雪の降る町。
そこで一人の男に奇跡が起きた。
雪はしんしんと降り続け町を覆っていく。
その日以来、この世界で彼を見た者は誰もいなかった。
ジュエルシードが弾けた。
わたしもあの子、フェイトちゃんも間に合わなかった。
二人で協力すればよかったと、後悔しても既に遅い。
街中で弾けたジュエルシードの爆発が迫る。
あぁ、わたし死ぬんだ。
時間がゆっくりと過ぎる。走馬灯というやつだろう。
膨大な魔力も、マルチタスクも、高速思考も、何も役に立たない。
ジュエルシードの間近にいたわたしとフェイトちゃんは最早光の中だ。
広がっていく爆発で結界が壊れる音が響く。
一般人も巻き込む爆発は
「えっ?」
声を発したのは誰だったのか、突然の出来事に思考が追いつかない。
広がった爆発は、一瞬、更に輝いたかと思うと、
「え?」
収縮していき、何事もなかった様に静寂が広がった。
思わずフェイトちゃんの方を見る。きっと彼女が何とかしたのだろう。
そう思っていたが、彼女も同じような顔でわたしを見ていた。
ユーノ君も、フェイトちゃんの使い魔さんも間に合わなかったはずで、わたしも何も出来なかった。
ジュエルシードがあったところを見ると、粉々に砕けた結晶だけがあった。
「あっ」
声を発したのはわたしだろうか、フェイトちゃんだろうか。
鈍い思考は状況の把握も上手くしてはくれなかった。
砕けたジュエルシードの下に、男の人が倒れていた。
「なのは!」
ユーノ君がわたしの名前を読んで駆け寄ってくる。
人ごみを掻き分けて、走っている。
どうして飛んでこないんだろう?あぁ、一般人に見られるからか。
鈍い思考は、結界の崩壊という事実にも疎かった。
そんなわたしに代わり、レイジングハートがバリアジャケットや杖を解除してくれていた。
フェイトちゃんも姿を消していた。
わたしは力が抜けてぺたりと座ってしまう。
視線を少し動かすと、倒れて気絶している男の人の顔が見えた。
・・・泣いてる。
目元から、一筋だけの涙の後が見えた。
それが、わたしと最強の魔法使いと呼ばれるようになる祐一さんとの出会いであった。
魔法少女リリカルなのは 最強の祐一(リリカル×???)
祐一さんはこの世界の人じゃなかった。ユーノ君は次元漂流者だと言っていた。
祐一さんは時空管理局というところで働く人たちに身元を引渡すまで、わたしの家で居候することになった。
流石に、人を拾ってきたことにはお母さんは驚いていたが、一生懸命説得して、少しの間だけの滞在の許可をもらった。
お父さんも、お兄ちゃんも、必死に反対したが、お母さんの『了承』という一言で、何も言えなくなっていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
時空管理局のクロノ君に祐一さんを引き渡すことになった。
ジュエルシード事件のために、しばらくはアースラの中にいるらしい。
現地協力者としてわたしもジュエルシード事件にかかわることになったから、もうしばらくは祐一さんに会うことができそうだ。
お兄ちゃんからは必ずまた来るように伝えてくれと言われた。
そんなに模擬戦で負けたことが悔しかったのだろうか。
とりあえず、お土産で目覚まし時計を贈っておいた。
・・・あれで起きれるかは微妙だと思ったけど。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
フェイトちゃんが目を覚まさない。お母さんに言われたことに傷ついていた。
そんなフェイトちゃんを放っては置けなかったが、今はやらなければならないことがある。
「祐一さんもフェイトちゃんのことお願いします。今、きっと近くにいてあげられるのはアルフさんと祐一さんの二人だけだから」
緊急事態だから、時空管理局員の人たちは自分の持ち場からは離れることが出来ないが、フェイトちゃんを一人っきりにはしておけなかった。
祐一さんもそう思ってたようで、わかった、と一言。
「行ってきます」
「なのは、無茶はするなよ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ディスプレイには、戦っているなのはや管理局の様子が映っていた。
「祐一、フェイトを頼む」
アルフも戦場へ行くことを決めた。
一言二言、フェイトに声をかけて出て行った。
しばらくすると、フェイトが身体を起こした。
「行くのか」
「はい」
目には強い意志の光が戻っていた。本当に強い子達だと思う。
