっても驚きなのはその尖った耳、
それと顔の色が・・・緑色であったのだ!!


こんな外見をしていたら少年の知る村人であったなら警戒すること間違いなしであろうが、少年は不思議とそんな気がしなかった。



少年の口が自然に開く・・・


「おじさん、誰なの?」


男は少年が自分の姿を見て驚いているのに咄嗟に気づき、一瞬間をおいて答える。





「俺か?俺は・・・ピッコロだ・・・」





男も不思議であった。昔の自分なら、相手に名を聞かれても素直に答えるような性格ではなかったはずだ。

しかし、今はどういうわけかこの少年に自分の名を知ってもらいたいと思っている自分がいる。

だからこそ、少年の問に無意識に反応してしまった。

さらに、男は自分らしくないことを口にする。





「お前の名は?」




男の問に今度は少年が自然に答えを返す。





「僕は・・・ネギ・・・ネギ・スプリングフィールド」





今このとき、異世界からやってきた1人の男と1人の少年が出会った。

この2人がのちに、この時代に新たな伝説を築き上げる戦士たちになろうとはまだ運命の女神ですらも分からなかった。







~おまけ~

「ナア、オレタチ、ソロソロコウゲキモイイカナ?」
「イヤ、デモ・・・・・・ナンカクウキテキニムリナキガ・・・」
「タシカニ、KYニナルノハヤダナ~」


2人が会話している間、悪役らしく空気を読んで待機している悪魔さんたちでした♪







あとがき

今回は自分なりに、全体的に読みやすいように心がけましたが、いかがだったでしょうか。何分処女作なものでまだまだ未熟ではありますが、頑張っていこうと思いますのでよろしくお願いいたします。
つきましては、感想欄で皆様からの意見をいただけましたらありがたいです。

あと、プロローグですが、皆様からの感想を読みましてやはり書き直すべきかと思いましたので、時間ができましたら改訂するつもりであります。
ただ、今のところ修正案を模索している段階で躓いているので当分は新作の作成が中心になってしまうかも・・・ホントに情けない(涙)




[10364] 其ノ弐   俺は大魔王だ!!  見たか、ピッコロの底力!(誤字訂正のみ)
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/08/19 13:58





燃え盛る炎の中、悪魔たちに囲まれた状態であるにも関わらず見つめあう2つの影。


一つは先の大戦の英雄の息子 ネギ・スプリングフィールド


もう一つはこことは違う世界からやってきた戦士 ピッコロ



先程お互いの名を交わした2人はそのままお互いの顔を見詰めたまま、沈黙の状態を続けていた。


(不思議な感覚だ・・・この小僧から途方もない『何か』を感じる・・・それが俺に訴えかけてきやがる
 こんな感覚は初めて悟飯に会ったとき以来だぜ)


こんな年端もいかぬ少年に、いくら神と融合して理知的になったとはいえ名前交わし合うという行為をした自分にピッコロはとまどいを隠せなかった。


(そういえば、こいつの見た目は地球人そのものだ・・・まさかサイヤ人ではあるまいし・・・しかし、地球人だとしても特別気が強いというわけでもなさそうだ・・・どこにでもいる普通のガキだぞ。こんなガキに何があるというんだ・・・
・・・・いや、だが確かにこいつには気とは違う別の『力』を感じるぞ・・・)


(このおじさん・・・ピッコロさんだっけ?さっきから僕の顔を見たままだまっているけど、顔に何かついているのかな?)





2人の間でこうしたチグハグの思考が展開する中、ついにこの沈黙をやぶる声が上がった。



「オ~イ、ソロソロコチラヲカマッチャクレナイカ~?」



2人が振り向くとさっきから待ちぼうけを喰わされていた悪魔たちが苛立ちを隠そうともせずに佇んでいた。


「・・・そういえばまだ残っていたんだったな。まあいい・・・・ゴミ掃除はまとめてやるほうが楽だからな・・・」


そういって、ピッコロはネギの前に立つ。


「ネギ、下がっていろ。」


「あっ。う、うん。」


ピッコロの言葉を聞き、すぐに後ろにさがるネギ。


「さて、始める前に一つ聞きたいことがある。キサマらいったい何者だ?」


そう言いながら相手を睨みつけるピッコロ。


「ハ~ハハハハハ。 オレタチヲシラズニアイテシテタノカヨ?『悪魔』ッテ単語モシラナイノカ、チカゴロノ『魔法使い』ハ? コイツハケッサクダゼ!」


そう言って腹を抱えて笑いながら一体の悪魔が進み出た。雰囲気からしてこいつがこの集団のリーダー格らしい。


「何?『悪魔』だと?」


耳慣れない単語に内心首をひねるピッコロ。

自分の持っている『悪魔』のイメージとはかなりかけはなれていたのだ。


「ン?マテヨ?ソウイエバオマエ『杖』ヲモッテイナイナ?モシカシテ、『魔法使い』ジャナイノカ?」


ピッコロが今まで戦ってきた魔法使いたちと出で立ちが違うのに気付いた悪魔が疑問の声をかける。


するとピッコロまたも聞きなれない『魔法使い』という単語に戸惑いながらも


「だとしたら・・・どうする?」


不敵な笑みを浮かべながらそう返した。


「ヘヘヘ、キマッテルダロ。」


悪魔は目を細め、舌舐めずりをしながら


「ソレナラ、ナオサラオレタチノテキジャナイ!!」


そう言うと、腕を掲げ合図のようなものをかけると


「カカレ!!」


数匹の悪魔が一斉に襲いかかってきた。

一匹一匹がかなりの強さをもつ悪魔たち。それがいっぺんに攻めてきたらどんな戦士でもひとたまりもない。

にも関わらず、ピッコロはそこから動こうとはしなかった。


「危ない!!ピッコロさん!!」


ネギの悲痛の叫びもむなしくピッコロは悪魔たちの波に飲み込まれ、見えなくなってしまった。

遠くから見れば悪魔たちがケーキの一欠片に群がる蟻のように見えることだろう。


「そ、そんな・・・」


これではもう助からない。ネギは再び顔を絶望に染めた。




しかし、


「ハァァァァァ!!」


突如強烈な気合いの声が響いたと思ったら、群がっていた悪魔たちの隙間から目映い光が漏れ出した。




そして、




バァァァァァン!!






一塊りになっていた悪魔たちが一斉に消しとばされた。細胞一つ残さず・・・跡形もなく・・・


(えっ!? い、一体何が起こったの?)


ネギは驚いたまま、先の超常現象が起こった中心を見ると

そこには、広げた両手を横に突き出した状態で佇むピッコロの姿があった。



「す、すごい・・・!!あれだけの数の悪魔を一瞬で・・・!!」



ネギ少年は目の前の事態に我知らず興奮していた。









「ナ、ナンダ!?ナニガアッタ!?」


先程号令をかけた悪魔は目の前の光景が信じられなかった。

今の今まで集団戦を得意としてきた自分たちはどんな敵にも負けなかった。

確かに、魔法使いの中には噂に聞くサウザンドマスターのような化け物もいることは知っている。

が、そのような実力者は魔法使い全体の極一握りにすぎない。

普通の魔法使いだったら単体の自分たちにも真正面から勝つのはかなり難しい。まして数の暴力の前ではなすすべもなく蹂躙されるしかないのである。

だが、目の前の存在はなんだ?

仲間の中でも歴戦の猛者を集めた連中を一斉に出撃させたのに、それをたった一瞬で塵一つなく消しとばしやがった!!

本来なら、上級魔法でないと消滅させることができないはずの自分たちをだ。

自分は悪い夢でも見ているんじゃないか・・・!?

悪魔は内心の焦りを隠すことができなかった。





「フン、なんとも暑苦しい連中だ。」


そう呟くとピッコロはリーダー格の悪魔に向き直る。


「どうした?まさかこれで終わりじゃないだろうな?」


ピッコロの体中からとてつもない殺気が出ている。

それは、かなり後ろに下がっているはずのネギですらはっきりと感じ取ることができた。

ピッコロの殺気に当てられた悪魔たちはジリジリと後ろに後退する。

今までに感じたことのないプレッシャーに、体が前に進むことを拒否してしまっているのだ。


「そっちが来ないなら、こちらから行くぞ!!」


ピッコロが構えた次の瞬間、




消、え、た・・・・・!?





「ナッ!?ド、ドコニ!?(ドゴン!!)ギャア!?」



一瞬ピッコロの姿が消えたと思ったら、リーダー格の悪魔は脳天に衝撃をうけてたおれた。

頭上からピッコロが肘打ちをしかけたのだ!!

その威力はすさまじく、悪魔の頭部が異様なほどに陥没していた。


「グ、グヌゥゥゥゥゥ!!」


しかし、さすがはリーダー格、頭部へのダメージを残しながらもなんとか立ち上がる。



「ほほう・・・今ので立ち上がるか。どうやら骨だけはありそうだな・・・」


ピッコロが感心したのか声をかける。



「ナ、ナメルナァァァァァ!!」


先程の攻撃に加え、ピッコロの上から目線の言動に逆上した悪魔はその巨大な拳をピッコロに叩きつける。


「フン、遅い」


ピッコロはそれをあっさりかわすと相手の腹に強烈なボディブローをお見舞いする。


「ガ、ガァァァァァ!?」


呻き声を上げながら、悪魔の動きがとまる。


「ウアタァァァァァァァァ!!」


ピッコロはそのスキを逃さず続けざまに腹に拳を連続で打ち込んでいく。

そのあまりのスピードにこの場にいる誰もパンチを眼で追うことができなかった。



ピッコロが最後の一発で悪魔を吹き飛ばすと、悪魔はリーダーとしての意地なのか、吹き飛びながらも何とか地面に踏みとどまり、地面に摩擦による爪痕が残った。


「ハァー、フッ、ハァー、フッ、ハァー、フッ・・・・・・」


口から血を流し、肩で荒々しく息をしながら、悪魔はピッコロと対峙する。

その眼には明らかな怯えの色があった。





「ナ、ナンナンダ・・・ナンナンダヨオマエ・・・!?」




生まれて初めて感じた恐怖に口が震えてしまっている悪魔。


「マ、マホウツカイデモナイノニ・・・コレホドノチカラ・・・オマエ、ホントウニニンゲンカ?」


悪魔はさらにしゃべりたてる。しかし、ピッコロの外見を見て素直に人間だと言うのはどうなのであろう?視力が悪いとしかいいようがない。


「ソレニ、サキホドカラカンジルコノケハイ・・・ニンゲンデハアリエナイ・・・!?
 マサカ!?キサマモオレタチトオナジ『魔物』ナノカ!?」


しゃべっているうちに、自分にも信じられない結論に達した悪魔。

確かに、自分たちと同じ悪魔、それも上位のものであるなら自分を圧倒したのもうなずける。




しかし、ピッコロの返した答えは予想を斜め行くものであった。


「・・・『魔物』か・・・確かにその外見からするとキサマらの『元』同属と言っても間違いではないだろうな。だが・・・・・・
 俺は『悪魔』なんてチンケな存在じゃないぜ・・・」


そう言ってピッコロは右手を悪魔に向けてかざす。




「キサマらが『悪魔』なら、俺は・・・・・・『大魔王』だ!!」




かざした手のひらに光が収束していく・・・・・・


ピッコロが何をするつもりなのか本能的に悟った悪魔が、恐怖で限界を迎えた頭で考えだせた選択肢は「逃げる」ことだけだった。

すぐさま、翼を広げ上空に飛び立つ悪魔。


「フン、逃げても無駄だ。」


しかし、ピッコロは慌てず、右手に宿った閃光を上空の的に向って投げつける。

放たれた気弾は敵に向かって猛スピードで飛んでくる。




「ナ、ナンダアレハ!?」

明らかに自分の飛行速度より早いスピードで接近してくる閃光を目にし、咄嗟に軌道をかえようとする悪魔だったが・・・・・・


「ソ、ソンナバカナ!?」


なんとこの気弾は生きているとでもいうのだろうか?・・・・自分を正確に追尾しているではないか!!


それもそのはず、下を見ればピッコロが気弾を放った手の指先でその軌道をコントロールしていたのだから・・・


「さて、とどめだ。」


ピッコロが指先を上にむける。


すると、気弾がさっきの倍以上のスピードで接近してきた。

もはや逃げきれないと悟った悪魔が両手で気弾を受け止めた・・・その瞬間





光が・・・爆ぜた・・・





「ガッ!? クゥゥゥゥー!! コンナモノォォォォォ!!」






消えゆく意識の中で叫んだその言葉が悪魔の最期の言葉となった。


彼の巨体が光の中でみるみる分解され他の仲間たちと同様塵一つ残らず消滅した。











リーダー格の最期を見届けたピッコロはそのまま、残りの悪魔たちを見やる。


「さて・・・どうする?まだやるか?俺は一向にかまわんぞ。」


ここまでの戦闘で汗どころか息一つ乱しておらず、不敵な笑みを浮かべている化け物を前にして、悪魔たちが出した答えは一つだった。


「コ、コンナヤツアイテニシタラ、イノチガイクツアッテモタリン!!オ、オレハヌケルゼ!!」


「ア、アタリマエダ!!ジュモンモナシニショウメツサセラレタラカナワン!!」


「マ、マテ!?オレヲオイテイクナー!!」


あれほど村で猛威を奮っていた悪魔たちが我先にと逃げ出しはじめた。





ネギは目の前の信じられない光景にただ口をポカーンと開けたままだった。

しかし、周りの悪魔たちがすべて飛び立ったことに気づいたネギは我に返りピッコロに尋ねた。


「ねえ、ピッコロさん・・・その・・・逃げたやつは追わなくていいの?」


ピッコロは目をつむり、腕を組んだ姿勢で動かない


「それともわざと逃が「ネギよ・・・」!?」


ピッコロが口を開く。


「俺は最初に言ったはずだ・・・ゴミ掃除はまとめてやると」


そう言って空を見上げる。



空の悪魔たちはまだ飛び立ったばかりでそんなに離れていなかった。

悪魔たちの姿を認めたピッコロは舞空術で一瞬で上空に飛び上り、悪魔たちと同じ高度のところで止まる。



「フッ、ここなら思いきりやっても問題なさそうだ・・・」

そして、両手のひらを悪魔の群れに向けると










「喰らえ!『爆力魔波』!!」









次の瞬間、大空は轟音と強い光に包まれた・・・・・・

















あとがき

一話目が評判が上々でしたのでひとまず安心いたしました。第二話が思ったより早くできたのでupしておきます。しかし、今回は早くできた割に話がほとんど進まなかった・・・申し訳ありません。ドラゴンボールのアニメによくある引き伸ばしだと思って許してください。次回こそは少しは展開を進めようと思うのでどうぞよろしくお願いいたします。今回も突っ込み等たくさんあると思いますが、お手柔らかにお願いします・・・作者の胃的に。



[10364] 其ノ参   激突必至!?  大魔王と英雄
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/07/20 03:13






今、ネギたちの村に急ぐ一つの影があった。どうやら男のようだ。

男はフードを目深に被り、手に大きな杖を抱えていた。


(くそっ!やつらがまさか村にまで手を出すとは・・・!!
 村に向かっていく悪魔どもの群れを見かけてから大分たっている・・・急がなければ!!)


内心で舌打ちする男を余所に時間は経っていく。もう一刻の猶予もないのだ・・・!!

そうとう、村に近づいたはず・・・あと数十分もすれば到着するだろう。

そう考えていた男の思考を隔てる出来事が起こった。

突如、空から無数の雄たけびが聞こえてきたのだ。

何事かと見上げると、そこにはあろうことか先ほど村に向かっていた悪魔たちがこちらのほうに引き返してくるではないか!?


(まさか、手遅れだったのか!?)


男の頭に最悪の未来予想図がよぎった。

だが、ここで立ち止まるわけにはいかない。

村の様子を確かめるために、足を急がせようとしたそのとき!!



カァッ!!



ドオオオオン!!



上空から目もくらむような強い光と激しい衝撃が轟いた。



男も咄嗟に顔を庇い、衝撃を堪えると上空をみて愕然とした。


さっきまで、空を覆いつくしていた悪魔どもが人っ子一人見当たらないのだ。

目の前の不可思議な現象に戸惑いを隠せない様子の男。

しかし、はっと我に返ると一目散に村へと駆けていく。


(村を襲撃していたはずの悪魔どもが引き返し、
さらにはさっきの光で一瞬のうちに全て消えた・・・
いったい何がどうなってやがる・・・)


男はとりとめのない考えに浸りながらも、村に急ぐ。

しかし、内心では自分の向かう先にその答えがあると確信していた・・・









「・・・・・・す、すごい・・・・・・」



村にポツンと突っ立っていたネギは感嘆の声をあげていた。


ピッコロが急に飛び上ったと思ったら、強い光と爆発音が響きわたった。

そのときは思わず目をつむってしまったが、光が止んだ頃に恐る恐る目をあけると


あれほど空に群がっていた悪魔たちが


跡形もなく消え去っていた。



もはや、これはすごいなどという言葉で言いつくせるものではない。

ネギの胸は今、生まれて初めて炎のたぎりを感じていた。





そうこうしているうちに、ピッコロが下に降りてきた。

すぐさまかけよるネギ。


「ねえねえ、今のどうやったの?」


「ん? ど、どうしたんだ急に!?」


少年特有の好奇心にあふれた瞳に見つめられて思わず後ずさるピッコロ。


「さっきのピカーってなってドカーンて爆発したの・・・あれ、どうなってんの?」


いかにも、僕ワクワクしてますといった表情で尋ねてくるネギに、ピッコロは冷静に返す。


「あんなのはただあいつらに俺の気をほんの少しだけぶつけてやっただけだ・・・
 それほど特別なことはしておらん。」


「ふ~ん、今のは『キ』っていうんだ・・・僕らの『マホウ』みたいなもの?」


どうやら、まだ魔法を習い始めたばかりのネギには気と魔力の区別がついていないようだ。


「・・・俺はお前らの言う『魔法』というものについては何も知らんからどうとも言えん。」


ピッコロは考えながら慎重に言葉を選ぶ。


「うーん・・・よくわからないけど、とにかくすごいんだよね!?」


ピッコロをよそに勝手に納得しているネギ。


(なんなんだ、こいつは・・・?勝手にベチャクチャしゃべったと思ったら一人で頷いてやがる・・・なぜこんな奴に振り回されているんだ、俺は・・・?)


ピッコロはネギの態度にしきりに頭をひねる。






「あっ、ネギ~!!」


ふと、後ろから声がしたので振り返ると、少女と老人が駆け寄ってくる。


「あっ、ネカネお姉ちゃんとスタンおじさんだ!!お~い!!」


2人の姿に反応したネギも手をふりながら駆け寄る。どうやらネギの身内のようだ。


ネギはネカネと呼ばれた少女の胸に抱きつき、そこにスタンという老人が加わる。


「もう、悪魔に襲われたんじゃないかって心配したのよ・・・馬鹿・・・」


「どこも怪我はないのか?ネギ?」


ようやく見つかった大事な家族に心配を露わにするネカネとスタン。


「大丈夫だよ。すごい人に助けてもらったんだ。」


そう、どこか自慢気に話すネギ。


「そう・・・あらっ?」


すると、ネカネが後ろにいるピッコロに気がついた。


「ネギ?そちらの方は・・・いったいどなっ!?」


その顔を見てネカネは凍りついた。


「ね、ネギ!この男から離れなさい!!」


すぐさまネギを背に庇い、杖を構えるネカネ。


ネカネの動揺の原因に気がついたスタンも同様に杖をとりだす。


「あなた、一体何者ですか?うちのネギを狙っているんじゃないでしょうね?」


警戒を強めながら尋ねるネカネに続いてスタンも詰問する。


「お主、ここでは見かけん顔だな・・・
おまけに人間というには少々変わった顔をしておるの・・・
もしや、悪魔ではあるまいな?」


2人の問いに何も言わず佇むピッコロ。


「黙ってないで答えな「お姉ちゃん!!」!?ね、ネギ!?」


沈黙を貫く相手に苛立ちキツイ口調で問い詰めようとしたネカネをネギが押しとどめる。


「ピッコロさんは悪い人なんかじゃないよ!!さっきだって僕を悪魔の群れから助けてくれたんだ!!」


ネギは両手を広げてネカネたちの前に立ちはだかる。

彼のめったに見せない必死の表情に、再び動揺するネカネたち。


「ね、ネギ・・・どうして「伏せろ!!」!?」



突然響いた威圧感のある一喝に思わず体を伏せてしまうネカネ。


そのすぐ上を螺旋を巻いた気弾が通過していった。


気弾はネカネたちの後ろの家屋の屋根の上に佇む影に直撃・・・したかに見えたが

わずかに掠った程度で影はそのまま下に着地する。





そこには先程までネギを襲っていたやつらより一回り大きい悪魔が肩に血を流しながら立っていた。


「ちっ、はずしたか・・・」


ネギの後ろでは右手の指2本を揃えた状態で突き出しているピッコロの姿があった。


「い、いつの間にあんなところに!?」


自分たちに気取られず、背後の家屋に身を潜めていた悪魔の存在に、そしてそれを見破ったピッコロの力量に驚きの声をあげるスタン。


そして、悪魔が口を開く。


「イ、今ノハ危ナカッタ・・・
完全ニ気配ヲ消シテイタハズナノニ、コウモ簡単ニ気ヅカレルトハ・・・・・・
フッフッフッフ、ドウヤラ君タチヲ甘ク見テイタラシイ。」


そう言って悪魔はにやりと笑い、


「コレハ私ノ心カラノプレゼントダヨ。
受ケトリタマエ。」


そう言って、カパッと口を開ける。

それが何であるか気づいたスタンは大声で叫ぶ。


「せ、石化の呪文じゃ!!ネカネ、ネギ、逃げるんじゃ!!」


しかし、時すでに遅く口から発せられた光がネギたちに襲いかかる。



「あっ、ああ・・・」



ネカネは突然出来事に体が反応できない。

本来ならネギだけでも助けなければいけないのに、体が言うことを聞いてくれないのだ。

外からではわからない少女の心の内側に隠された恐怖の感情がそうさせたのかもしれない。

少女は己の最期を悟った。

もうだめだと諦めかけたそのとき、





「カァァァァァ!!」





バシュウウウウン!!





ピッコロの気合砲が悪魔の呪文をはね返した!!


「ナ、ナアニイイイイ!?」


信じられない現象に驚愕する悪魔

そのとき生じた隙をいち早く我に帰ったスタンは逃すはずもなく、封魔の瓶を投げつける。


「シ、シマッタアアアア!?」


悪魔はあっけなく瓶の中に封じられてしまった。










途端に静まり返る4人。

先に口を開いたのは何とネカネであった。


「あ、あの・・・、その・・・さっきは助けていただいてありがとうございました。」


顔を赤らめながら深く頭を下げるネカネ。


「ワシからも礼をいわせてくれい。お主がいなければ今頃はここにいる全員が石にされてしまっていたじゃろう。」


先ほどとは打って変わり、神妙な面持ちで感謝の言葉を述べるスタン。


「別に気にすることはない。助けられる範囲はなるだけ助けるようにするのが今の俺のポリシーなんでな。」


こともなげにそう答えるピッコロ。


「ところで、その・・・さっきあなたを疑うようなことを言ってすみませんでした。あなたはネギを助けてくださったのに・・・・・・」


自分がしてしまった行為に対し、自責の念にかられるネカネ。


「いや、確かに俺の外見は普通の人間たちにしてみたら異質だろう。『魔物』と思っても無理はない。そんな存在が自分の大事な身内のそばにいるのだ。警戒したくなるのも当然だ。」


「じゃあ、許してくださるんですか・・・」


信じられないとでもいうような目でピッコロを見つめてくる。


「さっきから言っているだろう。こんなことには慣れっこだ。今更言われたところで気にはせん。」


そう言って背を向けてしまうピッコロ。

なんだか、その姿が可愛くて


「・・・・クスクス」


つい忍び笑いをしてしまったネカネ。


「な、何がおかしい////」


「いいえ、別に・・・」


こうして、なにやら和やかになる空気。


(ふむ、顔を見た時はどうしたものかと思っとったが、どうやらネギの言うとり、根は良いやつなのかもしれん)


と、中身の3分の1は『元』とはいえ神様である御方に向かってある意味失礼なことを考えているスタンであった。








しかし、そんな空気をまたもや壊そうとする男が一人・・・・・・


「・・・おい」


後ろから突然聞こえた声に振り替えるネカネたち。

そこにはフードを纏った男が杖を携えて立っていた。


「そこの緑色・・・
てめえ、その3人から離れろ!!」


男から激しい怒声が発せられる。


「やれやれ、今日は次から次へと面倒がやってくる日だ・・・」


半ば苛立った声でフードの男に向き直るピッコロ。

しかし、その声を聞いたネカネ、スタンは驚愕した。


「そ、そんな・・・・・・」


「い、生きておったのか・・・?」


フードの中に僅かに光が差し込み男の顔が少しだけ映し出された。


「ナ、ナギ・・・」


スタンの呟きにさっきから置いてきぼりをくらっていたネギが反応する。


「えっ、ナギって・・・お父さん? 
お父さんなの!?」


ネギの表情は今日1日で一番の驚きを表していた。

そんなネギに男が気づいたのか、懐かしむような声で


「・・・そうか。
 お前が・・・ネギか・・・」


「「っ!?」」


男の言葉とネカネ、スタンの反応がそのまさかを証明していた。




ネギの父親であり、先の大戦の偉大な英雄・・・ナギ・スプリングフィールド

彼が今ピッコロたちの目の前に姿を現した。






ピッコロは驚く3人を無視して口を開く。


「キサマが誰かは知らんが・・・
 この俺に何の用だ・・・」


すると、ナギは杖を構えて





「てめえを殺しに来た!!」






はっきりと言い放った。







あとがき

今週は実家に帰るためしばらく更新ができなくなるので、頑張って3話書き上げました(つかれた~ )
今回ようやくナギ様の登場です。といってもなんか強引にここまで進めてしまった気がします。おかげで、またベタな展開に・・・orz
ナギ様がなんか悪役チックになってますが、ナギ様ファンの皆さんお許しください。作者は彼のこと嫌いではありません。イケメンは敵だと思ってますが(マテ



[10364] 其ノ四   ピッコロ驚愕!!  ネギの秘められし超パワー!!(さらに修正)
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:427ee614
Date: 2009/07/24 20:33




今2人の人間が対峙している。



一人は「サウザンドマスター」の異名を持つ男、ナギ・スプリングフィールド



もう一人は異世界からこの世界に迷いこんできた男、ピッコロ



2人の間の空気は張詰めていて、何人も立ち入られる隙がない状態であった。


「俺を・・・殺すだと?」


先に口を開いたのはピッコロであった。

それに対し、ナギは重々しい口調で答えた。


「ああ・・・そうだ。」


それは、さも当然であるかのような切り返しであった。


「いきなり何を言い出すかと思えば・・・理由を聞いてもいいか?」


ピッコロは内心大体の検討はつけていたが、一応尋ねてみる。


「てめえの面を見る限り、まず『人間』には見えねえ・・・
 それから、ここに来る途中でここから立ち去っていく悪魔どもを見かけたんだが・・・
 空が光ったと思ったら、そいつら全員消し飛ばされていやがった。
・・・あいつらをヤッタのはてめえか?」


ナギが追求するような目で訊くと、ピッコロは黙って目を閉じ、


「・・・そうだと言ったら?」


そう言った次の瞬間

ナギがピッコロの前まで迫り、魔力の篭ったパンチを鳩尾に放った。

しかし、ピッコロはそれを片手だけで受けとめた。


「それが・・・答えか・・・」
 

そのまま、ナギは頭部に蹴りを繰り出そうとするが、それもピッコロの肘で止められる。

攻撃を難なく止められたナギは軽く舌打ちすると、バックステップで距離をとる。

そして事態は再び膠着状態に戻る。


(ちっ、こいつは想像以上だぜ。完全に遊んでやがる。
さっきの一撃は割りと本気だったんだがな・・・涼しい顔で受けやがった。)


ナギは今の攻撃が相手にまったく通用しなかったことで、ピッコロが只者ではないという認識を改めて強くした。

一方ピッコロのほうも


(・・・先ほどの攻撃、あの『悪魔』とか名乗った連中よりはるかに力が上だ・・・
 体術の腕もかなりのものだな。初めて戦った頃のクリリンに匹敵するかもしれん・・・
こいつは一筋縄ではいかんかもな・・・)


ナギの実力をそれなりに評価していた。


戦いはまだ序盤・・・・・・


このあと一体どうなるのか・・・・・・


すると、ナギが突然持っていた杖を地面に突き刺した。


「へへへ、てめえなかなかやるじゃねえか・・・・・・
 なら、今度は手加減一切無しだ!」


そう呟くやいなや、ピッコロに向かって弾丸のように突っ込んでいく。

なんと、魔力で強化した肉体でもって肉弾戦を挑もうというのだ。

しかし、ピッコロは今度は手を出さず、腕を組んだまま迎え撃つ。

ナギから繰り出される超高速のパンチ・キック・肘・手刀の連打。

当然ながら傍から見ているネギたちには捉えられるはずがない。


ナギの体術は達人の域に達している。魔法無しでもそん所そこらの戦士・魔法使いでは歯が立たないほどである。


武道の達人であっても、受け損ねれば即死につながる・・・そんな攻撃ばかりであった。


にも関わらず、今戦っているこの人物は攻撃を受けるもしくは捌くどころか、両腕を組んだまま、後退しつつも全ての攻撃を完璧にかわしていた。
 
だが、ナギのほうも負けてはいない。
彼のスタミナはどうなっているのか、これだけの攻撃をしているにも関わらず、衰えるどころかますます激しさを増すばかり。

この混戦模様にスタンは震えが止まらなかった。


(これだけの攻撃を・・・・・・さすがは『サウザンドマスター』と言ったところかの
 大戦が終わった今も衰えるどころか以前より腕を上げたようじゃの・・・
 しかし、あれを全て避けきっとるあの男は一体何者なんじゃ?
 さっき石化の呪文を跳ね返したことといい・・・
 はあ・・・年をとるものではないの・・・)


スタンが自らの老いを嘆くのもつかの間、ようやく戦況に変化があらわれた。

右からのパンチを避けられたナギはすかさず脇腹に蹴りを入れようとする。
 
すぐにそれに反応するピッコロ。



(かかった!!)



蹴りはフェイントで本当は顔面に重い一発をくれてやるつもりだったのだ!!

蹴りを出そうとする瞬間、体に魔力を巡らせ先ほどまでとは比べ物にならないほど急激に加速する。

ピッコロもその加速に反応しきれず一瞬驚いた表情をする・・・・・・


「もらったああああ!!」


パンチが顔面に吸い込まれるように入った・・・

と、思った次の瞬間


「な、何!?」


なんと、ピッコロの姿が陽炎のように消えてしまったのだ!!
標的を失い、体勢を崩すナギだったが、なんとかコケずに踏みとどまる。

気がつけば、ナギの後ろで先ほどと同じく腕を組んだままの状態で佇むピッコロの姿があった。


「フフフ、今のは惜しかったな。キサマには悪いと思ったんだが、正直あのままの態勢が続くとなると少々退屈だったんでな。こちらの手の内を少しだけ見せてやった。」


大したことではないという風に不適に笑うピッコロ。

その態度についにナギの怒りが頂点に達する。


「・・・てめえ、いいかげんにしろよ。
 さっきからこちらからの攻撃を避けるだけで、そっちから全然手を出してこねえじゃねえか!!
・・・・・・俺を舐めてるのか?だとしたら、さすがの俺でもキレるぜ?」


怒り沸騰のナギを目にし、さっきまで呆けていたネカネがついに言葉を発する。


「ナギさん!!やめてください!!
この人は私やネギを悪魔から救ってくれたんですよ!?
見た目は確かに人外かもしれないけど、本当はとてもいい人なんです。」


必死にピッコロの弁護をするネカネ。しかし・・・・・・


「確かにこいつはお前らを悪魔から助けてくれたかもしれねえ・・・
 だがな、親切心からやったとして、一体こいつに何の得がある?
第一、 偶然にしちゃタイミングが良すぎる。何か企んでいるかもしれない・・・」


  一度そこで言葉を切り、ナギは再び口を開く。
  

「それにさっきこいつが言っていただろ?
 空にいたあれだけの数の悪魔の群れを塵一つ無く消し飛ばす・・・それも一瞬でだ・・・
 正直俺どころかラカンのやつだってそこまでのことはできやしねえ・・・
 だから、てめえのその力は危険だ・・・
 今のうちに倒しとかないと後でどんな災いが降りかかってくるかわからねえぞ。」


確かにその考えは一見筋が通っているように見える。


しかし、ナギは気付いていなかった。


その考えこそが、自分の「正義」とやらに固執した現在の「立派な魔法使い」たちと同類のものであるということに・・・
 

「そ、そんな・・・」


自分の意見を拒否されたことにショックを隠せないネカネ。

すると、ナギの話を黙って聞いていたピッコロが口を開く。 


「・・・では、退くつもりは・・・ないんだな?」


ナギは地面から杖を引き抜きながら答える。


「・・・ああ。」


真剣な表情で答えるナギに対し、ピッコロが組んだ腕をとく。


「・・・その様子だと、覚悟は本物のようだな・・・
 ならば仕方がない。こちらも本気を見せなければキサマのその覚悟に申し訳がたたん。」


ついに、本気で相手をすることを決心するピッコロ。


しかし・・・・・・


「ふたつほどキサマに言っておくことがある。
 まず一つは、俺はそこの3人にどうこうするつもりはない。信じてくれなくても構わんがな。
そして、もう一つは・・・」


そこで言葉を切り、構えをとる。


「・・・今の俺でも全力を出せばうっかりこの辺一帯どころかこの星ごとフッ飛ばしてしまうかもしれんのでな・・・・・・
残念ながらフルパワーは出してやれん。
変わりに・・・」


そう言って指を一本立てる。


「1%のパワーを見せてやる。
だが、それでもとんでもないパワーだ。壊れないように気をつけろよ。」


信じられないことを言ったと同時にあの不敵な笑みを浮かべるピッコロ。

そして、両腕で脇を締め、拳を強く握りながら体中の気を高める。





「ハアアアァァァァ!!」





ピッコロの気配がガラッと変わった。



先ほどまでとは比べ物にならないほど威圧的なものへと・・・



さらに、ピッコロを中心として突風が巻き起こり、あろうことか大地が大きく揺れ出したではないか!!


「グウッ!?こ、こいつは・・・」


ピッコロから発せられるプレッシャー、そして目の前に起こる怪奇現象に冷や汗が止まらないナギ。


(ま、まさかこれで全力じゃないだと?・・・・・・
 なんつー化け物なんだ!!これほどのプレッシャーはラカンの野郎とヤりあったときだって感じたことがないってのによ・・・
それに、こいつから伝わってくる雰囲気・・・
俺はこいつと似たものを昔どこかで感じたことがある・・・
どこでだったか?・・・・
はっ!?そうだ!思い出したぜ!!こいつは・・・) 


思考を巡らせるナギであったが、そのとき既に戦いは始まっていた。

いきなり、ピッコロの姿がナギの視界から消えた!!


「なっ!?」


すると、ナギの目前に突然ピッコロが現れ



「でりゃあ!!」




その頬に見事なストレートが炸裂した。


すごい勢いで後ろに吹っ飛ぶナギ。


しかし、飛ばされる先には既にピッコロが待ち構えていた。
 

飛んできたナギをピッコロはサッカーボールのごとく蹴り上げる。


空高く舞い上がるナギ。


それをピッコロはジャンプするだけで追い越し、


さらに頭上で両手を組むとハンマー打ちの要領でナギの体を下の家屋に叩きつけた!!


家屋の屋根に頭から突っ込むナギ。

地球人である彼の体ではもはやダメかもしれない・・・

地面に着地したピッコロは家屋の瓦礫の下にいるであろうナギを見やる。


(最後の一撃は多少威力を減らしたから生きているはずだが・・・)


ピッコロとしても、一応神と融合している身でもあるのでなるべく無意味な殺生は避けたいところ。

案の定まだナギの気が微かに感じられる。

ほっと一息ついたピッコロであったが・・・






「来れ・・・雷精・・・風の精・・・
 雷を纏いて・・・吹きすさべ・・・」


突然聞こえてきた詠唱に咄嗟に身構える。


「南洋の嵐  雷の暴風!!」


詠唱とともに家の壁を突き破って巨大な旋風と稲妻がピッコロに襲いかかる!!


「ちっ、これが『魔法』ってやつか!!どうやら切り札を残してたようだな・・・」


迫り来る暴風に対し、ピッコロは手刀を肩越しに構え、




「タアアアアア!!」




掛け声とともに思い切り振り切った。

振り切った瞬間に周囲に衝撃波が発生し、暴風と激突する!!




ダアアアアアン!!




暴風は激突すると徐々に勢いをなくし、やがてかき消された。

そして、壁が吹き飛ばされた家屋からは杖に寄りかかり、体中に大きな傷を負ったナギがふらつきながら出てきた。


「はっ、ハハハ・・・今のはとっておきだったんだがな・・・
 まさか簡単に弾かれるなんてよ・・・
 反則だぜ・・・」


もはや苦笑するほかないナギ・・・

ピッコロは瞬時にナギの前に移動すると、その首を片手で掴みあげ、宙吊りにする。


「グッ!?・・・」


「どうやら徹底的にやらなければならないようだな・・・
 不本意だが仕方あるまい。せめて楽に死なせてやる・・・」

そこにはかつて世界を恐怖に陥れた「ピッコロ大魔王」としての冷血な顔があった。

首を握る手に力を込める。

「ングッ!?ガアアアアアアア!!」

首を締められ悲鳴を上げるナギ・・・

止めに入ろうにも傍観しているネカネやスタンもピッコロの放つ威圧感の前に動くことも
できない。





ナギの運命も風前の灯火と誰もが思った・・・・・・







そのときである!!


「なんでなの・・・」


「「!?」」


突然漏れ出た誰かの呟きにネカネとスタンが反応する。


声の出所は・・・さっきまでただ呆然と2人の戦いを見つめていただけのネギであった。


「なんで2人が・・・
 ピッコロさんと・・・お父さんが・・・
 戦わないといけないの?」


「僕の命の恩人のピッコロさんと
 僕の憧れだったお父さんが・・・
 どうして・・・」


ネギの心の叫びがだんだんと大きくなっていく。 


そして、



「お父さんが・・・死んじゃう・・・」



命の恩人が父を手にかけようとしている光景を目の当たりにし、


「ピッコロさんが・・・お父さんを・・・殺しちゃう・・・」



ネギの頭の中で何かが切れる音がした・・・







「やめてよ・・・」







今ネギの中で






「やめてくれよ・・・」






秘められしものが・・・





「やめろおおおおおおお!!」






爆発した!!






ドオオオオオオオン!!








「「「!?」」」




突然変化した空気にその場にいる全員が驚愕した。







ピキ ピキ ピキッ!!






ネギを中心として地面に亀裂が走り・・・





ド ド ド ド ド ド ド!!





大地が大きく揺れ・・・





ブワアアアー!!





突風が吹き荒れた・・・





「なっ、なんだ・・・これは・・・」


吹き荒れる突風に、思わず腕で顔を庇いながらネギのほうを見るピッコロ



刹那 



「お父さんを・・・お父さんを放せぇぇぇぇぇ!!」



目に涙を溜めたネギがピッコロに単身突っ込んできた!!




少年と超戦士・・・2人の結末はどうなるのか・・・






あとがき
 
皆様の反応を見て、最後のシーンはさすがに暴走しすぎだと思い、急遽書き換えました。
読んでいて不快な思いをされた方には大変申し訳ありませんでした。
深く反省しております。
正直これでもまだ・・・という方は感想で言ってくださいますと助かります。
どうか今後とも感想よろしくお願いいたします。

7/24 ナギがクリリンに匹敵するという部分がおかしいとご指摘があったのでそこだけほんの少し修正しました。・・・というか、これでもまだ納得できないかもしれませんがどうかご勘弁を。



[10364] 其ノ五   父としての想い・・・  ピッコロとナギの約束
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:427ee614
Date: 2009/07/24 11:37

「お父さんを・・・お父さんを放せぇぇぇぇぇ!!」




弾丸のように一直線にピッコロに突撃するネギ。

普通なら、超戦士であるピッコロに正面から突っ込むなど愚の骨頂である。

それが子供ならなおさらだ。

少年にだっていくら幼いといってもそんなことくらいわかっている。

いつもの自分だったら・・・悪魔に囲まれていて震えていた今までの自分だったら・・・

自ら危険に飛び込もうだなんて思いもしなかっただろう。

しかし、目の前で父親を、ずっと会いたかった父親を失うかもしれない・・・

そんな状況を目にしたとき、少年の中で何かが変わり始める・・・

少年の体から力が湧いて・・・体が自然に動いた。




ピッコロはネギの行動に思わず目を見開いた。

確かにナギの方に集中していて少年の方に気が回っていなかったからこのようなことは想定外だった。

しかし、だからといっても所詮は子供。

ピッコロの脅威足りえない。

現に、少年が子供とは思えないスピードでこちらに突っ込んできているが、ナギの攻撃を全てかわしたピッコロにとって見切れないほどでは当然ない。

しかし、体が動くことを拒否していた。

強者故の余裕か?・・・確かにそれもあるだろう。

しかし、自分はこの一撃を受けとめなければならない・・・何故かそんな気がする・・・

ピッコロは自分にもわからない思いに駆られながら呆然と少年の接近を眺めるだけであった。





ついに、ネギが無防備なピッコロの腹にに頭から体当たりをかました。


ゴチーン・・・


先ほどの勢いからは考えられないほどあっけない体当たりであった。

当たった反動で後ろに倒れてしまうネギ。

その額からはぶつけたことによって血が流れていた。

ピッコロは1mmたりとも動いてはいない。

当然の結果であった。

彼らの実力はミジンコと恐竜、いやそれ以上の差があるのだ。

子供にしては凄まじい攻撃でも、この程度でどうにかなる相手ではそもそもないのである。

むしろ、この程度の怪我ですんだことが行幸であろう。


しかし・・・・・・

ピッコロは、ナギの首からその手を離した・・・


ドサッ


「ガハッ・・・ゴホッ、ゲホッ・・・」


ようやく首が開放されたことで、激しく咳き込むナギ。

だが、ピッコロはナギを見てはいなかった。

彼の瞳には

血が流れた額の傷口を押えながら

痛みから来る涙を必死にこらえて蹲るネギの姿しか映らなかった。


(俺は・・・今、何をしようとしていた?)


思わずナギを掴んでいた己の手を見つめるピッコロ。

そして、すぐ隣で蹲るナギの姿を見る・・・


(俺は・・・さっき・・・こいつをこの手で殺そうとしていた・・・)


再びネギに視線を戻す。


「ヒック、ヒック、エグッ、お父さん・・・」


(こいつの父親である男を・・・手に掛けるところだった・・・)


そして、思い浮かぶのはわが最高の愛弟子の姿・・・


『お父さーん!!』


セルの爆発から地球を救うために自ら身を投げ出した戦友・・・

その死を目の前で見せられた息子の悲しみの叫び・・・



それらが目の前のネギの姿に何故かカブって見えた・・・



すると、黙ってネギの方に近づくピッコロ。
 
いまだ、泣き止まないのかうずくまったままのネギ。

その頭にピッコロはそっと手をおいた。


「すまなかったな・・・」
 

「ヒック・・・ふえっ?・・・」


ピッコロから漏れた意外な一言に、痛みを忘れて顔をあげるネギ。


「さっきの俺はどうかしていた・・・
 あいつと同じ悲しみをお前にも与えてしまうところだった。
 安心しろ・・・もう、お前の父には手を出さん。」


そう言って軽く微笑むピッコロ。


「ほっ・・・本当に?」


「ああ・・・約束だ!」


「・・・そう・・・よかった・・・」


真剣な表情で力強く頷いたピッコロを見て安心したのか、そのまま気を失ってしまうネギ。


それを胸に抱きとめたピッコロはさっきネギにぶつかったところをさわり、ぼそっと呟く。


「・・・さっきの一撃は、一番キいたぜ・・・」


体へのダメージではない。さっきの攻撃はナギのものに比べても威力ははるかに劣る。

しかし、ネギの、父を守ろうとした必死の一撃は・・・今のピッコロの心には痛かった。

気絶したネギを抱えて、ピッコロは傍観しているネカネたちのところに近づく。


「あっ、あの・・・」


戸惑いながら尋ねるネカネにピッコロは


「心配するな。疲れて眠っているだけだ・・・
 しばらく寝かせておけば気がつくだろう。」


 そう言って、ネギをスタンに引き渡す。


「お前はあの男の手当てをしてやってくれ。大分痛めつけてしまったが、まだ意識はあるはずだ。お前たちのもつ『魔法』とやらに回復系のものはあるか?」


「はっ、はい。一応簡単なものなら・・・」


「よし、とりあえず家の中に運ぼう。治療はそれからだ。」


ピッコロは倒れているナギの元に向かう。


「おい・・・まだ立てるか?」


「・・・ハハ・・・立つだけならなんとかな・・・自分でも信じられないぜ。
・・・それにしても、いいのか?・・・俺にトドメを刺さなくて
もしかしたらまたアンタを狙うかもしれないぜ?」


 ナギの問いに、ピッコロは黙ってナギの胸に手を置き「気」を送り込むことで答えた。


「こっ、こいつは・・・」


体が軽くなる感覚に驚きの声を上げるナギ。


「・・・約束したからな。
・・・キサマ、良い息子を持ったな・・・」


ピッコロはちらりとネギの方を見て感慨深そうに語る。


「・・・もういい。多分歩ける・・・」


ピッコロの言葉を黙って聞き入れたナギはピッコロの肩を借りて民家の中へと歩き出す。






それから3時間・・・

ナギはネカネらの治療によってピッコロから受けた傷からほぼ回復した。

その回復の速さはピッコロも感心するほどであった。

とはいえ、完治とまではいかず、体中のいたるところに包帯が巻かれていた。

治療が完了するとすぐ、ナギは旅支度を始める。


「もう、行ってしまうんですか?本当はしばらく安静にしていなきゃいけないのに・・・」


すぐにでも旅立とうとするナギに渋い顔をするネカネ。


「そうじゃ。それにまだネギも眠っとる。あの子に何も言わずに出て行くつもりか!?」


いい加減にしろとでも言いたげにナギを非難するスタン。


「・・・まあな。ここへは緊急で駆けつけただけだからな・・・
いつまでもここにいるというわけにはいかねえんだ。
すぐに次の目的地に向かわないと・・・
ネギには本当にすまないと思ってる。俺はあいつが生まれてから親らしいことを何一つしてやれなかった。
おまけに、ようやく会えたかと思ったら、あいつの前でこんな無様な姿を晒しちまうとはよ・・・
ハハハ・・・天下のサウザンドマスターもとんだお笑い種だぜ・・・」


そう言って頬を掻きながら力なく笑うナギ。


「だがよ・・・俺はあいつに会えて嬉しかった・・・
 俺を助けるために、あんなちいせえガキの体で突っ込んできてくれた・・・
 一瞬だけだったが、もう、一人前の男の表情だったぜ・・・あれは。
・・・そうだ!!」


ナギは何かを思いつくと、自分が持っていた杖をスタンに差し出す。


「ネギが起きたらこいつを渡してくれねえか?俺の形見だって言ってくれ。」


そうして、スタンが杖をうけとると


「それから、こうも言っていたと伝えてくれ・・・
『その杖はお前が立派な男になったとき俺に返しに来てくれ』ってな!!」


そう言って扉を開けて出て行くナギ。


「っ!?・・・どうしても行くのか、ナギ・・・」


「ああ・・・
こんなこと俺が言えた義理じゃないが、元気に育て。
 幸せにな!!」


「ナ、ナギさん!!」


「こ、この、バカ者がー!!」


2人が追いかけようと外に出たときは既にナギの姿はなかった。







村から少し外れた森の中・・・

そこで、道を急ぐナギの姿があった。


「くっ、やはり急場しのぎの治療じゃまだ完全とはいかねえか・・・
 さっきやられたところがまだ痛むぜ。」


痛みに顔をしかめながら進むナギの前に、いつの間にか一つの影が立ちふさがっていた。


「傷はもう大丈夫そうだな・・・」


その人物の顔を見てナギは一瞬驚くが、すぐに表情を引き締めて


「・・・そういやアンタには世話になったな。ありがとうよ。
そして、謝らせてくれ。・・・さっきはすまなかった。」 


そこに立つ影・・・ピッコロはナギの謝罪を黙って聞いている。


「あのときの俺は頭に血が上ってたんだ。村が襲われているのに気付いたくせに結局救助に間に合わなかった。おまけに、着いたときには既に襲っていた悪魔はすべてアンタに片付けられてた。」


そこで言葉を一旦きり、一呼吸置いて再び語りだす。


「俺はきっとアンタに嫉妬してたんだろうな。
 何も出来なかった自分への怒りをどこかに吐き出したかったんだ。
だから、俺たちと明らかに『違ってる』アンタに当たっちまった・・・
・・・ったく、我ながら自分の器の小ささにあきれるぜ。」


そうどこか自嘲気味に語るナギ。


「・・・でもな、ネギの介抱をしてくれたアンタを見たとき、気付いたんだ。
 あのときのネギを見るアンタの目・・・立派な親の目だったぜ。
 アンタ・・・昔子供を育てたことがあるんじゃねえか?」


ナギの問いにピッコロは自らの過去を振り返りながら


「・・・確かに、一度だけ・・・とある馬鹿の息子を預かったことがある。
 しかし、本当に昔の話だ・・・・・・」

とぽつりとこぼした。

己の手塩にかけて育てたその弟子はもうとっくの昔に天国に行ってしまった。

閻魔大王の宮殿で会ったのを最後に、一度も会っていない。

今頃は一体何をしているのか?もしかしたら、もうどこかの星で現世に転生でもしているのかもしれない。


『僕はピッコロさんの弟子だったことを誇りに思います。ありがとう、ピッコロさん。』


宮殿での別れの間際に言われた台詞が今でも脳裏に蘇ってくる。


「・・・おっと、すまない・・・感慨に浸ってる場合じゃなかったな。」


改めてナギに意識を向けるピッコロ。


「・・・よっぽど良い『息子』だったみてえだな。」


「・・・ああ。俺の唯一と言っていい自慢だ。」


ピッコロはどこか誇らしげに語った。

それを聞いて何かを決心するナギ。



「・・・アンタに一つ頼みがある。」




そして、後の運命を大きく変える言葉を紡ぎだす・・・


「ネギの・・・『父親』になっちゃくれないか?
・・・こんなことアンタに頼める義理じゃないのは分かってる。
しかし、今の俺にはやらなきゃならないことがある。俺の傍にいたらあいつらにも危険が降りかかるかもしれない。すべてが終わるまでは・・・まだ、あいつらの元には戻れない・・・
だが、小さいネギに親のいない生活をこれ以上させたくない。
だからこそ、頼む!!仮でもいい・・・あいつの『親代わり』になってくれ。」


ついにはピッコロに土下座までしてしまうナギ。

ナギの頼みに一瞬驚くピッコロだったが、すぐに真剣な顔に戻り、


「・・・なぜ、俺なんだ?」


ナギに問い掛ける。

するとナギは顔を上げて自信たっぷりに言う。


「アンタだからだよ・・・
 アンタならネギを、『英雄の息子』としてでなく『ネギ』自身として見てくれる・・・
 そう信じてるからさ・・・」


それを聞いたピッコロは少し呆気にとられた表情をしたあと、無表情になり、ナギの横を通り過ぎながら、


「・・・フン。キサマを見てるとどこぞの馬鹿を思い出すぜ。
 子供の気も知らずに勝手にオッ死んだことのあるやつにな・・・」


敵同士だったこともある自分を無条件に信頼してくれていたかつての戦友が頭をよぎる。


「キサマ、そんな勝手な頼みを俺が引き受けるとでも思ったか?」


そう言ってナギの後ろの方へとさっさと行ってしまう。

やはり、無理だったか・・・とナギが半ば諦めかけたとき、

ピッコロが立ち止まった。


「・・・とは言え、俺も今更ここでするべきこともやりたいこともないのでな。
 退屈しのぎにその馬鹿げた『提案』に乗ってやろう・・・」


「!? それじゃあ・・・」


「キサマの息子は俺が見といてやる。
 安心しろ、俺は自分がした約束は守る。」


ピッコロはそう力強く答えて、再び歩みだす。

ナギは思わず振り返り、


「そういやアンタの名前を聞いてなかった!!」


嬉しそうにピッコロの背中に声をかける。


「・・・ピッコロだ。」


小さく答えるピッコロに


「俺はナギ、ナギ・スプリングフィールドだ!!もう、忘れないぜピッコロ!!」

自分も名乗りを挙げた。



そこに強い風が巻き起こる。その風がピッコロを包み込み、止んだころにはピッコロの姿は消えていた。


「・・・なんだか、夢を見ているようだったぜ・・・っと、魔法使いである俺が言う台詞じゃないか。はあ・・・俺もまだまだ修行が足りないな。」


ナギは暢気に呟くと次の目的地へと足を動かすのであった。






あとがき

更新遅れて申し訳ありません。今回は難産でした。
どうやってオチをつけようか迷いつつ書いたら予定よりかなり長くなってしまった。
おまけに多少無理やり感が否めません。(読者の皆様には本当に申し訳ないです。)
今回のピッコロさんは人によってはピッコロらしく見えないかもしれませんが、これが作者の理想のピッコロ像です。あくまで個人的なものなので気に入らない方はスルーしてください。



[10364] 其ノ六   一同騒然!!  語られるピッコロの過去 【Aパート】
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/07/28 21:46




ナギと別れてしばらくした後、ピッコロはネギたちのいる家の扉の前に佇んでいた。


「!? ・・・なんだ、お主か・・・
あのままもう、立ち去ったのかと思うとったぞ・・・」


扉を開けた人物に驚いたスタンだったが、すぐに表情を曇らせる。


「うん? 何かあったのか?」


スタンの様子がどこかおかしいことに気づいたピッコロが尋ねると、


「・・・実はの・・・今さっきネギのやつが目覚めたんじゃが・・・」
 

ピッコロにはそこから先がなんとなく想像がついたので、


「・・・で、そのネギは部屋にいるのか?」


すると、スタンが


「いや・・・ナギがいなくなったのを知って泣きながら森の方へ走ってった。
ネカネが慌てて後を追っておる。」


といかにも口にするのが苦しそうに言った。


「・・・はあ。まったく世話がかかるガキだぜ・・・」


ピッコロはそう言って外に出ようとする。


「まっ、待て!? まさかお主も行く気か?」


思わず引き止めてしまったスタンに対し、


「行って何が悪い? ・・・別に危害は加えんぞ。
俺はあいつの親父からあいつのことを頼まれているからな・・・
あいつに何かあったら俺の面子に関わる。」


振り返りながらそう答える。

そのまま外に出て行ってしまうピッコロをスタンは呆然と見送るしかなかった。


「頼まれたって・・・ナギが?・・・本当に?・・・」





ところ変わってここは村が襲撃される前までネギが釣りをしていた湖の畔である。

そこでネギが膝を抱えて座り込み、湖面に浮かぶ自分の顔をじっと眺めている。

さきほどからずっとこの状態である。

それがネギを追いかけてきたネカネには歯痒くてしかたがないのだが、ナギがまた出て行ってしまったと告げられたときのネギの顔を見ているだけに何と声をかけたらいいかわからない。

もちろん、義理とはいえ娘でもある彼女だってそのことに関しては悲しくないかと言われたら悲しいに決まっている。

しかし、見た目以上にしっかり者のこの少女は何年か付き合ううちにナギのことについてはもう半ばあきらめていた。

彼が魔法使いたちの間の英雄であることも理由の一つだが、仮にそうでなかったとしても、もともと放浪癖のある彼にしてみれば一つの場所に留まること自体相に合わないのかもしれない。

だとすれば、こうなってしまうのは当然の結果と割り切ることもできた。

しかし、今日まで一度も父を知らなかった幼いネギにすれば、そんな事情など関係ない。

ただ、父に会いたいだけなのに・・・どうして会ってすぐに居なくなってしまうのか。

その悲しみは誰にも計り知れない。

そんなネギに何もしてやれない自分の無力さに唇を噛みしめるネカネの肩に突然誰かの手が置かれた。

びっくりして振り向くと、そこには白いマントをまとったピッコロの姿があった。


「ど、どうしてここに・・・」

「なに・・・約束があるんでな。どうやらさっそく働かないといけないようだな。」


そう言ってネギに近づこうとするピッコロ。


「ま、待ってください! 今あの子は悲しみのどん底にいるんです。そっとしてあげてくだ「黙っていろ・・・」!?」


咄嗟にピッコロを止めようとするネカネにぞっとするほど冷たい声が浴びせられる。

思わず、そこから動けなくなるネカネ。

そんな彼女を他所に、ピッコロはついにネギの背後まで近寄る。


「いつまでこんなところで泣きべそを掻いているつもりだ・・・」


不意に声をかけられて湖面に映った見知った人影に気づき驚くネギ。


「ピッコロさん・・・ウ、ウ、ウワ~ン!!」


しかし、驚いたのもつかの間。また膝に顔を伏せて泣き出してしまう。


「・・・フン。いつまでもグジグジ泣きやがって!」


そう言っていきなりネギの首根っこを掴むピッコロ。


「わ、わわわ!?」


吊りあげられジタバタするネギをピッコロは湖に放り投げた。


ドッパ~ン


高く上がる水しぶき。

すると水面からネギが顔を出した。


「わっ、あっぷぅ、ごぽっ、た、たすけっ、わぷっ・・・」

「ネ、ネギ!!」


溺れているネギを見て慌てて助けに行こうと湖に跳び込むネカネ。

それをピッコロは黙って見つめていた。



ようやくネギが救出されると


「な、何をするんですか、あなたは!? いくらなんでもこんな子供に対してあんなこと・・・」


ピッコロの仕打ちに対し、普段は温厚なネカネも怒りが爆発する。


「フン。いつまでもそうやって泣いてばかりいる甘ったれたガキにはこれくらいした方が調度いい。第一、キサマらもこいつに対して少し甘やかしすぎじゃないか?だから、いつまでもネギの後ろで声をかけようかウロウロする羽目になるんだ。」


ネカネはピッコロに核心をつかれて、急に押し黙ってしまう。

そんなネカネは眼中にないとでもいうように、ピッコロは手をついて俯いているネギに向き直る。


「おい、いい加減顔を上げたらどうだ? 俺の目を見ろ!! 下ばかり向いたところで何も前に進まん。」


ピッコロから厳しい口調で言われ、恐る恐る顔を上げるネギ。

その眼は泣きはらしたためか真っ赤に染まっていた。


「・・・なんだその眼は? そんなになるまで一人で悩んでいたのか?
 呆れたやつだ。お前のようなガキが一人でどうにかなるとでも思っていたのか?
・・・思い上がるな!!所詮子供にできることなどたかが知れている。一人で抱え込むくらいならどうして大人を頼らない?どうして話そうとしない?そんなに大人は頼りないか・・・」


ピッコロがひとしきり話し終えたところでついにネギが口を開く。


「僕が・・・僕が悪いから・・・僕がお父さんに会いたいなんて思ったから、みんながあんな目に・・・
お父さんが居なくなっちゃったのだって僕が悪い子だから・・・神様が僕に与えた罰なんだ・・・
だから、もうお父さんに会いたいなんて思っちゃだめなんだ・・・」


自分の思いを口にする度にネギの表情がどんどん暗くなっていく。


「・・・では、もう親父には会いたくない・・・そういうわけなんだな?」


しかし、ピッコロの問いにネギは首を横に振る。


「そんなことないよ! 本当はもう一度お父さんに会いたいよ! 会ってお話したいよ!でも・・・そんなお願いをしたらまた神様が怒ってみんなに迷惑(ゴツン)っ、イタっ!?な、何するのピッコロさ~ん。」


ネギが再び鬱状態に入ろうとしたとき、その頭にピッコロのゲンコツが入った。


「ガキのくせにマイナス思考ばっかりしやがって・・・どこぞの馬鹿の楽観的思考のほうがよほどマシだ。第一、子が親に会いたいと思うことのどこがおかしい?お前自身が悪いことをしたのか?違うだろう?神様が罰を与えるだと?笑わせるな!!デンデのやつにそんな芸当ができるか!!」


ネギは涙目になりながらも一瞬「デンデって誰?」と突っ込みそうになったが、何故かそこは聞いてはいけないような気がしたのでスルーした。


「で、でも・・・」

「デモもストもない!! はあ・・・これだけ言ってもわからんか。
 ・・・そんなに心配なら神の力など初めから当てにしなければいい。」

「えっ・・・・」


ピッコロから発せられた意外な言葉に、言葉をなくすネギ。


「お前はさっきから『お父さんに会いたい』などと相手が来るのを信じてただ『待って』いるだけだ。それができる人間は確かにある意味では強いといえるだろうな。だが、それは自分に力がない者に言えることだ。」


ピッコロはそこで一旦言葉を切り、ネギの目を見ながら話を続ける。


「お前には自分でも信じられないかもしれんが、とてつもない力が眠っている。お前が俺に立ち向かったとき一瞬だけだがその片鱗が見えた。それほどの力があるのだったら、神様なんぞを当てにしてキサマの親父をいつまでも『待って』いるんじゃない!!キサマの力で、キサマのほうから『会いに行け』!!」


力強いその声がネギの胸の中に響き渡った・・・


「あっちが来るのを待つんじゃなくて、こっちから会いに行く・・・」


「そうだ・・・。まあ、それでも見つかるまでは父親がいないことに変わりはないからな。
答えを先送りにしたにすぎんかもしれん。だが、それでもこんなところで立ち止まっているよりは遥かにマシだ・・・そうは思わないか?」


あの不敵な笑みを浮かべて聞き返してくるピッコロにネギはかなり心が揺さぶられていたが、あと一歩のところで不安があった。


「でも・・・やっぱり僕には無理だよ。僕は喧嘩だって弱いし、怖がりだし、泣き虫だし・・・僕にすごい力があるなんてとても思えない。僕はお父さんみたいになれるはずがないんだ・・・」


気弱なネギの言葉を聞いたピッコロは・・・


「ならば強くなれ!!体だけではなく心もだ!!お前には無限の可能性がある。お前が前に進むことを諦めなければ、ひょっとしたら父親以上になれるかもしれん。お前が強くなったら、そのときは堂々と父親に会いに行ってやれ!!」


ピッコロの自信に満ちた言葉にネギは震える声で言う。


「僕も・・・僕も強くなれるかな・・・甘えん坊のこの僕でも・・・」


「・・・さっきも言ったがな、子供が大人に甘えるのは別に悪いことじゃない。特にお前は話によれば生まれてこのかたずっと両親がいなかったんだ。親を恋しく思うのは仕方がなかろう。ついさっき再会できたとはいえ、また居なくなってしまったお前の寂しさも理解できないことはない。だがな、お前は一人じゃない。そこの姉や爺がいるだろう。」


そう言って一度ネカネに視線をよこし、ネギに向き直る。


「確かにその道は子供のお前では険しいかもしれん。だからな、もしもお前が挫けそうになったら前よりもっと強くなれ。強くなることに行詰まったら身内に支えてもらえ。それでも駄目なときは・・・」


そしてピッコロは自分自身を指さして


「俺がなんとかしてやる・・・」


最後に言った言葉に泣きはらしたはずのネギの涙腺がまた潤い出す。


「どうして・・・どうして会ったばかりの僕にここまでしてくれるの?」


「・・・お前の親父に頼まれた。自分がいない間俺にお前の『父親』になってくれとな。あいつは自分のプライドも何もかも捨てて必死に俺に頼んできた。あのときのあいつの目を見た瞬間、俺はその話に乗ることにした。やると決めた以上は全力で期待に応える。だからだ。」


そして少し間を開けた後、


「それに・・・親を失った子供の涙を見るのはもう沢山なんでな。仕方ないからナギのやつがいない間お前に付き合ってやる。」


ぽつりと呟くその言葉にどこか哀愁を漂わせるピッコロ。


「う、う、うああぁぁぁ!!」


ピッコロの言葉についに感極まったのか、ネギが抱きついて今までで一番でかい声で泣いた。

だが、その表情にはもはや悲しみの色はなく嬉しさが滲み出ていた。

ピッコロはネギの頭にそっと手を置き、いささかやさしい口調で言った。


「フン。この泣き虫め。まあいい・・・今だけは思いっきり泣け。涙が枯れたらお前は前のお前より少しは強くなっている・・・」





その様子をそばにいたネカネは、目に浮かんだ僅かな涙を指で拭いながら、しかしどこか嬉しそうな顔でじっと見つめていた。






あとがき①

どうも。更新が遅くなってしまいました。今回はかなり長めなのでA・Bの2パートに分けました。でも、あまり話が進まなかった・・・・・・
ここのパートを書くのは結構難しかったので、ピッコロさんのセリフが別キャラみたく見えてしまうかもしれません。それは作者の実力不足です・・・申し訳ありません。ああ・・・石を投げないで・・・!!



[10364] 其ノ六   一同騒然!!  語られるピッコロの過去 【Bパート】
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/07/28 22:11





ピッコロとネギの話し合いのあと、3人はそろってスタンの待つ家に帰った。

出迎えたスタンは出て行ったネギのことを心配していただけに、帰ってきた彼のどこか吹っ切れたような表情に驚いた。

さらに、ネギがピッコロに懐いている様子を見て何があったのか想像がついたようだ。


(フウ・・・どうなることかと思うとったが・・・要らぬ心配だったようじゃな。
ナギのやつも人を見る目があったということかの・・・)


見事この件を解決してみせたことで、ピッコロへの評価をさらに改めるスタンであった。





とりあえず、全員揃ったところで夕食をとることになった。

幸い、ネギの家の中は荒らされておらず、出された夕食もそれなりのものができ上がった。


「「「いただきま~す」」」


悪魔の襲撃のあった夜でようやく夕食にありつくことができたネギたち。

特にネギは子供らしく勢いよく料理を平らげていく。


「ムグムグ、モギュモギュ・・・ほいひいい~」


「フフフ、そんなにがっつかなくても料理は逃げないわよ。ゆっくり食べなさい。・・・あら?」


おいしそうに食べているネギを微笑ましく見ていたネカネがその隣のピッコロの席の様子に気づいた。

なんとピッコロはまだどの料理にも手を付けていなかったのだ。


「あの・・・先ほどから何も食べていないようですが・・・もしかして嫌いなものでも入っていましたか?」


不安そうに尋ねるネカネにピッコロは、


「ム・・・いや、別に嫌いとかそういうんじゃなくてだな・・・その・・・」


どうやらかなり言いづらいことのようだ。


「あ、あの・・・もしかしてお口に合わないとか・・・」


ピッコロの反応にますます不安になるネカネ。


「い、いや・・・そのだな・・・俺は体質的に水だけ飲めれば生きていけるんでな・・・普段こういう凝った料理とかはまったく食べないんだ・・・」


すごく済まなそうに答えるピッコロ。


「そ、そうだったんですか・・・ごめんなさい・・・私ったら余計なことを・・・でも、残念です。ぜひあなたにも食べてもらおうと思ってましたのに・・・」


本当に残念そうにしているネカネにさすがのピッコロも罪悪感が出たのか、


「べ、べつに食べられないわけじゃない・・・うん、よく見たらなかなかうまそうだ。やっぱり食べてみようかな~。あ~ん。」


無理やり口を開けて料理にぱくつくピッコロ。

口に入れた瞬間、ちょっと顔の青味が増した気がするが気のせいだろう。


「だ、大丈夫ですか?あの・・・そんなに無理しなくていいですよ?」


「も、問題ない・・・な、なかなか良い味だったぞ・・・」


ぎこちない笑みを浮かべ答えるピッコロに対し、


「ほ、本当ですか!?良かった~。じゃあ、こちらの料理はどうですか?これ自信作なんですよ~。」


パアァァと花でも咲いたかのように表情を明るくするネカネを見て後に引き下がれなくなったピッコロ。


「よ、よし。こうなったらなんでも来い!!」


その後、ピッコロはネカネから勧められる料理に片っ端から口をつけていった。

それを向いの席で眺めていたスタンは若干呆れた表情だったことを追記しておこう。



この日、ピッコロはある意味ナメック星人の壁を確かに越えた・・・!!





食事が終り、食器をすべて片付け終わると、4人は再びテーブルを囲んで着席した。

結局すべての料理に口をつけたためかピッコロの表情がかなり疲れているように見えるがまあそこはそっとしておこう。


「さて・・・自己紹介が遅くなってしまったの。わしはスタン。そしてとなりにいるのがネカネじゃ。」


「・・・ピッコロだ・・・」

互いに自己紹介をすませるピッコロとスタンたち。


「ふむ・・・今更こんなことを聞くのは遅すぎる気はするが、お主のことを教えてはくれんかの?」

重々しい口調でスタンが尋ねる。

そうなのだ。悪魔の襲撃があってから、もう大分長い時間一緒にいるはずなのに、まだネギたちは目の前にいるこの男について何も知らないのである。


「・・・その前に一つ訊きたい。ここはいったいどこの星だ?地球によく似ているが・・・」


いきなり、おかしなことを言い出す目の前の男にネギたちの目が点になる。


「・・・あの・・・確かにここは地球ですけど・・・」


「何!?そうなのか・・・道理で妙に懐かしい気がしたはずだ・・・それじゃあ、ここは地球のどのあたりにある?都はどこが近い?西の都か?南の都か?」


「はあ?あの・・・西の都とか南の都とかってなんですか?」


「・・・お前たち知らないのか?地球は東西南北4つの都に分かれているはずだぞ。」


ピッコロの言葉に首をかしげるネカネたち。


「いいえ、聞いたことがありません・・・おじいさんは知ってる?」

「いや、わしも初めて聞いた・・・というか、そんなことは常識的に考えて絶対ありえん。
お主本気で言っておるのか?」


信じられないとでもいう顔をしているスタンを見てピッコロはようやく自分と彼らの認識の齟齬に気づいた。


「・・・すまない。少し世界地図を見せてもらえないだろうか?」


ピッコロの頼みに、ネカネが別の部屋から世界地図をもってくる。

それを見てピッコロは愕然とした。

そこに描かれた大陸の形、地形、海の広さ・・・すべてが自分の知るものと全く異なっていた。

さらに、地図には聞いたことのない数多の国の名前が書かれていた。

そもそも、自分の知る地球はこんなに独立国家はなかったはずだ。

すべての都市が、キングキャッスルにいる国王のもとに統治されているはずだった。


これらの事実を突き付けられたとき、ピッコロの頭にある仮説が浮かんできた。


(平行世界・・・)


そういえば昔、未来からやってきたトランクスが言っていた。違う時空には自分たちのいる世界とは異なる歴史を歩んだ世界が存在すると。現にトランクスがいた未来とピッコロたちがいる世界とでは歴史が大きく変わっていた。


(しかも、今回は地球の存在そのものが大きく違っている。ということは、この世界は俺たちの世界とは根本的に異なっているということか・・・
原因はやはりバビディの作ったあの装置・・・)


あの装置が暴走したせいで地獄と地上の空間をつなげるはずがどうやらまったくの異世界につながってしまったらしい。穴はふさがってしまったもとの世界に戻る方法もあるかどうかわからない。


「ちっ、バビディのやつとんでもないことをしてくれやがったぜ・・・といっても、もとの世界に戻ったところで地上ではすることがないし、地獄では番人の仕事が待っているだけだからな・・・別段困ったことでもないか・・・」


ぶつぶつと独り言を言うピッコロにさすがのスタンも堪りかねたのか、


「ウオッホン! そろそろ話を戻しても良いかね?」


「ん?ああ、すまない。こっちにも少々信じられない事態になったみたいなのでな・・・。
どうやら俺はこことは違う世界から来たらしい。」


ピッコロが話した驚愕の事実にスタンたちも開いた口が塞がらなかった。


「い、異世界からじゃと・・・」


「ああ、そうだ。俺のいた世界にも地球という惑星があって、宇宙には数多の星が存在した。その中には地球のように人間が住んでいる星もあった。」


「人間が住んでいるって・・・う、宇宙人が実際にいるんですか?」


「ああいるとも。現に今もお前たちの目の前にいるだろう?」


「えっ・・・それじゃまさか・・・」


ピッコロが被っていた帽子を取り払った。

そこで見えたものに一同は息を呑む。・・・頭に2本の触覚がついていたのだ。


「俺は地球からはるか離れたナメック星の人間・・・すなわちナメック星人だ。」


ピッコロから知らされた衝撃の事実に言葉を失くすスタンたち。


それも仕方がないだろう。悪魔や魔法使いといった非常識な連中を知っている彼らでもまさか宇宙人を、それもこんな王道的な姿をした本物を見ることができるとは思いもしなかったであろうから。


「す・・・すご~い!! ピッコロさんってホントに宇宙人なんだね!!」


何故かさほど疑問に思わず事実を受け入れているネギ。


「・・・ワシは外見とさっきの戦いぶりからてっきり上級の魔族だと思うとったんだが・・・まさか宇宙人とはの・・・いまだに信じられんわい・・・」


「まあ・・・魔族というのも間違いではない。俺も昔は地球で魔族を名乗っていたからな。」


「あ、あの・・・宇宙人なのに地球に住んでいたことがあるんですか?」


「・・・そうだな。まずはその辺から話さねばなかろう。今から話すのはちょっとした、いやもうかなり昔の話になるのか・・・」


ピッコロが自分の過去について語り出した。





それは、ネギたちには想像を絶する物語であった。

大昔、ナメック星に天変地異が起こり、当時のナメック星人は絶滅の危機に立たされた。

そのとき一人のナメック星人の子供が宇宙船に乗せられ、その危機から脱出する。

その宇宙船が流れ着いた先が地球であった。

子供は流される途中で故郷と自分に関する記憶を失ってしまっていたが、地球でたくましく成長していく。

子供が青年へとなったころ、地球に『神』なるものが存在することを知る。

青年は腕に覚えがあったから、『神』という存在に興味を持った。

そして彼は『神』に会い、その圧倒的存在に魅了された。

彼は『神』の後継者になりたいと思った。

彼はその後、『神』に弟子入りし、厳しい修業を積んだ。

しかし、彼が後継者となるには大きな問題があった。

本来、争いを好まない気質であるナメック星人であった彼が、地球に長くいるうち
に、地上の人間たちの悪に染められ、ごく僅かであるが心に悪を持つようになってしまったのだ。

『神』は彼に「心の悪を失くさない限り自分の後は継がせない」と言い、彼はそれを聞いて必死に心の悪を失くそうとした。

厳しい修業の末、彼はついに心から悪を追い出すことに成功し、次の『神』となることができた。

しかし、そのとき追い出した悪が地上に降り立ち世にも恐ろしい怪物を生み出してしまう。

それが『ピッコロ大魔王』、後のピッコロの父に当たる存在である。

ピッコロ大魔王は自分を魔族と称し、自分の生み出した手下たちとともに地上で悪事の限りを尽くしたが、一人の武道家によって封印(どこにというのは本人も言いたくないようなので伏せておいた)されてしまう。

世界に長い平和が訪れた。


「・・・こらたまげたわい。宇宙人が地球の神になるとはの・・・」

「私にはとても考えられませんね・・・」

「ねえピッコロさん。その大魔王が暴れていたときに神様はどうして何もしなかったの?」

「何もしなかったのではない。できなかったのだ。なんせ、当時は先代の神が亡くなって次代に移っていたし、その次代の神も元はと言えばピッコロ大魔王と合わせて一人の人間だった・・・つまり、ピッコロ大魔王は神の分身だったわけだ。だから、ピッコロが死ぬということは同時に神が死ぬということでもあった。」

「あっ、そっか! 万一分身を殺しでもして、自分が死んじゃうわけにはいかないもんね。」

「そういうことだ・・・話に戻るぞ。」


ナメック星人であった神には彼の故郷ナメック星に伝わる特別な力があった。

それは、『ドラゴンボール』を作ることができる能力であった。

星の入った7つのドラゴンボールを集めると、神龍を呼び出すことができ、どんな願いでも一つだけ叶えてくれるのだ。

それこそ、不老不死や死者の蘇生といった魔法世界でも禁忌に触れるようなことまでできてしまうドラゴンボール。

当然手に入れようとする欲深い輩があとを絶たなかった。

しかし、ドラゴンボールは願いを叶えると地上のあちこちに散らばってしまい、しかも叶えてから1年間はただの石になってしまう。

そのため、ドラゴンボールを探知する能力のなかった人間にはすべてのドラゴンボールを集めることは不可能に近かった。

しかし、時が流れ、ドラゴンボールを探知する方法を見つけ出した者たちが現れる。

その一つがドラゴンレーダーをもった孫悟空たち一行であった。


「そのドラゴンボールっていうのは今もあるんですか?」

「地球のものは200年前にとある戦いでどこかに消えてしまったと聞く。今残っているのはナメック星にあるものだけだろうな。まあ、この世界の者にとってはどうでもいいことだが。」


レーダーの登場により激しくなるドラゴンボール争奪戦。中でも一番活躍したのが孫悟空である。
彼はドラゴンボールを狙う悪い奴らに果敢に立ち向かった。あるときは、世界最強の軍隊と闘ったこともあった。

しかし、彼がそれまで戦った一団にあろうことかピッコロ大魔王の封印を解いた者たちがいた。

復活したピッコロは長い封印のために年老いており、力が衰えていた。

そのため、ピッコロはドラゴンボールを集め神龍に自分を若返らせてほしいと頼んだ。

それにより、全盛期の力を取り戻したピッコロは再び地上で暴れ出した。

再び恐怖に陥る地球。だが、そこに救世主が現れる。

孫悟空である。彼はもって生まれた力によって見事大魔王を討ち果たし、世界を救った。

しかし、大魔王もただでは死ななかった。死ぬ間際に自分の分身とも言える存在を産み落としていたのだ。彼は分身に孫悟空の打倒と世界征服という自分の遺志を託した。

こうして生まれたのが、今ここにいるピッコロである。

ピッコロは父の悲願である孫悟空打倒のために力をたくわえ、数年の時を経てついに因縁の相手と激突する。

繰り広げられる死闘。だが、結果は惜しくも敗北する。

そのとき命を助けられたピッコロは孫悟空との再戦に備えてさらなる修行の日々を送ることとなる。

しかし、本当の戦いはこれからであった。

孫悟空の出身であるサイヤ人たちの地球への来襲。

その戦いで一度ピッコロは命を落とす。

なんとか撃退した後、死んだ仲間たちを生き返らせるため、ドラゴンボールを求めナメック星に向かう一行。

しかし、そこにはサイヤ人たちよりはるかに恐ろしいフリーザが待ち構えていた。

フリーザたちとの死闘の中でついにピッコロがナメック星のドラゴンボールで復活する。

そのとき、現地のナメック星人と同化して強力なパワーを手にしたピッコロだったが、フリーザの力はそのはるか上を行っていた。

結局フリーザは超サイヤ人に覚醒した孫悟空によって倒される。

地球に戻った一行であったが、その数年後さらに恐ろしい敵に出会うことになる。

ドクターゲロの作りだした人造人間との戦いである。

この戦いの中でピッコロは長年分離していた神との融合を果たすことになる。


「それじゃあ、今のピッコロさんは魔族でもあって神様でもある・・・え~と・・・」


なにやらわけがわからないとでもいうような顔をするネカネにピッコロは溜息をつきながら、


「今の俺はただのナメック星人・・・それでいいだろう。もっとも本当の名前も忘れてしまったが、な・・・」


どこか切なそうな雰囲気を出すピッコロに一瞬二の句が告げなくなるネカネ。


「ね、ねえ。ピッコロさんは神様と合体したんでしょ?だったら、神様の力で石になったみんなを元に戻せないの?」


もしかしたら、村のみんなを助けだせるかもしれない。ネギはそんな淡い希望をもっていたのだが・・・


「残念だが、それは無理だ。神と融合したことで得た能力はいくつかあるが、神の能力をすべて受け継いだわけじゃない。それに元の神にもそこまでの能力があったかどうか・・・。ここにドラゴンボールがあればなんとかなるんだがな・・・」

「そっか・・・」


残念そうに俯くネギ。


「すまないな・・・こんなときに力になれそうにない・・・」

「い、いいえ。気にしないでください。これは本来私たちの力で解決しなければならないことなんですから・・・。それにあなたもおっしゃてたじゃないですか。『力があるなら神様なんかに頼るんじゃない』って。」


ネカネの言葉にピッコロの気持ちが少し軽くなった。


「うん!!そうだよね!!今度は僕が頑張ってみんなを元に戻さなくちゃ!!」


落ち込んでいたネギも意外と早く立ち直ったようだ。湖でのピッコロの説教のおかげであろうか。


「ふ~む・・・今までの話しぶりからすると嘘を言っているようではなさそうじゃ。にわかには信じられん話だがの・・・。ナギとの約束もあるようじゃし、ワシはお主を信用しよう。」


「そうか・・・感謝する。」


らしくもなく頭を下げるピッコロ。


「や、やめてくれい。見た目魔族のお主に頭を下げられるのは変な気分じゃわい。」


顔を赤くして照れるスタンを見て、ネギとネカネは笑い声をあげる。

それを傍で眺めながら


(久々にこんな生活を送るのも悪くない・・・か・・・)


と心の中で呟くピッコロであった。







あとがき②

Bパートでした。今回バトル成分がなくて申し訳ないです。作者の力量では会話もうまく書けてない気がしますし、皆様には物足りないかと思います。
修行編になれば少しは生き生きとしたものがかけるのではないかと思うのですが・・・(引き伸ばしが長くてすみません)
次回かそのまた次回にはネギの修行編に入れると思うんでそれまでもう少し御辛抱を・・・
p.s.この場をもちまして謝らせてください。デンデごめん!!



[10364] 其ノ七   少年の決意・・・ 僕を弟子にしてください!!
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/08/02 02:14




ここはウェールズのメルディアナ魔法学校。

現実世界の将来有望な魔法使いの卵たちを教育する場所である。

そこの校長室で、この部屋の主である校長と、2人の人物が向き合っていた。


「君が噂の魔族君かね?」


「ああ、そうだ・・・と言いたいところだが、俺は正しくは宇宙人だ。」


校長の問いかけに答えたのはもちろん皆さんご存知のピッコロである。

そして、彼のとなりにいるのはスタンである。

なぜ、彼らがこんな場所で会することになったのか・・・・・・
あれは、ピッコロがネギたちと出会ってから3日後のことである・・・・・・










その日、ネギたちの村が襲撃されたとの知らせを受けて救助隊がようやく到着した。(というか、いくらなんでも救助に来るのが遅すぎなのであるが、報告が遅れたのと手続きに時間がかかったのではないかと思われる。)

救助隊はネギの村の惨状を見て、始めはもはや生き残りは絶望的かと思われたがそこで運よく外に出ていたネカネを見つけ、話を聞き、ネギの家の前へと案内された。

このままならネギたちが救助されてなんら問題なく話が終わるはずなのだが、そうは問屋が卸さない・・・・・・

魔法使いたちは家の扉を開けた瞬間に戦慄した。

それも無理からぬこと。なんせ、彼らの目の前には外見が明らかに「オッス!!オラ魔族!!」な男が膝の上に子供を乗せてじゃれあって(実際は子供が一方的に甘えていて男がいやいや付き合っているのだが)いたのだから。

魔法使いたちはすぐさま杖を構えて警戒態勢に入った。

そして、開口一発お決まりのセリフを言う。


「キサマ、ただちにその子から離れろ!!」


男・・・ピッコロはこの世界に来てから何度も言われたその言葉に内心ウンザリしながらも、無視を決め込んでいた。

この手の相手には下手に言い返すと何をしてくるかわからないことを長年の経験からわかっていたからだ。


「クッ、人質をとるとは卑怯な・・・これでは迂闊に魔法が撃てない・・・」


盛大な勘違いをしている隊員に、ピッコロは半ば呆れた表情で溜息を吐く。

そこへ、案内してきたネカネや家の中にいたスタンが仲裁に入る。

何とかその場は杖を納めてもらったものの、ネカネたちから村が襲撃のときの状況説明をされているうちに、今度はピッコロが犯人の一味ではないかと疑いだした。

中には「この場で即刻討つべし!!」と過激な意見を出す者いたり、「捕えて尋問するべきではないか」という穏やかならないことを言い出す始末。

とにかく、同行願いたいとピッコロの連行をしようとする魔法使いたち。

しかし、それをネギ家の3人が黙って見過ごすはずがなかった。

ネカネとスタンはは襲ってきた悪魔たちを追い払ったのはピッコロであり、ネギの窮地を救ってくれた命の恩人でありこそすれ、犯人などとはとんでもないと必死にピッコロを弁護する。

特にネギ少年の抗議は凄まじく、両手を広げてピッコロを庇うように立ちふさがったときなどは、その姿は堂々たるものであった。

ネギをサウザンドマスターの息子と知る彼らにとっては、その行動はかなり衝撃的であり、誰しも次の行動を躊躇わせた。

しかし、救助隊の隊長らしき男が納得いかないのか口をはさむ。


「しかし、彼がここの悪魔を殲滅したというのは信じられませんな。仮にそうだとしたらそれこそ上級魔族・・・犯人であろうがなかろうが、どちらにしてもそんな力の持ち主をあなたたちの傍に置いておくのは危険です。ここは素直にこちらに引き渡した方が利口だと思いますが?」

「3日もたってから救助に来ておいてよく言うわい。あいにく、この男はナギのやつに息子のことを頼まれておるからの・・・そう簡単にそちらさんの世話になるわけにはいかないんじゃ。」


「ナギ・・・!? ナギ・スプリングフィールドのことですか!?」


隊長だけでなく、隊員全員がその名を聞いて動揺する。

あの、大戦の英雄・・・全魔法使いたちの憧れともいうべき存在が自分の息子を目の前の魔族に託した・・・だと?

魔法使いたちはスタンの言葉が信じられずにいた。


「わしも最初聞いたときは半信半疑じゃったが・・・数日共に暮らして確信した。ワシはナギの言葉を信じるよ。」


自信に満ちた瞳を隊員たちに投げかけるスタン。

それを見て彼らの心にさらに迷いが生じる。


「お、お言葉ですが、スタン老・・・サウザンドマスターをよく知るあなたの言葉を信じていないわけではありませんが・・・それでも、我々には確証がないのです。」


なおも食い下がろうとする隊長の言葉にさすがのスタンも痺れを切らしたのか


「はあ~・・・まったく若いくせに頭の固い奴らじゃ。お前たちじゃ話にならん。責任者と話をつけようじゃないか。・・・校長に会わせろ。」


とんでもないことを言い出すスタン。


「こ、校長とですか!? スタン老、それはいくらあなたといえどもそう簡単には・・・」

「なに。最高責任者に実際に会わせてこの男の人となりを見極めてもらえば、さすがにおまえたちでも納得するじゃろ? 安心せい。これでも校長とは古い知合いでの・・・ワシが話をしたいと言えば向こうも嫌とは言うまい。まして自分の孫の将来に関することじゃぞ・・・無下にはできんと思うが?」

「は、はあ・・・そこまで言うのでしたら・・・」


スタンの説得力のある言葉にようやく隊長も折れたのか、渋々了承する。


「ピッコロよ。お主もそれでいいかね?」

「ああ・・・別に構わん。俺も面倒ごとになるのは御免だからな。」


ピッコロもすんなり頷いた。


「ピッコロさん・・・大丈夫だよね?」


じっと話を聞いていたネギが心配そうな顔をする。


「心配するな。少し話をしてくるだけだ。それにこの俺様をどうにかできるやつがいると思うか?」


ピッコロの自信たっぷりの発言に、ネギはあのときのピッコロの戦いぶりを思い出し、妙に納得してしまった。










こうして、ネギたちは揃ってウェールズの奥の魔法学園に移り住むことになった。
だが、ピッコロとスタンの2人は疑いを晴らすためネギたちと別れ、校長と面会することになり、冒頭のようなことになったのである。


「ふむ。しかし話を聞いた限りではとても信じられんのう。その男が異世界出身というのもそうじゃが、魔族ではなく宇宙人とはな・・・。それに、本当に悪魔の大軍をすべて倒したとするなら、ナギ、いやそれ以上の力を持っているかもしれん。」


スタンからピッコロの素性を簡単に聞いて、眉間に皺を寄せて考え込む校長。


「ああ・・・そのことについてなんじゃが・・・この男はナギよりはるかに強いぞ。」

「な、なんじゃと・・・それは本当か?」

「本当じゃとも。現にこの目でナギがコテンパンにやられとるのを見た。」

「・・・半分冗談のつもりだったのじゃが・・・まさか・・・」


「ワシも始めは信じられんかったよ。ナギのやつは昔からあまり気に入らんかったが、あいつの実力だけはホンモノだったからの・・・しかし、あそこまで手も足も出せずに負けとったら逆に滑稽での。ひさしぶりにあいつの間抜け面が拝めたと思うと清々したわい。」


どこか気持ちよさげに語るスタンに校長は目を丸くする。


「お主がそこまで言うとは・・・よほど一方的な戦いだったようじゃの。しかし、それだとなおさらこの自称宇宙人君が危険だと言ってるようなものではないかね?」


「ああ・・・確かに、話を聞くだけではそうかもしれんのう。だからお主に確かめてもらいたい。この男の言っていることが真実か。」


「・・・何をさせるつもりじゃ?」


訝し気な顔をする校長にスタンが提案したこととは・・・


「百聞は一見に如かず。実際にこの男の記憶を見てほしいのじゃ。」


「スタン・・・それは本気か?確かに可能ではあるが・・・」
チラっとピッコロの方に目を向ける。


「魔法とやらで相手の記憶が見れるのかは知らんが、俺は構わない。(別にそれほど珍しい能力でもないしな・・・)」

とピッコロは淡々と答えた。


「ふむ・・・まあ真実を知るにはそれが一番かもしれんのう。それに彼には魔法らしきものはかかっとらんようだから、記憶の改竄の可能性はないしの。・・・うむ、試しにやってみよう。」


そう言って、校長はピッコロを椅子に座らせ、自分も真向かいに座り、ピッコロの前に手をかざし、目をつぶりながらピッコロの記憶の中へと潜り込んでいった。











数時間後、ようやく校長がピッコロの記憶の世界から戻ってきたようだ。

その顔には大量の汗が浮かんでいる。


「ハッ、ハアッ、ハッ、ハアッ・・・・・・な、なんという世界じゃ・・・」


荒くなった呼吸が落ち着く気配を見せない。


「ハアッ、ハアッ・・・な、なんなんじゃ・・・お主らは・・・」


驚きの目でピッコロを見る校長。


「お主が本当に宇宙人で、神様だったのも驚きだったが・・・お主の記憶にはそれ以上のビックリがゴロゴロしておったぞ!?」


まだ息が整わないのか、数回呼吸したあとに再び言葉をつなげる。


「あの・・・フリーザとかいったか?なんなのだあの化け物は!? 星を壊すとか簡単にやってのけるし・・・人造人間だったか? あんなもんがなぜ地球人に作れるのじゃ!?
そんな科学力あったら核戦争なんかやらなくとも地球はおしまいじゃあ!!
そして、一番信じられんのは・・・サイヤ人?なんじゃ、あの反則的な強さは!? 戦えば戦うほど強くなる?ご都合主義も甚だしい!そんなことができたら苦労せんわ!!しかも、理由は戦闘民族だからって・・・妙に説得力あるし・・・。おまけに超サイヤ人なんてただ金髪になっただけなのに、何あの急激なパワーアップ!?変身すれば何が起こっても許されると思ってるのかチクショー!!」

何やらメタ発言を織り交ぜながら暴走している校長を見て、さすがにまずいと思ったのかスタンが近づいて右手を強く握りしめる。


「校長!!歯ぁ喰いしばれぇ!!」


拳を大きく振りかぶったかと思うとそれを思いっきり校長の顔面に叩きつけた。

見事な右ストレートであった・・・


「校長・・・目ぇ覚めたかの?」


「ふぁ、ふぁあ・・・ふふぁふぁい(あ、ああ・・・すまない)」


どうやら、なんとか落ち着いたようである。

ちなみに歯を食いしばったはずなのに歯が欠けているのはご愛敬。


「ほ、本当に大丈夫なのか・・・こいつら・・・」


この場のノリについていけず、思わず戸惑いの声をもらすピッコロ。


「う、うおっほん。ところで校長殿の結論はどうなのかな?」


気を取り直して校長の判定を訊いてくるスタン。

校長は目を閉じ、しばらく考えこんだあと、いつの間にか元道理になった口で言った。


「・・・そこの宇宙人君・・・ピッコロ君だったかな?彼の記憶を見る限り、彼はすさまじい力の持ち主じゃ。おそらく、いや、確実にこの世界で彼に勝てる者はおらんじゃろう。なんせ彼なら下手をすれば惑星どころか銀河一つを破壊できてしまうかもしれんのじゃからな・・・。」


校長の言葉に分かっていたとはいえ、まさかそれほどとは思っていなかったスタンは冷や汗を流す。


「この学園の校長、いや一人の魔法使いとして言わせてもらえば、彼のその強大すぎる力だけをみたら、やはり我々にとっては危険としか言いようがない。本人以外誰にも止められないのじゃからな。」


校長の辛口評価に少し顔をしかめるスタン。


「しかし・・・人格的な面から見たらワシ個人としてはそんなに悪い人間ではないと思っとる。外見的に誤解されたり、過去に魔族を名乗っていた時期もあったりするが、神様と融合したおかげじゃろう。己の力に囚われず、物事を冷静にとらえ、どんな人間にも偏見をもたず友好的に接しとるみたいじゃな。そこら辺の魔法使いよりよほど人間ができとると思うぞ。・・・と、偉そうなことを言っとるが中身はワシよりずっと年上なんじゃから当り前かもしれんな・・・。」


「・・・で、結局のところどうなんだ?」

さっきまでほとんど無口だったピッコロが校長の目を見ながら尋ねる。


「まあそう急かすでない。先ほど、3日前の記憶も見させてもらった。あの悪魔どもからネギを救ってくれたのは確かにお主じゃった。あの子の祖父として礼を言おう。」


「い、いや気にしなくていい。大したことはしていない。」


少し照れくさそうに返すピッコロ。


「ふむ。割と謙虚じゃの。ナギと戦ったとき、トドメをささなかったことといい、やたらネギに優しいところといい、やはりどこか人間臭いの。まあ、どうやらそれもお前さんの一番弟子の影響が強いのかもしれんが・・・。その弟子には感謝せんといかんな。」

「ほっとけ・・・」
そっけなく答えるピッコロにどこか微笑ましいものを感じながら校長は続けて言う。


「スタンから、ナギがネギをお主に託したと聞いたが、確かにその記憶があった。ナギのやつがあんなに必死に頼みごとをするのは初めて見たぞ。それに、あのときの目・・・あれは本当にお主を信頼しとる・・・。あやつはここを中退した悪ガキじゃったが人の本質を見抜く目はもっとった。それにさっきも言ったようにワシもお主の性格は好ましいと思っとる。実際ネギもお主によく懐いているようじゃしな。ワシは魔法使いである前に一人の孫をもつ爺じゃ。だから、言おう。ナギが信じるなら、ワシもお主を信じてみようと思う。ネギにはこれから『サウザンドマスターの息子』という肩書がついてまわる。実際それだけの力が今のあの子にも眠っとるはずじゃ。そしてそれらがきっとこの先あの子を苦しめるじゃろう。ワシは立場が立場じゃからあまりあの子にかまってやれん。だからこそ、親のいないあの子にお主のような人間が傍でついていてやってっほしいのじゃ。強大な力を持って生まれてしまった境遇をもつお主にな・・・」


そう言って、頭を下げる校長。

それを見て、スタンが


「それじゃ、決まりじゃな・・・」


とニヤリとしながら呟く。


「ああ・・・ワシのほうから魔法使いたちに伝えよう。今後ピッコロ君に手出し無用。さらに、彼とネギたちとの同居を許可する、とな。」


校長の言葉にピッコロはもう用は済んだとばかりに踵を返す。


「ピッコロ君。」


急に校長に呼び止められ、立ち止まるピッコロ。


「どうか、ネギのことを・・・頼む。」


重ねて頭を下げる校長に、


「フン。言われずともやってやるさ。初めからそのつもりだったんだからな。」


振り返らずに答えたピッコロはそのまま、部屋を出ていく。

それを見送った校長は部屋に残ったスタンに


「やはり・・・彼に頼んで良かった・・・」

「まったくの・・・とんだ魔族もいたもんじゃ。あっ、いや、宇宙人か。」


そして、お互いハハハと笑い合った。









そうして、無事にネギたちとの同居許可を得たピッコロはネギたちの新しい住まいに向かった。

そこでは、先に結果の報告を受けたネギたちがピッコロの歓迎パーティーを開いていた。

扉を開けた途端にクラッカーを鳴らされたときは、さすがのピッコロも面喰ったものだ。

パーティーにはネギの幼馴染のアーニャも来ていて、ピッコロと初めて対面した。

しかし、ピッコロのいかにも魔族な外見は子供のアーニャには少々怖く映ったのか、始終ネカネの後ろに隠れたまま、近づこうとしなかった。(幼馴染の様子にネギは首を傾げていたが、まあ初対面ではっきりとした嫌悪を示さないだけまだマシであろう。)

まだまだ、2人が打ち解けるには時間が必要なようである。

ちなみに、ピッコロはこのパーティーのために腕を振るったネカネの渾身の力作料理を食う羽目になり、翌朝まで顔の青味が取れなくなるのだが、それはまた別の話。


パーティーのあと、寝室のベッドで眠ってしまったネカネの隣で横になってある考え事をしているネギ。


(うん!! やっぱり明日話してみよう!!)


なにやら決心した様子で瞼を閉じ、眠りに入る。











翌日、家族全員で食事をとっていると、


「そういえば、ネギも来年は魔法学校に通うのよね。」


とネカネが話題を振った。


「魔法学校? あの爺が校長をやっているところか?」


ピッコロが疑問の声を上げる。


「ええ。この辺の魔法使いの子供たちはみんなあのメルディアナ魔法学校で魔法を
学ぶんです。あそこを卒業したら魔法使いの仮免許が貰え、卒業時に出された修行課題をクリアすると一人前の魔法使いになれるんですよ。」


さらっと解説するネカネに、


「仮免許か・・・嫌な単語だ。あまりいい思い出がない・・・」


ふと、昔のことを思い出し、苦い顔をするピッコロ。


「あ、あのさ・・・そのことなんだけど・・・」


ネギが何か言いたそうにしている。


「ん? どうした? 言いたいことがあるなら、言ってみろ。」


ピッコロに促され、思い切ったように口を開くネギ。

しかし、このあと彼が放った一言がのちにこの世界の運命を大きく変えることになる。




「あの・・・ピッコロさん! 僕に戦い方を教えてほしいんだ!!」







あとがき

どうも、作者です。最近文章が浮かんでこず、更新が遅れ気味になってます。今回もあまりいい出来とは言えない気がします。これを短期間で更新できるss職人の皆様に改めて敬意を表する次第であります。
タイトルをそれっぽくしたのに、今回も結局修行編に入れなかったorz
引き伸ばしいい加減にしろですよね。ホント・・・すみません。
次回こそは、次回こそは入らないと~
さもないと俺のモチベーションが~



[10364] 其ノ八   旅立ちの時・・・   僕はもっと強くなる!!
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/08/07 00:53



その日はよく晴れていた。

今、スプリングフィールド宅の門前では旅立とうとする2人と見送りにきた3人とがが向かい合っていた。

当然ながら旅立つ者・・・ネギとピッコロ
見送り・・・ネカネ・スタン・アーニャ である。


そう、ついにネギはピッコロとの修行の旅に出ることになったのである。

つい、2日前にネギから出た衝撃の言葉を発端とする騒動があったのだが、それでもなんとかここまで漕ぎつけたのだ。

ネギはリュックを背負い、魔法使いらしいローブを着ている。

ネカネはそのネギに近づき、服の埃を払ったりと世話を焼く。


「ネギ、旅先でも必ず便りをよこして頂戴ね。お姉ちゃん心配で心配で・・・
 それに、つらくなったらお姉ちゃんたちを思い出してね。なんなら、途中で帰ってきちゃったっていいんだから。」


そう言って、ネギをギュッと抱きしめる。








ネギに対して過保護なところは変わっていないネカネだったが、やはり今回の旅に一番反対していたのも彼女だった。

それも無理はない。なんせ、ネギのあの一言を聞くまでは彼女はネギも自分と同じように魔法学校に通い、父のような立派な魔法使い『マギステル・マギ』をめざすものとばかり思っていたのだから。

しかし、愛する弟から出た言葉は『ピッコロから武術を教わりたい』という予想外ものだった。

ネカネは始めは冗談かと思った。しかし、弟の目が本気であると語っていた。

ネカネには信じられなかった。

なんで、この子は武術なんて習おうとするのかしら?来年には学校で魔法を学ばなければいけないのに。

魔法使いは魔法さえ習っていればいいじゃない。今から武術なんて必要あるの?

純粋に魔法だけを学んできたネカネには、武術がそれほど重要とは思えなかったのだ。



それに、習う相手がピッコロというのにもネカネには気がかりであった。

別に彼のことを嫌っているわけではない。外見が魔族とはいえ、悪魔の襲撃の際には助けてもらったわけだし、一緒に住むようになってからはネギの面倒を見てもらっている。むしろ、好意さえ感じているくらいである。

しかし、ピッコロの戦いを目にしたことのある彼女はあのときの光景を思い出すと素直には肯けないのであった。

彼が強いのはよく知っている。ナギが倒されるのをこの目でしかと見ているのだから。

でも、彼の力は異質だ。自分たちが魔法を使う際に用いる力『魔力』とは明らかに違う。

なんでも『気』というものらしいが・・・そう言えば東洋の呪術師たちが用いる力だと聞いたことがある。

しかし、彼のもつそれは話に聞いてたものともどこか違う気がするのだ。特にそのスケールが。

ピッコロから感じられたあの凄まじいプレッシャーがその『気』だとすれば、とても人間が身につけられるとは思えない。それは彼が宇宙人であるが故かもしれないが・・・

それほど強大なのだ・・・彼の力は・・・

彼の話によれば、一応地球人でも習得できるということだが、それには凄まじい修練が必要であろう。それこそ血反吐を吐くような・・・

そんな修行を若干4歳の少年にやらせられるだろうか?・・・断じて否だ。

頭の中で答えを導いたネカネはすぐさまネギの計画に反対した。


学校はどうするの?魔法じゃなくて武術をとるの?あなた、才能があるかどうかわからないじゃない。魔法を使うのとはわけが違うのよ?もしかしたら、死んじゃうような修行をするかもしれないのよ?


次々と言葉が出てくるネカネ。

彼女が知るネギだったら、ここで上手く丸め込まれていただろう。

しかし、目の前にいるネギは違った。


「僕、魔法を捨てる気はないよ。学校にだってちゃんと行く。・・・確かに僕にはとっても辛いかもしれない。もしかしたら、本当は無理なのかもしれない。・・・それでも、やりたいんだ。だって強くなるって決めたんだもん。」


強い光が籠った瞳がネカネの心を貫く。

それは彼女のよく知る目・・・ネギの父、ナギのもつものと同じであった。


(ああ・・・この子はやっぱりナギさんの子なのね・・・)


呆然としながらも、どこかで自分の負けだという諦めの気持ちがあったのかもしれない。


「・・・1年間だけよ。魔法学校に入学するときまで。それまではあなたが何をしていてもお姉ちゃんは文句を言いません。」


ネギの顔が喜びの色に変わった。

そして、ずっと黙って聞いていたピッコロに向き直り、


「ピッコロさんは・・・よろしいんですか?」


真剣な眼差しで尋ねた。


「俺自身はネギを鍛えてやっても別に構わん。だが、ネギよ。俺は魔法についてはからっきしわからん。だから、魔法使いを目指しているお前に俺のスタイルが合うとは限らん。それでもいいのか?」


チラッとネギに視線を送る。


「・・・僕も始めはお父さんと同じ『立派な魔法使い』になりたいと思ってた。でも、今、本当にそれが正しいのかな?って思えたんだ。魔法使いの中にはピッコロさんみたいな人を見た目だけで嫌っている人がいる。本当はとってもいい人なのに、その人のことを知ろうともしないでいきなり傷つけようとする。これって本当に正義の味方なのかな?」


ネギの言葉にネカネは俯いてしまう。

確かに、ネギの言うのも尤もである。今の魔法使いの多くは自分たちの正義が絶対に通じると勘違いしている。それにより、今までどれほど多くの罪もない者が搾取されてきたことか。現に、今でも魔法世界では人外に対する差別意識が強いという。


「それに、ピッコロさんを見て思ったんだ。魔法がなくたってこんなすごい人がいるんだって。今まで僕は魔法が使えればそれでいいって思ってたけど、たぶん違うんだよ。強くなるんだったら、なにも魔法使いじゃなくてもいい。いや、僕はただの魔法使いになりたくない・・・。もっと強い『僕自身』になりたい。ピッコロさんのように強くなって、いつか・・・お父さんを超えたい。」


4歳児とは思えない大言を堂々と吐いたネギにピッコロは肩をすくめながら、


「フン。欲張りな奴め・・・一年間というのは修行としては短すぎる気がするが、まあいいだろう。決めるのはお前自身だ。だが覚悟しておけ。俺は修行にはほとんど手を抜かん主義なのでな・・・さっきのネカネの言葉じゃないが・・・少しでも甘く見たら本当に死ぬかもな・・・」


「う・・・うん。死なないようにがんばるよ。」


不敵な笑みを浮かべてさらっと恐ろしいことを言ってのけるピッコロに、さすがのネギも冷や汗が出たが、なんとか自分の意地を通せたようである。

が、やはりどこか地獄の片道切符を受け取ってしまった感があるのは気のせいだろうか?









その後ピッコロの決定により、ネギたちは学校が始まるまでの約1年修行の旅に出ることになった。

ここでやればいいじゃないかと始めはネカネが言ったのだが、ネカネたちがが傍にいるとネギを甘やかしてしまうので修行にならないと即座に却下された。

ネカネも反論したが頑として譲らないピッコロに睨みつけられ、渋々引き下がった。

そして、2日たった今、こうして家族との別れのときを迎えているのである。


「それではピッコロさん。ネギのこと・・・よろしくお願いします。私としては本当はネギを旅に出すなんて、と~っても、と~っても不本意なんですが、やると決めた以上、とびっきりに強くしてくれなきゃ許しませんよ!!」


「ああ、まかせておけ。・・・と言いたいところだが、それはネギ次第だ。まあ、もとが弱虫のこいつがどれだけ修行に耐えられるかは知らんが、もし全てに耐えきったのなら・・・相応のものは約束してやる。」


自信たっぷりに言うピッコロだったが、それで本当に安心していいのか頭を悩ませるネカネであった。


「う、グスッ・・・バカネギ・・・あんたなんか・・・グスッ・・・いなくたって・・・別に寂しくなんかないんだからあ・・・う、うぅぅぅぅ・・・ウワアァァン!!」


「アーニャ・・・」


普段は強気なアーニャもこの時ばかりは涙を抑えきれなかった。

彼女もこの旅にはネカネ並みに反対していたがネカネに諭され、最終的にネギ本人の意思の強さに負け、認めることにしたのである。


「アーニャ。1年後・・・学校が始まるころには必ず帰ってくるから・・・だから、待ってて。」


「うううぅぅ・・・絶対に帰ってきなさいよお・・・グスッ、じゃなきゃ、承知しないんだからあ・・・」


幼馴染とのしばしの別れに、ネギも眼尻にほんのわずかだが涙が溜まっている。少し泣き虫の自分が戻ってきてしまったようだ。

傍から見ているネカネももらい泣きしてしまいそうである。

そんな3人をよそに、スタンが懐からあるものを取り出しピッコロに差し出す。


「何だこれは?」


ピッコロが受け取ったのは青い宝石のついたピアスであった。


「それは校長からお主への餞別だそうじゃ。そいつには強力な認識阻害魔法がかけられとる。ここではお主の姿は目立ちすぎじゃからの。そいつをつけておけば、お主はただの一般人にしか見えん。まあ、魔法使いや裏に通じてる者でもないかぎり、お主の正体が見破られることはないじゃろう。」


「そうか・・・まあありがたく使わせてもらう。俺のような者にとってはこの世界はかなり居心地が悪そうだからな。」


そう言ってその場でピアスを付けるピッコロ。


「あら、そのピアスなかなか似合ってますよ。ピッコロさん。」

「そ、そうか・・・」


ネカネに褒められ、ちょっぴり照れるピッコロ。満更でもないようだ。


「では、そろそろ行くぞ、ネギ。」

「うん、でもどうやって行くの?歩き?」

「いや、空から行こう。」

「えっ!?もしかして空を飛ぶの!?すご~い!!」

「いいから、はしゃいでないで早く来い!!」


ピッコロの一括に慌てて近寄るネギ。

ピッコロはそのままネギの腰を持って抱きかかえる。


「それじゃ・・・行ってくる。」

「お姉ちゃん。アーニャ。スタンおじいちゃんも元気でね!!」


そして、舞空術で上空に飛び上った。


「ネギ~!!体に気を付けるのよ~!!」

「さっさと修行なんか終わらせて帰ってこ~い!!バカ~!!」

「ピッコロも達者での~!!」


叫び声をあげるも、上空の影は遠ざかり、見る見るうちに小さくなって消えてしまった。


「行ってしまいましたね。」

「そうじゃの・・・」

「ところで・・・ネギに渡さなくて良かったんですか?ナギさんの杖・・・」

「うむ・・・いいや、まだネギには早すぎるじゃろう。あの子は自分の道をようやく歩き始めたのじゃ。今この杖を渡したらまた『父親の影』があの子の重荷になってしまう。今はそっと待ってあげようではないか。あの子が一人前になるのを。」


フッと漏らした、スタンの視線はずっと真っ青な空に吸いついたままであった。









「わあ~すごいなあ。人があんなに小さく見える。わあ、今度は海だ!!」

「ええ~い!!あまりそこで喚くな!!ここから落とすぞ!!」

「ご、ゴメンナサイ・・・」

「ったく、少しは静かにできんのか?」


しゅんと委縮してしまったネギにピッコロは呆れたように言う。


「だって、空から景色を見るのは初めてなんだもん。僕まだ杖で空を飛べないし・・・」


唇を尖らせて文句を言うネギに対してピッコロは、


「フン。空を飛ぶことなど、修行すればできるようになる。杖なんぞ使わなくてもな・・・」

「ほ、ホント!?やった~!!」

「ああ・・・ただし、俺の修行についてこれたらの話だがな・・・」


不気味に口元を歪ませて笑うピッコロに、ネギは今更ながらこの先に不安を感じてしまうのだった。


(あれっ? 僕・・・もしかして、人生の選択まちがえたかな?・・・)






かくして、ネギとピッコロの修行の旅が今はじまった。

はたして、ネギ少年の運命はどうなるのか・・・

それはまだ、誰にもわからない。







あとがき

更新遅れまして本当にすみません。ようやっと、修行編に入れました。
・・・って、まだ修行始まってねえじゃんwwwという突っ込みがあると思いますが、そこはどうかお許しを~
修行自体は次回からになりますが、今度はなるべく早くお届けしたいと思います。

ところで、今回のネギくんがやけに子供らしくない発言をしてると思われるかもしれませんが、それは多分作者のせいです。ごめんなさい。



[10364] 其ノ九   生還は絶望的!! 今度の修行は命がけ!?
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/08/08 17:06




ついに始まったネギの修行の旅。

しかし、ネギを抱えて空を飛んでいたピッコロは何やら思案している様子である。


(さて、早速修行に移りたいところだが、何から始めればいいか・・・
 よくよく考えたらこいつは悟飯と違ってサイヤ人ではない、ただの地球人だ。悟飯のときの修行をそのままいきなりこいつにやらせるのは早計かもしれん。とにかくもう一度こいつの力をきちんと把握しないことには始まらん。)






しばらくすると、2人はとある荒野に降り立った。

辺り一帯には様々な大きさの岩山がゴロゴロしている。


「うむ。この辺なら何かと都合が良さそうだな。」

「ねえ、ピッコロさん。こんなところで何をするの?もう、修行始めるの?」


ひとまず、背負っていたリュックを下ろし、周囲を見渡しながらネギは疑問を口にする。

ずっと、空を飛んでいたせいか、少々疲れ気味な顔であったが、もしや修行が始まるのかと思いすぐに気を引き締める。


「そうかそうか。そいつは悪かった。実は楽しい楽しい修業の前に一つ確かめておきたいことがあってな・・・。」


そう言って、ピッコロはネギの首根っこを掴み上げる。


「へっ?」

「そらっ!!」



ビュン!!



困惑したネギをそのまま遠くにある岩・・・大きさはピッコロより二回りはあるだろうかに向かって投げとばした。


「え?えええぇぇぇぇ!?」


ピッコロの奇行に驚きを隠せないネギ。

というかそんなことを言っている間もなく自分の体が、顔面から、あの岩肌に接近していく。

体が吹っ飛ばされていく感覚・・・猛スピードで接近しているはずなのに、時間がやけにゆっくりに感じる。

こんなスピードであの岩にぶつかったら、確実に死ぬ・・・そんなわかりきったことが考えられてしまうほどである。




自分に訪れる死を予感したとき、少年は急激に恐怖に襲われるとともに、何かが頭の中で切れる音がした・・・




それは、かつて悪魔に襲われ死の恐怖に震えていた少年に起こるとはとても考えられない現象であった。

まさに岩に激突しようとした瞬間、突如として少年の体を力が包み込む。




そして、




ドゴォォォォォン





岩に接触したところで、





岩が





爆砕した・・・






「ほう・・・やはりな・・・」


関心した声を上げるピッコロ。

岩は跡形もなく砕け散っており、ぶつかった当の本人は仰向けに倒れている。
ぶつけたはずの頭だが不思議なことに怪我をしていない。

これは少年の潜在能力の高さを示していると言えるのかもしれない。


「う、う、う、ウワ~ン!!いだいよぉ~」


ぶつけた頭を抱えて大声で泣き叫ぶネギ。まだ痛いのに慣れていない彼のことだ。その声の大きさは推して知るべし。


「フッフッフッ、思ったとおりだ。ナギとの戦いで俺に突っ込んできたときから、予想はしていたが・・・こいつは悟飯と同じタイプ・・・激しい感情の高ぶりによって力を引き出すようだな。」


ネギが己の愛弟子だった男とつくづく似ていることに苦笑するピッコロだったが・・・


「わあ~ん!!いだいいだいいだい~!!」


いつまでたっても泣きやまないネギに顔を引きつらせ、


「ええ~い!! お前はいつまで泣いているつもりだ!! それでも男か!!」

「グスッ。だっで~、いだいんだもん・・・ぴっごろさんがいぎなりあんなごどするから・・・」


泣きすぎて若干鼻声になりつつ、涙目+上目づかいで抗議するネギ。


「ぐっ!?だ、だが修行すると言った以上泣きごとを言うな!! こんなのまだ序の口だ。こんなことでまいっていたのではこの先やっていけんぞ!!」


涙目のネギを見て不覚にも少し怯んでしまったピッコロだが、すぐに立ち直り情けない声を上げる弟子を叱り飛ばす。

さすがは伊達に弟子を育てていないのである。


「ぐ、ウゥゥゥゥ・・・ピッコロさんの意地悪・・・」


なんとか、痛みをこらえ泣きやむことができたネギ。
しかし、その表情はどこか拗ねているようである。

だが、そんなネギを無視してピッコロは考えに没頭する。


(さっきの衝突の際、若干ネギの気が増大していたが、それはさほど大きな変化ではない・・・むしろそれよりもはっきり変わっていたのはあの得体のしれない力・・・どうやらあれが魔力というものらしいな。)


ネギから感じられた自分の知らない力『魔力』・・・

どうやら、それがさっきの現象を引き起こすカギになったようだとピッコロは確信した。


(どうやら、魔力というやつは気のように身体能力の強化や攻撃力を上げたりすることができるみたいだが・・・)


問題は魔力というものが戦闘時にどれだけ実用的かである。ピッコロはナギとの戦闘で魔力を体に纏わせて戦う方法があることを見抜いていた。もしかしたら、その方法を応用すれば自分の戦闘スタイルをネギに身につけさせることができるのではないかと考えたのだ。それが可能であれば、気は普通の子供並みだが魔力容量は人一倍大きいネギにはこれほど効率の良い方法はないだろう。


「ものは試しだ。おい、ネギ。体に魔力を纏わせることはできるか?」

「ふえ?・・・え~と、どういうこと?」

「う~ん、言い方が少し難しかったか・・・
 じゃあ、順にやっていくか。まず、お前は自分の魔力というものを感じることができるのか?」

「うん。これでも簡単な魔法が使えるんだもん。当然だよ。」

胸を張ってえっへんと自慢げに語るネギ。


「じゃあ、それを体の一部分、例えばそうだな・・・お前の右手に集中できるか?」


「えっ!?・・・う~ん、今までそんなこと考えたこともないよ。魔法を使うときだってどっちかっていうと、魔力を感じるというより強く念じるほうが大事だったし、正直難しいかも・・・。」


「ならば、右手に意識を集中して強く念じるって方法でもいい。」


「う~ん・・・やってみる!」


そう言って、ネギは右手に念を送り始めた。集中すること数分、徐々にではあるが、右手にオーラのようなものが集まり出していた。


(ほう・・・ガキのくせに大した集中力だ。俺から言いだしたこととはいえ、この年にしては随分飲み込みが早いようだ)


ピッコロがネギの隠された素質の高さに感心していると、ネギの右手には凄まじい魔力のオーラが立ち昇っていた。


「わっ!?す、すごい・・・いつもより全然魔力が強く感じる・・・」

「よし!今度はそれを維持したまま、あそこの岩に右拳を叩きつけてみろ!!」

「えっ!?あ、あれに!?」


ピッコロが指さしたのは先ほどよりは小さいものの子どもには十分大きいサイズの岩。

あれを子供の拳で殴れというのか?


「む、無茶だよ~ピッコロさん~!あんな堅そうなの殴れないよ~!!」

「いいから、集中しろ!!右手の魔力が消えちまうぞ!!」

「う~~わかったよ。え~い!!」


子供ながら精いっぱい腕を振りかぶって岩にその小さな拳をぶつけた。

ドゴンッという音とともに岩が小さく振動した。

見ると、ネギの拳があの固い岩の表面に見事に減り込んでおり、そこを中心として岩のあちこちに無数のヒビが入っていた。



が・・・



「い、いいいいいいだああああいいいい!!」

本人は無事ではなかったようだ。

岩から右手を引き抜くと、そこには出血こそしてないもののこれでもかというくらい赤く腫れ上がった手があり、ネギはそれを見ながら目から大粒の涙を溢した。


「うわああああん!!いたいよおお!!」


大声で泣き叫びながら、地面をのたうち回るネギにピッコロも我慢できなくなったのか、


「やかましい!!」


一喝したとたん、ネギもその迫力にビビったのか泣き止んでしまう。


「ケッ、手が腫れ上がったくらいでピーピーと・・・そんな泣き言を言うんだったら今すぐ家に帰ってもいいんだぞ。」


あまりに辛辣な口調に大人しいネギも黙っていられず睨みつける。


「う、グスッ、もう泣かないもん!家にだって帰るもんか!!」


強がりを言うネギを見ても今度はピッコロは怯まず、淡々と告げる。


「フン、少しはマシな顔になったか。なら、今度はもっと集中しろ。あの岩を砕けるくらいにな。」


「む~~!!やってやる~~!!」


負けず嫌いなネギはすぐさま先程と同じように手に意識を集中する。

すると、先ほどとは比べ物にならない速さで魔力が収束されていく。


(泣き虫のくせして成長だけは速い奴だ・・・)


そして、前の倍以上の大きさの魔力が練られた拳を再度岩に叩きこんだ。


「でえ~い!!!」




ドゴォォン


ピキピキピキッ





さっきとは段違いの手応えに加え、岩に入ったヒビも無数になる。

そして、




バコォォン




岩は粉々に砕け散った。


「や、やった~!!・・・あれ?何だか急に疲れが・・・」


きゅ~、バタン


喜んだのもつかの間、ネギはそのまま倒れ込んでしまう。


「しまった・・・そういえば、魔力を使うと術者の精神が大きく擦り減るとかあの爺が言っていたな。おおかた魔力切れでも起こしたか・・・
しかし、パンチ2発でこのザマではな・・・肉弾戦には不向きかもしれん。やはり、気の使い方を教えてやった方が良さそうだ。」


気を失ったネギを見て、ぼそりと呟くピッコロであった。

その後、覚醒したネギに魔力ではなく気の使い方を教えることにしたピッコロ。

ところが、これがなかなかうまくいかない。

まあ、長く魔力というものに慣れ親しんだネギにとって気という全く別の概念が理解できないのも無理はない話なのだが。

仕方がないので、気を習得するまで体力作りといった基礎的な鍛錬も並行してやることになった。

気は生命エネルギーの一種ともいえるので、体を鍛えればより気が感じやすくなるからである。

悟飯のときだったら、サイヤ人由来のもって生まれた膨大な気があったからこんな回りくどいことはしなかったのだが、地球人の子供であるネギでは仕方あるまい。

昔の彼なら考えられないことだが、神と融合し性格的に落ち着いたためか少し気長に待つことにしたピッコロ。













こうして、半月が経過しようとしていた。

その頃になると、始めたころに比べて幾分か体力がついたネギも徐々に自分の体に宿る魔力とは違う力の存在に気づき始めていた。

今岩の上でネギは坐禅を組んだ状態で両手のひらを胸の前に据え、精神を集中させていた。

物覚えの速いネギにしてみれば、このくらいはもはや慣れたものである。

そのうち、向かい合った手のひらの間に小さな光が灯り出した。

ある程度光が強くなると、閉じていた目を開ける。


「できた!!」


傍で見ていたピッコロも頷き、


「よし、よくやった。それが『気』だ。今の感覚を忘れないようにしろ。いいな?」

「う、うん。わかった。」

「フン。それでは新しい修行に入るとしよう。」

「えっ!!やっと、次の修行に入れるの!?やった~!!」

「フフフ、果たしてそう喜んでいられるかな?」

「ふぇ?」

「いや、なんでもない。それにしても、お前の服も随分ボロボロになったな。」


ピッコロに言われて自分の格好を見る。

出発した時は真新しかったローブも、半月もの間つけられた鍛錬で所々に汚れや破れ目がついている。


「今日は何かと区切りがいいからな。ここで新しい服をプレゼントしてやろう。」


そう言ってネギを指さすと、指先から光線が発せられ、ネギを包み込む。


ボワンという音とともにネギの服装がガラッと変わった。


「わあ~!!カッコイイ~!!」


紫の道着に、腰に赤の帯、そして首には白いスカーフ。

そう、まさに自分の一番弟子だった男が幼年時代に着ていた道着そのものであった。


「フッ、それを見ると悟飯のやつを思い出すぜ・・・」

「あっ!!悟飯さんってピッコロさんの弟子だった人でしょ。ねえねえ、どんな人だったの?」

「俺に昔話をさせる気か・・・まあいいか。そうだな。あいつは、会ったばかりの頃はお前にそっくりだったよ。」

「ええっ!? そうなの?」

「ああ、お前に似て泣き虫でな。俺が修行を付け始めたときも、もともと武道家なんてやる気じゃなくて、本当は学者を目指していたんだ。」

「じゃあ、なんで修行なんて・・・」

「前に話したと思うが、その頃、地球にサイヤ人どもが襲ってきてな。そいつらに対抗するためにどうしても悟飯の力が必要だった。だから、最初はあいつには何の思い入れもなかった。ただ利用してやるつもりだったのさ。だがな、一緒にいるうちに情が移ってしまったんだろうな・・・結局サイヤ人の攻撃からあいつを庇って俺は死んだ。甘さを捨てたはずのピッコロ大魔王ともあろう者がなんとも情けない話だぜ。」


少し自嘲気味に語るピッコロを見たネギは、


「でも・・・ピッコロさんは自分のしたことを後悔してないでしょ?」

「まあな・・・あの後、ナッメク星のドラゴンボールで生き返ったしな。あれから、悟飯のやつも俺によく懐いてな、正直悪い気はしなかったぜ。」


どこかやはり嬉しそうなピッコロを見てネギもつられてニヤけてしまう。


「すごい人だったの?」

「ああ・・・あいつは最後は宇宙最強レベルの戦士になった。この俺などよりはるかに強い、な・・・」

「・・・僕にもなれるかな?」

「さあな。正直あいつはサイヤ人の力があったからな。ただの地球人のおまえじゃ、さすがに宇宙最強は無理かもしれんな。
だが、おまえの潜在能力も決して低くはない。俺が修行をつける以上、そいつは必ず引き出してやる。そうしたら、この世界の地球でなら最強の戦士になれるはずだ。」


不敵な笑みを浮かべながら言いきったピッコロを見て目を丸くするネギ。


「ホントに?」

「ああ・・・嘘じゃない。」


自信たっぷりに言うピッコロを見て、ネギの心にやる気がみなぎってきた。


「よ~し、そうとなったら修行がんばるぞ~!!」


改めて気合を入れるネギ。


「さて、長話もすんだことだし、そろそろ場所を移動するとしよう。」

「えっ!?ここじゃないの?」

「そうだ。早く俺に掴まれ。置いていくぞ。」

「ま、待ってよ~」


ネギが慌ててリュックを掴み、ピッコロの元に駆け出していった。








荒野を後にしたネギたちは今度は打って変わって、森林生い茂るジャングルの奥地に降り立った。


「ね、ねえピッコロさん。今度はいったい何をするの?」


昼間でも薄暗いジャングルの不気味さに、思わずピッコロの裾をつかみながらおずおずと尋ねるネギ。


するとピッコロはクックックと笑いながら、思いがけないことを言った。


「今から3ヶ月間、お前はここで一人で暮らしてもらう。」

「なんだ~そんなんだ~って、えええええ!?」

それはもう目玉が飛び出してしまいそうな驚きようであった。

「い、今・・・一人でって言ったの?」

「そう言ったはずだが?聞こえなかったのか?」


非情にも冷静に返してくるピッコロ。


「そ、そんな・・・食べものとかどうするの?」

「そんなもの自分でなんとかしろ。今までは俺が手伝ってやったが、これからは全部一人でやるんだ。」

「む、無理だよ~!!食べ物はピッコロさんが取ってきてくれたものがあったからなんとかなったのに~!!」

「甘ったれるな!! 今のお前は気を覚え始めたばかりのただのガキにすぎない。気はたとえ感じられても使いこなせなければ意味がない。気の使い方を体で覚えるためにも猛獣渦巻くこのジャングルで生き残って見せろ。おまけにお前は魔力を使うだけの精神力も足りない。だから、ここで肉体だけでなく、精神的にもタフさを身につけろ。そうすれば、気と魔力、どちらを扱う際もかなりレベルアップするはずだ。どうだ、これほど一石二鳥な修業はないぞ?」


そう言って、意地悪い笑みを浮かべるピッコロはかつて魔族を名乗っていた頃の彼を想起させる。


「で、でも気を使うってどうやれば・・・」

「だからそれをこの修行で身につけるんだ。自分自身でな。だから、この修行中は魔力は一切使用してはならん!!当然魔法も禁止だ。」


すると、ネギの背負っていたリュック(中には魔法の杖も入っている)を取り上げる。


「ああ、待って~。返してよ~。」

「口答えするな!!これはお前の兄弟子も越えた道だぞ!!」

「悟飯さんも!?」


意外な事実にネギも唖然とする。


「いや、むしろこれでも甘いくらいだ。あいつのときは半年だったし、猛獣のレベルもここのやつらとは桁違いだからな。とはいえ、手持ちが何もないというのもさすがに厳しいか・・・そうだな・・・」


そう言って、手元からポンッと一振りの剣を出現させ、それをネギに投げてよこす。

受け取ったネギの腕には、小さいながらもずっしりとした剣の重量が感じられた。


「代わりにこいつをやろう。悟飯にくれたのと同じやつだ。それだけで、なんとかしてみろ。」

「なんとかしろって・・・」


ネギは自分が抱えている剣を頼りなさげに見つめる。


「では、3ヶ月後にまた会おう。気の使い方を覚えないとここの猛獣ども相手には生き残れんからな。まあ、せいぜい早く身につけることだな。」


ピッコロはそのまま舞空術で飛んで行ってしまう。

あとに残されたネギは呆然とそれを見送るのみ。

しばらくして、


「ど、どうしよう!?最近自信がついたと思ってたけど、やっぱりこんな修行クリアなんてできないよ~!!それに、剣があるといってもこんなに重かったらいざという時使えないし・・・」


自分の未来に絶望し、悲嘆にくれるネギ。

すると、突然背後から自分を狙う気配を感じた。


「ま、まさか・・・」


とっさに背後を振り返る。

暗い草叢から自分を見つめる複数の視線。


「グルルルルルゥゥゥ」


やはり予想は当たっていた。


「こうなったら、やるしかない・・・」


ネギは手に持った剣を抜き放ち昔読んだ絵本から見様見まねで覚えた構えをとる。

そして、草叢から視線の主が姿を現す。

それは、全長3メートルは有りそうな大トラであった。

とても子供が相手にできる代物じゃあない。

それはネギにもわかっている。

しかし、やらなくちゃならないのだ。

こうして戦う決心をした少年と唸り声を上げるトラが対峙する。





睨みあうこと数分ついにネギが動いた。

後ろを向いて・・・


「やっぱり、む~り~!!」


後ろの敵を一切振り返らず、ダッシュで逃げる。

その逃げっぷりは明らかに4歳児のそれを超えていた。

それまでのピッコロの鍛錬もよほど効いていたんだろうが、それだけではないだろう。

火事場のクソ・・・ゲフンゲフン、馬鹿力とはよく言うが、今まさにネギは幼いながらにしてその力に目覚めつつあった。


「ガァァァァァ!!」


敵は逃走する獲物を逃すものかとターミネーターばりに追いかけてくる。


「うえええええん!!おねえちゃぁぁぁん!!」


ネギの悲痛の叫びがジャングル中に響きわたった。









こうして、次なる修行に入ったネギであったが、始まったばかりでこの始末。

はてさて、ネギはこの先生き残ることができるのか?

それはだ~れにもわからない。











~そのころのピッコロ~



ピッコロはそのとき、ちょうど日本上空にさしかかっていた。


「さて、ネギが修行している間は俺も一人で修行するとしよう。さて、どこでやろうか?む!?」


ちょうど下を見ると、なにやら武装した異形の者たちに囲まれている子どもの姿があった。


「なんだあれは?前に見た悪魔とかいう連中とは違うようだが・・・
子供はネギと同い年くらいか・・・ちっ、しかたない。見て見ぬふりもできないからな。」


そういって、その場に降り立つ。





「ん?新手かいな?」


異形の者が突如自分たちの前に立ちふさがった男に首をかしげる。

白いマントを羽織り、奇妙な帽子被っている。何より、極めつけはその緑色の肌・・・

明らかに自分たちと同じ人外。


「なんや兄さん。ここらじゃ見かけん顔やな?見たところうちらのお仲間さんのようやけど・・・こんなところに何しに来たん?」


異形の者の一人が尋ねる。

しかし、相手は何も答えない。


「はあ・・・まあええわ。うちらは兄さんのことはどうでもええねん。用があるのは後ろのワン子や。」


異形に言われ、男が振り返るとそこにいたのは、頭に犬のような耳をつけた・・・どうやら少年のようである。

少年は半ば呆然とした顔で男を見ている。

異形の者たちにつけられたのか体の所々に傷がある。


「そこのガキがうちらに舐めたマネしてくれはったんでな。ちょいとお仕置きしてやったんですわ。あと少しでトドメなんで、そこに立ってられると邪魔なんですわ。黙ってうちらにひきわたして欲しいんやけど?」


わずかに殺気放ちながら異形の者が言うと、男はようやく口を開き、


「断る。」


一言で斬って捨てた。

それを聞いた異形の者たちは武器を構えさらに殺気を強くし、


「兄さん・・・長生きせえへんで・・・」


すると、次の瞬間男の前に連中の1人が刀を持って躍りかかっていた。

しかし、男は相手の間合いに入ってもなお動かない。

この距離ではかわせない!!

そんな瞬間に無情にも敵の刃が振り下ろされる。

誰もがやられたと思ったそのとき、





ダァァァン





轟音が鳴ったと同時に斬りかかった異形の姿がぶれた。


・・・いや、待てこっちに飛んでくる!?

異形の者たちは咄嗟にその場から離れる。




すると、その脇を吹っ飛ばされていく影が・・・

その影は背後の木々を何本も薙ぎ倒してどこまでも飛んで行った。

彼らはすぐに男がいた方を振り返る。

そこには、拳を突き出したで状態で男が佇んでいた。




「ガキを相手にこの人数はいただけんな・・・」




男が不敵につぶやくと、


「ほう・・・じゃあ兄さんが相手してくれるんか?」


すると男は、笑みを強くしこう言った。


「ああ・・・久々に体を動かしたいんでな。ついでにお前たちに『神様』から直々にありがたいお説教をしてやろうじゃないか。」






このとき、とある小さな島国で小さな戦いが起こった。

しかし、あまりに小さな戦いだったため、その戦いの結末を知る者は少ない。

だが、この戦いによってまたこの世界の運命が一つ変わろうとしていた。








あとがき

なんとか更新できました。今回すごい長いのでメチャ疲れました。ハア~

魔力と気の修行について原作読みながら考えて書いたんですが、イマイチかもしれません。

おかしな点があったら感想にてご意見いただけると幸いです。

ところで、作者来週一杯用事があるので多分更新すげ~遅くなります。楽しみにしてくださる皆様には大変申し訳ありません。



[10364] 其ノ拾   好敵手登場!?  俺は小太郎や!!
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/08/17 02:16
~とある少年の独白~





俺は物心ついたときから一人やった。

親は・・・いたはずやけど、俺の傍にはおらんかった。

捨てられたのか、死に別れたのか・・・どっちにしても俺には関係あらへん。

親がいないことに変わりはないんや・・・

他に人はいなかったのかって?それこそ問題外や。

人は俺のこの姿を見ただけで怖がり、避けて行きよる。

妖が相手でも同じや。誰も俺のようなガキに構ってくれる奴なんておらへん。

俺は一人なんや・・・一人で誰にも頼らず生きていかなあかんのや。

でも、所詮は子供・・・やれることなんて限られとる。

それでも俺は生きるために必死やった・・・

食い物を求め森中を駆け回り、木の実や食べられる草を集め、川では魚をとり、小さな動物を狩ったりもした。

それでも食い物が手に入らないときは、他の妖の縄張りに入って獲物を掠め取ったりもした。

これは失敗したらただじゃすまんけれども、生きるためには仕方がない。

どのみち、食い物がなければ死んでしまうんや。だったら命賭けてでもやったるわ!!

そんな生活を送っていた俺やけども、とうとう年貢の納め時のようや・・・

ちょうど天狗たちの縄張りを嗅ぎまわっていたときに、運悪く見つかってもうた。

数少ない自慢の足で逃げ回ったんやけど、多勢に無勢、取り囲まれてしもうたわ。

こっちは丸腰のただのガキ。向こうは武装した数十名の猛者たち。

結果は日を見るより明らかや。

もう体も言うことを聞かへん。どうやら俺はここまでみたいやな・・・

半ば諦めかけてたそのときやった・・・

俺の前に突然人影が降り立ったのは・・・

そいつは白いマントっちゅうもんをつけとって、へんな帽子をかぶっとった。

後ろ姿だったから顔がよく見えなかったんやが、天狗の一人が俺の方に顎をしゃくってみせると、こちらに振り向いてみせた。

その顔を見た時の印象は今でも忘れられへん・・・なんせ肌の色が緑やったんだから・・・一目で人間じゃないとはわかったけれども、俺らみたいな妖とも違うようやった。少なくともこの辺にはあんな奴はおらへん。

そいつは天狗たちに向き直ると、俺を引き渡せという要求に一言「断る」と一刀両断していた。

俺は驚きを隠せへんかった。あれだけの数を相手に逆らったらろくな目にあわん。そんなのは俺みたいなガキでもわかることや。それなのに、なんや・・・こいつ・・・

動揺しとる俺を尻目に事態が変わってきた。

断られるとは思わなかった天狗たちが明らかに殺気を放ち始めた。

あかん、こいつら殺る気や・・・

次の瞬間奴らの一人がもう人影に躍りかかってきていた。

俺はこのときもう殺られたと思っとった。

でも・・・

ダーンって大きな音がしたと思ったら襲いかかっていた天狗が吹き飛んでおった。

俺は一瞬何が起こったか分からへんかった。

どうやら天狗たちも同じようで俺から見ても明らかに動揺していた。

襲われた緑の奴のほうを見ると拳を突き付けた格好で静止しておった。

まさか・・・パンチ一発で今のやつをぶっとばしたっちゅうんか!?

そのとき俺の体に震えが走った。

すると、天狗たちも相手が只者とちゃうと気いついたみたいで完全に戦闘態勢に入ったようや。

緑のおっさんが二言三言挑発したのを合図に一斉に襲い掛かってきよった。

あのときはさすがに俺もダメかと思ったわ・・・

えっ?どうなったのかって?・・・聞きたいか?俺がここに生きている時点で答えを言ってるもんやと思うけど・・・

あれは、戦いなんてもんやあらへん・・・言ってみれば虐殺や・・・

それくらい一方的やった。

俺は初めて鬼神というもんを見たと思う。

緑のおっさんの手から見たこともない光が出たと思ったら天狗が次から次へと消えていく・・・そんな光景信じられるか?

俺は戦いの間ずっと体の震えが止まらんかった・・・

今思えばあのときからすでに俺はあの人の強さに惹かれていたのかもしれへん。

戦いが終わっても呆然としている俺に緑のおっさんが手を差し出して、

「おい、立てるか?」

と一言呟いたとき俺は自然にその手を掴んでしもうた。

もしかして俺はこの出会いに運命っちゅうやつを感じていたんかなあ・・・

そして、これが俺と『父ちゃん』との最初の出会いやった。
















~とあるジャングルにて~





木々が生い茂るジャングルの中・・・一人の少年がじっと地面の音に耳を澄ませていた。


ドドドドドドドドッ


「・・・来たっ!!」

彼はすぐさま脇の草むらに身を潜めると、彼がいた道の向こうから何やら走ってくる影がある。

よく見るとかなり大型のイノシシのようだ。

少年は草むらに隠れながら手にロープ代わりの丈夫な蔓を握り、獲物を待ち構える。

イノシシが彼の目の前を通り過ぎようとした刹那、

彼は握っていた蔓を思いっきり引っ張る。

ピンと張られた蔓に足を取られて、猛スピードで走っていたイノシシが盛大にひっくり返る。


ドオオオオンッ


大きな音を立てて倒れるイノシシの前についに少年が姿を現す。

「グルルルルッ!!」

しかし、倒れ込んだイノシシもすぐに起き上がり転がされたことに対する怒りでか、戦意に満ちた瞳で少年を睨みつける。

「よ~し、かかってこい!!」

だが、少年のほうも怯むどころか足を踏ん張って迎え撃つ態勢をとり出した。

しばらく両者で睨み合いが続く。

「ブルルルゥ!!」

痺れを切らしたイノシシが少年めがけて突っ込んできた。

普通の子供に大人のイノシシが突進してきたら間違いなく命はない。

危うし少年!!

しかし、ここで信じられないことが・・・


ガシッ


ズザザザザザァァァァー


少年はイノシシと衝突する寸前、大きく突き出た牙を両手で掴み、なんと突進を正面から受け止めたのである。

受け止めてすぐのときは、勢いに押されて後ろに下がったものの、徐々に勢いがなくなり、2、3メートル下がったところで、ぴたりと止まった。

地面には下がった時の摩擦の跡がはっきりと残っている。

イノシシは自分の突進が止められたことに焦りを隠せないのか、必死に地面を掻いて前に進もうとするが、少年の足は、体はビクともしない。

両者拮抗した状態からついに少年が動きだした。

掴んでいた片手を解き、拳を強く握って大きく振りかぶる。

すると、その拳にオーラのようなものが纏わりつく。

そして、その拳をイノシシの脳天に叩きつけた。


ドゴォォン


轟音が森中に響き渡る。

少年の足もとには白眼を剥いて絶命したイノシシが横たわっていた。

少年・・・ネギは腕で額の汗を拭い、

「今日は大猟、大猟~♪」

と嬉しそうに口ずさんだ。








ネギがピッコロにこのジャングルに放りだされてからあっという間に3ヶ月がたっていた。

最初のころは森の捕食者たちに追われる毎日だったが、生命の危機を前にして持前の才能が開花したためか日を追うごとに体も心もたくましくなり、簡単な気の使い方も覚えるようになった。

すると、捕食される立場だったのが捕食する側に一転。

今ではこのジャングルの動物たちから恐れられる存在になった。

「よっこらしょっと。」

子供でありながら自分より一回りも大きいイノシシの巨体を両手で軽々と持ち上げる。

これも、気による肉体強化を覚えた恩恵といえるであろう。

適当な広場を見つけると、そこにイノシシをおいて周りから薪を集める。

薪を1か所に集めると、そこに手のひらを向け、意識を集中させる。


「ハア!!」


すると、手のひらから閃光が放たれ、薪に火がついたではないか。

これも、この3ヶ月間で身につけた技術の一つ、『気功波』である。

ただし、ピッコロのような大型のものはまだ撃てないのだが。

「ふふふ~ん。今日は久しぶりのイノシシ肉だ~」

ネギは背負っている剣の柄に手をかける。


カチン・・・


剣が鞘走る音がしたかと思うとネギの手から凄まじい剣戟が繰り出された。


ザシュ! ザシュ!! ・・・パチン


剣が鞘に収まるとそこには、体を何重にも輪入りにされたイノシシ肉があった。

たった3ヶ月とはいえネギの剣捌きもなかなか堂に入ったものである。

肉を串刺しにして火にかざし、焼き始める。

「それにしても、最近めっきり大物を見かけなくなったな・・・取り過ぎちゃったかな?」

肉の焼き具合を見ながら呟き、良い頃合いの肉を手に取り、齧り付く。

すると、突然背後の空気が揺れ出し、風が巻き起こる。

ネギは背後にゾッとする気配を感じ、思わず振り返らずに背中の剣に手をかける。

ここ数ヶ月で鍛えた直感が告げている・・・背後にいるのは只者じゃない・・・

振り向いたらおそらく殺られる。

剣に手をかけながらも、顔をつたう冷や汗が止まらない。

しばし、この場の空気が張り詰める。




しかし、その空気はなんと後ろからかけられた声により霧散する。


「おいおい、しばらく会わない間にずいぶんと物騒な挨拶の仕方を覚えたものだな。」


耳に入ってくるのは懐かしい声・・・


「その声は・・・ピ、ピッコロさん!?」


驚いて剣に伸ばした手を戻し、すごい勢いで後ろを向くネギ。

そこには3ヶ月前と変わらぬ姿のピッコロが佇んでいた。

「どうやら修行をクリアしたようだな・・・」

笑みを浮かべるピッコロを見て、いつの間にかネギの目には涙が溜まり、

「ピッコロさ~ん!!」

両手を広げて走り寄ってくる。




だが、


「なあ、父ちゃん。父ちゃんの言っとった弟子ってあいつか?」


突然、ピッコロの影から黒髪の少年が現れた。

「と、父ちゃん・・・?へ?ピッコロさんが?」

ネギは少年の一言に疑問を隠せない。

「こらっ!!小太郎!!無闇に人を指さすんじゃない!!行儀がなってないと思われるぞ!!」

「あの・・・ピッコロさん・・・その子は?」

全く見当はずれなことを言うピッコロに対し、ネギが恐る恐る尋ねる。

「うん?おお、そうだった。こいつは・・・まあ、その・・・お前が修行を始めた頃に偶然・・・拾った。」

「拾った、って・・・」

そんな、犬猫の話じゃないんだから・・・とツッコミたくなったネギだったが、そこはぐっと堪える。

「こいつの名前は小太郎。お前と同い年だ。見てのとおり、狗族とかいう人狼の出らしい。妖怪に絡まれているところを助けたんだが、弟子にしてくれと煩くて・・・話を聞けば身寄りがないとのことだから、まあこの際一人でも二人でも同じだろうということで、弟子にした。これから仲良くしろよ。」

確かに言われてみると、小太郎という少年の頭には犬耳らしきものがついている。

「おう!俺は犬上小太郎。父ちゃんが言ってた通り、父ちゃんの弟子になったからよろしく頼むわ。」
小太郎と呼ばれた少年がそっと手を差し出す。

「はあ・・・こちらこそ。僕はネギ・スプリングフィールドです。」

ネギも釈然としないながらも握手に応じる。

「なあ。ネギって呼んでもええか?俺のことも名前で呼んでくれてええから。」

「えっ!?・・・あ、うん。いいけど・・・」

意外にフレンドリーな小太郎にネギはかなり戸惑っている。

「ねえ、ところでさっき『父ちゃん』て言ってたけど・・・どういう意味?」

「ん?そのままの意味やで?俺は親がおらんから、ピッコロのおっちゃんが俺にとって『父ちゃん』なんや。」

さも当然と言ってくる小太郎に、そう言えば自分は親代わりであるピッコロに『お父さん』なんて言ったことないなあ。でも僕にはもうお父さんがいるし・・・と、素直にピッコロを父と言える小太郎を羨ましいと思ってしまうネギだった。

しかし、ここから事態はおかしな方向へ・・・

「なあ、お前、親父が西洋魔術師って本当か?」

「う、うん・・・そうだけど・・・」

「だったら、体中から立ち上っとる気はなんや?普通のやつより仰山出とるで。お前気の遣い手とちゃうんか?」

「えっと・・・その・・・最近ピッコロさんに気の使い方を教わったから・・・」

「ふ~ん、じゃあどのくらいできるか勝負しようやないか!」

「ええ!?ど、どうして!?」

「俺は強い奴を見ると戦いたくなるんや。特に今は父ちゃんの弟子って言ってるお前の実力を知りたい。」

そう言って小太郎は構えをとり出す。

「そ、そんな・・・戦う理由にならないよ・・・」

「なんや?怖気づいたんかい。やっぱり、西洋魔術師なんて大したことあらへんな。」

「な、なんだと!?」

「だってそうやろ?話を聞けば魔法使いってやつはパートナーの女に前で戦わせて自分は後ろでこそこそ魔法を使う。女に守られながら戦うなんて男の戦い方やあらへんで。男はやっぱり・・・」

言いながら拳をビシッと突き出し、

「これやろ!!」

なかなかもってこの小太郎という少年好戦的なようである。

「後ろでこそこそするなんちゅうんは腰抜けのすることや。おまえの親父は魔法使いやろ。じゃあ、その息子も親父と似た腰抜けとちゃうんかい?」

ニヤニヤしながらネギを挑発する小太郎にさすがのネギもカチンときたのか、

「・・・僕のことはともかく、お父さんを馬鹿にするなんて・・・許せない!!」

同じくネギも構えをとる。

「おっ?やる気になったか!!」

そして、ここで二人の戦いの火蓋が切って落とされる。



「でああああ!!」


先に動いたのはネギ。

気を足に纏わせてすごい勢いで突っ込んでくる。

「ハッ、動きがまっすぐすぎるで!!」

しかし、始めの正拳突きを小太郎は軽々と避ける。

避けられたネギはすぐさま連続パンチを畳みかける。
が、猛スピードで繰り出されるそれを小太郎は紙一重ですべてかわしきる。

「フ~、遅い・・・遅いで。パンチが止まって見えるわ!!」

「くっ、くそ~!!」

余裕綽綽で避ける小太郎にネギは焦りを見せる。

「それより、いいんかい?足下がお留守やで。」

「な!?わわっ!!」

小太郎が身を屈めて足を払ったのにネギは反応できなかった。

体勢を崩し、地面に倒れそうになったところを、小太郎が下から蹴りあげた。


ダァァン


「ガッ!?」


腹に蹴りが入った瞬間鈍い音を立てると、ネギの体がおもしろいように吹っ飛んで行く。


ドゴォォォ


ネギは大岩に激突し、岩は粉々に砕け散った。

「なんや。もうこれでしまいかいな。つまらん。」

ネギがぶつかった先を見て、ぶつぶつ言っている小太郎。

「まだ死んではおらんみたいやけど・・・ちょっと呆気なさすぎるで。父ちゃんの弟子やゆうからもうちょいやるかと思ったんやけどな・・・」

後ろを振り返り、ピッコロに向かって歩き出す。

小太郎はこの3ヶ月間ピッコロのもとで組み手を中心とした修行を始めていた。もともと気との相性が非常に良かったためか、ネギよりも速く気の使い方を覚え、実践的な修業に入っていた。だから、動きなどもネギに比べるとかなり洗練された無駄のないものになっている。ゆえに肉弾戦ではどうしてもネギの方が不利になってしまうのは仕方のないことと言えよう。


しかし、ピッコロはこの戦いがまだ終わっていないことに気づいていた。


「小太郎・・・あまりネギを舐めない方がいいぞ。今のアイツはそう簡単にやられはせん。」


さっきまでずっと、戦いを止めずにただじっと見守っていたピッコロが言った一言に一瞬顔をしかめる小太郎だったが、


パキパキパキ・・・
ゴゴゴゴゴゴォォォ・・・


ネギが埋まっている瓦礫から気の高まりを感じたとたん、バッと後ろを振り返る。

「はああああ!!」

気合とともに、瓦礫を吹き飛ばし、ネギが姿を現した。

「・・・フフフフ、少しは根性があるやないか。」

不敵な笑みを浮かべてネギに対する小太郎。

しかし、その眼は油断などしていない。

ネギの体中から先ほどとは比べ物にならないほどの白いオーラが立ち昇っていたからである。

「今のは痛かったよ・・・」

口元の血を拭いながらネギが呟く。


「ほう、そいつは悪かったわ。こっちはあの一発でやられたんやないかと冷や冷やしたわ。」


「・・・今度はやられない。」


(これは気を抜くとやばいかもしれん)


再び構え出したネギに只ならぬ気配を感じた小太郎。

すると、ネギが動いた。

(・・・またまっすぐ!?)

さっきよりもはるかにスピードがあるとは言え、またもやこちらに突っ込んできた。

「せやからそんな単調な動きじゃ意味がないと言ったやないか!」

毒づきながら、体を回転させながらネギの突進をかわし、その反動で後頭部に後ろ回し蹴りを炸裂させる。

蹴られたネギは再び吹っ飛び、今度は大木に叩きつけられる。

倒れるネギを見て、もう終わりだろうと溜息をつく小太郎。

しかし、むくりとネギは立ち上がった。

「なっ!?」

今のは綺麗に決まったはず、と思っていた小太郎の驚きはいかほどであろうか?

しかし、ネギもダメージを受けているようで少し体がフラついている。


「なんちゅうやつや・・・今のは普通のやつならしばらくは立つこともできないはずやで。
恐ろしくタフなやっちゃ・・・」


立ち上がったネギに戦慄を覚えた小太郎は、今度は自分から仕掛けることにした。

一瞬でネギを間合いに入れると、その速さに反応できず驚愕しているネギの無防備な顔面に次々と攻撃を加えていく。


「グッ!?ガアッ!ゲハッ!!グアアッ!?」

「オラオラァァ!!どんどんいくで~!!」


速い、速すぎる。このままではまずいと咄嗟に腕を交叉してガードしようとするがすべてを防御するには間に合わない。おまけに気で強化した攻撃だから威力も高い。

ついにはガードを破って、ネギの腹に強烈なボディーブローが炸裂する。


「グオッ!?ア、ア、アアアァァ・・・」


これはかなり効いたようでネギは腹を抱えて蹲ってしまう。

小太郎は念のためネギから距離をとり様子をうかがう。

「ハア、ハア、ハア・・・これならどうや?」

しかし、先ほどの攻撃は小太郎もかなり消耗したようである。というのも、ネギのガードが想像よりもずっと堅かったため、全力を出さなければならなかったからである。

だが、今のはさすがに効いたやろ・・・俺でも喰らったら立ち上がれないくらいの一撃や・・・



しかし、現実は小太郎の予想を大きく覆した。

「グウゥゥゥゥ・・・」

ネギが苦しそうに顔を歪めながらも立ち上がってきた。

「・・・ホンマかいな。」

今度ばかりは小太郎もネギのタフさに舌を巻いた。


「僕・・・は・・・負け・・・ない・・・」


言葉を切れ切れに発しながらも、目は小太郎を射抜いて放さない。

小太郎の体に電流が走った。それはある種恐怖とでも呼べる代物であった。


(なんや・・・なんなんやこいつは・・・
 こいつは腕は大したことないって思ってたけど、そんなの関係あらへん・・・
 こいつのこの勝負賭ける執念・・・本物や・・・)


今までで一番動揺している小太郎を余所に、ネギに変化が・・・


「ハアアアァァァァ!!」


周囲空気の密度が一気に大きくなる感覚・・・ネギの中で力が溢れ出てきた。

ブアンとネギの気配が濃くなる。

これには少し離れて眺めていたピッコロも驚いていた。


(ネギのやつ・・・始めは気の大きさも普通のガキと同じくらいしかなかったくせに・・・今のは小太郎の全力よりも明らかに上・・・
あいつ、最初に教えた鍛錬は今でも怠ってなかったようだな・・・)


「ダァァァァ!!」


ネギが全力でダッシュする。その凄まじさはビシュンという擬態語が似合うであろう。


「なっ!?」


今度は小太郎が反応できなかった。
一瞬ネギの姿が消えたように思ったのである。まさか気づいたときにはすでに懐に入られていたとは・・・


「でやっ!」


ネギの渾身のパンチが小太郎の頬に減り込む。

この戦いで初めて小太郎にクリーンヒットが入った瞬間であった。

たった一撃でありながら、その拳に秘められた破壊力は小太郎自身も言葉では表せないくらいのものであった。

脳が揺さぶられる・・・いや、体全体がか・・・あれ?何だかすごく体が軽く感じる・・・

それもそのはず、小太郎の体ははるか後方に吹っ飛ばされていたのだから。

そして、小太郎はそのままこの森に囲まれた山の岩壁に激突する。


ドゴォォン!!


森に大きな土煙が沸き立つ。

やがて煙がはれてくると、岩壁の一部が大きく抉り取られたように凹んでいるのがわかる。そしてその中心には小太郎が磔にされたような恰好で嵌り込んでいた。

前髪に隠れて目元がよく見えないがピクリとも動かないところを見ると、どうやら気絶しているらしい。

「ハ、ハハ・・・どうだ・・・僕だってやればできるん・・・だ・・・」

ネギは力なく笑いながらそのままバタリと倒れる。


スゥ・・・スゥ・・・


「フン・・・眠っているだけか・・・」


ネギに近寄りピッコロがぼそっと呟く。

「やはり、小太郎を連れてきて良かったな。ネギの成長具合も見ることができたし、小太郎のやつにも良い刺激になっただろう。」

実はこの戦い、初めから仕組まれていたのである。というのも、ピッコロは始め自分自身が組み手をしてネギの実力を測るつもりであった。しかし、それだともともと性格の大人しいネギのことだ。本気を出さないかもしれない。特に自分は親代わりでもあるからなおさらである。現時点でのネギの全力を見たかったピッコロはそのことで少々考えあぐねていた。
しかし、ここでちょうど弟子にとった小太郎がネギに興味を示してきた。そこで思いついたのが今回の戦いである。小太郎ならば同い年だし、同じ弟子といってもネギの身内というわけじゃないからネギも気兼ねなく戦えるのではないか。小太郎も強い奴と戦えて嬉しいはずだし、自分以外の相手と戦うのも良い経験になる。ピッコロとしても両者の実力が性格に掴めるのでこんな都合がいいことはない。
だが、それでも見知らぬ相手に対してネギが本気を出すとは限らないので、念のため小太郎にはネギをできるだけ挑発するように言い含めていた。父親のことでも言っておけばおそらく食いつくだろうと確信して。

「しかし、我ながら浅ましいやり方だな・・・」

いくら実力を測るためとはいえ、ネギの純粋な思いを利用した方法とったことに自嘲するとともに、心を痛めるピッコロであった。








「ううん・・・ここは・・・?」

戦いからしばらくしてネギが意識を取り戻した。

辺りはすっかり暗くなっており、見ると火の周りで小太郎とピッコロが座っている。

「おっ?気ぃついたんか?先に食事をさせてもろとるで。」

小太郎が串に刺さった魚をほおばりながら片手を上げる。

「あ、あの・・・戦いは・・・?」

「ああ・・・あれかいな。お前の最後の一発がもろに効いてなあ、俺気ぃ失ってしもうたんや。・・・俺の負けや。」

「あ・・・でも、僕もあの後すぐ気絶しちゃったし・・・それに、あれが決まらなかったら僕が負けてたよ。」

「いや・・・確かに試合運びは俺の方が上やったけどな・・・でも、ずっと俺の攻撃を受け続けてダメージが溜まった状態にも関わらず、たった一撃で逆転するなんてな・・・そうそうできることやないで?それにあの一撃・・・俺が全力出してもあんなもん出せへんよ。」

「そ、そうかな・・・あのときは夢中だったから・・・」

「まったく・・・お前のタフさには呆れたで、ホンマ・・・よく、あれだけの攻撃耐えられたな?俺ならとっくに死んどるで?」

「あ、あははは・・・あれくらいじゃないと生き残れなかったから・・・」

どこか遠くを見るような眼で語るネギに冷や汗を流す小太郎。

(こいつひょっとして・・・俺より辛い目に会ってたんとちゃうか?)

そっから先は聞かないほうがいいと思ったので、流すことにした小太郎。

「お話のところ悪いがな・・・俺に言わせればあの勝負は引き分けだ。勝者というのは最後まで立っている者を指すんだ。お前たちのようにすぐに意識をなくすようでは話にならん。」

突如、会話に割り込んできたピッコロにビクッと体を震わせる2人。

「な、なんや・・・父ちゃんは手厳しいなあ・・・別にええやないか・・・俺も負けを認めてるんやし。」

「フン。あんなので簡単に負けを認めるとはな・・・キサマもまだまだ甘い。第一、キサマのその勝利への執念の薄さが今回のスキを招いたんだぞ?」

ピッコロに指摘されたことが図星だったのでグッと詰まる小太郎。

「しゃ、しゃーないやないか・・・俺かてまさかネギがあそこまでやるとは思わんかったから・・・」

「ま、まあまあ・・・ピッコロさん、押さえて・・・小太郎君も大丈夫だから・・・僕も正直この結果は満足できないしね。」

ギクシャクしそうになる2人の間を取り持とうとするネギ。

「そ、そうか?・・・じゃあ、やっぱ引き分けやな。俺も負けたままじゃ悔しいしな。しばらく勝負はお預けや!!でも、次やる時は負けへんで!!」

「あ・・・う、うん!!」

ニカっと笑いながら手を差し出した小太郎に、ネギもその手を強く握り返す。

「・・・さて、話も一段落したところで今後の修行についてだが・・・」

「お、おう!!」「は、はい!!」

「まずはネギ。実は今回の戦いは俺が小太郎に頼んで仕組んだものだ。そこでおまえの父をダシにしてしまったこと・・・すまないと思っている。許してくれ。」

「そ、そんな・・・頭を上げてよ、ピッコロさん。もう怒ってないから。」

「そうか・・・ありがとうな。
 では話に入るが、今回の戦いで、お前の3ヶ月の成果は十分に見させてもらった。特に、お前のそのタフさ・・・その年で大したものだ。それは戦う上でも重要な要素だ。ここで身につけたことを今後も忘れないようにな。それと、気の使い方も大分上手くなったな。とりあえず修行は合格と言っておこう。」

「あ、ありがとうございます!!」

「ただし、お前はまだまだ動きに無駄がありすぎる。それに単調な攻め方しかできない。今回はそれで小太郎に良いようにやられたんだからな。だからこれからはひたすら組み手を中心とした修行に切り替えていく。実戦の中で、戦いに合った動きというものを学んでいけ!!」

「は、はい!!」

「次に小太郎。お前は確かにこの3ヶ月で急激に成長した。気の使い方に関しては正直ネギよりも覚えが速い。それに、お前は早くから俺との組手で戦闘というものに多少慣れてきている。しかし、基礎的な地力で言ったらネギの方が上だ。特にお前はスタミナが足りなすぎる。もともと体のスペックは人間よりも上なのだから鍛えればかなり違うはずだ。今後は基礎的な鍛錬もすることを心がけておけ。」

「わかったで!父ちゃん!!」

「よし、では話はここまでだから、飯を食ったらとっとと寝ておけ。明日は早いからな。」


「「はい!!」」


そして、話が終わるやいなや、残りの魚に一斉に食らいつく弟子たちを眺めながら、ピッコロはフ~と一息つく。


(なかなか先が楽しみなやつらだ。これでお互いを切磋琢磨し合っていけばあるいは俺たち並みの戦士になれるのかもな・・・)

星が瞬く空を眺めながら思うピッコロであった。







あとがき

大分更新が遅れました仕事人です。

今回小太郎君登場!!・・・なんですけど、今思えばいきなりバトルって展開にして良かったんでしょうか?正直不安です。

まだ修行の途中だからどのくらいの強さにしたらいいか非常に迷いまして・・・そのせいで戦闘シーンもやたら長くなっっちゃって・・・結局最後の方なんて正直半ば強引に締めた感じでした。

作者的には少し微妙~な感じですけど感想をぼちぼち聞きながら考えたいと思います。

次回は摩帆良最強と言われるあのメガネな魔法先生でも出しましょうかね~と現在検討中。
もしかしたら、出さないかもしれないし(オイオイ

p.s.

