風知草

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風知草:求心力は人事から=山田孝男

 かつて「霞が関なんて大バカですから」と言い放った菅直人が、いまは「官僚の皆さんこそプロフェッショナル」と猫なで声を出している。

 矛盾には違いないが、責める気にもなれない。「官僚の本質はバカかプロか」などという議論は不毛だ。世間は不安定政権にウンザリしている。今度こそ官僚を巧みに使ってかじ取りしてほしいと思う。

 どうすればいいか。

 「人事ですよ。新しい政権を担うんだから、一新しなくちゃいけない。懲罰的な人事をやる必要はありませんが、使える人を抜てきしたらいい。求心力が高まるでしょう」

 片山善博慶応大教授(前鳥取県知事)のよどみない即答である。旧自治省(現総務省)の元課長で、故・梶山静六自治相の秘書官を務めた。

 官僚は大臣の力を瀬踏みする。強ければ従い、弱ければナメてかかる。官僚に限らない。サラリーマンはみんなそうだ。自分の将来を左右する有力者の方を向いて仕事する。

 片山は中央官僚の習性を知り抜いているだけでなく、県知事として実際に県官僚を操り、成果を上げた。就任3カ月で人事を刷新、1年後にほとんどの部長を代えている。

 民主党政権はどうか。9カ月になるが、官僚のトップである各省庁の事務次官のうち、政権交代後に代わったのは総務省だけ。その総務新次官も、官界の秩序に従って本命が繰り上がったケースである。

 各大臣とも官僚に取り込まれまいと身構えるあまり、官僚の手綱をさばく態勢がとれていないように見える。

 政府の初動の遅れが批判されている口蹄疫(こうていえき)対策について、片山がこう書いている。

 「自民党が与党なら、族議員が直ちに官僚を呼びつけて(対策を)指示していたに違いない。族議員はマイナス面ばかり指摘されていたが、(緊急時に)初動を促し、その後の進行を指揮する『自動駆動装置』のような機能があったのである」(「世界」7月号)

 利益誘導政治のネットワークにアグラをかくような政官癒着は当然、断ち切るべきだが、国民的政策課題に立ち向かう政官の連携に積極的であって悪い理由はどこにもない。

 今週、国会が終われば霞が関は異動の季節を迎える。官僚社会の自律運動のような人事になるか。そうでないか。目を凝らして見ていよう。

      ◇

 一方で、菅首相の組閣と党役員人事は新鮮な印象を与え、内閣・民主党支持率のV字回復をもたらした。人事は求心力を生む。新しい政治を生み出す入魂の布陣か、そうと見せかけた選挙対策のゴマカシか。答えは参院選後に出る。

 新首相は就任記者会見でこう言った。「お遍路も続けたいところでありますけれども、官邸こそが修行の場だという覚悟で力を尽くします」

 6年前、菅は自民党閣僚の年金未納を批判した直後に自分の未納が発覚、メンツを失って民主党代表を降り、頭を丸めて巡礼の旅に出た。

 パフォーマンスだといわれたが、いつの間にか四国八十八霊場のうち五十三番・円明寺(えんみょうじ)(松山市)まで歩いていた。

 罪業(ざいごう)消滅と再生を願う四国遍路のキーワードは同行二人(どうぎょうににん)である。弘法大師とともに歩むという意味だが、異質の再生を夢見る別の同行者がいないか。油断は禁物である。(敬称略)(毎週月曜日掲載)

毎日新聞 2010年6月14日 東京朝刊

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