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第二話 SSS団誕生!
<第二新東京市立北高校 1年5組 教室>

「涼宮さんって、黙っていれば美人に見えるんだけどな……」

教室でシンジはハルヒの方を見てポツリと呟いた。
そして、二つ後ろの席に座っているアスカが自分を鬼のような目でにらんでいることに気がつくと、シンジは慌てて視線を前に戻す。
その様子を目ざとく察知したケンスケが溜息をついてシンジに話しかける。

「……お前、惣流から涼宮のやつに心が移ったのか?でもアイツはやめておけ。中学で1年間アイツと同じクラスだったんだけどさ、アイツの奇人変人ぶりは常軌を逸して居るぜ」
「せやせや」

ケンスケの言葉にトウジが頷いた。
トウジの足は義足なので、ネルフの技術の最先端を駆使したものであってもまだ歩くのが精いっぱい。
リハビリの真っ最中でトウジは運動部には所属できなかった。
もちろん、それがシンジにとっての胸の棘の一つになっている……。

「あの自己紹介とか?」
「中学の時もさんざん変なことをやり倒していたなあ。有名なのが校庭落書き事件」
「何それ?」
「グラウンドに白線を引く道具があるだろ?あれでおかしな図形を校庭いっぱいに書きなぐったんだ」

ケンスケがそう説明するとトウジも呆れた顔で付け加える。

「しかも、夜中の学校でや!ホンマ、呆れるで」
「犯人が涼宮さんだって言うの?」
「本人がそう言うんだから、間違いないさ」

予鈴のチャイムが鳴り響き、ケンスケとトウジは自分のクラスに戻るために教室へと戻っていた。
一方、キョンは前の席に座る涼宮ハルヒに話しかける。

「なあ、しょっぱなの自己紹介のアレ、冗談だろ?」
「アレって何よ?」

ハルヒは振り返ってキョンをにらみつけた。

「宇宙人とか、未来人とか、超能力者とかってやつだよ」
「あんた、宇宙人なの?」
「いや、違うけどさ」
「じゃあ、あたしに話しかけないで!時間の無駄よ!」

しどろもどろになって否定するキョンに、ハルヒは不機嫌そうにがなり立てた。
真後ろで頬杖を付きながら話しを聞いていたアスカだったが、その顔には青筋が立っている。

「……あんな女の相手、どうすればいいっていうのよ!」

アスカはハルヒの背中をにらみつけてそう呟いた。
また休み時間になると、アスカの席には交際を申し込みに来る男子が頻繁にやってくる。
アスカはその一つ一つをうざったいと思いながらも丁寧に断りつつ、モテる自分を少し心地よく感じていた。

「……アスカは相変わらずモテるんだね」
「まあ、見た目だけは悪くないしな」
「そのうち本性を現したら、相手にされなくなるがな」

シンジ、ケンスケ、トウジの呟きも、負け犬の遠吠えだとばかりに聞き流していたアスカだったのだが……。

「そういや、涼宮のやつ、中学の時はアレより凄くモテたんだぜ?」

ケンスケの言葉が耳に届くと、アスカは眉をピクリとつりあげて神経をケンスケの方に集中させた。

「スポーツ万能、成績優秀。ちょっと黙っていたらあの通り美少女だしさ」
「なんか、中学の頃にあったの?」

シンジがそう質問すると、ケンスケは話しを続ける。

「一時期はとっかえひっかえってやつだったな。俺の知る限り、一番長く続いて一週間。最短なら告白されてOKして5分後に破局してた、なんてこともあったらしい」
「……それは無いと思うよ」

シンジはアスカがデートの途中に相手をすっぽかして帰って来た時のことを思い出した。

「何でか知らないけどさアイツ、コクられて断ることを知らないんだよ。だからお前が変な気を起こす前に言っといてやる、やめとけよ」
「な、何を勘違いしているんだよ、ケンスケ」

ケンスケの話を聞き終わったアスカは、湯気でも湧いているかのように顔を赤らめ、ハルヒの背中をにらみつけた。
体育の授業は1年5組と1年6組の合同授業。
というわけで体育の授業中もシンジはケンスケとトウジと一緒に群れている。

