宙博2009レポート

宙博2009レポート

「夢ではない」実現可能性が増す宇宙太陽光発電──宙博の講演と展示から

環境メディア  2009/12/14

宙博2009において、将来のエネルギー問題解決の選択肢の1つとして講演や展示が行われていたのが、衛星軌道に巨大な太陽光発電システムを打ち上げるという「宇宙太陽光発電(SSPS)」だ。本稿では、そのコンセプトや現状を紹介する。

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 宙博2009の2日目に、慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科委員長の狼嘉彰氏は「未来の新エネルギー──宇宙太陽光発電」と題して、コンセプトや歴史、日本での研究の現状について講演した。また展示スペースでは宇宙航空研究開発機構(JAXA)、京都大学生存圏研究所、無人宇宙実験システム研究開発機構(USEF)がパネルの展示を行っていた。以下、狼氏の講演を中心に紹介する。


CO2排出が圧倒的に少ない宇宙太陽光発電

慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科委員長の狼嘉彰氏

 宇宙空間で太陽のエネルギーを集めて地上に送って電力として利用するという「宇宙太陽光発電」(SSPS:Space Solar Power System)のアイデアは1968年に米国アーサ・リトル社のグレーザー氏がScience誌に発表した。これをもとにNASA(米航空宇宙局)が米エネルギー省と1979年に基本構想を発表したが、当時の技術が未熟だったことや経済性から批判を浴びて消えてしまった。その後1995年に議会からの圧力によって再検討を開始、2007年にはアラブ首長国連邦の依頼によってマサチューセッツ工科大学(MIT)でSSPSのワークショップを開催し、専門家が集まってかなり突っ込んだ議論が行われたという。

 狼氏はSSPSの利点として、単位エネルギー当たりのCO2排出量がほかの発電方式に比べて圧倒的に少ないこと、静止軌道上にシステムをおいた場合には30年程度メンテナンスフリーでオペレーションできると考えられていることを挙げた。

発電方式の違いによる、1kWh当たりのCO2排出量比較。下の2つがSSPS(一番下はSSPSのシステムを製造するためのエネルギーまでSSPSでまかなった場合)

 現在検討されているSSPSの方式には、太陽電池によって発電してそれをマイクロ波に変換して地球に送り、マイクロ波から電力を取り出すマイクロ波方式SSPS(M-SSPS)と、太陽光直接励起型レーザーによって太陽エネルギーを直接レーザーに変換して地表に送り、そのエネルギーで水素や電気を作り出してそれを利用するというレーザー方式SSPS(L-SSPS)の2種類がある。

宇宙太陽光発電のコンセプト。上の説明が「マイクロ波方式SSPS(M-SSPS)」、下が「レーザー方式(L-SSPS)」にあたる

 M-SSPS実現のための技術開発のポイントは以下の通り。まず宇宙空間では1平方メートル当たり1.3キロワットの太陽エネルギーが得られる。これを太陽電池によって電力に変換する。1979年当時は12%程度だった発電効率は、現在は最高28%程度に向上し、さらに50%近い太陽電池セルが可能であるとの研究報告もあるという。なお、地表のメガソーラー発電所などと比較して、夜や大気・天候などによる効率低下が起きないため、SPSSでは常時最大効率で発電できることになる。

 電力のマイクロ波への変換も半導体高周波増幅システムが非常に発展し、地表で受電するための一種のアンテナ(「レクテナ(RECTENNA)」)も開発が進んでおり、SSPSを支える基盤技術のレベルが高まっているという。日本では先頃成立した宇宙基本法にSSPSへの言及があるほか「グリーンエネルギーに関して予算がつぎ込まれる状況になっているため、さらに技術開発が加速する」(狼氏)と考えられるという。

 では現時点でのSSPSの課題としては、(1)どのような衛星軌道を取るか、(2)どうやって軌道まで持って行くか、(3)どうやってエネルギーを伝送するか(マイクロ波は無害で環境に影響を与えないか)などといったことが挙げられる。

 軌道として考えられているのは、静止軌道、太陽同期軌道、準天頂軌道の3つ。それぞれ長所と短所がある。

 静止軌道は夏至と冬至の数分間をのぞき1年中太陽光を受けられる(地球直径に比べて十分な高度があるため地軸の傾きによって地球の影に入ることがない)ため常時発電が可能だが、高度が3万6000キロと非常に遠いため送電・受電のためのアンテナが巨大になる。

SSPSを静止軌道に上げたときのイメージ

 太陽同期軌道は「だいち(ALOS)」(陸域観測技術衛星)や「いぶき(GOSAT)」(温室効果ガス観測技術衛星)などと同じ軌道、高度が500キロ〜1000キロと近いためエネルギー伝送では有利だが、地表から見える時間が短いため常時性が低いことが欠点、これをカバーするために複数の衛星によるフォーメーション運用が必要。

SSPSを太陽同期軌道に上げたときのイメージ

 準天頂軌道は静止軌道からずらし、日本の真上に近い位置に長くとどまらせるという軌道。伝送距離は静止軌道と同じ3万 6000キロだが、見上げ角70度という高角度から電波を降らせられるため受電側の効率が非常に良いという利点がある。3機使うことで常時性も確保できるという。現時点でどの軌道が最適という答えは出ていない。

SSPSを準天頂軌道に上げたときのイメージ

 エネルギー伝送に関する課題として狼氏は2つ挙げた。1つは、SPSS衛星の発電部は常に太陽側に向け、その一方で送電アンテナは地表を向いていなければならない。このため、両者間に回転部が必要になるが(静止衛星軌道でも1日に1回転する)、回転部に大電力を流す必要があるという問題。100キロワットクラスでは例があるが、ギガワット(100万キロワット)クラスの電力を流すことができるかどうか。

 もう1つ、SSPS衛星はキロメートルオーダーのサイズとなり、その上を400ボルト程度の比較的低電圧で送電部に向けて大電力を送る必要がある。するとメガアンペアクラスの超大電流になるが、そのような電流を流せる電線は非常に太くなってしまう(重量も増す)という問題。解決策として、前者には太陽光をミラーに反射させてから太陽電池に照射することが考えられており、後者では高温超電導ケーブルを利用することで解決の道筋が見えてきたとしている。


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