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[8923] 魔法少女リリカルなのはA’S ~盲目の少女は何を見るのか…~ 完結
Name: 金髪のグゥレイトゥ!◆60293ed9 E-MAIL ID:fe11bdaf
Date: 2010/06/24 03:40
■注意書き■

この作品を読む前に必ず以下の文をお読みになってからこの作品をお読み下さい。

・この作品のコンセプトは『小さな幸せ。でもそれはとても大きな大切な物』

・障害をお持ちの方に不快な思いをさせる可能性があります。

・学校に関して事は目を瞑って頂けますよう何卒、何卒よろしくお願いいたします。(無理は分かっているのですが、そうしなければ物語が始まりません…orz

・戦闘場面は殆ど無いかもです。学園Sideつまり学園生活やアリサやすずか側の視点で書いて行きます。

・百合要素はあるかもしれないですが、キスまではいきません。いってハグ程度でしょう。『友達以上恋人未満』?いや、それも違うか…。

・「金髪のグゥレイトゥ!と言えば鬱だろ!」と言う方は期待しない方が良いです。鬱は無いです。

・sts編はやるか分かりません。彩の性格で軍みたいな組織に入るとは考え辛いので。



[8923] 魔法少女リリカルなのはA’S ~盲目の少女は何を見るのか…~ 第一話
Name: 金髪のグゥレイトゥ!◆60293ed9 ID:3c3b4626
Date: 2009/06/30 07:26
魔法少女リリカルなのはA'S ~盲目の少女は何を見るのか…~












…暗闇の世界。



この暗闇の世界には何も存在しない…。



赤、青、黄、鮮やかな色達も存在しない…。



光など一切照らされる事の無い暗闇に包まれる世界…。



この少女は、生まれた時からこの世界と共に在り、そしてこれからもその世界と共に生きていくだろう…。



この物語は、盲目な少女が魔法と言う存在によって出会った、少女達と紡がれる物語…。



少女はこの物語の中で、その盲いた目で何を見るのだろうか…。






















第1話「魔法…そして、始めての本当の友達との出会い、なの」
















――――11月28日 PM2:00

    高速道路





「…ん、あれ?」

私は、眠りから目覚める時の気だるさと共に身体を起こし、瞼を開く。視界に広がるのは何も無い暗闇の世界。私は辺りを手探りで触ってみてようやく自分がどこに居るかを理解する。このクッションの手触り、自動車のエンジン音。私は、今車の中に居る。どうやら私は走行する車から発生する心地よい揺れのせいで眠ってしまったらしい。今日の半分は車の移動のせいで疲れていたようだ。

「ん?起きたのかい、彩?」

運転席の方からお父様の声が聞こえてくる。

「はい…ちょっと、疲れてたのでしょうか?」

「はははっ!朝早くから車で移動だったからねぇ。それに退屈だったろう?」

「いえ、サービスエリアも寄って頂けましたし…やっぱり地方が違うと、空気や匂いも違いますね」

私は目が見えない所為で、他の人達より耳や鼻等が敏感に反応してしまう。遠くの方の音も聞き取れるし、匂いもそうだ。だから、今も言った通り地方での空気や匂いの違いも分かってしまう。

「そうなのかい?」

「はい、けっこう違う物なんですよ?」

「彩が言うならそうなんでしょうね」

隣の席からお母様の優しい声が聞こえてくる。

「それにしても、すまないね。また父さんの仕事の都合で引っ越してしまって…」

私の家では、お父様の仕事の関係でよくお引っ越しをする。お父様は大手企業の社長だから仕方の無い事だと私は思っているんだけど、いつも引越しの度にお父様は泣きそうな声で私に謝ってくる。私は、別に気にしてないのに…。

「気にしないで下さい、お父様。前の学校でも皆さんに"良くして貰っていた"のですから、今回も大丈夫ですよ♪」

「……っ」

私は微笑んでそう答えるが、お父様は声を震わせて何も返してこない。何かいけない事でも言ってしまったのだろうか?不安そうにお父様を見つめる。目は見えないが声のする方向のおかげで大体の場所は特定できる。

「…お父様?どうかしましたか?」

「なんで…こんないい子が」

…まただ、またお父様が泣きそうな声を出している。

「…アナタ」

「っ!?あ、ああ!そうだねぇ!彩は優しくて良い子だから、きっと皆と仲良くなれるよ…きっと」

泣きそうな声が消え、お父様はいつもの元気なお父様の声に戻る。私はお父様のいつも通りの元気な声聞いてほっと安堵する。お父様には泣いて欲しくない、いつも笑っていて欲しいから…。

…良かった。いつものお父様だ。

「ええ、彩なら大丈夫よ?」

「はい♪あっ!そう言えば、今度のお引越し先はどんな所なんですか?」

「おいおい~昨日言っただろう?海鳴市って所だよ。海が綺麗で、自然が一杯ある所さ」

海!私、海は生まれて初めてです!

「海があるんですかっ!?」

「ええ♪彩は初めてよね?」

「はい!楽しみです!すっごく沢山水があるんですよねっ!?ずっとずぅ~っと向こうまでっ!」

点字の本でしか読んだ事無いですけど、海は世界中の海と一つに繋がってるって書いてありました。とぉぉぉぉっても広いって事ですよねっ!?

「ええそうよ。見渡す限り全部水。ちょっとしょっぱいけどね」

「しょっぱいんですか?」

海の水ってしょっぱいんだぁ…始めて知りましたっ!大発見ですっ!

「そうこう言ってる中に着いたみたいだぞ…ほら、海だっ!」

「あら、本当だわ…綺麗ね」

「お母様お母様っ!窓開けてくださいっ!」

「はいはい♪」

私はお母様の袖の裾を引っ張って窓を開けて欲しいを強請る。海の感覚をこの身で感じてみたかったから。

ウィ~ンッ…。

ウインドゥを降りていく音と共に、風と潮の香りが車の中に流れ込んでくる。今までに嗅いだ事の無い香り…これが海の香りなのだと笑みを浮かべて鼻で、肌で潮を香りを感じていく。

「これが海の香りなんですね…」

「ええ、そうよ」

この香り…今まで行った場所では無かった香りです…。それに、自然も豊かなんですね、草木の香りがすっごくします。

「海は…どんな色をしているのでしょうか?」

「青…辺り一面が真っ青よ」

青と言う色を頭の中で思い浮かべる。最初に思い浮かんだのは空の色。見た事は無い…けど、どんな場所でも見上げれば青い空が広がっているってお母様に教えて貰った。ずっと私達を見守ってるって。どんな場所に居ても見上げれば空があるんだって…。

「空と同じ色なんですね…」

「ええ」

「私、青色が好きです♪海も空も大好きです♪」

「ふふふ、そう」

お母様が微笑んでそっと私の頭を撫でると、私も目を細めお母様に身を任せる。いつもお母様は私に優しくしてくれる。私にとってこうやって頭を撫でられるのは誰にも譲る事の出来ない幸せの時間だ。

…私は、体は頑丈な方では無い。いや、むしろかなり病弱な身体をしている。走ったらすぐ疲れるし、直ぐに身体の体調を壊す事が多々ある。そして、体調を崩した時はいつもお母様が付きっきり看病してくれた。食事の時も寝る時もいつも一緒に居てくれた。だから、私にとってお母様は女神の様な存在なのだ。

「えへへ♪」

私はお母様の大きな胸に顔を埋めて笑みを溢す。

「?どうかしたの?」

「何でも無いです♪」

これは私だけの秘密なんです♪誰にも教えません♪

「ふふふっ、変な子ね」

「そろそろ国道に降りるぞ~昼、何食べる?」

「彩は寝起きだし、軽い物が良いかしら?」

「私は何でも良いですよ?」

「そう?じゃあ…焼き肉とか?」

「うどんが良いです。とっても軽い…」

うどんの美味しそうな匂いが風に乗って私のお腹を刺激する。近くにうどん屋さんがあるようなのでとりあえず言ってみた。焼き肉だけは逃れるために…。汁物は洋服を汚す危険性があるが他に選択肢が浮かばないのでしぶしぶ言ってみる。

…いえ、別にうどんが嫌いな訳じゃ無いですよ?好きですよ?嫌いな食べ物は特にないですし…。

ただ、私の所為でお父様やお母様が好きな物を食べられないのが嫌なだけだ。私の所為で二人の行動を制限してしまうのは心苦しい。唯でさえ私の眼の所為で苦労を掛けていると言うのに…。

「始めから素直に言いなさい♪」

「…はい」

…お母様は時々意地悪なのが玉に瑕です…。ところで、好き嫌いで思い出したのですが、海の向こうの国の人はGさんを食べるらしいですが本当でしょうか?私は見た事が無いので分かりませんがお母様はGさんを見て気絶してましたし、とても怖い生き物の様ですが…。



そして、私達はうどん屋で昼食を摂る事となった。私は目が見えないのでお母様に食べさせて貰ったがやはり面倒を掛けさせてしまい心苦しかった…。こう言う時に限って自分の眼の見えない事を恨めしく感じてしまう。何でこんな体に生まれてきてしまったのだろうと…。









「ふぅ~…結構美味しかったなぁ」

うどん屋さんから会計を払い終えたお父様がお腹をぽんぽんと叩いて出てくる。この音からしてまた太ったようだ。また一日のビールの量を減らされるのだろうか?この前は土下座してそれだけは勘弁してくれと言って何とか許して貰えたが今回はそうはいかないかもしれない。前より更に太っているのだから…。

「そうね、また今度来ましょうか?」

私は二人の会話にピクリと反応する。また今度来る。つまりまた迷惑を掛けると言う事だ。それだけは阻止しなければと思い私は二人の会話に割って出る。

「いえ、私は…」

あまり迷惑掛けたくないし…汁物は一人じゃ食べられないし…。

「彩は美味しくなかった?」

「いえ、美味しかったですけど…」

あの、迷惑を…。

「じゃあ、また来ましょうね♪」

「あの…」

迷惑を…。

「来ましょうね♪」

「迷わ「ね♪」…はい」

その声は笑っている筈なのに何故か私の身体はがくがくと震える。結局、私の意見は強引に却下され、私はガックリと肩を落とした…。

あうう~…。

「じゃあ、お昼も食べた事だし、新しい我が家に向かおうか」

「あっ!その前に寄って欲しいお店があるの!」

「ん?何処だい?」

「携帯で調べたんだけど、家の向かう途中に美味しいケーキ屋さんがあるんですって♪」

「是非行きましょうっ!」

美味しいケーキ屋さんと言うキーワードに私は即座に反応し、ビシッと手を挙げてお母様の意見に賛同する。

ケーキは乙女のロマンですお母様っ!

「ええ♪勿論よ♪」

「いや、ケーキ屋さんは何時でも行けるだろう?もう荷物も届いてるかもしれないし…。それに、僕は甘い物が苦手」

「ケーキ!ケーキ!」

「ケーキ♪ケーキ♪」

「え、えと…あのですね?」

「ケーキ!ケーキ!」

「ケーキ♪ケーキ♪」

「あ…うぅ………行こうか、ケーキ屋」

私とお母様からのケーキコールにお父様は為す術の無く惨敗し、ケーキ屋に向かう事となった。









――――11月28日 PM3:00

    海鳴市:喫茶翠屋






おやつの時間に良い頃合になり、お父様を半強制的に連行しながら海鳴の有名ケーキ屋さん『喫茶翠屋』にやってきた。店から漏れてくる甘い匂いが、先程満腹になったばかりの私のお腹を刺激する。

「わぁ~…美味しそうな甘い香りですね」

「うぷっ…胸焼けがっ」

「もう、アナタったら匂いだけで胸焼け起こさないでください」

目が見えないのでお父様がどうなっているのかは分からないけどなんとなく想像が出来る。顔を真っ青にして口元を手で押さえているお父様の姿が…。

何でお父様は甘い物が苦手なんでしょうか?あんなに美味しくて素晴らしいのに…。以前その事について尋ねてみたら『お、お茶に練乳はあり得ない』と言って震えてました。お茶に練乳?何の事でしょうか?

「さ、彩。早く入りましょ♪」

お母様が私の手を取り優しく握ってくる。それに私は微笑みぎゅっと握り返した。

「はい♪」

「ぼ、僕も入るのかい?」

「当たり前です。長くお付き合いするかもしれないんですからっ!」

「そうですよ、お父様。さ、行きましょう?」

「うぅ~…」

ずるずると靴の擦れる音が聞こえる。どうやらお父様はお母様に引き摺られているようだ。

お母様は入口の扉のドアノブに手を当て、扉を開ける。すると、客が入店した事を知らせる鈴の音がチャリンチャリンと響き渡り私達に気づいた女性と男性の店員さんが元気な声で出迎えてくれた。

「いらっしゃいませ~♪」

「いらっしゃいませ!…おや?この辺では見掛けないお客様ですね。観光か何かですか?」

「いえいえ♪今日越して来たんです♪…ほら、アナタ」

お母様が未だに…と言うより更に気分を悪くしているお父様に話しかける。どうやら店に入ってより強力になった甘い匂いに胸やけが悪化したようだ。

「うぅ…」

「あの…大丈夫ですか?御気分が悪いようですけど…」

「あっ!いえいえっ!旦那はいつもこうなんで気にしないで下さいっ!…ア、アナタ!」

「うぷっ…あ、あはははっ。水無月一郎です。見っとも無い所をお見せしてしまいお恥ずかしい」

お父様は苦しそうに笑うと、なんとか平然を装い店員さん達に挨拶をする。

「水無月由良です。で、この子が…」

自己紹介をする順番が私に回ってくると、私は一歩前に出て深くお辞儀をし笑顔で自己紹介をする。

「水無月彩です。今年で9歳になります。色々とご迷惑掛けるかもしれませんがよろしくお願いします」

「うふふ、礼儀正しい子ですね。高町桃子です。よろしくね、彩ちゃん」

「高町士朗です。よろしく、彩ちゃん」

士朗さんは大きな手を私の頭の上にぽんと乗せると、ゴシゴシと私の頭を撫でる。私は擽ったそうに目を細めるが別に嫌じゃないので黙って頭を撫でられていた。

「それにしても、9歳か。ウチの子と同い年だね」

「あら?そうなんですか?何処の学校に通ってるんです?」

「私立聖祥大学付属小学校です」

あれ?そこって確か…。

「まぁ!彩もそこに転入するんです!」

「そうなんですか?もしかしたらなのは…ウチの子と同じクラスになるかもしれませんね!」

「うふふ、その時は彩をよろしくお願いしますね」

「こちらこそ♪」

お母様は桃子さんとの会話が盛り上がってしまい本来の目的を忘れてしまったようだ。ケーキを買うために此処に来たのに今では雑談が目的の様になってしまっている。早くしなければお父様が大変な事に…。すると、何やら誰かの視線が私に集中しているような気がした。

「…」

…?士朗さん、さっきから話していませんね。もしかして、この視線は士朗さんの物でしょうか?

そんな事を思っていると、士朗さんが口を開きお母様に訊ねてきた。

「失礼ですが…もしかして、彩ちゃん。目が?」

「「「…」」」

その言葉に私達は黙り込んでしまう。

ばれちゃいましたか。ばれない様に振る舞っていたんですけど…。まぁ、すぐに分かってしまう事なんですけどね。

「…すいません。彩ちゃんの視線が私達の視線と合わなかったので…。最初は恥ずかしがっていたのかな、と思ったのですが。若干、視線が泳いでいるようでしたで…」

「あっ、いえ!私の方こそ黙っていてすいませんっ!」

士朗さんが誤って来たので私は慌てて深く頭を下げる。本来ならこっちが最初に言うべき事なのだから謝るべきなのは私の方なのだ。

「いや、こっちが悪かったよ。言いたくないだろ?目が見えなかったせいで嫌な思いをしたこともあっただろうし…」

確かに辛い事は沢山あった。この目の所為でお父様やお母様には迷惑を掛けている。一人では殆どと言っていいほど何も出来ない。同い年の子達の遊びにも混ざれない事も多かった。本だって点字で翻訳されている本しか読めない。でも…。

「いえ、大丈夫ですよ?お父様やお母様がいますし。今までだってクラスメイトの人達とは"良くして貰って"いましたので」

「「…」」

あれ?今度はお父様とお母様が黙っちゃいました。

「?…あ、ああ、そうかい?良かったね。良いお友達が居て」

「「っ!?」」

「…お友達?」

「ん?どうしたんだい?」

お友達…私の知識には無い言葉。私は士朗さんの言った言葉が理解できず、思い切って士朗さんに訊ねてみた。

「あの…お友達って何ですか?」

「「…え?」」

士朗さんと桃子さんの驚いた声が聞こえた。私は何か変な事を聞いてしまったのだろうか?

「や、やだ!彩ったら!『一緒に遊んでくれる人』の事よ!もうこの子ったら♪」

「そ、そうそう!」

まぁ!そうだったんですねっ!?私ったらなんて恥ずかしい事を言ってしまったんでしょうか。

私は恥ずかしくなり顔を真っ赤にして顔を伏せた。

「そ、そうなんですか?なら、前の学校でも沢山いましたよ♪」

「そ、そんなんだ」

「はい♪」

「…」

「…っ」

「…あの、どうかしました?」

急に黙ってしまった二人を不思議に思った桃子さんが二人に声を掛ける。

「っ!?い、いえ!何でも無いですっ!」

「そうですか?お二人共辛そうな表情をしていたようですけど…」

え?

私は桃子さんの言葉を聞いてバッとお父様とお母様を見上げる。しかし、私の目に見えるのは暗闇のみ。二人の表情を見る事が、大切な両親の表情を見る事は出来ない…。

「…お父様?お母様?」

「大丈夫。心配ないから…ね?ほら、ケーキを買いに来たんでしょ?美味しそうなケーキが沢山あるわよ~♪」

私は心配して声を掛ける。しかし、返って来るのはいつも通りの優しいお母様の声。演技なのかそれとも本当に何でも無いのかは目の見えない私には分からない…。でも、ここで私が不安な顔をすればお父様やお母様が悲しんでしまう。そう思った私は、お母様の言葉に明一杯の笑顔で応える。

「……はい♪」

「ふふ♪…ふふ~ん♪さぁ~て、どれにしようかしら♪彩は何が食べたい?」

私が微笑むとお母様は満足そうに笑い。鼻歌を歌ってルンルン気分でケーキを選び始め、私にどのケーキが良いか訪ねてくる。と言っても、私は目が見えない。なので、スゥーッと息を吸って匂いで選んでみる。呼吸の際に鼻に流れ込んでくる多くの甘い香り。でも、その甘い香りは一つ一つ異なっていて、どれもとても美味しそうに思えてしまい、どれにしようかと私を悩ませてしまう。

「え~と…やはり此処はシンプルにショートケーキでも」

「あら良いわね♪じゃあショートケーキを二つと~…モンブランも良いわねぇ♪」

「チョコレートケーキも捨てがたいです♪」

「そ~ねぇ♪あっ!このチーズケーキも美味しそう♪」

私とお母様がケーキを選びで盛り上がっていると、私はふとお父様の事を思い出す。

…あら?お父様は?

「…お父様?」

「ああ、お父さんは窓際の席でダウンしてるわよ?」

い、何時の間に…。

どうやら限界に近かったお父様は甘い匂いの前に遂にダウンしてしまったようだ。お母様が言うには窓際の席で唯一人突っ伏して真っ白に燃え尽きているらしい。

「……ぁ、し、士朗さん。こ、コーヒーを…ブラックで…ガクッ」

「あ、あはは…畏まりました」

あっ、本当だ。向こうから弱々しい声で士朗さんにオーダーを頼んでいるお父様の声が聞こえます。と言うか、今にも声が死にそうです。大丈夫でしょうか?

「ショートケーキがお二つに、モンブランがお一つ、チョコレートがお一つ、チーズケーキがお一つですね。〇〇〇〇円になります」

あっ、いつの間にかケーキのお会計を済ましちゃった様です。

「アナタ~。車に戻りましょう」

「ん…ああ、ちょっと先にに戻っていてくれ。士朗さんと話があるんだ」

お母様がお父様を呼ぶと、先程まで屍と化していたお父様が普段通りの声で返事を返してくる。

あら?いつの間にかお父様が復活してます。

私が予想していたのは弱々しい声で返事をするお父様の声だったのだが…。それに、士朗さんと話があるから私とお母様には車の所へ先に戻って欲しいとの事だ。何か大事な話でもあるのだろうか?私が不思議に思っていると、お母様が私の手を握って来た。

「…そう、でも早くしてね?引越し屋さんが来ちゃうわよ?」

「…君がそれを言うのかい?」

あはは…ケーキコールしていた私が言うのもなんですが、私もそう思います。

「おほほほ♪何の事かしら?…さて、彩?行きましょう?」

「あ、はい…」

私はお母様に手を引かれお店を出る。お父様の事が気になったがお母様が「彩の気にする事じゃ無いわ」と言うので気にしない事にした。お母様がそう言うのだから大した事は無いのだろう。








――――Side Ichiro minaduki






「コーヒーをお持ちしました。どうぞ」

「あぁ…どうも」

僕は士朗さんが持って来てくれたコーヒーを受取ると、すぐさまコーヒーカップを口に移す。コーヒー独特の苦い味が口の中に広がり胸焼けが少しだけ楽になった。

ふぅ…少し楽になった。それにしても美味しいなぁこのコーヒー…。

体調が元に戻り始め余裕を取り戻した僕は、ゆっくりとコーヒーカップのコーヒーの香りを嗅ぎ肩の力を抜く。どうやらコーヒーにもかなり力を注いでいるようだ。でなければこんなにいい香りで深い味を出せる訳が無い。僕は一人うんうんと満足そうに頷いていると、ある男性が僕に話しかけてくる。この店の主、士朗さんだ。

「あの…お尋ね事があるんですが、良いですか?」

「はい?何ですか?」

私はコーヒーカップを口から離すとテーブルにカップを置き士朗さんを見上げる。見上げた先には聞こうか聞くまいかと言う様な何やら悩んでいる困惑顔の士朗さんの姿があった。士朗さんは言い辛そうに何度か口を開いては閉じ開いては閉じを繰り返していたが決心が着いたのか、声を発して僕に訊ねてくる。

「……何故、彩ちゃんは『友達』と言う言葉を知らなかったんですか?」

一瞬、僕は僕の身体は時が止まり、石の様に動か無くなる。

…まぁ、普通は気になるか。

「アナタ~。車に戻りましょう」

由良の僕を呼ぶ声が聞こえる。どうやらケーキを買い終えたようだ。

「ん…ああ、ちょっと先にに戻っていてくれ。士朗さんと話があるんだ」

僕はそう言うと由良にアイコンタクト送る。流石は最愛の妻と言った所か、僕の言いたい事を理解してくれた様だ。由良は僕の視線に頷くと、彩の小さな手を握る。

「…そう、でも早くしてね?引越し屋さんが来ちゃうわよ?」

「…君がそれを言うのかい?」

僕はあれほど今度にしようと…。

「おほほほ♪何の事かしら?…さて、彩?行きましょう?」

「あ、はい…」

まったく…。

由良が優雅に笑いながら彩の手を引いて店を出て行く。出て行く際、彩が心配そうに僕の方をチラリと視線を向けて来たので僕は苦笑しながら手を振って二人を見送った。見えてはいないかもしれないが、彩のあの顔を見たらそうしたくなったのだから仕方が無い。僕は二人が出て行くのを確認すると、コーヒーカップに手を伸ばしカップを口に移す。

「さて…」

コーヒーを一口飲むと僕は真剣な表情を浮かべ士朗さんを見上げ語り始める。

「何から話しましょうか…」

彩のとても辛く。そして、とても悲しい出来事を…。











――――Side Sai minaduki
    11月28日 PM3:50
    海鳴市:翠屋の近くにある駐車場







車の中で待つ事数十分。話が長引いているのであろうか、お父様はまだ帰って来ない。私の隣の席ではお母様が携帯電話で誰かと話している。恐らく相手は引越し屋さんだ。家主がまだ家に着いていないので連絡してきたのだろう。引越し屋さんには鍵は預けて無いし、例え鍵があったとしても家具の位置を家主に確認して貰わないといけないのでどちらにしても家主が先に着いていなければならない。

「はぁ…引越し屋さん、もう引越し先に着いてるそうよ」

お母様は携帯を閉じると溜息を吐く。

「あはは…寄り道したのがいけなかったですね」

「女は甘い物に弱い生き物なの…」

むぅ…恐ろしいです甘い物。

そんな可笑しな事を考えていると、良く知っている人の足音が私の耳に届いて来る。

「あ…お父様が戻って来たみたいです」

「え?あら、ホントだわ」

私がそう呟くと、運転席のドアが開きお父様が入ってくる。声から察するに何か良い事があったようだ。

「お待たせ。いや~ごめんごめん、遅くなってしまって」

「本当よ。引っ越し屋さんから電話着たわよ。もう着いてるって」

「あちゃ~…。それは悪い事しちゃったなぁ…」

「ほらほら、呑気なこと言ってないで速く行きましょう?」

「そうだね」とお父様は言うと、エンジンを入れ車を発進させる。

移動する途中。車の走る揺れに揺らされながら、私は先程から気になっていた事を思いきってお父様に訊ねてみた。

「あの、お父様。士朗さんと何を話していたんですか?」

「ん?ああ、世間話をちょっとね」

「はぁ…そうなんですか」

「ん?何だい?何か気になる事でもあるのかい?」

そう言う訳では無い。何で世間話でそんなに嬉しそうににしているか不思議に思っただけだった。

「いえ、それにしてはお父様が嬉しそうにしていたで」

「ははは♪…そうか、嬉しそうだったか」

…?お父様?

「…彩」

「はい、何ですか?お父様?」

「きっと此処は。君にとって最高の場所になるよ。きっと…」

「…?」

「…アナタ?」

私はきょとんとしてお父様を見る。お母様も声から察するに私と同じ表情の様だ。

「やっとだ…やっとだよ。由良…」

「っ!」

お母様が息を呑んできゅっと私の手を握って来ます。

…お母様?

「士朗さんからの伝言だよ、彩。『ウチの娘のなのはをよろしくね』だって」

…あ。

お父様から発せられた予想外の言葉に私は驚くが、直ぐにそれは満面の笑みと変わり大きく頷く。

「っ!はい!…ふふふ♪どんな子でしょうか。楽しみです♪」

私は近いうちに出会うであろう少女に、期待を胸に膨らませて新しい家へと向かった。








――――11月28日 PM6:00

    自宅




新しい我が家に到着すると、先に到着していた引越し屋さんのトラックが数台止まっていて、到着早々お父様とお母様が引越し屋さんに謝罪するので大変だった。その後の引っ越し作業は滞り無く終わる事が出来き、荷解きもお父様とお母様が前の家の私の部屋と全く同じ位置に家具や荷物を配置してくれたおかげで何も不便無く過ごす事が出来る。お父様とお母様の心遣いに感謝しなければならない。

私の部屋を優先したせいか。他の部屋の荷解きはまだ済んでおらず、お父様とお母様は残りの荷解きをしていた。私はそんななか、邪魔にならない様自分の部屋で点字に『翻訳』された本を読んでいる。私が行っても目の見えない私じゃ何も役には立てないからだ…。

「ふぅ…この本、前に読みましたね」

パタリと本を閉じ、本を元の場所になった本棚へと戻す。

流石に何度も読んでしまっては飽きてきますね…。

お父様とお母様もまだ荷解きは済んでいないようだ。下の階ではテープを剥がす音や、新聞紙を丸める音が私の耳に聞こえてくる。

「はぁ…」

私はため息を吐くとベッドに腰掛け倒れこみ目を閉じるじっとそのまま動かなくなる。

…退屈と言うのはお父様やお母様に失礼かもしれませんが…。

やはり、何もせずただじっとしているのはあまりにも退屈だった…。

「ふぅ……………あら?」

荷解きの音が止んだ。荷解きが終わったのだろうか?

…何か、様子が可笑しいです。

「音が…無い?」

そう、音が聞こえないのだ。外の風の音が、生活の音が、お父様とお母様の声が、今私が居るこの世界には存在しなかった…。

「どういう…こと?」

私は部屋から飛び出し両親が居るリビングへと駆け込んだ。しかし、お父様とお母様の気配がそこには無い…。

「っ!…そうだ。外に居るかも知れないっ!」

急いで玄関に向かい、スリッパから靴へ履き変えると、靴箱の横に掛けてある白杖を手に外に出る。そして、私は再び驚く事になる。

「外にも…音が、無い?」

先程まであった沢山の音が無かった。幸せそうな家庭の音が、人々の生活の音が、車の音が、全て存在しなかった。そう、止まっていた。街全体が。まるで、この街だけ別の何処かに隔離された様だった…。

私はしばらくその場で茫然としていたが、ハッと正気を取り戻し状況を整理する。

整理しようにも情報があまりにも無さ過ぎです。さっきまで居た筈の人達が一瞬で消るなんて今まで経験なんてした事無いし聞いた事もありませんよ…。

「と、とりあえず。人を探さなきゃ…ですよね?」

「ほう…かなりの魔力を所有しているな」

…え?

人を探そうと一歩前に足を踏み出した瞬間。凛とした女性の声が響いて来る。

「……?」

キョロキョロと回りを見回す。が、何処にも人の気配は無い。私ははて、と首を傾げる。

あれ?そう言えば今の声、空の方から聞こえたような…。気のせいでしょうか?

「…何処を見ているのだ。上だ上」

…上?空ですか?

私は女性の声に言われたとおりに空を見上げる。

「…違う。こっちだ。」

…あ、こっちですか。

今度こそ私は女性の居る方へと空を見上げた。

「…お前、目が見えないのか?」

あ、本当に空を飛んでいるんですね…。

再び空から声が響いて来て、本当に女の人が空を飛んでいるのだと確認する。

「あ、はい…」

「…そうか(主と同じで身体が不自由なのだな)」

女の人は何やら辛そうに小さく呟く。

「あの…」

「何だ?」

「空を…飛んでいるんですよね?」

「ああ、そうだ」

「どうやって飛んでるんですか?何か道具とかですか?タケコ〇ターとか…」

あれ?何か今変な音に阻まれたような…?

「(タケコ〇ター?)…いや、これは魔法と言う物だ」

魔法?御伽噺で出てくるあの魔法ですか?

「はわぁ~…本当に存在したんですね。魔法…」

だが、だとすれば今の状況も説明が付く。いきなり人が居なくなったのもその魔法の仕業なのだろう。

「…あまり驚かないんだな?」

いえ、実はかなり驚いてるんですけどね?それより感動の方が上回っていると言うか…。

「いえ、そんな事無いですよ?」

「…そうは見えないがな」

いえ、本当に一杯一杯です。

部屋に居たら急に家から両親が消えて、外に出たら人が全然居なくて、急に空飛ぶ女の人が現れて、終いには魔法と来たら誰だってそうなる。

「話は変わるが…」

「はい?」

「お前の持っているリンカーコアを私に頂けないだろうか?」

「リンカー…コア?」

聞いたことの無い単語に私ははてなマークを頭上に浮かばせる。

「魔法の源。魔導師の資質がある者だけが持っている物だ。お前にはそれがある」

魔法の源…私にそんな物があるなんて…。

「命に別条は無い。取られたら気を失う程度だ」

それはそれで問題があるような気もするが、私はそれよりもリンカーコアを求める理由が気になった。

「…一つ良いですか?」

「何だ?」

「私のリンカーコアを使って何をするんですか?」

「…」

私の言葉に女の人は黙り込む。言い辛い事なのだろうか?それとも、良くない事に使うのだろうか?

「…人を傷つけるために使うんですか?」

「っ!違う!そんな事はしないっ!」

女の人は声を上げ私の言葉を否定してくる。その悲痛な叫びは嘘偽りが無いと言う事を私に十分と言う程教えてくれた。そして、彼女が必死だと言う事も…。

「主を…救いたいのだ…」

主…誰だかは分からないが、この女の人にとって掛け替えの無い大切な人なのだろう。

「私達の所為で主の命が危ないのだ。主を…お救い、したいのだ」

女の人は辛そうに、悲しそうに声を震わして言葉を溢していく…。

たぶん、この女の人もこんな事はしたくないんだ。でも、こうしないとこの人の主さんは助からないから…。

「…いいですよ」

「っ!?」

私は微笑んで女の人の方に両手を広げる。

「私ので良ければどうぞ。こんな事でしかお役に立てませんが」

「いい…のか?」

私はこくりと頷く。

「私には…これしか出来ませんから」

「…すまない」

「彩です。水無月彩」

「え?」

女の人は間抜けな声を上げるを聞くと、私はくすくすと笑った。

「名前ですよ。貴女の名前を聞いても良いですか?」

「…シグナムだ」

シグナムさんか…外人さんなのでしょうか?

「シグナムさん。貴女と貴女の主さんの幸せを願っています」

「ありがとう…彩」

シグナムさんは感謝の言葉を私に送ってくる。私はそれに笑顔で応えた。

「蒐集」

ドクンッ…

うっ…あ…?

「蒐集」その言葉と共に私は、私の体の中から何かがら抜き出され酷い脱力感と酷い頭痛共に意識を手放した…。









――――Side SigNam






蒐集を終え、闇の書のページがどれだけ追加されたかを確認すると、私はそのページ数に驚愕した。

100ページ…だと?

信じられない数だった。この少女に一体どれだけの魔力が宿されていたのだろうか?もし、彼女が魔導師で管理局の人間だったら私は破れていたかもしれない。私は額に冷や汗を流しながら頭の中でそう考えていると、彩の倒れている場所ちらりを視線を移す。

…せめて、ベンチに寝かせておいた方が良いだろうか?

幾らなんでも硬い道路に寝かしておくのは忍びない。私はそう思い地上に降り彩に駆け寄ると、彩の様子がおかしい事に気が付く。

「――なっ!?」

慌てて彩の顔を覗き込んだ。そして、私は見た。彩が顔を真っ赤に染め、酷く汗を流し、息を荒くして呼吸している姿を…。私は彩の額に手を当てると、物凄い熱が私の手に伝わってくる。

どう言う事だっ!?ちゃんと加減したのにっ!?

急いで彩を抱きかかえると病院に連れて行こうとするが直ぐに足を止める。

…いや、これがもしも魔法関係による症状だとしたらこの世界の医療技術ではどうしようもない。

私は、身内で最も治癒魔法に詳しい人物に念話を繋げる。

『…シャマルっ!聞こえるかっ!?』

『きゃっ!?シグナム?どうしたの?そんなに慌てて…』

『蒐集対象者が倒れたっ!』

『それは普『そうじゃないっ!高熱を出して倒れたんだっ!このままだと命の危険があるっ!』…えっ!?』

予想外の言葉にシャマルが驚きの声を上げる。当然と言えば当然だ。蒐集はリンカーコアを奪うが蒐集対象の命までは奪う事は無い。魔力を全て根こそぎ奪うのなら話は変わってくるが。私は彩にそんな事はしていなかった。

『今から蒐集対象者を家に連れて帰る』

『シグナムっ!?正気っ!?』

もちろん正気だ。でなければこんな事は言わない。

『大丈夫だ。彼女が我々の情報を漏らすは無い。私が保障しよう』

『だからって…もし、その人が敵側の人間だったら…』

『彼女は笑顔で私にリンカーコアを差し出した!あの笑顔を誰にも否定はさせんっ!』

彩はこう言った。「貴女と貴女の主さんの幸せを願っています」と…。あの笑顔に偽りなど一切無かった。あの笑顔を見た私には分かる。彼女は彩は心の底から主の幸せを願っていたのだと…。

『シグナム…』

『すまない。私の我儘だ…』

『………』

シーンと辺りが静まり返る。シャマルは何も言わない。私に呆れているのかもしれない。守護騎士であるはずの私が主の安全よりこの少女を優先しようとしているのだから…。

『…蒐集対象者の状況はどうなの?』

『っ!?あ、ああ!酷い熱で息遣いも荒い。蒐集する前は元気だったから蒐集が原因だと思うのだが…』

『リンカーコアをギリギリまで蒐集した?まさか、根こそぎ奪ったなんて言ったら怒るわよ?』

…私を何だと思っているんだ?

『加減はした。普通なら気を失う程度で済む筈だ』

『…蒐集に耐えられないほど病弱だったのかしら?』

流石にそこまでは分からんない。何せ彩と出会ったのはつい先程なのだから。彼女の情報など皆無に等しい。

『詳しい事は実際見て見ないとわからないか…急いで家に戻ってきて』

『すまない…』

『良いわよ…貴女がそこまで言うのだから、本当に良い子なんでしょうし』

そう言うと、シャマルは念話を終了する。私はそれを確認すると、彩をしっかりと、そして優しく抱きかかえて家に向けてこの場から飛び去った…。










――――Side Sai minaduki
    11月28日 PM8:30
    海鳴市:???





「んんっ……此処は?」

瞼を開けるとそこは相変わらずの暗い世界。自分の家の物では無いベッドから身体を起こそうとすると、余りの体のダルさに再び身体をベッドへと戻した。

…こう言う場合は「知らない天井だ」とか言うんでしたっけ?

そんな事を考えていると、ドアの隙間から食欲をそそる美味しそうな匂いが流れ込んでくる。

…この匂い、お粥でしょうか?

私が体調を崩すとよくお母様が作ってくれるのですぐに分かった。匂いからしてお母様の作ったお粥ではないみたいようだ。

「と言う事は、別の家?……っ!?今何時でしょうかっ!?お父様とお母様が心配…痛っ!」

慌てて飛び起きようとするが今度は激しい頭痛でそれを阻まれる。

痛ぅ~……。

ガチャリッ…

頭痛で頭を抱えていると、ドアの静かに開く音が部屋に響き、次に美味しそうな匂いを漂わせ部屋に入って来た元気な女の子の声が響いた。

「ああっ!?あかんよ~。さっきまですごい熱で魘されとったんやから。無理したらあかん!」

…誰?

「熱はどない?お粥作ったんやけど食べれそう?」

「あの…」

私が不思議そうにしていのも関わらず、女の子は元気に話し続ける。

「本当驚いたわぁ。シグナムが高熱で倒れてる子連れて帰って来るんやもん」

いや、あのですね…。

「あの…何方でしょうか?」

「あっ!自己紹介忘れとったな。私、八神はやてって言います。よろしくな?」

八神さんが明るい声で私に自己紹介してくる。何故だろうか。目は見えない筈なのに、彼女の眩しい笑顔が私の脳裏に浮かんでくる。

「あ、水無月彩です。よろしくお願いします。八神さん」

私は笑みを浮かべて八神さんに自己紹介をする。



私は、この時気が付かなかった。


彼女との出会いが私の運命を大きく変えてしまう事を…。


彼女との出会いが物語を動かしてしまった事を…。


私はまだ知らなかった…。












キャラクタ設定

水無月 彩 (みなづき さい)

血液型:O型

趣味:読書 歌

好きな物:甘い物 本 自然 両親

嫌いな物:争い事

ランク:SSS(魔力のみ戦闘不可)

詳細:生まれた頃に視力を失ってしまう。身体も弱く、よく体調を崩してしまい母親に看病して貰っている。運動は出来ないが頭はよくテストは常に満点をキープ。礼儀正しく家の中でも敬語で話している。目が見えないのが原因で引越しするたびに学校ではいじめ問題が起こってしまう。しかし、本人はその自覚が無い所為かいじめられている事でさえ遊んでもらっていると勘違いしている。

イメージ:http://blog-imgs-31.fc2.com/k/i/n/kinpatu429/20090327215219.jpg












あとがき

やあ (´・ω・`)

うん、何が言いたいかは分かるよ。まだ、「幼い賢者と魔法」が完結してないだろって言いたいんだよね?

まぁ…なんだ。気分が乗らなかったんだ。済まない。

幼賢の更新は次回まで待ってくれ。

でも、このタイトルを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない

「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。

群雄割拠の投稿掲示板で、そういう気持ちを忘れないで欲しい

そう思って、このタイトルを作ったんだ。



じゃあ、注文(感想)を聞こうか。



[8923] 魔法少女リリカルなのはA’S ~盲目の少女は何を見るのか…~ 第二話
Name: 金髪のグゥレイトゥ!◆60293ed9 ID:fe11bdaf
Date: 2010/01/21 04:54
「そうか~、彩ちゃんも私と同い年かぁ~」

八神さんと御喋りして30分くらい経過しただろうか。私は両親が心配するので直ぐに家に帰ると申し出たが八神さんやシャマルさんと言う人がその病み上がりの体では駄目だと止められた。私はそれでも帰ると申し出たが、シャマルさんが両親に連絡してくれると言うので大人しく従う事にした。

「はい、八神さんはどこの学校に通ってるんですか?」

「は・や・て」

「え?」

「はやてって呼んで」

「え…でも…」

私は八神さんの急な言葉に戸惑う。今までそんな事、言われた事が無かったから…。

「私達友達やろ?」

「友達…」

確か『一緒に遊んでくれる人』の事ですよね!覚えてますよ!覚えるのは得意ですから!触覚、嗅覚、聴覚、味覚、何でもござれです!

「そや!友達や!」

そう言って八神さんは嬉しそうに笑うと私に手を握ってブンブンと勢い良く振って来るが、私は少し困惑な表情を浮かべる。

…え~と。

「でも、私達はまだ遊んだ事無いですし…」

「…え?」

私の言葉に今度は八神さんが戸惑った声を上げ、私はそんな八神さんを不思議に思い首を傾げた。

「?…どうかしましたか?」

何か間違っていたでしょうか?

「え~とな…友達って遊んだ事があるってだけが友達や無いと思うんよ」

どうやって説明したらええんやろと八神さんはうんうん唸りならがら言葉を探している。

「私もうまく言葉に出来んのやけど…。そやな、一緒に笑えて、一緒に泣いて、一緒に喜んで、たまには喧嘩して、それで仲直りして…たぶん、そんな事が出来るのが友達だと思うんよ」

「…」

私は言葉を探しながら話している八神さんの言葉に真剣に耳を傾ける。

「あはは…偉そうに言ってるけど、私も友達が居らんからよう分からん。要は一緒に居て心から楽しく居られる存在が友達だと思う」

「一緒に居て、楽しい…」

「うん。だから私は彩ちゃんとそんな友達になりたい。一緒に泣いて一緒に笑えるような、そんな友達に。遊んだ事があるだけじゃそんな友達は作れんやろ?」

「…良く、分からないです」

八神さんの言葉が上手く理解出来ず、ふるふると首を左右に振る。今まで、そんな事を言ってくれる友達は居なかったから。そんな、一緒に笑って、泣いてくれる様な友達は居なかったから…。

「そか、ならこれから理解していけば良いんよ。…だから、ほら」

八神さんはまた私の右手を握ってくる。今度は優しく、両手で包み込むように…。

「私の友達になってくれへん?」

八神さんは優しい声で私に語りかけてくる。私はそんな彼女に頬笑みを返して、空いている左手を、八神さんの両手の上にそっと置いた。

「友達…良い響きですね…」

私の知っている『友達』と、彼女が言っている『友達』は、全くの別物に思えた。私にとって目の前に居る彼女は、今まで出会った子達とは全く違う、傍に居ると暖かく優しく私を照らしてくれる陽の光の様な存在だった…。

なんだか、胸の辺りが…とても暖かいです。

「こちらからも、お願いできますか?私の友達になって下さい。八神さ…いえ、はやてちゃん」

「喜んで♪」

声ではやてちゃんが微笑んでいるのが分かる。そんな彼女の声に私は嬉しくてちょっと泣きそうになってしまった…。














第2話「友達、なの」













――――Side Sai minaduki
    11月28日 PM9:10
    八神家:客室




「でな、シャマルが納豆の粘り気を無くすために洗剤で洗おうとして大変な事になって…」

「ふふふ、シャマルさんったら。チャレンジャーなんですね?」

「いや、彩。そう言うレベルでは無い…」

「ああ、食わされるアタシ達の身にもなってくれよ…」

「そもそも何故納豆を洗おうとする…」

「あうう~…はやてちゃん。何でその事言っちゃうんですか~?ていうか皆酷いっ!」

はやてちゃんと友達になった後、私とはやてちゃんはおしゃべりに花を咲かせた。はやてちゃんの家族の事や、足が不自由な事、両親が居ない事、好きな事や嫌いな事など色々聞いた。そんな会話をしていると、いつの間にかシグナムさんやシャマルさん、ヴィータちゃんにザフィーラさんが会話に混ざっていて、皆が次々と自分の話を私に話してくれた。自分達がどう言う存在か、自分の好物や得意な魔法。後、念話と言う魔法で、次々に蒐集の事で私に謝って来て私はどうしようと焦ってしまった。

それと、会話の最中にヴィータちゃんにはやてちゃんと友達になった事を話したら「じゃあ、あたしも今日から友達だな!」と笑って言ってくれたのはとても嬉しかった。

「むしろアレを食わせようとするシャマルがヒデェよ」

「同意だ」

「うむ」

「酷いっ!?」

あははは♪皆楽しい人ですね~♪

「シャマルはちゃんとレシピ通りに作れば普通くらいの料理が出来るのに、隠し味とか訳分からんことするから…」

ああ、ありますね。素人程良くやるってお母様が言ってました。チャレンジしたいのは分かりますけど、まずは基礎が出来てからですよね。

「練習あるのみですよ。シャマルさん。頑張ってください!」

「彩ちゃん…私、頑張るから!」

シャマルさんは私の言葉に感動してガバッと私の身体を泣きながら抱き締めてくる。私はそんなシャマルさんに苦笑しつつ、ぽんぽんと背中を優しく叩いた。

「…彩、シャマルを煽るなよ。被害が来るのはこっちなんだぜ?」

ヴィータちゃんのうんざりとした声。非難の視線がビンビン私を突き刺してます。

「あはは…まぁ、シャマルの味覚を何とかすれば大丈夫やろ」

「それまでに私達がシャマル印の料理を耐えきれるかどうかだな…短いようで長い人生だった…」

「彩、主の事をよろしく頼む」

「ごめんな、彩。友達になってやるって言ったのに生きて帰れそうにねぇや…」

「大丈夫やで、皆…死ぬ時は一緒や…」

「皆して私を苛めて楽しいですかっ!?」

「あは、あははは…」

皆、仲良いですね…。息がぴったりです…。

シャマルさんと私を除いた皆がよよよとワザとらしく泣いて抱きしめ合う。一体、彼女達にそんなに忌み嫌われるシャマル印の料理は一態度言うものだろうかと私は冷や汗を流しながら苦笑する。とりあえず私に抱き付いているシャマルさんの頭を撫でておいた。

「彩ちゃんだけですよ、私に優しくしてくれるのは…」

『良く言う。最初は彩がこの家に来るのを反対していたくせに』

「はぐぅっ!?」

シグナムさんが念話でシャマルさんに止めを刺した…。

あぁっ!?シャマルさんがショックで呼吸が止まっちゃいましたああああああっ!?











ピンポ~ン♪

シャマルさんがショックで気を失っているのを介抱していると、玄関の呼び出し音が響いた。

「ご両親が来たみたいだな」

そう言うと、シグナムさんは椅子から腰を上げ、玄関へと向かって行き、その後直ぐに聞き覚えのある声が玄関から聞こえてくると、ドタドタと騒々しい足音がこの部屋へと向かってくる。

「「彩っ!」」

息を切らせてこの部屋に飛び込んで来るお父様とお母様。此処まで走って来たのだろうか?少し、汗の臭いが強い気がする…。

「彩っ!何で勝手に家の外に出たんだっ!?」

「高熱を出して倒れていたって聞いた時は気を失いそうになったんだからねっ!?」

それぞれそう言うと、はやてちゃん達の事を気に留める事無く私に向って飛び付きぎゅっと抱きしめてくる。二人に力いっぱい抱きしめられてちょっと苦しかったが、お母様の身体が震えているのに気付くと申し訳ない気持ちで一杯になった…。

また、迷惑掛けてしまいました…。

「ごめん、なさい…」

私は目に涙を溜めて謝ると、お父様とお母様に抱きしめ返す。

「熱は大丈夫なの?」

お母様が私の額に自分の額をピタリと当ててくる。

「はい…」

「怪我は無いか?道端で倒れたんだろ?」

それに続いてお父様が私の身体をぺたぺたを触れて怪我は無いかたしかめる。

「無いです。何処も怪我してません…それに、あの方達が看病してくれましたから」

そう言って先程から私達の様子を黙って見守ってくれている八神さんやシグナムさん達が居る方へ手を向ける。

「えと、八神はやてって言います」

はやてちゃんが少し遠慮気に自己紹介をし、シグナムさん達がそれに続く。

「シグナムです」

「シャマルと申します」

「ザフィーラだ」

「…ヴィータです」

あれ?ヴィータちゃんの声が少し暗いと言うか、変な感じなんですが…。先程までは元気だったのに…。

「ヴィータちゃん?」

「っ!?」

私は不思議に思い、ヴィータちゃんに声を掛けると、驚いた様な声を上げる。ドタドタとヴィータちゃんははやてちゃんの方へと走って行く。

…?

ヴィータちゃんの行動にきょとんととすると、はやてちゃんがくすくす笑い私に説明してくれる。

「あはは!ヴィータは人見知りするからなぁ。ほら、ヴィータ。彩ちゃんのお父さんとお母さんに失礼やろ?」

どうやらはやてちゃんの後ろに隠れてしまったようだ。私ははやてちゃんの言葉に納得すると、はやてちゃんに釣られてくすりと笑う。

「ふふ、ヴィータちゃん。大丈夫だよ。お父様とお母様はすっごく優しい人だから」

私がそう言うと、お母様がヴィータちゃんの方へ歩いて行き、そしてしゃがむ。足音の距離からして、ヴィータちゃんの目の前でしゃがんだ様だ。

「水無月由良です。よろしくね?ヴィータちゃん」

「え…っと…その…」

ヴィータちゃんはお母様の急な行動に戸惑い、言葉にならない声を口の中でもごもごとさせる。

「うふふ、な~んで顔を赤くしてるのかな~ヴィ―タちゃん?」

「うるせぇぞシャマルっ!」

シャマルさんがヴィータちゃんをからかい、ヴィータちゃんは声を荒げて怒鳴り散らす。

「ははは、僕の奥さんの笑顔は綺麗だろ?なんたって世界一のお嫁さんだからな!」

お父様が楽しそうに笑いお母様が「もう、貴方ったら」とパシンとお父様を叩く。

本当に、いつまでもラブラブな夫婦ですねぇ。私もお父様とお母様みたいな夫婦になれるでしょうか?

「初めまして、ヴィータちゃん。僕は水無月一郎。彩のお父さんだ。よかったら彩のお友達になってやってくれないかな?」

「…う…だち…」

ヴィータちゃんは私以外の人達には聞き取れない程の小さな声でボソリと呟く。しかし、私にはしっかりと聞こえた。ヴィータちゃんが何を言ったのかを…。

「え?」

「何て言ったのかな?」

「もう、…だち…」

二回目の声もお父様とお母さんには伝わらない。でも、私にはしっかりと伝わってくる。そして私はその言葉が嬉しくて頬を赤く染めて微笑えんだ。

ヴィータちゃん…。

今までこんな気持ちを経験した事があっただろうか?

「もう、友達!」

「っ!?」

「…ぁ」

「~~~っ///」

ヴィータちゃんは今度はハッキリと大きな声で宣言し、お父様とお母様はその言葉に驚いて言葉を無くす。

あはは、きっとヴィータちゃん。顔真っ赤にしてるんでしょうねぇ…。

そして私は思う。この街に来て…。

「あはは、私も言ってませんでした。私、八神はやても彩ちゃんのお友達です♪」

本当に良かったと…。












――――11月28日 PM10:00
    帰宅途中の道路:父の背中








八神家の皆と別れた私は、お父様におぶられながら人々が眠り静まり返った道を歩いて行く。もうすっかり冷たくなった夜風に吹かれぶるってと身体を震わすとお父様の温かい背中に顔を埋めて寒さを凌ぐ。

「寒いかい?」

「少し…」

「そうか…もう少しで家だからね?」

「はい」

お父様の優しい声に背中に顔を埋めたまま頷くと、私の背中に別の人の温もりが重なってくる。お母様だ。お母様が私とお父様に抱き付くように腕を回して来た。

「これで暖かいでしょ?」

「…はい♪」

すりすりと私の頬にお母様の頬を擦り合わせてきて、私はそれに頬を染め嬉しそうに返事をする。

「ふふふ♪」

「…お母さん。重たグホォッ!?」

お父様の脇腹の方から鈍い音がすると、お父様はカエルさんが潰れたような声を上げて歩みを止めた。

…そう言えば、カエルさんの潰れる声ってどんな声なんでしょうか?本とかで良く書かれてますけど、聞いた事無いです。あまり聞きたくも無いですけど…。

「何か言った?♪」

「イエ、トテモ軽クテ羽毛ノヨウダトイイマシタ…」

「もう!アナタったら♪褒めたって何も出ないわよ?」

お母様はパシンとお父様の肩を叩くと、お父様は「あはは…」と乾いた笑い声を零し止めていた足を動かして再び歩き出す。

お父様とお母様はいつも仲良いですねぇ。

「彩」

しばらく何も話さず沈黙の中帰宅への道を歩いていたが、お父様が急に口を開いた。

「はい、何ですか?お父様」

「はやてちゃん。良い子だったね…」

急にはやてちゃんの名前が出てきょとんをするが、直ぐに私の表情は笑顔になって大きく頷く。

「はい♪と~っても良い子です♪」

お父様は私の答えに満足そうに笑う。

「明日、楽しみだね」

「はい♪」

お父様の言葉にもう一度大きく頷くと、笑顔で鼻歌を歌う。

お父様が言う『明日』と言うのは、はやてちゃんと別れる数分前まで遡る…。






――――数分前


「彩ちゃん!」

お父様におぶられて、玄関のドアを潜ろうとした時、はやてちゃんに呼び止められお父様は足を止め、振り返った。

「はやてちゃん?どうかしましたか?」

突然呼び止められて私は驚くと、はやてちゃんは緊張した声で私に向って話しかける。

「明日…また会えへん?」

「明日、ですか。明日から学校に通うので夕方でしたら…」

そう、明日から新しい学校に通う事になる。休日なら朝から遊べるが明日は生憎の平日、遊べるのは放課後からとなるだろう…。

「なら!学校が終わったら遊ばへん!?近くに大きな図書館があるんや!点字の本も沢山ある!」

「本当ですかっ!?わぁ~…♪行ってみたいです!」

『本』と言うキーワードに激しく反応した私は直ぐにはOKの返事をする。

「じゃあ!放課後になったら携帯にメール…は無理か電話して!迎えに行くから!」

既にはやてちゃんの電話番号は登録済みである。さっきまでアドレス帳にはお父様とお母様しか登録されて居なかったと言うのに、この短時間ではやてちゃん。シグナムさん、シャマルさん、ヴィータちゃんのと、4人も一気に増えた。

「いえ、学校には私が迎えに行きましょう。主はシャマルと図書館で待って居て下さい」

「シグナム?」

突然のシグナムさんの乱入にはやてちゃんは少し驚いたような声を上げる。他のヴォルケンリッターの人達も同様の様だ。

「いや…その、コホンッ。さ、最近物騒だからなっ!武術の心得がある者が傍にいた方が良いだろうっ!」

「何訳の分からないこと言ってんだよ…」

「う、うるさいっ!」

焦るシグナムさんの声を聞いて私はクスリと笑うと、シグナムさんに話しかける。

「くすくす…では、すみませんがシグナムさん。迎えに来て頂けますか?」

「ああ!任せておけ!彩に手を出そうとする不埒な輩には指一本触れさせはせんっ!」

自分のどんっと胸を叩くシグナムさん。私とはやてちゃんはそれを見て微笑むが、他のヴォルケンリッターの面々はやや冷たい念を籠めてシグナムさんに突っ込みを入れる。

『『『最初に手を出したのは貴女(お前)でしょう(だろ)…』』』

「ぐっ!?」





と言う事があって、明日の放課後、はやてちゃんと図書館で遊ぶ事になったのだ。

明日がすっごく楽しみです♪

「それにしても、シグナムさんは何ではやてちゃんの事を『主』って呼んでたんだろうね?」

ぎくり…。

「そうねぇ…。何かの遊びかしら?王様ゲームみたいな」

王様だけは間違ってません…。

「あ、あだ名みたいな物ですよっ!ほら!はやてちゃんの家の人は仲良いですしっ!」

我ながら苦しい言い訳だ。

「そうね。楽しそうな家族だったわね♪」

「ははは、そうだな」

…うまく誤魔化せたでしょうか?