「俺の一押しの女子はアイツだな」

ケンスケはそう言って一人の黒い長髪の女子に視線を送った。

「朝倉リョウコ。性格も穏やかで惣流や涼宮とは大違いだぜ」
「そら、奇跡みたいな存在やな」

トウジは感心したように呟いた。
女子は出席番号順に5~6人のグループで徒競走を行っているようで、アスカとハルヒは同グループとなってしまった。
スタート位置についたアスカはハルヒを思いっきりにらみつけるが、ハルヒの方はてんでアスカに興味が無いようだ。
合図と同時に5人は同時に走り出す。
アスカはぶっちぎりでハルヒに勝ち、その澄ました態度を崩してやろうと考えていた。
しかし、入院生活が長かったせいなのか、ハルヒがスポーツ万能すぎたのか……アスカは惜しくも僅差の2位でハルヒに敗れてしまった。
勝ったハルヒは嬉しそうにもせず、何の反応も見せない。
その様子にアスカはとてつもない失望感を感じ、自分のプライドが打ち砕かれた感じがした。

「おい、いいのか、惣流のやつを慰めに行かないで……」

ケンスケに言われたシンジも、アスカが実は傷つきやすい面があることは知っている。
しかし、マズイことを言って嫌われてしまうかもと思い、シンジはアスカに近づけなかった。
偶然、一瞬だけアスカとシンジの視線がぶつかった。
その時シンジは自分の判断を後悔し、アスカに近づこうと腰を浮かせたが、アスカは他の女子や男子に取り囲まれた後だった。
シンジは溜息をついて、アスカの側に行くことを諦めた。
対してハルヒは別にアスカに勝ったスーパーヒロインとして囲まれるわけでもなく、孤高の存在としてベンチの隅に一人で腰をおろしていた。
ハルヒの奇想天外な行動はこの時期は大人しいものであったが、それでも周囲を驚かせるには充分だった。
ハルヒは毎日曜日ごとに髪型を変えていて、さらに男子の前で平気で制服を脱いで体育着に着替えようとする。
男子は悲鳴を上げる女子からいきなり教室を追い出されるという災難に遭っていた。
そして、ハルヒはこの高校に存在する全ての部活に仮入部し、運動部からは熱心に入部を勧められるほどだった。
アスカはアスカでハルヒにライバル心を燃やしているのか、ハルヒの後ろを金魚のフンのように追いかけ、ストーカーだとうわさされるぐらいだった。
ハルヒもアスカも気まぐれに部活に参加するだけで、結局どこの部活にも入らなかった。
シンジは吹奏楽部に興味があったのだが、ネルフの司令をこなすという気持ちが先に立って帰宅部。
トウジは足のリハビリがあるため放課後は通院し、ヒカリもそれに付き合っている。
ケンスケは迷った末に映画研究部へと入った。
レイは面白い本があると言う理由で文芸部に入った。
そんな日が続いたある日、キョンはたまたま出来心でハルヒに再び話しかけていた。

「なあ、毎日の髪型が変わるのは宇宙人対策かなんかか?」
「……いつ気づいたの?」

目の前で行われたハルヒとキョンの会話に、アスカは頬杖の体勢を崩しておでこを机にぶつけてしまった。

「あたし思うんだけど、曜日によって感じるイメージが異なる気がするのよね」
「ってことは、月曜が0で、日曜日が6ってことか」

しかも会話が成立しているハルヒとキョンの様子に、アスカは異世界の人間を見るような驚いた表情を浮かべた。
ハルヒはそんなあきれ顔のアスカなど全く眼中に入れず、キョンの顔を見つめ続けている。

「あたし、あんたに会ったことある?……ずっと前に」
「いいや」

キョンがそう答えると、ハルヒは溜息をついて背中を向けてしまった。
次の日。ハルヒは長かった髪をバッサリと切り落として、ショートカットに黄色いカチューシャといった髪型で席に座っていた。
それを見たキョンはたじろいだが、アスカは持っていたカバンを落とすほどショックを受けていた。
アスカはキョンのこともハルヒを陥落させた油断ならない存在として、ネルフに報告を入れた。
その日からハルヒとキョンは休み時間などに親しく話す存在となり、アスカは頬杖をついてその会話を盗聴するのが日課のようになっていた。

