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[19760] 【ネタ】管理世界に武術の達人を放りこんでみた(リリカルなのは×??)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/06/23 20:51
 第14管理世界ペッパー。その辺境にある森の中で若い女性が3人の男に体を押さえつけられ、泣き叫んでいた。

「いや、いやあ!!! 誰か助けて!!」

 彼女は必死に助けを呼ぶ。けれど、頭のどこかでわかってしまっていた。助けは来ない、仮に誰かが近くに居たとしても、その人が自分を助けてくれることは無い。もしその人物が助けようとしてくれたとしても、自分を襲おうとしている男達には敵わない。何故ならば、男達はこのあたりでは有名なごろつきで―――魔導師だった。
 それも3人の内一人はAランク魔導師で残り二人もCランク魔導師。それに対し、近場の駐在所にはFランクの魔導師が一人居るだけ。他は町にE・Fランクの魔導師が数人居る程度。ごろつき達を止められるものは誰も居ないのだ。
 彼女以外にも既に多くの女性が被害にあい、それ以外にも強盗、傷害、多くの罪を犯しながら男達は野放しになっていた。
 当然、管理局の地方支部に応援を要請してはいるのだが、管理世界の中では辺境な上、魔導資質を持つものが少ないペッパーでは地方支部にすらBランク魔導師が数人、Aランク魔導師に至っては一人も居ない。そしてペッパーの中でも特に更に辺境なこのあたりにその貴重なBランク魔導師をまわしてくれることは無く、かといってC、Dランク魔導師とて余っている訳ではない。一人や二人なら送れないことはないだろうが、格下の魔導師を少人数送ったところで返り打ちにあうだけとわかっているため、結局いつまで待っても救援は来ない状況が続いていた。
 1年を超えてただ、男達の暴虐に耐えるしかない毎日。そんな状態だから少女にも最初からどこか諦める気持ちがあった。

「へっ、大人しくすれば、ちっとは優しくしてやるからよ」

 下卑たことを言いながら男が少女のスカートに手をかける。諦めの気持ちが大きくなり、少女は全ての希望を捨て去ろうとする。

「やめろ!!」

 その時、離れた所より叫ぶ声が聞こえた。彼女は一瞬希望をよみがえらせ、直ぐにまた絶望を、それも先程までよりも更に大きな絶望を抱いた。
 それはその声に心当たりがあったから、その声が誰のものであるか気付いたから。自分の予想が間違っていて欲しい、祈りを込めながらその声のした方を見て、そして彼女は今度こそ絶望した。そこに立っていたのは一人の男性。予想した通りの相手。彼は足を振るわせながら、女性を襲う男達を睨みつけていた。

「ヤン……」

 その男は彼女の恋人だった。彼がここに来た事は彼女にとって救いでは無い。最悪の事態だ。彼がごろつき達に殺されることは無いだろう。ごろつき達も殺人までは犯さない。殺人が起きてしまえば、管理局も流石に無視できないことを知っているから。けれど、その一歩手前までは彼は傷つけられるだろう。そして傷ついた恋人の前で彼女は犯されるのだ。

(どうして……?)

 彼女は内心で答えの返ってこない疑問を呟く。どうして、魔導師でないというだけで自分達はこんなにも苦しまなければいけないのかと。管理局による質量兵器の排斥、管理しやすい魔法という力のみが残ったことで、確かに一時的には争いは減った。しかし、その力が次第に本局に独占されていく内に地方の治安はどんどん悪化していった。それは当然のことだろう。たった一人、ランクの高い魔導師が悪意を持っただけで、それに対抗する手段は何も残されてはいないのだから。他の全ての魔導師が理性的だったとしてもたった一人の悪意で砕ける平和、それが今の管理世界の実情だった。

「ぐっ」

「おらおら、どうした?」

 彼女の予想通りごろつき達に嬲られ、口から血を吐く恋人。彼女はそれを見ていることしかできない。そしてその後におとずれる最悪をただ待つことしかできない。絶望のあまり、彼女は舌を噛み切って自殺しようとまで考える。

「まったく、どうしようも無い奴等はどこにでもいるものじゃな」

 しかし、そこで再び第3者の声が彼女の耳に入った。今度の声は彼女も知らない相手のもの。その声の聞こえた先、そちらを見るとそこに居たのは一人の老人だった。手には杖を持っている。それを見て一瞬彼女はそれがデバイスかと思い、ついに待ち望んだ管理局の応援が来てくれたのだと喜びかける。しかしよくそれを注視し、それがただの杖であることに気付くと彼女の表情が再び絶望に代わる。

「ふむ。お嬢さん、こいつらがあんたを無理やり襲い、助けようとしたそこの坊主に暴力を振るっていると、そんなところでよいかな?」

 しかし絶望に彩られた彼女とは対照的に老人は余裕な調子で尋ねてくる。老人の言ったことは事実その通りだったので、彼女は思考を働かせないままそれに頷く。

「そうか。それじゃあ、ちょっと懲らしめてやろうかの」

「なんだ。じじい、てめえは」

 軽い調子で言う老人の態度に苛立ちながら、ごろつきの一人が老人に向かってデバイスを向ける。しかし、攻撃はしない。非殺傷設定とはいえ、老人に向けて撃てばショックで殺してしまう恐れがあるからだ。だが、そんな彼等に向かって老人は挑発をかける。

「ほれ、撃つんならさっさと撃ったらどうじゃ?」

 言葉と共に手招きするかのように手を振る。それを見て、あまり太くない上、日頃自分達以外の全ては自分達にへつらうのが当たり前と思っているごろつき達の堪忍袋の緒が切れた。

「このくそじじい!!」

 魔力弾が発射される。そしてその魔力弾は老人に直撃し、貫いた。そう“貫いた”。

「!?」

 その光景にごろつき達は驚愕する。ごろつき達は非殺傷設定で魔力弾を撃った。そうであれば、体を貫くなどある筈が無いのである。そして、貫かれた老人の体が虚空に書き消える。

「残像じゃよ」

「!!」

 その声はごろつき達の後ろから聞こえた。そして、次の瞬間、ごろつきの男達の一人の首筋に手刀が入れられ、その意識が断ち切られる。慌てた残り二人は素早く反転すると魔力弾を放つ。しかし再び老人の姿が掻き消え、そして今度は離れた場所から老人の声が聞こえ、ごろつき達の耳に入った。

「大丈夫じゃったか?」

「は、はい」

「あ、ありがとうございます」

 老人はごろつき達から100メートル以上離れた場所に移動していた。しかも、その側には女性とその恋人の姿もある。つまり老人は二人を抱え、一瞬でそれだけの距離を移動したことになる。呆気に取られるごろつき達。いや、ごろつきは最早一人だった。何時の間にかごろつきの一人が地面に仰向けに倒れ、気を失っている。その顎には靴の跡があり、どうやら老人は離れ際に置き土産とばかりに一撃見舞って言ったらしい。

「うむ、それじゃあ、お礼にパイパイを……っと言いたいとこじゃが、流石に自重して置くかの。それとお主、敵わぬまでも恋人を守ろうと悪漢に挑むその姿、立派じゃったぞ。お主さえその気ならわしの弟子にしてやろう」

「弟子?」

 ごろつき達を倒したことなど何でも無いと言った態度をし、女性にむかって一瞬すけべ顔を浮かべた後、さっと真顔に戻り、男を真っ直ぐに見て褒める老人。男はその老人が言った弟子という言葉に興味を惹かれる。

「うむ、こう見えてもわしは“武術の神様”等と呼ばれておるからのう。まっ、前に鍛えた弟子達にはとっくの昔に追い抜かれてしまったんじゃが。しかし、さっきからどうも体が軽いのお。どうも体が200歳ばかり若返っておるようじゃ。こりゃ、思い切ってわし自身ももう一度鍛え直してみるかのう」

 話しかけている途中でぶつぶつと呟き出した老人に、思わずこの場に現れた救世主がぼけてしまったのではないかと失礼なことを考えて、不安になってしまう女性。そこでごろつき達の叫びをあげ、彼女は正気に戻らされる。

「てめえ!!」

「うむ、それじゃあ、まずは、さっさとお前達を片づけるとするか」

「なめんじゃねえぞ。俺はAランク魔導師だ。ノックやタップとは格が違う!!」

 倒れた仲間を指して自分が格上であると主張する男。しかしそれを聞いても老人はまったく気負った様子を見せない。

「かわらんよ。お主の腕の方はさっき見せてもらったが、その程度ではわしの足元にも及びはせん」

「てめえええ!!!!!」

 老人の言葉がごろつきの無駄に高いプライドを刺激する。そして完全に切れたごろつきは自身の最大魔法を使うため、老人にバインドを仕掛ける。

「むっ?」

 突然、現れた魔力のロープに、老人は初めて攻撃を回避できず、受けてしまう。魔力のロープに拘束される老人。そしてそれを見るとごろつきはニヤリとした笑みを浮かべ、魔力を収束し始める。

「喰らえ俺の最強魔法、バーニ………」

「ふん!!」

 しかしその次の瞬間、老人が気合いの声をあげると共に、その筋肉がいきなり膨れ上がり、一瞬にしてバインドが断ち切られてしまう。そのあまりに非常識な光景に思わず、詠唱を中止してしまい、下に落ちてしまうのではないかと言う位に顎を開けてしまうごろつき。良く見ると、ごろつきばかりでなく、老人に助けられた二人までも同じような感じである。
 そして拘束を逃れた老人はと言うと、自由になったにも関わらず、ごろつきを妨害しようともせず逆にその場に制止する。

「どれ、せっかくじゃ、そのバーなんとかを見せてみんかい」

「な、何を!?」

「て、てめえ!! いいだろう、見せてやろうじゃねえか、俺のバーニングファイヤーショットを!!」

 老人の言葉に焦る二人と怒るごろつき。そして、何とかごろつきを止めさせようと老人に頼む二人を他所に、ごろつきが魔法を完成させてしまう。

「ははっ、今度こそてめえは終わりだ!!」

 老人達に向けたデバイスの先に魔力が集束する。それに対し、老人は両手を組み合わせ、器のような形にすると、それを腰の所にもっていく。

「か~め~は~め~」

「喰らいやがれ、バーニングファイヤー!!!」

 ごろつきの魔法が放たれる。自信を持って言うだけあって、それはかなりの威力と速度だった。魔法ランクにすればAA-程度はあるだろう。その砲撃が自分達に直撃する事を想像し、思わず目をつむる二人。しかしこの程度の一撃は老人を相手にするには足りなすぎた。

「波!!!!!!!!」

 老人の手のひらに“気”が集中し放たれる。そして、ごろつきの放った魔砲を遥かに圧倒するそのエネルギーは軽々と魔砲を貫き、そしてごろつきの頭の直ぐ真上を通りこし、空に消えた。

「……」

 その光景に誰も声が出せない。ごろつきはその場にへたりこみ、小便を漏らす。肉体的に傷は無いが、恐らくは精神的にショックが大きすぎて再起不能だろう。

「うむ、それじゃあ、こいつらを警察に引き渡すとするか。っと、この世界に警察はあるのかの?」

「あっ、はい。管理局という組織が。あの、その、あなたは一体何者なんでしょう?」

 女性が老人に尋ねる。魔法とは明らかに違う力を使い、魔導師3人を圧倒し、管理局の事も知らない。自分達の恩人とはいえ、その素姓はあまりに怪しすぎた。そしてその問いに対し、老人はニッカリと笑ってこう答えた。

「わしか。わしは武天老師、またの名を亀仙人と言うものじゃ」


(後書き)
最近、リリカルロボット大戦WとSEEDcrossの方がどうも上手く書けないので気分展開に短編を書いてみました。クロスキャラはご存じDBの亀仙人こと武天老子様です。かなり好きなキャラなんですが、原作ではインフレに飲まれ、完全戦力外になってしまい、SSとか動画とかでもほとんど見た事ないので書いてみました。



[19760] 実は管理世界に放りこまれたのは武術の達人”達”だった
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/06/26 21:42
 第1管理世界ミッドチルダにある管理局の地上本部でその防衛長官に任命されたばかりのレジアスは手元にあるデータを見て頭を悩ませていた。ミッドチルダの治安が悪化する一方なのに対し、ここ数年で急速に治安を向上させている管理世界があるのだ。それも複数。そしてそれらについて調査させた所、全てに対し、共通の答えが返って来た。

