鳩山前政権がわずか8カ月で退陣に追い込まれた。普天間基地移設問題で迷走を続け、様々な政治的、外交的傷跡を残しただけで、鳩山由紀夫・前首相は、ほとんど何もできないまま政権を放り投げてしまった。
ただ、普天間問題での失敗よりも、もっと深刻な失政があったと思う。
それは、鳩山前首相が就任直後の2009年9月、国連演説で「CO2排出量を1990年比で25%削減する」と公約してしまったことである。今後、この国際公約によって、日本経済は極めて重い負担を余儀なくされる恐れがある。無責任極まりない発言だったと言わざるを得ない。
中立的立場のシンクタンクとして定評がある日本経済研究センターは、CO2の25%削減計画を批判している。現状の実用化技術に照らせば、計画実現のためには太陽光発電を最優先で普及させるしかない。このことに対して、懸念を示す経済の専門家は非常に多い。
CO2削減は大きな国民負担を伴う
それはなぜか? 太陽光発電はまだエネルギー効率が十分に高いとは言えず、その利用が進むほど、我々国民は重いコスト負担を強いられるからだ。しかも、太陽光発電装置は、技術面でもドイツを中心とした海外メーカーが先行しており、これらの企業に投資の恩恵がもたらされる可能性が大きい。
言い換えれば、我々が生活するために必要なエネルギーを、海外企業から高い値段で購入し続けなければいけないということである。1世帯平均、毎月約1万9000円(2009年家計調査年報)もかかっている電力・ガス・ガソリン代などの燃料費がさらに上昇する。
値上がり分が国内企業の収入になれば、給与の増加などを通じて国内経済を潤すことにもなろうが、そうではない。経済的恩恵は海外に「流出」する。恒常的な海外への所得流出(=交易条件悪化)に苦しむのである。
1970年代の石油ショック時、原油価格が大きく上昇したことで日本など先進国は大きなダメージを受けた。構造的にはこれと同じことが起きる。具体的には、国内関連産業の空洞化をもたらし、雇用削減という深刻な状況に直面することになろう。
1990年代半ばから続くデフレと低成長から抜け出せない日本経済に、もう1つ大きな足かせがはめられることになる。日本経済の停滞・閉塞感を一段と強める「究極のデフレ政策」と言える。
大きく報道されない「データねつ造事件」
こうした危険な公約であることを、鳩山前首相は認識していなかったのだろうか。「環境」「エコロジー」という口当たりの良い“お題”に酔いしれ、国民生活を苦境に陥れる政策判断を下してしまった。経済政策に通じた政治家なら絶対に採用しなかったはずである。
その証拠に、中国や米国などはCO2削減に必ずしも積極的でない。自国の国益を追求すれば当然のことだからだ。
そもそも、地球温暖化とCO2排出量との因果関係は明確になっているとは言えない。まず、我々はこのことを認識する必要がある。「地球は温暖化が進んでいる」「温暖化を防ぐためにCO2削減が必要」という2点について、科学的に正しいという結論が出ていないことは「現実」である。
鳩山前首相による「CO2の25%削減」表明後の2009年11月、世界を驚かせた大スキャンダルを紹介すれば十分だろう。