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障害者郵便割引不正:村木被告公判 証拠欠く苦しい検察 傍聴席、失笑も

 被告人の関与について立証は十分--。22日に大阪地裁であった郵便不正事件の厚生労働省元局長、村木厚子被告(54)に対する大阪地検の論告求刑公判。3人の男性検察官は3時間にわたり、交代で論告要旨を読み上げ続けた。村木被告はこれまでの公判と同様、冷静な表情でノートにペンを走らせた。閉廷後、記者会見した村木被告の弁護人は、「地検特捜部が最初に描いた構図に、固執した苦しい論告」と批判した。

 公判では、事件への村木被告の関与を大阪地検特捜部に供述したとされた関係者らが、捜査段階の供述調書を「検事の作文だ」などと相次いで否定。大阪地裁は、立証上重要な供述調書を「特捜部の取り調べに問題があった」として証拠採用しなかった。

 それだけに、検察官が論告で「関与が浮き彫りになった」「証明は十分」などと自信を強調する部分を読み上げるたび、弁護側や傍聴席から失笑も漏れた。

 村木被告の主任弁護人、弘中惇一郎弁護士は会見で、「論告は90ページもあるが、同じことを繰り返し述べていた。わずかに残った証拠をつなぎ合わせた苦しい内容だ」と述べた。弘中弁護士によると、村木被告は「裁判官は分かってくれていると思う」と無罪判決への確信を深めていた、という。

 今回の論告について、渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)は「絵に描いた餅で、論告の役割を果たせていない」と話す。渡辺教授は「冒頭陳述と論告を比べると、証拠採用されずに多くの供述調書が欠落したことが分かる。密室の取り調べが中心で、調書だけで事件を作ろうとした検察捜査の失敗がよく表れている」と話した。【日野行介、苅田伸宏】

 ◇具体的指示の文言消え

 厚生労働省元局長、村木厚子被告の論告は「~と考えるのが自然・合理的だ」「~と優に認められる」など、間接的な証拠から推認する遠回しな表現が目立った。

 検察が1月に行った冒頭陳述では、村木被告は04年6月上旬ごろ「決裁なんていいんで、すぐに証明書を作って。心配しなくていいから」と、上村被告に偽証明書の作成を指示したとされた。その証拠は上村被告の捜査段階の供述調書だったが、特捜部の取り調べに問題があったとして大阪地裁が証拠採用せず、論告では具体的な指示の文言は消えた。その代わり、「上村被告は思い悩んでいたが、村木被告の指示を受けて作成を決断したと考えるのが合理的」という言い回しになった。

 村木被告が04年5月中旬ごろ、「凜(りん)の会」の倉沢邦夫被告の要請を受け、証明書の発行は間近だと郵政公社(当時)幹部に電話で伝えたくだりもなくなった。倉沢被告の供述調書が証拠採用されず、公判でも倉沢被告が否定したためだ。

 上村被告が拘置中、取り調べの模様を記録したノートにも言及し、「(取り調べで)上村被告が一貫して村木被告の指示を否定したとする裏付けにはならない」と指摘。ノートの内容と公判証言との整合性を根拠に、供述調書を証拠採用しなかった裁判所への批判ともとれる文言が盛り込まれ、検察の窮地を浮き彫りにした。【日野行介】

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 ■ことば

 ◇郵便不正・偽証明書事件

 実体のない障害者団体「凜(りん)の会」に対して郵便料金割引制度の適用を認める偽証明書を作成したとして、厚生労働省元局長の村木厚子被告(54)ら4人が虚偽有印公文書作成・同行使罪に問われた。偽証明書によって、家電量販会社などのダイレクトメールが不正に格安発送された。

 公判では、偽証明書を作成した厚労省元係長の上村勉被告(40)が捜査段階の調書を覆し、村木被告の指示を否定。大阪地裁は4月、同会代表の倉沢邦夫被告(74)に対して、同罪について無罪判決を言い渡した。さらに5月、「取り調べに問題ある」として上村被告らの調書を却下。村木被告についても無罪の公算が大きくなっている。

毎日新聞 2010年6月23日 大阪朝刊

 
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