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[14104] 私は可愛いコックさん (現実→H×H)
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2009/12/11 23:28
この話は、人によっては不快に思われる描写がたまに入ります。



1話 ○○○○○○を食べるまで

 私は気がつけば知らない場所にいた。
 バイト先の更衣室にいたはずだ。
 現にバイト先の制服に、ロッカーに仕舞おうとしていた荷物を持っている。
 バイト先は祖父が経営する高級料亭だ。料理というか、食べるのが好きで好きで仕方がないため、料理上達のためにバイトをさせてもらっていた。うちも寿司屋だが、寿司屋を継ぐのはあまり望ましくない。私はあらゆる料理が好きだから。将来は何でも作れる料理人になりたいので、手始めに和食を極めようと、修行も兼ねてバイトさせてもらっていたのだ。
 立地は決して、自然豊かな場所ではない。政治家も使うような、都会の高級料亭だ。私は確かに都会にいたのだ。
 だが私を囲う木々は苔むして、幹も太い。樹海と言っていいだろう。
 そんな場所で、私は既に半日もさ迷っていた。
 夢だ夢だと自分に言い聞かせるが、疲労に筋肉の痛みに、とても夢とは思えない。
 今日は政治家の先生が来ると聞いていた。その関係でテロに巻き込まれて気を失い、どこぞの山に捨てられた?
 そんなはずはない。なぜいきなり厨房の人間を眠らせる必要があるのか。何より私は厨房脇の更衣室の中だった。建物の構造的に、外で何かあって、気づかずいきなり眠らされるということはあり得ない。何か薬が使われたのだとしても、違和感もなく一瞬で眠るような事などないだろう。
「何だってんだ」
 鞄の中には愛用の包丁一式が入っていて、今は一番頑丈な出刃包丁を気休め程度に持っている。
 疲れ、適当な木の根元に座り込み、鞄の中からミネラルウォーターを取り出して一口飲む。
 足が痛い。体力はある方だったが、道無き自然の中を歩いて平気なほどの体力はない。
「おじいちゃん……」
 いつも優しい祖父を思うと涙が出た。みんなはどうしているのか。ここにいるのは私だけなのか。
 厨房にいた他の人達はどうなったのだろうと、木々の枝葉に覆われた空を見る。
 もうすぐ日が暮れる。
 地面に触れる。冷たく、湿り気を帯びた土。見知らぬキノコ。ギャアギャアと鳴く極彩色の怪鳥。
 明らかに日本ではない。
 日本に、あのような鳥は生息しない。あんな鳥は見た事も聞いた事もない。むしろここは本当にこの世か?
「くそっ」
 ここは夢か現か、この世かあの世か。
 夜になればどうなるか。
 悩んでいると、かさりと、真後ろから小さな葉が擦れる音がした。
 慌てて振り向けば、手に近い位置に猫ほどはある大きな蜥蜴がいた。
 私はそれに出刃包丁を突き立てる。
 指した場所が悪かったのか、即死せずにビクビクのたうち、やがて血を垂れ流して動かなくなる。
「夕飯は確保、と」
 そのまま立ち上がり、地面に落ちた枝を拾いながら歩く。
 未成年のためたばこは吸うわけではないが、何かと役に立つためライターを持っているから、火付けに困る事はない。
 問題は夜だ。
 夜行性の肉食獣ぐらいいるような気がする。
「…………くそっ」
 夢であっても夢でなくても、やる事をやらねばならない。
 日が暮れる前に大量の枯れ枝を集めた。
 蜥蜴を焼いて食べた。水場があればいいのだけど、あるのは大切な飲み水だけ。
 血抜きして、塩をかけて焼いたら意外に美味しかった。
 塩が切れて、バイトの前に買って鞄に入れていた物だ。別にサバイバルを予定していたわけではない。
 さすがに胡椒はない。今は塩だけでも有り難い。まったく私は運が良いのか悪いのか。
 翌朝、無事に日の出を見てまだ夢から覚めていないことに絶望しながら、昨日の蜥蜴の残りと、やたらとでかい芋虫を焼いて食べてみた。あまりの美味に私は目を見開いた。
 芋虫は食べたことがあったから抵抗はなかった。昔から食べられる物は何でも食べる人間だ。嫌悪感など微塵もなかった。それが食べられる物であるからだ。美味ければそれがゲテモノだろうが、私にとって関係の無い事だった。
 さすがにゴキブリだけは抵抗があるけど。
 私は何でも食べる。食べる事がすべてだった。普通に食べられる物を食べる。調理する。食べられる物に食べられない物はない。全ての味を知りたいと、料理人を目指していた。
 人は私を変だというけど、こんな時に迷いが生まれないのは、良い事なんだろう。
「芋虫もこんなに味の差があるのか……」
 トカゲ、芋虫。美味しかった。
 捕まえられそうにもないが、あの極彩色の鳥も美味しそうだ。
「食べ物ならいくらでもあるか。生き物が生きられるんだから当然だけど。
 ああ……水が欲しいな」
 結局、水は見つからなかった。
 その晩も無事に過ごす事が出来た。
 次の日の昼も無事だった。その夜も。
 ここに来てからもう三日、さ迷った。
 水場は見つけられなかったが、食べ物から最低限の水分を取っているので生きている。ただ喉は渇いている。疲れているが、生きる気力はある。ここから抜けだしたら、まともな調理場で、美味しかった食材を調理したかった。
 ああ、料理したい、食べたい。
 それにはここを抜ける必要がある。
 野生動物は意外にもどうにかなった。群れでなければ、こちらが怯まず、大きな音を立てれば逃げていく。野生動物とは臆病なものだ。
 今までは。
「悔しい」
 睨み合う狼のような動物達。
 相手は群れ。こちらは弱っている。
 彼等にとって私は獲物でしかない。
 食われる。
 食うのが至上の喜びであり、自分が常に美味い物を食べるために料理人を目指す私が、食われる。
「はは……」
 わけの分からない場所で、なぜここにいるか理由も分からず食い殺されるのか。
「食材の分際でっ」
 食材。
 狼を食べる事があるのは知っていた。
 どんな味なのだろう。
 こんな所で死ぬぐらいなら、この疑問を晴らしたかった。
「食ってやる」
 食われるなら、食い返してやる。
 死なばもろとも。
 包丁を握りしめる。
 喉から嗚咽にも似た笑いが漏れる。
 殺傷力なら柳刃の方が高い。出刃はもう欠けてしまった。刃が欠けている事は、殺傷力にはあまり関係ないけれど。
 両手に包丁を構え、狼と対峙する。
 狼は吼え、飛びかかる。
 そこからよく覚えていない。
 出刃を叩き付け、別の狼に噛まれ、己で噛みつき、目の前が霞み、誰かの声が響き、気がつけば、ベッドの上にいた。



「何にしても生きてて良かったわね」
 女性に頭を撫でられ、私は大人しく頷いた。
 私を助けたという人物を、穴が空くほど見つめながら。
「ほら、もう大丈夫だから、気を抜いて良いのよ」
 そう言って笑う女性に、見覚えがあった。
 その背後にあるテレビ。
 そのテレビの字幕は、見たことがないようで見た事のある……。
「あたしはメンチ。あんた、狼に襲われてたのよ。覚えてる?」
 私は目を見開いて『メンチ』を見た。
 メンチだ。間違いなくメンチだ。この変としかいいようのない髪型と抜群のスタイルは、間違いなくハンターハンターのメンチだ。私は少女漫画よりも少年漫画の方が好きで、人並みに漫画を読んでいた。
 コミックは持っていないが、友人の家で一通り読んだ事がある。
 思わず再び意識を手放しかけ、ベッドに倒れ込んだ衝撃で意識を取り戻した。
 腕が痛い。幸い利き手ではなかったけど、すごく痛い。
「無理するんじゃないわ。まだ横になってなさい」
 狼に噛まれた傷だ。狂犬病、という言葉が頭に過ぎり、それよりも漫画の登場人物が目の前にいるという事の方が重要だ。
 それでテレビを見ていなかったら、ただのそっくりさんとか、コスプレですますけど、テレビにあの文字が出ていたから、ここがあの漫画で画かれていた世界である可能性を高くしていた。あのテレビの中でさえ見た事のない鳥も、説明が付く。
「あんた、なんであんな所にいたの? あの格好、ジャポンの料理人でしょ」
 私は横たわる自分の身体を見下ろした。生成りのワンピースを着ている。
 それはいいが、自分の身体から靄のような物が出ているのに気付いた。
(え、何とかって孔が開いている?)
「な、何これ」
 苦しくはないので、無意識のうちにどうにか出来たようだ。ストーリーは覚えているが、細かな事まで覚えるほど読み込んではいないからはっきりとは言えないが、オーラをどうこうしなければ大変な事になったような気がした。
「それは後で説明するわ。だから落ち着いて」
 説明してもらえると聞いて安堵した。
「は、はい」
「あんな所、普通は迷い込む所じゃないわよ。けっこう長い事迷ってたでしょ? 密猟者かと思ったけど、違うみたいだし」
 ここがどこなのか。それはまず頭の片隅に置いておく事にした。
 私は見知らぬ場所に突然飛ばされた一般人である。それに間違いはない。
 メンチがいる。孔が開いている。見覚えのある独特の文字が見える。
 そんなこと、今はどうでもいい。
「わ、わかりません。気付いたら……あそこにいて」
 ここにいるという事実だけを今は見るべきだ。
 メンチは私の言葉を聞いて顔を顰めた。
「気付いたら?」
「私、お店にいたんです」
「誘拐されたの?」
「更衣室にいて、荷物を片付けようとしたらあの森に立っていました」
 メンチさんは顔を顰め、呟いた。
「念能力に目覚めたのかしら? あんた、それが見えるようになったのはいつから?」
「今です」
「じゃあ、誰かの……それで精孔が開きかけてて……?」
 ぶつぶつと呟くメンチさん。
 ああ、そうそう、精孔だ。
「とにかく、気付いたらあの森にいたって事ね」
「はい」
 気付いたら漫画で描かれていた世界にいました、とは言えない。
「あんた、名前は」
「木下綾乃……アヤノです」
「アヤノね。どこに住んでるの? ご両親は?」
「どこ……」
 どこと言われても困る。
「聞いちゃいけない事だったかな……ごめん」
「い、いえ、そんなっ」
 ここでない世界にいます、とは言えない。だから分からないで通すしかない。説明してどうなる事でもない。今はまだ、知らない振りをすることにした。今はハンターハンターの知識すらない振りをしよう。話しても信じてもらえない。私なら信じない。病院を探してあげる。だから言えない。
「帰る所は……」
 そもそも、帰り方が分からない。移動系の念能力で帰れるのか。異世界に行く念能力など、存在するのか。
「あんた、まだ小さいのに苦労してるのね……」
 私が悩んでいると、ますます勘違いをしたメンチさんが、ベッドに横たわる私の頭を撫でた。
 気は強いけど優しいお姉さんってところかな。
「まあいいわ。それの事も説明してあげるけど、今は休んで。
 ああ、そうそう。あんたが食ってやるとか言ってた狼、煮込んでみたけど食べる?」
 問われ、私は驚きながらも頷いた。
 食べられることなく、食べてやれる。
 それが力。
 力があれば食べられる。食べたければ力を付ける。漫画のメンチさんはそんな感じだった。
 私はメンチさんの差し出した狼の煮込みを口にした。
 憎らしいオオカミも、今は見目麗しき料理でしかない。
「美味しい。硬そうだと思ったけど、絶妙ですね」
「でしょ。にくったらしい奴も、こうなっちゃえば可愛いもんでしょ」
「はい。手間暇かけただけ、可愛くなりますもんね」
「そうそう。あんたも料理人みたいだし、気が合いそうね」
 合うに決まっている。
 漫画の中で最も共感を覚えたキャラ、それがメンチさんだった。
 可愛くて、スタイルが良くて、食を追求する姿勢。
 私が知るこの世界の中で、私と最も近いのが彼女であろう。そんな彼女に出会えたのは、神の導きなのだろうか。
「あたし、美食ハンターやってるの。行く当てもないなら、よかったらあたしと来る?」
「え……」
 私は自分の耳を疑った。
「まあ、弟子ってことになるのかな? ガラじゃないけど、それほっとくわけにもいかないし。何よりも、料理人の事は料理人が見るのが一番だからね」
 出会っただけではなく、この待遇。
 戸籍もない私にとって、彼女はまさに女神であった。
 なんて優しい人なんだろう。
「よ、よろしくお願いしますっ! 私、美食ハンターになりたかったんです!」
 私が申し込もうと思っていたのに、相手の方から申し出でくれた事に驚き、気付けば起き上がって頭を下げていた。
「あっつ」
「ちょ、だから寝てなさいって」
 私は変な風に手をついてしまい、痛みで再び横に倒れた。
 枕に頬を埋め、ふぅと息をつく。
 メンチさんはまだ若い。確かハンター試験の時は二一歳。しかし今はまだ十代に見える。
 十代で弟子を取ろうなんて、無謀にも程があるような気がするけど、そんな事はどうでもいい。
「わ、私、どうしても食べたい食材があるんですっ!」
「へぇ。目標があるのは良い事ね。その代わり、ジャポン料理食べさせてねっ!」
「はい」
 私はこの幸運に、傷む手を合わせ、生まれて初めて心の底から神に感謝した。




 ずっとずっと夢だった。
 それが叶う可能性が出てきた。
「食べてみたかったんです、キメラアント」
 え? と首を傾げるメンチを無視して、私は神に感謝した。
 キメラアントだけではない。
 様々な謎の生物。それらを思い、私は興奮で打ち震えた。
 いつから原作が始まるのか覚えていないが、メンチさんがまだ二十歳を過ぎているように見えないから、余裕はあるはず。あとでメンチさんの年齢を聞けば、計算できる。確か若干21歳と書いてあった。
 さらに前年にはヒソカが暴れてくれるので、その情報さえしっかり睨んでいれば、問題ないはずだ。
 キメラアントを食べるための力を付ける準備期間があるのだと分かり、私は先に待つ地獄のようなバイオハザードを思い、恍惚と笑みを浮かべた。



[14104] 2話 就職活動
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2009/11/28 00:55

 私は一年にも満たない修行で、順調に念能力者としての力を伸ばした。ゴン達に比べると才能無かったけれど、メンチさんの鬼のような特訓と、食材ハントで武術も身に付いた。
 マジで鬼だった。千尋の谷に突き落とすという言葉があるが、メンチさんは本当に突き落とすお人だ。あのハンター試験を見ていれば分かるだろう。
 食材のためでなかったら挫折していたと思う。悲しいかな、苦渋の後の食がまた格別なのだ。
 キメラアントは格別に美味いに違いない。さすがに王とかにゃんことかは人に近すぎて食欲は沸かないが、師団長クラスはいい。ブタさんとか、カエルさんとか、キルアのオトモダチのイカルゴとか、甲殻類で絶対に美味しそうなブロヴーダが好みだ。さすがにハンター陣営についた連中は調理したらまずいだろうし、そんな強い連中を私がどうこうできるはずもないので、主人公連中に任せて漁夫の利を狙うつもりだ。まあ、上を狙わずとも、下っ端の方が美味しそうだからそこまでは悩んでいない。上を見るとキリがない。でも美味しすぎたら狙いそうな自分が怖い。王は不味そうだけど、女王は虫っぽくて美味しそうだし。
 それよりも私にとって大変だったのは、文字を読むことだ。
 すべてひらがなで書かれた世界。
 そう考えると読みにくさは理解できるだろう。覚えても読みにくいため、長文を読むといらいらした。漢字は覚えてしまえばとても便利だと心から思う。
 メンチさんの年齢から逆算すると、あと一年半ちょいで漫画の原作時期になる。
 能力自体は完成しているから、後はコレを磨くだけ。
 ああ、とても長いようで短い日々だった。
 メンチさんとブハラさんと三人で、色々な物を食べて作った。
 年のそう離れていないメンチさんは現在まだまだ伸び盛り。なにせまだ彼女は十代。念使いになって日も浅い彼女が弟子を持つのが異例な事だったのだ。そんな彼女についていけば、当然一緒に成長する。
 メンチさんが途中まで、私を十二歳ぐらいの女の子だと思っていたらしくて、勘違いが発覚した時は少しややこしい事になったけど、今では師弟というよりも対等の仲間として一緒にいる。
 アレを食べ、コレを食べ、どう調理するか二人で争いブハラさんに宥められ……。
 だから彼等に別れを告げるのは、当初思っていたよりも辛かった。
「メンチさん、ブハラさん、私、そろそろ目標に向かって一歩踏み出そうと思います」
 私は寿司を握りながら二人に決断を打ち明けた。
「ハンター試験を受ける気になったの? 普通は逆なんだけどね。あんたならそんな気負わなくてもあっさり受かるわよ。動き出すにはまだ早いわ。ギリギリで十分」
「いえ、ハンター試験はまだです。私は念能力者としても、料理人としてもまだ経験が足りません」
「嫌味? あんたなら今すぐ宮廷料理人にだってなれるわよ」
「でも、このままだとうっかり毒殺でもしちゃいそうで……」
「美味しいからってフグを丸ごと食べさせなきゃいいだけでしょ。あんたはボケっとしすぎなのよ。
 あたしが言うのも何だけど、もう少しだけ慎重に食べなさいよ」
「それは……無理?」
 だって目の前に未知の食材があれば口にするのは当たり前。ついふらふら寄って、味見したくなるのが人というもの。そう、人の本能。過去の偉人達が積み重ねてきた道を、私は積極的に歩んでいるだけ!
「いくら毒に強くっても、人間だから限度はあるんだからね。あんたがいつか毒で死なないか心配よ、ほんとに」
 いやはやまったく。
 この世界に来て異様な身体能力の向上があった。元の世界なら、オリンピックでほとんどの競技で金メダルを取れるだろう。
 異世界補正はそれだけに留まらなかった。
 一度食べた味は忘れない……のはメンチさんも同じだけど、私の場合はそれに加えて、手当たり次第食べたせいか毒に対して耐性がついたのだ。トラフグ丸ごと食べてもぜんぜん平気なぐらい。
 無味無臭と言われる毒を味で判別できる。判別しても、食べても死ななかったりする。自分の致死量が全く分からない。分からないほど有毒な物を食べている。
 どんな猛毒も、慣れてしまえば毒が効かなくなるって本当だったんだね(この世界限定)と思ったものだ。ただ、フグの毒で舌がぴりぴりしなくなったのが悲しい。危険を承知で食べるあの興奮がなくなってしまった。
 普通は誰も越えない数多の死線を越えて、私は強くなり、ある意味強くなりすぎたために覚える憂鬱も体験した。味覚も嗅覚も化け物並みになったし。ゴン君がレオリオの香水の匂いを辿っていたが、今の私ならそれを真似できるだろう。
 それでも私は闘うのには向いていない。
 そんな憂鬱に浸っていたある日、この体質を生かせばあの場所で働けるではないかと思い至ったのだ。
 その場所は、私にとって能力を伸ばしたり、食材ゲットするのに最適ではないかとすら思えた。
 私はコバンザメタイプの念能力者だから、誰かに寄……共生しないと、目的は果たせそうにもないのだ。
「私のこの能力は、多くの方に食べさせてこそ有効です。コネも作りたいと思います」
 基本、食材狩りが最終目標のため、美食ハンターらしい能力になっている。使えるけど使えないね、と言われるが、私はまったく不自由していなかった。どうせ私は念能力者としては弱いから、それでいいと思っている。
「それはいいけど、当てはあるの?」
「まあ、何とかなるかと。雇っていただけたら、きっとしばらく連絡は取れません」
「あんた……どこに就職するつもりよ」
「安全な職場ですよ。ただ、ちょっと特殊な所にあるんです」
「特殊? ミテネ連邦とかの変な所って言わないわよね? あんた未知のゲテモノ好きだし」
 行くかそんな所。まだ早い。最終目標なんだから。
「いや、そこまではちょっと。あと、べつにゲテモノが好きなわけじゃありません。食べられる物はみんな大好きです。メンチさんだって何だかんだ言って食べるじゃないですか」
「そりゃそうだけど」
 食わず嫌いでゲテモノには手を出さなかった彼女は、私が好奇心に耐えきれずに何でも食べるものだから、彼女も誘惑に負けて一緒に食べ始めたのだ。もちろん私の様子を見て、安全と確認した物だけ。
 それでもパタリと倒れられた時に、私は自分の体質にようやく気付いたりしたんだけど。あの時は焦った。
 将来、キワモノ求めて寿司を試験に出すお人だ。私がいなくてもいつかはこうなっていたとは思うけど。
 私の介入で、よりキワモノを求めて寿司以外を出されても困るので、こうして故郷の味で洗脳している所。
「あ、ウニ頂戴」
「はい。あ、一ヶ月経って連絡がなかったら上手くいったと思ってください」
「そう……分かったわ。和食はあんたには敵わないから、この味が食べらんなくなるのは残念ね」
 さすがに和食だけは絶対に負けられませんからね。
「いつ出発するの?」
「明日の朝に」
「そう。がんばんのよ。何か美味しい食材見つけたら届けるように」
「あ、俺の分があるからたくさんね」
「はい。もちろんです。ブハラさんが満足できるほどお持ちします」
「絶滅するわよ」
「それもそうですね。ほどほどにします」
 大好きな二人と別れるのは身を裂くような思いだが、数年後にハンター試験で再会する事が出来る。
 もくろみが外れたら、ほんの数日で戻ってくるが。




 というわけで、
「始めまして。料理人の木下綾乃。アヤノ=キノシタです。先日まで美食ハンターの弟子をしていたので、体力と料理の腕には自身があります」
 ここはパドキア共和国。
 デントラ地区。
 ククルーマウンテン。
 そのどこかにある屋敷。
 何を考えて?
 もちろん主人公組に付いていくと死にそうだから、遠くからそれなりに主人公組に関わるため、王道の一つゾルディック家とお知り合いになろうと思ったのだ。旅団と違って見境があるため、使用人として入り込みさえすれば安全と踏んでいる。
 そのための能力は身につけたと、私は自負している。ここの人達なら、うっかり毒殺する事もないしね! むしろ毒入りがデフォみたいだし。
 人の心をガッチリ掴むのは、美貌でも力でもない、料理の腕である事を証明してみせよう。
「特技は一度覚えた味を忘れない事です。毒に耐性があります。毒の味も一度口にすれば判別できるようになります」
 執事さんは目を細め、履歴書に落としていた視線をあげた。ゴトーさんではないが、なかなか渋いオジサマである。
「……で、志望動機は?」
「経験を積むためです。料理人としての修行はしましたが、料理人としてバイト以外で働いた事がないのでは、料理の腕を磨いた意味がないと思い、こちらに参りました」
 それも本音ではある。働いていたのは身内の店。贔屓があるからこそ、高校生でしかない私が働けたのだ。
「美食ハンターなんだろう?」
「いいえ。美食ハンターについて修行をしていただけです。
 まだプロのライセンスは持っていませんし、予定もありません」
「でも、使えるな?」
 聞かなくても分かるだろう。ちゃんと履歴書にも念能力者だって書いたから。
「はい。移動系の念能力が使えるので、世界中を飛び回るゾルディック家の方々にも気に入ってもらえるのではないかと思います」
 大切なのは自分を売り込む事だ。とくに隠すような能力でもないし。
「移動系ってのは?」
「はい。私の料理を美味しいと思ってくれた方の所にデリバリできる能力です。大陸横断も出来たので、条件さえ揃えば世界中どこにでも行く事が出来ます」
「大陸を渡るのは凄いが、なぜそんな制約を?」
「もちろん料理人だからです。食べていただくのが私の至福ですから」
「…………」
 微妙な顔をされてしまった。
 制約付けないと消耗が激しすぎるからだ。それだけで何も出来なくなってしまう。
 逃げるために移動系の能力は必要だったが、逃げるだけでは意味がない。逃げようと思ったら、疲れて発動しませんでした、なんて馬鹿らしい。
 最低限、下っ端のアリを殺せる程度の戦闘力と、それがすんだ後に逃げ帰る移動能力。この二つは必須だった。
「普通の所で働くより、逆にこういう所の方が安全かと思いまして」
 ここはある意味、世界一安全な場所でもある。住人と敵対していなければいいのだ。
「とりあえず試験をする。ついてきなさい」
「はい」
 っしゃ、追い返されなかった!
 とは言っても、乗り込みに来た人間が雇われているような場所だ。実力主義だというのは分かっていた。予想通りで安堵した。
 執事達も皆念能力者。
 カナリアちゃんもまだ若いのに立派な念能力者だ。そうでなければキルア母の攻撃を食らって生きているはずがない。しかも相手はあのスコープ女。放出系か操作系。息子のイルミが典型的な操作系なので、操作系の可能性の方が高い。その母親とは性格がまったく似ていないが、父側が銀色だから、キルア以外は母親似である可能性が高い。
 猫っぽいという兄弟に共通する美点は、父側には見られないので、母親からの遺伝の可能性が高い。
 かなりの美女と予測できる息子達を持ちながら、なぜあの奥方は、あのように謎のスコープで美貌を隠すのか、理解できなかった。
「ああ、その前に」
 私は荷物の中から風呂敷包みを取り出し、包んであった箱を差し出した。
「よろしければ皆さんでお召し上がり下さい。私が作ったおはぎです。もちろん毒類は一切入っておりません」
 捨てられるかも知れないが、料理人として面接を受ける以上、こういう事は大切だ。
「有り難く頂こう」
 食べてもらえると良いなぁ。
 メンチさん達は食べてくれただろうから、別にいいけど。
 ここを乗り切れば、憧れていたククルーマウンテンの樹海でハントも出来る。
 ミケちゃんって美味しいのかなぁとか思わなくもないけど、それは我慢して、この広大な土地に住まう世間に知られていない食材をゲットするのも、私の野望の一つである。
 私の食材達、首を洗って待っててね。



[14104] 3話 ククルーマウンテンでお茶汲み
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2010/02/18 23:21
「ところで……あの、なんですか、この廊下」
 私は前を歩く執事に尋ねる。
 薄暗い地下通路だ。
 執事が通った場所は安全だが、それ以外は見るからに妖しい床などがあった。見るからにというのは、普通の罠と凝をしなければ見破れない罠、両方を合わせてだ。
「採用試験用の廊下だ」
 何それ。何ですのそれ。
「この屋敷って、そんなに厳しいんですか?」
「執事はな」
 そりゃそうでしょう。この土地での執事とは、番犬を兼ねているんですから。
「執事さん? 私は料理人ですが?」
「執事用だ」
「あの、料理人は?」
 美食ハンターみたいな人には変わり者が多いから、一流で定職に就くような料理人で、さらにあの門を開けられるなんて人がいるとは思えない。
「純粋な技術職に関しては、外部との接触に制限を付ける代わりに、門から入るのを免除される事がある。私達ではそこそこ美味い物は作れても、一流のシェフには劣るからな」
 そうそう。両方出来る数少ない人達は、武の方に重きを置く。だから料理人として中途半端で、料理人としても雇われる事がない。ただでさえ美食ハンターはマイナーである。
 それに美食ハンターは他のハンターよりも変わり者が多い気がする。逆に無力な一流の方が逃げられる心配も、外部と接触する心配も無くて良いって事になるのか。
 執事さん達、過保護そうだもんなぁ。
「だが移動用の念能力があるなら接触を断っても意味はないだろう。基本的に私達と同じ扱いとなる。念能力まで身につけた一流の料理人が誰かに雇われようというのがまず珍しいから、料理に自信があるなら堂々としていればいい」
 食材ハントしていると、定職には就けないからね。
 瞬間移動は放出系の能力だ。放出系能力者だと短気な人が多いから、まず戦闘やら自分の好きな事に有利な能力を作ってしまう。だからここまで広範囲で動ける念能力は、かなりレアな能力であるらしい。
「作って食べさせるだけで満足するような料理人なら、試しの門を開くような力は必要ない。拘るのは、その必要がある美食ハンターだけだ。美食ハンターが世間と隔絶される名家に入り込もうとは、普通ならば思わないらしい」
 なるほど。
 自分とメンチさんの違いはそこか。
 私は食に対する拘りも強いけど、誰かに食べてもらいたいという思いも同じほど強くある。メンチさんは自分が食べたい、という思いの方が強い。
 だから積極的に移動せずにはいられない。
 だから疑われるのは当然だろう。
 しかし入り込んでしまえば、こちらの物だと思っている。私は本当にちゃんと働くだけだから。
 外部との連絡を取りにくくなるのは覚悟していた。信用もないのに、写真だけで一億とかいう一族に雇われて、外部に連絡できるなら驚く。見張られている可能性も高いので、下手な事は出来ない。だから一年近くは連絡をとらないつもりでいた。
 就職報告だけでも、疑われる可能性は高い。
「この罠、発動させたらどうなるんです?」
「移動能力のある貴方には関係ない」
「発動までタイムラグがあるんで、罠の回避には合いませんよ。服が破れるようなのは嫌ですね」
 意地の悪い歩き方をする執事に続き、凝で警戒しながら進む。嫌らしい罠はなく、普通に彼の歩いた所を歩けばよかった。
 大自然の中で獲物を追っていたため、何かの足跡を追うのは得意だ。
 やがて渡り廊下に出て、雰囲気の違う建物に入った。
 今までいたのは執事達使用人のための屋敷で、ここが本邸なのだろう。屋敷というより城だな。漫画の中でも石造りだった気がするし。
 にしても……見られているなぁ。
 しずしずと歩きながら、私は視線を追った。振り返っても誰もいないが、たぶん近くに誰かいる。隠し扉もたくさんありそうだ。
 目立たないが、至る所に監視カメラもある。
 見られている事に気づけなければ、野生動物に襲われる。市場とレストランと厨房以外はほとんど大自然の中で過ごしたため、これぐらい出来ないと死ぬ。マジで。でもこれがいつか、アリやらジンさんが乗っていた変な生き物やら、グリードアイランドの食い物を食べ、可能ならばモンスターを補食する力となるのだと思うから耐えられた。
 そうでなければ、誰が幻獣ハンターの敵と言われながらも秘境なんかで過ごすものか。
 あ、ビーストハンターとかUMAハンターにも言われた気がする。
 初めて見る生き物は手当たり次第食べたからね。メンチさんにもちょっと呆れられた。自分だって同類のくせにさ。
「こちらだ」
「はい」
 迷いそうなほど複雑な造りの本邸の廊下を案内され、最後に通された部屋には、知った人物達がいた。
 ゼノとイルミ。そうとしか言いようのない二人が、ソファでくつろいでいた。あと、部屋の隅にはゴトーさんっぽい人もいた。
 まさか、いきなり漫画の登場人物三人に会えるとは……。
「その娘さんか」
 ゼノに見られ、緊張しながら頭を下げた。
 心の準備が……。
 この家の中で一番好きなのはゼノだ。
 理由は一つ。
 コムギを殺しかけてショックを受けていた彼が素敵だったから。
 私の好みはロマンスグレー。
 ゴトーさんも渋くて素敵!
「ジャポン出身か」
「はい」
 そう言う事になっている。少なくとも育ったのはジャポン、という設定。あとは勝手に想像してください。
「変わった着物じゃのォ」
「ジャポンの流行ファッションです」
 私が身につけているのは俗に言う『和ゴス』だった。
 それが本当に流行っていて、普通の着物よりもこの世界観には合っていたため、呉服屋で買った。呉服屋に売っていた。
 もちろんミニスカではなく、ロングだ。ミニスカでは品がない。素材も高品質で、私の一張羅だ。割烹着もよく似合う。
「名前は」
「アヤノ=キノシタと申します」
「移動の念能力があるそうじゃな」
「はい」
「見せてくれんか」
「制約があります。私の料理を食べ、美味しいと認め、その方に空腹を訴えていただかなけばなりません」
「面倒な制約じゃな」
「死なない程度に飢えさせた者が一人いれば、大陸を渡るのも瞬く間。ヨルビアン大陸とアイジエン大陸を五度ほど連続で行き来できます。ついでに荷物もかなりの量を運ぶ事も出来ますわ」
 バイオハザードで大変なことになったとき、確実に安全そうな他の大陸に逃げるため、真っ先に考えた能力だ。
「なるほどのォ」
 もちろん、まだそのような人間を飼ってはいない。だがそれを前提に作った。その飢えた人間に死なない程度の餌を与えさせる人間を一人雇う事まで考えて作った。
 心の底から美味いと認めさせるのは意外と難しい。まあまあではいけないのだ。心の底から。だから味覚障害者には使えない能力だ。
 飢えさせていると、何を食べても心の底から美味しいと思うけどね。
「面白いね。オレ試してみたいな」
 そう言ったのは意外にもイルミだった。意外と好奇心旺盛らしい。
「料理人として面接に来とるんじゃぞ」
「え、今のが料理人の面接なの?」
 首を傾げる無表情猫男。漫画でもこの兄弟は猫っぽく書かれているが、リアルでも猫っぽい男だった。美形だが、ほとんど瞬きしないので不気味だった。でも美青年。さらさらストレートな女が羨む艶髪がちょっと羨ましい。どんな手入れをしているんだろう。いつか聞いてみよう。籠絡する第一目標はこの男なのだから。シルバとかはさすがに怖い。
 籠絡するのはキルアでもいいのだけど、餌付けしすぎて友達になってとでも言われたら、死亡フラグである。お友達は死亡フラグ。
 胃袋を掴みつつ、原作が始まるまでは接触を持たないのが理想だ。もっとしっかりとした友人を手に入れてから料理を届けていれば、安全な位置で原作介入が出来る。
 このために料理の腕を磨いて磨いて磨いたのだ。
 料理に自信があるからこその能力。
 料理人三人で酒を飲みながら話し合ったら、酔っぱらってノリで決めてしまった、という言い方も出来た。まあ、重宝しているから良いけど。
「じゃあまずは茶でも淹れてくれ」
「畏まりました、旦那様」
「ワシはゼノじゃ。これは孫のイルミ」
「畏まりました、ゼノ様」
 当主は息子である事を思いだし、もう一度お辞儀をして準備に取りかかった。
 名乗ってくれたと言うことは、採用自体はほぼ確定と見て良いだろう。私の料理の腕はメンチさんに並ぶから、食べさせる事に成功したら、まず間違いはない。
「オレは紅茶がいい。ストレートで」
「畏まりました」
 作品の印象通り我が道を行くマイペースな猫男に笑顔を返し、見える位置にある簡易キッチンを借りてお茶の用意をした。
 山の上の方だけあっていい水だ。日本の水よりは若干硬いが、料理の味を殺さない程度には柔らかい。
 並ぶ茶葉はどれも最高級の物だった。知らない品種もあるが、きっと同等以上の物だろう。さすがは金持ち。いい生活をしてやがる。これが人を殺して手に入れた物だと思うと……別に何とも感じない。私も食い物のためなら人ぐらい殺せそうだし。まだ、殺しはした事がないけれど。
「これだけいい玉露なら、すすり茶がよろしいですわ」
 蓋付きの湯飲みもある。日本人でも知らない人の多い飲み方だ。
 一度沸騰させた湯を湯冷ましに入れて放置。
 先に沸かし立ての熱湯が必要な紅茶を淹れる。
 茶葉は指定されなかったので、私の好みで選んだ。ストレートならこれが好き。
 どうでもいいが、あの猫男に好みってあるんだろうか。出されたら何でも食べそうな気がしてきた。ゼノ様は味に五月蠅そうな気がする。その方が有り難い。
 紅茶は熱湯を使えばいいだけのお手軽な飲み物だと思われがちだが、それは少し違う。難しくはないが、ちゃんと湯が沸くのを見ていないといけない。沸騰したての熱湯でないと、茶葉がジャンピングしないからだ。
 それに対して緑茶はさらに繊細である。湯の温度で素人でも分かるほど、全く味が変わってくる。
 ついでに持ってきた土産を切って皿に乗せた。
 おはぎと、手作りの黒ごまタルトだ。お好みで食べていただこう。
 まずはイルミのお茶の準備が出来たので、先に出す。
「ゼノ様、もうしばらくお待ち下さい」
「かまわんよ。これはおぬしが作った物か」
「はい。ごく普通のおはぎと黒ごまタルトです」
「ごく普通か」
「はい」
「料理にこだわるから、何か特殊効果でもあると思ったが」
「向いておりません」
 もちろん少しは考えたが、体力を回復させる料理など。
 しかし真っ先に頭に浮かんだ単語は『ポイズンクッキング』だったのだ。
 毒殺してどうする。
 しかしどうやっても思い浮かぶ単語は『ポイズンクッキング』。何度頭から打ち消してもポイズンクッキング。
 あの時はまだ、自分の体質に気付いていなかったのに、出てきたのが『毒』だったのだから、私はどこまで毒物が好きなのかと……。
 どうせ変化系は苦手だから、さくっと諦めた。
 それに料理に変な効果を持たせるのは邪道だ。料理でドーピングなど、それは既に料理ではない。
「ん、美味しいね。キルとカルに持っていったら喜ぶんじゃないかな」
 捨てられる覚悟をしていたけど、普通に食べた。まあ、この人達を殺せる毒なんてどこにあるかも分からないし。
 しかし、ちゃんと味覚は存在したらしいねイルミ様。心の中でも様付けしないと、とっさに呼び捨てしそうだからちゃんとしよう。呼び捨てなんてしたら、どんな処罰を受けるかと思うとマジ怖い。
 でもミルキ様は喜んでもらえないのか、ミルキ様が可愛くないのか、ジャンクフードが好きでちゃんとしたお菓子は食べないのか。
 でも寿司食べてたから、普通の料理が好きではないってことはなさそうだし……。
「これで移動できるのかな?」
 私がミルキ様の味覚を想像していると、イルミ様に問い掛けられた。
 移動ってことは、本当に試してみたいから食べたのか。
 意外と子供っぽい所がある人だ。漫画の出番って、仕事している所か、人間捨てている所か、ブラコン炸裂させている所しかなかったし、実はよく分からない人だ。ブラコンって所だけは確信できるけど。
「確認致します」
 私は【顧客リスト】を具現化する。もっとそれっぽい名前を付けたかったけど、出てこなかったのだから仕方がない。
 このリストに名前の載っている人物の所に飛べるのだ。
「あ、ありました。美味しいと思っていただけて光栄です」
「ふぅん」
 イルミ様は立ち上がり、後ろから覗き込んでくる。チビの私とは頭一つ分以上の身長差があるため、テーブルに手をつき、かがみ込んで覗かれる。
「あまり空腹でないようなので飛べません」
「そんな事も分かるの?」
「はい。色で。
 分からないと飛べませんから」
「そのリストの名前、食べたら全員載るの? 覚えてる?」
「今のところは分からない方はほとんどいません。知らない方に無差別に食べさせると、わけが分からなくなりそうですし」
「増えてきても消せないの?」
「ランクによって消え方が異なります。共通するのは、作った料理を美味しいと心から思っていただけないとリストから消えてしまいます。ですから私がわざと不味い料理を作れば消す事は出来ます。
 今イルミ様は第1段階、一見様ページに名前があります。段階を踏めば常連様ページに移せるので、埋もれてしまう心配はありません」
「段階って?」
「フルコースを綺麗に食べていただき、また食べたいと言っていただきます。一品でも手を付けなければ一見様のままです。ここからは年に一度、何か一つでも私の作った料理を食べていただかなければリストから消えます」
 常連ページを見せる。
「ここに載ると何かあるの?」
「名前と空腹以外のステータスが見られます。常連ページはこのように現在いる大まかな場所と、何をしている方なのかが載ります。この場にいらっしゃるゾルディック家の皆様なら、ククルーマウンテン、暗殺者となります。
 こちらの賓客ページに載ると、それに加えて簡単な健康状態の把握とご送迎が可能になります」
「送迎?」
「はい。お迎えに上がり、共に私が元いた場所に戻り、再びお客様のいた場所に戻る事が出来ます」
 猫長男イルミ様はじっとリストを見つめていた。個人情報でもあるため、私はリストを閉じて、具現化を解いた。
「どうして閉じるの」
「オーラの消費量が高いんです。あと……」
「あと?」
「無性に何かを食べたくなります」
「…………変な子」
 無表情な闇猫男に変って言われた!?
 瞬きぐらいしやがれ!
 あ、した。
 たまにはするんだ、瞬き。
 まあ、人間だからね。生きてるから当然か。
「腹減らすから、残り食べて」
 イルミ様は食べかけのタルトを差し出してくる。
 いや、別にいいけどさ。
 私は差し出されたタルトの表面を撫で、指を舐めた。
「イルミ様、毒を振り掛けてしまうと、味が変わってしまいますわ。毒入りがよろしいのでしたら、私に申し付けくださいませ。それを含めて美味しく仕上げて見せますわ」
 こいつ、人が見ていない時に、私の可愛いタルトちゃんに毒振り掛けていやがった。毒耐性があると聞いていたのか、けっこう強めの下剤だ。
「どうやって?」
「一度覚えた味と香りは忘れませんもの」
「無味無臭だよ」
「無味無臭でもわかります。
 それに固形物に粉をかけたら見ただけでも分かりますわ」
「よく見てるね」
「それが料理人という物ですわ。自分の作った物に対する責任と愛情があれば分かります」
「それはたぶん違うと思うよ」
 まさかイルミに突っ込まれる日が来ようとは……。
 私は気を取り直して放置していた湯冷ましの元へと向かい、人肌にまで冷めた事を確認し、茶器に入れた茶葉にゆっくりと湯を注ぐ。
 蓋で茶葉を押さえて、すするように飲むのだ。柔らかく良質の物なので、茶殻もぽん酢をかけると美味しい。
 とても贅沢な飲み方だ。



あとがき
このオリ主は芋虫も大好きですが、普通の美味しい物も大好きです。
ところで、グリードアイランドのモンスターって捕食可能なのか、最近とても気になります。



[14104] 4話 インスタントデリバリ
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2009/11/29 22:52

 夕食前、私は【顧客リスト】を開き、イルミ様の携帯に電話をかけた。
「お食事はいかがでしょうか」
「うん」
「では参ります」
 私は【インスタントデリバリ】を発動させる。
 瞬間配達。そのまんま捻りもない能力名。だって思いつかなかった。そう言えば、新しい料理を作っても、自分で名前つけられなくて困った物だ。
 私には名付けのセンスがない。
「お待ち遠様です」
 私が出た場所にいたのは、ミルキ様以上のゾルディック家の皆様と執事、メイドが数人。
 ミルキ様がこちらなのにやや戸惑った。
 年少組には見せられないのは分かっているけど、キルア様達はどうしたんだろう。ちゃんと人数分作らされたのに。
「料理人志望の、アヤノ=キノシタと申します」
 ゼノ様達以外にもいるから挨拶をする。当主のシルバに、イルミと一緒に暗殺に参加していた名前も知らぬちっこいじいちゃん。ゾル家は好きだと思っていたけど、知らない事が一杯だ。意外と旅団の方が全員名前を知っているから、詳しいのかも知れない。
「まあまあ、なんて可愛らしいのっ!」
 私がくだらない事を考えていると、奥様がイメージ通りの甲高いキンキン声でおっしゃった。この人も名前なんていうんだろう。コミックでは見た覚えがないな。キャラが強烈すぎてよく覚えているけど、このスコープは一体何なんだろうか。
 でも可愛いって?
「なんて素敵なお洋服!」
 ああ、和ゴスか。
「お褒めにあずかり光栄ですわ。この着物はジャポンで流行っております、和ゴスと呼ばれる着物に御座います」
 ただし若者に、だけどね。
 和ゴスを正式になんて言うか知らないから適当だ。
「通販で買えるらしいよ、母さん」
 イルミ様にも興味を持たれて、通販の事を話したのだが、母の趣味を把握していたからの質問だったようだ。
 奥様、子供をどんな風に育ててるんですか? 想像するとイルミ様が可哀相で可哀相で。だって長男。生まれた時に受ける愛とその他諸々が分散する事のない長男。
 この家の、この母の、長男。
 想像するだけで恐ろしい。こんな風になったのも、きっとそのせいに違いない。
 さらに言うと、この奥様は息子に着物を着せる変人だ。いつかカルト様が着せられたりするんだろうか。
「カルトちゃんにきっとよく似合うわ!」
 やっぱり……。
「落ち着いたものから、フリルの付いた丈の短いものまで、多種多様にございます。去年の物でしたらカタログがあるので、後でお持ちいたしましょうか?」
「そうしてちょうだい」
「畏まりました」
 ごめんなさいカルト様。でも振り袖よりは動きやすいと思います。許してください。
「用意した前菜はどちらにお持ちいたしましょう。一時間以内にイルミ様に料理を食べて美味しいと言っていただけないと、一週間何も出来なくなってしまいます」
 強制絶。これが大きな制約になっているらしい。ちゃんと食べてくれる、悪意のない相手に使わないと危険だが、親しくない相手に使う能力ではない。
「隣の部屋で下の子達が待っているわ。ついていらっしゃい」
 私はカートを押して上機嫌な奥様の後を続く。
 よかった。
 気に食わない相手は銃殺するようなお方だと思うから、本当に良かった。
「前を失礼いたします」
 腕を組んで私を見ていたシルバ様達にお辞儀をして、前を通りカートを押す。
 他の料理人の方にも会ったけど、さすがに念能力者はいないらしくて、料理長からも特別な計らいを頂き、新人でありながら前菜を任された。
 めちゃくちゃ腕の良い料理人だったが、レパートリーでは多国籍料理国家の日本育ちで、一年近くかけて様々な国を渡り歩いた私には勝てないだろう。
 料理長を持ち上げつつ、厨房を支配するのは難しくはなさそうだ。
 後は胃袋を掴むだけ。
 キルア様と顔見知りになってしまうが、イルミ様を見習い変装すればどうとでもなる。今は楚々とした和風少女だ。少しはっちゃけるだけで別人のようになるだろう。ほとんど口をきかなければ、それで誤魔化せる。
 だって今の彼は観察力が足りないから、強いか弱いか以外は表面の事しか見ていない。
「あ、母さん。何してたんだよ。オレ、もう腹減って死にそう」
 ああ、キルアだ。銀髪の猫美少年可愛いな。もうなで回しちゃいたいぐらいだが、使用人なので我慢。
 カルト様もいる。この頃はまだ女装はないようだ。イルミ様とキルア様の中間ぐらいの顔立ちで、普通に可愛い男の子。
「今夜の夕食は新しいシェフのテストを兼ねているのよ」
「新しいシェフ?」
 私はにっこりと微笑む。
 鏡の前で練習し続けてきた、楚々とした大和撫子の笑顔だ。
「アヤノと申します」
「オレと同じぐらいじゃん」
「ミルと同じ年よ」
 奥様は私が提出した履歴書を見て言う。
 そ、そういえば同年代ぐらいだよね。
 はっきりと言われるとなんかショックなんですけど。
「うっそだぁ」
 まだ私よりも背が低いキルア様は、私を見てそんな事を言う。
 うう、チビなのは気にしてるのに。
「失礼だろ、キル!」
「なんでブタ君が怒るんだよ。意味わかんねーよ」
 ええ、まったく分かりません。
「ようやくうちにも合法ロリ巨乳が来たんだぞ! 失礼な事を言うなっ!」
「マジで意味わかんねーよ」
 ええ、マジで分かりません。もっと言えキルア。
 このオタク、実は生きている三次元でも良かったとは予想外。しかも今の言動からするに、私はお眼鏡にかなってしまったようだ。
 そういえば、彼のお部屋には巨乳のお人形さんがいたような気がする。
「わ……私の事よりも、どうぞお料理をお召し上がり下さいませ」
 料理こそ私の全てだ。
 人を見て、フコーっと荒い鼻息をつくミルキなんてどうでもいい。可能な限り、二次元だけに目を向けていてくれ。
「三種類の豆とサーモンのジュレ、キャベツと豚肉のプレゼ、人参ムースです」
 私が紹介すると、キルア様はふーんと言って家族の中で一番始めに料理を口にした。
「あ、うまい。これマジ人参? オレ人参あんまり好きじゃねーのに」
「はい。人参は品種改良され、最近市場に流れ始めたクセのない甘味の強い物です。生で食べても美味しいんですよ」
 私はゲテモノだけの女ではない。ゲテモノも食べる女なのだ。
「コレで作ったケーキがとても美味しいんです」
「へぇ。女は甘い物好きだから、甘い物作るの得意そうだよな」
「はい」
 子供は菓子で釣るのが一番。
 このまま食って、私に管理されるといい。
 健康的にしてやんぜ。



[14104] 5話 原作キャラに餌付け1
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2010/02/18 23:22
 私が採用されて三ヶ月。
 今日もお仕事で外に出られたイルミ坊ちゃまから携帯に連絡があった。
 私はゾル家のご子息を、坊ちゃまと呼ぶ事にした。
 理由は色々とあるが、執事さんの中には坊ちゃんと呼んでいる人がいたから、というのは建前で、使用人としての一線を引きたかったのだ。
 ミルキ坊ちゃまと。
 日に日に視線が怪しく、ねちっこくなっている気がするのだ。荒い息とロリ巨乳という呟きには鳥肌が立った。
 この国では十八歳以下の少女が違法らしい。私は今年十八になるけどまだ十七歳。そもそも同い年のミルキ坊ちゃまにはその辺りの正確な年齢とかあんまり関係ないから、ただ『合法ロリ』と言ってみたかっただけなんだろう。きっと。
 って、現実逃避している場合ではない。
「はい、アヤノでございます」
『やあ、アヤノ。元気だよね』
 なんですか、その問いかけのようで決めつけの言葉は。
「はい」
『こっち来て、フルコースお願い』
 最近、イルミ坊ちゃまにすごくこき使われます。予想以上にこき使われます。覚悟していた以上にこき使われます。
 有料だから、貯金がどんどん貯まるのだけは嬉しいです。
 信頼していただいて、毒物を扱わせていただくようになりました。味見できる料理人は他にいなかったので重宝されています。
 でもちょくちょく呼ばれていなくなるので、やっぱり補欠扱いです。
「かしこまりました」
 断れるはずもなく、私は引き受けた。
 私の能力は相手の状況をある程度知る事が出来る、便利だが私をよく知らない相手からすれば、少し不愉快な能力だ。
 ただし、私に不味い飯を作らせて食べれば、すぐにリストから消せるので、雇い主の皆様としてはそう悪い条件ではないらしい。
 せいぜい現在いる都市名と健康状況が伝わる程度だと思われているから。
 実は私にしか分からない情報もあるんだけどね。
「何名様でしょう」
『知り合いが一人。たぶん嫌いな物はない。材料の調達はそっちでして。絶対に現地調達しないで。あ、ちゃんと冷蔵庫からね。庭で調達するのはやめてね。
 あと猟師小屋でテーブル小さいから、皿は小さめで良いよ』
「かしこまりました」
 何か。
 お庭で美味しそうな食べた事のない食材を捕獲し、その場で調理して自分で食べた事が気にくわなかったのか? ミケにしか食べさせてないのに。
 それとも、基本的にはお上品な人だから、食材は売り物しかダメなんだろうか。これだから金持ちのボンボンは……。
 お迎えのために用意していたのはガトーショコラ。フルコースのデザートにはこれを使おう。
 メインの肉は超高級和牛。ジャポンはさすがに日本に近い国だけあり、肉の質が良い。この世界一私好みだ。うっとりしてしまう。これを向こうで焼こう。冷めたら美味しくないから、鉄板焼き。
 うんと美味しく作って、イルミ坊ちゃまを唸らせよう。これだけの材料を使って、イルミ坊ちゃまがリストから消えたら、私は料理人として死んでしまう気がする。がんばろう。
「さて」
 料理に必要なのは手間暇だと言っていい。その手間とは、料理の直前に必要な物ばかりではない。私は常に準備をしている。いつ、フルコースを要求されてもいいように。
 こうして私はゾル家にとって欠かせない、レア能力者としての地位を築いていく。
 ついでにキルア坊ちゃまの身体作り。
 本当はミルキ坊ちゃまのダイエットも手伝おうと思ったのに、下手に近づくと私にコスプレをさせようとするのでなかなか上手くいかない。本当に、何がそんなにお気に召したのやら。
 変な所で前途多難である。






 変な所で前途多難。
 私はさっきそう考えた。
「やあ、こんにちは♣」
 猟師小屋の中、うちの坊ちゃまと、特徴がありすぎて一目でそうと分かる殺人ピエロが、仲良く(?)トランプしていた。
 そういえば二人は知人という名のお友達だった。忘れてた。まさか三ヶ月目で出会う事になろうとは……。
 しかしこの方達は怪しいって意味では近いけど、並んでると違和感ありまくり。ピエロが浮かないのって、お祭りかサーカス小屋ぐらいだけど、うちのイルミ坊ちゃまも仕事着のセンスが微妙だから、とにかく合わない。
「こ、こんにちは。
 お初にお目に掛かります。ゾルディック家の料理人、アヤノと申します」
「小さいのにえらいねぇ♥ ボクはヒソカ。よろしくね♠」
 ピエロに子供扱いされた!
「小さいけど小さくないよ。うちの上の弟と同じ年だから」
「いくつ?」
「十七」
「じゃあ……もうすぐ大人だね♥」
 またその基準か。
 ああ、嫌だ嫌だ。この手の思想の人はもう嫌だ。
「手、出さないでね。弟のお気に入り」
 ちょ、イルミ坊ちゃまともあろうお方が、いきなり何を言い出すんですか?
 弟に私を売る気か? まさか、身内になればタダ、とか考えてるとか? この人、家族は大切みたいだし……。
 いや、確かにトリップ補正なのかオーラ量多いよ?
 毒も平気だし、逃走にも出張にも便利なレア能力者だし。
 でもなんで次男? 兄弟いっぱいいるのに次男?
 私的には次男だけは嫌なんですけど。まだショタコンと言われようが、下のお子様達の方が良いのですが。
「滅相もないことでございます」
「大丈夫」
「はい?」
 何が大丈夫?
 イルミ坊ちゃまは、黒トリュフのような瞳で私をじっと見て言った。
「母さんが気に入ってるから大丈夫」
 私が嫌なんだよ!!
 なんであのイルミがあのミルキのキューピットするの? 可愛いキルアだけラブでいてくれればいいのに、他の弟も可愛いの? とくにミルキには目もくれてない気がするんですけど。それとも母を黙らせるため? 娘が欲しい母のために親孝行?
 でも私にだって選ぶ権利ぐらいあるのに、人権無視しないで。マジで。
「ミルキ、イヤ?」
 ちゃんと分かってんじゃないか。
 もちろんそんな事をストレートに言う度胸など無い。
「お煙草を吸われたり、ジャンクフードを食べる方とは、オトモダチ以上にはなれません」
 ん、あれ? ひょっとしてそれなりにストレートに言ってしまった?
「言っておくよ。アヤノのためなら、やめるかも知れないし」
「いえ、それはいいんです」
 言うな。言わないでくれ。イルミ坊ちゃま経由だと、ろくな伝わり方しないから! それで障害がなくなったと思われるのは嫌です!
「それよりも、少し早いですがディナーにいたしましょう」
 外はまだ明るい。いつもならあと一時間は後だ。
 猟師小屋に備え付けてあったテーブルを隅に寄せ。持ってきたテーブルを代わりに置く。
 椅子を引き、イルミ坊ちゃまが腰掛けるのを待った。
「テーブルも運べるんだね。持ち帰れる?」
「私が念無しで持てる重さなら触れているだけで運べます」
「じゃあ、帰ったら筋トレ」
 一体、何を持たせる気だ、この人。
 私、面接を受ける時は、ちゃんと試しの門から入ってきたから、よっぽどの物でない限りは運べますけど?
「何か重い物を運ぶご用が?」
「べつに」
 何となくですか。かも知れないからですか。
 まあ、マイペースさが操作系っぽいですよね。
「ワインは何になさいますか」
「アヤノが選んで。外れた事ないから」
「かしこまりました」
 私的には、別にヒソカは顧客リストにはいらないんだけどなぁ。
 私は戦闘苦手だから青い果実とか気に入られたりしないけど、変態とお知り合いにはなりたくない。リストに入れたくない。穢されたような気になるから。
 まあ、ヒソカからしても、私みたいなチビには興味ないだろう。穢された気になるのは思い上がりというものだ。
 マチさんみたいな強くて美人でなくて、本当に良かった。それだけが救いだ。
 うん、きっと大丈夫だ。私は大丈夫。
 気を取り直して、準備をする。
 この場合のフルコースとは、オードブル、スープ、メイン、デザートの簡略化された物でも可。理由は簡単。女性には食べきれない量になるから。今の私は余裕で食べられるが、昔の私には無理だった。
 しかし今日は男性二人。メインは魚と肉、両方出す事にした。
 まずはテーブルに前菜を置く。チキンと野菜のテリーヌだ。
 グラスにワインを注ぎ、保温瓶に入れたスープの準備をする。
「ヒソカ様、お口に合いますか?」
「とても美味しいよ♥」
 第一段階クリア。
「まさかこんな所でフルコースが食べられるとは夢にも思わなかったよ♦」
「そうですか? 意外と何もなくても作れるものですよ」
「それは面白そうだ♥」
 これはチャンスか?
「また食べたい?」
 見守っていたイルミ坊ちゃまがヒソカに尋ねた。
「ぜひ♣」
「最近よく連れてるから、依頼してくれたら食べられるよ」
 営業と見せかけて言葉を引き出したのは見事だ。
 最後まで食べさせればヒソカは常連様だ。まだ一回目の食事なのに常連って、我が事ながらおかしい気もするけど。
 私はバーベキューセットを組み立て、炭を燃やし、鉄板を用意し、それとは別にフライパンを温める。
 職人が作った私の愛用フライパン。
 たまに武器になったりするけど、大切なのでよっぽどの事がない限りはこんな物では殴らない。
 準備していたホタテをムニエルにして、皿に盛りつける。ホタテは生け簀で飼っていた物。いやぁ、生け簀なんてあるのを見た時は驚いたね!
 魚介類好きだからたまらない。高級食材を容赦なく仕入れさせていただいております。
 次は口直しのシャーベットを出して、肉の準備。
「アヤノ、何の肉? ソースは?」
「ビーフです。よい肉なので、塩と胡椒だけで味付けします」
「そう」
 取り入るは良いけど、イルミ坊ちゃまとは会話が長く続かない。
 気まぐれに、唐突に話し出し、用が済めばまた無言。気がある時は意外とよくしゃべるが、それ以外の時はひたすら無言。
 肉と付け合わせを焼き、味付けして、メインのステーキが完成する。
 ここまでしてしまえばあとはデザートだけ。好きなだけお友達同士で話しててください。私は頃合いを見て食後のデザートとお茶を用意するだけ。
 殺人ピエロも、ただの送迎係には襲いかからないだろうから、案外平和な一時だ。
 あくびが出そう。
 私は柔らかに影を揺らす蝋燭の明かりの中、あくびをしないよう、何気なく頭上を仰いで、目を見開いた。
「……美味しそうっ」
 食べた事のない食材が天井に張り付いていた。
 モモンガのような、虫のような、そうでないような。
 ワケの分からない正体不明の生物。つまり未知の食材。
 私は反射的にクレーンゲームの景品サイズのぬいぐるみを、持ち込んだカートの中から取り出し、狩り用の念【私の可愛いコックさん】を発動させた。
 見た目は絵描き歌のあれ。もちろん手作り。神字を刺繍してある。ちなみに、暇な時にたくさんつくって、ベッドに並べて一緒に寝ている。
 この子にはペティナイフを持たせている。
 殺傷力には乏しいが、サイズ的にちょうどいいのだ。包丁だと少し大きい。
 私にとって調理器具はイルミ坊ちゃまの針、シャルナークのアンテナのような物。ぬいぐるみを動かす力ではなく、私の調理器具を持つ物を操作する力だ。
 移動用の念で私の容量をかなり食われてしまっているから、これも制約は厳しくなっている。
 ヒソカとは正反対だな、私。
「ねぇ、アヤノ……美味しそうって、まさか、それ食べるの?」
 自分の戦闘能力の低さに嘆きながらコックさんが戻って来たのを受け止めると、心なしか顔を引きつらせたヒソカが問うてきた。
 コックさんが抱えるその生き物は、無数の足がわしゃわしゃ動いていた。
 とっても美味しそう。ほら、シャコとか美味しいし。
「ええ。そうですが何か?」
 ヒソカがコックさんが捕獲してきた食材と、料理を見比べた。
「この肉…………一体何の肉……かな♦」
 いや、さっきビーフだって言ったばかりなんだけど?。
「それはジャポン最高級のビーフです。ごく普通のお高い牛です」
 たぶん、こういう事が聞きたいんだろう。
「それは良かった♣」
 ピエロが珍しく、本気で安堵しているように見える。
 自分の腕を食うような変態が、たかがちょっと見慣れない虫っぽい何かに怯えるなんて、変なの。私からすれば、自分の腕に食い付く方がよっぽど異常なんだけど?
 何にしてもこれは不快なようだから、コックさんを使って専用のストッカーに放り込ませる。
「そのゲテモノ趣味がなければ、文句ないんだけどね」
 イルミ坊ちゃまが相変わらずの無表情でおっしゃる。
 不味い物は基本的に食べずに作り直しを命じるグルメさんらしいから、美味しいと思って食べて下さっているのだけは確か。
 私の料理を評価する人は、例外なくいい人だ。私を傷つけなくなるから。私が逃げたり裏切ったりしなければ大切にしてくれる。
 だからイルミ坊ちゃまは私にとってはいい人。
 ただ、私の趣味を理解してくれないだけ。
 別に理解してもらえなくてもいい。私も彼の能力が理解出来ないから。なんであんな能力? と思うのはお互い様。
「他人には一般的な食材しか食べさせませんので、お気になさらないで下さい」
 虫とか美味しいけど、嫌がられるのは分かっている。私も生理的に受け付けない生き物は存在するし。
「コックさん、ありがとう」
 感謝を述べて、コックさんを荷物の中に戻す。
「それが君の攻撃用の念?」
「ただの食材ハント用の能力です」
「食材? 対人用は?」
「ございません」
「え?」
 ヒソカが間抜けな表情で固まる。
「私は料理人ですので、人と敵対するような事はないかと思います。逃げるが勝ちといいますし」
 食材と私が認識している物以外に対しては、ただの包丁で突き刺すぐらいの事しかできない。一般人相手ならコレでも十分。念能力者相手に攻撃とかは考えていないから。やるとしたら、こっそり近づけて、毒串で刺すとか。
 この制約が良かったのか、食材には一度も負けたことがない。
 だっていつか来る、対アリ用の能力だから。移動に力入れすぎて汎用性低くしないと弱そうだったから苦肉の策だったんだけど。
 どうせわざわざ殺しに行くのは食材だけだし。
 食材相手でないと、見た目ちょっと怖いだけ。あと、足場にして大空に逃げるという応用技もある。
 私の戦闘スタイルは、人相手は格闘か銃器をぶっ放し、念能力者からは逃げるのみ。
 それに下手に強くなると、ヒソカが怖いから。
 あと他に怖いのはクロロ。だから私は便利で厄介な能力にしたのだ。リストはそのためのもの。料理を食べさせる、心の底から美味しいと言わせてリストに載せる事が前提の能力など、あの団長が扱えるとは思わない。まずリストを維持したり、増やしたり出来ない。一年もすれば常連以上が全部消える。
 もしもクロロが盗んだ能力が、元の持ち主が制約を満たしていればいいというような内容だったとしても、これだけ制約つけておけば使えない。
 意外とプロ並みに料理できたら……なんて事はないだろう。
 きっと大丈夫。誰もこんな能力を自分では欲しがらない。
「変わった子だね♠」
「うん。みんな気に入ってる。母さんがうちの嫁にしようって」
「じゃあ、義妹候補なんだね?」
「うん」
 義妹って、やっぱりミルキと引っ付けようと?
 っていうかキキョウ様、私の知らない所でそんな事を?
 なんで、なんでミルキの嫁なんですか?
 あんな一生結婚できなさそうな、引きこもりのデブいオタクジャンクフード男を押しつけないでください。
 何としてでも阻止せねば。絶対に阻止せねば。それならまだカルト様を誘惑する方がマシだ。カルト様には嫌われてるけどさ。
 キキョウ様がカルト様に和ゴスを与え始めたから。
 地味に原作を変えて、しかも嫌われた。
 カルト様の服ぐらいなら、歴史を変えてしまっても、まあ大丈夫だろうけど。
「結婚式には是非呼んでね♥」
「さすがに花嫁は料理しないと思うよ?」
 そう言う問題ですか?
 でもヒソカですらイルミの嫁とか言わないほど、イルミ坊ちゃまは俗世とかけ離れておいでなのでしょうか。
 年齢的に考えれば、イルミ坊ちゃまが一番に結婚すべきだと思いますが……。
 私はあの一家の中であなたの将来が一番心配です。




あとがき
イルミの目を見て、黒トリュフを思い出したのは自分だけではないはず。
こんな物書いていて何ですが、シャコは好きでもシャコを見るのはちょっと苦手です。



[14104] 6話 原作キャラに餌付け2
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2009/11/25 07:35
 アヤノです。
 私もとうとう十八歳になりました。
 キキョウ様がカルト様に私を『お義姉さま』と呼ぶように仕向けたり、ミルキ坊ちゃまにミニスカ和ゴスをプレゼントされそうになったり、私の癒しはゼノ様だけの日々です。
「はぁ……ゼノ様のお側が一番落ち着きます」
 思わずこぼすと、ゼノ様は笑う。
「変わった娘じゃのォ。ミルキはともかく、イルミはなかなかの男前じゃと思うが」
「疲れはしないのですが、仕事人間で冗談の一つもおっしゃらないので、ミルキ坊ちゃまとは違う緊張があります。私は料理人なのに……」
 イルミ坊ちゃまは私を自家用ジェット、いや、飛行船だとお思いです。
 料理はついで。
 シルバ様も似たような所があるけれど、シルバ様はイルミ坊ちゃまよりは感情が分かりやすいから接しやすいです。たまに冗談を言ったり、笑ったりと、人間らしい所も多々あります。
「う……また」
 イルミ坊ちゃま専用の着メロ、にゃんこの鳴き声が響いた。みゃーみゃーと可愛いです。
「はい、アヤノでございます」
『フルコース、オレの分含めて九人分』
 ………………。
「畏まりました。お相手はどちら様でしょうか」
『アヤノの知らない人。依頼人』
 そりゃあそうだけど、誰だよ。ちょっと多いって。その微妙な人数が、原作知識を刺激する。
「お好みは?」
『何食べたい? ジャポンの料理人だけど、何でも作るよ』
『じゃあ懐石で』
『いいねぇ、懐石料理』
『なんだカイセキってのは』
 知らない男達の声。
「今から懐石は無理です。味が染みません。事前の予約をお願いします」
『懐石は予約が必要だって』
「その人数でしたら中華などいかがですか」
『中華は?』
『ワタシそれでいいね』
『中華か。悪くないな』
『団長がいいならオレもそれでいい』
 嫌っ。
 今、聞きたくない単語が聞こえた。
 そういえば、団長もイルミ坊ちゃまの顧客だった!
「ゼノ様、危険人物にマーキングさせるのをやめさせてください」
「おぬしの力は相手がどこにいるか分かるから便利じゃ。仕方なかろう。条件も突飛で分かりにくい」
 そりゃそうですけど。私の力はその『団長』に目を付けられない、盗んでも使えないってのにも重点を置いたんだから。
『聞いてる? テーブルはあるけど、コンロがないから』
「水は?」
『水道はあるって。休むついでにこっちで作って』
「畏まりました。前菜をいくつか作ってから、もう一度お電話いたします」
 一時間以内にってのがネックなので、最低限は作ってからじゃないといけない。
 イルミ坊ちゃまの現在地確認。
 地名じゃ分からない。
「ゼノ様、ここってどこですか? 遠いですか?」
「ヨルビアン大陸じゃ。そう遠くはないから安心せい。
 しかし、街にいないと大ざっぱじゃの」
 ククルーマウンテンから出ると、デントラ地区と大ざっぱな地名になってしまうのが、この能力の使えない所。
 私が大ざっぱに距離を測るために存在する能力だ。





 クロロ……なんだっけ。堕天使みたいな名前。
 とにかく団長スタイルの彼は美男子だった。いい男だ。この歳でこの渋み。クロロでなかったら、ちょっとだけいいかもと思っていただろう。でも将来、薄毛で悩みそう。
 シャルナークはやっぱり金髪キラキラだ。漫画だと一人雰囲気の違う爽やかお目々があんまり好きじゃなかったけど、実物は女の子みたいに綺麗顔をした少年のようないい男だった。ただ、逞しいから女には見えない。どっちみち私の好みじゃない。腹黒だし。
 マチさんは私と同類のチビだと思い込んでいたのに、小さくなかった。私よりずっと大きい。他の男が化け物みたいにデカイだけだった。
 フェイタンはさすがにドチビの私よりは少し大きいのは良いけど……男性でこの身長は可哀相。
 反対にウボォーギンさんはデカすぎです。私より一メートルぐらい大きくない? マジ化け物ですよ。壁ですよ。顔を見るためには仰ぎ見る必要があります。怖いです。
 パクノダさんは女性なのに大きいですね。シャルと同じぐらい? 
 フィンクスさんはやっぱりデカくてガラ悪い。帽子が変。
 一番好みに近いのはやっぱりノブナガさんかな。ただもう少しマシな格好と髪型がいいな。
 やっぱり一番はゼノ様。次はブハラさん。
 とにかく、私は持ち込んだ中華用の円卓に並べた料理を、皆が全ての種類を口にするかどうか確認しなければならない。食べ損ねていたら、気を効かせて給仕する。食べ損なう事のないように、わざわざ円卓を運んできたのだ。
「うめぇな。まだちっせぇのに、さすがはゾルディックのメイドだ」
「料理人ですわ。それと十八になりました」
 ウボォーさんの勘違いに私はクギを刺した。彼からしたら、私なんて小さすぎているのかいないのか分からないぐらいだろう。
「ねぇ、なんで念使いが料理人なんてやっているの?」
 シャルに問われて、私は変わらぬ笑顔で答えた。
「うっかり樹海で迷子になって精孔が開いた時に、美食ハンターに拾われたんです」
「うっかりなんだ」
「はい」
「ゲテモノ好きだから」
 イルミ坊ちゃまがまた余計な事を言って、皆様の手が止まる。
「食材はごく普通の高級スーパーで買えないような特殊な物は使っていませんのでご安心下さい」
 そこらのスーパーでは売ってない高級食材ばかりだけど。
「ゲテモノは自分用だよね」
 だからあなたは……。
「食への好奇心が旺盛なだけです。人様に押しつけようなどとは思いません」
 キメラアントが美味しかったとしても、他人に食べさせる気にはならない。食べたくもないだろう。ただ私が食べたいのだ。
「移動用の念か。この食事には何か意味があるのか?」
「はい。イルミ坊ちゃまに食べて頂き、味を認めていただけなければ一週間絶になります。口先だけではなく、心から思っていただかないといけないので、面倒くさい能力なんですよね」
 クロロの力は実際に目で見て、説明させて、本に触れさせるんだったか?
 それを警戒して秘密にするような力ではない。ここで隠せば逆に危険だ。
「なるほど。料理の腕があってこその能力か」
 クロロはそれで興味を無くしたように食事を再開する。
 使えないとか思ってるのだろう。もし本を取り出したら逃げるし。能力の説明はこれでは不十分だし、問題ない。でもパクノダさんが怖いから近づかない。
「じゃあ、呼べばあんたが料理を作りに来てくれるってわけか?」
「はい。旦那様の許可が下りれば。ああ、呼びつけていただかないと来られないので、その点はご安心下さい。いきなり背後に出られるほど、便利な能力ではありません」
 でも、自分から呼んでくれようなんて、ウボォーさん、そんなに気に入って下さったんですね。有り難いです。
「高いよ。暗殺依頼があったらサービスで付いてくるけど」
 イルミ坊ちゃまが牽制するように言う。喜んで貸し出しますと言ったら、絶対に怪しむから、これぐらいでちょうどいい。
「なるほど。オプションサービスか」
「最近リピーターが増えた。人はおまけ要素に弱いんだって」
 うん、増えた。毎日オーラを消費させられている。仕事の依頼が多い地域の都市には、本当に人を空腹状態にさせて飼っているぐらいだ
 便利だからって、連日はやめて欲しいんですけど。
「おまけか……奥が深いな」
 クロロさんが顎に手を当てて考え始める。まったくもって意味のない事を考えずに、冷める前に食え。
「団長、また依頼するね」
「次こそは懐石な」
「私はフレンチが良いわ」
「あたしはなんでもいい」
「オレも」
「メシなんてなんだろうと、美味けりゃいいよ」
 この人達、これだけ集まって殺しの依頼って、何をしてきたんだろう……。
 何にしてもこれで全部食べさせれば常連様まで確定。また食べさせないと旨みがないんだけど、このメンバーに集まられるのは嫌だなぁ。せめてフレンチ希望のパクノダさんがいなければ有り難いんだけど。
 とりあえず、全員が今出ている全種の料理に手を付けた事を確認できた。中華は大皿盛りだから、大人数に対応するのにはいいんだけど、品数が多いので食べなかった品が出てくる可能性がある。前菜四種、メイン五種を作った。
「では、私は最後の一品とデザートの準備を致します」
 残る予定はチャーハンと点心。
 一人二人漏れてしまったとしても、ほとんどの人は全種食べてくれるだろう。クロロが食べてくれると有り難い。甘い物が嫌いとか言われたらどうしようもない。
「なぁあんた」
「はい。何かご注文でしょうか」
 ウボォーさんに呼び止められ、私は笑顔で振り返る。
 全然足りないとか言われたらどうしよう。
「気に入った。オレの嫁にならねーか?」
 その場が、凍り付いた。
 冗談にしてもいきなりすぎて意味不明。彼はとてもいい笑顔を私に向けている。
 つーかさ、冗談にしてもどうやって? 一メートルも大きい巨人とどうやって? 壁だよ。壁。
 好き嫌いの問題以前なんだけど。貴方からしてみれば、私なんて小人でしょ?
「無理だろ」
「無理だね」
「壊れるね」
「そもそも入んのか?」
「無理無理。ちったぁ自分の体格考えて物を言えよっ」
「こんな小さな子に何考えてるんだい!」
「まったくだわ。いくら何でも食事のために結婚を出すなんて失礼でしょう」
 クモの皆様が一斉に騒ぎ出した。
 私は顔を隠して無言で頭を下げてその場を離れた。
 もちろん演技だ。
 本人が慌てて冗談に決まってるだろとか言っているけど、私みたいな小柄で清楚な女相手に、あの冗談はタチが悪い。
 あと、また猫男が無表情にミルキの嫁として宣伝してくれる。
 私にその気がないの分かってて言うんだからタチが悪い。外堀から攻めているつもりなのか?
 イルミって、意外とお茶目な所もあるかも知れないと思っていたけど、これは何なんだろうね。お茶目なのか、弟のためを思っているのか、よく分からん。
 イルミ坊ちゃまの考えている事がキルア坊ちゃまへの愛以外までも分かるようになったら、それはそれで色々と人としてヤバイ気もするから、理解しようとは思わないけれど。
 イルミ相手にこんな事を思うようになるとは、こちらに来たばかりの頃は、夢にも思っていなかった。
「──さて」
 蒸し器用意して、さっさとチャーハン炒めよう。




[14104] 7話 食えない仕事
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2009/11/27 07:09

 私がイルミ坊ちゃま以外のお子様達のおやつを運ぼうとしていた時だった。
 ああ、言って置くが、イルミ坊ちゃまがおやつを食べないわけではない。あの人というか、ゾル家一族は甘い物が大好きだ(シルバ様含む)。
 ただ、屋敷にいらっしゃらないから用意をしていないだけである。
「アヤノ、ちょっと来い」
 その甘い物好きの一人であるゼノ様がわざわざキッチンにまでいらして、子供達のために皿に用意したカン○リーマアム風クッキーをつまみ食いする。
「え、と」
 おやつ……。
 帰ってきて早々、何してるんですか?
 油脂がたくさん必要だからダイエットの敵だけど、私が食べたかったんだ。なのに私の分が無くなっていく……。
「それはゴトーに任せておけ」
「かしこまりました」
 さようならカ○トリーマアム
 私はゼノ様に付いて歩き、庭に出た。広大で、未知の食材がまだまだ生息する素敵なお庭だ。たまにミケと出会えば、その食べてしまいたいほどの愛らしさに、いつもどんな味なのかと心悩ませるものだ。
「イルミ坊ちゃまに、旦那様?」
 ゾル家主力のお三方が一体何用?
 いや、純粋な力なら、イルミ坊ちゃまよりも強化系のマハ様の方がお強いけど、世間のイメージする暗殺者て感じの暗殺をするのはイルミ坊ちゃまぐらいだから。
 ついでに執事見習いの少女、カナリアちゃんまでここにいる。今までほとんど話した事がなかった。ミルキ坊ちゃまの嫁候補扱いだから、はっきり見える一線を引かれている。
 うう……この一家のせいでこの国ではちっとも友達できない。私の友達は手作りのコックさん達だけ。様々な素材のコックさんだけが増えていく。銀製コックさんまで作っちゃって、ストラップにしたもんね。しかも料理もハントもしない時は暇なので神字を書き込んでいる。少しでもアリの時に役立つようにって、食材ぶっ殺す、アリぶっ殺すって念を込めている。
 ……か、悲しすぎる。
「アヤノ、カナリアと組み手をしてみろ」
「旦那様、一体どのような理由で?」
 今までこんな事を言われた事はなかった。完全に補助タイプの能力者だし、基礎は毎日やっていたから。
「どれだけ動けるか見てみたい。念はなしだ。カナリアが一番体格も年齢も近くてやりやすいだろう」
 旦那様は腕を組んでいつもの厳つい顔で私を見る。
「…………かしこまりました」
 何を考えているのか……嫁候補として実力を見たいとか何とか思っているのか知らないが、手を抜いたらバレる。下手に手は抜けない。メンチさんも言っていたけど、武芸なんてハンターみたいな生活していたら勝手に身に付く。ほどほどに実力を出して、ほどほどに叩きのめされるのが一番だろう。
 カナリアちゃん、強そうだし。
「動きやすいように脱ぎますので、お待ち下さい」
 私は帯をといて、和ゴス着物を脱ぐ。下にはTシャツとぴったりとしたハーフパンツをはいている。
「着物の下は下着も着けんもんじゃろう。色気のない」
 ゼノ様、微妙な事をご存じですね……。
「着物にも下着はございます」
 肌襦袢とか。
 それに、戦闘に巻き込まれないとは言い切れない場所だ。突破される事はないと分かっていても、最悪の事態を想定するのが使用人である。裾がはだけていやんとかやっていたら、ゼノ様だって呆れられるでしょうに。
「じゃあ、カナリアちゃん、よろしくお願いします」
 私よりはずっと背の高いカナリアちゃん。将来的にはもう少し伸びるはずだ。成長期でちゃんと成長するなんて羨ましい。
 私は念有りでも無しでも無力な操作系だ。
 身体に無駄な力は入れず、半身に構え、バランス良く立つ。
 メンチさんのおかげで、私は綱渡りだって走ってできるほどにはバランス感覚が鍛えられた。秘境探検は過酷で、優れたバランス感覚を必要とされる。獲物を追って木々を渡り歩いたり、その上さらに別のハンターから逃げたり。
 賞金首でもないのに、別のハンターから逃げるっておかしいような気はするけど。
 これでもまだ賞金を掛けられるような事はしてない。違法ギリギリの事はしていたけど、私有地ならちゃんと持ち主に立ち入る許可をもらったり。持ち出してはいけないって法律なら、その場で食べたり。
「参ります」
 カナリアちゃんはクールに言い、様子見の突きを放つ。
 避けた時に見えたが、なんか、ちょっぴり爪が伸びていたような……。
 カナリアちゃん、小さな頃からここにいる。
 暗殺者仕様の肉体操作が出来てもおかしくない。
 ゾル家の執事こぇえよ!
「あ、申し訳ありません」
 爪は引っ込めてくれた。
 しかし私は恐怖で手を出せず、ただただ避けるしかできない。
 掴めそうなんだけど、その後、どんな反撃があるかと思うと怖い。怖い。無理です。
「アヤノ、避けるだけじゃ意味ないよ。それだけ動けるなら手を出さないと……オレが手を出すよ?」
「ちょ、何てことをおっしゃるんです!?」
 イルミ坊ちゃまに手を出されたら私程度は瞬殺です。
 カナリアちゃんも手加減してくれているが、うっかり殺されそうで怖い。
 真剣に見て、タイミングを計る。
 これでもサバイバル生活のおかげで、動体視力は抜群に良い。擬態した食材を、駆け回る食材を探すため、些細なことも見逃さない。
 伸ばされた手を避け、それとは逆の手首を掴み、手首の関節を極めて投げる。油断していたから、綺麗に投げられてくれた。
 投げたらすぐに離れる。怖いから。
 カナリアちゃんは無言で起き上がる。
 再び向き合う。
「それだけ? せっかく隙が出来たのに、なんで離したの?」
 イルミ坊ちゃまに問われ、私はうぐっと唸った。
「い、いつもはこれで油断させてダッシュ撤退です。やれと言われれば、次に関節を破壊に行くんですが、基本的に私のは捕縛術みたいなものなので……」
 ジャポンにいた一ヶ月で道場に通い、自己流で改良していったものだ。
「せっかく光る物を持っているのに、消極的じゃのォ」
「本格的に仕込むか?」
 旦那様が恐ろしいことをおっしゃっております。
「い、一体どうなさったんですか?」
 恐る恐る尋ねてみたが、三人は聞く耳持たず、ああでもないこうでもないと会話を続けた。
「それよりも、食材には強いコックをどうにかした方が早いかな。アヤノ、オーラ量は多いから、制約がなければそこそこ使える能力だよ。
 アヤノ、食材だったら人間も襲えるんだよね?」
 は?
 食材の人間??
「いえいえいえ、人間を食材として見るなんて無理です。そこまでいくと異常者じゃないですか。私はヒソカさんとは違います。クールー病怖いです」
「ヒソカが聞いたら呆れるよ? 大丈夫。そんな物にやられるなら、キミはとっくに毒や病気で死んでいるから」
 え、ゲテモノ食いとカニバリズムと殺人狂は同列?
 明らかに一つだけ普通の人には無害なのに。
「親父、どうする?」
 イルミ坊ちゃまが旦那様に尋ねる。私をどうなさるおつもりですか? 痛いのもしんどいのも嫌です。
「逃げまわれるだけでもマシだろう。確か円はかなり広かったな?」
「もう少しで半径100メートルに届きます。狩りと逃げるためには必須ですから頑張って広げております」
 これで文句ないだろう。ゼノ様でも300メートル。シルバ様が漫画の中で口にしていた言葉を思えば、半径100でもかなり広い方と見て良い。しかも鍛練を積んで地道に伸びている。
 屋敷の中でやると叱られるので、鍛錬をかねてミケと遊びながら樹海の中で開発しているのだ。
「その情熱が別の方に向いたら、いい念能力者になっただろうに……」
「私にキルア様並みの才能がある、というなら少しは考えましたけど」
 ゼノ様のお言葉でも、無い物は仕方がない。中途半端に強くなるのなら、逃げるが勝ちを目指したい。虎の威を借る狐でいたい。
 他人が強くて、私の盾になってくれればそれでいい。その点ではウボォーさんはいい線行っているんだけど……さすがにちょっと利用するのは気が引ける。自分が女であることを利用する事は無いとは言わないが、悪女と言われそうなことまでは気が引ける。
「アヤノ、明日仕事、一緒に来る?」
 イルミ坊ちゃまはいつも唐突です。
「人数だけが多い派手で楽な仕事があるんだ。アヤノでもどうにか出来るから」
「え? お迎えに、ではなく?」
「殺し」
 私は額を押さえた。
 私は念能力者だけどただの料理人。執事ですらない、料理人。
「能力者は一人しかいないと思うから、楽な仕事だよ。ただ人数が多いから、逃げられないように人数を連れていくんだ」
「執事の皆さんも?」
「何人か。カナリアは留守番だけど」
「いや、でも、私、殺しってそんなにした事が無いのですが」
 ない、とは言わない。
 世の中には困った犯罪者がいるのだ。とくに私もメンチさんも若い女。色々とあった。メンチさん、そういう犯罪者相手にはマジ怖かったです。
「キルア坊ちゃまは?」
「連れていかない」
 念能力者が一人でもいるから、か。
「私は可能な限り、お屋敷でお料理していたいのですが」
「襲撃先に、珍味が出るって。美食家の集いみたいな物だから」
「行きます」
 気付いたら、私はそう答えていた。
 リアルに _| ̄|○ こうなった。
 もう少し我慢を覚えたい。





 昨日に引き続き、今日もリアルに _| ̄|○ こうなった。
 最近こんなのばっかりだ。
 ちなみに美食というのは、私には食べられないものだった。
 人間の赤ん坊が……いや、思い出すのは止めよう。とにかく吐き気がする、最悪の集まりだった。これなら皆殺しというのも理解できる。誰に恨みを買われていても不思議ではない。
「イルミ坊ちゃまの鬼」
 その鬼は、私に刺していた針を片手に、いつもと変わらぬ黒トリュフのような大きなお目々で私を見下ろしている。
 死屍累々。老いも若きも、男も女も、みんな綺麗に死んでいる。旅団の仕業かと思うような血みどろの現場だ。
 幸いなのは私が殺した中に子供がいなかった事だけという、凄惨な現場。皆殺しの現場。
 その半分ぐらい、イルミ坊ちゃまが私の部屋から勝手に持ってきた、可愛いコックさんがやった。だから汚い。
 こんな奴らを殺しても心は痛まなかったが、コックさん達が汚れたのがショックだった。
「コックさんが、コックさんが、ああ、コックさん一号っ!」
 大半はぬいぐるみなのだ。
 その中でもお気に入りなのは、一号。
 戦闘用コックさん一号の略。
 対アリ最終兵器にしようと、服にも服の下のボディにも、神字を書いて刺繍までした一番強いコックさん。
 その中身も、綿の中に神字の施された太い糸が詰められている。
「こんなに汚れて……」
 可哀想な私の可愛いコックさん達。
「殺しをさせたのがショックなのかと思ったけど違うんだ」
「イルミ坊ちゃまがそのようにお考えになる事もあるのだという事に私は驚きました」
 他人の心境などどうでも良いと思っていると思いこんでいた。
「一般人は人を殺したりするとショックみたいだからね。アヤノは人を食べないから、そういう意味だと思ってた」
 それとこれとはまた別だ。
「少なくとも変態どもを殺して痛むような良心は持っておりません」
 私は助けられる命を、この世界の歴史を変えないことで見捨てようとしているぐらいだし。
「なぜ私にこんな事を?」
 イルミ坊ちゃまは私に針を刺した。その後のこともはっきりと覚えている。
 とても興奮した。こちらに来たばかりの頃、変なキノコを食べたときに似た、本物とは違う嫌な興奮。つまりは麻薬のような作用があった。そして私は人間を自分と同じだとは感じなくなっていた。かろうじて、知っている人たちは自分と同じだった。だけどそれ以外が自分と違う──食材に見えた。
 興奮させられて、催眠術をかけられるような感じに操られて、私は人をコックさんで殺した。
「前から一度、やってみたかったんだよね」
 イルミ坊ちゃまはさらっと、本当にさらさらっと悪びれもなく言う。
「腕を上げたな、イルミ。さすがオレの子だ」
 親子は死屍累々のホールで暢気に話をしている。
「アヤノぐらい拘りのあるタイプの制約を外せたから、けっこう使えるかな?」
「使えるが、執事には使えるタイプの能力者がいない」
「結局アヤノだけか。数が多いから、こういう仕事の時は役に立つね。執事達いらなかった」
 本当にただやってみたかっただけか……。
 私のように「認識」が強い制約になっている念能力者の制約を外す事を、本当にただやってみたかっただけ。
 つまり、私の場合は「食材」と認識している物にしかコックさんが実力を発揮できないという制約を、人間を食材と勘違いさせる事で外してしまう、と。
 食材相手じゃないと、普通の人間にもたたき落とせるような力しかないから、この手の心配はしてなかったのに……イルミ坊ちゃまの器用さを舐めていた。
「精神的な操作もできたんですね……」
「普段の針とは種類が違うけどね。抜いてしまえば害はないよ」
 キルア坊ちゃまの頭にあるのは、その手の針か……。
「疲れた?」
「そりゃあ……」
 コックさんはマニュアル操作も出来るが、複数を操る場合、基本はオートだ。数が増えても私が疲れるだけで各自バラバラに食材を狩ってくれる。
「ちょっとハイにさせたからね。そうしないと即興だと上手く掛からないだろうから。
 ま、もうよっぽどのことがないとやらないから安心して良いよ。あと、ぬいぐるみ以外をもっと作れば? 丸洗いがしやすいのとか。
 洗濯はメイドがするよ。そういう物の扱いは心得ているからね」
「お願いします」
 一号だけは自分でやろう。綿を取り替えて、中まで綺麗にしないと……。神字は念で守られているから、ガシガシ洗っても落ちたりしないが、食材以外のもので汚れているなんて我慢ならない。いつもはマニュアル操作で血が付かないようにしているのに、今日はとてもひどい。
「次はすっごく固くて汚れにくいコックさんを作ります」
「ならミルに相談するといいよ。あ、オレから伝えておくから」
 ……………………。
 しまったぁぁぁぁぁあっ!!!
 自分からフラグを立ててしまったっ!
 ばかばか、私の馬鹿! そんな事を言ったらそうなるに決まってるじゃないかっ! ゾル家の技術担当者はミルキ坊ちゃまなんだからっ!!
 今更止めますと言ったところで、人の意見なんて聞いてくれる一族ではない。
 ああ、なんて厄日なんだろう。あれ……そういえば18歳って厄年だったっけ?
 もうこれからは自重しよう。欲望に打ち勝とう。
 もう食べ物につられてうっかり返事なんてしない。
 しない。
 …………できるだけ。



あとがき
デメちゃんの説明を見ていて、こういうコンボって有りかなぁと。
コックさんは始め、具現化能力にしようと思ってたけど、放出寄りにしたかったのでヌイグルミになりました。
具現化の方がシュールだったんですが、デリバリ優先だったので、涙を飲みました。



[14104] 8話 原作開始
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2010/02/18 23:28
 皆様。
 本日、キルア坊ちゃまが奥様とミルキ坊ちゃまを刺されました。
 ついに来ました、ハンター試験の時。ああ、私、気付けばここでの生活が当たり前になるほど働き、ゴトーさんに並ぶ重要な使用人の地位を手に入れておりました。
 さすがは私、天才料理人だな私、などと自画自賛してみます。
 この時点では、イルミ坊ちゃまはキルア坊ちゃまの行方を知らない様子。
 原作でもキルア坊ちゃまの方が先に到着していたし、仕方がない。
 私の能力の不便な所は、はっきりとした地名がない場所では、地方名、空中にいるなどの最悪の場合は国名で現れ、海にいるときは最悪の場合は~~洋の場合もある。地に足を着いて都市にいてもらわないと、範囲が広すぎる。
「方角的には、イルミ坊ちゃまが向かわれるのと同じですね」
 それでも方向ぐらいは分かる。発信器の類は見事に捨てられているので、これだけが頼りらしい。いっそ犬猫のように身体に埋めればいいのにと思ったが、他人に利用された時にまずいから出来ないらしい。
 奥様がリストをのぞき、甲高く叫ぶ。ちなみにミルキ坊ちゃまは脂肪が半分ほど減っていたためか、ダメージが大きかったらしく、起きられないでいるようだ。二年近い間で、脂肪が半分ぐらいになったから。
「まぁあ。ではイルミ、もしもキルを見かける事があったらお願いね」
 顔を刺されたのに、とっても元気そうな奥様がイルミ坊ちゃまに言った。
「うん」
 イルミ坊ちゃまは目上相手にはイエスマンだ。弟たちにも、基本的には同じ。頼まれれば「いいよ」と答える優しい兄。ただ愛が歪んでいるだけだ。
「あの、坊ちゃま、私も付いていってもよろしいでしょうか」
「アヤノも? ついにプロになるの?」
 今まではアマ美食ハンターだった。資格がないだけで、素質は十分あるからそれ相応の扱いをしていただいていた。資格など、念能力者なら取ろうと思えばよっぽど試験内容が偏っていなければ受かるはずだ。
 筆記試験とか、料理とかでなければ。
「いえ、どうやら私の師匠が試験官をしているようで……失礼ですが、料理はできますか?」
「さあ。獲物を捌いて焼くぐらいならよくするけど」
 サバイバル技術を磨くため、小さな頃はこのククルーマウンテンの樹海に放置されたらしい。
「そうですか。私の師匠なのですが、ちょっと変わっておりまして、素人相手でも容赦ないと申しますか……素人にプロの味を求めかねません」
「無理だね」
 出来ると言われたら驚きます。
「師匠のせいで坊ちゃまが落ちてしまったらさすがに申し訳なく……」
 イルミ坊ちゃまは腕を組んで沈黙する。
 何をお考えなのだろうか。
「じゃあ来て」
 資格は本当に取りたいようだ。
「はい。師匠にバレないよう、変装してくるのでお待ち下さい」
「一時間以内で準備して。いつもの場所で待ってるから」
「畏まりました」
 本当はキルア坊ちゃま対策なんだけどね!





