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[16813] 【ネタ】 マシンロボ漫遊記
Name: 小話◆be027227 ID:b35051a3
Date: 2010/03/10 14:14
マシンロボ クロノスの大逆襲のクロス物です
ロム・ストールが適当に世界を渡り歩いて適当に相手を凹る話です。
完全にネタですが、よろしかったら見ていって下さい。

※もしかすると彼方の好きなキャラが凹られている可能性がありますがネタですので笑って許して下さい。



[16813] ゼロと兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:b35051a3
Date: 2010/03/26 21:30
白の国アルビオンの都市、ニューカッスルにある礼拝堂で三人の男女が睨みあっていた。
一人は純白のマントに身を包み花で飾られた冠を頭に頂く、桃色がかった髪をした美少女ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
一人はトリステイン王国魔法衛士隊グリフォン隊隊長ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。
そして最後の一人はアルビオン国皇太子ウェールズ・テューダー。
今朝この礼拝堂でウェールズの立会いの下ルイズとワルドの結婚式が執り行われていたのだが、ワルドはルイズを愛しているのでは無く、ルイズの才能を欲していた事を知ったルイズが直前で結婚を断ったのだ。

「いやよ、誰があなたと結婚なんかするもんですか」

そんなルイズに対してワルドは唇の端を吊り上げると禍々しい笑みを浮かべて語りだした。

「こうなってはしたかない、ならば目的の一つは諦めよう」
「目的?」
「そうだ、この旅における僕の目的は三つあった、その内二つが達成出来るだけでも、良しとしなければな」
「達成? 二つ? 一体どういうこと?」

人が変わったようなワルドの様子にルイズは不安に慄きながら尋ねた、心の中で考えたくない想像が急激に膨れ上がってゆく。
そんなルイズに見せ付けるようにワルドは右手を上げると人差し指を立てて見せた。

「まず一つは君だルイズ、君を手に入れることだ、しかしこれは果たせないようだ」
「あたりまえじゃないの!」

不安にさいなまれながらも気丈にも叫ぶルイズ。
次にワルドは中指を立てる。

「二つめの目的はルイズ、君のポケットに入っているアンリエッタの手紙だ」
「ワルドあなた……」
「そして三つめ……お前の命だウェールズ!」

ワルドのアンリエッタの手紙という言葉で全てを察したウェールズが、杖を構えて呪文の詠唱を開始した。
しかしワルドは二つ名の閃光のように素早く腰に下げた杖を引き抜くと呪文の詠唱を完成させた。
杖に風を纏わせて剣となす、ワルド得意のエアニードルの魔法だ。
ワルドは風のように身を翻らせて、ウェールズの胸を青白く光るその杖で貫こうと迫る。

「待ていっ!」

まさにウェールズの胸を貫くその瞬間、鋭い声と共にワルドの腕を飛礫が襲った、思わず杖を取り落とすワルド。
飛礫が飛んできたほうを振り向くと、礼拝堂の上部に作られたステンドグラスの前に降り注ぐ光を背に受けて一人の男が腕を組んで立っていた。
その男は青い兜をかぶり、青と白、赤の三色で構成された体のラインがでる不思議な形の鎧を着ているようだと三人の目には映る。
男の瞳は強い意志に溢れており、その口からは浪々と言葉が紡がれる。

「悪しき心を抱くものには真実の光をまともに見ることは出来ん、嘘を突き刺す光、人それを真という」
「何者だっ!」

男に向かってワルドが誰何の声を張り上げる。

「貴様に名乗る名は無い!」

その声にさらに鋭い声で答えると兜の頬の部分から飛び出したフェイスガードがカカシャンと音を立てて閉じると同時に男は宙へと飛び出していた。

「とうあっ!! 天空宙心拳、正拳突き!」
「ぐあっ」

拳をまともに受けて吹っ飛ぶワルド、突如として現れた謎の男の実力に戦慄するが閃光の二つ名にかけておめおめと引き下がるわけにはいかない。

「おのれ、このまま引き下がれるものか! せめてウェールズだけでも亡き者に」
「愚かな、己が妄執を成就させんとする者よ天の怒りを知るがいい、剣狼よ! 勇気の雷鳴を呼べ!」

何時の間にか男の腕に握られていた剣が掲げられると雷と共に青い鋼の体を持つゴーレムが現れた、その中へと謎の男が入るとゴーレムが動き出す。

「闇在る所光あり、悪在る所正義あり、天空よりの使者ケンリュウ参上!」
「なんだと、だがこの偏在の魔法を見切れるか!」

青いゴーレムからは並々ならぬ力を感じる、ならば此方も力の出し惜しみなど出来るものではない、得意の偏在の魔法を詠唱し分身を作り出す。

「それが貴様の奥の手か、ならば此方も!」

ケンリュウは持っていた剣、剣狼を空中へと投げて力有る言葉を叫ぶ。

「パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」

バイカンフーと名乗る新たに現れた赤いゴーレムは腕を水平にすると回転を始める。

「はああっ、天空宙心拳竜巻旋風蹴り!」

暴風を伴なった鋭い蹴りはワルドの偏在を一蹴して消し飛ばした。

「見えたっ、バイカンフーボンバー!」

天空高くジャンプしたバイカンフーが炎を纏ってワルドに飛び蹴りを中てる、吹き飛ぶワルドをそのまま追いかけ連続攻撃を叩きこむ。

「おりゃおりゃおりゃおりゃっ!!」

体勢が崩れたワルドに向かって最後の一撃を決めようと右手の手刀を振りかぶるバイカンフー。

「奥義を受けろ! ゴッドハーンドォ・スマアッシュ!!!」

どてっ腹に突き込んだ手刀を抜き、ワルドに背を向けて手を払い決め台詞を高らかに叫ぶバイカンフー。

「成敗!」

ルイズのピンチを知って駆けつけたサイトが見たのは、成敗の声とともに崩れ落ちてゆくワルドの姿だった。

バイカンフー、ケンリュウというゴーレムは何時の間にか消えてそこに居るのは、初めに登場した姿の謎の男であった。
強敵であったワルドを一蹴した謎の男にルイズを背中に庇いながらサイトが恐る恐る声をかけた。

「あ、あの彼方はいったい何者なんですか?」
「名乗るほどの者では無い、しかし君が正義の道を行くのなら何時か轡を並べて戦う時もくるだろう」

サイトの瞳を見つめてそう言葉を残すと悠然と去ってゆく謎の男。
その背中にルイズが声をかける。

「何処へ行くの?!」
「全ては剣狼の導きのままに」

朝日の中に消えゆく背中を見つめるサイトとルイズの胸には、謎の男が残した正義の心が点っていた。



[16813] 金ピカと兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:b35051a3
Date: 2010/03/10 14:19
冬木市郊外にある森の中にひっそりと佇む豪奢な居城アインツベルンの冬の城
この城の大広間にて今壮絶な戦いが決着を迎えた。
突如として現れた、黄金の髪と黒いライダースーツを着た赤い瞳のサーヴァントがその圧倒的な力を持ってバーサーカーを打ち倒したのだ。
消え逝くバーサーカーに縋りつく銀の娘イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、その瞳からは大粒の涙がぽろぽろと零れている。

「嫌だ、逝かないでバーサーカー!」
「ふははははは、さて聖杯を回収するとするか」

笑いながら歩を進める黄金の男ギルガメッシュはイリヤの前まで来ると酷薄な笑みをうかべながらその腕を振り上げる。

「ひっ、嫌」

ギルガメッシュは怯えるイリヤの胸に手刀を振り下ろす、サーヴァントの一撃を受ければイリヤの命など簡単に摘み取られるだろう。

「く、やめろおっ!」
「駄目っ、士郎!」

その光景を目前にして飛び出そうとする衛宮士郎であったが、それはパートナーである遠坂凛に引き止められた。
既にサーヴァントを失った二人では万が一にも勝ち目は無い、最早これまでと思われたその時。

「待ていっ!」 

正にギルガメッシュの手刀がイリヤの胸を貫こうとした瞬間、朗々たる声が大広間に響き渡った。

「己の力に溺れる者は、より大きな力の持ち主の前に必ず敗れる、己が不明を悔いる破目になる、人それを必滅という」

声のする方へと視線を送れば大広間の正面にある巨大な階段の上に作られたテラスに、破壊された屋根から降り注ぐ光の中に人影が在る。
それは青い兜をかぶり、青と白、赤の三色で構成された体のラインがでる不思議な形の鎧を着て腕を組んで立っている一人の男だった。
突然の闖入者に其処に居た全員の視線が集り、自らの行いを邪魔された英雄王が不快な顔を隠そうともせずに誰何の声を上げる。

「王の前でその不遜許しがたい、何者だ名を名乗れっ!」
「貴様らに名乗る名は無い!」

名を尋ねてくる声にさらに鋭い声で答えると兜の頬の部分から飛び出したフェイスガードがカカシャンと音を立てて閉じると同時に男は宙へと飛び出していた。

「とうあっ!! 天空宙心拳、旋風蹴り!」
「ぐあっ」

蹴りを受けて多々良を踏むギルガメッシュ。

「おのれ~、王を足蹴にするとは最早慈悲を被れると思うなよ!」

その言葉と共に展開させるのは「王の財宝」ギルガメッシュの背後に無数の宝具が出現する。

「愚かな、か弱き少女を手にかけようとする者に王を名乗る資格はない、剣狼よ! 勇気の雷鳴を呼べ!」

何時の間にか男の腕に握られていた剣が掲げられると雷と共に青い鋼の体を持つゴーレムが現れた、その中へと謎の男が入るとゴーレムが動き出す。

「闇在る所光あり、悪在る所正義あり、天空よりの使者ケンリュウ参上!」
「ほう、だがそのようなガラクタ一蹴してくれるわ!」

青いゴーレムからは並々ならぬ力を感じるが己の力に絶対の自信を持つギルガメッシュは無数の武器を背後の蔵より撃ち出した。
ケンリュウの周りの床や壁が破壊されてゆくがケンリュウは一歩も引かない、その背後にはイリヤを庇っているからだ。

「さあ、今のうちに安全な場所まで下がるんだ!」

ケンリュウから声をかけられたイリヤはへたり込んだまま動けない、其処へ士郎と凛が走ってくるとイリヤを抱えて奥へと引っ込んだ。

「ふん、今は見逃したとて貴様の後で鼠共々片付けてくれるわ」

その言葉を聞いたケンリュウは持っていた剣、剣狼を空中へと投げて力有る言葉を叫ぶ。

「そんな事をやらせはしない! パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」
「なにいっ?!」

バイカンフーと名乗る新たに現れた赤い巨人を前にして驚愕するギルガメッシュ、その威容を前にして我知らずに一歩を下がる。
それに気が付いたギルガメッシュは己自身に怒りを募らせ、それを成したバイカンフーへと天の鎖「エルキドゥ」を投じた。

「王を見下ろすとは何事かあっ!」

黄金の鎧をその身に纏い咆哮するギルガメッシュと天の鎖に雁字搦めにされて膝を付くバイカンフー。

「そのまま這い蹲って首を垂れるが良い、我が直々にその首を刎ねてくれる」

口角を吊り上げながら背後の蔵より引き出したのは銘を「エア」という、これこそ英雄王最大の宝具である。
悠然とバイカンフーへと歩み寄るギルガメッシュの前でバイカンフーの瞳が赤く光る。

「見切ったあっ! 天空真剣両断剣」
「何だとう?!」

かつて天の牡牛を捕らえた天の鎖が剣狼の一閃で千々に切り裂いて脱すると、バイカンフーは天高くジャンプした。

「今度は此方の番だ、ストームキィック!」

天空高くジャンプしたバイカンフーが炎を纏ってギルガメッシュに飛び蹴りを中てる、吹き飛ぶギルガメッシュを追いかけて連続攻撃を叩きこむ。

「おりゃおりゃおりゃおりゃっ!!」

ギルガメッシュの纏う黄金の鎧が粉々に砕けて行く、鎧を剥ぎ取られた英雄王に向かって最後の一撃を決めようと右手の手刀を振りかぶるバイカンフー。

「奥義を受けろ! ゴッドハーンドォ・スマアッシュ!!!」

どてっ腹に突き込んだ手刀を抜き、ギルガメッシュに背を向けて手を払い決め台詞を高らかに叫ぶバイカンフー。

「成敗!」

バイカンフーの発する決め台詞と共にその存在を消滅させるギルガメッシュの姿を唖然として見つめる三つの視線。
イリヤをその腕に抱きながら、バイカンフーとギルガメッシュの戦いを見ていた士郎と凛はその力に見入っていた。