仲良く笑い合う二人の背後で、私は冷や汗を掻きつつほっと溜息を吐きそのまま帰宅した。

家に帰宅して晩御飯を軽く食べると、風呂に入り明日に備え休むことにした。明日の事に期待で胸が一杯になり興奮して眠れないと思ったが、朝からの車での移動、夜の出来事で疲れがどっときてベッドに横になった瞬間、直ぐに夢の中に落ちてしまった…。












――――Side Sai minaduki
    11月28日 AM8:00
    私立聖祥大学付属小学校:職員室




あっという間に朝がやって来て、私はお母様に連れられてこれからお世話になる先生が居る職員室までやってくる。お母様に手を引かれ私は職員室に入ると、先生方の視線が入口に居る私へと集まり「あの子が例の…」とか「御家族も苦労してるだろうに…」とか、私に聞こえないよう小さく呟く。当然、私には丸聴こえて少し眉を顰める…。

「すいません。今日転入する水無月と言う者何ですけども。担任の小沢先生はいらっしゃいますか?」

「小沢先生ですか?少々お待ち下さい…小沢先生~!」

「あっ!は~~いっ!」

お母様が身近にいた先生に尋ね担任の先生を呼んで貰うと、明るい声をした女性の先生がこちらへ駆けよって来る。

「初めまして!小沢と申します!」

「今日からお世話になる水無月です」

「水無月彩です」

ペコリとお辞儀をすると、小沢先生は満足そうに微笑み、よしよしと私の頭を撫でてくる。

「はい♪礼儀正しいですねぇ♪私は生徒に恵まれてます♪」

「そ、そんな事無いですよ…」

私は先生に褒められて少し顔が赤くなる。

「目の事で大変だろうけど、困った事があったら直ぐに言ってね?力になるから」

そう言うと、先生は私の右手を両手でぎゅっと優しく握り、私も微笑んで両手で握り返した。

「…はい!」

「では、娘をよろしくお願いしますね。先生」

「任されました!さ、教室に行きましょ?」

先生はそう言って私の手を引いて教室へと向かおうとするが、私は手を引かれながらお母様の居る方を振り返る。

「頑張ってね?いってらっしゃい!」

「…行ってきます!」

お母様の応援に笑顔で答えると、私は今度こそ教室へと向かった。









「今日から、皆さんのお友達になる。水無月 彩さんです!水無月さん自己紹介お願いね」

「水無月彩です。私は、小さい頃から病気で目が見えません。皆さんに迷惑を掛けるかもしれませんが、出来るだけ、皆さんの迷惑にならないよう努力しますのでよろしくお願いします」

私が自公紹介をしてペコリとお辞儀する中、『目が見えない』と言う言葉に教室中の生徒達がざわざわと騒ぎ始める…。

―――目が見えないですって…。ヒソヒソ

―――マジかよ?ヒソヒソ

―――一緒に授業できるの?ヒソヒソ

生徒達の反応は様々だが、あまり好感的な物では無かった。声から感じられるのは不安や困惑と言った感情ばかり。今まで出会った事の無いタイプの人間と出会ったら誰だってそうなるだろう。

「聞いての通り。水無月さんは病気で目が見えません。水無月さんが困っているところを見かけたら助けてあげて下さいね?」

「「「は~いっ!」」」

「「「「「………は~い」」」」」

教室中の暗い返事とは対照的に、3人の女の子の明るい声が響いた。

「…はい、良い返事です!(後は高町さん達に任せましょうか…。彼女達なら大丈夫でしょう)」

「せんせ~っ!彩ちゃんの席はどこですか~っ!?」

「ああ、そうだった!え~と、空いてる席は~っと…あっ!高町さんの隣が空いてるわねっ!高町さん、水無月さんを連れて行って貰えるかな?」

「は~い♪」

高町さんと呼ばれた女の子は席から立つととてとてと私に歩み寄って来て私の手を取ると妙に高いテンションで私の手を引いて歩き出す。

「いこ♪」

「あ、はい…」

高町さんのテンションに付いて行けず、私は高町さんに引っ張られて席に着き、先生はそれを確認するとHRを始めた。







HRが終了すると先生は教室を出て行き、それと同時に3人の女の子が私の席を取り囲んだ。私は、急な事に戸惑うと先程席まで案内してくれた高町さんが口を開く。

「初めまして!私、高町なのは♪よろしくね、彩ちゃん♪」

「アリサ・バニングスよ。困った事があったら直ぐに頼りなさい」

「月村すずかです。よろしくね?彩ちゃん」

「え、あ…え~っと…その…」

私は彼女達の突然の自己紹介に戸惑ってしまい、言葉を詰まらせてしまう…。

「ほら!アンタも自己紹介っ!」

「は、はい!」

さっき自公紹介しましたよね?という疑問は無視され、バニングスさんに自己紹介を迫られビクリと背筋を伸ばした。

「水無月彩です!よろしくおねがいしましゅっ!」

はぐっ!?噛んじゃいました~…。

「はい♪これで彩ちゃんはお友達なの♪」

イエーイ♪とハイタッチする3人に私はただ茫然とその手を打つ音を聞いていた…。



……

………はい?え、え~と…何ですかこの展開?




















キャラクター紹介

名前:水無月 一郎

血液型:A型

趣味:スポーツ、仕事

好きな物(事):愛する妻と娘

嫌いな物(事):娘を悲しませる存在

詳細:大手の会社の社長して彩の父親。護身術で空手、柔道の有段者。妻と娘を激愛している。常に家族の為に行動している。実は妻の由良とは駆け落ちして、0からのスタートで現在まで上り詰めた。敏腕社長も怒った妻には頭が上がらない。

イメージ:http://blog-imgs-31.fc2.com/k/i/n/kinpatu429/20090630071236880.jpg



名前:水無月 由良

血液型:O型

趣味:料理、ガーデニング

好きな物(事):愛する夫と娘

嫌いな物(事):娘を悲しませる存在

詳細:大手の会社の社長の妻にして彩の母親。夫の一郎が此処まで来れたのは彼女が支えてくれたからでもある。夫と娘を心から愛している。甘い物が大好きで休日には良く娘とスイーツ巡りをしている。ついでに、胸のサイズは…うわなにを(ry

イメージ:http://blog-imgs-31.fc2.com/k/i/n/kinpatu429/20090630071257d31.jpg

゚∀゚)o彡゜おっぱいおっぱい!


名前:???

血液型:?

趣味:主の護衛、主と散歩

好きな物(事):主

嫌いな物(事):主を傷つける存在、ネギ

詳細:契約者の影響か、異常なほどの魔力を保有している。誰かの使い魔の様だが…?

イメージ:http://blog-imgs-31.fc2.com/k/i/n/kinpatu429/20090630071837f1a.jpg











あとがき

なかなか先に進まない…。あれ?なのはが妙にテンション高いような…。

こんばんは!&おはようございます&こんにちは!金髪のグゥレイトゥ!です。

バイト休みに気晴らしに友人と釣りに行きました!鱚うめえええええええええええええええええええええええっ!

釣ってその場で塩ぶっ掛けて焼いてガブリっ…最高だ…。

まぁ、免許取って以来の車の運転は怖かったですがね…半年振りだった…。



[8923] 魔法少女リリカルなのはA’S ~盲目の少女は何を見るのか…~ 第三話
Name: 金髪のグゥレイトゥ!◆60293ed9 ID:1667c937
Date: 2010/01/03 17:26
季節は冬、ヒューヒューと北風が海鳴中を駆け巡り冬の到来を知らせてくれる。

その自然の力に例外は無く、地球上に居る全ての生き物にそれは振り撒かれる。私もその中の一人だ。

暖房設備なんてある筈も無い屋上。私は高町さん、バニングスさん、月村さんの4人でこの場所にお昼ご飯を食べに出ていた。

「あの…何で屋上に?」

まだ冬真っ盛りでは無いとは言え、外で食事をするには少しばかり厳しい寒さだ。しかもここは屋上。冷たい風が私達を吹き抜けていき、私はブルリと肩を震わした…。

「教室じゃ落ち着いて話が出来ないからよ…にしても寒いわね」

弁当箱を片手にバニングスさんも寒そうに身体を震わす。

「でもでも、屋上がら明きで貸切状態だよ♪」

「そりゃあこれだけ寒けりゃ当然よ」

「あはは…」

確かに、此処に存在する音は私達のみ。それ以外は風の音くらいしか此処には存在しなかった。

「それより早くご飯にしましょ。お腹空いちゃったわよ」

「そうだね。…じゃあ、あそこのベンチに座って食べよっか?」

「うん!彩ちゃん!いこ♪」

高町さんは明るい声でそう言うと私の手を握りベンチへと誘導してくれる。そんな彼女に私はなんて親切な人なのだろうと心から感動してしまう。今までの学校で、同世代でこんな親切な人に私は出逢った事が無い。

「あの…すいません、ご迷惑をかけて。此処まで来るのだって手を引いて貰いましたし…」

「何言ってるのよ。誘ったのはアタシ達なんだから当然でしょ?」

「そうだよ彩ちゃん。それに困った時はお互い様だよ」

バニングスさんと月村さんの言葉で胸が温かくなるのを感じる。何だろうか?この気持ちは?この街に来て何度も出逢った子の温もりは…。









第3話「友達の友達は友達?なの」








――――Side Sai Minaduki
    11月29日 PM00:10
    学校:屋上



「へぇ~、これまでも何度も転校の繰り返してたんだ」

「はい、お父様の仕事の関係で…」

「ふ~ん…で?そのお父様って言うの、アンタの家って金持ちか何かなの?」

「どうなんでしょう?お父様は仕事の話は余りしないので…一応自分で立ち上げた会社の社長を務めていると言う話は耳にした事はあります」

自分が金持なのかどうかは知らない。お父様の会社の規模もどんな仕事をしているのかも知らない。お父様は家では仕事の話は余りせず唯私に優しく父として接してくれているだけだ。勿論私はその事に不満は無いし何ら疑問も無い。あの優しい父が悪事に手を染めているとは考えすら思い浮かばないだろう。

「ほぇ~…凄いなぁ。社長かぁ~…」

「なのはちゃんの御両親は何を?」

「え?私?」

「なのははね、翠屋って言う喫茶店の子なのよ」

あれ?何処かで聞き覚えのある様な…。

何処だろう?私は首を捻ってむむむ~と唸ると隣で食事をしているバニングスさん達が奇行に走っている私に何事かと訊ねて来た。

「どうしたのよ?そんな変な顔をして」

変な顔、ですか…。今私そんな変な顔してるんですか…。少しショックです…。

「あぅ…いえ、翠屋と言う名前を何処かで聞いた様な気がして…」

何処だったでしょうか?本当につい最近耳にした様な気がするんですけど…う~ん。

「ふ~ん。まぁ、それは可笑しくないかもしれないわね。なのはの店ってこの辺りじゃケーキが美味しいって有名だし」

「!」

ケーキ!そうケーキですよ!それにティンと来ました!

美味しいケーキ屋さん。昨日この海鳴に来て早々行ったばかりの店ではないか。確かあの店の主人の名前は…。

「高町士郎さん…」

「え!?何で彩ちゃんお父さんの名前知ってるの!?」

やっぱりそうでしか。よくよく思う出してみれば名字が同じじゃないですか。

「実は、昨日高町さんの家にケーキを買いに行ったんです」

「そうなんだぁ。あ~…何で私家に居なかったんだろ~…」

あの時間はまだ学校が終わっていない時間。高町さんが居ないのは当然だろう。

「高町さんの家に伺ったのは昼過ぎでしたから。高町さんはまだ学校だと思います」

「そっか~…今度家に来る時は連絡してねっ!」

「あ、はい!」

「固いわね~。こう言う時は『うん』でしょ?」

「え!?」

バニングスさんの突然の提案に戸惑う私。困った、こう言う時は如何すればいいのだろう?

「え、え~と…うん?」

「何で疑問形なのよ?」

「あぅ…」

至極御尤もです…。

「もう、アリサちゃん。彩ちゃんが困ってるよ?」

縮こまる私に救いの手を差し伸べてくれたのは月村さん。けど、空気の読めない私は折角の月村さんの助けを台無しにしてしまう。

「い、いえ!バニングスさんの言う事も尤もだと私は思うのです!」

「それよそれ!」

「はうっ!?」

バシコーンッと言う効果音を発しながら私の後頭部を叩くバニングスさん。私は何が何だか分からず目を点にしてバニングスさんの方へと顔を向ける。

「友達なんだから名字で呼ぶなっ!」

今度はデコピン。全く容赦の無いバニングスさん。

イ、イタイ…。

ひりひり痛むおでこを擦りながら瞳を涙で滲ませ少しばかり批難の目をバニングスさんに向けてみる。が、当の本人は全く気にした様子も無く先々と話を進めて行ってしまう。

「アタシの事は!アリサって呼びなさいっ!アタシは彩って呼ぶわっ!」

…もう呼んでましたよね?何て言ったらまた叩かれるんでしょうか?

「ア、アリサちゃん…?」

若干怯えながらアリサちゃんの名前を呼ぶと、アリサちゃんは満足そうに「よろしい」と笑う。

「彩ちゃん!彩ちゃん!私はっ!?」

「私も下の名前で呼んで欲しいな?」

ぐいぐいと詰め寄って来る高町さんと月村さんに、私は戸惑いながらも二人の名前を口にする。

「えっと…なのはちゃんに、すずかちゃん?」

「うん♪彩ちゃん♪」

「ふふふ♪」

嬉しそうな二人の声。何故だろう、何だか私もうれしくなって来る…。

「まぁこれでやっとちゃんとした友達になった訳で…お弁当にしましょうか?」

「そうだね~お腹空いちゃった!」

「うん!」

どうやらこの話は一段落付いた様だ。隣では弁当の蓋を開けたり食事の準備をしている音がし、私もそれにつられて自分の弁当箱の蓋を持ち上げた。

蓋を開けると同時に広がってくるパンと卵やチーズの香り。今日はサンドイッチの様だ。

「あ、彩ちゃんサンドイッチなんだ。私と同じだね」

と、すずかちゃんが嬉しそうに言う。

「はい。これの方が食べやすいですし、私は小食ですから」

「えへへ、それも私と一緒♪」

「なんだか本当にすずかに似てる…と言うよりすずかを更にお嬢様にしたって感じよねぇ~」

「アリサちゃんも一応お嬢様だよね?」

「な・の・は?一応って言うのはどういう意味?」

「いひゃいいひゃいっ!?やめへよぉ~アリシャちゃ~ん…」

隣で何やら騒いでいるなのはちゃんとアリサちゃん。一体何をしているのでしょうか?なのはちゃんがアリサちゃんに何かされているようですが…。

「それにしても水無月か…何処かで聞いた様な気がするのよねぇ」

隣が静かになったと思うと今度はう~むとアリサちゃんが唸り始め、私は彼女の反応に頭を傾げる。

「アリサちゃんも?実は私も何処かで聞いた事があるの。何処だったかな?」

「え?私は無いよ?」

「…と、言う事はパパの仕事関係?」

「なのはちゃんが知らないとなるとそうだよね。会社の取引相手かな?私もたまに話を聞かせて貰う事があるけど」

「アタシも、将来役に立つ時もあるだろうからって…う~ん、水無月かぁ…」

「「…」」

私やなのはちゃんを放置して二人だけでどんどん話が進んで行き、私のなのはちゃんは話について行けず「それ美味しそうだね」「はい、お母様が作ってくれたんです」と二人寂しく食事をしている。

「思い出した!水無月って、水無月コーポレーションの水無月じゃないっ!?」

あ、何やら解決したみたいですね。

「そう、それ!たった一世代で世界トップ企業と肩を連ねる程にまで成長した会社。水無月コーポレーション!よくCMで出て来る奴だよ!」

テレビでですか…私余りテレビは見ないので分かりません。あれ?見ると言うより聴くですよね私の場合。

「…あ~!そう言えば最近良く聞くよね!まさか彩ちゃんのお父さんって取っても凄い人っ!?」

う~ん…家ではそういう印象は受けませんけど…。生活も多分一般家庭と殆ど変りませんよ?朝はトーストにココア。昨日は昼食にうどんを食べましたし…。これ、普通ですよね?

「凄い人かは分かりませんが、お父様は優しい人ですよ?」

「まぁ、娘である彩が言うんだから優しい人なんでしょうね」

ぽむぽむと私の頭の上に軽く頭を置くアリサちゃんに私は擽ったそうに眼を細める。

「…まぁ、親の話は終わりにして。彩は転校を繰り返してたみたいだけど、すぐにこの海鳴から出て行くの?」

「どうでしょう?まだ引越しの話は聞いてません。今まで短くて一ヶ月、長くて半年でしたから…少なくとも一ヶ月は大丈夫だと思います」

「一ヶ月かぁ…短いよぉ」

「まだ転校するって決まった訳では無いですよ?なのはちゃん。もしかしたら卒業まで此処に居るかもしれません」

断言は出来ませんけど…。

「そう。まぁ、親の都合に子供が逆らえる訳も無いし…その時が来るまでよろしくね」

「うぅ…手紙送ってね!」

「あの、なのはちゃん。まだ転校が決まった訳じゃないんだから…」

涙声のなのはちゃんに私とすずかちゃんは苦笑する。

すずかちゃんの言う通りでまだ私が転校するとは決まっていない。転校する場合は事前にお父様から私に伝えられる。今現在そのような話はお父様から聞かされてはいない。

「さて、先の分からない話はお終い!さっさと食べましょ!」

「ねぇねぇ!彩ちゃんおかず交換しよ!食べさせてあげるから!」

「じゃあ私も!彩ちゃん、私のサンドイッチどれか選んで!ハムとチーズとか…イチゴジャムもあるよ!」

「ちょっと!アタシを除者にするんじゃないわよ!彩!アタシのおかず上げるからアンタも何か寄こしなさいっ!」

え!?きゅ、急にそんな事を言われてもっ!?ど、どうすればっ!?

「あ、あうあう!?」

3つの弁当を押し付けられ、私は混乱する。どれも美味しそうな香りがするが、どれを選べば良いのだろう?

…と言うよりどれか一つに定めるべき?それとも全部ですかっ!?

最大限に脳細胞を活動させ答えに辿り着こうと努力するが、これも今までに経験が無かった事。私には到底選ぶ事は出来なかった。

「あうあうあ~…」

プシューッ!とオーバーヒートした頭から煙を出し、私はぐるぐる目を回す。目が見えないからぐるぐる回っているのか分からないが多分回っている。そんな気がする。

「ちょっ!?彩!?大丈夫っ!?」

「煙!煙出てるよっ!?」

「彩ちゃん?彩ちゃーんっ!?」

ふふふ…燃え尽きました…真っ白に…。









…結局お昼は慌ただしく過ぎてしまい。唯今体育の授業中なのですが。私の目はこれなので見学中です。あれ?目が見えないのに見学?何かおかしいですね?

今日はどうやらドッチボールをする様だ。耳にボールを投げる音や受け止める音。クラスメイトの楽しそうな声が聞こえて来る。

「彩ちゃーんっ!」

私の名を呼ぶなのはちゃんの声が聞こえ、私は笑顔で声の聞こえた方へと手を振った。

…もし、目が見えていたなら。私もなのはちゃん達と一緒にドッチボールが出来たのでしょうか?

そんなifを思い浮かべ、私は小さく溜息を溢す。そんな未来は有り得ない。これからずっと先、私はこの目と共に生きて行く。この目は治る事は無いのだから…。

「(あいつ、高町に手を振り返してるぞ?本当は目が見えてるんじゃないのか?…よ~し!)」

誰かがボールを投げたのだろうか?ボールが風を切る音が聞こえる。唯、何か可笑しい…。

…あれ?音が私に近づいて来てる?

「彩ちゃん危ないっ!」

すずかちゃんの悲鳴に似た私を呼ぶ声で、咄嗟に自己防衛本能が働いたのか私は身体を縮めると頭上に何かが通り過ぎるのを感じ、後ろの壁にボールの跳ねる様な音が響いた…。

…ボール…飛んできてたんだ…。

偶然だろうか?だが今のボールは明らかに私を狙って…そう言う考えが過ぎったが私はブンブンと頭を振って疑念を振り払う。

人を疑っちゃいけないよね。たぶん手が滑ったんですよね?

そんな事を考えていると、コートの方が何やら騒がしくなっている。不思議に思い耳を傾けてみた途端、アリサちゃんの怒鳴り声に肩をビクンと強張らせてしまう。

「アンタ!今わざと彩を狙ったでしょっ!?」

…?

「何の事だよ!?今のはたまたま…」

「たまたまっ!?どう見たって彩に向けて投げたでしょうがっ!」

余り穏やかな会話とは思えない。私は杖を手に取ると、慌ててアリサちゃん達の許へと向かい会話に割り込む。

「どうしたんですかっ!?何を言い争って…」

「何をって…アンタは何とも思わないのっ!?わざとボールを当てられそうになったのよっ!?」

「わざとじゃないって言ってるだろっ!?」

ほら、この男の子もわざとじゃ無いって言ってる。

「アリサちゃん。わざとじゃないって…」

「そんなの嘘に決まってるじゃないっ!」

私の言葉は即座に否定され、アリサちゃんはされにヒートアップして行く。このままでは喧嘩が更に悪化してしまう、どうにかしなければ…。

「二人とも!いい加減にしなさいっ!勝君も当たって無かったから良かったけど、当たってたらどうするのっ!?水無月さんに謝りなさいっ!」

そこに救いの手が差し出される。先生が二人の喧嘩に介入してきたのだ。

「…っ!ごめん」

男の子は小さく舌打ちすると渋々と私に謝って来る。

「ちょっと!何よその態度「アリサちゃん!」・・・」

男の子の態度が気に入らなかったのか、アリサちゃんは再び男の子に喰って掛かろうとするが先生にそれを止められる。

「…っ!」

納得がいかないアリサちゃんはなのはちゃん達に連れられて自分のチームのコートに戻り、私も先生に言われ体育館の隅に戻って行った。背中に誰かの視線を感じつつ…。

「…ふん(水無月の奴、ボールを避けやがった。やっぱ見えてるんじゃねぇのか?)」









――――放課後


「起立!礼!」

『さようなら!』

日直の号令と共にHRは終了を告げる。ぞろぞろと教室を出て行くクラスメイト達。私も荷物を鞄に詰め込み急いで帰宅の準備をする。

ふぅ…初日で色々と騒がしかったですが、何とか転入初日を終える事が出来ました。

荷物を鞄に詰め込んでいると、私に声を掛けて来る人達が居た。なのはちゃん達だ。

「彩ちゃん!一緒にかえろ!」

「すいません。校門で待たせている方が居ますので…」

なのはちゃんの誘いも嬉しいが先に約束したのははやてちゃんやシグナムさんだ。あの二人を蔑ろにする訳にはいかない。

「そっか…じゃあ、校門まで一緒にかえろ♪」

「それでしたら喜んで♪」

断る理由は無いし、むしろ誘ってくれるのは嬉しい。私は微笑んでなのはちゃんの誘いを受けるとなのはちゃん達と一緒に教室を出る事にした。

「校門で待たせてるって、家の人?」

「いいえ、友達です♪」

「友達?アンタ昨日海鳴に引っ越して来たのよね?」

「はい。その人とは偶然出会ってそのままお友達になったんです♪」

「ふ~ん…」

そんな雑談をしながらも私達は靴箱で上履きから靴に履き替え、グラウンドに出る。

「あれ?あの人が彩ちゃんの言ってた人かな?ほら、校門の前で立ってる人…」

すずかちゃんがそう教えてくれるが私には見えないため、確認し様が無い。声を聴けば分かるのだが…。

「綺麗な人だね」

「綺麗と言うか、カッコいいじゃない?アレは…」

カッコいい…うん、確かにシグナムさんはカッコいいですね。それに優しいです。

二人の会話から察してどうやら門に居るのはシグナムさんで間違いない様だ。

「彩。学校は終わったのか?」

…やっぱり!

「はい!」

「そうか…友達か?」

「はい!高町なのはちゃんと、アリサ・バニングスさん、月村すずかちゃんです!」

「っ!?……良かったじゃないか。転入初日で友達が出来て(高町とか言う少女、凄い魔力だ。魔導師?いや、此処は管理外世界、管理局と関係があるとは限らんか)」

…?シグナムさんの様子が少しよそよそしい様な…。気のせいでしょうか?

「あの~シグナムさんは彩ちゃんのお友達…であってるんですか?」

なのはちゃんが不思議そうにシグナムさんに訊ねる。

「む?…ああ、私は彩の友人だ。彩から何を聞いたかは知らんが、こんなに大きい友達で驚いたか?(探っている様には見えんが…)」

「あ、いえ!その…少し驚いちゃいました」

「あはは…私も」

「ふふ、驚かせてしまってすまない」

いえ、シグナムさんが謝る程でも無い様な気が…。

私は苦笑していると杖を持っていた手が温かな温もりに包まれる。シグナムさんが私の手を繋いでくれたのだ。

「さて、行こうか」

「…はい!皆さんっ!また明日!」

「彩ちゃん、バイバーイ!」

「また明日ね!」

「遅刻するんじゃないわよ?アンタ何かポケ~っとしてるから」

うぅ…酷いです。アリサちゃん…。

「ほら、皆手を振っているぞ?振り返してやったらどうだ?」

シグナムさんの優しく温かみのある言葉に、私は微笑んで頷くとなのはちゃん達が居るであろう方向に手を振り返し、「また明日」と笑顔で別れを告げた。








――――11月29日 PM03:10
    風芽丘図書館



「主はもう図書館に着いてお前を待って居るぞ?」

「そうなんですか?」

シグナムさんに手を引かれ図書館へ続く道を歩いていると、急にシグナムさんが口を開いてそんな事を告げて来る。

「うむ、私も主を図書館に送ってから学校へ向かったからな。今はシャマルと読書でもしていらっしゃるだろう」

「そうですか…えっと、点字の本って…」

「ん?ああ、大丈夫だそうだ。あの図書館は大きいからな。障害を持っている人のためにそう言った本も揃えてあるとの事だ」

「そうですか♪良かった♪」

「ふふふ、読書が好きなのだな?」

「はい♪」

私は目が見えないため、運動や身体を使った事が出来ない。だから必然的に音楽や点字に訳された本を読むくらいしか趣味が無いのだ。

いつもそうだ。昼休憩、外から聞こえる同年代の子供達の楽しそうな声を聞きながら、一人寂しく読書をしていた。学校の帰り道、帰宅の途中にある公園で遊んでいる同世代の子供の遊んでいる声を聞き家に帰ってはまたひとり読書をする…。私には他人と分かち合う趣味が無いのだ…。

「…」

「どうした?」

「あっ!いえ!何でも無いですっ!?」

急に黙り込んでしまった私を不思議に思ったのか、シグナムさんが私の顔を覗き込んで来ると私は慌ててぶんぶんと顔を左右に振る。

…可笑しいですね。今までなんとも思わなかったのに、はやてちゃんやなのはちゃん達に出逢ってから寂しいと言う気持ちが増してきています…。

『友達』、その存在を知ってしまったからだろうか?

「着いたぞ、彩」

想いに耽っていると、シグナムさんの声ではっと現実に引き戻される。

「あ、はいっ!?」

「?…図書館だ。ほら、冷えるだろう?中は温かい。早く入ろう」

そう優しく言うと、シグナムさんは私の手を引き図書館の中へと案内してくれる。自動ドアの開く音がすると、温かな風が頬を撫で冷え切った私の身体を温めてくれる…。

「本の香り…沢山します」

「そんな事まで分かるのか。彩は凄いな」

「前の学校では本の蟲って呼ばれてました♪」

「そ、そうか…(それは褒めているのか?)」

…ほぇ?シグナムさん、何で苦笑いなんですか?

「彩ちゃん!」

!この声は…。

「はやてちゃん!」

「おっと…」

私はその声を聞いた途端笑顔に為ると、シグナムさんの手を離し声のした方向へと小走りで駈けて行く。

「彩!危ないぞっ!?」

「きゃっ!?」

シグナムさんの警告の直後に、私は足を何かで躓きバランスを崩してしまう。

「彩っ!?」

「彩ちゃんっ!?」

前へと倒れて行く私の身体。しかし倒れる衝撃は訪れる事無く小さな腕によって私は受け止められる事になる。

「あっぶねぇ…彩もはしゃぐのは大概にしとけよ?見てるこっちが冷や冷やするっての」

「ヴィータ。お前も来ていたのか…」

「おう、彩が来るっていうならアタシも来て当然だろ?」

「家の留守番は?」

「ザフィーラが留守番してるわ」





「…我は守護獣。番犬ではなry」





「でも、皆?図書館では静かにね?彩ちゃんも走らないの」

めっ!と私を叱るシャマルさんに私は顔を赤く染めて伏せてしまう。

「あぅ…ごめんなさい…」

「はやてちゃんやシグナムも」

「「ごめんなさい…」」

はやてちゃんのシグナムさんの声が重なります。見事なユニゾンです。

「え~と…じゃあ、話を振り出しに戻して。彩ちゃん、こんにちわ」

「はい、こんにちわです。はやてちゃん」

はやてちゃんの挨拶に笑顔で返す私。

「ほな、今日はどうする?一緒に本読む?私が読んであげる。それとも読みたい本探す?点字の本何処にあるか調べておいたよ?」

「じゃあ、一緒に読書をお願い出来ますか?」

「うん!じゃあ、この本読も!童話でちょっと長い話やけど」

「喜んで♪」

「では、私達は待機しておきますので。用事がありましたら御呼び下さい。ヴィータは此処に残しておきますので…頼んだぞヴィータ」

「おう、任せとけ」

シグナムさんはヴィータちゃんの言葉を聞いて「うむ」と頷くとシャマルさんと一緒に私達から離れて行く。でも、そこまで遠くには離れて無い様だ。たぶん、はやてちゃんの視界に入って無いだけで、呼べば直ぐに駈けつけられる位置に待機しているのだろう。

…騎士、かぁ。

シグナムさん達が自分達をそう呼んでいた事を思い出し、心の中でそう呟いた。

童話でよく出て来るお姫様を守る騎士。はやてちゃんやシグナムさんの傍に居ると、二人がお姫様と騎士と言う存在に思えてくる。あながち間違ってはいないのだろうが…。

「ほな読むで?…とある国に、誰も居ない城で一人で暮らすお姫様が居ました」

はやてちゃんが本を読み始めると、私とヴィータちゃんはその語りに耳を傾け、その物語の世界を頭の中で思い描いて行く…。

―――どうしてお姫様は一人お城に居るのか?それはそのお姫様は呪われており、父である王さまから誰も居ない城に閉じ込められているからです。

お姫様は優しい人でした。でも、一人と言う孤独が彼女を歪ませ、誰も信じられなくさせて行きます…。

何時かはこの呪いも消える。そうすればお父様が迎えに来てくれる。そう自分に言い聞かせ、お姫様は何時までもお城の中で待っていました。

ですが、何時まで経っても王さまは迎えに来てくれません。お姫様はもっと他人を信じられなく…。

「コラコラ、そんな暗い話読んでるんじゃありません」

「「「え?」」」

突然の知らない女性の声に、私達は間抜けな声を漏らしてしまう。

「これ読みなさいこれ。お姉さんのお勧めだから」

そう言って私に丁度良い位の厚さの本を手渡して来ると、はやてちゃんからさっきまで読んでいた本を没収する。

「君達にはこれはちょっと早いわね。まだ少しピュアでいなさい。分かった?」

「えっと…あのぉ~?」

「ん?ああ、自己紹介が遅れたわね。私はこの図書館の司書をしている工藤詠よ。って、名乗る程でも無いか」

そう言ってクスクスと笑うと、工藤さんは私の頭を優しく撫でる。

「背伸びしたい気持ちは分かるけど、これはだ~め」

「こ、子供扱いすんな!」

「図書館ではお静かに。それじゃあね♪」

そう言い残し工藤さんはこの場から去って行く。突然現れ去って行く、まるで嵐の様な人だ…。

私達は暫くの間唖然としていると、はやてちゃんが一番早く再起動し「これ、読もうか?」と私に訊ね。私も「はい…」と、それに同意した。

それにしてもあのお姉さん…。

「他人の様な気がしなかった…」

「ん?どないしたん?」

「あ、いえ!何でも無いです!?」

私の呟きにはやてちゃんが不思議そうにすると、私は慌てて誤魔化した。

何処かで会ったでしょうか?う~ん…聞き覚えの無い名前でしたけど…。

結局、あの女性の正体を思い出す事は出来ず。時は過ぎて行くのであった…。








――――11月29日 PM04:50




「あ、もうこんな時間なんや」

「ホントだ。陽が落ちて空が暗くなってきてら」

もうそんな時間なんですか…。

楽しい時間が過ぎるのは早いと良く聞くが、それは本当の様だった。はやてちゃんに時間を聞いてみればもう5時前、あれから一時間は経過していた。

「もう、帰る時間ですね…」

私は残念そうに呟く。

「そやな…残念やけど仕方ないね」

「家まで送る。荷物は私が持とう」

何時の間にかやって来ていたシグナムさんが私から荷物を預かると空いた手で私の手を繋いでくれる。

「シグナムは彩ちゃんにべったりやなぁ♪」

「主間違えてるんじゃねぇか?」

「ち、違う!これはだなっ!」

「はいはい。顔真っ赤にしてないで、彩ちゃんをちゃんと送り届けるのよ?『罪悪感でそうしてるのかもしれないけど、程ほどにね?』」

「う、む。任された『分かっている。我等の主は八神はやてのみだ…』」

「?」

私の手を握っているシグナムさんの手に力が少しだけ強くなっ。若干、脈も早くなった様な…。

「まぁ、外までは一緒なんやけどな」

ケラケラと楽しそうに笑うはやてちゃんは、本を返して来ると荷物を纏めてシグナムさん達と一緒に出口へと向かった。

すると、一緒に図書館を出ると入口で思いがけない人物と出逢うことになる。

「あれ?彩ちゃん?」

すずかちゃんの声だ…。

「すずかちゃん?どうして此処に?」

「えっと、借りてた本を返し来たの。彩ちゃんは?」

「私は本を読みに」

「そうなんだ。シグナムさんもさっきぶりです」

「うむ、其方もな」

笑い合う私達、そこに混ざってくるのは少しだけ戸惑っているはやてちゃんだった。

「え~とぉ…彩ちゃんとシグナムはこの人の知り合いか?」

「はい!私のお友達です!」

「彼女とは、彩を迎えに行った時に出逢ったんですよ。その時に自己紹介を」

「そうなんか、八神はやて言います。よろしくな?すずかちゃん」

「シャマルです。よろしくね?すずかちゃん」

「…ヴィータっす」

ふふふ、ヴィータちゃんは恥ずかしがり屋さんです。

「月村すずかです。こちらもはやてちゃんって呼んで良いかな?」

「良いよ。彩ちゃんの友達は私の友達や♪」

「友達の友達は友達、ですか。ふふふ、友達が沢山ですね♪」

「そうだね、アハハ♪」

「何か可笑しいなぁ。あははは!」

可笑しそうに笑い合う私達の声が辺り響き渡る。

「彩、そろそろ…」

「あ、はい」

もう空は真っ暗になっているだろう。これ以上遅くなればお母様もお父様も心配させてしまう。

「もう帰っちゃうんだ…」

すずかちゃんの声が少し残念そうに聞こえる。私もそれは同じだった。時間が合ってさえいれば一緒に読書で来ていたかもしれないのに…。

「すいません。遅くなると行けないので…」

「ううん!彩ちゃんが謝る必要無いよ!それに、私も本を返しに来ただけだから。用事が済んだら家に帰る予定だったし…」

「そうだったんですか。じゃあ次はゆっくりお話しできると良いですね?」

「ほな、明日はどない?学校終わったら図書館に来るって言うのは…あ、勿論そっちの都合が合えばやけど…」

「うん!いいよ!明日お稽古も無いし」

「決まりや!彩ちゃんも良いよね?」

「勿論♪」

断るつもりなど毛頭無い。友達の誘いを無我に出来る訳があろうか?いや、無い。ある筈が無い。

大事な事だから3回言いました!心の中で!

「彩、そろそろ…親御殿に心配させる訳にもいかん」

「はい。では皆さんまた明日!」

「またな!彩ちゃん!」

「また明日学校でね!」

「おう!またな!」

「彩ちゃん。おやすみなさい」

私は皆に別れの挨拶を返され、シグナムさんに手を引かれながら笑顔で図書館を後にした…。







――――11月29日 PM05:10
    自宅:玄関前





「着いたぞ。彩」

「送って頂いて有難うございました。シグナムさん」

「フッ気にするな。どうだった?転入初日の感想は?」

「はい♪楽しかったです♪」

「そうか、その事をちゃんと親御殿に伝えるのだぞ?」

「はい♪」

「宜しい。では、また明日な?」

「はい!シグナムさん!今日はありがとうございました!」

「…ああ、ではな」

私は深くお辞儀をすると玄関のドアを開け、家の中に入って行く。そして、感じるシグナムさんが私が家の中に入るまで見守ってくれているのを…。

…今日は、本当にありがとうございました。

心の中でそうお礼を言いドアを閉めると、シグナムさんの気配が遠のいて行く。帰ってしまったか…。

しかし、それと反対に家の中からドタドタと騒がしく近づいてくる足音。

「彩!どうだった!?」

「何か嫌な事あった!?」

帰って来て早々お父様とお母様が私に抱き着き、心配そうに私に訊ねて行くる。私は一瞬きょとんとすると、直ぐに笑顔となりこう答えた。






「お友達が出来ました♪」









あとがき

ちゃっかり詠お姉様乱入です。と言ってもサブキャラ以下の扱いなので今後出て来るかどうか不明。彩のアドバイザーとして出そうか考え中です。彩にとっては先輩ですしwww

こんばんは!&おはようございます&こんにちは!金髪のグゥレイトゥ!です。

幼賢が完結して約一ヶ月が経ちました。本当はもう少し話を纏めて書く予定だったのですが時間がそれを許してくれそうに無いので少し駆け足で更新です。

最初に言った通り、stsは書かない予定なのであしからず。



[8923] 魔法少女リリカルなのはA’S ~盲目の少女は何を見るのか…~ 第四話
Name: 金髪のグゥレイトゥ!◆60293ed9 ID:1667c937
Date: 2010/01/21 04:53
私が海鳴に3日が経ちました。学校ではなのはちゃん達が支えてくれて…。はやてちゃんやシグナムさん達も私の助けになってくれます。

海鳴に来てまだ数日しか暮らしていませんが、私の人生で今まで無かった物がこの海鳴に来てから手では抱えきれない程の物を皆さんから頂きました。

今までは寂しい事が多かったけど、今の私は温かな人達に囲まれて幸せです!

どうが、こんな日が続きますように…。私はそう願っています!

「「「彩(ちゃーん)!学校行こう!」」」

あ!皆さんが迎えに来てくれたみたいです!

「お父様!お母様!行って来ます!」

今日も良い一日の始まりです♪

















第4話「悲しいけど、今はさよなら、なの」
















「コクリ…コクリ…」

「あ~…何朝っぱらから転寝状態なのかしらコイツは」

送迎用バスに揺られ、私達が学校に向かっている途中にアリサちゃんが突然呆れたながら呟き、私は苦笑する。どうやらなのはちゃんは意識の半分がまだ夢の中の様だ。

「お疲れですか?なのはちゃん」

「はにゃ?ん~…ちょっと特く…じゃなくて、勉強で寝不足で…」

「勉強ですか。それは素晴らしい事ですね。ですが、寝不足になるまでやると逆効果ですよ?」

「にゃはは、分かったの」

「勉強ねぇ…ゲームのし過ぎじゃない?」

「もう、アリサちゃん」

「うぅ~違うよぅ」

「くすくす…」

楽しい。登校するのがこんなに楽しいなんて…。

「…」

「?」

纏わりつく様な視線に私は思わず振り返る。すると、背中に感じていた視線はパッと消え、私に見えるのは盲目の目が見せる何も無い漆黒の暗闇だけだった…。

…気のせいでしょうか?

私は妙な感覚に首を捻ると、再び顔をなのはちゃん達の方へと向けて会話に混ざる。きっと、なのはちゃん達と会話するのが楽しすぎて気持ちが高揚し過ぎたのかもしれない。それで、感覚が乱れたのだろう。きっとそうだ。

「どうかしたの?彩ちゃん」

「いえ。唯、楽しいなって…」

「えへへ♪私も楽しいよ?」

そうですか。なら私はもっと楽しいです。

「そう言えば今日テストよね?彩はどうなるの?字、書けるの?」

「ある程度なら書けますし、それに先生が専用の用紙を用意してると仰ってましたから」

「へぇ~…うちの学校ってそんなのまであったんだ」

「そう言えばメモ帳も私達の使ってるノートと違うよね?」

「点字盤の事ですね?点字専用のノートです」

「ふ~ん…で?彩は勉強は出来る方なの?」

「運動が出来ない分それを補うほどには…」

「うぅ…耳が痛いの」

「なのはちゃんも理系が得意じゃない」

「ふふふ、けど文系はそれ程でも無いの…」

ああっ!?笑ってる筈なのに全然楽しそうでも嬉しそうでもありませんっ!?暗いオーラがひしひしと肌に伝わって来てますっ!?

結局、それから学校に着くまで私達はなのはちゃんを励ます事となった…。






――――昼休憩



キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン♪


授業の終わりを知らせるチャイムの音。先生はそれを聞くと授業の終わりを告げ日直が号令を掛け一斉に生徒達は席を立ち、昼食を食べるグル―プに別れ始める。私のグループはなのはちゃんとアリサちゃんにすずかちゃんだ。

「彩~っ!一緒に食べましょ~っ!」

「はい!ちょっと待って下さいっ!」

いそいそ…

私は教科書と点字盤を鞄に納める序でに弁当を取り出すと、弁当を胸に抱えてアリサちゃん達の席へ向かう。

この位の空間なら白杖を使わなくたって大丈夫です!

気配や音で人が何処に居るのかは察知できる。机も綺麗に整頓されているためぶつかる心配も無いだろう。…そう思っていた。

ガッ…

足に何かが引っ掛かる…。

…え?

身体が前へと倒れるのを感じる。受け身を取るべきか?

でも、腕には弁当が在る。

弁当を放り出して受け身を取る?

お母様が作ったてくれた弁当をそんな事は出来ない。

…一瞬の内で浮かび上がった結論は、受け身も取らず弁当を死守する事。様は頭から倒れろと言う事だ。

「っ!」

ギュッと腕に力が籠る。この弁当は何としても守り抜かなければ!

その瞬間、風が私を横切ったかのを感じ。そのまた後すぐに甘い香りが私の花を擽った…。

「…?」

…何時まで経っても衝撃はやって来ない。それどころか私の身体は傾いたまま。しかも温かな何かに包まれている様な…。

「危ないよ?彩ちゃん」

…すずかちゃん?

「ありがとう、ございます…?」

何があったのか理解出来ずポカーンとする私にすずかちゃんは優しく頭を撫で、ぎゅっと抱きしめてくれた…。

「は、速い…すずかちゃん、今さっきまで隣に居たのに…」

「どう言う運動神経してるのよすずかの奴…。まぁ、彩が怪我無かったから良いけど」

「…チッ」

教室に響く雑音で掻き消される誰かの舌打ち。恐らくなのはちゃん達には聞こえていないだろう。でも、私の耳にはその音が聞こえていた…。

チラリと私は盲目の目を声のした方向へ向ける。びくりと跳ねる鼓動、息を呑む音、そして即座にこの場から立ち去って行く足音…。

…偶然、なんですよね?

心の中でそう問いかけるが当然その答えは返って来ない。思いは言葉にしなければ通じないしそれを答える人物もこの場にはもう居ないのだから…。

「彩ちゃん?どうかしたの?」

「あ、いえ。何でも無いです」

「もう、そうやってぽけ~としてるから転びそうになるのよ?」

「うぅ…それは言い過ぎではないでしょうか」

私の反応に笑いだす3人。それを聞いて私もつられて笑ってしまい、いつの間にかさっきの事は記憶の隅に追いやられていた。







――――Side Masaru kobayasi




「くそ!何だよアイツ!?」

焦る気持ちを落ち着かせようにもあの転入生の目を思い出すとするとゾクリと背筋が震え、恐怖が自分の心を支配するような錯覚に陥る。

すいこまれそうな漆黒の瞳。光を失ったあの瞳には何も映らない筈なのに、だと言うのにあの瞳は俺を捉えていた。見透かしたように、的確に俺を見つめていた…。

「やっぱり見えてるんだ!じゃねえとアレは有り得ないだろっ!?」

認めたくない。だが認めざる負えない。俺はアイツに恐怖していた。自分の理解出来ない存在に今まで出会う事無かったあの存在に…。

「気味が悪ぃ…」

高町達はどうしてアイツと一緒に居られるんだ?

理解出来ない。あんな異物と一緒に居られるなんて到底俺には理解出来ない。

「追い出してやる…」

ついこの間アイツ等が屋上で会話しているのを盗み聞きしたのだが、アイツはどうやら転校を何度も繰り返している様だ。親の都合なのかもしれないがもしかしたら別の理由もあるのではないだろうか?例えば…。

「イジメ、とかな?」

ぽつりと呟いた言葉。俺は無意識に口の端を吊り上げていた…。






「…てか月村の奴どう言う運動神経してんだ?」

うちのクラスおかしな連中が多すぎるぜ…。






――――Side Sai Minaduki

    放課後


「さてと、今日もお務めご苦労様です」

「彩ちゃん、それ何か年寄り臭いよ?」

隣の席のなのはちゃんがにゃははと苦笑しながら指摘して来ると、私がガ~ンと肩を落とす…。

年寄り臭いですか…そうですか…。

「何馬鹿な事言ってるのよ。ほら帰るわよ!」

あう、アリサちゃん引っ張らないで下さ~い…。

私の意思を全く無視してアリサちゃんはズルズルと私を荷物ごと引き摺り、なのはちゃん達を引き連れ玄関の下駄箱へと向かうのであった。

「私は思うんです。この数日間で私の扱いが酷くなっている事に」

「そう?」

「はい。初日はデコピンやチョップでしたが、今では引き摺る始末です。つまり荷物扱いです」

「嫌ならやめるけど?」

「いえ、あのその…嫌という訳ではないんです…遠慮無く接して頂けるのは嬉しいですけど…ゴニョゴニョ」

「どっちなのよ…」

「えっと、その…もっと私を叩いて下さい!」

さあどうぞ!思う存分に!

「誤解される事言うなっ!白杖を差し出して来るなーっ!」

「アリサちゃん…そんな趣味が…」

「それはどうかと思うよアリサちゃん…」

二人の冷たい声がアリサちゃんに向けられ、周りも何やらヒソヒソと冷たい視線を私達に向けながら話しているが気にしない事にした。皆さんSとかMとか言っているが私の知らない言葉だった。何かの記号だろうか?

SとMとは何でしょうか?帰ってお母様に聞いてみる事にしましょう。

その夜、家に二人の修羅が誕生した事は言うまでも無いだろう…。

怖かったです…。

余談だが、その後すずかちゃんと二人で図書館により、はやてちゃん達にSとMの事を質問したがシグナムさんも同じ反応をした。やはり怖かった…。








――――12月2日 PM7:40
    自宅:自室



世界が停止する…。

ピクリ…

妙な感覚が聴覚、触覚を刺激し私は読書をしていた手を止めてしまう。

この感覚…この間の?

シグナムさんだろうか?それともヴィータちゃん?シャマルさん?ザフィーラさん?どちらにせよ魔法関連なのは明らかだろう。

私は本を閉じ窓を開けて耳を澄ます。

「聞こえる…」

金属同士がぶつかる音、コンクリートが弾ける音、爆音…そしてこの触覚とは違う奇妙な感覚。恐らくこれが魔力を感知すると言う物だろう。

シグナムさんははやてちゃんを助ける為に戦っている。私もはやてちゃんは初めての友達だから助かって欲しい。けど、それは他人を傷つける事で…いけない事だ…。

シグナムさん達を本当に思うのであれば止めるべきか?だがそれははやてちゃんを見捨てる事になる。そして主が死んでしまえばシグナムさん達も消えてしまう。どちらにせよこれしか方法が無いのだ…。

「それに…私には何も出来ない」

はやてちゃんを救う力なんて、この出来損ないの身体には存在しない。私は唯此処で祈る事しか出来ないのだ…。

「どうか…無事で…」

天に拝むように手を合わせて無事を願う。それはシグナムさん達に対してか、それとも襲われている人に対してか…たぶん、両方だろう。私は、誰も傷付いて欲しくなかった…。

戦闘の音は更に激しさを増して行く。私は魔法の事は素人以下の知識しか無いが、恐らく軽い怪我では済まない程の戦闘を繰り広げているのだろう…。

「…っ」

どうして世界はこんなに残酷なのだろうか?御伽噺の様に皆で笑ってめでたしめでたしとはいかないのだろうか?何で争わなければいけないのだろうか?

此処で嘆いていても何も変わらない。自分から踏み出さなければ、一歩前に出なければ何も始まらない。でも、私にはその一歩すら踏み出す事すらできなかった…。

「…あぁ」

そして私は思い知らされる。結局私には、何も救えない…。

祈る事だけじゃ、何も出来ない…。









――――翌日




「え?今日なのはちゃんはお休みなんですか?」

あの激しい戦いが繰り広げられた夜が明け、私は迎えに来てくれたアリサちゃん達になのはちゃんが休む事を知らされた。

「ええ、まああの子も身体が弱いと言えば弱い方だしね。最近寝不足みたいだったし疲れが出たんじゃないかしら?」

「そうですか…心配です」

「まぁ、どうせ風邪でしょ?そこまで心配する事じゃないわよ」

「アリサちゃん。風邪を甘く見てはいけません!私は風邪をひいて何度か死にかけた事があるんですよっ!?」

事実、私はそれが原因で何度も病院に担ぎ込まれた事がある。

「ア、アンタは本気で気をつけなさいね?ほら、私のマフラー貸してあげる」

「わ、私も貸してあげるよっ!」

「え、あの…もう既に一枚巻かれてわぷっ!?」

「うあ~…ミイラみたい」

「うふふ、可愛らしいミイラだね♪」

笑い事じゃありません!前が見えな…って元から見えませんでしたね私…でも息苦しいです!解いて下さ~いっ!

こうして、今日の朝はなのはちゃんを抜きで始まるのであった…。






「よし!アイツ等まだ来てねぇな。今の内に上履きを隠して…って!ねぇしっ!?」

生徒が来るには少しばかり早い時間に、下駄箱がある玄関で少年の声が虚しく響いた…。





「そう言えばアンタ。いっつも上履き持って帰ってるわよね?」

バスに揺られていると突然アリサちゃんがそんな事を聞いて来た。

「はい♪お母様に毎日持って帰る様に言われてますので♪」

「ふ~ん…」

「私ドジなので学校に置いて帰ったら上履きを無くしちゃうんです。だからお母様が持って帰ってきないさいって」

それまでどれだけ無くした事か…我ながらお恥ずかしいです。

「アンタそれって…ううん、何でも無い。まったく!ドジな子なんだから!」

「へぅ!やっぱり言うんじゃなかったですぅ」

「あはは……彩ちゃんは本当に良い子だね。本当に…」

…?すずかちゃんが何だか悲しそうにしています。どうしてでしょう?

「まぁ、そんなドジなら仕方が無いわね!忘れて帰ったりするんじゃないわよ?」

「うぅ、はぃ。肝に銘じておきます」

「よろしい(まぁ、この子には手を出させないけどね)」

「よしよし、良い子良い子(優しすぎるから気付かない。彩ちゃんは心が綺麗過ぎるよ…哀しい位に)」

両脇からぽむぽむとアリサちゃんが頭を叩き、すずかちゃんが私の頭を優しく撫でて来る。

…?今日は妙に二人が優しい気がします。気のせいでしょうか?








――――12月3日 AM09:00
    学校:教室





キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン♪

授業の終了を告げる音と共に一斉にクラスメイト達がガタガタと席を立ち各自友人たちとの雑談をし始める。私はそんなクラスメイト達を他所に退屈そうに溜息を溢した。

「はぁ…」

隣になのはちゃんが居ない。それだけでこんなに自分の生活に空白が出来てしまうとは思いもしなかった。思えば何時のなのはちゃんは私に笑いかけてくれていた様な気がする。

…明日には元気になっていますよね?

そう心の中で呟くと私は隣の席に視線を送る。しかし隣にはなのはちゃんの気配は無く目に映るのは暗闇のみ。

「はぁ~~…」

「うっさい」

ぱこんッ!

「あぅっ!?」

突然紙の様な何かで頭を叩かれた。

「ア、アリサちゃん?何ですか今の?何で叩いたんですか?」

「丸めた教科書」

「そ、そうですか…」

教科書を叩くのに使わないでください…。

「まったく!なのはが休みだからってアンタがへこんでるんじゃないわよ!」

「はぃ…」

「ほら、アリサちゃん。あんまり強く言い過ぎると彩ちゃんが落ち込んじゃうよ?」

「既に落ち込んでるけどね」

「返す言葉も無いです…」

しょんぼりです…。

「それにしても昨日まで元気だったのにね、なのはちゃん」

「朝も言ったでしょ?あの子も彩と一緒で身体は弱い方なのよ」

「そうかな?なのはちゃん運動は出来ない方だけど身体は弱くないよ?」

「勉強で寝不足って言ってましたけど、そんなになのはさんって成績気にしてるんですか?」

「別に?理系が得意なのはただ単に理系の授業が好きなだけで勉強熱心って程じゃないわよ?」

「それじゃあ、成績が上がると御両親から何かご褒美が貰えるとか…」

「あの子物欲無いからねぇ…有り得ないわね」

「そもそも突然急にそんな事言わないよ。今までだってそんな事無かったもん」

と言う事は…ですよ?

「何か隠し事…でしょうか?」

「あぁ~…前にもこんな事あったわねぇ」

「前にもあったんですか?」

「ええ、一時落ち込んでた時期が合ってね。その時は何か一人で悩んでて結局話してくれなかったけど…今の様子から見て解決したと思ったんだけど」

「それって、何時頃ですか?」

「今年の春ねぇ…」

当然ですが私は居ないと…。

「かなり時期が離れてますね。それとは別問題でしょうか?」

同じ問題だったら良く今まで隠し切れてましたね。私だったら即お父様とお母様にバレちゃいます。

「どうかしら?どっちにしろ様子見ね。またあの時みたいに悪化すれば今度こそ話して貰いましょ」

一体あの時とはどんな状況だったのでしょうか?二人が心配する程ですから余程の事なんでしょうけど…。

「それにしても…」

―――それにしても昨日まで元気だったのにね、なのはちゃん。

…偶然でしょうか?

昨日の晩はシグナムさん達が戦っていた筈。もしかしたら…いや、でもなのはさんは管理局とか戦いとかそう言うのには無縁そうな女の子なのに…。

あの爆発音からして激しい戦闘をしていたはずです。あのなのはさんがあの音の原因?想像できません…。

偶然だ。そう心に言い聞かせる。シグナムさんとなのはちゃんが戦うだなんて考えたくも無い。

「どうかしたの?」

「…いいえ。唯、なのはちゃんが心配で…」

「心配性ねぇ。大丈夫よ、あの子が運動神経鈍いけど頑丈だから」

さっき言っている事と矛盾してますよ、それ…。






「よし、靴は持って行ってないみたいだな…」

誰も居ない下駄箱の前で、少年は彩の下駄箱から靴を取り出す…。

「さて…何処に隠そうか?」






――――放課後



この日はなのはさんが居ない少し寂しい一日を過ごしてしまった…。

何か物足りなさを感じつつも私は帰る準備をし、アリサちゃん達の許へ向かう。

「やれやれ…アンタは本当に心配性ねぇ…」

「なのはちゃんが大好きなんだよ。アリサちゃん」

「いえ!アリサちゃんもすずかちゃんも大好きですよっ!?」

「お、大声で言わないでよ!恥ずかしいわね…///」

「ふふふ、そう言う事を素直に言えるのも彩ちゃんの良い所だよね(純粋な子だなぁ…)」

「さ、さっさと帰るわよっ!この天然記念物っ!」

天然記念物っ!?世界遺産ですかっ!?

「あっ、言いたい事何となく分かるかも」

すずかちゃんもですかっ!?

「さあ!キリキリ歩けっ!」

「キリキリじゃなくずるずる引き摺られてる様な…ああ!アリサちゃん離して下さい!階段!階段は!段差は流石に痛いですっ!?」

すずかちゃんも見てないで助けて下さいっ!?

結局、玄関まで私はアリサちゃんに引き摺られながら向かう事になり。靴の踵が少しだけ削れた様な気がした。

アリサちゃんから解放されると、上履きを脱ぎ袋に入れ鞄にしまい下駄箱に手を入れると違和感を覚えた…。

すかっすかっ…

無い。ある筈の場所に私の靴が無い。

…どうして?