 私達はステーキを食べながら地下に降りた。
 味はまあまあ。こんな所で食べるにしてはかなり美味しい方といったところだ。
 到着するまでに完食し、手を合わせてから立ち上がり、イルミ坊ちゃまの腕にへばりついてエレベーターの外に出る。
 むっと押し寄せてきた男臭い熱気に、思わず足を止める。
 むさい男達。
「臭い。鼻栓を持ってくるんだった……」
 考えてみたら当たり前。
「嗅覚消す?」
「それはいいです」
 私の鼻がいい事を知っているから、親切心なんだろうけど、臭い物に耐えるのも修行の内だ。食材でない物の匂いなんて、耐える意味がないと言われればそれまでなんだけど。
 私達が端から見るといちゃついていたら、むさい男達がぎろりと睨み付けてきた。
 みんなピリピリしている。それだけ必死という事だ。
「なんでアレがあんな子と」
「なんでアレに女が出来てオレにはっ」
「くそっ、くそっ、女なんて女なんてっ」
 別の意味でピリピリし始めた人達がいた。
 ん、まあ、今のイルミ坊ちゃまの姿を見たら、気持ちは分からないでもない。しかし彼女がいないからって、いる人に殺意向けてどうするんだろう。殺意に反応してイルミ坊ちゃまが反射的に針を持ち上げたじゃないか。そっと手を押さえて止めたけど。
 私達は受付のマメっぽい人にナンバープレートをもらう。私は302だ。覚えやすい300よりはマシか。
 でもこのマメの人、本当に人間なんだろうか。美味しそうと思ってしまいそうになる。ああ、人間ですら人間離れしたこの世界の恐ろしい事っ!
 彼なら豆を思い浮かべて自らの食欲を刺激すれば、コックさんで襲えるような気がする。やらないけど。
「あ、キル」
 イルミ坊ちゃまが呟き、思わず見上げる。何度見ても不気味。本人もこれはけっこう辛いらしい。カタカタいってるのもその影響なんだろうか。だったらもう少し原型のある変装をすればいいのに、とは思っても言えないのが使用人の辛い所。
 親しくしすぎてはいけないからね。脱次男嫁候補。
「あら、本当に。偶然ってあるんですねぇ」
「変装してて良かったね」
「私、ちゃんと変装になってます?」
「大丈夫。アヤノには見えない。声もけっこう変えられるんだね。やっぱり暗殺者にも向いてるよ。ま、どうしても人間に興味を持てないのは仕方がないけど」
 その言い方だと私が変な子みたいじゃないですか。恋愛とか友情とかの対象は人間ですよ? ミルキ坊ちゃまと結婚するなら、ミケと結婚した方がマシだと思っていても。
 私はふくれながら自分の姿を見下ろした。
 黒のビスチェ、七部袖のジャケット、ホットパンツ。無駄にたくさん贈られたコスプレ衣装の中から、単品で見たら普通に見える服を組み合わせて着ている。じゃないと、着もしないタイプの服をなぜ持っていたのか聞かれた時に困るから。
 髪は茶髪のソバージュカツラ。目にはカラコンに眼鏡。ラメラメ厚塗りの派手なメイクにソバカスもつけて、ちょっとイケイケなギャル風味。
 ヘソ丸出しの胸の谷間見せての、普段なら絶対にしない格好だからバレない自信はあった。
 ついでに身長を誤魔化すため、出し入れできるローラーブレード付きの厚底ブーツ。さらにシークレットブーツ機能で足長効果抜群! すごく歩きにくいけどそれも修行の一環だと思い込む。
 呼び名はキノシタからとってキノ。
「やぁ、ひさしぶり、待ってたよ♠」
「ん、お待たせ。久しぶりだね」
 ヒソカさんがひらひらと手を振って声をかけてきた。
 声はかけてこないと思ってたのに、話しかけてきた。怪しい二人組が、さらに怪しくなってしまった。
 ここにいるのが少し嫌になった。
「誰だい? 新しい使用人?」
 どうやら私が気になったようだ。
「キノ」
「はじめましてぇ、キノちゃんでぇす。いつもダーリンがお世話になってまぁす」
 ぶりぶりしてみた。
 イルミ坊ちゃまが、ヒソカさんが、無言で見てくる。
 痛い。視線が痛いです。ごめんなさい。
「うちの料理人」
「料理人…………まさか、アヤノかい?」
「キノちゃんです」
 ぶりっとポーズを取ると、ヒソカさんは
「くくくっ……♣」
 と、笑った。笑われた。
「意外な二面性だね♥」
「そこに坊ちゃまがいらっしゃるので、内緒ですよ? 殺さないでくださいね?」
「ああ、カレか♣ 実に美味しそうだよね、カレ♥」
 相変わらずキモイ人だ。
 私はため息をついて周囲を見回し、知った顔、おそらくトンパさんと目が合った。合ったが逸らされた。そう言えばイルミ坊ちゃまは見た目が怪しすぎて声かけてなかったんだ。しかもヒソカさんが来たからよけいに。
「どうしたの?」
「新人潰しさんが声をかけてこないから、何でだろうなぁって。きっとダーリンのキュートな強面のせいねっ」
「…………女ってすごいよね。」
 イルミ坊ちゃまは私を見て、そう呟いた。
 このビックリ人間に凄い言われるほどの物ではないはずなのに……。
 いつもは楚々とした美しい所作の大和撫子をやってたから、別人のようなのは仕方がない。
 私はこの日のために、鏡の前で立ち方とか声の出し方とか練習をしたんだ。
 それとも「女って」の中に、奥様も含まれていたりするんだろうか。
 あの人はただ素顔を見せていないだけな気がするけど、ビックリするような何かがあるのだろうか。
 それからヒソカさんは美味しそうな青い果実を探しに旅立ち、隅の方でぼーっとしていると、やがて見覚えのあるご一行がやって来たのが目に入った。
 そう、キルア坊ちゃま以外の主人公組!
 予想以上にクラピカさんは美少女だった。あれが男の子だなんて信じられない。レオリオさん、実はかなり好みかも知れないっ! 渋い! 同年代なのに渋い! 顔だけはすっごい好み!
 って……アレ?
 私は我が目を疑った。
 知らない男が一緒にいて、楽しげにゴンと会話している。
 漫画にいなかった。アレ以外は漫画の通り。
 じゃあ、アレは誰?
 見た目は私よりいくつか年下で、高校生ぐらいの格好付けた格好の男の子。鋲やらチェーンが付いた黒のジャケットにシルバーアクセ、茶髪の髪を無造作にセットした、この場に不釣り合いな日本人に見えるナルシストそうな美少年。似合っているのが救いだが、明らかに来る場所を間違えてそうな出で立ちだ。
 私がじっと見ていると、相手も周りを見回し、こちらと目が合った。
 こちらを見て、イルミ坊ちゃまと腕を組む私を見て、ハァ? って顔を見せてくれた。
 お互いに「ハァ?」だ。
 可能性が一つ思い浮かぶ。
 ここにいるのがどうして私だけだと言えるのか。
 あの少年もこちらに向かってくる。
 私も仕方なく腕をといて、主人公組にくっついていた男に向かった。
「なぁ、あんた、ハンターハンター知ってる?」
「あなた主人公組を狙ってるの?」
 これだけで通じる。
「うっそ……やっぱり日本から? 良かった! 仲間がいて! オレ、カムラアキラってんだ」
 アキラ君、ね……。
「仲間じゃないでしょ」
 私は騒ぐ男に厚底蹴りを軽く入れた。
 こういう格好付けたチャラそうな男は嫌い。いや、今の自分の格好で言えた義理ではないのだが。
「あなたいつからここに? どうしてアレにしたの?」
「いや、先月気付いたらくじら島にいて、ミトさんに拾われたんだ」
 っく、なんて良い場所にっ……
「楽な生活ね」
 私なんか三日三晩樹海をさ迷ったのにさ! それで樹海大好きになったけどね。
「坊ちゃまに何を言われるか分かんないから、関係者扱いやめて。試験合格したら話を聞いてあげる。あなた使えないでしょ」
 彼は小さく頷いた。
「あんた、アレ使えるのか?」
「誰と一緒にいるか見れば、それぐらい分かるでしょ」
「ミーハー……? 女ってああいうの好きだよな」
「くだらない。そんな気持ちでいられるような所じゃないの」
 ミルキの嫁候補って言ったら、絶対に笑われるに違いない。だって私が他人だったら笑っているから。
「とにかく、ここに来たんならせめて最後まで来てくれる? そうしたら相談ぐらい乗って上げるから」
 主人公組について行ける実力があるなら、利用価値はある。アリ編の時に。あと、アリ編を潰さないよう見張る必要もある。
「ああ、一つだけ教えておくわね。
 私はここに来て何年も経つし、世界中を回ったけど、あなたが初めてよ。他で集まりそうなアノ集団にもうちにもその周辺にもいないから」
 主人公組、ゾル家、旅団を見張っていれば、動きのある奴は食い付いているだろう。だから彼が初めてなのだ。
「キノ♣」
 うわっ
 ヒソカさんがまた来た。人の背後に足音殺して絶して寄らないでください。
「オトモダチ?」
「いいえ。ただの遠い親戚で、初対面です」
「へぇ。初対面で分かるんだ♦」
「なんとなく、他の人には分からない空気があって」
「ふぅーん……♠」
 アキラ君が引いてる、どん引きしてる。分かっていても初見だと当たり前だよね。
 引いてる彼の前でヒソカは私の肩に手を回そうとしたので、その手を反射的に打ち払う。
「相変わらずガードが堅いな♣ たまにはデートにでも……♥」
「また今度」
「くくくっ、いつもそれじゃないか♠」
 だって身の危険を感じるし、イルミ坊ちゃまには二人きりには絶対になるなと言われている。イルミ坊ちゃまがそういう事を命令するのは珍しいから、本気で心配してくれているんだと思いたい。
 それからなんとかヒソカさんを追い払い、顔に苛々を出さないように気をつけながら、ほぅっと息をつく。
「まさか、青い果実か?」
「いや、マチさん的な立ち位置?」
「うぇ……まあ…………ガンバレ?」
 やっぱり、ヒソカさんにメシを食わせたのが良くなかったんだろうな。彼は自分の腕食う変態なのにグルメだからタチが悪い。
 移動の念能力も面白がっていたし。
 デートに誘われ、断ると毎回キモイ反応するし。
 見ているだけなら面白い人なんだけどね……。
 見た目だけなら年齢的にも釣り合いが取れるレオリオさんが一番好みってことになるんだけど、彼はたぶん、性格が合わないからなぁ。デートとかする気にならない。
 そういう意味では、主人公組ってあんまり好きではないのかもしれない。
 クラピカさんの一途さは、私の食材への愛以上だと思う。私でもアリ限定能力なんて作らなかったし。『食材と認識』なら私にとってただっ広い範囲だけど『キメラアント限定』にしたら、強くなるんだろうけど、まったく応用の利かないダメな能力に成り下がる。
 ゾル家の人達は、その点安心できる。変な不安がない。私をこき使わなきゃ、ゼノ様がいるし、居心地はいい。
 気に入らないなんて理由で襲うのは奥様ぐらいだ。
 ミルキ坊ちゃまを袖にしたら、あの人に殺されるかも知れない……。
 どうかミルキ坊ちゃまが私に告白なんてしませんように。
 そんな事を祈りながら、私はイルミ坊ちゃまの元に戻った。



[14104] 9話 試験会場 彰視点
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2010/02/18 23:31
 倒れていたところをミトさんに拾われて、ゴンと仲良くなって一ヶ月半。
 ミトさんの名前を聞き、島の名前を聞き、ゴンを見たときの衝撃で気絶し直してからも一ヶ月半。
 記憶喪失の振りをした行き場の無かった俺を、ミトさん達は温かく迎えてくれた。優しくて美人でデレツンなところが萌える美人のミトさんに見守られ、明るくショタ萌え的なゴンと野山を駆け回り、いつの間にか元の世界じゃ超人扱いされるレベルの体力がついていた。
 陸上部に所属してたから体力はかなりある方だったのに、そういうレベルじゃないほどの身体能力が身に付いている。
 ゴンについて野山を走り回れるって事は、そういう事だ。
 一ヶ月でフルマラソン往復以上ができそうなぐらい体力が付くなんて、今までの練習は何だったんだ。
 さすがは空気にプロテインの世界。でも今までの練習があったからこそ、いきなりゴンと遊べたとも言える。
 天才の前でも、積み重ねの努力が役立つ事もある。
 他には小さな頃とはいえ、空手もやっててよかった。元は格好良くて強い俺様的な何かを目指して習い始めたんだけど、何が幸いするか分からない。
 最低限の基礎でも、有ると無いのでは、天才ゴンについて行くハードルの高さが違ってくるだろうから。
 人を殴るも蹴るもコツがある。
 ハンター試験に参加できたのも、体を鍛えていた過去と、一ヶ月の猶予期間のおかげだった。
 帰るために役に立つかも知れないし、当分はこのままゴン達と生活してみようと思って、試験会場にまでは簡単にたどり着いた。
 男だけど美人のクラピーとも知り合えた。男でも顔は美人。ゴンとクラピーは見ているだけで癒し。ここから先、目の保養はポンズちゃんとメンチさんとその巨乳しかないんだからこれは大切な事だ。クラピーとゴンが女の子だったらもっとよかったんだけどな。そうだったらゴンには「おにいちゃん」と呼ばせていただろう。
 早速トンパさんが声を掛けてきた時、オレの視界に入った物に驚愕した。
 針男ギタラクルこと、実はイケメン、イルミ兄さん。
 それに引っ付いている女を。
 なんつーか、すごい格好だ。
 茶髪のギャルメイクにエロいキャミにジャケットにホットパンツにニーハイソックス。しかも厚底ブーツ。
 しかもジャケット、こっちのアニメで見た事あるのにそっくりなんだけど?
 そんなのがあのイルミ兄さんにベタベタしております。どちらの姿にも似合いません。
 つか、あれってまさかオレと一緒……しか考えられない。オレがいるんだから、他にいてもおかしくない。
 勘違いした女子高生が絡んでる?
 ゾルディック家に入り込んだミーハー腐女子?
 俺は思わず前に出て、気づいた女もこちらに来た。近くで見るとチビなのに乳でけぇ。谷間すげぇ。何カップ? この歳なら、偽乳じゃないよな。マジもんの巨乳。なんて眼福だ!
 オレは彼女が日本から来た事に確信を持って問う。
「なぁ、あんた、ハンターハンター知ってる?」
 でも漫画を知らなかったらどうしよう。あ、他の有名人を聞けばいいか。
「あなた主人公組狙ってるの?」
 あ、通じた。こんなジャケット羽織るぐらいだからそうだよな。
 どうしよう、すげぇ嬉しい!
 同郷で女の子で目の保養がいるなんて、オレってばラッキー!
「うっそ……やっぱり日本から? 良かった! 仲間がいて! オレ、嘉村彰ってんだ」
 眼鏡の下にある、たぶんカラコンの青い目でオレを見上げて、首をかしげた。
 この汗臭い中で唯一の制汗剤だ。フローラルだ。
 これはフラグか。手を取り合い、イチャイチャしてこの世界から脱出するフラグか。
 胸ばかり見ないよう、ジャケットを観察すると、やはりアニメのヒロインのジャケットだ。飾りに特徴があるから間違いない。もちろんこの世界のアニメであり、日本のアニメではない。
 でもコスプレ……にしてはバラバラすぎる。
 中のエロいキャミは電脳ページで見たエロゲヒロインが着ていたような気がする。
 記憶が無い事を理由に、いろいろと調べたいという名目で、本当にほとんどはそのつもりで借りた。
 何にしても親しみが湧く。
「仲間じゃないでしょ」
 沸いた瞬間、さらっと突き放すように言われて玉砕した。
 ひょっとして……反王道で王道と敵対する気なのか?
「あなたいつからここに? どうして主人公組にしたの?」
 それはこちらのセリフだって。
「いや、先月気付いたらくじら島にいて、ミトさんに拾われたんだ」
「楽な生活ね」
 う……楽か?
 いや、ゾルディックに関わるような何かがあったんなら、苦労したんだろうな……。
 確かにオレは楽をしている。命の危険なんて今まで無かったしな。
「坊ちゃまに何言われるか分かんないから、関係者扱いやめて。試験合格したら話し聞いて上げる。
 あなた使えないでしょ」
 坊ちゃま……って、使用人をしてるのかな? まさか執事? 殺し屋? マジでっ?
「あんた、使えるのか?」
 殺しをしたのか、とは聞けなかった。
「誰と一緒にいるか見れば、それぐらい分かるでしょ」
 殺したんですか? え、殺したの? ど、どうしよう……。
 執事? 原作に出てきた使用人が、守衛と執事さんだけだったから、他に想像も付かない。
 メイドさんとか? あの家、メイドさんも念能力者?
「ミーハー……? 女ってああいうの好きだよな」
 ただの腐女子だったらいいのになと、ミーハー説を信じてみた。ベタベタしてたし。
 あのイルミお兄さまが女に心を許すとは思い難いけど……。
 何があったらああなる?
「くだらない。そんな気持ちでいられるような所じゃないの。とにかく、ここに来たんならせめて最後まで来てくれる? そうしたら相談ぐらい乗って上げるから」
 …………そんなに苦労してるのか。
 殺伐とした色々があったんだな。
 俺、ゴンでよかった。ゾルディックでは死亡してたかも。
「ああ、一つだけ教えておくわね。
 ここに来て何年も経つし、世界中を回ったけど、私以外はあなたが初めてよ。他で集まりそうなアノ集団にもうちにもその周辺にもいないから」
 旅団まで会ったのかっ……。
 イルミさん経由なんだろうけど、死亡フラグ満載の人生だな。
 ゴンと面白格好良く旅をしようと思っていた自分が少し恥ずかしい……。
「キノ♣」
 女の子の顔がゆがんだ。
 ヒソカが、女の子の後ろに立っていたから仕方がない。
 オレの目線の先にいたはずなのに、今まで気づきもしなかった。
 そうか。今のが絶か。絶すげぇ! こんな存在感の固まりすら存在感を無くすなんて!
 この子がイルミさんに付いてきてるんだから、協力者のこいつが知り合いでもおかしくないよな。イルミさんの友達なんだし。
 本当にイルミさん側はマジで死亡フラグ満載だ。ゴンの近くもそうだけど、こっちにはなんとなく安心感があるからなぁ……。
「オトモダチ?」
「いいえ。ただの遠い親戚で、初対面です」
「へぇ。初対面で分かるんだ♦」
「なんとなく、他の人には分からない空気があって」
「ふぅーん……♠」
 ぎょえっ。
 見ないで下さい。青いどころかまだ果実すら実らせてませんから。
 ヒソカの視線を感じて目をそらす俺。目が怖い。怖い。ヒソカ怖い。マジ怖い。ヒソカなめてた。でもやっぱり変顔してない時はメイクがあってもイケメンだな!
 そういえば俺達戸籍ないから、この女の子はひょっとしたら流星街出身と言っているのかも。あそこの出身のキャラはただ者じゃない人が多いから、危険?
 確かキルアの母のキキョウさんとかは出身地だったはず。ひょっとしてこの子は流星街に出たとか最悪のパターン?
 だとしたら、そりゃあ俺なんて楽そうに見えるよな。温かい家庭で過ごしていたし。
 パシリと肌を打つ音で視線を戻すと、手をさするヒソカの姿。
「相変わらずガードが堅いな♣ たまにはデートにでも……♥」
「また今度」
「くくくっ、いつもそれじゃないか♠」
 どうやら触ろうとして叩かれたようだ。
 それからいくらかのやりとりでヒソカを追い払い、キノとか呼ばれた女の子は胸をなで下ろす。
「青い果実か?」
 こんな華奢だけど、強キャラ化してるんだろうか。この世界、性別も体格も関係なく強いからなぁ。
「いや、マチさん的な立ち位置?」
 マチさん。
 強いけど、戦闘員ではないはず。戦闘よりも、見事な技術に惚れられている美人。
 この子はきっと、目をつけられないように最強は目指さず便利な能力を作ったんだろうな。
「まあ…………ガンバレ」
 俺は男だからそういう意味では平気だろう。平気……なのか? いや、可愛く美味しそうなゴンゴンがいるからオレはきっと平気だ。ゴン、力及ばずすまねぇ。オレにはどうしようもないんだ。
 俺はそんなゴンの陰に隠れながら、こっそり強くなりたいな。
 しかし、どんな念にしよう……。
 ってか、何系なんだろう。
 それによって、出来る事が変わってくるから、計画は天空闘技場までは立てられない。
 戻れる可能性があるとすれば、やっぱグリードアイランドのリーブのカードになるんだけど、原作通りじゃ無理だから、俺も全種類のカードコンプリートしなくちゃならなくなる。
 だから強いだけじゃあダメなんだよな。
 応用の利く能力がいい。
 ドッジボールに参加できるような能力が理想だ。参加できないのに、カードをくれとは言いにくい。
 なんとかハンター試験に合格して、元の世界に生還しないと。
 じゃないと、開封を待つだけの俺の嫁達が寂しがるじゃないか!
 ……マジあんな部屋を残して行方不明になっていると思うと鬱になる。
 警察とかが部屋に入ってませんように、入ってませんように、入ってませんように!!



「アキラ、知ってる人? 記憶戻ったの?」
 オレがゴン達の元へ行くと、こちらを見ていたゴンに聞かれた。
 うん、オレは記憶喪失設定です。
「いや、俺が住んでいた国の人。ないのは最近の記憶だけだから」
「言葉は覚えてたけど、文字は忘れてたよ」
 あ、うん。さすがにこの世界の文字なんて知らないから。まだ表を見ないと読む自信がない。
「なんだお前、記憶喪失なのか!?」
「ああ。気付いたらくじら島の浜辺にいて」
「文字まで忘れるなんて、難儀だな。そんな格好をしてるから、てっきり世の中舐めてる苦労知らずのアホかと思ったぜ。お前も大変だったんだな」
 アホって……オレにとって普通の服なんだけど。
 まあ、舐めてたってのは正しいかも知れない。
 これからは、心を入れ替えて真面目に取り組もう。クラピーほど真面目にはなれないけど、キルアとかヒソカとかトンパよりは真面目にやるつもりだ。
 そういえば、トンパからジュースをもらっていない。
 不思議に思ってトンパを探すと、目が合った瞬間、顔を逸らされた。
 まさか、ヒソカやイルミさんと同類扱いされた?
 ショックのあまり、オレはゴンのちょっと可愛い釣り竿にちょっかいをかけて気晴らしをした。
 ゴンに変な目で見られたけど気にしない。


あとがき
アヤノの目標がこれ以上ない程はっきりしていて書きやすかったために、一時期は主役にと考えていたけど脇役に転落したオタクです。
これからはたまに彼の視点も混ぜていきます。



[14104] 10話 一次試験
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2009/12/02 22:31

 薄暗い用途不明の通路を、私はローラーブレードで悠々と走っていた。
 むき出しの配線やパイプが、妙な雰囲気を作り出している。まるでゲームの中のダンジョンのような景色だ。ただし、ダンジョンのように仕掛けがあるわけでも、分かれ道があるわけでもない。
「あ、ずりぃ!」
 アキラ君が私を指さして騒いだ。
 知ってて準備しなかったら、それは自分が悪いんだと思う。ちゃんと走れているから良いじゃないか。
 向こうでレオリオもキルア坊ちゃまに似たような事を言っている。
 ああついにこの時が。
 しかしキルア坊ちゃまに友達が出来るのは分かっていたけど、今までを見ているから胸が熱くなるなぁ。
 アキラ君の向こう側にいるキルア坊ちゃまを見ながら、私は応えた。
「だってぇ、こういうブーツって歩きにくいからぁ。舗装されててらっきー」
 本当に厚底が歩きにくそうだったから付けた。
 背丈ぐらいこうして誤魔化さないと気付かれるかも知れない。厚底といっても、無茶苦茶厚いわけではない。シークレット機能が付いているからキルア坊ちゃまよりも少し背が高くなっている特製のブーツだ!
 これだけは作ってもらった。和ゴス時にもブーツはたまに合わせていたから、たぶん何も言われない。足が長過ぎて違和感あるかも知れないけど構うものか。
 アキラ君はため息をついて、キルアの方に意識を移した。
 私は横目でご一行の様子を見ながら、あくびをかみ殺す。
 始めは目新しいと思った景色も、代わり映えがないので飽きて眠くなってきた。ここを何時間も走るのは精神的な拷問である。念能力者走法だったらあっという間だけど、今は一般人に合わせてマラソンに毛が生えたようなレベルだ。
 むさ苦しい男ばかりで、可愛いキルア坊ちゃまだけが癒しだ。いくら見た目が好みでも、今は汗をかいてむさ苦しさの一因となっているレオリオさんを観察して暇つぶししようなどとは思えない。
 イルミ坊ちゃまのことだから、キルア坊ちゃまが見えない範囲には行かないだろうし、私は子供達を見守ることにした。
 キルア坊ちゃまは私が食育を始めてから、すぐに市販のジャンクフードを食べなくなったから可愛くて仕方がない。あまり関わるつもりはなかったのに、私を見ると料理やお菓子が美味しかったと言ってくれるのだ。デリバリ時のために、料理よりも手軽に食べられる菓子類を毎日作っていたため、いつの間にかおやつ係になっていたのが要因だろうけど。
 身の回りの世話をするメイドや執事ではないから、そこまで接点なかったけど、やっぱり私の料理を慕ってくれる彼は可愛い。
 私は猫好きだし。
 最近、猫が食材に見えなくなりそうで困る。アリ編には猫出てくるし。もちろんあんな馬鹿強い猫、食材として見る見ない以前の問題だ。私が目指すのは下っ端各種だ。一匹だけじゃだめ。色々食べずに美味しい、美味しくないと判断することは出来ない。
 キルア坊ちゃまとゴンとアキラ君がすっかり仲良くなり、パソコン少年が新人潰しに絡まれて脱落した。
 ではそろそろかと構えていると、やはり長い上り階段が見えた。丸い形状から、自分が縮んでホースの中でも走っているような気分になる。
 階段にさしかかると、ジャンプしてローラーブレードを収納し、ひょいひょいと階段を上る。足長効果で意外と予想よりは登りやすい。
 悲鳴に近い絶望の声が聞こえ、脱落者が一気に増えていく。
 背後からは息も絶え絶えの荒い……やたらと、なんというか、妙な息が続いている。
 んんっ??
「っておい、それ、盗撮、だろっ!」
 天才少年から数歩分遅れていた、息も絶え絶えのアキラ君の声が広い通路に響いた。
 え?
「盗撮っ!?」
「げっ、マジかよ。オッサンらいい歳して何してんだよ」
 ゴン君とキルア坊ちゃまの声まで聞こえたので振り返ると、なぜか男達が私の後ろに続いて走っていた。
「ゴン、没収!」
「うん。はい、没収」
 ゴンにケータイを取られて折られていた。
 スカートじゃないのに、盗撮すんの?
 派手な格好を心がけたけど、胸以外を見られるとは……。
「ったく、こんな所にそんな格好で来んなよなぁ」
 キルア坊ちゃまに呆れたように見られた。
 大丈夫。ばれてない!
 イルミ坊ちゃまはキルア坊ちゃまが心配だからか、比較的近い位置を走っていたけど、少し離れた方が良いかも……。
 いつもと違う、甘く高い(そしてキモイ)声を心がけて、
「やぁん、オジサン達最悪ぅ。見んなら金払えっての」
 一番近くにいたおっさんに回し蹴りを食らわせ、後ろに続いていた連中が巻き添えを食って倒れる。
 私もゾルディック関係者だ。写真は撮られない方がいい。撮られた写真は、ゴン君がみんな始末してくれたようで、まあ大丈夫だろうと判断して、
「ダーリン行きましょう」
 私はイルミ坊ちゃまを促して、先に進んだ。とは言っても、ほぼ先頭まで来ていたから、サトツさんにぴったり引っ付いてるだけだ。
 今怖いのは、写真を撮られるのではなく、キルア坊ちゃまである。危なかった。
「マジであいつアレの女なわけ?」
「まあ……人には色々あるんだろ」
 後方のキルア坊ちゃまの無謀な発言に、事情を知っているアキラ君がイルミ坊ちゃまをフォローするように言う。
 その言葉にゴンが頷いた。
「きっと優しい人なんだよ」
「どーせ金持ちなんじゃねーの?」
 ゴンの心が白い発言に、キルア坊ちゃまがスレた発言で水を差す。
 本当にいいコンビだな。
 やがて階段の終わりが見え、光に目が眩むのを感じながら、久々の外に出た。
 湿っているが澄んだ空気が気持ちいい。
 湿原と言うだけあり足下はぬかるんでいる。分かっていたがローラーブレードは使えそうにもない。
 まあ、あの地獄のむさ苦しさよりずっと楽だから良しとする。
「ああ、ムサ息苦しかった」
「カタカタカタ」
 同意という事でしょうか?
 イルミ坊ちゃまの感想なんてどうでもいいけど。
 やがてサトツさんがヌメ-レ湿原の説明を始め、猿が現れ、ヒソカさんに虐殺される。
「食べないでね?」
 私が何かする前に、イルミ坊ちゃまが小さく制した。いくらなんでも、この場で食材としてあの猿を確保するなんて事は、さすがの私でもないから。
 いや、ホントにないから
「ここにはもう一度来たことあるからぁ」
「そうなんだ」
 だから余裕! 未知の食材に目が眩んで、うっかり追いかけたりもしない!
「美味しい肉の動物がいるの! ダーリンでも食べられるようなの!」
「…………そう」
 心なしか、呆れているような沈黙の後、小さく洩らした。
 私はミネラルウォーターを取り出して一口飲み、手を出したイルミ坊ちゃまに回した。
 端から見ればらぶらぶバカップル。
 これがホラーの中だったら真っ先に死ぬような気がするな。まあ、カップルだとしてもこのイルミ坊ちゃまに、こんなところで立つ死亡フラグなど存在しない。
 サトツさんが再び走り出したので、私は泥濘に足を取られながらもイルミ坊ちゃまと同じ速度で走る。
 走りにくいけど、さすがにこの程度のハンデで遅れるような鍛え方はしていない。念能力者としての戦闘力は下の方だが、念能力もない人達が数百人生き残れる程度の場所で躓くようではゾル家では職人以外働けない。
「ダーリン、ここそんなに大変じゃないから、ちょっと食材ハントに行っていい?」
「忘れずに戻ってくるならいいよ」
 居場所はゾル家仕様、ミルキ坊ちゃま作のケータイで分かるし、イルミ坊ちゃまにはミルキ坊ちゃまが作ってくれたカメラと発信器付きケータイストラップコックさんを渡している。
 それに前に来た時は、まだ念能力もない頃だった。それで生きていたのだから、迷子以外に危険はない。
「じゃあ、行ってきまぁす♪」
 私は人の群れから離れ、人を騙す野生動物の群れへと突っ込んだ。
 たまにはイルミ坊ちゃまでも食べられそうで、且つ持ち運びできるサイズの肉を狩ろうと思う。確か美味しい鳥がいた。二次試験のために、卵も調達しておこう。それがまた美味しいの! 
 キリヒトノセガメのヒトニイチゴは、かなり期待して食べたけど、大きさのせいか味が薄くてあまり美味しくなかった。
 ジライダケは処理が難しいけど、たまに口の中でぽぽんと爆発して美味しい。フグのピリピリは感じなくなったから、こういう刺激がたまらない。油断しているとたまに大きく爆発して、口の中を痛めるけど、リスクに見合う美味しさだ。どうして危険な物って美味しい物が多いんだろう。
 今は処理している時間がないから諦める。ゼノ様に、樹海で育ててはダメか聞いてみようかな。防犯にも、未来の子供達の訓練にもなるし。
「さぁて」
 私は荷物の中から持ってきた新作の器用なコックさん三号を取り出す。普通のコックさんは、武器を握りしめるのがせいぜい。しかしこのタイプはマニピュレーター付きで、卵だって絶対に割らずに掴む事が出来る。これもミルキ坊ちゃまが作ってくれた物を私が装着させ、神字を書き込んだ。一号は寝ぼけたイルミ坊ちゃまに破壊され、二号はカービングが得意的な器用さなので部屋に置いてきた。念のために戦闘用も一号二号と持ってきた。三号は子供サイズはあるので、持ってこられなかった。四号は制作中。
「いけ、器用なコックさん三号、カトリーヌちゃん」
 ちなみに名付けたのはミルキ坊ちゃま。
 せっかくだから全部に名前を付けた方が良いと言われて、私は何号とは別に名前を付け始めた。
 戦闘用はハヤシ先生、シュウ先生、ロクサブロウ先生と名付けた。
 なんとなくだ。
 カトリーヌちゃんはあまり強くないけど、騙すのが主で戦闘力はあまりないここの生き物程度なら、十分な力を持っている。
 ああ、でも、ちょっとぐらいなら他の生き物もタッパーに詰めていこうかな。念能力者に作ってもらった、一週間は食品が傷まない不思議なタッパーである。
 やっぱり猿も捕まえようかな。


 途中、夢中になって解体作業をしていた私は、レオリオさんを肩に担いだヒソカさんに回収される事になる。
 イルミ坊ちゃまに頼まれたんだって。





あとがき
ハヤシ先生だけは決めていたんですが、他にゲテモノのイメージのある料理人が思いつかなかったので、知っている有名料理人の名前を付けました。
うちのアヤノを書こうと思った切っ掛けの一部は、かの大先生にあります。
とても尊敬しています。



[14104] 11話 二次試験
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2009/12/06 19:11

 私は二次試験会場に到着すると、イルミ坊ちゃまの傍らに立つ。ゴン君達と一緒に戻ってきたアキラ君の視線を感じながら、素知らぬ顔をする。
 襲ってくる生き物を返り討ちにしてたら、いろんな種類の肉でタッパいっぱいになったよ。
 イルミ坊ちゃまは私を……私のリュックをちらりと見てから、再びじぃっと五月蠅い試験会場を見つめていた。
 たぶん、不思議に思ってるんだと思う。
 中にいるのは人間だけなのに、あり得ない音がしている事に疑問を感じているのだ。イルミ坊ちゃまが関わった事のないタイプの人だろうから。
「つぎぃ、私の先生ぇ」
「コレが? なんか納得した」
「え?」
 本気で納得したらしく、興味を失い建物から視線を外すイルミ坊ちゃま。
 貴方は私を何だと思ってるんですか?
 悶々とした時を過ごしていると、やがて扉が開き、獣の威嚇にも似た音をBGMに、二人が姿を見せた。
 猛獣の唸り声のような腹の虫を鳴らしたブハラさんと、その前に置かれたソファにふんぞり返るメンチさん。美女と野獣とはこの二人のためにある言葉だ。
 二人ともハンターとして、料理人として、さらに成長しているはずだ。メンチさんが一つ星のハンターになった時、お祝いに駆けつけて以来だ。あの時は確か、ククルーマウンテンで見つけた美味をプレゼントした。
 美人で私よりも背が高くて私並みに料理上手でスタイル抜群。その上、旦那様には尽くすタイプ。まさに理想の嫁じゃないか。私が男ならプロポーズしていたところだ。なんで私は女なんだ。そうしたらゾル家嫁入りで悩むこともなかったのに。
 イルミ坊ちゃまの目は、さっきからずっとブハラさんに向けられている。
 何を思って見ているんだろうか。
 メンチさんが二次試験の内容を説明し、最後にブハラさんが前半の試験内容を発表する。
「豚の丸焼き!! オレの大好物」
 この辺りで試験内容になるに相応しい料理って、それぐらいですもんね。
 本当は繊細な味も分かる人なんだけど、腹も丈夫だから何でも食べられる。美食ハンターにとって、腹の丈夫さは生命線だ。私はゾル家の皆様以上に毒やら何やらに対する免疫はあるが、ブハラさんも似たような物なんだろう、きっと。
 彼は素人に味の事を言っても仕方がないから、味には目をつぶれる、大人の対応が出来る男性だ。
 逆にメンチさんはこだわりすぎている。
 私なら坊ちゃま達が作った物なら毒入りでも、黒こげでも、美味しいと言ってしまうだろう。現にカルト様が私が食べる料理に苦みの強いような毒を盛られても、私は最後まで綺麗に食べているぞ。常人でも死ぬような毒ではないので、殺意まではないと分かっているから。
 私はイルミ坊ちゃまに並び、スキップしながら豚の群れに突っ込み、子豚を狙って跳び蹴りを食らわせた。
 厚底キックで一撃ノックアウトすると、怒る親をぶっ飛ばす。
 豚の丸焼き、豚をゲットするのが一番の目的。これは手伝う必要もないので、自分の分は自分でやってもらう。
 私は素早く下処理をして、子豚を焼く。
 美味しいと思ってもらわないと、リストからブハラさんが外れちゃうから、ちゃんと作らないといけない。ちゃんと焼けるようにオーラで覆って熱を逃がさないようにした。
 中まで火が通ったのを確認すると、私達は列に並び、ブハラさんに丸焼きを食べていただく。ぺろりと食べてしまうと、
「ん?」
 と首を傾げて私を見た。
「え…………アヤ」
 言い切る前に、私は唇に指を当てる。
 せいぜい塩と胡椒とハーブで味付けしただけなのに、気付かれてしまったようだ。さすがはメンチさんより気の効く大人の男。騙しきれなかった。
 しかし優しくて空気の読めるブハラさんは、笑顔で頷いてくれた。
「美味しかったよ」
 よし。たぶんリストからは消えていない。ブハラさんから離れると、私はため息をついた。次はメンチさんだ。気付くかな?
「バレたね」
 イルミ坊ちゃまが小さく呟いた。
「あの人は仕方がないです。鋭いし、騒がない人だから大丈夫です。
 今となっては、キルア坊ちゃまへの対策になってますねぇ」
「あの男が師匠?」
「いえ、女性の方。かなり癖の強い方なんですよね」
 寿司とか、普通に考えてあり得ないから。私ならせいぜいシルエットクイズにする。
 さて、どうするか。私もいくつか手を考えている。一つはさっき湿原でゲットした卵。でもイルミ坊ちゃまに厚焼き卵をいきなり焼かせるのは難しい。
 私が全部作って持ってかせるのは、さすがに通用しないだろう。
 どうせ後で卵になるけど、寿司の時点で突破できないと、私が来た意味がない。役立たずだ。
「どうなってるんだろう、胃袋」
 イルミ坊ちゃまがブハラさんを眺めて、クラピカさんと同じ疑問を口にする。まさかイルミ坊ちゃまがこんな常識的な疑問を抱くなんて……!
「さあぁ」
 私も知らない。
 今やあの二人よりも、この人との付き合いの方が長い。あの時はそんな物と割り切っていたけど、改めて見ればその異様さに閉口する。
 念能力なんて馬鹿な話しはないだろうし、本当にどうなっているんだか。
 その時、銅鑼が鳴り、メンチさんの終了の合図が響く。
「あんたねー、結局食べた豚、全部美味しかったって言うの? 審査になんないじゃないのよ」
「まーいいじゃん。それなりに人数は絞れたし。
 細かい味を審査するテストじゃないしさー」
 さすがブハラさん。大人の男だ。
「甘いわねー、アンタ。美食ハンターたる者、自分の味覚には正直に生きなきゃダメよ。
 ま、仕方ないわね」
 メンチさんは再び銅鑼を鳴らした。
「豚の丸焼き料理審査!!70名が通過!!」
 二人増えても人数変わってないような。ああ、ブハラさんが満腹になって打ち切りだからか。
 しかしまあ、生焼けのブタなんて恐ろしい物を食べなくてはならないなんて、試験官も大変だ。
「あたしはブハラと違ってカラ党よ!! 審査もキビシクいくわよー」
 いや、厳しすぎます。
「二次試験後半、あたしのメニューは──スシよ!!」
 スシってなんぞやとざわざわする。
 もちろんイルミ坊ちゃまはご存じだ。私の得意料理の一つだから、ゾル家の皆様の大好物である。生け簀に高級食材が常にいる理由の一つにもなっている。
 ハゲ頭の忍者、ハンゾーが大きくガッツポーズを取り、キルア坊ちゃまが心なしかにやついた。
 漫画と違って、キルア坊ちゃまもご存じだ。アキラ君も。
 一体、どうなるんだろう?
「ふふん、大分困ってるわね。ま、知らないのもムリないわ。小さな島国の民族料理だからね」
 一緒に色んな店行きましたね。
 ブハラさんがちらっとこちらを見た。隣のイルミ坊ちゃまを見て顔を顰め、もう一度私を見る。
 分かります。私も他人だったら心配します。可愛がっていた妹分が、こんな針男と付き合っていたら、もちろん止めるでしょう。
 空気を読んで詰問しない所が大好きです。メンチさんなら黙らせるのが大変だから。
「スシはスシでもニギリズシしか認めないわよ!!」
 メンチさんが相変わらず我が道を突っ走っています。手巻き寿司ぐらいにハードルを下げてください。
「それじゃスタートよ!! あたしが満腹になった時点で試験は終了!! その間に何コ作ってきてもいいわよ!!!」
 説明が終わったので、絶をして二人で外に出る。当然、私の事を知っているヒソカもついてくる。レオリオがバラす前に投網を投げ込まなければならない。
「食材の確保に参ります。坊ちゃまはここでお待ち下さいませ」
「うん」
「行ってらっしゃい♥」
 ヒソカさんには言ってない。
 けど、ついでに用意してやろう。既にリストは穢されてしまっているのだ。さっき回収してくれたし、恩はとっとと返しておくに越した事はない。
 私は全力疾走して一番に水辺に到着する。すると、試験会場の方から「魚」という声が聞こえてきた。
 私はケータイのストラップにしていた小さなコックさんのアジオウ様を外し、アジオウ様ごと投網を投げる。
 名前の理由は、口がライトになっているから。
 口が開いて光った時はどうしようかと思った。ミルキ坊ちゃま曰く、目が光るなんてありきたりすぎるから。
 探査用としては、とても重宝している。小さいから狭い場所にも入れるし、謎の超合金で、とても硬い。
 ケータイのディスプレイには、水中の様子が映し出されている。コックさんの目にはカメラが取り付けられているのだ。これもミルキ坊ちゃまの拘りらしい。
 アジオウ様を操作して、目当ての食材を網に絡ませてゲット、そして投網で偶然ゲットしたかのように引き上げる。
 そして二番手が駆けつけた頃には、私は来た道を戻り始めていた。
「戻りましたぁ」
「早かったね。なにそれ」
「海老と蟹です」
 この二種なら、間違いはない。このビスカ森林公園内でも、オススメの美味しい食材だ。
「これならスシでも火を通しますし。蒸し海老はイルミ坊ちゃま好きですよね。
 淡水魚には寄生虫がいますから、火は通さないと。
 本当は時間制限があるような場面では、寿司は向いてないんですよね。とくに淡水魚は生で食べるには向いていません。
 ちゃんと火が通っていない淡水魚は寄生虫がいて、毎年のように死人が出ていますから」
 イルミ坊ちゃまとヒソカさんは魚と騒ぐ連中を見る。生で食べるには危険であるはずの淡水魚を確保しようと必死だ。
「あの試験官、そんなモノを生で食べるのかい?」
 そもそも、寿司を知らないような人は、魚を生で食べるなんて発想すらないだろう。
「あの人だから大丈夫だとは思います。自分で言い出したんだし。私の師匠だし。
 私が心配しているのは、試食する側です」
 この場で、腹を壊したりしそうなのは私でもイルミ坊ちゃまでもない。
「じゃあ、ボクのためかい?」
 そう、ヒソカさんのためだ。
 この人、胃袋や体質は普通のはずだから。
「世の中何が起こるか分かりませんから、安全な物を作るに越した事はありません」
「そうだね♠」
 二人を引き連れて試験会場のキッチンに戻ると、私は早速蒸し器を用意し、シャリ作りに取りかかる。寿司酢、実は作ってきてある。寿司酢は一晩は寝かせておきたいから。私の場合、リストの維持がかかっているため、妥協できない。
 その自慢の寿司酢を、ちゃんと保温してあった、熱々のご飯と混ぜ合わせる。
 置いてあった団扇をヒソカに渡し、
「こんな風に混ぜながら扇いで冷ましてください」
「ボクがかい?」
 もう一人は私の雇い主。金だしてくれている人。あなたは私をタダで使おうとしている人。
「はい。切るように混ぜて温度を下げます。混ぜすぎると粘りが出て不味くなります。ヒソカさんなら大丈夫だと信じています」
「分かったよ♦」
 作業をヒソカに任せ、次にネタの加熱調理。
 蒸している間に私は厚焼き卵を作る。
 そうこうしているうちに受験生達が戻ってきた。
 彼らがうだうだしている間に、私は下準備を終えて一息つく。
 魚があっても、どうしていいのか分からないでいるから、焦る必要はない。
 三人でお茶を飲んで一服した。
「んじゃ、握りましょう」
 私は初心者向けにゆっくりと、説明しながら握った。もちろん他の受験生から遠い場所で、二人だけになんとか聞こえる程度の小声で。さすがに調理中に絶をしていたら、この存在感バリバリの二人がいつどこでってことになるから、普通に調理。
 私が何かを普通に作っているから、チラチラと見られているのだが、この二人に近づく者はいなかった。
「美味しい」
 坊ちゃま、人が目を離した隙に、いきなり私が作った見本を食べないでください。
 やっぱりマイペースだな、この人。
 二人とも手先の器用な人だから、素人としては合格ラインに達しているだろう物を作り上げ、先に並んでいただいた。
「あら、美味しいじゃない! ネタは無難だけど、合格よ!」
 っしゃ!
 これで坊ちゃまの信頼アップ!
「おい、いいのかよっ!?」
 アキラ君が苦情を言いに来る。
「いいのよ」
「つか、よくあいつらを合格させられたな……」
「シャリは私が用意したし、二人とも器用だもの。説明すれば最低限の事は出来るわ。キミも頑張って」
 合格者は少ない方が良いので、頑張って欲しくないんだけど。
 私は卵を持ってハンゾーの前に並んだ。
 既にレオリオやらがひっくり返されてたけど、合格者が出たから慌てて私の後ろに並んでいる。自分が一番だと思い込んでいたのだ。忍者の癖に、油断しすぎだよね。それが彼の魅力なんだけど。
 うっかり忍者。でも実力有り。将来はユーモアと渋みを併せ持つ素敵な忍者になる事だろう。
「あんたがアレ指導したの? 酢飯の配合も完璧だったわ。いきなりイロモノが来るから身構えちゃったけど」
「キノちゃん、ダーリンとヒソカさんとはぁ、よくお料理するから♪」
 私一人で作って、あいつら食べてるだけだけど。
「…………まあいいわ。ギョクなんて通ね」
 一口食べて、固まった。
 味付けはかなり変えているのだが……。
「って…………あんたっ……何がキノちゃんよっ!? ろくに連絡も寄越さずに、なんであんなイロモノと一緒にいるわけっ!?」
 握り方も味も変えたのにバレた。何で何で?
「えぇ、おいしくなかった?」
「美味しいわよ! 美味しいから言ってんじゃない! このレベルが握れるハンター志願の若い女なんて、どんなに世の中が広くても、あんたしかいないわよっ!」
 がーん!
 美味しくした時点でバレる事が確定していたとは。
「メンチ、落ち着いて」
 大人のブハラさんになだめられ、メンチさんが肩でぜいぜいと息をする。
「きっと色々とワケがあるんだよ」
「ブハラさんだぁいスキ♪」
 やはり頼れるのはブハラさんだけ。
「あんた、なんでそんな破廉恥な格好……」
「メンチさんだけには言われたくないし」
 私と大差ない格好でしょ。むしろメンチさんの方がずっと露出度高いよ?
「なんだ、知り合いかよ。さっさとしろよ。後つかえてんだ」
 ハンゾーが怒っている。無理もない。
「合格?」
「当たり前でしょ。あんた合格にしなきゃ、誰も合格なんてしないわよ。なんだってこんな所にいるわけ!?」
「いや、試験中ですし、それはまた後で」
「きっっっちり、説明してもらいますからね!」
「はぁい。あ、ブハラさん、これ食べてください」
 甘ったるい声で返事をして、私はブハラさんにスシ三種盛りを渡した。
「ちょっと、私にも寄越しなさいよ!」
「もぉやぁだぁ。試験官が既に合格した人の料理で腹を膨らませてどうするんですかぁ」
「ぐっ……後でね! 絶対よ!」
 私はスキップでイルミ坊ちゃまの所に戻った。
 キルア坊ちゃまが、アヤノが作ったスシと違うと言ってひっくり返して、ゴン達に宥められている。
 どうやらグルメに育てすぎたらしい。
 その後、私のスシと比べられて作り直しを命じられたハンゾーが、とうとう切れて作り方を暴露し原作の流れになった。
 メンチさんの性格上分かってたけどね、こうなるのは。
 素人にはカラ過ぎる審査だから、会長も来るだろうし、安心してみていられる。
 唯一気がかりなのは、イルミ坊ちゃまとヒソカさんの目が、美食ハンターって変人ばっかり、とでも言いたげな色をしている事だった。



あとがき
美食ハンターって、非常識と強靱な胃袋必須ですよね。
生のブタは感染症の危険があるし、メンチさんの試験はド素人にハヤシ先生の技術を求めるようなものですからね。

夜中にふと起きた時、ラーメンマンと名付けて、食材をラーメンにしてしまうコックさんはどうだろうかと考える自分がいました。
特質系っぽいのでやめました。



[14104] 12話 平和な食道楽
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2009/12/06 19:24

 なんとか合格して、こっそり調べたらリストも何とかそのままだった。
 酢飯を寝かせる時間がほとんど無かったから心配だったけど、まあこの場で作ったにしては上出来だっただろう。他のゲテモノを見た後では、一定レベル以上はいつも以上に美味しく感じそうだし。
 私は時間を有効活用するために、余った酢飯ともう一度捕ってきた海老で、エビ天巻を作った。油はブハラさんにもらった。
 しかし周りからの視線がとても痛い。
 お前のせいだと言わんばかりに。
 一人も合格者のいなかった漫画よりも、他の人達が殺気立っているような気がして怖い。それとも漫画も主人公達以外はみんなこうだったんだろうか。
「狩りの獲物はゲテモノだけだと思っていたけど……人に食べさせる時は狩りをしてもマトモだね♠」
「当たり前ですぅ。相手の好みを把握するのも料理人の仕事です」
「ゲテモノ仲間に食べさせるから、てっきりゲテモノだと思ってたよ♥」
「ゲテモノ仲間じゃありません」
 ヒソカさんのゲテモノ発言を聞くと、ますますヒートアップする受験生のゲテモノぶり。ヒソカさんはドMだけど、根本はドSだと思い知らされる先導振りだった。
「ゲテモノっていうのは、私的にはああいう食べられない物の事をいうんですぅ」
 メンチさん、原作よりは同情できます。
「ちょっとあんたら! 特に44番! 余計な事くっちゃべってんじゃないわよ! そのハゲとあんたのせいで、あたしはスシっぽいゲテモノ食わされてんのよ!? なのになんであんた達だけ美味しいもん食ってんのよ!? 寄越しなさいよ!」
「くっくっくっ……♠」
 メンチさんが臆することなくキャンキャンほえ掛かる。相手の実力だって分かるだろうに、それでも挑む彼女の気の強さが恐ろしくなる。
 ヒソカが原作よりも機嫌が良いのが救いか。他人の不幸は蜜の味というし、煽りが成功してさらに上機嫌。
 何よりも、美味しい物を食べさせてるからね。胃袋が幸せで、自分が優位な位置にると、人間は機嫌がよくなるものだ。
 ただ、他のみんなが脱落させられそうな雰囲気には少し怒っている。ここで三人になったら、後がつまらないから。それでも煽るのは、煽っても煽らなくても結果が変わらないのが目に見えていたから。
 イルミ坊ちゃまは自分が受かってキルア坊ちゃまが落ちれば何の文句もないから、たまにカタカタ言いながら黙々と私の作ったエビ天巻を食べてる。
 見慣れるとこれはこれで愛嬌も…………感じないな。まだそこまで悟れていない。
 時が流れ、二人の腹もふくれた頃──
「ああ、もう! 満腹! もう嫌! 合格者三名! 終わり!」
 あ、漫画と台詞が違う。
 私はお茶をすすりながら様子をうかがう。
 心配しなくても、みんな非難囂々だ。
 そしてブラックリストハンター志願のデブ他三名がブハラさんに吹っ飛ばされた。あれ、食ってかかった人多い?
 でもそんなの物ともしないブハラさん。
「ブハラさん、かっこいい……」
「えっ?」
 イルミ坊ちゃまとヒソカだけではなく、皆に見られる。
「ってか、卑怯だろ! 知り合いだからって甘い採点したんじゃねぇだろうな!?」
「馬鹿おっしゃい! あれはどこのレストランでもすぐに厨房責任者になれるぐらいの一流の料理人よ! 一流の味が、あんた達のせいで台無しよ!」
「そんなんと比べてんじゃねぇ! あの女はともかく、他の二人はいいのかよ!?」
「あんたと違って握りもそこそこだったのよ!」
「プロに指導されないと合格できないなんて、納得出来るかぁぁぁぁっ!!」
 おお、ものすごくヒートアップしている。ぶっ飛ばされてもみんな諦めない。メンチさん包丁装備。血の雨が降る!?
 そんなハラハラドキドキのやりとりを繰り広げていたら、
『それにしても、審査基準がちとキビシすぎやせんか?』
 などというマイク音が響き渡り、皆が外に出ると、ネテロ会長が飛行船から降ってきた。メンチさんではなく、ブハラさんが電話をしていたのだ。
 ま、些細な違いだが、流れは大きく変わっていないので良しとする。
 しかし化け物だよなぁ。ゼノ様の祖父のマハ様と同じぐらいの年代だったよね。元気だなぁ。ゼノ様はこれからもまだまだ働けそうだ。
 原作通り、ネテロ会長はメンチさんの乳を見た。そして近くにいた私にも目を向ける。見比べる。私はイルミ坊ちゃまの背に隠れた。
 自分で選んだ格好だけど、あんな風に見られるのは不愉快。
 私が隠れている間に、追試がゆで卵と決定した。
「なんだ。追試か」
 イルミ坊ちゃまは珍しくぼやくように呟いた。残念だと思っているのだろう。せっかくキルア坊ちゃまの合格を阻止したのに、と。
「クモワシの卵は美味しいですよ。以前、ディナーにお出しいたしました」
「ああ、あれか。覚えてるよ」
 ご機嫌はなんとか保っている。
 満腹だし、悔しそうに頭をかきむしる弟の写メ(盗撮)を、奥様に送ったりも出来たし。
 このキルア坊ちゃまの初料理挫折の図は、几帳面にアルバムに並べられるんだろう。奥様も変なところだけ細かいから。
 飛行船でクモワシの巣がある山の谷間に到着すると、私は合格しているが一緒に飛び降り、卵を三つ確保し崖を駆け登る。
「あんた、どうやってその靴底でがけ登り?」
「つま先に仕込んであるんですぅ」
「芸が増えたわね」
 そう言ってから、メンチさんはちらりとイルミ坊ちゃまを見る。
「前から男の趣味が悪い悪いとは思ってたけど、なんでアレなわけよ。まだ見た目ならピエロの方がっ」
「ほっといてください。あとヒソカさんは無理ですぅ。風前の灯火ですぅ。怖いからついでなんですぅ」
「アレは怖くないわけ?」
「敵対しなければ無害なものですよぉ?」
 最近、要求のハードルが高くなっているが……。
 クモワシの卵がほどよく半熟になった頃、引き上げて二人に渡す。
 私は試験会場から持ってきた白米を取り出し、卵がけご飯を作る。ご飯は保温してきたからまだ温かい。くぅ、たまらん。
「ああ、ずるいっ! 卵かけご飯!」
 食べようとした所、ゆで卵を持ったアキラ君に見つかってしまった。
「茹でたのは自分でしょぉ」
「その発想はなかった! おにぎりは夜食用に作ったけど、卵がけご飯も日本人の心なのにっ!」
「一口だけねぇ」
 卵がけご飯を差し出すと、彼は幸せそうに卵がけご飯を咀嚼する。この子、さっき諦めて、鮭っぽい魚を焼いておにぎり作ってた。きっと日本の味に飢えているのだろう。
「うめぇ」
 一見ページに追加されたかな? これで載ってしまうのも、料理人としては空しい気もするが、手の込んだ料理だけが料理ではない。
「ちょっと、美味しそうじゃない! あたしにも寄越しなさいよ!」
「はいはい」
 メンチさんにも分けて黙らせる。
 さて。この後はせっかく出会ったネテロ会長に、どうやって私の料理を食わせるか。
 ボール遊びでキルア坊ちゃまが抜けた頃に行くか。
 キルア坊ちゃまさえいなくなっていれば、私は警戒する必要もない。
 ネテロ会長はアリ編でアリ達を虐殺しまくるお方だ。足下に落ちていた虐殺されたアリたち。あのまま捨てるにはもったいない! 捨てるしかない物を食するなど最高のエコではないか。
 ネテロ会長とさえ知り合ったら、上手くいけば苦労せずに食材が手に入る。
 自分の力で調達するのは、最悪の場合なのだから、手を打っておくに超したことはない。





 飛行船の中、時計を見てそろそろかと立ち上がり、私はお菓子入りのデイバッグを背負い、遊んでいる気配のある方向へと向かう。
 イルミ坊ちゃまは寝てる。あの人、オフの日には自分の鍛錬か弟の鍛錬か食べるか寝るという日々だ。寝られる時はどんな時でも寝る。それがイルミ坊ちゃま。
 もちろんこんな所で熟睡なんて出来ないだろうけど。
 数日後には、土の下でも寝るかと思うと……うん、ゾル家はやっぱり化け物揃いだな。
 などと考えて、前をとろとろ歩いていた二人組を追い抜かしたら、キルア坊ちゃまの気配がどんどん近づいてきている事に気付いた。
 そういえば、こんなシーンあったな。曲がり角でぶつかって、文句を言おうとして殺された人達。
 追い抜かした二人が、キルア坊ちゃまに殺されるはずだった人か。
 後ろの二人を見捨てるのも可哀相なので、身構えながら歩き、代わりにぶつかってあげた。構えすぎていたからキルア坊ちゃまがたたらを踏み、後ろの男達がちらとこちらを見ながら私達を追い抜かそうとする。
「あ、大丈夫?」
 手を伸ばすと、案の定、襲われた。
 相手が襲ってくると思って構えていたからなんとかその両手を掴むことが出来た。
「なっ!?」
 一瞬、ついでに殺されそうになっていた二人組が振り返ったが、すぐに前を見て立ち去る。
 自分達が『生き残った』事には気付いていない。
 しかし通りすがりの女の子を襲うなんて、ちょっと反省してもらおうと、手首を二人の胸の前で固定する。逃れようと抵抗するが、さすがに今の混乱しているキルア坊ちゃまに負けるほど弱くはない。今の私はゾル家に来たばかりの頃の私ではないのだ。
 イルミ坊ちゃまに宣言された通り、筋トレさせられてパワーアップしたのである。
 ビスケちゃまの用になったらどうしようかと脅えたものだが、意外と少し筋肉が付いただけだった。
 ああ、不思議世界で良かった! と神に感謝した物である。
 今では執事の皆様と、念無しでならまともに組み手が出来る程度には成長している。念有りだと、強化系寄りの皆さんにはどうやっても勝てないけど。
「女の子にいきなり襲いかかるなんて、子供のくせにそんなに欲求不満?」
 顔を見られないように、両手をまとめて胸の谷間に押しつけてやる。ただし、私の手があるので近いが直には触れてはいない。それでもキルア坊ちゃまは、見る見る間に赤くなり、触れそうな位置にある私の胸をガン見する。さすがのキルア坊ちゃまも、これは冷静でいられないようだ。
 とはいっても、子供相手だからできる手である。私は手段は比較的選ばない女ではあるが、子供以外にこんな事をするほどの余裕はない。彼氏いない歴=年齢なのだから。私の恋人は料理と食材達。
「なっ……なにすっ」
「ダメよぉ、カリカリしちゃ。せっかくの男前が台無しよ?」
 まあ、子供だから血気盛んなのは仕方がないけれど。
「落ち着いた?」
 もう、抵抗はない。キルア坊ちゃまは恥ずかしそうに目を逸らした。
「……お前、何者だ!?」
「それはこっちのセリフ。いきなり襲いかかってくるなんて、ダメよ? それとも通り魔の趣味でもあるの?」
「っ……」
 殺し屋が嫌で出てきたのに、無差別に殺していたら意味がない。それは殺し屋でもなく、ただの殺人鬼だ。
「楽しく……ねぇよ……」
 とにかく殺す事を叩き込まれてきたから、身体が勝手に動くんだろうか。
 嫌だなぁ、そんな身体。
 さっきまでギラギラしていたのに、今は強い自己嫌悪で顔を歪めている。
「じゃあ、もう頭に血が上ったからって、必要もないのにこんな事しちゃダメよ? やるなら必要のある時を見定めて」
 暗殺者は殺しが楽しくなくてもいい。ゼノ様がその見本だ。イルミ坊ちゃまも楽しくはないだろう。二人は本当にいい殺し屋だと思う。
 私は彼の手を解放し、ポケットに手を入れた。
「はい、口あーんして」
「はぁ?」
「苛々してるみたいだから、アメちゃんあげるっ。おいしくてすっとするの」
 素直に口を開けるキルア坊ちゃま。そのお口にあめ玉を含ませる。口の中でころりとあめ玉を転がす音がする。もちろん毒など入っていない、通販で買った私の好きなアメだ。
「いい子だから、もうこんな事しちゃダメよぉ? 落ち着いたら顔でも洗ってもう寝ちゃいなさい。じゃあね」
 何か言いたげなキルア坊ちゃまの脇を通り、今度こそ私はその場を立ち去り、目的地に向かう。
 いつもは和ゴスにふさわしい赤いアイラインに最低限のメイク。
 今は付けまつげバサバサ囲み目ラメラメメイク。チークははっきり、肌にもラメ入りのパウダー叩き込んで、完全に別人。
 アップで見ても分からないだろう。
 声の質もキャピキャピに変えている。
 背丈も元の身長が分からないような小細工をしている。
 何より、キルア坊ちゃまとは必ず離れて会話していたから、私の事なんて無力な職人枠としか思っていない。
 私の事は、料理長と同じような目で見ているはずだ。
 はずはずってのは怖いけど、それは自分を信じるしかない。
 それよりも私は、究極のエコクッキングのために会長に手作りの菓子を食わせなければならない。
 大丈夫。きっと気付かれない!
 ……念のため、アジオウ様で監視をしておこう。



[14104] 13話 腹具合 彰視点
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2009/12/06 19:07

 どうやら巨乳コスプレギャルのキノちゃんは、メンチさんの弟子らしい。
 巨乳師弟。
 思わずレオリオさんと乳……料理人師弟について語ってしまった。
 なんて美味しい。なんて素晴らしいっ! 萌える! オレは百合も大好物だ!
 何と言ってもメンチさんは、ハンターの中では珍しくまともな部類の美人さん!
 色々とマトモじゃない所もあるけど、それに目をつぶればマトモ。
 そしてメンチさん、あの様子だと、キノちゃんがゾルディック家にいるの知らないようだ。
 キノちゃん、やっぱり自分で関わったんじゃないか。
 元の世界に戻るためには、主人公組の誰かかゾルディック家か旅団に関わっているのが近道な気がするから、気持ちは分からないでもない。
 しかも料理人とは……。
 メンチさんにしごかれると料理の腕も上がると?
 そして露出度が上がると?
 露出度は万歳だ。
 素晴らしい。
 その上料理上手。
 メンチさんはハンター内で最も女房向けの女性キャラではある。たまらない。
 ちなみに奥さんっぽいのはセンリツさん。あの容姿でもいいってぐらい、性格美人だ。慣れると可愛く思えてくるし。会うのが楽しみだなぁ……。
 聖騎士の首飾りで元に戻らないかな? やっぱ現実でもカードだけしかダメなのかな……。
 ゴン達が使い終わって必要がなくなったら、提案だけしてみよう。
「会長、何してるんですぅ?」
 首をかしげ、何も知らない風に入ってくる女、キノちゃん。
 今はゴンが会長からボールを取るのではなく、両手を使わせようと躍起になっている真っ最中だ。俺はダウンして見てるだけ。ゴンはめげない、諦めない不屈の闘魂の持ち主だ。
「さっきぃ、銀髪君に殺されそうになりましたけどぉ」
「ああ、すまんなぁ。熱くさせてしもうたようじゃ」
「もう。他の人なら殺されてますよ?」
 腕を組んで頬をふくらませる。
 あれか。原作の殺人。
 のこのこやってきたら、彼女にあれが起こったって事か。さすがに念能力者且つゾルディック関係者なだけあり、傷一つ無い。しかしキルア、女の子を襲うなよ。
「まあまあ、メンチには良く言っておいてやるから。で、なんか用かの?」
「メンチさんから逃げてきたんです。ダーリンの事、根掘り葉掘り聞いてくるからぁ」
「そりゃお前さんが悪いじゃろう。事情を知っていても知らんでも、可愛い妹分が知らぬ男と一緒におればなぁ」
 俺もそう思う。
 ってかこのじーさん、イルミさんのこと把握しているのか? ゼノさんはこのじーさんにやり込められてるみたいな事書いてあったし、さすがに申し込みは本名だろうし、知っててもおかしくないな。じゃあキルアの事も知ってる? 知っててあんな危険なガキを解き放つなよ。
 どうでもいいがじーさん、相手の顔見て話せよ、胸ばっか見てねーで。
「そうだ。お菓子食べます? ダーリン、もういらないって。痛んじゃう」
 キノちゃんが背負っていたデイバッグから、花柄の可愛い包みを取り出す。
 イルミさんの為に作った菓子か……。
 作りがいあるよな。あんなイケメンのためなら、料理が得意らするよな。金持ちだし、跡継ぎじゃないから義母の驚異も薄そうだし。依頼がないなら殺されなさそうだし。
 って、イルミさん仕様って、間違って毒入ってないよな?
「ほうほう。ゴン、美食ハンターの作った菓子、休憩がてらに食べてみるか?」
「うん。ありがとう……えっと、キノちゃん」
「いいえ」
「オレはゴン」
「いい名前ね。よろしく、ゴン君」
 キノちゃんはゴンに笑みを向けた。
 笑うと可愛いよな。メイク落としたらすっげぇブスって可能性はあるけど。
 作りすぎてて元の雰囲気が分からん。
「ゴン君は元気が良いのね。疲れた時には甘い物が一番。どうぞ召し上がれ」
 キノちゃんは床に正座し、クッキーの包みを膝のに広げる。綺麗な姿勢が意外だった。
「いただきます」
 ゴンが手を伸ばした。
 細くて白い太ももの上だ。
 細いが柔らかそうで、オレは迷った。
 子供は純粋で良いな。
「キノちゃん、すっごいおいしい! こんな美味しいクッキー初めてっ!」
 ゴンは子供らしく喜んで、もう一つ手を伸ばす。
「ありがとう。喜んで食べてくれる人って大好き」
 ゴンに対しては可愛く笑うな……。
 オレにはツンツンなのに。
 卵かけ分けてくれたけど。
「わしもいただこうか……なんじゃ?」
 会長が太ももに手を伸ばし、その手をキノちゃんの手に止められた。
「今、触ろうとしませんでしたぁ?」
「ふぉふぉふぉ。わしのような年寄りをからかうもんじゃない」
 オレは思わず会長に疑いの目を向けた。今のコースはどちらとも取れる。
 メンチさんの乳見てたからなぁ。スケベじじいには違いないもんな、この人。
 キノちゃんはクッキーを一つつまみ、
「もう。ネテロ会長、はい」
 キノちゃんは会長の手の上にクッキーを置いた。
「あーんとは言ってくれんのかの」
「やっだ、会長ったらぁ。三枚に下ろしますよ?」
 彼女の手には包丁が握られていた。
 具現化系か? メンチさんも包丁武器にしてたし。しっかし、師弟揃って包丁……。
 本当はゴンを餌付けしに来ただけだから、ジジイはついでって事か? ついでのジジイにセクハラされて、キノちゃんは引きつった笑みを浮かべていた。
「メンチの弟子だけあって気が強いの。料理も美味い」
「でしたら今度、フルコースも食べてくださいね」
「そうしたいところじゃが、ワシも忙しい身でのぉ」
「そうですか。残念です。ネテロ会長の武勇伝をお聞かせ願いたかったのに……」
 キノちゃんは心にも思っていなさそうな事を、残念そうに言う。
「オレももらおうかな」
「あ、そうだアキラ君」
「ん、何?」
 クッキーもらっちゃダメ? オレには用無い?
「お腹痛くない?」
「は?」
 オレは首を傾げた。
 一体なぜ?
「ほら、生卵食べたし。自分が平気だからすっかり忘れてたけど、生卵があまり食べられない理由って、サルモネラ菌でしょ。処理されていない自然の卵って、危ないんじゃないかなって……」
 ………………。
 美食ハンターは、なんか……腹が強そうだ。キノちゃんも、強いんだろう。
 ………………。
「だ、大丈夫だろ、きっと」
「まあ、確率はかなり低いけど、もしも体調が悪くなったら、ちゃんと係の人に言わなきゃだめよ? 数千個に一個ぐらいは、黄身まで菌がいるのがあるって聞いた事があるから」
「あ……うん」
「健康なら摂取しても中毒にならない事が多いし、そこまで気にする事はないと思うけど」
 健康と体力には自信がある。食べたの一口だし、まあ大丈夫だろう。
「あ、整腸剤あげるわ。念のために飲んでおいてね」
 キノちゃん、意外と心配性だな。心配されると余計に不安になるんだけど。
「あ、ありがとう」
 心配してもらってはいる。
 でも、デレたとはなんか違うような気がする。
 オレはむなしさを抱えて、クッキーを食べた。
 あ、美味い……。
 さっきはオレでも作れる料理だったから気にしなかったけど、確かに美味い。
「何か特殊効果とか?」
「やぁねぇ、薬なんて入ってないわよぉ。必要ないのぉ。お料理に必要なのは技術だけぇ。それ以外の余計なエッセンスはいらないのぉ」
 変化系の能力とかではない、と。
 余計な物を入れない主義なのはいい事だ。
「キノちゃんはいいお嫁さんになれるね!」
「そ、そう? ありがとう」
 キノちゃんはゴンの硬い髪を撫でる。
「ゴン君は女の子を喜ばせるのが上手ねぇ。
 お礼にこのクッキー全部どうぞ。ダーリン、疲れてない時はあんまり甘い物食べないから」
「ダーリンさん疲れてないんだ。すごいね!」
 ギタラクルがダーリンさんに改名されてしまっている……。
「そのダーリンさんは今どこに?」
「どこかで寝ていると思うのぉ。趣味は睡眠だからぁ」
 あれは趣味だったのか!
 っていうか、なんて寂しい趣味……。
 あの人は、あの一族の中でも異彩を放ってるからなぁ……。キキョウさん以外は普通に見えるぐらい。キキョウさんは、出番があれだけなのに、そのイルミ以上のインパクトがあったりするけど。
「私もそろそろ寝てくるね。夜更かしは美容の大敵だからぁ」
「お休み、キノちゃん」
「頑張ってね、ゴン君」
「キノちゃんも、お互いに頑張ろうね」
 くぅ、うちのゴンゴンは真っ白で可愛いなぁ。
「うん。でも、程々にしないと、明日起きられないからね」
 キノちゃんは残り少ないクッキーをゴンに渡して立ち上がる。
 誰が聞いているか分からない場所で、下手な話し合いは出来ない。だからお互いに特別声をかける事はない。
 唯一の元の世界との繋がりだけど、機会はいくらでもあるし。
 いや、ハンター試験に受かれば、連絡先ぐらい教えてくれるだろう。ゴン達には教えるだろうし、縁は切れないと思う。
「じゃあね、ゴン君、会長、アキラ君」
「またね、キノちゃん」
「終わったらメンチには全部話しておくんじゃぞ」
「はーい」
 キノちゃんは手を振って去っていく。
 彼女はどんな念能力なんだろう。彼女の能力を聞くのは、オレが発の練習をするまで必要ないぐらいだから、今は聞く必要がないんだけどさ。
「……俺もそろそろ休んできます」
 ゴンに付き合ってたら体力もたねぇし。明日はあのタワーだからな。ちゃんとトンパの席をぶんどらないと。
 ああ、でも、順番変えない方がいいのかな?
 でも最初の軍人は怖いなぁ。自分がどの程度の実力か分からないもんなぁ。
 かといって、ジョネスも怖いし。
 それにはクラピーをあの虚仮威しと当てなきゃ良いよな。あれならオレでも勝てるかも知れない。
 軍人さんはレオリオ以外なら大丈夫だろう。レオリオってなんか力はあるけど、格闘苦手っぽい気がするんだ。
 何でだろう。
 ああ、そうか。まともに闘ってる所が漫画に載ってないからか。
 …………ま、なるようになるだろう。





みんなが卵がけご飯にばっか反応するから、つい卵がけご飯ばっか食べてしまった。
土産物のめかぶ雲丹のめかぶだけのっけて食べたらなかなか美味しかったです。



[14104] 14話 3次試験 始まり
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2010/02/18 23:32

 タワーのてっぺんに降り立つと、私はイルミ坊ちゃまの腕に絡みついて周囲を見回す。
「どう降ります?」
 私はイルミ坊ちゃまにそっと尋ねる。
「普通でいいんじゃない? 目立ちたくないし」
「え、その格好で?」
 イルミ坊ちゃまは首を傾げて私を見下ろした。
 本気で目立たないと思ってるのだろうか。それともイルミ坊ちゃまなりの冗談?
 やはり、一年、二年で理解できるようなお方ではない。
 そうこうしているうちに、ロッククライマーの男が鳥に食われた。こうして見ると悲惨な最期だ。私はせめて一瞬で死にたいな。
「あの鳥、美味しいかななんて言わないでね♥」
「もう、ヒソカさん。大丈夫ですよ。あれは美味しく無かったですから。
 ぱっさぱさで、煮ても焼いてもなんとか食べられるぐらいで、素材としては魅力はありません。なのに高い所まで飛べるから、捕るのが大変なんですよ。最悪の食材です」
「…………そう♣」
 いつものように、含みのある間。
 思わず語ってしまった。
 私を、みんなが変な顔で見ているような気がする。
 ゴン君達と下を覗いていたアキラ君も引いてる。三人で私と怪鳥を何度も見比べる。いや、三人だけじゃなくて、その他大勢いるんだけど。
「美食ハンターって……普段何食べてるんだ!?」
「アキラ、落ち着いてっ落ちる落ちるっ! そういう仕事なんだから仕方がないよ……きっと」
「オレ、昨日ちょっと美食ハンターいいかもって思ったけど、ぜってームリ」
 ただの趣味だけど、フォローしてくれようとしたゴン君はいい子だ。キルア坊ちゃま、初めての料理の成功(ゆで卵)が気に入ったんですね。アヤノは嬉しいです。
 お子様達が落ち着いて危ない所から離れたのを確認すると、私達は再び小声で打ち合わせを再開する。
「一人ずつ行くみたいだね。面倒だったら下についてから連絡する? 一番はオレかヒソカだと思うし」
 ヒソカさんが一番のはず。
 私やアキラ君といったイレギュラーがあるのが少し怖い。
 とはいっても、二番目に不安だった二次試験が、漫画の通りになったのは、大きな心の支えだ。私が試験官の弟子だったから、公平を期すという意味で、あの流れになる可能性が高いとは思っていたけど、そうならない可能性もあったのだ。
 これで一番の不安である、トーナメントを残すのみといっていい。
 ここで違いが出てくるとすれば、次の試験でクジを引く順番が変わってしまうぐらいだ。
「いえ、私も普通に降ります。
 じゃあダーリン、またね」
 私は近くで見つけた誰も下にいない穴に落ちる。
 どんな道かな。
 ゴン君達の道はけっこう大人数だけど、ヒソカさんみたいに一人の道もあるみたいだし、一人だったら楽で良いな。
 イルミ坊ちゃまはどんな道だったんだろう。
 私は着地すると、部屋を見回した。
「んと?」
 なにか書いてあるのを発見し、私はこの世界独特の文字を読む。
 コレが苦手だ。だって、全部ひらがなで書いてあるようなものだから。漢字って覚えるのは大変だけど、覚えたら分かりやすくて良いよね。
「ええと……たすうけつのみち?」
 私は薄れた記憶を引っ張り出す。
 棚の上には腕に装着せよとばかりの何かが五つ。
 私は己の迂闊さを呪い、真っ白になってしゃがみ込んでいると──
「え? あれ、キノちゃん?」
「げっ、ゲテモノ女」
「短い別れだったな」
「全く」
 案の定、知った声が降ってきて、私は立ち上がりため息をついた。
「結局みんな一緒かよ」
「いや、アキラがいない」
 私、間違えてトンパさんの落ちる予定の所に落ちた……。アホだ。馬鹿だ。
 ああ、まっず……。
 私の知っている道は二つ。普通の人、つまりトンパでも生きて出られた道。
 私は冷や汗をかかないよう気をつけて、手鏡でメイクを確認する。
 うん、バッチリ!
「キノちゃん、ここ何? この部屋出口がないね」
 ゴン君が部屋を見回して言う。
「多数決で進む道だって。そこのタイマーつけていくみたい?」
 私は出来るだけキルア坊ちゃまに背を向けて話す。
「ちゃっちゃと終わらせて、ダーリンと合流しなくちゃ」
「あんた、本当にアレと付き合ってるの? 信じらんねぇ。もう少し見た目も重視しろよ」
 キルア坊ちゃまが、まあ理解できないこともない、でも言っちゃいけないことをおっしゃる。
「こ、こらキルア! 人は外見ではないとあれほどっ」
「だって悪趣味すぎ」
 咎めるクラピカさんに、悪びれのないキルア坊ちゃま。
 私は肩をすくめた。
 見た目で判断しちゃいけませんって、後でお説教していただかなければ。
 そんなんだから針なんて刺されるんですよ?
「そんな事より、進もう?」
「いや、あんた、自分の男にそれでいいのかよ」
 見た目だけは好みなレオリオさんに問われる。
「師匠にも言われちゃったしぃ、もういいの。言われるのもぉ飽きたのっ! ダーリンの良さはぁ、私だけが知っていればいいのぉ」
「ああ……あのねぇちゃんな。そりゃ騒がしそうだ。災難だったな」
 メンチさん、あんな短い間でもうメンチさんの欠点であり美点をである騒がしさを理解されてますよ。
 私はため息をつきながらタイマーを装着する。皆もそれに倣い装着すれば、壁がスライドしてドアが現れた。
「おっ」
「なるほど、5人そろってタイマーをはめると」
「ドアが現れる仕掛けか」
 多数決を促す文句が姿を現すと、道を開くために丸ボタンを押した。
 その瞬間、ホットパンツの後ろポケットに突っ込んでいた携帯が鳴る。
 ビビった。マジでビビった。
「あ、ダーリン」
 今の雰囲気に合わせてデコってみた派手な携帯だ。
 坊ちゃまが物言いたげにじっとこちらを見ているのが少し気になる。携帯は見られた事がないし、コックさんの事も知らないはずだからバレないはずなのだが……。
 やはり昨日殺そうとした相手だから、思う所があるのだろうか。
「はぁい、ダーリン」
『平気?』
「可愛い男の子達と渋いオジサマと一緒っ。ほら、小さな子達が二人いたでしょ?」
「お、おじっ、オレはまだ10代だっ!」
 レオリオさんの言葉は無視。
『キルと一緒?』
「そう」
『バレない?』
「たぶんだいじょーぶっ!」
『バレたらお仕置きだよ』
「はーい」
『こっちには、アヤノの知り合いの男がいる。オレのこと話した? 本名呼ばれたんだけど』
 んのばか……っ!
 いや、気持ちは分かるけどさ。
 落ちた先にアレがいたら、思わず叫んでしまうのは仕方がない。
 こればっかりは仕方がない。だって、それだけ不気味だから、あの姿。
「しらなぁい。でもネテロ会長は分かってたみたいだから、それじゃないかなぁ?」
『何で?』
「さぁ? キノ難しいことわかんなぁい。あ、おじい様とお知り合いだって聞いたような気がするの」
『ふぅん。まあ、本名も書いたしね。
 そういえば、アヤノがその話し方すると、母さんを思い出して嫌だ』
「えっ…………」
 どこが? 声高いから? あの人こんな甘ったるい話し方しないよ? 絶対にしないよ? 意味不明なんですけど。
『まあ、気をつけて。下で待ってる』
「はぁい」
 私は携帯を切ってポケットにしまう。
「アキラ君、ダーリンと一緒だって」
「げっ」
 皆さん、そんなに嫌そうにしないで。無差別に殺さないから。
「ダーリンさんと?」
「そぉみたい。ついてないねぇ」
 私が。
「ついてなっい、見た目以外は普通じゃなかったのかよ」
 キルア坊ちゃまが呆れたようにおっしゃる。
「絶対に合わないから、二人とも残念? でねダーリンとっても強いから、協力し合わなきゃいけないならちゃんと守ってくれるよ。だからラッキー」
 死なせて進めなくなったら馬鹿みたいだからね。まあ、よっぽどの事がない限りは殺されはしないと思う。金にならない、仕事にも関係ない殺しは基本的にしないから。
 ただ、ゼノ様と違って『ムカつく』と殺す短気なところがあの人にはある。誰よりも無表情なくせに。
 アキラ君もうっかり口を滑らせてしまった事を反省して、もう余計な事は言わないだろう。
 …………ああ、不安だ。
 余計なことを言いませんように。




あとがき
少しだけ、アヤノの本性をみんなが知りました。
どんどんメンチさんが誤解を受けていくような気がします。
本当はもっとインパクトのある生き物が良かったんですが、出てきた中ではあれが一番のゲテモノかな、と。
でも、あの程度なら食べられる範囲だと思います。



[14104] 15話 裏側  彰視点
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2010/02/18 23:34
 俺は落ちた。ジャンケンに負けて、なんか穴が少し離れているからみんなと違うような気がする穴に落ちた。万が一にかけて落ちた。
 まあはぐれてもどうにかなると思いながら落ちた。膝を曲げて、手を付いて着地する。高い所から落ちるのはけっこう平気だ。よく物置の屋根から飛び降りて遊んだり、橋の上から川に飛び込んで遊んでたし、二次試験の卵も、かなり怖かったけどなんとかなった。
 あー、緊張する。
 先客いるのに気付いて、胸を高鳴らせながら顔を上げると、オレの視線の先には恐怖の針男がいました。
「いっ……」
 るみ。
 予想外の姿に、思わず口にしそうになって、なんとか声には出さなかった。セーフ!
「なんでオレの名前知ってるの?」
「え……?」
 声に出さなかったけど、口は動かした。
 ぜんぜんセーフじゃないっ!
 ダメじゃんオレ。
 どうするオレ。
 始末される?  どう足掻いてもこの人には勝てないし! 清々しいほどオレはこの人の前では無力。
 心臓が早鐘を打ち、脂汗が出てくる。
 打つ手無し。
 不気味な姿のまま首を傾げる針男。イルミさんの姿なら美男子だから似合いそうだが、その姿ではただ不気味。怖い。ああ、風前の灯火ってこう言うのを言うんだな。ある意味、ヒソカよりも危険人物だし。ヒソカは、強くなってから全力回避するか、強い能力にしなきゃいいだけだし。
「アヤノが話した?」
 暴れる心臓を押さえて固まっていると、再び話しかけられた。
「ア……ヤノ?」
「本名は知らないんだ」
 …………キノちゃんの事、か?
 キノちゃん、アヤノちゃんっていうのか。なんか似合わねぇ。キノちゃんの方がまだそれっぽい。
 イルミさんはオレから視線を外して、携帯を取り出した。
 ここの家庭って不便っぽい不思議なアイテム使うような気がしたけど、普通っぽいケータイもあるんだ。
「平気?
 キルと一緒? バレない? バレたらお仕置きだよ」
 ………………ええと。
 正解っぽい所にある穴がロックされていると思ったら、あんたの仕業かっ!
 なんで俺達入れ替わってるんだよっ!? 確かに、隣同士の穴だったけどさ!
「こっちには、アヤノの知り合いの男がいる。俺のこと話した? 本名呼ばれたんだけど。何で?
 ふぅん。まあ、本名も書いたしね。
 そういえば、アヤノがその話し方すると、母さんを思い出して嫌だ」
 え、キキョウさんと話し方全然違うと思うけど。
 キキョウさん、漫画と違うのか?
 キンキン声っぽいキャラだった気がするんだけど、実はあんな可愛い声だったのか……。
 うわ、想像できない。
「まあ、気をつけて。下で待ってる」
 イルミさんは最後にキノ……アヤノちゃんを気遣う言葉をかけて、小さなケータイをポケットにしまう。
 そして唐突に顔から針を抜き、思わず目を背けたくなるホラー風味の光景が始まり、漫画のイメージ通りの死んだような目をした美男子へと変貌を遂げ、ふぅと息をつく。
「あー、しんどかった」
 あれだけ顔が変われば、そりゃしんどいでしょう。しんどそうには全く見えないけど。
「はい、これタイマー。つけて」
 始末されない……のか。アヤノちゃんが誤魔化してくれた?
「は、はい」
 オレは受け取ったタイマーをつけると、壁がゆっくりとスライドして、ドアが現れた。どんな道なんだろう。壁に何か書いてあるけど、オレ、字読むの遅いから読んでる暇もないし、思い出して読む事が出来る精神状態ではない。
「行くよ」
「え……は、はい」
 今のところは始末されない様子で、オレはとりあえず胸をなで下ろす。
「で、どうしてオレの名前知ってたの?」
 甘かった。
「え……?」
 言葉が出てこない。
「ネテロ会長に聞いたの?」
 ど、どういう選択肢だ? いや、それがアヤノちゃんからの助けだってのは分かる。有り難い。でも、何か一つでも間違えたらバッドエンド確定だよっ!
 誤魔化す? でもそれってバレたら……。
 こここ、怖い。
「あの……その……はい」
 言葉を考える。あまり長い時間考えていたら余計に怪しまれる。
「あの……昨日、会長と遊んでた時、あの……アヤノさんが来て。
 彼女が立ち去った後、会長がイルミ=ゾルディックがどうこうと呟いてました」
 この後、イルミさんが会長にそんな事を聞くような場面は、たぶんない。それに会長は普段から怪しいので、否定しても誤魔化しに見えるだろう。
 だからオレは目を逸らす。ここは逸らしてもいい場面だ。
「ゾルディックって、キルアのファミリーネームだったような気がするようなって……」
 イルミさんはふっと息を吐いた。
「キルに話した?」
「ひぃっ」
 針、針向けないでっ!
「は、話してないです話してないです。話してたらあんなに楽しげにしてませんって。っていうか、聞けませんよ。さっきまでは、似てませんでしたし。あのお姿のあなたと、キルアに親戚かなんて聞いたら、キルア切れますよ」
「…………それもそうだね」
 納得して……くれた?
「ところでキミ、何か特殊技能でもあるの?」
「え?」
「いや、普通に歩いてるから」
「え……ぐげぇっ!?」
 目の前に、槍が通過した。
 ぐげぇ、の部分は、イルミさんがオレの首根っこ掴んで引き寄せてくれたから。
「ねぇ、なんで罠の道を、罠が分かりもしないのに普通に歩くの?」
「…………わなのみち?」
「読まなかったの?」
「ごめんなさい。オレ、字、読めません」
「は?」
「いや、あの、オレ、記憶喪失中で」
 イルミさんは感情の読めない真っ黒な目でオレを見下ろす。オレ、背は高い方だったんだけど、この人は本当に高いなぁ。
「記憶喪失?」
 怪しいよなぁ。怪しいよなぁ、そりゃあ。
 自分で言ってて怪しいもん。
「こ……言葉とか小さな頃の事とかは覚えてるんですけど、字とか地理とか最近の事とか、綺麗に忘れました」
「…………」
 なんで針を弄るんですか? クセですか? 手元が寂しいんですか?
「いや、ホントなんですって! 自分の身元も分からないから、身分証にいいかなって、この試験受けに来たんですし」
 無言で歩くイルミさんが不気味で怖い。怖い。マジ怖い。
 沈黙が、怖い。
「えと、この道はどんな道なんです?」
「罠があるから二人で協力して切り抜けろって」
「分かりやすくはありますね」
「面倒くさい。片方が死んだら片方も失格だって」
「ももももも、申し訳ありませんっ」
 そうでなかったら、下手したらいきなり殺されていた可能性もあったって事か。
「期待してないけど、死んで邪魔しないでね」
「いや、好き好んで死ぬ人はここにはいないかと」
「それもそうだね」
 イルミさんなりの冗談だったんだろうか。それとも本気だったんだろうか。
 ああ、分からない分からない。
 分かったのは、イルミさんが想像以上にすごい事だ。ハイスペック過ぎる。
 というか、この道、難しすぎやしないだろうか。
 イルミさんは何も考えてなさそうにつかつか歩いて、オレはそれに続いて歩いているのに、たまに罠に引っかかった。危ない所はとにかく引っ張ったり押して助けてくださったりと、とてもとてもとてもとても頼もしい。
 落とし穴に引っかかった今は、蹴り飛ばしてくれたよっ! その反動で、イルミさんは進行方向の床に降り立った。
 とても感謝しているが、とても痛い。
 床に激突した時は目から火花が散るような、そんな感覚を体験できた。漫画の中でよく見るあれは、意外と的を射た表現だったのか。悶絶することも出来ずに、油汗を流しながら、頭押さえて、丸まって、痛みが引くのを待つしかない。この世界基準の頑丈さがなかったら、きっと頭が割れていた。今はちょっと血が出ただけ。
 ああ、せっかく朝からセットした髪型がもう乱れた。
 動けないほどの痛みが引いて、平衡感覚が戻ると、イルミさんのいる側へと走り幅跳びの要領で飛ぶ。
 うう、着地で痛みがぶり返す。
「巻き込まないで」
「も、申し訳ありません」
 せめて、何があると言ってくれればいいんだけど。
 オレに罠を見破る能力なんて都合の良いモノは無い。
 だって本当に見ても分かんないから。ゲームなら、普通は何か法則があったりするもんだろ。でも、法則も目印もない。本当にない。分かるはずがない。オレ、視力は良い方なのに、さっぱり分からない。
「あの、イルミ……さん。一体どうやって罠を見分けてるんです? 何かコツとか?」
「偽名はギタラクル。
 普通の人には分からないよ。キミはただの足手まといとしているだけじゃないかな」
「は?」
「有利すぎる場合は、足かせが付くのかも知れない。アヤノは大丈夫かな?」
 この人が誰かを心配する事があるのにも驚いたが、それ以上にイルミさんの言わんとする事の意味に驚いた。
 今この場合の普通とは、暗殺者ではない一般人という意味ではなく、念能力者以外の事を指し示すのだろう。
 ヒソカの道には、元試験管、つまりはプロハンター、念能力者が待ち構えていた。念能力を使っていたように見えなかったけど、きっとあれも念能力だったんだろう。ヒソカにはまったく通用しなかっただけで、明らかに他よりも難易度が高い道だったのは間違いない。そして元試験官の試練官は、そこにヒソカが来る事を知っていた。相手を見て試練官を選んでいるという事にもなる。
 そもそもこの道だって、最初の部屋の時点で、複数の扉があったとすれば、誰がいるかを見て、こういう難しいコースに宛がう事も可能になる。
 この塔、まさかリッポーさんが具現化しているとかオチすらあり得るのが怖い。罠がリッポーさんの念とか、そういうのは普通に有りそうだ。
 つまり念能力者には念能力者向けの試練があり、つまりオレは本当に、言葉の通り、イルミさんの『足手まとい』としてここにいる、という可能性があるのだ。
 オレの人権って……。
 どうせなら、念能力者が一人用の道以外に入ろうとしたら、入り口をロックして、無理矢理一人用の道に割り振れば良かったのに。なんて迷惑な。
 しかもだ。
 オレは足手纏いという、恐怖の時間を過ごすが、さすがにそれだけがオレの試練だとは思えない。つまり誰かと闘うような試練があるんだろう。
 けど……イルミさん用に、ヒソカみたいな念能力者が出てくる可能性は高い。そこまではいいが、オレにまで出てこないよな? 出てきたらイルミさんとヒソカとアヤノちゃん以外はみんな死ぬ。そのあたりのバランスも取れないようなら、試験官失格だろう。だから、オレには念能力者は出てこない。出てきてもイルミさん用。
 オレ、パイナッ……リッポーさんを信じてる!
 だからアヤノちゃんと一緒のみんなもきっと無事!
 でも…………さすがに、念能力がないと避けられない罠とか、無いよな? 大人数でこれをするのはムリだろ。ここは足手纏いがオレ一人だから対処できてるけど。
 ああ、オレが向こうに行ったら、少なくとも念能力者なんて心配はなかったのに。イルミさんに変な目を向けられる事も、乱暴に助けられる必要はなかったのに。
 っていうか、原作通りならみんな薄汚れてたけど、怪我なんてほとんど無かったよな。命の心配はなさそうだとしても、怪我しまくるオレの道とどっちが良いんだろう。
 まだ入って一時間経ってないのにこれじゃあ、最後の方はズタボロなんじゃ……。
 うう、頭もだけど鼻も痛い。でも折れてない。鏡とか出して、その時蹴られたらたまらないので、今は確認を我慢。顔は男でも命だ。もしもこの鼻を歪めて帰ったりしたら、母さんに怒鳴られる。
 …………。
「っていうか、巻き込まないですむように、口でそこに罠があるといってくだされば良いんじゃ?」
「面倒くさい」
「え……殴る蹴る引っ張るをするより、口でいう方が面倒なんですかっっ!?」
 イルミさんは振り向いて、頷いた。
「時間制限があるし、この方がまだ簡単」
 あの、オレは今、一体どんな床を歩いてるんですか?
「他にも方法はあるけど…………キミはアヤノよりは頑丈だね。アヤノならもう寝てるのに」
 イルミさんが、いきなりそう言った。
 色々、色々と思う所があるが、気にしない。気にしちゃ負けだ。
 でも、アヤノちゃんよりも頑丈……? 寝てる?
「え……あの、あんな小柄な女の子に、普段何してるんですか?」
 他に色々と言いたい事はあるが、飲み込んで一番気になるそれを尋ねた。
「別に。アヤノは料理人だし」
「な、なんで料理人が頑丈さを見られる機会があるんですか?」
「よく食材を狩りに庭に出て、間違えてうちのペットを攻撃して殴られたりしてるから」
 ゾルディック家の庭であんた何をしてるんですか。あれか、メンチさんみたいに包丁持ってハントしてるんですか、人んちの庭で! すんごい広大な庭だけど!
 っていうか、ミケは念能力者まで相手に出来るんですか?
 いやいやいや、それよりも!
「あの……まさか、普段から、あんな怪鳥みたいな物を?」
「あれは……まだ可愛い方?」
「ええっ!?」
 あの不気味な、食べ物が無くても食べるのを戸惑うような姿をしていたあれが、可愛い方!?
「世の中、知らない方が良い事もあるよ。普通に暮らしてたら大丈夫だから、気にしない方が良いと思う」
 アヤノちゃん、イルミさんにここまで言わせるような事をしているんですか? ヒソカが言っていたゲテモノって、ゲテモノって、ゲテモノって……。
「言っておくけど、オレは食べないよ。アレはアヤノだけの趣味だから」
 趣味……趣味とまで。
「なんて恐ろしいんだ、美食ハンター」
「一瞬でもキルが興味を持ってたなんて、ぞっとするよ」
 ああ、オレが混乱している間に、そんな事話してたな。
「そ、そぉですよね。
 あの……でも、じゃあ、なんで料理人をこんな所に連れてきたんですか?」
「あの美食ハンターがいるからって。結局、必要なかったけど、結果論だから」
 なるほど。そうやって介入したんだ。
 でもイルミさんって、けっこう話すんだな。こんなに丁寧に質問に答えてくれるとは思わなかった。
「キミ、アヤノと同郷なんだって?」
 質問ばかりしていたからか、聞かれて欲しくない事を聞かれてしまった。
「まあ、そんな感じです」
「アヤノ、流星街の出身じゃないの? 調べても情報が出てこないから。でもキミ、アヤノと違って普通っぽい」
 イルミさんに普通じゃないって言われるなんて、一体ゾルディック家で何をしてるんだ。でもこれ以上は怖くて聞けない。
「さ、さあ。オレ、記憶喪失なんで、流星街、ってのがどこにあるかすら……」
 どこにあるかは本当に知らないし。
「でもキミ、真っ直ぐアヤノを見てたよね」
「ああ……雰囲気でピンとくるんですよ。例え顔を覚えていなくても。
 よくわかんないんで、試験が終わって生きてたら、お話をしてくれって約束してるんです」
「ふぅん。じゃあ、ジャポンのどこで育ったの? 小さなころの事は覚えてるんだよね」
「いや、普通に暮らしていた記憶しか……」
 まあ、普通の範疇にはいるとは思う。
 イルミさんは歩きながら俺をじっと見る。
 針刺されない? 俺、針刺さってない? 怪しいから無理矢理口を割らされそうになんて、ならない? 死ななければいいとか思われてない?
 話をオレから逸らさないとっ!
「あの、アヤノさんは、イルミさんの何なんでしょう」
 オレは恐怖のあまり、そんな事を口走った。そんな事、聞いてどうするんだオレ。
「うちの料理人。でも家族になる予定だから」
「え、恋人設定はマジもんですか?」
 もう落とし済みとは、やるなアヤノちゃん! 本当にこの人を落とすなんて、やはりただのミーハーでは無いな! この人に普通ではないって言わせるぐらい!
「いや、すぐ下の弟が気に入ってる」
「って……ええっ?」
「何で驚くの?」
 またやっちまったよ……。
「い、いや、その、キルアから……」
「何を聞いたの?」
「い、いえ。勘違いかも知れないんで」
「何を聞いたの?」
「あの、その、キルアが……お兄さん達……とくに豚君なるお兄さんの事を話していたので。
 アヤノさん、ブハラさんを格好いいって言ってたような気がしたから」
 オレがキルアと一緒にいたのは知っているはずだ。だが、キルアが何を話していたのかなんて知らないはず。勝手に会話の内容を想像してくれるだろう。キルアはけっこうおしゃべりだから。
 でもこんなイケメンがいるのに、ブタ君……。
 まさかまさかのデブ専なのかっ!?
「キルはブタって呼んでるけど、最近痩せたからそんなに太ってないよ。アヤノが痩せさせたから」
 アヤノはデブ専じゃねぇよ、って言いたいのか?
 つまり、ミルキはアヤノちゃんのために痩せ、アヤノちゃんはダイエット食やら何かで痩せさせたと。
 そこまで本気かミルキ。そう言えば巨乳っぽいフィギュアがあったな。あの二次元キャラ的なロリ巨乳っぷりが気に入ったのか? 日本人は童顔だし、ミルキが気に入ってもおかしくない。
 ミルキは顔のパーツだけはいいから、痩せればイルミ並みの美青年になる事も可能。性格はイルミよりも分かりやすく、一緒になっても死亡フラグが立ちにくい。アヤノちゃんが惹かれるのも分かる気がする。
「じゃあ、弟さんは今ごろヤキモキしてるんでしょうね」
「そうかな?」
「そりゃ、そこまで好きな相手と、こんな立派なお兄さんが一緒だったら不安になりますよ」
 出番は少ないのに人気キャラだし、イケメンだし、良い言い方をすればクールだし、猫萌えキャラだし。
 オレもイルミさんは、原作の中でもかなり好きな部類のキャラだ。登場が衝撃的すぎるから。
 あと好きなのはクロロ。
 イケメンだし。会いたくないけど。
 マチさん。
 美人だし。でも会いたくないけど。
 あとはカイトさん。
 格好いいし。この人には会いたいけど、会いたくはない気もする。
「そんなものかな? 写真でも送ろうか」
 写真って、アヤノちゃんの?
 本人の意志は……と思うけど、結婚が前提にあるなら、まあいいか。
 ひょっとして、帰ろうとしていなかったのって、恋人がいるから? 世界に馴染んでいるし、オレなら帰る気を無くすかも知れない。だから相談には乗ってくれると。そう考えると、今までの態度も理解できる。今の生活を壊したくないんだろう。
 でもミルキか……。
 美食ハンターを選ぶぐらいだし、仕方がない。たくさん食べてくれる人が好きってタイプなのかな。
 いや、美食ハンターは自分で選んだとは限らないよな。
 日本人の感性で、あれを食べてみるなんてないだろう。可能性があるとすれば、メンチさんに毒されたとか。
 俺、メンチさんルートでなくて本当に良かった。
 いくら巨乳美人でも、あの鳥が可愛いような食生活を送るようになってしまうハンターの弟子にはなりたくない。
 ああ、本当にオレは楽な一ヶ月半を過ごしたな。まともな物しか食べてないし。
 オレは画像送信するイルミさんを見る。死亡フラグ満載の暗殺者だ。
 ああ、オレってまだ幸せだ。
「そういえばあの服って、やっぱり弟さんが贈ったんですかね」
 あのジャケット他、よくよく見れば違和感のある服。
「そうなの?」
「え、いや、アニメキャラのジャケット羽織ってましたから。盗撮されてたのもそれが理由だと思いますよ」
「そうなんだ。どこからあんな服を持ってきたと思ったら、ミルか。よかった。
 弟は確かにアヤノに変な服を贈って、全部クローゼットの肥やしにされてるよ」
 普段はあんな格好していないのか。そりゃ、ゾルディック家であんな格好したシェフがいたらビックリだよな。話し方もイルミさんに嫌がられていたし、演技か。
 イルミさんが「よかった」と言うぐらいには、普段は相当別人なんだろうな。
 兄嫁候補なのに、キルアがまだ気付いていない、一緒にいても気付かれないぐらいだし。キルア対策に念入りに変装した、ってことか。
 あのジャケットも見た目は普通に売ってそうなジャケットだからなぁ。
 コスプレするような子なら、ミルキのためにプレゼントは着てあげるだろうし。
 つまり、ハンターハンター、ジャンプ作品ぐらいは読んでいたけど、今やっているアニメを積極的に見るような事のない、女の子だったってことか。
 それがあんなモノを食べるようになるなんて……。
 怖いな、美食ハンターメンチさん。



[14104] 16話 私に惚れたら○殺よ
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2010/02/18 23:36
 邪魔をするトンパさんがいないため、苛々もなくどんどん進む。私は女の子だからという理由で、真ん中に挟んでもらっている。先頭はお子様二人。顔を見られなくてちょうどいい……と思っていたんだが、キルア坊ちゃまはたまにちらりと後ろを向く。
 気付かれた……なんて事はないはず。
 罪悪感か、不気味な存在に警戒しているんだろう。
 私はキルア坊ちゃまの前だけでは大人しい、ごく普通の使用人だった。キルア坊ちゃまの目がない時は羽目を外して、外しすぎてコックさんがミケに突撃したり、コックさんを慌てて止めているとミケにじゃれつかれてうっかり骨折したりと、楽しく過ごしていた。あの時はちょっと血が出て危なかった。危うく愛しいミケを殺す所だった。
 だからキルア坊ちゃまは私の事は職人枠の普通の料理人で、戦闘能力は全くないと思っているはず。メンチさんの弟子であれば、私みたいな料理の出来る強い女がいてもおかしくは思われないはず。シークレットブーツ効果で、元の身長は分かりにくくなっているはず。服装も長さを錯覚させる横縞のニーハイソックス着用だ。
 だから気づかれそうになっているから見られているのでは、断じてない。
 後は料理人繋がりで結びつけられないことを祈るのみ。
 でもちらちら見られるのは気になる。
 ここはちょっと積極的に出てみるか。
「なぁに? さっきから何か言いたい事でもある? 悩みがあるなら、お姉さん聞いてあげるよ?」
 振り返った彼に、脳天気に笑って首をかしげてみせる。
「な……何でもねぇよ」
「もう、ツンケンしちゃいやぁ。あ、またアメちゃんいる? いっぱいあるよ。酸っぱいのもパチパチするのもあるのぉ。有名なお店で買った美味しいアメちゃん」
 ちゃんと店で買ったと言わないと、食べてくれないから主張するクセが付いている。
 キルア坊ちゃまはふいっと目をそらし、
「い……いる」
 と、手を出した。
 やはり子供はお菓子を与えるのが一番である。
 みんなにアメを配って脳天気に笑いつつ、原作通り、右だ左だのやりとりをして、場外が底の見えない闘技場に到着した。
 本当にどうなってるんだよ、この塔は。
 私が下を覗いていると、あまり記憶にないけど、フードを脱ぎ捨てた強面の傷ハゲが前に出た。
「我々は審査委員会に雇われた『試練官』である!! ここでお前達は我々5人と戦わなければならない」
 そうそう。こんな感じ。
 一対一で闘い、3勝以上で勝ち。
 流れを変えないためには、私がトンパ役をすべきか?
 って……………あれ?
 よく見れば、なんか向こう……纏をしている人がいるような。
 誰アレ。知らない。あんなのがいるはず無い。
 私がいるから? ひょっとして、ヤバイ?
「あ、じゃあオレが行こうかな」
 私が目を懲らしている間に、キルア坊ちゃまが行かれてしまった。
 この軍人さん相手ならまだいい。
 万が一の事がある前に、闘っていてくれるのは有り難い。キルア坊ちゃまだけは何としてでも守らないといけなかったから。
 問題はあの念能力者だ。他の面々の体格から考えると、あのえぐり殺人鬼がいない。
 その代わりにひょろっとした背の高い念能力者。
 こんな所に捕まっているなら、大した能力者ではないだろう。だが、戦闘タイプではない私には大した能力者かもしれない。しかも目に見えて分かる能力は使えない。そして私のコックさんは明らかに目に見える能力である。小さなヌイグルミが浮いてたら言い訳も出来ない。私みたいな操作操作した操作系が一番不利じゃん! 接近戦か、俗に言う「ただの念弾」で倒せれば良いんだけど……。
 私、安全な所からコックさん(最近は主にアジオウ様)でぶすっとサイレントキルするのが一番得意なのに。いや、私もどうかなぁって思うよ。でもそれが一番安全だし。アジオウ様小さいから念能力者にも見つかりにくいし。
 方針を決めている間に、坊ちゃまは心臓抜き出して戻ってくる。さすがは跡取り。クラピカさん達に暗殺一家バラしして、続いてゴンが漫画と同じ流れを再現。
 次はクラピカさん?
 そう思った時、例の念能力者が前に出た。
 そりゃそうか。実力的に、あの偽クモじゃあ勝てないからね。
「次は相手が誰であろうと私が出ます。叶うならば美しいお嬢さん、私と殺し合いをしましょう」
 彼は私を見て言った。
 オーラを見せつけるように威圧して。
 キルア坊ちゃまが壁際まで飛び退った。
 誰も何も言わない。誰も何も言えない。
「はいはい。しゃあないからキノちゃんいきまぁす」
「……ま、待てっ」
 私が動いた事で我に返ったクラピカさんが声を上げた。
 出来るだけ漫画の通りの方がよかったのだが、二次試験でも漫画の流れの通りになってくれた。小さな変更はあったが、大きな流れの変更にはならなかった。
 ならば前から試してみたいと思っていた事もある。目の前に大きなチャンスがあると、やってみたくなるのが人というもの。
 ここで私があの念能力者をどうにかして、ペテン女で時間を浪費せず、つまり、長く困難な道を選ばせるとどうなるかを、試してみようと思うんだ。
 ギリギリに辿り着くのか、脱出の順番が入れ替わるのか。
 二次試験程度では流れはほとんど同じだった。どこまで介入したら、歴史が変わってしまうのか。その見極めをするには、リスクの少ない方法のような気がするのだ。他に選択肢もないし。時間が狂っても数時間。一人二人追い抜かしてしまうかも知れないが、ヒソカより先に着くわけではない。
 時間を待たずに進んで、さらにゴン流に穴を開けてしまうっていうなら、くじを引く順番が大きく変わりすぎて、さすがに怖くて出来ないが、どうせトンパを弾くという大きな流れを作ってしまった今、考えるには遅すぎる。
「橋をかけてください」
 相手の念能力者がカメラに向かって言う。橋が架かり、私は前に進んだ。あちらも覆面を取って前に出る。
 やっぱり知らない男がいた。
 肉掴み男ではない。釣り目の男だ。しかも黒髪。ひょろりと痩せていて、背が高い。あの殺人鬼とは似ても似つかない。
「ま、待て、キノ!」
 今度はレオリオさんに止められた。
「なぁに?」
「こちの負けでいい。始まったらすぐに降参しろ」
 振り返ると、青ざめたレオリオがこちらに手を伸ばしていた。
 どうやら、これも有名な殺人鬼のようだ。
「なんで?」
「B級首の殺人鬼、通称『吸血鬼』だ」
「なにそれ」
 ホントになにそれです。何その吸血鬼って。なんて恥ずかしい二つ名。中二病なの? 闇の貴族とか名乗ってるの? そんな雰囲気あるなぁ。現役高校生ぐらいのアキラ君みたいな子がやってたら、まだ若さ故の過ちって感じで微笑ましいけど、いい年した大人、しかも普通レベルの顔の人にやられるのはいやだ。めっちゃキモイ。せめて整形してからやってよ。
「毎夜、若い女の生き血をすすり、分かっているだけでも数百人を殺している殺人鬼だ」
 そのまんまかい。
 私は軽蔑の眼差しを男に向けた。
 変態だ。髪を食べる変態もこの世にはいるのは知っていたけど、あれに並ぶような変態とご対面する事になるなんてっ!
「私はあなたを見て、ここを選びました。あなたを倒せば刑期が半分になる」
 そういえば、ヒソカさんには元試験官、つまりは念能力者がヒソカさん狙って試練官になっていた。つまりハンター試験に念能力を身につけてからのこのこやってくる念能力者は、どこかで念能力者とぶつけて試すという事か。
 来年のキルア坊ちゃまは、自分以外を完全に気絶させてしまっていた。だからやり直しのしようがなかった。
 でも今回の二次試験の場合は、みんな意識もあって五体満足、受かったのが試験官の弟子一味。しかも三人とも念能力者。誰も納得できなかった。試験官目線では、洗脳などによって細工をした可能性も考える。
 だからやり直しになった。
 そして今は、ハンターを目指す念能力者なら、この程度をどうにか出来ないくせに、安全な位置にいられると思うな、と言われているように感じる。
 ヒソカさんのは個人的な恨みがあるから別として。
 ああ、面倒くさい面倒くさい。
「おじさん、刑期、千年ぐらい越してそうだけどぉ」
「お……おじっ」
 あ、自称吸血鬼がショック受けてる。
「刑期など今はどうでも良いのです。あなたの血は、今までの誰よりも美味そうだ」
 ぺろりと唇をなめる。キモい。
 相手はバリバリの戦闘タイプのようだ。
 となれば、相手がどんなヘボ念能力者であろうと、私は不利である。だって変態は食材じゃないからテンションダダ下がり。
 しかも遠距離攻撃が防がれたら、接近戦しかない。あの変態と接近戦なんて嫌だ。触りたくもない。
 せめて変態以外を宛がってくれれば良かったのに。乙女にこんな変態をぶつけるなんて、あの試験官は人をなんだと思ってるの? 乙女が襲われるのを楽しく見ているの? 変態なの? なんか人が死に行くのも楽しげだったし、変態だな、うん。
「もう、むかつくぅ」
 私は太股にくくり付けていたペティナイフを二本抜いた。
「くくくっ、そんな玩具でどうする気ですか」
 確かに、いいナイフだが、念が籠もっているわけではない。ごく普通のペティナイフだ。これ一本で何でも切り刻んでやれるけど、ただの調理器具だ。
「寄るなへんたいっ!」
 私は振り上げ、周で強化してただ投げた。
 当然、そんなもの止められる。周が解ければただのペティナイフ。
 私は自分の指から流れる血を舐めて見せる。すねたようなそぶりで、分かりやすいように音を立てて。
「くくくっ、ナイフを投げて、指を切っていたら世話無い。戦いは慣れないのですか、お嬢さん」
 私はデイバッグに隠していた牛刀を抜いた。
 男はくつくつと喉の奥で笑いながら、受け止めたナイフを手で遊び、わざとつけた血を舐めあげた。
 吸血鬼とか呼ばれていなくても、こういう殺人鬼って、こういう行動を取る人が多い気がしたから、試しにやってみたけど、見事に舐めてくれた。
 私みたいな体質で、病原菌も物ともしない人もいるだろう。しかし、仮にそんな自信があったとしても……
「ぐ……ぁぁ……ごぁぁぁぁぁっ」
 男は血を舐めあげた瞬間、ばたりと倒れ、もがき苦しむ。喉を掻き、痙攣し、やがて──
「はい、ご臨終っ♪」
 私が宣言した瞬間、動かなくなった。
 念能力者って、こういうのに弱いのよねぇ。
「ちょ……待てやっ」
 我に返ったレオリオさんの怒鳴り声。
「何した!? 今何したんだっ!?」
 みんな驚いている。そりゃそうだ。
 私は指を切っていた。つまりナイフ自体には毒は塗られていない。そう思うのが普通。
 本当は自分の体質なんてバラすのはまだ早いんだけど、この場合は仕方がない。コックさんを使って毒殺するだけでも、彼等に念能力を見せる事になるのだ。私の念以外ではこれが一番確実で、普通の生き物に対しては強い。
「キノちゃんの血は猛毒なのぉ。メンチさんと一緒にいた時、毒物食べまくっちゃったからぁ」
「はぁ!?」
 一番驚いたのはキルア坊ちゃまだった。
「そんな理屈があるかよ! だったらオレの血だって猛毒になってるつーの!」
 そりゃそうだろう。多少は血液にも残っているかも知れないが、血で人を即死させられるほどではない。
「うーん、体質? ほら、ヤドクガエルとかフグとかの猛毒のある生き物も、有毒な餌を食べて身体に毒を蓄積させるの。それと一緒?」
 物語では良くある話だよね。古典的なホラーにもこのネタがあった。そう言えば、幽白にも近いキャラがいたような。まさかその繋がり?
「んな馬鹿なっ」
 レオリオさんが頭を抱えた。
 うん、現実にあるとびっくりだよね。しかもこれ、念能力じゃないんだよ。本気で体質っぽいんだよ。
 始めにこれを発見したのは、イルミ坊ちゃま。
 半年ぐらい前に、ペットボトルの回し飲みをして痺れさせてしまった。あの人に効くような毒を唾液が持ってるって、私はどれだけ毒物摂取してたんだろうね。たぶん毒の相乗効果ってのもあるだろうけど。
 キノコの毒は奇妙な効果の多い事で有名だ。検出される毒は判明していても、なぜそんな効果になるのか分かっていない物も多い。
 発覚当時は奥様が騒いだものだ。なんて素晴らしい体質なのかしら、って。
 私は自分の毒との関わりに、かなり絶望したっていうのに。
 私は捕食者であり、私を捕食する者は死ねって無意識に思ったりしたのかな。アリは食うけど食われてたまるかって心意気が、私の身体をこんなにしたのかな。
 別にどうでもいいけど。
 とにかく、発覚以来、イルミ坊ちゃまは耐性を付けるために、今ではペットボトルの回し飲みが慣例化していた。唾液程度の濃度はまったく問題ないけど、まだ血そのものは影響が出る事があるみたい。ものすごく薄くした血は、ご一家が食べるお食事に混ざっていたりするんだけど。
 もちろんミルキ坊ちゃま以上の方は、毒の出所を知っているけど、下は知らないで食べてる。キルア坊ちゃま、変な物食べさせてごめんなさい。
「美食ハンターがそれほどまでに過酷な生活をしているとは……」
「いや、さすがにこれは私だけだから」
 クラピカさんが本気で悩むから、私も思わず素で返してしまった。





