「ファリス!前に出すぎだ!マイティガードをかけるまで待てって!」
「だが、奴も動きが鈍い、あと少し・・・あと少しでっ・・・!」
角の生えた魔獣、血を滴らせる骸骨、悪魔のような青白い顔、様々な"モノ"が混じりあった異形は、その動きを少しずつ確実に鈍らせていた。
「姉さん、待って!今ケアルガを・・・ッ!・・・」
対象の傷を癒す白魔法ケアルガ、それがレナの手から放たれようとした刹那、異形の魔物-ネオエクスデス-より閃光が放たれる。
「うっ・・・クソッ!・・・」
「まだ・・・だ・・・」
「・・・回復・・・が・・・」
放たれた閃光-アルマゲスト-は両の手にしたアサシンダガーとエンハンスソードを交差して閃光の威力を和らげようとしたファリス、詠唱中であった青年とレナを無慈悲に焼き尽くした。
「皆ッ!大丈夫!?」
上空から・・・この空間に「上空」があるかはわからないが、上方から金色の塊、金色の髪をした少女が、飛竜の槍でネオエクスデスの骸骨部に一撃与えながら三人に声をかける。
「レナお姉ちゃん、今エリクサーを渡すから!」
この四人の中でケアルガやエスナ等の治癒魔法を使えるのはレナのみ。
あわてて駆け寄った金髪の少女、クルルはレナにエリクサーを飲ませようと・・・
「馬鹿!クルル後ろだっ!」
ファリスが叫ぶがもう遅い。
ネオエクスデスの放った『しんくうは』はエリクサーを飲ませようとしていたクルルに直撃、クルルは吹き飛ばされた先で倒れたまま起き上がらない。
さらにそこに残された三人の頭上からは隕石群、時空魔法『メテオ』が飛来。
青年は手にしていたイージスの盾の魔法防御の加護で耐えしのいだが、二刀流のファリス、そして一番被害の深いレナは成す術もなかった。
轟音が収まり煙が晴れる。
そこにはイージスの盾をもってしても防げない衝撃でボロボロになった青年、そして先ほどのクルル同様、まったく起き上がる気配のないレナとファリスだった。
「ここまで来て・・・終われるか・・・っ!」
青年は火傷、そして隕石の衝撃や砕け散った破片による無数の裂傷や、そのほかのいくつもの傷を堪えて、ネオエクスデスを見据え詠唱を開始する。
一人でありながら詠唱をしている、守る仲間も居ない隙だらけの青年をネオエクスデスは見逃すわけがない。
『しんくうは』、さらにはアルマゲストとは違った眩い十字の閃光『グランドクロス』が青年に襲い掛かる。
しかしいくら傷を受けても光に意識を侵食されそうになっても青年は詠唱をやめなかった。
思えばあの旅の途中で散っていった歳の離れた友人-ガラフ-もこのような気持ちだったのであろうか・・・
もはや自分はあの戦友のように気力だけで立っているのを感じた。
ガラフはあの時何を受けても倒れず、その手にしていた刀でエクスデスに立ち向かっていった。
・・・それならば自分にだって。
青年は詠唱を続ける。
身にまとったミラージュベストは分身を出さず、もはや装備というよりは体に引っかかっているというほうが正しい。
イージスの盾は変わらず形を保ってるが、手にしたばかりの時のあの輝きは感じられない。
青年を守護するものはほとんど何もない。
その状況で青年は詠唱を完成させた。
これを放てば、故郷を奪い、友人をも奪ったアイツ・・・もはや原型は留めては居ないが・・・を倒せるだろう。
そんな不思議な感覚が故郷の人々の顔、そして友人、ガラフの顔とともに青年の頭に浮かんだ。
(思えば長い旅だった・・・皆と出会って、世界を旅し、多くの力を借りて来た・・・)
(これが終わったらまた世界を巡ろう・・・ボコ、奥さんできたんだっけ・・・どうしようかな・・・)
そんな考えが青年の頭をよぎる。この召喚でケリがつくと彼は確信していた。
(まぁ一人旅も良いかもしれないな・・・その為にも今は━)
青年は閉じていた目を開けるとネオエクスデスから目を離すことなく力を解放した。
「召喚!『フェニックス』!」
『アルマゲスト』
召喚されたフェニックスは眩い閃光の中一直線にネオエクスデスへ飛翔していく。
その身に纏うは『てんせいのほのお』、すべてを焼き尽くし生命を育むオレンジ色の炎。
ネオエクスデスの異形の体は炎を受け静かに崩れ去っていく。
アルマゲストをイージスの盾の加護で防いだ少年はそれを見ると、糸の切れた人形のように倒れた。持っていたイージスの盾は限界が来たのか、割れて破片になってしまっている。
召喚されたフェニックスはレナ達3人を癒している。これで戦いは終わった━
青年が安堵した瞬間、ネオエクスデスが崩れ去った後の空間に『無』が収束し始め、周りのものを最後のあがきとでもいうのかのように吸い込み始めた。
近距離に居たレナとファリスはフェニックスが移動させていたが、気力を使い果たした青年は動けない。
そして吸い込まれるまで後1m・・・フェニックスが青年を救い出そうとしたが間に合わず。
青年とオレンジに燃える不死鳥は無に飲み込まれてしまった・・・
「・・・っう・・・ここは」
青年がベッドの上で目を覚ます。その体には傷ひとつなく、いつも着ている冒険者姿の服で見知らぬ部屋に寝かされていた。
(どこだ・・・ここ・・・?)
警戒を解かずに回りを伺う。どうやら人は居ないようだ。
(確か俺はフェニックスと一緒に歪に飲み込まれて・・・うーん・・・)
必死に思案するが何も思い浮かばない、意識を失っているのだから当たり前ではあるが。
(ベッドに寝ていたのだから誰かが助けてくれたのか・・・?とりあえず人を探してみるか・・・)
そういって少し高めのサイズのベッドから足を出し降りようとする。
足が床に届かなかった。
「・・・え?」
(まてまてまて!おねしょは卒業したし、親父や母さんが居なくたって独りで寝れるし・・・高いところや屋根だって平気・・・じゃないけど!あの少年時代はもう終わったっていうかセピア色の思い出がこんなフルカラーなんてうわああああああ!!」
青年は自分の体の変化に気づきパニックに陥っていた。誰かが見ていたら十中八九は「・・・大丈夫?」とドン引きされながら心配されるであろう有様。心の声も途中から悲痛の叫びに変わっていた。
縮んでいた。背が。
ミニマムで縮んだサイズではなく、リアルな身長。
かくれんぼで夕方まで一人で屋根の裏に隠れていたあの懐かしい時代に。
「これじゃクルルかそれ以下くらいじゃないか・・・」
青年の頭の中には『かえるのうた』をラーニングするためにカエル状態になった自分を見て爆笑する、クルルの姿が想像できた。
これから先どうすれば良いのか、青年、バッツ・クラウザーは途方にくれていた。
青年(バッツ) Lv51
ジョブ:すっぴん
アビリティ:あおまほう、しょうかん
そうび:ブレイブブレイド
イージスのたて
ミラージュベスト
エルメスのくつ
どうしてこんな装備とアビリティになったのかは不明。
あおまほうは全て覚えてます。