バイカンフー、ケンリュウというゴーレムは何時の間にか消えてそこに居るのは、初めに登場した姿の謎の男であった。
桁違いの力を見せた謎の男にイリヤを背中に庇いながら士郎が恐る恐る声をかけた。

「あ、あの彼方はいったい何者なんですか?」
「名乗るほどの者では無い、しかし君が正義の道を行くのなら何時か共に戦う時もくるだろう」

士郎の瞳を見つめてそう言葉を残すと士朗の背中にいるイリヤに向けて優しい声音で語り掛ける謎の男。

「少女よ、巨人に救われた命を大切に真っ直ぐ前を向いて歩け、きっと巨人も君を見守っているだろう」

その言葉を聞いたイリヤが士郎の背中から飛び出して声を張り上げる

「バーサーカーの仇を取ってくれてありがとう」

そのお礼の言葉を背に受けて悠然と去ってゆく謎の男。
その背中に凛が声をかけた。

「何処へ行くの?!」
「全ては剣狼の導きのままに」

木漏れ日の降り注ぐ森の中に消えゆく背中を見つめる士郎と凛、イリヤの胸には、謎の男が残した正義の心が点っていた。















「絶望した! 此処まで出番の無い事に絶望した!」
「いいから、さっさと城の修理をしなさい、このワカメ!」
「ワカメ、さぼってないで働く」

残された城にはセラとリズにこき使われるワカメが居たとか。



[16813] 誑しと兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:b35051a3
Date: 2010/03/10 14:19
学校の教室で一組の男女が向かい合って話していた。

「嘘や冗談でこんな事言えないって、私、誠以外とそんな事してないんだからね、誠だけなんだから」
「だからって、俺のってこと」
「酷いよ、なんだってそんな事言うの?」
「俺たちまだ学生だし、世界だって困るだろ」
「だから相談してるんじゃない、誠の子供なんだよ、真面目に考えて!」
「そんな事言われたって……」

誠と呼ばれた男が詰め寄る女の子、会話からすれば世界という名前らしいを妊娠させたようだ、話を遠巻きに眺める級友たちを尻目に話はエスカレートしてゆく。
興奮しすぎたのか世界が吐き気を覚えて倒れこむのを見て、遂にその状況に耐え切れなくなった誠が教室から飛び出そうとしたその時。

「待ていっ!」

何処からとも無く得々と語りかけてくる声があった。
思わず周りを見回すと教室のベランダの手すりの上に腕を組んで立っている男のシルエットが写っていた。

「純なる子供の心を操り、自らの欲望を達しようとするは悲し、人それをエゴという」

動揺して思わず声を上げる誠。

「だ、誰だっ!」
「貴様に名乗る名は無い!」

影の主は青い兜をかぶり、青と白、赤の三色で構成された体のラインがでる不思議な形の鎧を着ている男であった。

「闇を操り、心を蝕む者を俺は許さん! パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」

突如として出現したのはバイカンフーと名乗る赤いロボットであった、その光景にそこに居た全員の動きが止まる。

「裁きを受けろっ、サンダースウィング!」

掛け声と共に上空高く放り投げられる誠、その誠を追ってバイカンフーがジャンプして追いかけ、追いつくと誠の頭を逆さまにして捕らえると錐揉みしながら急降下を開始する。

「サイクロォン・ドライバァー!」

轟音と共に地面に叩きつけられる誠、もうもうと上げる砂煙が晴れるとそこに立っていたのはバイカンフーのみであった。

「成敗!」

台詞とポーズを決めるとバイカンフーはその姿を消し、後には謎の男が一人佇んでいた。
騒ぎを聞きつけたのか何人もの女の子が学校から飛び出してきた、その中の一人である髪の長い女の子が謎の男に対して声を荒げた。

「彼方は一体誰ですか?!」
「名乗るほどの者ではない、少女達よ愛は尊いものだ、しかし愛に溺れてはならない、君達が真の愛に出会える事を祈っている」

踵を返して歩み去る背中に声が掛けられる。

「何処へ行くんですか?」
「全ては剣狼の導きのままに」

見送る少女達の胸には暖かい何かが満ち溢れていた。

「か、格好良い」(キュン)



[16813] 誑しと妹と兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:b35051a3
Date: 2010/03/13 18:17
※ 誑しと兄さんに加筆、修整をしたもので登場キャラが増えただけで内容は変わりません。
※ 書いた本人が言うのも何ですが誠が更に酷い目に遭っています。
※ たぶん彼女の出番は此処だけになりそうです。


学校の教室で一組の男女が向かい合って話していた。

「嘘や冗談でこんな事言えないって、私、誠以外とそんな事してないんだからね、誠だけなんだから」
「だからって、俺のってこと」
「酷いよ、なんだってそんな事言うの?」
「俺たちまだ学生だし、世界だって困るだろ」
「だから相談してるんじゃない、誠の子供なんだよ、真面目に考えて!」
「そんな事言われたって……」

誠と呼ばれた男が詰め寄る女の子、会話からすれば世界という名前らしいを妊娠させたようだ、話を遠巻きに眺める級友たちを尻目に話はエスカレートしてゆく。
興奮しすぎたのか世界が吐き気を覚えて倒れこむのを見て、遂にその状況に耐え切れなくなった誠が教室から飛び出そうとしたその時。

「待ちなさい!」

唐突に教室に声が響き渡った。
思わず周りを見回すと教室のベランダの手すりの上に腕を組んで立っている女のシルエットが写っている。

「人の世を闇で覆い、愛を悲しみに変えるもの、人それを憎しみという」

動揺して思わず声を上げる誠。

「だ、誰?!」

「彼方に名乗る名は無いわ!」

影の主は青い兜をかぶり、青と白、赤の三色で構成された体のラインがでた不思議な形の鎧を着ている少女であった。
その少女を見て誠の鼻の下が伸びる、ピッタリとした鎧の胸は形良く膨らみ、ぎゅっと絞った腰からまろみをおびた尻とカモシカのような足へと伸びるラインの艶かしさは誠の脳髄に電撃を落としていた。
咄嗟に少女に駆け寄ると肩を抱いて口説きにかかる誠。

「君可愛いな、どう今夜俺の部屋へ来ない? たっぷり楽しもうよ」
「助けて、兄さーん!」

その少女が助けを求める悲鳴を上げた、その時。

「その手を離せ、外道め!」

鋭い声が天地を貫いた、思わず周りを見回すと窓から見えるビルの屋上に腕を組んで立っている男のシルエットが写っている。

「いたいけな少女達の魂を汚し、彼女達の夢と未来を奪う憎むべき怪物、人それを退廃という」

またもや動揺して思わず声を上げる誠。

「だ、誰だっ!」
「貴様に名乗る名は無い!」

影の主は今誠の横にいる少女に良く似た青い兜をかぶり、青と白、赤の三色で構成された体のラインがでる不思議な形の鎧を着ている男であった。

「妹を毒牙にかけようなど天が許しても俺が許さん! パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」

突如として出現したのはバイカンフーと名乗る赤いロボットであった、その光景にそこに居た全員の動きが止まる。

「裁きを受けろっ、サンダースウィング!」

掛け声と共に上空高く放り投げられる誠、その誠を追ってバイカンフーがジャンプして追いかけ、追いつくと誠の頭を逆さまにして捕らえると錐揉みしながら急降下を開始する。

「サイクロォン・ドライバァー!」

轟音と共に地面に叩きつけられる誠、もうもうと上げる砂煙が晴れるとそこには逆さまに地面に突き立っている誠の姿とその前に立つバイカンフー。

「まだまだあっ!トルネェードキイィック!」

天空高くジャンプしたバイカンフーが嵐を纏って誠に飛び蹴りを中てる、吹き飛ぶ誠をそのまま追いかけると眼にもとまらぬ連続攻撃を叩きこむ。

「おりゃおりゃおりゃおりゃっ!!」

一撃を受けるごとにズタボロされてゆく誠へ止めの一撃を決めようと右手の手刀を振りかぶるバイカンフー。

「奥義を受けろ! ゴッドハーンドォ・スマアッシュ!!!」

どてっ腹に突き込んだ手刀を抜き誠に背を向けて手を払い決め台詞を高らかに叫ぶバイカンフー。

「成敗!」

台詞とポーズを決めるとバイカンフーはその姿を消し、後には謎の男とそれ寄り添う謎の少女の姿があった。
騒ぎを聞きつけたのか何人もの女の子が学校から飛び出してきた、その中の一人である髪の長い女の子が謎の男に対して声を荒げた。

「彼方がたは一体誰ですか?!」
「名乗るほどの者ではない、少女達よ愛は尊いものだ、しかし愛に溺れてはならない、君達が真の愛に出会える事を祈っている」
「そうよ、愛は相手の幸せを願うもの、決して一時の快楽に負けては駄目」

踵を返して歩み去る二人の背中に声が掛けられる。

「何処へ行くんですか?」
「全ては剣狼の導きのままに」

見送る少女達の胸には暖かい何かが満ち溢れていた。

「か、格好良い」(キュン)
「私の兄さんだもの、当然よ」



[16813] ぎっちょんと兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:b35051a3
Date: 2010/03/10 14:21
独立治安維持部隊A-lawsの収容施設から救出されたマリナ・イスマイールは刹那・F・セイエイと共にシャトルで母国アザディスタンへと帰路の途中であった。
元々マリナは刹那が所属するCB(ソレスタル・ビーイング)との関係を疑われての投獄であったが、仲間であるアレルヤ・ハプティズムを救出に来た刹那の手によって図らずも獄より脱する事になったのだ。
マリナと刹那の邂逅は実に数年ぶりのことであり、マリナがアザディスタンの女王として国に暮らしていた時に出会っていた。
その後刹那が世界を相手に戦いを挑むCBのガンダムマイスターである事を知ったマリナは複雑な思いを胸に抱いていた。
しかし今自分のすべき事を考えれば、国の代表として一刻も早く戻り国家国民を安んじなければならない、尤もマリナ自身は血筋は前王の系譜でありながら妾腹でありずっと市井で暮らしてきた人間である。
当時も自分がお飾りだという自覚はあったし、それは今も変わらないであろう。
しかしそれでも自分に出来る事があるのならば精一杯に努めようと追われる身でありながらも国へと帰る事を望んだのだ。

「あの山を越えれば首都が見えてくる」
「はい」

しかし漸くアザディスタンに辿りついたマリナと刹那を待っていたのは衝撃的な光景であった。

「ま、街がアザディスタンの街が燃えている?!」
「逃げるぞ!」

シャトルの窓から見えるのは炎に包まれたアザディスタンの街であった、異変を察知した刹那が咄嗟にシャトルを操り逃亡に移ろうとするが、そこへ無常にも声が掛かった。

「ところがぎっちょん!」

シャトルの前に傲然と存在する深紅のMS、そしてその聞こえてくる声は刹那との因縁深い傭兵アリー・アル・サーシェスの声であった。

「くっ」
「どこのどいつか知らねえが、此処に居たのが運の尽きってなあ」

逃亡しようとするシャトルにビームライフルを向けるサーシェス、如何にガンダムマイスターの刹那といえどもガンダムが無ければMSに対抗するのは難しい。
ビームライフルの先端に光の粒子が集り、シャトルに狙いが付けられる、何とかマリナだけでも逃がさねばと刹那が覚悟を決めたその時。

