参院選が公示された24日の午後2時50分、宮崎県央部の川南(かわみなみ)町を南北に貫く国道10号。選挙カーが一言も発することなく北へ走り抜けていった。口蹄疫(こうていえき)禍に揺れる宮崎選挙区(改選数1)に立候補した民主新人、渡辺創氏(32)は、感染地域での遊説と掲示板へのポスター掲示を見送るという異例の選挙戦に突入した。
「新人で知名度がないので痛いが、感染防止を優先した。何度も検討した結果だ」。陣営幹部は苦渋の決断だったことを明かす。
4月以降、爆発的に広がった口蹄疫。県内の殺処分対象の牛や豚は最大の感染地、川南町の約15万頭を含め計約27万頭に上る。5月18日に出された「非常事態宣言」は解除の見通しは立っていない。
「移動して何かあったら」。川南町役場近くの居酒屋「ぼくすい」店長、伊波周平さん(32)はこの数カ月間、町外への移動を控えてきた。3月に待望の第1子が生まれたが、約60キロ離れた都城市の妻の実家には初孫の顔さえ見せに行っていない。感染拡大におびえ、町内でも外出を控える住民が多く、店の売り上げは4分の1に落ち込んだ。「投票所に行くことも迷う」。そう話す町民もいる。
「握手は自粛」「車から降りない」--。県選管は公示前、各陣営に県内全域で選挙運動の「自粛」を求めた。自民現職、松下新平氏(43)と共産新人、馬場洋光氏(41)も感染拡大防止には神経をとがらせる。
宮崎市で24日あった松下氏の出陣式。消毒マットを用意し、参加者の足元にはスタッフが霧吹きで消毒液を噴射した。25日に発生地域の都城市に入ったが、選挙カーでの遊説は自粛。建設業界など訪れた先々では、あらかじめ消毒してからあいさつに臨んだ。
馬場氏も選挙カーに除菌スプレーを常備。陣営幹部は「発生地域の農村部では車で流すだけにせざるをえない」。握手についてはどの陣営も「求められたら応じるが……」と前例のない選挙戦に戸惑う。
渡辺氏の選挙カーが素通りしていった川南町役場に近い「堀口種苗店」は口蹄疫発生以降、「開店休業」が続く。店主の堀口歳勝さん(80)は店の椅子に座ってテレビを眺めている時間が多くなった。このままではじかに候補者の主張を聞いたり、顔を見る機会も失われる。「宮崎を再生し、引っ張ってくれる政治家に1票を託したいが、だれを選ぶか、情報源は新聞とテレビしかありません」。そう話すと再びテレビに目を向けた。【三木陽介】
松下新平 43 党青年局次長 自現
馬場洋光 41 党県書記長 共新
渡辺創 32 [元]毎日記者 民新=[国]
毎日新聞 2010年6月27日 14時37分(最終更新 6月27日 14時49分)