Prologue
「白銀の悪魔」
赤く染まった岩だらけの大地。灼熱の太陽に照らされ、焼け付くような熱気にアームズの中にいるペインズ・グレイ少尉の頬を汗が流れていく。
岩陰から見える敵の基地からは何の動きもないように見えた。
しかしそれが間違いである事を岩を弾いた銃声が教えてくれる。
全長280cm。重量700㎏。人型強化外殻兵器――通称アームズ。
内部のモニターには索敵レーダーからの反応を逐一映し出している。
背後では味方の強襲上陸艇が敵の位置を探しているだろう。
「インジゴ。このままでは埒が明かん基地に突入するぞ。付いて来い」
ペインズは通信機を通じて、曹長のインジゴに命令をしていく。
惑星ネイプルス。ビリディアン基地。銀河連邦を2つに分けたこの戦争でローアンバー軍のペインズ少尉率いる第3特殊機動小隊は敵基地に突入しようとしていた。
岩陰から飛び出したアームズの足に装備された車輪が岩肌を抉りながら進む。時速40キロ程度ではあるが、体感速度はかなり早く感じる。アームズの両手に構えた銃が見え隠れする敵を狙って撃ちだされた。
「なっ!」
「速い!」
ペインズとインジゴが驚く。追いかけるペインズよりも遥かに速い動き。一瞬の残像が揺らめく。
撃ちかえされた弾がペインズの足元を崩しかける。
「隊長!」
「来るな!」
助けようとするインジゴを制し、ペインズはキラッと光る反射光に向かって銃を放つ。それすらもかわされる。
ジグザグに進み。もはや狙う事すらせずに撃つ。反撃にはしゃがみ込む。一瞬も動きを止めることなく。戦う。撃つ。かわす。狙う。狙われる。敵基地を目の前にして、ペインズ達はたった一機のアームズに足止めを食っていた。
車輪が悲鳴を上げる。動くたびに強烈なGがペインズに襲い掛かっている。敵の銃撃に車輪の動きを変え、後退する。後退しながらも銃を撃ち続け、岩壁ギリギリのところで、ターン。今度はまっすぐ敵に向かう。機体をかすめるように撃ち込まれる銃弾。無様な追いかけっこ。たった一機の機体に5機のアームズが翻弄されている。ほんのすぐ傍の岩陰では小隊の部下達が敵を捜し求めて右往左往。
敵の機体が初めてはっきりと見えた。
白銀の機体。太陽を反射して眩く輝いている。内部の通信機からは女のヒステリックな声が聞こえている。
「うるさい! 手加減して勝てる相手か!」
索敵レーダーに映る敵の機体を表す点滅を見つめながら、ペインズは怒鳴り返した。
「インジゴ。面だ。あの野郎に頭を上げさせるな」
ようやく他の隊員たちも攻撃に加わり始めた。
ばら撒かれる銃弾。点ではなく面での攻撃。弾幕は視界に入るもの全てを破壊しつくそうとでもしているかのようだ。
『オーバーキル』
本来ならば、そう言われるのだろう。
だがしかし、相手はあの白い機体だ。これでもまだ足りないぐらいかもしれない。
ペインズの背筋に冷たい汗が流れ続けている。機体に取り付けられている有視界モニターなぞもはや役に立たない。有視界モニターの反応速度はペインズの反応とほぼ同じ、ペインズの反応を遥かに超えた動きには通用しないのだ。背面に取り付けられた追尾式小型ミサイルに持ち替えると敵の反応をセットして撃ち放った。ミサイル砲を投げ捨てる。今更当ったかなどと確認などしない。そのまま敵を追いかけていく。
インジゴの援護射撃が叩き込まれている。ペインズは最大速度で岩陰に飛び込んでいった。
岩陰に隠れている白銀の機体が視界に飛び込んでくる。ミサイルを避けようとする敵に向かい。全弾叩き込むつもりで撃ち続ける。
ミサイルの爆裂音。立ち上がっていく煙。
煙がようやく晴れた時、白銀の機体は無惨に破壊され、中からパイロットの姿が見えた。
「な……に……子供だと?」
敵のパイロットはどうみてもまだ10才ぐらいの子供だった……。
「隊長……」
近づいてきたインジゴも驚きを隠せないようだ。その頃になってようやく通信機からの女の声も聞き取れるようになってきた。
「その子供がビリディアンの新型兵器よ」
子供がピクッと動く。生きてるのか? ペインズとインジゴはゆっくり警戒しつつも子供を機体から引き剥がしていく。モニターに映る子供は先ほどまでの白銀の機体から感じていたプレッシャーからは想像も出来ないくらい弱々しく感じられていた。
ペインズは衛生兵を呼ぶべく通信を開始する。
灼熱の大地。赤く焼けた岩肌。風も焼け付くように熱い。されど見上げる空は目にも鮮やかな青。
見渡せば、被害は甚大で、味方の犠牲も多すぎる。未だ敵基地にもたどり着いてもいないというのに……。戦車隊は全滅。ヘリは撃ち落された。乾いた笑いすら出てくる気もしない。
連絡を受けてのろのろと味方の残骸を避けつつやってきた衛生兵に子供を押し付け、5機のアームズは敵基地へと突入を開始する。
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作者です。
今回は戦争物になります。なる予定です。
『銀の雨ふるふる』とは違ってシリアスな話になるといいなー。
ちなみに、このお話のアイデアを話したときの友人達の反応は……。
軍事関係に詳しくないのに戦争物は無謀。 by 友人A
戦車の大きさって知ってる? by 友人B
戦争物にはかわいい猫耳少女がでなきゃダメ! by 友人c
最後の1つはよく分かりませんが、こんな感じでした。
でも完結までがんばります。
ところで……猫耳少女は必要なんでしょうか?