大昔のことで恐縮だが、1986(昭和61)年4月、政治記者の僕はワシントンの日米首脳会談に向かう中曽根康弘首相に同行取材した。会談を終え、中曽根さんは急いで帰国したが、僕はここで同行相手を“乗り換え”、経済協力開発機構(OECD)閣僚会議のパリに向かう安倍晋太郎外相に付いていくことにした。安倍さんは元首相・晋三さんのお父上である。
当時ポスト・中曽根は安倍、竹下登、宮沢喜一の3氏に絞られていたが、僕は「次は安倍」と思い込んでいた。
OECD閣僚会議が終わった翌4月19日、安倍さんが「ゴルフをしたい」と言い出した。パリ郊外のゴルフ場。お相手は僕と外務官僚が務めた。
日米首脳会談の最中に、アメリカがリビアを空爆したり緊張が続いて、ストレスがたまっていたのだろう。安倍さんは力いっぱい、ドライバーを振り回していた。
昼飯はOECD大使公邸。日本の超一流料亭より、うまい日本料理。終わるとマージャンだった。「キミ、やるか?」と言われたが遠慮した。「キミはサラリーマンだからな」と安倍さんは笑った。相手は、なぜかパリに“先回り”していた経済人が務めた。
観戦していて驚いた。もちろん、賭けマージャン。例えば「1万」が役札になると、「1ピン」「1ソウ」も役札になる。自民党ルールといわれるインフレマージャン。莫大(ばくだい)なカネがいとも簡単に動く。
夢中になって時間を忘れ、安倍さんは日航に出発時間を延ばしてもらい、パトカーに先導されて空港に滑り込んだ。
一部始終を見て「権力」の一端を垣間見た思いだった。正直言って、この賭けマージャンは「犯罪の範疇(はんちゅう)」ではないのか?とまで思った。
バクチ追及には「不公平」が付いて回る。ささやかな賭けマージャンが発覚して、会社を辞めさせられた人もいるだろう。そうかと思えば、「相撲界は特殊な社会だから」と(うすうす暴力団がらみと知りつつ)大目に見られていた「相撲取りのバクチ」。が突然、大々的に報道され、世間は「バクチ力士を追放せよ!」の大合唱。ある人は容認、ある人は厳罰?
かつての自民党は東京・浅草の料亭「x」で野党議員を相手に賭けマージャン。わざと負けて「官房機密費」を渡した、と何度か聞かされた。バクチはどこまでが「犯罪」なのか? 力士だけが悪人……とも思えない。(専門編集委員)
毎日新聞 2010年6月29日 東京夕刊
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