小太郎の関西弁が難しいです(涙) あと、一人称って「俺」で良かったんでしたっけ?自信がない・・・



[10364] 其ノ拾壱    迫る死の眼鏡・・・  だがその前に最凶の姉現る!!(誤字訂正のみ)
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/08/29 11:35
僕の名前は高畑・T・タカミチ。麻帆良学園で教師なんてものをやっている。

といっても、ただの教師ではない。世間一般には知られていない『魔法先生』というやつだ。

『魔法先生』なんて言うくらいなんだから魔法が使えるのかというと、僕の場合そうでもない。僕は生まれつき呪文詠唱ができないから魔法らしい魔法はほとんどできない。おかげで、若い頃は立派な落ちこぼれだった・・・(あっ、今でも若いつもりだよ?これでも。)

麻帆良に来て、咸卦法を習得しなければ僕は今でもクサっていたかもしれないな。

まあ、おかげで魔法世界でも僕はそれなりに評価されるようにはなってきているんだけどね・・・でも、まだまだあの人たちには遠く及ばない。

・・・おっと、なんだかしんみりしてしまったね。こんなことを考えている場合じゃなかった。

もうずいぶん前に私の師匠の戦友ナギの息子が暮らしている村が悪魔たちに襲撃されるという事件があった。村人はその子の家族を除いてほぼ全滅とのことだった。

知らせを受けて私に話してくださった学園長も心を痛めておられた。僕も最初聞いたときはかなりショックだった。

ナギには若い頃大変世話になったから彼の息子のことは当然心配であった。確か、事件当時はまだ4才とのことだから、子供ながらに心に大きな傷を負っていてもおかしくない。
それは学園長も危惧しておられた。

僕としても恩人の息子にはできる限り力になってあげたい。そう思い、早いうちに一度様子をうかがいに行こうと思ったのだが、そこに急な仕事が舞い込んでしまいそうもいかなくなってしまった。その後も何度も訪ねようとしたのだが、どれもタイミング悪く用事が入ってしまったのでこんな時期にまでかかってしまった。

友人の息子が大変な時に仕事を優先するなんて・・・僕も悪い意味で魔法使いに毒されてきているのだろうな・・・

おっと、ネガティブになるのは僕の悪い癖だな。気をつけないと。

幸い、今回は急な用事はないし、1ヶ月ほど休暇をとることができた。だから、むこうに着いたら彼の良き友人としてしばらくは傍に付いていてあげようと思う。

学園長にもその旨は伝えてあるから上手く取り計らってくれるはずだ。

ところで、その息子について少し気になる噂を耳にした。なんでもあの事件のあと彼が魔族と一緒に暮らしているという話だ。

俄かには信じられない。悪魔に襲われた子供がその同類の魔族に心を開いたとでもいうのか?確かに魔族といっても悪い奴らばかりというわけじゃないだろう。中には意外と気さくな性格をしている者だっている。しかし、魔族というのは得てして外見が人間には恐ろしいナリをしている。だから、普通人間に害を与えるものとして避けられる傾向が強い。
それに種としても人間よりはるかに強いためにやつらの方でも人間を下に見ているところがある。したがって、人間と魔族がそこまで共存できるというのは極稀なのである。

だから、その話が本当だとすれば、その魔族とはどんなやつなのか・・・僕は非常に興味を覚えた。

まあ、僕は会ったことがないから何とも言えないが、最悪その魔族が彼を誑かしている、あるいは操っている可能性だってないとは言い切れない。

もっとも仮にそうだったとしても、そのときは僕が何としてもそれを阻止するつもりである。
これでもそれなりに実力はあると思っているし、簡単にやられるつもりもない。ただ、気になるのはもう一つの噂・・・


『件の魔族が村を襲撃した悪魔の大軍を全滅させた。』


魔族が悪魔を相手に戦う?どういうことだろうか?これは一見すると、襲撃した仲間の中にその魔族がいて襲撃の最中に仲間割れを起こしたと意味にも取れる。しかし、悪魔のなかにはピンからキリまでいえ、大軍を相手にするのはかなり困難なはずだ。それに中には上級の悪魔だっていたはず・・・。それと敵対するということに何のメリットがある?それとも、ただの気まぐれだったとでも言うのだろうか?それにそれらを全滅させたというのだから相当な実力だ。もしかしたら、僕の手にも負えないかもしれない。だとしたら、気まぐれという説もあながち間違いじゃないのかもしれない。

思考をめぐらすうちに、僕はその魔族に対する興味がますます大きくなっていった。

そう、どこかこの旅を楽しみにしていたのもそれが一因なのかもしれない。

行きの飛行機の中で、僕はそんなことを考えていた。














~ところ変わってここはウェールズ~

ネカネ・スプリングフィールドは今日も早くから朝食作りに精を出していた。


「フフフ~ン。今日もおいしいものを作ってあげなくちゃ。」


鼻歌をしながらスープをかきまぜていると、


チリ~ンチリ~ン


「あら?もしかしてアーニャちゃん?」


呼び鈴に反応してネカネが玄関のドアを開けると、


「おはようございま~す。」


予想していた通りの少女アーニャが立っていた。


「あら、おはよう。今日も家で朝ごはん食べに来たんでしょ?さあさあ、上がっ
て。もうしばらくしたら出来上がるから。」


「あの・・・ネギは家にいるの?」


「ああ・・・ネギたちならもう修行に行ってるわよ。まったくあの子たちったら、家に帰ってきても修行、修行って・・・将来乱暴者にならないか心配だわ・・・」


「はあ・・・」


嘆かわしいとでもいう表情でネカネがため息をつき、それをアーニャが何と言ったらいいかわからないという感じで見ている。


「・・・で、でもネギたちが帰ってきてからこの家も賑やかになったよね。まだ一週間くらいだけど、コタロもここでの生活慣れてきたみたいだし。私、こういう雰囲気好きだな~。」


「・・・フフフフ、そうね。」


話題を変えようと話を振ったアーニャにネカネも思わず相好を崩しながら頷く。

でも、ネギたちが小太郎君を連れてきたときはビックリしたな~と、ついこの間の出来事を振り返る。










それは、約束の期日からおよそ一ヶ月半前のこと、修行先で食事中に突然ネギがもらした一言がきっかけだった。


「あっ・・・お姉ちゃんに便り出すの忘れてた・・・」


すると、みるみる顔が青くなってしまったネギ。

そう、実はこの修行の旅を許可した条件として、ネカネから『旅先では何らかの手段を使って月に一回は必ず便りを出すこと』というものが出されていた。

しかし、ネギはピッコロとの修行に必死になり、それをすっかり忘れていたのだ。

まあ、仮に覚えていても、少なくとも3ヶ月間ジャングルに置き去りにされてたネギにそんなことは不可能に近かったのだが。


「そ、そう言えば・・・そんなことも言っていたような・・・」


ピッコロも思い出したのか、最近の彼には珍しく冷や汗が流れている。

彼もそんなに長い付き合いではないが、それなりにネカネの性格を把握している。

彼女は普段は温厚であるが、怒らせると非常に厄介なタイプだ。特に約束事を破ったりしたときなどはなおさら・・・

ピッコロも元いた世界で孫悟空の妻チチやベジータの妻ブルマなどを見ているから、女性の恐ろしさを身をもって知っている。怒らせた女性というのは時としてあの宇宙最強の戦士超サイヤ人でさえも手に負えないことがあるのだ。


「チッ・・・面倒なことになったな・・・」


苦々しく舌打ちしたピッコロの顔はかつて自身が思わぬ強敵に出会ったときにしていた顔そのものであった。

あの手の女は怒らせたままにしておくと後が怖い・・・早いうちに手を打たねば・・・

ピッコロの決断は早かった。すぐに現地での修業を打ち切り、ネギたちは急遽ウェールズへ帰国の途に就くことになったのである。

その際、一緒に修行をしていた小太郎もどうせ身寄りがないならとウェールズに連れて帰ることにした。

小太郎は始め魔法使いが多い土地と聞いて少し嫌そうな顔をしたが、ピッコロを離れたくなかったので渋々着いていくことにした。









そして、ウェールズに戻ってきたネギたちに待ち受けていたのはやはり・・・地獄であった。

呼び鈴を鳴らし、扉を開けると、出迎えたネカネがネギたちを見て目を丸くする。そして、すぐさま、


「ネギィィィィィ!!」


ネギは涙を流した姉の強烈なハグを食らう羽目になるのであった。

ちなみにこのときかなり鍛えていたはずのネギの骨が危うく折れそうになったことを付け加えておこう。

ここまでなら、姉弟の感動の再会シーンということで綺麗にまとまるのだが、人生そうは上手くいかない。




本当の地獄はここからだった・・・




ネギを抱きしめてしばらくした後、ネカネが呟いたのだ・・・


「・・・臭い。」


すると、泣いていたはずのネカネの目がギラリと光った。


「あなた・・・体を洗ってなかったでしょ?」

「えっ!?・・・そ、それは・・・」


そう、実はネギは修行が始まってから風呂はおろか(まあ当然と言えば当然だが)、水浴びもほとんどしていなかったのだ。

もともと、あまり風呂が好きではなかったのが、あのサバイバル特訓によってさらに拍車がかかってしまったのである。


「そ、そういえば前からネギが臭い臭い思うとったんやけど、修行してたら気になんなくなって忘れとったわ。」


犬並みの嗅覚(というか半分犬だけど)をもつ小太郎ですらこの発言をしていたのだから、彼らの修行中の不潔さは相当なものであることがうかがえよう。


「俺もすっかり忘れていた。」


って、あんたもか!ピッコロさん・・・大丈夫なのかコイツら?


「ふ~ん・・・じゃあまずはこの臭いをなんとかしなくちゃねえ?」


目からハイライトが消えた姉を見てまずいと思ったネギはその場から逃げようとするが・・・


ガシッ


「待ちなさい・・・」


肩をしっかり掴みながら、どこか重みのある口調で言うネカネにネギの体がその場から動けなくなる。


「あ、あ、ああ・・・」

「さあ、お姉ちゃんが洗ってあげますからねえ・・・風呂場にいらっしゃい!!」

「い、いやだああああ~!!」


そのままズルズルと引きずられていくネギの姿がやがてバスルームに消えると、やがて悲鳴が木霊した。


「も、もうだめだ・・・おしまいだあ・・・」


なぜか、部屋のすみでガタブルと奮えている小太郎。


「か、勝てるわけがない・・・やつは伝説の超・・・(ゴッチ~ン!!)ぎゃっ!?」


「何を寝言を言っている!?奮えている暇があったら言い訳を考えるんだ!!」


「な、なんか今天からの声がしたと思ったんやけど・・・あれ?良く考えたら俺はこの件に関係ないんじゃ・・・」


「・・・さあて、俺は少し外の空気でも吸ってくるかな~」




ガシッ




「逃がしませんよ~ピッコロさあん?」


ぎこちなく振り向くとそこにはにこやかな笑顔がまぶしいネカネさんが・・・

そして後ろを見ると、魂が抜けかかったネギの亡骸が・・・


「ね、ネギ~!?」


慌てて駆け寄る小太郎。

しかし、ピッコロには目の前の危機に対処することしかできない。

こんな無力な師匠を許してくれ・・・ネギ・・・


「な、なんだ・・・ネカネ?」

「・・・私言いましたよね?月に一度は連絡よこせって・・・」

「ぬおわっ!?・・・そ、そんなこと言ったかな「言いましたよね?」・・・はい。」

「じゃあ、今までどうして便りの一通も来ていないんでしょうか?私すご~く心配したんですよ?ねえ、ピッコロさん?」

「そ、それは・・・「忘れたなんて言わないですよね?」・・・ハハハ、ワスレテルワケナイダロ、ネカネサン」

「・・・忘れてたんですね。・・・ああ、私は悲しいです。ピッコロさんがこんな人だったなんて・・・」

「うっ!?・・・だ、だったらどうだというんだ?悪いが俺はキサマの脅しには屈しんぞ!!」

「ふ~ん、開き直るんですか・・・いいでしょう・・・そんなことを言ったこと、後悔させてあげます。」


不気味に笑うネカネにピッコロは動揺を隠せない。


「実は先日・・・校長先生からあなたのことについておもしろいことを聞きました。なんでも、校長先生にあなたの過去の記憶を見せたそうですが、その中であなたにしか通用しない致命的な弱点がありました。・・・これが何を意味するかわかりますよね?」


ネカネはそう言って、自分の口元を指さす。


「!?ま、まさか・・・!?」

「フフフ、どうやら気がついたようですね。しかし、驚きました。私たちには何ともないあれがあなたには弱点になるとはね・・・」


(あ、あの爺め!!ゆ、油断したぁぁぁぁぁ!!)


「ああ、心配しなくても他の人に教えてはいませんよ?校長先生の他は私とスタンさんぐらいですから。」


ネカネがジリジリとピッコロを壁際に追い詰めていく。


「た、頼む!!それだけはやめてくれ!!俺が悪かった!!」

「いいえ、聞きません。覚悟なさい。こんなリサイタルは二度と見られませんよ~!!」


今一瞬ピッコロの目にはネカネの姿が某宇宙の帝王に見えた。

そして、ネカネはついにその必殺奥義を発動する。




その名も、『KU・CHI・BU・Eの気持ち♪ ver.NEKANE』




ピ~ピピピ~ピピピ~ピピピ~ ピ~ピピピ~ピピピ~~♪



「の、のあああああ!?あ、頭がああああ~!!!」


頭にまで響く怪音に耳を押えてうずくまるピッコロ。




ピ~ピピピ~ピピピ~ピピピ~ ピ~ピピピ~ピピピ~~♪




「あ、あ、ああ・・・ダメなんだってば!?こ、これだけはあああ~!!」


しかし、ネカネは聞く耳持たない。


「た、頼む・・・やめてくれるだけでいいんだ。そ、そうすれば、何でも言うこと聞くから・・・」


すると、ネカネは突然奥義を中断する。

呪縛から解放されほっと一息つくピッコロ。


「・・・ゆ、許してくれるのか・・・?」


自分の気持ちが通じたのかと、ネカネを見上げる。

すると、ネカネはピッコロのに視線の高さを合わせ、肩にを置き、にっこり微笑むと・・・




「だ~めっ♪」





そして、スプリングフィールド宅で第二の被害者の悲鳴が響きわたった。



やがて、悲鳴すら聞こえなくなると・・・



「へ、へへへへ~ぴ~よちゃんといっしょ~ ぴ~よよよ~ ぴ~よよよ~」

「と、父ちゃ~ん!!」



ピッコロの変わり果てた姿に小太郎が涙を流しながら、必死に呼びかけるが・・・もう遅い。


「ふっ、きたねえ悲鳴だ・・・」


かっこよくキめたつもりなんだろうが、このネカネ・・・いろんな意味でダメな気がする・・・


「あらっ?そう言えば・・・」


さっきから見かけない顔をみたような気がしてちらっと後ろを振り返るネカネ。

すると、黒髪の犬耳少年と目があった。

しばし、固まる両者。

すると、ネカネの口から・・・


「か・・・」

「か?」

「かわいいいいい!!」


ものすごい勢いで小太郎に抱きつくネカネ。


「な、なんやあああ!?」

「あ~ん、この耳かわいい~!!しかもネギと同い年くらい!?弟にほしい~!!」

「ちょ!?あんた弟いるんじゃ!?って、どこさわっとるの!?あっ、やめてっ!アッーー!!」


こうして、三人目もこの麗しい乙女の餌食となったのだあった。




~回想終了~


「な、なんか・・・すごいわね・・・」

「そう?まあ、あのときは小太郎君が家族になってくれるなんて思ってもみなかったわね。でも、なんでかしら・・・あれから彼に避けられている気がするんだけど?」

「は、は、はははは~(そりゃあ、あんだけすれば避けられるでしょうよ・・・一生分のトラウマよ・・・きっと・・・)」

「さあ、御飯ができたわ。悪いんだけど、例のところにいるから、みんなを呼んできてくれない?」

「あ、は~い!!」




今日もウェールズは平和である。






あとがき

なんとか書き上げました。もうすぐ、試験期間にはいるのでまたまたしばらく更新できないかもです。すみませんorz

ところで、今回はネタに走りすぎました。おかげで、ピッコロさんがかなりヘタレてます。全国のピッコロファンの皆様には大変申し訳ありませんでした。ツッコミ・批判も多いと思いますが、どうかお許しを~

それにしても、このネカネさん黒すぎる・・・

こんなネカネさんを生かしておいたらピッコロさんが破壊尽くされてしまう・・・!!

ピッコロファンの皆さん~助けて~!!!







[10364] 其ノ拾弐   死の眼鏡来襲  ついにピッコロと対決か!?(誤字訂正のみ)
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/08/29 11:38

~メルディアナ魔法学校校長室にて~


「・・・ふむ、大体の事情はわかった。任務御苦労である。近衛門のやつにもよろしくと伝えておいてくれんかの?」

「はい、もちろんですとも。」

「まあ、君も仕事と長旅で疲れておるじゃろ。しばらくはここで長期休暇を楽しむといい。」

「ハハハ、お言葉に甘えさせていただきますよ。校長先生。」


今この部屋にいるのはこの学校の校長と、そして麻帆良から派遣された男・・・高畑・T・タカミチの2人だけであった。


「ところで、ナギの息子のネギ君に会いたいんですが、どこに住んでいるかご存知ですか?」

「む・・・ネギにとな?まあ、ワシがここの責任者だから当然知っとるが・・・」


校長は訝しげな視線を送る。


「君が単にネギに会いたい・・・という風には見えんのじゃが?・・・まさかとは思うが狙いは“彼”かね?」


突如強くなった視線に、タカミチは肩をすくめ、苦笑する。


「・・・やはり、おわかりでしたか。」

「これでも、無駄に長く生きとるんでな・・・。しかし、まさか彼に会いに来るとはな。へんな噂でも聞いたのかね?」

「ええ・・・まあ、あまり良い噂とは言えませんが・・・」


タカミチの言葉に校長は深い溜め息を吐き、


「どんな噂を聞いたのかは知らんが、悪いことは言わん・・・彼に手を出すのだけはやめておくのじゃ。はっきり言ってこの世で彼に敵う者などおらん。ナギでさえも彼の前では赤子同然だったんじゃからな。」

「!? ナギが戦ったんですか!? 5年ほど前に死んだと聞きましたが?」

「ああ、生きておったよ。しぶとくもな。まあ、このワシに一言の挨拶もなしにまたどっかへ行ってしまったらしいが。」


校長が苦々しげに吐き出す。


「・・・さっきの言い方ですと、ナギが例の“彼”に敗れたと聞こえたのですが・・・信じられない・・・」


心底驚いた、という表情でタカミチが言う。


「信じられないのも無理ないが事実じゃ。・・・と言うてもわからんか。まあいいわい。会ってみれば嫌でも理解できるじゃろうて。」


そう言って、紙にペンを走らせる。


「ネギたちの住所じゃ。今ネカネと一緒に住まわせておる。ここに行けば彼にも会えるじゃろう。」

「・・・よろしいのですか?」

「正直ワシは彼を気に入っておるから、できれば変な先入観を持たせたまま会わせたくはないんじゃが・・・どうせ、何を言っても君は行くんじゃろ?」

「恐れ入ります。」

「まあ、せいぜい揉まれてくるんじゃな。彼はああ見えて意外と温厚じゃからな。殺すことまではせんじゃろ。」

「・・・随分信用なさっているんですね。」

「フォッフォッフォ。じゃなきゃ、大事な孫を任せたりするものか。」


校長の自信満々の表情に内心負けたな・・・と思いつつ、タカミチは部屋を後にした。


「ふむ・・・一応無事を祈っておこう、タカミチ君。」









~今日もスプリングフィールド宅は平和?です~



「ルンルンルン~ 今日もいい天気ね~」


外で元気に洗濯物を干していたネカネの背後から声をかける者があった。


「やあ、しばらく見ないうちに大きくなったね、ネカネ君。」

「えっ!? も、もしかしてタカミチさんですか!?」


ネカネも訪問者の顔に驚いたようで、思わず干そうとした服を落としてしまった。


「ご、ごめんなさい。いきなりだったものだからつい・・・」

「ハハハ・・・久しぶりなんだから無理もないよ。」

「こちらには何時いらしたんですか?」

「つい昨日だよ。今さっき校長に挨拶しに行ったんだ。」

「お仕事か何かですか?」

「いいや。今回はただの休暇さ。ここのところ働き詰めだったからね。しばらくここの空気でも吸ってのんびりするつもりだよ。」


爽やかに笑うタカミチ。


「ところで今、ネギ君と一緒に住んでるんだって?」

「あっ、はい! 村はもう焼けてしまいましたから・・・」


当時を思い出してか、ネカネの顔に影がさす。


「あっ、すまない。こんなときに不謹慎だね。もう遅いかもしれないけど、この度の御不幸お悔やみ申し上げます。」


深々と頭を下げるタカミチにネカネが慌てる。


「そ、そんな・・・頭を上げてください。今となってはもう昔のことですから。」

「いや、本来はもっと早く顔を出すべきだった。ここまで時期が遅くなってしまったのはやはり僕に非があるよ。」


真剣なタカミチにネカネも必死になだめる。


「で、でも、それはタカミチさんのせいじゃないです。予定が合わなかっただけなんですから、そこまで気に病まなくても・・・ネギもわかってくれますわ。」

「・・・そういえば、ネギ君は?」


さっきからネギの姿を見かけない。家の中にでもいるのだろうか?


「ああ・・・今はきっと裏山で修行ですよ。きっと・・・」

「修行?」

「ええ。最近一緒に住みだした方に武術を教わってるんですよ。運動するのはいいですけどやりすぎるのは私はあまり感心しないんですけどね・・・あっ、いけない!?」


ネカネは思わず、余計なことをしゃべってしまったと口元を手で覆う。


「ふむ・・・修行ね・・・」


タカミチの目が一瞬光った気がした。








~裏山にて~

一方ピッコロたちは今日も厳しい修業をしていた。


「きゅ、9990・・・9991・・・」


汗水を垂らすネギの背中には重さが1トン近くはありそうな大岩が乗せられ、さらにその上には小太郎が乗っかっている。

ネギはこの状態で数時間前からずっと腕立てを行っていた。


「どうした!!ペースが落ちているぞ。もっとしっかりやれ!!」


傍らに立って檄を飛ばすのは我らがピッコロさんである。


「ぐ・・・9992・・・9993・・・」


ネギの表情はいかにも苦しそうである。

しかし、ここでやめるわけにはいかない。


「9994・・・9995・・・9996・・・」

「ネギ!!がんばれや!!あと少しやで!!」


小太郎からの声援もあり、ネギも最後の力を振り絞る。


「9997・・・9998・・・きゅ、9999・・・い、いちまん!!」


最後の一回で岩を押しのけ、そのまま背中から倒れ込むネギ。その際小太郎もちゃんと岩から飛び退いている。


「ハア…ハア…ハア…」

「フン。やっと終わったか。だが、このくらいでへたばるようではまだまだだな。」

「と、父ちゃん・・・相変わらずスパルタやで・・・」

「当然だ。俺は修行には一切手を抜かんぞ。」


辛辣な口調で告げる養父の言葉に小太郎は顔を引きつらせる。

まあこれもいつものことだが・・・


「ん?・・・おい、誰かは知らんが盗み見とは感心せんな。今のうちにさっさと姿を見せろ。」


人の気配に感づいたピッコロが厳かに告げる。

すると、岩陰から一人の男が姿を現す。


「な、い、いつの間に!?俺も気づかんかったで!?」


こんな至近距離にいたにも関わらず、自分たちが気付けなかったことに驚きを隠せない小太郎たち。


「これは驚いた・・・気配は消してたつもりなんだけどね。」


だがそれはさっきまで隠れていたタカミチも同じであった。


「キサマは消しているつもりかもしれんが、本当に微弱だが体から気が漏れ出ている。それくらいの気があればこの距離で俺が探知するには十分だ。」


(・・・どうやら相手は僕の想像以上のようだね。)


ピッコロが油断ならない相手だと認識したタカミチは改めて気を引き締める。


「キサマ、何者だ?」


ピッコロの問いにタカミチは、ああ自己紹介まだだっけ?と思いだし、答えることにする。


「ハハハ、申し遅れました。僕は高畑・T・タカミチ。昔ナギの仲間だった者です。」

「ナギの、だと・・・?」

「ええ!? お父さんの知り合い?」


男の予想外の発言に一同しばし、固まる。

特にネギの反応がやはり大きかった。


「君がネギ君だね。はじめまして。・・・でもないのかな?赤ん坊の頃の君を一度だけ見たことがあるんだけどね。」

「そ、そうなんだ・・・じゃなくて、そうなんですか。えっと・・・タカハタ・・・さん?」

「ハハハ、そんなに堅くならなくていいよ。気軽にタカミチと呼んでくれ。」

「う、うん。わかったよ。タカミチ。」


フランクに手を差し出すタカミチにネギもオズオズと手を出して握手する。

その様子を見て少し警戒心を弱めたピッコロは自分も名乗ろうとする。


「タカミチ・・・だったか?俺は・・・」

「ピッコロさんでしょ? お噂はかねがね・・・」


相手が自分の名を知っていたことに驚くピッコロ。


「ほう・・・俺を知っているとはな・・・。俺も有名になったものだな。良いか悪いかは別にして。」

「ハハハハハ・・・それはなんとも手厳しい。」


ピッコロの皮肉にタカミチは苦笑するしかなかった。


「ちょっと、俺を無視せんといてえな!!」

「おや!? 君はもしかして獣人かい?」


突然話に割り込んできた小太郎を見てまたも驚いたタカミチ。


「なんや?こんなナリしてて悪いか? お前、ネギの親父の仲間っちゅうんなら魔法使いなんやろ?人間じゃない俺が気に入らないんやったら相手になるで?」


しかし、血の気の多い小太郎の挑発にもタカミチは動じず、


「あはは、ごめんごめん。この辺では珍しいからつい驚いてしまったよ。気を悪くしてしまったかな?」

「あ、い、いや・・・まあええか。なんか調子狂うなあ・・・」


軽くいなされてしまったため、不完全燃焼といった顔をする小太郎。


「俺は犬上小太郎。小太郎でええで。」

「ああ、ありがとう。僕もタカミチと呼んでくれていいよ。しかし、黒髪でその口調ということは生まれは日本かな?」

「ああ、一応前まで京都におった。」

「へえ・・・ということは狗族といったところか。なんでまたこんなところに?」

「生まれてこのかた身寄りがなかった俺を父ちゃんが拾ってくれたんや。」


父ちゃん?と聞いてタカミチはピッコロを見る。


「ああ・・・一応こいつも俺が面倒を見ている。」


父ちゃんと言われてちょっと気恥ずかしいのか、ピッコロは顔を若干赤らめている。


(これは噂ほど悪い人ではないようだな。魔族というには人間臭すぎる気がするし・・・)


ピッコロの意外な一面を見てタカミチはさらに認識を改める。


「ところで、キサマはこんなところに何の用だ?」


話が大分逸れた気がしたので本題に戻ろうとするピッコロ。


「いやあ、本当はネギ君の様子を見に来るのが目的だったんですが・・・さっきネカネ君に会ったらここで武術の修行をしていると聞いて・・・」


そして、ピッコロの目を見ながら、ポケットに手を入れる。


「あなたがネギ君たちを鍛えてるそうですね。しかも内容も相当厳しそうだ・・・」


急にタカミチが纏っている空気が変わった。


「・・・何が言いたい?」


ピッコロもそれに気づいて眉を歪ませる。


「僕も一手ご教授願えればと思いまして・・・」


言うや否や、2人の間の空間を何かが切り裂いていった。


『居合拳』・・・タカミチの得意とする技だ。ポケットに入れた手から繰り出される高速の拳で敵が反応する間もなく攻撃するという高等技である。それはさながら鞘に入れた刀による居合斬りに似ていることからこの名がついている。

通常は距離が離れている相手にもその衝撃波で通用する技なのだが、今はかなりの近距離。並みの相手なら避けること叶わず。いや、捉えることさえ無理なのではないだろうか?

それに、この距離なら命中したときの衝撃は計り知れない。

タカミチはこんな恐ろしい必殺技をこの不意打ちともいえるタイミングで放ったのだ。


そして、


パンッ


空気を叩いたかのような軽快な音が鳴る。


放った瞬間はタカミチもこの一撃にかなりの自信があった。


だが・・・


目の前の現実に瞳孔が広がってしまった。




自分の拳が相手にがっしりと掴まれている。

今の一撃を見切ったというのか? 零距離に近いポジションではあったが、パワー・スピードともに申し分なかったと自負している。いつもならこの一撃で決まっていたはず・・・なのに・・・

思わず冷や汗が流れる。

そして、拳を受け止めたピッコロは口を開く。


「いきなりとは随分な御挨拶だな・・・まるわかりの予備動作があったとはいえ、今の一撃をあのタイミングで出されたら、達人であっても防ぎようがないだろうな。」


だが・・・とピッコロは続けて言う。


「それはあくまで達人レベルでの話しだ。達人を超えた『超人』レベルではこんな攻撃も簡単に見切ることができる。その程度の技だ。」


そう言ってパッとタカミチの手を離す。


「“その程度の技”とは・・・言ってくれますね。どうやら僕はかなりあなたを甘く見ていたようだ・・・」


すると、タカミチは瞬動を使ってピッコロたちから距離をとる。


「ネギ、小太郎・・・少し離れていろ。どうやら何かやらかすようだ。」


ピッコロに言われ、ハッとなった2人はすぐにその場を離れる。


「これは僕の最大の技です。かなりの威力ですから避けてくださっても構いませんよ。あなたなら本当に避けられそうですが・・・」


タカミチの宣言にピッコロも鼻でフッと笑い、


「やるなら全力で来い。避けるまでもない・・・正面から受け止めてやる・・・」


不敵なピッコロの笑みを見て、タカミチもカチンときたのか、


「そうですか・・・なら遠慮なくいきますよ!!」


突如としてタカミチの体から2種のオーラが立ち昇りはじめた。


「な!?あれは!?」

「気と・・・魔力?」


タカミチの纏う力に驚くネギ&小太郎。

そしてそれはピッコロも同じであった。


(爺の話では気と魔力は同時に出せば相殺されてしまうはず。だから普通はどちらか一本に特化して鍛え上げると聞いたが・・・やつは一体何をする気だ?)


すると、右手に魔力、左手に気を集中させ始めるタカミチ。

その練度はピッコロから見てもかなりのものであった。

そして、それぞれの力が篭った両手のひらを合わせる。


「『気と魔力の合一』!!」


すると、反発するはずの2つの力が混じり合い、タカミチの体を覆った。

『咸卦法』・・・タカミチが長年の修行で苦心の末習得した、気と魔力を同時に体に纏うという一見不可能に見える現象を可能にする究極技法である。気と魔力が同時に体に供給されれば、身体能力がそれぞれ単体のみのときよりもはるかに強化されるので、攻撃力・防御力といった戦闘面でのパワーアップにおいて反則的な効果を発揮する。しかし、元来気と魔力は反発するもののため、習得するのがかなり難しく、今のところ麻帆良の魔法先生の中で使えるのはタカミチだけである。

この技によって詠唱魔法が使えなかったタカミチも、トップクラスの使い手たちと同等に戦うことができたのである。


「ぬ!?気と魔力が混ざっただと!?どういうことだ?」


咸卦法でパワーアップしたタカミチに疑問をもったピッコロを余所に、タカミチは再びポケットに手を突っ込んだ。

そして、自分の利き腕に咸卦の気を最大出力で集中させていく。


「見せてあげましょう・・・僕の最大奥儀・・・『豪殺居合拳』!!」


瞬間、瞬動で一気にピッコロの前に移動したタカミチから先ほどより速さ、威力がはるかに上の拳撃が放たれた。


ドオオオオオオン


そこから生じる衝撃はまさに大砲の如し。いや、確実にそれ以上である。

一瞬にしてピッコロを飲み込み、その周囲は波動により、土煙が舞い上がった。


「ぴ、ピッコロさん!!」「父ちゃーん!!・・・くっ!」


ネギたちも衝撃に顔を覆った。

衝撃が少しおさまり、土煙の中からから拳を突き出した状態でタカミチが姿を現した。

最後にポッケトに収めるという居合の動作をする余裕がなかったあたり、彼も全力であったことがうかがえる。


「まさか・・・本当に受け止めるなんてね・・・」


一筋の汗がタカミチの顔を流れた。

土煙が晴れてくると、

そこには

ピッコロが無傷なままで、平然と立っていた。


「フッ、見たところなかなか面白い技だった。・・・が、残念ながら俺の前では煙を巻き上げるだけだぞ・・・」

「・・・まったく、本当に手厳しい方だ・・・」


もはや、笑うしかない・・・僕の完敗だ・・・

タカミチが腕を力なく下ろした。


「えっ!?な、何があったの?」


事情がよく飲み込めないネギ。


「アホか!あのタカミチっておっさんの技を父ちゃんが気合だけではね返したんや。」


そんなネギを情けないなあと思いつつ、解説してやる小太郎。

ネギは呑気になるほど~とか返している。


「で、どうする?まだやるのか?」

「ハハハ・・・これ以上僕に打つ手はありませんよ。もともと、肉弾戦が僕の領分でしてね。これが効かないんじゃ、どうやってもあなたに勝てそうにない・・・」


負けたにも関わらず、どこか清々しそうなタカミチ。


「何?魔法とやらは使わないのか?」

「使わないんじゃなく使えないんです。僕は生まれつき呪文詠唱ができませんから。」

「そうか・・・だからあんな小細工をしなければいけないのか・・・」

「まあ、あなたに言わせれば小細工なんでしょうが、あれは・・・咸卦法は、僕の修行のすべてと言って良かった。それが通用しないとわかった以上、僕はあなたに一生勝てない。・・・さすがにナギを倒した御方だ。強い・・・強すぎる。」


いつの間にかネガティブになっていたタカミチを見てピッコロも少し言いすぎたかと思ってしまった。

しかし、よく考えればあの咸卦法とかいう技はかなり便利である。なんせ、気と魔力といった本来片方しか使えない力を言ってみれば合体させて使うことができるのだ。特にネギのような生来の膨大な魔力気質を持つ者が使えばどうなるか・・・想像もできない力が得られるのでは?

最近ネギが気の方面の修行で伸び悩んでいたことを思い出したピッコロはこの咸卦法という技に興味が出てきた。いずれ魔法を学ぶであろうネギにとっては、相容れない強大な力を2つも持っていたのでは、将来必ず壁にぶち当たるであろう。ここでいっそ咸卦法を習得してしまえば、気と魔力を一々使い分けなくてもいいし、大幅な能力アップにもつながり、修行の効率もよくなるのでは?


「フフフフ、咸卦法か・・・おもしろい、おもしろいぞ!!」


いきなり笑いだしたピッコロにタカミチも思わず退いてしまう。


「あ、あの・・・どうかしましたか?」

「タカミチとやら・・・キサマに提案がある。どうだ?弟子を持ってみる気はないか?」

「・・・え?」


ピッコロの言葉に驚き、タカミチから声が漏れる。

ピッコロが続けて言った。


「ネギにキサマの咸卦法を教えてやってくれないか?」

「「「・・・・・・えええええ!?」」」


3人のシンクロした声が木霊した。







あとがき

試験近いのにまた書いてしまった・・・本当に大丈夫なんだろうか・・・(汗)

でも、書きたい衝動を抑えきれぬう!!な仕事人ですw

今回バトルが物足りなく感じたかもしれませんが(というかバトルになってませんでしたが)、やっぱ実力差がありすぎたので穏便にすませようとしたらこうなってしまいました。

まあ、タカミチって喧嘩っ早いって感じじゃないのでこうなるんじゃないかなという作者の想像ですので、期待してた方すみません。

もしかしたら、次回まともなバトルが見れるかも・・・ネギvsタカミチとか・・・
あっ、ネタばれ!?



[10364] 其ノ拾参   激突!!  ネギ 対 タカミチ (誤字訂正のみ)
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/08/29 11:40



ピッコロの放った一言に唖然とする一同。

特にタカミチの驚きは相当なものであった。


「あなた・・・本気ですか?咸卦法は究極の技とも言われているんですよ?習得の難易度はヘタな上級魔法よりよほど高い・・・ましてや子供に教えられるものでは・・・」


タカミチは躊躇していた。かつて自分がこの技を身につけるためにどれほど過酷な道を歩んできたことか・・・それをこの年端のいかない子供にも課すつもりなのかと。

しかし、タカミチの言い分にもピッコロはどこ吹く風でフッと鼻で笑っていた。


「ああ、そんなことは百も承知だ。気と魔力の融合など、水と油を混ぜるようなもの・・・そう簡単にできるなんてはなっから思っていないさ。だからこその修行だろ?それに、その技を使えれば、生まれつき魔力の多いネギには強力な武器になる。」

「し、しかし・・・確かにネギ君の魔力が膨大なのはまあナギの息子ですから納得できますが、咸卦法は気と魔力のバランスが重要です。どちらか一方が多すぎては上手くいかないんです。どちらかというと魔法使いよりのネギ君では気が魔力に追いついていかないのでは?それに、これは使うとかなりの魔力と気を同時に消耗します。子供の体で耐えられる技では・・・」


タカミチの意見を聞いてピッコロは深いため息を吐くと、鋭い目で睨みつける。


「キサマ・・・ネギたちの修行を見て何も感じていなかったのか?こいつらはキサマが思っているほどヤワじゃない。俺もそんな風に育てた覚えはない。強くなるためには多少のリスクを負わなければならない・・・そんなことくらいこいつらも身をもって知っている。・・・あと、ネギの気が魔力に追いつかないと言ったが、果たしてどうかな?」

「な!?・・・それはどういう・・・」

「フン。口で言っても分からんだろうから、自分で体験してみるといい。」


そう言ってネギを見やる。


「今からネギと組手をしてみろ。もし、ネギの実力がおまえの眼鏡にかなわなければさっきの話はなかったことにしていい。」

「ええ!?た、タカミチと!?」

「ネギ君と・・・ですか?」


ピッコロの発案にまたしても驚くネギとタカミチ。

小太郎はおっ!?なんかおもしろそうやな・・・と傍観を決め込んでいる。


「言っておくがこれは修行を受ける資格があるかどうかを試すだけだ。修行をつけるかどうかはお前自身の判断にまかせる。こちらも強制させる権利はないしな。ネギも、たまには俺や小太郎以外の相手をするのは良い刺激になる。」

「ですが・・・ネギ君の意思を尊重しなくてもいいんですか?」


すると、ネギが口を開く。


「僕は構わないよ、タカミチ。僕決めたんだ・・・強くなるって。お父さんよりずっと強くなって、そしてお父さんに会いに行くんだ。だから、今よりもっと強くなれる道があるなら、どんなに険しくても越えていくよ!」

「ネギ君・・・」


これから5才になる子供とは思えない決意に満ちた目をしたネギを見て、タカミチは察した。
ああ・・・この子はもう『英雄の息子』ではなく、ちゃんと『ネギ・スプリングフィールド』としての道を歩んでるんだな。自分の道を歩き出した彼はもう誰にも止められないだろう。まして、あのときから歩むことを止めてしまった自分にはなおさらそんな資格はない・・・

自分が当の昔に失くしてしまった純粋さをネギに感じて、ふとそれを羨ましく思ったタカミチだったが、すぐに顔を引き締める。


「わかりました。その挑戦受けて立ちましょう。・・・ネギ君もいいね?」

「はいっ!!」


2人が距離をとって対峙する。

その間を風が吹き抜けて行った。


「申し訳ないが、これはテストとはいえ現実の厳しさを君に教えてあげる上でも手を抜いて上げるわけにはいかない。やめるなら今のうちだよ?」

やはり、子供相手に本気を出すのに躊躇いがあるのか、タカミチが最後通牒ともとれることを言い出す。


「くどいよ、タカミチ!!僕は決めたんだ。自分で決めた以上、後悔なんてしたくない。」


ネギからそんな言葉が出るとは思わなかったタカミチはしばし、ポカンとする。

それを見てピッコロがククク・・・と笑いを堪えながら言う。


「さすがは俺の弟子・・・と言ったところか。残念だったな、タカミチ。こいつの決意はそんなことではもはや揺るがん。それに、どうやらキサマのほうにも遠慮があるようだが・・・あまりネギを舐めるなよ。本気でやらなければ・・・下手したら死ぬぞ?」


最後の言葉にハッと背筋が凍るタカミチ。

まさか・・・目の前の少年は、自分が本気でかからなければならないほどの力があるとでもいうのだろうか?そんなはずはない。ピッコロに負けはしたが、これでも麻帆良では学園長に次ぐ実力があるのだ。
ネギもいくらピッコロに鍛えられているといっても、まだ一年も経っていないはず。そんな少年に後れをとるつもりは・・・

しかし、頭の中であれこれ考えても、何故だか次から次に焦りが湧き出してくる。そんな自分を必死に落ち着かせようとするタカミチだったが、戦いの始まりは刻々と迫っていた。

すると、ネギが構えを見せ始めた。

どこか中国拳法に似ているが・・・


(魔族特有の構えなのかもしれないな・・・)


ネギの構えを注意深く観察しているとネギに変化が現れる。


「はあああああ!!」


そして、タカミチは驚愕した。


「な!?こ、これは・・・気!?」


突如ネギの体中から湧き上がってきた力・・・気の存在に目を見開く。


(そんな・・・彼はてっきり魔力を使うものかとばかり・・・)


確かに咸卦法が使えないネギに対してその推測が立つのは当然であろう。しかし、まだ学校に通っていないネギには使える魔法がほとんどない。第一ネギは魔法使うための杖をもっていないから魔法が使えない。だから最初から魔法を使う気はなかったのだ。それに魔力は肉弾戦にはあまり向いていない。だが、この自信の有り様・・・つまりこれは、彼に魔力以外の武器が備わっていることを示唆している。そのことをタカミチは失念していた。


「くっ、これは予想外だったよ。魔法使いの息子が気の使い手だなんてね。」


内心で生まれていた動揺がさらに大きくなっていく。

ここしばらく感じていなかった心境にタカミチははっきり言ってグラついていた。

そして、そんなタカミチを余所に、


「はじめっ!!」


ピッコロの掛け声と共に

戦いの火ぶたが落とされた。


ピシュン


そんな音が聞こえたかと思うと、いつの間にかネギの姿がタカミチの視界から消えていた。


「な!?」


さっきから驚きの連続だったタカミチにとっても今のが一番の驚きだった。

すると目の前に忽然とネギが現れ、

タカミチの鳩尾に強烈な正拳を放った。


「ガッ!?」


一瞬何があったのかわからなかった。ただ自分の体が吹っ飛ばされていく。


「グッ・・・」

咄嗟に体を捻り、なんとか着地して体勢を立て直す。


ガガガガガァァァァァ


着地してもなお慣性の勢いは衰えず、地面は足で引きずった跡を残し、なんとか踏みとどまった。


「!?んぐっ!?」


すると、急にタカミチの肺から空気がなくなり、一時的な呼吸困難に陥る。胸を押さえ、前かがみになる。体は酸素求めているため、声が出せない。

タカミチの前ではネギ構えを解かずに佇んでいた。


「今のは軽い挨拶程度。タカミチも本気じゃなかったみたいだから・・・
 でも、次は手加減しない・・・だから、本気で来てよ、タカミチ。」


ネギの言葉を聞きながら、内心では苦笑しているタカミチ。


(今ので挨拶程度だって?冗談じゃない・・・こっちは咄嗟に使った咸卦法での強化がギリギリ間に合ったから骨は折れてないが、それでもこの有様・・・本気を出したらどれくらいになるというんだ・・・)


底知れぬネギの力に、タカミチはいつしか恐怖のようなものを感じていた。


(だが・・・仮にも年長者なんだから、ここで倒れるわけにはいかないね。僕もまだこんな子供に負けてあげるほど低いプライドは持ち合わせていないんだよ!!)


ダメージからある程度回復し、渾身の力で立ち上がるタカミチ。


「すまなかったね・・・ネギ君・・・また僕は君を侮っていたようだ。真剣に挑んでくる君に対しなんて無礼なことを・・・許してくれ。
君は本気で戦うにふさわしい相手だ。だから、ここからは本当に全力でやらせてもらう。ネギ君・・・しばしこの戦いを楽しもう・・・」


タカミチの体を咸卦の気が包み込む。


「そうこなくっちゃ・・・おもしろくない・・・」


ネギも気の出力を上げた。

2人を中心としてこの辺一帯に波動が発生する。


「はああああ!!」

「でああああ!!」


そして、2つの影が同時に飛びかかる。

影が交錯した瞬間に激しい光が生じた。









「すごいなあ・・・あのタカミチっておっちゃん。ネギのやつと互角やで・・・」

戦いが始まって数分が経過していた。

本気のタカミチはさすがといったところか、ネギを相手に今のところ一歩も引いていない・・・ように見えた。

2人の激闘を手に汗握って眺め続けている小太郎に、ピッコロは


「お前はどこを見ているんだ? 互角なわけないだろう。」

「え!? そうなんか?」

「もっとよく見てみろ。今は明らかにネギが優勢だ。」


ピッコロに言われ、小太郎はより注意深く戦況を見つめる。

実際その通りで、タカミチは追い詰められていた。


「ダダダダダダダァァァ!!!」


(ま、まさかこれほどとは・・・)


ネギのラッシュを、タカミチはガードしながら受け止め続けている。


(くっ、子供とは思えないほどよく練られた気だ。威力が半端ない。咸卦法で強化しているこの体でもダメージが残ってしまう。)


すると、またしてもネギの姿が消える。


「くう!?今度は・・・後ろか!」


気配を感知した咄嗟に腕を交差させ、ネギの蹴りを受け止める。

あまりの威力に後ろに吹っ飛ばされる。


(おまけに動きが速い!!瞬動か・・・いや、もう縮地レベルの動きだ。こんな子供にできるとは・・・おかげでこっちは攻撃に移れない・・・こうなったら・・・)


吹っ飛ばされている体勢のままタカミチも瞬動を使う。

一瞬にしてネギの背後に回り込み、自身の必殺技を放つ。


「もらったよ!!『豪殺居合拳』!!」


ドゴォォォン


タカミチの突破口となる一撃がネギの背に直撃する。

・・・かに見えた。


「はっ!?」


技を放った直後にネギの姿がすうっと幻のように揺らいだ。

すると技がネギを通り抜けていき、やがてネギだった人影は消えてしまった。


「今のは・・・残像!!」


ふと、背後の上空に気配を感じたタカミチ。


「しまっ・・・!?」


思わず振り返ると、両手に気を纏わせたネギがはるか上空に浮いていた。


(な!?・・・魔法を使わずに気だけで宙に浮いているのか!?そ、そんなことが・・・)


またも想定外の現象に、タカミチはネギへの対応が遅れてしまう。


「はああああ!!」


ネギの両手からタカミチに向けてエネルギー弾が放たれた。


「な、なんだあれは!?くっ、やるしかないか!!」


初めて見るエネルギー弾に戸惑いながらもなんとか迎撃の態勢をとる。


「全力の『豪殺居合拳』だ!!」


飛んできた気弾と、タカミチ最大の拳打が激突する。

瞬間カッと閃光が走り、辺りを包み込む。

しかし、光が止んでも今度は土煙が覆っていた。

衝撃の凄まじさがうかがえよう。


「ぐっ・・・!」


煙が晴れてくると、まずはタカミチが現れた。

突き出した拳は血まみれになっている。どうやら、完全には受け切れなかったようだ。


(なんて破壊力だ・・・!豪殺居合拳でも相殺仕切れないなんて・・・もうこの拳では技が出せないな・・・)


想像以上のダメージに苦痛を露わにするタカミチ。

上空はまだ煙により、よく見えない。

が、それも徐々に晴れてくる。

空の景色がはっきりするにつれて、タカミチの表情に変化が現れた。


「あ・・・あ、あああ・・・」


タカミチの瞳孔が開いていく。何があったというのか?

空がようやく見えるようになると、何やらむこうから何かが飛・・・んで・・・くる・・・?

・・・ああ!?あの影は・・・

そう、ネギだ!!

ネギがこっちにすごい勢いで突っ込んでくる!!

煙で隠れてしまった視界を利用しての奇襲戦法・・・わりとよく用いられる手だが、よもやこのような場面で使って来ようとは・・・

自慢の武器も十分に使えない状態のタカミチは呆然とするしかなかった。

ネギはタカミチに近くまでくると拳を突き出す。


「ぶっとべえぇぇ!!」


タカミチの顔面に渾身の一撃が入った。


ガガガァァァァァ


衝撃波で周りの土を吹き飛ばしながらタカミチは岩壁に激突した。

そして、奇しくもかつての小太郎と同じ格好で気絶することとなった。


「ふう・・・ちょっと疲れたな。やっぱタカミチは強いや・・・」


良い汗かいたという表情で言うネギに小太郎は顔を引きつらせる。


「あ、あほ!!何ぼさっとしとるんや!!あのおっさん今ので死んだかもしれへんで!?」


「ええ!?ど、どうしよう!?僕人殺しちゃったのかな?」


小太郎に言われて急にあわて始めたネギ。すぐに、救助に行かないと大変なことに!!

しかし、その必要はなかった。


「安心しろ。気絶しているだけだ。気を送り込めばいずれ意識を取り戻すだろう。」


いつの間にか、ピッコロがタカミチをわきに抱えた状態で宙に浮いていた。


「そ、そっか・・・良かった~」

「しかし、お前も無茶をしすぎだ。こいつはかなり鍛え込んでいたからこのままで済んだが、小太郎の言うとおり相手によっては死んでいた可能性もあったぞ。」

「あう・・・うん。ごめんなさい。」

「お前はもう少し力のコントロールを覚えるべきだな。全力といっても、ある程度抑えるべきときは抑えなければいけない。わかったか?」

「はあい・・・」


シュンとうなだれたままのネギを見て、ピッコロは表情を和らげ、


「しかし、今回はよくやったな。あれでも相手はかなりの実力者だ。師匠として鼻が高いぞ。」

「ほ、ほんと!?」


褒められて嬉しくなったのか、ネギはすぐに顔に明るさを取り戻した。


「まあ、さすがは俺のライバルやな!俺も結構おもしろかったで!!」

「小太郎君・・・」

「俺も強くならなあかんな。ネギ、今度の組手は負けへんからな!!」

「うん!!」


互いに拳をゴツンとぶつけ合う2人。ここ数ヶ月でかなり仲がいいコンビになっているようだ。


「では2人とも、一旦家に帰るぞ。」

「はい!!(おう!!)」





タカミチが目を覚ましたとき、既にベッドの中であった。

体には包帯が巻かれ、特に彼の右拳は厳重にテーピングが施されていた。


「そうか・・・僕は負けたのか・・・」


一人しかいない部屋の中、その事実を悟った瞬間、彼の心は暗い闇に覆われた。


コンコン


「入るぞ。」


ノックをして部屋に入ってきたのはピッコロ。


「もう目を覚ましたか。怪我は大丈夫なのか?」

「ええ、おかげさまで。この通り・・・痛ぅ!!」

「まだ無理をするな。少々ネギが痛めつけすぎてしまったようだ。許せ・・・」

「いいえ、お気になさらず・・・」


ハハハ・・・と笑うタカミチだがどこかその表情が冴えない。


「・・・どうした、シケた面をして?・・・ネギに負けたのが悔しいか?」


ピッコロに胸の内を見透かされたような気がして、タカミチは正直に白状しようと口を開いた。


「悔しくない、と言ったら嘘になります。僕はこれでも紅い翼のメンバーだったことに誇りを持ってますから、たかが子供に負けるつもりなんてありませんよ。
でも・・・現に僕は負けた。完膚なきまでに。その時思ったんです。ああ、僕はここまでなんだなって・・・
僕は昔から落ちこぼれだったから自分に自信が持てなかった。それでも、ナギたちを見ているうちに、彼らのようになりたいという自分を抑えきれませんでした。
僕は必死に修行した。一歩でも彼らに近づくために。そして力を手に入れた。一流の使い手として賞賛された。・・・しかし、彼らには届かなかった。」

「・・・・・・」

「この年になって己に限界を感じたとき、分かってしまったんですよ。ああ・・・彼らは僕たちとは違う・・・どんなに頑張っても決して届きはしないって。」


そう話すタカミチの目はどこか虚空を見ているようであった。


「そして、今日ネギ君に敗れた。時代が変わった・・・そう思わざるを得ません。戦いながらでしたが、子供ながらに溢れるような才能を感じました。昔の僕にはなかったものです。やはり血は争えないものなんですね。若き日のナギを彷彿とさせました。いつの時代も才能のある者が動かしていく。凡人は努力をすれば高みにいけるが、才能のある者には届かない。・・・今日の戦いでそれを確信しました。
あと、僕にできることがあるとすれば、自分の技をネギ君に伝えることぐらいなものです・・・」

「・・・・・・」

「ネギ君に咸卦法を教えましょう。あの実力なら習得できるかもしれません。僕には時間がかかりましたが、今の彼になら「くだらん・・・」・・・え?」


突然話を隔たったピッコロに呆然となるタカミチ。


「くだらんと言ったんだ。地球人にしては大した腕だと思っていたが、性根がそこまで腐っているとはな。ガッカリだぜ。」


心底呆れたという顔をするピッコロ。


「凡人は才能のあるやつには勝てない?自分には才能がない?だからどうしたというんだ?要するにお前は、自分に自信がないという現実から目を背けて、言い訳がましく逃げに走っているだけだろう?」


ピッコロに自分の本質を言い当てられた気がして動揺するタカミチ。

すかさず続けるピッコロ。


「それに努力は才能に勝てないというのも気に入らんな。キサマは才能がないというが、努力をするというのも立派な才能の一つだと俺は思うぞ。いや、ヘタな才能よりよほどいい。才能は持っていても気づかなければ意味がないし、それに頼りきっていては結局は限界がある。しかし、努力は違う。努力は積み重ねることができる。仮に百の努力で才能に及ばなければ、千の努力、それでもダメなら万の努力をすればいいだけの話だ。『才能は努力では届かない』?違うな。『努力に勝る才能がない』んだ。」

「『努力に勝る才能がない』・・・」

「そうだ。なぜ武術があるかわかるか?努力すれば相応の結果がついてくるからだ。努力はときに己の限界を超えさせることだってできる。俺はそんなやつらを何人も見てきた。俺が人間を侮れないと思ったのは、やつらが努力することで進化できる存在だからだ。」


頭に浮かんでくるのはかつてともに戦ってきた仲間たち。修行することで限界を超えるという最たる証明をしてくれたサイヤ人孫悟空。同じく、サイヤ人としてもともと強大な力を持っていたが、努力というものの重要性を理解していたエリート戦士ベジータ。地球人でありながら一番はじめに自分を本気にさせた男クリリン・・・
さまざまな者たちと武術を通して触れ合ってきた。そのすべてが今のピッコロを作っているといっても過言ではない。

努力を否定するということは彼らのことも否定するということ・・・だからピッコロは許せなかった。


「・・・キサマがナギたちにある種の劣等感をいだいているのはわからなくもない。俺もそういう経験はかなりしたことがあるからな。だが、キサマが言った限界というのはこんなものじゃないはずだ。ネギとの戦いを見て思った。キサマはまだ自分のすべてを出し切ってはいない。まだまだ伸びる、とな。」


それを聞いてタカミチは驚きのあまり体を震わせる。


「僕に・・・成長の余地がある・・・と?」

「ああそうだ。成長・・・いや、進化だな。正直今のままの鍛え方だと確かに限界がある。・・・が、ここで少し新しい戦い方を覚えてみるのはどうだ?」

「新しい戦い方・・・」

「要するに今俺がネギたちに教えている気を使った戦闘法だ。キサマは魔法が使えないらしいし、どっちかというと戦闘スタイルは俺たちに近いからな。キサマにもやりやすいはずだ。それに、咸卦法を使えるといっても、気の練り方は俺に言わせればまだまだ甘い。だから、この際徹底的に気を使いこなして俺たちの戦術を自分のものにしてみろ。そうすれば、キサマの可能性も大きく変わるだろうよ。」


語り終わったピッコロがタカミチを見やると、彼は掛け布団を握りしめたまま体をさっきよりも震わせていた。


「なぜ・・・なぜ僕にそこまで・・・してくれるんですか?」


タカミチの震えながらの問いに、ピッコロは淡々と答える。


「別に俺は暇だからな。弟子が一人増えたくらいどうということはない。まあ、無料で受けさせるわけにはいかんぞ。そうだな・・・授業料代わりにネギに咸卦法を教えてやることで・・・どうだ?」


壁に寄りかかり、腕を組んだ姿勢で告げる格好はなかなか様になっている。

タカミチはいつの間にか両目から熱いものが流れているのを感じた。


「僕は・・・いや、俺は・・・また目指してもいいんですか?」

「フン。それはキサマ次第・・・ただこれだけは言える。諦めなければまだ試合は続いてるんだ。」

「ピッコロさん・・・俺は・・・武術がしたいですっ・・・」


この年になって久しぶりの涙を流しながら告白したタカミチに、ピッコロが肩に手をかける。


「タカミチ・・・おまえはまだまだ高みに行ける。俺にまかせろ!!俺が必ずお前の可能性を引き出してやる!!」

「・・・はいっ!!」


この日、ピッコロに新たな弟子ができた瞬間であった。






画して、タカミチはネギに咸卦法を教える傍ら、ピッコロの指導も受けることになった。

かつて師匠と仰いでいたガトウとの修行とは桁はずれの内容に、始めはかなり戸惑いを見せたものの、持前の根性で乗り切り、あっという間に一ヶ月が経ってしまった。


「とうとう、お別れなんですね。」

「まあ、仕事だから仕方ないよ。僕としてももう少しここで修行したいんだが・・・残念だよ。」

「そうですか・・・じゃあ、日本でも御身体に気をつけて。」

「ありがとう、ネカネ君。」


ネカネとタカミチが別れの挨拶を交わす。今のタカミチは、ピッコロやネギたちと同じ紫色の道着を着ている。もう完全に“ピッコロ門下の者”といった感じだ。この一ヶ月で生やしていた髭も綺麗に剃り、鍛え上げたことで逞しくなった体つきも相まって以前よりずっと若々しく見える。


「でも、タカミチこの一ヶ月で随分強くなったよね。もう組手じゃ前みたいに勝てないかも・・・」

「そうやで・・・おまけに舞空術や気功波までできるようになりよるし・・・俺らもウカウカしてられんのとちゃうか?」

「ははは・・・買いかぶりすぎだよ。それに、ネギ君もすごい成長速度だよ。この短期間で『気と魔力の合一』を達成したんだからね。・・・まあ、まだまだ練度が低かったり改善の余地があるようだけど。」

「もうっ!!タカミチったら!!一言多いよ!!」


ネギが頬を膨らませて、プンプン怒っているようだが、子供らしい容姿もあってか可愛らしいものにしか見えない。

そんなネギにごめんごめんと謝りつつ、生涯2人目の師匠となった男に向き直る。


「もう行くのか?」

「ええ・・・今日までお世話になりました。短い間でしたが、ありがとうございました。」

「まあそう畏まらなくていい。大して教えられなかったかもしれんが、今のお前なら必ずナギたちと同じラインに入る、いや超えられるはずだ。大丈夫だ。自信を持て!!」

「はいっ!!・・・それじゃあ、先生もお元気で!!」


ピッコロと堅く握手を交わし、タカミチは荷物を担いで家を後にする。


「どうかお元気で~」「偶には遊びにきてね~」「タカミチさ~ん、今度会うときは絶対勝ったるからな~」


見送りの人々の言葉に手を振って応え、町を去っていくタカミチ。

その姿を見ながら、


「先生、か・・・ 意外と悪くない響きだな・・・」


一人呟くピッコロであった。






~麻帆良学園学園長室~


「フォ、フォ、フォ、フォ。休暇はどうだったかね?」

「ええ、大変充実したものでしたよ。人生で一番じゃないでしょうか?」

「ほほう・・・それは興味深い。何か良い出会いでもあったかの?」

「フフッ、まあそうですね。僕の生き方が変わりましたから。」

「むむっ?そこまでか・・・一体何があったんじゃ?」

「ハハハ・・・秘密ですよ。学園長にも御有りでしょ?そういう秘密の一つや二つ。」

「う~む・・・気になるわい。そういうとこだけずるいの~
しかし、男の秘密って気持ち悪いぞい。」

「なんとでも言ってください。」

「・・・まあ、良いわい。ところでネギ君は元気だったかの?」

「ええ、それはもう。むしろ元気すぎですよ、あの子は。」

「フォ、フォ、フォ、フォ。それはそれは。これは将来ナギのような大物になるかもしれんのう?」

「『ような』じゃありませんよ。あの子はきっとナギを『超え』ます。必ずね・・・」

「むっ・・・どこから来るんじゃその自信?・・・まさか“例の魔族”のおかげかね?」

「ハハハ・・・当たらずとも、遠からずとでも言っておきましょうか。」

「・・・クククククク、おもしろいのう。その魔族君とやらは・・・。君をそこまで変えるんじゃからな?フォ、フォ、フォ、フォ・・・一度会ってみたいものじゃわい。」

心底愉快そうに笑う校長に少し引いてしまったタカミチ。

「あ~、さっきからずっと気になっておったんじゃが、その服はいったい・・・?」

「ああ、これですか?ハハッ、カッコいいでしょう? “彼”からいただいたんですよ。」

「う~ん・・・まあノーコメントということで・・・」

「ええ?わからないかなあ?この色合いとデザインは秀逸だと・・・」


その後、延々と語り続けるタカミチの話を、「もう、ええわ!!」と押しとどめるまで近衛門は聞き続けることになった。




~さらに後日~

「やあ、エヴァ!」

「ん?なんだタカミチか・・・なんの用だ?」

「暇な時に修行したいから『別荘』を貸してほしいんだけど?」

「・・・お前熱でもあるのか?悪いが私は回復系は苦手・・・」

「ハハハ・・・違うって。つい最近になって自分の限界を越えてみたくなったのさ。」

「・・・どういう風の吹きまわしだ?前にお前も言っていただろう?ここまでが限界だって・・・」

「だから生まれ変わったんだよ。僕は進化し続ける。これからもね・・・。おっと、もうこんな時間だ。じゃあ、よろしく頼むよ!!」

「お、おいっ・・・はあ・・・全くなんだというんだ・・・あいつあんなキャラだったか?」


タカミチの変わり様に首をかしげるエヴァであった。

数ヶ月後、エヴァの別荘にて、葉加瀬たちに頼んで作ってもらった重力制御装置で修行に励むタカミチの姿が見られるようになるのだが、それはまた別の話。


ああ、これはもっとどうでもいい話だが、前より逞しくなって帰ってきたタカミチを見て、とあるおじ様好きの少女がますます彼に入れ込むようになったという・・・







あとがき

試験勉強の合間に書いてたらなんか知らないけど大変な長さになってしまった~な
仕事人です。

今回バトルメインで書くつもりだったんですが・・・いつの間にかピッコロさんの説教がメイン?になってましたw

このピッコロさん饒舌すぎるw と思った方・・・ゴメンナサイ。

タカミチも原作とキャラが変わってしまったかもしれません。でも、なんか原作だとオヤジ臭すぎてしかも暗い(ハードボイルドと言ってしまえばそれまでなんですが・・・)イメージがあったんで、それを今回取り上げてみました。

これタカミチじゃねえよw って思った方・・・やっぱりゴメンナサイ。

あっ、あと今回の戦闘描写でおかしなところがあるかもしれませんが・・・まあスルーしてくだ・・・「できぬう!!」 ですよね~・・・スミマセン。

わっ、やめて!!石投げないでw

そろそろ原作初期に近づいてきました。ネギ君たちが麻帆良で大暴れするまでもう少しです。

それまで、もってくれ~俺の体~!!





[10364] 其ノ拾四   行け、弟子よ!!  めざすは新たな舞台「日本」 (誤字発覚のため訂正)
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/08/29 11:33



時は飛んで飛~んで早くも、五年が経とうとしていた。

その日もネカネは朝ご飯作りに精を出していた。


「ふふふふ~ん。うん、今日もうまくできたわね。アーニャちゃ~ん、いる~?」

キッチンからリビングで新聞を読んでいるアーニャに声をかける。

「は~い!いますよ~!」

「悪いんだけどご飯ができたからネギたち呼んできてちょうだい。」

「は~い。場所は例によってあそこ?」

「・・・ええ。まったくもう、昔からずっとその習慣だけは変わらないんだから。まあ、魔法の勉強に差し障りがないからいいんだけど・・・」

「そういえば、ネギも今日で卒業なんだよね。私より後に入ってきたくせに同時に卒業って・・・どんだけ優秀なのよ!!
普段は修行のことばっか考えてる脳筋のくせに・・・成績だけはいいのよね~。何気に主席だし・・・」


凄く悔しそうな表情でアーニャが言う。


「こらこら!ブツブツ言ってないで早く呼んできて!さもないと、アーニャちゃんにも罰ゲームよ・・・」


ギラリとネカネの目が光ったのを見て、アーニャが慌てて動き出す。


「わ、わっかりました~!!いってきま~す!」







~ここは例によってネギたちの修行場~


今日もここでネギたちが修行しているはずなのだが・・・?

地面にも・・・空にも・・・どこにも姿が見当たらない・・・

ん!?いや・・・我々常人の目には捉えきれていないだけだ。

かつてピッコロが同じ状況にあった悟飯に言ったことがある。


『見るのではない。感じるのだ。』


ならば、我々もそれを実践しようではないか。そうすれば自ずと・・・


おのずと・・・


・・・・・・。


・・・いや、やはりそれも我々にはハードルが高すぎたらしい。

仕方がないので、かつてのZ戦士たちのような超人レベルの視点でご覧いただこう。


・・・おっ!?今度はようやく上空に何か人影のようなものが見えてきた。

数は・・・3つ。

子供が2人・・・これはネギと小太郎と見て間違いなかろう。

ということは、もう一つの影は自動的にピッコロとなる。

どうやら、2対1で組手をやっているようである。

ではもう少し近づいて見ようではないか。




「「だりゃりゃりゃりゃりゃぁぁ!!」」

「ウワタタタタァァ!!」


ネギ、小太郎の2人の一斉攻撃をピッコロがすべて捌いている。

しかし、ピッコロは余裕の表情を崩さない。

というか、半分遊んでいる感じである。


「どうしたどうした!!お前らの力はそんなものか!?」

「くっそ~!!」「舐めたらあかんで~父ちゃん!!」


3人の姿が同時に消える。・・・っと、


ドオオオオン


バシイイイン


ダアアアアアン


空のあちこちで轟音と、円心状の波動が発せられる。

すると、地上に突如ネギとピッコロが立った姿で現れた。


「はああああ!!」


ネギの両手から渾身のエネルギー弾が放たれた。


「むむっ」


しかし、ピッコロはそれに対しても落ち着いて対処する。


「カアッ!!」


腕を振り抜くことであっさりそれを弾きとばした。

すると、すぐさま脇を絞め、両腕を腰だめに構える。


「くらえ!!」


ピッコロの両手から無数の気弾がネギに襲いかかる。


「げえええ!?」


ピッコロのえげつない反撃に、ネギもドギモを抜かれる。


「ダラララァァドワタァァ!!」

「わっ!?わわっ!?いい!?わっ!?」


津波の如く押し寄せる連続のエネルギー弾をネギは己の身体能力を駆使して必死で避けながら、バックステップで後方にどんどん下がっていく。

しかし、後方では既にピッコロが待ち構えていた。


「お早いお着きで・・・」

「ええ!?」

「さあて・・・お空の旅にご案内だあ!!」


後ろに跳んだ姿勢のまま動けないネギをピッコロが蹴り上げた。


「がうっ!?」


背中を蹴られ、仰け反った姿勢でネギが物凄いスピードで上空に打ち上げられる。

さらに、上空でもピッコロが先回りしており、


「そおら!!」


両手を組み、ハンマー打ちをネギに喰らわせた。


「ぐううっ!!」


頭から急降下していくネギ。

だが、目をカッと開くと、空中で体を丸め回転しながらなんとか無事着地する。


「ハア…ハア…ハア…」


痛みを感じる腹の辺りをさすりながら、ネギは上空のピッコロを睨みつけた。


「フン。なかなかしぶといじゃないか・・・」


腕を組んでピッコロが不敵に笑う。


・・・が、


「もらったあ!!」


背後から急に現れた小太郎がピッコロの後頭部に蹴りを出す。


「・・・まだまだ・・・甘い!!」


しかし、これも難なくピッコロに足を掴まれ止められてしまう。

足を掴まれた小太郎はそのまま引き寄せられ腹に一発強烈なパンチをもらってしまう。


「ごはっ!?」


そのまま、思い切り投げとばされるが、


「くっ!!」


舞空術でなんとか踏みとどまった。

しかし、まだ腹へのダメージが残ってるのか少々前屈みの姿勢で息を荒げている。


「どうした?粋がってた割には大したことないな?」

「へっ、ならこれはどうや!!」


小太郎は腕を前でクロスさせると、小太郎の体から複数の影が飛び出した。


「む!?分身か!?」


ピッコロの前に総勢5体の小太郎がいた。


「みんな!!一斉攻撃や!!」 「「「「よっしゃ~!!」」」」


そして、5体がピッコロに襲いかかった。


「「「「「ダダダダダダァァァァァ!!!」」」」」

「ちっ!!ちょこまかと煩い奴らだ!!」


それでもピッコロは攻撃をすべて受け止めるが、さすがに5人同時に相手するのが煩わしくなったため、


「フン!!」

「んん!?グハッ!!」


分身の一体の顔を殴りつけ、その腕をつかんで別の一体に投げつける。


「わわっ!?グワッ!?」


ちょうど鳩尾に投げつけられた一体の頭頂部が当たったようでそのまま、地面に落下していく。


「おいっ!?大丈夫か、分身2号、3号!?」

「おいおい、余所見をしている場合じゃないぞ。」

「!?ガアッ!!」「へぶっ!?」「あぷろっ!?」


落ちた2体に気を取られている隙をピッコロが見逃すはずがなかった。

瞬く間に残り3体に蹴り、裏拳、手刀が決まり、彼らもまた揃って墜落していく。

結局分身は皆地面に倒れた一体の小太郎の中に吸い込まれるようにして消滅してしまった。


「フン。いくら分身で数を増やしたところで、今のお前の腕では分身した分だけ一体当たりのパワーが減ってしまうという弱点があることを忘れたか!!」


下にいる小太郎に檄を飛ばすピッコロ。しかし・・・



「クククククク・・・」




「・・・何がおかしい?」

「そんな弱点、はなっからわかっとるわ。俺らの狙いはそこやない・・・」

「何だと?・・・・・・!?」


そういえば、ネギのやつはどこだ!?

いつの間にか地上から姿が見えなくなっているのを知り、咄嗟に気配を探った。


すると、


「おわっ!?こ、この気は・・・」


後ろの自分よりさらに上空に凄まじい気を感じる。

すぐさま振り返ろうとするピッコロ。しかし、少しばかり遅かった。


「いまや!!ネギ!!」


「はあああああ!!」


咸卦法により極限まで高めた気を頭上で組み合わせた両手に集中させていく。



そう、この技はかつてのピッコロの弟子悟飯が幼少の折、必殺技として愛用していたもの・・・



その名は・・・



「『魔閃光』――!!」



今、新たな弟子ネギによって受け継がれたこの技がフルパワーで撃たれた。


「ぐっ!?」


巨大な閃光がピッコロを包み込む・・・・・・



ドオオオオオオン



今までで最も大きいな轟音と衝撃波がこの辺一帯に広がった。

激しい光も発したから、もしかしたら町の住人にも目撃されているかもしれない。

光が鎮まると立派なキノコ雲が上がっていた。

したがって土煙も相当なもの。


「あ、あいつ・・・この辺ぶっとばす気かい!?相変わらず半端ない威力やで・・・」


自分が喰らったらと思うとちょ~ぴり厭な汗をかいてしまう小太郎。


一方ネギの方では・・・


「はあ・・・はあ・・・や、ヤッたか?」


フルパワーで撃ったために疲労も激しいネギが息を荒げながら呟く。

依然ピッコロを包み込む煙は晴れていない。

が、ここで煙の中から声が発せられた。


「ククククク・・・今のはなかなか見事な奇襲だった。大昔の俺だったらちょっとは危なかったかもしれんなあ?」


「!?」


ピッコロの声に驚いたのもつかの間、煙の中から腕が伸びてきてネギの足を捕らえた。


「えええ!?」


足を掴まれたネギはそのまま煙の中から現れたピッコロが急降下するに伴って下に引っ張られていく。


「トアアアアア!!!」


ピッコロが腕を思い切り下に振りおろし、


「うわわあああ!?ひでぶっ!!?」


ネギは地面に顔面から叩きつけられた。

叩きつけられた衝撃で小さいクレーターができる。

ネギはそのままピクピクッとしたまま動かなくなった。

かくして勝負は決した。


「・・・終わったか・・・」


呟いたピッコロだったが、


「あ、あんな父ちゃん・・・そ、それ死んでるんとちゃうか?」


震えながら尋ねた小太郎にピッコロもようやくことの重大さに気づく。


「はっ!?し、しまった!!強くやりすぎたか!?」


正気に戻ったピッコロはまったく動く気配を見せないネギに、もしかして殺してしまったかと不安に駆られる。

ピッコロは恐る恐るネギに近づいていくが・・・


「う、ううん・・・」

「のお!?」

「ぐ・・・ううううう・・・」


突然呻き声を上げたネギに少し驚いてしまったピッコロ。

どうやら死んではいないらしい。

ほっと一息吐いたピッコロ。


「それにしても、今の一撃をくらって生きているとは・・・正直こいつの耐久力はホントに地球人なのか疑ってしまうぞ?」


「い、今更やで・・・父ちゃん・・・」


ピッコロの発言に呆れて返す小太郎だった。


「ううう・・・・・・い、今のはひどいですよ、ピッコロさ~ん。」


目を覚ましたネギが涙目で抗議する。


「ああ・・・すまない。少々力の加減を間違えてしまったようだ。」

「ううう~・・・」

「・・・わ、わかったから、そんな拗ねるな。お前も今年で10歳だろう?そんなことで一々泣くな!!」

「う・・・わかりました・・・」


そう言われしまったらネギも何も言い返せなくなる。


「・・・し、しかし、今の魔閃光は見事だった。威力は昔の悟飯に近づいてきている。」


「ほ、本当ですか!?」


(あっ、今話題すり替えたな・・・父ちゃん。そういうところは無駄に上手いんだよな~。ホンマにずるいで・・・
ネギも素直なやっちゃな~。そんなんじゃ、いつか詐欺にでも会うんとちゃうか?)


小太郎が2人のやり取りを呆れた目で見ていた。

すると、3人の前に箒にまたがったアーニャが現れた。


「ちょっと、まだこんなところにいたの?早く来ないとネカネさんカンカンよ!!カンカン!!」

「えっ!?い、いけない!?もうこんな時間!!」

「ほ、ホンマや!!あ、あかんで・・・ネカネ姉ちゃん怒らせたら・・・(ガクガクブルブル)」

「特にネギ!!あんたは今日は卒業式なんだから急がないと!!」

「は、はい!!いますぐ!!」


ネギは白い炎を纏うと一目散に家へと飛び立った。


「と、父ちゃん。俺らも急がんと!!」

「あ、ああそうだな。」


ピッコロ、小太郎の2人も急いで舞空術でその跡を追う。


「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ!!・・・・・・たくも~う!!箒も杖もないのにあんな速く飛べるなんてずるいじゃない!!なんなのよあいつらは~!!」






~スプリングフィールド家の食卓~


「ガツガツ・・・モグモグ・・・ゴクッ、ゴクッ・・・」

「ハムハム・・・ズズズズズー・・・ガツガツガツ・・・」

「「・・・・・・・」」


今、朝御飯だというのに食卓は食べる音で満たされていた。それもとてつもないほどの音で・・・

その音を立てているのは2人の子供・・・彼らの前には皿が何十枚と積み上げられている。

子供とは思えないそのがっつきっぷりは、高級レストランに行こうものなら他の客が必ずドン引きしてしまうであろうくらいのものであった。

とてもじゃないが、話しかけられない空気・・・

しかし、その空気を感じつつも勇気を出してネカネが子供たちに話しかける。


「あ、あなたち・・・朝からそんなに食べて大丈夫なの?確かに朝御飯は1日の基本だけど・・・いくらなんでも食べ過ぎじゃ・・・」


恐る恐る尋ねたネカネに子供たちは一旦手を止めるが、


「何を言ってるのお姉ちゃん・・・食べる時に食べておかなきゃいつまた食べられるか分からない時だってあるんだよ!?ジャングルに放りだされたときとか・・・」

「そ、そうやで。それに、父ちゃんとの修行は命がけやからすぐにカロリーなんて無くなってまうわ。たらふく食っとかんと体が保たんわ・・・」

「そ、そうなの・・・ごめんなさい・・・」


鬼気迫る表情で語られて二の句が告げなくなるネカネ。そのやるせない気持ちを誰かにぶつけたくて、恐らく原因を作っているであろう人物・・・ピッコロを睨みつける。

ピッコロは身に覚えがありすぎて、思わず目を逸らしてしまう。

ピッコロはあの一件(*其ノ拾壱を参照)以来すっかりネカネが苦手になっていた。したがって、彼女にはできる限り目を合わせないか、何か言われても下手に逆らわないようにしている。

が、これでまたさらに彼女の評価を落としたようである。

ピッコロはさらに増える気苦労に溜息を吐いた。本当にご愁傷様と言わざるを得ない。


「それにしても、あんたそんなんでよく主席なんて取れたわね。普段勉強そっちのけで格闘技ばっかしてたじゃない。まあその分実技はトップだったみたいだけど?」


アーニャがすごい不思議そうに尋ねる。

確かに、ネギは学校に入学してからも割と武術に時間を多く割いていた。といっても、学校にいる間はできるだけ魔法の学習に集中しなければならないため、平日は朝の鍛錬だけであった。しかし、週一回の休日がやってくると友達と遊びにもいかずに一日中ひたすら修行に明け暮れるのだ。

そんなわけで、ネギが学校以外の場所で魔法に触れているところをアーニャはほとんど見たことがなかった。


「ん?だって・・・モグモグ・・・僕も勉強くらいはしたよ?・・・ゴクッ、ゴクッ・・・プハ~、最低限の時間しかかけなかっただけで・・・」

「な、なんですって~!?」

「簡単な内容なら一回か二回目を通せば覚えちゃうし、難しい内容も授業ちゃんと聞いていればあとは足りないところだけ勉強したり、実技とかの経験で覚えてる部分でなんとかなっちゃったりもするし・・・まあ要領がよかったってところかな?」


さも当然のように述べるネギに対しアーニャは、


「こ、このチートめ!!」


怒りが爆発したのかネギに喰ってかかろうとする。


「放してネカネさん!!こいつ殺せない!!」

「お、落ち着いてアーニャちゃん。早まっちゃダメよ!!」


必死にアーニャをネカネが取り押さえる。

ああ・・・いつもの光景だな・・・と、小太郎たちは呑気に眺めていた。





~メルディアナ魔法学校にて~

結論から言えば、ネギたちの卒業式は無事執り行われた。

今、卒業証書をもらい、ネギ・ネカネ・アーニャの3人は廊下を歩いているところである。

しかし、この卒業式にネギが卒業祝いにピッコロからもらった新しい道着を着て式に出ようとしたところを慌ててアーニャたちが止めたというようなハプニングがあった。

したがって、今は魔法使いらしくローブを着ている。


「まったく、あのへんてこな服で式に出ようとするなんて呆れたわ。あんた一般常識欠けてんじゃないの?」

「え~~、だってせっかくピッコロさんが新調してくれたんだよ?着てみたかったのに~。」

「あんたね~、そもそも卒業式なんだから制服か礼服を着なきゃいけないのよ?いい?制服よ、せ・い・ふ・く!魔法使いにとって制服といったらこれじゃないの。」

「え~・・・でもローブって一般の学校じゃ制服って言わないよね?じゃあ、何着てもいいんじゃないの?」

「う!?・・・そ、それは・・・」


言い淀むアーニャにネカネが助け舟を出す。


「そうは言うけどね、ネギ。もっと問題なのはそれがピッコロさんがくれたものだっていうことなの。今でもこの学校にはネギにピッコロさんが付いていることを面白く思ってない人がいるわ。そんな人たちの前でそんな服を着てごらんなさい。たちまち、ピッコロさんの立場が悪くなるわ・・・
あの人は強いから気にしないかもしれないけど・・・家族としては放っておけないわ。だから、今はヘタに彼らを刺激するようなことをするべきではないと思うの。」

「そっか・・・」


ネカネに言われて、納得するネギ。


「今はダメかもしれない・・・でもこんなの間違ってるよ。
 いつか・・・いつか僕が必ずこんな魔法使いの在り方を変えてみせる!!」


真剣な目で語るネギにネカネは何も言えなくなった。

そんな2人の重苦しい空気に耐えかねてアーニャが話題を変える。


「と、ところでさ・・・ネギの課題ってどんなの?」

「あっ、そう言えばまだ見てないや。アーニャはどんなの?」

「私はロンドンで占い師よ。あんたはどうなのよ~。早く教えなさい?」

「も~そんなに急かさないでよ。今開けるからさ。ええっと・・・『日本で先生をやること』・・・」

「「「・・・・・・えええ!?」」」







「で、俺にどうしろと?」

「ですから、あなたにネギに付いていってほしいんです。」


ダンとテーブルを叩いて目の前に座っているピッコロに訴えるのはネカネ。

ついさっき、校長室でうかがったところ、ネギの課題が日本の麻帆良学園というところで教師をするということなのだった。

とはいえ、ネギはまだ10歳の子供。一人で行かせるのは心許ない。

向こうは校長の友人が運営しているという話だが、ネカネには心配でたまらないらしい。

そこで、どうにか一人同行者をつけることを許可してもらったのだ。


「・・・そこでネギの親代わりである俺に白羽の矢が立った・・・と?」

「ええ、そうです。あなたはネギとの付き合いも長いですし、ネギもあなたを慕っています。それに、実力も折り紙つきです。ネギにもしものことがあったとき、あなたなら最善の処置をしてくれると思いますし・・・」


理由を述べていくネカネの弁を黙って聞いたあと、ピッコロが口を開いた。


「そのことについてだが・・・」

「はい。」

「俺は一緒に行く気はない。」

「・・・え?」


信じられないという顔でネカネがピッコロを見る。

ネカネの後ろにいるネギも驚きを隠せないようだ。


「だって、あなたは仮にもネギの保護者でしょ?ネギが心配じゃないんですか?何も分からない国でたった一人・・・もし万一のことがあったらどうするんですか!!」

「俺は数年前に小太郎に会ったとき日本にいたが、治安はそんなに悪い国ではない。なんでも、国自体が武器の所持に対して厳しいらしいからな。戦争も否定しているとかで、軍隊も最低限防衛するぐらいしか置いてないようだ。おかげで紛争とかももないらしい。」

「・・・やけに詳しいですね。」

「これでも元神だったからな。世界を把握しておきたいというのも一種の職業病みたいなものでな。旅先の国の情報は割と集めているほうだ。」

「そうやで~。なんてったって父ちゃんは日本生まれの俺より日本に詳しいからな~。」

「そこあんたが自慢できるところじゃないでしょ・・・」


小太郎の呑気な発言に突っ込みを入れるアーニャ。・・・は、さておき、


「経済大国と言うだけあって物資も比較的豊かだし、国民の生活水準も高い。それに独特の文化もある。非常に興味深い国だとは思った。まあ、生活する上で困るのは言語だろうが・・・それは物覚えの良いネギのことだ。足枷にはならんだろう。」


淡々と述べていくピッコロであったが、ネカネは肩を震わせて、再び机を叩く。


「そんなことを訊いてるんじゃありません!!どうして同伴してくれないのかと訊いてるんです。」


かつてないほどに怒りに満ちた目でピッコロを睨むネカネ。

だが、ピッコロがそれに動じる様子はない。


「言わなきゃわからんか?
要するに、ネギ一人でやらなければならない修行に俺が同伴する必要がない、ということだ。大体キサマも過保護すぎるんじゃないのか?一人でクリアしなければならない課題に俺たちが勝手に手を貸してしまったら、課題そのものの意味がなくなってしまうだろう?第一それではネギの為にもならん。こいつはいつまでも俺たちに頼り切っているようではダメだ。いずれ自立しなければならん時が来るしな。」

「で、でもそれではあまりにもネギが・・・」

「だから、その甘さがいけないと言ってるんだ。
なあに、ネギだって俺がジャングルに一人で放り出してさんざん鍛えたんだ。精神的にも十分強い。一人でもやっていけるだろうよ。武術だって魔法と同じく・・・まあ仮免くらいには達しているはずだ。この地球でならどんな相手であってもほとんど負けはしない。」

「で、ですが・・・」

「お前もいい加減弟離れしたらどうだ?いつまでもそんなんではみっともないぞ?」

「むむっ!?それはどういうことですか!聞き捨てなりません!!私は純粋にネギのためを思って・・・「お姉ちゃん・・・もういいよ。」ネギ・・・」


ピッコロの発言に腹を立てたネカネが反論しようとすると、ネギがそれを制した。


「ピッコロさんの言うとおりだよ。これは僕が一人でやらなきゃならない課題。だから、誰かの助けを借りようとしてはいけないんだ。」

「だ、だけど・・・」

「確かに一人でできることには限界がある。それに、一人でいるのが寂しいときもある。だけど、前にピッコロさんが言っていたことがあるんだ。『大事なものっていうのは常に傍にあるとは限らない』って」

「『常に傍にあるとは限らない』?」

「うん。人間って周りに大事な人がいても結局突詰めれば最後は一人なんだって・・・
特に戦いに身を置いてると余計その思いが強くなるんだって。戦いの中で大事な人を亡くしたりとかね・・・
でもね、そんなときでも心が強い人間って寂しくないんだってさ。そう言う人間には心に大事な人がいる。きっとどこかで見ていてくれる。そう思えるから頑張れるんだって。
僕にはお姉ちゃんや、ピッコロさん、小太郎君、アーニャ・・・みんな大事な人だよ。でも、いつかはみんなと別れなくちゃいけない時が来る。だけど、みんなが大切だって思いはこの胸の中で生きている。お父さんだって、きっとどこかで生きているって思えるから僕はこうして頑張れるんだ。
いつまでもみんなに頼ってたら僕はいつまでたっても成長できない・・・
そんなんじゃ、お父さんにも笑われちゃう・・・」

「ネギ・・・あなた・・・」

「ピッコロさんのことだって、親離れが早めに来たって思えばそんなに辛くないし・・・
・・・大丈夫だよ。お姉ちゃん、僕を、あなたの弟を信じてください。」


ネギの真摯な眼差しにネカネは言い返す言葉が見つからず、とうとう彼女は悟ってしまう。

弟が・・・自分の手から離れてしまったことを・・・

それは、ピッコロに修行を付けてもらい始めた時点ですでに感じてはいたのだが、ネカネ自身がその事実を認めたくなかったのだ。

・・・一番子供だったのは、もしかしたら自分なのかもしれない。

弟の決意に水を差すようなことはそれこそ自分の本意ではない。

だから、ここは潔く退こう。愛する弟を信じて・・・


「わかりました。そこまで言うなら止めません。でも、一人でもしっかりやるんですよ。傍に居なくとも、私たちはあなたのことを想っています。」

「・・・はいっ!!」


姉の言葉に元気よく答える弟。

その姿を見て周りは・・・


「うう・・・ぐすっ・・・」

「なんや?泣いとるのか?まあ、分からなくもないんやけどな。女ってああいう男の言葉に弱そうやし・・・」

「な、なんですって~!!あたしはそんなに惚れっぽくなんてないわよ!!」

「ああん?やる気か?ええで?一度お前とは白黒はっきりさせたかったしな!!」

「上等よ!!表に出なさい!!」


喧嘩を始めた2人は放っておいて、ピッコロは席を立ち部屋を出ていく。


「フン。ガキのくせに1人前のセリフ吐きやがって・・・まあ、少しはマシな男になったようだな。なあ、ナギよ・・・」


ふと空を見上げ呟くピッコロであった。







~空港にて~

ついに、ネギの出発の日がやってきた。

飛行機で行く?なんで?舞空術使えばいいじゃん。と思った読者も多いかもしれない。

しかし、ネギはまだ一度も日本の地を踏んだことがない。

だから、麻帆良というのがどこにあるのかも知らないのだ。

そんな状態で道に迷うというのも格好がつかないので、こうして地道に飛行機・電車を乗り継いで行くことにしたのだ。

これなら、人に道も聞けるし、確実に目的地に着けるだろう。


「それじゃあ、お姉ちゃん、アーニャ、小太郎君。行ってきます。」

「気をつけて行くのよ。あなたならできるわ。」

「はい! 頑張ってきます。お姉ちゃん。」

「ふ、ふんだ!バカなんだから偶にはこっちに帰ってきなさいよね!!」

「う、うん。わかったよアーニャ。」

「なんか悪いなあネギ。俺も付いていきたいところやけど、父ちゃんが許してくれないやろうし・・・」

「気にしなくていいよ。僕が決めたことだし・・・
あの・・・ところで、ピッコロさんは?」

「ああ・・・それがな・・・俺は別ルートで行くとかで先に出たっきりなんや・・・」

「ああ・・・そうなんだ。どおりで・・・」


ピッコロの姿が見えないことに、やはりどこか寂しさを感じてしまうネギ。

そこへ、


「お~い。はあ・・・はあ・・・はあ、なんとか間に合ったぞい。」

「す、スタンさん!!」


意外な人物の登場にネギたちは驚きを見せる。


「ま、まったく。今日出立というから急いで駆け付けたんじゃが・・・
はあ・・・はあ・・・はあ・・・一言くらい声かけてもよかろうに・・・」

「ご、ごめんなさい・・・忘れてました。」

「・・・ワシ泣いていい?・・・というのは冗談じゃが、ネギ・・・お主に渡したいものがある。」

「渡したいもの?」


すると、スタンは大きな杖を一本ネギに渡し、


「こ、これは・・・!?」

「うむ。ナギのやつの杖じゃ。やつが使ってただけあってなかなかの一品じゃぞ?6年前お主と会ったあの日に去り際にお主に渡してくれと頼まれてな。それと、渡すとき言伝もあってな。」

「言伝?」

「うむ。『これはお前に預けておく。お前が立派な男になったならそれをお前の自身の手から俺に返しに来てくれ』・・・だそうじゃ。」


言伝を聞き、ギュッとネギの手に力が籠もる。


「・・・わかりました。お父さんの形見・・・必ず返しに行きます。」

「うむ・・・期待しとるぞ。頑張ってな。」

「はいっ!!あっ!?もう搭乗しなくちゃ。それじゃ、みんな行ってきます!!」

「「「「いってらっしゃ~い!!」」」」


こうして家族に別れを告げ、飛行機へと乗り込んで行った。






【本便は~まもなく離陸いたします~シートベルトをお締めになって~・・・】


「はあ・・・ピッコロさん。ついに来なかったな・・・」


窓際の席で残念そうな表情のネギを余所に、飛行機は離陸のために、助走の速度を上げて行く。

フッと体が浮いた感触がし、もう地面から離れたのかと思い、窓の外を覗いた。

そして、目を丸くした。



宙に浮いた状態でマントを翻す見知った顔・・・



今日恐らく最も会いたかったであろう人物が・・・2本の指を顔の横でピッと敬礼するように突き出した。



彼なりの挨拶なのだろう。


「ピッコロさん・・・・・・!!」


つかさず、ネギも同じポーズで返す。

この間わずか数秒・・・

刹那の一時であったが、この師弟にはそれだけあれば十分であった。

飛行機が飛び立ち、見送りの影も小さくなり、やがて見えなくなってしまう。

しかし、ネギの心にはこれからの試練に対する闘志が燃えたぎっていた。



「ピッコロさん・・・お父さん・・・僕、やります!!」



今一人の魔法先生が次の舞台である日本に向けて飛び出して行った。








「・・・行ったか。」


去っていく飛行機を見上げながら、ピッコロは一人呟いた。


「俺は付いていってやれんが・・・お前ならできる。しっかりやれ、ネギよ!!」


どこか顔に誇らしさを滲ませながら、ピッコロはいつまでも弟子の飛んで行った方角を見つめていた。

しかし、まさかこの先ピッコロがネギの向かった先である麻帆良に出向き、そこで大暴れをすることになろうとは・・・

このときのピッコロは知る由もなかった。

かくして、この物語の役者は揃った。

今日本のとある地麻帆良にて、少年と超戦士による伝説が幕を開けようとしていた・・・








<次回嘘(?)予告>  * 必ずしもこの通りになるとは限りませんのでご注意を!!

???「オッス!!オラ悟空!!ついに次回から新番組『ドラゴンボールMAGI』が本格始動すっぞ!!いや~オラわくわくしてきたぞ!!」

ネギ「あの~、どうしてここに本編出てない方がいらっしゃるんでしょうか?」

悟空「ん?おお!?おめえがネギか?よろしくな!!」

ネギ「あ、ああ・・・これはどうも・・・って、そんなことはいいんですよ!!なんでここにあなたが・・・」

ピコ「そうだぞ、孫。ここの主役は俺とネギだ。本編出てないやつはすっこんでいろ!!」

悟空「そう固いこと言うなよ~ピッコロ~  だって、次回予告って言ったらオラの決めゼリフがなきゃ始まんねえだろ?」

ネギ「いやそういう問題では・・・あっ、いや・・・そうなのかな?」

悟空「おっと!次回ドラゴンボールMAGI 『ついに始動!!子供先生はスゲーやつ!?』」

ネギ「ちょ、ちょっと!?まったく予告になってないし!?だ、誰か~この人を止めて~!!」






あとがき

次回から赤松板に移動しようかと考えているブロ・・・もとい、仕事人・・・です・・・はい・・・

あっ、でも皆様ご意見をお聞きしてからのほうがいいかな~と思ったのでちょいと簡単なアンケートを・・・

移ってもOKな方 → 「フン。化け物め・・・好きにしろ。」

まだ早いんじゃ・・・の方 → 「その程度のパワーでこの俺を倒せると思っていたのか?」

と感想の最後に入れてください。

なんでこんなメンドイことするの?って方もいると思います。まあこれはひとえに作者の小心さが原因でして・・・すんません・・・

皆様の感想で作者のモチベーションもかなり変わってきます。今回このようなことを考えたのもより多くの方に目に通していただけると思ったからです。感想は作者の力の源です。お手数だとは思いますが、何とぞご協力くださいませ。


まあ、難しい話はここまでで、次回からやっと原作突入です。

今回ちょっと会話がおかしいかな?とも思いましたが・・・全力でスルーですw

ネギ君の強さですが・・・ちょっとぼかしてます。あまり設定とかを固定しちゃうと戦闘描写がのびのび書けない気がしたので・・・(でも、できる限り矛盾がないように配慮はしています。)

最後の次回予告はテンションが上がってつい書いてしまいましたw

今後毎回入れていこうかと思うのですがいかかでしょう?・・・っていっても、作者が勝手にやっちゃいますが(笑)

あっ、ちなみに予告BGMはZ時代が好きですねw

特に前期の『CHALA-HEAD-CHALA』は最高でした。影山~帰ってこ~い!!







[10364] 其ノ拾五   ついに始動!!  子供先生はスゲーやつ!? 【Aパート】
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/09/02 15:41




今日の物語はここ麻帆良学園女子中等部前駅から始まる。

あと少しで生徒たちの登校時間。

そうなれば、今は人っ子一人見当たらないこの場所も学生で溢れかえることになる。

ほら、ちょうど今通学ラッシュ中の電車が止まった。

電車のドアが開くと・・・・・・


「「「「「わあああああああっ!!!」」」」」


・・・・・・お分かりだろうか?この人だかり―――

さすがに県下一のマンモス校と言うだけあって半端ない数の学生である。

それが、今一斉に校舎目指して駆け出しているのである。

その景観はさながらどこぞに侵攻する軍隊のようである。

この人の波の中で突っ立っていようものなら、忽ち飲み込まれて大怪我ないし、ヘタをすれば死んでしまうのではないだろうか?

・・・よくこんな中を登校できるものである。思わず感心してしまう。

おっと、そんなことはどうでもいいのだ。

問題は生徒が粗方出て行った後の駅の改札口。

今そこから、小さな影がポツリと現れた。

齢10歳の赤髪の少年である。顔には可愛らしいメガネをかけ、ローブのようなものを纏っている。そして、自分の背丈ほどもある長い杖を背負っていた。

そう、この物語の主人公ネギ・スプリングフィールドである。

彼は先ほどまで女子学生でギュウギュウ満杯の車両の中にいたためか、少々お疲れ気味の様子である。


「わあ~日本の女性はすごいな~。みんなあんなにパワフルなのかな?ちょっと話に聞いてたのと大分イメージが違うんだけど・・・」


恐らく彼が言っていたのは大和撫子のことだろうが、はたしてあの中にそれが当てはまるのが一体何人いることか・・・っと、これ以上言うといろいろとまずいので先に話を進めよう。


「わっ、もうこんな時間!? 勤務初日で遅刻じゃ洒落にならないや!ここは舞空術で・・・」


と思った矢先にハタと留まった。


「そういえば、お姉ちゃんに人前で舞空術は使うなって散々言われたんだった。こんな時間に空を飛んでたら誰が見てるか分からないし・・・はあ~魔法の秘匿ってメンドくさいな~」


しかたない、とネギは方針を変え走っていくことにした。まあ、これも修行と思えば我慢できる。


「よ~し、いっちょ行きますか!!よ~い・・・」


そう言うと、上体を前に倒し、手を地面に着け、クラーチングスタートの体勢をとるネギ。

そして・・・


「ドンッ!!」


駆けだしたっ!!



ビシュゥゥゥゥン



そんな擬音が似合いそうな猛スピードでネギは駆けだした。

そのあまりの速さに彼が駆け抜けた跡には風が巻き起こり、学生たちも「キャッ!?」と思わずスカートを押えてしまう。

今の彼は魔法を使っていない。確かに魔法で肉体を強化し脚力を上げることは可能だ。しかし、ネギはしていない。する必要がないのだ。ピッコロのもとで凄まじい修業をした彼にしてみれば、むしろ普通に走った方が速いし、魔力を消費する分無駄になるためあまり魔法は使いたくないのだ。

まあ、そんなわけなので別段彼は魔法自体の秘匿に関してさほど心配はしていない。『使わないんだからばれる訳がない』のだ。ただし、彼が不満なのはピッコロに教わった技の数々も使用を制限されているからであろうか。
まあ、それも今の彼の技の威力を考えればある意味妥当といえるかもしれない。あまり一般人の前で連発しないでほしいものだ。

と、またまた脱線してしまったので話を戻そう。

そんなわけであっと言う間に前の群衆に追いついてしまったネギ。

先程よりも明らかに群衆の密度が濃くなっているにも関わらず、彼のスピードは衰えることはない。

中にはバイクやバスなどに乗っている者もいるというのに、彼は学生たちの合間を縫って駆け抜けていく。

そう彼には見えているのだ。走るべきルートが・・・

某高校アメフト選手のように・・・

傍から見たら生徒たちを通り抜けているとしか思えないほどスムーズに進んでいく。

そんな彼であったが、前の方にふと妙な気配を感じた。

少し自分に似た気をもつ・・・そんな感じであろうか。

気になったので気配のする方を見ると、髪をツインテールし、鈴の髪飾りをつけた少女が走っていた。

隣には長い黒髪の少女・・・ローラースケートを履いているようだ。


(あのおさげの人、足に何もつけてないのにすごい速さだ。僕と同じペースで走れるなんて・・・只者じゃないな。
それに黒髪の人も見た目からは考えられないほど強い魔力を感じる・・・魔法使いか?)


何にせよ興味が湧いたので近づいてみることにする。

ツインテールの少女の隣に並んだ。

彼女もネギに気づいたようなので、軽くにこりと笑いかける。

そこでネギは彼女の顔を見て何かに気がついた。

そして、思ったままを口にしてしまう彼の悪い癖が出てしまった。


「あの~、あなた・・・失恋の相が出てますよ?」














その日も神楽坂明日菜は親友の近衛木乃香とともに登校していた。


「アスナは足速いな~ウチはこれ履いてるゆうに~」


そうおっとり言いながら自分の靴・・・ローラースケートを指さす木乃香。


「体力バカで悪かったわね!!・・・それにしても、なんであんたが新任の教師の迎えなんてやるのよ?ジジイの頼みなんか無視すればいいのに。」

「もう、アスナったら!!あれでもウチのお祖父ちゃんなんえ?悪く言わんといてえな~」

「フン。これ以上教師なんていらないわよ。私は高畑先生がいればそれでいいんだから!!」

「まったく、アスナの高畑先生好きは相変わらずやな~。始めは単なる年上のおじ様趣味かと思うとったらなんか違うみたいやし。だって、今の高畑先生って中年臭さがこれっぽっちもないやんか。それになんか格闘家って感じでやけに爽やかやし・・・」

「それがいいんじゃないの!!昔のダンディな高畑先生も素敵だけど、今の若々しさに溢れた高畑先生も捨てがたいわ!!」

「・・・そうみたいやね。そういえば、高畑先生が『武術命!!』って知った途端にアスナも格闘技始めたんよね?」

「うん。でも、どうせやるなら最強の人に習うのがいいって古ちゃんに頼んで弟子入りしたのは我ながら浅はかだったわ~。中国拳法があんなに大変だったとは・・・あっ、でもこれでもスジがいいって言われてるのよ。喧嘩になってもそん所そこらのやつには負ける気はしないわ!!」


腕をまくって力こぶを作ってみせる明日菜。

それを見てあははは~と顔に汗を垂らしながら笑う木乃香。

いや、まあ・・・彼女らしいと言えばらしいのだが・・・


「でも、いくら好きだからってそこまでする?そんなんやったら告白すればええんやない?」

「こ、告白って・・・そ、そんなのできないわよ・・・こ、心のの準備とか・・・」


途端に顔を赤らめ、モジモジしだす明日菜。


「あははは~やっぱりアスナはカワええな~からかい甲斐があってええわ~」

「あっ、ちょ、木乃香、待ちなさいっ!!」


逃げるように先に行く木乃香を追いかける明日菜。

まあ、ここまでなら彼女たちにはいつもの光景なのだが、

今日はいささか違っていた。

あと少しで校舎・・・といったところで明日菜はふと隣に誰かが並んでいることに気づいた。

隣を見ると、どうしたわけか小学生くらいの男の子が隣を併走しているではないか。

なんでここに小学生のガキが?・・・と思った明日菜だが男の子がニコッと笑いかけたときにその可愛らしさに思わずドキッとしてしまった。


(そ、そんな・・・そんなはずはないわ。私は高畑先生スキーなの! いいんちょとは違うんだから!!)


必死に自分に言い聞かせる明日菜だったが、少々頭がオーバーヒートしているご様子。

しかし、そんな明日菜も少年の次の一言ではっきりと目が覚めた。


「あの~、あなた・・・失恋の相が出てますよ?」


急速に冷やされる頭・・・

そして、込み上げてくる激しい怒り・・・


「ぬあんですって~!?このガキいやあああっ!!」


そこには般若の面を被ったかのような明日菜の顔が。


「えっ!?・・・あっ、ご、ごめんなさい!!悪気はないんです。ついうっかり言ってしまっただけで!!僕ったら初対面の人になんて失礼なことを・・・」


その場で必死に謝り出す少年。本人はこれでも真剣である。

しかし、それが余計にわざとらしく見えたのか結果として彼女の怒りをただ煽らせるだけとなった。


「ガキのくせに人様になんてこと言ってくれるんじゃあ、ボケッ!!覚悟はできとるんだろうなあ、あ?」

「あ、アスナ・・・やめえなあ。相手は子供やえ?」

「うっさいわね!!木乃香は黙っててちょうだい!!」


親友を宥めようとする木乃香だが、明日菜は聞く耳持たない。

そのまま、少年の頭をガシッと掴む。


(あっ!?あれはアスナ得意のアイアンクロー!!あれを喰らって無事にすんだ者はおらんえ・・・あ、あかん・・・アスナ本気やえ~)


木乃香は親友がこれからすることを予測し、なんとか止めようと思うも、彼女の覇気に当てられて体が動かない。

恐怖で委縮してしまった木乃香を余所にいよいよ処刑が執行される。

少年を持ち上げようとする明日菜。

しかし・・・そこで明日菜は違和感に気づいた。


(な、なんなのよ、こいつ・・・メチャクチャ重いじゃない!?まるで大きな岩を掴んでいるみたいだわ。う、腕が上がらない・・・)


持ち上げようとした瞬間に少年の見た目からは考えられないほどのとてつもない重さを手に感じ、顔を歪める明日菜。


「こ、この~!!フンッ!フ、フンッ!!く~っ!!」


いくら、力を込めようとも一ミリも持ち上がらない少年の体。

少年の頭を掴みながら、顔を赤くし唸り声を上げる明日菜の姿は他人からすれば滑稽以外の何物でもなかった。


(ん?この人さっきから何をやってるんだろう?何かのおまじないかな?)


明日菜の行動がいまいち理解できていない少年。

しかし、しばらくしてようやく彼女が頭を掴んで持ち上げようとしていることに気づいた。


(あっ!!そういえば、僕ピッコロさんからもらった『重りの服』を着たまんまだった!!修行だと思って着てたんだけど、ヘタにばれるとメンドーなことになるかもしれない・・・ここは彼女の技にかかったフリをしよう。)


すると、少年は気を集中し、体を浮かせ始めた。

いきなり勢いよく浮かぶと不審に思われるので微調整をしながらの浮遊であったが。


(えっ!?今度は何?急にこいつの体が軽くなった気がするんだけど!?)


あんなに重かった少年の体が羽のように軽くなったことに驚きを隠せない。

いや、軽いというよりむしろ下から何らかの力が少年にかかっているような、そんな感覚・・・

いつの間にか、少年と視線の高さが合うくらいまで持ち上がっていた。


「な、なんなのよ!?」


腕に感じた不気味な感触に思わず手を離してしまう明日菜。

手を離した途端、少年はストンと尻もちをつく。無論気で体を浮かせながらである。

明日菜は自分の手を見た後、少年に指をつきつけながら震える声で叫ぶ。


「あ、あんた、今何をしたのよ!?あ、あんなに重かった体が急に軽くなるなんておかしいじゃない!!」

「へ?あ、あの・・・な、なんのことだかさっぱり・・・」

「とぼけんじゃないわよ!!今の、まさかトリックを使ったんじゃないでしょうね?あんた手品師かなんかでしょ!?」

「あ、アスナ~いきなり何言うてんの?あの子にアイアンクローかけようとして腕が吊っちゃったのをあの子の所為にしたいんやろうけど、大人げないで。今のは明らかにアスナが悪いやんか~」

「だ、だけど木乃香・・・私は確かに・・・」

「お~い!!そこで何をしているんだね、君たち?」


上からの声にビクッと反応する3人。

見ると、彼女たちの近くの建物の2階の窓から白髪の男が微笑みかけていた。


「た、高畑せんせー・・・」


明日菜が呆然と呟く。

すると男・・・高畑・T・タカミチは2階の窓から颯爽と明日菜たちの元へ降り立った。

今は一応学校なので白のスーツを着ているが、髭を剃り、髪をオールバックにしたその姿は穏やかな目つきと相まって『爽やかだがキレる男』といった雰囲気を持たせる。

昔の髭を生やしていた頃の面影などほとんど残っていない。おかげで学園での女性陣の人気が急上昇したのは言うまでもない。


「高畑先生、なんでここに・・・」

「ああ、もうすぐ新任の先生が来るから挨拶にと思ってね・・・」


すると、ネギに向き直り、


「久しぶりだね、“ネギ先生”?」

「うん、そうだね。タカミチ・・・あっ、“高畑先生”。」

「ハハハ・・・無理に直さなくていいよ。僕には今まで通りタカミチでいいからさ。」

まるで旧友に会ったかのように話しだす2人に驚く明日菜たち。

「へ?あ、あの高畑先生・・・そのガキ・・・じゃなかった、その子と知り合いなんですか?」

「ん?ああそうだよ。この子とは5年前からの知り合いでね。この学校に今日から赴任することになったのさ。もしかしたら、君たちもお世話になるかもね。」

「ま、まさか・・・新任の教師って・・・」


すると、少年が明日菜たちに向き直り挨拶する。


「申し遅れました。え~と・・・私、今日からここに教師として着任することになりました、ネギ・スプリングフィールドと申します。・・・で、いいんだよね、確か?」


しばらくの沈黙の後、


「「えええええっ!?」」

少女たちの絶叫が木霊する。

「ハハハ・・・無理もないね。まさかこんな小さい子が先生だもんなあ。」

「ど、どうしてなんですか!?こ、こんなガキんちょが先生なんて・・・」

「ちょ、アスナ・・・口調戻っとるえ。」

「う~ん、それは僕の口からは何とも・・・
ああ、それにしてもネギ先生は5年前に比べて随分大きくなったね。それに・・・強くなった・・・」

「まあね・・・でも、そういうタカミチこそ・・・」


突然2人の間の空気が変わった。

傍目には見つめあっている2人という風にしか見えない・・・はずなのだが、お互いが浮かべている不敵な笑みが何とも言えない独特の雰囲気を醸し出している。

まるで、積年の好敵手に出会った武道家たちのような・・・相手に会えたことと、相手が強くなっていることに歓喜している笑み・・・そんな風に見えるのだ。


「“先生”は元気かい?“ネギ君”」

「うん。すっごく元気。今も小太郎君と二人掛りでも全然歯が立たないんだ。」

「ハハハ・・・相変わらずのようだね。それを聞いて安心したよ。でも、“先生”はこっちに来ないのかい?てっきり付いてくるものとばかり・・・」

「ううん。これは僕の試練だから、僕一人でやらないといけないから、って僕から頼んだんだ。」

「・・・そうかい。まあ、ここには僕もいるし、学園長も善い方だ。できる限り力になるよ。」

「うん。ありがとう。」


その後、言葉を切り、再び見つめあう2人。

今2人は相手から感じられる強さに体中から震えていた。


(ネギ君・・・伊達に“先生”に5年間鍛えられていないね。溢れている気が昔とは桁違いだ・・・これは相当に腕をあげたようだね・・・)

(タカミチ・・・どういうわけか、あの時より信じられないほど力をつけている。もしかしたら、全力を出したら今の僕より上かもしれない。一体どんな修行をしたんだ?)


張り詰めて行く空気。まるで2人間に電流が流れていると錯覚してしまいそうな睨み合い。

しかし、2人は相変わらず不敵な笑みをしたまま。

2人が内心何を考えているのかは完全にうかがい知ることはできない。

ただ一つ言えるのは、この二人が今同じ気持ちになっていること。


((いつか、こいつと戦いたい!!!))


ただそれだけである。

しかし、そんな男たちの心境をこのバカレッドの二つ名をもつ彼女が理解できるはずもない。


「な、なによ・・・2人して見つめ合っちゃって・・・はっ!?まさか、高畑先生ってあち系なんじゃ・・・そ、そんな・・・み、認めない・・・私は認めないわよ・・・」

「ちょ、明日菜!?どないしたの?」


今明日菜の頭の中ではパンツを履いたタカミチがガチムキなお兄さんたちとレスリングをしている姿が浮かんでいた。しかも、そのメンバーの中にはやたら筋肉質のネギもいる。

・・・誰かこの少女の妄想を止めてくれ。


「わかったえ~」「(ドカッ!!)痛っ!? つう・・・何すんのよ木乃香!!」


金槌で自分をどついた木乃香に涙目で抗議する明日菜。


「え~~今天からアスナを止めてってお告げが・・・」

「あ、あんたね・・・まあいいわ・・・それより・・・」


明日菜はネギをビシッと指さし、


「私はこの件に関して学園長に物申すわ!!」


はっきりと言い放った。









~学園長室にて~


麻帆良学園学園長近衛近衛門はネギの卒業証書に目を通していた。


「ふ~む、こっちで修行とは大変じゃの~ネギ君。まあ、向こうの校長とは長い付き合いじゃから君のこともよく聞いておるよ。悪いようにはせん。慣れないこともあるだろうが頑張りたまえ。」

「は、はい。よろしくお願いします。学園長先生。」


思ったよりいい人そうだと一先ず安心したネギであった。


「うむ。その年にしてはなかなかしっかりしとるの。将来はかなり有望そうじゃ。気に入ったぞい。どうじゃな、ひとつうちの木乃香の婿になっては・・・(ドゴッ!!)」

「いややわ~おじいちゃん。まだそんなの早い言うてるやない~」


金槌をもった笑顔の木乃香・・・激しく怖い。しかし、誰もそのことには触れない。触れてはならない。


「そ、そうじゃな・・・ま、まあそんなわけで君はしばらく実習生という形で勤めてもらうわけじゃが・・・ほい、君の指導を担当するしずな君じゃ。わからないことは彼女に聞くように。よろしくの、しずな君。」

「はい。おまかせください学園長。」


返事をしたのはメガネをかけた美人教員。ネギも思わず見とれてしまう。


「あなたの指導をすることになった源しずなです。よろしくね、ネギ先生?」

「は、はい!!こちらこそ。」

「フォッフォッフォッフォ。そんなに緊張することはないぞネギ君よ。まあ、こんな美人に挨拶されたら無理もないかもしれんがの。」

「フフフ・・・もう学園長ったら。お世辞を言っても何も出ませんよ。」

「お、お世辞じゃないと思います。そ、その僕から見ても綺麗な方だと思いますし・・・」

「まあ、お上手ね。やっぱり小さくてもイギリス紳士なのかしら」


褒められて、年相応に照れてしまうネギ。

部屋が和やかな雰囲気になる中、それに我慢できない者がいた。


「ちょっと待ってください。こいつが先生ってどういうことなんですか!?納得できません。」


机をバンっと叩いて抗議する明日菜。

しかし、学園長には暖簾に腕押しである。


「フォッフォッフォッフォ。そうカリカリするでないぞ、アスナちゃんや。これは向こうとの契約で決められたことなのじゃ。変更は認められん。」

「で、でも・・・こんな子供が先生をやるなんて・・・労働基準法はどうするんですか?」

「ほう?アスナちゃんでも労働基準法は知っておるのか・・・これは驚いた。」

「バカにしてません?」

「いやいや、そんなことはないぞよ。ふむ。まあ確かに法の壁はあると言えばあるが・・・そこはこの学園じゃからな・・・どうとでもなるわい・・・」

「どうとでもなるって・・・いいの?そんなんで?」


軽く言い放った学園長の言葉にもはや絶句するしかない明日菜。しかし、この人だったらやると言ったら本当にやってしまうだろう。それくらいこの地域では力のある人物なのだ、この目の前のジジイは。自分の授業料や生活費を工面してもらっていることもあり、あまり強く出られない明日菜。

これはあきらめるしかなさそうだ。


「ああそうそう。ネギ君のクラスは2年A組を担当してもらうことにしたから。」

「ええっ!?そ、それホントなんですか!?じょ、冗談じゃないわ!?どうして高畑先生じゃないのよ~」

「あ、アスナ~落ち着いて~な!!」


ますます荒れ狂う明日菜を木乃香が必死で諌める。


「あ~あと、ネギ君の住まいだがあいにく、男子寮はどこも埋まっておっての~すまないが、木乃香たちのところに住んでもらえんじゃろうか?」

「ええっ!?今度は寮にまで!?ふざけんじゃないわよ!!「うちはかまへんよ~」こ、木乃香?」

「だってかわいそうやないか・・・こんな小さいのにわざわざ遠く日本までやって来て泊まるところもないなんて。そんなひどいことウチにはできんもん。」

「で、でも、うちは女子寮なのよ?それを子供とはいえ男と同居するなんて大問題じゃない!!」

「そうかもしれんけど・・・でも・・・」

「とにかく私は反対だからね!!」


断固として譲らない明日菜にじっと見ていたネギが口を開く。


「あ、あの・・・別に無理に住まいを世話してくださらなくてもいいですよ?野宿でもなんでもしますから。」

「むむ!?そ、それは・・・しかしのう・・・君はそれで構わんのかね?」

「ええ・・・野宿なんて小さい頃から慣れっこですし。ハハっ、こう見えたってジャングルに一人放置されても3ヶ月間生き残ったことだってあるんですから・・・食べものは自給自足すればいいし・・・ああ、あの3ヶ月間が懐かしいな。最初なんてひたすら猛獣から逃げ回っていたもんな・・・ってあれ?おかしいな。目から何かが出てきてる・・・」


昔を思い出して、知らぬ間に涙を流すネギ。これは嬉し涙なのかそれとも辛さによる涙なのか。真実がどちらであったにしろ、この場にいる全員はこの涙を後者にとるであろう。

ネギの涙を見た者たちは全員明日菜にジト~とした冷たい視線を送った。

おい、こんな小さい子があんな辛い目に会ってたんだぞ?それなのに、お前の我儘でまたこの子にそんな思いをさせる気か?それでも人間か?てめえの血は何色だ?

無言の暴力。これほど理不尽なものはない。さしもの明日菜もこの空気が読めないほど子供ではなかった。


「う、ううう・・・わ、わかったわよ!!泊めるでも、住まわせるでも好きにすればいいじゃない!!うわ~ん!!」


ついに耐えかねた明日菜が泣きながら部屋を出て行ってしまった。


「あ、アスナ!!ごめんな~ネギ君。明日菜にはうちからちゃんと言っとくさかい、気ぃ悪くせんといてな?」

「あっ、いえ。こちらこそすみませんでした。明日菜さんには本当に申し訳ないことを・・・僕があんなことをしたから・・・」

「ううん。それは違うえ?ネギ君は何も悪くあらへん。悪いのはうちらや・・・でも、アスナは根は悪い子やない。きっとわかってくれる。」

「木乃香さん・・・」

「じゃあなあ、ネギ君。また教室で会おうなあ~」


にこやかに手を振って退室していく木乃香をネギはただ見送るしかなかった。


(何をやっているんだ、僕は。ピッコロさんたちにあんな大きなことを言っておいて・・・これから生徒になるかもしれない子をさっそく傷つけているんじゃないか・・・
どうしようもないバカだ・・・僕は・・・)


一人自己嫌悪に陥っているネギを見かねたタカミチはそそくさと彼の前に立つ。


「タカミチ・・・」


すると、タカミチは突然ネギを殴り倒した。


「「!?高畑君(先生)!?」」


驚く学園長としずなだったが、タカミチは構わず言葉をつむぐ。


「ネギ君。君はこんなところで何をしてるんだ?」

「タカミチ・・・」


頬を押えてタカミチを見上げるネギ。


「君は今自分が最低だと思ってるんじゃないかい?・・・確かに君にも何か非があったのかもしれない。当然我々にもね。この先君が何かをしてさらにアスナ君を傷つけてしまうことも十分あり得る。だけど、だからといって立ち止まっていいことにはならないはずだ。何かをしなければ何も変われない。今の自分に自信のない君が事態の悪化を恐れてただ黙っていたって決して良くはならない。昔“先生”が僕に言っていた。諦めたら、そこで試合は終了だ。だが、諦めないかぎり試合は続いているんだ。だから最後まで自分の可能性を信じてあがき続けろって・・・」


そこで言葉を切り、ネギの肩を掴んで語りだす。


「君を送り出してくれたのは誰だい?“先生”だろう?“先生”は君ならやれると信じていたからこそ君をここに送り出してくれたんだ。だから、“先生”に期待されている君はここで諦めてはダメだ。自分を信じろとは言わない。でも、君を信じている“先生”を信じろ。」

「僕を信じてくれる・・・ピッコロさんを?」

「そうだ。大丈夫。君ならできる。僕は確信してるよ。」


力強く頷いてみせるタカミチを見てネギにも自信が蘇ってきた。


「うん!!僕もう少し頑張ってみる。開始早々でくじけてたら格好付かないもんね。」


笑顔を取り戻したネギは立ち上がると、しずなの元に向かう。


「それでは、しずな先生教室まで案内お願いします。」

「あ、は、はい。」


呆けていたところをネギに呼びかけられて、しずなが慌てて返事をする。

そのまま2人は部屋を後にした。

残されたのは近衛門とタカミチ。


「・・・君にしては随分と気の利いたことを言っておったな。」

「恐縮です。まあ、格好付けて言ったはいいですが、実はすべて師の受け売りなんですよ。」

「例の“先生”とやらのことかね?フォッフォッフォ、ますます会いたくなったの~。」

「ハハハ…学園長もお会いになったらきっと気に入りますよ。あの人は裏表がありませんからね。ただ純粋に強くなることに貪欲なんです。そのために、自らも厳しく律している。」

「ほほう・・・それはまた、今時珍しい武士道を地で行く人物じゃのう。」

「武士道ですか・・・確かに近いかもしれませんね。ですが、やはりそれともどこか違いますね。彼は格式にこだわらず、現実を見ています。彼なりの理想は持っていますが、現実を無理やり理想に近づけたりはしません。むしろ、理想を現実に近づけているというか・・・」

「ふむふむ。それはまたおもしろい。ホントに会いたくなってしもうたわ。う~む、どうにか会える機会はないものかの~。」

「さあ?あの人は気分屋ですからね。頼めば簡単に来てくれる人ではありませんよ。」

「そうか・・・残念じゃのう・・・」




しかし、彼らは知らない。その日が遠からずやって来ることを。







あとがき

とりあえずAパートです。

すみません。今回は激しくつまらないかも・・・です。

その割に長いのですげ~イライラします。たぶん。これはひとえに作者の力量不足です。申し訳ないですorz

このあとすぐにBパートを投下します。



[10364] 其ノ拾五   ついに始動!!  子供先生はスゲーやつ!? 【Bパート】
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/09/02 19:17



「アスナ~何不貞腐れてんの~?」

「・・・別に~」


クラスメートの椎名桜子に話掛けられても、不機嫌なままの明日菜。


「アスナ・・・まだあのこと怒ってるんえ?」


隣の席で心配そうに訊いてくる木乃香に桜子が反応する。


「えっ、あのことって何々!?ねえねえ教えてよ~」


こういう話題に食いつくところがこのクラスの大きな特徴なのだが・・・


「別に大したことじゃないわよ・・・ほっといて・・・」

「うっ・・・なんかやけに素っ気なくない?アスナ、大丈夫なの?」

「大丈夫って言ってるでしょ!!ほっといてよ!!」


大声で怒鳴った明日菜に周りでくっちゃべっていた連中も何事かと注目する。

周囲の視線を浴び、ようやく自分がやったことに気づいた明日菜。


「ご、ごめん・・・怒鳴っちゃって・・・」

「えっ!?う、ううん。全然いいよ。気にしてないって。」

「・・・ありがとう。」


シュンとなった明日菜に桜子や周りもそそくさと席に戻っていく。


(はあ・・・今日の私どうしちゃったんだろ?なんかすごく厭な女になってる・・・私ってこんなに弱い人間だったっけ?)


そして、思いだすのは今日から自分の担任になるという少年の姿。


(それというのも、すべてあいつが現れたからよ!!ああ、もうイライラする!!こうなったら、あいつが出てきたら徹底的にいじめてやる!!)


変な決意をしている明日菜の耳にクラスメートの会話が入ってくる。


「ねえねえ聞いた?実はさ、うちのクラスの今度の担任、新しい先生が来るんだって!!」

「ああそれ知ってる~!なんでもさ、男の先生らしいよ。イケメンだったらいいな~」

「ねえねえ、朝倉は何か知らない?」


話を振られた麻帆良のパパラッチこと朝倉和美は、首を横に振りながら


「いや~残念ながら私の情報網を駆使してもそれ以上の情報は入ってこなかったよ。」

「えええ~」「ウソ~」「珍しいこともあるもんだね~」

「う~ん、いやいやまったく。よっぽどの秘密事項のようだね。もしかしたらすごいサプライズが待ってるかもよ。」


和美の説にみんな一斉に頷き、「だとしたら知らない方が驚きが大きくて逆にいいかもね~」とポジティブに考え出した。
これも、このクラスの良い所である。

しかし、新担任が来ると知ってトラップに気合いを入れる者が数名いた。

それを眺めながら、一瞬明日菜も私も参加しようかしらと思ったがすぐにバカバカしくなってやめた。どうせ、私がやらなくてもトラップは成功するだろう。初体験の者ならあれをすべて躱わすのは容易ではない。少なくとも、これまであのトラップを初見で躱わし切ったのは、明日菜の知る限り数名だった(その中にタカミチもいる)。まして、相手はあんな子供だ。避けることなんて・・・

そう考えている間に開始ベルが鳴った。

間もなく、新担任のご登場である。

果たしてどんなやつが来るのか?トラップに引っかかるのか?皆前の扉をかたずを飲んで見守った。

やがて、扉の前で人の気配がした。いよいよだ・・・

ゴクリ・・・と誰かが息を飲んだ音が聞こえた・・・それくらいの静寂。



扉が開けられる。そこに現れたのは・・・予想に反して小さな背丈。

開けられた瞬間に第一のトラップ、黒板消しが落下してくる。

このタイミングで無様にも前に乗り出した。確実に当たる。

誰もがそう確信したそのとき、





黒板消しがターゲットの頭上で消えた。

止まったのでも、軌道がずれたわけでもない。消えたのだ。

すると、気がつけば・・・なんとその黒板消しがターゲットの手に握られてるではないか。

まさか、あれを直接掴みとったというのか?だが、それにしては黒板消し特有のチョークの粉がどこにも付着していない・・・

まさか、チョークの粉をつけずに掴みとったとでも言うのか!?そんなことが可能なのか?

・・・いや、まあそれは後にしておこう。まだ、トラップの一個を突破されただけに過ぎない。次からはさすがに・・・

そう思った矢先に彼らは信じられないものを目撃することになる。

それは蝶が舞っているようであった。

上から降ってくるバケツを避け後ろからの吸盤付きの矢をすべてかわしていく。

まさに神業・・・そう言わざるをえないほどの手練。

ターゲットはとうとう教壇の前まで到達した・・・が、ここで最後のトラップが発動した。

なんと、下に引いてあったピアノ線に足を引っかけてしまったのだ。

ターゲットも予想外だったのか、「あっ」と間の抜けた声をあげてしまう。

そして、無数のタライがターゲットを襲う、はずだった。

しかし、ターゲットは前屈みの姿勢から驚くべき動きを見せる。

体を横に回転させて急上昇しだしたのだ。

生徒たちは目を丸くする。なんなんだ・・・今の、という感じだ。

急上昇した体でターゲットはそのままの勢いを利用して落ちてきたタライを次々に廊下に蹴り出して行く。

廊下にいたしずなはこれが予想できていたのか、扉の横に移動して避難していた。

すべてのタライ蹴り出したターゲットは最後に華麗な着地を見せ、フィニッシュを迎えた。

さながら体操選手のような両腕を上に伸ばした姿勢での着地。



文句のつけようがなかった。

そして彼らは目の前のターゲットの姿に言葉が出なかった。

トラップをすべて防がれたことも驚いたが、それをなしたのがこんな小さな“子供”だったとは・・・

扉を開けた瞬間はやけに背が低い人だな~としか思ってなかった彼らだが、その正体が子供と知って唖然とする。

しばし教室を沈黙が支配する。

少年は着地のポーズからようやく自分が周囲の注目を集めていることに気づいたようで、やっちまった~といった顔をしていた。


(わわわっ、どうしよう・・・思わず条件反射で死角からのトラップをすべて躱わしちゃった・・・うへ~、あの目、絶対におかしいと思われてるよ~ま、まさか着任早々でオコジョ決定!?うわ~ん!!!まだ魔法なんて使ってないのに~!!)


と心の中で涙目になっている少年ネギであった。

しかし、周囲の反応はネギの予想を大きく覆していた。


「「「「「「「きゃあああああ!!かわいいいいい!!」」」」」」」


「へ?」


だだあああと雪崩れ込む生徒たち。彼女たちにもみくちゃにされ、大慌てのネギ。


「ねえねえ、僕どうしてここに来たの?誰かの連れ?」

「初等部と間違えちゃったとか!?」

「いや~誰かの先生のお子さんじゃない?」


好き勝手な憶測を述べる彼女たちを断ち切ったのはしずなの一言だった。


「あなたたち、いい加減にしなさい。その子はこれからあなたたちの担任になるんですからね。」

「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」

「「「「「「「えええ――っ!?」」」」」」」


今までで一番のサプライズに生徒たちの絶叫が教室中に響きわたる。


「こ、この子が私たちの担任ってホントですか?」

「こんなかわいい子私たちがもらっちゃってもいいんですか?」

「きゃ~ラッキ~!!」


さらに騒がしくなったクラスの連中に、しずなは収拾をつけなければと、手をパンパンと叩いた。


「はいはい、そこまでよ。あなたたちが抱きついてるから先生が困ってるじゃない。今はホームルームよ。全員席に着きなさい。」


しずなの号令に生徒たちは素直に従った。

やがて、一応の静まりを迎えると、ネギがコホンと咳をして、自己紹介を始める。


「ええ~僕がこのクラスの担任になることになりました、ネギ・スプリングフィールドです。皆さん、しばらくの間よろしくお願いします。」


自己紹介のあと「わああああ」と生徒たちから拍手が送られる。


「ええと・・・では何か質問がある方は手を挙げてくださいね。一遍に訊かれても答えられないんで・・・」


先程の歓迎で懲りたのか、始めに釘を刺しておくネギ。


「「「「「「「ハイ、ハイ、ハイ、ハーイ!!」」」」」」」


が、あまり意味がなかったようだ。一斉に手を挙げだした生徒たちはやかましいことこの上ない。


「う~ん・・・誰から指せばいいのか・・・」

「あっ、先生ちょっといいかな?」

「えっと・・・朝倉さん、でいいんですよね?何でしょう?」


咄嗟に名簿で和美の名前を確認する。


「みんなにいろいろ質問されても先生も困るでしょ。ここは報道部の私がまとめて訊くって事でどうかな?みんなもそれでいい?」


和美の呼びかけにクラスメートたちもいいよ~という感じで賛成したようだ。


「フフフ・・・それじゃあ、いろいろ訊かせてもらいましょうかね~」


彼女の記者魂に火がついたのかご丁寧にメモとマイクまで用意している。

ネギは彼女の勢いに若干気押されながらも、「ええ、どうぞ。」と落ち着いて対応する。

それからというもの、「それじゃあまず、先生は何歳?」「10歳です。」
から始まり、怒涛の勢いで質問攻めが繰り出される。
『出身は?』『日本語が上手いね。どうして?』『趣味は?』『このクラスに好きなタイプの娘とかいる~?』などなど、簡単な質問からプライベートまで及んだ。

それらの質問にネギは無難な答えで返していく。途中、『さっきの動きすごかったね~何かやってたの?』という質問に、「あっ、いえ・・・武術を少々習ってまして・・・」と正直に答えたら、何人かの生徒がそれに反応したようであるが、それ以外は特に変わったことはなかった。

質問が粗方終わったあと、多少時間が残っていたので自分の担当科目である英語をさっそく始めることにした。


「それでは、教科書の○○ページを開いてください。・・・」


以下、順調に授業が進むと思われた。

が、ふと教室のある一点から強烈な視線を感じ、ネギは発信源に目をむける。

案の定、視線の主は明日菜嬢であった。


(うわ~やっぱりアスナさん怒ってるよ~
 これは、恨みが相当根深いぞ~)


明日菜が前にもまして不機嫌な様子に冷や汗が止まらないネギ。

しかし、そんなネギも最前列に座る金髪ロングストレートの少女の一声で覚醒する。


「どうかなさいましたか?ネギ先生?」

「あっ、い、いいえ・・・何でもないですよ。ええと・・・」

「雪広あやかですわ。ネギ先生。」

「あっ、すみません。雪広さん。ちょっと考え事をしてしまって・・・」

「そんな。どうぞお気になさらず。このクラスで困ったことがありましたら私学級委員として力になりますから、何でも申しつけてくださいませ。」

「あ、あはは・・・そ、そうですか。それはどうもありがとうございます。」


ガシッと手を掴まれながれ情熱的な口調で言われネギも若干引き気味である。


他の生徒は「うわ~また始まったよ。いいんちょのショタ癖が」と顔を引きつらせていた。どうやらいつものことらしい。



まあ、そんなわけで授業を再開したわけだが・・・

今、ネギは黒板に教科書の例文を書いている。ちなみに彼は背が低いため台座(あやかが用意)に立って行っている。

そのとき、背後から凄まじい殺気とともに何かが飛んでくる気配を察知した。

体がそれに反応し、横に体をずらす。すると、黒板に何かが当たり、跳ね返った。


(これは・・・シャーペンの芯?)


背後を盗み見ると、予想通り明日菜がシャーペンを逆手に持ち、爪先で芯を飛ばしている姿が見受けられた。

しかし、シャーペンの芯がこんな遠くまで飛ばせるものなのか?


(どうやらアスナさん、思ったより実力があるようだ。今飛ばされた芯には微妙にだが気を感じた。どうやら、気の力でここまで芯を飛ばしてるみたい。何か武術でもやってるのかな?う~ん、まあ当たってもどうってことないんだけど、それだとなんか癪に触るな~
はっ!?よく考えたら僕は先生じゃないか!!こんなところで舐められてたら生徒に示しがつかない。ピッコロさんも言っていた。『仲良くするのは構わないが、舐められるなよ。教師は舐められたらそこでお終いだ。』って・・・よし、ここは意地でも避け切ってやる!!)


固く決意したネギはその後も背後から襲い来るシャー芯の嵐を信じられない動きで避け切っていく。

一方、芯を飛ばしていた明日菜は全弾をネギに避けられてかなり頭に来ていた。


(な、なんなのよ、あのガキは・・・。私の予測不可能なシャー芯弾がかすりもしないなんて!!あと、なんでネギの動きに誰も突っ込まないのよ!!)


とクラスメートを見渡すが、誰一人として彼の動きに気づいた者がいない。


確かにネギの動きは信じられないのだが・・・そう、どこか自然さを帯びていた。速いというよりは無駄のない動きというべきか・・・

だからだろうか。誰もネギの動きをおかしいと思わないのだ。まあ、それは一般人にとっての話であって、クラスの何人かは既にネギの動きに気づいていてそれぞれ感心していたのだが。


(くっ!こうなったら、連射よ連射!!)


指先に力を込めて、連続でシャー芯を飛ばしてくる明日菜。この高速の弾が果たして避け切れるかしら?

しかし、それもネギの体がぶれるような高速の動きで対抗する。


(なっ!?ウソでしょ~!?な、何今の動き!?)


驚く明日菜の耳に前方から「瞬動!?」という呟きが聞こえてきたが、綺麗にスルーされていった。

その際、驚いた拍子にうっかり手元が狂い、自分の列の一番前に座っているあやかの後頭部にシャー芯が当たってしまった。思わず、後頭部に手を当てるあやか。ネギには大したことなくても、一応は気が込められたシャー芯だ。一般人には地味に痛い。


「あっ!?し、しまっ!?」

思わぬ失態につい声を上げてしまった明日菜をあやかが見逃すはずがなかった。


「・・・アスナさん。これはいったいどういうわけですの?私に恨みがあるからと言ってこんな陰湿な手段を使ってくるとは・・・見損ないましたわ!!」

「やっ、ち、違う。これはわけがあって・・・」

「問答無用!!そこに直りなさい!!今日こそは許しませんわよ~!!このお猿!!」

「ムカッ!!な、何よ、いいんちょのくせに!!あんただってこのガキんちょが担任になった途端デレデレしちゃってさ、気持ち悪いったらありゃしない。このショタコン女!!」

「な、なんですって~!?そちらこそ、オヤジ趣味のくせして!!このオジコン!!」

「なっ!?私が好きなのは高畑先生であってオヤジ趣味じゃな~い!!」


ついには、あやかと明日菜で掴みあいの喧嘩を始める始末。

周りの生徒の大半は止めるどころか「いいぞ、もっとやれ~」と余計に煽る始末。

事態に収拾がつかなくなる・・・そう思われたその時、


「静かにしなさい!!!」


強烈な怒声が響きわたった。

発信源は無論ネギ・・・なのだが、雰囲気がそれまでの彼と明らかに異なっていた。

怒髪天を突くとはよくいうが、今のネギがまさにそんな感じである。

本人も無意識のうちに気を少し開放していたらしい。

まあ、本人にしてみれば微量なのだが、それでもこのクラスの連中を怯ませるには十分だった。

小学生くらいの男の子から発せられてるとは思えないほどの威圧感。

とてもじゃないが、騒いでなどいられない。そんな空気。

あまりにも張り詰めた空気に何人かの生徒は既に気を失ってしまっている。


「・・・あなたたちの元気がいいのは良いことです。ですが、少しは場をわきまえてくださいね。騒いでいるのにも限度ってものがありますから。
それから、雪広さん、それに明日菜さん。お二人の仲があまり良くないのはわかりますが、何でも暴力で終わらせようとするのは感心しませんね。一方が大怪我をしたら洒落になりません。ですから今後一切、僕の前で喧嘩はやめてください。い・い・で・す・ね?」

「「は、はいいっ!!」」


ネギの覇気にすっかり委縮してしまった2人はただ頷くことしかできなかった。

すると、終了ベルが鳴り出す。


「はあ・・・では今日はここまでです。次回は続きから始めますから、予習しておくように。・・・では、雪広さん?」

「は、はいっ。きり~つ、れい!!」「「「「「「「あ、ありがとうございました!!」」」」」」」


礼を終えるとそのままネギはスタスタと教室を出て行く。


「な、なんか・・・最後のネギ先生怖かったね。」

「う、うん。それまで結構子供らしくて可愛い感じだったのに、怒らせるとああなっちゃうんだ・・・」


2年A組の面々はこの後、ネギを怒らせることだけは絶対してはいけないと固く心に刻みつけるのであった。







なんだかんだで時間が過ぎ、今は放課後。

終礼を終え、教室から出てきたネギはとぼとぼと学園の庭を歩いていた。


「はあ・・・なんで僕、あの時怒っちゃったんだろ?おかげでクラスのみんなとは少し距離を持たれちゃったし、アスナさんに至っては・・・はあ、これ以上考えるのはよそう。とりあえず、今はこの日誌を職員室に提出して・・・」


他愛もない思考をしていると、耳に「きゃああああ!!」という悲鳴が聞こえた。

何事と思って見ると、誰かがサングラスをかけたドラム缶・・・いや、ロボットか?のようなものに追いかけられている。


「あれは・・・アスナさん?それに、アスナさんが抱えてるのって・・・確か宮崎のどかさん・・・だったかな?一体何が・・・」


と思って跡を追おうとすると、後ろから白衣を着た大学生くらいの男性が息を切らしてやってきた。


「はあ・・・はあ・・・はあ・・・なんて足の速い奴だ。ちっとも追いつけやしねえ。」

「あ、あの、さっきここを通りかかった人たちと何か関係あるんですか?」

「うん?ああ、ちょうど良かった。頼む。誰か大人を呼んで、あの芝刈り機ロボを止めてくれ!!」

「へ?ロボってさっき2人の生徒を追いかけてたやつがですか?」

「そうだ。あれはうちら工学部が最近開発したやつなんだが、いろいろ機能をつけすぎたせいで、バグが発生したとたん手がつけられなくなっちまった。あいつ、『刈~るスモーキー石田君』って言うんだが、今のあいつは芝は言うに留まらず、出っ張っている者や、無駄に長く伸びている物に何でも反応してそれを刈り取らずにはいられないんだよ。」

「ええっ!?なんでそんなものを作ったんですか!!」

「いや、面白そうだからってつい出来心で・・・いや、ホント申し訳ない。」

「はあ・・・まあぞれはこの際どうでもいいです。ですけど、今のロボはなんであの2人を追いかけてるんですか?」

「ああ・・・おそらく、今のあいつはあのツインテールの娘の“しっぽ”の部分に反応してるんだろうな・・・」

「ええっ!?そんなところまで刈るんですか!?」

「だから言っただろ?何にでも反応するって。」


話を聞いたネギはもはや一刻の猶予もままならないと知り、上着を脱ぎ捨てた。


「お、おい、ボウズ!!まさか、お前が行く気じゃないだろうな!?」

「そのまさかですよ。今から人を呼んでも間に合わないかもしれませんしね。」

「む、無茶だ!!今のやつは刈りをするためならどんな邪魔者も排除する。ボウズが出て言ったら餌食になるだけだ!!」

「大丈夫です。僕はヤられる気は毛頭ありません。ところで、そのロボットですが・・・万一の場合は破壊しても構いませんよね?」


そう言って不敵に笑うネギの姿は彼の師匠を彷彿とさせる。

その笑みを見て、男も何かを感じ取ったのか、呆れたように肩を竦め、


「はあ・・・もう好きにしろ。」


それを聞いたネギは、ワイシャツからネクタイを抜きとると猛スピードでその場から駆け出して行った。

まさに風の如しといった感じである。


「すげーな・・・子供なのに・・・」


ぽつりと呟いた男の言葉を聞いた者はいなかった。









それは、まったくの偶然だった。

ちょうど終礼が終わり、明日菜がネギの歓迎会の買い出し係に任命され、いやいやながら出かけようとした矢先の出来事である。

急に悲鳴が聞こえてきたので、急いで駆け付けてみると、クラスメートの宮崎のどかが謎のロボット(のどかより二回りは大きいだろうか)に襲われていた。

図書館の本を運んでいる途中だったようで、あたりに本が散乱している。


「な、なんなんですか?・・・」

「刈リマス、刈リマス~!!アナタノソノ前髪刈リマス!!」


怯えているのどかの問いに答えたところによると、どうやらこのロボットはのどかの前髪が切りたくてウズウズしているらしい。

(まあ、確かにあの前髪は目にまでかかってるからね。切りたくなる気持ちはわかるけど・・・
それに、本屋ちゃんって前髪をどけたら、割と可愛くなるんじゃないかしら?勘だけど・・・)

そういうことを考えていると、ロボットの両腕から鋭利な巨大バサミが飛び出した。

・・・って、それって洒落になんないわよ!?

想像以上に危ない事態にようやく気がついた明日菜。

のどかは恐怖のあまり腰に力が入らないのか、尻もちをついた状態で立ち上がることができないようだ。

のどかに巨大バサミが近づいて行く。

すると、明日菜の体は自然に動いた。

己の脚力を生かした体当たりをロボットに食らわせる。

不意打ちを食らったロボット(・・・というのは可哀想なので、彼の本名『刈~るスモーキー石田君』から取って、石田君と呼ぶことにしよう)は、かなりの威力を秘めた体当たりで近くの木の幹に激突する。



ドォォン



衝突のショックで石田君の頭部からはプシューと煙が出ている。

ピクリとも動かないところを見ると止まった、のか・・・?

明日菜は倒れているのどかに声をかける。


「大丈夫!?本屋ちゃん。」

「あ、アスナ・・・さん?なんでここに?」

「そんなことはいいわ。あいつは何なの?」

「さ、さあ?私も今襲われたばかりで何がなんだか・・・」

「!?本屋ちゃん!!」


咄嗟に、本屋を抱き込みながら、横に転がる明日菜。

すると、すぐ脇をさっき倒れたはずの石田君が猛スピードで走行していった。

石田君の激走ぶりを物語るかのように彼のボディについた四輪の跡が地面にくっきりと残っていた。


「ちっ、まだ倒れてなかったの?鬱陶しいわね。」


突進を躱された石田君は方向を百八十度転換し、さらに腹のシャッターを開けると、中から巨大な回転のこぎりが現れた。


「ちょ!?いくらなんでもそれないんじゃない!?」


ブイイイイイインと激しい回転音を鳴らすのこぎりに若干・・・いやかなりびびる明日菜。

そこで、石田君の口調が変わった。


「目標ヘンコウ・・・アノムダニナガイツインテールヲ刈リマス!!」

「ヘ?」


すると、ハサミをジャキジャキさせながら、石田君がこっちに向かってきた。


「ちょっと今度はなによ!?」


のどかを抱え再び横に避けようとする明日菜。

しかし、そのとき石田君の腕が伸びた。

すると、彼のハサミが明日菜のツインテールをかすり、その一部を刈り取った。


「くっ!?ちょっと、乙女の髪になんてこと・・・!?」

「刈リマス!!刈リマス!!ソノ髪刈リマス!!」


狂信的に髪を刈ろうとする石田君にさすがの明日菜もやばいことに気がついた。

確かに彼女は中国拳法を習い、それなりの腕は持っている。だが、・・・


「だけど・・・いくら私でもまだ刃物への対処は習ってないのよ~!!!」


実は気を操ればそれなりに刃物にも対処できる・・・が、それを知らない明日菜にすれば刃物を持つ敵は恐怖以外の何物でもなかった。

思いがけない強敵に動けない明日菜たちの前に白衣を着た男が現れる。


「あっ、お前たち!!早くそいつから離れろ!!そいつは女の子が手に負える相手じゃねえ!!」

「そ、そんなこと言ったってどうすればいいのよ~」


泣きたくなる気持ちでいっぱいの明日菜が叫ぶと、


「ここは俺が気を引くからその間に逃げろ!!急げ!!」

「わ、わかった!!」


のどかをお姫様だっこで抱えてすぐに駆け出して行く明日菜。


「さあ石田君。この俺が相手「邪魔者ハ排除スル。」ほあああ!?」


男はあっさりと突進を喰らい、近くの木にぶつかる。頭にタンコブを作って気絶してしまった。


「引キ続キ目標ヲ追跡スル。」









その後石田君の追跡から必死に逃げてた明日菜たちだったが、とうとう追い詰められてしまう。

のどかを抱えてなければもっと上手く逃げられただろうが、彼女を離してしまえば確実に目標にされてしまう。

同じクラスメートとしてそれだけはできなかった。

だから、こうなってしまった以上覚悟を決めるしかない。


「本屋ちゃん!!次にあいつが突進してきたらあたしに構わず逃げて!!」

「えっ!?そ、そんな・・・そんなことできません!!」

「どのみちここじゃ助けは期待できそうにないし・・・フフフ・・・私も焼きがまわったかな?」

「アスナさん・・・」


追い詰められているのに笑っている明日菜を悲しそうに見るのどか。

そんな2人を余所に石田君がこちらに疾走してくる。


「さあ!!早く行って!!」


明日菜がのどかを思い切り押しのけた。

勢いが良かったためかのどかを自分からかなりの距離までどかすことができた。


「アスナさん!?いやああああ!!」


のどかの悲痛な叫び。

もう石田君のハサミそして、回転のこぎりはすぐそこまで迫っていた。

どう考えても助からない。そう悟った時、明日菜は静かに目を閉じた。

そしてふと頭に浮かんだのは一人の少年の顔。


(む!?なんで高畑先生じゃないのよ!!って、もう言っても無駄か・・・もしかしたらあたし死ぬかもしれないもんね・・・この際文句は言わないわ。でも、一つ心残りがあるとすれば・・・やっぱあたしが言いすぎだったね・・・それだけ、あいつに謝りたかったな・・・)


固く目をつぶり、ちょっぴり涙を流した明日菜。

が、痛みどころか何もやってくる様子がない。

真っ白になりそうな頭でようやくそれに気づくと明日菜はゆっくりと目を開ける。

すると、そこには信じがたい光景が・・・!!

先程謝りたいと思っていた少年が、石田君の突進を真っ向から受け止めていた。

よく見ると、彼の両手により腹の回転のこぎりが挟み込まれている。


「ふう・・・なんとか間に合いました。」

「あ、あんた・・・なんでここに・・・」


ネギの登場に今日一番の驚きを露わにする明日菜。


「えっ!?ね、ネギ先生?」


のどかも同じようだ。


「話は後で!!とりあえず、こいつは僕がなんとかします。フンッ!!」


力を込めるとネギの体を白い炎が包み込んだ。

すると、拮抗していた状態が一変し、ネギが石田君を一方的に押し返しだした。


「ああああああっだりゃあああああっ!!」


押し出しの加速が徐々に増し、ついには反対側の木に物凄い勢いで叩きつけた。



ダアアアアアン



衝撃で太い巨木が激しく振動する。

ネギはそのままバックステップで距離をとる。


「す、すごい・・・」


明日菜も感嘆の声を上げる。

あのロボットの巨体をあんな小さい体で押し返すばかりでなく、その勢いで叩きつけるなんて・・・

そんなマネができるのは彼女の知る限り古菲ぐらいしかいない。


「ふ、ふええ!?」


のどかも目の前の戦いが信じられないようだ。


「アスナさん、宮崎さん。下がってください。向こうも本気を出すようです。」

「ええ?今ので倒したんじゃないの?」

「いいえ、まだ終わってません。」


見ると、叩きつけられた石田君がヨロヨロと起き上がり、サングラスをはずし、その両目がギラリと真っ赤に光った。


「障害ハッケン!!コレヨリ緊急モード二移行!!」


すると、石田君の四輪から足が伸び、さらに彼のハサミ付きアームも増え、六本腕・四本足歩行の巨大ロボットになった。

なんとなく某アンパンが主役のアニメに出てきそうなロボットである。


「ちょっと、あんなのどうすんのよ!?」


パワーアップしたっぽい敵に焦る明日菜だが、


「大丈夫です。僕に任せて・・・」


そう言うネギの呟きになぜか安心する明日菜。

ネギは自分の右手に気を集中すると、手刀の形を作る。


(あ・・・あれってもしかして気?)


古菲からある程度気については習っていたが、明日菜もここまではっきり視認できるものは初めて見た。


「一撃で決める・・・」


瞬間、ネギが飛び上った。

空中のネギに六本のアームが次々に襲いかかる。

が、ネギはそれらもことごとく躱わし、石田君の懐に入り込む。

そして、刹那・・・



スパアアアン



ネギの体がいつの間にか石田君の背後にあった。


「えっ!?何が起こったの?」


明日菜の呟きとともに、その結果が明らかになる。

石田君の動きが止まった。

次の瞬間・・・


「ガ、ガガガ・・・刈リマス、カリマ・・・」


石田君のボディに正中線沿いに亀裂が走り、やがてそこを境に真っ二つに割れた。


そして・・・




ドゴォォォォォォン




大きな爆音が鳴り響いた。




ここに、某野菜人の王子がいたら「汚ねえ花火だ・・・」と呟いたに違いない。

そこに明日菜がかけよってくる。


「ちょ、ちょっと・・・あんた大丈夫?怪我とかはない?」

「ふえ?いや・・・別に大したことは・・・」


見たところ確かに怪我はなさそうである。


「あ、あの・・・」


声をかけられ振り向くと、そこにはのどかの姿があった。


「あ・・・さっきは助けてくれてありがとうございました。それであのう・・・さっきのは・・・いったい・・・」


のどかの尤もな質問にネギは動揺した。

そう言えば、気を使った戦闘法を一般人である明日菜たちに見せてしまったのだ。

魔法ではないから問題ないという逃げ道を一応考えてはみたが、これがどのくらい通用するのかわからない。

まさか、魔法を使っていないのに『魔法の秘匿』に触れてしまうのであろうか?


「あ・・・ええっと・・・あっ、武術の一種です。ほら、よくテレビとかでもたまにあるでしょう?こう、素手でシュバってものを切ったり、パンチで大きな穴をあけたり・・・」


我ながら苦しい言い訳だがこれでいくしかない。それで無理なら最悪記憶の消去も考えなくては・・・


「あっ、それなんとなくわかる。古ちゃんがよくやってるもん。」

「へ?古さんって古菲さんのことですか?」

「そうよ。古ちゃんって中国武術研究会の部長をやってて、そこでいろいろ見せてくれるんだけど・・・なるほどね~確かに古ちゃんならあれができてもおかしくないわよね~。」


意外な助け舟に目を丸くするネギ。まあ、なにはともあれこれでのどかも納得した様子で


「じゃ、じゃあ・・・先生って武術の達人なんですか?」

「えっ!?ええっと・・・まあ、僕の師匠に当たる方がそれはそれは厳しい方でして・・・そんなわけで自然と強くなったというか・・・」

「わああああっ!す、すごい!!せ、先生って実はとてもすごい人だったんですね。あ、あの・・・私、尊敬しちゃいます。」


意外に食い付きがいいのどかにべた褒めされて満更でもないネギ。


「あっ、そろそろ僕も仕事に戻らないと。あっ、あの・・・このこと他の人には内緒にしてください。あまり自慢したいことでもないので・・・」

「えっ!?そうなんですか?・・・わ、わかりました。」

「ふ~ん。別に気にするようなことでもないんじゃない?・・・まあ、いいわ。あたしもあんたに助けられたなんて言うのは恥ずかしくなるだけだし・・・」

「あ、アスナさん・・・!!」

「あはは・・・いいんですよ、宮崎さん。気にしてませんから。あっ、じゃあ僕は行きますね。」


その場を立ち去ろうとするネギであったが・・・


「待ちなさいよ!!」


そこを明日菜が引き止める。


「今日はみんなであんたの歓迎会やるんだから早く来なさいよ。それと・・・さっきはありがと・・・」


ちょっと顔を赤らめながら明日菜が言った。

その言葉にネギもパアァと笑顔が蘇る。


「アスナさん、それじゃあ・・・」

「フン。別にあんたのことを完全に認めたわけじゃないんだからね!!・・・ただ、今回に免じて同居までは譲歩してやろうじゃない。」


明日菜の言葉にネギは喜びを露わにする。


「あ、あの・・・よろしくお願いします。アスナさん。」


そう言って、一足先にその場を後にするネギ。

その後ろ姿を見詰めながら、


「ふ~ん。あいつまだ何か隠してることがあるわね・・・」

「へ?どうかしたんですか?」

「ううん。別に。さあ、あたしたちは歓迎会の準備でもしますか!!」

「あ、アスナさ~ん。待って~!!」






<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!次の舞台は『図書館島』だ!!」
ネギ「はい!!ここでアスナさんたちバカレンジャーが頭がよくなる魔法の本を探すんです。」
悟空「頭がよくなる本か~オラ本なんて読みたくねえぞ~!!あっ、でも強くなれる本だったら読んでもいいかも・・・」
ネギ「いや・・・それだったら修行した方が速いでしょ・・・あなたの場合」
悟空「おお!?それもそっか!次回ドラゴンボールMAGI『嵐を呼ぶ図書館島  バカレンジャーよ、魔法の本を探せ!!』」
ネギ「アスナさんたちはできれば普通に勉強してほしいな・・・」







あとがき

書きあげたらすげ~眠気が襲っている仕事人です。

今回は難産でした。というのもピッコロさんが一切出ないから!!

・・・普通に設定をミスった気がしてきた仕事人です。

でも、どういう形であれ、ネギが避けて通れないイベント・・・アスナたちとの同居

しかし、ここのネギ君魔法使わなそうだし、無理に使う必要もないだろうな・・・と思いながら書いた結果がこれかい!!

・・・思わず、自分に突っ込んでしまいました。

あと、のどかイベントもかなり大幅に変えてしまいました。原作が好きな方、ゴメンナサイ。

これもピッコロさんが来た影響で未来が変わったと割り切ってくださるとありがたいです。・・・本当にすみません。

次回はもう少しマシになっていることを祈ります。自分に。



[10364] 其ノ拾六   嵐を呼ぶ図書館島  バカレンジャーよ、魔法の本を探せ!!
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/09/08 21:45



「2345・・・2346・・・2347・・・」


今日も朝早くから女子寮の庭先で元気に修行に精を出している者がいる。

その名はネギスプリングフィールド・・・彼がこの麻帆良学園に教師として着任してからも彼のこの習慣は変わることはなかった。いや、前にもまして厳しいメニューを己に課しているようである。

師のピッコロがいないこの場においても決して修行には手を抜かない・・・この殊勝な心掛けはピッコロの教育の賜物であろう。

今は彼がこの地を踏んだ時から月が変わって三月。

さすがにこの頃になると初めての教師にも慣れ、いくらか充実した日々を送ることができるようになっていた。


「2363・・・2364・・・2365・・・2366・・・」


下に重りシャツを、その上からピッコロからもらった道着を着たネギは指先一本で倒立し、さらにそのまま指立て伏せをするというなんとも難易度の高いトレーニングをかれこれ1時間近く続けていた。

すると、そんな彼に声をかける者がいた。


「ふぉわ~・・・おはよう~ネギ。あんたも朝から頑張るわね~」

「あっ、アスナさん。おはようございます。」


ネギが視線だけを向けると、そこには彼が居候している部屋の住人の一人神楽坂明日菜の姿があった。

比較的朝に強い彼女には珍しく、眠そうにあくびをしている。


「アスナさんはこれから配達ですか?」

「そうよ~ふぁあ~だけど、なんか今日は朝から眠いのよね~。正直まだ布団に入ってたいんだけど・・・まあ、苦学生にはしかたないんだけどさ。それにしても、あんたよくこんな時間から始められるわね。あたしだってついさっき起きたばっかよ?」

「アハハ・・・向こうでは修行のために朝の4時には叩き起こされてましたから。それが体に染みついちゃってて・・・」

「へ?じゃあ、あんた・・・4時くらいからずっとやってたってわけ?・・・呆れた。あんた自分では否定してるみたいだけど、今のでも十分格闘バカよ。」

「そうなんでしょうか・・・う~ん、これが普通なんだけどな~」


こんなのなんてことないという風に言ってのけるネギに顔を引きつらせる明日菜。

まあ、長い付き合いなのでこの風景にももはや慣れっこなのだが、改めて言われるとその異常性に気づかされる。


(こいつ、古ちゃんより修行してんじゃない?もしかして、彼女より強いのかしら?)


