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[19491] 一発ネタ 魔法少女リリカルなのは 最強の祐一(リリカル×???)
Name: 流河◆afb25d32 E-MAIL ID:346132a7
Date: 2010/06/12 03:12
雪の降る町。
そこで一人の男に奇跡が起きた。
雪はしんしんと降り続け町を覆っていく。

その日以来、この世界で彼を見た者は誰もいなかった。





ジュエルシードが弾けた。
わたしもあの子、フェイトちゃんも間に合わなかった。
二人で協力すればよかったと、後悔しても既に遅い。
街中で弾けたジュエルシードの爆発が迫る。

あぁ、わたし死ぬんだ。

時間がゆっくりと過ぎる。走馬灯というやつだろう。
膨大な魔力も、マルチタスクも、高速思考も、何も役に立たない。
ジュエルシードの間近にいたわたしとフェイトちゃんは最早光の中だ。
広がっていく爆発で結界が壊れる音が響く。
一般人も巻き込む爆発は

「えっ?」

声を発したのは誰だったのか、突然の出来事に思考が追いつかない。
広がった爆発は、一瞬、更に輝いたかと思うと、

「え?」

収縮していき、何事もなかった様に静寂が広がった。

思わずフェイトちゃんの方を見る。きっと彼女が何とかしたのだろう。
そう思っていたが、彼女も同じような顔でわたしを見ていた。
ユーノ君も、フェイトちゃんの使い魔さんも間に合わなかったはずで、わたしも何も出来なかった。

ジュエルシードがあったところを見ると、粉々に砕けた結晶だけがあった。

「あっ」

声を発したのはわたしだろうか、フェイトちゃんだろうか。
鈍い思考は状況の把握も上手くしてはくれなかった。

砕けたジュエルシードの下に、男の人が倒れていた。

「なのは!」

ユーノ君がわたしの名前を読んで駆け寄ってくる。
人ごみを掻き分けて、走っている。

どうして飛んでこないんだろう?あぁ、一般人に見られるからか。

鈍い思考は、結界の崩壊という事実にも疎かった。
そんなわたしに代わり、レイジングハートがバリアジャケットや杖を解除してくれていた。
フェイトちゃんも姿を消していた。

わたしは力が抜けてぺたりと座ってしまう。
視線を少し動かすと、倒れて気絶している男の人の顔が見えた。

・・・泣いてる。

目元から、一筋だけの涙の後が見えた。


それが、わたしと最強の魔法使いと呼ばれるようになる祐一さんとの出会いであった。




魔法少女リリカルなのは 最強の祐一(リリカル×???)



祐一さんはこの世界の人じゃなかった。ユーノ君は次元漂流者だと言っていた。
祐一さんは時空管理局というところで働く人たちに身元を引渡すまで、わたしの家で居候することになった。

流石に、人を拾ってきたことにはお母さんは驚いていたが、一生懸命説得して、少しの間だけの滞在の許可をもらった。

お父さんも、お兄ちゃんも、必死に反対したが、お母さんの『了承』という一言で、何も言えなくなっていた。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




時空管理局のクロノ君に祐一さんを引き渡すことになった。
ジュエルシード事件のために、しばらくはアースラの中にいるらしい。
現地協力者としてわたしもジュエルシード事件にかかわることになったから、もうしばらくは祐一さんに会うことができそうだ。
お兄ちゃんからは必ずまた来るように伝えてくれと言われた。
そんなに模擬戦で負けたことが悔しかったのだろうか。

とりあえず、お土産で目覚まし時計を贈っておいた。
・・・あれで起きれるかは微妙だと思ったけど。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




フェイトちゃんが目を覚まさない。お母さんに言われたことに傷ついていた。
そんなフェイトちゃんを放っては置けなかったが、今はやらなければならないことがある。

「祐一さんもフェイトちゃんのことお願いします。今、きっと近くにいてあげられるのはアルフさんと祐一さんの二人だけだから」

緊急事態だから、時空管理局員の人たちは自分の持ち場からは離れることが出来ないが、フェイトちゃんを一人っきりにはしておけなかった。
祐一さんもそう思ってたようで、わかった、と一言。

