きょうの社説 2010年6月28日

◎「学生のまち」推進 地域の「新たな公」担う力に
 今年4月に「学生のまち推進条例」を施行した金沢市は、学生と市民の協働によるまち づくりを進める具体的な方策を年内にもまとめる方針という。勉学の一環として学生の地域貢献活動が盛んになってきたが、それは学生も「新たな公」の有力な担い手であることを示すものであり、一層の広がりが望まれる。

 金沢市は、人口10万人当たりの高等教育機関数が全国第2位の歴史ある学都である。 同市の学生条例は、地域全体で学生をはぐくむ社会的な機運を醸成し、学生の自主的な活動を促進することで、学生のまちとしての金沢の個性と魅力をさらに高めることを大きな目的にしている。

 近年は各大学が地域貢献を経営理念の柱に据えて、社会活動を活発化させている。金沢 では学生が地元町会と協定を結んで、高齢化が進むまちなかの雪かきを行ったり、商店街のにぎわい創出に協力するなどの取り組みが積極的に展開されるようになってきた。金沢市の学生条例はこうした動きを地域挙げて推進するものであるが、学生、市民連携の地域づくりは時代の要請でもある。

 例えば、政府は2008年度から「新たな公」によるコミュニティー創生支援事業を行 っている。行政だけでなく住民、民間団体を地域づくりの担い手に位置づけ、社会的な事業やサービスを提供しようという趣旨である。また、鳩山由紀夫前首相は、社会を支えるさまざまな民間の力を「新しい公共」と呼び、「官」だけに頼らぬ社会づくりを提唱した。

 新たな公の概念に基づく地域づくりの流れは、今後さらに強まろう。金沢市の学生条例 は見方によっては、そうした新たな公共活動を政府主導ではなく、地域主導で促進するものとも言える。

 金沢市はすでに、まちなかでの学生サークル活動に対する奨励金制度などを設けている が、新たに発足する学生のまち推進会議で、条例を具現化する施策をさらに考えてほしい。新たな公の一翼を担う意識が学生の間に広がり、地域での活動が活発に行われるようになれば、学都としての吸引力もまることになろう。

◎止まらぬ原油流出 環境エネルギーの9・11
 メキシコ湾の深海底油田からの原油流出が、事故発生から2カ月以上も過ぎてなお止ま らず、環境被害が深刻さを増している。オバマ米大統領が先に大統領執務室から行ったテレビ演説は、政権をも揺るがしかねない原油流出事故への強い危機感を示している。持てる技術と知恵を結集して、原油の流出阻止と汚染除去に全力を上げてもらいたい。

 オバマ大統領は、この事故が米国の政策に与える影響の大きさについて「米中枢同時テ ロと同じ」との認識を示している。9・11テロで米国の外交・安保政策が根本的な変更を迫られたように、環境・エネルギー政策の方向が左右されるということである。

 大統領執務室からの国民向け演説は、ブッシュ前政権下のイラク戦争開戦時など国家の 重大局面で行われる。演説によって、米国史上最悪の環境災害と闘う指導者を演出したいという思惑もあるのだろうが、この事故を契機として過度な化石燃料依存を反省し、脱石油と新エネルギー開発を「国家の使命」として推進するという大統領演説には重いものがある。

 その決意は当面、海底油田開発の安全基準や事故防止策の見直しで示され、その内容は 国際的な影響を及ぼすことになろう。事故を起こした英石油大手BPは、災害の補償基金に今後4年間で200億ドル(約1兆8千億円)を拠出することで米政府と合意した。原油流出被害の回復は何年もかかるとみられ、新たな救済の仕組みを考える必要もあろう。

 オバマ大統領は今春、従来の規制政策を転換し、大西洋やアラスカ沖の海底油田開発を 解禁する方針を示した。輸入原油に依存する現状を改めるため、原発を拡大する一方、自国産原油を増やすという考えであるが、今回の事故で新たな海底油田開発の許可を半年間凍結する措置をとった。

 しかし、全面的凍結は大規模な人員解雇を招くとして、凍結解除を求めた石油会社の訴 えを連邦地裁が認め、政府が上訴する事態になっている。原油流出事故で米政府の環境・エネルギー政策はさらに揺れ動くとみられる。