「……それと、告白が手紙や電話なのは一体どういうワケ!?そんな大事なことは面と向かって話しなさいよ!」

その言葉にアスカは思わず立ち上がって同調したい気持ちになったが、そこは割って入らずに二人の話を聞くことに気持ちを押さえた。

「ほんっと、世の中ろくでもない男ばっかりよ!」

プンプン怒りながら話すハルヒの様子を見ているアスカは、彼女の言葉に納得したような表情を浮かべていた。

「なんでそんな普通の人間以外にこだわるんだ?宇宙人とか、未来人とか……」
「決まっているじゃない、そっちの方が面白いからよ!」

腕を組んで堂々とキョンの質問に答えるハルヒにアスカはまた驚いて目を丸くした。
チャイムが鳴ってハルヒがいそいそと教室を出ていくと、アスカはキョンに詰め寄った。

「アンタ、いったいどこの機関の回し者よ?」
「いったい何の話だよ?」

アスカに突然話しかけられたキョンは驚いてそう答えた。

「アンタも目的があってアイツに近づいているんでしょう?だから、そんなに長く話せるんだわ。一体何が目的よ!?」

シンジは暴走を始めたアスカを止めようと急いで側に駆け寄った。

「い、今言ったことは気にしないで、ちょっとアスカは頭が混乱しているんだ、ハハハ……」

アスカはそう言って愛想笑いをキョンに向けているシンジをにらみつけていると、クラスの女子、朝倉リョウコもキョンたちの側へとやってくる。

「私も聞きたいな、その話。私がいくら話しかけても、何にも答えてくれない涼宮さんが、どうしたら話すようになるのか、コツでもあるの?」
「分からん」

キョンが否定した後、リョウコは感心したようにため息をついた後話しを続ける。

「でも安心した。涼宮さん、いつまでもクラスで孤立したままだと困るものね。1人でも友達ができたことはいいことよね」
「友達か……」

そう言って考え込んだキョンにリョウコは笑顔で話しかける。

「これから何か涼宮さんに伝えることがあったら、あなたから伝えてもらうことにするから」
「ちょっと待てよ!俺はアイツのスポークスマンでもなんでもないんだぞ!」

怒ったキョンの反応を見て、アスカはとりあえずキョンを厳しく問い詰めるのを止め、シンジの足を思いっきり踏んずけて席に座りなおした。

「痛った~!」

シンジは足を押さえて、空いたハルヒの席に倒れ込んだ。

「くだらない夫婦漫才はやめて、そこ退いてくれる?座れないじゃない」
「ご、ごめん」

帰って来たハルヒにそう言われてシンジは謝って退いた。

「アタシとシンジは単なる知り合いよ!」

アスカはシンジを指差してハルヒに向かってどなり散らすが、ハルヒは嫌な顔をする。

「うるさい、そんなこと聞いてない」

ハルヒはそれだけ言って席に腰を下ろした。

そしてクラスのくじ引きによる席替えが行われた。
缶に入れられた紙を引いて席順を決めると言うもので、キョンは窓際後方2番目という位置を得て喜んでいたのだが、ハルヒが真後ろの席に座るのを見てガッカリしていた。
一方、アスカの席は廊下側の前から1番目、しかも左隣りにシンジという席になってしまった。
アスカは困った顔をしてシンジの横顔を眺めたあと、担任のミサトに詰め寄った。

「ミサト!アンタくじに細工したわね!学校でもアタシたちをからかうなんて、趣味悪ーい」
「ちょ、ちょっち待ってよ!ホント!本当に偶然なんだから!信じてよアスカ!」

ミサトは何度も何度も拝みながらペコペコとアスカに頭を下げて謝罪し、なんとかアスカは渋々追求するのを止めた。
そしてミサトによる英語の授業中、ハルヒは突然、前の席でうつらうつらしていたキョンの首を思いっきり引っ張った。
キョンは後頭部を思いっきりハルヒの机に打ちつけられて目を覚まし、飛び起きてハルヒに向かって文句を垂れる。

「何しやがる!」
「気がついたわ!」

そう言って、ハルヒは嬉しそうに腕を頭上に付きあげた。

「何に?」
「どうしてこんな簡単なことに気がつかなかったのかしら!ないんだったら自分で作ればいいのよ!」
「だから何を?」

頭をさすりながら問いかけるキョンにハルヒは弾けるような笑顔で叫ぶ。

「自分の部活よ!」
「あーわかった、でもとりあえず、今は落ち着こうな」

キョンはそう言って興奮するハルヒの肩に手を置いた。

「何よ、その反応?もうちょっとあんたも喜びなさいよ、この世紀の大発見にさ」

ハルヒはむくれた感じでキョンをにらみつけた。

「ちょっと涼宮さん。この授業が終わったらあたしのところに来なさい」

ミサトは額に四つ角や縦筋でも書いてあるかのような怒った表情でハルヒに笑いかけた。
その後の休み時間。不機嫌なハルヒはミサトと一緒に生徒指導室へと入っていった。
しかし、出てきた時は一転、二人は晴れやかな笑顔を浮かべていた。

「なんだ、ミサトも話しが分かるじゃん!」
「ハルヒちゃんもこんな面白いとは思わなかったわ」

急激に仲が良くなったミサトとハルヒの姿を見て、シンジとアスカは背筋が凍るほどの嫌な予感を覚えた。
授業終了のチャイムが鳴り響くと同時にキョンは嬉しそうに爆走するハルヒに引っ張られて屋上の入口の踊り場まで引っ張られた。