「行ってきます」
「なのは、無茶はするなよ」




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




ディスプレイには、戦っているなのはや管理局の様子が映っていた。

「祐一、フェイトを頼む」

アルフも戦場へ行くことを決めた。
一言二言、フェイトに声をかけて出て行った。

しばらくすると、フェイトが身体を起こした。

「行くのか」
「はい」

目には強い意志の光が戻っていた。本当に強い子達だと思う。
バルディッシュを手にするフェイトには迷いは見られない。

「戦うのか?何のために?」
「・・・自分を」

躊躇いがちに、しかしはっきりと口にした。

「自分を始めるために」

フェイトは振り向かない。バルディッシュだけを、前だけを見据えている。
今にも倒れそうで、立っているのが精一杯に見える。
しかし、しっかりと地に足をつけて立っていた。
本当に強いな、と思う。

が、やはり体的には限界な様で、倒れそうに傾いた。
倒れる前にそっと肩を支えてやり、手助けをしてやる。

「あ、ありがとうございます」
「礼には及ばない。が、一つ頼みがある」

頼み?とフェイトが首を傾げるが、自分も連れて行くように言った。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




敵の刃が振り下ろされる。思わず目をつぶってしまった。
が、いつまでたっても衝撃がこない。

「戦いの中で目を閉じるな」

知っている声を掛けられ目を開けると、正面に立つ祐一さんの姿があった。

「え?え?なんで?」

刃は止まっていた。振り下ろされる最中で、停止していた。
刃だけではない。周りの全てのものが停止していた。
疑問に思う間もなく、祐一さんに腕を捕まれ移動した。

地に足を付けた瞬間に、周りの時間が動き出す。

「サンダーレイジ」

降り注ぐ魔力に自動人形がやられていく。
降りてくる人影に目を奪われた

「先に行く。大物は任せた」

そう言うと祐一さんの姿は消えてしまった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




ジュエルシード事件が終わった。
再開の誓いをして、リボンの交換をする。
もう行くのだ。

フェイトちゃんも、アルフさんも、クロノ君も、
そして、祐一さんも。

「世話になったな」
「いえ、わたしの方こそ助けてもらって、ありがとうございました」

短い挨拶だけで、祐一さんも行ってしまった。
結局、祐一さんが使っていた魔法のことはわからなかった。
デバイスも、どこで手に入れたのかも教えてはもらえなかった。
もしかしたら、初めから持っていたのかもしれない。
常に持ち歩いていて、今も背負っている黒い大きな袋の中が気になる。

祐一さんとはもしかしたら、元の世界に返ってもう二度と会えないかもしれない。
でも、なんだか、また会えるような気がした。
いつも、青空をまるで尊いものように眺めていた、あの人に。



無印終了
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
A's開始



「ユーノ、なのはをお願い」

フェイトちゃんはそう言って、紅い女の子を追っていった。
ユーノ君が治癒魔法を掛けてくれる。

「もう大丈夫。フェイトもいるし、アルフもいる。それに彼も来てくれた」
「彼?」

来て、くれたのだろうか。あの黒衣の騎士も。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「レバンティン、カートリッジロード」

紫電一閃にて、攻撃を行う。
ヴィータを助けるため、目的のためとはいえ不意打ちには気が引けるが、私には選択肢などありはしない。
振り下ろした刃は少女へと迫り、

キィン!

紅蓮の刃に止められた。

「なに!?」

レバンティンに込めた魔力が霧散していく。
ちっ、と舌打ちをして離れる。
黒衣の騎士が、ビルの屋上に着地していた。どうやら飛べないようである。

・・・陸戦魔導師か?だが、先ほどは飛んでいなかっただろうか?