「待てい!」

鋭い声が三人の耳朶に響き渡った。

「弱肉強食の獣達でも殺す事を楽しみとはしない、悪の道に堕ちた者だけがそれをするのだ、しかし貴様の邪悪な心を天は許しはせぬ、大いなる天の怒り、人それを雷という」

何処からとも無く聞こえてくる声を頼りに声の主を探せばその声の主は青いヘルメットをかぶり、青と白、赤の三色で構成された体の見たことも無い形のノーマルスーツを着ている男が飛んでいるシャトルの機首の上に腕を組んで悠々と立っていたのだ。
信じられぬ場所に信じられぬ出で立ちで立っている男に向かってサーシェスが声を上げる。

「一体何者だっ?!」
「貴様に名乗る名は無い!」

鋭い声で答えるとヘルメットの頬の部分から飛び出したフェイスガードがカカシャンと音を立てて閉じると同時に男は空へと飛び出していた。

「天よ地よ火よ水よ、我に力を与えたまえ、パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」

突如として出現したのはバイカンフーと名乗る赤い小型MSであった、その光景にそこに居た全員の視線が集る。

「報いを受けろっ、ショルダースウィング!」

掛け声と共にサーシェスの乗るアルケーガンダムを捕まえて回転を始めるバイカンフー、その回転が最高潮に達した時アルケーガンダムの頭を逆さまに決めるとと錐揉みしながら急降下を開始する。

「サイクロォン・ドライバァー!」

轟音と共に地面に叩きつけられるアルケーガンダム、もうもうと上げる砂煙が一陣の風に吹き散らされると巨大なクレーターの底に立っていたのはバイカンフーのみであった。

「成敗!」

台詞とポーズを決めるバイカンフー。
刹那はシャトルを着陸させるとバイカンフーが立っていた場所へと走る、其処には謎の男が一人佇んでいた。

「あんたは一体?」
「名乗るほどの者では無い、青年よ君の行く道は果てし無い苦難の道となるだろう、しかし希望を持って歩み続ければ必ずや変革が訪れる」

それだけを告げて去ってゆく謎の男の背中に追いついたマリナが声をかける。

「何処へ向かうのですか」
「全ては剣狼の導きのままに」

そのトリコロールカラーの後ろ姿は刹那に在りし日に見た神の姿を思い起こさせていた。

「彼がガンダムだ」
「いえ、それは無いかと……」



[16813] 塾と兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:b35051a3
Date: 2010/04/02 00:17
天挑五輪大武會で数々の死闘を超えて帝王大豪院邪鬼を初めとした幾人もの犠牲の果てに遂に男塾は冥凰島十六士を下し悲願の優勝を成し遂げた。
それもこの天挑五輪大武會を主催する藤堂兵衛、真の名を伊佐武光といい第二次大戦中サマン島で味方であった日本軍二千八百人の命を敵に売り、それで得た資金を元に戦後数々の悪行に手を染めて日本の首領とまで呼ばれる地位にのしあがった卑劣漢を討つ為であった。
フィクサーと呼ばれるだけあって藤堂は普段人前に出る事は無い、ただこの天挑五輪大武會の優勝旗はその藤堂の手により優勝チームに渡される事になっており、この表彰式こそが悪漢藤堂を討つ唯一の好機なのである。

「ここからが本当の正念場だ」
「まかせたぞ、桃」
「うむ」

緊張感を漂わせて総大将たる1号生筆頭にして大豪院邪鬼より男塾総代を継承した男、剣桃太郎へと発破をかける男塾死天王の一人センクウと2号生筆頭赤石剛次に応じる桃。
そして遂にその瞬間が訪れる、優勝旗を持った藤堂が表彰台の上に立ったのである。

「さあ受けとれい、まことに見事な戦いぶりであった、優勝の褒美として貴様らの願い事何でもかなえてやろう」
「フッ身に余る光栄、それなら欲しいものが一つだけある」
「ほう、それは?」

願いをかなえるという藤堂と相対した桃は眼光を光らせると隠し持っていた日本刀を抜いて斬りかかる。

「それは…… 貴様の命だーっ!」
「フッ馬鹿めが」

突如として斬りかかれた藤堂であったがその表情には余裕が浮かんでいる。
桃の振るう刃が藤堂の体を両断しようと迫った瞬間バシィという衝撃音が響いた。

「桃ー!」
「な、なんだー今のは? 桃の刀がはじき返されて折れちまったーっ?!」

虎丸龍次と富樫源次が桃に駆け寄って支える、二人に支えられて体勢を整えた桃は己の持つ折れた刀を見て驚愕の表情を浮かべた。
そこへ表彰台から藤堂がゆっくりと降りてきて話はじめる。

「フフッ愚か者め、わしには指一本とて触れる事は出来んのじゃ」

驚愕する男塾の面々を前にして余裕を見せると着ている着物の前を肌蹴てみせる藤堂、その老人にしては、否生半な格闘家など足元にも及ばぬような鍛え上げられた体躯の胸に行行しい機械が装着されていた。

「見るが良い、これは米国国防総省が要人警護の為に開発したB・J・S(バリアー・ジャケット・システム)といってな、目には見えぬ特殊な電磁波がわしを包み込み、半径1m以内に入るものは例えバズーカ砲でも弾き返すようガードしているのだ!」
「くっ」

千載一遇の好機と思われた表彰式も実はそうでは無かった事に悔しさを滲ませる男塾一同を前にして余裕の笑みを崩さぬ藤堂はニヤリと笑う。

「フフッしかしわしも驚いたわ、まさかあのサマン島で江田島平八が一人生き残っておったとは、しかもわしに復讐するために貴様らを送り込んでくるとはな」
「手前の汚い口で塾長を語るんじゃねえ、塾長は復讐なんてちっぽけな物の為に貴様を討てと言った訳では無い!」

眼光するどく睨みつけてくる桃たち男塾の面々を前にして、その顔を優越感に染めて言葉を続ける藤堂。

「フッフッフ、言いたいことはそれだけか? ではこの藤堂兵衛に歯向かったことをあの世で後悔するがいい、それと安心しろ直ぐに江田島も貴様らの後を追わせてやるわ」

藤堂の合図で現れた屈強な黒服たちが大型の機関銃を構えて塾生たちの前に立ちはだかる、如何に総代たる桃を初めとして達人が揃っている男塾の塾生たちではあるが、この至近距離で十丁以上の機関銃から逃れる術は無い。
そして差し上げられた藤堂の手が振り下ろされた。

「撃ていっ!」

向けられた機関銃が男塾の選手たちに火を噴く瞬間に後輩達を守ろうと死を覚悟して飛び出した男塾死天王センクウ、卍丸、影慶、羅刹の四人だったが、飛び出した時闘技場に一陣の風が嵐を巻き起こした。

「フフフ、フハハハハハハハ」

その嵐の中から雄雄しい哄笑が響き渡った。

「愚かな者たちよ貴様らには決して勝利は来ない、例え殺されようとも悪に屈しない心、それがやがては勝利の風を呼ぶ、人それを凱風という」

その嵐が過ぎ去った時、対峙する黒服たちと男塾の塾生の間に一人の男の影がある、その男は青い兜をかぶり、青と白、赤の三色で構成された体のラインがでる不思議な形の鎧を着て腕を組んで立っていた。
男の眼差しは強い光に溢れており、その口からは浪々と言葉が紡がれる。
突如乱入した謎の男に向かって藤堂が誰何の声を張り上げる。

「ぬう、な何者だっ!」
「貴様らに名乗る名は無い!」

その声にさらに鋭い声で答えると兜の頬の部分から飛び出したフェイスガードがカカシャンと音を立てて閉じると同時に男は空へと飛び出していた。

「とうあっ!! 天空宙心拳、風神!」

空中で回転を始める謎の男、その回転は激しくなり竜巻を巻き起こすと機関銃を持っていた黒服たちが全員吹き飛ばされた。

「な、なんじゃーあの男、竜巻を起こしよった!」
「むう、あれが世に聞く天空宙心拳!」
「知っているのか雷電?!」
「拙者も噂に聞いた事があるだけです、宇宙最強と謳われた正義の拳法の名が確か天空宙心拳と」

驚愕の叫び声を上げる富樫の横で雷電が唸るのを聞いた桃が尋ねる、その雷電の解説に驚く男塾一同を脇にして謎の男は藤堂を指し示して言い募る。

「藤堂兵衛いや伊佐竹光、もはや観念の時だ! 天空宙心拳、月光蹴り!」

謎の男の鋭い蹴りが藤堂の胸板へと迫る、しかし桃の一刀をも弾き返したBJSがその蹴りを弾き返さんと作動する。

「うわっはっはっは馬鹿め、わしはBJSに守られて……ぐあっ?!」
「天空宙心拳にそのような玩具は通用せん!」

まともに胸に蹴りを受けて吹き飛ぶ藤堂、呻きながら身を起こすと自慢のBJSが破壊されて煙を上げていた、倒れた藤堂にゆっくりと近づく謎の男。

「うぬう流石は伝説の天空宙心拳か、しかしお前如き青二才にやられるわしではないぞ」

立ち上がると着物と役に立たなくなったBJSを脱ぎ捨てて呼吸を整え謎の男を睨みつけて構えを取る藤堂、その鍛えられた肉体からみせる構えは一角の拳法家を思わせる。

「見ろ、これぞ我が神技、瞬嗷刹駆(しゅんきょうせっく)!」

その掛け声と共に藤堂の姿が消えるとあらぬ場所へと姿を現す。

「な、なんじゃー?! 藤堂のじじい一瞬であんな所へ移動しおったーっ」
「あれこそ数ある拳法の中でも神速をもってなる瞬嗷刹駆」
「知っているのか雷電」
「フッフッフ我が拳法の極意は極限ともいうべき素早さにある、いかに天空宙心拳といえどわしを捉えることは不可能よ」

自信満々に言い募る藤堂を眼光鋭く見つめる謎の男。

「死ねいーっ!」
「遅い、天空宙心拳、瞬殺拳!」

再び超スピードで姿を消した藤堂が謎の男へ襲い掛かるが、その凄まじい速さをものともせずに反撃する謎の男。
ドサリと地に落ちた音がするほうをみれば、全身に打撲痕をつけた藤堂が倒れている。
倒れた藤堂へとゆっくり歩みよる謎の男に対して、とうの藤堂が両手を上げて制止する。

「ま、待ってくれ、わしの言い分も少しは聞いてくれ!」

その懇願の声を聞いて歩みを止める謎の男に薄ら笑いを浮かべて語り始める藤堂、だがその目は怪しく輝いていた。

「じ、実はな……死ねえ!」

追い詰められた藤堂は口を開いた直後に隠し持っていた拳銃を乱射する、全ての銃弾が謎の男の体に命中した。

「うわっはっはっは、像をも仕留める45口径だ、いかに貴様でも……」

しかし直撃を受けたはずの体には傷一つ無い、謎の男の鋼鉄の体が全ての銃弾を弾き和えしていたのだ。

「言った筈だ天空宙心拳に玩具は通用しないと」
「ひ、ひいっ」

バタバタと逃亡に移る藤堂へと謎の男から捌きの声が発せられた。

「その所業許す訳にはいかん、パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」

謎の男の姿が光となって何処からとも無く現れた赤いロボットの中に吸い込まれる、雄雄しく立ったその姿は畏怖の念を抱かせるに充分だ。

「な、なんだアレはーっ、あの男ロボットと合体しおったー?!」
「ぬう、あれが天空宙心拳の秘儀、杯瑠不王明士恩(パイルフォーメイション)」
「知っているのか雷電?」
「聞いた事があります、天空宙心拳の使い手は杯瑠不王明士恩によって赤き鎧を身に纏い地上全ての気脈と共鳴し自然現象さえも操ることが出きるようになると」

雷電が語る杯瑠不王明士恩の解説を聞いて額に汗を浮かべる男塾の面々、そしてバイカンフーと対峙する藤堂の顔は絶望に染まっていた。

「ファイアーキイィック!」

天空高くジャンプしたバイカンフーが炎を纏った飛び蹴りを放つ、最後の手段とばかりに瞬嗷刹駆をもって残像すら残さない速度で逃げようとする藤堂だがバイカンフーの蹴りはその動きを完全に捉えていた。
跳び蹴りをくらって吹き飛ぶ藤堂をそのまま追いかけ連続攻撃を叩きこむ。