着任初日に見たネギの力を思い出して明日菜はふとそんなことを考えたりしたが、そろそろバイトに向かわないといけないのでその考えを即座に打ち消す。


「ああ、私そろそろ行くわ。」

「あの~、前みたいに手伝いましょうか?その方が速く終わると思いますし。」

「あ・・・い、いや・・・遠慮しとくわ。なんかさすがにこんなこと子供に手伝わせるの悪いし、あんたの修行の邪魔したくないしね。」

「そうですか。わかりました。じゃあ、気をつけていってらっしゃい!」

「うん。・・・いってきます!」


なんかこういうのっていいなと少女は思った。家族のいない彼女にとって「いってきます」なんて言える間柄はルームメイトの木乃香ぐらいのものであったが、今ではそこにもう一人加わっていることに自分でも知らず知らず嬉しくなる。

しかし、そこは彼の前ではおくびにも出そうとはしていないのだが。

元気よく駆けだした明日菜を視線だけで見送った後、彼は再び修行に集中する。


「さあて、朝食までにあと1000回はこなさないと。」










~学園長室にて~


「ネギ先生の様子はどうかね?」

「ええ。本当によくやってますわ。本当に10歳の少年とは思えないくらいに。」


確かに、ネギはよくやっていた。初日では生徒たちのはしゃぎぶりに思わずキレてしまい、数日は彼女たちから少し距離を置かれてしまったが、それでもめげずに彼女たちにアプローチを試みた。

A組の面々も基本はお気楽な良い子が多いのでネギの行動を根に持ったりするはずもなく、必死に生徒と触れ合おうとするネギの姿をむしろ好意的に見ていた。結果、生徒からの歩み寄りもあり、今ではすっかり関係が修復し、クラス全体としてはさらに団結が強まった。

そしてその団結力が発揮されたのは、先日行われたウルスラ女子高とのドッヂボール対決であった。そのとき、ネギは別段何もしなかったが、自分の生徒たちならやれると信じ、生徒たちもその期待に応え見事勝利をもぎ取った。

ただその直後、敗れたことを不服に思った敵チームの不意打ちに頭にきたネギが思わずちょっと本気の球を投げてしまい、あわや大惨事になりそうになった。本人もやってしまった後で自分の正体がばれてしまうのではないかと冷や冷やであったそうだが、幸運にも怪我人は出ず、生徒たちも「先生スゲ~」という尊敬の眼差しを向けたくらいで特に魔法の機密が漏れるようなことは起こらなかった。本当に奇跡であった。


「ふむ。ではそろそろ正式に教員として採用してもいいかもしれんのう。」

「フフフ。彼なら大丈夫ですわ、きっと・・・」

「フォっフォッフォ、じゃがその前に最後の試験を受けてもらわねばなるまいて。」


校長の意地悪そうな顔を見て、ちょっぴり嫌な予感がしたしずな。

はたして、ネギに課せられる試練とは何なのか?それはすぐに知れることになる。そしてその難しさも・・・








「えっ!?じゃあ、次の課題をクリアすれば正式にここの教員にしていたただけるんですか!?」

「え、ええ・・・そうよ。」


しずなから採用試験の話を聞かされ、「やった~!!よ~しやるぞ~!!」と意気込むネギとは対照的にしずなは不安な表情を隠せなかった。


(でも課題って何なのかな?一応魔法関連のものだと、例えばドラゴン退治とか、新しく魔法を50個覚えろとかそういう感じかな?う~ん、魔法を覚えるのは別に難しくはないんだけど、本ばっかり読んで体を動かさないのはちょっと堪えるな~。どっちかっていうとドラゴン退治の方がおもしろいかも。一度は実物のドラゴンを見てみたいし。)


いろいろ想像しながらネギはしずなから渡された紙を開いていく。

そこに書かれていた内容は・・・


『今度の期末試験で2-Aを最下位から脱出させたら正式に先生にしてあげる。』


読んでしばし固まるネギ・・・そして・・・


「なんだ~そんなことか~って、ええええ!?」


かなりの驚きを見せるネギ。いや、その顔には絶望の色さえうかがえる。


「ど、どうだったの!?ネギ先生。」

「ハ、ハハハ・・・こ、こんな課題なら、ドラゴン退治の方が何倍もマシです。」


力なく笑いながら課題の内容を見せるネギ。

それを見たしずなも顔を引きつらせる。


「学園長・・・こんな子供になんという難題を・・・!!」









「だ、ダメだ・・・どう考えてもまともな手段で試験当日までに最下位から脱出させるなんて不可能だ・・・」


ネギは教室に行く道のりの中で今回の課題について考え込んでいた。

一見そこまで悩むほど難しいとは思えないこの課題・・・確かに普通のクラスならそうだろう。クラスによってはただ生徒に発破をかけるだけですんでしまうかもしれない。しかし、この2-Aに限っては違うことをネギはすでに気が付いていた。

別に生徒がお馬鹿さんだらけ・・・というわけではない。問題児が多そうに見えるこのクラスにも上位に食い込む者が4、5名いるし、ほとんどの生徒はまあ平均値くらいの成績は出しているのだ。

しかし、それでも補い切れないほどのお馬鹿さんたちがいたとしたらどうだろう?それも5人も・・・

ネギが最も恐れていたのはその5人なのだ。ただの馬鹿ではすまされない、次元を超えたお馬鹿さんたち・・・それがバカレンジャーなのだ。


「彼女たち自身はとっても良い子なんだけど・・・どうして勉強だけはダメなのかな~?」

勉強が彼女たちの能力的に向いてないということもあるだろうが、なにより勉強に集中できていない。それが問題であった。


「確かに僕も勉強はそれほどしなかった方だけど、それでも授業は集中して聞いてたもんだけどなあ。」


仮に授業を聞いてなかったとしても、テスト間近になったら試験勉強に集中して要領良くやればそれなりの結果は出せる。しかし、この5人にはそれすらもできないようだった。何と言うかそう・・・やる気にならないのである。


「特に綾瀬さんなんて、割と頭がいいのに・・・本人にやる気がないせいでバカレンジャー入りしちゃってるし。」


いや、むしろあれは自分から望んでなっている節が見られる・・・

ネギはますます頭を抱えた。


「こ、こうなったらやるだけやるしかない。あまりこの手は使いたくなかったけど・・・ピッコロさんも言っていた。『目的のためには時には非常な手を使わなければならないときがある。だから、そのときは甘さを捨てろ。』今がそのときなのかもしれない。」


何かを決意した様子でネギが扉を開ける。

今2-Aにかつてない危機が訪れようとしていた。







「「「「「「えええ~!!?最下位脱出しなかったらクラス解散!?」」」」」」」

「ええ。といっても、さすがにクラス全員が解散というわけではなくて、下位5名に限り初等部からやり直しという案があがっているようです。」


ネギからの突然の発表に一同が唖然としている。

特にその5名に該当するであろう者たちの驚き様は凄まじかった。


「ちょ、ちょっと!それ明らかに私たちを狙って言ってるじゃない!!」

「そりゃそうですよ。あれだけ最下位をとっていたら嫌でも目を付けられます。今まではなんとか大目に見てきたがどうやら今回ばかりは見過ごすわけにはいかなくなったようです。」


バカレッドこと明日菜の抗議にネギは淡々と答える。


「え~ん!みんなと別れるなんて嫌だよ~!!」

「私もまた初等部からやり直しというのはさすがに勘弁ですね。」

「アイヤ~今回はマジメにやらないとまずいアルカ?」

「ううむ。拙者も自分の至らなさがここにきてこんなに後悔することになるとは思わなかったでござる。」


まき絵、夕映、古菲、楓といったバカレンジャーの面々もこの件は割と重くうけとめているようである。


(よし!!効果があったな!!)


作戦の成功に内心でガッツポーズをするネギ。

そう、実はクラスの解散というのは真っ赤な嘘。実際はそういった事実はない・・・はずだ。いや、・・・あのジジイならもしかしたら本気でそれを考えるかもしれないが。

まあどちらにしろ、こういった大袈裟なペナルティをちらつかせることでバカレンジャーたちに危機感を持たせる。今の彼女たちに必要なのは勉強に対する目的意識と必死さである。しかし、生半可なことでは彼女たちは動かない。そこで、卑怯ではあるがこういった手段をとらざるをえなかった。


(確かにこれは僕のためでもあるけれど、同時に彼女たちのためでもある。ここは心を鬼にして厳しくいかなければ!!)


僕らを鍛えてくれたときのピッコロさんも同じ心境だったのかなと思いながらネギは自分に強く言い聞かせる。


「しょうがないわね~。こうなったらやってやるわよ!!」

「「「「おお~~っ!!」」」」


バカレンジャーを中心としてクラスみんなが気合を入れる。


(も、もしかして・・・これならいけるかも?)


この場の盛り上がりに半ば期待するネギ。









「・・・って思ってた時期が僕にもありました。でも、現実ってそんなに甘くないんですね。改めて気付かされました。」


おろろ~と涙を流しながら職員室で先ほど行った小テストの結果を見るネギ。確かにあの脅しが効いたようで全体的にいつもより少しはできが良くなっている。しかし・・・


「バカレンジャーの頭の悪さがここまで深刻とは・・・」


バカレンジャーだっていつもより点は取れている。しかし、


「期末試験の範囲の広さと難易度を考えるとこの程度では・・・おそらく間に合わない。」


またまた考え込んでしまうネギ。


「それにしても綾瀬さんの結果がひどいな。いつもよりできが悪い。それになんだかテストに集中してなかった感じだった。何か考え事でもしてたんだろうか?」








「魔法の本?」

「ええ。図書館島の地下に読めば頭の良くなる魔道書が眠っているという噂です。」


女子共同浴場にて夕映が告げたことに明日菜たちは驚く。


「で、でも魔法の本なんて実際にあるの?そんなもんがあったら苦労しないじゃない。」

「まあ私もさすがに魔法というのはデマだと思うのですが・・・大方できのいい参考書の類でしょう。しかし、あるのとないのとでは大きく違ってくるのではありませんか?」


確かにと一同は考え込む。


「あ、あのさ・・・私職員室で先生たちが話してるの聞いちゃったんだけど・・・」

「ど、どうしたの?まきちゃん。」


まき絵の不安そうな顔を見て思わず尋ねてしまう明日菜。


「なんか・・・今度の試験で私らのできが悪いと、ネギ君ここを辞めさせられるかもしれないんだって。」

「えっ!?それホンマなん、まきちゃん!?」


訊き返す木乃香にまき絵は頷くことしかできない。


「私この耳で確かに聞いたもん。今日のネギ君元気がなかったのそれだからじゃないかな?どうしよう・・・せっかくネギ君先生になれそうなのに、私たちの所為で・・・」

「まったく、あのバカ・・・なんでそういうこと黙ってるのよ!!」


明日菜の頭には今まで先生として努力を続けてきたネギの姿が流れてきた。


(あいつあんなに頑張ってたのに・・・こんなところで全部無駄になってしまうの?
・・・いや、そんなこと私がさせない!!)


何かを決意した明日菜が浴槽からすっくと立ち上がる。


「あ、アスナ?」

「決めたわ。その魔法の本とやらを探しに行きましょう!!」

「「「「・・・・・・えええーーっ!?」」」」








~夜7時、図書館島前~


「・・・で、どうして僕も行くはめになるんですか!!」


大声で叫ぶネギを明日菜は呆れた目で、


「別にいいじゃない。あんただって私らの成績が悪かったらクビなんでしょ?」

「う!?ま、まあそうですけど・・・」


言い返せなくなるネギ。ここが彼の弱いところである。

あれから、なんやかんやでバカレンジャーと図書館探検部の面々+ネギといったメンバーが図書館島に来ていた。

・・・まあネギは始めは来るのを渋ってたのを例の話を引き合いに出して無理やり連れてきたのだが。


「で、ですけどやっぱりこんなの・・・勉強もせずに魔法に頼るなんて、そんなずるいこと・・・」

「はあ?あんた魔法なんて信じてるの?あるわけないでしょ、そんなの。ただちょっとそのありがたい御本の御利益にあやかろうってだけじゃないの。」

「で、ですけど・・・ホントに魔道書だったら・・・」

「しつこいわね~。ん?ひょっとしてあんた、魔道書とかについてなんか知ってるんじゃないの?」

「えっ!?ええと・・・(し、しまった~!!ついうっかり言い返しちゃったよ。ど、どうしよう!?ここから魔法のことがばれたらそれこそクビじゃすまない。くっ・・・ここはなんとか誤魔化すしかない。)し、知ってるわけないじゃないですか!!ただ、たとえ何であれ、そんなものに頼って楽しようとするのは良くないって言ってるんです!!」

「ふ~ん。あっそ。まあそういうことにしといてあげるわ。」

「ふ~。(うわ~、なんとか納得してくれた・・・よね?でも、アスナさんって意外とこういうことに関しては鋭いんだよな~。・・・これをテストに生かしてくれたらな~)」

「(ピクッ!)あんた、今失礼なこと考えてない?」

「い、いいえ。滅相もありません!!」

「そう。ならいいわ。」

「あ、あの~、やっぱり良くないですよ。ここはマジメに勉強して・・・
それにこんな夜中に行ったら危ないですよ?」


すると、明日菜はネギの耳元でささやく。


「心配御無用。ここには運動神経抜群の子ばっかり集まってるんだから滅多なことがない限り大丈夫よ。それに、あんた強いんでしょ?危なくなったら生徒の一人や二人助けてくれるわよね?」

「ええ!?そ、そんな~」

「わっはっは!!大体昔の人も言ってたじゃない。『学問に王道はなし』って。まともな手段じゃ頭なんてすぐに良くなるわけないじゃない。」

「アスナさん・・・そんな難しい格言よく知ってますね。って言うか、それ微妙に意味が違ってますよ!?」

「アハハハ・・・細かいことは気にしない気にしない。さあ、みんなもう行ってるから私たちも行くわよ!!」

「あっ、ちょっと、アスナさ~ん!・・・はあ、結局こうなるのか。僕はなんて弱いんだ。」


アスナに押し切られてしまった自分の弱さを責めるネギ。しかし、生徒たちは先に行ってしまっている。いつまでもこんなところでぐずぐずしているわけにはいかない。


「・・・ええい!なるようになれだ!」


開き直ったネギはすぐにアスナたちの後を追った。









「ねえ、さっきからずっと聞こうと思ってたんだけどさ。」

「え?何がですか?」


図書館島の地下に続く階段を下りながら明日菜がネギに尋ねる。


「あんた着てるその服だけどさ、やけに用意がいいわよね?まさか、さっきまでここに来るの嫌がってた割にここに来るの見越してたとか?」


明日菜はネギが着ている紫色の道着を見ながら呆れた口調で言った。


「いいえ、別にここに備えて着てきたわけじゃないですよ?ただこれを着ていると落ち着くんです、どういうわけか。ウェールズにいるときも家ではほとんどこの道着を着ていましたし。」


するとそこに食いつくものが2人。


「おおっ!?それが普段着ということはネギ坊主は相当武術をやり込んでるアルか?」

「ほう・・・それにしても斬新なデザインの道着でござるな。どこの流派でござろう?」


バカレンジャーの中でもかなりの武闘派である古菲と楓が興味を示してきた。


「い、いえ・・・別に流派ってほどのものでは・・・。この服は僕の師匠の故郷で着ているものの名残なんだそうです。」

「ふむ。そうでござるか。しかし、なかなか似合ってるでござるな。その年でここまで道着を着こなせるものではござらんよ。」

「うむ。そうネ。すごく強そうに見えるアル。」

「あっ、どうもありがとうございます。」


師匠からの道着を褒められて嬉しそうなネギ。


「さて、おしゃべりはそこまでです。いよいよここから地下の部屋ですよ。気合いを入れていきましょう!」


夕映の号令とともに階段を抜けるとそこには・・・


「うわああ~本がいっぱいだ~」


見渡す限り本棚だらけ。しかもその下は深すぎて見えないときたものである。

したがって、探検者はこの本棚の中を進んでいくことになる。


「あっ、珍しい!この本って確か・・・」

「あっ、ネギ先生。貴重本狙いの盗掘者を避けるために・・・」


偶然見つけた一冊の本を本棚から抜き取ろうとするネギ。

それに気づき、夕映が止めようとするが少々遅かったようだ。


カチッ・・・


本に手をかけた瞬間、そんな音がした。

さらに何かが弾かれる音、同時に矢が風を切ってネギに襲いかかる。

それに気づいた楓がネギに到達する前にその矢を掴もうとする・・・はずだった。


「なっ・・・!?」


彼女には珍しく、驚きの声が上がる。

なんとネギが自分の背後からの矢を振り向きもせずに片手で掴んでいたからである。


「うひゃ~危ないですね。もう、綾瀬さん!罠があるなら先にそれを言ってくださいよ~」


口で言っているほど危なそうには見えない少年が夕映に軽口を叩く。


「そ、そうですね。すみませんでした。」


夕映も目の前の少年の凄まじい腕前に言葉を失くし、片言で返事をすることしかできなかった。

それを見ていた明日菜がネギに近づき、耳打ちする。


「ちょ、ちょっとあんた。少しは自重しなさいよ!明らかに怪しまれてるでしょうが!!あんた自分がすんごい強いこと隠しときたいんでしょ!?」

「あっ!?そ、そうでした。すみません、アスナさん。気を使わせちゃって・・・」

「ったくもう・・・今度から気をつけなさいよ。」


ぶつくさと離れていく明日菜をネギは感謝の目で見つめていた。



だが、さっきのネギの行動に戦慄する4つの視線が・・・


「古よ、今のをどう思うでござる?」

「矢が刺さる寸前での見切り。いや・・・それよりずっと前にすでに見切っていた感じアルね。」

「ふむ。お主もそう思うでござるか・・・やはり今度の子供先生とやらは只者ではござらんな。」

「フフフ・・・確かにネ。着任初日で見せたあの動き、そして今の見切り。間違いないネ・・・」

((こいつはかなりできる!!))


2人の実力者が出した結論はまったく同じであった。


「フフフ・・・できれば手合わせしたいものアル。」

「おっと、一人占めはいけないでござるよ。それは拙者も同じでござる。」


不敵な笑みでネギを見つめる2人。どうやら、ネギに劣らないバトルジャンキーがここにもいたようである。


「(ぶるっ!!)うっ・・・なんかちょっと悪寒を感じるな。」


敵の気配を読むのはうまいくせに、こういう好奇の視線にはてんで鈍いネギであった。









ちょうどその頃、図書館島地下の秘密の部屋にて一人の男が水晶玉でこの一行の様子をうかがっていた。


「フフフ・・・学園長の予想通り侵入者がこの地下までやってきましたか。」


男の顔はフードに覆われて良く見えない。が、声の感じから若い印象を受ける。


「学園長は手出し無用とおっしゃってましたが・・・はてさて久々になかなか面白いショーが見られそうですね。・・・ん?」


男が何かに気づいたのか再度水晶を覗きこむ。


「この少年は・・・ナギ?いや、似ているがまったく雰囲気が違う。ということは、学園長が言っていたナギの息子というのはこの子・・・!!」


そして、少年を見ていた男はさらに驚くことになる。


「何でしょう?彼から発せられるこの力は・・・魔力とも違う・・・。いや、これは気か!?しかし、だとするとおかしいですね。魔法使いである彼から魔力の他にこんなに強い気の波長が出ているとは・・・それにどこか底の知れなさのようなものを感じる・・・」


男はそこまで言うと、急に押し黙り考え込む。

そして・・・


「ククク・・・おもしろい。おもしろいですよ!こんなに興味をもったのは久しぶりです。どうやら、彼の息子はとんでもない子に育っているようだ。
フフフ・・・世界樹が活性化する学園祭まで待つつもりでしたが・・・その必要はなさそうですね。」


そして、おもむろに懐から一枚のカードを取り出す。


「ナギ・・・どうやらあなたとの約束を果たすときが来たようです。」






その後、一旦昼食を取った後、トラップ地獄を抜けていくネギたち一行。

今は数百メートルはある本棚の上で危険なハイキングの真っ最中。


「ふ~、ここまで来るとさすがに人外魔境の様相を呈してきますね。」


夕映が額の汗を拭いながらぼやく。


「ほ、ホンマやな~。うちも図書館探検は慣れてる方やけど、結構しんどいわ~。きゃっ!?」


言った傍から体勢を崩し、下に落ちそうになる木乃香。

それをすぐ後ろにいたネギが支える。


「大丈夫ですか、このかさん?」

「ね、ネギ君・・・おおきにな。離してくれて平気やよ。」


ネギがそっと木乃香から手を離す。


「それにしてもネギ君すごいな~。図書館島は初めてなのにウチらにちゃんとついてこれるんやもんなあ。」

「うん。それにネギ君ったらこんなに長細い道でもすいすい進むんだもん。子供とは思えないバランス感覚だね。」


木乃香に相の手を打つようにまき絵が褒めちぎる。


「あ、い、いいえ・・・そ、そんな大したことないですよ~」

「むっ・・・!!」


照れまくりのネギに少し不機嫌な明日菜がズカズカと近づいてくる。


「ちょっと、こんなところで止まってないでさっさと行くわよ!!」

「わ!?ちょ、ちょっとアスナさん!?み、耳を引っ張らないで~!!」


そんな2人を木乃香は微笑ましく見つめていた。


「もう、アスナったら素直やないんだから~」

「何か言った?」

「ううん~別に~」








何だかんだ言いながら順調に歩を進めていく一行。

ついに彼らは目的の『魔法の本』が置かれている部屋に辿り着く。


「す、すす、凄すぎるーっ!! こんなんアリー!?」

「私、こうゆうの見たことあるよ!! 弟のPSで!」

「ラスボスの間アルー!」


彼女達の目の前に広がる光景・・・それはさながら秘法の遺跡の最深部の如き場所。

照らされる壮大な部屋、石造りでありながら所々装飾の施された壁や天井、その奥には小さな高台がありその場を守護するように佇む二体の巨大な石像。

そしてその二つの巨体にはさまれる様に置かれている物、それこそが目的の物である筈の『魔法の本』

即ち・・・


「あっ!?あれは・・・」


その本を見たネギがいきなり驚きの声を上げた。


「ど、どうしたのよネギ!?」

「あれは伝説の『メルキセデクの書』ですよ!!信じられない・・・こんなアジアの島国で見られるなんて。」

「ねえ・・・やけにあの本に詳しいじゃない?あんたさっき魔道書なんて知りませんって言ってなかったっけ?」

「あっ・・・・・・(し、しまった~!!)」


うっかり彼のウンチク癖が出てしまった。勉強はそんなにしてないくせにこういう細かい知識は覚えているという彼の変わった性格がここにきて裏目に出てしまった。


「あんた、まだ何か隠してることがあるんじゃないの?」


まずい・・・ここで魔法が実在することがばれたらそれこそタダじゃすまない。


「あ・・・そ、その・・・実は・・・僕オカルトとかに興味があって一時期その手の知識をかなり集めていたことがあったんです。それで、偶然あの本のことを覚えてたんですけど・・・。まあ結構マイナーな趣味ですから、あまり人に話したくなくて・・・つい隠そうとしてしまったんです。ごめんなさい。」


ペコリと頭を下げるネギをいまだジト~とした目で睨む明日菜。


「はあ・・・まあいいわ。とりあえず、あれがあれば最下位脱出できるのね?」

「いや・・・それはわかりませんが・・・」

「嘘か真か、実際に手に入れて確かめてやるわ!!」

「よ~し、レッツ・ゴー!!!」


何人かが本に向かって駆けだす。


「やったー!!」

「一番乗りアルーー!」

「あ~私も~」


みんな目的物を前にして気が抜けていたのだろう。

そのとき、ネギは高台から強力な魔力の流れを感じた。


「はっ!?いけない!!それは罠だ!!」

咄嗟に呼びかけるが、既に遅かった。


バリバリィ!!


次の瞬間台へと続く渡し盤が突如として割れた。

そしてそのまま奈落の底へと堕ちていく・・・


「キャーっ!!!」「いたっ!」「わっ!」


・・・ことはなかった。


「いたた・・・。」

「・・・・・・え?何これ?」


割れた渡り盤の下にはきちんとした足場があり、そこにはなにやら大きな石板が置かれていた。

石板に書かれていたもの、それは・・・


『☆英単語TWISTER☆ 』


「こ、これって・・・」

「つ、ツイスター・・・ゲーム・・・?」


明日菜とまき絵が呆然と呟いたその時、


『フォッフォッフォッフォ』


石像から不気味な声が・・・


「や、やっぱり・・・」


ネギが警戒心を露わに構えをとる。

すると、2体の石像の目に光が灯り、その巨体が動き出したのだ!!

巨大な動く石像、いわゆるゴーレムがそれぞれ剣とハンマーを構えネギたちの前に立ちはだかった。


「えええ!!石像が動いたーーー!!」「いやーー!!」「おおおう!?」

そして、石像たちはネギたちに向かって告げたのだ。


『さあ、この本が欲しくば・・・』

『ワシの質問にこた「でやあああっ!!!」へ?』


石像が言い終わる前に彼らに立ち向かってくる影がある。

そう、言わずと知れたネギ先生その人である!


『えっ!?ちょっと、ワシまだセリフ言い終わってない「問答無用!!」何でジャー!?』


ゴーレムの顔面に拳を突き立てようとするネギ。




はたして彼ら(=ゴーレム)の結末はどうなってしまうのか!?

そしてバカレンジャーたちは魔法の本を手に入れることができるのか?

それは次回を待て!!









<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!てえへんなことになったな~。ご~れむってやつは強いんか?」

ネギ「いや・・・それはなんとも。まあ、そんなこんなでツイスターゲームやることになっちゃったんですよ!!」

悟空「それじゃ、よくわかんねえな・・・あっ!?おい、みんな図書館島に閉じ込められちまったぞ!!」

???「フフフ・・・ネギ君。そう簡単には逃がしませんよ?」

ネギ「!?あ、あなたは何者なんですか!?」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI『これが試練なの?  運命を決めるツイスターゲーム』」

ネギ「何が起きようとも僕がみんなを守ってみせる!!」







あとがき

どうも~更新がやや遅くなりましたが第16話です。

今回は時間がかかった割にあまりお話が進んでおりません。

なので多分、3話くらいかけてお届けすると思います。

図書館島編は当初派手なバトルを入れるつもりはなかったのですが、書いているうちにふと思いついたので、バトルを入れることにいたしました。

相手は・・・はい・・・お気づきのようにあの司書長です。

まあ、どうなるかはお楽しみ?ということで・・・

あと、ピッコロさんが出なくてイライラしている方、もうしばらくお付き合いくださいませ。



[10364] 其ノ拾七   これが試練なの?  運命を決めるツイスターゲーム
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/09/14 17:08





それは一瞬のことであった。


「でやあああっ!!」


ネギがあの巨大なゴーレムの一体、確か剣をもっていた方に飛びかかったと思いきや・・・



ドオオオーーーンッ



ドッ、ドオオオーーーンッ



「「「「「「っ!?」」」」」」」


『ええーーーーーっ!?』


なんと、石像の頭部・胴体がほとんど同時に粉砕したのである。

そう、あの頑強な体が文字通り粉のレベルまで解体されてしまったのだ。

それにネギ以外のメンバーはもちろんのこと、ゴーレムの片割れまでもが驚きの声を隠せなかった。

そんな周囲の反応をものともせず、ネギは高台にスタッと着地するとゆっくりともう一体の石像に向き直った。


「まずは一体・・・・・・」


ぼそっと呟くネギは凄まじい殺気を振りまいていた。

そして油断なく再び構えをとる。

一方のゴーレムの方はというと・・・


『あ、あ、あれ?・・・い、今・・・何が?・・・へ?もしかして・・・もう一体やられちゃった?ワシまったく見えてないんじゃけど・・・』


突然の不可思議現象にまだ頭がついていけてないようだ。


「な、何が起こってるんですか!?いきなり現れた石像が爆発・・・そして後ろにいたはずのネギ先生がいつの間にかあそこに立っている・・・私は夢でも見てるんでしょうか?」

「き、奇遇やな~。ウチもそんな風に見えたえ~。」


目の前の現実に呆然とする夕映の言葉を木乃香が震える口調で肯定する。

そして、彼女たちとは違う意味で驚愕している者たちがいる。


「・・・古よ、見えたでござるか?」

「・・・頭への一撃は見えたアルが、その後の動きがまったく目で追えなかったネ。」

「やはりお主でも完全に見切るのは無理でござったか・・・。かく言う拙者も捉えられたのは奇跡でござった。頭へ拳を一発、その勢いを利用して体を回転させつつ胴体に後ろ回し蹴りを一発・・・。単純な動きでありながら目で追えぬほど速く、そして一発に込められた威力は計り知れぬ。あの一瞬、たった二撃であの石像を完全に破壊・・・拙者にはとても真似できぬ。」


お互いに目の前の子供の底知れない実力に戦慄する古菲と楓。

額に浮かんだ冷や汗を拭うのを忘れてしまうほど、さきほどの光景が目に焼き付いて離れないようだ。


(あれほどの動きができるとは・・・ネギ坊主は一体何者でござる?)


さらにここにも唖然としている2人がいた。


「ね、ねえアスナ。今のって・・・」

「え、ええ・・・(あ、あいつ、今度は何やったのよ!まあ私は今更そんなに驚かないけどさ・・・。でも、他の子に思いっきり注目されてるじゃない!あいつ、自分が強いこと隠す気あんの!?)」


まき絵になんと返したらいいかわからず、頭の中が嵐のように荒れ狂っているアスナ。

ネギの秘密をほんの少し知っているだけに彼女の悩みは尽きないようである。







「こんなところに安置していると言うからにはそれなりの罠があると思ってたけど、まさかゴーレムを使ってくるとは・・・迂闊でした。生徒を人質にとられると厄介だから先手をとったけど・・・正解でしたね。おかげで相手はあなただけです。これで心おきなくぶちのめせる。」


そう言ってにやりと笑うネギからは不気味さしか感じない。

そのせいか、表情が読めないはずのゴーレムが明らかに焦りの色を見せている。


『ええっ!?心おきなくぶちのめすって・・・』

「さあて、それじゃあ、とっとと終わらせますよっ!!」


ネギがまたまた飛びかかろうとしたそのとき、


『ちょ、ちょっとタンマ!!ストップ、スト~ップ!!!』


ゴーレムが両手を前に突き出すというお決まりのジェスチャーをしながらネギの突撃にストップをかける。

一方のネギも相手のあまりに必死にな訴えにさすがに突撃を思いとどまった。


「ん?どうしたんですか?これから僕たちを襲うんでしょ?だったら早く終わらせたいんですが?」

『いや・・・だから、誰も襲うなんて言ってないし!というか、話を最後まで聞いて!お願いじゃから!!』

「はあ・・・わかりました。」


ついには土下座まで始めたゴーレムをさすがに哀れに思ったネギは話だけでも聞いてあげることにした。

するとゴーレムは座った姿勢のまま話を始める。


『・・・かくかくしかじか・・・』

「ふむふむ・・・えっ!?ということは、あのツイスターゲームを全問クリアできたら本をくれるということなんですか!?」

『じゃから始めからそう言っとろうに・・・』

「それじゃあ、アスナさんたちに危害を加える気はないんですね?良かった~。僕の生徒に怪我でもあったらどうしようかと・・・」

『・・・こっちは怪我どころではないんじゃがの?』

「あはは、すみません。でも、そんな疑わしい装いをしてるそちら様にも非はありますよ?」

『・・・正論なだけに言い返せない自分が悔しい!!』


赤く光った眼からウルウルと悔し涙を流すゴーレム。

それがさらに彼に哀愁を漂わせる。


「・・・なんか、子供に土下座するゴーレムってシュールよね。」

「アスナさん・・・それを言ったらお終いです。もっとも、私はシュールさ以上に憐れさを覚えますが・・・」


バカレッドとバカブラックの言葉がこの場にいる全員の気持ちを代弁していた。


「「「「「「っていうかさっさと話を進めんかーーーい!!」」」」」」


なかなか次に展開しない状況にいいかげんうんざりしたのでツッコミを入れる明日菜たち。


「はっ!?そうでした。うっかり話込んでて今の状況を忘れていました。じゃあ、ゴーレムさん、チャッチャと始めちゃってください。」

『ゴーレムさんって・・・まあええかの。それでは、コホン・・・さあ、この本が欲しくば、ワシの質問に答えるのじゃあ!!・・・って、えっ!?何その視線!?』


気合いを入れたセリフ回しにも関わらず、明日菜たちからジト~とした視線を送られるゴーレム。


「なんかね~・・・さっきの姿見てるから今更カッコつけられてもね~。」

「・・・威厳なんて微塵も感じないえ~。」


女子中学生の心ない一言に一刀両断され、ゴーレムはショックのあまり床に両手をついて項垂れてしまう。


『あ、明日菜君はともかく木乃香にまで・・・ワシ、もう立ち直れないかも・・・』


ウジウジしているゴーレムに痺れを切らした明日菜は、


「ねえ、さっさと始めてくんない?こっちは時間がないんだから!!」

『じゃかあしいわ!!誰のおかげで落ち込んでると思っとるんじゃ!!』

「・・・ゴーレムのくせにメンドくさい性格してるわね。それにこの声どっかで聞いたような『さあて、始めようかの~』・・・って立ち直るの早っ!?」


若干引いている明日菜を余所にゴーレムがツイスターゲームを開始する。


『ルールは簡単。ワシの出す問題に英語または日本語で答えるのじゃ!答えるときは文字盤のアルファベット・ひらがなを正しい順に踏んでいくこと。なお、このゲームは全問正解でクリアとする。したがって間違った文字を踏んだ時点で失格じゃ!!』

「え、英語~~!?わ、私無理だよ~~!!」

「アイヤ~私も苦手アル。」

「何気にハードなルールでござるな。」

「皆さん、今更泣き言を言っても仕方がないです。ここは本を手に入れるために向こうのルールに乗ってあげましょう。」

「そうと決まればやってやるわよ!!みんな!!」

「「「「「エイ・エイ・オーーーーー!!!」」」」」

「アスナ~頑張り~」

「皆さ~ん、わからなくなっても落ち着いて!大丈夫皆さんなら落ち着けば必ずできます!」

『それでは、第一問。difficultの日本語訳は?』

「ええっ!?なんだっけ~??」


いきなりの難問に焦り出すバカレンジャーたち。


「easyの反対ですよ!!アスナさん!!」

「あっ、そっか!答えは『むずい』ね!!」


答えに辿り着くとすぐに『む』『ず』『い』と文字を踏んでいく。


『むむっ!?正解じゃ!』

「やった~!!」

『喜ぶのはまだ早いぞい。何せ一問目なのじゃからな。では、二問目。・・・・・・』









こうして着々と出題される中、バカレンジャーたちは苦悩しながらも問題に正解していく。

いよいよこのゲームも佳境を迎えていた。


「あたたたたたたっ!!!」

「痛い! いたいです・・・・・・」

「きゃぁーーー!!」

「も、問題に作為を感じるです・・・・・・。」

「死ぬぅ!! 死んじゃう~~~~!!」


いつの間にかゴチャゴチャこんがらがり、保持することも困難な体勢に追い込まれていたバカレンジャーたち。


『フォッフォッフォ。では最後の問題じゃ。dishの日本語訳は?』

「えっ・・・ディッシュ?」


わからず古菲が呟く。


「ホラ!食べるやつですよ!!食器の・・・!!!」

「メインディッシュとか言うやろ?」


ネギと木乃香の必死のヒントのおかげか明日菜が閃いた。


「わ・・・わかった!『お皿』ね!!」

「『おさら』・・・OK!!」


体勢が辛いせいか、明日菜そしてまき絵が必死に手足を動かす。


「「お!」」


「「さ!」」


苦しい体勢に耐えながら、早くこのゲームを終わらせようと2人は急いで文字に手足を置いていく。

・・・だがそこで焦ったのがいけなかった。

別に時間制限が設けられているわけではなかったのだから、ネギの助言どおり『落ち着いて』やればあんな事態にはならなかったであろう。


「「ら!!!」」


しかし、踏んだのは『る』の文字。


「「・・・・・・」」

「「「「・・・・・・」」」」


辺りを満たす沈黙。


「・・・おさる?」

『ハズレじゃな~フォーッフォッフォッフォッフォ!!』

「違うアルーーー!!!」

「アスナさんーーー!!」「まき絵殿ーーー!!」


痛恨のミス。まさかの最後の一文字の踏み間違え。

不正解を出した明日菜たちにゴーレムはゲッヘッヘと厭らしそうに笑いながら(実際の表情はわからないが明日菜たちはそう感じた)判定を言い渡す。


『不正解者には・・・お仕置きだべ~!!』


そして無情にもゴーレムの持つハンマーが地面に振るわれ・・・


「キャーーー!!!」「や、やばいです~~!!」



ダアアアアアンッ



轟音とともに明日菜たちの足場を崩し、そのまま一行は奈落の底にまっさかさま~



ガシッ



『・・・へ?』


・・・ということにはならなかった。


『ど、どうなっておるんじゃ!?』


なんと、ゴーレムが振り下ろしたハンマーをネギが寸前で受け止めていた。・・・片手で。


「い、いつの間にあんなところへ・・・」


その一瞬動きを捉えることができなかったことにまたしても楓が驚愕する。


『ぐ・・・くそっ!この・・・っ!!』


いくらゴーレムが力を入れようともハンマーはびくともしない。


(・・・な、なんというパワーじゃ!・・・やはりあの一体を葬り去ったのはマグレではなかったというのかっ!?)


ネギの力に恐怖を感じ始めたゴーレム。

しかし、それは既に遅かった。


「・・・話が違うじゃないですか。あなたはさっき約束しましたよね?生徒には危害を加えないって。」


どこか重みのある声で話すネギ。さっき約束までしたんだっけ?と思うかもしれないが、そんなことはネギには関係ない。


「確かにこれはゲームとはいえ、大事な秘宝を賭けた大勝負。こちらが負ければ多少の罰は仕方ないかもしれません。しかし、これはいくらなんでもやりすぎでしょう?」


グッとハンマーを掴んだ手に力が籠もる。

すると、受け止めたハンマーの先に徐々にピキピキと罅が入り始めた。

怒っているのか、悲しんでいるのか・・・俯きかげんで目が前髪に隠れて表情が読み取れない。


「ど、どうしたん?ネギ君・・・」

「ね、ネギ先生の様子がおかしいです。」

「ね、ネギ君がこわいよ~~!」

「ね、ネギ・・・」


ネギのただならぬ雰囲気に声をかけることができず立ち尽くすしかない明日菜たち。


すると・・・


『ぬおっ!?こ、これは・・・』

「なっ・・・!?」

「っ!?・・・あ、アルーーー!?」


対峙するゴーレムはもちろんのこと楓、古の2人も驚愕した。

ネギの体中から普段押さえつけていた気が漏れ出したのである。

それは一見水蒸気のようなものにしか見えないが、見る人が見れば驚くであろう。その類い稀なる密度の濃さに・・・


「ハァァァァァ・・・」


大きく息を吐き出すネギ。それによりさらに気が高まる。

それはもはや常人が見ても違和感がわかってしまうくらいにまで、ネギから強烈な威圧感が放たれていた。

グッともう一方の手で強く拳を作る。


瞬間・・・



バッコオオオーーーン



高速で振るわれた拳でハンマーが粉々に砕け散った。

そのあまりの威力に余波でゴーレムの両手も巻き込まれる形で吹き飛んでしまう。


『あ、あぁ・・・』


手首から先が無くなってしまった両腕を見ながらゴーレムは声を震わせる。


「さて・・・いいかげん終わりにしましょうか。この一撃でね・・・」


ネギが腰だめに構えると体に気が纏わりつく。


『ちょ、ちょっとまっ「言い訳無用。後悔は砕け散ってからにしてください。」ひいいいっ!?』


ゴーレムの命運もここまでか!?


「だあああっ!!」


ネギが踏み込んだその瞬間


「っ!?」


足元に別の魔力の流れを感じ、咄嗟に前に出るのを躊躇ってしまう。


その一瞬・・・



ドゴオオオンッ



「「!?」」「キャーーーっ!!」「ええっ!?な、なによこれえっ!?」「ひゃぁぁぁぁぁぁ・・・!!!」


突如明日菜たちの足場が崩れ去り、彼女たちは反応する間もなくあっさりとその場所から落ちていく。


「アスナさーーーん!!くそーっ!!」


ネギはゴーレムへの攻撃を断念し、明日菜たちを助けに自ら穴に飛び込んでいく。


『む?だ、だれじゃ!?こんな仕掛けをしたのは?っておわっ!?』


ゴーレムの足場も崩れ、一行と同様まっさかさまに落ちていく。








「くっ、間に合え!!」


ネギが気を纏わせて明日菜たちの元へ急降下する。


「あ、あれは綾瀬さん!よしっ!」


落下中のショックで気絶している夕映の姿を見つけたネギはすぐにそこに追いつくと、お姫様抱っこの形で抱え込む。


「他のみんなの姿が見えない・・・とりあえず綾瀬さんだけでも上に・・・」


そう思い、舞空術で上昇しようとすると、


「むっ!?」


突然身体が強烈な力で下に引っ張られた。


「な、なんだ・・・体が急に重く・・・はっ!?まさか、これは魔法・・・」


結論に達しようとしたそのとき、またも体にさっきの倍以上の力が襲いかかる。


「ぐわっ!?うわあああああっ!!」


不意打ちとも言える一撃に対応できずネギが墜落していく。

こうしてネギたちの姿が部屋に開いた穴から完全に見えなくなったちょうどそのとき・・・


「ふう・・・なかなか梃子摺らせてくれますね~。」


部屋の柱の陰からフードをかぶった男が現れた。


「まさか、私の重力魔法を受けてもあの程度とは・・・大した力をお持ちのようだ。」


穴を覗き込みながら感心したように呟く。


「しかし、学園長のあの怯えよう・・・ゴーレムに憑依していたとはいえなかなか面白いものが見れました。クフフフフ・・・」


フードの下からうかがえる口元は何か悪だくみが成功したかのように歪んでいた。


「それに彼が見せた力・・・本当はあんなものじゃないんでしょうねえ・・・フフフフ・・・ますます興味が湧いてきましたよ。ネギ・スプリングフィールド君。」


男がパチンと指を鳴らすと、穴が何事もなかったかのように塞がった状態で修復された。


「ふむ。例の本は・・・学園長と一緒に落ちていきましたか。もっとも、学園長のことですからおそらく偽物なんでしょうが・・・まあ、私には関係ありませんがね。」


男は穴が開いた場所以外も入念に修復すると、


「では私もそろそろ下に向かいましょうかね。」


下に魔法陣が現れると男は光に包まれ部屋から姿を消した。








「ぐっ、いたたたたた・・・。ここはどこだ?」


うつ伏せの状態で覚醒したネギは自分が落下した辺りを見回す。

近くには明日菜を始めとするバカレンジャーの面々そして木乃香が運よく大した怪我もなしに倒れていた。


「あったたた~~何よ今の~」

「ふえ~腰打ったあ~~!!」

「拙者も今度ばかりはダメかと思ったでござる。ニンニン。」

「ほんとヨ~。私も鍛えてなかったらやばかったアル~」

「あれ?でもそれだと鍛えてないウチとかが無事なのはおかしいとちゃうん?」


思い思いに先ほどのダイビングの感想を述べていく。


「あれ?綾瀬さんは?」


夕映の姿が見えずネギが疑問に思っていると・・・


「あの・・・ネギ先生すみません。」


頭上から声が聞こえる。そう言えば背中のあたりに少し重みを感じる。

そう思い首だけを後ろに向けると、

夕映がネギの背中にお馬さんに跨っているかのように乗っかっていた。


「あ、あやせさんんっ!?」


背中に女性らしいやわらかい感触を感じ、顔を赤らめてしまうネギ。


「ご、ごめんなさいです。す、すぐにどきます。」


夕映も恥ずかしくなり、咄嗟にネギの上から立ち上がろうとする。


「ひゃうんっ!?」


が、腰が抜けてしまったのかすぐにネギの背中に尻もちをついてしまう。


「あ、あわわわっ」


意外と初心なネギにはこう言う経験は少し刺激が強かったらしい。

顔の赤みがさらに増す。


「はあ・・・まったく何やってんのよ。」


呆れた明日菜がネギの背中から夕映を立たせてやる。


「す、すみません、アスナさん。」

「あんたね・・・一応男なんでしょ?これくらいできるでしょうが。」

「いや・・・その・・・僕あまりお姉ちゃん以外の年上の女の人と接したことがなくて・・・その・・・」

「ふ~ん。じゃあ私はその年上の女の人には入らないというわけか!このチビすけは~~!!」

「あ、あふなふぁん!い、いふぁい!!ひ、ひっふぁらないふぇ~~!!」


ネギの口元を両手で左右に引っ張り始める明日菜。ネギも彼女のこう言う弄りにはいまだに苦手意識がある。


「アスナ~それくらいにしいや~。それより、ここはいったいどこなん?」

「そうよ!こんなガキに構ってる場合じゃなかったわ!!ここがどこかわからないと図書館島から出られなくなっちゃうかもしれないし。」


明日菜がネギから手を離す。ネギはヒリヒリする頬をさすっている。


辺りをよく見ると、魔法の本の置いてあった部屋に行く途中で見られたような本棚があちこちに見られた。


「こ、ここは・・・もしかすると幻の『地底図書館』かもしれません。」

「ちっ『地底図書館』っーーー!?」


冷静さの中に若干興奮を織り交ぜた様子で夕映が語る。


「地底なのに暖かい光に満ちて数々の貴重品にあふれた、本好きの楽園と言う幻の図書館・・・・・・」

「へ~・・・、確かに図書館にしては広いけど。」


瞳を煌めかせ嬉しさに体を震わせる夕映。

他の者達も、感心した様子で興味深そうに辺りを見回す。


「ただし、この図書室を見て、生きて帰った者はいないとか・・・・・・」

「えーーーーーっ!?」


行き成り声のトーンを変え、その目を怪しく光らせながら夕映はそんな事を告げる。


「じゃあ、なんで夕映が知ってるアル?」


古菲のもっともな突っ込みに夕映は、


「私も始めはただの噂程度に思っていたのですが・・・この目で見て確信しました。ここがそうだと私の勘が告げています。」

「「「「って結局勘かよ!?」」」」


他の面子に突っ込まれる夕映。

彼女たちが埒も明かない話し合いを展開している中、ネギはただ一人天井を見上げて考えていた。


(さっきの妙な力はおそらく魔法によるもの。ということはこの一連の出来事は誰かが裏で糸を引いているということだ。すると、黒幕の目的は僕らをここに連れて来ること・・・。そう考えるとこっから出るのは簡単にはいかないと見た方がいいな。舞空術で無理やり上を突破する手もあるけど・・・相手が対策をしてないとは限らないし、これを見せると魔法の秘匿に引っかかるかもしれない。この手は避けた方がいいな。)

いろいろ考えたすえ、安全な解決法が見つかるまで下手にここを動かない方がいいという結論に達したネギ。

そのことを皆に伝えるため、ある事を提案する。


「皆さん。こんなところで話していても時間の無駄です。帰る方法はすぐに見つかるわけじゃないですから焦っても仕方ないでしょ?皆さんが悩んでいるこのときも試験まで刻一刻と迫ってるんです。ですから、ここは諦めないで帰れることを信じて、試験の勉強でもして時間を有効に使いましょう。」


ネギの尤もな意見に賛成するバカレンジャーたち。

幸い図書室なだけあって教科書の類には事欠かないため、すぐにでも勉強ができる体制が整った。

こうして一行は『バカレンジャー対象大勉強会』を開始することになった。

はたしてネギたちは試験までにこの図書室から抜け出すことができるのか!?

そして、あの謎の男の正体とは!?

深刻になっていく事態の次なる展開をご覧あれ!







<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!大変だ~!試験まであと1日だぞ。」

アスナ「あっ、またあのゴーレムよ!?早く逃げなきゃ!!」

ゴーレム「フォッフォッフォ。逃がしはせん。覚悟するんじゃ~!!」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI『許さないぞ!ゴーレム!!  ネギ、怒りの魔閃光!!』」

ネギ「僕はもう・・・本当に怒ったぞーーっ!!」






あとがき

今回はまさかの2話連続投稿だZE☆・・・仕事人はテンションが高いとついやっちゃうんだ♪

・・・というのは半分冗談で実際は1話にするところを書いているうちに長くなってしまったので2話に分けただけです。

A・Bパートに分けることも考えたんですが、気分的に2話にしたくなったのでこうなりました。

なのでこの調子だと図書館島編はまだ終わる気配がない・・・orz

ほんとにすみません。

このあとすぐに2話目をお送りしますが・・・あまり話が進んでないかも・・・



[10364] 其ノ拾八   許さないぞ!ゴーレム!!  ネギ、怒りの魔閃光!!
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/09/14 17:28




ネギたちが地底図書室に迷い込んでから時は進んで試験まであと一日を残すこととなった。

今明日菜たちは揃って水浴びをするということで席をはずしている。


「とうとう前日になってしまった。さて、いまだに良い方法が思いつかない。どうする?いっそのこと、魔法がばれることを承知で強行突破をしてみるか?」


落ち着きのあるネギもさすがに追い詰められていた。

ここにきて『魔法の秘匿』というのがやはりネックになっている。


「魔法を使ってないのに気にしなければならないなんて・・・何のための力なんだ。」


己の無力さに歯ぎしりするネギ。しかし、焦っても仕方がない。

ギリギリまで脱出のチャンスを待つのだ。今はそれしかない。

それに、明日菜たちにも勉強の成果が着々と現れ始めている。こういう逆境に追い込まれた方が勉強でも強くなれるタイプがいるというが、彼女たちがまさにそれであった。


「今のアスナさんたちなら魔道書なんかなくても十分いい成績がとれる。問題は試験当日に間に合うかどうか・・・」


再び考え込むネギ。しかし・・・


「はあ。やめだやめだ。ウジウジ悩んでても仕方ない。ここは気分転換に体でも動かすかな。」


そう言うと、アスナたちのいる水辺の方へと歩きだした。







「アスナさん。ネギ先生は何者なのですか?」


水浴びの最中夕映が明日菜に尋ねた。


「えっ!?い、いきなり何言い出すのよ、夕映ちゃん。」


夕映の質問にしどろもどろになる明日菜。


「どうもこの数日。ネギ先生に対するあなたの態度が気になっていました。あの部屋で見せたネギ先生の強さ、素人の私から見ても尋常でないことくらいわかります。アスナさん、あなたは彼の秘密を何か知ってるのではありませんか?」


「うっ!?」


夕映のピンポイント射撃に明日菜も図星をさされた顔をする。


「あっ、それウチも思った!ウチはアスナやネギ君と同室やのに今まであんな強いなんて知らなかったんよ。アスナ・・・ウチに隠してることあるんやない?」


木乃香にまで言われ、さすがに黙っているわけにはいかなくなった明日菜。


「う~ん・・・あいつがあそこまで強いのは『気』の使い手だからだと思うんだけど・・・」

「アスナ~『気』って何なん?」

「えっ・・・ええと・・・く、くーちゃん!!」


説明が苦手な明日菜が古菲に助けを求める。


「『気』っていうのは言ってみれば人間の体に秘められた生命エネルギーのことアルね。普通の人はあまり意識してないけど、修行を積むことによってこの『気』を操ることができるようになるヨ。武道家の中には私を含めて『気』の使い手が存在し、『気』が操れるとすんごく強い技を出せるようになるネ。こんなふうに・・・」


すると、古は気を拳に乗せて思いっきり正拳突きを放った。



ザッパアアアンッ



古が拳を放った先では激しい水しぶきが上がる。


「ふええ~すごいんやな~」

「お、驚きました・・・こ、こんなにすごいものなのですか。」

「ね、言ったでしょ?ネギってああ見えて武術を習ってたらしいし、その時に『気』の使い方でも教わったんじゃないの?多分くーちゃんだってあれくらいのことはできちゃうんでしょ?」


すると古菲は苦笑交じりに語る。


「アイヤ~確かに私も気はかなり使える方だけど・・・ネギ坊主から発せられる気は私の想像をはるかに絶してるネ。一体どれほどの鍛錬をしたのか・・・もしかしたら、私よりよほど強いかもしれないアル。」

「え・・・そ、そうなの?あんなに強いくーちゃんが敵わない・・・?」


信じられないという表情で古菲を見つめる明日菜。


「フフフ・・・しかしだからこそ燃えるヨ!!自分より強いかもしれない相手と戦う・・・武道家としてこれほどの喜びはないネ。正直この麻帆良では楓たちくらいしかまともに戦える相手がいなくて困ってたところアル。試験が終わったら是非ともネギ坊主と・・・」


オラわくわくしてきたぞ~という顔で瞳にメラメラと闘志を燃やす古菲に明日菜たちはドン引きである。


(で、でもくーちゃんより強いとなると、あのガキんちょ、いよいよもってわからないわね。あんな小さい体であの強さ・・・確かに私もどこかおかしいと思ってたのよね。そう・・・なんか武術とかそんなレベルでは説明できない・・・私らの想像を超えた何かがあるんじゃないかしら。・・・これは後でまたとっちめる必要がありそうね。)


内心で新たに決意する明日菜であった。

と、ちょうどそのとき。


「キャーーー!!!」

「っ!?あの声はまきちゃん!?」


まき絵の悲鳴を聞き、明日菜たちが駆け付けると、


「ああっ!この間のゴーレム!!一緒に落ちてきたんや!!」

「しかも砕けた手が治ってるです。」


ゴーレムに掴み上げられたまき絵の姿があった。


「うわ~ん!!助けて~ネギく~ん!!アスナ~!!」

『フォ~フォッフォッフォッフォ!!さっきはよくもやってくれたの~』

「って、あれはネギがやったんであって私たちは関係ないでしょ!」

『そんなのは問題にならん。これはワシなりのけじめじゃ。もうお前たちはここから出ることは叶わんぞ!観念するのじゃ。・・・迷宮は歩いて帰ると三日はかかるしの~』

「三日!?」

「それじゃ試験に間に合わないアル~!!!」


試験まで残り一日を切っている。この状況でそれはあまりにも酷過ぎる。


「みんな!諦めたらダメよ!ここは何としてでも出口を探すのよ。絶対に明日の試験までにここを抜けだしてやるんだからっ!!」


気を取り直した明日菜の一言で全員の魂に火が灯る。


『フォ~ッフォッフォッフォ、無駄じゃよ。出口はない。』


それを嘲笑うかの如くゆっくりと近づいてくるゴーレム。


「ん・・・?あれはっ!?」


状況を見守っていた夕映が何かに気がついた。


「みんな!あのゴーレムの首元を見るです!」


夕映が指差したもの、それは一冊の書物。


「あっ!メル・・・何とかの魔法の書!!」


その本こそバカレンジャーたちが求めてやまなかった魔法の本であった。


「あの本をいただきます!まき絵さん!楓さん!古菲さん!」

「「OK~バカリーダー!」」


リーダーの指示に楓(いつの間にか現れた)と古菲がノリ良く答える。

まずは先手必勝とばかりに古菲が勢いよく飛び出す。


「ネギ坊主ほどではないにしろ、私も中国武術研究会の部長アル!舐めてもらっちゃ~困るヨ!!」


踏み出す足に力を込め、腰に重心を置いての体重移動。


「ハイィッ!!」


見事に流れに乗った胞拳が放たれた。

愚鈍なゴーレムにその拳を避わす術はない。

吸い込まれるように命中するそれは轟音と共に石造りの足を砕き罅を入れる。


『フォッ・・・!?』


巨体を支える足を強撃され、その意外にも大きな衝撃によりゴーレムはそのバランスを崩す。


「アイ~・・・ヤッ!!!」


続けざまに跳躍。 繰り出される蹴りが、まき絵を掴んでいる腕を正確に打ち抜いた。


「キャッ!!」


蹴り抜かれた腕はあっさりと力を失い、それに伴い当然とまき絵はその身を宙へと投げ出される。


「よっ」

『フォッ!?』


それを何時の間にか跳んでいた楓が、これはまた絶妙なタイミングにて掻っ攫う。

まさに連携プレーの極地・・・さらにおまけとばかりに、


「えいっ!」

『あっ・・・しまっ』


まき絵のリボンがパシッと魔法の書を掴みとる。

新体操部に入ってるだけあってなかなか鮮やかな手並みである。


「キャー!!魔法の本取っちゃったよ~!!」


楓の腕の中で歓喜の声を上げるまき絵。


「ス、スゴイな~」

「ええ、まったく・・・バカレンジャーは体力勝負には本当に強いです。」


本も取ったし、まき絵も奪還した。後は用はないとばかりに一行は一目散に逃げ出す。


「ま、待つのじゃ~~~~!!」


慌てて追いかけて来るゴーレムだが、その巨体故に動きが遅く中々に追いつけない。


「よし!目的のブツは手に入れたことだし、とっととズラかるわよ!!」

「ええ。それにあのゴーレムの慌て様・・・どこかに地上への近道があると見ました!!」


そうして逃げ回った挙句、はたして夕映の予想通り、滝の裏に隠された非常口を発見する。

ご丁寧に非常口のマークが付いているあたり、すごくわかりやすい。


「うっ・・・!?何よこれっ!?」

「扉に問題が付いてるよ!!?」


ようやく扉を見つけたは良いが、どうにもその扉は書かれた問題を解かないと開かないようになっているらしく、力ではビクともしない。(まあ、ネギなら力でもどうにかなったかもしれないが・・・)

バカレンジャーが頭を悩ませているその間にゴーレムの魔の手が迫る。


『観念して捕まるんじゃ!!』


滝を覗き込むようにしてその手を伸ばそうとする。


「あっ、開いたっ!!」


本を持った古菲があっさりと問題に答え、扉が開いた。

しかし、少しばかり遅かったようである。


「はっ!?キャーー!!」

『フォッフォッフォ・・・まずは一匹捕まえた~っと』


彼女たちにゴーレムの手が届きそうになったそのときである!


『むおっ!!?』


ゴーレムの足が突如強い力で後方に引っ張られ、前のめりに倒された。


『な、なんじゃ!?』


ぐるりとゴーレムが首を回すと、


『なっ・・・!?』

「ね・・・ネギ・・・!!」

「ネギ先生・・・っ!」


ゴーレムの巨大な足を抱え込み、引き倒したネギの姿があった。


「ここは僕に任せて、皆さんは地上に戻ってください!!」

「で、でも・・・それじゃ、ね、ネギ君は?」

「僕は大丈夫です。それより早く行ってください。ここにはゴーレムより厄介な敵が・・・」

「えっ!?それは一体どういうことですか!?」

「いいから!早く行ってください!僕を困らせたいんですか!!」


着任初日で見せた怒気に匹敵する威圧感でもって彼女たちを黙らせるネギ。

まき絵なんかはちょっぴり漏らしてしまったりする。


「長瀬さん、古菲さん。皆さんの護衛をお願いします。」

「・・・承知した。」

「アイヤ~、任せるアル。」


ネギの瞳の奥の強い意志を感じ取った2人は強く頷いた。


「ネギ・・・たくっ、早く追いついてきなさいよ!みんな、行くわよ!!」


明日菜の号令で階段を駆け上がっていく一行。

彼女たちの姿が見えなくなったところでネギが気を解放し出す。


「今・・・僕はとっても怒っています。またしてもアスナさんたちを怖がらせようとするなんて・・・許せない!!」


ギンッとゴーレムを睨みつけるネギ。

その眼を見たゴーレムが奥から湧いてくる恐怖に巨体を震わせた。


『じゃ、じゃから・・・その・・・これは・・・君たちへの試練であって・・・』

「そんなことは関係ありません。さっきも言ったでしょ?“やり過ぎ”だって。だから僕ももう我慢の限界なんです。」

『えっ!?ちょ、ちょっとまっ「待ちません。」ええーーーっ!?』

「どうやらここに事件の黒幕が来ているみたいですからね。いつまでもあなたに構ってられないんです。あなたのボスなんでしょうが・・・。悪いですが、さっさと終わらせます。」

『えっ!?黒幕って・・・ワシそんなの知ら「言い訳は結構・・・」何故ジャー!?』

「今僕はとても気が立ってるんだ。これ以上手を煩わせないで。」


口調も変わり、殺気がさらに強くなるネギ。

思わずゴーレムも逃げようとするが、どうすることもできない。


「はあああああっ!!」


ネギが思いっきり気を解放した。


「そおおおれえっ!!」


そして、足を掴んだまま体をひねってゴーレムを上空に投げとばす。

ものすごい勢いで上空に打ち上げられるゴーレム。

その巨体に狙いを定めて、ネギが頭上で両手を組む。



「これが、僕の・・・怒りだぁぁぁ!!!」



両手に光が収束されていく。



「魔閃光―――!!!」



巨大なエネルギー波が上空の的目がけて撃ちだされた。


『な、なんじゃあこれはぁぁぁーーー!!?』


ゴーレムが叫びながら激しい光に包まれる。


『な、なんでワシだけ・・・こうなるのーーー!?』


断末魔の叫びとともにゴーレムは跡形もなく消え去った。








ドゴオオオオオンッ



「な、なに~っ!?」

「キャーーーッ!!」


バカレンジャーたちが地上に繋がる螺旋階段を上っていく途中で、轟音とともに大きな揺れが起こった。


「い、今の揺れは・・・」

「どうやら下の方から来ているようでござるな。」


途中で足を挫いてしまい、楓に抱えられている夕映の呟きに楓が答える。


「ネギ・・・」


下の階を心配そうに見つめていた明日菜は決心する。


「私、やっぱり連れ戻してくる!!」

「あ、アスナ~!?」


階段を下り始めた明日菜を木乃香が引き留めようとする。


「大丈夫。すぐに戻ってくるから。このかたちは先に行っていて!!」


そう言ってすごい勢いで下っていく。


「あ、アスナ・・・行ってもうた・・・」

「仕方ありません。このかさん。私たちは地上で彼女たちが来るのを信じて待ちましょう。」


夕映の言葉に木乃香も力なく頷く。


「大丈夫。あの2人なら無事に帰ってこれますよ。」

「・・・うん。そうやね・・・。」








ゴーレムが消え去った後の上空をしばらく眺めたあと、ネギは周囲を見回す。

辺りは人っ子一人見当たらない・・・そんな風に思えるのだが・・・

眺めているうちにネギはある岩陰一点を睨みつけながら叫んだ。


「さっきからこちらを覗いてるのは分かってるんです。いいかげん、出てきたらどうですか!!」


すると、岩陰からあのフードの男が現れたではないか。


「フフフ・・・これは驚きました。いつから気づいていたんです?」

「僕が彼女たちに先に行くよう言ったときにはすでにこの近くにいることは分かっていました。だから、彼女たちに先に行かせたんです。これから先は魔法の秘匿に引っかかると思いますから。」


そう言って、指をコキコキ鳴らし始めるネギ。


「それはそれは・・・そこまで気を使っていただけるとは、こちらとしてもありがたいですね。」


「白々しい。初めから隠す気なんてないんでしょ?僕に魔法を放った時点で・・・」

「おやおや、これは手厳しい。しかし、あれをまだ根に持っているとは・・・そんなことではこれからの人生やっていけませんよ。」

「ハハハ・・・ご心配なく。あなたよりは上手く生きていける自信はありますよ?」


向かい合った2人の間で繰り広げられる毒舌の応酬。


ネギなんかは子供らしくなく額に青筋まで浮かべている。よっぽどあの一撃を喰らったのが悔しかったようだ。


「それよりさっさと始めましょうよ。こっちは帰りを待ってる人たちがいるんですから。」

「フフフ・・・気の早い方だ。私が戦いに来たとは限らないじゃないですか。」


相変わらず余裕の笑みを浮かべている男にネギが答える。


「確かにその可能性も否定できませんが、僕に攻撃した時点でそれはないと思いました。それになにより・・・」


ネギがピッコロから教わった独特の構えをとる。


「僕はどういうわけか・・・あなたのその余裕ぶった顔が・・・気に入らない!!」


ダンッと一歩足を踏み込むと、ネギの体中から気が溢れ出す。


ブワッという衝撃による風が男にも届く。


「むっ・・・!?これは・・・確かに侮れませんねえ・・・では」


そう呟くと男が手を高く掲げる。


「ん?」


何をするつもりだ?とネギが思った次の瞬間。



ズウゥゥゥゥンッ



「っ!!?」


身体に急に巨大な力が伸しかかり、



ズドオオオオオオンッ



大きな地響きとともに土煙が舞い上がった。


「フフフ・・・先日のさらに倍以上の威力ですよ。これでは下手したら死んでしまうかもしれませんね。」


男が技の破壊力を見ながら淡々と述べる。


「そうか・・・やはり重力魔法でしたか。道理で体が重くなるわけだ。」

「っ!?」


背後からの声に驚愕する男。

男の後ろではネギが傷一つない状態で平然と佇んでいた。


「・・・いつの間に後ろに廻っていたんです?まったく気配を感じませんでしたよ。」

「いえいえ、ただ高速で移動して回り込んだだけですよ?」

「・・・これはまた・・・油断できない御方だ・・・」


余裕の表情を崩さなかった男が初めてはっきりと顔を引きつらせた。

今度はネギがしてやったりという表情で男を見ていた。


「子供でそれほどの腕をお持ちとは・・・いやはや驚きの連続ですね。」

「いや・・・まだこれでも序の口ですよ。」

「ほほう・・・それは楽しみだ。さすがは英雄の息子といったところでしょうか。ねえ、ネギ・スプリングフィールド君?」


男の言葉にネギが驚きを露わにする。


「っ!?なぜ僕の名前を?」

「そりゃあ知ってますよ。十年来の親友ナギの息子のことなんですからね。」

「えっ!?ま、まさか・・・お父さんを知ってるんですか!?」


さらに冷静さを失ったネギは口から無意識に問いを出していた。


「ええ。ナギとは昔同じパーティーを組んだ仲ですから。」

「お、お父さんの・・・仲間・・・?」


衝撃の真実を告げられまともに反応できなくなるネギ。


「・・・ところでネギ君。お父さんに会ってみたくはありませんか?」

「え・・・?」


またまた突然男が言いだしたことに、ネギの頭がついていけない。


「大戦後、まだ悪の芽が完全に摘み取られていないと悟った彼は我々仲間と別れを告げ、一人旅立ちました。そして10年前・・・旅の途中で己の死をどこかで予感していた彼が息子に宛てた遺言を残してたとしても不思議じゃないでしょ?」

「あの・・・それは、どういう・・・?」

「まあ、それは実際にご覧になればわかりますよ。もっとも私の本来の目的はこっちだったんですからねえ。」


にこりと笑った彼が懐からカードを取り出す。


「あ、あれは・・・!?」


『仮契約カード』・・・魔法使いが従者と仮契約(パクティオー)した時に発生するカードである。従者はこのカードから己のアーティファクトを取り出すことができる。


「アデアット!」


すると、男の周囲を数多の本が取り囲んでいた。


「あ、あれが・・・あの人のアーティファクト・・・」


驚愕するネギを余所に男はそれらの本の中から一冊を手にとる。


「これは『半生の書』といいまして、特定の他者の半生を記したものです。それならただの人生録ですが、このアーティファクトの面白いところは、記録した人間の性格・感情・記憶を記録することができるんですよ。正確にね・・・」


そして、ネギにの目を見つめて告げる。


「この本にはナギの記憶が眠っています。今からこれを一度だけ再生させます。巻き戻しは効きませんから注意してくださいね。」

「えっ・・・あの、ちょっと・・・」


勝手に話を進める男にネギが戸惑っていると・・・


「それでは久々の親子の対話・・・楽しんでください・・・」


男が光に包まれる。

あまりのまぶしさにネギも目を覆ってしまう。

ようやく光がおさまり、ネギが目をあけると・・・


「あっ・・・・・・!?」


忘れもしないその姿。

ネギにも引き継がれているその赤い髪。

魔法使いらしくローブを身にまとい、

手にはネギに渡されたはずの大きな杖まで握られている。


「あ、ああ・・・・・・」


ネギは目の前の光景に呆然としてまともに声も出せない。

そして、目の前の人物は不敵な笑みを浮かべ、


「よお、お前がネギか?」

「お、お父さん・・・な、なんで・・・」


そう・・・それはまぎれもなく、ネギが探し求めていた父ナギ・スプリングフィールドであった。




今6年の時を経て父と子が再会する。

しかし、それははたして感動的なものになるのか・・・それとも新たな悲劇を呼ぶのか・・・

それはまだ誰にも分からない。







<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!ついにネギも父ちゃんと会えたんか~。良かったな~」

ネギ「な、なんでここにお父さんが・・・」

ナギ「でっかくなったな~ネギ。どうだ、この俺と戦ってみないか?」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI『これも運命の悪戯か!?  激突する親と子』」

ネギ「お父さんとの戦い・・・でも素直に喜べないのはなんでだろう?」








あとがき

本日2話目でございます。

原作ならここで終わるはずなのに、本番のバトルがここからなのがこの作品の見所です・・・なんて格好良いこと言ってますが、実際は作者の力量不足で無駄に長くなってるだけです。すみません。

さっきから謝ってばかりですが、いいかげん、自分の妄想にストップをかけないといつまでたっても話が終わらなくなってしまう・・・

とりあえず、長くてもあと2話でおわりにするつもりです。・・・って予定よりだいぶ長っ!?本当に大丈夫かな?




[10364] 其ノ拾九   これも運命の悪戯か!?  激突する親と子
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/09/22 14:26




「よお、お前がネギか?」

「お、お父さん・・・な、なんで・・・」


信じられない光景にネギはしばし言葉を失う。

6年前・・・村が襲われたあの日に再会し、そして自分が知らぬ間に去ってしまったあのときから、その存在を片時も忘れたことはない。

魔法使いの資格を得たらすぐにでも探しに出かける。・・・そのつもりだった。

だがしかし、こんなところで再び会うことになるとは・・・どうして予想できただろうか?

ネギの体は震えていた。

喜び?・・・確かにそれもあるだろう。しかし、それ以上に目の前の衝撃に思うように体が動かせないのだ。

本当にこの人がお父さん?お姉ちゃんやピッコロさんの話では旅をしてるのではなかったか?それがどうしてこんなところに?


「お~い。大丈夫か~?」

「あうっ!?」


考えに沈んでいるところでナギ?らしき人物のデコピンを喰らって覚醒するネギ。


「ったくよ~、せっかくの再会なのに少しは嬉しそうな顔したらどうなんだよ。」

「ご、ごめんなさい。」


ネギの反応が面白くないのかナギがいかにも不機嫌そうに言う。

だがどこか世話の焼けるやつと言った苦笑を浮かべた顔に温かみを感じた。


「お、お父さん・・・なんですか?」

「ああ・・・待ってたぜ、ネギ・・・」


ネギの頭を撫でながら笑ったナギ。

その顔を見て本当に父だと確信し、ネギの頬には自然に涙が伝う。

ナギの裾にしがみつき、腹にぶつかるようにして抱きついた。


「ウワ~ン!!おどうざ~~ん!!」


泣きじゃくるネギ。だが、その泣き声の中には嬉しさが見え隠れする。


「おいおい、男が泣いてんじゃねえよ。見っともない。・・・ハア~。まあいいか。それにしてもここは・・・・・・そうか!図書館島か!久々に見たから思い出すのに時間が掛っちまったぜ。ってことはアルの奴まだこんなところに引き籠ってやがるのか・・・呆れた奴だな。本なんか読んで何が楽しいんだか・・・」


アルっていうのはさっきのフードの男のことであろうか?

そう思いながらも、ネギは目の前の人物に思い切って疑問をぶつけてみる。


「でもどうしてここにお父さんが?」

「あん?アルの奴に聞いてないのか?あのヤロ~・・・面倒な説明を俺に押しつけやがって・・・」


苦虫を潰したような顔をするナギだったが渋々ネギの疑問に答える。


「あ~・・・え~と、今の俺はアルのアーティファクトによって記録された俺の記憶の一部だ。「記憶」で分かりづらかったら「残留思念」と考えてもいい。つまり、昔、アーティファクトに保存された俺の記憶がその力によって再生され、アルの体を借りて実体化したのが俺ってわけだ。・・・OK?」

「そ、そうだったんだ・・・じゃあ今の父さんは本当の父さんではないんですね。」


残念そうな顔をするネギにナギは苦笑しながら言う。


「まあそう言うな。たとえ記憶であっても俺は俺だ。お前の親父であることに変わりはねえよ。長年会えなかった息子に会えるなんてこっちは結構嬉しいんだぜ?」


ナギがネギをジロジロ見だす。


「う~ん。見たところ10歳ってところか?不思議なもんだな。俺の意識上じゃまだ生まれてもいないお前が・・・」

「えっ、だってお父さんは6年前に一度・・・」


言おうとしてネギはハッとする。確かにネギが最後に父に会ったのは6年前であるが、あのアルとかいう男の話ではこのナギを記録したのは10年前、つまり村が襲われた頃よりずっと前のことである。

ということは、あの頃のネギをこのナギは知らない。引いてはピッコロとの戦いも・・・

そこまで考えたとき、ネギの脳裏にナギがピッコロと戦ったあのときの光景が甦った。


ピッコロに手も足も出せず、首を掴まれた状態で今まさにとどめを刺されそうになっている父。


もがき苦しんでいる父の姿は当時の自分には耐えがたいものであった。


助けに行かなきゃ・・・このままじゃお父さんが殺されちゃう・・・


そのとき、ドクンッとネギの心臓が大きく鳴った。

顔を伝っていく汗が止まらない。

ハア…ハア…ハア…と自然に息も荒くなっていく。

思い出したくない光景。今まで忘れようとしていたものがここにきてまた・・・


「おいっ!どうかしたか!?」


ハッと気がつくと目の前でナギが肩を掴んで揺さぶりをかけている。


「何なんだ一体?急に様子がおかしくなりやがって・・・体の調子でも悪いのか?」

「いっ、いいえ。・・・何でもないです・・・」


正気に戻ったネギは必死に思い浮かべたものを振り払い、ナギの前で平静を保とう
とする。


だが、その様子は傍から見れば無理をしていることなど一目瞭然であった。


(う~ん・・・こいつガキのくせに俺に何か隠してやがるな。だけどこの様子じゃ素直にしゃべってくれそうにねえし・・・。頑固そうな性格は誰に似たんだか・・・。仕様がねえ、ここは俺が一肌脱ぐとするかね?)


決めたらナギの行動は早かった。


「ククク・・・まあいいや。こっちには時間もねえし、それに改まってしゃべるっつーのは・・・なんて言うか苦手だしよ。・・・今呼び出されたってことはアルの眼鏡の適ったってことだろ?ならやることは一つだ・・・。」


するとナギは杖を地面に突き刺し、ネギの前で構えをとる。

父の行動に驚いているネギにナギは言った。


「ネギ・・・俺と戦ってみないか?」









「ハア・・・ハア・・・ハア・・・フ~、やっと着いたわ。早くネギの奴を連れてかなきゃ。」


木乃香たちと別れ、一人ネギを連れ戻しに来た明日菜が地底図書室の階に辿り着いた。


「ネギのことだから・・・大丈夫よね?でも、なんか他にやばそうな敵がいるって言ってたけど・・・ううん。あいつのことだもん。チャッチャとやっつけてるに決まってるわ。それにホントにやばくなったら逃げればいいだけだし。」


気を取り直して、扉に手をかける明日菜。

開かれるとそこに映った光景は・・・


「えっ!?何・・・これ・・・?」


滝の隙間から見えるものに明日菜は言葉を失った。

2人の人間が相対している。

一人は無論ネギだが、もう一人は・・・


(あれ?誰なの?なんかネギを大人にしたみたいにものすごく似てるんだけど!?・・・ネギの親戚か何かかしら?それに・・・なんか初めて会った気がしない。そう・・・なんかとても大切な・・・あれ?私・・・なんでこんなこと言ってるんだろう?)


片手で頭を押さえる明日菜。背の高い男の姿を見た瞬間に何かが頭の中から噴き出してきそうになる。

自分は大事なことを忘れているような気がする。・・・でも、それが思い出せない。

考えに没頭しようとして明日菜はハッと意識を取り戻す。


「私ったら何考えてるのよ!今はネギよ、ネギ!あいつを連れ戻すことを考えなくちゃ!!
・・・と言ったは良いものの、なんか割り込める雰囲気じゃなさそうなのよね。」


明日菜の言うとおり、2人の間には何とも言えない張り詰めた空気が漂っていた。

少しでも現状に変化があれば、たちまち緊張の糸が切れ、何が起きるか分からなくなる・・・だから下手に動けば命取りになる恐れもあるのだ。

バカレンジャー入りしてるとはいえ、これでも一応は格闘家の端暮れ。それくらいの戦いの機微は察せる。


(今私が動いてネギに不利になってはいけない。今は見守るしかないわね・・・)


明日菜は滝の下で息を潜めてネギたちの様子をうかがっていた。








「お、お父さんと・・・戦う?」


ネギが夢でも見ているかのような顔で呆然と呟くと、


「そうだ。俺はお前の成長ぶりを確かたい。・・・それに、天下無敵のサウザンドマスターと戦えるなんてこんなチャンス滅多にないぜ?」


自信たっぷりの表情でナギが言う。

自分に対する絶対の自信・・・それはある種の傲慢の域に達しているが、それを寄せ集めたかのような男・・・しかし、それがまた魅力的でもある。ここまでそれが似合う男というのもそうはいないであろう。


「お父さんと・・・戦える・・・」


ネギは両拳を握りながら反芻する。

ピッコロに弟子入りすると決めたあの日から待ちに待ったこの瞬間。

まさかこんなに早く来ることになろうとは・・・

試したい・・・今の自分の力がこの父にどれだけ通用するのか。


「へへっ、その様子だと挑戦を受けると取っていいんだな?」


ナギが意地悪そうな笑みを浮かべて問うも、


「はいっ!よろしくお願いします!!」


力強く答えるネギ。


(ふ~ん。良い面構えじゃねえか。これはかなり期待できそう・・・ん?)


ナギがネギの服装を見て引っかかった。


「そう言えばお前なんで道着なんて着てるんだ?俺の息子だからてっきり魔法使いをやってるとばかり思ってたんだが・・・」


ナギの疑問にネギがポツリポツリと答える。

「あ!?え~と・・・そのう・・・実は僕、武術をやってるんです。魔法も・・・そこそこ使えるけど・・・今はむしろこっちの方が肌に合ってる・・・というか・・・」


ネギの答えをキョトンとした顔で聞くナギ。

そして、突然笑い始めた。


「アッハッハッハ。こいつはおもしれえや!!まさかお前が武術をやってるとはな。昔の俺そのものじゃねえか。」


そしてひとしきり笑うとにやけ顔をそのままにネギに向き直り、


「いいぜ・・・。我流だったが俺もガキの頃に武術は結構やってたほうだ。武道大会で優勝したこともある。だからその道ではお前よりはベテランだぜ?
・・・お前の腕前、この目で確かめさせてもらおうじゃねえか!!」


不敵な笑みを浮かべてネギを見つめてくるナギ。


「そういえば、確かにお前からは魔力より気の力を強く感じるぜ。こりゃあ魔法使いと言うよりは武道家だな。それもかなり腕の立つ・・・。だがな・・・」


ナギは体に纏う魔力を強めて言った。


「そんなことで俺を倒せると思ったら大間違いだぜ。サウザンドマスターの力・・・見せてやるよ!!」


もうすでにバリバリの臨戦態勢に入っているナギ。

それを見てネギも構えをとる。


「ほほう、面白い構えだな。中国拳法か?」

「いいえ。正確には違います。かなり似てるんですけどね。まあ、あえて名前をつけるとしたら『ナメック流格闘術』・・・ってところでしょうか。」

「ナメック流?聞いたことない流派だな。」


少しばかり首をかしげるナギ。


「そりゃあ、そうですよ。地球にない武術ですもん。なんせ教えてくれたのはナメック星から来た宇宙人なんですから。」


ネギの衝撃の発言にしばし固まるナギ。


「・・・は?今、宇宙人って言わなかったか?」

「? 言いましたけど?」


ナギが構えを解き、ネギの前まで来て目線を合わせて向き合う。


「お前・・・熱でもあるのか?すまなかったな。お前にここまで苦労させていたとは・・・」

「熱なんてありませんったら!ホントに宇宙人なんですから!!」


精一杯主張するネギをナギは呆れた目で見る。


「あのな~。魔法使いである俺がこんなこというのは筋違いかもしれんが、宇宙人って存在はいない!俺はそう信じてる。第一、ナメック星ってなんだよ?聞いたこともねえし。どうせなら火星人とかにしろよ。」

「むむ!!ピッコロさんを馬鹿にしないでください!そう言うお父さんだって6年前はピッコロさんにボロ負けしたくせに・・・」


ピッコロの故郷の星を愚弄されたと感じたネギは反論する。だが、そのネタがいけなかった。


「俺が・・・ボロ負けだと?」

「あっ・・・!?」


咄嗟に口を押さえるがすでに後の祭り。

ナギの顔には青筋が浮かび、怒りの蒸気を上げ始めていた。


「ククク・・・、そいつは面白い冗談だ。じゃあお前はその何とかってやつに武術を習ったんだろ?・・・教えてくれよ。俺が敗れたっていうその技を・・・」

「あわわ・・・ど、どうしよう・・・」


まさか自分の言葉が父のプライドに傷をつけ、怒りを買ってしまうことになろうとは・・・

ネギは慌てた。


「あ、そ、その・・・今のはちょっとカッとなって言っただけで、悪気があったわけじゃ・・・「黙れよ・・・」ヒイッ!?」


ナギの地の底から響く声に父親独特の恐ろしさを感じ、思わず声のトーンが上がってしまう。


「てめえがその武術で勝負するなら手加減無しで来い。俺が全力で叩き潰してやる。」


もはや誰もナギを止めることはできない。

ネギはナギに罪悪感があるからか委縮してしまっている。

そこが隙になった。


「なっ!?」


ナギがいきなりの先制攻撃。瞬時にネギに接近し腹に重い一撃を・・・


ガシッ


・・・とはならず、ナギの拳を寸前でネギが手で受け止めていた。


「やるじゃねえか。今のを受け止めるとはよ・・・。」

「ず、ずるいですよ!いきなりなんて・・・」

「バ~カ。戦いはお前が構えを取った瞬間にすでに始まってんだよ。」


言うや否やナギのハイキックがネギを襲う。



ダァァァーーン



が、それも腕で難なくガードする。


「ならこっちもやらせてもらいます!!」

「望むところだ!!」


今のでちょっとビビり気味だったネギの闘志にも火がついたようだ。

お互いに宣戦布告する。


「だりゃりゃりゃりゃりゃぁぁぁっ!!!」

「オラオラオラオラァァァァァッ!!!」


親子の壮絶な殴り合い。

ネギは気、ナギは魔力を体に纏わせ、一方が攻撃をすれば、もう一方がそれを受けるというのを繰り返している。


「ソラァァァッ!!」


またナギがネギに魔力パンチをお見舞いする。

ネギはそれを腕を交叉することで受けようとする。

すると、ナギがニヤッと笑った。


「残念。」

「っ!?」


今の攻撃はフェイントで、瞬時にネギの背後に瞬動を使って回り込む。

ナギの蹴りがネギの背に炸裂した。



ダアァァァーーーン



ネギは派手に吹き飛ばされる。

しかし、すぐにネギは体を丸めてボールのように回転し壁に着地すると、反動を利用して壁を蹴り、ナギに猛スピードで突っ込んでいった。

だが、ネギの捨て身の突進もナギは慌てずに瞬動で高速移動することで回避。

目標を失ったネギは仕方なく、宙返りをして地面に降り立った。


「なかなか粘るじゃねえか。思わず本気を出しちまいそうだぜ。」

「あれ?全力で叩き潰すんじゃなかったんですか?」

「・・・・・・可愛げのないガキめ。そんなに本気が見たいなら今見せてやるよ!」


息子の生意気な発言にカチンときたナギは地に刺していた杖を握りしめる。


「っ!?まさか魔法を!?」

「まあな。折角だから見せてやるよ。最強の魔法使いの魔法ってやつをな。」


ナギがついに魔法を使ってくると察し、気を引き締めるネギ。


「百重千重と・・・重なりて・・・走れよ稲妻・・・『千の雷』!!」


片手に込められた魔力の塊から無数の雷撃が放たれた。


「雷系の魔法!かなりの威力だ。でもこれくらいのスピードなら・・・ふっ!!」


咄嗟にネギは上空高く飛び上る。



ドオウゥゥーーーンッ



ネギのいたところから激しい爆音と衝撃波が発生する。


「今のを避けるか!!でも、逃がすかよ!『魔法の射手』!!」


続けざまに光の矢が空中のネギを狙ってやってくる。


「空中で身動きなんてできねえだろう?『浮遊術』か『虚空瞬動』でも使わなきゃ・・・」


にやりとしながら呟くナギだったがそのとき信じられないものを目の当たりにする。


「ハァァァッ!!」


ネギが白い炎を纏うと矢に向かって一直線に突っ込んでくるではないか。


「あ、あいつ魔力なしで空飛べるのか!?しかも俺の魔法の矢に自らあたりに行く気かっ!?自殺行為だぞ!?」


しかし、事態はナギの予想をさらに上回った。


「でりゃああああっ!!!」


ネギが襲い来る矢すべてをバシッ、バシッと片手だけで弾きとばしていく。


「お、俺の矢を・・・素手で弾いただと!?」


その驚き様と言ったら・・・言葉では表せないほどのものであった。

魔法の矢は基本の部類に入る攻撃魔法だが、ナギほどの者が使えばその破壊力はヘタな魔法よりはるかに強力である。

少なくともネギくらいの子供に太刀打ちできる代物ではない・・・はずなのだが・・・

っと、そんなことを考えている間にネギがこっちに突っ込んでくるではないか。


「し、しまっ」


突然の事態に反応ができないナギ。


「くらえっ!!」



ドゴッ



ネギの渾身のストレートがナギの顔面に見事に決まった。

今度はナギが吹っ飛ばされる。

本棚をいくつか倒して壁に激突する。



ドオオオーーーン









「な、何?・・・今の・・・」


明日菜はネギたちの戦いに言葉を失った。

今明らかに常識を逸脱した現象が目の前で繰り広げられている。


「あ、あれって・・・武術・・・なの?
・・・って、んなわけあるかーーーい!!特にあの背の高いお兄さんの技なんてどこの格闘ゲームに出てくる技よ!?現実的にありえない!」


ハア・・・ハア・・・と息を荒げて突っ込みを入れる明日菜。


「それに・・・今ネギの奴、空を飛んでたわよね?でも、生身の人間が空なんて飛べるわけ・・・あっ、ま、まさか・・・」


そこまで考えて明日菜は自分でも信じ難い結論に達した。


「ね、ネギって・・・超能力者だったのね!!」


ある意味間違った結論に・・・


「そ、そうか・・・あいつが隠してたことってこのことだったのね!!
・・・でもじゃああのお兄さんが出してたのも超能力?・・・それにしては派手だったような・・・
それになにやら会話の中に魔法がどうたらこうたら言ってるように聞こえたんだけど・・・ん?魔法?・・・『魔法』っ!?そうよ、魔法よ!
あのお兄さんが出してたのはきっと魔法なんだわ。」


意外と鋭い明日菜の思考回路。これを普段の勉強に生かしてくれれば・・・


「ま、魔法って実在してたのね。あいつが魔法って単語に妙に敏感だったのはそのためね!魔法があるってことを知られるときっと困るんだわ。フフフ・・・ついにあいつの弱みを握ったわよ~!!」


マジで鋭すぎる。ネギが最も恐れていた事態がついに起こってしまった。どうする、ネギ!?






しかし、当のネギは明日菜に魔法がばれたなどとは露知らず、先ほど殴った自分の拳をじっと見つめていた。


「やっぱりおかしい・・・さっきから攻撃しても手応えがまるでない・・・」


普段殴っているときに感じるあの感覚がまったくないのだ。

だが、確かにさっきの一発は直撃したはず・・・


「それに・・・さっきからお父さんの気がまったく減っていない。」


つまりはまったく体力を消耗していない、もしくはダメージを受けていないということ。

ナギが飛ばされた先を睨みつけるネギ。

すると・・・



ドバアアアーーーン



瓦礫を吹っ飛ばして無傷のナギが姿を現した。


「・・・・・・やっぱり。傷どころか、ダメージすら受けていない。」

「へっ、なかなかいいパンチじゃねえか。生身だったら危なかったかもな。まったくアルの奴もいいものを用意してくれたもんだぜ。」


そう言って、自分の体をペタペタ触りだす。

それを見てネギが何かに気づいた。


「ま、まさかっ!?その身体は・・・」

「御名答。相手からのダメージは完全無効。しかし、攻撃は自由自在の超高性能の分身体だよ~ん。」


あっかんべ~と舌を出して挑発してくるナギ。

ネギの顔を汗が伝う。


「体の宿主自身が分身体だったとは・・・誤算だった。」

「へへへ・・・俺も正直びっくりしてる。話には聞いていたが、ホントにダメージを感じないんだもんな~。さすがはアル。恐らくあいつもこうなることを予測してたんだろうな・・・準備のいい野郎だぜ。」


ふてぶてしくも自分の反則的な肉体にほ~っと驚きの声を上げるナギ。


「・・・だとしたら、少々厄介ですね・・・」


ネギはますます油断ならないと気を引き締める。


「・・・とは言っても、こいつはアルの魔力が続かないと保ってられねえからな。ホントは世界樹クラスの魔力がないと長時間使用はできないんだが・・・まあ、この図書館島はあいつのテリトリーのようなものだし、一日くらいなら持続も可能なのさ。」

「・・・ずるいですよ。そんな反則的な体で戦ってたなんて。これじゃあ生半可な攻撃はまったく通用しないし、こっちがジリ貧じゃないですか。」

「おいおい、これはアルが勝手にしたことであって俺は関与してないぜ。文句はアルに言ってくれよ。まあ、俺は結構感謝してるけどな。利用できるものは利用しねえと。」


そしてあの不敵な笑みをネギに向ける。


「さあ、このチートボディのお父様に勝てるのかな?ネギ君よぉ?さっきの発言を撤回してくれたら降参も認めてあげるけど?」


だが、ネギは表情を変えない。


「降参?そちらこそ冗談はやめてくださいよ。確かにその身体は厄介です。・・・
でも、さっきまでの戦いでわかりました。今の父さんくらいの力なら僕でも十分倒せる。おまけにその反則能力をもった父さんを倒せたなら、僕は完全にあなたを超えたことになる。」

「おいおい。今聞き捨てならないことを言ったね?お前が俺を超える?ハッ、そいつはどうかな?確かに俺もお前がここまでやれたことに正直驚いている。実力もトップクラスに踏み込んでいるだろうな。だが、俺を超えるって言うのはちょっと調子に乗り過ぎじゃねえか?勝算でもあるのか?」


すると今度はネギがナギのようにニヤリと笑い、

「勝算?それならいくらでもありますよ。一番手っとり早いのは分身ごと消滅させてしまうことですが・・・お父さんが相手ですからその手は使いません。僕はこの拳だけでお父さんを倒して見せます。」


ナギが笑うのをやめた・・・


「ほほう・・・言ってくれるじゃねえか。じゃあもう、遠慮はいらねえな。いくら息子でも言っていいことと悪いことがあることを教えてやるぜ!!・・・・・・せいぜい死なないようにな・・・」


再び構えをとるナギ。

すると・・・

「っ!?」

超スピードでネギの前まで来ると、膝でネギの体を蹴りあげる。


(急に動きが変わった・・・!?)


宙で体をひねって体勢を変えようとするが、


(は、速い!?)


すでに先回りしていたナギがネギの足を掴む。



バジィィィッ!!



「っ!?グアァァァッ!」


ナギが触れたところから膨大な電流を流しこまれる。

使える魔法が少ないナギだが、魔法の属性をこうした近接戦に応用するセンスにかけては一流であった。特に彼の得意な雷系の術に関しては・・・


「グワアアアアッ!!」


まさに雷が直撃したかのような衝撃がネギの体を駆けめぐる。

電流の所為で体が痺れて思うように動けない。


「どりゃあああっ!!」


そしてナギはネギの足を掴んだまま大きく振りかぶると上空に放り投げる。

高く打ち上げられるネギ。

さらにそこでもナギが待ち構えており、



ガシッ



「ぐっ!?」

「オラァァァッ!!!」


右手でネギの首を押さえ、そのまま一緒に地面に落下する。



ガガアァァァッ!!!



そして、ナギはネギの体を地面に叩きつける。



バガァァァーーーン



ネギが叩きつけられた地面は陥没し、ネギを中心として亀裂が走る。

さらにその裂け目は広がってネギ自身を地中へと飲み込んでいく。



ドオオオオーーーン



あまりの衝撃に図書室全体、いや図書館島全体が揺れていた。

ナギはネギから手を離すと上空に飛び上り、自分の息子が地に埋まっていく様を見下ろしていた。

普通に考えればここでもう勝負はついていると誰もが思うであろう。だが、ナギは違った。



「ここまで来たら徹底的にやらなきゃな・・・世界の広さってやつを教えてやる!!」



すると呪文の詠唱を始める。己の最大の魔法を・・・



「来れ雷精、風の精、雷を纏いて吹きすさべ南洋の風・・・『雷の暴風』!!」



ネギに向けて稲妻を纏った旋風が放たれた。

ネギが埋まっている地面が雷の渦に包まれる。



「さらに行くぜ!!『千の雷』!!」



ナギの放った無数の雷が渦に吸収され、もともと纏っていた電撃がさらに強化されていく。

二つの術の連鎖反応により、さらに強力な術を生む。

ナギが実践から学んだ高等技術・・・それが息子のネギに繰り出される。

渦が纏っている電撃の光が増し、そして・・・爆ぜた。



ピカァァァァッ



ドオオオオオーーーン



光により真っ白になる視界。

そしてとてつもない爆音。






「キャー!!何なのよ~もう~!」


まぶしさに目をつむる明日菜。

さきほどのナギの攻撃がさらに彼女を驚かせた。


「ね、ネギはどうなったのよ・・・」


光がやみ、恐る恐る目を開ける。

すると、


「え・・・あ、あれ、なに?」


見ると、あれだけ広い図書室の地面がほとんど一つのクレータで占められていた。

クレーターの中心には底がまるで見えない深い穴が開いていた。








「あ・・・やり過ぎちまった。やべっ!?どうしよ!?昔みたいに思いっきりやっちまった・・・。いや、でもあの腕前だったらギリギリ生きてる・・・よな?多分。」


空中から穴を覗き込みながらナギが彼らしくもなくおろおろしている。

いくらなんでも子供相手にあれはやりすぎである。だが、あのときのナギの頭にそんなことは入っていなかった。

ちょっと生意気な息子の発言に頭に血が上ってしまったのもある。

だが、それよりむしろ息子の想像以上の実力につい若い頃の自分が顔を出してしまったからかもしれない。

我が子ながら久々に血潮が熱くなる戦いだった。いや、熱くなりすぎた・・・

だがこのナギは6年前のナギほど息子を心配している、といった感じは見られない。まだ生まれてもいないとのことだから親としての意識がまだ薄いのだろう。せいぜい、大丈夫かな~ぐらいのもんである。

これをピッコロが知ったら即死刑になること確定であろう。







「ね、ネギ!?」


むしろ心配してたのはこの少女の方である。強いと思っていた少年が敵の猛攻撃を受けて・・・


「うそ・・・ねえウソでしょ!?」


さっきまで隠れていたことも忘れ、滝の中から一直線に穴の方にむかう明日菜。


「なっ!?人がいやがったのか!?ん?あっ、あの子はまさか・・・」


明日菜が現れたことに驚くとともにその姿を見て何かを思い出すナギ。

だがそんなナギなどお構いなく、明日菜は穴に向かって叫ぶ。


「ネギ、ネギーーー!!!いるんでしょう?いたら返事くらいしなさいよお!!」


しかし、穴からは何の反応もない。


「上で木乃香たちが待ってるんだから、早く出てきなさいったら!!・・・ねえいい加減にしないと怒るわよ!あんたの秘密みんなに話しちゃうんだから・・・ねえ・・・」


目に涙をためながら明日菜は呼びかける。

しかし、返事が返って来ることはなかった・・・


「う、ウソでしょ・・・ネギ・・・本当に・・・死んで・・・」


だが、それを否定してくれる者はいない。


「ウソ・・・エグッ・・・うそよ!・・・ねえ、誰か・・・ウゥ、ウゥゥ・・・ウソだと言ってよ・・・・・・ウアァァァッ!!!」


大粒の涙を流し、泣き崩れる明日菜。

図書室を少女の慟哭が支配する。

そのとき、



ドクン・・・



明日菜の頭にとある光景がフラッシュバックする。








深い森の中、腹部から大量の血を流し、岩にもたれかかる中年の男性。
 
男の傍らで死なないでと泣きじゃくっている幼い自分。
 
自分の傍には若き日の高畑の姿もある。


『幸せになれ、嬢ちゃん。あんたにはその資格がある』


 自分の頭に優しく手を置く中年の男性。

 次の瞬間自分の中で何かがはじけた。





「っ!?」


少女の纏う雰囲気が変わったことに気づいたナギ。

すると、少女・・・明日菜は上空にいるナギに顔を向け、視線をよこした。

いや、視線をよこしたというより、睨みつけるというのが正しい。

明日菜の瞳には普段の明るさはなく、ただ殺気が込められていた。

ただ殺気の中にどこかぽっかりと穴が開いたような・・・そんな空虚がちらちらと見える。


「あ、アスナ・・・」


すると明日菜は口を開く。


「ダメ・・・もう誰も死なせたりしない・・・」


そのとき、ブワッと明日菜の周りを気と、そして・・・魔力が取り囲んだ。


「ま、まずいっ!!」


明日菜がこれからしようとしていることに気づき、止めようとナギが動こうとしたそのとき、


ゴゴゴゴゴゴォォォォォッ


図書室が大きく揺れ始めた。


「キャッ!・・・あ、あれ?私、今何を・・・?」


激しい地震のおかげで正気に戻った明日菜。


「なっ!?こ、こいつは一体・・・」


不可思議な現象に唖然とするナギだったが、


「っ!?」


穴から発せられる力の高まりを感じ戦慄する。


「ま、まさか・・・」


揺れが大きくなるにつれ・・・


「ハァァァァァーーーッ!!!」


穴から光が溢れ出し、



ドオオオオオッ



何かが飛び出してきた。


「あ、ああ・・・・・・」


その正体を見て明日菜が言葉を失う。

そこには、


紫色の道着をボロボロにしながらも


あれだけの攻撃を喰らって傷一つない


そして、あの不敵な笑みを浮かべたネギが宙に浮いていた。


「・・・・・・やっぱし生きてやがったか、バカ息子。」

「・・・今のは効きましたよ。少しだけね。」


ナギと同じ高度まで上昇し、相対するネギ。


「少しだけとは・・・俺も随分腕が落ちたようだな。」

「いいえ。お父さんの技はすごいと思います。ただ・・・僕がもっと強かった・・・それだけですよ。」


そして、ネギは下にいる明日菜に目をやる。


「アスナさん。ついに見てしまったんですね。・・・なんとなくいつかはこの日が来るんじゃないかって思ってました。」


ネギは儚そうに微笑みかけ、そして・・・



パシッ



「うっ!?(ガクッ・・・)」


瞬時に明日菜の背後に回り手刀を浴びせて気絶させる。

意識を失くした明日菜を受け止めると、そのまま安全な場所に瞬時に移動し、そこにそっと寝かせる。


「これから先は・・・アスナさんが見る必要はありません。少しの間夢を見ていてください。」


そして、再び舞空術で再びナギのもとに向かう。


「いいのか?あそこに置いといて・・・」

「いいんですよ。僕の本気を見せたくありませんから・・・」

「っ!?なんだと・・・」

「今のを喰らってさすがの僕も頭にきました。その身体なら僕の全力にも物理攻撃だけならギリギリ耐えられるかもしれません。こっから先は全力で勝負です。父さん!!」

「へっ、今更本気だと?遅すぎるっつーの!再生時間も残り5分を切ってるぞ。」

「それだけあれば十分です。父さんを倒すには・・・ね・・・」

「・・・言いやがったな。そのセリフ吐いたこと後悔させてやる!さっさと本気とやらを見せな!!」

「分かりました・・・では・・・」


そう言ってネギは道着の上着の部分を破り捨てた。


「?」


不思議そうに見るナギを尻目に、黒いシャツ一枚になったネギはその裾にも手をかける。

どうやらそのシャツも脱ぐようだが・・・何やら手間取ってるようだ。


「ん!!やっぱりこれは脱ぎずらいな。」


たかがシャツを脱ぐくらいでどうして梃子摺るのか?ますます疑問を強めるナギだったが・・・

ネギがシャツを脱ぎ捨てた瞬間・・・



ドゴンッ



その疑問が解消した。


「おい。それはただのシャツじゃねえな。シャツからあんな音がするわけねえ・・・」

「いかにも・・・これは特殊な素材でできていて、これ一枚で確か1トン近くはあったかな?」

「1トンだと・・・!?今までそれをつけたままで俺と戦っていたのか!?」

「ええ。僕は力のコントロールが苦手なので、これをつけて抑えておかないと一般人に迷惑がかかりますから・・・」


それを聞いてナギは初めて動揺した。それじゃあ、今までのネギは本当に全力じゃなかったというのか!?


「それに、ただ重りを外しただけでは僕の全力じゃありません。」


すると、両足を広げ、両拳を腰だめにかまえる。上半身裸のネギの肉体は子供とは思えないほど見事に鍛えられている。


「お父さんも一度は見たことがあるんじゃないですか?確かタカミチの師匠が使っていたって言ってたけど・・・」

「た、タカミチだと!?ま、まさか・・・」

「それじゃあ、行きますよぉ!!・・・ハァァァァァッ!!!」


ネギが体の気を解放する。

すると同時に気とは違う力・・・魔力もネギの体から発せられた。

やがて、気は右手に、魔力が左手に集まりだす。


「や、やはり・・・そ、そいつは・・・」


そして、両手に集まった力の塊同士を胸の前で合わせる。


「気と魔力の合一!!」


瞬間ネギの体を凄まじいオーラが覆った。


「か、『咸卦法』か!!」


ナギが驚愕の声を上げた。


「ハァァァァァッ・・・・・・!!!」


まだまだ高まり続ける気・・・



ゴゴゴォォォォォッ



ネギの気の高まりとともに図書館島全体が大きく揺れる。


「ダァァァァァァァーーーッ!!!」


額に幾重もの筋を浮かべたネギの雄たけびが部屋中に響き渡る。


「な、何なんだ・・・これは・・・気がどんどんでかくなっていく・・・」


ナギは息子に初めて底知れない恐怖を感じ始めていた。




ついに、麻帆良でベールを脱いだネギの切り札『咸卦法』・・・

はたして、ネギは父との戦いに決着をつけることができるのか?

そして、試験初日に間に合うのか?

急げ、ネギ!!もう時間がないぞ!!





<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!ネギがついにフルパワーを出してきた。スゲー!!!圧倒な強さだぞ!」

ナギ「グオッ、ば、馬鹿な!!?こ、この分身体が・・・だ、ダメージを受けているだと!?」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI『完全決着!  これぞネギのフルパワー!!』」

ネギ「この力で僕はお父さんを超える!!」






あとがき

どうも更新が遅れ気味で申し訳ありません。仕事人です。

最近生活の方も忙しく、また作品の文章も浮かんで来ないという一種のスランプに陥っております。

なんとか週一の更新は守りたいところですが・・・大丈夫かしら?すっごく不安です。

今回の話も最初に書いたものを読み返してみたらすごく違和感があったので大幅に書き換えたんで今日まで掛ってしまいました。どうも、この親子のやりとり書くのは難しいです(汗

戦闘もこんなんでいいのかな?と思いながら書いたので自信がありません。大丈夫かな(2回目)?

まあ幸い連休中なのでもう一話くらい書けたらいいなあと思います。



[10364] 其ノ二十   完全決着!  これぞネギのフルパワー!!  (本文の一部修正)
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/10/04 11:47




ゴゴゴゴゴォォォォォッ



「わわっ!?な、何これ!?地震っ!?」

「きゃ~~~!!!」

「い、一体どうしたというんでしょう!?」


一足先にエレベーターで地上に到達した木乃香たちであったが、それからしばらくしないうちに図書館島を謎の地震が襲った。

突然のことにメンバーの何人かはパニックを起こしている。


「皆の衆、落ち着くでござる!!これはおそらく一時的なもの・・・じっとしていればすぐに鎮まる。」


一人やけに冷静に彼女たちに呼びかける楓。

だが彼女の心中が実は最も落ち着いていないのかもしれない。


(な、何でござるか!?このバカでかい気はっ!?発信源はこの島の地下・・・おそらくネギ坊主がいるあたりであろう。)


いつの間にか彼女の顔から汗が噴き出ている。


(こ、こんな凄まじい気は初めてでござる。この地震はおそらくこの気に大地が共鳴して起こされたもの。発しているのはネギ坊主の言っていたもう一人の厄介な敵か・・・もしくは・・・)


そこまで考えたあたりで首を横に振る。


(いや・・・さすがにそれは・・・う~む。しかし、ネギ坊主だと不可能とも思えない。不思議でござるな。まあ、どちらにせよ、ここで考えていても埒が明かないでござる。地下にはアスナ殿もいることだし、もう一度地下に戻るべきか。)


そして、エレベーターの扉に向かう楓。しかし・・・


「なっ!?あ、開かないでござる!」


いくらボタンを押してもうんともすんとも言わない。力で無理やりこじ開けようとしてもびくともしなかった。


「どうやら、向こうから出てくるしか方法ないようでござるな。」


チッと舌打ちし、苦々しい顔をする楓。

しばらくすると、地震が治まり、楓以外の面子はほっとした顔になる。


「すごい地震でした。・・・ネギ先生たちは大丈夫でしょうか?」

「心配だよ~~」


明日菜たちが心配ではあるもののこちらからではどうすることもできないのも事実。

それに今は午後の6時・・・翌日の試験まであまり時間がない。


「仕方ありませんね・・・・・・」


意を決した夕映が告げる。


「皆さん、ここでただ待っているだけでは時間の無駄です。アスナさんには悪いですが、一足先に私たちで魔法の本の中身を確認しちゃいましょう。」


状況が状況だけに、夕映の意見にバカレンジャーたちは頷くしかなかった。

本は鎖のようなもので封印されており、問題を解いていた時も本はただ抱えていただけでまだ一度として開いていなかった。


「この鎖が邪魔ですね。」

「それなら私にまかせるネ!」


古菲が気合とともに簡単に鎖を切ってしまう。

ついに封印が解かれた魔道書。はたしてその中身とは?

息をのむ一同。そして本の表紙がめくられ・・・


「「「「「はあっ?」」」」」


どこのページをめくっても白紙、白紙、白紙・・・。

あっと言う間に最後のページに辿り着き、そこでようやく文字に出会うことができた。

そこにはでっかい文字でこう書かれていた。


『魔法の本?あんなわかりやすいところに置いてあるわけないじゃろ?ダミーに決まってるじゃない。それが許されるのは小学生までだよね~?   By K.K』


「「「「「・・・・・・・・・」」」」」


固まる一同。そして・・・


「「「「「えーーーーー!!?」」」」」


彼女たちの絶叫が木霊する。


「そ、そんな・・・」

「あんなに苦労したのに~」

「くっ!私としたことが不覚でした。まさかダミーだとは・・・」

「このおちょくり文も読んでて腹が立つネ!!」

「しかし、言い返せないのが悔しいでござる。」


やはりこの結末にショックを隠せない一同。


「あ、アスナ~~どないしよう・・・」


木乃香の呟きはしかし親友には届かず、空にただ吸い込まれるだけであった。









一方巨大な気を感じた者がここにもいた。


「それが君の全力かい?・・・・・・ネギ君。」


窓から図書館島の方を眺めながら、高畑・T・タカミチは呟いた。

彼もまた膨大な気に思わず冷や汗を流す。


「・・・これは想像以上だ。流石に先生に鍛えられているだけのことはある。僕もうかうかしてられないな。
・・・・・・それにしても、ネギ君にこれほどの力を出させるとは・・・学園長、一体彼に何をしたんですか?」


振り返りざまにベッドに横たわる人物に声をかける。

そこには体中に包帯をグルグル巻きにされ、ミイラ状態の学園長・・・近衛近衛門がいた。


「わ、ワシは何も知らんぞ!第一、こんな状態にされているワシに何ができるというんじゃ!」

「・・・それもそうですね。しかし、ネギ君が本気を出すなんて尋常じゃ・・・」

「そ、それよりむしろあのときのネギ君が本気を出してなかったことに驚きじゃ!・・・正直これくらいで済んだことが奇跡に思えて仕方ない・・・」

「ええ、それは僕も同感です。ホントによく生き残れましたね。」


タカミチに言われて少し哀しくなってきた近衛門。


「ワシ・・・しばらく葱が食えんかもしれん・・・」











こちらは図書館島の地下。

ここではいよいよ戦いもフィナーレを迎えようとしていた。


「化け物か・・・てめえはよ。」


焦りと恐怖を滲ませた声でナギが言う。

ネギの気による図書館島の振動もおさまり、辺りが落ち着きを見せ始めたころ・・・

全身に気を充実させたネギが不敵な笑みを浮かべた状態で佇んでいた。


「・・・お待たせしました。父さん、これがお待ちかねのフルパワーです。」


ネギからブワッと威圧感が突風のようにナギに襲いかかった。


「ぐっ!?」


なんとか踏みとどまるナギ。


「なんつープレッシャーだ。さっきまでとは桁違いじゃねえか。・・・お前ホントに子供か?」


身体の震えが止まらない。今まで数々の修羅場を潜ってきたナギだが、ここまで恐怖したことはほとんどなかった。

俺は魔法に比べて気には詳しくないからなんともいえないが、それでも相手はたかが子供・・・そう心のどこかで思っていた。

だが目の前のネギを見てその考えをあっさりと捨て去った。本能で悟った。こいつは次元が違うと・・・


「無駄口は止めにしましょう。時間がないんですから・・・」

「へっ、そうかい。望むところだ。」


なんとか自分を落ち着かせてネギを睨みつける。


大丈夫。こちらにはダメージを無効化するこの肉体がある。油断は禁物だが、負けることはまずないだろう。ここは魔法による遠距離攻撃を中心に・・・



そこまで考えたときにネギが戦いの火ぶたを切った。



「さあ、始めましょうかあ!!」



次の瞬間・・・



ドゴンッ



「っ!?グボォッ!!!」


ナギの腹にネギの拳が減り込んでいた。


(馬鹿なっ!?いつの間に?)


今のはまったく目で追い切れなかった。気が付いたら懐に入られていた・・・そう言う感じであった。

ナギは驚いた顔のまま咄嗟にネギから距離をとる。

だが、ナギの驚きはそれだけではなかった。


「ガアッ!?ば、馬鹿な・・・こ、この体が・・・ダメージを・・・う、受けているだとぉ!!?」


腹を押えて前屈みになるナギ。

そして口からは吐しゃ物まで・・・


「ど、どういうことだ・・・この体はダメージを完全に無効化するはず・・・」


ナギの疑問にネギが答える。


「簡単なことです。たとえその身体にダメージ無効化能力があったとしても、それだって元を正せば魔法に変わりはありません。僕に言わせればそれは超高性能の防御障壁のようなもの・・・ならばその障壁をぶち抜くくらいのパワーをぶつければ良いだけの話です。」


「な、なんだとっ!?そ、そんなはずはない!そんな馬鹿げた理屈で・・・」

「現に今破れているじゃないですか。・・・まあ正直僕もさっきこじつけただけなんでよくわからないんですけど。ようするに理屈じゃ説明できないこともあるってことです。」

「な、納得できるかーーー!!!」


ネギに飛びかかっていくナギ。

しかし、ネギは動こうとしない。


「来れ虚空の雷・・・薙ぎ払え・・・『雷の斧』!!!」


ナギの雷の魔力を纏った拳がネギの顔それも正面に綺麗に決まった。



ダアアアアアンッ



ほぼ全力と言っていい魔力を込めた一撃に手応えありとほくそ笑む。

しかし、その顔もすぐに驚愕の表情に変わるのであった。


「あ、あ、あああ・・・・・・」


言葉を失うナギが見たものは、あれほどの攻撃を顔面に受けたにも関わらず無傷で、しかも不敵な笑みを崩さないネギの姿であった。


「残念でしたね。でも、もうこれでお父さんの攻撃はすべて見切った!!」


言うや否や、ネギはナギの顎を蹴りあげる。

脳が揺さぶられ一瞬意識が飛ぶナギ。

その隙を逃さず、ネギは両足を揃えてナギの鳩尾にキックをお見舞いする。


「テヤァァァッ!!」


「グォォォォォッ!!?」


すごい勢いで吹き飛ばされるナギ。

壁に激突し、土煙が巻き起こる。

瓦礫に埋もれるナギだったが、すぐにそこから飛び出していく。


「くっそーーー!!!」


痛みで悲鳴を上げる身体のことも忘れ、ナギはネギに挑んでいく。まさに若い頃、いろんな無茶をやらかしてきた彼に戻ったかのようであった。


「調子に・・・のるなあーーー!!!」


虚空瞬動で高速移動してネギに迫ると、目にも止まらぬ速さでラッシュを浴びせる。


「ウラウラウラウラァァァ!!!」


だが、ネギはどこ吹く風という感じですべての攻撃を躱していく。


「なぜだっ!?なぜ当たらねえっ!?」


冷静さを失ったナギが今のネギに一撃を与えることなど到底叶わぬことであった。



パシッ


「なっ!?・・・・・・」


ついには両腕をネギに掴まれて動きを封じられ、


「タアッ!!!」



ドゴォッ



ネギの膝による一撃が与えられた。


「ガッ・・・ガハッ!?」


2度目の腹の激痛にナギも流石に耐えきれずズルズルと降下する。

地面に足をつけたと思ったらついには両膝をついて蹲ってしまう。


「ガアッ!・・・ハア、ハア、ハアアッ!!」


ダメージが大きすぎてまともに息をすることもできない。

ナギはまさに悪夢を見ている心地だった。


「・・・・・・」


ネギは黙って、膝をついている父を見下ろしていた。


「・・・これでわかったでしょ、父さん?この勝負・・・僕の勝ちだっ!!」


力強く勝ち名乗りを上げるネギだったが、


「まだだ・・・まだ終わっちゃいねえ・・・」


蹲っていたナギがぼろぼろの体を奮い立たせて起き上がってきた。

顔を上げたナギは・・・泣いていた。


「俺は・・・俺はサウザンドマスターだ。」


実の息子とは言え、幼い子供に圧倒的な力の差を見せつけられ、彼のプライドはズタズタだった。

もはや勝ち目はない。・・・そんなことはわかっている。

だがせめて、せめて最後の一撃だけは・・・俺の最高の技で・・・


「俺は・・・最強なんだぁぁぁーーー!!!」


杖を握りしめ、ナギが叫ぶ。


「『雷の暴風』―――!!!」


ナギの最高クラスの魔法『雷の暴風』が最大出力で放たれた。

もはや父とか最強とか・・・そんなのは関係ない。ただ一人の男としての思いをこの一撃に全て注ぎ込んだ。

思いの強さ故か・・・あるいはこの場になって彼の真の力が目覚めたとでもいうのだろうか・・・彼の放った旋風は竜巻とも言えるレベルにまで昇華し、周囲のあらゆるものを飲み込みネギに襲いかかった。

しかし、ネギは迫りくる竜巻を前にしても落ち着いていた。



「これが父さんの最高の一撃・・・なんですね。嬉しいです。」



そして、体に纏うオーラを強くする。


「父さんの思い・・・全力で受け止めます。そして、この一撃で僕は・・・父さんを超えるっ!」


頭上で組んだ両手に光が集まっていく。


「これで最後だぁぁぁーーー!!!」


そして、巨大な竜巻に向けて手をかざし、



「魔閃光―――っ!!!」



さらに巨大なエネルギー波が放たれた。

エネルギー波は竜巻にぶつかるとそれを飲み込み、ナギに向ってくる。

接近する光を前にしてナギは呆然としていた。

だが、光が彼を包み込んだ瞬間、ちらっとだが笑ったような気がした。



ドゴォォォォォォッ!!!



轟音とともに再び図書館島が震えた。








次回嘘(?)予告

悟空「オッス!!オラ悟空!!大変だネギ!もう試験まで時間がねえ!」

ネギ「ち、地下が崩れる!!早く脱出しないとっ!!」

アスナ「ちょっとあんた、さっき言ってた『魔法』ってなあに?」

ネギ「あっ、アスナさんに魔法ばれてたの忘れてたあっ!?」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI 『急げ、図書館島脱出!!  どうなる!?期末試験の結果』」

ネギ「ああ・・・たとえ課題がクリアできても、魔法がバレてたら意味がな~い!!!」








あとがき

どうも仕事人です。

今回は時間の関係上いつもより短めになっております。「図書館島編をあと二話で終わらせる」とか言っておいてこのザマ・・・お恥ずかしい限りです。次回には終わらせてエヴァ編に移りたいです。ホントに・・・

前回のコメントで「ネギが強すぎるのでは?」という意見が多く寄せられました。

私としてはこれくらい強くなってもいいかなという気持ちで書いていたのですが、思い返してみるとパワーバランス的には少々やりすだったかなと反省しています。でも、この作品のネギに愛着が湧いてしまった私にはどうしても直す気がおきません。この時点でもう作家として駄目かもしれませんが・・・

「このままでもいいよ」と言う方も多くいらっしゃったのでいっそのことしばらくはこのまま突っ走ってダメだったらまた考えよう・・・と手前勝手に決めてしまい、今回の話となりました。

ありがたい苦言を呈してくださった皆様には大変申し訳ありませんが、しばらくはこのまま見守ってくださいませ。お願い致します。

なお、今回の感想スレ返しは時間の都合上この場をもって替えさせていただきます。ご了承くださいませ。

作者のくだらない話に付き合ってくださり、ありがとうございました。




10/4  時系列がおかしいとの指摘を受け確認したところ、図書館島を脱出したときはまだ試験前日であると気づき、その部分だけ本文に修正を加えました。すみませんでした。



[10364] 其ノ二十一   急げ、図書館島脱出!!  どうなる!?期末試験の結果
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/10/04 12:08






「ぐっ、うう・・・・・・」


地底図書室が光に包まれたあと、床の中央で男が大の字で横たわっていた。


「うっ・・・お、俺は・・・生きているのか?」


男・・・ナギ・スプリングフィールドは薄く眼を開けながらも、自分が生きていることが信じられなかった。(まあもともと分身体だから“生きている”という表現が正しいのかは疑問だが・・・)

最後にはなった魔法を息子に押し返され、その直撃を喰らったはず・・・

いくらダメージを無効化できる特殊な肉体とて、あれだけのエネルギーを受ければ消滅は免れない。

だが、自分はこの通り存在している。不思議だ・・・


「あっ!気がついたんですね」


自分の子供のころを彷彿とさせる息子の顔が覗き込んできた。


「てめえ・・・最後の最後で手を抜きやがったな・・・」

「すみません。どういう形であれ、やっぱり、あなたは僕のお父さんですから・・・」


ネギがとても申し訳なさそうに言う。

しかし、ナギは今更怒る気にはなれなかった。

自分は完敗したのだ。目の前の年端のいかぬ息子に、それもきちんとした決闘で。

むしろこの肉体がある分、向こうの方にハンデがあった。それでも敗れたのだ。どうして文句などつけられようか。

いや、一つだけあるとしたら・・・


「お前もそんなに強い癖に変なところで甘ちゃんだな・・・実際の殺し合いじゃそんな甘さは命取りになるぜ?」

「わかってます。けど、これは殺し合いじゃありませんし、それに殺すってことがまだよく分かってませんから・・・」

「へっ、そうかい。・・・まあ、まだお前も若いんだ。これからゆっくり考えればいいか・・・」


息子の返答に苦笑いするナギ。


「それにしても、お父さんも運がいい。手加減したとはいえ本当に生き残れるとは思いませんでした。その身体に感謝ですね」

「けっ、良く言うぜ」


アハハ・・・と笑いながら言う息子を見て、ナギはちょっとだけ悔しそうな顔をする。


「しかし、ホントに俺に勝っちまうとはな。お前をここまで鍛えた師匠って奴は大したもんだぜ」

「はいっ!ピッコロさんには本当に感謝しています。ピッコロさんがいなかったら今の僕はなかった・・・」

「・・・なんか俺に再会した時より嬉しそうなんですけど?」

「あわわっ、そんなことないですよ!?お父さんにもお礼を言いたいんです。ピッコロさんに僕を預けてくれたのお父さんなんですから」

「えっ!?それマジかっ!?」

「ええ。マジです。6年前に・・・」


そうしてネギはピッコロとの馴れ初めを簡単に説明した。

ナギはそれをポカーンとした顔で聞いていた(ただピッコロにボロ負けした件では少し表情が暗くなっていたが・・・)。

だが、聞き終わってしばらくすると突然笑い始めた。


「ククク・・・ハッハッハッハ!!こいつは傑作だ!未来の俺もとんでもないことをしてくれたもんだぜ。・・・だがよ。いつかは超えられる日が来るのは覚悟してたけど、いくらなんでも早過ぎじゃねえか?」

「ハハハ・・・すみません。」

「あ~、まあいいか。お前があんまり『俺の息子』ってことで気負ってたら檄の一つでも飛ばすつもりだったんだが・・・必要なさそうだな。お前はすでに自分の道を歩んでいるみたいだし、俺からは何も言うことはないや。」


すると、とても安らかな表情になるナギ。すると、彼を光が包みだした。


「っ!?こ、これはっ!?」

「どうやら時間みたいだぜ。結構楽しかったぜ、バカ息子・・・運がよければまた会おう!ただ、俺に勝ったからって自惚れるなよ!今よりもっと強くなれ!お前なら“やつ”に立ち向かえるかもしれねえしな!」

「えっ!?“やつ”って誰ですか!?」

「じゃあな!俺が言えた義理じゃないが・・・達者でな!」

「お、お父さーーーん!!!」


そして、光が完全にナギを覆い隠した。

まぶしさに目をつぶったネギが再び見たときにはナギの姿はなく、もとの『アル』と呼ばれていた男に戻っていた。


「ふ~、どうやら親子の団欒はつつがなく終わったようで・・・グハッ!?グォォォォォッ!!?」


戻った途端に男に人生で味わったことのない痛みが襲いかかった。


「あっ!?そういえば、その肉体に与えたダメージって全部あの人に跳ね返ってくるんだっけ?」


ゴロゴロと体を転がしてのたうち回っている男を見て、ネギが思い出したかのように言う。

途端、ネギにいや~な汗が流れる。


「あ、あの・・・大丈夫ですか?」


男を気遣い、声をかけるネギ。もはや、出会った当初に男に感じていた嫌悪感はなくなっていた。今は純粋に心配している。


「ウオォォォォォッ!?・・・クッ、ククク・・・は、初めてですよ。私にここまでの苦痛を与えた人間はねえ・・・」


もがき苦しみながらも不気味な笑いをする男にネギは若干引いた。


「・・・そこまで露骨に引かれるといくら私でも傷つきますよ?」

「あっ、す、すみません。そうなったのも僕の所為だし・・・」

「ま、まったくです。グオッ!?・・・まさかこの分身にダメージを与えるとは・・・そこまで常識はずれとは思いませんでしたよ。グウッ!・・・た、ただ体を貸しただけの私としては仕返しの一つでもしたいところですが・・・ウゥェェェ!!・・・ハア、ハア、ハア・・・ナギをあっさり倒した君が相手ではそれも敵わないでしょうね。・・・アガッ!?」


もはや一種のコメディーと化している男の文句をネギは冷や汗ダラダラにして聞いていた。・・・もしかしてホントにやばいんじゃないか?


「グゥゥゥ・・・残念ながら今の私では君の足もとにも及ばない。それに君自身にもかなり興味が出てきてしまったのでね・・・今回はここで引き下がりましょうかね・・・」



ゴゴゴゴゴォォォォォ・・・・



突如図書室がグラグラと揺らぎ始めた。ネギは少しばかりよろめいてしまう。


「っ!?な、何が・・・!!!」

「ど、どうやら先ほどの戦いで発生したエネルギーに・・・ゴホッ、この部屋事態が耐えられなくなってしまったようですね。早くここを脱出しないと、崩れる部屋と運命を共にすることになりますよ」

「あ、あなたは・・・?」

「私なら心配に及ばず。ただ分身を消せばいいだけですから。・・・正直なところ本体に来たダメージが凄まじいのでもう維持するのも限界なんですけどね」

「す、すみません・・・」


なんかさっきからこっちが謝ってばっかだなとネギは思ったが、やったのは事実なのでこれくらいのことはしようと我慢することにした。


「さあ、急ぎなさい。ウゥゥゥゥ・・・ここには“アスナ”さんもいらっしゃるんですから」


男の言葉にハッとするネギ。すぐに寝かせている明日菜に目をやる。


「あ、アスナさ・・・っ!?」


彼女の元に駆け寄ろうとして、急にネギの体を虚脱感が襲った。

ネギはその場で膝をついてしまう。


(ぐっ、くそうっ!!!・・・さっき咸卦法を使ったから一気に気を消耗しちゃったんだ。体に思うように力が・・・)


ネギの最大の切り札である『咸卦法』・・・魔力と融合させることにより自身の気を爆発的に上げることができる反面、長時間使用すると気と魔力を同時に大量消費するために使った後の反動も大きいという大きな欠点があったのだ。

しかも今回はつい調子に乗って普段はめったに使わないフルパワーで戦っていたため、当然疲労も大きかった。

以前にピッコロにも散々注意された。


『ネギ、お前は素晴らしい才能を持つ反面、どこか自分を過信しているところがある。自信を持つのはいいが、あまり自惚れないことだ。・・・力に溺れれば、いつか手痛いしっぺ返しを食らうことになるぞ。』


ネギはまさに今その“しっぺ返し”を味わっているのである。


「ど、どうしたんですっ、ネギ君!?もはや時間がない。早くここから地上に・・・」


そうとは知る由もない男はネギを急かせる。

だが、脱力していく体はなかなか言うことを聞かない。


「なんてことだ・・・ピッコロさんに言われたことを今頃になって思い出すなんて。僕もまだまだ・・・未熟だっ!!」


だが、諦めるわけにはいかない。ここには明日菜だっているのだ。

焦りながらも無理やり体を動かそうとするネギ。


「っ!?・・・なるほど、そういうことですか」


ネギの様子に気づいた男はにやりとすると、


「フフフ・・・さすがの君もまだまだ詰めが甘いということですか。仕方ありません。これは貸しにしときますよ」


男が仰向けで寝ている体勢でネギに手をかざし、呪文を唱える。

すると、ネギの体を光が包み込んだ。


「こ、これは・・・!?」


身体にすうっと力が戻っていく。今ならそれほど重みは感じない。


「回復魔法です。それなら少しはマシでしょう?」


驚くネギに向かって男は体の苦痛に堪えながらもウィンクする。


「あ、ありがとうございます!」


男に礼を言い、ネギはすぐに明日菜のもとに向かう。

こんな状況であっても彼女は呑気に寝息を立てている。

自身より大きいその身体を背負い込むと、ネギは男に目を向ける。


「あ、あの・・・あなたはお父さんの仲間だったんですよね?・・・本当はお父さんのこといろいろ聞きたかったんですけど・・・・」


男はフッと笑い


「そうですね。私としてももっとゆっくりお話ししたかったんですが、そうも言ってられないようですし・・・またの機会にしときましょう。」

「あっ、そうだ“!!実はさっきお父さんが僕ならやつに立ち向かえるかもしれないって言っていたんですが、“やつ”っていうのに心当たりはありませんか?」

「“やつ”ですか・・・なるほど・・・ふ~む、まあ、あると言えばありますが・・・今はそのときではありません。それも次会う時お話しましょう」

「えっ!?つ、次って・・・」

「そう遠くないうちに会えますよ。・・・それでは本体の私もそろそろやばいのでこの辺でお暇させていただきます」


分身体だった男の姿がブレ始めた。


「あ、あの・・・あなたの名前を・・・!!」


ネギが放った一言に男は笑みを浮かべながら、


「そう言えば自己紹介がまだでしたね。私はクウネ・・・いや、偽るのはやめましょう。私はアルビレオ・イマ。元紅き翼のメンバーの一人です。」

「アルビレオ・・・イマ・・・」


その名前を反芻するネギ。


「ではネギ君。御機嫌よう・・・」


男、アルビレオ・イマの姿が完全に消えた。


「結局何も分からなかったな・・・」


ネギは呆然としながら思う。戦いに夢中になっていて忘れていた。・・・どうして
父がネギたちを残して旅をしているのか?“やつ”とは何者なのか?どうすれば父に会えるのか?


「お父さんがいるときに聞けばよかったな」


でも楽しかった。それだけは間違いない。話を聞けなかったのは残念だが戦ったことに後悔はしていない。・・・・・・ついに、ついに僕は父さんを超えたんだっ!!!

途端にネギの胸が熱くなる。ピッコロさんは自惚れるなっていってたけど、これくらいなら許してくれるよね?

ちょっぴり自画自賛モードに入っていたネギだったが、ピシっという地面に亀裂が走る音と天井から降ってくる瓦礫で気持ちを切り替える。


「いけない、いけない。早くここを脱出しなければ」


そして、背中で眠っている明日菜を見つめ、


「アスナさん、少し飛ばしますよ!!」


非常出口に向かって駆けだして行った。








ネギが出て行ったあとの地下の図書室はどんどん崩壊が進み、上からの瓦礫の山に埋もれていった・・・


『はあ・・・それにしても貴重な地下室をこんなにしてしまって・・・管理責任を問われるのは私なんですけどね?・・・これ、災害ってことにならないのかしら?』


なんていう声がどこかで聞こえた気もしたが、気のせいだろう。













「アスナ、ネギ君・・・大丈夫やろか」

「今は信じるしかないでござるよ。このか殿。」


心配する木乃香の肩に手を置きそっと言い聞かせる楓。

さきほどまた小さな地震が起こり、ネギたちの安否が気遣われる状況のなか、ただ待つことしかできないバカレンジャーたち。

すると、楓と古菲の直感に何かが引っかかった。


「「来る・・・っ!!」」

「えっ・・・!?」


2人の様子に他のメンバーは訳が分からず、驚きの声を上げると・・・



ドガァァァッ



突然、エレベーターのドアが吹っ飛んだ。

いきなり起こったことに思わず唖然とする一同の前に、


「フ~、まさかエレベーターが壊れてたなんて・・・仕様がないから蹴り飛ばしちゃった」


キックの体勢で背中に明日菜を背負ったネギが出てきた。


「ね、ネギく~ん!!アスナ~!!」


涙を流してネギたちに飛びついた木乃香。


「わ、わわっ!?こ、このかさん、痛いですよ~」


木乃香にギュッと抱きしめられて息苦しそうなネギ。


「ダメや。ウチらを心配させた罰や。しばらくこうさせて」

「そ、そんな~」

「あ~!!私も~!!」


悲鳴を上げるネギと木乃香に便乗しようとするまき絵。

ところで彼は上半身裸なのだが・・・気にならないのだろうか?まだ10歳とはいえ相手は男。しかも結構筋肉質。その・・・恥ずかしくないのか?後ろで若干顔を赤らめている夕映のような反応が普通なのでは?・・・まあ、それはいいか。さらに後ろで恥じらうどころかほ~と感心した声を上げる2人もいることだし。

何はともあれ、さっきの暗いムードとは打って変わってまったく和やかな雰囲気になった。


「それにしても、ネギ先生を連れ戻しに行ったアスナさんがなんで寝ているんですか?」


一方地面に寝かせられた明日菜は鼻ちょうちんをつけて今もなおグースカ眠っていた。

それに疑問の声を上げる夕映にネギが慌てて答える。


「そ、それはですね・・・え~と、さっきの地震で頭をぶつけてしまったみたいで気絶しちゃったんですよ。・・・あっ、でも大したことないみたいなんで病院に行く必要はないと思います。」


「アイヤ~、そうだったカ!」

「はあ・・・助けに行って逆に助けられてたら世話ありませんね」


ネギの言葉に疑いもなく納得する古菲と、絶賛気絶中の明日菜を呆れた目で見る夕映。


「あ、アハハ・・・(ご、ごめんなさい、アスナさん!)」

ただ笑ってごまかすことしかできないネギ。


「う、ううん・・・あれ?ここは・・・」

「気がついたでござるか?アスナ殿」

「れ、れれ?ネギはっ!?ネギのやつは!?」

「お、落ち着くでござるよ。ネギ坊主ならあそこに・・・」


楓が指で示すや否や、明日菜はネギの方にまっすぐ向かっていった。


「ね、ネギ!大丈夫!?怪我はない?」

「だ、大丈夫ですよ!ほらこの通り、どこにも怪我なんてないでしょ?」


服はボロボロになってはいるが、確かに体にはほとんど傷が付いていない。


「ま、マジで!?・・・あ、あんたの頑丈さには呆れるわね・・・」


ネギの体に畏怖を感じる明日菜であった。


「あっ!?そういえばあんた、さっき空を飛んで「ワワワワァァァァァ!!!?」」


明日菜の口を慌てて塞ぐネギ。


「えっ?今なんて・・・」

「あっ、そ、空を自由に飛んでみたいな~って言いたかったんですよね、アスナさん?もう、お茶目さんなんだから~~」

「「「「「「はあ?」」」」」

「アハハハ~まあいいじゃないですか!そんなこと・・・」

「そ、そんなことって・・・それよりネギ君。アスナが窒息しちゃう」

「え?・・・あっ、アスナさん!?」


武道家故の本能か、口を塞ぐ瞬間に同時に鼻押えてしまったようで、再びキュ~と気絶しそうになる明日菜に気づき慌ててネギが口から手を離す。


「ゼ~ゼ~・・・あ、あんた何してくれんのよ!?」

「ご、ごめんなさ~い!!」


怒り心頭の明日菜にヘコヘコ謝りだすネギ。


「まあまあアスナ、抑えて抑えて」

「木乃香、止めないでちょうだい。こいつにゲンコツの一つでもくれてやらなきゃ・・・」

「確かにネギ君にも落ち度はあるけど、アスナもさっき助けてもろうたやん。お相子やで」

「ぐっ、た、確かにそうだけど・・・」


木乃香の言い分に詰まってしまったアスナ。

少し落ち着いてきたようなので、ネギがそのタイミングを狙ってすかさず話題を変える。


「あ、あの~ところで問題の本はどうなったんですか?」

「あ、そうだわ!本よ、本っ!忘れるところだったわ。ねえ、みんなはもう中身を見ちゃったの?」


問いかける明日菜に皆気まずそうな顔で、


「あんな~アスナ・・・その本やけど・・・」


代表して木乃香が明日菜たちが出てくるまでの出来事を話す。


「な、ぬわんですってえ~~~!!?」


信じられない結末に絶叫する明日菜。


「あ、あのゴーレム・・・散々あたしたちを引っ掻き回しといて、ダミーとか・・・ふざけんじゃないわよっ!!」


ダンッと足を振りおろすと、地面にバキッと亀裂が入った。

あれだけ苦労したのに偽物を掴まされていたとは・・・やるせない気持ちになるのも無理はない。


「都合の良い話なんてあるわけない・・・そういう教訓なんでしょうかね?」


夕映が諦めの表情で、しかしどこか悟ったように言う。


「で、でもゴーレムなんているってことは、本当に魔法の本があるのかも・・・」


まき絵がもろに魔法の秘匿に引っかかるような発言をするが、


「いや。おそらくあのゴーレムは地下に秘かに隠されていた旧日本軍が所有する超高性能ロボット・・・というのはさすがに言いすぎですが、おそらくそれに近いものだと思います。私も魔法とい言うのには興味はありますが、さすがに実在すると思うほど現実逃避してはいません。」


淡々と言う夕映だったが、ごめんなさい、実在するんです。

まあ、彼女たちにはこれで良かったのかもしれない。


「で、でもどうしよう!本は嘘っぱちだったし、試験は明日だよ!このままじゃ・・・」


落胆する少女たち。時間がないこの状況ではもはや起死回生の一手はないのか!?

そんな中、黙っていたネギが口を開いた。


「何をそんなに怖がってるんですか!それでも2-Aですかっ!!」


突如担任としてのネギに活を入れられ、ビクッと背を正す明日菜たち。


「皆さんは何のためにここまで来たんですか?あの地下でどれだけ勉強したと思ってるんですか?・・・この地上まで上がる途中で皆さんは問題を解いて行ったはずです。そのとき魔法の本とやらの力に頼りましたか?違いますよね。だってその本はただの本なんですから、皆さんの頭が良くなるわけではないんです。問題が解けたのは本の力ではありません。皆さん自身の力です。・・・大丈夫。もっと自信を持ってください。今の皆さんなら必ず試験に勝てます!!」


力強いネギの言葉が少女たちの心を打った。


「ネギ君・・・」

「ネギ坊主・・・」

「ネギ先生・・・」

「ネギ・・・」


担任からの激励にジ~ンと感動しているバカレンジャーたち。


まき絵なんかは目に涙を滲ませている。


「そうよね。あんなものに頼らなくたって自分の力でなんとかできそうだもんね!」


自信が出てきたのか明日菜がやる気を見せる。


「わ、私も力がわいてきたよ!」

「今回は私たちだけでなくネギ先生の命運もかかってます。負けられませんね!」

「アイヤ~、私もなんだかできそうな気がしてきたアル!!」

「拙者も今回のことで苦手な勉強にも自信がついたでござるよ!」


まき絵、夕映、古菲、楓も試験に意欲を燃やしている。


「みんな・・・ようし、ウチも頑張るえ!!」


木乃香もバカレンジャーたちが立ち直ったのが嬉しいのか、自分も頑張ろうと奮起する。

こうしてネギの言葉が全員の闘志に火をつけた。


「バカレンジャー!!全員赤点脱出よ!!」

「「「「「オーーーーーッ!!!!!」」」」」



グゥ~~~・・・・・・



「「「「「「「・・・・・・」」」」」」

「あっ、ハハハ・・・す、すみません。運動したからお腹減っちゃって・・・」


ネギが汗を垂らしながら、苦笑する。生徒たちを鼓舞させた本人であるが故に何とも締まらない最後であった。


「はあ~、しゃ~ないわね。とりあえず、夕飯にしましょう。こっちはここ数日まともな食事してなかったからね。」

「そうやな~。じゃあ、ウチが腕によりをかけて作ってあげる」

「そうと決まれば、今夜は最後に徹夜で勉強会をしましょう。アスナさんたちの部屋であつまってもいいですか?」

「そうね。じゃあ、一緒に夕飯しない?このかもいいでしょ?」

「もちろんや」


かくしてアスナたちの部屋でバカレンジャーの追い込み勉強会を開催することになった。


「あっ!?のどかっ、夕映たちだよっ!!お~い!!」

「ゆえ~!!」


地上に残っていた図書館探検隊ののどか、ハルナの2人が駆け寄ってきた。


「のどかたちです。」


夕映ものどかたちの声に反応した。


「ゆえ~、大丈夫だったの!?図書館島から2日も出てこなかったから・・・」

「のどか、ハルナ・・・2人には心配かけました。すみませんです・・・」

「そんな顔しないの!私たち友達でしょ?私は信じてたよ。夕映たちは戻ってくるって、ね?のどか?」

「うん。そうだよ。・・・おかえり、ゆえ・・・」

「のどか・・・」


ヒシっと親友と抱き合う夕映。

ある意味感動的なシーンに涙が出そうになる者もちらほら。


「じゃあ、みんな揃ったところでウチらの部屋にレッツ・ゴーや!」

「おーーーうっ!!」


のどかたちが持ってきた服を着て、一行は女子寮をめざす。


「あっ、ちょっと私ネギと用事があるからみんな先に行っててよ」

「えっ!?そうなんか?・・・はは~ん。さてはアスナ、ネギ君にイケナイ遊びでも(ポカッ)あ、痛っ!?」

「バカなこと言ってないでさっさと行った!」

「うえ~ん、バカレッドにバカって言われてもうた~」

「もう、ふざけないでよね!」


いつになく真剣な明日菜を見て、木乃香も何かを察したのか、


「・・・遅くならんうちに来てや?」

「わかってるわよ・・・」


ちょっぴり心配なのか後ろ髪を引かれる思いで明日菜たちから離れていく木乃香。

やがて、ネギと明日菜しかいなくなると明日菜が口を開いた。


「・・・私が何を聞きたいか、わかってるわよね?」

「ええ・・・だからわざわざ気を使ってくれたんですよね?ありがとうございます」

「じゃあ、単刀直入に言うわ。あんた一体何者なの?普通の人間が空を飛べるなんてありえないわ。それにあの謎のお兄さんと話していたとき『魔法』って単語が出てきたんだけど、・・・もしかして『魔法』って本当にあるの?」


ネギは一瞬躊躇するが意を決して真実を言った。


「・・・アスナさんの言うとおり、『魔法』は実在します。そして、僕は『魔法使い』です」


衝撃の一言・・・のはずなのだが、それをこの目で直に見ている明日菜にはそれほど驚くことでもなかった。


「ホントにあったんだ、魔法って。ゲームの中だけと思ってたのに・・・じゃあ、あんたが空を飛んでいたのも『魔法』ってわけ?」

「残念ながらあれは魔法ではありません。『舞空術』と言って、気をコントロールすることにより飛行を可能にする武術の技の一つです。魔法でも一応『浮遊術』という似たような術があるんですが、一流の魔法使い以外は大抵箒や杖といった道具が必要なんで僕はあまり使ってないんです。」

「え?あれ、武術だったの?マジで?私、超能力だと思ってた・・・もしかして私にも使えたりする?」

「え、ええ。アスナさんは気が使えるみたいですから理論上は可能ですが・・・相当な修業が必要ですよ?」


ネギがこっそり忠告するが、明日菜はブルブルと体を震わせている。


「あ、あの・・・アスナさん?」

「ヨッシャーーー!!!一度空って飛んでみたかったのよね!ドラ○もんのタケ○プターじゃないけど、ああ言う風に翼とかがなくても空を飛べる方法があったらな~とは思ってたんだ~」

(アスナさん、ほ、本当に空が飛びたかったんだ・・・・・・)


明日菜の反応に唖然とするしかないネギ。


「ん?そういえばなんで魔法使いが先生なんてやってるのよ?」


思い出したように訊いてきた明日菜にネギは今まで隠していたことを洗いざらい話すことにした。

世界各地に魔法使いが存在し、NGOなどで活躍していること。そしてここ麻帆良学園も魔法使いたちの拠点の一つであること・・・
自分は幼い頃に別れた父を求めて魔法使いをめざし、(実際はそれほど『立派な魔法使い』というものには拘ってはいない)、今は仮免許の段階だという。そして、この学園で教師を務めあげることができれば晴れて一人前の魔法使いになれるということ・・・
ただ、ネギ自身は魔法を使うことにあまり拘りはなく、むしろ戦闘では使い勝手が悪いからもっぱら武術を使ってるとか・・・
一般人に魔法の存在が知られていないのは魔法使い側が真実を隠蔽しているからである。そして、その『魔法の秘匿』こそが魔法使いたちにとっての重大な暗黙のルールの一つであり、これを破った者は本国へ送還され、最悪の場合オコジョにされてしまうこと。だから、魔法使いたちは魔法の存在が外に漏れないように気を使うこと、などなど・・・


「ふ~ん。そっか・・・あんたも大変なのね~」

「あ、あまり驚かないんですね・・・」

「あんたとどれだけ一緒にいると思ってんのよ?あんたの非常識さを見ていたら今更そんなことくらいでは驚かないわよ・・・それよりあんたこそ大丈夫なの?魔法のこと私にベラベラしゃべっちゃって。その、『魔法の秘匿』とやらに引っかかるんじゃ・・・」


ネギは少し吹っ切れた表情で、


「始めは僕も話そうか迷いました。でも、皆さんに隠しごとをしてるっていうのがとても心苦しくて・・・だったら、一人くらいには僕の秘密を知ってもらってもいいかなって思えたんです。
それに少しの間ですけどアスナさんと生活してこの人なら信じられる気がしたんです。」


そして、ネギは明日菜を真剣な面持ちで見つめる。


「アスナさん。今僕はあなたを信じて僕の秘密を明かしました。もちろんこれは魔法の秘匿に関わる重罪です。バレればオコジョは免れないでしょう。・・・もし、この秘密を隠し通す自信がない、もしくはこの秘密を知って怖くなったのでしたら素直におっしゃってください。僕が責任をもってあなたに話した部分の記憶だけを消去します。」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


しばし2人に流れる沈黙。

だが、その沈黙も明日菜が口を開くことで破られる。


「はあ~わかったわよ。あんたが勇気を振り絞って打ち明けてくれた秘密だもの。その信頼を裏切るようなマネはしないわよ。私に魔法とか見られちゃったのも私たちを守るために仕方なくやっちゃったことなんだからあんたに責任はないしね。・・・安心しなさい。あんたの秘密は私の中だけに留めておくわ。私はこう見えて口だけは堅いんだから!」

「あ、アスナさん・・・」

「ネギ、私を信じなさい!私を誰だと思ってるの?」


自信満々に言い放った明日菜に、ネギは思わず目を潤ませながらうんうんと強く頷いた。


「あ、ありがとうございます、アスナさんっ!!!そして、これからもよろしくお願いします!!」

「こっちこそよろしくね、ネギ!!」


こうしてネギに秘密を共有し合うパートナー(?)が誕生した。











~そして試験当日~

もうじき試験開始なのに2-Aの面々は浮足立っていた。


「アスナさんたちはまだ着きませんの!?」

「い、い~んちょ~・・・そんなに焦ってもしょうがないって・・・パルたちから無事生還したってメール来てたから大丈夫だって!」

「し、しかし・・・」


そうは言ってもやはり不安が隠せないあやかたちであったが、


「よ~し、全員席に着いて~」


無情にも試験が開始されようとしていた。


「あちゃ~」

「間に合わなかったか・・・」


あちこちで落胆の声が上がる。


「アスナさん・・・」


バカレンジャーたちが間に合わなかったことに悲しみを露わにするあやか。

だが、試験はすぐ・・・気持ちを切り替えなくてはならない。

だが、それも簡単にはできないというのが人間というもの。


(アスナさん・・・あなたはこんなことで終わってしまうような人ですの?)


祈るように目をつむるあやか。


「じゃあ、問題を配るので筆記用具以外はしまって・・・」



ドドドドドォォォォォッ



「ん?」



ガラッ!!!



「「「「「「「「ちょっと待ったァァァ!!!」」」」」」」」

「あ、アスナさん・・・」


喜びの声を露わにするあやかたち。

そこには、全速力で走ってきたためか息を切らせながらも自信に溢れた表情で、明日菜たちバカレンジャーと木乃香、のどか、ハルナら図書館島探検部の面々が立っていた。


「な、なんとか・・・間に合いましたね・・・」


体力がそれほどない夕映がいかにも苦しそうに言う。


「まったく・・・時計が遅れてたんなら早く気づきなさいよね!!このバカネギ!」」

「ア、アハハハ・・・す、すみません・・・」

「「「「「っ!?ネギ先生―――!!!」」」」」


扉からはここしばらく姿を見せなかったネギの姿も見られ、生徒たちから歓声が上がる。


「はあ・・・まったく、試験にぎりぎりに来るとはな・・・まあ、5分前だしセーフとするか。・・・おまえたち、早く席に着け」


呆れながらもどこか優しさの籠った声で教員が着席を促した。


「「「「「「「「ハイッ!!!」」」」」」」」


いよいよバカレンジャーたち最大の戦いが幕を開ける。

ネギは席に着いた彼女たちを廊下から見詰めながら、安心した表情で呟く。


「今のバカレンジャーなら大丈夫!きっと乗り越えられる。・・・あと僕にできるのはこれくらいかな・・・」


そして、手に一輪の花を持ち、


「花の香りよ 仲間に元気を 活力を 健やかな風を・・・・・・refectio・・・」


すると、花から心地よい香りが教室中に広がった。


「あっ・・・なんだか気分が・・・」

「すごくリフレッシュしたアル!!」


なんだかわからないけど、気持ちが落ち着いた生徒たち。

だが、その中で一人この原因が分かった者がいる。


(ネギ・・・ありがとね。私たち頑張るからっ!!)


廊下で見ているであろうネギに視線を送り、明日菜は気を引き締めるのであった。







~後日、試験結果発表~


「いよいよだね・・・」

「うん・・・」


クラス全員が息を飲む中、画面を食い入るように見つめている。


【それでは、栄えある学年一位のクラスの発表です!!!】


ドキドキドキ・・・と生徒たちが見守る中・・・


【なんと!まさかのこのクラス!!今まで連続最下位記録を更新中だったあの・・・2-Aが!!平均点78.0で堂々のトップです!!】


「「「「「・・・・・・えぇぇぇーーーーー!!!?」」」」」

「や、やったーーー!!!」


2-Aが歓声で湧き上がった。

ほとんど不可能と思われた学年一位・・・それを今成し遂げたのである。喜びはいかほどのものか・・・


「よっしゃーーーっ!!やった!やったわよ、ネギ!」

「はいっ!アスナさん!!やりましたね!」


手を取り合い、涙を流して喜びを噛みしめる明日菜とネギ。


「まさかこんな日が来るなんて・・・」

「拙者も今度ばかりは不覚にも嬉しさに泣いてしまいそうでござる・・・」

「これでもうバカレンジャーなんて言わせないアル!!!」

「いや・・・それはどうでしょう?」


バカレンジャーの面々も感激しているようだ。一つ空気が読めてない発言があった気もするが・・・まあ空耳であろう。


「これでネギ君も正式にウチらの担任や~」

「よ~し、じゃあ今夜『2-A学年トップ&ネギ君正式採用おめでとうパーティー』をやろうじゃないかっ!!!」

「「「「「さんせーーーい!!!」」」」」


盛り上がっていくクラスの空気からネギは一人離れて教室の窓から空を見上げる。

その眼は今はどこにいるのか分からない父と、そしてウェールズにいるであろう師へと思いを馳せていた。


「父さん・・・ピッコロさん・・・僕、これからももっと頑張るよ!」


その背中に明日菜の声がかかる。


「ちょっと、ネギ~何してんの~?今日はあんたも主役なんだからこっちに来なさいよ!」

「あっ、はいっ!アスナさん」


ネギは本格的に担任になったクラスメートたちの集まりに寄っていった。









<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!なあネギ、吸血鬼って知ってっか?」

ネギ「ええ知ってますよ。夜に人間の血を吸って生きる怖い怪物ですよね?」

悟空「おめえの生徒に一人いるぞ、その吸血鬼・・・」

ネギ「えっ!?そ、そんな・・・あっ、のどかさんが襲われてるっ!?」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI 『麻帆良に出没!  吸血鬼はネギの生徒だった!!』」

ネギ「たとえ僕の生徒でも、悪いことをしているのなら教師として見逃すわけにはいかない!!」









あとがき

なんとか終わったぜいっ!!(ちょっと展開が無理やりだったかもだけど・・・)

本作はこれよりエヴァ編に突入する!!!

・・・っと、ちょっとテンションが高めの仕事人です。

まあ、今後もいろいろと意見があると思いますが、感想の方をどうぞよろしくお願いします。



[10364] 其ノ二十二   麻帆良に出没!  吸血鬼はネギの生徒だった!!  (本文微修正)
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/10/11 20:34





4月に入ったばかりのとある夜に麻帆良学園女子寮近くの桜並木の通り・・・通称桜通りを、一人の少女が駆け抜けていた。


「ハァッ・・・ハァッ・・・ハァッ・・・」


ちょうど共同浴場から帰るところだったのだろう、洗面用具を抱えている。

しかし、息せき切って走るその姿はまるで誰かに追われているようであった。


「やだっ・・・な、何!?」


辺りは暗くてほとんど何も見えないが誰かが追いかけているのはわかる・・・もしかしてストーカー?

逃げる以外に防衛手段のない少女にとってその恐怖はいかほどのものか、想像に難くない。

だが、後ろを振り返らずに無我夢中で駆けだしていた少女の前に突如怪しい人影が・・・


「きゃあっ!?」


びっくりした少女は桜の木の根元に尻もちをついてしまう。

痛がって尻を撫でながら、顔を上げると彼女の顔がサーっと青ざめる。


「あ・・・・いや・・・・」


よほど恐ろしいものを見ているのか眼には涙を滲ませ、


「いやあぁ~~~~ん!!」


悲鳴が迸った・・・が、不幸なことにそれを聞いた者はいなかった・・・







ドサッと倒れた少女から小さな人影が離れていく。


「ふうっ・・・今夜はこんなところかな?」


人影はハローウィンで魔法使いが着るような黒い衣装とつばのついた丈の長い黒帽子を被っていた。

少女から離れるとき何やら口元を拭っていたようだが・・・


「それにしても、今度の獲物が同じクラスの佐々木まき絵だったとは・・・不思議なものだな。まあ、あれだけやればいずれはこうなるのは当たり前か。・・・しかし、一般人の血はやはりどこか物足りんな・・・」


ぶつぶつ独り言を言う影に、さらにもう一つの大きな影が降り立った。


「マスター、今日のお食事はお済でしょうか?」


月明かりが大きい方の影を照らし出す。

緑の髪を腰のあたりまで伸ばし、頭に何故かヘッドギアを装着している。

そして、極めつけはその服装・・・麻帆良学園女子中等部のものであった。

そして、その顔をつい最近ようやく正式に就任した2-A・・・いや、もう今は3-Aに変わってるのだった・・・の担任が見たら驚いたことであろう。

この少女の名は絡繰茶々丸という。ネギのクラスの生徒である。

そして、驚くべきはもう一つ・・・


「ああ・・・いつもどおりだったよ、茶々丸」


小さな影が被っていた帽子を取り去る。

そこにはまるで西洋の人形のような美しさを秘めた顔立ちの金髪の少女が・・・

彼女はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルという。

彼女もまたネギの生徒なのだが、彼女にはとある秘密があった。

そう、彼女はただの人間ではない。吸血鬼・・・それも真祖といわれる最強種族なのである。

また魔法使いの間ではを『闇の福音』と恐れられるほどの魔法の使い手でもある。

そして、傍に控える茶々丸はその従者である。

このエヴァンジェリンこそが先ほどまき絵を襲った真犯人なのだ。


「・・・流石にネギの坊やにも感づかれる頃かな?あの子供も見習いとはいえ自分の生徒に手を出されたとあっては黙っていまい。近々動き出すだろうよ」

「そのことですがマスター・・・少しお耳に入れたいことが・・・」

「ん?どうした茶々丸?」


従者の言葉に耳を傾けるエヴァ。


「先日の図書館島付近で起こった地震を覚えていらっしゃいますか?」

「ああ、あれか・・・もちろん覚えてるぞ。我々の家もわずかに揺らいだほどだからな。それにあの一帯で強い魔力を感じたが・・・まあ、大方図書館島で魔力暴走でも起こったんだろうよ。珍しいとは思ったが、それだけだ。あれから大して騒ぎになってないのだから放っておいていいだろう。それがどうかしたか?」


すると茶々丸は一瞬言おうか躊躇ったあと言葉を紡いだ。


「実は念のためにあのときの地震で感知したエネルギー反応を分析したのですが・・・信じられない結果が・・・」


「ん?なんだ?もったいつけないで言ったらどうだ?」


次に発した茶々丸の言葉に表情が変わるとも知らずに、エヴァが続きを促した。


「あのエネルギーには確かに強い魔力反応がありましたが、それと同時に気の反応もあったんです。とてつもなく強大な・・・もしかしたら魔力より強いかもしれません。」

「気だと・・・?馬鹿な・・・いわば気は生命エネルギーだぞ。すると何か?あの地震は生物が起こしたとでも?」

「ただの生物ではありません・・・一人の人間が起こしたものです」

「なっ!?に、人間だと・・・はっ!?ま、まさか・・・」


初めて表情を引きつらせたエヴァ。


「はい・・・私もその当人を特定できるとは思いませんでした・・・」


茶々丸から出された人物の名前とは・・・


「あのエネルギーのデータは・・・我々のクラス担任、ネギ・スプリングフィールド先生のものと一致しました」

「「・・・・・・」」


2人の間に流れる沈黙。

そして、徐々にであるがエヴァの周囲の空気が張り詰めていく。


「くっ、クッハッハッハッハッ!!!」

「ま、マスター・・・?」


急に笑い始める主人に戸惑う茶々丸。


「お前もおもしろいジョークを言えるようになったじゃないか?茶々丸よ・・・」

「い、いえ・・・ジョークなどでは「黙れ・・・」ま、マスター・・・」


反論しようとした茶々丸が見たのは笑顔でありながら目がまったく笑っていない主人であった。


「あの坊やにそれだけの力があるだと?いくらあいつの息子とは言えそれはありえんだろう。いや、あるわけがない!確かに着任初日に見せたあの威圧感は子供とは思えんものだったし、動きもなかなかだった。だが、魔力も気もいたって普通だったではないか?・・・相手は所詮子供だぞ?できることには限りがある」

「そ、そうかもしれませんが・・・あまり子供と侮るのはどうかと・・・」

「貴様・・・私があんな小僧に負けるとでも?」

「そうは言っていません。ただ油断するべきではないと思います」

「油断?フン、この私にそんなことは万に一つもありえん。むしろ、それくらいハンデをつけてやったほうが坊やに取っていいのかもしれんがな。ハッハハハ・・・」


いつになく自信にあふれる発言をするエヴァを心配そうに見つめる茶々丸。


「おい、ところでこのことは“あいつ”にはバレてないだろうな?」


すると、茶々丸の顔がますます曇る(傍目には分かりづらいが・・・)。


「ええ。今日はいつもの巡回だと言ってあります」

「そうか。それは結構。“あいつ”は私たちがこういうことをしていると知ったら、何かとうるさそうだしな。」

「マスター・・・計画のことを“兄さん”に話したほうが・・・」


すると、エヴァが途端に不機嫌になる。


「またその話か・・・くどいぞ茶々丸。これは私の問題だ。あんな木偶の坊の出る幕はない」


そう言いきってスタスタと歩いて行ってしまうエヴァ。


(マスターは“兄さん”のことを持ちだすといつもああなる。でも、苦しそうに見えるのは私の勘違いなんだろうか?・・・本当は“兄さん”を巻き込みたくないんじゃ・・・)


茶々丸には人間の感情はよくわからない。それは、彼女がガイノイドという言わばロボットだからである。

しかし、生まれてから2年あまり、彼女の言う“兄さん”のおかげか、彼女にも『感情』が芽生えていた。彼女自身はそのことに気づいていないが・・・


「どうした茶々丸!さっさと帰るぞ!・・・遅くなると“あいつ”がうるさいからな」

「あっ・・・お待ちください、マスター」








~翌日~

「「「「「「3年!A組!!ネギ先生ーーーっ!!!」」」」」」


ワアァァと歓声が上がる中、ニコニコ顔で教壇に立つ我らがネギ先生。

ついに彼も正式にこの3-Aの担任に就任することになったのだ。嬉しくないはずがない。


「えと・・・・改めまして、3年A組の担任になりました。ネギ・スプリングフィールドです。これから来年3月までの1年間よろしくお願いします」

「「「「「「はーーーい!よろしくーーーー!!」」」」」」


元気のいい返事にネギも自然に笑顔になる。


(この数ヶ月で僕もクラスに馴染んできたなあ。でも、まだまだお話していない人もたくさんいるなあ・・・この1年で全員と仲良くできればいいな・・・)


心に新たな目標を立てる。・・・『クラス全員と仲良くなる!!』


「よし、頑張るぞーーー!・・・ん?」


気合いを入れた矢先に鋭い視線を感じたネギ。

ピッコロに鍛えられたおかげで気配の察知が割と得意なネギのこと・・・簡単に発信源を見つけた。


(あの娘は・・・出席番号26番エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさん―――)


出席簿で顔と名前を確認する。


(囲碁部、茶道部・・・!?タカミチは困った時に相談しなさいって書いてるけど・・・どういうこと?)


再びエヴァに目を向けると何やらこちらを値踏みするかのような目で見てくる。


(そう言えばこの人からは明らかに人間とは違う気を感じる・・・魔法関係者なのか?)


すると、ネギとエヴァの視線が一瞬交錯する。


「クスッ・・・」

「・・・っ!?」


エヴァがくすりと笑った。だが、その眼はまるで獲物を見つけた獣のように妖しい光を放っていた。

ネギが少し動揺する。・・・が、すぐに負けじと睨みかえす。

エヴァだけに向けて殺気を飛ばすかのように。

すると、エヴァの様子に変化が現れる。

一瞬背筋がビクッとしたあと、体をブルブル小刻みに振るわせ始めた。近くで見れば彼女が不自然な汗を流していることなどもすぐにわかるであろう。

その所為か、エヴァから先程までの余裕な表情が消え、悔しそうな顔でネギを睨んできた。

だが、ネギはその視線を正面から受け止める。

見つめあう2人・・・と、これだけ書くとまるで恋愛物のように聞こえるが、実際はそんな甘いものではない。

2人の間だけ空気が張り詰めてる・・・とでもいうか。少なくとも仲良くしようという雰囲気ではない。

だが、能天気な3-Aの連中には一部を除いて2人のやり取りにまったく気づいていない。


「ネギ先生、今日は身体測定ですよ。3-Aのみんなもすぐに準備してくださいね。・・・・・・ネギ先生?」


ガラっと扉を開けて入ってきたしずなの呼びかけで我に返るネギ。


「あっ、すみません。じゃあ僕は教室から出ますからみなさんは準備しててくださいね!」


ネギはそう言ってさっと教室から去っていく。

残された生徒たちはワイワイと騒ぎながらも服を脱いでいく。

その中でエヴァだけはギュッと拳を固く握りしめていた。


(ば、馬鹿な・・・この私が一瞬とはいえ恐怖を感じただと!?そ、そんなはずはない!!・・・坊やの力の底が・・・全く見切れなかったなどと・・・そんなこと断じて、あ、ありえん!!)


あのときやたらネギが大きく映ったのは気のせいだ。あのプレッシャーに気押されたなど闇の福音の名においてあってはならない。


(何を弱気になってるんだ私は・・・戦ってみればすぐにわかることではないか。フフフ・・・、そうだ!この私があんな小僧に劣っているはずがない!!こうなったらしばらくはこのクラスの連中を襲うとしよう・・・やつへの挑発だ!!!)


瞳には修羅のごとき炎が灯り、握りしめた拳からは血が滴り落ちていた。


「あ・・・あの、エヴァちゃん。血出てるけど、大丈夫?」

「ん?ああ、問題ない。唾でもつけとけば治るだろう」


生徒の一人が心配そうに話しかけるがエヴァは何でもないかのように傷口を舐めてみせる。


「ねえねえ、ところでさ。最近寮で流行ってるあの噂・・・どう思う?」

「え・・・?何よそれ、柿崎?」

「ああ、あの“桜通りの吸血鬼”ね」


そのとき、エヴァの耳に明日菜たちの会話が流れ込んできた。特に『桜通りの吸血鬼』のあたりで反応する。


「えーーー何!?何それーーー!?」

「何の話や?」

「知らないの?しばらく前からある噂だけど・・・」


途中から木乃香たちも割り込んできたので美砂が得意そうに噂について話し出す。


「何かねー満月の夜になると出るんだって。寮の桜並木に・・・」


言ったん顔を伏せてゆっくり上げながらおどろおどろしく、


「まっ黒なぼろ布に包まれた・・・血まみれの吸血鬼が・・・」

どど~んと両手を幽霊のようにぶら下げて美砂が言った。


「キ・・・キャーッ!!!」

「ひいい・・・」

「ほほぅ」

「へ~~~」


美砂の話に聞いた者の反応は様々だった。


「そう言えば今日まきちゃん来てないけど、その吸血生物にやられちゃったんじゃない?」

「た、確かにまきちゃん美味しそうやけど・・・ちょっと洒落にならんな・・・」

「いや・・・吸血生物じゃなくて吸血鬼!!」


だが、明日菜だけは呆れた表情で言った。


「もう・・・そんな噂デタラメに決まってるでしょ?アホなこと言ってないで早く並びなさいよ」

「そんなこと言って~アスナも少しは怖いんでしょ~?」

「違うわよ!あんなの日本にいるわけないでしょ!」


桜子に突っ込みを入れた明日菜だったが、


(ん?いや、待てよ。魔法使いがいるくらいなんだから吸血鬼がいてもおかしくないか・・・?)


