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第六話 人数が多いっ!
<ロレント市郊外 マルガ山道>

エステルとヨシュアの前に姿を現した人物達は、以前に翡翠の塔でルックとパットを脅していた不審な人物と同じような服装をしていた。
顔は完全に兜に覆われていて、その表情はうかがいしれない。
動力銃と重剣を持った二人組だった。
二人はエステルとヨシュアが身構えているのを見ると、無言で武器を構えた。

「こ、こいつらいったい何なのよ……」
「僕達の命を狙っている事は確かなようだね」

エステルは前衛に出て来た重剣使いに狙いを定めた。
ヨシュアもソウルブラーの詠唱を始める。
集中攻撃をする作戦に出たのだが、ヨシュアの詠唱は銃撃によって妨害されてしまった。

「うわあ!」
「何よ、あの銃を持ったやつ、こっちのアーツを妨害する技を持っているの!?」

驚いたエステルに重剣使いの一撃が襲いかかる!
エステルはとっさに何とか棒で攻撃を受け止めた。

「手が痺れたっ~! なんて重い攻撃なの?」

ヨシュアがエステルを守るために重剣使いに攻撃を仕掛ける。
しかし、重剣使いはヨシュアの攻撃を難なく受け止めると、ヨシュアの手から短剣を弾き飛ばした!

「あっ……!」

武器を失ってしまったヨシュア。
もう片方の手には短剣が残されているが、心細い。

「ヨシュアは下がっていて!」
「でもエステル一人じゃきついよ……」
「アーツも妨害されちゃうし、どうしたらいいの……」

二人組とにらみ合うエステルとヨシュアの背後からたくさんの足音が近づいて来る。

「おとなしくボク達にセプチウムの結晶を渡せ! でないと痛い目に……ってアレ?」

集団の先頭に居たバンダナを巻いた少女はそう名乗りを上げた後、エステルとヨシュアの背後に居る二人組を見て驚きの声を上げた。

「お嬢、相手はガキ二人組だけって話じゃあ?」
「用心棒でも雇ったのかな?」
「でも、あの二人はお互い仲間って感じじゃないですぜ」

バンダナ少女は連れ立った仲間のゴーグルを付けた男性達とゴソゴソ言い合っている。

「ええっ、じゃあ本物?」
「お嬢、予定外の事ですがこれはチャンスですぜ、追加料金も請求できる」
「決まりだね」

話し合いを終えたバンダナ少女はエステルとヨシュアの後ろに居る二人組に向かって声をかけた。

「この強盗め、お前達もセプチウムの結晶を狙っているんだろう? ボク達の邪魔はさせないぞ!」

すると二人組はエステルとヨシュアを無視してバンダナ少女とゴーグルを付けた男性達の一味に向かって近づいていく。

「何だよお前達、やるって言うのかよ!」

そう言ってバンダナ少女も導力銃を構える。
ゴーグルを付けた男性達も短剣を取り出し、二人組に襲いかかった。

「ちょっと、悪者同士で戦闘が始まっちゃったけど、どっちの味方をすればいいの?」
「エステル、それは違うって。ここは今のうちに隙をついて逃げた方が良いんじゃないかな」

エステルとヨシュアが意外な事態に戸惑っていると、マルガ鉱山の方からさらに人影がやって来た。
近づいて来ると、その人影は王国軍の兵士だと言う事が分かった。

「こらーお前達、道の真ん中で何をやっている!」
「逃げろ!」

その場に居合わせた全員がその声を合図に蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
エステルとヨシュアはロレントの街方面へ。
その他の人物達は翡翠の塔方面に向かって逃げ去って行ったようだ。
ロレントの街の北口まで全力疾走した後、ヨシュアはエステルに話しかけた。

「……僕達は別に悪い事をしてなかったんだから、逃げる必要は無かったんじゃないかな」
「その場の勢いってもんよ」

街に戻った二人はセプチウムの結晶を持っていて狙われたと言う事もあって、急いで市長の家にセプチウムの結晶を届ける事にした。
市長のクラウスはエステルとヨシュアが強盗に襲われたと言う事を聞くと、困ったような顔をして嘆いた。

「そんなことがあったとは……君達のような若者を危険な目を合わせてしまって、本当に申し訳ない」

深々と頭を下げた市長に、エステルとヨシュアはとまどってしまった。

「市長さん、そんなに謝っていただかなくても……」
「ここロレントでは事件らしい事件が起きていなかったから、ワシも油断してたのじゃ」

市長はそう言うと、エステルとヨシュアにおとり作戦の事を話した。

「何それ、あたし達は元々期待されてなかったって事?」
「まあまあ、僕達はまだ実績の無い新米なんだから仕方がないよ」
「カシウスさんが来られなくなったと言う事で、兵士の方から持ちかけられた作戦だったのじゃが……」
「それに、エステルがたくさん物を壊してたって事がウワサとして広まっていたかもしれないよ」
「ヨシュア、それってひどいじゃない」

