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きょうの社説 2010年6月27日
◎先進医学センター 「予防の高度化」で地域貢献を
金大附属病院の敷地内に完成した金沢先進医学センターは、同病院が開設を予定する高
次人間ドックの連携施設となり、病院再開発事業が一段落した金大にとって、看板の医学、医療分野をさらに充実させる新たな一歩となる。大学病院はがんや難病治療の「最後の砦」と言われるが、病気予防でも地域の拠点機能 を担うのは時代の要請である。先進医学センターなどの高水準の診断機器と、大学が擁する医薬系の人材や研究の蓄積が結びつけば、「予防の高度化」で地域に大きな貢献ができるだろう。センター始動を機に、金大は高次人間ドックの態勢を着実に整えてほしい。 金沢先進医学センターは、先進医学マネジメント(金沢市)が事業提案して建設し、医 療法人社団金沢先進医学センターが運営する。導入された国内最先端のPET−CT装置は画像精度に優れ、従来の装置以上にがんの位置や形状を正確に把握できる。今後はアルツハイマーの発症時期を特定する薬剤も導入される予定である。 人間ドックや検診の現場では、医療技術や検査方法、機器の進歩で診断精度が飛躍的に 向上した。先進医学センターのPET−CT装置はその象徴といえ、自覚症状もないまま進行するがんの早期発見に大きな力を発揮するだろう。北陸のがん治療拠点である金大附属病院がセンターと連携する形で高次人間ドックを整備すれば、がんに取り組む拠点としての機能は一段と高まることになる。 これまでの人間ドックは病気の早期発見(二次予防)が主眼だったが、最近では発症予 防や健康づくり(一次予防)に比重が移っている。全国的には「抗加齢ドック」を開設する大学病院もあり、血管や骨量、皮膚の状態、ホルモンバランスなどで老化度を判定し、元気な人生を手助けしている。「患者」だけでなく、未病の人たちの受診を増やすことは病院経営の視点からも大きな意味がある。 健康管理や病気予防の技術開発も医学の幅広い基盤があってこそ可能になる。高度治療 のみならず、予防医療の積極的な提供は地域と歩む金大の大きな使命である。
◎海賊対策船に給油 シーレーン防衛に意味
菅政権は、自衛隊による国際貢献活動として、アフリカ東部ソマリア沖で海賊対策に当
たる各国艦船への給油を検討している。現行の海賊対処法は船舶の護衛が主目的であり、外国艦船への給油活動に関する規定がないため、新たな特別措置法の制定か海賊対処法の改正で対処する考えという。ソマリア沖での海賊対策は国連安保理の要請でもあり、各国の海賊対策艦船への給油活動は国際社会から歓迎されよう。これを機に積極的に検討したいことは、海上自衛隊によるシーレーン(海上交通路)防 衛の強化である。現在、海賊対処法に基づいて船舶警護を行っているソマリア沖に限らず、インド洋や東南アジア海域なども含めたシーレーンの安全確保は、貿易の99%超を海運に依存する日本にとって、まさに死活的な課題である。 民主党の細野豪志幹事長代理は先ごろ訪米した際、シーレーン防衛のために海自の任務 拡大をめざす考えを示し、地域などを限定した特措法ではなく、一般法(恒久法)で対処することを提唱した。経済・エネルギー安保の観点から与野党の対立を超えて議論に本腰を入れてもらいたい。 防衛省によると、2009年に発生したソマリア周辺の海賊被害は、前年の約2倍の2 17件に上る。各国の海賊対策艦船への給油は、テロ対策のためインド洋で行われた給油活動の代替策として一時、提案されたことがある。海賊対策とテロ対策を区別すべきとして見送られてきたが、海賊対策艦船への給油活動は、シーレーン防衛強化の点で意味がある。 民主党は、政権交代で打ち切ったインド洋での給油活動を再開する考えはないという。 ただ、ソマリア沖で活動する外国艦船の中には、海賊対策だけでなく、インド洋でのテロリスト掃討作戦の任務を兼ねている艦船も少なくない。このため、海賊対策艦船への給油活動は実質的に、民主党の否定するインド洋での対テロ作戦支援につながることにもなる。しかし、本末転倒の理屈で、海賊対策、シーレーン防衛のための給油活動まで否定してはなるまい。
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