大阪市浪速区の不動産会社が、賃貸アパートに生活保護受給者を住まわせ、実質経営していた診療所の巡回診療を繰り返し受診させていた疑いがあることが、診療所の関係者らへの取材でわかった。診療所は、診療報酬などで得た収入の一部を不動産会社側にコンサルタント料として払っていたという。市は、生活保護の医療扶助を利用した「貧困ビジネス」の可能性があるとみて近く不動産会社などを実態調査する。
貧困ビジネスは、受給者から家賃や食事代などの名目で保護費の大半を吸い上げたり、引っ越しを繰り返させて転居費をピンハネしたりする形態が多い。受給者の医療費が全額公費負担となる医療扶助は医療機関に直接支払われるため、貧困ビジネス業者と医療機関が協力すれば、実態を把握するのは難しい。
診療所の元幹部職員の証言や内部資料によると、不動産会社は浪速区と同市西成区、堺市堺区で賃貸アパート4カ所(1カ所は昨年閉鎖)に約300人の受給者を入居させていた。大阪市などによると、同社は受給者の通帳やキャッシュカードを預かり、食事代名目などで保護費を徴収するケースが多いとみられるという。
診療所は西成区松1丁目にあった「すずクリニック」。元幹部職員によると、医師らはアパート4カ所などを週1回ペースで巡回診療していた。受給者1人あたりの診療報酬が月10万円を超えるケースもあった。市によると、クリニックは別の不動産会社があっせんする受給者も診療し、レセプト(診療報酬明細書)の全件数の9割を受給者が占めていた。元幹部職員は、月に計約1300万〜1900万円のクリニックの総収入の約2割がコンサルタント料名目で不動産会社側に支払われていた、としている。
クリニックは2月、近畿厚生局の個別指導を受けて必要書類の不備などを指摘され、閉院している。