「そのとおりだな・・・神楽坂明日菜」

「え・・・」


後ろから話しかけられてびっくりする明日菜。振り向くとそこにはエヴァがいた。


「噂の吸血鬼はお前のような元気でイキのいい女が好きらしい。十分気をつけることだ・・・」

「え・・・!?あ・・・はあ・・・」

「ありゃー。エヴァちゃんから話しかけてくるなんて珍しー」


戸惑う明日菜と不思議そうにエヴァを見る桜子。

そんな彼女たちであったが廊下から聞こえてきた亜子の声で一変する。


「先生―――っ、大変や―――っ!!まき絵が・・・まき絵が―――」









~保健室~


「ど・・・どうしたんですか!?まき絵さんは・・・」

「なにか桜通りで寝てるところを見つかったらしいのよ」


ネギの問いにしずなが答える。


「なんだ、大したことないじゃん」

「甘酒飲んで寝てたんじゃないかな~」

「昨日暑かったし、涼んでたらそのまま寝ちゃったとか・・・」


木乃香たちが勝手に憶測を立てているが、保健室のベッドに寝ているまき絵を見つめていたネギは違っていた。


(・・・いや、違うぞ!まき絵さんからはほんの少しだけど魔法の力を感じる・・・!)


じっと観察すると、まき絵のうなじのあたりに小さい噛み跡のようなものがある。


(魔力を感じるのはここからだ・・・まさかとは思うが・・・)


そして、ほぼ犯人像を予想できてしまったネギ。


(いや、まだ断定するのは軽率だ。これは調べてみる必要があるな・・・)


「ちょっとネギ。なに黙っちゃってるのよ」

「あ・・・はいはい。すみません、アスナさん」


明日菜に笑って誤魔化すネギ。


「まき絵さんは心配いりません。ただの貧血かと・・・
それと、僕今日は帰りが遅くなるので晩御飯は要りませんから」

「え・・・?う、うん」


なんだかネギに丸め込まれた気がしたが、勢いに飲まれて頷いてしまった明日菜たちであった。






~その日の晩~


明日菜、木乃香、のどか、夕映、ハルナの5人が下校中のことである。

ちょうどそのころ例の桜通りの近くにまもなくさしかかろうとしていた。


「吸血鬼なんてホントに出るのかな?」

「あんなのデマに決まってるです」

「だよね~」


彼女たちの会話は吸血鬼の噂で盛り上がっている。


「じゃあ、先帰っててね。のどか」

「はいー」


一人明日菜たちから離れ、桜通りの方に歩いて行くのどか。

その後ろ姿を明日菜は心配そうに見ていた。


「本屋ちゃん、一人で大丈夫かな?」

「平気やて。吸血鬼いないゆーたんアスナやろ?」





「フンフンフン~」


明日菜たちと別れ、のどかは鼻歌を歌いながら帰り道を歩いていた。


「あ・・・桜通り・・・・」


いつの間にかもう桜通りにまで来ていたようだ。

あの噂を聞いたせいだろうか、サアア・・・と風が強くなったように感じた。


「か、風強いですね・・・ちょっと急ごうかな・・・」


怖くない怖くないと自分に言い聞かせながらのどかは桜並木を通過しようとする。

そのときである。



ザワッ・・・・・・



「ひゃっ・・・!?」


急に風がさらに強くなった。おもわずビクッとしてしまう。


「え・・・・・・?」


だがこのとき、のどかははっきりと自分を射抜く視線を感じた。出所がわかってしまうくらいに・・・

恐る恐る顔を上げると・・・


「ひっ・・・・・・!?」


街灯の上に黒い衣装を纏った何者かが立っていた。・・・いや、何者かではない。のどかには一目で正体がわかった。


「さ、桜通りのき、吸血・・・」

「27番宮崎のどかか・・・悪いが少しだけその血をわけてもらうよ」


ニィッと吸血鬼の口が吊りあがった、次の瞬間・・・・・・



バサアッ



なんの防衛手段もないのどかに襲いかかった。


「キャアァァァァ!!!」


のどか甲高い悲鳴を上げる。


「ハハハ・・・・「待てー!!!」っ!?」


高笑いをしながらのどかに飛びかからんとした吸血鬼に声がかかる。そして、



バシィッ



「!?・・・!!?」


吸血鬼の頬に何者かの蹴りが減り込んだ・・・

グラァッと一瞬吸血鬼の視界が歪む。

そのままいきおいよく吹っ飛んで行く。



ザザザザァァァ・・・



地面に引きずった跡を残しながら吸血鬼の体は10メートル近く離れたところで止まった。

すると、薄れゆく意識の中で、倒れそうになるのどかを誰かの腕が抱きとめ、タンッと着地したのがわかった。

ぼんやりするのどかの視界に映ったのは、最近気になり始めた男の子・・・


「ネギ・・・せんせ・・・?」

「もう大丈夫ですよ、のどかさん。あとは僕に任せてください」


にっこり笑うネギに安心したのか、のどかは意識を手放した。


「さて・・・・・・」


気絶したのどかを抱えたままネギは吸血鬼の方に目を向ける。

吸血鬼は地面に鼻を強打したのか、うずくまった姿勢で必死に鼻の出血を抑えている。


「血・・・!?この私が・・・あんな小僧に、気高い血を・・・!!」


手に着いた血を見て驚愕している吸血鬼。

その姿をネギは鋭い視線で見つめていた。


「やはりあなたでしたか・・・」


ザァァァッと強い風が吹き、吸血鬼の被っていた帽子が吹き飛ばされる。

そこから流れるように現れた金色の髪。

そして、吸血鬼が顔を上げる・・・



「キ、キサマァァァァーー!!!」



怒りに狂う夜叉の形相で。



「エヴァンジェリンさん・・・」



ネギが少し哀しそうな顔でその名を呟いた。







ついに出会ってしまった2人。

はたしてエヴァンジェリンの目的とは?

そして、自分の生徒を相手にネギは戦うのか?

まだ、劇は幕を開けたばかりである・・・・・・











<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!とうとうエヴァんじぇってやつとネギの戦いが始まったぞ!」

ネギ「エヴァンジェリンさん・・・なんでこんなことを・・・」

エヴァ「フン。その気性、まさに父親譲りだな」

ネギ「なっ!?父さんを知ってるんですか!?」

エヴァ「さあな?知りたかったら力づくで訊いてみろ!!」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI 『覚悟しろ!  ネギがエヴァに鉄拳制裁!?』」

ネギ「ホントは体罰って良くないけど・・・少し痛い目を見ていただきましょうか!!」







あとがき

やっと入りましたエヴァ編。この連休中はできるだけハイペースで更新していきたいです、ホントに。

次回以降・・・もしかしたら新キャラ(もちろんDBキャラ)が出てくるかも♪

まあ、冒頭で分かっちゃった人もいるかと思います。そうです、あの人です!

あ・・・これ以上は言わない方がいいですね。ネタばれヨクナイ・・・



[10364] 其ノ二十三   覚悟しろ!  ネギがエヴァに鉄拳制裁!?
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/10/11 20:42




桜並木の中を2人の人間が対峙している。

一人はネギ、そう一人は“闇の福音”の異名をもつ魔法使いエヴァンジェリン。

両者が睨み合ったところで事態は膠着していた。


「許さん・・・許さんぞ、このクソガキがあ!!・・・私は女子供は殺さない主義だったがもう勘弁ならん!じわじわと嬲り殺しにしてくれる!覚悟しろ!!」


悪鬼の形相でネギに言い放つエヴァ。

そこには普段見せているような優雅さなど微塵も感じられない。純粋な殺意・・・

だが、そんな様子でもネギは一切気にも留めない。

エヴァの精神状態を冷静に分析し、次の言葉を発した。


「“闇の福音”ともあろう方が随分余裕のない言い方ですね・・・僕はただ襲われた生徒を助けただけだというのに・・・」


その瞬間、エヴァは自分の異名をネギの口から聞いて動揺を見せる。

ネギの言葉のおかげか熱くなりかけた頭も冷え、彼女にも幾分落ち着きが戻ったようである。


「・・・フフフ、そうだな。これはこれは、私ともあろう者がらしくもなく失礼なことをしたものだ。お詫びしよう。・・・それにしてもよく私が“闇の福音”だとわかったな?私とお前は今日までほとんど接点はなかったはずだが?」

「ええ・・・実際桜通りの事件の犯人があなたと当たりをつけたのは今日だったんですけどね。・・・まき絵さんの首の噛み跡から微量ですが魔力が漏れてました。その魔力に見覚えがあったんで記憶を辿っていくうちにあなたに行きついたんです。偶にですがあなたから強い魔力を感じることがありましたから・・・それを思い出したんです」

「何!?・・・私の魔力を・・・だと・・・?」


ネギから告げられたことに驚きを見せるエヴァ。


「はい。僕はこれでも気と魔力の感知は得意なんです。それも特徴のあるものだったら個人を特定することだってできます。気と魔力は人によって波長が違いますからね。・・・徳にエヴァンジェリンさんからは人間とは違う気もありましたから、ほぼあなたが犯人だろうと確信しました」


(ば、馬鹿な・・・こんな小僧に茶々丸並みの魔力感知能力があるとでもいうのか!?)


さっきからネギとの会話でびっくりすることだらけのエヴァ。

だんだん目の前の少年が不気味に思えてきた。


「・・・フ、フン。さすがに魔法学校を首席で出ただけのことはある。少々お前を侮っていたようだな。・・・その様子だと私のことも調べたんだろ?」

「ええ・・・魔法関係者の間ではあなたは有名だったみたいですね。すぐにヒットしましたよ・・・15年前まで魔法世界で600万ドルの賞金首、“闇の福音”“不死の魔法使い”“人形使い”など数々の異名を持つ悪の魔法使い・・・もっとも時間がなかったのでそれ以上のことはわかりませんでしたが」

「ほほう・・・見習いにしては上出来じゃないか。じゃあ、そんな犯罪者である私が何故この麻帆良にいるか疑問に思わないか?」

「・・・思いましたよ。ですがそれ以上に・・・」


2人の視線が交錯する。


「エヴァンジェリンさん・・・どうしてこんなことを?クラスメートのまき絵さんやのどかさん、他の人たちを襲ってまであなたは何をしたいんですか?」


悲しみを湛えた眼でエヴァを見つめるネギ。そこには生徒を心配する担任としての気持ちもあった。

だがそんなネギの言葉もエヴァは一蹴する。


「フン。その人を憐れむような目・・・その偽善者ぶった発言・・・まさに父親譲りだな」

「!?・・・父さんを知ってるんですか!?」

「ああ、よ~く知ってるとも。・・・忘れたくとも忘れられんくらいにな!」


どこか憎しみの籠った眼でネギを見る。ネギはその眼を見てゾッとした。

この人と父さんには何か切っても切れない因縁がある・・・そんな気がしてならない。


「・・・エヴァンジェリンさん!あなたは父さんと一体どんな関係が・・・?」

「フフフ・・・知りたいか?だが、私は悪の魔法使いだ。お前なんかに教えるわけがなかろう?・・・どうしても知りたいなら力ずくで訊いてみろ!!」


言うと同時に指の間に鋏んでいた試験管を投げつける。


「『氷結武装解除』!!」


(・・・っ!?あれは魔法薬・・・!)


エヴァの不意打ちに一瞬驚くもネギは慌てず、


「ハアアッ!!」


手をかざして気合砲でエヴァの魔法をはね返す。



バキキキキキィィィィン!!!



「っ!?今のを弾き返しただと!?・・・さっき私の障壁を簡単に貫通した蹴りといい、貴様・・・一体何をした?」

「さあね。あなたが教えないというなら僕だって教える気はありませんよ」

「・・・ククククク、その負けず嫌いなところもますますあいつにそっくりだ。いいだろう。魔法使いらしく決闘といこうじゃないかっ!!!」


新たな魔法薬を握って構えるエヴァと、のどかを抱えながらも相手に隙を見せずに武道家らしい構えを見せるネギ。


(クッ・・・だけど、のどかさんを抱えたままじゃ戦いづらい。どうすれば・・・)


苦悩するネギを余所に両者の激突の瞬間が迫る・・・

まさに2人が動き出そうとしたそのとき・・・


「何や今の音!?」

「あっ!?あれってネギじゃない?」


木乃香と明日菜がこっちに向かってくるではないか。


「チッ、要らぬ邪魔が入ったか・・・ここは一旦引かせてもらうぞ」

部外者が来たためか、たちまち白い霧に身を潜めるエヴァ。


「あっ・・・エヴァンジェリンさん待っ「ネギー!あんたそこで何・・・って!?あんた・・・それ・・・」へ?・・・わわっ!?の、のどかさん!?」


いつの間にかネギの腕の中にいるのどかの衣服が破け、大事なところ以外はほとん
ど肌を曝しているというあられもない姿をしていた。

たちまちネギが慌てる。


「こっ、これは、誤解なんです!!」

「ね、ネギ君が吸血鬼やったんか~~~~!?」

「だ、だから違いますってば~~~」


木乃香が勘違いしたまま騒ぎ立て、それをネギが弁解するという構図が成り立っていた。

それをちょっと呆然と見ていた明日菜だったが不意に視線を移すと、


「え・・・?今のは・・・?」


明日菜が見た先には今にも霧に隠れようとするどこかで見たことがあるシルエット・・・


「はっ!?こうしちゃいられない!アスナさん、このかさん、宮崎さんを頼みます!」

「ちょ、ちょっとネギ!?」


明日菜の呼びかけにも応じずにエヴァを追いかけて行ってしまう。

猛スピードでダッシュしたためか、木乃香も思わず、「うわっ早っ!?」と呟いてしまう。


「な、何なのよ・・・もう・・・。ええ~い!こうなったら・・・このか、悪いんだけど本屋ちゃんお願いね!」

「えっ!?ちょっ、アスナまで!?」


アスナもネギを追いかけて行ってしまった。

一人ぽつんと残された木乃香は・・・


「お願いって言われてもな~。うち一人でどうしろってゆうんや・・・」


非力な女子中学生に人1人を運ぶというのは至難の業。木乃香がどうしようか途方に暮れていると・・・


「困っているようだな・・・手を貸してやろうか?」

「え・・・?」


突然後ろから声をかけられる。さっきまで人の気配なんてなかったのに・・・

思わず後ろを振り向いた木乃香が見たのは・・・









その頃エヴァの追跡を開始したネギは・・・


「まだそんなに遠くに行っていない。気を辿って行けば捕まえられるはず・・・!?居たっ!」


エヴァの気を捕捉したネギはさらにスピードを上げて接近していく。


「ん?あれは・・・!?坊やか!速い!!」


いつの間にかネギに追いつかれていたエヴァは驚愕の声を上げる。


「・・・やはり魔力が感じられん。純粋に身体能力だけで付いてきているみたいだな・・・一体何者なんだ・・・あの小僧は?」


内心の疑問を口にしてしまうほど今のエヴァはネギの力に驚いている。

だが、いつまでもそうしているわけにはいかない。

エヴァはすぐに気持ちを切り替えると不敵に笑い、


「フッ、ならばどこまで追いつけるか試してやろうじゃないか!」


ちょうど橋にさしかかったあたりでエヴァが手すりの上に足をかけると



トンッ



「!?」



バサッ



宙に舞った。


「フハハハッ!坊や、杖もなしに空にいる私に追いつけるかな?」


橋にいるネギを振り返りながら嘲笑うエヴァ。

そして、前を向くと高笑いを上げながら飛び立って行く。


「ハッハッハッハッ!坊やの間抜け面が拝めるとはな!傑作だったぞ!「それは良かったですねエヴァンジェリンさん」・・・なっ!?」


急に声をかけられたエヴァはその場で急停止してしまう。

そしてそれまでの上機嫌だった顔が一変、たちまち狐につままれたような表情になる。

それもそのはず・・・さっきまで橋にいたはずの少年がいつの間にか自分の前に先回りしていたのだから。


「これはこれはエヴァンジェリンさん・・・お早いお着きで・・・」


「・・・くっ!!!」


今度はネギがにっこり微笑む。

それをエヴァがいかにも悔しそうに睨みつける。


(坊やのやつ・・・浮遊術が使えたのか!・・・いや、違う!これは魔法ではない!?
・・・この私より速く飛行する術だと!?チィッ、何だというんだ!!)
内心の苛立ちを見せまいと必死になるエヴァだが、それが返って自身の表情を険しくさせていることに気づいていない。


「さて・・・そろそろこの辺で鬼ごっこは止めにしませんか?」

「キサマ・・・よほど死にたいらしいな・・・」

「死ぬ気はありませんが・・・僕はあなたから話を聞いていない。ですが無償というわけにはいかないらしい・・・ここだと何かと不都合です。場所を変えませんか?」


ネギからの提案・・・いや、宣戦布告をエヴァは黙って聞いていたが、


「・・・・・・良いだろう。人のあまりいないちょうどいい場所を知っている。着いてこい!!」


再び飛行するエヴァにネギが舞空術で追従する。


(フン。馬鹿め!私の誘いにまんまと乗りおって・・・そこに罠があるとも知らずにな!)







しばらくして人気のない広い公園に降り立ったエヴァ。

中央に噴水があり、辺りは街灯があるだけで人っ子一人見当たらない。


「どうだ?この時間帯になるとこの公園も人通りがまったくなくなる。念のために人払いの結界を張っておいたから魔法が人に見られる心配もない。・・・これほど決闘に打ってつけの場所はなかろう?」

「御宅はいいですからさっさと始めましょう。こっちは動きたくてウズウズしてるんです」


手首の骨を鳴らしたり、腕をグルグル回しながらウォームアップを始めるネギ。

もう、いつでも来いという感じだ。・・・それがますますエヴァの神経を逆なでる。


「(つくづく可愛げのないガキだ・・・)まあいいだろう。わざわざここまで来てもらったんだ。丁重にもてなしてあげよう・・・」


するとエヴァの背後からぬうっと何者かの影が現れる。


(っ!?新手・・・仲間がいたのか!?)


咄嗟に警戒するネギ。

すると影は瞬時にネギに接近した。


「・・・速いっ!」


影から繰り出された一撃を寸前で避け、バックステップで距離をとるネギ。

影は拳を突き出した状態で佇んでいた。


「ほう・・・今のを避けるか・・・」


エヴァが感心した声を出す。

すると、さっきまで良く見えなかった顔が明かりで照らし出されることによって鮮明になる。

その顔を見てネギに驚きが走る。


「あなたは・・・!?」

「紹介しよう。私のパートナー・・・3-A出席番号10番“魔法使いの従者”絡繰茶々丸だ」

「・・・こんばんわ、ネギ先生」


茶々丸が姿勢を正してペコリと礼をする。


「茶々丸さんが・・・あなたの・・・パートナー?」

「そうだ。だからパートナーのいないお前では私には勝てんぞ」

「・・・やけに自信たっぷりですね」

「フハハハ。当り前だろう?元々『魔法使いの従者』とは戦いのための道具だ。我々魔法使いは呪文詠唱中完全に無防備になり、攻撃を受ければ呪文は完成できない。そこを盾となり剣となって守護するのが従者の役目だ。つまり・・・パートナーのいないお前は数的不利に加えて、攻撃時は無防備だから魔法は封じられたも同然。故に我々2人には勝てないのさ」

「なるほど、そういうことですか・・・これはとてもいい勉強になりました。ですが・・・残念でしたね」

「ん?どういうことだ?」


意外にも落ち着いているネギに疑問を持ったエヴァは尋ねる。

するとネギは・・・


「“魔法使い”として戦うなら確かに僕が圧倒的に不利です。でもあいにく僕は魔法の方はそんなに得意じゃなくて・・・どちらかというと・・・」


自分の拳を掲げて


「こっちの方が性にあってるんですよね」


言い放った。


「何・・・?」


訝しげなエヴァに対しさらにネギは続ける。


「忘れてませんか、エヴァンジェリンさん?僕はさっきから一度も魔法なんて使ってないってことを・・・魔法使い見習いとして情けない話ですが、あえて言わせてもらいます。あなたと戦うのに『魔法』なんて必要ない。僕は・・・」


ネギはあの独特の構えをとり、


「『武術』であなたを倒して見せます!」

「「・・・・・・!?」」


驚きに目を見張るエヴァと茶々丸。

そして顔を引きつらせたのはエヴァだった。


「武術だと・・・笑わせるな!いくら武術を極めたとて魔法に敵うものか!」


口調の端々に怒りが滲み出ている。


「・・・フフフフフ。この私も随分舐められたものだ。良かろう。できるものならやってみろ!その減らず口を叩けなくしてやる!!!」


感情の高まりのせいであろうか、封印されている状態でありながらエヴァの魔力が強くなっていく。


「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!!」


エヴァが始動キーを唱えると茶々丸に魔力のオーラが添加され、そのまま茶々丸はネギに突撃する。



ゴオォッ



凄まじいスピードでネギの懐に入り拳を振り上げる。

ネギは茶々丸の動きに反応できていないのか身動き一つとれない。

もらった・・・!っと誰もが思うその状況で不思議なことが起こった。

繰り出した茶々丸のパンチが通り抜けるかの如く、ネギの姿がゆら~りとぼやけて消えてしまったのだ。


「っ!?これは残像・・・!!本物は・・・?」


すぐに本物のネギを探し始める茶々丸。だが・・・


「・・・!?後ろ!」


茶々丸が気づいたのもつかの間本物はまさに無防備なエヴァの元に接近していた。


「な、なんだと・・・!?」

「従者から引き離せば無防備になるのはあなただって同じこと!・・・迂闊でしたねエヴァンジェリンさん!!」


今度はネギが拳を振りかぶる。

エヴァが障壁を張ろうとするがこの距離では間に合わない。

これで勝負が決するかと思われたが・・・



ガシッ



「っ!?」


ネギの足を茶々丸が伸ばしたアームが掴んでいた。

すぐさまワイヤーを巻き取ってエヴァから引き離す。


「チッ!!」


ネギはアームに蹴りを入れてはずすと、宙高く舞い上がる。

それを茶々丸は背中のジェット装置を作動させて追いかける。

たちまち空中ではネギと茶々丸による肉弾戦が繰り広げられる。



ビシッ バシッ ドカッ バキッ



技と技のぶつかり合いで大きな炸裂音が響きわたる。

やがて両者が交差するようにして地面に着地する。

この間実に一瞬の出来事であった。


「・・・茶々丸さんがまさか機械の体だったとは・・・道理で気がまったく感じられないわけだ。それにしても、なかなかやりますね。僕のスピードに付いてこれるなんて・・・」

「・・・ネギ先生こそご謙遜はおやめ下さい。私の推測が正しければあなたの力はこんなものではないはず・・・」


お互いを褒めたたえるネギと茶々丸。

だが茶々丸の主人はそれが面白くないのか、


「ええ~い!!何をもたついている茶々丸!さっさと勝負を決めるぞ!」

「・・・わかりましたマスター」


無表情と思われがちな顔の中で幾分悲しそうな眼でネギを見詰めながら茶々丸が次の攻撃に移る。

ネギも茶々丸が何かやらかす気だと警戒を強める。

次の瞬間・・・


「目からビーム・・・」


茶々丸の眼からネギに向けてレーザー光線が放たれる。


「!!」


ネギは跳び上がってこれを回避。

さらに追い打ちをかけるが如く放たれるビームをバク天で切り抜けていく。

だが・・・


「フハハハハハ・・・もらったぞ!『魔法の射手 連弾 氷の17矢』!!」


不意打ち気味にネギに向けて氷の矢が飛んでくる。


「!?」


すぐさま矢の軌道から離れて回避しようとするネギだったが、


「なっ!?追尾型か!」


なおも自分という的を目がけて追いかけてくる矢を目にし、


「・・・こうなったら迎え撃つ!」


矢に向け両手をかざすと


「ハアアッ!!!」


エネルギー波を放った。

すべての矢はエネルギー波にぶつかり、



ドオオオオン



激しい爆発を起こす。


「・・・隙ありです」

「・・・!?」


矢に気を取られていたせいで背後にまわっていた茶々丸に気づかず、



ガシッ



彼女の腕に絡みとられてしまう。


「グッ・・・!!」


ネギの体に回された腕は少し力を込めただけではビクともしない。


「ククク・・・勝負ありだな、坊や。手間を取らせおって・・・」


心底嬉しそうにエヴァがネギに近づいてくる。

ネギは観念したのか顔を俯かせ、その表情は窺い知ることはできない。

エヴァは勝利の美酒に酔い、調子に乗ってしゃべり立てる。


「今の私ではあの氷の矢で精いっぱいだったのだが、隙を作るには十分だったようだ。・・・フフフフフ、このままくびり殺してもいいのだが・・・どうだ?私に跪くのであれば命だけは助けてやっても・・・」

「何を勘違いしてるんですか?」

「ひょ?」

「僕がいつ降参なんてしましたか?・・・あなたがしゃべってくれたおかげであなたの全力が大体把握できました。・・・もはやあなたに勝ち目はありません!」

「なっ、なんだと!?」


驚くエヴァを顔を上げたネギの視線が射抜く。

その眼には闘志の炎が灯っていた。


「ふ、フン。その状態で一体何ができるというんだ!」

「今からそれをお見せしますよ。・・・ハアァァァ・・・」


ネギが気を解放する。すると・・・


「っ!?ネギ先生の戦闘パワーが急激に上昇している・・・!!」


自分のパワーレーダーに映ったネギの潜在パワーに驚愕する茶々丸。


「だりゃぁァァァァッ!!!」



バアァァァァァンッ!!



気を解放したネギは茶々丸の拘束から力づくで脱出する。

そして、


「だりゃあっ!!!」



ドゴンッ



一瞬で体を回転させたと思ったら、茶々丸のボディにネギの拳が減り込んでいた。


「ごめんなさい・・・茶々丸さん」

「あ・・・・・・」


その衝撃は凄まじく、茶々丸がダメージで一瞬身動きができなくなるほどであった。

その一瞬をついてネギが茶々丸の首筋に手刀を浴びせる。



パシッ・・・



「・・・運動回路を損傷。損傷率80%・・・戦闘続行不可能・・・」


四肢の運動機能のほとんどを失った茶々丸はその場に崩れ落ちる。


「ば・・・馬鹿な・・・」


自分の従者が簡単にやられてしまったことにエヴァは愕然とした。

まるで未知の怪物に会ったかのような恐怖を我知らず感じて、体を震わせながらネギから後ずさっていく。


「何故だ・・・なぜこうもあっさり・・・?」


己の胸に秘めていた疑問が口に出てしまっている。


「簡単なことですよ、エヴァンジェリンさん・・・」


振り返りながらネギは断言した。



「あなたは・・・僕を、いや・・・武術を舐めた!!!」


その瞳から発せられる子供とは思えない威圧感にエヴァは完全に飲まれていた。


(なんだ・・・なんなんだこの小僧は!?)


封印解放時ならともかく、今の自分は肉体的にはただの少女と大差ない。

そんな自分にこんな化け物を相手になどできるはずがない。

逃げ出したい・・・少しでもそんなことを考えてしまったエヴァ。

知らず知らず彼女の眼には涙が溜まってくる始末。

プライドでなんとか泣くのだけは抑えているものの・・・決壊するのは時間の問題と思われた。


「や・・・・・・」


少女らしい悲鳴を上げて逃げようとするエヴァ。

それを瞬時に先回りし、ネギはエヴァの腕を掴んで捻りあげ地面に引き倒してしまう。


「グッ・・・は、はなせ~~~!!!」


涙を滲ませながら必死に抵抗するが、背に回された腕が完全に極まっている。おまけに背に足を乗せているので抜け出せるはずもない。

ネギの関節技は喰らってみれば、合気を習得したこともあるエヴァのこと・・・その見事さはよくわかっているはずだ。だが、それでも彼女は抗わずにはいられなかった。彼女の直感が叫んでいた。何か自分に良くないことが振りかかろうとしていると・・・


「では・・・約束通り父さんのことについて話してもらいますよ!」

「う、うるさい!誰がお前なんかに話すもんか・・・!」

「・・・往生際が悪いですよ、エヴァンジェリンさん!そういう悪い子にはお仕置きです!」


極めた関節をさらに捻りあげるネギ。


「グアァァァァ!!?」


激痛に悲鳴を上げるエヴァ。だが仕置きは留まるところを知らない。

仮にも生徒である女子には鬼畜な所業のはずなのだが、少々エヴァに頭に来ていたネギにはそんな考えは浮かんでこない。


「ま、マスター・・・・・・」


身動きの取れない茶々丸が無念の声を上げる・・・


「アァァァッ!!」


たとえ吸血鬼でも痛いものは痛い。叫びを上げながらもエヴァは最後の足掻きをやめようとはしなかった。


「・・・頑固な方ですね。こうなったら最後の手段です。・・・これだけは使いたくなかったけど仕方ありません」


ネギは懐からあるものを取り出す。


「・・・!?そ、それは・・・に、『ニンニク』!!」


エヴァがそれを目にした途端サッと青ざめる。


「いかにも・・・吸血鬼は概して『ニンニク』が苦手といいますが、やはりそうでしたか。用意しといて正解でしたね。」


エヴァの前でニンニクをちらつかせるネギ。


「や、やめろ!それを近づけるなっ!!・・・や、やめてくれ・・・」


途端に潮らしくなるエヴァ。

それに追い打ちをかけるが如く、ネギが告げる。


「話して下さらないようでしたら今からこれをあなたの口に突っ込みます!」

「な、なんだと・・・!?」


信じられないとでも言うようにネギを見るエヴァ。


「僕は本気ですよ。あなたは僕を殺す気で来た・・・ならば、そちらもそれ相応の覚悟を見せていただかなければ・・・」


目が笑っていない・・・こいつは本気だ。エヴァは悟った。


「や、やめろ・・・それだけはやめてくれっ!!」

「じゃあ、話してくれるんですね?」

「そ、それは・・・・・・」


何を躊躇っている。お前は負けたんだ・・・なら潔くするべきではないのか?降参してしまえ・・・そうすれば楽になるぞ。

内なる声がエヴァに囁きかけてくる。

だが、彼女には「話す・・・」というただ一言が言えなかった。

“闇の福音”としてのプライド・・・それがどうしても捨てられないのだ。

だが、もはやエヴァの精神は限界を迎えていた。


「は、はな・・・」


彼女の口が勝手に動き出す。

そこから紡ぎだされる答えは・・・


「話すか馬鹿め!私はまだ負けておらん!」


断固として拒否だった。


「・・・・・・わかりました。」


ああ・・・言ってしまったな・・・とエヴァは心の中で思った。

またあの時の地獄を、今度はやつの息子から味わうのか・・・なんとも因果なものだな。やはり私はこんな惨めな姿がお似合いなんだろうか・・・

呆然と涙を溢しながらエヴァは思考の海に沈んでいた。

だが、自身の鼻に近づくあの刺激臭に無理やり意識を覚醒させられる。


「残念です・・・エヴァンジェリンさん・・・」


ネギは哀しげな瞳でエヴァを見詰めながら、口元にニンニクを近づけていく。

匂いだけで気絶しそうになる。

気絶したら最後、口に突っ込まれるのは明白。

接近してくる球体が視界に入った時15年前のあの出来事がフラッシュバックする。


(やめろっ、ナギ・・・それ以上ニンニクを入れるな!やめろ~~~~!!!)


もはや匂いで意識はブラックアウト寸前・・・生き地獄としか言えない。

幻覚も見えてきた・・・


(封印さえ解けてれば・・・こんなことには・・・)


悪の魔法使いも根っこはただのか弱い少女だった。

だから、彼女は泣きながら祈る。


(お願い・・・誰か助けて・・・!!)










「おい。・・・いくらなんでもそれはやりすぎだ・・・」

「え・・・・・・?」


後ろから掛けられた声にネギは背筋を凍らせた。

今自分にまったく気配を感じさせなかった。

それもこんな近くに・・・しかも背後をとられて・・・

すると、後ろから肩に手が置かれる。

恐る恐る背後を振り返ろうとした次の瞬間・・・




バアアアアァァァン




「ガッ!?」





頬に受けた衝撃とともにネギの体が吹っ飛ばされていた。

衝撃波がガガガッと地面を削っていく。

ネギはなんとか体勢を変えて着地に成功する。

土煙が上がっていて相手の様子が分からない。

だが、やがて煙も晴れてくるとその全貌が明らかになっていく。




人間にしてはかなり大きめの体。


その肉体はネギの目から見てもよく鍛え込まれているように見え、


特徴的な黄緑色のアーマーに身を包んでいた。


そして相手の顔が露わになったとき・・・


ネギの師匠であるピッコロが見ていたなら驚愕したことだろう。


無表情ながら敵を鋭く射抜く青い瞳、


赤髪のモヒカンという特徴的な髪型を見たなら確実に・・・







そう、彼こそかつてピッコロがいた世界において悪の天才科学者ドクター・ゲロが生み出した人造人間・・・その中で最強にして最大の失敗作。


地球さえも破壊してしまう力を持ちながらおそらく最も地球を愛していた男。


悪から生み出された中で正義の心を持っていた存在。


そしてセルとの戦いで最後まで地球のために戦い、そして散っていった戦士。


その名を・・・






「エヴァ・・・茶々丸・・・遅くなった」


「お、お前は・・・」


「に・・・にいさん・・・」








・・・・・・『人造人間16号』といった。













<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!うお~~~!!!おめえ16号じゃねえか!久しぶりだなあ!」

16号「孫悟空・・・今はお前に構っている暇はない。俺はこの少年に用がある」

ネギ「くっ・・・つ、強い!!この人には僕の技が全然通用しない!」

16号「残念だが少年・・・お前では俺は100%倒せない・・・」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI 『大ピンチ!?  現れた強敵・・・人造人間16号!!』」

ネギ「ピッコロさん・・・僕今度はダメかもしれない・・・」







あとがき

ついに登場しました16号さん!!

実は16号さんをここで出すって言うのは設定の段階ですでに決めてたんで、他のキャラを期待してた皆さん、そしてはぐらかすような言い方をしてまして申し訳ありませんでした。

彼は原作では不遇の最後だったのでぜひこの世界で幸せになっていただきたい!切に願います。

ところで彼を登場させるにあたっていつの間にかネギ君が鬼畜になってしまいましたが・・・おそらく作者のせいです。でもわざとじゃないんです!ホントだよ!?

・・・エヴァ、いじめすぎてたみたいでごめん。鉄拳による制裁はなかったから勘弁して!・・・今回賛否両論あるだろうな・・・いや、むしろ否ばっかりだったりして!?

あと、茶々丸がやけに善戦してる点については・・・演出ってことで!(・・・ダメか?)



[10364] 其ノ二十四   大ピンチ!?  現れた強敵・・・人造人間16号!!  (一部大幅改変)
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/10/17 11:51




『じ・・・人造人間・・・!』


目の前には俺の殺害対象だった男の息子が愕然とした表情で立っている。

おそらくこれが・・・首だけになってしまった俺が最後にできる唯一のこと・・・


『・・・孫・・・悟飯・・・・・・正しいことのために・・・た・・・戦うのは罪ではない・・・』


意識があるのは今のうちだけ・・・こうしている間にもプログラムはどんどん壊れていく。


『は・・・話し合いの通用しない相手もいるのだ・・・』


俺もあと数刻もしないうちに死んで・・・いや“壊れて”しまうだろう。

止める術は・・・もはやない。

それは俺自身がよくわかっている。


『せ・・・精神を怒りのまま自由に開放してやれ・・・』


とうとう視覚からの映像にノイズが入り始めた・・・いよいよらしい。

目の前の少年・・・“孫悟飯”はどんな顔をしているのか・・・

肩を震わせて涙を流し―――?・・・・・・だめだ思い出せない。どうやら記憶回路にも障害が出始めているようだ。

だが、俺は伝えなければならない。この少年に全てを賭けたのだから・・・

無から作られた俺には“セル”に吸収された2人のような人間らしいはっきりした感情など存在しない。

それでも、俺は最後の力を振り絞って・・・笑った。

俺ができる最後で最高の笑顔を・・・


『お・・・俺の好きだった自然や動物たちを・・・・・・ま・・・守ってやってくれ・・・』


ありったけの思いを・・・俺なりの“感情”をこの言葉に託した・・・


『ほう・・・なかなかいいアドバイスだ・・・だが、俺は俺のやり方でやってるんだ・・・』


恐らく“セル”だろう・・・俺の元に近づいてくる音がする。

次の瞬間・・・一気に暗闇と孤独の中に落とされ、俺は何も感じなくなった・・・


『フン。余計な御世話だ・・・出来損ないめ・・・』


最後に“セル”が嘲りの言葉をかけた気がするが・・・今の俺には気にならない。

もう、思い残すことはない・・・ああ、一つ言いたいことがあったな・・・


“セル”・・・俺は、賭けに勝ったぞ・・・












【ボディ――――損傷率0パーセント】

【各部状態――――異常なし】

【認識システム――――異常なし】

【識別システム――――異常なし】

【データフォルダ――――損傷なし】

【CPU・システム――――オールグリーン】

【人造人間No.16――――再起動】





暗闇にぼんやり浮かんだ文字が消えると同時に俺は開くはずのない眼を勢いよく開ける。

―――――視界が、戻ってる・・・?


「ここは・・・?」


俺は体を起こし呆然と辺りを見回す。

今は雨が降っているためか、視界が本の少しぼやけて見える・・・が別に支障はない。

ここは・・・どこかの古びた教会のようだが・・・見覚えがない。

少なくともセルゲームの行われた場所じゃないことくらいはわかる。


――――なんだ、この場所は? ・・・・・・ありえない。オレは壊れたはずだ・・・・・・


『あの世』というものが存在するらしいことは、製作者――“ドクター・ゲロ”がインプットしているデータにもあった。 

俺は完全なロボットタイプだから『データ内にあること』だけは十分に理解している。 

そして、そのデータから導き出した計算には、こういう結果が出ている。

『“モノ”である俺はあの世に行くことはできない。無論、生き返って現世に戻ることもできない。』


――――ならば一体、ここはどこだというのだ?


あの世にも行けない俺に行きつく場所があったというのか?


――――わからない。


俺は壁の塀に寄りかかり、自分の手を見詰めながら計算に没頭する。


――――やはりわからない。コンピューターも原因不明の事態に戸惑っているようだ。


自分の体を触ってみる。

どこにもダメージは見られない。・・・俺はあのときセルに木っ端微塵にされたはず・・・


「・・・おい・・・キサマ・・・」


まさか、本当に蘇ったとでもいうのか・・・?

ならばここは・・・現世・・・?


「おい!聞いているのか!!」

「!?」


突然の大声にハッと気づけば、目の前に見た目10歳ちょっとくらいの少女が俺を睨みつけていた。


「「・・・・・・」」


俺と彼女がお互いを見たまま、しばし沈黙が続く。

その所為か雨の音がやけに強く聞こえた。


「・・・おい。濡れるだろ?・・・さっさとこれを持て」


少女が沈黙を破って俺に持っていた傘を差し出す。


「べ、別にお前にあげるわけじゃないぞ!それだと私が濡れるじゃないか!・・・だ、だから・・・お前がさして私がその中に入るんだからな!」


ちょっと恥ずかしそうに言う辺りがなんとも・・・微笑ましい?と言うのか?これは・・・

俺は表情を動かさずに・・・だが、いつの間にか差し出された傘を手に取っていた。


「・・・・・・私はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル・・・お前は?」


しばらく間をおいて、訊いてもいないのに名前を言ってきた。

だが・・・俺は自然に口を開いていた。


「俺は・・・16号・・・人造人間16号だ・・・」


これが俺の初めての家族・・・『エヴァ』との出会いだった。









―――――とある機械人間の独白より抜粋













~とある公園にて~




ネギは戦慄していた。

いきなり現れた目の前の謎の巨人に・・・

先程までエヴァンジェリンたちを相手に戦いを優勢に進め、話を聞きだすところまで追い詰めることに成功したのだ。

だが、どうしたことだろう・・・この男が現れてから自分が勝利する姿をまったく想像できないのだ・・・

ネギは殴られた頬に手を触れる。


(さっきのパンチ・・・かなりの威力だった。まるでピッコロさんに殴られたときみたいだ・・・あの人・・・只者じゃない!!)


さらにネギには驚いていることがあった。


(この人も茶々丸さんみたいに気が感じられない・・・まさか、この人も機械!?)


だとすれば、エヴァンジェリンの仲間であることも否定できない。

ネギは新たな敵に緊張が高まってきている。

重い口をなんとか開ける。


「・・・あなたもエヴァンジェリンさんの仲間なんですか?」


すると男はちらりとエヴァと茶々丸に視線をよこした後、


「・・・俺はこいつらの・・・『家族』だ・・・」


無表情を貫きながら言った。


「家族・・・?・・・・・・そういえば、さっきからあなたから気が感じられませんが・・・何者なんです?」


ネギの疑問に男は答えた。


「俺は・・・ドクター・ゲロが生み出した人造人間・・・16号だ」


ネギはその言葉に目を見開いた。


「“ドクター・ゲロ”・・・“人造人間”・・・ま、まさか!?」


ネギは随分昔にピッコロが身の上話をしてくれたときのことを思い出す。


(確か『あるとき地球にドクター・ゲロっていう悪い科学者がいて、それが人造人間って言う兵器を作りあげて地球を征服しようとした』って言ってた。当時ピッコロさんたちが立ち向かったんだけどものすごく強くって苦戦したらしいけど・・・)


今ここにいるこの男がその人造人間だというのか?・・・ネギには信じられなかった。

16号はネギの様子を不審に思ったのか眉を寄せる。


「その反応・・・俺のことを知ってるのか?」

「・・・・・・多分ですけど、話に聞いたことがあります。・・・でも、なんでその人造人間であるあなたがエヴァンジェリンさんの仲間なんですか?あなたもあんな悪いことをしようとしてるんですか?」

「悪いこと・・・?」


ネギの『知っている』という反応に驚きを見せる16号だったが、その後の悪いことというのに心当たりがないので首を傾げる。

エヴァと茶々丸は何やら気まずそうな様子である。

だがそれも一瞬のことですぐに元の無表情に戻ってネギを見据える。


「・・・・・・俺には何の事だかさっぱりわからない。だが、これだけは言える・・・お前は俺の“敵”だとな・・・」

「なっ!?・・・そ、そんな・・・」


事情を知らないそうなのに敵対すると宣言した16号に驚きを隠せないネギ。

そんなネギに16号が告げる。


「・・・・・・俺はお前たちの間で何があったのかは知らない。・・・だが、目の前で『家族』が泣いているのを黙って見過ごすわけにはいかない。・・・そう俺の心が叫んでいる。・・・・・・だから、お前がこれ以上手を出すというのなら・・・俺が相手になる!!」


16号の目がまっすぐにネギを射抜く。

気がまったく感じられないのにまるで心臓を鷲掴みされているような圧迫感―――――

それにネギは飲まれていた。

知らず知らず冷や汗を掻いていたとしても仕方がないことだろう。


(こ、この人は本物だ・・・!!)


ネギはなんとか威圧感に耐えながら身体に気をめぐらせ構えをとる。


「どうやら・・・やるしかなさそうですね・・・」


勝てるかどうかわからない。・・・いや、ピッコロの話が本当なら、勝ち目なんてそもそもないのかもしれない。でも、やるしかない!

・・・・・・そうネギは決心していた。


「じゅ・・・16号!お前・・・どういうつもりだ!?こ、これは私の問題だ!臆病者のお前如きが出る幕は「エヴァ・・・」っ!?」


介入してきた16号にどこか焦りを見せながらも文句を言おうとするエヴァだったが、


「・・・戦う時が来たのだ。こんな俺でもな。・・・久しぶりだ・・・ここまで『怒り』というものを感じたのは・・・」

「16号・・・・・・」


エヴァはただネギに向かって歩いて行く16号を呆然と見ていることしかできなかった。


「ハァァァ・・・」


ネギが体に気を集中させる。

たちまち白い炎と化したオーラがネギを包む。


「ダァァァッ!!!」


するといきなりネギが先制をしかける。

16号はその場から一歩も動かない。

その氷のような顔にネギの拳が突き刺さる。



ダアアァァァンッ



響き渡る轟音。

その後もネギは攻撃の手を休めることなく16号に叩きつけていく。


「ダダダダダダダァァァァッ!!!」


パンチ、キック、あらゆる技が入り乱れる。

しかし、16号の顔に変化は見られなかった。

しばらくしてネギが攻撃を止めて距離をとる。


「ハア…ハア…ハア…」


激しい攻撃をしたためか息を整えているネギに対し、


「・・・・・・」


16号には一向に効いている様子はなかった。


「くっ・・・なんて硬さだ・・・」


ネギは赤く腫れ上がった自身の手を見つめる。


「・・・・・・今度はこちらから行くぞ・・・」


すると、初めて16号が動きを見せた。


「え・・・・・・?」


いつの間にか懐に入られ片手で襟元を掴まれたネギ。


「あっ!?わわっ!!」


そのまま体を持ち上げられ、


「ウオオオオオォォッ!!!」


16号が雄たけびを上げて駆けだした。


「っ!?・・・ガアアッ!!!」



ダアアアアーーーン



バキバキバキッ



ネギの体が大木に叩きつけられる。

衝撃でかなりの太さを持つ木の幹があっさりと折れてしまう。

だが、16号は掴んだ手を離さず、ネギを引き寄せる勢いで反対の拳を腹にぶつける。



ドゴオオオン



「ガッ!?・・・アアァ・・・」


やっと手を離すとネギがその場に崩れ落ちる。


「があぁ・・・痛ぅ・・・・・・」


腹を押えて蹲る姿を見ると、先ほどまでの優勢がまるで嘘のようである。


「・・・・・・少年・・・俺を甘く見ているのならそれは大きな間違いだ。・・・少なくとも力を出し惜しみしているようでは俺とまともに戦うことは不可能だ・・・」

「!!」


16号の言葉にネギは驚愕した。

この人は・・・僕の力を見抜いている・・・!?


「・・・戦うなら全力で来い。さもなければ・・・たとえ俺が手加減しても無事ではすまないぞ」

「・・・ぐっ、くううっ・・・」


16号の警告を聞いてなんとか立ち上がるネギ。


(つ、強い・・・強すぎる!気が出ていなくてもわかる・・・この人はフルパワーでやらなきゃ相手にすらしてもらえない・・・)


たったあれだけの攻撃を受けただけであったが、ネギは16号の強さが想像以上であることに内心で恐怖を感じている。

はたして、あんな相手にフルパワーで挑んだところでどうにかなるのか?


(・・・・・・いや、たとえそうだとしてもやらなきゃならない!!)


ネギは自分の道着に手をかける。


「・・・・・・」


16号は黙ってそれを見守るのみ・・・彼なりのフェアプレイ精神の表れであろうか・・・

ネギは道着とその下の重りのシャツを脱ぎ捨てる。

シャツの重みで地面が鈍い音を立てる。


「・・・!?な、なんだ今の音は!?あ・・・あれは・・・ウエイトか!!」


エヴァが驚きの声を上げる。


「い・・・今まであんなものをつけて私と戦っていたというのか!?」


封印状態とはいえ自分たちを圧倒していた少年が全力ではなかった・・・その事実に愕然とする。

さすがに上半身裸は厭だったのか、道着の上だけを着直すネギ。


「・・・お待たせしました。今から全力を出します」

「・・・・・・あのシャツを脱いだ瞬間に戦闘パワーがグンと上がった。・・・だが、それだけではないはすだ・・・」

「・・・・・・何もかもお見通しのようですね。ならこちらも隠さずいきますっ!!」


ネギが足を広げて地面にしっかりと踏ん張る。

そして両腕をダランと下げる。


「ハァァァァァ・・・」


ネギが意識を集中する。

たちまちネギの両手に魔力と気、二つの力の塊が集まっていく。

それを両手を合わせることで融合する。


「気と魔力の合一!!」

瞬間ネギの体を濃密なオーラが包み込んだ。


「か、咸卦法だと!?なぜあのガキがあんな究極技法を・・・!!」


エヴァの混乱は頂点に達していた。


「・・・!?ネギ先生から発しているエネルギーがどんどん強くなっている!!・・・こ、これは・・・全盛期のマスターに匹敵・・・いや、それを遥かに上回っています!」

「な、なんだと!?」


ネギの戦闘パワーを計測していた茶々丸の呟きにエヴァが反応する。


(ば、馬鹿な・・・坊やの力が・・・当時世界最強と言われた全盛期の私を超えているというのか?・・・う、嘘だ!!!・・・そんなことがあるはずがない!)


わずかに残りかけていたプライドが事実を否定する。

だがエヴァはその歪んだプライドが自分を苦しめていることにこのときはまだ気づいていなかった。


「ハアアァァッ・・・!!!」


ネギの気が爆発的に高まるとともに突風が吹き荒れる。


「くううっ!!」


エヴァたちも思わず顔を覆ってしまうほどだ。

だが、そんな中16号だけは平然としている。


「アアアァァァ!!!」



―――――ピキピキピキッ・・・



地面に亀裂が走り、



―――――ゴゴゴゴゴォォォ・・・・・・



大地が揺れを見せ始めた。


「・・・・ダアアアァァァ!!!!!」


ネギが一際大きな叫びを上げるとともに・・・

光が・・・弾けた・・・


「グオッ!?・・・くうう・・・!」


エヴァ、茶々丸が光のまぶしさに目をつぶる。

光がおさまったところで目を開けると、


「なっ!?」


最大限の咸卦の気を体中に纏わせたネギの姿が映った。


(なんだ・・・この神々しいまでのオーラの高まりは!?まるで坊やの体そのものが気の塊のようだ・・・)


エヴァは今まで“坊や”と侮っていた相手に恐れを抱いている。

自分はこんな相手と戦おうとしていたのか?封印状態のままで?

・・・なんという愚行。

そうはっきりと認めざるを得なかった。己の認識の甘さに反吐が出る思いだ。

だが、対する16号を見ると・・・まるで焦っている様子がない。むしろ落ち着いているようにすら見える。


(あいつ・・・この状況でまだ勝てる自信があるのか!?確かにさっきは坊やを圧倒してはいたが・・・今度のは訳が違うぞ!)


無意識に16号に向けて案じるような視線を送っているエヴァ。







「・・・さっきとは見違えるほどのパワーアップだ。その年で大したものだ・・・今のお前なら俺と戦う資格を与えてやってもいいだろう・・・」


依然表情を変えないがネギに対し最高の賛辞を送る16号。


「・・・光栄です。では・・・試合再開です!」


次の瞬間・・・ネギの姿が消える。


「「!!?」」


エヴァと茶々丸が己が目を疑った。


「ダァァァッ!!」


ネギが16号の目前で現れる。

ネギの右拳が16号に炸裂するかと思いきや、


「フン!」


16号はそれを左腕でガードする。


「チイッ!まだまだああっ!!!」


ネギのラッシュが始まる。

息もつかせぬ攻撃。

しかし16号はただ防御に徹するのみ。

傍から見たらネギが押しているように見えるだろう。

だが、実際はその逆だった。


(違う・・・!この人はこれっぽっちも力を出しちゃいない。僕の渾身の攻撃が―――通用していない・・・!!)


ネギの顔にみるみる余裕がなくなっていく。

それを好機とみたのか16号方からも攻撃を入れるようになってきた。

するとどうだろう―――徐々に戦況が変わりあっという間に立場が逆転してしまった。

ネギの攻撃があっさり防がれるのに対し16号の技が面白いほどキマっていくではないか!


「グッ!・・・ガッ!?・・・グオッ!!」


16号の一撃が入るたびにネギの体が悲鳴を上げる。


(ダメだ・・・このままじゃ・・・)










「な・・・なによあれ・・・どうなっちゃってるのよ・・・」


ここにも一人ネギたちの戦いを呆然と見ている少女がいた。


「あのネギが・・・まるで歯が立たないじゃない・・・!!」


木乃香たちから離れてネギを探していた明日菜はついさっき爆発音を聞きつけて駆け付けてきたところである。

ちょうど公園の端の方ににいるのでエヴァたちもまだ存在に気づいていない。

明日菜はこれでもネギの強さは嫌というほど目にしている。

ナギとの戦いは気絶していて最後まで見られなかったものの、ゴーレムを一瞬で片づけたところはちゃんと目に焼き付けている。

それだけ見てればネギの強さを知るには十分である。

だから別にネギのことはさほど心配してはいなかったのだが、万一のこともある。そのときは及ばずながら同居している姉気分として助太刀なり何なりするつもりだったのだ。

―――――だが、そんな彼女でも目の前の光景を見た途端足がすくんで動けなかった。


「何者なの・・・あの化け物は・・・」


ネギと戦っている見知らぬ青年。

圧倒的な強さをもつネギが・・・その青年に完全に押されている。信じられない光景だった。

今のネギからは明日菜も見たことがないくらいの力が感じられる。

なのに・・・それが手も足も出ないのだ・・・

それに戦いの次元が違いすぎて、助太刀しようにもできないのだ。

下手に手を出せば逆に足を引っ張ることにもなりかねない。


(・・・あ~~~~もう~~~!!!どうすればいいのよ!)










「へあっ!!!」

「うわっ!!」


16号のパンチでついにネギの体が吹っ飛ばされる。

だが、ネギはなんとか体を捻って体勢を立て直すと地面を蹴って空中に跳びあがる。

そしてそのまま舞空術で上昇していく。


(一旦空中に逃げ込んで体制を整える!!)


その心づもりだったのだが・・・



―――――ダンッ



「!?」


それを見越して16号も空中に上がってきた。



(この人も・・・舞空術が使えるのか!)



思わぬ誤算が生じたネギは慌てて飛行速度を上げていく。

だが、


「なっ!?・・・速いっ!!」


16号がネギをも上回るスピードで飛行してきたため、さすがのネギも面喰う。

あっと言う間に追い抜かれ行く手を塞がれてしまう。


「くっ・・・!!」


先回りされたネギは急停止して悔しそうに睨みつける。


「・・・・・・逃げても無駄だ・・・」


打つ手がなくなったネギは捨て身の特攻を仕掛ける。


「たあああっ!!!」


飛びかかってくるネギに16号は己の右腕を突き出すと、


バシュッ


腕のつなぎ目から光が発し、16号の右腕が発射された―――――いわゆるロケットパンチである。


「なっ!?」


突っ込んでいたネギが驚く間もなく、16号の腕がネギの鳩尾に深く突き刺さった。



―――――ドオオオーーーンッ


「あ・・・うぅ・・・」


腕が減り込んだ瞬間声にならない激痛がネギを襲い、そのまますごいスピードで吹っ飛ばされていく。

するとまたしても行く手に16号が待ち構えており飛んでくるネギの背中目がけて左腕による肘打ちが炸裂する。



バーーーン




「ギャアッ!」


そのまま分離していた右腕をキャッチした16号はネギの体を蹴り落とす。

たちまち急降下していくネギ。



―――――ドゴオオオンッ



地面に激突した衝撃で土煙が舞う。

地面にできた巨大なクレーターの中心にはネギの体が埋まっていた。

それを眺めながら16号が降り立つ。


「どうやら・・・ここまでのようだな・・・」


ここまでの戦闘で表情を一切変えることなくしかし淡々とネギを追い詰めていた16号。

―――――力の差は歴然だった。


しかし・・・


「まだ・・・まだ終わっていない・・・」

「!?」


今度は16号が目を見開く。

なんとネギがボロボロの体に鞭打って立ち上がってきたのだ。


「ハア…ハア…ハア…これが・・・これが僕の最後の攻撃・・・この技に全てを賭ける!!」


子供とは思えない気迫でネギが叫ぶ。


「・・・・・・わかった。その挑戦・・・受けて立とう・・・」


16号も迎え撃つようにネギと向き合う。


「ハアアァァ・・・」


ネギが気を高める。そして・・・


「ハアアッ!!!」


ネギが16号の立つ地面に向けて気弾を放った。



ドオーンッ



16号の視界が煙に覆われる。

視界を断つ作戦らしいが、そんな小細工は敵の気配をキャッチできる16号には意味がない。

たちまち上空のネギを探知した。

だが、顔を上げた16号は驚いていた。


「ん!?・・・戦闘力が一部に集中している・・・!!」


煙が晴れると上空のネギが両手を頭上で組んだ姿で現れる。

両手には凄まじい気の塊・・・


「あれは・・・」


16号はこの技を知っている。なぜならドクター・ゲロがインプットしたデータの中にちゃんと入っているからだ。

だがなぜこの技が・・・




「喰らえ!!・・・魔閃光ーーーーー!!!」




ネギの手が振りかざされる。

発射されたエネルギー波はすごい速さで16号に接近してくる。

16号は一瞬見せた動揺を氷の表情の中に隠し、はずれたままの右腕の付け根に着いた銃口を気功波に向ける。


―――――最大の技には最大の技で報いなければならない。


なぜかそう感じた彼は自分の必殺技を使うことを決心した。―――さすがに威力は最小限に留めるつもりではいるが・・・





「『ヘルズ・フラッシュ』!!!」





銃口から激しい光と衝撃が走った。









ドガァァァーーーンッ!!!








「わっ!?」


いきなり下から光が出たかと思ったらそれが魔閃光を飲み込み、巨大な爆発を起こした。

思わずネギも腕で顔を覆う。

それは下にいる、エヴァ・茶々丸・明日菜も同じであった。

腕を解くとネギは愕然とした。


「あ、あああ・・・」


下にいた16号は・・・まったくの無傷。

その事実を目にしてショックを受ける・・・とともに一気に身体に虚脱感が襲いかかる。


――――――咸卦法の副作用が来たのだ。


「う・・・!?ググッ・・・!!」


力を失った体は地面に急降下していく。


「あっ!ネギ・・・!!」


明日菜が呼ぶ声もむなしくネギは地面に墜落した。



ドサッ



仰向けのネギにはもはや立ち上がる力も残っていない。

完敗したのだ・・・目の前のこの青年に・・・

今のネギならエヴァでも簡単に命を奪うことができるだろう。

呆然と戦いを見ていたエヴァがハッとそのことに考えが至る。

すると、さっきまでなりを潜めていた怒りや憎しみが沸々と湧き上がってきた。

一歩、また一歩とエヴァがネギに近づいて行く。

やがてネギの前まで来ると道着の襟を掴んで無理やり体を起こさせる。


「グッ・・・」

「さっきはよくもやってくれたな坊や!・・・たっぷりと礼を返してやる。」


そんなエヴァを見た16号は止めに入る。


「よせ、エヴァ・・・そいつはもう戦う力など残っていない。もう充分痛い目を見ただろう?これ以上無抵抗な人間を甚振るのは「黙れ!木偶人形・・・」エヴァ・・・」

「私がこのときをどれほど待ち望んでいたか貴様にわかるか!?こいつの親父に敗れ、魔力も封じられ、15年間無意味な日々の繰り返し・・・もうたくさんなんだよ!!こんな地獄は!!!」

「エヴァ・・・お前・・・!?」


このとき16号はエヴァの今回の騒動の目的がおぼろげながら分かってしまった。

これまで4年という時を彼女と共に過ごしてなんとなくだが彼女が苦しみを抱えていることに気づいていた。・・・それでも自分や茶々丸たちがいることで少しでも彼女の苦しみが和らいでくれれば・・・そう思っていた。

だが、実際はこんなにも根深く彼女を蝕んでいたとは・・・

自分の見通しの甘さに叱咤する16号。

だが、エヴァの爆発は止まらない。


「しかも・・・今度はやつの息子にまで屈辱を受けることになるとは・・・親子二代に渡ってこの私をどこまで苦しめる気だ!?・・・許さん・・・許さんぞ!!!」


エヴァの目が血走っている。その顔はまさに悪の魔法使いそのもの。


「ま、マスター・・・お止めください。子どもには手を出さないのがマスターの・・・」

「ええい!黙れ黙れ!!今までの私が甘かったのだ・・・たとえ子供でもこいつはやつの息子・・・“敵”だ!!敵に情けをかけて生かしておくのが“悪”か?違うだろう!敵を徹底的に痛めつけて最後にとどめを刺してこそ本物の“悪”だ!!!・・・『誇りある悪』などと格好つけていた自分が恥ずかしい。所詮悪の道に走った者が光に生きられるはずがなかったのだ・・・ならばとことん悪に堕ちてやる!!・・・お前は八つ裂きだ!!ネギ・スプリングフィールドぉ!!!この私の手で・・・貴様ら一族との因縁を切ってやる!」

「ううう・・・・・・」


ネギに抵抗する術はない。

エヴァが自慢の爪を光らせた手を高く振りかぶった。









「ちょ、ちょっとあれって超ピンチじゃない!!もう隠れてらんないわ!」


明日菜が我慢ならないと駆けだそうとすると、


「待ちたまえアスナ君」


誰かから手を掴まれて引き戻される。


「ちょっと邪魔しないで・・・って高畑先生!?」


明日菜が突然出現したタカミチにドギマギする。


「え・・・!?ええっ!?な、なんで高畑先生がここに!?」

「アハハハ・・・ネギ先生から話は聞いてるよ。魔法のことは知ってるんだろう?」

「え・・・もしかして高畑先生も魔法つか・・・ってそんなことより早くネギを助けないと・・・」

「落ち着きたまえ。ネギ君なら心配要らないよ。もう超強力な助っ人が到着してるだろうしね」


そう言って明日菜にウィンクしてみせる。

一瞬ときめいてしまった明日菜だったが、


「え?・・・助っ人・・・ですか?」

「ああ。・・・おっと!ほらご覧。もうそこにいるだろう?」

「へ?・・・・・・ええーーー!?」












「私が殺したこいつの血で・・・私はやっと自由になれる・・・私が自由に生贄となれ!!ネギ・スプリングフィールドぉ!!!」


エヴァの爪がまさに振り下ろされようとしていた。


「ま、待てッ!エヴァ・・・!!!」


16号がやはり思い直して止めようとするが・・・


「!!!」


パワーレーダーに出た反応に驚き動きが止まる。

その瞬間・・・



「!?な、何っ・・・!?」



「そこまでにしてもらおうか・・・小娘」





エヴァの腕が振り下ろされることはなかった。

何者かが彼女の腕を掴んでいたからである。

掴んでいた者の顔を見てその場にいた一同は固まった。



「キ、キサマは・・・」



エヴァンジェリンは言うに及ばす、



「・・・・・・お前は・・・」



あの16号さえ・・・

そして、



「あ、ああ・・・」



身動きがとれないネギがその人物にもっとも驚愕していた。






それはネギがよく見知った姿。



月光に照らされたマントは白く輝き、



ターバンを巻いた頭・・・



そして露出した部分から垣間見える緑の肌・・・



間違いない・・・






「ピッコロ・・・さん・・・」







ネギが涙を浮かべて今日一番の笑顔を見せる。



そして、その名を呼ぶ者がここにも一人・・・


「ピッコロ・・・大魔王・・・」


滅多なことがない限り無表情を貫く彼にしては珍しく瞳孔が開ききっている。





「よお・・・キサマも来ているとは驚きだったぜ・・・16号・・・」





マントの男―――ピッコロがちらりと後ろを振り返りながら言った。








ついに出会ってしまった2人の戦士。

この出会いが生み出す化学反応の影響は・・・誰にも予測できない・・・












<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!イヤッホーーーイ!!!久しぶりにピッコロの登場だ!!」

エヴァ「な・・・なんだこいつは!?ま、魔族なのか!?」

16号「ピッコロ・・・まさかこの少年がお前の身内だったとはな・・・」

ピコ「フン。どうやら俺の子供を散々痛めつけてくれたようだな。親代わりとしてそれなりの落とし前はつけさせてもらうぜ!!」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI 『いきなり麻帆良滅亡の危機!?  出会ってしまった戦士2人・・・』」

ネギ「あれ?ピッコロさんが助けに来てくれて嬉しいはずなのに・・・すっごく寒気がする・・・」










あとがき

皆様からの感想を読んでて考えたのですが、やはりエヴァを小悪党に書きすぎたかなあ・・・と反省しました。読み返してみてやはり彼女のセリフがらしくなかったかな・・・と

仮にも600年生きてるわけですから小物にしすぎるのもどうかと思いましたし・・・自分でやっといてなんですが・・・

このままでもOKと言う方もいらっしゃいましたが・・・原作を無視しすぎたキャラ崩壊はやっぱり良くないと思いましたので改変することに・・・

・・・といっても変えたのはエヴァのセリフの部分くらいで展開はほとんど変わっていませんが・・・

望んで悪になったわけではないとはいえ、やはり彼女の“悪”としての在り方がどうしても甘っちょろいと思いましたので・・・この際とことん悪らしくなっていただこう!!
・・・というわけで矜持を捨てた部分は変えておりません。

人によっては今頃改変して萎えた方もいるかと思いますがご容赦ください。

p.s.近いうちに次回の更新もしたいと思います。



[10364] 其ノ二十五   いきなり麻帆良滅亡の危機!?  出会ってしまった戦士2人・・・ (誤字訂正)
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/10/19 00:26


「よお・・・キサマも来ているとは驚きだったぜ・・・16号・・・」


公園の中央で睨みあう2人の超戦士・・・16号とピッコロ。

この思いがけない組み合わせを他のZ戦士が見たら驚いたことだろう。


「ピッコロ大魔王・・・なぜお前がこの世界に・・・」


16号が珍しく呆然とした顔で訊いてくる。


(なっ!?『大魔王』だと・・・じゃあ、こいつは魔族!?)


16号の呟きにエヴァも驚いた顔でピッコロを見やる。

確かにその容貌はどっからどう見ても人間ではない。どちらかというと魔族のものだ。

しかし、魔法世界でもこんなタイプの魔族をエヴァは見たことがなかった・・・

だが、只者ではない・・・彼女に気配を悟られずにあっさりとその手首を掴むほどの腕前はあるのだから。


「それはこっちのセリフだ・・・と言いたいところだが、あいにくそうも言ってられん・・・まずは・・・」


そして、手首を掴んでいる相手であるエヴァを睨みつける。

その刹那エヴァにゾッとするような寒気が襲った。


(なんだ・・・この息苦しい威圧感は!?坊やから感じたものも相当なものだった
が・・・これは・・・そんなものが可愛く思えるくらいの代物だ!!・・・ま、魔族にここまで恐れを感じるのは・・・は、初めてだ・・・!!!)


たちまちエヴァの顔が青ざめていく・・・


(くっ、何を弱気になっている!・・・私は闇の福音だぞ!魔族のガンつけくらいで怯んでどうする!!)


必死に自我を保ち、負けじとピッコロを睨みかえす。

そんなエヴァにピッコロが告げる。


「・・・・・・その薄汚い手をネギからどけろ・・・小娘」


ピッコロが手首を握る力が強くなった。


「ぬっ!?グアアッ!!!」


瞬間エヴァの手首に激痛が襲う。

たまらずエヴァがネギから反対側の手を離してしまう。

その一瞬の隙にピッコロはエヴァから手を離し、崩れ落ちる寸前のネギの首根っこを掴んだ。


「おいっ、タカミチ!そこにいるんだろ!?・・・受け取れ!!」


すぐさまタカミチのいる方へネギを放り投げる。

ピッコロが投げるだけあってタカミチのいる距離まで簡単に飛ばすことができた。


「わっ!?おっとっと!!」


慌ててタカミチが反応し、ネギを受け止める。


「フ~。いきなり投げるなんて酷いじゃないですか先生!万一落としたらと思うとこっちは冷や冷やもんですよ・・・」

「フン。こそこそ隠れているキサマが悪い・・・そんなことより今のネギはダメージの上に気が枯渇していて少し危ない状態だ。・・・早く治療してやれ」

「はあ・・・まったく人使いが荒いんですから・・・」


わかりましたよ・・・とタカミチが苦笑しながら承諾する。


「うう・・・タカミチ・・・それに、アスナ・・・さん・・・」


ネギが苦しそうにそしてどこか驚いた様子で名を呟いた。


「あっ!?ネ、ネギ!!大丈夫なの!?」

「アスナ君、静かに!」

「あ・・・す、すみません・・・」


タカミチはネギの体に手を当てると気を練り始めた。


「僕は魔法が使えないからね。旅先で偶然知った中国に伝わる気を用いた治療法だ。・・・あまり上手くないかもしれないが、しばらくはこれで我慢してくれ・・・」

「・・・ううん。あいがとう・・・タカミチ・・・」


気を送られネギの体が徐々に軽くなっていく。するとネギは眠るように意識を手放す。


「あ・・・あたしっていらなくね?」


明日菜のボヤキはともかくとして。








「さてと・・・ネギの方は大丈夫そうだな」


改めてエヴァたちに向き合う。


「ぐう・・・キ、キサマァァァ・・・」


手首を押え呻き声を上げながらエヴァがピッコロを睨みつけていた。


「キサマ何者だ!?何故邪魔をする!?」

「・・・人にものを尋ねる前に自分から名乗ったらどうだ?・・・親の躾がなってないぞ」

「グッ!・・・フン、いいだろう。聞いて驚くな!私こそは魔法世界で“闇の福音”と恐れられた最強の魔法使いエヴァンジェリンだ!!!」


ビシッとピッコロに指差しポーズまで決めたエヴァ。

だが、そのある意味滑稽な姿に反してかなりの殺気を放っていた。これでいったい何人の敵を震え上がらせたことか・・・しかも己の悪について完全にふっ切った今、その迫力も倍増されている。

今のエヴァならネギも多少なりとも動揺させられたのではないだろうか?

だが、目の前の男は違った。


「・・・・・・知らん」


2人の間をヒュ~と風が通り抜けていく。


「・・・し、知ら・・・知らないだとォォォォ!?・・・ふ、ふざけるなーーー!!!キサマ、魔族の分際で“闇の福音”を知らないとはどういうことだ!!?」

「知らんものは知らんとしか言いようがない。・・・興味もわかんしな・・・」

「くっ・・・一日でここまでコケにされたのは生まれて初めてかもしれん・・・貴様は坊やの仲間か?」

「フン。仲間どころか・・・ネギは俺の息子も同然だ!そのネギを随分と痛めつけてくれたようだな・・・」

「・・・そうか、キサマは坊やの身内か・・・ならばあの奇妙な術を教えたのもキサマだな!!!」


エヴァに憎悪が蘇る。


「私は坊やを殺し、その血をいただく・・・その邪魔をする気ならキサマも“敵”だ!!!」


エヴァの体に魔力が溜まり始める。

ネギに向けて飛び出そうとするかの如く・・・


「悪いが・・・ここから先へは通さん」


そのエヴァにピッコロが立ちふさがる。


「私は今夜呪いを解き自由になる!!・・・そこをどけえぇぇぇぇ!!!!!」


エヴァがピッコロに・・・いや・・・その先のネギに向かって飛び掛かった。


「っ!?よせ、エヴァ!!!そいつはお前の適う相手じゃない!!!」


16号が叫ぶ。

だが、半ば狂気に囚われた今のエヴァにはその声は届かない。


「フン。冷静さを失い、相手の技量も見抜けないとはな・・・」

「邪魔するなぁぁぁぁ!!!」


手に魔力を込め、立ちふさがるピッコロに魔法を叩きつけようとしたそのとき・・・


「ムンッ!!!」


ピッコロの両目が光る。


「グハァッ!?」


途端にピッコロから凄まじい衝撃波が放たれ、エヴァが後方に吹き飛ばされた。

あまりの威力に16号のところまで一気に飛んだ。


「エヴァ・・・!!!」

「ま、マスター・・・!!!」


16号が慌ててエヴァを受け止めた。

エヴァはさっきの衝撃で気を失ってしまったようだ。


「エヴァ・・・エヴァ!!しっかりしろ!!!」


必死にエヴァに声をかける16号。


「安心しろ・・・威力は弱くした。そいつはただ気絶しているだけだ」


ピッコロが淡々と述べる。

それを聞き、幾分落ち着いた16号がエヴァをその場そっと寝かせる。


「見たところそいつ自身は大した力は持ってないようだな・・・とてもネギをあそこまでやっつけられるとは思えん。・・・やったのはお前だな?16号・・・」

「・・・・・・ああ・・・」


16号が若干顔を伏せた状態で肯定する。


「・・・あの娘の殺気は本物だ。よほどネギに執着があるようだが・・・」


そう言ってエヴァとネギの交互に視線を送る。


「・・・お前らとネギに何があったかは知らんが・・・今の俺は非常に気が立っている・・・」


すると、地面に転がっている瓦礫の破片が宙に浮かび、そして・・・破裂した。

街灯のライトもガラス部分が突然パリンと割れる。

まるでピッコロの気の高まりに呼応するかのように・・・


「こ、このパワーは・・・」


16号もコンピューターが計測しているピッコロの戦闘力の変化に驚いている。

これは自分が知っているピッコロの平常時のパワーを上回っている・・・

明らかにセルゲームのときのピッコロとは・・・違う!!


「俺の身内にここまで手を出されたとあっては・・・黙って退くわけにはいかん・・・16号・・・落とし前はきっちりつけさせてもらうぜ!!!」


拳をギュッと握りしめ、ピッコロが言い放った。











一方少し離れた場所でネギを介抱していたタカミチたちはというと・・・


「ま、まずいな・・・」

「え!?ネギそんなに危ないんですか!?」

「あっ・・・いや、そうじゃなくてね・・・先生が・・・ね・・・」


冷や汗をだらだら流しながらピッコロを見やるタカミチ。


「あちゃ~、予想はしてたけど・・・これは相当頭に来てるぞ~・・・」

「あっ、あの・・・高畑先生ってあの人(?)と知り合いなんですか!?」

「ん?まあね・・・今の僕の武術はすべてあの人から教わったようなものだし・・・」

「ええ!?あの人(?)高畑先生の武術の師匠なんですか!?」

「まあ・・・そうなるね・・・」


すごく不安そうな顔をするタカミチに明日菜は恐る恐る尋ねる。


「あの・・・さっきまずいって言ってましたけど・・・」

「ああ・・・非常にまずいよ・・・怒った先生はね・・・」

「・・・そんなにやばいんですか?」

「・・・やばいなんてもんじゃない・・・先生の話が本当なら・・・麻帆良、いや地球だって危ない・・・」

「へ・・・?」

「さっき見た限りだと16・・・ゴホン!あの青年の実力は先生ほどあるかはわからないけれどもそれに匹敵するくらいはあると思う。話しによると先生が本気を出したら地球なんて簡単に破壊できるそうだ。真偽は定かではないけど・・・僕は先生ならやりかねないと思っている。それくらい納得できるほどの強さなんだよ・・・先生の力は・・・」


タカミチの話を頭が半ばアッパッパーな状態で来ていた明日菜。

地球が壊れる?・・・はあ?何それ?どこの核兵器?・・・いやいやそれ以上じゃない!?

『彼女が核兵器という単語を知ってるのか?』という疑問は置いといてだ・・・バカレッドの名を冠する明日菜であってもそれがすごく荒唐無稽な話であることくらいわかる。

だが、彼女の憧れである青年がそんな話を真剣にしているのだ・・・彼に幻滅するよりむしろ、案外本当かもと思ってしまうのは乙女心のなせる業か・・・


「そんな力が2つもぶつかり合ったらどうなると思う?・・・仮に双方が本気を出さなかったとしても、この麻帆良はおろか、日本、アジア全域、下手をすれば地球自体が木っ端微塵だ・・・」


深刻な顔で衝撃的なことを告げるタカミチ。

そんなタカミチに対し明日菜は・・・


(・・・うん!要するに、あの人たちがすんごくやばいってことだよね!!)


―――――思考を放棄した。











ここで再びピッコロたちに視点を戻そう。


「・・・覚悟はいいか?16号・・・」

「・・・まさか、あの少年がお前の身内だったとはな。道理であの年にしては強いはずだ・・・だが、お前に退けない理由があるように俺にも譲れないものがある・・・戦うしかないようだな・・・ピッコロ・・・」


かつては共闘したこともある2人が今まさに激突しようとしていた。


「フン。そう言えばキサマとは戦ったことがなかったな・・・久々に思いっきり戦えそうだぜ・・・」


ピッコロが不敵な笑みを浮かべて両拳を強く握りしめる。


「ハァァァァァ・・・・」


ピッコロを白い炎が包む。

すると公園に突風が吹き荒れた。


「キャッ!!」

「くっ!?これが先生の気・・・流石だ・・・」


タカミチと明日菜も思わず顔を覆ってしまう。


「ハァァァァァ!!!」


ますます大きくなるピッコロの気。


「・・・・・・」


16号はそのパワーを黙々と計測しながら考えていた。


(やはり・・・俺の知るやつよりはるかに強くなっている!・・・もしかしたらこの俺を超えるくらいに・・・)


だが、戦うと決めた彼は怯まなかった。ギュッと拳を握りしめる。

両者はすでに臨戦態勢。あとはゴングを待つのみ・・・

そのとき、2人の中央で小石くらいの大きさの破片がプカッと浮いた。

やがてその破片が波動によってパキッと砕けると・・・

両者が超スピードで同時に突っ込み

互いに拳を振りかぶり

それらの拳が中央でぶつかり合った。



ダダァァァァァッ



轟音と衝撃が辺りを覆った・・・


「キャーッ!!!」


明日菜が悲鳴を上げてタカミチに抱きつく。別に狙ってやったわけではない・・・単に掴まる物が欲しかったのだ。そうしなければ吹き飛ばされてしまうから・・・


「くっ・・・!!」


タカミチはネギを抱えた状態でその場になんとか踏みとどまる。


「これは・・・最悪の予想が現実になるかもしれない・・・」


苦笑いを浮かべてタカミチが呟いた。

一方エヴァたちは・・・


「ま、マスターは・・・わ、私が・・・守ってみせる・・・」


あれから自己修復プログラムを作動させ、時間をかけてある程度の運動機能を取り戻した茶々丸は、吹っ飛んできたエヴァの体を捕まえ、胴体からワイヤーを発射して大木の幹に固定することでなんとか衝撃から逃れていた。


「でも・・・あの男から発せられるパワーは私でも計測できない・・・兄さん・・・」


ピッコロの底知れぬ力を恐れるとともに、もはや自分の力の及ばない域に達した戦いに身を投じていく兄を案じることしかできない茶々丸であった。











衝撃が止むと互いの拳を合わせた状態で佇むピッコロと16号の姿があった。

戦いの最中だというのにピッコロがふと思い出したように言う。


「・・・そういえば、ここには人がいるのを忘れていた・・・それに少々手狭だな・・・」


16号もピッコロの言葉に気づかされ、


「・・・俺も同感だ。・・・場所を移そう・・・」

「・・・良かろう」


すると2人は後ろに跳んで距離をとり、そのまま舞空術で空に上がっていく。

それを見ながらタカミチは呟く。


「・・・場所を移すなら、もっと早く気づいてほしかったですね」


公園の惨状を見てほとほと疲れたという表情で言う彼には日ごろの苦労のほどがうかがえる。

がんばれタカミチ!・・・今はそれしか言えない。











場所を空中―――上空300メートルほど―――に移し、再び睨みあう両者。


「ここなら俺たちが力を出しても問題はあるまい・・・」

「・・・そうだな・・・」


張り詰める緊張の糸・・・それが切れたとき・・・

2人の姿が―――――消えた。

刹那・・・



ドォォォォォッ



ダァァァンッ



バシィィィィッ



数多の大きな炸裂音と衝撃波が麻帆良の空に轟いた。

衝撃は下の街にまで伝わり、建物や地面を震動させる。


「ウワタァァァ!!!」

「ハァァァァァッ!!!」


ピッコロと16号・・・2人の力が激突する。

拳だけでなく、蹴りや肘打ち、手刀、頭突きその他諸々が一撃必殺の威力を込めて撃ちだされていく。

だがたとえ近くで見ていたとしても、それらの動きを一般人の視覚で捉えることはできない。


戦っている場所は、右なのか左なのか・・・上なのか下なのか・・・


―――――そんなことすら分からなくなりそうな超高速の戦い・・・


地上にいる者たちはそれを呆然と見上げるのみ。

だが、これだけ離れていても大気の震えが伝わってくる・・・この戦いは凄まじいと!!


「ちょっと・・・これってホントに人間同士の戦いなの?・・・・・・これじゃまるで戦争じゃない・・・」


信じられないという面持ちで明日菜が言葉を漏らす。

正直、この中で一般人に近い明日菜が一番パニックに陥ってるのかもしれない。


「なんて戦いだ・・・僕でも目で追うのがやっとだ・・・」


戦いの激しさはタカミチにも予想外だったらしい。目を大きく見開き、必死に視線を動かしている。


「う・・・ピッコロさん・・・」

「ネギ!?あんたはじっとしてなきゃだめよ!」


気絶していたネギが目を覚ましたようだ。


「でも・・・ピッコロさんが戦ってるのに・・・寝てなんて・・・」

「アスナ君の言うとおりだ。もはやこの戦いは僕らの理解を超えている。その状態の君が出て行ったところで先生の足を引っ張るだけだ・・・」


残酷なようだが事実を述べるタカミチ。

それが分からないわけではないネギは悔しそうに涙を浮かべる。


「・・・ピッコロさん・・・・・・」






「トアァァァッ!!!」


ピッコロが16号の頭目がけてはなった蹴りを16号が両腕でガード。

そして、ピッコロの足を捕まえる。


「むっ!?」

「ウオオオオオッ!!!」


そして、16号は唸り声を上げながら掴んだ足をすごい勢いで振りまわす―――ジャイアントスイングである。

十分に遠心力が乗ったところでピッコロを河に向かって投げとばす。

ピッコロはすごい勢いで飛ばされるが、


「チッ・・・ぬおわっ!!!」


水面すれすれで舞空術を使い、水しぶきを上げながらも留まる。


「・・・やってくれるぜ。・・・ならばお返しだ!」


ピッコロは両拳を握るとそこに意識を集中させる。

たちまちピッコロの手に気が溜まると

胸の前で気を練り合わせ、光球をつくる。


「『激烈光弾』!!」


ピッコロの手から放たれた気弾がまっすぐ16号に向かってくる。

16号は瞬時にその威力を見てとり、気弾を両手で受け止める。

せめぎ合う両者。


「ウオオオオオッ!!!」


16号が気弾を上空へ弾いた。

すると、空へと消えた気弾は・・・



ドオオオオオオンッ



爆音とともに夜空を光で覆った。

まるで一瞬昼が来たかのような明るさ・・・

それがたった一つの気弾でもたらされたかと思うと・・・

―――――その威力の高さは想像に難くない。


「ほう・・・今のを弾くか・・・」


感心したようにピッコロが言う。


「・・・なぜあのような威力のエネルギー弾を使った!?・・・街に当たれば大惨事だったぞ!!」


16号が責める口調でピッコロに言う。


「・・・すまなかったな。ここまで力を出せる相手も久しぶりでな・・・つい嬉しくて力が入ってしまったようだ・・・」


そのことについてはピッコロも素直に非を認めたらしい。

とはいえ、これでもピッコロは街に被害を与えないように気を遣って戦っていたのである。

現に地上の建物が崩れたりしている様子はない。

まあ、ぽつりぽつりと壁に罅が入っていたり、窓ガラスが割れたりしている建物が見られるが・・・そこは許してあげようではないか。


「それにしても、相変わらずの強さで安心したぜ・・・随分と余裕そうな顔をしてるじゃないか、16号・・・」

「・・・それはお互い様だ。お前も全然本気を出していない・・・どうやらお前はセルゲームの時よりも大分腕を上げたようだ。昔と今とでパワーが雲泥の差だ。・・・もし、俺の計算が正しければ、その装備をつけた状態でも俺と互角に戦える・・・違うか?」


思いがけない16号の発言にピッコロは目を丸くする。

すると、途端に笑い声を上げ始める。


「ククククク・・・流石だな。俺の力をすでに見抜いているとは・・・・・・だが、それは買いかぶり過ぎだぜ。お前相手ともなるとさすがにこの装備をつけていてはちと厳しい・・・」


ピッコロはターバンに手をかける。


「お前の予想は・・・昔の装備だったら正しかったかもしれんが、こいつはちょっと違うんだ。・・・これは地獄製の品でな、重りとしての役割もあるがそれよりもむしろリミッターとしての機能の方が強い」

「リミッター・・・?」

「そうだ。俺が地獄で修行していたとき、己の身にあまるほどの強大なパワーを持ったせいでいつからか自分の力を上手くコントロールできなくなっていた。それだと地獄の鬼どもと一緒に仕事をするのに困るというのでな・・・特別に作ってもらった。こいつは優れものでな・・・俺の力を今は100分の1くらいまで抑えている。」


ピッコロはターバンをはずして投げ捨てながら言い放った。


「100分の1・・・だと・・・」


16号が驚くのも無理はない。今まで全力を出しても100分の1に抑えられている状態で相手が戦っていたなんてとても信じられるものではない。それにピッコロのほどの者が力をコントロールできなくなるという事態になることがあるのか?

だが、それは事実であった。

サイヤ人のように超サイヤ人に『変身する』という形をとるのであればさしてパワーの制御は難しくない。パワーを上げる際に『変身』という段階を踏み、パワーに応じて身体を変化させるからである。その代り、変身するためのエネルギーの溜めとかが必要になってくるが。

一方ナメック星人はそういった変身はしない(代わりに『同化』という方法で身体を強化させることはできるが、あまり行われない)。だからいきなりでも強大なパワーを出そうと思えばできる。だが、この場合初めから強大なパワーに体が慣れてしまっているため、修行でパワーアップすればするほどそれを極限までセーブすることがやたら難しくなってしまうのだ。ピッコロ以外のナメック星人はそれほどの戦闘力はないからコントロールにさして支障がないが、ピッコロだけはナメック星人のレベルを逸脱していた。今までコントロールできていたのは彼の生まれ持った才能と類い稀な努力によりコントロールの上限が極めて高かったからである。だが、そんな彼も抑えきれないほどに力をつけた。だからリミッターが必要だった。

それが今解き放たれようとしている。一体どれほどの力だというのか・・・

ピッコロはついにマント付きの肩当てをはずした。

肩当てが重力に従い落ちていく。


「まさかこいつをはずせる日が再び来るとはな・・・せっかくだから、少しだけ見せてやる・・・俺の身につけたパワーを・・・な・・・」


首を鳴らしながら不敵に笑うピッコロを16号は唖然とした表情で見つめるだけだった。










<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!ピッコロがついに本領発揮だ!あ~オラも戦いて~ぞ!!!」

ピコ「6年ぶりだから解放感も格別だな・・・16号・・・少しは保たせてくれよ?」

16号「・・・どうやら俺はやつの戦闘力について完全に目測を誤っていたらしい」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI 『16号成す術なし!  これがピッコロの超本気!!』

ネギ「す、すごい・・・これがピッコロさんの“本気”なんだ・・・!!!」









あとがき

なんだかすごく・・・イライラする

・・・すみません。愚痴っちゃいました。とにかくなんだかここ最近創作意欲がダダ下がりの仕事人です。

日常生活にストレスを感じるとここまで文章が浮かんで来ないものなのか・・・ってくらいスランプ気味です。

なので今回あまり話進んでません+何をとち狂ったかオリジナル設定まで・・・すみません。

いや、でもこの設定は前々から考えてたんです。考察なんて結構真面目に・・・だから大目に見て!

・・・すみません。チョーシこきました。どこまでダメなんだ俺は・・・

それに結局タイトルに「麻帆良滅亡の危機!?」とか書いておいて別にそんなことなかったぜ!!

・・・いや、結構次回がやばいかも!?

とりあえず、次の更新は定期的にできるかわかりません。

お待たせしたらごめんなさい。



[10364] 其ノ二十六   16号成す術なし!  これがピッコロの超本気!!
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/11/03 14:14





麻帆良学園都市の上空で対峙するピッコロと16号。

ますます白熱する戦いの最中ピッコロが放った一言・・・


―――――“リミッターをはずす”


これが何を意味するのか16号は考えただけで背筋が凍った。

16号が知っている最強の敵と言えば『セル』しかいないが、セルも十分16号の想像を絶するパワーを有していた。

はたしてこの目の前のピッコロが自分のいた時代のさらに未来から来たのかはわからないが、仮にそうだとすればあれからさらに修行を積みパワーアップしていても不思議ではない。

問題はどこまでパワーアップしているかだ。自分の推測が正しいなら、このピッコロはセルの凄まじい強さを知っている・・・ということは、修行をするとしたら当面はセルクラスの戦闘力を目標にするはず・・・やつの言っていることが正しいなら少なくともその目標には到達しているのは間違いなかろう。

セルに匹敵する・・・いやひょっとしたらそれを上回っているかもしれない。

16号の思考は完全なコンピューターである。それは物事を常に冷静に判断できるという優れた点がある反面、計算不可能な事態には弱いという欠点も持ち合わせていた。

今彼はまさに混乱の極みにあった。

そんな16号を余所にピッコロは余裕たっぷりに軽い柔軟運動を繰り返している。


「フ~~こいつを取るのも久しぶりだ。最後にはずしたのはこの世界に来る前だしな・・・・・・ということは6年か。道理で開放感があるわけだぜ・・・」


自分の体を不思議そうに眺めるピッコロ。


「・・・そうか。よく考えたら久しぶりで力の加減を忘れているかもしれん。力みでもしてこの一帯を吹き飛ばしたら洒落にならん・・・仕方ない。ここから海に出るか・・・」


今までの戦闘も市街地にとっては十分危険スレスレのラインだった気もするが・・・そこはスルーしよう。


「そういうわけだ16号!たびたびで悪いがまた場所を変えさせてもらうぜ」

「・・・・・・ああ」


なんとか頷いて見せる16号にピッコロは一言「着いてこい!!」と告げるとそのまま白い炎を纏って飛んで行ってしまう。

16号もその跡を追う。

2人はあっという間に学園の結界を突きぬけて太平洋に向かって移動していった。

タカミチは気の動きで2人が移動したのを確認すると一先ず胸を撫で下ろした。


「ハア~・・・どうやら2人は海に向かったようだね。これで少なくとも学園への被害は最小限で済んだわけだ。(でも、海に移動するならもっと早いうちにやって欲しかったです・・・先生)」


心の中でちょっと涙を流すタカミチ。


「うう・・・で、でもピッコロさん大丈夫かな・・・相手は人造人間なんだよ?」


まだ若干の痛みに顔を引きつらせつつもネギが言う。


「心配要らないさ。ネギ君だって知ってるじゃないか。先生の強さは」

「そうだけど・・・」

「もうっ!その、ピッコロさん?って人がどういう人か知らないけど高畑先生が大丈夫だって言ってるんでしょ?だったら万事お~るおっけーじゃない!!」


明日菜がネギを励ますようにフォローを入れてくる。


「アスナさん・・・そうかもしれませんけど、あの人造人間の強さは尋常じゃない。戦った僕にはわかるんです。だから余計に心配で・・・」


「ネギ君。君は先生を信じられないのかい?」


タカミチが真剣にネギの目を見詰めた。


「確かに彼の強さは僕らでは及びもつかない位置にいる。でも君は仮にも先生の弟子だろう?弟子が師匠を信じられなくてどうする!」


「タカミチ・・・」


タカミチの発言が意外なのかネギが目を丸くする。


「僕も昔、師匠に目の前で死なれたことがあるからね・・・先生に死なれたくないという君の気持も分からなくはない。でもね・・・何となく先生なら大丈夫・・・そんな気がするんだ」


しみじみとした顔で語るタカミチの顔にネギだけでなくなぜか明日菜も魅入ってしまっていた。


(なんだろう・・・この感じ・・・初めて聞く話のはずなのにどこか懐かしい・・・)


いつの間にか彼女の頬を瞳から一筋流れ落ちるものがあった。

彼女自身は気づいていなかった。その涙は彼女の封じられし記憶から来ているものだということに・・・


(!?・・・何やってんのよ私ったら・・・泣いてる場合じゃないわ)


無理やり涙を振り払ってしまう明日菜。

そんな明日菜にタカミチたちが気づいている様子はない。

タカミチはネギの肩に手をおいて言う。


「ネギ君・・・信じるんだ!先生は負けない・・・!!必ず勝つって。・・・それに、さっき先生の気の流れが急に変わったんだ。僕には何か先生が凄いことをしてくれるような気がするんだ」


「すごいこと・・・?」


「ああ・・・たとえばそうだな・・・先生が“本気”を見せてくれるとか・・・かな?」


そう言った瞬間である。

突如大気がドウンッと震えた。


「「!!」」


ネギとタカミチはその変化に即座に反応を示した。

2人同時に発生源と思われる方角・・・ちょうどピッコロたちが飛んで行った方へ顔を向けた。

ネギたちの挙動に明日菜は訳が分からず戸惑いを見せている。


「ちょ、どうしたのよ、ネギ!?高畑先生まで・・・」


だが2人は明日菜の問いに答えず黙って遠くを見つめるばかり・・・

しばらくして、ようやくタカミチが口を開いた。


「・・・なんてことだ」

「へ?」

「・・・先生が・・・あの先生が・・・“本気”を出した・・・」










一体ピッコロたちに何があったのか?

話はタカミチとネギが話込んでいた頃に遡る。

ピッコロと16号が太平洋の沖に向けて飛行中のときであった。


(・・・なんてスピードだ!!この俺でも追いつけない!・・・だというのにやつはその速度を軽々と出している・・・ピッコロよ、本当にセルを超えてしまったのか!?)


全速力で飛んでいるにもかかわらず、先を行くピッコロとの距離が開いて行くのを目の当たりにして内心の焦りが顔に表れてきている16号。

まさか、あの発言はハッタリではなかったというのか!?

すると、いつの間にか沖にまで出ていたピッコロたち。


「・・・この辺にしておくか」


ピッコロが頃合いを見計らって急停止すると、かなり距離をおいて16号も停止する。

昼間なら辺り一面は水面の青一色・・・となるはずだが、あいにくと今は夜。暗くて海の色が分からない。


「さて・・・大分待たせたな。俺の本気ってやつを見せてやるぜ」


ピッコロが気を解放するために構えをとる。


「・・・その前に一つ聞きたい」

「ん?」


だが、そのピッコロを遮るように16号が言葉を投げかける。


「・・・お前の力は俺の知っているピッコロより遥かに上なのはわかった。だが、俺の時間はセルゲームのときから止まっている。だから聞かせてくれ・・・お前はセルを超えたのか?」


16号の問いにピッコロは可笑しそうに鼻を鳴らした。


「フフフ・・・セルか。これまた懐かしい名前を・・・いや、そうでもないか。地獄じゃやつとはしょっちゅう顔を合わせていたからな。」


地獄での日々を思い出しているの懐かしそうな顔をするピッコロ。


「まあ、お前がそう言うのも無理はないか・・・セルゲームのときの俺なら確かにセルを超えるなんてのは夢のまた夢だっただろうしな。だが・・・俺はお前が知っているあのときから200年以上も修行したんだ。その結果・・・俺はセルを超えた。遥かにな・・・」

「!!」


不敵に笑うピッコロに戦慄する16号。


「・・・信じられないという顔つきだな。まあいい・・・これから実物を見れば嫌でも納得するだろうよ・・・・・・もっとも、悟空のやつにはついに追いつけじまいだったがな。まあ、あいつは規格外だからな・・・比べるだけ無駄というやつか。・・・・・・おっとそうだ。あと一つだけ言っておこう。こいつは一度解放すると力加減が上手くいかないんでな・・・吹き飛ばされるなよ?」

「なっ!?」


驚く16号を余所にピッコロが大きく深呼吸をする。

意識を集中させ気を解放し始める。


「ハァァァァァァ・・・」


そのとき・・・ピッコロを包む白い気のオーラが明らかに層の厚みを増した。


「カアアアァァァァ・・・」


ピッコロを中心として大気の流れが大きく変わり、海では波がうねり始める。


「デアアアァァァーーー!!!」


ピッコロの顔に血管の筋が浮かぶ。そして、ピッコロの叫びに呼応するように気がどんどん勢いを増してく。

超サイヤ人のような派手な変身はない。それゆえに傍目では変化は分かりづらい。だが、16号はハッキリとピッコロの“変化”を感じ取っていた。


「戦闘パワーが急激に上昇している!!信じられない速度だ・・・セルのときですらここまで飛躍的な伸びを見たことはなかったのに・・・」


己のコンピューターがはじき出した数値を見て表情を変えていく16号。

やがてどんどん上がっていく数値がメーターを振りきったあたりで16号の網膜に“ERROR”の文字が浮かんだ。


「け・・・計測不能・・・」


もはや自分の演算領域を超えた場所にいる相手を呆然と見ることしかできない。

すると、ピッコロの体を白い光が包み込み始める。いよいよ彼のパワーアップもクライマックスに入ったようだ。


「カァァァァァーーー!!!!!」


極限まで溜めたものを放出するようにピッコロが両腕を広げる。

そして、ピッコロを包んだ光が今度は辺り一面まで広がり―――――16号の視界を真っ白に染めた。








ドォォォォォゥゥゥゥゥゥーーーーーーンッ







そのときの大気の震えはここ麻帆良にまで届いていた。


「くっ!!!・・・で、でかい・・・なんてでかい気なんだ・・・これが先生の本気なのか・・・」

「あ・・・あああ・・・・」


タカミチ、そしてネギでさえ遠くで戦っている師匠の気に驚きを禁じ得ない。


「な、なんか・・・急に風が強くなってない?今日って台風でも来るって言ってたかしら?」


一人見当違いなことを言っている者がいるが・・・まあ、まだ一般人の域を脱しない彼女ならば仕方あるまい。


(遠くにいるはずなのにまるで近くで戦っているようだ・・・ここまで強く気を感じるなんて・・・先生は一体・・・)


考えただけで冷や汗が止まらないタカミチだった。











「ぐっ・・・うう・・・!?こ、これは・・・!!!」


あの一瞬迸った光に目を覆った16号が再び視界を取り戻したとき、その眼に映った光景に愕然とする。

2人がいる地点の下に広がっていた海面・・・だったものが見当たらず、代わりに深い闇に包まれた空洞がぽっかり空いていた。

そして、その空洞に海の水が滝のように流れ込んでいる。

そう、あの瞬間にピッコロは海底の裂け目・・・いわゆる“海溝”、いやこの場合はそれよりさらにスケールの大きな“海洞”とでも言うべきものを作りあげてしまったのだ。

だが、16号が驚いているのはそのことではない。気を解放することで地形が変わってしまうのは彼らにとってさして珍しいことではないからだ。

問題なのはピッコロ自身。

別にピッコロの容姿には何ら変化はない。しかし、彼の纏っている気が普段とは桁違いであった。

気が白い光となってはっきりと視認できているのである。まるで超サイヤ人の放つ黄金のオーラように・・・

ピッコロの体中から滲み出るようにオーラが漏れ出て行く。

その一つ一つが相当に密度が濃いことが16号にもわかる。

試しに計測器を働かせてみる―――――依然としてERROR・・・

だがこれは機械の故障ではない・・・事実なのだ。


「くそっ・・・やはりコントロールが難しいな・・・抑えつけてもこのザマとは・・・」


少々不満げにタレ溢すピッコロ。


「・・・どういうことだ・・・これは・・・いくらパワーアップしたとはいえ以前のお前のデータから考えればこれほどのパワーを出すのは不可能のはずだ・・・」


16号からの疑問の声・・・それに答えるためにピッコロが口を開いた。


「限界を超えたのさ・・・ナメック星人の壁をまた一つな・・・以前の俺を超ナメック星人としたら、今の俺はさながら超ナメック星人2といったところか?」


「超ナメック星人2・・・」


無論以前の悟空のセリフを意識しての発言だが、そんなことを知る由もない16号はその名
称に呆然と聞き入っていた。

だが、しばらくして気を引き締めた顔つきに戻り、


「・・・どうやら・・・俺は・・・重大な計算ミスを犯していたらしい」


重い口を開いた。

だがそんな16号の言葉をピッコロは鼻で笑う。


「計算ミス?違うな・・・そもそも俺たちを数字だけで測ろうとすること自体がまちがいだぜ!!!」


その言葉に16号は再び眼を見開く。


「・・・そうかもしれないな」


どこか諦めの境地に入っている16号に向けて右手をかざすピッコロ。


「悪いがそろそろ第二ラウンドを始めたい・・・少しは保たせてくれよ?」


言った次の瞬間



ドンッ



「っ!!!」


16号の体が吹っ飛ばされた。

超スピードで飛んで行く自身の体に無理やり急ブレーキをかけて停止する16号。

よく見ると彼のボディアーマーの腹部に巨大な陥没ができている。

この一撃ですでに相当なダメージを受けている。この状態であとどれだけ戦闘できるだろうか?

そんなことを考えていると、ハッとピッコロのことを思い出す。


――――― 敵はどこだ!?


前を見るとすでにピッコロの姿はなかった。


――――― 一体どこに?


「俺はここだぜ」


後ろからの声にビクッと反応し、その場を飛び退る16号。

そこにはいつの間にいたのかピッコロが腕を組んで佇んでいた。


(俺としたことが・・・これほど巨大なパワーを見逃すなんて・・・)


内心で己を叱咤する16号。


「どうした?お前ともあろう者が俺を相手に・・・」


ニヤリとしながらピッコロが告げる。


「余所見なんてしている場合じゃないぜ?」


「!!?」


再び背後から聞こえた声に戦慄する16号。

一瞬でまた後ろに回られた・・・!!!


(ダメだ・・・まるで格が違いすぎる・・・!!!)


もはや16号も相手との実力差を認めざるを得なかった。


(だが、ここで倒れるわけにはいかない・・・!!)


16号は己が右腕をギュッと掴むと肘のあたりから前腕を抜きだした。



ジャキッ



そしてすかさず銃口を背後に向け、


「ヘルズ・フラッシュ!!」


溜めなしの必殺技を放つ。

ピッコロがエネルギー波の光に包まれる。



ドゴオオオオオンッ



響き渡る激しい爆音と舞い上がる黒い煙。

この近距離で放ったヘルズ・フラッシュだ・・・威力はかなりのものだろう。

しかし、16号はそんなものがピッコロに通用するとは思っていない。

これはあくまで時間稼ぎ・・・今のうちにできるだけ遠くに離れなければ・・・

だから、16号は技を放った瞬間に既に飛び立っていた。あらん限りの力を振り絞った最高速度で。


(今の俺ではピッコロには到底敵わない。ここは一旦退くべきだ。そして、・・・!?)


そこまでで16号の思考は中断させられた。


「どこに行く気かは知らんが・・・俺がそう簡単に逃がすと思っていたか?」


気付かないうちにピッコロが16号と並んで飛行していた。


「馬鹿な・・・!!もう追いついたというのか!?」

「フン。別に驚くことでもあるまい。これくらいならセルのやつでもできる」


そして、身体に纏う光を強めるとさらにスピードを上げ、あっと言う間に16号を突き放しその進行方向へ立ちふさがった。

こうなってしまっては逃げることも敵うまい。

やむを得ず急停止する16号。


「さて・・・いいかげん鬼ごっこにも飽きたしな。そろそろ終わりにさせてもらおう・・・」


ピッコロがかざした手のひらに気が収束していく。


「くっ・・・ここまでか・・・」


もはや打てる手はすべて打った。だが、そのどれもこの相手には通用しなかった。


(完全に成す術がない・・・この一撃で俺の命も終わるだろう・・・俺一人ならまだ諦めもつく。だが・・・俺が消えたら残された家族はどうなる?エヴァは?茶々丸は?チャチャゼロたちは?)


心優しい彼が残された家族に危機が及ぶかもしれないという状況を望むはずもない。


「頼む・・・俺はどうなっても構わない!だから・・・エヴァたちには・・・あいつらには手を出さないでくれ・・・」


16号の悲痛の叫び・・・完全機械である彼が見せた心の声に対し、ピッコロは・・・


「・・・言いたいことはそれだけか?」


冷徹に言い放つと集めた気弾を16号に向け放った。



ドオオオオオオンッ



―――――2003年4月8日、日本時刻午後8時58分、人工衛星により太平洋沖から謎の光線が観測された。光線は大気圏を抜けて宇宙空間に放出されたとのこと・・・
後に世界中の学者たちの間でこの不可思議な現象が自然に発生したものなのか人為的に起こされたものなのかで大いに議論が交わされた。当初は列強諸国が新兵器の実験をしていたのではないかという意見が強かったが、当時の首脳陣がこれを完全に否定。さらに当時の時間帯に光線の出どころと思われる地点には陸は存在しておらず、通過している戦艦なども皆無だったと考えられており、兵器の実験が行われた可能性が低い。ということは自然発生したものなのか?ということで学界で大きな波紋を呼びかけることになった。
だが、いまだに原因は不明である。











光が治まった後、大海原の中でピッコロが佇んでいた。

一方16号は・・・まだ生きていた。だが、同時に呆然としていた。

彼の体に異常があるのか?・・・そんなことはない。腹に受けた一撃以外はどこにもダメージは見られない。とはいっても、そのダメージだけでも戦闘には相当影響されるのだが・・・

彼は驚いていたのだ・・・自分が生きている、いや“壊されていない”ことに・・・

たしかにエネルギー波は自分に向かって来ていた。そこまではいい。だが、あの一撃で自分は木っ端微塵にされるのではなかったか?

だというのに、気弾が突如軌道を変え彼の脇を通り抜け、やがて進路を上方に変えるとそのまま宇宙に飛んで行ってしまった。

はずされたのだ・・・わざと・・・


「どういうつもりだ!・・・なぜトドメをささなかった!!」


16号が問いただす。

するとピッコロはゆっくりと口を開いた。


「残された家族が心配でオチオチ死んでもいられないという顔をしていたからな・・・望みどおり生かしておいてやる。感謝しろよ?これでも気弾をコントロールするのにかなり無理をしたんだからな」


言ったあとにピッコロを光が包み、あっという間にマントにターバン姿になる。


「ま、待てっ!俺を破壊しないのか・・・?」

「フン。キサマを殺して何になる?もともとお前は根は悪い奴じゃない。孫悟空を殺すという使命があるようだが、本人がいないこの世界ではそれも意味がなかろう。今回の件も身内の喧嘩に出張ってきただけだしな・・・俺にメリットがあるわけではない」

「ならば・・・なぜ俺と戦った?」

「それはキサマと同じだ。俺には何にもならん戦いでも、弟子が・・・いや、家族が手を出されて黙っているようなやつにはなりたくなかった。それに・・・久々にこの力を震える相手と戦いたかった・・・武道家としてな・・・」


むしろ後者の気持ちが強かったのだろう。拳を握った顔が嬉しそうである。


「俺もいつの間にかサイヤ人どもに影響されてきたのかもしれんな・・・この世界は俺たちには少々退屈すぎる・・・」


空を見上げ、しみじみと語るピッコロの顔には何ともいえない雰囲気が漂う。

今彼は何を思っているのであろうか?


「まさかお前に見逃してもらえるとは・・・感謝する」


ピッコロに深々と頭を下げる16号。無表情ながらも気持ちは本物なのだろう。


「フン。勘違いするなよ?キサマにはセルゲームのときの借りがある。それを返しただけだ・・・」


その言葉に16号はハッとする。


「それじゃあ、用がないなら俺は戻らせてもらうぞ。ネギのほうにも何やら事情があるようだしな。それを聞きださないと「ピッコロ!」ん?今度は何だ?」

「孫悟飯は・・・勝ったのか?」


16号の言わんとしていることは当然ピッコロにも分かっている。

だから、彼は答える。


「フン。俺がここにいる時点で答えは決まっているだろうが!」


そう言って白い炎を纏うピッコロ。そのままわき目も振らず飛び去って行く。

それをただ見送っている16号。

そして彼は呟くのだ。


「流石だな・・・ピッコロ大魔王。この勝負、俺の・・・完敗だ・・・」








<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!ついにピッコロと16号の戦いに決着がついたぞ!」

ネギ「そう言えばどうしてピッコロさんがここに来たんですか?」

ピコ「ああ。それは後で話すとして・・・ネギ、お前最近調子に乗っているそうだな?久しぶりに会ったんだ。俺がその鼻っ柱を矯正してやろう・・・」

ネギ「ええっ!?ちょ、ピッコロさん待ってえ!!!」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI『新たな敵の予感!!  ピッコロ来日の理由』」

ネギ「ピッコロさ~ん!!!僕怪我してるのにいきなり組手って・・・だ、誰か助けて~!!!」





あとがき

どうもお久しぶリーです・・・はい・・・

更新がかなり遅れてごめんなさい!楽しみにしている皆様にはご迷惑をおかけしました。

私仕事人は最近ようやく時間ができたので続きを書こうと思ったら、筆が進まない・・・orz

本のしばらくブランクがあるだけでここまで書けなくなるものなのか・・・本当に情けない話です(涙)

ですのでなんかもうgdgdな展開になってます・・・本当に申し訳ありません。

前回のコメントで『場所を移すなら他のところ行けよ!』という意見をもらい、確かにそうかもと思ってしまいました。

『今更遅いよ!』と言われるのを覚悟でまたまた舞台を移しました。かなり無理やりかもしれませんね・・・

戦闘もイマイチ盛り上がりに欠けるかも・・・申し訳ない!!

ピッコロさんがリミッターなしでもコントロールできているように見えているかもしれませんが、威力を抑えたり気弾を操ったりするときに精神にかなり負担がかかるのでコントロールが難しいという設定です・・・後付けっぽいですけど・・・

あと、人によってはキャラにも違和感があるかも・・・ダメなところが多すぎですね私(涙)

今回もたくさん批判があると思います。・・・感想でどうぞ・・・



[10364] 其ノ二十七   新たな敵の予感!!  ピッコロ来日の理由
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/11/27 07:41






ピッコロと16号の対決も一応の決着を見せたころ、ネギたちは学園のほうでただ彼らの帰りを待っていた。


「ピッコロさんの気がおさまった・・・」

「勝ったのはどっちだ・・・?」


ネギとタカミチが順につぶやく。

彼らとしてはピッコロが勝ったと思いたいところだが、相手の気が初めから感じられていない以上断定することはできない。

ただ、ピッコロの気が消えているわけではないので負けたわけではなさそうだ。


「!?・・・先生がこっちに向かってくる!!」


ピッコロの気が接近してくることにタカミチが気づいた。

やがて、彼らが空に目を向けると夜空に白い炎を纏った小さな影を見つけた。・・・ピッコロだ!

ピッコロはネギたちの真上に至ると、そのまま急降下して彼らの前に立った。

明日菜は目の前に降り立った人物に改めて見入る。

地球人に比べてあまりに背の高い体。

マントにターバンと言うこの日本では異色としかいえない服装。

武道家らしく着こんでいる紫色の道着。

だが、もっとも眼を引くのは尖った耳と緑の肌。


(何なのこの人(?)・・・肌が緑色って・・・それに腕に変な模様もあるし・・・ホントに人間?)


初めて見たナメック星人の姿に目を丸くせざるを得ない明日菜。

そんな明日菜の隣ではネギがヨロヨロとピッコロに歩み寄って行った。

やがて彼の真ん前に立つとお互いに見つめあう。


「ピ、ピッコロさん・・・」

「よお・・・改めて久しぶりだな・・・ネギよ・・・」

「ううう・・・ウワ~ン、ピッコロさ~ん!!」


目に涙をためてピッコロの胸に飛び込むネギ。

ピッコロはそれをやさしく抱きとめる。


「おいおい、どうした?・・・10歳にもなってみっともないぞ」

「で、でも・・・でも・・・」

「まったく・・・お前もまだまだガキということか・・・」


ネギの頭を撫でながら呆れた声でピッコロがいう。しかし言葉とは裏腹に顔は嬉しそうである。

そんな2人を微笑ましく見ているタカミチと・・・


(う~ん・・・何者かしらあの人?)


いまだにピッコロの正体について悩んでいる明日菜。


「そこの娘・・・俺の姿が珍しいんだろ?教えてやろうか?」


いきなりピッコロから声をかけられびっくりする明日菜。


「へ?・・・なんでわかったの?」

「お前は考えていることが割と顔に出るタイプのようだからな・・・それくらい読み取るのは造作もない」


ぽけ~とした明日菜にピッコロは自己紹介することにする。


「俺はピッコロ。ネギたちから聞いたかは知らんが一応こいつの師匠をやっている。で、・・・俺がこんな姿をしている訳だが・・・」


ピッコロの言葉に明日菜はゴクリと唾を飲み込む。


「・・・実は俺は地球の人間じゃない。ナメック星人・・・まあいわゆる宇宙人ってやつだ」


ピシリッと明日菜の体が固まった。


「・・・な・・・なんですって~~~!?」











「ふ~驚いちゃったわよ。まさか宇宙人だなんて・・・」


始めはピッコロから告げられた事実にパニックを起こした明日菜だったが、諸々の事情の説明を受け落ち着きを取り戻した。


「そ、それにしてもアスナさん結構すぐに順応しましたよね・・・」

「まあね・・・魔法とかあるんだったら宇宙人がいたって今更いつまでも驚いていられないわよ。それに宇宙人に教わったのならあんたがあんだけ強いのも頷けるってもんよ」


うんうんと肯く明日菜をネギはこの人逞しいな~と言う眼で見ていた。


「ところでネギ・・・この娘は見たところ一般人のようだが、魔法を知っているようだな?」


ピッコロが突然告げた言葉にギクッとネギの体が震えた。


「確か魔法は一般には秘匿にするんじゃなかったのか?」

「そ、それはですね・・・」


ますます冷や汗が流れるネギ。


「わ、私が偶然見ちゃったのよ!ネギが魔法使いと戦ってるのを。だからネギは悪くないわ!!」

「そ、そんな明日菜さん!?あれは周りを注意してなかった僕の責任で・・・」


必死に弁解する明日菜をネギが遮ろうとする。

そんな2人を見てピッコロは溜息をつき、


「・・・別にその件でどうこうするつもりはない。俺には関係のない話だしな・・・」


あっさりと引き下がったピッコロにネギたちは拍子抜けする。


「・・・だが、ネカネの奴に知れたらいろいろと面倒なことになるぞ。注意しておけ・・・」

「お、お姉ちゃん・・・」


姉の名を出されて体をガクガクブルブル奮わせるネギ。

・・・よほど恐ろしいらしい。


「あっそうだ!ピッコロさんがせっかく名乗ってくれたのに私が名乗らないわけにはいかないわよね。私は神楽坂明日菜。アスナでいいわよ!」

「そうか・・・よろしく頼む、アスナ」


明日菜が差し出した手を意外にも素直に握ったピッコロ。


(こういう明るい奴は・・・嫌いじゃあない。あいつみたいだしな)

かつての戦友の顔を思い浮かべるピッコロ。


「あっ!そういえばエヴァちゃんや茶々丸さんは!?」

「あ~~~!!わ、忘れてた・・・」


明日菜が思い出したように言うとネギもそのことに気がついた。


「一体どこに・・・さっきの戦いの合間にどこかに隠れられちゃったのかな?」


ネギがオロオロと辺りを見回すが2人と思われる気配が感じられない。












その当人たちだがそんな遠いところには隠れていない。

荒んだ公園内に残っていた草叢の陰に身を潜め様子を窺っていたのだ。

茶々丸はネギたちを見ながらこのあとどうするべきか考えていた。

主人のエヴァはいまだ意識が戻らない。まあそのおかげで今のところネギに気配を悟られずにすんでいる。どうやらネギには気絶した人間の微弱な気まではまだ探知できないようだ。

・・・本来ならこのまま逃げたほうが良いのかもしれない。

だが、今の茶々丸は多少動けるようになったとはいえ万全とは言い難い。逃げようとして万が一気づかれればすぐに捕まってしまうだろう。それに彼女は何故かその場を立ち去ることを躊躇っていた。・・・理由は言うまでもなく16号のことである。

ネギたちのもとにあの魔族が戻ってきた。だが、肝心の兄の姿が見えない。まさか、兄の身に何かが・・・!?

そう思うと茶々丸はいてもたってもいられない心境になる。だが、自分が動いたところで何になる?迂闊に主人の身を危険にさらすだけではないか?

しばらく茶々丸の中で肉親を心配する気持ちと主人への忠誠心とがせめぎ合っていた。

とにかく今は動かず、やり過ごすしかない・・・そう結論付けようとしたとき、


「そこにいるのは分かっている・・・出てこい」


茶々丸のいる場所に背を向ける形で立っているピッコロからの重みのある言葉が耳を打つ。茶々丸の身体がビクンと震える。


(気づかれた・・・!?)


茶々丸はこのときロボットでありながら“冷や汗を掻く”という心境を知った。


「微弱だがさっきの小娘の気を感じる・・・俺が気づかないとでも思ったか?」


その言葉を聞き、さらに茶々丸の目が驚きに染まる。小娘というのはおそらくエヴァのことだろう・・・しかし、いまだ生きているとはいえ気絶している者の気まで探知できるとは・・・


(敵を・・・甘く見ていた・・・)


己を内心で叱咤するものの、もはや後の祭り。

観念した茶々丸は草叢からその姿を現した。


「あっ!!・・・茶々丸さん・・・!!」


ようやく茶々丸の姿を認めたネギは今にも詰め寄ろうとするが、ピッコロに手で制される。


「ピッコロさん!?」


師が止めに入ったことに驚きを隠せないネギ。


「今日のところはここまでにしておいてやれ・・・」


しかし、ピッコロは淡々と告げる。


「で、でも・・・あの人たちはお父さんを知っていました!せっかく手掛かりが手に入るかもしれないのに・・・」


必死に訴えかけるネギだったが、ピッコロからの強い視線に押し黙ってしまう。


「・・・あいつらがナギの関係者とは知らなかった。・・・だが、それとこれとは話が別だ。それに相手にも迎えが来たようだしな・・・」

「え・・・」


するとネギたちの上空から下りてくる人影が・・・

―――――16号だ。


「!?に、兄さん!!」


若干喜びを滲ませて茶々丸が叫ぶ。

茶々丸たちの傍に降り立った16号を見て、ネギが身構える。


「ぴ、ピッコロさん!!あの人が何故ここに!?」

「なに・・・少々考えるところがあったのでな・・・今回は見逃してやることにした」

「見逃すって・・・そんな!!」


珍しくピッコロを非難するネギだったが、当人はどこ吹く風。

何故ピッコロが見逃す気になったのかはわからない。が、ネギとしてはこのまま父の手掛かりを得るチャンスを逃すつもりはなかった。

幸い身体の傷も大分癒えてきている。


(ピッコロさんが行かないなら僕が・・・!!)


しかし、飛び出そうとするネギにピッコロが先手を打った。


「おっと、下手な気は起こすなよ?16号も大ダメージを受けているとはいえ、お前と奴との間にはいまだに天と地・・・いや、小石と地球ほどの差があるんだ。それはお前が身をもって知っているはずだぞ?」

「くっ・・・!」


確かにその通り・・・ピッコロの援護が得られない状況では16号に返り討ちにあうのが目に見えている。

ネギの口元が悔しさに歪む。

そんなネギにぼそっとピッコロが言う。


「安心しろ・・・相手はこちらから仕掛けない限りは戦う気はない・・・お前こそ少しは頭を冷やしたらどうだ?」

「・・・・・・」


ピッコロに言われるままに逸る気持ちを落ち着かせるネギ。

一方16号たちの方にも動きがあった。


「兄さん、一体向こうで何が・・・?」

「・・・茶々丸、屋敷に帰るぞ」

「えっ・・・ですが・・・」

「今回は俺たちの負けだ・・・ここは大人しく引き下がろう・・・」

「・・・・・・はい」


少しばかり逡巡するものの兄の言葉に従うことにした茶々丸。

浮遊する16号に付き従う形で、エヴァを背負った茶々丸も背中のジェットを起動させて飛行する。


「あっ!!あいつら行っちゃうわよ!」

「それで良いんだよ・・・アスナ君」


慌てる明日菜をタカミチが宥める。そんな中ネギはただ黙って去っていく敵の影を目で追っていた。


「ネギ・・・・・・」


ピッコロがネギの肩に手を置く。


「ぐ・・・うう・・・」

「行きたい気持ちはわからなくもないが、今は耐えろ・・・」


ネギの眼に熱いものが込み上げてくる。

勝負には勝ったが試合には勝てなかった・・・そんな心境。

何よりネギには悔しかった。自分の力では手も足もでなかった相手。ピッコロ以外で人生で初めて喫した大敗北。


(人造人間・・・16号・・・)


彼の心にその名は深く刻み込まれることになる。


「ぐうう・・・・クッソーーーーーッ!!!」


ネギの雄たけびが木霊する。

そんな弟子の姿を見守るピッコロ。

(お互い身内には苦労するな・・・16号)

そう心で一人ごちるのであった。











「兄さん・・・」


飛行中に兄に話しかけるものの言葉が続かない茶々丸。

そんな妹に16号は口を開いた。


「茶々丸・・・今回は止むを得ず手を出してしまったが・・・帰ったら訳を話してもらうぞ・・・!!」

「・・・・・・はい」


兄の言葉の裏に隠された感情の前にもはや隠し事はできないと悟った茶々丸には降参の道しか残されてはいなかった。











「少しは落ち着いたか、ネギ」

「はい。・・・でもまだ少し・・・」


師弟横に並んで座っての会話。

言葉少なではあるが余人に立ち入る隙があろうはずがない。

家族だけに許された空間・・・それが二人の間で出来上がっていた。


「・・・悔しいか?」

「・・・・・・はい」

「・・・お前も今日で思い知っただろ。お前の力などゴミくずに等しい奴らがまだまだ存在しているってことをな・・・」

「・・・・・・」

「・・・大方“親父超え”でも果たして好い気になっていたんだろ。違うか?」

「なっ!?どうしてそれをっ!?」


父(とはいっても残留思念だが)との戦いは自分と明日菜しか知らないはず・・・そう思ったネギは驚きに声を上げてしまう。


「・・・悪いとは思ったんだが、お前の頭を撫でているときに記憶をちょっとな・・・」


少々気まずそうに頬を掻くピッコロ。しかし、すぐに表情を引き締める。


「まったく・・・弟子の分際で自分の力を過信するとは・・・まだまだ扱きが足りなかったようだな・・・」

「あ、あああ・・・」


ピッコロの背後から黒いオーラが見える。

あれはマズイ。あれはマズイ。あれはマズイあれはマズイあれはマズイあれはマズイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ・・・

―――頭を抱え、ネギは思考停止に陥る。過去に何かあったのか?


「いいかげん正気に戻れ!!」

「あたっ!?」


ピッコロが頭を殴りつけて正気に帰るネギ。


「チッ・・・今からそんなザマではこれから先“奴ら”との戦いについてこれんぞ?」

「へ・・・?“奴ら”?」


真面目な顔で告げたピッコロの言葉にネギは首を傾げる。“奴ら”って・・・何?話の流れからエヴァたちという線は薄そうだが・・・


「・・・まあいい。その話は後にしよう。それより今は・・・」


2人のやり取りをポカンと見ていた明日菜にピッコロが向き合う。


「アスナ・・・すまないが、このあとネギと大事な話があるから今夜は俺に預からせてくれないか?」

「え?預かるって・・・今夜は私たちの部屋に帰らないってこと?」

「ああそうだ」

「ちょっ・・・冗談じゃないわよ!このかを残して来てるって言うのにこのままネギを預けるだなんて・・・」


ピッコロの申し出に食ってかかる明日菜。彼女に引き下がる様子が見られないことから話がこじれると思われた。

しかし、ここで思わぬ人物から助け船が・・・


「アスナ君・・・僕からも頼むよ」

「た、高畑先生!?」


明日菜の肩に手を置いてやさしく説き伏せにかかるタカミチ。


「2人は久しぶりに会ったんだ。積もる話もあるだろうし、今日くらいは2人きりにさせてあげてくれないかな?」

「で、でも・・・」

「大丈夫。先生がいれば安心さ。悪いようにはしないよ。木乃香君には僕の方からも説明してあげるから」

「う~ん・・・高畑先生がそこまで言うんだったら・・・」


流石の明日菜も惚れた相手の言うことには弱かった。あっさりと陥落してしまう。


「すまないな・・・明日の朝には必ず帰す。それまで辛抱してくれ」

「はあ・・・まったく・・・今日だけだからね!」


ピッコロが申し訳なさそうに言うと明日菜はしぶしぶ了承した。


「タカミチ・・・今日はもう遅い。アスナを送ってやってくれ」

「わかってますよ。先生」


そしてタカミチはピッコロに近づき、


「ネギ君に例の件を話すんですね・・・」

「ああ・・・。あっちの出方が分からん以上こちらは準備を進めるしかないからな・・・」

「わかりました。学園長の方は僕が何とかしてみましょう。・・・しかし、今日は少しばかり暴れすぎましたね。学園中の魔法先生たちを刺激してしまった可能性が高い。・・・これじゃあ、隠し通すのはほぼ不可能かと。明日あたり事情聴取されても文句は言えませんよ・・・」

「仕方あるまい。それくらいは覚悟の上だ。・・・ここに来るのは初めてだからな。明日は道案内を頼む」

「ええ。わかってますよ」

「・・・世話をかける」

「いえいえ、慣れっこですから」


師匠ゆずりのニヒルな笑みを浮かべるタカミチ。

そんなタカミチを見てこちらも笑みを返しながら


「そうか・・・」


と返事をするピッコロ。この2人も何気に師弟なのだと感じさせられる会話であった。


「それじゃあ、そろそろお暇するか・・・」


ピッコロがガッとネギの首根っこを掴む。


「え?え?ピッコロさん?」

「今夜は久々に2人で語り合うとしよう・・・こいつでじっくりとな・・・」

そう言いながら拳を掲げて見せるピッコロ。

「へ?あれ?それってまさか・・・って、ええ!?ちょっと、ピッコロさん待って・・・うわわわわっ!?」


ネギを引っ掴みながら宙高く舞い上がっていくピッコロ。ネギはぶら下がった状態でジタバタする。


「あ、アスナさん!?タカミチ!?これって一体何なの!?僕どうなっちゃうの!?誰か教えて~~~!!!」


ネギがいくら叫ぼうとも誰も止めることはできない。

ピッコロとネギの影は徐々に学園の裏山の方角へ消えていった。


「あ・・・行っちゃった・・・」


呆然と見送る明日菜の元へタカミチが歩いてくる。


「アスナ君。僕たちもそろそろ行こうか?」

「あっ!は、はひっ!よ、よろひくおねがいひまふっ!!」


顔を熟れたリンゴのように赤くし、タカミチと二人っきりというシチュエーションに緊張しまくりの明日菜。もはや彼女の頭の中からネギへの心配など吹っ飛んでしまったのではないだろうか?










そして、ことの始終を水晶玉で覗いていた者がいた。


「はあ・・・話には聞いていたが、なんちゅうやつじゃ・・・」


いまだに包帯に覆われた身体を椅子に凭れ掛けながら、麻帆良学園学園長近衛近衛門は溜息をついた。


「これは・・・明日は荒れるぞい・・・」


明日から胃薬が要るかもしれないと思うと気が重くなる近衛門であった。











「あ、あの・・・ピッコロさん・・・話って一体・・・」


辿り着いた森の中、二人っきりになったところでネギが口を開いた。

一方のピッコロは真剣な面持ちで空を眺めている。


「そのことだがな・・・ネギ。俺はここに何しに来たと思う?」

「へ・・・?」


突然何を言い出すんだという顔でネギが聞き返す。


「俺がただお前のピンチを助けるためだけにここに来た・・・と、お前は思ってるのかも知れんが、それは違う」


視線を空からネギに移して告げる。


「俺はお前を鍛えに来た。・・・いつの日か襲ってくるかもしれん敵に備えてな」

「敵・・・それってさっきピッコロさんが言ってた“奴ら”のこと?」

「そうだ・・・“奴ら”はお前の敵であり、そしてお前の父ナギの最大の敵でもある」

「お父さんの・・・」

「ああ・・・さらに、俺にも因縁浅からぬ相手だ・・・」

「!?・・・ピッコロさんも!?」


ナギだけでなく、ピッコロにも関係する敵の存在にネギは戦慄する。


「ピッコロさん・・・何者なの?その敵って・・・」

「そうだな・・・まずは、お前がウェールズを離れている間何があったのか・・・それを話さなければな」


ピッコロはネギについ数日前に起こったある事件について話し始めるのだった。












~おまけ~

「あれ?そういえば小太郎君は?」

「ああ・・・あいつなら留守番だ。本当はあいつもこっちに行きたがってたんだが、ネカネの奴がごねてな・・・」


ピッコロから姉の名を聞いてネギの顔が引きつる。


「お、お姉ちゃん・・・」






―――――ちょうどその頃ウェールズでは・・・


「へっくちっ!!・・・はあ・・・まただれか俺の噂でもしとるんやろか?」


机に散らかった宿題が片付かず、耳に鉛筆を挿したまま退屈そうに窓から空を見上げて呟く小太郎。


「はあ・・・俺も行きたかったな~日本・・・いいな~父ちゃん・・・」


ピッコロやネギが向こうで楽しく(?)やっている姿を思い浮かべると途端に羨ましくなる。


「ネカネ姉ちゃんのドケチ!!勉強なんてやらせんで、俺も日本に行かせてほしかったわ~」

「ふ~ん・・・誰がドケチですって?」

「ね、ネカネ姉ちゃん!?」


突然背後から発した気配に背筋を凍らせる小太郎。


「あらあら・・・まだ、宿題全然終わってないじゃない。それじゃあ、終わるまでご飯は抜きね・・・」

「なっ、なんやて~!!?・・・そ、それはあんまりや~~~!!!」


小太郎の悲痛の叫びもネカネの前には届かない。


「ならせいぜい早く終わらせることね・・・早くしないとホントになくなっちゃうわよ?どうせ私って“ドケチ”なお姉ちゃんだから・・・」

「も、もうそんなこと言いません!だから堪忍して~~~!!!」


2人のやり取りをドアの隙間から見ていたアーニャは・・・


「ネカネさんすっごく嬉しそう・・・ああ見えてSだったんだ・・・」


憧れのお姉さんの意外な一面を見てしまい、複雑な心境のアーニャであった。







<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!ピッコロ・・・ネギがいない間に何があったんだ?」

ピコ「孫・・・お前もよく知っているヤツだ。俺もまさかあんなところで会えるとは思わなかったぜ・・・」

悟空「あっ!?お、おめえはっ!!」

ネギ「え!?一体誰に会ったんですか!?それにお父さんとも関係してるって・・・」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI 『父の因縁の敵!?  まさかのあいつが登場だ!!』 」

ネギ「あれ?でも・・・ピッコロさんが真面目な顔で語る位の相手だから・・・僕に勝ち目なんてないんじゃ・・・」 





あとがき

どうも仕事人です。前回の更新から実に3週間・・・誠に申し訳ないです。どうも久しぶりに筆をとると勝手を忘れているようで・・・書き溜め書き溜めやるのですが、なかなか進まない(涙)

おかげで話がほとんど進んでない状態・・・すみませんorz

次回からもう少し更新速度を上げていきたいと思います。(でも、難しいかも・・・)

今回はいろいろとダメかもしれませんが大目に見てくれたらありがたいです。



[10364] 其ノ二十八   父の因縁の敵!?  まさかのあいつが登場だ!!
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/12/16 09:59




―――――ピッコロが来日する2週間ほど前のこと・・・

その日ピッコロはウェールズから少し離れた草原が見渡せる丘の頂上でただ一人座禅を組んで瞑想にふけっていた。

ネギが日本に行ってしまってからはもっぱら小太郎に修業をつけることが多いのだが、こうして時たま一人での修業をすることもあった。

そういう日は翌日まで家にも帰らないのはもはや当たり前のようになっていて、最初は良い顔をしなかったネカネも今では半ば諦めている。

この日もやはり日が沈んでからも修業は続けられていた。

真っ暗な草原の中、ウェールズの夜風がピッコロの頬を撫でる。

それでもピッコロは微動だにしない。

しかし、眼を閉じ心を落ち着かせつつも少しくらいは考え事をしているものだ。


(・・・ネギが発ってからもうじき2カ月か。あいつがいなくなって時間に余裕ができたおかげでこうして俺自身の修業ができるようになった。・・・思えば6年間あいつらに構ってばかりで俺自身を鍛える暇がなかったわけだしな・・・そろそろフルパワーのコントロールを本格的に始めないと・・・むっ!?)


突如ピッコロの五感が違和感をとらえた。

カッとい眼を開き表情をゆがませる。


「な、なんだこの気は!?」

この世界に来てからいつも感じていた穏やかな気の流れ・・・

それが、突然現れた大きな気によって乱された。

・・・明らかにこの世界の人間のものではない。レベルが違いすぎる。


(むしろ・・・これは俺たちと同じ臭いがしやがる・・・)


この世界に6年間暮らしたピッコロのこと、以前にいた世界に比べて戦士の質に大きな差があることに当然気づいていた。

だからこそ、今感じている気に戸惑っていた。


(それに・・・違和感だけじゃない。俺はこの気を・・・知っている・・・?)


己の記憶を探ってみるが何せもう200年も地獄で暮らしていたのだ。すぐに思い出すというのは難しい。


「・・・ここで悩んでも埒が明かん。行ってみよう」


ピッコロは気の発信源に目を向ける。


「あそこは・・・ネギが通っていた学校の方角か!!」


そして、白い炎を纏った影が空へと飛び立った。








ちょうどその頃メルディアナ魔法学校に賊が押し入っていた。

校長が急用でウェールズを離れている時期であったことに加え、元来のこの学校の夜間の警備の薄さを狙った犯行だった。

しかし、“薄い”・・・とはいっても、それなりの人数の魔法使いが巡回していた。それにも関らず・・・


「ぐわっ!」


また一人吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。

魔法を使う暇さえ与えられずに仲間が次から次へ倒されていく。


「こ、これで5人目だ・・・し、信じられん・・・」

「おいっ!?相手はたったの一人・・・なのになんでこうなるんだよ!?」

「しかも魔法はおろか武器さえ持ってないのに・・・なぜ・・・?」


残された魔法使いたちは目の前の敵・・・たった一人の男の強さに戦慄した。

まるで化け物を見るかのような眼を向けて・・・


「おいおい・・・せっかく手加減してやってるのにこのザマか?・・・どうやら魔法使いっていう人種は相当デリケートみたいだな。こりゃあ扱いには苦労しそうだぜ」


男が口元をニヤリと歪めた。


「くっ!!・・・みんな校長が来るまで持ち堪えろ!!魔法の矢で一斉に攻撃だ!!」

「「「「「「『魔法の射手』!!」」」」」」


リーダー格の合図で無数の矢が敵に向かって放たれる。

光が集中していく中、男は微動だにせずただ不気味に笑っているだけだった。

男が光に包まれると激しい爆風が起こった。

魔法使いたちもその勢いに顔を覆う。


「やったか・・・?」


手ごたえを感じた一人が期待に顔を向ける。

だが・・・


「少しは効いたぜ・・・なんて言うと思ってたか?」

「「「「「「!?」」」」」」


馬鹿な・・・!!

彼らは驚愕した。

煙から姿を現した男にはダメージどころか傷一つない。


「・・・ったく。こちらの魔法使いとやらがどんなものかと来てみればこの程度か・・・期待外れもいいところだ」


男はさも失望したという表情を見せる。


「こりゃあ相方の用事が終わるまで持ちそうにねえな・・・まあいい。一人ずつ始末すれば少しは時間もつぶせるだろ・・・」


すると男が一番手近にいた魔法使いの前にいつの間にか移動しており、目の前に立たれた魔法使いは突然のことに「ヒィッ!?」と悲鳴を上げる。

すると男は魔法使いの顔の前に手をかざし、


「悪く思うなよ?これも仕事なんでな」


言いきった次の瞬間、



ボオッ!!



男の手から放たれた閃光に魔法使いが包まれた。

それは一瞬の出来事であった。

仲間たちが気づいた時には消し炭になった亡骸が一つ。


「ほほう・・・弱いなりに綺麗な線香花火になったじゃねえか」


さも嬉しそうな男の言葉が耳を打つ。

このとき彼らは完全に理解した。


―――ここからが本当の地獄だということを・・・








「・・・この辺りか。むっ!?あれは・・・」


魔法学校に急いで駆け付けたピッコロが目にしたものはあちらこちらで血まみれで倒れている魔法使いたち。


「おいっ!!何があった!?」


まだ息のある魔法使いの青年を抱き起して事情を聴きだすピッコロ。

普段はこの容姿で魔法使いたちから避けられているピッコロだが、この青年の視界がはっきりしていなかったのだろうか。意外と素直に話してくれた。


「ハア・・・ハア・・・ハア・・・へ、変な鎧を着た黒髪の男と・・・白髪の子供が・・・地下の宝物庫に・・・」


「変な鎧?どういうことだ?」

「あ、あいつは・・・ただの人間じゃない・・・見た目は人なのに・・・尻尾が・・・」

「尻尾!?尻尾だと!?」


『黒髪』『尻尾』・・・この二つの単語からピッコロは一つの結論に辿り着く。


「さ、サイヤ人・・・!!」


かつてのライバル孫悟空・・・その出身であるサイヤ人という種族。

“戦闘民族”の名の通り、戦うことを生甲斐とし、そして戦う度に強くなっていく種族。

ゆえにその潜在能力は未知数ともいえ、特に極一握りの者に至ってはどんな限界も超えてしまう宇宙最強の戦士『超サイヤ人』に覚醒することさえある。

まさに宇宙一の化け物ともいうべき存在・・・


「馬鹿な・・・サイヤ人がここにいるというのか・・・」


ピッコロの身体に僅かに震えが走る。


(この6年サイヤ人の気など微塵も感じなかった。なぜ今になって・・・・・・!?)


思考に沈もうとしたピッコロの背後で気が膨れ上がった。


「カアッ!!」


すぐさま反応したピッコロは後ろから襲い来る気弾を手刀で薙ぎ払う。

気弾はピッコロの腕に当たった瞬間四散した。


「・・・そこにいるのは誰だ?」


攻撃が放たれたと思われる暗闇に向かって吠えるピッコロ。

すると暗闇から人影が歩み寄ってくる。


「これはこれはずいぶんと懐かしい顔だ・・・」


ヒュルリと尻尾を蠢かせながら近寄ってくる影。

やがて月明かりがその姿を照らし出す。


「!?・・・お、おまえは・・・」


相手の顔を見てピッコロが絶句する。

―――――それは生前嫌というほど見なれた戦友の顔に瓜二つであった。

一瞬心の中でその戦友の名を叫んでしまったピッコロを誰が責められよう。

しかし、すぐにピッコロはその解答を却下する。


(顔は悟空にそっくりだが・・・中身はまったく別物だ・・・それに、俺はこいつもよく知っている・・・)


そう・・・かつて地球に神聖樹の実を持ちこみ、死の星に変えようとした男・・・

悟空にそっくりなその顔に油断した悟飯が危険な目に会った・・・

当時のピッコロが悟飯を救おうと挑み、まるで歯が立たなかった相手・・・


「・・・なぜキサマがここにいる!?ターレス!!」

「ククク・・・名前を知ってくれているとは光栄だ。カカロットにでも聞いたか?」


ピッコロの問いにターレスは小馬鹿にしたような顔で応じる。


「それにしてもよくカカロットのやつと間違えなかったもんだ。こっちは『残念だが人違いだ』っていうセリフを用意してたんだがな~?」

「・・・相変わらずむかつく野郎だ。だが、今はそんなことはどうでもいい。キサマの目的は何だ?ここに何の用がある?いや・・・“なぜこの世界にいる?”」

「フフフ・・・」


笑ったまま答えないターレス。

その態度を見て、目に凄みを利かせたピッコロは再度通告する。


「・・・答えろ!!」

「フフフ・・・丁重にお断りする」


かつて交わしたのとまったく同じ台詞を吐いたターレスに対し、


「・・・ならば力づくでしゃべってもらう」


ピッコロが構えをとる。


「フッフッフッ・・・かつてこの俺に手も足も出なかったキサマがか?」

「あのときの俺と同じと思ったら・・・後悔するぞ」


ピッコロが自信たっぷりに言い放つ。

それもそのはず、今のピッコロはあのフリーザやセルを遥かに上回る力を持つ。

ターレス程度の相手に後れをとることは天地がひっくりかえってもありえない。


「ククク・・・勘違いをしているのはキサマのほうじゃないか?」

「・・・何?」


しかし、余裕を崩さないターレスに不気味な何かを感じたピッコロ。


「キサマがフリーザを超えていることはとっくに知っているさ。カカロットが超サイヤ人になれることもな。・・・考えてみればもうあれから長いこと経ってるんだ。キサマらが成長していてもおかしくはない。・・・そうすると、ただのサイヤ人でしかなかった昔の俺なら確かに分が悪すぎるかもな。だが・・・」


ターレスは不敵な笑みをしたまま続ける。


「成長したのは果たしてキサマらだけか?違う・・・俺だってあの頃のままでいるはずがない・・・」


ターレスは組んでいた腕を解き、ようやく構えらしき体勢をとる。


「何だと・・・?」


ターレスのセリフから何かをやらかそうとしていると察知し警戒するピッコロ。


「ここで会ったのも何かの縁・・・特別に面白いものを見せてやろう・・・」


するとターレスは顔に浮かべた笑みを消し、眼をぎらつかせ、全身に力を込める。


「ハァァァァァ・・・」


逆立ち始める髪・・・


(ぬっ!?やつの気が急激に上がっている!!)


ピッコロにはすぐに分かった。ハッタリなどではない。こいつはあのときよりはるかに強くなっている!

だが、

一瞬風が止んだかと思うと・・・


「ハア―――ッ!!!」


一気に気を高め・・・



ブオンッ



ターレスの髪が金色に輝き、


瞳が碧色に変わった。



「なっ!?」


またもピッコロは言葉を失う。


「す・・・超サイヤ人だと・・・!?」

「ククク・・・びっくりさせてしまったかな?」


さらに笑みを濃くするターレス。その気で突風が巻き上がる。

これはまぎれもなく超サイヤ人。サイヤ人の進化形ともいえる存在。

ターレスから発せられる凄まじい気がそれを証明している。

だが、ピッコロには解せなかった。


「な、なぜお前が、超サイヤ人に・・・」

「さあてな?そんなことはどうでもいいだろ?さっさと始めようぜ。こっちは久々に手ごたえのある奴と戦えてウズウズ・・・!?」


これから始まろうとするバトルにかすかに興奮状態にあったターレスの様子が突如変わった。


「・・・チッ!もう終わりか!もう少し楽しめると思ったんだがな」


忌々しそうに後ろを振り返る。

すると、建物の中から白髪の少年が出てきた。


「何!?もう一人いるのか!」


新手が来たことに驚くとともにピッコロは少年に違和感を覚えた。


(妙だ・・・こいつからはまるで生気を感じない。まるで人造人間と向き合っているようだ・・・)


そんなピッコロを余所にターレスと少年はお互いに向き合っている。


「ターレス様・・・任務中のお遊びは自重してくださいと何度も申し上げたはずですが?」


人形のように凍った表情でターレスに告げる少年。

対して苦虫を潰したような顔をするターレス。


「・・・用事とやらは済んだのか?」

「ええ。しかし今日の収穫は芳しくありませんね。禁書の保管庫や地下の宝物庫にも行ってみましたが、目ぼしいものはあまりありませんでした。せいぜいこれくらいかと・・・」


そう言って小瓶を取り出した。


「何だそれは?」

「『封魔の瓶』。言ってみれば悪魔を閉じ込めた瓶ってとこです。次の被験体にちょうどいいかと思いまして・・・まあそれはさておき、ずいぶん派手に暴れましたね」


少し呆れた表情で辺りを見回す少年。


「・・・今はこれ以上騒ぎを大きくしていただきたくないのですが?」

「・・・この俺に向かって生意気にも説教か?今俺は楽しいことの真っ最中なんだ・・・邪魔をするなら・・・殺すぞ?」


殺気を込めた視線を少年に放つ。

しかし、少年には恐怖という感覚が鈍いのかさほど堪えた様子もなく、淡々と告げる。


「・・・『あの方』の命令です。どうかここはお退きください」


するとターレスの顔が初めて驚きに染まった。まるで大事なことを突然思い出したような、そんな表情で・・・


「・・・・・・しょうがない。今日のところはお預けか・・・」


ターレスはあっさりと超サイヤ人を解除するとさっきから置いてけぼりを食らっていたピッコロに向き直り、


「事情が変わった。この続きは次回に回すとしよう・・・俺も余計な怒りは買いたくないしな」


そう言って背を向けてしまう。


「ま、待て!キサマには聞きたいことが・・・」


追おうとするピッコロの前にさっきの少年が立ちはだかる。


「お初にお目にかかる・・・ピッコロ大魔王。あなたの噂はよく耳にしております」


恭しく礼をする少年にやはり不気味さを感じるピッコロ。


「俺の名を知っているとは・・・何者だ・・・キサマ」

「これは失礼。僕はフェイト・アーウェルンクス。ただのしがない魔法使い・・・この度は我が主に変わり御挨拶をさせていただきたきます」

「・・・キサマの主人?」

「はい。主はあなたが現れたことを大変喜んでいらっしゃいます。本日はお会いになることはできませんが、いつか再び相見える日を楽しみにしてらっしゃいます。そう・・・“決着をつける日”をね」

「決着・・・?」

「ええ。あなたはお忘れかもしれませんが、主人は“あなた方”を片時も忘れたことはありませんよ・・・」

「おい!それはどういう・・・」

「・・・いずれわかりますよ。我々『完全なる世界』に関われば自ずとね・・・」


少年は一旦そこで言葉を切り、思い出したかのように言葉を続ける。


「そういえば、あなたはあの『ナギ・スプリングフィールド』の息子を育てているそうですね」

「何・・・?」


なぜここでナギの名が・・・?そう思った次の瞬間


「なんとも不思議な縁だ・・・主の宿敵ともいえるあなたが我々『完全なる世界』を一時的とはいえ滅ぼしたあの男の子供をね・・・」


その言葉にピッコロが僅かに困惑する。


(ナギが・・・滅ぼした?こいつら・・・ナギと関係が?)


「ほほう・・・そいつはおもしろいことを聞いた・・・」


少年―――フェイトの言葉を聞いてしばらく黙っていたターレスが興味深そうに言う。


「俺は会ったことはないが・・・そのナギってやつはゴミの分際とはいえ一度はお前らを倒したんだろ?そのガキをこいつが育ててるというなら・・・少しは期待できそうだ」


ニヤニヤと笑うターレスからは何を考えているのか読み取れない。


「ターレス様・・・まさかナギの息子にも手を出すおつもりですか?」

「別に構わんだろ?」

「・・・そうですね。我々の計画が進めば、いずれ彼とはぶつかり合うことになるかもしれません・・・」


クールに返す少年フェイトに占めたという表情をするターレス。


「クックック・・・久々に楽しみができたぜ」

「・・・さて、もう時間も押し迫ったようなので・・・大変名残惜しくはありますがここでお暇させていただきます。・・・小さき王 八つ足の蜥蜴 邪眼の主よ・・・」


少年が呪文を詠唱し始めるとピッコロの脳が即座にそれを危険と判断した。


「『石の息吹』!!」


ボムッと辺りを煙が覆った。

とっさに気でバリアーを張ったピッコロが目にしたのは、石化した魔法使いたちと草木であった。


「くそっ!石化の呪文か・・・バリアーを張るのが少しでも遅れてたらやばかったぜ・・・」


ターレス達に目を向けるとすでに転移魔法の魔法陣を起動させていた。


「くっ・・・遅かったか・・・」


舌打ちをするピッコロにターレスが言い放つ。


「おっと言い忘れていたが・・・さっき見せたのはほんの小手調べだ。今度会うときは本気を見せてやる・・・そのときはお前のガキともども可愛がってやろう。・・・いいか?ガキの方もがっかりさせない程度には鍛えておくんだぞ!」

光が賊2人を包み込みやがて影も形も消し去った。

後に残されたピッコロはぼんやりとこの夜の襲撃者について考えていた。


(ターレスがあそこまで力をつけていたとは・・・今の段階ではまだ底が見えない。フルパワーを出せば負けることはないだろうが・・・何かが引っ掛かる。それにあの白髪の小僧・・・ナギと因縁がありそうだが正体が掴めん。『完全なる世界』という組織も気になるな・・・)


また厄介なことがこの星に振りかかろうとしている・・・漠然ながらそう確信したピッコロであった。











かくしてメルディアナ魔法学校襲撃事件は多くの死傷者を出し、たちまち魔法使いたちの間に衝撃を与えることになる。

ここまで大がかりな襲撃は学校創設以来初めてだったこともあり、帰国した校長を中心とした捜査本部まで設置されるなど本格的な対策に乗り出すこととなった。

そして捜査の手は現場にいたピッコロのにも伸びた。

もともとその容姿から一部を除く魔法使いたちから嫌われていたピッコロ。

彼が現場にいたことで犯人とつながりがあるのではと疑われたのだ。

しかし、現場で生き残った怪我人の手当てをしていたことや容疑者とするには証拠が不十分であるなどの理由からネカネやスタンを中心としたグループがそれに反論を唱えた。

校長も立場上表には出さないが、ピッコロが犯人の一味であるとは微塵も思っていない。

しかし、ピッコロが現場にいたのは事実。

事情聴取の必要があるということで校長自らピッコロと一対一で対談することになった。

そこでピッコロはあの夜にあったことを包み隠さず話した。

校長はそれを聞き、驚きを露わにしたあと、黙りこくってしまった。


「・・・そうか。『完全なる世界』・・・確かにそう言ったのじゃな?」

「ああ。ナギのやつと関係があるようなことを言っていたが・・・」


ピッコロの言葉に校長はフ~と溜息をつくと重々しく口を開いた。


「まさかあの“残りカス”どもにしてやられるとはの・・・」

「・・・教えてほしい。『完全なる世界』という組織について」


仕方あるまいと、校長はピッコロの質問に答える。





20年ほど前、魔法世界で北メセンブリーナ連合と南のヘラス帝国に分かれて大きな戦争を行った。

世に言う『大分裂戦争』である。

当時13歳だったナギは連合側に付いて大戦に参加していたが、いつまでも終わらない戦争に疑問を持ち始めた。

そのため、ナギ率いる『紅き翼』は戦争で活躍する裏で独自に捜査を進め、ついに戦争を影で操っている組織の存在を掴む。

それが秘密結社『完全なる世界』である。

しかし、真の敵の確たる証拠を掴むや否や、その敵の罠にかかって連合の反逆者として追われることになってしまう。

お尋ねものとして身を潜めること1年、紅き翼は夜の迷宮に囚われたアリカ王女、テオドラ第三皇女の救出を皮切りに、本格的に完全なる世界と対決していくことになる。

戦いは熾烈を極め、半年後、ついにナギ達は敵の本拠地『墓守人の宮殿』に攻め込む。

敵はそこで『反魔法場』を建設し、世界を滅ぼそうとしていた。

ナギ達は世界を救うべく、最後の接戦を挑む。

そこに待ち受けた敵の刺客たちを退け、ナギはとうとう敵の親玉『創造主』と対決する。

しかし、その力は凄まじく仲間たちは次々に倒されていく。

誰もがこの絶望的な力の差にもはやダメかと思ったが、どういうわけか奇跡的にナギが創造主に勝利する。

こうして完全なる世界は滅び、帝国と連合が停戦協定を結んだことで大戦は終結。

世界に平和がもたらされた。





「・・・というわけじゃ」

「うむ。大変よくわかったが・・・紙芝居で説明する必要があったのか?」


目の前で画用紙に描いた絵を一枚一枚見せながら話をしていた校長に突っ込みを入れるピッコロ。


「いやいや。これも年寄りの茶目っけじゃよ。・・・と、そんなことよりも」


真面目な顔に戻って校長が話す。


「『完全なる世界』の生き残りがまだいたことにも驚いたが・・・まさか奴らにお前さんの言っていたサイヤ人が付いていたとは・・・大変なことになったの」

「ああ・・・それは俺も同感だ。それにおそらく奴らはこちらの想像以上に手強い!」


ピッコロが拳を強く握り締める。


「ナギが去り際に言い残した『やらなければならないこと』・・・それにやつらが関与していると俺は見ている」


ピッコロは続けて、


「奴らは言っていた。この先息子であるネギとぶつかることがあるかもしれんと・・・そうなれば、今のネギではあまりにも無力・・・!!おまけに敵の戦力がわからん以上、俺で守りきれるとは断言できない・・・」

「・・・えらく弱気な発言じゃの?」


しかし、ピッコロは校長のボヤキに答えない。

今ピッコロの頭を占めているのはフェイトという少年が言っていた『主人』の存在。


(俺が現れるのを執念深く待っていた男・・・俺の宿敵だと?誰だ?あのターレスが大人しくなるほどの人物・・・おそらくそいつが今のやつらの親玉のはずだ・・・ダメだ。記憶が混在していて整理できん。)


地獄の番人を務めるようになってからありとあらゆる悪人たちから恨みを買っていると思われるピッコロには、思い当たりそうな人物を特定するのは困難だった。

しばらく悩んだ後、不毛な思考を切り上げ、校長にある提案を切り出す。


「・・・一つ頼みがある」

「・・・何かね?」

「俺を日本に行かせてくれ・・・」

「!?」


校長が驚きに目を見開く。


「・・・訳をきいてもいいかね?」

「一つはここにいたのでは俺自身の動きが取れないということだ。ネカネ達の弁護があるとはいえまだ今回の件での俺への疑いが晴れたわけではない。今はまだ自由に動けるが、この先監視でも置かれたら面倒だ。それに万一やつらにネギが狙われることになった場合あいつの傍にいる方がこちらとしても守りやすい」

「ふむ・・・確かにの。しかし、お主がここを離れたら余計に疑いを持たれるのではないかね?」

「少しくらいは覚悟の上だ・・・それに、ここの連中は鼻っから俺を自由にできるとは思っていない。むしろ厄介者扱いだ。今度の件で日本にでも飛ばしてしまえば反って安心するんじゃないか?」

「なるほど・・・それも一理あるの」


感心したように校長が唸る。


「あと・・・この先やつらと戦うためにもう一度ネギを鍛えなおす必要がある。今のネギはまだ不完全な状態。それをできるだけ早く完成形にもっていかねばならない。最低でもあいつらと少しは戦えるくらいにはな・・・」

「そ、そんなことが可能なのか!?」


ピッコロの目標に不安を隠せない校長。


「できるかどうかではない・・・やるんだ!!」

「そ、そうか・・・」


強い口調で言うピッコロに校長はもはや何も言い返せない。


「・・・お主の決意の固さはわかった。よかろう!向こうにはワシの方から連絡しておく」

「世話をかけるな・・・」

「気にするでない。これも孫の将来のためと思えば安いものじゃ・・・」


こうして騒ぎが大きくならないうちにピッコロの来日が決定した。










~回想終了~


「じゃあ・・・さっきピッコロさんが来てくれたのは偶然なんですか?」

「まあ・・・そういうことになるな・・・」


ネギの言葉にちょっぴりすまなそうに答えるピッコロ。


「まさかあそこで16号のやつに会うとは思わなくてな・・・」


そう言いながらポリポリと頭を掻く。

しばらく気まずさが2人の間に立ちこめる。

が、先にネギが口を開く。


「でも・・・そうなると、ピッコロさんの言う父さんの敵と戦わなきゃいけないんですよね・・・」

「・・・そうだ。だから今のままではどうやってもお前に勝ち目はない」

「そうですか・・・」


己の無力さにシュンとなるネギ。

そんなネギを見てその頭をピッコロがポンと叩く。


「そんなに悲観することはない。お前にはまだ強くなる可能性がある。」

「え・・・?」


ピッコロを見上げるネギ。


「今のお前には咸卦法という切り札があるが・・・正直あれは完成形ではない。あれは確かに気を魔力と融合させることによって爆発的な強さを手に入れることができるが、同時にエネルギー消費も激しい」


ネギはその言葉に頷く。


「特に気のコントロールが未熟なお前ではそれが露骨に弱点となって出てしまう。これでは長時間での戦闘はできない」


それはネギにも分かっている。図書館島での戦いでもそれがピンチを招いてしまったのだから。


「おまけに咸卦法は気と魔力の融合時の予備動作が大きい上に時間がかかる。これでは技を発動するときに隙ができるし、相手に動きが読まれやすいから技を出させる暇さえくれないことだってあるかもしれん」

「た、確かに・・・」


ピッコロの言った思わぬ弱点にネギは驚く。


「しかし、このようなリスクがあるとはいえ、今のお前の力をフルに引き出すためには咸卦法は不可欠・・・そこでだ」


ピッコロは一旦言葉を切り、


「これからお前には咸卦法がもつこの弱点を克服してもらう。そして、咸卦法をさらに進化させる!」


「進化・・・ですか?」


呆然と呟くネギ。それにピッコロは不敵な笑みを浮かべて、


「そうだ・・・そしてその進化形のモデルを考えてきた。こいつは俺の技ではないが・・・難易度は高いとはいえ原理は単純だから、修業次第ではお前でも十分使えるはずだ」


ピッコロがネギのために用意してきた技・・・


それはかつての戦友孫悟空が使っていた究極の拳法・・・








「『界王拳』・・・お前にはこれを習得してもらう」











<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!ピッコロのやつネギに新たに修業をつけるって張り切ってるぞ~。しかも『界王拳』か・・・オラなんだか照れちまうぞ~」

ピコ「孫。お前は少し黙っていろ!それよりネギ・・・ここにあの糞イタチが来ていないか?」

ネギ「えっ!?もしかしてカモ君がここに来てるんですか!?」

アスナ「ちょっと!!そこの淫獣待ちなさ~い!!」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI 『新たな試練の始まり!!  そしてネギの子分登場!?』」

ネギ「カモ君・・・またピッコロさんに燃やされに来たんだね・・・」







あとがき

いつも更新が遅くて申し訳ありません。仕事人です。

前回の外伝で、ギニュー隊長の人気が凄くてびっくり!!

本編よりも人気があるなんて・・・作者としては喜んでいいのか、悲しむべきなのか・・・複雑な心境です。

まあでも、皆さんから好評をいただいたようなので近いうちに外伝の第二弾を書こうと思っています。楽しみにしててください?(期待したのに読んだらがっかり・・・みたいな展開もあれなので・・・)

しかし、外伝を読んでくださるのは嬉しいのですが、皆さん、本編も忘れないで上げてください。拙い文章ではありますが・・・

・・・ナマ言ってスミマセン!!



[10364] 其ノ二十九   新たな試練の始まり!!  そしてネギの子分登場!?(誤字訂正のみ)
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/12/30 00:54


あの大決戦の夜が明けた朝―――――

女子寮の一室、643号室のドアの前で2つの影があった。

そう、もちろんネギとピッコロである。


(そういえばこの建物は・・・)


ピッコロが女子寮の前に来た時何かを思い出していた。

それが何なのかはこのあとすぐにわかることになる。

ところで、ネギは呼び鈴に指を向けているがなかなかそれを押そうとはしない。


「・・・ん?どうした?何を躊躇っている?」


ピッコロが不思議そうに尋ねる。


「い、いや、そのう・・・昨日はあのまま帰らなかったから・・・アスナさんはともかくこのかさんは心配してると思うんです」


ネギが申し訳なさそうな顔で言う。


(そうか・・・こいつ、らしくもなく義理堅いところがあるからな・・・)


ピッコロは内心で納得すると、


「そんなに押したくないなら俺が押してやる」

「あっ!ピッコロさん・・・!」


ネギが止めようとするのを振り切ってピッコロが呼び鈴を鳴らす。



ピンポ~ン



「あ・・・」


ネギが呆然とするも、すぐにドアが開かれる。


「は~い。あら、ネギ君?」


いきなりの木乃香の登場にネギも度肝を抜かれた。

木乃香の後ろでは明日菜が苦笑いを浮かべて立っている。

もしかして・・・ダメだった?

不安に駆られたネギはすぐさま謝りの体勢に入る。


「あっ・・・こ、このかさん!!昨日は帰らなくてごめんなさい!!」

「え?・・・ええっ!?」


ネギが突然頭を下げたことに木乃香は戸惑う。


「ね、ネギ・・・そんなに畏まんなくていいのよ。このかも困ってるじゃない」


明日菜が即座に仲介に入る。


「そ、そうやえ。確かに昨日はネギ君もアスナもなかなか帰ってこなくて心配したけど、高畑先生からも話を聞いたから気にせんでもええよ。例の吸血鬼の捜索手伝ってたら偶然親戚の人と会ったんやって?積もる話もあったようだし、久しぶりだったんやから仕方ないわな」


木乃香がよしよしとネギの頭を撫でながら諭す。それでネギの心も少し軽くなった。


(でも、何とかうまく話を纏めてくれたみたい・・・ありがとうタカミチ!)