『武術の達人が現れた』

 最初、それは何の冗談かと思った。魔法を使わぬ武術など、精々がFランクの魔導師相手位にしか通用しない。それが管理世界の常識だった。しかし、それは冗談ではなかったのである。
第6管理世界アルザスでは流派東方不敗という武術の、第7管理世界ナックでは北斗神拳と南斗聖拳という武術の、そして第14管理世界ペッパーでは亀仙流という武術の使い手が現れ、更に彼等はその世界の住人の中から幾人かの弟子を取り、その弟子を中心とした自警団を結成している。そしてそれが治安向上に繋がっているのだと言う。
 更に第9管理世界マルドゥークでは管理世界で認められたというか、問題にならないとして禁止されなかった数少ない質量兵器である“刀剣”を用いる御神流と飛天御剣流という剣術の使い手が現れている。御神流は他に比べると個々の力は弱い、最も他が規格外過ぎるだけなのだが、その代わり数十名の集団で現れ、そのほとんどがCランク程度の魔導師を上回る戦闘力を持っているらしい。それに対し飛天御剣流は伝承者とその弟子の二人のみだが、伝承者の方は御神流の中で頭抜けた強さを持つ当代の男と互角かそれ以上の強さであるそうだ。それと他に波紋法なる技を使うものがこの世界では確認されている。
 そして第11管理世界テンプルでは我流X、Mr.カラテ、ナイトマンを名乗る仮面をかぶった格闘家3人組が犯罪組織を潰して回っているとの情報が入ってきている。また、これと関係あるかどうかは未確認であるが、風林寺隼人、タクマ・サカザキ、新宮十三という名の3人によって梁山泊なる道場が開設され、「史上最強の弟子育成計画パート2」なる詳細不明な計画が立てられている。

「うーむ」

 レジアスは考える。報告が確かならば、その力を是非とも地上本部に欲しいと思う。何より、レアスキル嫌いの彼にとっては場合によって魔法に勝り、努力によって手に入る力と言うのはとても魅力的だった。

「しかし、これ以上情報を集めても拉致があかんな」

 しかしながら上がってくる情報はあまりに眉唾過ぎて、これをもとに動くと言うのはあまりにも勇気がいる。そして悩んだ末に彼は決断した。

「ここは百聞は一見に如かずという言葉もあることだし」

 つまり自らの目で見て確かめるという結論であった。





 今をさかのぼること4年前、元の世界において350歳で大往生を迎え死んだ筈の亀仙人は何故か気がつくと100歳位の頃に若返っており、彼にとって異世界であるこの世界の森に佇んでいた。そして当ても無く彷徨っているとごろつきの魔導師に襲われていた恋人達、ヤンとユンファを見つけ二人と遭遇し、彼等を助けたその後、二人の住む町ジェイハンを訪れたのである。
そして、そこで、ごろつき達を亀仙人が倒したことを二人が町の人達に話し、初めはその話を信じなかった彼等だったが、やがてそれが真実だと知ると亀仙人は英雄だともてはやされ大歓待を受けた。そして町全体をあげた宴が終わりに差し掛かった頃にヤンが亀仙人に近づき、こう言ったのである。

「武天老師様、あの時、俺が望めば弟子にしてくれるとおっしゃいましたね」

「うむ、言ったのお」

 真剣な表情で真っ直ぐに言うヤンに酔っ払った亀仙人は軽い調子で答える。ヤンはそんな彼の態度を気にすることも自分の思いの丈をぶつけ、弟子入りを志願した。

「でしたら、お願いします!! 俺を弟子にしてください。俺は貴方のように強くなりたい。そしてユンファをいや、ユンファだけじゃない。町の人達を二度とあんな目にあわせない!! そのために俺を強くしてください!!」

「生真面目な奴じゃのお。じゃが、お主のような奴は嫌いではない。よいか、ヤンよ。武術は人を傷つけるためのものでは無い。お主の今の気持ちを忘れることの無いようにな」

 一瞬で素面に戻ったかのように真剣な、そして慈愛の籠った表情で語りかける亀仙人。その姿にヤンが大声で弟子入りを申し込んだことで二人を注目していた町の住人達が感心した表情を浮かべる。そしてヤンは亀仙人の言葉を受け取り神妙に頷く。

「はい、心に置いておきます」

「いいじゃろう。わしの弟子にしてやる。じゃが、一つだけ条件がある」

「はい!! なんでしょう!?」 

 ヤンの言葉に亀仙人は頷き返すと、真面目な表情を浮かべ、指を一本たてるとヤンに顔を近づけて言う。ヤンは弟子入りを認められそうなことに意気込み何でも言う事を聞くとばかりに条件を尋ねようとする。そして、亀仙人はその表情をすけべ顔に崩して言った。

「ユンファちゃんのパンチィ1枚だけでいいからくれんかのぉ?」

「はっ?」

 その後、周りのあまりの視線の冷たさに慌てて冗談だと誤魔化した亀仙人だったが、その後しばらくの間、彼の評価が暴落し、ヤンも弟子入りを後悔しかけたことは言うまでも無い。





「それでは、ヤンよ。早速修行を始めるぞ!!」

「はい!!」

 スケベでも変態でも実力は確かと気を取り直し、亀仙人の指導を受けようと考え、意気込んで修行に望むヤン。しかし、そこで亀仙人が言った修行内容は彼の予想を大きく覆すものだった。

「うむ、それでは手刀で畑を耕すのじゃ!!」

「はい!!……はっ?」

 その後もスキップで移動してピザの配達のアルバイトをやれだの色々とふざけているのではないかと思える修行ばかりが課せられる。その修行姿を周りに笑われ、肉体的にも精神的にも辛い内容にヤンは段々と疑念を募らせていった。そしてある日遂に激昂して彼は亀仙人に詰め寄ったのである。

「武天老師様、もっと武術の型などを教えてください!!」

「かー、武術の型などお前には10年早いわ!!」

 しかし、武天彼はまるで取り合わない。代わりに彼の目の前で重さ数百キロはあるのではないかと思われる大岩を押して動かせてみせて、これが出来たら型を教えてやると告げる。その姿に改めて亀仙人の力を実感したヤンは屈辱に必死で耐え、修行を続けた。そして修行を初めて半年がたった頃のことである。

「ヤン、甲羅を外してよいぞ」

「えっ、あっ、はい」

 唐突にそう告げた亀仙人の言葉にヤンは戸惑いながら甲羅を外す。修行を初めてから半年間彼は寝る時やフロに入る時すら重さ15キロの甲羅を背負わされ続けてきたのである。それを何故、急に外してよいと言われたのか疑問に思いながら外すと彼は自分の体があまりに軽く感じるのに驚かされた。

「それじゃあヤンよ。わしの手に向けて思いっきりパンチを撃ってみろ」

 そして甲羅を外したヤンに対し、亀仙人は右手の手のひらを開けてヤンの前に差し出す。

「しかし俺はまだパンチの打ち方も!!」

「いいから、やってみい」

 戸惑いながら、促されたヤンは適当な構えをとる。そして、彼は拳をひき、思いっきり力を込めてパンチを撃った。その拳が亀仙人の掌にぶつかった瞬間。

「!!」

 その時、聞こえた音が一体何の音なのか彼には瞬時に理解できなかった。あたりに鳴り響く程に大きな音。それは強烈な打撃音だった。ヤンが打ったパンチによってそれが発生し、鳴り響いたのである。

「ふむ、なかなかじゃな」

「あっ、あの、今のは……」

 一体何故、自分にそんなパンチが打てたのかまるでわからず尋ねるヤンに亀仙人が解説する。

「いままでの修行は体を鍛えると共に、体にとって最適な動きを極自然にだせるようにするためのものだったのじゃ。手刀で畑を耕すのは辛い。だから、少ない力で深く掘れるように無意識に自分の力を最大限に生かす動きをするようになる。スキップで形の崩れやすいピザを崩さずに素早く運ぶためには重心を常に安定させなければならない。他の修行にもそう言った意味がある。修行を繰り返すことで、お主は知らぬ間に身体の最適な使い方を学んでいたのじゃよ」

「……申し訳ありません。俺は今まで、修行の成果を疑っていました」

 説明を聞いて修行の意味を知ったヤンは首を垂れて謝罪する。そんな彼を亀仙人はからからと笑って言った。
 
「何、気にすることはないわ。それよりも、今日から本格的な型の稽古を始めるぞ。お主は前の弟子達と違ってその辺のことを何も知らんからの。身体の使い方と技、そして何よりも己に負けぬ心、それらを合わせて強くなるのじゃ」

「はい!!」

 そうして更に修行すること半年、達人とは言えぬまでもヤンがこの世界の常人の域を超え始めた頃のことである。近くの町で嘗てのジェイハンと同じように魔導師が狼藉を働いているという話が伝わってきたのである。

「武天老師様!!」

「ふむ、そうじゃの。放ってはおけん。行くとするかの」

 ヤンの言葉に真剣な目付きで答える。しかし、その数秒後、だらしなく表情を崩し、スケベ顔になる。

「それに町を救えばヒーローじゃからピチピチギャルにももてもてじゃしのぉ。パイパイ位は揉ませてくれるかもしれんのぉ」

「ははっ」

 その亀仙人の姿を見てヤンは渇いた笑いを漏らす。けれども、彼は知っている。そんな打算などなくても自分の師は人を見捨てたりするような人でないことを。いや、まあ、言っている事自体は本音と言うか、実際にその場で言うだけ言ってみそうだし、OKがでれば間違いなく実行するスケベな人だと言うことも理解しているが。
なにはともあれ、こうして、二人は魔導師達が暴れる近くの町、チュンハイへと向かうのだった。


(後書き)
予想を遥かに超えた応援を頂きましたので続きを書いてみました。今、亀仙人が居る第14管理世界ペッパーは地球の中国っぽい感じの世界で初期のDB世界観ともちょっと似てる感じの設定です。
後、今回、色々な漫画の武術の達人を出しましたが、前々から書いて見たかったこととして、魔法資質という生まれついての絶対的な才能差のある管理世界に努力次第で誰でもある程度強くなれる武術を、それも魔法に匹敵するチート武術を広めたいと言うのがありまして、1話で好評いただいたのに便乗させていただいて、彼等を登場させてみました。蛇足と思われる方も居るかもしれませんが、基本的に亀仙人は他の管理世界に呼ばれた達人達とは絡みません。他の達人達については広い視点でみれば同じ世界に存在するだけでそれぞれが個別に歩む独立したサブストーリーと言う形で書いて行きたいと思います(ただ、亀仙人VS東方不敗とか位は面白いかなーとか考えてしまっていたりしますが)

ただ、ここまで色々言って置いてなんですが、他の途中な作品もありますので、後、長くて2,3話で一旦一段落としたいと思います。続きはリリカルWが一段落するか、またスランプになった時に気分変えに書こうかと思っています。



[19760] 管理世界を達人が暴れまわっているようです
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/06/27 11:58
 10人のデバイスを持った魔導師達。彼等はチュンハイで暴虐を繰り返す犯罪者集団だった。そして彼等に対し、管理局の制服を着た一人の魔導師が向かい合い、彼等に杖を向ける。

「おいおい、いい加減諦めたらどうだ?」

 その魔導師に対し、挑発というよりも呆れたと言った言葉を投げつける犯罪者達。しかし、それに対し、管理局の魔導師、ライは勇ましく吠える。

「うるさい!! お前達こそ、大人しく捕縛されるんだ。こんな暴虐は何時までも続かないぞ!!」

 しかし、それが虚勢であることは誰の目にも明らかであった。良く見ればライの足は震えているし、デバイスを構えながら管理局の制服のままの格好の時点で彼が戦闘時にバリアジャケットにまわす魔力量の無い低ランクの魔導師であることも予測できる。それに対し、相手の魔導師は10人。勝ち目があるとは思えないし、実際に彼は何度もこの犯罪者達にやられていた。それでも町の住人達を守るため、この町に居る唯一の管理局員として彼は何度もやられても立ち向かい続けてきたのである。

「いい加減うっとうしいな」

「足の一本位折っちまうか」

 犯罪者達の声に苛立ちが混じり始め、悪意を持った言葉が飛び出てくる。しかし、ライは引こうとはしない。それを見てリーダー格の男が指示を出す。

「そうだな。管理局員に怪我させるとうるさいと思って見逃してきたが、どうせもうそろそろ次の町を狙うつもりだったんだ。最後に盛大に行くか。足一本と言わず両手両足折っちまう位の気でいくか」