あとがき
アヤノの補正はやっぱり毒です。料理とこれ以外にはありません。
接近戦をしたがらないので、暗殺以外の役に立ちません。
普通の食生活に戻れば、そのうち毒が抜けて普通の女の子に戻れますが、この子は誘惑に勝てないので戻れません。
下手すると身体の弱い人なら手の汗とかで毒殺されそうですが、気付いてからは、他所の人に食べさせる時は、手袋をするようにしています。



[14104] 17話 塔の下
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2009/12/13 23:11

 みんな毒に怯えて近づかないから、肉体操作で止血して、ハンカチで血を拭い、それをぽいと場外に捨てて、ペットボトルの水で手を洗い流し、絆創膏をもらって巻いた。掃除する人が間違って触っても、触っただけで死ぬような毒ではない。乾いていれば簡単には致死量が手に残る事もないだろうし、乾いていなくても手を洗えば大丈夫。手を洗わない人が、乾かないハンカチに触れて何か手づかみで物を食べたら、ちょっと危険だけど、まあ試験官も見てたから止めるでしょ。
 その後、上の階段は来た道と同じ匂いがするとデタラメを言ったらみんな信じて下に降りたりと、順調に進んだ。
 彼等の中で美食ハンターがどんどん野生の化け物になっていくような気がするけど、まあいいや。言っておかないと、うっかり私の血に触ったりする事があるかも知れない。触る程度なら大丈夫だけど、ここは手を洗う場所なんてないから、うっかり目でもこすろうものなら大変だ。皮膚につくだけなら良いけど、粘膜につくのはヤバイ。
 道中にキルア坊ちゃまの猫爪……ではなく肉体操作についてクラピカさんが尋ねたり、私の体質についてクラピカさんが尋ねたり……。
 クラピカさん、知りたがり屋さんだね。キノちゃん難しい事分かんない、で誤魔化しておいたが。
「そんな身体でよく料理人なんて出来るよなぁ」
 キルア坊ちゃまに言われてしまった。
「包丁で出血ない限りは平気なの。
 わたしぃ、外に毒をほとんど排出しない体質だからぁ、汗とかで影響出るのは心臓の悪い人とか、そういう人だけよぉ。それに女の子は発汗ぐらい自分で調節できるしぃ、作業一つ終えるごとに手を洗うからぁ、間違って毒殺した事はないよ?」
「お前はどこの女優だよ」
 レオリオさんにツッコミを入れられた。女はみんな女優という言葉を知らないのだろうか。
 操作系ともなると、発汗どころか、濃度も無意識に変えられるからね。
 この体質になった、もしくは悪化したのはここ一年以内の事だと思う。その頃に、カルト様からの毒殺攻撃がひどくなったからだ。それまでは、食材達に囓られても別にのたうち回って死んだりしなかったから。
 つまり、限界越えたら耐性じゃなくて属性が着いた、と。気付いて食べていたのだから、カルト様は悪くない。カルト様に体調不良の姿を見せなかった自分が悪い。さすがにちょっとキツかったりしたのだけど、平然を装えた自分がおかしい。
 おかげで少なく見積もっても半年ぐらいは、体質を知らずに料理していた事になる。
 中毒事故が今まで無かったのは、顧客の所では時間短縮のために下処理とか、盛りつけとか、コックさんにやらせていた事が大きい。顧客の中には心臓の弱い人がいたかもしれないから、器用なコックさんズがいなければ、誰か毒殺していた可能性もあったのだ。そういう事故がなかったから、イルミ坊ちゃまの舌を痺れさせるまで気付かなかったとも言える。
 気付いてからは、持病持ちの人にヤバイ毒をうっかり口にさせないために、顧客に振る舞う時は基本的に手袋着用、もしくは器用なコックさん達を使用することにしている。寿司も殺しても死なないような知り合いだけに握っている。今まで寿司を望んだ顧客は、少しの毒は美味と言ってくれるような真の食通の方だけだったのが幸いだ。
 トリックタワー攻略は着々と進んだ。問題の三人か五人を選ぶ最後の別れ道も、残り50時間以上あるため、円満に長くて困難な道を選び、私達は漫画よりは30分早くゴールすることになった。
 長くて困難な道は、慎重に進んでいたとはいえ、本当に長かったです。私にとっては長いだけで、それが苦痛な道だった。
 時間には5時間以上の余裕があったのにギリギリになった理由は、休憩したのもあるが、みんなが私だけは傷つかないように気を使ってくれたからというのも大きい。
 でもさ、せめて毒物を運搬するような目をやめてほしかったな、とくにレオリオさん。
 そんなこんなで私だけ他の人達に比べると身綺麗なまま塔の外に無事到着すると、私は身をほぐすように伸びをした。
「ふぁ……あ、アキラと……ダーリンさん」
 比較的普通に接してくれるゴン君が、私にイルミ坊ちゃまを指さして教えてくれた。
「ああ、本当だ。有り難うね、ゴン君。次の試験も頑張ってね。じゃあ。
 だーりんっ」
 私がローラーブレードをしまいながら駆け寄ると、イルミ坊ちゃまは声を出さずにカタカタ返事をなさる。
 どうでもいいけど、ヒソカと坊ちゃまとアキラ君でトランプしてるよ。こちとら眠くて仕方がないのに……と言いたいけど、私が間違えた所に落ちたからね。
 でもなんか……アキラ君がやたらと傷だらけになっている気がする。
 大きな怪我はないけど、顔の怪我がひどい。レオリオさんみたいには崩れてはなかったけど、鼻の頭に絆創膏を貼り、頬やらあごやらにかさぶたが出来ていて、手には綺麗に包帯が巻かれていて、洒落た服の袖も破れている。
 でもそれだけ。
 髪もきっちりセットされていて、なぜか妙に彼等と馴染んでいた。針男にピエロにソフトヴィジュアル系。変な格好って意味では彼等の仲間になるだろう。
 異様な集団に、他の受験者達はどん引きして、誰も近づかない。綺麗に避けられている。
「あ、ゴン達。早かったな」
「遅いよ。時計の見方も忘れたの?」
 アキラ君の迂闊な発言に、イルミ坊ちゃまが呆れて言う。
 アキラ君が名前を口にしたから、最悪の場合も考えていたけど、彼は彼なりに頑張って生存したようだ。
「……な、馴染んでますね……」
 手の包帯は、イルミ坊ちゃまが巻いたんだろう。
「カタカタカタ」
「い、意外」
 何がお気に召したんだろう。暇ならどれだけでも寝てしまう人なのに、ヒソカさんがいるとは言え、遊びに付き合ってるし。
「遅かったね♥」
「大人数だと、助け合えるから長くて困難みたいなの。私用に吸血鬼とかいうアレがいたんですけど、アレよりも長い道の方がよっぽど疲れました。眠いです。化粧落としてパックしたい」
 私の言葉にイルミ坊ちゃまがわずかに目を細めた。
「ああ、なるほど♣ ボクの道は一人だったから短かったのか♦」
「オレの所にも一人だけ出たよ。道はうちの執事用通路みたいだった。ヒソカの方より弱いのみたいだったから、こっちも道の方が厄介だったかな」
 …………。
「アキラ君よく生きてたわねぇ」
 あの通路に近いなら、凝なしで生き残るなんて不可能だ。
「この傷全部、罠に引っかかったオレをい……ギタラクルさんが助けてくれた時に出来た傷だし」
「全部? 試練官とかいなかったの?」
「オレ、試練官と暗算対決したから」
「…………」
 いたんだ、本当に暗算対決するような奴。
「オレのパートナーがキルだったら終わってたね」
 あまり一般的な勉強はしてませんからねぇ。買い物に必要な計算ぐらいは出来るけど、基本的にボンボンだから金銭感覚おかしいのは兄と一緒で、ゲームぐらいでしか役に立っていないけど。
「字は忘れたのに、計算は忘れないなんて変だよね」
 ああ、記憶喪失設定。
 ひょっとして、それで押し通した?
 そのうち本当に私達で辻褄合わせしないと。
 私の方ですら、今まで誤魔化し続けていたのが奇跡のような物だから、良い機会と言えばそうなんだけど。
「あと30分あるし、キノもどう?」
 ヒソカさんは手にしたカードをシャッフルしながら言う。
「はい。退屈ですし。本当は眠いんですけど、今寝ると起きられそうにもありませんし」
 休憩なら移動時間にも出来る。4次試験が始まったらすぐ寝る、という手もある。
「じゃあ、何か賭けよう。ボクはキノとのデートでいいよ」
「ごめんなさい。休日は狩りに行く事に決めてるんです」
「じゃあ、狩りデートでもいいよ。ゲテモノ無しで♠」
 どんなデートですか、それ。
「オレは普通に金でいいよ」
「いや、オレ無一文ですけど?」
 イルミ坊ちゃまの守銭奴発言に、アキラ君が首を横に振る。彼が持っているとしても、宿代や食事代程度だろうね。
「キノの月給いくらだっけ?」
「基本給は一千万ジェニーですけど」
 基本は。
「月給いっ……どんだけ高給取りだよ!」
「じゃあ、100万ジェニーぐらいが妥当かな?」
「っく、オレが5万ジェニーためのにどれだけ苦労したかっ!
 この……ブルジョアめ! ブルジョアめぇぇえっ!!」
 イルミ坊ちゃまの狂った金銭感覚に、泣いて去っていくアキラ君。年下のゴンにブルジョアがどうのこうのと泣きついている。あんな田舎で5万ジェニー。意外と頑張っていたようだ。てっきりミトさんのヒモ状態なんだと思ってた。
 そんなビンボーなアキラ君を見て、キルア坊ちゃまがやっぱり金持ちだとか言って、こちらに目を向ける。
 たまにじっと見られる事はあったが、なんとかまだバレていない。
「変な子だね♥」
「うん。気を失ったら引きずってこうと思ったけど、思ったより頑丈で上達が早かった。ミルもあれぐらい活発ならよかったのに」
 なぜ比較対象がミルキ坊ちゃまなんですか?
 とは、怖くて聞けなかった。でもミルキ坊ちゃまは、イルミ坊ちゃまの中でも変な子くくりなんですね。
「彼と本当に何があったんです? 念のために殺すんじゃないかと思ってましたけど」
「特に何もないよ。殺してもよかったけど、まあ能力者じゃないし、知られて困ることは知らないみたいだし。あのじーさんに聞いたっていうのも、本当っぽいし」
「どうしてそう言い切れるんですか?」
「記憶喪失なんだって」
「針を刺して確認したんですか?」
 この人がそんな簡単に信じるなんて……一体何をしたんだアキラ君。
「字が読めずに、罠の道だって事に気づかないで普通に歩いてたから。振りでは出来る事じゃないよ。振りなら顔に出さなくても、身体には緊張が出るからね」
 まさかここの字が読めないのがこんな所で役に立つとは……。
「数字は読めたのかい?」
「読み上げてもらってた。ゆっくりなら書けるからって」
 ちゃんと頭を使って、設定を殺さないようにしたらしい。
 命が掛かっているから必死だったんだろう。敵よりも怖いのは後門の猫。
「で、上達って、何が上達したんだい?」
「受け身と勘」
「受け身はともかく、勘?」
「最後の方は、自分で罠を避けてた。見えてないみたいだったけど、何となくで、引っかかりそうな罠の半分は自分から回避してた。もう少し鍛えれば、勘だけでうちの廊下歩けるかも」
「へぇ、それは面白い♣」
 …………アキラ君、変な事で変な風に目を付けられてるけど、気付いてるかな?
 私に毒耐性どころか、毒属性がつくぐらいだから、罠を見破るための勘が鍛えられてもおかしくはない。マチさんの扱いを見ると、もしもステータス画面があったら、勘とかの項目が普通にありそうな世界だし。
「ヒソカ、カード配って」
「さて、じゃあデートをかけて♥」
「デートしてどうするの? ヒソカ、毒はダメだよね?」
 確かに唾液にも毒があるから、私にディープキスの一つもした男は、毒耐性のあるゾル家の皆様以外はろくに動けなくなる。
 でもイルミ坊ちゃま、デートするだけで私はどんな目に合わされると考えてるんですか?
「男と女の楽しみ方は、それだけじゃないよ♥ 今は食事をするだけで十分♣」
 この人の事はよく分からん。そこまで食べ物に拘っているようには見えないんだけどね。私と狩りをして何が楽しいんだか。彼の好むような果実が実る事もないのにねぇ。
「あの……イカサマは無しですよ?」
「もちろん♠」
 でも、当然のようにイカサマをしまくるのが、このお二人だ。
 嘘つきと超絶マイペースに付き合うのも、けっこう大変。





あとがき
暗算になった主な理由。
先に闘ったイルミの強さに、残った相手がビビり
アキラが馬鹿そうに見え
アキラは算盤習ってた。



[14104] 18話 サバイバル
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2010/02/18 23:40

 ゼビル島スタート地点。イルミ坊ちゃまは堂々と私を待っていた。
 いや、待っててくれるのは良いけど、少しは隠れましょうよ。女の人が近くに潜んでいますよ。あれがイルミ坊ちゃまを狙って殺される人らしい。綺麗な女の人なのにもったいない。人生先は長いのに……。
 様子を見て、助けられそうなら助けるつもりだけど、イルミ坊ちゃまを止められるほど私は立場も力も強くない。まあ、可能なら、という事で。
 しばらくは仲良く二人で進みつつ、私がケータイのモニタを見ながらアジオウ様を操作して、ターゲットの捜索。
 私のターゲット発見。89の人。
 私の所にターゲットが自分でないかを確認しに来たアキラ君曰く、ハンゾーさんにプレートを奪われる予定の人だそうだ。
 なんでそんな細かい事まで覚えてるんだろう……。
 ハンゾーさんがこれで落ちたら……と思ったのだが、アキラ君のターゲットが三兄弟の一人らしく、合格者が増える可能性はあっても、ハンゾーさんが落ちる可能性はないらしい。
 でも漫画と違ってほとんど寝ていない私達は、とにかく眠くて眠くて、彼の相手をしている余裕はない。それはお子様二人ですら同じだったようで、ターゲットの確認後、アキラ君に着いたら起こすよう頼んで、4人とも寝てしまったのだそうだ。
 アキラ君は島ではキルア坊ちゃまと組む事になっているらしく……というか、みんな安全な場所を確保して、アキラを見張りにしてもう少し寝たいらしく、しばらく一緒にいるつもりだと言っていた。ずいぶんと流れが変わってしまったな……。
 まあ、何とかなるだろう。きっと。万が一の時は、アキラ君が何とかするだろう、きっと。ストーリーに近い所に落としどころを付ける、という意味で。
 ハンゾーさんの事以外は隠す必要もないので、普通に話していたため(近くには関係者以外はいないから)、キルア坊ちゃまの事を聞いてイルミ坊ちゃまがイヤな顔をするかと思ったが、仲良くなったせいか足を引っ張らないようにと言っただけだった。
 このへんじ……変わり者のイルミ坊ちゃまが、愛しい弟と一緒にいる許可を与えるなんて、信じられない。塔の中で本当に何があったんだ。
 そこからは私もかなり眠かったので、アキラ君の暇つぶしはイルミ坊ちゃまに任せて寝た。
 そして島に到着し、二人で講堂を始めたのだ。私のターゲットから先に狩った理由は、イルミ坊ちゃまの方が先に出発していたからだ。そして私のターゲットは比較的近くにいたため、開始すぐにプレートを発見したというわけだ。
「イルミ坊ちゃま、私のターゲット眠らせて、プレートゲットしました。戻ってきたら、イルミ坊ちゃまのターゲットも捜索します」
「うん。でもさ、いつも思うんだけど、そのコックって暗殺向けだよね。食材がいないとオーラほとんど感じないから、気付きにくいしさ。
 そうだ。今度、ゴトーやじいちゃんの部屋に潜入ごっこしてみよう。二人なら壊さないでくれるだろうし」
 旦那様や奥様なら壊されると……。
「してどうするんですか?」
「性能はきちんと把握しないと。使えるんなら、ミルにまた作らせるし」
「ミルキ坊ちゃまも似たような能力をお持ちですよね」
「ミルはアヤノほど臨機応変に細かい操作できないよ。普通にプレート引っ張り出して持たせるなんて細かい操作はムリだね」
「ピンのところに腕を引っかけているだけです。胸に付けていたままなら、あの子の手では外すのは無理です。引きちぎるほどの力もありませんし」
 サイズ的にねぇ、限界がある。
「じゃあ、手がもっと動くのを作らせよう。五徳ナイフみたいにすれば、ピンも外せるよね」
「まあ、出来ますが……」
「ピッキングの練習をしよう」
 私に何をさせる気ですか?
 それじゃあ、またミルキ坊ちゃまの部屋に通う毎日じゃないですか。まさかそれが狙いですか?
「それより、アレ邪魔だね」
 アレ。
 ついに指摘されてしまった、虎視眈々と銃で狙っているお姉さま。
「眠らせましょうか」
「殺した方が早いよ。眠いんだよね?」
「コックさんの通り道にいるので、ついでに刺そうかと思ったんですが」
「ふぅん、なら始末して」
「はい」
 コックさん早く戻って! 相手が勝負に出ない内……
「あ」
 殺気が大きくなり、私が口を開いた。
「あ」
 イルミ坊ちゃまが、殺気につられて針を投げて殺してしまい、呟いた。
 かなり離れた所で茂みが揺れ、倒れる音。
 狙撃手を針数本で狙撃するなんて、どこまで非常識なんだ……。
 結局死なせてしまったか。まあ、いきなり殺そうとした彼女が一番悪いんだけど、私と話して隙っぽいものを作らせてしまったから、私のせいでもあるんだろう。でも隙に見えて隙ではない。そんな物を見分けるには、彼女の経験は不足していた。私みたいに、ちょっとでもダメそうなら、諦めて他の方法で目的を成し遂げるぐらいのことはしないと。
 だから結局、悪いのはそれを理解できなかった彼女だ。本当に安全な位置っていうのは、相手から絶対に知られない場所しかないのだから。
「もう、イルミ坊ちゃま。針の無駄遣いですよ。安い物でもないんですから」
「そうなの?」
 自分がいくらの武器を使い捨ててるか知らないのか、この人。
 投げるのは量産型だから仕方ないけど。
 ちなみに大切に使うのは、私に使ったような針の類だ。キルア坊ちゃまのアレはその中でも特別製。ミルキ坊ちゃまがおっしゃるには、どんな方法でも検出できない素材らしい。売り払ったらとても高くなるらしい。
「じゃあ、回収する?」
「自分に刺さないなら、その方が良いんじゃないですか?」
「……ケチくさいね。一度刺さると、油っぽくなって使いにくいんだ」
「暇そうな執事さんの内職とか。
 それは冗談にしても、あの針を五本分を稼ぐのに、アキラ君はとても苦労したそうですよ」
「じゃあ、アキラにあげる?」
「これをもらっても、いらない呪われそうな土産物をもらうぐらい困りますねぇ」
 イルミ坊ちゃまの情報は金になる。だからこそ困る。それがイルミ坊ちゃまの物だと証明するのが難しい。
 証明できない金になる物。
 証明できても怖くて売れない物。というか持っているだけで怖い物。
 嫌がらせにしかならない。
 これも、イルミ坊ちゃまなりの冗談なんだと思うけど……。
「アヤノ、寝る? 邪魔なの消えたしさ」
「はい。さすがに眠いです」
 絶をして、適当な場所を探す。
 それから私はイルミ坊ちゃまに見張りを頼んで近くの水場で水浴びをし、スキンケアを念入りにしてから、イルミ坊ちゃまの肩を借りて寝た。





 分かっていた。分かっていたけど、土を掘って地面のその中に入って、自ら埋まって寝ちゃう雇い主を見て、私はため息をついた。
 ふたりでのんびりターゲット見つけて、狩ったとたんにこれだ。
 最後まで女の子を守ろうという男らしい発想など、この人にはないらしい。
「無茶苦茶ですよね。仮死状態になってるんでしょうか」
「さあね、イルミだからなれるんじゃない? で、キミはどうする?」
「今回は標準仕様の試験っぽいですし、私は適当に珍しい食材がないか探します。見たところ、薬にもなる程度の毒草しかないので、つまらなそうなんですけど」
「それは安心だ♥」
「え?」
「じゃあ、気をつけて♦」
「はい。ヒソカさんは存分にお楽しみ下さい」
 そこでゴン君が狙っているので、私はささっとこの場を立ち去った。休んでいたはずだけど、しっかり間に合ってるんだからすごいね。ゴン君はイルミ坊ちゃまを見てどう思ったんだろう。ちょっとだけ気になる。
「薬草はいっぱいだなぁ。どうせなら、カエンタケぐらいの凶悪な植物があっても良いのに」
 さすがにサバイバルが前提だから、死に至るような猛毒がある場所を選ぶほど、意地の悪い試験ではないってことか。今までがすごく凶悪だったからガッカリだ。一番凶悪なのは人間って意味の試験なのかな?
 目新しい動物もいないし、植物もないし、なんて退屈な試験。いや、ちょっと気になる人はいるんだけど、蜂使いのポンズさん。あの賢い蜂達はどこのなんていう蜂なのか、美味しいのか、蜂蜜は美味しいのか、とても気になる。あと、薬物使うって事だから、どんな物を持っているのかかなり気になる。
 でもレオリオさんのターゲットだから、手を出すわけにもいかない。さすがに自重する。
 毒の方は定期的に摂取しないと、身体の中の毒素は次第に薄まってしまう。そんな事になったら叱られるので、見つからなかったら持参したのを摂取して維持しなければならない。維持していると嫁入りフラグが折れない。悪循環。
 でも毒がある物って美味しいのが結構あるから食べてしまう。カエンタケは苦くて固くてとても食べられないけど。みんなあれぐらい不味かったら、食べようなんて思わないのに。
 まあ、皮膚刺激の強い毒は食べるなって言われてるから、そういうのが美味しくないのが救いだ。お肌荒れるし。
 私は狩ったウサギと採取したごく一般的な毒キノコを味付けして、串焼きと炒め物が完成する。香草がたくさんあったから、こんな場所でも豪勢な料理だ。
 珍しくなくても、美味しい物は美味しい。私は美味しい物さえ食べられればそれでいい。
 さあ食べようかと串を持った思ったその時、私の円に人の気配が引っかかる。ほんの三十メートルぐらいの、私にとっては狭めの円だ。狭いと言っても、苦手な人にとってはかなり広い方なんだけど。こんな事だけ得意だなんて、私は器用貧乏タイプなのかな?
 私は串を持ったまま、いつでも動けるように力を入れた。
「あ、キノちゃん」
「キノじゃん。良い匂いがすると思った」
 アキラ君とキルア坊ちゃまでした。
 なんでキルア坊ちゃま連れてここに来るのよ……。
「匂いにつられてきたの?」
「だって腹減ってたから、ついふらふらっと」
 アキラ君が恥ずかしそうに後ろ頭を掻く。
「食べる?」
「え、いいの? ラッキー」
 キルア坊ちゃまは、捨てられているウサギの皮を見てのこのことやってくる。
 私のターゲットをアキラ君が確認してるからいいけどさぁ。
「そういや、あのキモイ針男はどうしたんだよ。出発する時は一緒にいたのに」
 いや、あなたの怖いお兄さまですけど。
「ダーリンはプレート全部持ってお休みしてるの。地面の中で」
「は?」
「穴掘って、冬眠するみたいに寝てるの」
「はぁっ!?」
 信じられなくても、あなたのお兄さまの実話です。
「まあ、ダーリンにツッコミを入れてたらそれだけで日が暮れちゃう。二人ともターゲットは見つかったの?」
「まだだよ。この島広すぎ」
 キルア坊ちゃまがどれだけ優秀でも、それとこれとは別って感じの試験ですもんね。私にはすごく有利な条件だけど。
「そういえば、ギタラクルさんがプレート全部持ってるの?」
「そう。私が持ってると落としそうだから預かるって」
「…………ドジっ子か!?」
「失礼ねぇ。ダーリンが心配性なだけよぉ。
 そんな事言うと分けてあげないんだから」
「ご、ごめんなさい」
 アキラ君はたき火を挟んで反対側に腰を下ろした。
「でも、一人なのになんでこんな何匹も?」
 毛皮の量から、何匹も捌いたのを察して顔を顰める。彼は私がこれを全部一人で食べきるとでも思ったのだろうか。
「誰か来ないかなぁって。暇だし」
「狙われたらどうするんだ?」
「プレート持ってないよ? 暴漢なら返り討ちにするだけだし」
 私は毒を塗ったイルミ坊ちゃまの針を見せる。コックさんはどうせ使えないから、調理器具に拘る必要がないのだ。
「あ、そのキノコは毒キノコだから食べないでね。ウサギはもう食べて良いよ」
 私も串焼きにしたウサギにかぶりつく。
「このキノコ毒キノコなんだ。へぇ」
「キルアは平気そうだよなぁ」
「うちでよく見るよ。すっげぇ美味いキノコ」
 ちゃんと細かい所も見てるもんだなぁ。男の子って、食べられればいいから、素材なんて気にしていないと思っていた。
「よく絵本なんかに出てくる赤いキノコよぉ。
 このキノコの毒がすっごく強い旨み成分なのぉ。毒抜きしたら食べられるのよ。毒抜き方法を見つけ出すぐらい、美味しいキノコって事ぉ。
 毒と言っても幻覚を見たりぃ、麻薬代わりに使われる事もあるのぉ」
「へぇ」
 そう言いながら、キルア坊ちゃまはキノコの醤油焼きを口にした。
「っく……」
 キルア坊ちゃまが美味しそうに食べるから、アキラ君が悩み始める。気持ちは理解できる。私なら迷わずに食べているから。
「だめよぉ。こんな所でハイになったら大変でしょ。機会があったら毒抜きしたの食べさせてあげるから。ほら、ウサギも美味しいよ」
「ん、ありがと」
 アキラ君が兎肉にかぶりついて幸せそうに笑う。日本人は兎肉でさえゲテモノ扱いするけど、彼は平気なようだ。
「食べたらちゃんと歯を磨くんだよ。歯ブラシ持ってなかったら、この草で磨くと良いよ」
「キノちゃん意外と世話焼きだな」
「世話焼きじゃないと、ダーリン人間らしい生活送ってくれないもの」
 いや、いてもいなくても一緒だと思うけど。結局、人間らしい寝方してくれなかったし。
 アキラ君が私の言葉を聞いて、遠い目をして夜空を見上げている。
 ああ、ウサギさん美味しい。
「他の人達はどうしたの?」
 本当はみんなバラバラのはずだけど、睡眠時間があるから何とも言えない。
「ああ、ゴンはヒソカ追っかけてるよ。クラピカとレオリオも組んでるみたいだ。オレとアキラはターゲットが一緒にいるからさ」
 私はキルア坊ちゃまを誰かが追っていた事を思い出し、円を広げてみる。
 気配が三つ。
 どうやら漫画と違って、今の時点で三人一緒にいるらしい。
「あっちの方に、三人組がいるよ。250メートル先。君たち、三人組を狙ってるんだよね?」
 私が言うと、二人とも目を見開く。
 アキラ君はネタが分かっているだろうに……。
「にひゃく……って、そんな離れてても分かるのかよ。美食ハンターって、何して暮らしてるんだよ」
「ひみつぅ」
「ちぇ。まあいいや。あんたなら大丈夫だと思うけど、残り期間無事でいろよ」
 キルア坊ちゃま……。
 少し照れた様子で、串をもう一本取って走り去った。
 キルア坊ちゃま、なんて可愛らしいんだろう。
 母性本能がくすぐられるというのは、こういう事か。
「キノちゃん、サンキュー」
 アキラ君も串を持って、キルア坊ちゃまを追い去っていった。
 キルア坊ちゃまがいれば、プレートは奪い取れるだろうし、守りも完璧だ。
 運が悪いんだか良いんだか。
「私はどうするかなぁ」
 この島、サバイバルテストに選ばれるだけあり、無難過ぎてつまんないけど、子供が遊ぶにはもってこいだ。男の子同士はいいなぁ。楽しそうだなぁ。
 でも大人で女の私には退屈。こんな所じゃ一緒に遊べる友達もいない。ポンズさんとは相性悪そうだし、美人さん死んじゃったし。
 かといって土の中で眠れるような特殊技能は持ち合わせていないし、子供達を追いかけるのはヤバイし、他の受験者に絡むのも色々とまずいし……。
 ああ、つまらない。暇すぎる。ちょっと抜けだして、面白い所に行ったら駄目? 見張られているから、ダメなんだろうけど……。
 ここ抜け出しても、一緒にいられる女友達なんて、メンチさん抜いたら旅団の女性陣しかいないんだけどさ。
 ……………………。
 もうちょっと、普通の友達が欲しい。





毒キノコって、無駄に眺めたくなりませんか?
怖いんだけど、見ているのは好きです。
今年はあの凶悪キノコがたくさん生えたらしいですね。
見てみたかったです。



[14104] 19話 面談
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2010/02/19 23:24
 さすがの趣味睡眠なイルミ坊ちゃまも、寝続けてるのに飽きたらしく、最後の日には私の料理を食べに来て、針を磨いて退屈をしのぎながら試験の終わりを迎えた。
 どうでもいいけど、この人なんで針が好きなんだろう。キルア坊ちゃまは子供の頃はダーツで遊んでいたようなことが描いてあったけど、実はこの人の影響だったとか? ダーツ好きなのかな?
 とにかく私達は、退屈な試験に合格して、飛行船に乗ると同時にキッチンに向かった。
「穀物♪ こっくもつぅ」
 キッチンを占領……借りて料理を作る。さすがに一週間もサバイバルをしていると、キッチンと穀物が恋しくなるのだ。
 ああ、キッチンはいい。落ち着く。私の聖域。私の天国。
「煮っ転がし、お芋さん♪ ぶっさかわいいお芋さん♪」
 良い香りがキッチンに充満する。
 全ての盛りつけを終えると、私はその出来に満足した。
「んー、美味しい! やっぱ煮物はアヤノが作るのに限るわ!」
 メンチさんがべた褒めしてくれる。私は採取した野草や肉の天ぷらに取りかかりながら苦笑する。
「それ、会長にも?」
「まっさか。クッキー食べてくださったからそれでいいんです」
「そっか。維持出来ないと逆にマイナスよね」
「アドレスさえいただければ完璧なんですけど。
 これは自分とブハラさんとメンチさんのために作ったんですよ」
 館内放送で、ヒソカさんが面談に呼ばれた。
「面談?」
「あたしも何するか知らないけど、一筋縄じゃあいかないわよ。一筋縄じゃないのは、あんたのオトモダチだけどね」
 イルミ坊ちゃまは雇い主の一族の方だというのは理解してくれたけど、納得し切れていないようだ。
「基本的に無害でいい人なんですよ。基本的に」
「いい人ねぇ……どうみても堅気じゃないけど。気配ないし」
「まあ、私はお料理を美味しいって言っていただけるだけで幸せですし。料理長もいい方なんですよ」
「あんたがいい方なんて、よっぽどの腕なのね」
「はいソースに関しては私ではまだまだ届きません」
 試しの門を免除されるほどの料理の腕の持ち主だ。
 歳は私の父よりは若い、四十代の男性。小太りで見た目はよくないおじさんだが、腕は本当に一流で、私も見習う所が多々ある。フレンチなんかのソース作りに関しては、枯れることなく湧いてくるアイデアはどれも素晴らしく、私が尊敬する料理人の一人だ。
 そして、屋敷内でも数少ない、私を特別扱いしない人だ。
 ミルキ坊ちゃまと奥様のせいで、私は執事さん達にとって準ゾル家だから。
「ま、彼の事はたぶん次で分かりますから、それまで待ってください。私の口から言うわけにはいきませんので」
「どういう事?」
「それも分かりますって。
 それよりも食べないんですか?」
「食べるわよ」
 メンチさんとブハラさんの分を、一汁三菜用意してある。
 さらに自分とイルミ坊ちゃまとヒソカの分をトレーに乗せる。
「じゃあ、今度またゆっくり。たぶん、今よりも手間が省けるので」
「絶対よ?」
「はい。最近は電話も気兼ねなくできるようになってきたので、いつでも大丈夫です! 今度、とある方から頂いた古酒を持って遊びに行きますね。ほら、前にメンチさんが話してた、元から外に出回らない趣味人が作ったヴィンテージワイン」
 それを口にした瞬間、がっしりと肩を掴まれた。
「ど、どどど、どうやって!? 幻影旅団に根こそぎ持ってかれたって聞いたわよ!?」
「色々とコネがあって」
 その幻影旅団の団長に、直接いただいたとは言えない。
 盗まれる前は、生産者が亡くなって、その息子が独占して交渉の道具にしていたらしい。
 ニュースを聞いた瞬間、全部飲まれる前にクロロさんに電話した。おつまみ作るから、まだ飲まないで、と。
 クロロさんは物の価値が分かる人だから、ビールのように馬鹿飲みせず、ちゃんと保管してくれていたので助かった。
 息子も親の遺産を食いつぶして政治家になるだけではなく、親の仕事も継いでいたら死ななくてすんだのに。
「それで許してくださいね?」
「し、仕方がないわね! 許してあげるから、約束は守りなさいよ?」
「分かってますって」
 正真正銘、幻となったワイン。
 良心よりも欲が勝ったのか、今はそれ以上は追求されなかった。
 あれ以来、旅団の皆さんは、いい酒が手に入ると友人として招いてくれるようになった。
 いい酒には最高の料理が似合うのだ、と。
 親交を深めるつもりなんて無かったけど、断る勇気も我慢強さも私にはなかった。
「あ、坊ちゃまが呼ばれた。次は私ですね」
「あれが坊ちゃまって顔?」
「良いんです。みんなそう呼んでるんですから。可愛いし」
「あんたの感性がほんっっっ気で理解できないわよ」
 だって本当は猫男なんですって!
「じゃあ、行きますね」
「いってらっしゃい」
 私はトレイを一つ頭の上に乗せて、ローラーブレードで移動する。
 ゴン君達の横を通ったけど、私に横を向く余裕はないし、その様子を見てゴン君とクラピカさんは無言で私を見送ってくれた。
 もう少し進むと、ピエロの後ろ姿が目に入る。
「あ、ヒソカさぁん。差し上げるんで、取ってください」
「くくっ、お転婆な事をしているね♦ ありがとう♥」
 ヒソカさんは、通りすがりに、頭の上のトレイを受け取ってくれた。
 私はそのまま止まることなく応接室に向かう。イルミ坊ちゃまが出てきたら、これを託して面談するつもりだ。頭の上にあんな物乗せて、こぼさないように運ぶのは難しいので、あそこにいてくれて助かった。
 応接室に向かっている最中、私の番号が呼ばれる。
 急いで移動して、応接室に到着すると、イルミ坊ちゃまが部屋の前で待っていてくれた。
「お食事です。私の分も預かっていただけませんか?」
「いいよ」
 会長に渡す小鉢だけトレイから取り、ノックしてから部屋の中に入る。
 畳の良い匂い。
「失礼しまぁす」
「まあ座りなされ」
「はぁい」
 ブーツを脱いで畳に上がり、ふかふかの座布団の上に正座する。
「これ、私が作ったごく普通の芋の煮っ転がしですぅ。よろしければどぉぞ」
「おお、すまんの。こりゃ美味そうじゃ」
「美味しくない物はぁ、他人様に出しませぇん」
 必要があったとしても、可能な限りそんな事をしたくはない。料理人のプライドがあるから。
「で、面談って何の面談? 何するの?」
「次の試験の参考までに質問をしておるんじゃよ。
 まず、なぜハンターになりたいのかな」
「ただの付添ですぅ」
 ハンターには心の底から興味ない。
「……そうか。まあよい。
 次に、一番注目しておるのは?」
「405です」
「最後に、一番闘いたくないのは?」
「44です」
 下手にご兄弟を指定して、トーナメント表を変えてしまわないように、安全パイを指定して置いた。本音だし。
「これでいいですかぁ?」
「おお、ご苦労じゃった。この煮物も後で有り難く頂くとしよう」
「じゃあ、失礼しまぁす」
 私が部屋から出ると、イルミ坊ちゃまが待っていてくれた。トレイを一つ受け取り、食堂に向かう。
 数日はこの飛行船内での生活になるらしい。今度は人数が少ないので、ちゃんとベッドを使わせてもらえるのが有り難い。
「食べたらどうする?」
「寝ます?」
「鍛える?」
 なんでこんな所に来て鍛えるんですか。
「鍛えよっか。移動でまだ数日かかりそうだし、こんなに暇なの久しぶりだから。
 アヤノの毒、自分の意志で濃度変わるよね。完璧にしよう」
「へ?」
「名前なんだっけ」
「特にありません」
「それも決めた方が良いよ。せっかく暇だし」
「うーん……毒壺?」
「それ、キミの身体そのものだろ。毒の壺にする能力者じゃないんだから」
「毒壺浚い」
「別に、アヤノがそれで良いならいいけど」
 私にそんな事要求しないでいただきたい。苦手なんだから。
 毒。毒。血。赤。赤。赤い毒。
「ポワゾン・ルージュ?」
「そのまんま。でも少しはマシになったね」
 イルミ坊ちゃまの仕事着に比べたら、いくらかマシな感性だとは思うが……やっぱり苦手だ。




あとがき
サバイバルを一週間もしたら、ご飯とかふわふわのパンが恋しくなりそうです。そんな生活、耐えられません。
煮っ転がしは最高です。
そういえば、近所で採れたタケノコが食卓に上がりました。
冬のタケノコは、えぐみが無くてとても美味しいです。



[14104] 20話 最終試験
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2009/12/21 19:22

 漫画の予定よりも二人増えている。それ以外のメンバーは同じだった。
 残る問題は、私たちがどこに入り込むか、それだけだった。
「あらまぁ」
 私はトーナメント表を見て口元を押さえた。
 ヒソカさんとクラピカさんの隣に、私とアキラ君の対戦が入り込んでいた。負けたらレオリオさんと対決する位置だ。
 影響の少ない場所だと思う。少なくとも、兄弟対決を邪魔する事だけはない。オジサマが殺される事も変わりないだろう。対戦相手がアキラ君になる可能性があるというだけで。
 でも、なんで私達がこんな位置に? 誰が私達が気になったり、闘いたくなかったりしたんだ? 分からない。何でこんな事になったのか分からない。
 私はちらりとアキラ君を見る。
 私が知らない所で、彼は何をしたんだろう。キルア坊ちゃまと、楽しく遊んでいたようだけど。
「無理に決まってんだろ、色々と!」
「確かに女性……しかも彼女の体質を考えると、殺してはならない試合では不利だな」
「むしろ怪我させたら俺が死ぬかも? でもクラピーの方が大変そうじゃないか。
 どっちも嫌だけど、ヒソカは別次元な怖さだし」
 アキラ君は下手に念能力を覚えていないから、青い果実扱いされているからね。念能力はヒソカさんが興味を持たないタイプの、便利能力にすべきだと思う。ヒソカさんは非戦闘の操作系能力とか具現化系能力者にはあまり興味がないから。
 私はヒソカさんとは出会った時から便利系だったので、イルミ坊ちゃまのようなギブアンドテイクな関係だ。移動の念を作らず、戦闘がメインの能力者だったら今ごろ命はなかったかも知れないが。
 早速ゴン君対ハンゾーさんの試合が始まり、イルミ坊ちゃまが立って目を開けたまま寝た。
 いつもは目を閉じるよ。もう短くはないつきあいだから、寝顔ぐらい何度も見たことがある。本当に寝ていたのか不明だけど、その時はちゃんと目を閉じていた。
 でも、イルミ坊ちゃまは人体のスペシャリスト。自分の意志で目を開けたまま寝られても、まったく不思議ではない。なにせ自身の操作はお手の物。家族の中で一番それを完璧にこなしているのがこのお方。
 でもこんな時にと思うけど、この試合は終わりが見えない。そんな物を見ているのは退屈だからね。もしゴン君が身内なら、その無謀さに呆れて、殺気を放っているだろうけれど。
 最後はハンゾーさんがゴン君をぶっ飛ばして終わり、ヒソカさんがクラピカさんをそそのかし、リタイアしてここまでは漫画の通り進んだ。
 そして、とうとう私たちの番。
 私はアキラ君を見上げる。
 ナルナルファッションがよく似合う、背の高い少年だ。クロロさんと同じか、少し小さいぐらいだ。成長期だし、将来的には追い抜くんだろう。
 長身の方が多いこの世界でも、胸を張って生きていけるサイズだ。私より背の低い知り合い、マハ様とコルトピさんしかいないのに。
 身長の事などどうでもいい。無性に殴りたくなるが、足りなければ足せばいいのだ。キッチンに届けばそれでいい。
 今大切なのは、アキラ君がこちらの世界初心者で、私にはまだ逆立ちしても勝てないという事実だ。
 彼はどうする気だろうか。
 彼は絶対に私には勝てないのを、彼自身もよぉく理解している。
 そして、負けても合格出来ることを。
「アキラ♠」
「は、はいっ!?」
 アキラ君はいきなりヒソカに声をかけられ、驚いて肩を跳ね上げた。
「ちょっと遊んでもらいなよ♥」
「は!?」
「すぐにリタイアする気だろ?」
「…………」
 やはりそのつもりだったらしい。
「大丈夫。キノは食材に関わらなかったら常識的な子だから♣ キミが実は美味しい魔獣だっていうなら、命の保証は出来ないけど♥」
 どういう意味だ。
「もう、いくらなんでもそこまで食い意地張ってませんよぉ。
 だいたい、何を言い出すんですかぁ? 邪魔しないでくださいぃ」
「だって、キミが普通に闘っているのは見た事がないから♥」
「そりゃあ、美食ハンターがぁ、食材以外と闘う事なんてぇ滅多にないしぃ」
 そろそろ疲れてきたな、この声を出すの。
「じゃあ、たまには思い出してみなよ♠」
 これで拒否しても、アキラ君はヒソカさんを恐れて、しばらくはギブアップしないだろう。私に優しく叩きのめされる方が、ヒソカさんに怖い思いをさせられるよりはマシだと。
 私だってそう思う。しゃあない。優しく遊んであげよう。
「それでは始め!」
 合図を受けて、私達は構える。
 どうやらアキラ君、空手か何かの経験者らしい。ちゃんと重心のバランスが取れている。肩の力も抜いて、変な力が入っていない。見た目のチャラさから予想していなかった。受け身が上達したというのも、受け身の基本が備わっていたからなのだろう。
 足腰もしっかりしていて、元から鍛えていたのが分かる。さらにゴン君と一ヶ月一緒にいたのだ。ゴン君のペースに合わせていれば、こちら世界の基準でかなり鍛えられた事だろう。
 基礎の基礎は出来ている。しかし身体の基礎は完成とはほど遠い。
 偏見を捨て去ると、確かにコレは青い果実に見える。
 本当に人の能力は、見かけと性格では分からない。
 アキラ君はじりじり近づくが、向かっては来ない。相手が女だという恐怖感があるのだろう。私のように小柄だと、どこに手を出せばいいのか分からないのだ。顔は攻撃できず、胸は論外。腹や腰も危険。私を怒らせたら瞬殺だ。
 だから残るは肩や手足となる。
 こちらから行くか。
 私は変に構えず真っ直ぐ歩く。
 戸惑いながらも来た右の突きを払い、油断している左手を掴んで、ねじり、極めて、そのまま転がす。
「うえっ!?」
 戸惑っているアキラ君から少し離れ、様子を見る。
 何が起こったのか理解していないらしい。それでも受け身を取ったのはさすがだ。イルミ坊ちゃまに上達を認められた程の受け身である。
 私は後ろに下がり、掌を上に向けて手招きをする。
「ほーら、いらっしゃい。お姉さんが遊んであげるから」
「っく……」
 再び掛かってくるアキラ君の手を取り、身をひねり、相手の勢いとテコの原理を利用して転がす。動きは悪くないけど、経験も浅く、相手が私なので思い切りが足りない。
 転がし、転がし、やっぱり転がし、たまにそのまま関節を極めてで嫌がらせ。もっと派手に極めてあげてもいいんだけど、寝技に入るとこのブーツだと起き上がるのが大変だし、接触が気になるし。
 次第にアキラ君が泣きそうな顔を始める。
「弄ばれてるっ! 悔しい! ハンゾーさんはなんて優しかったんだ!
 もっと別の弄ばれ方なら喜んで弄ばれるのにっ!」
 脇固めを解いて離れてあげると、悔しげに床を叩くアキラ君。
 彼は包丁突きつけられて弄ばれたいんだろうか?
「まさに手も足も出ない。
 互いに怪我一つしていないのが、両者の実力差を物語っているな」
「あれじゃあ、確かに殴られてボコボコにされた方が精神的にマシか……」
 クラピカさんとレオリオさんの声が聞こえる。
 確かに、男の子にとっては屈辱かも知れない。
「ひょっとして、柔道とか習ってた? いや、合気道か?」
 アキラ君はよろよろと起き上がりながら尋ねた。
「合気道はちょっとだけ、小さな頃に習ってただけだから。ジャポンにいた一ヶ月ぐらい道場通ったのが基本よ」
 自分がどんな技を使っているのかなんて分からない。けど、基本はたぶん合気道なんだと思う。
 ただ、足技に弱くなるから、ジャポンの道場で習ったことを取り入れた。
 一般人や油断している弱い念能力者が相手なら、それなりに通用する。
「私のはあえて言うなら捕縛術」
「メンチさんに弟子入りしたのに、なんて平和的な……」
 隅の方で見守るメンチさんがどういう意味だと怒鳴った。
 アキラ君は横たわったまま、ふるふると震え、拳を握りしめた。
「せめて、せめて、普通に殴って、普通に蹴ってくれっ!」
「ヒソカさんみたいな事言わないでぇ」
「なら、なら、せめて締め落としてくれ! それかもう、いっそのこと踏んでくれっ!」
「趣旨忘れてるでしょぉ」
 無傷で負けるのがそんなに嫌かな。
 クラピカさんも同意してたから、男の人にとっては屈辱なのかな。
 それからアキラ君は何度もかかってきた。次第に慣れてきたのか隙が減ってきたし、突きや蹴りも鋭くなってきたが、まだまだである。まだまだだが、ヒソカさんが興奮しているから、目に見えて成長しているんだろう。このままこちらで数ヶ月真面目に実戦形式の修行をしたら、ここまで一方的な運びにはならなくなるだろう。
「ヒソカさん……オレは一体いつまでこのお姉さんに遊ばれれば良いんでしょう?」
 アキラ君は転がされ、起き上がる気力もないのか、腹ばいになってヒソカさんにお伺いを立てた。彼がここにまだいるのは、脅迫されたからに他ならないのだから。
「んー……ボクはまだ見ていたいけど、飽きられてきたからもう良いよ♦ カレ、また寝ちゃったし♥」
「え……あれ寝てるんですか?」
 言われてみれば、イルミ坊ちゃまがまた寝てる。
「しかし、彼女が意外とまともな武術の使い手なのは意外だったな♣ てっきり包丁で解体する武術かと思ってたよ♠」
「やぁだぁ、そんな武術はありませんよぉ」
 ヒソカはちらりと、部屋の片隅にいるメンチさんに目を向けた。彼女が包丁でジャグリングしたのを見ていたからだろう。私でも包丁であんな事しないからね。
「解体武術なんて知らないわよっ!!」
「そうですぅ。解体は仕留めてからするものですぅ」
「なるほど♣」
「解体に拘らないでよ!」
 結局は解体するのに何言ってるんですか、メンチさん。何だかんだ言っても、私達は同じ穴の狢です。メンチさんの方が少しだけ良心的なだけです。
「あぉ、マスタさん、オレ、ギブアップで良いですか? 良いですよね? ギブアップします。
 クラピー、オレを慰めてっ!」
 アキラ君はなぜかクラピカさんに駆け寄った。そういえば年が近そうだから、仲良くなったのかな?
 キルア坊ちゃまに情けないと弄られながら、アキラ君はクラピカさんにまとわりついてイジイジする。
 クラピカさんは華やかな美人には違いないけど、男同士で何してるんだろう。
 意外とそういう趣味? なんか異様にゴン君への愛情らしき物とか感じるし。まるで女の子同士のようにベタベタしているし。
 まあ、別にいいんだけど。
 これからが本番なんだし、彼もそれを分かっている。分かっているからふざけてるんだと思う。
 たぶん。きっと。




原作キャラをいたぶるのは忍びないからこそのアキラです。
いつも思うのですが、メンチさんの使っている包丁って、何て種類なんでしょうか。
自分には蛸引き包丁に見えるんです。



[14104] 21話 すれ違っている兄弟
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2009/12/23 00:37
 ハンゾーさんとポックルさんは、ハンゾーさん合格。
 ヒソカさんがボドロさんをボロボロにしてヒソカさん合格。
 次にアキラ君とレオリオさん。
 アキラ君は私に散々極められ崩され投げられて体験学習したらしく、レオリオさんに対して綺麗に小手返しを掛けて、そのまま寝技に持ち込み、出来た出来たと喜んでいた。よっぽど私に転ばされたのが嫌だったのか、とても暗い目をして笑っている。サブミッションは王者の技、オレはやれる子、とか騒いでいるので、さすがのイルミ坊ちゃまも寝なかった。ただ、首を傾げている。この人達に関節技効かないから。
 レオリオさんは正式に武術を習った事がないらしく、動きに隙が多い。力はあって十分脅威なのだが、先ほどの試合で身体を慣らして感覚が鋭くなっているアキラ君の動きについていけないらしい。アキラ君が怨念で動いているようにも見えて、気迫負けもしている。
 とは言っても、レオリオさんにもアキラ君のようにしてあげたら、学習してけっこういい戦いが出来るだろう。出来るのはアキラ君だけではない。レオリオさんだってやれば出来る人だ。
 けど、ここはそういう修行の場ではない。ダメージを受けないように練習する時間を持てたのは、アキラ君の運だ。ヒソカさんがますます興奮しているから、運が良いとは思えないけれど。
 一度綺麗に関節を極められると、抜け出すのは至難の業だ。この世界には関節どこ? って感じの軟体動物みたいな人もいるけど、普通のレオリオさんには効果抜群。先の試合を見ていたせいか、しばらくすると大人しくギブアップしてアキラ君が合格。
 クラピカさんにおざなりに慰められるレオリオさん。アキラ君はとても晴れやかな笑みを浮かべている。
 次にキルア坊ちゃまはポックルに勝ちを譲る。
 ここで落としてあげていたら、将来死ななくてすむかも知れないと思うと……ほんのちょっとだけ可哀相だった。彼の死に方は、漫画の中でもかなりひどいからなぁ。
 次にレオリオさんがボドロさんの体調を気にして、延期を要求し……。
 ああ、ついにっ!
 ようやくこの格好ともおさらばできるっ!!
 私は浮かれてジャケットを脱いで、荷物の中から取り出した、メイク落としのシートで、派手なメイクをささっと落とし、下地をつけて軽くファンデとアイシャドウと紅を付ける。つけまつげがないと、瞼が軽いっ!
「久しぶりだね、キル」
 変装を解くイルミ坊ちゃま。
「兄……貴!!」
 私はさっと着物を羽織り、カツラとカラコンを外し、ブーツを脱いで草履に履き替える。
「や」
「あ……アヤノ!?」
 早き替えした私を見て、キルア坊ちゃまが叫んだ。
 兄を見た時よりも驚いている気がする。
「あ、アヤノ!? アヤノが何で!?」
「申し訳御座いません、キルア坊ちゃま」
 私が謝罪すると、キルア坊ちゃまは頭を抱える。
「え……えぇぇぇえ!?」
「誰だよあんた!?」
 皆の前で着替えたのに、驚く一同。
「なぜ大変身を遂げられたイルミ坊ちゃまより、私の方が反応が大きいのですか?」
 私が変装している事ぐらいは気付いていただろうアキラ君まで目を見開いて驚いている。
 理解できない。こんなビックリ人間より、ただ変装していた私に驚くなんて。
「キル、オレはともかく、カツラと化粧だけのアヤノまで、ちっとも気付かなかったね」
「あ、アヤノは……アヤノだけは普通の人間だと思ってたのに……」
「ははは、そんなわけないじゃないか。あの母さんが娘にしようなんて女だよ。母さんを基準に考えれば、普通だって考える方がどうかしてる」
「そ、そういえば……」
「キルは騙されやすいな。アヤノが言ってたよ。女はみんな女優だって」
 そんな風に言うと、私が幼い子供を騙す悪女みたいじゃないですか。いや、騙してたけど。
「帰ったら訓練しようか。
 それよりも、母さんとミルキを刺したんだって?」
「…………まぁ……ね」
 視線が私とイルミ坊ちゃまを行き来している。
「母さん泣いてたよ。ミルキは怒ってる」
 イルミ坊ちゃまはひたとキルア坊ちゃまを見つめて言う。
「そりゃそうだろな。息子にそんなひでー目にあわされちゃ。
 やっぱとんでもねーガキだぜ」
 この場で常識があるのはレオリオさんだけか。
「感激してた。『あの子が立派に成長してくれててうれしい』ってさ。ミルキは『オレもアヤノの変装が見たかった』って」
 常識のあるレオリオさんはすっころぶ。
 ミルキ坊ちゃま怒る方向間違ってませんか?
 その間に、アキラ君が私の元へと走り寄り、私の肩を掴んみ、声を潜めて言った。
「そ、その服どこで!?」
 そこかよ。
 この子も激しく何かが間違ってるな。
「……ジャポンの呉服屋です。文化は似たようなものですから、質は落ちますが、通販でも買えます」
「ジャポン……そっか。後で探してみよ」
 自分の好みの服を、だろうか。天空闘技場に行けばいくらでも買えるようになるしね。キルア坊ちゃまの無駄使い前なら、お金に不自由する事もない。
「奇遇だね。まさかキルがハンターになりたいと思ってたなんてね。
 アヤノが変装してついてきたのは、あの美食ハンター対策だよ。実はオレも次の仕事の関係上資格をとりたくてさ」
 キルア坊ちゃまは使用人として澄ましている私をじっと見た。
 そんなに衝撃的だっただろうか?
 女の子は化粧一つで変わるという事を、幼い彼はまだ知らないのは仕方がないけど。
 だから私は微笑みを向けた。そうすると、なぜか視線を逸らされる。
 ちょっと傷ついた。
「別に……なりたかった訳じゃないよ。ただなんとなく受けてみただけさ」
「……そうか、安心したよ。
 心置きなく忠告ができる。お前はハンターに向かないよ。お前の天職は殺し屋なんだから」
 実際に聞くと凄い台詞だなぁ。シュールだ。イルミ坊ちゃまの存在そのものがシュールだから仕方がない。
「もう、イルミ坊ちゃまったら。よっぽど家出されたのがショックだったのかしら?」
「そんな可愛く言う台詞か?」
「月に一冊成長記録が出来上がる家庭を見ていると、言いたくなります」
 アキラ君が呆れたようにイルミさんを見た。
 誰もが予想外なゾル家の秘密だ。
「お前は熱をもたない闇人形だ。
 自身は何も欲しがらず何も望まない。陰を糧に動く。お前が唯一歓びを抱くのは人の死に触れたとき。
 お前はオレと親父にそう育てられた」
 いや、育てたのはゴトーさん達だと思う。イルミ坊ちゃまや旦那様のアレは、育てた内に入らない。あれはただの虐待。じゃないとゴトーさん達が、あんなにご子息達を愛したりしない。
「本当にそんな家庭なのか?」
「金にならない殺しはするなって、ゼノ様がおっしゃっているけど?
 ほら、よくあるじゃない。跡継ぎが家業を否定するって。
 だから少しでも殺しに目覚めて欲しくて一生懸命なのよ」
 たぶん。きっと。そんな人間的な感情があったらいいなぁ、と思っている。
「……それが女形とかなら可愛いんだけどな」
 オヤマ? 何? 何で女形が出てくるの? やっぱりそういう趣味なの? 伝統芸能を身につけている人間の所作ではないから、自分の場合ではないだろうけど……。
「ゴンとアキラと……友達になりたい」
 アキラ君と話している間に、あの台詞を、アキラ君まで混ぜて言う。
 少し嬉しそうにするアキラ君。
 でもそれって、クラピカさんよりも子供って言われたようなものなんだけど? クラピカさんよりも背が高いのに。
「なんで……」
「4次試験はずっと一緒に遊んでたんだよ」
「そ、そうでしたね」
 ちょっとビックリしてしまった。
 遊んだのなら仕方がない。キルア坊ちゃまはそういう事に関しては耐性ないから。
「もう人殺しなんてうんざりだ。
 普通に……ゴン達と友達になって、普通に、遊びたい」
 キルア坊ちゃまが胸が切なくなる台詞を口にした。私よりも大きくなってしまったけど、彼はまだまだ可愛い盛りの子供。遊んであげれば良かったと思ってしまいそうになる。
「無理だね。お前、知らなかったとはいえアヤノを殺そうとしたよね」
「っ……」
 キルア坊ちゃまの肩が震えた。
 私のせいでさらに追い詰められるキルア坊ちゃま。
 一瞬私を見て、唇を噛みしめる。
 まさか、あれがこんな形で坊ちゃまを苦しめる結果になろうとは……。
「今のお前にはゴンが眩しすぎて計りきれないでいるだけだ。友達になりたい訳じゃない」
「違う……」
「彼の側にいれば、いつかお前は彼を殺したくなるよ。
 殺せるか、殺せないか、試したくなる。
 なぜならお前は根っからの人殺しだから。アヤノを殺そうとしたように」
 あれ……どうしよう。
 レオリオさんが黙ったままだ。
「まあ、反射で慣れてる事をついやっちまうことはあるよな」
 動かないレオリオさんを見て、アキラが腕を組んで言った。
「そうだね。ついやっちゃうぐらい、キルには当たり前のことなんだ」
 イルミ坊ちゃまも認める。
 沈黙。
 この沈黙、どうすんのよ。入れても入れなくても変わらないフォローじゃなくて、もっとマシなフォローを入れなさいよ。友達扱いされてるんだからっ!
 その時だった。
「おめぇがトドメ刺してどうするんだよ!」
 救世主、レオリオさんが動いた。ああ、貴方が今、とても眩しい。
「キルア! お前の家庭の事情や殺し癖は知らねーが言わせてもらうぜ。
 ゴンと友達になりたいだと? 寝ぼけんな!!
 とっくにお前らダチ同士だろーがよ!」
 馬鹿だどうのとはさすがに言わなかった。
「そうそう。二人とも友達を深く考えすぎだって」
 暢気にアキラが口を挟む。せっかく元に戻ったのに、なぜ口を挟む?
「色々とジャンルとか段階があるだろ。
 ただの遊び友達とか、一生付き合いのある腐れ縁とか、戦友とか、無二の友とか。
 とりあえずキルアは遊び友達から始めたいんだろ? 出会って間もないし、いきなり無二の友はないしな。
 同年代と遊んだ事がないと、遊ぶのに飢えるのは仕方がないよ」
 刺激しすぎないように言葉を選んでいるようだ。選びすぎて感動もないヘタレた内容になっていた。それで心の動く人間がどこにいる。
「全くその通りだ」
 同意したのは意外な事にハンゾーさんだった。
「キルアは兄弟多いらしいのに、兄弟でも遊んだ事ないって言ってたぜ。
 オレも子供らしい環境で育ったとは言い難いが、それでも里にはガキの頃から共に修行したダチぐらいはいる。もう少し加減を考えて育てろよ」
 まさか、ハンゾーさんとまで遊んでいたのか?
 そうだとしたら、彼は予想以上にいい人だ。プレートで釣られたんだろうけど、それでも世間知らずな子供に付き合ってくれるなんて、忍びのくせになんていい人だろうか。
 その点、イルミ坊ちゃまはオモチャを与えるだけだったらしい。拷問訓練や戦闘訓練が、兄として構っている時間だったし。
 もうそれだけでイルミ坊ちゃまよりもハンゾーさんの方が好かれていてもおかしくないってぐらい、兄としてはダメだと思う。
 それはいいけど、この後どうするつもりなんだ?
「キル、遊びたいの? ミケと遊べばいいだろ」
 イルミ坊ちゃまがキルア坊ちゃまに問う。
「ミケとは話なんてできないだろ。使用人は遊んでくれないし……」
「カルトと遊べば?」
「カルトはなんか……最近妹みたいで、なんか違う。アルカはどこにいるかわかんねーし」
 なんて言うか、本気で家族運がないですね。殺し屋でも、もっと普通なキャラだったらよかったのに、まともなのはゼノ様だけなんて……。
「困ったな。適当な人材がいない。
 まあそれは後で考えるとして……あっちが友達のつもりなら……よし、ゴンを殺そう」
「なんでいきなりそこに飛ぶ!?」
 イルミ坊ちゃまの思考の吹っ飛び方にアキラが驚愕する。
 私はもう慣れたよ。
「キミ達だけならともかく、あのタイプは危険だからね。殺し屋にあの手の友達はいらない。危ないだけだから」
 あれ……軽い遊び友達は認めた?
 でもゴン君を危険視するのは分かります。
 実際に自ら危険に突っ込んでいく、いかにも主人公らしい危険ホイホイですからね。ゴン君はイルミ坊ちゃま的には「あり得ない」タイプの人間なのだ。明らかに闇の住人であるハンゾーさんとの戦いを見たから、余計にそう思うのだ。
 アキラ君とハンゾーさんが許容範囲だと思えるぐらいに。
 とはいっても、イルミ坊ちゃまの想像する遊び友達なんて、ペット以下ぐらいの認識だろうけど。ペットは家族だから、使用人以下、という方が近いかも。
「彼はどこにいるの?」
 イルミ坊ちゃまの危険思想を聞いて、入り口に集まる皆さん。メンチさんが私を見て怒っている。
「ちょっとあんた、なんつー危険人物を野に放ってんのよ。あんたも説得なさい!」
 まあ、無駄だろうけど。
「あの、坊ちゃま……殺すと失格になりませんか?」
 自分で気付く前に言ってみる。
「ああ、そうか。
 うーん……そうだ!
 まず合格してからゴンを殺そう!」
 やっぱりそうなる。
「イルミ坊ちゃま、本当に我が道を行かれますね」
「アヤノには言われたくないよ」
 お互いマイペースと言われがちな操作系。私も自覚のない所でマイペースにしているのだろうか?
 私達の暢気な会話を聞いて、キルア坊ちゃまの顔は蒼白になって冷や汗をかいている。おかわいそうに。
「それなら仮にここの全員を殺しても、オレの合格が取り消されることはないよね?」
「うむ。ルール上は問題ない」
 ネテロ会長は涼しい顔をして認める。少しは止めて欲しいものだ。ここにいる中でイルミ坊ちゃまよりも確実に強いのは、会長ぐらいなんですから。
「聞いたかい、キル。オレと闘って勝たないとゴンを助けられない。友達のためにオレと戦えるかい?」
 私はマイペースに話を流れに戻してしまったイルミ坊ちゃまの、マイペースな台詞を、微笑ましいとすら思った。
 可愛い弟が、誰かの影響を受けるのが嫌なのだ。とくに、ハンゾーさんがほだされたのを見たから、ゴン君に危機感を持っても仕方がない
 今までは自分の手の上にいてくれた。出ていっては守って、育ててやれない。気分は娘が夢を追うフリーターを彼氏と連れてこられた父親に近いのかも知れない。全然違うけど、気分だけ。
「少しでも動いたら戦いの合図とみなす。
 同じくお前とオレの体が触れた瞬間から戦い開始とする」
 闘わなければゴンを殺すと、軽いオーラで脅すイルミ坊ちゃま。このままではいつか、ゴンをアキラ君の言う『無二の友』としてしまう事が分かるのだろう。
 イルミ坊ちゃまの周りにはいない、太陽のような、驚異的な存在。
 レオリオさんとハンゾーさんが、やってしまえ、好きにしろと励ますが、蒼白なキルア坊ちゃまは、イルミ坊ちゃましか見ていない。彼が何を悩んでいるのか、私には分からない。
 キルア坊ちゃまが再びこちらを見た。私を見て、アキラ君を見た。
「キルア。気にするな。どちらを選ぶにしても、誰も悪くないからさ」
 誰も悪くない。
 他の人達はそんな事を思わないだろうけど、呪縛のような愛の片鱗を知る彼だけは理解している。キルア坊ちゃまは俯いた。
「まいった。オレの……負けだよ」
 どんな言葉をかけられても、暗く沈み込むのは仕方がない。
 賢い方だから、負ければゴンは殺されないと踏んでいるのかも知れない。本当にゴン君が殺されるのは、ここでキルア坊ちゃまがイルミ坊ちゃまに刃向かった時だ。
 イルミ坊ちゃまも、自分の針の効果で強者に刃向かわない弟を見て満足する。
「あーよかった。これで戦闘解除だね。はっはっは、ウソだよキル。ゴンを殺すなんてウソさ。お前をちょっと試してみたんだよ。
 でもこれではっきりした」
 肩から頭に手を移した時、頭に小さな小さな、髪で隠れるような針を刺した。
「お前にゴンを友達にする資格はない」
 アキラ君が何か言いたそうな顔をしているが、イルミ坊ちゃまが怖くて何も言えないでいる。ヘタレだが正しい判断だ。
「しゃべる遊び相手が欲しいなら、別のを用意するよ」
 本当に軽い遊び相手なら妥協するのか。ほんのちょっとだけ人間らしくなっているような気がする。アキラ君の説得は無駄ではなかったようだ。
「お前は今まで通り、親父やオレの言うことを聞いて、ただ仕事をこなしていればそれでいい。ハンター試験も必要な時期がくればオレが指示する。今は必要ない」
 それだけ言うと、イルミ坊ちゃまはすっとキルア坊ちゃまから離れた。
 アキラ君はイルミ坊ちゃまが離れたのを確認してから、キルア坊ちゃまの方へと走る。キルア坊ちゃまは針の効果で意識がもうろうとしているらしく、アキラ君に抱き上げられるまで何も反応を見せなかった。抱き上げて頬ずりしたら蹴り倒したけれど。
 こちらへとゆったり歩いてくるイルミ坊ちゃまに、私は首を傾げて見せた。
「いいんですか。あんな状態でほっといて」
「針はすぐに抜けると思うよ。帰路につく頃には、意識もはっきりする」
 ひどい兄だ。
「アキラ君も良いんですか?」
「良いんじゃない。あの手のタイプは、キルも慣れるてる。今更だよ」
 私は坊ちゃまを見上げる。
 何を考えているのかよく分からない。
 アキラ君はイルミ坊ちゃまから見ると、慣れていると言い切るほど、誰かに似ているんだろうか? 3年未満の使用人歴では、彼らの知り合いの全てを把握は出来ていないので、想像もつかなかった。
 アキラ君とは私よりもイルミ坊ちゃまの方が一緒にいた時間が長いから、何か思う所があったのだろう、きっと。あの塔の中で。
 私がため息をついていると、レオリオさんの試合が始まり、キルア坊ちゃまはアキラ君の制止を振り切って、ボドロさんに当て身を食らわせて失格となり、不合格が確定したキルア坊ちゃまは無言で帰路についた。
 イルミ坊ちゃまが私の事で追い詰めたせいか、ズタボロになりながらも、なんと生き残ったボドロさんは、本日一番ラッキーな人だろう。殺されなかったのは、私の件があったから、歯止めがかかったのだと思う。
 渋いオジサマが生き残ってくれたのは私も嬉しい。



[14104] 22話 試験翌朝 アキラ視点
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2009/12/27 21:17
 翌日の朝の事だった。
 アヤノちゃんとイルミさんとヒソカの姿がないので、居合わせた残りの合格者達がテーブルを寄せ合って集まり、彼等について囁き合うように情報を交換した。
 そしてポックルの口からこんな言葉が出た。
「とあるプロのハンターに聞いた事がある。
 野生の獣のようにふらりと現れ、発見した稀少生物を捕食する謎の女。目があったら保護対象を抱えてとにかく逃げろと」
 オレの目が点になる。
「……あの女人がそれほどまでの人物とは……」
 ボドロさんが神妙な面持ちで呟いた。ああ、ボドロさんが生きているなんて、奇跡のようだ。キルアは耐えたんだ。ある意味アヤノちゃんのおかげだな。ああ、大筋は変わらなくても、小さな、しかし大きな変化があった。オレは嬉しい。キルアはこの試験中で、同じ受験者を一人も殺さなかったのだ。
「全ての動植物に関するハンターにとって、最も警戒すべき相手だ。
 捕まえようにも、まるで消えるようにいなくなってしまうらしい。オレも昨日まで都市伝説の類だと思っていた。最近では僻地七不思議の一つにも数えられているらしい」
「どんな怪人だよ」
 ポックルが語るアヤノちゃんの正体に、オレは力なく笑うしかなかった。
 たった三年でどうやったらプロのハンターまでもが噂するような七不思議になるんだ。
 しかも消えるようにいなくなるって、どこの忍者だよあんたは。
「って、まさか、どこぞの忍者に弟子入りしてたのか? 本人もジャポンの道場に通ったって言ってたし!」
「忍者はともかく、確かにありゃあジャポンの古武術の類だな。
 それに近い人物に師事していても不思議じゃねぇ」
 ジャポン生まれのハンゾーさんが、ちらっと隣のテーブルでブハラさんと一緒に朝食を食べているメンチさんに目を向けて言う。
 でもさ、この世界の忍者ってどんなレベルなんだろう。分身の術はダブルだよな。火遁は変化系と放出系の力だから、強化系向き?
 まあ、念能力を無視しても、上忍のハンゾーさんは確かに強いから、きっと他の人達もすごいんだけど、はっきり言って『忍』としてのレベルが高いようには見えない。すっげぇなんちゃって忍者っぽい。プレートあげるから、一緒に退屈しのぎをしようって言ったら、本当に遊んでくれたしさ。
「あたしは知らないわよ。ジャポン料理修行しに行った時、本人が自主的にホテルの近くの道場に通ってただけだし。
 それにあの子をあたしが見てたのは半年だけだもの。今じゃあ、あの殺し屋の方が長く一緒にいるのよ。最近まで外部との自由な接触も制限されていたみたいだし、全部知ってるわけじゃないのよ」
 この人の場合、メインは念の使い方と料理なんだろうなぁ……。
 念能力が関係する事だから誤魔化すは良いけど、ごまかし方もいい加減だし、教え方はかなりアバウトそうだ。
「私もそのような話は聞いた事がある。割烹着姿の包丁とぬいぐるみを持った幼い少女が、飢えて野山を駆け回っていると。幼く見えたのはあの身長のせいだろう」
 ブーツを脱いだら、予想よりも小さかったからなぁ。見上げられると、こう、保護欲とかそう言うのが刺激される、そういうタイプの女の子。
「キルアんちはそんなヤツまで配下にしてしちまうのかよ……」
 クラピカが博識を披露し、レオリオが腕を組む。
 幻獣ハンター志願のポックルはともかく、クラピーまで知っているって、本気で有名?
「こりゃあ一筋縄ではいかねぇな。キルアがああなっちまうのも仕方がねぇ。まともだと思っていた女ですら、噂になってるぐらいだからな」
 ゾルディック家が変な意味で誤解されていく……。
 ここはキルアのためにも、オレが何とかしなければっ!
「いや、アヤノちゃんは嫁候補にまでなっているらしいから、あの家の中でも特殊なはず」
 たぶん。
 キルアが気付かなかったのは、アヤノちゃんがゾルディック家で、キルアに力を見せる事の意味を知っていたからだ。
 あと見事な女優っぷりだったから、キルアの前ではお淑やかキャラで通していたんだろう。着替えてから、アヤノちゃんは別人になったから。
「ほんとヤになっちゃうわよ! 師匠のあたしに就職先を隠すから、どんな所で働いてると思えば、あのゾルディックよ! 分かる、あたしの気持ち!?」
 メンチさんはがら悪くテーブルをガンガン叩いて隣のテーブルに固まっている俺達に訴えた。
 料理はすげぇ美味しいけど、落ち着いて食わせて欲しい。
「まあまあ、落ち着いて。怒った顔も可愛いけど、せっかくの美人なんだから笑っていて欲しいな」
「アヤノに転がされた男が生意気言ってんじゃないわよ。十年早いっての」
「う…………」
 傷ついた。傷ついた。本当の事だからオレのハートはズタボロだ。女の子に掛けられる関節技は、天国と地獄の板挟みだと思ってたのに、地獄しかなかったなんて、思い出したくもないっ!
「メンチ、子供に当たるのはよせよ。絶滅したはずの猿を持ってきたから、隔絶された場所にいるってのは分かってただろ」
 大盛りの朝食らしき物を軽々と食べて、おかわりを運んできたブハラさんが言う。
 ……大食いだけの人じゃなかったんだ。メンチさんがこれじゃあ、この人が冷静にならないとやっていけないわなぁ。しかし……
「絶滅したと言われている動物でも、容赦なく調理するんですか、あの人」
「ビーストハンターにつがいで何匹かプレゼントしたって言ってたから、考えてないわけじゃないよ。
 ハンターとかち合うのは、情報を頼りに来た場合は仕方がないんだ。本人は法律だけは守ってるらしいから、アヤノが悪いとも言えないし」
 守ってるのに七不思議かよ。自重しなかったらどんな伝説を作り上げてたんだろう。
「両者に言い分があるって事かぁ……。
 ゾルディック家もそんな感じですよね。塔の中で聞いただけだと、みんなキルアが可愛いだけみたいですし」
 一緒にいたアヤノちゃんもそう思っているのだから、イルミさんがブラコンなのは間違いない。
「可愛い!? あれが可愛い弟に対する仕打ちかよ!」
「仕打ちです」
 レオリオさんが声を荒げた瞬間、食堂に声が響き、皆は一斉に出入り口を見た。
 アヤノちゃんがいた。
 アヤノちゃんだけが、食器を持って立っていた。食器を返しに来たらしい。
「家庭の事情があるんですよ。イルミ坊ちゃまも、あの家庭の犠牲者ですから」
 イルミ坊ちゃま。
 予想外の呼び方に、オレは聞く度に背中が寒くなる。キルアが「坊ちゃん」なのはいい。でもイルミとかミルキに「坊ちゃま」なんて、怖い物知らずだ。
「イルミ坊ちゃまぁ?」
 レオリオがヤクザのようにすごんでアヤノちゃんを見る。
 アヤノちゃんは食器を返却口に返して、すました顔でこちらに向き直る。
 昨日までの露出度の高い格好もいいが、オレは断然こっちの方が好みだ。この着物の下にあの身体が隠れていると思うと、食癖にさえ目をつぶれば萌える。
「イルミはダーリンの本名です。偽名の方は覚えるのが面倒だったので、ダーリンって呼でいたのですが、恋人じゃないんで安心してくださいね、メンチさん」
 まさか『ダーリン』が名前を覚えるのが面倒だからだとは……。
 ギタラクルぐらい覚えてやれよ。
「キルア坊ちゃまは大切な跡取りです。伝統ある家ですから、イルミ坊ちゃまがそれを守ろうとするのは当然の事です」
「伝統ってあんた……」
 レオリオが呆れ眼を彼女に向けた。
 ハンゾーさんが自前の携帯食を手に、身をひねってアヤノちゃんの方を向く。
「その跡取りってのは何なんだよ。兄がいるのにどうして弟が跡取りなんだ? そのイルミって奴の方がよっぽど暗殺者に向いてるだろ」
 説得力しかない言葉に、一同頷く。
「イルミ坊ちゃまは戦闘向きではありませんから」
「あれで!?」
 確かに操作系。便利能力の代わりに、破壊力は足りない気がするけど、向いてないのか?
「はい。欠かせない戦力ですが、主戦力では無いんですよ。イルミ坊ちゃまはどちらかというと影で暗躍する普通に暗殺者タイプです。でも旦那様方は正面からガチンコバトルもいける殺し屋ですから」
「殺し屋がガチンコでどうするんだよ」
「たまにそういう強者がいるんですよ。絶対に殺すためには、そういう力も必要です。キルア坊ちゃまにはその才能もあるんです」
 オレのイメージする暗殺者とは、ちょっと違うらしい。殺し屋という方がまだしっくりくるか。
 シルバさん達はクロロに二人で正面から挑んでいたから、ゾルディック家的にはアヤノちゃんの言い分の方が正しいんだろうけど、世間とずれすぎてて誰も理解していない。
「しかし、兄であるイルミは、弟が跡取りで満足なのか?」
 誰もが疑問に思う事をクラピーがずばりと言った。
「ええ。とてもキルア坊ちゃまを愛していらっしゃいます」
「理解に苦しむ」
「ご両親の影響です。長男でいらっしゃるから、一心に愛を向けられああなってしまい、自分への過干渉を引き受けてくれて、自分でも愛でられるキルア坊ちゃまが愛しいのだと、私は分析しています」
「なんだそりゃ」
 ハンゾーさんが顔を顰める。
「極端ですけど、よくある個性豊かなご一家なんですよ」
「いくら何でも極端すぎるだろ」
 極端の一言で片付けるアヤノちゃんは大物だ。すっかり使用人が板に付いている。
「次男のミルキ様が女性だったらすべては丸く収まっていたのに、世の中は残酷です」
 なんで丸く収まるんだか分からないけど、その言い方だとアヤノちゃんでもやっぱりミルキは嫌なのか? 女だったら良かったのにと思うぐらい。
 そうしたらカルトも女装なんて事にはならず、今よりゾルディック家は平和だったかもしれないって事か?
「愛がなければ成長記録が百冊を優に超えるような事にはなりません」
 盗撮の愛は止めた方がいいと思うんだ。キルア本人が、たぶん知らないと思う。
「たぶんゴン君とキルア坊ちゃまには、重苦しいその愛が伝わる事はないと思いますが、理解できずとも愛はあるのだと分かっていただきたいんです」
 そもそも、愛だと認識してもらえないと思う。
 濃い生活なんだろうなぁ……。
 そう悟るようになるぐらい。
 オレは癒し系のミトさんと一緒だったし、普通に楽しかった。
 オレ、アヤノちゃんと同じルートでなくてホント良かったよ。ミトさんは美人だし、ゴンは可愛いし。メンチさんは美人だけどさ、半年でアヤノちゃんを作り上げちゃう生活はちょっと遠慮したい。
「ああ、そうだ。皆さん、朝食はいかがでしたか?」
 アヤノちゃんが胸の前で手を合わせて、可愛らしく首をかしげて問う。
「え……これ、メンチさんが作ったんじゃ?」
「あたしはあんた達に食べていい言っていっただけよ」
 オレは完食したプレートを見た。
 パンも焼きたての手作りっぽくて、スクランブルエッグの火加減も絶妙で、ケチャップもなんかいつも食べてるのより美味しくて、カリカリに焼かれたベーコンも高級感溢れてて、サラダのドレッシングもすげぇ美味くて、野菜が溶けるほど煮込まれたコンソメスープは、ベーコンの旨みで味と合わさって絶妙で、すげぇ幸せな気分にさせてくれる朝食だった。
「美味し……かった」
「よかった」
 嬉しそうに笑うのが、すげぇ可愛い。でも毒女。今平気なんだから、きっと大丈夫なんだろうけど……。食べていないハンゾーさんだけが平然としている。
「あ、デザートもあるんですよ」
 アヤノちゃんはキッチンへと向かい、大きな皿と小皿を持ってきた。
「これ、キルア坊ちゃまに食べていただこうと思って作ったものです。このままだと痛んでしまうので、皆さんでどうぞ。もちろん毒は入っていませんから」
 タルトだ。光沢のある本格的なリンゴか梨のタルト。
「材料はここにある物しか使っていないので安心して下さいね」
 昨日までのギャルっぽさが嘘のような、大和撫子というに相応しいたおやかな仕草で微笑むアヤノちゃん。
 見た目は可愛い。文句なしに可愛い。
 でも女は化ける。
 キルアが女性不信にならないかちょっと心配だ。オレ的にはギャップ萌えというのも悪くないと思えるんだが、キルアは身近な知り合いだったからショックも大きいだろう。しかも、これから出会っていく女のタチの悪さといったら! 旅団の女性陣、ビスケちゃま、パームさん。
 癒しがセンリツさんしかない。オレなら女に絶望するかもしれない。
 でもタルトめちゃウマい。キルアの未来を無駄に心配するのを放棄してしまうぐらい美味い。
「キルアが味にうるさい理由はこれだよなぁ」
 おかげで野宿の時は大変だった。
 調味料各種と醤油をパクって来たからよかったけど。
「私は人様に美味しいと言っていただければ、それだけで幸せなんです」
 可愛さに惑わされたらダメだ。この人は、猿とか普通に食べる人! 食べさせるだけで幸せなんて嘘だっ!
「機会があったら、ぜひもう一度食べて下さいね。とくにポックルさん」
「え、オレ?」
「嫌ですか?」
「いや、嫌じゃないけど。美味かったし」
 噂よりも、目の前の可愛い女の子の誘惑に負けて頷くポックル。
 男ってなんて悲しい生き物なんだ。
 でもどうしてポックル? ポックルといえばキメラアントに殺される。ひょっとして、助けるつもりなんだろうか。恩を売って、美味しそうな生き物を貢がせるつもりかも知れない。
「ポックルさん、これをどうぞ」
「…………コックのキーホルダー?」
 アヤノちゃんがさらにポックルさんに渡したのは、日本人ならみんな知ってる『可愛いコックさん』のキーホルダーである。
 な、なんで?
「自然素材なので、肌身離さず持っていて下さい」
「はぁ?」
 アヤノちゃん……怪しいよ。したい事は何となく分かるけど、怪しすぎるって。
「ポックルさん、死相が出ています。私には分かります」
「し、死相?」
「このお守りがいつか役に立つ時が来ます。宗教でも商売でもないので、ただ持っていて下さい」
 怪しすぎるって。でも助けようって事なんだろう。
 あれが何か分からないけど、それだけは分かる。
「ポックルさん、受け取っておいた方がいいよ。オレもポックルさんに死亡フラグが立ってるような気がする。そのお守り効くから!」
「あ、あんた達、一体何を根拠にっ!?」
「私の経験です」
「えと……何かが降りてきたような」
 オレの方が怪しい?
「と、とにかく、自然素材なんだし、持っていても別に害はないし。いつか身代わりになってくれると思えば、別に大したことじゃないだろ」
「まあ、そうだが……」
 人助けのためとはいえ、怪しい事をしてしまった。
「アキラ、あのお守りの記憶があるのか?」
「小さな頃の記憶はおぼろげにあるから」
「なるほど。アキラの一族は、ああいった物をお守りにしていたのか」
 クラピカがポックルさんの手の中にある、小さな可愛いコックさんを見て、記憶するように頷いた。
 違うけど、否定できない。クラピーに嘘教えてしまった。俺たち以外にそれが嘘だとは分からないけど、すごく罪悪感がある。
「これを、私だと思って、肌身離さず持っていてください」
 アヤノちゃんはポックルを見上げ、彼の手を胸の前でぎゅっと握った。
 卑怯だ。これは卑怯だ。女の子の上目づかいは可愛い。しかも和服を着ても分かるその胸のサイズ、昨日まで見えていたあの谷間を彷彿とさせ、男の思考能力を奪う。それが心配から出てくる言葉なのだから、女に耐性のない男には、一発でノックアウトだ。
 それからアヤノちゃんはこの怪しい雰囲気をそのままに、お辞儀をして食堂を出て行った。
 この雰囲気、オレにどうしろと?





