宮崎県で口蹄疫(こうていえき)に感染した疑いのある1例目の牛が確認されてから20日で2カ月たった。影響は畜産業だけにとどまらず、物流や観光、サービス業などあらゆる業種に打撃がじわじわと広がっている。【中尾祐児、小原擁】
■トラック業界
被害が集中する川南町から南西へ約30キロの国富町。牛用の飼料運搬会社の駐車場には10台ほどの大型トラックが整然と並ぶ。「先が見えん。早く終息せんと会社がもたん」。社長の男性(52)は、事務所の窓から空の荷台を恨めしげに眺めた。
鹿児島県志布志港で豪州産などの輸入飼料を積み、川南町など宮崎県央部の畜産農家へ運ぶ。口蹄疫発生後、殺処分される牛が増え餌の注文は減った。6月の売上高は前年の3~4割という。
それでも殺処分を待つ発生地域の農家から疲れ切った声で「餌を持ってきて」と電話が入る。「最後まで自分らが餌を持っていかんと、誰が行くね」と車の消毒に念を入れ、激震地に向かう。
県が公表した県央部の商工業者620社対象のアンケートで、85%が「売り上げ減少など影響がある」と答えた。運輸業は「3~7割以上の売り上げ減」が66%。県トラック協会は「県外へ野菜やピアノを運ぶトラックまで『宮崎ナンバーは出入り禁止』と敬遠される風評被害が出ている」と漏らす。
■ホテル、旅館
県ホテル旅館組合によると、加盟178社全体で4月20日の発生から約1カ月間に計3万4000人分の宿泊や会議の予約が取り消された。損失は2億6500万円。「土産物や食事代を入れると、その十数倍だ」と花畑正弘事務局長は頭を抱える。
東国原英夫知事の登場でスポットを浴びた「県庁観光」も例外ではない。発生前、休日は1日平均1500人だったが、今は同400人と約4分の1に。6月1日は「64人」と過去最低を記録した。
■学校現場でも
余波は学校教育にも及ぶ。県教委によると、県内98校が4~6月に予定していた修学旅行を延期。県高野連は夏の高校野球県大会の開会式中止を決めた。
年間11万人が訪れる西都市の西都原(さいとばる)考古博物館も5月23日から休館中。同市内のうなぎ料理店「入船」では売上高が前年比で3~4割減った。父親と店を経営する横山武士さん(28)は「県外客から『西都市内に入れるのか』と電話で問い合わせがあった。家畜の移動制限が『人間も立ち入り禁止』と誤解されているのだろうか」と顔を曇らせる。
間接被害について県商工政策課は「今は防疫優先で、業者への聞き取り調査に手が回っていない」という。被害金額もまとまっておらず、具体的な支援策も立てられない状況だ。
毎日新聞 2010年6月21日 12時31分(最終更新 6月21日 12時41分)