「おりゃおりゃおりゃおりゃっ!!」

連続攻撃を繰り出したバイカンフーが藤堂に向かって最後の一撃を決めようと右手の手刀を振りかぶる。

「奥義を受けろ! ゴッドハーンドォ・スマアッシュ!!!」
「あれが天空宙心拳の奥義、護怒反怒棲魔手!」
「知っているのか雷電!」



護怒反怒棲魔手(ゴッドハンドスマッシュ)
古来、すぐれた拳法家はすぐれた医者でもあった
拳法家は患者の気の流れを読み、滞った気の流れを正すことで病気や怪我の治療にあたったのである。
これを奥義として昇華させたのが天空宙心拳の伝承者、呉汎撞(ゴ・ハンドウ)である。
気の流れから相手の急所を正確に見抜き、極限まで鍛え上げ研ぎ澄ました己の手刀を急所に突きこんで相手を絶命させる恐るべき技を生み出した。
それが世にいう「護怒反怒棲魔手」である。
この技を極めた者は相手の皮膚に傷一つ付けずに急所だけを貫き抜き出す事も可能であった。
そこで仁愛の徳高き天空宙心拳の使い手であった汎撞はこの技をさらに昇華させ治療にも使うようにした。
患者の疾病部位をその体から抜き出す事で、その生涯で救った命は実に数千名と言われ、さらにその患者たちの身体には一つも傷も残らなかったと伝わる。
現在でも手術などで患者の体に傷を残さずに行なう名医をゴッドハンドと呼ぶのは、この呉汎撞の名前が訛ったものであるのは周知の事実である。

民明書房刊 「医は拳術」 より



「まさかその秘儀をこの眼で見る事が出来ようとは」

伝説の技とも言える護怒反怒棲魔手を目の当たりにして拳法家として溢れる涙を堪える事が出来ない三面拳や四天王を筆頭とした男塾拳法家の面々の見守る中、どてっ腹に突き込んだ手刀を抜き、藤堂に背を向けて手を払って決め台詞を高らかに叫ぶバイカンフー。

「成敗!」

気が付けば何時の間にかバイカンフーは消えており、そこに居るのは天空宙心拳の使い手である謎の男が佇んでいるだけであった。
そこへ殺到する男塾の面々、謎の男を取り囲むと代表して伊達臣人が声をかけた。

「貴様は一体何者だ?」
「名乗るほどの者ではない」
「フッフッフ、相変わらずの男よ」

塾生たちの後ろから野太い声が架けられた、思わず後ろを振り向くとそこには光り輝く頭を持った巨漢が泰然と存在していた。

「わしが男塾塾長、江田島平八である!」

天を突かんばかりの大音声で名乗りをあげる男塾塾長、江田島平八の姿を認めた謎の男は塾長へと振り向いた。

「ご無沙汰しております、塾長」
「うむ、貴様も壮健そうでなによりだ」

突如として現れた江田島塾長とその塾長に対して折り目正しく挨拶をする謎の男、塾長はニヤリと笑うと和やかな顔で挨拶を受け謎の男もまた笑みを浮かべた、そんな二人の様子に驚く塾生たち。

「塾長が来られたのでしたら俺はこれで失礼します」
「そうか今回は済まなかった」
「塾長の頼みならば望むところです、では是にて」

挨拶を終えると闘技場の出口へと歩を進める謎の男に江田島が声をかける。

「貴様これから何処へ向かう?」
「全ては剣狼の導きのままに」

去ってゆく謎の男の背中を見送る塾長に桃太郎が声をかけた。

「塾長のお知り合いですか」
「うむ、我が友キライ・ストールの遺児よ、よく見て置け貴様ら、あの背中が真の正義を体現した背中である」

段々と遠ざかるその背中を見た男塾の闘士たちは、その背中に背負われた大いなる正義の意志を感じて滂沱の涙を流すのであった。



[16813] おとぎ話と兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:b35051a3
Date: 2010/03/20 00:23
喀什(カシュガル)ハイヴ、人類がBATEの侵攻を受ける事になった始まりの場所である、そして現在追い詰められた人類の乾坤一擲の反抗作戦〈桜花作戦〉が決行されていた。
このハイヴを攻略するに当たって、人類はそのもてる戦力の大半を投入していたが、その大部分はハイヴに到達することなくBATEの牙にかかって命を落としていた。
そんな中で人類の切り札として作られたXG-70凄乃皇を操る国連軍横浜基地の衛士白銀武、鏡純夏、社霞と姉より託された紫の武御雷を駆る御剣冥夜が、戦友たる旧207B分隊の面々の壮絶なる献身と戦死を糧に遂に最終目標である地球上のBATE全ての上位存在である喀什ハイヴのオリジナル反応炉である《あ号標的》に到達した。
尊い犠牲の元に遂に到達した武と冥夜だったが、いままで意志の疎通が叶わなかったBATEが人間の言葉を操るのに驚き冥夜の乗る武御雷が触手に捕らわれてしまった。
《あ号標的》は己の触手によって捕らわれた冥夜を蹂躙すると、武に対して攻撃を行なわせ、その冥夜は己の身体に絡みつく触手からもたらされる快楽と苦痛に顔を歪ませながらも武に己の身体ごと《あ号標的》を倒せと叫ぶ。
《あ号標的》と冥夜を前にして白銀武は苦渋の決断を迫られていた。

「人類を無礼るな!」
「冥夜-っ!」

捕らわれの冥夜の尊厳と人類の命運を賭けた最後の一撃を撃つ為にトリガーに武の指が掛かった瞬間、鋭い声が大伽藍に響き渡った。

「待てい!」

その声に反応して思わず指を止めてしまう武、そして此処まで辿りついた味方が他にも居たのかと辺りを見るが戦術機の影も形も無い。

「どんな夜にも必ず終わりは来る、闇が解け朝が世界に満ちるもの、人それを黎明という」

戦術機はおろか人影すら無いというのに何処からとも無く朗々と語りかける声だけが響いている。
その時霞がおよそ初めてとも言える驚愕に満ちた声を張り上げた。

「白銀さん上です、凄乃皇の上に誰か乗っています!」
「な、なんだってえ?!」

慌ててカメラを切り替えると確かにスサノオの上に人影が在る、その人影は青いヘルメットをかぶり、青と白、赤の三色で構成された体のラインがでる不思議な形の強化装備を着ている男であった。
しかしラザフォードフィールドを張っている凄乃皇の上に立っているなど在り得ない、在り得ないはずなのだがその男は確かに其処に存在していた。
しかも戦術機にも乗らずに単身でしかも強化装備は着ているにしても生身である。
あまりの光景に開いた口が塞がらない武、霞、純夏、冥夜の四人だがその驚愕を押しのけて《あ号標的》から声が掛かる。

「お前は誰だ?」
「貴様に名乗る名は無い!」

鋭い声で答えると兜の頬の部分から飛び出したフェイスガードがカカシャンと音を立てて閉じ真っ直ぐに伸ばした指を《あ号標的》へと突きつける。

「人々を苦しめる悪魔よ、正義の鉄槌を受けるがいい、パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」

突如現れたバイカンフーと名乗る謎の赤い戦術機を脅威と取ったか《あ号標的》は冥夜の乗る武御雷をバイカンフーへと襲い掛からせる。
武御雷が操る長刀が唸りをあげてバイカンフーへと迫る、その時一機の深紅の戦闘機が何処からとも無く飛来してこれまた見たこと無いような小型の戦術機に変形すると手に持った剣を一閃させた。

「天空真剣、五月雨斬り!」

ジェット戦術機の繰り出した一刀は冥夜の乗る武御雷に絡める触手を寸断し開放すると、その小さい機体からは想像もつかないパワーで武御雷を抱えて離れる。

「彼女は助けた!」

サングラスをかけた様な顔の戦術機から男の声がバイカンフーへと伝えられ、その声に応じて《あ号標的》へと向かうバイカンフー。
しかし新たに伸びてきた触手が今度はバイカンフーを絡め取ろうと殺到する。

「天空宙心拳、招雷ッ! ライトニングスマッシュ!!」

しかし迫る触手は剣から放たれた雷によって全てが消し飛ばされた。

「今度は此方から行くぞっ、ファイアーキイィック!」

天空高くジャンプしたバイカンフーが炎を纏って《あ号標的》に飛び蹴りを中てる、吹き飛ぶ《あ号標的》をそのまま追いかけると眼にもとまらぬ連続攻撃を叩きこむ。

「おりゃおりゃおりゃおりゃっ!!」

一撃を受けるごとに破壊されてゆく《あ号標的》へ止めの一撃を決めようと右手の手刀を振りかぶるバイカンフー。

「奥義を受けろ! ゴッドハーンドォ・スマアッシュ!!!」

中心部に突き込んだ手刀を抜き、《あ号標的》に背を向けて手を払い決め台詞を高らかに叫ぶバイカンフー。

「成敗!」

決め台詞と共に跡形も無く爆発する《あ号標的》を目の当たりにしながら武たちは呆然とその光景を見ているしかなかった。
全てが終わり静寂が支配する伽藍の中で何時の間にかバイカンフーという戦術機は消えていた。
そして残った謎の男と飛行機に変形するこれまた謎のグラサンジェット戦術機から武たちに声がかけられた。

「どうやら無事のようだな」
「ふ、何よりだぜ」

その声に武が答える。

「あ、ありがとう助かりました。でも俺は此処に来るまでに大切な仲間を……」

その声に対して謎の男はすっと指を指し示した、指し示す先へ視線を向けると地面の下から何かを掘り進む音がする。
その音にはっとして戦闘態勢を整える武、何故ならBATEは地下から現れるのだから、しかし其処に現れたのはドリルであった。

「ふ~、ようやく到着したぜ」

地上に出たドリルが変形してこれまた見た事も聞いた事も無い小型の戦術機に変形するとそのドリルの開けた穴から武たちの良く知る人間が顔を出していた。

「此処は一体?」
「あ、あれは凄乃皇に武御雷だよ」
「じゃあ武さんたち無事なんですね」
「久しぶりですよ」
「委員長、美琴、たま、綾峰!」

散っていったとばかり思っていた仲間の無事な姿を見て感極まる武、しかし穴からは次々と人が這い出てくる。

「ちょっとお~此処どこな訳?」
「水月~文句いったら駄目だよ~」
「全く速瀬は」
「あはは……」
「なんとA-01の皆まで」

佐渡島と横浜で死んだと思っていた先任たちの無事な姿を見て武は謎の男たちに叫んでいた。

「あんたたちが皆を助けてくれたのか、一体何者なんだ?」
「名乗るほどの……」
「おいらはドリル族の戦士! ロッド・ド……ご、ごめんね~」

武の呼びかけに応じようとしたドリル頭に鋭い視線を向ける謎の男とグラサンジェット機、その視線に負けたのか名乗りあげようとしたドリル頭がしおしおと萎れて行く。
その様子を見てから謎の男は一つ咳払いをすると改めて口を開いた。

「名乗るほどの者ではない、衛士たちよ、この地上においてまだ戦いは続く、しかし君たちの心に正義の志があるなら必ずや勝利する事が出きるだろう」

踵を返して去ってゆく男たちの背中に冥夜が声をかける。

「どちらへ行かれるのですか?」
「全ては剣狼の導きのままに」
「総員、敬礼!」

去り行く背中に対してみちるが敬礼を行なう、そこにいた全員の胸には謎の男たちが残した不屈の炎が点っていた。

「あが~」



[16813] 狼と兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:b35051a3
Date: 2010/03/21 08:09
パスロエ村へ商いに行った行商人のクラフト・ロレンスは村からの帰りに狼の耳と尻尾を持つ不思議な少女を荷台に乗せる事になった。
その少女は長くパスロエ村で豊作の神として信仰されてきた狼のホロだと名乗り、そして村人の信仰が自分から離れた今、生まれ故郷のヨイツへ帰りたいという。
こうして旅の道連れとなった二人だが現在その身はのんびりと街道を行く馬車の上ではなく、港町パッツィオの旧地下水道にあった。
二人は銀貨の切り下げに係わるメディオ商会とミローネ商会の抗争に当事者として関係する事になり、その過程でメディオ商会に捉えられたホロをミローネ商会の手を借りてロレンスが何とか助け出したまでは良かったのだが、追手によりロレンスが負傷してしまう。
地下道を逃げる二人はホロの鼻に香る光の匂いを頼りに走ったが、着いた先にあったのはこの地下道が地下水道として機能していた時に使われていたのだろう高い天井にぽっかりと開いた円形の井戸から漏れる日の光であった。
しまったと思い踵を返して再び逃走に移ろうとするが、その前に手にナイフや棍棒を持ったメディオ商会の人間に行く手を塞がれる。

