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第八話 シ者を探して三千分
<部活棟 文芸部(SSS団)部室>

6月に入り、暑さも時には感じられる日になった暖かい季節。
レイとユキを除いて一番最初に部室に来たシンジは昨日アスカと夜遅くまで格闘ゲームに熱中したせいか寝不足になっていた。
アスカはミサトの授業中に爆睡して元気を取り戻したものの、真面目なシンジは帰宅してからミサトに授業の内容を聞くと言う手は使わず、ずっと起きて授業を受けていた。
文芸部の部室は本棚を直射日光に当てるのは好ましくないと言う理由で敢えてあまり日当たりのよくない新校舎の影になるような部分に位置している。
程良い涼しさに体がリラックスし、レイとユキの間で交わされる会話が眠気を誘うようなものだったからだ。

「……だから、1990年代のマイケル大統領のときに公的資金をバンク・オブ・アメリカに注入したのが適切だと思うの」
「しかし、日本の場合、国債は1,000兆円に達しようとしている。また格付けを落とすことは必死」

政府の官僚か経済学者が話すような話の内容にシンジは自然とまぶたが重くなった。
そして眠りに入ったシンジの顔は穏やかな顔をしていたが、しだいにうなされ始めた。

「……うーん、うーん、カヲル君……」

レイとユキは話を止め、うなされるシンジの方を不思議そうに眺めている。
しかし、実際にシンジに声をかけたのは部室に入ってきたハルヒだった。

「ちょっと、あんた、起きなさいよ」
「んあ?ご、ごめんアスカ、すぐご飯を作るから……」
「はーっ、何を寝ぼけてるのよ、あんたは」

ハルヒはシンジの寝ぼけた様子を見てあきれて溜息をついた。

「あ、ごめん、ちょっといやな夢を見ちゃって……」
「だからうなされていたってワケ?」

ハルヒとシンジが真剣な表情で話していると、アスカが部室に入ってきた。

「あーっ!アンタたち、2人で何話してるのよ!」

アスカはハルヒとシンジを指差して大声でどなった。

「別に大したことじゃないわよ」
「ウソウソウソ!真面目な顔で話してた!」

ハルヒは軽くかわそうとしたが、アスカはヤケに向きになって食らいついた。

「誰もあんたの彼氏取らないわよ」
「ば、だから彼氏じゃないって……」

アスカはそう言った後口ごもってしまった。
ハルヒはそんなアスカを見て溜息をついて吐き捨てる。

「私だって健康な若い女なんだから、体をもてあましたりもするわ。でもね、一時の気の迷いで面倒を背負い込むほど馬鹿じゃないのよ」
「そんなこと言わずに、お前も普通の女子高生らしく、恋でもしたらどうだ」

キョンが遅れてそう言いながら部室へと入ってきた。

「フンっ!」

それに対し、ハルヒはむくれた感じで席に着いた。
シンジはその後はどことなく元気が無さそうな様子で、ずっと沈んだままだった。
ハルヒは固い表情でそんなシンジの方をずっと見つめていたし、何を勘違いしているのかアスカは面白くなさそうな様子でハルヒを見ていた。
キョンは部室内に漂う不審な空気に冷汗をかきっぱなしだった。