 それは今まで以上の暴虐を犯すという宣言。無論、その対象はライだけに治まりはしない。町全体に及ぶだろう。絶対にそんなことはさせないと、ライはデバイスを強く握りしめる。しかし、現実は残酷だ。彼が10人の魔導師全てを倒すことは不可能に近かった。

「それじゃ、まずは邪魔者を片付けるとするかな」

 リーダー格の魔導師が管理局の魔導師がデバイスに魔力を集束させる。それを見て管理局の魔導師も動こうとする。

「おいおいさせるかよ」

 しかし、そこで別の魔導師、しかも二人がかりのバインドに拘束されてしまう。ライは必死にそれを解除しようとするが、彼の魔導師ランクはE、それに対し、バインドをかけた二人のランクはD。とても逃れられるものではなかった。

「じゃあな。今までうっとうしかったけど、これでお別れかと思うとちょっと寂しいぜ」

「勿論、嘘だけどな」

 そして彼等は管理局の魔導師を嘲笑う。ライはもがき続けるが、彼を拘束するバインドはびくともしない。悔しさに思わず涙を流し、それを見て犯罪者達は更に彼を笑う。

(悔しい。何故、何故、俺はこんなに弱いんだ)

 人を守る仕事がしたい。そう思い、管理局に入った。しかし現実にはEランク、それも努力でそうなっただけで資質的にはFランク程度の魔導師でしかないライに大した仕事は回って来なかった。回ってくるのはいつも雑用や事後処理ばかり、そして貧乏くじとして辺境であるこの地に飛ばされたのである。
 それでも腐らなかった。自分のやるべきことを精一杯やるのだと魔法の腕を磨き続けた。だが、それは何の役にもただず、町を荒らす犯罪者達に一太刀すら浴びせかけることはできなかった。

「あばよ」

 そしてリーダー格の男のデバイスに魔力がたまってしまう。それを見てライは遂に諦め力を抜いてしまい、デバイスから魔力弾が発射される。

「ほいっとな」

 その瞬間、リーダー格の男が数メートル吹っ飛んだ。照準が外れ、魔力弾は明後日の方向に飛んでいき、吹っ飛んだ男はそのまま町の壁に激突する。その勢いで壁のタイルの一部が剥がれ落ち、激突した男の方は完全に目を回し、気絶しているようだった。

「しまった。ちょいとやりすぎちまったの。あー、すまんが、修理費はこいつらにつけといてくれ」

 それを見て禿げた自分の頭を軽く叩き、男を蹴り飛ばした犯人、右手に木で出来た杖を持ち、背中に亀の甲羅を背負うと言う奇抜な格好をした老人は犯罪者達を指差してそう軽く告げる。そして老人はバインドに縛られているライを見て嫌そうな顔を浮かべた。

「緊縛プレイか? 男同士でそういうのとはわしにはようわからん趣味じゃのお」

「てめえ、ふざんけんじゃねえ!!」

 リーダー格をいきなり蹴り飛ばされた上、ふざけた言動をする老人に犯罪者の一人が怒り狂って飛びかかる。デバイスに魔力を付加し、老人を殴ろうとする男。

「ほい」

 しかしそこで老人が突き出した杖がカウンターのタイミングで男の顎に入り、男はふらついた後、白目をむいてその場に仰向けに倒れる。余程いい角度で入ったのか、完全に気を失ったようだった。

「まったく、老人のちょっとしたお茶目で、きれてしまうとは気の短い奴じゃ」

 やれやれとでも言いたげに首を振る老人に今度は残りの犯罪者達が老人に攻撃を仕掛けようとして、彼等は制止した。それは老人の右脇に自分達が捕えていた筈のライの姿があったからだ。

「ほれ、今、自由にしてやるぞ」

 一体何時の間にと思う犯罪者達を他所に老人はバインドを引きちぎった。素手で。
 そのあまりに非常識な光景に彼等は目を丸くする。バインドは一応魔力が半分物質化したものであるから単純な腕力で引きちぎれない訳ではない。しかし、それはあくまで理屈の上での話だ。太いロープを素手でひきつるなど人間技ではないし、バインドの物理的な強度はDランクの魔導師程度が生み出せるものでも下手なロープよりも上なのである。

「武天老師様!!」

「おお、ヤン、遅いぞ」

 そこで一人の男が老人を追いかけてくる。老人、亀仙人はそれに答え、青年、ヤンの方を向く。その瞬間、老人の視線が完全に犯罪者達から外れてしまう。

「!!」

 それをチャンスと見た犯罪者達の一人が亀仙人にデバイスを向ける。しかし、撃とうとしたその瞬間、何時の間に拾ったのか、彼は手に石を持っており、視線をヤンに向けたまま投げつけ、それは見事に老人を狙った男の頭に直撃する。脳震盪を起こしたその男はその場に昏倒をする。

「こいつらが、例の……って、もう3人も倒しちゃったんですか!?」

「うむ、お主が遅いからのう。残して置くのは苦労したぞ」

「えっ、残しておく?」

 倒れている犯罪者達を見て驚くヤン、しかし亀仙人の言葉にそちらの方を気にかかったようで尋ねると、亀仙人は頷いて答えた。

「こいつら全然たいしたことないようじゃからの。ちょうどいい実戦経験じゃ。お前、二人程、相手にせい」

「えっ、おっ、俺がですか!?」

 亀仙人の言葉にヤンが驚愕する。いや、彼ばかりではないライもまた驚愕の表情を浮かべている。非魔導師が魔導師に挑む。それは普通、あり得ないことなのだ。しかしヤンの方は続く亀仙人の言葉にはっとさせられる。

「なんじゃ、お主、そのためについてきたのではないのか? お主の夢は町を守ることなのじゃろう? 戦えなければそれは何時までも敵わんぞ」

「!!……わかりました。やります」

 一瞬怖気づいてしまったが、自分がこの場所に来た理由を思い出したヤンは犯罪者達に向き合い、構える。それを見てライは慌てて老人を説得しようとした。

「無茶です!! 魔導師でない人が魔導師に立ち向かうなんて」

「ほっほっ、それを言うならばわしだって魔導師ではないぞ」

「えっ? あっ!!」

 魔導師を次々倒す姿に無意識に亀仙人を魔導師だと思い込んでいたライは言われて初めて彼に魔力が無いことに気付く。その事実に信じられないと言った気持ちで困惑する彼を他所に亀仙とヤンは並んで犯罪者達に向き合った。

「いくぞ」

「はい!!」

 亀仙人の掛け声に合わせて二人同時に飛び出す。それに対し、犯罪者の一人がヤンに向かってデバイスを向け、残りが亀仙人に向ける。

(えっ?)

 その時、ヤンは魔導師達ふざけているのではないかと思った。何故ならばその動きがあまりにゆっくりに見えたからである。発射される魔力弾、それをドッジボールでもよけるかのような感覚で軽くかわす。そして自分の攻撃がかわされ驚愕する男のもとに近づきその腹に一撃を見舞った。

「!?」

 殴られた男は悶絶し、その場にうずくまる。そしてそれを見て仲間の男の一人が青年に飛びかかる。恐慌状態に陥ったのか、非殺傷設定不能な斬撃の魔法できりかかる。しかし青年は軽くバックステップを踏んでそれをかわし、回し蹴りでその男の頭を蹴り飛ばした。

「ふむ、まあまあじゃの」

 あっという間にノルマの二人を倒してしまった自分に信じられない気持ちで一瞬呆然としかかってしまったヤンはその言葉に正気に戻り亀仙人の方を見る。
 そして改めて驚愕した。彼の周りには残った5人の犯罪者達が全て倒れていたのである。自分が強くなったと自惚れかかった彼はまだまだ師の頂きが遠い事を思い知らされ、しかし今は敵を全て倒した喜びを分かち合おうと駆け寄ろうとする。
 だが、そこで彼は亀仙人の表情がまだ真剣なままであることに気付いた。

「さてと、ヤンよ。一旦下がっておれ」

「えっ?」

 亀仙人に身体を突き飛ばされるヤン。そしてその次の瞬間それまで青年が居た場所を魔力弾が通り過ぎる。その魔力弾は地面に激突し、大爆発を起こした。

「なかなか、いい感をしてるじゃねえかよ」

 そしてそこに一人のガラの悪い男が現れる。それはつい最近になって、犯罪者達に加わった男でライも見た事の無い男だった。その格好は特異で右手に鉄鋼のようなデバイスを付け、足にはローラブレードのようなデバイスを履いている。それを見たライがその正体に気付き叫びをあげた。

「まさか、シューティング・アーツの使い手なのか!?」

「シューティング・アーツ、なんじゃそれは?」

「陸戦魔導師の一部が使う武術です。けど、普通の砲撃魔導師になるよりも危険が大きくなるし、習得が難しいのであまり使い手は居ないってことですけど。その分、使い手は実力者が多いって聞いたことがあります」

 亀仙人の疑問に答えたライの解説に男は機嫌よさそうな表情をする。そして自身満々な態度で語り始めた。

「良く知ってるじゃねえか。その通り。俺は元管理局のAAランクの魔導師様よ!!」

「AA……!!」

 男の言葉にライが絶句する。AAランクと言えば彼にとってはまさに雲の上。管理局でも本局以外にはほとんど居ないレベルである。亀仙人の強さは見たが、それでも勝てるとは彼には到底思えなかった。

「ふむ、なるほど。確かに雰囲気からしてさっきの奴等とは一味違う感じじゃの。しかし、そんな大層な立場に居たものが何故、盗賊如きに落ちぶれておるのじゃ?」

 背中に背負った亀の甲羅を地面に置き、疑問を発する亀仙人に男が嫌な顔をする。そして愚痴にも聞こえる自らの境遇を語り始める。

「はっ、あの馬鹿管理局に愛想がつきたんだよ。あいつら、今まで散々管理局貢献してきた俺に対し、魔力資質が高いってだけで12歳のガキを上官にしやがったんだ。おまけにそのガキは俺を顎でこき使いやがる。あんな所に居られるかってんだ!!」

「なるほどのぉ。まあ、気持ちはわからんでもないが、だからと言ってそれが他者に暴力をふるっていい理由にはならんじゃろうて」

 男の話を聞いて亀仙人は納得の意を示す。しかし、それは管理局に不満を持ったことに関してだけだ。そこで見返してやろうともせず管理局を辞めたことに対してでも、ましてや狼藉をふるう犯罪者になった事に対してでもない。

「はっ、知る……」

 “知るかよ”男はその言葉を最後まで言うことはできなかった。気付いた時に、亀仙人が直ぐ目の前にまで迫っていたから。

「少し反省せい」

 亀仙人が静かに告げる。次の瞬間には男は空高く舞っていた。そして、地面から蹴りあげた筈なのに亀仙人は何故か男の真上に居た。

「ほぅ!!」

 亀仙人の両手を組んだ拳が男を高速で地面に叩きつける。バリアジャケットのおかげで死ななかったものの、凄まじい衝撃に気絶する男。そして亀仙人は地面に着地し、亀の甲羅を背負い直し始めた。

「ふぅ、やれやれじゃわい」

「「……」」

 その光景をヤンとライは呆然と見ていた。いや、正確には離れた場所にいたにも関わらず、亀仙人の動きはほとんど見えなかった。AAランクの魔導師を瞬殺したその強さにヤンは師の底知れなさを改めて実感し、ライはその正体不明の強さに畏敬を抱いた。

「さて……」

 そして甲羅を背負いなおした亀仙人が二人の方を向いた瞬間だった。

「きゃああああ!!!!」

「うぉおおおお!!!!!」

 町中から一斉に叫び声が上がる。そしてそれと同時に建物の中に隠れ、様子を伺っていた者達が一斉に飛び出してきた。そして町を守るために戦った英雄である3人のもとに人々が集まる。

「うほほ、こりゃ役得じゃわい!!」

 亀仙人は感極まった美人数名にキスの嵐を受けている。そしてその近くで町の感謝を受けながら、ライは彼を見ていた。

(俺も、あの人のように強くなりたい)