心の中でタカミチに礼を言うネギ。


「はれ?こっちの人は・・・」

「・・・・・・」


木乃香がネギの後ろに立つピッコロを見る。

そして、表情を驚きに変える。

一方のピッコロも言葉を返さず固まっている。


「・・・ちょ、ちょっとネギ!」


明日菜がネギの襟首を掴んだ。


「あ、あんた・・・なんでピッコロさんを連れてきちゃってんのよ!!明らかに外見おかしいじゃない、あの人!!これじゃあこのかに魔法のこと勘ぐられちゃうかもしんないわよ!!」

「ああっ!?し、しまった!!」


ネギが世話になっているというから挨拶くらいはしておこうとピッコロが同行を申し出たのであまり気にせず了承してしまったのだが・・・それが裏目に出るとは・・・


(久しぶりに会ったから気が抜けてたんだ・・・ど、どうしよう!?)


内心で焦りまくるネギと明日菜。

ピッコロの顔の色を見てしまえば誰もが明らかにおかしいことに気付くであろう。

事実彼は宇宙人。ただの人間ではない。

もしかしたら、彼の正体がばれることで魔法の存在が漏れてしまう可能性もないとは言えない。

仮に魔法の秘匿はなんとかなったとしても、宇宙人なんて存在することが公になれば、非常識な存在を知られることを極端に嫌うこの学園の人間に目をつけられかねない。

そんな恐れていた事態が目の前で起こってしまった。


「「もう駄目だ・・・お終いだ・・・」」


2人して床に膝をつく。

もはや絶望の表情をしていた2人に対し、木乃香の反応は・・・


「あ~~~!!ピッコロさんやん!!昨日会うたばっかりやのに奇遇やな・・・」

「あ、ああ・・・昨日の娘か。こちらも驚いた。まさかネギが世話になってるというのはお前の所だったとは・・・」

「「・・・・・・へ?」」


唖然として2人を見比べるネギと明日菜。


「もしかして2人とも知り合いなの?」


明日菜が恐る恐る尋ねた。


「あはは、そうなんよ~。実は昨日アスナたちが行ってもうたあと、のどかを寮まで運ぼうとしたんやけどウチじゃあやっぱり難しくて・・・難儀してるところをこの人に助けてもらったんえ~」

「「へ、へ~・・・((な、なんで平然と話せるんだろ?ピッコロさんの外見についてはスルーですか!?))」」


ニコニコ笑いながら答える木乃香。

それをネギたちは頭に汗を垂らしながら見つめる。


「それにしても、あのときはほんま、おおきにな~」

「なに・・・気にするな。少々可哀そうに見えたから手を貸しただけだ」

「それでもや~。あのときは用事があるとかですぐにどっか行ってもうたから碌にお礼も言えんかったし・・・」


天然系の木乃香と厳つい顔のピッコロ。

この珍しい組み合わせで意外にも会話がはずんでいる。


「そうや!これから朝ご飯なんやけどピッコロさんもいかが?ウチこれでも料理の腕には少しは自信あるんやで!」


そう言いながら、腕まくりして力瘤をして見せる木乃香。


「むおっ!?い、いや、しかし・・・それは・・・」


まさかの食事のお誘いにピッコロが渋い顔をする。


「遠慮せんでええんよ?これはウチからのお礼も兼ねてるんやし。ネギ君との関係も知りたいしな~」


引き下がろうとするピッコロに追いすがってくる木乃香。

今までこういった女性を相手にしたことがないピッコロにとっては、まさに木乃香は苦手とするタイプだろう。

下手に断わりを入れれば、残念そうな瞳でピッコロを見るに違いない。

そのとき、自分はその罪悪感に耐えられるのか?

昔の彼ならできただろうが、今の彼は半分は神である。そんな真似ができるはずもなかった。


(くっ、これだから女というやつは・・・苦手だ)


かつていた世界の女傑たちやネカネの顔を思い浮かべながら内心で溜息を吐くピッコロ。


「わかった・・・好きにしろ」

「うふふ。ありがと」


諦めの入った口調で答えるピッコロに笑顔で返す木乃香。

そんなやり取りを眺めていたネギたちは心の中で木乃香の大物ぶりに感嘆の声を上げるのだった。









「フンフンフン~」


ネギたちを招き入れてから数分後、そこには陽気な鼻歌とともに料理を進めていく木乃香をネギ、明日菜、ピッコロが待つという構図が出来上がっていた。

そんな中、ネギはさっきからピッコロに聞きたかったことを小声で尋ねる。


「(ところでピッコロさん。なんでこのかさんはピッコロさんを見ても驚かなかったんですか?)」

「(ん?ああ・・・そのことか。おそらくこれのおかげだろう)」


ピッコロは自分の耳につけているピアスを指さす。


「(あっ!?それって・・・なるほど・・・)」

「(ちょっと!一人で納得してないで私にも説明しなさいよ!!)」

「(ええっと、つまりですね・・・ゴニョゴニョ・・・)」

「(ええっ!?そ、そうだったの?なるほどね~)」


実はピッコロがつけているこのピアス、ネギと修業の旅に出るときに校長から贈られた認識阻害魔法の発動アイテムだったのである。

これをつけていれば、一般人にはピッコロの姿が異形ではなく普通の人間と認識されるのだそうだ。

ただし、変えられるのはあくまで認識であって、相手の眼に映る外見を変えられるわけではない。そのため、緑色の肌を見られたときに多少の違和感を持たれてもそれは致し方ないのである。(ここまで言うと、認識阻害というよりは認識改竄と言った方が良いかもしれない)

したがって、ピッコロにはこれがあったため、木乃香にさほど正体を怪しまれずに接することができたのである。


「(だけど、あたしは普通に正体が人間じゃないってわかちゃったんだけど・・・どうして?)」

「(う~ん・・・それは僕にもわかりません。ただ、この術はそれなりの腕を持つ魔法使いには見破られてしまうことがありますから、100%ってわけじゃないんです。もしかしたら、アスナさんに何らかの魔法使いとしての素質があるのかも・・・)」


そこまで言いかけて、木乃香の「ご飯できたえ~」という合図で中断される。


「ん?ようやくできたか・・・って、こ、これは・・・!!」


ピッコロは出された料理の量に戦慄した。

皿に山盛りてんこ盛りと並べられた料理たち。一体これだけの量を誰が食うというのか!?

まさかこの少女たちが・・・!?


「な・・・なんだこの量は!?」

「さあ、召し上がれ~」

「いや・・・召し上がれって「うわ~い!いただきま~す!!僕昨日から何も食べてないからお腹ペコペコで・・・」あ・・・そういうことか・・・」


呆然とするピッコロの隣でネギがものすごい勢いで料理を掻きこんでいく。

瞬く間に1枚目の皿が空になる。

ちなみに向かいに座っているアスナも結構速いペースで食べられる方だが、ネギの食い付きにはさすがに着いていけない者を感じるのか、一歩引いている。


「あ、あんた・・・相変わらず食い意地だけは張ってるわね~。普通朝からそんなに食べないわよ」


呆れた口調のアスナ。


「ふぇ?ふぁっふぇふぁらはふぇっふぁらふぃくふぁふぁふぇふぃないっふぇふうふぁふぁいふぇふふぁ!!」

「・・・おい、ネギ。いつも言ってるだろ。・・・口にモノを入れた状態でしゃべるんじゃない」


ピッコロが声色を抑えて注意すると、


「ふぁっ!!ふぉうふぁっふぁ!!(ゴックン!!)だってアスナさん、腹が減っては戦はできないって言うじゃないですか!!」

「・・・・・・ちゃんと噛めよ」


昔どこぞの馬鹿に同じ説教をした気がするのはなぜだろう・・・


「あれ?ピッコロさんの分もあるんやから、たんと食べてや」


木乃香に言われてピッコロはビクッとする。


「お、俺の分って・・・こ、これか!?」


目の前に置かれた料理のボリュームも、ネギが食べているものほどではないとはいえかなりのもの。

もし挑むとしたなら、基本水しか摂取しないナメック星人のピッコロにとっては苦戦を強いられるのは必至。


「・・・・・・もしかして、嫌いなものでもあったん?」


悲しそうな顔で木乃香が訊いてくる。

ピッコロ個人としては断りたい。しかし、神の半身としてはそんな酷い真似はできない。

ピッコロの中で二つの心が板挟みする。


(な・・・なんだ、この息苦しさは・・・こんなのはかつて神の身体からピッコロを分離した時以来だ・・・)


冷や汗をだらだら垂らしながら悩み続けること数分、ピッコロが下した決断は・・・


「(ええい!ままよ!やるだけやってやる!!)ガツガツガツ・・・」


いろいろと吹っ切れてしまったのか、こちらも勢いよく料理に躍りかかる。


「あはは~よかった~。そんなに慌てんでも料理は逃げんからゆっくりな~」


木乃香は呑気に笑っているが、ピッコロの顔がだんだん緑から青になっているのに気付いてるだろうか?


「ピ、ピッコロさん・・・あまり無理はしないほうが・・・」

「ウップ!!・・・と、止めてくれるなネギ・・・こ、これは俺一人の戦い・・・おまえは手を・・・出すな!グオッ!?」

「ぴ、ピッコロさ~ん!!」


食事という最大のピンチにもがきながらも戦い続けるピッコロにネギは涙を禁じえなかった。


「アハハ~ほんまにあの二人仲がええんやな~。ピッコロさん、ネギ君のお父さんみたいや」

「そ、そう?(いや、あれ明らかに無理してるから・・・ていうか宇宙人って食事も私たちと違うのかしら?)・・・それなら、このかはお母さんってとこ?」

「も~アスナったらイヤやわ~。ウチ照れるわ~」


なぜか満更でもない反応をする木乃香に、明日菜は疑問を浮かべる。

「え?それってどうい「なあ、ピッコロさん?ネギ君の親戚らしいけどどういう関係なん?」・・・・・・スルーですか」

「あ、ああ・・・そうだな。俺とネギとは・・・」


そこからネギと自分との関係を説明していくピッコロ。

むろん正体がばれないようにかなり脚色を加え、辻褄が合うようにしてある。


「ほへ~・・・。ということはピッコロさんがネギ君の武術の師匠なんか~・・・。すると、やっぱりピッコロさんも結構強いん?」

「はい!僕の(一生の)目標です!・・・でも、まだまだピッコロさんが認めてくれるところには達してません」

「フン。当たり前だ。武術の道をそう簡単に極められてたまるか!!そのために修業があるんだろうが・・・」


こんなときであっても弟子に厳しく叱咤するのがピッコロ。


「フフフ・・・なんかええな~2人は。ほんまの親子みたいで。ウチ、ピッコロさんってすごいと思うんよ。両親がいないネギ君を自分から引き取って育てるなんて・・・なかなかできることやないと思う」

「そ、そうか・・・?」


木乃香に褒められて悪い気はしないのか、ピッコロは頬を照れくさそうに掻く。


「うん。だってネギ君がこんないい子に育ってるのもピッコロさんのおかげやって!」

「はい!ピッコロさん、いつもありがとうございます!!」


ネギにまでお礼を言われて顔が紅くなるピッコロ。


「フ、フン。いまさら礼なんぞ言うな。俺が好きでしていることだ」

「フ~ン・・・(ピッコロさんって意外と照れ屋だったのね・・・ツンデレってやつは本当にいるんだ~)」


自分のことは棚に上げて、ピッコロの様子をニヤニヤ眺める明日菜。

そんなこんなで穏やかな朝食の時間が過ぎて行った。









「それじゃあ行きましょうか!」

「はいっ!!」

「待ってや~」


時が過ぎ今は登校時間。

もちろんピッコロはこの場にはいない。

なんでも、朝に用事があるとかで一人先に寮を出たのだ(木乃香に舞空術を見られると厄介なので見送りは御遠慮願った)。

ただ若干顔の色が青みがかっていたのが少々心配ではあるが・・・


「それにしてもあんた、昨日の怪我は大丈夫なの?」

「はい。タカミチやピッコロさんに治療してもらいましたし、朝御飯もお腹いっぱい食べましたから元気百倍です!」

「そ、そうなの・・・」


確かに今のネギは気力が充実している。

これなら大丈夫そうだとネギに対する不安を解消する明日菜。


「ん?何の話をしてるん?」

「え?あ、ああ・・・こ、このかには関係ないことよ。うん!」

「そ、そうですね。は、ハハハ・・・」

「ほえ?おかしな2人やな~」


気を取り直していつも通り登校路を行く一行。

しかし、ネギは道を歩きながら考えていた。昨日のピッコロの話を。


(昔ピッコロさんが戦った敵・・・それが父さんが倒したはずの組織にいたなんて・・・いつか僕もそいつらと戦うことになるかもしれない)


すると途端に気が重くなる。


(惑星すら簡単に破壊できる・・・そんなやつらと僕は果たしてやりあっていけるのか?16号に手も足も出なかったこの僕に・・・)


昨日の戦いでネギは己の無力さを痛感していた。確かにここ最近の自分は少し天狗になっていたのかもしれない。それを矯正できたという意味ではあの戦いは大変意味があったと言うべきだろう。

しかし、同時にネギは今まで積み上げてきた自信を喪失してしまっていた。16号に出会って、自分には絶対に越えられない壁のようなものを感じたのだ。

時として絶対的な戦力差は戦意を喪失させる。今まさにネギは戦士として最も大事なものを見失おうとしていた。

ネギの顔に翳りが現れたためか明日菜が「大丈夫?」と心配そうに声をかける。

その声でハッと正気に帰るネギ。


「い、いえ!!何でもないです!!」

「そ、そう?・・・ガキのくせに何でも一人で背負いこむんじゃないわよ?私でよかったら力になるからさ」

「アスナさん・・・(何を弱気になってるんだ僕は・・・!アスナさんにまで心配をかけるなんて・・・)はい!わかっています。僕はアスナさんを信じてますから」

「な、な何恥ずかしいこと言ってんのよこの馬鹿ネギ!!」


顔を紅く染めて明日菜が喚き散らす。

そんな様子を木乃香がクスクス笑いながら見守る。


(なんだかんだ言ってアスナもネギ君のこと気にかけとるんやな~)


そんな中ネギは再び思考に没頭する。


(僕はこの学校の先生だ。もしかしたら、やつらがこの学校を、いやこの地球を狙う時がくるかもしれない。そんなとき、僕がみんなを守らなくちゃ!!)


幼いながらも使命感に燃えているネギ。しかし、度が過ぎる使命感は足かせにもなり得る。果たしてその使命感が命取りになってしまうのか・・・それはネギの心の強さ次第・・・


(それに・・・まだエヴァンジェリンさんのことが何も解決していない)


昔父と何があったのか?なぜ自分を狙うのか?

それを知るためにも彼女とは向き合わなければならない。ネギは決心した。

だが、その前にはあの16号が立ちはだかっている。


(いずれにせよ今のままじゃダメだ・・・もっと力を・・・強くならなくちゃ!!)


そこで昨日ピッコロから教えられた新しい技を思い出す。


(僕の咸卦法を最大限に生かせる技・・・『界王拳』)


あのときのピッコロの言葉が甦る。


『“界王拳”・・・こいつは自分の中にある気を巧みにコントロールすることで瞬間的に戦闘力を上げる技だ。気を急激に高めれば高めるほどお前のパワー・スピード・防御力を何倍にもすることができる』


なるほど。サイヤ人でもナメック星人でもない、ただの地球人であるネギにとってこれほど打ってつけの技はない。

だが・・・


『ただし、こいつはかなりの気のコントロール技術を要する。今のお前では習得することは難しいだろう。コントロールを誤れば気に身体が追いつかなくなり命を落とすことになりかねん』

『だから、まずはお前に微妙な気のコントロールを完全にマスターしてもらう。ほんの一瞬に気を高める技術を会得すれば、エネルギーの消費も大分小さくなり戦いやすくなるはずだ・・・。そのために明日から修業を開始する。教員の仕事が終わったらこの森に来い・・・』


ネギはギュッと拳を握りしめる。

確かに強くなるための道は険しいかもしれない。しかし、それは今までだって経験してきたこと・・・

泣き虫だったあの頃ならいざ知らず、今の自分なら必ず乗り越えてみせる!


(やってやる・・・僕はやってやるぞ!!)


その瞳は意欲に満ちていた。









学校に到着したネギたち。

しかし、どこか気合が入っているネギに明日菜と木乃香は戸惑っていた。


「ね、ネギ君・・・今日はすごい気迫やね・・・」

「う、うん。あいつ、どうしたのかしら?(昨日あのあと何かあったのかな?)」


ネギが教室の扉を開けて第一声、


「みなさん!!おはようございまーーーすっ!!!」


大声で挨拶する。


「お、おはよー」

「あ、あはは・・・ネギ君おはよう」


クラスの面々も明日菜たちと同じ反応のようだ。


「あ、アスナ・・・ネギ君やけに元気だけどなんかあった?」

「さ、さあ?」


クラスメイトの質問に答えが見当たらないアスナは言葉を濁す。


「まあいっか!・・・そういえばさ。昨日の夜外からドーンドーンってでっかい音がしたんだけど花火かなんかあったの?」

「あっ、それ私も聞いた!昨日それでなかなか宿題に集中できなくてさ~」

「私も聞いたよそれ!ちょっと外見てみたんだけど、花火っぽいのはなかったな~。あっ、でもピカッと光ったりしてたからあれが花火なのかな?」

「え~でもさ。今って花火の時期じゃないでしょ?祭りがあったって話も聞かないし・・・」

「あとさ。昨日ってこの辺り揺れなかった?」

「あっ!揺れたかも・・・」

「地震かな~怖いよね~」


朝からトークで盛り上がるクラスメートたち。

しかし、その様子を冷や汗ダラダラで眺める者が約2名。


「ネ、ネギ・・・どうすんの?昨日のこと、騒ぎになってるわよ!?」

「そ、そんなこと言われても・・・」


結構派手にやらかした(特にピッコロたち)ためか、昨日の戦いの余波がこんなところにまで出てくるとは・・・

ただ、救いなのはそれが戦闘によって引き起こされたものであるということに誰も辿り着いていないということか。

ここは知らんぷりを決め込むことにしたネギ。


「やっほ~ネギく~ん!」

「あっ!まき絵さん!具合は大丈夫なんですか?」

「うん。一晩寝たらこの通り。ぴんぴんしてるよ。何も覚えてないんだけどね~」


ネギに笑って応じるまき絵。

しかし、その首筋に僅かに残っている魔力にネギは表情を曇らせる。


(確か吸血鬼は血を吸った相手を従属させるんだっけ・・・まき絵さんにエヴァンジェリンさんの魔力が潜伏しているところを見るとまだ安心できないな・・・)


「ネギ君どうしたの?」

「あっ!いいえ。ただの考え事です」


ネギはまき絵に笑って誤魔化すことにした。


「・・・あれ?エヴァちゃんまだ来てないの?」


アスナがエヴァの席が空いていることに気づく。


「ホントだ・・・」


ネギも昨日戦った相手だけにどうしたのか気になってしまう。


「マスターは学校には来ています。すなわちサボタージュです」


「!?」


後ろからかけられた声にびっくりして振り返るネギ。


「ちゃ、茶々丸さん!!」


そこには昨日戦った相手の一人、絡繰茶々丸の姿があった。


「昨日はお騒がせしました」


無表情のまま頭を下げる茶々丸。

それにネギと明日菜はどう反応していいかわからない。


「ちゃ、茶々丸さん・・・エヴァンジェリンさんはサボってるというと・・・今どこに?」

「それは・・・私から申し上げることはできません」


すると、くるっと背を向けて席に行こうとする茶々丸。


「茶々丸さん・・・担任として無断欠席する生徒を見過ごすわけにはいきません!・・・昨日のこともありますし、彼女と話をさせてください!」

「先生・・・今のマスターとお会いにならない方がいいと思われます。マスターの先生への敵意指数がMAXに達しています」

「で、でも・・・」

「先生・・・私は機械ですから感情というものはよくわかりませんが、マスターは苦しんでおられる・・・そんな気がします。そしてその中心には、ネギ先生、あなたがいる・・・!!」


茶々丸が初めてネギに殺気ともとれるオーラを宿した視線を突き付ける。


「私はマスターの従者・・・マスターの道に立ちはだかる者を薙ぎ払うのが私の使命。あなたが決して悪い人でないのは百も承知・・・ですが、マスターの苦しみの原因があなたにある以上あなたは私の敵にならざるを得ません」


その瞳にありったけの決意を込めて睨めつける茶々丸。

ネギはそれを黙って受け止めるしかなかった。

言うだけのことを言ったのか、茶々丸はそのまま席に着いてしまう。

その後も少々気まずい雰囲気のまま授業が続けられていくのだった。











―――――ところかわってここは屋上。

そこでは金髪の少女がいつものように授業をサボタージュし、暇そうに空を眺めていた。

―――――いや、今日は少々違っていた。

彼女はいつにもまして不機嫌そうな・・・そして、どこか悲しそうな眼をしていた。


「・・・16号のやつめ」


昨晩のことを思い出し、少女―――エヴァが舌打ちする。










あの戦いの後、気絶したエヴァをログハウスに連れ帰った16号は、エヴァの意識が回復したのを見計らって今回の件を問いただしたのだ。


「なぜあんなことをした?いくら身内とは言えあんな子供を殺そうとするのを黙って見過ごすわけにはいかない」

「・・・・・・」

「黙ってないで何か言ったらどうだ。確かにお前は犯罪者だったかもしれないが、女子供にまで手を出すようなやつじゃなかっただろ?」


いつになく16号の舌がよく回っていた。

それだけ今回のことに激高していたのだろう。


「あの少年を傷つけた俺が言うのも筋違いなのはわかっている・・・だが、言わせてくれ。親への遺恨を子に着せるのは間違っている!」


すると、ずっと俯いていたエヴァが初めて口を開いた。


「・・・・・・まれ」

「エヴァ・・・?」

「黙れ黙れだまれだまれ!!・・・キサマに何がわかる!?15年もの間この結界に閉じ込められていた私の気持ちが・・・」


エヴァは怒りの眼差しを向ける。

そこには怒りの他に深い悲しみの色があった。

やがて、無理やり感情の高まりを抑えるとポツリポツリと語り出した。


「15年前・・・奴に封じられたとき、奴は私に言ったのだ。『心配するな。お前が卒業するころにはまた帰って来てやる。光に生きてみろ。そしたらそのときお前の呪いも解いてやる』とな・・・」


エヴァの語りを16号は黙って聞いている。


「今思い出すだけでも癪だが、私はその言葉を信じてみた。始めは奴の言った“光に生きてみる”ということが今一つわからなくてな・・・もともと裏で生きていたし、たちまちクラスから浮いた存在になったよ・・・。だがな、時がたつとこんな私に話しかけてくる物好きなやつらがいてな・・・いつの間にかそいつらと一緒にいるのが当たり前になっていた」


ふと一瞬エヴァが悲しそうに笑ったように見えたがすぐに表情を凍らせた。


「あの空間は正直・・・悪くなかった。私は一瞬でも満たされた・・・そんな気分になった。そしておぼろげながらあいつの言っていた“光に生きる”という意味がわかったような気になっていた。だが・・・それはとんだ茶番だった」


エヴァの顔に翳りが差す。


「1年過ぎ・・・2年過ぎ・・・とうとう初めて卒業を迎えることになった年・・・私は気付いてしまった。ナギのやつが来なければ呪いにより私は卒業することはできない。また1年からやり直しだ。では、卒業した奴らと私のつながりはどうなる?答えは簡単だ。“リセット”されるんだよ」


それを聞いた16号は唖然とする。


「ま、まさか・・・」

「そう・・・卒業した途端にみんな私のことなど綺麗さっぱり忘れてしまうというわけだ。滑稽だろ?いままで積み上げてきた何もかもがすべて夢だったことにされる。・・・それを知った時私は恐怖した。それまで裏の冷たさを忘れ、ぬるま湯に浸かっていた私には怖かったのだ・・・あの温もりをを失うことが・・・」


エヴァが己が方を抱き寄せ、身を震わせた。


「それでも私は信じた。ナギが帰ってくる・・・そうすればそんな悲しみを背負わずに済むとな・・・私ともあろうものがなんとも甘い考えをしていたものだ。私は愚かにも待った・・・ナギの帰りを。
・・・そこから先の結末はお前にもわかるだろう?」


もはや、言い返す言葉も見つからない16号。


「奴が来ないとわかっても私は待ち続けた。奴は約束を忘れるような男ではない・・・と心のどこかで思っていたのかもしれん。だが、10年前あいつが死んだという報を聞き、その思いも潰えた。それから私は人と慣れ合うということもやめた・・・」


エヴァは冷たくなった瞳で16号を射抜いた。


「とんだ昔話をしてしまったな。できれば忘れてくれると助かる。キサマの言うとおり坊やに当たるのは筋違いかもしれん。だがな・・・もう我慢できんのだ。こんな地獄はな・・・」

「エヴァ・・・俺たちと一緒にいるのではダメなのか?」


16号の言葉にエヴァは一瞬驚いた顔をする。

が、やがて表情を戻し、


「・・・早く部屋から立ち去れ木偶の坊!二度と私にその面を見せるな!!」


そう吐き捨てると、16号に背を向けて布団に包まった。

そんなエヴァを見つめながら、


「・・・そうか」


と言ったきり、16号は部屋を出て行った。

扉をぬけるとそこには茶々丸がいた。


「兄さん・・・」

「すまん、茶々丸。・・・俺は・・・どうしたらいいんだろうな・・・」


いつもは大きく見える兄の背中がどこか便りなさげに遠ざかっていくのを茶々丸は
ただ見送ることしかできなかった。







「・・・チッ、余計なことを思い出した」


気分が悪くなったエヴァは空を見上げる。

すると、途端に心が空虚になる。


「ナギ・・・どうやら私には“光に生きる”というのは無理らしい。今思えば私にとっての“光”というのはお前だったのかもしれない・・・」


空に浮かんだあの小憎らしい顔に向かって呟いた。


「この身体になってから、裏の道で生きてきた私にはお前が眩しかった。正直手に届かないとわかっていても手に入れたかった・・・お前という太陽を・・・
だからこそ恨むぞ。なぜ・・・なぜ死んだナギ!!」


気持ちを吐露するたびに目に熱いものが込み上げてくる。

しかし、真祖としてのプライドが彼女をそこで押しとどめさせる。


「私はな・・・私は待っていたんだぞ!!キサマをな!それを・・・死ぬとは・・・何事だ・・・」


エヴァが目を閉じる。その端から一筋何かが流れ落ちる。


「今・・・キサマの息子が来てるぞ。これもキサマの引き合わせた運命というやつか?つくづく私を怒らせるのが好きなようだな。・・・だがな、今度ばかりは私の堪忍袋も限界だ。もう手段なんぞ選ばん。私はキサマの呪縛から解放されて見せる!どんなことがあろうともな!例え本当の地獄に落ちようとも、キサマを引きずりおろして必ずこの手で切り刻んでくれる!!」


エヴァがナギの姿を殺気のこもった目で睨みつけるとたちまちその幻像は霧のように消えた。


「・・・さて、まず当面は坊やをどうするかだ。昨日受けた借りをこの手で返さなくては気が済まん・・・」


苦々しげに昨晩の戦いを振り返るエヴァ。

頭では敵わないとわかっていても、彼女の強者としてのプライドが負けたという事実を認めたくないのだ。

すると、突然彼女の頭にある感覚が走った。


「む!?これは・・・何か来たな」


何者かが麻帆良学園の結界を超えると彼女はそれを感知することができる。

学園の警備員をしている彼女としてはこれくらいは朝飯前である。


「しかし、人にしてはサイズが小さすぎる気がするが・・・仕方ない・・・調べるとするか」


呪いゆえに彼女はこうしたことに駆り出される。もはや彼女自身はそのことにウンザリしているようだが・・・

エヴァがメンドクサイと思いつつ、腰をあげようとしたそのとき、


「ん!?・・・なっ!?こ、この感じは・・・」


突如現れた全く違う威圧感にも似た感覚に彼女は身をガタガタと震わせた。

忘れもしない・・・いや、忘れられるはずもない。

昨日の晩、自分をとことん恐怖に陥れたこの感覚を・・・


「・・・あ、あいつだ・・・」


エヴァが悔しさに歯をギリギリ擦らせる。

目の前で立っているだけでもやっとだった。

なんとか飛びかかったものの手も足も出さないうちに一瞬で気絶させられてしまった相手。


「あの・・・魔族・・・!!」


緑色の肌にマントとターバンをつけたあの姿を思い出しただけでも憎しみが止まらない。

エヴァの拳があまりに強く握り締められたことで血が滲み出てしまっている。


「許さん・・・許さんぞ!!」


さっきまでの表情から一変、たちまち夜叉のごとき形相となった。


「侵入者は後回しだ。今はあのときの屈辱を・・・晴らす!!」


頭に血が上ったエヴァは冷静に考えることもしないまま、ターゲットを探すため、屋上の扉を開けるのだった。







一方そのころ、大学部の女子更衣室で・・・


「キャ~下着泥よ~!!」

「イヤ~ン!このネズミ下着を脱がすわよ~!!」

「こっちこないで~!!」


なにやら女性陣が大騒ぎする中、その集団からまんまと逃げおおせた小さい影があ
った。


「へへへ・・・今日も収穫だぜ。それにしても日本って国は良い下着を作ってるぜ。この感触が溜まんね~や」


白い体毛の見た目ちょっぴりかわいらしいイタチ、もといオコジョが一匹。

実はこのオコジョがこの先とんでもない騒ぎを引き起こすことになるのだが、まだ誰もそのことを知らない。


「・・・ウェールズで捕まりそうになったときはどうしようかと思ったが、なんとか逃げられたぜ。しかし、兄貴や旦那たちが知らせを受けないうちに上手く接触しねえとな。俺の命があぶねえ・・・」


このオコジョ・・・名をアルベール・カモミールという。










はたまた場所は変わって麻帆良学園学園長室。

そこでは、学園長のほかにこの学園に勤める全ての魔法先生たちが集められていた。

みな、いつになく緊張な面持ちである。

その中の黒人肌の教師―――ガンドルフィーニが発言する。


「学園長・・・本気ですか!?ウェールズの魔法学校でも危険人物と目されている例の魔族をこの学園に呼び寄せるだなんて・・・」


「ガンドルフィーニ君・・・少しは落ち着いてくれたまえ。」


しかし、学園長が諌めようとしても彼の口は止まらない。


「これが落ち着いていられますか!!大体昨日の騒ぎを起こしたのも彼だという話じゃないですか!!後始末に我々全員が駆り出される事態になるのは只事ではありませんよ!?・・・正直彼をここに置いておくのは危険すぎる・・・」

「学園長・・・私もガンドルフィーニ先生に賛成です。話によれば例の魔族は相当な力を有していると聞きます。そんな安全かもわからない不確定要素を学園に入れるのはいかがなものかと」


神明流の達人である女性教員―――葛葉刀子がガンドルフィーニに追従する形で意見を述べた。


「魔族を迎え入れるなんて・・・そんな悪しきものは主が許しません!!この十字架で成敗してくれます!!」


シスター服に身を包んだ黒人女性シャークティが鼻息荒く言う。


「ま、まあまあ・・・3人とも熱くならずに・・・」


小太りの教員弐集院光が宥める。


「しかし、困りましたね・・・どうしてウェールズの方からそんな人物をうちに回してきたんでしょうか?」


若手の教員瀬流彦が疑問の声を上げる。


「さあね・・・どちらにしろ、ここでゴチャゴチャ言ってても始まらないでしょ。実際に会ってみないことにはね・・・」


オールバック、グラサンの男神多羅木が煙草を吹かしながら呟いた。


「そうですよ・・・何も危険と決まったわけじゃ・・・」


眼鏡をかけた明石教授も笑顔でうなずく。


「明石先生!あなたは甘すぎる!!学園を守る以上、そんないい加減な態度では・・・」

「ガンドルフィーニ先生いくらなんでもそんな言い方は・・・」


なにやら激しい口論になりそうな予感がした学園長は一旦事態を収拾しようと口を開きかけたその時、



コンコン・・・



学園長室のドアをノックする音が・・・


「失礼します。高畑です。件の『客人』をお連れしました」


途端その場の空気が静まり返った。

何人かは緊張のあまり、息をのむ音まで聞こえる。


「うむ。よろしい。連れてきたまえ」


学園長の合図とともに扉からタカミチが顔を出す。


「わかりました。・・・どうぞ、こちらです」


タカミチの後ろから着いてくるようにして現れた姿に全員が言葉をなくした。



明らかに人間とは異なる緑色の肌。

腕には昆虫の節のような文様が浮かび、

白いマントとターバン姿。



怪しさ倍増である。これでは魔族と疑われても仕方がない。

しかし、彼らは声を上げることができなかった。

その身体から発せられる気が、オーラが、魔族と言うよりはまるで神のように神々しく光を放っていたからである。


「な・・・あ、ああ・・・」


さっきまで弁舌を発揮していたガンドルフィーニも開いた口が塞がらない。

コツッ・・・コツッ・・・と男が歩くたびに彼らは知らず知らずその身をどけ、道を作っていた。

やがて、件の人物は学園長の前で立ち止まった。


「・・・キサマが学園長とやらか?」

「・・・ふむ。いかにも、ワシがこの麻帆良学園の責任者近衛近衛門じゃ」


そして、好々爺然とした顔で男に手を差し伸べる。


「君がピッコロ君じゃな。ようこそ麻帆良学園へ」


だが、男―――――ピッコロはその手を取ろうとはぜず、厳しい視線のまま言い放った。


「御託はいい。さっさと始めようか」






ついに実現したピッコロと学園長の邂逅。

だが、この出会い・・・このまま無事で済むのだろうか?

―――――それは誰にもわからない。









<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!ついにピッコロが学園に乗り込んだ!!この先どうなっちまうんだ・・・」

ネギ「あっ!?エヴァンジェリンさんがピッコロさんの前に現れた!!・・・一体何のために?」

エヴァ「やい!クサレ魔族!!昨日はよくもやってくれたな・・・この私と決闘しろ!!」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI 『正気か、エヴァ!? ピッコロへまさかの宣戦布告!!』」

ネギ「どうしよう・・・僕の生徒に死亡フラグが立っちゃった・・・」









あとがき

年末になんとか仕上げることができました。

ただ、久々に登場のエヴァのキャラに反感を覚えるかもしれませんがご容赦ください。

作者も正直どうしようか迷ってる部分です(スミマセン)

あとタイトルで書いたくせにカモの出番がほとんどなくてすみません。作者の技量不足なのだ~テヘ♪

・・・いつものように言い訳ばっかの作者ですが、今後もよろしく!

では皆様よいお年を!!



[10364] 其ノ三十    正気か、エヴァ!?  ピッコロへまさかの宣戦布告!! (一部訂正)
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2010/03/09 12:36



「フム・・・大体事情は把握したわい」


学園長室で、近衛近衛門はドでかい机に腰掛けながらピッコロの差し出した書状に目を通し終えると呟いた。

近衛門の正面で堂々と佇んでいるピッコロは腕を組んだまま黙っている。

その周囲では先程までこの部屋で騒いでいた魔法先生たちがピッコロの様子をただ窺うばかり。

いや、恐ろしくて動けないというのが本音だろうか・・・

それも仕方がないのかもしれない。

彼らは未だかつて味わったことのないほどのプレッシャーを感じているであろうから。

むしろ、そんな相手とまともに対峙している学園長の肝の太さに感嘆する他あるまい。


「しかし・・・ここに書いてあることは誠かの?俄かには信じられんのじゃが」

「・・・キサマらがどう思おうと勝手だが、事実だ」


憮然とした態度でピッコロが返す。

だがやはりそんな立ち居振る舞いにも彼独特の威厳が感じられる。

近衛門はピッコロの眼が真剣であると悟ると「そうか・・・」と深いため息をついた。


「まさか・・・『完全なる世界』に生き残りがおったとは・・・大変なことになったわい」


老人の呟きにピッコロの後ろで控えている魔法先生たちが戦慄する。


「それは本当ですか、学園長!?」

「『完全なる世界』って・・・あの紅き翼のメンバーが死闘の末倒したっていう・・・」

「・・・確かに信じられん話ですな・・・」


口々に言葉が漏れだす。

この場の、いや魔法に携わる者なら誰もが一度は『完全なる世界』の名を耳にしたことがあるはずだ。

20年前の大戦を裏で操っていた諸悪の根源・・・

当時の英雄ナギ率いる紅き翼が壊滅させその根は断たれたと思われていた。

しかし・・・


「まさか・・・ここでその名を再び聞くことになろうとは・・・」


皺だらけの顔からはっきりと表情を読むことはできないが、近衛門が苦悩していることは雰囲気から察することができた。

ここ旧世界で暮らす彼らにとって魔法世界での事件は直接関わってくることではない。

したがって本国からの要請でもない限り、基本的にこういった案件は傍観に徹するのがセオリーだ。

だが、今回は事情が違う。この現実世界にも敵の息のかかった者が出没しているのだ。黙って見ているというわけにはいかない。

いつ“やつら”がこの学園にも姿を現すとも限らないのだから。


「諸君も理解が追いつかんかもしれんが、メルディアナの校長は冗談でこんなことを言う人物ではない。おそらく本当の事じゃろう。現にあそこの魔法学校が襲撃されとるんじゃしな。・・・この書状によれば、奴らの狙いの一つにはネギ君も入っておるようじゃ。そのうち学園にも襲撃しにくる可能性は高い・・・」


近衛門の言葉が重い。事態はそれほど深刻なのか・・・


「とにかく、万一そうなった場合、敵があの『完全なる世界』ならば並一通りの覚悟では太刀打ちできん。今後は警戒をより一層厳重にする必要がある!」

「「「「「は、はいっ!!」」」」」


学園長の力強い訓示に教師陣は我に返ると気を引き締めながら返事をする。


「(ほほう・・・さすがにここのトップだけのことはあるか)」


近衛門の落ち着いた様子に内心でピッコロが感心した。


「さて・・・そうするとネギ君の方にも何か手を打っておかねばならんの。如何せん彼もまだ子供じゃ。」

「それに“英雄の息子”ともなると何かあったときにこちらの沽券にも係わりますしね・・・」


“英雄の息子”というフレーズにピッコロの表情がピクッと硬くなる。

なるほど・・・所詮こいつらもネギをそういう目でしか見ていないということか・・・


「そのことですが学園長・・・現在うちも人員不足でして、ネギ先生の護衛につけるほどの人物となると・・・」

「桜咲君や龍宮君あたりはどうだ?」

「いやいや。相手はあの『完全なる世界』だぞ?葛葉先生や神多羅木先生くらいの実力者のほうが・・・」

「だが、それだと夜間警備の戦力が大幅にダウンする」

「うむ・・・困ったの・・・」


ガンドルフィーニのたちが意見を交わす中、学園長は頭を抱える。

すると、先程から沈黙していたピッコロがついに口を開いた。


「そのことなら心配はいらん。キサマらの手を借りるまでもない」


皆がギョッと視線をピッコロに集中させる。

自分たちが危険人物と目している男が突然言い出したことに誰しも緊張が走る。


「キサマラではネギの護衛を任せるには頼りなさすぎる。・・・俺がやる。・・・なあに、俺の眼が届くうちはネギに手出しはさせん」


しかし、ピッコロのこのセリフには何人かはカチンときたようで、


「お、おい!我々が頼りないとは聞き捨てならん。し、新参者のくせに無礼だぞ!第一お前は魔族だろう!信用できん!」


今までピッコロに口を挟めなかったガンドルフィーニが溜まった鬱憤を晴らすようにまくし立てる。しかし、僅かにその声は震えていた。


「俺は一応ネギの保護者だ。ネギの護衛をして何がおかしい?・・・それに俺がいつ自分を魔族と言った?」


ガンドルフィーニを軽く睨みつけながらピッコロが反論する。


「フン。そんな見た目で魔族じゃないだと?ホラを吹くのも好い加減にするんだな。ウェールズの校長は何を思ってキサマを受け入れたのかは知らないが、私は騙されないぞ。今は大人しい振りをしていても心の底では何を企んでいるのだか・・・そんなやつをおいそれと仲間と認めるわけにはいかん!!」

「こ、これ!!いくら何でも言いすぎじゃぞ!!」


ガンドルフィーニのあまりの物言いに流石に近衛門が嗜める。


「お言葉ですが学園長。聞けば先日のメルディアナ魔法学校襲撃事件もこいつが手引きした疑いがあるというではありませんか!きっと『完全なる世界』の手の者に違いありません。この学園に潜入して内部から我々を・・・」

「好い加減にせんか!!・・・君までそんな根も葉もない噂を信じとるのかね?いつも冷静な君らしくもない。今日はどうかしておるぞ・・・ガンドルフィーニ君」


校長に渇を入れられ、一瞬ハッと我に返ったガンドルフィーニは、


「・・・申し訳ありません。少し熱くなっていたようです」


ころっと態度を変えて学園長に詫びを入れた。

だが、再びピッコロに相対すると敵意の眼差しを向ける。


「ですが・・・やはりこの男を信じるのは危険です。いつ我々を裏切るか・・・」

「フン。えらく威勢がいいようだな。『弱い犬ほどよく吠える』というが、まさにその通りだ」


ピッコロがガンドルフィーニの視線を鼻で軽くあしらうと、彼の激高はさらに熱量を上げた。


「き、キサマァ・・・い、言わせておけば・・・!」


好き放題言っていたのはそっちの方だろうに・・・というツッコミは無視してガンドルフィーニはついに堪忍袋の緒を切らせてしまった。

背広の内ポケットに手を突っ込み愛用のナイフと拳銃を取り出そうとする。

だが、いつの間にかガンドルフィーニの後ろに回り込んでいたタカミチがその腕を掴み抑え込んでしまう。


「むっ!?」

「落ち着いてくださいガンドルフィーニさん」


ほんの一瞬のことで誰もその動きを捉えることができず、驚愕する。

特に学園でも指折りの実力者である神多羅木や刀子の驚き様は一入であった。


「離してくれ高畑先生・・・私はこの男を認めるわけには・・・」

「あなたが話をややこしくしてどうするんです。これじゃあ進む話も進まないでしょ?先せ・・・ピッコロさんも彼を挑発しないでください」


タカミチはピッコロに若干非難めいた視線を送ったが、ピッコロはそれを軽く流した。

師匠の反応にしょうがないなあと心の中で溜息を吐くと、


「ガンドルフィーニさん・・・ただ見た目が魔族であるからといって邪剣にするのはどうかと思いますよ?魔法世界には普通に人間と仲良く暮らしている魔族だっていたし、全部が全部悪い奴ばかりとは限らないじゃないですか。もっとじっくり話し合って・・・」

「高畑先生のおっしゃりたいことはわからなくもない・・・しかしダメなんだ。どうしても私はこいつだけは認める気にはなれない・・・!どこか我々を見下しているようなこの男だけは・・・!」


ガンドルフィーニは断固としてピッコロに対する敵意の眼を止めようとはしない。

どうやら説得も意味がないようだ・・・そう悟ったタカミチは


「そうですか。では仕方ないね・・・」



トスッ・・・



「ムグッ!?」


ガンドルフィーニの首筋を手刀で打ち据えてあっさり気絶させてしまう。

そのあまりの手際の良さに若手の瀬流彦辺りからは軽い拍手まで送られる。


「フ~・・・こういう手荒なことはしたくなかったんですがね」

「いや・・・御苦労じゃった高畑君。この部屋で魔法をぶっ放されては敵わんからの・・・それに、もし君が止めてなかったらガンドルフィーニ君が危なかった」

「・・・やはりお分かりでしたか」

「「「「「!?」」」」」


2人の言葉に他の魔法先生たちは一斉に身体を硬直させた。

あの時点で先に武器を手に取ったガンドルフィーニが優勢ではなかったか?

相手はまるで攻撃する素振りを見せなかったし、あれでもガンドルフィーニは有数の実力者。

ピッコロが魔族であることを差し引いても危なかったのはピッコロの方だったはずだ。

それが一体なぜ・・・?


「フォッフォッフォ・・・伊達に年は取っておらんよ。部屋に入ってきた時点で感じた凄まじい力・・・正直ワシもたまげたわい。すぐに悟ったよ・・・これはワシらの手に負える存在ではないとな・・・」


あの好々爺とした笑いを浮かべる近衛門だが、その瞼に隠れた瞳は決して笑ってなかった。


「そんな存在にあれしきの攻撃が通用すると思うか?そんなことはよく考えればすぐにわかることなのにの~」


そう言いながらピッコロを見やる。


「お前さんもやろうと思えばあの至近距離からの攻撃も簡単に迎撃できたんじゃろ?ピッコロ君よ」


何かを探るような目つきの学園長にピッコロはとぼけた表情で


「さあな・・・こっちは相手にするのも馬鹿馬鹿しかったから考えてなかった・・・」


すると近衛門は一瞬目を丸くし、


「フォッフォッフォッ・・・こいつは大物じゃわい」


また何事もなかったようにカラカラと笑う。


「だがこれだけは覚えておけ・・・今回は俺だからまだいいが、誰これ構わず身の程を弁えない物言いをすると長生きせんぞ・・・」

「フォッ!?」


ゾッとするような声で言うピッコロに僅かにだが魔族としての顔を見た近衛門。

だが、すぐにピッコロの表情も穏やかなものに戻る。


(むむっ・・・?静かな心をもっとるのかと思えばときどき嵐のように顔が変わる・・・なんとも不思議な男じゃ・・・)


こちらに人物像を掴ませないピッコロに興味が出てきた近衛門。

だが、意外と身内には性格を曝け出しているピッコロの一面があることをまだ知らない。


「・・・おい。さっさと話を続けろ。時間を無駄に使いたくはない」

「お、おお・・・わかったぞい」


気を取り直して近衛門が話を続ける。


「ふむ・・・こちらとしても人員はあまり割きたくないからの。そちらがネギ君に付いていてくれるのであれば、好意に甘えさせてもらうかの」

「が、学園長!?そんなあっさり決めてよろしいのですか?」


刀子が不安を滲ませた顔で訊いてくる。


「うむ。構わんじゃろ。少し話しただけじゃが、お前さんはそんなに悪い奴とも思えん。むこうの校長の推薦もあることじゃし、ここに置いてやってもよかろう」


フォッフォッフォっと呑気に笑う学園長に本当にこれでいいのかと魔法先生たちの心の曇りは晴れなかった。

そんな中ピッコロは近衛門の返事をもらうや否や、すぐに背を向け、


「・・・さて。挨拶は済ませたようだしそろそろ俺は行かせてもらうぞ」


部屋の扉へと向かって行ってしまう。


「ちょ!?ちょっと待ってくれんか!いくら滞在を許したとはいえ、勝手なことをされては困る」


近衛門が慌ててピッコロを引きとめる。

かつてのピッコロなら無視していただろうが、今は“神コロ様”である彼は一応足を止めた。


「何だ?詰まらん話なら帰らせてもらうぞ」

「な、なに・・・お主もここに住むことになるんじゃし、住まいをこちらで用意させようかと「必要ない・・・」フォ?」

「今まで長いこと家など持ったことはない。野宿で十分だ」

「そ、それなら・・・職はどうなのかね?何事にも金は必要じゃぞ?食糧や服とかも・・・」

「それも必要ない。俺は水だけあれば生きていける。服も自前で用意できるしな・・・。もっとも、ここが水さえも碌に手に入らない土地なら話は別だが・・・?」


ぐうの音も出ないとはまさにこのことだった。


(むむむ・・・ここで肯いてくれれば、ネギ君のクラスの副担任とかうちの警備員にでもしてこちら側に引き込むつもりだったのじゃが・・・)


自分がよくやってきた手法が通じない相手に近衛門は舌を巻いた。

だが、ここで諦める近衛門ではない。


「そうは言うがの・・・ネギ君の護衛をするという以上、彼の傍に常につけるほうがいいのではないかな?ちょうど今、彼のクラスの副担任というポジションが空いておるんだが、そこに君が入ってくれれば日頃から彼の仕事をサポートできる、かつ彼の安全も守れる。・・・ほれ、一石二鳥じゃろ?」


提案してから近衛門は手ごたえありと自信満々であった。しかし、彼はピッコロという人間を本当に把握していなかった。

ピッコロは頷くどころか眉間に眉を寄せながらこちらを振り返ったのだ。


「キサマ・・・何か勘違いをしていないか?」

「へ・・・?」


ポカンとする近衛門。そして思った。

あれ?どこかでこの感覚を味わったことはなかったか?結構最近に・・・

そんな近衛門を余所にピッコロが言葉を紡いでいく。


「俺はネギの護衛をするとは言ったが、一緒いてやる気は毛頭ない。それに護衛と言ってもあいつがどうしても手に負えない相手にぶつかったときに手を貸すだけだ。大概のことはあいつ自身で解決できるし、そうするように育ててきた。・・・もしあいつの傍に俺がいたらそれはあいつにとって甘えにしかならない。そんなのはあいつの為にならんし、あいつが最も望まないことだ・・・俺に出来るのはある程度の距離からあいつを見守ってやることだけ・・・」


一旦そこで言葉を切り、再び続ける。


「キサマらはネギをまだまだ子どもと思っているかもしれん。確かにそうだ。あいつは未熟だ。・・・だがな、あいつは強い。英雄に祭り上げられてるくせに子どもの前に顔も見せに来られない馬鹿親父を今も必死に探している。いつか必ず会えると信じてな・・・それがあいつの強さだ!やると決めたことをギリギリまで諦めない強さだ!そこに余計なお節介をかけるのは野暮というやつだ」


近衛門はピッコロの言葉にただ聞き入っていて反論できない。


「だが・・・それでも、どうしても越えられない壁と言うやつは存在する・・・そんな壁にぶち当たったら俺が迷わず手を差し出そう。例えどんなところに居ようともな!!」


ピッコロの睨みが凄みを増した。すると、近衛門は自分を襲っている感覚が何なのかに気付いた。


(そ、そうじゃ・・・これは図書館島でネギ君が怒りを見せたあのときの・・・)


―――――だが、気付いたときにはすでに遅く、


「だから俺とネギとの間に物理的な距離など関係ない。ネギが危なくなったら助ける。それだけだ。」


―――――近衛門にあの時の悪寒が甦ってくる。


「何を企んでるのか知らんが・・・俺とネギの絆を嘗めるなよ?糞ジジイ!!」


ピッコロから発せられた威圧感が近衛門に直撃する。

近衛門の身体をたちまち震えが襲った。


「フオッ・・・!?ハアーーッハッ、ハッ、ハッ、・・・!!」


突如荒くなった自分の呼吸に近衛門は慌てふためく。


(ワ、ワシ・・・また地雷踏んじゃったの!?・・・ハウワッ!?)


急性の呼吸困難に陥った学園長に気付いた魔法先生たちが集まっていく。


「が、学園長・・・!!しっかりしてください!!」

「お、落ち着いて!ショックで呼吸筋が緊張してるだけですから・・・まずは深呼吸ですよ。ハイ、吸って~吐いて~・・・」


数回呼吸を繰り返してどうにか症状が鎮静した近衛門はフ~と深く息を吐いた。

だが、その様子にピッコロはいささかも動じていなかった。

その傲岸不遜な態度に流石の刀子も目に余ると感じたのか、


「あなた・・・いくらなんでも学園長に対して失礼じゃないですか?『郷に入れば郷に従え』というでしょ?ウェールズではどうだったか知りませんけれども、ここでは我々がルールです。今後は我々に従ってもらいますよ!」


だが、ピッコロはその言葉も意に介さず、


「・・・断る」


バッサリと切って捨てた。


「な・・・!?」


刀子は自分の忠告が一刀両断されたことに言葉を失った。


「悪いがこの世界では誰かを従える気もなければ誰かの下に付く気もない。俺を縛れるのは俺自身と俺の家族だけだ・・・」


最後のフレーズによほど思い入れがあるのか、真剣な面持ちで語るピッコロ。


「もし俺を無理に縛ろうとするなら・・・」


彼の身体に纏っている気が再び光を放った。


「こちらもそれ相応の手段をとらせてもらうぞ・・・!!」



ビュオオオオオーーーッ!!!



言った次の瞬間、ピッコロを中心として部屋に突風が巻き起こる。

その風は本棚の本や書類、部屋の備品を巻き込んで渦を作った。

その場にいる者全てがその勢いに後ずさりしながら顔を覆うことしかできない。


「くっ・・・なんて気の大きさなの!?こ、こんな相手と会ったのは生まれて初めてだわ」


神鳴流の剣士として長いこと退魔の仕事に関わってきたが、そんな彼女から見てもピッコロの存在は圧倒的であった。

さっきまで足がすくんで動けないとはいかないまでも、刀を抜いて切りかかれる様子じゃなかった。

・・・そんな隙は微塵も許してもらえなかったと言っていい。

それに彼の奥底から感じられる巨大な力・・・なぜこんな存在が今まで誰にも知られていなかったのか?どこかの伝承としに残ってもおかしくない・・・そう思えるほどであった。

それに不思議なことがあった。

先程から何度か刀を抜こうとしているのだが、魔物を相手にした時のあの感覚が刀から伝わってこない。


「これは名のある刀匠が打った霊刀・・・それに神鳴流は退魔の剣だから相手が魔族なら刀を握った時に独特の反応が手に伝わってくるはず・・・なのに何も感じない。まさか・・・あの男は魔族ではないというの!?」


ピッコロの正体が掴めず、戸惑う刀子。

一体彼は何者なのか?

だが、そんな外野を余所にピッコロの背後にたった一人だけ平然と移動できた者がいる。

タカミチだった。


「先生・・・熱くなりすぎですよ」


耳元でそう言いながらあの近づきがたい雰囲気のピッコロの肩を気軽にポンと叩く。

すると我に返ったピッコロが、


「ああ・・・そうか」


と、あっさり気を解除したではないか。

他の連中は一体何があったのか分からず、ポカンと口を開けて眺めるだけ。


「すまんな・・・俺としたことが少々大人げなかったようだ・・・」

「しっかりしてください。ネカネ君が見たら説教ものですよ?」


そして、部屋の惨状を見渡したピッコロが発した一言。


「す、すまん・・・」


そのときのピッコロは周りの者からは気持ち少し小さく見えたそうな。


「これ片付けるのは苦労しますね・・・」

「いや・・・これは俺の責任だ。俺が何とかしよう」


ピッコロが手を翳し、意識を集中させる。

すると、部屋中に散らばった家具や書類、本などが宙に浮かぶ。

これはピッコロが持つ超能力【念動力】である。

この力で部屋に散らばったものが次々に元の場所に戻されていく。

運悪く壊れてしまった机や椅子もあったが、それも神の能力で新品同様に復元させた。

あまりにも短時間で終わってしまったため、学園長たちは開いた口が塞がらないでいる。

そんな彼らにタカミチは朗らかに笑いかけ、


「ハハハ・・・どうやら今日はこの辺にしといた方がいいみたいですね。学園長もお疲れでしょ?この方は僕がお送りしますので・・・お開きと言うことでよろしいでしょうか?」

「あ?ああ・・・うむ。君に任せよう」


碌に考えられないまま返事を返した学園長を尻目に、タカミチは「それでは!」とピッコロを伴って部屋を出ていく。

以前より綺麗になった学園長室に残されたのはなぜか服装がボロボロの状態の魔法先生たちであった。

皆一気にプレッシャーから解放されたことで一同に胸を撫で下ろしていた。


「な、なんとか助かりましたね・・・」

「う、うん・・・突然のことだったから寿命が縮んだよ」


瀬流彦と弐集院がお互いに笑いかける。


「あっ・・・寿命なら僕も縮みましたよ。だってあの人が部屋に入ってきてからずっと緊張しっぱなしでしたもん。あのプレッシャーは正直身体に悪いですよね。でも情けないな~仮にも魔法先生なのに・・・」

「フフフ・・・瀬流彦君、そいつは無理もない。この私でさえ、学園長との会話中、無意識に指を構えてしまったんだ・・・でも、鳴らせなかった。初めてだよ。ここまで得体のしれない恐怖を感じたのは・・・」


神多羅木が苦笑しながら頭を掻いている。

すると、刀子やシャークティーも会話に参加してくる。


「私もです・・・今回一度も刀を抜くことができませんでした。こんな経験初めてです」

「私も魔族相手だというのにロザリオを向けることができませんでした。なんか無意識に体が拒否してたんです。まるで神に対して牙を向けているようで気が咎めて・・・。あそこまで啖呵を切っておいて恥ずかしいですわ」

「それはしょうがないんじゃないかしら。正直あの場で武器を手に取れたガンドルフィーニ先生を尊敬しますよ」

「いや、彼も武器を手にとれてはいたが、攻撃できたかは疑問だよ。彼も気づかなかったはずがない。あの底知れぬ力を・・・」

「いや、一人だけいましたわ・・・あのプレッシャーを物ともせずに動ける人が・・・」

「高畑君か・・・彼には驚いたね。いつの間にあの化け物みたいな人の背後をとれたんだろ?」

「マグレ・・・ではなさそうですね」

「そう言えば6年前から彼はどこか変わった気がする。性格もそうだがそれまでの居合拳一辺倒だった戦闘スタイルもガラッと変えたみたいだし・・・」

「どこか謎めいたところがありますよね。高畑先生って・・・」

「うん。仕事以外はどこで何をしてるのかほとんど知られていないし・・・」

「裏関係の仕事も業績が急に伸びだしたしね。噂では彼の実力は本当は公式で発表されてるAAAランクを上回ってるんじゃないかって話だよ?」

「・・・なんかそれありえそうだな」

「さすがは元紅き翼のメンバーってところかな?」


タカミチの実力の高さにに全員が感心している余所では老人が溜息を吐きながらその話を聞いていた。


「(ハ~・・・まさか高畑君があのピッコロ君の弟子だとは夢にも思わんのじゃろうな。今では戦闘に関してはこのワシを遥かに上回る、実質学園最強、いや世界最強ランクの存在になっとるというのに・・・他の魔法先生を刺激しないためにあえてオフレコにしといたんじゃが、今回のことを考えると失敗だったかの?)」

「学園長・・・何かお加減でも?」

「ん?いや・・・何、また胃薬が必要になるかと思うと憂鬱での~」

「そ、そうですか・・・」


どうやら近衛近衛門、この年にって胃薬を常備しなければならなくなりそうだ。いや、むしろ病院にお世話になる方が多いか?

どちらにしろ、ご愁傷さまである。


「と、ところで・・・話の途中で悪いんだけどあれはいいのかい?」


明石教授が指さした先に目を回して蹲っている黒人教師の姿があった。


「「「「「あ・・・・・・」」」」」

















一方で学園長室を出たピッコロとタカミチの二人。

彼らの姿を中等部の中庭で認めることができる。

まだ授業中の為かあたりに生徒の影は見当たらない。

まあ、仮にあってもピアスの効果でピッコロは異形と認識されないのであまり関係ないのだが。


「どうもすみません先生。お見苦しいところをお見せしました・・・」

「気にするな・・・俺にもまったく非がなかったとは言えんしな。お互い様だ」


表情を変えることなくピッコロが返す。


「ですが学園長の提案を蹴るとは先生らしい・・・」

「俺にもプライドくらいはある。それにあの学園長とかいう奴は人の良さそうな顔をして何を企んでるかわからん。食えないジジイだ・・・」

「ハハハ・・・反論しようもありません」


でも、きっと今頃トラウマが甦って胃でも傷めてるんだろうな~と老人に少し同情するタカミチであった。

だが、すぐに真面目な顔に戻って


「ガンドルフィーニさんのことは・・・すみませんでした。僕が付いていながら・・・」

「いや、お前の所為ではない・・・こんな成りをしている時点であれも覚悟の上だ」

「しかし、それでも・・・こちらにも責任はあります。普段の彼はあんなに激情家ではないのですが・・・やはり人間が人外に対して持つ偏見は如何ともしがたい・・・」

「人間が持つ『異物を排除しようとする』傾向・・・それはある意味仕方のないものだ。そして同時にそれが人間の悪の心を生み出す・・・俺もそうして生み出された存在だ・・・」


ピッコロは自分の生い立ちを思い浮かべながらしみじみと語る。

彼が卵から孵ったばかりのころ、孫悟空打倒の旅の途中、この姿で人間たちに散々恐れられたものだ。

孫悟空との決戦の直前、気まぐれで子どもを助けたこともあったが彼の顔を見るなり逃げだしていった。


「そのときは思ったものだ。俺は所詮悪に生きるより他に術はないと。自分がいかに変われようと生まれだけはどうしようもない・・・昔悟飯のやつにも言ったことがある。『恨むなら自分の運命を恨むんだな。この俺のように・・・』、とな・・・」


背中に哀愁を漂わせているものの、前を歩くピッコロの顔をタカミチからは窺うことはできない。

だからタカミチは不安になった。この人はやはりどこかで人と違うことを気にしてるのではないかと・・・

しかし、その心配も次の一言で杞憂だと知る。


「だが俺はあの頃の生き方を後悔したことはない。あの頃の俺があったからこそ悟飯と出会えた。そして俺は変われた・・・」


チラッと後ろを振り返るピッコロの横顔には笑みが浮かんでいた。


「今はそれで十分だ!!」

「・・・はい!」


やはり先生はすごい。そんな小さいことを気にするような人じゃなかった・・・!!

ピッコロの器のでかさにタカミチは改めて敬意を感じた。


「だが・・・それでも、あのガンドルとかいう小倅は気に入らんな」


いきなり表情が硬くなったピッコロにタカミチは「あれ?」っとずっこける。


「い、今良い話で終わりそうだったのにどうしたんですか?」

「俺はああいう『口先だけの身の程知らず』は大嫌いなんだ!!サタンのやつを見ているようで・・・いや、まだサタンのほうが可愛げがあるだけマシか・・・それ以下のバカだ!!」


この人も言いたいこと言うな~と心の中だけで言っておいて「ハハハ・・・」と笑って誤魔化すことにしたタカミチ。


(学園長の前では気にしてないって言ってたのに・・・やっぱり気にしてたんですね。いわゆる犬猿の仲ってやつかな。ハ~・・・また苦労が増えそうだ。最近また白髪が増えたんだよな~・・・ってそれは元からか。ハハハ・・・)


穏やかな庭園の風景を歩きながら話していた2人。

だがその2人の前に乱入者が現れる。


「やっと見つけたぞ!!このクサレ魔族がーーー!!!」


現れた金髪の少女にタカミチ、そしてピッコロも驚愕した。


「エ、エヴァじゃないか・・・どうしてここへ?」

「あれは・・・昨日の小娘か」


エヴァはここまで来るのに相当走ってきたのか息を切らして向かってくる。


「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」

「だ、大丈夫かい?そんな封印状態で無理しなくても・・・」

「う、うるさい!!キサマは黙ってろ!!私が用があるのはこいつだ!!」


エヴァがビシッとピッコロを指さす。


「フン。昨日の仕返しにでも来たか?」


ピッコロが興味なさげに言う。

だが、エヴァは意に介さず単刀直入に言った。


「この私と決闘しろ!!」


それを聞いたタカミチは固まった。


「え?け、決闘だって!?」


一方ピッコロは


「決闘だと・・・?」


少し意外な響きに戸惑っていた。


「そうだ!!この私とサシで勝負しろ!!」


エヴァは力強い声で宣言した。タカミチはわが耳を疑った。


「け、決闘って・・・正気かいエヴァ!?」


まさか彼女ほどの者が相手の実力が読めないとでも言うのか?


「昨日だって君は先生に手も足も出せずにリタイアしたじゃないか」

「あ、あのときは封印状態だったから・・・そ、それに私の得意な人形が使えなかったからな、調子が出なかったのだ!!・・・だが、今度はそうはいかんぞ!!私のドールたちでキサマを地獄に送ってやる・・・!!」


どう聞いても負け犬の遠吠えにしか聞こえない。彼女は昨日からまるで何も学んでいない。


「エヴァ・・・悪いことは言わない。もうよすんだ。いくら君でも先生が相手では勝ち目はない。・・・大体封印はどうするんだ?封印が解けていない君では勝負にすらならないじゃないか!!」

「う・・・!?そ、そんなものは関係ない!!魔力は足りないかもしれんが私には長年培った技がある。封印なんか解かなくてもけちょんけちょんにしてやる!!」


ダメだ・・・完全に敗者が陥りやすい思考回路に嵌まっている。

タカミチがもはや半分諦めていると・・・


「フン。くだらん・・・」


ピッコロが踵を返そうとする。


「ま、待て!!どこへ行く!?」


慌ててエヴァが止めに入るが、


「子どもの駄々に付き合ってやるほど俺は暇じゃでないんでな。早くネギの修業を始めねばならんし・・・」


舞空術で宙に上がろうとするピッコロのマントをエヴァが掴んだ。


「に、逃げるのか!?キサマ!!」


ウンザリとした顔でエヴァを見やったピッコロは、


「・・・だったらどうするというんだ?」

「フフフ・・・ならば、ここで『私は貴方様の奴隷です。もう貴方様には逆らいません。ワンワンワン!!』と犬の真似をしながら私の足の裏を舐めるなら許してやってもいいぞ!!」


そう言いながら意外に綺麗な足を差し出す。


「な・・・!?エ、エヴァ・・・そ、それは・・・・!!」


タカミチはまずいと思ったのかピッコロの方を見やる。

すると・・・


「ヒッ・・・!?」


普段ビビったりしない彼もこの時ばかりは違った。

表には出さないまでも身体から漏れ出している気でわかる・・・


(アチャ~・・・これは完璧にキてるな・・・)


自分もかつて一度だけ本気で怒ったピッコロを見たことがあったが、今まさにあのときの彼そのものであった。

ウチに静かなる怒りを秘めたときのこの男の恐ろしさを知ったあの日から、この人だけは怒らせないようにしよう・・・と強く誓ったものだった。


(こればっかりはいくら僕でも止められそうにないな・・・先生の嫌いな『身の程知らずのバカ』っていうのがここにもいたなんてね・・・)


彼は知らず知らす喧嘩を売った相手に呆れながらも心の中で黙祷を捧げていた。



パキッ、パキパキッ!!



ピッコロの周りの小石や砂がピッコロの気に反応して宙に浮く。


「な、なんだこれは!?」


突如ピッコロから感じた威圧感にエヴァの身体が気圧されていく。


「最近のガキは親の躾も行き届いていないらしい。・・・気が変わった。その決闘受けてやろう。ただし、一つ言っておくぞ。今日の俺はいつもより気が立ってる・・・加減できるかわからんぞ?まあ、そんなことは今さら関係ないか・・・」


エヴァにあの不気味な笑みを向けながら、ピッコロは言い放つ。


「生意気な糞ガキには少々お灸を据えてやらないとな・・・」









かくして、闇の福音エヴァンジェリン・マクダウェルとピッコロの決闘が始まる。

そして、後にこの戦いはエヴァンジェリン自身の運命も大きく変えることになる・・・







<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!やめろエヴァ!ピッコロはお前の敵う相手じゃねえ!!」

ピコ「まるで話にならんな。その程度では俺はおろか、ネギにも届くまい」

エヴァ「だ、黙れ!!私は・・・私は・・・勝たなきゃならないんだ・・・!勝ちたいんだ・・・!!」

ピコ「・・・フン。そこまで力が欲しいか?ならば、キサマにもう一度だけ足掻くチャンスをやろう」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI 『エヴァに希望はあるか!? ピッコロの浮かべる謎の笑み』」

ネギ「ピッコロさん・・・エヴァンジェリンさんに一体何をするつもりなの?」






あとがき

大分投稿が遅れました。仕事人です。 

今回も結構難産・・・それに話も全然進んでません。読者の皆様はあまりの展開の遅さにイラついてることと思います。申し訳ありません orz

最近多忙でしてssを書く時間がなかなかとれず、さらに作者の筆の遅さもあって次回もまた更新が遅れそうです。

皆様にはご迷惑をお掛けいたします。

p.s. 今回ネギ君の出番がありませんでした。次回もあまりないかも(オイ!!
  あと、今回はピッコロさんのキャラが大人げないと感じるかも知れません・・・作者のせいです、ゴメンナサイ



[10364] 其ノ三十一   エヴァに希望はあるか!?  ピッコロの浮かべる謎の笑み
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2010/01/19 21:18





ここ麻帆良学園の中でも珍しい建物であるエヴァのログハウス。

そのリビングルームで、ソファに腰を下ろしている16号の姿を見ることができる。

その巨体ゆえソファがミシミシと悲鳴を上げることも多いのだが、今日は不思議とそれがない。

ところで当の16号はというと・・・・・・呆然と何も映らない宙を見つめるだけであった。

―――――やはり昨晩のことを引きずっているようである。

彼は戸惑っている―――――自分の中で渦巻いているこのもやもやとしたこの“感情”に。

彼は悩んでいる―――――心を閉ざしてしまった家族にどう接するべきかで。

無から作られた彼には初めて味わうその気持ちは理解しがたいものだったのかもしれない。

だが、彼は思い悩む。

自分はどうしたらいいのだろうかと・・・


「鳥や動物たちとわかりあえても・・・人の感情だけは理解できないというのか」


ポツリと漏らしたその独り言が彼の今の心情をそのまま表わしていた。

人の心―――――様々なものをコンピューターで分析できる彼でも、こればっかりは計算できない。

やはり自分が機械だからいけないのか?・・・ふと考えてみた。

かつて短い間であったが、一緒に旅をしたこともあるあの双子の兄弟機ならもしかしたらわかったのだろうか?


(・・・いや、俺は何を詮ないことを考えているのだろう。思えば機械の俺に本当に感情があったのか?あの二人との旅を楽しかったと思えたのは俺の気持ちだったのか?俺が自分の心と思っているのはコンピューターで計算した結果にすぎないんじゃないのか?・・・結局のところ俺自身も茶々丸と変わらない・・・人間の心というものを本当の意味で理解していないのかもしれない)


そんな自分が茶々丸に“感情”というものを教え込もうとしていたのだ。なんと滑稽な話だろう。

・・・そんな憂鬱な気持ちになっていた。

そこでふと16号が窓の外を眺める。

そこでは青空を鳥たちが飛び交っている。


「・・・・・・外にでも出てみるか」


そう思い立った16号が腰を上げ、玄関に向かう。

だが、そこで入口の扉の鍵が開けられる音が聞こえた。

エヴァたちが帰ってきたのだろうか?

そしたら自分はどんな顔をすればいいのだろう・・・と、16号の顔が一瞬表情を曇らせる。

そのとき、彼は開けられた扉の先にいた人物に目を見開くことになる。

家主であるエヴァ・・・は当然として、その隣にいる2人の人物。

一人は、よくここの別荘を利用している関係で顔見知りの白髪の男性・・・高畑・T・タカミチ。

そしてもう一人が・・・意外なことにピッコロだった。

唖然とした表情の16号は当然彼らの眼にも入っており、

エヴァは一瞬驚いた顔を。

ピッコロは少し眉を顰めた後、平素に戻し「16号か・・・邪魔するぞ」と挨拶を返す。

タカミチは「アハハハ・・・ほんのしばらくお世話になるよ。ごめんね」と苦笑しながら告げる。

―――――なぜここにピッコロが・・・?

16号の頭をそんな疑問がよぎる。

だが、驚愕から立ち直ったエヴァはそんな16号など眼中にないように・・・いや、正確には彼を避けるようにサッとその横を通り過ぎて行った。

16号は彼女に己が疑問をぶつけようと振り返るが、昨晩のことを思い出すととても口にすることができなかった。

彼女に続いてピッコロたちもその脇を通り過ぎようとするが、そのときピッコロは


「お前には悪いが・・・少々お前の家族を傷めつけることになるかもしれん」


すれ違いざまに言われ、16号はますます驚きを深める。


「な、何があった・・・!?」


ピッコロに問いかける16号。


「あいつ曰く“決闘”だそうだ・・・お前も来るか?」


そう言い残して先に行ってしまう。

またも、立ち尽くす16号の肩をタカミチが叩きつつ、


「まあ・・・エヴァが心配なら君も来てみるといい。君にはその権利があるはずだ」


タカミチの言葉に16号は一瞬の間を置いて、部屋の奥に足を運ぶことで返事とした。










「ほう・・・この家にまさかこんな空間があったとはな・・・」


エヴァの案内で“別荘”と言われる空間に辿り着いたピッコロは感心したように呟いた。

辺りを見渡すと外の世界と何ら変わりがないほど広い。

とても、あのミニチュアと同じ空間とは思えなかった。


「ええ・・・僕も初めて見たときは驚きましたよ。でも、確かにここなら先生でも思い切りやれますね」


エヴァの決闘を受けた時、2人はすぐその場でやりそうな雰囲気になっていたのだが、人目がないとは言えない状況で流石にそれはやめてくれとタカミチが待ったをかけたのである。

タカミチにそう言われ、ピッコロはともかく、エヴァの方は肝心の人形が手元にないことにようやく気付いたようで、どちらにしろ一旦家に戻る必要があった。

それならと、決闘にちょうどいい場所としてエヴァの“別荘”が挙げられたのである。


「うむ・・・それにしても、この空間に入った瞬間に外界からの気が全く感じられなくなった。これは一体・・・」

「ああ・・・それは多分ここと向こうの時間の流れが違うので空間的に完全に遮断されてるからですよ」

「何っ!?時間の流れが違う・・・?」

「ええ・・・確か今は向こうの1時間がここの1週間に設定されてるはずですよ」


元々は向こうの1時間がここの1日に相当していたのだが、タカミチの、「少しでも多く修業してネギたちに追い付きたい」というたっての希望で別荘の時間の流れを数年前から変えてもらっていたのだ。

ただ、その作業は魔力を封印されたエヴァには相当メンドクサイものだったらしく、当時のことを振り返るとあまり良い顔はしないようだが・・・


「む・・・?この妙な機械は何だ?」


ピッコロは別荘の庭にあたる広場の中央に鎮座する巨大な機械を指さす。


「ああ・・・それは重力制御装置です。先生の知り合いが重力負荷の修業でかなり強くなったって聞きましたからね。僕もやってみたくなって作ってもらったんですよ。そろそろ100倍に挑戦しようかなって思ってるんですけどね」


一部タカミチが何気に末恐ろしい発言をしていたが、ピッコロはその部分より機械の方が気になるらしく、


「時間が違う上に、重力制御だと・・・これではまるで『精神と時の部屋』だな・・・」


かつて神の宮殿にあった修行場と同じ類いの空間がこんなところにもあったことにピッコロは驚きっぱなしであった。


「こんなものを作れるあたり、魔法使いと言うのも案外侮れないのかもしれんな・・・」


ピッコロから初めて魔法使いを称賛する言葉が出るくらいそれは衝撃的であった。


「フフフ・・・少しは私の偉大さがわかったようだな」


不意に後ろから声をかけられたピッコロが振り返ると自らは昨晩も着ていた黒衣に身を包み、傍らにメイド服を着せた人形を連れたエヴァの姿があった。


「ケケケ・・・コイツカ?御主人ガ言ッテタ魔族ッテノハ?」


突然人形がしゃべりだしたことにピッコロは怪訝な顔をする。


「・・・何だその人形は?」

「フフフ・・・気になるか?こいつは私の従者の一人、チャチャゼロだ」

「ケケケ・・・マアオ手柔ラカニ頼ムゼ」


口元をニヤリと歪めながらエヴァが紹介する。

そのチャチャゼロは手に持ったナイフをチラつかせながらピッコロを値踏みするように見る。

たかが人形風情にそんな目で不躾に見られたものだから、ピッコロの機嫌がさらに悪くなる。


「フ~ン。御主人ヲアッサリ気絶サセタッテ聞イタカラドンナ奴カト思ッタガ・・・ナルホド、コイツハ久々ニ殺リガイノアル相手ニナリソウダ」


人形ゆえにその表情の変化は読み取れないものの、声から喜びの色を感じる。

タカミチなどは長い付き合いなので、チャチャゼロが相手に飢えているがゆえにピッコロのような実力者と戦えるのがよほど嬉しいのだとすぐに理解できた。

だが・・・ピッコロの方はそこまで嬉しくないようである。


「・・・おい。まさかここに来て人形遊びをするんじゃないだろうな?」

「フン。人形遊びとは心外だ。『人形遣い』の異名を持つ私にとって人形は立派な“武器”!・・・この決闘に武器の使用は禁じらていない。だから私はこいつを使って戦わせてもらう」


本来なら茶々丸もいた方がいいのだが、連絡もとらないままにこちらに来てしまったこともあり、また生憎と昨日のダメージがまだ修復しきれていないらしく万全な体制とはいえないため、仕方なくチャチャゼロだけで戦うことにしたのだ。


「2対1というわけか・・・フン。くだらんな。数が少し増えたところで状況は覆らんぞ」

「ケケケ・・・アア言ッテルゼ御主人」

「・・・やはりキサマは全力で潰さなくては気が済まん!すぐにその減らず口を叩けなくしてやる!!」

「・・・ほざけ」


両者が睨みあい一色即発の雰囲気。

その張り詰めていく空気中をタカミチ、そして建物の中から窺っている16号が見守る。

だが、その空気が次にピッコロが放った一言で一変する。


「・・・片手だ」

「・・・何?」

「片手だけで相手をしてやると言ってるんだ。俺からのせめてものハンデだと思え。・・・もっともそれだけあればキサマを躾けるには十分すぎるくらいだが・・・」


己が右手を掲げながら今度はピッコロが不敵な笑みを浮かべる。

それを見たエヴァの怒りが沸点に達する。


「キ、キサマ・・・私にそんな口を聞いたこと後悔するなよ!」

「ほう・・・ならば後悔させてみろ」

「クッ・・・嘗めるなぁぁぁぁ!!!」


ついにエヴァが飛びかかったことで戦いの火蓋が切って落とされる。


「フッ!!まずは先手を取らせてもらう!!」


たちまちエヴァの右手に魔力が込められる。


「喰らえっ!!『魔法の射手』!!」


ピッコロに接近したエヴァから無数の矢が放たれる。


「フン。洒落臭い・・・!!」


だが近距離にも関わらずピッコロはそれら軌道を一瞬で見切り、全弾最小限の動きで回避する。

的から外れた矢は大理石の床に被弾し、土煙を巻き起こす。

だが、エヴァの攻撃はそれで終わるはずもない。

十分に接近し魔力を込めた拳をピッコロに叩きつける。

だが、



パンッ



ピッコロが右手でその拳を難無く受け止める。


「チッ・・・」


舌打ちをするエヴァだがすぐにその顔が気悦に歪む。

すると、ピッコロの後ろから煙を突き抜けて小さな影が躍り出る。

・・・チャチャゼロだ!


「隙アリダゼ!!」


完全に死角からの攻撃にピッコロは面食らう。


「・・・お前がな」


・・・はずもなく、即座に半身になることでナイフの軌道から身体を逸らし、ほんの一瞬体勢を崩したチャチャゼロに肘打ちをかけた。


「グラッ!?」



ズゴンッ!!



頭上から強い衝撃を受けてチャチャゼロの小さな身体が床に減り込んだ。


「なっ!?」


奇襲が失敗したことに驚くエヴァ。

そして彼女の眼の前でピッコロの人差し指がピンッと弾かれたかと思うと、



ドオォォッ!!



「むっ!?ぐわあああっ!!」


衝撃波が生じ、それを正面からまともに受けたエヴァが吹っ飛ばされる。


「ガッ!?」


背中からもろに床に打ちつけられ少女は悲鳴を上げる。


「ぐっ・・・くううう・・・・」


だが、勝負はまだ始まったばかり。痛みに顔を顰めながらも起き上がる。


「おい・・・忘れものだ」


ピッコロは床に沈んだチャチャゼロを拾い上げるとエヴァに投げてよこす。

慌てて受け止めたエヴァはその傷ついたボディを見て驚愕する。


「なっ!?こ、これはどういうことだ!?なぜたった一撃でこれほどのダメージを・・・」

「ス、スマネエ御主人・・・」


ボロボロのためか、チャチャゼロの声も途切れ途切れだ。


「ケッ・・・自慢の人形とやらもこの程度か。笑わせるぜ」

「くうっ・・・!!チャチャゼロよ、まだいけるか?」

「ア、アア・・・何トカナ」


傷ついた身体を圧して主の呼びかけに答えるチャチャゼロ。

だがこのとき既に、この従者は敵から本能的に何かを感じ取っていた。


(コイツハ危ネエ・・・何故カハワカラネエガ、俺タチトハマルデ次元ガ違ウ。ソンナ気ガスルゼ)


チャチャゼロは主人に進言するか迷う。

しかし彼女の性格を考えると自分が言ったところで果たして聞き入れてくれるだろうか?

そうこうしているうちにエヴァがチャチャゼロに小声で指示を出す。


「近接戦では分が悪い。まだ私は封印状態だから魔力が保つか心配だが、ここは火力が強い攻撃で遠距離から攻めるしかない。・・・お前は近距離から敵を引きつけろ」

「・・・ワカッタ」


お互いに頷いてすぐに2人は散開する。

だが、ピッコロは視線を動かすそぶりも見せない。興味がなさそうであった。

打ち合わせ通りチャチャゼロがピッコロ目がけて切り込んでくる。


「フン。どれ・・・人形とやらがどれほどできるか試してやるとするか」


チャチャゼロの攻めにピッコロは動じずに迎え撃つ姿勢をとる。

だが口ではああ言ったものの、ピッコロは内心では決して油断などしていなかった。

チャチャゼロの人形としての容姿の割に動きが素早く、技のキレもあることにちゃんと気づいていた。

だから、ほんの少しだけ魔法使いの操る人形というものに関心が出てきたのである。


「悪イガ殺ス気デ行クゼ!!」


チャチャゼロのナイフが無数の斬撃の弧を描く。

その太刀筋をこれまたピッコロが寸前で見きって交わしていく。

それはまさに高速の世界。常人では見ることもままならない。


「チッ・・・コレダケ繰リ出シテ一太刀モ喰ラワナイトカ、ドンダケ化ケ物ナンダヨ」

「人形にしてはなかなかの動きだがそれでは俺を捉えることなどできんぞ・・・ん?」


ピッコロは上空で魔力らしき気配を感じた。

そこを見やるとエヴァが空気中の水蒸気を魔力で凍らせ、空中に数多の氷塊を精製していた。


「これならどうだ!!『氷神の戦鎚』!!」


エヴァが腕を振り下ろすと同時に氷塊が勢いをつけてピッコロ目がけて落ちてくる。

それでもピッコロは慌てることなく、


「カアッ!!!」


気合とともに両眼から怪光線を発射する。



ドオオオオンッ



光線は氷塊にぶつかり、爆発を起こした。


「今だ!チャチャゼロ!!」


エヴァが掛け声とともに氷で作り上げた断罪の剣を投げつけた。

チャチャゼロは明らかに身の丈の倍以上はあるその剣を受け取ると、軽々と振り上げピッコロに斬りかかった。


「ヨシッ!今度コソモラッタ!!」


エヴァが攻撃したとき、ピッコロに生じた一瞬の隙・・・今度は外さない。そう思った時だった。



バキーンッ!!!



なんとピッコロは魔力のこもった氷の剣を指一本で以て迎撃した。

指が剣に触れた瞬間、剣が割り箸のようにポッキリと折れてしまう。


「「!?」」


これにはチャチャゼロはおろかエヴァも驚きの表情を浮かべる。

すると今度はチャチャゼロに隙ができた。ピッコロがその顔を掴んで地面に叩きつける。


「ガッ!!」


短い呻き声を上げて、チャチャゼロが地面にぶつけられた途端、ボディのパーツが飛び散った。


「ちゃ、チャチャゼロ!?」

「ワ、悪イ御主人・・・俺ハモウダメダ」


この瞬間、首だけとなったチャチャゼロは実質上戦闘不能となった。


バラバラのチャチャゼロを見た後、上空のエヴァを見やりながらピッコロは言う。


「どうやら人形ごっこも終わりのようだな。・・・どうした?さっきから俺はほとんどこの場所から動いていないぞ。この調子では本当に片手だけで終わってしまいそうだな」


淡々と告げるピッコロはまだまだ余裕。

一方のエヴァはまたしても戦術が破られたばかりか、自分の最古参の従者まであっさりやられてしまったことに歯ぎしりを立てて悔しがっている。


「くそっ・・・封印さえなければこんなやつ・・・こんなやつなんかに~!!」


怒りに身を震わせるエヴァに向けてピッコロはさらに挑発をかける。


「おい。キサマ、いつまで遠くから俺を眺めているつもりだ?悔しかったらこっちにかかってこい。・・・それとも俺が怖くて近寄れんのか?」


その一言でエヴァの理性の糸がぷつりと切れてしまう。


「い、言わせておけば!!・・・キサマが怖いだと・・・ば、馬鹿にするな~~~!!!」


エヴァは怒りの任せるままに手に魔力を巡らせ、呪文を唱え始める。

そして手当たり次第にピッコロに魔法をぶつけていく。


「『氷の17矢』!!」

「『闇の17矢』!!」

「これならどうだ!!『雷の斧』!!」


エヴァが今の自分がもてる最大の威力で魔法を連続で打ち込む。

しかし、ピッコロはそれを迎撃するでもなくただ突っ立っているだけであった。

魔法がピッコロの姿を飲み込む。

そして・・・



ドゴオオオオオンッ



激しい爆音が轟いた。


「ハア・・・ハア・・・ハア・・・くそっ!力任せにぶっぱなした所為かかなり精神力を消耗している。・・・まあいい。どうせ奴は障壁を張った様子もないしほぼ直撃だろう。あれだけ喰らえばいくら魔族といえども・・・」


手応えありと会心の笑みを浮かべるエヴァだったが、彼女の認識は甘かった。甘すぎた。

突如巻き上がった土煙の中から異常に伸びてきたピッコロの腕が彼女に襲いかかってきたのだ。


「なっ!?グワアアアアッ!!」


動揺する彼女の首を掴んだ腕はそのまま彼女の身体を引き寄せる。

そうして掴みあげられたエヴァの眼に傷一つないピッコロが映る。


「ば、馬鹿な・・・!?」

「フン。大した自信だが、キサマの攻撃は俺に言わせれば蚊が停まったようなものだったぜ」


ピッコロの握力が増すとエヴァの口から悲鳴が漏れる。


「ウァァァァッ!!」

「・・・つまらんな」


ピッコロは呆れたようにエヴァの身体を床に放り捨てる。


「ガッ!?・・・ゼェー・・・ハァー・・・ゼェー・・・ハァー・・・」


苦しみから解放され大きく息を荒げるエヴァ。

だが、彼女の地獄はここで終わりではない。


「いいかげん待ち構えるのには飽きた・・・今度はこちらから行かせてもらうぞ」

「!?」


いつの間にかエヴァの前に立ったピッコロはその頬を軽く張った。

だが、ピッコロにとって“軽く”ても常人には過ぎた威力である。

それはエヴァに対しても当然言えることであって・・・



ダアアアアアンッ



派手な炸裂音とともにまたしてもエヴァの身体が吹っ飛ばされる。

広場の床を一直線に進みながら地面に引きずった跡を残して停まる。

倒れたエヴァのもとへピッコロがゆっくりと歩み寄っていく。


「キサマにはたっぷりと教えてやる。誰に喧嘩を売っていたのかをな・・・」

「グッ・・・!?」


彼女が目にしたのはまさに魔族と言って差し支えない強烈なオーラを身に纏った戦士。

このときエヴァは嫌でも悟らざるを得なかった。

自分が相手にしているのは決して触れてはならない者だったということを・・・

だが、今の彼女にはダメージの残った身体に鞭打って立ち上がり、ただ敵を睨めつけることぐらいしかできなかった・・・













その頃ネギはと言うと・・・


「フ~やっと仕事が終わった~」


ホームルームを終え、一通りの作業をこなした後肩を鳴らしながら呟く。

10歳でこのオヤジ臭い仕種はどうなんだろうと思われそうだが、実際教師の仕事も大変なのだ。分かってあげてほしい。


「茶々丸さんやエヴァンジェリンさんのこと・・・どうしたらいいんだろう」


今日の朝茶々丸に言われたことがネギの頭にまだ残っている。

おかげで授業の方もいつもより調子が出なかった。

登校する時はあれだけ気合が入っていたのに・・・


「教師として・・・彼女たちを救うことはできないのかな?」


10歳の頭では解決できない悩みは尽きない。それでも教師となったからにはどうにかしなくちゃいけない。

・・・そんな焦りがネギの心に巣食っていた。


「あっ、ネギ!」

「アスナさん・・・」


影が差していたネギの顔がアスナと会ったことで少し明るさを取り戻す。


「あんた・・・今朝のことまだ気にしてるの?」

「ええ・・・さすがにあそこまで言われちゃうと、凹んじゃいます」


ハハハ・・・と苦笑いを浮かべて話すネギの頭をアスナがゴツンどつく。


「あたっ!!」

「あんたがそんなに落ち込んでどうするのよ!あんたはまだ子供なんだから一人で悩みを抱えんじゃないわよ。何度も言うようだけど、あたしだっているんだから少しは頼りなさいよね」

「アスナさん・・・」


やっぱりこの人には敵わないや・・・お姉ちゃんみたいだな・・・

ネギは内心でアスナの気遣いに感謝する。


「あっ、そうだ。今日の帰りなんだけどさ・・・」

「ああっ!?アスナさん、実はこのあとピッコロさんと用事があって・・・」


ネギが説明しようとした時、背後に何者かがシュタッと降り立つ気配が。


「へ・・・?」


おまぬけにも油断していたネギは背後をとられてからようやく気配に気づき・・・しかし、時すでに遅く、頭に袋を被せられ何人かに身体を持ちあげられと思ったら、スタコラサッサと拉致られてしまった。


「あれ?ネギ・・・?」


いつの間にかネギの姿が見えなくなっている。


「もう・・・どこいったのよ」


結局探しに行くことになった世話焼きな少女であった。








「え~と・・・ここは・・・?」


自分でも不思議になるくらい抵抗もせずに攫われ、大浴場に素っ裸で投げ出されたネギは後ろからの「ようこそネギ先生~!!」という掛け声に振り返る。


「わぁあ!?」


そこには色とりどりの水着美少女たち・・・もとい、3-Aの面々が迎えていた。


「な・・・なな。こ、これは?」


女性にはあまり免疫がないネギは目の前の光景にアタフタする。


「エへへ・・・なんかネギ君元気ないみたいだからね。みんなで『ネギ君を元気づける会』を開いてみたよー!」

「ホラホラお菓子あるよー」

「甘酒もあるからねー」

「食べて食べてー」


クラスメートたちがネギを囲んでワイワイガヤガヤと騒ぎ立てる。

だが、それがネギの心にも温かく、深く染み込んで・・・


「あ・・・みなさんまで。僕のために・・・」


まだ10歳の新米だけどこんなに生徒に慕われてたんだな~と改めて実感し、思わず涙が出そうになるネギ。


(今まで厳しくし過ぎて嫌われてないか心配だったけど・・・やっぱりこのクラスの担任で良かった・・・)


ここに来て、教師冥利に尽きるという気持ちを知ったネギ。

だが、徐々に生徒たちのスキンシップがセクハラまがいのものになっていったのに彼は気付いていなかった。

そして、ようやく気付くころにはもう事態は収拾できないレベルに・・・

結果、女体の海に飲み込まれることに慣れていないネギではろくに抵抗することもできず、アスナが助けに入るまで天国か地獄かわからない心地を味わうことになった。

その後、何人かの下着が謎の小動物によって勝手に脱がされていくというちょっとした事件が発生。大騒ぎとなるが、そのときネギは放心状態でそれどころではなかった。


「ハ~。また今日もドタバタした一日だったわよ・・・」


会もお開きとなり、本当に疲れましたという表情でアスナが溜息をついた。


「でも、みんなのおかげで少し元気出ましたよ」

「へー・・・」


ネギが笑顔で答えるが、アスナはやはり少し不安があるようだ。


(そういえば・・・あのとき何人かの下着が勝手に脱がされて大騒ぎになったけど・・・ネズミって言ってたかな?そう言われると、どこか懐かしい気配を感じたような・・・)


ネギが何だったかな~と記憶を探っていくと、


『随分景気悪そうな顔してるじゃねえか大将。助けがいるかい?』

「!?」


突然聞こえてきた声にネギは周囲を見渡す。


「だ、誰!?」

「え?」

「下だよ、下!」


ネギが足元からの声にふと目を向けると・・・


「あ・・・!?」

「へへ・・・。俺っちだよネギの兄貴。アルベール・カモミール!!。久しぶりさー」


そこにはネギのウェールズにいたころの数少ない友達の一人がいた。


「カ、カモ君!!」

「お、オコジョがしゃべった・・・」


驚きの声を上げるネギと、不可思議なものを見て唖然とするアスナであった。













「ガッ!?グアアアァッ!!」


またエヴァが腹を殴りつけられた勢いでぶっとばされる。

床に叩きのめされた彼女はダメージを耐えるのに必死だ。


・・・もうかれこれ2時間近くこのやり取りを繰り返している。

ここまで来れば誰の眼にも勝敗は明らかであった。

だが、性懲りもなく彼女は立ち上がってくる。まるで何かに憑かれるように。

ピッコロはそんなエヴァの足掻きを冷たい目で見据えながらなおも攻撃の手を休めることはない。


「・・・そろそろギブアップしたらどうだ?キサマが無理をしているのは俺にもわかるぞ」

「くっ・・・だ、黙れ!」


エヴァが悪態をついて立ち上がる。


「私は・・・誇り高き悪の魔法使いだ・・・キサマなんかに死んでも屈するものか!!」

「フン。その誇りとやらが聞いて呆れる。昨日は16号との戦闘で弱ったネギを殺そうとしたくせに・・・」


ピッコロの言うことは正論。ゆえにエヴァも言葉を詰まらせるが、


「ぬうううっ・・・キサマに何がわかる!?」


叫びながらエヴァが飛びかかる。


「・・・フン」


だがピッコロはエヴァの攻撃を余裕で回避するとその後頭部に手刀をお見舞いする。


「ダッ!?」


再びエヴァが地面に転がされる。


「何度やっても同じことだ。なぜ無駄な抵抗をする?」


ピッコロの問いに対してもエヴァはただ黙って身体を起こすだけであった。

もはやボロボロになったその身体は起き上がるだけで精一杯のはずなのに。


「・・・やはりな」

「・・・何がだ?」


ピッコロが呟いたことに反応するエヴァ。


「キサマがネギと戦っていたときから感じていたことだが、キサマ・・・ネギに執着しているように見えて心の奥底では全く違う何かを見ている」


ピッコロの核心を突いた指摘にエヴァは眼を見開く。


「キサマの事情についてはタカミチから少しは聞いている。だが、キサマのその目・・・世の中すべてを憎んでいるようでその実、まだ捨てきれないものを抱えている」


ピッコロは冷静な口調で分析していく。


「しかし・・・キサマはその気持ちを認めたくないようだ。キサマのプライドや劣等感、いろいろなことが雁字搦めになってその気持ちを表に出すのを拒んでいる・・・そんな状態だ」


ピッコロが差す視線が鋭くなる。


「俺にはキサマがその苦しみから逃れようとしてただ空回りしているようにしか見えん。・・・キサマのその目は本当は何を見ている?キサマの望みはネギを倒し、自分の封印を解くことか?・・・本当は違うんじゃないか?」


エヴァはその視線に射すくめられて動けなくなる。

身体の震えが止まらない。


(私が本当に見ているものだと!?・・・私は悪の魔法使いだ。自分の欲望のためならどんな手だって使ってやる。そして今の私の望みはこの馬鹿げた日々から解放されること・・・。そのためにも坊やの命を・・・!!)


自らを悪で塗りつぶそうとする彼女の頭に突然ナギのあの言葉が浮かんでくる。


『光に生きてみろ、エヴァンジェリン!!』


(何故だ・・・何故今になってあいつの言葉が!?やめろ・・・私を惑わせるな・・・消えろ!消えてしまえ!!)











決闘の様子を建物の中から黙って見守っていたタカミチと16号。

するといきなりその2人の後ろから茶々丸が駆け込んでくる。


「ま、マスター!!」


主の反応がなくなったことに嫌な予感がして急いでこの別荘に戻ってきたのだ。

そんな茶々丸の眼に映ったのはピッコロに蹂躙され続ける主の姿だった。


「そんな・・・兄さん、止めさせてください!」


愛する主が傷つく姿をこれ以上見たくなかった茶々丸は兄に懇願する。

だが、16号は沈黙するばかり。


「兄さん!?どうしてですか!このままではマスターが・・・」


すると、16号は重い口を開いた。


「茶々丸・・・これはエヴァとピッコロ、それぞれの意地を賭けた戦い。昨日のように俺が手出しをすることは・・・許されない」


飛び出していきたい思いを抑えてその言葉を口にする16号。

だが、今の茶々丸をそんな言葉で止めることはできはしない。


「マスターを守るのが私の使命・・・兄さんが行かないというなら私が!!」


兄を振り切って飛び出そうとする茶々丸。

しかし、それをタカミチが制止する。


「どいてください。高畑先生」

「悪いがここを通すわけにはいかないよ・・・」

「邪魔をするというなら・・・あなたを排除します」

「・・・彼女は始めにこう言った。『サシで勝負する』と。彼女は君に頼らずに自分の力だけでこの決闘に臨んだ。ならば、今ここで君が出て行ったらエヴァは本当の意味でクズになってしまう。それにまだ直りきっていないその機体でどうする気だい?」


タカミチの説得に茶々丸は顔を伏せて考え込む。


「わかってもらえたかな?」

「高畑先生・・・1対1と言うならなぜ姉さんが戦闘に参加しているんですか?」

「え?そ、それは・・・一応彼女は人形だからね。武器としての参加なら特別にいいということで・・・」

「だったら私もマスターの人形の1体です。私はマスターの従者であると同時にアスターの“武器”です。それならば私も参加しても何らおかしくないはずです」

「あ・・・いや、それは・・・そのう・・・」

「行かせてもらいます!」

「あっ!?」


タカミチが言い負かされそうになった隙をついて一気にエヴァたちの前に乱入する茶々丸。

タカミチはその後ろ姿を見ながら、


「これは一本取られたな・・・」


頭を掻きつつ呟いた。









突如エヴァを庇うようにピッコロの前に立ちはだかった茶々丸に2人は瞳を驚きに染める。


「何の真似だ・・・」

「これ以上マスターを傷つけるなら・・・私が相手になります!」


ロボットでありながら強い感情を込めた視線でピッコロを睨みつける茶々丸。


「ちゃ、茶々丸・・・何を・・・」


呆然とするエヴァを振り返り茶々丸は機械とは思えぬ優しい笑顔を浮かべ、


「マスターは・・・私が必ず守ります」


そしてキッとピッコロを見据え、単身飛びかかっていく。


「タァァァァッ!」


茶々丸の放った拳打がピッコロを捉えた。



ダアアアアアンッ



力を込めた拳がピッコロの顔面に突き刺さる。


「・・・残念だったな」


だが、それもピッコロの前には効果がなかった。

ピッコロが茶々丸の腹部に手を押し当てると、


「ハアッ!!」


そこから光とともに衝撃波が発し、茶々丸を吹き飛ばした。


「ちゃ・・・茶々丸!!」


エヴァは転がっていく従者の・・・いや、家族の姿を目で追う。

そして足を引きずりながら倒れた彼女のもとへ駆け寄っていく。


「茶々丸!・・・茶々丸!!」

「マスター・・・お役に立てず申し訳ありません。私はもう動けません。ですが・・・」

「もういい!・・・何も言うな!」

「マスター・・・お一人で苦しみを抱えないでください。たとえ全てが分かりあえなくても私たちはマスターを・・・すみません。しばらくお休みを・・・」


エヴァに頬笑みを返すと茶々丸はそのまま休止状態に入った。


「くっ・・・茶々丸!」


顔を伏せるエヴァにピッコロが近づいてくる。


「キサマにはもったいない従者だな。だが、その従者もお前の身勝手な行いで犠牲になった・・・」

「ぐうっ・・・うああああああーーーーー!!」


エヴァが雄たけびを上げる。

エヴァの身体を覆った魔力が急に強くなる。


「むっ!?やつの雰囲気が変わった・・・?」


エヴァの変化を身体で感じ取ったピッコロ。

そのピッコロの方を振り返ったエヴァは渾身の力を右手に込める。


「キサマ・・・よくも茶々丸を・・・許さん・・・許さんぞーーー!!」


感情の高まったエヴァが繰りだす最後にして最高の魔法。


「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!!来たれ氷精、闇の精!!」


それは封印状態の彼女では決して放てなかったはずの術。


「闇を従え、吹雪け常夜の氷雪!!・・・『闇の吹雪』!!」


今彼女の手からその奇跡の一撃が放たれる。



ドドオオオオオッ!!!



闇に包まれた冷気の渦がピッコロ目がけて襲いかかる。


「やっとまともな技が出てきたか・・・」


ピッコロが右手を翳すと、そこに光が収束していく。


「ハアアァァッ!!」


ピッコロの手から放たれるエネルギー波がエヴァの吹雪と激突する。



ドドドドドッ!!



轟音を上げながらぶつかり合う二つの力。


「私は・・・私は・・・負けられないんだああああっ!!」


エヴァの叫びとともに吹雪の勢いが上がる。

やがて激突面から光が発し、2人を・・・そして、この空間を埋め尽くしていく。

光に飲み込まれながらエヴァの意識は刈り取られていった。







「気がついたか?」


エヴァが目を覚ますと、寝室の壁に寄り掛かったピッコロから声をかけられた。


「な、なぜキサマがここに!?」

「御挨拶だな。気絶したお前をここに運んだのは俺だぞ。・・・まあ看病は主に16号がやってたがな。あの茶々丸とかいう機械娘も16号が修理の為に連れて行った。・・・それにしても、まる3日も寝てるとは無理をしすぎもいいところだ」

「み、3日もだとっ!?」

「そう慌てるな。ここでの1週間は外の世界じゃたったの1時間だろ?お前が作ったんだろうが・・・」

「そ、そうだった・・・」


一瞬呪いのことで心配になったエヴァだったがピッコロに指摘されて落ち着きを取り戻す。


「・・・って、そうじゃない。何故キサマが私の部屋にいる!?」

「そう邪剣にするな。お前にちょっと話があって来た」


ピッコロはエヴァの方に姿勢を向けて話し出す。


「今回でわかったろ。お前の力では俺どころかネギにも遥かに劣るということが・・・」

「・・・・・・」


ピッコロの突き付ける現実に対し肯定するでもなく、反論するでもなく、沈黙で以
て答えるエヴァ。


「・・・頭では受け入れられても心ではまだ認めたくないといったところか」

「・・・・・・」


またも沈黙を貫くエヴァ。


「お前の封印についてはよく知らんが、仮に解除されたとしても俺たちとの力量差は大して変わらん。それだけは覚えておけ」


エヴァも本当は分かっている。この男には決して届きはしないということが。

だからこそその現実が、たまらなく悔しい。


「・・・泣いてるのか?」

「う、うるざい・・・グスッ・・・」


涙で鼻声になりながらも強がって見せようとするエヴァ。

そこには悪の魔法使いと恐れられた吸血鬼としての面影はない。年相応の少女にしか見えなかった。

一頻り泣きやむとエヴァは自嘲気味に語り出す。


「フッ・・・闇の福音も語るに落ちたか・・・笑いたければ笑うが良い。平和と言う微温湯に浸かり、昔の威厳は見る影もなくすっかり落ちぶれてしまったこの抜け殻を・・・それでもまだかつての栄光にしがみついている愚か者を・・・」

「・・・・・・」

「私もかつてはナギの言う光のある世界に憧れた。だが、それは私には無理だった。『正義の魔法使い』が目を光らせるこの土地では、大人しく普通の生活を送っていても過去に犯した罪によって貼られた悪の魔法使いというレッテルは付いて回る。時折、そんな視線からどこか遠くへ逃げ出したくなることがある。だが、逃げようにも封印がそれを許してはくれない。・・・どんなに言い繕ったところで結局は私はかごの中の鳥なのだ。こんな状況でどうして『光に生きる』なんてことができるんだ?」


エヴァの嘆きがピッコロに伝わってくる。

エヴァの境遇には確かに同情の余地がある。結果的にナギが無責任に言った言葉が彼女を苦しめていることも・・・


(ナギの奴・・・こちらに面倒ばかり押しつけやがって)


ピッコロは内心でナギに苛立ちながらも、エヴァの話に耳を傾ける。


「・・・ナギが死んだと聞いた時、私は光に生きることを諦めた。だからだろう。かつての自分に戻りたかった。孤独であっても、闇の中に居ても、自由気ままに生きていたかつての自分に。・・・”かつての自分を忘れない”・・・それがいつしか心の支えになっていた。だから私はこれまで誇りだけは失わずに生きてきた。・・・それがどうだ。坊やが来た途端、我を忘れ、自由になりたい一心で一人突っ走った結果がこれだ・・・勝利の為に私は従者を危険にさらし、唯一守ってきた自分の誇りさえも捨てようとしたのにな・・・。所詮この程度なんだよ。エヴァンジェリン・マクダウェルという人間は・・・」

「・・・そんなことを俺に話してどうする?」

「フン。一人くらい胸の内を知ってもらってもいいかと思ってな。それが偶々キサマだっただけだ。・・・勘違いするな。こっちは今でもキサマが憎くて仕方がないんだ」

エヴァは小さく怒ってみせるが、彼女自身が言うようにその表情はどこか抜け殻のようであった。

やがて、今回の決闘を振り返りながら自分の心情を語る。


「今回で思い知った・・・私は無力だった。従者一人まともに救うことができないただの抜け殻・・・そんな者に自由を勝ち取ることなど・・・」

「それでいいのか?」

「え・・・?」

「お前は負け犬で終わるつもりか?」


いきなりこいつは何を言い出すのかとピッコロを見るエヴァ。

だが、ピッコロの眼は本気だった。


「お前はこのままで悔しくないのか?誇りを失い、ただ現状に流されるままに生きている自分が・・・」


ピッコロに言われ、肩を震わせるエヴァ。


「・・・悔しいさ!かつて輝いていたあの頃に戻りたいに決まってる!だが、どうしろというんだ!!格下と思っていた坊やに負け、今度は喧嘩をふっかけたキサマに負け・・・プライドを失くした私にはもう何も残されてなんか・・・」

「甘ったれるな!!」



ダンッ!!



ピッコロが拳を壁に叩きつけながら一喝する。


「失くしたものは取り戻せ!自分の力でな・・・それができない奴は本当の負け犬だ」


あまりの気迫にエヴァは背筋がスッと寒くなる。


「一度しか言わない。お前はこのままでいいのか?それとも勝ちたいのか?好きな方を選べ」

「私は・・・私は・・・」


肩を震わせ、答えを紡ごうとするエヴァ。

この答え次第でこの少女の器も底が知れるというもの。

だが、ピッコロはこの少女にどこか期待していた。


「私は・・・負けたくない・・・このままで終わりたくない・・・あの頃のように強い私でいたい!!」


眼から零れ落ちる滴でシーツを濡らしながらエヴァは叫んだ。


「それがお前の答えか・・・良いだろう」


ピッコロはニヤリとあの不気味な笑みを浮かべる。


「お前に“誇り”と“自由”を取り戻すチャンスをやろう」


ピッコロの言葉にエヴァが驚きに染めた顔を上げる。


「ど、どういうことだ!?」

「ククク・・・もう一度ネギに挑戦させてやると言ってるんだ」


ピッコロからの意外な提案にエヴァはさらに驚く。


「な、何だと!?キサマ・・・言っている意味がわからんぞ。第一私では坊やに敵わないとキサマが言ったんじゃないか!」

「ああ・・・確かに今のままでは返り討ちにあうだけ・・・だが、それはあくまで現時点での話だ」

「・・・何が言いたい?」

「俺がお前を鍛えてやるとなったら話が違ってくる」

「なっ!?」

「どうだ・・・この話に乗ってみる気はないか?」







な、なんと・・・ピッコロがエヴァへネギへのリベンジマッチを提案してきた。

さらに、エヴァ自身を鍛えるという意外な発言まで・・・

一体ピッコロは何を考えているのか?

ますます急展開を見せるエヴァンジェリンとの決戦。この先さらなる波乱の予感がするぞ!

様々な伏線を残し物語は次回に続く!!














<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!エヴァがピッコロの弟子~!?一体どうしちまったんだピッコロ!?」

エヴァ「それはこっちのセリフだ!どういう風の吹きまわしだ?」

ピコ「フン。その方がこちらにも都合が良いからだ。・・・ところで、俺がお前の封印を解けるかもしれないと言ったらどうする?」

エヴァ「な、何だと~~~!?」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI『エヴァの封印解除!?  最凶師弟コンビ誕生』」

ネギ「何か僕もピッコロさんの狙いが読めなくなってきちゃった・・・」










あとがき

HAHAHA♪

今回は話が長すぎてしまったせいか気が付いたらいろいろと好き勝手に書いちゃってたぜ♪

エヴァのキャラクターが途中で変わりすぎかもとか、封印状態なのにその魔法はどうよ?とか、別荘の設定を変えんじぇねえとかいろいろ苦情はあるでしょうが、作者は後悔しません(今のところは)。

とりあえず、どうしてもダメな部分があったら後で直していくことにして、しばらくはこの形で・・・

ところでついに今回エヴァの弟子フラグが立ちました。おめでと~(?)キティ!!

前に誰かさんの感想に書いた気がしますけど、将来的にはエヴァは某野菜人の王子的な立ち位置にしていこうかな・・・と考えてます。

例えば、

ネギを助けに来た時に

ネギ「エ、エヴァンジェリンさん!!」

エヴァ「フン。勘違いするんじゃないぞ、坊や。貴様を倒すのはこの私だからな!!」

みたいな?

・・・ってこれは立派なネタばれですね。自重します(笑)www

p.s.作者は投下直前で無駄にテンションが上がっていて、おかしな言動をしてると思いますが、スルーでお願いします。



[10364] 其ノ三十二   エヴァの封印解除!?  最凶師弟コンビ誕生
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2010/02/04 11:16




そのとき、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは眼を見開いた。

先程ピッコロから、彼女にも思いもよらない申し出を受けた。

エヴァがネギを倒すのに手を貸す、というのだ・・・

こいつは何を考えている?坊やの仲間じゃなかったのか?

エヴァがそんな風にピッコロに対して疑惑の目を向けるのも仕方がないと言えよう。


「・・・それは、・・・一体どういう風の吹きまわしだ?」


恐る恐るという感じでピッコロへ疑問を何とか口にするエヴァ。

対するピッコロはエヴァの心境などどこ吹く風と言ったところで、


「おっと。勘違いをするなよ?別にお前の味方になったわけじゃない。お前の境遇に同情しなかったわけではないが、それ以上に生意気なお前は気に入らん」


だが、ピッコロはエヴァを酷評をしたかと思うとすっと口元に笑みを浮かべ、


「・・・まあ今はその根性も少しはマシになったようだがな」


嬉しそうな声色で告げた。


「だが、俺はあくまでもネギの師匠・・・ネギの敵に回る気など毛頭ない。・・・しかし、今のお前とネギとの間に圧倒的な力の差があるのは事実。相手と対等に戦うことすらもできないのはさすがに忍びないと思ってな・・・ハンデを埋められるくらいまでは鍛えてやってもいい。そう思ったまでだ」

「・・・憐れんだつもりか?私がそんなことで喜ぶとでも?」


エヴァが少し睨みを強くさせるが、ピッコロは特に気にせず、


「どう思おうとお前の勝手だが、俺はお前にただ情けをかけたいわけじゃない。・・・これはネギの為でもある。今ネギはお前などよりずっととんでもない奴らに狙われていてな、少しでも対抗できるように鍛えようとしているところだ。だが、まだあいつは幼く経験も少ない。いくら強力な力を手に入れても実際の戦いで使えなければ意味がない。だから、ここでお前と戦わせて少しでも実戦経験を積んでおきたいんだ」


ピッコロの本音を聞いたエヴァは言葉少なに、


「・・・つまり、私は体のいい練習相手と言うことか」

「悪く言うならそういうことだ。気を悪くしたなら謝ろう。言い訳するつもりもないしな
・・・別に断ってくれても俺は文句は言わん。最後はお前が決めることだ」


ピッコロは自分の発言がある意味不躾であることは分かっていた。

・・・要するにエヴァをダシにしようというのだ。プライドの高い彼女にこれ以上の屈辱があるだろうか?

だが、ピッコロはあえてそれを口にした。

今のエヴァは名誉や誇りを打ち砕かれている。そんな状態でプライド云々を持ちだすのは本来はちゃんちゃら可笑しいのである。

失った誇りや自由を取り戻したいのならば目先の小さなことに拘るべきではない。

たとえ泥水を啜ってでも這い上がらなければならないのだ。

だから、エヴァがここで要らん意地を見せて断わるのであれば、


(所詮そこまでの器だったということだ・・・)


沈黙するエヴァを見つめながらピッコロは彼女の反応を待つ。

エヴァは顔を伏せていて、その表情を窺うことができない。

だが、ピッコロはエヴァの姿に、かつていた世界で共に戦った宇宙最強の戦闘民族の王子の影を重ねていた。

彼もまたライバルや強敵たちと出会う度に何度も挫折を経験し、しかし必ずさらなる高みへと這い上がってきた男だった。

“プライド”とはまさに彼の為にあるような言葉であった。


(お前は己の運命にどう立ち向かう?・・・もし、真に誇りを取り戻そうとする者ならば答えて見せろ)


ピッコロは辛抱強く待ち続ける。

どれほど時間が経ったのだろうか。ほんの少しだったような気もするし、凄く長くも感じられた。

突然エヴァが顔を伏せたまま「クックックッ・・・」と笑い始めた。

その様子にピッコロは閉じていた瞼の片方を上げる。

笑いながらエヴァの口が開かれる。


「初めてだ・・・ここまでコケにされたのはな。だが・・・なぜだろう。不思議と腹が立たんな。前まで意地を張っていたのが嘘のようだ」


エヴァが顔を上げるとそこには清々しい笑みが浮かんでいた。


「フッフッフッ・・・私を咬ませ犬にするか・・・面白い。その提案受けてやる!坊やに追い付くためには一時の煮え湯を飲むくらいの覚悟は私にだってできている。たとえこれが貴様の打算であろうとも死に物狂いでしがみついてやる!」


強い決意を秘めた視線がピッコロを射抜く。

ピッコロは内心期待していたとはいえ、意外にもあっさりとしたエヴァの反応に少し戸惑いを見せた。


「ん?何だその顔は?」

「いや・・・もう少しごねるのかと思ったんだが」

「フン。これでも600年生きてるんだ。いつまでも子供みたいに意固地になっていられるか。・・・しかし、いいのか?」

「うん?」

「私だって無料で利用されてやるつもりはない。貴様から力を手に入れ、坊やと戦う時が来たなら・・・貴様の前であっても遠慮はしないぞ?きっちりと借りは返させてもらう」


普段の彼女らしい大胆不敵な笑みを浮かべながらエヴァは告げる。

ピッコロはその言葉に若干呆気にとられながらも、やはり口元をにやりと歪めながら、


「フフフ・・・好きにしろ。仮にお前がネギを倒したとしても恨んだりはせん。それくらいの権利はお前にもあるはずだからな。むしろそれくらいでなくてはこちらも張り合いがない」


地味ではあるが嬉しさを滲ませながら告げるピッコロにエヴァは「それと・・・」と付け加える。


「晴れて坊やを倒した暁には・・・次は貴様の番だということを忘れるな!!」


ビシッとピッコロに指を突き付けて宣言するエヴァ。

一瞬呆然とするピッコロだったが、やがて「ふ、フハハハ・・・」本日一番の笑い声を上げる。


「な、何がおかしい!?」


ちょっぴりムッとしたエヴァを尻目に、


「いや、何・・・こちらのことだ。まあ、その時が来るのかは知らんが一応楽しみにしておこう」


そう言うとエヴァに背を向けるピッコロ。


「今日はこのまま身体を休めとけ。修業は明日から始めてもいいがどうする?」

「フン。望むところだ!!」


挑戦的なエヴァの答えにどこか微笑ましいものを感じながら、


「そうか・・・なら覚悟しておけ」


そう言って部屋を出て行った。

寝室を出た後、長く伸びる廊下を渡っているとき、ピッコロは己の心が震えていることに気付いた。


(ククク・・・あの娘、つくづくお前に似ているな。ベジータよ・・・)


かつての仲間の一人の顔を思い浮かべながらまたひっそりと内心で喜ぶピッコロであった。












翌日―――――といっても、外の世界ではまだ数分くらいしか経っていないのだが―――――別荘の建物のそとに佇むピッコロの姿があった。


「むむむ・・・遅いな。何を手間取っているんだ?」


なかなか建物から出てこないエヴァに流石のピッコロも痺れを切らす。

まさかこの期に及んで怖気づいたわけではないだろうが・・・


「化粧でもしてるのか?・・・チッ、これだから女ってやつは・・・」


もしそうなら、説教の一つでもしてやろうと思っていた矢先ようやくエヴァが外に出てくる。


「待たせたな」


だが、ピッコロはその姿を目にして絶句する。


「お前・・・その髪は?」


なんと、エヴァの、あの長く伸ばしていた美しい金髪が肩口でばっさりと切りそろえられていた。

エヴァは驚くピッコロの反応が面白いのか、してやったりといった表情で、


「ああこれか・・・なあに、ただの願かけだ。よく言うだろ?強敵との戦の前に女の髪を捧げて必勝祈願するなんて話が・・・それを真似ただけのことだ。まあ、いざ切るとなるとさすがに迷いが出てここまで時間がかかってしまったがな・・・私は神なんてこれっぽっちも信じちゃいないが、これは私自身への戒めだ。坊やを倒す日まで私は女であることを捨てる。これくらいしなくちゃ勝てそうにないからな」


どうだ似合うか?と、見せつけてくるエヴァを静かに見つめるピッコロ。

ピッコロには女性の心理がよくわからないが、それでも女性にとって自分の髪がどれほど大事なものかはなんとなく理解できた。

ましてや、今まで長くしてきたそれを切るのだ・・・相当な覚悟が必要だったろう。

ピッコロはそこにエヴァの真剣さを垣間見た気がした。


「・・・フン。まあいい。お前のその意気込みに敬意を表して“良い知らせ”を教えてやる」

「良い知らせ?」


エヴァが怪訝な顔でピッコロを見る。

この期に及んでまだ何かあるのだろうか?


「もし、俺がお前の封印を解けるかもしれないと言ったら・・・どうする?」

「な、何ぃぃぃ!?」


別荘中にエヴァの絶叫が響き渡った。


「そ、それはどういうことだ!?わ、私の、ふ、封印が解けるだと!?」

「言った通りだ。俺ならお前の封印をどうにかできるかもしれん」

「・・・素直には信じられんな。確かに貴様の力は認めるが、私ですらこいつを解くために15年かけても何も方法は見つからなかったんだぞ!そんな簡単に・・・」

「言っておくが『かもしれない』と言っただけで確信があるわけじゃない。もしかしたらダメなのかもしれん。だが、今のお前は魔法が少し使えるくらいであとはただの小娘とさほど変わらない状態と聞いた。それでは俺の修業についてこれるか疑問だし、仮に修業が可能でもネギに追い付けるのはいつになるかわからん。それに俺としてもお前本来の力がどれほどのものか知っておきたい・・・」


しかし、ピッコロに対するエヴァの疑念は晴れることはない。


「・・・貴様の言い分は分かった。だが、どうやってこれを解く気だ?」


エヴァの問いにピッコロは、


「方法は単純だ。俺が力づくでお前を縛っている術に干渉する・・・それだけだ」


あっさり言いきった。

これにはさすがのエヴァも呆れるしかなかった。この『登校地獄』の呪いがそんな方法で解除出来るのであればとっくにそうしている。

だが、それができない・・・なぜならこれをかけた人物はあの『サウザンドマスター』だ。

ろくに魔法を知らない癖にやたらめったらでかい魔力でイイカゲンに術をかけたものだから、術式が変な形で固定されてしまい当の本人以外では誰も解くことができない状態になってしまった。

一度彼女の境遇を憐れに思った学園長が解呪に挑戦したが、魔力が全然足りずに挫折せざるを得なかった。

老齢とはいえ超一流の術者であるジジイですら匙を投げたのである。魔法に関しては門外漢であるこの男にそんな芸当ができるとはとても・・・


「確かに俺は魔法というものはよく知らん・・・が、俺も・・・と言っても正確には俺の半身だが、昔は魔法に似た術を使ったことがある。だから朧けにだがお前にかかっている術をこの目で見ることができている。・・・まあ、ネギの村人にかかっている石化の呪いくらいになると仕組みが複雑すぎてさっぱりだが、お前にかかってるナギの呪いはただ力任せに縛りつけている類いのものだから逆に分かりやすい。イメージで言うとお前の身体を術式の縄でグルグル巻きにしていると言ったところか」


ピッコロの例え方にエヴァは言いえて妙だと思った。

なるほど、どうやらピッコロにはこの呪いが確かに見えているらしい。


「しかし、力づくで解除など本当に出来るのか?今まで誰にも解けなかった術だぞ!?」

「まあそこは信用してもらうしかないが・・・俺は十中八九上手くいくと踏んでいる」

「・・・えらく自信があるな」

「この手のやつは相手の力を封じることが目的だからな。それだったら俺も使ったことがある」


このときピッコロは、彼の半身である神が、まだ少年だった悟空の尻尾を封印した時のことを思い出していた。

言ってみればあれも、悟空に眠るサイヤ人の強大過ぎる力を抑えるための封印だった。

あの封印はよほど頑丈だったのか不思議と長い間破られなかったが、修業の末凄まじいパワーを身に付けた悟空が超サイヤ人4になる頃にはその力に耐えきれずついに解かれてしまった。

要するにさらに強い力でその縛めに綻びを作り、それをどんどん広げていけば、封印が解ける可能性はある。

幸い仕組みが単純なので失敗した場合のリスクも少なくて済みそうだ。

そこまで考えての提案だったのである。


「なるほど・・・そこまで言うのなら確かなんだろう。・・・わかった。貴様にこの身を任せてやる。ここまで来たらとことんやってやる」


毒を食らわば皿まで・・・の諺どおりにピッコロの誘いに応じる決意をするエヴァ。


「・・・だが、もし成功するとしてそんなあっさり私の封印を解いてもいいのか?私はここからさっさと逃げるかも知れんぞ?」


ちょっと悪戯心でピッコロに尋ねてみると、


「フン。その時はその時だ。俺との契約を破棄し逃げたいのであれば別に止めはしない。もっとも、お前は一度した約束を不意にするような奴とは思えんし、ネギから尻尾を巻いて逃げるなんて真似は今のお前の選択肢には鼻っからないだろう?」


ピッコロの応答から、やはりすべてお見通しだったかと肩をすくめて笑うエヴァ。


「ククク・・・つくづく可笑しいな、貴様は・・・まあいい。やるならさっさとしてくれ。あまり期待はしないが・・・失敗するなよ?」


本当にピッコロに身を委ねる気なのか肩の力を抜き目をつむるエヴァ。

その無防備な佇まいにピッコロは一応信用されているようだと感じた。


「・・・安心しろ。約束は守る主義だ。信用を裏切るような真似をするつもりはない。・・・俺を誰だと思っている」


言い切るとピッコロはエヴァに向けて手のひらをかざす。


「フ~・・・・カァァァァァッ!」


一旦深呼吸して気を落ち着かせたあと、手のひらに意識を集中させる。

すると、エヴァの身体を光が包み込んだ。

やがて光の中から魔法陣とともに魔力の込められたルーン文字の羅列がエヴァの身体を取り巻くように現れる。

どうやらこれがエヴァにかけられた呪いの術式が具現化したものらしい。


「・・・思った通り簡単な仕組みで助かったぜ」


ピッコロがニヤリと笑みを浮かべるとその術式の鎖に手を近付けていく。

一方エヴァの方は、


「何か・・・妙な気分だな。・・・う、ううん・・・」


と、ちょっと色っぽい喘ぎ声を上げるがピッコロは気にも留めない。

ある程度手が近づいたところで鎖からバチバチッと火花が散った。

するとエヴァの方もそれに反応してか「うううん・・・」と呻き声を上げる。


「ほう・・・さすがにナギの奴がかけただけのことはある。(まあ、この術のいいかげんさもあいつらしいが・・・)」

術を解かれることを恐れてか契約した精霊たちが必死に抵抗する。

だが、相手が悪かった。


「フン。残念だが・・・」


精霊たちの抵抗を物ともせずピッコロが術式の鎖に手をかける。



バチバチバチィィィッ!!!



ピッコロの手に電流のようなものが走る・・・が、ピッコロにはさして効くはずもなく、


「ハアアァァッ!!」


鎖を強く握り締めると、


「ドウワァァァッ!!!」


勢いよく引き千切った。



ダアアアアアンッ!!



「ウワァァァァッ!!」


瞬間エヴァに激しい光と衝撃が襲いかかる。

まるで雷にでも撃たれたかのような・・・

だが、同時に何かから自分が解き放たれていく・・・そんな感触があった。

すっと意識を手放していくエヴァをピッコロがそっと抱きとめる。


「どうやら・・・成功したようだな」









一方その頃ネギたちの方はそんな大変なことが起こっているとは露知らず、目の前のオコジョ妖精との会話で盛り上がっていた。


「・・・そこで、罠にはまった俺っちを助けてくれたネギの兄貴の心意気に惚れたのさぁ!」

「ふ~んそんなことがあったんだ。あんたも良いとこあるじゃない!」

「ア、アハハハ・・・(どうしよう・・・実はあのとき、久しぶりにウサギ肉を食べようと思った僕が罠を張ったところにカモ君が引っ掛かって、ウサギじゃないけどいいやと思って始めは食べるつもりだったオコジョがいきなりしゃべったっていう事実に凄く気味が悪くなって食べるのを止めたからだなんて・・・とてもじゃないけど言えない・・・)」


何気に黒歴史を胸の内に仕舞っているネギを余所にカモの自慢話は続く。


「その後も兄貴にはいろいろ世話になっちまって・・・ホント感謝するぜ!」

「ア、アハハハ~・・・いや~懐かしいなあ。カモ君も大きくなったよね~」


胸に罪悪感を覚えながらも、何とか話題を変えようと頭を巡らせるネギ。


「―――――ところで兄貴、見たところちっとも進んでないみたいじゃないですか」

「え?何が?」


カモが切り出したことにネギが思い当たらないのか、きょとんと首を傾げる。


「何って・・・決まってるじゃねえか。パートナ「カモ君・・・ちょっとそこでお話ししよっか」あ、兄貴っ!?」


いきなりカモの首根っこを掴んで誰もいない教室に連れ込むネギ。

ピシャッと閉じた扉から数分後、ネズミが潰されたような声が聞こえてきた。

後に残されたアスナはそれを聞いて冷や汗をダラ~っと垂らす。

やがて、すっきりした顔でネギが扉から出てくる。


「いや~お待たせしました」

「え?ネギ、さっきのオコジョは?」

「え?・・・ああっ!カモ君ならちょっと自分探しの旅に出てくるってどっか行っちゃいましたよ?」

「え・・・いや、さっきそこから普通に悲鳴が・・・」

「嫌だな~アスナさん。そんなことあるわけないじゃないですか。空耳ですよ、空耳!!」

「え・・・あ、あと、さっきあいつがパートナーって・・・」

「アスナさん・・・あなたは何も聞いていない。良いですね?」

「え・・・どうし「い・い・で・す・ね!?」・・・う、うん!わかった」


ネギの只ならぬ気迫に押されて結局頷いてしまうアスナだった。

あのオコジョがどうなってしまったのか・・・それを知る者は今のところ一人しかいない。











「う、ううう・・・」

「気がついたか」


気絶したエヴァが再び目を覚ますと、ピッコロが見下ろすように見つめていた。


「グッ・・・私は一体・・・・・・っ!?」


硬い床から身体を起こすと突然エヴァの顔が驚きに染まる。

消えている・・・いつも感じるあの何かに拘束されたような感触が・・・!

そして、戻っている・・・あの頃の力が・・・!


「これだ・・・これだった!!私が今まで求めていたものは・・・!!」


己が手のひらを見つめてエヴァが感慨深げにつぶやく。

その言葉の重みは・・・当人以外はとても推し量れるものではないだろう。


「フッ・・・フハハハハハ・・・感じる、感じるぞ!!この身体に満ち満ちていく魔力が!」


自然と湧きあがってくる力・・・何者にも縛られない圧倒的なパワーが・・・

そっと右手に魔力を込めてみる。

ついこの間まで遠い夢だったはずの膨大な魔力量があっという間に蓄積された。

それを思いっきり、目に入った雄大な渓谷に向かってぶつけてみる。



ドドオオオオンッ!!!



凄まじい音を立てて爆発が起こる。

巻きあがる土煙・・・そして、無残に砕け散る岩山。

間違いない・・・


「私は・・・私は・・・呪いから解放されたっ!!」


エヴァが傍にピッコロがいるのも構わず叫んだ。


「は・・・ハハハハハ・・・・・・」


エヴァは声高らかに笑った。眼に涙を滲ませながら・・・

ナギに呪いをかけられ、好きでもない学校に通わされ、彼が帰ってくる日までその地獄にひたすら耐える日々・・・

魔法使いたちに睨まれながら自由のない鳥かごの中でただ空を眺めることしかできなかったあの頃・・・この日をどれだけ待ち望んだことか。


「心地よい風だ・・・これが自由なのか・・・」


う~んと肩を伸ばしながら両手を広げ全身で風を受けるエヴァ。

別荘によって人工的に作られた風ではあったがエヴァにはそれが天からの祝福のように思えた。

ただただ喜びに浸っている彼女の後ろからピッコロが声をかける。


「喜んでいるところ悪いが・・・そろそろ修業を始めてもいいか?」


その声でピタッと笑いが止む。

やがてゆっくりとピッコロに振り向き、


「フッ・・・かつての力を取り戻した今、私に恐れるものなど何もない。どんな修業でも受けて立つ!!」

「フン・・・大きく出たな。ではその力・・・思う存分見せてもらうぞ!!」


言うや否やぶつかり合っていく両者。


「タァァァァッ!!」

「オオオオオッ!!」


接触したところで衝撃が走り、別荘の空間をまたしてもまばゆい光が覆っていった。













「ハアッ・・・ハアッ・・・ハアッ・・・」

「ふむ・・・お前の力は大体わかった」

「ハアッ・・・ハアッ・・・ば、化け物め・・・」


ボロボロの服を身に纏い、あちらこちらに傷を作りながらエヴァが悪態をつく。

対するピッコロは・・・やはり涼しい顔。


「思ったより大分力は上がっているようだが・・・それでもネギには程遠いな。まあ、あの状態からのスタートよりは大分目標に近づいたが・・・」

「そ、そこまで強いのか・・・坊やの奴は・・・」

「まあな。おそらくこの地球でネギに敵う者はほとんどいないだろう。現にここでは最強クラスと言われているナギも倒したくらいだしな・・・」

「・・・おい、ちょっと待て。今ナギと言わなかったか?」


エヴァが今日一番の驚いた顔を見せた。


「ああ。言った。・・・ネギはついこの間ナギのやつに完勝したらしいぞ」

「・・・そんな馬鹿な。やつは死んだんじゃ・・・」


呆然と開いた口が塞がらない状態になるエヴァ。


「フン・・・やつは10年前に死んでなどいない。少なくとも6年前はピンピンしていた。この俺と戦ってな。今もどこかを流離ってるんじゃないか?」


呑気に笑うナギの顔を思い浮かべてちょっぴりイラッとくるピッコロ。


「そうか・・・ナギのやつが・・・そうか、そうか・・・」


肩を震わせて顔を伏せるエヴァ。

その様子を見てピッコロは一瞬目を丸くするが、すぐにエヴァの心情を察してやれやれという顔をしながら、


「ククク・・・お前もなんだかんだ言ってあいつが生きていて嬉しいのか?」


からかい半分で尋ねた。

だが・・・


「嬉しいだと?・・・違うな・・・」


どこか禍々しいオーラを醸しだしながらエヴァが顔を上げる。

その顔は一見わらっているようだったが、その目を見れば絶対にそれが間違いだと気づくだろう。


「フフフ・・・10年も連絡もなしに死んだと聞かされ、絶望してからさらに5年も待たせときながら・・・自分はのうのうと旅だと?ふざけるなっ!!!」


エヴァからズオオオッと魔力が吹きあがる。


(ま、魔力が上がりやがった・・・!?魔力は精神に左右されると聞いたがこれほどとは・・・ナギの奴昔こいつに何をしたんだ?)


ピッコロも思わず尻ごみしてしまいそうな気迫でエヴァはさらにまくし立てる。


「自分は『光に生きろ』とか勝手なことをほざいたくせに、私との約束を忘れただと!?あのときの涙を返せ!!・・・ああ、なるほど。純情な私の心を弄んでいたのか。私が泣く姿を見て喜んでいたのか。フッフッフッ・・・良い度胸だ!!決めたぞ!坊やを倒し、この男を倒した後は貴様だナギ!!貴様だけは必ず見つけ出して私自らトドメをさしてやる!!」


完全に夜叉とかしたエヴァの形相を若干引き気味で眺めていたピッコロは、ぎょろっと自分をにらんできた目にビクッとする。


「おい・・・さっさと修業の続きだ。一日も早く坊やを倒すために貴様には全力で協力してもらうぞ!!」

「あ、ああ・・・(これが女の業というやつか・・・やはり恋愛というのはわからん)」


エヴァが何故ここまで怒りに身を焦がすのか、恋愛のれの字もわからないピッコロには一生の謎なのかもしれない。


「ん?何か言ったか?」

「あ・・・いや、何でもない。では修業の続きだったな・・・さっきも言ったように今のお前でもネギには遥かに劣る。それは今まで戦闘を魔法よ吸血鬼としての力に頼ってきたお前では基礎的な身体能力からしてネギに負けているからだ」


無論エヴァにも武術の嗜みくらいはあった。だが、それは本当に趣味の範囲内であって、自分から進んで身体を鍛えると言ったことはしてこなかった。

いや、してこなかったというよりする必要がなかったのだろう。真祖といえば魔法世界では最強種族と言われているくらいもともとのスペックが人間より遥かに優れている。おまけに滅多なことでは死なない不死の肉体・・・これらの優位性は大きい。

こうしたアドバンテージをもっていたからこそ、エヴァはさほど鍛えなくても最強の称号をほしいままにすることができたのである。

だが、それは逆に大きな欠点を生むことになる。

彼女は強くなることを忘れてしまったのである。

鍛えずとも滅多に負けることがないから、自然と相手に対して驕りが出てくる。

その驕りがいざ格上の相手と対峙したときに致命的な足枷となる。

現に格下と思っていたネギに負けたのもそれが敗因の一つである。


「お前は確かに能力的にも恵まれているのかもしれん。だが、それは普通の人間に比べての話に過ぎん。ネギや俺たちを相手にするのにそんなものは通用せん。・・・お前たち魔法使いは魔法を多用するせいか、心と身体が資本だということを忘れがちなようだな。己を鍛えることを忘れてしまってはいつまでたっても前には進まん。だからネギに追い付くためにもまずはその肉体をさらに強力に作り替える必要がある」

「・・・言いたいことは分かった。では具体的にどうすると言うんだ?」

「それはすぐにわかる・・・おい、タカミチ!!」


ピッコロがエヴァの背後に何やら合図を送る。


「何!?タカミチだと!?」


そういえば、奴も来ていたんだったとようやくその存在を思い出したエヴァ。


「おいおい・・・忘れるなんてひどいな~」


エヴァに抗議の視線を送りながらもタカミチが巨大な装置のパネルを何やら操作している。


「お・・・おい。まさか修業って・・・」

「フン。見ての通りだ。・・・いいぞ、始めてくれ」

「分かりました。それでは」


ポチっとパネルのとあるスイッチを入れるタカミチ。

すると、エヴァたちのいる広場を不思議な光が覆い尽くしたと思うと、

その一帯に巨大な重力場が発生した。


「ギャアッ!?・・・く、くうっ・・・!!」


突然かかった重力にエヴァの身体は成す術もなく地面に叩きのめされる。

顔面を強打し、痛みに悲鳴を上げるエヴァ。


「どうした?いきなり倒れこんだりして?」

「なっ!?」


ところがどうしたことだ。目の前のピッコロはこの重力の中で平然と二本足で立っているではないか。

驚愕しながら見つめるエヴァを余所にピッコロは悪戯っぽい目をしながら口を開く。


「フッ・・・どうやら立ち上がるのもままならないようだな。まあ、それも仕方がないか・・・10倍の重力ではな・・・」

「じゅ、10倍だと!?」


エヴァは告げられた信じられない現実にまたも面食らう。

そんなエヴァをニヤリと眺めながら、


「さっきの問いの答えを教えてやろう・・・お前を鍛える方法だが、一言で鍛えると言っても、お前の身体はある意味ではすでに完成されたものだ・・・それを一から鍛えなおすのは生半可な方法ではダメだ。ではどうするのか・・・一番手っ取り早いのは『環境を変える』ことだ。より過酷な方へな・・・。過酷な環境を耐え抜く生物の適応力により肉体はさらに進化を遂げる。それは真祖であっても例外ではない。だから、ネギに追い付きたいのならばまずはこの環境下での修業に耐えて見せろ」


ピッコロから下された最初の試練。

エヴァはこの時点で早くも精神的に追い詰められていた。


「(くっ!?この重力化で修業だと!?やつは正気か?・・・いくらぶっ飛んでると言ってもいきなりここまでするのか!?)」


根を上げそうになるエヴァ。だが、そんなエヴァをいつの間にか近くに寄って来ていたタカミチが冷ややかな目で見つめる。

さすがに近々100倍の重力に挑戦すると言うだけあって、これくらいの重力は朝飯前のようだ。


「おや?闇の福音ともあろう者がこんなところでギブアップかい?落ちこぼれだった僕でもクリアできたのに?」


挑発ともとれる言動にエヴァの闘志に火がついた。


「くっ・・・わ、私は最強の魔法使いだ・・・こんなところで諦めてたまるかぁぁぁぁ!!」


体中に魔力を巡らせ、唸り声を上げながら立ち上がろうとするエヴァ。

その顔が・・・上半身が・・・膝が・・・徐々に立ちあがっていくにつれ、彼女を包む魔力光も強くなる。


「ぐ・・・グギギギギィィィ!!」


歯を食いしばってようやく二足で立つことに成功したエヴァ。

だが・・・


「か、身体が・・・お、重い・・・か、かなり魔力をつぎ込んでるはずなのに・・・足が思うように動かない・・・」


一歩踏み出そうにも足が動いてくれない。

環境が変わるだけでこうも違うものなのか。


「どうした?歩けんのか?これでは修業にならんぞ!!」


ピッコロの叱咤が飛ぶ。

それにカチンときたエヴァは無理やり一歩を踏み出した。

そのときである。

足が地面に着いた瞬間・・・膝に激痛が走った。


「あがっ!?」


普段は全く気にも留めない足の踏み出しだが、重力が10倍になるということは膝にかかる衝撃もそれだけおおきくなっているわけで・・・

痛みに耐えかね膝をついてしまうエヴァ。


「ぐう・・・くそっ!!」


顔中に大粒の汗が流れる。

まさかこれほど体力を消耗するとは・・・


「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」

「・・・・・・」


息を切らせるエヴァの様子を黙って見つめていたピッコロだったが、何かを決めたようで、


「・・・タカミチ。もういい。スイッチを切れ」

「・・・いいんですか?」

「このザマでは話にならん。どうやらこいつに10倍の重力は早すぎたようだ・・・」


さも失望したかのような言い方をするピッコロ。

しかし、普通に考えればこの修業が無茶なのは分かり切ったことである。

これができなかったからと言ってエヴァの方には何の非もない。

しかし、彼女はそうは思わなかった。


(私は何をしている・・・あんな大言を吐いておきながらこんなところで挫けてどうする!!これが坊やを倒すために必要なことなら・・・どんな無様を晒そうとも絶対にやりとげねばならないではないか!)


彼女はキッと顔を上げてピッコロを睨みつける。


「・・・スイッチを切る必要はない」

「ほう・・・」


ピッコロが意外そうにエヴァを見る。


「フフフ・・・わ、私は負けず嫌いでな。む、無理だと・・・グッ!?・・・い、言われたものほど・・・攻略・・・したくて・・・し、仕方がない性分なんだ。ハア・・・ハア・・・ここでスイッチを切ってみろ・・・私は貴様を恨むぞ!」


その自信はどこからくるのか、苦しみで頬を引きつらせながらも不敵な笑みで返すエヴァ。


「・・・大した根性だが無理をしては意味がないぞ」

「フン・・・無理をするくらいがちょうどいいのさ。生憎この身体は滅多なことでは死ぬことがない。多少の無茶は効くはずだ。・・・今に見ていろ。すぐにこんな重力など克服してみせる!!」


言うとすぐに身体を起こし、歩く練習を始めた。

一歩・・・一歩とゆっくり踏みだす姿は非常に危なげで頼りない。

しかし、彼女の顔からは真剣さが感じられた。

それを見て不意に背を向けるピッコロ。


「・・・本格的な修業はまともに歩けるようになってからだな。一日も早くこの重力に慣れろ」

「くっ!・・・言われずとも・・・やってやるさ!」


そのままエヴァの方から離れていくピッコロ。

やがて、建物の方に入っていくと重力装置の支配下から解放される。


「見てなくてもいいんですか?」


タカミチがピッコロの背に声をかける。


「・・・どちらにしろ、しばらくはあのままだろう。だが、あの気迫ならもしかしたら予想よりずっと早くクリアできるかもしれん」


そう言い捨てて去っていってしまうピッコロ。

あの孫悟空でも、10倍の重力をモノにするのに数か月を要した。

タカミチに至っては1年近くもかかったのだ。

それを考えると非常に不安があるはずなのだが・・・

ピッコロにはなんとなくあの少女にはこの試練を突破出来そうな気がした。


「運が良いことにこの別荘のおかげで時間だけはたっぷりあるんだ。気長に待たせてもらおう。・・・さて、お前がこの試練に合格するのはいつになるかな?」


ピッコロの中では・・・それが早くも楽しみになってきた。








「坊や・・・待っていろ。必ずこの手で貴様を跪かせてみせる!!」


まだ、少女の修業は始まったばかり。

そして、少年の知らないところで展開される事態に果たしてこの先どうなるのか・・・それは誰にもわからない。








―――――ところでピッコロよ、ネギの修業はどうするつもりだ!?








<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!エヴァの修業は始まったけどネギの方どうするんだ、ピッコロ?」

ピコ「忘れてなどいないさ。気のコントロールを身につけるためにこの装備をつけてもらう」

ネギ「あっ!?ピッコロさんの着ているのと同じやつだ!!・・・あれ?何だか急に力が・・・」

ピコ「そいつは無駄に垂れ流している気をどんどん吸収してそれを重さに変えていってしまうんだ。今からそいつを着てこの崖を登れ!!」

ネギ「ええ!?そ、そんな~」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI 『いきなり難問!?  めざせ界王拳への道!!』」

ネギ「気を吸収してどんどん重くなる重り・・・なんか考えてたらお腹が空いてきちゃったよ・・・」










あとがき

『エヴァちゃん、エヴァータ様(笑)になる』の巻でした♪

なんかこの話書いてると某王子にキャラがどんどん近くなってしまうので内心ファンに怒られないかと冷や冷やものです。でも作者は反省しない(オイ!!

エヴァの修業風景はBGMに映画『ロッ○ー』のテーマが似合いそうな感じのものを想像していただけたらいいと思います。
・・・まあこれもあの人っぽいですけどね。でも、ただの脳筋にするつもりはないのでそこは御安心を。

何気にカモ君は酷い目にあってますが・・・作者は何も見てません。ええ、見てませんとも!!

前回のコメントでエヴァの封印は別荘では無効ではなかったか?という話がありましたが、確かに学園祭の武道大会でエヴァが刹那を対戦した時に別荘に似せた幻術世界でそのような発言をしています。しかし、私はこれは幻術であることを気付かせないために余裕のあるところを見せるはったり(?)だったと解釈しました。幻術世界だから封印を解いた自分を作っても良いわけですしね。それに、実際の別荘でもネギから血を吸って魔力を補給しなければならなかったわけですし、封印の影響が全くないわけではないと思います。

p.s.
最近プライベートで結構追い詰められてます。今気分転換にこれを書いてますが・・・正直、連載続けられるか不安になってきました・・・できるかぎり頑張りますが更新がもっと不定期になるかもです。そのときは御容赦のほどを・・・

長々と失礼しました。



[10364] 其ノ三十三   いきなり難問!?  めざせ界王拳への道
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2010/03/09 11:57




今は夕暮れ時。

ネギは昨晩ピッコロに言われた通り山奥のとある場所に赴いていた。

無論、新必殺技習得のための修業を付けてもらうためである。

カモと遭遇したあと、ネギはアスナと別れて一旦寮に帰り、すぐに支度をしてここまで来たのだ。


「確かこの辺りだったと思うけど・・・」


辺りを見回してピッコロの姿を探すネギ。

すると彼の背後からによく見知った気配が感じられた。


「フン・・・ちゃんと来れたようだな」

「ピッコロさん!」


後ろを振り向くとピッコロが腕を組んで木に寄りかかっていた。

相変わらず無愛想な表情だが、ネギの目にはその顔は非常に格好よく映っていた。

伊達に父親として慕っていないということだろう。

おまけに久々に稽古をつけてもらえるとあってか、嬉しさも一入のようだ。


「そう言えば、その顔を見るのも一週間振りか・・・」

「へ?一週間ぶり?・・・ど、どうしたんですピッコロさん!?今朝会ったばかりじゃないですか!」


突然ピッコロが漏らした一言に動揺するネギ。


「あ・・・いや、済まない。ただの寝言だ。最近物忘れがひどくてな・・・」

「はあ・・・大丈夫ですか?」

「うん!もう平気だ。心配するな!(危ない危ない・・・別荘に一週間居たと言っても、ここでは一時間しか経っていないのをすっかり失念していたぜ。まあ、どうにかネギには感づかれてないようだが・・・)」


ネギも、まさかピッコロがエヴァにも修業を付けているとは夢にも思わないだろう。

それだけに、今は下手に勘ぐられてほしくない。

ピッコロの描くプランでは、ネギとエヴァの戦いはネギを成長させる上で、もはや外せないものとなっていた。

だが、それには今のエヴァでは力が足りな過ぎる。

ピッコロが狙っているのは一方的な戦いではない―――――拮抗した勝負である。

互いに死力を尽くして相手が倒れるまで戦い抜く・・・文字通り死闘である。


(ネギには自分と互角以上の力をもつ相手との経験が少なすぎる・・・せいぜい小太郎ぐらいのものだ。それに、小太郎との組み手もどちらかと言えば遊びに近いものだしな。・・・今のネギに必要なのは、そんな生ぬるいものではない。相手と命を賭けた本気の殺し合いだ!)


ターレス達との戦いを念頭に置いた場合、戦闘中のちょっとした気の緩みはすぐに命取りになる―――――それを改めて自覚させておきたい。

そのためにわざわざエヴァに悪役を引き受けてもらったのだ。

ピッコロとしてもネギに教え子と戦わせるということにまったく心が痛まないのかといえば嘘になる。

あの心優しいネギのことだ。自分の生徒と殺し合いなんてそう簡単に出来るとは思えない。


(だが、現実の戦闘はそんなに甘いものではない。理不尽なことだっていくらでも起こり得る・・・そのことをネギに教えておかなければならない)


己の半身である神の心が痛みを訴えるが、それに耐えながらピッコロはネギと向かい合う。


「では昨日言ったように、お前には『界王拳』を習得してもらう」

「はい!!」


気合十分なのか元気よく返事をするネギ。


「準備はいいようだな・・・少しは安心したぜ。よし!まずはとりあえず咸卦法をやってみろ」

「わかりました!・・・ハアアッ!」


すぐさまネギが気と魔力をそれぞれの手に集中させにかかる。

ほどなくして手の平に集まった気と魔力は両手を合わせることで練り合わされる。


「気と魔力の合一!!」


胸の中央で合わさった手から光が溢れる。実はこの作業が最も集中力を必要とするのだが、修業した頃に何度も繰り返してきたおかげかネギは苦も無くこれをやってのける。

融合して生まれた『咸卦の気』とも呼べる力はたちまちネギの身体を包み込み、相乗的にネギの気を高めていく。


「ハアアァァッ!!」


最大限に放出されるネギの気のオーラ・・・しかし、ピッコロはそれをただ黙って見つめてるのみ。


(むう・・・ウェールズで別れた時よりは大分気の出力は大きくなっている。修業を怠ってはいなかったようだな。・・・相変わらずこいつの才能は凄まじい。考えてみればこの若さでこの技を使えるだけでも大したものだ。・・・だが、その分所々に出てくる粗は隠せていないようだが・・・やはり課題は無駄な気の消費か)


ピッコロが指摘した通り、一旦ピークを迎えたネギの気だったがしばらくすると徐々に下がる傾向を見せた。

ネギの方を窺うと、一見平気そうな顔をしているがよく見ると僅かに息の乱れているのがわかる。


「(これ以上は今のこいつにはキツイか・・・)もういい。咸卦法を解いて少し休め」

「あっ・・・ぼ、僕はまだ平気です!」

「無理をするな・・・ここは素直に言うことを聞け。始まったばかりで倒れられては俺が困る」

「・・・わかりました」


渋々咸卦法を解除し息を整えるネギ。どこか悔しそうではあるが、聞きわけがないほど彼も子供ではない。


「やはりお前はまだ咸卦法をフルに活用できていないようだ。少しバテ始めてきたのが良い証拠だ」

「・・・はい」

「今から教える界王拳はこんな荒っぽい使い方ではたちまち命を落とす・・・だから、お前の咸卦法の徹底的な弱点が改善されないかぎり次のステージに進めないと思え」

「・・・はいっ!」


ネギの瞳に再び炎が灯りだす。


「良い返事だ。・・・よし。まず始めにやることは・・・その無駄な気の消費を抑えることだ。俺が思うに、気と魔力の合一の時点でいくつか無駄がある」


ピッコロが指摘した無駄とは、一つに手のひらにわざわざ気と魔力を別々に集めること。そして、それを再び手のひらを合わせて融合させること。


―――――果たしてこの二つのプロセスは必要なのか?

確かに気と魔力を練り合わせるのは難しいが・・・気はもともと身体にある力であるし、魔力にしても外から一旦体内に取り込まれたものだ。どちらも体内に存在するのにそれをわざわざ外に出してから融合する必要はない。それだったら身体の中で直接練り合わせればいい。


・・・それがピッコロの意見である。

だが、魔法使いたちにしてみればこれほどの暴言はない。

気と魔力の融合は昔からの大きな課題だった。

言葉でいえば簡単そうに聞こえるこのテーマだが、大きな壁が立ちはだかっていた。

気と魔力は同時に発動すると打ち消し合ってしまうという問題点だ。

したがって体内を駆け巡る相反する二つの力を直接合わせることは彼らにとってかなり不可能に近いことだったのだ。

だが、一部の者たちはこの難関に立ち向かった。

長い時間と研鑽を積んだ結果、一つの答えに達したのが咸卦法である。

体内の気と魔力を別々に集め、それを体外で融合させる。

この過程を経ることでそれまで不可能とされた課題を克服したのである。

咸卦法が究極技法と言われる由縁はそこにある。

だが、言ってみればこの方法は抜け道に過ぎない。直接練り合わせるという方法にはまだ至っていない。

だから、ピッコロは真っ向からこの課題に挑むつもりだったのである。

ネギの才能を持ってすればあるいは可能ではないか・・・そう考えたのだ。


「膨大な魔力と気、そのどちらももったお前なら二つの違いをその身体でよく理解できているだろうし、力の流れを把握できれば直接練り合わせることもできると俺は踏んだ」


悪く言えば完全にネギの才能任せ・・・だが、だからこそ確信する。


「お前なら、新しい咸卦法を編み出せるはずだ・・・」

ピッコロから期待のこもった視線・・・それを感じたネギは

「やってみます・・・」


脇を両腕で絞めて構えをとり精神統一をする。


(今までの咸卦法の手順を全て体内で行うイメージで・・・)


集中していくにつれネギの額に汗が浮かぶ。


(くっ・・・!ダメだ。上手くいかない)


手のひらに集めると言う過程がないせいか、気と魔力を別々に集中させることができず、なかなかイメージがとれない。


「ネギ!二つを別のものとしてとらえるな!お前の身体に散らばった気と魔力を同じ欠片として一気に全て掻き集めるイメージでやってみろ!」


ピッコロのアドバイスでネギはイメージをガラッと転換する。

ネギの体内を駆け巡るオーラ・・・それを気と魔力に区別せずに全て丹田を中心とした渦の中に吸い込むようにして集中させる。

丹田に集まった力の渦はやがてその性質を変化させて・・・爆発する。


「ハァァァァァッ!!」


瞬間的に高まったオーラがネギの体表に視認できる形となって現れる。



ドオゥゥゥゥゥンッ!!



ネギを中心として衝撃波が発生する。

明らかにさっきの咸卦法より数段上の爆発力だ。


「まさか・・・本当に成功するとはな・・・」


実はいきなり成功するとは思ってなかったピッコロはここでもネギの天賦の才に舌を巻いた。


(悟飯とは毛色が違うが・・・末恐ろしい奴だぜ)


内心の驚きを隠しつつ、ネギにねぎらいの言葉をかけるピッコロ。


「よし!第一段階は成功だ。今度はその状態を長時間維持するために、無駄な気の発散を抑える訓練をする」


ネギの気が平常時に戻るのを見計らい、次の修業の開始を告げるピッコロ。

すると、ピッコロは指先を地面に向けて


「カアッ!!」


気合とともに光線を放ち、煙とともに一式の防具を出現させる。


「ピッコロさん・・・これは?」

「とりあえず着てみろ。話はそれからだ」


言われたように道着の上から防具を付け始めるネギ。

今ピッコロが着ているマント付きの肩当てとどこか似たようなデザインで、胴、肩、肘、膝にそれぞれ装着するようだ。

ネギも着こみながら何だかこれ格好いいなと内心嬉しくなっていたりする。


「・・・どうやら着れたようだな」

「でもピッコロさん・・・これを着て一体何を・・・」


ネギは始め、これを重りかと思ったが、着てみると意外に軽かったので拍子抜けしてしまった。

ピッコロの思惑がわからないネギは直接本人に聞いてみる。


「それは少し特殊でな・・・ネギ、それを着た状態で気を解放してみろ」

「え?こうですか?・・・・・・ハアアァァッ!!・・・あれっ!?」


ネギの身体を気のオーラが包んだと思ったら、突然それが掻き消され、同時に凄まじい重量がネギの全身にかかった。

ネギからすれば羽みたいに軽かったはずの防具がいきなり重くなったのである。

間抜けな声を上げて膝をついてしまったネギは何が起こったのか分からず慌てふためく。


「か、身体が・・・鉛みたいに・・・これじゃ力が入らない・・・」


普段のネギならこれくらいの重さでも動けるはずなのに、身体のどこに気を巡らせてもびくともしない。


「ネギ・・・一旦全身の力を抜いて気を静めろ」


ピッコロに言われた通り、高めた気を平常時まで下げる。

すると・・・


「あ、あれ?さっきはあんなに重かったのに・・・」


今度は一転して嘘のように防具が軽くなった。

身体を動かしてみるがどこも問題なく動かせる。

それではさっきの虚脱感は一体何だったのか?