今回、初めてアヤノがアキラを使えると思ってます。

どうでもいい事を一つ。
昨日、カーナビのナビゲーターキャラが、サンタコスしてメリークリスマスと言ってくれた。
本番の今日、いつもの格好で、今日はスケートの日ですと教えてくれた。
カーナビまで性夜が本番なのかと絶望した。



[14104] 23話 説明会
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2010/02/19 23:26
 
 私は長椅子に腰掛け、手を膝の上に置いて、時が来るのを待っていた。
 イルミ坊ちゃまは寝ている。内容が何であれ、他人の協議など興味がないのだ。
 ポックルさんがたまにちらちらとこちらを見ている。
 コックさんの事が気になるのだろう。
 自然素材を強調しすぎてしまった。
 もしも彼があれをずっと手放さず、話の流れに不自然さが無く、タイミングが合えば助ける事も出来る。
 正直、彼が相手をしていたキメラアントは、正直、美味しそうではなかった気がする。あのキモいクモと女の子の印象しかない。
 でも彼が念の秘密をしゃべらされる事によって、アリたちが強化されてしまう。可能なら防ぎたい。王と護衛団が強すぎて、本当にアレをどうにか出来るのか不安で仕方がない。ポックルさんを助けても、いつかは念能力者に行き着くだろう。念能力者は少ないけれど、いる所にはごろごろいる。だから問題の先延ばしにしかならない。
 何にしても、「出来たら」、「可能なら」、「手段の一つ」、でしかない。
 そして自然にアリ達の情報をゴン君達に伝えたいから、流れを持って行けなければ見捨ててしまう事になるのだろう。正確な時期は分からないし、ゴン君達はポンズの蜂でようやく敵の居場所を掴むのだから、下手な事も出来ない。
 でもタイミングによっては、違和感なくポックルさんの現在地を皆に知らせる事が出来るかもしれない。
 そのためには、もう一度彼に何か食べさせるという問題が残る。
 なにせ一年以上先の事なのだ。一年縛りのこの能力では、いくらあらゆる探知機を誤魔化せる(らしい)通信機内蔵コックさんを渡しても意味がない。作ったのはミルキ坊ちゃま。どうやって作ったのかは不明だが、分解して中を見ない限りは、ただの小さなコックさんヌイグルミに見え、触っても分からないらしい。
 頃合いを見て、ヨークシン前ぐらいに連絡を取るか。連絡先ぐらい簡単に分かるし。
 ポックルさんの弱味を握れば、私に何か面白い物を食べさせてくれるかも知れないし、ポンズちゃんとも知り合えるかもしれないし。あれだけ蜂が好きな子なら、きっと美味しい蜂蜜を知っている!
 で、話の流れを変えないようにするのが無理そうなら、悲しいけど見殺しにするしかない。ゴン君達を成長させないと、漫画を追い越した時に、後でどんな事になるか分からないし、先は分からないけどそのまま放置した方がマシだ。初期の頃に数匹もらって、ククルーマウンテンに引きこもっていればそのうち何とかなるだろう。私の能力は他力本願が根底にあるのだから仕方がない。女とは、男達に守られるべきものであるっ!
 その時だ。後方からドアが乱暴に開かれる音が響いた。イルミ坊ちゃま無視……というか、起きたけど寝起きでちょっとぼーっとしている。ぼーっとしていなくても見向きもしないだろうけど。
 ズンズン近づいてくる怒れるゴン君。
 レオリオさんとアキラ君が呼びかけるが、無視をしてこちらに来る。
「キルアにあやまれ」
「あやまる……? 何を?」
 ほんのわずか、眼球だけ動かしてゴン君を見て、すぐに前を見据えるイルミ坊ちゃま。
「そんなこともわからないの?」
「うん」
「お前に兄貴の資格ないよ」
「? 兄弟に資格がいるのかな?」
 イルミ坊ちゃまはただ前を見ていた。ゴン君は目も合わせない彼の様子に苛立ちを見せ、いきなりその手首を強く握り、身体が浮き上がるほど強く引っ張った。
 ちょ、足が顔にかすったしっ!
 女の子がいるんだから、もう少しだけ気をつけて!
「友達になるのだって資格なんていらない!!」
 まさか、片腕を骨折しているのに、いきなり人の腕を掴んで折ってくるような子供がいるとは思わなかったのか、本当に腕を折られる坊ちゃま。まだヒビぐらいかも知れないけど、あのやられ方だと、ゴン君の骨折と違って治りにくそうだ。
「キルアの所に行くんだ。もうあやまらなくていいよ。案内してくれるだけでいい」
 身を翻し、出口へと向くゴン君。
「そしてどうする?」
「キルアを連れ戻す。決まってんじゃん」
 何コイツ、とでも言いたげな目で見るイルミ坊ちゃま。
「まるでキルが誘拐でされた様な口ぶりだな。あいつは自分の足でここを出ていったんだよ」
 っていうか、家に帰っただけだからなぁ。
「でも自分の意志じゃない。お前達に操られてるんだから、誘拐されたも同然だ!」
 家に帰しただけで誘拐犯扱いされるのも……ちょっと複雑だ。
 私はため息をつく。
「ちょうどそのことで議論していたところじゃ、ゴン」
 会長がゴン君の蛮勇を見て、止めるように口を挟んだ。
「クラピカとレオリオの両方から意義が唱えられてな。キルアの不合格は不当との申し立てを審議中なのじゃよ」
 クラピカさんとレオリオさんが、漫画と似たような事をゴン君に説明する。
 ただし、殺しはなかったから、様子がおかしかったに留まるが。
 自然か不自然かの議論が、漫画の中では鬱陶しそうにしていたハンゾーさんも含めて行われていた。
 ただし、ポックルさんの攻撃的な発言はなかった。
 今朝、みんなで朝食を食べた時に話をしたのが原因だと思う。
 ああだこうだと取り留めのない審議を続ける彼等を見て、私は再びため息をついた。
「どうだっていいんだそんなこと」
 ゴン君の、静かな声音に皆は黙った。
「人の合格にとやかく言うことなんてない。自分の不合格に不満なら、満足できるまで精進すればいい。キルアならもう一度受験すれば絶対合格できる。今回落ちたのは残念だけど仕方ない。それより」
 ゴン君が語っている間だ、イルミ坊ちゃまは折れている自分の手を見ている。ガードしていなかったからとはいえ、その強化系特有の感情の爆発で底上げされる力を見て、何を思っているのか……。
「もしも今まで望んでいないキルアに、無理矢理人殺しをさせていたのなら、お前を許さない」
 骨折が重症化していく……。
「許さないか……。で、どうする?」
「どうもしないさ。お前達からキルアを連れ戻して、もう会わせないようにするだけだ」
 まあ、虐待一歩手前の教育していたから、強くは出られないんだけど、あんなのでも一応家族だから、ゴン君がそれを決める権利はないんだけどなぁ。
 これが若さって奴か。ああ、瑞々しい。
 イルミ坊ちゃまが掴まれていない左手にオーラを込めて、ゴン君に向ける。精孔が開かないように力を加減しているのは、相手のためを思っての事ではなく、常識からでもなく、面倒を避けるためだ。
 ゴン君は思わず飛び退き、戸惑いの色を見せた。
 その隙を突き、会長が話を再開する。
 キルア坊ちゃまが不合格である事は覆ることなく、ハンターライセンスの説明に移る。公的施設のほとんどは無料で使用できて、融資も一流企業並みに受けられ、売れば人生七回は遊んで過ごせるらしい。
 それが具体的にいくらなのか聞きたい所だ。
 最後に、ここにいる人達をプロハンターとして認定してもらい、話が終わった所で私は立ち上がった。
「アヤノちゃん、今大丈夫だった?」
 アキラ君が、ゴン君の元へ行くよりも先に、私を心配して声をかけてくれた。
「ええ。ちょっとかすっただけだから」
「うわ、赤くなってる。ゴン、隣に女の子がいるのに、乱暴な事しちゃダメだろ! 顔は女の命なんだぞ!」
 男の子に変な目を向けているかと思えば、意外とフェミニストのようだ。
「ご、ごめんなさい」
「これで顔に傷跡でも残ったら、責任なんて取れないだろ。ゴンはもうちょっとだけ周りを見ろ」
「ほ、ほんとにごめんなさい」
 ゴン君が慌てて謝ってくれる。これで彼の頭も冷えただろう。
「これぐらいの傷でそんなに謝られても困るけど、これでもし血でも出てたら大変よ。掃除する人も命がけになるんだから」
「え?」
 ゴン君は首を傾げた。
 ひょっとして、サトツさんから聞いてないんだろうか。
「ゴン、キノちゃんだよ。聞いてないの?」
「ええっ!?」
 ゴン君が驚いて身を引いた。
 試験中は香水を付けていたけど、今は付けていないし、泊まった部屋には香を焚いたので分からなくても仕方がないけどさ。
「アヤノ、怪我したの? 医務室に行く?」
 イルミ坊ちゃまが私を見て問う。
「行きませんよ、こんな怪我で」
「アヤノの顔に傷なんて作ったの知られたら、母さんに怒られるからさ」
 そ、そうか? 息子に顔面刺されて喜ぶ人なのに?
「帰る頃には治ってますよ」
「っていうか、イルミさんが医務室行った方がいいんじゃ」
 アキラ君がイルミ坊ちゃまの腕を見て言う。
「それもそうだな。行こうか」
 イルミ坊ちゃまは、ゴン君にククルーマウンテンの事を言うことなく、医務室に向かった。
「ちょっとっ!」
「ゴン、キルアの居場所なら分かってるから、落ち着けって」
「え、なんで!?」
「塔の中で名刺もらった。家が観光地になってるんだって。電脳ページでククルーマウンテンの観光予約すれば家の前までなら簡単に行けるからさ」
「ええ!?」
 ほっといても大丈夫そうだ。



[14104] 24話 試しの門
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2010/02/19 23:28

 イルミ坊ちゃまを送り届け、準備が出来ておらず待機時間に再び特訓させられ一日、メンチさんにワインを届け、捕まって三日泊まり込み、予定外に帰宅が伸び、久々に我が家……ではなく職場の地を踏んだ。
「シークアントさん、有り難うございました。これ、お弁当です。一時間以内に必ず一口は食べてくださいね」
「いつもいつもすみません」
 私は守衛という名の掃除夫の一人、シークアントさんに代償の弁当を渡した。彼は薪割りをしていた所だったらしい。
 ワイルドで素敵なおじさまなのだが、漫画の中のイメージと違って、彼は私に対して敬語で話す。理由は、言うまでもない。
「あ、これは代償とは別のお土産の干物です。すっごく美味しいので、夕飯のおかずにでもしてください」
「ああ、いつもオレ達まで気を使ってもらってすいません」
 シークアントさんは後頭部に手を当ててぺこぺこと頭を下げる。普通で良いと言うと、みんな困った顔をするから言わないが、切なすぎる。
「私、ゼブロさんにも挨拶してきますね」
「あ、いや……その……」
 シークアントさんは私から少し目を逸らす。
「ゴン君達が来ました?」
「え……ご存じでしたか」
「はい」
 我ながら白々しい。
「実は昨日はここに泊まってもらったんですよ」
「来るとは思っていましたけど、門はどうしたんです? 開けられそうな人はいなかったような気がするんですけど」
「いや、一人開けたそうですよ」
「え?」
 アキラ君、開けたの? どうやって? え、マジで? そんな力があるようには思えなかったけど、マジで? 私、普通の感覚がおかしくなってる?
「しかし一人だけでは殺されに行くようなもんですから、全員が開けられるようになるまで特訓をする事になったんですよ」
「そうでしたか。もちろん許可は……取れませんよね」
「申し訳ありません」
 萎縮させてしまった。ああ、憂鬱……。
「では、できるだけ手を出さないように、ゼノ様にお願いしておきますね。ゼノ様なら、まあ分かってくださるかと……」
「そうしていただけると有り難いです」
「じゃあ、私は彼等の様子も見に行きますね。では、失礼します」
 私は守衛さん達の家を出て、門まで歩いていく。
 すると門の内側に、見知った人達と、太陽の光を反射してきらりと光る頭部が見えた。
 ハンゾーさんだ。あのハンゾーさんがいる。何度見てもやっぱりハンゾーさんがいる。
 頭痛を我慢し、客商売で培ってきた笑顔を顔に浮かべ、私は彼等の元へと向かった。
「皆さんこんにちは」
 私が挨拶すると、皆は驚いたようにこちらを見る。
「あ、キノちゃんっ! 怪我治ったんだね!」
 ゴン君が私を見て顔を輝かせた。
「あんなの怪我の内にも入りませんよ。あと、本名はアヤノです」
「あ、そっか。アヤノちゃんは今戻ったの?」
「はい。今までメンチさんに捕まってしまいました」
 私が苦笑すると、皆はあぁ……と納得した様子。
「キルア坊ちゃまを迎えにいらしたんですね。まさかハンゾーさんまでいらっしゃるなんて、意外でした」
「ああ、乗りかかった船だし、有名な暗殺一家ってのも見たかったしな」
 ちらっとアキラを見ると、彼は手を合わせてすまなそうな表情を見せた。彼が誘ったわけではないらしい。
 つまり、ハンゾーさんは本当にいい人、と。
 でもこのまま次まで付いてきたらどうしよう……。
 困らないとは思うけど……どう転ぶかますます予想が付かなくなる。歴史が変わってもらったら困るんだけど……。
「ハンゾーさんには目的があったのでは?」
「オレの目当ては巻物だ。逃げやしないからちょっとぐらいの遠回りは良いんだよ」
 なんて……なんていい人。
 十歳ぐらい年上だったら、ちょっとくらっとしていたかも知れない。まあ、若さ故にここにいるんだろうけど。
「あ、そうだっ! アヤノちゃんはキルアとも話が出来るんだよね? キルアに俺たちが来たって伝えてくれないかな?」
「それぐらいならかまいません」
 ゴン君にお願いされ、私は快く引き受けた。言うつもりだったからね。
「でも、最低限、この門を自力で開けられるようになってから、キルア坊ちゃまを迎えに来て下さいね。この程度も出来ない方が、キルア坊ちゃまと親しくして許せる者はこの先にはおりません」
 ゴン君が驚いたように私を見た。厚底じゃないから見下ろされているのが悲しい。
「アヤノちゃんもそうなの?」
「キルア坊ちゃまも高額賞金首の一人ですからね。この程度出来ないような方が一緒にいたのでは、友人知人以前に、足かせにしかなりません。万が一の時に困ります」
 ゴン君を見るが、何を考えているのかよく分からない。なんとなく、不服そうに見えたので続けた。
「いいですか。
 開けられる人がいるから、門なんです。女の私にでも開けられるんですから。
 門を開けるというのは、この地を踏む為に必要な最低条件です。
 もしもキルア坊ちゃまと一緒にいて、この門を開けられるようなブラックリストハンターが一度に何人も襲ってきたら、どうするんですか? ハンゾーさん以外は人質にされるのがオチです。
 キルア坊ちゃまの心の傷を大きくしてしまうような状況を作る可能性があるのに、可愛いキルア坊ちゃまを誰かと外に出せると思いますか?」
 ゴン君は、試しの門を見上げた。
 最低条件。
 最低、一番低い条件なのだ。
「プロのハンターにとってこれは出来て当たり前。そんなプロハンターに狙われかねないキルア坊ちゃまを誘うのですから、私達の目から見ての『出来て当たり前』は出来て下さいね。
 私も料理人ですが、4の門まではなんとか開けられます」
 ゴン君は拳を握りしめ、真っ黒な底の知れない瞳に、得体の知れない色が浮かべた。
 過剰な特訓の成果だ。それでも私はコルトピさんにすら腕相撲で勝てなかったんだけどね。
「4!? オレですら2の扉しか開けられねーのに!!」
 ハンゾーさんが私と門を見比べてわめいた。1ぐらいかと思えば、初めてで2まで開けられるなんて、才能って凄いな……。
「慣れですよ」
「慣れでどうにかなるかよっ」
「じゃあ、血の滲むような努力です。あの頃はまだ、毒はなかったので安心してくださいね」
 ああ、懐かしい。まだまともな身体だった頃の私。
 色々と近道はあるけど、それでも血の滲むような努力は不可欠だ。
 血は簡単に止められるが、それでも痛いのでお料理する時は大変だった。
「キルア坊ちゃまもご家族に叱られているところです。解放されるまでには、まだ時間がかかるので、その間に頑張って追いついてください」
 ハンゾーさんには追いつかれそうで怖いなぁ。関係のないはずのハンゾーさんを強化してどうするんだろう。これがプラスになればいいけど。
「ゴン君も最低条件はクリアして下さいね。
 そうでないと、私もキルア坊ちゃまを止める側に回らなければなりませんから」
 これだけ言えば、もっともっと頑張ってくれるかな?
 精神状態で力が大きく変わる子だから、意外と第二の門ぐらいまで開いてしまうかも知れない。
 できれば『仕方が無く』ではなく『やらなきゃならない』って気持ちでやって欲しい。未来のために。
「そうだゴン君、ケータイのアドレスを教えてちょうだい」
「え、オレケータイ持ってないよ。アキラも持ってないよね?」
「うん、ない」
 そうだった……。
「ならオレのアドレスでもいいか?」
 レオリオさんがケータイを取り出す。まだごく普通のデザインのケータイだ
「ええ、かまいません。逃げた方がいいときには連絡を入れるので、荷物だけはすぐに手に取れるようにして置いてくださいね」
「え……」
「まず大丈夫だとは思いますし、可能な限り誤魔化します。けど、万が一という事があります」
 大丈夫なはずなのだが、細かい所でかなり歴史が変わっている。ハンゾーさんがいたり、イルミ坊ちゃまが大都市間なら一瞬で移動できる手段を持っていたり。
 頭が痛いと思っていると、扉が開いてゼブロさんが中に入ってきた。
「ああ、なんだ、アヤノさんでしたか」
 扉が分厚く声が届きにくいから、誰かが来た事しか分からなかったようだ。もしも奥様なら全滅するから、不安になって見に来たらしい。
「こんにちは、ゼブロさん。シークアントさんにお土産を渡したので、皆さんでお召し上がり下さい」
「いつもいつもすみません」
「いいえ。私は本邸に戻りますので、彼らをよろしくお願いします」
「アヤノさんが戻れば、ミルキ坊ちゃんの機嫌も直りましょう」
 …………そういえば刺されたんだっけ。漫画よりも脂肪が半分ぐらいになっているから、ちょっと心配だ。なぜか試験を受けに行った私たちの所に来ようとして、ベッドに縛り付けられたらしい。
 アキラ君が何か言いたそうに見ているが、今はキルア坊ちゃまが優先である。酷い事になっていないといいけど……。





ゲテモノはしばらく出番がありません。
本当はもう一話繋ぎの話を入れる予定だったんですが、面白くならなかったので、無かった事になりました。



[14104] 25話 後悔先に立たず
Name: トウヤ◆45873a60 ID:8a523b13
Date: 2009/12/30 22:58

 ゾルディック本邸の一部は、山をくりぬいて内部に作られているため、よけいに異様な雰囲気を漂わせている折檻部屋をそっと覗いた。
 拷問部屋とは言いたくない。
 ミルキ坊ちゃまの姿は見えず、謎の器具で手を固定されたキルア坊ちゃまが、目を閉じてすやすやと眠ってる。折檻も普通ぐらいだ。ひどくはない。
「よかった」
「……アヤノ?」
 私の呟きで目を開き、大きな目を見開いて、小さく震えるキルア坊ちゃま。
 そんなに警戒しなくても……。
 アヤノ悲しい。
「まあ、お労しい。ミルキ坊ちゃまの折檻ですか?」
「……まぁね」
 冷静を装おうとする幼い少年。
 可愛い。胸がキュンとなる。もう猫は食べられないかも知れない。いや、美味しければ食べるけどさ。
「おやつのプリンアラモードをお持ちいたしました。いかがですか?」
 口の中が切れていても、これなら食べやすいはずだ。同じく氷を入れていないジュースもある。
「サンキュ」
 キルア坊ちゃまは迷わず鎖を引きちぎって私の前に立つ。
「いいんですか?」
「いーのいーの。じゃないとアヤノが食べさせる事になるだろ。そういったらミルキは何も言わないよ」
 キルア坊ちゃまは床に座り込み、プリンアラモードにスプーンをさす。果物と生クリームとカラメルに彩られたヤギミルクのプリンは、素材にも拘った私の自信作だ。とくに卵とミルクには拘った。ククルーマウンテンで野生化していたのを管理、飼育した鶏の卵と、私がシロと名付けて飼っている山羊の乳だ。鶏の方はククルー地鶏と名付けたが、個々の名前は付けていない。そのうち食べるし、増えてるから見分けが付かない。
 ジャポンの養鶏家のおじいちゃんに、色々とアドバイスをもらって、毎朝新鮮な卵を皆さんに食べていただけるようになったのは、私にとって無上の喜びだ。動物を育てるのはとても楽しい。愛でて良し、食べて良しだ。
「やっぱアヤノの作ったおやつが一番だな!」
「お褒めにあずかり光栄です。シロ達も褒めてやってくださいね」
 私もキルア坊ちゃまの向かいに座って笑みを向けると、彼は急に気まずそうに目をそらした。
「アヤノ……ごめん」
「飛行船での事ですか?」
「……オレ、殺しは嫌だって出てきたのに……」
 悔しそうに拳を強く握り、スプーンが曲がってしまった。
「でも、反省なさったでしょう?」
 私は出来るだけ優しく見えそうな笑顔を浮かべる。怒っていないと言葉で言っても、納得なんてしないだろう。
 私としては、この家で育って反省できるだけかなり立派だと思う。イルミ坊ちゃまなら、何かが間違って殺しが嫌だとか言い出したとしても、こんな風に反省し無さそうだから。
「これからは無差別に殺さなければ良いんですよ。イルミ坊ちゃまの闇人形とかも気にしなくても良いです。
 ゼノ様は仕事関係以外では殺したことがないのがご自慢ですし」
「え、そうなの?」
 キルア坊ちゃまは目を見開いて顔を上げる。最近はキルア坊ちゃまのこういう驚いた顔をよく見るな。子供が驚く姿はとても可愛い。
「タダ働きになりますから」
「じいちゃんらしいや」
 意外とそういう事は話していないようだ。
 私は暇なときはゼノ様とお茶をしていたが、キルア坊ちゃまが来たことがほとんど無いから、仕方がない。
「兄貴は? 帰ってきたの?」
「まだお仕事のようです。遠い所らしいので、来週までかかります。
 ゴン君に腕を折られたので、それより時間が掛かるかも知れませんが」
 キルアは再び猫のように目を見開いた。可愛い。癖になりそう。
 どこに向かったのか分からないが、遠距離で、指定した場所にいる複数の顔も名前も分からない相手を殺して欲しいという内容らしい。つまりは皆殺し。
「ど、どうやって!?」
「キルア坊ちゃまが心配で、ぼーっとしていたそうです」
「ぼーっとしすぎだろ。何があったんだよ」
「いつものように、キルア坊ちゃまの事をお考えでした」
「ワケわかんねーよ」
「イルミ坊ちゃまは家族しか好きな人がいませんから」
「なんつーか、そんな人生やだな」
 まあ、私もそう思う。
「ゴン君は腕を骨折しているし、子供なので油断していたんです」
「そうそう、オレはそう言うのを聞きたかったの」
 でも、子供だからって油断してくれるとは限らないのがイルミ坊ちゃまだから。
「そういえばキルア坊ちゃま、お外にそのゴン君達がいましたよ」
「え?」
 まったく予想していなかったような、可愛らしい表情を見せてくれた。
「ゴン君とクラピカさんとレオリオさんとハンゾーさんとアキラ君。
 ハンゾーさん以外は試しの門を開けられなくて、ゼブロさんのところで鍛えているようです」
 キルア坊ちゃまの表情は俯いていて分からない。
 わざと顔を逸らしているから。
 きっと可愛い顔をしているんだろう。
「大丈夫ですよ。ゼノ様にお伝えしてあるので、勝手に始末される事はありません」
「あ……そっか。サンキュー、アヤノ」
 嬉しくて、始末される事までは頭が回っていなかったようだ。教えたのが悪意たっぷりのミルキ坊ちゃまだったらともかく、優しげな私だから喜びが先に出たらしい。何と言っても私は大和撫子。立てば芍薬、坐れば牡丹、歩く姿は百合の花、である。狩りの姿はハエトリグサとかも言われた事があるけど。旅団の人達に……。
 気にすまい。大切なのは外面の良さである。
 今、キルア坊ちゃまは私の笑顔に安心して、騙されてくれているという事実だけが大切なのだ。
 ゼノ様の他の方々に比べればたくさんある常識と、拝金主義と、度量の大きさがあってこそなのだけど。
「でも、試しの門から自力で入れないような方が迎えに来ても、執事の皆さんが殺してしまいそうなので、ちゃんと忠告してきましたから、一ヶ月はかかるでしょうね」
「一ヶ月もかかる?」
「ゴン君は腕を骨折しているので。さすがに完治しない事には……」
「あ、そっか」
 もうほとんど治ってたけど。
 天然で絶を出来ちゃう子だからなのかな?
「そういえばさ、アヤノ」
「はい」
「ミルキがアヤノのあの格好のフィギュア作ってたけど」
「は…………?」
 あの格好。
 あの……まさか、アノ?
「な、ななな、なんでっ」
 血の気がさっと引いた。
 ミルキ坊ちゃまには見られていないし、ここを出るまでは和ゴスを羽織っていたのに……。
「イル兄から写真送られてきたって」
「は?」
 キルア坊ちゃまを盗撮していたのは見たよ。
 奥様に横流しするために、いつも盗撮してるから。
「なんで私までっ」
「まで? いっつも盗撮されてたの知らなかったのか」
「ええっ!? キルア坊ちゃまを盗撮している所ならよく見ましたけど」
「えっ……マジで? 何で? 意味わかんねーよ」
「月に一冊、キルア坊ちゃまの成長アルバムが完成しますが。
 イルミ坊ちゃま、まさか盗撮する本人には絶対に気付かれない能力が……?」
「んだよその嫌な特技。っていうか、あれまだ続いてたのかよっ!」
 アルバム制作の存在は知っていたようだ。
「でもミルキ坊ちゃま、そんな恥ずかしい物を持ち歩いているんですか?」
「恥ずかしいと思ってたんだ……」
「清水の舞台から飛び降りるぐらいの決意でした」
「何それ」
「ジャポンのとても高い所にある舞台です。
 ああ、あんな恥ずかしい姿がデータとして残ってるなんて……しかも人形までっ」
 一時の恥が、一生の恥になるっ!!
「ごめん。ムカついたから、アヤノの胸に手を押しつけられたって言っちゃった」
「私は恥女ですかっ!?」
 ううっ……私の大和撫子のイメージがっ……。
「まあ、でも、実際にやったのアヤノだし」
「直には触れさせてないじゃないですか。
 あの時は顔をマジマジと見られたくなかったんです。それにキルア坊ちゃまはまだお小さくていらっしゃるからいいんです」
「オレの方がデカくなったのに?」
「…………い、いいんです! いつか背が伸びる薬を手に入れますから」
「ねぇよ」
「あります。ゲームの景品なんですけど」
 グリードアイランド。
 こう言っておけば、私が偶然中で会っても怪しまれない。
 本当はガルガイダー他の三大珍味が目当てです。
 不思議ヶ池と豊作の樹もいい。どんな魚でも飼えて、次の日には一匹増える池と、種類はランダムで、どんな果物でもなる木。私が名前まで覚えているのはそれぐらいだ。欲しいと思ったから覚えた。
 時間はあるし、ミルキ坊ちゃまをそそのかして、手に入れない手はない。でも500億以上は必要だ。できればゲットして、この屋敷から通いたい。ゲームから出る時はたぶんデリバリで簡単に出られる。まともなケータイは使えないだろうけど、ミルキ坊ちゃまの特製ケータイとか、ミルキ坊ちゃまが作った通信機を仕込んだコックさんがあれば、たぶん通信が可能だと思う。電波の代わりにオーラを利用するような物もあるから。理屈や、誰の能力なのかは知らないけど、出来る可能性が高いのは確かだ。
 だから問題になるのは入る時だけ。わざわざバッテラさんの所に通うのは面倒臭いから、ここで出来たらいいなぁ、という、楽をするためだけの考えだ。家庭用ゲーム並みにしてしまおうという事だ。
「ああ、そろそろ夕飯の支度をしないと。
 ああ、でもどうやってデータと人形を処分しようかしら……」
 現実逃避よりも先に、ちゃんと考えないと……。
「それは諦めた方が良いと思うぜ。パソコンを一台ぐらい処分しても、どっか別の所にデータはあるだろうし……。
 あいつは執念深いからさ」
 うう……イルミ坊ちゃまの馬鹿。
 全部全部、イルミ坊ちゃまのせいだ。後で苦情を入れなくては。
 使用人の写真をタダで撮って弟に引き渡すなんて、最悪だと。
 こう言えば、たぶん、少しぐらいは分かってもらえると思う。
 逆に、こう言わないと、本気で理解されず、反省そのものをしてくれなくなる。






 ミルキによる盗撮はされていません。バレたら終わりだから。
 作中ではプリンですが、現実の自分が書きながら食べているのは、某燻製悪魔ではまった手作り燻製。
 スモークチーズ美味しいです。
 一人で食べてます。掃除も終わって暇です……。



[14104] 26話 類友 アキラ視点
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2009/12/31 20:48

 アヤノちゃんがゴンに発破を掛けて立ち去って何日経ったかも忘れた頃。
 オレは何とかレオリオとほぼ同時に1の扉を押し開く事に成功した。
「っしゃ!」
 レオリオさんほどデカくないけど、ゴンやクラピーよりは体格もいいから、先に出来ないと凹む所だった。
 ゴンは骨折していなかった方の手の側だけ開けられるようになっていたりするけどさ。
 さすがに骨折が完治して二日(原作より一日早く治った)では両手ではまだ無理らしい。というか出来たらもう立ち直れない。
 クラピーも緋の目になったら、余裕で開けられそうだけど。
「すごいや、二人とも!」
「ふふふ、ゴンが1の扉を開けられるようになるまでに、2の扉も開けてハンゾーさんに追いついてやる」
「オレも絶対追いつくからねっ!」
 ふふ、可愛いヤツめ。
 ああ、早くキルアとセットにしてやりたいな。こいつらセットの方が萌えるからな。萌えに性別の差などないのだ。そう言うと腐男子と言われるが、オレはただ男女問わず萌えや燃えキャラが好きなだけである!
 これで肩の荷も降りたので、心おきなく見守れる。そう思った瞬間、
「あっ! ハンゾーすごいっ!」
 ようやく差が縮まったと思ったのに、ハンゾーさんは3の門まで開けてしまった。
「ぬははははっ! 凄かろう! 凄かろうっ!」
 差が縮まったのがよっほど嫌だったのか、汗だくで高笑う忍者。
 素直にゴンは褒め称える。
「くっそー、もっと頑張らないと。キルアが待ってるんだ! せめてキルアに追いつかないと!」
 最初の趣旨を忘れたゴンが燃えてる。目標はキルアに並ぶ事らしい。つまり3の扉まで開ける気なのだ。
 完治してしまった今、あっという間にオレなんて追い抜かされそうだ。原作では二十日。このままだと、明日には1の扉が突破されそうな気がする。アヤノちゃんの発破は効果抜群すぎて怖い。何を考えてゴンを強化してるんだろう。キルアの事がそんなに心配なのか? それでおかしくないぐらい、情が移ってそうに見えた。
 でも、アヤノちゃん嘘付きそうだからなぁ……。ヒソカを信じるなら、変化系かな?
「あっ!」
 ゴンが今度はオレを指さして声を上げた。
 え、何かした? なんかついてる?
「ふぐっ」
 服の襟で喉が締まり、オレはうめき声を出していた。
 首が絞まっている。後ろから誰かに襟を掴まれている。
「ちょっとおいで」
「うえぇぇええ!?」
 イルミさんに後ろ首掴まれている。イルミさんに後ろ首掴まれているぅぅぅう。
 ああ、短い人生だった……。
「アキラに何するんだっ!?」
「別に。うちに連れてくだけ」
 ゴン達が身構え、イルミさんの返答に顔を顰めた。
 つ、連れていく?
「い、イルミさん、いいい、一体なんでここにっ……」
「うちの敷地にオレがいるのは当然だろ」
「そりゃそうですけど、この広大な敷地の隅っこになぜ!?」
「監視カメラ。門が開けられたら知らせるように言ってあった。
 だから来て」
「は、え、門を開けられたら? オレが?」
「そう」
「な、なんでっ!?」
「もうすぐおやつの時間だからさ」
「は?」
「しゃべると舌を噛むよ」
 オレは荷物のように肩に担がれ、拉致されました。ゴン達も危害を加える気も無さそうな態度を見て、警戒しながらも見送ってくれる。助ける気は誰もないらしい。オレはみんなに手を振ると、ハンゾーが手を合わせて念仏を唱え始めた。なんて酷い見送り方。
 でもほんっ気でイルミさんが理解不能です。
 でも、死亡フラグとはなんか違うような気がしてきた。ただの思いこみかも知れないけど。





 フィギュア、フィギュア、フィギュア、ソフビ人形、プラモ、ポスター、そしてパソコンとディスプレイの数々。
 美少女だけではなく、男キャラ、子供が好む特撮のヒーローや怪獣が混じっている。
「おおっ!」
 そう、口から漏れていた。
 なんて羨ましい部屋!
 オレの好きなタイプの物が全部揃ってる!!
「ミル、これ」
 オレは我に返って首を回しイルミさんを見上げた。
「は? 何だよその男」
「アヤノの遠い親戚だって」
「アヤノの?」
 ミルキが首根っこを捕まえられて立つオレを見て目の色を変えた。
 猫っぽい男に猫っぽく持たれるのってなんか嫌だ。
 かと言って、逆らう甲斐性もありません。
「あの……オレは一体なぜここに……」
「たまにはミルも他人と話すのもいいと思って。お前と同じ趣味みたいだから。じゃ」
「じゃ、って……」
 なんて自由な人なんだろう。
 オレはゆっくりと部屋の主に向き直る。
「あの……」
「まあ、気にすんな。イルミの事はオレにもよく分かねぇから」
 と、知らない男が言う。
 分かっている。分かっているが……
「だ、誰」
 カルトちゃんの兄だなぁと納得できる、小太りの男性だ。
 まだ少しメタボだが、ぶくぶくでベタベタで小汚いブタ君ではない。
 清潔で常識の範囲内のデブだった。しかも顔はすげぇ美形の予感がする。
「オレはミルキだ。イルミの下の弟」
「あ……ああ、イルミさんの弟の」
 なんか……予想よりもずっと痩せてるし。
 アヤノちゃん、なんて偉業を成し遂げようとしているんだ。
 脂肪が半分以下になって、埋もれていた美貌が発掘されようとしている。
 これは本当に痩せさせがいのある美形だ。切れ長の呆れ眼はとても色っぽい気がする。
 本気で痩せたらマジイケメンになるぞこいつっ!
 あ、いかんいかん。初対面なんだった。驚いたら死亡フラグが復活する。
「と、とりあえず、オレはどうしたらいいんでしょうか……」
 相手は仮にも殺し屋の一人。オタクの雰囲気に流されて無礼なことをすれば死亡確定。
「ほとぼりが冷めるまではいさせてやるよ。今出ていくと、兄貴がどんな反応をするかオレにも予想がつかねぇ」
「あ、すみません」
 アヤノちゃんの身内が効いたのか、親切にしてもらえた。
 命拾いをしたはいいが、オレはすることもないので、部屋の中を観察した。
 いい趣味してるよ。部屋も広いし羨ましい。いや、暗殺一家の拷問訓練は羨ましくないけど。
「あ……アヤノちゃんに似てる」
 漫画にもあった等身大の人形の中に、アヤノちゃんに似た和風美少女が混じっていた。アヤノちゃんとは違って、ミニの着物を着ているが。
「ああ、それか。エロゲのキャラ」
 色々と言いたいことはあったが飲み込む。
「これ……自作?」
「市販」
 よかった。
「へぇ。こんなん売ってるんだ」
「ジャポンから取り寄せたんだ。アヤノの親戚なら、ジャポン育ちなのか?」
「そんなとこかな」
 くじら島育ちが一番長いけどな。
「あ、このキャミ、アヤノちゃんが着てたヤツ」
 棚にはアヤノちゃんが着ていた服のキャラがいくつか並んでいた。集められているのでよく分かる。
 ジャケットは現在もテレビで放送されているアニメのヒロインって事は知っていた。きっとアヤノちゃんは知らずに着たんだろうけど。
「お前、そんなにマジマジと見てたのかよ」
「いや、見るでしょ、目の前にあったら」
「そりゃ見るよな……くそっ! オレも行きたかった!」
 ええっ!? 引きこもりが絶対に疲れそうなハンター試験に!?
「確か腹を刺されたんじゃ……」
「追えば間に合った。執事達に縛り付けられなきゃっ……!」
 そこまでしてアヤノちゃんを……。
「アヤノちゃんみたいな子が好みなのか?」
「好みというか、理想だ。19歳であれだぞ」
「え……」
 年上だろうとは思っていたけど、19歳!
 あのカルトちゃんと姉妹で通りそうな、童顔の日本人形みたいな人が、あと一年で……!
「あ、じゃあミルキさんと同い年なんだ」
「なんでオレの歳なんて知ってるんだよ」
「あ、いや、イルミさんが。試験中、二人きりで丸一日以上一緒に歩いてたんで」
「なんで」
「そういう試験で……。
 たぶんその時に、アヤノちゃんの服がアニメキャラの服だって言ったから」
「兄貴が考えたことは分かるけど……何考えてるんだ?」
 分かっていても分からないことがある。それがイルミさんの理解できない親切心だ。
「友達不要論者っぽかったのに、ほんと何でこんな事になってるんだか……」
「まあ、兄貴はマハじいちゃんの次に謎の人間だから、あんま気にするな」
 え、マハさんってそういうキャラなん?
 確かに宇宙人めいてたけど。
「漫画とかは汚さなきゃ適当に読んでて良いから、ほとぼりが冷めるまで暇でもつぶしてろよ」
 漫画。漫画なら字を読む練習もはかどるな。
 好きなことは早く覚えるって言うし。





 オレが記憶喪失気味で字を忘れたと聞いて、ミルキに呆れられたり、萌え談義に花を咲かせたりした。
 アヤノちゃんのコスプレフィギュア出来に感服したので、ブーツのデザインを細かに教えたりと、気づけばお互いにお互いを認め合う関係になっていた。
 はっきり言おう。
 俺たち、趣味が丸被り。違うのは自分で着る服の趣味ぐらいか。
「たまには他人と会ってみるもんだな。アキラは漫画家でも目指してたのか?」
 ブーツのデザインを教えるために、絵を描いたのだ。
「いやぁ、良く覚えてないけど、手伝わされてたような気がする」
 母さんの修羅場に。
「絵の描き方は覚えてるのに、文字忘れたのかよ」
「いやぁ、ホントそうだよな。気づいたら知らない島にいてさ。島に」
「はぁ?」
「記憶がすっぽりなくて」
「…………」
 ミルキはあごに手を当てた。
 溺れて記憶喪失って、なんか王道って感じだ。
「ま、自分の事が何も分からなくて不自由はしたけど、ハンター試験で身分証明ゲットしたし、今は楽しいな」
「もう少し悩めよ」
「悩んでどうなることでもないから。今一番の悩みはイルミさんだし」
「まあ、あれはな…………」
 長兄、弟たちにまったく理解されてないな。
 イルミさんについて語ると胃が痛くなるので忘れよう。オレはアヤノちゃんほどイルミさんを知らない。
「そういやさ、ここの食器とかやたらと重いんだけど、何が入ってああなんだ?」
「んなの教えられるはずないだろ。企業秘密だ」
「企業なのかよ」
「一応は納税してるんだぜ」
「はぁ!? 書類とか公的な手続きどうしてるんだよ」
「表向きは何でも屋なんだよ。だいたい、国も黙認してるんだぜ。下手につついたら暗殺されるって分かってるから、誰も文句なんて言わねーよ」
「あ、そっか。大統領でも暗殺すりゃいいもんな」
 さすが何でも有りの世界。
「それに俺たちもみんな本名だし、戸籍もある。ハンターが調べれば名前ぐらいは全員分揃えられるぜ」
「顔写真からは一億なんだっけ?」
「今まで出回ってないのが信じられねーよ。兄貴ですら、そういう依頼でなきゃ素顔で行くんだぜ。弟たちの写真すら一度も撮られないってさ」
 あんたは十年近く引きこもってるから撮られなくて当然だけどね。
 
 コンコン

「あ?」
 ドアのノックにミルキがドスのきいた声を返す。
「お茶をお持ちしました」
「アヤノか。開いてる」
 ドアが開き、カートを押してアヤノちゃんが入ってきた。
 相変わらず、脱いだらすごい和風少女っぷり。前のバッチリメイクのギャルと同一人物に見えねぇ。
 笑顔のアヤノちゃんがオレを見て固まった。
「な……なぜ」
「イルミさんに連行されて」
「は?」
 やっぱ、アヤノちゃんにも理解できないか。
 理解できないアヤノちゃんに、椅子に座ったままのミルキが言う。
「アヤノの着てた服、けっこう有名なアニメキャラの服だったんよ。アヤノは菓子も買わないから知らないだろうけど。で、なんでそんな服を着てるか聞いたら、オレの同種として連行されてきたんだとよ」
 アヤノちゃんの顔が引きつった。
 やっぱり知らずに着てたか。ハンターハンターは知ってたから、漫画も読まないわけじゃないみたいだけど、子供向けアニメは知らねぇだろうな。
 案の定ショックを受けてふらりと壁に寄りかかった。
「大丈夫だって。盗撮してた奴のケータイはみんなオレ達でへし折っといたから」
 崩れ落ちるアヤノちゃん。
 そんなにショックですか。
 さりげにその破壊活動にヒソカも混ざってたんだよな。アヤノちゃんはゾルディック家関係者だから、写真が出回らないように、って事だと思う。本人の好意か、イルミさんのお願いかどちらかだろう。
「あの盗撮はそういう意味だったんですか……」
 ますますダメージを与えてしまった。
「おいアキラ。アヤノは奥ゆかしいんだ。言えば言うほどドツボにはまる」
 普通の女の子がコスプレ扱いを受けて同類扱いされるのは嫌だよな。
「アヤノちゃん、元気出して。そのうちみんな忘れるよ。画像が外に出回ることもないし。
 ほら、お茶。冷めちゃうって」
「そ、そうですね」
 アヤノちゃんはふらふらとカートの前に立ち、お茶とお菓子の準備を始めた。
 それをミルキが手伝ったりして、ミルキが痩せきったらお似合いだと思った。
 アヤノちゃんみたいな変わった子には、それを受け入れられる度量の大きい男じゃないとな。
 うん、お似合いだ。





本当はミルキメインの話を試験前の所に入れる予定だったのですが、面白くないので削除したところ、合法発言以来の登場になってしまいました。
ヨークシンからはそこそこ出番が増えるはず。



[14104] 27話 健康管理は食事から
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/02/19 23:29

 可愛いキルア坊ちゃまが旅立たれました。
 私は以前の生活のままです。
 しかし時は来ました。
 ちょうど、夕飯を食べ終えて、ゼノ様のお部屋で一服していた時、私のケータイが鳴った。
「はい、アヤノでございます」
『やあ♣ ボクだよ♥』
 分かるけど、ボクだよってなんなんですか。ボクボク詐欺ですか。
「これはヒソカさん。こんばんは」
 もちろん余計な事を言う勇気もないので、普通に返した。
『さっき登録したよ♥』
 何がとは聞かなくても分かる。
 二百階まで来た、という意味だ。野蛮人の聖地、天空闘技場の。
 ちなみに、さすがにハンゾーさんはいないらしい。かなりほっとしたのは内緒。
「まあ。家出半月でもう念を? さすがはキルア坊ちゃま」
「なんじゃ、どこの馬の骨じゃ」
「え、ヒソカがやったの?」
 ゼノ様とイルミ坊ちゃまが聞いてくる。この三人はいつもの茶飲みメンバーだ。たまにミルキ坊ちゃまも混じるけど、今日は頼まれた物を完成させるらしいのでここにはいない。現在は深夜11時近い。私達もそろそろ部屋に戻って寝る所だった。
「ヒソカさんがこじ開けたんですか?」
『いいや、まっとうな流派の師範代』
「そうですか。それなら安心ですね」
「なんだって?」
「普通の流派の師範代だそうです。基礎の基礎を覚えるには、きっと丁寧に教えて下さるから、歪みなく育ちます。私のように水見式をする前に自発的に円を覚えるような事はありません」
「どうやったら円を先に覚えるんじゃ」
「それは飽くなき食材への渇望がありますから、勝手にセンサーが伸びた的な?
 理屈としては、練まで出来れば可能ですもの」
 円の範囲は朝起きたら迷惑のかからない場所まで走って訓練しているので、日々広がっている。他には料理をしながら堅をしたり、メニューを考えながら堅をしたり、こうしてお茶を飲みながら周の練習したり、日々の訓練は怠っていない。でも硬だけは凄い苦手。逃げと防御の事を考えると、硬ってどうにも咄嗟に出来ないのだ。本当は周も苦手だったんだけど、ゾルディック家の特訓により苦手ではなくなった。硬はセンスがないと逆に危ないからと、そこまで重要視されていない。
 円もそろそろゼノ様に追いつくだろう。いつかはあのネフェルピトーを越えてやるという野望もある。
 微妙に動いているらしいクセのある歪な円なのが似ているんだよね。私の場合はちょっと動くだけだけど。
「ちょっと待ってくださいね。ハンズフリーにしますから」
 私はヒソカさんに言うと、ケータイのスピーカーボタンを押してテーブルに置く。 ミルキ坊ちゃまに頂いた、スリムなのにあらゆる機能がコンパクトに詰め込まれたケータイだ。デコはフィルムに貼り付けた物なので、もう外して普通のシンプルなケータイに戻っている。
「で、どんな感じ?」
『教えるには向いてそうだったから、大丈夫だよ。基礎はああいう普通の相手に教わった方がいいからね♠』
「そう。ろくでもないのに絡まれてない?」
「いいや。ボクだけ♣」
 想定内の相手は、ろくでもない相手ではない。自分がろくでもないのは自覚しているらしい。
『あ、でも、ゴンは明日の三時から試合♥』
「相変わらず無鉄砲な奴だね。キルを巻き込まなかったんならいいけど」
 そういえば、試合は翌日だっけ。
『その分、キルアの頭が冷えて案外いいコンビだよ♠ アキラも意外と適切な助言をするしね♦ とくにイルミを怒らせるような事は止めてるから、躾けたかいがあったね♣』
 アキラ君……どこまでイルミ坊ちゃまに怯えてるんだ。
「彼は愛情からの行動だというのは分かっていますからね。
 それよりもキルア坊ちゃま、ちゃんとしたお食事を取られていますか?」
『アヤノ基準だと無理だよ♦ 店はたくさんはあるけど、栄養士が作ってるわけじゃないんだから、好きな物だけ食べてる♠ ファイトマネーが貯まってからは、本当に好きなように食べているかな♥』
「私のお料理は堅苦しかったでしょうか……色々と家庭の味も作ったのですが」
 頑張って食育したのに、ちょっと離れるともう忘れるの?
『子供は好きな物だけ食べたがるから仕方ないだろう♠ でもキルアが通う店は、本当に美味しいから、キミの食育の賜だね♥』
 なんて、なんて可愛いの、キルア坊ちゃま!
「ヒソカ、うちの弟をストーキングしないで」
『ボクだって外で食事ぐらい取るんだけど♣ キルアの好みで選ぶと、ボクの行きつけの店と被るんだ♦ 私服にノーメイクだったから気づかれなかっただけだよ♥』
 私服なんてあるんだ……。
 まあ、あの格好で常時過ごしていたら、買い物するのも大変そうだ。私なら入られそうになったら店じまいにするかもしれない。
 とくにあの辺りではかなり有名人だと思うから。
 でも、じゃあゲームの中ではどうしてノーメイクで気付いたんだろう。クロロさんの名前を騙っていたから、その関係で分かったのかな? 全裸で変態チックだったし。
「あ、そうだ。ちょうどそっちの方で仕事が入ってたから、オレ行くよ」
『来てどうするんだい? まだ早いよ♠』
「悪いの?」
 イルミ坊ちゃまが少し不服そうに言う。
『アヤノだけの方がいいと思うな♣ 今はのびのびと育ててあげなよ♦ 餌をあげてれば家のことも忘れないだろうし♥』
 ヒソカさん……殺人ピエロっぷりを発揮しないときは、本当に意外と普通ですよね。
 将来、殺人ピエロっぷりを発揮するための準備期間だとはいえ。
「さすがはヒソカさん。見守ることにかけてはもうプロと言っても過言ではありませんね」
『くくくっ……』
 本当に見た目と話し方とアレをおっ勃てるのさえどうにかすれば、たまに親切なただの戦闘狂なのに。
『バトルの前に、お昼をご馳走しあげたらどうだい? ついでにボクの食事もお願いするよ♥』
「かしこまりました。ああ、昼食を取らず部屋でお待ち下さるよう、三人にお伝え下さい」
『いいよ♣』
「では明日、用意が出来ましたらお電話いたします」
 別れの言葉を述べてケータイを切る。
 するとイルミ坊ちゃまが小さなデジカメとイヤリングを差し出した。
「カメラはどんな下手くそでも勝手に補正して取れる奴。ミルキが用意したからアヤノでも使える。イヤリングもカメラ」
 パールの可愛らしいイヤリングだ。髪で隠れないよう、長い髪はイヤリングに合うピンで留めておこう。
 でも何でこんな物持ってたんですか?
「母さんが渡せって」
 奥様命令ですか。
「奥様に満足していただけるお写真を撮って参ります」
「うん」
 奥様命令なら張り切らないと怖いな。





 というわけで、ヒソカさんの案内で、ゴン君の部屋に参りました。
 このタイミングを逃すと、ゴン君が入院してしまうからね。
「ヒソカ、昼は食べるなってどういう意味?」
「お前に奢られるつもりねーんだけど」
「オレもメシはリラックスして食いたい。でもヒソカならキルアの行くような店でも安心して頼めそうだから悩む」
 三者三様の言葉。
 アキラ君、キミって今、億は持ってるでしょうに……。
 しかもヒソカさん相手にそんな事を悩んじゃ駄目だと思う。
「ボクはおごらないよ♦ 案内を頼まれただけだから♣」
 私はいつものようにカートを押して、ドアを支えてくれるヒソカさんの横を通り、部屋に入った。
 少年達は目を見開く。
「お久しぶりです、坊ちゃま。ほんの少し見ない間に、ずいぶんと成長されましたね」
 昨日今日の成長じゃないよ、これ。
 アキラ君は漫画を読んで色々なコツを知っているからってのもあるだろうけど、それでもなかなか安定した纏である。
 私は自然に開いたタイプだからよかったけど、無理矢理開いた直後でここまで綺麗なのは珍しい。
「ア、アヤノ!? なんでお前っ」
「ヒソカさんに坊ちゃまが精孔を開かれたと聞いて、お祝いをお持ちしました」
「お、お祝いって……あのなぁ!」
 キルア坊ちゃまが恥ずかしそうに頬を赤く染めた。そう言うのが恥ずかしい時期なのだろう。でも食べ物を持ってきたから他のこの反応は違う。
「うわぁ、良い匂い!」
 ゴン君が目を輝かせる。うん、素直で可愛い子だ。
「ゴン君がこれから試合だと聞いて、精の付く物を用意しました」
 子供の肉と骨を作るために必要な、バランスの良い食事だ。二人にはすくすくと育っていただかないと。
「アヤノちゃん、念のために聞くけど毒入りじゃないよな?」
「入れませんよ。どんな嫌がらせですか」
 胡乱げに問うアキラ君に、私は笑みを返す。キルア坊ちゃまの前で怖い顔は出来ない。
 ここで毒を入れたら、子供達に嫌われるだけでしょう。
「くくくっ。
 じゃあ、ボクは今日の所はこれで……♠」
 ヒソカさんは、料理を部屋に置いてきたから、素直に帰ってくれた。
 私はテーブルに料理を並べ、三人もそれを手伝ってくれた。
「ところで三人の先生は?」
「外の宿にいるよ」
 キルア坊ちゃまの答えに、私は記憶を掘り起こそうとするが、さっぱり覚えていなかった。
「そうですか。ご挨拶したかったのですが」
「あとで紹介するよ。ゴトーさん達も心配してるよね、きっと」
 ゴン君は、ちゃんとキルア坊ちゃまを心配する人達の事を覚えていてくれたらしい。ここで出てくるのが身内ではなく、執事のゴトーさんなのが、ゾルディック家のらしさだ。
「心配しているのはゴトーさん達だけじゃありませんよ。危うくイルミ坊ちゃままでいらっしゃる所でした」
「げっ」
 みんなが一斉に呻く。
 そんなに怯えなくても……。
「大丈夫です。お止めしますから。
 きっと、自分の管理下の元で開きたかったのに、まさか家出から半月でこんな事になるとは、誰も思ってもみなかっただけです」
 心にもない事を言ってみた。
 知っていたからね、こうなる事は。
「アヤノも使えるのか?」
「はい」
 キルア坊ちゃまの言葉に、私は頷いた。
「何で教えてくれなかったんだよ」
「幼い内から念に頼ると、基礎が疎かになります。イルミ坊ちゃまも十代半ば頃だそうですが、これでも早い方ですわ。私も十六の時に自然に開きました」
 キルア坊ちゃまは目を丸くした。イルミ坊ちゃまの事はあまりご存じないから、もっと幼い内からああだったとでも思っていたのだろう。
「身体が出来上がる前は教えないのが普通ですから、子供の念能力者は本当に少ないのです。
 それだけ、この力は危険なのです。実際に教えるまでは内緒にしておくのが、能力者達の暗黙の了解です。だからまだ念を教える気もないのに、その概念を説明してしまう事は出来なかったんです」
「…………」
 キルア坊ちゃまはまだ少し不服そうだ。
「それに、基礎の基礎を叩き込んで、ここに放り込むような家ですよ。ろくでもない日々が待っているのは目に見えています。親切で普通の方に教えていただくのが一番です」
「そりゃそうだろうけどさ」
「私はメンチさんに教わりましたが、教え方なんて、『こうぐあーっと』とか『絶対に食ってやるって気持ちで~』とかですよ、教え方」
「それ、教えてねーよ」
 うん、メンチさんの口説明は念に関してだけは役に立たなかった。
「ちなみにイルミ坊ちゃまは『やってみて』です。出来ないと身体に叩き込むタイプです。私は非戦闘員なのに、いきなりカナリアちゃんと組み手をさせられたこともあります」
 キルア坊ちゃまも考え始める。
「そんな環境にいるような私たちよりも、しっかりして、常識がある方に教わるのが一番です。よかったですね、よい方と巡り会えて。絶対に実家で教わるよりは良いです」
 本当に、教えるのだけは上手いタイプと出会えたこの奇跡に感謝しなくてはならない。
「会ってもいないのに、そんなこと言えるのかよ」
「相手の方の素性は調べさせていただきました。
 心源流拳法といえば、ネテロ会長が師範をされている、それは立派な流派です。その師範代を務める方に教えを請えるのは幸運ですわ」
 キルア坊ちゃまは、実家で散々な目にあって教えられるのと、親切なウイングさんから懇切丁寧に教わるのと、違いを想像して顔を顰めている。
「でも料理人のアヤノが念使いって……まさか、うちってオレ以外みんな使えた?」
「まさか。そこまで化け物屋敷ではありません。必須なのは執事までです。執事は戦闘員ですから」
「うちに執事が何人いると思ってるんだよ」
 私は数えたことがないから知らない。
「仕事のサポートも執事の仕事ですから」
「っていうか、仕事! うちの仕事はいいのかよ?」
「お食事が済みましたら、すぐに戻りますわ」
「え、マジでこれのために来たのかよ。だいたい、連絡をもらって来たって、ここまで何日かかると思ってるんだ?」
 私はくすくすと笑い、キルア坊ちゃまの頭を撫でた。
 とても柔らかい猫っ毛だった。
「ガキ扱いすんなって!」
「使用人一同にとってはキルア坊ちゃまはずっと子供のような物です。イルミ坊ちゃまですら、ゴトーさん達にとっては未だに子供ですから。
 皆、キルア坊ちゃまが心配で、気もそぞろなんですよ」
 家出少年は、過保護な実家の話を聞いて、恥ずかしそうに顔を背けた。家族の愛を実感するのが恥ずかしい年頃である。しかも友人の前だととくに羞恥心が刺激されるものだ。
「キルア坊ちゃまはこれから身体を作るには最も大切な時期です」
「あ、ああ。そうだな」
「栄養管理のために、毎日参りますわ」
「ま、毎日!?」
「はい」
「仕事は良いのか!?」
「毎日往復いたします。
 どうやっているのかは、ご自分でお考え下さい。アヤノからの宿題です。
 さあ、スープが冷めないうちに召し上がって下さい」
 たっぷりの野菜とベーコンのお出汁が効いたコンソメスープだ。
 パンはこの部屋のキッチンで温め直す。長期滞在が出来るように、ちゃんとコンロやオーブンレンジまで揃っている。
「あ、冷蔵庫をお借りしてよろしいですか? デザートのケーキを仕舞っておきたいんです」
「ケーキか。アヤノの作ったデザートは格別だぜ!」
「知ってる。飛行船の中でクッキーもらったんだ」
「へぇ。ほんと、どこでも食い物持ってるよな、アヤノは」
 そりゃあ、そうしないといけない能力だから。
 アキラ君が呆れ半分に私を見ているが、こういう関わり方もあるのだと言うことを彼も学んでくれただろう。
 これも全てはアリ編に向かうため。
 ああ、時間があるときに彼にはアリ編を潰さないように念押ししておかなきゃ。まあ、発を覚えた頃に声を掛ければいいかな。
「アヤノちゃん。凄く美味しい! じっくり煮込んであるね。肉が口の中でとろけるよ」
 そういえばゴン君も味の分かる子だったなぁ。これは作るのが楽しみだ。
「お気に召していただけたなら、夕飯も力を入れて作りますね」
「うん」
 ゴン君、入院してしまうから食べられないけどね。





ここから、アヤノの餌付けが本格的に始まります。



[14104] 28話 天空闘技場での日常 アキラ視点
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/02/19 23:30

 まだ教えてくれないが、アヤノちゃんは絶対に瞬間移動か何かできる放出系能力者だ。そんな性格ではないような気がするけど、現実を見れば放出系である。
 アヤノちゃんは、ゴンが入院している間も、ゴンの分も料理を持ってきてくれた。骨折を早く治せるようにと、栄養を計算して作っているらしい。
 それで美味いのだから反則だ。
 キルアがなついたのも理解できる。
 今はゴンも退院して、ゴン部屋で昨日もらった昼飯用の弁当を食ってる。
 動けないような怪我ではないから、案外早く退院できたのだ。
「電子レンジもあって至れり尽くせりだよな、ここ」
「長期滞在用だからな」
 夜は作りたての美味しい料理、朝は軽食、昼は暖め直しでも美味しいように作られた料理。
 ちゃんと考えた献立だ。
「巨乳で料理上手って反則だと思わねぇ?」
 美味しい煮物を食べながらオレはつぶやいた。
「だよなぁ。アヤノもハンターなら、あんな家の使用人なんて止めればいいのに」
 あんな家って、自分の家なのに。
 嫌だから家出したんだけどさぁ。
「でもアヤノちゃんって、ミルキといい雰囲気だろ?」
「ねぇよ」
 オレの問いに即答するキルア。
 痩せてもキルアの中で豚君は豚君のようだ。
「アヤノの趣味は一回り以上年上なんだぜ。あの豚が多少痩せてもないない。
 うちのじいちゃんが一番好みなんて言うぐらい、渋好みなんだ」
 アヤノちゃん……いくらなんでも年上過ぎやしませんか?
「おふくろはミルキの嫁にする気満々だけど」
「それ不思議だよなぁ。他人なんて認めないって雰囲気バリバリだったのに……」
「嫁は来なかったらその方が問題だろ。ミルキは今までリアルの女に興味持つこと自体が無かったんだよ。それにあれだけ強けりゃ反対する理由もないだろ。毒の血なんて持ってるレア体質だし、意外と暗殺者の嫁向きだよ」
「あれって、やっぱり念なのか?」
 オレは実際に毒の血を見たわけではないが、皆が言うんだから本当だろう。
「念ってそんな事も出来るの?」
 昼飯を食い終えたゴンが、首を傾げて言う。
「ヒソカに聞いたら分かると思うけど……アヤノちゃんが何でもあり状態だからなぁ。
 ミルキに連絡したら、ちゃんと毎日おやつを持ってきてくれてるって」
 二人は驚いて顔を見合わせる。
「まあ、そうだとは思ってたけど……。
 ってかさ、なんでブタ君に連絡してるんだよ」
 キルアに問われ、オレ自身もちょっとそう思った。ゴンと出会った時ですら、ミルキと連絡とるなんて想像もしていなかったのだ。デブで不潔で汗臭そうだと思っていた、あのミルキが、あんなイケメン一歩手前の清潔な小デブになってるなんて。
「オレがケータイ買って、それをアヤノちゃんに見られて、まだ誰にもアドレス教えてなかったのにミルキから電話掛かってきて、こっちにネットで買えないグッズがあるから送ってくれって」
 キルアが呆れてオレを見る。
「んなのいちいち相手にすんなよなぁ」
「一般人のオレが、謎の能力を持つ奴に逆らえるかよ。あいつ、引きこもりなのに殺ししてんだぜ。ある意味イルミさんよりこえーよ!」
「あいつ、そんな能力なの?」
「能力はイルミさんと違ってあいつの方が分かりにくいよな……」
 原作には出てないし。原作だけ見ると念能力すらない可能性もあったけど、そこはやっぱりあの一族。無理矢理こじ開けてでも目覚めさせるに決まっている。
「ついでにオレの気に入ったのを送りつけたら、向こうも気に入ったらしくてけっこう頻繁に連絡取ってる」
「アキラ、お前……まさかオタクか!?」
「オレの育った国ではまあ、普通? アヤノちゃんだって、漫画とか読んでるんだからな」
 普通とはいっても、オタクがけっこう普通な国だから、オレぐらいなら普通の領域に入ると思う。オタクに希少性なんてまったくないんだし。そう、オレは普通。
「アヤノ、漫画なんて読むのか?」
「ああ。働いてからは読んでないみたいだけど」
 子供向けアニメは見てないみたいだし。
「それにオレが送ったのは古そうな店の片隅に眠ってた古そうな怪獣だよ。プレミアがついてたらしくて、二千ジェニーが十万ジェニーになった。これからも何かピンときたら写メ送れって」
 闘技場に来てから、中にある銀行の支店で口座を作った。口座には四億ジェニーほどあるから、十万ジェニーぐらいの増減じゃ誤差みたいなもんなんだけど、なんかうれしい。
「でもミルキが買って来いって言ったのは、エロゲグッズだけどな。グッズだけなら年齢制限無かったから買えたけど」
「……アヤノを落とす気ないだろ、あいつ」
 一見そう見えてしまうが、ミルキは馬鹿だけどやっぱり賢い男だ。
「本人も分かってるよ。知られている以上、今更だってさ。ヤバイのは別の部屋にあるらしいし」
 アヤノ似のキャラも、新しく届いたから置いてあったけど、普段はアヤノの目の届かない所にあるらしい。
 寝室とか。
「あれよりヤバイって、何を隠し持ってるんだよ」
「お子様には見せられないようなモンだろ。
 それに、半分はけっこうマトモな収拾だったぞ。怪獣とか集めるのなら、まあ美少女フィギュアだけよりはマシだろ。ああいうのは、男のロマンだし」
「マシってレベルだろ」
「人体収集家とか、呪われてそうな物を収拾するよりは」
「どんな低レベルな奴と比べてんだよ。相手はアヤノだぞ? 嫁に欲しいって奴なら、いくらでもいるぜ、きっと。金持ちだって誑し込もうと思えば誑し込めるって」
「アヤノちゃんはお金で動くタイプじゃないと思うよ」
 
「それにミルキよりはイルミの方がマシだろ。よく一緒にいるから、仲が悪いわけでもなさそうだし」
 まあ、アヤノちゃんのコスプレの反応からして、趣味は理解していないっぽかった。イルミさんとの方が普通に仲良しにも感じる。
 特別な愛情は全くなさそうだけど。
「でも、キルアの兄弟と結婚したら、アヤノちゃんはキルアの義理のお姉さんになるんだよね。オレ、一人っ子だからちょっと羨ましい」
 利き手の折れたゴンが、慣れない手つきで弁当を食べながら言った。決して、兄弟がいて羨ましいとは言わなかった。
「オレもアヤノが姉になるだけなら歓迎だけど、あの二人のどっちかの嫁ってお先真っ暗じゃん」
「いや、今普通に暮らしてるんなら、そこまで酷くはないんじゃないか? 嫁姑問題も無さそうだし」
 結婚したら変わるとも聞くけど、アヤノちゃんならなんとかするだろう。
「それに念能力者ってそんなにいないんだろ。殺し屋一家に永久就職しなくとも、アヤノの望む条件に合う所はいくらだってあるんじゃねーの?」
「まあ、自分に合う職場、合わない職場ってあるからなぁ。あの一族に引っ付いてたら美味いもん食べられそうだし」
「やっぱ食い物か……うち、生け簀もあるしなぁ。高級食材うじゃうじゃいるぜ」
 アヤノちゃんにとっては天国だな。
 そんな物が手近にありながら、あの人面鳥が可愛いと言われるような物を捕食しているのだから、分からない人だ。
 キルアは人面鳥の事は忘れてるみたいだから、蒸し返さない方がいいよな。
 そんな事を考えていると、ドアがノックされ、ゴンが開いていると返事をすれば、アヤノちゃんが部屋に入ってきた。
「アヤノ、どうしたんだ? 今日は早いな」
「はい。今日はイルミ坊ちゃまがこちらでお仕事を……」
 そこまで言って、アヤノちゃんはゴンを見た。
「お仕事の打ち合わせを」
「今更遅いって。どっちみち最終的にやる事一緒だし」
「申し訳ありません。カタギの方の前でこんな事」
「ま、いい気分じゃないけどさ、止められねーし」
 アヤノちゃんが悪いわけではないが、付き添っているのを知って、複雑そうに目を逸らすキルア。
「はい。まあ、必要悪でもありますから」
 イルミさんがやらなければ、別の殺し屋がやる。それだけだ。
「アヤノはそういうの平気なんだよな」
 カタギなはずなのに、とばかりに椅子に座ったキルアがアヤノちゃんを見上げる。
「平気というか、私が現場まで連れて行かれるのは、依頼されて当然な場合が多かったので」
 その言葉がオレには意外で驚いた。そんな気遣いするのか、あの一族でも。キルアですら似たような表情をしている。
 普通なのはゴンだけ。ゴンは意外と淡泊なところがあるからな。目の前で殺そうとしたら止めるけど、知らないところで知らない人を殺しているなら、意外と平然としている。自分の手の届く範囲を理解しているんだ。
 ある意味一番怖いのはゴンなんだよなぁ。
「初めての時はひどかったですよ。食人鬼のパーティです。別の意味で気分が悪かったですから」
 アヤノちゃん……よくそんな物を見てまだ食欲魔神やってるよな。信じられねーよ。オレなら肉食えなくなるかも。
「兄貴は何を考えてるんだよ」
「しかも人に『あの針』を刺して、手伝わせるんですよ。イルミ坊ちゃまはそういう方なので、油断しちゃいけませんよ?」
「なんでそんな男のいる職場に居続けるのか理解できねーよ」
「ある意味、世界一安全な場所ですから」
 ああ……キメラアントか。遠いし入るのにも苦労するし住人は馬鹿強いし、そのうち勝手に外に出てくるし、アヤノちゃんにとってはあそこが世界一安全な場所なんだろう。未来を知っているからこそ。
「あ、私買い出しに言ってきますね。今日はここで夕飯を作ります」
「じゃあオレ、荷物持つよ」
 キルアが弁当の器に蓋をして立ち上がる。
「そんな、キルア坊ちゃまに荷物持ちなど」
「こういう時は男が荷物持つもんだろ。アヤノみたいかのが外をうろうろしてたら、変なのに絡まれそうだしさ」
 確かにコブ付……男がいればナンパもないだろう。アヤノちゃんは見た目だけなら大人しそうだから、一人だと面倒くさい事になりそうだ。




 夜。
 俺達はみんなで夕飯を食っている。
 オレとゴンとキルアとアヤノちゃんと……ヒソカとイルミさんで。
「キル、ソースとって」
「…………」
「キル、食べ物は投げるもんじゃないよ」
 キルアのストレスが溜まっていくのがよく分かる。
「ゴン、たくさん食べないと大きくなれないよ♦」
「じ、自分のペースで食べるから!」
「ああ、食べにくいのかい? 食べさせてあげようか♥」
 ただでさえ利き腕が使えなくて不自由している、ゴンのストレスも溜まっていく。
「アヤノちゃん……」
「ごめんなさい。一応はお止めしたんだけど……」
 いや、逆らえないのは分かるけどさ、分かるけどさぁ……。
「そういえばキル、カルトも念修行始めたから、うかうかしてると置いて行かれるよ」
「って、カルトはまだ早すぎるだろ!」
「キルがいなくて寂しいんだって」
「あのなぁ……」
 キルアが頭を抱える。
 そっか。カルトちゃん、キルアが家を出てから覚えたんだ。それなのに、旅団に入れるほどの才能を……。
 特殊能力が評価されたんだろうけどさ、血筋って、凄いな……。
 こうして、今日もやっぱり相談に乗ってくれずにアヤノちゃんは帰った。発を覚えたら、ということらしい。
 だからそれまで、オレはウイングさんのところに通い、武術を教えてもらう日々を送ることになる。



[14104] 29話 練習相手
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/01/08 07:20
「私が、カルト様の練習相手に?」
 私はイルミ坊ちゃまを見上げた。
「そう。発の練習」
「え、もう発ですか?」
「キルがのんびりやってたみたいだから」
 二ヶ月の禁止期間は思ったよりも長いらしい。
「操作系は、何を操作するか決まったら早いよ」
「早すぎる気がしますが、何を操作なさるんです?」
「カルは紙」
 漫画の通りだ。
「私のコックさんを切り刻まさせろと?」
 人間相手にはただの布で出来たぬいぐるみがほとんどだから、的にしたら切り刻まれてしまう。
「まだ切り刻むほど力はないよ。それにマネキンは用意したから。服も着せたし、顔も描いたから、動かせるよ、たぶん。
 アヤノの訓練では、動く相手を追えるようにしたい。徐々に数を増やして、複数の相手を出来るようにするんだ」
 誰にそんな可哀想なことをさせたんだろう。
 マネキンにコックさんの顔を描かせるなんて、執事さん達がやっているのを想像すると、涙を誘う。
「こっち」
 手招きされ、どんな物が出てくるのか怯えながらイルミ坊ちゃまの後に続く。
 見えてきた。三体のコックさん姿のマネキン。
 恐る恐る正面に回って顔を見れば…………。
「やたらと上手いけど、身体と合ってない」
 顔は可愛いんだ。顔は。でも身体は人間に近いから不気味。
「顔はアキラがデザインしたのを貼り付けただけ」
「なぜアキラ君に?」
「あのキャラの事知ってるみたいだったから、どうすればいいかミルキが聞いたみたい。絵描き歌なんだってね」
 隠すような事ではないから良いけど、聞かれたからって全部素直に答えないで欲しい。
「…………せめて子供のマネキンに貼った方が……」
「別にデザインはどうでもいいよ。アヤノが動かせれば」
 まあ、可愛くないけど、コックさんだから動かせる。むしろ可愛いコックさんでなくても、生き物以外なら、コック姿をしていたら精度は落ちるけどイケたりする。
 でもさ、このマネキン、間接があるから人間のように動く。
 しかもミルキ坊ちゃまとアキラ君の合作。
 あー、動かしたくない。
「キモ」
 控えていたカルト様に言われてしまった。
「カルト様申し訳ございません。このキモイのが、カルト様の的です。とりあえず一つだけ動かします」
 とりあえず無駄にたくさんあって邪魔なコックさん達を浮き上がらせて、邪魔にならない場所にどかした。
「ねぇ、それ、足いるの?」
「いりません。むしろぶらぶらして邪魔です」
 指を振って的になる一体を左右に動かすと、カルト様が一瞬ひるみ、すぐに気を取り直して扇を手にする。
「アヤノ、出来るだけ人間みたいに動かして」
「空に浮かしすぎなければいいですね?」
「うん。歩かせろとは言わないよ」
 繊細な操作って言うのは、すごく難しい。とくに人の形は難しい。浮かせられるなら、浮かしてしまった方が楽だ。生きた人間を操る場合は、人間の身体というのが歩くように出来ていて、歩き方をその身体が覚えているから比較的簡単に出来るが、歩き方を知らない人形を人間のように動かしていては、それに気をとられ動きが悪くなる。省ける所は省き、必要な所だけ繊細に。それが操作の基本だ。だからダブルは難しい。人間の不自然な動きは、人間が見れば一目瞭然である。もうお亡くなりになってしまったカストロさんは、かなり頑張ってあのレベルまで持っていったのだ。最初のように、一瞬具現化して、追加攻撃をずっとさせていれば、けっこう厄介な攻撃だったはずなのだが、完全に分けてしまったから対処しやすくなった。もっと時間をかけて、あのまま極めていれば、きっとヒソカさん好みまで育ったはずだろうけど……。
「カルト様、とりあえずはじめはゆっくり。当たったら少しずつ当てにくい動きをさせますね」
 アリ編までには、旅団レベルまで引き上げなければならないのだ。せめて彼らの実力を見た時、あそこまで驚かない程度にはして差し上げたい。
「まずは常人レベルの歩行程度から」





 私が選ばれた理由は、人形の複数操作が可能な為だ。人ではないが、人の形をしているというのは大切らしい。
 威力を上げるための基礎修行は他の誰かが見ている。私はただのいくらでも替えの効く、複雑に動く的である。
 さすが天才の家系なだけあり、念能力者には通用しないが、一般人ぐらいなら発だけで殺せるレベルまで伸びるのは、本当にあっという間だった。
 私はその成長に感心していたのだが、イルミ坊ちゃまはひと味違った。
「カル、これは弱者なんだ。たった三人の弱者を殺すのに、一分もかかってどうするんだい? 一般人相手なら、一瞬で殺せるようにならないとね」
 スパルタである。褒めて伸ばすようなぬるいやり方はしない。
 カルト様の紙は、まだ紙吹雪ではない。もっと大きくて、枚数も少ない。
 見方を変えれば、精度も悪い。何度も動かして、ようやくコックさんに当たる。まだまだ未熟、ということになる。
 しかし、それを素人に求めるなど、間違いすぎていると思うのだ。
「まあまあ。初めて間もないんですよ。かなりの成長だと思います」
「アヤノはどれぐらいでここまで出来るようになった? 小さな生き物も生け捕りに出来るよね」
「さぁ。食材相手だとテンションが上がるので、すぐに出来るようになりましたが」
「ごめん。アヤノに聞いたオレが間違ってた。カルは相手が何であっても冷静に対処できるようにしないといけないのに」
 たまに覗きに来たと思ったら失礼な事を……。確かに特定の相手の時だけ強くなっていたら意味がないから、聞くだけ無駄だとは思うが。
「でも、アヤノの器用さは見習う所が多いんだよね」
「じゃあ、コックさんで折り紙でもしましょうか」
「折り紙?」
「こういうのです」
 紙製コックさんを見せる。カルト様が紙を好きなら、きっとこういうのも好きだと思い、折ってきたのだ。
「こういうのもあります」
 折り鶴とドラゴン。
 おばあちゃんの趣味で、小さなころは学校の折り紙クラブに所属していたものだ。小学校には調理系のクラブがなかったから。
 操作の練習をするに当たり、食べ物を切り刻んでいてはきりがないしもったいないので、折り紙を折らせたのが始まりである。
 カルト様が好きかと思って折ってきたのだ。
「どうなってるの?」
 カルト様が興味を持つ。
「一枚の紙で折って作るんです」
「すごいけど、そういう器用さとは違うんだけど。でもじいちゃんが喜びそう」
 イルミ坊ちゃまがドラゴンを持ち上げた。ゼノ様はドラゴンを好んでいる。っていうか、ドラゴンを飼ってる。可愛がっている。
 でも私はなぜか触らせてもらえない。せめて見るだけでも、と思ってるんだけど、怯えるからダメって。ただ心の中でどんな味なのかと、想像しているだけなのに……。
「ああ、そうだ。能力の事だった。
 たまには狩りに行ってきなよ。操作する物の形は違うけど、やっている事は近いから、実際に見れば参考になると思うよ」
 イルミ坊ちゃまはケータイでゴトーさんに私の部屋からヌイグルミを10体ぐらい持ってくるように命令した。
 見せるためだから、コックさん過剰でも良いんだけどさぁ……。
「お待たせ致しました」
 仕事の早いゴトーさんは、洗濯物を入れるような籠にヌイグルミを詰めて持ってきた。
「ああ、ロクサブロウ先生までっ」
 子供サイズの大きなコックさん。
 持って帰ってもらうように言おうとした瞬間、イルミ坊ちゃまが言った。
「確か戦闘用だよね?」
「ロクサブロウ先生は抱き枕だから汚したくないんです」
「何のために腹の中に神字詰めてるの?」
「最後の手段です。腹を破られた瞬間、絡みつく綿とロープと凶器、みたいな?」
 窒息間違いなし。
「凶器入ってるの?」
「抱き枕にそんな物入れません。予定で終わりました」
「…………意味あるの?」
「凶器は入っていませんが、ロープは入っていますから」
「ロープは操作できるの?」
「ロクサブロウ先生の腹から出たなら、ロクサブロウ先生の一部。内臓のような物です」
 カルト様からの視線がなぜか痛いほど突き刺さる。
「兄さん、本当にコレが的以外の役に立つの?」
「食材相手になら強いよ。あ、アヤノ。オレはこれから仕事だけど、カルに変なトラウマを与えないでね。あ、そうだ、ミルを呼べば良いんだ。
 あ、ミル、アヤノと山菜採りして欲しいんだけど」
 ケータイで嘘ではないが本質でもないことを言い、イルミ坊ちゃまは斜に構えて待つ。
 いや、あの……。
 私とカルト様が呆れていると、ミルキ坊ちゃまは登山スタイルで走っていらっしゃった。
 いつもは鈍そうなのに、5分で準備がすむなんて……。しかもカゴまで背負ってる。
「あれ、カルにゴトー?」
 痩せたおかげで息も乱さず駆け付けたミルキ坊ちゃまは、メンツがおかしい事にようやく気づいた。
「カルにアヤノの操作を見せるついでに、夕飯のおかず取ってきてね。あと、アヤノが変な虫を追いかけていかないように見てて。あとカルに変な物を見せないように。虫の丸かじりとか」
「いくらなんでも、虫をそのまま食べたりしないだろ」
「前に蟻を」
「うちにその蟻は生息してないよ。普通の蟻は蟻酸で苦いから、食っても美味くないはずだ」
「へぇ。そうなんだ。ま、とにかくアヤノがカルを忘れないように見てて。オレ、仕事だから。じゃ」
 マイペース長男は、弟たちを残して去っていく。ゴトーさんもそれに続く。
 姿が見えなくなると、ミルキ坊ちゃまが呟いた。
「ハイキングか……」
「たまには運動も良い物です」
「最近はしてるよ」
 ミルキ坊ちゃまはカゴを背負い直して言う。
 確かに、刺された時よりも、さらに痩せてたくましくなった。ヨークシン編が始まる頃には、普通にイルミ坊ちゃまぐらいになっていそうなのが怖い。
 早く別の女の子を紹介しなければ。ミルキ坊ちゃまが美男子になってきたから、可能性はある。いや、ヨークシン行ったら、逆ナンとかされて意外と他の女性に目を向けるのでは? 自分から誘う勇気はなさそうだけど。
「行くよ」
「はい、カルト様」
 私はロクサブロウ先生を抱えて、他は浮かして連れていく。
 何と言われようと、ロクサブロウ先生は使わない。





「これは食べられますよ。天ぷらにしても美味しいです。普通の人にはこのくらいの量なら便秘薬になります。私たちには何の影響もありません。葉っぱの裏側が赤いのが特徴です。
 これは食べられませんが、火傷に良く効きます。ここが紫になっているのが特徴。覚えておくといいですよ。これはもしもの時には役に立ちます。
 これは毒です。美味しくありませんが、揉んで刃に塗って火であぶれば、動物や訓練を受けていない人ぐらいなら痺れさせる事が出来ます。何かと便利です。カルト様の紙につけて使うなど、色々と手段はあります」
 カトリーヌ達で採取しながら、採取しない物でも役に立つなら説明する。
「野生児」
「サバイバルの基本です。格上や相性の悪い相手に追いかけられて、山に入り込むというのは良くあります。その時に知識があれば生き残る可能性も増しますもの。
 どれだけ強くても、毒には弱い方ばかりですから。
 念能力者に念無しで勝つ事も、毒があれば可能です」
 毒女と呼ばれそうだが、毒はある意味最大の武器である。食われたらアリの王だって殺せるだろう。食われるつもりなどは爪の先程も無いけど。
「身体が毒って本当? この前、母さんが騒いでたけど」
「本当です」
「毒は念なの?」
「体質です。カルト様に毎日毒を盛られていた時期から」
「…………ボクのおかげなの?」
「普通の身体の方がよかったんですよ。牡蠣触るのに念を使って手をガードしなきゃならないんですから」
 感謝はしていない事は言っておかなければ。毒が盛られたのを知ってて食べ続けたのは自分だから他は何も言わないけど。
「あ、カルト様ウサギです。兎肉はお好きですよね」
「うん」
 私はコックさん三体でウサギの進行方向に先回りして、後方から二体で生け捕りにする。
「慣れるとカルト様もこのように出来ます。私のは手がありますが、カルト様の紙は決まった形がありません。それは可能性の広さでもありますが、本当の意味で使いこなす事の困難も意味しています。徐々に慣れましょうね。逃げる獲物の急所をピンポイントで狙えるように」
 私はウサギを目の前まで連れてきて、わざと逃がした。
 カルト様は扇子で紙を煽り、操り、ウサギの首をズタズタにした。
「首を刎ねるつもりだったのに」
「力は無くても技術で可能な事になります。上手く動かせるようになったら、他にも色々と便利な動かし方を教えますね。今は自分の武器を上手く操り、性質を理解できるように訓練していきましょう。良い点もあれば悪い点もある能力ですから。理解していれば弱点も強みになります」
 カルト様は私をじっと見つめる。最近、背丈が並んでしまった。
 子供の成長を見るのは嬉しいが、複雑な心境である。
「ねえ、ところで二人はいつ結婚するの?」
 唐突に、カルト様がおっしゃられた。ああ、本当に唐突に。
「な、何言ってるんだよ」
 ミルキ坊ちゃまが赤くなって、カルト様の肩を叩く。
「お、オレ達はまだ10代だぞ。あ、兄貴の方が先だろ」
「イルミ兄さん結婚する気あるの?」
 弟の問いに目を逸らす兄。
 兄弟間でもそういう認識なのか、あの方は。
「……ミルキ兄さん別の女探したら? イルミ兄さんの側にいて平気な女の方がレアだし」
「殴るぞ」
「殴れるもんなら殴ってみなよ」
 カルト様は私よりも動きにくそうな振り袖タイプの和ゴスなのに、すごい勢いで逃げていく。
 ………い、行かないでっ! 二人きりにしないでっ!
「まさか、カルがデレるとは……」
 当の兄は、弟の背を見送りながら呟いた。
 その間にも、ミルキ坊ちゃまの手が私の背中に触れるか触れないかという辺りで漂っている。
 肩を抱いたりする勇気が出ないらしい。
「ああ、鬼ごっこでしょうか。カルト様もキルア坊ちゃまのように遊びたくていらっしゃるんですね」
 私はとぼけた事を言って、ウサギの死骸をコックさんに持たせてカルト様の後を追う。
 ミルキ坊ちゃまがチキンで助かった。
 おかげで気付かないふりをしていれば、ぬくぬくと過ごせるのだから。



あとがき
たまにカルトを女の子として書いてしまいます。
分かっていても忘れてしまいます。かわいすぎます。
ハンターはなぜこんなに女の子が少ないのでしょうか。ようやく出てきた女の子と思っていたビスケがああだったり。
カナリアとセンリツさんしか癒しがありません。

テレビで見た、サメの頭が美味しそうでした。
食べてみたいけど、サメの頭なんてどうやって手に入れて良いのやら。



[14104] 30話 水見式
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/01/10 22:10

「じゃあ、キルのところにでもいて。明日には戻ってくる」
 そう言ってイルミ坊ちゃまはいなくなった。いやぁ、相変わらず素早いお方だ。
 今日もここで仕事らしい。ターゲットはとあるフロアマスター。理由は知らない。必要もない。イルミ坊ちゃまも最低限しか知らないはずだ。
 試合ならイルミ坊ちゃまはそのフロアマスターに負けるだろうが、暗殺やら殺し合いとなれば話は別だ。
 明日までというのは、寝ている間に殺すつもり、という意味である。バトル無しで、無傷で殺す方が、儲けたって感じがするよね。
「さて」
 おやつを入れたバスケットを手に、私はその借家を出た。
 移動用に買った元死刑囚の生命維持用に雇った小男に見送られ、私はウイングさんの宿に向かった。このあたりは暗殺依頼がとても多いんです。
 途中、夕飯の買い出しをして、部屋の前に着くとドアをノックする。
「はい」
「アヤノです」
「は、はいっ」
 内側からドアが開き、私はウイングさんに笑みを向けた。ウイングさんは爽やかに笑みを浮かべ、私を部屋に招き入れてくれた。
 だらしのない人ってイメージだったのだが、シャツがはみ出ていることもなく、髪はいつも整えられている。最初見た時は確かにだらしなかったような気がするのだが、私の知らない所で一体何があったんだろうか。アキラ君が何か言ったのかな? ファッションに拘りのある子みたいだし。ちゃんとしていると、好青年風で素敵な男性だ。
「今日はずいぶんと早いですね」
「はい。主がこちらの方に仕事があるので」
 部屋の中でキルア坊ちゃまが「げぇ」と言う。
「アヤノちゃん、こんにちは!」
「今日はゴン君」
 今日も元気な少年達に笑みを向けると、テーブルには水見式に使うグラスがある事に気付いた。
 そういえば、あの新人潰し達と試合していたっけ。ちなみにアキラ君は全部不戦勝。せっかく対策を考えたのにと愚痴っていた。このままでは、念能力者と一度も対決せずにハードルの高いヨークシン編に突入してしまう不安があるのだろう。
 ま、対戦相手に困っているようなら、手頃な相手を見繕ってあげるぐらいはしてもいいだろう。滅多にいないけど、この世にはヒソカさんみたいな人もいるから、相手はちゃんと選んだ方がいい。
「あら、発の練習ですか?」
「実は今から試すんですよ」
「あら、それは良いときに来ましたね」
 私はカメラを取り出す。
「だからさ、それ恥ずかしいからやめろって」
「この期を逃せば私が叱られます。キルア坊ちゃましか撮りませんので、私のことは狸の置物だとでも思って無視して下さい」
 キルア坊ちゃまがため息をつき、ゴン君がグラスの前を譲った。
 その様子を見て、アキラ君が肩をすくめる。
 見るがいい。私の叩き込まれた使用人魂!
「ささ、坊ちゃま」
「わーったよ!」
 私はイヤリングで撮り損ねていたときのために、カメラを坊ちゃまに向ける。
 気分は運動会を観戦する母親だ。
 しばらくキルア坊ちゃまがじっと発を続けるが、見た目に変化はない。
「なんも変わんねーけど、もしかしてオレって才能ねー?」
「そんなことはありません。カルト様はもう自分の念能力の形を作っているぐらいですから」
「は? カルも?」
「イルミ坊ちゃまは寂しかったようです。
 それよりもキルア坊ちゃま、水をなめてみて下さい」
「寂しいって……あ……甘い?」
 キルア坊ちゃまの言葉で、子供達が手を伸ばして水を舐める。
「ほんとだ。これ、ただの水じゃないの?」
 ゴン君の問いに私は首を横に振る。
「ただの水です。味の変化は変化系です。ゾルディックは強化と変化系の方が多いんですよ。
 変化系は様々な可能性のある系統です。変化系の柔軟さ、隣の強化系の力強さ、具現化系の便利さを併せ持つ、強化系に並ぶバランスの良い系統ですわ。トリッキーな能力も正統派の能力もいけます。変化系はちょっと癖のあるユニークな方に多いですね」
「へぇ」
 トリッキー代表はビスケちゃまだろう。便利だが、普通は考えないよ。
 正当派代表は…………ゼノ様になるのかな? ゼノ様は強化系寄りの変化系だから、放出との相性もそこまで悪くないので、手から離して使うこともあるけれど、基本は手元から伸ばして攻撃している。
 でも背中に乗ったりするからなぁ。
 やっぱり正統派はゴン君のチーかもしれない。未来の事だけど。
「次オレ!」
 ゴン君が元気よく言って、別のグラスに手をかざす。
 強化系の反応を見せて、ゴン君は私に顔を向けた。
「これって強化系だよね! 強化系ってどんな能力なの?」
 強化系は先に聞いてるんじゃなかったの?
「そういうことは同じ強化系の先生に聞かなくちゃ。
 強化系は最もバランスに優れた能力だと言われています。
 言葉の通り、何かを強化する能力です。
 自身を強化すれば力に優れ、下手な小細工を必要としません。オーラを手元から離すのに必要な放出系との相性もいいので、放出で長、変化で中、強化で近と、あらゆる場面に対応できるバランス型です。また、治癒力を高めるのも強化系なので、人を癒すような力も強化、変化系に多いんです。だから強化系だからといって、戦闘型とは限りません。
 強化系は明るく素直で実直な方人に多いですよ」
「へぇ。能力にも色々とあるんだね。性格にも出るなんて」
「性格に出るというか、そういう人が多いっていうだけで、ただの占いみたいな物ですし」
 ヒソカさんとの対戦で、率直に言われるとどんな反応をするのかな?
 私の言い方は、自分で言っても物は言い様だと思うから。
「じゃあ次は自分が」
 ズシ君が手をかざすと、葉っぱがわずかに揺れる。
「師範代」
「葉っぱが揺れるのは操作系ですね」
 ズシ君は次に私を見た。
 可愛い。
「操作系はマイペースな人が多いんです。そして策士が多いですね。
 上に立つと言うより、誰かの補助に向いています。
 人を動かすことに長けているから」
 皆は顔をしかめた。
「マイペースと策士って両立するのか?」
「言い換えると我が道を行く人。自分を信じている人。
 いるじゃないですか、典型的な方が」
「…………兄貴か」
 キルア坊ちゃまは嫌そうに顔を歪めた。
「そういう傾向があるだけですから、善悪は関係ありません。
 ズシ君が陰から人を操るタイプになるとは限りません。人を気にする、気配り上手な人も多いですからね」
 私はどうなるんだろう。マイペースだとは思う。マイペースはイコール天然ではないから。
「じゃあ次はオレが」
 アキラ君が浮かれて手を伸ばす。どうせ強化系から操作系でしょう。性格的に。
「反応ない……。オレも変化系?」
「いいえ、なんか葉の様子が……」
 ウイングさんの言葉を聞いて、アキラ君は発を続けた。
「なんか葉っぱが広がって……溶けてきた?」
 ゆっくりだが、確かに葉が溶ける。
「本当だ」
「ウイングさん、これ何系なの?」
 キルア坊ちゃまに問われて、ウイングさんは笑みをこぼした。
「特質系でしょう」
 それしか考えられない。
 ああ、ものすごく腹が立ってきた。
「あれ、なんかグラスの下の方になんかあるよ?」
 ゴン君の言葉を聞いて、アキラ君はグラスを持ち上げた。
「何これ」
「食物繊維でしょうか? だったら溶けたのではなく、ほぐれたという事でしょうね」
「葉っぱの繊維? これ飲んだらお通じよくなる?」
「アキラ君、馬鹿な事は言わないでちょうだい」
 私はそう言いながらもグラスを見る。
 やっぱり腹が立つ。
「何か……解体が好きとか?」
「そんな趣味はないって。作る方ならともかく、解体なんて。
 解体なら絶対アヤノちゃんの方が上手いし」
 まあ、確かにこの子は壊すよりも作る方が好きそうだ。オタク気質だから。
「でも特質系か。なんか、響きがいいよなぁ……」
「特質は個人主義が多いのよ。
 一人で何かに打ち込む人とか、狂人とか、殺人鬼とか」
 というか、ろくなのがいない。盗賊とか、人体収集家とか、髪食殺人鬼とか、蟻猫とか。
「アヤノちゃん、オレの時だけ悪意がこもってません?」
「アキラ君はカリスマタイプじゃなさそうなんだもの」
「ひどいっ! いいもん! オレ頑張って輝いてやる!」
「スーパースターマンって単語を思い出したわ」
「アヤノちゃんなんでそんなにオレに冷たいのっ!?」
「ごめんなさい。なんとなく腹が立ったの。絶対に強化から操作のどれかだと思ってたのに」
 特質って何よという気持ちがある。
 能力の決め方がかなり難しいけど、特質っていうだけでなんだかすごい気がするんだ。
 お姉さんちょっぴり悔しい。
「そういえばアヤノは何系?」
「何系だと思います?」
 問うたキルア坊ちゃまは腕を組む。
「毎日本当に往復してんだよな。それも念能力なんだろ?」
「はい」
 私、当てられたことがないけど。
「ウイングさん、念ってそんなことも出来るの?」
 誰にでも素直に聞けるゴン君が、ウイングさんに問う。
「そうですね。二つの可能性があります。
 一つは陸路、空路などを使い、速度で往復する。
 もう一つは瞬間移動です」
「瞬間移動!?」
 ゴン君が目を丸くして驚いた。
「放出系能力者には、そういった移動に関しての念能力を持つ者が稀にいます。
 推進力にしたり、遠隔地に自分ごと念を飛ばしたり」
「すごい!」
「より高度なのは、瞬間移動です」
「じゃあアヤノちゃんは放出系なんだね?」
 ほら、外れた。
「違います」
「え? 違うの!?」
 驚いたのはアキラ君。知っている人ほど思いこむ。ウイングさんも驚いていた。
「え、特質?」
「私は操作系よ。放出系寄りの」
 ここの何とかって車いすの人は、強化系寄りの放出系、もしくは放出系寄りの強化系だと思う。操作系寄りならもう少し器用に動けただろうから。
「なんで操作系だって自分で知ってながら、そんな能力に?」
 アキラ君が信じられないって風に首を横に振る。
「逃げるが勝ちって言うでしょ。食材を確保したら、すぐに保存しないと」
「え…………料理のため?」
「当たり前でしょう。この力さえあれば、私は世界中、どこの食材でも一日で捕りに行けます」
 なぜかみんな、呆れ顔になる。
「な……なんでキルアんチに?」
「もちろん世界中に出張されるから、呼んでいただければ遠方の珍しい食材との出会いも多くなるわ」
「それだけ?」
「私の能力は、呼ばれないと飛べないの。だから最高の職場よ?」
 アキラ君が首を横に振る。
「美食ハンターって……」
 アキラ君の言葉に、キルア坊ちゃまが小さく頷いた。
 いいもん。私だけが理解していれば。




あとがき
闘技場で唯一の原作場面です。
能力候補は2つあったのですが、王道の特質にしました。
でも能力が出来たからと、強キャラにはなりませんのでご安心下さい。



[14104] 31話 系統 アキラ視点
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/02/19 23:31
 特質系だと知って数日後。
 いつものようにウイングさんに武術を教えてもらい、今はみんなで発の修行。
 原作ではバラバラにやっていたこの修行を、みんなが集まっている理由は一つ。アヤノちゃんが夕飯を運んできてくれるから。
 オレもズシと床に胡座をかいて向かい合い、グラスに手をかざして葉っぱをほぐす。
「何度見ても不思議っす」
「オレは強化系の方がよっぽど有り得ない反応だと思うけどなぁ」
 三人の中で、ズシと一番仲良くなったのは、武術の稽古まで付けてもらっているオレ。ウイングさんともメル友だ。ズシは子供だからという理由で、まだケータイを持っていなかったが、何かあるといけないから、そろそろ持たせた方が良いとオレもウイングさんの説得を手伝い、今度買ってもらえる事になったと喜んでいる。
 しかし、この反応……一体どうしろって言うんだろう。ピトーを見る限り、この反応ばかりに囚われる必要はないと思うが、難しい。
 まあ、贅沢な悩みなので置いておく。
 もう一つ悩みがある。オレはまだ念能力者と闘っていない。オレが闘う前に、闘う予定だった三人が全員潰れてしまったからだ。また電撃食らわされるとでも思ったんだろうか?
 不戦勝で三勝じゃあれだから、ゴンがヒソカと闘う頃に、オレも試合をする事になっている。それまでには何かしらの発を作れたらなぁって思ってたんだけど、特質の能力を作る難しさは予定外だ。オレは優柔不断な日本人である。方向性をはっきり決めてくれた方がやりやすい。他の能力なら、ある程度考えてたんだが、特質は不可能な案ばかりが頭に浮かんでしまう。
 どーすっかなぁ。オレ、そう弱くもないみたいだけど、強くもないんだよな。
 近い将来に不安を感じて、ソファで本を読むウイングさんに尋ねた。
「ウイングさん、特質系って結局どうすれば良いんでしょうか。想像も付きません」
「特質系ばかりは、何とも言えません。それだけ少ない系統なのです」
「ですよねぇ」
 特質系~と喜んだのはいいけど、どうすればいいのかさっぱり分からない。
「アヤノちゃんならどんな能力にした?」
 テーブルで縫い物をしているアヤノちゃんに聞いた。
「食材をゲットしやすい能力にしたわ」
 聞いたオレが馬鹿だった。
「アキラ君は何か趣味とかないの?」
「ああ…………」
 あるにはあるけど。
「特質って感じじゃないんだよなぁ。
 アヤノちゃんぐらいの位置なら、オレの歌を聴けぇって感じにしたし」
 第一候補だったのに。
 他は……
「具現化系とかなら、色々あったんだけどなぁ」
「例えば?」
「受け狙いでクトゥルフの神々具現化してみたり。見た目グロくてインパクト大」
 嫌がられるなぁ。
 そんな事を考えていると、アヤノちゃんがサヤエンドウを置いて俺の前に来ていた。
 ふざけすぎて怒った?
「素晴らしいじゃないっ!」
 手を握られた。
「は?」
「その発想はなかった! それにしましょう!」
「ええええっ!?」
 オレが驚いて身を引くと、アヤノちゃんがマジな目をして詰め寄ってきた。
 見た目だけなら美味しいシチュエーションなのだから、まったく、ぜんっぜん美味しくない。
「正気か、アヤノちゃん」
「正気よ。私一回、あれを食べてみたかったの」
 その恐ろしい言葉を口にしたアヤノちゃんは、真剣そのものだった。
 あの……マジ…………ですか?
「アキラ、何だよ。そのくとぅ何とかって」
 キルアが顔を顰めてオレに聞いてくる。
「か、かくもの…………」
 ゴンが部屋に備え付けてあったメモ帳を持ってきた。
 オレは記憶を頼りにさらさらとクトゥルフを描く。
 それを見て、無言になるお子様達。アヤノちゃんにちょっとだけ好意を持っていたウイングさんなど、覗き込んだとたんにソファに倒れた。アヤノちゃんの食癖は、千年の恋もさめるレベルだから仕方がない。
 ウイングさんが明日からまただらしなくなりそうだけど、誰も気にしていない。それどころじゃないし。
「こ、これは……」
 ズシがそれだけ絞り出した。でも続かない。
「深海魚みたいで、美味しそう」
 そんな事を本気で思うのはアヤノちゃんだけだ。
「た、確かにそっち系のイメージでデザインされてるっていうけど……」
 ねぇだろ、これに『食欲』持つって。
「アキラ君、なんでそんなにそんな物描くの上手いの?」
「こういうの好きだからだけど……。
 化け物を描くのはオレの担当だったし」
「担当?」
「ん、いや、母さんが」
「そう。でもこれだけ何も見ないで書けるなら、具現化だって出来るわよね!」
 オレは瞳に星を浮かべるアヤノちゃんを見る。初めて期待されている。
 見た目は可愛い。
 ほんと可愛いとは思う。見た目はかなり好みだ。
 でもムリ。
「ごめん、オレ、そいつら大好きだったけど、今は素敵な旧支配者達が、アヤノちゃんに捕食される深海魚に思えてきた。具現化とか絶対ムリ」
「どうして!? 神様を具現化するより、現実的よ?」
「オレ、深海魚具現化するなら、素直に召喚獣とか具現化する」
「召喚獣……」
 ああ、またいい笑顔を。頬を赤く染めて、恥じらうように笑っている。
 その可愛い可愛い笑顔の下で、あなたは一体何を捕食していらっしゃるんですか?
「オレ、やっぱり念獣関係はぜったいムリ」
 何を具現化しても、アヤノちゃんに捕食されそうな気がしてきた。そんな弱々しいイメージで具現化した物なんて、一体何の意味があるだろう。
「ええ? どうして?」
「オレ、一人で悩むよ。うん。その方が良いような気がしてきた。特質系は個人主義だもんね」
 無言でキルアとゴンが頷いた。
 少なくとも、アヤノちゃんに聞くのだけは間違っていると、二人とも悟ったんだろう。





 オレは裕福になって真っ先に買ったケータイで、ミルキに電話をして聞いた。
「ミルキってさ、アヤノちゃんの事どれぐらい愛してんの?」
『はぁ?』
「いやさ、キルアがさ、兄貴達はどれぐらいアヤノちゃんの事知ってて今の関係なのか、気にしててさ」
『それがさっきのカタルフのイラストと何の関係が?』
 さっき描いた絵を写メって送った。ちなみに、この世界にもクトゥルフ神話がある。カタルフと表記されているが、小さな差はあれど、デザインも旧支配者達の設定も似たような物だった。
 他にも、ジャポンはオタク天国で、ジャンプに似た週刊誌も存在し、似たような漫画が世界的に人気になっていたりもした。
 でもジャポンの歴史はかなり違い、つい最近まで鎖国していて、現在も幕府が続いているらしい。技術と歴史とオタクの変な国、という扱いは一緒なんだけど。
 そこからアヤノちゃんに聞いた若者に人気の店から、気に入った服を通販しまくった。和服も流通しているが、オレの感じる今風の服も売っている。
『どうした?』
「いや、ちょっと現実逃避を。
 いやさ、オレ、特質系でさ、特質系って何をすれば良いんだろうって聞いたんだ。で、具現化だったら、冗談でそいつ具現化したかったって言ったら、真剣にそれにしろって」
『美味そうだって?』
「うん」
『アヤノなら仕方がない』
「オレ、初めてミルキの事尊敬した。愛ってすごいな。オレはマジでSAN値が削られた気がする」
『うちの家族はみんなそうだぜ? アヤノの趣味を知らなかったのはキルだけだろ。カルトは昔からよく遊んでもらってたからな』
「遊んでたの? あのやたら可愛い女装少年だよね」
『女装させられる原因が、アヤノの和ゴスが気に入られたからでさ、原因のアヤノにカルトの方が突っかかって』
「そ、そーなんだぁ……」
 そんな事になっていたのか。
『ま、うちの家族は自分達に害がなければ、使用人の趣味には目をつぶるスタンスなんだよ。アヤノも新発見の動植物は食うけど、別に押しつけないし』
「そうなんだ。よかった!」
 知らないうちに変なモノ食べてたらどうしようと思うレベルだった。
『本人が悪食なだけで、他人にはスーパーで売ってなさそうな食材は食べさせないらしいぜ。望まれない限りは』
 オレは壁にもたれかかり、近くで一心不乱に発の練習しているキルアを見る。
「アヤノちゃんは、普段は普通に売ってる食材しか使わないって。よかったな、キルア」
「るせーっ!」
 一心不乱に発をしていたはずのキルアは、オレの声を聞いて怒鳴り返してきた。
『どうしたんだよ』
「ほら、この年頃の男の子は、年上の優しいお姉さんに憧れを抱くだろ。いざ目の前でそんな相手がきらきら目を輝かせて、アレを深海魚みたいで美味しそうだから具現化しろって言ったら、ショックじゃね?」
 淡い何かが芽生えていた所だったんだろう。
 見事にフラグ破壊されたみたいだけど。ある意味アヤノちゃんはすごい。
『そういえば、お前特質なのか?』
「うん」
 オレは肯定した。ミルキがため息をつくのが聞こえた。
『あのな。聞かれたからって答えるな。レアなんだぞ。下手に知られたら、狙われても知らねーぞ』
「でも黙っててもどうせ筒抜けだろうし」
『そりゃそうだけど』
 ミルキだから答えた。知らない人だったら逃げてる。
「あ、そーいや、ミルキちの謎の激重家具って、お前の念だろ」
『なんでオレだと思うんだ?』
 キルアの不思議ヨーヨーは、ミルキに作ってもらったらしいから。アヤノちゃんもいろいろとミルキに作ってもらってて、それがなんか頑丈だから。誰かの能力、と考えた。第一候補……というか、性格まで知っている人が少なすぎて、他に予想が立てられなかった。
「それっぽいから。あの入り口のやたら重い扉とかは違うっぽいけどさ」
 古そうだし。
『…………それっぽいかぁ? 人に言うんじゃねーぞ?』
「これって何系になるんだ? ミルキはてっきり放出か操作系だと思ってた」
『はぁ? 何でそう思ったんだ?』
「イルミさん操作系だろ。お母さんも攻撃してるの見たけど、操作か放出だろ。ミルキとカルトちゃんも母親似っぽいから、そうかなって」
 カルトちゃんが操作系なのは、原作を読んで知ってるけど、ミルキとキキョウさんは不明なんだよな。
『見た目で決めつけるなよ』
「違うの?」
『自分で考えろよ』
「特質だろ? 操作系は特質に変わりやすいって聞いたけど」
『まあ、なぁ』
 ミルキが電話の向こうでため息をつく。
「認めるんだ。意外」
『始めからそう決めつけて話す相手に、否定するだけ無駄だろ。で、何が聞きたいんだ?』
「いや、今の師匠が強化系で、参考にならないからそれっぽいミルキに相談しようと思って。他の知り合いは、聞いたら後悔しそうだから」
『そりゃあなぁ……』
 アヤノちゃんは良い方だと思ってたのに、こういう相談が一番出来ないとは思わなかった。予定外だった。
「ミルキってどんな水見式だったんだ?」
『重くなって沈んだ』
「へぇ」
『お前は?』
「葉っぱが解けるように分解された」
『何か解体するか?』
「んで、その繊維が沈んでるんだよ」
『分解して再構成?』
「そう言うと何か格好良いな。錬金術とかどうだろう」
『おお、いいんじゃねーの? 手を合わせるアレだろ。お前、記憶喪失の割にはマニアックなモンを』
 あの漫画もあるらしい。
『いっそ衣装も具現化させるか』
「それいい!」
『いいのかよ』
「あっ、でもなんか勉強とか必要な気がしてきた……」
『まあ、知識は必要だろうな』
 ダメじゃん。だってあれ、国家資格じゃん。きっと難しいよ。オレ、そういうのに興味ないし、あの錬金術師は却下。
「まあ、とりあえず方向性だけはなんとなくつかめたし、基礎を頑張るよ! 詳しい事考えるのはそれからにする。あ、またいいの見つけたら送るから!」
『ああ』
「んじゃ」
 発をしながら、キルアが呆れたようにオレを見てくる。
「選りに選って豚君に頼るのかよー」
「他にいないんだからしゃーねーだろ。
 オレの知り合いで念能力者はウイングさん、アヤノちゃん、イルミさん、ヒソカ、ミルキ。ウイングさんに相談できないオレにはミルキしか選択肢がない。アヤノちゃんは、オレに対しては絶対に食べ物になんかする能力を薦めるし、イルミさんとヒソカははっきり言って論外な。だからいないだろ、他に」
「確かにその中じゃ、ウイングさん除くとミルキがマシに思えてくるけどさ」
「しかも特質っぽいなぁって心当たりがあったら、するだろ、相談」
「は、いいけどそれをなんでオレの部屋でする」
「アヤノちゃんの事で慰めようと思って」
「もう今はほっといてくれ」
 少年の心は繊細だ。
「悩みがあったらお兄さんに聞くんだぞ。ミルキよりは優先して応援してやるから」
「あー、はいはい。もういいからほっといてくれ」
「カラオケでも行くか。いい店あるんだ」
「いつの間にそんな所に行ってたんだよ」
「ノーメイクのヒソカと一緒にいたら可愛い二人連れの女の子に逆ナンされて行ったんだ」
「…………」
 キルアはくわっと目を見開いてオレを見た。
「ま、まさか……」
「結局、両方ともヒソカがお持ち帰りしたけどさ……。
 大人の色香に負けたよ。あいつノーメイクだとイケメンすぎて過ぎてムカツク」
「…………」
「だからオレもまだ彼女いない歴=年齢だ。落ち込むな」
 ちょっと淡い恋心が打ち砕かれた、失恋とも言えない思いに悩む少年を慰めるつもりだった。
「…………まあ、元気出せ?」
 逆に慰められてしまった。



あとがき
あっという間に儚い何かが散りました。
実はコックさんの次ぐらいの能力候補でした。

ミルキの能力が、今後発覚するような事があったらどうしようと思いつつ、作らないと後々困る気がしたので能力を作ってしまいました。
せっかくなので、オタクコンビを特質コンビにし、謎の日用品をミルキの能力の練習結果という事にしました。

錬金術師と予測した方は外れです。能力以外の部分で無理です。
彼の能力は、誰もが考えるようなものですが、本質や元ネタを当てられる人はたぶんいないと思います。



[14104] 32話 確認
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/02/19 23:42

「アキラ君はどれぐらい進んだの?」
 発の練習をしているアキラ君に、イルミ坊ちゃまの帰りを待つ私は、退屈しのぎに聞いてみた。最近、この辺りの仕事はイルミ坊ちゃまが進んでやっているらしい。滅多に干渉はせず、遠くから見守って帰る、を繰り返している。
「念獣関係は絶対に嫌だからな。捕食されるための念獣なんて、オレには作れないからな」
「何を馬鹿な事を言っているの。念獣なんて食べられるはずないでしょ。粘土みたいな物なのよ。見てるだけ」
「…………どっちみち怯えそうだからやだ。動物虐待反対」
「失礼ね。スタンドとかなら美味しくなさそうよ?」
「なんであれを美味しい美味しくないって目で見られるのか……」
 ちょっとした言葉の綾じゃない。ほんと、失礼な子。
「念獣以外で色々と考えてるよ。でも難しいんだ。ミルキの助言で葉っぱ以外で試したりしてるんだけど」
「どんな反応?」
「ナイフとかは薄くなるけど、刃が鋭くなった。ま、この反応なんて気にせず、結局はしたいようにするだけだけどさ。
 だから今、よぉく考えながらまとめてる」
 ミルキ坊ちゃまも楽しそうにアドバイスをしている。他人の能力を好き勝手考えるのは、自分に影響がないからとても楽しいらしい。
「錬金術は即諦めたけど……やっぱあれ格好いいんだよなぁ」
「錬金術……って、手を合わせる?」
「あはは、ミルキと同じ事言ってる」
 はぁ?
「なんでこれでミルキ坊ちゃまに通じるの?」
「え、だって鋼鉄の錬金術師って漫画、普通に流通してるし」
「え?」
「えって……」
 二人で首を傾げる。
「アヤノ、どうした?」
「いえ、何でもないんです、キルア坊ちゃま」
 ハガレンモドキが、この世界にもある?
 私の視線を受けて、アキラ君の目が語った。
 話し合おう、と。





 アキラ君が、自分の部屋のパソコンの前に座り、電脳ページをめくる。
 コミックの表紙が並んでいる。本の通販サイトのようだ。ドラゴンオーブというタイトルで、見覚えのある絵柄の表紙。
「な、なんでオーブ?」
「全部一緒のもたまにあるけど、ちょっと違うような作品はけっこうごろごろある」
「マジで?」
「っていうか、何で今まで気付かなかったんだよ。映画も被ってるのあったぜ。ハリィポターとか」
 私は頭を抱えた。
 修行に明け暮れていたのもあるけど、ミルキ坊ちゃまを警戒しすぎた。ジャポンは料理と身体能力の向上とショッピングで時間足りなくて、漫画なんて気にしてられなかったし。
「それも知らないって、アヤノちゃん、どれだけ俗世から切り離された生活してたんだよ……」
「だって、下手な作品に興味を持っていると思われたら、ゾル家嫁入りの線が強くなるじゃない」
「……嫌なんだ」
「嫌よ。当たり前でしょう」
 沈黙。
 確かに、とけ込んでるとは自分でも自覚しているけど。
「まあいいや。とにかく、この世界と元の世界の共通点はこれだけじゃないよ。
 ジャポンに織田幕府が続いているのは?」
「それは知ってる。天皇陛下の扱いは似たようなものだけど、織田って聞いた時は驚いたわ。
 あと、フレンチ、イタリアンが通用するの。フレンツ、イターリオって表記の国があるから。その二国は、私の知る国と歴史がよく似ているわ」
「食い物の事は詳しいね」
「当たり前じゃない」
 それ以外の何に詳しくなれと言うのか。
「アヤノちゃんは、この世界はなんだと思う?」
「考えて分かる事じゃないわ。私はここに来る前、普通に親戚の店の更衣室で着替えたところだったの」
「オレは出かけようと玄関で靴はいてた。事故ったりとか、飛行機が墜落してきたとか、そういうのは無かった……はず」
「私もよ。ガス爆発とか、一酸化中毒とか、そういうのじゃなかった」
 中毒なら更衣室の外でバタバタ倒れているはずだから私も気付いたはずだ。
「私、考えても無駄な事は考えない主義なの」
「考えようよ。神様の気まぐれとか、誰かの発明で夢を見せられているとか、平行世界の誰かに呼ばれたとか」
「それを考えてどうにかなる? ヒントも何もないのに。理不尽系の話として処理する方が簡単よ」
 アキラ君は目を逸らした。
「私に出来るのは、帰り方に関係ない、三年間で手に入れたこの世界の知識を教えるだけよ。まあ、漫画とか映画の事は知らないけど、マフィアの事とか、各国の文化とか。主に食べ物とか。むしろ君に必要な知識は、読んで全部知ってる思うから」
「……そうだよなぁ」
 落ち込むアキラ君。
 彼は話をしたがっていたが、きっと愚痴りたかったんだろう。
「まあ、でも教えてもらえたのは有り難いわ。いきなり知って、驚いたら怪しまれるもの。ありがとう」
「役に立てて嬉しいよ」
 でも、平行世界か。
 しかし、そう考えるのが一番マシかな。呼び出された云々は置いておくけど。
「で、アヤノちゃんはこれからどうする?」
「一通りは見守ります」
「アリ編は? あれ、初期なら安全につぶせそうだし」
 やはりそれが出てきたか。
「つぶしません」
 アキラ君は意外そうに首を傾げた。
「え、確定? 歴史は変えたくないとか?」
「はい」
「どうしてか、聞いてもいい?」
 私はふぅと息を吐く。ここで怪しまれてはいけない。私利私欲のためだと気付かれたらおしまいだ。
「あれは、坊ちゃま達にとって最も大きく成長するために必要です」
「んーでも……」
 人が死にすぎると言いたいのだろう。
「これで成長せず、もし次にそれ以上の存在が現れたらどうするんです? 例えば……ベジータ編でピッコロと一度死んだ人が死ななかったら、フリーザ編が無くなります。しかしフリーザ編なしにセル編が始まったら、トランクスすら存在せず、完全に詰みです。
 上には上がいる、能力と駆け引き一つで大逆転の世界でかなり大袈裟だとは思いますが、知っている部分の大きすぎる予定変更は、怖くて出来ません。私はそのために安全地帯のゾルディックに雇われているんです」
 執事軍団は数が多く連携が出来る分だけ、旅団よりも頼もしくて恐ろしい。しかもミルキ坊ちゃまが指揮を執ることになる。ゲーム慣れしているため、そういう駒を動かす能力はとても高い。負ける要素がない。
 そもそも、誰も攻めてこないだろうから考えるだけ無駄だけど。カナリアちゃん達にやられちゃうようなのは、そもそも眼中にないし。
 アキラ君はディスプレスを見て黙り込んでいる。
 やはり例えがよかったか。フリーザ様々である。
「でも……」
 人が死ぬ。知っている物語の流れの中にいるが、これは現実である。殴られれば痛い。死んだら生き返られない。それでも殺し、殺される。そんな世界だ。
「それに、どうやって潰すの? NGLという以外、おおよその場所すら私は覚えてないし、あんな大ざっぱな地図じゃ覚えていても範囲が広すぎるの。
 潰そうと思えば人手がいるわ。しかも並みの人間では返り討ち。しかもNGL。無理よ。誰かが信じてくれても、動きようがないのよ」
 アキラ君は言葉を無くして俯いた。
 あんな国の出来事でなければ、あそこまでの被害など出なかった。
「ゴン君達も……ポックルさん達も、かなり初期の頃に動いてたのよ。それでも、あっという間にああよ。入るだけでも大変な国で、どこに辿り着くとも分からない蟻を一匹待つなんていうのは、不可能なの」
 私はアキラ君がこの世界になれていない事を良い事に、重々しく脅すように言ってみた。
「そうだよな……。ごめん」
 アキラ君は重々しく息を吐く。
「私も、助けられる命は助けたいの。そのために、ポックルさんにアレを渡したのよ。ポックルさんがいない事で、少しだけ念能力の知識を得るのが遅れるから。
 助けられるかどうかも分からないけど、ポックルさんの運が良い事を祈ってて」
「確かに、出来るのはそれぐらいからだよなぁ」
 納得した。よし、納得したぞっ! これで心おきなく日々を過ごせる!
 自分で言ってて、防ぐの無理じゃんと思ったぐらいだから当然かも知れないけど。
「じゃあ、それまではずっとこうして食事運ぶつもり?」
「ええ」
「グリードアイランドはどうすんの?」
「色々と心配だから、手に入れるつもりよ。
 方法はいくつか手はあるわ。一つは、バッテラさんに一台諦めるように交渉して、ミルキ坊ちゃまに買っていただくとか」
「色々他に言いたい事はあるけど……交渉可能か?」
「相手はクリア報酬目当てなのよ。それで私達は自宅でゲームがしたい。交渉によっては可能でしょ。知っているからこそ、含みを持たせられるもの」
「アヤノちゃんって、悪女だよなぁ」
「まあ、私のどこが悪女だというの?」
「まさしく策士操作系だろ」
 え、シャルナークさんと同じようなくくり?
「ご冗談を。私程度が策士なら、主要人物ほとんどが策士です」
「そういやそうかも。じゃあ、馴染んでるって事かぁ」
「そうでしょうか?」
「違和感なく、この世界の住人にとけ込んでるから」
「どういう意味です?」
「そのまんまの意味。違和感ない。色んな意味で」
 色んな意味で?
 毒の事?
 確かにこの体質は普通じゃないけど……。
「きっとアキラ君も慣れれば毒ぐらいっ!」
「慣れたくないから」
 便利なのに……。
 私は毒耐性の有用性を語ろうと口を開いた瞬間、アキラ君の部屋のドアが開いた。アキラ君のデカイ図体で見えないが、誰かが入ってきたようである。
「い、イルミさん!? 鍵は!?」
 どうやらイルミ坊ちゃまがもう仕事を終えて帰ってきたようだ。
「や。キルにこの部屋だって聞いてね。鍵なんて意味ないよ」
「暗殺しに来たわけでもないんですから、せめてノックぐらいなさってください。アキラ君は使用人でも家族でもないんですから」
「次からそうするよ」
 イルミ坊ちゃまは反省の色皆無の様子でこちらに寄ってくる。椅子に座るアキラ君の背後に立ち、
「アヤノ、いいシャンパンが手に入ったから来いって。行く? 食材とか器具は全部揃ってるらしいけど」
「行きます」
 私は立ち上がり、荷物を手にした。
 誰の誘いかが抜けているけど、この場合はクロロさん達しか有り得ない。
「じゃあ、アキラ君。私に出来る事があったら、何でも聞いてね」
「ん、ああ。じゃあ、深海魚について悩むような日が来たら聞くよ」
 また悩みそうにもない事を。
 私は顧客リストを具現化し、賓客ページからクロロさんの名が載るページを開いた。微妙に空腹感が足りない。他の旅団メンバーで、同じ都市にいて空腹人……ウボォーさんがいた。
 ケータイを懐から取り出し、ウボォーさんのアドレスに電話をかける。
「あ、こんにちは。お招きいただきありがとうございます」
『アヤノか。食材はたっぷりあるぜ。腹減った』
「ええ、分かっています。ではそちらに参ります」
 私はイルミ坊ちゃまを見上げた。
「じゃあ」
 イルミ坊ちゃまが手を上げてアキラ君に挨拶し、反対の手を私の肩に置いた。
「あ、ちょ……」
 アキラ君が何か言おうとしたが、デリバリを発動させた瞬間だったので聞いてやれなかった。
 次の瞬間に目に入った光景は、どこかの豪華なリビング。そして旅団員半分。
「な、何ここ!?」
 そして、なぜか付いてきてしまったアキラ君だった。