「・・・私はベルカの騎士、ヴォルケンリッターが守護者、シグナム。貴公の名は?」

黒衣の騎士のところまでゆっくりと降下していく。
バイザーによって顔は隠されていた。
黒衣の騎士はこちらを見上げ、重い口を開いた。

「・・・元神戸自治軍『天樹機関』所属、黒沢祐一」





――――続かない。



あとがき
祐一違いです。
ウィザーズ・ブレインの祐一さん。
一発ネタなので、時間も飛び飛び、視点もとびとび、台詞めんどくて端折りました。
祐一さんの設定は、第一巻で、天使もどきの巨人に突っ込んで吹っ飛ばされたあたり。騎士の誓いを思い出す前、です。
リリカル世界でいろいろあり、騎士の誓いを思い出し、フェイトと共になのはを助けに行きます。
が、彼の描写を省いたのはkeyの祐一君を意識するため。
引っかかりましたか?と、いうか、黒沢祐一さん知ってますかね(汗)
知らない人が多いような気がするorz



[19491] プロローグ 忘れ去られた騎士の誓い ~There is not perfect world~
Name: 流河◆afb25d32 E-MAIL ID:aa44b85c
Date: 2010/06/26 02:16
『自己領域』を展開し一気に1000メートル上へ上昇する。
巨大な騎士剣の刃の上を走り、天使の巨体へと迫る。
氷の槍と重力波の波状攻撃を避けながら迫った巨人へと騎士剣を振るう。
近づく時は『自己領域』を張っていたため周りの一切のものが静止していたが、攻撃を行う際には使えない。
『身体能力制御』を使い、運動速度60倍・知覚速度120倍で騎士剣を振るう。
もっとも、周囲からは60倍の速度だが、自分は普段どおりにしか動いていないので、速度が60倍だからとって、60の2乗の3600倍の威力というわけではない。
所詮はただ騎士剣を振るっているに過ぎず、『情報解体』をしようにも同調能力者である天使39体とマザーコアである恋人、最強の騎士によって強固な情報を持った巨人には、騎士一人分のI-ブレインでは演算速度が追いつかない。
2000メートルに及ぶ巨体の末端でさえ、現存する騎士のなかで最強である祐一の『情報解体』が通じないのだ。
この地上でこの巨人を倒しうる者はいないであろう。

彼女の形見である『紅蓮』を振るいながら、無駄だと知って戦いを挑む。
十年前、彼女はシティ神戸のために命を投げ出した。
そのとき自分は、彼女が神戸のマザーコアになることを直視できずに旅に出た。
十年ぶりに見た彼女はあのときのままの姿で、しかし生きてはいなかった。
十年間、彼女は独り、あの暗い部屋の中で意識が死んでもI-ブレインを動かし続けた。

『フリーズ・アウト』

脳の旧皮質が情報過多に耐え切れず自己崩壊し、死に掛けていた。
二度と目の醒めることのない彼女は、きっとその記憶すら失ってしまったのだろう。

虚無がこの身を覆い尽くしていた。
無駄だと知って、騎士剣を振るう。・・・そうしないと壊れてしまいそうだったから。
意味のないことだと知って、『情報解体』を行う。・・・そうしないと狂ってしまいそうだったから。
わけもわからず、『自己領域』で動き続ける。・・・そうしないと二度と動けないから。

彼女が守ってきた10年間は、神戸市民1000万人の命は、もはや還ってはこない。

自分は、どうして、騎士剣を、振るうのか。

『これで、祐一も本物の騎士よ・・・・・・』
彼女、雪と交わした騎士の誓いが思い出せない。

だから、自分は兵器だ。
ただ、『自己領域』で近づき、『身体能力制御』で振るい、『情報解体』で壊す。
ただ、それだけをする兵器でしかない。

だから、おれには、何も守れない。

ついに、唸りをあげて振るわれた巨大な騎士剣を避けきれず直撃した。
『紅蓮』が手から離れ、自身の身体も吹き飛ばされる。

あぁ、もしかすると、あの人食い鳥なら解体できるだろうか。

吹き飛ばされながら、かつて会った空賊を思い出した。
だが、自分には無理だ。
恋人である雪の顔をした巨人を壊したくて解体したくて破壊したくて堪らないが、もはや立ち上がる気力は残ってない。
急速に離れていく巨人。
この速度で打ち付けられたら、きっと二度と動けない。

