「あら!」
たくさんのロッカーが並ぶ更衣室を
歩き回っていた菊花が、嬉しそうに声をあげた。
「ねぇねぇ、桜花。更衣室を使ってるのは私達だけみたいよ。
ロビーに人がたくさんいたのに、本当に運がいいわね」
空調の音と、静かな音楽の流れる更衣室の隅を陣取って
借りてきた水着に着替え始める。
「このサイズはスクール水着しかないっていうのが残念ね。
こんな事なら、新しい水着でも買ってくればよかった。
ついでにヤマトさんも誘って、夜のバーで話したりして……うっとり」
菊花が水着を持ったまま、何かを喋っている。
「……?」
聞いたら内容を教えてくれるだろうが、私に言わなきゃいけない事なら
菊花の方から話してくれるはずだ。
(……着替え)
ぷちぷちと制服のボタンを外して、紺色の水着に足を通した。
「あ、ちょっと待って」
「?」
肩紐を腕に通している最中で、菊花に止められた。
言われた通り、じっと待つ。
「ええと、どの辺にあったかしら?……ああ、あった」
バッグの中をゴソゴソ掻き回していると、お目当ての物を見つけたらしい。
「はい、桜花。こっちを向いてね」
「うん」
ペリッと何かを剥がすと、ペタンと私の胸に貼った。
「はい、いいわよ」
「うん」
コクンと頷いて、肩紐を完全に通す。
「桜花は可愛いんだから、気を付けないとね」
「……?」
『可愛い』と『気を付ける』と、さっきの行為が、どう結びつくんだろう。
けど、菊花のする事は間違ってない。
よく分からないまま、コクンと頷いた。
「私も着替えたらすぐに行くから、桜花は先に泳いでいいわよ」
「……待ってる?」
スカートとパンツを脱いだ菊花は、スクール水着を足に通した格好で
制服のボタンを外している。
こういう着替え方は、肌を見られる割合が少ないからと、前に言っていた。
「すぐに行くから平気だけど……んー、適当な場所に新聞を置いてくれる?
サイドにテーブルがある椅子に座って、トロピカルドリンクを飲みたいの」
「わかった」
楽しそうにしている菊花につられて、私も楽しい気持ちになってくる。
私には読めない新聞を受け取って、裸足でペタペタと歩き始めた。
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