菊花に連れられて向かった先にあったのは、大きな大きなホテルだった。 
「ここのホテルは外資系だけあって、サービスが行き届いてるのよ。 
 そのうち大きな仕事をこなしたら泊まろうと思ってたんだけど、運がいいわ」 
くふふっ、と満足気に笑う菊花の足取りは軽い。 
 
「その上エグゼクティブスイートの部屋を用意してくれるなんて、怖いくらいね。 
 上層階の宿泊者専用ラウンジで、たっぷりくつろがなくっちゃ」 
ロビーで受付を済ませるついでに 
眼鏡をかけた菊花が英字新聞と入浴剤を貰っている。 
他にロビーにいるのと、スーツの男性や、ドレッシーな女性ばかりだから 
目で追いかけていないと、小柄な菊花の姿はすぐに見失ってしまいそうだ。 
「ほらほら、せっかくだから泳ぎに行くわよ。 
 プールは閉館時間が早いんだから」 
うきうきした菊花に手を引っ張られて、エレベーターに乗った。 
ボタンを見ると、プールは6階だと書いてある。 
 
「……プール」 
ちょこんとボタンを押した私を見て、なぜか菊花が抱きついてきた。 
「……菊花?」 
「ああ、もうっ、桜花かわいいっ! 
 どうしてエレベーターのボタンを押すだけで、こんなにかわいいのかしら」 
すりすりと頬を擦り付けられている間に。 
 
ピンポーン。 
 
「あ、着いた」 
エレベーターが6階に到着した。 
「菊花、こっち」 
まだくっついたままの菊花ごと、私は女子更衣室の方に向かった。 
 
 
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