それでもいいか。

手元に騎士剣がなく『自己領域』の展開が出来ない以上、己のI-ブレイン一つで『身体能力制御』をしなくてはならない。
『身体能力制御』を行う際の反作用を打ち消す演算のみに集中すれば何とかなるであろうか。
だが、立ち上がるのも疲れてしまった。

黒沢祐一は壊れそうな心と体をどうすることも出来なかった。




魔法少女リリカルなのはW’s  (リリカル×ウィザーズ・ブレイン)
プロローグ    忘れ去られた騎士の誓い ~There is not perfect world~



祐一の手からこぼれおちた『紅蓮』を天樹錬が振るっていた。
どうして、あの少年は戦えるのだろうか。
実験体四番の少女、フィアを本当に助け出せると思っているのだろうか。
身体を起こそうにも、右腕の関節は先ほどの一撃で粉砕されてしまった。
痛みを示す値を全てI-ブレインでカットしているが、騎士剣の演算の補助がなければ動かせそうにもない。

少しだけ身動ぎする。
唯一動かせる左手が、何か硬いものに触れた。
「・・・冥王三式か」

無意識でアクセスしたようだ。
『冥王三式』は、現在量産されている『冥王六式』の三世代前の騎士剣だ。
『自己領域』を試作的に量産型に取り込んだ『冥王』シリーズ。
『三式』は『六式』以前のデバイスだ。
故に試作品の域を出ていない。
『自己領域』の展開は可能なのだが。

さらに、今触れている騎士剣は致命的に欠陥品であった。

「刃がない、か」

祐一が吹き飛ばされた際の衝撃で壊れてしまったようだ。
しかし、演算の核である結晶は無事であった。
刀身を含めた全てが演算を行う『冥王六式』と違い、『冥王三式』は柄の結晶が文字通り核である。
刀身がなくとも、ある程度の演算と『自己領域』の展開は出来る。
しかし、刀身がないため『情報解体』も出来なければ、刀身による補助がない以上、数度の使用で核である結晶が壊れてしまうであろう騎士剣。

「・・・今のおれにはお似合いだな」

騎士剣とリンクし、演算の補助をしてもらい、やっとのことで立ち上がる。
見上げた先では『紅蓮』を振るう錬の姿があった。
その姿が、恋人であった雪に被って見えた。

「おれは、守れない」

一歩足を進めた。

「どうしたいかもわからない」

更に一歩。足元には騎士剣の残骸が多数転がっていた。
どうやら、吹き飛ばされた場所はデバイスの保管所であったようだ。

「だが、先ほど言ったように、目障りだ」

雪と同じ顔をした巨人を睨む。
先ほどと変わらぬ幽鬼の如き形相だ。

(騎士剣『冥王三式』完全同調。光速度、万有引力、プランク定数、取得。『自己領域』起動)

柄だけの騎士剣を片手に、祐一は飛んだ。
ピシッ、という音と共に、騎士剣の核に僅かな亀裂が入る。
光速度の40%というどうしようもなく遅い速度だ。

騎士の劣化能力しか扱えない錬でさえ、『紅蓮』によって光速度の70%は出している。
先ほどの祐一は『紅蓮』によって光速度の99%に達していた。
だが仮に、祐一が万全な状態であったならば、彼の演算に『冥王三式』は付いてこられず即座に壊れてしまっていただろう。