手探りで靴を探しても見ても見つからない。違う下駄箱だろうか?私はネームプレートに指を当てるとちゃんとそこには点字で私に名前が書かれていた…。

「どうしたの?…彩?」

「彩ちゃん?」

「無いんです…」

「無いって…何が?」

「靴です…」

「「っ!?」」

二人の息を呑む音が聞こえる。二人は直ぐに周りを探し出すがそれらしき物は見当たらないらしかった…。

あはは…またやっちゃいました。

「あははは…また無くしちゃいました♪私って本当にドジですね」

「ちょっ…アンタ何言って」

「う~ん…何処に置いたんでしょうか?たぶん別の場所に置いたんでしょうけど忘れちゃいました♪」

「彩ちゃん…」

「すいません。今日は二人とも先に帰って頂けませんか?私は靴を探さないと「ふざけんじゃないわよっ!」っ!?」

私の言葉をアリサちゃんが遮った。怒りの籠った言葉で…。

「無くしちゃいました?な訳無いでしょっ!?隠されたか取られたに決まってるじゃないっ!」

「アリサちゃん!」

「すずかは黙ってて!これは伝えなきゃいけない事よ!…良い?彩。これはアンタが靴を無くしたんじゃない。誰かが悪意を持って靴を盗ったのよ」

そ、そんな訳…。

「信じたくないって顔ね…。私だって信じたくないわよ。アンタみたいな良い子に嫌がらせするなんて…。私達のクラスにそんな奴が居るなんてね!」

アリサちゃんが鞄を床に叩きつける。胸に溜まった怒りが遂には物に当たるほどまでに至ったらしい。アリサちゃんは其れほどまでに怒っているのだ。

「き、きっと偶然ですよ。それかもしたら何か訳が…」

「アンタ…まだそんな事言って「どうかしたのか?」っ!?貴女は…」

アリサさんの怒声を遮る様に突然現れた凛とした声…。私は知っている。この凛とした、そしてこの優しい香りを…。

「シグナムさん?」

「うむ、学校の近くを寄ったのでな。偶然出逢えれば運が良い程度の気持ちでやって来てみれば、玄関の方で何やら彩達が見えてな…どうかしたのか?何やら言い争っていたみたいだが」

「あ、いえっ!?何でも無いんですっ!本当に、何も…」

「ふむ?そうには見えないが…」

「彩…誰かに靴盗られたんです」

「っ!………ほう?それで?」

じわじわと伝わって来る怒り。声には出ていない。でも、鼓動に嘘は吐けない。今のシグナムさんは怒っていた。心の底から…。

「なのに彩は、盗られて無い。無くしただけだって…」

「………それはまた、なんとも彩らしい」

シグナムさんは苦笑を洩らすと、突然私の身体は宙に浮かびあがった。

「あっ!?」

「わぁ…」

えっ!?

突然の出来事に何が起こったのか理解出来ない私。唯分かるのはシグナムさんの温もり、香り、鼓動が私の近くにあると言う事だけ…。

「シグナム、さん?」

「彩がそう言うのなら、私はそれで良い」

「…え?」

「帰るのだろう?靴が無いと言うのならば私がおぶって家まで送り届けよう」

「え…でも」

『話したい事がある。大事な話だ』

頭に直接届くシグナムさんの声。確か念話と言う物だ。

「…ありがとうございます」

「うむ。…済まないが、私達はこれで失礼する」

「あっ!待って!話は終わって無いわよっ!?」

「アリサちゃん…今日は…」

「…あああああああもうっ!明日は覚悟しときなさいよねっ!?」

「アリサちゃん、それじゃ苛める側だよ…」

ごめんなさい、二人とも…。

後ろの方で聞こえて来る二人の声に私は心の中で謝罪すると、後ろ髪を引かれる思いで学校を後にした…。







「…」

「…」

アリサちゃん達と別れてから長い沈黙が続く。今はどの辺りだろうか?この歩く速度からしてまだ家まで道の半分も満たしていないだろう。

「それで…大事なお話と言うのは?」

周りには誰も居ないのを確認して私は長い沈黙を破る。

「そうだったな。すまないが、私達ヴォルケンリッターと暫くの間会う事は控えさせて貰う事になる」

…え?

「な、何故ですか?私、何かいけない事しましたか?」

「いや、彩は悪くない。私達の一方的な都合だ」

「その都合、聞いても良いですか?」

「…昨日の晩、感付いていたのだろう?」

「…はい」

「昨日の晩、高町と戦った」

「っ!?」

やっぱり…そうだったんですか…。

信じたくなかった…。でも、仕方の無い事だったのだろう。シグナムさんもきっとそんな事はしたくなかった筈だ…。

「そして、高町が管理局の関係者であることが分かった」

「…ぇ?」

今、何て…。

なのはちゃんが、管理局の関係者?魔導師と言う事だろうか?あのなのはちゃんが?私にはシグナムさんの言葉が信じられなかった…。

「私達は顔を知られてしまった。だからあまり表だって行動出来ない。そして、お前に会う事はお前を巻き込む事になる」

「巻き込む?」

「お前のその強大な魔力だ。そしてその目…闇の書の主と誤解される危険性がある」

「なのはちゃんが私を管理局に報告するって事ですか?」

「ああ、私達と彩が接触している所を管理局の連中に見られたりしたら…いや、もう手遅れかもしれないな」

シグナムさんの言いたい事は分かる。既に私とシグナムさんが一緒に居る所をなのはちゃんに見られている。

「恐らく、管理局はお前と接触を試みて来るだろう。その時は…」

「シグナムさんは私の友達。それ以外は知らないと答えます…私は」

管理局がどの様な組織かはある程度聞きました。でも、私はシグナムさんを引き渡す事は出来ない。シグナムさんは何も悪い事をして無いのだから…。

「感謝する…彩」

「もう…はやてちゃんとは会えないんですか?」

「主とは会って構わない。寧ろ会ってやってくれ。私達はこれから忙しくなり主と共に出来る時間が少なくなる。主に寂しい思いをして欲しくない」

「でも…」

「主が闇の書の主だとばれなければ良い。彩が主と一緒に居る時は我等は離れていよう」

「…危ない事は駄目ですよ?」

「ああ」

「怪我しちゃ駄目ですよ?」

「ああ」

「また会う。約束ですよ?」

「ああ、約束だ」

「指きり…して下さい」

「…ああ」

そう言うとシグナムさんは私の小指に指を絡めて来る。

「ゆびきりげんま!うそついたらはりせんぼんの~ます!ゆびきった!」

昔から憧れてたこの光景。まさかこんな哀しい場面で使う事になるなんて思いもしませんでした…。

「着いたぞ?」

「…今日は家の中までです」

少し不貞腐れた様に言うと、シグナムさんは笑って承諾してくれた。

ピンポ~ン♪

家の中に響き渡るベルの音。そして直ぐに家の中から足音が近づいて来て玄関のドアが開いた。

「は~い!…あら?シグナムさん…彩っ!?どうしたのっ!?」

「靴を無くしたそうです。それで、私が」

「………っ!?そうですか。態々有難うございます。碌なお構いも出来ませんがどうぞ中へ」

一瞬、悲しそうな声を漏らすと、お母様は直ぐに明るい声に戻り、シグナムさんを招き入れる。しかしシグナムさんは…。

「いえ、用事は済みましたので…では」

そう断り、シグナムさんは家の中に入ると、床に私をそっと降ろし外へ出て行ってしまった…。

私は、そんなシグナムさんを黙って見送る事しか出来なかった…。











「彩、約束は必ず果たす。絶対にだ!」

彼女は燃える様な夕陽に向けて誓う。いつの間にか、彼女には戦う理由が増えていたのだ…。















あとがき

友「今回の作品は学園パート重視なんだって?」

金髪「ういむっしゅ」

友「しかも無垢な少女が主人公とな?」

金髪「せにょーる」

友「そんなお前に良い資料だ『君に届け』って言うアニメ見てみると良いぞ。純粋無垢な少女が主人公だ」

金髪「めーん?」

視聴中…

金髪「風早くん萌え」

友「なん…だと…?」

こんばんは!&おはようございます&こんにちは!金髪のグゥレイトゥ!です。

更新ちょい頑張って見ました。御蔭で2日間徹夜です。少し短い気もしますが…。



[8923] 魔法少女リリカルなのはA’S ~盲目の少女は何を見るのか…~ 第五話
Name: 金髪のグゥレイトゥ!◆60293ed9 ID:1667c937
Date: 2010/01/21 04:54
あの悲しいお別れから一日が経ち、また新しい一日がやってきます。

寂しくない訳じゃない。悲しくない訳じゃない。でも、シグナムさんは止まらずに前に進んでいる。なのに私だけ悲しんでいる場合じゃない。

きっとまた会える。約束したから…。

その時は笑顔で迎えよう。はやてちゃんと一緒にまたあの時みたいに読書をしよう。

辛い事があった後は必ず幸せな事が待っているのだから…。












第5話「失いたくない物、なの」













――――Side Sai Minaduki
    12月3日 PM07:30
    自宅:玄関







「おはようございます♪」

「…お~すっ」

「おはよう、彩ちゃん」

私は玄関に出るともう恒例となった挨拶を外で待ってくれているなのはちゃん達に送る。

アリサちゃんは昨日の事があるのか少し暗い感じの挨拶を私にしてきます。すずかちゃんも何時も変わらない様で、少しだけ何時もより元気が無い気がする。でも、一番気になったのが…。

「あ…おはよう。彩ちゃん…」

昨日休んでいたなのはちゃんの反応でした。

…?

昨日の事を二人の聞いたのだろうか?それともまだ体調が優れないのか、どちらにしても何時もの元気ななのはちゃんらしくない挨拶だった。

「あの…なのはちゃん?まだ体調が優れないんじゃ…」

「え?…あっ!?ううんっ!そう言うのじゃないの…そう言うのじゃ…」

「…そうですか」

―――高町が管理局の関係者であることが分かった。

私は不意にシグナムさんの言っていた事を思い出す。もしかしたら、なのはちゃんは…。

疑われて当然ですよね…シグナムさんの話だと私の魔力は異常な程多いみたいですし…。

何より、私はなのはちゃんにシグナムさんと親しくしている場面を見られている。一番に疑われるに決まっている。

でも…なのはちゃんが友達なのは変わりません!

「では…おはようございます!なのはちゃん!元気ないですよっ!?」

「にゃっ!?お、おはよう!?」

「アリサちゃんとすずかちゃんもです!おはようございますっ!」

「えっ!?」

「さ、彩ちゃんっ!?」

「おはようございますっ!」

「「お、おはようっ!?」」

「はい♪おはようございます♪」

返って来る皆の挨拶にまた笑顔で挨拶を返す。シグナムさんは私の生活を守るために距離を置いたんだ。なのに、私がその生活を壊してはいけない。それはシグナムさんに対する裏切り行為と同じだ。なら、私がすべきことはこの場所を守る事…。

「アリサちゃん、すずかちゃん。昨日はご迷惑をおかけしました」

深々とお辞儀をすると、アリサちゃんとすずかちゃんは戸惑い、あの場に居なかったなのはちゃんだけが事情を呑み込めずあたふたと混乱し始める。

「ほぇ!?何かあったのっ!?」

「え?…あ~…何でも無いわ!唯、彩がドジってだけ!」

「酷いです。アリサちゃん…」

「あはは、そうだね。彩ちゃんはドジっ子だね」

「すずかちゃんまでぇ…」

「え?えっ?どう言う事っ!?ほえぇ~~っ!?」

混乱するなのはちゃんの声が寒空の下で響き渡り、そのなのはちゃんの様子に私は笑い、二人もそれにつられて笑い出す。もう先程の暗い雰囲気は微塵も無く、またいつも通りの明るい朝が始まった…。









「そういえばもうすぐクリスマスですねぇ」

バスの中で唐突に私はクリスマスの話題を持ち出してみた。

「もうすぐって…12月に入ったばかりじゃない。せめて後一週間経ってから言いなさいよ」

私の発言にアリサちゃんが呆れた様に指摘してくる。

むぅ…人によって体感時間が違うのでしょうか?私にとって残り3週間は短い気がするのですが…。

特に最近は毎日が楽しくて時が過ぎるのが速く感じる。楽しい時間は速く過ぎる物だと言うがやはりその通りなのだろう。

「なのはちゃんは喫茶店ですからやっぱりクリスマスは忙しいんですか?」

「うん、そうなんだぁ~…毎年毎年閉店までお客さんが一杯だよぉ」

「まあこの子は去年もその前の年もクリスマス当日はアタシ達とパーティだったけどね?」

「ぶぅ~!その前日まで準備手伝ってたもんっ!」

「凄いですね!まだ小学生なのにお店の利益に貢献してるなんて!」

尊敬の眼差しでなのはちゃんを見つめて賛辞の言葉を贈ると、なのはちゃんは「いや、その…そこまでの事はして無いんだけどね」と苦笑を溢し、それを見たアリサちゃんが可笑しそうに笑いだす。

「あははは!どうせプレートに名前書いただけでしょうに!」

「む~!飾り付けも頑張ったもんっ!」

「ふ、二人とも、周りの人達に迷惑だよぉ~…」

クリスマス…かぁ。

「皆さんは今年もパーティ何ですか?」

「パーティって言っても、そんな大層な物じゃ無いわよ?友達同士で集まってケーキ食べてプレゼント交換する程度よ」

「何度か親に大きなパーティに連れてって貰ったけど、挨拶ばかりで…」

そう言えばお父様も良く愚痴を言ってました。仕事のお付き合いより家で家族だけでのパーティが1000倍マシだって…。

やはりそう言う物なのだろうか?幾ら高級な料理が沢山在っても、どんなに豪華なパーティでも、気の許せる友人が居なければ面白くない物だろうか?私はつい最近までそう言う物を知らなかったので分からない。

でも…お父様とお母様と一緒でやる誕生日パーティは楽しいです。そう言う事なんでしょうか?

「彩はクリスマスは予定在るの?」

「特には…去年と同じで家族で過ごす予定です」

「じゃあ、私の家でパーティしない?彩ちゃんの都合が良ければだけど」

「良いんですか?私なんかが…」

「良いに決まってんでしょっ!何でアンタはそう卑屈なのよ…」

アリサちゃんがぺしんと私の頭を軽く叩きます。もうこれがデフォなんだろうか?それとも私の頭の位置が叩きやすい位置にあるのだろうか?

「そうだよ彩ちゃん。私は是非来て欲しいなぁ♪」

「私も!えへへ♪」

「えと…じゃあ、喜んで?」

何故疑問形なのでしょう…。

「何で疑問形なのよ」

私にもさっぱりです…。














――――Side Signum
    12月3日 PM02:00
    八神家:リビング





彩から距離を置いて一日目。たった一日だと言うのに私達の生活に何か空白の様な物が出来ていた…。

「…」

私が主と出逢ってこれまでの生活から数カ月、私達守護騎士は充実した平和な日々を送っていた。これ以上望む物は無いと言う程に…。だと言うのに、たった数日しか過ごして無い水無月彩と言う少女が私にとって掛け替えの無い存在となっていた…。

何故?自らリンカーコアを譲ってくれたからか?見ず知らずの不審者である私に…違う。同情?主と境遇が似たあの少女に主を重ね合わせたのか?…違う。

人を疑わない無垢な心。他者を思う優しい心。人を憎まない清らかな心。そして、何かが欠けている感情…。

魅かれたのだ、私は、あの少女に。あの硝子の様な美しく脆い少女に…。

一目惚れ…恋とは違うまた別の感情。守ってやりたいと言う感情。主を第一に考えなければならないヴォルケンリッターにとって在ってはならない物だ。この感情は…。

「…だが」

それでも守ってやりたいと思うのは何故だ?

「…やめよう。これ以上考えるのは」

せっかく彩とは距離を置いたのだ。これ以上彼女の事で気を惑わせてはいけない。今は成すべき事をするのだ。それが主と…彩のためになるのだから。

「フッ…結局、彩か」

私は小さく笑みを溢すと、ふと視線をテレビに映されている映像へと向けてしまう。テレビでやっているのは盲目の少年と盲導犬の物語。余りにタイミングが合いすぎて一瞬何かの悪戯ではないかと勘違いしてしまう。

「盲導犬…か」

そう呟くとテーブルの下で眠っているザフィーラに視線を落とし、その視線に気づいたザフィーラが不機嫌そうにこう呟く。

「我は守護獣だ」

「…分かってるさ」

「盲導犬って、確か主人の方も訓練が必要じゃなかったか?」

「む?そうなのか?」

意外な人物からの指摘に思わず目を丸くしてしまう。まさかヴィータがそんな事を知っているとは思いも因らなかった。

「ああ、犬だって生き物だからな。機械みたいに地図をインプット出来る訳でもねぇし、道を覚えるにも何度も行ったり来たりしたり、主人の方も指示の出し方や色々覚えねぇといけねぇらしいぜ」

「ほぅ…詳しいな」

ぺらぺらヴィータの口から吐き出されて行く知識に心底感心するが直ぐにそれは無へと化す。

「彩から聞いたんだよ」

成程、そうい事か…。

「でも、彩ちゃんには盲導犬は向かないかもね」

今度は皿洗いを終えたシャマルが台所から出てきて会話に参加して来る。

「それはどうして?」

「あのねシグナム?盲導犬は生き物なのよ?」

「…そう言う事か」

犬の寿命は人間と比べて凄く短い。それは必然的に別れがやって来ると言う事…。優しい彩にはそれは耐えられないだろう。

「老いた盲導犬は施設に保護されてまた新しい盲導犬が家にやって来る。主人は生涯何度もそれを繰り返すの…優し過ぎる彩ちゃんにはそれは辛すぎるでしょう?」

「…使い魔ならどうだ?」

「シグナム、それ本気で言ってるの?」

本気で呆れたと言わんばかりのシャマルの表情に、私は眉を顰める。私は何か可笑しな事を行ったのだろうか?

「使い魔にはその依り代となる動物が必要。でも、使い魔はその依り代とは全く別の存在となるの。つまりその依り代の未来を、命を奪うも同義なのよ?それをあの彩ちゃんが自分のために使い魔を求める思う?」

「死体では確か…」

「死んでからあまり時間が経過していなければ問題無いけど、時間が経過している物は依り代としては使用できないわ」

「そうか…」

「それにしてもどうしたの?急に…」

「…管理局が動き出した。彩が第一に疑われるだろう」

「別に彩が闇の書の主じゃねぇんだから大丈夫だろ。犯人じゃないってわかったらアイツ等だって何もしねぇよ」

「万が一という場合もある」

「いやねぇよ」

「それに、余計な事をすればかえって危険だわ。シグナムは彩ちゃんに使い魔を持たせようとしてるんでしょうけど、魔法の知識がある筈の無い彩ちゃんが使い魔を仕えさせてたらおかしいでしょ?」

「魔力は隠蔽が可能だろ?それに管理局が接触する前に準備できれば問題無い」

「高町さんが既に接触してるでしょうに…」

「お前馬鹿か?」

「守護騎士として嘆かわしい…」

散々の言われ様だ。流石の私だって傷付くぞ?

「…だが、その心配は無用かも知れん」

ザフィーラの呟きに、リビングに居た全員の視線がザフィーラへと集中する。

「彩が白だと分かれば、次に管理局は彩の資質に注目するかもしれん。あれだけの魔力だ、見過ごすには惜しい逸材だろう」

「それで?」

「目の治療、もしくは使い魔の情報を提供。それを引き換えに管理局に入局…とかな」

「彩ちゃんが管理局に入るのはちょっと想像出来ないわね…」

シャマルの言葉に全員が頷いた。争い事が嫌いな彩に次元犯罪者を追う管理局は合わないだろう。良いところでシャマルと同じ位置のサポート程度だ。

「どちらにせよ管理局の接触はほぼ確実なのだ。今更どうする事も出来まい」

「経過を待つばかりね。私達はやるべき事をやらないと…」

「心配すんなって!別に彩が捕まるって訳じゃないんだからよ」

「…うむ」

「管理局も彩ちゃんを監禁するなんて事しないわよ。一応彩ちゃんはこの世界の一般市民よ?」

「わ、分かっているのだが…」

「ならこの話は終わりだ。そろそろ行くぞ」

「だな、シャマルははやての事よろしくな」

「ええ…シグナム?」

「…承知した。行こう」

ソファーから腰を上げると懐から幾戦の戦いを共にした相棒を取り出し、私達はリビングを出て行く。新たな獲物を蒐集するために…。









――――Side Sai Minaduki
    12月3日 PM03:00
    学校:玄関





「あ、あああああの!…彩ちゃん?」

私が靴を履き替えていると横からなのはちゃんが落ち着かない雰囲気で私に話しかけて来る。

「はい?どうかしましたか?」

「この後、会わせたいたい人が居るんだ」

「会わせたい人、ですか?」

管理局の人でしょうか?

「私は構いませんよ?今日はこの後予定はありませんし」

此処で断ってしまえば疑われる可能性がある。私は笑顔でなのはちゃんの誘いを受け入れるとなのはちゃんも「良かった」と小さく呟き安堵の溜息を吐いた。

管理局の人がどんな方かは分からない。でも、なのはちゃんが協力しているのだからきっと悪い人では無いのだろう。悪い事は起きない筈だ。

「誰よ?会わせたい人って?」

靴を履き替え終えたアリサちゃんが私達の会話に混ざって来る。

「にゃっ!?えっと!その…フェ、フェイトちゃんだよっ!?」

慌てふためくなのはちゃんの口から聞き覚えの無い名前が飛び出して来る。少なくとも私が此処に来てからフェイトと言う名は一度も耳にしていない。3人の知り合いだろうか?

「フェイトちゃん?」

「う、うん!急にこっちに来る事になったんだって!」

「へぇ~!そうなんだぁっ!…で?何でアタシ達じゃなく彩なの?」

鋭い突っ込みに「うぐっ」と後ずさるなのはちゃん。アリサちゃんの言う事は尤もだ。

「え、えっと!彩ちゃんはフェイトちゃんの事知らないから紹介しようかなって…」

「へぇ~、ふぅ~ん、ほぉ~…」

「あ、あは、あはははははは!」

全然納得していないアリサちゃんにもう笑うしかないなのはちゃん。事情を知らない私には、そんななのはちゃんをフォローする術を持ち合わせていなかった…。

「じ~~っ…」

「にゃ、にゃはは…そんなに見つめられると照れちゃうなぁ」

「なのはちゃん、あれは見つめてるんじゃないと思うんだけど…」

私も同意見です。

「さぁ!キリキリ吐きなさいっ!」

「にゃっ!にゃああああああっ!?」

「こら逃げるなぁっ!」

可愛らしい悲鳴を上げながら逃げ出したなのはちゃんをアリサちゃんが追いグラウンドで追いかけっこが始まった。遠くの方で聞こえて来る二人の声にわたしとすずかちゃんは苦笑すると、二人の後を追う為に玄関から出るのであった。







「そう言えばなのはちゃんの家に伺うのは今回で2回目ですね」

「あっ!こっちに引っ越して来た日に来てたんだよね?」

なのはちゃんの家に向かう道中。私はそんな事を思い出し口にしてみる。

「はい♪ケーキとても美味しかったです♪」

「にゃはは♪ありがとう♪またのご来店をお待ちしてます♪」

「今向かってるでしょうに…」

「でも、今日はお話だけなんだよね?」

「ドリンクはサービスで出すよぉ♪」

「ケーキ位出しなさいよ。1ホール位」

「にゃあっ!?私のお小遣いが消えちゃうよぉ…」

「もう、アリサちゃん」

「冗談よ」

冗談…ですか?本当に…。

今さっきの声色は正直本気も混じっていた様な気もする。

「でも本当に急だよねフェイトちゃん。外国からこっちに来るなんて…親の仕事の関係かな?」

「え?あ、うん。そんな所だよぉ」

「ハッキリしないわねぇ…やっぱり何か隠してるんじゃない?」

「そ、そんなことないよぉ!」

せっかく誤解を解いたと言うのにまた怪しまれているなのはちゃん。もうこれ以上は墓穴を踏みかねないので話さない方が良いのかもしれない。なのはちゃんは隠し事が得意じゃ無い、この数日間でなのはちゃんと会話して分かった事だ。現にアリサちゃん達も勘付き始めている。隠し事の内容までは分からない様だが、それも時間の問題だろう…。

「あの…フェイトさんってどんな方なんですか?」

そろそろ助け船を出さないとまずいのではないかと判断した私は、なのはちゃんに先程から気になっていたフェイトさんと言う人物の事について訊ねてみた。

「ほぇ?え~っとね…とっても良い子だよ?」

「そうですか♪」

なのはちゃんが言うんですから本当に良い子なんですね♪

解決。

「いや、全然説明になって無いわよ?良いのそれで?」

「え?良い人なんですよね?」

それに何が問題が?

「何不思議そうな顔でこっち見んのよっ!?アタシが可笑しいみたいじゃないっ!?」

「あ、あははは…まぁまぁ」

「でもどんな子か言葉で説明されても、曖昧なイメージしか湧かないじゃないですか。それに私は目が見えないので髪型や特徴を言われても…」

「それは…そうよね、アタシの考えが足りなかったわ。ごめんなさい」

「いえ!アリサちゃんは悪くないですっ!悪いのは私で…」

目がこんなんじゃなければ、皆さんに気を遣わせる事も、迷惑掛ける事も無いのに…。

「それこそ悪くないわよ。アンタは頑張ってるじゃない。大きなハンデ持ってるのに、出来るだけ自力でしようとしてるじゃない」

「いえ!私なんて皆さんに頼ってばかりで…」

「頼って良いのっ!アンタは頼らな過ぎっ!もうちょっと他人に甘えなさいっ!」

甘える…。

アリサちゃんはそう言うが、私にとっては十分すぎる程甘えて来たと思っている。優しい父に優しい母に迷惑を掛けて、悲しませて…この海鳴に来てからはシグナムさんにも迷惑を掛けてしまった。お礼をするならまだしも、これ以上甘えると言うのは私には耐え難い物だった…。

「私…は…」

私個人ではこの不自由な身体は大した苦では無い。生まれた時から目が見えないためこれが普通になっているし、生活にも大した支障も無い。だけど、周りに迷惑を掛けているのがどうしても苦痛でしか無かった。周りが私を笑顔で受け入れてくれる分だけ辛かった…。

余計な遠慮は相手を不愉快にさせるのも分かっている。でも、甘えきれない私が居るのも事実。この町に、海鳴に来てからそれをとことん実感する。アリサちゃん達に手を引かれる時も心の何処かで遠慮があり、シグナムさんにおぶられている時も申し訳ない気持ちで一杯だった…。

海鳴に来て沢山の物を貰った。沢山の温もりを知った。だから私は甘えられない。これ以上の物を求めてはいけない。そう無意識に甘える事を拒絶しているのかもしれない。

「私は…」

甘えて良いんでしょうか?欠陥品である私が…。

結局、私はそれ以降口を開く事は無く、アリサちゃん達の会話にも相槌を打つ程度で。翠屋まで明るい会話とは言い難い会話をするのだった…。








――――12月3日PM03:00
    翠屋




カランカランッ♪

入口のドアを開けると共にベルの音が店内に響き渡る。

「ただいま~!」

「あっ!おかえり、なのは。今日はお友達と一緒に帰って来たんだ?」

聞いた事の無い声だ。なのはちゃんのご家族の方だろうか?それともバイトの人?

「うん!お姉ちゃん!あそこの席使って良いよね?」

「良いよ~!でも、あんまり騒いだら駄目だよ?」

「は~い♪」

お姉さんでしたか。私は一人っ子なのでお姉さんと言う存在には憧れます。

「皆、ちょっとあそこの席で待ってて貰えるかな?フェイトちゃん呼んで来るから!」

そう言うとなのはちゃんは私達の返答を待たずに私達を残してすぐさま外へと飛び出して行った。なのはちゃんの気配は消え、この空間に残るのはドアが開いた事によって響くベルの音のみとなった。

「はぁ…落ち着きの無い」

「でもなのはちゃん嬉しそうだったね」

それだけフェイトさんと言う方と仲が良いのでしょうか?

どんな人かと言う好奇心と管理局関係者であると言う不安が入り混じり複雑な気持ちだが、なのはちゃんが良い子と言うのだ。出来る事なら友達になりたい。そして、これは願望だがシグナムさん達も争わずに仲良く出来ればと願うが…これは叶わない願いなのだろうか?

皆が幸せになる方法…きっとあると思うんです。

だが、私が何か余計な事をして管理局に関わればシグナムさんの好意も無駄にしてしまう。朝も言ったが、シグナムさんは私の生活を壊さないために距離を置いてくれたのだ。

今の生活を壊さずに、何か出来る事は無いのでしょうか?

暫く考えたが結局、方法は無かった。魔法と関われば管理局と関わると言う事になる。それは今の平穏な生活を崩壊を意味する。どんなに努力しようがどんなに足掻こうが今の生活には戻れない。それに、それはシグナムさん達も望んではいない。

「無力…ですね」

「え?何か言った?」

「あっ、いえ…何でも無いです」

失敗です。思った事が思わず口に出てしまいました。今からはこの様な失敗は許されません。

何せ今から管理局の人達と会うのだ。何か下手な事を口にすれば大変な事になってしまう。慎重に言葉を選んで発言しなければ…。

カランカランッ♪

そんな事を考えているとドアのベルの音が再び鳴り響き客の訪れを知らせて来る。ドアの入って来る足音から察して人数は4人。一人はなのはちゃんの足音で後は知らない人物の足音だ。

…来た。

私は一人心落ち着かせようと深呼吸をする。どくんどくんと心臓の音が激しさを増すのを懸命に落ち着かせ、なのはちゃん達が来るのを待つ。

「…」

足音が近づいて来る。けど、近づいて来る足音は2人分だけだ。なのはちゃんと知らない人、恐らく片方の方がフェイトさんと言う人なのだろう。後の二人は離れた場所の席に座って何やら注文をしている。アリサちゃん達が居るから離れて様子を見るつもりだろうか?

「…」

足音が目の前で止まる。私は恐る恐る気配がする方へ盲目の目の視線を上げる。

「こ、こんにちわ。アリサ、すずか」

初めて聞く少女の声。そしてその声にすぐさまアリサちゃん達が返事を返した。

「久しぶり~というかこうして直に合うのは初めましてね。アリサ・バニングスよ。よろしくね、フェイト」

「月村すずかです。こうして会うのを楽しみにしてたよ?フェイトちゃん」

「ふぇ、フェイト・テスタロッサです!私も会いたかったよ。ずっと楽しみにしてた」

嬉しそうな、恥ずかしそうなテスタロッサさんの声。鼓動も凄く高鳴っていて、脈も凄く速い。

…すごく緊張してますね。脈の音が凄くクリアに聴こえてきますよ?

「水無月 彩さん…だよね?」

テスタロッサさんが私に話しかけて来た。私は冷静さを保ちつつ笑顔で挨拶をする。

「初めまして、水無月 彩です。テスタロッサさんは何故私の事を御存じで?」

「あっ!は、初めましてっ!なのはとお話している時に水無月さんの事を聞いたの…あと、私の事はフェイトで良いよ?」

「では、私も事は彩と御呼び下さい。そうですか、なのはちゃんに…では、私の目の事は?」

「ごめんね?言われたく無かったかな?」

なのはちゃんが申し訳なさそうにするので笑顔で首を左右に振ると、なのはちゃんのフォローに入る。

「いえ、気にしないでください。私も気にしていませんし、隠した所でどうせ直ぐに知る事になるんですから」

「うん…ありがとう、彩ちゃん」

「お礼を言われる程でも無いですけどね」と私は苦笑しつつも言うと、会話は自己紹介へと再び戻る事になる。

「フェイトちゃんは外国からいらしたんですよね?親御さんの仕事の都合ですか?」

「えっと…うん、そんな所だよ」

「そうですか、奇遇ですね。私もつい最近お父様の仕事の関係で海鳴に引っ越して来たんですよ?」

「そうなんだ。それって何時頃なの?」

これは別に偽る必要は無いだろう。寧ろこれを偽れば即嘘を吐いているとばれてしまう。

「え~っと…28日に引っ越してきたから…4日程前ですね」

「そっか…つい最近だね」

フェイトちゃんの脈が少し速くなった様な気がする。

…大丈夫。普段通りに会話すれば問題無い。

「はい。それで凄いんです!引越し初日でなのはちゃんの家に来店したんですよ?しかも同じ学校同じクラスで!凄い偶然ですよね?」

「え?そうなの?」

「うん!その時私は学校で居なかったんだけどねぇ。彩ちゃんにとって今日が二回目のご来店だよ!」

「フフフ、生憎とお金の持ち合わせは無いんですけどね?」

「彩。安心しなさい。なのはが1ホール奢ってくれるらしいから」

「にゃっ!?あれって冗談じゃなかったのっ!?」

アリサちゃん…やはり本気でしたか…。

「あら、本当なのなのは?じゃあお小遣いから引いとくわね?」

「にゃああああああっ!?待ってぇ~~~っ!?」

桃子さんが突然現れたと思うと、とんでもない事を言い残して去って行く。想像ではあるが恐らく素敵な笑顔をしていただろう。なのはちゃんはそれを聞くと慌てて桃子さんの後を追い去って行ってしまう…。

今日はとことん不憫です…なのはちゃん…。

「アリサちゃん。なのはちゃんを苛めるのも程ほどにね?」

「苛めるとは酷い言われようねぇ。コミュニケーションよコミュニケーション」

…なのはちゃん、少し涙声でしたよ?

「な、なのは…」

「ごめんね?フェイトちゃん。せっかく会えたのにこんなに騒がしくて…」

「う、ううん!?騒がしいのは良い事だと思うよっ!?」

さっき、なのはちゃんのお姉さんに騒がしくしちゃ駄目と注意されていた様な…。ほら、向こうの方でお姉さんに説教されてますよ?なのはちゃん。

奥の方ではなのはちゃんが説教中の様で、声が聞こえて来ていた。ドア越しで聞こえて来るので関係者以外は立ち入り禁止の部屋で叱られているのだろうか?どちらにせよ可哀そうである。

「ええっと…フェイトちゃんは親御さんの都合で仕事で日本に来たって言ってましたよね?と言う事はまたすぐに日本を御発ちになるんですか?」

「ううん。しばらくの間は海鳴に居る予定だよ」

「と言う事は、どこかに学校に転入するんだ?」

「え?ええっと…」

「聖祥小学校。しかもなのはさんと同じクラスよ?」

何やら戸惑っている様子だがどうしたのだろう?そう思っていると、空気を読んでなのか離れた席に座っていた人達の片方が此方へとやって来て困っているフェイトちゃんの助け船を出してきた。…それにしても甘くて優しい香りを漂わせる人だ。お母様や桃子さんの似た香りをしているけど性格は臭いで変わる物なのだろうか?

「えっと…?」

「どちら様ですか?」

突然現れた女性にアリサちゃんとすずかちゃんは戸惑いながら訊ねると、女性は優しく微笑んで名前を名乗る。

「初めまして。リンディ・ハラオウンです。フェイトさんの保護者かしら?」

「ハラオウンさんですか」

「リンディで良いわよ?水無月 彩さん」

…やっぱり管理局の人ですか。

「えっと…何故私の名前を?」

どう言う経緯で知ったは予想出来るが今は知らんぷりを決め込もうと判断する。

「なのはさんに聞いたのよ。そこ二人も知ってるわよ?アリサさんにすずかさんよね?」

「「え?」」

「ビデオメール見せて貰ったの。3人ともよろしくね?」

「そうなんですか。此方こそよろしくお願いします」

「よろしくお願いします…あの!フェイトちゃんと同じクラスって本当ですか?」

「ええ、本当よ。実はフェイトさんにも秘密にしてたんだけど…喜んで貰えたかしら?」

「は、はい…ありがとう、ございます」

嬉しそうですね、フェイトちゃん。さっき以上に鼓動が高鳴ってます。

「それにしてもこの一週間で2人も転入生、ですか。転校を繰り返している私が言うのも何ですが、担任の先生は大変でしょうね」

手続きや、出席簿、あと私でも知らない色々な事をしなければならないだろう。今頃必死に作業しているかもしれない。

「まぁ、普通有り得ないわよね」

「転入生事態が珍しいもんね」

「うぅ~…ただいまぁ、何の話ィ…?」

説教で弱りきったなのはちゃんが帰ってくる。大丈夫だろうか?

「転入生の手続きの話。一週間で2人も同じクラスに入ってきたらアタシ達の担任の先生は忙しいわねって話してたの」

「ほぇ?一週間に2人?また誰か転入して来るの?」

どうやら聞かされて無かったらしい。そう言えばフェイトちゃん本人にも聞かされて無いんだから当然と言えば当然である。

「ええ、目の前の子がね」

「目の前…アリサちゃん?」

「何で私が転入してくるのよ…」

「じゃあ…まさか、フェイトちゃんっ!?」

「う、うん…」

「やった~!一緒のクラスだよ!クラスメイトだね!」

「う、うん!」

ぴょんぴょんと跳ねる音と本当に嬉しそうななのはちゃんの声が聞こえて来る。それだけでなのはちゃんがフェイトちゃんの事をどれだけ好きか判断するのには十分だった。

フフフ、本当に大好きなんですね♪

「お話と言うのはこの事だったんですね?」

「そうね。今日はその報告と御挨拶が目的だったのよ」

「そう言えば、もう一人お連れの方が居る様ですが?」

「え?」

戸惑うリンディさんの声に私は苦笑すると自分の目を指差した。

「私はこんな目ですから、鼻と耳は良いんです。店に入って来たのはなのはちゃんを入れて四人。なのはちゃんとフェイトちゃんにリンディさんを抜くとあと一人残るじゃないですか」

「まぁ…凄いのね」

「それと、残り一人は男性の方ですね。男性の方らしいどっしりと地面を踏む音でしたから」

「本当に凄い。身体の感覚が何処か欠けるとそれを補い様に別の部分の感覚が鋭くなるって聞いた事あるけど、本当だったのね」

心底感心したと溜息を洩らすと、リンディさんは残りの方を呼んで来ると言って席を離れ残りの方を連れてまた再びこの席にやって来る。

「驚いたよ。まさか足音だけでそこまで知る事が出来るなんてね。…申し遅れた。クロノ・ハラオウンだ。クロノと呼んでくれて構わない」

やはり男性の方だったか。声にまだ幼さが残ってはいるがそれとは対照的な大人の雰囲気もその声に含んでいた。

「ふふふ、慣れと言う物ですね。クロノさん。水無月 彩です。以後よろしくお願いします」

「ああ、よろしく。彩と呼んでも?」

「構いませんよ?此方も呼んでいるんですから」

「そうか…ああ、そこの二人も初めまして」

「あ、はい!初めまして!アリサ・バニングスです!」

「月村すずかです」

「うん、僕もビデオレターを見させて貰ったから二人とも知っているよ。フェイトをよろしく」

「「はい!」」

…やっぱり、大人の雰囲気がありますね。余りと歳は離れていない様なのに二人が畏まってます。

「失礼ですがお歳は?」

「ん?15だが?」

15歳…そろそろ声変わりが始める頃ですね。成程声で判断出来ないのは納得です。それにしても15でこの落ち着き様は少し…。

「凄いですね」

「ん?何がだ?」

「そのお歳でその落ち着き様は」

「そうか?それを言うなら君だと僕は思うが…」

クロノさんの予想外の言葉に私はきょとんとしてしまう。

「確かにそうねぇ…アタシもアンタは同い年とは思えない時があるわ」

ほぇ?

「うん。私もそうかな?」

すずかちゃんまで?

「ん~?私も同じかなぁ?」

そんなぁ…なのはちゃん?

「…うん、分かる気がする」

今日知りあったフェイトちゃんにまで…私って一体…。

「そう落ち込まないの。それを言うならなのはさんやフェイトさんも同じよ?」

「ええっ!?」

「わ、私も?」

「同感だ。君達も人の事は言えないな」

「「ガ、ガ~~ン…」」

「ふふふ、そう言う所は子供らしいけどね?」

「誰だって何れは大人になるんだ。嫌でもね。だから今の内に子供を満喫しておくと良い」

「それは貴方にはまだ早い台詞よクロノ?」

「ぐっ…」

リンディさんの鋭い突っ込みに小さく呻くクロノさん。せっかくカッコいい台詞を言ったのに締まらなかった…。











あれから随分と時間が経った。恐らく空は綺麗な茜色に染まっている頃だろう。何れ陽も落ち始める。そろそろ雑談もお開きだろうか。この場の空気がそれを知らせてくれる。

「そろそろ帰らなきゃ」

「そうね、なのは。御馳走様」

「えへへ…ジュースしか出せなかったけどね」

「今度来る時はクリスマスケーキを買いに来る時かしら?」

「ず、随分と間が空くね…」

「その時期は忙しいもんなのよ。師走って言うでしょ?」

成程、納得です。クリスマスの次は大晦日、そしてお正月。それに大掃除も済ませなければなりませんしね。

「あっ!向かえが来たみたい。じゃあアタシは帰るわね。行きましょすずか、彩。車で送ってってあげるから」

店の外に車の止まる音。どうやらアリサちゃんの言う迎えの方らしい。本来ならお言葉に甘えるべきなのだろうが、私の要件はまだ終わっていない。

「ごめんなさい。ちょっと彩さんには大事な話があるの。悪いんだけどもう少し残って貰えるかしら?」

やはりと言うべきか、リンディさんが帰り支度を始めた私に残る様に言って来る。

「…ぁ」

なのはちゃんの小さな声が聞こえる。その声には何処か悲しみに満ちていて…。

「大事な話、ですか?」

「ええ、駄目かしら?」

「えっと…遅くならないようでしたら、構いませんよ?」

「ありがとう。此処じゃ何だから、私の家に来てもらえる?」

「…はい」

…此処からが正念場です!シグナムさん!私、やってみせます!

「え~と…じゃあ、彩は残るのね?」

「はい、すいません。アリサちゃん」

「良いわよ。気にしないで」

「でも大丈夫?一人で帰れる?」

「すずかさん、安心して。私が責任持って彩さんを家に送り届けるから」

「それじゃあ、彩ちゃんをお願いしますね。リンディさん」

「不束者ですが。この子、良い子なので…」

何故でしょう?アリサちゃんとすずかちゃんが私のお母様の様に思えてきます…。

「ふふふ、愛されてるわね。彩さん」

「えっと…はい」

愛されてるんです…よね?

「じゃあ、行きましょうか?」

「はい。では、皆さん。また明日」

「…」

リンディさんに手を引かれ店を後にする。出入り口のドアが閉まる瞬間、なのはちゃんの「ごめんね」と言う言葉が私にだけ確かに届いていた…。








―――ハラオウン家





「はい、到着」

「近いですね。なのはちゃんの御近所じゃないですか」

「そうね。その方が色々と都合が良かったの」

「都合、ですか?」

「大好きなお友達と出来るだけ近くに住みたいでしょ?」

「成程、分かります♪」

「リ、リンディさんっ!彩もからかわないでよっ!」

からかってませんよ?私もはやてちゃんと家が近所だったら嬉しいですし。

「無駄話はその辺にして、外は寒いから速く中に入ろう。エイミィに温かい飲み物も準備して貰っている」

エイミィさん…今日は知らない人の名前のオンパレードですね。

「あら?何時の間に…」

「母さんがフェイトをからかっている間にですよ。ほら、彩も。寒いだろ?」

「あ、はい。お邪魔します」

ペコリと頭を下げるとクロノさんの言う通りに玄関のドアを潜った。すると、直ぐに奥の方から明るい女性の声が出迎えてくれた。

「いらっしゃ~い♪さぁ、どうぞどうぞ~♪遠慮せず上がって~♪」

「えっと…」

私はなのはちゃんとは別の明るさを持つ女性に若干戸惑ってしまう。

「あっと!申し遅れました!私はエイミィ・リミエッタ。エイミィって読んでね♪」

「えっと…エイミィさん?私は「彩ちゃんだよね?」あ、はい!」

もうこの凄い勢いに押され気味である。

「フェイトちゃん共々よろしくね~♪」

「こ、こちらこそ!」

「じゃあ玄関で立ち話も何だし、どうぞ中へ~」

「君が足止めしていた張本人だろうに…」

「は~いクロノ君は黙っててね~♪」

「あっこら!押すなっ!?」

「はいはいさっさと入る~♪」

反強制的にエイミィさんによって家の奥へと押し込まれて行くクロノさんの声を私は唖然と聞きながらも、隣に居るフェイトさんに訊ねてみた。

「エイミィさんっていつもあんなに明るいんですか?」

「え?…うん、そうだね。何時もあんな感じだよ?」

「元気な方ですねぇ…」

「それがあの子の良い所よ♪さぁ、彩さんもどうぞ上がって」

「あ、はい」







私はリビングに案内されると、リンディさんにソファーに座っていてと言われ素直にソファーの上にちょこんと座った。

「はい、ココアで良かったかな?」

「有難うございます、ココア大好きです♪」

「じゃあ、私は緑茶を…」

「母さん、客人の前では自重してくれ…」

「むぅ~…」

「?」

緑茶を飲むのが悪い事なんでしょうか?

「ん?ああ、彩は気にしないでくれ。此方の話だ」

「はぁ…」

どうやら不思議がっている私に気付いたのかクロノさんが誤魔化して来る。

「…それじゃあ、そろそろ本題に入りましょうか?」

「はい。私に大事な話があるんですよね?」

「…そうね、うん。大事な話よ。貴女に聞きたい事があるの」

「聞きたい事ですか?」

「ええ、彩さん。貴女は一昨日の晩何処に居ましたか?」

…一昨日の晩。確か、シグナムさんがなのはちゃんを襲った日ですね。

「家に居ましたよ?読書をしていたと思います」

「…そうですか。では、次の質問です。『闇の書』と言う物を御存じかしら?」

『闇の書』。はやてちゃんが所有しているロストロギアと言う存在…。

「いえ、知りません。名前からして何かの本ですか?」

「…そうね。形状は本の形をしているわ。でも、とても危険な物よ」

「本が危険?何か危険物の製作法でも記されているんですか?」

「そう言う訳じゃ無いわ。でもとても危険な物なのよ」

「どう危険かはわかりませんが、その本がどうかしたんですか?」

実際、私はシグナムさん達に『闇の書』が危険な物とは聞かされてはいない。闇の書がはやてちゃんの身体を脅かしているため、闇の書完全な形にしようとしているとしか聞かされていないのだ。

「…単刀直入に聞きます。水無月彩さん。貴女は『闇の書』の持ち主ですか?」

…これはまた、随分とはっきりと来たものだ。

「いえ、私はそんな名前の本は持ってませんよ?」

事実私は持っていない。私は目の事を除けば何処にでもいるごく普通の小学生だ。

「では、何故ヴォルケンリッター…いえ、シグナムと言う名の女性と親しいんですか?」

…さて、どこまで話した物か。蒐集された所まで話すべきか?それとも私が倒れていた所を偶然シグナムさんが介護してくれたと言うべきか?どちらかと言えば後者を選ぶべきだが…。

「シグナムさんは私が道端で倒れている所を助けて頂いたんです。それでそのまま仲良くなったんです。それが何故闇の書と言う物に関係するんですか?」

「彼女が…闇の書を守護するプログラムだからです」

『プログラム』その言葉に思わず反応してしまう。まるでその言葉はシグナムさん達を人として見ていない様だったから…。

「…あの、すいません。何を言ってるのか分からないんですが?『プログラム』と言うのは何かの職種の名前ですか?」

幾ら気に喰わない事を言われたからと言って、此処は何も知らない一般人を演じなければならない。此処は耐えるべきだ。

「いえ、その言葉のままの意味よ。彼女は人工的に造られた物。人間じゃ無い、プログラムよ」

「あの…えっと…シグナムさんはどう見ても人間ですよね?」

「それは魔法の技術を使って人の形を再現しているの」

魔法の名も話題に上げて来た。どうやら相当私は疑われているらしい。

「魔法…ですか。なんだかファンタジー過ぎて…。あははは、一応童話でそう言うのには憧れてはいますけど…」

私は困った様に苦笑するがそれでもリンディさんは真剣な雰囲気を崩さない。それだけ本気だと言う事だろう…。

「…彩さん。貴女は高い魔力を保有しています。私達の組織内でも貴女を超える者はまず居ないでしょう。だからこそ貴女は疑われているの」

「えっと、仮に私が闇の書の主だと言うのなら、シグナムさんがリンディさんと接触するのを黙って見ているはず無いと思うのですが?」

「ええ、だから私も貴女が闇の書の主だと言う疑いは薄れているわ。でも、さっきから気になる事があるの」

「気になる、事?」

「貴女はシグナムと言う女性に助けられたと言ったけどそれは何時頃の話?」

「11月28日の夜ですね…ぁ」

しまった…。

私はとんでもないミスをしてしまった事を言ってから気付いた。

「シグナムと言う女性に助けられたと言ったが、御両親は何故傍に居なかったんだい?何故一人で夜外を出歩いてたんだい?」

クロノさんが私の小さなミスをじわりじわりと広げて行く…。

「君は倒れていたのを助けられたと言った。それは襲われてリンカーコアを蒐集されたからではないのかい?」

…まずいです。

「なら、君は魔法の存在を知っている筈だ。なのに何故知らない振りをしたんだい?」

小さなミスが…。

「僕達は元から君を闇の書の主として疑っていなかったよ。君が普段通りに学校に登校している時点でね。それに、同じクラスメイトを蒐集するなんてヘマもしないだろう」

大きくなって行く…。

「でも君は嘘を吐いた。何故だい?それは君が闇の書の主と接触しているからじゃないのかい?」

このままじゃ…。

「そして口止めをされた。僕達管理局に自分達の事を話すなと…違うかい?」

落ち着いて、彩。まだ大丈夫。まだ全てばれて無い。まだ終わって無い。これから、これからです。さっきのは嘘で作り話を作ったからいけなかったんです。嘘で塗り固めるのは駄目、直ぐにボロが出てしまう。なら、嘘とホントを混ぜ合わせれば…。

「どうなんだい?彩」

「…」

「彩、正直に言って。じゃないと私達は彩を拘束しないといけない」

フェイトちゃんが辛そうにそう告げる。きっとなのはちゃんも同じ気持ちだったのだろう。だからあの別れ際の言葉もあんなに悲しそうだったのだ。

…ごめんなさい。フェイトちゃん、なのはちゃん。でも、はやてちゃんやシグナムさん達は私にとって大切なお友達なんです。

「…確かに、シグナムさん達に口止めをされていました」

「じゃあ、闇の書の主の居場所を知っているんだね?」

「いいえ、知りません。私は倒れて苦しんでいる所をシグナムさんに介抱されただけですから」

「…本当に?」

「はい。それに、私は襲われてはいません。私自身が望んでリンカーコアをシグナムさんに捧げました」

「なっ!?」

「…何故そんな事をしたのかしら?」

「シグナムさんは言っていました。主さんを救いたいと、だからリンカーコアが必要なんだと。…私には、あの人の言葉が偽りだと思えませんでした」

「救いたい…彩、シグナムは本当にそう言ったの?」

「はい。このまま闇の書の浸食を放置すれば主は死ぬ、だから闇の書を完成させるんだとシグナムさんは言っていました」

「…」

「あと、私に口止めをしていたのは。私の生活を壊したくなかった、一般人のままでいて欲しかったためでもあるんです。私欲のためだけに口止めをしていたわけじゃありません」

「…」

「あの、私のお願いを聞いて貰えますか?」

「…何かしら?」

「シグナムさんを見逃しては頂けないでしょうか?あの人達は平穏な暮らしを望んでいるだけなんです」

バンッ!

そんな言葉を口にした瞬間、テーブルを殴りつける音がリビング全体に響き渡った…。

「そんなこと出来るはず無いだろうっ!」

「クロノ、さん?」

「君は何も知らないからそんな事が言えるんだっ!闇の書が完成すれば大変な事になるんだぞっ!?」

…え?

「…そうね、残念だけど彩さんの要求は呑めないわ」

「な、何故ですっ!?シグナムさんは「闇の書が完成すれば、貴女の大切な人達の命すら危険に晒されてしまうのよ?」っ!?」

そんな…どう言う事ですか?シグナムさんは一言もそんな事は言って良無かったのに…。

「…理解出来ないって顔ね」

「そうですね。正直に言えばリンディさんの言う事が信用できません。私は、シグナムさん達を信じていますから…」

「…私ね、以前の闇の書事件で旦那を亡くしてるの」

「…ぇ?」

突然のリンディさんの言葉に私は言葉を失ってしまう…。

「闇の書が暴走してね。旦那が乗っていた艦が暴走した闇の書に乗っ取られて…その艦ごと撃墜されたわ。闇の書も、旦那もね…」

「ぅ…あ」

そんな…。

シグナムさんはどうして教えてくれなかったのだろうか?何か理由があったのだろうか?その理由とは何なのだろうか?

「あの時はまだギリギリの所で最小限の犠牲で済んだ…でも、今回はそうとは限らない。前回以上の犠牲が出るかもしれない」

「…」

「例えシグナムと言う女性の言っている事が真実だったとしても、見過ごすわけにはいかないの。関係無い人達を守るためにもね」

「どんな理由であれ、無関係の人達を傷つけるのはいけない事だろう?」

「…それしか方法が無いとしても、ですか?守りたい人のためにしている事がそんなに悪い事なんですか?」

「例えそれが、他人の、大勢の命を奪ってもかい?」

「シグナムさんはそんな事言ってませんでしたっ!もしかしたら知らなかったのかもしれないっ!」

「…確かに、彼等はプログラムだ。記憶が初期化されている可能性もある。それはユーノに調べて貰うとして…罪は罪だ。なら法の下裁かれるべきだ」

「大切な人を守りたいだけなのに…それでも罪と言うんですか?」

「ああ」

「…っ!」

なん、で…どうしてっ!

心の中で悲痛な叫び声が響き、頬に温かい何かが伝うのを感じだ。そしてようやく気付いた。嗚呼、私は涙を流しているのだと…。

「…君は優しいな」

クロノさんが険しい声色から優しい物へと変えると、そっと私にハンカチを手渡してくる。

「…シグナムさん達はどうなるんですか?」

「…厳重な封印を施され、永久に凍結される予定だ」

「そんな…何とかならないんですかっ!?皆が幸せになる方法だって必ずある筈ですっ!」

「君は…」

「クロノさんやリンディさんにとって怨むべき仇なのかもしれませんっ!…でも、だけどっ!私の大切な初めてのお友達…なんですっ!失いたく、ないっ」

ぼろぼろと瞳から涙が零れ落ち、スカートを濡らして行く…。きっと今の私の顔は醜くなっているだろう…。身体もはやてちゃん達を失う恐怖でガタガタと震えている…。

失いたくない!あの人達を失いたくないっ!