 ライが管理局を休職し、亀仙人の弟子になる半年前の話である。


(後書き)
疑問なんですが魔導師ってDBのキャラが気を読むように相手の魔力量とかって読めるんですかね?ヴィータ達はできるみたいですけど、ユーノはなのはが魔力を見える形で放出するまでなのはの魔力量がどの位か分かっていなかったみたいですし、ヴォルケン達の特殊技能って気もするんですが。一応この話ではある程度わかるけど、DBの気の探知に比べればかなり大雑把なレベル、ヴィータ達はかなり精度のいい方っていうように設定しています。



[19760] 管理世界で達人が弟子を育てているようです
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/06/28 20:58
 第14管理世界ペッパーの町、ジェイハン。そこには亀仙流の道場があった。3年前、チュンハイの町で魔導師達と戦った後、更にいくつかの町で同じようなことをした亀仙人の名はペッパー全体に知れ渡り、彼の強さに憧れるもの、町を守るための力を求めるもの多くが彼に弟子入りを希望した。
 亀仙人はその内、邪悪な心が強いものを除き、その全ての弟子入りを認め、その後逃げ出したものも多いが、残っているもので現在20名が彼の弟子となっている。またその内、8名はある程度の実力を身につけ、故郷の町に返って町を守るためにその力使っている。また1名だけ力に溺れ、武術で得た力を悪用してしまった者がいるが彼は亀仙人直々にお仕置きし、今は刑務所の中。ただし、破門はしておらず、出所後はみっちり性根から鍛え直してやるつもりでいた。
 そして残る11名の内、2人しかいない女の弟子の一人、赤い長髪と豊満な胸を持ち、チャイナに似た服を着た、紅 美鈴(ホン メイリン)が亀仙人に来客を告げるために彼の部屋を訪れていた。

「老師様、お客さんですよ」

「んっ、客、誰じゃ?」

「何か、管理局の人みたいですけど」

「ほう、管理局がわしに何の用かのう?」

 立ちあがって案内するメイリンの後をついて歩く。その視線は彼女の胸を向いている。そして視線だけでなく、手をのばし、その胸を*鷲掴みにした。その行為に彼女が悲鳴をあげる。

「きゃ、きゃあ!!」

「おほう、あい変わらずええ乳しとるのお」

「老師様の変態!!」

 崩れ切った表情をする亀仙人の顔に、その行為に怒った回し蹴りが炸裂する。それを喰らって壁に叩きつけられる亀仙人。更に、メイリンは両手を器形に構える。

「か~め~は~め~」

「こ、こりゃ、メイリン、ちょっと待て!! それはちょっと洒落にならん!!」

「波!!!!!!」

 弟子の中で最も気を扱う才能にたけ、亀仙人以外で亀仙流奥義とも言えるかめはめ波を唯一使うことのできる彼女の一撃が炸裂する。その一撃に道場が大きく揺れた。

「な、なんだ!?」

「ああ、気にしないでください。いつものことですから」

 その振動に待合室で待っていたレジアスが驚き慌てるが、応対を務めていた若い弟子は慣れたもので平然としている。

「まったく、武天老師様もあれさえなければ立派な人なんですけどねえ。まあ、その辺の人間臭さが好かれる要因の一つと言えばそうなんですが。でも、女の子の弟子が少ないのはやっぱあれが原因かな……」

「あ、ああ」

 弟子の男のぼやきになんだかよくわからないまま適当に相槌を打つレジアス。そして数分後、ドアが開きそこに全身ボロボロになった亀仙人と頬を膨らせて顔を赤くして彼の後ろに立ったメイリンが現れるのだった。

「すまんのう、お待たせてして」

「い、いや、約束も取らずに押し掛けたのはこちらだ。取ろうと思ったのだが、ミッドチルダからこちらへの直通の通信手段がなかったのでな。し、しかし、その怪我は大丈夫なのか!?」

 亀仙人の姿を見て慌てるレジアス。それに対し、亀仙人は何でもないとばかりに元気に笑い飛ばしてみせた。

「いや、これ位はたいしたことないわい。鍛えておるからのう」

「そ、そうか」

 そういうものなのかと納得いかないものを無理やり納得させる。そして亀仙人が彼の前に座ると、レジアスは表情を引き締め直した。

「それで、今日は何の用じゃったかの?」

「単刀直入にお願いする。あなたの力を見せていただきたい」

「ふむ、わしの力とな。何故じゃ?」

 亀仙人の疑問に対し、レジアスは今の地上本部の現状を包み隠さず説明する。そして亀仙人の力が本物なら、是非とも地上本部に招き入れ、その力を平和のために振るってもらうと共に、地上を守る武術家達を鍛えて欲しいとの要望を伝えた。

「ふむ、事情はわかったわい。しかし、わしはここを離れる訳にはいかん。まだまだ未熟な修行中の弟子達もおるし、このあたりも最近は少しはマシになってきたとはいえ、未だに狼藉な行いをするもの達も絶えん。今、わしがこの地を離れれば今、大人しくしとる奴等までまた暴れ出すかもしれんしのう」

「だが、地上本部には力が必要なのだ!!」

 レジアスの要望に対し、亀仙人の答えはあまり芳しいものではなかった。レジアスは彼の意思を何とか変えようと説得をする。しかし、亀仙人の次の言葉で口を詰まらされる。

「だからと言ってわしを無理やり引き抜くようではお主の嫌う本局と変わらんぞ?」

「むっ」

 数の理論から言えば亀仙人にミッドチルダに来てもらった方が多くの人が救われるだろう。しかし、それを言ってしまえばまさしく彼の嫌う海軍や管理局本局と同じになってしまう。だが、だからと言ってレジアスの方も黙って引き下がる訳にはいかなかった。何か妥協点は無いかと考える。すると、亀仙人の方から提案を切りだしてきた。

「そこでわしの代わりにわしの弟子を管理局にやると言うのはどうじゃ?」

「むっ、あなたの弟子を?」

「老師、もしかしてライさんを?」

 亀仙人の言葉にピンと来たのかメイリンが一人の名前をだす。チュンハイの町で管理局員を務めていたライ。彼は管理局を休職し、亀仙人のもとで修行に励んでいたのだが、休職中のある日、突然解雇を言い渡されたのである。元々魔導師として評価の低かった彼が長期休職を取ったことで必要のない人材として判断されてしまったのだ。強くなって、その力を管理局でふるい人々を守ろうと意気込んでいた彼はその事態におおいに消沈した。しかし、周囲の励ましもあり、立ち直った彼は目指す強さに辿りついた後、改めて管理局への入局を希望しようと修行に励んでいるのである。

「うむ、あ奴も、もうそろそろ一人前じゃからの」

「そのライという男の実力は確かなのか?」

 レジアスが尋ねる。ライの実力が亀仙人に匹敵すると言うのならば問題は無いが、実力の無いものに来てもらっても意味は無い。尋ねられた亀仙人はしばし考えて答えた。

「そうじゃの。まあ、今ここにいるメイリンとこの世界のわしの一番弟子のヤン、それと今、武者修行に出とる弟子についで4番目と言ったところじゃろう」

「ふむ」

 微妙な答えだ。亀仙人があげた他の3人の弟子の実力がわからないので何とも言えない。いや、そもそも亀仙人の実力自体、噂以上にはレジアスは知らないのだ。

「実力を疑っておるのならが、実際にその目で見てみてはどうじゃ。そこのピチピチギャルのお嬢さんに相手をしてもらうとかのお」

 そこでまたも亀仙人の方から提案が投げかけられる。彼が指名したのは念のために護衛としてレジアスに連いてきた魔導師だった。それも地上では片手で数えられる程にしかいないAA-ランクの魔導師、クイント・ナカジマである。レジアスとしてはそんな貴重な戦力を自分の護衛になど使う気はなかったのだが、今回の訪問に当たり、本人の方から強い申し出があったのだ。認められないのならば、有給扱いでも構わないという彼女に折れ、護衛として連れて来たという訳である。

「私はかまいません。ただ、一つ聞きたいことがあります」

 亀仙人の申し出に対し、寧ろ望むところとばかりに答えた彼女は前置きした上で、真剣な表情になると一つの質問をした。

「あなたが、アベルに勝ったというのは本当ですか?」

「誰じゃそれは?」

 沈黙が訪れる。しかし亀仙人としても彼女の出した名前には全く心辺りが無い。そこでその場に残っていた若い弟子が彼に口添えした。

「あの、武天老師様、確か老師様が3年前にジェイハンの町で倒したというAAランクの魔導師がそのような名前だったかと」

「あー、あいつのことかい。あいつ、名前何か名乗らんかったからのう。ちっとも知らんかったわい」

 亀仙人がAAランクの魔導師を倒した逸話は有名だ。故にその倒された魔導師の名前も結構知られているのだが、亀仙人本人にしてみれば別にたいしたことではないので、全く注意を払っていなかったのである。

「ごほん、それでは本当なのですね?」

「うむ、本当じゃよ。じゃが、それがどうかしたのかいのお?」

 気を取り直して尋ねなおしたクイントの問いに亀仙人は頷く。それを聞いて彼女は少し眉をひそめた。

「恥ずかしながら彼は私の兄弟子です。私は昔、彼に一度も勝てませんでした。彼の素行の悪さは当時からでしたが、実力は本物でした。その彼に勝ったというあなたの実力に興味があります。もし、あなたの弟子に私が勝てばあなたとも戦わせていただけませんか?」

「ふむ、かまわんよ。その代わり、ちょっとパイオツを……」

「駄目ですよ。老師様」

 嫌らしい手つきを見せた亀仙人の頬をメイリンが強くつねる。そのやりとりに疑念や不安と言った感情を抱くレジアスとクイントだったが、その場にライが呼ばれ、二人の対決の準備が整うのだった。









「開始の合図はわしがする。二人とも準備はいいかの?」

「はい!!」

「何時でも」

 亀仙人が審判として両者の真ん中、試合場の外の位置に立ち、試合場ではライとクイントが向き合う。そして試合開始の合図がなされた。

「はああ!!」

 開始の合図と共にクイントが飛び出す。シューティングアーツの真髄はローラ・ブレード型のデバイスによる高速機動。彼女は一気に距離をつめ、魔力を込めた籠手型デバイス“リボルバーナックル”をつけた右腕を振るう。

「はっ!!」

 それをライは上方に飛んでかわした。垂直に10メートル近くジャンプし、その攻撃を回避する。

「くっ」

 ローラ-ブレード状のデバイスを履く関係上、前後の動きには滅法強いシューティングアーツだが、どうしても真横や上下には弱くなる。攻撃をかわされた彼女は少し前方に進んだ後反転し、地面に着地しようとするライを右拳で狙う。

「てい!!」

「はっ」

 しかしライは着地して直ぐに反転して拳を振るう。両者の拳が激突。その結果速度に乗っていた分、クイントの方が勢いが強く打ち勝ち、拳を弾かれるライ。そこに更にクイントの左拳が迫る。

「ぐっ」

 それをサイドステップでかわすライ。横に弱いクイントはそれをすぐに追撃出来ない。左斜め方向に移動し、一旦距離を取って体勢を立て直す。

(やりにくい!!)