あとがき
いくらなんでも、食べられません。
写真や食品サンプルを見て幸せな気分になるような物です。



[14104] 33話 先人
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/01/14 22:49

「誰だ、それは」
 なぜかいるアキラ君を見て、本のページをめくる手を止めて問うクロロさん。
 呆然とするアキラ君。
 気持ちは分かる。とてもよく分かる。
 何と言ってもあの旅団員の半分がここにはいるのだ。メンバーはクロロ、ウボォーギン、シャルナーク、フェイタン、フランクリン、シズク、ボノレノフ。しかも目の前にはクロロさん。
「うぉぉぉおっ! イケメンっ!」
 いきなり前に出るアキラ君を見て、私は思わず彼を叩いていた。
 他に言う事はないのか。
「初対面の相手にいきなり失礼でしょ」
「あう、つい」
 まったく、この子は……。
 旅団員が一斉に笑う。クロロさんも苦笑している。苦笑ですませてくれているからいいけど、この子はまったく……。
「クロロさんごめんなさい。
 っていうか、アキラ君、なんでついてきたの?」
「違うって。これ、ウォレットチェーンの飾りが。止めようとしたらもうここにいたんだって」
 よく見れば、長ったらしいチェーンが、イルミ坊ちゃまの無駄にとげとげした服装飾の付いた袖に引っかかっていた。
「なんでこんな物つけてるの?」
 加害者がいつもの真顔で問う。
「引っかけたのイルミさんの方じゃないですか。片方切れちゃってますよ! 引っ張られてるのに気づきましょうよ!」
 その程度の引っかかり、気にせず突き進むのがイルミ坊ちゃま。
「……ごめん。いくら?」
 でも珍しく謝った。
「露天で買った安物だから、別に良いですけど」
 アキラ君はため息をついて、周囲を見回した。
「ここどこですか?」
「さあ? クロロ、ここどこ?」
「どこでもいいだろ」
「それもそうだね」
 頭が痛い。イルミ坊ちゃまの事で学習して、クロロさんやらの名前をつい叫ばなかったのは立派だけど。この場合は悪いのはイルミ坊ちゃまだし、私は誰にも文句を言えない。
「で、これは誰だ?」
「アヤノの弟みたいなの」
 この紹介止めて欲しい……。
 否定するとアキラ君が危ないから、今は何も言わないけど。
「アヤノの弟?」
「たぶん親戚の子だって」
「たぶんか。まあいい。酒は腐るほどある。一人増えたところで変わらんさ」
 一緒に飲め、ということだ。
 クロロさんは本を読み始めたので、顔には出さず安堵した。彼もクロロさんの恐ろしさは理解しているから、特質だなどとは口が裂けても言わないだろう。ここにはパクノダさんがいないのも幸いしている。
 きっと操作系か放出系の初心者とでも思われているだろう。まさか特質だとは思うまい。特質だと知られたら、盗まれなかったとしても、能力を作る時に口を挟もうとしてくるに違いない。
「図体は大きいですけど、まだ子供なんですから、無茶させないでくださいね。
 あ、キッチンはどこですか?」
「案内するよ」
 シズクちゃんが立ち上がり、私を案内してくれた。
 アキラ君は……まあ、イルミ坊ちゃまもいるし大丈夫だろう。守ってくれなくても、口ぐらいではかばってくれるはず。
 ここの建物は廃墟ではなく、豪邸といった感じの場所であった。どこかの別荘でも占拠したのだろう。
 キッチンは使われた事があるかどうか疑いたくなるほど綺麗だった。
「食材はこれ。フィンクスとフェイタンが適当に盗ってきたから、偏ってたらごめんね」
「いえ。でも好みが分かりますねぇ」
 冷蔵庫の中は肉ばっかり。野菜は誰でも知っているニンジンやキャベツのような無難な物だけ。自分の荷物の中にニンニクとか香辛料は入っているから良いけど。
「シズクちゃん、チーズを切るから、アキラが無茶されてないか見てきてくれない? お酒とか飲んだ事ない子なの。倒れたら面倒だから」
「うん、わかった。あ、テリヤキ食べたいな」
「はい。他には酒のつまみになりそうな物を適当に作りますね」
「うん、お願い」
 忘れなければ比較的まともな感性の持ち主であるシズクちゃんは信頼できる。忘れなければ。
 無事でいろよと願いながら、私は食材を手に取った。
 言われるがままに飲んで、急性アルコール中毒にならないか、本当に心配だ。




 6品ほど作って、シズクちゃんに手伝ってもらい料理を運んだところ、
「まあ飲め飲め」
 ウボォーさんにシャンパンを勧められ、恐る恐るグラスを差し出しシャンパンを飲むアキラ君が目に入った。
 頬が赤く染まって、締まり無い顔つきをしている。
「ごめん。止められなかった」
 シズクちゃんが謝った。
「まあ、これは……仕方がないですよ。
 ウボォーさん、いいお酒なんですから、もっと味わって自分のペースで飲ませて下さい」
「おお、アヤノ。今日も美味いぜ」
「適当に作っても美味しい物は美味しいんです。さあ、飲んでばかりでは良くありませんから、皆さん食べて下さいね」
 アキラ君がグラスを置いて、肉に手を伸ばす。テリヤキチキンだ。
「えへへへ、うめー」
 ああ、酔ってる。だらしのない顔。
「ウボォーさん、初心者なんだからあんまり飲ませないで下さいね。未成年ですし」
「アヤノも未成年だろ」
 フランクリンさんに突っ込まれ、私は肩をすくめる。
「この国では16から酒を飲める。気にする事はないさ」
 クロロさんが最初に出したチーズを手に取りながら言う。それにイルミ坊ちゃまが答えた。
「パドキアは二十歳からだよ。オレ達は酔わないからそんなの関係無いけど」
 酔わないっていうのが、少し悔しい。味は分かるけど、酔う感覚を味わった事がない。それで人生の半分を損していると言われる事もある。
 美味しいから良いけど。
「ねーねー、くろろさん。その服どこれ買ったのぉ? ちょーいいっす」
 アキラ君、酔って恐怖心がどこかに行ってしまったらしい。クロロさんのコートをくいくい引っ張って問う。
「元はヨークシンだ。着られなくなったら同じデザインの物を作っている」
 そうだったのか……。
「美学れすねっ!」
 ケラケラ笑うアキラ君を見て、クロロさんも笑った。
「性格はアヤノに似ていないな」
「親戚が全員似たら大変ですよ」
「それもそうだ」
「無駄にスクスク育って腹立たしいです」
「アヤノが小さいだけだろう。ところでこのチーズ美味いな」
「かなりいいチーズですよ。店で一番高い物を取ってきたんでしょうね。こういうチーズはそのまま食べるに限ります。
 あ、今私が作っているチーズが出来たら、お裾分けに来ますね。チーズフォンデュなんていかがですか?」
「それもいいな。そうなると白ワインが必要だ。備えておこう」
 作り方は知ってるんですね。作らないけど。
「オレ、チーズフォンデュ、たべたことない?」
「じゃあその時にまた来ればいい」
「マジで? 太っ腹! いい男はやっぱり違う!」
 ふふっと笑うクロロさん。
 ……あの……クロロさん?
「団長……その子を誘うのは別にいいけどさ、褒められたからって、気をよくしすぎじゃない?」
 シャルさんに呆れ眼で見られるが、クロロさんは気にもせずシャンパンを煽る。絵になるその姿を、羨望の目で見つめるアキラ君。子供の素直な眼差しは、アルコールの力もあって、クロロさんの気をかなり良くしているようだ。これでアキラ君が平凡な子ならともかく、顔は良いのだ、顔は。
 それが気を良くする要因となっているんだと思う。
 アキラ君はそのやり取りにも気付かないほど、酔ってテンションが高い。
 照り焼きチキンをパンに挟んで食べつつ、料理を運ばせていた私のコックさんを捕獲し、かわいいコックさんの絵描き歌を鼻歌で歌い……
「ちょっとその曲!」
 シャルさんが声を上げ、クロロさんがアキラ君の肩を掴んだ。
「え?」
「もう一度最初から、歌詞を声に出して歌ってみろ」
 珍しく身を乗り出して興奮した様子のフランクリンさんがドスのきいた声で言った。
 普段はけっこう大人しいフランクリンさんのその態度は、知っている私の目から見ても異常で、アキラ君は怯えてこくこくと首を縦に振った。というか、私は彼等が闘っている姿を見た事ないから、せいぜいちょっとした喧嘩ぐらいしか見た事がないのである。
「ええと……ぼーがいっぽんあったとさ」
 アキラ君は驚きながらも、ろれつの回らない調子で歌い始める。歌い終わると旅団員の一部が頷き合う。シャルさんが紙とペンを棚の上から取ってくると、何やら書き始め……。
「このキャラは知っている?」
 シャルさんが見せた…………
「知らない。なんのモンスター?」
 うん。私にもそう見える。何か分からない、未知の生物。
「知らないか……」
「さっきの歌、アヤノちゃんのヌイグルミのキャラを描くための歌ですよ。絵書き歌なんです」
「ああ。絵描き歌だ」
「どうやったらあのキャラが出来るんです?」
 クロロさんがシャルさんに目配せする。
「こう描くんだ」
 私達の前で描かれていくクリーチャー。
 半分ほどでアキラ君がそっとその手を止めた。
「歌詞の意味ないじゃないですか」
「…………オレもちょっとそう思ってた」
「貸してください」
 アキラ君はメモ帳をめくり、新しいページに歌詞を口ずさみながらコックさんを書いていく。正しいコックさんだ。
「おおっ」
 シュールでファンタシーな可愛いコックさんの姿に、先ほどのクリーチャーを描いたシャルさんが驚いて声を上げた。
「これが可愛いコックさんっていう絵描き歌です。なんでああなったんだか」
 アキラ君が不思議そうに首を傾げた。まったくだ。
「あいつ、不器用だったからなぁ……。おい、ぼうず。なんだったか……『キミガヨ』って知ってるか?」
 ウボォーさんに問われ、アキラ君の頬が引きつる。
 可能性が頭に過ぎりながらも、酒の勢いで普通にしていたが、君が代は日本の国歌である。その意味に気付かざるをえない。
 この国には絶対に存在しない。存在したとしても、皆が知っているという存在ではない歌だ。ジャポンの国歌は別にあるのだから。
 アキラ君は少し悩んで、私を見る。私が頷くと彼は歌い始めた。懐かしいと感じるほどには、遠い存在となった歌。
 それを聞いて、クロロさんがスキルハンターを具現化する。
「警戒するな。預かり物を取り出すだけさ」
 ページを開き、クロロさんの前に大きな衣装箱がさらに具現化される。
「死んだ仲間から託された」
 衣装箱を開き、中から弓と首飾りと手紙を取り出した。他には服や色々な物が入っていたが、取り出さずに蓋を閉じて、スキルハンターを解除する。
「これ……聖騎士の……」
 聖騎士……グリードアイランドでゴン君が首から下げていた首飾り……。
 どうして……こんな物が。
「これ…………」
 アキラ君は弓の方に手を触れた。矢が一本だけ添えられている。
「挫折の弓というらしい。この二つを、キミガヨを歌える者がいたら渡せと言われた」
「死んだって……?」
 まさか、旦那様に殺された旅団員?
「ただの老衰だ」
 アキラ君がペンを取り落とし、その身体がふらりと傾いた。
 私も気が遠くなりかけた。
 老衰。
 老衰するほど前から、私達のお仲間がここにいた。しかもやる事をやっていた。つまり目的に向かって歩いていたのに、願い叶わず高齢が理由で亡くなった。その事実はアキラ君の目の前を真っ白にさせたようである。
「おいっ」
 ウボォーさんが支え、肩を揺すられるとすぐに意識を取り戻したアキラ君は、小さくすみませんと謝る。
 挫折の弓、というのが何なのか私には分からない。
 でも聖騎士の首飾りで意味する事が分かる。アキラ君がとりあえず試してみようと思っていた事だ。放出系の能力。
「もしもこれを渡せる人が現れたら、それは自分の弟か妹のようなものだと。矢の補充をしたいと言ったら、手伝ってやれと言われている。最後の矢が無くなれば、元の持ち主の所に戻るらしい」
「その方は、クロロさん達にとって……」
「年甲斐のない、友達のような、師匠のような、親のような、よく分からない関係だ。
 不器用で、強い男だった」
 不器用ってのは、性格じゃなくて手先の事なんだろうか、やっぱり。
「イルミともその関係で一緒に飲むようになったんだ。最近ほど頻繁にではなかったが」
 え……親しくなったのは、私のせいじゃなかったって事?
「タクマはオレのひいじいちゃんの知り合いなんだよ。じいちゃんの親で、マハじいちゃんの息子。もう死んじゃったけど」
「妹というより、どう考えても孫だな。こんな孫が出来たと知ったら、さぞ喜んでセクハラをしただろうが……」
 そういうキャラの人だったのか。会ってみたかったような、会えなくて良かったような。
「いつお亡くなりに?」
「五年前だ。遺体は火葬した。そう伝えろと言われている」
 アキラ君を見ると、痛々しいほど蒼白で、心ここにあらずと言った様相だった。
「大丈夫か?」
 クロロさんに尋ねられ、アキラ君は額を押さえた。
 深く、重く息を吐く。
「ちょっと……外の空気吸ってきます」
 アキラ君はおぼつかない足取りでバルコニーに出て、こちらからは見えない位置に移動した。
「本当に孫か?」
「アキラは記憶喪失中だよ。何か思い出して、混乱してるのかも」
 フェイタンの呟きに、さすがに食べる手を止めていたイルミ坊ちゃまがそう言った。
 そう思っていただけるのは助かる。
「アヤノ、それ何なの?」
 イルミ坊ちゃまは聖騎士の首飾りを指さす。
「ゲームの景品……だと思います。念能力者達が集まって作る、ハンター専用のゲーム。私が聞いた話だと、まだ攻略者は出ていなかったような気がしたんですが……。
 これ、本当にいただいても良いんですか?」
「ああ。使い方も分からない」
「ありがとうございます」
 私は残る手紙を手に取り、人には見られないように気をつけながら、中身を読んだ。日本語で書かれた手紙であった。
 私が手紙を読む間だ、誰も覗き込もうとはしなかった。フェイタンは何か言うとしたが、結局は言わなかった。死者に対する敬意からだろう。
 解読が難しいかなり汚い字で、彼がずいぶんと前にこの世界に来て、帰るための努力をして、友人になった男からゼノ=ゾルディックが生まれ、クロロ達に出会い、グリードアイランドを手に入れて、最後のクイズ大会を自粛し、グリードアイランドのクリアを記録しないようジンに頼んでこれらを手に入れたそうだ。ちなみに彼は強化系だったらしい。強化系が一人でどうやってクリアできたんだろう。まあ、15人だったっけ? あれのフラグさえ立てれば、あとはどうにでもなりそうだけど。
 何にしてもアキラ君には酷な話だ。
 手紙の二枚目には……
「ちょっと、彼を慰めてきます」
 誰にも止められず、私はバルコニーに向かう。結成時のメンバー以外である、シズクちゃんとボノさんが不思議そうに私を見ていた。




あとがき
というわけで、本当はもう一人いたけど、死んでいるのでやっぱり二人だけです。



[14104] 34話 目標 アキラ視点
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/01/17 22:41


 頭の中がぐるぐるする。
 これが酒のせいなのか、希望が潰された絶望のせいなのか、よく分からない。
 わずかでも希望があったから平然としていた。
 どうしていいのか、今はもう分からない。
「母さん……」
 いい母親ではなかった。オタクで、いい年して腐女子で、たまに百合も好きで、息子にコスプレさせるのが趣味で、修羅場の時には翌日は学校があっても徹夜で手伝わされて、出張から父さんが帰ってくると、いつも呆れられていた。それでも仲の良い家族で……。
 うちは今、どうなっているんだろう。
 母さんが急にいなくなったとしたら、きっと俺は暗く沈んでいる。
 母さんはどうしているだろう。
 父さんはどうしているだろう。
 家庭はめちゃくちゃだろう。探し回っているかも知れない。オレなら探す。目撃情報とか、ビラ撒いて、聞き込みして……。
「アキラ君」
 声をかけられ、はっと顔を上げた。考えながら、体操座りをして、膝に頭を乗せていた。
 バルコニーにアヤノちゃんが出てきて、オレの隣に座る。背後は壁だから、クロロ達からは見えない。
「アヤノちゃんは……」
 オレは迷う。言っていいのか悪いのか、分からない。それでも続けた。
「お母さんが心配じゃない?」
「心配よ。でも、私はまだ謎の神隠しだから、犯罪に巻き込まれるとかよりは謎は多いけど、下手に帰り道に行方不明になるよりは諦めも付くし。
 神隠しのニュースとかはなかった?」
「オレは知らない……」
 老衰するほど前の時代にオレ達のお仲間がいたのだ。あのアイテムを集めたのだ。お仲間なのは間違いない。だからオレ達と同時期に向こうの世界からこちらに来て、出る時期がずれたとも考えられる。
「母さん、きっと心配してる」
「そうね。せめて無事である事だけでも、知らせたいね」
「オレ、放出系能力者だったら良かったのに」
「放出でも、大陸間を渡るだけでかなりの誓約とオーラが必要よ。異空間を作る事は出来ても、異世界に行くなんて能力は聞いた事がない。この人も知らないって」
 アヤノちゃんは手紙をひらひらと揺らして見せる。
「諦める?」
 オレは首を横に振る。
「じゃあ、この手紙とアイテムは君にあげる。矢の最後の一本は、自分が最初にいた場所が正確に分かるなら試してみろって。彼が思いついても試せなかった唯一の場所らしいから」
 オレは驚いて手紙を開く。
 むちゃくちゃ汚い字で、彼の人生が書かれていた。手紙を書いた人、宮本拓真さんは、17歳でこちらに来て、流星街に出て、強化系で、世界を旅して、可愛い時代の旅団初期メンバーに出会ったそうだ。まともに育ててみようと思ったが、気付いたらやっぱり蜘蛛になっていたらしい。
 オレ達よりもよほどハードな人生を送っていたようだ。オレはミトさん、アヤノちゃんはメンチさんに拾われた。
 だが彼は一人だったようだ。
 二枚目には、今までやった事、時間の問題でやれなかった事が書いてある。まだ描かれていない時まで待って、同じ事をもう一度するのも悪くない、と書かれていた。
 つまり、使い切ったらまた今度は自分で取りに行け、と。
 グリードアイランドの景品は、一人につき一回だけ、指定カードコンプをコンプしたらもらえるものらしい。最初の一人だけではない。
 ただ、一つしかないアイテムを、次のクリア者が選ぶ事は出来ないらしい。でもゴン達だけは、目的が分かっているから、首飾りを選ぶ事が出来るらしい。だから気にせず持っていても問題ないそうだ。
 そして、自暴自棄にはなるなというような事が書かれ、最後は『もしまだアレが始まっていないなら、出来ればオレのガキどもを助けてやって欲しい』で手紙は終わっていた。
 ガキとは、ウボォーギンとパクノダのことなんだろう。
 オレはもう一度手紙を最初から読んだ。
 この人は、何を思ってこれを書いたんだろう。一人で、探して、待って、頑張って、死んでしまった。
 でも書いてあるのは自分についてと、試した事と、諭す言葉。
 くじけるなとか、ガンバレなんて言葉は書いていない。
 住めば都、自暴自棄にはなるな、一番の親不孝は無茶をして親より先に死ぬ事だ、親がいなかったらごめん、とか。
「住めば都か。確かにそうだけど…………」
 帰りたい事に変わりはない。この人だってそうだった。だから心の折れそうな事実をかいて、自暴自棄になるなと書いたんだろう。
「声だけでも……無理かな」
 オレは考えた結果、ハードルを少し下げてみた。
「さあ」
「死者と手紙のやりとりが出来るらしいから、それよりは簡単な気がするんだよなぁ」
「そんな事出来る人がいるんですか」
「グリードアイランドの景品」
「ああ、なるほど。
 でも、君には向かない力だと思うよ。ダメだったら意味のない力になるし」
 アヤノちゃんが自分の系統を知っていながら放出系メインの力にしたのは、自分が放出寄りだと自覚していたからだ。
「うん。とりあえず、成長しなけりゃ何にもならないよな。クロロ達にあんなに慕われてた強い人でダメだったんだから、純粋な強さはいらなさそうだけど」
 彼は放出寄りの強化系だったらしい。海岸線はリーブを餌に人を集めてフラグを立て、交渉してドッジボールから始め、ドッジボールは風船にオーラ詰めて数合わせにし、始まったら球拾い以外は放棄したらしい。
 それで勝つのだから、半端ない強さだったのだろう。レイザーさんも相手が老人だし、ゲームバランスとか考えて手加減したのかも知れないけど。
 それにしてもこの世界の老人は恐ろしい。
 オレはアヤノちゃんが持ってきた、聖騎士の首飾りと挫折の弓を見る。
 首飾りは身につけるだけで呪いをはね返したり、触れたカードの呪いを解くアイテムだ。
 挫折の弓は矢の数だけゲームから脱出できるリーブを使える。矢の数は10本。これは最後の1本。
 どちらもオレが期待していた希望だった。
「これ、オレがもらっていいの?」
「どうぞ」
 アヤノちゃんは首飾りと弓と矢を差し出した。言葉は素っ気ないが、キルアを見る時みたいに優しい雰囲気だ。オレ、初めてアヤノちゃんについでじゃない優しさを向けられている気がする。
「世界は広いから、どんな能力者がいてもおかしくはないわ。今まではいなかったけど、描かれていない未来にいるかもしれない」
 隣にオレと同じ格好で座ったまま、わしわしと頭をくしゃくしゃにしてくれる。手櫛で治せるから、小さな手にされるがままになった。
 保身第一の食欲魔神だけど、知り合いには優しい人だ。
「オレ、発をヨークシンまでに最低限は完成させるよ」
 ここにはいないけど、このじい……お兄さんが助けたがっていた、ウボォーギンとパクノダを、クラピカに気付かれないように助ける。
 会った事もないけど、同朋からの遺言だ。どうせ二人が死んでも死ななくても、蜘蛛は再び足を生やして殺して奪っていくだけ。世界が平和になるわけでもない。罪悪感は、この際見なかった事にする。蓋をする。臭い物には蓋は鉄則!
 できるだけ流れはそのままに、こっそり助けるのを目標とする。
「クラピー、騙されてくれるかなぁ……」
「最悪の場合、幻覚剤でも投与すれば」
「いや……あの……」
「イルミ坊ちゃまに依頼するとか。ヨークシンに来たついでとはいえ、精密な操作はかなり吹っかけられるわ。知り合い価格でも、最低で一億ジェニーは必要ね」
 キルアに暗示をかけたあれかな。あの人にかかれば、蜘蛛は死んだと思い込ませることが出来るんだろう。
「大丈夫。ミルキと一緒に考えてる方向が実現できれば、たぶんいけるから」
 無茶苦茶でメモリの無駄遣いもいい所だが、聖騎士の首飾りを見て思いついた事がある。
 でも、最悪の場合に備えて、一億は準備しておこう。
「っし!」
 オレは立ち上がって、顔を叩く。夜風が冷たく、そろそろ冷えてきた。っていうか、ここどこだろう。暗くてよく見えないが、目の前に広がるのは木ばかりで、どこかの別荘のようである。別荘を勝手に拝借したんだろうか。まあ、それなら死んだ人もいないだろうし、心おきなく楽しめる。
 二人で部屋の中に戻った。
「治ったの? 何か思い出した? 字とか」
「字はそれとは別にもう覚え直しました」
 真っ先にイルミさんに問われ、オレは否定する。なんでイルミさんがこんなに興味持つのか……。記憶について、興味があるんだろうか。彼は頭の中を操作する能力を持っているんだ。可能性は高い。
「じゃあ何を思いだしたの?」
「大したことは……でも、一つ目標が出来ました」
 能力を完成させよう。
 強くなくてもいい。グリードアイランドをクリアして、アリ編を生き残るための力。その途中、何かヒントがあるかも知れない。オレの知らない所で何かあるかも知れない。誰かいるかも知れない。
 自分でどれだけ頑張っても、ぴったりと求める力と才能がマッチングする人には勝てない。無理するなら、自分に合ってそうな能力を選ぶべし。
 うじうじと悩んで自暴自棄になって、無茶して死ぬな。
 これもまた、同朋の遺言だ。空元気でも、笑っていた方がいい。
「タクマさんのやってみたかった事とか、やってみようと思います」
「そうか」
 クロロさんがふっと笑う。まだ若いのに、とても渋くて格好いい。
「何か困ったら言え。タクマの意志を継ぐのなら、出来る範囲でなら手を貸してやる」
「有り難うございます。そう言っていただけると、ちょっと気が楽になります」
 怖くて手を借りようなんて気にはならないけどさ。
「タクマが何したかったのかはわかんねーけどよ、飲め! ぱーっと飲んで、明日っから頑張れや」
「は、はい」
 ウボォーギンに再びシャンパンを勧められ、炭酸が入って飲みやすいからパカパカ飲んで、気付いたらオレはゾルディック家の客室で寝ていた。




 おまけ
 
 シャルナークが紙を持って、合流した仲間の前に座った。
「これ」
「団長の似顔絵? 似顔絵を描く能力者でもいたの?」
 パクノダの問いにシャルナークは首を横に振る。
 ものの5分でかき上げた似顔絵だが、オレの特徴を捉えていた。
「いや、普通に絵が得意な子が書いた絵。っていうか、話したよね。タクマの弟っていうか、明らかに孫とかひ孫の若い子。全然似てない」
 タクマはかなり小柄な男だった。マチより少し背が高いぐらいで、オレと変わらぬ背丈のアキラとは比べるのが間違っている。
「どんな子だったの?」
 想像が付かなかったのか、パクノダが問う。
 シャルナークはケータイを見せた。ウボォーギンに捕まり、頬を赤らめてぼんやりとヌイグルミを抱く少年が写っている。
「アヤノにぐしゃぐしゃにされて髪が乱れてるけど、今風でオシャレな子だったよ。団長のコートを見て、どこで買ったとか。髪型も常に気にしてて、着る物に頓着しないタクマの血縁者とは信じられない清潔な子。ちゃんと毎日シャワーを浴びるタイプだね」
 それを聞いて、マチが顔を顰める。
 タクマに誰が一番似ているといわれたら、ウボォーギンであるとオレ達は迷わず答える。小さくて、殺しは最低限しかせず、おどけているという差はあるが、最終的にやる事は同じだった。
「んで、これ」
 自分が書いた謎の生物と、アキラに書かせた可愛いコックさんを見せる。
「なんだ、そのアヒルは」
 フィンクスの問いに、シャルナークは
「これがこれを正しく描いたキャラなんだって」
「は?」
 あの場にいなかったタクマを知る団員は、理解できずに固まった。
 情操教育と称して教えられた絵描き歌だ。今思えば、何らかの目印として教えていた事の一つなのだろう。他にも様々な生きていくのには関係のない、どうでもいい事を教わった。
 彼等がどんな一族なのか気にはなるが、パクノダに調べさせようとするとアヤノは警戒して身構える。アヤノは野性的な勘を持つため、能力を使おうとすれば、どれだけ隠しても、近づくだけで気付かれてしまうのだ。
 敵対したいわけではないので、無理強いは出来ない。なぜパクノダの能力を知っているのかは分からないが、背後にいる連中の事を考えれば不思議ではないし、読み取られる事に警戒するのは当然だ。
 今思えば反応がタクマと同じだった。アヤノとタクマ、小柄な事以外では数少ない共通点である。
 仕方がないと割り切るしかない。アキラは二人に比べて未熟なため、読む事は出来そうだが、記憶喪失なのでは意味がない。パクノダの能力は、失った記憶を呼び起こさせるような能力ではない。奪う事は出来ても、蘇らせる事は出来ない。わざわざ呼び出して、当たりかどうかも分からない記憶を読むほど、オレも酔狂でもない。もしも引き出せば、アヤノが二度と来なくなる可能性もある。
 本人達にとっては大したことでも、他人にとっては大したことではない、という事は多々ある。ジャポンは長く鎖国していた国だ。謎も多い。隠匿されている特殊な里があってもおかしくはない。
「で、次はこのキャラ」
「スパーだったか?」
「プだよ」
「つーか、あいつはどうやったらこれをこんな風に……」
 ノブナガが顎に手を当て呆れ果てて言う。事前にアキラが描いた似顔絵を見せたため、どちらの画力が確かなのかは一目瞭然だった。
 これに関してアキラは、正解と、間違っているけど正解なる二種類を書いた。タクマの描いたそれは、間違っている正解の方に近かった。おそらくはタクマのような絵心のない者が描いた結果だろう。
 しかしあいつは自分の書いた物に疑問を覚えなかったのだろうか。
 元になったキャラクターを見て、オレ達の誰一人として気付かないほどに原型がなかったというのに。
 もしも少しでも類似点があれば、アヤノがタクマの言う妹であることはもっと早く分かっていたというのに。
 それとも、あの頃から既に呆けていたのか──
「疑問に思っても、流したか……」
「そんな感じだよね」
 オレの呟きにシャルナークが同意する。なにせ、服だろうと何だろうと、少し大きいけれど着られるから良し、とウボォーギンのシャツを着るような男だ。魂などとプリントされたTシャツを愛用するなど、とにかく見た目に拘らない男であった。昔からそうだと、ゾルディックのじいさん達も言っている。
 タクマにアヤノやアキラの半分でいいから、細かい所を気にする部分があったとしたら……いや、考えても仕方のない事だ。
 手伝ってやるとは言ったが、本人は自分でやる気のように見えた。
 おんぶに抱っこを求めてくるような男であれば、タクマに頼まれていたのだとしても、誰かが殺していたかも知れないが、あの調子ならばいきなり殺される事もないだろう。
「何にしてもあの二人の身内だ。どう化けるか楽しみだな」
 能力を奪うような事はないだろう。
 盗む盗まない以前に、オレが盗んでも使えないような能力になる予感がある。
 なにせあのタクマとアヤノの弟だ。
 そんな男が普通であったなら、拍子抜けもいいところだ。




あとがき
たまには原作キャラ視点も。
やはりハンターの醍醐味は、元気なじーさん達の活躍でしょう。
その代わり女の子が少なすぎる。
少年誌なのに。



[14104] 35話 同類
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/01/19 20:24

 私は今、アキラ君の試合を見るため、ゴン君達と一緒に観客席にいた。
「アキラ君、勝てるんでしょうか?」
 アキラ君の対戦相手は、私の知識にはない、大柄だが普通の男だ。普通とは、どこかが欠けているわけでも、ピエロの格好しているわけでもないという意味で普通。彼を何かに例えるならば、服を着たザン○エフ。典型的なパワーファイターに見える。
「あの人は見た目通りの筋肉馬鹿らしいよ。残虐ではないから、わざわざ殺したりとか、手足を引きちぎったりとか、ひどい目には合わないだろうってさ」
「なら安心ですね」
「アヤノ、信じてやれよ」
 私は隣に座るキルア坊ちゃまを見る。
 それはつまり、勝てると信じるという意味でしょうか?
「ウイングさん、大丈夫でしょうか?」
 私はさらに隣に座るウイングさんに聞いてみた。
「彼は体術だけでもかなり成長しました。発も上手くいくようになったようで、それほど不安に思う必要はないでしょう」
「そうですか。ところで、アキラ君の発って……」
 私には内緒、と教えてくれなかったのだ。クロロさん達との交流が、彼にしっくりする能力を思いつかせたようである。
 でも妙にビクビクしていたから、楽しみにしていて、という意味ではなさそうだった。
 ミルキ坊ちゃまは楽しそうだし。
「私も詳しくは聞いていません。彼はあの画力から分かるように、物をイメージする力は強いです。内容を決めてしまったら、形だけはすぐに整ったようですよ」
「具現化寄りの能力なんでしょうか」
「具現化しているのはバインダーだけのようでした」
 バインダー?
 ひょっとして、私やクロロさんのように、何か本の形をした物を具現化して行う能力だろうか?
「厨房に生きたネズミもらいに行って、実験してたよ。苛めたりはしないからって」
 ゴン君の言葉で疑問が深まる。
 苛めないけど実験に使う……。
「ジェリーって名前付けてたぜ。どうせ後で逃がさなきゃならないのにさ」
 名前まで……。
 まさか……飼う気?
「あ、始まるっす!」
 ズシ君がまるで我が事のように気合いを入れて拳を握った。アキラ君と一緒に武術の練習をしているから、二人は仲が良い。
「がんばれー」
 私はとりあえず手を振ってみた。するとアキラ君が手を振り返す。相手のザ○ギエフ風と目が合い、その瞬間、彼はアキラ君を鬼の形相で睨み付けた。
「この、リア充めっ」
 よく分からない難癖を付け始めたように見える。
「りあ……何を言ってるんですか? あの男性は」
「ああ、なんつーか……簡単に言うとさ、女の子に応援してもらってるのに嫉妬してるんだよ」
 私の問いにキルア坊ちゃまが答えてくれる。その様子から、かなり歪曲して説明したのだろう。
「なるほど。でも、なぜアキラ君は泣きながら反論してるんでしょう?
 私に応援されるのが嫌なのでしょうか?」
 何も泣かなくてもいいじゃないか。私の自然の中で鍛えられた視力で、彼の目尻に涙が浮かんでいるのが見える。彼女じゃないと地団駄踏んでいる。
「嫌だったらチケットなんて用意しねーよ。ほら、アキラ、彼女いた事ないから」
「え、無いんですか?」
 てっきり彼女の一人はいた事があると思っていた。
「好きな女の一人もいたら、あんなに泣かないだろうから本当なんじゃないか? あの格好も、母親の趣味に合わせたら自分も好きになっただけみたいだしさ。母親の事とかよっぽど強烈なのか、けっこう記憶があるらしいんだよ、あいつ」
「そうなんですか。カルト様のようなものでしょうか」
「ああ、そうかも」
 私もいた事がないから人の事は言えない。
 しかしこの世界では、思いつく限り彼の好みに合いそうな女性との出会いはない。むしろ全力で逃げたいタイプばかり。
 まあ、それはキルア坊ちゃま達にも言える事だし、彼女作りは当分先だろう。
「ミルキ坊ちゃまとジャポンにでもナンパとかに行けばいいのに。小柄な女性はけっこういるんですけどねぇ」
「アヤノ……」
 キルア坊ちゃまが私を見る。私はキルア坊ちゃまを見つめ返す。
「まあいいや。もう始まってるぜ」
「あ、本当だ。あきらくーん、がんばってぇ」
 私は声援を送ってあげる。近いので、彼等の耳にも届くだろう。
 相手の選手の猛攻が激しくなり、アキラ君は逃げるので精一杯になる。
「アヤノ……追い打ちだろ、今の」
「え……じゃあ、私黙ってた方が良いですか?」
「だな」
 私が口を閉じて試合場を見ると、アキラ君が腰に巻いていた大きな紗の布を外し、手に持ち、身に纏い……。
「き、消えた……?」
 驚いていると、突然アキラ君がザンギ○フの背後に現れ、その膝裏を蹴り、体勢を崩す。その身体は半分見えず、何か……おそらく先ほど腰に巻いていた布を身に纏うと再び完全に姿が消える。
 この状態であれば、凝をしても何も見えない。
「なんですか、アレ」
「オレ達にも見てのお楽しみって……どこにいるのかマジでわかんねぇ」
「完全に姿と気配を消せるだけでしょうか。すごいですけど……」
「ああ、すげぇけど……」
 地味すぎ。
「能力の幅は広いから、実戦の中で能力そのものを使うのは難しいって言ってたよ。今も完成させてから試合してるんだって。能力も他にも色々とあるみたいだよ」
 ゴン君が不思議そうに一人で踊るザン○エフを見ながら言う。たまにアキラ君が姿を見せる。攻撃する時は、どうしても被っている布がはだけたり、オーラが漏れてしまうからだ。わざと見せているような時があり、それが様になる。計算して見せているのか。
 やがて10ポイント先取し、アキラ君が勝利する。
 なんていうか、観客席は沸いていたけど、試合的には盛り上がりが無くて、すごくつまらなかった。





 私達はアキラ君の部屋に集まっていた。
「で、何で派手なアキラが、あんな地味な能力に……」
 キルア坊ちゃまの問いに、アキラ君は笑みを浮かべた。
「あれは透明マントだ」
 胸を張って言った。
「今使えるほどの効力があるのは、あれぐらいだから使ったけど、あれはメインに考えた能力じゃないんだよな」
 アキラ君は腕を差し出し、本を具現化する。
「今はわかりやすいのないなぁ。バインダーで、中にカードが入ってるんだ」
 カード……。
 ふと、聖騎士の首飾りが脳裏に過ぎる。
 アキラ君がページをめくって首を傾げた。私達が後ろから覗き込むと、目が点になった。
「アキラ……何これ」
「カカシ」
 うん。はめ込まれたカードに、ナルトのカカシが書かれている。あと説明も。
 思わず私はアキラ君の後頭部を叩いていた。
 ガス、ガス、ガス、と。
「ミルキ坊ちゃまと何か企んでいると思えば……っ」
 完全にミルキ坊ちゃまも面白がってそそのかしたとしか思えない。
「まさか……漫画のキャラの能力の再現とか?」
「いや、透明マントは映画だから漫画だけじゃないよ。キャラデザがはっきりしてるなら大丈夫」
 そんなんどうでもいいし。
「む、無理でしょ。メモリ無駄使いにもほどがあるわっ」
 あまりにも凄い能力は、使い勝手が悪くて威力も落ちるし戦闘中にも容易には使えない。
「うん。だから能力はカードが完成したら終わり。一度使うと白紙になってバインダーの中に戻る。能力は威力やら何やらに制限有り。苦労するのは作る時だけ。メモリの無駄遣いってさ、ようは戦闘中とかに困るんだよ。カストロさんはダブルそのものはちゃんと作れてただろ。ただ、戦闘中にダメージを受けて維持する事が出来なかっただけだ。つまり、多少無理な能力でも、戦闘中に使わなかったら案外いける!」
 素直なゴン君が、感心したようにアキラを見ていた。
「いいなぁ。あのマント格好良かったよ! テレビで見たイリュージョンみたいだった!」
「分かってくれるのはゴンだけだ!」
 アキラ君はゴン君を締め上げてはしゃいだ。息できないから。
 最近、私はこの子がますます理解できなくなってきた。
 私達は、心の底から理解し合う事は一生無いんだろう。
 はしゃぐアキラ君を落ち着かせ、何でこんな能力にしたか、どんな能力なのか聞くと、彼は嬉しそうに話し出した。
「基本的に装備品に特殊能力を付加させるんだ」
 装備品って……正直、意味が分からない。
「カードは全部手書き。一回使うともう使えない。
 オーラも集中力も大量に使うのは、カードを作る時。作ったカードはバインダーの中でキープされて、使う時には相応のオーラを込めるだけ」
「まあ、それならメモリを多少無駄遣いしても良いかもしれないけど」
 私はため息をつく。
 そう言われてみれば、コルトピさんの異様に便利な能力は、落ち着いた所で、集中して行っていた。焦るような要素がなければ……つまり戦闘中などでなければ、意外と凄い能力は作れるという事だ。
 しかも手書きの部分がネックになり、クロロさんには盗まれそうにもない。
 でも、それって……将来旅団に誘われないか? クロロさんと被っているようで、クロロさんと違って補助なのだ。かなりレアな能力なのは間違いない。
「どっちかというと、メモリの無駄遣いしても問題ないように考えて作った」
「なんて言うか……ヒソカさんの対極を行く、捻くれた能力ね」
 何か決意していたから、立派な能力を作ってくると思っていた。私はそう心の奥底では信じていた。
 積極的に無駄遣い方向に進むとは思いもしなかった。この子は私の予想の範疇を超えている。斜め上。そこが怖い。ある意味ゴン君並みに侮れない部分がある。あっさりと旅団救出に手を出そうとしたり。
 まあ、でもこの能力なら、こちらをクラピカさんに気付かせずに、旅団にほんのちょっと手を貸す、というのは可能だ。除念してしまったら気付かれるだろうが、ほっといても条件さえ揃えなければ死ぬわけではないから、すぐ除念しなければ良いだけだ。除念してもらえるんだから、数日ぐらい待ってくれるだろう、きっと。
「でも、それって使い物になるの?」
「なってただろ。透明マントは三分しかもたないけど」
 ウルトラマンか、君は。
「……時間制限が誓約なの?」
「ううん。時間と威力。能力自体には殺傷力を持たせられない」
「殺傷力?」
「そう。さすがに固い物で殴りつけたら傷つくだろうけど、火の玉飛ばして怪我させるような能力は使えない。無理に使おうとしても、怪我しない程度の熱の固まりにしかならない」
 念での攻撃は捨てている、と。
「細かい事は省くけど、あの透明マントは多少のオーラなら隠してくれる。
 ただ、音とかそういうのは隠せないし、下手に動くとめくれるから完璧じゃない。布は大きい方が隠れやすいけど、大きすぎると見破られやすくなる。大きなマントで練なんかしたら繊維の隙間からオーラが漏れてバレやすくなる」
 そりゃあそうだろう。本人も気付いていない欠点が山ほどあるはずだ。
「アヤノちゃん、これ持って」
 アキラ君が私にカードを差し出した。ラムちゃんが書かれたカードだった。アニメ調のフルカラーのイラスト。無駄に上手い。サイズは長財布より少し大きいぐらい。
「オレの能力は装備品に力を与える物だからさ、こうやってカードを渡せば他人でも使えるんだ。能力を使うと相応のオーラを消費する。
 作る時はオレの、使う時は装備者のオーラで、装備品の力が決まる。
 でも能力そのものの殺傷力が制限されているから、これを使う事で人が死んだりする事はない」
 そこまで言って、アキラ君は考え込む。
「説明に悩むほど無駄に誓約を付けたと?」
 この沈黙の答えを、私はそう取った。
「まあ、そうなるかな。でもアヤノちゃんだって無駄にたくさん誓約あるだろ。身内には説明しないと、効果半減って所も似てるかも」
 一体何でそんな能力に……。
「とにかくそのラムちゃんみたいな攻撃系だと、人が死ぬような電撃は絶対に出ない。せいぜいスタンガンレベル。制限時間内ならオーラを使えば何度でも電撃を放てる。ただし、最長で一日。24時間を準備されているカードの枚数で割られる。今はそれ合わせて4枚のカードを準備しているから、そのカードの最長持続時間は6時間。
 実際の持続時間は作ったオレとアヤノちゃんの実力折半。カードの下に描いてある」
 4H、と書かれていた。
「長っ……。そういや、オーラ量は多いんだっけ。オレが足引っ張ってても長いな……。ヒソカに持ってもらった時でもこんなに長く数字が出た事ないのに」
「まあ、オーラ量と円の広さには自身がありますけど……ヒソカさんまで巻き込んでたんですか」
「オレと闘うのに興味なくしてくれたよ。これだけでもすげぇ嬉しい」
「わかりませんよ。いつか美味しそうだと思う成長を遂げれば……」
 アキラ君の頬が引きつる。
「でも完全に補助的な能力だよ。むしろサポートするために作った能力だし」
 サポート……アリ編の事を考えたのか。
 つまり、自分ではなく、他人を強化できる、自分より強い人に使ってもらうと便利な能力……。透明マントは逃げやすいように。
 確かにさ、命は大事に的な手紙はもらったけど……
「何もそんなとこばっか、アヤノを見習わなくてもいいだろ」
 キルア坊ちゃまに突っ込まれた。
 ついでにクロロさんも見習っているはず。
「でも便利なんだって!」
「いや、確かにさっきのマントは便利そうだけどさぁ、攻撃する時はオーラ漏れてただろ。オレはてっきりものすごい攻撃とか、そういうのを想像してた。お前、派手なの好きっぽいし」
「やだなぁ。オレなんて地味だって。積極的に前に出るより、後ろの方で無責任に応援してる方が似合うし」
 うわぁ、無責任と言い切ったよこの子。
「あのなぁ……」
「それにオレ隠を使えないから、攻撃する時漏れるのは仕方がないの! これは尾行、逃走用なんだからな! 威力を落としても止まってれば見つからないし」
「ああ、確かに尾行にはいいな。時間があれば」
 絶が苦手なアキラ君でも、ゆっくり歩けば逃げ切る事が出来る。時間があれば。
「でもキルアみたいなのが使ったら、むちゃくちゃ強力なアイテムになるだろ。廃業しても、スタイルが変わるわけじゃないんだ。あ、使いたかったら言ってくれ。人に貸すのも自分の能力を知るのにいいしさ」
「んじゃ貸して」
「今は無理。作るのに四時間かかる。力尽きるから寝る前に作るんだけどさ」
 そうか。他の二人が修行している時間、ずっとそんなの作ってたのか。修行にはなるけどさぁ……。
「んじゃ、兄貴が来た時に貸してよ」
「ダメ。イルミさん殴るつもりなら絶対ダメ! 後が怖すぎる!」
「ちっ」
 キルア坊ちゃま、恐ろしい事をお考えに……。
 アキラ君がノリで貸してしまい、実行しなくて良かった。アキラ君はイルミ坊ちゃまには逆らわないから、有り得ない事なんだけど。
「その代わり、車輪眼なら貸してやる」
「何それ」
「うーん……攻撃を見抜く目。一瞬先が分かる……のかな? ただし、オレだと10秒しか保たないから、実はよく分からん」
 うわぁ、意味ない。10秒で片が付くような相手なら、そんな能力無くてもどうにかなるし。
「能力との相性で伸びるみたいだけど、キルアも似たり寄ったりな秒数だから。
 あ、言っとくけど、オーラ量はオレの方が多いからな。毎日気付いたら朝になるぐらい絞り出してるんだから」
 正しい修行方法ではある。しかし、10秒って……。秒単位もあるのか。伸ばしてもせいぜい5分、10分とかそのレベルだろう。5分も戦闘中に相手の動きを読めたら十分強力な能力といえるけど、それが見込めるのはクロロさんレベルだろう。身近に使いこなせる人がいないと意味がない。アリ編で会長にでも渡す? でもオーラを余分に消費するから、意味ないか。
「でも、弱い内は本当に自分で使えないですね、その能力。どうしてそんな能力になったんです?」
 威力はクロロさんの反則的な能力とはほど遠いようだが、浅くとはいえ何でも出来る能力なら、育てればかなり便利には違いない。
 違いないが、こう……何というか、呆れが先に出てしまう。
「劣化番ドリム・ノートにしようと思ってたんだ。ノートに書いた事が本当になるって力。広く浅くでいいと思ってたから」
 元ネタがあるんだろうが、さすがに分からない。
 まだ魔法とかに走るなら分かるけど、なぜそんな方向に……。
「けどさ、貸したりするためにカードにしたんだ。カードなら枚数制限とかしやすいしさ。
 この世界に実在する能力者を描いた場合は、カードに書いたキャラの本人からちゃんと説明して了承を得て、その人の持つ念能力を全てカードに封じ込める事が出来る。でも使える能力は設定した一つだけ」
 カードに念能力を封じ込める……。
 やってる事はクロロさんと似ているけど、本人の了承が必要って言うのはものかなりハードルが高い。だからこそ可能なのか。
 それよりも重要なのは、 念能力ごとカードに封じる。おそらく、他者にかけられた呪いのような念能力も含むのだ。
 それはつまり呪われたカード。
 聖騎士の首飾りで、除念に使える可能性がある。
 その可能性を試すためにカードにしたのだろう。ノートとカードの違いだけだが、ノートよりも悪くはない制限と利点が出来ている。
 除念も念能力をそのままカードに封じる必要があるため、相手との信頼関係が必要だけど、クロロさん達のあの様子ならきっと信頼してくれるだろう。二人きりなら信じなくても、周囲に人がいれば、何か余計な事をしたらボコればいいとでも思ってもらえると思う。
「アキラ、これ使う時ってどうするの?」
 ゴン君が私が手に持つカードを見て問う。知らなかったら貸してもらいようがないから、聞いておかなければならない。この能力、明らかにキルア坊ちゃまの充電用である。
「アヤノちゃん、このヘッドホンつけて。頭の角として出るから」
 装備品って、そう言う事なのか……。
 私は受け取ったヘッドホンを身につけてみた。
「アムドって言い終わると同時に、カードにオーラを込めて」
「ええと、あむど?」
 首を傾げながらカードをオーラで覆う。
 するとカードが光り、私は光に包まれる。
「ちょ、まぶしっ」
 はじめに言ってくれと思いながら、私は目をつぶる。
「えぇぇえ!?」
 ゴン君とキルア坊ちゃまの悲鳴に近い声。
「ぬおおおっ!」
 え? 何?
 私は目を開き、まず最初に視界に入った、自分の髪がおかしい事に気付いた。緑色なのだ。
「はぁ!?」
 自分の身体を見下ろすと、あの露出度の高いトラビキニを身につけていた。
「な、な、な……」
 顔が引きつり、身体が震える。
「あ、オーラ込めると電撃放るよ。それ、自分も感電するから」
 あ゛ぁ?
 私は絶をしてアキラ君の腕を掴んだ。
「実はある程度の条件をクリアした人が合い言葉を言いながら発動させると、衣装も全部装備できるんだ」
 悪びれもなく満面の笑顔で言うアキラ君。
「なんでアムドなの」
 私の声が、自分で驚くほど静かだった。先に何が待っているか分かっているはずのアキラ君もまた、清々しい笑みを浮かべている。
「え、だって変身とかじゃあ、絶対やってくれないか……っぅお」
「意味のないもん作ってんじゃないのっ!!!」
「ぐを……」
 腕を捻り足を引っかけ、倒れ込もうとした所をチョークスリーパー。
 一瞬で陥落したアキラ君に、さらに蹴りを入れる。
「はぁはぁ……って、元に戻らないっ!?」
「アキラ、作った時には完結してるって言ってたから、発動させたらアキラの意志とか関係ないんじゃないか?」
 キルア坊ちゃまが背を向けて言う。アキラ君と違って紳士的だ。
「え、じゃあ、私、四時間このまま? ちょ、脱げない、取れないっ、引っ付いてる!? いやぁぁぁあっ」
 私は呪われて変色した髪を振り乱し、アキラ君のベッドのシーツを身体に巻き付けた。
 女の子が肌を見せるには、色々と準備が必要なのだ。手足のでない格好をしていると、色々と手抜きをしてしまうから、簡単には脱げないというのにっ!
「オレの服持ってこようか? 男物だけど、その格好よりはいいだろ」
「はい。お願いします」
 うう、泣きそう。
「って、仕事に間に合わない……」
「たまには休めばいいだろ。オレから言っとくからさ。下手に帰るとまた写真撮られそうだからやめとけよ」
「は、はい。申し訳ありません」
「そんなに気にするなって。そういう髪色も似合うからさ」
「うん、すっごく可愛いよ。お化粧も変わってる。念って凄いんだね」
 化粧って、あの青いアイラインに?
「あとでアキラにはたっぷり説教しておくからさ。この部屋好きに使っていいよ。ベッドも毎日シーツ取り替えてもらえてるから綺麗だし、夕飯もけっこう美味い惣菜屋があるから買ってくるよ」
 つまりは外に出るな、と。
「も、申し訳ありません。お世話になります」
「どうせこのバカの金だから気にすんなって」
 キルア坊ちゃまはアキラ君を引き摺って部屋を出て行く。自業自得だ。
 恐る恐る鏡を見ると、本当にあの釣り目メイクだった。髪とかメイクも装備品扱いなのか?
 というか、髪、本当に元に戻るのか? 戻らなかったら、バリカンで丸坊主にしてやる。
 確かめようにも、4時間待たなきゃならないし、せっかくだからアキラ君のベッドでふて寝することにした。
 元の黒髪に戻りますように。


あとがき
オレ俺TUEEEではなく、原作キャラもっとTUEEE能力です。
もしくは逃亡用。逃げるが勝ち。
二次元の能力パクるのはありがちなので、自分なりに工夫を凝らしてみました。
同類とは、もちろんアヤノの事です。



[14104] 36話 捕食できない アキラ視点
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/02/19 23:43
 床に落とされた衝撃で目覚め、ぼーっと天井を見ていたら、隣にしゃがみ込んだキルアに殴られた。
「アヤノになんて事すんだよ。あれでも意外と奥ゆかしいんだぞっ」
「あ、ミルキと同じ事言ってる。やっぱ兄弟だなぁ」
 もう一度殴られた。今度は痛かった。
 ひどいひどい。
 いや、オレが悪いんだけど、欲望に勝てなかった。だってラムちゃんは巨乳の子に限るから!
 アヤノちゃんはやっぱり二次元的な体格だった。ミルキが惚れるのも無理はない。あの恰好で等身大のフィギュアに紛れて立ってたら、違和感なさそうだし。いろんなレイヤーさんを見てきたけど、あそこまでコスプレが似合う体格の子は珍しい。
「ごめんごめん。一回どうしてもやってみたくってさぁ。反省したけど後悔はしていない」
「アホかっ」
 また殴られた。アキレス腱固めかけられた。タップアウトするが、ゴンは不思議そうに見るだけ。
「いや、マジ、いた、いたたたたっ、マジ、ちょ、いいいっ」
「だらしねーの」
「ぎゃっ」
 最後にとびきり痛くされ、オレは床で足を抱えて悶絶する。
 オレは拷問訓練なんぞ受けた事ないっての! ゴンのような痛みに耐え抜く根性もないっての!
 あー、痛かった。
「まったく、兄貴といいお前といい、アヤノを何だと思ってるんだ」
「んー……可愛いお姉さん」
「……まあ、合法ロリとか言うよりはマシか」
「まさかミルキ、そんな事言ったのか」
「言った。しかも初対面で」
「それ、初対面で失恋したも同然だろ」
 うーん。どうやって応援して良いのやら分からなくなってきた。
 まあいいや。
「でもここどこ? オレ、なんで寝てたんだ?」
「また記憶無いのかよ。お前が前に望んでたとおり、接触して綺麗に極めてくれてたぜ」
「そんなっ……記憶にないっ!」
 なんてもったいない事をっ!
 できれば電撃で痺れさせて欲しかった! ああ、もったいない! 憧れだったのに!
 いや、電撃出したらアヤノちゃんも一緒に感電するから無理だと分かっているけど、ちょっと思うぐらいならタダである。
「本当に速かったよ。ほとんど見えなかったや。やっぱりアヤノちゃんはすごいね」
 ゴンが見えない程って、どれだけ本気で締めてきたんだろう。引っ張られた記憶はあるけど、その後がないのだ。かといって、後遺症もないし、素晴らしい捕縛術の腕である。本人は弱いって言ってたけど、まさか旅団とかを基準にしての弱いだったり……。
 メンチさんはシングルハンターだし、周りが凄すぎて感覚がおかしくなっているとか。
「オレ、アヤノに着替えもってくから、ゴンこいつ見てろ」
「りょーかい」
 キルアが部屋を出て行こうとした時、隣の部屋……ここがキルアの部屋なら、オレの部屋から悲鳴が聞こえた。
 キルアがオレを見る。オレ、疑われてる? オレはここにいるのになぜ疑う!?
「女の子が悲鳴を上げるようなもんは無いって!」
 キルアは部屋を飛び出て隣の部屋のドアを叩く。俺も追いかけて、ポケットに入れていたキーを取り出して、ドアを開ける。
「アヤノ!?」
 キルアが部屋に入ると、バスローブを羽織ったアヤノちゃんが、壁にへばり付いていた。下にビキニを着ているとはいえ、これはこれでエロい!
 アヤノちゃんの視線を追うと、その先には何もない……いや、いた。
 誰もが恐れる黒い悪魔。
「ゴキブリ? うわぁ、こんな所にまであんなん出るんだ」
 キルアが脱力する。
 ここは超高層階である。しかも毎日掃除してもらっている。もちろんオレは部屋を綺麗に使っている。だからまさかゴキブリがいるとは思いもしなかった。
 女の子がゴキブリ嫌いなのは仕方がない。
「っていうか、オレ、アヤノちゃんゴキブリぐらい素手で掴んで捨てそうなイメージだった」
 意外と可愛い所がある。
 アヤノちゃんはこちらには気付かず、ひたすらブツブツと何か言っている。そんな姿もかわ……
「怖くない。ゴキブリなんて、ゴキブリなんて所詮食材。怖くない」
 待てやコラ。今、食材って言ったぞこの女っ!
「アヤノちゃん、ゴキブリは食材じゃないだろ!? ただの害虫!」
 アヤノちゃんだと本当に食べそうだから怖いけど、こんなに怯えてるなら食べないだろう。
「食材じゃない…………」
 ラムちゃんメイクのアヤノちゃんの顔が引きつり、動かぬゴキブリを一心に見る。よけいに怯え始めた気がするのはオレの気のせいか。まさか、食材と言い聞かせて恐怖を食欲で誤魔化そうとしていたのか?
 などと考えていた次の瞬間、ゴキが動いた。
 アヤノちゃんが手を差し出し、その先にあった壁が凹む。
「ちょ」
 オレの部屋の壁!
 しかもゴキは華麗に避けて飛び、選りに選ってアヤノちゃんのいる方へと……むしろ顔面目がけて飛んでいった!
「きゃああああああああああああっ」
 アヤノちゃんがうっかり練をしてしまい、電撃を発し……倒れた。
 ゴキは華麗にアヤノちゃんを避けて壁に張り付く。
 どうでもいいけどゴキ強し。
「あっれぇ? ちょっと痛い程度しか出ないはずなのに……」
 予想よりしょぼい事はあったけど、予想より強いのは初めてだ。もちろんヒソカで実験した時の結果含めてだ。
「じゃあ電撃は切っ掛けで、ゴキブリへの恐怖で気絶したんじゃないか?」
 ゴキブリのせいで精神的に隙があったって事か。
 俺達三人は顔を見合わせる。
 その間に、ゴキブリはドアから逃げた。
 とりあえず、敵は去った。
 アヤノちゃんは鬼の角をつけたまま気絶している。元になったのがヘッドホンだからか、カチューシャみたいになっている。
 可愛い。
「ってか、アキラがいるなら、服必要ないじゃん。戻してやれよ」
 オレはキルアに言われてから、はたと気付いた。
「…………え……戻し方考えてない」
「おい」
「だってオレがやるとすぐ元に戻ったから気にもならなかった。そもそも好きなキャラしかカードに出来ないし」
 むしろ萌えキャラ、コスプレしたいキャラだから、恰好で不自由しなかった。
 でも4時間はさすがに長いな。解除方法を考えておこう。いや、解除できないのを制約にするとかどうだろう。よし、考えておこう。
「ところで、この壁どうするんだ?」
 キルアが見事に凹んだ壁を指さす。
 ウイングさんが部屋の壁を破壊した時ほどひどくはないが、誤魔化すのは無理そうだ。
 どうしよう、これ。
 明後日には出ていく予定なのに。
「とりあえず、アヤノはオレの部屋に寝かせておくか。あとでゴキブリが出たって苦情出しとけよ」
 キルアがアヤノをお姫様だっこして言う。
「え、壁壊しながらゴキブリ程度で苦情出すの?」
「ったりまえだろ。つーか、こんな高層にゴキブリが出るなんて、相当ヤバイだろ。まだいたらどうするんだ。錯乱したアヤノがゴキブリ料理したら洒落にならねーって。アヤノ、たまにおかしくなるから、恐怖を克服するためにやりかねねーよ」
 ありえない内容なのに、説得力があって怖い。だって食材食材呟いていたから、キレたら実行しそうだ。アヤノちゃんは食物連鎖の頂点だし。
「うん……抗議しておく」
 ゴキブリを食べるアヤノちゃん怖い。
 錯乱してたら、俺達までそれを食べさせられそうだから怖い。
 そうだ。バルサン、もしくは類似品を買おう。
 常に持ち歩いておけば、そのうち役に立つ時が来るかも知れない。


あとがき
黒い悪魔怖いです。でもこの世界でも立派な食材なんですよね。恐ろしい。
ところで、プフってたまに羽根がゴキブリっぽくなんですか?

能力について捕捉。
車輪眼はコンタクトが必要です。
念獣とか、か○はめ派とか、攻撃力強化するような能力とか、身体能力で再現できる能力は無しです。
その他の細かい部分はそのうち作中で解説します。



[14104] 37話 くじら島
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/01/22 23:45


 ゴン君がヒソカさんに負けてすっきりしたので、主人公ご一行は天空闘技場を後にした。お仕事の関係で見られなかったのだ。試合時間はちょうど仕込みをしている時間である。社会人なので、仕事が終わらない内からあんな所で試合など見る事は出来ない。
 そういえば私って、ヒソカさんのまともな戦闘を見た事がない気がする。この世界の醍醐味の一つみたいな物なのに。
 まあ、怖いだけだから別にいい。結果はどちらかが死ぬだけだから。
 クジラ島までは数日かけて船で移動だ。移動の間ももちろんデリバリをした。船の上ではろくな物が食べられないからだ。
 今日は船がくじら島に到着するという事で、朝から一緒に船旅を楽しんでいる。ちゃんと料金は払っているので、密航ではない。不思議そうに見られているけど私はちっとも気にしない!
「アヤノが朝からいるのって珍しいよな」
 潮風を楽しんでいると、キルア坊ちゃまに言われた。
「ええ。今日はお休みなんです」
「休みの日まで仕事するなよ」
「いいえ。お世話になるのですから、奥様に代わり挨拶をしなければ」
「つーか、あのお袋がんなの気にするはず無いだろ」
「そうだからこそ、ゴトーさんと私と他大勢の使用人が気にします」
「…………」
 家族は気にしない。
 するはずがない。
 それをフォローするのが使用人の仕事である。
「ああ、でも、明日からメシは作らなくてもいいよ」
「ええ。ゴン君の味覚を育てた方なら信頼できるので、キルア坊ちゃまが不自由なさるようなことはありませんわ」
 偏った食生活にもならないだろうし、本当に安心できる。あの島は平和だし。数少ない安住の地だ。
「私、最近はカルト様の念の修行に付き合っているんです。普段はそちらに専念いたします」
「え、カルトもう念覚えたの? てゆーか、アヤノが教えたら偏るんじゃなかったの?」
 偏るとは何だろ。偏るとは。
「気付いたらイルミ坊ちゃまが……寂しがり屋だから」
「キモいんだけど」
 慣れると可愛いもんだけどなぁ。デカくてたまにしゃべる黒猫と思えば。
「それに私は一緒に折り紙をしたり、的を動かしたりしているだけですから。そういうのは向いてるんですよ。適材適所です」
 キルア坊ちゃまがふぅんと言って納得した。
「でも折り紙って、アヤノちゃん、何してるの?」
 目の周りに青あざが残るアキラ君が首を傾げた。
 思い出し殴りをした結果である。ついにはアキラ君専用おたまができたほどだ。アキラ君も反省した様子はないが、悪い事をした自覚はあるのか、殴られるままに殴られている。その点だけは潔い。
「折り鶴カッター的な必殺技が……」
「…………まあ、別にいいけどさ、紙なら。でもなんで折り鶴?」
「教えたら、妙にお気に召して。たまにセーラー服でも着ていただきたくなります」
「…………え?」
「……別にいいです」
 兄がヨーヨーだから、弟が折り鶴でもいいじゃないか。折りドラゴンもあるし。折り鶴で兎の首を刈るというのは、ちょっぴりシュールだけど。
 ドラゴンで思い出したけど、私の知らないタマって小さなドラゴンがずいぶん前から飼われていたらしい。どう折ったらいいか聞かれて、初めて騎乗用以外のドラゴンまで飼っているのを知った。
 その様子を見たゼノ様が、カルト様を叱っていたり。
 失礼な話だと思う。
「三人とも、もうすぐ着くよ。準備して」
 ゴン君がクジラ島を指さして訴えた。久しぶりの我が家が嬉しいようである。可愛い。
「くじら島ですか。楽しみですね」
 私がふふっと笑うと、アキラ君が私の肩に手を乗せた。
「先に言って置くけどアヤノちゃん、ゴンの友達食べないでね」
「失礼ですね。食べません」
「本当に?」
「ご挨拶に着ただけです」
「誓う?」
「指切りでもしましょうか?」
「いや、本当にハントしないならいいよ」
 失礼な子だ。最近こんな扱いばかりだ。私は食べてもいいと言われたら食べるが、食べてはいけないと言われた物を、その持ち主や周辺で食べようとするほど非常識ではない。
 付き合いの長いゼノ様にまで信じていただけないなんて、もうどうしたらいいのか分からない。
「私は人を騙してそんな事しません。アキラ君とは違うんです」
「ごめんなさい」
 言葉だけで反省しているようには見えないが、アレが出来るのは最初の一回だけ。もう二度と無い。
「アヤノ今日は暇なの?」
「はい。せっかくの休暇ですから、夜までこちらにいようかと」
「じゃあさ、ついでにオレ達の修行に付き合ってよ」
 どうしよう。
 いいのかなぁ……。
 まあ少しぐらいならいいか。
「いいですよ。三人のレベルでは基礎能力の伸ばし方の指導になりますが」
「それで十分」
「アキラ君は見習っちゃダメですよ。ああいう風に簡単に能力を作れるのは、それだけあの手の物に触れていたという事になりますから」
 コスプレに同人誌に、16歳にしてどっぷりオタクだったのだ。しかも母親の影響らしい。子供の頃からイベントに連れられていたそうで、一種の虐待に近い物を感じる。本人が楽しんでいたようだから、いいんだが。
「それだけはないから安心しろって」
「うん」
 子供達はとても素直で可愛い。歴史が狂う事はなさそうだ。
 船着場に到着して船から下りると、私は港から海を見る。
 海鳥が海に集っていた。あれはそんなに美味しくない。
 私は振り返り、港の先にある大自然、そこにいるだろう生き物たちが気になった。ああ、まだ見ぬ未知の味覚達。
「アヤノちゃんっ」
 思わずふらふらと歩き出した時、アキラ君に呼び止められた。
「今にも動物補食しに行きそうな目でどこ行くの?」
「魚とか、植物なら良いんですよね?」
「まあ、植物なら」
 よかった。ここ、珍しい植物も多そうだから。
「本当は普通に食べる分を狩るだけなら良いんだけど……」
「ダメだってゴン。アヤノちゃんの食い狂いは知ってるだろ。食い尽くされるぞ」
 食物連鎖を理解しているゴン君に、失礼な事を吹き込むアキラ君。
「本当に失礼ですね。私の食べられる量は、普通の女性より少し多いぐらいで普通です」
 私は美食家だが、大食いではない。胃は正常だ。
「それよりも、早くうちに行こうよ! みんなの事、早くミトさんに紹介したいんだ!」
 ゴン君が私の手を引いて歩いた。
 おかしい所は父親似だろうけど、礼儀正しい所はミトさんの教育が良かったんだろう。
 漫画の中でも、数少ない、本当の意味で普通の女性、ミトさん。
 キルア坊ちゃまに、ようやくこれが普通の女性です、と見本に出来る女性が出てきてくれた。
 ミトさんがいなかったら、きっとキルア坊ちゃまはまともな女性を知らずに大人になっていた事だろう。
 ミトさんはまさに女神の如き存在である。




「つまらないものですが」
「まあ、ご丁寧にどうも。あら、クッキーですか。人の形で可愛いですね」
 ミトさんはお土産の包みに描かれたクッキーのイラストを見て手を合わせた。
「デンドラ名物、ゾルディック・クッキーです。お土産に大人気なんですよ」
 アキラ君とキルア坊ちゃまが転けた。一人ゴン君が包みを開けて、クッキーを手にしてはしゃいだ。
「わぁ、本当にどことなくキルアに似てる! でも似てていいの?」
 キルア坊ちゃまクッキーを口に含み、首を傾げるゴン君。写真に一億だからね。
「すごい。土産物なのに、これ美味しい!」
「そりゃあそうです。
 昔は似てなかったんですけど、余りにも不味くて不細工だったので、私が指導し形と味を直させました」
「何してんだよっ」
 キルア坊ちゃまは、地元の事でも知らない事の方が多い。彼の知識のほとんどは、自分の経験ではなく、知っているだけの事である。
「ゼノ様には許可を頂きました。前のデザインを知った時は、奥様はそれはもうお怒りで」
「ってか、そんな土産物まで売ってたのか!?」
「他にも色々ありますよ。これはゾルディック・チョコです」
 キルア坊ちゃまが頭を抱える。扱いがまるでパンダのようである。
「あと、こちらが私の作ったマドレーヌに、こちらがこのあたりでは珍しい香辛料です。ゴン君の味覚が鋭いので、保護者の方はきっとお料理上手だと思いお持ちいたしました。肉や魚に良く合うんですよ。使いやすいですし、ぜひお試し下さい」
「あら、本当にどうもすみません」
「いえ。キルア坊ちゃまがお友達の家にお呼ばれするなんて初めての事で、勝手が分からない事でご迷惑をおかけするかも知れませんので」
「とんでもない。いつもうちのゴンに色々と食べさせてもらっていたそうで。だからお互い様です」
 大人の会話に子供達は退屈そうにしている。
「そうだ。ゴン君、ミトさんにハンターライセンスを見せて差し上げなきゃ」
 私がいたから、ゴン君達があまりミトさんと話していない。いつまでもミトさんを独占していては悪いから、私から促した。
「あ、そうだね。見て!! これがハンターライセンス」
「ふーん、けっこう普通ね…………えい」
 本当にぐにっと曲げようとするミトさん。悲鳴を上げるゴン君。
 数億で取引される物をこんな風に扱うその度胸は凄いと思う。
「何すんだよもー」
「冗談よ。本気でやるわけないでしょ。それより、ごはん作る間にお風呂入りなさいよ。服も全部出しといて。洗濯するから」
 船の上では水は貴重。濡れたタオルで身体を拭くだけで、頭も洗えないし、潮の香りがこびりついている。とくに整髪料を付けているアキラ君は、将来禿げても知らないぞ。
「私、お手伝いします」
「いえ、お客さんは座っていてください」
「私、料理人なんです。それぞれの地域ごとに違う、その土地の味に興味があるんです。ゴン君はとても舌が肥えているから、きっと素敵な家庭料理を作られるのだと思い、興味を持っていました」
「や、やだそんな……」
 ミトさんは照れる姿が本当に綺麗だ。しかも普通の人。
「どうか、勉強のために手伝わせてください」
「田舎料理でよければ」
 照れ隠しで視線を逸らし、了承の言葉を返してくれた。
 可愛いなぁ。ミルキ坊ちゃまはこの手のタイプをどう思うだろうか。もちろん紹介するつもりはないが、後で聞いてみよう。
「アヤノちゃんはキルアんちの料理人なんだよ。ハンター試験で一緒だったグルメハンターなんだ」
「うっそ。こんな華奢な女の子がハンター?」
「でもオレたちよりもずっと強いんだ。後で修行を見てくれるんだって」
 完全に遊び感覚だな。子供は遊びの天才だと言うし、遊びながら学ぶ事も出来る。遊べるように修行する事にしよう。
「本当にお世話になりっぱなしですみません」
「いえいえ。私もキルア坊ちゃま達を見るのは楽しいですから」
 その後、三人はミトさんに追い立てられ、お風呂に向かった。三人で入るって、そんなに広かったっけ……。
 一人図体大きいけど……まあ気にするだけ無駄か。
 さぁて、私はミトさんの料理の腕を堪能いたしますか。




[14104] 38話 遊び
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/01/24 22:47

 私はミトさんの料理で満腹になった。
 私が満腹になるという事は、私が満腹になるほど食べてしまう程の料理であったという事だ。
 荒い部分はあるが、とても美味しくて参考になった。さすがは海に囲まれた場所なだけあり、海産物の調理法が見事である。この島独特の魚醤もクセはあるが美味しかった。良い物を知った。
 皿洗いを手伝おうとしたら、ミトさんに断られ、ゴン君達に外へと連れ出された。
「いい所ですね。食材も豊富で」
 私は通りすがった小動物を見て呟く。
「アヤノちゃんダメだよ」
「しつこいです。私だっていきなり食材確保に走ったりしません」
 本当に失礼である。ちょっと美味しそうだと思っただけなのに。
「でも本当に、自然が豊かですね。ククルーマウンテンはすべてが弱肉強食なので、心が和みます」
「ククルーマウンテンでも、アヤノちゃんが食物連鎖の頂点なんだろうな」
 当たり前じゃないですか。念使いが普通の動物に負けてたら終わりです。
「今夜の夕飯、何に致しましょうねぇ」
 さっきゴン君が、森で何か取って食べると宣言していたから。
「魚にしよう。魚に。平和的に!」
「失礼ねぇ。私はそんなに見境無くないわよ?」
「嘘だっ! 旧支配者達を捕食しようって人が、見境なんてあるもんかっ!」
「それとこれは別。ウサギは試験の時喜んで食べてたじゃない」
「ウサギぐらいならともかく、アヤノちゃんはそこらの虫とか、変な物捕食しそうじゃん」
「しつれいな。世間でも食べ物扱いされているんですよ。芋虫とかクリーミーで美味しいんですよ。チョココーティングして食べている所もあるんですよ」
「うげぇ」
 三人が呻く。
「オレには想像も無理」
「口に入れただけで吐きそう」
「いろんな食生活の所があるんだねぇ」
「だから押しつけていないじゃないですか。私は他人の好みを見抜くのも得意なんですよ」
 彼等の好みをバランス良く取り入れた料理は、口にあったはずだ。とくにキルア坊ちゃまの好みは全て把握している。
「オレはそういう冒険はしたくないなぁ」
「だから自分だけで冒険しているんです。休みの日はいつも日帰りで秘境に行っていますし」
「日帰り……」
 それに今のところ、目的は蟻だ。それ以外は後でもいいから、簡単に行ける所だけでいい。今はこの子達を育てるのが先決である。だから長期休暇以外は、せいぜい一泊程度で済む場所にしかいけない。
「夕飯の事は後で考えるとして、とりあえずは遊ぶんですよね」
「修行じゃねーの?」
「遊びながらの方が楽しいですよ」
 私達はゴン君の家から少し離れた森の中、私は切り株に腰を据えて子供達と向き合った。
 教えるのは知識だけ。
 流れを壊さない程度だけ。移動もあるから、ここに滞在する期間は一ヶ月。本格的な修行ではなく、遊びながら基礎を磨いてもらう事にしようと思う。
「習ったのは基本の四大行と応用技の凝ですね」
「そう」
「なぜそこまでしか教えてもらえなかったか、分かりますか?」
 三人は首を横に振る。アキラ君のあれは演技なのか、本当に分かっていないのか、よく分からん。
「簡単な事です。凝まで出来れば、後はすべて同じような事をしているだけだからです。応用ですから。
 ここまで知っていれば、後に繋げる、自分で発展させられる。自分で考えれば、強くなれる。そこまでをきっちり教えてくださったんです」
「へぇ」
 感心する子供達。私はにっこり笑い、彼等を一人一人見た。
「とはいっても、応用技を使えなければ、今全てを身につけている強い相手には絶対に勝てません。
 かといって、一から自分で考えてたらお年寄りになってしまいます。一から流派を興すような物ですから」
「確かに知らないと効率悪いよなぁ」
 アキラ君が腕を組んで呟いた。
 知っているから効率の良い方法を彼は取っている。同じ船室で寝るようになってからは二人も真似ているようで、一度付けた差もすぐに追い抜かされそうだけど。
 二人はそういう発想について、アキラ君を評価しているみたいだけど、私から見れば『知っているから』であるため、評価の対象にならない。
 まあ、発想自体は奇想天外な部分があるのは事実だと思うが。
「今はそれを自分で見つけるか、もっと詳しく教えてくれる達人を見つけなさい、という状況です。
 あの短期間でここまで教えられたのが奇跡的なので、ウイングさんがケチったわけではありませんよ」
 三人は素直に頷く。
「三人はまだまだ基本すら甘いです。ですから応用技を使うための基盤を作りましょう。基礎がしっかりしていなければ、応用を教えるだけ無駄です」
 本当は、全部教えてしまったらビスケに会った時に必要以上に反発してしまいそうだから、ほどほどにという事なんだけど。
 オーラ量を増やし、オーラの扱いを上手くするような修行なら問題ないはずだ。
「凝をして下さい」
 三人は気合いを入れて凝をする。慣れていないから力みすぎている。これだけで彼等が初心者である事が分かる。
「今、目で凝をしていますよね」
「まあ」
「それ以外の場所でしてみて下さい」
「え?」
 戸惑う彼等を見て、私は指先で凝をする。これを自分の思うように加減し、流れるように行うと、流と呼ばれる物になる。それが難しい。包丁で野菜をぶつ切りにするのと、桂剥きぐらいの難易度の差があるのだ。
 私は指先にオーラを集める。近くの木に寄り、
「えい」
 指先一つで木を倒した。縦に割れないようにちょっと工夫したけど。下手な倒し方をすると、周りの木を巻き込む。間伐は必要だが、他の木を巻き込んだら間伐とはとても言えない。
「おお、爆砕点穴!」
 アキラ君が騒ぐ。有名作品の主役級なら分かるけど、アキラ君はマニアックすぎて、私には理解できない。
「指どうなってんだよ」
「どうなってます?」
「えと……オーラが集まってる」
「これを何というか分かります?」
「……指先に凝をしたのか!」
 私はにっこりと笑った。
「そうです。こうやってオーラを集めると攻撃力が上がるんですよ。だから凝までが念能力者の戦いに必要な基礎だというのが、これで分かりますよね」
 三人はこくこくと頷く。分かっていたはずのアキラ君も、目の前で見て初めて実感をしただろう。
 私はキルア坊ちゃまに手を向け、額に手を伸ばす。
「えい」
「ぐわっ!?」
 キルア坊ちゃまがモロにオーラを額に受けて尻もちをつく。纏をしていたからちょっと赤くなっている程度だ。
「ってぇ。いきなり何すんだよ」
「気を抜くからですよぉ」
「でも嫌な感じは……」
「オーラは隠す事が出来るんですよ。よーく見ないと分からないように。これを絶の応用技、隠といいます」
「ああ、ヒソカがやってたやつか。つまり凝をし続けろってこと?」
「し続けるのではなく、相手のおかしな動作に気付いたら、凝をする癖を付けておくんです。勝てなくても逃げるのに役に立ちますし。ヒソカさんの能力だって、付けられる前に逃げ切ったらいいんですから」
 三人が私らしい言葉に顔を引きつらせる。
「何にしても凝の訓練が大切なのは分かりましたよね。ヒソカさんみたいに何でもないように見せて油断を誘い、実は攻撃されていたってなると困りますし、少しでも違和感を感じたら凝。これが基本です」
 私はもう一度おでこをつつこうとして、避けられる。
「この場合は避けられるから良いですけど、避けられない体制だったりしたらどうします?」
「ええと……」
 避けられない。
「指先に凝をして攻撃力が上がっているのはわかりますよね。だから纏ではガードしてもダメージを負います。練の状態でも同じですね。練を集めた物ですから」
「ああ……ガードする所で凝をすればいいのか」
「そうです」
 本当はビスケが教える事だけど、この程度なら大して変わらない。詳しい理屈は事は教えずに、遊びで疲れ果てるまで修行の出来る程度の知識を与えるだけ。
 素直に三人は試すが、上手くできないでいる。知識のあるアキラ君が一番下手くそだ。発から発展する固有の念能力は、基本が出来ない一般人でも出来てしまうものである。だからこそ彼の逞しい想像力で一足先に実現できたのだ。つまりオタク気質なほど、天然の念能力者になりやすい。だから発はできるのに、他が苦手というのも不思議ではない。
「本格的な念能力者同士の戦いに不可欠な技能なんですけど、そもそも練が数分しか出来ない状態じゃあ問題外なんですよね」
「だから基礎が中心なんだ」
 ゴン君が右手に凝をし、いったんやめて次は左手に凝をする。力加減をしていないから、それだけで疲れている。
「他の応用技の概念を教えてもいいんですけど、今はやっぱり練の持続時間を上げる事が優先です」
 ちなみに、アキラ君は15分から20分ぐらいという自己申告。
 10分延ばすのに早い人でも一ヶ月はかかる。さばを読んでいると考えても、並みよりは早いペースではある。
 ただ、一人だけ練をちゃんとできるようになるのに数日遅れだったらしく、二人に並ぶような天才ではないようだ。纏をする時も一人だけちょっと死にそうな目にあったらしいし。素数は無理だから、羊を数えて落ち着いたらしい。オタクの思考は意味が分からない。
 念能力に関してはあんぽんたんだと思うが、後衛と思えば、まあ前衛の二人のようになる必要はない。
 私も時間がたっぷりあるからのほほんとしていたとはいえ、練をちゃんと出来るようになるまでに一週間かかったから人の事は言えないけど。
「メンチさんに教わったって言うか、お酒を飲んでいる時に遊びで始めた事なんですけど、ジャンケンして勝った方がハリセンで叩いて、負けた方が防御する遊びがあるじゃないですか。あれをオーラで攻防するっていうのをやったんですよ。初心者の頃は道具を使わず、やりやすい腕とか足とかで」
 実は組み手よりも上達した方法である。私には組み手は向かなかった、とも言う。
「へぇ、面白そうじゃん」
「他に楽しそうなのは……足にオーラを集めれば、蹴る力が上がり、高く飛べたり速く走れたり致します」
「そんな事も出来るのかよ」
「せっかく広くて素敵な場所だから、遊びながら練習いたしましょう。楽しい方が、上達が早くなりますからね。この広大な土地を使って、どうやって遊びましょうか」
 主に子供二人がワクワクしながら私を見ている。アキラ君はちょっと呆れて私を見ている。そこまで教えて良いのかとでも思っているのだろう。
 アキラ君が付けた差は、この子達がちょっと本気を出せば簡単に埋められる程度の差だからね。
「えー……鬼ごっことかかくれんぼとか?」
「じゃあ、両方やりましょう」
 私は荷物の中からコックさん達を取り出した。
「この子達は私の操作系能力、私の可愛いコックさんです。わずかにオーラを纏っているのが分かりますね?」
 三人は凝をして頷いた。
「攻撃でもさせればはっきりとオーラが見えるようになりますが、動くだけなら隠みたいになっちゃってるんです」
 獲物を追っていない時のこの子達の目立たなさは一種の武器にもなるほどだ。
「この子達とかくれんぼです。ちゃんと凝をすれば多少隠れていても、オーラで分かります。隠れているこの子達を見つけて、捕まえて下さい。凝は全力でやらなくてもいいんですよ。オーラをかなり消費するので、加減出来るようになるのがベストです。動きながらいつでも凝を出来るようになる。加減して……カメラのズーム機能をみたいに、自在に調整できるようになるとさらにいいですよ。
 あ、逃げますけどヌイグルミなので優しくしてあげて下さいね? 念攻撃すると破れちゃいます。いつも私と一緒に寝ている綺麗な子達ですから、綺麗に捕まえてあげてください」
 そう言ってから私はコックさんズを森に放つ。見つかったら逃げるように指示を出しておいた。
「全部で7体と私。誰が一番多く捕まえられるか競争です」
 子供は競争させるとやる気を見せる。競争がないと、伸びが悪い。地元民でない私が隠すから、誰が有利という明確な差もないだろう。土地勘のないキルア坊ちゃまの動きが慎重になる可能性というのは高いけど、地力が一番高いのも坊ちゃまである。ハンデとしてはちょうど良い。一番不利なのはどうせアキラ君だし。
「じゃあ、よーい、スタート」
 私と子供達は、同時に走り出した。
「なんでその恰好で速いんだぁぁあ」
 アキラ君の叫びが聞こえているが、何年こんな恰好で食材ハントをしていると思っている。



[14104] 39話 夜遊び
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/01/31 11:10

 大自然は素敵だ。
 見た事のない食材をこっそり荷物に紛れ込ませたりしつつ遊び、現在は湖の畔でみんなと一緒に夕飯を作っている。漫画の一巻で見た沼とは違うらしく、ちょっと残念。でも水は澄んでいて綺麗だ。お友達のキツネグマとここでよく遊んでいたらしい。
 アキラ君は今後のために獲物をさばく練習をした。
 コンが用意してくれた魚だけでは足りないし、ゴン君が食べる分を狩るのは良いって言うから鳥とウサギをハントした。キツネグマは珍しいが、この島だけに生息しているわけではないので、すでに近い種類を食べた事がある。
 というのは内緒。
 アキラ君は上着を脱いでまずは鳥を処理している。
 これぐらい出来ないと主にアリ編のサバイバル生活で困りそうだったからやらせた。アリ編がなくても、ハンターのくせにサバイバル技能が低いのは問題である。
 彼は涙目になりながらも、鳥をしめて解体している。
「そう。上手上手。売り物じゃないし、汚くてもいいからね。それが終わったらウサギ」
 アキラ君は血抜き中のウサギを見てうっと呻いた。
「前食べてたじゃない」
「それとこれとは別。初めてで顔色一つ変えない方が不気味だろ。魚ならともかく」
「魚はいいの?」
「子供の頃はよく釣りしてたし」
 まあ、魚はほとんど血がでないし、スーパーにも丸ごと売ってるしな。
 初めてで平然と動物を解体するような高校生がいたら、ちょっと不気味だ。必要でもなかったのに、仕留めたばかりのウサギを平然とさばけるような子だったら、はっきり言って将来の心配をしてしまう。
「これも訓練よ」
「だな。こんなんでビビってたら、一人で樹海に迷い込んだ時に困るだろ」
 キルア坊ちゃまは、実家の敷地内に樹海が広がっているから、かなり切実な言葉である。
 アキラ君が選んだ道は、将来そんなような場所をうろつかなければならない。樹海如きで迷って飢え死にしていたら終わりだ。
「ええ、私は困りました。本当なら捕まえやすい芋虫とか蜥蜴とか平然と食べられるようになるべき何ですよ」
「トカゲは食べれるだろ。虫は勘弁だけど。
 でもアヤノでも迷うんだ」
 キルア坊ちゃまが意外そうに言った。
「もちろん道具もない深い森では迷います。私の場合、電話さえあれば戻れますから何の心配もないのですが。
 それが壊れても支給されている何かが生きていたら、救出に来ていただく事も出来ますし。そんな事は今までありませんでしたけど」
「そりゃそーか。何かあったらミルキが見つけるか……って、まさか発信器とかつけられてないか? 帯の中とか仕込みやすそうだけどさ」
「えと…………」
 私は首をかしげた。レースのついた可愛らしいがしっかりとした帯。帯飾りは確かミルキ坊ちゃまに頂いた物である。ストラップ他、こんな所にも仕込み放題だ。
「気をつけろよ。ああいう男がストーカーになりやすいんだ。使用済みのスプーンとかコレクションしてたりするかもしれないぜ」
 キルア坊ちゃま、兄上をいったい何だとお思いですか。いくら何でもその手の変態的というか、変質者的な収拾癖はないと思う。オタクと変質者は違うモノである。きっと。
「アヤノちゃん、ネットに調べる道具売ってるからさ。ミルキ相手だと無駄かも知れないけど」
「お馬鹿さん。その程度の事はハンターなら当然行うことよ」
 確かめないわけないじゃん。
「ミルキ坊ちゃまはそんな(度胸のある)男性ではありません」
「そうかぁ? アヤノ、もう少し男を疑った方がいいぜ」
 子供に諭されてしまった。可能性があるとすればコックさんだろう。私が迷った時とか、ケータイが壊れた時に探し出せるように、私には気付かれないような方法でこっそりと。さすがに帯留めとか帯飾りは職人が作った高級品っぽいし。
 まあ、常時見張られていることはないはずだ。電波は出ていないし、オーラも出ていない。せいぜい居場所が分かる程度だろう。
 パームさんのような能力者は珍しいらしいし。
 あの人の能力はよく分からないんだよな。放出系でどうにかしているのか、世にも珍しい強化系寄り特質系なのか。
 何にしても常に盗聴されたり、風呂や着替えを覗かれていなければいい。
 鳥の解体がすみ、アキラ君は血抜きをし終えていたウサギの皮をはいだ。嫌がっていた割には、几帳面な性格らしく、綺麗に綺麗にはいでいく。
「上手いじゃない」
「器用さには自信があるから」
 私もアキラ君も、そういうところは典型的な日本人である。
 美味しいサバイバルクッキングを終えて夕飯を食べ終えると、満腹で眠気を覚えた子供達は大胆に地面に寝転がった。三人が眠ってしまったので、獣避けに火をたきながら、後片付けをする。
 一時間ほど寝た頃だろうか。
 アキラ君が起きて、ふらふらと木陰に消え、手を洗うために湖に近寄ったら落ちた。その水音でお子様達が飛び起き、私はすくすく笑いながら暖かいスープを折りたたみ式の携帯マグによそった。
 上半身裸でしょぼんとしたアキラ君は、深く、深く息をついた。
 脱いだらさすがに逞しい。
 そろそろ十七歳になるだろう。男の子というのはいつまでたっても子供っぽさが抜けないが、見た目に関しては違う。出会った頃よりはいくらか大人びた顔つきになった。まだまだ青臭いが、縦の成長はそろそろ打ち止めだろう。綺麗な筋肉もついている。
 ビスケちゃまは、一体何歳から守備範囲なのだろうか。
 ビスケちゃまに目を付けられないかちょっと心配になってきた。
 まあ、彼もビスケの趣味は理解しているだろうから、迂闊に脱いだりはしないだろう。でも、迂闊とうっかりは彼の特技だからなぁ……。
 まあ、ビスケに涎を垂らされても、害はないから……たぶんいいだろう。
 こんな風にドジで間抜けな図体ばっかりデカイ子供である。ビスケもその気にはならないと信じたい。
「本気で間抜けだよな、アキラ」
「うう」
「たまにぼーっとしてるんだよね」
「ううう……は……くしゅ」
 アキラ君は子供達に言葉でつつかれながら呻き、くしゃみをして、震えながらたき火に近寄る。
 さすがにタオルなんて持ってきていないから、彼は髪と顔を私のフェイスタオルで拭いただけの濡れ鼠である。さすがに日も暮れているので寒いようだ。
 温かい鶏ガラのスープをふーふーと息を掛けて飲む。それだけで幸せそうにするのを見ると、料理人としては頬が緩む。
「なぁ、これからどーする?」
 キルア坊ちゃまがふいに尋ねた。
「帰って寝るよね。アヤノちゃんは仕事だし」
「じゃなくて、今後の事!」
 ゴン君がああと手を叩いた。私がいるため、意志が投じなかったようである。
「んー? 8月はここで遊びながら情報収集して、ヨークシンから本格的に親父を捜そうと思ってる。おそらくいろんなハンターが集まってくるだろうから」
 しかし、私がいてもこの会話は発生するのだ。最近ずっと一緒にいるから、身内のようなモノと判断されているのかな。餌付けしているし。
「最近のアキラの事を知ってる人がいるかも知れないし」
 アキラ君なんかの事も考えててくれたんだ。本当に良い子である。お姉さん嬉しい。アキラ君も抜けていた顔に笑みを戻す。
「サンキューな、ゴン。ゴンの親父さんなら、顔が広そうだし、なんか分かるかも」
 嬉しそうににこにこと。
 ゴン君の父親は既にタクマさんが接触済みだから、アキラ君にとって得る物は少ないだろう。それでもここに来た理由やらなんやらのヒントを知っている可能性は否定は出来ない。タクマさんが死んでから、5年も経っているらしいし、最初から決まっている目標だし。何かがある可能性は、ゼロに近いがゼロではない。
「オレどーしよーかなー」
「え? キルアもここにいて、一緒にヨークシン行こーよ」
「ああ、いや、そーじゃなくてさ。お前ってえらいなーって話だよ」
 ほんとうにゴン君は偉い。私、出て行ったろくでなしの親父なんて絶対に追いかけない。
「オレってないんだよなー。お前みたいにやりたいこと。やりたくないことなら結構あるんだけどさ、家にずっといることとか、家業継ぐこととか。なんかうらやましいよ、お前が」
 私は思わず苦笑する。そのいたくない家の使用人だって忘れているのではないだろうか。
「アヤノみたいな能力があればいーよな」
「あら、私がいるから良いじゃないですか。キルア坊ちゃまのためでしたら、いつでも駆け付けますわ」
 キルア坊ちゃまが視線を逸らす。可愛い。
 アキラ君がぷっと吹き出すとキルア坊ちゃまにげしげしと蹴りを入れられる。見た目は可愛いが、双方オーラを使っていたりする。
「いたいいたい」
「嘘付けっ」
 男の子というのは馬鹿な殴り合いとか好きだから。キルア坊ちゃまとゴン君はあまりそういうのはなかったような気がする。アキラ君は純粋じゃないから無駄に殴りやすいんだろうな。マゾなんじゃないかと思うような事をたまにするし。
「キルアぁ、そう深く考えるなよ。お前の歳でやりたい事見つけてる奴なんてそういねーし。
 それに、家の事だって切り捨てるよりは、別の方向から見てみたらどうだ」
 蹴られ飽きたアキラ君が、キルア坊ちゃまの足首を掴んで言った。
「別の方向?」
「そうそう。ミルキが言ってたんだ。ちゃんと納税してて、表向きは何でも屋って」
「マジで? 目茶苦茶オープンなのに?」
 観光地だし。
「まあ、法的に色々と有るんじゃないか?」
「確かに殺し屋なんて職業、普通は裏の職業だもんな……」
 私は面向き、大富豪のお抱え料理人である。ただ、ゾルディックが暗殺者として有名すぎるだけで。かと言って、ゾルディックがやったという証拠は残さない。
「いっそさぁ、親父さん達よりもうんと強くなってから家業継いで、家を乗っ取って本当に何でも屋になるとか」
「…………」
 キルア坊ちゃまが食い入るようにアキラ君を見た。
 全員突き出すのは考えても、乗っ取りは考えていなかったらしい。
「暗殺家業でも、仕事を選ぶ義賊的暗殺者とか。必殺仕置人的な」
「んだよそれ」
 この世界にもあるのかな、必殺仕置人。どうでもいいけど。
「金もらって恨みを晴らす人気時代劇。大金払ってでも、恨みを晴らしたい人はたくさんいるからな。娘を殺されたのに、証拠不十分で釈放される奴とか。イルミさんも、アヤノちゃんを現場まで連れてったのはそういう相手の所みたいだし」
「確かにまあ、仇討ち的なところが多いですけど」
 完全に私怨で子供を巻き込むような仕事の現場は見た事がない。ないはずはないから、見せないのだろう。
「家業を切り捨てるより、折り合いを付ける方向も、少しは探してみたらどうだ?」
 キルア坊ちゃまが少し考える。
 イルミ坊ちゃまに強気で命令できるほど強くなったキルア坊ちゃまとか、頼もしすぎる。将来はそうなるんだろうか。ああ、なんだかワクワクしてしまう。
「他には行く先々でゾルディックを名乗って人助けしまくるとかして、暗殺一家よりも有名になったら面白そうだし」
「ぷっ」
 アキラ君の言葉の何かがツボにはまったらしく、お子様達は俯せになり、肩を震わせて口を押さえて地面を叩く。
 そんなにおかしいだろうか、慈善で有名になったゾルディック。
 不気味だとは思うが。
「そうですね。キルア坊ちゃまにはゾルディックとは無縁の道もありますし、レオリオさんみたいにお医者様を目指す事だって、努力をすれば出来ます」
「いや、無理だろ、努力しても」
 そんな、努力もしないで断言しなくても……。
「12歳で諦めるなよ。死ぬほど勉強すれば簡単だってきっと」
 アキラ君も無責任な事を……。
「そうだよキルア。キルアならきっとできるよ!」
 ゴン君まで無責任に薦める。
「オレは勉強嫌いなの!」
「ようは、目指すだけならできるだろ。浪人だって自分の選択の末だしさ。
 料理人とか肉屋とか魚屋とか八百屋みたいな普通の仕事も、マフィアのボスとか、正義の味方とか変な仕事も、何だってさ」
「そうだよ! そのうち何か自分に合う職業が見つかるかも知れないし、このままハンターとして旅をして生きるって道もあるよ。キルアが望めば、何だって出来るんだよ!」
 ああ、若いって素晴らしい。私は子供の頃から料理人以外では生きていけなさそうだったから、無限の可能性があり、それを選択できる段階にいる彼等が少しだけ羨ましくもある。
「何でも出来る……か」
「オレも小さな頃はゴジラ……特撮に出てくる大怪獣になりたくてさぁ」
「お前、ほんっとろくな事覚えてねぇな」
 アキラ君のおかしな発言に、キルア坊ちゃまがアキラ君用おたまで軽く殴る。
 いつの間に私のおたまを……。
 しかしクトゥルフの時も思ったけど、アキラ君はちょっと変だ。普通なりたいのはヒーローとかだろう。しかもアキラ君の小さなころって、そこまでゴジラは流行っていなかったんでは? 本当にわからない子だ。
 キルア坊ちゃまはおたまを置き、カップを抱えて空を見る。綺麗な星が出ている。ここは本気で田舎だから、明かりがなくて夜空がすごい。
「キルア。オレ、キルアといると楽しいよ」
 ゴン君が言った。
 アキラ君はスープをおかわりをよそいながら、二人を見ている。
「なんだよ急に」
 キルア坊ちゃまが照れから顔を顰める。こういうところはカルト様と似ているな。照れ隠しに顔を顰めるのだ。
「このくじら島ってさ、出稼ぎの猟師が長期滞在するための島なんだ」
 純粋な島民は少なくて、子供はゴン以外は一人しかいないらしい。この辺りの会話の内容はすっかり忘れてて、もう一人子供がいたことに驚いてしまった。
「だからアキラが来た時は、初めて同性で年の近い友達が出来て嬉しかった。兄貴が出来たみたいでさ」
 ゴン君……アキラ君なんぞにそんな事を思うほど寂しい思いをしてたのか。可哀想に。すべてダメ親父のせいだ。ダメ親父がダメ親父でなければ、この一族はすべてが上手くいっていたんだろう。
「同い年の友達はキルアが初めてなんだ。続けて友達が出来て、オレ、すごく楽しいよ」
 アキラ君なんぞ入れてやらなくてもいいのに、なんていい子なんだろう。
「オレも二人が初めてだよ。二人とも、オレじゃ思いつきもしない事をしてさ……オレも二人と一緒にいるの楽しいよ」
 キルア坊ちゃまが自分から楽しいと言った。
 細かい所がかなり違う気がする。自発的にそう言ってもらえたのは、すごく嬉しい。台詞の細かい内容までは覚えていないから、何が違うのかもよく分からないけど。
「じゃ、これからも一緒にいよう!」
 ゴン君が身を乗り出して言う。空になったカップをいじっていたキルア坊ちゃま、戸惑ったような顔の下に、隠しきれない喜びを潜めてゴン君を見た。
「一緒にいろんな所へ行って、いろんなモノを見ようよ。オレは親父を、アキラは記憶を、キルアはやりたい事を探す旅! きっと楽しいよ!!」
「……そだな。悪くないな」
「うん!」
 綺麗にまとまった。この後はどうなるんだっけ。
 ああ……、ミトさんが見ているんだっけ。
「そーいやお前のお袋さんって何してんの?」
 キルア坊ちゃまがゴンに問う。なまじ知っていると聞けない話題である。ゴン君はしばし沈黙して、口を開いた。
「親父の事以上に聞きづらいんだよね、母親のことって」
 ミトさんが母親代わりだから、そんな事を聞くのは悪い気がする。母親は死んでると納得していると続けた。
 私だって本当は別に母親がいると言われても、今の母さん以外を母親だとは思えないと思う。
「私ならそんな父親みつけたら殴りますけどね」
「アヤノちゃんでもそういう事するんだ」
「しますよ」
 ゴン君が意外そうに私を見た。これもすべて日頃の大和撫子ぶりのたまものだろう。
「ゴン、オレしょっちゅう殴られてるじゃん」
「あれだけ殴られることをするアキラが悪いんだよ。ミトさんだって殴るよ、あれは」
「ミトさんにはやんないよ。シャレにならない」
 私はシャレですむのかおい。いや、変装した時はずいぶんな格好していたが、あれは仕方なくやったんだってーの!
 私がおたまに手を伸ばそうとすると、
「あーあ、オレもミトさんみてーな母親がよかったなぁ」
 キルア坊ちゃまが言われた。
 私も同感だ。あれが母親だったら、他に母親がいると知った時には喜ぶだろう。まだ『奥様』だから付き合えるのである。
「最高だよ。ちょっと口うるさいけど」
「いきなり銃ぶっ放したり、変なスコープつけてないし」
「それ、うちのお袋以外の女全てに当てはまるだろ」
「当てはまる人がいたら怖いな」
 男の子達が無邪気に笑う。
 シャレにならない相手と比べるな。
「アヤノ、顔色悪いぞ」
「い、いえ」
「だから、嫌なら断ればいいんだからな?」
「は、はい」
 実の母親には鳴らなくても、義母にならなれる。それが恐ろしい。
「奥様は……ミトさんとは正反対のお方ですよね」
 正反対というか、人として外れているというか。
 奥様の事を一度しか見た事のないゴン君ですら、私に同情的な目を向けてくるのだ。
「でも、ミトさんはオレにとってはお姉さんって感じだなぁ。美人だし、優しいし。だいたい、イルミさんとそんなに歳違わないだろ。キルアが母親って言うのは失礼じゃん」
 ミトさん、見た目じゃ年齢分からないんだよね。今いくつなんだろう。見た目はまだ二十代だから、キルア坊ちゃまよりは確実にミトさんの方が年が近い。
「あ、そっか。っていうか、オレのお袋っていくつなんだろ」
 え……息子が年齢知らないとか、どんだけ若作りしてるんだろうあのお方は。
「何にしてもいいよなぁ、謎のないお袋」
「まあ……キルアんとこに比べたら、どんな家庭でも謎のない親だよね」
 いい話をしていたような気がするのに、いつの間にか恐ろしい母親の話になってしまった。
 私は自分の子供に恐ろしいなどとは言われない母親になろう。
 もちろん相手が出来たら。
 いるかなぁ……毒の平気な趣味の合う人。