「彩…泣かないで…」

フェイトちゃんが私の隣へやって来て私の頭をそっと自分の胸の中へと優しく包み込み抱きしめてくれた…。温かい…少しだけ、ほんの少しだけだが悲しみが和らいだ気がした…。

「私が、私達が何とかするから…」

「グスッ…ふぇいと、ちゃん?」

「私も、シグナム達を救いたい。だから泣かないで…」

「フェイトさん?何を言って…」

「きっと方法はあるよ。必ずある」

「何を根拠にそんな事を…」

「だから彩。待ってて…必ず、皆笑顔で終わらせて見せるから…。だから待ってて。シグナムもそう願ってると思う」

「フェイトちゃん…」

耳元で優しく囁くその言葉に、私はいつの間にか瞳から溢れる涙も、身体の震えも止まっていた…。












――――Side Lindy Harlaown
      12月3日 PM11:00
      ハラオウン家:リビング






あの後緊張が途切れて眠ってしまった彩さんを家に送り届けた後、私は家に戻り夕食を食べ終え風呂に入った後リビングのソファーにだらりと身体を預けてある事を考えていた。

思い浮かべるのは彩さんの事。彼女の言葉が何度も私の頭の中に繰り返し再生され、彼女の泣き顔が脳裏を過ぎる…。

「彩ちゃん。必死でしたね…」

「エイミィ…」

エイミィがミルクと砂糖入りの緑茶を差し出して来ると私はそれを受取り口元へと運び、口の中に流し込む。その途端甘ったるい味が口の中に満ち溢れ、心が幸せで一杯になる。

あぁ…この甘み、たまらないわぁ…。

「友達を失いたくない、かぁ…どうなるんでしょうね。この事件」

「分からないわ。とりあえずユーノ君の報告待たない限りは…」

「そう言えばユーノ君はどうしていなかったんですか?今日こっちに来てましたよね?」

「アリサさんとすずかさんが居たからでしょうね。フェレットの姿でいようにも動物の姿じゃ店内に入れないから諦めて予定より早く無限図書館に向かったわ」

「どうして店内で…」ととぼとぼと去っていく彼の後姿を思い出し、少し哀れに思えてしまう。アルフも結局会話に混ざる事も出来ず今日一日不貞寝していたようだ。

「ありゃりゃ…」

「遊びで来ている訳じゃないんだ。当然だろう」

「うわ、クロノ君きっつ~…」

「それにしても…フェイトも余計な約束を…後で辛くなるだけだろうに…」

クロノはそう言うとフェイトさんが寝ている寝室にちらりと視線を向けて辛そうな表情を浮かべる。前回の事件の被害者である彼はもう諦めかけているのかもしれない。私だって全てうまく済むとは思っていない。だがあの少女の泣き顔を思い出すとどうしても諦めきれなくなってしまう…。

「ハッピーエンドで終わる。それに越した事無いじゃない」

「楽観視するなと言っているんだ。今回の件、どれだけ危険な物かエイミィも分かっているだろう?」

「でもねぇ…彩ちゃんのあの泣き顔を思い出すとねぇ…」

「っ!…そりゃ僕だって彼女の願いを叶えてやりたい。でも、この世の中どうしようもない事だってあるんだ」

「クロノ…」

「世界は、こんな筈じゃ無かった事ばっかりだ…」

「「…」」

「止めましょう。暗い話をするのは。気が滅入るだけよ」

「…そうですねぇ」

「それで艦長。今後の予定はどうするつもりですか?彼女に監視を付けますか?」

「それは良いわ。そんなに人員に余裕は無いし…それより」

「「?」」

「水無月 彩さん…彼女の事どう思う?」

「どうって…まさかっ!?」

「私、彩さんの事気に入っちゃった♪能力面でも性格面でも♪」

「あぁ~…また母さんの悪い癖が…」

「おっ!良いですねぇ♪あの子可愛いですし♪あのぎゅうぅぅ~って抱きしめたくなる儚さ…最高ですよねっ!」

「よねぇ~!私何度抱きしめようかと思った事か♪」

「ですよね?ですよね?お持ち帰りした~い♪」

「それにあの魔力、何とか管理局に引き込めないかしら!?」

「う~ん…彩ちゃんの性格だと難しいですねぇ~…」

確かに、争い事が嫌いそうな彩さんだと管理局は向いて無いかも、目の治療で釣るのも何か嫌だし…そうだ!



「クロノ、彩さんを嫁に貰いなさいっ!」



「「…」」



「「…」」




「「え゛っ!?」」

















あとがき

リンディママが違う意味で彩さんをロックオンしたようです。全世界の彩ちゃん親衛隊を敵に回したクロノ!彼に明日はあるのかっ!?

…ちょっとクロノ狩って来る。付き合わないか?

こんばんは!&おはようございます&こんにちは!金髪のグゥレイトゥ!です。

何だかギャグ分が足り何のでノリと勢いで最後書いてみましたけど…凄い波乱を呼びそうだ。後悔はしている。



[8923] 魔法少女リリカルなのはA’S ~盲目の少女は何を見るのか…~ 第六話(少し追加)
Name: 金髪のグゥレイトゥ!◆60293ed9 ID:1667c937
Date: 2010/01/18 21:12

チュンチュンッ…

外から聞こえる鳥達の囀りに、私はパチリと瞼を開く。見えるのは当然天井では無く暗闇の世界。この9年間共に過ごして来た世界だ…。

「身体が重いです…」

昨日の事が堪えているのか、ベッドから身を起こすとやけに身体が重く感じられた。別に熱がある訳でも無く身体が不調と言う訳でも無い。恐らく精神的な物だろう…。

「…起きましょうか」

私はそう独り言を呟くとパジャマを脱ぎ手探りでクローゼットの中から制服を取り出し着替え始める。最初は新しい服に戸惑いお母様に着替えを手伝って貰っていたが、今ではすっかり慣れ一人で着替えられる様になっていた。

…それにしても空気が悪い。そう思った私は窓を開けると、冷たい風が一気に部屋の中へと押し寄せて来る。

「今日は冷えますね」

もう12月、これから本格的に冷えて来るだろう。唯でさえ身体が弱いのだ。体調管理はしっかりしなければ…。

「…顔洗いましょう」

冷えた空気に触れてもまだ頭がぼんやりする。顔を洗ってスッキリする事にしよう。そしてその後に朝ご飯にしよう。















第6話「ともだち!なの」








ガチャリとドアを開ければ、なのはちゃん達が外で待っており、私の姿を見れば直ぐに明るい挨拶で出迎えてくれた。

「「おはよう!彩(ちゃん)」」

「おはようございます。アリサちゃん、すずかちゃん」

アリサちゃんとすずかちゃんの挨拶に私は笑顔で返すと、まだ挨拶をしていないなのはちゃん達に声をかける。普段より一人だけ多い気配がある。恐らくフェイトちゃんだろう。

「なのはちゃん、フェイトちゃん、おはようございます」

「あ…彩ちゃん」

「彩…」

「…私は、気にしてませんよ?」

「でも!私は…」

「気にしてませんから…だから、ね?」

「…うん、おはよう。彩ちゃん」

「はい♪…フェイトちゃんも」

「…」

「おはようございます♪」

「…おはよう、彩」

「はい♪」

今日も一日が始まります♪














――――Side Sai Minaduki
    12月4日 AM07:30
    通学路





「う~さぶぅ~…」

フェイトちゃんを新たに加えた新メンバーで学校に向かう途中、アリサちゃんが余りの寒さに悲痛な声を上げた。

「今日は一段と冷えるねぇ。そろそろ一気に冷え始める頃かな?」

「北の方じゃ11月の終わり頃から雪降り始めてるもんねぇ」

「海鳴もそろそろ降る頃でしょうか?」

「此処は温かい方だからねぇ。もう少し先かしら?彩は北の方で暮らした事無いの?」

「ありますよ?滞在期間は短かったですが丁度冬の季節でした。知ってますか?北国では夏休みが短く冬休むが長いんですよ」

「ほぇ~そうなんだぁ」

「彩、何でなの?」

「冬は吹雪が多く、学校がお休みになる事が多いんですよ。だから夏の内に学習時間を多く取り、冬はその分多く休む。そう言うシステムです」

「日本は地域によって違うんだね」

「日本は四季がハッキリしている所為か北と南では環境が大きく異なりますから」

「流石何度も転校を繰り返してる訳じゃないわね」

「…ですが、北国なだけに雪が降る事が多く。冬休みは外を出歩く事が少ないですけどね」

実際、私は引っ越してから外に出れたのはそう多くなかった。殆どが家の中で自己学習だ。幸い学習内容は転校前の学校と変わらなかったので勉強に遅れる事は無かった。

「なにそれ、冬眠?」

「仕方が無いですよ。地元の人でも遭難してしまう程の吹雪ですよ?」

「うわぁ…怖いね」

「人間、自然には勝てないって事だね」

「って、何壮大な話になってんのよ」

「うぅ~…早くいこ?学校で早く温まりたいよぉ」

「誰かが早めに来て教室の暖房を入れてくれてると良いね」

と言っても私達のクラスの優等生組は既に此処に揃っている。早めに来る子供たちだって唯友達とグラウンドに出て遊ぶために来ているだけで、教室に様の無い生徒が暖房を入れる筈も無く…。

「過度な期待はしない方が、期待を裏切られた時のダメージは少ないわよ?」

ですね。とりあえずなのはちゃんにはまだ開けて無いカイロを一つプレゼントです。

「なのはちゃん、これどうぞ。私はもう一つ持ってますから」

「うぅ、彩ちゃんは優しいねぇ」

「カイロって熱くなるまで長いわよね」

ひたすら振るのがコツですよアリサちゃん。空気を混ぜるんです。

「ふにゅうぅ~~~っ!」

隣でブンブンと激しい音がする。なのはちゃんがどうやらカイロを振り回している様だ。ある意味身体が温まるかもしれないがそれはやり過ぎである。そして、その直後にスポッと言う間抜けが音が響き…。

「アイタッ!?」

ビタッと何かにぶつかった音と共にアリサちゃんの悲鳴が響く。

「あ…」

しまったと気まずそうななのはちゃんの声に、周りの人達があちゃ~…と言う声。そして何故か私はフェイトちゃんに抱きしめられて身体が斜めに向いている。

…これはどう言った状況でしょうか?

「あ、あははは…流石フェイトちゃん!最速の動作で私の手からすっぽ抜けたカイロから彩ちゃんを守ったね!」

何故か説明口調でフェイトちゃんを褒めるなのはちゃん。成程、そう言う状況だった様だ。しかし、今はそうな事言っている場合では…。

「なのは。それより早くアリサに謝った方がいいと思うよ?」

…はい、私もそう思います。

ゴゴゴゴゴゴ…ッ!

…凄いです。大気が揺れてます。

アリサちゃんの物凄い覇気に思わずごくりと唾を飲んでしまう。フェイトちゃんなんてその覇気に当てられて私を抱きしめてガタガタ震えてしまっている。でも、何故かすずかちゃんだけ平然とし、苦笑しているのだが、こう言う空気に慣れているのだろうか?

私ですか?お母様が良く覇気を纏ってお父様と仲良くしているで慣れました。無問題です。

「あわ、あわわわわ…」

「なのは…」

「ひゃ、ひゃいっ!?」

「何か申し開きは?」

「え、ええええええっと…ごめんなさ~いっ!?」

「こらあああああああっ!!!待ちなさ~いっ!!」

「にゃああああああっ!?最近こればっかりだよ~~~っ!」

昨日もそうですが、仲良いですねぇ。二人とも。

逃げるなのはちゃんの悲鳴と追い掛けるアリサちゃんの怒声に、私は笑える光景ではないと言うのに自然に頬が緩んでしまう。

「あははは…あの様子だと学校に着く頃には身体は温まってるね」

「そうだね。上着を脱ぎたくなるほど温まってると思うよ」

すずかちゃんとフェイトちゃんの呆れた声に私も頷く。あの様子ならもう寒さの問題は既に解決しているかもしれない。

「ふふふ、カイロは必要無かったでしょうか?」

「じゃあ、私が貰っちゃって良いかな?」

いつの間にか私がなのはちゃんにあげたカイロを、すずかちゃんが手にしていたようだ。私は別に構わないと頷き、それを了承する。

「はい、良いですよ。どうぞお使い下さい」

「ありがとう♪うわぁ、あったかいなぁ♪」

「さっきまでは寒そうにしていなかったようですけど?」

「口に出さなかっただけで実際は寒かったよ。ほら、フェイトちゃんも」

「わ、暖かいね。カイロってこんなに暖かいんだ」

「初めて使ったの?」

「うん」

「そうなんだぁ…あっ!彩ちゃんは寒くない?平気?」

「大丈夫です。私も一個開封済みのが内ポケットに有りますから。残り一個の予備は帰りに使います」

「寒さには完璧だね。彩」

「備え有れば憂い無し、です♪」

もう片方の内ポケットには防犯ブザーが忍ばせて在ります。何でもござれです。










――――学校





朝のHRが終わった後、過熱な質問タイムがフェイトちゃんを襲うなどのイベント

「次は体育ですか…」

となると私は見学ですね。今日は体育館でバスケですか…。

マラソンや単純な運動なら参加できるのだが、バスケと言うチームワークが必要となるスポーツは流石に厳しくなって来る。私がチームに加わればおおきな足手纏いになってしまうからだ…。

一応水泳で来ますよ?『プールのクラゲ』とは私の事です。

「むぅ…」

それにしても次の授業は退屈です。見学者は唯黙って見守るのみです…。

「どうしたの?彩」

「フェイトちゃん…いえ、次の授業は退屈だなって思っただけですよ」

「そっか、彩は一緒に運動出来ないもんね…」

「こうなったらボール磨きでもしていましょうか…」

「何処のマネージャーよアンタ」

マネージャー…甘美な響きです。部員を陰から支える縁の下の力持ち。私もいつかそんな存在になってみたいです。

「ほらさっさと体育館に行くわよ!チャイムが鳴っちゃうじゃない」

「は、はい!えっと…白杖白杖…」

「はい、彩ちゃん」

「あ、なのはちゃん。ありがとうございます」

なのはちゃんから差し出された白杖を受取ると大事そうに杖を抱きしめ、笑顔でなのはちゃんに礼を言う。この白杖は私の身体の一部と言っても過言では無い。外出する時は必ず手に持っていなければいけない物だ。

「それにしてもその杖軽いよね。持った時ビックリしちゃった」

「はい。これは身体を支える事が目的で造られた物じゃありませんから。これは私の様な目の障害のある人が進路上に障害物が無いか確かめる為に有るんですよ?」

「あっ!たまにテレビのCMや本で出て来るのを見た事あるよっ!」

「私も、障害を持つ人達のために通路に自転車の不法駐輪をやめましょうって呼び掛けるCMとか見た事あるよ」

「アタシはポスターかなぁ」

「私は…見た事無いかな」

フェイトちゃんは別世界の出身だから知らないのかもしれない。もしかしたら別世界では医療技術が発達していて目の病気も治せるの可能性だってある。なんせ魔法と言う技術があるのだ。何が在っても不思議じゃ無い。

「てな事言ってる間に時間無いわよっ!?」

「あわわっ!?早く行こうっ!?」

「す、すみませんっ!少しゆっくり歩いて頂けますかっ!?」

「んな事言ってる場合じゃないわよっ!すずか!フェイト!担ぐわよっ!?」

「「うん!」」

「えっ!?あ、あの!ちょっ…はわわわわっ!?」

すずかちゃんとフェイトちゃん両脇に立ったと思った瞬間、私の身体が重力を無視して浮かび上がる…のではなく二人によって持ち上げられ、物凄いスピードで廊下を駆け出し始める。

「すずか、やるね!」

「フェイトちゃんも凄いね!私に付いて来れるなんて!」

「ちょっ!?アタシを置いて行くな~っ!」

「にゃ~~っ!?二人とも待って~~っ!?」

嗚呼、なのはちゃん達の声がだんだん遠くなって行きます…。










誰も居ない教室に、もぞもぞと動く黒い影…。

その影は教室の出入り口からひょこりと頭を出すと教室に誰も居ない事を確認して中へ入って来る…。

「…良し、誰も居ないな?この日の為に態々仮病まで使って学校を休んだんだ」

そう一人笑うと、彩の席にこそこそと近づき机の横に掛けてある鞄に手を伸ばし手に取った。

「けっ…靴まで鞄の中に入れてやがる。手間掛けさせやがって」

彼もそう何度も同じ真似は出来ないと思ってはいたが、2回目から対策をされていたため更に不機嫌になり、やる事が更にエスカレートしていた。この嫌がらせの為に態々学校を休み、家から抜け出し、誰も居ない教室に忍び込み、彩の鞄に何か仕出かそうとしていたのだ。

「さて、どうしてやろうか?」

そう呟き彼は鞄の中へと手を伸ば―――。

「何してるの?」

そうとしたが、背後から突如聞こえた凛とした少女の声に手を止めた…。











――――Side Fate Testarossa









「あっ!体育館用のシューズ忘れちゃった…」

「何やってんの!早くしないと遅れるわよ!」

「急がないとフェイトちゃん!」

「うん!直ぐ取って来るよ!すずか、彩をよろしくね」

「うん、任せて」

「あの…そろそろ降ろして頂けないでしょうか?」







「…あれ?誰か居る?」

なのは達と別れて急いで教室に戻ってみると何やら教室の中から物音がする。確か私達が教室を出るのが最後だったからもう誰も残ってはいない筈なのだが…。

私は不思議に思い開きっぱなしのドアを潜り教室に入ると、やはり教室の中には誰かが居た。この学校の制服を着ているから此処の所為とだろう。年も私と同じぐらいだ。しかし私が一番気になったのはその不審者が立って居る位置。彼が経っているのは彩の机がある場所だった。しかも彼の目の前には彩の鞄があり彼はその鞄に手を伸ばそうとしている。どう見ても良からぬ事をしようとしか見えなかった。私はそれを止めようと彼に声を掛ける。

「何してるの?」

ピクリ…

彼の手が止まり、ゆっくりと私の方へと振り返る。そして彼の顔が私の目に映った。

…誰?

少なくとも同じクラスじゃない。ある程度のクラスメイトの顔と名前は覚えたが私は彼を知らない。少なくとも朝の質問攻めでは彼の顔は見ていなかった。

別のクラスの子かな?

「君は誰?」

「そりゃこっちのセリフだっつぅの。お前何処のクラスだよ?」

「私は此処のクラスの生徒だよ」

「嘘吐くなよ。俺はお前なんて知らないぞ」

それは此方の台詞なんだけど…。

「…それよりこっちの質問に答えて。彩の鞄に何しようとしてたの?」

「…チッ!」

ドンッ

「キャッ!?」

舌打ちをしたかと思えば急に彼は走り出すと私を突き飛ばし教室を出て行ってしまう。尻餅をついた私は急いで立ち上がり廊下へ飛び出すとそこには彼の姿はもう無く、無人の廊下が視界に広がっているだけだった…。

「…何をしようとしていたの?」

私の問いに何も返って来ず、教室に残るのは何かされようとしていた蓋の開いた彩の鞄のみだった…。










――――Side Sai Minaduki
    学校:体育館



ドーンドーンッ

ボールが床に跳ねる音が体育館中に響き渡り、ワーワーと楽しそうにスポーツをしているクラスメイト声が私の耳に届いて来る。その音を聞くだけの私は退屈そうに溜息を吐くと体育座りで一人寂しく見学をしていた。

「暇ですねぇ」

こうなったら本当にボール磨きをしましょうか?確かこの辺りに掃除ロッカーがあった様な…あっ!ありましたね。

ガコンと音を立ててロッカーの扉を開けると、掃除用具独特の臭いが私の鼻を突く。

「雑巾雑巾はっと…ありました」

準備完了です。ボール入れにGOです

そんな掛け声を心の中で掛けると籠からボールを取り出し磨き始める。授業が終わるまでまだ30分はある。今日はとことん磨き続けよう。

「キュッキュッキュ~♪きゅっきゅっきゅきゅ~♪」

ボールを磨いていると自然に鼻歌を歌い始めていた。気分が乗っているのでこのままでいよう。

「きゅ~きゅっきゅ「な、何してるの?」はうっ!?」

だ、誰ですかっ!?

聞きなれない声に突然声を掛けられボールが手から滑り落ちてしまう。

「あっ、ごめんね?驚かせちゃった?」

「い、いえ!私が夢中になっていただけですから!あの…どちら様ですか?」

クラスメイトの方ですよね?一応聞いた事はある声ですから。名前は知りませんが…。

「ああ、自己紹介して無かったよね?私、宮本 由紀って言うの。よろしくね」

「は、はい!私は水無月 彩って言います!此方こそよろしくお願いしますっ!」

「くすくす、知ってるよ。同じクラスじゃない」

確かに宮本さんの言う通りだ。同じクラスなのだから知らない方が可笑しい。

「そ、そうですよね…あの?何か御用ですか?」

「ああ、うん。突き指しちゃって、見学する事になっちゃったの」

「だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫、平気。それでね、一人は退屈だから隣に座って良い?」

「か、構いません!ど、どどど!どうぞっ!」

ぽんぽんと私の隣の床を叩くと宮本さんはクスリと笑い私の隣に腰を下ろした。

「水無月さんとお話しするの始めてだね?」

「そうですね。普段はずっとなのはちゃん達と一緒に居ますから」

「そうだよね。私も最初は水無月さんと近寄り難くて…その、目の事とか」

「気にしてません。今までだってそうでしたから」

「ごめんね。でも、水無月さんと話したがっている子は結構いるんだよ?でもやっぱり話しかけ辛くて…私も、結構勇気使いました!エヘヘヘ…」

「有難うございます。声を掛けて頂いて…」

「ん~違うんじゃない?こういう場合は私の方が悪いよ。だからごめんね?今まで話しかけられなくて」

「い、いえ!?そんなっ!?…でもどうして急に?」

「なのはちゃん達と居る楽しそうな水無月さんを見てるとさ、別に目が見えないとか関係ないじゃんとか思えて来てね。でも声を掛けようにも転入初日に距離を置いた所為で話しかけ辛くてね、たぶん今回の事が無かったら私は水無月さんに話しかけて無かったと思う」

「皆そうですよ。自分と違う人を見れば誰だってそうなります」

「うん、かもしれない。でも、そうじゃないんだってなのはちゃん達を見ていて気付いたよ」

「なのはちゃん達を見て?」

「友達なんてさ、細かい事がどうのこうのじゃ無くてさ。一緒に居て楽しければ良いんじゃないのかなって…一緒に笑えて、一緒に泣けて、一緒に喜べるとかさ」

「…はい。分かります」

私の此処に来てそれをはやてちゃんやなのはちゃん達に貰いましたから…。

「だからね、水無月さん。私のお友達になってくれる?」

…!

「…はい♪喜んで♪」

何かが大きく変わって来ている。なのはちゃん達との出会いで、私の人生は大きく変わり始めている。何となくそう思えてしまった…。






「あっ!一緒にボール磨きします?」

「え…う~ん、遠慮シマス」

ガ~ンッ…








――――放課後




今日のお勤めが終わり、下校の時間がやって来る。私は片付けを済ますと、まだ帰る準備を終えていないすずかちゃんに話しかけてみた。

「すずかさん」

「ん?なぁに?彩ちゃん」

「今日、一緒に図書館に行きませんか?」

「うん、今日は何も予定無いし、良いよ?」

「じゃあ、すみませんがはやてちゃんにメールで連絡して頂けますか?」

管理局の目があるかもしれない。事前に連絡しておかないとシグナムさん達と接触してしまう可能性がある。そうなればはやてちゃんの素性もバレはやてちゃんは管理局に追われる生活を送る事になってしまう。それだけは何としても阻止しなければならない。

「なのはちゃん、アリサちゃん、フェイトちゃん。今日は用事があるので失礼しますね?」

「ん?そうなの?」

「はい。では、また明日…すずかちゃん、行きましょう」

「あ、うん!じゃあね!なのはちゃん!アリサちゃん!フェイトちゃん!」」

「ばいば~い!」

「また明日ね」

「彩、すずか、また明日」

と言う事で、私達は今日は解散する事になった。フェイトちゃんも怪しんではいなかった様だしこれで安心である。

これで良しです。ではさっそく図書館に向かいましょう♪

「あっ!水無月さん!バイバ~イ!」

「じゃあね、水無月さん」

「また、明日ね?」

宮本さんと宮本さんと一緒に居た女の子達が私に気付いて挨拶をしてくれた。私は一瞬何があったのか分からず驚くと、直ぐに言われた事を理解して笑顔で宮本さん達に挨拶を返した。

「はい!皆さんまた明日です!」

嬉しさの余りつい声を大きくしてしまい。しばらくしてその事に気付き顔に血が昇って行くのを感じた。

恥ずかしいですぅ…。

「彩ちゃん、何時の間に宮本さんと仲良くなったの?」

「体育の時間で、一緒に見学してたんですよ」

「ああ、成程」

「はい」

「そう言えば、何で彩ちゃんボールを磨いてたの?」

「暇でしたので」

「そ、そうなんだ…」

何故そこで苦笑い何でしょうか…?













――――12月4日 PM03:30
    風芽丘図書館






「あはは、それじゃあ彩ちゃんはずっとボールを磨いとったんや?」

「うん、誰も頼んでないのに一人必死に黙々とボールを磨いてたんだよ?」

「あははは!その光景見てみたいなぁ!」

「むぅ…そんなに可笑しいですか?」

私は次に使う人のために良かれと…。

「外で使うならともかく体育館じゃ余りボールは汚れないから磨く必要無いやろ?」

なっ!?

「それにボール磨きで一番最初に思い浮かぶのはサッカーボールだよね。その次に野球のボール」

そんなっ!?

「そやなぁ、バスケットボールはあんま聞いた事あらへんなぁ」

不覚、です…。

がくりと肩を落とす私にポンポンとはやてちゃんが肩を叩いて励ましてくれる。でも今はその優しさが少し辛い…。

「そう言えば、今日はシグナムさんは居ないんだね?」

「!」

すずかちゃんの言葉にピクリと身体の動きが止まる…。

「うん。彩ちゃん達が来る前は一緒やったんやけどいつの間にか居なくなってたんよ。何処言ったんやろ?」

二人の会話聞き流しつつ私は周りに意識を集中する。その意識を集中する事で他の使用者の呼吸、足音、話声、それがよりクリアになって私に届いて来る…。

…管理局の人は居ないみたいですね。

少なくとも昨日あの場に居た人達の声は無い。だが出来るだけシグナムさん達の話題はしない方が良いだろう。何処に管理局の目があるか分からないのだから。

「そ、それより!久々ですよね!はやてちゃんと遊ぶのは!」

「久々って…3日前にあったばかりやんか」

「そうだよ彩ちゃん」

「あ、あははは…そうですね」

うぅ、話題を逸らすためとはいえ二人の言葉が痛いです…。

「そりゃ、私は学校に行って無いから毎日会えないから寂しいと言えば寂しいけどな?」

確かに、はやてちゃんの言う通り同じ学校に通っているすずかちゃんと違ってはやてちゃんは毎日会える訳じゃない。しかも私も用事がある場合は図書館に行けない時もあるしはやてちゃんもそれは同じだ。現にこの三日間は色々あってはやてちゃんと会え無かった。

「…御免なさい。昨日も一昨日も図書館に来れなくて」

「ええんよ。私の自分勝手な理由で彩ちゃんの時間を奪いたくあらへん」

「でも…お友達なのに」

「彩ちゃん。それは違うで?お友達はそう言うのじゃあらへん」

「え?」

「お友達は何時も一緒に居るもんやない。悲しい時、辛い時、一緒に居て欲しい時、そんな時に自然に居てくれるのが友達や。縛り付けるのは友達あらへん」

「…」

「私は嬉しいよ?彩ちゃんが私の気に掛けてくれて。でも義務感で一緒に居ようとするのは私は嫌や」

「嫌…ですか」

「そや、私は彩ちゃんと遊びたいから此処に居る。別に義務とか関係無くや。遊びたく無いのに此処に来ようとは思わんで?」

義務じゃなく…ですか。そうですよね。シグナムさんに頼まれた事もありますが、私ははやてちゃんと遊びたいから此処に居るんですよね。

「ごめんなさい。はやてちゃん…私」

「ええんや、気付いてくれたんなら。ほな、今日は何の本読もうか?」

「じゃあ、これなんてどうかな?」

今まで黙って私達を見守ってくれていたすずかちゃんが言うの間にか本を持って来て私達に差し出す。

「これは…点字の本ですね?」

触ってみて分かる。この点字で書かれた独特のぶつぶつ。この点には一つ一つ意味が有り文字が描かれている…。

「うん、今日は彩ちゃんに読んで貰おうかなって…どうかな?彩ちゃん」

「私が…読み手ですか」

うぅ…少し恥ずかしいですね。今まで人前で朗読なんてした事無いですよ?国語の授業位です。

「賛成や!彩ちゃん読んで読んで~♪」

「わわわ!?きゅ、急にそんな事言われても!?こ、心の準備が…」

「それじゃあ、始めるよ~?はい、此処が最初のページね?」

「はわわわっ!?強制ですかっ!?」

「もちや♪」

「うん♪」

私にどうするか聞いておいて拒否権は無いんですかっ!?うううぅ~…致し方無いです。

結局私は観念し、すずかちゃんとはやてちゃんに挟まれて点字の本を読む事になった。慣れない事をする恥ずかしさに若干顔が赤くなっているのを感じつつも私は本を読み進めて行き、陽が沈む頃には難とか終わりまで読み終える事が出来たのだった…。












――――通学路







「…へぇ、それで体育の時間にそいつが彩の鞄に何かしようとしてたのね?」

「うん、それで彩に伝えようかと思って悩んだんだけど…結局言え無くて」

「それが正解ね。あの子にそれは伝えるべきじゃないわ」

「でも、信じられないな。そんな事する子が居る何て…」

「そいつは『俺はお前なんて知らないぞ』って確かに言ったのね」

「うん」

「つまりフェイトが転入してきた事を知らない奴か…フェイトは今日別のクラスでも噂になってたから知らない奴なんて居ない筈ね」

「そ、そうなの?」

「あはは、確かに別のクラスの子が廊下から覗いてたよね」

「そ、そうなんだ…気付かなかった」

「でもこれで犯人が絞れる事が出来る。フェイトを知らないつまりは今日学校を来て居なかった奴」

「そう言えばうちのクラス一人休んでた男の子がいたよね?」

「OKそれで詰みね…覚悟しなさい。アタシの友達に手を出したらどうなるか思い知らせてやるわ」

「ア、アリサ。穏便にね?」

「何言ってるのよ!あの純粋な子を苛める奴なんて碌な奴じゃないわ!後悔させてやるんだから!」

「自業自得。因果応報だね」

「なのはまで…」













あとがき

今回は短めです。叩かれるのを覚悟で投稿だ!盲目が終わったらSSは引退しようと思うのだがどうだろう?

いや、まだ書きたい話一杯あるんだよ?折角マブラブの設定集も買ったのにSS書いて無いとか勿体無いと思うし、ネギまの話も最近は頭の中で出来始めてるんです。

ネギまは完結していないからSSの方も完結する可能性は低い。マブラヴは設定が難しいので同じく…。

私はどうしたらいい?



[8923] 魔法少女リリカルなのはA’S ~盲目の少女は何を見るのか…~ 第七話
Name: 金髪のグゥレイトゥ!◆60293ed9 ID:1667c937
Date: 2010/01/21 17:54


―――けて…けて下さい。

暗い暗い夢の中。誰かが呼んでいる。

本来夢と言うのは自分の願望や記憶などを頭の中で無意識に映像化している物だと言う。当然私は今まで人生で一度もこの闇の世界から別離した事が無いため暗闇以外で夢を見る事は無いだろう。知識も情報も何一つ無いのだから…。

―――助けて…お願いです。

誰かが私に助けを求めている。知らない声だ。今まで一度も聞いた事も無い声だ…。

誰?…誰ですか?

―――私は…の書。お願いします。主を助け…。

…え?今何て―――。

何処かで聞いた事のある様な言葉。私はもう一度聞き直そうとすると強制的に夢の世界から現実へと引き戻された…。

夢から醒める…。






















第7話「ごめんねの次は仲直り、なの」



























――――Side Chrono Harlaown
    12月5日 AM 09:30
    ハラオウン家:リビング



「それにしても、彩のコアが蒐集されたとなると闇の書の完成は後僅かとなりますね…」

リビングのソファーに腰を掛け、頭上に浮かぶスクリーンを見上げて僕は母さんに話を掛け、母さんも真剣な表情を浮かべて頷く。

スクリーンに表示されているのは水無月 彩の魔力数値。その数値はなのはやフェイトを軽く凌駕する数字が表示されていた。あの若さでコレだけの数値となると鍛えたらどれだけ伸びると言うのだろう?少しだけ母さんが彼女を欲する気持ちが理解出来る。

…だが。

あの子は優し過ぎる。それは一昨日の会話で良く理解出来た。あの子には他人を傷つけるなんて事は出来ないだろう。そんな子に管理局は向いていない。それに、あの目だ。あれでは危険な任務に参加できるかどうか…。

…ミッドの医療技術はこの世界より遥に進歩しているが、あの子の目が治るとは限らない。母さんはそれを分かっているのか?

ちらりと隣に居る母さんに視線を向けるが母さんはスクリーンに気を取られていて僕の視線には気付かない。大層彼女が気に入った様子だ。

気まずくないのか?この間あれだけの事をしたと言うのに…。

仕事だと割り切って入るつもりだが、魔法の秘密漏洩防止のため家に閉じ込めて尋問したのは正直心を痛めた。あのようないたいけな少女にあれはやり過ぎだろう…。

僕は顔を見るのも辛い…。

あの涙、あの悲痛な願いを思い出すだけで罪悪感で心が一杯になる。彼女は闇の書のプログラムである彼女達を助けてくれと願った。でも『世界はそんなに優しくない』そんなに都合の良い方向に向かう筈が無いのだ…。

願いを叶えてはあげたいが…。

そう思いながらパネルを操作してユーノに回線を繋いだ。

「ユーノ君、調子はどう?何か分かった?」

『すいません。急いで探してはいるんですが。今の所、既に知っている情報程度しか入手して無いんです』

「そう…」

「手掛かり無しと言う事か…」

『これだけ膨大な情報の数だとね…』

そう言ってユーノは苦笑するが、彼の表情には明らかに疲れが見て取れた。恐らく寝る間も惜しんで調べてくれているのだろう。そんな彼に僕は普段は絶対にそんな事はしないが、彼に激励の言葉を送る。

「それでも調べられる君が凄いよ」

『珍しいねクロノが僕を褒めるなんて。何かあったの?』

「…」

「…彩って子の事?」

…感の良い奴だ。

「さあ?どうだかな…」

適当に誤魔化しつつも話を逸らす事にしよう。

「…さて、通信は終わりだ。急げよ?もう時間が無い」

「言われなくても…何だかよく分からないけど無理しないでね?」

「余計な御世話だ…通信終わり」

そう素っ気無く返答すると通信を切り、リビングに再び静寂に包まれる。

「情報は無し、か…」

「まずいわね。時間は一刻の猶予も無いわ」

母さんの言う通り。水無月 彩と言う予想外のイレギュラーの介入で闇の書の完成が予想以上に早まってしまった。最悪、あと1ページで完成する状況かもしれない。そうなればもう残された手はアルカンシェルで書の主ごと…。

「っ!…駄目だな。どうしても悪い方向に考えてしまう」

「指揮官としては正しい在り方だけどね?楽観的に考えるよりはマシ…はい、コーヒー」

背後からにゅっとカップを持った腕が伸びて来て僕にカップを渡して来る。僕は短く感謝を述べるとそれを受取り口元に移し黒い液体を口の中に流し込む。

「ん…ふぅ。しかし、この数日間。奴等は姿を現しませんね。何故でしょう?」

「管理局が本格的に動き始めて警戒してるのか…それとも何かアクシデントが発生したのか…」

「アクシデント?それは一体?」

「分からないわよそんな事」

確かに…。

「24時間体制でアースラが監視してるから動きが有れば直ぐに分かるけど…それでも完璧じゃないから…」

表情の曇るエイミィを見て僕と母さんも顔を歪ませる。何かしらの打開策を見つけなければ希望は完全に途絶えてしまう。もう、時間が無いのだ。

「…そう言えばまだ彩にあの時の謝罪を済ませて無かったな」

あの後直ぐに彩が寝てしまって謝罪する事が出来なかった。フェイトは既に許して貰えたと喜んでいたがやはり僕達も謝るべきだろう。そう簡単に許して貰える事でも無いが…。

「フェイトちゃんはちゃんと謝ったんだっけ?」

「謝る前に許して貰ったそうだ。気にして無いと言われたらしいぞ?」

「きっと今頃は仲良く授業を受けている頃でしょうね」








――――Side Sai Minaduki
    12月5 PM 09:30
    学校:図工室




私の時代が来ました!

今日は土粘土を使って土偶を造る授業だそうだ。皆図工室に移動し制服が汚れない様にエプロンの様な物を来て粘土を煉って何を作るか考えながらこねこねしている。

ふふふ!私の得意分野です!細かい作業は得意ですよ私!彫刻、粘土細工何でもござれです!あ、でも絵は描けません…。

「ふわぁ~…それチワワだよね?彩ちゃん」

「はい!随分前に御近所で飼っていたチワワさんを触らせて頂いたので!」

「触らせてって…まさか覚えてるのっ!?そんな細かくっ!?有り得ないんだけどっ!?」

記憶力には自身が有ります!臭い、音、感触はある程度覚えてますっ!

「チワワ…可愛い…」

「彩…流石だよ!尊敬するよ!」

ふふふ、フェイトちゃん照れますよ…。

そんなこんなで騒いでいると周りが私達の使っているテーブルに集まり始め、ガヤガヤと騒がしくなり私達の周りがクラスメイトの人達で囲まれてしまう。

「すご~いっ!これ、水無月さんが作ったのっ!?」

「宮本さん。はい、私が作りました」

「すごいすごい!本物みた~いっ!それに今にもプルプル震えそうで可愛い~♪…水無月さん見たいだね♪」

「わ、私!プルプル震えてませんよっ!?」

「ん~?小動物みたいって意味だったんだけどね♪」

しょ、小動物っ!?

「あ、納得だわ」

「「「うんうん」」」

アリサちゃん達までっ!?酷いですっ!私ワンちゃんじゃ…ワンちゃんですか、良いかもです。

何だかんだで私も大概動物好きである。

「プッ…クスクス」

誰かが笑い出す…そして、それを合図にダムが崩壊したように一斉に周りの人達がどっと笑い出し笑い声で教室が包まれた。

「アハハハハッ!何だ、水無月って面白い奴だったんだなっ!」

「だねぇ、何だか近寄り難かったけど話して見るもんだね!」

あ…。

「てか小動物かよ!ハハハ!ぴったり過ぎる!笑える!」

皆が…話しかけてくれてる。

「ひ、酷いですよぅ!私小動物じゃないですぅ!」

「そうやって縮こまってる所とか特にって感じだね!可愛い~♪」

皆が笑ってる…。

「だ、駄目だ!水無月の頭に犬の耳が見える!…お持ち帰りしていいか?」

「ちょっとっ!?アンタは近づくな!110番通報するわよっ!?」

嗚呼…こんな事、今までの学校じゃ無かった…。

これも、はやてちゃんやなのはちゃん達の…。

「む、むぅ!こうなったら私が小動物じゃないって所を見せて上げます!」

「じゃあ見せてみて?」

「はぃ?」

アリサちゃんのとんでも無い要求にピシリと身体を石の様に硬直させる私。

「え、えと…?」

「さぁ、どうぞ!」

「彩ちゃん!頑張って!」

「彩、頑張れ!」

「はわ、はわわわ…」

あの…なのはちゃん、すずかちゃん、フェイトちゃん。応援されても…。

「が、がお~?」

こんな事しか出来ないのです…。

『アハハハハハハハハッ!』

「むぅ~…笑うなんて酷いです」

皆が楽しそうに笑い出し、ぷくぅと頬を膨らませる。でも、私もそれに釣られて…。

「ぷっ…ふふふ…あははははっ!」

いつの間にか笑っていた…。

『あははははははっ!』

皆が一緒になって笑っている。嗚呼、笑うってこんなに気持ち良かったのか。初めて知った。笑う事なんて一つの感情表現でしか無いと考えていたから…。

でも今は違う。こんなに楽しいのだから…。

「コラーっ!ちゃんと授業しなさいっ!」

『ごめんなさ~いっ!』

そして皆仲良く先生に怒られました。チャンチャン♪










「ちぃっ!…なんだよ!くだらねぇ!気にくわねぇ!」

茶番に満ちた光景。俺はそれをつまらなそうに眺めていると小さく舌打ちをする。気付けば手に持っていた粘土が込められた握力で握りつぶされていた…。

にしてもまずい。あのフェイトとか言う奴。昨日教室にいた奴じゃねぇか。もしもばれたら…。









――――Side Arisa Bannings




残念♪バレてるのよねぇ♪

こっち会話に混ざらないで一人焦りの表情を浮かべている男子にアタシはニヤリとダークな笑みを浮かべると、奴を如何してくれようと思考を巡らせる。

同じ事をしてやろうか?それとも学校に来られない様にしてやろうか?どちらにせよあの純情な彩を苛めたのだから唯で済ませるつもりは無い。必ず土下座して謝らせてやる。そんなダークな事を考えて男子を見ると男子もアタシに気付き慌てて目を逸らす。

ふふ、さてどう料理してくれよう。

「それにしても何でこんなに手先が器用なの?」

ん?

クラスメイトの女の子に質問が私の意識を引き戻した。確かにそれは気になる。どうやったらそんな芸当を覚えられるのだろうか?

「私は、目が見えないですから。触ってどんな形か覚えるしかないんです。それに、こういうのは良くするんですよ?」

「へ?何で?」

「母の日や父の日にはお父様やお母様の顔を木を彫刻刀で削って作ってますから♪」

『(こ、この子半端ねぇ…)』

最早達人の領域ね…。

「でも私も欲しいなぁ~…顔はともかく」

確かに、動物ならまだしも自分の顔は、ねぇ?まぁ親御さんにとっては娘が一生懸命作った物ならなんだって嬉しい物でしょうけど。

「では、作りましょうか?」

「え、良いの?」

「はい、材料なら私の部屋に沢山ありますので」

一度この子の部屋に窺って見たくなった…。

「じゃあじゃあ!私も欲しいっ!」

「俺も俺も!犬が欲しい!」

「ずりぃぞお前等!俺にもくれ!」

「え?ええええっ!?あの、その!そんなにいっぺん頼まれてもっ!?」

一斉に我先にと手を挙げて名乗り出るクラスメイト達。そんなクラスメイト達に対応しきれず慌て始める彩。

…全く仕方ないわねぇ。

「はいはい!落ち着きなさい!そんないっぺんに頼んでも作れる訳無いでしょ?」

『ぶ~ぶ~!』

…アンタ達本当にさっきまで彩と一度も話して無かったのよね?

彩とクラスメイト達に割り込んで彩を救出するアタシに一斉にブーイングコール。思わずそんなクラスメイトに青筋を立ててしまうが此処は自分に任せて貰おう。彩がクラスメイトとより仲良く出来て、クラスメイト達も納得いく方法が一つある。

「こうしましょう。もう少しでクリスマス。皆でクリスマスパーティをしましょう!」

「それが水無月の彫り物と何が関係あるんだよ?」

「あっ!プレゼント交換っ!?」

「正解♪彩にはプレゼントに一つ何か掘って貰ってそれをプレゼントとして持って来て貰う。それで運が良かった人はその彫り物を貰える。平等でしょう?」

「その発想は無かった」

「ん~まぁ、良いか」

「賛成♪…あ、でも何処でやるの?皆が入れる場所なんて…」

「なら、私の家でやれば良いよ♪」

「月村の家か…なら問題ないな」

「ひゃ~…一度月村の家に入ってみたかったんだぁ俺」

「でけぇもんなあ月村んち」

何よ、アタシだって負けて無いんだからね!?

そう言おうと思ったが此処で言い争っても無意味かつ不毛なので自重する事にしよう。今は彩がクラスに馴染める様バックアップしなければ…。

「じゃあ、24日に私の家に集合で良いかな?」

『りょうか~い』

「だからね…授業して!お願いだから!」

民主主義の数の暴力には教師の権力なんて無力ですよ先生…。











――――Side Sai Minaduki
    12月5日 PM03:10
    学校:教室







放課後です。今日もお務め苦労さまでした。

一体誰に向かって言っているのかは分からないが心の中でそう呟いてみる。最近何故か誰かと繋がっている違和感が感じるのは何故だろうか?こう、胸の辺りに違和感が…。

此処って、リンカーコアが有る所ですよね?シグナムさんが言っていました。

「むぅ?」

蒐集に何関係が在るのでしょうか?

魔法に関しては無知に等しい私がどんなに考えても無駄な事だろう。一度シグナムさんかリンディさんに話した方が良いのかもしれない。

それに、何か重要な事を忘れている気がします。今日、夢で何か見た様な気がするんですが…良く覚えてません。

夢と言うのは本来すぐ忘れる者だと聞くが、今までで見て来た夢とは何か違っていた様な気がする。覚えて無いので余り言葉に出来ないが…。

まぁ、それはまた今度にしておくとしましょう。

私は荷物を纏めて帰る支度をする。きっとなのはちゃん達も待っているだろう。

「なのはちゃ~ん!お待たせしました…って居ないですね」

気付けば教室にはなのはちゃん達を除くクラスメイトの方達の気配しかなかった。

もしかして…先に帰りましたか?

「ガ~ン…です」

置いてけぼりですか。しょんぼりです…。

「あ、水無月さん。どうしたの?」

「あ…なのはちゃん達が居ないんです。先に帰ってしまったみたいですね。あははは」

帰ろうとしていたクラスメイトさんに声を掛けられ苦笑しなが返答する。

「んぁ?高町達まだ帰ってねぇぞ?ほら、鞄が置いてあるじゃん」

男の子がそう教えてくれます。

あ…本当ですね

隣のなのはちゃんの机を様って見ると机の上に鞄が置いてあるのが分かる。まだ学校に居るみたいだ。

「アイツ等なら勝を引っ張って裏庭に行ってたぜ?」

裏庭ですか?そこならなのはちゃん達に案内して頂いたので一人で行けます。

そう判断すると私は白杖を手に取り歩き出す。

「おい、一人で行けるのか?」

「大丈夫です。一度行った事があるので」

「そっか、じゃあな水無月!」

「はい♪では皆さんさようなら!」

ペコリと頭を下げると私は教室を出て裏庭へと向かう。一体裏庭でなのはちゃん達は何をしているのだろう?私は何も聞かされてはいないのだが…。













――――Side Arisa Bannings
    学校:裏庭







「何で此処に連れて来られたか分かってるわよね?」

「…」

黙り込む男子にイラつきを覚える。此処まで来てまだだんまりを決め込む気だろうか?既に証人が此処に居ると言うのに…。

「アンタねぇ…言い逃れは出来ないんだからさっさと吐きなさいよ!」

「アリサちゃん落ち着いて」

なのはが私の袖を掴み止めて来る。何故止めるのだろうか?コイツが何をしたのか昨日なのはにも説明したと言うのに…。コイツは彩の靴を取ったり鞄に何かしようとした。しかも態々学校まで休んでだ。そんな陰湿な奴を何故庇うのか?

「ねぇ、勝君?何であんな事したのかな?どうして彩ちゃんを苛めるの?」

「…」

「話してくれないと分からないよ?」

「気持ち悪いんだよ」

「え?」

やっと喋ったと思った言葉は余りにも下らない言葉だった…。

「目が見えないとか気持ちがワリィんだよ!何が障害者だ!周りの連中に迷惑かけるだけじゃねぇかっ!」

「っ!」

奴の言葉に一瞬にして感情の沸点が達した。拳を握りしてコイツの顔面目掛けて殴ってやろうと思ったがそれは意外な人物によって阻まれる事になる。

パンッ…

乾いた音が裏庭に響き渡る…。

私は唖然と見つめなのはやフェイトもそれを見ていた…。すずかが、あのすずかが他人の頬を叩いたのだ。

「あの子だって…必死に生きてるんだよ?他人に迷惑かけないよう必死に頑張ってるんだよっ!?なんでそんな事言えるのっ!?」

「逆に聞くがよ!何であんなのと一緒に居て平気なんだよっ!?気味が悪くないのかよっ!?」

「そんな事無いっ!友達だから!平気に決まってるっ!」

「怖くねぇのかよっ!?アイツの事がっ!あの何でも見透かした様な眼をするアイツの事がっ!」

「何を…言ってるの?」

「俺が足を引っ掛けた時直ぐにアイツは俺を見た!ボールを投げた時アイツは平気でそれを避けた!目が見えねぇのにだっ!」

「それは目が見えないから自然に他の感覚が鋭くなったって彩ちゃんが言ってた…」

「それがきめぇんだよっ!」

成程、自分に理解出来ないから。彩の事を理解出来ないから拒絶するのか。まったく以って下らないわね。

「もう良い…アンタ、覚悟は出来てんでしょうね?」

「っ!?」

ギロリと殺意を籠めて彼を睨みつけると、彼はビクリと肩を震わせ後ずさりしてしまう。だけど残念。後ろは壁で、退路はアタシが塞いでいる。退路は始めから既に断たれている。

「彩を苛めたんだから、自分も苛められる事も考えてたんでしょうね?」

当然考えてはいないだろう。苛めと言うのは大抵強い者が弱い者に対して行う行為。普通なら群集心理で囚われて周りの人も苛めに参加し弱い者は孤立し立場が逆転する事は無い。だが、彩は違う。彩は一人じゃ無い。アタシ達が居て、クラスメイトも居る。

「苛めで一番怖いのは単独じゃ無く集団よ。アンタに味方は居るのかしら?」

私の言葉に顔を青くする彼を見て、ニヤリと口の端を吊り上げる。きっと私の顔はさぞ素敵な笑みを浮かべているだろう。

「ア、アリサ。それは流石にやり過ぎ…」

「フェイト。アタシだってこんな事したくないわよ。コイツが反省してるんだったらこんな事する予定じゃ無かったわ。でもこれじゃあ、ねぇ?」

横目でちらりと彼を見るが反省の色はどうしても見られない。意地を張っても身を滅ぼすだけだと言うのに…。

此処に呼び出したのだって、教室でこの事を話せば即苛めの対象になってしまう。だから気を利かせてやったと言うのに…。馬鹿な奴だ。

「や、やり過ぎは良くないと思うなぁ?話し合いで解決しようよ、ね?」

「なのは~…先に手を出したのはコイツよ~?」

「こ、こわっ!?アリサちゃん怖いよぅっ!?」

ギロリとなのはを睨みつけると涙目でガタガタと震え出すなのは。

「アリサちゃん…」

「何よ?すずかまで止める気?」

「アリサちゃんは…彩ちゃんがそれを望むと思ってるの?」

「…」

望まない、でしょうね…。

むしろコイツを顔を晒した所で彩は笑顔でそれを許すだろう。気にしないと笑顔でコイツを許すだろう。逆に自分が悪いんだと謝るかもしれない。彩はどこか間違っているから…。

「でもね…」

そんなの…。

拳に力が籠る…。

「アタシが納得できる訳無いじゃないっ!」

振り上げた拳を今度こそアタシは最低な男の顔面に目掛けて振り下ろす。でも、この拳もまた止められる事になる…。此処に居ない筈の人物によって…。

「駄目です!アリサちゃんっ!」

後方から聞こえて来た声に振り下ろされた拳が後1cmと言う所でピタリとその動きを止める。そして、アタシはゆっくりと後ろへと振り向いた。そこには…。

「…さ、い?」

今にも泣き出しそうな彩の姿が在った…。











――――Side Sai Minaduki







「え~と…確かこの辺りですよねぇ?」

裏庭は確か1階の渡り廊下を抜けた先の出入り口を出たら直ぐだったはず。一度しか行った事は無いがこの道であっている筈だ。

「裏庭と言うより校舎裏ですよね」

何て一人馬鹿な事を言っていると裏庭から聞き覚えのある人達の…アリサちゃんの声が聞こえて来た。

「情報通りです♪」

私はアリサちゃんの声を聞いて嬉しそうにすると出入り口のドアノブに手を伸ばし…。

「目が見えないとか気持ちがワリィんだよ!何が障害者だ!周りの連中に迷惑かけるだけじゃねぇかっ!」

…ぇ?

ピタリとその手を止めた…。

気持ち悪い…迷惑…。

自然に手がドアノブから離れて行く…。身体が、心が此処から先に進むのを拒んでいる…。

あ、あははは…そうです、よね。気持ち悪いですよね。

気配を察知したり、耳が良かったり…目が見えなかったり…気持ちが悪いに決まっている。

私はゆっくりと手を戻すと来た道を引き返そうと身体を振り返ろうとしやその時…。

パンッ…

乾いた音が響いた…。

「あの子だって…必死に生きてるんだよ?他人に迷惑かけないよう必死に頑張ってるんだよっ!?なんでそんな事言えるのっ!?」

すずかちゃんの声だ。あの何時も優しい声で微笑んでいるすずかちゃん、声を荒げて怒りの感情を露わにしている…。

「逆に聞くがよ!何であんなのと一緒に居て平気なんだよっ!?君が悪くないのかよっ!?」

「そんなの無いっ!友達だから!平気に決まってるっ!」

友達…。

「あぁ…嗚呼っ!」

いつの間にか涙がぽろぽろと零れていた…。これは悲しみの涙じゃ無い、嬉しくて…余りの嬉しさで涙が零れてしまうのだ…。

「ありが、とう…っ!」

聞こえて無い。伝わって無い。でも、そう言わずにはいられなかった。心に溢れるこの感情を口に出さずにいられなかった…。

「私…皆に会えて良かったっ!」

海鳴に来て良かった。はやてちゃんに会えて良かった。シグナムさん達に会えて良かった。なのはちゃんに、アリサちゃん、すずかちゃん、辛い事もあったけどフェイトちゃんに会えて良かった…。

「もう良い…アンタ、覚悟は出来てんでしょうね?」

「っ!」

駄目っ!

明らかにアリサちゃんの声には殺意が籠っていた。いけない事が起きる。悲しい事が起きる。それだけは止めないといけない思った。

一歩前に歩き出す。後は手を伸ばしドアノブを回せばいい。

「彩を苛めたんだから、自分も苛められる事も考えてたんでしょうね?」

駄目です!私はっ!

「苛めで一番怖いのは単独じゃ無く集団よ。アンタに味方は居るのかしら?」

そんな事望んで無いっ!

ドアノブを回し扉を開け外に飛び出し駈けて行く。白杖は使って無い。唯我武者羅に、声のする方向へと走って行く。

ドクンッ…

「っ!?」

こんな時に…っ!

元々頑丈じゃ無いこの身体。急に走り出したのがいけなかったのか、胸の辺りが急に苦しくなり、呼吸が辛くなり始める…。

「アリサちゃん…」

…すずかちゃん!アリサちゃんを止めて下さいっ!

息が切れる、心の中の言葉が声となって出て来ない…。

「何よ?すずかまで止める気?」

おね、がい…。

「アリサちゃんは…彩ちゃんがそれを望むと思ってるの?」

っ!?すずかちゃんっ!

嬉しかった。私の気持ちを理解してくれるのが…。

無意識に更に駈ける速度が速くなる。

「でもね…」

アリサちゃんっ!

「アタシが納得できる訳無いじゃないっ!」

怒りが頂点に達した声が響き、私もそれ耳にした瞬間辛い呼吸の中命一杯の力を籠めて叫んだ。

「駄目です!アリサちゃんっ!」

しんと静まり返る裏庭。殴る音は聞こえず、唯静寂が裏庭を支配している…。

「…さ、い?」

呆けた様なアリサちゃんの声。私はよろよろとアリサちゃんの許へと歩いて行く…。ゆっくりと少しずつ

「駄目、ですよ…アリサちゃん。それは…駄目、です」

「…どうしてっ!?コイツはアンタを苛めたのよっ!?」

「はぁ、はぁ…それは、違います…私は苛められてません…きっと私が悪いん…です…」

「やっぱり…アンタは!何も悪くないでしょうがあっ!」

私を叱るアリサちゃんの声が私の鼓膜に突き刺さる…。

「アンタの何が悪いのっ!?アンタは頑張ってるじゃないっ!他人に迷惑掛けない様に頑張ってるじゃないっ!コイツはね!アンタのその頑張りを気に喰わないからっていう理由でめちゃくちゃにしてるのよっ!?」

「…」

「アンタは!自分の目の事について気に病んでるでしょうけど!アタシ達は逆にそれが辛いのっ!何で甘えてくれないのよっ!我儘言ってよっ!辛いなら…辛いって言ってよぉっ!」

「アリサちゃん…」

「アリサ…」

泣き出しそうなアリサちゃんの声に私は何も言えなくなってしまう…。

「私、は…」

「何で…何で笑っていられるのっ!?どうしてっ!?」

「それは…『良くして貰っているから』です」

「…は?」

アリサちゃんが言葉を失い、周りの人達のまた同様に言葉を失う…。

「私は、こんなですから。接して貰う事自体が珍しくて、きっと『良くして貰っている』んだと…今までの学校だってそうでしたから…」

「何よ…それ?」

「辛い事もありましたよ?服に水掛けられたり、鞄取られたり、靴取られたり…でも、それは私みたいな子に『良くしてもくれてる』『遊んでくれてる』んですよ?これってきっと友だ「んなわけないでょうがあっ!」…ぇ?」

アリサちゃんの強い力で私の腕を掴み、強引に引っ張り力一杯に抱きしめて来る。腕を掴む手の力が強すぎて痛い。抱きしめる力が強すぎて苦しい。でも私は黙って為すがままにされている。

アリ、サちゃん…?

