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コラム

安城市 幼児殺害事件

高村智庸2005/02/24
ペティーナイフは柄の部分しか見えず、刃は頭頂部から下顎にまで達していた。その幼児の父親は通夜が営まれた後、「絶対に許すことはできません。極刑でも許せません」と震える声で訴えた。
愛知 事件 NA_テーマ2
 その幼児の父親は通夜が営まれた後、「絶対に許すことはできません。極刑でも許せません」と震える声で訴えた。

 生後11ヶ月の幼児は頭に刃物が刺さったままの状態で病院に搬送された。刃渡り15センチ、最大刃幅3センチ、厚さ1ミリのペティーナイフは柄の部分しか見えず、刃は頭頂部から下顎にまで達していた。事件は愛知県安城市、名鉄線新安城駅近くの大型スーパーで起きた。開店して間もない午前10時40分ころ、買い物に来た母親はスーパー備え付けのベビーカーに生後11ヶ月の男の子を乗せ2階の通路を歩いていた。そこに反対側からきた男がいきなり襲った。

 逃げる間も、抵抗することもできない一瞬のことだった。幼児は搬送された病院で2月4日午後1時12分死亡した。被害に遇った青山翔馬ちゃんはあと6日で満1歳の誕生日を迎えるはずだった。

 男は次々と刺したり切り付けたりするつもりだったのかもしれない。しかし、これほど深く刺さった刃はそう簡単に抜けるものではない。最初に幼児の頭に刺したペティーナイフが抜けなかったから、翔馬ちゃんの姉(3歳)には顔を蹴り上げ、更にこの姉を庇った24歳の女性にも暴行を加えて逃走したということだが、もしナイフが抜けていたら、すぐそばにいた翔馬ちゃんの母親や3歳の姉、身を挺して庇った24歳の女性もどうなっていたか分からない。

 男は返り血を浴びた紫色のカッパをスーパーから1キロほどの公園に捨て、徒歩で逃げているところを緊急配備の警察官3人に取り押さえられた。氏家克直容疑者、34歳。両手は返り血で真っ赤に染まっていたという。

 氏家容疑者は過去に窃盗や住居侵入の前科前歴があるのだが、豊橋刑務支所を刑期より3ヶ月早く、1月末に仮出所したばかりだった。身元引受人がいなかった為、更正保護施設で宿泊や食事の提供を受けながら、3ヶ月間の保護観察を受けることが義務付けられていた。しかし、氏家容疑者は施設を数日で勝手に抜け出し、以前住んでいたことがあるという安城市に2月2日やって来た。

 職を探していたということだが、放置された廃車で寝泊りしていた。事件を起こした4日は「店には暖を取るために入った」凶器のペティイナイフは事件直前に家庭用品売り場から盗み「たまたま最初に目に入った子供をやった」と犯行を認め、「子供が亡くなったことに対してどう思っているのか」という質問には「申し訳ないことをした」と言っているというが、捜査員には反省しているようには見えないという。

 一般的には殺人事件を起こした者は、寝苦しそうな様子や、食事を残す者が多いということだが、氏家容疑者は逮捕されたその日からよく眠り、出された食事は全部食べているらしい。そうした様子などから、取調べをしている捜査員の目には、本心から謝罪しているようには見えないという。

 氏家容疑者は福島県に生まれた。JR福島駅から南に歩いて15分ほど、阿武隈川近くの、現在は駐車場になっている所に氏家容疑者が住んでいた借家があった。両親と妹と弟の5人家族、周囲の人によれば、父親は新聞配達をやったりラブホテルの清掃のアルバイトをやったりしていたというが、ギャンブルが好きで真面目に仕事をするタイプではなかったため、生活はかなり苦しかった。

 氏家容疑者は妹や弟の面倒をよく見ていたが、高校を中退したのも経済的な理由が大きかったのではないかという。中退後コンビニでアルバイトなどをした時期もあったが、定職を持ってはいなかった。平成6年ころ父親が他界し、その2〜3年後には母親も他界すると、仕事もせず自宅でゴロゴロしているようになり、見かねた近所の人が食べ物や服など持ち寄ったり、銭湯に入れてやったりした。そんな生活ぶりの中、親戚が保証人になり新潟県に土木作業の職を見つけて働きに出てからはまったく消息がなかった。

 今、殆どの受刑者は服役中の態度に問題がなければ仮出所になっている。刑務所の職員の言うことを聞いて、真面目に見えれば早く出所できる。刑務所は更正させる場ではなく罰だけを与える場になっていて、再犯防止の観点が抜けているという指摘がある。同時に、中央大学の藤本哲也教授によれば、今の刑務所は116%の過剰収容の状態だ。

 国際的には看守1人が2人の受刑者の面倒を見ているのに対して、日本はその倍以上である。看守の負担が大きい上に過剰収容という背景があるから、殺人や強盗の場合は別にして、空き巣程度であれば、受刑者の態度によっては刑期を残していても出所させる。この氏家容疑者はどうだったのか。同じ刑務所にいたことがあるという男性から重要な証言を得た。それによると、服役中にまったく問題が無かったわけではないらしい。

 刑務所の中ではおとなしい感じに見えた氏家容疑者はいやがらせやいじめの対象になっていたというのだが、ある時、突然殴りかかって暴行事件を起こし、15日間懲罰房に入れられたことがあった。それ以来、周囲の受刑者達からはキレるとあぶない奴という風に見られ敬遠されるようになった。問題を起こし懲罰を受けたことがある氏家容疑者がなぜ刑期より3ヶ月も早く仮出所できたのか。この男性の証言通りだとすれば、刑務所はどのような判断で仮出所を認めたのだろうか。

 刑務所に更正させるという機能(受刑者に対する矯正教育)がない上に、仮出所後の監督・監視体制が整っていないとなると、現実的には仮出所した後、住所や生活態度の報告と遵守事項(ギャンブルの禁止・酒やたばこを控える・薬物禁止等を守る)という条件が義務付けされているとは言うものの、実質的には野放し状態の「自由の身」と変わらないことになる。

 一度事件を起こした者は必ずまた事件を起こす危険な存在だから厳しく監視し、取り締まるべきだと言うつもりは毛頭ない。氏家容疑者は将来に対する不安や寒さや飢えなどから自暴自棄になり事件を起こしたと見られているところから、その責任は氏家容疑者自身にある訳だが、仮出所を認めた判断に問題はなかったのか、仮出所後の対応が今の在り方では、絶えず新たな犠牲者を生み出してしまう状況を放置しているように思えるのだが…。
安城市 幼児殺害事件
ワイドショーリポーター高村智庸さん
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