最近、中国の経済から、凶兆ともいうべきいくつかの異変が生じてきた。
まず注目すべきは、今年に入ってからの株市場の低迷である。年初に3300ポイント台であった上海指数は、この原稿を書いている6月11日の時点ですでに2569ポイントに下がってしまい、2割以上の下落となった。
2009年に米国を抜いて世界一となった中国の自動車市場にも陰りが見え始めた。今年の4月における全国の自動車生産量と販売台数は前月比でそれぞれ9.85%減と10.37%減となった。5月になると、その減少幅はさらに14.36%減と13.95%減へと拡大した。
不動産バブルの崩壊も進行中である。今年の4月中旬、中国政府が「3軒目の物件購入への住宅ローンの停止」を柱とする不動産投機抑制策を打ち出して以来、全国の不動産市場は急速に冷え込んだ。5月には、国内主要都市の不動産成約面積は前月比で44.18%減少し、うち北京、上海、杭州、南京の成約面積は史上最低水準に縮小した。こうした中で、「今後3カ月内に中国の不動産価格は40~50%の下落がある」との予測が国内から出され、バブルの崩壊は秒読み段階に入った。
それと同時進行的に、本格的なインフレ発生の危険性も迫ってきている。去年11月に0.6%の低水準にとどまった消費者物価指数は、今年の4月に2.8%に上昇し、5月にはとうとう、中国政府の設定した「インフレ警戒線」の3%を超えて3.1%となった。このままでは、インフレの到来は必至の趨勢(すうせい)である。
このように、中国のさらなる「繁栄と発展」の起点となるはずの上海万博の開催を前後にして、中国経済はむしろさまざまなぼろをいっせいに出して風雲急を告げるような重大な局面となった。
この十数年間、慢性的な内需不足が続く中で、中国政府はずっと、「固定資産投資」と「対外輸出」の継続的拡大を2つの牽引(けんいん)力にして高い成長率を維持してきた。が、投資のやり過ぎは供給と消費のバランスを崩してしまい、成長の牽引力としての限界にぶつかった。輸出頼りの成長戦略もやがて、08年秋以来の世界同時不況の発生によって頓挫した。
09年になると、輸出の急減で転落のがけっぷちに立たされた中国経済を救うために、政府は各銀行に大号令をかけて、総額9.6兆元(当年度の国内総生産の3割以上相当)という世界金融史上前代未聞の放漫融資を行わせたが、資金の一部が不動産投機に注ぎ込まれて史上最大の不動産バブルを膨らませ、実体経済からかけ離れた資金の大量供給がまた、インフレ発生の火種をまいた。
その結果、今年に入ってからの中国経済は、不動産バブルの膨張とインフレ発生の危険という2つの深刻な問題と同時に直面することとなったのである。
ギリギリの線で生活している数億人単位の失業者や貧困層が存在している中で、インフレの発生=物価の大幅上昇は政権にとっての命取りとなりかねないから、中国政府はいずれか金融の引き締めに転じざるを得ない。その副作用として当然、不動産バブル崩壊の加速化は避けられない。