2010年04月11日

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今回は都条例問題ではなく、ある記事の話。
「年収300万円なら十分“勝ち組”に? 給料の「無限デフレスパイラル」が始まった 」という、強烈なタイトルの記事が上がっていて、多くのニュースサイトからリンクが張られている。
 記事によると、全労働者の平均年収が300万円台を割ったのだという。

平成21年度の全勤労者の平均年収(賞与のぞく)は、前年比▲1.5%の294万5000円(平均年齢41.1歳、平均勤続年数11.4年)と、前年に続き300万円の大台を割った。

 だが、残念ながらこの記事は明確な誤りである。
 記事にある、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」を調べて見れば簡単に分かることだ。
 「平成21年賃金構造基本統計調査(全国)結果の概況」のサイトにある、「賃金の推移」というPDFに記された「第1表 性別賃金及び対前年増減率の推移」の平成21年をみればいい。
 確かに賃金の欄には「294.5」という数値があり、前年比は▲1.5%。平均年齢が41.1歳で、勤続年数が11.4年である。
 しかし、表の上の方に目を移すと、「賃金(千円)」と書かれている。つまり、この欄の「294.5」という数値は「294万5000円」を表すのではなく「29万4500円」を表しているのである。当然、29万4500円が平均「年収」のはずがない。
 そこで見なければならないのは、「主な用語の定義」というPDFである。ここにしっかりと「当概況に用いている「賃金」は、平成21年6月分の所定内給与額をいい、すべて平均所定内給与額である。」と書かれている。つまり、この数値は平均年収ではなく、「平均月収」29万4500円なのである。
 この月収に12を掛ければ、年収は当然300万を超える。さらにこの数値にはボーナスや残業代などが含まれていないことを考えれば、平均年収はもっと高くなるだろう。

 概要のPDFにもハッキリとこう書かれている。

I 一般労働者(短時間労働者以外の労働者)の賃金(月額)(注) 1 男女計は 294.5 千円(前年比 1.5%減)

 しょうもない間違いと言えばそれまでだが、この記事が配信され、それが提携先のサイトや、ニュースサイトなどに引用や転載をされ、それをエンドユーザーが鵜呑みにされてしまう。それによって年収200万弱のフリーターに対して「正社員だって平均300万切ってるんだ。文句を言うな。お前の生活が苦しいのは無駄遣いをしているからだろう」という、誤った批判をされてしまうかもしれない。こうした細かいニュースが賃金格差の実態を覆い隠し、格差の是正が立ち後れる可能性がある。
 身近にこの記事を信じている人がいるならば、是非とも火消しをお願いしたい。



(03:17)

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