一気に近づき、腕に乗り、巨人の顔へ向かっていく。
何が出来るかわからないが、あの顔だけは許せない。

せめて、一発殴ろうとしたところで、I-ブレインが危険を知らせる。
肩まで辿り着けたのには、巨人が錬に集中していたことが理由である。
だが、肩まで来て巨人がこちらを向いた。目が合う。
(超高濃度空間曲率の変化を感知)
以前、初めて錬と戦ったときと同じ、空間曲率の変化をI-ブレインが感知した。
前回と違うことは、彼と同じかそれ以上の演算速度を備えた魔法士40人分の情報制御である。
あのときの比ではない超高濃度の空間曲率の中に祐一は閉じ込められ、その姿を消した。


『次元回廊』
悪魔使いである錬は、一流の使い手の能力をコピーしてもその半分以下の性能しか出せない。
故に、光使いの劣化版である空間の制御で、次元のトラップを作れたのには理由がある。
そもそも、天樹錬は光使いに会ったことがない。
この能力は、彼の兄である天樹真昼が錬のために調整して作った能力だ。
『次元回廊』は錬のI-ブレインでも再現できるように調整されたプログラムである。


それを、単純計算で40倍以上の演算によって行使された。
『情報解体』を行えない騎士剣と満身創痍な祐一には、脱出の手段は残されていなかった。








あるとするならば、それはきっと強力な力による外界からの時空間への干渉しかないだろう。
だから、これからの祐一の出会いは偶然にして必然であったに違いない。


2198年2月21日。
黒沢祐一は、発達しすぎた技術により滅び行く世界からその姿を消した。





あとがき。
ちょっと、私生活でいろいろあったんでむしゃくしゃしてやった。
今は後悔している。
・・・むしゃくしゃ、した理由は、まぁ単純に告って振られただけなんすけどね(泣)orz

日本がデンマークに一点取った今日この頃。
サッカーはそこまで好きじゃないが、やっぱり日本には勝って欲しい。



[19491] 第一話 青い空、白い雲、緑の木々 ~Memory of dream~
Name: 流河◆afb25d32 E-MAIL ID:aa44b85c
Date: 2010/06/26 04:31
何も見えない暗闇のなかに祐一はいた。
上も下もない空間に浮かんでいた。
左手に握った柄だけの騎士剣の感覚以外は全てが曖昧だった。
I-ブレインで状況を確認するも、膨大な情報の渦に囲まれていることしかわからない。

雪も、きっと、こんな闇の中で独りだった……。

守りたかった。助けたかった。一緒に生きたかった。
けれど、雪は自身の命と引き換えに神戸市民1000万人を選んだ。
自分は、神戸市民1000万人の命より雪を選べなかった。

悪魔使いの少年は、天使の少女の命を選んだ。

祐一にとって、あの少年の選択は眩しくもあり、醜くもあった。
自分はただ、より多くの人を救いたいと思っていただけだったはずなのに。

だから、神戸シティが崩れ去った今、自分は立ち上がれなくなったのだ。

暗闇の中、意識が途切れそうになる。
何も見えていないはずの視界が滲んだ様な気がした。

出来ることなら、守りたかった。
何を、とは思い浮かばなかった。
ただ、守りたい。そう強く願い、祐一の意識もまた暗闇の中へ沈んでいった。




魔法少女リリカルなのはW’s  (リリカル×ウィザーズ・ブレイン)
第一話    青い空、白い雲、緑の木々 ~Memory of dream~

<others>

発動したジュエルシードが更に強い光を放つ。
誰かの願いに反応したときと同じように、強く、強く、輝く。

ドクンッ、とジュエルシードが何かに反応した。

エネルギー結晶体であり、誰かの願望に反応し、それを叶えようとするジュエルシードが誰かの願いに反応したようだ。
なのはと対峙していたフェイトが、ジュエルシードに向かう直前に起こった反応。
ジュエルシードが既に願いを叶え始めているという事実に、ジュエルシードへ向かうフェイトは気が付かない。
だから、意識は以前として、なのはの方へ向いていた。
邪魔されるわけにはいかない。
動かないジュエルシードよりも、動き回るなのはに注意が向くのは仕方がないことであった。