あとがき
連載が再会してから、久しぶりにジャンプを買って、連載している作品がナルトとワンピースしかまともに読んだことがない事に気付いてびっくりしている今日この頃。
パームさんに萌えまくり、元々好きなキャラではあったけど、一気に好きなキャラ上位に食い込んでしまいました。
パームさん可愛すぎる。
さすがに人間の姿を知っている、人魚さんと合体した程度の変化なので、アヤノも食材としては見ることが出来ません。



[14104] 40話 ゲーム アキラ視点
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/02/19 23:47
 アヤノちゃんが帰った翌日。ゴンがミトさんにゴンの父親である、ジンから預かったという箱をもらったと見せてくれた。
 キルアが素手で無理矢理ねじ切ろうとするが無理だった。
 やがてキルアが、念を使って開ける事を思いつき、箱を構成していた鉄きれがバラバラになる。
 そして中に入っていたのはまた箱である。
「この模様、アヤノちゃんのコックさんの内側にあったヤツに似てるな」
 オレは鉄きれをへし曲げながら言った。この状態になると弱くなるらしい。
「ウイングさんがくれた誓いの糸にも似たような模様が描いてあった!」
 ゴンも鉄きれを曲げながら言う。キルアも真似して曲げた。
「あれも念を使うと切れるように仕込んでたって言ってたよな。でもアヤノは大切にしているヌイグルミだから、むしろ逆の効果だと思っていい」
 ちょろちょろと器用に障害物を避けて逃げる一匹目のコックさんは、三人で取り合うように捕まえたのだ。その時はキルアの勝ちだったのだが、捕まえた後でただのヌイグルミなのかって話になり、こっそりと見たのだ。
 タネを知っていたオレは、通りであんな移動用の念を持ちながら、高性能な念能力を持っていると思った。
 アヤノちゃんは凝り性な人だと感心した。描いた方がよっぽど楽なのに。
「この模様がオーラに反応するの?」
「だろ。じゃなかったら、わざわざあんな模様を刺繍したりしないだろ。アヤノだって暇じゃないんだしさ。大切なコックにわざわざつけるぐらいだから、念から保護とか、移動の補助になっているんじゃないかと思う」
 キルアはさすがに鋭いなぁ。原作よりも一つ材料が多いだけで、答えに近づきつつある。
「複雑な模様だから、きっと文字のように意味があるものだろうな。
 たぶん、この模様はプログラムみたいなものなのさ」
「プログラム?」
「念を受けたらちぎれろとか、身を守れとか、命令が描かれているんだと思う。とは言っても所詮推測だから、今度アヤノに聞いてみようぜ。
 それよりもその箱は開きそうか?」
 ほとんどオレの中の答えと同じ所に辿り着き、何でもないことのようにゴンを促すキルア。なんでこいつ、頭いいのに勉強できないんだろう。
 まあ、勉強の出来ない天才ってのもけっこう多いから仕方がないけど。
「こっちは念じゃ開かないよ」
 ゴンが箱にオーラを込め、すぐに諦め底や側面を見た。
「あ、もしかしたらここにカード差し込むのかも」
 スリットに気づき、ゴンがカードを差し込むと、カチと音がした。
「ビンゴ!」
 キルアがにっと笑い、ゴンが箱を開く。
 中には指輪とロムカードとテープ。
 うーん。ばあちゃんの好きな演歌が入ったテープはもっと大きいかったけど、このテープはロムカードより小さいぐらいのサイズだ。
 ゴンがカセットデッキとキルアが指示した録音用テープを用意し、メッセージを聞いた。
 内容はオレに会いたきゃハンターらしく探せして捕まえてみろ、という内容をダメ親父的に語ったものだった。ハンターとしては尊敬できるけど、父親としては無理だなぁ。今ごろ、アヤノちゃんに捕食されそうな食……生き物達と楽しく遊んでいる頃だ。
 とにかく、内容はオレの記憶と同じだった。
 内容が母親の事に触れると、ゴンはテープを止める。これも同じ。
「いいのか?」
「うん」
 子供達が話し合う横で、オレは自分のケータイを弄った。
 ゴンは母親はミトさんだけだと言い切り、メシを食うために部屋を出ようとして──突然止めたはずのカセットデッキが動き出し、録音したテープもろとも上書きしてしまった。
 つくづく念能力は何でも有りだと思い知らされる。念能力でどうやったらこんな事が出来るんだろうか。ひょっとして、テープの見えない所にも神字が書かれていたりするんだろうか。
「ダビング用のテープもやられてる」
「なんでここまでする必要あったのかな」
「手がかりを残したくなかったってことだろな。音声からでも相当のデータが得られるから」
 オレはキルアの蘊蓄を聞きながら、ケータイを操作して、音声を流した。
『あっ、ダビングの準備もな』
 テープを流す前のキルアの声が流れた。続いてジンのダメ親父的独白。
「ちょ、それっ!」
「あ、こっちは無事だ。ケータイ壊されてたらどうしようかと思った。
 念のために録音しといたんだ。今のケータイは録音機能もあるんだぜ」
「でかしたっ!」
 キルアにオーラを込めた平手で頭を叩かれた。いや、褒めながらなぜオーラを込める。遊びでしたことがすっかり習慣付いてないか?
「ミルキに送って声紋から調べてもらうのか?」
「それもあるけど、ひょっとしたらうちの使用人に、この手のデータから人物像が分かる念能力者がいるかも知れないだろ」
 …………なんとなく将来のために録音したけど、言われてみればあれだけ念能力者がいれば、そんな便利能力者の一人や二人はいる可能性がある。どうしよう。アヤノちゃんがおたまどころか、フライパンやら包丁を持ち出す姿が容易に想像できる。
「何にしても、アヤノの休みまではお手上げだな。ゴンの親父もその手の能力者を警戒してのこんな事をしたんだろうし」
「なるほど」
 ニヤニヤと笑うキルアに、感心するゴン。
 ああ、平和だ。
 今は平和だ。
 アヤノちゃんが来たら……どうしよう。





 それから数日後、ジョイステーションが届いた。この世界の家庭用ゲーム機だ。
 箱の中身に入っていたロムカードは、このゲーム機専用のロムカードで、内容を見るために取り寄せたのだ。
 かなり前の型らしいが、未だに売れるマニアの多い機種である。実はやってみたいゲームがあるんだが、純粋な子供の前でギャルゲをやるわけにもいかないので、いつか機会があればと思っている。
 ロムカードのデータ内容は、オレの知っている通り、ハンター専用ゲームのグリードアイランドで間違いなかった。
 電脳ネットでめくれば定価58億。
 三人の所持金会わせて13億。多めなのは、オレが200階に行くのにちょっと手間取ったから。地味な倒し方をしていたせいで、実は200階に行くのはちょっと時差があった。手間取った方が多く金をもらえるんだから、意味不明なシステムである。オレが目的を持たなかったらわざと負けて200階には行かないところだぞ。
 まあ、何にしても届かない。問題外。
 ネットで買い取り希望を告知すれば、金目当てで、販売数よりも多い反応がある。
「無理だって。カモられるだけだよ」
 オレは頭を抱える二人に言う。
「だよなぁ」
「こういう時にだけ頼れる人がいるじゃん」
「あいつかよ」
「さすがにこれはアヤノちゃんじゃわからないだろ。最終的にミルキに話しがいくんだから、直接聞いた方が早いだろ。連絡してみろって」
 オレが促すと、キルアは思い切り顔を顰めた。
「オレあいつに頼むの嫌だから、アキラ連絡しろ。友達なんだろ。オレ、あいつのアドレス知らねーし」
 オレは原作を思い出す。そういえば、電話に出たのはゴトーさんだったような……。
「マジで? なんで?」
「必要ないだろ。10年引きこもってるから、そもそもそんな必要なかったし」
「なるほど」
 ゴンも誰とは問わない。オレがミルキに相談しているのを知っているから。間違ってもイルミさんの顔は思い浮かばないだろう。
 しゃーないからオレのケータイで電話をかけた。キルアがオレのケータイの背の方に耳を押し当てる。キルアだから許すけど、汗臭い大男だったら鳥肌物だ。女の子だったら美味しい位置なんだけどなぁ。
『なんだ。今忙しいんだけど』
「えー、何してんの? どうせエロゲだろー」
『仕事だよ。し・ご・と!』
 アヤノちゃんがいつ来るとも分からないから、自分の部屋ではやらないだろう。
「へぇ、真面目に仕事してんだ。じゃあ、ちょっと悪いんだけど、聞きたい事があってさ。グリードアイランドって知ってるか?」
『グリードアイランド? 知ってるけど、なんで記憶喪失のお前がそんなレアゲー知ってるんだ?』
「いや、メモリだけ手元にあってさ。調べたらとんでもないゲームだったから、ミルキに聞いてみようって事になってさ。ゲーム、どこで買えるか知らないか?」
『そのメモリ……どうやって手に入れた?』
 けだるそうな声が、急に真剣みを帯びた。痩せたこいつのこういう声は、けっこうイケメンボイスである。
「オレと一緒にいたゴンって分かるか? キルアと同い年ぐらいのつんつんの黒髪」
『ハゲと金髪しか覚えてねー』
「……あの人は綺麗だけど男だから」
 ハゲ忍者は確かに目立つ。そしてクラピカは美少年だから目立つ。
『分かってるよ。ただ、眩しいだろ。な、アヤノ』
「いるのかアヤノちゃん」
 そういえば、よく聞けば食器が触れ合うような音が聞こえる。カップを置く音だ。
 おやつ係って言ってたもんなぁ。そりゃエロゲなんて出来るはずがない。
 ハンズフリーにして、アヤノちゃんも聞いてるって事か。なら話は早い。
「とにかく、ゴンの親父が息子にハンターになったら渡せって言われてた箱に、セーブデータ入りのロムカードが入ってたんだよ」
『ふぅん。ならそのデータのコピーよこせ。そうしたら心当たりを教えてやる』
 自分から言い出してくれた。オレから言い出すのも何だしちょうどいいや。
「ゴン、コピーしたデータ欲しいって。いいか?」
「コピーならいいよ」
「いいってさ」
 どうせ意味ないし。そのへんはアヤノちゃんがフォローしてくれるだろう。
『ハンターライセンスあるだろ。ハンター専用サイトは通常じゃ考えられない貴重なお宝が行き交っているらしい。信頼度はネットでも最高峰だ。
 お前、家にいるんだっけ? 後でアヤノに安全な端末を持ってかせるよ。絶対に普通の端末でアクセスすんなよ。バレたらライセンス狙いの悪党がわらわら湧いて出るからな』
 このミルキはとても親切だった。この点が原作とちがうんだよな。もうほぼ別人。愛の力強し。愛と餌付けは人を丸くする! とくにミルキの場合は、原作からして美味いもんをたらふく食ってたしな。
『あ、アヤノ、後でライセンス貸してくれ』
『はい。私もそのゲームやりたいです』
『アヤノが? なんで?』
『懸賞金がかかってるんですよ。私の所属する《悪食なる愚者達の集い》で』
『何だそれ』
 いやマジで何それ。バッテラさん以外に懸賞金出してる人いるの? しかもゲテモノ集団っぽい嫌な組織名じゃん!
『美食家の集いです。美味しい物やその情報を交換するのが主な目的の組織です。ゲーム内にある、いくつかの食材は私達の食道楽の憧れです。美食ハンターがそれだけを目当てにゲームを保有する事もあるそうです』
 原作からは見えない裏情報……。
 怖い。美食ハンター達の執念が怖い。まさか、メンチさん行った事ないだろうな。
『どんなゲームだよ。アヤノ、内容知ってるのか?』
『はい。バッテラという大富豪が情報操作しているんですが、悪食集は粘着質な方が多いですから、多少の情報は入ってくるんです』
 アヤノちゃんみたいな人がこの世にはいっぱいいるのか。さすがに毒の血を持つ人はいないだろうけど、アヤノちゃんみたいに悪食な人がたくさんいるのだ。
 美食を突き詰めていけば、悪食となるとか本気で言いそうで怖い。
『どんなゲームなんだ?』
『念能力者限定の、超リアルな体感型ゲームですよ。クリアすると三つアイテムをリアルに持ち帰れるんです。
 今度のヨークシンのオークションで、7本のグリードアイランドが出品されるので、狙ってるんですよ』
『あの情報マジだったのか?』
『はい。信頼できる筋からの情報です。ただ、バッテラ氏が狙ってて、私の貯金じゃ問題外なんですよね』
『いくらあるんだ?』
『70億ほど』
『無理だな』
 旅団の賞金3人分以上の貯金を持つ料理人って、どこまでゾルディックの金銭感覚は麻痺してんだ。
 それでも入手困難なゲームって……。
「やっぱ、天空闘技場の200階手前を行き来して金貯めた方が良かったかな……」
『無理だよ。金目当てと判断されると、200階に行かされる。念使いなら確実にな。じゃないと賞金目当てのハンターが闘技場に集まって、世間からいなくなるだろ。そういう金目当てのハンターっていうのは、世間の役に立ってるんだ。そんな奴らを独占したら、どれだけ人気があったとしても世間から潰されるに決まってる。賞金がなくなるのも、準備期間が長めなのも、念能力者の独占を防ぐためだよ。そうすりゃまともなハンターは修行を兼ねて外でハントをするだろ』
 なるほど。そういうシステムなのか。確かにそうでないとグリードアイランドの賞金500億なんて、ハンターにとっては命をかける旨みがなくなる。なにせ時間ばかりかかって、確実に賞金を得られるとは限らないのだ。
『しっかし、念で構築されたゲームか……』
 ミルキが楽しげに呟いた。ゲーマー魂に火が付いたようだ。実は現実の島に飛ばされるだけだと知ったら、こいつはどんな反応をするんだろうか。しかもクリア者が実はいるとか。
「アキラ、音声の事と、あの模様のこと」
 キルアに催促され、オレは泣く泣く尋ねた。
「あ、あとさ、アヤノちゃんのコックさんの服の内側の模様って何なんだ? これが入ってた箱の内側にびっしり似たような模様が描いてあったんだ」
『ああ、それは神字っていうんだ。念能力の補助みたいなもんだよ。封印に使われたり、能力の負担を軽くする事が多いな。例えばお前が装備品に変える予定の何かに神字を書いておけば、特殊能力の威力を強めることも出来るだろうな』
「へえ。便利だな」
 オレも機会があれば習おうっと。
 次は、いよいよ問題の質問をしなければならない。
「あとさ……音声の解析って出来る?」
『音声解析?』
「うん。声からどんな人物かとか、どこにいるかとか分かるような人いないか?」
 オレは可能な限り何でもない風を装って問う。内心はドキドキだ。
『うーん……さすがに音声だけじゃな……。顔と名前と生年月日が分かれば追跡できるんだけどな』
「それ、昔の写真じゃだめか? 子供の頃とか」
『さすがに無理だ』
 よかった。これでジンの居場所が分かりました、とかなったらどうしようかと思った。アヤノちゃんに怒られずにすみそうだ。
 まったく、何となくで余計な事をするもんじゃないな。まさかキルアが迷うことなく実家の皆さんに、情報以上の事で頼ろうとするとは思わなかった。これもアヤノちゃんという緩衝材があるせいか。
「そっかぁ、残念だ」
『背格好なら分かるぜ』
「背格好は想像付くしいいや。そんなような能力者と知り合ったら教えてくれ」
 背格好はミトさんに聞くのが確実だ。オレは知ってるし。
『ああ。気にしておいてやるよ』
「頼む。
 あ、ロムカードの予備がもうないから、いるなら持ってきてな」
『明日お休みなので、その時で良いでしょうか』
 アヤノちゃんの声がまた聞こえた。
「いいよ。そこまで急ぎじゃないし」
『じゃあ、明日はおやつのチーズケーキを持っていきますね。ミトさんにもお伝え下さい』
「ああ、わかった」
 話がまとまり、オレはケータイを切る。
 ふぅ、生き延びた。
「アヤノがゲームを欲しがるなんて、意外だよな」
 顎に手を当ててキルアが呟く。
 今まで徹底的にその手のものを避けてきた結果、彼女はカルチャーオンチだと思われているらしい。
「でも食材のためだしさ」
「食材?」
 一人会話を聞いていなかったゴンが首を傾げる。
「グリードアイランドってのは、念使い専用ゲームらしいぜ。アヤノちゃんの情報だから食い物のことばっかだったけど、ハンターサイトで詳しく分かるらしい。明日、アヤノちゃんがまた休みらしいから、端末とか持ってきてくれるって」
「じゃあ、今日はどうする? 走って島一周競争? それとも鬼ごっこ? ピコハンジャンケンは夜でも出来るし」
 ピコハンジャンケンとは、名の通りピコピコハンマーに周をして相手の頭を殴るジャンケンだ。たまたま家にあったピコハンと、アヤノちゃんが口にした『初心者の頃は道具を使わず』という台詞と、纏をしている状態のオレを殴っても、安物だというおたまが壊れないため、キルアの推測から生み出された遊びである。
 つまりこいつらはアヤノちゃんを観察した結果、周をもうマスターしてしまったということだ。オレは事前に訓練していたから出来たけど。してなかったら参加できないところだった。ホテルの部屋でひたすら予習しててよかった。
 しかし、子供は遊びの天才とはよく言った物だ。
 神字について見破ったり。
 こいつらに情報を与えすぎるのは怖いな。今回気付いたのは、頭脳派のキルアだったが、本来気付くのはゴンだった。あれは必要は発明の母的な発見の仕方だっだけど、そういう時のゴンの発想は天才的である。
「よし。んじゃとりあえず外にいこーぜ」
 子供達は本当に元気だなぁ。走るのに関しては、リーチの差があるからなんとか負けないけど、オーラ量も着々と増えてるし、天才達についていくのがもう大変で大変で、後衛能力にして良かったと心から思うのだ。
 二人はビスケに修行をつけてもらった時、堅はろくに持続出来なかったけど、この調子ならあの時点で30分ぐらいはいけるかな。そうなると追いつかれるってことだけど……。
 頑張ろう。せめてビスケちゃまと出会うまで追い抜かれない程度には!



[14104] 41話 遊び2
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/03/18 20:44
 私は休みの日にノートパソコンとロムカードを届けに来た。三人が目当てのハンター専用サイトを閲覧している間に散歩でもしようと思ったら、アキラ君にやめてくれと縋られた。
「生態系を崩したりしませんよぉ」
「いいから、行くなら一緒に行こうぜ」
「仕方ないですねぇ」
 キルア坊ちゃまに言われたら、断る理由などない。
 私は用意していただいたノートパソコンを使い、サイトの見方を教える。料金は昨日払っているので、彼等の出費はない。
「最低落札価格が89億です。最低価格にすら19億も足りないんですよ。無茶苦茶なゲームです」
 私が腕を組むと、三人は呆れ顔を作る。
「っていうか、そんなに持ってる料理人の方がおかしいよー」
「そーだぜ。料理人だぜ、料理人。普通は月給が年収だろ。しかもそれでも高給取り!」
「まったく、どんだけアヤノちゃんをこき使ってるんだ、ゾルディック家」
 私にしてみれば、鍛練にもなる片手間のバイトなのだが、まさかキルア坊ちゃまが1000万シェニーが年収でも高給取りであると知っているとは思わなかった。
「にしても、オレ達の所持金会わせても、最低落札価格まで届かないってさぁ……」
 キルア坊ちゃまがあぐらをかいてため息をつく。
「ねぇ、これってオレ達でも参加できるのかな?」
「あ!? 見ただろ、最低でも89億!! オレらの入り込む余地ねーよ!!」
「買う方じゃなくて、売る方だよ」
「…………そうか」
 私は納得しそうになるキルア坊ちゃまの肩に手を置いた。
「お宝を転売しようと思ってるんですよね?」
「まあ……そうなるかな?」
 いやぁ。キルア坊ちゃまの金銭感覚はものすごい。1000万が高級だと分かっていて、この調子で数億を使ってしまうんだから。私にはとても出来ない。ゴン君は金銭感覚とは別の部分が麻痺していると思う。
「素人がやっても、カモられるだけですよ。画面で見ただけじゃ本物かどうかも分かりません。足しになるような高価な物だとなおさら、偽物を掴まされます。よほど権威のあるオークションでもない限り、本物はまずありません。転売して、足しになるような高価な物を、信用もないサイトに出しますか? この前も偽ブランドを送り付けられた事件があったじゃないですか」
「う……」
「本物であると鑑定してまでするような権威のあるオークションサイトは、玄人も多く集まります。お宝を自分が持っているならともかく、素人が転売益を出せるような場所でないのは、どちらも同じです」
 本物しか扱わないオークションの場合は、無価値の商品がないだけ、かなりマシだけど。
「でもさー」
 なおも食い下がろうとするキルア坊ちゃま。
「はっきり言って、ギャンブルよりもタチが悪いです。ネットだけで知らない相手と高額商品のやりとりをするのは馬鹿です。相手はカモ狙いです。私はカモ大好きです。カモがねぎを背負っているどころか、自分でネギも切って、鍋を用意して、ついでに切腹するようなものです。美味しすぎます」
「あ、アヤノ……」
 はっきりと怒っている私の様子を見て、キルア坊ちゃまはかなりショックを受けたのか、顔を引きつらせて固まった。
「キルア坊ちゃまには……お金を貯める才能がまったくありません」
「ちょ、そこまで言うのかよっ!?」
「じゃあ、ゴトーさんに聞いてみますか? 執事の皆様なら同意します。ゾルディックの方々は、散財のプロだと。殺しというのがそれ以上の安定収入を生み出しているからこそ、生活していけるのだと!」
「うううっ……」
 キルア坊ちゃまが頭を抱えて悩み始めた。反論できないほど心当たりがあるのだろう。
 あってもなくても、どうせ届かないから意味はないけど、ドブに捨てるだけだから阻止してみようと思う。
「じゃあどうするんだよ」
「かろうじて許可できるのは、実物をその目で見る場合ですね。自信がある分野で儲けるなら止めはしません」
「ああ、アキラが兄貴とやったみたいな?」
「そうです」
「でも、オレ、骨董品とか詳しくないぜ」
 知っていたが、思わず頬が引きつった。
「分かっているのに、なぜネットでそれをするんですか。もう! ネットが一番騙しやすくて恐ろしい所じゃないですか!」
 私はアキラ君を見た。彼はこくこくと頷く。
「これ見てみ」
 アキラ君はパソコンを見せる。二窓開いてあり、それぞれに絵画の写真が載っている。一つは後期のピカソのような作風。一つは綺麗な写実的な風景。
「いくらだと思う?」
「この落書きみたいなのが高いってオチか?」
「いや、5万。風景画は5000万。同じ作家だけど、晩年の作品がとくに評価されてるんだ」
 ゴン君も覗き込んで、首を傾げる。
「なんつー微妙なとこ持ってくるんだよ」
「ただし、風景画の方が若い頃の作品。で、晩年に描いたこっちが、もしも本物だったら50億」
 キルア坊ちゃまが固まった。素人目には、とてもそうは見えない。
「で、こっちが本物の写真。お前に本物と偽物の違いなんて分かんないだろ」
「っ……」
「オレにも分かんないから」
「おいっ」
 画面をスクロールさせ、解説を見せる。食器ならともかく、絵の事は私もさっぱり分からない。
「こういう桁違いな話だけじゃない。玩具や本だって、同じように見えても製造時期やら初版かどうかで定価とプレミアの差が着くんだ。相手に知識がない場合もあるし、悪意を持って騙される事もある。お前に美術品の何が分かる!? 美術品は玄人でも騙される事があるんだ」
 さらに説得力のある言葉に、キルア坊ちゃまはむくれて黙る。
「ネットじゃ危ないんだね。でも、それだったらどうしよう」
 ゴン君が困って腕を組む。彼にとっては切実だから、代案もなく否定だけしても、もっと危ない事をしそうで怖い。
「ヨークシンに行けば、設け話はいくらでも転がっていますよ。とくにオークションの時期は。ネットで大損するよりは、まだ可能性があります」
「……そっか。アヤノがならどうする? リスク覚悟で動いた場合」
「うーん……やっぱりハントですね。けっこう億単位の賞金首がごろごろいるはずですし」
「なるほど」
「ご自分がその内の一人だって、自覚はありますか?」
「あ、そっか」
 思わず笑ってしまった。
「それでも焼け石に水なんですよねぇ。グリードアイランドのクリア賞金が500億。それをみんな必死になって取りに行っているのに、そのゲームを買うためには、最低で200億必要とかいう無茶振りです。ミルキ坊ちゃまは、旦那様と取引して大金を借りるつもり満々ですけど」
 漫画よりも早いこの時点で、ミルキ坊ちゃまがやる気を出して大金を稼ごうとしている。ロムカードは念のために調べてみるようだが、金策優先になるだろう。念能力なら、ロムカードから得られる物は少ないとの判断だ。
「賞金首か……」
「でも、今の三人ではうっかり念能力者に当たると、返り討ちにされてしまいます。追われる念能力者は、天空闘技場の入り口でたむろしている程度の念能力者とは格が違います。イルミ坊ちゃまレベルの能力者なんて珍しいですけど、オークションの時期にはそういう珍しい方が集まります。ご自分が狙われたら、逃げるのさえ困難ですよ」
 写真も出回っていないから、その心配はないんだけど。
「アヤノはどうすんだよ」
「ミルキ坊ちゃま頑張って、と応援いたします。私は食べられればいいので。セーブしなければ、人数制限はないそうですから」
 あのゲーム、入るだけなら人数無制限だ。制限されるのはセーブだけである。つまり、食べ物を食べるだけならセーブの必要もない。指定カードを持ったまま現実に戻らなければ、まったく問題ないのだ。
「というわけで、私はミルキ坊ちゃまのついでですむ目的なんで、焦る必要はないんです」
「…………気楽だなぁ」
「三人は儲け話が転がっている事を願って、今は基礎能力を向上させましょう」
 三人は顔を見合わせて、頷いた。今はそれが一番だと全員が判断したらしい。
 子供は素直が一番である。





「ねぇ、アキラ君。君ってどんな能力までなら再現できるの?」
 前回のように森に向かいながら私は尋ねた。アキラ君は突然話題を振られて、きょとんとした。
「ええと……神がかった能力とか、インフレしきった能力は無理。ドラゴンオーブ的な。
 ギアスは制限したらいけた」
「まさか、執事さんで試したの?」
「最終的にはね。最初は闘技場にいた時飼ってたジェリーとか、ヒソカに紹介してもらったとても親切な念能力者とか」
 いや……あの……。
 まあ、ヒソカさんの事は忘れよう。気にするだけ無駄。
「ネズミに効くの?」
「効いたから、わざわざ飼ってたんだよ」
 キルア坊ちゃま達が、呆れてる。
「便利なんだって。逃げる時とか」
「って、また逃げるためかよっ!」
「アキラ、もう少し前向きに能力作ろうよー」
 呆れて足を止めるお子様二人。
「すげぇ前向きな能力もあるんだからな!」
「どんな?」
「上手くいくか分からないから、実験するまでヒ・ミ・ツ♥」
 どうせろくでもない能力だろうという目で見られている。
「アキラ君、こう……なんていうか……もっと人の役に立つ……治癒能力とかはないの?」
「治癒? なかなかいいのが思いつかなくてさぁ。白魔法系キャラ試したら、再現できるのが例えるならホイミ程度でさぁ、ヒソカにオーラの無駄遣いって言われた。戦闘中にホイミって、一撃でカード分吹っ飛ぶよ」
 回復まで弱いのはよく分かった。
 しかし、誰を実験台にしたんだ、この子……。
「じゃあ、殺生丸は?」
「え?」
「あれも装備品だし、内臓とか、中身を治すための能力に限定したら? そういうのなら、大した威力はなくても、役に立つわよ」
 アキラ君が手を叩く。
「あ、そっか。ピンポイントで治せばいいのか。かなりの重症でも、治しにくい場所の応急処置が出来るな。今夜機会があったら試してみる」
 機会があったら……。
 仮にも刃物を突き立てる事になるから、よけいにひどい事になる可能性だってあるのに。
「あ、そうだ」
 ふと、私は良い事を思いついた。
「かっこいいポーズ!」
「は?」
「光魔法、かっこいいポーズが見たいです。役に立ちますよ、きっと」
 きらきら光ながら宙に浮き、人々の視線を釘付けにするアキラ君。見てみたい。ああ、見てみたい!
「アヤノちゃん……なぜそんなマニアックな……オレの事そんなに苛めて楽しい?」
「なぜ? 派手で前向きでいいじゃないですか」
「無理。オレの好みに大きく左右されるし、書いてもカードに定着できずに、真っ白に戻る」
「かっこいいポーズの何が気にくわないの?」
「名前からして恥ずかしいだろ! だいたい、何の装備品にするんだよ」
「短剣とか、バンダナとか」
「とにかく無理」
「じゃあ、ラッキーマン」
「だから、無理。全身タイツ系は無理。受け付けない」
「あんな最強キャラの能力を使えないなんて……。欠片でも取得できたら、かなり人生がハッピーなのよ? 湯飲みいいじゃない」
「だから誓約的に無理。オレが無理と思っちゃったら無理」
 私は頬を膨らませる。
「もう、我が儘な能力ねぇ」
「理不尽だ」
 見栄えのいいキャラしかダメってことなのかな? 面倒くさい能力だ。
 私達はアキラ君の能力の片寄り具合を嘆きながら、潮の香りをたっぷり含んだ風が拭く海岸までやって来た。髪を乱す風が気持ちいい。
「あら、良い景色」
 絶景だ。一面海!
 船や港から見るのとはまた違った情緒を含んでいる。磯釣りは最高だ。
「最近、海でハントしてないなぁ……きっと、素敵なお魚さんがたくさんいるんだろうなぁ」
 業者が新鮮な海産物を届けてくれるから、自分でハントする必要がないのである。
「アヤノ、次は水着持ってきたら?」
「漁に水着なんていりませんよ。万が一のために、下にはいつも汚れていい服着てますし」
 色気がないとゼノ様に不評なTシャツと短パン。
 アキラ君が舌打ちする。彼がいるから水着は着ないというのが本音である。
「今日はどんな遊びをしましょうか。三人はどんな遊びを思いつきましたか?」
 子供は遊びの天才だという言葉がある。
「えっと、普通に鬼ごっことか、ジャンプ木登りとか」
「あとは足にオーラを溜めてダッシュして島一周競争とか、三人で順番に身体の部位を指定して、そこで凝をしたり、ピコハンジャンケンしたり」
 ゴン君とキルア坊ちゃまが、少しずつ内容の違う遊びを並べていく。
 何とかというマネーハンターが見せたジャンプもどきや、周を覚えてしまったというのは、アキラ君の報告で知っていた。ちなみに、オーラ全開で島一周はまだ出来ないらしい。できたらどうしようかと思った。
「でもすぐに疲れるんだよねぇ」
「バテて寝て、起きたら遊んでまたバテて」
「あら、それで良いんですよ。念の基本は堅……練の持続時間を伸ばす事ですからね。3時間ぐらい出来る様になって、ようやく中堅らしいですよ」
「げっ」
 二人とも同時に呻く。
「じゃあ、今日は前と同じ遊びをしましょうか」
 私はコックさん達を手に持った大きな鞄から取り出す。そしてふと……
「あ、あれはっ」
 私は思わず声を出した。
 変な生き物が地面すれすれをふよふよと飛ぶように進む。蛇の様に長く、うねうねした白い何かが、海中を泳ぐ様に地を歩いていた。
「きもっ」
「ああ、あれ。たまに海から出るんだよねぇ」
 アキラ君とゴン君が言うのを聞きながら、私はそれをコックさんで捕獲する。
「え、いつの間にあんなところに!?」
「アヤノちゃん……やっぱり食うのか……」
 コックさんを引き寄せて、間近で見るが間違いない。
「これ、売れば最低50万ジェニーの幻の珍味です」
「…………ええっ!?」
 三人は少しの沈黙の後、飛び上がって声を上げた。
「水の中に入ると、溶ける様に姿が見えないんで、本当に幻の魚ですよ。ごく稀にこうして地上に出てくるんですけど、その理由は不明で……とにかくとても美味だそうです。私、初めてです」
 思わず舌なめずりをしてしまう。
「やっぱり食うのか。なんか足みたいなのがわさわさしてめっちゃキモいんだけど」
 アキラ君が呆れた様に言う。
「ゼノ様もきっとお喜びになられます。魚系の珍味はお好きですもの。なまことか」
「確かになまこもゲテモノだよなぁ……」
「深海魚とか、全部凄い見た目じゃないですか。でもアンコウとか美味しいですよね」
 ああ、何たる僥倖! 魚ならいいとアキラ君も前に言っていたし。
「う……。
 で、でも、金貯めようって話をした後で、いきなり目の前に湧いて出た高級食材を食べるとか」
「これ一匹で情勢が変わるほど、低いレベルの悩みではありません」
「あ、あっちにもいた!」
「ジェセフィーヌっ!」
 ゴン君の言葉を聞くな否や、私はコックさんでもう一匹も逃げられる前にゲットする。
「ゴン君、このことを知っている人は?」
「え、たぶんオレだけだよ。ここに人はあんまり来ないし、出るのは本当にたまにだから」
「知られたら、タチの悪い人がいっぱい来るから、絶対に内緒にしておいてください。その意味で、これをたくさん捕まえて売る事は出来ません。大量に売ったら、どこかに上陸しやすい場所があると言っているような物ですから」
「そっか。教えてくれて有り難う。ミトさんにも気をつけるように言っておくよ」
 ミトさんなら間違いはないだろう。
 高級食材とは、それほどの力を持っているのだ。そうでなくて、なぜ危険な場所にあるツバメの巣を取ろうと思う。それは高く売れるからだ。
「もう一匹は安全な人に交渉を入れてみましょうか」
「安全な人って?」
「悪食集で親しくしている人とか、メンチさんとかに切り売りしたり。そうすれば偶然手に入った食材のお裾分けって感じが強くなるでしょ。そういうための場を作るグループだから」
「アヤノちゃんが捕まえた魚だし、アヤノちゃんに任せるよ」
 私は頷き、手放した荷物をコックさんに運ばせた。
「とりあえず、これはしまっておくので、遊びましょうか」
「うん」
 メンチさんへの貢ぎ物が出来てラッキーだった。雇い主を優先して食べさせたなんて知られたら、薄情者って泣かれるから。
「今回はコックさんに狩りをさせるので、とてもよく逃げますが、前回同様優しく扱ってあげてください。獲物の指定が出来ないので、好き勝手やってしまいますので、急いでくださいね」
「それって人間以外の生き物全部危険なんじゃ……」
 アキラ君が顔を顰める。
「武器は持たせないから、殺しはしません。獲物を追っている方が力強いから、厄介かも知れませんけど」
「つまり前よりもパワーアップしていると」
 子供達がワクワクしながら私を見る。
「一時間したらコックさんを戻らせます。その時に抱えていた獲物は何であれ、みんなで食べましょうね」
 そう言った瞬間、三人の顔色が変わった。
「な……何であれって……」
「今回はたった4体です。私はここでコックさんを待っています。じゃあ、いってらっしゃい」
 私は問答無用でコックさんを解き放つ。立ち去ったコックさん達を見て、三人は慌ててその後を追った。
 子供は素直で可愛いなぁ。



[14104] 42話 金運 アキラ視点
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/03/11 07:20

 一ヶ月近く、遊んで、修行して、たまにくるアヤノちゃんから色々学びつつ、たまに自分達の胃袋と森の仲間達を守って、それでも蛇やらカエルやらを食べられるようになって、ミトさんにロトくじプレゼントした。
 ロトくじは、現金は受け取ってくれなかったから。ケータイで買えて、なおかつそれをプレゼントできる仕組みになっていた。変な所でオレの世界よりも進んでいる。
アヤノちゃんの仕事の都合で、俺達は少し早めにヨークシンに到着した。とはいっても、移動時間が一瞬であるため、交通機関を使うよりも遅く出発できた。
 くれぐれも無謀な無駄遣いはしないようにクギを刺して帰って行くアヤノちゃんは、ほんとうにキルアの姉のように過保護である。だからこそウザがられずにいるのだ。
「でも、13億じゃあやっぱり足りないんだよなぁ。これをどう増やすか」
 三人の預金残高は増えもしていないが減りもしていない。どうせ無駄な努力である。
「アヤノちゃんは、無謀な無駄遣いはするって言ってたよね。無謀じゃなきゃ良いって事だよ」
 ゴンが的を射た事を言う。そう、無謀じゃなきゃいいんだ。
「なるほど。確かにそうだよな」
「あ、断言して良いけど、キルアがやるとスッカラカンになると思う」
「どーいう意味だよ」
 どうもこうもない。アヤノちゃんに何度も言われただろ。
「オレ、一つだけ当てがあるんだ」
「へぇ。どんな?」
 全否定された後だから、キルアが嫌みったらしく聞いてきた。
「ダメだったら恥ずかしいから内緒。お前らは遊んでろよ」
「なんだよそれ」
「まあまあ、減る事はないと思うからさ」
 オレはキルアの肩を叩く。キルアはオレの能力が特殊である事は知っているから、不服そうにしながらも見送った。
 なにせ喧嘩に関係ない能力ほど、再現率が高くなるのがオレの装備品カード、ドリム・カードである。こういう時にこそ、というかこういう時にだけしか役に立てれないから、頑張ろうと思う。




 というわけで、オレは今、カジノに来ている。
 ぴしっとしたフォーマルではないが、オレ好みのスーツだ。カジュアルでもないから、なんとかカジノにも入れた。
 カジノなんてテレビゲーム内でしか体験した事がない。だが、ゲームであろうと現実であろうと、ルールは同じ。それでも人の手が入ると時間がかかるから、スロットにする事にした。
「どの台が良いかなぁ」
 具現化したバインダーを持ち歩きながら、オレは緊張しつつも華やかなホールを歩く。これだけでこの空気に酔いそうだ。緊張する。
「おい」
 背後から肩を掴まれ、ぎょっとした。肩に掛かる手。その先のに立つ男。スーツを着ているが、童顔だから似合うようで似合わないような……そんな団長様がいらっしゃいました。髪を下ろして、額を隠しているバージョンである。
 オレよ、冷静に対処しろ。冷静にっ!!
「だ……誰? なんか用?」
「ああ、クロロだ」
 知ってたけど聞いてみた。知ってても驚くほど別人。額を隠して、変わった耳飾りを付けていなかったら分からなかった。
「え、クロロさん? 何でこんな所に? 変装ですか?」
「変装しているつもりはないんだけどね。君はどうしてここに?」
「いや、話し方も違うような……。
 オレはオークション目当てで」
 なんだか髪を下ろして普通のスーツを着ただけで、とても爽やかである。化粧どころか、髪を下ろしただけで変装になるって、凄いよな、この人は。
「そうか。でも地下競売だけには近づくなよ」
 爽やかに微笑みつつ、クロロさんは忠告する。
「ササンピース目当てなんで、地下は近づきませんよ。でも、何かあるんですか?」
「いや。子供が入る場所じゃないからな。夜は出歩くな」
 知り合いだから、巻き込まないために声をかけてきたのか。これも全てタクマおじ……お兄さんの人徳のおかげだな。オレは先人達の築いたコネのおかげで、こうして無事に生きている。オレって超ラッキーだな。
 自分の事ながら、虎の威を借る狐という言葉が頭に過ぎった。
 虎の威だろうと胃だろうと、生き残るためにはなんだって使うつもりである。生きている物が勝ちなのだ。
「あ、そーだ! クロロさん、今時間ありますか?」
「ああ」
「じゃあ、ちょっと資金は出すんで、カジノで遊びませんか? 儲けも折半で良いんで!」
「は?」
 そりゃあ理解できないだろう。
 オレはバインダーを広げ、カードを取り出した。
「それは?」
「ちょっと持ってみてください」
 言われたとおりに手に持つと、4H45Mが出た。
「おお、すげえ」
「何が凄いんだ?」
「制限時間が凄いんですよ。オレの能力で、能力を封じ込めるカードなんですけど、使える最長時間がこうやって出るんです。オレだと15分しか出ないのに……」
 だから短期決戦、かなりのリスクを覚悟していたんだが……。
「能力を封じる? この男の能力なのか?」
「まあそんな所です。オーラを込めると装備品として、身につけている物の形が変わります。これの場合、耳に付けている物が、金のイヤリングに変化するんですよ」
「イヤリング……? この下に書いてあるのが効果なのか?」
 装備品、キャラ、効果、時間、威力などが細かに描かれている。全部手書きだ。
「はい。装備品にオーラを込めるとすっごい金運がついて回るはずです。ロトくじで試したら、オレですら10万で全部でだいたい150万ぐらい当たったんで、効果はちゃんとあると思いますよ」
 パニくったミトさんから連絡があったのだ。自分用に買った分は15万ジェニーしか当たらなかったけど、それでも金儲けという点で考えたら、これほどの能力は他にない。
 ただし、使ったカードは片手の数よりは多いけど。
「なるほど、面白いな。他にどんなのがあるんだい?」
「色々と。相手にもよりますけど、除念も出来ますよ」
「本当か」
 クロロさんの目の色が変わった。怖いから、怖いから、超怖いから。
「ぞ、ゾルディックの人達が妙に協力してくれたんで、相手は選ぶんですけど、なんとか除念って呼べる形になりました」
「相手を選ぶ除念?」
「イラストにして、ちゃんと本人だって分かるぐらいの個性の有無です」
 正確に言うと、脳内で二次元変換できるかどうか、だ。
「なるほど。確かに相手を選ぶな」
「クロロさんたちは個性派グループだし、大丈夫です。
 あと、身体が切り離せるタイプの能力はダメです。取り憑かれている系。それ以外で困ったら言ってくださいね。有料で出来る範囲の事はしますから」
「有料か。それもゾルディック仕込みか」
「ミルキに、安売りはするなって言われてるんで」
 事前にバラすのはアヤノちゃんと決めていた事だ。本当はアヤノちゃんの仕事だったんだけど、オレから言った方が自然だから今言う事にした。
 こう言っておけば、パクノダさんが自分を犠牲にする事もない。あれは物語としてはいい流れだが、現実に起こるならそうは言っていられない。
 それにクラピカにバレても、いくらでも言い訳がつく。オレの能力はミルキが知っているから、当然イルミさんも知っている。もしもこちらから行けなくても、アヤノちゃんあたりが誘導して、イルミさんあたりに誘拐してもらえばいい。あの人は知り合いなら殺し以外の仕事も引き受けるし。
 何よりも、本人が望まなくても、クラピカのためにもなる。
 もしクロロが予定通り他の除念師──アベンガネに頼んだなら、最終的にクラピカを殺しに行くだろう。アベンガネの除念は、念能力の使い手が死ぬか、解除条件を満たさない限りは、念獣に取り憑かれる能力だ。その念獣はおそらく、念をかけられた者に取り憑くのだろう。アベンガネに取り憑くのであれば、そんな能力で金儲けなど考えないはずだ。だからクロロさんは解除条件を揃えなければ、厄介な念獣に付きまとわれる事になる。ヒソカはそんなお荷物に取り憑かれたクロロさんと闘っても仕方がないと思うだろう。彼は強いクロロさんにしか興味がない。
 そこでも二人は協力し合える。
 クラピカをどうにかして、初めて彼等は戦える。
 そしてオレの能力の欠点は、埋め込み型の能力は取り込めるが、切り離し可能な体の外に引っ付いている能力は封印できない。つまり、ポットクリン型の能力だ。あいつ外すとキルアが針に気づけないから。ただし一部でも無理矢理体内に押し込めれば、除念できるが、そこまでして後から除念すると、なんで先に言わなかったと言われるだろう。
 だからオレが除念しても、早いか遅いかの違いでしかない。
 だったら、クラピカが少しでも狙われない方がいいし、少しでも自分に有利な方がいい。
 どうせ除念したら、また旅団を狙うんだろうけど、それでもクロロさんに捕まって拷問されるよりはずっといい。クロロさんがあの能力を欲しがらないわけがない。
 それで嫌われたなら仕方がない。
 嫌われるのは嫌だが、嫌われても仕方がないし、それで構わない。
「そうか。しかしそういう事はあまり口外しない方がいい」
「いや、相手は見て言いますよ。イルミさんにも知られてるんで」
「なるほど。情報料をぼったくられるだけか」
 知り合いというジャンルのお友達である。売れる情報は売られるに決まっている。相手は見てくれるだろうけど。自分達にとっても有用な取引相手になるのだから。
「こんな所にいるという事は、金がいるのか?」
「まあ……13億しかなくて、欲しい物が買えないんですよ。ぜんっぜん届かないから、ダメ元でって」
「だからギャンブルか。よし、やってみようか」
 クロロさんは能力の詳しい内容は問わず、楽しげにカードにオーラを込めた。
 似たような能力に見えるから、アヤノちゃんを怒らせてまで盗もうとはしないだろう。下手に隠して便利能力っぽく見られるよりも、ある程度のネタばらしをした方が安全である。説明も本当の事は言っていないから、盗む条件は揃っていない。たぶん、能力的にカードを作る所を見なきゃならないんだろうが、オレの能力はそもそも一時間で終わらない。見終えた瞬間からかはよく分からないが、そもそもそこまで進めなくても、イラストを描き始めた所できっと諦めてくれるだろう。
 うん。オレのクロロ対策は完璧だ。
 ゴン達のいない今、この時に、出会えた奇跡に感謝しよう。もしも一緒にいたら、目も当てられない事になるだろう。
 それはそれで、知り合ったのはイルミさんのせいである事には変わりないから、全て押しつければいいんだけど。





 というわけで、クロロさんは3時間ちょいで30億稼いで頂きホテルに戻った。あとの1時間半で仲間達をからかって遊びたいらしく、余裕を持って去っていった。稼いでいただいた身の上なので、何の文句もないのだが、肉体に作用しない特殊な能力ほど威力が高いとはいえ、まさか自分の能力であそこまでフィーバーするとは。クロロさんもあれほどのフィーバーは初めての体験らしく、かなり楽しそうだった。子供のように楽しげで萌えた。成人した男に萌えるとは。さすがはイケメンである。
 そうして、オレの現在所持金19億後半。
 なぜか減っているキルアとゴンの預金が4億。合わせて24億。
 …………。
「なぁ、なんで素直に遊んでなかったんだ? 4時間で4億使うって、ある意味大変だと思うんだ」
 キルアが目を逸らす。ゴンが小さくなって反省している。
 まさか、こんな所でも原作の流れに戻ろうとするとは……。
 何か神懸かり的に凄い力が働いている気がする。本当にウボォーさんを助けられるか心配になってきた。
「まったく、こういう時こそ特殊能力のあるオレを信じて待つべきだろ。何のためにこんな殺傷力皆無の能力にしたと思うんだよ。こういう時のためだろーが」
「……ごめん」
 さすがにキルアも反省したらしく、本気で凹んで見える。猫がしゅんとしているようで可愛い。
「今の言い方、ちょっとイルミさんに似てたかも」
「はぁ?」
 嫌なのか、本気で理解できないのか、大きく顔を歪めた。
「まあ、過ぎた事は仕方がないけどさ。4億ばかあってもなくても、とてもじゃないけど届かないし」
 オレは増えた15億追加された通帳を見せた。驚くというか、固まった。
「ど……どうやった!?」
 キルアに胸ぐら掴まれた。
「通りすがりの暇してたイルミさんのお友達に、儲け折半でご協力いただいた」
「折半って、倍かせいだの!?」
 オレの通帳を食い入るように見てたゴンが顔を上げた。
「今まで能力の中で、一番マトモじゃん」
「すごいよ。億万長者になる能力だね!」
 いや、お前らまだ億万長者だし。
「でも金だけあっても意味ないだろ。それを守る実力がなくちゃな。下手にばれると、監禁されてカード製造機にされるぜ」
「うーん、安全なんだか安全じゃないんだか」
 そう言われると不安になるな。やっぱり強い人の陰に隠れているのがいいだろう。オレは目立たず、応援係で。帰るためにはこいつらについていった方がいいけど、死んだら元も子もないから。
 でも、これが今までで一番受けがいいのはちょっと複雑だなぁ。
「たぶん、元々金運の高い人だったんだろうな。本気ですごかった。ロイヤルストレートフラッシュとか初めて見た。今まで何度も使ったけど、ミトさんにあげたロトくじが最高額だったから、今回のはイルミさんのお友達が凄かったんだ」
「じゃあ、このペースで稼げるのはこれだけか。やっばり使えねー」
 現金だな。正しく現金だな、こいつ。
 ま、これでどうやっても、ゴンがライセンスを質入れする必要がなくなったのだけは確かだ。キルアをビックリさせる機会を奪ってしまったが、万が一の事もあるのでこれでいいんだ。
 今回の流れを見ていると、万が一の事も起こりそうにない気がしたけど、まあいいや。
「確かに15億あってもぜんぜん足りないからなぁ……。
 カジノの3時間で30億だから、かなりのペースで儲けてるけど、一日一回、実力者がカード使うの前提だしな。あ、守銭奴のイルミさんに頼むとかどうだろう」
「アヤノでいいだろ」
「元キャラの性別違うとろくに使えないんだ。オレがラムちゃん使っても、やっすいマッサージ機の一番弱いぐらいの力しか出ないからさ。あ、なんかぴくってした? ぐらいの」
 アムドは無理。男がビキニとか無理ってオレが思っているから。
「他に強そうなのは……クラピーは強そうだけど、仕事があるらしいから忙しそうだよな」
「クラピカ強そうなの?」
 ゴンが首を傾げた。
 スタートは俺達とほとんど一緒だ。そこまで差が付いているとは思っていないのだろう。
「性格的にさ」
「たしかに、遊んでなさそうだもんな。性格からすると具現化っぽいよな」
 キルアが正解を口にする。するどいヤツだ。
「でもハンゾーとレオリオがわかんないよな。あの二人、何系だと思う?」
「うーん」
 キルアの問いに、ゴンは腕を組んで唸る。性格的には放出系か強化だろう。
「そうだ。他の奴の系統予測して、一番多く当たった奴の言う事一つ聞くってのはどう?」
 キルアの提案に、オレはにやりと笑った。
「面白そーじゃん」
「紙に書いてせーので見せ合う?」
 ゴンの案を採用し、オレ達はホテルのメモ用紙と、オレの愛用のペンを配り、背を向けて考え始めた。



あとがき
気付くと、立てた小ネタフラグを三つほど回収し忘れていました。
回収し忘れたのに気付いてから、何を回収し忘れたのか忘れたぐらい忘れています。
書いたそばから忘れていくので、忘れないようにいちいち伏線リストを作っていく事に決めました。
さすがにプロットは忘れようがないのですが、いい機会なので細かい所までまとめてみようかと思います。



[14104] 43話 集合
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/02/19 23:53
 
 とうとうこの日もやってきました。
 9月1日。
 ヨークシン編こと、旅団とクラピカさん大暴れ編の始まりです。
「んー」
 鏡の中の自分を見て満足する。
 正装もいくつか用意したが、今日は待ち合わせがあるので目立たない普通の服を着ている。
 膝丈のフレアスカート、キャミとカーディガン、ゴールド系のアイメイク、ピンクローズの口紅、ほお紅にシャドウで陰影をつけて、ごく普通のジャポン人のできあがり。
 荷物を持って自分を出て、皆様の集まるリビングに向かう。
 旦那様とイルミ坊ちゃまは先週から度々ヨークシンで仕事をしていたが、毎晩ではないので送り迎えをしていた。ずっと家にいるミルキ坊ちゃまも熱心に殺しの仕事をしているらしいが、どうやっているかは未だに不明。
 そして今日からは、奥様以外の全員がヨークシンに滞在する。全員で働くほどの予定は入っていなくとも、この時期は飛び込みでよく依頼が入るため、人数は多い方がいいらしい。さすがに全員で家を空けるわけにはいかないので、目だって仕方がない奥様がお留守番。
「ああ、緊張する。上手くいくといいけど」
 どうせいつも通りなゾルディックの仕事ではなく、ウボォーさんとパクノダさん救出の事だ。
 作戦はアキラ君に任せている。いくつか能力を試して、使えそうな手で行くつもりらしい。ダメなら催涙弾を打ち込むとか、イルミ坊ちゃまに頼る、というのが今決まっている大まかな流れだ。彼がいなかったら私が行っていた事である。だからアキラ君がどんな作戦を立てようと、悪い方に予定を変更する事はない。私のやり方はどうやってもクラピカさんに気付かれる、一番悪い手だから。
 私はクラピカさんとはほとんど話をした事がないので、全面的にウボォーさんの味方だ。後ろから殴りかかっても問題ないと思っている。ただ、それで流れが変わってキルア坊ちゃまに何か影響があるのが怖い。
 それでも実行するほどには、ウボォーさんに好意を持っている。
 私はこれでもけっこうロマンチストなので、女としての好意を向けてくれて、紳士的に接してくれる男性には、相応の好意を持つ。料理を褒めてもらえたならなお嬉しい。ただ、好意を受け取る気がないだけだ。
 だから漫画で知っている程度のクラピカさんには、何の好意もない。クラピカさんより、まだ出会った事もないセンリツさんの方が好きなぐらいだ。
 八方美人のアキラ君は、私の最悪なやり方を阻止するために、日夜オーラ量を増やさんと頑張っている。
 人間なんてそんな身勝手な事情で頑張れる生き物である。
 リビングに到着すると、皆様揃っていた。今日から、連日ヨークシンでお仕事だ。この時期のヨークシンは稼ぎ時なのである。
「あら、今日はずいぶんとカジュアルね」
 奥様がキュインとスコープを鳴らしながら私の格好を見た。
「あまり目立ちたくはありませんので。それにいつもの着物は町中で着る意味はないですから。神字の補助が無くても、このぐらいの距離であればそれほど疲れませんし」
「そう。少し地味だけど、目立ちたくないのなら仕方がないわ。
 カルトちゃんとミルキをよろしく頼むわね」
「はい、畏まりました奥様」
 二十歳を過ぎてカルト様と同じ括りというのも、ちょっとあれだけど。
「でもミルキがそこまで頑張らなくても、そのゲームを競ろうとするライバルは殺してしまえばいいんじゃなくて? 積極的になったのは嬉しいけれど、ブランクがあるから心配だわ。いつもみたいにお家からじゃダメなのかしら?」
 奥様は、キルア坊ちゃまだけではなく、ミルキ坊ちゃまも外に出すのが心配なようである。子供扱いを受けて、ミルキ坊ちゃまの顔が引きつっていた。
「ゲームプレイのための肩慣らしにちょうどいいと思います。プレイヤーは念能力者ばかりなので、ゲームといえどもリスクがあるんです」
「ゲームって、そんなに危険なものだったの」
 狙っているゲームは、ではなく、ゲーム全般に対して勘違いをしたような気がするが、まあいいや。
「そこまでする価値があるんですよ。クリアしたら、温泉を持ち帰りたいんです」
「温泉?」
「こちらは死火山で、温泉がない事だけが残念だと思っていましたから。
 赤ちゃんのお肌のようにつるつるになる温泉を分けていただけるようになるみたいなんです」
 一度だけなら、とてもいいアイテムとは言えない。おそらく念能力で、カードを使った場所と源泉を繋げてくれる物だと見ている。つまり、死火山だから温泉は諦めていたここククルーマウンテンに、温泉が誕生する。
 私も女だ。美肌のためなら、たまに夕飯を抜くぐらいの事はしてもいい程度には気にしている。
「まあ素晴らしいわ! ミルキ、頑張るのよ!」
 ゲーマーであるミルキ坊ちゃまは、普通にクリアだけが目当てらしい。ママが喜ぶのであれば、全部奥様の好みで景品を選ぶ事すらあり得る。
 とうとう痩せ薬も必要なくなったし。
 アキラ君に、腹筋が割れたとか報告していたようである。それをアキラ君経由で聞いた。友人からの告白を横流しするとは、非道い男である。
「宝石も色々あるらしいぜ。ま、楽しみにしててよ。母さんにも選ばせてやるからさ」
 ミルキ坊ちゃまはにやりと笑う。
 昔はママだったのに、いつの間にか母さんになっていたのだ。
 ママと呼んで欲しい奥様も、今は諦めて母さんを受け入れている。
「準備が出来たならいくぞ。時は金なりじゃ」
 ゼノ様に催促され、私はカルト様の手を取った。
 見た目は綺麗だけど、触ると男の子らしい筋張った手である事が分かる。
 反対側でミルキ坊ちゃまがまごついている間に、空気の読めないイルミ坊ちゃまが私の肩に手を置いた。その空気の読めなさは、ある意味美点だと思う。ミルキ坊ちゃまはすっかり無表情になって、イルミ坊ちゃまの手を取る。
 全員が手をつないだ所で、手を離さないように、何かを巻き込まないように気をつけながら、ケータイを手にした。
「では」
 裏方一同、参ります。





 集合場所に指定されていたカフェに、お暇を頂いてやって来た。今ごろミルキ坊ちゃまは、カタログを買いに行っている。
 そして、私は集まった面々を見て、脱力してしゃがみ込んだ。
「ん、どーした? ヒールでも折れたか?」
 ハンゾーさんが私を見て首を傾げる。
「今日は今までで一番普通の格好だな」
 ポックルさんが少し驚いたように言った。
 ハンゾーさんはもういい。
「ボドロさんとポックルさんまで?」
 二人がなぜいる。
 ポックルさんにはそろそろ接触しようと思ってたけど、まさか向こうから来るなんて……。
「連絡したら来るって言うから」
 アキラ君が引きつり気味の笑みを浮かべて言う。
 またお前かぁぁぁぁあっ!
「なんでこのタイミングなんです?」
 死にたいのかこの人達。
 とても儚げな二人がこんな死亡率の高そうな場所にいたら、予定外の非業の死をとげそうだ。
「いや、ほら、ちょっと賭けしてさ。誰が何系か」
 アキラ君、あんた何考えてるの? マジで。マジでさっ! せっかく助かったボドロさんを殺す気か。せっかくの渋いオジサマなのに、死んでしまったらどうするんだ。すごく好みのオジサマなのに!!
「他人に何系か聞くなんて、女性に年齢を聞くぐらい非常識よ?」
「あ……そういえばアヤノ、ついに本当に合法……」
 キルア坊ちゃま、なんで目を逸らすんです? 何がついになんです? 確かに私は二十歳になりましたけど!
「ボドロさんは娘さん夫婦がヨークシンに住んでるんだって。お孫さんに会うついでに、ちょっと寄ってくれたんだ」
「ポックルはヨークシン経由で秘境に行く途中だってよ」
 ゴン君とキルア坊ちゃまの説明で、合点はいった。
 とにかくこのお子様たちから引き離さないと。
「ハンゾーさんは捜し物は見つかったんですか?」
「バッチリよ! 国に入るのだけがネックだったんでな」
 ああ、さいですか。
 みんな死んじゃいそうで怖いなぁ。
「で、誰が勝ったんです?」
「レオリオの結果次第だよ。こいつさぁ、纏しかできなかったんだぜ。で、今まで練の練習して、とりあえず発をやらせる段階まで来たんだ」
 キルア坊ちゃまが半分まで減ったメロンソーダのストローで氷を突きながら言う。少し白いから、上にはアイスクリームが乗っていたのだろう。
 合成着色料たっぷりで身体には良くないけど、たまにはいいか。あれはたまに飲みたくなる気持ちも分かる。
「えと……時間はどれほど? 簡単にできる物ではないと思いますけど」
 ヨークシンに送り届けたのは六日前である。子供達二人は言われてすぐに出来るようになったけど、並の人ではそうはいかない。
「今日で四日目。さすがにみんな集合するのにそれじゃ恥ずかしいから、スパルタで教えた」
「オレは練の習得に三ヶ月かかったのに……」
 ポックルさんが哀愁を漂わせる。
「むしろそれが普通です」
 つまり、レオリオさんの才能もやっぱり高かった。で、同じぐらいかかったアキラ君は、天才二人ほどではなくとも、レオリオさんぐらいの才能はある、と。でも漫画内でのレオリオさんの扱いって、戦闘ではかなり微妙だから、どれぐらいなのかよく分からない。でも発を形にしたら、意外と大層な能力者になるかも。放出と強化を組み合わせ、離れた場所にいる人を回復させる、僧侶的なお医者さんはどうだろう。回復魔法みたいで格好いい。全体回復とかも出来そうだ。人を傷つける能力は、お医者様には似つかわしくないし。
「で、どうせならアヤノが来てからにしようと思ってさ、待ってたんだ」
 というか、放出か強化と断定していたが、そうとは限らないのか。典型的な強化放出の中間的な性格だから忘れていた。
「他人に系統バラし合うって、ほんと皆さん愉快ですねぇ」
 初心者だからこそなんだろうけど。発を念能力の形にしたのは、さすがにクラピカさんとアキラ君ぐらいだろうし。
 私は空いている椅子、アキラ君の隣に座ると、レオリオさんが咳払いをして発をする。
 変化がないかと思えば、徐々に水の色が赤みを帯びていく。
「やっぱ放出系だ!」
 アキラ君がガッツポーズをした。
「絶対に強化系だと思ったのになぁ」
「放出系の人多いね」
「っていうか、四人中三人が放出って、予想したオレでも当たってビックリだよな。性格出過ぎ!」
 アキラ君が三人を放出系と予測したらしい。
「よくポックルが放出だって分かったよな。くそっ全部放出系って書いておけば三問正解ってアリかよ」
「なんとなく。ほら、弓持ってるし」
 正確には、弓の形した能力を作っていた、だ。
「趣味と発は別だろ」
「あ、そっか」
 そりゃあ、性格から分かりづらいの、ポックルさんとボドロさんぐらいだからね……。
 ポドロさんは操作か具現化だと思うけど、どっちなんだろう。
「ねぇ、アヤノちゃん、放出はどんなタイプなの?」
「私流と、ヒソカさん流、どちらを聞きたいですか?」
「ヒソカ流? 何だそりゃ」
 ハンゾーさんが腕を組んで私を見た。
「強化系は単純一途、変化系は気まぐれで嘘つき、とか言う奴だよ」
 キルア坊ちゃまの包み隠さない言葉に、レオリオさんの顔が引きつる。
「両方聞きたい。ズシにウイングさん流は教えてもらったけどさ、イマイチはっきりしないからさ」
「ええっ、狡い!」
 一人だけこっそり聞いていたらしいキルア坊ちゃまに、ゴン君が指を突きつけた。
 これは、最下位はゴン君かな。
「両方聞かせてくれないか。忌憚ない評価が聞きたい。私は具現化系だ」
 ボドロさんは具現化か。真面目そうだもんなぁ。
「評価っていうか、ただの傾向ですよ。
 放出は、熱血な方や大らかな懐の大きな方が多いですね」
 センリツさんのような心優しい穏やかな女性もいるから。彼女は操作系寄りだろうけど。
「熱血?」
「ヒソカさんだと、短気で大ざっぱ、だそうです」
 キルア坊ちゃまは妙に納得して頷いた。心当たりがあるのか、青筋を立てるレオリオさんとハンゾーさん。一人戸惑うポックルさん。
「まあ、血液型占い程度の信憑性ですから。
 ……具現化系は真面目で几帳面な方が多いですね」
「じゃあクラピカもきっと具現化系だね」
 ゴン君が推測を口にした。クラピカさんは、忙しそうだから外したのかな。今の彼にそんなくだらない事で連絡したら、怒られそうだ。
「ヒソカ流だとどうなるのだ?」
「神経質だそうです」
「なるほど」
「ただの性格判断なんですけど、ここのいる人達はけっこう綺麗に当てはまってますよね」
 レオリオさんとハンゾーさんに睨まれた。
 ポックルさんは腕を組み、大らかか、と納得している。そこで落ち着いたらしい。まるで自分はこの二人とは違う、とばかりに。
「でも、どうしてこんな事を始めたんです?」
「一番多く当てた人の言う事を何でもきくってゲームを、キルアが」
 キルア坊ちゃま、自滅したか。
 子供は競争ごとが好きだな。早食い競争とかもしてたし。
「で、アキラ君は何をお願いするんです?」
「オレじゃ使えるかどうか微妙なカードの実験台。アヤノちゃんの望んでたかっこいいポーズとか、キルアにやらせるなら作れるかも知れない」
「キルア坊ちゃまにあまり変な事させたら笑いが止まらなくするわよ?」
 私が鉄串を手に言うと、アキラ君以上にキルア坊ちゃまの顔が引きつった。何をさせられそうになったのかも分からないながら、それがろくでもない事は理解したらしい。
 まあ、本当に変なキャラは出来ないみたいだから、可愛いもんなんだろうけど。
「イルミ坊ちゃまに見せられる程度にしなさい」
「アヤノ、それが一番嫌なんだけど」
 嫌でも、それが家族内の習慣である。
 アキラ君はびっと指を立てた。イルミ坊ちゃまに送るのだから、変な格好はさせないだろう。イルミ坊ちゃまは変な格好でも気にしないだろうが、アキラ君はそこまで彼の事をよく知らないから。
「ああ、そうだ。せっかくなので、これからうちで昼食でもいかがですか。近くに私が借りているアパートがあるんです」
 デリバリ用の人がいるけど、連絡してどけてもら……どいてもらえば問題なし。
「ヨークシンにアパートぉ? 金持ちめっ」
 レオリオさんがなじってきた。彼がお金目当てにハンターになったのを思い出す。短気なお医者様志望者という事しか頭になかった。
「月給が一千万なので、大した出費にはならないんですよね」
「嫌味かっ」
 レオリオさんは本当に短気だ。みんなも短気だなぁという目で見ている。
「その数年分の年収を、数時間ですれるこのガキどもはまったく……」
「ハンゾーさん、どういう意味ですか、今の」
 私は口を酸っぱくして、無駄遣いしないようにと言ったのに、なんでそんな事に? わたしはアキラ君をちらりと見る。
「オレ違う。オレ知らない」
「ええ、キルア坊ちゃまでしょう。アキラ君のような小市民的な子が、大金を使えるはずがありませんもの。
 ゾルディック家の方は金銭感覚がおかしいので、やるとしたらキルア坊ちゃましかおりません」
 アキラ君なら止めるだろう。結果が分かっているから。
「何だよ。オレのこと信用してないのかよ」
 キルア坊ちゃまは、ぶーたれる。私は首を縦に振った。
「申し訳ございません。お金に関しては、信用いたしかねます。
 で、いくら残っているんですか?」
「三人合わせて20億」
 えと……あれ?
「……増えてません?」
 うん。絶対に増えている。つまり、キルア坊ちゃまがすった分を、誰かが取り戻した、と。
「ほら、この前巻き込まれて連れてかれた飲み会にいたイケメンのお兄さんと、ばったりカジノで出くわしてさ」
 クロロさんかシャルさんと会ったと。
「で、儲け折半でカード使うのをお願いしたら、元々金運の強い人だったのか、神懸かり的な強運で30億。さすがイケメン。ハイスペックだった。カリスマって感じで」
 君はクロロさんに何させてんの。
 でも楽しそうにスロットを回し、カードで遊ぶクロロさんの姿を想像できてしまう。意外と子供っぽい所もある人だから。
「……あ、そーだ。次はミルキでどうだろう。あいつも金には不自由した事なさそうだし、痩せたから出来なくもないだろうし」
「今はだめですよ。仕事してますから」
 確かにミルキ坊ちゃまなら、イルミ坊ちゃまよりも安心できて、使いやすくて、可能性が高い。けど、今は運に任せた博打ではなく、堅実に仕事中なのだ。
「え? オークションに来たんじゃ?」
「お金をかせいでいます」
「え、ヨークシンで?」
「今日からは珍しく自分で現場まで足を運ばれるんですよ。最近はイルミ坊ちゃまと組み手をなさったり、とても活発です」
 外に出るのはいい事だ。可愛い女の子との出会いもあるだろう。
「アヤノちゃん……それってあれだ。痩せて社会復帰して、エリートコースに戻ったって事だろ」
「まあ、そうなりますね」
「それって、近々プロポーズされるんじゃないか?」
 アキラ君の言葉に、私は目を伏せた。確かに考え方によっては、それもありえる。分かっていたけど、目を逸らしていた。
「アヤノ、嫌なら嫌って言っていいんだぜ」
 俯いて考え込んだ私に、キルア坊ちゃまが優しくおっしゃる。
「でも、いいカップルだったじゃねーか。まあ、あの無表情はちょっとどうかと思うが、結婚したら少しは丸くなるかも知れないだろ」
「ハンゾー、オレの兄貴は二人いるんだよ。今話してんのは、オタクの引きこもりの兄貴」
 この調子だと、クロロさんの依頼にはミルキ坊ちゃまもついていく。あの場面に、斜に構えたミルキ坊ちゃまも加わる。自信も付く。
 ……どうしよう。
「うーん……この場合、相手が問題じゃないんですよね。
 万が一結婚して子供でもできたら、一通りの拷問訓練を受けさせなきゃいけないみたいなんですよ。私のような蚤の心臓の持ち主には、とても耐えられそうにもありません」
 皆が、あー、と納得した顔をする。
「女の子だったりしたら、もうどうなる事やら」
 もう考えるだけでぞっとする。私は意外と子供好きなのだ。子煩悩になる自信はある。
「あ、そうだボドロさん。娘さん達に、夜は外に出ない方が良いとお伝え下さい。私、夜には絶対に外に出るな、命の保証はないと命令を受けています。奥様以外の全員がヨークシンにいますし、本気で危ないんでしょうね」
 皆の顔色が変わる。
「一体……この街で、一体何が起こるというのだ」
「さあ。一つ言える事は、皆さん裏試験に合格したようですが、さすがにまだ私が一番強いです。私でさえ命の保証がない事が起こるかも知れない、ということをお忘れにならないでください。
 危ない人がいたら戦略的撤退をオススメします。守るべき対象がいるのなら、夜は離れてはいけません。普通の家の中にいれば、まず安心できると思います」
 こう言っておけば、ボドロさんは可愛い孫の所にいてくれるだろう。
 せっかく拾った命だ。また危険に飛び込む必要はない。一緒にいたら死にそうだ。そんな事になったらお孫さんが可哀想すぎる。
 もしもこれで怯えてポックルさんが今すぐにヨークシンから離れたとしても、何かお土産でも持たせれば問題がなくなるし問題ない。
 だからこその親切心である。
「ほら、あそこにいるひょろっとした男性と、太った方と、小柄なジャージの男性。
 恐ろしく強いですよ」
 偶然、ウボォーさんに殺される予定の男性が通りかかったので、窓硝子越しに教えてみる。
「確かにただ者ではないが、あれはアンタに比べてそんなに強いのか?」
 ハンゾーさんは私と彼等を見比べて、不服そうに顔を歪めている。
「まあ、戦闘力なら私よりはずっと高いですよ。ただ、戦闘力だけが力ではないので、判断つかないのは仕方がありません。オーラだけなら私の方が多いですから」
 闘っても、相性の問題で毛の人以外は死んでしまうだろう。
 安易に相手の身体に口を付けたらダメだと思うんだ。
「兄貴と比べたら?」
「ゾルディックの方は、念能力者としては最高峰。比べるまでもありません」
 イルミ坊ちゃまも毛の人とは相性悪そうだけど、方法はいくらでもある。
「でも、あの人達、きっと死にますね」
「え? 親父達のターゲットなの?」
「いいえ。なんとなく」
 キルア坊ちゃまの問いとはいえ、結果を知ってるから、などとは言えない。さすがにあの人達は助けられない。面識もないから、私にメリットがないし。
 同期の皆さんなら、いつか役に立つ時もあるかも知れない。ボドロさんは好みだから。
 私は湯気の立つコーヒーを飲んでいると、ポックルさんが不気味そうに私を見た。
 良い感じではないか。後でハンターサイトでも見れば、彼等が死んでいると調べられる。そうなれば、ますます私の霊感的に見える発言に信憑性が涌く。



[14104] 44話 段取り
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/02/09 23:31


 とある落ち着いた喫茶店の片隅。
 私の座っている向側の席に、背の高い男の子が座っている。じゃらじゃらのコジャレた格好に、グレーのカラコン。
 もちろんアキラ君だ。
 能力に必須な装備品も兼ねているので、かなり過剰装飾である。
「なーんか、デートみたいだなぁ」
「…………?」
「ごめんなさい。デートって言葉に憧れてたんですすみません」
 私は何も言っていないのに、アキラ君は謝った。
 相変わらず超ヘタレである。
「これから人が大変な目に合うってのに、浮かれてるんじゃないの」
 今日はウボォーさんが死ぬはずの日だ。まずはそれを防がなきゃならない。
 なので、本番前の作戦会議である。
 アキラ君は皆が腕相撲をしている間は、金儲けの効率が一番いいカードを再び作るためホテルの部屋に籠もり、シズクちゃんとの遭遇を回避し、条件競売への参加もミルキ坊ちゃまの所に行くという理由で回避した。
 今は旅団員に会わない方がいい。というか、会ったらヤバイ。少なくとも、クラピカさんだけには、関係がある事を知られてはならない。それは何とかクリアした。この子は絶がまだ下手だから、尾行に参加させられる事は絶対にない。
 問題はクラピカさんを誤魔化しつつ、どうやってウボォーさんを助けるかである。
 アキラ君が任せろと言うから任せるつもりだが……。
「アキラ君はどうするつもりなの?」
「あ、うん。これ使う」
 アキラ君がバインダーを差し出す。
 何のカードだろうと思い覗き込み、アキラ君好みの青年が画かれているのを見て私は彼の頭を、袖に潜ませたおたまで殴った。
「デスノートでどうするの!?」
 私は声を潜めつつ、アキラ君に怒鳴り付けた。
 生かす場面でデスノート。
 意味が分からないにも程がある。
「ちょ、そのおたま持ち歩いてるのかよ!?」
 遊びでガードする練習をしたためか、あっさりとノーダメージにされてしまった。あの二人に付き合っていれば、アキラ君のような格下でも上に引っ張り上げられるらしい。というか、この子達、腕と頭部の流だけ異様に上達しているな。頭にオーラを集めるのが上手い人ってあんまりいないのに。別に頭が集めにくいというわけではないが、普通は攻撃にも防御にも使う腕や足が真っ先に流をしやすい部位になるものだ。
「だから、オレのカードの能力に殺傷力は無いんだって」
「じゃあなんでデスノートなの?」
「だから、時間制限があるって言っただろ」
「は?」
 意味が分からない。時間制限って、デスノートを使える時間じゃないの?
「このエセデスノートは、名前を書いたら死ぬんじゃない。制限時間内だけ死んでるんだ。つまり仮死状態っぽい状態にするんだよ。対象が弱ってないと使えないけど」
 念能力による仮死状態……。
 確かにそれなら死んだと思わせられるし、好都合である。
 クラピカさんの能力は、心臓に攻撃を加えて殺す能力だ。操作系もそうなのだが、同系統の能力というのは早い者勝ちなのである。
「制限時間は?」
「威力を殺して時間に裂いたから20分」
 私が触れると、30分とかなり短い時間が出た。あまり差がない。
「元ネタに近い体格とか見た目なほど、威力も時間も上がるんだ」
「つまり、私は体格どころか性別すら違うから?」
「そう。装着できるかどうかも重要」
「アムドやめたの?」
「いや……アムドって言うと機嫌が悪くなりそうな気がして」
 分かってるじゃないか。あの屈辱は忘れない。いつかアキラ君が泣いて嫌がるような恥ずかしい目に合わせてやる。
 そういえば、アキラ君とこの自称神の身長は同じぐらいだな。そう考えると、アキラ君には似合いそうだ。
 ……つまり、コスプレが似合うと時間が延びる、と。
 私の知らない、くっだらない制約が山ほどあるんだろうなぁ。
「で、オレの考えた作戦はこう。
 クラピカが絶の状態にして抵抗力がまったく無くなるから、威力が最小のデスノートでも確実に発動する。
 タイミングは二人の会話が始まったら準備。ギリギリの所でノートに名前を書く。これ、名前書き終わった瞬間に発動するから、原作みたいなタイムラグはない」
 殺さないというのも、便利かも知れない。アキラ君のように、殺す度胸もなさそうなヘタレにはちょうどいい能力だろう。
「んで、クラピカが立ち去ったら、念のために透明マントをかぶせて待機。クラピカが除念されたことに気付きにくくなるかもしれないからさ。
 原作じゃ一時間ぐらいで戻るって言ってたから、たぶん時間的にはギリギリになると思う。もしも先にウボォーさんが生き返っちゃったら、諦めて二人ともアヤノちゃんの毒で眠ってもらう」
 私は薫り高いコーヒーを飲む。豆といい、ブレンドといい、腕といい、この喫茶店は最高だ。
 アキラ君も湯気の立つコーヒーを飲む。
「アヤノちゃんはどう思う?」
「始めから毒か記憶操作しかないと思っていたから、それでいいわ。気になるのはやっぱり、クラピカさんが除念されたら分かるって事ね。まあ、これだけは結果を見ないとどうしようもないし、どういう風に分かるのかすら分からないから」
「そうだよね。まあ、分かるって言っても、解けた瞬間分かるんじゃないと思うんだ」
「どうして?」
「オレの場合も手元から離す能力だろ。カードが使われたかどうか、意識すればなんとなーく分かるけど、意識しないとバインダーを見ない限りは分からない。執事さんも常にそんなのが分かったら、頭がどうにかなるって。
 だからこういうのって、ちらっとでも意識するかしないかなんだ。
 いくらすぐに見られる場所に目印があったとしても、生活しているすべての時間、それだけに意識を向け続ける事は出来ない。常に意識しているつもりでも、意識できない時がある。かと言って、クラピカの能力が外されたら合図を出してくれるとは思えない。そんな無駄な事に力をそぐなら、少しでも能力に力を注ぐに決まってるから」
 確かに目を向ければ分かるのに、滅多に使用しないアラームをつけるなど、メモリの無駄遣いにもほどがある。私だって自分の能力に時間制限はあるが、アラーム機能はあえてつけなかった。ほんの少しの手間を惜しんで無駄な事をしないために。
「クラピカはウボォーさんを殺して、疲労困憊で、しかも次の手を考えるためにウボォーさんに対する意識が薄れ、前を……つまり実はまだ生きているウボォーさんの方なんてもう見ない。その隙に除念してしまえば、死んでいるのか除念されたのか、はっきりしないと思うんだ。
 彼の性格から、他人で確信を持つほど何度も実験しているとは思えない。していても、数える程度。あの能力ではまだ誰も殺していない可能性すらある。つまり、経験のなさが、確信を持たせない。その上、オーラを遮断する布で心臓包んでしまえば、可能性は上がる」
 流れを知っているからこそ出来る作戦である。
「確かに能力は早い者勝ち。先に殺されてしまえば、生者に効くのが前提の能力は効果を無くしてしまうから、デスノートで先に殺してしまうのは有効だと思います」
 ルールを破った瞬間に具現化して、心臓を攻撃するような能力だろう。
 先に死んでしまえば、ルールを守らせるような能力は効力を無くす。発動のタイミングは難しいが、うまく決まればかなりの確率で誤魔化せる。
「除念の間は問題ないの?」
「首飾りの解呪そのものは時間がかかるかもしれないけど、カードにするのは一時間ですむ。封じてしまえば、たぶんクラピカにも分からなくなる。
 それに違和感を与えても、死体を確認しに行くような時間はないだろ。目の前で死んでるから、偽物だっていうのはあり得ないし」
 あんな強いそっくりさんを作る能力というのはありえないというのは、闘うクラピカさんが一番分かるはずだ。。
「仮定ばかりで悪いけど、こんな所でどうだろう」
 私は首を縦に振る。
 これがクラピカさんが暇な時ならともかく、ここから先は怒濤の日々である。経験を積んでから疑問に思ったとしても、あんな荒野に埋めてしまうから、正確な位置など分からなくなっているだろう。
「一か八かだけどまあいいわ。それで行きましょう」
 アキラ君にしては、マシな作戦だ。少なくとも私の強制終了に比べれば。
「何か夜食でも食べる? この店、料理も美味しいのよ」
「へぇ。パスタでも頼もうかな。ここ、コーヒーも美味いよな」
「ブラックで飲む高校生も珍しいわよね」
「いや、徹夜の時はさぁ」
 何のために徹夜したんだか……。
 聞いたら彼の母の話題が出てくるだろうから聞かないけど。
「動くのは12時前後だったかな。見張って無くて、場所は分かるの?」
「見張ってるから大丈夫」
 ケータイのディスプレイを見せ、とあるホテルの映像を見せた。
「プロハンターとしての特権と知識を利用すれば、予定の場所は簡単に分かります」
 彼が現れたら移動しましょう。下手でもいいから、絶をしていてね」
「けっこう上手くなったんだからな。車で移動するなら集中できるし大丈夫!」
「頼むわよ。戦闘が始まったら、多少のことでは気付かれないからいいけど」
 力の差があるならともかく、緋の目を持つクラピカさんは、それで能力者としての不足を補ってしまっている。
 互いに他を気にしているような余裕はないはずだ。離れた所の物陰に隠れていれば、彼等に気付かれることはない。



あとがき
最初は某チューリップ仮面を使おうと思ったんですが、時間制限縛りにしてからそれが不可能になったので、こっちにしました。
本当はチューリップの方が見た目がシュールで好みなのですが。



[14104] 45話 実行
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/02/19 23:55
 私とアキラ君は、現在決闘を離れた所から眺めている。
 無事に見つからずに追うことが出来た。ゾル家仕様の静かな車である。職権濫用だが、私なので問題ない。知り合い巡りも私の仕事の一つなのだから。
「さて……」
 クラピカさんが本気モードに入ったので、暗視鏡で様子を見るアキラ君がカードを取り出し、アムドする。
「え、もうコスプレするの?」
「コスプレ状態だと、能力使わない限りはカードの時間に関係なく、最大時間この格好でいられるんだ。常時発動能力じゃない限りは、手に持ってスタンバイできるようになる」
 コスプレに何の意味があるのかと思ってたけど、多少の意味はあったのか。
「チェーン・ジェイルを使い始めたから、もうすぐだよ」
「どうでもいいけど、こんな能力名まで覚えてるんだ」
 私なんて、クモ専用鎖がある事しか覚えていなかったのに。
「クラピー好きだったから」
「好きな相手を裏切ってる自覚はあります?」
「それはそれ、これはこれ。オレの目的だけ考えたら、旅団が味方でいてくれる方が有り難いしさ。クラピカは好きだけど、どう考えても帰るのに役に立ってくれないだろ。でもあの人達はゴン達の次に可能性が高そうだからさ。
 どっちかが絶対に死ぬならともかく、好きだからなんて理由でチャンスは逃さないよ。ここで助けたら、クロロさん達もタクマさんの事抜きで信用してくれるだろうしさ。いつまでも二人のオマケじゃあ、何だからなぁ」
 アキラ君にとっては、旅団を多少追い詰めてくれた方が有り難いって事か。
 私よりも目標へのハードルが高いから大変だ。しかもゴン君達にだけはばれないようにしなきゃならないのが大変だ。
「確かに目的のためなら、利用できる物は何でもしないと」
「それにさぁ、ほっといたらあの念獣に取り憑かれたクロロさんに殺されそうだろ」
「…………そういえば、そんなような設定でしたね」
 ぶっちゃけ、細かい所は全然覚えているはずがない。とくに興味のない所は。除念って私が思っているよりも面倒なようである。確か妊婦のようになっているアリの女の子もいたな。
「問題があるとすれば、ドッジボールにヒソカが参加しそうにないって事ぐらいだな」
「ドッジはミルキ坊ちゃまに頑張っていただきましょう数合わせなら私が風船でも使って出来ますし、最悪の場合、ゾル家の何人かと執事さんたくさん連れてこればヒソカさんの代わりになりますよ。というか、私も欲しいんで、あのゴリラの人が邪魔です」
「いや、でも……」
 物語的にはそれほど重要ではなかった。だから代わりはいくらでもいる。
「まあ、今は目の前の事考えよう」
「そうね。そこそこ邪魔しないと」
「オレの罪悪感に塩塗り込んで楽しい?」
「私だってこれでも心ぐらい痛むのよ」
 罪悪感を感じるのは、私にしても同じである。優先順位を明確に付けられるかどうか、割り切れるかどうかが大切なのだ。もう少し考えて、うっかりな結果を引き出さないようになってくれれば、安心してみていられるんだけど、この子の今までの結果を見ていると、安心できない。
「これだけは聞いておくけど、後でバレたらどうするつもり?」
「もちろん諦めて、夜だったから相手がクラピカだって気付かなかったと言い訳する。ウボォーさんはデカイから分かったって。この時点じゃ、オレはウボォーさんがクモだって情報を知る術がないし。知り合いが危なそうなら、助けるのが普通だろ」
 確かに、暗視鏡がなかったらオーラでなんとなく分かるぐらいだから、言い訳も出来そうだ。センリツさんがいたら嘘がばれそうだけど。
「アキラ君も利己的ねぇ」
「アヤノちゃんにだけは言われたくないから。どーせ蟻とかも食いたいと思ってるんだろ。イカルゴとか」
「…………」
 み、見破られた。まさか、最終目標をこの時点で見破られるとは……私はこの子を侮っていたようである。
「…………まさか、本気で食う気かよ。イカルゴだけは絶対にダメだからな」
「キルア坊ちゃまのお友達は、食べたくても我慢しますよ? イカって、一番美味しそうな見た目をしていたタコさんの事ですよね」
 よく知らない振りをしてみた。
「じゃあ、ブロヴーダとかは食うのか」
 っく……ここまで見破られるとはっ……。
 しかし、私の食癖を看破したからといって、それが最終目標であることは見破られていないだろう。そのために歴史を変えようとしないなどとは知られてはいけない。
「えと、ひょっとしてあのエビさんのこと?」
「そう」
「あの方は美味しそうな気がするので、ヤったらぜひください。とてもいいダシが出そうね」
「確かに、いいダシが出そうな見た目だけどさぁ……。
 まあ、イカルゴじゃなきゃいいか」
 っしゃ! 運が良ければブロヴーダを労せずゲットできるっ!
 ああ、あの素敵な甲殻類、想像するだけで……。
「あれ?」
 突然、アキラ君が身を乗り出した。
「どうしたの?」
「ウボォーさんが捕まらない」
「は?」
 私は慌てて意識を二人に向けた。いきなり殺されないのを知っているから気を抜いていた。
 二人は今も壮絶バトルを繰り広げている。
「見えない鎖を避けてる。今、捕まってなきゃいけない場面だった!」
 私も様子を見る。
 ウボォーさんは想像よりも冷静な戦い方をしている。
「アヤノちゃん。タクマさんって強化系だったよね」
「ええ」
「助けたかったんだよね」
「ええ」
「その場合、アヤノちゃんならどうする?」
「凝の徹底と具現化系との戦いを指導します……」
 ウボォーさんは、漫画よりもより注意深い。しかも念の使い方が見た目に反して細かい。考えられるのは、彼の師匠がこの日のために徹底的に仕込んだという事だ。
 注意深いウボォーさんが、クラピカさん程度の初心者に負ける要素は全くない。クラピカさんの能力は初見殺しである。具現化系と疑われて闘われたら、ウボォーさんクラスの能力者を捕縛するのは不可能だ。
「ど、どうしよう」
 聞かれても、そもそもウボォーさんが捕まらなかったら、作戦自体が成り立たない。
「もう少し見守って、どっちかが死にそうだったら、双方強制終了ね」
「そ、そうだな」
 私はアジオウ様をこっそりと接近させる。幸い、今は夜だ。頑張って隠をかければ見つかる事はまずない。しかし、手元から離れたオーラを隠で隠すのは、本当に難しい。
「ウボォーさんの方が押してるな。最初は敵の能力が分からなかったから、抑えてのたか」
「タクマさん、余計な事をっ……」
「いや、タクマさんにしたら、いるかいないか分からないオレ達より、確実な方法を取るのは当たり前だし……そんなに怒らなくても。
 アヤノちゃんだってキルアとかカルトちゃんにそういうシーンがあったら、手を打つよね?」
「そりゃあもちろん。でも他人に邪魔されるとむずむずするじゃない」
「アヤノちゃん、策士策に溺れるタイプだろ」
 そんな会話をしながらも、私達はちゃんと戦闘を見ている。クラピカさんとウボォーさんの間にある差を作り出す要因は、それぞれに一つずつある。クラピカさんは反則的な緋の目の反則的な優位。ウボォーさんには、圧倒的な経験。
 どれだけ厄介な特殊能力でも、それを冷静に判断し、経験で覆す事は可能だ。とくにこのウボォーさんは注意深い。反対にクラピカさんは憎悪と執念で念能力者としての不足を補っているが、短期決戦でなければその優位は簡単に覆されてしまう。オーラ量だって上がるとは言っても、半年足らずの付け焼き刃。倍になったとしても、オーラ量が絶対に不足する事になる。
「まずいわね。ウボォーさんはクラピカさんを既にただの具現化能力者と見ていないわ。油断がなければ付け入る隙もない」
 クラピカさんは実験をしていた。つまり相手を下であると見ていた。少なくとも、頭の中身は下であると見ていた。大ざっぱで、注意深くないと思い込んでいた。
 幸いなのは、クラピカさんの腕が折られていない事だ。ウボォーさんは鎖を回避するために、腕を折れなかったらしい。これで腕を折られていたら、治療する間もなかったはずである。
「うーん。どうしよう」
 私はアジオウ様で拾った映像と音声を確認しながら、そろりそろりと近づかせる。
 その瞬間、ウボォーさんと目が合った。私でなくアジオウ様が。
 彼の手が向けられ、念弾が飛んでくる。
「ちょ」
 とっさに回避させたが、回避しきれずに吹き飛ばされて、崖にぶち当たる。
 画面が真っ暗になった。
「いやぁぁぁ、アジオウ様がっ」
 私は頭を抱えた。一番高価なのがアジオウ様である。神字が削れていたらどうしよう。
『どこを見ているっ』
『ちぃっ』
 盗聴器の方は生きていたらしく、音が聞こえた。慌てて肉眼で確認すると、クラピカさんにウボォーさんが捕獲された。
「す、すげぇ。ここまでずれても戻るんだ」
「っく……私のアジオウ様が……」
「いや、あの、でも、完全には壊れてないんだろ? アヤノちゃん、音がダメになるかも知れないから、目視で確認してくれ。オレはこっちに集中する」
 クラピカさんがウボォーさんを殴るのを確認すると、アキラ君は俯せでノートを広げた。ノートにペンを走らせ、手を止める。
「タイミングを」
 私は音と様子を見ながら、高性能な暗視鏡でクラピカさんの口の動きを見る。ある程度の訓練を受けているので、なんとなく分かるようになった。
「今刺さった。まだよ」
 アキラ君はノートとにらめっこしている。だから私のタイミングが大切だ。これをアキラ君に任せるのは厳しいので、この役割分担なのだ。
 クラピカさんが唇を動かす。
 音声は少し遅れる。視覚に頼った方が確実だ。
「まだ、まだ、まだ」
 仲間はどこ。
 きっとそんな風に唇が動いた。
「今」
 ウボォーさんの口はよく見えない。それでも、あの台詞を言い、心臓が潰されるよりは早いはず。
 倒れたのはクラピカさんの念か、アキラ君の念か。
 クラピカさんが顔を顰め、ウボォーさんの脈を取る。クラピカさんは、あの能力で人を殺した事があるのだろうか。何にしても違和感を感じようとも、脈は無く、瞳孔を見たとしても散大しているはずだ。クラピカさんは死んでいるのを確認し、車にスコップを取りに行く。その間にこっそりアジオウ様をウボォーさんの髪の中に潜ませた。
 万が一、時間が足りなかった時は、じっとしているように忠告するのだ。最悪の場合は睡眠薬を塗った串で刺す。
 しかし心配もよそに、クラピカさんは15分で埋葬を終え、素早く戻ってくれた。コックさんを先に飛ばして掘り返し、駈け寄るとマントを胸を覆うように結びつけた。残り時間は一分を切っている。私のマントは一時間半。前より増えたのは、アキラ君のオーラが増えたから。アキラ君の能力封印能力も急げば一時間。
「……ここは」
「あ、ウボォーさん、大丈夫ですか。彼が戻ってきたら私達がヤバイんで、できれば絶をしていて下さい。今除念しますから、とりあえずこの穴から出てください」
 オーラが溢れそうになるのを制すると、絶をしてくれた。
 口の中の泥を唾と共に吐き、身を起こして穴から出る。
「アヤノにアキラ? どういうことだ? オレはお前らに助けられたって事か?」
「というか、私が様子を見ていたせいで捕まってしまいましたから」
「ってことは、あの時のオーラはお前のコックか」
「心配で様子を見ていたのに、邪魔をしてしまって本当にごめんなさい。相手が彼だったから、心配で。その布は念のために付けているものなので、取らないでください」
 透けないようにひっくり返して巻き付けている。これでももちろんオーラは漏れない。クラピカさんのオーラも遮断できていると嬉しい。
 その間に、アキラ君は掘り起こされた地面を埋め直していた。
「あの野郎と知り合いか」
「知り合いというか、ハンター試験の同期で、うちの坊ちゃまのお友達なんです」
 それでウボォーさんは納得してくれた。私の優先順位を知っているからだ。
「一体どうしてオレは地面の下に?」
「とりあえずアキラ君の能力で、仮死状態にして難を逃れたんです。そうしたらご丁寧に埋葬してくれて……」
「仮死状態だぁ?」
 ウボォーさんは穴を埋めているアキラ君を見る。アキラ君は後ろ頭を掻いた。
「ご、ごめんなさい」
 助けたのに謝ってどうする。
「別に謝る事はねーだろ。おかげであの忌々しい鎖から解放されたんだ」
 ウボォーさんはにやりと笑い、歩き出そうとする。
「まだ胸にありますから、落ち着いてください」
 私は今にも追って行きそうな彼の手を押さえた。ウボォーさんも男性だ。女にこうされると大人しくなる。もちろん興味があったりするか弱い女性限定である。
「鎖はそのままなので、彼を追おうとはしないで下さいね。同じ事を問われて答えないと、死んでしまいます。先に除念しないと」
「ああ、そうか。ちっ」
「除念は出来るので、まずは私のアパートにでも」
「ああ、アキラか。団長から聞いてるぜ」
 なんて直接的なアピールをするんだ、この子は。まあ悪くはないからいいけど。
 私はいつものようにケータイを取り出し、いつものように問い掛ける。
 ひょっとしたら、彼が戻ってくるかも知れないから。念のために盗聴器だけ地面に埋めておいて、私はデリバリを発動させた。





 ウボォーさんはアパートの床に座り、ソファに腰掛けるアキラ君と向かい合う。うちのソファ、ウボォーさんには小さいし、彼は現在土まみれだから彼がソファーをどかせてしまったのだ。
 ローテーブルを挟んで向かい合う二人を横目に、私はコーヒーをテーブルに置いた。
 今はカードの細かい部分を書き込みながら、能力の説明をしている。
「オレの念能力を全部このカードに移す?」
「うん、そう。その間は発が出来なくなる。ウボォーさんの能力がカードに封じられて、他人にかけられた念能力もろとも、すべて一緒に封じられる」
「それでどうするんだ?」
「タクマさんにもらったこれ」
 アキラ君はてを止めることなく、聖騎士の首飾りを取り出した。
「呪いを解く効果があるんだ。本人の念以外を呪いとしてカードに封じ、これで呪いを解ける」
 はず。
 と小さく口が動いたのを私は見た。
「ただ、こんな強い念は初めてだから、すぐに呪いが解けるかどうか分からなくてさ。とりあえず気付かれる前に、少しでも早く呪いを封印したいです」
 闘技場にいた頃、ミルキ坊ちゃまが適切な執事さんを使って、アキラ君に協力していたのだ。それを何度か送り届けたのが私。
 だから並以上の念でも除念できるのは分かっているらしい。問題はこんなに怨念が籠もっている念は初めてである事のみ。
「除念がすんだら能力はすぐにもどりますから。どのみち一回使ったら本人の所に戻る能力なんで、能力をカードにさせて欲しいんです」
「まあいいさ。やってくれ」
「よかった」
「見ず知らずの相手ならともかく、お前らを今そこまで疑ってどうするんだよ」
「いや、本人がちゃんと理解して同意していないとカードに出来ないんですよ。同意前提の能力なんで」
「ふぅん。ずいぶんと良心的だな」
「除念のためのオマケ能力なんで、無理矢理奪う必要がないんですよ。メインは他の能力だし」
 相手の事を、二次元の存在に脳内変換出来るのが前提だしね。
 アキラ君なら、漫画に出ていないキャラでも出来そうな気はするけど。
「じゃあ、質問に答えてください。ウボォーさんの能力は? あ、適当に一つで良いんで」
「ビックバンインパクト。ただ思い切り殴るだけだ」
「はは。カード使っても無駄ですよねぇ」
 アキラ君は最後の必要事項を大きなカードに書き込んでいく。
「できた。じゃ、リラックスしてカードに触れてください」
 バインダーの中で、準備が整ったカードを指さす。
 ウボォーさんのイラストと、能力が書かれていた。
「相変わらず、上手いもんだなぁ。オレが死んでる間に描いたのか?」
「はい」
 もちろん嘘だ。事前に用意した物である。
 面倒くさい能力だ。
「じゃあ、オレがオーラをカードに注ぎ込むんで、その間、吸い取られるような感覚があるんですけど、抵抗せずに普通にしてて下さい。あ、終わったらたぶんオレ疲れて倒れるんで、すぐにカードからは手を離してください。外に出ているとバレるかも知れないんで。
 だから除念は起きたら始めます」
「ああ」
 アキラ君がバインダーに手をかざし、発をする。
 初心者だから目を見張るようなものはないが、必死にやってくれているのは見れば分かる。
 初心者のアキラ君の念が形になったのは、彼が頭の中ではっきりと形作るのが得意だからだ。具現化系に必要な要素を始めからほとんど持っていたのである。だから彼の念能力の才能がずば抜けているという事ではない。ただ、適性がずば抜けていたのだ。
 能力の影響下にあるウボォーさんの眉がぴくりと動いた。
「変な感じだな」
「我慢してくださいね。時間がかかるんで、コーヒー飲んでてもいいですよ」
 全力で練をしているわけではないからすぐに倒れる事はないが、余裕があるのは今だけだろう。
「喉が渇いたら言ってね。ストローを口元に持っていくぐらいするわよ」
 全力でやっても、一時間。しかも呪いを真っ先に吸い上げるため、気を使うはずだ。ずっと集中しているのは大変だろう。今はまだしゃべる余裕があるけど、そのうち口もきけなくなる。
「ん、大丈夫。毎日の事だし」
「へぇ、がんばってんじゃねーか。どうだ。強くなったらオレ達の仲間になるか。レア能力者は歓迎だぜ。一人気に入らないのがいるからさ、そいつぶっ殺してよ」
「はははは、オレ程度じゃ無理ですよ」
 どう考えてもその相手はヒソカさん。無理に決まっている。
 私は笑いながら、皿にマドレーヌを盛りつけた。
「ウボォーさん、よかったらこれ食べて下さい」
「お、ワリィな。ちょうど腹減ってたんだ」
 言いながらウボォーさんはマドレーヌに手を伸ばし、豪快に食べていく。いい食いぷっりだ。料理人としては惚れ惚れとしてしまう。




