「エコ亡国――「地球のため」で日本を潰すな」

エコ亡国――「地球のため」で日本を潰すな

2010年6月28日(月)

前政権が残した「負のエコ遺産」

CO2、25%削減は悪夢のデフレ促進政策になる

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 地球温暖化は進んでいないという事実を隠蔽するため、英イーストアングリア大学が1960年代からのデータをねつ造していたのだ。この「クライメートゲート事件」は海外で大きな話題になった。隠蔽されたデータによれば、今後、地球が温暖化に向かうリスクは小さく、むしろ寒冷化している可能性すらあるという。

 残念ながら、この「大事件」について日本では大きく報道されていない。日本のメディアの怠慢なのではないか。温暖化を防ぐためにCO2削減を目指すという経済政策の大前提を揺るがす可能性があるため、報道を控えたというのはうがった見方だろうか。

「CO2削減は地球の気温に影響しない」科学者の主張

 実際、科学界にはCO2の排出量と地球の気温にほとんど関係がないという科学者の意見が多い。

 東京工業大学大学院の丸山茂重教授は、気温などの気候変動に最も影響を及ぼすのは「太陽の活動度」であると主張している。太陽活動が活発化すると黒点が増えて気温が上昇する。黒点は2000年頃から減っているため、地球はむしろ寒冷化に向かうというのが丸山教授の主張だ。

 丸山教授は「CO2削減が地球の気温に与える影響は極めて限定的」とも言っている。大気中に占めるCO2の割合は0.04%。仮にそれが毎年1ppm(0.0001%)増えても、気温は0.004度ほどしか上がらない。気温とCO2濃度を分析すると、両者は連動しているわけではなく、むしろ逆の動きをするのだという。気温の上昇が先に起き、そのため海水中に溶けているCO2が大気中に放出されるというわけだ。

 つまり、「地球が温暖化している」ことも「CO2削減がそれを防ぐための処方箋である」ことも科学的に正しいかどうか決着がついていない。何のために日本だけが、経済活動に大きな制約をもたらす大幅なCO2削減を国際公約してしまったのか不思議で仕方がない。

「ゲーム理論」からも効果は期待できず

 とはいえ、「もったいない」の言葉に象徴されるような日本的道徳観からすれば、「エネルギーの大量消費は無駄である」という考え方も誤りではない。そこで、理由はともあれ、CO2削減に取り組む必要があると仮定してみよう。

 日本が他国に先駆け、突出したCO2削減策を打ち出すことは妥当な政策なのだろうか。「日本が率先してCO2削減に取り組み、他国をリードする姿勢に意味がある」といった精神論は、経済的にも正しいのだろうか。

 日本は米国に次ぎ、中国と肩を並べる経済大国であるが、熱心に省エネに取り組んできた実績があり、CO2の排出量のシェアは4%程度である。地球レベルのCO2削減が実現するには、CO2を大量に排出している米国や中国などの大国が削減努力をすることが効果的であることは、論を待たないだろう。

 経済学における「ゲーム理論」を応用すると、CO2削減のためには「国際間の交渉」による合意形成が必要になる。地球レベルの大きな課題は、自国が何も行わず、つまり、費用をかけなくても、他国の費用(=犠牲)によって解決されるという面があるからである。

 では、日本が「極めて大きな費用を払うこと」を宣言したことが、国際間交渉というゲームにおいて、何らかの合意形成につながったのだろうか。



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著者プロフィール

村上 尚己(むらかみ・なおき)

 マネックス証券 チーフ・エコノミスト
 東京大学経済学部を卒業後、第一生命保険入社。その後、日本経済研究センターに出向し、エコノミストのキャリアを歩み始める。第一生命経済研究所で副主任研究員として、日本・米国・アジア経済の分析を担当した。2000年よりBNPパリバ証券会社にて、日本経済担当エコノミストとして機関投資家向けレポートを執筆。2003年よりゴールドマン・サックス証券株式会社においてシニア・エコノミストとして、独自の計量モデルを駆使し日本経済の予測全般を担当。国内外の機関投資家へのレポート作成・マーケティングを通じて、30代半ばにして日経ヴェリタス エコノミストランキングにランクイン。日本経済新聞などでも頻繁にコメントが掲載されている。
 日本証券アナリスト協会検定会員。著書に「アジア通貨危機の経済学」(共著、東洋経済新報社)、「経済危機『100年に一度』の大嘘」(共著、講談社BIZ)、がある。
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このコラムについて

エコ亡国――「地球のため」で日本を潰すな

鳩山由紀夫首相は就任直後の国連演説で「CO2排出量の1990年比25%削減」を明言、その達成目標を2020年とした。環境技術のリーダーとして、世界のトップを走り続けることは日本にとって悪いことではない。しかし、省エネが進んだ日本が破格のコストをかけることに経済、政治、技術的な合理性はあるのか。目標達成のため“削減後進国”に支払うことになりそうな排出権の対価を含む国民負担に日本経済は耐えられるのか。多面的な議論を通じて「エコロジー=正義」という単純な構図を検証する。

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