なのはも、ユーノも、フェイトも、アルフも、誰もが間に合わないタイミングで、ジュエルシードがその力を解放した。
フェイトは強力な波動を感じ、なのはからジュエルシードに意識を移した。
なのはも慌ててフェイトの後を追い、その異常事態に気が付いた。
しかし、既に何もかもが遅かった。

果たして、なのはとフェイトが各々の杖をジュエルシードに突き出す直前に、ジュエルシードが弾けた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<なのは>

わたしもあの子、フェイトちゃんも間に合わなかった。
二人で協力すればよかったと、後悔しても既に遅い。
街中で弾けたジュエルシードの爆発が迫る。

あぁ、わたし死ぬんだ。

時間がゆっくりと過ぎる。走馬灯というやつだろう。
膨大な魔力も、マルチタスクも、高速思考も、何も役に立たない。
ジュエルシードの間近にいたわたしとフェイトちゃんは最早光の中だ。
回避することが、出来なかった。
広がっていく爆発で結界が壊れる音が響く。
結界が破壊されたため、一般人も巻き込むことになるであろう爆発は、

「……」

声を発したのは誰だったのか、突然の出来事に思考が追いつかない。
何か聞こえた気がしたが、聴覚が働いていないのか何も聞こえない。
広がった爆発は、一瞬、更に輝いたかと思うと、

「え?」

収縮していき、何事もなかった様に静寂が広がった。

思わずフェイトちゃんの方を見る。きっと彼女が何とかしたのだろう。
そう思っていたが、彼女も同じような顔でわたしを見ていた。
ユーノ君も、フェイトちゃんの使い魔さんも間に合わなかったはずで、それにもちろんわたしも何も出来なかった。

ジュエルシードがあったところを見ると、粉々に砕けた結晶だけがあった。

「あっ」

声を発したのはわたしだろうか、フェイトちゃんだろうか。
鈍い思考は状況の把握も上手くしてはくれなかった。

砕けたジュエルシードの下に、男の人が倒れていた。

(なのは!)

ユーノ君がテレパシーを使い、大声でわたしの名前を読んで駆け寄ってくる。
フェレットの姿で一生懸命に人ごみを掻き分けて、走っている。

どうして飛んでこないんだろう?あぁ、一般の人たちに見られるからか。

鈍い思考は、結界の崩壊という事実にも疎かった。
そんなわたしに代わり、レイジングハートがバリアジャケットや杖を解除してくれていた。
フェイトちゃんも姿を消していた。

