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きょうの社説 2010年6月29日
◎北電プルサーマル 「信頼のサイクル」どこまで
志賀原発でもいよいよ使用済み核燃料の再利用(プルサーマル)計画が動きだした。資
源に恵まれない日本がエネルギーを将来にわたって安定的に確保していくには、国内での「原子燃料サイクル」の確立が不可欠であり、プルサーマル計画が、その重要な一翼を担うのは違いない。北陸電力は2015年度までの発電開始を目指し、石川県と志賀町に申し入れを行った 。北電に聞きたいのは、計画の重要性や安全性を訴え、理解してもらう前提となる「信頼のサイクル」がどこまで構築できたのか、という素朴な問いである。志賀原発は最近こそ目立ったトラブルが無いとはいえ、北電は昨年まで1号機の臨界事故隠しや2号機の差し止め訴訟の処理などに追われていた。今ここで動かねば、電力業界が目指す15年度導入に間に合わないのだろうが、信頼の貯金が十分にたまっているとは思えない。 昨年11月、先陣を切ってプルサーマル発電を始めた九州電力・玄海原発3号機(佐賀 県玄海町)は半年以上、これといったトラブルが無く、運転は順調そのものという。九電が北電より少なくとも5年早くプルサーマル発電を実現できた理由は、1994年の稼働以来、重大なトラブルがほとんど無く、地元の信頼度が抜群に高いからである。信頼は信頼を生み、大きく育っていく。そんな「信頼のサイクル」がしっかり構築できれば、志賀原発のプルサーマル計画もスムーズに進むはずである。 志賀原発でトラブルが続いた原因の一つは、かつて電力供給の現業部門と、経営本体の 中枢部門が、距離的にも心理的にも遠い関係にあったからだ。志賀町に原子力本部、金沢市に地域共生本部が設置され、経営責任を持つ副社長と常務が常駐するようになったことで、管理体制は格段に向上したが、地元との距離感は、まだまだ遠いようにも思える。 石川県は既に北電全体の発電電力量の5割前後を占める「電力供給県」であり、プルサ ーマル導入に向けて重要性はますます高まるだろう。もう一歩踏み込んで電力供給の地元に経営管理の軸足を移すことも考えてほしい。
◎大相撲の賭博問題 荒治療でしか再生できぬ
大相撲の賭博問題を調べていた特別調査委員会の処分勧告は、日本相撲協会にすれば重
い内容だろうが、ここまで社会を騒がせた問題の大きさや根深さを考えればやむを得ないだろう。大相撲を一から立て直し、損ねた信頼を取り戻すには、身内の論理を排した荒療治しかない。野球賭博の背後関係に関しては、警視庁が「胴元」に暴力団がかかわっていた可能性が あるとみて捜査を続けている。暴力団との関係では、「維持員席」の入場券が暴力団に渡り、土俵際で観戦していたことや、券を代行販売する「相撲案内所」の代表が組員だった事実なども発覚している。 興行を通じて反社会的勢力と結びついてきた歴史があるとはいえ、社会の常識に照らせ ば、悪しき関係は即刻断ち切るのが当然である。暴力団との不透明な付き合いが残ってきたのは、毅然とした対応を怠ってきた協会の体質に起因しているのではないか。だとすれば、身内による自浄能力に限界があるのは明らかである。 相撲協会が処分勧告を受け入れ、名古屋場所の開催が決まったが、場所を潔く取りやめ 、暴力団との関係も含め、時間をかけて徹底的に疑惑を洗い出す選択肢もあったはずだ。協会が名古屋場所を信頼回復の一歩にしたいなら、場所開催までに、理事会の体制を刷新する明確な方向性を自らの責任で打ち出してほしい。 野球賭博問題では、大嶽親方が多額の借金を重ね、大関琴光喜に勝ち金の回収をさせて いた疑いも浮上している。この2人に対しては、最も重い「解雇以上」の勧告が出され、相撲協会もその方向で手続きを始めた。武蔵川理事長ら協会理事を含む親方多数も謹慎対象になっている。処分勧告に従う以上、武蔵川理事長の辞任は免れないだろう。 稽古に名を借りたリンチまがいの光景はつい最近まであった。閉鎖社会ゆえの悪習がま だ残っているとすれば、この機会を逃さず、外部の目を通して一掃しなければならない。土俵に誇りを取り戻す最初の一歩は、協会の解体的な出直ししかあるまい。
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