98年、ギリシャ人船長が米ハワイ沖で海に投じたラブレター入りの瓶が、鹿児島県・奄美大島に流れ着いた。島に住む会社員、常田誠さん(38)らの協力で、手紙は12年ぶりに差出人のスタブロス・ドラカキスさん(73)へ届けられる。【足立旬子】
常田さんは昨年11月19日、島西側の国直(くになお)海岸でガラス瓶を見つけた。中には外国語で書かれた3通の手紙と、切手代とみられる米1ドル紙幣2枚が入っていた。2通は妻子あて、1通は拾った人への英語の依頼文だった。
妻への手紙は「君を深く愛し尊敬している。いつも君のことを考えている。たくさんのキスを君に」。2人の子どもには「伝えたいのは君たちを深く愛していること。少しでも家に早く帰れるよう祈っている」とギリシャ語で書かれていた。
依頼文には英語で「私の家に郵送してください。98年11月14日、ハワイ北方沖より アナスタシア号船長、S・D・ドラカキス」とあったが、自宅の住所はなかった。常田さんは知人を介して北村隆則ギリシャ大使に照会。アテネ沖のエギナ島に住んでいることが分かった。
ドラカキスさんは船乗りを引退し、家族と暮らしている。知らせに驚き「半年の航海の途中、孤独のあまり、家族に手紙を書いて瓶に入れ、海に投げた」と話しているという。手紙は7月中旬、アテネ市内の日本大使館大使公邸で渡される予定だ。
手紙の解読や照会などに9人がかかわり、思いをつないだ。妻いづみさん(35)との間に4人の子がいる常田さんは「家族を思う気持ちは共通。この縁を大切にしたい」と感激している。
11年がかりのガラス瓶の旅について、木津昭一・東北大准教授(海洋物理学)は「北太平洋を時計回りに流れる海流に乗り、途中で黒潮に取り込まれて奄美大島に漂着したのだろう。流速などから11年かかったのはありうるが、瓶が沈まなかったのは驚き。愛の力でしょうか」と話す。
毎日新聞 2010年6月26日 15時00分(最終更新 6月26日 15時24分)