ヨシュアの冗談にエステルはむくれた表情になった。
エステルとヨシュアは、事件の報告をするために遊撃士ギルドへと戻った。

「遅かったじゃないか、いつまで待たせるんだよ!」
「げ、そう言えばオーヴィットさんが居たか」

遊撃士協会の受付ではオーヴィットが二人を待ち構えていた。
受付係のアイナはずいぶん相手をさせられていたのだろうか、ウンザリした様子だった。
シェラザードも仕事を終えて戻って来たのか、受付のアイナの側に立っていた。

「いろいろあったとは思うけど、まずはこちらの方の報告から先にしてね」

アイナにそう促されたエステルはオーヴィットに依頼されたホタル茸を見せる。

「おおっ、これこそホタル茸!」
「何か不気味な光を放つキノコね」

喜んでホタル茸を受け取ったオーヴィットとは対照的に、シェラザードは覚めた反応だった。

「こんな魔獣がよってくるキノコ、何に使うんですか?」
「もちろん、料理に使うんだよ」
「食べられるの!?」

ヨシュアの質問にオーヴィットがそう答えると、エステルは目を爛々と輝かせた。

「エステル、あんたはとんだ食いしん坊ね。こんなゲテモノ食べたいなんて」
「いいじゃない、どんな味がするか想像するだけで楽しみだわ」

シェラザードは溜息をつきながらそう言うが、エステルは笑顔でその言葉に反論した。

「いやあ、君は我が商会の良い理解者になって貰えそうだ」
「お店をやっているの?」
「各地の食材を集める仕事をしていてね。普通の店では買えない食材を供給するのが夢なんだ」
「頑張って!」
「また会った時もよろしく頼むよ、はっはっは」

オーヴィットはホクホク顔で遊撃士協会から立ち去って行った。
盛り上がっていたのはオーヴィットとエステルの二人だけだったようで、他の三人はそれを覚めて見ていると言った感じだった。

「それじゃあ、市長さんの依頼の報告を聞きましょうか」

アイナにそう言われたエステルとヨシュアはセプチウムの結晶を受け取った帰り道に襲われた事、それでも市長の家に無事に届ける事が出来た事を報告した。

「僕達の帰り道を待ち伏せするなんて、タイミングが良すぎます」
「ヨシュアは、情報が事前にもれていたと思うのね?」

シェラザードの質問にヨシュアはコクリと頷いた。

「じゃあ、情報がどこからもれた可能性が一番高いと思う?」

そうシェラザードに質問されて、エステルは固まってしまった。

「いきなり言われても……犯人を探せばいいんじゃない?」
「犯人をどこから捜し始めるのか見当をつけろと言っているのよ」

エステルの答えにシェラザードは溜息をついた。

「鉱山の関係者を洗うのが良いと思います。特に素性を問われない日雇い労働者とか」
「ヨシュア、いい線を突いているわね」

アイナはそう言ってブレイサー手帳に評価を書きこむ。

「ヨシュアの名推理にブレイサーポイントのボーナスをあげたいけど、減点分と相殺ね」
「えっ、何で減点!?」
「エステル、あんた鉱山のエレベーターの鍵を返し忘れたでしょう。今頃、鉱山のみんなは困っているわよ」
「ああっ!?」
「もうひとっ走り、マルガ鉱山まで行って来なさい! ……ヨシュアが落とした武器も落ちていれば回収するといいわ」

シェラザードに怒られたエステルとヨシュアの二人は余計にマルガ鉱山まで往復するハメになった。

「疲れた……お腹ペコペコ」
「マルガ山道で二個目のホタル茸を探して帰ってくるなんて、エステルは転んでもただでは起きないね」
「母さんに美味しい料理を作ってもらうのよ!」

しかし、ブライト家に戻って来たエステルを待ち受けていたのはレナの怒鳴り声だった。

「エステル、シェラちゃんから聞きましたよ! 普段から使ったものはすぐに元の場所に戻しなさいっていってるでしょう!」
「母さん、今度から仕事の時はきちんとやるから問題無いって」
「いーえ、普段からだらしない生活をしているから仕事でも失敗をするのよ!」

エステルはこの後レナにお説教を食らい、お尻を10回ほど叩かれた。
部屋からもれるエステルの悲鳴を食卓に居たヨシュアとシェラザードは苦笑して聞いて居たと言う。
その後、レナの手によってホタル茸を使った料理がブライト家の食卓で振る舞われる事になった。
新味覚の料理が食べられると言う事で、たまたまロレントで仕事に来ていた遊撃士のカルナとグラッツもシェラザードやアイナと一緒に夕食に顔を出した。

「人数が多いっ! こんなにたくさん居たらホタル茸がちょこっとしか食べられないじゃない」
「美味しければまた採ってくればいいじゃないか」

しかし、エステルはホタル茸を採りに行こうと言いださなかった。

「なんでもね、ホタル茸ってとっても苦くてとても食べられたものじゃないみたいよ。あのエステルでさえマズイって言ったんだから」

翌朝、街の小さな記者クルーセによってホタル茸の味の評判はロレントの街中に広められて行った……。