「それは特殊な素材で作られていてな、着た者の気の大きさに応じて重さが変わるんだ」

「え・・・えええっ!?」


ピッコロの言葉にネギが驚きの声を上げる。


「お前が解放した気がある程度の大きさを超えるとこの防具が吸収して重さに変える。単純な仕組みだがこれがなかなか曲者でな・・・これが吸い込む気の量は半端じゃなく多い。吸収されたらその分だけ自分の気が減るから身体に力が入らなくなる。おまけに重りは解放される気の出力が大きいほど重くなるから、自分にかかる負荷はかなりのものになるというわけだ」


ピッコロが説明しながら若干口元をにやつかせると、


「特にお前の場合は戦闘時でなくても普段からかなり気を垂れ流しているからな・・・そろそろその状態でもきつくなってきたんじゃないか?」


そう言われれば、確かになんだか立っているのもだんだん辛くなってきているような気がする。

ネギは身体をふらつかせつつも、なんとか直立を維持する。


「そいつは体外に出てきた気にしか反応しない。したがってそれを着たまま動くには最小限の気を体内に留めておき、いざというときにそれを瞬間的に・・・それも、その防具が反応できないほどの短時間で爆発させるしかない」


ここに来てようやくネギもこの修業の本質を理解した。

気を重さに変えるこの防具は、ネギのように気のコントロールが中途半端な者が着れば、無駄な気を漏らしたらすぐさま重りと言う形で負荷を加え、それを耐えるためにさらに気を解放しさらに重さが加わるという悪循環に陥りやすい。

確かにこれならネギの最大の欠点である“無駄な気の消費”を減らす修業には打ってつけかもしれないが・・・


「気を瞬間的に解放するって・・・一体どうすれば・・・」


気のコントロールの苦手なネギにはそこら辺の感覚がわからない。


「こればかりは口でどうこう言っても仕方ない・・・身体で覚えるんだな」

「そ、そんな・・・」


その感覚がわからないのに・・・と、ピッコロから素っ気ない返事が来たことにネギは驚きを隠せない。

だが、ピッコロも突き放すつもりで言ったのではない。本当に身体で感覚を掴んでいくしかないのだ。


「・・・とはいえ、さすがにいきなり身体で覚えろと言ってもどうしていいかわからないのは仕方あるまい。だからこうしよう・・・」


ピッコロはネギから数歩離れた場所に立つ。そして地面に手のひらを向けて


「ハアアッ!!!」


気弾を放った。

瞬間・・・



ドオオオォォォォォンッ



雷鳴轟くが如く光が発し、激しい揺れが山全体をいや・・・麻帆良を襲った。













「わわっ!?こ、今度は何よ!?」

「そうやな~最近ここも地震が多いんと違う?」


ちょうど食事中だったアスナと木乃香は突然の揺れに当然のごとくびっくりした。

まあ、アスナは大体の原因をすぐに察することができた。


「またあいつらね・・・一体どんな無茶をしてるのよ。毎回これじゃあ、そのうち私の部屋はおろか、この土地そのものが壊れるわよ・・・」

「ほえ?アスナ~何か言った~?」

「え?ああ~何でもないわよ。独り言独り言!」

「ふ~ん。最近のアスナもなんか変やな~」

「あはは・・・気の所為気の所為!!(うっ!?案外鋭いわね・・・)あっ!私トイレ行ってくるね」


その場を逃げるようにトイレに駆け込むアスナ。

ドアを閉め、下を脱いだ状態で便座に腰を下ろす。


「フ~やっと安心した~。木乃香を誤魔化すのは大変だっていうのに・・・まったくネギたちも少しは自重してほしいわよ」

「ほほう・・・するってーと、やはり姉さんはネギの兄貴の秘密はとっくに御存じなんすね」

「そうよー。あいつが実は魔法使いなんだっ・・・て、何でトイレから声が!?」

「へへへ・・・おいらですよ姉さん」


すると、彼女の合わさった両太ももの間に白い物体が落下してきた。


「へ・・・?」


太ももを見やると、つい先ほど会ったばかりのオコジョ妖精がちょうど彼女の股間の辺りに頭を向けて佇んでいた。


「ネギ兄貴の一の子分カモミール・アルベール、只今参上!!」


決まったな・・・と、持ち前の歯を無駄にキラリと輝かせるカモ。

しかし、考えてみてほしい。

トイレの個室に麗しの美少女がスカートと下着を足首まで下ろした状態で便座に座り、さらにその太ももの上に突然オコジョが立っている。

しかも、その頭は自分の股間に向けられている。

一般常識で考えれば、こんなときの女子の反応は言うまでもなく・・・


「き、キャァァァァァーーー!!!」




その日、女子寮で一際大きな悲鳴が轟いた。













一方、その頃のエヴァはと言うと・・・


「せいっ!せいっ!せいっ!」


ピッコロが去った後も、10倍の重力下で相も変わらず修業を続けていた。


「996・・・997・・・998・・・999・・・1000!!」


ようやく、正拳突き1セットを終えたようでそのまま腕立て伏せ1000回に突入する。

「1・・・2・・・3・・・」


顔中に汗の滴を滴らせながらも、決して脇目などしない・・・そんな感じで黙々とトレーニングをこなすエヴァ。

そんな主を眺めながらコレクションのナイフを研いでいるのはチャチャゼロである。


「マッタクヨク飽キナイナ、御主人モヨ」


この従者は昔の主とはまるで懸け離れた姿に呆れとも驚きともつかない視線を向けている。

エヴァがこの空間で修業を始めて早一月・・・この光景ももはや見慣れたものだ。

ピッコロは修業3日目を終えたあたりでちょうど滞在一週間になり、ネギの修業をつけに一旦外界に帰って行った。

向こうの都合が付き次第、ときどき修業を見てくれるそうだが、次は一体いつになることやら・・・

飽きやすい性格の主のことを考えると次にピッコロが来るまでとても続けられるとは思えなかった。

だが、今回のエヴァはチャチャゼロの予想を遥かに上回った。

この一ヶ月間、4時から修業を開始して、食事や入浴を除き、10時に就寝するまでずっと修業を続けていた。

このリズムを一日も欠かすことなくだ。

おかげでこの環境でも普通に走るだけでなく、軽い筋肉トレーニングをできるくらいにまで成長した。

最近はチャチャゼロも主人の修業風景を視界に入れながら、コレクションの手入れをするのが日課のようなものになってしまった。


「ヨウヤク封印ガトカレテ最強ノ魔力モ復活シタッテイウノニヨ。コレ以上強クナッテ一体ドウスルツモリナンダ?」


エヴァが負けず嫌いなのは知っていたが、ここまでするとは到底思えなかった。

人形であるチャチャゼロにはそこら辺の心情はよくわからない。


「どうしても勝ちたいのだろう・・・あの少年に・・・」

「ナンダ?オマエモ来テタノカ16号」


一応彼女の弟分ということになっている青年が背後から姿を現す。

その視線はただエヴァ一点に向けられていた。


「茶々丸ノ具合ハドウナンダ?」

「ああ・・・今ハカセのところへ預けてきた。機体へ多少ダメージがあったようだが、メモリーなどには問題はないようだ。明日には修復できるそうだ」

「ヘ~相変ワラズ良イ腕シテルゼ。見タ目ハタダノメカ狂イノ眼鏡ッ娘ナノニヨ」

「あまりハカセを悪くいうのはよせ・・・あれでも自分の作品には愛情持って接してるんだ」


チャチャゼロの口の悪さには16号も頭を悩ませているようだ。

これがなければ、割と親しみやすいのだが。


「ソレハソウト、オマエハ御主人ノ気持チガワカルミタイナ言イ方ヲシテルミタイダガ・・・」

「俺も完全に理解しているわけではない。・・・所詮は俺も機械。あくまで推測することしかできないが、この戦いはあいつにとっても負けられないものなんだろう」

「ソコガワカラナインダヨナ~。御主人ノ負ケズ嫌イハイツモノコトダケド、ドウシテアソコマデムキニナルンダ?」


首を少し傾げて疑問の意思表示をするチャチャゼロに、16号はゆっくりと口を開いていく。


「おそらくだが・・・ムキになってるのではなく、単純に嬉しいのではないか?己が生きるための新しい目標を見つけて」

「目標ッテアノ餓鬼ガカ?」

「あの少年だけじゃない・・・おそらくピッコロもな」

「ゲッ!アノ緑魔族カヨ!?サスガノ俺モアンナヤツト殺シ合ウノハ二度ト御免ダ」


チャチャゼロも身体を一瞬でバラバラにされて懲りたらしい。

戦闘狂の彼女にしては珍しいといえる。だが、一般の強者からすればこの判断は正しい。

それくらい実力が離れているのだ。挑みにかかる奴の気がしれない。

それをあえて挑戦しようと言うのだ、エヴァは・・・

ほぼ間違いなく返り討ちにあうだろう。一生勝つことはできないだろう。そのために不毛な時間を費やすことになるだろう。

しかし、16号は止める気にはならない。なぜなら・・・


「あんなに生き生きとしたエヴァは始めて見た。お前もそうじゃないか?」


4年間初めて会ったときのエヴァは優雅な佇まいとは裏腹にどこか死んだ魚のような目をしていた。

それが、今では優雅さとは程遠い、泥臭い修業をしているにも関わらず、その瞳に爛々とした光を取り戻していた。

己より強いものの存在を許さない・・・だから、誰よりも強くなるために戦う。

まるでサイヤ人のような思考・・・だが、それがエヴァにはよく似合っている気がした。


「テメエロボノ癖ニ面白イコト言ウジャネエカ」


チャチャゼロに茶化されて、一瞬目に戸惑いの色を見せた16号だったが、


「ああ・・・自分でもそう思う」


言葉少なにそう返した。















「あ・・・ああ・・・」


ピッコロが気弾をはなったところを見たネギは絶句する。

そこには直径10メートルはあろうかという大きな穴が黒い口をぽっかりと開けていた。

今は日が傾きかけていて、薄暗くはあるのだが、仮に日が南中を指していたとしても、この穴の底にはまるで光が届きそうにない。

一体どれほどの深さがあるのだろうか・・・

地下にできた断崖絶壁ともいえる穴を目にしてネギの身体が久々に震えた。


「ぴ、ピッコロさん!こんな穴を開けたらまずいですよ!!学園長先生に怒られちゃいます!」

「フン。あんなジジイのことなど知ったことか。この土地をふっ飛ばさないよう加減しただけ感謝してほしいくらいだ」


いつになく攻撃的な口調のピッコロに、朝に何かあったのかなと余計な推測を立ててみるネギ。

だが、彼が余裕をこいていられるのもそこまでだった。


「では、ネギよ・・・お前、この穴に入れ」

「へ?」


言うや否や、ピッコロはネギの首根っこを掴むと穴の方まで近づいていく。


「ピ、ピッコロさん!?ま、まさか本気なの!?」

「俺が修業中に嘘を言ったことがあるか?」


本気で落とす気だと直感したネギはその場でジタバタもがいてみるが、ピッコロの前では無意味。


「フン。往生際が悪いぞ。6年前はこれくらいのことはやっただろうが」

「で、でも・・・それとこれとは話が・・・って手を離したーーー!?」


ピッコロの手を離れたネギの身体は重力に従い落下していく、


「くっ!こうなったら・・・舞空術!!」


身体に気を纏わせて上空に飛ぼうとするが、


「なっ!?き、気がっ!!」


自分の付けている防具の効果を忘れていたネギは、飛ぼうとした身体を覆っていたオーラが消えたことでようやく間違いに気づくも時すでに遅し・・・


「ガッ!?う、うわああああっ!!!」


さらに重くなったその身を暗い穴の底に沈めていくのだった。

ネギが落ちて行った先を見つめていたピッコロだったが、やがてドコーンという着地音が聞こえると、ネギに念話で話しかける。


『おい、ネギ!聞こえるか?』

「うう~ん・・・ぴ、ピッコロさん?」


落下の衝撃でしばらくのびていたネギだが、頭に響くピッコロの声を聞いて覚醒する。


『その様子では死んではいないようだな。とりあえず安心したぜ』

「酷いですよ、ピッコロさん・・・こんなところに落とすなんて」


真っ暗闇で何も見えない状態のせいかネギは不安そうな声を上げる。


『甘ったれるんじゃない!この修業は命が掛ってるんだからな』

「ええっ!?い、命ですか!?」

『そうだ・・・お前は今からこの地上に上がって来い。その防具を着たままでな・・・』

「ええ!?う、嘘でしょ!?」

『嘘じゃない。ちなみにこの穴は最低3000メートルくらいの深さはある。舞空術でも簡単には上がってこれないはずだ。まあ、舞空術を使おうものならその防具が気を吸収してたちまち下へ真っ逆さまだがな』

「そ、そんな~!!」


なんとも情けない声を上げるネギ。

だが、それも仕方がないのかもしれない。

流石の彼も光の差し込まない世界に放り出されたのは初めてだ。

いきなり視覚を奪われたに等しい状況に堕ちれば人間誰しも絶望感に晒されてもおかしくない。

ましてや彼は子供・・・いくら精神的に強くなったとはいえ、未知のものに対しては話は別だった。

だが、彼の師匠は残酷にも彼をその場で泣かせてはくれない。

確かに泣いたところでどうにかなるわけではないのだが・・・


『俺はお前が上がってくるまでここで待ってやるが・・・手助けはせんぞ?上がってこれなければそれまでだ。そのうち飢えでお前は命を落とす・・・』

「ほ、本気なの・・・ピッコロさん」

『グジグジ言っている暇があったら早く昇ってくるんだな。その程度の覚悟で界王拳が習得できるか!!』


ピッコロから完全に切り捨てられた形になったネギは、肩を落とす。

しかし、このまま燻っていては自分の命も危うい。

どうすればいい。

そのときネギに明暗が浮かんだ。

そうだ!!防具を外せばいい。そうすれば舞空術も使え、この地下から脱出できるはずだ。

さっそく防具が外れないか弄ってみる。

だが・・・


「ど、どうして!?・・・ぬ、脱げない・・・」


焦るネギの頭にピッコロの声が響く。


『無駄な小細工はやめるんだな。その防具は俺が許可しない限り外すことはできない』


再び訪れる絶望。

もはや、正攻法で登るしか方法がなくなった。


「でもどうしよう・・・何も見えないんじゃ、登ろうにも・・・」


手探りで壁を目指す。

方向感覚が分からないため、同じところをグルグルまわっているような錯覚に陥る。


“目で見るのではない。感じるんだ!”


かつてピッコロに言われた言葉を思い出し、目を瞑って心の目で辺りの気配を探る。

しばらくしてようやく壁に触ることができた。


「よ、よし・・・ここだな・・・」


ごつい岩肌に指をかけ、上へ上へと目指していく。

光がない分大変危なっかしいが、気配を探りながらどうにか10メートルほど登ることができた。

だが、ここに来てネギの身体に異変が起こる。


「か、身体が・・・お、重い・・・」


普段から垂れ流している気の所為で彼の身体はいつもより重くなっていた。

おまけに上る度に気の減りが早くなっている気がする。

しかし、ここで諦めるわけにはいかない。

身体の変調を感じながらもネギは登るのをやめない。

そうしてようやく100メートルの高度に差し掛かった辺りであった・・・

このときネギの頭は朦朧としてきていた。


「くっ・・・ここを・・・」


掴みやすそうな岩に右手を伸ばそうとした時、

足を掛けていた岩場が崩れ落ちた。


「なっ!?ウワァァァッ!!」


とっさに岩に手を伸ばすが届かず再び底辺まで落ちて行った。



ドシーンッ



「ガハッ!?」


激しく地面に叩きつけられ、ネギの口から血が飛んだ。


「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」


息も荒い・・・身体は限界を迎えていた。


「気を抑えながら登るのがこんなに難しいなんて・・・」


弱音を吐きながらも、ネギは身体を起こす。


(僕には覚悟が足りない。ピッコロさんはそう言っていた。死ぬ気でやらなきゃ戦えない相手ならこれくらいできなくてどうする!)


弱気になる自分を叱咤し、クライミングを再開するネギ。

だが、最初に比べて大分気が減っている。

身体にかかる重さもいつの間にか体重の何倍にもなっていた。

このままではとても頂上まで辿り着けるとは思えない。


「僕って・・・普段からこんなに気を無駄に消費してたのか・・・ハハハ、こんなことなら気のコントロールをもっと練習しとくんだったな・・・」


力なく笑いながら岩に手をかけるネギ。

その後も混濁する意識の中、できるかぎり気を抑えることに注意しながら登っていく。

だが、挑戦するたびにちょっとした気の緩みで足を踏みはずし振り出しに戻るといったことを繰り返していた。

どれだけの時間が経ったのだろう。

地面に仰向けになりながら考える。

まだゴールの半分にすら達していない。

こんなことではいつまでたっても地上に上がれやしない。

とうとう立つ力すらひねり出せなくなっていた。


「まずい・・・このままじゃ本当に死・・・」


意識もはっきりしなくなってきた。自分は起きているのか。眠っているのか。それすらもわからない・・・



こうしてネギの意識もゆっくりと闇に落ちて行った。














その様子は地上にいたピッコロも敏感に察知していた。

気がどんどん小さくなっている。

おそらくネギは生きるか死ぬかの瀬戸際だ。

自らの弟子を危険に晒す。

そんな修業が本当に必要だったのか?

こんな真似をせずともいくらでもやりようはあったのではないか?

そう聞かれれば今のピッコロはそうかもしれないと答えるだろう。

だが、あのときは必要だと思った。その判断は間違っていないと信じたい。

ネギはサイヤ人ではない。死にかければパワーアップするなどと、そんな都合のいいことは起こるとはピッコロも考えてはいない。

だが、ピッコロはここでネギの底力というものを見極めておきたかった。

絶望から立ちあがったとき何が起こるのか・・・

悟空や悟飯たちのように・・・最悪の状況を打破してくるのではないか?

もし、その可能性があるならば、それは大きな力になる。

ピッコロはそれを己の目で確かめるべく、尚も穴の前に佇む。




だが、そのとき周囲の木々から彼を窺う妙な気配を感じた。


「む?何だ?」


気配は一つ。それも大分小さい。一般人より少し気が大きいくらいしかない。

自分を窺っている視線に、まさか学園の手の者かと警戒を露わにする。

苛立たしい顔でピッコロは監視者に声をかける。


「好い加減にしろ!俺はここに来てまで誰かに無遠慮に覗かれるのは我慢ならん。そっちが顔を出さないならこちらから仕掛けるぞ!」


すると、彼を窺っていた気配が揺らいだ。

まさか気付かれているとは思わなかったのだろう。

動揺を見せた気配はやがて木々の上から降り立ち、彼の前にその姿を現した。


「む・・・女・・・だと?」


現れたのは女性・・・それもアスナや木乃香ぐらいの少女である。

黒髪をサイドに纏め、手には鞘に収まった長い刀を携えている。

てっきり男だと思っていたピッコロは面食った。


「おい。キサマ・・・この俺に用でもあるのか」


だが、少女はピッコロの問いには答えず刀に手をかける。

瞬間、


「ぬっ!?」


斬撃がピッコロの横を掠め、背後の木を一刀両断した。


「くっ・・・!!躱したか!!」


ようやく少女が悔しそうな声を発した。

まあ、これくらいの攻撃はピッコロなら目をつぶってても避けられるのだが、

少女が只者ではないことはわかったので再度問いかける。


「キサマは何者だ?どうして俺を狙う?」


すると少女は敵意に満ちた視線をピッコロに送り、


「魔の類に名乗る名などない!!お嬢様に近づく不届き物はこの私が斬る!!」

「お嬢様?一体何の話だ?」


身に覚えのないことに僅かに戸惑うピッコロに少女の刀が閃いた。


「神鳴流奥義・・・『雷鳴剣』!!」

「む!?これは・・・」


刃から放たれた稲妻の斬撃は一瞬にしてピッコロを飲み込む。

そして、



ドッシャーーーーーンッ



その名の通り雷鳴のような炸裂音が辺りに響き渡る。


「・・・やったか?」


土煙舞う中にいるであろう敵を窺う少女。

今のは完璧に直撃した。

威力も申し分ない。たとえ生きていたとしても相当ダメージは与えられたはず・・・

予想以上の手ごたえに少女の顔に会心の笑みが浮かぶ。

だが、その笑みもすぐに吹き飛ぶことになる。


「随分と余裕だな・・・だが、この程度の攻撃で良い気になるなよ?」

「!?」


煙の中から現れたのは、指先に気を集中させ剣道で言うところの正眼の構えをとったピッコロの姿であった。


「なっ・・・!?」


よく見ると少女が放った斬撃による傷らしきものはどこにも見当たらない。


「ま、まさか・・・私の斬撃を指で・・・は、弾いた!?」


少女の目が驚きに染まった。

今度はピッコロが余裕たっぷりの笑みを浮かべて少女に啖呵を切る。


「何のつもりかは知らんが、こちらも大事な用事の真っ最中だ。どうしても邪魔をする気なら相応の覚悟はできてるんだろう?」







果たしてこの少女は何者なのか?そして、ネギの運命はどうなる?

そもそも、このまま無事に夜が明けることはできるのか!?

まだまだ波乱は続く・・・









<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!ピッコロが謎の女の子に狙われた。まあ心配はしてねえけど・・・ところでネギの方は大丈夫なんか?」

ネギ「どうしよう・・・もう気も残っていないし、僕はこのまま・・・」

悟空「諦めるんじゃねえ!!・・・よし!ここはオラが力を貸してやる!!」

ネギ「あれ?なんで夢の中に悟空さんが!?もしかして本編に出ちゃうの!?」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI 『立つんだネギ!!  夢で出会ったもう一人の英雄』」

ネギ「すごい・・・僕の身体から不思議な力が湧き出てくる・・・」






あとがき

どうもお久しぶりです。試験や何やらでゴタゴタしてまして更新が遅れました。申し訳ありません。

今回もあまりお話は進んでおりません。おまけに説明口調が多いので読みづらいかもしれません。長ったらしいと思ったらそこはトばしてださい。(無責任ですみません・・・)

今後も定期的な更新は難しそうです。ご容赦のほどを・・・



[10364] 其ノ三十四   立つんだネギ!!  夢で出会ったもう一人の英雄
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2010/03/09 11:56





暗闇の中少年がただ一人倒れていた。

仰向けに寝たその顔には生気がほとんど見られず、息もヒューヒューと細いものになっていた。

―――――まさに少年の命は風前の灯であった。

そんな少年だったが、沈んでいた意識だけが運よくかろうじて回復しようとしていた。


(う・・・ここは・・・どこ?)


うっすらと目を開ける少年には暗闇が広がるばかり。


(そうだ・・・僕まだ穴の中なんだっけ)


瞼を上げるのもキツイ状態にある少年の目が再び閉じられてしまう。

少年―――ネギはおぼろげな意識をなんとか保とうとするも、身体が言うことを聞かない状況に内心お手上げにならざるを得なかった。


(ダメだ・・・僕にはもうほとんど気が残っていない。
今保っている意識もいつなくなるかわからないし・・・
そうなったら今度こそ僕も死んじゃうのかな?)

心のどこかで「最後はピッコロさんがきっと助けてくれる」・・・そう思っていたに違いない。

しかし、その考えは甘かった。甘すぎた。

始めに言っていたではないか。この修業には命が掛っていると。

ピッコロは修業中には嘘をつかない。だから、場合によればそのまま見捨てられることも十分あり得る。

あの人の性格からそれはとっくに分かっていたことではないか。

それを、勝手に自分に都合よく解釈してしまっただけではないか。

全ては修業を甘く見ていた自分が悪い。・・・そう考えればこうなるのも必然なのかもしれない。

残り少ない生命力さえも削られていく感覚。

どうやら迎えも近いようだ。


(僕は・・・もう・・・)


ネギが死を覚悟したそのとき、


『諦めるんじゃねえ!!』


頭に誰かの声が聞こえてきた。


(あれ・・・?今声が・・・とうとう幻聴までするようになっちゃったのかな)


『しっかりしろっ!!おめえはこんなところで倒れちゃいけねえ。まだやんなきいけないことがあるはずだ!』


(!?・・・幻聴じゃない!誰・・・誰なの?ピッコロさん?それともお父さん?)


ネギは声の主を見極めようと、力を振り絞って落ちた瞼を上げる。

相変わらず視界がぼんやりしているが、どういうわけか枕元に人が立っているのがよく見える。


(真っ暗なはずなのに・・・この人の立っているところだけ光が射した様に明るい・・・)


まさかあの世の使者が来たとでも言うのだろうか?


『立て!・・・立つんだネギ!おめえの力はそんなもんじゃねえはずだ』


本当に誰なのだろう。

そう思い、目を凝らして見るネギ。

やはり視界ははっきりとはいかないが、自分を見下ろす人物の顔がぼんやりと浮かんできた。

それは、ピッコロでも、ましてや父でもなかった。

まったく見知らぬ男性。

それも黒髪を特徴的なツンツン頭にした比較的体格の大きな男性だった。

青っぽい道着を来ているが、その下にある肉体はかなり鍛え上げられている。意識が朦朧としているネギにもわかるほどだ。


(誰だろ・・・この人・・・武道家か何かかな?)


なぜこの場にそんな人物がいるのかという疑問に気付かず、呑気なことを考えているネギ。

すると、ネギがこちらに目を向けたことに気付いたのか、その枕元にしゃがみ込み、ネギの身体を半分抱き起した。


「あなたは・・・誰・・・?」


『っ!?気が付いたのか!?だが、質問に答えてる暇はねえ!オラには時間がねえんだ。今はそんなことより、ここを脱出することを考えるんだ!!』


ネギの問いに答えずそんなことを言う男。


『このままじゃおめえはホントに死んじまう。だが、おめえはまだ自分の力を全て出し切ってねえ・・・』


男の言葉に驚くネギ。


「そ・・・んな・・・僕はもう立ち上がる力だってないのに・・・」


ネギは信じられないという顔で男を見る。


『それはまだおめえが自分の力をよくわかっていねえだけだ。おめえは自分が思ってる以上にすげえ力を持ってるんだぜ?』


ニヤリと男が笑った気がした。


「う・・・嘘だ。僕に・・・そんな力があるなんて・・・思えない・・・」


『自分の可能性に線を引くな!・・・おめえ自身を信じろ!』


男が励ますが、今のネギにはまだ不安がぬぐえない。


「でも・・・これ以上の力なんて・・・出せない」


死ぬ一歩手前まで来ているせいか弱気になっているネギ。

生きることまで放棄しそうになるその心に、男が渇を入れた。


『甘ったれるな!!いつでも誰かが助けてくれるなんて考えるな!どんなときも最後に頼れるのはおめえ自身の“諦めない心”なんだ!!それを失くしちまったらおめえは二度と立ち上がれない・・・だから立ってくれ!立つんだネギ!!おめえだけじゃない、おめえを待ってる人たちの為にも・・・!』


そのときネギはハッと気づかされる。

浮かんでくる・・・彼を待ってくれる人たちの顔が・・・


(お姉ちゃん・・・スタンおじさん・・・アーニャ・・・小太郎君・・・タカミチ・・・アスナさん・・・このかさん・・・3-Aのみんな・・・)


そして思い浮かべながら改めて思う。自分のことを心配してくれる人がこんなにもいることを・・・


(お父さん・・・そして、ピッコロさん)


最後に浮かんだのは子供のころから憧れていた2人。

彼らが自分の帰りを待っている。

なのに、肝心の自分がこんなところで諦めていいのか?

答えは・・・否だ!!


「僕は・・・まだ倒れちゃいけない・・・」


朽ちかけていたネギの心に再び希望と言う炎が着いた瞬間だった。


「でも・・・どうしたらいいんだ?僕には・・・これ以上・・・力を・・・捻りだす方法・・・なんて・・・わからない・・・」


悔しげにピクリとも動かない己が両手を見やるネギ。


『心配すんなよ。オラが手を貸してやる』


男が明るい声で言った。


「!?あなた・・・が・・・?」


『そうだ。オラが教えてやる。『界王拳』の全てを・・・!』


すると男がネギの額に手を置いた。

















闇に沈む森の中二つの影が相対していた。

方や刀を携えた少女。そしてもう一方はそれを迎え撃つピッコロ。

先程少女が放った一撃をピッコロが指先で弾きとばしたあたりから両者は微塵も動かず、睨みあった状態が続いていた。

これは傍から見たら互いに隙を見せないために迂闊に動くことができない、一種の膠着状態といえるかもしれない。

そうすれば大抵は両者の実力は互いに拮抗しているなんて結論が導けるものだ。

しかし、この場合は全く様相が異なっていた。

互いに動けないという条件は同じはず・・・

なのに、実際は少女の方が知らず知らずに追い詰められていた。

少女の額から汗が滝のように流れてくる。

どうしたことだ・・・目の前の男が動きを止めた途端、圧力がグンと増した・・・

そんな感じがしたのだ。

空気も一気に冷え込んだ気がする。吐いている息が白くなっていないか?・・・

こうして対峙しているだけなのに身体が震えてくる・・・まるでこの男に怯えるように・・・

まさか恐れている?そんな馬鹿な。今までこの手の奴らとは散々戦ってきたではないか。
何を今さら恐れるようなことがある?

・・・いけない。このような迷いがあっては使命を果たすことなどできはしない。

だが、どういうわけか身体が言うことを聞いてくれない。金縛りにでもあったかのように・・・

身動きが取れずに静止している外見とは裏腹に、内心は焦りを見せ始めた少女。

ピッコロがそれを見逃すはずがなかった。


「どうした?攻めてこないのか?」

「・・・・・・」


悔しげにギリッと歯ぎしりはするものの、やはり攻撃する気配を見せない少女。


「フン・・・どうやら身体はとっくに気付いているらしいな。俺とキサマでは力に差がありすぎるということに・・・」


ピッコロの挑発ともとれる言葉に少女の目が見開かれた。


「くっ・・・だまれっ!!」


叫ぶとともに少女が正面から斬りかかる。


「ハアッ!!」


己の間合いに入れるまでピッコロに接近すると、少女は刃に気を纏わせ、ピッコロに直接ぶつけてきた。

先程の斬撃に比べれば若干威力こそは落ちるが、並の魔物であったなら当たれば腕の一本や二本は軽く持っていかれる・・・いや、それどころでは済まないだろう。

だが、そんな攻撃に対しピッコロは相変わらず不敵な笑みで、特に動揺した様子も見せず、気を集中させた指先を走らせる。

キンッ・・・と金属同士がぶつかった様な音が響いた。

そして、そこで起こった現象に少女はさらに驚くことになる。 

・・・なんと少女の刀がピッコロの指先で受け止められていた。


「ば・・・馬鹿な・・・!!」


少女の口から心の呟きが漏れた。





















(凄い・・・なんだろうこれは・・・頭の中に流れ込んでくる・・・)


ネギは夢現の区別がつかないまま虚ろな瞳を宙に向けていた。

男が手を置いた瞬間、彼の頭に情報の波が押し寄せてきた。

いや・・・ただの情報ではない。これはこの男の記憶だ!!

ネギ自身が体験したことのないビジョンが次から次に浮かんできた。





『喜ぶがいい。貴様のような下級戦士がエリートに遊んでもらえるんだからな』

『落ちこぼれだって必死で努力すればエリートを超えることだってあるかもよ?』

『フン・・・面白い冗談だ。では、努力ではどうにもならない壁と言うやつを見せてやる・・・』


山吹色の道着を来た男と見たことがない服(宇宙服か?)を来た男が崖の上に立って睨みあっている。


(一人は・・・あの男の人?もう一人は・・・誰だろう?)




すると突然場面が変わり、


『もうこんな星などいるものかーーー!!!まとめて宇宙の塵にしてやるーーー!!!』


さっきの奇妙な宇宙服を着ていた男が傷だらけの風態で空中に飛び上がった。


『避けられるものなら避けてみろ!貴様は助かっても、地球は粉々だ!!』

『くっ・・・!!考えたな、ちくしょーーー!!!』


宇宙服の男が構えを取ったと思うと、その身体を紫のオーラが覆った。


(記憶の中なのにビリビリ感じる・・・凄い気だ・・・)


おそらく、フルパワーのネギに匹敵・・・いや、明らかにそれを超えている。

そんな敵の攻撃を前にし、あの男はどうする気なのだろう。

ふと、山吹色の道着(といっても上半身は脱ぎ棄てているが)を着たさっきの男を見やる。


『こうなったら、賭けるしかねえ!!』


すると、男は地に両足をしっかり踏ん張ると、


『3倍界王拳ーーー!!!』


赤い炎に身を包んだ。


(界王拳!?)


ネギは男が使った技に驚いていた。


(まさか・・・ピッコロさんが言ってた『界王拳』って・・・あれのことなの?)


一見すればネギが使っている咸卦法とよく似ている。

しかし、その中身は全く比べ物にならなかった。


(凄い・・・気の密度があんなに上がるなんて・・・)


さっきの場面とはまるで気の大きさが違う。

あの一瞬で圧倒的に有利と思われた宇宙服の男のパワーと一気に並んだ。

自分の咸卦法とは気の出力がまるで違いすぎる・・・

ネギは己の未熟さを痛感した思いだった。


(でも・・・どうしてあの人が『界王拳』を使えるの?)


ネギの疑問を余所に戦いはヒートアップしていく。


『3倍界王拳の・・・かめはめ波だーーー!!!』


男が両手を腰だめに構え、気を集中させる。


『か・・・』


すると、両手の間からエネルギーの光が発生する。


『め・・・』


赤い炎はますますその勢いを強め、大地が罅割れ、地盤が変形していく。


『は・・・』


莫大な気によって塵芥が宙を舞い、さらには地面が大きく揺れる。


『め・・・』


だが、ここで上空の宇宙服男がついにエネルギーの充填を終えてしまう。


『フハハハ・・・これで貴様も終わりだ。宇宙の塵になれーーー!!!』


上空から放たれた紫の気弾が襲いかかる。


(あんな気・・・ぶつかったらホントに地球が・・・!!)


ネギでも止められるか分からないエネルギーの塊にもはや万事休すかと思われたそのとき、


『波ぁーーーーー!!!』


赤い炎を纏いし戦士からもそれに匹敵するエネルギー波が発射された。

ぶつかり合う二つの力。

それが激しい光を生み、衝撃で辺り一帯を崩壊させる。

それでもなお、拮抗する両者。


『なっ!?お、俺のギャリック砲にそっくりだ!!』


宇宙服男が相手の技に驚愕の声を上げる。


『か、界王拳・・・4倍だぁーーー!!!』


山吹色の道着の男がさらにパワーを上げた。

その勢いは凄まじく、拮抗していた戦況が一気に傾いた。


『なっ!?お、押され・・・』


思わぬ反撃に宇宙服男が動揺するや否や、押し返されたエネルギー波をまともに食らい、吹っ飛ばされていく。


(し、信じられない・・・あの攻撃を跳ね返した・・・)


赤い炎を消し、荒い息を吐く男の背中を見ながらネギは興奮していた。


(なんて技なんだ・・・『界王拳』って!!)








『よっ!戻ってこれたみてえだな!』


(ハッ!?ぼ、僕は一体・・・)


ビジョンが消えたかと思うとすぐ目の前にさっきの男の笑顔があった。


『今のが界王拳だ。凄いパワーだったろ?』

「う・・・うん」


男の言葉にネギは素直に頷いて見せる。


「でも・・・僕には・・・とても無理だよ」


先程の戦いのような局面で自分にあんな力が出せるとは思えない。

咸卦法さえ完全に使いこなせていないのに・・・

ネギは自信を喪失しそうだった。


『大丈夫だ!!おめえにならできる!!』

「・・・え?」


ネギが男を見上げる。


『おめえはピッコロとの厳しい修業に今まで耐えてきた。そのおかげで界王拳を使えるだけの身体も技量もとっくに身につけてる』


自信たっぷりな男の言葉にネギの目はますます点になった。


『それにおめえはすでに一番大事なものを持ってるじゃねえか』

「一番・・・大事な・・・もの?」


すると男はネギの胸を指さして


『絶対に負けない、諦めたくない・・・おめえ自身の不屈の魂だ!!』


ニヤリと笑みを浮かべた。
















「ハアッ!!セイッ!!ヤアッ!!」


少女が渾身の力を込めて刀を振るう。

ぶつかり合う度に強烈な火花や炸裂音が木霊する。

少女が斬りかかり、ピッコロがそれを受ける。・・・・・・先程からこの図式がずっと繰り返されていた。

素人からすればこの攻防は少女が圧している・・・そう感じるであろう。

少女の息もつかせぬ斬撃がピッコロを襲い、攻め手を封じている・・・と。

しかし、本物の一流が見たならば実態はまったくの逆だということにすぐ気がつくはずだ。

少女が短時間に無数に放った攻撃の全てがたった一本の指で受け止められ、弾かれ、受け流される。

こちらが攻撃するより先に相手はその手を見切り的確に対応する。

さらに不気味なことに、攻めているのはこちらなのに相手はなおも余裕の笑みを崩さない。

こうした状況の中、攻撃を往なされる毎に次第に蓄積していく焦りと不安。

・・・気が付けば完全にピッコロのペースに嵌められていた。


「どうした?動きにキレがなくなっているぞ」

「くっ・・・・・・」


相手はほとんどその場から動いていない。しかし自分の動きにやすやすと着いて行っているピッコロに舌打ちする少女。

いや・・・違う。着いて行ってるのではない。わざわざ自分に“合わせている”のだ。

おそらく自分は遊ばれている・・・このときになってようやく気付いた。

何度も刃を交えるうちに理解した・・・この男は自分より力量が上だと。

このまま続けていれば負ける・・・そう確信できるほどに。

なぜこんな相手に勝てるなどと思ったのだろう。

あのとき一撃を当てたくらいで良い気になっていた自分を叱咤したい気分だ。

少女は自責するものの、事態はそんな悠長なことを許してはくれない。

こちらが手を休めた瞬間・・・“殺られる”!

ならば、こちらも大技で決めるしかない!


「しかし、この技はあまりにも威力が高すぎてこの辺りを破壊してしまいかねない。できれば使いたくなかったが・・・」


呟きとともに少女がピッコロから一旦大幅に距離をとって構える。

そして、刀に膨大な気を集中させる。

気は電気エネルギーとなって刀を覆い、やがて稲妻となって周囲を焦がす。


「決戦奥義・・・『真・雷光剣』!!」


ついに、帯電した刀から発せられたエネルギーが爆発波となってピッコロを襲った。



ドドォォォォォッ



怒涛のごとく押し寄せるエネルギー波。

だが、それを前にしてもピッコロはまったく姿勢を崩さなかった。

それどころか、口元をさらにニヤリと歪ませた。


「ようやくお出ましか・・・」


向かってくるエネルギー波に対し、ピッコロが取った行動は・・・片手を突き出すだけだった。



ズゴォォォォォッ!!!



ピッコロの手は難無く敵の攻撃を受け止める。


「カッ!!!」


そして、気合とともにエネルギー波は煙のように跡形もなく霧散してしまう。


「なっ!?」


それを見た少女は溜ったものではない。

渾身の力を込めて放った奥義があっさりと破られてしまったのだから。

だが、少女はここで終わらない。

こうなる場合を想定し、煙にまぎれてピッコロの死角に回り込んでいたのだ。


「今度こそ・・・もらった!!」


少女の刀が横一文字に走る。

ちょうど背後からピッコロの首を狩る一閃だ。

この機を逃せばもう後はない・・・!

案の定敵はこの一撃に反応できていない・・・確実に仕留められる!

まさに会心の一撃・・・このとき少女はそう信じて疑わなかった。



パキンッ



「え・・・・・・?」


少女は信じられないものを見た。

自分が振るった刀・・・それがピッコロが突き出した裏拳で受け止められていた。

そして、その刀の先端から中ほどまでが・・・

宙を舞っていた。


「そ・・・んな・・・」



ザクッ!



目を見開き呆然と呟く少女の視界に、宙を回転しながら舞った刃が地面に突き刺さる光景が映った。


「なかなかの奇襲だったが残念だったな」


ピッコロが振り向きざまに少女を見る。

少女は折れた刀を手に持ち、膝をついていた。

呆然自失とはこのような状態を言うのだろうか。


「う、嘘だ・・・私の『夕凪』が・・・」


手元で虚しく光る折れた愛刀。

それを見ながら少女の慟哭が響いた。














「不屈の・・・魂?」


ネギは男の指さす己の胸を見ながら呟いた。


『そうだ。その心があるかぎり、おめえは絶対に負けねえし、界王拳を全力全開で使うことができるんだ』

「で、でも・・・気だって・・・残ってないんだよ?こんな状態で・・・界王拳なんて・・・どうすればいいの?」


身体を動かす気さえ残っていないネギにとって男の言葉は不可解であった。


『おめえは気が残っていねえと思ってるみたいだが、それは違うぞ・・・』

「え?」

『さっきまでのおめえは身体に力を入れて無理やり力を引き出していた・・・違うか?』


確かに・・・とネギは今までの自分を振り返りながら納得する。


『それじゃダメなんだ。界王拳を使うにはおめえ自身の心と体を一致させなくちゃ!』

「心と・・・体を?」

『そうだ。人の心ってオラ達が考えている以上にすげえ力があるんだ。身体が限界だと思っていても、心が折れなければその限界を超えることだってできる。オラは戦いの中でそれを何度も経験した・・・』


ふと、一瞬男が懐かしむような顔をした後、すぐにネギに向き直り、


『本当の力って言うのは心と体が伴わなくちゃ絶対に引き出すことなんてできねえんだ。だから、ネギ・・・爆発させろ!おめえの心に滾る感情を一気に!
・・・そうすれば体は必ず答えてくれる・・・』


そういうと、男の身体が突然光り出した。


『どうやら時間みてえだな・・・オラとしたことが長居し過ぎちまったかな?』


ちょっとおどけて見せる男は「おっと・・・そうだそうだ」と今思い出した様に懐から何かを取り出し、ネギの右手に握らせる。


『これをおめえにやる。・・・訳あってオラはこの世界に長時間いられねえけど、あっちからおめえのことを見ててやるよ。この世界の地球も悪い奴らに狙われてる・・・あいつらは強い・・・けど忘れないでくれ。心に希望がある限りオラ達人間は何度でも立ち上がれるんだって!』


そういうと男は立ち上がりネギから離れ、段々とその姿を光に覆い隠していく。


「あっ・・・ま、待って・・・!!」


ネギは男に向かって渾身の力で手を伸ばす。

しかし、その手は決して届くことはない。


「僕の・・・名前を・・・知ってる・・・あなたは・・・誰なの?」


途切れ途切れに目の前の男の名を問いかけるネギ。

すると、男は満面の笑みを浮かべて、


『オラは悟空・・・孫悟空だ!!』


やがて男を包む光が強くなっていく。


『じゃあな!!ピッコロにもよろしくな、ネギ!!』


バイバイと手を振りながら男の周囲を光が覆い尽くした。


「くっ・・・!!」


眩い光に思わず目を瞑ってしまったネギが目を開けるとすでに男の姿は消えていた。


(さっきのは夢・・・だったのかな?)


狐に抓まれた・・・とでもいうのか、少し釈然としないネギだったが、


(!?み、右手が・・・暖かい)


ふと右手に目をやると、さっき男が握らせた光る球のようなものが光を放っていた。

そして、その球から放たれるエネルギーがネギの体だけでなく心にも何か不思議な感覚を残していった。


(何だろう・・・この暖かさ。とても心地いい。
まるで・・・心にまで響くような・・・)


いつの間にかネギの心には先程まであった死への不安は取り除かれていた。


(上で待っているピッコロさん、それにアスナさん達のためにも・・・ここで立ちあがらなくちゃならない!)


そう・・・死にかけの体でありながらネギの心には大きな炎が燃え上がっていた。

すると不思議なことにあれほど重かった体が徐々に軽くなっていくような気がした。

まるで枯れた大地に開いた小さな穴からから泉が湧き出るように、体に力が戻ってくる。


(凄い・・・体に力が湧いてくる・・・)


やがてゆっくりとではあるが手足も動けるようになり、自力で体を起こせるまでに回復した。


(僕に・・・まだこんな力が残っていたなんて・・・)


自分でも信じられない底力にネギは驚愕した。

そのうち、足を地につけゆっくりと立ち上がる。


(軽い・・・!それに・・・)


両手を開いたり閉じたりしながらじーっと見やる。


「やっぱりそうだ・・・この防具をつけているのに体から力が吸い取られていくような感触がない」


さっきまであった虚脱感がすっかり解消されている。

ネギにはそれが不思議だった。


「どうしちゃったんだ、僕・・・あの幻を見てからおかしくなっちゃったのかな?」


自分でもよくわからないが、今ならこの崖をクリアできそうな気がする。

いつの間にかネギにかつての自信が戻っていた。


「気を解放してみよう・・・」


そのとき、ネギはさっきの男の言葉を思い出す。


「僕の感情を爆発させる・・・そして、体と心を一致させる・・・」


目を瞑り、己の心を見つめなおすネギ。

今の彼の心を表すなら“火”・・・

それも真っ赤に燃えあがる“炎”・・・

まさにあのとき頭に流れ込んできた界王拳のイメージそのもの・・・


「今だっ!!!」


ネギの目がカッと見開かれた。


「界王拳ーーーーーっ!!!」


ネギの叫びとともに体中の気と魔力が一気に混ざり合い、真っ赤な炎となって発散した。


「ハァァァァァッ!!!」



ズオオオオオオッ!!!



それまでの咸卦法では白い炎だったネギのオーラが赤に変わった瞬間だった。


「で・・・できたっ!!」


ネギが喜びの声を上げる。

今のネギの心の叫びが顕現した姿・・・界王拳。

彼は・・・ついに手に入れたのだ。新しい武器を・・・!


「いける・・・!これならこの状況から脱出できる!!」


ネギは確信を強めるとともに光が待っているであろう天井を見上げる。


「ここから一気に行くぞ・・・だああああああっ!!!」


気合を発するとともに、思いっきり地を蹴って跳び上がった。

さっきまではとても無理だと思われたほどの跳躍力を難無く発揮している。


「だだだだだだああああっ!!!」


崖を高速で蹴っては跳び、蹴っては跳びを繰り返しながら地上を目指す。



その姿はまさに空を駆ける彗星の如し・・・

















少女の心は絶望に染まっていた。

最大奥義を破られ、続けて放った不意打ちも効かず、代償として自分の誇りでもある愛刀を失った。

完全な敗北。そして敗者である自分に訪れるのは死・・・

だが、少女がショックを受けているのはそんなことではなかった。


「う、嘘だ・・・ゆ、『夕凪』が・・・」


折れた刀を見て愕然とする少女。

少女にとってその刀は今までの彼女の努力の結晶だった。

幼馴染を守ると決めたあの日から、必死に修業を積み重ね、ついにはその努力を認められ育ての親でもある幼馴染の父から譲り受けた物だった。

その後も修練を重ね、この麻帆良に来てからもずっと苦楽を共にしてきた。

自分の生まれを忌み、それを知られることを恐れるあまり、愛しい幼馴染と疎遠になってしまった今となっては、混ざりものである自分が今持っている唯一の思い出の品でもあり誇りでもあった。

それが無残にも砕け散った。


「嘘だ・・・これでは・・・今まで私がやってきたことは・・・一体・・・」


少女の目から涙がこぼれる。

そのとき彼女を覆い守っていた殻が破られた。

子どもの頃からずっと抑えていた負の感情が堰を切ってなだれ込む。

少女の心に残るのは・・・暗い闇・・・


「あ・・・ああ・・・アアアアアアアッ!!!」


少女の絶叫が辺りに響く。

大粒の滴が少女の目からポタポタと落ちて地を濡らす。








「な、何だ!?」


ピッコロは戸惑いを隠せなかった。

目の前の刺客が折れた刀を目にするや、それを取り落して目を覆い泣き腫らしている。

このあとキツイ仕置きをしようとしていたピッコロにとってこれは想定外のことであった。

“泣く子と地頭には勝てない”ということわざがあるが、今のピッコロもまさにその通りで・・・いや、この場合は女の涙と言った方が良いか。

とにかく、どうにも近寄りがたい雰囲気なのだ。

純粋な魔族のピッコロならそれでも躊躇なくトドメを刺すだろうが、今のピッコロにそんなことはできないわけで・・・


「チッ・・・どうにもやりづらいぜ」


顔にタランと汗を流して毒づくピッコロ。

少女は相変わらず泣きわめいている。


「ウチ・・・ウチ・・・結局何も変わっとらんかった。弱いまんまやった。このちゃん守るって決めたのに・・・う、うう・・・かんにんや・・・かんにんなあ、このちゃん・・・」

「お・・・おい」


とりあえず話かけてみるピッコロ。しかし・・・


「ウチにこのちゃんを守る資格なんてないんや。要らない子なんや・・・ううう・・・このちゃん、こんなウチを許して・・・」

「え、え~い!!こんな状況でどうしろというんだ・・・く~っ、卑怯だろっ!」


この鬱陶しい空気をどうにかしたい。しかし、下手に手出しもできない。

神と融合したことでできた弊害にピッコロは苦しむ。


(ぐ~っ!!・・・これなら腹に穴を開けられる方が何倍もマシだぜ)


しかし、グジグジと泣きだす少女を見るうちに次第にピッコロの堪忍袋も耐えられなくなってくる。


「このちゃん・・・このちゃん・・・ウチを捨てないで・・・一人は嫌や・・・」

「あ~もう我慢ならん!!キサマっ!好い加減にしろっ!」


大声で少女に怒鳴り散らす。

ビクッと体を震わせ顔を上げる。

そしてピッコロを見るなり、


「い、いや・・・来ないで・・・こっち来ぃひんといて~!!!」


体全体で怯えていることを示しながら後ずさりしていく。


「おい。少し落ち着・・・」

「ウチは食べてもおいしくないよ!?お願いやから見逃して~!!」

「食べるか!!」


どうやら精神が幼児退行を起こしているようで、お化けを怖がる幼児のようにピッコロに近づこうとしない。

仕方ないとピッコロが直接少女の手を掴もうとするも、


「きゃあああっ!!このちゃん助けて~!!!」


ピッコロの手を払いのけ、脇目も振らず走り去る。

それはもう物凄いスピードで。


「お、おいっ!ちょっと待・・・!?こ、これは・・・」


突如穴から感じた気にピッコロが動きを止めた。

さっきまで消えかけていたネギの気が強く感じられる。


「ま、まさかあいつ・・・」


慌てて穴の中を覗き込むピッコロ。

すると穴から



ドドドドドドドォォォォォッ!!!



轟きとともに、


「だだだだだあああああッ!!!」


ネギが雄たけびを上げて登って来た。


「来るっ!!」


ピッコロが慌てて穴から顔を引っ込めると、

その直後に真っ赤な閃光が穴から飛び出し、上空に舞い上がった。

閃光は空に上がるとそのまま円を描いてピッコロの立つ地上まで急降下する。

着地した瞬間、ドオオオンッと派手に砂が舞い上がり、ピッコロがマントで顔を覆った。


「ぬっ・・・あ、あれは!?」


煙が晴れ、目を開いたピッコロが見た光景は、


真っ赤な炎に身を包み、

息を荒げながらも達成感のある清々しい笑みを浮かべ、

自信に満ちた光を目に宿した弟子の姿だった。



「ハア・・・ハア・・・、へ・・・へへ。や、やりましたよ、ピッコロさ・・・」


そのまま気を失い倒れそうになるネギをピッコロが瞬時に抱きとめる。


「や、やりやがった・・・。ネギの奴・・・界王拳をモノにしやがった!!」


自分がけしかけたとはいえ、こうも早く習得できるとは思わなかったピッコロはその成長速度に戦慄した。


「ヘッ・・・なるほど。俺の睨んだ通りと言うわけか・・・
やはりこの先の戦いのキーパーソンはこいつのようだ。御誂え向きに、あいつと同じく界王拳を使えると来てる。
・・・まったくどこにいっても俺の役割は同じということか。因果なもんだぜ」


苦笑するピッコロの腕の中ですやすやと眠っているネギ。


「それにしても、大したアドバイスもなしによく身につけられたもんだ。あれは決して簡単な技では・・・む?」


ネギの右手に何かが握られているのを見つけたピッコロ。

右手からその物体を取り出して驚愕する。


「こ、これは・・・!?」




それはこの世界では決して見ることはないだろうと思っていたもの。

ピッコロたちZ戦士たちを結びつけた究極の宝貝。



「ど、ドラゴンボール・・・!!」


黄金の輝きを放ちながら四つの星が描かれた球が今ピッコロの手元にあった。


「ど、どうして四星球がネギの手に・・・」


今ここにピッコロの呟きに答えられる者は誰もいない。


「うむ・・・この世界に来てからは俺にもわからないことだらけだぜ」


心の内を吐露するピッコロだった。


「まあいい。それは後でネギにでも訊くとしよう。とりあえず、合格だ・・・ネギ」


軽く弟子の髪を撫でながらピッコロが告げた。

すると、空が俄かに明るくなり日が昇り始める。


「もう朝か・・・流石にアスナ達をこれ以上心配させるわけにもいかないか・・・」


ピッコロはネギを抱きかかえたままその場を去ろうとする。

その時、ふと、地面に転がっている折れた刀が目に入った。


「・・・・・・」


しばらく考え込んだ後、それを拾い上げるピッコロ。


「ケッ!こんなのは俺の性分じゃないんだがな・・・」


忌々しそうに空を睨みつけるのであった。








<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!ネギもついに界王拳を習得したなあ~。オラ結構嬉しいぞ!」

ピコ「近頃カモの動きがおかしい・・・何かを企んでやがるな・・・」

カモ「へへ~ン!この麻帆良って土地は良い素材が一杯揃ってやがる。不肖このアルベール・カモミール、ネギの兄貴の為に最高のパートナーを選んで差し上げようじゃあ~りませんか!!」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI 『パートナーを作ろうぜ!  策士カモの甘~い罠』

ネギ「僕の生徒を巻き込むなんて・・・カモ君、どうやら君を血祭りに上げなきゃいけないね」







あとがき

初めに謝っておきます。

せっちゃんのキャラを崩壊させてすんませんでした~!!!m(_)m

別に貶めるつもりで書いたんじゃないんです。その場限りのってことで・・・

今後の絡みでどうしても必要なイベントだったので(作者的に)

不快に思われた方は申し訳ありません。

感想で不評でしたら訂正する必要もあるかと考えてます。






今回悟空が登場しましたが、正直セリフの言い回しが難しい~!!

だって悟空のZ放映時の声と現在の声を聞き比べたとき、明らかにセリフ回しが違います・・・今はすごい訛りが強いですから。

私はどちらかと言うとやはり昔の訛りが少ないほうがすきだったので結構苦労しました。

違和感あったらごめんなさいorz

あと、今回はイベント的に無理が多いんじゃ~と思うかもしれませんが・・・

全力で見逃せ!!(マテッ!!



p.s. 次回カモ君血祭リー・・・です?(ホントかよ・・・



[10364] 其ノ三十五   パートナーを作ろうぜ!  策士カモの甘~い罠
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2010/03/14 15:10




「あ・・・ピッコロさん」

「よお、朝早くからすまんな」


女子寮の明日菜達の部屋にピッコロがネギを抱えて訪れたのは日が昇って暫くしたころであった。

明日菜と木乃香は、昨晩ネギが一人出かけてから夕飯の支度をして待っていた。

しかし、深夜近くになってもネギは帰ってくる様子がない。

帰りの遅いネギが心配になった木乃香だが、なんとなく事情を察していた明日菜が機転を利かせ、


「今日はピッコロさんのところに泊るってさっき連絡があった」


と木乃香に言い聞かせ、事無きを得た。

そして明け方になりピッコロがネギを伴って現れた。

・・・肝心のネギは道着をボロボロにして疲れたように深い眠りにあったが。


「ちょ、ちょっとピッコロさんこれどういうこと!?」


思いがけないネギの姿につい、大声で狼狽える明日菜に


「昨日少々無理をさせてしまったようでな・・・とりあえずこいつを風呂に入れて寝かせてやってくれ」


ピッコロは有無を言わさずネギを手渡す。

仕方ないので急いで風呂の準備と布団を用意する明日菜。(ちなみに普段ネギは明日菜たちのベッドとは別に、床に布団を敷いて寝ている)

そうこうしているうちに朝食を作り終えた木乃香も顔を出す。


「はれ?ネギ君帰って来たん?・・・あっ、ピッコロさんおはような~」

「あ、ああ・・・おはよう」


少しばかり苦手になりつつあるこの少女に何とか挨拶を返す。


「風呂の準備できたわよー」

「あれ?ネギ君どうしたん?」

「疲れて眠ってるみたい・・・悪いんだけどこのか、ネギを風呂に入れてやってくれない?大変かもしれないけど・・・」


明日菜が手を合わせて木乃香にお願いをする。


「う~ん、別にええよ~。ネギ君軽いからそんなに苦労もしないし」

「ありがとう!助かるわ!」


日頃の天然さが功を奏したか木乃香はネギの状態にさほど気にすることもなく風呂へと運び込む。

木乃香が浴室に入ったのを見計らって明日菜が口を開いた。


「・・・それはそうと、一体どうしたのよ?ネギがあんなになるなんて」

「昨日の修業で体中の気を消耗したせいで眠ってしまっているんだ。・・・なに、心配はいらん。眠れば直に回復する。だが、今日は無理をさせたくない。学校とやらは休むように言ってくれないか?」

「・・・わかったわ。私が伝えとくわね」

「そいつは助かる・・・」


素直に頼みを請け負った明日菜に感謝の言葉を贈るピッコロ。


「ところでさ、ピッコロさんとちょっと話したいことがあるんだ・・・」

「むっ・・・話したいことだと?」

「今この場に木乃香もいないことだし、ちょっとそこに座ってくれない?」


椅子に座るよう促す明日菜に少し逡巡した後、ゆっくりと腰掛けるピッコロ。

対する明日菜は何か思うことがあるのかいつもより表情が優れない。


「ねえ、ピッコロさん。私に隠していることない?」

「・・・何のことだ?」


とぼけているのか本当に思い当たらないのか、ピッコロは表情を変えずに答える。


「ふ~ん・・・あくまで白を切るつもりね」


何かを思案するように両目を閉じ、突如切り出す明日菜。


「私知ってるんだ・・・ピッコロさんがここに来た本当の理由」

「!?」


ピッコロの目に初めて動きが現れた。


「やっぱり・・・ねえ、ネギが、あいつのお父さんが倒したっていう悪の組織に狙われてるって本当?」


ピッコロは明日菜の言葉にわずかに動揺する。

「そう・・・本当なんだ」


彼女の問い詰めるような視線が突き刺さる。

ピッコロはなんとか平静を保ちながらも、深刻な表情で


「・・・誰に聞いた?」


目の前の少女に尋ねる。

ところが、この質問をした途端


「そ、それは・・・」


明日菜は答えるのを躊躇った。

そんな明日案の様子を不審に思ったピッコロ。


「どうした?俺に言えないことなのか?」

「うっ・・・そ、そんなの今はどうでもいいじゃない!私が怒ってるのはそんな大事なことを隠してたってことよ!!」


強引に話を逸らそうとする明日菜。

その論法はあまりにも苦しすぎる。

しかし、ピッコロはあえてそこを突くようなことはせず、素直に明日菜の言い分を聞くことにした。


「・・・わかった。誰に聞いたかは今は問わない。
・・・お前にそのことを隠していたのは謝ろう。それで、どこまで知っている?」


そこで明日菜は自分が知っている限りの情報を話し始める。

ネギの故郷であるウェールズの魔法学校が何者かに襲撃されたこと。

その首謀者がネギの父が昔倒した組織の生き残りであり、さらにその組織にはピッコロレベルの戦士がいるかもしれないということ。

連中はネギを狙っており、その魔の手からネギを守るためピッコロが派遣されたこと。


「なるほど・・・随分詳しいことまで知ってるじゃないか。(あのときの話を盗み聞きした奴がいたとは・・・)」


ピッコロは明日菜の話に感心した声を出すが、内心では間者らしき存在がいたことに気付けなかった自分を叱咤したい気分だった。


「昨日からネギに修業つけてるのもそれと関係があるんでしょ?」


明日菜の言葉にピッコロはただ黙って頷いた。


「あいつそんなこと全然話してくれなかったわ。水臭いじゃないの・・・そりゃあ、あいつは私なんかいなくたって十分強いけどさ、中身はまだ子供じゃない!少しは私を頼ってくれたって・・・」

「ほう・・・お前を頼ってどうにかなるのか?」


ピッコロが冷淡な口調で問いかける。

明日菜はその質問に若干言葉を詰まらせる。

が、・・・


「私は知ってる・・・あいつが夢を叶えるために毎日頑張ってることを・・・
だから私にできることがあるなら力を貸してあげたい!!」


少女の心意気にピッコロは感心する。しかし、事態はそう単純なものではない。


「アスナ・・・ネギを思うお前の気持ちは正直嬉しい。だが、それとこれとは話は別だ」


確かに明日菜は一般人に比べたら十分強い部類に入るであろう。

その身体能力の高さもさることながら、古菲から武術を習っている。

だが、それでもピッコロに言わせたら一般人にちょっと毛が生えたぐらいの、素人同然のレベルでしかない。

ピッコロ達が相手にするのは達人を超えた超人レベル・・・いや、それすらも超えた領域にいる化け物たちだ。

ネギならともかく、アスナたちまで巻き込むにはあまりにも危険すぎる。


「お前はネギと16号の戦いを見ているはずだ。俺たちが相手にしようとしているのはああいうレベルの強さを持つやつらだ。お前たちが軽い気持ちで踏みこんで良い領域じゃない」


明日菜はつい一昨日の晩の戦いを思い出す。

自分が強いと思っていたネギをあっさりと倒してしまった16号。

その圧倒的な力の前には自分など無に等しいに違いない。


(あのとき私は何もできなかった。ただ黙って見ていることしかできなかった・・・)


今の自分ではネギの助けにはならない。反って足手まといになるだろう。


「で、でも・・・」


明日菜は言い返そうとする。しかし言葉が出てこない。

明日菜がまごまごしているうちに、ピッコロの超感覚が小さい妙な気配を捉えた。

出所はこの部屋・・・それもどこかの物陰に潜んでいる。

うまく隠れていると思っているようだが、ピッコロはこの小さな気をよく知っていた。


「なるほど・・・そういうことか」


大体の事情を確信したピッコロはその腕を蔓のように伸ばす。


「わわっ!?う、腕が伸びた!?」


突然ピッコロの腕が伸びたので、初めて目にした明日菜は驚愕の声を上げ、椅子ごと後ろに倒れて腰を抜かした。

腕は物陰に隠れたターゲットを正確に捕捉し、ギャッという悲鳴とともに捉えられた獲物をピッコロのもとに引き寄せた。


「やはりキサマだったか!・・・カモっ!!」


ピッコロの手にある白い小動物を睨みつけながら忌々しげにその名を告げる。


「ハ、ハハハ・・・ど、どうもお久しぶりですピッコロの旦那・・・」


冷や汗をダラダラ流しながら顔を恐怖に引くつかせるオコジョ・・・カモミール・アルベールの姿がそこにあった。


「最近姿を見せないと思ったら・・・こんなところに居やがったのか!!」


カモを握る力を強くするピッコロ。


「グヘッ!?ちょ、旦那!?しまるっ、締まってる!!」

「黙れ下等生物・・・ネカネから聞いたぞ。下着泥棒二千枚の罪でムショに送られたところを脱獄したそうだな。まさか日本に逃げていたとは・・・大方ネギに泣きつく腹だったんだろ」

「ギク~ッ!!(ば、バれてる・・・ネカネさんからの手紙を処分したのに無駄になっちまった・・・)」

「ちょ、ちょっと!!それ聞いてないわよ!!どういうことよ、カモ!!」


明日菜が先ほどとは打って変わってカモに問い詰めるような視線を送った。


「フン・・・ボロが出たな。アスナに妙なことを吹きこんだのもキサマだな?」

「ご、誤解ですぜ旦那っ!!俺っちはあのとき校長室で旦那と爺さんが話しているところを偶然聞いちまったんだ。兄貴が狙われてると知って俺っちは居ても立ってもいられず・・・それでアスナの姐さんが事情を知ってるようだから是非ともネギの兄貴に協力してもらおうと・・・」

「どの口がそれを言う!ネギを利用して何を企んでいる!」


ピッコロがさらにカモを締め上げる。


「グホッ!?だ、旦那・・・俺っちの話を聞いてくだせえ」

「フン。キサマの言葉など聞く耳持たん。・・・やはりあのとき始末しておくんだったな。ネカネにはウェールズまでしょっぴけと言われているが、面倒だ。ここで俺が引導を渡してやる・・・」

「ちょ、そ、それだけはご勘弁を~~~!!」


カモの脳裏に今までのピッコロから受けた刑の数々が過った。

魔貫光殺砲、爆力魔波、爆裂魔口砲、激烈光弾、魔空包囲弾、その他諸々・・・


(どれを喰らっても俺のライフはゼロ・・・!!)


カモの背筋にかつてないほどの寒気が走った。


「さて・・・お祈りは済ませたか?」

「だ、旦那~~~故郷には妹が待ってるんだ!頼むっ!どうか命だけは・・・!」

「この期に及んで命乞いか・・・そこまで性根が腐っていたとは。
何がネギの子分だ!消え失せろっ!二度とその面を見せられないように粉々にしてやる・・・」


(お、終わった・・・何もかもお終いだ・・・)


カモは己の死期を悟った。

だが・・・


「今ネギ君を風呂から出したえ~。・・・あれ?ピッコロさん何してるん?」


浴室から眠っているネギを引っ張りながら出てきた木乃香が、ピッコロとその手の中で死を迎えようとしていたカモを見やる。


「あ・・・いや、これは・・・」


まずいところを見られた・・・と、ピッコロが一瞬手の力を緩めた瞬間。


(しめたっ!逃げるなら今しかない!)


その一瞬の隙にカモがピッコロの手から逃れる。


「あっ!こ、こらっ待てっ!!」


逃げだしたカモに慌てて手を伸ばそうとするピッコロ。


「そうは問屋が卸しやせんぜ旦那~~~
オコジョ流奥義『オコジョフラッシュ』改め『太陽拳』!!」

カモが咄嗟にライターでマグネシウムを発火させる。


「「きゃああっ!!」」

「ぬわっ!?し、しまった!!」


激しい光に目を覆ってしまうピッコロたち。

光が止んだ後にはあのオコジョの姿はどこにもなかった。


「く、くそ~~~!!ゆ、油断したっ!!」


かつてセルを取り逃がした時と同じ失態を演じた自分に反吐が出そうになる。

この様子だともうここは離れていると見た方が良いだろう。

そう遠くへは行ってないとは思うが、小動物の気はただでさえ探知が難しい。

こうなってしまっては捕まえるのはほぼ不可能。


「おまけに御丁寧に『太陽拳』だと・・・ふざけやがって」


自分にここまでの屈辱を与えたオコジョに対し、ピッコロは決意した。次見つけた時はただでは済まさないと・・・!

カモミール・アルベール・・・今回は生き延びたが、代わりに強大な敵を作ってしまった。

将来は碌な死に方をしないであろう。


「チッ・・・不愉快だぜ。アスナ・・・悪いが、そろそろお暇させてもらおうか」

「え?あ、ああ・・・う、うん」


とても引きとめられる雰囲気じゃないピッコロに仕方なく頷く明日菜。


「あれ?もう帰るん?朝御飯食べてかんの?」

「い、いや・・・今日は遠慮しておこう」

「そうか~残念やな~」


本当に残念そうな木乃香と、冷や汗を垂らしながらそそくさと玄関に移動するピッコロ。

これを見ると2人の関係がなんとなくわかるような気がする。

扉から出ようとするとき、ピッコロは背後の明日菜に向かって呟いた。


「今日聞いたことは忘れろ。お前はこれ以上俺たちに関わるべきじゃない。お前の身の安全のためにもな・・・」

「ピッコロさん・・・」


背を向けながら静かに戸を閉めて行ったピッコロを明日菜はただ見送ることしかできなかった。
















「これ以上関わるな・・・か・・・」


教室に着いた後も明日菜の頭の中にピッコロのあの言葉がチラついている。

それを思い出すたびに自然と溜息が出てしまう。


(私は確かに弱いよ・・・拳法だってクーちゃんの足元にも及ばないし・・・
頭もよくないからあいつに気の利いたことだって言えないもん・・・)


―――――明日菜にはわかっていた。本当はネギには自分の手助けなんて必要ないってことに・・・

ひょっとしたら今自分がしようとしていることは余計なお節介なのかもしれない。

でも、ネギの為に何かをしてあげたい自分がいる。

明日菜にはまだこの気持ちが何なのか自分にもよくわからなかった。

しかし、これだけは言える。


(あのときみたいに・・・何もできないまま指をくわえて見ていることなんてできない!!)


ふと明日菜の耳に昨日のカモとの会話が甦る。





『仮契約~?』

『そう、“仮契約”!姐さんなら良いパートナーになれると思うんだけどな~』

『ば、バカなこと言わないでよっ!なんで私が・・・ネギなんかと・・・』

『なんでぇ~ただ一回ブチュ~ってするだけじゃねえか。・・・もしかして姐さんまだ未経験・・・』

『なっ!?』

『おっとそいつは失礼・・・それじゃあ抵抗あるわな~』

『そ、そんなわけないじゃない!!へ、平気よ!キスの一つや二つ・・・』

『そんな無理しなくても・・・でも残念だな~。仮契約すれば兄貴からの魔力で姐さんの能力値もアップ!技にも磨きがかかり、大幅なパワーアップができるのによ~
それに一口にパートナーと言っても、ただ隣にいればいいわけじゃない。互いを信じあい労わりあえる関係が重要!だから姐さんにぴったりだと思ったんだが・・・
ああ見えてネギの兄貴って一人で背負い込みやすい性格だからさ・・・姐さんみたいな人に傍にしっかり見ていてもらいたいのさ』





「仮契約・・・ね・・・」


ポツリと呟いたその言葉が妙に気にかかる明日菜。


(今の私にできることといったら・・・もうそれぐらいしかないわよね・・・)


「アスナ~何ボ~っとしとるん?」

「あっ!ごめんこのか・・・気にしないで!ただの考え事だから」

「う~ん・・・なんかアスナが変や・・・」

「チッチッチ、甘いな~このかは。ずばり恋でしょ!」

「なっ!?ぱ、パルっ!変なこと言わないでよ!」

「あははは・・・赤くなってる。図星か~?このこの~!」


ハルナにからかわれ、顔を真っ赤にして怒るアスナ。

それに便乗して囃し立てるクラスメイトにアスナはさらに怒りを燃え上がらせるのであった。

それを少し離れた場所から眺めている集団がいた。


「アハハ~今日も面白いアルな。ウチのバカレッドは」


バカイエローこと古菲が笑うと、それにバカブルーこと長瀬楓も相槌を打つ。


「そうでござるな。・・・ところで今日はネギ坊主だけじゃなくて刹那も来てないでござるか?」

「そういえばそうアル。あの真面目で滅多に欠席しない刹那が珍しい・・・」

「風邪でもひいたでごさるか?」


ふと、話題に上がった少女のルームメイトでもある龍宮真名に尋ねる楓。

すると、クールな彼女には珍しく困った様な表情で、


「それなんだが・・・昨晩どこかに出かけて朝方帰って来たんだが、どうも様子がおかしい。帰ってくるなり私に抱きついて急に泣き出してな。理由を聞こうにも幼児みたいにただ泣くばかりだから訳が分からず扱いに困ったよ」


それを聞いた2人は驚愕した。


「あの刹那が・・・でござるか?」

「信じられないネ・・・」

「まったくだよ。まあ、今は本人も正気に戻って落ち付いてはいるんだが、相変わらず何も話してくれない。貝みたいに口を閉ざしてね。布団に包まったまま出てこないから仕方ないので一人にしておいてる」

「何があったんでござろう?・・・刹那にどこか変わったところは?」

「そういえば・・・あいつが行く時持ちだしてた“夕凪”を持ってなかった」

「ふむ・・・どうやら“夕凪”がないのと何か関係があるみたいでござるな」

「それに『ごめんな、このちゃん・・・』ってうわ言のように呟いてたな」

「“このちゃん”って・・・」

「ああ・・・おそらく彼女のことだろう」


真名が今アスナと歓談している黒髪の少女の方を見やった。


「なるほど・・・確か2人は幼馴染でござったな。もしかすると夕凪は刹那の過去と深いつながりがあるのかもしれぬな」

「ああ、私もそんな気がする・・・ただ、あいつは昔のことをあまり話してはくれないから詳しいことは分からないが」


真名が苦笑しながら言う。


「よほど深い事情みたいアル・・・」


この3人の間だけ妙にシリアスな空気が漂う。


「いずれにせよ、今日拙者たちが見舞いにでも行くでござるよ」

「ああ、そうしてくれると助か・・・あっ!いや、今はやめておいた方がいいかもしれない。少し落ち着いたとはいえ、あいつの心はまだ不安定だ。下手に刺激すると反ってパニックに陥るかもしれない」

「そ、そこまで酷いアルか?」

「まあね。2人の気持ちはありがたいが今はそっとしておこう・・・」

「承知した。何か困ったことがあればいつでも言って欲しいでござる」

「私たちは友達だからネ!助けあいの精神アル!」


目の前の友人2人に感謝するとともに、真名は今引きこもっているであろう少女に思いをはせる。


(お前に何があったのかは知らない・・・だが、いつまでも逃げているわけにはいかないぞ、刹那。
・・・そのうち、お前の愛しい“お嬢様”にも協力してもらうことになりそうだ)


こうしてネギの知らないところで3-Aに新たな問題が持ちあがろうとしていた。












所変わってここは学園長室。

昨日ピッコロの滞在の件で揉めに揉めたこの場所で、

学園長である近衛門はそれとはまったく別のことで頭を悩ませていた。


「・・・エヴァの奴が登校しとらんと言うのは本当かね?」

「はい。我々の方も少し不審だとは思ったのですが・・・例の花粉症の所為ではないかと」


刀子が事務的な口調で告げる。

だが、近衛門の不安はぬぐえない。まさかとは思うが・・・


「うむ・・・だが、まだ何も連絡が来とらんぞい。封印の方に異常は?」

「いいえ。システムは正常に作動しています。それにあの呪いはこの学園の誰も解くことができない強力なもの・・・その可能性は杞憂では?」

「むむ。しかしのぅ・・・どうも胸騒ぎがするんじゃ」


このときの近衛門はその胸騒ぎが的中していることにまだ気づいていない。


「最近ウチもゴタゴタしたことが多かったですから・・・昨日のこともありますし、少しリラックスなさった方がいいですよ」


刀子が近衛門に労わるような笑みを浮かべると、彼はさすがに思いすごしかと肩の力を抜いた。


「・・・そうかもしれんな。いや~胃薬が必要になる状況が多いから体も心もクタクタじゃ。今度の連休で温泉にでも行こうかの」

「フフフ・・・それがよろしいですわ」


そう言いながら、次の仕事がある刀子は近衛門に挨拶をして学園長室を後にする。

刀子が退室した後、近衛門はパイプ椅子に深く凭れながら窓越しに空を見上げる。


「フ~ッ、ワシも疲れとるみたいじゃな。エヴァの登校地獄が解かれるなんてそんなことがあるはずもないか。・・・フォッフォッフォ、とんだ取り越し苦労じゃわい」







「ヘックチ!!」

「ドウシタ御主人?風邪カ?」

「馬鹿め、真祖が風邪なんぞひくか!・・・クソッ!ジジイあたりが私の悪口でも言ってるに違いない」

「気ノセイジャネエカ?・・・ソレハソウト、学校休ンデヨカッタノカヨ?
連絡クライ入レトカネエト、呪イガ解ケテルコトガアッチニモ気付クカレルカモシレナイゼ?」

「ハッ!そんなもの後で花粉症でもなんでもでっち上げればいい。まあ、ばれたとしても私にはどうでもいいことだがな・・・。ピッコロやタカミチ、そして坊や以外でこの学園に今の私をどうこうできるやつなどおらんしな。もはやジジイすら今の私の前ではゴミも同然・・・」

「大シタ自信・・・」

「そして何より、坊やを超えることこそが今の私の最優先事項!学園の教師どもの機嫌を窺っている暇などない!!
・・・よし、次はスクワット5000回だ!!これでも坊やを倒すにはまだまだ足りない!!」

「・・・マア、ガンバッテクレヤ」







「・・・何じゃろう。ワシは今とんでもない見落としをしている気がする。・・・よほど疲れとるんじゃろうか」


手で目を押さえながら近衛門は溜息をつく。

しかし、近衛門の心情とは裏腹に今日は珍しく非常に穏やかな日。

このまま何事もなく終わってほしい。

そう強く願う近衛門だったが・・・

バーンッと扉を蹴破ってきた人物によってその空間は壊される。


「フォ・・・!?」


近衛門の目の前には昨日会ったばかりの、そしてある意味最も強烈な印象を残した男がいた。


「よお・・・俺が何でここに来たのかわかってるよな?」


そのマントにターバン姿の男は少しばかりキツイ目つきで近衛門を睨みながら近づいてくる。


「へ?え?・・・ええっ!?」


何が何だかわからない近衛門。しかし、近づいてきた男―――ピッコロはそんなことはお構いなしに、老人の胸倉を掴みあげる。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!一体何の話じゃ?」

「フン・・・白を切るつもりか。昨日の晩俺を監視させたのはキサマだろう?
・・・俺は言ったはずだよな?余計な手出しをするようなら相応の手段をとらせてもらうと!!」


ピッコロの顔が悪魔のごとく二ヤッと不気味笑った。

対する近衛門は蛇に睨まれた蛙さながらに顔をひくつかせた。


「い、一体何の話じゃ!?わ、ワシは知らん!何も知らないんじゃ~!!」

「とぼけるのもいいかげんいしろ狸ジジイ・・・キサマは口で言っても分からないようだから、少し肉体に言い聞かせてやらんとなあ?」


途端に近衛門の顔が青色に染まり、ガタガタと震えだす。

「ま、まさか・・・本気じゃないよね?冗談じゃよね?」

「安心しろ・・・殺しはしない。ただ、老体には少々刺激が強すぎてしまうかもしれんがな」


ピッコロのサディスティックな表情を見て近衛門は心の中で合唱せざるを得なかった。




「あんぎゃ~~~!!!?」





数時間後、近衛門は学園長室で目を回し泡を吹いて倒れているところを書類を提出しに来たしずなに発見され急遽病院に搬送されることになった

体中に軽い痣や打撲の跡が見られたが奇跡的に命に別条はなく、本人の意識もしっかりしていた。

ただ、始終うわ言のように「ミドリコワイ・・・ナメクジコワイ・・・」などとわけのわからないことをぶつぶつ言っていたそうであるが、本人はその事に触れてほしくないらしく、真相はいまだ謎に包まれている。














「はあ~今日はネギ先生来なかったな~」


宮崎のどかは積み上がった本を運びながら溜息をつく。

一昨日の吸血鬼騒動で犯人に襲われたのどかはあわやというところでネギに助けられた。

襲われてすぐに気を失ってしまったため、全てを覚えているわけではない。

だが、気を失う寸前自分を抱きかかえてくれたネギの顔だけはなぜか目に焼き付いている。


「カッコよかったな~ネギ先生。 エへへ~」


頬を赤らめて少し悶える仕種を見せるのどか。

彼女の親友である触角娘が見たら「ラブ臭がするわっ!!」と飛んでくるに違いない。

まあ、彼女自身もこの気持ちが何なのか薄々感づいてはいた。


(私・・・もしかしたらネギ先生のこと・・・)


しかし、仮にそうだとしても弱気なのどかにはまだその気持ちを伝える踏ん切りがつかない。

いや、これと決めたら意外と一直線に突き進む彼女のことだ。ただタイミングが訪れないだけなのかもしれない。


「あれ・・・・・・?」


そんな彼女が自分の下駄箱を開けたとき、手紙が一通入っていた。

宛名を見ると・・・“ネギ”。


「こ、こここれはネギ先生からの手紙!どどどどうしてーーー!?」


さらに封を開けて中身を見る。


「『宮崎のどか様 放課後、りょーの裏でまてます。 ぼくのパートナーになてください。ネギ』
・・・・・・こ、これは先生からのラブレター・・・!?」


のどかの顔が真っ赤になる。喜びのあまり頭から火山が噴火しそうだ。


「ぱ、パートナーだって・・・キャーーー!ど、どうしようーーー!!」


先ほどとは比べ物にならないほど悶えているのどか。

その様子を下駄箱の影から眺めほくそ笑む影が一つ。


「ククク・・・これで良しと。次は兄貴の方だな」


影は次なる行動へ移るべく走り去った。












「ん・・・あれ?ここは・・・」


夕方になってネギがようやく眠りから目を覚ます。

ピッコロとの修業の後、疲労で意識を失ってしまったがどうやら寮で寝かせてもらっていたらしい。


「あっ!?学校は!?」


教師の仕事があるのを思い出すと慌てて体を起こそうとするネギ。

しかし、まだ疲れが抜けきってないのか少し体がふらつく。


「急いで行かな・・・ん?」


ふと、テーブルの上の書き置きに目が止まる。

読んでみると、どうやら今日は学校に行かなくてもいいらしい。


「・・・そっか、アスナさんたちが欠席届を出してくれたのか」


あの人たちにはいつも世話になっちゃってるな~と顔を綻ばせるネギ。

魔法先生として気苦労の絶えない彼にとってこういう気遣いは大変ありがたいものなのだ。

今度何かお礼をしなくちゃ・・・と考えていた矢先。


「兄貴ーーーっ!」


ふと耳に聞こえないはずの声が聞こえてきた。


「え・・・その声は・・・」


ネギは戦慄した。

馬鹿なっ・・・!?“ヤツ”は確かにこの手で始末したはず・・・!!


「そ、そんな・・・まさか・・・生きていたなんて・・・」


ふと声のある方に目を向ける。



ざわっ・・・ざわっ・・・



ネギの心が異様に揺れる。

そして視界にあの白い物体が入ってきたとき確信する。


「か、カモ君・・・!!」



ネギに電流走る・・・!



「あ、兄貴?どうしたんすか?固まっちゃって・・・」


カモが純粋に兄貴分の様子がおかしいことに気遣わしげな言葉をかける。

だが、ネギの心は動揺しまくっていた。


(そんなっ・・・!?  確かにあのときカモ君の命を刈り取ったはず・・・!
いや、待てっ・・・・・・  本当にそうなのか・・・・・・?
僕が勝手にトドメを刺したと思い込んでただけじゃないか・・・・・・?
・・・・・・本当は心のどこかで甘さがあったんじゃないか?
・・・・・・殺すことを躊躇う甘さが・・・・・・

最後の最後で・・・・・・  その甘さが・・・・・・
結局彼を生かしてしまった・・・・・・

致命的なミス・・・・・・!   ピッコロさんの弟子でありながら何という失態・・・・・・!)


「ピッコロさん・・・・・・  僕にはやっぱり殺しなんて無理です・・・・・・」

「あ、あの兄貴・・・どこかの麻雀漫画に出てきそうな顔で何言ってるんだ?」


顔中に汗を浮かばせながら、内心で独白していたネギはカモの声でハッと我に帰り、良心の呵責に耐えきれず、


「か、カモ君・・・すまない!!君をあんな目に会わせてしまって・・・!でも仕方なかったんだ・・・!アスナさんを巻き込まないためにはああするしか・・・」

「あの~一体何の話を・・・?」


いきなり謝りだしたネギに困惑した様子でカモが尋ねる。


「へ・・・?覚えてないの?あの教室でのこと・・・」

「教室・・・・・・あ~兄貴が俺っちに話があるとかで何か入った気もするが、なんかその辺りから記憶がないんだよな~。気が付いたら何故か外にいたし・・・兄貴あれって何の話でしたっけ?」

「あ・・・あ~!!カモ君良いんだ。良いんだよ!君はあそこで急に貧血を起こして倒れたんじゃないか!それで気を失ってたんだよ!・・・うん、きっとそうだよ!!」

「はあ・・・」


勝手に一人で納得するネギにカモはますます反応に困るが、すぐに顔をひきしめ、


「ってそんなことを話している場合じゃないっすよ!兄貴が担任しているクラスの、ええっと・・・」


そういってどこから取り出したのクラス名簿を開いて一人の人物を指さす。

ショートカットで前髪で前を隠した一見ちょっと大人しそうな少女。


「この子、この子っすよ!」

「え?のどかさん・・・?彼女がどうしたの?」


ネギが呑気に尋ねると、カモは凄く慌てた様子で、


「かつあげだよ!寮の裏手で不良にかつあげされてるっスよ!!」

「な、何だって!?」

「さっき外を歩いてたら見ちまったんだ。相手は5、6人はいたぜ!早く行ってやんねえと、取り返しのつかないことに・・・」

「わ、わかった!すぐに行かなきゃ!!」


カモに言われるとネギが着の身着のまま、部屋を出ていく。

普段冷静な彼もこのときはなぜかカモの言葉を信じてしまう。

やはり生徒のことになると周りが見えなくなってしまうことがあるらしい。

しかし、よく観察すれば気づけたはずだ。

カモが慌てている様子を演じながらその実、してやったりといった表情をところどころで臭わせていたことを。


「ククク・・・我ながら見事な作戦だぜ。ネギの兄貴も変なところでピュアだからな~。上手く話に乗ってくれたぜ。
まあ、俺っちも兄貴を騙すのは正直心が痛むが・・・これも兄貴の為なんだ。許してくれよ?」


カモが煙草を吹かしながらフッと笑った。


「これで兄貴もパートナーをゲット!俺っちも賞金をゲット! グヘヘヘ~~~笑いが止まらないぜ」







カモの掌で踊らされているとも知らずのどかを助けに行くネギ。

果たしてこれがどういう展開を見せるのか?








<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!カモがついに動き出した。今度のターゲットはのどかちゃんだ!」

のどか「ネギ先生・・・わ、私・・・」

ネギ「え?の、のどかさん!?何でいきなりキスを・・・?え、えええっ!?」

カモ「さあ、兄貴。女の子にここまで言わせといて逃げるってのは無しだぜ? ここで男を見せてやんな!」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI 『逃げ場なし!?  やってしまうか仮契約!?』

ネギ「ぼ、僕まだキスなんてしたことないのに・・・こ、心の準備が~」







あとがき

あんまし話進んでませんけど第35話でした♪

仮契約なんですけど・・・正直どうしようか今迷ってます。マジで・・・(汗

ここまで強くなっちゃったネギ君にはおそらく必要ありませんが、そうすると本編で出番なくなっちゃうキャラがかなりいるんですよね~

とくに、のどかちゃんとかは割と気にいってるキャラなのでできれば出してあげたい。

まあ彼女のアーティファクトがかなり便利な能力を持っているのもあるんですが・・・

ただ、オリジナルでアーティファクトを考えるとかは作者が苦手とするところなのでおそらく仮契約はそんなに出しません。やるとしても原作でやった仮契約の内の数人だけかな?

・・・とにかく、原作みたいな多人数との契約はないと思ってくださって構いません。
もちろん、ピッコロさんが仮契約・・・みたいな展開はありません(ピッコロさんには似合わないと思いますしね)

まあ、まだやると決めたわけではないので皆さまの意見を参考に・・・「できるといいなあ・・・スローイングブラスター!!」

・・・あっ、シャモ星・・・



((デデーン♪))



・・・下手なネタですみません。Ahhブロリー動画は最高だわ・・・



[10364] 其ノ三十六   逃げ場なし!?  やってしまうか仮契約!?
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2010/03/19 15:41





宮崎のどかは舞い上がっていた。

下駄箱に入っていた憧れのネギ先生からのラブレター・・・

男性が苦手だった彼女にとって初めての経験だった。

だから彼女は思った。これは神様が与えてくださったチャンスなのだと!

決心した彼女は寮に戻ると気合を入れて服を選んだ。

何分初めてなので今着ている服でもかなり勇気が必要だったが・・・

準備も整えたところで、手紙にあったように寮の裏手で彼が来るのを待つ。

のどかの中では既に返事は決まっている。

あとはそれを口にできるかどうか・・・


(大丈夫!『パートナーになって欲しい』ってあったんだもん・・・落ち着いていけばきっと・・・頑張れ私!)


何度も自分を励ますのどか。

そうしているうちに、とうとう待ちに待った想い人が息を切らせてやってくる。


「あっ!のどかさ~ん!!」


何やらかなり慌てている様子。

遅れそうになってたんで急いできたのだろうか?


(私は別にそんなこと気にしないのに・・・)


のどかがそう思っていると、


「のどかさん。大丈夫ですか!?不良に何かされましたか!?」

「へ?不良?」

「僕の生徒にカツアゲするなんて許せない!のどかさん、不良は一体どこに?」


凄い勢いで捲し立てるネギにのどかの頭はクエスチョンマークで一杯だ。


「あの・・・何の話ですか?」

「え?・・・襲われてたんじゃ・・・?」

「はあ・・・?」


のどかが首を傾げる。

当の本人の反応がイマイチの所為か、ネギは戸惑いを隠せない。


(どうもおかしい。話が食い違っているみたいだ)


ようやくカモの話が怪しいことに気が付き始めたネギ。

だがのどかの方はそんなことを知っているはずもないので、


「あ、あのー・・・それでネギ先生・・・
 わ、私なんかが・・・ぱ、パートナーでいいんでしょうか?」

「へ・・・?」


のどかから意外な言葉を聞き、一瞬呆然となるネギ。

対して、その肩に乗っているカモがガッツポーズを決めている。


「(か、カモ君!!どういうこと!?)」


我に返ったネギがカモに詰め寄る。

その剣幕と言ったら半端じゃなく・・・カモも一瞬ビクッとなったが、すぐに余裕を取り戻し、白々しくも


「(すまねえ兄貴・・・手っ取り早くパートナーの契約結んでもらうために一芝居打たせてもらいやしたぜ)」

「(け、契約って・・・カモ君、騙したね!!)」


ネギの頭に、カモへの怒りが込み上げてきた。

騙したこともそうだが、何より魔法とは無関係な一般人であるのどかを巻き込もうとしたしたことに対してである。




ネギは麻帆良に向かう際、己に誓っていたことがある。

一つは魔法の秘匿・・・

そしてもう一つは無闇に一般人を魔法関連の事件に関わらせないことだ。

魔法とは本質的に見れば人には過ぎた力である。

決して全てがノーリスクというわけではない。

中には大きな代償を払わなければならない禁呪だって存在する。

したがって魔法を用いるにはそれなりの技量と覚悟が必要である。

一般人が軽い気持ちで手を出していいものでは決してないのだ。

だから現実世界において魔法の秘匿は絶対遵守の掟となっている。

もっともネギ自身は、その事に対する魔法使いたちの信仰が度を過ぎていると思っているため、例外としてアスナのような民間からの協力者をある程度は認めている。

しかし、それでも魔法事件には危険が伴う。

いかに協力者といえどネギは自分の生徒を巻き込みたくはなかった。

ましてや、何も知らないのどかをこんな騙すような形でパートナーにするなど、彼の信条が許すはずがない。

それに、ネギ自身はそれほどパートナーを必要とは思っていない。

自惚れるわけではないが、最強と言われた父を超えた今、たとえ自分一人でも大抵の敵なら負ける気はしない。

逆にパートナーがいると、彼の戦闘スタイルからして足枷になってしまいかねない。




そんな考えがあったため、これまでネギはカモからの仮契約の勧めを頑なに拒んできた。

それを・・・このオコジョは・・・


「(カモ君・・・いくら君でも許さないよ?)」


断りもなくこんな謀をしでかしたカモを睨みつけるネギ。


「(あ、兄貴・・・俺っちはただパートナー探しの後押しを・・・)」


カモは、自分が良かれと思ってやったことがネギの怒りを買ってしまったようだとようやく気付く。

ネギから発するプレッシャーに身の危険を感じるが、動くに動けない状況・・・


(な、何故だ!?なんで兄貴がこんなに怒ってるんだーーー!?)


客観的に見れば明らかに自業自得。

しかし、この欲にまみれたオコジョには理不尽にしか思えなかった。


「(カモ君・・・君ってやつはーーー!)」


ネギの怒りが最高潮に達しそうになったそのとき、


「あの・・・ネギ先生?」

「・・・あ、はい?」


のどかに話しかけられ気分が削がれてしまったネギ。

のどかはさっきから剣呑な表情のネギを少し怖いと思ったが、勇気を出して話しかけたらいつもの彼に戻ったので再び笑顔になった。

そのときふと彼女を可愛いと思ってしまったネギの感想は仕方がないと言えよう。


「えっと・・・一昨日の吸血鬼騒ぎの時にはまた助けて頂いたそうで・・・
 何だか私、先生に迷惑ばかりかけてすいません・・・」

「い、いえ・・・そんなコトないですよ」


のどかが頭を下げるとネギが慌ててフォローする。

すると、のどかが顔を上げてニコッと笑い、


「だから・・・お返しに・・・
ネギ先生のお役に立てることなら何でも・・・・
が・・・がんばりますから何でも言ってくださいね・・・」

「の・・・のどかさん・・・」


のどかの笑顔にドキッとさせられてしまうネギ。

そして、のどかの反応を見てカモはほくそ笑む。


「(フフフ・・・俺の読みは間違ってなかったな・・・)」

「(なっ・・・ど、どういうこと!?)」

「(わからねえのかい?あの嬢ちゃんは兄貴に気があるってことだよ!しかも俺っちの見立てでは兄貴を好きである点ではズバリ現時点クラスNo.1!!)」

「(ええっ!?ま、まさか、の、のどかさんが・・・ぼぼ僕のことすす好っ・・・!?」


驚愕の事実にネギの頭はショート寸前。

気恥かしさで顔を真っ赤にし、手をバタバタ振り回す。

その様はまさに好きな子に告白された年相応の男子そのものであった。

―――――普段冷静な彼にも一つだけ弱点があった。

―――――殊に“異性”、それも“自分に好意を寄せる異性”のこと絡みに関してはてんで免疫がなかったのだ!!

それもそのはず。何せかれの育ての親はあのピッコロなのだから・・・


「(そそそんな困るよ~~~っ!!ぼぼ僕は教師で、かか彼女は~~~っ!!)」


(よしっ!兄貴がパニくってる今がチャ~~~ンス!!)


カモがキラーンと目を光らせて、ネギの肩からシュタッと降り立つ。

ついに機は熟した・・・


「『仮契約(パクティオー)』!!」


あらかじめ仕掛けておいた魔法陣がネギとのどかの足元に発動する。


「わっ!?」 「きゃっ・・・」


突然現れた光に2人は驚きの声を上げる。


「こ・・・これは魔法陣!?」

「せ、先生・・・これは・・・?
この光・・・な、何だかドキドキします・・・」


のどかが顔を悶えさせながら何とか言葉を放つ。

その表情は中学生でありながらどこか色気を醸し出しており、彼女の艶っぽい声と相まって何とも堪らない雰囲気を発している。

当然ネギにもそれが伝わってきて・・・いや、彼には効き目がありすぎた。


(あ、あれ?ぼ、僕も何だかドキドキしてきた・・・)


魔法陣の光にはどうやら何らかの興奮作用があるらしく、子供であるネギでさえ頭がクラクラしてくる。

おまけにのどかの艶めかしい表情がそれを助長させた。

ここでカモからトドメの一言が・・・


「さあ兄貴!ここで一発ブチューーーッと!!」

「ブチューーーッと・・・ってええっ!?キス!?」

「一番簡単な契約方法さ。なーーーに、心配ねえって!相手は兄貴のことが好きなんだしさ。兄貴だってまんざらじゃねえんだろ?」


ニヤニヤしながらカモが促す。

それを聞いたネギの動揺は酷いもので、


「ななな何を言ってるんだい!?キキキキスだなんて・・・ぼぼ僕一度もややややったことないのに・・・
そそそれに・・・ののののどかさんだって・・・こんな騙したみたいな恰好で・・・」


呂律が回っていない・・・明らかに冷静さを欠いている。


「き、キスですか―――・・・?」


ネギから聞いた“キス”という言葉に反応するのどか。

少しばかり考えるそぶりを見せた後、


「わ、私も初めてですけど・・・ネギ先生がそう言うなら・・・」

「え”!?」


まさかのOK牧場・・・じゃなかった、OKサインにネギは固まった。


(なな、何ですとーーーーー!!?)


顔から湯気が噴出しそうなくらい顔の赤みがさらに増す。


「それに・・・私も何だかドキドキして・・・」


そう言って恥じらう姿もネギの心を撃ち抜く。


(や、やっぱりカワイイ・・・)


「先生・・・私先生のこと・・・」


目を瞑りやや唇を突き出すようにしてネギに迫るのどか。

ここに来て彼女の積極性が効果を発揮する。


(どどどどうする!?どうするよ僕!?
こここんな経験初めてだし・・・僕ものどかさんのこと嫌いじゃないし・・・
だ、ダメだ!彼女は生徒じゃないか!魔法に関わらせるなんて・・・
あっ・・・でも、ここで断ったら彼女を傷つけちゃうんじゃ・・・
ああ~~~も~~~どうしたらいいんだっ!)


事態が事態なだけに正常な思考ができないネギ。

肝心な時になって優柔不断になる彼にさすがのカモも業を煮やしたのか、


「(ここまで来て何迷ってんだよ!女の子にあそこまで言わしといて逃げるっていうのはなしだぜ?
・・・さあ、男だったらここで一発かましたれやーーーっ!!!)」


カモのちょっとキレ気味なエールにネギの決心が鈍る。

キスの誘惑に負けそうになる彼にのどかの唇は着々と迫っていた。


「あっ・・・・・・」


ネギの頬にのどかの手が触れ、ネギの唇に近づいていく。

のどかの香りがネギの鼻をくすぐり、その気持ちの良さに目もトロンとしてきた。


「勝った・・・!」


カモは勝利を確信し、笑みを浮かべる。

もはや2人の距離がゼロになるのは時間の問題。


(だ、ダメだ・・・誘惑に勝てない・・・)


ネギの理性が警鐘を鳴らしている。

あわやネギはこのまま済し崩し的にのどかと仮契約を結んでしまうのか!?


「よっしゃーーー!行け~~~兄貴!!ホラ! ブチュ~~~ッ!
・・・ククク、これで俺っちも晴れて無罪放免!!」

「ほう・・・そいつは残念だったな」

「・・・へ?」


突如背後から掛けられた声に寒気がしたカモ。気がつけば彼の周囲に大きな影が射しこんでいた。


「そ、その声はまさか・・・プギャッ!?」


冷や汗を掻きながら振り向こうとして、いきなり何かに踏み潰されるカモ。

その拍子に発動していた魔法陣が掻き消され、パチンッという音とともに近づいていたのどかとネギが弾きとばされる。


「「!?」」


弾かれた衝撃でのどかは気絶。

対するネギはカモを踏みつぶした相手を見て目を丸くする。


「ピッ、ピッコロさん!?」


そこにはいかにも不機嫌そうな顔でカモを足踏みにしているピッコロの姿が・・・


「フン。間一髪だったな・・・」

「ピッコロさん・・・これは、あのそのっ・・・」

「言い訳は後でゆっくり聞こう・・・今はそこの娘を看てやれ」

「あっ!?は、はいっ!」


ピッコロに言われ、ネギは倒れたのどかのもとへ向かう。


「・・・良かった~。怪我はしてないみたいだ・・・」


ただ気絶しているだけとわかり、ホッと胸をなでおろす。


「だ、旦那・・・な、何でこの場所が・・・」

「フン・・・この俺様がオコジョ風情に出し抜かれたままでいると思うか?
・・・キサマに逃げられた後、キサマが再びネギに会うためにこの寮に戻ってくるだろうと踏んで、気配を消してこの近くに張り込んでいたのだ。
案の定キサマはまんまとここに戻ってきた。あと、目的も知りたかったのでな。すぐには捕まえず様子を窺っていたのだが、・・・まさか仮契約が狙いだったとは・・・」


ピッコロの苦虫を潰したような表情が、彼の機嫌の悪さを象徴している。

一方カモはというと、まんまと逃げきったと思っていたら、逆にピッコロに踊らされていたとは露知らず・・・結果、自分が相手にしていた人物が自分など遥かに及ばない策士であることに改めて気付かされた。


(俺っちは・・・このお方を嘗めていた!このお人は・・・俺なんかの浅知恵じゃとても相手になるお方じゃなかったんだ!!)


だが、今頃気づいてももう遅い・・・

ピッコロは踏みつけたカモを逃がさないよう慎重に掴みあげると、顔の前まで引き寄せて、


「オコジョの分際で余計な真似を・・・キサマのおかげで、無関係な人間を巻き込むところだったんだぞ!」

「し、しかしですね旦那。いくら兄貴が強いて言ってもまだ子供・・・おまけに相手は滅茶苦茶やばい奴らだそうじゃないですか!
それじゃあ、兄貴でも心許ない。だったら、ここで腕の立つ人に協力してもらって戦力強化を・・・
ほ、ほらっ!一人ならダメでも複数人なら・・・」

「腕が立つ?あれがか・・・?」


ピッコロがのどかの方に視線を向ける。

これにはカモも言葉を詰まらせる。


「え、えーっと・・・そのーっ・・・あ、あれですよ!仮契約には力が云々よりも兄貴との心のつながりが大事でして・・・」


カモの説明の節々に見られる焦り。

何とか言い訳をして罰を免れたい意思が見え見えである。


「フン。よく言うぜ。・・・キサマ、俺がネギに修業を付けている意味を何一つ理解してないようだな」


ピッコロの声が低くなる。たったこれだけでかなり凄みが違ってくる。


「いいか?・・・仮に契約で仲間を増やしたところで、従者が修業も何もしていない一般人だったらパワーアップなどしても大して戦力にはならん。
それに、ネギの戦闘スタイルはどちらかといえば俺のような戦士寄り・・・前衛に出て戦うタイプだ。後衛で守られているような一般の魔法使いの戦い方は性に合わんだろうし、従者に魔力を分け与えたらその分だけネギはパワーダウンしてしまう」


その欠点を考えてなかったカモはただ唖然とした。


「・・・まあ確かに、そんな欠点があっても並の魔法使い相手ならどうにかなるのかもしれん。
だが、俺たちの相手はそんな甘っちょろい奴らじゃない。“次元が違う”んだ・・・
連中相手に素人を無理やり戦いに狩りだして勝てるわけがない。むしろ邪魔になるだけだ。だったら始めから一人で戦う方が何倍もマシ。そのために地道に修業を積み重ねてネギを強くしているんだ」


ピッコロの言葉の重み。

それは敵がカモが想像している以上に強大であることを雄弁に語っていた。


(俺っちが甘いっていうのか・・・)


カモは今まで魔法使いがパートナーを作るのは当たり前・・・そう思ってきた。

サウザンドマスターのような変わり種もいたが、基本的に魔法使いの戦い方はパートナーと協力して敵を倒す・・・そんなスタイルだった。

だが、ピッコロはそんな常識は通用しないという。


「だ、旦那・・・おかしいッスよ!魔法使いなのにパートナーの一人もいないなんてよ。これじゃカッコがつかないぜ!?(こ、ここは何としても旦那を言い包めなけりゃ・・・上手くいけば無罪の上、賞金も手に入る。こんなウマイ話を逃してたまるか!!)」


無罪放免が懸っているカモには仮契約成立は何としても果たさなければならない事項。

そのためにピッコロに真っ向から反論するのだが、どこか我武者羅に見える。

やはり悪知恵が働くといえど、所詮は欲にまみれたオコジョ・・・Z戦士随一の頭脳派であるピッコロの敵ではなかった。


「カッコがつかないだと?・・・フン!お生憎様だったな。ネギは『魔法使い』になるつもりはないらしいぞ」

「!?そ、そいつはどういうことだい兄貴!?」


意外な事実に驚愕し、ネギの方に顔を向けるカモ。

だが、ネギの方は妙に落ち着いた表情で、


「・・・・・・ピッコロさんの言うとおりだよ。僕は『魔法使い』にはならない」

「な!?・・・ま、魔法を捨てるって言うのかい・・・」

「いや・・・そういうわけじゃないよ。僕は『ただの魔法使い』になりたくないだけさ」

「じゃ、じゃあ・・・何になろうっていうんだ?」

「僕が目指すのはピッコロさんのような強い戦士・・・それも魔法も使える『魔法戦士』だ!!」


ネギの言葉にカモは衝撃を受ける。

まさにガーンと頭を打ち付けられたような・・・


「そ、そんな・・・じゃあ兄貴はパートナーがいらないっていうのか・・・」

「うん。カモ君には悪いけど僕には必要ない。僕は自分の力で強くなって見せる!!」

「・・・だそうだ。さて、話も済んだことだし、そろそろ処刑と行くか」

「ちょ!?ま、待ってくれ!俺っちはまだ死にたくな・・・あっ!あそこに女の子が!!」


カモが逃げる隙を作るためにピッコロの後ろを指さして騒ぎ立てる。

しかし・・・


「フン。同じ手が二度も通用するか!もう逃がさんぞ。
・・・さっきの礼も兼ねて派手にやってやる」

「ヒ、ヒイッ!!・・・だ、旦那・・・さっきは俺っちが悪かった!盗んだ下着の半分はプレゼントいたします!どうか、どうか命だけはご勘弁を・・・」

「フン。ついに本性を現しやがったか・・・遺言はそれでいいな?」

「えっ!?ちょちょちょっと待っ・・・」

「黙れ淫獣。あの世で閻魔に言い訳でも考えてろ!・・・トワッ!!」


ありったけの怒りを込めて、ピッコロがカモを上空に投げ飛ばす。

ロケットのように打ち上げられていくカモの体。

その的を目がけて、


「カァァァァァッ!!!」


ピッコロが大きく口を開けると、そこから気攻波が放たれる。


「だ、旦那ぁぁぁぁぁーーーー!?た、助け・・・ピギャーーー!!!」


気攻波がカモを飲み込むと、予告通り上空で派手な爆発が起こった。



ドオオオオンッ



モクモクと黒煙を上げるそれを眺めながらピッコロは一人呟く。


「ケッ!・・・汚い花火だ」






そして、隣でそれを眺めていたこちらの少年もまた、


「カモ君・・・君のことは忘れないよ。今度はいい奴に生まれ変わってね」


目尻に僅かに涙を見せながらそう呟いていた。















宮崎のどかが目覚めたのは学校の玄関であった。


「あ、あれ・・・?わ、私・・・」


下駄箱に寄りかかって目を擦りながら辺りを見渡す。

確かネギ先生とキスしようとしてたと思うのだが・・・・・・ふと自分の服を見てその考えを打ち消す。

彼女はまだ制服だった。

・・・ということは、ちょうど下校しようとしたときに、どういうわけかこんな場所で寝てしまったらしい。

では、今までのは全て夢・・・?


「い、いやです私・・・こんな所で寝ちゃって・・・
し、しかも何てはしたない夢を~~~~~っ!」


夢の内容を思い出して一人赤くなって騒ぎ出すのどか。

―――――どうやらしばらくはまともにネギの姿を見れなくなりそうだ。








「でも・・・のどかさんの記憶を消さないでおいて良かったんでしょうか?」


のどかを運んだあと、人通りのない道をピッコロと歩きながらネギが尋ねる。


「心配はいらんだろう。運よく肝心なところは見られていない。本人は夢の中の出来事と思ってるだろうさ」


ピッコロは特に問題とは思っていないようでネギはひとまず安心する。


「それにしても、彼女には悪いことをしてしまいました」

「フン。まったくだ。原因は明らかにカモの野郎だが・・・お前もお前だぞネギ。カモごときの罠にまんまと嵌まりやがって・・・まだまだ修行が足りんぞ」

「はい・・・面目次第もございません」


ぐうの音も出せず急にしおらしくなるネギ。


「反省しているなら態度で示せ・・・そうだな。明日の修業はいつもの倍だ!キツくしてやるから覚悟しておけ」

「そ、そんな~~~!!」

「グダグダぬかすな!今日やらないだけありがたいと思え!」


ピッコロからの檄に涙目のネギ。

果たして明日の修業はどうなってしまうのか?

そう考えると、ついついこの場にいない(この世にいない?)カモに恨み事を言いたくなってしまうネギであった。



「そういえばネギ。昨日のことで訊きたいことがある・・・」

「はい?何ですかピッコロさん?」

「修業の後で気絶したお前の手にこいつが握られてたんだが・・・何か心当たりはないか?」


そういって懐から何かを取り出すピッコロ。

その手には昨日ネギが握っていた四星球が眩い光を放っていた・・・

















ちょうどその頃―――――


「ハァァァァァッ・・・・」


所々岩場が見えるだけの広大な砂漠。

そのど真ん中に少女は立っていた。

金色のショートヘアーは滾る魔力を受けて僅かに浮き上がり、

彼女の体を凄まじいオーラが包み込んでいた。


「アアアァァァ・・・」


腹から捻り出すような声で少女は唸る。

そして、魔力はどんどん大きさを増していく。



太陽のエネルギーでジリジリと焦がしていくような灼熱地獄の中、少女は顔中に汗を滴らせながらも決して集中力を切らせたりはしない。


「ダアアアァァァ・・・」


少女の唸りがさらに大きくなり、辺りに風が吹き荒れる。


風で舞い上がった砂は渦のように空へと伸びていく。

フッと少女の体が浮かんだ。

そして少女の体がかなりの高度に達した時、

両腕を横に広げそれぞれの手に魔力を収束させていく。


「ハアアアア・・・・」


どこか闇のオーラを漂わせるその魔力は所々で小さなスパークを起こし、一層その密度を増していく。

やがて、彼女の体中に魔力が満ち溢れると、


「ダアアアァァァッ!!!」


両手を付けて二つの魔力塊を一つに合わせ、


「ファイナル・・・フラァァァッシュ!!!」


ぶっ放した。




ドドドドォォォォォッツ




一直線に飛んだその閃光は遥かかなたに飛んでいくと、




ドオオオオオオンッ




巨大な爆発を引き起こした。


「クッ・・・!」


爆発の衝撃波を喰らい少女は顔を覆う。

やがて真っ黒なキノコ雲を残し爆発は鎮まった。


「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」


少女は先程の技で精神をすり減らし、息を荒げながらゆっくりと降下。

着地すると同時に、熱したフライパンのように熱い砂地に膝を突く。


「ハア・・・ハア・・・ハア・・・く、くそっ!」


少女の顔から落ちる汗が砂に染み込み消えていく。

もうこの場所に何時間もいるせいか、かなりの水分を消耗している。

こうしている間にも少女からどんどん水分が奪われていく。


「ハア・・・ハア・・・ハア・・・ま、まだだ。まだこんなものじゃ・・・」


再び立ちあがろうとする少女だが・・・


「なっ・・・!?」


さっきから体がふらついていたためかバランスを崩し、倒れそうになる。

だが、その身体は何者かに抱きとめられる。


「!?」

「マスター・・・御無事ですか?」


ふと少女が振り返るとそこには自分の従者の姿が・・・


「茶々丸・・・か・・・
・・・お前こそ修理は済んだのか?」

「・・・はい。ご心配なく」


彼女の従者は相変わらずの無表情・・・いや、少しばかり微笑みを浮かべて答えた。









「ゴクッゴクッゴクッ・・・プハ~~~ッ、生き返ったぞ。わざわざすまなかったな茶々丸」


茶々丸が持参した水筒をがぶ飲みしながらエヴァが礼を述べる。

茶々丸は頭を垂れて、


「いえ。マスターの世話は私の役目。御気になさらず・・・
ところでマスターはいつからこんな場所で修業を・・・」

「この場所での修業はかれこれ1週間か・・・この空間での修業自体はもう半年近くになるがな・・・」


エヴァの答えにロボである茶々丸も驚きを隠せない。


「半年・・・ですか?
・・・信じられません。こんな過酷な環境でそれほど長い間・・・
私でもこの10倍の重力は辛うじて動けるくらいだというのに・・・」

「お前はロボだからな・・・機体の重さの関係でそうもいくまい。私も始めはキツかった。
・・・まあ、慣れてくれば意外とどうってことないぞ。こんな場所でもな」


エヴァは爽やかに笑って見せる。

こんな顔の主人を見るのはいつ以来だろうか?

茶々丸はエヴァの変わりようにただただ目を丸くしていた。


「・・・話は変わりますが、先程マスターの技を拝見しました。
・・・あんな威力の高いものはマスターの術にありましたか?私のデータには記録がないのですが・・・」


茶々丸はさっきエヴァが放った閃光の分析を無意識に行っていた。

技自体は純粋な魔力。

しかし、かなりの魔力量だった。過去のエヴァの数値を遥かに上回っている。

全盛期だった頃の値さえ今と比べたら月とスッポンだ。


「あのピッコロという魔族に鍛えてもらったというのは聞きましたが・・・ここまでの成長は正直想定外です。一体何が・・・?」


すると、エヴァはハハハ・・・と笑うと、茶々丸に悪戯っ子のような目を向けながら、


「つい3日前のことだ。私は夢を見た。全く見知らぬ男の出てくる夢だ・・・」


エヴァは空を見上げながら語る。


「その男は真っ白い空間に一人立っていた。黒い髪を逆立てたような変わった髪型をしていたが・・・そういえば服も変わっていたな。まるで宇宙服のような・・・」

「?・・・マスターは宇宙飛行士の夢を見たんですか?」

「いや、それはないない・・・まあ、そんなことはどうでもいいんだ。その男は夢の中で武術の修業をしてるんだが何かに怒っているようだった。一頻り修業をすると、狂ったように叫び出すんだ。『クソッたれー』とな」


茶々丸には何が何だかわからない。


「私も始めは何を怒ってるのかさっぱりだった。だが、しばらく見ているうちに気がついた。こいつは“自分自身”に怒りを感じてるんだと」

「自分自身に・・・ですか・・・?」

「ああ。あの男は何らかの理由で自分の限界を超えたかったらしい。だが、限界を超えるのは容易いことじゃない。いつしか行き詰ってしまっていた。スランプというやつだ。
・・・よく聞く話のようだが、私にはその苦しみがよくわかる。今の私がそうだからな・・・」


フッとエヴァが物悲しそうな顔をする。


「よく見ればそいつはプライドの高そうな男だった。自分より上の存在を認めない。そんな奴がいるならこの手で捻じ伏せなければ気が済まない。そんな感じのな・・・
・・・まさにこの私と似ているとは思わんか?」


いかにも愉快だという表情でエヴァが語ってくる。

茶々丸は返事をするのも忘れ、そんな主人に魅入った。


「いつしか私はその男と自分を重ねて見ていた。男はどんな環境でも修業した。ときには極寒の中を、時には灼熱地獄の中を・・・
そいつは自分がどんなに苦しくても決して屈しなかった。最後は己が勝つと信じて・・・
そして気が遠くなるような時間が経ったある日、男は目覚めた・・・」


エヴァはそこで吸い込んだ息を一気に吐きだすように言葉を発した。


「綺麗なんてもんじゃない・・・あれは光そのものだった。
黄金に輝くその姿はさながら王の風格を漂わせていた。私は知らず知らずに心が躍ったよ。久しぶりだった。子どもの頃のように憧れというものを感じたのは・・・
男は『スーパー何とかの壁を越えた~』とか叫んでいた気もするがよく聞こえなかった。まあ、そのときの私には関係ないことだった」


「マスター・・・」


主人がここまで情熱的に話すなんて・・・まるで恋する乙女のようだと茶々丸が言うと、


「確かにな・・・私は恋したのかもしれない。いや、違うな。やはりこれは憧れに過ぎん。
私はあれに近づきたい。そしていずれはあれを超えてみたい。・・・そんな子供のような願望だ。
坊ややピッコロを倒したいという目標は当然ある・・・しかし、そのさらに上にあの男がいる・・・」


エヴァの目がキラキラ輝いているように見える。

今は幼稚園児が『大きくなったら何になりたい?』っていう質問に答えているくらいの感覚なんだろう。

だが、茶々丸は「今の主人なら本当にその高みを目指すかもしれない」と思い始めた。


「マスター・・・では先程の技も・・・?」

「ああ。その男が修業中に編み出していた技だ。記憶を頼りにやったから上手く再現できてるわけではないし、威力もまったく届かないが・・・」

「あ・・・あれで、ですか・・・?」


茶々丸から見てもあの閃光は凄まじい威力だった。

本来はあれ以上の破壊力があるというのか?


「どうもあのときとどこかが違うんだ。猿真似をする気はないんだが、やはりどこか違和感があってな・・・もしかしたら、気の代わりに魔力を使ってるからかもしれん。しかし、私にはこれしかないからなあ・・・


・・・ピッコロにも言われたんだが、私には気を魔力と同じように自在に操る才能がほとんどないらしい。おかげで坊やのように咸卦法を使えるどころか、気弾を撃つこともできやしない。
・・・だが、私にはまだ魔力がある。この魔力をどうにか増やすことができれば坊やに対抗する芽も出てくるのではないか?そう、ピッコロが言っていた」


「ですが・・・魔力容量は大部分は先天的に決まってるもので、修業で簡単に伸びるものではないのでは?」

「理論上はそのはずなんだが・・・修業を始めて数カ月した頃に測ったら私の魔力が大分アップしていたんだ。どうやら、10倍の重力という環境に体が適応して精神力とともに魔力容量も上がっているらしいな」

「そ、そんなことが・・・」


エヴァから明かされた新事実に茶々丸から驚嘆の声が禁じえない。


「私にも原因はわからん。だが、これは好都合だ。修業で魔力を上げていけばいずれパワーで坊やにも追い付く可能性も出てくる。
それに、咸卦法が使えなくともまだ手が残っている・・・」

「何か勝算でも?」


茶々丸が首を傾げる。


「咸卦法によるパワーアップは確かに脅威だが・・・私には魔力だけでそれに対抗する手段がある。
・・・フフフ、そろそろ久々に“あれ”を使う時が来たようだな」

「“あれ”・・・?」


エヴァが不敵に笑う。

茶々丸はその手段が何なのか訊こうとしたが、エヴァは笑うばかりで一向に答えない。


「フフフ・・・そういえばお前は昔の私を知らないんだったな。ならわからなくて当然か・・・まあ、そのときになったら教えてやる」


そう言ってはぐらかされてしまった。


「さて・・・長話をしてしまったな。修業を再開しよう」


エヴァが立ちあがるや、浮遊術で宙に浮かぶ。


「マスター・・・」

「ん?何だ?」

「・・・どうしてそこまで強さに拘るんですか?」


茶々丸の発言に少し毒気を抜かれた顔をするが、すぐにエヴァはニヒルな笑いを浮かべ、


「決まっている・・・私自身の誇りのためだ。私は誇りを取り戻すためならどんな泥臭いことでもやってみせる。
・・・それに、その方が勝利した時に飲む酒もより一層美味くなる。そうは思わんか?」


そう言うと再び、茶々丸に背を向けて飛び立ってしまう。

茶々丸はその背を見送りながら思う。

マスターは変わった。以前よりずっと強く、ずっと美しく。

だが自分はどうだろう。マスターのように変われるのだろうか?


「私はマスターの従者・・・マスターの行く道につき従うのが私の使命」


ならば、己も強くならねばならない・・・愛する主人のように。

人知れず茶々丸はあるかもわからない自分の心の中である決心をした。









―――――こうして、それぞれの場所で繰り広げられるドラマの中、

―――――ネギとエヴァの決戦の日は着々と近づいていた。










<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!エヴァのやつ相当強くなったな。ますますベ○ータに似てきたぞ~。
・・・あれ?そういえば、16号の奴はどうしたんだ?」

アスナ「あっ!?あそこにいるの茶々丸さんじゃない!・・・もしかしてエヴァちゃんたちのことが何か分かるかも。とりあえず後をつけましょ!」

ネギ「ちょっとアスナさん。ダメですよそんなこと・・・!?あっ、あそこにいるの16号!?」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI 『大追跡!  ネギとアスナの張り込み捜査24時(笑)』」

ネギ「ストーカー行為は犯罪です。良い子の皆さんは絶対に真似しないでくださいね!!」









あとがき

どうも、『カモ君がログアウトしました~の巻♪』でした。

いや~やっとこの憎たらしいオコジョをデデーンできて作者もすっきり、読者もすっきり(?)できたのではないかと・・・「思っていたのか?」

ダニィ!?m、まさか・・・そんなはずがございません。

あの淫獣が・・・まだ生きているなどと・・・

「あのオコジョがムシケラの爆発くらいで死ぬと思っているのか?」

ぶ、ブ○リー!?・・・メタな発現はいいから、宮殿に戻るんだぁ・・・

「できぬう!!!」

うおっ!?ま、待てっ!落ち着くんだブ○リー!!
只今、急いで行方を調査させております。もうしばらく、もうしばらくお時間を・・・



・・・え~すみません。放送に不手際がありました。この場を借りてお詫び「できぬう!!!」
・・・だから落ち着けブ○リー!!




―――――以上、ニコ廚具合が酷くなりつつある作者の脳内放送でした(笑)。・・・病院行けっ!

今度こそ『自☆演☆D』!!





p.s.今回エヴァのパワーアップについて、原作の設定無視したご都合主義に走っちゃいましたが、全力で見逃して!(ムリーデス・・・ハイ。



[10364] 【閑話みたいなもの?】   ~とある少女剣士の独白~
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2010/03/26 23:47
<注意>

これは正確には本編じゃありません。あくまで閑話というかおまけみたいなものです。

本当は途中まで刹那視点から見た物を書いていたのですが、想像以上に長くなってしまい、本編37話に入り切らなくなったり、場面転換が面倒になりそうだったのであえて独立させてみました。(載せるか迷ったけど一応・・・ね・・・)

・・・紛らわしくてゴメンナサイ orz

読みとばしても別に本編に影響はないと思うので無理に読まなくても支障はありません。

本編はまた後日投下しようかな~と考えてます。

・・・・・・進度がノロノロしていてすみません(汗



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――










――――― 今私は何をしてるんだろう?

――――― 布団を被ったままで、ただ泣きじゃくって・・・

――――― 一体何がしたいんだろう・・・?

――――― 私は・・・どうしたらいいんだろう・・・?


「ただいま・・・刹那・・・」


――――― あっ・・・龍宮、帰って来たのか・・・

――――― でも、今はお前に顔を見せる気になれない。


「調子はどうだ?少しは楽になったか?」

「・・・・・・」


――――― 普段のあいつにしては珍しく、気遣わしげな声が聞こえる。

――――― 龍宮にまで心配をかけるなんて・・・つくづくダメな奴だな。私は・・・

――――― 今の私の様子を気にかけてくれる・・・それは素直に嬉しい。

――――― だが・・・今はどちらかというと放っておいて欲しかった。

――――― でないと、自分が『壊れて』しまいそうだから・・・


「そうか・・・まだ話してくれる気にはならないか・・・」

「・・・・・・」


――――― ごめん、龍宮。・・・でも私はまだ許せないんだ。弱いままの自分が・・・

――――― ああ・・・どうしてこんなことになったんだろう・・・

――――― どこで私は道を誤ったのか・・・

――――― 昨日の晩・・・あの魔族と戦いを挑んだときか?

――――― いや、それ以前に・・・あの満月の夜に奴を見かけたとき・・・

――――― 奴がお嬢様の前に現れたのを目にしたあのとき・・・!

――――― 既に私は運命の選択を誤ったのかもしれない・・・












その日も私はいつものように影からお嬢様の警護をしていた。

最近桜通りで吸血鬼騒ぎがあったと耳にしていたのでより一層気合を入れて臨んでいた。

お嬢様は御友人達と一緒に帰っていたため何事もなく寮に帰れるはずだった。

だが・・・私はそのとき少し嫌な予感がしていた。

始めは気の所為だろうと思った。

だが、しばらくしてその予感が的中した。

帰りがお嬢様とその友人の神楽坂さんの2人になった辺りで、神楽坂さんが急に桜通りの方へ引き返したのだ。

慌てて彼女を追いかけるお嬢様。

私も隠れながらお嬢様達を追跡すると、桜通りで倒れた宮崎さんを抱きかかえたネギ先生の姿があった。

その向こうには霧が広がっており僅かだが気配を感じる。

どうやら宮崎さんを襲った犯人のようだ。ネギ先生はその現場に偶然居合わせ助けたというところだろう。


(しかしあの気配・・・どこかで・・・)


私は霧の中に隠れようとするどこか見覚えがあるシルエットと気配に首をひねるがすぐには思い出せなかった。

しばらくそのことで考え事をしていたが、不意にお嬢様達の声でハッと我に返る。

なにやらネギ先生が慌てた様子でさっきの犯人の後を追いかけて行った。

子どもとは思えないその足の速さに私は目を見張った。

就任初日の挨拶の時から思っていたが、彼は相当な修練を積んでいる。

それも武術を大分嗜んでいるようだ。

話によればまだ魔法学校を卒業し立ての新米なんだそうだが・・・とてもそうは思えない。

彼の身のこなし、そして怒ったときに発せられる威圧感・・・どれをとっても、ただの新入りが出せるものではなかった。

それに・・・彼が醸し出す雰囲気も私の知り合いの魔法使いと比べてもどこか異質な感じがする。魔法使いというより・・・武道家のような・・・刃物のように鋭い張り詰めた空気が・・・


(いずれにせよ・・・只者じゃない・・・)


私はこの子供先生が少しばかり気になった。


「な、何なのよ・・・もう・・・。ええ~い!こうなったら・・・このか、悪いんだけど本屋ちゃんお願いね!」

「えっ!?ちょっ、アスナまで!?」


神楽坂さんが宮崎さんをお嬢様に任せてネギ先生を追いかけていってしまう。

後に残されたお嬢様は途方に暮れた表情でオロオロしている。

私はここで出ていくかで迷った。

お嬢様が困っているときに助けるのが私の使命のはず・・・だが、私には素直にそれをすることができなかった。

いきなり私が顔を出せば、お嬢様は不審に思うだろう。

まさか、お嬢様の警護のために跡を付け回していたなんて口が裂けても言えるわけがない・・・


(それに・・・私にお嬢様の傍にいる資格なんて・・・)


いつの間にか意識を飛ばしていた私だったが、突如感じた強大な気配に身を震わせた。

かつて感じたことがないほど凄まじい存在感・・・

慌ててお嬢様の方に目をやると、いつの間にいたのか、長身の男がお嬢様の背後に立っていた。


(馬鹿な・・・今の今までまったく気配に気づかなかっただと!?)


私は己の迂闊さにゾッとした。


「困っているようだな・・・手を貸してやろうか?」

「え・・・?」


男に声をかけられ、そっと背後を振り向いたお嬢様。

そのとき月明かりに男の顔がはっきりと映った。

認識阻害の魔法でも働いているのか・・・少しびっくりしただけでさほど容姿を気にしていない。しかし、私の目は誤魔化せない。

あれは人間ではない。私と同じ妖怪・・・いや、それとも全く異なる魔族とも言うべき存在に近い。

私も何度か戦ったことがあるからわかる・・・


(なぜこんなところに魔族が?・・・まさか!お嬢様を狙って!?)


私は咄嗟に剣の柄を握る。

だが、ここで飛び出したら『魔法』の存在をお嬢様に知られてしまう・・・

そうなってはお嬢様にふつうの生活を送って欲しいという長の願いに反することになる・・・


(くっ・・・し、しかし・・・お嬢様に何かあってからでは取り返しがつかなくなってしまうかもしれない。ここはやはり・・・なっ!?)


ここでも私が躊躇していると、


「あの・・・お願いできます?」

「フッ・・・気にするな。これも何かの縁だろ」


いつの間にか例の男がお嬢様から宮崎さんを受け取り、連れ立って寮の方へと歩きだしていた。

私は驚きで開いた口が塞がらなかった。

しばらく唖然としていた私が気がついたときはすでにお嬢様たちは寮に入ってしまっていた。


「し、しまった!!」


慌てて寮に向かう私。

寮の中を急いで移動すると、ちょうど廊下の角からお嬢様達の部屋の前で男が帰りを告げているところに出くわした。


(くっ・・・今度こそは逃がしはしない!!)


歩き去っていく男を気配を消しながら尾行する。

このとき私は人気のない場所に出たら奴を捕縛し、お嬢様に近づいた目的を吐かせるつもりだった。

だが、相手も只者ではない以上生かしたまま捕らえるのは難しいかもしれない。
もしそれが不可能なら・・・最悪の場合は斬って捨てる覚悟だった。

しかし、奴が寮の外へ出た途端・・・不思議なことにその行方を忽然と眩ませてしまった。

私は慌てて周囲を探したが怪しい影は人っ子一人見当たらなかった。

不覚にも標的を見失った私はさながら狐か狸に化かされたような気分だった。

このときほど自分の未熟を悔いたことはない。

あれがもしもお嬢様を狙う賊だったとしたら・・・そう考えるだけでゾッとする。

お嬢様は私の全てだ。あの方を守るために私はいる。なのに・・・

歯を食いしばる私に携帯から招集がかかったのは暫くしてからだった。

私が思い悩んでいる間にまさか市街地であのような騒ぎがあったとは夢にも思わずに・・・



結局あのときは男の目的はわからず終いだったわけだが、お嬢様が無事だったため一旦は頭から消そうとした。

だが、運命とは皮肉なものだ。まさか昨日の晩に再びあの姿を見ることになるとは・・・

奴を見つけたのは本当に偶然だった。

夜中に妙な胸騒ぎがしたので 気になり、夕凪を装備して寮を出た。

その際、何かに引き寄せられるようにして山奥に入った私は巨大な爆発音を聞き、その発生源へ急いだ。

そこで見たのはなんと、あのときの魔族ではないか!

しかも男の近くには巨大な落とし穴が開けられていた。


(まさか・・・さっきの爆発はあいつが!?)


遠くから見ても相当な深さを持つ穴をこの男が開けたというのか?

だとすれば奴は相当な力を持っている・・・。

私は驚くとともに近くの木に飛び乗って、静かに様子を窺った。

良く見ると男の傍にもう一人誰かいる。

見たところ子供のようだが・・・あの顔はどこかで見たような・・・


(・・・あっ!!?ね、ネギ先生!!)


驚くことに、私たちのクラスの担任である子供先生が件の魔族と一緒にいたのだ。


(どういうことだ?なぜ先生が魔族と一緒に・・・)


すると、いきなり男がネギ先生の首根っこを掴んで穴に近づいていく。

ネギ先生はバタバタもがくが、男は気にすることなく穴の上でその手を離した。


「あっ!?」


私が声も出せぬうちにネギ先生は穴の中に真っ逆さま。

あの深さから落とされれば無事では済むまい。


(ま・・・まさか・・・!?)


その光景を見た時、私の頭にも状況が何となく飲み込めてきた。


『あの魔族はこの学園に何らかの目的で潜入していた』

『それをどういうわけかネギ先生が知り、企みを阻止しようとして戦いを挑んだ』
        ↓
『結果、魔族に口封じとして穴に落とされてしまった』


・・・確かにこれなら一応説明がつく。

ということは、やはりあの魔族は我々の敵!

あのときお嬢様に近づいたのは・・・


(一旦お嬢様を信用させ、隙を見て人質に、あるいは手駒として利用するつもりだったのか!!)


おのれ!  卑怯にもお嬢様を狙おうとするとは・・・!

私の中で魔族に対する怒りが吹きあがった。





それが殺気として出てしまったからだろうか。

奴が私の気配に気づいた。

だがこのとき既に私は戦う覚悟を決めていた。

木から下りるなり私は問答無用で夕凪を抜き放つ。

しかし、あっさりと初太刀は躱され、背後の大木を斬り裂いただけだった。


(やはり・・・一筋縄ではいかないか・・・)


私は内心で舌打ちするも、油断なく敵を見据える。

男は私の攻撃にあまり動じることなく、低くそしてどこか威圧感のある声で尋ねた。


「キサマは何者だ?どうして俺を狙う?」


だが、私の答えは決まっている。目の前の敵に言い放った。


「魔の類に名乗る名などない!!お嬢様に近づく不届き物はこの私が斬る!!」


こうして私と魔族との戦いの火蓋がが切って落とされた。










――――― 思えばあのとき正面からぶつかった私は本当に愚かだった。

――――― 相手との力量差にもっと早く気づいていれば・・・そうすれば、未来はもっと違っていたのかもしれない。

――――― あのときの私は己の力をどこか過信していたのだ。『魔族ごときに負けはしない』などという驕りが私の目を曇らせていたのだ。

――――― その驕りのせいで・・・夕凪は・・・

――――― 夕凪を失った私は気が付いたら自分の部屋の前に立っていた。

――――― そして、扉を開けた龍宮の胸で泣き明かした・・・

――――― あのときに比べたら今は大分気持ちは落ち着いている。

――――― しかし、私はもう二度と立ち上がれない・・・

――――― 私の全てを賭けてきた夕凪を目の前で砕かれ、己の無力さを思い知らされた今となっては・・・

――――― あの光景を思い出す度、このちゃんを守ると誓った今までの自分を否定された気分になる。

――――― このちゃん・・・やっぱりウチにこのちゃんを守ることなんて無理なんかな?

――――― このちゃんの傍におる資格なんて・・・ないんかな?

――――― このちゃん・・・ウチは・・・














少女の閉ざしてしまった心に春の日差しが射し込むことはない・・・

このまま少女の心は冬のように冷え込み続けてしまうのか?

それとも、いつか彼女の心の氷が溶ける日が来るのだろうか?

・・・・・・それはまだ誰にもわからない。












*スクロールしないと読めないという指摘があったので修正してみました。上手くいってるといいけど・・・







[10364] 其ノ三十七   大追跡!  ネギとアスナの張り込み捜査24時(笑)  (一部修正)
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2010/04/26 19:31



その日の晩、女子寮の一室・・・明日菜と木乃香の部屋にてネギたちが夕食をとっていた。


「ネギ君元気になってよかったわ~。明日からまた学校に行けるんやね?」


朝から寝たきりで学校に来れなかったネギだがこうして全開しているのを目にし、ひとまず胸を撫で下ろす木乃香。


「はいっ!お陰さまでばっちりです!・・・フ、フフフ・・・」

「ん?ネギ、なんかやけに嬉しそうね?」


いつになく上機嫌なネギを不思議に思った明日菜が疑問を口にする。


「い、いえ・・・何でもないですよ~」


慌てたように答えるネギだったが、そのとき首に見慣れない首飾りを見つける明日菜。


「あれ・・・?あんたアクセサリーなんてするんだ?
・・・ていうか、随分変わった球の首飾りね。何なのそれ?」


ネギが首に掛けている首飾りは黄金に輝く野球ボールくらいの大きさの球を鎖に通しただけのシンプルなもの。

しかし、その球の輝きはどこか惹きつけられる魅力を感じる。

中央に四つの星のようなものが浮かんでいるが何なのだろう?


「ホントや。きれいやわ~。これどうしたん?買ったんか~?」

「え、ええと・・・ひ、拾ったんです。今日散歩してたら偶然・・・」


急に言葉を濁すネギに明日菜はどこか違和感を覚えた。


(こいつ・・・また何か隠してるんじゃないでしょうね?)


ジト~という視線を送る明日菜にネギは冷や汗をかきつつも、


「あっ!ところで、学校で何か変わったこととかありましたか?今日学校に行ってないから心配で・・・」

「(露骨に話題逸らしたわね・・・まあいいわ・・・)いいえ。これと言って特に。ねえ、このか?」

「う、うん。そうやね・・・ホームルームとかはネギ君の代わりに高畑先生がやってくれたし、みんなはいつものように騒いどったよ~・・・」


笑いながら話していた木乃香だったが、ふと何かを思い出した様に突然表情を暗くする。


「こ、このか!?ど、どうしたの?」

「そういえば・・・今日せっちゃんが来とらんかった」

「・・・せっちゃん?」


ネギは初めて聞くフレーズに首を傾げるが、明日菜は意味がわかったようで一人で勝手に頷いている。


「せっちゃんって、桜咲さんのことよね?
・・・そういえば、今日は見てないわね。普段は無遅刻無欠席の真面目さんって感じなのに珍しい・・・」

「桜咲さんって、ええと・・・あっ、あった!」


出席名簿から刹那の写真を見つけるネギ。


「ああ・・・あのやたらと目が鋭い人ですよね。剣道部員なんだ・・・
なんか凛としていてカッコイイっていうイメージですね。この人がこのかさんと何か関係が?」

「実はね・・・桜咲さんってこのかが京都に住んでいた頃からの幼馴染らしいのよ。
昔は相当仲良かったらしいんだけど、このかがこっち来てからすっかり疎遠になっちゃったみたいでさ」


ネギに裏事情を教える明日菜だったがそれを目の前の本人を気にせず話すのはいかがなものか。

現に木乃香の顔がどんどん暗く・・・


「あっ!?こ、このか・・・ごめん・・・」

「・・・ううん。気にせんでええよ。これはウチらの問題やから・・・
でも、せっちゃん来とらんの・・・何かあったんやろか?」

「か、風邪かなんかじゃない?ほら、最近春なのに肌寒いからさ・・・
エヴァちゃんだって今日休みだったし・・・流行ってるんじゃない?」

「そっかな~・・・?」


何だか空気が重苦しくなってくる。


「だ、大丈夫よ。このかも心配し過ぎよ。だったら明日にでも見舞いに行ったら?」

「そ、そうですよ。僕もそれが一番だと思います!」

「で・・・でも・・・」


避けられてるのがよほど気になるのか、刹那に対してどこか遠慮があるような素振りの木乃香。


「し、心配でしたら僕もご一緒しましょうか?一応担任ですし・・・」

「そう?・・・だったらお願いしてもええ?」

「もちろんですよ!!」

「(ネギ・・・Good Job!!)」


ネギからの申し出でようやく勇気が出てきた木乃香。

彼女を励ますことに成功したネギに明日菜はサムズアップで賛辞を贈る。





画して一旦この話題は幕を閉じる。

そこからさらに時間は流れて、今はもう就寝時間。

この時間帯では一部を除いて、ほとんどの部屋からは灯りが消える。

それは明日菜たちの部屋も例外ではなく、特に明日菜には朝一のバイトが入っていることもあって、すぐに布団に包まって寝てしまう。

女子2人が二段ベッドでスヤスヤと寝息を立てている頃・・・ネギはまだ起きていた。

手に先程の光る球をぶら下げながら一人考えごとに耽る。


(今日は驚くことだらけだったな~
あのとき僕が見た幻の中に出てきた人・・・あの人が“孫悟空さん”・・・
そして悟空さんがくれたこの球がドラゴンボールだったなんて・・・)


ネギはピッコロからその事実を告げられたときのことを思い返していた。





『ええっ!?・・・そ、その球が・・・ど、ドラゴンボール!?』

『そうだ。こいつが正真正銘のドラゴンボールだ。
そして、お前が夢で会ったとかいう男・・・そいつは何て名乗ってたんだ?』

 『ええと・・・確か、“ソンゴクウ”って・・・
・・・あれ?“孫”?“悟空”?・・・え!?ま、まさか・・・孫悟空って・・・』

 『ああ、そのまさかようだな。外見の特徴が俺の良く知ってるあいつにそっくりだぜ・・・』

 『じゃ、じゃあ・・・あの人が・・・ピッコロさんが話してくれた孫悟空さん!?
地球を何度も救った宇宙最強の戦士っていう!?』

 『そうだ!その孫悟空だ!!
・・・正直俺も驚いたぜ。だが、あいつに会ったと言うならここにドラゴンボールがあることも一応説明がつく。
・・・邪悪龍との戦いで悟空と一緒にボールも消滅したと聞いてたからな。あいつが持ってたとしても不思議じゃない』

 『でも、何で僕に渡したんだろう?』

 『さあな・・・それがさっぱりわからん。あいつがどういうつもりでお前にその四星球を渡したのか・・・皆目見当がつかん。それに他の六つの球の所在も不明だしな・・・
(もっとも、四星球がここにある時点でこの世界に散らばっている可能性が高いが・・・)』

 『あれ?でも、他の六つの球もあるとすれば・・・それらを全部集めれば僕の願いも叶えられるんじゃ・・・』

 『・・・そうかもな』


ネギの言葉をピッコロが肯定するとともに、ネギの頭に6年前に石像にされた村のみんなの姿が過る。

強力な術のため解呪の方法が見つからず、ずっと手掛かりを探し続けてきたこの6年間。

魔法使いになると決めたのも、父に会うこと以外にこの目的を果たすためでもあった。

当然この麻帆良に来てからも図書館島に何度も足を運んで調査を試みた。

しかし、大した成果は上げられず、正直行き詰っていた。

そんなときに現れたこのドラゴンボールという希望。

無理だと言われた石化の呪いの解除も、ドラゴンボールを使えばもしかしたら可能かもしれない。

念願だった・・・村の人々を救うことができるかもしれない・・

僅かな望みが出てきたことで自然とネギの手にも力がこもる。

ピッコロはその様子からネギの心理を察したのか、先に釘を刺しておく。


『ネギ・・・気持ちは分からなくもないが、今の俺達には残りの球を探す手段がない。焦ったところで仕方があるまい』

『ピッコロさん・・・
・・・すみません。僕、ちょっと浮かれてました。もしかしたらみんなを助けられるかもって・・・
でも、ピッコロさんの言うとおり、今の僕らではどうしようもないですもんね・・・』

『そこまで悲観することはない・・・今はドラゴンボールの一つがここにあるだけでも良しとするべきだ。今後の手掛かりになるかもしれん』

『・・・・・・はいっ!』

『だが、これだけは心しておけ。
・・・ドラゴンボールは強力だ。しかし、使いすぎれば災いを起こすことになる。現に俺の世界の地球はそのせいで滅びかけた。
・・・特にこの世界の人間にドラゴンボールの存在を知られるわけにはいかない。欲深い者どもはこぞって狙ってくるだろうし、その力を悪用されるとも限らんからな。
・・・今日の話はお前の心の中だけに閉まっておけ。他言無用だぞ!いいな!』

『はっ、はいっ!』










「どうにかアスナさんたちにはバレずに済んだけど・・・
・・・ドラゴンボールか・・・これがもし7つ揃えば村のみんなを助けることができる・・・」

ネギは光る四星球を眺めながら思う。

悟空がこれをわざわざネギの方に渡したのには何か意味があるのだと・・・

そして、残りの球もきっとどこかにあるはずだと・・・

それに関してはピッコロの方も同じ考えに至ったようで・・・
結局、悟空の意向に沿うような形で、ネギにドラゴンボールを預けることにしたのだ。

強力な宝貝であるドラゴンボールを持つということはそれだけでかなりの責任が圧し掛かる。

それをまだ子どもの身であるネギが背負った。

だからネギは知りたい・・・これを渡した悟空の真意を・・・


(はあ・・・父さんを探しだすこと以外にもやらなきゃいけないことができちゃったな・・・)


そんな少年の思考に答えるように球はさらに輝きを強める。

窓からは月の光も射し込んでくるこの夜は・・・

――――― 彼にとって長いものになりそうだ。









ちょうどその頃―――――

学園が誇る世界樹の頂上に直立し、同じ月明かりを浴びているピッコロがいた。


「孫・・・長年姿を消していたお前までが現れるとは思わなかったぜ」


今日聞いた中で一番の衝撃だった出来事・・・孫悟空の出現。

だが、彼はネギの前に現れたきり、再び姿を消したという。

ネギはその出来事がまるで夢幻ようだったと言っていたが、ピッコロはそうは思わない。


「お前は簡単に死ぬようなタマじゃない・・・そんな気はしていた。おそらく界王拳を習得させるためにネギに何かしらの手助けをしに来たんだろう。
・・・だが、何故だ? 何故ネギなのだ? なぜ俺には姿を見せない? 何か事情があるのか? 
・・・それともやはりこの世にいない存在になっちまってるのか?」

ピッコロはこの場にいない戦友に向かって語りかける。

だが、それに答える者は誰もいない。


「お前が渡したドラゴンボール・・・あれにはどういう意味がある?
そして俺や16号、ターレスまでもがこの世界に来たのも果たして偶然なのか?
俺はお前がすべてを知っているように思えてならん・・・

俺とネギを巡り会わせたのも・・・孫、お前なのか?」

本心から出たピッコロの問いも今はただ虚空に消えていくのみ・・・


「悟空よ・・・お前は俺に何を求めている?」


この問いの答えはこのときのピッコロでさえも知るすべがなかった。

後に2人が再会するまでは・・・







さてさて翌日、ネギはようやく教職に復帰したのだが・・・


「え~~~!?エヴァンジェリンさん今日も学校来てないんですか!?」

「うん。なんや風邪ひいて欠席するて連絡があったで」


エヴァの欠席届を亜子から受け取り、ネギは渋い顔をする。


(どうしたんだろう・・・? 
いくらなんでも真祖の吸血鬼ともあろう人が二日も風邪で寝込むなんてありえないよな・・・
仮病か? いや・・・確かタカミチの話では彼女には登校地獄の呪いが掛けられていたはず・・・仮病くらいで呪いから逃げられるとは・・・)


どうやらこれは何かわけがありそうだと感づき始めたネギ。


「まったくもう!この間のことをネギに謝らせようと思ってたのに!
・・・またサボってるんじゃないの?あのチビっ子は・・・」


休んでいるエヴァに対し、怒りを露わにする明日菜。

どうも先日の戦いから、ネギに対するエヴァたちの態度が気に食わないらしい。

その様子は自分を心配してくれる姉のようでネギはちょっぴり嬉しくもあったが、担任としてはやはりクラスメート同士仲良くなって欲しいところ・・・

なんとも複雑な心境である・・・


(そういえば今日は茶々丸さんの姿も見えないな・・・
エヴァンジェリンさん達には先日の戦いで完全に敵と認識されちゃってるし・・・もしかしたら先日の仕返しでも企んでるのかも・・・)


とにかく、エヴァとの問題を解決するまでは決して安心できない状況にあることはわかった。


(でも・・・向こうにはあの人がいる・・・)


エヴァを陰ながら守護していると思われる、眠れる獅子・・・人造人間16号。

界王拳を会得した現在のネギであっても、いまだあの強さに届いているとは思えない。

だからネギは16号を恐れている。

エヴァと関わっていけばいつまた彼と激突するかもしれないのだ。


(でも・・・心配するべきは本当に16号だけなのだろうか?もっと別にあるんじゃないか?)


ネギはまだ気づいていなかった。

エヴァが登校していない本当の理由を・・・

――――― 一度牙を砕かれた猛獣がまた新たな牙を研ぎ、ネギの首を今か今かと待ち構えていることに・・・


(いずれにせよ、もう一度彼女と直に話をしなくちゃ・・・)


そうとも知らずネギは教師としての使命に改めて燃えるのであった。













その頃、エヴァの別荘に珍しい訪問者があった。

いつものごとく刃物を研いでいたチャチャゼロはその客を見て驚きの声を漏らす。


「オッ!?珍シイヤツガ来タモンダ!久々ニ御主人ニ稽古デモツケニキタノカ?」

「フン。それは構わんが・・・今日は別件でな。お前たちの知恵を借りに来たのだ」


訪ねてきた男、ピッコロがそう返すと


「ヘ~、テメエニシテハオカシナ理由デ訪ネテキタナ。マアイイヤ。
御主人ナラアソコデ修業シテルハズダカラ声カケテミナ」

「そうか。そいつは感謝する」


ピッコロは礼を言い、エヴァのいるところまで舞空術で飛んで行った。

当のエヴァはそのとき毎日続けている武道の型を何百回も繰り返していたのだが、


「ほう・・・しばらく見ぬ間に相当腕を上げたようだな」


という久しぶりに聞いた声で動きを止め、凄い形相で振り返ると、


「き、貴様ぁぁぁぁ・・・次に修業をつけにくると約束してから一体どれほど待たされたと思ってるんだ馬鹿者めぇぇぇ!!!」


どうやら、10か月以上もの間ピッコロのコーチがなかったために相当ストレスが溜まっていたらしい。

なんでも実戦の訓練をしようにも、調度いい組み手の相手がいなかったからとか・・・


「そんなもの・・・16号やあの茶々丸とかいう娘に頼めばいいだろ?」

「うっ!?・・・あ、あいつらは、そのぅ・・・私に遠慮して本気でやらないんだ。
特に16号は私と戦うこと自体を嫌がってるみたいでな・・・」

「ククク・・・それだけ慕われてるということだ。良かったじゃないか」

「なっ!?な、何をニヤニヤ笑ってる!!
・・・フフフ、そんなに私を怒らせたいのか。だったら望み通り相手になってやる!!」

「フン。希望したのはそっちのくせによく言うぜ。
・・・まあいい。先にお前との約束から片付けてやる」

「フハハハ・・・今日の私は一味違うぞ!打倒坊やのために用意した新たな技で貴様をあっと言わせてやる!!」

「ほほう・・・えらく威勢が良いな。だが、こちらも手を抜くつもりはない。その威勢がどこまで持つかな?」

「ほざけっ!!私は貴様に会わない間に成長したのだ・・・いつまでも同じと思ったら痛い目を見るぞ!!」


ピッコロに吠えかかるや、構えをとり魔力を高め始めるエヴァ。


「ククク・・・おもしろい。ではどう成長したのか見せてもらおうか!!」


ピッコロもエヴァの魔力光の強さを感じ取ったのか、体に白い炎を纏わせた。


「ウオオオオッ!!!」

「デヤァァァァッ!!!」



ドドォォォォォッ



二つの力がぶつかりあい、

天と地に衝撃が走った。








――――― 数時間後・・・


「ハア~・・・ソレニシテモ、ヨクモマ~ココマデ滅茶苦茶ニデキルモンダ」


チャチャゼロが宮殿から見下ろした山岳の景色の荒廃ぶりに呆れた声を出す。

大きく削り取られた山肌に、平地を覆い尽くすような無数のクレーター。

森林地帯のほとんどの木々は薙ぎ倒され、前はあれだけ美しかった湖は見る影もなく干上がってしまっている。

これだけの地形変化が・・・たった2人の人間(?)の戦いによって起こったなどと誰が信じられるだろうか?


「ある程度は加減したつもりなんだが・・・お前の主人が想像以上に楽しませてくれるのでな。ちょっと本気になってしまった」


茶目っけのつもりで言ったのだろうが、まったく笑えない。

実際この男が“本気”と言うだけで一体いくつの星が必要になるだろう?


(マッタク、トンダ化物ダナ・・・コイツハ・・・)


この身が人間の体だったら冷や汗とはこういう時に掻くのだろうとチャチャゼロは余計なことを考えてみる。


(マア、コイツトノ組手ニ耐エキッタ御主人モ十分クレイジーダケドナ・・・)


主人が自分の手の届かない域に行ってしまったからといって今さら驚いていられない。

この現状に慣れてしまった彼女の不幸ともいえるだろうか。


「それにしても今日は随分と面白いものを見せてもらった。咸卦法の以外にあんな技があるとはな・・・手加減していたとはいえ、魔力だけで俺とあそこまで張り合うとは思わなかったぞ。魔法の使えん俺にはとても真似できない代物だ」

「マアナ。アレハ御主人ガマダヒヨッ子ノ時代ニ苦心ノ末編ミ出シタ究極奥義ダカラナ・・・
今ジャ、マトモニ使イコナセルノハ御主人クライノモンジャネエカ?」

「なるほど・・・伊達に長生きはしていないということか」


魔法というのも存外奥深いものらしい、とピッコロが感心していると、


「おい、何をコソコソ話している」


シャワーを浴びてきたエヴァが、タオルで頭を吹きながら黒い下着姿で出てくる。


「・・・好い加減その格好はどうにかならんのか?だらしないぞ」


苦々しい表情でピッコロが告げる。

別に下着姿に興奮したとかいうわけではない(ナメック星人は性欲というものがないので)。

素直にだらしないと思ったからだ。(ピッコロ基準ではあるが・・・)


「アー・・・・・・御主人ハ家ノ中ジャ基本ルーズダカラ・・・」

「チャチャゼロ・・・あとでシメる!」


相槌を打ったチャチャゼロに対し、額に井下駄を浮かべたエヴァ。

・・・彼女の沙汰は追って知らされるだろう。


「ところで、私に別の用があったそうだが?」

「ああ、そうだった。こいつを見てほしい」


ピッコロがエヴァ達の前に一振りの太刀を出した。

本来は長さがエヴァの身の丈ほどもあるのだが、どういうわけか刃が半ばで綺麗に折れてしまっている。

だが、折れているといえどもその刃の波紋からかなりの業物というのが見てとれる。

そして、エヴァはこの刀に見覚えがあった。


「これは・・・刹那の夕凪ではないか!」

「持ち主の娘を知っているのか?」

「当然だ。奴とは裏の仕事でときどき一緒になることがあるからな。
・・・だが、どうしてこれを貴様が?」


ピッコロがついこの間刹那と戦ったときのことを話すと、


「フン・・・刹那め、相手の力も見抜けず、よりによって貴様に挑むとは無謀なことを・・・
おまけに相手を魔族と見るや問答無用とは・・・あいつらしいが、少々軽はずみだったな」


このときピッコロは内心で「お前が言うな!」と思ってたとかなかったとか。


「で、これがどうかしたのか?」

「ああ・・・その刹那とかいう娘がこの刀を置いてってしまったんだが、そのあとこいつからどうも妙な力を感じてな・・・最初は放置しておくつもりだったんだがどうにも気になってつい持ってきてしまったわけだ」

「妙な力だと?」


エヴァが怪訝そうに夕凪を見る。


「ああ。一見こいつはただの刀にしか見えんが、意識を集中させればお前にも感じるはずだ。この刀から微弱だが気とも魔力とも判断しがたいオーラのようなものが出ていないか?」


ピッコロに言われた通りに集中してみると、確かに夕凪からオーラのような靄が立ち込めているような気もする。

しばらく見ているうちにエヴァが何かひらめいたようで、


「むむ!こいつはひょっとすると・・・」

「何かわかったか?」

「心当たりはある。断言はできんが・・・調べてみよう」

「そうしてくれるとありがたい。どうやらこれは俺の専門外になりそうだからな」


エヴァが宮殿の書庫の方へ向かっていく。

ピッコロはその背中を見送るとしばらくの間、エヴァが帰ってくるのを待つことにした。





待つこと2時間―――――


「ふう・・・ようやく見つけたぞ。奥の方に仕舞っていたから苦労した」


エヴァが分厚い魔道書を抱えて戻って来た。


「で、こいつの正体はわかったのか?」

「まあ、そう焦るな。今からそれを暴いてやるというんだ。ええと・・・」


エヴァが魔道書のあるページを読みながら魔法陣を組み立てていく。


「こいつは初めてやるから時間がかかるが・・・よし、できたな」


魔法陣を描き上げるとその中央に夕凪を置き、小声で呪文を唱える。

すると、魔法陣が光を放ち、


「ぬっ!?」

「・・・成功だな」


夕凪の纏っていたオーラが煙のように放出され、特定の形を作っていく。

オーラの靄がちょうど人の型をとったところで、なんとそれが実体化する。

現れたのは女性。それも和服を着こなした一般に美人と言われる顔立ちだ。


「・・・何だこいつは?」


目の前の光景にピッコロが唖然としていると、謎の女性が口を開いた。


「はじめてお目にかかります。私は“夕凪”・・・この刀に宿りし存在です」


ぺこりと礼をする女性に、ピッコロはしばし固まると、


「・・・どういうことだ?」


エヴァに視線を送り、説明を求める。

エヴァはニヤリと笑みを浮かべると、


「そいつの言った通りさ。そいつはこの夕凪に宿った意識の集合体、いわば『刀の精』とでも言う存在だ」

「せ、精霊だと?」


またしても聞き慣れない単語にピッコロが困惑する。

そういえば、彼の世界には仙人・神・魔人といった存在はいたが、精霊というものにはついぞ出会ったことがなかった。


「フフフ・・・戸惑っているな?まあ無理もないか。私も実際に見るのは初めてだ。
・・・おそらく、始めはただの刀だったのが、持ち主の気や魔力などを浴びていくうちに刀自身が意識を持つようになったんだろうな。この国で言えば、“付喪神”なんて存在が一番近いのかもしれんな」

「なるほどな・・・」


エヴァの解説に頷きながらピッコロは目の前の“夕凪”と名乗った女性を見やる。

その目は「この推測で正しいか?」という確認の意味合いを込めていたが、女性は頷くとともに


「その方のおっしゃる通り、私はこの刀自身の意識が具現化したものです。
実はずっとあなた方に話しかけていたのですが、幾分力が足りず半ば諦めておりましたところ、そちらの魔法使いの方のおかげでこうして話せるようになりました。感謝いたします」

エヴァに向けて頭を下げながら夕凪が礼を言う。

エヴァも満更でもないようにフッと鼻を鳴らした。


「それで・・・俺たちに話があるようだが?」

「はい。実はお願いがあるのです」

「願い・・・だと・・・?」


怪訝そうなピッコロに夕凪が真剣な面持ちで告げる。


「我が主を・・・刹那を・・・どうか、どうかお助けください!」












~ところかわって、外の世界の放課後では~


「それでどうすんのよ今日は?」

「とりあえず、エヴァンジェリンさんの家に行ってみようと思います」


会話を交わしながら連れ立って歩くネギと明日菜。

今日を入れて二日も続けて休んだエヴァに疑いの目を向けたネギは放課後にでも家庭訪問をしてみようと考えていた。

だが、ネギ一人だとどこか心配なのか明日菜がおまけで付いてきてしまっているが。


「そういえばエヴァちゃん達だけ寮からじゃなくて自宅から通ってるんだっけ・・・
そこからしてなんか怪しいわよね」

「でも、それは事情が事情だから仕方ないんじゃ・・・」

「あんたねぇ・・・私だってできればクラスメートを疑いたくなかったわよ。だけど、この間のこともあるし・・・大体、茶々丸さんまで休んでるってことは何かあるわよ絶対!」

「う~ん・・・そうなのかな・・・」


一体どういうつもりでエヴァは休んでいるのか?それがわからないネギは頭を悩ませる。

彼女は自らを“悪人”と称するが本当にそうなのか?

この間の様子を見る限り、ネギにはそう断言できない気がした。

彼女の本質を知りたい。ネギは今強くそう思った。


「(まったくこいつったら・・・また一人で考え込んで・・・少しくらい私を頼ってくれたって・・・)・・・・・・ん?・・・・・・ああっ!?」


明日菜が前に視線を向けた時に突然立ち止まった。


「あ、アスナさん!?どうしたんです?立ち止まって」

「ネギ、あれっ!茶々丸さんじゃない!?」


明日菜が指さした先には買い物帰りなのか、ポリ袋を提げた茶々丸の後ろ姿があった。


「ちゃ、茶々丸さんが・・・どうしてここに・・・」

「やっぱり2人してサボってたってわけね・・・よし、跡を着けるわよ!」

「ええっ!?だ、だめですよそんなこと!仮にもクラスメートを尾行だなんて」

「あんた一度は命を狙われてるのよ?おまけに二日も学校をボイコットされて悔しくないの?」

「いや・・・それとこれとは話が違うんじゃ・・・」

「とにかく、彼女を追いかけていけば必ずエヴァちゃんに辿り着くわ。どうせあいつらのことだから悪いことしているに決まってる。今度こそ暴いてとっちめてやるんだから!」

「あ、アスナさん!?ちょっと待って~~!!」


いつになく気合十分の明日菜を消極的な姿勢で追いかけるネギ。

かくして、ネギと明日菜による追跡劇が始まった。




だが、その捜査の過程で彼らは目にする。

予想を裏切った光景を・・・




木に引っ掛かってしまった風船が取れないと泣いている少女には・・・


「はい・・・どうぞ」

「わーーーっ!わたしのフーセン!お姉ちゃんありがとう!」



「・・・・・・・」「・・・・・・・」



歩道橋の階段の上り下りに苦労しているおばあちゃんには・・・


「いつもすみませんねぇ茶々丸さん」

「・・・・・・どうぞお気になさらず」


「・・・・・・」「・・・・・・」



ドブ川に流された仔猫を見かければ・・・


「オオーーッ!すげーぞ茶々丸!」

「茶々丸がネコたすけたぞー!」
「さすが茶々丸さんだ」

「ホントねー」



「・・・・・・」

「・・・え、えらいっ!!茶々丸さんここに来るまであんなにたくさんの善行を・・・
・・・あれ?アスナさん?」

「め・・・」

「メ?」

「メチャクチャいい奴じゃないのーーーっ!しかも街の人気者だし!!」

「・・・(びっくりした~!凄いリアクションだな・・・)ほ、ホントにそうですよね。
・・・・・・あっ!またどっか行くみたいです」






茶々丸が向かった先は人気のない裏道。

さっき助けた仔猫を頭に乗せてテクテクと歩いて行く。

やがて広場に出ると立ち止まって頭上の仔猫を下ろす。

そして袋から缶詰を取り出した。

どうやら仔猫に餌をやるらしい。

しばらくそうやって餌をあげていると、次第に他の猫達も集まってくる。

大所帯となった猫達に囲まれながら微笑む茶々丸。

その顔は人工物とは思えないほど実に人間らしい表情だった。


「・・・・・・いい人だ」

「・・・・・・グスッ」


さすがのネギと明日菜もこの光景にはホロリともらい泣きしてしまった。

さきほどの親切な行いと言い、どうにもこのロボ娘が悪人の仲間とは思えなかった。

少なくとも根はとても優しい娘なのは間違いない。


「あたし彼女のこと誤解してたわ。あんなにイイ子なのに・・・
悪い奴だなんて疑ってた自分が恥ずかしい・・・」

「アスナさん・・・・・・」


気落ちいたように俯いてしまった明日菜に掛ける言葉が見つからないネギ。

そうこうしているうちに、餌をやる茶々丸に近づいてくる影があった。


「・・・・・・っ!? 兄さん・・・」

「やはりここだったか」


気がついた茶々丸が顔を上げると、そこには彼女の兄が大木のように佇んでいた。


「ね、ネギ!あ、あれって・・・」

「じゅ、16号!!」


今ネギが最も恐れている存在が目の前にいる。

そう思うと自然に手に汗が滲んできた。

そのまま気配を消しつつ様子を窺う2人。

一方の16号はというと、何をするでもなくただ突っ立っているだけだったが、

餌に群がっていた猫達も彼が来たことに気づいたらしく、次第に彼の周りにも集まっていく。

あるものは足元でじゃれつき、あるものはその巨体をよじ登ったり肩で丸くなってお昼寝。

なんとものどかな雰囲気だ。

さらに、16号の周りには鳥たちも集まってきていた。

彼が手に餌を乗せて差し出すとそこに小鳥が啄みにやってくる。

そして小鳥たちが戯れるの様子をただ静かに見守るのだ。

傍からではつまらなそうに見えるかもしれない。

しかし、16号の顔はいつもよりほのかに柔らかい気がした。


(あの16号が・・・笑っている!?)