わたしは力が抜けてぺたりと座ってしまう。
視線を少し動かすと、倒れて気絶している男の人の顔が見えた。

……泣いてる。

目元から、一筋だけの涙の後が見えた。


そこで、わたしも意識を手放してしまった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<なのは>

気が付くと、家の前にいた。
緑色の魔法陣が暖かい優しい光を放っていた。

「ユーノ君?」
「なのは、気が付いた!」

どうやってここまで来たかと聞いたところ、認識を阻害する結界を張ってから、魔法で運んできたらしい。

「二人とも目が覚めないから、こうして回復魔法をかけてたんだ」
「二人?」

そういって気が付いた。
自分のすぐ傍に、黒いマントを羽織った男の人が倒れていた。

「この人を見たら、酷い怪我をしていたんだ。細かい傷は数えきなくて、右腕の関節なんて破壊されていたし」

生きているのが、不思議なくらい。そう呟くユーノ君。
その話を聞きながら、自分が地面に座り込んでいるに気が付く。
立ち上がろうと力を込める。

「なのは?」
「にゃはは……」

力が入らない。と、弱弱しく呟く。

「だ、大丈夫?今、部屋の中に転送するね」
「ま、待ってユーノ君!」

わたしを心配して転送しようとしてくれるのはありがたい。
けれども、一つ問題を忘れているようだ。

「この人、どうしよう?」
「あ」



「なのは?帰ってきたのか?」

家の玄関が開いた。そして、そこからお兄ちゃんが出てきた。
しかし、ユーノ君の結界に阻まれてこちらを認識していない。
ユーノ君が慌てて魔法を全て解除した。

「なのは!?」
「お、お兄ちゃん」

帰ってきた、って言ったってことは、こっそり出かけているのがバレてる。
まずいな、と思う。
それだけでもまずいのに、更に今のこの状況は非常によろしくない。

「……その男は誰だ」

この非常にまずい状態に、気が付かないはずがない。
しかし、都合のいい嘘も思いつかなかった。
夜中にこっそりを外出し、帰ってきたかと思えば家の前の道路にぺたりと座り込み、更にはすぐ隣で見知らぬ男の人がぼろぼろで気絶している状況を説明できる完璧な作り話があったら、誰か教えて欲しい。

だから、素直に倒れているところを見つけて連れて来たと伝えた。
救急車を何故呼ばなかったと問われたら非常に困るなぁ。と思っていたら、

「……そうか」

それだけ呟いてお兄ちゃんは男の人を抱えてうちの中へ運び込もうとしていた。

「お、お兄ちゃん!?」
「どうした、なのは。早く家に入れ」

足に力を入れて、何とか立ち上がった。
ふらつきながら、玄関に向かう。

「……聞かないの?」
「今は言えないんだろ。だったら、まとめて全部、後で説明してくれ」

父さんと母さんになんて説明しようか。
お兄ちゃんの呟く声が聞こえた。

……もしかして、何とかなった?


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


黒沢祐一は夢を見ていた。
もうありえない、かつて夢だ。
世界が大気制御衛星の暴走により雲で覆われる前は当たり前に広がっていた記憶。
この身は戦いの中にあったが、そこには確かに、ささやかな幸せがあった。
夢に見て思う。12年前まで当たり前のようにあったそれらが、どれだけ尊い物だったのか。
もう二度と元には戻らないからこそ、わかるものなのかもしれない。

夢を見ている。
果たされなかったいつかの約束の風景。
皆が笑顔で、桜の下で騒いでお花見をしていた。
天樹姉弟が騒いでいる。それを笑って見守る天樹博士。
桜の木下で、悪魔使いの少年と天使の少女が寄り添っていた。
七瀬静江がせっかくの休みになんだい、と嫌々と携帯ディスプレイと睨めっこしていた。
家族で花見に来たらしい少女が、走り出したトラぶちの仔猫を追いかけていた。
後ろにいるのは彼女の両親であろうか、心配そうに少女を眼で追っていた。

誰もが幸せそうに、青空の下で笑っていた。

そんな姿に、思わず笑みがこぼれる。
ふと視線を感じ、横を向くと隣に座る彼女と目が合い、互いに笑顔になった。


そんな、夢を見た。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「うっ、くっ」

激痛が走り、目が覚めた。
記憶が曖昧だった。気を失う直前が思い出せない。

「目が醒めたようだね」

男の声が聞こえ、そちらを向くと柔和な笑みを浮かべた男性が座っていた。
寝かされている?
布団の上に横になっていた事実に混乱した。

おれは、さっきまで……

思い出し、跳ね起きる。
その瞬間に身体に激痛が走る。
I-ブレインで遮断しようとしたが、上手く出来なかった。

「酷い傷だった。大きな怪我は無い様であったが、全身傷だらけで出血もかなりしていたようだね。家に運び込まれてから、丸一日以上寝ていたよ」

その説明に、愕然とした。

丸一日だと!?

