「エコ亡国――「地球のため」で日本を潰すな」

エコ亡国――「地球のため」で日本を潰すな

2010年6月28日(月)

前政権が残した「負のエコ遺産」

CO2、25%削減は悪夢のデフレ促進政策になる

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 現段階では、CO2削減の国際的な取り組みが進んだという話は聞かない。結局、日本が気前よくコストを負担するだけで、何も得ることがなさそうだ。ゲーム理論が教える通り、何の戦略もなく外交、経済政策を行った当然の帰結と言えよう。

一部企業にのみ、利益が誘導される恐れ

 そしてもう1つ、私は大きな国内問題があるとにらんでいる。それは、「レントシーキング理論」という経済学の考え方である。今回の問題をこれに照らしてみると、国民に対して有害な政策が実現してしまう現象は、簡単に説明できる。

 レントとは「特殊利益、独占利益」を意味する。参入が規制され、競争が起きにくい市場において、企業は通常よりも大きいレントを得ることができる。電力会社や放送会社などの許認可事業が一例だ。これらの企業は独占利益を追求(シーキング)する、という理論だ。

 レントシーキングの過程において、企業は自らの利益を最大化する強いインセンティブ(誘引)を持つ。規制を作り運用する官僚に働きかけるわけだ。競合他社の参入を困難にしたり、自社に都合がよいルール設計へ誘導する。

 このレントシーキングが度を超すと、国民経済全体でみれば深刻なコスト負担が発生する。競争が起きず、モノやサービスの販売価格を高く設定することができるため、独占企業が超過利益を得るからだ。

 大幅なCO2削減を柱とする今回の環境政策は、これに当てはまるのではないか。CO2削減に必要な技術や設備を提供することができる一部の企業や団体だけが莫大な利益を稼ぐことができる。あからさまな利益誘導でなく、「地球のため」「環境のため」といった文言で自社に有利なルールを作れるのだから、好都合であっただろう。

「歴史的な愚策」のツケは国民に回される

 天然資源の多くを海外からの輸入に頼る日本。新興国の台頭が目覚しい中で今後、地球資源を効率的に使うために、省エネ技術や代替エネルギーの開発に取り組むことは正しい。もちろん、化石燃料の消費に伴う大気や水資源の汚染を軽減することにも貢献する。日本が環境技術開発の先頭を走るべきであることを否定するつもりはない。

 しかし「CO2の25%削減」などという無責任な発言は別だ。本来なら不要であるはずの重い負担が企業収益や家計を圧迫すれば、投資や消費に向かっていたであろうカネも回らなくなる。すなわち、需要不足によるデフレを加速する。25%削減を軽々しく口にしてしまった鳩山前首相は、そんなリスクを意識していたであろうか。

 あえて言おう。「歴史的な愚策」が実現してしまえば、それで困るのは国内で経済活動を営む我々国民である。菅直人政権は、前首相の危険な環境政策の妥当性を科学的に再検討し、国民の経済活動を最優先に考える政策に転換すべきだ。

(本コラムは筆者の個人的意見をまとめたものであり、筆者の所属する組織の意見ではありません)


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著者プロフィール

村上 尚己(むらかみ・なおき)

 マネックス証券 チーフ・エコノミスト
 東京大学経済学部を卒業後、第一生命保険入社。その後、日本経済研究センターに出向し、エコノミストのキャリアを歩み始める。第一生命経済研究所で副主任研究員として、日本・米国・アジア経済の分析を担当した。2000年よりBNPパリバ証券会社にて、日本経済担当エコノミストとして機関投資家向けレポートを執筆。2003年よりゴールドマン・サックス証券株式会社においてシニア・エコノミストとして、独自の計量モデルを駆使し日本経済の予測全般を担当。国内外の機関投資家へのレポート作成・マーケティングを通じて、30代半ばにして日経ヴェリタス エコノミストランキングにランクイン。日本経済新聞などでも頻繁にコメントが掲載されている。
 日本証券アナリスト協会検定会員。著書に「アジア通貨危機の経済学」(共著、東洋経済新報社)、「経済危機『100年に一度』の大嘘」(共著、講談社BIZ)、がある。
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このコラムについて

エコ亡国――「地球のため」で日本を潰すな

鳩山由紀夫首相は就任直後の国連演説で「CO2排出量の1990年比25%削減」を明言、その達成目標を2020年とした。環境技術のリーダーとして、世界のトップを走り続けることは日本にとって悪いことではない。しかし、省エネが進んだ日本が破格のコストをかけることに経済、政治、技術的な合理性はあるのか。目標達成のため“削減後進国”に支払うことになりそうな排出権の対価を含む国民負担に日本経済は耐えられるのか。多面的な議論を通じて「エコロジー=正義」という単純な構図を検証する。

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