バルディッシュを手にするフェイトには迷いは見られない。
「戦うのか?何のために?」
「・・・自分を」
躊躇いがちに、しかしはっきりと口にした。
「自分を始めるために」
フェイトは振り向かない。バルディッシュだけを、前だけを見据えている。
今にも倒れそうで、立っているのが精一杯に見える。
しかし、しっかりと地に足をつけて立っていた。
本当に強いな、と思う。
が、やはり体的には限界な様で、倒れそうに傾いた。
倒れる前にそっと肩を支えてやり、手助けをしてやる。
「あ、ありがとうございます」
「礼には及ばない。が、一つ頼みがある」
頼み?とフェイトが首を傾げるが、自分も連れて行くように言った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
敵の刃が振り下ろされる。思わず目をつぶってしまった。
が、いつまでたっても衝撃がこない。
「戦いの中で目を閉じるな」
知っている声を掛けられ目を開けると、正面に立つ祐一さんの姿があった。
「え?え?なんで?」
刃は止まっていた。振り下ろされる最中で、停止していた。
刃だけではない。周りの全てのものが停止していた。
疑問に思う間もなく、祐一さんに腕を捕まれ移動した。
地に足を付けた瞬間に、周りの時間が動き出す。
「サンダーレイジ」
降り注ぐ魔力に自動人形がやられていく。
降りてくる人影に目を奪われた
「先に行く。大物は任せた」
そう言うと祐一さんの姿は消えてしまった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ジュエルシード事件が終わった。
再開の誓いをして、リボンの交換をする。
もう行くのだ。
フェイトちゃんも、アルフさんも、クロノ君も、
そして、祐一さんも。
「世話になったな」
「いえ、わたしの方こそ助けてもらって、ありがとうございました」
短い挨拶だけで、祐一さんも行ってしまった。
結局、祐一さんが使っていた魔法のことはわからなかった。
デバイスも、どこで手に入れたのかも教えてはもらえなかった。
もしかしたら、初めから持っていたのかもしれない。
常に持ち歩いていて、今も背負っている黒い大きな袋の中が気になる。
祐一さんとはもしかしたら、元の世界に返ってもう二度と会えないかもしれない。
でも、なんだか、また会えるような気がした。
いつも、青空をまるで尊いものように眺めていた、あの人に。
無印終了
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
A's開始
「ユーノ、なのはをお願い」
フェイトちゃんはそう言って、紅い女の子を追っていった。
ユーノ君が治癒魔法を掛けてくれる。
「もう大丈夫。フェイトもいるし、アルフもいる。それに彼も来てくれた」
「彼?」
来て、くれたのだろうか。あの黒衣の騎士も。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「レバンティン、カートリッジロード」
紫電一閃にて、攻撃を行う。
ヴィータを助けるため、目的のためとはいえ不意打ちには気が引けるが、私には選択肢などありはしない。
振り下ろした刃は少女へと迫り、
キィン!
紅蓮の刃に止められた。
「なに!?」
レバンティンに込めた魔力が霧散していく。
ちっ、と舌打ちをして離れる。
黒衣の騎士が、ビルの屋上に着地していた。どうやら飛べないようである。
・・・陸戦魔導師か?だが、先ほどは飛んでいなかっただろうか?
「・・・私はベルカの騎士、ヴォルケンリッターが守護者、シグナム。貴公の名は?」
黒衣の騎士のところまでゆっくりと降下していく。
バイザーによって顔は隠されていた。
黒衣の騎士はこちらを見上げ、重い口を開いた。
「・・・元神戸自治軍『天樹機関』所属、黒沢祐一」
――――続かない。
あとがき
祐一違いです。
ウィザーズ・ブレインの祐一さん。
一発ネタなので、時間も飛び飛び、視点もとびとび、台詞めんどくて端折りました。
祐一さんの設定は、第一巻で、天使もどきの巨人に突っ込んで吹っ飛ばされたあたり。騎士の誓いを思い出す前、です。
リリカル世界でいろいろあり、騎士の誓いを思い出し、フェイトと共になのはを助けに行きます。
が、彼の描写を省いたのはkeyの祐一君を意識するため。
引っかかりましたか?と、いうか、黒沢祐一さん知ってますかね(汗)
知らない人が多いような気がするorz