中国に金融危機の芽、地方向けインフラ融資に焦げ付きリスク
[上海 2日 ロイター] 中国の銀行は、2年前に米銀が陥ったような危機に向かっている可能性がある。1兆ドルもの地方政府向けインフラ(社会資本)融資が焦げ付く恐れがでてきたからだ。
中国の銀行は相次ぎ増資に踏み切っているが、不動産市場が急激に調整すれば、一段の大規模な増資を迫られる可能性がある。
4兆元(5860億ドル)の景気刺激策が打ち出されたのに伴い、昨年、高速鉄道から空港、橋に至るまで、さまざまなプロジェクトへの融資が急増した。
しかし、政府は、不動産市場など経済の過熱感を抑制する方針に転換した。そこで地方政府が借り入れを返済できないのではないか、という懸念が強まっている。
スタンダード・チャータード銀行の中国エコノミスト、ステファン・グリーン氏の試算によると、地方政府のインフラ・プロジェクト向け融資残高は7兆元で、その30─50%が焦げ付く可能性がある。
海通証券のアナリスト、Fan Kunxiang氏は「まるで時限爆弾だ。問題がどのくらい深刻なのか、いつ爆発するか、だれも分かっていない。もしインフラ・プロジェクトが1つか2つ失敗すれば、市場はパニックになるだろう」と述べた。
地方政府の借り入れ慣行が不透明なため、問題の大きさ、実態ははっきりしない。それをきちんと把握しようと、中国銀行業監督管理委員会(銀監会)は、業界規模の調査に乗り出した。調査は6月中に完了する見通し。
すでに銀監会は、銀行に対し、インフラ融資の大幅な縮小を指示。また、新規に資本を調達し、将来の損失に備えて財務基盤を強化するよう求めている。
主要銀行はすべて、さまざまな資本調達計画を発表した。計画が発表されると、第1・四半期が過去最高益だった中国工商銀行(ICBC)(1398.HK: 株価, 企業情報, レポート)(601398.SS: 株価, 企業情報, レポート)、中国銀行(3988.HK: 株価, 企業情報, レポート)(601988.SS: 株価, 企業情報, レポート)、中国建設銀行(0939.HK: 株価, 企業情報, レポート)(601939.SS: 株価, 企業情報, レポート)も含め、各銀行株は軒並み売られた。
CLSAの株式ストラテジスト、クリストファー・ウッド氏は「政府は地方政府のインフラ・プロジェクトの監査を行っている。当局が銀行に引当金の積み増しを命じるのかどうかがポイント」とみている。
<厄介な地方政府の特別目的会社>
財源不足に悩む地方政府は、インフラ・プロジェクトの資金を手当てするための仕組みを作り上げた。代表的なのが、土地を担保とした特別目的会社の活用だ。
クレディ・スイスのエコノミスト、ドン・タオ氏によると、そうした特別目的会社は現在、8000程度あり、しかもその半数が過去1年半に設立された。
しかし、特別目的会社を通じて完成したプロジェクトの多くは、採算性の見込みが低い。
北東部黒竜江省の小さな街、佳木斯の例はその典型だ。商業の中心都市である上海でさえ操業開始から数年たっても事業運営に苦労している高速鉄道計画を立てている。
また、上海では、特別目的会社への融資がインフラと関係ない目的に流用されている例もでている。高速鉄道計画の名目で20億元借り入れておきながら、実際は計画と関係ない報酬関係に13億元使われていたことが、政府の監査で判明した。
スタンダード・チャータード銀行のグリーン氏は「プロジェクトにどれくらいの収入をもたらす可能性があるのか、どの程度成長を押し上げる効果があるのか、本当に理解している人はいない。他の国ではこうしたプロジェクトはまず予算計画から始まるが、中国の場合、政府の財政を無視して進められてしまう」と言う。
クレディ・スイスのタオ氏は、地方政府の特別会社は、レバレッジの高さや土地を担保にしていること、資産の流動性が乏しいことや透明性に欠ける点で、世界金融危機に問題となった米銀の特別目的会社に似ていると指摘。
中国政府が積極的な不動産抑制策をとるなか、不動産市場の調整が起これば、2011年にも危機がぼっ発する可能性があるとみている。
そうなれば、影響は大手銀行のみならず、地方政府との関係が深い何千もの中小金融機関にも及ぶとグリーン氏は予想している。
グリーン氏はさらに、最も根本的な問題の一つに、地方政府が直接債券を発行できないことを挙げる。
「基本的に必要なのは、地方財政改革。地方政府は債務に対する責任があるが、現行制度でそれを果たすのが非常に難しい」と述べた。
( 記者;翻訳 武藤邦子;編集 内田慎一)
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