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韓国の出入国管理法一部改定に反対する抗議文を提出[2010.6.24]

2009年11月11日韓国政府によって出入国管理法一部改定法案が国会に提出され、2010年4月21日に本会議で可決、5月14日に公布されました。この法改定によって、外国人の入国審査時および登録時の指紋および顔情報の採取制度が導入されます。

私たちKEYはこの法案が成立したことに反対する以下の抗議文を、韓国の法務部長官および改定法案に賛成したすべての国会議員宛に送付しました。

■関連情報
外国人の指紋等生体情報提供制度の概要
韓国で審議中の出入国管理法改定案に反対する要望書を提出[2009年12月15日]


 

指紋採取を強制する出入国管理法改定に反対する

2010年4月21日、韓国国会本会議において、出入国管理法一部改正法律案が可決し、5月14日公布された。これによって韓国に入国する17歳以上の外国人は指紋および顔情報を提供しなければならなくなり、さらには90日を超えて滞在する外国人に課される外国人登録の際にも17歳以上の者は指紋および顔情報の提供を義務付けることとなった。そして法務部は5月17日、これらの義務化を8月15日から施行することを明らかにした。

私たち在日コリアン青年連合(KEY)は、外国人からの指紋強制採取制度は多大な人権侵害をもたらすものとして、とくに日本において “指紋押捺”をめぐり闘ってきたという在日同胞の歴史的立場から法制司法委員会議長宛に要望書を提出するなど、今回の法改定案に反対の姿勢を示し続けてきた。しかし、その願いも空しく法案が可決されてしまったことに対して、大きな失望と憤怒の念を禁じえない。

私たちが一貫して主張してきたように、今回の法改定による生体情報採取制度は、外国人を犯罪者予備軍のように規定し外国人差別を助長する可能性を孕むものであるとともに、生体情報流出によるプライバシー侵害の恐れを生み出すものである。

昨年12月7日に開かれた法制司法委員会において法務部長官は、この法律案の提案理由として「不法入国者を遮断するとともに、最近増加傾向にある外国人の凶悪犯罪などに効果的に対処できるようにして」と説明した。ここにその問題性が明確に表れている。これについては、4月21日の国会本会議において、「今回の出入国管理法は指紋押捺復活だけでなく、顔写真などの生体情報提供を義務化する規定まで用意し、外国人全体を潜在的犯罪集団として取り扱うという意図を露骨化している」という明確な反対意見が議員から指摘されているが、まさにその通りである。委員会での審議過程で提出された検討報告書には、入国時に得た生体情報は犯罪捜査にも使用できるとの内容が含まれており、加えて今回の改定法では「法務部長官は入国審査に必要な場合には、関係行政機関が保有する外国人の指紋及び顔に関する資料の提供を要請することができる」と定められた。ここに、センシティブな生体情報が政府当局により恣意的に使用される危険性が露になっている。以前あった日本の外国人登録法による指紋押捺制度でも、ここまで露骨に犯罪捜査に使用するためのものとは言明されておらず、私たちは驚愕するばかりである。

また、入国時と外国人登録時、二重にわたって生体情報を採取することになる国家は現在のところ韓国のみである。前述の検討報告書では「外国人である場合、入国時に指紋及び顔情報に関する情報を提供させるにも関わらず、別途外国人登録を申請する滞留外国人に対して再び指紋等に関する情報を提供させることは、外国人に対する過度な規制ではないか検討する必要があるといえる」との指摘がなされており、12月の法制司法委員会で検討報告書に関わった専門委員が直接口頭でも触れている。しかしこの点に対する説明はその後、全く公には出てきていない。今回の法改定は、外国人をたえず疑う「人権後退国」としての謗りを免れるものではない。

提出された原案では改定規定の施行時期を2012年7月1日としていたが、結局この指紋及び顔情報提供に関しては「この法の公布後3ヶ月が経過した日から施行する」とされた。このことについて、法務部は今年11月に開催されるG20(20ヶ国財務相・中央銀行総裁会議)の「安全」を図るために施行日を早めたと説明している。しかしながら、3ヶ月という短期間でこのような大掛かりな制度を整備できるということは、この制度導入について、法律が成立する前から既定路線として着々と準備を進めていたことを表しているといえ、国会審議による論議プロセスを無視した行為であるといえる。また国会審議自体も、所管する法制司法委員会で取り上げられたのは3回(うち全体会議が2回、法案審査第一小委員会が1回)で、しかもこの法案審議に要した時間は、初回の法制司法委員会全体会議(2009年12月7日)は5分で小委員会に回付、2回目の全体会議(2010年4月19日)は他の24件と併せて22分で可決に至り、今年4月の国会本会議においても他の法案3件と合わせた審議と投票が35分で終了している。このような重大な法案が、検討報告書の中で外国人の人権侵害の怖れがあるという指摘の存在が挙げられているにもかかわらず、また実際に成立に危機感を抱く当の外国人、市民社会団体からの反対の声があったにも関わらず、国会での審議時間がほぼ費やされずに可決されたことは、民主主義を無視したあまりにも不当な行為であり、また参与した国会議員が本当にこの法案の中身について十分に理解をして賛否を投票したのか甚だ疑問である。本会議での投票結果は、出席した国会議員177名中賛成148名、反対16名、棄権13名であったが、これほどまでに賛成した議員が多いことにも私たちは深い失望を抱いた。

また私たち在日同胞社会にとってもこの制度変更は重大な影響をもたらすといえるだろう。多様化が進む在日同胞社会では、その傾向は国籍にも及んでいる。例を挙げれば同じ家族である韓国籍の同胞と日本籍の同胞が韓国に入国する際、一方の日本籍同胞のみが「本人同一性確認」という名の下で生体情報を採取されるという状況が起こり得る。このことは、在日同胞の範疇にあって同様の歴史的背景を持ちながらも、ただ単に「国籍」のみを指標にして選別・分断されてしまうという不条理な状況に直面しなければならないことを意味している。私たちは、普遍的な人権保護という観点も去ることながら、このような事態に直面せざるを得ない当事者としても反対の意志を表明する。  

2006年の第1回外国人政策会議において採択された「外国人政策の基本方向及び推進体系」のビジョンとして「外国人と共に生きる開かれた社会の具現」が掲げられ、2007年に在韓外国人処遇基本法が制定された。その理念は、日本において外国人として一貫して差別・管理体制に苛まれてきた私たち在日同胞にとっても大きな期待を寄せるものであった。それだけに今回の法改定は、多民族多文化共生を願う私たちにとっても大きな失望感を伴わざるを得ない。

この改定法と連動する形で5月3日、政府は未登録の移住労働者の「出国支援プログラム」と6月からの取締り強化策について発表した。政府がますます外国人の管理強化のみを推し進め、人権侵害を防ぐどころか量産する側に立とうとしていることに、大きな危惧と憤りを感じている。韓国に居住する外国人当事者や支援団体が継続して反対し撤回を求めているが、その声に真摯に対応することを強く求める。  

私たちはあらためて、今回の法改定による指紋をはじめとした生体情報強制採取制度に強く反対し、即座にこの制度導入を中止することを求める。そして、外国人を単なる管理政策の対象ばかりに押し込めるのではなく、共に生きる者として認め、ホスト国民との間の相互理解を育み、外国人にとってもホスト国民にとっても暮らしやすい社会を創造していくための環境整備を進めていくよう要求する。

2010年6月24日
在日コリアン青年連合(KEY)

■要望書の韓国語版(PDF)

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