「早く、朝比奈さんとか葛城先生でも来て、この不穏な空気をぶち壊してくれよ……」

キョンの願いが通じたのか、しばらくしてミサトとミクルが部室にやってきた。

「遅くなってごめんなさい……」
「遅れてきました、……ってそんなの関係無い!」

ミサトは明るい様子で入って来たのだが、部屋の空気はすっかりと凍りついてしまった。

「あり?ちょっち滑っちゃった?」
「今の時代なら、はん○ゃの『ごめんねごめんね』が妥当」

ユキは一言そう指摘すると、席に着いた。
ミサトとミクルが席に着くと、ハルヒは満足そうに部室を見回して宣言をする。

「それでは、これからSSS団のミーティングを始めます!議題は『碇シンジを励ます会について』」

ハルヒの突然の発言に、部室に居るレイとユキを除いて全員が目を丸くして驚いた。

「ほええー、碇君落ち込んでいたんですか」

感心したようにミクルはそう呟いた。

「ごめんねー、シンちゃん。気がついてあげられなくて」
「い、いえ、落ち込んだのはさっきですから」

ミサトが申し訳なさそうに謝ると、シンジはやんわりと否定した。

「じゃあ、6月6日がシンちゃんの誕生日だし、平成記念公園でバーベキューパーティなんかどうかしら」

ミサトが提案すると、ハルヒはかなり乗り気になる。

「いいわね、それ!もちろんキョンのおごりで!」
「なぜそうなる!」

キョンは0.02秒の速さでハルヒにツッコミを入れた。

「大丈夫よ、費用はあたしがおごるから」
「そう?でもかなりの金額になるんじゃない?だったら……」
「あ、あたしはお得意様だからプラチナ割引券を持っているのよ」

ミサトのついた嘘にハルヒは納得したようでそれ以上は何も言えなかった。

「じゃあ、シンジの誕生日には各自プレゼントを持ってくること!以上!」

ハルヒの一声で、ミーティングは終了し、シンジの誕生日に備えて各自解散、と言うことになったのだが……。
キョンは部室を出て行こうとしたところをハルヒに襟首をつかまれて屋上に連行された。

「……協力しなさい!」
「何をだ?」
「『カヲル』探しよ!」
「……さっぱりワケが分からん」

ハルヒはキョンをつかみ上げていた襟首を離すと、キョンにみんなが部室に来る前にあった一件を説明した。

「ふーん、んで、その名前と男だって言うことしかわからないやつを探すって言うのか」
「うなされながら名前を言っていたのよ、何か深ーいワケがあるに決まっているわ。最高のプレゼントになるじゃない」

ハルヒが堂々とした態度でそう言い切ると、キョンは深くため息をついた。

「……なあ、お前は謎の人物探しがしたいだけなんだろ?」
「ふふん、ようやく分かって来たじゃない?その方が面白いからよ」

キョンの意思はことごとく無視され、数日後に控えたシンジの誕生日に向けて、シンジに関係のある『カヲル君』なる人物を翌日から探すことになった。
翌日の放課後、疲れている様子のハルヒがキョンに話しかける。

「キョン~、あんたしっかり気合を入れて探しなさいよ。今日のクラブ活動は休みにしておくわ」

そう言ってハルヒは心なしか元気が無い様子で教室を出て行く。

「……おかしいな、あいつ、もっと張り切って探しに行くと思ったんだけどな」

そんなハルヒの様子を見てキョンは首をかしげた。
キョンは元から真面目に探す気は無く、適当にシンジの知り合いに『カヲル』について聞いて回ることにした。

「なんや?シンジの知り合いで『カヲル』っちゅんやったら、あいつのことやないかな?」

キョンの話を聞いたトウジの返事に、キョンは驚いた後に安堵のため息をついて、トウジに『カヲル君』のところに案内してもらうことにする。

「やれやれ、こんなに簡単に見つかるとはな……」

しかし、トウジに紹介された人物を見て、キョンは思わず固まってしまった。
そこへハルヒからの電話がかかってくる。

「……キョン、あんた『カヲル』を一人ぐらい見つけたんでしょうね!」
「あ、ああ……一応俺の目の前に居るんだが……」
「ホント!?じゃあ、今から行くから、待ってなさい!」
「お、おい……」

ハルヒは嬉しそうに電話を切り、キョンは困った様子で天を仰いだ。

「どうすりゃいいんだ……」

キョンは疲れたように立ちつくすしかなかった。
そして2時間後……。
やっとハルヒが駆けつけてやってきた。

「遅かったな」
「これでも急いできたのよっ!」

ハルヒを息を切らしながら、『カヲル』を探して辺りを見回す。

「ハルヒ、こちらが『かおる君』。5歳だそうだ」
「ねーちゃん、シンジ兄ちゃんの何が聞きたいの?」

キョンが幼稚園児を指差すと、ハルヒは顔を真っ赤にして怒りだした!

