チリンチリン!
賑やかな駅前で、祝福の鐘が鳴り響いた。
「おめでとうございます〜!一等!一等が出ましたっ!!」
興奮した声で、抽選会場の席に座っているお兄さんが両手を叩く。
一等と言うなら、すごい事なんだろう。
「……ありがとう」
小さく頭を下げて、お礼を言う。
「ちょっとちょっと桜花!すごいじゃないっ!!
この福引の一等は、シティホテルのペア宿泊券よ」
「……シティ、ホテル?」
『シティホテル』は、菊花が好む単語だ。
菊花が好きなら、きっと良い事なんだろう。
「当たって、良かった?」
「うん、うんっ!」
笑顔で大きく頷く菊花に、気持ちがほわんとした。
「そう」
小さな笑みが口元に浮かぶ。
菊花が嬉しい事は、私も嬉しい。
「お客様。さっそくですが、当選者ご本人様はこちらの書類に記入を……」
「あ、ねぇねぇ、お兄さん。この券っていつから使えるのかしら?
え?私??見て分からない?一等を当てた子の姉です」
「え?は?あ、は、はい。かしこまりました。
ですが、予約や署名はご本人様にお願いする決まりに……」
「もう!桜花が当てたんだから、私が当てたも同然じゃない。
ほら、貸しなさい。……ふむふむ、ここに名前と住所を書けばいいのね」
「お、お客様!?せめて、運転免許証などで証明を……」
「小さい事は、気にしない、気にしない〜」
私がボーッとしてい間に、お兄さんからペンを奪った菊花は
用紙に何かをスラスラと書いていく。
こういう時の菊花はとても生き生きしていて、見ているこっちも嬉しくなった。
(それに、とっても頼りになる……)
ふと足元を見ると、可愛らしい花が咲いている。
(……お花、白い)
大きな緑色の葉の合間に、ひっそりと咲く花に目を奪われた。
かがみこんで、その花に手を伸ばそうとすると。
「あっ、ダメよ!」
お兄さんから何かの封筒を奪った菊花が駆け寄り、私の手をはしっと掴んだ。
「……姉さま?」
「双子なんだから『菊花』でいいって言ってるでしょ……
じゃなくて、その花はダメ」
「ダメ?」
菊花に手を引かれるままに立ち上がり、同じ高さにある青い瞳を見つめた。
「……毒?」
「毒っていうより、薬なんだけど……」
はぁとため息をついて、菊花は困ったように笑う。
「これは『ドクダミ』葉っぱに触ったら
すごく臭い匂いがついて取れなくなっちゃうんだから」
「臭い……」
それは、困る。
手に匂いがついたままだと、ご飯がおいしく食べられない。
「……わかった。触らない」
「ううん、実はもう何回もドクダミについては説明してるんだけど……
まぁ、しょうがないわ。人間、覚えられない事ってあるものね」
にこっと笑って許してくれる菊花は、とても優しい。
私の自慢の姉妹だ。
―――姉妹といっても、年は離れていない。
私達は、双子の姉妹。
姉が『月白(つきしろ)菊花(きくか)』で、妹の私が『月白桜花(おうか)』
かれこれ300年とか、400年とか生きているけど、本当の年齢はよく分からない。
強大な鬼に、不老不死となる呪いをかけられて、姉妹2人きりで生きてきた。
ある事件をきっかけに、呪いが解けてからは
流れの退魔師として、菊花と一緒にのんびり生活している。
「桜花、今日は久し振りに贅沢しましょうか」
手に持った封筒に、チュッとしながら菊花が微笑む。
「……贅沢?」
猫がたくさんいる場所で、お茶でも飲むのだろうか。
わくわくしながら菊花を見ると。
「プールで泳いで、エステに行って、ふかふかのベッドで寝るのよ」
「……おお」
想像していた贅沢とは違ったけど、プールとベッドは楽しそうだ。
エステは、前に菊花に連れられて行った事があるけど、よく分からない。
いい匂いがして、なんだか油っかったのは覚えてる。
「今日の予約に空きがあったみたいだから、遠慮なく使わせてもらいましょ。
ついでに顧客発掘して、新しい取引先も増やしたいしね……ふ、ふふふ」
「……うん」
やっぱり、よく分からなかったけど、頷いた。
菊花がする事は、正しい。
だから私は、安心して何でも任せられる。
「桜花ってば、こんな賞品を当ててくれるんだもの。
……ありがとね」
ぎゅっと抱きしめられて、菊花の優しい体温が伝わってくる。
「うん」
ほっとしながら、私も菊花をぎゅっと抱き返した。
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