「あの巨人は、神戸はどうなった!」

思わず声に出して、男のほうを睨む。
そして、男の反応がおかしいことに気が付くが、更に大きな異常に思考が停止した。

チュン、チュン、という小鳥の囀りと共に、外から光が差し込んでいた。

カーテン越しに、光が差し込んでいる。

天使の少女を悪魔使いの少年から奪ったときに見た、10年以上昔に失われた光が、入り込んでいた。
祐一の視線は男、高町士郎から離れ、カーテンのその先に固定されていた。

そんな祐一の姿を見た士郎は立ち上がる。

「あぁ、そういえばもう朝だったね。カーテンを開けようか」

カーテンへと無造作に近づき、祐一の覚悟が定まる前に、それは開放された。




窓の外には青い空が広がっていた。白い雲が流れている。風に揺れる緑の木々の音が聞こえる。


「さて、そろそろ、自己紹介をしてもらっていいかな」


脳内時計が時間を告げる。
『西暦2198年2月23日午前6時45分』

しかし、外の景色は異なっていた。












――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
おまけ

ここは、日本の神戸にあるウィザブレ学園。
特殊な生徒たちが集められている。

…と噂が流されているが、実はそんなことはなく、いたって普通の学園。
魔法使いがいるとか幽霊が出るとか噂されているが、そんなことはない。

情報制御が発明されて以来、世界は今日も発展し続けている。
高度な計算を高速でするコンピュータが世界の常識を覆しているが、そんな驚きは10年も前にありきたりなものになってしまった。

世界中で、嘘か真か、様々な憶測、これからの未来が話されている。
しかしながら、脳の一部に『現存するコンピュータの何十倍の速度で演算を行う器官』を持つ特殊な人間がいるというのは都市伝説でしかない。
そんな人間が生まれたという正式な情報は上がったことがないし、そんな器官を取り付ける技術など開発もされていない。
だから、やはり都市伝説の一つでしかなかった。

「こら、待たないか、イル。壁抜けして逃げるな」
「うわっ、まだ追ってくるんかい。ええ加減にせぇ、サクラ。お前がおると碌な目にあわん」
「それはこっちの台詞だ。生徒会長として、貴様の不埒な行いは止めてみせる。って、壁抜けをするなと言ってるだろうが」
「つ、掴むな!お前に触られると何故か存在確立変わるんやから」
「変えてるからに決まってるだろう」
「マ、マジか!?」

……都市伝説である。魔法士なんて人種がいるわけがないではないか。


世界は今日も晴れ渡り、心地よい風が吹いている。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


あとがき。
『冥王』シリーズはこのSS内限定の設定です。
原作には『冥王六式』以外の『冥王』シリーズは出ておりません。
『冥王三式』は祐一の強さを制限するために取り入れました。
流石に『紅蓮』を持った祐一はリリカル世界で無双をしかねませんので。
相対速度60倍とか、魔砲少女にはどうしようもありませんよね。
リリカル世界は無印の第7話のあたりです。
続くかどうかはわかりません。ごめんなさい。
ただ、作者が鬱になればなるほど執筆頻度があがります。
八月に院試を控えた今日この頃、もしかしたら続きを書くかもしれません。
そのときはよろしくお願いします。

そうそう、W杯で日本が決勝リーグ進出しましたね。
おめでとうございます。
予選最終戦は終わってみれば3対1と余裕だったみたいですね。
決勝リーグは……。応援はします。ガンガレ日本。

訂正
科蚊化様より頂いた情報で、
>>「冥王」シリーズでは、原作では六式のほかに、三式と八式が出てきます。
>>三式は「光使いの詩」の冒頭で、祐一が使っていたのが「冥王三式」ですね。(P.12 L.2)
>>八式は、「賢人の庭」上で祐一と戦った騎士が使っていたのが「冥王八式」です。(P.156 L.14)
とありました。確認したところ、確かに出てました。

よって、冥王三式は刀身による補助がないために、結晶の核が壊れる可能性がある
と変更しました。
三式が、原作で壊れたのは、刀身が破壊されたからではなく、光使いの『Lance』を防いだ際の熱量によってであると解釈します。


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