 クイントが内心で叫ぶ。魔導師の近接戦闘は魔力による推進力を利用している場合がほとんだ。そのため、ライのように範囲の狭い小回りをする相手とは彼女は戦った事の無いのである。そのため、横や上下に弱いシューティングアーツの弱点が今まで経験したこと無い程にはっきりとでてしまっていた。そこで彼女は得意の近接戦闘を一旦捨て、遠距離からの攻撃に切り替えることにした。

「くっ」

 あまり得意な方ではないが、AA-ランクの魔導師だけあって彼女は誘導弾も使える。これは武闘家であるライには極めて不利だった。避けても追撃してくるのでガードするか、石などを投げて迎撃するかしかない。彼は一応魔導師でもあるが、杖状のデバイスは邪魔になるので、デバイス無しでも使いやすい自身の身体強化にしか彼は魔力を使っていなかった。非殺傷設定の魔力弾を何度も受け、彼の身体に疲労が蓄積していく。

「やああああ!!!」

 しばらくの間、一方的に守りをかためていた彼だったが、一か八かの勝負にでたのか前に飛び出してくる。それに対し、クイントも砲撃をやめ、迎撃の構えを取った。

「はああ!!!」

「たあああ!!!」

 両者の拳がまたもや激突……することはなかった。ライは途中で拳を止める。フェイントをかけたのだ。そしてそのまま、彼女の側面に回り込みしゃがみこむ。

「しまっ!!」 

 側面で下方向。シューティングアーツにとって最も狙い辛い位置に移動されてしまう。慌てて、前方に移動して手足の届く範囲から逃れようとするが、それは少し遅かった。

「とりゃあああ!!!」

 ライの足払いを受けて倒れるクイント。そして起き上ろうとする彼女の眼前に彼の拳が突きつけられていた。









「まさか、本当にAA-ランクの魔導師が……」

「まあ、多分に相性もあったがの。相手が砲撃魔導師であれば恐らくあ奴は勝てなかったじゃろうて」

 その試合を観戦していたレジアスが呆然とした声をあげる。それに対し、亀仙人は冷静に批評する。しかしそれを聞いて尚、レジアスは興奮する。聞いた話によればライは魔導師でもあるそうだが、Eランク程度でしかない。そんな人間が例え相性が良かったにしてもAA-ランクの魔導師に勝利する。しかも亀仙人の話によれば、彼は修行を初めてまだ3年程度。そして彼の兄弟子であるヤンに至っては完全に非魔導師であるのに彼と互角以上の実力だと言う。これで興奮しない訳はない。

「わしが直接赴く場合に比べれば成果は落ちるかもしれんが、どうじゃあいつで?」

「わかりました。彼をお借りします」

 ライの意思は戦いの前に既に確認している。彼は認められるのならば喜んで行くと宣言していた。亀仙人を得られなかったのは残念だが、十分以上の収穫だと喜ぶ。敬意を払ったのか口調も丁寧なものになっていた。ところが、そこで亀仙人が以外なことを言いだした。

「じゃが、その前に1月程待ってはもらえんかの?」

「え? ああ、それは勿論。準備も必要でしょう」

「いや、そうでなくてな。あのお嬢ちゃん、人妻さんか、あれを一カ月程お借りしたいんじゃ」

 その言葉にレジアスは顔をしかめた。そして先程の亀仙人の行動から推測して、少し軽蔑の混じった表情になる。

「まさか、弟子を差し出す代わりに彼女の身体をとでも?」

「言うかそんなこと!! いや、おっぱい位なら見せてくれると嬉しいがのお。じゃが、そうじゃない。彼女を少しの間、鍛えたいと思うのじゃ?」

「彼女を?」

 あまりにも予想外な申し出にレジアスは困惑を示す。そして亀仙人はサングラスを外すとレジアスと目を合わせ、真剣な表情で言った。

「ああ、あの娘はかなり筋がよい。基礎は出来ておるし、少し指導してやれば劇的に化けるぞ」

「まさか!?」

 AA-ランクから更に劇的に強くなるとしたら、それはどれ程のものになるのか。レジアスにはあまりに信じ難い言葉だった。

「本当じゃ。どうする?」

「わかりました。よろしくお願いします」

 亀仙人の言葉が本当ならば願っても無い申し出である。1ヶ月彼女の戦力が失われるのは痛いが、その後のメリットを考えれば十分に有益な選択だ。

「ああ、それとじゃ」

「まだ、何か?」

 付け加えるように言う亀仙人。そして続く言葉にレジアスは今度こそ呆気に取られた。

「折角じゃから、お主もここで少し鍛えていかんか?」

「はっ?」


(後書き)
次回で亀仙人編一旦完結です。
今回はクイントさんをオリキャラに負けさせてしまってすいません。ただ、今回は少年漫画で言うところの強敵に負けて、パワーアップという所の前の方の回ですんで。次回にご期待を。
それと、今回、でてきた紅 美鈴、はい、東方の美鈴です。原作の500年程前という設定です。まだ、レミリアは生まれてもいません。元々亀仙人の嫁兼女弟子としてメイリンという名前のオリキャラを出す予定だったのですが、「あれ、そういえば東方のメイリンと同じ名前じゃん」→「武術家キャラってことも共通してるな」→「亀仙流気を使うな」→「いっそ当人にするか」ってことで登場になりました。当初の予定通り嫁になるかは読者様の反応を見て決めようかと思っています。反応にかなりひやひやです。ちなみに彼女の詳細な設定は下記の通り。

紅 美鈴
第14世界ペッパーに元々存在していた妖怪。文明社会の発展によって妖怪の大半が滅びかかっている中、細々と生き残っていた。お腹を空かせていた所、彼女の住処の近くを通りかかった亀仙人とヤンを見つけ襲おうとしたが返り討ちに会った。元々あまり強く無い妖怪。人間を食べないことを約束させられ、その代わり食事の面倒を見てもらうことで亀仙人の弟子になっている



[19760] 管理世界のお星様に達人がなったようです<最新話>
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/06/28 21:20
「一体何の冗談ですか。私が武術を習うなど……」

「お主、強くなりたいのじゃろう? 顔にでておるぞ」
 
 亀仙人のその言葉にレジアスはギクリとする。確かにその言葉通りの願望が彼にはあった。自分の全てを見透かしたかのようなその言葉に彼は思わず、畏敬にも似た感情を覚える。そして自分を真っ直ぐに見る彼に隠し事は無駄と悟ると、自分の気持ちを吐露することにした。

「確かに憧れる気持ちはあります。しかしわしはもう40を軽く過ぎている。多忙で訓練に多く時間を取ることもできないでしょう。今から鍛えても、とても魔導師と戦えるような達人には……」

「別に達人になる必要はなかろう。亀仙流は別にそんな堅苦しいものでは無い。お主はお主なりに強くなればそれでよいのではないかな?」

 言い訳になっていた言葉を諭され、彼は思い出す。まだ、世の中のことを良く知らなかった幼い頃、現場に立って戦う管理局の職員に憧れていたことを。そして彼等のように人々を守る人達になりたいと思っていたことを。その時に憧れていた彼等は別に高ランク魔導師のような特別な存在ではなく、街を守るために戦う、普通の管理局員達であったことを。

「わしはわしなりにですか……」

 その時の気持ちを思い出し、呟く。そして考える、自分が本当になりたいものとはなんなのかを。

「そうじゃ。武術は己自身に負けぬために習うものじゃ。それを見失わなければ達人に成れずとても学んだことは決して無駄にはなるまい」

「……よろしくお願いします」

 亀仙人の言葉に心を動かされ、レジアスは膝をついて頭を下げた。ミッドチルダを守るとか管理局の体制を変えるとか、そういう大きなことは防衛長官としてのレジアス・ゲイズに任せておけばいい。ただ、一管理局員として犯罪者の危険にさらされる者が居た時、前に立って庇い、相手に立ち向かえる程度の勇気と強さが欲しい。
 彼はその強さを手に入れるため、そして自らに負け、道を誤らぬように武術を学ぶことを願いでた。亀仙人はそれに満足げに頷き彼の弟子入りを認める。
そして約束の1ヶ月の時は瞬く間に過ぎるのだった。











「はっ!!」

 1月前の時と同じように足払いをかけるライ。しかしクイントはそれを片足を上げて回避する。そして残った片足でアイススケートのスピンのような動きをしてみせ、身体を90度回転させ、向き合った状態へと戻した。そしてそこで一旦バックステップし、間合いを取るとライに向かって拳を突き出す。

「くっ!!」

 しゃがみこんだままの状態では魔力弾をもろに喰らってしまうと素早く立ちあがるライ。それを見たクイントは魔力弾を使わず、急接近し、突撃をしかける。ライはサイドステップでそれを回避しようと右に移動する。

「なっ!?」

 しかしローラブレードという足元の不安定なその状態で、クイントはそれに追随してみせた。そして右拳に魔力が集中する。

「たあ!!」

 放たれる必殺の一撃、辛うじてガードをするものの威力におされ吹っ飛ぶライ。そのまま場外に叩き落とされ、決着となった。

「見事なものだな」

 戦いに関しては素人である筈のレジアスにもクイントの小回りが1ヶ月前に比べ、格段によくなり、機動性が向上していることが見て取れた。亀仙人も意見を述べる。

「うむ、このまま、鍛えて行けば更に強くなれるじゃろうて」

 亀仙人がした修行は足腰とバランス感覚の強化。修行内容としてはローラブレード以上に安定性の悪い、アイススケートで片足で立った状況で左右に重りを背負い滑り続けると言ったものであった。元々レベルとしては低く無かったそれらを鍛え直すことで片足でも安定した姿勢を保つことができるようになり、今までよりも遥かに自由な方向転換を可能とし、その長所を殺すことなく弱点だった横方向への動きを克服させたのである。今はまだ多少のぎこちなさが残っているが、このまま鍛えて行けば、正に縦横無尽な機動を実現できるようになるだろう。
 そして身体の重心を完璧にコントロールできるようになれば、一つ一つの技の威力が向上することも期待された。

「まいりました。まだまだ、修行不足であることを実感しました」

「うむ、あまり天狗になってはいかんからのう。やらせてよかったわい」

 立ちあがり前回の勝利で少し自惚れていた自分を反省をするライ。それに対する亀仙人の言葉にレジアスは彼の思惑に気付く。

「もしや、この試合は彼女のためだけでなく、彼を戒めるために?」

「うむ、ま、そういうことじゃな。じゃが、彼女を鍛えたかったのも嘘ではないぞ」

「はい、それは分かっています。まさか、こんなに上手く身体が動くなんて。身体が凄く軽く感じました」

 クイント自身、あまりによく思い通りに動く身体に驚いていた。ただ、この時点では彼女自身気付いていなかったが、単に身体のバランスが良くなっているだけでなく、実際に彼女の身体能力は上がっていたのである。今まで鍛え続けてきた彼女がここに来てその身体能力を上げた理由、そこには亀仙流のある秘密が、そしてこの世界に多くの達人が呼ばれた意味が隠されていた。しかしこの時点でそれに気付いているのは亀仙人と、他の世界に呼ばれた一部の達人のみである。

「少将の方はどうです? 修行の成果の程は」

「元から基礎の出来ていた君と違い、わしは全くの素人から1ヶ月鍛えただけなのだ。そんな劇的な成果がある筈もなかろう……っと言いたいところだが。ちょっと待っておれ」

 レジアスの方を向いて尋ねるクイントに対し、彼は答えるとあるものを探しだす。そして目的のもの、拳台のサイズの石を見つけると彼女達の前に戻り、眼前でそれを左手に握り、右手を握り拳にして見せた。そして、石に向かって思いっきり拳を叩きつける。

「……あの、少将、今、素手で石を殴りましたよね?」

「殴ったな」

「……少将って魔法は使えませんでしたよね?」

「魔力資質の欠片も無いな」

「もしかして手品とか得意です?」

「若い頃、宴会の余興にと練習したことがあるが、結局、向いていないとわかり諦めた」

 それが何かの間違いである可能性を全て否定され、クイントはようやくその事実を認めた。

「石……砕けてますけど。それも、粉々に」

「最初は軽めの訓練をしてもらっていたのだが、調子良く慣れて行ってしまったのでな。どんどん厳しくしてもらって行ったら何時の間にかできるようになっていたのだ」

「ほっほ、思ったより筋がよかったわい」

 亀仙人がレジアスに才能があると評価する横で、クイントは彼が砕いた石を拾い確認する。硬い、軽石などではなく、間違いなく硬い石だった。

「この程度出来た所で魔導師相手には役に立たんだろうが、少しは自分に自信がもてたるようになったな」

((いや、こっちの方が自信失いそうです))

 クイントとライが同時に同じ事を心の中で叫ぶ。一ヶ月でこんなに成長されては二人共立つ瀬が無い。そして油断していると本気で彼に追いつかれるかもしれないと思い、改めて修行に励むことを誓うのだった。

「さて、そろそろじゃな。ライ、向こうでは頑張るのじゃぞ」

「はい!!」

「それと、修行の時は自主練などさせず必ず一緒につくようにせい。それとなるべくなら修行時は共同生活をした方がよい。あー、あと、レジアスとクイントもなるべくなら一緒に修行せい。無理なら、見学だけでもしないよりマシじゃぞ」

「? わかりました」

「はい」

「承知しました」

 亀仙人の忠告にその意味がよく理解できないまま、3人は頷く。亀仙人の修行内容は怪しいものが多いが、常に成果があるのは確かである。そして理由を聞いても教えてくれないことが多いのだ。これも何か意味があるのだろうと彼等は黙って頷くことにした。

