敗戦の中にも、最後に希望が見えた。27日の広島戦(ナゴヤドーム)。堂上直倫内野手(21)が9回、プロ入り初本塁打をたたきこんだ。プロ入り4年目、大器はいま花開こうとしているのか。停滞するチームに、若竜たちよカツを入れてくれ。
左翼スタンドのファンも分かっていたのだろう。飛び込んだ1球のホームランボールが持つ、大きな意味を。「返ってきたんです…」。試合後、堂上直が喜んでいた。客席に消えた1球が手元に戻ってきたのだ。
スターになるべき男が大きな一歩を記した。5点を追った9回1死一、二塁。カウント2−2から左腕ベイルの138キロの速球をとらえた。
「2ストライクだったので、食らい付いていく気持ちでいたら、最高の結果になりました」
打球は左翼席へ。プロ1号は土壇場での追撃3ランとなった。意義ある記念の一打。といっても、勝負の世界に生きる21歳は、「何か微妙です。思ったほどうれしさがなかったんですよね」。試合はあと2点届かず、敗戦。複雑だった。
背水の覚悟だった。「打席に少しでも多く立ちたいので、結果を出したい気持ちが強かった。何か一つでも自分のためになるものがある打席にしたい」。今は「7番・二塁」でスタメンチャンスをもらっているが、結果が伴わなければ機会を失う。この日は3打席目まで無安打。必死だった。
堂上直の1日は長く、濃い。全体練習開始前に早出で打ち込む。練習では二塁で約30分間、ぶっ通しでノックを受ける。試合後、居残りで再び打つ。この日、球場を後にしたときは試合終了から2時間が過ぎていた。
キャンプのような毎日を過ごしながら、悪癖と日々格闘している。落合監督の指示のもと、打撃フォームの大改修を行っているのだ。
「結果的にホームランは出ましたけど、まだまだ大事なところで打てていないし、打撃フォームもしっかり固まっていない。意識せずに自然とできるようにならないといけない」
目の前の勝負と大きな未来。両方を視野に入れながら、土台を築き直している。
将来のドラゴンズを背負う人材には、それだけの縁もついてくる。ナゴヤドームでは、中学3年のときに参加したファン感謝デーのイベントで福留(現カブス)から本塁打を放った。愛工大名電高2年夏の愛知大会決勝でも1発。プロでは08年、4試合行われたナゴヤドームでの2軍戦で2本のアーチを飛ばした。
これからどれだけのアーチをナゴヤドームにかけていくのか。その一歩目をこの日、踏み出した。
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