「何?アンタ今までそんな辛い目にあって来たの?」

「別に辛くなんて無いですよ?」

「そうやって自分を誤魔化して来たの?」

「誤魔化して無いですよ?何でそんな事言うんです?」

「「彩ちゃん…」」

「彩…」

なのはちゃん達が震える声で私の名を呼ぶ。その声は今にも泣きそうで…。

「お前…仕事で此処に来たんじゃ無いのかよ?」

男の子も唖然として私に聞いて来る。

「はい、お父様の仕事の都合で何度もお引越ししています」

「でも、それって…苛められたからじゃないのかよ?」

「?いえ、違いますよ?」

「お前…気付いてないのか?」

「何を、ですか?」

「何で?何で誰も教えてくれなかったのっ!?父親はっ!?母親はっ!?」

「?何をですか?」

ごめんなさい。アリサちゃんの言う事が私にはあまり良く分かりません…。

「おかしい、おかしいよ…彩ちゃん…」

「彩ちゃん…どうして…」

なのはちゃんとすずかちゃんが泣いている。どうしてか分からないが泣いている…。私はどうして泣いているのか理解出来ない…。でも、きっと私が悪いのだろう。

「…ごめんなさい」

「違う!違うよ彩っ!彩は悪くないっ!悪く、無いんだっ!」

フェイトちゃんも泣いている。気付けば私を抱きしめているアリサちゃんもボロボロと涙を溢して泣いていた…。アリサちゃんの涙が頬を伝い私の頬へと落ちて来る…。

「あの…何故、泣いているんですか?」

「アンタが…アンタが壊れてるからよ…」

私が…壊れてる…?












――――Side Masaru kobayasi








…何だよ。何だよこいつは?

今まで俺のして来た事を嫌がらせだと苛めっと思って居なかったという事か?遊んで貰っていたって思ってたのかよっ!?

有り得ない。そんな言葉が俺の頭過ぎる。一体どんな神経を持ち合わせたらそんな考えに至る事が出来ると言うのだろうか?

じゃあ何か?コイツは今まで苛められてるって自覚が無かったのか?前の学校でも?その前の学校でもか?自分を苛めている相手を友達だと思ってたのかっ!?自分が孤独だと気付いて無かったのかっ!?

それは何て残酷な事なのだろう。苛めなんかよりも遥に残酷な事だ。友達だと思っていた者は友達では無く、遊んでくれていると思っている行為は苛めで…。一体何故彼女は平気でいられるのだろうか?

純粋無垢。聞こえは良いがこれは違うだろっ!?

これは純粋無垢なんかじゃ無い。壊れているんだ。何かが決定的に壊れているんだ。何故こうなるまで放置されていたんだ。何故誰も教えてやらなかったんだ。加害者である俺には到底理解出来なかった…。

理解出来ない。そりゃそうだろうよ。コイツを理解するなんて俺なんかが理解出来る訳が無かったんだ…。

コイツは異質だ、正真正銘の…。やっと俺はコイツに恐怖する理由が分かった気がする。そして認めたく無かったのかもしれない。目の前の存在を…。

馬鹿だ…俺。大馬鹿野郎だ。

コイツをこんなにしたのが苛めた奴等なら、俺もその一人になる。なら認められない存在を作ったのは俺自身であると言う事。何と言う自作自演。何と情けない事か…。

コイツは、高町達に出会うまでどんな気持ちで過ごして来たんだろうな…。

それは俺には到底想像も出来ない事だろう。理解してはいけない事だろう。実際に経験もしていない俺が苛めた側の俺が理解してはいけない事だ…。

コイツが化け物じゃ無い。コイツをこんなにした俺達が化け物だ…。

なら、俺はどうするべきだろうか?俺はコイツに何をしなければならないのだろうか?そんなの、考えるまでも無かった…。もうコイツが気に喰わない理由も分かったのだから…。









――――Side Sai Minaduki






壊れてる?私が…?どうして?

「な、何で…?」

「何で…何で分からないの?」

分からない。そんな事言われても分からない。どうしてそんな事を言うのかも分からない。唯分かるのは、アリサちゃん達が私のために泣いていると言う事だけ…。

「お願い彩。泣いてよ。辛いなら辛いって言ってよぉ…」

アリサちゃん…。

「どうして?どうしてこうなるまで我慢したの?何で誰かに伝えなかったの?」

「彩ちゃん。彩ちゃんの友達って何?どんな存在なの?私に教えて?」

友達…。

その言葉を聞いて一番に思い浮かぶのははやてちゃんが教えてくれた言葉。それをそのまま口に出す。

「悲しい時、辛い時、一緒に居て欲しい時、そんな時に自然に居てくれるのが友達…」

「今までの子達はそんな時に一緒に居てくれた?辛いと思っているのに酷い事を止めてくれたっ!?」

「で、でも…それは仕方がない…」

「そんな事無いよ彩。私達はそんな事しないよ?彩が嫌がる事はしないよ?だって彩は友達だもん。大切な人だもん…」

フェイトちゃんが私の許へ駈け寄って来ると私の頭をそっと優しく撫でてくれる。でもフェイトちゃんは未だ泣き止んでいない。泣きながら私を撫でてくれているのだ…。

「正直に言って彩。辛かった?」

分からない…。

「痛くなかった?止めて欲しくなかった?」

分かりません…。

「…泣きたく、なかった?」

分からない、よ…。

でも…何で私の瞳からは涙が零れているのだろう?

「その涙が、きっと答えだよ?」

フェイトちゃん…皆…。

「わた、しは…」

辛かったんでしょうか?だから泣いているんでしょうか?

「辛かったよね?良く頑張ったね。偉いよ」

すずかちゃんが褒めてくれる…。

「もう我慢しなくて良いんだよ?泣いて良いんだよ?」

なのはちゃんも私を抱きしめて耳元で囁いてくれる…。

「アンタは…本当にドジな子なんだから」

抱きしめる腕が少し緩みます。でも、その腕は私をしっかりと包んでくれる…。

駄目、駄目です…涙が…。

もう限界だった…。

「ぁ…あぅあ…あああ、あああああああああっ!うああああああああああっ!」

知らずに抑えて来てたダムが崩壊し感情が一気に押し流されて行く…。もう止める事なんて出来なかった…。

夕陽に染められた裏庭に、私の泣き声だけが響いています。その声は、悲しくて、寂しくて…でも、何処か喜んでいた様な気がした…。







1時間はしただろうか?散々泣いていた私は漸く泣き止んだ。もうとっくに下校時間は過ぎていた…。

「水無月…あのさ…」

泣き止んだ私に男の子が話しかけて来ます。

「まだアンタ居たんだ」

怒りの籠ったアリサちゃんの声。どうやらまだ彼の事を許しては居なかったらしい。

「居たよ…ずっと」

「その度胸だけは褒めてやるわ。…覚悟は出来てんでしょうね」

「…ああ」

「へぇ…最初の時とは大違いね。特別よ顔面一発で勘弁してあげるわ」

駄目!

「駄目です!アリサちゃん!」」

「彩…まだアンタはそんな事を…」

「駄目です。アリサちゃん…それは駄目なんです」

「水無月。気にすんな。全部俺が悪かったんだ。気の済むまで殴ってくれ」

「OKその言葉に二言は無いわね?」

アリサちゃんの拳を握る音が聞こえる。アレは一切手加減無しの音だ。

「…」

「駄目!」

「っ!アンタねぇっ!」

「それ以外の方法で償って貰うっ!それならアリサちゃんも文句はありませんねっ!?」

「ぐっ…それ以外の方法って何よ?」

「えっと…貴方の名前は?」

「…小林 勝」

その名前。確かに記憶しました。

「では小林さん。私の友達になってくれますか?」

「…え?」

「アンタ何言ってんのよっ!?」

「成程、彩ちゃんらしいや♪」

「だね」

「うんうん♪」

なのはちゃん達の笑いを含んだ声が聞こえ、私は満足そうに頷く。

「小林君は私が嫌いなんですよね?なら私の友達になるのは苦痛な筈です。それなら十分罰になるでしょう?」

これで無問題です♪

「お、お前…」

「でも、友達は義務でなる物じゃありません。今の貴方と私の関係は準お友達です。この罰は本当のお友達になるまで続きます」

「お前はそれで良いのかよ?」

「十分すぎる程辛い罰だと思いますよ?」

「だねぇ」

「私もそう思うな」

「彩は厳しいね」

「ア、アンタ達ねぇ…」

心底呆れたと言わんばかりのアリサちゃんの疲れた声。

すいません。アリサちゃん。でも、誰かが傷つくのを見たくは無いんです。例えこの目が見えなくても…。

「勝手にしなさいっ!…ったく!」

「…バニングス」

「言っとくけど!アタシはアンタを許した訳じゃないんだからねっ!?また今度同じ事してみなさい。確実に沈めてやるわっ!」

「…へっ!分かったよ」

「うが~~~っ!何よっ!?その態度っ!?」

「あ~あ~うるせぇ~…俺は帰るぞ?水無月、かえろ~ぜ?準友達の付き合いで家まで送ってやるよ」

「え?」

「ほらさっさとしろよ?荷物は教室に置きっぱなしなんだ。早くしねぇと校門締まるぞ?」

「うわっ!?もうこんな時間っ!?」

「すずかスタンバイだよっ!?」

「うん!フェイトちゃん!」

「ほぇっ!?また私を背負うんですかっ!?ま、待って下さ…ひゃあああああああああ~っ!?」

「ちょっと!?またアタシを置いて行くな~っ!?」

「ま、待ってよ~~~~っ!?」

「少しは落ち着く事も出来ねぇのかよお前等…」







学校から帰って早々、私は今日の出来事をお父様とお母様に報告した。

「お父様、お母様♪今日は沢山お友達が出来たんですよ♪」

「へぇ、そうなのかい?」

「まぁ!今日はお赤飯炊かないと♪」

二人が自分の事の様に喜んでくれる。それがとても嬉しかった…。

「今度のクリスマスはクラスの皆で集まって、すずかちゃんの家でクリスマスパーティをする事になったんです♪」

「お、おおおお!そうかクリスマスパーティか…良かったなぁ、彩(今年は家族でパーティは無しか、嬉しい様な、悲しい様な)」

「うふふ♪じゃあたんとおめかししていかないとね♪(どんな衣装にしようかしら♪迷っちゃうわ♪)」

「ま、待て母さん!それはいかんっ!私の彩に悪い虫が付くかもしれんじゃないかっ!?」

「うふふ~♪」

「母さんっ!?頼むから聞いてくれないかいっ!?」

今日も二人は仲良しです♪あっ…大事なことを伝えて無かったです。

「あ、あのですね!お父様、お母様っ!」

「へ?何だい?彩」

「どうしたの、彩?」

「今までお父さんとお母様を、一杯、一杯、御心配掛けました。一杯、一杯、悲しませました。でも、もう大丈夫です。もう私は大丈夫ですから!」

きっと私の気付かない所で色々してくれたと思う。でも、幾ら親が頑張った所で、当の本人が問題を解決しなければ意味が無い。だから、きっと今までお二人には辛い思いをさせて来ただろう。本当に幾ら感謝しても足りない位だ。

「…っ!?」

「…彩」

「笑って下さい!今の私みたいにっ!心の底からっ!もう!何も心配無いですからっ!何も背負う必要な無いですからっ!」

「っ!」

「彩っ!」

二人が一斉に私を抱きしめます。私も抱きしめ返します。

「馬鹿ね…お母さんは何も辛くは無かったわよ?」

「そうさ、僕達は何も重荷は背負って無い。苦なんて思った事は無いさ…有難う、彩。生まれて来てくれて」

「…はい!有難うございますお父様、お母様。私を生んでくれて…」

私は世界で一番の幸せ者だ。心からそう思った…。















「…あんな光景を見せられると話を掛けられないじゃないか」

「そうね。今日はやめにしましょうか」

「玄関でまさか感動のドラマシーンを見せられるとは思っていなかったですね…」

「とりあえず、ドアは閉める様に言った方が良いだろうか?」

「クロノ君空気読もうよ…」

「でも、これだと諦めるしかないわねぇ…」

「艦長?」

「あの子の幸せ…壊したくないもの」

「…そうですね」

「でも、娘に欲しいわぁ♪引退したら住居はこの町にしましょう♪ね、クロノ?」

「…はぁ」

「むぅ…何か気に喰わないなぁ!ぶ~ぶ~!」













「お父様の命令で監視しに来たは良いけど…まさかこんな光景を見る事になるとはね…」

「うぅ~…良い話だねぇ…」

「最悪、闇の書の主の情報が漏れる場合が有ればあの子を監禁する予定だったけど…どうする?」

「大事の前の小事とは言うけど…ねぇ?」

「…帰りましょう。問題は無かった。これで良いでしょ?」

「らじゃ~」
































――――Side Hayate Yagami
    12月5日 PM10:00
    八神家:自室



「さて、今日もお疲れさまや~♪」

そう言うと私は読んでいた本を枕元に置きカチリとライトの電源を落とした。

「ヴィータ、お休み~」

「うん、はやて。お休み」

隣で寝ているヴィータにおやすみの挨拶をすると私は布団の中に潜り込んだ。最近はやけに明日が来るのが待ち遠しい。彩ちゃんの御蔭だろうか?明日はあるだろうかと言うそんな気持ちで一杯で楽しみでならないのだ。

んふふ♪明日も図書館にいこ~と♪

さて、なら今日は早く寝なくてはと瞼を閉じようと…。

グラッ…。

したら視界が闇で揺らいだ…。

…え?

「うっ…あぐっ!?」

胸を締め付けられるような痛みが私を襲い、腰をくの字にして私は苦しみ始める。

「はやて?はやてどうしたのっ!?はやてっ!?」

遠くの方でヴィータの呼ぶ声が聞こえるが意識が朦朧として…。

あかん…駄目や…。

激痛に抗う事は出来ず意識を手放してしまった…。













あとがき

あれ?これ小学生の会話か?

こんばんは!&おはようございます&こんにちは!金髪のグゥレイトゥ!です。

いじめっ子をフルボッコにする予定でしたが綺麗にまとめてみました。納得できない部分が有るでしょうはこの話のコンセプトは『小さな幸せ。でもそれはとても大きな大切な物』です。暴力はいかんですよ。

これで学校側のシリアスは消費しました。次は私生活を除けば殆どがほのぼの学園生活編です!…たぶん




[8923] 魔法少女リリカルなのはA’S ~盲目の少女は何を見るのか…~ 第八話
Name: 金髪のグゥレイトゥ!◆60293ed9 ID:1667c937
Date: 2010/01/26 03:33
「はやてちゃんが…倒れた?」

朝早くからシャマルさんからそう携帯に連絡を受け、私は父の車に乗り急いで病院に向かった。はやてちゃん曰く胸が攣っただけらしいが、私ははやてちゃんが倒れた原因が何となく分かっていた。

…闇の書。

きっと闇の書が何か関係しているのだろう。じゃないとはやてちゃんを担するの先生が原因不明などと言う事を言う筈が無い。

「はやてちゃん…」

ぎゅっとはやてちゃんの手を握るとはやてちゃんは私の手を握り返し私を心配させまいと笑ってこう言う。お父様は私達に気遣って病室から出てくれたようだ。

「大丈夫やて、念の為入院はするけどもう苦しく無いよ?」

「でも…」

「…ごめんな?図書館暫く行けそうにあらへん」

「私の事は気にしないで下さい。また一緒に図書館で本を読みましょう?」

「うん。はよ退院せなな♪」

「もう、ゆっくり休んで下さい。はやてちゃんは頑張り過ぎです」

「彩ちゃんが言うんかそれ?」

「ほぇ?」

私が頑張り過ぎ、ですか?

「…だから、周りの人達は放っておけんのやろうなぁ。私も、シグナムも」

「はやてちゃん?」

「痛々しい位に頑張るから、支えたくなるんよ。誰よりも頑張ってるから、助けたくなるんよ」

「わ、私なんてそんな…」

顔を伏せ、もじもじとスカートの裾を弄るが、はやてちゃんがそれを見て笑い出す。

「あははは、照れない照れない」

「て、照れてませんっ」

「顔、真っ赤やで?」

「む、むぅ~~~っ!」

今日のはやてちゃんは意地悪です!

「いや~!怒らんといて~!…っと、お遊びはこの位にして、そろそろ帰った方がええよ?今日も学校やろ?」

「あ、はい…あっ!でももう一つ用事があるんですっ!」

「何なん?」

「はやてちゃんでは無くシグナムさんなんですけど…」

「…私か?」

私達の会話を今まで黙って見守っていてくれてたシグナムさんが初めて口を開く。

「はい…あの、此処では」

「…うむ。屋上に行こうか」

シグナムさんは私の言葉の意味を理解してくれたのか静かに頷くと人気の無い屋上へと移動する事にしてくれた…。







「…こうして話すのは、あの時が最後だな」

「そうですね。つい最近、本当に数日前の事なのに、凄く長く感じました…」

「私もだ…どうだ?学校は」

「楽しいですよ?聞いて下さい、昨日沢山友達が出来たんですよ?私はこんなのに皆私を認めてくれたんです」

「そうか、よかったな」

シグナムさんの声は穏やかで、優しく私の頭を撫でてくれる。私は目を細めてそれを受け入れるとシグナムさんの胸に顔を埋める…。

「シグナムさんは…どうなんです?」

「何がだ?」

「良い事…ありました?」

「…」

返って来るのは無言返答。頭を撫でていた手は止まり、この場には気まずい空気が流れる…。

「この前、管理局の人に色んな質問をされました」

「!」

「はやてちゃんの事は言ってません。でも、ある事を教えて貰ったんです」

「ある事?」

「闇の書が完成すると、暴走して多くの命を奪う危険があるという事を…」

「…何?」

「…シグナムさんは、前の主さんの事は覚えてますか?」

「いいや、主が変わる度に記憶がほぼ初期化されるからな。多少覚えている程度だ…」

「では、前回闇の書を完成させた時の後の事は覚えて無いんですね?」

「…ああ」

クロノさんの言っていた通り、ですか…。

どうすればいい?此処が多分分かれ道。私の言葉でシグナムさんの、はやてちゃんの運命が決まる。私はそう感じていた…。

説得をする、どうやって?蒐集を止めさせる。それは彼女達にとってははやてちゃんを見捨てろと同じ意味を持つ。管理局に自首させる。それは彼女達を封印する、殺すと言う事と同じ。彼女達のやる事を見過ごす。それは多くの人の命を脅かす可能性を無視すると言う事…。

どうしたら良い?どうすれば良い?私の頭の中で幾つもの選択肢が混雑する。どれを選んでも何かを犠牲にする。何も犠牲にせず、皆が幸せになる方法は無いのだろうか?私が出来る事は無いのだろうか?

「シグナムさん…私は、どうしたら…」

「彩…」

聞いちゃいけない。シグナムさんに答えを求めたらいけない。分かっているのに、分かっている筈なのに…。

「私には選べないんです。はやてちゃんやシグナムさん達と、沢山の人達の命…選べないんです…」

私には出来ない。彼女達を天秤に掛ける事なんて、私には…。

「彩、すまない…」

シグナムさんがそっと私を抱き寄せて、優しくぎゅっと抱きしめてくれる。

「私は、蒐集を止める事は出来ない。私は守護騎士。主のための剣…それが主が望まない事だとしても…」

「…はい」

「彩の言う事が事実であれ、私達にはこれ以外方法が無いんだ…分かってくれ」

管理局に助けを求める方法もある筈だと言おうとしたがそれを止める。助けを求めるにしても彼女達は管理局に拘束されるだろう。そしてもし、救う方法がなければそのまま封印される。それはシグナムさん達にとって死を意味する。そんな事私は言える筈も無かった。

「…その結果で、はやてちゃんを失ってしまうとしてもですか?」

「…私達にはそれしか方法を知らない。闇の書の浸食が進んでいる。このままだと主の命が危ないんだ。他の方法を探している時間も無い」

「…多くの人を犠牲にしてでも、ですか?」

「納得してくれとは言わん。だが、分かってくれ…」

「…」

結局、私には何も出来ないんですね…。

「…シグナムさん」

なら…。

「何だ?」

「約束を…覚えてますか?」

せめて…。

「…ああ」

「お願いです…死なないで…また、皆と一緒に…」

逃げていると思われても良い…だから…。

「…ああ、必ず」

希望に、縋らせて…下さい…。





















第8話「新しい命、なの」




















朝の騒動が過ぎ去り、普段通りになのはちゃん達と登校し、普段通りに授業を受け、休憩時間が訪れゆっくりとしていると意外な人物から声を掛けられた。

「お~い!水無月!」

「小林さん?どうかしたんですか?」

「さん付けは止せって言ってるだろ?背筋が痒くなる」

「えっと…勝君。どうかしたんですか?」

昨日の事もあり話をし辛いと思っていたのだが、彼はそう言う細かいを事は気にしない性格なのか気軽に私に駈け寄り話しかけて来る。

「さっきこの前やったテストが返ってきただろ?何点だった?」

「100点ですよ」

「うわ、お前どんだけだよ。俺65…」

それはまた、なんともコメントし辛い点数…。

「あ、あははは…可も無く不可も無く、かな?」

「そうだね」

「うん…」

「アンタ馬鹿?彩に張り合おうとでも思った訳?アタシでも全教科100点は無理なのにこの子は平然とそれを遣って退けるのよ?」

「うっせぇ!このなんちゃってお嬢様っ!」

「なによっ!この脳筋っ!」

呆れるアリサちゃんに、恥ずかしそうに大きな声を上げる勝君。どうしてもこの二人と会話させると直ぐに喧嘩になってしまう。二人の喧嘩を止めようとなのはちゃん達もアリサちゃんを鎮めるがどうもうまくいかない。どうしたものかと困っているのまたも思わぬところから救いの手が差し伸べられてきた。

「うわぁ、水無月さん100点なんだぁ。すごいなぁ」

「あ、宮本さん」

「それにしても、珍しい組み合わせだね。小林君と何時仲良くなったの?」

「「誰がこいつなんかとっ!」」

ぴったりとタイミングを合わせたかのように否定する二人。傍から見れば十分仲が良いように見える。人それを『喧嘩するほど仲が良い』と言うのだが、そんな事を言えば二人に猛反発を喰らってしまう。

「うん、十分息が合ってるね♪」

喰らってしまうのに…。

宮本さん勇気あります…。

「「合って無いッ!」」

「真似すんなっ!」

「こっちのセリフよっ!」

予想通りの反発、そしてまた言い争いに戻ってしまう…。

「あうあう…」

「大丈夫だよ。放っておけば」

「で、でも…」

「彩ちゃん心配要らないよ。これは喧嘩の内に入らないから♪」

「うん、そうだね♪」

「?」

楽しそうに言うなのはちゃんとすずかちゃんに首を捻る私。どう言う事だろうか?

「二人は放って置くとして…水無月さん、次家庭科の授業だけどちゃんとエプロン持ってきた?」

そう言えば今日は家庭科で調理実習の授業があるのだ。事前に持って来るように指示を受けていたのでちゃんと鞄の中に入れてある。

「あ、はい。ちゃんと持って来てますよ?」

「そう、エライエライ♪」

「あう…えへへ♪」

何だかよく分からないけど、褒められちゃいました♪

「でも、水無月さんって料理できるの?…ほら、包丁とか危ないし…」


「出来ますよ?包丁は滅多に持たせて貰えませんけど、皮むき機とか、最近では擦るだけでみじん切りにしてくれる道具も在りますし」

「あっ、それテレビショッピングでやってたやつだね」

「あ~…見た事あるかも」

「それに!私はオムレツが大の得意です!半熟でふわふわです!」

声が、声が聞こえるんです!今だひっくり返せと!卵さんが語りかけてくれるんですっ!

ただ単に音で判断しているだけなのだが…。

「半熟、ふわふわ…うわぁ、おいしそうだよぅ」

宮本さんがうっとりと声と共に溜息を漏らす。

「オムレツは料理の基本です!機会が有れば今度御馳走します!」

「喫茶店の娘の前でよくもまぁ…」

「あはは、私も店のお手伝いはするけど特別美味しい訳じゃないよ?」

「でもよ、今日の調理実習は簡単な野菜炒めだろ?」

そう、小林君の言う通り今日の実習は野菜を切ってフライパンで炒めるだけの簡単料理。野菜の切り方や炒め方を習う内容だ。卵のたの字も出て来ない。

「空気読みなさいよ…」

「事実だろうよ」

「「…あ?」」

バチバチと火花を散らす様な音を立てる二人にまたかと周りの皆が溜息を吐く。

「ありゃりゃ…また始まるよぉ」

「お、落ち着いてよ二人共…」

「こう言うのは放っとくのが一番だよテスタロッサさん。それにしても昨日の粘土もそうだけど、良く作れるよね?」

「見るんじゃないんです。感じるんです…」

ボウルの中で掻き混ざされる卵の音、手の感覚。そして混ぜる速度の力加減で美味しく出来上がるかが決まるのだ。

「え、え~と…?」

「さ、彩ちゃんの知識って色々と偏ってるよね…」

酷いです。お母様直伝なのに…。

「あ、でもそうなると…彩ちゃんはどうするの?」

「多分大丈夫よ。家庭科室には大抵の調理道具は揃ってるから。伊達に高い学費とって無いわ」

私立ですからねぇ。色んな設備が合ってびっくりです。

「まぁ、流石に通販の道具は無いでしょうけど。皮むき機ならあるでしょ」

「皮むきならお任せて下さいっ!」

「OK。彩の役割は決まったわね」

「あれ?班って決まってたよな?彩の班は高町と…」

「私とこの子ね」

「よろしくね♪」

宮本さんといつの間にか一緒に居た宮本さんと良く一緒に居る女の子が私の肩をポンと叩く。

「料理が料理だからね。班の分配人数が少ないのよ。手の込んだ料理なら5~6人でグループを作るんでしょうけど」

野菜炒めとなれば4人居れば十分と言う訳ですね。それにしても家庭科室はそんなに広いんですね。クラスの人数は30人位ですから8個はキッチンがある訳ですか…。

そんなこんなで家庭科の授業を受けた訳だが、特に語るほどの出来事は無く、普通の野菜炒めが完成し、皆で美味しく頂きました。











「ドリャアアアッ!」

「ひらり」

「ソリャアアアアアッ!」

「ヒラリ」

「どっこいしょおおおおっ!」

「しゃがみ」

「どっせいいっ!」

「くしゅんっ…」

「何で当たらねええええええッ!?」

「て言うか彩ばっか狙うなっ!」

「ぶほっ!?」

アリサちゃんの投げたボールが見事に勝君に命中する。

今は昼休み、私は皆の誘いでグラウンドに出てドッチボールをしている。最初はすずかちゃんよフェイトちゃんは一緒のチームだったのだが、その異常な身体能力の所為で勝負にならないため別々のチームにしてまた試合再開。私はボールを投げられないので回避専門だ。

「はい、小林君アウト」

「チートだチート!」

私の危機感知能力を甘く見ない方が良い。伊達に今までこの暗闇の世界で生きていた訳じゃないのだから。激しく動き回る事は出来ないが身体を捻る程度の運動ならさほど苦じゃ無い。

「開始から一歩も動いて無いのは有り得ねぇだろ…」

「あはは、彩ちゃんの味方は皆外野だしね…」

その通り、さっきのアリサちゃんの攻撃も外野からの物。私以外の味方は殆ど私が避けたボールの流れ弾に当たってアウトになっている。

「小林君。此処は私に任せて」

「月村か?どうするつもりだよ?」

「彩ちゃん…ごめんね?」

そうすずかちゃんは告げるとボールを私に向かって投げて来る。風の音で弾道を予測し私は身体を捻る。しかし、少し妙な風の切る音だ。今までに聞いた事の無い様な音。

…ボールがうねってる?

「甘いよ」

ググッ…

「えっ!?」

すずかちゃんの小さな呟きと共に曲がるボール。私は急な事に対処しきれず私は胸にポスンとボールが当たり地面に落ちた。

「あ…」

「はい、アウト♪」

変化球と言う物ですか。初めて見ました。いえ、聞いたが正しいですね。

「…今、すげぇ急に曲がらなかったか?」

「うん、曲がった」

「凄いね、すずか…」

はい、急な事だから驚きました…。

「少しコツが要るんだよ。彩ちゃん、痛くなかった?」

「あ、はい。大丈夫です」

「そっか。それじゃあそろそろ昼休憩終わるから教室にもどろっか?」

「だね。皆~!教室にもどろ~!」

「う~す」

「は~い!」

「…ふふふ♪」

「どうしたの?彩?」

「いえ…ただ、楽しいなって♪」

転入した時は皆とこうして遊ぶ事なんて想像もできなかったから…。

「そっか…私も楽しいな。今までこうやって遊んだ事ないから」

「フェイトちゃんもですか?」

「うん…色々あってね」

きっと、フェイトちゃんにも過去に何かあったのだろう。でも、きっとそれを乗り越えて今こうして私の隣で笑っているんだ。

「もどろっか?」

「はい♪」

誰も特別なんかじゃない。フェイトちゃんの話を聞いてそんな事を思った…。











――――放課後




「携帯、ですか?」

「うん。買った方が良いかなって」

確かに、今時持って無いのは色々と不便かもしれない。持っていて損は無いだろう。

「で、これがカタログね」

既に予定されていた事なのだろう。アリサちゃんが鞄からカタログを取り出してフェイトちゃんに渡した。

「ちょっと厚いね。ペラ紙かと思ってた…」

最近では色々と種類が豊富ですからね。デザイン重視。性能重視。小型化重視。しかも全てのメーカーがそれを造ってますから数は大量にあります。

私は使いやすさ重視で、デザインは考慮していない。そもそも目の見えない私にデザインなんて必要ないのだが…。

「フェイトちゃんはどんな携帯にするんですか?」

「えっと…色々あって迷っちゃうな。どんなのが良いの?」

「最近はどれも性能は同じだし、デザインで選べば良いんじゃない?」

「でもやっぱメール性能の良い奴が良いよね?」

「カメラが綺麗だと色々楽しいよ?」

そんな…迷ってる人にそんな別々な意見を言う物じゃ無い様な…。

「でもやっぱ、色とデザインも大事でしょう」

「操作性も大事だよ~」

「外部メモリが付いてると色々便利で良いんだけど…」

「あうあう…」

ああ、フェイトちゃんが混乱し始めている…。

「メーカー!メーカーはどうするんですっ!?それによって色々と変わりますよねっ!?」

まずはメーカーを絞ろう。そうすれば少しは選択肢が縮まる。家族割引だとか友達割引だとかそう言うサービスはメーカ毎に異なって来るはずだ。

「私達は○uって言うメーカーを使ってるよ?買う時に一緒に決めたから」

「なら、メーカーはそれにしましょう!」

良し。それで少しは選びやすくなった筈です!

「フェイトちゃんは、写真とか好きですか?後音楽とか…」

「写真は良く分からないけど、歌は好きかな?」

「ならそっち方面の性能を重視した方が良いですね。ね?すずかちゃん?」

「ん~そうだねぇ。使わない機能が高性能でも意味無いもんね」

私の携帯もカメラ機能は付いているがそこまで画像が綺麗と言う訳ではない…らしい。まぁ、使いやすさ重視だと当然と言えば当然だ。

「じゃあ、これが良いかな?」

どうやら一つに絞れたらしい。ペラペラとページを捲っていた音が止まり、なのはちゃん達がどれどれとフェイトちゃんに集まって行く。私は見えないのでそのまま待機。

「あ~これかぁ。選べる色も豊富で、音が綺麗ってCMでやってたわ」

「メモリ機能も付いてるから良いかもだね」

「じゃ、これで決定かな?有難う、彩」

「いえいえ…それで、今日買いに行くんですか?」

「うん。一回家に寄ってリンディさんと一緒に街に行く予定」

「そうですか。じゃあ、急がないといけませんね。待たせる訳にもいきませんし」

『あの…彩?』

急に直接頭に響くフェイトちゃんの声。私は一瞬それに驚くと直ぐに念話だと理解してその声に集中する。念話の事は説明は受けたが使い方までは教わっていない。

『あ…使い方分からない?意識を集中して口じゃ無くて心で私に語りかけてみて?』

私はフェイトちゃんの言う事に頷くと言われたとおりにやってみる。

『…こう、ですか?』

『うん…それで、あのね?リンディさんがね?この間の事謝りたいって言ってるんだ。だから、その…少し、少しの間だけ、リンディさんに時間をくれるかな?』

『私、気にしてませんよ?』

『それは、彩が直接リンディさんに伝えないといけないよ』

『…そう、ですね。はい、分かりました』

直接言わなければ伝わらない事もある。きっとそう言う事なのだと思う。

「じゃあ、行きましょうか?」

「うん!」

「はい」

「おっ?帰るのか水無月?」

鞄を手に持ち帰ろうとしていた私達に小林君が話しかけて来る。ボールが跳ねる音がしたので学校で遊んで帰るつもりなのだろう。

「そっか、じゃあまた明日な?」

「はい♪また明日♪」

笑って教室から出て行く小林君に、私も笑顔で返す。昨日までは想像も出来ない光景だ。

「アイツの態度の急変には程があると思うのよ…アタシは」

「?」

何故アリサちゃんは不機嫌なんでしょう?

「あははは♪良かったね、彩ちゃん♪」

「小林君は男の子のリーダ的存在だから♪」

「?」

「え~と…男の子と仲良くなりやすくなったって事、かな?」

ああ、そう言う事ですか。

現に今日の昼休憩、皆とドッチボールが出来たのは勝君が私を誘ってくれたからなのだ。勝君がいなければ私はあの輪の中には入れなかった。

「それは嬉しいですね♪」

これから毎日皆と遊べるという事ですね♪

「ふんっ!」

「アリサちゃんは勝君が嫌いですか…?」

「あ・た・り・ま・え・よっ!」

そ、そんな一言ずつ強調しなくても…。









「ありがとうございました~♪」

「はいどうも♪」

会計を済ませると同時に返って来る明るい店員さんの声に、同じく明るくお礼をするリンディさんの声。その二つの声がレジの方から聞こえて来る。

「フェイトさん。はい♪」

「ありがとうございます!リンディ提督…」

ショーケースの中にある携帯を眺めているなのはちゃん達から離れた場所で、リンディさんから携帯を受取りフェイトちゃんは感謝の気持ちを伝え、私に達の許へ小走りでやって来る。

「お待たせ」

嬉しそうに私達の許へやって来たフェイトちゃん。

「ううん、良い番号あった?」

「うん♪」

「へぇ~♪何番?」

「えっとね…これ」

「「「お~!」」」

歓声を上げるなのはちゃん達、どうやらディプレイを此方に向けて来ている様だが私には見えない。後で登録させて貰う事にしよう。

「すずかちゃん、後で…」

「うん♪登録しといてあげるね♪」

助かります。

「用件も済んだ事だし、これからどうしよっか?」

「そう言えば、最近この辺りで美味しいクレープ屋さんが出来たんだって!行ってみる?」

「あらあら♪それは魅力的な御誘いね♪」

何時の間にか私の後ろに居たリンディさんが嬉しそうに、本当に嬉しそうに会話に参加する。甘い食べ物が好きなのだろうか?

リンディさん。一応保護者なんですから止めましょうよ…。

「保護者さんの許可も下りた事だし!行きましょっ!」

「「おー!」」

「あ、待って!なのは、アリサ、すずかっ!」

騒がしく店を出て行くなのはちゃん達。私はそんな皆の様子を聞いて微笑むとリンディさんを見上げる。

「お話、あるんですよね?ゆっくり後を付いて行きながら話しましょうか?」

「そうね。そうしましょうか」

私の笑顔につられたのか、リンディさんも微笑むと二人で店を出てなのはちゃん達を後について行く。

「この間は、ごめんなさい。大人げ無かったわよね?」

「いえ、リンディさん達が必死なのは分かってましたから…」

それを知っているのに。それでも真実を、はやてちゃんの事を話さない私にはリンディさんを責める資格は無い。責められる事はあってもその反対は許されて良い筈は無い…。

「それでも貴女の心を傷つけてしまったわ」

「そんな…私は…」

「今、闇の書の事を調べさせてる。まだ情報は得られて無いけど、きっと見つかる筈よ」

それまでに、はやてちゃんの身体が…闇の書の完成までに間に合うのだろうか?

「そうですか…」

私がはやてちゃんの事を伝えれば、事件は大きく進展するだろう。でも、私にはそれは出来ない…。

「そんな悲しい顔しないで。まだ駄目だと決まった訳じゃないわ。ね?」

「…はい」

こんな私を優しく励ましてくれるリンディさんの心遣いが、今の私にはとても辛かった。こんな私に気遣う必要なんて無いと言うのに…。

「気になっていたんだけど、彩さんは、魔法を使う素質があるのに事件に関わろうとはしないわね。何故?」

それはシグナムさんの願い。そして私も今の平穏を望んでいるから…。

「私は、争い事とか嫌いですから。それに、シグナムさんが願ったから…平穏な世界で生きてくれって…」

魔法に興味は無いのかと聞かれればNOと答えるだろう。私も御伽噺に出て来る魔法には夢見た時もあった。でもそれはメルヘンの世界の魔法で、現実では他人を力でしか無い。私は、そんな物は望まない…。

「…そう、優しいのね。彼女は」

「はい、優しいんです。あの人の御蔭で色んな出会いがあったんです。あの人の御蔭で、初めての友達が出来たんです。あの人の御蔭で…」

「…私ね、ついこの間まで彩さんを管理局にスカウトしようと思っていたの…」

「え?」

意外な言葉だった。私の様な体の不自由な人間をスカウトしても何も得ではないだろうに…。

「貴女の魔力容量は異常と言って良い物なの。管理局にとって貴女の素質は目の事を抜きにしても欲しい存在よ」

「でも、私は…」

「安心して。私はスカウトするつもりはもう無いし、上層部には報告するつもりは無いから」

リンディさんの言葉に私はほっと安堵する。

「でも、何で急に?」

「フフフ♪ドア開けっぱなしは良くないわよ?彩さん」

………………ああっ!?

「ま、まさか…」

「覗くのは悪いと思ったんだけど、ご両親も彩さんも自分の世界に入っちゃって私達に気付いてくれないんだもの。困っちゃったわ」

達?複数デスカッ!?

「クロノとエイミィも居たのよ?」

あわわわわわ/////

その時の光景を想像すると恥ずかしさの余りに顔を真っ赤にしてしまう。

「この間のお詫びをする予定だったのに、まさかあんな感動ドラマを見る事になるなんて…オヨヨ」

ワザとらしい演技をするリンディさんにポカポカと顔を真っ赤いして両手を振し私は非難の言葉を飛ばす。

「わ、忘れて下さいぃ!」

「ああ無理…あんな感動の場面を忘れるなんて私には…」

「む~!む~~~っ!!」

「うふふ♪(可愛いわぁ…娘にしたい)」

頬をぷくぅと膨らませて抗議するがリンディさんは唯楽しそうに笑うのみ。何故か邪な事を考えてそうぶ感じたが気のせいだろう…多分。

「ほらほら♪なのはさん達と逸れちゃうわよ?」

「むぅ…」

「ほら、なのはさんも向こうの横断歩道を渡った先で…え?」

急に楽しげな口調から真剣な声色へと変えてしまうリンディさんを不思議に思う私。何か起こったのだろうか?

「どうかしたんですか?」

「子犬が…駄目っ!危ないわっ!」

「…ぇ?」

キキィイイイイイイイッ!!…ドンッ!

鼓膜を突き刺す車のブレーキ音。何かがぶつかった様な音。そしてその後に訪れる静寂…。

私には何が起こったのか理解出来なかった。

「っ!」

リンディさんが急に走り出し音のした方向へと向かって行く。そして私は漸く何が起こったか気付いた…。

子犬が…轢かれたのだ。

「リ、リンディさんっ!」

私もリンディさんの後を追って走り出す。白杖を使っての手探りでゆっくりとしたペースだがそれでも精一杯速度を出している。

「リンディさんっ!?さっきの子犬…っ!?」

「酷い…」

「…ぁ」

「…これじゃあ、もう」

なのはちゃん達も此方へ走ってやって来る。声からして子犬の容態は絶望的だと教えてくれる…。鼻を突く血の匂い。相当の量の血が出ている。先程のブレーキの音から察してかなりの速度だろう。別に運転手の人が悪い訳じゃ無い。車側の信号は青だった。むしろ止まろうとしただけでも立派だった。止まろうともしない人も居るのだから…。

「リンディさん…」

「駄目…これじゃあ、手の施しようも無いわ。寧ろ即死じゃないのが奇跡ね…それもこの子犬を苦しませるだけだけど…」

いっそ即死だったら苦しまずに死なせてられたのにと言う事だろうか?

そんなのって…。

「可哀そうだけど…この子犬は…」

「た、助けられないんですかっ!?」

「彩…無理よ。これじゃあ…」

「で、でも!」

「足の骨もズタズタ。仮に助かったとしても…」

「す、すみませんっ!御宅の犬ですかっ!?」

車から運転手さんが出て来て此方へと走ってやって来た。

「…いいえ」

「そう、ですか…」

どこかほっとしている運転手さんの声。それが私にはどうしても許せなかった。分かっている。この運転手さんは悪くない。それは分かっているのに…。

「じゃあ、俺はこれで…」

駆け足で逃げる様に去っていく運転手さん。この場から離れて行く車のエンジン音が段々と小さくなって行きこの場には街の雑音と横切る人達のざわめきしか聞こえなくなった…。

「可哀そう…見てよ、ガリガリ。きっとご飯も碌に食べて無かったのよ…」

っ!

「捨てられたのかな?酷いよね。まだ母犬無しで生きていける程成長もして無い子犬なのに…」

これから、これからだった筈なのに。まだ生まれて来たばかりなのに!

「リンディさん…」

「…何?」

『魔法でも、無理なんですか?』

縋る様な思いで訊ねるが返って来たのは辛い現実を思い知らせてくれる言葉だった。

『無理よ。魔法は万能じゃないわ…』

『なのはちゃん…』

『ごめん…』

なのはちゃんに話しかけても返ってるのは同じ。当たり前だリンディさんが無理なのになのはちゃんに出来る筈が無い。しかし、思いも寄らぬ人物から希望の言葉が送られてきた。

『あるよ…救う方法』

『フェイトちゃんっ!?』

『本当ですかっ!?』

『うん…助ける、と言うのかは別だけど。生かす方法はあるよ』

何か引っかかる言い方だが救えると言うのなら試す価値はある。私はその方法を聞こうとするがそれはリンディさんによって阻まれる事になる。

『フェイトさん…貴女まさか』

『これしか、方法が無いです』

『それは…』

『迷ってる時間はありません。死亡して時間が経過すればその方法も不可能になります』

何の話をしているのだろうか?リンディさんはあまり乗り気とは言え無い様だが…。

「…この子犬は私が何とかしてみます。皆さんは今日は帰って…ね?」

リンディさんは自分の服が汚れる事など気にせず血まみれの子犬を抱きかかえて立ち上がる。

「で、でも…」

「私の知り合いに腕の良い動物のお医者さんが居るから…出来る限りの事はしてみるわ」

『彩さん。後で私の家に来て頂戴』

『はい!』

「じゃあ、私は急ぐから」

「リンディさん、私も行きます!」

そう言ってリンディさんとフェイトちゃんは走ってこの場から去って行く。私も急いでリンディさんの家に行かなければ…。

「皆さん!私も用事がありますので!それではっ!」

「ちょっ!?彩っ!?」

『なのはちゃん、この後の事はお願いしますっ!』

『…うん、任せて!』

後ろの方でアリサちゃんの呼びとめる声が聞こえ来るが構っている時間は無い。私はなのはちゃんに後の事を任せて急いでこの場を後にしリンディさんの家に向かった。







――――ハラオウン家




「遅れてすみませんっ!子犬は……っ!?」

そん、な…。

私が急いでリンディさんの家に到着した時には既に子犬の息は絶え、冷たい肉塊と化していた…。間に合わなかったのか?そんな絶望の言葉が頭を過ぎるがリンディさんが唖然と崩れ落ちる私の肩に手を置き呼び掛けて来る。

「しっかりしなさいっ!子犬を助けるんでしょうっ!?」

「ぇ…でも、もうこの子犬は…」

もう死んで…。

「まだこれからよ!早くしないとそれこそ手遅れになるっ!」

…どう言う事?

今の状況が全く把握出来ず混乱する私。そんな私にフェイトちゃんが耳元で落ち着かせるようにゆっくりとした口調で今の状況を説明してくれる。

「彩、今からこの子犬と契約して貰う」

「契約…そうすれば子犬は助かるんですか?」

「助かるとも言えるし、助からないとも言える」

「よく…分かりません…」

助かるのか助からないのかどちらなのかはっきりして貰いたい。これから何をすると言うのだろう?

「使い魔と契約するには、依り代となる物は必要なの。それで、この子犬を使う。そうすればこの子犬は使い魔として生まれ変わる」

「私はあまりお勧めしたくないんだけどね…」

「まったくだ。一般人に使い魔を持たせるなんて…血まみれで帰って来たと思えば何だこの事態は」

明らかに苛立っているクロノさんの声。

「落ち着きなよクロノ君」

「母さんも母さんです!何で承諾したんですかっ?」

「今後彩さんの助けになるかもしれないから…じゃ駄目かしら?」

「はい?何を言って…」

「今はそんな事言ってる場合じゃ無いでしょう?それで、どうするの彩さん?もうあまり時間は無いわよ?」

「…先程、生まれ変わると言いましたね。では、その使い魔とはこの子犬とは異なる存在なんですか?」

「YESでありNOでもあるわね」

「?」

私の質問にまた曖昧な答えが帰って来る。

「使い魔は確かにその子犬よ。だからYES。でも子犬の時の記憶は無くなっている。それはこの子犬自身と言える存在かと言えばNOよね?」

「…」

「命は助かる、でも今の子犬の存在は無くなる…彩さん。どうするの?」

そんなの…決まってます。

「…やります!」

どんな形であれこの子犬が助かると言うのなら、私は何だってやってうやる。きっとこの子犬にとってもそれが一番良い筈だ。

「わかったわ。それじゃあフェイトさん。後はお願い。経験者の方が始動した方が良いでしょう?」

「はい。彩、子犬に手を触れて…」

フェイトさんが私の隣に座り、耳元で静かに囁く…。

「目を閉じて…この子犬の魂はまだこの器にある。それを感じるの」

「…」

黒い空間。暗闇の世界。私はその世界でフェイトちゃんの指示通りに、子犬の魂を探す…。すると、弱々しい何かが私の手に触れた様な、そんな感覚がした…。更に意識を集中しこの感覚をより確かなものにしようと試みる。そして、小さな弱々しい光にピタリと掌を当てて魂と接触する事に成功する。

これが、この子犬の魂?

「魂を見つけたら、語りかけてみて…」

「語り…かける…」

暗闇の世界でフェイトちゃんの声が響き、私はそれに従う。

「あの…子犬さん?」

『…ダレ?』

「私は、水無月 彩って言います。貴女を助けたくてこうやって直接貴女の魂に語りかけています」

『…助ける?』

光が、少しだけ強くなった気がする。

『私、助かるの?』

「助かりたいですか?」

「うん!」

「自分が、自分で無くなるかもしれないんですよ?記憶が無くなるかもしれないんですよ?」

『でも、生きれるんだよね?』

「…はい」

「私、良い事とか無かったから。別に良いよ?」

―――てられたのかな?酷いよね。まだ母犬無しで生きていける程成長もして無い子犬なのに…。

子犬の言葉にすずかちゃんの言葉が頭を過ぎる。

「なら、生まれ変わったら、楽しい事一杯しなきゃいけませんね?」

『うん!』

「約束します。私が貴女の母になると…もう、辛い思いはさせません」

『じゃあ、かあさまだ♪』

「はい♪私は貴女の母様ですよ?」

そう言うと光が嬉しそうに点灯する。私はそれを見て微笑むとそっと優しく両腕でそれを包みこんだ…。

リンカーコアが子犬と繋がろうとしている。

温かい…。

光が、子犬の光が増して私を包みこむ…。

「一緒に、生きましょう?」

「…はい、母様」

私の耳元で凛とした声が囁かれる。気付けば、此処は既に暗闇の世界では無く、現実で、しかも私は子犬に触れていた筈なのに柔らかな肌を持った少女を抱きしめていたのだ。

…えっ!?ええええええっ!?

誰ですかっ!?

「私は貴女の使い魔ですよ。母様」

「こ、子犬さんですか?」

「はい、母様」

「ふ…」

「ふ?」

「ふにゅううううぅ~…」

物凄い脱力感と共に私は床さんと仲良く一緒に横になった…。

「あああっ!?母様っ!?母様あああっ!?」

「彩っ!?彩~~~~っ!?」

「アラアラ…慣れない魔力を使って気を失ったみたいね」

「呑気に言ってる場合じゃないでしょうっ!?」

「あははは…彩ちゃんと居ると退屈しないや本当に…」

意識が薄れる中、遠くの方でリンディさん達と、フェイトちゃんと小犬さんが私を呼ぶ声が聞こえます。そんな意識が薄れる中私はこんな事を考えてました…。

子犬の名前…どうしよう?

この手に在る確かな温もり、小さな手を握り締めて、私は満足そうに意識を手放した…。



















あとがき

強引に使い魔の話を作りましたが…半分後悔。もう少し上手く出来たかも知れんと言うのに…残念な出来になってしまった。

こんばんは!&おはようございます&こんにちは!金髪のグゥレイトゥ!です。

実は気晴らし程度ににネギまのSSを書いたのですが。難しい!よくあの大量のキャラを使いこなす事が出来ますね!?私にはナンバーズだけでも厳しいと言うにっ!

一応、主人公のデザインを考えました。私はデザインを考えてから本編を書く方なので。(http://blog-imgs-31.fc2.com/k/i/n/kinpatu429/20100126033413f73.jpg)

もうお分かりですね?幼女です!幼女なんです!もう幼女のグゥレイトゥ!と改名しようかと思うぐらいの幼女なんです!(落ち着け

ネギまの主人公は錬金術師と言う設定で書いたのですが、予想以上に原作キャラが濃い過ぎて書くのが難しいです…。







[8923] 魔法少女リリカルなのはA’S ~盲目の少女は何を見るのか…~ 第九話
Name: 金髪のグゥレイトゥ!◆60293ed9 ID:1667c937
Date: 2010/02/02 22:47
―――起きて、起きて下さい…。

まただ…またあの声が聞こえる…。

暗闇のみが存在する世界。そして、現実とは隔離された夢の中。その闇の中で私とは別の声が…哀しそうに私に訴え掛ける女性の声…。

―――お願い、私の主を…。

貴女は…誰ですか?私に何をして欲しいんですか?

ぼんやりとする意識の中、私は何とか彼女に問い掛ける。すると、私の問いに反応して女性の声が闇の中から返ってきた。

―――私は、闇の書の管制人格。

…え?

闇の書という言葉にピタリと思考が止まる。今、彼女は何と言ったのだろうか?闇の書の管制人格と言ったのでは無いだろうか?

お願いです。闇の書がもう直ぐ完成する。このままでは…。

待って下さいっ!私に、私にどうして欲しいんですかっ!?私は何をして欲しいんですかっ!?

…。

返事は返って来ない。返って来るのは沈黙のみ。

闇の世界が光に包まれて行く…。

朝が、来る…。









「っ!?」

夢の世界から現実へと引き戻され、私はバッとベッドから飛び起きる。

「今のは…何?」

以前の曖昧に覚えている夢とは違い、今度はハッキリとしていた夢。まるでそれは現実の様にリアルな感覚だった。それに何より印象付ける物は…。

「闇の書…」

闇の書。夢の中で彼女は確かにそう言った。そして彼女が言いかけた『このままでは』と言う言葉。それは恐らく最悪な結果を意味しているのだろう…。

「私に…何をして欲しいんですか?」

助けを求める様なあの声。彼女は私に何を求めていたのだろう?

―――お願い、私の主を…。

はやてちゃんを…助けて欲しいんですか?

この何も出来ない無力な私に彼女は助けを求めたのだろうか?

『母様?どうかしたんですか?』

直接頭に響く少女の心配そうな声。気が付けば私の手に纏わりついて来る温もりがある。そう、昨日契約した子犬だ。

「ううん…何でも無いです」

『そうですか』

それを聞いて安心したのか私の手から離れ、子犬…『アイリス』はベッドからぴょんと飛び降りて部屋の出入り口までとことこと歩いて行く。

…そう言えば、昨日はあの子の事で色々あってそのまま疲れて寝ちゃったんでしたよね。







――――それは昨日に遡る…。




「「犬を飼いたい?」」

リンディさんにおぶられて家に帰ると早々、私は子犬の事でお父様とお母様に相談する事にした。

「は、はい…」

「ハラオウンさんに気を失った状態で運ばれてきた時も驚いたけど…どうしたの急に?」

「こ、子犬が捨てられてて、それで可哀そうで…」

「彩、生き物を飼うのはとても大変な事なんだよ?」

「は、はい!それは分かってます!」

「散歩、糞の始末、餌、予防注射、これは本当に必要最低限の事だ。この子犬もきっと無責任な飼い主が子犬が生まれても飼えないのに親犬の虚勢を行わなかったのがきっと原因だ」

「…」

「ペットを飼うと言う事は、一時の娯楽なんかじゃ無い。家族としてペットを受け入れ、ペットの一生を、命を預かると言う事なんだ」

「責任を持ちます!」

「…ふむ」

お父様が私の言葉に何やら考え込んでしばらく黙り込んでしまう。長い沈黙、私は不安げにお母様の手を繋ぎ見上げる。

「…大丈夫よ」

小さく、本当に私の耳じゃ無ければ聞こえないくらい小さいな呟き。私はそれを聞いて少しだけ安心するとそのタイミングを見計らったようにお父様の口が開いた。

「僕としては、反対かな…」

「っ!?」

…しかし、お父様の口から吐き出された言葉は私の期待した言葉とは大きく異なっていた…。

「盲導犬を飼うと言うのなら分かるよ?それなら僕も真剣に考えさせて貰うさ…でも、訓練もされていない唯の子犬じゃ彩には荷が重いと思うんだ」

「そんな…お父様っ!」

「アナタ、じゃあこの子犬はどうするの?まさか捨てて来いって言うの?それこそ彩には酷じゃなくて?」

「嫌っ!嫌ですっ!この子を捨てるなんてっ!」

子犬を庇うように両手で抱きかかえるとお父様に背を向けて反対する。約束したんだ。この子犬と…。

この子は私の娘です!捨てるなんて絶対に嫌っ!

「…だけどね、彩」

「嫌っ!」

「がるるるるぅ~っ!(母様を苛めるなっ!)」

胸の中でお父様を威嚇する子犬。お父様はこの子の可愛らしい威嚇に少しばかり怯み、それを見たお母様がくすくすと可笑しそうに笑い出す。

「うふふ…可愛らしいボディーガードね。飼い主の危機に反応したのかしら?」

「なっ!?僕は何もしていないよっ!?」

「彩が苛められてるように見えたんでしょうね。この子犬には」

「ぼ、僕が彩を苛めるだって…?そ、そんな馬鹿な…」

物凄いショックを受け地面に崩れ落ちるお父様。それを見た子犬は満足そうに鼻息噴くと、褒めて褒めてと私の胸に顔を何度も擦りつけて来る。

「くぅ~ん♪(母様~♪)」

「よしよし♪良い子良い子♪」

私を護ってくれた子犬をギュッと優しく抱きしめ頭を撫でると、子犬は嬉しそうに鼻を鳴らし、その仕草がどうしても愛しくて堪らなかった。

「…これでも、引き離すって言うの?ア・ナ・タ?」

「ぼ、僕は彩の事を思って言ったのに…」

「お父様…?」

「………ハァ、しょうがないね。此処で彩から子犬を引き離すと一生口を利いても貰えそうも無いし」

「ん~…あながち間違って無いかもよ?」

「は、はははは…そんな訳無いだろ?ね、彩?」

「…プイ」

私はお父様から顔を背ける。

「さ、彩~~~~っ!?」

「わふぅ…(天罰です)」

「そう言えばこの子の名前はどうするの?」

「まだ決めて無いんです」

「ならポチなんて「がうっ!(ガブッ」痛いっ!?噛んでる噛んでるっ!?」

私の腕から飛び出しお父様にガブリと噛み付く子犬。どうもお気に召さないらしい。

「彩が決めるべきね。この子もそうして欲しいみたいだし」

「わう!(決めて下さい!母様!)」

「い、いきなりそんな事言われても…うぅ、責任重大です」

どうしましょう?今まで他人の名前なんて考えた事なんて無いですよ!?そ、そうだ!花言葉何てどうでしょうっ!?アレなら可愛らしい名前もある筈ですっ!

そう思った私はいつぞや興味範囲で呼んだ花言葉が書いてある本の内容を記憶の引き出しから探り出し、良さそうな花言葉を思い出して行く。

そ、そうです!これなんてどうでしょうかっ!?