「協力しなさい」

ハルヒはキョンの首根っこをつかんだままそう言った。

「何に協力するって?」
「あたしの新クラブ作りよ。あたしは部室と部員を確保するから、あんたは学校に提出する書類を揃えなさい」

ハルヒはキョンの問いかけを全く無視してまくし立てた。

「どんなクラブを作るんだよ?」
「そんなのは後で考えるからいいの。とにかく、今日の放課後までに頼んだわよ!」

ハルヒはそう言いつけると、ぼう然とするキョンを置いて姿を階下へと消した。



<部活棟 文芸部部室>

そして、その日の放課後、授業終了のチャイムが鳴り響くと同時にキョンは嬉しそうに爆走するハルヒに引っ張られて文芸部の部室へと連れてこられた。

「これからこの部屋が、我々の部室よ!」

ハルヒはキョンの前で嬉しそうにはしゃぎながらクルクルと回った。

「ちょっとまて、ここはどこだ?」
「ここは文芸部の部室よ」

キョンの質問にハルヒはさらりと答えた。

「じゃあ、文芸部の部室じゃないのか?」
「でも、今年の春に3年生が全員卒業して、部員はゼロ。新たに誰かが入部していないと休部が決定していた、唯一のクラブなのよ」

ハルヒはそこまで言って、部屋の中で座って本を読んでいた水色のショートカットの少女、レイの肩に軽く手を置いた。

「で、この子が唯一の新入部員」
「じゃあ休部になっていないじゃないか」

キョンは天を仰ぐようにハルヒに問いかけた。

「大丈夫よ。あの子とは話しがついているんだから」
「本当か、そりゃ?」

レイはハルヒとキョンを気にかけずに本を読んでいた。

「昼休みに会って、部室ちょうだい、って聞いたら、どうぞって。本さえ読めればいいらしいわ。変わっていると言えば変わった子ね」

ハルヒはそう言って少しだけ頭をかしげた。

「綾波レイ……」

レイはキョンに顔を向けてそれだけ言うと、また本を読む事に戻ってしまった。

「じゃあ、綾波さんとやら、コイツはこの部屋を何だかわけのわからない部活の部室にしようとしているんだが、それでいいのか?」
「いい。命令だから」

おずおずと話すキョンの説明に、レイは本を読む手を止めずに淡々と答えた。

「命令って誰の?」
「言えない」

レイの答えにキョンが首をひねっていると、元気な様子のミサトと、ぐったりした様子のシンジとアスカが部室に入ってきた。

「ハルヒちゃん、元気ー?部員連れてきたわよ!」

ハルヒはシンジとアスカの顔をまじまじと眺める。

「ふーん。まあこの2人でもいいか」
「いったいどういうことよ?」

不機嫌そうなアスカをよそに、ハルヒは満足したように笑顔で叫ぶ。

「何を考えているか分からない無口キャラ!」

そう言ってハルヒはレイを指差した。

「金髪のごう慢チキお嬢様キャラ!」

ハルヒに指差されたアスカは怒るより唖然としてしまっていた。

「女装が似合いそうなショタ系男子!」

ハルヒに指差されたシンジは少しショックを受けて落ち込んでしまった。

「基本的にね、SFのようにおかしなことが起こる物語にはこのようなキャラが必要なのよ」

そう言って堂々と胸を張るハルヒ。

「で、文芸部って何をするところなのよ?」

アスカに聞かれたハルヒは指を振る。

「我々は文芸部じゃないわ、大丈夫、名前と活動内容はたった今、考えたから!」
「言ってみろ」

キョンがそう促すと、ハルヒは部活の名称と活動内容を発表した。
しかし、それを聞いたアスカが怒りだし、すったもんだの話し合いの末……。
団長涼宮ハルヒ、副団長惣流・アスカ・ラングレー、顧問葛城ミサト、部員に碇シンジ、キョン、綾波レイとする新クラブが誕生した。
正式名称は『涼宮ハルヒと惣流・アスカ・ラングレーの世界を大いに盛り上げる団』、略称SSS団だ。
活動内容は宇宙人、未来人、異世界人を探し出して楽しく遊ぶこと、とハルヒは1人で盛り上がっているようだ。

「ハルヒにクラブを作らせることを許可するなんて、どういうつもりよ?」

アスカがミサトをジト目でにらみつけると、ミサトは手を銃の形にしてウインクをする。

「これでハルヒちゃんの側に居るオフィシャルな口実ができたじゃない。シンちゃん、アスカ、ナイスアイディアでしょう」

ミサトは笑顔でシンジとアスカに話しかけたが、シンジとアスカの表情はさえなかった。
それはともかくとして、こうしてSSS団は誕生し、シンジたちの学園生活も本格的に始まったのである。