第22回参院選(7月11日投開票)が24日公示され、与野党の舌戦が本格化。就任したばかりの菅直人首相が消費税引き上げ方針を公約したことが野党側の格好の攻撃材料となり、増税の前提となるはずの「ムダ削減」に民主党政権がどう取り組んだかも問われる形になっている。参院選前に消費税論議に踏み込んだ菅首相に対しては民主党内からも反発が出ており、小沢一郎前幹事長がそうした声を代弁する形で懸念を表明。「脱小沢」を進める菅首相、枝野幸男幹事長らと「小沢系」のあつれきが選挙戦初日から表面化した。【三沢耕平、野原大輔、影山哲也】
「日本の首相が毎年のように代わってしまうことで大変弱い政治、外交になった。この参院選で議席を大きく伸ばしたいとは思っているが、すぐにあきらめてしまうようなことは全く考えていない」
菅首相は24日夜、NHKの番組に出演。改選議席の現有54以上とした獲得目標を下回っても退陣するつもりのないことを強調した。
これには伏線があった。小沢氏が同日、民主党の輿石東参院議員会長を応援するため訪れた山梨県身延町で記者団に「政党である以上、常に過半数を目標にするのが筋道」と指摘。民主党が単独過半数を確保できる「60議席」でなく「54議席」を目標に掲げた菅首相への批判と受け止められた。菅首相は「私が鳩山内閣から引き継いだ時点でかなり厳しい状態からスタートした」と党勢失速の責任が小沢氏主導の「小鳩」体制にあることを指摘したうえで「現有議席が54なので、まずそれを超えるのが目標」と改めて明言した。
小沢氏は幹事長として「単独過半数」を目標に掲げ続け、改選数2以上の選挙区に原則2人を擁立する方針を徹底。現執行部もこれを継承し、菅首相は2人当選を目指す重点区として大阪選挙区(改選数3)を第一声の場に選んだ。枝野氏は自民党の青木幹雄前参院議員会長の長男が出馬した島根選挙区(改選数1)から選挙戦を開始し「参院でも安定した力を与えていただきたい」と訴えた。
「選挙の小沢」が敷いたレールに沿って参院選を戦う一方、選挙後をにらみ予防線を張る菅首相。消費税引き上げの公約は本格政権を目指す姿勢のアピールでもあるが、参院選前の消費税論議を封印していた小沢氏は「3年前の参院選も去年の衆院選も、すぐ消費税を増税することはしない(と主張した)。私は変わっていない」と不快感を示した。首相は「鳩山(由紀夫)前首相がこの(衆院)任期中は消費税は上げないと言われた方針は変わっていない」と説明。引き上げる前に衆院選で信を問う考えを繰り返しつつ、参院選で消費税論議を訴える姿勢は崩さなかった。
自民党には消費税や米軍普天間飛行場移設を巡って民主党の主張が似通ってきたことへの危機感もにじむ。谷垣禎一総裁は「争点隠しのために自民党にすり寄ってきた」と強調。小沢氏に近い輿石氏の山梨選挙区(改選数1)で第一声を上げ「山梨は象徴的な選挙区だ。労働組合にどっぷりつかった民主党の体質を体現している」と民主党批判を強めた。
「自民党も民主党も増税路線。不幸な状況だ」。みんなの党の渡辺喜美代表は24日、静岡市内で行った第一声でこう訴え、消費税が争点になる一方で、ムダ削減など歳出改革の論争が置き去りにされつつある状況に危機感を示した。
首相が第一声の地に選んだのは、事業仕分けで「仕分け人」を務めた候補の陣営。ただ、歳出改革について「まずやらなければならないのは無駄な税金の使い道を改めることだ」と訴えはしたものの、約20分に及んだ演説の大半は消費税を含めた「強い財政」の説明に費やした。
民主党は昨年の衆院選では「脱官僚」を看板に掲げ、マニフェストには「高速道路無料化」などの独自政策の実行のために16・8兆円の財源を捻出(ねんしゅつ)すると公約。その具体策として「ムダ削減(9・1兆円)」「埋蔵金(5兆円)」「租税特別措置見直し(2・7兆円)」と財源捻出の工程表も示したが、参院選マニフェストではそっくり抜け落ちた。
消費税引き上げの必要性に重点が置かれた選挙戦術には与党内からも不満が出ており、小沢一郎前幹事長は同日、山梨県身延町内で記者団に「昨年の衆院選はとにかく行政や予算のムダを徹底的に省くことで財源を捻出するという主張だった」と指摘。国民新党の亀井静香代表も「(民主党は)特別会計で20兆~30兆円出すと言っていたが、腕が悪いから出せない。やれることをやらないから財源といえば消費税になる」と批判した。
新党改革の舛添要一代表は「国会議員の定数を半分にするくらいやらないでどうして(消費税率を)10%と言えるのか」、公明党の山口那津男代表は「(財政再建は)税収増と徹底した歳出削減でやりぬかなければならない」と、歳出改革の必要性を強調。共産党の志位和夫委員長は「事業仕分けの対象になっていない『思いやり予算』などの米軍関係費は史上最高。消費税に頼らなくても社会保障の財源は作れる」と主張。社民党の福島瑞穂党首も「年収200万円以下の人が消費税10%で暮らしていけるか本当に心配だ。消費税の前に所得税の最高税率を十数年前に戻す(上げる)べきだ」と消費税に反対の姿勢を強調した。
毎日新聞 2010年6月25日 東京朝刊
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