「ア、アイリス!アイリスなんてどうでしょうっ!?」

「『あなたを大切にします』…ね。良いんじゃないじゃないかしら?」

「くぅ~ん♪わん♪(母様の気持ちを体現した様な名前ですね♪嬉しいです♪)」

あはははは…褒めすぎです。






と言う事があった訳なのだが…。

『母様?早く起きないといけないのでは?』

「あ、はい…」

あの夢はどうしても偶然とは思えない。闇の書と何か関係してるのではないのだろうか?今度リンディさんに相談してみるべきなのかもしれない。出来るだけ早めに…。

本当は、シグナムさん達に相談するべきなんでしょうけど…。

管理局の目があるためそう簡単に会う事は出来ない。もしかしたら昨日のアレが最後なのかも…。

「駄目です…弱気になっては。彼女は私に助けを求めたのだから」

彼女が私に助けを求めた。つまり私にも何か出来る事があるのだ。なのに、私が諦めてしまったら、彼女の願いを叶えてあげる事は出来無い。直接あった訳でも無い彼女だが、助けを求めていると言うのに見過ごす事は私には到底出来そうに無かった…。

シグナムさん…ごめんなさい。少しだけ、約束を破ります。

彼女を願いを叶えるためには、平穏な世界で暮らして欲しい。その願い、約束を破らなければならない。心は痛んだが彼女の言う事が正しいのならばこうしなければ全てが終わってしまうから…。

これが、私の出来る事。なんですよね?

私は夢の中で出逢った彼女に問い掛ける。当然、その答えは返って来る事は無かった…。













第9話「守りたいモノ、なの」










――――Side Sai Minaduki
    12月7日 AM7:40
    自宅:自室





『私も学校に行きます』

私が制服に着替え、いざ学校に向かおうとした途端、アイリスが突然そんな事を言い出した。

「あの…それは無理かな、なんて?」

突然の彼女の発言に戸惑う私はどう断ろうか迷いながらも何故か疑問形で断ってしまう。

『私は使い魔です。つまり母様の傍に何時も仕えてお守りしなければならないのです』

「でも、学校は動物連れて来ちゃいけないんです…」

『嫌です。一緒に居たいです!』

それが本音ですね…。

嬉しい。とても嬉しいのだが…。だからと言って一緒に連れて行く訳にもいかない。此処はどう説得すれば良いのだろうか?この様子だと何を言っても分かってくれなさそうだ…。

「彩ーっ!さっさと出て来なさーいっ!」

何時まで経っても出て来ない私に、外からアリサちゃんの私を呼ぶ声が聞こえて来る。

「え、え~っと!今日は土曜部で早めに帰って来ますからっ!我慢して下さい、ね?では!」

『か、母様っ!?…むぅっ!』

荷物を掴み逃げる様に部屋から出て行く私に、恨めしげな声を送って来るアイリス。そんな娘に私は申し訳ない気持ちで一杯になってしまう…。

ごめんなさいぃ!帰ったらちゃんと謝りますから~っ!

「お父様!お母様!行って来ます!」

「ああ、行ってらっしゃい」

「気を付けてね~♪」

「は~い!」

お父様とお母様の見送りの言葉を背に、私は外へと飛び出し外で待って居てくれているなのはちゃんに侘びと挨拶を送る。

「おはようございます!ごめんなさい!遅れちゃいましたっ!」

「おはよ~♪彩ちゃん♪」

「今日は遅かったね?」

「昨日の事が堪えてる?大丈夫?」

「いえ、体調は何ら問題無いですよ?」

確かに昨日は疲れたが肉体的疲労は既に全快し、すっきりとした朝を迎えている。あの夢の事は除いてはだが…。

「遅いッ!バスの時間ギリギリッ!」

「あうっ!?御免なさいっ!?」

「と言う訳で!(ぱちんっ」

「「了解」」

アリサちゃんが指を鳴らすと同時にもう御馴染となった浮遊感。そして腰やら足やらを掴んでいる小さくて温かな手の感触…。

「あの…またですか?」

「ま・た♪」

「ごめんね?彩」

フェイトちゃんは謝ってはいますが、何処かその声には嬉しそうな、楽しそうな感情が籠っていた…。

…私、荷物と勘違いされてませんよね?

「GO!」

「ひゃあああああああっ!?」

「ま、待ってっ!?私だけ置いてけぼりにしないで~~~っ!?」

ああっ!?なのはちゃん声があっという間に離れていきますっ!?

後方から聞こえて来る「にゃあ~」とか「置いてかないで~」とかいう情けない声に何度も心の中で謝りながら私は担がれてバス停へと向かう。最近、なのはちゃんと私はこんな役回りばかりだ…。

ドナドナです~…。









「ゼェ…ゼェ…はひぃ…はひぃ…にゃうぅ~。皆酷いよぉ~…」

難とかバスに間に合った私達は、定位置であるバスの最後尾の座席に座りバスに揺られていた。

「ご、ごめん、なのは。まさかそこまで運動が苦手だとは思わなかったんだよ…」

「アンタはもう少し運動するべきなのよ。もしかしたら彩より運動神経悪いんじゃない?」

いえ、それは無いでしょう。私なんて少し走っただけで息切れしますし、体調が悪くなったりしますから…。

「はにゃあぁ~~~…」

なのはちゃんが隣でぐったりとして私に身体を預けて来る。私はそれを拒まずに受け入れると、そっとなのはちゃんの頭を私の膝に乗せた。

「にゃ~…膝枕だぁ~…♪」

「大丈夫ですか?なのはちゃん」

「ん~…なんとか~…」

「そうですか」

その言葉にほっと胸を撫で下ろし私は微笑む。大事じゃ無くて良かった…。

「朝から情けないわねぇ…あっ!フェイトからメール出来たんだど、子犬助かったんだって?」

やっぱりその事については教えてるんですね。

恐らく、使い魔の事については教えていないだろう。アリサちゃんとすずかちゃんは魔法を知らない一般人なのだから。勿論私も一般人なのだが、魔法を知っているのと知らないのとでは大きく異なって来るのだろう。

もう家でピンピンしてる何て言ったら怪しまれますよね?あんなに重傷だったんですから…。

「はい、今は病院で安静にしています」

「あの怪我でよく助かったねぇ。本当に良かったよ」

これで良い筈。お見舞いに行こうと言われても絶対安静でお見舞い不可と言う事にしていれば良いだろう。

「退院は一ヶ月後だそうです」

「…早いわね。あんな大怪我してたのに」

「そ、そうですか?」

私には大怪我した時の入院期間なんて知りませんよ…。

「退院したらあの子犬どうするの?」

「私が飼います。もうお父様とお母様には許可を頂きました」

「そ、なら良いけど。駄目ならアタシが引き取る予定だったし」

確かアリサちゃんの家には沢山の犬を飼っているらしい。すずかちゃんは猫。犬屋敷と猫屋敷。とても素敵な響きである。今度のクリスマスがとても楽しみだ。

『使い魔の話聞いたよ。上手く言ったんだって?』

なのはちゃんが念話で話しかけて来る。

『はい。今日は朝から大変でした。一緒に連れて行ってって駄々を捏ねられて』

『あはは、うちのアルフも似た様な物だったよ?見た目は同い年くらいでも中身は赤ん坊同然なんだから』

『そう、なんですか…』

朝のアイリスの様子。あれは駄々を捏ねているんじゃ無くて、一人になるのが怖かったのかもしれない。そう思うと、アイリスにはとても申し訳ない事をしてしまった…。

帰りに何かお詫びの品を買って帰った方が良いかもしれませんね。

「アリサちゃん」

「ん?何?」

「ペットショップの場所を教えて欲しいんですけど…駄目ですか?」

「別に良いけど…気が早いわね。退院するのは一ヶ月後なんでしょ?」

いえ、家でピンピンとして駄々捏ねてます…。

今頃家でわんわん吠えていそうだ…。

「じゃあ、帰り寄ってく?」

「はい!…あ、でも今日は用事があるので、ペットショップに寄ったら直ぐに帰らないといけないんです。ごめんなさい…」

「そうなの?ついでに何処か寄って行こうと思ったんだけど…しょうがないわね」

「ご、ごめんなさい…」

「気にしない。用事があるならしょうがないでしょ?…と、そろそろ着くわね」

「はにゃ~…まだ辛いよぉ」

「アンタはもうちょっと体力つけた方がいいわよ?本気で…」

「あはは…ほら、なのは。何時までも彩に膝枕して貰ってちゃ駄目だよ?」

「だね~…よっと、ありがと彩ちゃん」

「いえいえ」

なのはちゃんが私の膝から頭を上げると、丁度その時にバスが停止する。どうやら着いた様だ。

「降りよ?彩ちゃん」

私の手を引いてくれるすずかちゃん。私はそれに笑顔で感謝すると座席から腰を上げ、運転手さんにお礼を言ってバスから降りた。

今日も一日頑張りましょう。

そんな言葉を胸に、私は校門を潜る…。









――――12月7日 PM00:10
    ペットショップ




「はぁ…犬のおやつも沢山あるんですねぇ…」

「骨やクッキーにジャーキー。まぁ、結構な種類はあるわね」

土曜日と言う事もあり学校は午前中で早く終了し、私とアリサちゃん、すずかちゃんは街に在るペットショップへ来ていた。なのはちゃんとフェイトちゃんは何か用事があるらしく先に帰ってしまい此処には居ない。

「アタシにはどうしても犬に洋服を着せるのが理解出来ないわ…」

「内心嫌がってそうだよね」

犬には毛があるから服は必要ないでしょうしね。犬の種類によるでしょうけど…。

「河童とかなら分かるんだけど…で、どれにする?」

「やっぱりクッキーでしょうか?」

女の子ですし、ジャーキーよりお菓子の方が好きですよね?

「気が速いと言うか何と言うか…」

「うふふ♪本当に待ち遠しいんだね♪」

呆れるアリサちゃんに、微笑ましそうに言うすずかちゃん。真実を知る私としては二人に隠し事をするのは本当に心苦しい。こう言う時、魔法の事を隠し続けているなのはちゃんを本当に尊敬してしまう。

「あ、あはは…じゃあ、レジで会計済まして来ますね?」

「良いわよ。アタシがしといてあげる。アンタはすずかと外で待ってなさい。ホラお金」

「え、でも…」

「ほらほら急ぐんでしょ?」

どうやら拒否権は無いらしい。私はアリサちゃん言われた代金を財布から取り出すとアリサちゃんはそれを受取りレジに向かってしまう。そんなアリサちゃんとは別に私はレジとは反対方向へ引く手があった。すずかちゃんだ。

「アリサちゃんもああ言ってるし、いこっか?」

「…そうですね」

しばらくの沈黙の後、私は微笑んで頷きすずかちゃんに手を引かれ店の外を出た。

「う~、寒いねぇ」

「店の中で待ってた方が良いんじゃ…」

「会計にそんなに時間掛からないよ「お待たせ~」ほらね?」

私達が外に出て1分もしない内にアリサちゃんが店から出て来る。

「ほら、これ。あとお釣り」

「ありがとうございます。すみません、手間を掛けさせてしまって…」

「何言ってんのよ。アタシが勝手にしてる事よ…じゃ、帰りましょうか」

「そうですね。…きっと、待ちくたびれてるでしょうから」

「誰が?」

「えっ!?…え、え~と…お母様ですよ。あははは」

「…ふぅ~~ん」

嗚呼、疑われます。すっごく疑われてます…。

「もう、アリサちゃん。彩ちゃんにも他人の言えない事の一つや二つはあるよぉ」

「…まぁ、良いわ。それじゃ行きましょ」

「あう~…」

アリサちゃんが手を引いて私を家に送ってくれる。送ってくれてはいるのだが、何故私は引き摺らているのだろうか?これはこを引くでは無く引き摺ると言うのではないだろうか?

「あ、あの…怒ってます?」

「怒って無~い怒って無~い♪」

ゴゴゴゴゴゴ…

…いえ、明らかに怒ってますよね?あと、靴底からゴムの焦げるような臭いが…。







「送って頂いてありがとうございます!」

代償は少し高かった様ですけど…。

あのまま引き摺られ家に辿り着いた私。アリサちゃんから離れ少し削れた靴でしっかりと大地に立ち送ってくれたアリサちゃん達に頭を下げて礼を言う。

「じゃ、また学校でね」

「またね~♪」

互いに別れを告げ私は家の中に入ると、トテトテと玄関に向かって掛けて来る足音。私はその足音に苦笑すると、今から起きる事を予測して荷物を地面に置いてその近づいて来る足音を待ち構える。

「わん!(母様!)」

「ただいま。アイリス」

私の胸に飛び込んでくるアイリス。私はそれを両腕で受け止め抱きしめる。

「うぅ~っ!わんっ!(遅いです!母様!)」

恨めしそうなアイリスの声。どうやら機嫌は朝の状態のままらしい。

「ごめんなさい。お詫びにお土産買ってきたから…ね?」

「わふ?(お土産?)」

「じゃ~ん♪クッキーです♪」

「?」

分かりませんか。まぁ、仕方が無いですね…。

フェイトちゃんが言っていた通り。アイリスは赤子同然なのだ。きっと知らない事が多く、右も左も分からない状態なのだろう。

「ふふふ、食べ物ですよ。私の部屋で食べましょう」

そう言って片手で優しくアイリスを抱えると、空いた手で荷物を持ち階段を昇って行く。

『美味しいんですかっ!?』

興奮したためかいつの間にか念話のみと切り替わっているアイリス。

どうなんでしょう?犬用のクッキーは塩分等控えめで、味が薄いと言うのを聞いた事はあるんですが…。

部屋に着いた私は内側からしっかり鍵を掛けた事を確認すると、私はビニール袋からクッキーを取り出しアイリスに差し出す。

「どうぞ♪」

『ありがとうございます♪母様♪』

アイリスは嬉しそうにクッキーを受取ると何度かすんすんと匂いを嗅ぎ、クッキーにかぶり付く。そして返って来る反応は…。

『美味しいです!』

大好評だった。

「良かった…まだまだ沢山ありますからね♪」

『はい♪』

ふふふ、こんなに喜んで。お土産を買って来て正解でしたね。

それによりも、これからどうした物だろうか?アイリスを優先して帰ってきたは良いが、特にやる事は思いつかない。良い所散歩ぐらいだろうか?アイリスが居るのなら今まで行った所の無い場所に挑戦するのも良いだろう。この子は盲導犬とは違い人に近い知能を有しているのだから問題無いだろう。

「ねぇ、アイリス?」

『はい、何ですか?母様』

「外に出て散歩しませんか?」

『散歩、ですか?』

ついでにリンディさんに会いに行こう。聞きたい事もある。

あ、でも。なのはちゃんとフェイトちゃんの用事って事件に関係する事かも知れませんね。なら、夜に伺った方が良いかも知れません。

事件に関係する。それはつまりなのはちゃん達とシグナムさん達が争っている可能性があると言う事。そう考えると胸が苦しくなってしまう…。

闇の書がもう直ぐ完成してしまう。その前に何とかはやてちゃんを救う方法を考えないといけないのですが…。

それには情報が少なすぎる。だからリンディさんの家に伺うのだが、あの人達が一般人である私に教えてくれるかどうかが問題だ。

夢の話をすれば少しは話してくれるかもしれませんが…。

しかしそれは最後の手段。それをすれば最悪厳重な検査や安全のために管理局にこの身を拘束されかねない。それは余り好ましくない。私はあくまで中立としてこの事件を解決したいのだ。

幸い、管理局の人達には私が闇の書の主であるはやてちゃんと接触しているのは知られていない。この立場を上手く使えば互いが争わずに済む方法も見つかるかもしれない。

…よし!

「はい、今日はずっと家の中に居ましたよね?退屈だったでしょう?」

『はい…あ、でも今は母様が居るから退屈では無いですよ?』

慌てて付け加えるアイリスに苦笑すると、アイリスを抱きかかえ玄関に降りる。

防寒具を身に纏い、白杖を持ち、いざ外に出ようとした瞬間、アイリスにそれを中断される。

『母様、リードを忘れてますよ?』

「え?でも昨日の今日で買ってませんし…」

『母様の父様が昼前に買って来てましたけど…』

何だかんだ言って準備は速いですお父様…。

「何処に置いてあるか知ってますか?」

『少し待ってて下さい持って来ます』

私の腕から飛び出すと、こける事無く地面に着地してリビングの方へ走って行き、ズルズルと何かを引き摺りながら戻って来る。

『どうぞ』

「ありがとうございます…でも、何でリードの事を知ってたんですか?」

クッキーの存在も知らなかったのにリードの事を知っているのはおかしい。私は不思議に思い訊ねてみると、アイリスの口から思いも因らない人物の名前が飛び出してくる事になる。

『母様の父様が、リードの事を私に話しかけてましたから』

お父様…。

子犬にリードを見せて説明している大人…。何ともアレな光景だ。

私も人の事は言えませんけどね。犬に話しかけてるんですから。しかも会話が成り立ってると来たものです。

傍から見れば私がアイリスと話している場面はムツゴ○ウさんもびっくりな光景だろう。

何時か言ってみたいです。動○王国…。

『母様?』

「え?ああ、すみません。では行きましょうか?アイリス」

『はい♪』

今度こそドアノブに手を掛け、外に出る私とアイリス。さて、何処に向かうとしようか。近所に少し大きな公園がある、そこにしようか。それとも季節は大きく外れているが海にしようか。今の時間は2時を過ぎた頃だろう。往復する事を考えてどちらか片方しか選べない。

「寒いですね。アイリスは大丈夫ですか?」

「わん!(平気です!)」

犬だから寒さには強いんでしょうか?

「今日は海に行きましょうか?」

一度行ってみたかったですし。

「?(海?)」

「水が沢山ある所です」

「わふぅ(そうなんですかぁ)」

実際に私も海に行った事は無い。目がこれなので見た事も無い。だから今日初めて行く事になる。

今は冬だから海に入る事は出来ませんが、夏になったら皆と一緒に行きたいですね…。

その時に、はやてちゃんも一緒に来れたらと、そんな事を思ってしまう。今のままでは絶対に訪れない未来。何もしなければ途絶えてしまう未来。だと言うのにそんな事を願ってしまう…。

「くぅ~ん?(母様?)」

足元から心配そうな声を上げるアイリスに、私はその心配を拭う為に微笑んで優しく語りかける。

「…何でもありません。行きましょうか?」

リードを握り締め一歩前へ歩み出す私。そして私を先導する様にトコトコと歩くアイリス。

「わん?(そう言えば、海の道順は知っているんですか?)」

「…やっぱり公園にしましょう」

幾ら鼻の利く私でも匂いだけで海に辿り着く事は出来ない。此処は仕方なく進路を公園へと変えるのであった。






――――公園



「わん!(良い眺めです!あの向こう側に一杯ある水が海ですか?)」

「はぁ、はぁ…はい、きっとそうですよ」

丘を登った所にある公園。私はその公園の天辺にまで登り切ると直ぐ近くにあったベンチに腰を下ろすのであった。丘を登る事に疲れて息を切らしている私の隣で、アイリスが興奮した様子で丘から見える景色を眺めていた。時折見た事の無い建物を見つけうとアレは何かと訊ねて来て、私はそれを説明し、また何かを見つけては訊ねて来てまた説明する。それの繰り返しだ。

それにしても…丘を登るだけで息切れですか…。

これではなのはちゃんの事は笑えないなと苦笑してしまう。

やっぱり、私には争い事は向いてませんね。

丘を登るだけでこれなのだ。誰かと戦うなんてとてもじゃないが出来る訳が無い。速攻スタミナ切れで倒れてしまうだろう。

「身体、弱いですからね…」

「わう?…わん!(?…大丈夫ですよ、母様。どんな事があっても私が護ってみせますから!)」

「あははは…はい、その時はお願いしますね?」

「わん♪(お任せを♪)」

「うふふ」

それにしても礼儀正しい子だ。話し方は常に敬語だし使い魔と言うのは主の性格によってその性格も変わるのだろうか?殆ど知識は無いのに言葉も話せるしどう言った仕組みなのだろう?

リンカーコアに繋がっている感覚…知識を共有しているの?

言葉を解しているのはそれが理由だろうか?でも、何故私って居る事を知らないのか。契約して間もないから?フェイトちゃんもアルフさんと使い魔さんも赤ん坊同然だとか言っていた。知識を完全に共有するには時間が掛かる物なのだろうか。

赤ちゃんに文字を見せて理解させようとするのと同じ原理でしょうか?幾ら文字を教えた所で、赤ちゃんの発達していない脳で文字を教えても効果が無い。そう言う事でしょう。

だとすれば、今もアイリスは無意識に共有を早めようと知識を取り込んでいるのかもしれない。

「わん!(母様!アレは何ですか?)」

そんな事を考えていると、また繰り出される質問に私は思わず微笑んでしまう。

「ふふふ、あれじゃ分かりませんよ?私は目が見えないんですから」

「わ、わん?わん!(え、え~とですね?黒くて平べったい物で何か焼いてます!)」

何か屋台でもあるんでしょうか?確かに甘い匂いがしますね。これは…餡子?

黒くて平べったい。恐らく鉄板だろう。それを使って焼く。餡子の香り。となれば答えは限られて来る。今川焼かたいやきか、今川焼が外にある訳なので恐らくたいやきだろう。

「たぶん、たいやき屋さんですね。お菓子を作ってるんですよ」

「わん?(外でですか?)」

「屋台と言うのはそう言う物です」

建物の中でも屋台はありますけどね。屋台のイメージはお祭りなどで外の方がイメージが強いです。

「…」

急に黙り込んでしまうアイリス。でも、それに反して尻尾がブンブンと音を立てて勢い良く振られている。私はそれに気付き苦笑すると、ポケットから財布を取り出してベンチから立ち上がり屋台へと歩き出す。

『か、母様?』

突然の私の行動驚くアイリス。私はそんなアイリスをベンチに放置し、屋台を主人にたいやきを一つ注文すると代金を払い再びアイリスの待つ場所へと戻り手に持つたいやきをアイリスに渡した。

「はい、どうぞ♪召し上がれ♪」

『い、いけませんよ。先程もクッキーを頂いたのに…』

「さっきのはプレゼント。これは…おやつと言うのはどうでしょう?」

全然説明になっていないが気にしない。

『…頂き、ます?』

「はい、召し上がれ♪」

此方の様子を窺う様なアイリスの微笑ましい仕草に私は自然に頬が緩んでしまう。胸の辺りがこう、温かな気分になる。これが親になると言う事なのだろうか?お父様とお母様はいつもこんな感じだったのだろうか?

何だか…幸せですね。

この子は私が生んだ訳では無い。でも、私を母と呼び慕ってくれる。これがどれ程嬉しい事か…。

「この後は何をしましょうか?アイリス」

『母様と一緒なら何でも!』

「ふふふ、それが一番悩む答えなんですけどね」

なら、公園ゆっくり回ってみるとしましょうか…。











――――Side Lindy Harlaown
    12月7日 PM04:20 
    アースラ




「フェイトさんの容態は?」

「身体に問題はありません。リンカーコアも既に回復が始まっており、明後日には全快しているでしょう」

2日…か。この状況で戦力が減るのは厳しいわね。

闇の書完成まで時間が無い。しかも高い魔力を有するフェイトさんのリンカーコアも蒐集されたとなるともう…。

「アルカンシェル…使うしかないのかしら?」

「僕としては使わずに解決したかったのですが」

苦虫を噛み潰した様な顔をするクロノに私も頷く。気持ちは分かる私だって出来れば、こんな物を使いたくは無かった。でも、どうやら暴走は止められそうにない。

「…司令部をアースラに移します。もう、一つのミスも許されない」

次に蒐集が行われれば恐らく…。

「はい。準備に取り掛かります」

「お願いね、エイミィ」

「僕はユーノに現状で手に入れた情報を聞いて来ます。何か分かったかもしれませんし」

「ええ」

クロノとエイミィが会議室から出て行きこの部屋に残っているのは私だけとなる。静まり返る部屋で私は一人溜息を吐くと椅子に腰かける。

―――私の大切な初めてのお友達…なんですっ!失いたく、ないっ

この仕事に就く以上恨まれる事は覚悟していたけど…。

似たような事は何度もあった。しかしどうにもこの罪悪感は慣れないものだ。出来る事なら大団円で終わらしたかったが…。

「…ごめんなさい」

友達を奪われた事を怨むだろうかあの少女は。あの子は優し過ぎる。心が壊れてしまうかもしれない。なのはさん達の友人関係に亀裂を作ってしまうかもしれない。だが、こう知るしか方法が無いのだ。

「…我ながら最悪な大人ね」

子供を守ってあげるのが大人の責務だろうに…。だと言うのに子供の小さな願いも叶えてやれないとは何が大人か…。

…貴方なら、どうしてたのかしらね?

今は亡き夫に問い掛ける。帰って来るのは虚しさだけ…。

「………っ!」

ドンッ

行き場の無い怒りを目の前の机にぶつける。あの子に何もしてあげられない自分の無力さが恨めしい。

『あ、あの~艦長?』

重い空気に入って来る一本の通信。エイミィが気まずそうに私に話しかけて来る。見られていたのだろうか?艦長として、指揮官として有るまじき失態だ。

「何?エイミィ」

さっき別れたばかりだと言うのに、何かトラブルだろうか?

『艦長にお客さんが…』

「私に?」

一体誰だろうか?こっちの世界には余り知人は居ないのだが…。

『彩ちゃんが家に来てるんです。艦長と話がしたいって…』

彩さんが?私に?

話とは何だろうか?私に直接話があると言う事は事件に何か関係があると言う事なのだろう。

「…わかったわ。直ぐにそっちに向かうから彩さんには待ってて貰えるよう伝えてくれる?」

『分かりました』

エイミィとの通信を切ると、私は椅子から腰を上げ会議室を出て転送ポートに向かう。

さて、話って何なのかしら?






――――Side Sai Minaduki
    12月7日 PM04:20
    ハラオウン家:リビング



    
「艦長直ぐ来るから待っててね?」

「は、はい」

『…う~』

エイミィさんに言われて大きなソファーの中央にちょこんと座る私と、アタシの膝の上に座るアイリス。片やびくびくしている主、片や主の様子を察してか周りを警戒している使い魔。何とも奇妙な光景だ。それを見て可笑しかったのかエイミィさんは笑うとお茶を出してくれる。

「あはは、そんなに緊張しなくても…はい、お茶」

「あ、どうもすいません」

「いえいえ♪それでどうしたの急に?話したい事って?」

「はい…えと、闇の書の方はどうなったんですか?」

「…う~ん。何とも言えないなぁ。あれから数日しか経ってないから」

「そう、ですか…」

そうですよね。この短い時間でそんなに進展する筈ないですよね…。

エイミィさんの報告を聞いてがくりと肩を落として落ち込む私。

「で、でも!まだ駄目だと決まった訳じゃないから!そんなに落ち込まなくても大丈夫だよっ!?」

私の様子を見て慌てて訂正して来るエイミィさん。どうやら気を遣わせてしまったようだ。

「はい…そう言えば、フェイトちゃんはどうしたんですか?まだ戻って居ない様ですけど…」

この家にある人の気配は私とエイミィさん、アイリスを入れて3つのみ。フェイトちゃんはこの家には居ない様だが…。

「えっと…色々あって、ね」

「怪我…したんですか?」

「ああううんっ!?そんな大変な事になって無いからっ!外傷は無いし!明日になれば元気になってるよきっと!」

外傷は無い。それで思い浮かべるのは唯一つ。

「リンカーコア、ですか?」

「あ…うん」

「フェイトちゃんも、高い魔力を保有してるんですよね?」

「…そうだよ。あの歳であんな魔力持ってる子なんてすごく珍しいかな」

「もう、時間が無いです」

もう形振り構っている場合じゃないのかもしれない。

「…」

「リンディさんに、その事について話に来たんです。きっとこんな私でも救える人が居るから」

そう言うと私は振り向く。ある人物が居る方向へ…。

「あら、気付いてたの?」

「私は耳が良いですよ?」

「ふふふ、知ってるわ。いらっしゃい、彩さん。あと…」

「アイリスです。私の…娘です」

『がるるるっ!』

「アイリスさんね、しっかりお母さんを守ってるみたいね。エライわ」

「自慢の娘ですから♪」

『か、母様…』

褒められた事が嬉しいのかアイリスはパタパタと尻尾を振り私にすり寄って来る。

「ふふふ、仲が良いわね。…あら?目は見えていないの?」

「え?昔からそうですけど…知ってますよね?」

突然のリンディさんの発言にきょとんとしてしまう。あった時に説明した筈なのだが…。

「使い魔とは感覚が共有する筈なんだけど…元々無い視覚は共有できないと言う事なのかしら?」

「はぁ…良く分かりませんが」

「残念ね…(折角、この子に世界を見せてあげられると思ったのに…)」

「いえ」

「…それで?話と言うのは何かしら?」

「闇の書についてです。色々と聞かせて頂きたい事があるのですが」

「…そうですか。話せる話は限られてくるけど…何が聞きたいの?」

リンディさんの声が先程とはまるせ違う真剣な物へと変わる。リンディさんは私と対峙する様に正面に座り私の言葉を待っている…。

「前回の闇の書の主についてなのですが、どのような方でした?」

「どのような、と言うと?」

「破壊願望とか、力を欲していたとか、あと性格も…」

「そうね…闇の書の特性を知ってか、今までの闇の書の主となった人物はその力を欲していた様に思えるわね。闇の書が完成すれば絶対的な力を持ち主は得る事が出来るから…でも、それは不可能よ。大き過ぎる力に耐えられずその所有者は闇の書に取り込まれ、暴走してしまうから。以前もそうだったわ」

「つまりは、今までと違うのは今回の主は蒐集を望んでいないと言う事、ですね」

「そうね。あとは…ヴォルケンリッター…シグナムさん達の雰囲気も違うわね」

「雰囲気…ですか?」

「以前の事件の映像では無表情…と言うより、人形みたいな冷たい雰囲気だったわ。まるで感情が無いみたいに」

リンディさんの話を聞いて耳を疑う。まるで今のシグナムさんとは全く別の存在ではないか。私の知っているシグナムさんは優しく、とても温かな人だ。リンディさんの言う人形の様な冷たい存在では無い。

「シグナムさんは主さんを救いたいと言っていました。きっとその主さんがシグナムさんを変えたんだと思います」

はやてちゃんですから。私も、はやてちゃんの御蔭で救われました。

「…もし、闇の書が完成しても闇の書の主さんがその絶対な力を拒絶したらどうなるんです?」

「え?どう言う事?」

「以前の持ち主は力を求めて闇の書に取り込まれたと考えます。でも今回の主さんは力を望んでいません。闇の書の力を主さんが拒絶したらどうなるんでしょう?もしかしたら、闇の書と主さんは切り離されませんかね?」

「どうなのかしら?取り込まれる可能性もあるし、主さんの意志の力が強ければ取り込まれないかもしれない。切り離す事は難しいかもしれないけど…」

「どちらにせよ、情報が少ないですねぇ…」

「クロノさん。御帰りなさい」

「「え?」」

予想外の指名に驚くリンディさんとエイミィさん。そして、その声に続く様にドアが開きクロノさんがリビングに入って来る。

「…気付いていたのかい?」

「突然家の中に気配が増えれば気付きますよ。ね、アイリス?」

『余裕です』

「元動物の使い魔なら分かるが、君も獣並みだな」

『母様を馬鹿にすると噛み切りますよ?』

「…君は母親とは大違いな性格だな」

「クロノ。盗み聞きは感心しないわね」

「重要参考人が居れば警戒しますよ…」

「で、何処から聞いていたの?」

「もし、闇の書が完成しても闇の書の主さんがその絶対な力を拒絶したら。と言う所からかな…どうせ気付いていたんだろう?」

「ふふふ、どうでしょうか?」

私は笑って誤魔化して見るとクロノさんはやれやれと溜息を吐く。

「じゃあ話は早いわね。新しい手掛かりはあった?」

「直接説明を聞いた方が早いでしょう…ユーノ」

『どうも、リンディさん』

piっと何かの機械的な音が聞こえたかと思うと知らない男の子?の声が聞こえて来る。何か操作した訳でも無いようなので魔法か何かの技術だろうか?少なくとも念話では無い。魔法独特の感覚が感じられないから。

「はい、こんにちは。何か進展はあったかしら?」

『何とも…えっと、その子が水無月 彩さんですね?』

「はい。えっと…?」

『あ、ユーノです。ユーノ・スクライア。なのはから聞いて無い?』

「ユーノ・スクライアさん…あっ!名前だけなら一度だけ聞いた事ある様な気がします!」

『そっか。初めまして、僕の事はユーノって呼んで。君の事は…彩で良いかな?』

「はい、ユーノちゃん?で良いですか?」

『あ、あはは…僕は男だよ、彩』

「す、すみませんっ!?」

何か男の子と言うより女の子の雰囲気でしたので間違えてしまいましたっ!?

「こほんっ…良いかい君達?そろそろ報告を始めて欲しいんだが?」

咳払いをして会話に割り込んで来るクロノさん。少しだけ苛立っているご様子。

『あ、ごめん…じゃあ、此処までで分かった情報を報告しますね?あ、でも良いんですか?彩が居るんですけど…』

「…本当はいけないんだが」

「構いません。報告して下さい」

疲れた様なクロノさんの声を無視する様にリンディさんが許可を出す。

…ありがとうございます。リンディさん。

『あはは…じゃあ、報告します。闇の書のと言うロストロギアですが、これは本来の名前じゃないんです。古い資料によれば正式名称は『夜天の魔導書』」

「夜天の魔導書?」

『うん。本来の目的は、各地の偉大な魔導師の技術を蒐集して研究するために造られた主と共に旅をする魔導書。破壊の力を振う様になったのは、歴代の持ち主の誰かがプログラムを改変したからだと思う』

「ロストロギアを使って無暗矢鱈に力を得ようとする奴は昔から居る訳だ」

そんな…酷い。

「…その改変の所為で、旅をする機能と破損したデータを自動修復する機能が暴走してるんだ」

「転生と無限再生はそれが原因か…」

「古代魔法なら可能ね。記録に残っていない危険で、強大な魔法は多くあるから」

『一番酷いのは持ち主に対する性質の変化。一定期間蒐集が無いと持ち主人の魔力や資質を浸食し始めるし…』

はやてちゃんが体が不自由になったのはそれが原因ですね…。

『完成したら持ち主の魔力を際限無しに使わせる。無差別破壊のために…』

「それが、暴走ですか」

『うん…』

「停止や、封い…すまない、不謹慎だった」

「いえ…」

クロノさんは私の事に気付き、途中で話すのを止める。私は苦笑しながら首を振ると、話を続けて下さいと進める。

『停止と…封印に関してはまだ調べてる。でも、完成前の停止は多分難しい』

「…何故かしら?」

『闇の書が真の主と認識した人間で無いとシステムへの管理者権限が使用出来ない。つまりプログラムの改変や停止が出来ないんだ』

成程…今までの主さんは主と認識されなかったから暴走を…あれ?

私はある事に疑問に思う。『主として認識されなかった』ならば、主と認識されれば…。夢の中で彼女は自分の事をこう名乗った。『闇の書の管制人格』だと。そして、主を助けてと私に願った。つまり、はやてちゃんは主と認識されているのではないだろうか?

『無理に外部から操作しようとすれば外部から主を取り込んで転生を「待って下さい!」さ、彩?』

「どうしたの彩ちゃん?急に大声出して?」

急に私が大声を出した事に皆は驚くが私はそれに構わずユーノさんに質問する。

「闇の書さんが、持ち主さんを主と認識すれば良いんですね?でも、今までの主さんは認識されなかったから暴走した。それで良いんですね?」

『う、うん…』

「暴走してるのはバグ。間違いありませんね?」

『うん』

「持ち主さんが闇の書…夜天の書のバグを切り離すのは可能ですか?」

『どうだろう…出来るかもしれないけど…』

なら、もしかしたら…。

「…彩さん?」

「リンディさん。信じて貰えるか分かりませんが。私、夢の中で闇の書の管制人格と名乗る女性と話をしたんです」

「何ですって!?」

「夢の中でその人は主を助けてと私にお願いして来たんです。それって、今の持ち主さんを主と認めてるんじゃないでしょうか?」

『可能性は高いね…』

「夢の話だ。確証は…」

『リンカーコアを蒐集された時に何かバグが発生して彩ともリンクが繋がったかもしれないよ。それなら彩の話も納得できる』

「それでも可能性での話だ」

「クロノさん」

私は両手でクロノさんの手を握り、盲目な目で真剣にクロノさんを見つめる…。きっと、この視線の先にはクロノさんの瞳があると信じて。

「な、何だい?」

「私を信じてくれませんか?考えがあるんです。皆を救う方法が!」

「君を信じない訳じゃ無い。だが、確証を持てない事に賭ける訳にもいかないんだ」

「クロノさん!お願いします!何でも言う事を聞きますから!」

「女の子がそんな事言うんじゃないっ!もし相手が僕じゃ無く如何わしい事を考える奴だったらどうするんだっ!?」

「クロノ…」

「クロノ君サイテー。何考えてたの?」

『うわぁ…見そこなったよ』

「僕が悪いのかっ!?」

「?」

何か話がそれている様な…。

「彩さん」

「は、はい!」

「話、聞かせて貰える?」

「艦長っ!?」

「どの道、もう完成まで時間が無い。なら、賭けてみても良いんじゃない?」

「しかしっ!?」

「彩さん。話して」

クロノさんの言葉を無視して私に訊ねて来るリンディさん。私は心の中で感謝すると私の考えている事を話し始めた。

「私がシグナムさんにこの方法を、夢の事も説明します。管理局員では無く、私なら信用して貰えるでしょうから」

「つまり、管理局とヴォルケンリッターの掛け橋になる訳ね?」

「はい。あと、主さんにも協力して貰えるよう頼んで貰うんです。そうすれば…」

「闇の書の主がバグを切り離して、そのバグを何とかする、と言う事?」

「闇の書の主が協力するとは…」

「してくれます!私を信じて下さい!」

「…」

「リンディさん!お願いします!これが、私が皆に出来る唯一の事何ですっ!私に出来る事をやらせて下さいっ!」

「…条件があります」

「はい!」

「シグナムさんっと闇の書の主が、協力してくれるのなら、私達も協力しましょう。でも、あちらが拒めば…」

「それで良いです!私が説得してみせます!」

「…分かりました。期限は…そうですね。フェイトさんが回復する頃、2日後で良いですか?」

「はい!じゃあ、今からシグナムさんに話して来ますねっ!アイリス!行きましょう!」

『はい!』

「待つんだ。僕も…」

「クロノが居ると疑われる可能性があるわ。彩さん一人の方が良い…あと、彩さん?」

「はい?」

呼び止められ足を止めると、甘い香りと温かな温もりが私を包み込む。

…え?

気付けば、リンディさんが私を優しく抱きしめてた…。

「一人で頑張り過ぎです。…でも、よく頑張ったわね?」

「…はい!」

私は笑顔で返事をすると今度こそ玄関に向かい外に駆け出して行った…。











「…させない」









 
「うふふ♪」

嬉しそうにはやてちゃんの家に向かう私。気のせいか足がとても軽き感じられる。

「わん♪(嬉しそうですね、母様♪)」

私に釣られてかアイリスも嬉しそうだ。

「はい♪とっても♪」

これで皆が笑って終われる事が出来る。そうすればまたシグナムさん達と一緒に過ごす事が出来るのだ。これほど嬉しい事は無い。

はやてちゃん、待っていて下さいね♪

楽しい気分に浮かれている私。

しかし、それは突然に起こった…。

しーんっ…

生活の音が、消えた…。

私は足を止める。似た様な事がつい最近あった。

結界…。

でも、今回は明らかに何かが違っていた。首筋辺りにピリピリと伝わって来る予感覚。長年この身体で過ごして来て備わった危険感知能力が逃げろと警告してくる…。

「…母様、私から離れないで下さい。あと、リードを外して下さい」

いつの間にか念話で無く普通に話しかけて来るアイリス。その口調からは何時もの甘える様な声では無く、初めて聞く真剣な物へと変わっている。私はだってアイリスに従いリードを首から外した。そして、気付く、アイリスの身体が子犬の姿から明らかに大きくなっていると…。

「あ、アイリス?」

「戦闘形態です。子犬のままだと戦えませんから…」

「これじゃあだっこしてもらえませんね」と寂しそうに言うアイリスに私は首を振り、アイリスの首に抱き着く。

「これで我慢して貰えますか?」

「十分です、母様…来たようです」

逆立つアイリスの毛。私はアイリスから手を話すと空を見上げた。本来ならある筈の無い場所に、人の気配を感じる…。

「誰、ですか?」

「お前を、闇の書の主に会わせる訳にいかない」

男性の声だ。

「…何故です?」

「我らが悲願のため…」

「悲願?」

「…」

どうやら答えてはくれないらしい。男性は何も話してはくれない。

「お前の身、拘束させて貰う」

「させるとでも?母様に触れてみなさい…その穢れた手、切り落としてやる」

「生まれたての使い魔が…」

…何でアイリスの事を?

アイリスの事を知っているのはなのはちゃんやリンディさん達ぐらいしか居ない筈だが…。

「ぐぅぅううっ……GAAAAAAA!!」

アイリスの声とは思えない咆哮が上がり大気を震わす。ビリビリと震える民家の窓ガラス、アイリスからは魔力が溢れ出しアイリス周辺に強い風が発生していた。

「…信じられん。これが生まれたての使い魔の力か?主の魔力が影響しているのか」

私の魔力の事も知っている…管理局の関係者?

リンディさん達が私を騙した?いや、あの人達がそんな事をするとは考えられない。騙したとしても、私に闇の書の情報や、使い魔を、アイリスを与えた理由が分からない。

「だが、魔力だけではな…」

「GAAAA!!!」

「きゃあっ!?

地面を蹴り空へと跳ねるアイリス。それだけの動作で物凄い風が発生し、私は紙の様に容易く吹き飛ばされ、何かに柔らかい物突っ込んだ。

…うぅ、ゴミ捨て場ですか。

つんと鼻を突く嫌な匂い。頭にはバナナの皮が垂れ下がり、私はそれを払いのけて立ち上がる。

これが、魔法の戦いですか…。

空中でぶつかり合う非常識。風を切る様な、音がたびたび聞こえて来ては、その余波が此方までにやって来る。

「くっ!予想以上にやる!速攻で終わらせる筈が予定が狂った!」

「私を舐めるなっ!私は水無月彩の使い魔!アイリス!母様の剣にして盾だっ!」

風の切る様な音の主はアイリスの様だ。獣の本能か素早い動きで男性を撹乱しつつ攻撃をしているらしい。

「くっ!うろちょろとっ!?」

一瞬の隙、それが男性の敗因となる

「GAAAAA!!!」

「ぐああああああっ!?」

ぶおんと言う腕を振う音、その直後、鈍い音が響き男性の苦痛な悲鳴を共に何かが吹き飛んだ音が私の耳に届いた。

「アイリスっ!?」

「大丈夫です。殺してはいません」

ほっと安堵する私。私のためにアイリスの手を汚して欲しくは無い。そして、誰も死んで欲しくは無い。

「ですが…少しの間だけ、眠って貰う事にします」

そう言うとずしんと地面に降り立ち、ゆっくりと腕を上げる。気を失わせるつもりか?

「だ、駄目「させない」…え?」

急に現れるさっきの男性と同じ声。それに気づいた頃にはアイリスはその声の主によって吹き飛ばされていた。

「ギャンッ!?」

壁に叩きつけられアイリスは悲鳴をあげる。ずるずると地面に落ちるその巨体。そして、地面に落ちるとその身体は弱々しい呼吸のまま動かなくなる…。

「アイリスっ!?いやあああああああっ!!!?」

「殺してはいない…だが、しばらくは動けんだろう」

男性の事など無視して私はアイリスに駈け寄りアイリスを抱きしめる。

「アイリス!」

「ごめん、なさい。母様…私、護れなくて…」

「っ!」

ブンブンと首を左右に振る。

「…迂闊だぞ」

「ごめん」

同じ声の男性が二人、私の後ろで会話を交わすと、私に近づき私の手首を掴み取る。

「一緒に来て貰おうか。その使い魔は危険だ。置いて行く」

「嫌!アイリス怪我してるっ!アイリス!アイリスゥッ!」

「…放っておけ、どうせ管理局が直ぐに来る」

「嫌あああああぁっ!」

私は男性に抗おうとするが非力な私の力では抗う事など出来ず、ずるずると引き摺られ、そして空を飛んでいるのか宙を浮きだす身体。離れていくアイリスの弱々しい呼吸の音。もう逃げられないと、駄目だと、私は思った…。

しかし、突然それはやって来た。

「紫電…一閃ッ!」

「「っ!」」

私と男性の間を引き離す様に空気が裂けた。そして私は手を離され、重力に従い地上へと落ちて行く。このままで頭からコンクリートに落下する。そう思ったがそれは私の大好きな温もりによって良しされる。

温かな、そして優しい香り…。

「シグ、ナムさん?」

「怪我は無いか?彩」

「はい…でも、アイリスが…」

「…彩の使い魔か?」

「はい。でも、怪我していて…早く手当てしないと…」

「直ぐに終わらせる待っていろ」

シグナムさんはそう言うと私はそっと地面に降ろしポンと手に頭に置くとわしわしと少し乱暴に頭を撫で空へと上がって行った。

「邪魔が入ったね…」

「予想以上に早いな…」

「貴様等…彩を泣かしたな…」

怒りと、殺意の籠った声。そして、シグナムが放つその怒気よって空気が燃えている。

「「…っ」」

シグナムの気迫に息を呑む二人。でも、私は怖くない。それは私に向けられた物じゃないから…。私のために怒ってくれているから…。

「貴様等…」

「「…」」

「折れろ」

ポツリと呟かれた凍る様な言葉。それから起こった事は一方的な暴力だった…。















あとがき

久々の戦闘。彩の目の事もあって前作以上に駄目駄目な仕上がり…。

こんばんは!&おはようございます&こんにちは!金髪のグゥレイトゥ!です。

実は闇の書あと2話程度で終わって、それまで平穏な日常が続きクリスマスでEDです。事件後2~3で終わらせる予定です。

早くシグナムとの絡みが描きたい…はぁはぁ。

…実はコードギアスのSSも考えてるのですが、これは即モチベーションが下がる予感。アニメ当の昔に終わりましたしね。



[8923] 魔法少女リリカルなのはA’S ~盲目の少女は何を見るのか…~ 第十話
Name: 金髪のグゥレイトゥ!◆60293ed9 ID:1667c937
Date: 2010/02/06 15:59
「…何故、此処に辿り着けた?」

使い魔の…アイリスの戦闘でのダメージが堪えているのか、片方の仮面の男が苦痛に満ちた声で私に問うて来る。その問いに私は冷たく笑い、口の端を吊り上げこう返す。

「厳重に結界を張って外から隔離したつもりだろうが、逆に不自然過ぎてシャマルが気付くには容易だったぞ?」

「あの使い魔に時間を掛け過ぎたか…」

苦々しく吐く仮面の男、私は地上で彩に介抱を受けている使い魔に視線を送り、その傷付いた身体をこの目に焼き付けた。彩を護るために傷付きボロボロになった身体。主を守るために盾となった身体…。

「ああ、主をしっかり護った。幼くとも立派な守護獣だ」

あの幼き使い魔は、誰に誇っても恥ずかしくない程の立派な守護獣だ。私が保証しよう。

「くっ!」

「もう良いか?さっきから私は貴様等を叩き潰したくて堪らないんだ」

そろそろ限界だ。右腕がさっきから剣を振らせろと私の意志に反して無意識に剣の鞘に手を伸ばそうとしている。

「…騎士らしからぬ言葉だな」

騎士、か…。

その言葉を聞いて私の表情から笑みが消え、目を鋭くつり上げ、冷たく吐き捨てる。貴様がその言葉を口にするなと心の中で叫びながら…。

「騎士?貴様等の様な外道に騎士の誇りなど持ち出す必要も無い。我等と対等だと思ったか腐れ外道が」

「貴様…」

侮辱されたのが許せないのか怒りの籠る仮面の男の声。だが私はそれを無視する。先に喧嘩を売って来たのはあっちなのだ。

「貴様等は彩を泣かせた。その代償、腕の一本や二本で済むと思うなよ?」

さぁ…どう料理してやろうか?


















第10話「譲れない事、なの」














「疾ッ!」

「ぐぅっ!?」

かまいたちの如く振われる刃に仮面は成す術も無く一方的に追い込まれて行く。反撃しようにも私はそんな間すら与えず回避の動作から移行させない。

「貰ったっ!」

「誰が隙など作るか。大人しくしていろ。貴様の相手は後でしてやる」

片方の仮面が何やらカードの様な物を取り出し私にバインドを掛け様とするが、その拘束が完成する前に剣で切り裂くと私は鞘を仮面に目掛けて投げつける。

「あぐっ!」

ダメージの所為か避け切れず、投げられた鞘がめしりと言う嫌な音と共に仮面の腹に良い具合にめり込む。あれは何本か折れただろう。良い気味だ。

「っ!?…おのれぇっ!」

「遅い」

ひらりと身体を逸らして仮面の繰り出す拳をかわすとすれ違いざわ膝を蹴り上げ仮面の腹に一発くれてやる。

「げほっ!?」

「私が言うのは何だが、感情的になるのはいかんな。攻撃が単調になる」

本当に私の言えることではないが…。

今の私は感情が怒りに満ち溢れ、目の前の敵を潰す事だけを考えている狂戦士だ。唯戦う事しか頭の無い破壊者だ。

「そら、もう一発おまけだ」

ついで言わんばかりに拳を仮面に叩き込む。

「がっ…っ剣士が拳を使うかっ!」

「戦ではよくある事だろう?勝てばいいのだ…ほら、まだまだ行くぞ?」

拳の乱打。下顎、脇、鳩尾等を時たま斬撃を加えながら一方的な暴力を振う。ズタズタにされる仮面の男。暴力の手が止まる頃には既によろよろで仮面で見えないが目の集点が合っていないようだった。

…終わりだ。

「レヴァンティンッ!」

『ja』

相棒から薬莢が飛び出すと同時に私の魔力が爆発的に上昇する。御望みとあらば使ってやろうと私は剣を構え、次の一撃で決める為に両腕に力を籠める。

「まずは片方…」

そう全身が凍える様な冷たい言葉をポツリと吐くと、全力で仮面目掛けて剣を振り下ろす。

「馬鹿な…私が一方てk――――っ!?」

悲鳴にもなら無い声。仮面はその光の速さに届くと思えるほどの斬撃を避ける事も出来ず、脇腹にめり込み地上目掛けて真っ逆さまに吹き飛んでいた…。

「脆い物だな。その程度で私に敵うつもりだったのか?」

積み重ねて来た経験も、覚悟も違う。一昨日来るが良い…。

そう心の中で吐き捨てると、地上で膝をついているもう片方の仮面に視線を向ける。使い魔との戦闘と、先程の私の攻撃でもうかなりのダメージが蓄積されているだろう。一瞬で終わらせられる。

ゆっくりと地上に降りて来る私を見て、生き残った仮面はよろよろと防衛体勢を取り私を待ち構える。そんな様子を見て私はこの状況で良く足掻くと内心、関心と呆れなど入り混じりながらも、地上に降りたった。

「待たせたな。さぁ、どう足掻く?」

「お前達さえ…居なければっ!」

「過去に闇の書の被害にあった遺族…そんな所だろう?許してくれるとは思わん、思えん。だが、それが彩と何が関係ある?彩を泣かせて良い理由になる?」

多くの命を殺めて来た。今さらその罪から逃れようと思わない。だが、何故彩が出て来る?何故彩が泣かねばならない。私にはそれが許せなかった…。

「貴様等が何を企んでいるかは知らん。だが…」

剣を頭上に振い上げ…。

「彩を傷つけた罪…償え」

ブォンッ…

一切の躊躇無く、一切の情け無く、目の前で唯やられるのを待つだけの仮面の顔面目掛けて振り下ろした。

「駄目えええぇっ!」

「っ!?」

ピタッ…

少女の悲痛な叫びが、私の狂刃を仮面の紙一重でピタリと止める…。

私はしばし沈黙し、ゆっくりとその声の主の方へと振り向き問う。

「何故、止めるんだ?彩…」

「それ以上暴力したら、その人は怪我じゃ済まなくなりますっ!」

使い魔を小さな腕で抱きしめたまま、彩は涙を一杯に溜めた瞳で私に訴えかけて来る。

「そうだな」

「分かってるならどうして…どうしてそこまでするんですか?」

「こいつ等は彩を…」

「私は誰も傷付く事なんて望んでませんっ!シグナムさんが…シグナムさんが私のために誰かを傷つけるなんて望んで無いよぉっ!」

限界が来たのか涙を一杯に溜めた瞳からぼろぼろと涙が零れ落ちて来る…。

嗚呼…お前を泣かせてばかりだな私は…。

剣に纏っていた狂気が消え、腕からは力が抜ける。今の私にはもう戦う気などもう無かった。それに、この仮面はもう立って居るだけで限界だろう。

「…ぐぅっ」

ほらな?

矛先が自分から逸らされた途端、仮面の男はどさりと地面に倒れ伏す。それを聞いた彩が直ぐに此方に駈け寄って来ると仮面の男を抱き起こし、恐る恐る何処を怪我しているか慎重に触って行く…。

「大丈夫ですか?直ぐに手当てを…私手当てした事ありません…」

無いのか…。

まぁ、これ程の傷だと病院に行った方が良いがと怪我させた本人が呑気に思ってみる。

「早く病院に…ああ!?もう片方に男の人も空から落ちたんですよねっ!?早くしないとっ!?」

仮面の男の頭を膝枕で支えながらあたふたと慌てる彩。こう言う事に慣れていないのか…やはりこの子には争い事は似合わない。出来れば戦いの場に出て来て欲しくなかった…。

「お前…どうして俺を庇う?」

「誰も傷付いて欲しくない。それだけです」

もう既にボロボロだがな…。

などと空気の読めない発言はしない。心の中で留めておこう。

「でも、どうしたら…このままだと傷が悪化してしまいます…」

「放っておこう。どうせ管理局もそろそろ気付く頃だ。そうすれば手厚く保護されるだろうさ」

「っ!?…今、捕まる訳にはっ!」

「知らん。なら自力で逃げ切れ」

怪我したのは自業自得だろう。不味い飯でも食ってろ。

「行くぞ、彩。使い魔を私達の家に連れて行く」

そう言うと、私は彩の手を掴む。

「で、でも!」

「こいつ等を庇った所で何も得にはならない」

「損得の問題じゃないですっ!シグナムさんは損得で私を助けてくれたんですかっ!?」

「そんな訳無いだろうっ!」

彼女の問いに私は思わず声を荒げてしまう。突然の怒声に彩はビクリと肩を震わし小さくなる。それを見て私も一気に頭に昇った血が下がって行く。

誰がそんな物でお前を測るものか…。

「…こいつ等は敵だ。助けて何になる?」

「助けたいからじゃ駄目ですか?」

これでは埒が明かんな…。

私は彩の頑固さに頭を押さえると溜息を吐く。このままでは管理局が来てしまうではないか…。

「ではどうすると言うんだ?まさか病院にでも連れて行くつもりか?」

言っておく。こんな怪しい恰好をした奴がこんな大怪我をして病院に担ぎ込まれたら即刑事沙汰だ。

「駄目…ですか?」

私は黙って頷く。彩もそれは分かっているらしい。少しだけ安心した。

「なら、はやてちゃんの家に「駄目だ」…そうです、よね」

私は彩が言おうとする事を言い終わる前に却下する。幾ら彩の頼みでもそれは出来ない。主の身に危険が及ぶ事など守護騎士として…。

「なら、せめて一目のつかない場所に…あと最低限の治療を…」

「彩…何故自分を襲ってきた者にそこまでするんだ?」

「シグナムさんも、最初は私を襲ってきましたよね?」

「ぐ…」

あの時の事は本当に申し訳ないと思っている。だからその話はこの場で出さないで欲しい。胸に鋭い棘が深く突き刺さるから…。

「お願いします…」

「…そいつ等にも借りがある。『小さな』借りだがな。廃棄されたビルに捨てて行く。それで文句は無いだろう?」

「…手当てを」

…ああ、もうっ!