「それでは、元気でな」

「「「はい!!」」」

 3人同時に答える。そして3人は管理局地上本部へと返って行った。亀仙人達はその姿が見えなくなるまでそこに立って見送る。

「ライさんが居なくなってちょっと寂しくなりますね」

 ライ達の姿が見えなくなったのを確認して、亀仙人の後ろに立っていたメイリンが話しかける。それに対し、亀仙人は振り返ると、驚いたように言った。

「なんじゃ、もしや、お主ライに気があったのか?」

「えっ!? いや、そんなんじゃ無いですって」

「そうかそうか、この胸をライの奴に渡すのは惜しいからのお」

 亀仙人の言葉に顔を赤くして、手をパタパタと振り否定するメイリン。それを見て彼は楽しそうに笑うと、メイリンの胸に顔を埋めてそのままこすりつけた。その行動に一瞬硬直し、そしてその硬直が解けると一回元に戻ったメイリンの顔が見る見る赤くなる。

「老師様のばかあああああ!!!!!」

「ひょえええええええ!!!!!」

 思いっきり蹴られ、お空のお星様になる亀仙人。
 これは地上本部で非魔導師と低ランク魔導師のみで結成された特殊部隊ができる3年前の話である。


(後書き)
今回はエピローグ的感じでかなり短めになりました。この後、後日談としてレジアス主役の3年後、武道家のみで結成された特殊部隊設立後の話をほんのちょっと書いて亀仙人編を一旦完結としたいと思います。



[19760] 外伝1:受け継がれる流派東方不敗(前編)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/06/26 00:35
 第6管理世界アルガス、その地で二人の男が拳を撃ちあっていた。しかし、二人は争っている訳でも稽古をしている訳でも無い。二人にとってそれはただの挨拶でしかない行為だ。二人の名は東方不敗とゼファー・ル・ルシエ、流派東方不敗の師弟である。


「行くぞ、ゼファー!!」


「はい、師匠!!」


「流派!東方不敗は!」


「王者の風よ!」


「全新系列!」


「天破侠乱!」


「「見よ!東方は赤く燃えている!!」」

 
 拳と共に気合いの掛け声を飛ばしあい、最後に両者はお互いの拳を突きつける。そして、修行の締めたる挨拶を終えた二人は構えを崩し、向き合った。

「うむ、ゼファーよ。なかなか腕をあげたな」

「いえ、俺などまだまだです」

「何、そう謙遜することもあるまい」

 弟子の成長を褒める東方不敗。するとそこで彼の耳に彼を呼ぶ声が入る。

「おとうさーん、おじいちゃーん」

 声のする方を見るとピンク色の髪をした幼い少女が二人を目指して駆けよってくる姿見えた。それを見て東方不敗は相好を崩し、彼女に優しい声をかけた。

「おお、キャロではないか。どうした、こんなところに」

「お父さんとおじいちゃんを迎えにきたの!!」

 答えながら東方不敗の胸に飛び込む少女。東方不敗はその小さな身体を受け止め、そっと抱きしめる。

「おいおい、俺じゃなくて師匠に飛び込むのかよ」

「男の嫉妬はみっともないぞ。ゼファー」

 父親の自分ではなく、東方不敗に抱きついた娘を見て少し不機嫌な顔を浮かべるゼファーとそれをたしなめながらどこか勝ち誇ったような表情を浮かべる東方不敗。するとキャロが東方不敗の胸から顔をあげて言った。

「お父さんのことを先に呼んだから。抱きつくのはお爺ちゃん。だって、私、お父さんもおじいちゃんも大好きなんだもん」
 
 その言葉に二人は顔を見合わせ、そして大笑いをした。

「くくくっ、これはキャロに一本取られてしまったな」

「まったくですね」

 そして、それからしばらくして日差しのいい土手に座り、眠ってしまったキャロを膝に寝かせる東方不敗。二人はその寝顔を優しい表情で見守る。

「この子も随分大きくなったものだな」

「ええ、もう直ぐ5歳ですから」

「そうか、では竜召喚の儀式を行うのだな」

「ええ、俺と違って、この子は魔法の才能に満ちていますから」

 ル・ルシエの民は多くが竜召喚の特殊技能を持つ。そして素質あるものは5歳の誕生日の日に初めて竜を召喚するよう村の掟で決められていた。

「しかし、5歳か。わしがお前を弟子にとってもう5年になるのだな」

 そう呟き昔を思い出す東方不敗。二人が初めて出会ったのはまだ、キャロが母親のお腹の中に居る時のことだった。








「はあ……」

 ゼファーは一人溜息をついて道に座り込んでいた。妻の妊娠、彼はそれを知って以来ずっとそんな感じだった。決して嬉しくない訳ではない。しかし、彼には不安があった。初めて、子供が出来た時は誰しも多かれ少なかれそんな感情を抱くだろうが、彼には特に不安を抱くある理由があったのである。

「はあ……」

 また、溜息をつく。その時、その暗い雰囲気を吹き飛ばすかのように空から人が降ってきた。
そしてその振ってきた男はゼファーの目の前に着地し、彼に向かって話しかけてくる。

「こんな天気のよい日にお主、何をそんなに溜息ばかりついている」

「えっ、あなたは、って言うか、あなた一体どこから……」

 奇抜な登場の仕方をした見知らぬ男に躊躇うゼファー。それに対し、男は薄く笑うと大仰なポーズをとって名乗りをあげた。

「わしの名は東方不敗!! またの名をマスターアジア!!」

「は、はあ。マスターアジアさんですか。俺の名はゼファー・ル・ルシエと言います」

 その迫力と言うか勢いに押され、思わず名乗り返してしまうゼファ-。しかし、東方不敗はそれを気にいったようで満足気に頷いた。

「うむ、名乗られたら名乗り返す。小僧、中々礼儀ができておるようだな。では、改めて聞こう。何故、そう溜息ばかりつく?」

「あの、そのですね。妻に子供ができまして」

「なんだ、目出度いことではないか。何故、溜息など……むっ、もしやお主の子供ではないのか?」

 ゼファーの態度から勘ぐった推測をした東方不敗に彼は慌てて否定する。彼は妻を深く愛していたので、その妻の名誉を傷つけるような誤解をさせておくことは決してできなかったのだ。

「ち、違います!! 俺とメルフィは幼馴染で昔からずっと愛し合っていて、あいつが浮気なんかする訳はありません。間違いなく、お腹の子は俺の子です!!」

「ふむ、ならば、何故、そう溜息をつく?」

「はい、あの、その、俺は村で一人だけ魔法の資質が無い落ちこぼれなんです。そんな俺が本当に子供の父親として立派にやっていけるのかって……」

 彼の住むル・ルシエの村では魔力資質者が生まれる可能性は非常に高い。そんな中、魔法の才能を全く持たなかった彼は落ちこぼれ扱いされ、魔法の才能が高く、美人な彼の妻と結婚した時も、随分と酷いことを言われたものである。そしてそれは彼ばかりでなく、彼の妻も愚図な夫を選んだ女と陰口を叩かれていることを彼は知っていた。そんな自分が本当に父親になっていいのか、娘も妻と同じように自分の所為で見下されてしまうのではないか。いや、恐ろしいのはそれだけではない。もし娘から、周囲と同じような侮蔑の視線を向けられたら……。そう思うと彼は不安で仕方無かったのである。
 その辺の事情を彼は一通り説明する。後で考えて見れば何故、見知らぬ相手にそこまで話したのかゼファー自身不思議であったが、多分、誰でもいいから気持ちを打ち明けたかったのだろう。
 そして、事情を全て聞いた東方不敗は身体をブルブルとふるわせ、そして爆発した。

「何と、何と、情けない!! そんな様で人の子の親になろうとは!!ええぃ、それほど自分に自信がもてないと言うのなら、わしがお主を鍛えてやる!! 流派東方不敗の教え、たっぷりと叩きこんでやろう!!」

「えっ? えっ!?」

 いきなりの展開に戸惑うゼファ-。そんな彼を東方不敗は半ば無理やり弟子入りさせ、厳しい修行を課すのだった。それに対し、最初は嫌々だったがゼファーだが、次第に東方不敗の強さに惹かれて行き、真面目に修行に打ち込んでいくようになった。
 しかし、この時点ではまだ、彼の強さに惹かれていただけだったゼファ-が彼を心底崇拝するようになったある事件が、それから数カ月後に起きた。それはル・ルシエの民が竜召喚の技術を応用して危険な獣が入らないようにした安全地帯の筈の場所で起きた出来事である。修行中のゼファ-が獣の唸り声が聞こえた気がして振り向くとそこには竜の姿があった。

「なっ、なんで……、こんなところに……竜が!?」

 竜の存在に当然の如く驚き、恐怖を感じるゼファー。しかも、その竜は明らかに気がたった状態で、凶暴化していた。そしてゼファ-を視線に入れた竜が激しい雄叫びをあげ、彼に対し襲いかかってきたのである。

「グゥオオオオオ!!!!!!!」

「あっ……あっ……」
 
 恐怖で身動き一つ取れなくなった彼に向かって竜の爪が振るわれる。その瞬間、彼は死を覚悟した。しかしその爪が彼に届き、その身体を引き裂くことはなかった。

「これ、腹が空いている訳でもないのに無闇に命を奪うものではないぞ」

 思わず閉じてしまったゼファ-が目を見開いた先に見た者は、竜の爪を片手で受け止め竜に語りかける東方不敗の姿。そして彼はそのまま竜の腕を弾き飛ばすとゼファーの身体を抱えると後ろに飛び引いた。

「お前は、ここで少し隠れておれ」

 そう言ってゼファ-を少し離れた所におろすと竜に対し向かい合って構える東方不敗。

「どうした、何をそんなにもいきりたっておる?」

「グルゥゥゥゥ」

 唸る竜を前に全く臆することなく悠然と立ちはだかる彼は竜は爪を振るい、牙で噛み砕こうとするが、その攻撃は軽々と彼に回避されかすりともしない。その動きは見事なものだったが、その戦い振りを傍から見ていたゼファ-はある疑問を覚えていた。

(どうして、東方先生は攻撃しないんだ?)

 東方不敗の圧倒的な強さを出会ってからの数カ月で十分に知っていた彼にしてみれば、ル・ルシエの守り神である真竜ヴォルテールのようなもので無い限り、竜が相手でも素手でも十分にしとめることが出来ることがわかっている。にもかかわらず攻撃を回避するばかりで自分の方から攻めようとしない東方不敗の行動が彼には不思議でならなかった。

「ふむ、それが原因か」

 そして攻撃を回避し続けていた東方不敗がポツリと呟いたかと思うと初めて前にでる動きを見せる。そして竜の右足を掴み、そのまま足を持ち上げ、竜の身体を背中から転ばせて見せた。

「やった!! っつ……あれは!!」

 竜の巨体を倒して見せた東方不敗に喝采を上げるゼファーだったが、そこで竜の右足の裏に巨大な金属片、破砕した機械のようなものが深く突き刺さっているのに気付いたのだ。それを見て彼は悟る。竜はその痛みの所為で凶暴化し、理性を失っていたため、本来は立ち入らない筈の領域にまで飛び込んできてしまっていたのだと。

「不法廃棄物か何かか。嘆かわしい。このような自然豊かな地でそのようなことをするものがおるとはな」

 それを見て東方不敗は怒りと悲しみの混じった表情を浮かべると、竜に視線を向ける。そしてその足に突き刺さった金属片に手をかけた。

「今、楽にしてやろう。少し大人しくしておれ」

 そう言って、金属片を一気に引き抜く。そして引き抜いた後に血が流れる傷口に手を当て、気功を放ち始めた。すると、傷口が見る見る塞がって行く。竜の身体のサイズがサイズなだけに一瞬とは流石にいかないが、自分を手当てしてくれていることがわかるのか、その間竜は東方不敗を襲うことなく、じっと静止している。ほどなくして傷口がふさがり、彼は傷口から手を離した。

「これでよかろう。さあ、元の場所へ変えるといい」

「グゥ」

 東方不敗の言葉に頷くように短い唸り声をあげ、去っていく竜。彼はその姿が見えなくなるまで見守り続け、ゼファーも隠れていた場所から姿を出す。そして彼に向かって気になっていたことを尋ねてみた。