「ふざけないでよっ!あたしはわざわざ第三新東京市から戻って来たのに、こんなものを見せて」
「こんなものとはひどいよ、ねーちゃん」

ハルヒはかおる君に謝って家に帰したあと、再びキョンを怒鳴りつける。

「もう、壮大な骨折り損だわ」
「おいおい、まさかあいつが中学二年の時に親の都合で一時的に住んでいたって言う第三新東京市まで探しに行ってたのかよ?」
「そうよ。だから近場はあんたに任せたんじゃない」
「謎を調べて面白がるためにそこまでするのか……」

キョンは思いっきりあきれ返ってため息をついた。

「でも、シンジが良く買い物に行った商店街の人とか、通っていた第壱中学の生徒にも聞いたけど、『カヲル』に関する収穫は無かったのよ。代わりにたくさん聞かされたのがアスカとシンジの浮ついた話ばっかり。2人で買い物によく来ていた、とか、教室で夫婦喧嘩をよくしてた、とか。やっぱりあの2人できてるんだわ」
「お前、凄い範囲で話を聞いて来たんだな」

キョンはハルヒの体力に素直に感心した。
その後もキョンとハルヒは『カヲル』の調査を続行し、まる二日かけても手掛かりは集まらず、シンジの誕生日当日を迎えた。



<第三新東京市 平成記念公園 バーベキュー場>

「……なんかデジャヴみたいなものを感じるわね」
「うん、父さんと母さんが出て来そうな気がするよ」

バーベキュー会場には”ネルフスキー場誕生祝賀会”と垂れ幕が下げられていた。

「こういうわけで、パーティ費用は司令のポケットマネーから出ているのよ」
「司令も太っ腹ね」

ミサトの説明にアスカは感心した。
ゲンドウはすでにポケットマネーで高級外車の頭金も払っているのだった。
よく見ると周りで騒いでいるのはアスカやシンジの見知ったネルフ職員ばかり。
リツコはもちろんのこと、オペレーターの三人や、エヴァンゲリオン整備スタッフの知り合いなども居た。

「ねえミサト、これってどっかの企業のパーティじゃないの?」
「違うわよハルヒちゃん、あたしたちのような一般のお客さんもいるのよ。だってサラリーマンショックで不景気なこの世の中でこんな広い会場を貸し切る企業なんてあるわけ無いじゃない」

ミサトはハルヒの質問に答えながら、国家公務員である自分たちがこんなに営利に走って良いものだろうかと少しだけ良心が痛んだ。

「シンジ君、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます、リツコさん」
「「「シンジ君、誕生日おめでとう」」」

リツコやオペレーターの三人など、やたら大人の人たちに祝福されるシンジの姿にもハルヒは疑問を持ったようだが、ミサトが必死にごまかした。
全員ネルフの制服を着ていたらバレバレだったかもしれないが、幸い私服だった。

「あのステージの上に居る人が近くに居る団体の企業の社長さん?ちょっと顔が怖すぎるよね。特にあのサングラスとか」

ハルヒはそう言ってゲンドウを指差すが、シンジとアスカとミサトは他人のふりを貫き通した。
もちろん、自分たちの正体がハルヒにばれたらまずいので、向こうの方からも声をかけてこなかったが。
そして、トウジやケンスケ、ヒカリも招いたシンジの誕生日パーティが始まった。

「あ、あのっ、これ誕生日ケーキです。ヒカリさんも手伝ってくれたんですよ」

ミクルが誕生日ケーキを運んでくると会場は盛り上ってきた。
そして、肉の焼ける音が辺りに響き渡り、いよいよ食事が始まる。

「レイ、アンタいつの間に肉が食べられるようになったの?」

肉を思いっきりほうばっているレイの姿を見て、アスカは驚いて問いかけた。

「彼女が肉を食べられないと言うので、物体の情報を変化させることで血液成分などを消去した。外見上は変わらないが、中身は野菜のようなものに代わっている」

レイの代わりにユキの説明が帰って来た。

「アンタ、スキー場で逆流した事といい、なんでもありね」
「そんなことは無い。例えば人の精神情報を勝手に書き換えることなどはできない。デジタル化できないから。また通貨を無限に発生をさせるなど法に触れる行為もできない」