まるで腕の中で気を失っている使い魔…子犬の様にウルウルとした瞳で見上げて来る彩に、私は耐えられなくなりわしわし頭を掻き毟り投げやりにこう告げる。

「っ!シャマルを呼んで来る!これで良いかっ!?」

「…はい♪」

私の言葉を聞きパアッと表情を明るくする彩。頼むからそんな顔を見せてくれるな。こっちまで顔が緩んでしまう…。

「~~~っ!早く移動するぞっ!管理局が来るっ!」

そう言うと私はもう片方の仮面を拾って来ては両肩に男共を背負い、頭に彩を乗せる。何だこの珍妙な構図は…。

流石に重い、ぞ…。

ゆっくりと地面から足が離れて行きふらふらと空を飛び始める。まずい、本気で重い…。

「やめろ…貴様等の情けなど…」

「これ以上無駄口を叩いてみろ。例え彩の頼みでも手を離さない保証は無いぞ」

「…」

冷たく、殺意を籠めてそう告げると仮面はそれ以上何も言わなくなる。いや、気を失ったのか。腕が重力に従いふだらりと垂れている。

…ふん、ダメージは相当の物か。

『シャマル、聞こえるか?』

『シグナム?さっきの魔力反応はどうだった?』

『余計な拾い物をした』

『…はい?』

『話は後だ。何時もの合流ポイントに来てくれ。あの廃棄ビルだ』

『ちょっシグナムっ!?』

シャマルが何か言いたそうだったが無視して用件を伝えると一方的に念話を遮断する。こっちだって不服なのだ。

まったく…。

彩は他者に優し過ぎる。それが彩の良い所なのだろうが自分に危害を加える者にまでその優しさを向けるのはどうにかして貰いたいものだ。

「シグナムさん…」

「何だ?」

突然、黙って私の頭に乗っていた彩が口を開いて私に話しかけて来る。その声は何処か申し訳無さそうな、そんな感じの物だった。

「すいません。シグナムさんの立場もあるのに…分かってるんです。シグナムさんが私を心配してくれているのは。分かってるんです」

「…」

言葉は返さない、だが自然に頬が緩む。その言葉だけで何処か報われた気がする。

「この人達のもやらなければならない事があったんだと思います。譲れない物があったんです。きっと…」

だからと言って彩を傷つけて良い事にはならない。いや、抵抗しなければ危害は加えるつもりは無かったのかもしれないが、彩の使い魔を傷つけ、実際に彩を悲しませている。私はそんな奴等を許すつもりは無い。

「シグナムさん達も、そうじゃないですか。大切な人のために戦っている。自ら手を汚して…そうでしょう?」

「…ああ、だが」

こいつらと一緒にするな。そう言おうとしたがそれは彩によって阻まれる。

「一緒なんですよ。この人達にも大切な人が居るんです。きっと…」

お人好し過ぎる。奴等がやろうとしている事は『復讐』。彩が思っている程綺麗な事では無い。だが、それを私が責める資格が無いのは事実。何故ならその復讐の原因になったのは自分なのだから…。だが、彩は別だ。彩は関係ないだろう。

「お前はっ!お前は優しいっ!優し過ぎるっ!その優しさが為他者のためなら犠牲になって良いと言うだろうっ!蒐集の時でもそうだっ!それはいずれ身を破滅させるぞ!彩っ!」

「…でも、大事は無かったですよね?」

声を荒げる私の言葉に、彩は落ち着いた様子で、澄んだ声で言葉を返して来る…。

「気を失い、高熱に魘されたではないかっ!」

今でもあの時の事を思い出すと胸が痛む。仕方が無かった。主のためだった。抵抗されても蒐集していただろう。それでも、あの笑顔でコアを差し出してくれた彩を思い出すと罪悪感に囚われてしまう。

「熱が出るのは良くある事ですよ?生まれつき身体が弱いですから…」

「何故…何故そんなに他人の事を優しく出来るんだ?」

「今まで優しさに包まれていた、からではないですか?」

「…」

「私は多分、今までの学校で苛められてきました。でも、こうして笑っていられるのはお父様や、お母様の優しさに包まれていたからだと思います。壊れている。そう思われるかもしれませんが、この気持ちは偽物でも、紛い物でもありませんよ?」

そんなの分かっている。彩のその優しさは本物だ。誰も否定できないだろう。

「シグナムさん。私はハッピーエンドを望んでるんです」

優しい彩らしい願い。私も、ヴィータ達もそれを願って蒐集を続けている。彩が最近教えてくれた情報通りなら、その願いは叶わないだろう。しかし、私達にはそれしか方法が無い。それしか知らないのだ。

「その為の、方法も見つけました」

「…何?」

今何と言った?その為の方法を見つけた?その為とは、『ハッピーエンド』の事を言っているのだろうか?それの方法を見つけたと言うのか?この少女が?

「それを知らせる為に、協力して貰う為にはやてちゃんの家に向かっていたんです」

そして、こいつ等の強襲か…。

偶然とは思えんな。何が目的だ?コイツ等は…。彩を襲って何になる?闇の書を完成させるため?完成させても主から闇の書を奪えないのにか?

「お願いです、シグナムさん。私を信じて、力を貸してはくれませんか?」

彩が言うんだ。嘘では無いのだろう。しかし、彩が管理局に騙されていると言う可能性もある。独断は危険だ。

「…合流を急ごう。そこで話を聞く」

「はい!」

嬉しそうに返事をする彩の声を、私は複雑な心境で聞いていた。まだ協力するとは決まった訳じゃないと言うのに…。












――――Side Sai Minaduki
    12月7日 PM 05:40
    街外れにある廃棄ビル






シグナムさんに運ばれて辿り着いたのは人気が一切無い場所。街の外なのか生活の音は遥遠くに聞こえ、もう管理されていないのかかなり埃っぽい。確かに此処なら管理局の人達にも、この世界の人達にも見つからないだろう。

「…此処は?」

「街外れに在る廃棄ビルだ。私達の緊急時用の合流場所に使っている。シャマルの厳重な結界を張ってるから管理局の目を気にする事はあるまい」

成程、確かに此処なら大丈夫そうですね。

「シャマルは徒歩でこっちに向かってるいだろう。着くのはもう少し掛かる」

「そう、ですか…」

「心配するな。気を失ってはいるが使い魔の怪我はそこまで酷い物じゃ無い」

アイリスの事は勿論心配だ。大切な娘なのだから。でも、私を襲ってきた男性の方々も酷い怪我で、早く治療しないといけない。このまま何もせず放置と言うのは忍びない…。

「…怪我は大丈夫ですか?」

私は男性にそっと近寄ると静かに訊ねてみる。

「「…」」

返答は返って来ない。気を失っている様ではないが…。

「もう少しの辛抱ですから…」

きっとこの人達にも事情がある。私はそう一人完結すると、一言言い残し今度はアイリスの許に駈け寄り優しく頭を撫でる。

「アイリス?大丈夫ですか?怪我は痛くありませんか?」

「大丈夫です。母様…」

「…すいません。何も出来なくて」

「母様は何も悪くないです。私が母様を守る筈なのに…」

「お前は良くやった。何も恥じる事は無い。お前が居なければ彩は連れ去られていた」

私の隣でシグナムさんがアイリスを褒める様に語り出す。

「…貴女は?」

「彩の友人だ」

「そう、ですか…母様を護って頂きありがとうございます」

「フッ…母親に似て礼儀正しいな、お前は」

「当然です。親子なのですから」

誇らしげに言うアイリスに、私は顔が熱くなりつい顔を下げてしまう。そんな面と向かって言われたら照れてしまう。でも何故だろう。アイリスの言葉がとても嬉しく思えてしまう。

親子、ですか…フフフ。

嗚呼、駄目だ。その言葉を脳内でリピートするとどうしても頬が緩んでしまう。

「「(可愛いなぁ、彩(母様は…)」」

そんな幸せな空気は束の間。息を切らしたシャマルがこのビルにやって来てその緩んだ雰囲気はピシリと切り替わる事となる。

「はぁ…はぁ…っ!シグナムっ!?一体何があった…のって、彩ちゃん?」

「お久しぶりですシャマルさん」

お久しぶりと言う程経ってはいないが、それでも私にとってそれは長い空白期間だった。

「ええ、お久しぶり…って程じゃないけど。彩ちゃんがどうして此処に?シグナムッ!彩ちゃんは巻き込まないって決めたじゃないっ!」

「…周りを見ろ」

「え?…っ!あの時のっ!?」

男性に気付いたのか、驚きの声を上げるシャマルさん。シグナムさんも借りがあるとか言っていたが、シャマルさんも面識があるらしい。

「こいつ等が彩を襲った」

「っ!…訳は?」

何時も柔らかな雰囲気の声を放つシャマルさんが氷の様な冷たい声でシグナムさんに問う。こんなシャマルさん、初めて見た…。

「知らんさ、どうせ話さんだろう」

「そう…まあ、良いわ。どうせ敵だと言うのなら闇の書の糧になって貰いましょう?」

更に冷たい声で恐ろしい事を言い出すシャマルさん。

「ま、待って下さいっ!?せめて話だけでもっ!?それに、この人達は大怪我をしていますっ!治療が先の筈ですっ!」

それに、今蒐集をすれば闇の書が完成してしまう可能性がある。まだ何も準備が出来ていない状況でそんな事になれば最悪な結果を招いてしまう事になる。それだけは避けたい。

「彩ちゃん。彼等は貴女を襲ったのよ?」

「シャマル。それは既に私が話した。彩の意志は揺るがん。…治療してやれ」

「………最低限。本当に最低限の治療しかしないわ。それで良いわね?」

「かまわん。治療が終えた途端、彩を人質に捕られては敵わんからな」

「それで構いませんから、早くこの人達に治療を…」

「待て、先に彩の使い魔が先だ。仮面共はその後だ」

「そうね、えっとぉ…使い魔ちゃん?」

「アイリスです」

「アイリスちゃんね。治療するからじっとしてて…クラールヴィント」

シャマルさんが何かの名前を告げると、優しい温もりが私の腕の中で丸くなっているアイリスを包みこんで行く…。

「…はい、お終い。大した怪我じゃ無くて良かったわ」

「…アイリス?」

「はい…凄いですね。もう痛くありません」

そう言うとアイリスは私の腕から飛び出して、これ見よがしに私の周りを駆け出し始める。本当に怪我はもう平気の様だ。

「…シャマルさん」

「分かってるわ。先にバインドで拘束してから治療をします。もしも、と言う可能性があるから、ね?」

「…はい」

何処か納得は出来ないが仕方が無いだろう。シャマルさんも私を思ってそうしているのだから。

「…折れた骨は治したわ。戦闘は暫く出来ないでしょうけど」

「「…」」

「ふぅ…少しは何か話したらどう?お礼に情報ぐらいくれても良いでしょうに」

「貴様等が勝手にやっただけだ…」

「仮面さん…」

「「仮面さんじゃ無い」」

何でそこだけ律儀に息ぴったりで答えるんですか…。

「…さて、話してもらおうか?彩」

「はい」

急に話題が切り替わる。私も仮面の人達から意識を切り替えると、シグナムさんと向きあった。

「話?」

今の状況に着いて行けないシャマルさん。シグナムさんはそんなシャマルさんに簡単にだが説明する。

「彩が主を救う方法を見つけ出したそうだ」

「ええっ!?」

「だが、それを私達に伝える為に家に向かう途中、こいつ等に襲われた…」

「「…」」

何にも反応を示さない仮面さん達。でもシグナムさんはそれを分かっていたのか話を続ける。

「私は彩から、闇の書が完成すれば暴走する確率が高いと聞かされていた。もしかしたら、この仮面達は闇の書を暴走させるのが目的なのかもしれん」

「確証は無いでしょう?そもそも闇の書が暴走すると決まった訳じゃないわ」

「するんです。シャマルさん」

「彩ちゃん…」

「これからする話…信じて貰えますか?」

「…話して頂戴」

私は闇の書について話し始める。闇の書の本来の名前が『夜天の魔導書』と言う名である事。歴代の持ち主の誰かが、夜天の魔導書のプログラムを改変した事。そのせいでバグが発生しはやてちゃんの身体を浸食している事。闇の書が持ち主を主と認めなければ持ち主を取り込み暴走してしまう事。知っている事全てをシグナムさん達に話した。

「信じて貰えないかもしれない…でも、これは真実なんです」

「「…」」

シグナムさん達から何も反応は返って来ない。でも、私は自分の気持ちを伝える。最悪な結果で終わらせたくないから。

「話はこれからです。これからがはやてちゃんを、夜天の魔導書さんを救う方法です」

「夜天の魔導書さん?」

「はい。実は私、夢の中で闇の書の管制人格と話をしたんです」

「彼女とっ!?何で彩ちゃんがっ!?」

「管理局の人の話によると、何かのバグが起きてリンクが繋がったのだと言っていました…」

「そんな事って有り得るの?」

「さぁな、だが…有り得ない訳でもあるまい?彩の話だと闇の書…夜天の魔導書は壊れているのだから。何があっても不思議ではない(と言う事は彩は私の主と同じと言う事では…)」

何故かシグナムさんが嬉しそうにしていますけど…。何か私喜ぶ事言いました?

シグナムさんの事が気になるがとりあえず話を続けよう。

「夜天の魔導書さんは主を助けてと私に言いました。それってはやてちゃんを主と認識してると言う事ですよね?」

「そうね。でも、それが?」

「闇の書の管理者権限は、闇の書が完成した時に使えるようになります。だから、はやてちゃんに、闇の書…夜天の魔導書のバグの部分を切り離して貰えれば…」

「バグの部分だけを破壊出来る訳ね…でも、無限再生するわよ?」

「アルカンシェル…か」

「御存じなんですか?」

「記憶は断片的にだが覚えているんだ…そうか、確かにその方法なら…」

「でも、それにはシグナムさん達の協力が必要なんです」

「…何をして欲しいんだ?」

「シグナム…」

「信じよう…どの道、闇の書は完成させなければならないのだろう?やる事は一緒だ」

「でも…」

「シャマルさん…」

「………………分かったわ」

長い沈黙の後、シャマルさんは同意してくれた。

「ありがとうございますっ!」

「それで、彩ちゃんは私達に何をして欲しいの?」

「まずは…はやてちゃんに全て打ち明けましょう」

じゃないと、話が始まらない。はやてちゃんが協力してくれなければこの作戦は実行出来ないのだから。

「「…」」

「辛い、ですか?」

「そう、だな…」

「はやてちゃんの約束を破っていた訳だからね…」

「でも、そうしないといけなかったんですよね?はやてちゃんを助けたかったんですよね?それを、伝えれば良いと思いますよ?」

「「…」」

私なんかがシグナムさん達の気持ちを理解する事なんて出来ないだろう。でも、言わないと伝わらない事だってあるのだ。私は、それを色んな人達に教えて貰った…。

「辛いと思います。はやてちゃんもシグナムさん達に戦って欲しくないから蒐集をさせなかったんです。でも、「ああ、分かってるよ。彩…」シグナムさん…」

「彩の言う通りにしよう。何れは打ち明かさなければならない事なのだから…」

「…そうね」

「では、はやてちゃんに言いに行きましょう…あっ」

私は仮面さん達の事に気付くと、慌てて駈け寄りしゃがみ込む。

「その怪我で帰られますか?」

「「!」」

「彩っ!?」

「拘束しておかないのっ!?」

「…」

後ろでシグナムさん達が驚いていますが話を続ける。アイリスは黙って私の事を見守ってくれてる。これではどちらが母親なのか分かった物じゃ無い。

「貴方達に復讐をするなとは言いません。許してあげてとも言えません。でも、貴方達は奪われる気持ちを知っているんですよね?」

「「…」」

「シグナムさん達は、はやてちゃんにとって家族なんです…はやてちゃんやシグナムさん達は私にとってお友達なんです」

「「…」」

「きっと…奪われたら、怨みます。そして、またその復讐輪廻は廻るでしょう…それで、貴方達は良いんですか?」

私はそう言い残すと立ち上がると、シグナムさん達の許へ向かい、アイリスを地面に下ろし、空いた手でシグナムさんとシャマルさんの手を繋ぎ…。

「…今度会う時は、お友達になれると良いですね?」

「「…」」

そう言ってビルを後にした…。







「良いの?彩ちゃん…」

「何がですか?」

「きっと…彼等は復讐を止められないと思う」

「それが…きっと人だからな」

「でも…分かり合うのも人、ですよ」

私はそう言うと優しく微笑み繋いでいる手に力を入れた。シグナムさんやシャマルさんも握り返してくれる。

暖かいです…。

「だって…こうして今、笑い合ってるじゃないですか」








――――病院




「いらっしゃ~い!…えっ!?彩ちゃんっ!?どないしたん?こんな時間に…」

部屋の主が迎えの言葉が入口を潜ると同時にやって来る。突然の来客にはやてちゃんは驚くが、きっと彼女はもっと驚く事になる。私は其れを知っているががためか、苦笑して挨拶をする。

「こんばんわ、はやてちゃん」

「あ、うん。こんばんわ。どないしたん?急に」

「シグナムさん達がはやてちゃんに大事な話があるそうなんです」

「?」

「さびぃ~はやて~きたぞぉ~…ってどうしたんだよ?こんな所で突っ立って…って、彩じゃん。どうしたんだ?こんな時間に」

ヴィータちゃんがタイミング良く蒐集から戻って来る。これで全員揃った訳だ。

「…」

「シグナム?」

「…主に真実を話す」

「「!?」」

ヴィータちゃんとザフィーラさんの息を呑む音が聞こえる。

「お前…何考えてっ!」

「主にためだ…分かってくれ」

「何…言ってっ!?」

最早怒りで言葉が出て来ないと言った様子だろうか。今までの苦労が水の泡と化すと言うのだ。彼女の怒りは計り知れないだろう。

「怒鳴るのは話の後だ…主、お話はリビングで…」

「あ、うん…」

今の状況に着いて行けないはやてちゃんを他所に、場所はリビングに移される。

…そして、全てを打ち明ける事になった。はやてちゃんに黙って行った蒐集の事を…。







「そっか…そないな事があったんか」

落ち着いたはやてちゃんの声。でも、それは何処か悲しげに私の声に届いていた…。

「すみません…」

「で、でも!アタシ達ははやてにっ!」

「ヴィータ、わかっとる。いいんよ。私のためにやってくれた事やろ?」

「…うん」

「色々な人に迷惑掛けたな。でも、シグナム達が悪いんやないよ?これは私の責任や。シグナム達が私のためにしてくれた事やから…」

「っ!違いますっ!これは我らがっ!」

「子供達の責任は親の責任や」

「…」

責任、ですか。どうしましょう?このままだと全てが終わっても管理局に責任を取ると言って捕まりに行きそうです。黙って聞いているつもりでしたが、話に加わった方が良いでしょうか?

「はやてちゃん。先程責任と言いましたが、シグナムさん達がしてきた事を悪い事だと思っているんですか?」

「…そう言う事になる、ね」

「それは、はやてちゃんを思うシグナムさん達の好意を不要な物だと言っているような物ですよ?」

「そんなことないっ!嬉しいよ?とても嬉しい…でも!」

「その嬉しいと言う感情。それを素直に受け入れる事は出来ませんか?シグナムさんの想いを受取る事は出来ませんか?」

「彩ちゃん…」

「彩…」

確かに、多くの人達を傷つけたかもしれない。でも、シグナムさん達も守るために戦って来たのだ。守護騎士として、愛する主のために…。それを罪だと言うのは余りにも残酷すぎる…。

「他に方法が無かった。仕方ないと言うのは勝手な事だと思います…でも、本当にそれしか無かったんです。はやてちゃんを救う方法は…」

「…うん」

「はやてちゃんは辛いでしょう。私も同じ立場だったら望んでいなかったかもしれません。いえ、同じ立場じゃ無くてもシグナムさん達が戦うなんて望んでいなかった。でも…シグナムさんの気持ちを知っていたから止めなかった」

正確には止められなかった、ですが…。

「それでも…はやてちゃんは認められませんか?」

「嬉しい…嬉しいよぉ…っ!でも、皆が傷ついてるのに、私だけ何も出来ないで…」

それは違います。それは私です。はやてちゃんは出来る事があります。

「ありますよ。出来る事が…はやてちゃんにしか出来ない事が」

「おい、彩っ!どう言う「ヴィータは黙っていろ」シグナムっ!?」

ヴィータちゃん、ごめんなさい。それは後で話します。

「…私にしか、出来ない事?」

「お願いします、はやてちゃん。はやてちゃんの力を…皆が笑って終われる物語を…一緒に描いてくれませんか?」

「私に出来る事があるん?」

「あります。闇の書…夜天の魔導書の主である貴女にしか出来ない事が」

さぁ、悲劇を終わりにしましょう。これで良いんですよね?夜天の魔導書さん…。













――――12月7日 PM06:00
    病院










「はぁ…何て言うか」

クロノさんの疲れた溜息…。

「彩、狭いだろう?私の膝の上に座ると良い」

「あ、あの…シグナムさん。何故私の頭を撫でているのでしょう?」

「わ~♪君が彩ちゃんの使い魔さん?私、高町なのは♪なのはって呼んでね♪」

「なのはさんですか、よろしくお願いします」

「わぁ~…この緑茶(?)美味しいですねぇ♪」

「あら、貴女とは気が合いそうね。家の子はこれを飲もうとしないのよ?」

「あ、あの緑茶飲んでる…?」

「世の中広いもんだねぇ…」

「ガツガツガツガツッ!」

「…ヴィータ、幾ら出された茶菓子だとは言え行儀が悪いぞ」

「あははは…すんません。家の子達が…」

「あ、あはは~…賑やかなのは良い事だよ」

「急に呼び出されたかと思えば何この状況?く、苦しい…」

「狭いぞっ!何故こんな場所で集まらなければならないんだっ!?」

ぎゅうぎゅう詰めの病室。定員オーバーにも程がある。私なんてシグナムさんに抱っこされている状況だ。シリアスな空気を保つには正直これは辛い…。

「敵の艦に行くほど愚かでは無い」

「シグナムッ!」

「…失礼しました」

「貴女が闇の書の主さんね?…えっと」

「八神はやてです。家の子達が御迷惑をお掛けしました…」

「…成程、主のためと言うだけの事はあるわね。本当に良い子だわ」

「そんな、私なんて…」

「ふふふ、照れなくて良いのに…それじゃあ、話し合いを始めましょうか?」

「此処に来てれたと言う事は、協力して貰えるんだな?」

「…条件がある」

「…何だ?」

「主には罪は無い。裁くなら我等を…」

「…その件については彩にもう何度もお願いをされている。主である八神はやては勿論、君達の処罰も出来るだけ軽くして貰うつもりだ」

「…お前達はそれで良いのか?」

「この事件が予定通り解決すれば『闇の書』この世から消える。残るのは『夜天の魔導書』。これは別に危険な魔導書では無いからね。罪があるのは『闇の書』のみだ」

そんな理屈通る筈も無い。しかし、クロノさんは悲劇を終わらせるためならそれで良いと言ってくれた。自分も被害者の一人だと言うのに…。

「…」

「怨み怨まれ…この流れを止めるには誰かが耐えなければならない」

「此方にそれを押し付ける事も出来るのだぞ?」

「そうすれば、其方は失う物がある。此方は何も失う物は無い。なら、此方が耐えるべきだろう?」

「…甘いな」

「ああ、甘い。彩の病気が伝染してしまったようだからね」

「フッ…そうか」

「?」

互いに笑い合う二人に私は何の事か理解出来ず首を傾げる。

「しかし、周りは納得はしてくれないだろう」

「それは僕等の仕事さ。君達は気にしなくて良い。それより君達が協力してくれたのが驚きだ」

「彩の頼みだ。協力するに決まっている」

断言するシグナムさんに八神家の皆さんを含めて全員が苦笑する。

「シグナムは病気みたいなもんだけどよ。彩の頼みでもあるし、はやてを助ける為なんだから協力するしかねぇだろ」

「僕達が騙してる可能性だってあるんだぞ?」

「その時は管理局を潰し、我等だけで主を御救いする」

「…」

ザフィーラさんの声からは一切の冗談は無く、本気と言う事が判断出来る。クロノさんもそれが分かっているのか唯黙りこむしか無かった。

「しかし、嘘では無いのだろう?」

「え?」

「彩は勘が良い。人を疑いはしなくても嘘を吐いているか吐いていないか位は判断出来る」

「そうね。彩ちゃんなら出来ても不思議じゃないわね。呼吸や脈の変化には敏感に察知できるみたいだし」

出来なくもない。でも、完璧と言う訳でもない訳で…。

「僕達では無く、彩を信用していると?」

「言い方は悪いがそう言う事だ」

「そうか…」

「不服か?」

「いや、気持ちは分かるさ。彩なら仕方が無い」

「そうだろう?」

「そうだね~♪」

「うん。彩だもん」

「そやな、彩ちゃんやもん♪」

「だな」

「ああ」

「???」

また互いに笑い合う二人。今度は周りの人も一緒に笑っている。何か面白い事でも話していただろうか?

「…しかし、はやては彩と仲が良いな。初対面の様には思えないが」

「それはそうやろ。彩ちゃんとは彩ちゃんがこっちに引っ越して来た日に友達になったんやもん」

「…ほぅ」

…あちゃ~。

やってしまったと頭を抱える。はやてちゃんの事は秘密にしていたので友達関係の事は話していないのだ。クロノさんの怒りのオーラが肌にひしひしと伝わってくる。

「彩…僕はそんな事聞いていないが?」

「あ、あははは…これには深い訳が…」

「…………はぁ、まあいい」

あれ?許してくれるんですか?

私は目を丸くして驚くと、私の心情を察してかクロノさんは苦笑しながら理由を教えてくれた。

「どうせ彼女達にはやての情報を教えない約束とか、はやてを庇おうとしていたんだろう?それくらい君の性格からすれば想像できる」」

「あ、あはは…そう、ですかぁ」

「では今後について話そうか。まずは作戦を実行する場所なのだが、無人の管理外世界に在る荒野で作戦を実行する」

「そこなら被害も気にしなくて済むし、最悪の場合、アルカンシェルも使えるからね」

「本当は使いたくは無かったが、闇の書の性質上そう言う訳にもいかなくなった」

「私の出番言う訳やね」

「そうだ。闇の書が完成したら、はやてに管理者権限でバグを切り離して貰う」

「そしたら皆でフルボッコと言う訳だね?任せなっ!」

初めて会いましたけど、アルフさんってヴィータちゃんが大きくなった様な方なんですね…。

「自己再生するんですよね?攻撃しても意味無いのでは?」

「自己再生をさせているのは、膨大な魔力を蓄えているリンカーコアが原因よ。だからそれを破壊出来れば…」

「並みの攻撃で破壊出来るの?」

「私やフェイトちゃん。彩ちゃんの魔力も吸収してるんだよね?かなりの魔力量だよ?」

皆さん私の魔力が凄いとか良く言いますが、そんなに凄いんですね。私は自覚は無いのですが…。

「此方の攻撃が通らない可能性がある。その時は…」

「アルカンシェルか…」

「あの、そんなに凄い兵器なんですか?」

良くその言葉が出て来るが私にはどれ程危険な兵器かは聞かされてはいない。機密とかそういう事情もあるのだろうが…。

「…被害は発動地点を中心に百数十キロに及ぶ」

「止めましょう。無人でも、その世界には生き物が住んでいるんですから」

クロノさんの言葉を聞いて即反対意見を出す。私達の勝手な都合で生き物を殺めてはいけない。

「となると、使える所なんて…」

「生き物が居なくて…」

「広い所…」

そんな所、一つしか思い浮かばない。

「宇宙…とかですか?」

「暴走した闇の書は巨大だ。宇宙にまで転送は出来ない」

駄目ですか…。

でも、私の意見は隣にいたなのはちゃんフェイトちゃんによって選抜される事になる。

「…それ、いけるんじゃないかな?」

「そうだよ。リンカーコアはそれほど大きくない筈だよ?」

「そうか…リンカーコアを蒐集の要領でやればもしくは。うん!きっとやれるよ!」

何やらなのはちゃんやフェイトちゃん、ユーノ君で盛り上がっているが私達には全く通じていなかった。そんな自己完結しているなのはちゃんあっちにクロノさんが説明を求める。

「どう言う事だ?」

「リンカーコアだけを宇宙に転送するんだよ。そしてアルカンシェルを使う。宇宙なら生物はいないでしょ?」

「成程…だが、やれるのか?」

「いけると思います…でも、少し時間が掛かるかも」

「つまり、アタシ達の仕事は…」

「シャマルがコアを掌握するまでの時間稼ぎと言う訳だな」

「シャマル。頼むからドジだけはしてくれるなよ?」

「シャマルは抜けてるからなぁ…ドジしちゃ駄目やで?シャマル」

「うふふ」

「ひ、酷いぃ…彩ちゃんまで笑ってぇ…」

「す、すいません。だって…ふふふふ」

こんな状況でも皆さん、緊張感が無いんですもん。

先程まで真剣な話をしていたと言うのに、今では所々で笑いが飛び交っている。中には呆れて溜め息を吐いている人もいるが、それでも今この空間には先程の真剣な雰囲気は無く、柔らかな物に満たされていた。

「不安要素は多く博打同然だが…やるしかありませんね」

「そうね。でも、これしか方法が無いみたいだし…」

「恐らくこれがベストでしょう。やりましょう!艦長!」

判断は艦長であるリンディさんに委ねられた。長い沈黙、皆は黙って答えを待っている…。カチカチと時計の音だけがこの部屋に響いていた…。

そして、決断は下される。

「…わかったわ。作戦は今言った内容で行います。作戦の実行の日取りは…闇の書の項はどれまで行ってるの?」

「そう言えば慌ただしくてヴィータに聞いていなかったな。何処までだ?」

それどころじゃ無かったですからね…。

「え~とだな…665ページまでだ」

「「「「「「「「「「「「「「(あ、あぶねぇ…)」」」」」」」」」」」」」」」」

このメンバーが初めて心が一つになった瞬間だった…。

「ギリギリじゃないかっ!?」

「危うく暴走する所だったよっ!?」

「しょうがねぇじゃねかっ!知らなかったんだからっ!」

「それでも私達に報告する物だろうっ!?なんだ665ページって!」

「だから気を利かせて残り一頁で戻って来たんじゃねぇかっ!」

「その気遣いが無かったら世界は破滅していたのか…奇跡だな」

「私、初めて神様が居るんだって思ったわ…」

「大袈裟よエイミィ…とも言えないわねこれは」

本当に。神様、貴方様の気まぐれに感謝します…。

「とんだドッキリだったけど…そこまで完成してるんなら話は早いわ。結構は明日!それに全てに決着を付けます!」

リンディさんの号令に、一斉に返事が返って来る。

物語は、終盤に向かおうとしていた…。


















~今日の駄目駄目シグナム~


※このおまけは、本編には一切関係なく(此処重要)。キャラクターの性格が大きく異なっているのため、読者様の気分を害す可能性があります。ご注意下さい。





「リインフォース、管理者権限を使えば私達のプログラム書き換えは出来るのだろうか?」

「?可能だがどうした?その身体に何か不服でもあるのか?」

「この母性溢れる胸で彩を包みこむ。これ以上の無い至福な一時だが……少しある」

「何だ?」

「同性では結婚出来ないでは無いかっ!」

「…(何言っているんだこいつは?)」

「ハラオウン艦長はあのエロノ執務官とか言う息子とくっつけさせようとしていると言う話ではないかっ!このままでは拙いのだっ!彩を幸せに出来るのは私しかいないっ!」

「クロノ執務官だ…(駄目だコイツ早くなんとかしないと)」

「こうなったら奴のナニを切り落としてグズの家系を断ってやるっ!」

「何剣を持って物騒な事ほざいているっ!?止さないかっ!?」

「放せリインフォースっ!彩のためなのだっ!」

「何が彩のためかは知らんが私は今決意した!絶対にお前は男性にはさせない!それが彩のためだと今確信したっ!」

「何を言っている女性の姿のままに決まっているだろうっ!母性で包んでやれないではないかっ!」

「貴様自分に何を生やそうとしていたっ!?」


お粗末さまでしたorz









あとがき

…何も言うな。

こんばんは!&おはようございます&こんにちは!金髪のグゥレイトゥ!です。

シグナムさんが色々と容赦ないですがまあ気にしない。シリアスかギャグなのか分からないがまあ気にしない。スランプ気味だがまあ…気にしよう。

次回は闇の書事件決着です。その後は平穏な日常や、外伝の様な物を書いて行こうかなと思います。EDはクリスマスパーティの予定。

…あと、コードギアスとネギまを気分転換程度に書いています。一話の完成度はコード2/4ネギま1/4程度でしょうか。完成次第此処かチラシ裏で投稿予定です。あくまで予定です。

私の執筆テンションは面白いSSによって上がります。今はコードギアスで面白いSSが連載してるのでテンション急上昇中。

ギアスのキャラも描けたけど、原作の絵には似せられなかった…細すぎだよ原作…。



[8923] 魔法少女リリカルなのはA’S ~盲目の少女は何を見るのか…~ 第十一話
Name: 金髪のグゥレイトゥ!◆60293ed9 ID:1667c937
Date: 2010/05/08 05:18
「例の作戦、間もなく開始する様です…」

「聞いたよ。クロノから直々に報告があった」

「「…」」

「すまないな。あの怪我で任務を継続させてしまって」

「いえ…」

「お父様。今ならまだ間に合います!お父様が命令して頂ければ直ぐにでも任務の妨害をっ!」

「ロッテ…私は悲劇を繰り返さないために此処までやって来たんだ。復讐のためではないよ?」

「でも!」

「もう、終わりにしよう。悲しみの連鎖を…」

きっと彼もそうしていただろう。

私は、嘗ての部下の最後を思い出す。笑顔で逝った部下。未練はあったろう。愛する妻と息子を残して逝ったのだ。だが、彼の笑顔は多くの命を護ったという誇りで満ちていた。彼はきっと復讐を望んでいない。私だってそうだ。

「クロノが事件が終わったら伺いたい事があるそうだ。きっと八神はやての事についてだろう」

ヴォルケンリッターの共闘案が出てすぐに水無月彩への襲撃。クロノはそれを不審に思ったのだろう。地球の臨時司令部を知っているのは管理局の人間のみ。ヴォルケンリッターもその存在を知らなかったとなると身内を疑うのは当然と言える。それに八神はやての身元引受人を調べてしまえば直ぐに分かってしまう。

「お父様は何も悪くないっ!」

「いいや、罪の無い少女の未来を奪おうとした。鳥かごに閉じ込め孤独な思いをさせた。これ以上に無い罪だ」

「でも、それには理由が…」

「どんな理由があろうと、幼き少女を殺して良いという理由にはならない…分かっていたんだよ。こんな事はしてはいけないって事ぐらい」

だが、私にはこれしか方法を思い浮かばなかった…。

でも違った。あのイレギュラーは、水無月彩はゼロに等しい状況から最良の選択を探し出した。友を救いたいと言うだけの単純な思いで…。

時代は移り変わるもの。古き者は用無しと言う事だ。なら託そう。未来を、デュランダルを。せめて、若き者達が輝かしい未来を掴み取る事を願おう。

デュランダルは既にクロノに渡してある。彼なら上手くアレを使ってくれるだろう。良い方法で…。

『どうもグレアム提督。お久しぶりだね』

「「「っ!?」」」

「君は…」

意外な人物からの通信に目を丸くする。

「どうしたんだね?突然…」

私の知る限り、彼は出所後行方知れずと聞いていたが…。

『いや何、私の最愛の妻が貴方にどうしても頼みたい事があるらしくてね』

スーツしっかりと着こなした男は以前とは想像が出来ない程爽やかな笑みを浮かべながらとんでもない事をほざいてくれる。

妻、だと…。

「結婚していたのかね君は…」

奥さんも随分物好きな物だ。戦闘機人で13人の妹を造った元犯罪者もとい変質者と婚約を結ぶなど…。

当時の新聞記事を思い出しただけでも頭が痛くなる。逮捕したのが私と言うのだから尚更だ。

『婿養子だがね。義父上殿から会社を引き継ぎ頑張っているよ。家族にも恵まれて来年には春には子供が生まれる予定さ。養子が13人も居るのに大家族だねぇAHAHAHAHA!』

別にそんな事聞いていないのだが…。

それにしてもムカツク笑い方である。

『話が逸れたね。で、頼みと言う事なのだが…』

彼が話した内容に怪しみにながら耳を傾けると、その内容にまた目を丸くし、しばらくした後大きく頷き一人納得をする。

「ふむ、成程…分かった」

どう言う経緯で知り合ったかは知らんが、老人が一つ余計な世話を焼かせて貰うとしようか。

「アリア、ロッテ…やって貰いたい事があるんだが…」

彼女には、最後まで見届ける義務がある。
















第11話「悪夢の終わり、なの」















――――Side Sai Minaduki
    12月8日 AM 10:30
    ハラオウン家




「お留守番、ですか?」

昨日から一夜明け、私はリンディさんの家に訊ねると、なのはちゃん達やはやてちゃん達の姿は無く、リンディさんだけが家で私を待っており、突然私にそんな事を告げてくる。

「ええ、この戦いはとても危険な物になるでしょうから。貴女を連れて行く訳にはいかないの」

「で、でも!遠くで見守るとかは…」

リンディさんだってアースラのブリッジで指揮を執ると言っていた。なら私も…。

「何が起こるか分からないから…それは許可できないの」

それは分かる。とても良く分かるのだが…。

「私が一緒でも駄目ですか?」

私の足元で待機しているアイリスがリンディさんに問うが返って来るのは同じ答え。『NO』だ。

「貴女の実力はシグナムさんに聞いているけど…彩さんが、ね」

「足手纏い、ですか…」

この身体だ。そう思われても仕方が無い。でも、ここまで関わったら私も最後まで見届けたい。この事件の結末を。破滅か封印。それとは別の答えを導き出した者としての責任もある。

「どうしても、ですか?」

「貴女は此処まで頑張ったわ…だから、後は私達に任せて、ね?」

どうやらリンディさんも譲るつもりは無いらしい。多くの命を背負っている。彼女にも立場と言う物があるのだろう。

「…はい」

私は大人しく引き下がる。リンディさんを困らせても仕方が無いだろう。

私は玄関までリンディさんに送られ、一歩外に出ると直ぐに振り返りリンディさんに一つだけお願いをした。

「皆で、帰って来て下さいね?」

「ええ、その時はパーティでもしましょうか?」

「祝勝パーティですか?良いですね」

「それじゃあ…また、後で」

「…はい、また後で」

パタンとドアの締まる音、そしてその後直ぐドアの向こうからはリンディさんの気配が無くなってしまう。アースラに向かったのだろう。

「…」

「母様…」

「少し時間が空いてしまいましたね。そう言えば最近図書館に行ってませんでした。少し付き合って貰えますかアイリス?」

本を読んでいれば少しは気が紛れるだろうと思い。私は悔しい気持ちを抑え込み、無理やり笑顔を作りアイリスに微笑みかける。

「…はい。何処までも御供します」

アイリスは何も言わない。私の気持ちを知っていても、知っているからこそ何も言わない。彼女は私と共に歩くのみ。

「でも犬の姿では入れませんね。アイリス、人の姿になって下さい」

「はい」

隣で魔力が膨れたかと思うと右手に小さな手の指が絡まってくる。

「人の姿になるのはこれで二度目ですね」

「家にはお父様とお母様がいますから滅多に人の姿にはなれませんし…すみません、肩身の狭い思いをさせて…」

「構いません。子犬の姿の方が私としては役得ですし」

「え?」

「お母様に抱きしめて貰えます。これは私のだけの特権です!」

はっきりと宣言するアイリスに私はきょとんとするが、直ぐにそれは笑みへと変わりくすくすと笑いだす。

「…ふふふ♪そうですか♪」

「そうなんです!」

気を遣ってくれているのか、それとも唯本心を言っているだけなのか、どちらにしても先程まで落ち込んでいた気持ちは少しだけ紛れていた。

「行きましょうか?」

「はい!」

手を繋いだまま私達は歩き出す。心の端には大きな不満と不安を忍ばせて…。









――――風芽丘図書館






「初めて来ましたが、大きいですね…」

「ですね。今まで色んな所に引っ越して来ましたが、この規模は珍しいです」

そう言うと私達は図書館の中へと入って行く。







「…っ!」

本を読み始めて30分は経過しただろうか。幾ら本を読んでも、読書に集中出来ない。頭の中はなのはちゃん達の事で9割以上占められていた。心配、不安、自分の無力感、疎開感、それらの全てが私の中で蠢いている。

分かってる。私が行っても何も意味が無い事ぐらい…。

目の見えない私が一緒に行った所で何もならない。寧ろ邪魔なだけだろう。シグナムさん達の力を疑っている訳でも無い。あの人達は強い人だ。約束通り必ず帰って来ると信じている。唯悲しいのかもしれない。一人蚊帳の外にされるのが…。

危険な事ふだというのは分かってる。私のためだと言う事も分かってる…。

でも、最後まで見届けたかった。例えこの目が何も映さなくても…。

「母様…」

「…」

心配そうなアイリスの声に私は何も返す事は出来ない。唯俯くばかりだ。

「あら?珍しく今日は一人…じゃなくて初めて見る子も一緒ね。お友達?」

「…工藤さん?」

最早聞きなれた女性の声。此処で司書をしている工藤詠さんが此方にやって来て声を掛けて来る。

「どうも、こんにちわ」

「…」

アイリスは何も話さない。工藤さんに接しようとしない所か何かに警戒しているような怯える様な、そうな風に思える。

「あらあら…嫌われちゃったかしら?」

「いえそんな事は…アイリス?どうしたの?」

「…何もないです」

答えになって無い返答。アイリスは短く答えると何も話さなくなる。それでも敵意を放つのを止めはいない。工藤さんはそんな事気にも止めず私に話しかけて来る。

「それでどうしたの?落ち込んでいたみたいだけど?」

「…そう、見えましたか?」

「ええ、どんよりとした空気が貴方の周囲に漂ってました」

それはまたご迷惑をお掛けして…。

「それで、何があったの?お姉さんに話してみなさい。何か解決するかもしれないわよ?」

気持ちは嬉しい。だとしても、魔法の事を話す訳にもいかない。私は適当に話を誤魔化す事にする。

「いえ、お友達に置いてけぼりになっただけですから…」

「…ふぅ~ん」

嗚呼、疑われてます…。

「その目が関係してるのかな?」

「…まぁ、そうですね」

「その友達と一緒に行きたかった?」

「…はい。でも、無理を言う訳にも行きませんから」

「貴女がそれで良いの?」

「…」

「不満は?」

「あります…でも」

私が行っても邪魔になるのは事実だから…。

私には『力』が無い。

私が望むのは『平穏』他人を傷つける『力』なんていらない。でも、今だけはそれが欲しいと…都合の良い事ばかり考えていた…。そんな事、許される筈が無いのに…。

「しょうがないって?貴女の顔にはそう書いては無い様だけど?」

「っ!?」

慌ててぺたぺたを自分の顔を触る私に、工藤さんは可笑しそうに声を殺して笑う。此処が図書館で無ければそれはもう盛大に笑い声を上げていただろう。

「ぷっ!くくくくっ!…本当に顔に書いてある訳無いでしょう?可愛いわねぇ」

「…っ!///」

「ごめんなさい。でも、それで貴女は本当に良いの?後悔はしない?」

勿論納得はいって無い。だが私が行ってどうなる?恐らく彼女達は私が居なくても作戦を成功させるだろう。結果は変わらない。観客が居るか居ないかの差ではないか…。

「…」

「…まぁ、答えを決めるのは貴女次第。はい、コレ」

工藤さんは私の手を無理に引っ張りだすと、掌に何か小さな物を置いてくる。私はそれを手に取り形を確かめると金属で輪の様な形をしていた。これは…。

「指輪?」

「のように見える?」

「違うんですか?」

「まぁ、指輪何だけどね」

ガクッ…

工藤さんはどうも人をおちょくって楽しむ癖がある様だ…。

「でもこの指輪には不思議な御呪い(プログラム)が籠められてるの」

「御呪い、ですか?」

まさかつけたら取れ無くなる呪いのアイテムじゃ…。

「何を想像してるかは知らないけど、呪いとかそんなんじゃないからね?」

な、何故私の考えた事が…。

「その指輪の名前は『リンク』。きっと貴女がその御友達のために何かしたいと願った時に応えてくれる筈だから」

「はぁ…」

「あら、信じて無い?フフフ、まあいいけど…それじゃあ、私は失礼するわね」

私の頭をぽむぽむ軽く叩くと、工藤さんはこの場から去って行く。

「ああ、最後に確認」

と思いきや、足を止めて私に最後にと質問して来る。

「行きたいの?行きたくないの?どちらか答えて」

真剣な声。多分、工藤さんは私の本当の気持ちを聞いているのだろう。此処は真実を答えなければいけない。なんとなく、私はそう思ってしまった…。

「…行きたいです」

「…そっか」

短い返事の後、工藤さんは今度こそこの場から何も言わずに去って行く。一体、あの人は何を言いたかったのだろう?

「…あの女性は」

「アイリス?」

「…いえ」

先程から様子のおかしいアイリス。工藤さんの事を気にしていた様だが…。

「それより母様。その指輪何か変わった所はありませんか?」

変わった所と言われても、私指輪なんて触った事なんてお母様の婚約指輪を興味本位で触らせてもらったぐらいしかないのだが…。

とりあえず慎重に用心深く指先を動かし指輪を確かめてみる。何の模様も飾りも無いリング、金属独特の感触、指で軽く弾くとキィンと言う音が私の耳に届く。そしてそれによって私の導き出した答えは…。

…分からないです!

工藤さんは何が目的で私にこんなものを渡したのだろう?

「…特にコレと言った特徴も無いですし…唯のリングですね」

「そうならいいのですが…っ!?」

「?」

何かに驚いた様な声を上げるアイリスに私は何事かと首を傾げるが、それは直ぐに理解する事になる。

近づいて来る2つの足音。図書館の中には何人もの利用者が居り、複数の足音が存在するが、聞こえて来る足音は私に向かって真っ直ぐに近づいて来ている。そしてこの気配。私はこの気配を持つ人につい最近あった事がある。

「…仮面さん?」

「だから、仮面じゃないってば」

聞こえて来たのは予想を反して女性の声。初対面の人にとても失礼をしてしまった。その女性の声を聞いて慌て頭を下げて謝る私。この気配、仮面の人に似ていたのだが…。

「す、すみませんっ!見ず知らずの方に失礼な事をっ!?」

「…謝る必要ありません母様。こいつ等は昨日母様を襲った連中で間違い無いですから」

「え?」

でも、仮面の人は男性だったような…。

「私は母様より更に鼻が良いです。騙されるとでも思っていたんですか?」

敵意剥き出しの言葉を二人に放つアイリス。しかし、アイリスの言う事を疑う訳ではないがこの人達が昨日の仮面さん達だなんて…。

「騙すつもりはないわよ。これが元々の姿。それに昨日の姿で来ちゃうと通報されちゃうじゃない」

「流石に、此処の世界の警察に補導される訳にはいかないんだよねぇ」

「自分達が怪しい恰好をしているのは自覚してたんですね。良かったです。あれがカッコいいとか思っている趣味が悪い連中だったら母様の半径1km以内に近づけさせませんでした。趣味がうつります。母様には美しい姿でいて貰いたいので」

ア、アイリスが毒舌です…。

「さ、流石にそれは心外なんだけどなぁ~…」

「もしかしてアレが少しでもセンスが良いと思っていたので?それは悪い事を言いました。すみません。謝るので母様から離れて貰います?」

「こ、この餓鬼っ」

「ロッテ落ち着きなさい…」

「ア、アイリスもっ」

ふるふると震える声で怒りを堪えるロッテと呼ばれた女性。これ以上何か言ったら即爆発してしまいそうだ。とりあえず私もロッテさんの御連れの人と同じくアイリスを宥めておこう。

「「…ふんっ!」」

見えませんが、きっとお互いにそっぽ向きあってるんでしょうね…。

頬を膨らませて視線を合わせようとしない二人の姿が容易に想像が出来る。

「話が逸れましたね。あの、どう言った御用件で?私達を邪魔をするのが目的でしたらもう…」

「知ってる。もう邪魔をするつもりは無いよ」

「だったら…」

なんで私に会いに来たのだろうか?もしかして報復…。

「私達は、貴女をお友達の許に連れて行くために此処に来たの」

「「っ!?」」

彼女が言った台詞は、私の予想を大きく上回る内容だった。私はその言葉を聞いて目を大きく見開き驚くが、直ぐに冷静さを取り戻し、目を細くして彼女に問う。

「それは、足手纏いの私をなのはちゃん達の許に連れて行くと言う事ですよね?それは邪魔をすると同義だと思うのですが?」

「ありゃりゃ、何言ってるのかねこの子は…」

あの、ぺしぺし頭を叩かないで下さい。というか何で皆さん私の頭を叩くんですか?叩きやすい位置にあるんですかそうなんですか?

「アンタは私達の邪魔をした。なら、責任を取って貰わないと」

「…何をするつもりだ?」

…アイリス、口調が怖いです。

さも言う私も少し視線が鋭くなっているかもしれないが…。

「アンタは元々あったシナリオを狂わし書き変えてしまった」

「貴女はこの物語を見届ける義務がある。紡ぎ手であり読み手である者の義務が、ね」

「…私に何をしろと言うんです?」

「何も、私達は貴女に唯見届ける事を望んでるだけ。それ以外は貴女の好きにすれば良い」

「…」

嘘は吐いていない様だ。でも、この人達の意図が読めない。私に何をさせたいのだろう?

「…母様を危険な場所に連れて行って危険な目に遭わせようとしてるとしか思えません」

「そのための使い魔でしょ?」

「他人任せですか。無責任ですね」

「貴女達に言われたくないわね。此処までシナリオを壊しておいて」

「っ!」

「それこそ貴女方の都合でしょう?母様は助けたい人のために頑張っただけの事です。貴女方にどうこう言われる筋合いはありません」

「そう?まぁ、良いけど…でもどうするのかなぁ?フェイトちゃんだっけ?あの子まだ全快じゃ無いのに…」

「え?」

「リンカーコアを蒐集されたのは昨日だからね。昨日の今日で回復する訳無いじゃない」

「そんな…」

「それで母様に何をしろと?フェイトさんの代わりに戦えと?」

「さぁ?私はそこまで聞かされて無いから」

「聞かされて無い?」

「そっ!まぁ、誰かは教えられないけどね」

「…」

「ますます怪しいですね。正体を明かさない人の言う事を従うとでも?」

「使い魔に聞いてるんじゃないわよ。私は主である水無月彩に聞いてるの」

「私に…」

「私が聞きたいのは行くのか行かないのかその答えを聞きたいだけ。どうするの?」

「…」

同じだ。先程の工藤さんの質問と。偶然なのだろうか?それとも、この二人に命令したのが工藤さんと言う可能性も…いや、だったら何でさっきそれを私に言わなかったのか。わざわざ二人に伝言を頼まなくても自分から伝えれば良いのにだ。それにアイリスが工藤さんを警戒していた。これも偶然?それは余りにも都合が良すぎる様な…。

「工藤 詠さんに頼まれたんですか?」

「「?」」

思い切って訊ねてみる。しかし二人は予想と違う反応を示す。

「誰?その人」

「私はそんな名前の人は知らないけど。この世界の人の知り合いはあんまり居ないし…」

私の勘違い?それとも二人が嘘を言っている?どちらだろうか。私には二人が嘘を言っているようには思えないのだが…。

「その人が何処の誰かは知らないけど、行くの?行かないの?早く答える3,2,1、はい!」

「い、いきます!連れて行って下さいっ!」

いきなり制限時間を付けられ問答無用で迫られた私は、慌ててちゃんと考えもせずに答えてしまう。

「はいOK♪んじゃ、行こうか」

掴まれる腕。はんば強引に引っ張られ椅子を倒しながら私は立ち上がり図書館の出口へと走り出す。

「ちょっ、まっ!?」

「時間が無いから急ぐよ~!」

「待ちなさいっ!母様を何処に連れて行くつもりですかっ!?」

「さっき言ったでしょう。オ・ト・モ・ダ・チの所よ」

彼女がそう言うと同時に私の身体は浮遊感に囚われ、図書館から一歩出た瞬間海鳴から姿を消した…。














――――Side???









「良かったのかい?君から聞いた彼女の性格からして争い事は向かない様だが…」

「良いんじゃない?彼女の本心では事件に関わりたかったようだし…それに、何も出来ないで待ってる方が辛いでしょう?」

「やけに彼女に入れ込むじゃないか…何故だい?」

「…何でかしら?他人の様な気がしなかったからもしれないわね」

「他人の様な気がしない?どう言う事だい?」

「さあ?私が聞きたいくらいよそれは」

初めて彼女に会った時、何か引かれるというか繋がっているというか、なんとも言えない妙な感覚に囚われた。今までに会った事は無い、全くの初対面だ。だと言うのに、私の足は彼女の許へと向かっていた。無意識にだ。

「運命、かしらね…」

「ほう?それは素晴らしいね。私も運命を信じているよ!きみと出逢えた事もまた運命さっ!」

隣で無駄に騒がしい夫を無視して少女が消えた場所を無言で眺める。恐らく、私が彼女に話しかけるのは今回で最後だろう。夫の事はもう終わった事だが、管理局に目を付けられたら色々と面倒だ。私も『平穏』を望んでいるのだから…。

だから、最後にこれだけは言わせて…。

「どうか、ハッピーエンドでありますように…」

私の呟きは、雲一つ無い青空に消えて行った…。













――――Side Signum
    12月8日 AM11:40
    管理外世界:荒野




「…」

誰も居ない荒野に私達は佇む。何も言わず、ただ黙って時が来るのを待つ。それは作戦の開始時間。この長き戦いの終焉を告げる時間…。

彩…。

私の思考は一人の少女に埋め尽くされていた。

平穏を願い、自分の身を挺して私達の幸せを願った少女…。

もうすぐだ。もう直ぐ終わる。そしたら、また一緒に遊ぼう。あの時の約束を果たそう…。

「…そろそろ始めようか」

長い沈黙をクロノ執務官が破る。それは、作戦の開始を意味した。

一斉に各々のデバイスを起動し騎士甲冑を、バリアジャケットを身に纏う。

「…フェイト。本当に大丈夫なのか?アースラで待機した方が…」

「大丈夫だよクロノ。少し魔法か使い辛くて、身体が重たいだけだから」

それはこれから始まる戦いにとっては致命的なもおとなるのだが…。

確かにテスタロッサの魔力は異質だ。他の魔導師に比べるなど馬鹿馬鹿しくなる位の…。例えそれが本調子で無くても並みの魔導師ではテスタロッサの相手に為らないだろう。だが、今回の相手は並みじゃ無い。異常なのだ。一瞬の油断が命取りになる相手なのだ。

「シグナム。大丈夫だから…私が、私達が彩の分まで頑張らないと」

「…そうだな」

此処には居ない少女の名前をテスタロッサが言うと、この場にいた全員が反応する。やはり置いて来たのが心残りなのだろう。だが、それは皆の相違なのだ。これ以上彩の平穏を壊す訳にはいかない。あの優しい少女に戦場の空気を吸わせてはいけない。慣れさせてはいけない。

「闇の書の項は残り1ページ。収集する対象だが、本局から許可を得てこの魔物を蒐集する事となった」

そういうとクロノ執務官はポケットからボールの様な物を取り出して私達に見せて来る。

「「「「「「「?」」」」」」」

ボール、としか言い様の無い丸い球体。これが収集対象とでも言いたいのだろうか。

「ある管理世界の博士から3つのボールの中から一つ好きな者を選べと言われてね。散々迷った挙句このボールを選ぶ事にした」

こいつ、何気に主人公の権利を得ていないか?

「も、モン○ターボール…実在したんだね。驚きだよ」

「知ってるのか雷dんじゃなかった…なのはっ!?」

妙なテンションで高町に訊ねるヴィータ。お前は今何を言おうとした?

「確かこの中央のボタンを押せば…わわわっ!?出て来たよっ!?」

パカリとボールの蓋が空いたかと思えば赤い光が飛び出し地面へと着地する。そして、光から現れたその姿は…。

「ピ~カ~ピ○チュウ♪」

「きゃ~♪ピ○チュウだぁ♪」

黄色い鼠を見た途端、黄色い鼠に黄色い悲鳴を上げながら抱き着く高町。

「…何故かな?この子とは何か近しい物を感じるよ」

「電気鼠だからな」

成程、凄く納得した。

「…充電出来るかな?」

…幾ら不調だからと言って電気でリンカーコアを充電できる訳無いだろう。

「そろそろおふざけは終わりにしろ…始めるぞ」

ザフィーラが一歩前に出て来るとピ○チュウを口に咥えてシャマルの前に連れて行く。

「ピカ?」

「えっと…罪悪感が…」

「今更だろうがよそれは」

「今までどれ程の魔獣を蒐集して来たと思っているんだ?確かにこんな可愛らしい魔物は初めてだが…」

「…シグナムは全然平気そうだね?」

テスタロッサが不思議そうに私に聞いて来るので、私はキッパリと思っている事を口にする事にした。

「彩以上に可愛らしい物は無い。故に罪悪感など感じん」

―――………。

世界が停止する…。

「…?どうした?」

「おめぇ…そこまで…」

「妙に彩ちゃんに熱心だと思ったけど…」

「…病気だな」

「あははは…愛は人それぞれだよね」

「物は言い様だな、ユーノ」

「…うるさいよ」

周りの反応が妙だが…何か可笑しな事を言っただろうか?