「く」

ロレンスが苦々しげに呻くと腰の後ろに挿してあるナイフに手を回す、行商人であるロレンスは荒事には向いていない、しかも此処まで逃げてくる間に怪我している。
ホロが止血だけはしてくれたがそれでも傷が治った訳ではない、その証拠にロレンスが動くたびにジクジクと血が滲む、それでもホロを守ろうとナイフを引き抜いて一歩を踏み出した。

「下がっていろ」
「ぬし、そんな、無理じゃろ」
「なに、まだいけるさ」

ロレンスの口から軽口が飛び出すが、嘘を聞き分けられるというホロの耳で無くても痩せ我慢だと知れる。
そんな二人の前に十人以上の追手が姿を現した、その追手の一団から身奇麗な格好の一人の男が進みでてくる、どうやらこの男が追手を率いているらしい。
身構えるロレンスだが男を見た瞬間二人は思わず目を丸くした、なにしろその男の事はロレンスもホロも知っている、二人の前に進み出てきた追手を率いていた男はパスロエ村のヤレイであった。

「まさか本当にホロがいたとはな、ロレンスそいつをこっちに渡せ」
「悪いが出来ないな、北へ帰りたいという娘とその旅に同伴する契約を結んでしまった、良い商人は契約を反故にはしないものさ」
「ぬし……」

ホロの驚いた声を聞きながらロレンスはヤレイを真っ直ぐに睨みつける、そんなロレンスの様子を理解できないとばかりに頭を振ると大きな溜息を吐いて顔を上げるヤレイ。

「残念だよロレンス、短い付き合いだった」
「行商人に別れはつきものだ」
「男は殺してかまわんが、娘は必ず生け捕りにしろ」

ヤレイの指示で武器を持った男達が殺到する、それを見たホロがロレンスの腕にしがみ付いた、だがそれは恐れからでは無い、今の娘の姿は仮初めに過ぎずその正体は巨大な狼である。
本来の姿ならばこの程度の人数など、その身に持つ牙と爪を持って排除する事など造作も無い、そしてホロが本来の姿に戻る為には麦か生き血が必要なのだ。
自分との約束を大切だと言ってくれたロレンスを救う、その為に自分の正体を晒しそのせいで恐れられても構わない。
ホロは決意を込めてロレンスの傷から溢れる生き血に口をつけようとしたその時。

「待ていっ!」

鋭い声が地下道に木霊した。

「血塗られた富と権力に集る蛆虫共よ、己が姿を見るが良い、正しき道を示す光、人それを鏡という」

滔々と語る声の主はホロとロレンスの後ろ、天井に開いた井戸の穴から降り注ぐ光の中に腕を組んで悠々と立っていた。
その声の主は青い兜をかぶり、青と白、赤の三色で構成された体の見たことも無い形の鎧を着ている男であった、突然現れた正体不明の男に対してヤレイが声を上げる。

「だ、誰だっ?!」
「貴様らに名乗る名は無い!」

鋭い声で答えると兜の頬の部分から飛び出したフェイスガードがカカシャンと音を立てて閉じると同時に男は力有る言葉を紡ぐ。

「天よ地よ火よ水よ、我に力を与えたまえ、剣狼よ!」

ケンロウと謎の男が叫ぶのを聞いたホロは一瞬自分が呼ばれたかと頭の上にある耳をピクリと動かす。
しかし謎の男はホロを見てはおらず、手に持った剣を頭上へと差し上げて叫ぶ。

「パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」

突如として出現したのはバイカンフーと名乗る赤い巨人であった、その光景にそこに居た全員の動きが止まる。
さしものヨイツの賢狼ホロでさえも見た事も無ければ聞いた事も無い赤い巨人、その巨人の体から放たれる威圧感はホロが出会った事のある力持つ古き者たちの比ではない。

「欲に狂った亡者共よ、報いを受けろ!」

バイカンフーは剣狼を頭上に構えると高速回転させる、すると風が渦を巻き激しい竜巻となった。

「天空真剣・真空竜巻!」

バイカンフーの掛け声とともに放たれた竜巻は狭い坑道内を暴れ回りヤレイたちを吹き飛ばした、壁や天井に叩きつけられ動かなくなる男達。
その光景をただ呆然と見ているしか出来なかったロレンスだがはっと我に返るとホロを自分の背中に匿って振り返る。
するとそこに立っていたのは赤い巨人ではなく初めに現れた謎の男であった、恐る恐る謎の男に向かって声をかけるロレンス。

「助けて頂いて有り難うございます、ぜひお名前を」
「名乗るほどの者では無い、あなたの勇気が剣狼を通して俺に伝わっただけの事」
「ぬし、ケンロウと言ったの、ヨイツの賢狼を知っとるのか? じゃあヨイツの場所も知っておるかや?」
「いや剣狼はこの剣の名前だが、それと申し訳ないがヨイツという場所も知らないな」

そういって手に持った剣をかざして見せてくる謎の男、その剣を良く見れば確かに柄のところに狼の紋章が刻まれており何か分からないが途轍もない力を感じる事が出きる。
それを見て勘違いをしていた事に気がついたホロは顔を赤くしながら、早口で言い募った。

「そ、そうか、ならば良い、それに助けられた事には感謝しておる」

謎の男はホロの礼を受け取ると立ち去ろうと歩み出す、そこへ向かってホロが声をかけた。

「御主、これかから何処へゆくんじゃ?」
「全ては剣狼の導きのままに」

悠々と去ってゆく男の後姿を見送る二人の胸には清々しい風が吹き渡っていた。






数日後、街道を一台の馬車がゴトゴトと進んでいた、その御者台に座っているのは怪我の癒えたロレンスと美味しそうに林檎を頬張るホロの二人である。
あの後二人はミローネ商会に保護され、その後色々とあってロレンスは多少の金を受け取り、ホロと馬車一杯の林檎を伴って旅を続ける事になったのだ。
シャクリと小気味良い音を立てて林檎を齧ったホロは何と無しに自分を見つめていたロレンスの視線に気がつくとニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべる。

「もうけ損なったの」
「そうだな、しかし何者だったんだろうな彼は?」
「さあのう、だが雄はあれくらい雄雄しくなくてはの」

そのホロの台詞にむっとした表情を浮かべるロレンスとその顔をみて「くふふ」と笑うホロ。

「そんな顔せんでも良かろう、ぬし様もわっちを庇ってくれた時は随分頼もしかったしの」

そのホロの言葉を聞いて顔を赤くするとそっぽを向くロレンスとその仕草をみて腹を抱えて笑うホロ、しばし二人の他愛ない遣り取りが続き、笑いすぎて目の端に涙を浮かべたホロがロレンスに尋ねる。

「でこれから何処へ向かうのかや?」
「それこそ『賢狼の導きのままに』だろ」

二人は顔を見合わせて声を上げてまた笑う、その楽しそうな笑い声は青く済んだ空へと溶けてゆく、二人の旅は始まったばかりだ。



[16813] 相剋と兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:b35051a3
Date: 2010/04/11 13:41
二巡目の世界、一巡目がデウスの出現によって崩壊の危機を迎えるにあたって作り出された新しい世界。
その世界で機械仕掛けの悪魔マスラマキーナ、黒鐵のハンドラー夏目智春とその黒鐵のべリアルドール水無神操緒、智春の契約悪魔となった嵩月奏の三人は仲間たちと騒々しいながらも楽しく暮らしていた。
しかしその新しい世界にもデウスによる崩壊の兆しが訪れた。
そんな中洛芦和高校科學部の部長、炫塔貴也は崩壊が迫る二巡目の世界に見切りをつけ世界中の人間を犠牲にする事で世界の破壊者たるデウスを倒し、新たに三巡目の世界を作り出そうとしていた。
しかしその本当の目的はこの世界で死んでしまった橘高秋希を蘇らせるためであった。
だが智春たちは今の世界に住む人たちの思いや記憶を大切にしたい、そして一巡目の世界で出会った秋希に塔貴也が間違ったことをしたら止めて欲しいと言われた。
その思いと約束を果たす為に塔貴也の計画に賛同しなかった黒崎朱浬を初めとする仲間たちに送り出された智春たち三人は、世界が崩壊を始める中で塔貴也とその契約悪魔鳳島氷羽子の二人と相対していた。

「もう止めて下さい、部長!」
「止める事なんて出来ないよ、秋希が生きてゆく世界を作るためなら僕は何だって犠牲にする」
「秋希さんはそんな事望んでなんかいない!」
「黙れ! 僕には秋希が必要なんだ、その邪魔をするなら容赦しない! 僕が作る三巡目でキチンと生き返らせてあげるから安心して殺されるがいい、おいで鋼!」

塔貴也の声に応じて塔貴也の影から現れるのは、この世界での智春の兄である直貴、一巡目の世界の智春を殺して手に入れた最強のアスラマキーナ鋼。

「く、やるしか無いのか、来い! 黒鐵!!」

声に応えるようにっして智春の影が伸び、その中から現れる存在がある。

「フフフ、フハハハハハ!」

高らかな哄笑を上げながら現れたのは青い兜をかぶり、青と白、赤の三色で構成された体のラインがでる不思議な形の鎧を着て腕を組んでいる謎の男であった。

「力と己の欲のみで、何時までも人の心を惑わせると思うな、硬く握り合った手は暴力では離れない、人それを絆と呼ぶ」

男の眼差しは強い光に溢れており、その口からは浪々と言葉が紡がれた。
突如影より現れた謎の男に向かって塔貴也が驚きの声を張り上げる。

「だ、誰だ?!」
「貴様らに名乗る名は無い!」

鋭い声で答えるとヘルメットの頬の部分から飛び出したフェイスガードがカカシャンと音を立てて閉じると同時に男は空へと跳躍した。

「天よ地よ火よ水よ、我に力を与えたまえ、パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」

突如として出現したのはバイカンフーと名乗る赤いアスラマキーナであった、その光景にそこに居た全員の視線が集る。
何故ならアスラマキーナは本来べリアルドールが存在しなければ起動しないはずなのだが、バイカンフーはハンドラーである謎の男をその中へ内包して起動したのだ。

「馬鹿な、こんな機体、僕は知らないぞ?!」

焦った声を上げた塔貴也だが、咄嗟に自らが操る最強の存在である鋼を迎撃に向かわせる。
鋼の力である重力と空間を制御する力で倒せない者など存在しない。
咆哮を上げながら迫る鋼の攻撃を天空高くジャンプしてかわすバイカンフー。

「今度は此方からいくぞ、ボンバーキイィック!」

バイカンフーが炎を纏って鋼に飛び蹴りをあてて吹き飛ばすと、そのまま追いかけて連続攻撃を叩きこむ。

「おりゃおりゃおりゃおりゃっ!!」

体勢が崩れた鋼に向かって最後の一撃を決めようと右手の手刀を振りかぶるバイカンフー。

「奥義を受けろ! ゴッドハーンドォ・スマアッシュ!!!」

突き出された手刀は鋼の胸部を狙っている、そしてアスラマキーナの胸部にはべリアルドールとして捧げられた少女が眠っているのだ。

「止めろーっ!」

塔貴也と智春の声が重なる、鋼のベリアルドールは橘高秋希の妹にして智春たちの良き先輩であった第3生徒会長である橘高冬琉である。
しかしその声も空しくバイカンフーの手刀は鋼の胸を貫いた。