みんな必死に目の前にある肉にかぶりつくことに夢中になっていると思われたが、キョンはハルヒの食欲があまりない事に気がついた。

「おい、どうしやんだハルヒ。いつものお前なら『さー、食うぞー♪』とか言って人一倍食べるじゃないか」
「キョン、ちょっと付き合ってくれる?2人だけで話したいことがあるから」

キョンとハルヒはトイレに行くと言って公園のトイレの前までやってきた。

「なんだよ、話って?」
「……あんた、本気で『カヲル』を探したんでしょうね!?」

ハルヒに詰め寄られるとキョンは戸惑いながらも言い返す。

「ああ、シンジのやつにばれない程度に色々聞いて回ったが、結局みつからなかったんだ、諦めろ」
「ホントにホント!?草の根分けても探したの!?第三新東京市にいたあたしより、あんたの方が確率高かったのよ!」

ハルヒは興奮してキョンの肩をつかんで揺さぶる。
そこに偶然一人の高校生が通りかかる。

「WOWOWO落し物~♪」

上機嫌で鼻歌を歌いながら現れた彼はハルヒがキョンの肩をつかんでいる姿を見ると叫び声をあげて立ち去って行った。

「見ろ、谷口のやつに誤解されたじゃないか」

ハルヒは不満そうにキョンの肩から手を離し、またシンジたちの元へと帰った。
シンジは突然祝ってもらった初めての誕生日に少々感動をしながらも喜んでいたようだ。
トウジとケンスケからは格闘ゲーム『バーチャンとロン毛』、ユキからは『上司にNOと言える会社員になれる本』、レイからは『シャーペンのシンちゃん』と言う漫画を受け取っていた。
キョンとハルヒはプレゼントが間に合わなかったと素直に謝った。

「あれ、アスカのシンちゃんへのプレゼントは?」
「お、おかしいわね……。家に忘れちゃったみたいだから後で渡すわ」

その返事にミサトはニヤニヤしながらアスカのことを見ていた。

「……ねえ、カヲル君って誰?」
「そやそや、キョンのやつにも聞かれたで、いったい誰何や?」

ハルヒはつい聞いてしまってから、シンジの顔が苦痛にゆがむのを見て、しまった、と後悔した。
しかし、シンジはゆっくりと『渚カヲル』についての話を初めた。

「そうだね、アスカやトウジたちも知らないことだし、話しておこうか」
「シンジ君……!」
「大丈夫ですよミサトさん、あれから随分たったんですから」

それから辺りは静まり返り、シンジの話が始まった。
もちろん、エヴァやネルフに関することは隠したまま、一人でいて寂しいところに出会った謎の少年と言うことにして置いた。
アスカもカヲルとは直接会ってはいないので、シンジの話に聞き入った。
寂しかったシンジにとってカヲルが居てどんなに嬉しかったかと言うことを話し、最後はカヲルは二度と会えないような遠くに行ってしまったと言うことにして締めくくった。

「ふーん。そんなやつが居たなら、あたしも会ってみたかったわね」

シンジの話を聞いて、ハルヒは感心したように頷いた。
すると、ネルフの職員達が集まっている方が騒がしくなり、中には悲鳴が上がっている。

「いったい、どうしたのかしら」 

不穏な気配を感じてミサトが目つきを鋭くして警戒しながら悲鳴の上がっている方を見ると、その中心には銀髪に赤い目をした少年が北高の制服を着てこちらに向かって歩いて来る。

「な、なんで……」
「きゃー、しっかりしてください先輩」

あり得ない事態にミサトは思いっきり驚いたが、リツコはそれ以上にショックが大きかったようだ。
ここで大乱闘を起こすわけにもいかずネルフ職員たちも遠巻きに彼を見つめるだけ。

