PJ: 鈴木 義哉
2010参議院選はどうなるのか?(4)選挙における宗教票はどうなるのか?
2010年06月23日 08:48 JST
有権者と握手する候補者(撮影 鈴木義哉) 
【PJニュース 2010年6月23日】選挙前になると、よく議員が極秘に「宗教法人詣」に出ると噂されている。歴代首相や大物代議士はそういった人脈を巧みに利用して票をのばしてきた。首相だった安倍晋三氏は首相就任前から統一教会や創価学会とのコネクションを維持してきたが、母親の洋子氏のメンテナンスの賜物と言われている。
また昨年の総選挙では民主党が大勝利を収めたが勝因の一つとして立正校正会(以下RKK)や善隣教など70の新興系宗教団体で構成される新宗教団体連合会(以下新宗連)が民主党推薦にシフトしたからとも言われている。
特に昨年落選した公明党議員や自民大物議員を破った民主党議員の多くはRKKや他の宗教団体の支持を取り付けていた。ただRKKは地域によっては自民党を支持しており、選挙区で勝った自民党議員の多くはRKKや他の宗教団体の推薦を受けていた。今回はどうなるのか?
以外に深い宗教団体と選挙の関係
ここで言いたいのは宗教が政治にかかわることの是非ではなく、その現実である。日本国憲法の抜粋では「いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない」となっているので、宗教団体は何らかの特権を受けない限り政治に関わることは可能である。このため、以前からある創価学会を母体とした公明党や、昨年話題を呼んだ幸福の科学を母体とした幸福実現党は有名だ。ただ多くは候補者の推薦にとどまるケースはほとんどで、自民党から共産党まで多くの議員は宗教団体かその関係者の推薦を受けている。
多くの宗教団体は戦前の大政翼賛政治に加担したという過去がある。特に寺やキリスト教のとりまとめ団体が戦前の国家総動員態勢の元で作られたためだ。組織は戦後再分離したケースが多いが、ほとんどが解散されていないので、保守志向の動きになりかかると信者から批判されることが多いのだ。
例えばキリスト教プロテスタントのとりまとめ団体の「日本キリスト教団」は1940年に設立後、国家協力に路線を取った過去あり賛美歌の中には一時、「君が代」があった時期もあったほどだ。だが戦後は一部が再分離し戦争中の統括ができていないのもあって、最高責任者の「議長」は宗教的なベクトルが発信できない寄り合い所帯なのだ。
そういった事情もあって、戦後成立した新興系は政治に熱心なケースが多いが旧来系は政治に対して一線を取るスタンスが多いのが現状なのだ。
意外に多い宗教政治家
以前ある新興宗教教祖が「宗教団体代表が政治をやるのは現行法で多くの制限がある」と著書に書いていたが、そんな制限など存在しない。現実の例として自民党の参議院のリーダー格の谷川秀善・参議院議員は浄土真宗本願寺派の住職だった。また衆議院議長を勤めた綿貫民輔・元衆議院議員は富山の井波八幡宮の宮司、民主党の土肥隆一・衆議院議員はキリスト教の牧師でもある。
過去には戦後に総理大臣を務めた石橋湛山氏は日蓮宗の僧籍があったと言われている。また東北の名寺・中尊寺の貫首(責任者)を勤め直木賞作家でもある今東光・元参議院議員(故人)は文化庁長官も務めた。 ただ、「当選した人がたまたまそんな人だった」と言う事情もあって問題にはなっていない。
宗教組織票は有効なのか?
そうした事情を考えると有効なように見える「宗教票」は組織票としてやや脆弱なところもある。前回の総選挙の時の公明党は支持母体である創価学会員の一部から批判され、特に改正された派遣法などの劣化した雇用、高齢者負担を増大させた後期高齢者医療制度を決めたときの厚生労働大臣が公明党の坂口力衆議院議員と言う事実は老年層、若年層の一部学会員から批判され、堂々と民主党支持や公明党批判をする者までいたと言われている。
「福音派」を制すものが米大統領に?
一方アメリカでは大統領選に宗教票が大きな影響を与えると言われている。アメリカ人は日本ほど政治に関心がないため、宗教指導者が投票行動を大きく影響させる。特にブッシュ前大統領が「福音派」と呼ばれるキリスト教右派(元は政治に関心が無かったと言われている)の支持を受け、00年に大統領当選を果たす。
04年の二期目はイラク戦争の泥沼化が問題になり、戦争早期終結を公約とする民主党のケリー氏と対決するが「福音派」にイラク戦争をイスラム教との戦いと吹き込んだ上、「福音派」が主張する同姓結婚と妊娠中絶の禁止をブッシュが政権公約としたため、イラク問題がはぐらかされてしまった。
前回の大統領選での共和党指名争いでは当初泡沫と言われた牧師でもあるハッカビー氏やモルモン教の教師の資格もあるロムニー氏が予想に反して支持を伸ばした。だが共和党候補者は最終的にマケイン氏となったが「福音派」をまともに取り込んでなかったのもあって本選挙では民主党のオバマ氏に敗れることとなった。
よく宗教票は選挙の集票マシンと言われている。一部の宗教団体には推薦候補者リストの但し書きに「地域、職域、親戚などの繋がりで投票したい人がいればそちらを優先して下さい」と書いているケースもあり、教派によって拘束力はまちまちだ。
もちろん最終的には候補者の政策によって当落が決まることは言うまでもないが、微妙な影響が否定できないのも事実である。【了】
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