「あの、東方先生はどうして竜の怪我がわかったんですか? もしかして、東方先生は竜の言葉がわかるとか?」

 非常識の塊のようなこの男ならその位出来ても不思議はない、そう思って尋ねるが、東方不敗はそれを否定する。

「馬鹿を言え。いくらわしとて竜の言葉などわからんわ。だが、拳を交えた瞬間、奴の気持ちがわしには伝わってきたのだ。奴は獲物を求めているのでも、殺戮を楽しんでいるのでもなく、ただ苦しみ助けを求めているだけだとな」

「凄い……ですね」

 ゼファ-はその言葉にそうとしか答えられなかった。拳を通して相手の想いを汲み取る。相手に想いを伝える。東方不敗との修行の最中、彼の口から何度も聞いた言葉だったが、正直な所、今の今まで信じてはいなかった。けれど、今ならば心の底からそれを信じることができた。
 そしてゼファ-は思い出す。自分を庇い、竜の爪を受け止めた時の、竜と戦っている時の、そして竜の怪我癒していた時の東方不敗の背中を。その背中はとても大きく見えた。

(なんて凄いんだこの人は。何て強くて……、そして何て優しい人なんだ)

 竜と戦い、竜の気持ちを悟り、竜を思いやる。そんなことができる人がこの世にどれだけいるだろうか。竜召喚師にだって実の所それほど多くないのではないかと思う。
 彼のように自分も生まれてくる子供に大きな背中を見せることができる人になろう。そう決意しゼファ-は背筋を正し、頭を下げて言った。

「東方先生、いえ師匠!! これからも、ご指導の程、よろしくお願いします」

「なんじゃ、改まって。まあよい、厳しくいくから覚悟して置くのじゃぞ!!」

「はい!!」







 竜との一件以来、ゼファ-はそれまでよりも遥かに熱心に稽古を積み、メキメキと成果を伸ばして行った。そして、遂に彼の妻が出産を迎える。だが、その時の難産が原因で妻は命を落としてしまったのである。

「メルフィ……」

 冷たくなった妻の手を握り締め、ぐっと目を閉じるゼファー。そんな彼の肩を叩き、東方不敗は語りかける。

「無理をせず泣くがいい。愛するもののために流す涙は決して恥ずかしいものではないぞ」

 しかしゼファーはその言葉に首を振って拒んだ。そして、メルフィの隣に寝かされた生まれたばかりの娘に目をやって答える。

「いえ、俺は泣きません。俺には守るものがあります。だから、この子の前ではどんなに辛くても決して泣きません」

「……そうか。ゼファーよ、お前ならば必ずや流派東方不敗を立派に継げる。この子に恥じない親となれ」

「はい、師匠」
 
 それから5年、ゼファーは流派東方不敗の使い手として半人前位の強さを身につけ、村人にも馬鹿にされることはなくなり、キャロの父として立派に胸を張れる男へと成長した。しかし、キャロの竜召喚の日、新たな悲劇が彼等、父娘を襲うのだった。


(後書き)
希望の多かった東方不敗とキャロの話です。けど、キャロの出番が少なくてすみません。オリキャラのキャロの父が邪魔と思われるかもしれませんが、追放されたキャロを東方不敗が拾うって展開を書いても既にやり尽くされたパターンを踏襲することしかできそうにないんで。せめて、後半はもう少しキャロと東方不敗のいちゃつき場面を増やせるようにします。
予定より話数が多くなってしまいましたが、この後半と亀仙人編序章最終話、あとおまけ一本をかいて一旦きりとしたいと思います。



[19760] 外伝1:受け継がれる流派東方不敗(後編)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/06/26 18:25
「なんですって!? キャロを村から追放する!?」

 ゼファ-が叫ぶ。それは竜召喚の儀のあとのことであった。その儀の際、キャロが召喚したのは真竜ヴォルテール、5歳の少女が召喚するにはあまりに規格外な存在であった。

「そうじゃ。きちんと制御方法を仕込んだとしても、ヴォルテールを制御できるようになるまでは、後数年はかかる。もしそれまでの間に、あの子が誤って召喚をしてしまえばどうなるかはお主にもわかるじゃろう?」

「くっ、しかし」

 召喚の儀の時は、即座に送還もできるような準備がされているため、何の被害も無く、ヴォルテールをもとの場所に戻すことができた。しかしもしそうでない場所で、ヴォルテールが召喚されたとしたら、送還するのにどれだけの被害がでるか想像もつかない。最悪の場合はル・ルシエの村が全滅すると言った恐れもある。
 今のキャロは言わば強力な歩く爆弾のようなものだった。

「それに、ヴォルテールの力を狙って、犯罪者達が村を襲ってくる可能性もある。いずれにしてもあの子を村には置いておけない」

「くっ」

 理屈はわからない訳でもない。しかし、納得できる筈が無い。ゼファ-はキャロの父親なのだ。我が子が疫病神などと認められる筈が無い。嘗ての自分が無能のレッテルを張りつけられたように、娘をそんな存在に貶めるようなことを許す訳にはいかない。そしてゼファ-はある決断をした。

「一度だけチャンスを下さい」

「チャンスじゃと? まさか、あの子がヴォルテールを制御できるかどうかを試すとでも言うのか?」

 長老の問いにゼファ-は首を振って否定する。確かにそれができれば一番であるが、不可能であることは自身は竜召喚できないとはいえ、長年村に暮らし、多くの竜召喚師を目にしてきた彼にもわかっていた。

「いえ、それは長老のおっしゃったように後、数年は無理だと思います。しかし、逆に言えば後、数年もあればあの子はヴォルテールを制御できるようになる筈です。要はそれまでの間、例え誤って召喚したとしても何とかできる保証があればよいのでしょう? 犯罪者達にしてもヴォルテールの力が制御できるようになれば撃退は簡単な筈です」

「まあ……、それはそうじゃが、どうするつもりなのじゃ?」

 ゼファ-の言ったことは確かに筋が通っている。正面から攻める以外の方法で犯罪者達が攻めてくる可能性も無論あるが、それはいままでも同じこと。自身は比較的弱く、ヴォルテール程で無いにしても強力な竜を召喚できるル・ルシエの民を狙ってくる輩は今までにも当然の如く存在した。その為、それに対する対策はいくつも立てられている。ヴォルテールの暴走が無いのなら確かにリスクとしては大して増えない。寧ろ、最強の戦力が加わることで村の安全がより強固になるとも言える。
 問題は、それをどのような手段で成し遂げるかだ。数年の間、ヴォルテールを抑える方法が無ければそれ等は絵に描いたもちでしかない。

「俺がヴォルテールと戦って勝ってみせます!!」

「なんじゃと!? 無茶じゃ!! 確かに今のお主なら並の竜なら相手にできるじゃろう。しかし、ヴォルテールは普通の竜では!!」

「わかっています。ですが、例え命に代えたとしても「喝!!!!!」」

 ゼファ-の言葉に割り込む叫び声。そして、長老の家の天井を破壊し、空中から一人の男が飛び込んでくる。その男の正体は言うまでも無い。

「この、馬鹿弟子があああああああ!!!!」

 そしてその飛び込んできた男、東方不敗は怒りの声と共にゼファ-を殴りつけた。殴られたゼファ-の身体は吹っ飛び今度は長老の家の壁を粉砕する。
いきなり殴られた理由がわからず、身体を起こすとゼファ-は師に問いかける。

「し、師匠、何故?」

「まぁだ、わからんのかあああああ!!! 娘のために戦うことを決意したのは認めよう。もし、あのままお前が黙って従っておればわしはお前を破門にするところだったわ。じゃが、“命に代えても”とは何事じゃ!! お主は生まれて直ぐに母を亡くしたあの子から父までも奪おうと言うのか!!!」

 東方不敗の言葉にはっとさせられるゼファ-。確かにキャロのことを思うのならば自分は何としてでも生き延びなければならない。しかし、ヴォルテールを相手に命もかけずして勝てる自信がどうしても浮かばなかった。

「しかし、俺は……」

「だからお主はアホなのだ!! 何故、一人でやろうとする!? 何故、わしに頼らん!? 我等流派東方不敗が二人して挑めば例え真竜ヴォルテールと言えど恐るるに足らんぞ」

 それに対し、東方不敗は自らも戦うことを提言する。その言葉にゼファ-は慌てた。

「そんな、師匠にご迷惑をおかけするには……」

「迷惑じゃと? 全くお主は……」

 ゼファーの言葉を聞いて東方不敗は溜息をつく。そして声の調子を落とし、出来の悪い子に言い聞かせるように優しい表情で語り始めた。

「よいか、お主はわしにとって可愛い弟子じゃ。そしてキャロはわしにとって孫同然の存在。弟子と孫のために戦うことになんの理由が居る?」

「し、師匠……ありがとうございます」

 その言葉を聞いて、膝をつき、東方不敗の手を握り締め涙を流すゼファ-。東方不敗はそれを見守り、そして視線を長老の方に向けた。
「話は聞いておったじゃろう。わしもこ奴と共にヴォルテールと戦う。そして勝ったならばキャロをこの村に置くことを認める。よいな?」

「う、うむ」

 勢いについていけず、部屋の隅で黙っていた長老は、突然話を振られ東方不敗の声の迫力に押されて頷く。
そうして承諾を得た二人が部屋をでていくと、残されたのは長老と東方不敗の行動によって半壊しかかった家のみだった。








 数日後、ゼファ-と東方不敗の二人がヴォルテールと戦う日が訪れた。そしてキャロを加えた三人がかたまり、開始の時を待っている。

「お父さん……おじいちゃん……ごめんなさい、私のせいで……」

 不安そうな顔をするキャロ。二人はキャロにはなるべく事を明かさないよう心がけていたが、人の口に戸は立てられないもので、彼女は知ってしまっているのだ。自分が厄介者扱いされていることを。そんな彼女の頭を東方不敗は優しくなでる。

「何も謝ることは無い。お主は何も悪い事などしておらぬのだからな」

「でも……おじいちゃん達が……」

「ふふふ、わし等が負けるとでも思うか?」

 涙目で見上げるようにして心配するキャロだったが、東方不敗の言葉に全力で首を振って否定する。そして東方不敗は最後にぽんとキャロの頭を叩くと、ゼファ-と向き合った。

「覚悟はよいな?」

「はい!」

「うむ」

 そして全ての準備が整い、張られた結界内にヴォルテールが召喚される。二本の足で立ち、外観からして他の竜とは一線を引く真竜ヴォルテール。その圧倒的な威圧感にゼファ-が気押される。

「ゼファ-よ。戦う前から相手に飲まれておっては勝てる戦いも勝てなくなる。己の力を信じよ。お前の5年の修行は決して無駄ではないぞ」

「はい!!」

 師の言葉を聞くだけどその威圧感が和らいだような感じを受ける。そして戦いが始まった。開始の口火を切ったのは東方不敗の蹴りの一撃。

「とりゃあああ!!!!!」

 気合いの叫びと共に放たれたその一撃がヴォルテールの胸に直撃する。並の竜であれば、その一撃で倒れても不思議はないが、流石は真竜ヴォルテール。身体をぐらつかせるもののその場に踏みとどまる。そして反撃とばかりに右手を振るうヴォルテール。東方不敗はそれを受け止めるが、流石の彼もふんばりの効かない空中で重量の差を覆すことはできない。地面に叩きつけられるが、何とか足から着地する。

「たああああ!!!」

 ついでゼファ-が飛び出す。しかしヴォルテールが尻尾を振るい、それによって払いのけられてしまい、地面に転がるゼファ-。そこにヴォルテールのブレスが放たれ、彼の身体が飲みこまれる。

「お父さん!!」

 それを見て叫ぶキャロ。しかし、ブレスが消えた時、そこにゼファ-の姿はなかった。代わりに空中に彼を抱えた東方不敗の姿が。

「大丈夫か、ゼファ-」

「す、すいません。師匠」

 東方不敗は地面に着地し、ゼファ-も体勢を立て直す。そして東方不敗は構えをとって己の気を高め始めた。

「流派東方不敗、十二王方牌大車輪!!