「やあシンジ君、誕生日おめでとう」

カヲルがシンジの近くによってニッコリほほ笑みかけながら声をかけた。

「な、なんでここに……」
「さあ、神の思し召しじゃないのかな?」

カヲルは軽い調子でシンジの質問に答え、ハルヒの方をチラッと見た。

「本当に……カヲル君なの?」

シンジが感涙を流しながらゆっくりと問いかけると、カヲルはアルカイックスマイルで両腕を広げてシンジに答える。

「そうだよ、さあ安心して僕の胸に飛び込んで……ぐふ」
「このホモ!」

慌てて横から入ってきたアスカがカヲルを思いっきり突き飛ばした。
シンジは今までもらったどのプレゼントよりも喜んでいた。

「失礼だな君は。僕は男性と女性、どちらも区別しないだけなんだ。魅力的な人間は好意に値するよ」

そう言ってカヲルがシンジの手を握ると、シンジはボーっとした表情になった。

「さあ、僕も混ぜてくれないか?」

その後、シンジの誕生日パーティは少しぎこちない空気になったが、シンジが喜んでカヲルと話していると言うことで特に責めたりはしなかった。
突然現れたカヲルに注目が集まり、質問も集中したが、カヲルも状況を理解しているのか、エヴァや使徒関係の事項は上手くごまかしていた。

「何よ、カヲル君、カヲル君って……。あいつと話してばっかりじゃないの」

アスカだけがただ一人、不機嫌だった。
キョンは嬉しそうにカヲルに質問をしているハルヒを眺めながら、少し考え込んでいた。

「ハルヒのやつが一生懸命カヲルを探していたのは、本当に面白そうだからってだけなのか?それだけのために第三新東京市を丸二日間探すなんてできるものだろうか?もしかして、シンジのやつのことを思って……」

キョンはそこまで考えて首を横に振った。

「いや、あいつにそんな優しさがあるわけ無い。現にやりたい放題で俺を酷使しているからな」

しかし、キョンはアスカの方をチラッと見て何かに気がついたようにまた呟く。

「惣流のやつはシンジのやつにツラく当たるよな。女って言うのはそう言うもんなのか?じゃあハルヒが俺にツラく当たるのも……いや、多分ハルヒのやつはシンジが好きだったりするんだろうな。ラッキーだったなシンジ、ハルヒのやつが惣流のやつと逆パターンで」

キョンは今度はハルヒの方に目を移す。

「思えば、こいつの破天荒な言動ばかりに目を奪われていたが、意外と聡明で、常識的な女なのかもしれん。第二東京市の捜索を俺に任せたのもそう言う計算があったかもしれないしな」
「何よ?あたしに何か言いたいことでもあるの?」
「い、いや」

ハルヒに見つめられたキョンは慌てて視線をそらし、自分が感じた心臓の跳ね上がる感覚にショックを受けた。
ハルヒはまたカヲルと話すことに興味を向けたようだ。
そして、パーティが解散になり、カヲルは帰り道に冷静さを取り戻したリツコに声をかけられた。

「渚カヲル君、あなたのことを詳しく聞きたいからネルフまで来てくれるかしら?」
「別に構いませんよ。僕はもう使徒ではありませんし。彼女がそう望んだことですから」

カヲルは笑顔でリツコの要請に応じ、ネルフの公用車に乗り込んで行った。
一方、パーティの後のアスカは非常に不機嫌な様子で家に帰った。

「アスカ、シンちゃんの気持ちも察してあげてよ。彼を使徒として殲滅した時はかなり参っていたしさ……」
「わかってるわよ!でも何かムカつくのよ!」

アスカは部屋に戻ると、シンジのために用意していたプレゼントの箱を見つめていた。
中には中古屋『ブッ○・オフ』で少し高い値段を出して買ったS-DAT用のカセットテープが入っている。
アスカはシンジを思いっきり驚かせてやろうとお金を貯めて買っていたのだ。

「あんなに舞い上がっているシンジに渡せるワケ無いじゃない……」

アスカは溜息をついてベッドにもぐりこんだ。
しかし、その翌日。
アスカはとても嬉しそうなシンジに起こされた。
そして、さらに数日後、シンジの部屋で1つのS-DATから、イヤホンを片方ずつ着けて曲を聞くアスカとシンジの姿をミサトは目撃してニヤニヤ見つめていた。

「アスカ、反対側の耳に付けないと……お互いの顔が近すぎるよ」
「仕方ないから、このままで我慢してあげるわよ」

2人はお互いの頬が触れた部分と肩の部分だけ、体が熱くなった気がしていた……。