「冬琉ーっ!」
「冬琉会長!」
「成敗!」

塔貴也と智春の悲痛な叫びが木霊する中で胸部に突き込んだ手刀を抜き、崩れ落ちる鋼に背を向けて手を払い決め台詞を高らかに叫ぶバイカンフー。
敵を退けて駆けつけた朱理や佐伯玲士郎たちが見たのは、成敗の声とともに崩れ落ちた鋼とその前で呆然と佇む塔貴也の姿だった。

「よくも冬琉会長を、来い黒鐵!」
「待って下さい、夏目君」
「良く見なさいよ智、ほら」

嵩月と操緒に言われた智春が目を凝らせばバイカンフーの腕には冬琉が抱かれていた、差し出された冬琉を受け取って様子をみれば白い裸身の胸が上下しておりただ眠っているだけのようだ。

「生きてる、良かった~」
「ところで智、いつまで冬琉会長を抱いてるのよ?」
「……夏目君」

ほっと息を吐く智春にジト目を向けてくる操緒と嵩月の二人に慌てて冬琉を朱理へ渡すとそこへ塔貴也がふらふらと歩み寄るとがっくりと膝を付いて冬琉に縋りつき泣き崩れる。

「冬琉、良かった、本当に良かった、君にまで逝かれたら僕はどうしたらいいか判らない」

何時の間にかバイカンフーは消え去り、そこに居るのはその光景を見つめる謎の男であった。

「愛する者を失うのは辛い事、だがその負の感情に飲み込まれてはならない、見たまえ君の周りにはこれだけ君の事を気にかけてくれる人がいる、君はけっして孤独ではないのだ」

鋼を一蹴した謎の男が静かな声で語りかかる、その声に顔を上げた塔貴也の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだが憑き物が落ちたような感じを受ける。
踵を返して歩み去る謎の男の背中に智春が声をかけた。

「あの会長を助けてくれてありがとうございます、名前を教えて貰ってもいいですか?」
「名乗るほどの者では無い、強大な敵に打ち勝つには大いなる困難があるだろう、しかし君の後ろには多くの仲間がいて君を支えてくれている、恐れることなく進みたまえ」

智春の瞳を見つめて力強い言葉を残して悠然と去ってゆく謎の男、その背中に智春が声をかけた。

「何処へ行くんですか?!」
「全ては剣狼の導きのままに」

去り行く背中を見つめる智春は謎の男が言い残した強い絆を力に大いなる災厄デウスへと挑む。
その智春に操緒と嵩月が笑顔で声をかける。

「大丈夫、操緒がついてるよ」
「私も支えます」

大切な人との絆があるかぎりどんな困難にも負けることはないだろう。



[16813] 赤ずきんと兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:b35051a3
Date: 2010/05/04 16:48
麗らかな春の日差しが燦燦と降り注ぐ日、小さなバスケットを持って赤い頭巾をかぶった女の子が布団を被って寝ている者に声をかけていた。

「おばあさん、どうしておばあさんのお耳は大きいの?」
「それはね赤頭巾の声が良く聞こえるようにだよ」
「おばあさん、どうしておばあさんの目は大きいの?」
「それはね、赤頭巾の姿が良く見えるようにだよ」
「おばあさん、どうしておばあさんの口はそんなに大きいの?」
「それはね……赤頭巾、お前を食べるためさあ!」

赤頭巾の言葉に祖母の振りをして応じていた狼が遂にその正体を現した。

「待てい!」

その瞬間、春の公園に響き渡った鋭い声に反応した赤頭巾と狼が振り返る。
天から落ちる陽光の中、公園の遊具であるジャングルジムの頂上で腕を組んで立っている影がある。

「友を愛し、親を慈しみ、他人にさえも献身を惜しまぬ美しい心、人それを友愛という」
「誰なのだ?!」

浪々と語りかける影にむかって狼が声を張り上げる。

「貴様に名乗る名は無い!」

その声にさらに鋭い声で答えると兜の頬の部分から飛び出したフェイスガードがカカシャンと音を立てて閉じると同時に男は宙へと飛び出していた。

「とうあっ! 天空宙心け、むうっ?!」

天高く跳躍した謎の男が人を襲う狼に正義の拳法を繰り出そうとした、しかし狼の姿を目にした男はその狼の姿に驚愕すると攻撃を中断して着地した。
その影の正体は青い兜をかぶり、青と白、赤の三色で構成された体のラインがでる不思議な形の鎧を着ている男であった、その姿を認めた狼が興奮して大声で叫ぶ。

「おおー! かっこいいのだ、かっこいいのだ! ヒーロー登場なのだ!!」

謎の男の乱入に一番喜んでいるのは、赤ずきんを襲おうとしていた狼であった、その狼はまだ子供でキラキラと光る瞳はまるで宝石のようである。
おもわずその頭を撫で回したい衝動に駆られた謎のヒーロー(仮)だが、頭を振って気を取り直すと辺りを見回した。
その時草むらから黒いローブを着た人間が現れた。

「貴様かあっ!」

新たに現れたローブの人間に向って構えを取る謎のヒーロー(仮)だが、良く見ればそれもまた子供である。
困惑する謎のヒーロー(仮)に向って赤ずきんの女の子が声をかけてくる。

「ちょっとおじさん、私達赤頭巾ごっこして遊んでいるのに邪魔しないでよー」
「そうですよ、もう少しで猟師である僕の出番だったんですから」
「チャチャもしいねちゃんも何を言ってるのだ! 俺には分かるのだこの人はドルフィンガーやエガオンと同じヒーローの人なのだ!」

謎のヒーロー(仮)の周囲で子供達が騒ぎ出すのを生暖かい目で見守ると周囲に首を巡らせる、暖かい春の日差しが照らし出す公園には、噴水で休む人魚と話すピンクの忍者服を着た女の子、買い物帰りなのか鼻歌を歌いながら歩く黒頭巾にベンチに座っている渦巻きナルトほっぺの男の子が居るばかりだ、実に平和な春の午後である。

「それで、おじさん一体何しに来たの?」
「まさかチャチャさんに対してよからぬ企みでも」
「そんな事無いのだ、この人は絶対にヒーローなのだー!」

若干胡散臭げな目で問いかけてくる子供達に謎のヒーロー(仮)は方膝をついて視線を合わせると一つ咳払いをしてから話しかけた。

「俺は悪を追っている、君たちは何か知らないかな?」

その台詞に狼が狂喜する。

「はらほら、やーっぱりヒーローだったのだ!」
「すごーい、格好良いー!」
「えー、本当に本物ですかあ?」

謎のヒーロー(仮)がなにやら堂々巡りになってきたような予感に額に汗を浮かべた時、青空が一転にわかに掻き曇り雷鳴が轟いた。
その稲光の中から進み出てきた黒い影が赤ずきんを指差してその口を開いた。

「お前がマジカルプリンセスか、俺様は大魔王様の部……」
「貴様が悪かあーっ! 天空宙心拳、破岩拳」
「ぶべらあっ!!」

現れた影の口上が終わる前にどこかほっとした表情を浮かべながらも天空宙心拳を叩き込んだ謎のヒーロー(仮)は相手が吹き飛んだ隙に何処からともなく取り出した剣を空へと放り投げると吼えた。

「パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」

突如として出現したバイカンフーに子供達の声援が送られる。

「へ、変身しましたよ!」
「すっごっーいっ!」
「頑張れ、バイカンフー!」

その声援に後押しされてバイカンフーは天空へと飛翔する。

「バイカンフーボンバー!」

天空高くジャンプしたバイカンフーが炎を纏って大魔王の部下に飛び蹴りをあてる、吹き飛ぶ相手をそのまま追いかけると目にも留まらぬ連続攻撃を叩きこむ。

「おりゃおりゃおりゃおりゃっ!!」

すでに瀕死状態の相手に向かって最後の一撃を決めるために右手の手刀を振りかぶると力を溜めるバイカンフー。

「奥義を受けろ! ゴッドハーンドォ・スマアッシュ!!!」

掛け声と共に腹に突き込んだ手刀を抜き、敵に背を向けて手を払ったバイカンフーは決め台詞を高らかに叫ぶ。

「成敗!」

突如として現れた敵を軽く一蹴したバイカンフーにキラキラと光る瞳を向けるチャチャ、リーヤ、しいねちゃん。
三人の見ている前でバイカンフーが消えたあとにその場に立っているのは謎のヒーロー(確)であった。

「ほら、ほら、やっぱり俺の言ったとおりヒーローの人なのだ!!」

狼に変身したことで千切れんばかりにブンブンと尻尾を振りながら力説するリーヤと初めとは違って尊敬と憧れの瞳で見つめてくるチャチャとしいねちゃん。
三人に向かって謎のヒーロー(確)は静かに語りかける。

「子供達よ、人は過ちを犯すもの、しかしその過ちを己が糧として正義の道を邁進するのだ」

三人の頭を優しく撫でると謎のヒーロー(確)は若干小走りに公園を後にする。

「ああっ、何処へ行くのだー?!」

その背中にリーヤが声をかけるのみならず走って追いついてくるのを脱兎の勢いで引き離す謎のヒーロー(確)。

「全ては剣狼の導きのままにー!!」

ドップラー効果でそれだけを言い残した謎のヒーロー(確)の姿は何時の間にか沈み始めた夕日の中へと消えていった。
握り拳を固めるリーヤとその背後にいるチャチャとしいねちゃんも、その背中を熱い眼差しで見送っていた。

「バラライカ、忘れないのだ」
「違うよ、バイカルコだよ」
「バイカンフーですよ、チャチャさん」



[16813] 変身と兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/06/06 00:13
ベジータたちサイヤ人の襲撃を退けた孫悟空たちであったがピッコロを始め、仲間が命を落としていた、そこで生き残った孫悟空の息子、悟飯とクリリンはドラゴンボールに一縷の望みをかけてピッコロの故郷であるナメック星へと向かった。
しかしナメック星で彼らを待ち受けていたのは宇宙の支配者を名乗るフリーザとその手下たち、そしてベジータであった。
悟飯たちは数々の苦難を超えてドラゴンボールを集めて願いを叶えることに成功するが、それは不老不死を願うフリーザの逆鱗に触れる事であった、苦々しげな顔をしたフリーザが三人を睥睨しながら口を開く

「やってくれましたね皆さん、よくも私の不老不死の夢を打ち砕いてくれました」
「絶対にゆるさんぞ虫けらども! じわじわと嬲り殺しにしてくれる!!」

いままでどんな時でも絶えず余裕の笑みを浮かべていたフリーザの形相が豹変し激昂すると怒声ともに殴りかかってきた。
フリーザの拳をベジータが受け止めると二人の戦闘力がドンドンと上がりフリーザがつけているスカウターがその戦闘力を計測できずに爆発する、その爆発で一旦離れてにらみ合うフリーザにベジータが声をかける。

「変身しろフリーザ、どうせなら正体を見せたらどうだ」
「ほう私が変身型の宇宙人だと良く知っていましたね」
「ザーボンの野郎が口を滑らせやがったんだ」
「いいだろう、そんなに見たいなら見せてやる」

その言葉と同時に着ていた鎧が弾けとんで二回り以上体が大きくなり、頭の左右に生える角も伸びて折れ曲がる。
只でさえ圧倒的な力を持っていたフリーザが変身したその姿から発散される迫力は先程までの比でない。

「くっくっく、戦闘力にすれば100万以上は確実か」
「ば、馬鹿な……」
「こ、殺される……」

その迫力に気圧された三人が驚愕に声を振るわせるのを見たフリーザは余裕を取り戻すとニヤリと笑って獲物を見定めると片手を上げる。
その手を上げるという行為だけで周辺の地面が爆発したかのような衝撃を発した、咄嗟に上空に逃れた三人とクリリンに抱えられえたデンデの四人を見て高らかに笑うフリーザ。

「はっはっは、よーしよく避けた、まあこの程度のことはサイヤ人でも出来る、是で終わってしまっては変身した意味がなくなってしまうからな」

口元を歪ませながら上空にいるベジータたちに視線を巡らせると一人に視線を定めた。

「良し、決めた!」

声と共に眼にも止まらぬ速度で飛び出したフリーザがクリリンに迫る、咄嗟に抱えていたデンデを悟飯へ投げ渡すが、避ける機会を失したクリリンの腹へフリーザの角が貫こうした瞬間。