 彼の手からまるで彼が分身したようなミニサイズの東方不敗が12人現れる。そしてそれらが複雑な軌道を描いて、ヴォルテールの身体のあちこちに取りつく。それに動きを阻害され思うように動けなくなるヴォルテール。

「いまだゼファ-よ」

「はい!!」

 そのチャンスに二人が同時に飛び上がり、ヴォルテールの胸に拳の乱打を叩きこむ。そして二人が地面に着地した瞬間、取りついていたミニ東方不敗が一斉に爆発し、ヴォルテールに追加のダメージを与えた。

「ゼファ-よ、今度はお前が拘束せい!!」

「はい!!」

 東方不敗の指示を受けゼファーが布を投げる。その布はまるで拡大化したように大きくなり、そしてその布を自在に動かして、ヴォルテールの身体を縛り上げて見せた。

「超級覇王……電、影、弾!!」
 
 東方不敗の身体が自らの身体を弾丸とし、回転しながら体当たりをしかける。ヴォルテールでなければそれで胴体を貫かれていただろう。しかし、ヴォルテールはそれに耐え、それどころか布を引きちぎり、拘束から逃れてしまう。そして今までに無い強力な攻撃を仕掛けようと口を両翼に魔力を貯め始めた。

「ぐっ」

 魔導師ではないがそのエネルギー量を本能で感じ取り、一旦退避しようとするゼファ-。しかし、東方不敗がそれを引き止めた。

「待て、ゼファ-よ。我等があれを回避すれば恐らくは結界が破壊されてしまう。そうなってしまえば、我等の負けぞ」

「!! しかし、では、どうすれば……」

 結界が壊されてしまえばその時点で失敗とみなされ、キャロの追放が決まってしまう。それでは何の意味が無い。だが、その攻撃を避けずに受ければただではすまないのは明らかである。その事態に対し、東方不敗は決断をした。

「流派東方不敗の最終奥義を使う」

「石破天驚拳を!? しかし、あの技はまだ、俺には到底……」

「確かに今のお前ではまだ一人で使うことはできぬだろう。しかし、強い友情や愛、信頼関係を持つもの同士が心をあわせることで石破天驚拳は更なる力を発揮するのだ。わしにあわせい!!」

「は、はい!!」

 そして二人は重ね合わせたかのように同じ構えを取る。気を集中し最終奥義を放つために練り上げる。


「我等のこの手が真っ赤に燃える」


「キャロを守れと轟き叫ぶ!!」


「石破」


「究極!!」


「「天驚拳!!!!!!」」


 そして二人の気が合一された一撃が放たれる。同時にヴォルテールの最大攻撃も。両者のエネルギーは拮抗し合い、真ん中でくすぶりあう。

「ぐっ、我等二人の力をもってして互角とは、見誤って負ったか!?」

 東方不敗が苦悶の声をあげる。ヴォルテールは長きに渡り召喚者がおらず、戦いをすることがなかったため、内部に魔力を貯め込んでいた。それによりまさしく真竜に相応しきその真の力を発揮できていたのである。だが、二人は決して負ける訳にはいかない。気合いを入れ直そうとしたその時だった。

「お父さん!! おじいちゃん!!」

「なっ、キャロ!?」

 結界の中にキャロが飛び込んで来たのだ。張られた結界は戦いの余波が外に及ばぬよう、そしていざという時、直ぐに送還できるよう張られたもので、外から中に入ることは簡単にできる。しかし、だからと言ってそれがこんな危険な場所に飛び込んでくる理由にはならない。

「キャロ、何故ここに来た!? ここが危険だと言うことがわからんのか!?」

「わかってる。でも、でも、私もお父さん達と一緒に戦う!! だってお父さんとおじいちゃんは私のために戦ってくれているんだもの。私もお父さんとおじいちゃんのために戦いたいの!! それにヴォルテールは私が従えなくちゃいけないんだもの。お父さんやおじいちゃんといっしょにヴォルテールに勝って、ヴォルテールに言うことを聞いてもらうんだから!!」

 二人を真っ直ぐに見て語るキャロ。その姿に二人は可愛い娘が、可愛い孫が、自分達が思っていた以上に成長していたことをそこで初めて知る。

「ふふ、そうか」

「わかった。お父さん達と一緒に戦おう」

「うん!!」

 二人がキャロを認め、キャロは二人の間に入り、腕を真っ直ぐあげて立つ。そして3人が同じ構えを取った。


「「「我等のこの手が真っ赤に燃える、幸せつかめと轟き叫ぶ!!!」」」


「石破」


「「超越!!」」


「「「天驚拳!!!!!!!!!!!!!!!」」」


 3人の気、更にキャロの魔力を上乗せした一撃、まさしくその名の通り天をも驚くその一撃はヴォルテールの放った魔力砲を簡単に飲みこみ、そしてヴォルテール自身をも飲み込んだ。当然、結界など跡形も無く吹き飛ぶ。そして全ての衝撃が治まった後。

「グゥ」

 地面に仰向けになって倒れていたヴォルテールがよろよろと立ちあがる。それを見てゼファ-とキャロを庇うようにして構える。
しかしヴォルテールは攻撃するような素ぶりを見せず、3人に対し、かしづくような姿勢を取った。

「どうやら、ヴォルテールは我等のことを認めたようだな」

「えっ、それじゃあ!?」

「ああ、わし等の勝ちということじゃ。こ奴がわし等の意思に背くと言う事は恐らくこの先無いだろう」

 つまりそれはヴォルテールを暴走を止められることを示したどころか、一足飛びにヴォルテールを制御してしまったと言うことである。それの示す所は一つ。

「それじゃあ、私は……」

「ああ、もう村を出て行く必要などどこにもない」

 その言葉にキャロが東方不敗に思いっきり抱きつく。こうして問題は解決した。しかし、その数日後のことであった。東方不敗が旅に出ると言いだしたのは。







「師匠、いきなり旅に出るなんて、どういうことですか!?」

「キャロはもうヴォルテールを制御でき、新たに召喚したフリードもあの子に懐いておる。そしてお前に教えることはもう何も無い。このまま修行を積んでいけば、やがて石破天驚拳も使えるようになるだろう」

「でも、だからと言ってこの村をでていく必要なんてどこにもないではないですか!?」

 東方不敗に詰め寄るゼファ-。しかし、東方不敗は彼の方を見ようとしない。代わりに空を見上げながら、語りかけてきた。

「わしはあのヴォルテールとの戦いで久々に血がたぎる感覚を思い出したのじゃ。そして思った。更なる高みを目指したいとな。そのために、わしは広い世界を見て回ることを決めたのじゃ」

「更なる……高み……」

 その言葉はゼファ-にとってあまりに予想外なものだった。彼にとっては東方不敗こそ目指すべき頂だったから。その更に上など想像もしたことはなかったものであった。

「我等武道家にとってそこで終わりというものは無い。目指すべき高みはどこまでも無限に高い。わしが元の世界に残してきたわしを超えた弟子も今頃は更なる高みへと上り詰めておるじゃろう。わしはその弟子に負けぬようもっと己を鍛えたい、そう思ったのじゃよ」

「……でしたら、私も師匠や師兄に負けぬよう己を鍛え続けます」

 東方不敗の言葉にゼファ-は拳を握り答える。その時、彼の中で東方不敗に対する崇拝の意味が変わった。神のように届かない存在に対して向ける憧れから、同じ道を行く先達に対し向けるものへと。

「そうか。ならばこの先、我等は師弟では無く、ライバルじゃな」

「いえ、例えあなたを超える日が来たとしても俺にとってあなたは永遠に師匠です!!」

 東方不敗、彼がゼファ-に道を示してくれた存在であることは変わらない。例え、師の強さを超える日が来たとしても、道が僅かに違えても、それは永遠に変わらないのだ。

「ふふ、わしを超えるか。言うようになったな。ならば!!」

 その言葉を合図に両者が飛び出す。

「流派東方不敗は!!」

「王者の風よ!!」

「全新系列!!」

「天破侠乱!!」

「「見よ!東方は赤く燃えている!!!」」

 拳を突きつける二人。そしてゼファ-は口を開いた。

「最後に一つだけお願いがあります」

「何じゃ?」

「時々は遊びに来てください。あの子にキャロに会いに」

「……わかった」

 そう答え、東方不敗は姿を消す。そしてそれと入れ違うかのようにキャロが現れ、ゼファ-のところへ駆け寄ってくる。

「おじいちゃん!!! お父さん、おじいちゃんは!?」

「師匠は旅にでたよ」

 その言葉を聞いた瞬間キャロは目に涙を一杯に浮かべて言った。

「どうして、私のことが嫌いになったの?」

「違うよ。その証拠に師匠はキャロに会いに時々は遊びに来てくれるって約束してくれた」

 ゼファ-はその場にしゃがみこみ、キャロと同じ高さの目線になって語りかける。しかし、それでもキャロは泣きやまず父に対し問いかける。

「じゃあ、どうして?」

「どうしてもやりたいことがあるんだって。ほら、元気をだすんだ。言っただろう。時々は会いに来てくれるって。けど、キャロがあんまり情けないようだったら遊びに来てくれなくなってしまうかもな」

「嫌!! だったら、私泣かない」

 大声で叫び必死に涙を止めようとするキャロ。この時、ゼファ-が言った言葉が原因か、その後年齢以上に礼義正しく、しっかりとした子へとキャロは成長して行った。


 そして5年の月日が流れる。


「行くぞ、キャロ!!」

「はい、お父さん!!」

「流派!東方不敗は!」

「王者の風です!」

「全新系列!」

「天破侠乱!」

「「見よ!東方は赤く燃えている!!」」

 第6管理世界アルザス。そこでゼファ-とキャロ、二人の父娘、そして流派東方の修行を行っていた。そしてそこに一人の男が近寄ってくる。

「うむ、やっとるようだな」

「あっ、おじいちゃん!!」

 久々に遊びに来た東方不敗にキャロが抱きつく。それを5年前と同じように東方不敗は優しく抱き止める。

「頑張っておるか?」

「はい、頑張ってます。フリードも最近は私と一緒に流派東方不敗を習っているんですよ。ヴォルテールにも教えようかと思ったんですけど、何故かそれだけはやめてくれって村中の人に止められちゃいました」

 近況を報告するキャロ。それを笑顔で聞く東方不敗。そしてゼファ-が二人に近づいてくるのに気付き、彼は鋭い目つきをして視線をそちらにやった。

「ゼファーよ。修行は怠けておらんな」

「ええ、勿論です。後少しで石破天驚拳も会得してみせますよ!!」

 ゼファーの自信の持った言葉に東方不敗はニヤリと笑い構えをとる。

「ふふっ、そうか。ならば修行の成果を……っと、言いたいところじゃが、今日はやめておこう。代わりにキャロよ、今日はたっぷりとわしの飯を食わせてやろう」

「本当ですか!! おじいちゃんのご飯美味しいから大好きです」

「キュクルウ」

 しかし構えを崩し、そう言った。その言葉にキャロとフリードが大喜びする。そうして3人と一匹は家に帰る。それは嘗てヴォルテールとの戦いの際に宣言した通り、幸せを掴んだ姿だった。


(後書き)
キャロが追放された理由は後付けで犯罪組織がヴォルテールを狙っていたから、管理局に伝えなかったのも管理局の情報管理能力を信頼していなかったから、キャロに制御方法を教えなかったのも制御方法の機密漏洩を防ぐためってことになっている設定があるそうなのですが、かなり無理がありますよね。そこまで徹底し、冷酷にならなければならなければならないのならいっそキャロを殺した方が確実な筈ですし、それ位の覚悟を集落が持っていなければおかしい筈です。ですんで、その辺の設定は半分無視して書きました。
あと、前半で宣言した東方不敗とキャロのいちゃつき少なかったのでちょっとだけおまけを。あっ、言っておきますがあくまでおじいちゃんと孫してのいちゃつきの範疇ですからね?


(おまけ)
――東方不敗がたまに帰って来た日の夜はこんな感じ――


「おじいちゃん、久々に一緒にお風呂に入りませんか?」

「なんじゃ、キャロ。十にもなって甘えおって。まあよい、入るか」

 普段会えないからと両手をちょこんと前に添えて甘えるキャロに対し、口調は文句を言いながら表情は嬉しそうにし答える東方不敗。

「はい!! あっ、背中流しっことかしてもいいですか?」

「あー、わかったわかった」

「頭も洗ってください」

「洗ってやる洗ってやる」

 仲良く談笑を交わしながら風呂に向かう二人。一方その隣の部屋では。

「うっうっ、キャロ、最近、俺とは一緒に風呂に入ってもくれないのに……」

 いじけるゼファーの姿があった。


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