 翌朝……というか、もうお昼近く。アキラ君がなかなか起きずに遅くなってしまった。よほど大変な作業だったらしい。相手はウボォーさんに怨念が籠もった念能力となれば、仕方がない。
 朝食兼昼食を終えてから、アキラ君がバインダーを取り出した。
「おお、オレの念。髑髏マークがついてやがる」
「うん、これが呪われている印。分かりやすいようにさ。これが消えたら除念完了。でも、どれだけ時間がかかるか……」
 ゲームの呪いではないので、触れてぽんぽん治る物ではないらしい。
「数日か。仕方ねーな。今度は触るだけでいいのか?」
「はい。これはオレの能力じゃなくて、アイテムを利用した除念なんで、こっからは楽です。オレ以外が持ってると、クラピカに悟られるかも知れないんでオレがやっときますから、出来ればじっとしていて下さい。
 って、ヤバ、ゴンに連絡するの忘れてた! ちょっと失礼します」
 アキラ君は突然慌て出し、ケータイを片手で操作する。
「あ、ゴン? わりー。昨日はいろいろと大変で。今、アヤノちゃんのとこ。カード作ってそのまま寝ちゃってさ。あー、午後からなら。え、透明マント? 昨日使ってない。しゃーないだろ。色々あったんだ。色々と。
 あ、食事はバランスよく取れよ。んじゃ」
 ケータイを切る。そして私を見た。
「アヤノちゃん、キルアにさ……オレはどうでもいいからカード貸せって言われた」
 あ、拗ねた。
「まあ、本人はいてもいなくても一緒だし仕方がないんじゃない?」
「ひどい……」
 自分が選んだ能力なのに、何を言うんだか。アキラ君が参加するよりも、ハンゾーさんに何か役に立ちそうなカードを渡すのが、はっきり言って今は一番である。
「そういえばボドロさんは?」
「ご家族と一緒だって。ポックルは仕事の都合で行ったよ。残ってるのはハンゾーだけ」
「そう」
 よかった。ついてきたらどうしようかと思った。ハンゾーさんは、諦めよう。あの人はなかなか死ななそうだし。
 それよりも、今は下手に流れを変えないために、リラックスしているウボォーさんをどうにかする必要がある。下手にクモの人達に連絡を取られたら、あっさり帰ってしまうかもしれない。ヨークシン編は、キルア坊ちゃま達にとって念能力の奥深さを知るのに必要である。
「ウボォーさん、コーヒーと紅茶、どちらが良いですか?」
「ん、ミルクティ」
 アキラ君が目を見開いた。気持ちは分かるけどさ、君素直すぎ。
「オレがミルクティ飲んでそんなに意外か?」
「いや、ビールとかワイルドな物が似合うと思ってたから、ほんと意外で。
 あ、オレ、ブラック」
 うん、知ってる。
 私は自分の分のコーヒーも用意し、二人に運んだ。ウボォーさんは砂糖を入れ、スプーンでかき混ぜ、一口……
「…………アヤノ、これ、なんか……」
「え?」
 私は驚いた振りして、砂糖の入れ物を見た。
「あ、坊ちゃま用の砂糖」
「ちょ、毒!?」
 アキラ君が腰を上げた。
「げげげ、解毒剤は!?」
「えと、そう、ただの睡眠薬なので解毒剤はありません」
 その言葉を聞いて、二人は肩の力を抜いた。睡眠薬は永眠薬にもなるのに、甘い人達である。
「すい……みんやく、か。まったく、アヤノはたまにポカすんな」
「す、すみません」
「まあいいや。除念、てきとーに頼むぜ」
 そう言って、ウボォーさんは眠りに落ちた。完全に夢の中なのを確認すると私は胸をなで下ろす。
「計算通り」
「いや、アヤノちゃん……」
 アキラ君がバインダーを抱えてビクビクしているが、私は気にしない。
 これでパクノダさんが死ぬ直前ぐらいに介入すれば、ほとんど流れを変えずに介入が可能だ。
 よし、頑張ろう。




[14104] 46話 捕獲 アキラ視点
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/02/15 21:46


 アヤノちゃんの恐ろしい一面を見て数時間後。ウボォーさんをベッドに運び、大きなベッドなのに小さなベッドに見える事に驚愕した後、マチとノブナガを監視するみんなの所に向かった。
「おせぇよ」
 目があった瞬間、キルアに言われた。
 家に帰りたいなんて、キルアには理解できない悩みだろうな。
「色々とトラブっててさ。ミルキはいないし、カード使わなきゃならないし、アヤノちゃんにイジられるし」
「ミルキの奴、アヤノほっといて何してんだよ」
「なんか大きい仕事があるんだって」
「まさか旅団追ってないだろうな」
「この時期は毎年忙しいってさ」
 大きい仕事があるから、昼はアヤノちゃんと一緒に、とでも思ってたのに、いざ来てみれば、昼間までデートする暇もないとかメールが来た。
「そういえば、毎年この時期は親父達いなかったな……」
 キルア達お子様組は、さすがに連れてこられた事無かったか。念能力者の見本市みたいになってるから仕方がない。
 今夜の暗殺合戦、ミルキはどっちにつくんだろう。
 下手にシルバさん達の方にいたら、さすがにクロロさんヤバくない? ミルキ、やる気出せばけっこう強いみたいだし、多勢に無勢すぎる。
 でもまあ、たぶん危険度が低くてターゲット多いイルミさん達の方だと思うけどさ。
「で、こんな所にいるって事は、何か儲け話はあった?」
「あれだよ。じっと見るなよ」
 あれとは、もちろんマチとノブナガである。
「ああ、来る時に見たよ。あの強そうなカップルだろ? 隠れる気なさそうだよな」
 マチは美人だった。格好に気を使ってくれたらもっと可愛いのに、もったいない。
「獲物が引っかかるのをまってんのさ」
「あれがクモだとよ」
 キルアとハンゾーの台詞。
「マジで?」
 知っているけど驚いたふりをした。
 あの二人とは初対面だけど、やっぱ半端無かった。ピリピリしていて、近くにいるのが怖い。昨日のウボォーさんとクラピカの対決を見ているよりはマシだけどさ。昨日のアレは、本当全身にビリビリと来た。見てるだけで怖かった。アヤノちゃんがいたから平気だったけど、一人なら及び腰になってタイミングを合わせられなかっただろう。一人でなくて本当に良かった。アヤノちゃんはこんな世界を、一人でも平然と渡り歩けるんだもんな。凄いよな。
 この前の集まりに参加した時はみんなフレンドリーだったから、こんな風には思わなかったけど、やっぱり原作通り……それ以上の幻影旅団なんだと実感した。
「はは、絶対に無理だろ。お茶目さんだなぁ」
「だろー。闘って勝てる相手じゃねえよ。このお子様にもっと言ってやってくれ」
 ハンゾーが同意して、ゴンをつつきまくった。一番強いのはこの人だ。この人がダメと言えば、勝てるはずがない。ただ、放出系や強化系は結果を出すのが大変で、大器晩成型になりがちだ。オレやクラピカみたいに、形にしてしまえばある程度使えるというものではない。クラピカの場合、操作系能力も使いこなしているから、オレとは違って、ちゃんと使いこなしてるんだけどさ。
「動いたぜ。どうする?」
 キルアの問いに、オレは反対しそうになる。流れを知ってなかったら大反対する。あんなの相手にするの無理。
 でも、阻止したらアヤノちゃんに文句を言われそうだから黙っておく。
「何とかするさ。しなきゃなんねーだろ」
 案の定、レオリオは覚悟を決めたような男前な顔をしてそう言った。
「うん。黙って帰るわけにはいかないもんね」
 ゴンがこういう所でおかしいのは分かってる事だから良いけど……。
「ったく……お前らは」
 ああ、ハンゾーまで諦めた。ゴンの頑固さは、ある意味彼が一番よく知っている。
 ……なんてーかさ、なんてーかさぁ……。
 この人達おかしいよ、うん。アヤノちゃんじゃないけど、オレは小市民だから心臓が縮み上がるよ。ついてけないけど、この程度で怯んでいたら、帰れるものも帰れない。度胸試しと思って流れに乗ろう。
「オーケイ。んじゃ、オレ達の言う事よく聞いてくれ」
 達、とはハンゾーさん含むからだ。
「尾行はオレとゴンとハンゾーでやる」
 あ、やっぱりオレ外された。
「不満そうにするなよ。アキラ、絶まだ下手なんだしさ」
「不満はないさ。自覚あるし、マントないし」
 連れてかれたらパクノダさんと出会ってしまう。とっても危険だから参加できないのは分かっていた。これで良かったと分かっているが、ちょっと寂しい。
「絶が下手って言うか、レベルが違いすぎるからさ。相手が普通レベルならいいんだよ。
 確かにマントがあれば助かったんだけどさ」
 一ヶ月練習したのをしっているから慰められた。
「あ、提案なんだけど、ハンゾーはさらに離れて二人のどっちかを追う、二重尾行にした方がいいと思う。もしも見つかっても、二人なら子供相手だと油断するからさ。もしハンゾーまで見つかったら終わりだ」
 こっちも二重尾行作戦だ。ハンゾーさえ切り離しておけば、どうとでもなる。下手にレベルの高いコイツが混じってると、どうなるか分かったもんじゃない。大きな部分はなぜか変わらないけど、小さな部分は変わりまくってるからな。
「それもそうだな」
 ハンゾーも納得した。
「もし何かあったら電話してくれ。最後の手段、イルミさんを使う。弟助けるためなら、数億で引き受けてくれるだろうし」
「あいつ、弟助けるのに金取るのか?」
 ハンゾーさんが信じられないとばかりにキルアを見た。
「取るさ。あの家の家訓みたいなもんだし、イルミさん守銭奴だしさ」
 たぶん。きっと。
 オレがタダでミルキに協力してもらえたのは、除念のためである。ゾルディック家といえども、除念師はいないらしい。しかも命に関わる念に対してもノーリスクだ。
「こんなに弱いのに外はまだ早いって連れ戻される可能性もあるから、本当に最終手段だけどな」
「げぇ」
「殺されるよりはマシだろ」
 ハンゾー関係でどうなるか分からないが、考えられるだけ考えておく。
「とりあえずオレはカジノに行ってる。昨日は使えなかったから残ってるしさ。ミルキが空いていたら今度こそ……」
「本気で他力本願だよな、お前」
「っぐ……い、一年もしたら、自力で大金持ちになってやらぁっ!」
 それまでに帰ってなかったらなっ!
「アキラの能力、地味にそれが一番役に立つよな」
 確かに生活するのには困らないな。特殊な能力ほど効果が高いから、本当にオレの能力と相性のいい能力だ。
「ライセンスを質入れするような事にならないのは確かだな」
「そんな底辺のハンターと比べるなよ」
 いやキルア、オレがいなかったらゴンがやってたから。
 現にちょっとゴンが目を逸らしたし。





 オレはカジノで遊ぶ事もなく、怪しくないぐらいの距離の所でふらふらしているうちに呼び出されていた。
 オレが盗聴器を持っているからと、焦りまくるハンゾーをなだめる。なんでそんなものって? もちろんイルミさんに言われてケータイに仕込んだに決まってるじゃないか! キルアが家で使ってたのは捨てたから、仕掛けなおせって。ついでに受信機もらった。ケータイも外装はそのままに、中身は特殊だったりする。
 オレが現場付近に到着するとノブナガがゴン達を見張っている場面だった。つまり皆さんもうお出かけ済み。
 絶は他のみんなに比べて下手でも、近距離で尾行しているわけじゃないし、かなり距離があるなら大丈夫。
「ありゃあ一人でもやべぇな。やっぱり最終兵器イルミ発動か」
「うーん。一人なら、逃げる事ぐらいは……」
 ちなみに、近くにいるわけではない。建物が見える位置にはいるが、近づくの怖いからかなぁり離れている。
「なんか聞いた感じだと、ゴンがクモに勧誘されてるみたいなんだ」
「は?」
「いやぁ、よく分かんないけどさ、なんか気に入られたみたいでさぁ。
 だからちょっと離れた所で一時間かけて透明マント作って、ハンゾーが迎えに行くってのはどう? 効果が十五分もあればいけるよな。円の範囲内で目を合わせれば、人に命令できるカードもある。円が使えなかったら、触れて目を合わせばいいし。
 ただ、カードは一人で複数同時には使えないから、使い方が難しいけど」
 ギアスは全て威力に割り振れば、デスノートと比べればかなり使い勝手がいい。命令している間の記憶はないし、円の範囲内に入れて目が合うだけで、数秒は自由を奪えるのだ。ただし、オレのカードの制約により、自害や自傷はさせられない。それでもアヤノちゃんに使わせたらかなり強い能力になる。距離を置いて絶させて、コックさんで毒殺するなり、マシンガンかなんかで蜂の巣にすればいいんだ。
「いや、それだけありゃあいけるな。詳しい使い方を教え……」
 ハンゾーの言葉が切れた。その視線はオレの背後に向けられている。顔が強張り、瞬きを忘れている。
 あ、なんか、オレの背後に誰かいる……?
「なんだ、アキラじゃん。盗聴されてるから来てみたら、何してんの?」
 あ、この声
「しゃ、シャルさん?」
 腹黒操作系のシャルナークに後ろ首を掴まれました。
 相変わらず可愛い顔してマッチョだね!
「アキラ、団長にろくでもない念かけただろ。おかげでオレ達、それぞれ5億も損したよ!」
「あ、いや、その……まさか友達からそこまで巻き上げるとは」
 そーだろーなーとは思ってたけど。
「アキラ……知り合いか?」
 ハンゾーが乾いた声で尋ねた。
「オレって言うか、イルミさんのお友達」
「…………あいつに普通の友達はいねーのか」
 いるわけがない。
「ひょっとしてあの子達、アキラの友達なの?」
「っていうか、イルミさんの弟です」
「うげっ」
 シャルナークが呻いた。
 イルミさんのブラコン振りは知っているらしい。
「あいつにあんな似てない弟がいるなんて……」
 似てる点は猫系な所だけだしな。でも、体格は似てて欲しい。シルバさんみたいなマッチョは嫌いじゃないが、キルアがああなったらオレショックで立ち直れない。
「下手に捕まえておくと、イルミが来るって事か。怒ったイルミとか見てみたい気もするけど、弟はシャレにならないよなぁ。
 なんかさぁ、ノブナガが固執してるんだよねぇ」
 イルミさん、どんだけブラコンだと思われてるんだろう。
「の、ノブナガ?」
「あ、あの時はいなかったっけ。紹介するよ」
 紹介されてしまいます。
 ど、どうしよう。この調子だと、アヤノちゃんに叱られるな……。
 しゃ、ってか、この人と組んでたのパクノダじゃん! 一番ヤバイ人じゃねーかっ!
「アヤノちゃんにおたまで殴られる気がする」
「ああ、アヤノの坊ちゃまになるのか。そりゃあ殴られるね、間違いなく。下手したらフェイタンが殺してたからね。危なかったよイルミだけじゃなくて、アヤノも来るね。手段を選ばなかったらあの子けっこう強いんだよねぇ」
「そうなんですか?」
「体液が猛毒なんだよ。オレならその毒を操作する能力ぐらい隠し持ってるよ」
「あ、確かに持ってそう」
「ああいう無害そうな子が、怒らせると怖いんだ」
 うん、怖いです。普段は本当に漫画のキャラなんじゃと思うぐらい優しそうで可愛いけど、お腹の中は操作系特有の黒なんです。
 ああ、最近おたまが武器にしか見えなくなってきた。おたま恐怖症になりそうだ。
「ところでシャルさん。電波なんて感じ取れるんですか?」
「人を怪しい人みたいに言わないで欲しいな。電波をこれで受信したんだよ」
 と、シャルさんがケータイを見せた。この世界の機械はなんでこんなに高性能でファンシーなんだろう。
「……イルミさんには内緒にしておいてくださいね」
「いいよ。その代わり、団長に貸した能力、オレにも貸してよ。儲かったら半分振り込むからさ」
「いいですけど、どっか出かけるんじゃ? これ、オレの手元から離れると、オーラが抜けて徐々に力が弱くなるんですよ」
 風船みたいなもんだ。ただし、それを持っている人から勝手に漏れ出るオーラで、抜けた分補充できたりする。つまり念能力者が持っている分には、劣化がかなり遅いという事だ。でもそれは内緒。
「なんだ。じゃあ今度の機会でいいや。一回、おかしくなるぐらいフィーバーしてみたかったんだよね」
 そう言って、オレはシャルさんに首根っこを掴まれて運ばれる。
「そう言えばオレ、イルミさんにもこんな風に連行された事が」
「へぇ。そういう星の下に生まれたんだね」
 爽やかな腹黒は、オレを引き摺ってアジトに向かった。無視されたハンゾーは、どこかに消えた。
 逃げて当然だと思うけど、実際に逃げられるとひどいと思ってしまう。




[14104] 47話 接触
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/02/18 23:19


 シャルさんに呼び出しを受けて、私は頭を抱えた。しかもデリバリに応じたのがノブナガさん。
 何が起こったんだコンチクショー!
 そう思いながら気合いを入れてデリバリを発動させる。
 辿り着いた先で、私は目を丸くした。
「えーと、意外な組み合わせですねぇ。一体どうしたんですか?」
 デリバリ先には、シャルさんとパクノダさんとノブナガさん。
 そしてなぜかキルア坊ちゃまと一緒に捕まっているアキラ君。あとハンゾーさんがちょっと離れた所にいるのが円で確認できる。なんでこんなに異分子がいるんだか。
 こうなったおおよその経緯の見当がつくため、驚いた振りをしてからは、極力顔に出さないように気をつけながら笑みを浮かべた。
「アヤノ、旅団の友達って本当なのかっ!?」
 クモの三人が答える前に、キルア坊ちゃまに詰め寄られた。まあ、当然だろう。しかしこんな所でバレるだなんて、隠し事は出来ないものね。
 後でアキラ君は、小一時間ほど正座させて説教しないと。
「イルミ坊ちゃまと一緒に誘われた時に一緒に飲んだりするんです」
 選りに選って頭脳派のパクノダさんとシャルナークさんのコンビというのが痛い。
 脳筋コンビなら助かったのに……いや、クモの脳筋は問答無用で殺されそうだから、話の通じる人で助かったといった方がいいのか。
 ウボォーさんの事を感づかれる前に退散しなくては。
 そろそろ占いで、ウボォーさん監禁バレする可能性も高いから、クモに関わりたくないのだ。ああ、ここでそのことについて電話でも掛かってきたら、誤魔化しようがない。ウチにいる事を吐くしかない。
 眠ってるのは間違いないから、起きるとか、目覚めるとか、料理人が隠しているとか、そういう私を特定したり、生きてるっぽい単語が入っていない事を願う。あの占いは、比喩表現ばかりで明確な言葉が少ないから、それに賭けるしかない。分の悪い賭けだ。
 まあいいわ。
「キルア坊ちゃま、相手を見て喧嘩売りましょうね」
「ちぇ」
「ちぇ、じゃありません。もう、危ない事ばっかりしちゃダメです。たった20億ですよ。たった20億」
 私はキルア坊ちゃんの額をつついた。ふてくされて、つんつんされるがままだ。
「20億!? そんなに低いの!?」
「え、20億で低いの!?」
 シャルさんの言葉に、アキラ君が驚いた。
「あのなぁ。数時間で60億稼げるような能力持ってるんだろ。つまりオレ達はお前の数時間以下って事なんだぞ。舐められてるよ」
「あ……そっか。そう考えると安すぎる。でも、クロロさんの実力とカリスマと金運があってこそ、あそこまで力を発揮したんで……」
「相手の実力によるの?」
「ええ、まあ。オーラ量が多いといい結果になるんですよ。あと、能力との相性も。あ、シャルさんも相性は悪くないと思いますよ」
「ふぅん」
 美形なら、よっぽど貧乏神に愛されていなければいいという事らしい。そんな能力作るって、本当にこの子ナルシストだな。自分に似合うと思ってなかったら、こんな能力になっていない。
 アキラ君はふくれるゴンの頭を撫で、それを見てキルア坊ちゃまは足下の石を蹴る。
 拗ねてる拗ねてる。拗ねる子供ってなんか可愛い。
 でも何でこんなに拗ねてるんだろう。怒るならともかく。
 やっぱり保護者に迎えに来てもらったって言うのが、男の子的には沽券に関わったりするんだろうか。
「アキラって、臆病な割りには、けっこう平然とこの手の奴らと話するよな」
「ん、何拗ねてるんだよ。
 オレの場合はイルミさんで度胸が付いたし。ゾルディックで慣れると、例え盗賊だと知っても、危害を加えられない限りは大差ないかって思えるから不思議」
 最初がイルミ坊ちゃまだからこそ、か。キルア坊ちゃまが否定できずに顔を顰めた。
 対峙するだけで緊張しまくりの相手に、脳天気にヘラヘラしているのが不機嫌な理由なのかな?
「はは、その子達のお守りは大変だね。無鉄砲でさ」
「ちげーよ。オレがお守りしてんの。こいつら世間知らずだから」
 キルア坊ちゃまが軽口を叩く。余裕の表情だが、わずかだが額に汗をかいている。私やアキラ君が構えることなくヘラヘラしているのに、自分だけ緊張しているのが許せないのだろうか。それとも、針の影響だろうか。敵意を向けられなければ影響がないと思っていたけど、違うのだろうか。
「ああ、記憶喪失なんだっけ。子供にお守りされてだっさぁ」
 アキラ君を指さしケラケラ笑うシャルさん。もちろんノブナガさんとパクノダさんも笑っている。アキラ君は涙目だ。
「ま、見つけたのがオレでよかったよ。フィンクスとかなら問答無用で殺されてたかもね。写真は見せたけど、酔ってて顔つき違うし、髪型も違うし」
「本当にタクマとは似ても似つかないわね。よくこんなに大きくなれたものだわ」
 それはつまり、私とタクマさんがチビだと。チビだとおっしゃりたいのでしょうか。パクノダさんの方がヒール無しでもアキラ君より背が高いから、彼女に比べればどうしようもないチビなのは分かってるけど。
「まあ、とにかくこの子達がお世話になったようでごめんなさい。今夜は外に出るなと言われているので、ホテルの方に戻ります」
 私は有無を言わさない態度でお子様二人の肩に触れた。
「それってこいつらが何かするって事?」
 キルア坊ちゃまが首を傾げる。
 そりゃあ、目の前に20億の賞金首がいるのだ。そうなるに決まっている。
「被害者はほぼマフィアですから気にしない方がいいですよ」
「親父達はこいつらの賞金狙ってるの?」
「まさか。殺し以外の仕事を受けてくれるのは、よっぽど親しい人だけです。賞金首にも興味ありません。伝統ある殺し屋ですから」
 笑顔で頭を撫でながら言うと、キルア坊ちゃまは肩をすくめた。
「伝統ある殺し屋って……おめぇも日に日に毒されてくなぁ。前は食癖以外は普通だったのによぉ」
「嫌だわ、ノブナガさん。大人になったという事です」
 おほほほと笑うと、パクノダさんがおかしそうに笑う。なぜお腹を抱えてるんですか。今の発言の何がそこまであなたのツボにはまったんですか。理解できません
「じゃあ、私は帰りますので、ほどほどに」
「アヤノ、オレ達の仕事の現場付近にいるのって初めてだっけ?」
 シャルさんに問われ、少し考えてから頷く。
「はい」
「じゃあセメタリービルの付近には近づいちゃダメだよ。流れ弾に当たるかも知れないからさ。フランクリンの流れ弾だとシャレにならないからね」
「そうですか。行っちゃ駄目ですよ?」
 私はゴン君を見る。
「えー」
 行くなと言われるといきたくなるのが人の心というものだ。子供はとくに、禁止されるとやりたがる。
「ゴン君には三つの選択肢があります」
「三つ?」
 ゴン君が首を傾げる。
「1、私の毒で寝る。2、キルア坊ちゃまの当て身で気絶する。3、素直に言う事を聞いて私の作った夕飯を食べて普通に寝る」
「さ……3で」
 ゴン君は私が本気で言っている事が理解できたらしく、こくこくと頷いた。
「いい子です。ゴン君が行くとキルア坊ちゃまも行くんですからね」
「アキラは?」
「この件に関して、アキラ君が私の言う事に逆らうはずがないじゃないですか。クモの方々との実力差は嫌って程分かっているでしょうし、自分で止められなければ、私かイルミ坊ちゃまにチクって終わりです」
 シャルさんにへたれと言われて唸るアキラ君。
「オレは度胸試しに、危なそうな所にのこのこ行くほど馬鹿じゃないですからぁ。自分の実力は弁えてるんでぇ」
「拗ねない拗ねない。それが賢いよ。あの頃から比べたらちゃんと成長してるし、将来に期待だね。オレはアキラの能力大好きだよ」
 シャルさんは何やら大きな勘違いをしつつ爽やかに笑う。金儲けと除念の能力者なら、シャルさんが嫌うはずがない。だから不思議ではないけど、この勘違いをそのままにしておくというのも……。
「そうだわ。アヤノに……言わないと」
「待ってよ。まだ決まったわけじゃない。こういう事は、もっとはっきりしてからでいいよ」
「……そうね」
 私が思い悩んでいると、パクノダさんとシャルさんがささやき合う。私が首をかしげると、シャルさんは曖昧に笑う。
 きっとウボォーさんの事だろう。よかった。シャルさんが意外と人を思いやる方で。なまじ私とウボォーさんは仲がよかったから、はっきりしない事で私を動揺させたくなかったのだろう。仲がよかった理由は、ウボォーさんが好き嫌いせずに何でも美味しそうに食べてくれたからだ。
「アヤノ、オレ達の仕事が終わったら、ちょっと話があるんだ」
「え、はい」
 今は気付かない振りをしよう。引き合わせる時の言い訳はいくらでもある。今はここから逃げ切ったらこちらの勝ち。
 残る問題は……やっぱり占いだな。
 こればかりはどうしようもない。





 ハンゾーさんを拾ってからホテルに戻ると、案の定キルア坊ちゃまが突っかかってきた。
「あいつらと友達ってどういうことだよ。アニキは人には友達作るなって言っておいてさ」
 キルア坊ちゃまの怒りはごもっともだが、予想とは少し違う方向だった。兄に友達がいる事にご立腹とは……。
「イルミ坊ちゃまの認識を言葉にするなら『よく一緒に飲む知り合い』です。一般な言葉で表現するなら、幼馴染みです。
 お亡くなりになった坊ちゃま達のひいおじい様と、彼等の師匠がお友達だったんですよ」
「はぁ?」
「年も近いので幼い頃から会っていたようです。だからクモはゾルディックの得意先でもあります」
 そんな相手でも、キルア坊ちゃまは同年代の知り合いが欲しかったのだろう。納得がいかない様子でふくれていた。
「どうしてクモを知ってたのに黙ってたの。クラピカが探しているのを知っていたのに」
 今度はゴン君に聞かれた。私相手でなかったら、きっともう少しキツイ言葉になっていたんだろうが、半分師匠で餌付けし続けた私が相手なので、ちょっと抑え気味である。
「んー、それは心が痛みましたね。
 でもゴン君、ゾルディックに身内を殺されて、ゾルディックを恨む人に対して、わざわざ自分がキルア坊ちゃまの友達だと言いますか?」
 ゴン君はぴくりと肩を跳ね上げ、拳を握りしめた。
「……言わない」
 人を一人でも殺してしまえば、憎悪され、復讐される可能性が出てくるのだ。
 こういえば、彼等に反論する術はなくなる。
「そういう事です。私にとってもお友達ですし、キルア坊ちゃまにとってのゴン君ほどでなくても、イルミ坊ちゃまの数少ないお友達ですから。あの方にとって、そういう存在は本当に数少ないんです。それにヒソカさんと比べたらまだマトモですから」
「ヒソカって、クモの他の連中と比べてもやばいのかよ」
 そうか。アジトでクモとしてのヒソカさんと遭遇済みだったんだ。
「彼がクモにいるのも、クモの団長と一対一で勝負したいからですよ、きっと」
 みんなクロロさんが狙われている事は気付いている。それでも今は仲間だから、実行に移すまでは何にも言わない。自分達のルールとはいえ、ルールを守るという人間らしい発想がある事を意味している。
「じゃあアキラはどうしてクモと知り合いなの?」
「え、オレ? クモの全員知ってる分けじゃないよ。今日見たあの二人は知らなかった。
 そもそもオレがシャルさんと知り合ったのは、アヤノちゃんがデリバリ発動させた時、イルミさんの服の金具に引っかけられて巻き込まれただけでさ。
 さっきまであの人達がクモだって知らなかったぐらいだ」
 アキラ君はその手のちょっとした事に巻き込まれるのは得意だ。トラブルメーカーだ。イルミ坊ちゃまとの前例があるから、二人とも納得してしまった。本当の事だし。
「でもやけに親しそうだったぜ」
「オレ達の親戚のじいちゃんが、クモの師匠なんだって。つまりオレ達のじいちゃんと、キルアのじいちゃんが友達なの」
「はぁ?」
 単純なのだが、初耳では複雑に見える関係図だ。
「ゼノ様でしたら色々と教えて下さると思います。それについて知りたければ、落ち着いたら電話をかけて差し上げて下さい。私とばかり話していては、そのうち拗ねてしまわれますよ」
 絶対にないけど。
「私はとりあえず帰りますけど、危ないから今夜だけは外に出ちゃダメですからね」
「夕飯の支度か?」
「それと寝込んでいる友人の看病です」
「…………アヤノの知り合いに、寝込むようなヤツいたんだ」
 ちょ、キルア坊ちゃま!?
「坊ちゃま、世の中、ご実家のように病気なんてした事がなかったり、壊れてもすぐ治ったりするような人の方が少ないんですよ。毒を飲めば死ぬし、風邪をひいても死ぬ事もあるんです」
「そりゃさそうだけどさぁ、アヤノの知り合いろくなのいねーじゃん」
 私の交友範囲=イルミ坊ちゃまの交友範囲+悪食集。
 ……反論できない。
「いいんです。諦めてますから。
 私は一度戻って夕飯の用意をしますから、今日はここにいる事! ハンゾーさん、レオリオさん、ゼパイルさん。今夜だけはしっかり見張ってて下さいね。私が戻ってきていなかったら、不能になる毒を盛りますから」
 この場にいる全員の顔色が悪くなった。
 男性にとっては、これほど恐ろしい脅しはないようだ。





 現在、翌日の昼。
 クロロさんからの連絡はない。
 どうやらセーフだったようである。
 夜中に電話が掛かってきた時にはかなり驚いてしまったが、クモが死んだのは本当かというキルア坊ちゃまからの問い合わせだった。あの時は本当に無駄にビビった。ケータイの着信音があんなに怖いと思ったのは初めてだ。
 気が抜けたので、まだ結果を知らされていない暗殺合戦の事を話して、すぐに寝てしまった。起きた時は着信履歴を見るのが怖かったが、それもなかった。
 おかげで寝不足が解消された。お肌もつやつやで、化粧ののりがいい。
 目の前に並ぶ美味もあって、私の機嫌はとてもいい。
「あのさぁ、ちょっとは気を利かせるとか、そういう発想のかけらもないわけ?」
 ミルキ坊ちゃまに問われ、イルミ坊ちゃまは首をかしげた。
「何が? もっと高い店の方が良かった?」
「値段じゃなくてさぁ……」
 さすがに昨日の今日なので昼間からは仕事がないらしく、当たり前のようにみんなで一緒に昼食をとっているのだが、ミルキ坊ちゃまにはそれが気にくわなかったようである。外にいるのに、家と変わらないのだ。無理もない。
「お口に合いませんでしたか? とっておきのお店だったんですけど」
 一人ランチで5万コースの超高級料亭だ。
「いや、料理は美味しいよ。じゃなくて、なんで全員ぞろぞろついてきたのかが……」
「美味しい物は、大勢で食べた方が美味しいですわ」
 笑顔で言い切ると、ミルキ坊ちゃまはため息をついた。
「奥様がいないのが寂しいですね」
「いたら騒がしいだろ」
 実の親に向かって……と思うのだが、こんな態度でも彼はマザコンなのに変わりはない。マザコンでないのはキルア坊ちゃまぐらいだろう。
 ゼノ様にお酌して、自分でも冷酒を飲む。
 美味しい。
 ああ、幸せ。
 カルト様が立派な箸紙を折り紙にして遊んでいる。
 ああ、可愛い。
「そういえば、キル達もいるんだよね。今何してるの?」
 イルミ坊ちゃまに問われ、私はお猪口を置いた。
「昨日はクモの皆さんに捕まっていました」
「ああ、賞金掛かってるんだっけ。良く生きてたね」
「一部と顔見知りのアキラ君もいたので」
「ああそっか。世の中、何が幸いするか分からないものだね」
「でも、今日も懲りずに突撃しているような気がします」
「そんなにゲームが欲しいの? あんなの何が楽しいんだが」
「ゴン君のお父さんが作った物だそうです」
「ふぅん。親父が作ったゲームだったら、オレも興味持つかも」
 そもそも作るはずがないからね。現に無視してひたすら食べてるし、そんな人がゲーム作りに目覚めたら、どんなクソゲーでも一度はプレイしてみたい気持ちがわき起こってくる。もちろん本人には隠れてだ。
「オレの予定では、オシャレなカフェでランチだったのに……」
 ミルキ坊ちゃまがまだ言っている。オシャレなカフェで、バランスの良い美味しい料理を出す所がどれほどあると思っているんだろう。あれは雰囲気を楽しむ店だ。コーヒーだって一度点てた物を暖めている所ばかりである。
「今夜もお仕事ですか?」
「親父達とミルキは。オレとカルは待機。本当は仕事があったけど、クロロ達が暴れて先に殺されちゃったんだよね」
 それでヒソカさんに雇われるということか。
「アヤノはキル達の所に行くの?」
「そうですね。夜にでも行こうかと」
 そろそろウボォーさんが目覚めるし、夜にクモのアジトに向かうのだ。
「じゃあ殺されないように気をつけてやって」
「はい」
 今頃、早食い競争している頃だろうか。いや、あれはないか。私の食育の結果、昼食はよく噛んで味わって食べ、野菜も多く取っているはず。早食いは身体に良くない。お行儀も悪い。料理人としては許せない。
 そんな私の存在を知って、早食い競争などしないはず!
 あとは時が来るのを待てばいい。
 今夜、全てが終わるのだ。
 ああ、でもセンリツさんには会ってみたかったな。
 アキラ君がまたうっかりミスをしそうで怖いけど、直接参加はしない事になっている。一体、クラピカさんにどう話したんだろうか。ミスしても、アキラ君が嫌われるだけだからまあいいけど。
 シメの絶品の炊き込みごはんとデザートを味わい、まったりとお茶を飲んでいた時だった。
 唐突に、おもちゃの兵隊の行進曲が鳴り響く。
 私のケータイだ。
「あら、キルア坊ちゃま」
 私は通話ボタンを押し、ケータイに耳を当てた。
「はい」
『あ、アヤノ? ちょっと聞きたい事があるから来て欲しいんだけど』
 ………………。
 この時間、聞きたい事……。
「クラピカさんですか?」
『ん、まあ、そう』
 聞き出しやすそうな情報源が身近にいたら、聞きたくなるのは当然だ。
 断ってもいいが、そうするとアキラ君が何か墓穴を掘りそうな気がする。回収ついでに、当たり障りのない事だけ情報を流すか。
「はい、かまいません。今は皆様と食事中なので、少しかかりますがよろしいですか」
『ああ、待ってる』
 私は電話を切り、ふっと息を吐いた。
 さてさて、クラピカさんは私から何を引き出すつもりなのか。
 アキラ君のささやかな抵抗を物ともせず、少しでも情報を得ようというのだから、かなりせっぱ詰まっているのだろう。




[14104] 48話 嘘発見器も怖くない
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/02/22 20:36


 近かったので歩いてやって来たホテルの一室。リビングもある広い部屋だ。大人数では、こういった部屋に泊まる方が安くつく。この時期のホテルはどこも高くて満室だ。ひょっとしたらライセンスが使える所かも知れない。
 部屋の中には予定通りの四人と、アキラ君とハンゾーさん、そして初対面のセンリツさんがいた。
 見る者が見れば、彼女に対して容姿以外の違和感を覚えるだろう。
 悪魔か何かが作曲したとか言われる音楽の呪いだったかな? ほんの少し聞いただけでここまでの事になるなんて、本当に人外の何かの仕業としか思えない威力だ。
「アヤノ、ごめんな。乱暴な事はさせないから、答えられる事だけ答えてやって欲しいんだ」
 キルア坊ちゃまが手を合わせる。アキラ君も決まり悪そうに片手を上げた。
 私はテーブルの向こうに座るクラピカさんと向き合う。
「こちらよろしいかしら」
 クラピカさんの向かい側のソファに触れた。
「座ってくれ」
 私は勝手にティーカップを二客手に取り、持参したお茶を注ぐ。
「オリジナルブレンドのハーブティーです。落ち着きますよ」
 綺麗な少年だが、陰鬱すぎて少し苦手だ。毒々しいこの空気は、徐々に人を蝕んでいくだろう。この緋の呪いは静かで強く、とても激しい。
 視界の端にひっそりと佇むセンリツさん。この時点で彼女がいるだけで、クラピカさんの本気が読み取れる。
 呼びつけられた時点で想定していたので問題ない。私が隠し事をしている事は確定だ。だが、それが何なのかは分からない。予想を立てられる範囲内に私達の秘密はない。だから何を言っても平気なのである。
 怖いのはパクノダさんだけ。だが、彼女は自分達の不利にならない限りは相手の意思を尊重する。特に心を読まれると言う事は、人間にとってかなり強い恐怖である。それを一番理解しているのは、能力者である彼女自身。だから彼女は必要がなければ知り合いの心は覗かない。だからここには私にとっての脅威はない。
「お久し振りですね、クラピカさん」
「ああ、久しぶりだ」
 私はいつもの営業スマイル。
 対するクラピカさんは陰鬱な真顔。暗い。前はもう少し明るかったのだが、ますます暗くなってしまった。
「君はクモと知り合いだと聞いた」
「ええ、一部の方は友人です」
「なぜだ」
 その馬鹿らしい問いに、私は首を傾げた。
「友達になるのに、理由も資格もいらないと思いますが」
 ゴン君も似たような事を言っていたはずだ。
 クラピカさんは拳を握りしめ、続けた。
「なぜ、あんな人殺しとっ」
「私にそれを言っても意味がありません」
 クラピカさんは、気まずそうにキルア坊ちゃまを見た。
 人殺しに雇われた人殺し。私という存在を全否定されているような物である。
「……私も君も人を殺した事がある。失言だった。すまない」
「ええ」
 彼はまだ幼さを残す少年なのに、背伸びをしている。だから矛盾が生まれる。それでも必死に目標だけを見ているのは、尊敬に値する。
 私もこちらに来た頃はひたむきだった。ああ、あの頃は若かった。勿論今も若い。
「もしも理由を挙げるとしたら、私に害がないからです」
 単独で出会っていたら逃げていたが、敵意を向けられない状況下で出会ってしまえば、敵対しない限りは友人でいられる人達だ。
「お料理を食べていただき、たまにショッピングをして、楽しくおしゃべりをする。シズクさん……眼鏡の女の子は、私にとって数少ないマトモな部類のお友達です」
「まとも……なのか?」
 クラピカさんとセンリツさんが目を見開き、他のみんなは呆れて私を見た。
「突然包丁を持って追いかけても来ないし、冗談や照れ隠しで発砲もしないし、ましてや珍しい食材を一人で食べたのを知っただけで首を絞めにも来ません」
 天然だけどマトモだ。ああ、マトモだ。毒舌だけど、殺しに罪悪感なんて持たないけど、私基準ではマトモだ。
「君は交友関係をどうにかした方がいいと思う」
「人体収集家なんかに仕えている方に言われたくはありません」
 私はちらりとセンリツさんを見た。
「情報を得るために、自身が狙われかねない場所にいるなど、自虐的にも程があります」
 センリツさんがネオンを選んだ理由は、おそらくクラピカさんと同じ。
 楽譜を探すよりも、怪死体や、自分と同じようになった者を探した方が早い。もしくは信頼の置ける、情報が飛び交う組織に入るか。
「クラピカさんは復讐が目当てでしたよね」
「そうだ」
「基本的に、私は弱肉強食の概念を支持しています。理不尽があってもそれが強者であれば屈することを人に勧めます」
 視界の隅でセンリツさんが私ではなくアキラ君を見ていた。私達ほど理不尽な目にあった人間はいないのではないだろうか。そして私よりもこの理不尽に対する怒りは彼の方が大きい。彼はたぶん、すごいマザコンだ。帰りたくてたまらない。その確率を上げるためなら、友達の切望を潰すぐらいはするし、嘘をつく。それを悪いと思ってしまっているから、動揺してセンリツさんが見た……といったところか。
 私の視線を追って、クラピカさんもアキラ君を見た。いかにも何かありそうな私達。クラピカさんは色々と考えるだろう。意味深な言動の私に、記憶のないアキラ君。予想なんか当たりようもないが、色々と考える。考えればいい。袋小路に迷い込むだけだ。
 私にとって一番厄介なのは、フィンクスさんのように何も考えずに、思い立ったら即行動するような脳筋タイプである。策謀も何も潰すタイプが、私のように危なかったら適当に誤魔化して逃げるタイプの天敵である。たぶん操作系の人は賛成してくれるだろう。
「私も自分が同族を食べるようなタイプで、クルタ族の目が美味しいと聞いたら、迷わず狩りに行きました。理不尽ですけど、自分が美味しいと思われているなら、食べられないように手を打たなかった自分が悪いと諦めます。食べる者は、食べられる覚悟が必要なんです。だから私は自分が最もされたくない事を阻止するために、この身体を維持しています」
 クラピカさんは顔を顰める。
 例え話でも、同族が食われる所など想像したくもないのだろうか。
「あなたの様子を見る限り、クルタ族はそういった手合いを返り討ちに出来るという自負と誇りがあったのでしょう。安全を考えるなら、外部の血を取り入れて血を薄め、固まっていない方が良かったんですから。
 だからこそ、あなた方には同情しません」
 集団でいるから宝の山になってしまう。ターゲットにされて当然。
 そんなものがいたら、どんな世界でも保護しなきゃ狩られるに決まっている。というか、子供を一人二人連れ去るだけで億単位の金が入ってくるんだから、それまでよく無事だったなと思うぐらいだ。私なら疑心暗鬼と言っていいほど、警戒心の強い子供に育っていただろう。
「潔癖なクラピカさんには理解できないでしょうが、お金は命よりも価値があるんです。価値がある物は、奪われる覚悟が必要です」
「……そんなのは間違っている」
「間違っていると思っても、事実は覆せません。
 私の体質でもあなたの雇い主のような方にとっては垂涎物でしょう。アキラ君の能力もお金になります。さっき気付いたんですけど、アキラ君の能力が最大限に発揮されるのは相場です。上がるか下がるかどちらかなので、カジノで稼ぐよりも確率が高く、リターンも大きいんですから」
「ああっ」
 みんな気付かなかったようである。みんなまだ十代だから仕方がない。この世界では、デイトレードって言葉を日本ほど聞かないし。
 今からではもう銀行が閉まってしまい口座開設が間に合わないため、意味のない情報なので彼等に流した。
「自分が金になるという情報を世間に知られてしまえば、身を守るには『自分が強い』以外にも身を守る手段が必要です。その対象に、私はゾルディックを選びました。また、アキラ君にとってはそれが旅団という手もあります」
 当のアキラ君が素っ頓狂な声を上げたが無視。
「馬鹿な事を。知り合いだから守ってくれるような連中だとでも思っているのか」
 私は首を横に振る。
「彼等の師は私達の身内です。私達は少し特殊な場所で生まれ、外に出てきました。だから私達の祖父は、私達に出会ったら助けてやれと遺言を残したようです。
 アキラ君が無力で何も出来ない人間ならともかく、鍛えればレア能力の持ち主として、旅団に加わる事も不可能ではありません」
 この子は鍛えればちゃんと使える素材だ。死ぬほど、文字通り死んでもおかしくない厳しい特訓を経てなら、ちゃんと使えるようになるだろう。
 カルト様はそもそも身体能力がアキラ君とは段違いに高い上、空きが三つもあったからすんなり入れたのだ。
 そういえば予定では空きはヒソカさんの分の一枠。カルト様はその枠に入れるのだろうか。
 現時点では除念師を探し当てた探査系の能力は持っていなかったりする。切り絵盗聴は出来るんだけど、予定と能力がずれている。その分、攻撃力が増しているのが幸いだが、便利なレア能力者ではなく、バトルタイプと認識されてしまうのも心配だ。いや、今はまだ起こっていない事を心配するのも馬鹿らしいので、考えないでおく。
「アキラ君の方が人を殺す気も盗む気もないので、誘われたとしても、よっぽどの事がなければ意味のない仮定ですが、それさえクリアしてしまえば、可能な選択肢の一つである事は間違いありません」
 私は言いながらハーブティーを飲み、今朝焼いたばかりのエッグタルトを口にする。
 さっき食べたばかりだけど、女の子にとってお菓子は別腹なのだ。
「クラピカさんもいかがです? 毒は入っていませんから」
「けっこうだ」
「美味しいのに」
 私はタルトを一つ完食すると、続きを話す。
「聞いているかも知れませんが、旅団との繋がりは、キルア坊ちゃまにもあります。ゾルディック家の方々は、旅団との関わりも深いんです。キルア坊ちゃまの曾祖父は、私達の祖父の友人。だから幼い内に、イルミ坊ちゃまと彼等は知り合いました。きっとキルア坊ちゃまも、覚えていないだけで彼等に会った事があるかもしれません」
 お茶が美味しい。
「つまり話すつもりはない、と」
 クラピカさんが左手で右手を覆う。嘘をついておびき出すような事は、彼の誇りが許さないだろうから、これはただの癖だろう。無意識にやっていると思われる。
「私は戦闘向けの能力者ではありませんが、この場にいるキルア坊ちゃま以外を一瞬で殺せる手段は持っています」
 クラピカさんは自分の手に気付いて、何もない事を示すように掌を上に向けた。
 具現化能力者がしても意味はないと思うけど。
「いくつか条件があります」
 私の言葉にクラピカさんは一瞬戸惑いを見せ、すぐに落ち着きを取り戻す。
「可能な限り、考慮しよう」
 私は笑みを深める。
 私達のせいでかなり変更点が出来てしまった。だからせめて悪い方に動かないよう、クギを刺す必要がある。そのために来たのだ。
 別にクラピカさんにネチネチ小言を言いに来たわけではない。
「自分の復讐よりも、生きている人達を優先して下さい。それが赤の他人でも。
 そうでなければ、私は貴方を認められません」
 復讐のために自分がされた事を他人にする人間は、他人を思いやらない方よりもタチが悪い。
 仲間を見捨てるような事はないと思うが、念のために言っておく。確かクロロさんを解放する時に彼は悩んでいた。悩んだ結果、違う行動を取られても困る。
 私は当たり前の事しか言っていないつもりなので、嘘くさくはないだろう。
「…………分かっている」
「最後にもう一つ。私が話すのは、現在巻き込まれているキルア坊ちゃまが死なないために、身を守る程度の事だけです。貴方に有利な事は教えません」
 私はにっこり笑いながら、当たり障りがなかったり、命を守るのに必要な事を話す。
 フィンクスさんに見つかったら短気で話し合いも難しいから抵抗するな諦めろとか、シズクちゃんは出血したら全身の血を吸い取られて終わるとか、命に関わりそうな部分だ。
 ワンコの飼い主が助かるような事を言えないので、注意が必要である。彼が生き残ると、悪趣味占い娘が帰らないからクラピカさんがヨークシンに長く居着いてしまう。彼には速やかに帰っていただきたい。
「ようは、一人一人が超一流。一騎当千。触るな危険。
 可能性があるなら相手が一人の場合のみですね」
 ゲーム感覚の時は喜んで単独行動するけど、これは仕事の延長だから有り得ない。
「参考になった。ありがとう」
 前半の命に関わる部分ぐらいは、参考になっているだろう。
 クラピカさんはセンリツさんに目を向ける。基本的に嘘はついていないから頷いた。
 彼女は心配そうにクラピカを見ている。抑えているから、かなり苛々しているのが分かる。
 情緒不安定もいい所だ。
「で、アキラ君はどうするの?」
 私は彼に尋ねた。
「オレ?」
「君は、機会があっても彼等を殺せないでしょう。殺す気もない。むしろ互いに引いてくれれば、それが一番だと思っている」
 私ならそんな場所にはいたくないし、いて欲しくない。
 利害が一致しない、邪魔をそうな味方ほど厄介なものはない。
「悩むなら私と来なさい。誰にでもいい顔をするのは無理よ。結果を待つだけというのも一つの道。今夜はイルミ坊ちゃまがお暇をされているから、当初の目的を果たす事も出来るから」
 アキラ君は悩ましがり目を細める。それを見て、キルア坊ちゃまがため息をついた。
「アキラはアヤノん所にいろよ。お前はそーいうヤツだし」
「うぐっ……キルア、オレの事そんな目で」
「逃げ腰ぐらいがお前らしいしさ。
 アキラにとって、復讐の対象がうちって言われるのと大差ないんだろ」
 キルア坊ちゃまは呆れたような顔をしつつ、少し嬉しそうにも見える。彼は家族が嫌いなわけではない。家業が嫌いなのだ。
 アキラ君は唇を尖らせる。
「大差あるよ。キルアの実家だし、アヤノちゃんの勤め先だし、ミルキは友達だし、執事さんには世話になったし、執事さん達キルアの事をみんな愛してるしさ。
 あの人達が狙われてるなら、意味がないかも知れないけど、悩むんじゃなくて何としてでも止める。
 例え人殺しでも、俺は好きだからさ」
 ゾルディックに対しては、本当にそう思っていそうだ。クモに対しては、遺言があったからなんだろうけど。ウボォーさんは男も女も見た目がいい方が好きなアキラ君の好みじゃなさそうだし、あそこで会わなきゃ私に手を貸そうとはしなかったはずだ。
「いくらオレの知り合いが少ないって言っても、クモにそこまでの思い入れはないよ」
 キルア坊ちゃまが視線を逸らす。実家の事を使用人以外に好きだと言われたのは初めてだろう。ゴン君は気にしないだけだし。
「でもさ、タクマさん……オレ達のじいちゃんはクモにもオレ達の事をよろしくって言ってたみたいだけど、オレ達にもクモをよろしくって遺書が残ってたんだ。
 本人に会った事ないけど、オレにとって大切な物を残してくれたんだ。
 クモの人達は貴重な品を遺品として惜しげもなくオレに渡してくれた。
 残してくれた人と、それを譲ってくれた人に恩を感じてるんだ。それがたまたまクラピカの仇とその師匠だった」
 出会っていなければ、除念師になどならなかったはずだ。その意味でそれは正しい。彼等との出会いが、アキラ君にとっては方向転換するきっかけを作った。あれがなければ、普通に強さを求めていた可能性もある。可能性を求めて、無駄な努力をしていた。
「だからクラピカ。ごめん。恩を仇で返すわけにはいかないから、オレは手を貸せない。アヤノちゃんといたら、結果的にクラピカの邪魔する事になるかも知れないけど、オレはアヤノちゃんと行くよ。
 ゴンもごめんな。ミトさんにゴンが危ない事しないように見ててって言われたのに、中途半端で」
 旅団とゾルディックの縁は深い。依頼があれば殺しに行くが、依頼されれば手助けするほどには。
「アキラ……君は……」
 この程度で彼の憎しみが揺らぐはずはないが、あまり冷静になられても困る。
 だから相手を怒らせつつ、仲間は見捨てるなと忠告したのだ。
「あと、アヤノちゃんもクラピカの事は心配してるんだ。心配してなきゃ、あんな事言わないよ。どちらにも死んで欲しくないって思ってるだけでさ。
 クラピカからしたら、余計なお世話だと思うけど」
 本当に余計なお世話だ。余計な事を言う。
「分かっている。彼女が悪い人間でない事は。私と君たちの利害が一致しないのは仕方がない」
「ごめん」
「それでも、私はクモを潰す。私はそれだけのために生きてきた」
「うん。頑張ってって言うと嘘になるけどさ、死なないでほしい」
 私達の都合により、誰も死なせるつもりはない。
 それが私達の嘘偽りのない本音だ。
「アヤノも情報の提供を有り難う。無理を言ってすまなかった」
 私は首を横に振る。
「貴方が捕まって、能力を盗まれない事を望みます」
 これで、あとは待つだけ。




あとがき
この辺は一ヶ月ほど前に書いて、読み返したら為替相場って単語が書いてあった。

まったく関係ないのですが、ジャンプに乗ってた変態仮面の文庫コミックの広告の描き下ろしという言葉に心惹かれた。
コミック持っていても、買う価値はあるんだろうか。



[14104] 49話 飾りじゃない、武器なのよ
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/02/27 23:23

 帰る途中、偶然ボドロさんに出会った。この人はポックルさんと違い、まだヨークシンにいた事を忘れていた。
 私とアキラ君で6時までには帰り、それ以降外に出てはいけないと言い含めた。これでもしも外を出歩いて死んでしまったなら、それは運命だと思って諦めるしかない。
 心配になりながらも、見張るわけにもいかないので、二人で歩いて私のアパートに帰った。
「ただの偶然だと思うけど、恐ろしいなぁ。ボドロさん、危うく危険区域に向かう所だったなぁ。通りかからなきゃ何か巻き込まれてたかも。女子供には手を出さないって人だから、正義感で動いて……とかさ」
 アキラ君が私同様に危機感を募らせ、沈痛な面持ちで地面を見据えている。
「ひょっとして、死ぬ予定だった人って、死にそうな場所に引かれるのかなぁ……。
 ウボォーさん、もう少し眠らせておいた方がいいのか?」
 そう言われると、私の不安も大きくなる。
「その方がいいような気はするけれど、さすがにそういうわけにも……」
「だよなー」
「そろそろ薬が切れるし、下手に伸ばせば取り繕えないボロが出るでしょ。予定通りの流れなら、パクノダさんは私達に連絡してくれるはずよ」
 そのためにアキラ君の能力のネタばらしをしたのだ。私がクロロさんなら、少なくともタクマさんが関係する初期メンバーには話す。除念師は存在を知らなければ意味がない。これは信頼している皆で共有できる情報だ。ヒソカさん以外は信頼されているだろうから、問題ない。おそらく予定通りに話は進む。
 私はアパートの階段を上がり、カギを取り出し開けようとした所、がちゃりと音がして、内側からドアが勝手に開いた。
「お、アヤノ」
 なぜか、ミルキ坊ちゃまが出てきた。仕事はどうしたんだろう。仕事まで時間があるから、私をデートにでも誘いに来たんだろうか。いや、ミルキ坊ちゃまにそんな度胸などあるはずがない。ランチだって意を決するのが遅かったから、みんな一緒になったのだ。暇だったからというのが精一杯だろう。
「ミルキじゃん。やー、ほんと痩せたなぁ!」
「アキラ、なんでお前がアヤノのアパートに」
「お招きされたからだよ」
 そりゃそうなんだけど……。
「まあコイツの事はいいけど、んだよあの大男」
 ベッドを窮屈そうに使っているウボォーさんの事だろう。どうやら会った事はないらしい。
「イルミ坊ちゃまのお友達です」
「…………兄貴が時々わかんねーよ」
「クモの方で、うっかりイルミ坊ちゃま用のお砂糖をお出ししてしまい……」
「…………事情は分かった。とりあえず入れよ」
 あの、ここは私のアパートなんですが……。
 今はいつもここに置いている二人は別の場所に移ってもらっているから、カギは閉まっていたはずである。一体どうやって入ったのか……。
 聞くだけ虚しいので聞かないけど。
 ご友人の二人は久々に対面し、嬉々として私には理解できない事を話し始めた。お茶とお菓子を出して、ウボォーさんの様子を確認後、夕飯の支度をした。ああいうのに関わらないに越した事はない。
 あとは盛りつけをするだけになった頃の事だ。
「うおおおおおおおォォォォっ!!!!」
 ウボォーさんの雄叫びで驚きの余り跳び上がった。鼓膜が破れるかと思った。
「ウボォーさんっ!」
 超近所迷惑である。
 アキラ君が動いてくれたので、スープの火を止めて、手を洗ってから向かう。
「おちついて! ここはアヤノちゃんの部屋! あ、お水どうぞ」
「お、おう」
 ウボォーさんは水差しの水を全て飲み干す。
 私はぐっと力を込めて目に涙を滲ませると、ウボォーさんに飛びついた。
「ウボォーさんっ」
 我ながら身長差がありすぎて様にならないが、ウボォーさんほどの巨漢になると、私も平均的な背丈の女性も大差ないだろうから、こんなものだろう。
「よかった……」
「あ、アヤノ?」
 寝起きで頭が働かない今だからこそ、私は畳みかける。
「お、起きないから、どうしようかと……」
 声を震わせ、顔を上げ、涙を見せる。
 時と場合を慎重に選べば、女の涙とは最も強い武器となる。いつの世も、歴史の裏にあるのは女の影。時に男を立て、時に男を堕落させるものである。
 今こそ私の女を使う時だ。
「本当に……よかった」
 再び密着しないようにすがりつき、さめざめと泣く。大人の女がビービーギャーギャー泣いては色気も何もない。静かに、たまにすすりあげる。色仕掛けとは、肌を見せる、身体を使うばかりではない。
 アキラ君の視線が痛いけど、気にしてはならない。女はみんな女優である。操作系能力者にとって、涙を自由に出し入れするなど(きっと)容易い事である。
「な、泣くんじゃねぇよ。気にしてねーから」
 ウボォーさんは狼狽して私の後頭部を大きな手でそっと撫でた。力が強い事を理解しているから、本当に触れる程度、まさに壊れ物を扱うように撫でるのだ。
 女扱いじゃなくて、子供扱いされているような気がしないでもない。心を揺さぶれるなら、別にどちらでもいい。
「ひっく……でも……」
 こすらないよう、綺麗に指で涙をぬぐう。泣き方によっては、泣き顔というのは醜い。とくに化粧をしている時は。
「そ、それよりもだな、オレは、ほら、腹減ってんだ。なんか食わせてくれや」
「は、はい。すぐに用意いたします。今夜はウボォーさんの好きなお肉たっぷりです」
「おお、そりゃあ楽しみだな」
 私は涙の残る顔に笑みを作り、目頭を押さえながらキッチンに向かう。
 これで眠らせた事に関して、ウボォーさんからは何も言われまい。後からグダグダ文句を言うようなみみっちい男ではない。
 アキラ君の視線は気になるが、気にしたら負けだ。





 夕飯を食べて、ウボォーさんの運動を兼ねて走ってクモのアジトまで向かった。
「そいやミルキ、夜だけど仕事は?」
「どこぞの馬鹿騒ぎ集団が暴れまくったせいで、殺す必要がないぐらい死んでるんだよ。オレの仕事も、暗殺対象が死んでパー」
「他の人達は?」
「兄貴はカルト連れてなんかしてるみたいだけど、オレは誘われなかったから知らねー」
「あの二人、仲良しだな」
「仕事だからだよ」
「あーあ、オレも可愛い妹欲しいなぁ」
「弟だっつーの」
「見た目妹じゃん! ちょー可愛い! 男でもいいからお兄ちゃんとか言われたい!」
「お前の割り切り方はたまに尊敬するよ」
 本当に。
 性格は知っているはずなのに、可愛いと言い切るこの子の頭の中はどうなっている。私ですら、関係があるから可愛いと思うようになっただけで、初めから可愛いなどとは思っていなかったというのに。
「こっちだこっち。アレだ。なんか増えてるけど」
 ウボォーさんの案内で、相変わらず大量にあるアジトへと到着した。
「コルトピさんでしょうねぇ」
 コルトピさんの能力は、アキラ君と同じで作り上げた時に完結しているため、維持するのにオーラは必要ない。もしくはほとんど必要ない。オーラを送り込み続けなければならないのなら、分かる人にはどこにいるかまで分かってしまうから。にしても、この数は凄い。さすがは旅団員。
 ある程度近づくと、円を広げた。
「あの建物に人がいます」
 ゴン君達はいない。パクノダさんもいない。イルミ坊ちゃまはまだいる。
 ナイスタイミングだ。
「よぉ、帰ったぜ」
 空気を読まず、円を感じ取って身構えていた皆さんに、普通に挨拶して登場するウボォーさん。
 沈黙する一同。まるで化け物でも見たかのようである。
 ノブナガさんが目を見開いてふらふらとウボォーさんに寄り、その腕に触れ、叩き、叩き、
「んだよ」
「ウボォー!?」
 皆が我に返って一斉にウボォーさんを呼んだ。
「うぼぉぉぉぉぉおっ」
 そして、皆が一斉に寄って集ってウボォーさんを殴った。蹴った。絞められた。
 なんて過激な愛情表現だ。
「ほ、本物なんだな!? やっぱり生きてたんだなっ!?」
「ったりめーよ」
「てめェ、生きてたんなら生きてたんで、なんで連絡よこさねぇ!?」
「ああ、さっきまで寝てたんだよ、アヤノの所で」
「はぁっ!?」
 一斉にこちらを見る皆さん。
 私は首をかしげた。
「アキラ君、言ってなかったの?」
「ええ!? オレが言わなきゃダメだったの!?」
「てっきりアキラ君が伝えているものと」
「いや、普通は年長者でつきあいの長いアヤノちゃんだろ?」
 私は困った子といった感じでアキラ君を睨む。アキラ君はそんな事言われても、みたいな困った顔。
「おまえらなぁ、ちょっと離れろ」
 ミルキ坊ちゃまが責任の押し付け合いをする私たちの間に割って入る。
「つまり……ずっとアヤノの所にいたのかよ」
「ああ」
 再び始まるウボォーさんへの暴行。
 さっきは手加減されていたが、今はかなり力が入っている。もちろん強化系のウボォーさんにはほとんど効かないが。
 ヒソカさんの姿をしたイルミ坊ちゃまは参加しない。そろそろ戻りそうだから下手に動けないという理由もあるが、この暴行劇に興味ないんだろう。また馬鹿やってる、ぐらいの事を思っているはずだ。
「蘇ったってのは、寝てたのが起きるって事かよ!
 変針とかついてるから、オレはてっきりお前が鎖野郎にヤられて、新しいヤツが入るもんだとっ!」
 生き返った系の言葉が入っていたらしい。変針って何だろう。クラピカさんと闘うのをあきらめたって事かな? 何にしてもよかった。
 ノブナガさんはウボォーさんのマウントポジションで、くっと息を飲み涙をぬぐう。
 ああ、男の人の友情。なんて美しいんだろうか。私のおかげで、友情を確かめ合えましたね。
「何のことだか知らねーが、厄介な念をかけられて、こいつに除念してもらってたんだよ」
「はは……」
 アキラ君は目を逸らす。私の方へ。
 ウボォーさんの気遣いは、かえって胸が痛む。
「なんで二人とも目を逸らしてるの?」
「え……その……」
 シャルさんに問われ、目を逸らす。
「それはもういいから。それよりよぉ、団長はどこに行ったんだよ」
 ウボォーさんが話を逸らして、それを聞き皆さんは顔を顰める。
「誘拐された」
 代表してシャルさんが答えた。
「なにぃぃ!? なんでてめぇら落ち着いてんだよ」
「ウボォーが戻ってきてパニックになったら逆に落ち着いたんだよ。
 まあ、たぶん生きて帰ってくると思うよ。人質交換だからさ。ああいうタイプは約束は守ると思うし。もしも何かされていたとしても、向こうから除念師がのこのこやって来てくれたからね」
 シャルさん、のこのこって……。
「それで何かあったらどうすんだよっ!?」
「それは信じるしかないよ。でも、人質達の様子を見る限りは大丈夫。パクが信じてたしさ」
 さすが確かな分析力のシャルさん。腹黒。人心を読むのはお手の物ですね。
「で、その人誰。アキラはともかく、なんで知らない人がいるの?」
「おお、イルミの弟だよ。引きこもりの」
「え? ころころの子? うそー、痩せたって言ってたけど、本当に痩せたねぇ」
 当のミルキ坊ちゃまは、ちらちらと偽ヒソカさんを横目で見ていた。
 確信はないがそれっぽいと睨んでいるようだ。
「あ、そうだ」
 シャルさんがアキラ君の首に腕を回して、ひそひそと耳打ちする。
「例のアレ貸してよ」
「今使うんですか?」
「うん、退屈だし」
「今は一枚しかないんですよね……」
「何枚作れるの?」
「最高12枚。でもオレの体力的に1日1枚しか作れないんで、出来れば大切に使いたいかと」
「そういえばあの子達も金目当てだっけ。いくらいるの?」
「うーん。グリードアイランドってゲームが欲しいんですよ」
「ああ、あれ」
「この前もらったアイテムもそこのクリア特典らしいです」
「へぇ。何ならそのゲームパクってこようか」
「さすがに盗品はゴンが認めなさそうな……」
 自分が嫌だとは言えないようだ。
「ああ、あの子頑固そうだもんね」
「まあ、ダメなら賞金を出してる人が人材募集してるらしいんで。ゴンもそっちなら納得するでしょうし」
「始めからそうすれば良かったのに」
「気づかなかったんですよ」
「なるほど。じゃあ、カードいいよね」
「カモってここにいる皆さんですよね?」
「ここにいるまだカモられてない皆さん。大丈夫だって。アキラが恨まれる事はないから」
「ほ、本当ですか?」
「ホントホント」
 かなりいい加減な事を吹き込むシャルさん。本当にカードを借りて、賭けを始めた。
 その最中に、参加していなかったイルミ坊ちゃまが逃げた。つまり、向こうのイベントは一通り終わった事を意味している。
 もうすぐパクノダさんが戻ってくるな。




[14104] 50話 着々と
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/03/02 23:41

 予定通りに話は進んだ。
 違うと言えば、私たちがここにいるぐらい。
「あなたたちねぇ」
 ネタがばれて、100ジェニーだけかけてゲームをしている私たちを見て、パクノダさんが呆れて言う。
 アキラ君はマチさんに一発殴られた。
 除念しなければならないので軽くだったため、ほとんどダメージはない。流モドキで腹にオーラを集めていたからなのだが。それで再び同じカードを今度貸すという事で落ち着いた。マチさんもシャルさんと同じでお金が好きなタイプだから。アキラ君的には、カードは作らないと上達しないし、作る使わないといけないから問題ないらしい。私的にはそう思っているのがアキラ君だから、そうは思えないんだけど。
 まあ、彼が自分の首を絞めるだけなら問題ない。
 パクノダさんと一緒に彼等を見てため息をついた。
 原作と違い部外者かつ友人の私と、なんちゃって除念師のアキラ君がこの街にいるため、死のうとは思っていなかっただろうが、仲間達まで緊張感なさ過ぎてかなり脱力している。
「でもいいところにいたわ。何があったか私の口からは話せないの」
「ああ、クラピカの……」
「それも言えないの。想像して」
 アキラ君が口を挟んで、パクノダさんの様子を見る。確かに私が何でも知ってたらおかしいから、少しは親しい彼が察するのがいいだろう。
「パクノダもあの野郎になんかやられたのか」
「…………って、ウボォー!?」
 暗がりにいた上、当たり前のように景色に馴染んでいたからスルーしていたのだろう。今ようやく気付いて驚かれた。
「あなた生きてたの!?」
「ピンピンしてらぁ」
「じゃあ、異邦の絹布の中で深き眠りにつくって、まさか本当に寝てただけなの?」
「いほーのけんぷだぁ?」
 パクノダさんの言葉に、ウボォーさんが堅めを細めて、首を傾げた。それは分からないな。しかも死んでるようにしか聞こえない。でも異邦か……。
「占いよ。必ず当たる占いの能力。詩で表されて、その中に貴方が眠っているような事が書かれていたの」
「じゃあ、それは私の事でしょうね。私の名前のアヤノの綾は織物の意味もあるんですよ。普段から絹の着物ばかり着ていますし、今着ているのも全部シルクですし」
「贅沢な」
 アキラ君が私の服を見て呟いた。高級もらってるんだから、肌触りがいい物を着るのは当然である。
「異邦の道化ってのはアキラの事だったんだ。てっきりヒソカの事かと思ってた」
 シズクちゃんの言葉に、ギョッとするアキラ君。
 予言で道化扱い。
「ヒソカさんと同じ括りって……」
「いつもふざけてるのが悪いのよ」
 人にコスプレさせたり。
「ウボォーのは何だったんだろう。あたしはてっきり、新しいメンバーが入るんだと思ってた」
「ウボォー、何か変わった?」
 マチさんとシズクちゃんの問いに、ウボォーさんは腕を組考え、
「…………気にすんな」
 怪しみながらも、それ以上の追求をしなかった。個人の事は口を出さない主義のようである。
 変針。方向を変える。人生を変える。針はイルミ坊ちゃまが思い浮かぶ。そのために用意した砂糖の形をした薬が原因。それから推測されるのは……
 後遺症!?
「まさか……どこか痺れてるとか、寝過ぎて筋力が落ちたとか」
「今日何日だ?」
「四日の夜です」
「それぐらいで落ちるかよ。寝てた事には関係ねーから気にすんな」
 本人が言うなら別にいいんだけど……。
 もやもやするなぁ。
「でも異邦って、お前らどこ出身だよ。この街にいるほとんどの連中が異邦人だぜ」
 ノブナガさんに指摘されてしまった。彼は見た目に反して理知的な方だ。そういう事には真っ先に食い付く。
 もちろん無視だ。アキラ君は頑張って記憶喪失で押し切れ。
「あ、私がクロロさんに電話するのは構わないですよね?」
 パクノダさんは笑みで返してくれた。
「私以外は問題あり、と」
 今までを見ていると、ちょっとした切っ掛けから元の流れに戻ろうとするので、慎重に行動しなければ。本筋とは関係ない所では、けっこう無茶苦茶になっている気がするけど……それは気にしても仕方がない。私達がここにいる。それがそもそもの間違いである。
「パクが何をされたか分かるの?」
「クラピカの念が心臓に刺さってるんだ。心臓をよく見れば分かるよ」
 マチさんの問いに、私ではなくアキラ君が答えた。ちらちらとその豊満な胸を見て、顔を赤く染める。
 人をビキニにしておいて、何を今更。ノーブラだからか。それとも何か。私に大人の女の色気がないからか。
 その反面、ミルキ坊ちゃまは自分と背丈の変わらない年上の女性にはまったく興味ないらしく無反応だ。それはそれで男としてどうだろう。
「念のために、外で話をしますね。クモの皆さんは会話の聞こえない場所にいてください。どうやら命に関わるような物のようです」
 私は皆さんから離れ、外に出てからクロロさんに電話を掛ける。ケータイは取り上げられていないから、掛かるはずだ。
『アヤノか』
「ああ、よかった。今はアジトの前に。アキラ君を連れてきました」
『ナイスだ』
「あと、ウボォーさんをお連れしました」
『…………生きて……いたのか』
 クロロさんの驚いたような声が心地よい。たまに冷静な人の驚いた様子を見聞きするのは楽しい。
「私、てっきりアキラ君が伝えてくれた物と思って、お伝えするのを忘れていました。申し訳ありません」
『いや、生きているならそれでいい。絹布はお前なら、道化はアキラか。なるほど』
 あっという間に冷静だな。もっと取り乱して欲しかった。
「占いらしいですね。道化が解決するような内容だったんですか?」
『ああ。道化に頼るか、東に行けという内容だった。東にも除念師がいるんだろうな』
「東だけでどうしろと……。
 まあ、細かい事は安全を確保してからにしましょう。
 パクノダさんの様子だと、彼女の口から旅団員に説明するのもいけないという事でしょうか」
『ああ。その通りだ』
「私の口からならいいんでしょうか」
『おそらくいいが、念のために除念後にしろ。除念の事は初期メンバーだけには話してある』
「じゃあ、ヒソカさんは? そっちにヒソカさんいたんですよね? さっきまで変装したイルミ坊ちゃまっぽいヒソカさんがいらしたんですけど」
『ヒソカは旅団を抜けて帰ったが……よくあの変装が分かるな』
「雰囲気はごまかせないですから」
 まあ、変装だと知らなくても、親しい人がよく見たら分かるぐらいには、あの目や独特の雰囲気は隠せていない。
 ヒソカさんが帰ったなら、今後どうなるんだろう。
「それでどうします?」
『まずはパクから頼む。オレはまだ腹が空いていないから、数時間後に迎えに来てくれ』
「アキラ君、これやると朝までぐっすりですよ。クロロさんの方が強い念能力だと思いますが、いいんですか?」
『かまわない。それよりもアキラはそれでいいのか? あの男は友人なんだろう』
「それはそれ、これはこれです。下手な除念師にかかって、クラピカさんを殺しに行かれるよりはいいそうですよ。いい子でしょう?」
 都合の、とついたりもするが。
『くくっ』
 クロロさんが笑い、私もつられそうなったが、アキラ君が外に出てきたのでそれを引っ込めた。
「どうしたの?」
「あ、除念の事で、クロロさんに言いたい事が」
 私はアキラ君にケータイを渡す。
「あ、クロロさん。先日はお世話になりました、あ、いえ。とんでもない。こちらこそ」
 アキラ君は何もない所に向かって頭を下げるという、日本人独特の癖を出して、妙に若者らしくない挨拶を続けている。
「除念の件なんですけど、できればクラピカがヨークシンを離れてからがいいんですけど。その間はルールに従っているか、能力をカードに封じて、安全だけ確保するかどちらかでお願いしたいんです」
「え、カードに封じたら、除念されたの分かるんじゃないの?」
 ウボォーさんは死んだと思われていたから気付かれなかったっぽいだけだ。しかし二人は違う。
「いや、カードに封じて、バインダー内にしまったら分からなくなるだけで、カードを本人が持ってたら、能力者には区別がつかないらしいよ。すんごいベテランならともかく、クラピカなら大丈夫」
 なるほど。
「あ、はい。じゃあ、最長で10日ということで。
 じゃあ、呪いそのものを解くのは首飾りなんで、誰かに渡しておきますよ。終わったら連絡下さい。あ、その頃に審査があるんで、オレにつながらなかったらイルミさんにでも。
 ありがとうございます。助かります。いえ、首飾りがあってこそなんで……うおおっと」
 アキラ君の背後から、忍び寄ったミルキ坊ちゃまがそのケータイを取り上げた。
「話がまとまった所で、除念料金の話なんだが。あ、オレ? ミルキ=ゾルディック。こいつの能力は半分ウチで作ったようなもんだから」
 勝手に商談をはじめた。
 アキラ君はこめかみを押さえ、その会話を聞く。そして勝手にケータイを切り、ガッツポーズを取る。
「っしゃ、1人10億」
「おいっ」
「交渉料で5億な。お前だと一人1億ぐらいしか取らなかっただろうから、安いもんだろ」
 なんか、こう、ミルキ坊ちゃまもやっぱりゾルディックなんだなぁとしみじみと感じた。





 パクノダさんの呪い隔離が終わり、発は使えない状態だが剣は消え、試しにクロロさんの事を話しても死ななかった。
 危ないから、完全に除念した後にした方がいいと言ったのだけど、同じような事をクロロさんもするのだから、念のために確かめたかったのだそうだ。
「これなら大丈夫そうね。この子、寝ちゃったけどどうするの?」
「毎回こうみたいです」
「他人の念を封じるのは大変なのね」
「条件がかなり違うっていうのもありますけど、平然とやってるクロロさんが特殊なんですよ」
 アキラ君は能力を十分使いこなしている。オーラはまだ少ないが、自分の能力を理解して使っているという意味では、十分使いこなしている。特質系はそういう人が多い。逆に強化系に近いほど、身につけるには地道な修行が必要となる。
「そろそろキルア坊ちゃまもホテルに戻っているでしょうから、送っていく事にします」
 ミルキ坊ちゃまがアキラ君を荷物のように抱えた。
「本当にお世話になったわね。あれ含めて」
 暇なので、能力が残っているうちに遊べるだけ遊んでいるシャルさん達のことだ。
 最初は騙されて巻き上げられ、前回の時に巻き上げられた面々の肩を震わせる様子を見て面白がっていたが、今はどれぐらいの確率で勝つのか実験に入った。
 金額によって勝率が上がるのか、金さえ掛かっていれば勝率は変わらないのかなどを研究し始めたのだ。
 たぶんすごく暇なんだろう。みんな無事だったから心は晴れ晴れしているだろうし。
「子供みたいに浮かれて可愛いですね」
「なまじ顔だけ可愛いから不気味だな、あいつ」
 貴方の兄が一番不気味だと思いますが。
「人に使ってもらうのが前提なので、ああして楽しんでいただけるのもいいですが……アキラ君の能力はいまいち分かりません」
「まあ分かる必要はないだろ。結果を知ってればさ」
 ミルキ坊ちゃまはにやりと笑う。
 痩せて美形になったのに、ニヤニヤ笑うから爽やかさとかそういうのとは無縁だ。
「んじゃいくか」
「はい」
 私はケータイを取り出し、履歴からキルア坊ちゃまのアドレスを選択する。
 デリバリで移動すると、疲労困憊で気を失っているアキラ君を引き渡す。受け取ったハンゾーさんが、ベッドに転がした。それでも起きる気配はない。この子、本当に自然の中で生きていけるんだろうか。ビスケの修行の時に、この子だけいつまでも寝るだけでボロボロになりそうな気がする。
 心配する私の隣で、キルア坊ちゃまがミルキ坊ちゃまに絡んでいた。
「だ、誰だよあんた」
「はぁ? 兄貴の顔を忘れたのかよ」
「痩せたとは聞いてたけど……お袋そっくりだよな。気味わりぃ」
「ほっとけ」
 現在の兄弟の中で、顔だけならミルキ坊ちゃまが一番奥様似だ。大きくなればカルト様が一番似るのかも知れないが、今はミルキ坊ちゃまが似ている。
 目を細めていやらしく笑うのをどうにかすれば、見た目に欠点のない美形なんだけどなぁ。
「んで、あいつと何してたの?」
「商売だよ。この騒ぎのせいでパニックになって本業に大きい仕事が来ないからさ。副業に励んでたんだよ。
 明日にまた迎えに来るって伝えておけ。今日ので二十億の稼ぎだ」
 金払いのいい知り合いがいるからこそだ。普通の人なら、吹っ掛けたとしても、死んでも払えない金額である。
「じゃーな」
 手を振ってホテルの部屋を出た。





 翌日、クロロさんの念も隔離して、倒れたアキラ君をホテルのベッドに放置し、私はクロロさんと共にアジトに戻り、シャルさんに首飾りを渡した。ミルキ坊ちゃまはここにはいない。私が出かける時にはまだ寝てたから。
「カードとこれを同時に持ってるだけで呪いは解けるけど、首に掛けて、カードは肌に直接触れるように持った方が利きがいいような気がするそうです。終わったらアムドと唱えるか、念を使える人がカードを使って、時間が過ぎれば本人の元へと戻ります。クロロさんの能力と違って、一度きりなので良心的でしょう?」
 クロロさん達が持つと、除念が始まってしまうので無くさなそうな人に預けなければならない。そこでクロロさんに選ばれたのがシャルさんだ。クロロさんの認識で、こういう場合に信頼できるのはパクノダさんとシャルさんらしい。他はうっかり壊したり、うっかり忘れたり、何かに夢中になって落としたりしそうだから。
「へぇ。こんな物がごろごろしてるなら、オレもゲームプレイしてみようかな」
 シャルさんが来るのは予定通りなんだけど、漫画と違い除念という目的がないから、目的がブレる事なく、本当にお宝ゲットを目指すんだろう。この人の扱いはどうしようか。
 ヒソカさんがいないのは、ミルキ坊ちゃまにでも頼めばいいし。ミルキ坊ちゃまが役に立つかどうか分からないけど、殴り合いではなく、物の投げ合いなのでまあいけるだろう。
「景品アイテムの保管場所さえ分かれば、盗りに行くんですか?」
「よく分かってるじゃん。あんなアイテムがごろごろしてるなら、探りを入れる価値はあるでしょ」
 やっぱりそうですよねー。
「ゲームはどうするんです?」
「タクマが持ってたなら、たぶんホームに一つはあるんだよね。でも普通のゲーム機なら最高8人プレイだよね。みんながやりたいって言ったら盗りに行くかな」
 シャルさんが好青年スマイルを浮かべた。
 え…………。
「みんな?」
 しかもセーブ予定なのだ。いや、情報を調べていないからか。
「ねぇ、ゲームする人~」
「オレはやるぜ」
「面白そうだな。オレもやるぜ」
「ワタシもね」
 予想通りウボォーさんと虐殺コンビが手を迷わず挙げた。
「ゲームってどんなの? あたし、ああいう画面見てるのイライラするんだけど」
 マチさんが顔を顰めて言う。ゲームといったら、ゲーセンにあるようなのか、テレビゲームしか思い浮かばないだろう。
「念を使う体感ゲームなのでディスプレイすらいりません」
「え、そうなの?」
 今度はシャルさんが驚いた。彼はゲーム、ジョイステを使用するという固定観念に囚われて、ディスプレイのいらないなどとは考えもしていなかった。彼がグリードアイランドについて調べたのは、漫画でももっと後だった。
 ふむ。
「むしろどこか実在する場所に飛ばされるという噂もあります。念で作った世界ではなく、現実の島を使っているとか。なので、私は自分の念で帰れるかどうかをまず試す予定です」
「ほぅ、面白そうじゃないか。そこまでの規模なら、一人二人では無理だな」
 クロロさんはお宝以上に、きっと念能力者に興味を持ち始めた。恐ろしいです。
 私には関係ない人達なので、私の関与しない所で何かされたとしても関係ありません。むしろクロロさんに狙われるなら、命だけは助かるのでありがたく思っていただきたいです。
 ま、さすがにあの集団が、自分達の庭の中で殺されるとも思えない。自分達がルールを決めた、自分達に最も有利なフィールドだ。ゲームというルールに縛られるあの中でなら、格上の相手にでも勝てるだろう。
「ふふ、行くなら時間を合わせませんか? 情報を集めるにしても、人数がいた方がいいでしょうし。
 どの端末を使っても、出る場所は同じで、リストに名が載れば、お互いのいる場所にゲームのスペルで簡単に行き来できるそうです。リストに載っていれば、後で簡単に合流もできますし、情報交換も出来ますよ」
「ゲームってのはそんな事も出来るんだねぇ」
「あのゲームだけですから」
 感心するマチさんに、私は思わず口を挟む。機械に強そうには見えないけど、ゲームにはとことん弱そうだ。
「ならあたしも参加かな」
 この調子じゃ、参加率は高そうだ。少なくとも初期メンバーとシズクちゃんとコルトピさんは来るだろう。
 来てくれれば、ゴン君達のクリア後にでも、自力でレイザーさんに挑む事も出来るし、悪くはない。
 何よりも、私の数少ない友人達と一緒にゲーム。ミルキ坊ちゃまと二人きりという、ちっょと貞操とかを心配してしまう場面を潰す事が可能。
「シズクちゃんも来ますよね?」
「あたし?」
 シズクちゃんが首を傾げた。この子もゲーム類には疎そうだ。
「シズクも来た方がいいよ。オレやシズクにしたら、ゲーム内にいる方が今週は安全かもよ」
「そっか。わかった。いいよ」
 ああ、そうか。そんな流れだっけ。
「じゃあ、美味しいガルガイダー鍋を作りますね」
「何それ?」
「私が一番楽しみにしている珍味です。美味しい魚だそうです」
「食べ物が関する事だけは情報通だよね」
「お褒めにあずかり光栄です」
「褒めてないよ」
 ああ、シズクちゃんは素敵だなぁ。
 やっぱり人間、ユーモアも必要だ。常に冗談を言うお調子者は嫌いだが、隙無く周囲にタバスコをまき散らしているような雰囲気は耐えられない。
「うふふ。明日が楽しみです」
「お鍋は楽しみかな」
 ああ、長年の夢の一つが叶う。




[14104] 51話 全てが脅迫になる
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/03/11 07:37
 私はサザンピークのオークション会場でキルア坊ちゃまと出会い、少し歪んでいた蝶ネクタイを直す。
「二人とも良くお似合いですね」
「え、オレは?」
 アキラ君が首を傾げた。
「君は……正装のコスプレにしか見えません」
「なんでまっとうな正装がコスプレっ!?」
「君は何を着ててもコスプレをしている気がして」
 子供達とハンゾーさんとミルキ坊ちゃまが吹き出した。どうでもいいけど、ゼパイルさんだけじゃなくて、ここにまでハンゾーさんまでいるって……。
 レオリオさんですら来てないのに。
「あの……ハンゾーさん、お国の仕事はいいんですか?」
「ああ、気にすんな。興味もあるし、こいつらのことが心配だからな」
 ものすごくいい笑顔が逆に胡散臭い。
 私が胡乱な目を向けていると、アキラ君が私の横に立ち、耳元に顔を近づけるためにかがみ込んだ。
「ほら、賞金だよ賞金。金額知ってから目の色変わってさ」
「……忍者ってそんなに自由奔放でいいの?」
「ハンゾーんところはお庭番とかじゃないから、金になるならいいんだってさ。名目はオレたちの護衛。朝起きたら、手伝ってもらう代わりにオレが10億払う事になってた。あ、これはゴンには内緒ね」
 おいおいおい。どうせあぶく銭だからいいかもしれないけど……。
「…………まあ、不純な目的でも、かえって利害が一致していいんではないですか」
 ゲーム中で皆が争っていたのは、500億のためである。それが目当てなのがパーティの中では一人しかいなかったら、一番揉めやすい部分が解決することになる。
「そういえば彼女の事をどうするか決めました?」
 もちろんセンリツさんの事だ。彼女のあれは理屈上ではアキラ君でも除念可能だと思われる。
「んー、無理。レベルが違いすぎる。オレのアレ、能力の強さもだけど、サイズの方も負担になるんだ。恐ろしく強いし全身だからまだ無理」
 そうか。クラピカさんのは心臓だけだから、この子にとってはまだ引っぺがしやすい呪いなのか。それでああなってたら、そりゃ無理だ。
 まあ、センリツさんのはものすごく強そうな呪いだし、アキラ君が封じきるのも難しいだろう。中途半端なことをして悪化させてしまったら謝って済むことではない。
「なんでこそこそハンゾー事情を話してるんだよ」
「いえ、大したことではありません。
 そんな事よりも、さ、参りましょう」
 私はアキラ君を引っ張り、Bホールを探した。途中ミルキが怖いと言って手をふりほどかれ、振り返ると笑顔のミルキ坊ちゃまと目が合った。そういえば、私はあまりミルキ坊ちゃまの怖い顔は見ていないような気がする。
 辿り着いた広いオークション会場に足を踏み入れる。子連れだから周囲の注目の的となった。悲しいかな小柄な私も、遠目から見たら子供の一人なんだろう。
「あ、アヤノとちびっ子達じゃん」
「あら、シャルさん。こんにちは」
 クモが来る事は知っていたけど、なぜか短気な殺戮コンビだけでなく、シャルさんまでもいっしょにいた。まあ、本気で狙ってて、この二人に任せるのはかなり不安である。夢中になると忘れるタイプだから、念のため監視を兼ねたのだろう。
 メンバーを思い浮かべると、他に適任者がいない。パクノダさんは除念待ちだし、マチさんは痛んでるし、ノブナガさんはこの二人に比べればいいものの、やっぱり彼ら寄りな一面があるから不安が残るし。
 シズクちゃん他は問題外。目的を忘れたり、目立ちすぎるから。
 やっぱりシャルさんが適任だ。
「な、なんでこいつらがここにっ!?」
 ゴン君が警戒心丸出しで後退する。私が普通に話しているので、さすがにいきなり全力で逃げたりはしなかった。
「心配しなくても襲ったりしないよ。オレは金にならない事はしない主義だから。今日は純粋にオークションを楽しみに来たんだ」
 でも意味が少しでも出来たら、笑顔で殺しますよね。あと笑顔がすんごく胡散臭いです。
「にしても、ちびっ子達可愛いねー、はははっ」
 シャルさんが褒めるが、(笑)のような物が語尾についていそうだ。
「アキラは似合てるのか似合てないのか分からないね」
 フェイタンさんがにやりと笑って言う。
 顔や体格的には、似合っている筈なんだが、なぜか全身からにじみ出る緩さとか、ある意味特別な雰囲気が、似合っているとは言いがたい何かを生み出している。普段の格好は、ある意味しっくりくるんだけどなぁ。
「フィンクスさんはとても良くお似合いですね。普段の格好も可愛くて素敵ですけど、そういう格好だと渋くて素敵です」
 変な帽子をかぶっている人と同一人物とは思えない。あれは可愛いけど、どこかのテーマパークで買った土産物のような奇抜さだと思う。
「誰だってそのハゲよりはマシだろ」
 フィンクスさんは照れ隠しでハンゾーさんを引き合いに出し、ハンゾーさんの顔が引きつる。もちろん相手が格上だと分かっているから何も言わないが、もうはっきり分かるほどひくひくと引きつっている。
「まあ忍者だし、和装が似合えばいいんじゃないか?」
「そのハゲ忍者なのか? 火とか吐いてみろよ」
 無茶苦茶なことを言うフィンクスさんに、内心ビビっているだろうハンゾーさんはへっと笑った。
「誰がタダでやるか」
「え、金払ったら火を吐くの?」
 シャルさんが驚いたようにハンゾーさんを見る。
 なんて微妙な念能力、と思っているに違いない。
「良く言われるからマニュアル化されてるんだよ。アルコールを口に含んで吹く実用性のな大道芸だよ」
 それはそれで見てみたい気もする。
「ノリの良さは一族ぐるみかよ。どこまで忍ばないんだ」
 アキラ君が呆れて呟いた。しかしなぜか私の方を見てこう言った。
「あ、アヤノちゃんなんか、毒の息ぐらい吐けるなきっと!」
「アキラ君、私をなんだと……なんで対抗しなきゃならないんですか」
「え、出来ないの?」
 私の体内にある毒にもなる物を操作する。オーラを薄く広げる技術があれば難しくない。つまりは円を広げる技術があれば……。
「まあ、そんなことよりも、席に向かいましょう」
「吐けるか。吐いてみるといいね」
「もうやだフェイタンさん。何で私がこんな所で大量虐殺しなきゃならないんですかぁ」
 オーラで広げる物はオーラをまとえば防げる。呼吸を止めてすぐに離れれば自分に害はないからこその発言だ。
「とにかく、今日は争わないってことで、行きましょう。それとも皆さん争いたいですか?」
 ここでうんと答えるのは、フィンクス、フェイタン組だけだろう。





 いやぁ、競った競った。
 私はルールを理解していないからミルキ坊ちゃまに任せたのだが、450億を超えた頃、とりあえず呆れて諦めた。お金を借りて、とりあえず500億まで確保したのだが、アキラ君が言うには、最後の方は600億を超える値段になっていたらしい。
 周囲もその馬鹿らしい値段にただ呆れるばかりである。
「きょうはこの一本だけですよね」
「ああ。じゃあ、交渉に行くか」
「脅迫にはなりませんか?」
「それは相手次第だろ」
 キルア坊ちゃま達の席が離れていたからこその会話だ。
 円で探し、ツなんとかという念能力者を見つけてそちらに向かう。キルア坊ちゃま達の方が先に向かっている。
 他はともかく、アキラ君のことが心配でならない。
 もちろんまた予定外を引き起こしそうで怖いのだ。
 円だけでは何をしているかまでは分からない。ただいるということだけは分かる。
 反対側の出口付近へと、ホールを迂回してたどり着き、ツなんとかさんが私達に気付いた。
 あの人、なんだったっけ。顔は特徴あるから分かるけど、名前が……。ツゲイラ? 違うような気がする。ツだけは覚えてるんだけどなぁ。まあ、そんな事はどうでもいい。
 キルア坊ちゃまとゴン君がきゃんきゃんとわめいている。可愛い。
 写真写真。ゴトーさんに送信、と。
「私が声を掛けますか?」
「……いや、オレが交渉するよ。アヤノは執事じゃなくて料理人だろ」
「はい」
 本業を忘れられていなくて良かった。
「バッテラさん、取込中悪いんだけど」
 ミルキ坊ちゃまは黙って立っていれば気品すらある母親似の顔に、にやりと笑みを貼り付ける。この笑い方、なんとかならないかなぁ……。イルミ坊ちゃまの何を考えているか分からない無表情よりはマシなんだけど。
「君は先ほど競り合った……」
 目標を向かってひたむきな老人は、予定外の出費を招いた青年を見て笑う。彼にとって財産は事が終われば邪魔なもの。だから惜しむことはない。本気で競り落とすなら、彼の全財産の7分の1の資金が必要になる。
「こういう者だ」
「……ゾルディックっ!」
 さすがのバッテラさんとツなんとかさんも驚いた。
「ハンゾー、あれって脅迫になってないか?」
「名乗るだけで脅迫になるってよぉ……ちっ」
「ハンゾーもいつか名前を聞くだけでビビられる有名な忍者になれるって!」
「お、やっぱそう思うか?」
 何度も何度も思った事だが、彼はどこまで忍ばない忍びなんだ。アキラ君もなんかずれてるし。ノリのいい彼は、アキラ君にとっていい相方になっているらしい。アキラ君は自分で、『オレは後ろから応援する係』と言い切る子だ。なかなかいい組み合わせではある。ハンゾーさん、普段は煽てたら木に登るタイプっぽいし。
 性格を抜きにしても、能力を考えれば妥当である。それでも死なないように鍛えているので、まったく戦えないわけでもない。ただ、守ってやろうという気になるようなタイプでないだけだ。気付いたら安全地点に逃げてそうだし。
「今日は間に合わなかったが、明日には倍の金が手に入る」
 大嘘吐き。追加があるとしても、せいぜい100億だけでしょう。
 もう、ミルキ坊ちゃまったら素敵っ! もっとやれ!
「オレは全財産使っても惜しくない。うちにとっては、子供の小遣い程度だからな」
 いや、さすがに1000億が子供の小遣いは有り得ないから! 自分で言ってなんだけど、なにこの金額。アホかと思う。
「欲張りすぎるのは良くないぜ。オレは半分埋まっている機体で十分だ。
 あと言っておくが、クリア者がいても、後でクリアしたプレイヤーも一点物以外は景品を受け取る事が出来る。何を狙ってるか知らないが、カリカリすんなよ」
 こういう時にニヤニヤ笑われると腹が立つだろうなぁ。
「誰もそこまで到達した者いないというのに、なぜ言い切れるのかね」
「はっ。到達した者がいない? いるぜ。アキラ」
 アキラ君は首を傾げた。
「ああ、あれ。シャルさんが後が返すからって」
「ああ、そうだったな」
 あまり自分には関係ないから忘れていたようだ。
「シャル……さっきの優男か。顔の割に、ジャイアニズム炸裂してんなぁ」
 そういえばハンゾーさんジャポン人。一般レベルでもかなりアキラ君達の話題についていけるだろう。でも、アニメを見る忍者って嫌だなぁ……。
「とりあえず、発売初期の頃、あっという間にコンプリートをして、あまりにも早いので最終イベントを誰にも知られないように行ったそうです」
「…………馬鹿なっ」
 ツさんの表情が歪んだ。自分達がどれだけ時間をかけたと思っているのだとでも思っているのだろう。
「大切なのは能力者の相性ですよ。バッテラさんは厳選しているつもりで、ただ足を引っ張り合うだけの強欲どもを送り込んでいるだけです。本当は二台も所有して、バランスが取れたグループを作っていたなら、もっと早くクリアできていたはずです。ゲームですから、ちゃんと注意してイベントをこなし、レベル上げして進めば、長くても一年以上かかるような事はないはずなんですから」
 仲間がいれば手分けして、最後の方になって集まり、とりあえず全員で行くかという風に到着してもらう予定だったのだろう。でも15人はキツイと思う。せめて一台で済む8人ぐらいなら、もっと早く場所だけは見つけていただろうに。
 ただ、相手が強すぎて攻略できないだけで。
「基本は情報収集だろ。攻略方法をまとめて、傾向を出し、可能性をしらみつぶしにする。何がフラグか分からないから、各所の会話を全て書き出すとかしたか? 念能力者じゃなくても、ゲーマー雇ってアドバイスもらったことあるか? ゲームなんだから、ゲームらしい傾向があるはずだろ。作り手の癖が」
 ゲーマーを雇うという言葉に、バッテラさんが驚いていた。念能力者の物という既成概念に囚われ、そのものの本質を忘れるなんて。
「おお、さすが廃ゲーマー。あらゆるジャンルのゲームをやり込んでるだけはあるな。言葉が重い」
「微妙な重さだな……」
 アキラ君とハンゾーさんが仲良く囁き合っている。聞こえるこそこそ話をするな。
 バッテラさんは顔を顰めた。
「そうだ。バッテラさんは昔、医療関係でかなりお金を使ったと聞きます」
「…………」
「私、悪食集に所属する美食ハンターですの。今回の騒動で十老頭に繰り上げられそうな同士もおりますの」
 だから情報はいくらでも入る。とくにガルガイダーを持ち帰るのを阻んでいるに近い彼は、かなり恨まれている。
「それでも癒せなかった何か。そこまで癒したい何か。
 強化系能力でも治せない……おそらく病か、難しい身体の……脳の障害といったところでしょうか」
 アキラ君に呆れたように見られているが無視する。いつものやり取りだ。
「病だとしたら、これほど長く生きていられるとは思わないので、障害なのでしょうね」
 この世界、高度な戦いをする人ほど、読み合い、心理戦を重視する。だから違和感はないだろう。情報があれば、導き出すのは難しくない。
「一台譲っていただければ、その治しにくい部分の治癒が出来るかもしれない能力者を紹介いたします」
 みんなが私の笑顔を半眼閉じて見つめてくる。気にしたら負けだ。
 この子達がクリアできればそれでいい。だから最後の方でツさんがリタイアしようとしまいと、どちらでもいいのだ。
 ビスケは、二人増えてもついてくるだろう。どのみち彼等はまだ10代。彼女にとっては子供である。それにあのプレイヤーの面子の中では、アキラ君が一番彼女の好みの容姿をしているだろう。何というか、他の連中が残念すぎるから。アキラ君とハンゾーさんも友人っぽい雰囲気が出来ているし、事実がどうあれ、餌に事欠かない。
 ついてこなかった時は、最終手段だけど、アキラ君が声をかければいい。
「いい結果を望んでいます。参りましょう、ミルキ坊ちゃま」
「おう。じゃーな。鍛えとけよ」
 ミルキ坊ちゃまの言葉はアキラ君への言葉だ。



 翌日、私達はバッテラさん以外と競り合って、370億でゲームを手に入れた。もちろん全額ミルキ坊ちゃま持ちである。




あとがき
ハンゾーとの最初の約束では二桁ほど少なかったのですが、酒を飲まされ翌朝起きたら二桁多い契約書が出来ていた、というエピソードを書こうとしたのですが、どう書いても短すぎるのでカットしました。

ようやく次回からGI編です



[14104] 52話 ゲームスタート
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/03/07 15:40

 
 子供の頃、私も人並みにゲームに夢中になった。
 でもやはり、体感ゲームというのは、それとは違う憧れがある。現実、死の危険もあると分かっているが、ゲームと言われれば心が躍る。
 しっかりしたカーゴパンツと靴を履き、タンクトップ、その上に武器を隠せるジャケットを羽織る。髪は鬱陶しいので三つ編みにした。
「今日は気合いが入ってるな」
 ミルキ坊ちゃまはジーンズにシャツだけだ。荷物は腰の鞭一つ。
 まるで庭に出るぐらいの装備だった。ここの庭も、ゲームの中も、危険度ではさほど変わらないという説もあるが。
「私のは汚れてもいい格好です。入り口付近にいるようなモンスターやプレイヤー相手なら命の危険はありませんから、防御力重視の着物を着る必要もありません」
 私はウエストポーチを身につけ、ケータイをポーチについたポケットに収めた。
 準備は整った。
 空きスロットは4つ。
 その内二つにロムカードをセット。
「そういえば、カルト様はまだお戻りではないのですか?」
「キルアも遊び回ってるし、自分もちょっと遊びたくなったんだろ」
 今一瞬、ミルキ坊ちゃまが『弟を理解している良い兄』のように見えた。きっと錯覚だ。
カルト様は私の能力で生きている事は確認できているし、普通の子供ではないので、悪い影響を受けないかどうかを心配していた。
「今は仕事も少ないしほっとけ。飽きたら戻ってくるだろ」
 以前も言っていたように、裏の社会の人達が大量に死んでしまったので、仕事が減ってしまったのだ。
「では、先に私が行って様子を見て参ります。さすがにスタート地点に危険はないとは思いますけど」
「ああ」
 危険だからオレが先にという発想はない。そもそも危険だと思っていない。ほとんどのプレイヤーが入り口で死亡していたら、もっと回転率がいいはずだからだ。
 こんな場面で心配しなされるような使用人は、このような高給をもらえない。
「さて」
 私はゲーム機に向かって手をかざした。
 他人の念で移動するのは初めてだが、感覚は近かった。
 出た先はいかにもゲームという不思議空間だ。平衡感覚がおかしくなり、不安を煽る。こういうのは少し苦手だ。
「ようこそ、グリードアイランドへ」
 少し歩いた先にいた、可愛い双子の片割れの受付嬢に挨拶された。
 特別な会話をせずゲームキャラとして扱い、必要最低限の説明を受けて外に出る。
 見渡す限りの草原が目の前に広がっていた。心地よい風が、私の髪を揺らす。
 心地よいばかりではなく、こちらを伺る無粋な気配があった。修理中のアジオウ様に変わる、機能だけは高性能なアジオウ様2号を向かわせた。精密機械なので一号よりもか弱いのが欠点だ。
 しばし待つが、なかなかミルキ坊ちゃまが出てこない。可愛い女の子だから話し込んでいるのかも。
 アジオウ様2号が戻ってきた時、ミルキ坊ちゃまが出てきた。
「遅かったですね。入り口から楽しんでいらっしゃるんですね」
「あ、いや……そうじゃなくてさ」
 ミルキ坊ちゃまは指輪を見せた。
「入り口で名乗ったらこれを渡された。預かっていた物だって……。
 オレ、ここに来た事あるらしいな」
「え?」
 来た事がある? 指輪を預けていた?
「じーちゃん達に連れてこられてたらしいぜ。夢だと思ってたから、記憶がほとんどないけどな」
 タクマさん…………何がしたかったんだろう。男の人は理解に苦しむ。
「でもどのようにして? 寝ている間に荷物扱いで持ち込まれたんでしょうか?」
 身につけている物はそのままだ。食料も、武器も。人間を持ち込めないとは言い切る事は出来ない。
「かもなぁ」
 ゴン君が入った事があるようだから、そのような裏技がありそうだ。しかし思いついても普通は実行しないものだ。
「っていうか、じーちゃんはこのゲーム持ってたのか?」
 だとしたらあの苦労は何だったのだ、そう言いたい。
「……クモで保有している物でしょう。なぜ連れ込まれたのがクモの皆さんではなく、ミルキ坊ちゃまだったのか謎ですが。イルミ坊ちゃまも知らないようでしたし」
「ひょっとして、オレが欲しがってたから?」
「まさかここが欲しがっていたゲームの中だとは思いませんよね。夢だと思って当然です」
「記憶があったら攻略の役に立つんだけどなぁ……」
「幼い頃の事ですし、覚えがないのは仕方がありません」
 小さな頃にやったゲームそのものは覚えていても、攻略法なんてちっとも覚えてない。そんな曖昧な知識、役に立たなくて当然だ。
「行くか」
「はい」