ネギは信じられないものを見たかのように目を丸くした。

初めて相対した時に見せたあの冷たい表情。

戦っている間も決してそれを崩すことはなった。

だからこれが初めてだった。16号が笑っている姿を見るのは・・・


「な・・・なんか凄くやりづらいわね。ああいう顔見ちゃうとさ・・・」

「・・・・・・僕もそう思います」



一方そんな16号の顔を茶々丸もじっと眺めていたのだが、


「・・・・・・」

「・・・ん?どうした茶々丸?」

「やっぱり・・・そうしてるときの兄さんの顔はいつもと違いますね。・・・こういうのを“幸せそう”と言うんでしょうか?」

「・・・・・・そうだろうか?俺は自分で笑ったところを見たことがないからわからない。
そんなに幸せそうなのか?」

「はい。・・・そういえば、こうして猫達の世話ができるようになったのも兄さんのおかげですね。餌のあげ方や抱き方とか・・・教えてくれたのも兄さんでした」

「・・・・・・そうだったかな」

「兄さんには感謝してます。始めた頃は何とも思ってなかったこの習慣を今まで続けてれたのも兄さんがいたからです。この子たちの世話を通して・・・私にも少しだけ感情というものが理解できたような気がします。・・・と言っても、まだわからないことだらけですが」

「・・・・・・俺はただ自然や動物たちが好きでそれを眺めていただけだ。大したことはしていない。だが、お前は毎日自分からこいつらの世話をしにきている。お前のいいところはそういう優しさを実行に移せることだ。・・・むしろお前の方が俺よりよほど人間に近いのかもしれない」

「・・・兄さんよりも・・・ですか?」

「ああ・・・それに、こいつらに餌をやっているときのお前の顔もとても“幸せそう”だったぞ」


笑みを浮かべた兄に指摘されて自分の顔に触れて見る茶々丸。


「私が・・・幸せそう?(・・・なんだろう。この熱の高まりは・・・モーターの回転が速くなっていく・・・)」


自分でもわからない体の変調に戸惑う茶々丸。




「・・・何かしら。あの2人の空間だけすごく甘酸っぱく感じるんだけど」

「?・・・そうですか?よくわかんないですけど・・・」


2人の醸し出す雰囲気にいち早く感づいた明日菜が顔を若干赤らめる。

対するネギは・・・まあ予想通りの反応で。


「でも・・・いつまで見てればいいんですかね?」

「ううっ・・・確かに。でも・・・今は出ていける空気じゃ・・・」


どうやらエヴァが出てくる様子がないところを見ると、当てが外れたのかもしれない。

今日はエヴァと別行動だった可能性もある。

だったらこのまま尾行を続けてもあまり意味はない。


(これじゃあただのデバガメだしね。・・・ここは気付かれないうちに退散したほうがいいかも・・・)

明日菜が退却の指示をネギにしようとしたそのときである。


その迷いが裏目に出たのか、16号のパワーレーダーがネギ達の位置をキャッチした。


「むっ、これは・・・そこにいるのはネギ・スプリングフィールドか!」

「・・・まずいっ!?気付かれたっ!!」


隠れているネギ達は慌てる。


「ええいっ!こうなったら自棄よ!」


テンパった明日菜がネギを引っ張って物陰から現れる。

現れた2人を見て茶々丸の瞳が一瞬驚いたような動きを見せるが、すぐに冷静になり、


「・・・・・・ネギ先生に神楽坂さん。どうやらつけられていたようですね。油断しました」

「・・・・・・やるしかないようですね。アスナさん下がって・・・」


ネギが止むを得ず、構えをとる。

明日菜はネギの言葉にすぐは頷けなかったが、彼の真剣な顔を見て考えを改め渋々それに従う。

そのときネギから僅かに出た殺気を敏感に察知した動物たちが我先にと逃げだして行ってしまう。


「・・・・・・鳥が逃げてしまった」


飛び立っていく小鳥を残念そうに見送る16号。

そして、ネギ達に向き直ると途端にいつも見せる無表情に戻った。

相変わらずその威風堂々たる佇まいには一部の隙も見当たらない。


(ダメだ・・・僕も少しは強くなったと思ったけど、まだこの人には遠く及ばない)


冷や汗を流しながら、ネギはジリジリと間合いを測る。

対する16号は直立姿勢のまま動かない。

両者の睨みあいが続いてどれくらい経っただろうか。

一瞬だった気もするし、とても長かった気もする。

とにかく、先に動きを見せたのは16号だった。

敵に背を向ける形で・・・


「「!?」」

「兄さん!?」

「今のお前たちと戦っても意味はない。それにお前の本当の相手は俺ではなくてエヴァだろう?・・・ならば焦らずとも近いうちにその日は来る」

「なっ!? それは・・・どういう意味です?」


ネギの問いに16号は背を向けたまま答える。


「それは今答える必要はない。時機にわかることだ。
・・・あと一つ言っておくことがある。俺はこの件には今後一切手を出さない」

「ええっ!?そ、それってネギとは戦わないってこと!?」

「そうだ。これはお前とエヴァとの間の問題・・・本来部外者である俺が手を貸すのは無粋というもの。エヴァもそれは望んでいない」

「・・・・・・そ、その言葉を信じろっていうの?」

「信じるかどうかはお前たちの勝手だ。少なくとも俺は介入するつもりはない・・・」


16号の声色から察するに、嘘は言ってないようだ。

さらに彼から放たれるプレッシャーがそれを後押しする。

あのやかましい明日菜も押し黙ってしまうほどの威圧感だった。

だが、ネギはそれでも不審に思うことがる。


「しかし・・・あなたの助けがないとすればどうやってエヴァンジェリンさんは戦うつもりなんです?先日の戦いから考えると、仮に封印を解いたとしても彼女に勝ち目があるとは・・・」

「ネギ・スプリングフィールド・・・それは違うぞ・・・」

「!?」

「今のエヴァは己の誇りを取り戻すために戦っている。必死にな・・・。
そして必死に何かを求めて突き進むやつほど・・・追い詰められたら強いぞ」


そして、フッとネギを振り返り、


「お前が思っているより・・・エヴァは強い!」


そう言うと再び前を向いて体内の装置の力で宙に浮かんでいく。

そのあとに背中のジェットを噴射させた茶々丸も続き、ある程度の高度に達したところで、


「では・・・お二人ともごきげんよう」


ペコリと頭を下げる。

そのまま2人は沈黙を守ったままゆっくりとその場を離れていく。

ネギ達はそれをただ見送ることしかできない。


「・・・・・・」

「ネギ・・・・・・」


残された2人のいる場所では一匹の仔猫のニャーと鳴き声が響き渡った。











次回嘘(?)予告

悟空「オッス!!オラ悟空!!刹那って娘の様子がおかしい。とうとう寮から出てっちまったぞ」

このか「ネギ君・・・せっちゃんが出てってもうた・・・」

ネギ「ええっ!?そ、それは大変です!今の彼女は武器を持ってないのに!
・・・って、こんなときに何者かの襲撃!?あっ、桜咲さん危ない!」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI 『刹那絶体絶命! そのとき夕凪が閃いた!!』」

ネギ「・・・空から刀が!! もしかして・・・ピッコロさん!?」








あとがき

最近展開がカオスになってきたなと感じる仕事人です。

今さらながら、なかなか話が進みませんね(涙)

こちらは早くエヴァとのリベンジマッチを書きたいというのに・・・筆が全く進みません。

やはり原作のイベントを無理やり入れようとしてるからなんでしょうか。

もうすでにオリジナルの展開なのに何やってるんだろ・・・

ますます事態をカオスにするとか・・・

キャラだって最近崩れていないかすごい心配だし・・・

自分で自分の首を絞めると言う愚行を平気でやってる己に呆れてます。AHAHAHAHA
~♪

とりあえず落ち着こう自分。まだ慌てる時間じゃない・・・



[10364] 其ノ三十八   刹那絶体絶命! そのとき夕凪が閃いた!!  【Aパート】
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2010/04/26 18:49
ネギ達が茶々丸達と邂逅したその晩―――――

麻帆良学園女子中等部女子寮――――

ここで、今日も学校に出なかったこちらの少女の身辺に変化が訪れようとしていた。


「・・・刹那、入るぞ」


龍宮真名が玄関からリビングの扉を開けると、案の定まだ布団に閉じこもっったままの親友がいた。

真名は内心で「やはり・・・」と深い溜息をつくと、


「まだそんな風に引き籠ってるのか・・・好い加減にしたらどうだ!
聞いたぞ。午前中に葛葉先生に見舞いに来ていただいたのに、部屋にも入れずに追い返したそうだな」

「・・・・・・」

「・・・一人にしてほしい気持ちは分からなくもないが、いつまでもそうしているわけにはいかないだろう?
あまりこんなことは言いたくないが、少しはこちらの言葉に耳を傾けてくれても・・・」

「・・・・・・放っておいてくれ」


頭までずっぽりと布団をかぶったまま小さく発せられる拒絶の言葉。

相変わらす頑固な奴だ・・・と真名が半ば呆れながらも、


「生憎とこちらにも我慢の限界があるのでね・・・勝手ながら最終兵器を用意させてもらったよ」

「・・・・・・?」


真名の“最終兵器”という言葉に布団の中で僅かに反応を見せる刹那。

真名も「今度はいける!」と確信した表情でその新兵器に向けて声をかける。


「さあ、入ってくれ・・・君の言葉ならあるいは刹那に届くかもしれない」

すると真名の背後から現れた黒髪の少女が刹那に声をかける。

「・・・せっちゃん」

「・・・っ!?(お、お嬢様!?)」


なんとそこに現れたのは刹那の幼馴染である近衛木乃香だった。

するとどうだろう。あれほど殻に籠っていた刹那がその声に明らかに動揺していた。

ビクッと布団ごと体を震わせたその姿を見て真名は確かな手応えを感じた。


「・・・せっちゃん。龍宮さんから聞いたえ・・・
二日も学校休んで様子がおかしいって・・・ウチも心配やったんえ?
・・・お願い!ウチとお話だけでもしてくれへん?」

「・・・・・・(な、なんで!?なんでここにお嬢様が!?)」

「お願いやから・・・顔を見せてえな、せっちゃん・・・」


木乃香の心からの叫び。

それがようやく届いたのか、天の岩戸が開くように刹那が掛け布団からわずかに顔を覗かせた。

やはり想定外の事態にまだ落ち着けないのか、目が怯えの色を見せている。


「せっちゃん・・・・・・」


目尻に涙を貯めながらも、自分の言葉に答えてくれた刹那に笑いかける木乃香。


「お、お嬢様・・・」

「もう、お嬢様なんて他人行儀に・・・昔みたいに“このちゃん”って呼んでぇなぁ~」


嬉しそうに話しかける木乃香。

だが、その頬笑みが今の刹那には苦しかった。


「あ・・・あうう・・・」


何と話していいかわからず戸惑う刹那に対し、木乃香が口を開く。


「せっちゃん・・・ウチは龍宮さんに呼ばれただけやから、せっちゃんに何があったかわからへん。正直ウチじゃ頼りにならんかもしれない・・・
・・・でも、ウチはせっちゃんの力になりたい!せっちゃんの友達として・・・」

「・・・お・・・じょう・・・さま・・・?」


木乃香は刹那の手をとり、両手で包み込むように握ると


「小さい頃・・・ウチが川に溺れた時せっちゃん助けに来てくれたよね。
結局2人とも溺れちゃったけど・・・でも、ウチあんとき嬉しかった・・・。
ううん、あのときだけやない。ウチが危ないときはいつだってせっちゃんが助けてくれた・・・
だから、今度はウチがせっちゃんを助ける番や!」


ぎゅっと刹那の手を握る木乃香の目は真剣だった。

対する刹那はこの思いにどう答えていいかわからず頭がグルグル回っている。

そんな刹那に一瞬で不安げな表情になった木乃香は、


「せっちゃん・・・ウチのこと嫌い?」

「っ!?そ、それは・・・」

「せっちゃんが中学の頃からウチを避けとったのは分かってた。
・・・ウチ何か悪いことしたんかな?もしそうならちゃんと直すから・・・謝るから・・・
だからせっちゃん・・・ウチのこと嫌いにならないで・・・」

「!?」


ぽろぽろと涙を零す木乃香に刹那は衝撃を受ける。


(まただ・・・また泣かせてしまった・・・お嬢様を・・・このちゃんを・・・
・・・いつだってそうだ。私は大事なものを守れない。それどころか逆に傷つけてるじゃないか・・・
私の所為でこのちゃんは涙を・・・私が・・・ウチがこんなんだから・・・
やっぱりそうや・・・ウチに・・・このちゃんを守る資格なんて・・・)


悪い方向へ思考がスパイラルに陥った刹那はもう何も考えられなくなっていく。

すると・・・刹那が突然布団から体を起こしたかと思いきや、



バリーンッ



「せっちゃん!?」

「しまったっ!刹那っ!」


跳び上がりざまに窓ガラスをぶち抜いて外に躍り出てしまった。

慌てて割れた窓から外を覗くがすでに刹那は走り去った後だった。


「くっ・・・私としたことが、逆効果だったか・・・」

「どうしたらええの・・・ウチ・・・」


己の行動が裏目に出たことに舌打ちする真名と、これからどうするべきか途方に暮れ、オロオロする木乃香。


「私はこれから刹那を追いかける。
君は・・・そうだな、あの子供先生を呼んで来てくれ。見た目以上に頼りになりそうだ・・・」

「わ、わかった!」


真名の指示に頷くと木乃香は急いでネギを呼びに行った。

それを見届けると、部屋に隠していた裏の仕事で使うガンやライフルを即座に装備する。


「停電の日も近いからな・・・いつ、外部の敵が現れてもおかしくない。
まったく・・・世話の焼けるやつだ」


真名はそう言ってから苦笑いを浮かべ、割れた窓から下へ跳び下りる。

そうしてしばらく暗闇の中を走り抜けると、近くを自分と伴走している気配に気づく。


「・・・お前も来る気か? 楓」

「水臭いでござるよ。刹那が心配なのは拙者も同じでござるのに・・・」


真名の問いかけに忍装束の少女はにっこりと笑みを返した。


「フフッ・・・そうは言うが、ここから先は裏の仕事になるぞ?」

「裏とな?・・・フム。真名たちが夜な夜などこかに出かけていたのは感づいてたでござるが、そんな事情があったとは・・・
拙者も裏の存在は噂で耳にしたことくらいしか・・・」

「・・・引き返すなら今しかないぞ?」

「冗談を・・・拙者も自惚れるわけではないが、山奥で妖の類と出会ったことも何度かござる。並の相手なら負ける気はないでござるよ」

「そうかい・・・なら無理には止めないよ。責任は持てないがね」

「承知!」


真名と楓がお互いに目配せし合うとさらに速度を上げて夜の闇を駆け抜けていった。









「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ・・・」


刹那は脇目も振らずただまっすぐに走り続ける。

目的地なんてあるわけがない。ただあの場所から・・・このちゃんの前から消えることさえできればどこでもよかった。

これでさらに彼女の心は傷ついてしまうかもしれない・・・

でも、あのときの自分にはこうする以外の方法が思いつかなかった。

結局逃げたのだ・・・自分は・・・

でも、仕方がないではないか・・・


(ウチなんかが・・・このちゃんの傍にいちゃいけないんや)


目尻に涙を湛え、それでもなお走り続ける。

やがて走るだけ走った後、地面に両手をつき荒くなった息を整える。

見渡せばいつの間にか森の奥深くまで来てしまっていた。


「このままどこか遠くに行ってしまいたいな・・・」


―――そして二度とこのちゃんの前に姿を見せたくない。

ふと、そんな考えが浮かんだ時、自分のまわりを複数の気配が取り囲んでいるのを感じた。

現在情緒不安定とはいえ、腐っても神鳴流の剣士。

敵の気配に自然と体も反応する。


「・・・囲まれてるな。少なくとも20体はいる。
ここまで接近を許すなんて・・・やっぱり私は未熟だ・・・」


自嘲気味にフッと笑うと、森の所々から刹那を射抜く赤い瞳がチラホラと現れ始めた。


「ホッホッホッホッ・・・・・・これはこれは、木乃香お嬢様の護衛剣士様ではございませんか」


そんな声とともに刹那の前に陰陽師の衣装を着た男がゆらりと現れる。

頭に烏帽子をかぶり、顔には能面を、

そして扇子を仰ぎながら高笑いを上げている。


「貴様・・・西の者だな! さてはお嬢様が狙いか!」

「ホッホッホッホッ、いかにも・・・と言いたいところやけど、今日は君に用があるんや」

「私に・・・だと?」

「おや?覚えてへんのですか?
・・・・・・ホッホッホッ、流石は神鳴流の剣士・・・人を怒らせるのが上手ですなぁ。こっちは一度も忘れたことはないのになぁ」


笑っているはずなのに声にどこか冷たさを含ませている―――――そんな男に対し、刹那は首をひねる。


「残念だが見覚えがないな・・・」

「ホッホッホッホッ・・・そんなつれないことをおっしゃって・・・
よろしい。なら、これを見ても同じことが言えますか?」


男が能面に手を掛けゆっくりと外していく。

すると、そこに隠された顔を見て刹那の目が驚愕に染まった。


「き、貴様はっ!」

「ようやっと思い出していただけたようやな」


色白の恐らく美形と言われるであろう顔立ち・・・しかし、その美しい顔の左目から頬にかけて大きな刀傷が走っていた。

それを目にしてようやく刹那は相手のことを思い出した。


「・・・半年前、この学園に侵入しお嬢様の誘拐を企てた一味がいたな。思い出したぞ。
あのとき、たった一人だけ取り逃がしてしまった奴がいたが・・・貴様だな!
その左目の傷・・・確かに私が付けたものだ」

「ホッホッホッ・・・あのときはよくもやってくれましたなぁ。
ボクの美しい顔にこんなでっかい傷をつけて・・・お陰で人前では面を被らなくてはいけなくなりましたわ」

「フン・・・それは自業自得というやつだろう?
・・・・・・また性懲りもなくお嬢様を狙いに来たか」

「さっきも言いましたやろ?ボクの目当てはお嬢様じゃなくて君や。
・・・君の血を見ないと疼くんや。この左目がなぁ」


そう言って男は自分の左目をなぞりながらゾッとするような笑みを浮かべる。

そして扇子をかざすとぞろぞろと木々の間から異形の鬼達が出てくる。

刹那の見立て通り軽く数十体はいる。


「こちらに侵入してしばらく様子を窺っていたらそちらからノコノコ一人で出てくるとは・・・今日はツイとるわ!
・・・・・・さあて、あのときの借りをたっぷり返させてもらいますえ!!」


男が命じると刹那の周りを取り囲み始める巨大な鬼達。


『コロセ・・・コロセ・・・コノムスメヲコロセ・・・!』

「・・・うくっ!?」


呪詛を唱えながら迫りくる異形の群れを前に刹那はジリジリと後退していく。

これだけ数が多いと夕凪のない刹那ではあまりにも不利。

せめて脇差だけでも持ってくるべきであった。

今頃それに気づくあたり、相当彼女の判断力は鈍っていたらしい。


(くっ・・・どこまでも情けないな・・・)


刹那は己の不甲斐なさを思い知らされ、苦々しい表情をする。


「フフフ・・・かかれ! 我が式神たちよ!」

「「「「「グガァァァッ!!」」」」」


術者の男の合図とともに鬼達が一斉に大挙する。

一匹の鬼の腕が刹那に向けて振り下ろされ、


「くっ!」


即座に飛び退くと鬼の手が地面に減り込みクレーターを作る。

あんなのを喰らったらひとたまりもないだろう。


「おっと、余所見はいかんよぉ~」

「ハッ!?」

「グオオオオッ!!!」


刹那の死角から別の鬼による棍棒が襲いかかる。


「ぬっ・・・!!」

なんとか体を捻って回避するも、僅かに肩をかすらせ「ウッ・・・!!」と痛みに顔を引き攣らせる。

着地すると同時に傷口からの出血を手で押さえ、鬼達を睨みつける。


「おやおや~?そういえば、君はあの刀を持っとらんのかいな?
・・・ホッホッホッ!どういうわけか知らんがこいつは愉快。いかな神鳴流も得物がなければ怖るるに足らんわな」

「黙れっ!貴様ごとき・・・夕凪がなくともこの身一つで十分! いや・・・必ず倒して見せる!!」

「ホホッ! 強がりもそこまできたら大したもんやな。さていつまで持つかしら?」


男の笑い声が尚も響く。

しかし、刹那はそれに反論することができない。

無論神鳴流にも武器がない場合の体術は存在する・・・しかし、それらもこの目の前の鬼達に対してはどうしても決定打に欠ける。

この術者にしても、強力な式神をこれほど多く従えているところを見るとかなりの実力者だ。

この場に夕凪があればおそらく負けはしないのだが・・・


(でも・・・夕凪は・・・)









「桜咲さ~ん!!どこですか~!!」


一方、木乃香の知らせを受けたネギはすぐに刹那の捜索を開始した。

刹那の気を探りながら舞空術で辺りを見回す。


「桜咲さんの気は一般人より大きいからすぐにわかると思ったんだけど・・・
う~ん。そこまで遠くには言ってないはずだし・・・」


そのとき、ネギの感覚が気の乱れを捉えた。


「!?・・・これは・・・誰かが戦ってる・・・」


気を感じた方角は・・・学園の住宅街から大分離れた森の中。

そこに目を向けた時、ネギはその気配の中に刹那の気が混じっていることを知る。


「桜咲さんが・・・!!」


現場に急行しようとするネギ。

しかし、


「・・・!?」


突然巨大な気を察知し、動きを止める。

ちょうど今ネギが向かおうとしている地点に何者かが接近していた。

そして、それはネギが良く知っている人物だった。


「あ・・・あれは・・・」










「グハッ・・・!」


これで地面に叩きつけられえるのは何度目になるのか。

あれから刹那は徒手空拳で鬼達に立ち向かっていった。

あれだけの数を相手にここまで持ったのは正直健闘したと言えるだろう。

だが、やはり夕凪がないというハンデは思いのほか大きく・・・

奮闘むなしく、今では鬼達に一方的に痛みつけられ体はボロボロに傷ついていた。


「フン・・・口ほどにもない。 勝負ありましたなぁ」

「く・・・クソぉ・・・!!」


鬼に取り押さえられ、もはやあざ笑う術者の顔を睨みつけることしかできない。

刹那は悔しさに涙する。

やはり私は弱い・・・弱すぎる。

夕凪がなければこんな奴一人倒すことができない。

なんという無力・・・!! なんという未熟・・・!!

こんなことでお嬢様を守ろうとしていたのか、私は・・・


「ううっ・・・お、お嬢様・・・」

「ホホッ・・・こんなときにお嬢様どすか?
・・・安心しや。君を片付けたらお嬢様とゆっくり相手をするさかい・・・あとのことはボクに任せて往生しぃや!!」


鬼が刹那の頭に狙いを定めて棍棒を振りかぶる。

己の死期を悟った刹那はギュッと両目を閉じる。


(ごめんこのちゃん・・・やっぱりウチには無理やった。
・・・一緒にいられなくて・・・ゴメンなぁ)

目尻から零れた涙は地面を濡らす。

そして、彼女は最期の一瞬を待つ・・・











――――― はずだった。



『小娘っ!! キサマの思いとはその程度のものなのか!!』



「っ!?」

「なっ!? だ、誰やっ!?」


突如響き渡った声・・・

大地を揺るがすようなその声に刹那はもちろん、男も動揺を見せる。


(この声は・・・まさかっ!? ・・・いや、そんなはずはない)


刹那が声の主に心当たりを見つけるが即座にその考えを否定する。

どうして考えられよう? あの男がこの場に現れるなどと・・・


(だって・・・奴と私は・・・)


そこまで考えを巡らせている中、鬼どもが声の主を探そうと辺りを見回し始めた。

その次の瞬間・・・


「魔貫光殺法ーーーっ!!!」



ズキュゥゥゥゥゥンッ!!!



螺旋状の閃光が刹那にトドメを刺そうとした鬼の胸を貫いた。


「グモッ!?・・・ガアアアッ!?」


胸に大穴を開けた鬼が棍棒を振りかぶった姿勢でズゥゥゥゥンと崩れ落ちる。


「な、ななっ・・・!?これは一体・・・ああっ!?」


式神を倒されて驚く男が上に目を向けるとその目がさらに見開かれた。


「・・・・・・っ!?」


自由になった刹那も男の視線と同じ方向に目を向け、こちらも・・・いや、男以上に驚きの色を露わにした。





とある大木の天辺にすらりと立つ人影・・・

それは・・・


――――― 月明かりに煌めくマントをはためかせ、悠然とこちらを見下ろしている。


――――― やがて、その光が顔を照らし出すと、刹那の予想が確信に変わった。


(な、なぜあの男がここに・・・)


そこにいたのは・・・


――――― 頭にターバンを巻き、緑色の肌をした男・・・


――――― そしてつい先日敵として戦っていたはずの魔族・・・


「フン・・・」


――――― ピッコロがあのときの無愛想な表情で佇んでいた。









あとがき①

今回は量が多いので2パートに分けます。

Bパートもこのあとすぐに投下します!



[10364] 其ノ三十八   刹那絶体絶命! そのとき夕凪が閃いた!!  【Bパート】
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2010/04/26 19:28




刹那には事態が飲み込めなかった。

敵だったはずの男が・・・自分を助けたと言うのか? ・・・どうして?


「な、なんやお前は!?」


術者の男が何やら喚き散らしているがピッコロは華麗に無視し、刹那に視線を送る。


「おいっ! キサマ・・・あのときの威勢はどこに行った!!」

「!?」


ピッコロに一喝されビクッと刹那の体が震えた。


「キサマには守りたいものがあるんだろ? それが何だ!その無様な姿は!!
・・・キサマ・・・このままで終わるつもりか!?」

「!?・・・・・・そ、それは・・・」

「本当に守りたいのなら戦え! 例え力がなくとも最後まで抗ってみせろ!!
・・・・・・それが本当の強さだ!!」

「・・・・・・」


不思議なことに敵であるはずのピッコロの言葉が何故か刹那の心を撃った。

そのあまりの衝撃に言葉にできず、少女は戸惑う。

そんな様子から何かを感じ取ったのかピッコロはどこからか棒状のものを取り出し、


「もし、まだお前に戦う意思が残ってるのなら・・・返してやる。忘れものだ」


そう言うと、刹那に向けてその物体を投げつける。

宙を舞った棒状の何かはクルクルと回転して刹那の目の前の地面に突き立てられた。


「っ!? こ、これは・・・!!」


刹那はそれを見て絶句する。


「ゆ、夕凪が・・・どうして・・・!?」


そこには前のピッコロとの戦いでその命を終え、そして自ら置き去りにしてしまった愛刀・・・夕凪がその刀身を完全に修復した状態で輝いていた。


(だが、夕凪は完全に折れていたはず・・・それが何故ここに・・・)


呆然とする刹那の前で夕凪が光を放ち始める。


『刹那・・・・・・刹那・・・・・・』

「なっ!? だ、誰っ!?」

『刹那・・・・・・私です・・・刹那・・・・・・』


いきなり頭に響いてきた声に一瞬刹那は混乱する。

だが、何度も呼びかけるその声によってようやくそれが誰によるものかに気づく。


「・・・ま、まさか、お前が話しているのか? 夕凪・・・」

『そうです。ようやくこうして話すことができましたね。我が主、桜咲刹那』


夕凪は光を放ちながら刹那に語りかける。


「こ、これは・・・一体どういう?」

『ここで説明すると長くなるので簡単に言いますと、私はこの刀に宿る精です。
・・・・・・そして、いつもこの刀から歴代の主たちを見てきました。もちろんあなたもですよ、刹那』

「私を・・・?」

『はい・・・。
そして、私は知っています。あなたが木乃香殿のために必死に修業に励んできた日々を・・・
この土地に来てからもずっと彼女の傍で守り続けてきたことを・・・
だから言います。刹那・・・弱い自分から逃げてはなりません。戦いなさい!』

「え・・・!? で、でも・・・私は・・・」

『弱いことは罪ではありません。弱さから学べることも少なくないはず・・・
でも、だからと言って、己の弱さを知りながらそこで諦めてしまってはなりません。
弱さに立ち向かってこそ人は本当の意味で強くなれるのですから・・・
刹那・・・一度は砕けたこの刃ですが、あなたの心が折れぬかぎり何度でも甦ります!
私はあなたと共に戦いたい・・・再びこの姿で・・・ 』

「夕凪・・・」

『さあ、その手で掴みなさい。 この生まれ変わった私を・・・』


夕凪の言葉に導かれ、刹那は恐る恐るその柄を手に取った。


「!? この感覚は・・・」


柄を握った瞬間、今までの夕凪と比べて気の伝導が断然違うのがわかった。

そして地面から引き抜き、刀身を眺める。

折れる以前よりも増した様に思える輝き。

刃は繊細でありながらどこか力強さを感じさせる。

明らかに前の夕凪とは違う・・・!

握っただけで気持が高揚していく刹那を余所に、さっきから置いてけぼりをくらっていた術師の男もついに我慢の限界らしく、


「ボクを無視して何をゴチャゴチャと・・・
ええいっ! やってしまわんかい!!」


術師の命令で再び式神達が刹那に襲いかかる。

だが・・・


「秘剣・・・百花繚乱!!」


一筋の斬撃が走ったあと・・・・・・



ドスゥゥゥゥゥン・・・   ズザァァァァァ・・・



群がった鬼達がほとんど同時に地に伏していく。


「ば、馬鹿なっ!! ぼ、ボクの式神たちを・・・たった一撃で!?」


男の顔がみるみるうちに青くなっていく。


「すごい・・・これが生まれ変わった夕凪の力・・・」


いささか興奮した面持ちで刹那が呟く。

だが敵もさる者、すぐに落ち着きを取りもどし、


「なら・・・これならどうやっ!」


男が呪符を自分の影に投げつけると貼りついた瞬間に影が沼のように広がっていき、やがてそこから次々に式神が湧いて出てきた。

さっきの鬼たちよりもさらに体も大きく強力な兵たちが・・・ざっと数百体はいるだろうか。


「ハア・・・ハア・・・ハア・・・ど、どうや! これがボクの全力・・・
一体ごとの強さもさることながら、これだけの数・・・流石の君も相手にするのは骨が折れるやろ」

息を荒げながら男は勝ち誇ったようにしゃべりたてる。

刹那はふらつきながらも敵を見渡しながら油断なく構えをとる。


(確かに・・・正直立っているのもつらい・・・
こんな体で、この数を相手にするのは・・・)


いかに夕凪の力があったとしても、使い手である自分がいつ倒れるかわからない。

いまだこちらが不利であることに変わりはないのだ・・・

ここに来て迷いに囚われそうになる刹那に夕凪からの檄が飛ぶ。


『刹那っ! 何を弱気になっているのです! もっと自分を信じなさい!!私が付いてますっ!  それに・・・』

「戦うのがキサマだけだと思うなよ・・・」

「えっ・・・!?」

後ろから聞こえた言葉に刹那が驚き、振り返る。

すると、さっきまで傍観に徹していたピッコロがいつの間にか刹那の背後に立っていた。


「見ているだけというのも退屈なのでな・・・俺も遊ばせてもらおう」


そう言って刹那の横を通り過ぎて前に進み出る。

そんなピッコロを見ると刹那は緊張するとともに先日の戦いで植え付けられた僅かな恐怖が甦ってくる。

まあ、あれだけのトラウマだったら無理もないのだが・・・


「あ・・・あああ・・・あの・・・」

「雑魚の方は俺が引き受ける。 キサマは親玉を片付けろ・・・いいな?」

「は・・・ハイィッ!!!」


ピッコロから発せられた威圧感に呑まれ、刹那は反射的に背筋を伸ばして返事をしてしまう。

どうやら今回は味方・・・のようだが、やはりどうにも慣れない。

一方ピッコロがしゃしゃり出てきたことで、おもしろくないのは術師の男。


「いきなり現れて好き放題言ってくれるやないか・・・
元はと言えば、お前が余計なことをしたおかげでこんな面倒なことになったんや!
・・・・・・こうなったら、2人纏めて血祭りにあげてくれるわーーー!!」

「フン・・・その程度の召喚しかできないところを見ると所詮は二流だな。吠えるだけなら誰でもできる。やれるかどうか確かめてみるか?」

「ぬうっ! 小癪なーーーっ!!」


不敵に笑いながら指先で挑発するピッコロに逆上した男は数十体の鬼どもにピッコロを向かわせる。


「ウゴォォォォォッ!!」 「グワァァァッ!!」


雄たけびを上げてピッコロに飛びかかった先頭二体の鬼が棍棒を叩きつける。



ガシッ



「「!?」」


だが、ピッコロを襲った二本の棍は左右片手ずつで軽々と防がれ、


「そらっ!!」


そのまま棒を支店にして投げ飛ばされた。


「グアアアァッ!!」


別の鬼が鉈で切りかかるが、ピッコロはそれをあっさり避ける。


「フン・・・ヌワタァァッ!!」


そして、カウンター気味に腹めがけて拳を振り抜く。

鬼の腹部にドゴンッと鈍い音が響く。


「ゴオッ!?・・・オ、オウゥゥ・・・」


背中から生えた拳が引き抜かれるとともに、鬼が仰向けに倒れる。


「「「キシャァァァッ!」」」


そのとき三体がピッコロの背後からとびかかるものの、


「カァァァーーーッ!!」


ピッコロが振り返りざまに口から放ったエネルギー波に飲み込まれる。


「「「グギャーーーッ!?」」」


断末魔の声を上げて消滅する鬼達。


「ヌワタタタタタ・・・・ッ!!」


その後も息もつかせぬ敵の猛攻を息一つ乱さず捌いていくピッコロ。

無論のこと本人は完全に遊んでいる。


「な、なんや・・・あいつは・・・ば、化け物か!?」


ピッコロの鬼神のごとき戦いぶりに術師は呑まれたように呟く。

あれだけいた自陣の兵がどんどん減らされていく現状を見させられて平静を保っていられる者がはたしているだろうか?


「つ・・・強い・・・!」


一方の刹那もピッコロの戦いにすっかり見とれていた。

自分が手こずっていた相手を全くの無傷で難無く倒して見せるその手練。

わかっていたことだが、あまりにも次元が違いすぎる・・・


『刹那! 何ぼうっとしてるのです!!』

「はっ!? ・・・す、すまない夕凪」

『あの方のことなら心配は無用です。それよりも今はあなたの成すべきことをしなさい!』

「うん・・・わかった!」

『よろしい。 ・・・行きますよっ!』


夕凪の合図とともに敵の大将目がけて斬り込みをかける刹那。


「なっ!? あいつ、特攻を仕掛ける気かっ!・・・そうはいくかっ!!」


刹那の意図気付いた男は自分の前に数体の鬼を配置して壁を作る。

だが、刹那は迷わない。


「ハアアアッ!!」


気合を発するとともに刹那が剣を振り抜く。


「神鳴流奥義・・・『斬空閃』!!」


夕凪から放たれた気の斬撃が式神たちを貫き・・・


「「「「!?」」」」


鬼達は斬られたことにも気づかぬうちにその身を地面に横たえることとなった。


「なっ・・・そんな・・・ば、馬鹿な・・・っ!?」


刹那の想像以上の腕前に本能的に恐怖を感じ、後ずさりする術者。


「そ、そうや・・・まだ数ではこちらが上・・・応援を・・・」


咄嗟に思い出し、壁となる式を呼び寄せようと辺りを見回し・・・


「へ・・・?」


愕然とする。

あれほどいた鬼達が全て見る影もなく地に伏している。

そして・・・


「フン・・・もう終わりか。 厄介なのは数だけで、戦ったら随分と他愛もない奴らだ」


ピッコロが最後の一体の首から手をはなし、心底つまらなそうに吐き捨てる。


「ぜ・・・全滅やと!?」


いよいよもって男の顔が青くなった。


「この短時間に・・・たったひとりであの大軍を・・・し、信じられんっ!
な、何者やおまえ・・・っ!?」

「俺か?・・・俺は、通りすがりの“大魔王”だ」


そう男に返しながらピッコロは不敵に笑う。

自らを大魔王と名乗る辺り、相当な自信家かただの馬鹿しかいないだろう。

しかし、・・・この男にはそれを納得させるほどの何かを持っている。

・・・その絶対的ともいえる存在感に術師は圧倒された。


(あ、あかん・・・ボクはとんでもないやつに手を出してしまったようや・・・こ、ここは体勢を立て直すために一旦退却を・・・)


そのとき、退こうとしたした男の首筋に刀が当てられる。


「逃がすと思うか?」


視線をずらすと夕凪を構えた刹那が凄い形相で睨めつけていた。


「あ・・・あああ・・・」


進退窮まった男の口から途切れ途切れに漏れる声・・・

頬は恐怖のあまり引きつっている。


「た、たた頼むっ! ぼ、ボクが悪かった・・・い、命だけは・・・」

「・・・・・・」


命乞いする男に刀を当てたまま沈黙する刹那。


「も、もうお嬢様を誘拐なんてしないっ! ・・・この学園にも二度と姿を見せない!
・・・いや、アンタの目の前にだって二度と現れん! だ、だから・・・」


焦りの所為か次第に饒舌になっていく男・・・

だがそれを見つめる刹那の瞳はどこまでも冷ややかで・・・



パチンッ



「・・・へ?」


突然夕凪を鞘に収めた刹那に気の抜けたような声を出す男。


「・・・・・・」


そして、もはや斬る気はないのか刹那は男に背を向ける。


「そ、そうかぁ・・・わ、分かってくれたみたいやな・・・」


ホッと男が胸を撫で下ろす。

だが、次の瞬間その口元がニヤリとつり上がって・・・


「・・・な~んて言うと思ったかっ!!」


懐から新しい呪符を取りだす。


「ホホホ・・・隙ありっ!! ・・・・・・あら?」


刹那にぶつけようと男が握った呪符はその半ばほどでスッパリと綺麗に切られていて、


「こ・・・これは・・・?」


手元の呪符から刹那の方に目をやると、

いつの間にか鞘から抜き放たれた夕凪が煌めいており、


「あ・・・ああ・・・」


ガタガタと震える男の前で・・・


「スウーーーッ」


刹那が深呼吸して放つは――――


「百烈・・・桜花斬!!」


その瞬間・・・


「・・・ッ!? ゴフフゥゥゥーーーッ!!?」


男の体に無数の衝撃が走った。


「ガハッ!?」


体を仰け反らせ空高く吹っ飛ばされる術師。

やがて着物もズタズタに引き裂かれほぼ裸同然の体で地面に叩きつけられた。


「グルグルグル・・・キュ~~~ッ・・・」

「・・・終わったな」


泡を吹いて目を回す術師を尻目に刹那は夕凪を鞘に収めた。


『お見事です・・・がんばりましたね。刹那・・・』


夕凪からの激励に刹那は寂しげに笑って・・・


「いや・・・私一人では何もできなかった。これもすべてお前がいてくれたからだ。ありがとう・・・」


夕凪に対し心から礼を述べる刹那。

しかし夕凪はそれに「いえいえ・・・」と被りを振って、


『一人では何もできなかったのは私だって同じこと。 礼ならば“あの方”に言ってください・・・』

「“あの方”って・・・」


夕凪に言われ咄嗟に首を回す。

目を向けた先には、木に寄りかかって瞑想するかのように目をつぶっているピッコロが・・・。


「もしかして、あの人が・・・お前を・・・?」

『はい。 あそこにいる“ピッコロ様”が折れた私を元通りに直してくださったのです。
・・・そればかりでなく、今度はそう簡単に壊れないように以前よりもずっと頑丈に作っていただきました』


誇らしげに語る夕凪の話を聞きながら刹那は信じられない面持ちでピッコロを見つめていた。


(それじゃあ、夕凪を私に届けてくれたのも・・・
そんな・・・敵だった私のために・・・どうして?)


そんな刹那の心情が読み取れたのか、夕凪が付け足すように言った。


『刹那・・・ピッコロ様はあなたが思っているほど悪い方ではありませんよ。
確かにあの方は人間ではありません。見た目は我々の方に近いでしょう。
・・・しかし、あの方の心はとても綺麗です。まるで山の雪解け水のような・・・そんな高貴というか神聖な感じがします。
それに・・・これは私の思い違いかもしれませんが、あの方から八百万の神々と同じ臭いがするのです』

「ええっ!? あ、あの人が・・・か、神様!?」

『はい・・・私を直してくださったあの奇妙な術といい、先程の戦いぶりといい、あの存在感といい・・・単に上位の魔物や妖怪というにはあまりにも格が違いすぎます。ですから、いっそのこと神とか魔王クラスの上位存在として考えないと説明が・・・
・・・ひょっとしたら神どころではなく、我々には及びもつかないような世界にいる方なのかもしれませんが・・・』

「あの人が・・・神・・・」


夕凪の言葉に耳を傾けつつピッコロをじっと観察する刹那。

そう言えば初めて会ったときからどこか“自分たち”とは違うような気はしていた。

彼女自身も半分妖怪の血を引いているからわかる。

“人外”とか“人間”とか・・・そんな枠組みを超えたまったく別の存在に見えたのだ。

だが、あのときはそんなはずはないと半ば自分に言い聞かせるようにその感覚を頭から否定していた。

でも今となっては、はっきり言える。

ピッコロは我々と根本からして違う存在だと・・・


(あの人は・・・一体何者なんだろう・・・)


知らず知らずに刹那にはもっとピッコロをもっと知りたいという不思議な感情が芽生え始めていた・・・。

ひょっとしたら、完全な人間ではない・・・半分化物の血を継ぎ、さらに長いことその血に悩まされ続けていた彼女だからこそ、そんな気持ちが生じたのかもしれない・・・

そんな刹那もいつの間にかピッコロの前まで歩み寄っていた。


「・・・何か用か?」

「!?・・・・・・あ、あの・・・」


先ほどと声色一つ変えることなく尋ねたピッコロに対し、やはり極度に緊張してしまう刹那。

だが、なんとか気持ちを落ちつけて言葉を発する。


「そ、その・・・た、助けてくださり、あ、ありがとうございました!」


大きく頭を下げて刹那が礼を言う。

緊張しすぎて少しぎこちなかったが、ピッコロは特に気にした様子もなく、


「・・・そんなことか」


と返しただけだった。

だがこれには逆に刹那が恐縮してしまい、


「い、いえ・・・窮地を助けていただいただけでなく、壊れてしまった夕凪まで直してくださって・・・どれほど感謝していいかわかりません。
それなのに私は・・・!!
・・・あのときは事情も聞かずにあなたに斬りかかってしまい、申し訳ありませんでしたっ!!
今になって己の未熟さが恥ずかしいです・・・」


と、真剣な面持ちで語る。

あのときの自分は確かにどうかしていたのだ。

見た目だけで危険と判断して襲いかかるなど・・・かつて自分を迫害していた者たちと何ら変わらないではないか。

自分が求めていた力とはこんなことのためだったのか?・・・否っ!!

しかし、今さら謝って許してもらえるとは限らない。

それくらいのことをしてしまったのだ・・・私は・・・

それでも・・・謝罪しておきたかった・・・


「・・・・・・」


だが、そんな刹那の謝罪に対しピッコロは無言。

しばらく場を沈黙が支配すると、居た堪れなくなった刹那が不安そうに顔を上げる。


「あ・・・あのぅ・・・」

「・・・キサマは何か勘違いをしているようだが、俺は助けるつもりなどなかった」

「え・・・?」

「俺は・・・まだキサマを許したわけじゃない。恨みこそあれ、助けてやる義理などあるはずもない・・・
ただ、キサマの刀が『主人を助けてほしい』とあまりにも口やかましく頼んでくるから仕方なく手を貸してやったにすぎん。
・・・こんな面倒は今回だけだ。主人思いの刀を持てたことに感謝しろ」


そう言って背を向けるピッコロ。


「あ・・・」


遠ざかっていくピッコロに手を伸ばしかけて、


「ま、待ってください!」


刹那はその背に声をかける。

刹那の声が届いたのかピッコロがその場で一旦立ち止まる。


「私に・・・罰を与えなくていいのですか?」


彼女の口から洩れた一言。

それにピッコロが怪訝な顔で振り返った。


「罰・・・?」

「・・・そうです。私はあなたに無礼を働きました。それこそ殺されても文句が言えないほどのことを・・・
本当ならあのとき、あなたならいくらでも私にトドメをさせたはず・・・でも、あなたはそうしなかった。
・・・私はあなたに償わなければならない。そのためにはどんなことでもします。
たとえ対価がこの命だとしても・・・」


神妙に首を差し出すように頭を下げる刹那。

覚悟は決まった。

何を言われても自分はその罰を甘んじて受けよう。それが彼への償いになるのなら・・・

目を瞑り、ピッコロの沙汰を待つ刹那。

だが・・・


「キサマ・・・何馬鹿なことを言っている?」

「・・・え?」

「キサマの命だと?・・・フン。あんな無様を晒した者を殺したところで俺に何の得がある?俺はそこまで安くはない。
・・・まあ、たとえそのつもりがあったとしても、キサマのあの情けない顔を見ていたら興が冷めるだろうがな」


それは殺す価値もないということなのだろうかと内心気落ちする刹那だったが、彼は「それに・・・」と続けて言った。


「・・・キサマが死ねばコノカが悲しむ。あいつにはネギの世話をしてもらっていて借りがあるからな・・・キサマへの罰はそれでチャラにしといてやる」

「へ?」


呆然とする刹那を余所に、ピッコロは密かに辺りの気配を探る。

そしてと森のある一角に視線を向けて、


「・・・フム。どうやら2匹ほどネズミがいることだし、これ以上長居は無用だ。
・・・俺は覗かれる趣味はないからな。ここでおさらばさせてもらう」


すると、ピッコロの体が宙高く舞い上がる。


「なっ!?」


突然の舞空術に驚く刹那にピッコロは最後に声をかける。


「最後に言っておく・・・キサマも一端の戦士ならあんな無様を二度と晒すな!守るものがあるなら諦める前にそいつのために何ができるかを考えろ!
・・・いいか? 今度俺の前に情けない姿を見せたときは覚悟しておけ! わかったかっ!?」

「はっ!?はいっ!!?」


ピッコロにどやされて、無意識に姿勢を正してしまう刹那。

そんな刹那を見やった後、ピッコロは白い炎を纏い飛び立っていく。

ピッコロの影が小さくなった頃、刹那はようやく息を吐きだし、


「フ~~~ッ・・・そろそろ隠れていないで出てきたらどうだ」


突然声を低くして腹立たしそうに先程ピッコロが睨んでいた地点に声をかける。

すると、木々の上から2つの人影が降り立ち、


「おろろ・・・刹那にもバレてたでござるか」

「一応気配は消していたんだけどね・・・」


そう言って刹那の友人龍宮真名と長瀬楓は苦笑いを浮かべていた。


「いや・・・私もさっきまでまったく気付かなかった。“ピッコロさん”に言われるまでは・・・」

「おろ?もう名前で呼ぶような仲に?」

「ほほう・・・お前にしては珍しい」

「・・・下賤なことを考えているのなら斬るぞ?」


どこか顔をニヤつかせている真名たちに井下駄を浮かべた刹那が夕凪を構える。


「まあまあ・・・落ち着くでござる」

「まったく、これくらいのジョークは軽く流してほしいね」

「お前らな・・・ハア~~~ッ」

「溜息を吐くと幸せが逃げていくでござるよ?」

「誰の所為だ!?」


ツッコミを入れる刹那を余所に真名はまだ顔をニヤニヤをさせていて、


「そんなムキになるな。・・・ひょっとして期待してたか?」

「なっ!?・・・そ、そんなんじゃない。私とあの人とは・・・」


そこまで言いかけて刹那はハッと気が付く。

真名が刹那に向ける表情にどこか安堵したような感じがあったのだ。


「龍宮・・・お前・・・」

「フッ・・・それだけ言い返せるならもう大丈夫そうだな」

「・・・ああ。今まですまなかった。お前には本当に迷惑をかけた」

「まったくだよ。こんなに世話を焼かせたんだから少しは金をもらいたいくらいだ」

「・・・今度何か奢る」

「ついこの間できたファミレスのジャンボパフェで手を打とう」

「うっ!? ・・・こ、この業突張りめ!」

「あっ!それなら拙者も!」

「ええっ!? か、楓もなのか?・・・ぐっ!ええいっ!わかった。どうにかしよう」


お財布の中身が寂しくなりそうな未来に涙しながらも刹那は了承する。


「・・・そういえば、結局あの御人は何者だったんでござろう?」

「ああ、それは私も気になった。・・・先程彼の戦いぶりを見る限り、只者じゃないな。あれは・・・
実はこっそり撃つつもりで狙いを定めてたんだが、こちらの位置を既に知っていたみたいにスコープ越しに睨みつけられたときは肝が冷えたよ。
すぐに悟ったよ。これはどうやっても勝ち目はない・・・いくら金を積まれても敵に回してはいけない相手だって」

「むむっ!? 真名がそこまで言うとは・・・これは拙者も一つ手合わせ願いたいものでござる!」

「やめておけ・・・命がいくつあっても足りないぞ」


闘争心に火が付いた楓を刹那が呆れた様子で諌める。

流石に経験者は分かっている。


「だが断る!・・・でござる!!」

「はあ・・・そう言うだろうと思った。もう好きにしろ・・・」


やはり、この忍者少女の猛進を止めることはできないようだ。


『フフフ・・・なかなか面白い御友人達ですね』

「ゆ、夕凪っ!?」


鞘に収まった体をカタカタ震わせながら夕凪が会話に混ざって来たので、いきなりのことに刹那が驚く。


「おや?さっきの声は・・・もしや夕凪から?」

「どうやらそうらしい。ふむ・・・随分おもしろい芸ができるようになったじゃないか、刹那?」

「い、いや・・・これは・・・」

『どうも、主がいつもお世話になっております。刀の精の夕凪と申します。以後お見知りおきを・・・』

「これは御丁寧に・・・私は龍宮真名。こいつとは長い付き合いになるだろうがどうぞよろしく」

「拙者は長瀬楓でござる。・・・ふむ、しかし精霊とは・・・拙者も初めて見たでござる」

「ああっ!?そ、そういえばなぜ楓がここにいる!?お前は一応一般人のはずだろっ!?
・・・まさか我々裏の仕事を知ってるのか!?」

「「え?今さらそれを言う?」」



・・・・・・その後、魔法の秘匿がどうとかで刹那が真名や楓に説教をしたり、それを受けた2人が開き直ってそれは全部お前の所為だと言い返したり・・・とまあいろいろ騒がしかったりしたのだがそこは割愛させていただく。

ただ、刹那が友とそうした語らいをしていた中、しばしばピッコロの飛び去った跡に視線を走らせていたのは夕凪しか知るところのないことである。


(ピッコロさん・・・か。
・・・言われたことは厳しかったけどあの瞳にはどこか優しさがあった。
・・・できることならもっと話をしたかったかもな・・・)


――――― 少女の思いを残し、今夜も空に星々が輝く・・・








一方、そんな満点の星空を飛んでいたピッコロ。

彼は突如進行方向に立ちはだかった小さい影を見つけ、立ち止まる。


「・・・ネギか」


おそらくここで自分を待っていたであろう影に声をかけるピッコロ。


「エへへへ…」


対するネギは嬉しいことでもあったのかニコニコ笑っている。

それがどことなく気味が悪く思えたのか、


「・・・何がおかしい」

「あっ!?ご、ごめんなさい。でも・・・僕何だか嬉しくて・・・」

「・・・見てたのか?」

「はい・・・悪いなあとは思ったんですけど、つい・・・
でも、ありがとうございます! 桜咲さんを助けてくれて・・・」

「フンッ。 ・・・あいつにも言ったがな、俺は別にあいつを助けたくてやったわけじゃない。今回は仕方なくだ・・・」

「・・・でもこのかさん喜びますよ? 桜咲さんのこととても心配してたみたいですから」

「フン・・・俺には関係のない話だ・・・」


そっぽを向いて答えるピッコロにネギは小さく「素直じゃないんだから・・・」と呟く。


「何か言ったか?」

「あっ!? う、ううん・・・何も言ってませんよ」

「・・・・・・よし。明日の休日は早朝から一日中俺と組み手だ!」

「えっ!? そ、そんな急に・・・」

「口答えは無用・・・これは決定事項だっ!!」

「そ、そんな~~~っ!?」


そしてこちらでも少年の悲痛の叫びが響き渡る。







かくして一人の少女を一時的にではあるが立ち直らせることに成功したピッコロ。

だが、これが果たして彼女自身を心に巣食う闇から救うきっかけとなるのかはまだわからない。

ただ一つ確かなのは、この日少女の中で何かが変わった・・・ということ。

それが少女を真の戦士に目覚めさせるのか、そうでないのか・・・

それは彼女次第かもしれない・・・







<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!! ネギの休日はピッコロと山奥で組み手か~
・・・なんかオラもやりたくなってきたぞ!」

ネギ「ご、悟空さん・・・僕にとってはそんな楽しいものじゃないんですけど」

楓 「おや? あれはネギ坊主でござる! 相手は・・・おおっ!あのときの御人ではござらんかっ!! ここは拙者も一つお相手仕る!」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI 『一手御指南!! 忍者少女がピッコロに挑戦!?』」

ネギ「ちょっ!? な、長瀬さん・・・それは死亡フラグですってば~~~っ!!」




あとがき②

更新遅くて申し訳ない!仕事人です。

今回のせっちゃん復活劇・・・無理やりでした。ゴメンナサイ・・・

いろいろ文句もあると思いますので感想でどんどん指摘してくださって構いません。

作者もできる限り対応を・・・(できるのか?)

ちなみに次のせっちゃんの出番は修学旅行編までありません(分かってると思いますが・・・)




ところで、現在エヴァンジェリン編のクライマックスに向けて書き溜めしているところです。

大体5話くらい書きあげたら連休直前か、連休中に5夜連続放送~みたいなのをやってみようかなと考えてます。

まだ書き始めたばかりなのでもうしばらく時間がかかるかと・・・申し訳ありません。

遅くても連休中には投稿したいですね。

まあ詳しくは次回に回すとして・・・

・・・こんな予告して本当に大丈夫かと言う不安はありますが、嘘予告にならないようがんばります!・・・というか祈ります(オイ!!

それでは本日はここまで! 皆様、御機嫌よう~~~ (*´Д`)ノ~~

p.s. 今後も至らぬ点があるかと思いますがどうか見捨てないでやってください。



[10364] 其ノ三十九   一手御指南!! 忍者少女がピッコロに挑戦!?
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2010/05/02 13:58





―――――4月13日土曜日 朝8時・・・
この日は麻帆良学園も休日で、学生たちも朝から時間に追われることのなくのどかな一日を過ごすことができる。
神楽坂明日菜も当然こうしたのんびりとした朝を謳歌している一人であった。

「ふあぁ~~・・・よく寝たわ。偶にはゆっくり寝るのもいいものね~」

「あっ!アスナ~ やっと起きたん?」

欠伸を上げる明日菜を朝食を作りながらこのかが振り返る。
鼻をくすぐる香ばしい臭いから今日の朝はベーコンエッグであろうか?
僅かに涎が垂れそうになるのをこらえながら明日菜は部屋を見渡し・・・ハッと気が付いた。
そう言えばいつもいる少年の姿が見当たらない・・・

「あれ? ネギはいないの?」

「ああ・・・ネギ君なら早朝からピッコロさんと修業だって随分前にでかけたみたいや。あんまり早いからウチらを起こしたくなかったんやね。一応ここに書き置きがあるえ。
・・・でも残念やわ。昨日のことでお礼言おう思ったのに」

「昨日って・・・ああ、桜咲さんが出て行ったって大騒ぎになったあれでしょ?
でも、結局戻って来たんだっけ?」

「うん・・・あの後せっちゃんわざわざウチのところにも謝りに来てくれたんや」

「へぇ~~~・・・良かったじゃない。仲直りできたんでしょ?」

「う~ん・・・それがな~、ウチのことこのちゃんって呼んでほしいのにまだお嬢様って言うんやえ?
ウチそんな他人行儀な呼び方嫌やって言ったんやけど・・・また逃げられちゃった・・・」

「ちょっ・・・それって全然進歩してないじゃない!? ハア~・・・こうなったら私からも何か言ってあげようか?」

「そ、そこまでしなくてええよ!これはウチらの問題やし・・・それにアスナは全然進歩がないって言うけどウチはそうは思ってへん。 少なくともせっちゃんはウチを嫌ってたわけやない・・・それがわかっただけでも収穫や」

そう笑顔で語る木乃香を見たら流石の明日菜も何も言うべきことが見つからなかった。

「そう・・・あんたがそう言うんだったら仕方ないわね。
・・・でも何か困ったことがあれば言いなさいよ。なるだけ力になるから」

「うん・・・おおきにな~アスナ」

そう礼を言ってこのかがネギの伝言が書かれた白い紙を手渡す。
明日菜がまだ若干寝ぼけが残っている眼でその紙に書かれた、まだ日本語が書き慣れていないたどたどしい字を読む。
そして目が冴えてくると段々その目が見開かれていく。

「・・・あいつ今日泊まり込む気なのっ!?」

「そうみたい。ウチはよく知らんけど武術の修業って大変なんやなぁ~」

このかがポケ~とした顔で言うのとは対照にアスナはどこか疲れた表情だ。

「土日ずっと修業って・・・せっかくの休日なのにもったいない。私には理解できないわ・・・」

アスナも中国拳法を習っているが、そこまで淹れ込んでいるわけではない。
彼女だって年頃の女の子・・・休日は好きなことをして遊びたいのだ。
それにネギの師匠はあのピッコロだ。相当ハードな内容に違いない。

(ネギもネギよね・・・子供らしく遊びたいって思わないのかしら?)

普段からあまりにも大人びている彼を思い浮かべると・・・その可能性は低そうだ。
意外にもストイックな日常を送っているネギに思わずげっそりしてしまうアスナ。

「あっ!? 泊まり込むということは、今日は帰ってこないんやね。
・・・でも、そうするとご飯とか大丈夫なんやろか・・・」

一方で呑気にピントが外れた疑問が浮かんだこのかであった。










「ヘックションッ・・・!!」

「おい・・・そろそろ続きを始めるぞ」

「す、すみませんピッコロさん!(・・・誰かが僕の噂でもしてるのかな?)」

ムズムズする鼻を擦りながらネギが一人ごちる。
ここは麻帆良にある森の中。ここでネギは早朝からピッコロとの組手を延々と続けていた。

「フン・・・考え事をしてる暇はないぞ。さっさと構えろっ!」

「はいっ!」

気を取り直して構えを取るネギ。
そして・・・

「はああああっ!!!」

気を解放し、白い炎を纏うと猛スピードでピッコロに突っ込んでいく。

「でりゃりゃりゃりゃァァァ!!」

ネギから繰り出される拳の連打。
目ではまったく捉えきれない速さの攻撃をピッコロは極僅かな動きで全て躱していく。

「どうした!この程度では俺には掠りもせんぞ!」

「くっ!・・・まだまだぁ!!」

ネギの攻撃はさらに激しさを増す。
だが、ピッコロは余裕を崩さない。

「だから甘いと・・・言っている!!」

「はっ!? ぐわあっ!?」

あの猛攻の中を潜り抜け、ピッコロの蹴りがネギの鳩尾に突き刺さる。
勢いよく吹っ飛ばされるネギ。
だが、足を踏ん張りながら着地しどうにか持ち堪える。

「目で動きを追うなといつも言っているだろ。大事なのは相手の気配を感じることだ」

「ぐっ! は、はいっ!」

鳩尾への一撃が効いたのか一度は膝を着くネギだったが、すぐに返事をして立ちあがる。

「今度は少し激しくするか・・・」

弟子のダメージが多少大きかろうとピッコロが修業に手を抜くことはない。
それが彼の教育理念だし、弟子を信頼しているからこそ心を鬼にできる。
それはネギも十分に理解していた。

「お、お願いします・・・」

「よし・・・カァァァッ!!」

ピッコロの気が膨れ上がるとともに、
その姿が一瞬で・・・消えた。

「!!」

ネギが心の目でピッコロの気を探る。

(見えたっ!!・・・後ろっ!)

見極めるや否や、背後から突如襲いかかった手刀を右腕で受け止める。
その瞬間腕に痺れにも似た衝撃を受ける。

「ぐっ!?」「ぬうっ!!」

だが、互いにそんなことを気にしている暇などない。
いつ次の攻撃が来るかわからない状況ではその一瞬の思考ノイズが命取りになるのだから。
今はただ身体を動かすことを考えろ・・・

「ウワタタタァァァッ!!」

「だだだだだあっ!!」

息もつかせぬ攻撃の嵐。
拳と拳をぶつけ、蹴りを蹴りで押し返す。

「ハアッ!」 「てあっ!」

2人の姿が一瞬にして消えると、
静かな森、そして澄んだ空のあちこちで轟音が鳴り響く。

ダアアアアンッ!!!   バシイイインッ!!!

音とともにほとばしる衝撃波が森の木々とそして大地を揺らす。

ドコオオオッ!!

「うわあっ!?」

やがて最後の衝撃とともに蹴り飛ばされたネギが地面に急降下していく。

「くうっ!!」

身体を回転させて着地するとドシンッと音を立てて靴が地に減り込む。
減り込んだ足は尚もその勢いが止まらず地面を突き進み、ついには軽いクレーターが出来上がった。
だが、やはりその衝撃を足では逃がし切ることはできなかったようで、ネギは苦痛の表情で上空を睨みつけた。

上空ではピッコロが腕を組んで悠然と佇んでいる。

「フン・・・どうやら足に相当来ているようだな。もう止めるか?」

「ハア・・・ハア・・・ハア・・・ま、まだやれます!」

呼吸を整えながらネギは続行を選択。

「・・・いいだろう。ではウォーミングアップはここまでにしてそろそろ『本気稽古』に入る!」

「っ!?・・・いよいよかっ!」

ピッコロ流武術恒例の『本気稽古』。
己の全力でもってピッコロに挑み見事一撃を与えることができたら勝ちとされる。
しかし、当然ピッコロもやすやすと攻撃を許してはくれない。
あちらも相応の“本気”で迎え撃ってくるわけで・・・
したがって過去のネギ達の記録では、一撃も与えられないまま気絶させられて終わるパターンがほとんどであった。
偶に勝つことがあってもこちらの身体がボロボロになるのは避けられない。

いずれにせよ無事では済まないので心してかからなければならない。

「さあ、今のお前の全力・・・見せてもらおうか」

途端ピッコロの威圧感が増す。
ネギはそれを肌でビリビリ感じながら考える。

(僕がピッコロさん相手に初めて試す・・・界王拳を!
今の段階で一体どこまで通用するのか・・・それを知りたいっ!)

闘争心に火が付いたネギ。
そんな彼が一旦構えを解いて身体の無駄な力を抜く。
そして目を閉じて心を静かにし、精神を集中させる。

(心と身体を一つに・・・悟空さんから教わったことを試す時だっ!!)

「界・・・王・・・拳・・・!!!」

丹田で気と魔力を融合させ真っ赤な炎に昇華する。
ネギの身体が紅蓮の色に染まった時、彼は・・・炎の化身となった。

「だあああああっ!!!」

吹き荒れる赤いオーラ。
そこから発せられる熱が木々の葉を焦がし、地面に罅を入れる。

「たりゃあっ!!」

気合い一発。
大地を大きく蹴りピッコロに飛びかかった。

「むっ!?」

予想以上に凄まじい勢いで飛び出したネギにピッコロの目が驚きに染まる。
一瞬で間合いを詰められ、そして・・・

「たあっ!!!」

顔面に向けて拳が放たれる。

「ぬっ!?」

ピッコロは即座に反応してその拳を掌で受けとめた。
掌から伝わってくる一撃は意外にも重かった・・・
その事実にピッコロの瞳孔がさらに開大する。

「はあああっ・・・・・・でりゃあああっ!!!」

雄たけびを上げてネギは攻撃を続ける。
尽かさずピッコロがそれを迎撃する。
目にも止まらぬ攻防・・・それによって同心円状に広がっていくインパクト・・・
それがいつしか大地を、そして空を覆っていた。







「だらららららァァァっ!!!」

「せりゃァァァっ!!!・・・トワッ!!」

しばらく経つというのに勢いが止まるどころかますますヒートアップしていくネギに少々圧され気味になってきたピッコロ。
だが、その余裕な表情はいささかも崩れてはいない。

(それにしてもネギの奴・・・こうしている間にもパワー・スピードがどんどん上がってやがる。これが界王拳か!!
フフフ・・・どうやらこちらも力を上げていかないといけないらしいな)

弟子の成長ぶりが嬉しい反面、生来の負けず嫌いが危ないスイッチを入れてしまう。

「カアアアッ!!」

「うっ!?」

気合とともにピッコロの気が急激に大きくなり、その圧力に押されてネギの勢いが止まる。

「シェリャアアアッ!!!」

すると、その隙を逃さずピッコロの拳がネギの頬に綺麗にきまった。

「ぐはっ!?」

口から少量の血を飛ばしネギの身体が仰け反る。

「タアッ!!」

そして反らされた背を下から蹴り上げられた。

「があああっ!!!」

上空に打ち上げられたネギにさらに追い打ちをかけるように、待ち構えていたピッコロが両手を組んで叩きつける。

ダアアアアアンッ!!!

打撃音と共に凄い速度で落ちていくネギ。
その身が地に到達した時、轟音と同時に砂煙を巻きあげた。

「ぬっ!? 少し力が入りすぎたか・・・?」

手加減を間違えたようで少しばかり焦るピッコロ。
だが、心の奥底では実はそこまで心配はしていない。
ああ見えてあの弟子はかなりタフなのだ。
この程度で死ぬことはまずないだろう。

「ぐっ!?・・・くゥゥゥゥっ!」

案の定、クレーターの中心で仰向けの状態で呻き声を上げていた。
その様子に少し安心した表情をすると、

「大丈夫か?・・・と言ってももはや限界みたいだが」

「うう・・・そ、そんな・・・ぼ、僕はまだやれ・・・!?ぎゃあっ!?」

よろよろと立ち上がろうとするネギの身体を激痛が走った。
まるで身体の中からズタズタに切り裂かれたような痛み・・・
ただの打撃で受けたダメージではこうはならない。では、一体なんだというのか? 
ネギは己を襲った未知の痛みに恐怖する。

「無理をするな! ・・・どうやら調子に乗って気を上げ過ぎたようだな。
前にも言っただろ? 界王拳は強力な反面、気のコントロールを誤ると膨れ上がった気に身体が耐えられなくなり反って危険になるとな。
・・・今回はその程度で済んでいるが、あれ以上気を高めていたら最悪の場合死んでいたぞ」

ピッコロの言葉を聞いて、もしそうなったらと最悪の場合を想像してゾッとするネギ。

「・・・やっぱり、気のコントロールって大事なんですね」

「そういうことだ。特にお前はまだ子供だし身体も出来上がっていないから注意しないとな。
・・・まあ、せいぜい肝に銘じておくことだ。
その様子ではしばらく続きは無理だろう。ちょうど飯の時間だし、ここは一旦切り上げるとしよう。お前は今のうちに身体を休めておけ」

「・・・そうします」

ピッコロの忠告にネギは素直に従うことにした。











「よっ!・・・せいっ!・・・とっ!・・・」

忍者少女長瀬楓の休日の始まりはいつも早い。
今日も日の出を眺めながらこの森の中を木から木へ縦横無尽に跳び回っていた。

無論彼女も麻帆良の学生としての生活をわりかし楽しんでいる・・・が、日ごろの鍛錬は決して忘れはしない。
女といえども心は忍・・・堕落した生活に溺れることは許されない。
忍とは元来そういうものだと思うし・・・彼女自身もそうありたいと思っている。

それに案外こうした鍛錬も習慣になると楽しくなるものなのである。
現に彼女自身、あまり表には出さないものの日頃の修業の成果を試してみたくてウズウズしている。
実はあの拳法少女に負けず劣らずのバトルジャンキーなのだ。

「風が心地よいでござるな~」

現在木々の間を高速で走り抜けている人間が話しているとは思えないほどのほほんとした口調の楓。

そんな彼女の腹からグウ~っと音が鳴った。

「おや?・・・そろそろ朝餉の時間でござるか。そういえば少し腹も空いてきたでござる。
川で魚でも獲るとしようか」

決めたら即行動。楓は川に向かった。









「むむっ・・・誰か先客がいるようでござるな」

楓がいつも食料を調達しているベストスポットに到着した頃、他の人間の気配を察知した。

(こんな山奥に・・・誰でござろう?)

監視にちょうど良さそうな木に登り、川の方へ眼を凝らした。
楓が視線を向けた先には川の真ん中で一人ポツンと立つ小さな影が・・・

「あつつ・・・しばらく休んだけどやっぱりまだ痛いや・・・
界王拳は確かに凄い技だけど気の制御が難しいんだよな~
う~ん・・・上手くいかないもんだな~」

なんとそこにいたのは紫色の道着に身を包んだ3-Aの担任ネギ少年であった。

(おやおや・・・こんなところでネギ坊主に会おうとは・・・
それによく見たら、以前図書館島でも着ていた妙なデザインの道着を着てるでござる。
・・・もしや、ネギ坊主もここで修業を!?)

何やら興味が出てきた楓嬢。
そんな彼女に今のところネギは気づく様子がない。

「おっと・・・愚痴を言ってる場合じゃないや。早く今日の朝御飯を獲らないと・・・」

そう言うと、ネギは足を肩幅まで開き両手を腰だめに構え精神統一する。

(む?一体何をする気でござる?)

「・・・! ハッ!!」

疑問に思う楓を余所に、ネギはカッと目を開き腕を一閃させる。
すると・・・

パシャッ・・・

(こ、これは!?)

楓の細目が驚きに見開かれる。

ネギの目の前に銀色の光沢を放ちながら水から飛び出した見事なイワナが数匹・・・
それらを目にも止まらぬ速さで掴みとり背負った籠の中に放り込む。

(なんと鮮やかな・・・)

そのあまりにも見事な手並に楓から自然と感嘆の溜息が洩れる。

(あれは魚の動きを目で追うのではなく気配だけを察知し、なお且つ己の気配を無にすることで魚に警戒心を持たせないうちに近づき水から掬いあげているでござる・・・
拙者でさえ苦無がなければ獲れない魚をああも簡単に・・・)

「ハッ! セイッ! ヤッ!」

その後も掛け声とともに次々に魚を籠に入れていくネギ。
そうしてから10分もしないうちに籠は魚で一杯になった。

「フ~・・・今日も一杯取れたな~。さて、そろそろ戻らないと・・・」

魚の詰まった籠を背負い、川から上がるネギ。

(どこへ行くんでござろう? うむ。跡をつけてみるでござる)

走って移動するネギを楓も木々を跳び移りながら追いかける。

(それにしてもなんて速さでござる!? 拙者でも追い付くのがやっととは・・・!)

険しい山道を軽々と走り抜けるネギの身体能力の高さに楓も舌を巻く。
そうこうしているうちにやがて下に滝壺が見える崖に辿り着いた。

(こんなところで・・・何を・・・?)

するとネギはいきなり滝壺の方に顔を出し、

「ピッコロさ~ん!!」

声をかけた。

(!? 滝壺に誰かいるでござるか!?)

楓もネギに気づかれぬようにそうっと滝壺の方に目を向けた。
―――――そして驚愕する。

(あ、あれは・・・!!)

ザーザーと落下する巨大な水流。
そのちょうど真ん中あたりで人が座禅を組んで浮かんでいるではないか!
忍者である楓でさえあのような術は見たことも聞いたこともない。

(人が宙に浮くとは・・・面妖な・・・)

「お前も十分に面妖だ!」というツッコミはさておき、楓はこんなことができる人間の顔が見てみたくなり、さらに凝視する。
・・・そしてまたも衝撃を受ける。

「あ、あれは・・・昨日刹那を助けた御人ではないかっ!」

忘れるはずもない。紫色の道着の上に纏った白いマントとターバン。
そして、特徴的な尖った耳と緑の肌・・・
間違いなく刹那を助けた怪人であった。

驚きのあまり声に出してしまったが、幸い誰もそれに気づいていないようだ。
しかし楓が思わず声を発してしまったのは仕方ないと言えよう。
なんせ昨日見かけた謎の人物をこんな形で見かけることになるとは夢にも思うまい。

件の人物(確か刹那がピッコロと言っていたか)はネギの呼びかけに片方の瞼を上げることで反応し、座禅を組んだ状態でネギのところまで浮遊していく。

「随分早かったな。それにしても・・・それだけの量本当に食う気か?」

「え?そんなの当たり前じゃないですか。ピッコロさんは水以外は口にしないんですし」

薪をくべ出したネギがキョトンとした顔で返す。
地球人の食事量レベルを明らかに上回っているこの弟子を見るとますます悟飯に似てきたな・・・とピッコロも少し感慨深くもなるのだが、しかしどう見ても食べ過ぎの気が・・・

離れたところから覗いている楓もこれだけの量を一人で食うと言い張る少年に驚きを隠せないようだ。

「さてと・・・じゃあ火をつけますね」

ネギが薪の方に手をかざし、気攻波を放って火をつけた。

(む!? ネギ坊主は気も放てるでござるか!? ・・・となるとやはりかなりの実力を持っているようでござるな。少なくとも図書館島での戦いぶりはマグレではなかった・・・)

ネギの底知れぬ力の一端を垣間見た気がした楓は戦慄する。

(だが・・・あの御人とネギ坊主とは一体どんな関係が?)

「ところでピッコロさん。やっぱり食事が終わったらすぐに修業ですか?」

「当然だ。そろそろ“あいつ”も仕上げにかかっている頃だろうし、こちらもあまり時間がない。できるだけ早く界王拳を使いこなせるようにしないとな」

「へ?“あいつ”って誰です?前に言ってた敵ですか?」

「いやそっちではなく・・・あっ!?い、いや・・・何でもない。今のは忘れてくれ」

ピッコロが慌てたように言いなおす。
ネギはその様子に首を傾げたが、特に気にした様子もなく魚を串に刺して焼いていく。

(なるほど・・・あの御人はネギ坊主の師匠でござったか。だとすればネギ坊主があれほど強いのも頷ける。
・・・いやはや、それを知ったら俄然興味がわいてきたでござるよ!)

最近古菲がやたらとネギと戦いたがっていた(多分ネギ本人は知らないだろうが)が、今やっとその気持ちが理解できた。

麻帆良に来てからついぞできなかった・・・己の全力をぶつけられる相手。
それにようやく巡り合えた喜び。

(フフフ・・・武者震いが止まらないでござるよ・・・)

彼女にしては珍しく気が高ぶったせいだろうか、ピッコロが目ざとくその存在を察知し、

「・・・さっきから妙な気配がしてると思ったらまたか。まったくどいつもこいつも・・・ここでは覗きとやらが流行っているのか!?」

イライラしながらすっくと立ち上がり、

「そこでこっちを見ているヤツ!とっとと降りてこいっ!!」

(おろっ!?気付かれたでござるか。 致し方ない・・・素直に出るとするでござる)

観念した楓はピッコロに言われた通り木から下りてネギ達の前に姿を露わす。

「え・・・ええっ!? な、長瀬さん!? ど、どうしてここに!?」

「なんだ? お前の生徒だったのか、ネギ。
・・・あの吸血鬼といい、昨日の娘のことといい、お前のクラスは問題児が多すぎじゃないか?少しはお前もビシッと言ってやったらどうだ!」

「す、すみません・・・」

「まあまあ、そんなに目くじらを立てずとも・・・」

叱責するピッコロを楓が宥める。
するとギロッと楓に視線を戻したピッコロは、

「ところでキサマ・・・随分前から俺達を覗いていたようだが、何か用でもあるのか?」

「用と言うほどでもござらんが、あえて言うなら・・・拙者と一つ手合わせ願いたい」

「何?」

「な、長瀬さんっ!? 何を言って・・・」

ピッコロの眉がさらに吊りあがり、それを見てあわあわとするネギ。
だが、そんな彼らの様子にも楓は怯まない。

「別に無理にとは申さん・・・貴殿とネギ坊主、いずれでも構わない。拙者はただ、己のの力を試せる相手にようやく巡り合えた。・・・その機会を逃したくないだけでござる」

「フン・・・なるほど、腕に相当自信があるようだが・・・ここの奴らはそういう身の程知らずが多いらしい・・・」

ピッコロが一歩前に進み出る。

「ぴ、ピッコロさん!?」

「ネギ・・・お前は手を出すな。ここは俺が厳しい現実というやつを教えてやる。
・・・生徒に甘いお前ではその役目も果たせまい」

言い返せず固まるネギをさし置いてピッコロは楓の方へゆっくりと歩み寄っていく。

「むう・・・やはり貴殿が相手でござるか」

「キサマには悪いがこちらも無駄に時間を使いたくない。さっさと終わらせてもらうぞ」

「さて・・・無駄な時間になるかはやってみなくちゃわからないでござるよ!」

楓が体術の構えをとる。対してピッコロは直立姿勢のまま立ち止まり、動かなくなった。
そのまま両者はしばらく睨み合いを続けるが・・・

「フッ!!」

先に楓が動き出した。
瞬動を使い、高速でピッコロに接近し、拳を振るう。

「・・・甘い」

「!?」

だが、ピッコロは首を僅かに逸らせただけでこれを回避。
さらにがら空きになった側腹部へ拳を叩きつける。

「ぐっ!」

楓はなんとか身体を捻って打点をずらし、わずかに掠らせるにとどめる。
しかし、掠っただけといえども思ったよりもダメージがあった。

「てやっ!」

今度は右足でハイキックを放つが、間合いを見きられたかのように上体を反らしてかわされる。

(これは・・・想像以上にできるでござる)

そのまま連続で拳を撃ちこんでいくがすべてピッコロに涼しい顔で避けられてしまう。
これでは埒が明かないと思った楓は一旦バックステップで距離をとった。

「なるほど・・・確かに少しはできるようだが、動きを目で追うことに慣れ過ぎているな。動きが直線的で読みやすいぞ」

「!? (あの一瞬でそこまで見きった!?・・・やはり、只者ではござらんな)」

ピッコロの冷静な分析に驚き、さらに気を引き締める楓。

「さて・・・しばらく様子見させてもらったがキサマの力とはこの程度か?
・・・俺にもまだ見せてないものがあるんじゃないのか?」

「・・・何もかもお見通しでござるか。ならば出し惜しみなんてしてられないでござるな」

そう言うと楓が胸の前で指を組み、

「楓忍法・・・『分身の術』!!」

すると楓から飛び出すように4人の分身が現れた。

「ぬっ!? こいつは・・・」

さすがのピッコロもこれには驚いたようで、

「・・・残像拳ではなさそうだな。どいつもはっきりと実体がある。まさか俺や天津飯以外にもこんな分身ができる奴がいるとは・・・」

小太郎も分身ができるが、ここまで見事なものはピッコロも初めて見た。
彼にしては珍しく感嘆の声が漏れる・・・

「行くでござるっ!!楓忍法!!『四つ身分身 朧十字』!!!」

分身した4人楓達がピッコロの四方を囲むように散らばると、一斉に跳躍。
そして手に持った苦無や手裏剣を投げつけた。

「ちいっ! しゃらくさいっ!!」

四方八方から襲いかかる苦無の群れ。
どこにも死角がないこの攻撃を前にして、ピッコロは片腕を振り抜くことで突風を起こし、これらを吹き飛ばした。

「この術は・・・これで終わりではござらんっ!」

「むっ!?」

だが、なおも楓の攻撃はまだ続いていた。
いや・・・さっきの手裏剣はブラフと言ってもいい。ピッコロの懐まで接近するための・・・
本来の攻撃はここから・・・!

「斬っ!!!」

ピッコロに四方から急接近した4人の楓はすれ違いざまに掌底をぶつける。
そして・・・ピッコロの身体を衝撃が突き抜ける。

ドオオオオンッ!!

衝撃波で砂煙が舞い上がりピッコロを覆い隠した。
楓達は走り抜けたあと掌底の構えをしたまましばらく動かない。残心を取っているのだ。
このとき4人の楓が走り抜けた跡はまさに“十字”を描いていた。

一般人が見たら今ので勝負は決まったと思うだろう。
しかし、楓の額には嫌な汗が浮かんでいた。

(今のは確かな手ごたえを感じた。しかし・・・あの御人の気が全く減ってないでござる)

パチパチパチ・・・

「!?」

不吉な予感がしていた楓の耳に突然拍手の音が聞こえた。
出所はモクモクと立ちこめる煙の中・・・

「ま、まさか・・・」

楓が思わず構えを解いてそちらの方に目を向ける。
すると・・・

「今のは驚いたぞ。正直お前を侮っていた・・・」

煙からピッコロが無傷な姿で現れる。
とてもダメージを受けている様子はない。

「・・・効いてなかったでござるか」

「残念ながらな・・・ 俺達はこの程度で倒れるほど柔じゃない」

ピッコロはそう言って不敵に笑う。
それを見て楓も思わず苦が笑いを浮かべた。

「とんでもない人でござるな・・・かなり本気で打ち込んだでござるよ?」

「確かにあの攻撃は素晴らしかった。だが・・・分身した代わりにやはり一体ごとのパワーダウンは避けられなかったようだな。さっきの一撃も攻撃が軽くては大してダメージも与えられん」

「・・・それは盲点でござった」

「とはいえ、キサマはここで会った奴らの中で最も才能を感じたぞ。どうやら少しは楽しめそうだ」

ピッコロは嬉しそうに呟くと両腕を腰だめに構える。
そして、楓もピッコロの気が徐々に膨らんでいくのを感じていた。

(むむっ! ・・・これは早めに勝負をきめないとまずいでござるな)

焦った楓は四体の分身を再びピッコロに向かわせる。
だが、ピッコロは余裕の笑みを崩さず。

「カァァァッ!!!」

気を爆発させ、楓達を吹き飛ばした。

「うわっ!!」

たちまち影分身が掻き消され、本体の楓が明るみになる。

「フッ・・・こいつが本体か!」

「し、しまった!!」

空中では回避できない楓は咄嗟に突っ込んできたピッコロに気を飛ばすが、あっさり片手で振り払われる。

「終わりだ・・・」

ピッコロの膝が楓の腹に減り込む。

「ガハッ!」

楓は口から血を吐いて前屈みになり、

「であっ!!」

ピッコロの肘打ちを背中に喰らって落下していく。

「くっ! ・・・こ、こうなったら・・・」

想像を絶する痛みに顔をしかめながら何かを決意した楓は地面に衝突する前に体勢を立て直して着地。
そして、その勢いで再び跳び上がり虚空瞬動で上空に向かっていく。

「今度は何をする気だ?」

楓の行動に怪訝な表情をするピッコロ。
対する楓は跳び上がりながら新たな分身を作るための印を結んでいた。

「おそらくこれが最後の攻撃になるか・・・いくでござる! 忍!!!」

すると今度は4人ではなく16人の分身が現れた。

「なっ!? 10体以上の分身だとっ!?」

自分や天津飯でも成し得なかった分身をこの少女がやってのけたことに驚きを隠せないピッコロ。

そして・・・少女最後の攻撃が始まる。

「「「「「「「「「「「「「「「「はああああっ!!」」」」」」」」」」」」」」」」

分身一体一体の右手に気が込められていく。

「「「「「「「「「「「「「「「「くらえっ!!」」」」」」」」」」」」」」」」」

そして、16人の楓達から放たれた気が一斉にピッコロに襲いかかった。
ピッコロはそれをただ佇んで待ち受ける。

気弾がピッコロを飲み込み、そして・・・

ドオオオォォォォォンッ!!!

激しい轟音と爆発を起こした。

「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」

気を消耗し、その身を保っていられなくなった楓の分身たちが爆発に巻き込まれ次々と消えていく。
そして最後に残った本体が荒々しく呼吸しながらその細目で黒煙の中を睨みつける。

やがて煙が晴れ・・・
相変わらずけろっとした表情のピッコロが腕を組んだ状態で現れた。

「ハ、ハハハ・・・う・・・む。拙者の最高の技も通用しないとは・・・
・・・これは勝てる気がせぬでござるな」

思いもよらない結末に力なく笑うしかない楓。

「最後にこんな技を用意していたとはな・・・大した奴だぜ」

だが、ピッコロの声にはもはや侮蔑の色は見られない。純粋に感心していた。

「本気じゃなかったとはいえ、俺を相手によくここまで戦った。褒めてやろう・・・」

「ハハハ・・・そこまで言われたら認めざるを得ないでござるな。
・・・拙者の完敗でござる」

言うや否や意識の限界に達した楓が気を失い落下していく。

「わわっ!? な、長瀬さん!?」

一部始終を空気のようにただ見つめていたネギが落ちてくる楓を慌てて受け止めた。
そしてそんな彼のもとにピッコロが下りてくる。

「どうやら気絶したようだな・・・」

「ひ、酷い怪我じゃないですかっ!? ピッコロさん!いくらなんでもこれはやりすぎ・・・」

「慌てるなっ!! それくらいのこと、俺が配慮してないと思うか?
ちゃんと急所は外しているし、見た目ほどダメージは与えていない。
しばらく気を送りながら寝かせておけ。そのうち自分で起きられる」

「・・・わかりました」

ピッコロの言葉に一応ホッとしたネギは楓を寝かせ、テントから救急箱を取りに行った。

「それにしても・・・これでまた修業が遅れるか。
チッ! 今日はとことんツいてないぜ・・・」

そうやって独り愚痴をいうピッコロであった。








「何っ!? 弟子にしてほしい?」

「いかにも」

しばらくした後、目を覚ました楓が開口一発に放った一言がピッコロへの弟子入り志願だった。

楓が平伏して頼み込むには、

「拙者、ピッコロ殿と戦ってその腕前に心底感服したでござる。
願わくば、ネギ坊主同様その門下に入り己の技を磨きとうござる。なにとぞ、拙者を弟子にして下され!」

「断る・・・もうすでに俺には弟子が3人もいる。これ以上取る予定はない。
それに、今はネギの修業で忙しいんだ。キサマに構っている暇などない!!」

「そこをどうにか・・・どうにかできませぬか?」

「くどいっ! 第一お前ほどの才能があれば俺じゃなくとも十分その力を伸ばせると思うが?」

「いえっ! 拙者はピッコロ殿の技に惚れたのでござる。今さら他のところになど・・・」

「・・・とにかく、俺は今のところ弟子を取る気はないっ!!」

「ならば・・・ならばせめて師匠とよばせてくだされ!」

「・・・ハア~~~。勝手にしろ」

説得を諦めたのかピッコロが折れる形で楓に“師匠”と呼ばれることになってしまった。
だが、本人はまだ弟子入りを認めていない(ココ大事!!)のであしからず。











「へ~・・・そんなことがあったんだ」

翌日の夕方帰って来たネギに事のあらましを聞いて明日菜が相槌を打った。

「長瀬さん息まいてましたよ。『絶対に師匠に弟子だと認めさせてやるでござるっ!!』て・・・」

「それはそれは・・・でも意外だな~。楓さんってもっと大人なイメージがあったんだけど」

「僕もですよ。あれが意外な一面って奴なんですかね?」

「そうかもね。・・・にしても、ピッコロさんもこれから大変ね」

「はい・・・今日も帰る頃にはいつもよりゲッソリしてました」

それは・・・御愁傷さまとしか言えないわね。・・・と、明日菜はピッコロに心の中で合掌した。













話は変わってエヴァの別荘の中。
外の呑気な雰囲気とは打って変わってここではただならぬ緊張感が漂っていた。

「いよいよか・・・」

「ええ・・・」 「ソウダナ・・・」

宮殿のような建物から下の大地を眺めている16号、チャチャゼロ、茶々丸の3人。
その視線の先には、
広大な大地に広がっていく半球状の巨大なエネルギー体が黒紫色の輝き放っていた。

「ハァァァァァ・・・・・・」

そしてそのエネルギー体の中央から響いてくる雄叫び・・・
それがだんだんと大きくなっていく。

「ハアアアアアアアアァァァァァ・・・・・・」

大地を揺るがすようなその叫びが一際大きくなった時、

「ダアアアァァァッ!!!」

膨張していたエネルギー体が・・・弾けた。

ドオオオォォォォォッ!!!

爆発の衝撃で地面の岩盤は宙に飛ばされ粉々に砕け散る。
広がる紫の光はついには大地全体を覆い隠し、さらなる爆発を呼んだ。

ドゴォォォォォォッ!!!

見ていた16号たちもあまりの光の激しさに目を覆う。

そして、光が止んだ後、
荒廃した大地にただ一人少女が佇んでいた。

その少女を目にした16号は呟く。

「ついにやったか・・・エヴァ!」

16号が見つめる少女・・エヴァはそのときとても優雅とは言えない格好だった。
修業を開始した頃に比べて幾分か伸びた金髪・・・それがぼさぼさになっていた。
最近着るようになった紺色のトレーニングスーツも土埃をかぶって汚れ、ところどころボロボロにしていた。
・・・しかし、そんなみすぼらしい姿とは対照的に彼女の表情は自信に溢れるものであった。
一体彼女に何があったと言うのか?

―――――良く見ると彼女を包み込むように周囲のオーラを紫に光る電流が走っていた。

「ふ、フハハハ・・・ついに・・・ついに完成したぞ!新たな闇の魔法が!!」

エヴァの歓喜の声が荒野に響き渡る。
彼女は両腕を天に掲げ、高らかに笑った。

「勝てる・・・この技があれば坊やに、いや、誰であろうと負けるはずがない!!
私は・・・私は究極の力を手に入れたのだ!!」

叫びと共にエヴァを取り囲む電流がさらに強くなる。
どうやら・・・彼女の新技にこの電流が関係しているようだが・・・
・・・謎は深まるばかりである。

「ハッハッハッ。坊や・・・ついに貴様を跪かせる時が来たぞ!この日が来るのをどれほど待ったことか・・・
フハハハ・・・あのときの借りは必ず返してやる。首を洗って待っていろ、坊や!!」









ネギたちが修業に励む中、ついに別荘での修業を完成させたエヴァンジェリン。
彼女の浮かべる余裕の表情は一体何を意味するのか?
そして、ネギはどう立ち向かうのか?
――――― 両者の対決の日は・・・近い!




<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!! オラ悟空!! とうとうエヴァがネギに挑戦状を叩きつけたっ!気をつけろネギ!あいつは前の時と別人だ!」

ネギ「ホントだ・・・前とは比べ物にならないくらいの強い魔力を感じる。一体彼女に何が!?」

エヴァ「フフフ・・・坊や。あのときの借り、きっちり返させてもらうぞ!!」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI 『逆襲の福音・・・  ついに激突!!ネギvsエヴァンジェリン』」

ネギ「彼女がどんなに強くなってようと、この戦い絶対負けられない!!」



あとがき

GWにとくに予定もなく、こうしてssを執筆中の仕事人です。
でも書き貯めようと思ったら、思ったより筆が進まずさあ大変。
現在、2話目を書き始めてますが・・・ペース遅すぎですね。
早くも連休の連日投下の野望が・・・(涙)
とりあえず、明日の夜までに書きあげるつもりで頑張ってます。(明日まで根気が続くか疑問ですけど・・・)

前回のコメントで改行の仕方について指摘されましたので、今回は試しに行間を詰めてみました。いかがでしょうか?
読んでいて何か不都合があればまたコメントしていただけると助かります。


ところで、今回楓とピッコロのやりとり・・・無理やりだったかも。ちょっと反省・・・

まあ、何はともあれ、次回からいよいよネギvsエヴァのリベンジマッチ。
久々のまともな戦闘に作者もテンションが高まってます。
なるべく更新も早くするつもりですので今後もなにとぞよろしく!!



[10364] 其ノ四十    逆襲の福音・・・  ついに激突!!ネギvsエヴァンジェリン
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2010/05/10 02:24



―――――4月16日火曜日・・・

この日、いつものように朝のホームルームのために教室に入ったネギは目に映った光景に衝撃を受けていた。

「な、何なんですか、これは!?」

ネギの視線の先には、2-Aの面々が一つの席の周りに群がりガヤガヤと騒いでいた。
なにやらその席の生徒にいろいろ話しかけているようだが・・・
その一帯だけ密度が非常に高くなっているためその中心にいる人物までははっきりと見ることはできない。

だが、この後すぐネギの目が見開かれることになる。

押し競饅頭のごとく詰め寄る彼女たちの隙間から時折ちらちらと垣間見える金色の髪。
それを目にした瞬間ネギはこの人物が誰なのかすぐに気が付いた。

「え、エヴァンジェリンさん!?」

つい昨日まで欠席していた問題児。
そして父であるナギとの因縁も浅からぬ悪の魔法使い・・・エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
先日戦ったこともあり、ネギは内心で最近彼女の欠席の裏に何かあるのではないかと疑っていた。
―――――その彼女が今日になって突然姿を現したのである。戸惑わない方がどうかしている。

・・・その当人はというと興味なさげに机に頬杖をつき、話しかけてくるクラスメートたちを適当にあしらっていた。

「ねえねえ、ずっと休んでたみたいだけどもう身体の方は大丈夫なの?」

「ああ・・・ただの風邪だ。家でずっと寝てたからな・・・今はもうすっきりだ」

「そういえば髪切ったよね? いつもと雰囲気違うよ」

「うんうん! なんか前より大人っぽくなった感じ・・・」

「ねえ、何か理由でもあるの?」

「・・・・・・」

彼女たちの代表格である麻帆良のパパラッチこと朝倉が尋ねると、いきなり押し黙ってしまったエヴァ。
その思わぬ反応に生徒たちの動きが一斉に止まる。

「(ゲッ!?もしかして地雷踏んだっ!?)あ、あの・・・訊いちゃいけなかった?」

「・・・フン。別に大したことじゃない。心境の変化があっただけさ」

素っ気なく答えるエヴァに朝倉が冷や汗を掻きつつ、アハハ・・・と頬を引きつらせたように笑う。
彼女たちだってもっと訊きたいことはある・・・のだが。
いつの間にかエヴァから凍りつくようなどす黒いオーラが漂ってきていて、次なる質問を躊躇わせた。
・・・どうやらこれ以上は危険らしい。

「みなさーん!!ホームルーム始めますから席についてくださーい!!」

そこへ頃合いを見計らったようなネギの号令がかかり、これ幸いと思った野次馬どもは蜘蛛の子を散らすように席に戻っていった。
人が掃けてすっかり見通しが良くなったせいか、ネギも自然とエヴァの方に目が行ってしまう。

久々に会ったせいか、前に会った時と受ける印象が大分変わっている。
特にその金髪を短くしたところにネギは少なからず驚いていた。
・・・だが、ネギがもっと驚いたのはそんな外見の違いではなかった。

以前とまるで違う・・・見た目だけでなく中身も・・・まるでエヴァンジェリンという人間そのものが大きく変わっているような・・・
何故かわからないが、ネギにはそう感じた。

そんなことを考えながら呆然とするネギ。
それをようやくエヴァが見とめる。

一瞬2人の視線が重なり・・・そして・・・
エヴァがニヤリと不敵に笑った。

その瞬間である。

「!?」

突如として激しい悪寒のようなものがネギを襲った。

・・・エヴァがネギだけに向けて殺気を飛ばしたのである。
並の武芸者ではとても感知できないほど巧みに、そして的確に標的のみを狙ってきたそれはネギを動揺させるには十分だった。
だが、それだけではない。さらにネギは気付いていた。
さっきからずっとエヴァからほのかに漏れ出している魔力に―――――

(な、なんて密度の濃い魔力なんだ!?
前に戦った時はこんなに強力な魔力じなかったはずなのに・・・)

そう思いながらネギはエヴァを睨みかえす。
だが、彼の心は彼自身の想像以上に揺れ動いていた。

――――今ネギの胸に燻っているエヴァに対するとある感情。
それがネギの眼に映る彼女の像を徐々に大きくさせていく。
彼はこのときはっきりと自覚した。

―――――自分はこの女人を恐れている。とてつもないほどに・・・
信じられないことだが・・・事実だった。

そんなネギの心理を知ってか知らずかエヴァはクスッと笑うと目でネギに語りかけてきた。
―――――後で話がある・・・と。

アイコンタクトの意味にハッと気付いたネギはその動揺をなんとか顔には出さずにゴクリと息をのんだ。

そんなネギのおかしな様子に一体クラスの何人が気づけたであろうか?
刹那や真名たちのような実力者を除けば、大体の者は鈍感過ぎて気付くのは難しいかもしれない・・・が、例外的にこの少女神楽坂明日菜は感づいていた。

(あいつあっちをずっと見つめるばかりで心ココにあらずって感じね。
原因は・・・やっぱりエヴァちゃんか。一体あの子がどうだっていうのよ・・・)






ホームルームが終わり、休み時間になるとエヴァは一人教室を抜け出して屋上に来ていた。
これから敵になる相手に挑戦状を叩きつけるために。
風に当たりながら待つこと数分。
屋上の扉が開く音がした。

「来たか・・・」

扉を開けたネギの方を嬉しそうに振り返るエヴァ。
対するネギの方はいささか緊張した面持ち。

「フフフ・・・久々だなネギ先生。ここまで来てくれて感謝するよ」

「・・・・・・御託はいいです。僕に話があるみたいですが」

「おやおや、随分とつれない反応だな。話を聞きたいのはそっちも同じだろうに」

「・・・・・・」

言葉の端々に余裕のようなものを感じさせるエヴァ。
ネギにはそれが不気味に見え、そして奇妙であった。
彼女のあの余裕は一体何なのか?

押し黙るネギが少し滑稽だったのかエヴァが妖艶に微笑み、

「坊や・・・知りたいんだろう?」

「!!」

「この私がこの一週間・・・一体何をしていたのかを」

途端に彼女の身体から放出される魔力の波。
怒涛の勢いで押し寄せるプレッシャーにネギは思わず腕で顔を覆う。

「ググッ!! こ、これは・・・!?」

「フフフ・・・どうだ?感じるか?この圧倒的な力を!!」

それはもう、嫌というほど感じている。
さっき教室で見せたときとは比べ物にならないくらいの魔力。
明らかに彼女が一週間前に見せた力を上回っていた。

「エヴァンジェリンさん・・・あなた、まさか封印を!?」

「ハッ!そのまさかだ・・・
だが、封印を解いただけではないぞ。私はそれにさらに磨きをかけた・・・」

言うや否や、ただでさえ巨大なエヴァの魔力がどんどん強さを増していく。
やがて、その圧力はネギの身体が少しずつ後退させるに至った。

「ぐっ!? 凄まじい力だ・・・! 
・・・でもわからない。どうしてあなたにこれほどの力が・・・」

前に戦った時から僅かに一週間しか経っていない。
いくら封印されていたとはいえ、そんな短期間のうちにここまでパワーアップできるものなのか?

「フン・・・それは企業秘密というやつだ」

エヴァの纏う魔力がとうとう波から嵐に変わった。
巻き起こる突風に飛ばされそうになるも、ネギは歯を食いしばってその場に踏みとどまる。

「ぬっ! グギギギギィィィィ・・・」

「・・・フッ、これを凌ぐか・・・流石だな。そうでなくてはつまらん」

なんとか耐え抜いたネギに笑みを向けると、エヴァはフッと魔力を鎮めた。
すると辺りは嵐から一転、穏やかなものに戻った。

「さて、デモンストレーションはここまでにして本題に入ろう」

「・・・?」

防御の構えを解いたネギはエヴァの言葉を聞き頭に疑問符を浮かべる。
そして知ることになる。彼女がネギをここに呼び出した本当の目的を・・・

「坊や・・・もう一度この私とサシで戦え!!」

「!?」

エヴァから突然の宣戦布告。
そのあまりの衝撃にネギは呆然と聞き入っていた。

「貴様も薄々分かってきたんじゃないか? しばらく姿を見せなかった私がこうしてお前の前に現れ、ここに呼び出した・・・
となれば、導き出される答えは明らかだろ?」

「・・・・・・」

「好い加減・・・決着をつけようじゃないか。坊や」

エヴァは彼女にしては珍しく好戦的な笑みを浮かべている。
いかにもこの戦いを楽しみにしているといった表情だ。
だが、それに対しネギの表情は・・・決して明るいものではなかった。

「どうしても・・・戦わないといけないんですか?」

「何を今さら・・・私とお前は敵同士だぞ?」

「でも、おかしいじゃないですか!!あなたは僕の生徒です。教師が生徒を傷つけるなんて本来はあってはならないことです。
・・・この間の戦いだって本当はやりたくなかった」

「フン、詭弁だな。状況に流されて止むなく戦ったとでも言いたいのか?
・・・ハッ!とんだ甘ちゃんだな貴様は!!」

「でも・・・もう僕はあなたとは戦いたくない。話し合いであなたを更生させたいんです」

ネギの顔を見ればそれを本気で言っていることが窺えるだろう。
だが、それはエヴァの機嫌を悪くさせるだけのものだった。

「坊や・・・本気で言ってるのか!?」

「はい・・・」

「そうか・・・」

ネギが頷いた瞬間形相が変わったエヴァ。
ギュッと拳を強く握り締め、そしてネギの前に高速で移動。



ドゴォォォォォォッ



「!!」

ネギに驚く暇を与えず、その腹に強烈なボディーブローを放っていた。

「ぐっ!?」

腹部を襲う激痛にその場に蹲ってしまうネギ。
そんな彼をエヴァは冷ややかな目で見下ろしていた。

「失望したぞ・・・坊や。貴様がそんな腑抜けだったとはな!!」

「グウゥ・・・ゴホッ、ゴホッ」

「フン・・・話し合いだと?私がそんなもので納得すると思ってるのか?
・・・貴様は何もわかっちゃいない」

そう言ってエヴァはネギに背を向ける。

「え、エヴァン・・・ジェリン・・・さん・・・」

伸ばそうとするネギの手をエヴァが振り払う。
その顔は怒りにより真っ赤に染まっていた。

「触るなっ! もうお前なんぞに用はない!!
・・・こんな奴のために今まで修業してきたのか、私は・・・クソぉっ!!!」

怒りのままに叫びながらドンと足を踏み鳴らした。
途端、床に大きな亀裂が走る。

そのまま扉に向かおうとするエヴァ。

「ま、待ってください、エヴァンジェリンさん・・・どうして、どうしてそこまでして僕と・・・」

ネギの呼びかけに、扉に手を掛けようとしたエヴァの動きが止まる。

「あなたは一週間前に言いましたよね?あなたに掛けられた呪いを解くために僕の血が必要だって・・・
でも、あなたはすでに呪いを解き、念願の自由を手に入れている。ならばこの麻帆良に留まらずにさっさと逃げれば良かったはず。なのにどうしてここに現れたんですか?
・・・単に僕への復讐?それとも父さんへの?・・・」

「・・・・・・・・・夜8時」

「え?」

「今日の夜8時に・・・私の屋敷に来い。私と戦う意思があるならな・・・」

「え・・・エヴァンジェリンさん・・・」

「今の貴様と戦っても意味がない。だから時間をやる。それまでに私と戦う覚悟を決めてこい。
・・・どうしても戦いたくないなら来なくても構わん。中途半端な気持ちで来られるよりずっとマシだ」

つまり、『逃げてもいいが来るなら全力で戦え』・・・そうエヴァは言っているのである。
だが、それはネギには非常に厳しい決断だった。
仮にこの戦いに勝ってはたしてネギに得るものはあるのか?エヴァが素直に反省しなければ何の意味もないのに・・・
どういうわけかエヴァはこの戦いに意気込みを見せている。それに応えられるだけの気迫は今のネギには・・・

「僕は・・・ぼくは・・・」

「フン。あいつの息子とは思えんほどの体たらくぶりだな。そんなザマなら来なくていいぞ。だが、私はもはや後戻りする気はない。戦う道しか残っちゃいないんだ。
・・・もし貴様が断った時は仕方あるまい。潔くこの土地を去ろう」

そう言って立ち去っていくエヴァ。
ついに屋上にはネギだけが取り残され、呆然と立ち尽くしていた。








「僕は・・・一体どうしたら・・・」

いまだ胸の中の葛藤冷め止まず。

「随分きっぱり言われちゃったね~ネギ君」

「!? その声はタカミチ!?」

いつの間にか屋上の壁に寄りかかっていたタカミチにネギが驚いた声を上げる。

「い、いつからそこに?」

「エヴァが君を殴った辺りからかな。しかし君ともあろう者が僕の接近に気付かないなんてらしくないじゃないか。
・・・エヴァはとっくに気付いてたみたいだよ?」

「エヴァンジェリンさんが!?」

「ああ。・・・どうやらあいつは相当腕を上げたようだね。1週間前とはまるで別人だよ。
・・・ひょっとしたら、実力では君といい勝負かもしれない」

「・・・僕もそんな気がする。気も以前よりかなり上がっていたけど、それ以上に魔力が桁違いだ・・・
彼女が本気を出したら今度ばかりは僕でも簡単には勝てない」

あのときの魔力を思い出すと思わず冷や汗が流れる。
なぜかわからないが1週間でエヴァは驚異的な成長を遂げている。
これに対抗するにはそれこそ全力で当たらなければならないだろう。

「・・・どうするんだい?彼女の挑戦・・・受けるかい?」

「・・・わからないんだ。なぜエヴァンジェリンさんが僕との勝負に拘るのか。
僕はもう生徒を無意味に傷つけたくないのに・・・」

俯くネギにタカミチはしょうがないなと苦笑しながらも口を開いた。

「ハハハ・・・まったくそんなことで悩むとはね。君も意外と頭が固いんだね」

「タカミチにはわかるの?」

「そりゃあね・・・簡単なことだよ。『戦いたいから』さ。他の誰でもない、ネギ・スプリングフィールド・・・君自身とね」

どんな答えかと期待してみればそんな答えとは・・・!
ネギは思わず頬をプクッと膨らませて腹を立てる。

「こ、答えになってないよ!!」

「ハハハ・・・怒らない怒らない。
でもね、結局のところそれが答えさ。『君との決着をつける』・・・それが今のエヴァの行動理念であり、生き甲斐にもなっている」

「どうしてさ? どうして僕じゃないといけないんだろ?
・・・やっぱりこの間のこと根に持ってるのかな?」

「まあ、それも少しはあるだろうけど・・・本音は君への恨みを晴らすと言うより、もっと別にある」

「もっと別に?」

「ああ・・・『失ったものを取り戻す』、とかね」

朗らかな笑顔から一転、真剣な表情になるタカミチ。

「失った・・・もの?」

「これは本当は僕から言うべきじゃないかもしれないが、君はまだ子供だからね・・・特別に教えるよ。
エヴァはこの間君と戦って二つのものを失った・・・一つは『自由』、もう一つは『プライド』さ」

タカミチの言葉に黙って聞き入っているネギ。

「君も知ってると思うが、エヴァがこの土地に来る前は世界最強の魔法使いだった。間違いなくね・・・
真祖という強種族の血と戦いで培った類い稀な戦闘センス。
長年の研究からありとあらゆる魔法に精通し、彼女独自の魔法まで作り上げるほどの奇抜な発想と創造力。
そして極めつけは不死身の身体だ。
―――――どれをとっても我々人間では到底及ばない能力を彼女は全て持っている。
事実、君の父親みたいな例外を除き誰も彼女に敵わなかった。
その当時は『闇の福音』の名を聞いただけでみんな震えあがったものさ。
だが言い方を変えれば、悪の道を歩んだとはいえ、彼女が魔法使いたちの一つの理想に到達していたのは間違いない。それが今の彼女、誇り高き魔法使いエヴァンジェリンを作ったんだろうね。
だから、この麻帆良に封じられ『自由』を失ってからも、“自分が最強である”という『プライド』だけはずっと捨てずに生きてきた」

「・・・・・・」

「だが、この間の戦いで『自由』を取り戻そうとした矢先、その『プライド』さえも失くしてしまった。子供である君に敗北するという屈辱的な形でね・・・」

そう言った後、タカミチから物悲しそうな雰囲気が漂う。

「僕にもわかる・・・今まで積み上げてきたものをいきなり崩されることの悲しみ、苦しみがね。
だから、エヴァがこの戦いに掛ける思いも少しは理解できるつもりだ」

「タカミチ・・・」

「ネギ君。確かに状況だけなら呪いが解けている今、エヴァがこの麻帆良をすぐにでも脱出することは可能だ。
・・・だが、彼女にはそれができない。なぜならまだ『誇り』を取り戻していないからだ!
それには全力の君と戦い勝利しなければならない。それまではここを去るわけにはいかないのさ」

「エヴァンジェリンさんの・・・誇り・・・」

ネギは先日16号に言われたことを思い出す。

『今のエヴァは己の誇りを取り戻すために戦っている。必死にな・・・』

おそらく、彼女はこの喧嘩に己の全てを賭けてくるだろう。
あの力もこのときのために必死に身につけたに違いない。
・・・だとすれば、自分はそれに全力で答えるべきではないのか?

(でも・・・僕には・・・あの人のように全てを投げ打つくらいの覚悟がない・・・)

そう・・・エヴァにとっての『誇り』にあたるものが今のネギにはないのだ。
大義名分というか、とにかく戦う覚悟を決めるための何かが足りない。

それがなければとてもじゃないが、彼女相手に全力を出せない。

そんな思い悩むネギを見かねてか、タカミチがこっそり助け船を出す。

「ネギ君・・・君とってエヴァとは何だい?」

「え?それは・・・僕の生徒だけど?」

「本当にそれだけ?単なる教師と学生という関係?」

「・・・・・・いいや、違う。そんな薄っぺらい関係じゃない。エヴァンジェリンさんは・・・僕たち3-Aの仲間だよ!!」

「なら、その仲間がみんなに黙ってどっかに行ってしまうのを・・・君は黙って見ているつもりかい?」

「!? ・・・そ、そうか!!」

タカミチの言葉でハッと何かに気づかされたネギ。
するとぱあっと表情に明るさが戻っていく。

「敵とか味方とか、復讐とか、そんなんじゃないんだ。
・・・僕はエヴァンジェリンさんを3-Aに取り戻したい。彼女を本当の意味でクラスの一員にしたい。
一緒に授業に出て、一緒にお話しして、そして一緒に笑っていたい。それだけなんだ。
・・・だから、そのためにも僕は彼女と向き合わなきゃならない」

ネギの手に力が漲ってくる。

「望むと言うならこの拳を使ってでも!!」

ブンッと突き出した正拳は空を斬り裂き乾いた音を響かせる。

「・・・よく言ったね。それでこそ3-Aの担任・・・いや、ナギの息子だ」

「ありがとうタカミチ! 僕やるよ!!」

ついに少年は戦う意味を見出した。
その喜びを目の前の青年に笑顔という形で示す。

「よ~し!そうとなったらさっそく・・・あっ!?もう次の授業が始まる時間だ!そろそろ行かなきゃ!!」

「お、おいおいネギ君!?・・・あ~~~行っちゃった」

屋上の扉から出て行ってしまったネギを見送りながら途方に暮れるタカミチ。
だが、その顔は清々しい笑顔であった。

「あんなにはしゃいじゃって・・・普段は大人びているけどやっぱり子供なんだなあ」

雲ひとつない青空を見上げて呟く。

やっとどうにか立ち直れたネギ。だが、あれでもエヴァの覚悟に比べたらまだまだ甘いと言わざるを得ない。
しかし、タカミチはそれでも良いと思っている。
戦う意味なんてのは実際そう簡単に見つかるものではない。
ましてや彼は若いのだ。本当の答えはこれからの人生でゆっくり見つけていけばいい。
こんなことを言ったらきっと敬愛する師であるピッコロに叱られるかもしれないが・・・
彼は思う。

―――――「今はこんなもんだろう・・・」と。










時は流れてまもなく夜8時になる頃・・・
ネギはエヴァに言われたように彼女の屋敷の前で立っていた。

いつも以上の緊張感にゴクリと唾を飲み込む。

震える手で呼び鈴の紐をひっぱり、

カランコロンと鳴らすのとちょうど同時刻に、

時計塔の針が8時を刺し、フッと街の灯りが全て消える。



―――――今日は年に2度しかない大停電の日。
この日の夜は深夜まで麻帆良の街全体が暗闇に包まれる。

だが、停電だと言うのにエヴァの屋敷にだけぼんやりとした光が残っていた。
―――魔法の力か何かで独自に灯をおこしているのだろうか?

だが、今はそんなことは関係なかった。

呼び鈴に反応し、誰かが玄関の鍵を開ける音がする。
ネギの姿勢が自然と正される。
なんだかんだで訪問は初めてなのだ。

「ネギ先生ですね?お待ちしておりました」

扉から出てきたのは茶々丸に良く似た顔をした黒髪の女性だった。

「ちゃ、茶々丸さん!?・・・じゃ、なさそうですね。あ、あの・・・あなたは?」

「私は我が主エヴァンジェリン様の従者である数多の人形の一体・・・茶々丸の姉に当たります」

ペコリと頭を下げる女性にネギも「これはどうも・・・」とこちらも頭を垂れた。

「中で主がお待ちです。こちらにどうぞ・・・」

そう言って案内するようにネギに先行する女性(面倒なので茶々姉とでも表記しよう)。
ネギは黙ってただその後に従っていく。

(この人の言うとおり・・・人形みたいだな。気を全く感じないし・・・
でも、見た目は人間と見間違うくらいによくできてる・・・“人形遣い”の名は伊達じゃないか)

案内されながらネギは茶々姉だけでなく、屋敷の中も注意深く観察する。
・・・と言っても、その意外にもファンシーな雰囲気に度肝を抜かされてばかりだったが。

(こ、これが本当に吸血鬼の家なの!?そ、想像と大分違う・・・
ま、まあそれはいっか・・・。何はともあれ罠の類はなさそうだね)

まあ、ネギはエヴァが罠を仕掛けるというような姑息な手を使うとは始めから思ってなかった。
あれほどの覚悟を見せたのだからは相手だって正々堂々と戦いたいに決まっている。

(だからこそ・・・僕も本気でぶつかる!!)

意気込んで見せるネギを余所に、茶々姉はどんどん進んでいき、ある部屋に辿り着いた。
だが、その部屋には宮殿のような建物の巨大なミニチュアが置かれているだけで他に誰もいなかった。

(何だろ?この部屋・・・こんな大きなミニチュアしか置いてないなんて・・・)

ミニチュアに近づいて眺めながら疑問符を浮かべるネギに茶々姉が告げる。

「ここでございます」

「え!? ・・・え~と、エヴァンジェリンさんの姿が見えないんですけど・・・ここでいいんですか?」

無表情で告げる茶々姉にネギは頭に汗を浮かべながら尋ねる。

「ええ・・・こちらですよ。もう少し前に出ていただけませんか?」

「え?こうですか?」

言われた通り一歩前に踏み出すとネギの足元に魔法陣が発動し、眩い光が包み込んだ。

「わわっ!?これってまさか転移・・・」

ネギが驚く間もなく、光は彼を飲み込み、その姿を消し去った。









一方そのミニチュアの中、いわゆる別荘の広場で佇んでいたエヴァは、腕を組んでじっとネギを待ち受けていた。

今の彼女は新調した紺のトレーニングスーツと白いグローブ、そして丈のあるシューズを装備している。
・・・明らかに誰かさんを意識した格好だが、そこは突っ込んではいけない。

「ナア・・・御主人。ホントニアノボーズガ来ルノカヨ?」

「さあな・・・来なければそれだけのこと。ここを引き払うのも良いかもな」

じっと空を睨みつけたままのエヴァにチャチャゼロは「アッソ・・・」とそっけなく返した。

「ですがマスター・・・佐々木まき絵を使えばもっとすんなりここへ連れてこれたのではないですか?」

茶々丸が言っているのは、以前に血を吸ったことのあるまき絵をエヴァの魔力で操りここにおびき寄せると言うものであった。
確かにこれなら生徒思いのネギのこと・・・人質となったまき絵を助けるために戦わざるを得ないだろう。

しかし、エヴァはその手を使わず、まき絵に植え付けた楔も自らの手で消し去ってしまった。
もっとも効率の良い手なのにあえてそれを用いなかった主の行動が茶々丸には疑問だった。

「フン・・・これは私と坊やの全力をかけた戦い。人質などという無粋な手で汚してたまるか!!
第一人質なんかとったら、坊やがそっちに気を取られて、本気を出してくれなくなるだろうが!!」

茶々丸に怒髪天を突く勢いで叱咤するエヴァ。
以前のエヴァならこんな姑息な手も必要とあれば躊躇なく使っていただろうが・・・今はそんな影は見られない。
こんな姿を見るとやはり彼女は変わったのだろう。いい意味でかそうでないかはさておき。

だがそんな主が茶々丸はとてつもなく嬉しい。
彼女が本気で何かに打ち込んでいる。そんな姿が見れるのだから・・・
どこか姉か母親にでもなったような温かい気持ちが茶々丸に広がっていた。

「・・・向こうではもう8時を過ぎたはずだが」

足を崩して座り込んでいる16号がそう告げる。
そんな声を聞いたエヴァだったが、突然頭にこの空間を越えて来た気配が流れ込む。

―――――彼女は確信した。

「来たか!!」

すると、広場の一角の空間がぶれ始め、そこから小さい子供が飛び出してくる。

「うわわっ・・・と!」

突然景色が変わったことに驚くネギに対し、
待ちわびたこの瞬間に歓喜の声を上げるエヴァ。

「坊や・・・やはり来たか。待っていたぞ!!」

「エヴァンジェリンさん・・・!!」

重なり合う二つの視線。
両者の間で火花が散る。

「貴様の答え・・・聞かせてもらおうか」

エヴァの問いかけにネギはゆっくりと口を開いた。

「僕は・・・あなたが誇りを取り戻すために戦っていることを知りました。
正直凄いと思いました。たったそれだけのために全てを投げ打って戦おうとする・・・そんな真似はまだ僕にはできません。本当に尊敬します・・・
だから、そんなあなたの本気に僕も本気で応えなくちゃならない。たとえどんなちっぽけな覚悟でも・・・
あなたが『プライド』を取り戻すつもりなら、僕は『あなた』を3-Aに連れ戻します!!」

ネギの答えを聞き、エヴァが一瞬目を丸くするが、

「・・・ククク。なるほど、お前らしい答えだな。動機にしては少々弱いが・・・まあ及第点にしてやろう」

口元で笑みを作って合格を伝えたエヴァ。

「・・・僕が勝ったらちゃんと授業に出てもらいますからね!」

「良いだろう。約束しよう。だが、こちらも本気でやる以上手を抜くつもりはない。殺す気で行くぞ!!」

すると両者の足元でまたしても魔法陣が展開する。

「さて・・・それでは今回用意した舞台に移動しようか・・・」

再び両者の姿が光と共にどこぞへと消える。

後に残されたのは16号と茶々丸、そしてチャチャゼロの3人。

「いよいよ始まるのか・・・エヴァの本当の戦いが」

「・・・大丈夫でしょうか。マスターは」

「それはまだわからない・・・お前はどう見る?ピッコロ」

16号が振り返ると、いつの間に来ていたのかネギの師であるピッコロが宮殿の柱に寄りかかっていた。

「ネギも俺との修業で大分力をつけたが・・・
エヴァンジェリンの成長の度合いはそれ以上だ。正直俺でも見当がつかん。
・・・ひょっとしたらネギを超えてるかもしれん」

「ソノ言葉ノ割ニハ顔ガ嬉シソウダナ・・・」

「なに、ネギの奴もこれほど実力が拮抗した相手は久しぶりだからな。どんな戦いになるのか興味がわくのは武道家として仕方がないだろ?」

そんな会話を交わしながらピッコロたちは空中に浮かんだ巨大な水晶球を見つめる。
これには2人が転移された先の様子が映像として現れている。

そこに映っているのは、辺り一面が氷に覆われた南極のようなステージで、
氷山の上で対峙したネギとエヴァがお互いに睨み合っていた。








「エヴァンジェリンさん・・・さっきも思ったんですけどこの世界は外と空間が違いますね?」

辺り一面真っ白な氷が海の上に浮かんでいる光景を眺めながらネギが尋ねる。

「ほほう、わかるか? その通り。ここは私の作り上げた『別荘』・・・いわば外の世界とはまったくの異空間。だから思う存分全力を出せるというわけだ。
さすがに麻帆良で直接やり合うのはどうかと思ってな。・・・あそこは我々には狭すぎるだろ?」

「なるほど・・・それは確かに言えますね」

まだ戦っていないが、お互いに相手がどれくらいの力を持っているか予想くらいは付く。
少なくとも、まともにぶつかりあえば麻帆良がただではすまなくなると言うくらいには・・・

「坊や・・・知っての通り、これは私と貴様のサシでの勝負だ。他の者には手出し無用と言いつけてある」

「茶々丸さん抜きでいいんですか?2人がかりでも一向に構いませんよ?」

「あまり私を嘗めるなよ? 前とは一味も二味も違うんだ」

「・・・冗談ですよ。正直ほっとしてます。
今はあなた一人でも十分怖い・・・」

「ふむ・・・御褒めに預かり光栄とでも言っておくか」

互いに軽口を叩きあうが、場の雰囲気は緊張を増すばかり。
それを示すように時折極寒地の寒さを伝える風が2人の間を吹き抜けていく。

「ところで舞台にここを選んだのは?」

「一応私の得意な魔法属性が氷だからな。舞台くらい有利にしようかと思ったんだが・・・気に入らないか?」

「いいえ。これくらいハンデがあった方が面白いですよ」

「フッ・・・言ってくれるな。ならその言葉を言ったことを後悔させてやる」

「・・・負けませんよ」

互いに言い捨てて構えを取る。
両者の距離は50メートル近く。かなり離れている。
だと言うのに、お互い相手がすぐ目の前にいると錯覚しまうほどの気迫を迸らせていた。

そうしてしばらく睨み合いを続けていると、
ネギからは気が・・・
エヴァからは魔力が・・・
それぞれオーラとなって表出する。

やがて両者を包み込む半球状のオーラ同士が中央で接触し、渦を作る・・・


ピキピキピキィィィ・・・   バキキィィィッ!!!


力の渦は氷に亀裂を生み、
巨大な氷山は二つの山に分かれた。

それぞれの山の頂に立つネギとエヴァ。
とうとう両者の間で張り詰めていた糸が切れる時が来た。


「さあ、坊や・・・」

―――――そして、今この時・・・

「そろそろ楽しい喧嘩を・・・」

―――――ネギとエヴァ、2人の運命を変える超決戦が

「始めようかぁぁぁ!!!」

―――――幕を開けた。










<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!ネギとエヴァの戦いが始まった。一体どっちが勝つんだ!?」

ネギ「くっ!意外に体術ができるな・・・それにエヴァンジェリンさんの多彩な攻撃は手強いぞ!!」

エヴァ「フン!伊達に長生きはしていない。経験の差というやつを見せてやる!!」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI『ネギ大苦戦!! 悪の魔法使いは伊達じゃない!!』」

ネギ「こうなったら、とっておきの技を出してやるぞ!!」





あとがき

仕事人です。予告してから大分更新が遅れましたことこの場でお詫び申し上げます。
なぜか思っている以上に執筆が進まないのです。
作者としては「こんな話があるかーーー!!!」と自責の念に駆られる次第。
正直このままで本当に大丈夫なのかヒジョーに不安です!
誰か・・・誰か助けて~~~!!

なんだかんだで今回も展開が飛び飛びになってて不自然かもしれない・・・
誠に申し訳ない。おかしなところがありましたらぜひ皆様の意見をお聞かせください。

また更新遅れるようでしたら先に謝罪させていただきます。ゴメンナサイ






―――――ところで、今週のドラゴンボール改を見ましたが、トランクスの登場シーンでBGMが変わってしまったのはちょっと残念でした。(確か『BP∞』って曲・・・)あの曲カッコよくて好きだったのにな~

リメイクだから仕方ないとはいえ少しはZの曲も残してくれてもいいのではと愚痴ってしまう私でした・・・



[10364] 其ノ四十一   ネギ大苦戦!!  悪の魔法使いは伊達じゃない!!
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2010/05/18 19:19




時は少しばかり遡る―――――

麻帆良に年に二度訪れるという大停電の夜。
一人エヴァの屋敷に向かったネギだったが、実はその跡をこっそりつけている影があった。
影は、ネギが呼び鈴を鳴らし、応対したメイドに連れられて中に入っていったのを見届けると草叢からその顔を出した。

「プハぁ~~~っ! まったく、昼間の様子がおかしいと思ったら案の定ね」

現れた少女―――神楽坂明日菜は苛立たしげに溢した。
ホームルームの後、ネギがどことなくよそよそしかったので気になりそれとなく注意してみたら、夜寝静まった頃に一人布団から抜け出してどこぞへ出かけていくではないか。
彼の保護者というか姉代わりみたいな立場にいる彼女としてはどうしても放っておけず、こうして尾行するに至ったというわけである。

内心気付かれないか不安だったが、幸いネギに気付かれた様子はない。

「それにしても・・・あんたの言うとおり気をつけておいて正解だったわ」

明日菜がまるで他の誰かに話しかけるような口調で言う。
すると・・・

「へへっ、そうだろ姐さん!!この俺っちにかかれば兄貴の行動なんてお見通しさ!」

どこからか現れたのか、突然彼女の肩に飛び乗った小さな影・・・
なんとそれはピッコロの手で汚い花火にされたはずのオコジョ・・・アルベール・カモミールだったのである!




なぜこいつがここにいるのか?
・・・まあ、それは話せば長くなるのだが、簡単に言ってしまえば、
『ピッコロたちが想像していた以上にギャグキャラ補正というのは性質が悪かった』ということである。
本人曰く、「これまでピッコロの旦那の技をこの身に受け続けてきた俺っちが、あの程度でやられるわけねえだろ!?」、だそうである。

・・・なんとも腹立たしい話であるが、こうしてしぶとく生きていたカモがネギや我々の知らぬ間に明日菜と出会い、知恵を授けたと・・・・・・大方こういうことであろう。




・・・大分話が脱線してしまった。本編に戻ろう。

「ところで・・・ついてきたはいいけど、このあとどうするのよ?ネギはあの家の中入っちゃったし、・・・・・・まさか私たちも入るの!?」

「あったりまえさあ!!そうじゃなきゃ何のためにここまで追って来たかわかんないじゃないですか!」

ニヤリと得意げな笑みを浮かべながら言ったカモに明日菜が不安げな顔をする。

「でも・・・こんな時間にしかも敵である私達をすんなり入れてくれるかしら?」

「へへ・・・それなら心配御無用!こうするのさ!」

いきなりカモがどこから取り出したのか道具箱のようなものからさまざまな用具を手に取り、鍵穴に挿しこんだり、弄りまわし始めた。
・・・どう見てもピッキングである。

「ちょ・・・あんた!な、何やってんのよ!?」

「見ての通り、相手が入れてくれないんじゃ、こっちから無理やり入ってしまうまでさあ!!」

「そ、それって不法侵入じゃない!!それにそう簡単に開くとは・・・」

「この鍵、別に普通の鍵と変わらないぜ。どうやら奴さんは出入り口のセキュリティにはそれほど気を使ってなかったみたいだな。侵入者に対する魔法トラップくらいは覚悟してたんだが、それもなさそうだ・・・侵入されても撃退できるほど腕に自信があるのか・・・」

いつになく真面目な口調で話すカモに、明日菜は微妙に不気味さを感じたのか、

「あ、あんた・・・随分こういうことに慣れてるみたいだけど・・・」

「そりゃあな・・・麗しい貴婦人方の下着を拝借するにはそれ相応の修羅場をk・・・ぎゃああっ!?」

「あんたやっぱり下着泥常習犯だったのね!?このエロオコジョ!!」

「ね、姐さん・・・ぐるじいぃ・・・」

こんなときにとんでもないことをぶっちゃけてくれたカモに乙女代表として怒りが込み上げてきた明日菜は躊躇いもなくその首を絞め上げる。
今にも縊り殺しそうな勢いだ。

「そ、そんなことより・・・早く鍵開けちゃいましょうぜ」

「そんなこととは何よ!大体こんな犯罪紛いの行為できるわけないでしょ!!」

「ね、姐さん・・・兄貴の一大事なんだぜ?そんな綺麗事言ってる場合じゃないはずだ。
・・・調べたところによると、兄貴の相手はあの“闇の福音”って話じゃねえか!
前回は兄貴が圧倒していたらしいけど、それは封印状態での話だ。本気の奴はあんなもんじゃないはず・・・それにここへ呼び出したところを見ると何か奥の手を隠してるかもしれねえ・・・
そんな状況で兄貴にもしものことがあったらどうする気なんだい?」

「なっ!?べ、別に私は心配なんて・・・」

「してないってんならわざわざこんなところまで来たりしないはずだぜ?」

一瞬カモがニヤニヤ笑いを浮かべていた気もするが、図星だった明日菜には言い返す余裕がない。

「・・・わ、わかったわよ!行けばいいんでしょ!」

「そうこなくっちゃ!」

かくして、一人と一匹はエヴァンジェリン宅への侵入を強行する。





「な、なんか・・・家の中は随分可愛らしいわね・・・」

「姐さん、感心してないで行くぜ。・・・こっちに行ったみたいだ!」

家の中を見回している明日菜に声をかけてカモが先行する。
ハッと正気に帰った明日菜も慌ててその後を追う。

「それにしてもよくネギの場所がわかるわね」

「臭いさ・・・兄貴の魔力は強烈だからな。それが身体から発する臭いに混じって特殊なものになるんだよ」

「へ~・・・でも、それを嗅ぎ分けるなんてあんたオコジョと言うよりイヌじゃない・・・」

「・・・それは言わない約束だぜ」

哀愁漂うカモの背中がそれ以上言ってくれるなと語りかけていた。
無論明日菜もそこで追い打ちをかけるほど非情ではない。

「まあ・・・気を取り直して行きますか」

「・・・そうしましょ」

こうして、まだそれほど時間が経っていないと思われるネギの臭いを頼りに明日菜たちはエヴァ宅の捜索をさくさく進めていく。
すると、10分もしないうちに最後にネギが入ったあの部屋に辿り着いた。

「ね、ねえ・・・ホントにここなの?誰もいないじゃない」

「おかしいなあ・・・確かに兄貴の臭いはここで途切れてるんだけど」

部屋には巨大なミニチュアしか置かれていない状況に、明日菜に尋ねられたカモも首を捻る。
ここまで何の妨害もなく来れたことを考えると罠の可能性も考えられるが・・・

(俺っちが兄貴の臭いを間違えるはずはねえ・・・)

自分の鼻を信じているカモはその可能性を否定した。
とすれば、あと考えられるのは、

(・・・転移魔法か。だとすればどこかにゲートが残ってるかもしれねえ)

カモがじっくりと部屋の中を観察する。
わずかな痕跡も見逃さないほど注意深く―――――

「ところでこの宮殿みたいな建物、細かいところまでよくできてるわね~
まるで本物みたいじゃない」

明日菜がミニチュアを眺めながら感嘆の声を漏らしたので、カモも目を向けて見る。
なるほど、確かによく作り込まれている。だが、カモはどうもこれがただのミニチュアには思えなかった。

(何だったっけな~・・・これに似たもんどっかで見た気が・・・)

記憶を辿ろうとするカモ。それが後もう少しで出かかったとき、

カチリ・・・

「「へ?」」

ミニチュアに近づいていた明日菜の足が何かのスイッチに触れたような感触がするとともに、その足元が光り出す。
「ま、まさか・・・!!」

それを見た瞬間カモはようやくこの部屋の仕組みを理解した。
そしてその予想した通り、明日菜の足元に転移魔法を示す魔法陣が描かれ、明日菜とその肩に乗るカモを光が包み込んだ。







「なっ・・・!?今度は何!?」

光が収まった後、驚く明日菜が次に目にしたのは大理石の敷き詰められた知らない広場。
さっきまで屋敷の中にいたはずなのにいつの間に外に出ていたのだろうと思うくらいまっさらな青空が広がっている。
カモはさすがに転移したと分かっているからいいが、こういう経験が初めての明日菜にはあまりに突然のことで彼女自身、ここが部屋の中なのかまったく違う空間なのか分からなくなってしまいそうになった。

だが、もっと驚くのはこれからだった。

「オイオイ・・・マタ変ナ客ガオデマシダゼ?」

「・・・神楽坂さん?いつの間にこちらに?」

「ちゃ、茶々丸さん!?」

エヴァの従者であるクラスメートを見つけ、仰天する明日菜。
しかも良く見たら見知った顔がもう一人。

(え?え?茶々丸さんがここにいるってことは・・・や、やっぱり!!あの奥にいる人って16号さんよね?・・・しかも刃物持ってこっちケタケタ笑って見てる人形もいるし・・・もしかして私敵のど真ん中に来ちゃったの?これってかなりまずいんじゃない!?)

エヴァの従者組といきなり鉢合わせしてしまったことで明日菜の頭はますます混沌に。
だが、驚きはこれでも終わらない。

「お、お前たち・・・」

そこで目にした人物に明日菜だけでなくカモまでもが目を見開く。

「だ、旦那!?」「ぴ、ピッコロさん!?」

ネギの師匠であるこの男がなぜこの場にいる!?
2人がパニックに陥るのは仕方なかったといえよう。

彼女にはますますわからない。ネギを追いかけていたはずなのにどうしてピッコロが敵の一味と一緒にいるところに出くわすのだろう?
しかも、戦っているどころか、なんか仲良く固まっているように見えるのは気のせいだろうか?

「な、なんでピッコロさんが・・・」

「それはこっちのセリフだ。なぜアスナがここにいる!?
・・・それにその肩に乗っているのはカモだな?貴様・・・生きていたのか!?」

苦虫を潰したような顔で言葉を発するピッコロ。
そんな彼にガタガタ震えながらもカモが挨拶を返した。

「だだだんな・・・どどどうもおおおおひさしぶりりりりです」

「・・・あんた、どもりすぎよ」

恐怖で呂律が回らな過ぎのカモに若干呆れながらも、どうにか落ち着きを取り戻した明日菜はピッコロと向き合った。
一方のピッコロはカモと明日菜という取り合わせでほぼ事情を飲み込めたのか、

「・・・なるほど、どうやらカモにまんまと乗せられたみたいだな。
だが、前にも言ったはずだぞ。ネギや俺達からは手を引けと・・・」

「ちょっと待ってよ!そんなのあんたたちの勝手じゃない!こっちはここまで関わっといて『はい、そうですか』って納得できるほどできのいい頭してないのよ!伊達にバカレンジャーって呼ばれていないんだからっ」

「姐さん・・・それ言ってて虚しくないですか?」

「・・・・・・」

カモのツッコミは華麗にスル―し、明日菜はピッコロにつっかかる。

「大体ピッコロさんもなんで茶々丸さん達と一緒にいるのよ!?この子はエヴァちゃんの仲間、ネギの敵なのよ!」

明日菜がさっきからずっと抱えていた疑問をついにピッコロにぶつける。
そしてそれを聞いたカモもいつもの調子を取り戻し、

「そ、そうだ!!俺っちもさっきからそれが不思議だったんだ。
兄貴の味方であるはずの旦那がどうしてここで敵と慣れ合ってるんだよ!?
まさかとは思うけど、敵に寝返ったんじゃ・・・」

「え!?ま、まさか・・・本当なの!?」

明日菜が鬼気迫る表情で尋ねるとピッコロはゆっくりと口を開く。

「・・・勘違いするな。俺はネギを裏切るつもりはない。ただ、こいつらと敵対する気がないだけだ」

「!?」

「ど、どういうこと?」

「要するにこいつらとお互いの利害が一致したから全面的に戦う必要がなくなった。
だから俺からも手を出さない。・・・それだけだ」

淡々と話すピッコロだったが、明日菜の方はまだ納得がいかないようで、

「い、意味わかんないわよ!それじゃあ、ピッコロさんがここにいる説明になってないじゃない!!」

「ここにいる理由か?・・・・・・それはあれを見届けるためだ」

そういって、天井を指さす。
吊られて明日菜も視線をそちらに向けると、

「・・・ちょっ!?何よこれはっ!!」

上空に浮かぶ巨大な水晶でできた球体と、そこに浮かび上がっている映像に驚愕の声を上げた。

「あ、あれは兄貴と・・・エヴァンジェリンじゃねえか!!」

一方はカモが敬愛する兄貴分の姿。そしてもう一方にはクラス名簿や指名手配の写真などで何度も確認した自称悪の魔法使いの顔。
しかもここに映っている様子では、両者は今まさに戦っているようである。
カモもこれには衝撃を受けたようで、顔に冷や汗をたらりと流してしまうほどだった。

「これはどういうことでぃ、旦那ぁ!!」

「見ての通り、決闘だ。ネギとエヴァンジェリンのな。
現在あの2人はこことは違う場所で戦闘を行っている」

「な、何ですって!?」

「くそっ、戦いはとっくに始まってたのか!!
・・・こうしちゃいられねえ!すぐに助けに向かわねえと・・・アスナの姐さん!!」

「わ、わかったわ!!」

助けに行こうとする明日菜たちだったが、

「待てっ!!!」

ピッコロの恫喝で止められてしまう。

「な、何よ一体・・・」

「お前ら・・・この戦いには手を出すんじゃないぞ」

「「!?」」

ピッコロから告げられた信じられない命令に、明日菜とカモは戸惑いを禁じえない。

「手を出すなって・・・どうしてよ!?」

「わからんか?・・・これはあの2人がお互いの意地をかけた一対一の純粋な決闘。部外者が介入することは許されない」

「で、でも相手はあの『闇の福音』・・・悪中の悪だぜ!?タイマン勝負と見せかけてどんな罠を仕掛けてくるかわかったもんじゃねえ。
・・・もしそうなったら兄貴にはサポート役である俺がついていたほうが・・・」

彼なりにネギを心配しているのか、ピッコロに口早に捲し立てるカモだったが、

「カモ・・・貴様、俺の言うことが聞けんのか?」

「・・・!? ひ、ヒィィィ!!」

鋭い視線に射ぬかれ、途端に威勢を失くす。
流石のカモもあの目にはどうしても逆らえないらしい。

「・・・これはもはや、正義だとか悪だとか、復讐だとか、そんな問題じゃない。
ただ目の前の相手に正面からぶつかって勝つ、そのためだけの戦いだ。そこに妙な小細工など入れる必要もないし、入れてはならない。
エヴァンジェリンにしてもそこは弁えている。・・・いや、戦いを持ちだしたあいつの方がむしろその気持ちが強い」

エヴァの意気込みを知っているからこそ、そこを強調するピッコロ。
そしてその言葉の重さを無意識に感じ取った明日菜たちも呆然と話に聞き入っていた。

「・・・それにネギだってそんなことは薄々気づいているはずだ。だから一人でこの決闘を受け入れた。あいつは受け止めるつもりなんだよ。エヴァの思いの丈を全てな・・・
・・・これでわかったろ?今お前たちが行ってもこの決闘そのものを汚すだけ。それでも無粋な真似をするというなら・・・もう一度宇宙の塵にされる覚悟を決めておくんだな、カモよ・・・」

「あ、あああ・・・」

最後にピッコロに釘を刺されてもはや何を言っても無駄になることを痛感したカモはその場にへなっと崩れ落ちた。
対する明日菜もピッコロに諭されてかなり気持ちがぐらついていたが、やはりまだ諦めきれないところがあって・・・

チャキッ

「!?」

動こうとしたところを背後から首筋に刃物を押し当てられ、制止せざるを得なくなる。
そして目の前には茶々丸が立ちはだかり、

「ちゃ、茶々丸さん・・・」

「神楽坂さん・・・私からもお願いします。どうかこのまま黙ってこの戦いを見守ってあげてくれませんか」

「ケケケ・・・マア、ソウイウコッタ」

深く頭を下げて頼みこむ茶々丸と、自分に刃物を突き付けているこの殺人人形に挟まれてはどうすることもできない。
今明日菜に残された選択肢は、『諦める』、しかなかった。

(ごめんネギ・・・なんか今回も力になれそうにないみたい。
ここから見ていることしかできないけど・・・絶対に勝ちなさいよ!!)

水晶に映るネギをじっと見つめる明日菜。
果たして彼女の祈りはネギに届くのか・・・













その頃氷のステージでは―――――

「ダダダダダダァァァ!!!」

「ハァァァァァッ!!!」

拳と拳、蹴りと蹴りとのぶつかりあい・・・
今まさにネギとエヴが氷山の上で激しい肉弾戦を繰り広げていた。

「ハアッ!!」

ネギのパンチがエヴァの顔面を捉えると、

「フッ」

エヴァは首を逸らして避けつつ、その腕を掴みとりわずかに力を加える。

「!?」

するとネギの視界が回転し、身体が宙に浮く感覚がする。
投げ飛ばされたのだと気づいた時にはネギの顔面はもう地面すれすれまで近づいていた。

「くっ!!」

咄嗟に両手を突いて、地面への激突を防ぐとともに曲げた肘のばねを利用して跳び上がり体勢を立て直す。
無事に着地したネギを見てエヴァはフフンと鼻を鳴らす。

「流石だな・・・この私の技を凌ぎ切るとは」

純粋にネギを褒めているのか、それとも単に格下に世辞を言っているのか・・・
そんなことはどうでもいい。
ただここで重要なのは、エヴァがネギの動きに完全についてこれているということ。
肉弾戦が主体であるネギの戦闘スタイルにあちらも拳打や蹴りを入れた体術で合わせてきているのである。

さらにエヴァは合気道と言う、ネギには未知の技を所々に織り交ぜてくる。
敵の攻撃を、その力を利用することで数倍にして返してくるこの『柔』の武術は、『剛』の武術の使い手であるネギには非常に戦いづらい相手だった。
したがって、それをあれほど巧みに繰りだしてくるエヴァの腕前には内心舌を巻いていた。
―――――はっきり言って今のエヴァは16号以来の強敵と言っても過言ではない。

(これは相当厄介だぞ・・・)

ネギは構えを取りながら、エヴァの実力に戦慄する。
魔力で強化した肉体だけで自分とここまで渡り合える体術。技のキレ・パワー・スピード、全て申し分ないレベルだ。
・・・正直これで全力じゃないと言うのが信じられない。これに彼女本来の戦闘スタイルであるはずの魔法攻撃が加わったら一体どうなるのであろう?

ネギはエヴァの底知れない力に畏れに近い感情を抱き始めていた。
そんなネギの内心を見通しているのか、エヴァは不敵な笑みを浮かべる。

「フフ・・・どうした坊や?私が恐ろしいか?」

「・・・ええ。正直ここまでやるとは思いませんでした。僕の領分である体術でここまで追い付かれちゃ流石に焦りたくもなりますよ」

「おや?そんなことを言っていいのか?・・・私の力はまだこんなものじゃないんだぞ」

「そうでしょうね・・・でも、おかしいな。僕はあなたの力を怖いって思ってるはずなのに・・・心のどこかでワクワクしてる自分がいるんです」

「む?ワクワクだと・・・?」

「変ですよね。ホントはとっても恐ろしいはずなのに・・・
・・・やっぱりピッコロさんとの修業で頭がおかしくなっちゃったのかな」

ネギの呟きをポカンとした顔で聞いていたエヴァだったが、しばらくして急に大声でハハハ・・・と笑い始める。

「おもしろい・・・おもしろいぞ坊や!やはり貴様は私が倒すに相応しい相手だ!!
・・・ならば、もう遠慮はせんぞ。私本来の力を見せてやる・・・」

すると、エヴァを覆う魔力がその強さを増した。
いよいよ来るかと予感したネギも咄嗟に身構える。

数泊の間を置き、
動き出したのはエヴァだった。

「・・・速い!!」

猛スピードで突っ込んできたエヴァにネギは舞空術で飛び上がって距離を取る。
だが、尽かさずエヴァはその後を追い、

「魔法の射手!!連弾!!『氷の17矢』!!」

エヴァの手から放たれた魔法の矢がネギを襲う。
逃げるネギは追尾してくる矢を回避しながら気弾で撃ち落としていく。
気弾と矢がぶつかる度に煙がむおっと立ちこめる。
やがてすべての攻撃を迎撃し終えると、視界が煙で覆われてしまった。

「そうか、これが狙いか!・・・でも」

ネギは即座にエヴァの魔力を探る。いかに視界を隔てたとてあの大きな魔力は隠し通せるものではない。おかげで位置は丸分かりである。

「・・・そこだ!!」

「・・・むっ!?」

ネギが背後にエネルギー弾を放つ。
案の定そこにいたエヴァはネギの気弾を片手で撥ね飛ばした。

「なるほど・・・良い読みだ」

エヴァが嬉しそうに微笑む。

「だが・・・これはどうかな?」

エヴァが手を天にかざすと、空中に無数の黒い弾丸が出現し、ネギを取り囲む。

「ななっ!?こ、これは・・・!」

「魔法の射手!!連弾!!『闇の100矢』!!」

腕を振り下ろしたのが合図となって弾丸はネギに向かって突っ込んできた。

「わわっ!?」

弾丸の雨嵐の中を必死に掻い潜るネギ。
その一つ一つがかなりの速度と威力を秘めているのが何とも厄介ではあるが、気で強化された身体能力を如何なく発揮すれば全弾回避することも決して不可能ではない。
現にネギも紙一重ではあるが避け切り、一つも被弾してはいない。

だが、それこそがエヴァの罠だった。

「!?」

突如身体に違和感を感じたネギ。
何かで身体を縛られたような感触と共に身動きが取れなくなってしまったのだ。

「フフフ・・・掛ったな」

エヴァが指を鳴らすと同時に飛び回っていた魔力弾もその動きを止め、霧散していく。
後に残されたのは手足の動きがままならないネギだけ。
このとき、ネギは身体を襲った違和感の正体にようやく気付いた。

「こ、これは・・・魔力で編んだ糸か!!」

なんと、ネギの身体を目に見えない糸が雁字搦めにしていたのだ。

「ハッハッハッハッ・・・御名答。さっきの攻撃で仕掛けさせてもらった」

エヴァの高笑いでネギはさっきの攻撃の意味をはっきり理解した。
あれは単に弾丸を当てようとしていたのではなく、相手が回避で気を取られている隙にこの糸を仕込んでおくためだったのだ。

ネギは身体に力を入れて糸を引き千切ろうとするが、思いのほか硬くビクともしない。

「いくらやっても無駄だ。そいつは魔力を通すことで通常の何百倍にも強化されている特殊な糸だ。並の力じゃ引き千切れんぞ」

そう言うと、エヴァはもがくネギに近づいてその腹に拳を叩きつける。


ドンッ


「ガアッ!!」


ガスッ


「うわあっ!!」

続いて繰りだされた膝蹴りに溜まらずネギが悲鳴を上げた。

「フフフ・・・サウザンドマスターの息子もこうなっては肩なしだな」

ちらちらと『闇の福音』としての顔を見せ始めたエヴァ。
そしてその後もエヴァによる一方的な攻撃は続いた。

「それっ!・・・どうだっ!!」

「ぐわっ・・・ぎゃああっ!!」

エヴァの拳が顔面やボディにヒットするたびに、口から血と混じり合った唾が飛び散り悲鳴が漏れだす。
傍から見ればなんとも凄惨な光景であろう。
だが、ネギの顔を良く見てほしい。
彼の眼は・・・まだ死んではいない!

「さて・・・では仕上げに入ろうか」

一頻り嬲った後、エヴァはトドメを刺すべく動けないネギを蹴りあげる。
上空高く舞い上がったネギの身体。
それを追い越すようにエヴァが浮遊術で飛び上がる。

「はあああっ!!!」

ネギより空高く飛んだエヴァはその手から無数の糸を出現させ、ネギをさらに簀巻き状に縛り上げる。
するとネギの背後から両腕で組みつくとともに、下に見える氷の大地向けて脳天から急降下する。

「これで・・・フィニッシュだあ!!!」

重力に加え、魔力によるジェット噴射でさらに加速されたネギの身体を地面衝突ギリギリまで引きつけておいて手放す。

「うわああああっ!!!」

退避するエヴァとは逆に、身動きできないネギは激突を避けられない。
結果・・・


ドゴオオオオオンッ

ネギの身体は氷をぶち抜き、下の海面から地上へと激しい水しぶきが上がった。
だが、その衝撃はとどまることを知らず、氷でできた大地を揺るがし、そこに亀裂を入れていった。













「ね、ネギっ!!」

ちょうどそのとき、水晶から一部始終を覗いていた明日菜が思わず身を乗り出す。
海面に激突したネギはどうなってしまったのか?・・・それすら窺い知ることができない今の状況をこれほど歯痒く思ったことはない。
明日菜の唇が自然と噛み締められる。

「くそっ・・・エヴァンジェリンの野郎!!
旦那!!いくらなんでもあれは卑怯じゃないですか!!あんな道具を出されたらいくら兄貴だって・・・」

カモが必死の形相でピッコロに訴える。
だが、ピッコロの返答は淡々としたもので、

「卑怯?貴様、一体どこを見ていた?あの糸はエヴァが自らの魔力で生みだしたもの・・・あいつの技の一つに過ぎん。それを戦いの最中に使って何がおかしい?
むしろ、あれをここぞと言う時に使ってみせた奴の巧みな戦術を評価するべきだ。
仮にネギがあれを喰らって倒れたとしても・・・それはあいつが未熟だったというだけのこと」

流石に一流の戦士が言うことだけあって容赦がない。
これではカモが反論する隙などあるはずもなかった。

「ピッコロさん!・・・でも、それじゃネギが・・・」

悲痛な叫びをどうにか堪えながらも、しかし不安を隠せないのか、焦りを含ませた声で明日菜が尋ねる。

「うろたえるな!まだ戦いは終わってはいない」

「・・・え?」

「ネギは生きている・・・それにまだあいつは“あれ”を使っていない」

「“あれ”・・・?」

ピッコロが水晶から目を外さないまま呟き、明日菜はその言葉の意味が気にかかるものの同じく映像に視線を戻した。












「フン・・・思ったよりも呆気なかったな」

エヴァがネギが落下した海面を見つめながら呟く。
しかし、良く見ればその顔色が優れないことに気付くであろう。
―――――どうにも腑に落ちないのだ。相手は封印状態であったとはいえ自分を倒したあのネギだ。このまま何もせずに倒れてしまうとは到底思えない。

しかし、依然として相手は動きを見せていない。

「坊やめ・・・まだとっておきの技すら出していないというのに、このままで終わらせるつもりか?」

僅かに顔に失望の色を表しながらもエヴァは尚も氷からぽっかり覗く海の中を見つめる。

(まだ坊やの“気”は感じられるから一応生きているみたいだが・・・動きを見せないのが逆に気になる。・・・こちらを誘っているのか?)

疑い出せばきりがない。しかし、相手が動かなければ逡巡してしまうのも仕方ないのではなかろうか。

静まり返った海が不気味に波打っている。
まるでエヴァを挑発するかのごとく・・・
しばらく目を瞑って思案するエヴァ。





そして・・・

「・・・フッ、そちらが来ないと言うなら引きずりだすまで」

エヴァが海に向けて掌をかざすと、

「契約に従い 我に従え 氷の女王
来たれ とこしえの 闇・・・『えいえんのひょうが』!!」

呪文と共に海の周囲の空間が光り、さらにその中の気温がどんどん下がっていく。
やがてあっという間に海をカチカチに凍らせてしまった。

『えいえんのひょうが』・・・最大150フィート四方の空間をほぼ絶対零度にしてしまう、広域の完全凍結呪文。
エヴァが持つ魔法の中でもかなり高等の部類に入る。
いかな兵もこの魔法に掛ったら、逃れること敵わず・・・

「ハアッ!!!」

かざした手を今度は上に振り上げると、凍らせた海が氷柱、いやもはや氷山ともいえる形で上へ持ち上げられ地上に顔を出す。
海から出現した巨大な氷の壁。
やがてエヴァはその中にネギの姿を発見する。

「フフフ・・・見つけたぞ!」

手足をだらんと下げ、顔を俯かせた状態で凍らされているネギの方へエヴァが近づいていく。
もはや生きているのか死んでいるのかさえ分からないくらいにそれは静けさを漂わせていた。

「フム・・・さっきの攻撃でとっくに気絶していたのか。何か仕掛けてくるのかと思ったが・・・どうやら思い過ごしだったようだ」

ピクリとも動く気配を見せないネギ(まあ、凍らされているのだから当たり前だが・・・)を見て、自分が抱いていた不安は杞憂だったと知るエヴァ。

「さて・・・この指を鳴らせば全てが終わるが・・・」

そう言って己が指を見つめるエヴァ。
しかし、彼女はどこか物足りなさを感じていた。
彼女は期待していた。もっと胸の中が熱くなるような戦いを・・・
彼女が持つ全ての力を出し切れるほどの白熱したバトルを・・・
だからこそ、こんな形で完全にトドメを刺すことが憚られた。

(ピッコロには借りもあることだしな・・・命までは取らないでおいてやるか)

このままでももう勝負は付いている。チェックメイトというやつだ。
それにネギの全力がこんなものではないことくらいエヴァにもわかる。ただ、今回は全力を出させる暇も与えず勝負を決めてしまっただけなのだ。
ならば、これで1勝1敗にして、またいずれ決着をつけるというのも一興か・・・

「それにしても・・・少し暑いな」

いつの間にかポカポカしてきたようで、額に浮かんだ汗を拭うエヴァ。
だが、次の瞬間電流が走った様な衝撃が頭を突き抜け、そこではたと動きを止める。

待て・・・『暑い』だと?
ここはさっきまで絶対零度の空気に接してかなり冷え込んでいたはずだぞ!?
それがなぜここまで暖かくなる?

原因不明の現象に動揺するエヴァ。
だが、聡明な彼女はすぐにその正体に気が付く。

「ま、まさか・・・!!」

バッと目を向けたのはネギが閉じ込められた氷塊。
良く見るとその表面から水滴が滴り落ちている。

「ば、馬鹿な・・・絶対零度の氷が溶け出している・・・!?」

驚愕するエヴァ。そしてそんな彼女に追い打ちをかけるような事態が・・・


ピキッ・・・ピキピキッ


「なっ・・・!?」

ありえないことに、彼女の完全ともいえる凍結魔法に罅が・・・
さらに・・・


ゴゴゴゴゴゴォォォォォッ


「!? なんだこの揺れは!?」

氷山が・・・いや、この区域一帯の大地が共鳴している。
まるで、生きているかのように唸り声を上げて・・・

「むっ!?」

エヴァがネギの方に目を向ける。だが、いまだ彼に動きはない。

・・・そう思っていた。
ネギの目がカッと開き、こちらをまっすぐに射抜くまでは。

「!?」

動けるはずのない氷の中で突然ネギが目を覚ましたことで、エヴァの混乱がピークに達する。
そして、今度ははっきりと見えた。ネギの口が動いたのが・・・


『界・・・』


氷の表面から溶け出した水が徐々に増え、崩れ出した氷塊が海面に落ちて水しぶきを上げる。


『王・・・』


揺れも段々と激しくなり、大地の亀裂を広げていく。


『拳・・・』


そして、エヴァもようやく気付いた。ネギの気がどんどん膨れ上がっていることに・・・!

「ぬ・・・う・・・!?」

勢いに飲まれ、後退りするエヴァ。
ネギの気に混じって濃厚な魔力も感じられる。

(まさか、咸卦法か!?)

・・・だが、なぜわからないが以前に見たものとはどこか違う感じがする。
そう・・・もっと得体の知れない何かを感じるのだ。

「何なのだ・・・この妙な胸騒ぎは・・・」

エヴァの額から初めて冷や汗が噴き出した時だった。






『くっ・・・・・・くううっ』


氷の中で拳を握りしめ、気を高め続けるネギ。
そしてそれが最高潮に達した時、


『・・・・・・ダアアアアアーーーッ!!!』


―――――爆発した。


ドガアアアァァァァッ


完全無欠と言われた氷の牢獄が無残にも砕け散っていく。

そして、その中から現れた少年にエヴァは驚きを隠せない。

「な・・・何だあの姿は!?」




今のネギを表すとしたら・・・それは『炎』の一文字に尽きる。

全身を真っ赤なオーラで包み、さらに気の熱風で周囲を焼き焦がす。

その姿はまさしく『業火』。

「これが・・・これが貴様の真の力か、ぼーやぁぁぁっ!!」

エヴァの叫びがネギの耳を打つ。
すると、オーラをさらに強めながらネギが口を開いた。

「僕はまだこの技を窮めていない・・・だからできれば最後の手段にしておきたかった。
・・・でも、もうそんなこと言ってられない!!・・・僕は・・・この技であなたに勝つ!!」





とうとう火を吹くネギの界王拳。

はたして、この強敵エヴァンジェリンに通用するのか!?

バトルが白熱する中、いよいよ始まる第二ラウンド。

ここからが・・・本当の決戦だ!!









<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!ついにネギの界王拳が炸裂!!とんでもねえパワーだ。エヴァを圧倒してやがる・・・
でも、エヴァの奴が妙に落ち着いてるみてえだ。何でだ?」

エヴァ「フフフ・・・驚いたぞ坊や。この私をここまで楽しませてくれるとは・・・
しかし残念だったな。その程度では私には勝てん。今こそ見せてやろう。貴様のために用意したこの究極奥義をな!!」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI 『勝利宣言! ついに明かされる闇の魔法』」

ネギ「『闇の魔法』・・・一体どんな技なんだろう?」





あとがき

やっぱり更新速度上がってないですねえ・・・(汗
読者の皆様に大変申し訳ないことをしていると反省ばっかの仕事人です。

ついにスタートしたエヴァvsネギのリベンジマッチ。
第一ラウンドはとりあえずエヴァの優勢にしてみました。せっかくの出番ですし・・・
ネギの巻き返しが成るかは次回を見ての楽しみ・・・って、すでにネタばれしてる状況で何を言ってるんでしょうか私は・・・反省 orz

ところで今回ドラゴンボールっぽい戦闘描写を心がけて書いていたのですが・・・これが難しい難しい・・・
自分のボキャブラリのなさを痛感させられましたね・・・(汗
結局ゴテゴテしたあまりよろしくない文章になってると思いますが・・・御容赦を。

何はともあれ修学旅行編までもうしばらくお付き合いください。
それでは次回まで御機嫌よう~♪



[10364] 其ノ四十二   勝利宣言!  ついに明かされる闇の魔法
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2010/05/25 06:23




「な・・・何だあの姿はっ!?」

エヴァンジェリンはネギの変わり様に驚きを隠せなかった。
急に気が膨らんだかと思ったらネギの体中が赤く発光し、途轍もない熱気を迸らせている。
さらに、それだけではない。彼の周囲の環境もその影響も受け始めている。
彼を中心として大気が・・・海が・・・氷山がまるで震え上がっているようだった。

そして、エヴァはネギの方に視線を固定したまま呟く。

「これが・・・貴様の真の力だと言うのか――――――ネギ・スプリングフィールド!!」

対するネギは尚も赤いオーラを強めながらエヴァを睨みつける。

「ハァァァァァッ」

彼自身考えもしなかった。
まさかこんな場面で特訓中の切り札を使わなければならなくなるとは・・・これっぽっちも。
しかし、現実は現実。使わなければ勝てるような相手ではない。

(エヴァンジェリンさん・・・僕はあなたの力を見くびっていたかもしれません。
今なら分かります。―――――あなたは強い!!)

久々の強敵に内心で贈る賛辞。
そして、同時に力がこもってくる握り拳。

(さっきまでは生徒であるあなたを傷つけたくない気持ちがまだ僕のこの手をわずかに鈍らせていた・・・でも、もうそんなことを言っている場合じゃないみたいです)

「ダアアアァァァッ」

ネギの気合いを溜める声が大きくなってくる。

(彼女には悪いけど、今度ばかりは手加減抜き・・・正真正銘の全力でやらせてもらう!!)

そして、いよいよネギが攻撃態勢を整え、

「・・・・・・ハアッ!!」

エヴァに躍りかかった。

(勝たせてもらいます・・・この勝負!!)



「なっ!?」

信じれれない速度で急接近してきたネギにエヴァの瞳が見開かれ、

「だりゃぁぁっ!!!」

知覚する間もなくその拳が頬に減り込む。

「・・・っ!?――――ガアアアアッ!!」

瞬間―――――勢いよく吹っ飛ばされていくエヴァ。

「ダァァァッ!!」

しかしネギの攻撃は終わらない。
飛ばされていく敵に猛スピードで追いつくと、両手を組んでハンマーのように振り下ろし、勢いよく叩きつけた。

「ガッ!!?」

振り下ろされた衝撃に悲鳴を上げたエヴァはそのまま氷山の一つに激突。
ドドドドドォォォォォッと大きな音を立てながら崩れて落ちていく。

「――――ハアアッ!!!」

しかし、エヴァもさるもの。気合と共に氷の瓦礫の中から抜け出し、魔力を纏わせて飛び出てくる。

「逃がすかっ!!」

尽かさずその後を追うネギ。
案の定、スピードに勝るネギは瞬く間にエヴァに追い付き連続で攻撃を加えていく。

「ダダダダダァァァッ!!!」

「くっ!こいつ・・・速いっ!!」

息もつかせぬネギの攻撃に流石のエヴァも防戦一方。
さらに一撃一撃が重く、ところどころにいいのを喰らってしまう。

「たりゃあっ!!!」


バシィィィィンッ


「―――ぐうっ!?」

ネギのハイキックがエヴァの顔面にきまる。
その威力でまたも吹っ飛ばされるエヴァの小さな体。

「・・・クッ!!!」

宙で身体を翻し、うまい具合に氷の上に着地するエヴァ。
その瞳は上空のネギを睨みつけていた。







「な、何よあれ・・・」

「急にどうしちまったんだ・・・兄貴・・・」

水晶でずっと戦況を眺めていた明日菜とカモがポカンと口を開けている。
謎の変身を遂げたネギにしてもそうだが、あれほど敵の優勢だった状況が一気に覆ってしまったことに2人は驚かずにはいられなかったらしい。

一方茶々丸はというと姿の変わったネギを視界に収めながら反射的にそのデータを取っていた。

「・・・凄まじい戦闘力です。先ほどとはまるで比べ物になりません。
―――――エネルギーの質から咸卦法に近い技のようですが・・・これほどの数値の上昇はそれだけで説明できるとは思えません。これは一体・・・」

今まさに己の主人を圧倒しているネギの強さが不可解で仕方がない・・・そういう顔をしている。
だが、彼女の兄である男はしばらく見ていてその秘密に気付いていた。

「あれはまさか・・・
―――――『界王拳』か!?ピッコロ!」

「流石だな16号・・・もう看破ったか」

こちらを向いて尋ねる16号にピッコロは悪戯がばれた子供のように笑った。

「へ?―――――カイオウケン???」

チンプンカンプンな明日菜が片言で呟きながらはてなマークを浮かべる。

「私も初めて聞く技です。―――――兄さん、御存じなのですか?」

「・・・ああ。俺のコンピューターのデータの中に残っている。その昔俺がいた世界で孫悟空というサイヤ人が使っていた技だ。
―――――体内の気、俺達ロボットで言うところのエネルギーだが、それを急激に高めることで瞬間的に戦闘力を上げることができる。何倍にもだ・・・」

「と、とんでもねえ技じゃねえか・・・っ!!旦那っ、本当ですかい!?」

「まあ・・・おおむね正解だな。だが、パワーが上がると言っても限界がある。
今のネギではいいところ2倍が精一杯・・・」

「で、でも、それだって十分すごいじゃない!現にエヴァちゃんより強くなってるし・・・」

驚く明日菜の声がピッコロの耳に届く。
しかし、そのしかめ面にも似た表情はさほど変わっているようには見えない。
何か思うところがあるのか・・・。

「ちなみに、あれで何倍くらいなんですかい?」

「・・・あれか?そうだな・・・あれは1.5倍・・・いや、まだそこまでいっていないな」

「ええっ!?マジかよ・・・・・・するってえと、兄貴はまだまだ強くなれるのかい!?
―――――ハハッ!こいつはすげえや!さすが俺っちの兄貴!!これでこの勝負はもらったも同然だぜ!!」

一人テンション高めにはしゃぐカモだったが、ピッコロはやはりどこか浮かない顔。

(さて・・・そう上手くいくかな)

じっと水晶を見つめながらピッコロの疑念は晴れずに膨らむばかりであった。









「くうっ・・・この私に傷をつけるとは・・・やるではないか。坊や・・・」

頬に付いた切り傷を拭いつつ、上空のネギに向かって呟くエヴァ。

「ピッコロの奴が言っていた切り札とはあれのことか・・・なるほど、大した強さだ。
―――――だが、私は“闇の福音”だぞ。この程度で懲りると思ったら大間違いだ!!」

エヴァの両手に充填されていく魔力。
そして・・・

「喰らえっ・・・魔法の射手!! 連弾!!『闇の200矢』!!」

突き出した両手からそれぞれ100の黒き弾丸が放たれ、ネギと言うただ一つの標的目がけて襲いかかる。

雪崩れ込んでくる無数の魔力弾を前にしてネギは・・・

「一度にこれだけの数を・・・流石はエヴァンジェリンさんだ。
―――――でも、僕に同じ技は通用しない!!・・・『界王拳』!!!」

叫びと共に赤き閃光と化したネギは、その超スピードでもって弾丸の雨をすり抜けるように回避。
そのあまりの速さに残像がぶれて、まるでいくつも分身が現れているかのように映る。

「馬鹿なっ!一発も当たらないだとっ!!?・・・な、なんて奴だ」

驚愕するエヴァだったが、次の瞬間全ての弾を避け切ったネギの姿が忽然と消える。

「き、消えたっ!?―――――奴はっ、奴はどこにっ!?」

見失ったネギの気配を探ろうとするエヴァにできた一瞬の隙―――――
一流の戦士ならそれを見逃すはずがない。
いつの間に回り込んでいたのか、エヴァの背後に突然ネギが出現した。

「せりゃあっ!!!」

「っ!?・・・――――ギャァァァッ!!?」

エヴァが気付くも時既に遅し。
その背中にネギの渾身の蹴りが炸裂する。

派手に吹っ飛ばされたエヴァだったが、氷山にぶつかる直前に体勢を変えて氷の絶壁に足を着ける。
そしてその反動を利用して跳躍し、ネギに特攻を仕掛けた。

「てりゃああああっ!!!」

魔力を込めた拳がネギに振り下ろされる。
しかし、ネギはそれをあっさりかわし、

「なっ!?―――――はうわっ!!!」

がら空きになったボディに強烈な一撃を叩きこむ。

ドゴンッ!!!

