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fuka_fukaの日記

2010-06-24

岡崎市立中央図書館librahack事件に関するよくある(法的な)誤解(2)

「本件は不起訴(嫌疑なしor不十分)ではなく起訴猶予だったのであれば、検察は犯罪性を認めているはずだ」

本件のような業務妨害事案は、客観的な状況はほぼ固まっているし、被疑者の供述も(専門知識が絡むだけに)捜査官の描くストーリーに沿う形の「作文」にしにくい。少なくとも他のよくある刑法犯と比較して。

なので、起訴した場合に有罪が「勝ち取れる」かどうかは、事実の「有無」ではなくて「評価」に委ねられる側面が強い。つまり、「証拠が不十分なので起訴しても勝ち目が薄い」と「公判を十分維持できるだけの証拠は揃ったが、起訴は見送っておく」との境界がかなり曖昧になる。

 

また、捜査機関側の「都合」によって操作される可能性については落合弁護士が端的にまとめられているので引用。(太字強調はfuka_fukaによる)

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20100622#1277165981

>>起訴猶予処分というのは、建前上は、犯罪事実が認定できた上で諸般の事情により起訴はしない、というものですが、本来は嫌疑不十分であっても、捜査機関(警察によっては嫌疑不十分ではメンツがつぶれるから起訴猶予にしてくれと検察庁に泣きつくところもあります)の都合で起訴猶予になっている場合があって、起訴猶予だから犯罪事実は認定されたんだな、と見ると間違うことがあります。<<

 

結局、本件の処分が「起訴猶予」だったからといっても、地検の判断としては「業務妨害罪の成立がそもそも認められない」という見立てをしていた可能性はまったく否定されていないということです。

「多数のリクエストを意図的に送信しさえすれば、業務妨害罪の故意(or未必の故意)になる」

サーバ障害の発生を意図していた場合でなければ、業務妨害罪の未必の故意にもならない」

どちらの見方も極端で、不正確です。

業務妨害罪の構成要件は、客観面では「業務の支障を引き起こすに足りる行為」と「業務支障という結果」、そして両者をつなぐ因果関係。そして主観面では、それぞれの客観的要件に対応した「故意」。

つまり、「実行行為」の認識と、それによって「結果」が発生することの意図、または認識・認容の両方が揃う必要があります。

したがって、分析的には、「リクエスト送信」の認識があるだけでは、業務妨害の故意としては足りない。

しかしその逆に、「サーバ障害を明確に意図」していることまでは必要とされません。

 

自作のスクリプトを組むことができるくらいの知識とスキルがある人であれば、そのスクリプトによるアクセスの頻度と回数がどの程度であれば、サーバにどの程度の負荷がかかるのかは、だいたい理解できるはずです。

そして、実際にプログラムを走らせてみて、状況をモニターしていれば、対象のサーバがどういう状態になっているかもだいたいは把握できるはず。そういう推測が働くでしょう。

つまり、要件としては「実行行為」と「結果」に対応する主観状態は別個独立のものとして整理されますが、捜査(取調べ)、立証、認定という実務上の局面においては、「実行行為が意図的なものである以上、結果についての認識・認容のもとに行われているはずだ」という推測が強く働くことになるわけです。

 

twitterはてブでの議論を見ていると、文字数も限られているうえ、双方の法律知識も完全でないことも多く、この理論と実務のズレやねじれが余計に議論の錯綜・混乱を招いているフシが見受けられる印象です。

法律の絡んだ議論に限りませんが、「相手の発言は、正しい知識の下になされている」と仮定して読解し、それでもどうしても矛盾を来たす場合にのみ、かつその範囲に限って、相手の発言を否定する」というスタンスを守れば、議論も荒れないし、自分が得られるものも多くなると思うんですよね。

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