 ブックとゲインの練習をしながら街に向かった。私達のバインダー内には石がぎっしりと詰まっている。
 街に到着すると、ミルキ坊ちゃまが物珍しそうに周囲を見回した。
 初心者丸出しで微笑ましい。
「けっこう人がいるな」
「レベルの低いプレイヤーは、最初の街を離れられませんから。
 命がけだと、レベルを上げるための努力すら恐ろしくなるのでしょう」
「弱いのにこんな所に来る馬鹿が生きてるから、ゲームが数百億になんだよ」
 ミルキ坊ちゃまは毒づく。この人達が死んでくれたら、もっと安くなるけど、買ってしまった後ですぐに安くなったら、それはそれで不機嫌になるはず。
 二人で並んで歩き、私は目的の懸賞が書かれた掲示板を見つけた。ガルガイダーを探す。あった。
「ミルキ坊ちゃま、大食いは大丈夫ですか? 私の一番の目的なんです」
「ああ、問題ないぜ。っていうか、入って早々にあるのかよ」
 身体操作はゾルディック家のお家芸。胃袋だってどうにでもなるに違いない。一般人にすらどうにかなっている人がたくさんいるんだから。
 人垣から出て、店を探して歩いていると、背後から誰かが近づいてきた。昔の私なら分からなかったが、仕事を始めてから人の気配に敏感になったので、つけられている事ぐらい容易に分かる。ミルキ坊ちゃまも顔をしかめ、振り返る。
 背の高い男性が、驚いたように足を止めた。
 はて。既視感が…………。
 凝り世界、つんつんヘアはたくさんいる。一見親切そうな眼鏡の好青年。
 って、こいつグリードアイランド編ボスの爆弾魔!?
「君たち初心者だね。実は最近ボ」
 ミルキ坊ちゃまの腕に触れて「ボ」から始まる単語を言おうとした爆弾魔の腕に、包丁を振り下ろした。
「っ!?」
 間一髪の所で手を離して逃れた。
 切り落とし損ねたけれど、爆弾セットは阻止出来た。
 突然の凶行に、ミルキ坊ちゃまが目を見開き、すぐに我に返って鞭に手をかけて爆弾魔を睨んだ。彼の名も忘れた。名簿確認出来るカードを手に入れたら確かめてみよう。名前を見たら分かると思うから。
「今、何しようとした」
「な、何って、ただ忠告をしようとしただけだが」
 両手を横に振り、白々しい事を言うボマーの本体。私も包丁を構えた。
「実は最近」
「触れるな。今度は殺します」
 私は触れられないように警戒しながら、ミルキ坊ちゃまの手を引いた。
「行きましょう、坊ちゃま。こういう方とは関わらない方がいいです」
 触れられてボマーと言われるだけでアウトなのだ。とはいっても、時限式は制約が厳しく、発動させようとしたらすぐに殺せば解決する。彼は武闘派ではあるが、能力は具現化、爆破。掴まれない限りは恐れる必要はない。恐ろしいのは命を掴まれた時だ。殺して爆破が止まるとは限らない。アキラ君の能力のように、本人のオーラを啜って力を得ている可能性もある。
 しかし対処法さえあれば恐ろしくはない。アキラ君がいるから万が一の時も大丈夫だ。それでも爆弾を仕掛けられるなんて気分が悪い。ごめんだ。
「あ、ああ」
 腕を引くと、ミルキ坊ちゃまは顔を赤らめて大人しくついてくる。腕を組んでいるわけではない。ただ手を引いているだけだ。
 これほど純情な反応をされると、どうしていいものか悩む。
「あ、あいつは何だったんだろうな。PKか?」
 照れ隠しに話題を振り、私はそれに乗った。
「きっとそうです。隠は上手かったですけれど、行動が怪しすぎました。
 注意を促す振りをして、何か取り付けているのでしょうね。きっと私たちがキョロキョロしてたから目をつけたのだと思います。初心者の街ですから」
 本当に隠は上手い。人に取り付けても、絶でもしてもらわないと、他人の念が混じっててもよく分からない。
「ふぅん。アヤノって警戒心ないかと思ってたけど、意外と他人には警戒してるんだな」
「当然です。知らない男性がいたら変質者と思えと、師匠には口を酸っぱくして言われ続けました。女が一人でいるのはそれだけ危険なのです。人間は野生動物よりも油断なりません」
「女は大変だな」
 納得していただいたので、目当ての店に向かう。
 店内に入ると、客がけっこういて…………
「って、またこいつらかよ」
 クモに占領されていた。彼等は私がいつ来るかは知っていたので、行き先を予想して待っていたようだ。
「よぉ、アヤノ」
「アヤノ? ミルキ兄さん?」
 ウボォーさんの巨体の向側からお顔を出すカルト様。ミルキ坊ちゃまが驚いて息を飲んだ。
「カルト、どうしてクモなんかと!?」
「クモに入った」
「…………」
 キルア坊ちゃまと違い、正真正銘『家出中』なのに、隠そうともしない。さすがはカルト様だ。マイペース。
「なんだおめぇ、ガキの癖によく鍛えられてると思ったら、イルミの妹かよ」
「妹がいたのか。あの家族好きが、一度も話題にしないなんてどうなってんだ」
 ウボォーさんとノブナガさんが、見た目からして血のつながりを感じる二人を見比べて言う。
 …………クモになった?
「か、カルト様、クモになったとおっしゃいますが、まさか入れ墨を!?」 
 よくよく考えればクモといえばクモの入れ墨。まだ幼いこの方の身体に、あんな物があるなんて耐えられない!
「アヤノは入れ墨が嫌いか」
 クロロさんに問われ、私は我を取り戻して咳払いをした。
「まだ成長期前のカルト様がそんな物をしても害しかありません」
 それを聞き、クロロさんはふっと笑う。その前にはごく普通のコーヒー。お金はあるのだろうか。さすがにゲーム内で食い逃げ……とかしたら後々大変じゃ?
「安心しろ。まだ仮入団だ。さすがに幼すぎる」
「よかった……。でも、仮なんて有りなんですか?」
「空き枠に入るんだ。せっかく実力を見る機会もあるし、まだ仮でいいだろう」
「なら、ちゃんと攻略していって下さいね。このゲーム、ゴン君のお父様が中心となって開発されたらしくて、念能力者として成長するのに最適なバランスになっているようなんですよ。カルト様はまだまだ基礎が未熟です」
「つまり、未熟者でも進めばクリア出来て当然だと?」
「仲間との協力も不可欠なようです。ソロプレイでの攻略は不可能なようですよ」
「それもタクマの手紙に?」
「友達は大切にしろと」
「だから誘ったのか」
「戦力が欲しいと思っていた所、あの状態で誘わない方がどうかしています」
 利用し、利用される。それはゲームでも現実社会でも同じ事。
「ウボォーさんのような方がいて下さったら百人力です。私達だと、どうしてもパワー不足になりますから」
「オレか。力が必要ならいつでも言えよ」
「頼もしいです」
 力強いサムズアップが男らしい。
 この方のパワーと頑丈さは頼もしい。絶にしてようやくまともなダメージを与えられる強靱さである。ウボォーさんは正しく肉体こそが武器である。
「そういえば、アヤノ、これ」
 シズクちゃんが私に声をかけ、ブックと唱える。バインダーを開き、私へと見せてくれた。
 一面の魚のカード。
「……が……ガルガイダー」
「デメちゃんに食べてもらったの。鍋類はあそこ」
 持ち込むのが大変だから、鍋とかを頼んでいたのだ。が、鍋どころか、よく見ればそれが載っているテーブルのデザインが他と違う。
 デメちゃんは最後に吸い込んだものしか外に出せないため、外に出したようだ。
「ガルガイダー取り放題じゃないですか! 素敵!」
「これだけあれば、煮ても焼いても足りるよね」
「はい。シズクちゃん愛してます!」
 椅子に座るシズクちゃんを背後から抱きしめ、後頭部にキスをする。
「あ、いい香り。どこのシャンプーですか?」
「わかんないけど、ブランドの高いヤツ。詰め替えて持ってきたけど、帰ったらメーカー見るね」
「有り難うございます」
 女の子らしい会話をしていると、カルト様に睨まれた。
 な、なぜ?
「とにかく移動するか。ここじゃ料理も出来ないだろう」
「誰も食べてないんですか?」
「昨日ウボォーが。オレは好きな物を自分のペースで好きなだけ食べる主義だ。一部はその魚を売ってこの世界の金もある」
 なるほど。ガルガイダーはすぐに食べられるか売られてしまうから、念能力が関係ない高額懸賞でも、限度枚数になることはないのか。
「じゃあ、どこに移動しましょうか」
「オレ達の宿でいいだろう」
「はい」
 さぁて、クモを上手く動かすための入り知恵をしなければ。
 問題なのは、暴走しそうな人達だけだから、頭脳派が全員いてくれる現状は悪くない。でも、まさか全員参加してくれるとは……。
 最悪、初期メンバーだけというのも考えていたから、幸先のいいスタートだ。


あとがき
ウボォーという名を見続けていると、夢日記を思い出します。



[14104] 53話 始める前に
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/03/13 16:24

 私はカードを手に取り、ドキドキしながら唇を舐めた。
「ゲイン」
 煙を上げてカードが手の中から消え、次の瞬間には目の前に魚が現れ、まな板の上に落下した。
 生きている新鮮なガルガイダーだ。
「生きたまま閉じこめられてたのか?」
 ミルキ坊ちゃまが私の肩越しにガルガイダーを見下ろして言った。
「さぁ。閉じこめられていたか、このカードが引換券になっていて、条件を揃えると入れ替わるのかもしれません?」
「ただのフラグか。判定はこの指輪?」
 私は包丁を握る手につけた指輪を見た。多くの能力者が関係しているから、システムの予想が立てにくい。
「いや、指輪を外しても時間が来ればカードは元に戻るよ。つまりこの島の物はこの島のシステムで管理されているって事。それがどこまでかはまだ分からないけどね」
 お酒の準備をしていたシャルさんが答えをくれた。
 ミルキ坊ちゃまがシャルさんに興味を持ち、ゲームについて話し出した。二人は組織にとって同じ役割を果たすパーツであるから、話が合うようだ。
 私はその間に生きたままのガルガイダーの調理に取り掛かった。
 程なくして、まずは一品目の刺身が完成する。
 脂が乗り、歯ごたえがある。身の味がしっかりしていて甘味が美味しい。身も美味しいが、特に胆が濃厚で美味だ。アンコウの胆が大好きなのだけど、あれよりもさらに美味しい。
 これがゲームの中でしか手に入らないだなんて勿体ない。
「大丈夫だとは思いますけど、寄生虫なんて関係ないという方だけ食べて下さいな。いてもよぉく噛めば大丈夫です。胆を醤油に溶かして食べても美味しいですよ」
 寄生虫という言葉でクモの皆は引いたが、ミルキ坊ちゃまとカルト様は気にもせずに食べる。
「アヤノ、これ美味しい」
「うん、美味い」
 二人が顔を上げることなく言った。次の料理に取りかっている私は笑みをこぼす。
 兄弟が箸を止めることなく食べ続ける姿を見て、ウボォーさんが箸を延ばした。
「おお、うめぇ。すげぇ。すげぇぜ」
 うめぇ、すげぇとしか言わなくなった上、完食しそうな勢いで食べるウボォーさんを見て、クモの皆さんは慌てて自分達も箸を延ばす。箸を使いこなしているのは半分で、残り半分はフォークを使っている。
 彼等が夢中になっている間に、お鍋の用意をした。その鍋を食べている間に煮付け、天ぷら、唐揚げを用意する。
 思ったよりも大量にガルガイダーが手に入ったから、贅沢に使用してガルガイダーの試食会のようになっていた。
 調理が終われば私も食べるのに参戦する。
「お鍋もいいダシが出てますね。他の珍味シリーズが楽しみです」
「ほんとだ。三大珍味って書いてある」
 シズクちゃんがバインダーを開いてこれだけ食べても減った気がしないカードを見た。初めから美味しい物だと分かっているとハントするのにもテンションが上がる。いつもは美味しいかどうかも分からない物を見て、美味しそうだと想像をかき立ててテンションを上げているけど、その必要がまったくない。初めからテンションマックスだから。
「ちったぁ食い物以外にも興味持てよ」
「やだノブナガさん。私だって女だから、食べ物以外に興味はちゃんとあります。美肌の温泉とか」
 びくりと女性陣が反応した。
「複数ゲットしたらみんなで入りましょうね」
 ミルキ坊ちゃまが咳き込んで口を押さえた。
「どうしたんですか?」
「い、いや、何でもない」
 私が首を傾げると、クモの皆さんがクスクスと笑う。何を考えたのやら……。
「そうだ。奥様もお招きして、お試しいただいてはいかがでしょう」
「そ、そーだな」
 ミルキ坊ちゃまの顔が赤い。
「そのためにも、ひとまず現段階で分かっている情報を整理しませんか?」
「そうだな」
 情報を出し合うのは、有効なゲームの攻略方。私はゲームをする時、迷わずにゲームの攻略サイトをチェックする。
「クロロさん達はこちらに来て、どんな情報を得ましたか?」
「低レベルプレイヤーばかりで、ゲームについてお前が知っていた以上の有用な情報はなかったな」
「デメちゃんで吸い込んだり、コピーとかはしました」
「ああ」
「結果は?」
「お前の想像する通りだろう。結論から言えば、重要なアイテムはすべて持ち出す事は出来ない。アキラのアイテムの事を考えれば、すべて念でコピーされた物かもしれない」
 シズクちゃんの具現化した掃除機デメちゃんは、物ならいくらでも吸い込めるけど、生き物や念能力で具現化された物は吸い込めない。コルトピさんのコピー能力も念能力まではコピーできない。だから複製したカードはゲインできない。
「念でコピーした物が、どうやって効力を発揮できるんでしょうか」
「カードの仕組みとコピー品の有効範囲の問題だな。
 アキラのあの首飾りは、カードの呪いを解くと言っていたが、正確には物に宿った呪いを解くアイテムのようだ」
 アキラ君に渡すまでは謎の首飾りでしかなかったが、効力を知ってから一時的に返され、彼等はその間に師の遺品を試したようだ。
「呪いをはね返すようなアイテムに、そんな念をかけられるんでしょうか」
「害のある効力だけをはね返すんだ。
 今でもアキラの持っている首飾りは、このゲーム内でアイテムとして存在する事は確認できている」
 一点物が持ち出されても、アイテムとしてここにあり続けるなんて、かなり無茶苦茶な能力だ。クロロさんのコレクター魂をくすぐる美味しい能力の予感がする。
「あのカード、もう手に入れたんですか?」
「月例大会の賞品らしい。しかもランクはそれほど高くないものだ。手に入れたら本物との差を検証してみる」
 月例大会の賞品なら、この街にいれば聞き出すのは簡単だ。
「つまりはこの魚のように数がある物は本物、稀少な物であればコピーってことか」
 ミルキ坊ちゃまが鍋をよそいながら言う。私は煮付けを食べている。煮付け美味しい。この世にはまだまだ私の知らない美食がある。ゲームでこんなに感動したのは初めて。
「そういえば、どなたかスペルカードはお持ちですか?」
「あるよ。そこらへんのヤツから盗たね」
 やっぱり虐殺コンビは予想通りの事をしていたらしい。それが一般人なら心も痛むけど、ここは命がけが前提のゲーム内だ。
「フェイタンさん、お使いになりました?」
「使たよ。便利ね」
「私がはじめてスペルカードについて聞いた時、真っ先に思い出したのはアキラ君の能力です」
「ワタシらもね」
 アキラ君がこのゲームをモデルにしたのだから当然だ。
「アキラ君は制約をかけて、相手のオーラも利用して、それで成り立たせている能力です。
 このアイテムのコピー、便利なスペルカードの存在が意味するのは」
「複数のゲームマスターの存在だね」
 シャルさんの言葉に頷いた。
「確かに一人の能力者でどうにか出来る規模じゃないな。
 最低でも複数の放出系、具現化系能力者が必要だろ。システム管理は操作系能力者か。その一人は、おそらく入り口の女だろうな」
 ミルキ坊ちゃまの言葉に、クロロさんが頷く。
「隙のない女だったな。受付をしているだけはあった」
 一番プレイヤーと接する事になる危険な位置にいるのが彼女だ。フェイタンさんみたいな短気な人に、いきなり襲われる可能性もある。
「ハッカーハンターのようなコンピューターを使う能力者でしょうかねぇ」
 私はハッカーハンターというのをよく知らないから憶測だけど。
「能力とは別に知識が必要なら必要ないが……アキラを介せばシャルに使わせる事も出来るな」
 え……と?
「アキラ君の能力で、クロロさんの能力も使えるように出来るんですか?」
 かれの幅広いがしょぼい能力から、本を具現化するだけで終わるのかと思っていた。
「ダメージを与えない能力ならな。パクの能力もほぼ完璧だった」
 除念の時のカードも、クモの間で有効に使われたようだ。
 アキラ君、別の意味でクロロさんに狙われてどうする。
「別に何を盗もうといいけどさ、オレ達が欲しい物取ってからにしろよ。あと、温泉持ち帰るって約束で来てるんだから、それに必要な奴は殺すなよ」
「そのために話し合っているんだ。最大の利益を最小の手間で。無計画に暴れれば、逃げられる可能性が高い」
 クロロさんはスペルカードのような、長距離移動用の念能力は欲しがっていると思う。絶対に逃がしたくないはずだ。ただ、レイザーさんがシステムを担当しているから、複合能力だと思う。その場合は盗めるのだろうか。
「スペルカードはカードの念能力者がアキラ君のように、能力者の力を借りて作っているのかも。放出系のオーラを借りてカードの能力に加工するとか」
 そうなると、クロロさんが狙うはやっぱりカードシステムの能力者?
 クロロさんがとても黒い笑みをを浮かべていて、自分がその対象にならなかった事に安堵する。
「ちょっとまとめようか」
 シャルさんがケータイを取り出し、すごい速さで打ち込んでいった。
「1、ゲームマスターは複数。人数は不明。少なく見積もっても、放出、具現、操作の三人が必要。オレの予想では十人以上は必要だと思う。
 2、アイテムは具現化されたコピーと、本物を転送される物があると思われる。重要なアイテムほど、具現化でコピーした物である可能性が高い。
 3、スペルはアキラの能力みたいに、具現化、もしくは特質系能力者が他の能力者の力を借りている可能性が高い。
 今分かっているのはこれだけかな」
「ゲームならモンスターとかいますよね? それは具現化能力ですか?」
「たぶんね」
「ちっ」
「…………」
 思わず舌打ちした私を、皆さんが白い目で見る。一人ミルキ坊ちゃまだけが、温い目をしていた。
 …………。
「で、今後の方針はどうしますか? 私は食材に関するアイテムが欲しくて、ミルキ坊ちゃまは奥様へのプレゼントとゲームのクリア、その報酬が目当てですよね」
 ちゃんと揃える事が出来れば、3つは持ち帰ることができる。レイザーさんとは別のSSカードを手に入れるには、ツェズゲラさんか、彼にコピーを売った人から奪い取るしか方法がない。狙うのはそのオリジナルを持つ人。それさえ見つけられれば、短期クリアは可能だ。
「オレは殺し屋だから盗むのに興味はないから、強いて言えばゲーマーとしてクリアしたいってのがあるな。物としてあるものはともかく、温泉は持ち帰ればいい物でもねーし。それまで待つならこいつらとも手を組むけど、待たないなら」
「待たないなら?」
 クロロさんの言葉をミルキ坊ちゃまは鼻で笑い、
「アヤノに食材だけ渡して、帰らせる」
 …………。
「では待とう」
「即答だな」
「どうせ一度全てのカードを集める必要があるからな。それから最終的な判断をする。どのようにしてアイテムを渡されるのか、事を起こす前に知りたい。それまでは普通のプレイヤーとして振る舞ってやる。情報収拾は盗みの基本だ」
 うんうん。いい感じだ。利害関係を作って協力し合うのが理想だ。
「そうそう。
 カードをどうするにしても、カードの入手方法や、イベントの詳細、関係キャラの情報も集めて下さい。ゲームは先に進むために、過去の情報や他で手に入れたアイテムが必要な場合が多々あります。10年してもタクマさん一行しかクリアできないのですから、上位陣に優秀なゲーマーがいなかったからという可能性が高いです。情報はすべて記録しておいてください」
「ああ、自分達で攻略サイトを作るってことか。いいな、それ」
 ミルキ坊ちゃまが苦笑し、ケータイを取り出した。
「ここ、電波届かないよ」
 シャルさんは自分のアンテナの立っていないケータイを見せた。
「うちのは特別製なんだよ……あ、ゴトーか。オレと同じ機能のケータイ、12個用意してくれ。後でアヤノが取りに行く。あとカルトが一緒だ。お袋に心配するなって伝えてくれ」
 話している間中ずっと、ケータイがミルキ坊ちゃまのオーラを吸い取っていた。
「オーラを電波に変えてるの? オーラで電波を強化してるの?」
 アンテナとケータイが武器のシャルさんが目の色を変えて食い付き、ミルキ坊ちゃまは顔をしかめる。
「どっちでもいいだろ。メシ食ったら実験を兼ねてアヤノに戻ってもらうから、同じ機能のついた端末を貸してやるよ。
 念能力を使うのが前提だから、アイテムをどうこうする以外の念は制限されてはいないだろ。だからアヤノも帰るだけなら問題ないはずだ」
「アヤノが何を持ち帰れるかも興味深いな」
 クロロさんがバインダーを開き、私に持たせるアイテムを選び始めた。
 鍋の具材が無くなったから、荷物の中に入れていた冷やごはんと卵を入れて雑炊にする。いいおダシがとれたお鍋で作る雑炊は、鍋の中で一番の楽しみだ。海苔を散らして皆に配る。
 くぅ……おいしいっ!
「ああ、早く皆さんにこの味を届けて差し上げたい」
「悪食会ってやつか?」
「集ですって。ここでしか捕れないので、出す人は数百万出しますよ」
 シズクちゃんから30匹ほどのガルガイダーを譲っくれている。
「シズクちゃんには、売上げとは別にお礼をしなくちゃいけませんね」
「毎日ごはん作ってくれればいいよ。男と二人きりじゃ心配だからついていってあげる」
 ナイスシズクちゃん! さすがはお友達! 例え毎日の食事目当てだとしても愛してる!
 ミルキ坊ちゃまも相手がシズクちゃんなので何も言わなかった。
「カルト様もご一緒しましょう。このゲーム、子供を育てるために父親が作った物ですから、ゆっくりと進めば確実に基礎が身に付く作りだそうですから」
「子供扱いしないでよ」
「基礎は大切です。せっかくのチャンスですから、ミルキ坊ちゃまとご一緒に、基礎をしっかりさせましょう」
「え…………オレも基礎?」
 ずっとさぼってたから、肉体の基礎能力がカルト様よりも低いから、鍛え直すにはちょうど良い。
「じゃあ、オレも一緒に行くぜ。操作系やら具現化系だけじゃ、盾がいないだろ」
「まあ、ウボォーさんも?」
 確かに操作具現化ばかりのパーティはバランスが悪い。カルト様とミルキ坊ちゃまに何かあってからでは遅い。
「やだね。あんたみたいにデカイ奴がいたら目立つだろ。冗談じゃねー」
 可愛い眼鏡っ子は許容範囲だけど、視界を覆う大男は気に食わないようだ。
「シズクちゃんと一緒はお嫌ですか?」
「その子はいいよ、その子なら。男でもこいつ以外ならいい」
 ウボォーさんはどうしてこんなに嫌われてるのだろう。私が部屋に入れたから?
「そう言うなよ。男の嫉妬は見苦しいぜ」
「原始人みたいな格好した奴を連れ歩くのがハズいんだよ! 同じ大男でも、そっちのフランケンみたいな方がまだ文明的でマシだなっ」
 喧嘩を始めてしまったので、私はその間に実験をする事にした。
 生きたガルガイダーと、絞めたばかりのガルガイダーと、調理済みのガルガイダーを抱え、フェイタンさんに移動用スペルカードのアカンパニーをわけてもらい、ゴトーさんに電話した。
 生きたガルガイダーは回収されてしまったけど、それ以外は持ち帰る事が出来た。




[14104] 54話 ゲームスタート アキラ視点
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/03/11 19:15


 今日は10日。今はゲームプレイヤーの選考会場にいる。
 首飾りは昨日の朝、起きたら枕元に置いてあった。ちょっと寒気が走った。
 これが用無しになったということは、もうクラピカにはバレてるだろうから、昨日から胃の調子が悪い気がする。胃腸薬を買ってくれば良かった。そうだ、一旦ホテルに戻るはずだから、その時に買おう。
 審査が始まると、オレは約束もあるから真っ先に並んだ。ゴン達が声を上げていたが、前から3番目に並ぶ事が出来た。振り返ればゴン達はまだ席にいる。列が出来てしまったからあきらめたようだ。
 ふと視線を下げると、可愛い女の子と目が合った。ツインテールの超美少女。間違いなくビスケだ。まさかオレの後ろに並ぶとは……。
 とても50代には見えない可愛らしさ。本性ゴリラには見えないな!
 オレが彼女を見ていると、彼女はオレを見上げてにこりと笑った。笑顔がもう可愛い!
「あ、じろじろ見てごめんね。君みたいな可愛い子がいるとは思わなくてさ」
「まあ……そんな」
 恥ずかしそうに身をよじる猫かぶりビスケちゃま。ビスケちゃま可愛い。ビスケちゃま萌え。ロリババア萌え。
 こんなに可愛い子に対して、あんな冷たい態度を取るなんて、キルアは男として間違ってる。オレがキルアぐらいの年頃なら、ドキドキしっぱなしだったに違いない。アニキがあんな純情なのも、きっと家庭環境のせいだ。
「次の方どうぞ」
 声をかけられ、顔を上げた。どうやらオレの番だ。前の二人は自信満々だったから、余裕でさっさと合格してしまったらしい。
「じゃあ、またゲームの中で」
 ビスケに手を振って、舞台の袖から上がる。
 腕を組んで立つツェズゲラさんが、オレの顔を見て少しだけ顔に出した。
「では"練"を見せてもらおうか」
 当初の予定では、透明になって後ろに立ってやるはずだったのだが、今はアヤノちゃんとの約束がある。約束はしていないが、無言の圧力というか……後が怖いし人助けだからな。
「オレの能力の一つは治癒です」
「…………そうか、君か。バッテラ氏が待っている。誰か、彼を案内してくれ」
 黒服の男に案内され、オレは早々にその場を離れた。
 エレベーターに乗り、上階の部屋に通された。
「こちらにどうぞ」
 衝立の向こう側に、ベッドに眠る美女とその手を握る年老いた男がいた。彼女の前にいる男は、サザンピークの時に見た、活力漲る男と同一人物とは思えなかった。
「どうも」
「君が……まさかあの時目の前にいたとはな」
 部外者の存在に、一瞬で表情が以前見た時に近い力を取り戻す。強い人だ。
「治るかどうかは分かりませんが……オレの能力は大きな傷を治すんじゃなくて、重症の時、重症の場所だけでも治すピンポイント治癒する能力です。下手に全部治そうとする能力者よりは、可能性が高いと思います」
「では、さっさく試してくれ」
 オレは眠る美女を見た。
 眠っているように見える。脳死ではなく植物状態のようだ。自力で呼吸しており、本当に眠っているだけに見える。そいえば、原作でもそんな事を言っていたな。確かオレ、それを読んだ時……。
「あの、その前に植物状態なだけなのか、他にも悪い所があるのか教えていただけますか。オレは医者じゃないんで、悪い場所のおおよその位置を示してもらわないと治療が出来ません」
「原因は分からない。事故に遭ってから、今まで、ずっと……眠っている」
 いつもの調子に戻ったようで、やはり言葉がすらすらと出てこないようだ。
 この人の身体には損傷がない。
 この人はクリア直前に死ぬんだ。都合良く、クリア直前に。
 オレは原作を見た時に思った。ここまでの時間生きてた植物状態の人が、ずいぶんと都合良く死ぬもんだ、と。
 オレはバッテラさんの恋人をよく見る。念のために凝も使って見た。わずかに違和感を覚えて、今度は全力でオーラを目に集めて、ひたすらよく見る。汗を掻くほど、強く強く凝をする。
「ふぅ…………」
 オレは不安と期待をわずかに見せるバッテラさんを見た。
「あの、凝の得意な……勘の鋭い人にこの人を見せた事はありますか?」
「いや、治癒を専門とする能力者にしか見せた事がない」
「つまり、実戦経験の少ないタイプの能力者ですね」
 本当に優れた能力者ではなく、楽に稼ぐために強化系能力者が他人の治癒能力を高めて、怪我を治しているようなタイプだったら、気付かない。
 オレはバインダーを具現化し、取り出したカードを彼女の手に触れさせた。何もなければ変化はない。しかし、念をかけられていれば……カードの片隅に、髑髏マークが浮かぶ。
「やっぱり」
「何かやっぱりなんだ」
 思わず呟いた言葉に反応する。
「バッテラさん、この人がこうなった時、誰かに恨まれてませんでした? 殺しても飽き足らないほど、恨まれるような……」
「どういう意味だ」
「この人、すごく分かりにくいけど、強い念能力で呪われてますよ。何ならツェズゲラさんにでも見せてください。彼なら見えると思います」
 彼は目を見開いた。
 言われなければツェズゲラさんも気付かないだろうが、言われてから注意してみればきっとオレよりもはっきり見えると思う。
「事故のせいでこうなったんじゃなくて、こうなったからたまたま事故にあった。
 そう考える事もできるんじゃないかと思います。
 この女の人が恨まれてた可能性もありますけど、だったらこれは回りくどいじゃないですか。
 だとしたら……オレなら全てを取り戻せそうな時に、この人を殺してしまいます」
 バッテラさんは茫然と、手を小刻みに震わせて、女性を見下ろした。
 んでも、どうしよう。想定外だ。オレじゃ意識のない人には能力を説明出来ない。オレの除念は無理。
 コンプリート目の前で死んでしまったのは、治される事が分かったから、そろそろ殺すかと思ったんだろう。
 オレが考え込んでいると、バッテラさんはふらふらとベッドの傍らに膝をつき、涙を流した。
「では、これは私のせいで……」
 オレのせいで母さんがこんな風になったら、きっとこの人のように泣くんだろう。可哀相でこのままにはしておけない。昔のバッテラさんのことは分からないが、今の望みは財産を捨てて恋人と生きる事だ。何よりこの女の人に罪はない。
 そうか。能力者が自分の意志で彼女を殺すなら、これは死者の念ではない。きっと生きている。死者の念でないなら、いるじゃないか。
「バッテラさん。さっきの会場に除念師がいましたよ」
「除念師……?」
 ああそうか。能力者でも知らない人がいるのだから、バッテラさんが知るはずもない。
「こういう害のある念を取り除く能力者です」
 バッテラさんが立ち上がり、涙を拭いもせずオレを見た。
「除念師は滅多にいないので、あの人を逃すと見つけるのは大変です。
 あの人の除念は残るタイプだけど、この人の意識さえ戻ればどうにでもなります」
 もしも死者の念だったら無理だけど、その時は別の除念師を探せばいい。半分財産を使っても、この人にはまだまだ金がある。
「その人物の特徴を教えますが、オレが教えたというのと内緒にして下さい」
「なぜだ」
「同業者なんですよ。ただ、オレは意識のある人しか除念出来ない。彼が除念して残った物を、さらにオレが除念する。それでどうですか?」
 もちろんバッテラさんが断るはずもない。
 除念が成功した場合、オレ達は契約せず、ただゲームをさせて欲しいという約束で、アベンガネの特徴を教えた。




 除念が終わって目を覚ますと既に古城の中で、オレの知っているのはキルアだけになっていた。オレ何時間寝てたんだ……。いつもは寝る前に寝るまでのことは記憶があるのに、今日は封印し終えるのがギリギリだった。
 長期間にわたり蓄積された憎悪は、クラピカの念よりもずっと強かったのかな。って事は、汚れと一緒で放置すると除念しにくくなる?
 それほど大きくはなかったけど、尻尾の先を口にくわえてもらってだけだから、体内との接触が少なかったのも疲れる原因かもしれない。除念する機会なんて滅多にないから、原因はわからない。経験を積んでいくしかないだろう。
「あ、起きたのか。よかった。起きなかったら置いてこうかと思ったぜ」
 キルアが笑顔でさらっと非道い事を言う。
「ひどいひどいひどいぃぃ」
「しがみつくなって、恥ずかしいだろっ。だぁぁ、冗談だっつーの!」
 殴られた。どうせなら、マチさんみたいな美人に殴られたいなぁ。
「じゃ、オレは先に行くから。アキラはジャンケンに参加してないから、一番最後に来いよ。ちゃんと待っててやるからさ」
「うん」
 手を振ってキルアを見送る。
 オレの番が回ってくると、ツェズゲラさんに引き止められた。
「何ですか?」
「これを。バッテラ氏の夫人からの差し入れだ。君はずっと寝ていたから、腹を空かせるだろうと」
 白い紙の箱に賞味期限のシールが貼ってあるから店で買った物らしいけど、心遣いが嬉しかった。
「夫人? 恋人じゃなかったんですか?」
「籍を入れるそうだ。式を挙げるのは犯人の事や夫人の体力の問題からまだ先になるが、その時には時には招待したいと伝えるように言われている」
「へぇ、呼んでいただけるならもちろん出席しますとお伝え下さい」
「ああ」
「じゃあ、お先に」
 オレは頭を下げてゲーム内に入った。良い事をした後は気分が良い。
 しかも受付のエレナちゃんも可愛い。今日は可愛い子と美人さんが見られて幸せだな。
 外に出ると、三人が地面に座り込んで遊んでいたので声をかける。
「お待たせ」
 最初と最後だから、けっこう待ちくたびれたらしく、ゴンとハンゾーが石取りゲームをして遊んでた。ハンゾーが必勝法を知らないゴンをからかって遊んでいる。
 後でこっそり勝ち方を教えてやろう。
「じゃ、行こうか」
 ゴンが歩き出すので、オレも後をついていく。
 そろそろ空からフィンクス、フェイタンコンビに殺される人が来るはず。
 来るはず……なんだけど、街が見えても来なかった。確か見た目のアレな感じの人が、キルアにスペルで攻撃するはずなのに……。
 そして来ないまま初心者街と言ってもいい、懸賞の街アントキバに到着する。
 …………あれぇえ??
 考えられるのは……クモだ。今回はけっこう大人数で来るみたいだから、予定よりも早くあの人は殺されたのかも……。
 そして何事もないまま掲示板の懸賞情報を見る。
 近くにいるアベンガネがオレを見ている。いや、アベンガネだけじゃない。ずっと寝てたような奴が合格してここにいるのだ。どんな能力だったのか気になるんだろう。居心地が悪かった。
 そして原作通りにガルガイダーにチャレンジ。アホかと思うサイズのパスタを見て、オレは無理と悟り、さきほどもらった紙の箱を開ける。オシャレなサンドイッチだ。
「どうしたんだよそれ」
「助けたバッテラさんの彼女……奥さんが手配してくれたんだって」
「遅いと思ったら……美味そうじゃん」
「そのパスタ食べながらそんな事をよく言えるよな。食いたかったら一つ食えよ」
 そう言うと、パスタが半分残っているのに手を伸ばす。こいつらの胃袋はどうなってるんだ。
「でもアキラ、お店に持ち込みするなんて……何か頼んだ方が良いよ」
 ゴンが意外と常識的な事で顔を顰めた。
「いやだって、ここゲームだから外の常識は考えなくて良いんじゃないか? それにまだ戦闘もしてないから金持ってないだろ。お前らのはタダになるからいいけど」
「え、お金持ってきてないの?」
 ゴンが無垢な瞳でオレを見る。オレの言葉でキルアとハンゾーは気付いたらしいけど、ゴンは何も知らないから気付かない。
「ゲームじゃ、ゲーム内でしか通用しない通貨があるんだよ。ゲームの常識」
「やっべ。危うく飲み物頼む所だった」
 キルアが手を止めて舌を出した。アルバイトなんて面倒な事はしたくないからさ。その間に情報収集した方が楽しいよ。スペルカードで攻撃されなかったから、こいつらの危機感が足りないかも知れないから、情報はたくさん入れてやらないと。
「なぁ、おじさん、ここ通貨、お金ってどんなん?」
「君達、異国の人アルか。お金はコレよ」
 カード型のイラスト付きの札を見せられた。
「……お金もカードなのか」
 知ってたけど、見せられるとちょっと絶句する。
「これで何が買えるの? 魔法とかあるの?」
「魔法? なんだそりゃ」
「んじゃ、情報が手に入る場所ってない?」
「情報? なんだそりゃ」
「…………本格的なRPGゲームだな。人の家に入って壺とかタンスとかあさったら犯罪になる?」
「犯罪? なんだそりゃ」
「…………こりゃ大変だ」
 オレは水を飲んでため息をつく。
 聞き出せたのは月例大会の情報と、カードの基本的な情報だった。カードにはアイテム番号と入手難易度とカード化限度枚数が表記されている。
 お金の限度枚数が無限である事は良心的だと思う。これが制限されてたら、後から来た人は餓死することになる。
 指定ポケット以外にある、フリーポケットは45。この時点で、複数の人で協力してプレイしてね、と言っているような物だ。それに気づくかどうかが、このゲームの攻略のカギになる。でもさすがに15人とは気づかないか。きっとどこかでヒントがあるんだろうが、誰も気づいていない。トッププレイヤー達ほど山賊のフラグに気付かないのだから、何か大きな大きな見落としがあるんだ。
「さてと」
 二人はあっという間に完食し、オレも食べ終わった。カロリーメイトみたいなのを食べるハンゾーに、睨み付けられた。食べられないの、自分が悪いんじゃん。っていうか、他人の手作りが食べられないだけで、市販の物は食べられるのか……。
 だったら、ゲーム内の食料も大丈夫そうだな。それも食べられなかったら、食料調達のために戻らなきゃならない可能性もあるんだ。
 それからショップに行ったり、懸賞に参加してあっという間に時間が経ち──爆音が響いた。
 皆で駆けつけると、大男が腹を爆破されて死んでいた。
 めちゃグロいし。
 オレが目を逸らしていると、その死体は皆の前で煙のように消え去った。オレ達の同期のプレイヤーの中で早くも死者が出た事に、他のプレイヤー達が動揺する。
「ねぇキルア。ゲームってこんなのもあるの……」
「……さあね、魔法の効果かなんかじゃないか」
「ちっ、一筋縄じゃいかねーようだな」
 戦慄する三人と、あまりにグロいものを見てダメージから回復できないオレ。こいつらは精神的にタフだよな。グロ耐性のないオレには、爆死体とか無理。スプラッタ映画とか苦手だし。
「安心しな」
「!?」
「このゲームにそんなスペルは存在しない」
 予定通り、無精髭の怪しい男に声をかけられた。スペルカードを独占してクリアを狙う、ハメ組の勧誘係だ。
 三人は警戒心を隠さず男の話を聞く。オレはプレイヤー狩りの事を聞きながら、さっきの事を思いだして凝をして見る。こっちが警戒するのは当たり前だから、凝をしていても疑われはしないだろう。
 凝をしてみたはいいけど、わかんないなぁ……。
 いや、
「興味があるならついてきてくれ」
 そう言った時、身体の側面を見せた。腰の辺りに嫌な感じがする。はっきり見えないが、どこかに必ずあると分かっていれば分かる。本人のオーラの下に、本人とは違うオーラがあって、わずかにオーラの歪みを作っている。その歪みというのが、白の中にわずかにすっごく薄いクリーム色が一点分だけ乗っている程度のものだ。しかも滲んでいて分かりにくい。注意深く見ているつもりでも見落とす。
「ついてこう」
「はぁ? アキラ、何言ってんだよ」
「情報は多い方がいいだろ。それに気になる事があるし」
「でも、怪しいぜ。タダで情報をくれようなんて、気前が良すぎる」
「大丈夫。オレのカードを使って欲しいタイプじゃねーし」
 つまり強くないと言いたいのだ。これで意味が通じるのは、オレの能力を知る三人だけ。
「何か裏があるとしか思えないぜ?」
「やむを得ないのさ」
 ハメ組の男は、理解してもらうには情報提供は当たり前など、まっとうな説明をした。
 キルアはスペル攻撃を受けていないが、原作の通り情報収集のためにとりあえず行く事になり、ハメ組の男が背中を向けて歩き出すとハンゾーがオレの首に腕を回す。
「お前が気にしてるのは、あいつの腰か」
「…………ああ。あの人だけじゃない。この街にいる奴、おかしいんだ」
「…………マジだ」
 他は確認せずに適当に言ったんだけど、ハンゾーは凝がすげぇ上手いらしい。オレと違ってそれほど力まなくても見えているようだ。忍びには便利な力だろうから、きっと訓練したんだろう。忍びの訓練は厳しそうだ。オレ達と違って遊んでなかっただろうし。
「初心者のオレ達には見あたらないだろ。ヤバイ感じだから、ちょっと様子を見たいんだ」
「ヤバイのに大丈夫なのか」
「あの人は強くない。群れる事で攻略してんだ。群れる事による利点はフリーポケットの数。ならオレ達の他も声をかけているだろうから、そいつらを見たいんだ。さっきの爆破といい、ヤバイ奴がどれだけいるかわかんねーからさ」
「あの中に強い奴いたか?」
「ああ、何人か」
「抑えてるのに分かるのか?」
「もちろんなんとなくさ」
「おい」
 冗談のようだけど、何となく分かるのは本当だ。なんでだろうなぁ。この世界の不思議かな? 原作に出てなかった、モブとして死んだ人の中にも、ちゃんと強い人はいたのだ。勿体ない。
「でも油断するな。念で何かしようとするヤツがいたら、容赦すんな。どこでも一番怖いのは、生きた人間だ」
「分かってんじゃねーか」
 耳の良い前に立つ二人にもこの会話は聞こえていたらしく、凝をして首を傾げて、今度は全力で凝をして、ゴンが「あっ」と声を上げた。ハメ組の男が振り返りる。
「どうした」
「いや、さっきなんか人っぽいのが飛んでて」
 オレが慌てて言い訳をした。
「それはきっと、誰かがスペルを使っていたんだろう。仲間になればそういう便利なスペルの事も教える」
 オレはドキドキする胸を押さえた。ハメ組の男が前を向くとキルアがゴンの頭を殴る。
「ねぇアキラ、教えてあげないの?」
「教えてどうするんだよ。一人や二人なら考えるけど、こんなたくさんいるんだぞ。パニックになる。それに凝をしても見えるやつの方が少ないと思うんだ。オレ達と同じ初心者組以外で、今この街をうろうろしてるレベルなら確実に見えない」
「どうして?」
「出来るプレイヤーはさっき言ってた便利なスペルを使ってるだろ。月例大会の日でもないのにいる意味がない。その時間があったら、少しでもレベルの高い所を攻略する。
 それなのに入り口すぐのここが賑わっているってことは、ダラダラと延命しているプレイヤーのたまり場なんだよ」
 ツェズゲラさんの言葉を借りた。本当はカードを取られそうになって明らかになる事だが、早めに知っておく方がいいと思う。
「見えもしない何かがついてるなんて言っても信じてもらえないし、嘘をばらまく悪質プレイヤーとして噂が広まったら、ゲームを進めるの大変だぜ。カード系のゲームの基本はトレードだ。
 言うなら原因と対処法とセットでないと無意味なんだよ。言ってどうにかなるなら、もうとっくに誰か気付いて解決してるよ」
「そっか」
 ゴンは納得し切れていないが、爆発の原因だとははっきりしていないから、それ以上は何も言わなかった。




 広場で凝をしたのはハンゾーだけだ。一番自然に出来るから、怪しまれないように一人で確認してもらっている。
 ハンゾーが言うには、既に初心者組の中にもついている奴がいるらしい。
 スペルに殺傷能力はないと聞いて、ほっとした態度の……スペルが掛かっているような反応を見せた奴らは見あたらない。背中にあるのかも知れないけど、全体的に正面から見える位置の方が多いため、偶然が重なったとも考えにくい。その事から、これが実はスペルの形跡だったという恥ずかしい勘違いはなさそうだ。スペルのフラグ管理は、たぶん指輪でしてるんじゃないかと思う。指輪にはわずかなオーラを感じるが、身体からは感じないためだ。
 オレはゲンスルーの事を知っているが連れの三人は知らない。未知の恐怖を感じているだろう。オレが感じているのは、ゲンスルーに対する恐怖だ。
 そのゲンスルーは見た目に特徴があってとても分かりやすい。これがGI編のボスなのだ。
 オレはゲンスルーから視線を逸らし、その近くにいるビスケに笑みを向けた。彼女はオレに小さく頭を下げた。ああ、可愛い。目の保養だ。心のオアシスだ。ロリババア万歳!
 彼等がスペルカードを独占する事を目的とし、基本はスペルによる略奪であることなど一通り聞き、ゴンはオレ達に謝った。
「オレ達はいい。自力でプレイするから」
「リーダーがそう言うんでね。オレもパス」
 キルアとゴンが行くので、オレ達もやれやれといった調子でそれを追った。
「あいつらジンの作ったゲーム、殺戮とか奪い合いが前提とか……」
「確かに、ゲームだっていうのに、楽しむつもりがねーよな。せっかくなんだから、もっと楽しめばいいのに」
 本来ならは命がけだが、デスゲームでは無いはずだ。
 でもあの人達……みんな死ぬのか。
 ヨークシンの時はマフィアだったけど、あの人達のほとんどは何の罪もない念能力者だ。そう考えると、怖くて仕方がない。でも今の実力じゃ、みんなにアレがボマーだと言っても返り討ちにされるだけだ。オレやアベンガネの除念も、小舟でしかない。溺れる群衆の中に入り込めば、簡単に沈められてしまう。
 ちょっと胃が痛い。そういえば寝てて胃腸薬を買えなかった……。
 オレがこのゲーム内にも胃腸薬が売っているのか悩んでいる間に、二人の会話は進み、ゲームでカードを賭けて戦うのは有りだという話になっていた。そして少年達の美しい友情を、おそらくどこかで見ているビスケちゃまに見せつける。どこにいるかわかんねー。
「でもどうする? 月例大会までいる予定だったが、危なそうなら先に行くか?」
 ハンゾーに問われ、オレは首を横に振る。
「それは大丈夫だろ。もし害が大きいなら、条件が見るだけとかはない。イルミさんみたいに針を刺すとか、なにかアクションがいるんだよ。誰かが握手を求めてくるとか、肩を叩いてくるとか、怪しい行動を取ったら凝をすればいいよ。他人には触れられない、奇妙な質問には答えない。これだけで生命に関わるような危険な能力からは身を守れる」
 ボマーに限らず、他人に大きな影響を与える能力に共通する事だ。
「つまり互いに気を配ってれば、怖くはないって事だな」
「そう。怖い能力も、相手にかけるには何か制約があるはず。クモのみんなもこう言う時に気を抜かないからこそ一流なんだよ」
「なるほど。悪党どもだけど、見習う所もあるって事か」
「だから絶対に一人で行動しない事。凝を怠るな。臆病者の方が長生きするんだぜ」
 ということで、しばらくはこの街の攻略を進める事になった。
 この二人はともかく、予定外でここにいるオレとハンゾーは、うっかりボマーに触れられないようにしなければならない。
 これで原作とずれたら、またアヤノちゃんのおたまを食らう事になるんだろうなぁ……。



あとがき
原作でタイミングよく亡くなったので、こんな可能性もあったんじゃないかと。
これでバッテラは焦る事はなくなりましたが、若返り薬は欲しいので誰かのクリアを待っています。



[14104] 55話 攻略1
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/03/18 20:46
 私とカルト様とミルキ坊ちゃまは、スペルを使いアントキバにやってきた。
 他の人達が月例大会に行きそうになって、慌てて止めた。私ならスペルカード節約できるから説得は簡単だったが、移動系の能力でなかったら危うく主人公達がクロロさんとご対面という恐ろしいシーンが出来上がるところだった。
 戻るためにと言って、シズクちゃんとウボォーさんに残ってもらった。シズクちゃんは嫌な予言をされているから、危ないっぽい人がいる所には行かない方がいいと説得した。ウボォーさんはシズクちゃんのボディーガード。カルト様を引っ張ってきたのはミルキ坊ちゃまだ。人数がいた方が有利なので、これは止められなかった。
 周囲に気を配りながら、広場に向かう。
「あ、アヤノちゃん」
 人垣の向こうで、背の高いアキラ君が手を振る。背の高い人を見ていると、たまに頭を殴りたくなる(私よりも弱い相手限定)。
「アキラ君。キルア坊ちゃま!」
 二人多いご一行は、予定通りジャンケン大会に参加するようだ。
「げぇ、ミルキにカルト!? なんでカルトまで!?」
 キルア坊ちゃまが驚いて身を引いた。
 カルト様がキルア坊ちゃま以外に殺気を振りまくが、ミルキ坊ちゃまに叩かれて引っ込めた。カルト様は好戦的すぎるのが玉に瑕だ。
 大会が始まる寸前のため、かなりの人数がここにいる。その多くが、カルト様の殺気を感じ取り、私達の周りだけ人口密度が低くなった。
「アキラ、ケータイよこせ」
 ミルキ坊ちゃまが挨拶もせずに手を出す。しかし躊躇もなく差し出すアキラ君。ミルキ坊ちゃまは蓋を開けて、何かを仕込む。
「これで使える」
「……こうやって、やたらと浮かれたメールを一方的に送ってきたのか」
「ほっとけ」
 さすがは友達。ツーカーの仲だ。
「キルもよこせ」
「オレらだけ? ついでにこいつらのも使えるように出来ないの?」
「まあいいけどな」
 と、ささっと改造してしまう。
 ハンゾーさんは忍びなので遠慮したが、ゴン君は改造してもらった。
「ミトさんが心配しないように、ちゃんと連絡を入れるんですよ」
「あ、忘れてた」
 可哀相なミトさん。私もちょろちょろしていなければ、すぐにキルア坊ちゃまに忘れられそう。キルア坊ちゃま、女の人に対してけっこう冷たい所があるし。これは邪魔な一歩手前ぐらいちょろちょろしなければ。
「何か有益な情報あったらよこせよ」
「そっちこそ」
「ああ、通り魔がいるから気をつけろよ」
「それは知ってる。お互いに気をつけ合って、他人と下手な接触をしないようにしてるよ」
「分かってんじゃん。さすがは臆病者」
「慎重って言ってくれよ」
 などと二人が話していると、大会が始まった。
 私は金色の耳飾りを付けたアキラ君に負けた。
 直前まで手で手を覆い隠し、チョキを出しやすいように手を握り、手を前に出してから手を開くという方法で、念能力なんて使われたら勝てるはずがない。
 と思っていたけど、準決勝でキルア坊ちゃまを負かしたゴン君に、あっさりと負けるアキラ君。
 まだまだレベルが低いらしい。勝ち続けられる能力じゃないから仕方がないけど。スリーセブンが出やすいのと、勝ち続けるのはまったく意味が違う。
「あの能力、スペルカード集めには有用そうだな……」
「お金を貯めまくった後、交渉しましょう」
「だな」
 ハメ組の死後に時間とお金がある限り、買い続ける作業をすればいい。助けてあげたいけど、助ける方法が思いつかない。ボマーをどうにかすればいいけど、さすがにボスを倒してしまうと、キルア坊ちゃまの将来に関わる事だ。
 彼等は自分で気付かないのだから、自分の責任である。
「ま、こいつらが持ってるなら、最悪の場合はコピーすればいいか」
「そうですね」
 実は買えるけど、それはもう少し後で誰かから聞いた事にして話そう。女の子っていうだけで、口の軽くなる馬鹿なプレイヤーは多いみたいだし。
「ってかさ、兄貴。なんでカルトまでいるわけ?」
「自分も遊んでんだから文句ないだろ」
「文句はないけど意外でさ」
 クモについてきたらゲームの中にいただけだから、キルア坊ちゃまがそう思うのも当然の事。
 もらったカードを皆で確認しながら、人の多い広場を離れた。
 手に入れたカードについて、何に使うのが便利な物かと話し合う。
 その道すがら、
「まて、そこの連中!」
 振り返ると、ものすごく地味で普通のおじさんが、緊張のあまり無駄に力みながら声をかけてきた。いや、一人ではない。なぜかその後ろに五人いる。どうやら相手の人数が多いから、手を組んだようである。山分けしてもかなりの金額になるのだろう。
「『真実の剣』を置いていってもらおう。おとなしく言うことを聞けば乱暴なマネはしない」
 私は間抜けにもぽかーんとそのおじさんを凝視してしまった。
 ミルキ坊ちゃまとハンゾーさん、ついでに背丈は立派に育っているアキラ君がいるのに、そんな低レベルな脅しが出来るなんて……。
 この三人がいなかったら、女子供と侮られるのは仕方がないけど、ハンゾーさんなんていかにも出来る男って外見してるのに。
 私達を戦力どころかマイナス扱いしている?
「殺る?」
「ダダ働きはやめとけ。馬鹿はほっといて行くぞ」
 暗殺者兄弟の兄が私の目を気にしているため、命拾いする実力の読めないおじさん達。無駄だからと前に進むと、
「待てィ」
 スペルカードを取り出す先頭に立つおじさん。
「可哀相だから言っておくけど、無駄だから」
 アキラ君が同情して教えるが、おじさんは怯みながらも虚勢を張った。
「お、お前らがこのゲームに来たばっかりなのはわかってるんだ。防御スペルも「真実の剣」以外の指定ポケットカードも持っているわけないね!」
 そう言ってスペルを使うも、カードを持っているのは防御方法のあるアキラ君だ。
 連携していたけど、当たり前のように全滅する。
「…………せっかく親切で教えてやったのに、馬鹿だなぁ。この大人数見て、スペルの無駄だと思わなかったのか?」
「アキラ、馬鹿はほっとけ」
「だな。ミルキ達これからどうすんの?」
「連れと合流して攻略を進める。珍味探しもしないとな」
「ああ、ガルガイダー?」
「食ったか? 美味いぜ、あれ」
「調理する技術がないっつーの。最近こいつらもパスタ飽きてきたみたいだし、換金して食料とか宿代になってるよ」
「せっかくだからそのうち晩飯にでも持っていってやろうか? アヤノのバインダーはガルガイダーで埋まってるからな」
「誰がそんなにパスタ食ったんだよっ!?」
「連れの子の能力だよ」
「って………なんて羨ましいパーティだよ」
「あの時の大男もいるけどな」
 オタクはなぜかメガネの子が好きだ。幅広い萌えを持つアキラ君には、シズクちゃんもカルト様も、羨ましい存在のようだった。
「キルア坊ちゃま、ガルガイダー料理、楽しみにしていて下さいね」
「ああ」
 今夜にはビスケが既に加わっているだろう。
 ビスケとご対面か。いいかもしれない。そうだ。カルト様もお連れしよう。むしろ一緒に鍛えていただくというのはどうだろう。
「カードも確認できたし、オレ達は行くよ。あいつらも平気だろ」
「ああ」
 あいつらとは、視線の数々の事だろう。
「ほっとけ。襲ってきたら返り討ちにすればいいだろ。変に目立つと後々面倒だ」
「つまらない」
 ぽつりとカルト様が呟いた。殺したくてうずうずしている。
「お前、何のためにゲームをしてるんだ。もっと楽しめよな。せっかくキルの所に連れてきてやったのにさ」
「連れてきてくれたのはアヤノでしょ」
「ゲーム買ったのはオレだよ」
 ゲーム内で仲良く兄弟喧嘩をする坊ちゃま達。
 カルト様は兄弟が大好きだけど、一緒にいて何かをするわけではない。口喧嘩でも何かをしているのがとても珍しいから写真に撮る。
 喧嘩をしながらもキルア坊ちゃまパーティに対して敵意がむき出しで、ゴン君は若干居心地が悪そうにしている。カルト様はもう少し感情を殺意以外で表すようにしないと、いつか爆発してしまいそう。
 他人に慣れさせるためにこのまま置いていくという手も考えたけれど、今のところは悪手になる。ここは素直にゲームを攻略させ、戦闘以外も楽しいのだと教える事にしよう。
 マサドラまでの間にいたモンスター程度なら、徹底的に念能力者の戦い方のスパルタ教育を受けているカルト様の敵ではなかった。能力を使わないで倒させても、半日で出来るようになった。
 つまり師がいるかいないかは大きいという事だ。
 あまり女の私と女の子に見えるカルト様がいては、ビスケが寄ってこないかも知れないから、そろそろ戻ろう。




 合流した先は森の中。漫画に出てきていない、あの追い剥ぎ山賊の集落のような場所にいたんだけど、どうやら二人は移動していたようだ。
「なんだここ。足場悪いな」
 ミルキ坊ちゃまがぬかるんだ足下に不快を示す。しっかりした編み上げの革靴が泥で汚れている。
「小さい生き物がどうのってあいつら言ってただろ。それを探してたんだよ」
 出かける前に、村人達の話を聞いていたのだ。この辺りにカードがあるのは分かっている。
 集落の人に聞いたら、この付近に何か小さくて可愛い生き物と、大きくて恐ろしい生き物がちょろちょろしているらしい。
「へぇ。で、見つかったのかよ?」
「おお、けっこうすげぇぜ。せっかくだからアヤノとカルトにも見せてやろうと思って見張ってたんだよ」
 ウボォーさんがにかっと笑う。
 フラグを立てるために羽織を渡し、現在は上半身裸だ。ワイルドすぎる。
「ドラゴンだぜ、ドラゴン。オレよりちょっとデカイぐらいの小さめのサイズだけどな」
 その一言で兄弟の目の色が変わった。
 ウボォーさんよりも少し大きいって、私にとってはかなり大きいんですけど……。
「お二人とも、ドラゴンがお好きなんですか?」
 ゼノ様が好きなのは知っていたけど、この二人も好きだとは思ってもみなかった。
「まあ、嫌いじゃないな。アヤノは……接触禁止されてるんだっけ?」
 そうそう。
「食欲でしか生き物を見られないから当然だよ。あんな目で見られたらストレスが溜まって艶が悪くなる」
 という理由で、貴重なドラゴンには接触禁止命令が出ているようだ。
 食べたいという欲求はある。ドラゴンといえば、血を浴びれば不老不死になるなどの伝説があったりと、憧れの食材だ。でも我慢する理性は存在する。
「……つまりこのイベントのボスがドラゴンですか。食べられるのでしょうか」
「今まで散々試して無理だったよね。そろそろゲームやってるうちに食べるのは諦めた方が良いよ」
「シズクちゃん、私が散々試したのは覚えてるんですね」
「毎回恨みがましそうにカードから戻したモンスターを消してれば覚えるよ」
 カード化したモンスターをゲインして元に戻し、調理を試みるもダメージを与えると今度は消えてしまうのだ。
 一匹ぐらい本物のモンスターを送り付けて欲しい。
「この世界のモンスターって、全部空想なんでしようか」
「本物がいたら、団長に売ってもらったら?」
「生き物も全部捕まえるつもりですか?」
「売れそうなら持ち帰るんじゃないかな」
 生物以外はシズクちゃん、生き物はクロロさんの風呂敷に包めばいいか。
「ドラゴンがいたら買い取るぜ」
「自分で伝えた方が早いと思うよ」
「ああ、そうか。攻略情報のやり取りばっかりで忘れてた。
 んじゃ、そのドラゴンを拝みに行くか」
 ミルキ坊ちゃまは唇を舐めて、二人を促した。
 小山のようなウボォーさんの後に続くと、ひな鳥にでもなった気分になる。
「あれだ。けっこうすばしっこかったぜ。ここまで追い詰めたらなぜか同じ事を繰り返して動かなくなったけどよ」
 ウボォーさんよりも大きい恐竜に近いドラゴンが、何やら穴を掘っている。
「穴の中にちっせぇドラゴンがいてよ、襲われているのを助けるって設定じゃねーか? あのモンスター、けっこう強そうだぜ。カルト、おめぇやってみるか」
 このゲーム、カルト様の入団テストも兼ねているんだった。
「譲ってくれるんだ」
「お、ヤル気だな」
 カルト様は唇を舐めて、懐から折りたたんだ紙を取り出した。紙をオーラで包み込み、大きく広がったと思えば折られていく。それは小さな中華風の龍となり、モンスターへと襲いかかる。
 いつの間に、そんな器用な技を!?
「さすが兄妹だな。器用なヤツらだ」
「お金払いたくなるね」
「路上パフォーマンスかよ」
 手を叩くシズクちゃんの背を笑いながらウボォーさんが叩く。
「紙のドラゴンが普通のドラゴンに食い付くなんて、変な光景だね」
「しかも折り紙は本人の趣味ですから、クロロさんでは盗んでも折り紙の練習をしないといけません」
 本当は紙を操る能力だから、折る必要はないのだけど。
 龍はドラゴンをからかうように周囲を飛び、皮膚を切り裂かれている。あの折り紙、トゲトゲしているから、触れるだけで切り裂かれるようだ。私の可愛いコックさんなんて、比べものにならないほど強い。
 どうやらカルト様はこれをメインに、紙吹雪を奥の手にするようだ。折り紙の方がハデだから、アレを切り裂いてしまえば終わりだと思われる。実はそこからが本番……それがカルト様の能力。倒したら強くなる。何処のボスキャラだ。
「カルト、殺るなら一撃で殺れ。なぶってんじゃねーよ。ドラゴンが可哀相だろ」
「一度こうして遊んでみたかったのに」
 どんな遊びだ。
 使用人なので突っ込めない。ウボォーさん達も普通に流している。
 常識人はここにいないのか。
「じゃあ始末する」
 龍はドラゴンの首に、蛇のように巻き付き締め上げる。もがく姿を眺めていると、やがてドラゴンはカードになった。
 私はそのカードを無視して、木の根の下にある穴の中を眺める。
 あ、いた。
「小さいですね。可愛い」
 カードを拾ったカルト様は、それをミルキ坊ちゃまに押しつけて私の隣に座り込む。
 リスぐらいのサイズの何かだ。
「ほら、もう怖くないから出ておいで」
 手を伸ばすが怯えて出てこない。
 はて?
「ほら、出ておいで」
 とっとと出てこんかい!
 私は手を穴の中に伸ばす。
 噛まれた。纏をしているのに貫かれた。
「きゃっ」
 気がゆるんだ一瞬の隙を突いて逃げ出し、カルト様の懐に飛び込む。
「怯えてんな」
「アヤノは動物に好かれないのか」
「本能的に分かるんじゃない?」
 カルト様の腕の中を覗き込む三人が好き勝手な事を言う。
 私が一体何をしたというんだ。まだしてないじゃないか。
 この生き物はどうやら小さなドラゴンのようである。
「兄さん、これうちのハチに似ていない?」
「ひょっとしてハチはこのゲームの景品だったのか?」
 カルト様が一撫ですると、手の中でカードに変わった。
「手乗りザウルス? ランクAだって。さっきのドラゴン、そんなに強くなかったのにレアなんだ」
 この調子でSSに行ってしまったら、いきなりレベルが上がりすぎて驚いてしまうだろう。
「追うのが大変だったのよ。この恐竜小さいのに速いから。ここに来たらいきなりさっきのが出てきたの」
「シズク達で捕まえられないなら、きっと追えるギリギリの動きをするようにプログラムされてんだよ。条件を揃えなきゃ進めないってのは、ゲームにはよくあるからさ」
 確かにこの場だけ戦えるように開けている。まるでテレビゲームのような予定調和だ。
「シャルもそう言ってた。近づかない限りは戦闘にはならないだろうって。だからほっといたんだけどね」
 漫画を見ているだけでは、そこまでゲームらしいとは思わなかったけど、自分が体験すると本当に現実ではないような、ゲーム感がある。
「タクマがちょっと死ぬかと思ったゲームなんて聞いて期待してたのに、大したことねーな」
「SSカードになればきっとレベルが違うんじゃないでしょうか」
「そうか? それなら楽しみだな」
 にっと笑うウボォーさん。なんて頼もしい。ボマーに狙われたとしても、ぶちっと潰してしまいそうな安心感がある。爆破攻撃で動きに支障が出るほどのダメージは受けなさそうだし、もしもの時にはアキラ君もいる。
「もう靴が汚れない内容だといいんだけど……」
 シズクちゃんの靴とジーンズの裾が汚れてしまっている。
「このモンスター売ったら服買えよ」
「そうする」
 ミルキ坊ちゃま、眼鏡っ娘に親切だ。このままくっついたりしないだろうか。シズクちゃんの方が興味なさそうだから、態度に出したら怒られるだろうけど、くっついてくれないかな……。
「ついでにそこの原始人も服を着て文明人になれよ」
「てめぇには関係ねーだろ」
 こちらは相変わらず仲が悪い。目のやり場に困ると思っていたから、服を着てくれるならその方が有り難いのだけれど……。
「…………そういえば、服は持ち帰れるんでしょうか?」
「さすがにゲームから出たら裸……なんて事はないだろ。ゲームで破れた服を元に戻してくれるわけでもあるまいしさ」
 原価が50億越えだ。服ぐらい本物をくれるだろう、きっと。食料も本物だし。
 ミルキ坊ちゃまは高い方の地図を手にして私とシズクちゃんに見せた。
「んじゃ、次は誰も向かってないここにしようぜ」
 書かれていた街の名前は、アイアイ。
 確か漫画にも出た、恋愛シミュレーション系の街だ。ミルキ坊ちゃまが一番好きそうな街。
 これで女の子との接触に慣れて、現実の可愛い女の子攻略に目覚め、ゾルディック一のプレイボーイになってくれるかもしれない。
 でも何かが間違って、カルト様がプレイボーイになったらどうしよう。
「アヤノ、行くぞ?」
「はーい」
 私は有り得ない想像を振り払い、三人を追いかけた。





[14104] 56話 弟子入りまで アキラ視点
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/03/18 21:56

 オレには原作を読んで信じられなかった瞬間がある。
「あー、ごめんムリ」
 と、初めて出てきた同年代の美少女に、あっさりとキルアがこう言いやがった瞬間だ。
 数少ないヒロイン候補をあっさりと振るキルア。信じられない。こんなに可愛い女の子に、こんな態度!
「ど、どうしてですか!?」
「ジャマだから」
 お子様め、お子様め! オレならほいほい引き入れちゃうね! だって可愛いじゃん!!
「おい。その言い方は……」
 オレは少しだけ抗議した。
「アキラは女に色目使いすぎ」
「オレがいつ!?」
 出会った女性キャラみんな怖いし、アヤノちゃんはああだから色目なんて使った事無いんだけど!?
 ひょっとして、町中で見かける可愛い女の子を目で追うのもいけなかったのか?
 って、無視して走るし。
 ビスケが一生懸命声をかけるけど無視する野郎ども。
「キルアぁ、女の子にそんな態度だと、いつかイルミさんみたいになるぜ」
「どうやったらなるんだよ」
「少なくともミルキみたいにはなるって」
「はぁ!?」
「これを見ろ」
 走りながらケータイを見せる。アヤノちゃんと手をつないだ、アヤノちゃんの寝顔を見た、そんなのろけにもなっていない悲しいメールを送り付けられると、なんかオレちょっと悲しくなった。
「…………キモっ」
 うん、キモイと思う。
「ミルキから一方的に送られ続けたうかれたメールだ。好きな子と手をつないだだけでそんなはしゃいでるんだぜ。キルア、あの兄達と同じ血が流れてるのに、そうならない事を否定できんのか!?」
「……っそれは」
「お前、女の子はアヤノちゃん以外とほとんど話した事ないだろ?」
「!?」
 やはり図星だ。キルアは歳の近い女の子と話した事がない。
「そ、それとこれは関係ないだろ。あいつも能力者だぜ」
「あんな可愛い子になんも思わないお前の将来が不安だ。キキョウさんやアヤノちゃんやクモの女の子のせいで、女性不信になってないよな?」
「な、なってねーよ」
「じゃあもっと優しくしないと」
「だから、相手はツェズゲラに認められた念能力者だろっ! 一人で自信がないなら、ハメ組の所にいればいいんだしさ。なんでわざわざオレ達についてくんだよ」
「はぁ……」
 思わずため息をつく。
「怪しい女といたきゃ自分だけでいればいいだろ」
「馬鹿だなぁキルア。オレはキルアの将来を心配してるんだよ。大切な時にツンツンしてたら、絶対に後悔するからな?」
「だから兄貴ならともかく、オレまだ12だぜ。早いっつーの」
 そういう問題じゃないんだけど、遠回り過ぎて気付かないか。
 その間にもオレ達は森の中に入り、ビスケはまだオレ達の後をついてきてくれている。大人がいても興味を持ってくれて嬉しい。ハンゾーもビスケにしてみればガキなんだろう。
「……ハンゾー、お前は女の子に興味あるよな?」
「せめて15歳以上じゃないとさすがにヤバイだろ」
 そりゃそうだ。オレよりも2つ年上だし、ビスケに興味があったらそろそろヤバイ年齢差か。見た目は大学生と小学生だもんな。
「で、実際の所どうなんだ?」
 ハンゾーが前を行く二人と少し距離を置き、聞こえないように囁いた。ハンゾーは目がいい。ある意味で過保護に守られていたキルアとは違う、本物の修羅場をくぐっている。相手の力量が分かるのは強くなった証拠という。
 キルアはちらっとこちらを見たが、女の事でも話していると思ったのか、呆れ目であった。
「あの子、会場にいた中で一番強いよ。ツェズゲラさん含めてさ」
「マジかよ?」
「マジ。ま、オレ達なんてその気になれば数分で全滅レベルだから、襲うつもりはないと思うぜ。何か目的があって追ってるんだろうし、前の二人にはいい薬になるんじゃねーか? キルアの悪い癖だから、ここまで言って気付かないなら、気付くまではほっとくよ」
「……いや、あの言い方じゃ分からないだろ」
「弱い子なら、オレは安全な所に留まるように説得してるよ。
 悪意は感じないし、オレ達じゃ束になっても勝てないし、出来るのは機嫌を取るぐらいかな」
 キルアはミルキと比べられて苛立っているし、これ以上つつくと情緒不安定になりそうだ。本当に難しい子だ。
 黙って二人についていくと、やがて土下座山賊が現れる。
 できればオレはオレだけでコンプしたい。本当は別行動したいが、ここで変な行動を取ったら不自然すぎる。指定カードなら簡単に増やせるし、一緒に行くか。
 オレはビスケに笑みを向けて手を合わせて謝罪する事も忘れない。ハンゾーも似たような感じに謝罪する。
 病気の山賊達を相手にフラグを立てるため、上着を渡して村を出た。このために安物のジャケット着てたんだ。ハンゾーとビスケには要求されなかったから、どうやら薄着だと要求されないらしい。どうやらオレは、買わなくていいジャケットを買ってしまったようだ。
 俺同様に服を取られて腹を立てているのはキルアだ。こいつはゴンと一緒に脱いだだけで、本当は渡さなくても良かったんじゃないかと思う。今更言っても、余計に怒らせそうだから黙っておく。
 暗くて表情は見えないけど、キルアのオーラが乱れているから、夜道もついていきやすい。原作では明るく書かれていたけど、現実の夜は暗い。こいつらのオーラを追って前に進んでいる。
「キルア、落ち着けって。たぶんあれ、何かのフラグだから。よくあるだろ。序盤で立てたフラグが、終盤になって生きてくるって」
「確かに、何か他のイベントをこなさないと進まないイベントってのは考えられるな」
「そうそう。ゴンの親父さんが作ったゲームなんだから、こんな無駄なフラグはねーよ。焦りは禁物。まだ始まったばっか。RPGで言うなら、レベル1だろ」
 実は今からでも回収は可能なんだが、フラグさえ立てておけばいつでも手に入れられるから、後の方がいい。
 その時、オレのポットの中に突っ込んでいたケータイが鳴る。
 ミルキかと思えば、アヤノちゃんからのメールだった。
「キルアぁ、アヤノちゃん、イベントが長くて遅くなるって」
「イベント?」
「恋愛シミュレーション系の街があるんだそうだ」
 まさかいきなりアイアイとは……。
「うわぁ……オレその手のは苦手かも。ミルキ向けだな。どーせアキラも好きだろ」
「いや、オレは、ギャルゲはあんま得意じゃない。
 恋愛もあるゲームはやるけど、それメインはさぁ……」
 母さんがやらないから。
「ミルキ好みの街なのはいいけど、浮かれすぎてアヤノちゃんの事忘れてないだろうな……」
「それで呆れられても自業自得だろ」
「念のため注意してやろっと」
 アヤノちゃんにメールを返信し、ミルキに警告メールを出す。するとゲームキャラ相手を持って帰れるわけじゃないのに、そこまではしゃぐわけないだろうと、斜め上の答えが返ってきた。
 どうやら動くリアルなフィギュア程度にしか思っていないようだ。
「おおっ」
 キルアが足を止めた。
「山を抜けたね」
 ゴンの言う通り、目の前に岩石地帯が広がっている。月明かりってのは、けっこう明るいもんだ。
 崖を下りると、周囲の山のような形をしている不自然な岩場の重圧感に押しつぶされそうな錯覚を覚えた。大自然は凄い。一人だったら震えていたね。
「行くぜ」
「おおっ」
 キルアが音頭を取り、ゴンが手を上げると、その先の岩場から顔を覗かせる巨人達。
 オレは迷わずハンゾーの背後に隠れた。
「でかっ」
 ウボォーさんなんて目じゃないほどのデカさ。怖い。
 こうなれば、道は一つしかない!
「がんばれー」
 オレは応援がかりだ。
「おめぇも手伝えっ!」
 ハンゾーが怒鳴ってきた。
 だからオレは目が悪いから暗くてよく見えないっつーの。動けるお前らがおかしい!
 動きだけならオーラでなんとなく分かるけど、障害物はオーラじゃわからない。追いかけるのと違って、闘うのはきつい。怖い。だって転けそうじゃん。転けたらヤバイ。踏まれる。それは怖い。
 しばらく観察して、行動のパターンが見えてきた。動いている場所も広く、これならどうにかなりそうだ。
 そう考えると、初めの敵が巨人というのは、かえってよかったかもしれない。大きいから分かりやすいし、立ち位置と振り下ろされる棍棒と、動く度に振り回される足に気をつけていれば怖くもない。小さくてすばしっこい敵に、ちまちまとライフを削られるようなのが厄介だ。
 それに弱点が目というのは、見た目から分かりやすい。今は暗いから分かりにくいから、軽く凝をした。そうして見ると目の周りだけオーラが薄い。凝をしないと全体がぼやけるから、一カ所だけ薄いのに気付きにくいらしい。気付いてしまえば簡単だ。そういうゲームだ。凝も便利なスキルの一つ。それを駆使してゲームを進める。
 とはいっても、オレの場合は才能の方が追いつかない。走るのは得意だが、飛び跳ねるのは苦手だ。しかも凝をして攻撃すると、どうしても動きが鈍るから、凝を解いてから攻撃することになる。そうすると攻撃する箇所が曖昧になる。
 だからこそ、レベルの高い能力者の戦いでも、相手の隙をついた攻撃が出来るのか。
 一匹の目を何とか蹴り(殴る勇気はなかった)カードにしてしまう。おおっ、なんか感動!
「オレ、実戦で戦うのは初めてかも」
「おめぇは今まで何してたんだよっ」
「ゴン達と遊んでた」
「あー……」
 ハンゾーとも一緒に遊で親しくなったのだ。まさかあの時の縁が、ここまで続くとは……。
 少し離れて石のカードを捨てて巨人と交換し満足した。今、すげぇ充実している。
 次にアヤノちゃんが喜んで捕食しそうな超巨大なトカゲが出てきた。巨人は地面に接する部分が小さいから良かったけど、こいつはデカイくて足が短いから、突っ込んでこられるとひき殺される。逃げるしか手を考えられない。
「あれきっと、アヤノちゃんが捕食しようとしたけど、カードになって悔し涙流してるな」
 いかにもアヤノちゃんが好きそうな食材だ。
「アヤノは好きそうだけどさ……あんなのあの三人でどうやって倒すんだよ。包丁刺しても効きそうにないぜ」
「ゲームバランス考えたら強いはずないだろ。デカイ敵が強いとは限らない」
「じゃあお前どうにかしてみろよ」
 キルアの言葉を聞いて、オレは髪をかき上げて鼻で笑う。
「オレはお前ら強化系寄りとは違うんだ。オレはもっと弱い応援係!」
「胸張って言う事かよ!?」
「隠れてる時点でみんな同じ穴の狢だっつーの。キモイし、触りたくないし」
 キルアも納得してトカゲを見送る。
 少し進むと、次はまっくろくろすけっぽいモンスターに出くわした。
 オレとハンゾーは肩を並べて立った。
「わー、速い」
「おー、速い」
 二人で同じように手を叩く。ハンゾーも無駄な事はしない拝金主義の忍者だ。実らない努力は決してしない。
「おめぇら手伝え!」
 離れた所で現物しているオレ達年長組にキルアが怒鳴り付けた。
 見えないっつーの。何で夜なのにあんなに小さくてオーラが薄くて黒いのを目で追えるんだよお前ら。動体視力良すぎるだろ。
 ハンゾーですら諦めているんだぞ。一般人に毛が生えた程度のオレに何が出来る!?
「同じ間隔で同じ所通るなぁ」
 なんて事だ。ハンゾーはオレの隣に突っ立っているだけで見切ってしまった。さすが忍者、格好いい。
「ああ……タイミングが合うか合わないかだな」
「分かるなら捕まえてやったらどうだ?」
「でも楽しそうだし」
「手が出ないだけだろ」
「カードを使えばこれぐらい!」
「いきなり切り札かよ」
「使わないって」
 この距離ならビスケにも聞こえないから、オレ達は諦めているようにしか見えないだろう。
 そんなこんなで一緒に逃げ回っているうちに(余裕があったのはまっくろくろすけまでだった)、ついに鎧が現れた。ビスケの限界がここで来るはず。案の定、子供達二人がそのまま立ち向かおうとする!
「凝!!」
 怒声が空から降ってくる。
 ああ、よかった。ちゃんと来た! 子供二人の「もったいなさ」に切れて、岩場の上から出てきてくれた!
「?」
「凝だよ!! できるでしょ!?」
 オレ達は凝をする。凝でないと見えないオーラが、岩場の向こうに伸びている。
「見えただろ? その鎧の騎士は傀儡でいくら攻撃しても効かないよ」
 ゴン達が追って、リモコンラットをゲットする。すると鎧が崩れて、動かなくなった。オレがつま先でそれをつついていると、ビスケが岩場から飛び降りる。
「なんで言われるまでやらなかったの? ずっと見てたけど、あんた達二人は街を出てから一度も使ってないよね? 街の中では感心するほど隙がなかったのに、人がいなくなったらとたんに崩れてんじゃない!!」
 ハンゾーはやってたんだ。
「アキラ、凝してたの?」
 なんでオレだけに聞くんだゴン。
「暗くて普通に漏れてるオーラだけじゃ相手の動きが何もわかんねーから、危ない時はしてたなぁ。お前ら一回もしなかったのか? よく動けるな」
「いや……まぁな」
「うん。普通に見えるから……」
 なまじ見えないからそうするしか手がない。悲しい。
「忘れてたわけね」
 ビスケはそう言って指を立てた。
「何ボサっとしてんだよ"凝"!!」
 怒鳴られた。オレ凝してたのに。どうやらビスケには子供達二人しか目に入っていないようだ。
「いいこと? これからは私が指を一本立てたらすかさず凝!! そして何が見えたか大声で言う事!!」
 怒鳴ってても可愛い子は可愛い。これで本当に若ければ……。
「これからは私がコーチしてやるからね。特別にただでいいよ。そのかわりビシビシ鍛えるからそのつもりでね!!」
 それから案の定キルアが逆らってビスケに吹っ飛ばされる。
 人ってあんな簡単に吹っ飛ぶんだなぁ。




「お前、あいつが強いって知ってたのか!?」
 ビスケが自己紹介をすました後、まだ納得できないハンゾーがあっさりとバラしてしまい、キルアに詰め寄られていた。
「いや……さすがにウイングさんの師匠だとかは知らなかったけど、強いか弱いかは分かるよ」
「どうやって!?」
「寄生型能力者なめんな。強者のお前らとは本能から違うんだ!」
「自慢にならない事を自慢げに言うなっつーの」
 いいじゃないか、一人ぐらいこんなキャラがパーティにいても。
 オレは笑いながらキルアの額をつつく。
「毎回思うんだけどさ、キルアって見た目で相手の事判断するよなぁ」
「今回だけだろ」
「いいや。少なくともアヤノちゃんとイルミさんの実力に気づかずに舐めた態度取っただろ。悪い癖だから、相手の事は徹底的に疑った方がいいと思う」
「……だからって、黙ってる事ないだろ!?」
「女の子に失礼な事を言うからだ」
「女の子って歳じゃねーだろ。ウイングさんの師匠だぜ」
 そういえば、まだはっきりと年齢を聞いてない。
「でもどー見てもお前らと同じぐらいだけど」
「兄貴みたいな顔を変えられる奴もいれば、アヤノみたいにすっげぇ童顔な奴もいるだろ。お前こそもっと疑えよ。ウイングさんより年上のババアだぜっ!」
 自力でその発想に辿り着けたのはすごい。
 が、当然だがキルアは再び空を飛ぶ。キルアはよく飛ぶなぁ。
 オレは思わずビスケをじっと見た。彼女と目が合うと、口元に手を当てた。
「ババアだなんてひどいっ」
 なんでいきなりぶりっこ!?
 ハンゾーはそんなキャラの変化は気にもせず、腕を組んでビスケをしげしげと眺めた。
「すげぇな。オレはキルアが吹っ飛ぶまで攻撃した事に気付かなかったぜ」
「キルアはいつも口で災いを呼んでるよなぁ」
 ここはやはり一回ガツンと言ってみようか。
「キルア、ダメだぞ、女性にそんな事言ったら。大切なのは見た目だし」
「普通そこは中身じゃねーのか」
 呼びかけるオレに、ハンゾーが言う。
「オレ、キルアがトンパさんみたいな見た目だったら絶対に関わってないから」
「…………ん、まあ」
「キルアだってゴンがトンパさんみたいなら声かけなかっただろ?」
 起き上がって土を払うキルアに問う。
「トンパって誰?」
「ハンター試験常連の下剤ジュースのおじさん」
「ああ、いたような気がする」
 さすがゼパイルさんを忘れるだけはある。
「ほらハンゾー。人間の第一印象は見た目だって。だからオレも毎日手を抜かずにだなぁ」
「お前のは行きすぎだろ。初め見た時は、どこの勘違い野郎かと思ったぜ。ヨークシンに来たらもっとひどくなってるしよぉ」
 ゴンとキルアが、何事もほどほどがいいねと囁き合っている。
 そういえば、もうすぐビノールトイベントか。確かビスケの後ろの方に……
「座って。こっち近づいて」
「?」
 オレ達は素直に近づき、キルアも青筋立てながら座った。分かっているのに分からなかった。能力的な嗅覚とはやはり別物らしい。
「バインダー出して適当に雑談しているふりを。あたしの背後に敵がいる」
 オレは首を傾げた。
 子供三人だから油断してたんじゃなかったっけ?
「ねぇ、何で気付いたの?」
 キルアの問いにビスケはバインダーを覗きながら答える。
「殺気。でも初めに気付いたのはアキラだわよ」
 え、何で? まさか、オレが見たせい?
「いや、なんか向こうで光ってさ。新手のモンスターかなって」
「武器が月明かりを反射したのかもね。敵はあたし達を殺す気だわよ」
「この人数を? 気付かれたのに襲ってくるかな」
「アキラは見ただけで殺気もなかったし、オーラの変化もなかった。ただ見られたような気がして、一瞬殺意が出たんだわさ」
 オレが見なかったらそのイベントそのものが無かったか、大きく変更されていたって事か? それとも休んでいる所に奇襲をかけられたのか?
 悩みながらビスケの話を聞く。このままほとっていてもハンゾーとオレがいるから諦める可能性は高いが、あえて別れておびき出すことになった。原作の通り。おそらく自分の実力を見せるため。
 キルアが再び平手を受けて、今度こそ愛想が尽きたとばかりに去っていくビスケ。
 そしてオレ達が言われた通りに一度離れて戻ってくると、癒しの可愛いツインテールが一本消えていた。
「ツインテールが……」
 思わず洩らした呟きで、ハンゾーに殴られた。



あとがき
原作沿いの部分が難しいです。


生物を食べる時、アヤノのような胃袋が欲しいと思います。
その時は二度と食べるかと思うけど、きっとまた食べる。



[14104] 57話 保護者の介入
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:4f5bcea7
Date: 2010/03/25 20:17


 この都市には若い男女がたくさんいる。店員も若くて可愛い子ばかり。
 このほとんどはゲームのキャラなのだろう。早速ウボォーさんが不自然にぶつかってきた女の子を助け起こして、フラグを立て損ねた。
「あれはきっと喧嘩をして仲良くなるパターンかな?」
 見抜くミルキ坊ちゃまにちょっと引いた。なぜあれで分かるの?
「恋愛都市って、やっぱそういう事か。オレには合わねーな」
 ウボォーさんが腰に手を当ててピンクな雰囲気の街を見回す。
「私も苦手です。それに女同士でどうしろと言うんでしょう」
「明らかにプレイヤーとはレベルの違う男ばっかだし、女用のイベントもあるんじゃねーか?」
 ミルキ坊ちゃまが一人で歩いている若くてハンサムな男性を指さして言う。
 レベルとは容姿の事だと思う。女の子もみんな可愛い。
「見ず知らずの男性とそのような……」
「子供向けに作ったんだろ。変な事はされないと思うぜ」
 それもそうだ。
 せいぜい下ネタ止まりだろう。私はジンさんを信じている。
「先に店で情報収集して、攻略は明日からにするか」
「はい」
 私達はまずはトレードショップに向かった。
 情報収集と、倒したモンスターを今日の宿代と食事代にするためだ。お金はちょっとだけ寄ったマサドラに預けてきた。現在はスペルカードを独占されてろくなのがないから、先にお金だけ貯めておくことになったのだ。スペルカードはどうしても使ってしまうため、独占は困難である。
 しかもハメ組のおかげで、クモの皆さんが頑張ってもクリアは不可能である。イベントをこなしても、カードになせない場合が多々あるはずだ。だからキルア坊ちゃま達がクリアする頃まで、クリアは不可能。
 ちなみに現在のクモはあまり攻略が進んでいない。
 横道に逸れすぎているからだ。
 クロロさんはいきなりアドリブブックを手に入れてしまい、迷わずゲインして読書に夢中。そうすると同じパーティのパクノダさん、ノブナガさん、マチさんは足止めされる。なんでこんなにクロロさんに甘い人達ばかりを集めたんだろうか。
 フィンクスさんとフェイタンさんはゲーム攻略とはほど遠い楽しみ方をしているだろう。誰も話題にしないが、確認するまでもなく分かる。おそらく真面目に攻略しているのは、シャルさん、コルトピさん、ボノレノフさんの三人だけだ。本当はフィンクス、フェイタン組もシャルさんたちと行動してるんだけど、御せるなどとはシャルさんが思っていないから、二人の事は忘れて三人で攻略している節がある。ぶっちゃけシャルさん以外はゲーマーとして使えない。攻略に役に立つのは、ミルキ坊ちゃまとシャルさんだけと考えた方がいい。
 一人で半分以上集めたゴリラの人は、きっと優秀なゲーマーだったのだろう。
 スタート時点から唯一の気がかりは虐殺コンビだったので、自分達の事をしゃべったら『苦しみ抜いて死ぬ』ことになると脅してからリリースするようにアドバイスしておいた。
 襲った相手が死なず、大人しくして、口を割らなければ目立つ事はない。
 殺すから目立つのだ。
 ボマーのおかげでそんな脅しもかなり有効で助かる。
 トレードショップの前に着くと、狭いのでミルキ坊ちゃまだけが入って話を聞いた。
「…………ここ、いつまでいるの?」
「カードを取れるだけ取ったらです」
 カルト様の顔が強張る。軟派な都市はやはりお嫌なようだ。
「戦闘はないかもしれませんが、ゲームを楽しみましょう」
「楽しめるのは兄さんだけじゃないか」
「そんなことはありません。きっとこのお二人も楽しめます。ねぇ」
 私はシズクちゃんに大人の対応を期待して話を振った。
「楽しいの?」
 期待した私が馬鹿だった。
「やってみないと分かりません。ウボォーさんも、可愛い女の子好きですよね」
 見上げて問う。これで好きではないと言われたらどうしようか。
「まあ、ブスと可愛い子だったら可愛い子がいいけどよぉ。大切なのは中身とか相性だろ」
 協力する気はないのか、この人達は。
「そうですね。ウボォーさんに合うような、パワフルで大柄な女性は見あたりませんね」
「…………あのな」
「あ、でも、ここから見えないだけで、いるかもしれません!」
「いや、あのな……」
 私は聞こえないふりをして通りを見回す。
 最近はウボォーさんの目がマジなので少し怖い。おかげで男性二人は本気で険悪だ。胃薬とか効かないから、あんまりストレスの溜まる事はしないでほしい。
 キョロキョロしていると、見知らぬ男性に声をかけられた。
「ねぇ、君。あの、今カットモデル探してるんだけど」
 背の高い男性だった。ゲームキャラだろう。
「えっと……カットモデルですか?」
「そう」
「私、あんまり髪を短くする気はないんですけど」
「大丈夫。髪を結う練習をしたいんだ」
 髪を変な風に弄られたくない女性には、こう答えるんだろうか。
「どうした、アヤノ」
 ミルキ坊ちゃまがトレードショップから出てきて声をかけてくれた。
「それがカットモデルにならないかと」
「髪は切るなよ」
 ミルキ坊ちゃまはどうやらロングがお好みらしい。
「髪を結う練習をしたいんだそうです」
「ふぅーん。じゃあやってみたらどうだ? どんなカードもらえるのか知らねーけど、せっかくだしさ」
「そうですね。最近切っていないので切りそろえてもらいましょうか。枝毛も増えてきましたし」
 三つ編みの毛先を見て、枝毛を発見してため息をついた。段を入れていない生まれつきの直毛だから、滅多に切る必要がないので、枝毛を自分で切るだけという日々が続いていた。とくに最近は忙しかったのもある。今も朝食と昼食から夕食までの下ごしらえをしに帰るから忙しいけれど。
 料理長がお休みの日には、一日戻らなきゃいけないし。
 お仕事だから仕方がない。
「念のために私もついていくよ」
「ボクも行く。アヤノが髪を切るだけなら、こんな所にいるよりはマシ」
 シズクちゃんとカルト様が言った。
 ピンク色の空気にカルト様が顔を顰めっぱなしだ。髪を切るだけなら少しは濃度も薄いだろうと思っているようだ。
「終わったらキルア坊ちゃまに夕食を届けますが、その時もご一緒にどうですか」
「行く」
 アキラ君からは、ビスケが追ってきたという報告が入っている。
 まだ足りていない基礎の部分を向上させるために、カルト様を合流させたいのだ。





「アヤノちゃん、どうやったらこんなに暗いのにあんな風に動けるようになれるの?」
 デリバリでやってきたばかりの私に、アキラ君が尋ねてきた。
 ここは岩石地帯のどこかにある、崖に囲まれた広場。
 光源はアキラ君の傍らにあるランプが一つだけ。
 中央では、アキラ君以外と髪切り魔が命がけの負かし合いをしている。これを勝負や手合わせとは言わないだろう。
「慣れ……かしら?」
「慣れ?」
「慣れれば月明かりで潜む獲物を目で見つけられるようになるわ」
 そんなもんかと腕を組むアキラ君。
「アキラ、誰だわさ」
「キルアん所の料理人のアヤノちゃんと、弟のカルトちゃん」
「弟!?」
 一番近くにいたハンゾーさんが振り返る。
「アヤノちゃん、そういえば昼間と服装と髪型が違うね。すごく可愛いけど、どうしたの?」
 私はお嬢様風の清楚な白いワンピースを身につけている。
「イベントで、髪型を弄られて、高い服を買わされたの」
 現金じゃなくて、アイテムカードを換金して買った。
「ぼったくりイベント?」
「物は良いから着てるけど、最後には恋愛商法のお店をぶっ潰すイベントになったわ。髪もつやつやになったから、悪いイベントじゃなかったわね」
「恋愛都市でも戦闘あるんだ…………ゴンの親父は何考えてるんだろう」
「でもしょぼいカードだったから、本来のルートじゃなかったか、それとも悪い相手には気をつけなさいという教訓なのかも?」
 カルト様にとっても面白いイベントになった。弱い相手をいたぶるのがお好きな方だから。
「こちらのお嬢さんは?」
 ビスケを見て、形式的な質問をした。
「ウイングさんの師匠のビスケ。キルア達を鍛えてくれるんだって」
 アキラ君も形式的に紹介してくれる。
「まあ、ウイングさんの。キルア坊ちゃまがお世話になります。美食ハンターのアヤノと申します」
 ビスケは一見すれば可愛らしいお嬢さんだ。どうやったらあそこまで体型が変わるのだろうか。操作系のイルミ坊ちゃまでも、長時間体型を変える事は出来ないのに……。
「料理人って……キルアって金持ちのぼんぼんなの?」
「跡継ぎになるのを嫌がって、旦那様の許可をもらって家出をなさっているのですが」
 驚いたようにキルア坊ちゃまを見るビスケ。
「親公認で、使用人まで来ても家出?」
「私はキルア坊ちゃまのお兄さまと一緒に来ているついでに、様子を見に来て、ついでにお食事を用意するだけです」
 私は小脇に抱えた鍋を置き、小さなカセットコンロを取り出しお鍋の準備をする。
「ガルガイダー?」
「はい。ところでアキラ君はあちらに参加しないんですか?」
「ハンゾーに色々と実験してもらってるんだ。それを見てから自分でも試そうかと。ほら、10億分は働いてもらわないと」
「破格よね」
 護衛にしても、本人がある程度は動けるから、10億だと思うとかなり楽な仕事だ。
 ビスケがアキラ君を見上げていた。
「じゅ……!? あれに10億!?」
「しー、ゴン達には内緒なんだ。
 本当は桁が一つ少なかったんだけど、朝起きたら契約書の桁が一つ増えてたんだ」
 アキラ君……舐められすぎじゃないか。
 あとゴン君達はこっち見てるから、静かにさせるだけ無駄だと思う。
「そんなことをされて……アキラ、どこぞの良家のご子息とか?」
「いや、オレは能力で稼いでもらっただけで……」
 ビスケの目の色が変わった。
 お金大好きだから。
「素晴らしい能力だわさ」
「でも出所が怖いから、さっさと処分したくてさ」
「しょ、処分!?」
 500億のために命をかけている人達に、喧嘩を売っているような発言にビスケが驚愕する。
「どうせ慈善団体とかに寄付するつもりだったから、よかったらビスケに授業料とか払いたいなって」
「あんた、なんていい男だわさっ」
 アキラ君はビスケに抱きつかれて顔を赤く染めた。
 カジノの収入はともかく、それ以外の収入が彼にとって重いという気持ちはよく分かる。
「そういえば、カード使っちゃったのよね」
「うん。今はないよ。
 いろんなパターン試したかったし。ジャンケンならどれぐらい成長したか分かりやすいしさ」
「あのカードなら、Sランクのカードとトレードするわ」
「いいけど当分無理だよ。スペルカード独占してるヤツらがいるし」
「ええ、こちらも今はお金を貯めているところなの。スペルカード攻略はお金が貯まってからにする予定よ」
「んじゃ欲しい前日に言って。わざわざ持ち続けて枠と時間を生めるの無駄だからさ」
 修行を続けながら無駄なカードを作るのは厳しそうだ。どうせなら戦闘に役立ちそうなカードを研究したいだろう。
 鍋が煮えると、ちょうど向こうもキルア坊ちゃまが髪切り魔から離れた所だった。
「お夕飯が出来ましたよ~」
 呼んだ瞬間、キルア坊ちゃまが脱力してバランスを崩しかける。
「アヤノ、緊張感削がれるだろっ!」
「そうだよ。もう、いいところだったのに」
 …………。
「反抗期!? キルア坊ちゃまとゴン君が反抗期!?」
 食事を告げてこんな事を言うなんて……。
「男の子はこうして大きくなっていくんですね」
「そんな事どうでもいいよ。お腹すいた」
「はい、カルト様」
 器に具をよそい、箸と一緒にカルト様に差し出した。
「あー、腹減った。ハンゾー、そっちよろしく」
「いい匂い」
 ゴン君のお腹がぐぅと鳴った。
 結局食べるんじゃないか。
「アヤノ、イベントだったらしいけど、どんなカード手に入れたの?」
「人物カードなので、大した物ではありませんよ」
「へぇ、どんなん? 見せてよ」
「カルト様がお持ちです」
 皆に器を配ると、最後に少し多めに盛りつけた器を持って、髪切り魔さんの元へと向かう。
「ちょ、アヤノ、そいつ髪切り魔、殺人鬼!」
「まあ、そうなんですか。さっき切ったばかりなので、美容師さんのお世話になる必要はないのですが」
「だから殺人鬼なんだってば!」
 大袈裟な。さすがに弱っている相手に髪を切られるほど間抜けではない。接近しすぎなければ大丈夫。
 しかし相手は私が寄ると鋏を構えて警戒する。
 暗いし光源は背後にあるから私の顔は見えないから、表情を作る意味はあまりないのだが、笑顔で器を地面に置いた。
「ガルガイダーのお鍋です。温かい内にどうぞ。食事中の方を襲っても、訓練にならないので安心してください」
 それだけ言うと、素早く皆の所に戻る。
 最後には改心する人だから、食べてもらっても罰は当たるまい。
「あれが何か奴に立つの?」
「役に立つ立たないという区別だけで食べてもらうわけではありません。大勢で食べている時、食べられないなんて嫌じゃないですか」
「あのハゲは?」
「他人の手作り品が食べられないそうです。確実に安全な物しか食べないのが一番確実ですからね。家庭の考え方の差ですね」
「ふぅん。おかわり」
「はい」
 子供達の食欲は旺盛だ。小食そうに見えるカルト様でさえよく食べる。
 アキラ君は苦笑しながらふぅふぅと息を吹きかけて冷ましている。彼は猫舌なのだ。
 アキラ君を見ていたら、ビスケと目が合った。
「あんたいつもこんな風にこの子達を世話してるの?」
「いつもというわけではありません。仕事もありますから。
 でも世の中には危ない方がたくさんいますし、心配で心配で」
 コースは知っているが、アキラ君があるから心配だった。
「心配する割りには危ない奴の代表みたいなのにメシわけてたじゃん」
 キルア坊ちゃまに指摘され、お裾分けを食べてくれている髪切り魔に視線を向ける。
「この状態なら危なくはないじゃないですか」
「たまにアヤノって楽観的だよなぁ」
「心配と同時に信頼もしております」
 私がそう言うと、キルア坊ちゃまは照れて目を逸らした。
 友情とか愛情とか信頼とか、そういうのを口にされると彼はとても照れる。
「そうだ。せっかくだからカルト様も混ぜていただいてはいかがですか?」
「ボクが? どうして?」
「ご実家では本気で相手をしてくれる方なんていませんし、カルト様の能力は完璧ですが、念能力者としての身体の動かし方はまだまだ私にも劣ります」
 カルト様が顔をしかめた。それでも私の話を聞くのは、ここ数日ずっとウボォーさん達と一緒にいて、届かないと自覚してしまったからだ。
「多くの場合は能力でどうにかなってしまいますが、通用しないとき最後に頼れるのは我が身一つです。ねぇ、ビスケット=クルーガー様」
「あたしの事を知ってるの?」
「はい。とても優秀なトレーナーだと聞き及んでいます」
「この子達は特別タダだけど、本来なら安くないわさ」
「あんたさっきアキラから授業料もらうって話をしてたじゃん」
「自主的に払ってくれるのは別。家出中のガキから取るほど落ちぶれちゃいないけど、使用人付きのお嬢……お坊ちゃまからはちゃんと取らないとあたしの価値が下がる」
 アキラ君がうんうんと頷く。
「ではまずは一千万。その出来上がりを見てということでいかがでしょう。ゼノ様に連絡すれば、おそらく出していただけます」
 そういうことで話はまとまった。




[14104] 58話 修行 アキラ視点
Name: トウヤ◆421ab2fe ID:12e43c59
Date: 2010/04/07 22:57
 翌朝。
 カルトちゃんが一人残り、女の子っぽい子が二人もいる華やかなパーティになった。
「ああ、身体が痛い」
 伸びをする。岩場で野宿はつらい。
「一人だけ熟睡しといてそれかよ」
 ハンゾーが水を飲みながら言う。水は店で買った物だ。人からもらう物と、不特定多数に売られている物は違うらしい。
「カード作るとそうなるんだから仕方ねーだろ。いいじゃん。オレは雇い主なんだし、寝てる間の護衛ぐらい。現実に戻ったら、最後にカードやるから」
「全部任せろ!」
 白い歯を光らせ、爽やかに笑うハンゾー。現金なやっちゃ。
 キルア達にハンゾーにいくら払ったのかバレたから、もう隠す必要はない。本当にあいつら耳がいいから困る。
 朝食はアヤノちゃんが置いていってくれたサンドイッチ。崖の上で待機していたビスケも下に降りてきて一緒に食べた。
「さすが美食ハンターだわさ」
 ビスケが頬に手を当ててサンドイッチをぺろりと食べてしまう。
 たくさんあるからいくつかを綺麗なハンカチに包み、インスタントのコーヒーを持って、ビノールトさんの近くまで寄った。
「これ、たくさんあるんでお裾分けです。ここに置いておきますね」
 たぶんこのためにたくさん用意してあったんだろう。相手が2人じゃないんだ。体力を回復してもらわないと。
「おいおい。お前なぁ」
 ハンゾーがオ