生温かくて、ぬかるんだ、人間の粘膜と良く似た色をした空間。
ここが、私の連れてこられた場所。
ニュルニュル、グチュグチュ、ズルズル、ヌプッ。
躰のあちこちで、触手がうねり、這いずる気配がする。
「う……うぁ……はぁ、く、あぁぁ……」
どれだけ長い時間、妖魔に嬲られ続けていたのだろう。
苦痛と快感に耐えるだけで必死だった肉体から、時間の感覚は失われていた。
あの辱めを受けていたのは、数十分の出来事なのか
それとも何日にも及ぶ事なのか、それすらも分からない。
(……あの、男…達は、な…に…者……?)
何も語らないまま、この肉体を改造した、あの白衣の集団。
(くぅっ、うっ……お、お腹、気持ち…悪いぃ……)
子宮を奪われた胎内が、失った器官を求めて蠢いている。
プチ…プチュ、クチュッ…。プチッ、ヌチュッ。
「あっ、はぁっ……!んっ、ふっ……うっ、くぅっ」
肉体を構成する内臓や筋肉繊維が、傷を修復しようとしていた。
「き……か。うっ、ごほっ……菊、花ぁ……」
うつぶせになったまま、起き上がる事も出来ない。
悔しさと苦痛の行き場を探して、柔らかな肉床に爪を立てた。
……ギチュ。グチュッ、グプッ……。
「んぅっ、うっ……ふぅ、はぁ、く、はぁぁ……」
澱んだ汗が額から流れる落ちる。
ひょっとしたら、それは汗じゃなかったのかもしれない。
ただ、その体液は私の瞳を入り、視界を濁らせた。
(前、が……見え、ない)
まばたきをする。
すると視界はクリアになり、おかしな幻を私に見せた。
「……………姉…さま?」
目の前に、菊花がいる。
私同様に全身を汚し、着衣が乱れ、どこか妖しげな表情をした、菊花がいる。
「もう、何度言ったら分かるの?『姉さま』じゃないでしょう」
「……菊…花……?」
聞きなれた声と言葉に、それが幻なんかじゃないと知る。
「菊花っ……!」
重く、疲労しきった手足を動かして、菊花へと這い寄った。
「菊、花……菊花ぁっ!」
繋がりかけていた筋肉の繊維が、プチンプチンと切れる感覚がする。
痛みが全身を走ったけど、どうでもいい。
「桜花。もう大丈夫よ、桜花」
「菊花ぁ……」
膝をつき、ボロボロになった私と目線を合わせてくれる、優しい菊花。
「無事で、良かった……」
「桜花も……本当に、無事で良かった」
抱きしめてくれる、優しい手。
「もしあの責め苦に耐え切れなかったら、どうしようと思ったわ」
優しいその手が、私の乳房に触れた。
「……っ!」
さっきまでの苦痛の記憶が、私を菊花から遠ざける。
「桜花?」
「あ、ご…ごめん、なさい……」
菊花は妖魔と違うのに。
何百年も一緒にいて、誰よりも信用できる相手なのに。
「いいのよ。ほら、いらっしゃい……私の可愛い桜花」
誰よりも信用していた、菊花。
それなのに、その瞳は、どうしてこんなにも凶々しいのだろう。
「……菊花じゃ、ない?」
いや、そんな事はない。
気配も、仕草も、すべて菊花のもの。
なのに……。
「私は菊花。あなたの双子の姉さまよ……」
四つん這いでにじり寄って来た菊花が、その赤い唇を開いた。
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