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史上最悪…メキシコ湾原油流出の責任はどこに

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ディープウォーター・ホライズン、海底で起こった事故

メキシコ湾のルイジアナ州沖。爆発事故はこの周辺で起こり、現在では流出した原油が湾一帯に広がっている

メキシコ湾のルイジアナ州沖。爆発事故はこの周辺で起こり、現在では流出した原油が湾一帯に広がっている

全ての始まりは、4月20日にメキシコ湾の石油掘削施設で起こった爆発事故でした。この施設の名前は「ディープウォーター・ホライズン(以下DH)」。1500メートル海底から原油を採取するための施設でした。

この施設内で4月20日に爆発が起こり、海底から原油を汲み上げるための掘削パイプが3ヶ所破損し、そこからメキシコ湾の海に原油が際限なく流出してしまったのが、今回の事故です。

メキシコ湾全体にどんどん拡散し、流出元自体をなんとかしてふさぐしか、止めようがありません。そして、この流出は事故から1ヶ月以上経った5月末になっても、まだ止まりません。

過去最悪の流出量

アメリカ政府の発表によると、DHからメキシコ湾に流れ出る原油の流出量は推定で1日に1万2000〜1万9000バレル。この量から単純に計算すると、5月28日現在で事故発生から合計で42万〜66万5000バレルの原油が流出したことになります。1989年にアラスカ州沖で起きた、タンカー「エクソン・バルディーズ号」座礁事故時の原油流出量、25万バレルを抜いて過去最悪となりました。

参考までに、1997年に日本海で起こったロシアのタンカー「ナホトカ号」の事故では、約4万バレルの重油が流出しました。今回は、単純にすでに10倍以上。

深い深い海底、進まない封じ込め

事故発生以来、BPは最終措置として現在の油井の近くに2本井戸を掘り、掘削穴に向けて泥水やセメントを注入して油井を封鎖する作戦を取っていますが、作業が終わるのが8月の予定です。それまでの暫定措置として何度も流出を封じ込めるための作業を実行していますが、とにかく海の底深くなので作業が極めて難しく、まだ成功にはいたっていません。

パイプの破損部分にコンクリートのふたをかぶせて、ふたに付けたチューブから原油を吸い取る方法は失敗。事故時に作動しなかった噴出防止装置を潜水艇で手動で作動しようとした作業も失敗しました。

BPは5月26日から、これまでで最大規模の封じ込め作戦である「トップキル」作戦を実行。「トップキル」作戦は海底にある油井に大量の泥を注ぎ、最終的にはセメントで泥を固めて流出を防ぐ方法です。

しかし、3日間「トップキル」を実行した後、BPは「作戦失敗」と発表。延べ3万バレルの泥水をポンプで最大毎分80バレルの勢いで注入したものの、油とガスの流出力がそれより強く、抑えることができなかったことが失敗の理由です。「トップキル」作戦が失敗したため、BPは次の作戦準備にかかりました。

これから行われる予定の作戦としては、深海ロボットを使って流出しているパイプを切り取り、防噴装置上部にあるLMRPという装置にキャップをして、そこから海上に停泊している掘削船まで原油とガスを吸い上げる「LMRP」作戦などがあります。

誰がこの責任を取るのか?

史上最悪となった原油流出事故に対して、一体誰がその責任を取るのでしょうか? 推定被害額は、最終的にいくらになるのか見当もつきません。流出は現在でも続いており、それがいつ止まるのか分からない限り、最終的な被害の規模もわかりません。5月末時点ですでに被害額は、数百億ドル(数兆円)にも達すると見込まれています。

現地の原油掘削に関わっている企業は、主に以下の4社。5月11日にアメリカ上院で公聴会が開かれ、4社の内3社のトップが呼び出され、事故原因について話し合われました。

■BP
現地における油田採掘権を持つ、イギリスの石油メジャー。事故後の封じ込め作業は主にBPが指揮。公聴会では、「採掘施設の運営・点検を担当しているトランスオーシャンに事故の責任がある」(CNN)と主張。

■トランスオーシャン
スイスに本社を置く、世界最大の海底掘削機メーカー。事故が起こった採掘施設であるDHの運営と点検を担当。公聴会では、「油井を支えるコンクリート構造に問題があった。設置時にそれらを考慮していれば事故は起こらなかった」(CNN)と、自社の責任はないことを主張。

■ハリバートン
アメリカの石油や天然ガスの生産設備メーカー。DHの設置工事を担当した。公聴会では、「うちはBPの指示に従っただけであり、事故の責任はない」(CNN)と主張。

■現代重工業
韓国の作業機器メーカー。DH自体を最初に製造したのは、現代重工業と発表されています。DHは製造後にR&Bファルコンにという会社に売られ、その後R&Bファルコン自体が、トランスオーシャンに買収されました。公聴会には呼ばれませんでしたが、事故の責任について問われた際には「製造後10年以上が過ぎ、アフターサービス期間も終わっている。うちには関係ない」と主張。

結局のところ、どの企業も「うちの責任ではない。他社の責任だ」と主張して、責任になすりつけ合いを展開しているだけ。数兆円とも見られる天文学的な賠償額がかかってくるので、どこも自社の責任だけはなんとかして逃れたいと思っているのが現状です。

はかりしれない影響の大きさ

原油流出によってどこまで被害が大きくなるのか、全く見当もつきません。

■経済的影響
まずアメリカ南部、ルイジアナ州周辺の地域経済に与える影響があります。原油流出によって周辺の海が汚染されたので、船舶の航行が当面禁止になりました。この地域の漁業や観光業は休業になり、住民たちが生活できなくなっています。

BPは苦情受付センターを設置して、被害を受けた地元住民から苦情や補償請求を受け付けています。しかし、今後も被害はますます拡大・継続するので、地元の個人・企業から損害賠償請求の訴訟が相次ぐと思われます。

■環境面での被害
一番心配されているのが、メキシコ湾周辺の環境面での被害でしょう。すでに周辺では汚染されて生きていられなくなった鳥や魚などの死骸が多く見られており、今後も長期にわたって汚染は残ると思われます。今回は規模があまりにも大きいので、メキシコ湾に留まらず、地球全体の生態系への影響も出てくるかもしれません。

■政治的影響
原油流出は、オバマ政権にも大ダメージを与える事態になっています。事故発生から1ヶ月以上経っても流出を止められないアメリカ政府に対して国民の不満が高まり、オバマ政権への不信感につながっています。

2005年夏に大型ハリケーンの「カトリーナ」がアメリカ南部を直撃した際、ブッシュ大統領が素早く動かなかったため、その後支持率が下がる原因となりました。今回も流出の被害を素早く拡大できなかったオバマ大統領に対して、国民は不満が募らせています。偶然にも、流出の被害を被ったのは「カトリーナ」の時と同じルイジアナ州を中心とした南部地域です。

今後の油田開発への影響

今回の事故で海底油田に事故が起こった場合、取り返しのつかない事態になることがわかってしまいました。

世界の石油は限りがあるので、今後は海底油田も積極的に開発していこうとしていた矢先の、この大惨事。オバマ大統領は5月27日、アメリカ政府が新たな海底油田開発に与える許可を今後半年間は与えないという方針を示しました。

今後は一層の安全対策が求められると思われるので、海底油田開発もコストが高くなり難しくなっていくでしょう。

最終更新者:All About 編集部 (更新日:2010年05月31日)

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