「ウ・・・ウグッ・・・グホォォォッ・・・」

腹に減り込んだ拳が引き抜かれると、エヴァが呻き声を上げ、ダメージを受けた場所を庇いながら俯き気味な体勢で後退りする。

そしてついにはその場で膝を着いてしまった。






「やった!!やったぜ姐さん!!兄貴があのエヴァンジェリンからダウンを取ったぜ!!」

「よしっ!その調子よ!!そのまま一気に決めちゃいなさい!!」

ずっとネギのターンで一方的に進められていく試合展開に刺激され、明日菜たちの応援にも熱が入る。
だが、興奮している彼らとは対照的にピッコロの表情は晴れない。

「・・・妙だ」

「・・・え?何が?」

キョトンとした顔でピッコロを見る明日菜。

「・・・エヴァンジェリンの奴、俺と最後に組み手をしたときに出したあの技を・・・まだ使っていない」

「へ?どういうこと?」

「・・・つまり、奴はまだ隠し玉を持っている。それも相当でっかいな・・・」

「え・・・じゃあ、あいつはまだ本気じゃねえってんですかい!?」

「そう言うことだ。それに16号たちの方を見てみろ・・・誰一人焦った様子を見せていない。おそらくこの勝負の結末を確信しているんだ」

ピッコロが視線を送った先では、茶々丸、16号、チャチャゼロの全員が水晶の映像に注意が向いているものの、誰一人として表情一つ変えていない。

「で、でもさ・・・あれってロボットや人形だからなんじゃない?実は内心すごい不安だったりしてるのよ、きっと・・・」

「そ、そうっスよ!!あいつら兄貴があんまり強いもんだからビビって固まっっちまってるんですぜ」

「それは違います」

カモが軽口を叩くと、それを強く否定するように茶々丸が言った。

「なっ!?・・・何が違うって言うんでいっ!!」

「言ったとおりです。私達はマスターの力をこれっぽっちも疑っておりません。マスターは勝ちます。絶対に・・・
――――――それに、もし仮に心配するとしたらそれはネギ先生の無事の方でしょう」

「て、てめえ・・・この期に及んで減らず口をっ・・・」

「ケケケ・・・オメエラ御主人ノ恐ロシサガ何モワカッチャイナインダナ。
アアイウパット見アブネエト思エルヨウナ状況コソ、御主人ガ本領ヲ発揮スルベストコンディションナンダゼ?」

「な、何ですって!?」

挑発的なチャチャゼロの言動に過剰に反応する明日菜。
それがおもしろいのかチャチャゼロはケタケタ笑いながら、

「ケケケ・・・ソロソロ御主人モ“アレ”ヲ使ウ時ガ来タナ」

「そうですね・・・この日のために、マスターが対ネギ先生用に開発したあの奥義が・・・」

「お、“奥義”だって(ですって)!?」

微妙にハモらせながら、同時に驚きの声を上げる明日菜とカモ。
そんな彼らを余所に16号がぽつりと呟いた。

「この戦い・・・すでに勝敗は見えている」








「う・・・グググウゥゥゥゥ・・・」

「エヴァンジェリンさん。今のでわかったはずです。パワー、スピード、防御力・・・どれにおいても今の僕には及ばないということが・・・」

蹲るエヴァに近づきながらネギが諭すように言った。

「『界王拳』を使える僕が相手では、あなたに勝ち目はありません。
―――――どうかこのまま降参してください。これ以上やったらあなたを無事で済ませる自信がない・・・」

最後通牒ともとれるセリフと吐くネギ。
するとどうしたことだろう。エヴァの呻きがピタリと止んだ。

「・・・?エヴァンジェリンさん?」

不思議に思ったネギが声をかけると、

「―――――ククク・・・フハハハハハハ・・・ハーッハッハッハッハッ!!!」

突然腹を抱えて笑いだしたではないか。
気でも狂ったかと思うほど高笑いを続けるエヴァに薄気味悪いものを感じ、唖然とするネギ。

一頻り笑ったエヴァがゆっくりと顔を上げると、そこには悪の魔法使いらしい不敵な笑みが浮かんでいた。

「・・・降参しろだと?何を言い出すかと思えば・・・フハハハハハッ!!!」

「なっ!?何がおかしいんですか!?」

小馬鹿にしたような笑いに流石に腹が立ったのかネギが声を荒げて言う。

「これが笑わずにいられるか。・・・この程度で勝った気でいるとは・・・やはり貴様は青二才だな」

「な、何っ!?」

つい向きになって聞き返すネギにエヴァは尚も見下したような視線を向け、

「ククク・・・確かに貴様は驚異的なパワーアップを遂げた。攻撃の威力、速さ、技のキレ・・・どれをとっても以前とはまるで違う。さっきの一撃もなかなか効いたぞ・・・一応大したものだと褒めてやる。だが・・・」

そう言って口元をニヤリと歪めていた。

「さっきの貴様の力が、まだフルパワーではないと仮定しても・・・この私には勝てん!!」

「!?」

エヴァからの衝撃の発言にネギの表情が固まった。

「『どうしてだ!?』・・・とでも言いたげな顔だな。ならば教えてやる。理由は二つだ。
―――――まず一つ、その『界王拳』とやらは確かにすばらしいが、貴様はまだそれを完全には使いこなせていない・・・違うか?」

エヴァの指摘はネギが内心で「何故それをっ!?」・・・と、叫んでしまうくらいに図星であった。

「やはりか・・・だが、そんなことは今の貴様の状態を見ればすぐわかる。
技を発動してそれほど経っていないはずなのに大きく乱れた呼吸。おまけに発汗も目立つと来ている。―――――それは貴様がまだその技に慣れていない証拠だ!」

流石は戦闘のプロ。観察しただけでそこまで見抜いてしまうとは・・・

「どうやらその技・・・強力な力を得る代わりに身体にかなり負担を強いるようだ。
今の貴様が使い続ければ一体どこまでもつのだろうな?」

確かに・・・と、ネギは唇を噛み締める。
今はピッコロの特訓の甲斐あって『2倍界王拳』までは耐えられるようになった。しかし、それでも発動中はそれなりにエネルギーを消耗する。
さらにまだ子供であるネギは身体が出来上がっていない。したがって成人した身体に比べると発動時にかかる負荷はどうしても大きくなってしまう。
万一長期戦になればスタミナが切れてしまう可能性は否定できないのだ。

(伊達に『悪の魔法使い』を名乗っていないか・・・)

ネギはエヴァの観察眼に恐れを抱くとともに、もう一つの理由が何かが気になった。

「そしてもう一つ・・・これは至極簡単だ。
――――――それは・・・この私がまだ真の力を出していないからだ!!」

「!?」

信じられない事実。
まだエヴァンジェリンは全力を出していなかった?

(そんなっ!?―――――確かに僕の界王拳は彼女の力を上回っていたはず・・・)

戦慄するネギをおかしそうに眺めながらエヴァが続ける。

「坊や・・・やはりお前は私の期待を裏切らない男だよ。私にこの技を出させるまで追い詰めるとは大したものだ。
―――――だが、同時に残念でもある。これで貴様には万に一つも勝ち目がなくなったのだからな・・・」

唇から流れる血を拭い、立ちあがりながらふてぶてしく告げてくるエヴァ。
その表情はもはや結果が分かり切っているかのように自信に満ちたものだった。

「冥土の土産に一つ先人からの教えをさずけてやる・・・貴様は早くからそんな大技をだしてしまったようだが、本来切り札とは最後の最後まで取っておくものだ。それも幾重にも用意してな・・・
―――――それが戦いに勝利する秘訣さ」

そう言うとエヴァは精神を集中するかのように気合いを発しながら、魔力を高めていく。

「今こそ見せてやろう・・・私が編み出した究極の魔法―――――『闇の魔法(マギア・エレベア)』をな!!」

「―――――マギア・・・エレベア・・・?」

呆然とその名を復唱するネギ。

それは彼も初めて聞く魔法であった。
それもそのはず。
この魔法はエヴァが吸血鬼に成り立ての頃に死に物狂いで編み出し、
そして今ではここにいるネギを倒すためだけに改良に改良を重ねた結果戦闘魔法の極地にまで到達した、エヴァオリジナルの魔法なのだから・・・

「来たれ 深淵の闇 燃え盛る大剣!!・・・闇と影と憎悪と破壊 復讐の大焔!!」

エヴァが呪文を唱えながら右手に魔力を集中させる。
その凄まじい力の奔流は界王拳を使うネギから見ても身体の芯から震え上がりそうになるくらいであった。

「・・・我を焼け 彼を焼け そはただ焼き尽くす者・・・『奈落の業火』!!」

そして、呪文と共にエヴァの右手から暗黒の炎が噴き上がった。







「ね、ねえ・・・エヴァちゃんの手から出たあの黒い炎って一体何?」

「あれは闇属性の上級魔法の一つ、『奈落の業火』だ。俺っちもこの目で見るのは初めてだぜ」

映像でエヴァの手から飛び出した炎に疑問符を投げかけた明日菜に対し、カモが懇切丁寧な解説を加えている。

「それにしても今さらあんなもん出してどうする気なんだ?確かにスゲー強力な魔法だけどよ・・・今の兄貴なら簡単に避けられちまうぜ?いくら威力があっても当たらなきゃ何の意味もねえのに」

もっともな意見である。普通なら誰もが首を捻る行動だろう。
だが、その答えはこの後の行動で明らかになる。

「・・・あれ?エヴァちゃんの左手にも何か集まっていない?」

「ええっ!?―――――ほ、本当だっ!!こ、こいつは雷属性の魔法じゃねえか!!」

明日菜が指摘するや否や、驚くカモの大声が響き渡った。











「契約により我に従え 高殿の王 来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆・・・」

(今度は雷の魔法!?
――――― 一体何をする気なんだエヴァンジェリンさんは・・・」

エヴァが右手の闇の炎に続いて左手に発動しようとするのは雷。
しかもその呪文からおそらくは最大の攻撃魔法である『千の雷』を繰り出すつもりだ。

しかし、ネギには解せない。確かエヴァの得意の呪文は闇か氷属性の魔法だったはず。
それがどうして専門ではない雷を選んだのか?
しかも、二つの大魔法を同時に発動するなど前代未聞である。

ネギはエヴァがこれから何をやろうとしているのか皆目見当がつかなかった。

「・・・全雷精 全力解放!!
―――――百重千重と重なりて 走れよ 稲妻!!・・・『千の雷』!!」

呪文を唱え終えるとエヴァの左手に膨大な魔力と共に稲妻が走る。
流石は雷系最大呪文。その光の激しさは思わずネギも目を覆いたくなるほどであった。

「くっ・・・―――――っ!?」

再びネギが視界を取り戻した時、信じられない光景を目の当たりにする。

「右腕 解放固定―――――『奈落の業火』!!    左腕 解放固定―――――『千の雷』!!」

なんと膨大な魔力を含んだ二つの魔法が、左右の掌の上でそれぞれ球体状に圧縮されていくではないか!!

「・・・・・・双腕掌握!!!」

するとエヴァは圧縮された魔力塊を握りつぶした。
このとき握りつぶされたかに見えた魔力は、エヴァの手へと吸収され、手から腕、さらには身体全体を包み込む。

「オオオォォォォォ・・・ッ!!!」

闇と光・・・二つの力に包まれてエヴァが唸り声を上げる。
その声に呼応するかのように、氷の大地が、海が、大気が・・・大きく震えだした。


ドドドドドドドド・・・・ッ!!!


「こ、これは・・・」

周囲が揺れる中、ネギはエヴァの中で今とてつもなく巨大な力が生まれようとしているのを感じた。

―――――これは単なる魔法なんかじゃない・・・得体の知れない別の何かだ!!

ネギは己の直感がそう告げているのを聞いた。
そして、同時に恐怖した。この戦いで初めて心の底から・・・

「アアアアァァァァァ・・・ッ!!!」

いよいよエヴァの叫びが大きくなったとき、

エヴァを覆っていた二つの力は互いに混ざり合い、紫のオーラとなって

―――――爆ぜた。











ドオォォォォォッ


「きゃっ!・・・な、何よ今の光は!?」

突然水晶から漏れ出した紫の光が映像を覆い隠してしまい、現状が把握できずに苛立つ明日菜。

「お、落ち着いてくださいよ姐さん・・・」

カモが必死に宥めるが、しかし映像が映らなくては安心しようにもできない。

「この光は・・・まさか・・・」

「ええ・・・マスターはついに完成させたのです。『闇の魔法』を!」

ピッコロの呟きにそっと茶々丸が答える。
その瞳には修業の末に偉業を成し遂げた主人を誇らしく思う従者としての・・・いや、家族としての想いに満ちていた。

やがて光が止むとそこに映ったエヴァの姿に明日菜たちは衝撃を受けることになる。

「「「!?」」」















「フフフ・・・待たせたな。これが新生エヴァンジェリン様の真の姿だ」


高らかに名乗りを上げる少女。

金色に輝くその短髪は魔力の高まりでわずかに逆立っていた。

そして彼女を守護するかのように包み込む魔力は激しく波打ち、

その表面には闇の紫に染まった無数の稲妻が走る。


「術式兵装・・・『煉獄紫電』!!!」


ビッシャァァァーーーンッ


エヴァを中心としてカッと稲光がするや否や、迸った闇の雷が周囲を焼き尽くしていく。
そのダイナミックなエフェクトは見る者を圧倒させ、そして知らず知らずに恐れを抱かせる。

「あ・・・あああ・・・・・・」

ネギは打ち震えていた。
目の前に立つ少女に・・・
そして彼自身の細胞すべてが予感していた。
自分は今とんでもない敵を相手にしているのではないかと・・・

「フン・・・それじゃあ、私の力を少しばかり見せてやるとしよう」

そんなネギにエヴァはそっと右の掌を向ける。
そして、ギュッと握りこぶしを作ると・・・

「・・・・・・セイヤァッ!!!」

腰溜めに構えた状態から一気に正拳突きを放った。
すると、その拳から闇の炎を象る魔力波が放出され、一瞬でネギのすぐ横を通り抜ける。

そして・・


ドーーーーーンッ


ネギの後ろに聳え立っていた氷山が炎上した。

「!?」

背後を振り返えれば、闇の色に燃え上がっていく炎の中で急激に溶けていく氷塊が映る。その計り知れない威力に声も出ないネギ。

「ククク・・・今のはほんの挨拶代わりだ。
―――――さて、お次はスピードの方はどうかな・・・」

そう言うとエヴァの身体が紫に帯電しその姿がバッと消え失せる。

「――――ハッ!?」

気付いた時には既に背後に回り込まれ、背中あわせに立たれていたネギ。
その瞬間防衛本能が働き、反射的に跳び上がって距離を取った。

「ハア・・・ハア・・・ハア・・・い、いつの間に・・・」

「フフフ・・・何をそんなに怯えている?」

ネギのほうへ振り向き、不気味に微笑むエヴァ。
それが彼女への恐れをさらに増長させる。

(み、見えなかった・・・今のエヴァンジェリンさんの動きが・・・まったく・・・)

ネギ自身信じられなかった。敵を眼で捉える事ができなかったという事実が・・・
そしてちらりと浮かんだ一抹の不安。

―――――もしかしたら彼女のスピードは自分を超えているのではないか?―――――

そんな馬鹿な・・・。しかし、目の前の現実がそれを否定させてくれない。
いつしかネギの眼にはエヴァの姿が大きく映っていた。








「フフフフ・・・・・・
―――――それでは、お遊びはここまでにしてそろそろ地獄のショーを始めるとしようか。ネギ先生?」

身体が震え始めたネギにエヴァが不敵に微笑んだ。





<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!―――――やべえな・・・ネギがスピードで負けた。闇の魔法で変身したエヴァには界王拳も通用しねえぞ」

ネギ「“雷”のスピードと“闇の炎”の火力を絶妙に組み合わせた戦法に一部の隙もない・・・
くそっ・・・どうしたらいいんだ!!」

エヴァ「フフッ・・・坊や、もはや私は以前のエヴァンジェリンではない。―――――私は・・・超エヴァンジェリンだ!!」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI 『界王拳敗れたり!!  驚異の超エヴァンジェリン』

エヴァ「『闇の魔法』の真の恐ろしさ・・・とくと味あわせてやる!!」



あとがき

更新遅くなってごめんなさい!!

闇の魔法の描写をどうするかで悪戦苦闘してたらこんなことに・・・

ですので今回はちょっとオリジナル要素入ってます。ご了承ください。

「あれ?このエヴァって超サ○ヤ人じゃね?」って一瞬でも思った方・・・全力で見逃せ!!

―――――まあとにかく、次回からエヴァ無双が始まるYO(?)



[10364] 其ノ四十三   界王拳敗れたり!!  驚異の超エヴァンジェリン
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2010/06/01 23:04





氷上に対峙する二つの影。

そのうちの一方の少女がついに自らの奥の手を発動し・・・謎の変身を遂げた。
残る一方の少年は、その姿に衝撃を受けたのか動きを見せない。

―――――そして、その様子を水晶から眺めていた者たちの何人かもまた、驚きを隠せなかった。

「こ、今度はエヴァちゃんまで・・・一体どうなってんのよ」

ツインテールの少女明日菜は先程から繰り広げられている急展開にいよいよ頭が付いていけない状況。
訳が分からないので隣のカモに説明を求めるかのように視線を送る。
そして、カモもまた冷や汗を垂らしていつになく真面目な表情。

「あ、あれは・・・まさか・・・『闇の魔法(マギア・エレベア)』・・・」

「・・・まぎあえれべあ?カモ、あんたあれが何か知っているの!?」

「・・・俺っちがエヴァンジェリンの過去を洗っていたときにチラッと耳にしただけなんだけどよ・・・大昔に奴が編み出した戦闘魔法の奥義の一つで、ポテンシャルはあの『咸卦法』に匹敵するって話だ。
―――――ただ、術者に及ぼす危険が大きいっていうんで奴自ら禁呪にした因縁つきの技だって聞いてたけど、中身はあんな代物だったとは・・・禁呪にするのも納得だぜ」

一人フムフムと頷くカモだったが、素人かつバカレッドである明日菜には当然分かるはずもなく、

「ちょっと、それだけじゃわかんないわよ!あんただけ納得してないでちゃんと説明しなさい!!・・・要するにあれはどういう技なのよ!?」

「あ、姐さん・・・ぐるじい・・・」

カモを締め上げてさらなる説明を要求。
一瞬白目をむいて昇天しかけるカモだがなんとか持ち堪え、

「ハアッ・・・ハアッ・・・あ、あれは簡単に言えば魔法を身体に取りこんでるのさ」

「魔法を・・・取りこむ?」

「ああ・・・本来“魔法”って言うのは体内に吸収した“魔力”を練り込み放出させることで発動させるんだ―――さっき見た“炎”や“雷”のような自然現象を発生させたり、魔法の矢の形にして飛ばしたりとかね。・・・あとはあれを直接敵にぶつければやりゃあいい・・・それが普通の使い方だ。
だけどエヴァンジェリンがやったのはそうじゃねえ・・・一度出した“魔法”を身体に“再度”取りこむんだ。
―――――これをやると術者は魔法と霊体まで融合した状態・・・いわば、魔法そのものになっちまうんだよ!!」

「・・・う~ん、よくわかんないけど、それってすごいことなの?」

「すごいなんてもんじゃねえ・・・普通だったら誰もそんなことやろうなんて考えねえよ」

「誰も考えないって・・・どうしてよ」

「危険すぎるからさ。―――――
一度発動させた攻撃魔法っていうのは導火線に火が付いた爆弾と同じ・・・いつ爆発してもおかしくねえ。それを制御しながら肉体に抱え込むには代償として術者の肉体だけじゃなく魂まで魔法に喰らわせる必要がある。
―――――そんなアブねえ真似ができるのは真祖の肉体を持った奴くらいのもんだぜ」

話しているカモの声が震えているところを見ると、危険だというのは本当らしい。

「で、でも・・・危ないんだったら何でエヴァちゃんわざわざあんなことを・・・」

「それくらい追い詰めらてるってことだろうけど・・・あれを切り札にしたってことは制御によほど自信があるみたいだ。まあ確かにあの技はリスクは大きいけど、兄貴の界王拳みたいな絶大なパワーアップが可能だからな。強力な魔法を取りこめばなおさら・・・
―――――うまくいけば、さっきの倍以上の力は得られるかもしれねえ・・・」

「そ、そんなに強くなっちゃうの!?・・・・・・ネギの奴大丈夫かしら」

急に不安な声を出し始めた明日菜。
それに慌ててカモがフォローに入る。

「し、心配いらねえよ!エヴァンジェリンが『闇の魔法』を出したのは予想外だったけど、兄貴には『界王拳』があるじゃねえか。そうそう負けやしないって!
―――――ねっ!旦那もそう思うでしょ?」

さっきから沈黙を保っているピッコロに意見を求めるカモ。
だが・・・

「・・・それはわからんぞ、カモ」

「へ?・・・・・・ど、どうしたんスか、旦那まで。
だって兄貴にあの技伝授したの旦那なんでしょ?だったら自信もって大丈夫じゃ・・・」

「・・・カモ、貴様は一つ見落としている。それはエヴァンジェリンの執念の強さだ。
―――――奴は『ネギに勝つ』というただそれだけのためにこの戦いに臨んでいる。その強い意志は今のネギでは遠く及ばん。・・・もし、戦いの勝敗を決める要素として“気迫”というものが関わるとすれば、その点では間違いなくエヴァンジェリンの方に分がある。
―――――そして、あの『闇の魔法』だが・・・あれはそんな甘っちょろいものではない。戦った俺にはわかる。あのときはまだ技としては不完全だったが、正直この世界に来てあそこまで驚かされたのは久々だった。
・・・あれからさらに改良を加えているとすれば、結果はわからんぞ」

ピッコロがそこまで言うとは・・・俄かには信じ難い。
しかし、顔を見れば彼が本気で言っているのがすぐにわかるであろう。

「・・・ま、マジかよ」

「ネギ・・・」

ピッコロの発言ですっかり固まってしまった2人はただ水晶に目を戻すのみであった。











一方、エヴァとネギは先程からただじっと睨みあいを続けているだけだった。

・・・いや、正確に言うと実はこの一見静止した状況でも激しい攻防は起こっている。
相手を牽制しつつ、攻撃のタイミングを計るという内なる戦い。
―――――それがこの地味な光景の中で密かに繰り広げられている。

そうしてしばらくはこの膠着状態が続いていた。
―――が、しだいにネギの方に動きが見られてきた。
ジリジリとエヴァの周囲を少しずつ回りながら間合いを計っている。
対するエヴァは一歩も立つ位置を移動しない。ただその顔に不気味な笑みを浮かべるだけだ。

(何だろう・・・この言いようもないほどの不安は・・・)

いよいよ、ネギがエヴァの背後に回った。
しかし、それでもエヴァに動きは見られない。
気づけばネギの額に数滴の汗が浮かんでいた。これは単にさっきまでの戦いで出た汗なのか・・・それとも・・・

余裕の笑みを崩さないエヴァになかなか仕掛けてこないネギだったが、
――――― ついに、期を捉える。

フッとネギが姿を消すと、空を蹴った様な音が鳴り、辺りは静まり返る。

「やっと動いたか・・・」

エヴァが呟き、静かに目を閉じる。
そして身体全体の感覚を研ぎ澄まし、辺りを探る。

「―――――見えたっ!!」

エヴァの纏う紫の稲妻が光を増した途端、彼女の姿もまた忽然と消える。

僅かに舞い上がる風。
そして次の瞬間、

―――――宙に衝撃が走る


ダアアアアァァァンッ!!!


「!?」

「フフッ」

轟音とともに再び現れる2人。
そこではネギのパンチを腕で難無く受け止めていたエヴァの姿があった。

「チイッ・・・・・・界王拳!!!」

ネギが叫ぶと同時にその身が紅き炎に包まれる。

「ダダダダダダァァァッ!!!」

「・・・・・・フンッ」

マシンガンの如く連続的に繰りだされる拳と蹴り。
そしてエヴァはそれらをさらに上回る速度で躱していく。

こうしてますます激しくなる攻防は、
やがて目で捉えることさえ不可能な領域に突入する―――――――

「どうした坊や!貴様の力はこんなものか?」

「くっ!・・・ウラアッ!!」

さっきから全ての攻撃を紙一重で避けられているネギは、エヴァの挑発に苛立つような声を上げ右拳を振り上げた。


ガシッ


「!?」

だが、突きだしたパンチはエヴァの左手に難無く受け止められ、次いで繰りだす左拳も彼女の右手に捕らえられてしまう。
そうして一見組みあう形となった両者。

「フフフ・・・それじゃあ力比べといこうか」

「っ!!―――――グッ!?・・・グギギギギィィィ・・・」

エヴァの華奢な腕からは思いもよらぬ力で押し出され、ネギは驚くとともにそれに対抗すべくさらに気の出力を上げる。
少しずつ押し返し、拮抗した状況に持ちこんだ。

「流石だな・・・だが、まだ足りない!!」

「・・・っ!?―――――う、うぎゃああああっ!!!」

な、なんと・・・エヴァの握力がさらに強まりネギを圧し潰してきたではないか。

(な、なんてパワーだ・・・界王拳を使っている僕が押し負けてる・・・)

ネギは信じれれないエヴァのパワーに圧倒されていた。
腕の伸筋にいくら力を入れてもエヴァの腕はビクともせず、逆にこちらが屈曲させられていく有様。
・・・正直腕から生じる痛みで上がりそうになる悲鳴を堪えるので精一杯だ。
この力勝負・・・完全にエヴァに軍配が上がっている。

「おいおい・・・随分びっくりしているようだが、まだ始まったばかりだぞ?」

「・・・!? うわあっ!!」

組みあった状態から急に姿勢を後ろに反らしたエヴァによってバランスを崩したネギ。
その前屈みになった上半身に強烈な蹴りが減り込み、巴投げの要領で吹っ飛ばされる。


ドンッ!!!


「グワッ!!?」

勢いよく投げだされたネギ。
しかし、ダメージに顔を歪めながらもすぐにその体勢を立て直す。

「くぅぅ・・・界王拳!!!」

再び全身の気を真っ赤に染め、今度は全速力でエヴァから距離を取る。

「フン・・・私のスピードから逃げられると思うな!!」

エヴァを包む魔力が輝きを増し、紫の雷と化す。

「ハアッ!!」

その間、まさに秒数にして小数点以下三桁にも満たない・・・まさに一瞬だった。
一筋の光がネギを追い抜き、

「・・・なっ!?」

「遅いわっ!!!」

先回りしたエヴァの蹴りがネギの顔面にクリーンヒットした。

「ぶわらっ!!」

派手に叩き落とされたネギはその加速度で急降下。
結果、氷山に激突し粉々にする。

「フン・・・」

鼻を鳴らしてネギの落下地点を見下ろすエヴァ。

その瞳には、氷の瓦礫に埋もれたネギが傷ついた身体を引きずり這い出る姿が映る。

「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」

「フン・・・軽く撫でたくらいでそのザマか。まさか、これで終わりじゃなかろうな?」

「くうっ・・・か、界王拳!!!」

さっきよりもオーラを強め、ネギがエヴァへと飛びかかる。

「だりゃあっ!!」

超スピードで一気に間合いを詰め、エヴァに肉迫するネギ。
一瞬驚くエヴァの顔をそのパンチが捉えた!!
―――――そう思えた、次の瞬間


ドゴンッ


「っ!?・・・グフゥゥゥ・・・」

「フフフ・・・」

ネギの視界からエヴァの像が掻き消され、代わりに側腹部に鈍い痛みが走る。
呻き声を漏らしつつ、横に首を回せばエヴァが何食わぬ顔でネギの腹に膝を突きさしていた。

「そ・・・んな・・・」

「ククク・・・残念ながらハズレだ」

「ぬっ!・・・くそっ!!」

バランスの悪い体勢からネギが無理やり右拳を振り上げる。
すると、またしてもエヴァが消え、今度は背中に衝撃を受ける。

「グウッ・・・!!!」

「フフフ・・・私はこっちだぞ」

振り向けばエヴァが腕組みをしてこちらを笑っている。

「くうぅぅぅ・・・ダァァァーーーッ!!!」

その挑発的な態度に逆上したネギは界王拳を発動させ、エヴァに殴りかかった。


スカッ

ドゴォッ


「うぶっ!?」

またしても空振り。今度は左の頬を殴られた。


ズドンッ


「ガッ!?」

続いても空振り。
今度は右脇腹・・・肝臓目がけての一撃。


ダダンッ


「あうっ!?」

やはり空振り。首筋への手刀を喰らう。

その後も背骨、脇腹、顔面、鳩尾、後頭部、首・・・
ネギの攻撃が避けられるたびに、それらの急所が一方的に攻められる。

自分の拳が、蹴りが、まったく相手に当たらない。掠りもしない。
それどころか、こちらでは視認できない速度で、しかも死角を縫って襲いかかる敵の攻撃に成す術もなく曝され、着実にダメージが蓄積していく。

ネギはその現実に焦り、そして恐怖した。

この技は一体何だ?・・・なぜこちらの反応速度をはるかに上回る攻撃ができる!?

「ぐわっ!・・・ギャッ!・・・ゴハッ!・・・」

「ハハハ・・・遅いぞ坊や。それでは動きが丸見えだよ」

エヴァの超絶的なスピードに翻弄され続けるネギ。
いつしかその身は使い古した雑巾のように傷だらけになっていた。













「う、嘘だろ・・・」

「・・・ネギっ!!」

エヴァにネギが一方的にやられている光景に声も出ない明日菜たち。
それもそのはず、水晶の映像ではエヴァの姿が高速で移動しているために捉えきれず、中央で攻撃を受け続けているネギの姿しか見ることが出来ないのだ。

「ケケケ・・・御主人モ容赦ネエナ。アノ坊主、モウボロボロジャネエカ」

チャチャゼロの気悦に満ちた声が明日菜には何とも癇に障る。
しかし、何も言い返せないことが悔しくて・・・歯噛みする他なかった。

(どうして・・・どうしてよ?あんた、強いんでしょ!?それが・・・それがなんであんなに傷ついてんのよ)

―――――うっすら涙の滲んだ目には、ネギがさながら荒れ狂う海に浮かぶ小舟、嵐の中で舞い上がる木の葉のようになんとも弱弱しく映っていた。

そして、その様子を隣で見ていたピッコロにも不安の色が濃くなっていく。

「・・・やはり俄仕込みの界王拳では荷が重すぎたか」

「そ、そんな・・・!う、嘘だって言ってよ!!」

ピッコロの非情な言葉に明日菜が抗議の声を上げる。
だが、ピッコロはその言葉には答えず、

「カモ・・・貴様も気づいてるんだろ?あの技の正体に・・・」

絶望のあまり両手を突き項垂れているオコジョを見やる。
すると、しばらく間を開けてカモが口を開いた。

「・・・『雷化』だよ・・・姐さん」

「・・・『雷化』?」

「さっき、エヴァンジェリンが『千の雷』って魔法を取りこんだのを見ただろ?
―――――あのとき、奴は雷が持つ特性をそのまま手に入れたんだ。“スピード”って武器を・・・」

「な、何ですって!?」

「さっき説明したように『闇の魔法』は魔法自体を術者に融合させる技法・・・つまり、今のエヴァンジェリンは雷そのものになってるわけだ。
さて、ここで問題だ・・・拳銃の初速は約400m/s、狙撃銃では速くて1000m/s、・・・・・・では、“雷の速度は一体どれくらいでしょう?”
―――――答えは150km/s。文字通り桁が違う・・・」

「そ、それって・・・」

「ああ・・・おそらく今の兄貴の反応速度を軽く上回ってるんだよ。奴の攻撃は・・・
――――それじゃあ、いくら兄貴が防御しようとしたって相手にしたらノーガードと同じだ。いくらでも付け入る隙があるってこった」

「・・・それだけではありません」

「茶々丸さん・・・!」

いきなり会話に入ってきたガイノイドの少女。
相変わらず無表情であったが、その瞳にはどこか強い意志が感じられる。

「・・・マスターの術式兵装は単に“速さ”のみを追求しているわけではありません。
例え攻撃が速く、必ず命中するとしても、一撃の破壊力が小さかったらネギ先生相手では大して意味はありません。そこでマスターは、『千の雷』に『奈落の業火』という炎系の魔法を組み合わせることで一撃にパワーを持たせました。
―――――雷の“スピード”に闇の炎の“火力”が加わった今、マスターの『闇の魔法』は完全無欠・・・どこにも死角はありません」

主の勝利を信じて疑わない。―――――そんな感情が籠っているかのように語気を強める茶々丸。

だが、明日菜はそんな現実を素直には受け止められない。

「で、でも・・・だからって諦めるなんて早すぎるわよ!!ネギがまだ全力を出し切れてないだけかもしれないじゃない。相手は敵とはいえ自分が受け持つクラスの生徒なんだし、そうであってもおかしくないわ。
・・・それにピッコロさんもさっき言ってたわよね?ネギなら2倍までならなんとか耐えられるって・・・
なら、それを使えば少しはマシに・・・」

「アスナ、残念だが・・・」

明日菜が必死に反論するが、それを隔たるようにピッコロが口を挟む。
そして決定的な一言を告げた。

「今ネギが使ってるのが・・・その『2倍界王拳』なんだ」














「があっ!!・・・ぐわあああっ!!・・・」

鎌鼬のようにネギの身を削っていったエヴァの攻撃がまた一つ入った。
悲鳴を上げ、よろめきながらも舞空術でその場に踏みとどまるネギだったが、その顔を見れば限界が近いことは明らか。

「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」

「フッフッフッ・・・よく頑張ったがとうとう終わりの時が来たようだな」

「くっ・・・くうっ・・・か、界王拳・・・2倍だあっ!!!」

渾身の力を振り絞り、2倍界王拳を繰り差すネギ。

(頼む・・・一発でも良い。当たってくれ・・・)

そんな思いを込めてひたすら手数で攻める。
だが、そのスピードを以ってしても拳はエヴァに触れることすら敵わず、

「フッ、甘い・・・そらあっ!!」

「っ!?・・・だああっ!!?」

両手を組んでのハンマー打ちを喰らって遥か下の地面に叩きつけられる。

「フン・・・つまらん。修業の所為か、私と貴様との差が予想以上に開きすぎてしまったようだ」

シュタッと降り立ったエヴァは、いかにも物足りないという表情をしながら倒れ伏すネギの元へ近づいて行く。

「ぐ、ぐうぅ・・・エ・・・ヴァ・・・ジェリ・・・さん・・・」

これまでに受けたダメージで身動きできないものの、擦れた声でエヴァの名を呼ぶネギ。

「ほう・・・まだ生きていたか。そのタフさだけは本物のようだ。
・・・しかし、もはやその体では満足に立つこともできまい。勝敗は決したのだよ・・・ネギ先生」

「くっ・・・ま、まだだ・・・まだ終わってない・・・」

ところが、エヴァのセリフに逆らうかのように、ネギがふらつきながらも立ち上がってきたではないか。
その光景に一瞬目を丸くしたエヴァだったが、すぐに舌打ちをすると、

「・・・フン。往生際が悪いぞ。その身体で何ができる?・・・今や貴様はこの私に劣る弱者だ。潔く負けを認めろ」

「・・・い、嫌ですっ!!」

「・・・強情な奴め」

もはや結果は見えているにも関わらず、尚も立ち向かうつもりの少年に次第に苛立ちを感じ始めたエヴァ。

対するネギもこれが無謀だと言うことは百も承知。エヴァの技に対して今のところ何の打開策もないのだから。
しかし、逃げるわけにはいかない・・・戦士としてだけでなく、教師として。

「貴様・・・誰を相手にしているのか分かっているのか?」

脅しのつもりか、そんなことを尋ねるエヴァ。
対するネギもそれが分かっているのか臆する様子はない。

「・・・かつて『闇の福音』と言われた悪の魔法使い・・・そして僕の生徒・・・エヴァンジェリン・マクダウェルさん・・・ですよね?」

苦笑いを浮かべつつもネギがそう返す。
しかし・・・

「・・・クックックックッ・・・ハーーーッハッハッハッ!!!」

「・・・えっ!?」

突然笑い始めたエヴァにネギが戸惑っていると、

「違う・・・違うぞ坊や」

ネギの答えにエヴァが頭を振る。
その反応に一瞬顔をポカンとさせるネギ。

―――彼女は何を言っているのか?
だって彼女は間違いなくエヴァンジェリン・マクダウェルその人だ。それ以上でもそれ以下でもない。
―――そのはずなのに・・・






(フフフ・・・おかしいな。いつになく興奮しているぞ、今日の私は。これはどうしたことだ・・・一体、何を喜んでいる?
―――――ああ、そうか・・・)

エヴァは顔を押さえ、笑いを何とか堪えながらあのとき見た夢を思い出す。

夢に出てきた金色の戦士・・・そして自らを王子と名乗ったあの男。
プライドが高く、何よりも強さに貪欲だった男の姿は、いつしか少女にとって、宿敵を倒すことよりもさらに上の目標になっていた。

今までの修業もいつかあのように強く、誇り高い存在になりたい・・・その思いが根底にあったからこそ続けてこれた。それは、もはや憧れと言っても良い。
そして、新たに編み出した術式兵装や、苦労の末習得した“最後の切り札”にもその崇拝に近い思いが如実に表れている。

(・・・今なら少しはあの輝きに近づけたような気がする。坊やを倒す今だからこそ・・・!!)

エヴァの瞳に自信にあふれた光が宿る。

(今は・・・まだスタートラインに立ったに過ぎないかもしれん。だが、これから踏み出す一歩は私にとって大きな一歩となるだろう)

握り締めた拳に力がこもる。

(今こそ告げよう・・・かつての私と決別したという証を!!)

「私は・・・かつてのエヴァンジェリンではない」

厳かな声で言いながら、親指で自分の方を指さし、

「私は・・・」

ニヤリと笑みを浮かべて言い放った。

「超エヴァンジェリンだ!!!」















―――――恐るべし『闇の魔法』!!

自らを超エヴァンジェリンと称したエヴァの圧倒的パワーの前に頼みの界王拳も通じない。

果たしてネギに打つ手はあるのか!?

そして、決闘の行方は・・・?

――――次回、戦いは思わぬ局面へ・・・








<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!―――やっぱりエヴァは強え・・・。あの『闇の魔法』に勝つには“界王拳2倍”の壁を乗り越えるっきゃねえぞ、ネギ!!」

アスナ「ネギーーーっ!そんなところで負けちゃダメ!!あんたは・・・あんたはホントは凄く強いんだから!!」

ネギ「アスナさん・・・ありがとう。どうなるかわからないけど・・・やれるだけのことはやってみます!
―――――よし、いくぞ!!これが限界を超えた・・・3倍界王拳だぁぁぁーーーっ!!!」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI 『やるっきゃない!!  見えた逆転の一手!』

ネギ「頼むから持ってくれよ・・・僕の身体ーーーっ!!!」








あとがき

どうも仕事人です。
今回はずっとエヴァのターン・・・で終わると思いきや、

結局最後のセリフを言わせたかっただけの回でした♪

・・・あっ!やめてっ!!石を投げんといて~!!

・・・ところで、今回書いてて思ったんですが、Z戦士たちってどれくらいの速さで移動(いわゆる“ピシュンッ”てやつ)できるんでしょう?(瞬間移動は除いて)
ちなみに、雷が秒速150kmだけど、やっぱりそれより速いのかしら?

・・・ある意味気にしたら負けみたいな疑問ですが、ご意見あったらお願いします。

あと・・・最近文章が雑になてきた気がする・・・これも気のせいかな?



[10364] 其ノ四十四   やるっきゃない!!  見えた逆転の一手!
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2010/06/14 18:43




ドゴォッ


「ぐわあああっ!!!」

「・・・ヌンッ」


バシンッ


「!?・・・がはぁっ!!」

エヴァに蹴り飛ばされ氷に叩きつけられる。
先程から繰り返されてきている光景。――――何度も、何度も・・・

「・・・フン。懲りない奴だ。いくら足掻いても無駄だとまだわからないか」

「くっ・・・!―――――でやあああっ!!!」

勝利を確信した魔女は不敵に微笑む。
しかし、少年はどちらかといえば諦めが悪いほうだった。
たとえ無謀と分かっていても、この足が動く限りは立ち向かわずにいられない。

―――――正直に言おう。まさしく強敵だ。この目の前にいるエヴァンジェリンという少女は。

―――――初めて戦ったときはこちらが圧倒的な実力差を見せつけたはずだった。
だが、今ではあのときとは見違えるほど腕を上げ、再びまた自分の前に大きな壁として立ちはだかっている。

―――――正直脱帽した。・・・彼女の優れた戦闘センス・・・独自の魔法までも使いこなす天性の才能・・・そして何よりもその執念に。

はっきり言って、この状況で勝利するのは絶望的だ。
あまりにも力が離れすぎている。

そして、ネギはいまだにエヴァの『闇の魔法』の攻略法を見出せていなかった。

「てやっ!!」

「ぐはっ!?」

エヴァの拳が腹を抉り鈍い音を立てる。
その勢いで後ろによろめくネギだったが、倒れまいと必死に足を踏ん張る。

「ハァーッ・・・ハァーッ・・・」

「随分粘るじゃないか。その負けん気の強さは父親にそっくりだ。
・・・できれば褒めてやりたいところだが、流石にこのままでは苦しみが増すだけ無駄だぞ。いっそ楽になったらどうだ?」

「よ、余計な・・・お世話・・・です・・・」

乱れる呼吸で途切れ途切れにしか声が出せない。
これまでのダメージで身体はもうボロボロだ。今立っていられるのも不思議なくらいに。

―――――だが、諦めきれない・・・諦めたくない!

「だあああああっ!!!」

身体に鞭打ってエヴァに飛び掛かっていく少年。
だが、エヴァがそんな動きを見切れないはずもなく、

「フッ・・・これで終わりだっ!!」

攻撃を躱しつつネギの胸に手を押し当てる。

「『奈落の業火』っ!!!」

「!?」

ボウッとエヴァの手から放たれた衝撃波とともに闇の炎がネギを襲う。

「ぐわあああーーーーっ!!!」

またしても吹っ飛ばされるネギ。
しかし、今度は上半身が黒き炎に包まれ、焼かれる痛みによる悲鳴も加わる。

「あああああああっ!!」

傍から聞いたら断末魔に聞こえるであろう叫びがこの空間中に響き渡る。

しばらくしてネギを包む炎が消える。彼の紫の道着の上着の部分は燃えてなくなり、露出した肌のところどころに焼け爛れた跡が残っていた。









「勝負あり・・・ですね」

茶々丸が淡々とした声で告げる。
水晶に映ったネギの無残な姿。・・・もはや彼が再び立ち上がる気配はない。

「そ、そんな・・・」

「あ、アニキぃぃぃっ!!!」

明日菜とカモの青ざめた表情がその絶望を物語る。
そして、それを眺めケタケタとチャチャゼロが笑う。

「ケケケケケ・・・マア、ガンバッタホウジャネエカ?アノ坊主。
・・・ダケド、今ノ一撃デモウアノ世ニ行ッチマッタカモナ」

それを聞いてカモが激怒する。

「て、てめえらっ!!よくも兄貴をっ!」

今にも挑みかかろうとするカモをピッコロが制止する。

「落ち着けカモっ!!」

「ですが旦那っ!」

激昂するカモに対し冷静な態度をとるピッコロ。

「・・・ネギの気が、小さくはあるが残っている。まだ死んではいない」

それを聞いて悲しみに俯いていた明日菜が顔を上げた。

「ほ、本当なの!?ピッコロさん」

「ああ・・・だが、これ以上の戦闘は難しい。あの身体ではな・・・
―――――認めるしかあるまい。今回は“俺達”の・・・完敗だ」

ピッコロの顔から僅かに悔しさが滲み出ている。
彼もここまで差が開いていたとは思わなかったのだろう。
だが、彼はネギを責めるつもりはない。むしろここまで格上の相手によく健闘したと褒めてやるべきだ。・・・非があるとすれば、エヴァの成長を読み切れなかった己自身の計算の甘さだ。

「決闘は中止だ。・・・俺はネギを拾ってくる。お前たちはここで待ってろ」

明日菜とカモにそう言ってピッコロが転送用の魔法陣へと歩み寄っていく。
そのとき、何を思ったか突然明日菜がそのマントを掴んで押しとどめる。

「・・・何の真似だ?アスナ」

「お願い・・・もう少し、もう少しだけ待ってあげて」

明日菜からの意外な頼みに目を丸くするピッコロ。

「・・・言っておくが、生きているとはいえ今のあいつはかなり危険な状態だ。もたもたしてたら最悪な事態になりかねんぞ」

「・・・わかってる。でも・・・」

明日菜はキッと顔を上げ、

「せっかくここまで来たのに・・・ネギの気持ちも聞かないで私達が勝手に勝負を投げるなんてこと・・・できないわよ」

そして、明日菜が震える声でポツリポツリとその後を続ける。

「―――――あたしここから見てただけだけど、戦っているときのあいつから『負けたくない』って気持ちが凄い伝わってきたんだ。
・・・エヴァちゃんがどんな想いでこの戦いに臨んでるのかなんて私にはわからないけど、ネギが今必死にそれに応えようとしてることくらいはわかるわ。だからあいつ、何がなんでも途中で諦めたくなのよ・・・きっと。
・・・私だってネギの傷つく姿は見たくない。でも、あいつの気持ちを考えたら、好きにさせてあげた方がいいのかなって・・・」

「アスナ・・・」

明日菜の話に聞き入り、しばらく言葉が続かないピッコロ。

「だからお願い・・・最後まで戦わせてやってよ。せめてあいつの口から『参った』って言葉が出るまで待ってあげて・・・」

そう言って深々と頭を下げる明日菜。
その鬼気迫る様子はピッコロも言い返すのを躊躇ってしまうくらいであった。

「あ、姐さん・・・気持ちはわかるけどよ。やっぱりピッコロの旦那の言うとおりだぜ。ここは兄貴の安全を優先すべきだ。
それに戦わせるったって、今の兄貴の様子じゃ、もう立ち上がることだって・・・」

重苦しくなる空気の中勇気を振り絞ってカモがピッコロの意見に賛同する。
だが・・・

「立たせてみせるわ・・・あたしがっ!!」

「「「「「!?」」」」」

明日菜の力強い言葉で一同が固まった。

「あ、姐さん!?そいつは一体どういうことだよ!?」

「・・・茶々丸さん。私をネギのところまで連れてってくれない?」

「・・・どういうつもりですか?神楽坂さん」

明日菜に疑惑の視線を投げかける茶々丸。
しかし、明日菜はそんな彼女の態度もものともせず、フッと笑いかけ、

「・・・心配しなくても大丈夫。いまさら手出しなんてしないわよ。第一私が参戦したところで何も変わんないと思うし・・・
ただ、一言あいつに喝を入れてやりたいだけ」

―――――ね?それくらいはイイでしょ?
口には出さないが瞳がそう訴えかけていた。
茶々丸は一瞬その意思のこもった視線に心を射ぬかれたように呆然とするが、やがて何を思ったかしばし遅れて反応を示した。

「・・・わかりました。私も同伴するという条件付きでなら許可します。・・・それではこちらに・・・」

そう言って、転送魔法陣を指し示すとそちらの方に身体を向けて歩いて行く。

「オイ。イイノカ?御主人ニ断リモナシニ勝手ニヨ・・・」

「責任は私がとります。それに・・・いや、なんでもありません」

「・・・?」

茶々丸が何か言おうとして咄嗟に言い淀んだ。
自身にも何を言おうとしてたのかわからなかった。ただ、明日菜の言葉を聞いた時、僅かに心臓部のモーターの回転が速くなった気がしたのだ。そしたらいつの間にか彼女の申し出を受け入れていた・・・

―――――ひょっとしたら、ロボである茶々丸にも明日菜の感情にどこか共感できた部分があったのかもしれない。

「・・・マッ、オメエガソコマデ言ウンダッタラ別ニ止メネエケド・・・
オレトシテモ、コノママ状況ガ変ワラナインジャ面白クネエカラナ」

「・・・すみません」

ペコリとチャチャゼロに頭を下げると、先程から沈黙を貫いている兄の方にも目を向ける。

「兄さん・・・」

「・・・お前のしたいようにすればいい。俺からは何も言うことはない」

ボソボソとそれだけ言うと再び16号はだんまりを決め込んでしまう。
だが、その口元が一瞬笑ったように見えたのは気の所為か。

そんなことを考えつつも茶々丸は魔法陣の前に立ち、明日菜に顔を向ける。

「神楽坂さん、これからマスターたちが戦闘しているステージまで移動しますが、くれぐれも決闘自体には介入なさらぬよう。
ネギ先生へ声をかけるくらいならば多少目を瞑りますが、それ以上の手出しは無用と心得てください。・・・万一の場合は私が全力でもってあなたを阻止しますので」

「わかった」

明日菜が短く返事をし、ついに2人同時に魔法陣へ1歩足を踏み出そうとする。

「い、いいんですかい旦那?行かせちゃって・・・」

「・・・・・・」

黙って明日菜たちを見送るような姿勢を取るピッコロに恐る恐る声をかけるカモ。
すると、ピッコロが静かに口を開き、

「・・・俺が何を言ったところでどうせあいつは行くつもりだろう。だったら好きにさせてやろうじゃないか。
―――――ククク・・・、何だかんだ言って、ネギのことを良くわかってなかったのは俺の方かもしれんな」

「旦那・・・」

最後に少々自嘲気味に笑ったピッコロはすぐに顔を引き締め、明日菜の方に顔を向ける。

「アスナっ!!」

「!!・・・ピッコロさん・・・」

急に声をかけられた明日菜はビクッと後ろを振り向いた。

「・・・もう俺の方からは何も言わん。
・・・だが、行くからには、そこで何があろうとも決してさっきのように眼を背けるんじゃないぞ?」

「・・・っ!!」

ピッコロの苦言に一瞬息を飲み込む明日菜。

「・・・ネギを・・・頼む」

「・・・まかせてっ!!」

ピッコロへの返事と同時に魔法陣に踏み込んだ明日菜。
すると、描かれた魔法陣が光り出し、明日菜と茶々丸を包み込んだ。
光とともに2人の姿が消え去るのを見届けると、ポツリと呟く。

「これは・・・ひょっとするかもな」









「ハッ・・・・・・ハッ・・・・・・」

「ふうっ・・・やっと静かになったか」

うつ伏せに倒れたまま、虫の息の状態にあるネギを見てようやく安堵の溜息を漏らしたエヴァ。
今まで粘り強く立ち向かってきたこの少年もどうやら年貢の納め時が来たらしい。

「まったく・・・よくもここまで手古摺らせてくれたものだ」

いつの間にやら額に汗を浮かべて、苦々しげにネギを見るエヴァ。
今彼女が使っているこの『闇の魔法』・・・実はエヴァ自ら作り上げた技とは言え、決してノーリスクと言うわけにはいかない。
魔力だって発動中はそれなりに消耗するし、肉体への負担もネギの界王拳ほどひどくはないにしろある。そして何より通常の魔法よりはるかに精神力を擦り減らすので長時間使用するのは至難の業である。油断していると、精神を魔法に飲み込まれ自我を失う可能性もある。
仮にも禁呪指定した術・・・そう簡単に使える代物ではないのだ。
まさに、真祖の強靭な肉体と、600年という長い時間で積み上げた精神力を合わせ持つエヴァだからこそ扱うことのできる奥義。

「ハァ・・・ハァ・・・それにしても、予想以上に勝負が長引いたせいか、この殺戮衝動を抑えるのに苦労したぞ。
・・・正直、これ以上続いていたらやばかったな」

震える己が手を見つめて呟くエヴァ。

「・・・流石に坊やの命をとるわけにはいかないしな。チッ、難儀なものだ」

使えば使うほどに術者の魂を侵食していく『闇の魔法』。
それは真祖であるエヴァも例外ではなかった。ただ、彼女の場合は普通の人間よりはるかに耐性が強いに過ぎない。
並の人間なら、たちまちその内に秘める“闇”に飲まれ怪物と化してしまうのであるが、エヴァの場合は少々違う。

―――――吸血鬼がもつ“闘争本能”。それが如実に表れてくるのである。

下手をすれば相手を殺しかねないほどの興奮状態がエヴァを襲い、戦っている最中もエヴァはそれを必死に抑えていた。
彼女自身、真祖の本能に流されるままにネギを殺戮するのは本意に反する。今の彼女はあくまで一人の『戦士』として戦いたいのだ。

「・・・随分甘くなったものだな。この私も・・・
・・・だが、これでいい。これでいいのだ」

自分に言い聞かせながら、ゆっくりとネギに近づいて行く。

「・・・む?」

そのとき、何者かが空間転移をした気配を感じ、ハッとそちらに視線を移す。

「・・・あれは、茶々丸に・・・神楽坂明日菜か!?」

エヴァたちから少し離れた氷山の上に突然現れた2人に驚くエヴァ。
そして大体の事情を察するとチッと舌打ちし、

「・・・茶々丸め、余計な真似を・・・」

忌々しげに吐き捨てる。

一方、倒れ伏すネギの姿を見つけた明日菜は大きく息を吸うと両手を口元に持って行き、

『コラーーーッ!!!ネギーーーッ!!!しっかりしなさーーーい!!!』

この辺一帯に響き渡るようなキンキン声。それが山彦のように伝染していく。
ある意味怪音波のようなその破壊力にエヴァも耳を覆った。

「な、何だあの声はっ!?くぅ~~~っ!!!こ、こちらの耳がおかしくなりそうだっ!!」

鼓膜がジンジンするのに涙目になりながらも、明日菜の方を睨めつける。

・・・ちなみに、明日菜の隣にいる茶々丸は、ちゃんと耳に栓をするように防音処置を施しているため、涼しい顔をしていた。

「お、おのれ~~~っ!!あんな下品な女を連れてくるとは・・・茶々丸め・・・後でお仕置きが必要だな」

従者にきつい罰を与えることを心に誓ったエヴァだったが、

『ネギッ!!とっとと起きなさいったらっ!!』

そんなことはお構いなしに明日菜の呼びかけは続く。

『・・・あんたお父さんを探すんでしょ!?ピッコロさんみたいな戦士になるんでしょ!?
・・・だったら、こんなところで負けちゃダメッ!!あんた、ホントはすっごく強いんだから!!』

明日菜が必死に声を振り絞るが、ネギはピクリとも動かない。弱弱しげに白くなった息を吐き出すだけだ。

「フン・・・無駄なことを。こいつの姿を見てまだわからないのか?もはや満足に身体を動かす力さえ残っていないと言うのに」

さっきの腹いせに、明日菜の行動を嘲笑ってみせるエヴァ。
だが、明日菜は止めようとはしない。
ネギに呼びかける。何度も・・・何度も・・・

『このバカッ!!起きなさいって!!』

『立って・・・立ちなさいよっ!!』

『お願い・・・最後まで戦ってよ・・・』

『ネギーーーッ!!!』

「・・・馬鹿め。いくら大声を出したところで今の坊やに届くわけがない」

だが、エヴァは気づいていなかった。
明日菜の声に僅かではあるがネギの指先がピクッと反応を示したことに・・・







―――――誰だ・・・僕の意識に入りこんでくるこの声は・・・

―――――うぅぅぅ・・・うるさいな・・・今すごく眠たいのに・・・

―――――でも、なぜだろう・・・このまま眠っちゃいけないような気もする・・・

『・・・・・ギッ!!・・・きなさ・・・戦っ・・・・・・!!』

―――――僕はこの声を知ってる?誰だ?一体誰なんだ?

『・・・・・・ギッ!・・・ネギッ!!』

―――――っ!?あ、アスナさんっ!?この声アスナさんなの!?

『ネギ・・・っ!!立って!立ちなさいよっ!!』

―――――僕、今まで何を・・・ハッ!?そ、そうだ・・・僕はエヴァンジェリンさんと・・・

『このまま負けたままでいいのっ!?このバカネギっ!!』

―――――もしかして僕倒れてるの?・・・そういえば、身体がすごく重いや・・・立ち上がれるかな?

『あんたそれでも男なの!?悔しくないのっ!?』

―――――・・・ダメだ。身体に力が入らない。気がもうスッカラカンなんだ・・・

―――――ごめんさない、アスナさん・・・悔しいけど、どうしようもないみたいだ。

『諦めるなバカッ!!・・・あんたは、ホントはもっとすごいんだからっ!!』

―――――「ホントはもっとすごい」?・・・なんか、最近誰かに同じようなことを言われた気が・・・



『おめえは自分が思ってる以上にすげえ力を持ってるんだぜ?』

『自分の可能性に線を引くな!・・・おめえ自身を信じろ!』

『大丈夫だ!!おめえにならできる!!』

『本当の力って言うのは心と体が伴わなくちゃ絶対に引き出すことなんてできねえんだ。だから、ネギ・・・爆発させろ!おめえの心に滾る感情を一気に!
・・・そうすれば体は必ず答えてくれる・・・』



―――――・・・そうだ!あの人・・・悟空さんだっ!!



『人の心ってオラ達が考えている以上にすげえ力があるんだ。身体が限界だと思っていても、心が折れなければその限界を超えることだってできる』

『忘れないでくれ。心に希望がある限りオラ達人間は何度でも立ち上がれるんだって!』



―――――・・・僕はなんて大事なことを忘れていたんだ。そうだよ・・・僕には立たなきゃならない理由がある・・・!



『甘ったれるな!!いつでも誰かが助けてくれるなんて考えるな!どんなときも最後に頼れるのはおめえ自身の“諦めない心”なんだ!!それを失くしちまったらおめえは二度と立ち上がれない・・・
―――――だから立ってくれ!立つんだネギ!!おめえだけじゃない、おめえを待ってる人たちの為にも・・・!』











「・・・ぐっ!・・・くぅっ!!」

「!?」

突然のことでエヴァは言葉を失った。
なんと、死に体だったネギの腕が動きだし、地面にしっかり手を着くと震えながらもその身を徐々に起こし始めたではないか。

「なっ!?ば、馬鹿な・・・!!」

その様子を半ば呆然と見つめているエヴァの目の前で、ついにネギは上半身を完全に起こし、膝立ちの状態から二本の足で立ち上がろうとしている。
あの瀕死の状態ががまるで嘘のようである。

「あ・・・ありえん。さっきまで虫の息だったんだぞ!?」

立ち上がったネギの身体から信じられぬほどの気迫が感じられ、思わずエヴァも数歩後退ってしまう。

そして、ゆっくりと顔を上げたネギはエヴァではなく明日菜の方に目を向ける。

「ね、ネギ・・・!!」

自分の声が届き、立ち上がってくれたネギに歓喜の声を上げる明日菜。
そして、そんな明日菜に向けて届くかわからないほど小さな声でネギが呟いた。

「ありがとう・・・アスナさん」

そして、ぎこちない笑顔を送る。
それを見てとった明日菜はグッと親指を突き立てる。

「やっちゃいなさい!!ネギっ!!」

それに対し、ネギもなんとか腕を持ち上げて親指を突き出した。
大声を出さなければ届かないほどの距離。
しかし、互いのメッセージはそんな障害をものともぜず、無事に伝わったようである。

「あ、ああ・・・」

ネギが立ちあがって来た衝撃からまだ抜け出せず狼狽するエヴァ。
そんな彼女を余所にネギは表情を引き締め、再び向き直った。

(ありがとうございます・・・アスナさん、そして悟空さん。あなたたちのおかげで、また立ち上がることができました。僕は・・・まだ戦える!!)

キッと目に力を込めてエヴァを睨む。
一度死に掛けて弱気になっていたところで立ち直ったせいか、さっきよりも気力が充実している感がある。
・・・が、依然としてエヴァが有利であることに変わりはない。

(・・・今ままじゃさっきの二の舞だ。
・・・この状況を打破するには・・・限界を超えるしかない!!)

“限界を超える”・・・すなわちあれを繰り出そうと言うのだ。ネギは・・・

(・・・3倍界王拳)

以前ピッコロには界王拳は2倍までが限界だと警告されたネギ。3倍以上を出そうとすれば気の膨張に身体が耐えきれなくなり自滅する恐れがあるという・・・

(でも、あの『闇の魔法』のパワーに対抗するには、3倍以上の界王拳を使うしか手はない・・・
・・・だったら、危険を承知でやってやるさ!)

覚悟を決めグッと拳を握りしめるネギ。

(それに・・・彼女の攻撃を受け続けたおかげで少しは見えてきたぞ。・・・あのスピードを破る方法が!!)






「な、なんだ・・・奴のあの自信に溢れた眼は!?」

エヴァはこちらを見てくるネギに薄気味悪いものを感じていた。
何か決意したような眼をしているその少年に。

(まさか・・・この術式兵装を破る策でもあるというのか!?
・・・いや、そんなはずはない。さっき見た限りあれが坊やの限界ギリギリ・・・それ以上の力を出すなど到底不可能だ。大体、この雷のスピードを破る方法などあるはずが・・・)

エヴァは自分の考えを否定する。だが、そうなると余計にネギが不気味に見えてくる。

(チッ・・・どういうつもりか知らんが、この私を超えることなど・・・できん!!)

エヴァが手を突き出す。
すると、そこから魔力波が放たれ、ネギの周囲の地面を爆発させる。


ドオンッ  ドーンッ  ドドーーーンッ


地面を構成していた氷が抉り取られ、煙が巻き上がる。
しかし、ネギは顔色一つ変えずその場に佇んだまま。

「どうした坊や!何かするんじゃないのか?」

「・・・・・・」

軽く挑発してみるがまるで動じる様子を見せない。
いらついたエヴァはそのまま連続で閃光をぶつけていく。

ネギの周囲の地面はたちまち抉り取られ、深い堀のようになり、ネギが一人取り残される形になった。

「・・・貴様。何とか言ったらどうだっ!!」

何の反応も示さないネギにとうとう堪忍袋の緒が切れたエヴァ。
だが、そのとき周囲の気の流れが変わりつつあった。


パキッ・・・パキパキッ


「!? こ、これは・・・」

氷の地面に亀裂が走り、さらに砕けた小さな破片が宙に舞い上がる。
この現象は一体・・・

「まさかっ!!」

エヴァがネギの方を向いた瞬間、唖然とした。
ネギの気が異常に高まっていくのを・・・
そして、彼を中心として気流が渦を巻いていくのを。


「はあああああああっ・・・・・・」


肩の力を抜き、ゆっくりと呼吸を整えているように見えるネギ。
一見脱力しているようだが、実際はその逆。
自身の気を高めるだけでなく、周囲の魔力も掻き集め咸卦法で融合させることでさらにそれを膨らませていく。


「ああああああああああっ!!!」


ネギの気が上がっていくにつれ、次第にエヴァの表情に焦りが出てきた。

「ば、馬鹿な・・・奴のどこにこんな力が・・・」

自分の予想の範疇を超えた気の大きさと、その身体から発するプレッシャーにエヴァの身体が仰け反る。


ゴゴゴゴォォォォォッ


再び大地が揺れ動く。
その揺れでエヴァの足元も不安定になる。

「くっ・・・!!」

なんとか踏みとどまるエヴァだったが、

「!?」

ネギの様子を見て固まった。

―――――彼の裸の上半身が自身の気によって真っ赤に発光していくのを。



「はああああああっ・・・・・・3倍ぃぃぃ・・・・」


ピキッ・・・ピキピキッ


ついにはエヴァの足元の地面に罅が入り、


「界ーーーっ!」


ドゴォッ


「なっ!?」

足場となっていた氷が砕け、


「王ーーーっ!!」


グラッ


「ぐわっ!!?」

その拍子にバランスを崩したエヴァの前に


「拳ーーーっ!!!」


ドゴオオオオオンッ


激しい地響きを立てて飛び上がったネギが、


「だああああありゃあああああっ!!!」


赤き流星となって襲いかかった。


ダァァァァァンッ!!!


「ゴハアッ!?」

大きく振りかぶったネギの拳がエヴァの頬に叩きつけられる。
不意打ちを食らったエヴァは口から血を吹き出しながらよろめく。

「ダアアッ!!」


バシィィィィッ


「ぶげらっ!!?」

ネギが尽かさずエヴァの顎を思い切り蹴り上げ、その勢いで吹っ飛ばす。
加速度を得たエヴァの身体は氷壁に激突。


ドドドオォォォォォッ


轟音と共に氷山の上半分が崩れ海へと落ちる。

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

ここに来てようやく息を整えるネギ。
荒々しい呼吸に合わせ子供とは思えないほど異様に盛り上がった筋肉が上下する。

「くっ・・・やっぱり、3倍を使うのは無理があったかな?
これは早々にケリをつけないと、こちらの身体が持たないや・・・」

苦しそうな表情を何とか押し殺し、エヴァの方を見やる。

その当人は氷の瓦礫の下にいたが、


「・・・ハァァァッ!!!」


紫の光を放ち、たちまち瓦礫を吹っ飛ばす。
そこには術式兵装を展開させ、紫のオーラに稲妻を纏ったエヴァの姿があった。

その顔は怒りに打ち震え、

「貴様ぁ・・・この私に不意打ちとは嘗めた真似をっ!!」

強く噛み過ぎたせいで唇には血が滲み、米神には血管が浮かぶ。
まさに怒り心頭・・・!!

「大人しくしていれば痛い目に会わずに済んだものを・・・よほど死にたいらしいな?」

そう言うと、エヴァの身体を走る稲妻が強さを増した。
それに対し、ネギも腹を据えた様子で、

「・・・ここまで来たら、どうせやらなきゃこっちがやられる。だったら、身体のもつ限りやってやる!!」

こうして二つの力がぶつかり合おうとするまさにその頃、





「ネギ・・・頑張って・・・」

「マスター・・・」

離れた場所からこの戦いを見守る明日菜と茶々丸も、





「だ、旦那・・・あれって・・・」

「くっ!・・・ネギのやつ・・・まさか3倍界王拳を・・・
あいつ、あの身体でそれを使えばどうなるかわかってるのか!?」

「ケケケ・・・。ヨウヤク面白クナッテキタゼ。ナア、16号?」

「・・・・・・」

別空間でこれを見ているピッコロたちも、
そして・・・





「目にもの見せてくれるぞぉぉぉぉぉっ!!ぼーやぁぁぁぁぁっ!!」

「耐えてくれよ・・・僕の身体ッ!
・・・界王拳、3倍だぁぁぁぁぁっ!!」

一方は紫、もう一方は赤・・・それそれのオーラを纏いし戦士たちもまた感じていた。

―――――この戦いもいよいよ佳境に入ったということを。






ネギの捨て身の3倍界王拳は果たしてエヴァを打ち破ることができるのか?
結末が近づくこの戦い・・・運命はどちらに味方する?

―――――さあネギよ。今こそ、反撃開始だ!!




<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!!すげえぞ、ネギ!!捨て身の攻撃が功を奏して互角の勝負に持ち込めてる。だけど、何かエヴァの様子がおかしいぞ?・・・あっ!?え、エヴァの奴急に凶暴化しちまった!」

エヴァ「ええいっ!よくも私を虚仮にしてくれたな!!・・・こうなったら、もはや情けは無用。この技で貴様を葬り去ってくれる!!」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI『エヴァの最終兵器!?  ネギはこの手で抹殺する!!』」

ネギ「ど、どうしよう・・・まさかエヴァンジェリンさん本気で僕を・・・?」





あとがき

前回から2週間近くも空けてようやく更新。申し訳ありません。
何だかんだで今回も引っ張ってしまった・・・ゴメンネゴメンネェ~~~(U字工事っぽく言ってみた。栃木出身なもんで・・・(笑)でも、普段は標準語です)

今夜はW杯の日本対カメルーン戦でここを見る人も少ないのかな~?と思いつつ投下。
・・・私ですか?今夜は別口で予定が入っててリアルタイムでゆっくり見れないのです。でも、録画するから残念なんてこれっぽちも思ってないもんね!・・・ホントだよ?

・・・まあ、それは置いといて、
今回アスナをちょびっとヒロインぽくしてみたいなと思って書いてたんですが、・・・正直微妙?(まあ、実際原作でも性格的にホントにヒロインなのか個人的に疑問に感じる部分があったので、それほど不思議じゃないといえばそうなんですが・・・)

・・・やっぱ違和感があったと言う皆様は、
・・・ここは一つ、演出ということでどうか御目溢しをっ!!



[10364] 其ノ四十五   エヴァの最終兵器!?  ネギはこの手で抹殺する!!
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2010/06/30 17:00



ゴゴゴゴォォォォォ……

エヴァンジェリンの別荘にある氷河地帯。
そこで今、巨大な魔力と気がぶつかり合おうとしていた。



「キャッ…! な、何よこれ……地震っ!?」

「…マスターたちのパワーにこの氷河全体が共鳴しているのでしょう。マスターたちからいくらか離れているとはいえ、私達がいるここも決して安全とは言えません。御気をつけください」

足元から来る大きな揺れにビクビクする明日菜に茶々丸が冷静な口調で注意を促す。

「そ、そんな急に気をつけろって言われてもねぇ……わわっ!?」

ズルッと足を滑らせ、氷の崖から落ちかける明日菜。
茶々丸が咄嗟に腕を掴んでくれなかったら下の海面に真っ逆さまだったろう。

「…大丈夫ですか?」

「あ、ありがとう……」

敵側である茶々丸に助け起こされていることに戸惑いながらも、明日菜が礼を述べる。
しかし、当の茶々丸の意識は既に明日菜から遠くのネギ達の方に向いていた。

(それにしても…このネギ先生の数値の跳ね上がり様は一体…?
パワーだけならばおそらくマスターに並んでいる…)

網膜に映ったデータを解析しながら茶々丸はネギの数値の上昇にただならぬ何かを感じていた。

(…嫌な予感がします)






「ハァァァァァ……」  「アアアァァァァッ……!!!」

赤のオーラに包まれたネギから発生する気の奔流。
それに負けじとエヴァも自らの魔力の出力を上げる。

「…くうっ……何が『3倍界王拳』だ! たかだかパワーを上げたくらいでこの私に勝てると思っているのか!?」

唇を噛み締め、忌々しげにネギを睨みつけるエヴァ。

「さっきは油断したが今度はそうはいかんぞ! …このスピードの前では貴様は無力なのだからな!!」

ニヤリとエヴァが笑う。
どうやらネギはまだ気を溜めている最中らしい。
…ということは、仕掛けてこない今がまさに絶好のチャンス。

「フフフ…トドメを刺してやるぞ! 坊やっ!!!」

エヴァの周囲を走る稲妻がピカッと輝きを増す。
するとたちまちエヴァの身体は雷と化し、その超速度で一瞬にしてネギの懐に接近した。

(フン…終わりだ…)

雷となったエヴァの眼からはネギの動きはまさに止まって見える。
現に今のエヴァの動きにネギの身体はまるで反応している様子がない。

(痛みも感じぬうちに意識を狩りとってやる!)

エヴァの拳がネギの鳩尾を捉えたそのとき、

「…ガッ!?」

エヴァの脳天に衝撃が走った。

「なっ!?」

咄嗟のことでエヴァも頭が追いつかなかった。
なんと、彼女の速さについてこれないはずのネギが上から肘打ちを浴びせかけていたのである。

「タアッ!!」

「っ!?……チィッ!!」

バランスを崩したエヴァに続けざまに蹴りを繰り出すネギ。
エヴァはなんとかそれに反応し両腕を差させてガードしようとする。


バシンッ!!


蹴りを受けた瞬間、そのあまりの威力にエヴァの身体が数メートル先まで吹っ飛ばされた。
腕にも激しい痺れが走るが歯を喰いしばって耐える。
…正直、今のネギの攻撃は明らかに彼女の予想を上回っていた。

「…くうっ! 小癪なっ……!!」

一撃で決めようとしたところにカウンターを入れられて悔しげなエヴァ。
だが、彼女もこのまま動揺するわけにはいかない。

(落ち着け…今のは運よく坊やの肘が当たってしまったにすぎん。確かにパワーは侮れんがスピードは私の方が圧倒的に上だ。
…今度は坊やの死角から攻撃すれば問題なかろう)

冷静になったエヴァは余裕の表情を取り戻すと、高速移動で再び姿を消した。
一方、ネギは眼で追い切れないエヴァの動きを前にしても微動だにせず、全身の力を抜くように手足をだらんとさせると、精神を集中するようにしばらく瞼を閉じ、

「…そこだぁっ!!」

後ろに拳を振り抜いた。

「ダハッ!?」

すると、背後にいたエヴァの顔面に裏拳が決まった。
顔を襲った強烈な一撃に思わず手で押さえながら仰け反るエヴァ。

「…くうっ!!」

だが、すぐに立ち直ると『雷化』を発動させ、今度はその超スピードでネギを撹乱させる作戦に変える。

ネギの周囲をほとばしる稲妻と、あちらこちらに現れるエヴァの残像。
―――――だが、ネギは動じない。

「…今度は右っ!!」

「ホバッ!?」

ネギの手刀が首に減り込む。

「…上ッ!!」

「ガッ!?」

続いて上から現れたエヴァに顎へのアッパー。

「…たりゃっ!!」

「ブホォッ!?」

正面からの接近へは腹への膝蹴りを見舞った。

「…でりゃああああっ!!!」

そして動きの止まったエヴァに思い切り振りかぶった拳を叩きつける。

「…!?」

一瞬何をされたのかエヴァも分からないうちに、彼女自身の視界がぐるりと回る。
まるで独楽のように回転しながら吹っ飛ばされたエヴァは氷壁に激突し、そこに身体を埋めた。

「カハッ!! …そ、そんな馬鹿なっ!? わ、私の動きが読まれているだと……」

エヴァは信じられないような面持ちでネギを見る。

「な、何故だ…? 私のスピードは完全に奴の知覚を超えているはず… なのに、なぜ急に反応できるようになったのだ!?」

対するネギは息を荒げながら、エヴァの疑問に答えるように口を開いた。

「…ついさっき見つけたんですよ。あなたのそのスピードを破る秘策がね」

「何ッ!?」

「…あなたの技には弱点があります。それも2つ……!!」










「も、もしかして…今兄貴が押してるのか?」

水晶に映るネギを見ながらカモがぼやいた。

「ああ…そのようだ。 …それにしても、ネギの奴考えたな。
…なるほど、あのエヴァンジェリンの技もまだ完全ではなかったということか」

ピッコロが何気に放った一言にカモが驚愕する。

「へ? だ、旦那っ、そりゃどういうことでい!?」

「…ネギも気づいてるようだが、実はあの『雷化』には大きな穴がある」

「な、何だって!?そいつは本当かい?」

「ああ…おそらく俺が見た限りではその弱点は2つはある……」

「…し、信じられねえ。俺っちから見てもあの魔法の組み合わせは戦術的にも完璧だ。とてもそんな弱点があるようには…」

「…無理もあるまい。ネギくらいの実力がなければ気がつかんし、弱点になりえないだろうからな」

「むっ…そう言われたら気になるじゃないですか。もったいぶらずに教えてくださいよ」

カモに急かされ、ピッコロが説明を始める。

「まず、一つ目。『雷化』したときの奴のスピードは確かに脅威だ。ネギの反応速度を超えているという状況は変わっていない。
…だが、それはあくまで技が発動した一瞬での話。奴の思考速度も速まっているわけではない。だから、身体の動きと思考速度との間にタイムラグができてしまう関係上、常にあのスピードを維持することはできない。
…したがって、攻撃をしていないとき、あるいはあの高速移動から攻撃に移る瞬間は止まっているかスピードが大幅に落ちているはずなんだ」

「な、なるほど…つまり、狙うとするなら攻撃の出掛りを潰す、もしくは攻撃される瞬間にカウンターを決めるのが有効ってわけッスね!!」

「フン…少しは分かっているじゃないか」

ピッコロに珍しく褒められ内心で「イヤァ…」と照れくさく頭を掻いているカモだったが、すぐに表情を引き締め、

「…だけどよ旦那。いくら狙い目があるとはいえ流石にそれを実行するのは難しいぜ。
大体、技の出掛りを潰そうにも兄貴から仕掛けたらスピードで勝るエヴァンジェリンの野郎に返り討ちに会うのは目に見えてる。まあ、だから兄貴はカウンターに徹してるんだろうけど……
そのカウンターだって、あいつの動きが分かって初めて成立するもんでしょ?反応できない動きに対してどうして待ち伏せができるんです?」

「…それができるんだよ。皮肉にも奴が『雷化』しているがゆえにな」

「え…っ!?」

「分からんなら教えてやる。…それが奴の技の二つ目の弱点……」









「今のあなたは“雷そのもの”……自分が落ちる空間の座標を風系の魔法か何かで電位差を操作することで決定しているみたいですが」

一方、戦いが続く氷河地帯では……
動揺するエヴァの前でネギがふてぶてしくも種明かしをしていた。

「…僕には空気の感じで雷が大体どこに落ちるのか予測できるんです」

「なっ、何…だと…」

思いもよらぬ落とし穴。まさか、自分の魔法の性質そのものに突破口があったとは…

「しかも、御丁寧に本物の雷よろしく先行放電まであるんじゃ……カウンターの餌食ですよ」

「くっ…つまり私は貴様に対してテレフォンパンチを打っていたというわけか。そして貴様はギリギリまで攻撃を待ち受け、寸前でそれを見切りカウンターを出す。
……なるほどな。
(…だが、それは一歩間違えれば命取りになりかねん捨て身の技…それをあえて実行するとは…なんて奴だ)」

悔しげに俯いたエヴァが深い溜息を吐く。
そして、グッと力を入れて埋められていた氷壁から脱出する。

「…何と愚かな。坊やに勝てると自惚れて、よもやこんな弱点を見逃すとは…
超エヴァンジェリン一生の不覚……」

強く握り締めた拳からドクドクと血が滴り落ちる。
そして、彼女の魔力光もその輝きを強める。

「だが、わざわざネタをばらすとは…貴様の自惚れも大概だな」

キッとネギを睨みつけるエヴァ。

「…そうかもしれません。僕がこの弱点を見つけたのは本当に偶然でしたし、あなたのスピードが神速、最強の域であるという事実は変わりません。
もし、あなたの『雷化』が瞬間的なものではなく永続的なものだったらおそらく勝ち目はなかったでしょう。 
……が、やはり魔法そのものの属性があなたが得意とするものとあまりにも懸け離れていた。流石のあなたも常時『雷化』を発動することはできなかったみたいですね」

おそらく、この技を習得するのに相当な修練を積んだのだろう。得意というわけではない雷系の魔法をここまで使いこなすのはなかなかできることではない。
だが、悲しいことに生まれながらの魔法属性の相性は努力ではどうにもならなかった…

なんとも憐れな話である。だが、ネギは同情しないし、する権利もない。
ただ、ようやく巡って来たチャンスを逃さないためにも、戦いに集中するだけだ。

「どうやら少しは僕にも運が向いてきたみたいだ…」

ネギの紅いオーラが強まって海面が大きく波打つ。

「…そろそろお互い小細工抜きで決着をつけませんか?」

「フン…調子に乗るなよ? 確かに常時雷化はできないが、それでも貴様の言う二つ目の弱点は近接戦に持ち込めば対処できる。…そうなれば、貴様に勝機はない!!」

「そんなの…やってみなくちゃわからない!!」

「フン…真祖は最強種族だ!! 嘗めるなよぉぉぉぉぉぉっ!!!」

叫ぶとともに稲妻を纏ったエヴァがネギに躍りかかった。
突然のことで、ネギもカウンターを決める間もなく頬に一撃を喰らってしまう。

「ぐうっ!?」

「ハァァァァァッ……デヤァァァァッ!!!」

ネギに隙ができたのを逃さず、エヴァは敵が反応する前に連続で拳を叩きこむ。
一方のネギは反撃する暇も与えられずサンドバックのようにエヴァの攻撃の嵐に曝されていた。

「タタタタタタ……デリャッ!!」

「グハッ…!!」

顎への一撃で仰け反ったネギに蹴りを浴びせかけるエヴァ。
だが、その瞬間


ガシッ!!


「…なっ!?」

「ヘヘヘ…つ、捕まえた」

両腕で足を掴まれたエヴァはそのままネギに振り回される。

「だりゃあああああっ!!!」

豪快なスイングでエヴァを地面へ振り落としたネギ。
するとエヴァは背中から氷に叩きつけられ、クレーターを作った。

「ゴハアッ!!!」

口から吐血し、呻き声を上げるエヴァ。
だが、それも一瞬のことですぐに両足を振り上げ、腹筋を使って跳び起きる。

「…クッソーーーーーっ!!!」

怒りに燃えたエヴァが魔力を解放すると飛び上がり、その勢いでネギの腹に頭突きを喰らわせる。

「ブッ…!? ゴホォッ!!!」

喰らった瞬間激しく嘔吐するネギ。
そして、エヴァはダメージを受けたネギの腹に続けざまにパンチを打ち込んだ。

「ダダダダダダダダ……ッ!!!」

「ガハッ…ゴハッ…グアアッ…ガアアッ…ッ!!」

眼にも止まらぬ速さで打ち込まれていく拳。
一撃一撃に相当な威力を秘めたその攻撃をネギは痛みに苦しみながらも耐えていた。

「喰らえっ!」

エヴァの最後の一撃が叩きつけられようとしたそのとき、
ネギの手がそのパンチを受け止めていた。

「ぬっ!? …ぬうぅぅぅ……」

そして凄まじい力で押し返される。

「てやっ!! …ぐっ!?」

尽かさずエヴァはそう一方の拳も出すが、それも受け止められ、両者が組みあう形となる。


「ギギギギギギィィィィィ……」  「グググググゥゥゥゥゥ……」

以前と違い、今度はパワーも五分と五分。
…いや、若干ネギの方が押している感がある。

「グググ…ッ!? な、ならば…っ!!」

パワーでは勝ち目がないと悟ったエヴァは合気を使ってネギを投げ飛ばそうとする。
…が、

(…ぐわっ!!な、なんだこれはっ!? う、動けない……)

なんと、組んだネギの手がとてつもない力でエヴァの指を握りこんでいた。
指が骨ごと潰されるような激痛にたまらずエヴァが悲鳴を上げた。

「ぐわあああああっ!!!」

「…ハァァァァァ……界王拳ーーーっ!!!」

ネギの纏う炎がさらに強さを増し、握る手にも力を込めていく。
そして、エヴァの方へ顔を近づけ、頭を後ろに反らせるとそのままさっきのお返しとばかりに頭突きを放った。


ドゴッ!!!


「ガアアアアッ!!?」

喰らったエヴァの額から血が流れる。
しかし、ネギはそんなことお構いなしに何度も額をぶつけてくる。


ドカッ! ドゴッ! ドゴドゴッ!!


「ぎゃあああああっ!!」

幾度となく響く鈍い音。そして悲鳴…
最後に強烈な一撃を喰らい、ようやく解放されたエヴァは激痛に顔を押さえて後退る。
額からの血がいつの間にかエヴァの目に入り、視界を塞いでいた。

「ハァ…ハァ…ハァ……」

対するネギの身体もかなりの疲労を蓄積していた。
骨が、筋肉が、腱が、内臓が…それぞれ引き千切れるような音を立てている。
動きの方も時間が経つごとに鈍くなっていく。―――――このまま畳みかけないと危ない。

「ぐうっ……おのれぇぇぇ……」

「!?」

だが、ネギがフッと意識を逸らしている間に、いつの間にやらエヴァの額の傷が塞がっており、彼女がこちらを睨みつけていた。

(ま、まさか…これが真祖の超回復能力!?)

話には聞いていたがここまでとは…
流石に体力の回復まではできないようだが、それでも怪我や傷がすぐに癒えてしまうというのは厄介だ。

こちらはもうボロボロだと言うのに…

「良い気になるなよ!! 青二才がっ!!!」

高速で間合いを詰めたエヴァのスピードが乗ったパンチがネギの鳩尾にヒットする。
その勢いで 身体が“く”の字に曲がったネギだったが、

「グウゥ……フンッ!!!」

「ゴッ!!?」

すぐにボディブローを返す。
そして、今度はエヴァが前のめりになる。

「チィィ…ッ!! ダリャッ!!」

エヴァの右ストレート。
ネギはまともに喰らってしまうが、倒れずそのままフックを浴びせる。
そして喰らったエヴァがバランスを崩す。そして、再びパンチを打ち込む。

―――――こうしてネギとエヴァによる激しい討ち合いが始まった。









「す、すげえ…両者一歩も引いてないぜ」

眼にも止まらぬパンチの応酬に興奮した声を禁じえないカモ。
しかし、隣でピッコロは別の印象を受けた。

「妙だな…」

「え……? そのセリフさっきから何度も聞いてるんですけど、今度はどうしたんです旦那?」

「限界以上の力を出しているネギはともかく、エヴァンジェリンの奴、どういうわけか勝負を焦っている…」

「え…? それって、単に兄貴が予想以上に強かったから、早く勝負を決めたいだけじゃないんですかい?」

「いや…それだったら、単に長期戦に持ち込んだ方が確実だ。ネギは長時間あの状態を保っていられない。だから時間を稼いで自滅を待つ戦法を使えば勝てることは奴も気づいているはず…」

「いや、でも相手はあの『闇の福音』ですよ? さっきの意気込みからして、正々堂々戦いたいんじゃないんスか?顔からしてプライド高そうですからね、あの女…『そんな戦法は卑怯だ』って、奴の矜持が許しませんよ、きっと」

「フム…それもあるかもしれんが…」

ピッコロの頭にはには何かが引っ掛かっていた。
今映っているエヴァの様子が…いつもの冷静沈着な彼女とどこか違う気がするのだ。

気になったピッコロは思わず16号たちの方にも視線を向けてみる。
すると、先程に比べて明らかに食い入るように画面を見つめている16号の顔が目に入った。
そして普段寡黙な彼が驚いたように口を開いた。

「…まずい…… このままではエヴァは…」







「くうぅ……っ!!」

腕をクロスさせて受けたエヴァのパンチの衝撃で、数メーター後ろに飛ばされたネギは地面に足を引きずらせることで踏みとどまった。

「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」

ここまで来るともはや体の方は限界がどうこう言うレベルを超えている。
一体、後何分立っていられるだろうか。

「ククク…貴様もそろそろ限界が近いらしいな。ここまで良く頑張ったよ。
……なあに、心配することはない。今楽にしてやる」

対するエヴァも息を乱してはいるが、ネギよりは幾分余裕な表情を浮かべている。

「ぐっ…! まだ終わってもいないのに、ちょっと気が早いんじゃないですか?」

「…フン。口の減らぬガキめ」

だが、ネギが強がりにもとれるような発言にすぐにその表情を曇らせた。
どうやら、表と異なり、内心はそこまで穏やかではなさそうだ。

「まあいい…すぐにその口も聞けなくしてやる!!」

そう啖呵を切ると、エヴァはこれまで以上に魔力を高め突っ込んできた。

「…ぐうぅ……負けるもんかーーーっ!!」

そしてネギも3倍界王拳でこれを迎え撃つ。


「ダダダダダダダダダァァァァァァァッ!!!」   「ウラウラウラウラァァァァァァァッ!!!」


再び始まった殴り合い。
お互いの拳と拳が激しくぶつかり合う。


ダァンッ!!   ドゥンッ!!    ズゥゥゥンッ!!
 

…そして、紫と赤のオーラの接触面から吹き荒れる暴風が2人の立つ氷山を突き崩していく。


ゴゴゴゴゴゴォォォォォォォ………


―――――拮抗しているように思われたこの肉弾戦。
…だが、実際の戦況は大きく傾きつつあった。

「ダダダダダダ…ッ!!!」

「ぬっ!? グオッ!? ……ば、馬鹿なっ!?」

徐々に…徐々にではあるが、ネギが勢いに乗り始めている。
一方のエヴァはこのネギの気迫に押されていた。
―――――いつの間にかネギの攻撃に対し防戦一手になってきている。


ドゴンッ!!


「ぬおっ!!?」


ダーーーンッ!!


「ガハアッ……」

ついに重いのを2発立て続けに腹にもらってしまったエヴァ。
その衝撃で動きが止まったのをネギは逃さず、

「ハァァァァァッ!!! ……デリャァァァァァッ!!!」

そのまま畳みかけるように無数の拳打を放った。

「グォォォォォォォォッ!!?」

エヴァは急激に蓄積するダメージに呻き声を上げ、

「ハアッ!!!」

「!?」

ネギが顎に叩きつけた最後の一撃で遥か先の氷山まで一気にブッ飛ばされる。


ドドドォォォォォ……ッ


また一つ崩れていく氷河。
その瓦礫の下敷きになっているであろうエヴァに視線を送りネギはようやく息を整えた。

今のはこれまでで最高の一撃だった。
さしものエヴァも大ダメージは避けられまい。

……だが、ネギの方もこれ以上身体を動かすのは難しい。
正直なところあれで戦闘不能になってくれればありがたいのだが…








―――――ぐっ…ぐわああああ……っ!! 何だこの痛みはっ!?

―――――…まさか、坊やに…あんなガキにやられたと言うのか!?……この私が?

―――――ありえん…あってはならない。私は『闇の福音』だぞ!?この世で最も強い悪の魔法使いだぞ!?

―――――その私に…また…またあんな屈辱を味わえと言うのか!?

―――――それでは、これまで何のためにあんな苦しい思いをしてきたのだ!?

―――――あの修業が…全てが…無駄になってしまうというのか!?

―――――許せん…許せんぞ…ネギ・スプリングフィールド…

―――――貴様は…貴様だけはこの私の手で…殺す!!

―――――殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスッ!!!

―――――コロシテヤルゾ……ボーヤァァァァァッ!!!







「…っ!?」

「…どうしたの茶々丸さん?」

「こ、これは…まさか…」

網膜に映るパワーレーダーのデータを見て戦慄する。
…茶々丸は気づいてしまった。 …そして後悔した。
彼女の最も恐れていた事態が今まさに起ころうとしていることに……





ドゴォォォォォォッ!!!


「なっ…!?」

急激に高まった魔力で瓦礫を吹き飛ばし現れたエヴァンジェリン。
だが、その姿を見た時ネギは己が目を疑った。

―――――そこにはかつての高貴な姿は見られず、あるのは禍々しさだけであった。

―――――見たときに、まずぱっと目につくのは全身に走る魔法式を象った謎の刺青。

―――――そして彼女の瞳は…闇の色に沈んでいた。

「え、エヴァンジェリンさん…!? こ、これは一体…」

事情の飲み込めないネギは変わり果てたエヴァに戸惑いを浮かべるばかり。

だが、そんな彼女の瞳が自分を射抜いた瞬間、彼は感じた。
エヴァがこれまで自分に向けてきた中で最もはっきり殺意をぶつけてきたことを……

「クックックックックック……ハーーーッハッハッハッハッハッハッ!!!」

ネギを睨みつけたかと思えばいきなり高笑いするエヴァ。
だが、その全身からは先ほどよりもはるかに巨大な魔力がほとばしっていた。

(な、なんて魔力だ……さっきとはまるで比べ物にならないぞ…)

ネギは信じられない面持ちでそれを見つめる。

「……ソウダ…簡単ナコトダッタンダ…」

声の質も違っている。トーンが下がっているような…

「目障リナラサッサト消シテシマエバヨカッタンダ…フハハハハハ……」

理由は分からないがエヴァの様子がおかしいのは確かなようだ。
ネギは得体の知れないオーラを醸し出すエヴァに構えをとりながら対峙する。

「フフフフフ……殺ス…コロシテヤル…貴様ナンカコロシテヤルゥゥゥゥゥッ!!!」

「…っ!? 危ないっ!!」

雄たけびを上げたエヴァが全身の魔力を解放。
それに対しネギも咄嗟に防御の体勢をとる。

―――――たちまち周囲一帯を激しい光が包み込み、大きな衝撃波が生まれる。


カッ!!!


ドドォォォォォッ!!!


「ぐっ……う、ううう…なっ!?」

光と爆風に目を覆っていたネギの視界が回復した時、彼は唖然とした。
この海面一帯に広がっていた巨大な氷河はネギ達の立っている地面を残し、ことごとく消し飛ばされていたのだから…。





「きゃっ!」

「くっ…!!」

さほど離れていない明日菜たちもエヴァの放った衝撃波の煽りを受け、咄嗟に危険を察知した茶々丸が明日菜を抱え上空に退避した。

光が納まると、眼に映った光景に言葉を失う明日菜。

「ど、どうなっちゃってんのよ…これ…あれだけ氷が浮かんでいたのに…全部海になっちゃってる…」

呆然と見つめるしかない明日菜。
一方茶々丸は焦った様な声で、

「…いけません!今のマスターは完全に正気を失っている。このままではネギ先生の命が危ない!!」

「え…っ!?危ないって…どういうことよ!?」

明日菜の問いに茶々丸が重い口を開いた。

「…あの『闇の魔法』は魔法を取りこむことで強大な力を手に入れることができる半面、術者であるマスター自身の“魂”を対価として払わなければならないのです。
ですから、発動している間は魔法が癌のようにマスターの身体や精神を少しずつ侵していくわけです」

「そ、それって凄くやばいじゃないの!!」

「ええ…普通の人間でしたら何かしら対処しないととても無理でしょう。
……ですが、マスターの場合、真祖としての肉体と、長い年月をかけて培われた並はずれて強靭な精神力が魔法による汚染を最小限に抑えていたので今まで大した問題にはなりませんでした。
…が、今回我々とって誤算だったのは、ネギ先生がこの決闘を決して諦めなかったこと。そして、マスターの『雷化』を弱点を見破り、そこを突いて反撃してきたことです。
……正直、マスターもここまで追いつめられるとは思ってなかったはずです。あの術式兵装にはかなりの自信を持ってましたから。
しかし、さっきのネギ先生の攻撃によってどうやらその自信も崩され、マスターの心理状態は不安定になり闇の浸食が一気に進行したようです」

「ええと……つ、つまり、あのエヴァちゃんの姿はその『闇の魔法』ってやつのせいってこと?」

「…はい。今のマスターは精神を完全に闇に飲み込まれた凶暴な殺戮マシーン。おそらくネギ先生を殺すまで止まらないでしょう」

「そ、そんなっ!! ど、どうにかならないの?」

「…残念ながら私達とマスターでは力があまりにも違いすぎています。介入したところで足手まといになるどころか事態を混乱させるだけです。そうなるとできることは限られています」

「…助けを呼ぶってことね」

「はい。…幸い、さっきいた空間の方には兄さんたちがいます。兄さんたちなら今のマスターを止められるかもしれません」

「…っ!? だ、だったら…茶々丸さんお願いっ!! ネギを…ネギを助けてあげて!!」

「…わかりました。マスターにネギ先生を殺させることは我々の本意ではありません。こうなったら決闘がどうとか言っている場合ではありませんし、協力いたします。
…ですがその前にどこか安全な場所に着陸しましょう。アスナさんをずっと抱えてるわけにはいかないので…」

そう言うと、茶々丸は僅かに残っていた陸地を適当に選び着陸した。
そして明日菜を下ろすと、転送魔法を発動させるためのプログラムを起動させる。

「ではこれより転送用の魔法陣を……っ!?」

ところが、魔法陣を展開しようとした茶々丸の瞳が驚愕に見開かれる。

「どうしたの?」

「そ、そんな…転送魔法が起動しない…?」

「えっ…な、何でよ!?」

「分かりません。…まさか、マスターの魔力が暴走したことで空間同士のリンクに障害ができてしまった!?」

ロボであるがゆえに、普段は冷静な口調の茶々丸の声が傍から聞いてもわかるくらいに動揺している。

「…どうやら、マスターのあの暴走を止めない限り、転送魔法は使えないみたいです」

「ええっ!? そ、それじゃ…助けを呼べないどころか逆にここに閉じ込められちゃったの、私達っ!?」

「……すみません」

「ギャーーーッ!!! ピンチじゃないのーーーっ!!!」

明日菜の絶叫が響き渡る。

(…どうやらネギ先生自身で切り抜けてもらうしかありませんね。ここは…)

茶々丸は今戦っているであろう少年の方へと目を向けた。
その瞳には、少年に対する心配と僅かな期待が見え隠れしていた。






一方、ネギの方はと言うと、爆煙に包まれて姿の見えない敵に対し、依然として警戒を続けていた。

「ど、どうしちゃったんだ…エヴァンジェリンさんは…」

あの豹変したエヴァは明らかに正気を失っていた。
かつての理知的な顔はどこにも見当たらなかったのだ。
一体彼女に何があったというのだろう?
そこまで、頭に浮かんだ時ネギはある考えに辿り着いた。

「…まさか、僕の界王拳のように、『闇の魔法』にも副作用があったのか!?」

だとすれば『闇の魔法』とは何と恐ろしい術なのだろう。
術者の人格そのものまで変えてしまうとは…

(…でも、もしそうだとしても、エヴァンジェリンさんを“怪物”に変えてしまったのがその魔法なら、なおさら僕は逃げるわけにはいかない…
彼女は僕の生徒なんだ。僕が助けなくちゃ…!)

ネギが睨みつける先では徐々に煙が晴れ始めていた。
やがてその中から不気味な笑みを浮かべたエヴァが現れる。

「ハハハハハ……ハーッハッハッハッハッハッ!!!」

狂ったように笑うエヴァを中心として魔力の波が同心円状に広がっていく。

「ククククク…終ワリダ、オワリニシヨウ…ネギ・スプリングフィールド」

そう言うと、エヴァは空高く舞い上がった。

「…っ! 何をする気だ!?」

エヴァが動き出したことで、ネギの頭の中の警戒信号が最高潮になる。
この期に及んで一体何をやらかすつもりなのか…?

「…モハヤ生カシテハ帰サン…貴様ノ身体ヲ塵一ツ…イヤ、原子一ツタリトモ残サズ消シサッテクレルワッ!!!」

エヴァが両腕を横に広げる。
そして、魔力光をさらに強めてそれぞれの手に魔力を集中させていく。

「ハァァァァァァァァ………」

それぞれの手に収束されていく魔力。
だが、その性質は左右の手で全く異なっていた。

「右手は…炎系の魔法。そして左手は……ん? 氷系の魔法!?」

なんとそれぞれの手に相反する二つの魔法を発動させたエヴァ。
意図することは未だ不明だが、それでも額に筋を浮かべながら魔力をさらに高めていく。

「アアアアァァァァァ……」

闇色に染まるオーラが海に小波を起こし、大地を揺るがせた。
まるで世界の終りが近づいているかのように…











「おいっ!! 向こうの空間に行けないとはどういうことだ!?」

「オイオイ、ソウ怒ルナッテ……コレデモ全力ヲツクシテルンダゼ?
ダケドヨ…御主人ノ魔力デ転送魔法ガ使エナクナッテルンジャコッチモオ手上ゲダ」

ピッコロの怒声に対し、チャチャゼロはマイペースな口調で肩を竦める。
実は先程のエヴァンジェリンの魔力が暴走したことで、こちらの水晶の映像が急に映らなくなってしまったのだ。
この別荘内では『千里眼』の能力を使うことができないピッコロは、ネギ達の様子が気になり明日菜達と同じ手段で向こうの空間に飛ぼうとしていたのだが…
やはりこちらでも転送魔法に不具合が生じていた。

「旦那…兄貴が心配なのは分かりますけど落ち着いてくださいよ。いつもの旦那らしくありませんぜ?」

「むっ…し、しかしだな…」

カモにまで諭されて渋い顔をするピッコロだったが、カモの言うことは正論。ここは冷静になるべきだ。

「……すまん。どうもあいつのことになると自分を抑えきれんらしいな、俺は…」

「…オッ!? 映像ノ方ハナントカ戻ッタミタイダゼ」

チャチャゼロが指さした先には、さっきまで“氷河地帯”と呼ばれていた場所のすっかり様変わりした光景が映っている。

「…こいつは酷ぇや」

ビフォアとアフターでこうも変わってしまうのかと、目が点になるカモ。
だが、問題はそこではなかった。

「…っ!? おい、エヴァの方を見ろ!!」

「…オイオイ。マジカヨ」

ほとんど会話に参加していなかった16号がエヴァの姿を見た時、初めて大声で叫んだ。
それにチャチャゼロが信じられないとでも言いたげに呟く。

「…なっ!? あ、あの構えは……」

そして、エヴァの取った謎の構えにピッコロも見覚えがあった。
それはかつていた世界で、彼と共に戦ったある戦士が使っていた技にそっくりだった。
…だが、良く見るとその技と少しばかり違うところがあるようだ。

「16号…あの技は何だ?」

「……ピッコロ。お前も知っているはずだ。地球にセルが現れた時、ベジータが放ったあの技を……
それを、エヴァが独自の工夫を凝らして完成させたのがあの術だ。
……だが、そのあまりの破壊力に、『闇の魔法』よりも危険だと判断し、この決闘では絶対に使うまいとあいつ自ら断念した禁断の術…」

「禁断の術だと?」

「ああ………。  あれを一発放っただけで地球くらいの星なら粉々にできるくらいのエネルギーはある。
―――――エヴァは本気で殺す気だぞ…あの少年を!」

「!!?」

ピッコロたちが心の底から身震いした瞬間だった。







「…いけないっ!! あの構えは…っ」

「こ、今度は何っ!?」

今までで一番焦りを見せている茶々丸に明日菜は嫌な予感しかしなかった。

「……右手に炎、左手に氷。間違いない。マスターは“あれ”をやろうとしている…!!」

「あ、“あれ”?」

「…マスターがこれからやろうとしているのは、それぞれの手に正と負の熱エネルギーをもつ2つの魔力を集め、それらを一点に集中させてスパークを起こし、全く新しいエネルギーを生み出すというものです。
―――――口で言うのは簡単ですが、もともと相反する二つのエネルギーを融合させるなんて芸当は本来できるはずがないのです。しかし、マスターはそれを可能にした…
……こうして生まれるエネルギーは触れるもの全てを消滅させる威力があります。
……おそらく、現在存在する数多の攻撃魔法の中でも最強を誇るでしょう」

「ま、待って!? そんなもの出すなんて聞いてないわよ!」

「…これは私も想定外でした。いわばあれはマスターの技の中でも奥の手中の奥の手…しかも、この戦いでは使わないと思ってましたから…
…にも拘らず、この場であれを出したということは、マスターはこの空間ごとネギ先生を消滅させるつもりのようです」

「ちょっ!? …防ぐ手段はないの!?」

「…残念ながら今の魔法技術では、単純に力で押す以外対処のしようがありません」

「そ、そんな…」










「アアアァァァァ……」

エヴァの魔力密度が上がるにつれてその周囲がビリビリッと放電する。
まるで、彼女の周りに結界でも張ってあるかのようだ。

「くっ…それにしても何てバカでかいエネルギーだ!」

焼けつくほどの威圧感がこちらにも伝わってくる。
エネルギーの大きさからして地球まで破壊できてしまいそうである。

「…まさか、エヴァンジェリンさん本気でそんなことを…!?」

ようやく、エヴァの意図を理解したネギが血相を変えた。

「え、エヴァンジェリンさん止めてください!!そんなことをすればここはおろか地球まで壊れてしまいます!!」

「ハァァァァァァァァァァ……」

「エヴァンジェリンさん!!」

ネギが呼びかけるが、エヴァはまるで聞く耳を持つ様子はない。
むしろ、ますますヒートアップしていく。

(ダメだ…僕の声が届いていない…クソッ!!!)

無念の表情を浮かべ、エヴァを見つめるしかないネギ。

「でも…このままじゃ… 『ネギ…聞こえるか、ネギっ!?』 …っ!?ぴ、ピッコロさん!?」

突然頭に響いてきたピッコロの声に驚くネギ。

『今お前の頭の中に話しかけている……空間を飛び越えてだが、なんとか成功したようだ。
…頼む。これからエヴァンジェリンを止めるために力を貸してくれ!!』

「ぴ、ピッコロさん…何でそのことを…」

『訳は後で話す! …いいか、良く聞いてくれ。今奴は闇の魔法とやらの影響でまともな精神状態じゃない。おまけに今から放とうとしている技は地球を破壊できるほどのとんでもない威力があるらしい。…どうやら、お前のことを本気で殺す気のようだ。
だが、お前たちがいる疑似空間でそんな危険な技を撃てば、お前だけじゃなく、エヴァ自身、そして無関係な明日菜達まで巻き込んで、空間ごと消滅してしまうだろう。その事態だけは避けねばならん。
…本当は俺が止めたいところだが、空間の転移が上手くいかないらしくてな…残念ながらそっちまで助けに行くことができん。情けない話だが、ここはお前の力に頼るしかないらしい…』

「ピッコロさん…」

『…身体が既にガタガタなのは分かっている。だが、あと少し…もう少しだけ踏ん張ってくれないか…』

ピッコロの声がネギの心に染みわたっていく。
…正直身体の方はとっくに限界を超え、パワーも落ち始めている。そんな状態であのエヴァの力に対抗できるかといえば、不安にならざるを得ない。
しかし、ピッコロの声を聞くと不思議とそんな恐れに似た感情が薄まっていくのだった。

「…わかりました。やれるだけのことはやってみます。僕の全ての力を出し切って…必ず彼女を止めてみせます!!」

『…すまん。こんな頼りない師匠で…』

「謝らないでピッコロさん。僕はその声が聞けただけで十分です。それに、こういうときに言って欲しいのは“ありがとう”…ですよ」

『そうか…“ありがとう”…か…フフッ…これは一本取られたな』

どこか嬉しさが滲んだピッコロの声。
これも親心といったところか。

『…なら、あとは任せたぞ! ブッ飛ばしていけ、ネギ!!』

「…はいっ!!  ……ハアアアアァァァァッ!!!」

ピッコロの激励を受け、ネギの気がさらに上昇する。
地面に散らばる瓦礫の破片一つ一つがその気迫に突き動かされて宙に舞った。




「アアアアァァァァァッ!!!  ……コレデ貴様ノ最期ダァァァッ!!…消エ失セロッ!!」

ついにエネルギーの充填を終えたエヴァが、両手を合わせ二つのエネルギー塊を一つにする。
炎魔法の赤、氷魔法の青い輝きが合わせた両手の中で混じり合い、紫の光を放つ。
まだ見た目は両手に収まるくらい小さいものの、圧縮されたエネルギーはかなりのもの。この空間を消し去るなどわけもない…

「喰ラウガ良イ!! コノエヴァンジェリンガ最終奥義…『終焉ノ撃滅光(ファイナル・フラッシュ)』ヲ!!」

いよいよ放たれる…エヴァの最大最強の技が。




「…来るかっ!!」

相手が仕掛けてくるのを感じたネギは構えをとると、

「3倍…界王拳ーーーっ!!!」

界王拳を発動し、真っ赤な炎と化した。
そして、脇を絞めながら両手を一旦腰溜めに構える。

構えながらネギの頭を過ぎるのはあのとき見た孫悟空とベジータの一戦。
何の因果か、あのときと構図はまるで同じ…。

(あのときの悟空さんのように…  僕も信じるしかない…自分自身の力を!!)

ネギの両手が頭上で組み合わさった時、彼は叫んだ。

「…3倍界王拳の…魔閃光だーーーっ!!!」







「いよいよぶつかります。マスターとネギ先生の最大の技が…」

「ね、ネギ……」





「兄貴~~~っ!!頑張れ~~~っ!!!」

「…頼むぞ、ネギ」

「エヴァ…」

「ケケケ…コイツハ覚悟決メタホウガイイカモナ」




多くの者が見守る中、
ネギとエヴァ、両者の手に集中したエネルギーが、

「ファイナルゥゥゥゥゥ…フラァァァァァッシュ!!!」

「魔閃光ーーーっ!!!」

ついに激突した。


ドウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!





果たして勝つのはエヴァの執念か…それともネギの不屈の魂か…

泣いても笑っても全てはこの一撃にかかっている。

ネギvsエヴァンジェリン戦…決着はもう目前に迫っている。






<次回嘘(?)予告>

悟空「オッス!!オラ悟空!! ネギとエヴァ、お互いの最大技がついにぶつかった。互いの生死が賭かってるこの戦い…もうオラにもどう転ぶのかわからねえ…」

ネギ「もはや、勝つかどうかは問題じゃない…エヴァンジェリンさんを止める。ただそれだけのために僕はこの一撃に全てを賭ける!!!」

悟空「次回ドラゴンボールMAGI 『飛びだせっ!!  ネギのとびきり全開パワー!!』」

ネギ「いくぞ!! これが限界をさらに超えた…4倍界王拳だああああっ!!!」







あとがき

何…? このgdgd感溢れる展開は…?
どうしてこうなった…orz

すみません。私からはもはや何も言えません。
他作品のパクリとか、展開がテンプレじゃないかとか、長ったらしい説明のオンパレードだとか…

…仕方なかったんや!! 書いてたらいつの間にかこうなってたんだもん…

許されるか分かりませんが、とにかくすみませんでしたっ!! m( _ )m

…あ、一応次回でエヴァンジェリン編は終わる予定です。 時間かかりすぎだね…ハイ。

p.s.
一応言っとくと、エヴァのファイナルフラッシュの元ネタはむろん某緑の大魔導師のあの必殺奥義です(汗)…出してよかったのだろうか?



[10364] 外伝・・・みたいなもの?(誤字訂正)
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/11/28 02:05
<注意!!>

* これは外伝と銘打っているようですが、作者の妄想の塊にすぎません。妄想乙な方は引き返した方が良いです。

* キャラが作者好みに改変されてます。原作のキャラの方が好きな方はご覧にならない方がいいかもしれません。

* 正直ネタ的な要素が強いので、展開がおかしいです。ご注意ください。

それでもよろしい方はどうぞ





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





とある時空のとある宇宙に存在する地球という惑星で今一匹のカエルがその生命を終えようとしていた。

河原に堂々と佇む岩の上にじっと蹲ったまま身動き一つしない。

もはや動くことはおろか呼吸することさえ困難なのだ・・・このカエルは。

それくらい衰弱してしまっている。

どの道助かりはしないであろう。彼に出来ることはただ死を待つことのみ。

しかし、彼はそれでも満足だった。

彼はカエルとしてはあまりにも長い時を生きた。カエルとしての年齢を人間で置き換えていえば運百歳にもなるであろう。

なぜカエルなのにそこまで長生きできたのか?それは彼はカエルはカエルでも地球のカエルではなかったからだ。

そう彼は地球以外の星に生息するカエル・・・宇宙カエルともいうべき存在だったのだ。

そう言えば、確かに彼の頭には地球のカエルには見られない触角が付いている。これが彼が他の星の生物であることの証であろう。

彼のいた星ではどの生物も地球のものに比べて寿命が異常に長かった。

そのため、地球では長寿カエルとして生きてこれたのだ。

しかし、そんな彼もついに寿命を使い果たし今逝こうとしている。

彼は薄れいく意識の中で思った。


(はあ・・・長かった・・・。これで俺の人生・・・いや、蛙生か?・・・それももう終わるのだな・・・。思えば始めはあんなに嫌だったこの生き方も案外悪くなかったな・・・)


カエルのくせにやけに人間臭いことを考えると読者は思うかもしれない。それもそのはず・・・実は彼はもともとカエルではない。・・・いや、正確には“彼の中の人”といった方が良いかもしれない。

というのも、彼の肉体はカエルそのものなのだが、彼の精神は正真正銘人間のものだったからだ。

つまり、カエルの体に人間の精神が宿っている。

え?そんなカエルが存在するの?・・・ここにいる!!彼こそはもともと人間だったのがとある事故によってカエルと中身が入れ替わってしまった憐れな存在だったのである。

人間だったころの彼は宇宙でも有数のエリート戦士だった。宇宙の帝王と呼ばれたお方に仕え、誠心誠意働いた。

数多の星を侵略し、人を殺し、破壊した。

地球人から見たらなんともおぞましい生き様。しかし彼はそれに生きがいを感じていた。あのお方のために働き、血を流すことこそが幸せだと本気で思っていた。

やがて彼にも部下が付き、軍の中でも高い地位を確立するに至った。

彼は満足していた。幸せだった。あの日までは・・・

あの日、カエルの体に乗り移ってしまったあの日、彼の人生は大きく変わった。

エリート戦士からカエルなどという下等生物への転落。あの頃の栄光などもはや微塵もない。

彼が仕えていた主もどうなってしまったのか定かではない。

しかし、仮に生きておられたとしてもこんな惨めな姿の彼など切り捨ててしまわれるだろう・・・

屈辱だった。しかし、今さらどうにもならなかった。

元に戻れないと知った時、エリート戦士だった彼は死んだのだ。

ここにいるのはただの憐れなカエル。

最初はその事実を受けられなかった。なんとか現実を打開しようともがいた。しかし、いつからかそれも無駄と悟った。

すると、時がたつにつれ不思議なことに徐々にカエルである自分を認められるようになっていた。

そうしてカエルとして生きていくうちに彼は弱きものの気持ちを知った。弱肉強食の中であっても命がどれだけ尊いものかを知った。

やがて彼は己のこの姿に一つの結論を出すことになる。


『これは世界が俺に与えた罰なのかもしれない。いたずらに命を弄んだこの俺に対する・・・』


そこには残忍だった彼の面影はどこにもなかった。もともと彼は戦士としてフェアの精神を志していた。根っからの悪というわけではなかったのだ。

だから、自分の所業を冷静に見て悔い改めようとする気持ちが出てきたのである。

それからの彼は必要以上の殺生は行わず、また奪った命に対しても畏敬の念を表するようになった。

以前の彼の主が見たら「何を甘ったれたことを・・・」と毒づいていたかもしれないが、彼は甘ったれでもよかった。

もう昔の俺ではない。もっとフェアな生き方をしよう・・・そう決めたのだから。

そんな彼もいつしか伴侶(もちろんカエル)ができ、子供も生まれ、カエルとして十分に生を満喫した。

寿命が長い分、知り合いの死に目に出会う悲しみも経験した。

いろいろなことを乗り越え今の彼がいる。だから・・・


(この生き方に・・・後悔などあるものか・・・)


死ぬ間際になって彼は一人ごちる。

身内もいなくなり、もはや自分ただ一人。この世に未練があるわけでもない。

だったらあとは黙って死を待てばいい。

だが、彼の心で何かが引っ掛かる。


(もう充分に生きたじゃないか。これ以上何を望む?俺は何が心残りなのだ?)


頭に霞が掛っているにも関わらず自問自答を繰り返す。

すると、ぼんやりとかつて人間だったころの自分の姿が浮かんできた。

かつて部隊で隊長と呼ばれた自分を4人の隊員たちが囲んでいる。

それを見てハッとする。


(そうか・・・そうだったのか・・・)


光を失い濁った瞳を開けながら彼は悟った。


(俺は・・・戦いたかったんだ。かつてのように・・・戦士として・・・)


内心でフフフ・・・と笑う。


(あいつらと一緒に馬鹿騒ぎをして、フリーザ様に叱られて・・・そして戦士として思いっきり戦って・・・)


今となっては叶わない夢をまだ見続けていたのか・・・


(どの道俺は死んだら地獄行き・・・なら、あいつらとも会えるかな?ハハハ・・・だったらさっさと死ねば良かったじゃないか。まったくそんなことを今頃になって気づくとは・・・)


自嘲しながらも表情は穏やかだ。


(ジース・・・バータ・・・リクーム・・・グルド・・・もし地獄とやらで会うことができたならば、今一度・・・)


そしていよいよ彼の意識を闇が覆い始める。


(・・・特戦・・・隊・・・を・・・)


彼の精神は完全に闇へと落ちて行った。

今ここにカエルとしての彼の生は終わりを告げた。

しかし、彼の魂がどういうわけか時空の歪みによって地獄に行かず、全く別の世界に飛ばされていようとは思いもしなかったに違いない。

・・・そういえば、彼には人としての名前があったのをすっかり忘れていた。

いつまでも“彼”では失礼だろうからきちんと名前で呼んであげよう。

彼は・・・

ギニュー特戦隊隊長『ギニュー』という。




ドラゴンボールMAGI外伝『ギニュー特戦隊奮闘記!!  ~新生特戦隊誕生!!の巻~  』




ここはとある時空にある地球の現実世界、その裏側に存在するもう一つの世界―――――俗に魔法世界と呼ばれている。

“魔法世界”という呼び名からわかるように、ここでは『魔法』が日常で使われ、人間だけでなく、獣人や悪魔なども共存して生きている。

まさに、ファンタジーの世界なのだ。

そこで一人の男が目を覚ました。





~side ギニュー~

ん?・・・ここ・・・は・・・?

・・・ついに地獄とやらに着いたのか?

俺は寝ぼけた眼を手でこすりつけながら辺りを・・・

・・・待て。手・・・だと・・・?

俺は視線を落とす。

そこにはさっきまで見なれていたカエルの肢ではなく、かつて人間だったころの、あの紫の肌に覆われた手があった。


「な!?・・・こ、これは・・・」


さらに今の俺は昔着ていた懐かしい戦闘服に身を包んでいる。


「これは・・・もしや・・・」


ぺたぺたと顔に触れてみる。

―――――長いこと忘れていた人肌の感触、頭部に生えた角・・・

ああ・・・何もかも皆懐かしい・・・

ふと、近くに河原があることに気付いた。

この時点ではすでに90%以上確信していたが、それでも俺は確かめずにはいられなかった。

すぐさま川の水面を覗きこみそこに映った自分の姿を垣間見た。


「あ、あ、・・・ああっ!!!」


やはりというか、水面にはカエルになる前の俺の顔が映っていた。

・・・俺は、元の姿に戻れたのだ!!


「俺は・・・まだ生きているのかっ!?」


胸に手を当てると心臓の拍動を感じる。間違いなく俺は生きている。

だが、俺はあのままカエルとして死んだはず・・・それが何故・・・

まさか・・・これも天命なのか・・・


「そうか・・・!!最後の最後に天は俺の願いを聞き入れてくれたのかっ!!」


なんとも不思議なことがあるものだ。この身体で再び生を与えられる日が来るとは・・・

まさか本当に元に戻れるとは思いもしなかった俺が年甲斐もなくはしゃいでしまったのも仕方がなかったと言えよう。


「ハハハ・・・こんな嬉しいことがあろうか?これでまた戦士として生きられるのだっ!!」


俺はただ元の肉体に戻れたことへの喜びに溺れていた。


「そうだ・・・元に戻れた記念にスペシャルファイティングポーズをやってみるか!!」


せっかく人間の身体に戻れたのだからあれをやらないことには始まらない。


「ハーーーッ!!!ギニュー特戦隊!!隊長!!あっギニュー!!!」



バーーーンッ!!!



・・・フッ、極まった・・・

・・・ん?いや、待て。何だこの妙な虚しさは・・・

俺は・・・何か大事なことを忘れている・・・?

・・・はっ!!し、しまった!!!

スペシャルファイティングポーズは“5人揃わなければ”美しくないんだっ!!

特戦“隊”と言う以上、一人でやっていては意味がない・・・

俺としたことがなんという初歩的なミスを・・・!

これは早急にジースたちを・・・ん?

そういえば、あいつらは死んでいるんだった・・・

これでは探しても見つかるわけがない。

・・・いや待て。そもそもここはどこだ?

俺は辺りを見回した。

様々な星を渡り歩いてきた所為か何となくここが以前いた地球とは違う星であることはわかった。

もっとも自然は地球に負けず劣らず美しかったが・・・


「いきなり他の星に飛ばされるとは・・・夢でも見ているようだぜ・・・」


頬を抓ってみたので夢ではない・・・はず!

まったく、運命というのは粋なことをしてくれる・・・


「とにかく、今やるべきことは・・・新メンバーのスカウトだ!!」


うむ。特戦隊がたった1人ではカッコがつかないからな。

・・・できればあの4人と一緒にやりたかったが今となっては・・・な・・・。

・・・あいつらも皆俺を慕って着いて来てくれた気のいいやつらだったのに・・・残念だ。

ここまで割り切れてしまう俺は・・・ひどい隊長だな・・・

時の流れとは・・・残酷だ・・・


「・・・感傷に浸っている場合じゃないか。とりあえずその辺を探索してみよう。良い人材が見つかるかもしれん」


長いことこの身体を使っていなかったので慣れるまで時間がかかりそうだ。最大戦闘力が落ちていなければ良いが・・・

試しに宙に浮いてみる。・・・ふむ、問題はなさそうだ。


「では、行くとしよう」


俺は空に向けて飛び立っていった。








しばらく飛行しているとこの星の美しさに目を奪われる。

ああ・・・やはり自然は素晴らしい。

かつてはこんなのどかな風景を平気な顔で踏みにじっていたとは・・・

何と愚かだったのだ・・・昔の俺は・・・

強さだけを求めていてはダメだ・・・もっと大事なものがある。

それは・・・『愛』・・・自然への、弱き者への『愛』だ!!

特戦隊は生まれ変わらなければならない・・・強さだけでなく愛を持った戦士に・・・!!

そんなことを考えているとふと俺の直感が告げていた。


『この付近に俺が育てるべき原石がいる・・・!!』


何故そう感じたのかはわからんが・・・

俺は下を眺める・・・すると、黒い装束の4人組が見えた。

・・・こいつらだっ!!

確信した。彼らこそ新生特戦隊のメンバーだ!!!

俺はすぐさまその集団めがけて急降下していた。






~side ザイツェフ~



今日はまったく散々な日だ。

あれだけの大仕事だっというのにボーナスが出ないとはどういうことだ!?

こっちはかなり高価なマジックアイテムを使ったっていうのに・・・

おまけに魔法が想定以上に広範囲になってしまったという思わぬ事故が発生し、居住区にまで被害がおよび・・・

結果としてこちらが賠償金を払う羽目になり、そのことで部長に小言を言われる始末・・・

さらに追い打ちを掛けるように今月の給料半分カット・・・

はあ・・・今月も苦しいのに・・・これじゃ来月までもつかどうか・・・


「隊長~何溜息ついてんのさ?」

「ん?はあ・・・お前は気楽でいいな・・・モルボルグラン・・・こちらは今月の生活費をどうしようか頭を悩ませているというのに・・・」


こいつはモルボルグラン。山羊の頭をした全身髑髏の魔族で、我が『黒い猟犬(カニス・ニゲル)』賞金稼ぎ部門第17部隊の隊員だ。

こんな恐ろしいなりをしているが、見た目に比べてかなり気の小さい男だ。仕事中は強がって魔族らしく振舞っているが、終わる度に「ああ~今日も生きて帰れてよかった~」とか言っている。
・・・正直性格的にこの職種を選んだのが不思議なくらいである。


「え~何その言い方・・・僕だって怖かったんだからね!相手かなり強かったし・・・なのに賞金があれだけってひどいよ!!骨折り損のくたびれ儲けじゃん!」

「そんだけ骨があったら一本くらい折れても問題ねえだろ・・・お前だったら。こっちなんて母ちゃんに仕送りできなくてイライラしてるんだ!!」


モルボルグランに話しかけてきたこいつはラゾ・・・何だっけ?本名はあまりに長いので忘れてしまった。まあ普段みんなラゾって呼んでるからそれでいいか・・・

竜の頭をしていることからわかるように竜人の出身で我が部隊では前衛を務めている。持ち前の巨体を生かした肉弾戦を得意とする戦闘狂である。だが、意外なことに里に残してきた病気の母親に毎月仕送りしている健気な一面もある。

正直今回の件を一番納得できてないのはこいつかもしれんな・・・


「ラゾ、落ち着くネ!!私だって怒ってるヨ!!・・・どうしてターゲットが男ばっかりだったのカ!?おかげで乳が揉めなかったネ!!」


我ら4人の中でもっとも謎めいた姿をしているこのおと・・・じゃなかった娘はパイオ・ツゥ。見た目はでかい身体をしているが実はこれはパワードスーツで、中身は小柄な少女だとは誰も思うまい。

実は重度のオッパイマニアで巨乳・貧乳分け隔てなく胸のある女性を蒐集するとんでもない趣味をお持ちである。彼女の乳に対する情熱は本物で、その見識には男の私にも目を見張るものがある。(ちなみに俺は巨乳派である)

最近新しい乳が蒐集できなくてストレスが溜まっているらしく今回の仕事に対しても大変ご立腹である。・・・我々とは視点が違いすぎるのが残念だが、まあ彼女のことだから仕方ないと諦めることにする。

おっと、俺か?

俺はこの17部隊隊長を務めているアレクサンドル・ザイツェフ・・・人は俺を『黄昏のザイツェフ』と呼ぶ・・・

・・・今、チコ☆タンと言ったやつ前に出ろ。親御さんの教育がなっていないようだな。俺が再教育してやろう。


「ねえ隊長。・・・ねえってば!!一体さっきから誰に話してるの?」

「ん?ああ、すまない。ちょっと独り言をな・・・」

「おいおい。しっかりしてくれよ?一応はあんたが隊長なんだからよ」

「はあ・・・隊長か・・・」


正直この仕事に限界を感じてきている。・・・精神的に。

今の部長に俺は気に入られていない。どういうわけか、存在そのものが疎ましいようだ。

・・・こっちだってできればあんな男とお近づきになんてなりたくはない。まさに天敵なのだ、俺と部長は・・・

しかし、俺には転職できるほどの技能なんてないし、そんな職種も思い浮かばない。結局この道で食ってくしかないのだ。この組織にだって採用面接で落ちまくっていた俺が最後にダメもとで受けて何故か採用されたのだ。

だから、辞めたくても辞められない・・・

とはいっても、最近は組織での風当たりも強くなってきたし・・・


「どうしたものか・・・な・・・」


呟きながら空を見上げた俺が目にしたものは・・・


「な、何かが・・・こっちに向かってくるぞ!!」


紫色の光がこちらに急接近している。

何だ!?攻撃魔法の類か!?


「来るっ!!みんな伏せろっ!!」


俺の合図に反応して隊員全員がその場に伏せた。

光が俺たちの前の地面に衝突し、激しい爆音とともに砂煙が舞い上がる。

爆発の威力に目を覆いたくなったが、俺は眼を凝らして見た。

砂煙の中に人影がある。こいつがやったのか!?


「おい。誰だ貴様は!!俺たちが誰だか知っているのか?」


俺は人影に話しかける。すると徐々に煙が晴れてくる。


「フフフ・・・やっと会えたか同志たちよ!!」


同志?一体何を言っているんだ?

俺が疑問に思っていると、ついに人影がその姿を現した。

全身に見たこともない鎧をまとい・・・

紫色の肌をした・・・

そして頭にでかい2本の角を生やした男。


「ハーーーッ!!俺こそはー!天下のー!ギニュー特戦隊隊長!!ギニュー!!」



ジャーーーンッ!!!



珍妙なポーズを決め名乗りを上げたこの男。・・・激しく意味不明である。


「ギニュー・・・?」

「特戦隊・・・?」

「聞いたことあるか?」

「ううん。全然~」


そうだよな・・・俺だって初めて聞くもん。大戦中にそんな部隊あったっけ?


「何ーーーっ!?お前たち、ギニュー特戦隊を知らんのか!?」

「「「「知らな~~~い」」」」

「な、なるほど・・・俺たちの名前を知らないほど辺境の星に来てしまったのか・・・」


勝手にフムフムとうなずいているこのギニューとかいう男。

さっきからぶつぶつ言っていることがわけわからん上に目的が一切わからない。

そしてなにより・・・“キャラクターが掴めない”


「ねえ隊長~この人何しに来たの~?」

「さ、さあ?俺にもさっぱり・・・」


モルボルグランと首を傾げていると、


「おっと、すまんすまん。さっそく本題に入ろう」


いきなり本題かよ!・・・まあいいけど。


「お前たちをスカウトしに来たのだ!!」


はあ?スカウト?


「光栄に思うがいい。この俺に目をかけられるなんて滅多にないことだぞ。それに今日の俺は機嫌が良い。今回は特別に入団テストもなしにしてやろう・・・ラッキーだったな」

「・・・・・・」


勝手に話が進んでいく。俺を含めて隊員全員が口をポカンと開けている。


「よ~し!ではさっそく隊員全員のスペシャルファイティングポーズの練習を始めよう!そこのお前!!」


男がラゾの方を指さす。


「え?お、俺?」

「そう、お前だ。いいから試しにこのポーズをとってみろ!!」


腰にひねりを入れて腕を横に伸ばすポーズをとる。


「へ?こ、こうか?」


お、おいラゾ!!お前何真面目にやってんだ!?


「ちがーうっ!!!もっと腰にひねりを加えんかーーーっ!!!」

「え?こうかな?」

「そうだ!!やればできるじゃないか!!ふむ・・・こうしてみるとなかなか様になってるではないか」

「そ、そうかな・・・って何やらせてんだてめえはっ!!俺たちが『黒い猟犬』って知らねえのか?」

「何を言ってるんだ。お前たちはこれから我がギニュー特戦隊の一員になるのだ。カニ酢なんとかなど知るかっ!」


いや・・・お前こそ何を言ってるんだ?


「てめー喧嘩売ってんのか!?上等じゃねえか・・・お望み通り買ってやるよ!!」


さっき流されるままに恥ずかしいポーズを取らされたのがよほど屈辱だったのか、ラゾのやつ完全に頭に血がのぼってやがる。

・・・っておいっ!?本気でやるのか!?俺たちは賞金首を相手にする時以外は喧嘩は御法度って忘れたのか!?


「あちゃ~ラゾったら・・・また始末書だよ」

「あの男・・・終わったネ」


お、お前たちも呆れてないで早く止めろ!!・・・これ以上給料を減らされては敵わん!!


「ウオオオオッ!!!」


って遅かったーーー!!!ラゾ自慢の剛腕が男の顔面にモロに極まった。

・・・終わった。これで今月の給料は・・・


「・・・なんだ?このハエみたいなパンチは?」

「「「「!!?」」」」


・・・ってえええーーーっ!?な、何これ?

ラゾのパンチを顔面で受けてるのに・・・効いてない?これっぽっちも?


「フム・・・ポーズのキレはなかなかだが戦闘力はからっきしのようだ。これではいかんな~・・・」

「なっ!?ば、馬鹿な・・・俺の渾身の拳が・・・」


ラゾも開いた口がふさがらないみたいだ。それはそうだろう。俺だって格闘に関しては奴の実力には一目を置いている。それが・・・

わ、悪い夢でも見ているようだぜ・・・


「よーし!ではこうしよう。お前たちは正規の訓練を受けていない一般市民だ。戦闘力が低いのは仕方があるまい。だが、お前たちからは潜在的な何かを感じる。鍛えればモノになるかもしれん・・・そこでだ。このギニュー様がお前たちを一流の戦士に鍛え上げてやろう!」


い、一般市民だと!?お、俺たちが・・・?

く、屈辱だぜ・・・こんなことを言われたらラゾじゃなくてもキレるぜ。


「き、貴様~!!俺たちが手を出せないのを良いことに好き放題言いおって・・・」


ここまで怒りを感じるのはガキの頃“チコ☆タン”という名で馬鹿にされてた時以来だぜ・・・


「おおっ!?お前もやる気か!?いいぞ~。俺は優しいからな~。全員まとめて相手にしてやろう」

「ケッ!てめえなんざ俺一人で十分だ!!」


ラゾがそう吐き捨てながら再び飛びかかる。

いいぞ!間合いに入った。腕が長い分ラゾの方がリーチが長い。それだけあれば・・・



パシッ!



「「「「なっ!?」」」」


う、受けた~~~!?か、片手で軽々と・・・


「まずは攻撃が軽すぎる。本当の攻撃とはこうするんだ・・・」


ラゾの手を掴んだまま反対の手を腰だめに構えている。

・・・まずいっ!!こいつ・・・!!


「ギニュー!!ウルトラー!ファイティング!ボディーブロー!!」


眼で追い切れないほどの速さでやつの拳がラゾの腹部に減り込み・・・

ラゾの巨体がパチンコ玉のように吹っ飛ばされた。


「ガアアッ!!」


ラゾは岩に激突・・・



ドオオオオンッ



岩の破片が派手な音を立てて飛び散る。


「あ、あああ・・・」


言葉にできない・・・な、何が起こったんだ?

瓦礫に埋もれたラゾの腹部は大きく陥没している。

あんなのを見せられれば素人にだってわかる。・・・な、なんて威力だ。


「ば、化け物かこいつは・・・」


思わず部隊長として情けないことを口にしてしまった俺を誰が責められよう?


「ムムッ!!カエルでの生活が長かったせいか力の抜き方が少し甘かったか?」


な、何っ!?今ので手加減していただと!?


「どうやら一人目は立ち上がれんようだな。・・・しかしいくら素人とは言え少しは根性を見せてほしかった・・・
まあいいか。こっちにはまだ3人も残っていることだし・・・教え甲斐がありそうだ」


じょ、冗談じゃない!!こんな化け物を相手にするなど御免だ!


「あれ・・・?もしかして僕らかなりやばくない?」

「そんなの見ればわかるヨ~~~!!!」

「モルボルグラン!パイオ・ツゥ!今すぐここを離脱するぞ!!」


俺は2人に呼びかけ、すぐさま肉体を魔力強化し、猛スピードでその場の逃走を図った。

しかし・・・


「フハハハ・・・遠慮するな!!」


なっ!?ま、回り込まれたっ!!なんてスピードだっ!!


「おっと!逃げようとしても無駄だ。お前たち程度のスピードなら簡単に追いつける!」


なんということだ・・・スピードまで遥か及ばないとは・・・


「どうしよう・・・隊長・・・」


逃げ道はない・・・こうなったら!!


「ダメでもともと!3人で正面突破だ!!」

「・・・僕こういうの好きじゃないのにな~」

「・・・やるしかないようダネ」


覚悟を決めた俺たちは一斉に敵に躍りかかる。


「「「ダァァァァッ!!!」」」


この一縷の希望に全てを賭ける・・・!!


「・・・ほう。3人同時か。いいぞ!可愛い隊員のため、俺はいくらでも肌を脱ごうじゃないかっ!!」


・・・なんか今度もダメっぽい。

・・・このときすでにわかっていたのかもしれない。







――――――――――戦いは終わった。

結果は・・・死屍累々の俺たちを見れば言わずもがなだろう。


「どうした!もうお終いかっ!!・・・そんなことでは一流の戦士にはなれんぞ!」

・・・もう勘弁してください。こっちは限界なんです。立つことだってできません。

・・・っていうか襟首つかんで引き起こすのやめてください。ホントに無理なんですから。


「キサマーーー!!それでもギニュー特戦隊の隊員かっ!!」


・・・いや、だから入った覚えはないんだけど?

・・・ヒイイイッ!!!スミマセンスミマセンスミマセンスミマセンスミマセン!!!

・・・文句なんて言いませんから!特戦隊でもなんでも入れてくださって良いですから!!


「そうかそうか・・・やっと素直になってくれたか」


・・・クウウゥ~・・・今日は厄日だ・・・


「よ~し!!これで晴れて特戦隊が5人揃ったわけだ!・・・なんと素晴らしい!!」


・・・はあ~大変なことになった。うちってバイト掛け持ち禁止だからな・・・部長になんて説明しよう?でも特戦隊って具体的に何やるんだ?給料ってあるかな?・・・あるわけないか。


「ん?どうした?浮かない顔して。・・・何か心配ごとでもあるのか?」


あるよ・・・お前のおかげでな!!

・・・なんてことは口が裂けても言えないので、


「いや~給料ってどうなのかな~って」

「給料?そうか・・・そういえばまだ考えてなかったな・・・」


えっ?まさか、給料あるの!?


「・・・しかし、愛と誇りのために戦う戦士が他から施しを受けるわけにはいかんし・・・」


何それ!?どんな慈善事業だよ!?

・・・期待した俺が馬鹿だった。


「う~む。そこまで金が欲しいのか?何故だ?」

「いや~今月の生活苦しくて・・・今働いてる所でも今月の給料半分カットなんですよ」

「フム・・・それはひどい話だな」

「でしょ~うちって賞金稼ぎとかやってる組織なんですけど、今の上司がそれがまたひどいやつで・・・」

「ほう・・・ふむ・・・なるほど・・・」


いつのまにか、組織での俺の扱いについて愚痴をひたすらこぼしてしまっていた。どれくらい話していただろう。このギニューとかいう男は俺の話に聞き入っている。

この人案外聞き上手だよ・・・ホントに意外だ・・・


「なるほど・・・よ~くわかった!部下の生活を改善してやるのも上司の務めだ。ここは俺にまかせろ!!」


・・・は?この人何するつもりだ?


「俺自身は金稼ぎとかはとんと能がない・・・だから俺からお前たちに給料を出すことはできん。だが・・・金がなければ生活できないのもまた事実。俺も食っていかねばならんしな。・・・そこで、俺も賞金稼ぎをやろうと思う!」

「え・・・あなたがですか?」

「その通り!だからまず俺自身がその『カニス・ニゲル』とやらに就職する。そして、今月の給料の件は俺が上の方に掛け合ってやろう」


な、何を言ってるんだこの人は・・・ハチャメチャ過ぎてついていけない。


「そうと決まれば善は急げだ!さあ、お前の上司のところに連れて行け!!」


あれ~?話が急展開すぎてわけわからないぞ~?

・・・もうどうでもいいや。







―――――ところ変わって傭兵結社『黒い猟犬』本社。

そこの部長室の前で俺たちは立っている。

話の流れでなぜかここにあの人を案内してしまったけど・・・

やってしまって後悔した。まずいよ・・・部長に余計なことしゃべられたら俺はお終いだ!!

しかし、気付いたときにはすでに遅く、あの人は部屋に入ってしまった。

それからかれこれもう1時間。

部屋から言い争う声がこちらにまで聞こえてきた。

なんか・・・かなりまずくね?

もしかして・・・俺ここ辞めさせられたりするのかな?

リストラの恐怖に怯えている俺の隣では、


「あ~どうしよう・・・部長のことだからきっと大目玉だよ!!」

「これというのも隊長が余計なことを言うからネ!」

「まったくだ・・・ああ、新しい就職先考えねえと・・・」


全部俺の所為か!?・・・ハイ、スミマセン。私が悪うございました。でも仕方なくね?だってあの人怖くて逆らえないんだもん。



ドンッ・・・!!!バタンッ・・・!!!



「「「「!?」」」」


・・・何今の音!?乱闘!?部屋の中どうなっちゃってんの!?


「「「「・・・・・・」」」」


しばらく俺たちの間を沈黙が支配する。

やがて喧騒が止み、扉が開かれる。

そこにはさわやかな笑顔のあの人が現れた。


「ハハハ・・・なかなか頑固な男だったが話せば理解のある男で助かった」

へ?一体何がどうなったの?

「諸君喜べ!!今月の給料に関しては半分カットを取り下げ、いつもと同じ額になった。・・・さらにこの間の大仕事に関してはボーナスも付けてくれるそうだ!」

「え・・・それホント!?」

「ボーナスまでつくのカ・・・!!」

「これで故郷の母ちゃんに仕送りができる!!」


え・・・嘘・・・あの部長が自分が決めた処遇を取り下げたっていうのか・・・信じられない・・・

俺は夢でも見ているのか?

・・・あれ?あの人の手についてる赤いものって・・・


「ハハハ・・・さ・ら・に!!このギニュー様も『カニス・ニゲル』の社員として認められたぞ!今日から第17部隊改めギニュー特戦隊の隊長に就任したギニューだ。改めてよろしく頼む!!」


え・・・?隊長?じゃあ俺は一体・・・


「ではさっそくだが、最初の隊長命令だ!!全員大きな声で自己紹介をしろ!!」

ねえ・・・俺のポジションってどうなるの・・・ねえったら・・・

「まずはそこのお前!」

「えっ!ぼ、僕!?え~と・・・モルボルグランです・・・」

「声が小さい!!もっとシャキッとせんか!!」

「も、モルボルグランです!!」

「よろしい。ではそこのお前!!」

「ま、また俺か・・・あっ、す、すみません隊長殿・・・お、俺はラゾ「ハイ次!!」・・・って最後まで言わせて!!」

「パイオ・ツゥです!!よろしくネ、隊長サン!!」

「最後にそこでぶつぶつ言ってるお前!!」

「ブツブツブツ・・・へ?」

「話を聞いとらんのか!?自己紹介だ!!」

「あっ、はい!!俺はチコ・・・じゃなかった、アレクサンドル・ザイツェフであります!!」

「よ~し!!全員の名前がわかったところでさっそく決めポーズの練習を始めようか!!全員俺に着いてこーい!!駆けあーし!!!」


あれ?みんなどこ行くの?ちょ、俺を置いていかないで!!






かくしてこの日俺たち『黒い猟犬』に新たな部隊が結成された。

その名もギニュー特戦隊。

後にその名はシルチス亜大陸はおろか魔法世界中に響き渡り、『紅き翼』『白き翼』と並び称される伝説の部隊になるとはこのときは夢にも思わなかった。





つづく?







あとがき

やってしまった・・・私は一体何を書いているんでしょう?

つい最近ドラゴンボール改のCDアルバムに収録されている『参上!!ギニュー特戦隊』を聞いたら、その出来栄えがあまりに素晴らしかったのに感動し、当初はまったく出す予定のなかったギニュー隊長主役のものを書いてしまった・・・

特戦隊全員出すという案もありましたが・・・さすがにそれは魔法世界が危なくなるがしたのでやめました。

ギニューさんの性格も作者の好みで少し悪→善にシフトさせてしまいました。(原作のキャラが好きな方には申し訳ありません)
正義(?)のために戦うギニュー特戦隊っていうのを書きたかっただけです・・・

でも書いたあとで思ったけど、キャラがギニューっぽくありませんね・・・すみません。

展開も無理やりだし・・・正直駄作ですね・・・ハア~・・・

反省はしています。でも、後悔はしない!!

ちなみにこれと本編とのリンクは・・・今のところ決めてません(オイオイ!!

こんなダメな作者だけど、特戦隊応援します!

とっくせんたい!!!とっくせんたい!!!



[10364] 外伝その2
Name: 仕事人D◆f3b3e673 ID:a7358005
Date: 2009/12/24 12:45
<注意!!>

* これは外伝と銘打っているようですが、作者の妄想の塊にすぎません。妄想乙な方は引き返した方が良いです。

* キャラが作者好みに改変されてます。原作のキャラの方が好きな方はご覧にならない方がいいかもしれません。

* 基本ネタ的な要素が強いです。展開がおかしいです。ご注意ください。

それでもよろしい方はどうぞ



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



ここは魔法世界。人間と人間にあらざる者たちが共存する世界―――――

かつてはこの世界を火の渦に巻き込んだ大戦も時の英雄たちの活躍により治められ、誰もが望んだ平和が訪れた。

しかし、いつの世にも悪というものは絶えることはない。

奴隷法などのように平和と引き換えに新たに生まれてしまった悪もある・・・

また、戦争の爪痕が深い辺境の地域ではいまだに悪事を働く者が蔓延っている・・・

そうした者たちはともすれば法の網目をくぐりぬけて、公の場で堂々とのさばってくるものだ。

そして戦後10年以降、長き平和で国が復興してきた半面、犯罪が急増するといった問題が発生した。

そのなかには公では裁けないものもあり、再び人々に暗闇が差そうとしていた・・・

そんなとき人々は願った・・・


『あの紅き翼のような英雄(ヒーロー)がいてくれたら・・・』












だが、天は彼らを見捨てなかった!

悪に苦しむ弱き人々の声を聞き、ここに5人の戦士が立ちあがった!!







「グアアアァーーーッ!!(バッ!)・・・ラゾ!!(ババーン!!!)」


「クカカカカァーーーッ!!(バッ!)・・・モルボルグラン!!(ビシィーッ!!!)」


「ハアアアアッ!!(バッ!)・・・ザイツェフ!!!(ピカーッ!!!)」


「ヤアアアアッ!!(バッ!)・・・パイオ・ツゥ!!!(ダダーン!!!)」


「カアアアアッ!!(バッ!)・・・ギニュー!!!(ドドーン!!!)」












―――――今この世界を救えるのは・・・彼らしかいない!!

さあ、立ち上がれ、戦士たちよ!!













「みんなそろって・・・」

「「「「「参上!!ギニュー特戦隊!!(ドカーン!!!)」」」」」













・・・これはそんな彼らの『愛』と『友情』、そして『お馬鹿』に満ちた青春の物語である!!


























「・・・ていうオープニングを考えたんだがどうだろう?」

「隊長・・・・・・少しは自重してください」










――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



ドラゴンボールMAGI外伝 『ギニュー特戦隊奮闘記~特訓だよ!全員集合!の巻~』






オッス!!オラ、チコ☆タン!!久しぶりだけど、みんな元気にしてたか!?

さっそくだけどオラ今無茶苦茶ピンチに直面してるんだ!

何かって?実はオラ目がけてデッカイエネルギー弾が突っ込んで来てるんだ!!

やっべ~・・・オラもしかしたら今度こそ死んじまうかもしんねえな・・・

だけど・・・こんなときだって言うのに、オラ何だかワクワクしてきたz・・・ってんなわけね~よ!!ちょっとスタッ~フ!!冒頭から何しゃべらせてんの!・・・ってそんなこと言ってる場合じゃなかっ(ボカ~ン!!!)ギャ~ッ!!?


「馬鹿も~ん!!余所見をするなと言ったはずだぞザイツェフ!」


ウオォォ・・・い、今のは効いたぜ・・・

た、隊長・・・あなたは「避けろ」なんて簡単に言ってくれますけど、正直あんなの前にしたら無理ですって・・・

こ、これで何発食らったんだ?・・・に、20回目から先は数えてないからわかんねえや・・・ハ、ハハハ・・・

そ、それにしても良く生きてるな、俺・・・いつもだったらとっくにあの世に行ってもおかしくないのに・・・これもギャグ補正ってやつか?

だとしたらなんて俺はラッキーなんだ!!・・・ヒャッホ~イ!!ギャグ補正最高~~~!!!


「え・・・!?攻撃を受け過ぎて精神がおかしくなってる!?ちょ・・・医療班、医療班~~~!!!」


なんかどっかの骨野郎の声が聞こえた気がするけど気の所為だよね~

あ・・・なんか頭がぼ~っとしてき・・・ガクッ


「う、うわ~~~!?ざ、ザイツェフ“元”隊長しっかり~!!!」

「・・・これマジでやばくないか?」

「ラ、ラゾも突っ立ってないで手伝うネ!!」

「むむ?・・・ザイツェフの奴はどうしたんだ?まだ良い子が寝るには早すぎると思うんだが・・・」







~ところかわって~


フ~・・・さっきは酷い目に会った。

今俺は社の医務室のベッドで寝ている。

今回俺は途中で倒れてしまったため、今日の訓練は出なくていいそうだ。

あの人意外と部下に優しいところがあるんだよな。普段もその優しさを少しは見せてほしいですけどね・・・

そういえば、どうしてこんなことになってるんだっけ?

・・・ああ、思い出した。

そう、ことの始まりはギニュー特戦隊発足の翌日のことだった・・・














―――――その日、隊長からの衝撃発表に俺たちメンバー全員が凍った。


「特戦隊は今から半年間、外への営業はしない!!」

「「「「・・・ええ~~~!!?」」」」


それを聞いた我々は顎が外れました・・・そりゃあもう目一杯・・・

だって俺たちは傭兵・・・外部の営業だけが収入源。

それができないということは半年間は何の稼ぎもないわけだ。

・・・おいおい、これから半年もどうやって暮らせばいいんだ!?


「た、隊長、そりゃあ一体どういうことですかい!?納得のいく説明をお願いします!!」


ラゾが必死の形相で訴える。

俺を含む他のメンバーも当然同じ意見だ。


「うむ・・・驚くのも無理はないな・・・」


隊長が目を閉じながら語り始める。


「実はこの『カニス・ニゲル』を回って見て思ったことがある・・・この組織は傭兵結社と銘打っている割に、戦士のレベルが圧倒的に低すぎる!!」


ダンッ!!

拳をテーブルに叩きつける。

・・・って、またまっぷたつかよ!?あんたこれで何個目だと思ってんだよ!?・・・あれいくらするかわかってんのか?備品かかる金だって馬鹿にならない・・・あっ、スルーですか、そうですか・・・


「かつて俺がいたフリーザ軍からしてみれば誠に嘆かわしいことだ・・・あの様子では平均で個人の戦闘力は100もいっておらんだろう。おまけに、将来宇宙で活躍するであろうお前たち特戦隊のメンバーまでがその程度という始末・・・!!」


・・・はあ?宇宙?一体この人は何を言ってるんだ・・・話がでかすぎだろ・・・これじゃあとんだ妄想家だ。・・・はっ!?ま、まさかこれが噂の厨二病というやつか!?「(ギロッ)・・・何か言ったか?」イ、イイエッ、ナ、何デモアリマセン・・・


「・・・この俺にはその事実が我慢できん!!よって当初に言った通り、お前たちに改めて戦闘技術を叩きこむことにする!!」

「も、もしかして・・・半年っていうのは・・・」

「その通り!この俺自らがお前たちに特訓を課し、半年という短期間で一人前の戦士に育て上げるということだあ!!」

「「「「な・・・なんだってーーーっ!?」」」」


は、半年後に・・・あんたぐらいになれっていうのか!?・・・無理無理、絶対無理!

・・・っていうか、そんな横暴を許していいのか、上の方々!?


「ああ、上の方には許可をとったから問題ない。もっとも俺も本当は半年ではなく最低1年を希望してたんだが・・・さすがにそれ以上は業務が滞ってしまうからやめてくれと部長に泣き疲れたので仕方なくな・・・」


部長・・・あのプレッシャーに逆らえなかったんですね、わかります。生まれて初めてあんたに同情しましたよ・・・


「だ、だけどよ・・・半年間も営業なしじゃあ給料のほうが・・・」


おっ!?ラゾ、良いことを言った!

そうだよ・・・下手をすればこっちは飯が食えなくなるかもしれんのだ。そうそう屈するわけには・・・


「生活面のことなら安心しろ諸君!・・・さっき部長を介して上から莫大な補助金をとりつけてきた!!社員研修という名目でな!!さらに、当面の生活は社員寮で『カニス・ニゲル』が面倒を見てくれることになった!」


何っ!?・・・た、確かにここにいる全員は現在社員寮に入っている。そうなると、生活面の問題はほとんど解決することになる・・・

だけど、普通はこんな言い分が通るはずがない・・・それを上まで動かしてしまうとは・・・

・・・やっぱりこの人滅茶苦茶すぎる・・・やることが俺たちの理解を超えている・・・


「フハハハ・・・お前たちは運が良い!この俺に選ばれたエリートなんだからな!!半年後には今とは比べ物にならん『本物の戦士』にしてやる!!」


た、隊長の笑いが不気味だ・・・だ、誰か止めてくれる人いないのか!?


「いや・・・さすがにあれは無理でしょ・・・」

「そうネ・・・あんなに気合が入ってる隊長を止めるなんて愚の骨頂ヨ・・・」

「・・・ここは素直に諦めようぜ」


ポンとラゾに叩かれた肩が重い。

俺たち、これからどうなるんだろ・・・?











画して、俺たちは正式にギニュー特戦隊員になるべく、かつて味わったことのない過酷な訓練メニューを課せられることとなった。

しかし、訓練内容は意外にも普段の隊長のキャラからはとても考えられないほどまともなものだった。

始めの1ヶ月間は基礎をつけるためのトレーニング。

過酷な環境下で肉体を極限まで虐め抜くために、酸素濃度の薄い高山で、しかも重力魔法の結界をかけられた状態(そのために他の部署から一流の重力魔法使いを借りるという徹底ぶり)で筋肉トレーニング、組み手を中心にやらされました・・・はい。

でもさ・・・いきなり10倍の重力は無茶なんだZE!

いくら俺たちでもギャグ補正がなかったら死んでますよ!?

そのことで恐れ多くも文句を言いに行ったら隊長から「お前たちならできる!!なぜなら特戦隊だから!!」というありがたいお言葉を・・・って、根拠になってないし!!

でも、隊長は笑って取り合ってくれませんでした・・・あの頃は何度オージンジに電話しようと思ったことか・・・









なんだかんだで1ヶ月をどうにか“生き延びた”俺たち・・・

そのころになると、環境に少しは慣れてきたのかなんとか身体を普通に動かせるくらいにはなっていた。だが、これでも隊長が目標とするところには全然遠かったらしい・・・

しかし、時間も少ないとのことだったのでそのまま“スペシャルトレーニングコース”に突入した。

ここでは隊員全員でやるメニューのほかに個々が独自にこなす特別メニューも存在し、しかも隊長自ら指導してもらえるというデンジャーまっしぐらなコースである。

このころの1日の訓練スケジュールを書いていくと大体こんな感じ・・・




AM 5:00  起床

   5:30  朝の特戦隊体操(スペシャルファイティングポーズを身につけるために隊長が考えたもので特戦隊の伝統らしい)

   6:30  朝食

   7:30  訓練開始
         筋肉トレーニングと組み手

   9:30  隊長と俺たちで4対1の合同演習 (←冒頭で俺が倒れたのはココ!)

PM 0:00  お昼ご飯♪

   1:00  午後の訓練開始
         各人の特別メニューをこなす
         (サボると隊長からキツ~イお仕置きが待っている)

   3:00  おやつの時間♪

   3:45  訓練再開
         
   5:00  スペシャルファイティングポーズ+決め台詞の練習

   7:00  「夕食でもいかがかな?」

   8:00  自由時間

   10:30 消灯




・・・あれ?こうして見ると意外に緩いんじゃない?って思った奴、前に出なさい。

これらの訓練を常に重力結界がかけられた環境下でやれって言われたらできる人います?

・・・わかっていただけたようで何より。実際経験したらどれくらいやばいか身にしみるね。特にファイティングポーズの練習なんか馬鹿に出来ないよ?クタクタになった身体であの意味不明なポーズを取らされることの肉体および精神に与えるダメージは計り知れない・・・しかも、一つでも間違えたら即『ミルキーキャノン』だもん・・・まさにあの時間は地獄です。





ところで各人の特別メニューについてだが、これは隊長が構想した各隊員のポジションに基づいている。

なんであんなポジションになったのかいまだにわからないが、おそらく隊長の直感なんでしょう・・・迷惑な話だ・・・

ちなみに、ラゾはパワーの肉弾戦、モルボルグランが敵を撹乱するためのスピード、パイオ・ツゥが魔法による特殊攻撃を鍛えることになった。そして、なぜか俺が攻守ともにバランスがとれ、なおかつ遠距離からの砲撃担当・・・って一人だけハードル高っ!?

まあ、ラゾとパイオ・ツゥは何となくわかるけど、モルボルグランがスピードって・・・見た目からしてありえないでしょ?何それ?ギャップ萌えでも狙ってるのか?・・・萌えないけど。




―――――そんなこんなで決まってしまったポジションで隊長の個別指導のもと訓練するわけだが・・・いやあ大変だったね、あれは・・・

どれくらい大変かだって?まあ強いて説明するなら・・・





*ここからは音声だけでお楽しみください。


~モルボルグランの場合~


「ウウゥ・・・隊長の攻撃を全て避けろなんて・・・どうして僕が・・・って、ドワ~~~ッ!!?ま、また来た!だ、誰か助けて~~~!!」

「ほほう・・・このエネルギー弾の嵐の中をかわすか。意外にやるではないか!ならばさらにスピードアップ!!」

「ちょ!?もうこれ以上はむ~り~~~!!!ギャ~~~!!!」



ドオオオオンッ!!




~ラゾの場合~


「ハア・・・ハア・・・く、クソッ!!」

「どうした!キサマの拳はそんなものか!!キサマの信念はその程度のものだったのか!?」

「ち、違う!!ここで終ってたまるかっ!!俺はこの拳で母ちゃんを・・・故郷の家族を幸せにするんだ・・・!!」

「ならば立てっ!!キサマの小宇宙(コスモ)を見せてみろ!!」

「ウオオオオッ!!『暴君竜(ティラノ)流星拳』ーーー!!」

「甘いわっ!!『鳳○天翔』ーーー!!」



ドオオオオンッ!!




~ザイツェフの場合~


「あ、あの・・・さっきから滝に当たってばかりなんですけど・・・」

「それがどうかしたか?」

「いや~こんなことしてて必殺技なんてできるのかな~って「愚か者っ!!」ヒィィッ!!」

「今キサマに足りないのは『明鏡止水』の心だ・・・それを身につければ自ずと技もできる・・・」

「え・・・?そうなんすか?」

「ならば見せてやろう。・・・ハアアァァ・・・」

「(あっ・・・なんか気合入ってる・・・)」

「俺のこの手が真っ赤に燃える!勝利を掴めと轟き叫ぶ!!・・・必殺!!sh「ちょっと待ったーーー!!それはいろいろと待ったーーー!!それサ○ライズだからね?東○じゃないからね?中の人つながりだからって何してもいいわけじゃないからね?っていうかそもそもあんたの声は“ドイツ忍者をしている兄さん”の方でしょ!!」・・・ダメなのか?「ダメです!!!」」


~パイオ・ツゥの場合~


「お前にはグルドのような超能力はないがそれに匹敵するその『触手』がある!!だから今日からお前は触手を極めろ!!めざすは“触手王”(キング・オブ・触手)だ!!」

「おおっ!!触手王カ!!そいつはすごいネ!!(ところでグルドって誰?)」

「ハッハッハッハッ・・・だがお前の魔法のグレードアップには創造力が不可欠。だからまずはこれを見てイメージトレーニングだ!!」



ドサドサッ!!



「おおっ!!!これはまた・・・私好みのいろいろな乳が一杯ネ!!」

「フフフ・・・各地を回って触手物を集めてきた甲斐があった・・・!!よし!これを使って私と新たな触手魔法を開発しようじゃないか!!」

「うおおおおっ!!なんか燃えてきたヨ!!」

「「「おい。ちょっと待てやお前ら」」」










―――――何だろう・・・一部明らかに特訓っぽくない場面があった気がするが・・・気のせいだろう。うん。






まあそんなわけで、俺たちはこうして日々なんとか地獄の特訓を耐えているわけで・・・


「あっ!?“元”隊長もう起きたの?隊長がおやつの時間だから来なさいだって~」


モルボルグランが医務室の扉を開けて入ってくる。


「あん?もうそんな時間か。長いこと寝てたから忘れてたぜ」


ベッドから起き上がってみる。

医療班の誰かが回復魔法をかけてくれたのか・・・身体が思った以上に軽い。


「・・・うん。これなら大丈夫そうだ。すぐに行くって伝えてくれ」

「わかった~」

「あとな・・・俺を『“元”隊長』って呼ぶのいいかげんにやめろ。俺のボロボロハートに穴が開くわっ!!」

「アハハ~善処しま~す」


まったく、相変わらず軽い口調だな・・・

よく今までこんなやつらとチームを組んできたもんだ。

しかしまあ・・・悪くないと思ってる自分もどこかでいる・・・


「フフフ・・・」


おっといけねえ。つい笑ってしまった。

さてと、あいつらを待たせるわけにはいかないからさっさと行きましょうかね・・・


「あっ、そうだ!隊長から伝言。『今日休んだ分、明日に繰り越すからそのつもりでいろ』だって~」


・・・俺やっぱりこのチームでやってくの無理かもしれません。










あとがき

クリスマスなのにくだらないネタでごめんなさい。

おまけにクリスマスネタじゃなくてすみません。

いろいろ直しながら(ネタなのに・・・)書いた結果、こんなことになってしまいました。

前作に比べて面白くないかもしれませんが・・・ご容赦ください。

言い訳ばっかの作者ですが、今後もよろしくお願いします。

メリ~クリスマ~ス!!




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