「天空宙心拳、鷹襲脚!」

鋭い声と共に急降下してきた影がクリリンの腹を貫く直前のフリーザを弾き飛ばした、弾かれたフリーザは地面に叩きつけられる直前で急制動をかけると足から降り立ち辺りを見回す。
悟飯とクリリン、べジータも辺りをキョロキョロと見回して先程の影を探すと近くの岩の頂に背中から光を受けた一つの影がすっくと立っていた、その影が発する力強い声が朗々と語りかけてくる。

「悪しき星が天に満ちる時、大いなる流れ星が現れる、その真実の光の前に悪しき星は光を失いやがて落ちる、人それを裁きという」

逆光の中に浮かび上がった影の正体は青い兜をかぶり、青と白、赤の三色で構成された体のラインがでる不思議な形の鎧を着ている若い男であった。

「ピ、ピッコロさんじゃない……」
「悟空でもない、お、おいべジータお前の知り合いか」
「し、知らんぞあんな奴……」
「まだ俺に逆らう馬鹿がいたのか、何者だ?!」

その男に対してフリーザが余裕の笑みを浮かべながら声をかけるが謎の男は鷹のような目をフリーザに向けて口を開く。

「貴様に名乗る名は無い!」

フリーザに対して鋭い声で答えると兜の頬の部分から飛び出したフェイスガードがカカシャンと音を立てて閉じると同時に男は宙へと飛び出していた。

「とうあっ!! 天空宙心拳、南十字拳!」
「ぐあっ」

十字に交差させた腕を振り抜いた謎の男の攻撃はフリーザに傷を負わせていた。

「ば、馬鹿な! このフリーザ様に傷を? はっその鋼鉄の身体はまさかクロノス族か!」

自らの身体に傷をつけた謎の男を睨みつけるフリーザが、相対する相手をクロノス族の人間だと看破する。
クロノス人に一瞥を向けると直ぐにその口元をニタリと歪ませた。

「づあっ!」

掛け声とともにエルボーを謎の男に突き刺すフリーザ、その攻撃を受けて吹っ飛ぶクロノス人、吹き飛ばされた男は岩に激突して崩れ落ちる、しかし次の瞬間には何事も無かったかのように立ち上がるとフリーザに対して構えを取る。
フリーザは対峙しているクロノス人の前に進み出てくると、口元を歪ませたまま語りかける。

「さっきは済まなかったな、貴様を見くびっていたんだ、だが想像以上にできるようなんでな実力を見せることにした」
「俺もだ、本気で行くぞ」

余裕の笑みを浮かべたままのフリーザに対してクロノス人も負けてはいない、堂々とこれからが本番だと告げる。
しかしその台詞を聞いてもフリーザは余裕を崩さない、それどころか面白い事を聞いたとばかりに邪悪に笑うと指を2本立ててみせる。

「くっくっく、まるで本気じゃなかったような口振りだな、だがこのフリーザ様に勝てると思っているのなら大きな間違いだ」
「何?」
「あと2回」

凄みのある笑みを顔に貼り付けたままフリーザは指を二本立てて謎の男に示した。

「貴様はこの姿が変身したものだとは知るまい」
「それがどうした?」
「まあ聞け、変身型の宇宙人は変身する事で戦闘力を大幅に上げる事ができる、そして俺は変身をあと2回残している」
「なん……だと……」
「光栄に思うが良い、この変身まで見せるのは貴様が初めてだ!」

言葉と共にフリーザの肩が大きく膨れ上がり背中から突起が突き出した、さらに後頭部が後ろへ伸びて角が大きく太くなり、伸びた頭の横に新しい角が生えてくる。
良く見ればクロノス人が与えた傷も消えている。

「ふう、お待たせしましたね」
「バッバカな! こんな事が」
「ひ、ひええ」

その姿と迫力、そして放散される力に恐れおののくベジータたちだがクロノス人はマスクの奥の瞳を更に耀かせると何時の間にか握っていた剣を天に掲げて叫ぶ。

「剣狼よ! 勇気の雷鳴を呼べ!」

雄叫びとともに雷鳴が鳴り響き稲妻がクロノス人を貫く、閃光の中にクロノス人が消えると同時に青い鋼の体を持つ者が現れて名乗りを上げる。

「闇在る所光あり、悪在る所正義あり、天空よりの使者ケンリュウ参上!」
「?!」

出現したケンリュウから聴こえてくる声は先程のクロノス人のものである、驚愕に目を見張る一同の前でケンリュウがフリーザに向って迫る。

「天空真剣、かまいたち!」

気合の声と共に上段から振るわれた剣狼を白刃取りの要領で受け止めるフリーザだが、巻き起こった真空破までは防げずに身体の彼方此方に裂傷を負ってしまう。
ケンリュウの並々ならぬ力を感じて額に汗を浮かべるフリーザはギリギリと迫る刃を押し返して蹴りを放つと同時に後方へと飛び退いた。

「まさかクロノス族が変身型の宇宙人だったとは、良いだろうならば見せてやるぞ! このフリーザ様の真の姿を!!」

ナメック星の大気を震わせて最後の変身を終えたフリーザが真の姿を現す、一番初めの姿と比べても一回り小型であり、角のようなものも全て消え失せている。
一見迫力が無くなっているがその姿を見たベジータたちは滲み出る圧倒的なパワーに絶望していた。
しかしそのフリーザを前にしてもケンリュウは臆する事無く、手に持っていた剣を空中へと投げると力強く叫んだ。

「パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」

雄叫びと共にケンリュウはバイカンフーへと姿を変えてフリーザの眼前に降り立った、その赤き巨体からは放たれる威圧感はまるで自然そのものを従える王の如くである。

「はああっ、天空宙心拳鉄指針!」

バイカンフーの鋭い手刀がフリーザへと突き出される、迎え撃つフリーザは余裕の笑みを浮かべたまま受け止めようとしたがバイカンフーの人差し指がフリーザの額に突き刺さり凄まじい衝撃を持ってフリーザを吹き飛ばした。
吹き飛ばされたフリーザは空中で体勢を立て直すと両足で地面を抉りながら踏ん張ってなんとかその場に止まる。

「なっ何だこのパワーは、この僕を上回るだって……」

バイカンフーを睨みつけるフリーザが驚愕に目を見開く、そして何事かに気付いて声を張り上げた。

「はっ! そういえばクロノス星には無限の力を与えるハイリビードとかいうものが存在すると聞いた事が…… 貴様まさかハイリビードを! それならば貴様の異様な強さも納得がいく」

全身をわなわなと震わせながら悔しげに表情を歪ませたフリーザだが、次の瞬間には口元を嫌らしく歪めた。

「ふふん、ドラゴンボールは手に入らなかったが貴様を片付けたあとでクロノス星に行くとしよう、そしてハイリビードを手に入れて今度こそ不老不死を叶えてやる」
「貴様がハイリビードを手に入れることは決してない、何故なら貴様はここで倒されるからだ!」
「……世迷いごとを、良いだろう見せてやるぞ、このフリーザ様の全力を!」

全力を出すといったフリーザの言葉に嘘は無い、体全体の筋肉量が増大したかのようにパンプアップすると発散される気も倍増する。

「だああああっー!」

フリーザは全身に力を溜めるとバイカンフーへ向ってエネルギー波を放つ、その巨大なエネルギーは惑星の一つ二つは軽く消し飛ばす程の威力を秘めていた。
あまりに巨大なエネルギーの奔流がバイカンフーの体を飲み込もうとした時、両目がギラリと光る。

「天空宙心拳、ライトニング・バーストォ!」

気合いの雄たけびと共にバイカンフーが全身から光を放ちフリーザのエネルギー波を掻き消した、自身の渾身の一撃を消し去られたフリーザがその光景を茫然として見送ってしまった、その隙を見逃すバイカンフーではない。

「ストーム・キイック!」

天空高くジャンプしたバイカンフーが嵐を纏ってフリーザに向かって飛び蹴りを当てて吹き飛ばす、吹き飛ぶフリーザをそのまま追いかけると目にも留まらぬ連続攻撃を叩きこむ。

「おりゃおりゃおりゃおりゃっ!!」

連続で叩き込まれる拳によって見る間にダメージを負ったフリーザに向かって最後の一撃を決めようと右手の手刀を振りかぶるバイカンフー。

「奥義を受けろ! ゴッドハーンドォ・スマアッシュ!!!」

どてっ腹に突き込んだ手刀を抜き、フリーザに背を向けて手を払い決め台詞を高らかに叫ぶバイカンフーと、その背後でグラリとよろけると地に倒れ伏すフリーザ。

「成敗!」

この瞬間が宇宙を力で支配していた恐怖の帝王フリーザの最後であった、その衝撃的な光景を見ていた悟飯たちの目の前からバイカンフーの姿がいつの間にか消えており、そこに見える姿は一番初めの正体不明のクロノス人である。
圧倒的な実力を誇るフリーザを一蹴してのけたクロノス人に向かって悟飯が恐る恐る声をかけた。

「あ、ありがとう、あの助かりました」

しかしクロノス人は警戒を解かずに鋭い瞳をべジータに向けていた、その視線に気がついたべジータもまた臨戦態勢を取る。

「何だ貴様、俺に文句でもあるのか!」
「お前からは悪の気配がする」

腰を落として構えを取ったクロノス人の姿が掻き消え、べジータに向かって拳を振るった。

「天空宙心拳、飛燕!」
「がっ」

拳を受けて吹き飛ぶべジータを追って空中へ飛んだクロノス人が続けざまに必殺の蹴りを放つ。
肉を叩く鈍い音を響かせたもののべジータを倒すはずの蹴りは逞しい筋肉によって受け止められていた。

「いっつ~っ」
「む?」

クロノス人の蹴りを受け止めたのはようやく怪我を癒やして駆け付けた孫悟空であった。
悟空を前にしたクロノス人は構えを解かないまま話しかけてくる。

「なぜ悪を倒す邪魔をする」
「べジータオラと地球での決着をつけんだ、そっちこそ邪魔すんな」
「はっ!」
「だっ!」

僅かな間睨みあった二人は同時に地を蹴って走っていた、丁度中間地点で互いの拳と拳がぶつかり、蹴りが交錯する。
互いに有効打を与えぬままに再び初めの位置へと離れた二人の視線がお互いを射抜いた、ほんの数秒睨みあったかと思うとクロノス人が視線を外して踵を返した。

「いいんか?」
「拳を交えれば正邪の判断は着く、そして貴方の拳からは清流のような清廉さと怒涛の如き強さを感じた、後はお任せしよう」
「すまねえ、名前を聞いてもいいか?」
「名乗る程の者ではない、しかし再び出会う事があるならばその時は……」
「ああ、そん時は良い試合をしようぜ、オラも腕を磨いて待ってる、それにおめえみたいなつええ奴は初めてだオラわくわくしてきたぞ、」

孫悟空の言葉に目を細めると微かに微笑を残して悠然と去ってゆくクロノス人、その背中に悟飯が声をかけた。

「何処へ行くんですか」
「全ては剣狼の導きのままに」
「あいつの拳は悪を許さねえ雷の苛烈さと人を愛する炎の優しさを持ってる、オラたちも負けてらんねえな」

ナメック星の荒野の中へ消えゆくクロノス人の背中を見送る悟飯の肩に手を置いた悟空の胸にはいつか正々堂々と勝負するという誓いと闘志が湧き立っていた。




ちなみにその頃のピッコロさんは

「俺は今、究極のパワーを手に入れたのだーっ!」

ネイルと同化して有頂天になっている時でした



[16813] 拳と兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/06/26 19:14
ガンダムファイト、それは各国のガンダムファイターたちが戦って、戦って、戦いぬいて最後に勝ち残ったガンダム・ザ・ガンダムとなった者の国が4年間地球の覇権を握るという代理戦争である。

F.C(未来世紀)60年、ガンダムファイト第13回大会が開催された。
しかし今大会は今までにない混迷を極める事となる、大会前にネオジャパンのライゾウ・カッシュ博士が生み出した自己再生、自己増殖、自己進化の三大理論を備えた究極のガンダム、アルティメットガンダムが地球へと落下、その衝撃で制御プログラムが暴走し恐ろしいデビルガンダムへとその姿を変えてしまう。
最強にして最凶、最悪の力を持ったデビルガンダムと地球の覇権をめぐって各陣営が戦いを繰り広げるなかでドモンは師匠である東方不敗マスターアジアと再会、拳を交わすことで友情を深めたシャッフル同盟の仲間たちと共に戦い抜き、決勝戦ランタオ島バトルロイヤルへと駒を進める。
その激しい戦いのさなか遂に明らかになった恐るべきマスターアジアの陰謀、それはデビルガンダムを使っての人類抹殺による地球再生計画であった。
この恐ろしい企てを阻止すべくドモン・カッシュとシャッフル同盟の仲間はデビルガンダム四天王を退け、ドモンの兄キョウジ・カッシュ、兄の写し身シュバルツ・ブルーダーが己の身を犠牲にすることでデビルガンダムを倒す。
そしてドモンは最終決戦にて師である東方不敗マスターアジアの怒りと悲しみ、そして世界を憂うその心を知りながらも涙を堪えて討ち果たして優勝、ガンダム・ザ・ガンダムの栄光を掴み取る。
しかし未だ世界を覆う暗雲は晴れていなかった、デビルガンダムを回収したネオジャパンのウルベ・イシカワがその牙を剥きだしドモンのパートナーであるレイン・ミカムラを生体コアにデビルガンダムを復活させて世界に対して宣戦を布告する。
復活したデビルガンダムはネオジャパンコロニーを吸収し地球へと魔手を伸ばす、デビルガンダムの恐怖とウルベの野望を止めるため、そして愛するレインを救うためにドモンはシャッフルの仲間、そして世界の危機を前にして立ちあがったガンダム連合の勇者たちと共に最後の決戦へと挑む。
巨大なデビルガンダムを倒すには内部から破壊するしか術がないと父から教えられたドモンたちは果敢にも内部へ突入、途中でウルベ操るグランドマスターガンダムをシャッフル同盟拳で倒し最奥に辿り着いた。
しかしそこに待っていたのはデビルガンダムと同化したレインの姿であった。

「レイン、いま助けてやるっ!」

必死に手を伸ばすドモンを嘲笑うかのように奥へと引っ込むデビルガンダムと立ち塞がる無数のガンダムヘッド。

「邪魔だあぁーっ!!」

行く手を塞ぐ敵をなぎ倒しながら進むゴッドガンダムだが、一歩進めば二対の敵が二歩を踏み出せば四体の敵が現れる。
近付くほどに増えてゆくガンダムヘッドの群れに遂に四肢を拘束されて宙吊りになってしまうゴッドガンダム。
拘束している触手を引き千切ろうとするドモンだが、そこへ電流が流される。

「うわあああーっ!」
「つあっ!」

ドモンが苦鳴をあげたとき天井近くから一振りの剣を持った影が降ってくると、手に持った剣を一閃させる。
その銀の光はゴッドガンダムを拘束していた触手を一瞬のうちに全て切り裂いた。
自由になったゴッドガンダムを着地させたドモンは窮地を救ってくれた影に視線を移す。
其処に居たのは青い兜と青と白、赤の三色で構成された体の浮き上がらせたファイティングスーツを着た一人の男が右手に剣を携えて立っていた。

「すまない、あんたは一体?」
「今は名乗っている暇は無い!」

突如として助太刀に現れた謎のファイターが手に持った剣を空中へと掲げて力ある言葉を叫ぶ。

「パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!! はああっ、天空宙心拳、比翼陽炎拳!」

バイカンフーと名乗る新たに現れた赤いモビルファイターは空中へと飛び出すと、その身に陽炎を纏い二体に分身すると襲いかかってくるガンダムヘッドを吹き飛ばす。

「天空宙心拳だと?! かつて師匠に聞いた事がある、流派東方不敗が王者の風ならば天空宙心拳は正義の雷と」

伝説の中の存在であった天空宙心拳を目の当たりにしたドモンが驚愕の表情を浮かべたが、そこへバイカンフーから声がかけられる

「呆けている暇は無い、ゆくぞ、キングオブハートよ!」
「おおうっ、 伝説の拳法の助力、有り難く頂戴する!」

横並びに立つゴッドガンダムとバイカンフーは同時に地を蹴って走りだす、そこへデビルガンダムのコアを守ろうとするように無数のガンダムヘッドと触手が襲いかかり、さらに
デビルガンダムコアからもビームが雨霰と降り注ぐ。

「天空宙心拳、シャイニングサンダー!」
「ゴォッド、スラァッシュ!」

バイカンフーが手に持った剣から光線を放ち、ゴッドガンダムが次々と敵を斬り倒す。
しかし自己再生と自己増殖する堅い守りを中々突破出来ない。

「くそっ、レインはもう目の前だっていうのにっ!」
「いや、これはまさか? 一旦引くのだ」

何かに気がついたのか、バイカンフーが後退するように言ってくる、ドモンも現在の堅い守りをどうにかする手立てがあるのかと一旦飛び退いて距離をとる。

「何か判ったのか?」
「ああ、どうやら彼女は君を避けているようだ」
「なんだと、急に何を言い出す?!」
「剣狼が教えてくれる、彼女の心にあるのは君を思う心、そして決して許されないという悲しみ、故にこそ君を遠ざけようとしている」
「そんな俺はレインを助けに来たんだぞ、それなのにレインが俺を避けているなんて、そんな馬鹿な話があるものか!」
「事実だ、今の彼女はデビルガンダムと一心同体、そして我々、いや君が近寄れば近寄る程攻撃が激しくなったのが、その証拠だ」
「では俺は一体どうしたらいいんだ……」

思いもよらない事実を突き付けられて膝を突くドモン、そのドモンへバイカンフーが厳しい声を叩きつける。

「なぜ膝を突くのだ、キングオブハートよ! 彼女を救えるのはお前しかいないのだぞ!」
「し、しかし……」
「彼女の心は罪悪感に満ちている、その凍てついた心を溶かせるのは炎の情熱のみ! いまこそ全ての気持ちをぶつけるのだ!!」

謎のファイターの言葉にはっとしたドモンが男の瞳を見る、そこにあった眼差しは強い意志と優しさに溢れており、まるで今は亡き師と兄を彷彿とさせる熱い瞳であった。

「そうだ、俺はレインを救う為に此処まで来た、そのレインが俺を避けていると言うのならば、俺の思いの丈をぶつけるのみ!」

その眼差しに自分を取り戻したドモンはコクピットを開けて胸の奥から湧き上がる衝動のままに叫ぶ。

「レイーンっ! 聞いてくれ俺達はこの1年ずっと一緒だった、俺が戦い続けてこられたのはレインのお陰だ、苦しいときも悲しい時も嬉しい時も俺を支えてくれたのはレインだった、俺は不器用な男だ、だからこんな言い方しか出来ない」

言葉を一旦切ると腹の其処からドモンはたった一人の女に向って己の全てをぶつける様に叫ぶ。

「お前が好きだーっ! お前が欲しーいっ!!」

ドモンの真摯な、そして熱い呼びかけによってレインの凍てついた心に皹が入る、この瞬間擦れ違い続けた二人の気持ちが一つとなってデビルガンダムの呪縛を打ち破った。

「ドモーンっ!」

生体コアとして捧げられたレインが殻を打ち破り、世界でただ一人の愛する男の胸へと飛び込む、そしてドモンもまた生涯に只一人だけの女をその腕にかき抱く。

「離れはしないわ、もう二度と!」
「離しはしないさ、もう二度と!!」

長い時間をかけてお互いを掛け替えの無い大切な存在として共に生きてゆくことを誓い合う二人を見つめるバイカンフーが静かに語りかける。

「怒りと悲しみは争いと破壊を生み、喜びと楽しさは平和と創造を齎す、争いよりも平和が勝り、破壊よりも創造が勝る、人それを愛の勝利という」
「あんたのお陰だ、俺はいま全てを取り戻した、故に恐れるものなど何も無いっ!」
「うむ、今こそあの悪魔を打ち倒す時!」
「応っ!」

鋭い眼差しを前方に向ける謎のファイターとドモン、そこには生体コアたるレインを失いながらも牙を剥き出してこちらに襲い掛かってくるデビルガンダムの姿があった
その姿を認めた二人は前方へと進み出るとバイカンフー、ゴッドガンダムの両雄が並び立ち右手を眼前で握り締める。
ドモンの甲にキングオブハートの紋章が浮かび上がり握り締められたゴッドガンダムの拳が真紅に染まる。

「我らの拳が!」
「真赤に燃える!」

バイカンフーは全ての力を集約するように腰溜めに構えた抜き手は炎を纏って灼熱する。

「悪を倒せと!」
「轟き叫ぶ!!」

己の全てを搾り出すが如く、足を踏ん張って腰を入れる2体の巨人。

「流!」
「派!」
「天空宙心拳」
「東方不敗が」
「合真奥義!!」

魂すら燃焼し尽くすような気合の声を合わせると同時に震脚をもって地を踏みしめる。

「ばあっくねっつうっ ゴォッドォハンドォッ!」

揺らめく陽炎を纏わせた二つの拳を同時に突き出す、ゴッドガンダムとバイカンフー。

「石破っ天驚ぉっ スマァッシュウゥ!!」

二人の雄叫びが天地を揺るがせると同時に真紅に燃える巨大な手刀が轟音と共に放たれた。
燃える手刀は狙い違わずデビルガンダムの中心を貫いて灼熱で包みこみ、さらにデビルガンダムの巨体を天へと差し上げて止めの一撃を叩き込む。

「ヒィィートォ、エンドォッ!!」

二人の叫びと共に爆散したデビルガンダムの燃え残った部分がゆっくりと崩れ落ちて灰になってゆくのを確認したゴッドガンダムとバイカンフー背後を振り返り手を打ち払う。

「成敗!!」

締めの声と共に遂に地球圏の全てを恐怖に陥れたデビルガンダムが全ての機能を停止し跡形も無く消滅した。
歓声と喝采をあげる全ての人々、ここに地球の危機はさったのである。

デビルガンダムが消滅した場所に残っているのは、何時の間にか姿を消したバイカンフーから降り立った謎のファイターとこちらもゴッドガンダムから降りたドモンとレインの二人である。
歩み去ろうとする謎のファイターにドモンが声をかけた。

「もう行くのか、天空宙心拳の伝承者よ」
「うむ、世界に悪がある限り剣狼の導きに従い是を討つ、それが天空宙心拳伝承者の使命」
「ならばシャッフルの紋章たるキングオブハートの名にかけて誓おう、俺もまた愛と正義の為に戦い抜くと!」

見つめあう二つの眼差し、そしてどちらからとも無く構えを取ると同時に拳を繰り出した。

「流派東方不敗は王者の風よ!」
「天空宙心拳は正義の雷!」
「全新系列 天破侠乱 見よ! 天空は赤く燃えている!!」

無数の拳と蹴りが交錯し、気合の声が全宇宙に響き渡れと高らかに謳いあげられた、一連の動作を終えた二人は背筋を正す。

「比翼の鳥は1羽では決して飛べはしない、真に心を通じ合わせたとき何処までも飛んでゆけるだろう、君たちの幸福を祈る」

謎のファイターは目を細めると寄り添い立つドモンとレインに言葉を残して踵を返し歩み去る。
その背中にレインが声をかけた。

「あの、せめてお名前を」
「名乗る程の者ではない、さらばだ戦友よ」
「ああ、また会おう戦友よ」

その背中が見えなくなるまで見送るドモンとレインの二人の手はしっかと握り締められていた。

「さあレイン帰ろう、兄さんとシュバルツと師匠たちの愛した地球へ」
「ええ、私達の思い出の場所へ」

風雲再起にまたがったゴッドガンダムは仲間たちに見送られ新たな旅へと向う。
何故ならば、どんな苦難があろうとも世界は愛と希望に満ちているのだから。

「ガンダムファイトォ! レディ、ゴォー!!」



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