「あのさ、いい加減始めないかい?」

痺れを切らしたアルフに指摘しされ、漸く作戦を開始する私達。

「では、蒐集します…」

「ピカ~♪」

「ごめんなぁ?私達の勝手な都合で…」

主が鼠の頭を撫で頭を垂れる。そんな主を見て鼠はピコピコと主の許へ近づき下げられた頭をぺしぺしと叩いて笑った。

「ピ○チュウ~♪」

気にするな。こちらが勝手に解釈しただけかもしれないが、私にはこの鼠はこう言った様な気がした…。

「ごめんなさい…蒐集!」

シャマルが闇の書を手にそう告げると同時に、鼠からリンカーコアが摘出され、闇の書がそれを蒐集した。ページは666項。それは闇の書の完成を意味していた…。

「「「「「「「っ!?」」」」」」」」

闇の書から黒い光が溢れ出し、膨大な魔力が膨れ上がって行く。これは…。

「暴走が始まっているっ!」

そう、暴走だ。これまで幾多の戦いの果て、それを何度も私達は経験してきた。そしてその最後は必ず破滅が待っている。このままでは主はやては今までの主の様に…。

「はやて!」

「うん!私の出番やなっ!?」

闇の書を、ぎゅっと両腕で抱きしめ目を閉じる主。しかし、黒い光は止まらない。寧ろ書から溢れ出して来た闇が主を包んで行っている…。

「はやてっ!?」

「駄目なのかいっ!?」

「いや、まだだよっ!たぶんこれは、闇の書が持ち主を主と認証するための前段階何だと思うっ!それより皆離れてっ!闇に呑まれるっ!」

「馬鹿言ってんなっ!はやてを見捨てれる訳ねぇだろっ!?」

「ヴィータちゃん落ち着いてっ!今はユーノ君の言う通り離れてっ!」

「っ!」

高町に止められ引っ張られる形で主から離れるヴィータ。私達も闇から逃れるため主から距離を離す。

闇が完全に主包み込み、黒い球体となる。此処までは今までと同じ、彩の…私達の予想が外れれば、闇の書は主を喰らい、暴走を開始するだろう。

そうすれば…私達はどうなるのだろうな。

主の消失と共に消えるのか?それとも、闇の書の消失と共に?どちらにせよもうあの幸せな生活には戻れない。主と、家族と、彩と微笑み合っていた頃には戻る事が出来ない。つまり、今の私の死だ…。

それは、嫌だ…。

今の生活を失うのは嫌だ。今の暖かな感情を失うのは嫌だ。これから訪れるであろう未来を失うのは嫌だ…。

主…。

「お願いします…」

護るべき主に縋るなど守護騎士として言語道断。だが、今は…今だけは縋らずにいられなかった…。










――――Side Hayate Yagami

    ???





暗闇の世界。全てが暗闇に支配され暗闇しか存在しない世界。その世界には何も無く、私は唯一人闇の中を漂っていた…。

此処は…闇の書の中?

『その通りです。我が主…』

突然暗闇の世界に響く凛とした女性の声。私はこの声を聞いた事がある。銀髪で真紅の瞳を持つ女性。そう、彩ちゃんが言っていた闇の書の管制人格だ。

「アンタが闇の…夜天の魔導書さんか?」

『…その名で呼んでくれるのですね』

「彩ちゃんが教えてくれたんよ。それで、夜天の魔導書さんを助けてって頼まれた」

『そうですか…彼女が』

夜天の魔導書は何処となく嬉しそうに呟く。

『此処に主が来たという事は…見つかったのですね?』

「うん。彩ちゃんが頑張ったからな!」

『…ありがとうございます。主』

「辛かったやろ?勝手な都合でプログラム書き換えられて、危険物扱いされて…名前を変えられて…」

『はい、はい…っ!』

夜天の魔導書は何度も頷くと瞳から涙を流す。それは悲しみからなのか、嬉しさからなのか私には分からない。永遠の時の中で苦しんできた彼女の気持ちを私が理解出来る筈が無い。でも、その苦痛から介抱してあげる事は出来る…。

「終わりにしよ?今度こそ終わりに…もう、誰にも闇の書何て呼ばさへん。災厄扱いさせへん。今日、此処でアンタは生まれ変わるんや」

『主?』

「だから、新しい名前をあげる。災いやなく。皆に祝福を与える存在に…」

私は彼女に手を伸ばし彼女の涙で濡れる頬に触れる。

「祝福のエール…リインフォース」

闇が、悪夢が晴れる…。










――――Side Signum






「何も起こらないじゃんか…あの中はどうなっているんだよっ!?」

あれからどれ程の時間が流れただろうか?10分?それとも30分?いや、それ以上か。どちらにしても主を包みこんだあの漆黒の球体には一切の変化は見られない。

「駄目だっ!前例が無いから何が起こるか分からない。アレに触れるのは危険すぎるっ!」

スクライアの言う通りだ。今まではこの様な事など無かった。だからこそ何があっても可笑しくない。些細な行動でも、それが原因で大惨事を引き起こす原因になりかねないのだ。

「…私達には、唯見守る事しか出来ないんですね」

「でもっ!」

「ヴィータ、主を信じろ」

それに、我等には祈る他出来る事は無いのだから…。

「む~っ!叩き割るって方法は…」

「アルフ、大人しくしてようね?」

「わ、わかったよぉ…」

とんでもない提案はアルフの主であるテスタロッサにより阻止される。無論、誰も賛同する筈も無いが。

「でも、結構時間が経ってるのに何にも変化が無いと…」

「はやて…大丈夫かな?」

「大丈夫に決まってんだろっ!」

「ヴィータちゃん…うん、そうだよね。きっと大丈夫だよね」

『でも、あの球体の魔力値はドンドン上昇してる』

アースラで此方の状況を見守っているエイミィが会話に参加して来てそう告げて来る。

「ああ、もう暴走段階に入っているのか…それとも」

「はやてちゃん?」

「ああ、はやてが何か仕出かしている可能性もある…が、恐らく前者だろうな。浸食のスピードは遅いが前回の闇の書事件の暴走時と似ている」

「…」

それを聞いてこの場に居る全員が表情を歪める。もし、主が管理者権限を取得するのに失敗すればその先待っているのは前回と同じ結末。つまりそれは…。

「…お前達、そろそろ気を引き締めろ」

「ザフィーラ?」

「…始まるぞ」

静かに、しかし力強さの籠るその声でザフィーラは告げ、そして一斉に球体へと視線が集まりそれは起こった。

「…あ、球体にっ!?」

「…罅?」

球体のからピシリと音を立てて亀裂が入る。それはまるで雛が卵を割って出て来る姿を重ね合わせてしまう様な光景…。

出来た罅の隙間から光が漏れ出し、段々とそれが広がり始める。

中央から出て来た罅は徐々に上へと昇って行き。そして、天辺に辿りついた瞬間…。

白い光が球体を突き抜き、天へと昇って行ったのだ。白い光の後を目で追いこの場に居る全員が空を見上げる。そして、皆の視線の先にあったものは…。

「主っ!」

騎士甲冑を身に纏った主の姿だった。

「はやてっ!はやてええええっ!」

主の姿を見た途端主に向かって飛び出し、抱き着くヴィータ。主はそれを笑顔で迎え入れると両手でそれを抱きしめ優しく頭を撫でた。それを見てこの場にいた者達は次々に主の許へ駈け寄って行く。

「良かったぁ、良かったよぉ…はやてちゃん」

「頑張ったね。はやて」

「やったじゃないかっ!」

「はやてちゃん…やりましたねっ!」

「流石です。主」

「良くぞ御無事で…」

「嫌やなぁ…皆褒め過ぎやで?」

皆に囲まれ、四方から褒められ照れる主。そんな微笑ましい光景に場の空気が軽くなるがまだ終わった訳では無い。これからが本番なのだ。

「すまないが話は後だ」

「クロノ、空気読もうよ…」

「だから!そんな事言ってる場合じゃないんだっ!見ろ!球体をっ!」

クロノ執務官が指差す先には、割れた部分から先程とは違いどす黒い靄が物凄い勢いで噴き出している球体があった。

『あれが、切り離されたバグの部分です』

この声は…。

「リインフォースや。新しい家族やで?」

「…成程」

「良かったわね?新しい名前を貰って」

『…はい』

「これより切り離されたバグを破壊する。皆、覚悟はいいな?」

「うん!」

「了解」

「…始まったか」

静かに呟かれたザフィーラの言葉が、始まりの合図となった。

球体から溢れ出した黒い靄が少しずつ収束して行き、異形の姿へと形を変えていく…。

「球体の形が…変わってる?」

「…暴走が始まる」

今までに蒐集して来た化け物が影響しているのか、所々に見覚えのある物が存在する。頭部、背中にある翼、鋭い爪、牙、身体の彼方此方から触手。そして、中央には女性を象った…いや、あれは。

「…彩?」

馬鹿な…何故?

『…恐らく、彼女の魔力が大きく影響しているのでしょうね。項を100も埋める魔力です。何ら不思議ではありません』

「うわ、やり難ぇ…」

「彩本人じゃ無い。戦闘に集中するんだ」

「だけど…」

「…」

なかなかに厳しい事を言う。此処に居るの人間の殆どが彩と親しい物ばかりだと言うのに…。高町達も彩に瓜二つのアレに戸惑っている。あの状態では大きなミスを仕出かしてしまう可能性がある。それは死に繋がる。しかし、だからと何もしないと言う訳にもいかない。何もしなければ此方がやられるのだから。仕方ないと私は戸惑う高町達声を張り上げて喝を飛ばす。

「どうしたっ!?彩との約束を忘れたのかっ!?帰るのだろう?彩とまた遊ぶのだろうっ!?」

そう、彩が待っているのだ。私達の無事を祈って。ハラオウン艦長からパーティの話を聞いている。帰ったら彩を一緒に皆で楽しむんだ。それが彩への恩返しなのだ。

「彩が…待って居るんだぞっ!?」

「「「っ!」」」

空気が変わる…。誰もが武器を握り締め、情け無い表情から戦意に満ち溢れる表情へと切り替える。

「…やるよ、彩ちゃんが待ってるもんっ!」

「だね。今月末にはクリスマスパーティが控えてるんだっ!まだプレゼントも買って無いっ!」

「そうやなぁ、何買お?彩ちゃん、喜んでくれるやろか…」

「はやて、その前にコイツぶっ潰さねぇと」

「そうですよ。話はその後です」

…それで良い。

戦う準備が整うと同時に、まるで待ってかの様にバグ…闇の書の闇が、彩の形を象ったモノが唄い始める。まるで、苦しんでいるかの様に、悲しんでいるかの様に…。

「闇の書の闇…か。醜い姿だ」

まるで、夜天の魔導書を狂わした者の心を再現している様だ…。

「終わりにしよう…」

この繰り返される悲劇を、狂った運命を、此処で終わらせる。私達の手で。

戦いが始まる。最後の戦いが…。

「チェーンバインドッ!」

「ストラグルバインドッ!」

「縛れ!鋼の軛っ!」

何も無い空間から鎖と縄が、地面から青白い柱が突然現れて触手を拘束し、引き千切り、貫く。いきなりの先制、それによって奴の動きが一瞬止まる。

…動きが止まった!

「ちゃんと合わせろよっ!高町なのはっ!」

「ヴィータちゃんもねっ!」

ヴィータの言葉を合図に、高町達の攻撃が開始される。

「鉄槌の騎士ヴィータと!鉄の伯爵グラーフアイゼンッ!」

カートリッジをリロードし、グラーフアイゼンの形が大きなハンマーへと変形する。ヴィータがそれを振りかぶるとそれは更に大きくなり闇の書と並ぶほどの巨大なハンマーへと変貌する。そして、ヴィータはそれを敵に目掛けて振り下ろした。

「轟天爆砕ッ!ギガントクラークッ!!」

振り下ろされた鉄槌が、敵の防壁に激突。その激しい攻撃に耐えきれず、防壁に罅が入り音を立てて砕け散る。まずは一枚目。残るは3枚の防壁。

「高町なのはと、レイジングハートエクセリオン!行きますっ!」

そう名乗りを上げると、杖を天に掲げる高町。それと同時に足元に魔法陣が展開し桃色の光を放つ翼が高町の足に、杖に現れる。

「エクセリオン…バスタァーーーッ!!!」

魔法の名を叫ぶ高町だが、闇の書は攻撃をさせまいと鋭い先端を持った触手を伸ばし、高町にその複数触手を一斉に襲い掛からせる。質量を持った触手。幼い高町に当たれば当たれば致命傷は確実だろう。しかし、それは白き魔導師の相棒によって阻まれる事になる。

『Barrel shot.』

機械音と共に放たれる衝撃波。その衝撃波により触手共が引き裂かれ、闇の書の動きもその風圧によって封じてしまう。

「ブレイク…シュートッ!!」

膨れ上がる魔力の塊が5つに別れて一斉に闇の書に襲い掛かりまた防壁を破壊する。残り2つ…。

では、私が続くとしよう。

「剣の騎士。シグナムが魂…炎の魔剣レヴァンティン」

相棒を高く掲げる。陽の光を反射して輝く白銀の刃。我が半身にして我が魂…。

「刃の連結刃に続く、もう一つの姿…」

鞘を剣の柄合わせると同時にレヴァンティンの形が変化し弓へと変わる。

『Bogenform.』

弓を構え、右手に魔力を集中し矢を生成し闇の書に向けて照準を合わせ…。

「駈けよ!隼ッ!」

『Sturmfalken.』

魔力の塊である矢を放った。紫の光となって放たれる矢。一直線に飛ぶ矢は防壁に直撃すると巨大な爆発を起こし防壁を撃ち砕いた。

残り、1つ…。

「フェイト・テスタロッサ。バルディツシュザンバー…行きますっ!」

斧から金色の光を放つ大剣へ形を変え、テスタロッサは回転しながらその大剣を振り回しかまいたちを生み出し闇の書周辺の触手を薙ぎ払う。これで彼女の邪魔をする物は居なくなった。そう思われたが…。

私は、彼女の表情が苦痛に歪んでいるのを確かに見た。

まさかっ!?

「くっ…!(これだけの魔法で眩暈が…っ!)」

やはり無理をしていたのかっ!?

攻撃の手が止まる。一瞬だった。しかし闇の書にとってその空白の間は再生するには十分すぎる程の時間だった。

「フェイトッ!避けるんだっ!」

「…えっ?」

クロノ執務官の声に、漸く自分に向かって来ている脅威に気付く。何時の間にか再生していた触手が、テスタロッサに目掛けて振り下ろされていたのだ。

目前に迫る触手に、彼女は何もせず唯呆然とそれを眺めていた…。

「…っ!(駄目…魔力が上手く操作出来ない)」

「テスタロッサッ!」

「フェイトちゃんっ!?」

無意識に身体がテスタロッサの方へと駆け出すが間に合わない。余りに距離が離れ過ぎている。「無理か」誰もがそう諦めてしまう。しかし、そこに此処に居る筈の無い人物の声が響いてきた…。

『魔力は私が如何にかします。フェイトちゃんは防壁を』

「っ!?」

『Round Shield.』

直接に響いてくる少女の声。誰もがそれに驚くが、テスタロッサはこれまでの戦いの経験の御蔭か、無意識にその声に従い、前方に全力で防壁を展開する。しかし、現れたのはテスタロッサの魔力光である黄色の防壁では無く。薄い黄緑色の魔力光の、しかも驚異的な程の強固な防壁だった…。

激突する触手と防壁。とんでもない質量を持つ触手に、防壁は一切ぶれる事すら無く悠然と構えてテスタロッサの身を護っている。

あの魔力光。私は一度だけ見た事がある。いや、でもまさか…。

その魔力光を持つ本人は此処に居る筈は無い。しかし、先程聞いた声は確かに私の知っている人物と同じ物だった…。

『フェイトちゃん、もう一度攻撃を。魔力は私に任せて全力でお願いします』

「彩…なの?」

「何故此処に…いや、今何処に居るんだっ!?」

『見つけましたっ!皆から5キロ程離れた丘の上に居ますっ!何で?どうして此処にっ!?』

そうだ。彩は今は海鳴に居る筈だっ!何でこんな危険な場所にっ!?どうやって来れたっ!?

『話は後です。今は彼女を…解放してあげて下さい』

『…分かったわ。彩さんの説教は後にします。今は闇の書をどうにかしましょう』

『ありがとうございます』

「…お前達、今攻撃をされている最中だと言う事を忘れたのか?触手の数が1本から4本に増えているぞ」

テスタロッサの襲った触手は一本だったはず。だと言うのに会話に気を取られていつの間にか4本に増えている。それでもビクともしない防壁には恐れ入る。それ程彩の魔力は強大だと言う事だろう。脅威を排除しようとしたのか、テスタロッサが軽く大剣を振っただけで触手共が一瞬にして残骸と化してしまう。しかし、やはりおかしい…。

「彩、何故お前は魔法を使えるんだ?」

彩に使えるのは精々念話程度。デバイスの補助無しで素人同然の彩があの強固な防壁を展開出来る訳がない。

『それは私の魔法では無いですよ?フェイトちゃんの魔法です』

「しかし、この魔力光は…」

『魔力光の事は良く分かりませんが、それは私の魔力をフェイトちゃんに送ってるからだそうです』

だそうです?何か変な言い回しだな…。

「レアスキル?『魔力供給』か…いや、だからと言ってそれも魔法を良く知らない彩が出来る筈が…」

クロノ執務官がぶつぶつと何やら独り言を呟いているが、私もそれには同意見だ。レアスキル持ちだからと言ってそう易々と使える筈も無い。デバイスの補助が、それもその能力に特化したデバイスで無ければ不可能の筈だ。

…気になるが、話は後だ。

「テスタロッサ…決めろ」

「…うん!バルディッシュ!」

『Yes, sir.』

大剣を天に掲げると、大剣は黄色から薄い黄緑色へと変色し、黄緑の雷を大剣に纏う。

「撃ち抜け、雷神ッ!」

『Jet Zamber.』

雷鳴が轟き、大剣の刃が伸び闇の書の防壁を紙の様に容易く切り裂き、防壁に守られていた闇の書本体ごと切り裂いてしまう。

「うわ、凄…」

「彩の魔力が影響してるのかな?威力が凄まじく上昇してる…」

『私の様なものでしょう』

ユニゾンデバイス…か。確かにそれに似ているな。違うとすれば魔導師と融合しないと言う事ぐらいか。しかし…。

私は闇の書へと視線を落とす。テスタロッサによって切り裂かれ、パカリと割れた身体でなおも再生し身体の形を変え続ける闇の書。あれだけのダメージを受けたと言うのにアレはまるでダメージなど受けていないと言いたげに触手を再生させ此方に鋭い先端を向けて来る。

「…まだ動くか。盾の守護獣ザフィーラ!攻撃なんぞ撃たせんっ!!」

ザフィーラの咆哮と共に地面から柱が現れ触手を串刺しにし、攻撃を未然に防ぐ。そして、主がザフィーラに続いた。

「はやてちゃんっ!」

「彼方より来たれ、やどりぎの枝。銀月の槍となりて、撃ち貫け」

白い魔力光を放つ三角形の魔法陣。そのベルカ式特有の魔法陣が主の足元に展開し、それに呼応するように空に魔法陣と複数の光の玉が現れる。

「石化の槍、ミストルティン!」

主が杖を振り降ろすのと同時に光の玉が槍と化し闇の書を串刺しにし、突き刺さった部分から身体を石と変貌させて行く…。

ミシミシと音を立てて浸食して行く石化。それは止まる事無く全身を石となるまで続き。その巨大な身体は、何も言わぬ石像となってしまう。そして、数秒後音を立てて崩れ落ちて行く…。

終わったか?誰もがそう判断する。しかし現実はそう甘く無く。それどころか欠けた部分からまた再生して行き、更に凶悪な姿へと変貌して行くでは無いか。焼け石に水とは正にこの事である。

「うわ…」

「凄い事になってる…」

『やっぱり、並みの攻撃じゃあ通じない。ダメージを入れた傍から再生しちゃう!』

「だがダメージは通っている筈。プラン変更は無しだ…行けるな?デュランダル」

『OK, Boss.』

「悠久なる凍土 凍てつく棺のうちにて 永遠の眠りを与えよ」

『クロノさん。私の魔力を…』

クロノ執務官の魔力光が薄い黄緑に変色し、それと同時に爆発的に魔力が上昇する。

「なっ!?これが彩の魔力か…これならっ!」

杖を振り下ろし杖の矛先を闇の書へ向け叫ぶ。

「凍てつけ!」

『Eternal Coffin.』

一瞬。そう、一瞬だった。一瞬にして辺り一帯が純白により支配される世界と化し、闇の書が居た場所には天まで届きそうな程の氷山が存在していた…。

―――…やり過ぎ。

この場にいた全員の声が重なる。これではまるで北極ではないか。唖然と氷山を見上げる全員。と思いきや、一人だけ妙に嬉しそうな人物が一人…。

「これが、オーバーSランクの魔力か…凄い!」

冷静沈着のイメージを持つ彼とは思えないほどのハイテンションだ。余程彩の高魔力を使えて嬉しかったのだろう。一人はしゃぐ彼を少し冷たい目で見守っていると彼は漸く正気に戻り咳払いをして誤魔化す。

「っ!?ごほんっ…次で終わらせる。なのは、フェイト、はやて」

「うん!」

「まかせとき!」

「了解!…彩?」

『大丈夫です!思いっきりやって下さい!』

「うん!全力全開だね?」

「あっ!フェイトちゃんそれ私の台詞だよ!」

「ふふふ、一度言って見たかったんだ…行こう!なのは、はやて…彩!」

「「うんっ!」」

『はいっ!』

それぞれ己のデバイスを構え魔力を収束して行く。桃、黄緑、白。3つの光が膨れ上がり臨界ギリギリまで圧縮される。アレに当たれば普通なら非殺傷でも当分は病院で生活を強いられるだろう。

「全力全開!スタライトォーッ!」

「雷光一閃!プラズマザンバァーッ!」

「ごめんな…お休みな?響け終焉の笛!ラグナロクッ!」

「「「ブレイカーッ!!!」」」

3つの光が闇の書目掛けて放たれる。目を開けていられない程の眩い光と耳を塞ぎたくなる程の爆音。消滅と再生の繰り返しが光の中で行われていた。哀れ。その光景を見て誰もがそう思う。楽になりたいのになれない。傷付いても再生を繰り返す肉体。だが、もうそれも終わりだ。今日で終わりだ…。

「本体コア、露出…捕まえたっ!」

旅の鏡から現れる黒い光を放つコア。これが闇の書の闇のリンカーコアだ。

「長距離転送!」

「目標軌道上!」

厳重に3重にも重ねられる魔法陣。そして…。

「「「転送!」」」

天に…軌道上へ向けてコアは飛ばされた…。

『アルカンシェル…発射ッ!』

ハラオウン艦長の合図と共に空が光で埋め尽くされた。それはアルカンシェルが放たれた証拠。光が晴れ、この場には静寂のみが残り、アースラからの結果報告を緊張した雰囲気のまま待つ…。

『効果空間内の物体、完全消滅…再生反応…ありませんっ!』

『「「「「「「「やったーーーーっ!!!!」」」」」」」』

アースラからの報告を聞いて一斉に歓声を上げる高町達。それぞれにハイタッチをしたり抱き合ったりをしたりして喜びを分かち合っている。そんな彼女達を暖かな目で眺めながら、私やクロノ執務官、ザフィーラは地面に降り深く疲れた様な溜息を吐いて手頃な岩に腰を下ろして笑い合う。

「ふぅ…何とか成功したか」

「心臓に悪いな、これは…」

「こう言うのはこれで終わりにしたい物だ」

『良かったです…』

「彩…こっちに来ないのか?」

お前も皆とはしゃぎたいだろうに…。

『でも…遠いですし』

お前はそんなのでどうやって此処まで…そうだ!忘れていたっ!

「お前はどうやって此処まで来たんだっ!?」

そうだ、魔法を碌に使えない彩がどうやって此処までやって来たか聞いていなかった。

『えっと…連れて来られたと言うか…連れて行って貰ったと言うか…』

「誰だ?」

『え~と…良いんですか?あ、はい。分かりました』

誰と話しているんだ?

『アリアさんとロッテさんです』

…誰だ?

「…そうか」

クロノ執務官はそれを聞いてデュランダルに視線を落とし一人納得したように呟く。

何だ?何をクロノ執務官は一人で納得しているんだ?

「提督には聞く事が増えたな」

『あの…それは…』

「もう何も良い。彩は悪くないさ」

…話が読めん。

『でも、帰ったら説教よ?』

『あぅ…』

彩の情け無い声に、荒野に皆の笑い声が響いた…。









ハッピーエンドに終わる。誰もがそう思っていた。しかし、それは夜天の魔導書…リインフォースの呼び出しにより砕かれる事になる…。

アースラの会議室に集まったメンバー達。何故呼び出されたか理解出来ず不思議そうにしている高町達。

そして、その理由はリインフォースによって明かされた…。














――――Side Sai Minaduki
    12月8日 PM02:30
    アースラ:会議室





「夜天の魔導書を…破壊する?」

リインフォースさんの言葉に、シグナムさん達、ヴォルケンリッターと一部の人達を除くこの場に居た全員が言葉を失った。

「…何でや?何でそんな事言うん?」

震える声で、はやてちゃんがリインフォースさんに尋ねる。この場に居る全員が同じ気持ちだろう。

「主達の御蔭で防御プログラムは破壊出来ました。ですが、夜天の魔導書が再び防御プログラムを再生してしまうのです。今度は主が浸食されてしまう可能性が高い。夜天の魔導書が存在する限り危険は消えない…」

「で、でも!それじゃあ…」

私は隣で座っているシグナムさんの手を握る。

約束、したのに…。

「安心して下さい、彩。シグナム、守護騎士達は消えません。逝くのは私だけで十分です」

「でも、貴女は…」

「主から名前を頂いた。悪夢から解放して頂いた。もうそれだけ十分です」

…違う。私はこんな結末を望んだんじゃないっ!

「駄目や!そんな事許さへんっ!他に方法はないんっ!?」

「バグを直そうにも、夜天の魔導書の本来のデータが無いんじゃ…ごめん」

ユーノさんが申し訳無さそうに謝る。

何か…何か方法は…。

私は必死に頭の中で思考を巡らす。しかし出て来る答えは何一つ出て来ない。きっとクロノさん達もどうにかしようと考えた筈だ。それで見つからんかったのに私がどうにか出来る筈も無い。

「…そう言えば、何でシグナム達は消えなくて良いの?」

「私が夜天の魔導書のプログラムから切り離した。個として存在しているため、夜天の魔導書を破壊しても消える事は無い」

「…そう、なんだ」

「リインフォースさんも同じ方法は出来ないの?」

「私は管制プログラム。謂わば夜天の魔導書自身だ。夜天の魔導書の破壊は私の破壊を意味する。切り離す事は不可能だ」

「そんな…やっと解放されたんやで?これからやのに…」

「はやてちゃん…」

管制プログラムの破壊。治そうにも夜天の魔導書自体のデータが存在しない。放置すれば再びはやてちゃんを浸食し始めてしまう。

…あれ?

『夜天の魔導書』を破壊しなければはやてちゃんの命が危ない。はやてちゃんを助けるにははやてちゃんから夜天の魔導書を切り離す、破壊する必要がある。それは防御プログラムが無い今しかチャンスは無い。リインフォースさんを切り離そうにも彼女は夜天の魔導書自身。

でも、彼女を形成している心は…プログラム何でしょうか?

そうだ。もしかしたら…。

まだ、私には出来る事があるかもしれません。

「貴女の心は記憶は切り離す事は出来ないんですか?」

「…彩?」

「…可能かもしれん。だが、何処にそれを保管すると言んです?その入れ物を完成させるまでの時間はありませんよ?」

「あるじゃないですか。此処に」

私は自分の胸に手を当てる。

「闇の書に繋がっていた私なら、きっと」

はやてちゃんにも可能だろうが、夜天の魔導書をはやてちゃんの身体に残す訳にはいかない。なら、私の身体に…。

「…」

「どうですか?可能性はあるのはないでしょうか?」

「浸食してしまう可能性は?」

「いや、彩はちゃんとした形でに闇の書と契約した訳では無いのでその可能性は低い…だが、絶対に無いとも限らない」

「仮に浸食したとして、浸食まで時間は掛かるでしょう。それまでにきっと方法は見つかってますよ。それに、ほら今更身体の何処が悪くなっても…」

「彩、そんな悲しい事を言うな」

「シグナムさん…」

「そうよ、彩さん。貴女にこれ以上の事があれば御家族がどれ程悲しむと思っているの?」

リンディさんが私の両肩に手を置き、真剣な声で私に語りかけて来る。でも、私の決意は揺るがない。

「それでも、可能性があるならそれを試してみたい。私はそう思っています」

「彩さん…」

「リインフォースさん。貴女はどうなんですか?生きたくは無いのですか?これからはやてちゃん達と共に…」

少なくとも、はやてちゃんと私はそれを望んでいる。

「…これ以上、貴女に迷惑を掛けられない。これまでどれ程貴女に辛い目を…」

「気にしてません。私が選んだ事です。貴女が言う辛い目も、私が選んでやった事の結果です。それは全て私の責任です。これからやる事も…」

「彩。貴女は…」

苦しげなリンフォースさんの声に私は微笑んで両腕を広げて迎え入れる。

「どうぞ、こんな器で申し訳ないのですが…」

「っ!本当に貴女と言う人は…どうしてそこまで…」

「私は、誰かが苦しむのも、悲しむのも見たくない。偽善かもしれない。でも、それでも私は自分の出来る事をしたい…だから」

私は広げた両腕でリインフォースさんを捕まえて抱きしめる。






「一緒に、生きましょう…」






こうして、この日。私の中にもう一つの命が宿り、夜天の魔導書ははやてちゃん達の手によって破壊された…。






















本編ブチ壊しなおまけ♪




この話は本編と(以下略


―――此処はミッドチルダ地上本部の秘密のお部屋。

「あのバカ息子から電通が届いたとな?」

「はい。何年ぶりでしょうか?」

「まったく…出所したかと思えばそのまま家でしおって。これで仕送りを寄こせと言ってきたら縁を切ってやるわい」

「…で?その電通の内容は?」

「今から読みます…え~と『パパになりました♪貴方方はおじいちゃんですね♪』」

「「「イヤッホ~~~イッ!!!」」」

「お祭りじゃっ!パレードじゃ!」

「祝砲じゃ祝砲を上げいっ!」

「丁度レジアスのエインヘリアルの申請書が」

「今直ぐ完成させろ!ミッドにでっかい花火を打ち上げてやるわい!」

今日もミッドは平和でした…。







~今日の駄目駄目シグナム2~


「リインフォースは彩の中に居るんだな?」

「はい…リンフォースさんは此処にいますよ?」

そう言うと彩は自分のお腹を擦る。どうでもいいがそれはやめておけ、ムラムラする。

『…どうかしたのか?(何だか嫌な予感がする)』

「今日から私の事をお父さんと呼べ」

『「…はい?」』

「母さん。娘の顔が楽しみだな♪」

「あの、えっと…シグナムさん?」

「ア・ナ・タ♪だろ?彩♪」

『駄目だコイツ早く何とかしないと…』








あとがき

ご都合主義?褒め言葉だねっ♪

こんばんは!&おはようございます&こんにちは!金髪のグゥレイトゥ!です。

さてさて、闇の書事件は設定無視で終了してしまった訳ですが…。申し訳無い!

次回からは私生活メイン!リンディさんの『彩ちゃん御嫁に来て大作戦』をお楽しみください!(嘘…かな?

あ、彩の能力やデバイスの事も次回の予定です。



[8923] 魔法少女リリカルなのはA’S ~盲目の少女は何を見るのか…~ 第十二話
Name: 金髪のグゥレイトゥ!◆60293ed9 ID:1667c937
Date: 2010/02/24 18:24

「…以上が、私が企んでいた計画だ」

「闇の書の主ごと凍結させて次元の狭間か凍結世界に閉じ込める…ですか。罪の無いはやてを、幼い少女を」

「あの時点ではこれしか方法が無かったんだ!でも、彩っての子の所為でっ!」

提督を庇おうとアリアが前に会話に乱入して来るが僕はぴしゃりと込めたい言葉を吐く。

「彩は悪くない」

彩に何も罪は無い。寧ろこの事件の最大の功労者だ。彼女の御蔭で多くの命が救われ、闇の書も破壊する事が出来た。褒め称えられる事はあっても、罪を問われる事はしていない。

「…何か、他に言う事はありますか?」

「無いさ。何を言おうと私が罪を犯したのは違いないのだから…」

「そうですか…では、今後についてはまた後日話をしましょう」

僕はそう告げるとソファーから腰を上げてこの部屋から立ち去ろうとする。

「私達を拘束しないのかい?」

「逃げる御積もりで?」

「いや…そんなつもりは無いが…」

「なら良いでしょう。僕は帰ってやる事がありますので」

「やる事?」

グレアム提督が訝しげに此方を見て訊ねて来る。僕は提督の言葉に頷くとドアを開け、立ち去る際に振り返って苦笑しながらこう呟くする。

「祝勝パーティです」
















第12話「戦いは終わって、なの」










――――Side Chrono Harlaown
    12月8日 PM04:00
    ハラオウン家:リビング





「つまり、彩が持っている指輪…『リンク』は彩のリンカーコアを他者のリンカーコアの接続を助ける効果がある訳だな?」

僕は彩が持っていた指輪を手の内で転がしながら彩に問いかける。

「はい。私自身はそう言った能力は無いらしいです。フェイトちゃんに魔力を分けてあげられたのはその指輪の御蔭です」

『ですが、その素質はあったのかもしれません。現に闇の書が誤作動で彩にリンクしてしまっているのですから…』

「偶然とも言い切れない、か…」

『はい』

ふむ…。

確かに、それならフェイトの時も納得は出来るがそれだと二つ疑問が発生してしまう。一体誰がそんな代物を造ったのか。誰がそれを彩に渡したのか。魔導師が他者に魔力を供給するなんて技術なんて聞いた事が無い。カートリッジシステムやユニゾンデバイスなら分かるが、高い魔力資質を持つ人物が他者に魔力を供給するなんて遠回りな事はしないだろう。普通なら自分が魔法を使ってしまった方が手っ取り早い。

争い事を嫌う彩が造ったと言うのならまだ分かる気も…待てよ?

「まさか、それを渡したのは彩と親しい人間なのか?」

それなら納得できる。彩の性格を良く理解する人間ならそんな変わった代物を造っても可笑しく無い。だが、一体誰が…。

「親しいかは分かりませんが…工藤 詠さんと言う方から頂きました」

工藤詠。知らない名だ。有名な技術者でも無ければ犯罪者でも無い。これ程の高等技術を作り出す人物が無名の科学者とは考えにくいのだが…。

「工藤さんかぁ。何か不思議な人やったけど、やっぱり不思議さんだったんかぁ」

「知っているのか?はやて」

「うん。彩ちゃんと何度か話をしたことあるよ?」

「何処で?」

「近所の図書館や。工藤さんはそこで司書の仕事しとるって言うとったで?」

近所の図書館か…後で窺ってみるとしよう。あのタイミングで彩に指輪を渡すと言う事は、事件に何か関わっている可能性もある。しかし、グレアム提督は工藤詠という名は口にしていなかったが?

グレアム提督がまだ何か隠していると言う事だろうか?そう言う風には見えなかったが…。

「う~ん…」

僕は顎に手を当て、深く唸る。一体、工藤詠とはどう言った人物なのだろう?何が目的で彩にこのデバイスを渡したのか?彼女にどう言った利益があるのか?僕にはそれがまったく分からなかった。彩に協力している以上、グレアム提督とはまったく反対の考え方を思っていると言えるが…。

まさか、シグナムの様に彩が可愛かったからとかじゃないよな…?





「くしゅんっ」




「ははは…まさかな」

シグナムじゃあるまいし。シグナムが特殊なんだ。他の人物がシグナムと同じ行動をする訳が無い。絶対無い。きっと…無い。

「「?」」

首を傾げる二人を前に、僕はそんな訳無いと笑うと指輪をテーブルの上に置く。とりあえずこの話は終わりにしよう。今は…。

「クロノ~この料理持って行って~」

祝勝パーティとやらの準備に取り掛かるとしようか。

「はぁ…艦長。今は大事な話をしてるんですよ?」

「何言ってるの!早くしないと夜になるじゃないっ!ほら、さっさと運ぶっ!」

やれやれ…。

僕は渋々ソファーから立ち上がるとキッチンへ向かい母さんから料理が乗った皿を受取る。

「あ…私、お母様に電話してません」

「それは私が連絡しておきました。彩さんは気にしなくて良いわよ?」

何時の間に彼女の連絡先を…。

油断も隙も無い母だ。まだあの悪巧みを諦めていないのだろうか?僕としては歳の離れた子と結婚なんて…いや、彩が気に入らない訳じゃないのだが、可愛いし、将来美人になるだろう。フェイトの話では料理も得意だそうだ。優しくて家庭的。何と理想的な奥さんだろう。だが、だがしかし…。

「…ぁん?(彩に手を出すと…)」

ギラリ…。

「…どうかしましたか?(…殺しますよ?)」

シャキーンッ

剣で魚を捌いている騎士と爪を尖らせてる使い魔が怖いんだ。目が「彩に手を出したら殺す」と語っている。あんなのを相手にしたくない。命が幾らっても足りやしない。まだ犯罪者を相手にした方がマシだ。

『(何がどうなれば剣の騎士がああも変わってしまうのだろう…)』

「彩、刺身だ。試食してみてくれ」

僕に向けていた鬼の様な表情をしていた人物とは思えない位に優しい笑みを浮かべて彩に先程捌いていた魚を差し出すシグナム。何だろうこの差の違いは…。

「では、お言葉に甘えて…あ、美味しいです♪」

「日本人は勇気があるな。生魚を食べるなんて…」

ウチもとんでもない物を飲む親が居るが…そう言えば緑茶も日本の物だったな。

「一度、和食を食べてみるとええで?とっても美味しいから♪」

「…ふむ、では今度食べてみるかな」

今回のパーティは刺身が食卓の上に乗る様だし、この機会に挑戦してみるのも良いだろう。ミルク緑茶は勘弁だが…。

あれは、飲み物では無い。あれは食に対する冒涜だ。存在が許されて良い物では無い。

「肉!肉!肉!」

「ケーキ!ケーキ!ケーキ!」

「アルフ、落ち着いて…」

「ヴィータちゃんも、ちゃんと用意してあるわ」

「飢えた獣かお前達は…」

「あ、あははは…はぁ」

興奮している一人と一匹を宥めるフェイトとシャマル。そしてそれを見て呆れているザフィーラとユーノ。あっちも色々と苦労してそうだ。

「あっ!それ家のケーキだよね?」

シャマルが持って来たケーキに一番に反応を示したのはなのはだった。

「ええ♪この辺りじゃ一番美味しいから♪」

嬉しそうに語るシャマルにその場に居た全員がうんうんと頷く。僕も含めてだ。

確かに、この前食べたシュークリームは美味しかったな。

「毎度ありがとうございま~す♪」

「商売熱心な事だ。将来は店を継ぐのか?」

「ん~…お店はお兄ちゃんが継ぐと思うなぁ」

「まぁ、まだ独り立ちまではたっぷり時間がある。ゆっくり考えると良い」

「うん!…でも、今は一番これに興味があるかな?」

そう言うと首に掛けてあったレイジングハートを摘まみ上げると、自信に満ちた表情で微笑む。

「あらあら♪何時でも歓迎するわよ?」

それを聞いて目を輝かせる母さんを見て、僕は頭を抱える。人手不足なのは分かるが管理外世界の子供にまで手を出さないで欲しい。本当に…。

嗚呼、こんな親を持って不幸だ…。

普通、子供に危険な仕事をさせようとするのは異常なのだ。此方の世界では常識なのかもしれないが、この世界でそんな事をすれば法で裁かれてしまう。無限に広がる次元世界。広ければ広い程犯罪は存在し、人手が不足してしまう。優秀な人材をスカウトするのも必要な事だろう。だが、時折それに疑問に思えてしまう事もある。

…執務官失格だな。

「ほらほらクロノ君。頭抱えてないでこれ運んで!」

「エイミィ…君は気楽で良いな」

僕は逆に考え過ぎなのかもしれないが。

「最近はそうでもないけどね…ライバル候補が増えたし」

ん?後半から良く聞こえなかったが…?

「何か言ったか?」

「う、ううん!?何でも無いっ!?」

「?なら良いんだが…」

何をそんなに慌ててるんだ…。

慌てる様子で顔を真っ赤にしてぶんぶんと激しく首を振るエイミィに僕は怪訝そうにエイミィを見つめるが、エイミィは何かを誤魔化す様に僕に料理を押し付けるとキッチンから僕を追い出す。一体何だと言うんだ。

「テーブルが足りないわね。クロノ~別の部屋から持って来てくれる~?」

やれやれ…人遣いの荒い。

料理をしてない立場的にはそんな事は言えないのだが…。

「我も手伝おう」

「すまない」

気を使ってくれたのか、そう名乗り出るザフィーラに感謝を述べる。そう重たい物では無いのだが、あれだけの量の料理だ。一つだけでは足らないだろう。手伝って貰えると助かる。

「ヴィータ。お前も来い」

「アタシは試食担当~」

「貴様…あのシグナムでさえキッチンに立っていると言うのに(彩に良い所を見せる為だろうが…)」

シグナムの普段の生活が気になる所だが…。

「ユーノは…居ないな」

さっきまでいた筈なのに何処に行ったんだ?

「ユーノ君はシャマルさんと飲み物の買い出しに行ってるよ~?」

「そうか、じゃあしょうがないな」

僕とザフィーラはリビングから出ると、テーブルを置いてある部屋へと向かう。

「…先日までは敵同士だったと言うのに、随分と仲の良いものだな」

隣で歩いていたザフィーラが苦笑紛れに突然そんな事を言い出し、それに僕も苦笑しながら答える。

「彩が良い感じに仲介人の役割を果たしてくれている御蔭だろう。彼女が居なければああはならない」

「違いない」

彼は普段からの固い表情を崩すと。少しだけ笑みを浮かべて頷く。

「我等も、シグナム程では無いが彩には忠義に近い物を抱いている。それが闇の書のリンクの影響なのか、彩の性格からなのかは分からないが…」

「君達がはやてに忠誠を誓っているのは、闇の書の主だからなのか?」

「…以前の我等ならそう答えていたのだろうが、今は違う。我等は、我らが主、八神はやてに忠誠を誓っている。闇の書の主だからと言う理由では無い」

「なら、そう言う事なんだろう?」

リンクだとかバグだとかそう言うんじゃ無く。彩と言う個人に惹かれている。彼女の優しさに、あの無垢な心に…。

僕等だってそうなんだろうな…。

唯助けたい。それだけの願いに動かされた。出会って間もない少女に。その純粋さに。きっと、彼女にはそう言った人を惹きつけるモノが在るのだろう。

「と、これだな」

「後2つ程持って行った方が良いだろうな」

そう言うとザフィーラはテーブルを二つほど脇に抱えて軽々と持ち上げてみせる。大した大きさでは無いが、そんなに軽い訳ではないのだが、外見通りと言う訳か。

「そうだな…しかしリビングに入りきらないな。ソファーを退けるしかないか」

パーティと言うより、これではまるで立食会じゃないか…。

「まだまだ仕事はありそうだな」

「その様だ。後片付けの事も考えるともう疲れて来た…」

その後にも仕事が在ると言うのにやれやれだ…。

そう心の中で愚痴りながら、僕とザフィーラはテーブルを抱えてリビングへ戻って来る。リビングに戻ってみれば先程よりも多くの料理がテーブルの上に並べられていた。だが何故だろう。一つだけ違和感のある料理が在る。

「…オムレツ?」

そうオムレツだ。湯気を放ちふっくらと膨れ、美味しそうな匂いを漂わせるオムレツ。しかも人数分ある。しかし何故オムレツなのだろう。

「ふわふわです♪」

彩がフライパンを片手に輝かんばかりの満面の笑みを浮かべてそんな事を言って来る。まさか、このオムレツは…。

「彩が作ったのか?」

ザフィーラが僕の代わりに同じ疑問を訊ねてくれる。

「はい♪」

ほんのり頬をピンク色に染めて頷く彩。その仕草がやけに可愛らし…。

いやいや!無い無い無いっ!有り得ないぞクロノっ!それは踏み入ってはいけない領域だっ!?

ロリ○ンの烙印の押されて堪るものかっ!!

「シグナムさん、美味しいですか?」

「ああ…生きていて良かった…」

「そうですか♪喜んで貰えて嬉しいです♪」

喜びの余り涙を流しているがな…。

「でも本当に美味しいよ~♪彩ちゃん、ウチで働かない?お母さんもきっと喜ぶからっ!」

いや、飲食店では流石に…なっ!?

僕は苦笑しながら試食用に残っていたオムレツを抓んで口に含み硬直する。ふんわりとした触感。口の中に広がる香りと甘み。気が付けば無意識にもう一口と手が伸びている手。正直に言おう。旨い。旨すぎる…。

な、何だこれは…。

これが家の冷蔵庫にあった卵なのか?実は最高級の卵とかではなかろうか?こんな美味しいオムレツ初めて食べたぞ!

「にゃはは♪クロノ君も気に入ったみたいだねぇ♪」

「クロノ、気持ちは分かるよ」

「そんなに夢中になってぇ~♪あはは、可笑しい~♪」

「…ぐっ!?」

エイミィに馬鹿にされ僕はオムレツを食べる手を止め、慌ててオムレツから離れた。

「ま、まあ!不味くは無かったなっ!うん!」

「ふむ…これはなかなかに旨いな」

僕と入れ違う様にオムレツに手を伸ばすと、一切れ口の放り込み満足そうに頷く。

「そうですか?」

「ああ、シャマルのオムレツ?は殺傷能力が在ってな…」

遠い目でしみじみ語るザフィーラに、八神家一同が賛同する様に何度も頷く。

「皆…酷いです…」

…シャマルを除くが。

「あ~…ザフィーラはそっちに置いてくれ」

「うむ」

シクシク泣くシャマルを無視してテーブルを設置する僕とザフィーラ。シャマルの料理を実際に見た事は無いが、八神家の反応を見るに救いようの無い程のアレな物なのだろう。余計な庇護はしない方が良い。明日は我が身だ。

さて、ソファーを退けて準備は完了っと…。

ソファーを部屋の隅に退かしてスペースを作る。これで少しは広くなったろう。料理も丁度タイミング良く全て出来た様だ。皆キッチンからリビングへと戻って来ている。

「飲み物とコップは此処に在るから好きなの選んでね~♪」

「は~い!」

「なのは、私が注いで来るよ。何飲む?」

「え~と…りんごジュースで!」

「うん、わかった。はやてと彩は何飲む?」

「む、それは私が注いで来よう。流石に2つ以上は持てまい」

「ありがとうシグナム」

…やはり彩にはとことん甘いなシグナム。

とりあえず僕も飲み物を適当に選んでおこう。

「あ、クロノ君。ジュースどうぞ」

「あ、うん。ありがとう」

それぞれに飲み物の入ったコップが行き渡り、漸くパーティが開始の準備が整う。母さんは皆にコップが行き渡るのを確認すると自ら乾杯の音頭を執った。

「それじゃあ、準備が整った事だし…今日は本当にお疲れ様でした!かんぱ~い!」

―――かんぱ~い!!!

一斉に上がる声と同時に、パーティが開始された。

「うおおおおおおおっ!肉はアタイのもんだあああああっ!」

「ちょっ!?テメェ!アタシの分まで食うなっ!」

「あ~ん♪このケーキおいし~♪」

「うあああああっ!?それはアタシのっ!?」

「ヴィータもアルフも落ち着いてっ!?」

「しゅ、収拾がつかないわ…」

「所詮獣だ。言葉も解さんだろう…」

「ザフィーラ。お前が言うのかそれを…」

「にゃはは♪彩ちゃんこのオムレツ美味しいよ~♪」

「ふわふわや~♪」

「流石母様です!」

「えへへ、どうもです♪」

『私も食べてみたいです…』

「リインフォースさん…」

リインフォースは身体が無いので料理を食べる事は出来ない。彩は困り果てていると、彩の使い魔から助言が来る。

「母様。リインフォースさんと繋がっていらっしゃるのならば、味覚を共有すれば…」

「あ、そうですね!もぐもぐ…どうですか?リインフォースさん」

『はい、分かります。これが…暖かくて、美味しいですね。彩の気持ちが良く籠ってます』

「…あはは、嬉しいです♪」

やれやれ…騒がしいなまったぐふぉあっ!?

僕はコップを口に運び中の液体を口の中へと流し込んだ瞬間その液体を口から噴き出す。

こ、この独特な匂いと苦味はっ!?

「誰だ酒を持ってきた奴はっ!?」

「あ、あら?酒が混じってましたか?」

お ま え か シャマル!

やっぱりというか予想通りだと言うべきか。八神家の言う事に間違いは無かった…。

まずい、このパターンだとこの後に大抵誰かが酔って…。

「あはは~♪目が回るわ~♪」

「か、母さ~んっ!?」

まさかの最悪な人物が酒に酔い顔を真っ赤に染めていた…。それで良いのか保護者…。

にしても酔うのが速すぎではないだろうか?そんな一口や二口で酔う酒なんて…な、い?

僕は酒のラベルを見て硬直する。アルコール濃度が馬鹿高い数字を記していたからだ。流石にこれでは…。

「うわ、何やこの丸々アルコールみたいなお酒は…」

「いや待て!?幾ら母さんでも酒をジュースと間違えないだろうっ!?」

…ん?僕にジュースを渡したのは確か…。

「…シャマル?」

ギギギギと音を立てながら首を捻りシャマルの方を向くと、シャマルは涙目でぺこぺこと何度も頭を下げて謝っていた。やはりか…。

「…ご、ごめんなさいぃ~」

ま た お ま え か !

「あちゃ~…シャマルもこう言うのは危ないから気ぃ付けや?子供にお酒は危険なんやから」

むしろ今のこの状況が危険だ!

「うふふ~♪彩ちゃんは可愛いわね~♪家の娘にならない?」

「ふ、ふぇっ!?」

ああっ!?遂に他人にまで絡み出したっ!?

「家のクロノは有望株よ~?この歳で執務官やってるし、将来確実に出世するから良い暮らし出来るわよ~?」

「ふええええっ!?え、えと…そのっ!?」

「でも、彩ちゃんって大企業の一人娘だよね?十分良い暮らししてる筈なんだけど?」

「へぇ、そうなんだ」

「私はすずかちゃんから聞いとったで?」

「あら~♪良かったわねクロノ♪逆玉よ~♪」

「何を言って…「「ほぅ?」」ひぃっ!?」

何僕の首筋に剣と爪を当てているんだこの騎士と使い魔はっ!?

「彩に手を出すとは…」

「見下げ果てますね執務官さん。法の番人が聞いて呆れます…」

凍える様な冷たい声で耳元で呟く二人…。

怖いよ!怖すぎるよっ!?

「ユーノ!」

「僕を巻き込まないでよ」

この淫獣がっ!こう言う時に役に立たないっ!

「エイミィっ!助けてくれっ!?」

「…ぷいっ」

「エイミィイイイイイイっ!?」

不貞腐れた様な顔を背けるエイミィに僕は絶望する。

何故だっ!?何かしたか僕っ!?何もしてないだろうっ!?(寧ろそれが問題)

「シャマル!収拾がつかなくなったぞ!どうするつもりだっ!?」

「だ、大丈夫です!治癒魔法でアルコール分を分解すれば…」

確かに母さんをどうにかするのは重要だが今はそれが問題なんじゃ無いっ!この二人をどうにかしてくれっ!

「最後に言い残す事はあるか?」

「う、うわあああああああああああああああああっ!?」

僕の悲鳴が、マンション中に響き渡った…。

「皆楽しそうですね♪」

『…いえ、それはどうでしょう?』

血みどろの命のやり取りは戦闘狂以外は楽しいとは思わない。







――――Side Sai Minaduki
    12月8日 PM07:40




「し、死ぬかと思ったぞ…」

祝勝パーティが最後の晩餐会になる所だったとクロノさんがぼやく。一体何をそんなに疲れているのだろうか?

「ふぃ~食った食った♪」

「もう食えねェ…」

床に寝転がる牛さん二匹。

うふふ♪食べて直ぐ寝ると牛さんになりますよ?

「楽しかったね、フェイトちゃん♪」

「うん、なのは♪」

「また今度皆と集まって騒ぎたいな~♪」

「あっ!でしたら今度、すずかちゃんの御家で学校のクラスと皆とクリスマスパーティをするんです。良かったら…」

「あ~…嬉しいんやけど。家族が居るさかい」

「あ…」

「主。私達の事は御気になさらずに…」

「でも…」

「シグナムさん達も一緒に来ればいいよ!私からアリサちゃんに言っておくから!」

「…良いのか?」

「保護者とか必要でしょ?そう言う事にしておけば良いんじゃないかな?アリサちゃんもすずかちゃんも断らないよ!」

「うん。そうだね」

「はい♪」

アリサちゃんなら盛り上がるならそれで良し!とか言いそうだ。少なくとも断る事は無いだろう。

「母様。でしたら私も…」

「はい♪私から上手く説明しておきますね♪」

アリサちゃん達には親戚と説明しておけば良いだろう。

「リンフォースさんも一緒ですよ♪」

『ふふふ、はい。お供させて頂きます』

一々言わなくてもリインフォースさんとは一心同体と言っても良い状況なのだが、やはり此処は言っておくべきだろう。口にしなければ伝わらない事もある。

「では、今日はこれでお開きにしましょうか」

「やれやれ、後片付けが大変だ…」

「あっ…私もお手伝いします」

「良いのよ。彩さん達は一番の功労者なんだから♪此処は私達に任せてなのはちゃん達は今日は帰って貰って良いわ」

「良いんですか?私も手伝いますよ?」

「良いの良いの♪私達でやっておくから気にしないで♪」

「…そうだな。彩達はもう遅いから帰ると良い」

「じゃあ、私はなのは達を途中まで送って行くね?」

「あ、僕も行くよ!」

「あた「アルフは御手伝いお願いね?」え~…」

嫌そうなアルフさんの声を聞いて私はクスリと

「ヴィータちゃん。私とザフィーラは片付けをして帰りますから、はやてちゃんをお願いね?」

「おう」

「私は?」

「どうせ彩ちゃんを送って行くんでしょう?」

「愚問だな」

「(なら聞くなよ…)」

「…私が居るので大丈夫です」

「そう言うな。さて、行こうか…」

「はい。よろしくお願いします」

「むぅ…」

「それじゃあ!さようなら~!」

「さようなら。今日はお疲れさまでした」

「はい、さようなら。気を付けて帰るのよ?」

「は~い!」









「良かったね。皆が幸せで終われて♪」

「うん。一時はどうなるかと思ったけど」

「はい。ね?リインフォースさん?」

『はい。どれだけ感謝したら良いか…』

「ああ、皆には…彩には幾ら感謝しても足りない」

「ホンマや。ありがとうな?彩ちゃん」

そんな、照れちゃいますよ…。

「私は大したことはして無いですよ?唯、我儘を言っただけです」

「諦めて何をしないよりも、諦めずに我儘を言い行動する方が何倍も偉い事だよ、彩。君は今まで管理局の人達が出来なかった事をやり遂げたんだ。これはとても凄い事なんだよ?」

「そうそう!ユーノ君の言うとおり!」

「この事件の事の報告は彩の事は伏せられる事になるらしいけど、もし彩の事を報告したら彩は英雄扱いらしいよ?」

多くの命を犠牲にしたから、でしょうか…。

私としてはあまり嬉しくないですね。英雄なんて私には重すぎます…。

「だな。彩がいなけりゃこうして笑い合ってもいなかったんだし…ありがとな!彩!」

「母様は凄いです。それは私が一番よく知っています」

ア、アイリスまで…。

皆に褒められて、私は思わず顔を伏せてしまう。顔も何だか熱い。

「ふふふ、そんなに照れなくても良いだろうに」

「あう~…」

「あはは♪…あっ!此処でお別れだね」

「私もや。じゃあ、今日は此処でバイバイや」

「バイバイ。なのは、彩、はやて」

「さようなら。なのはちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃん」

「ヴィータ。主を頼んだぞ?」

『鉄槌の騎士。お願いします』

「おう!シグナムも彩を護るんだぞ!」

「当然だ」

「私が居ますから安心です」

『ふふふ、頼もしい守護騎士と守護獣が居ますね。彩』

「はい!ふふふ♪」

それぞれに別れの言葉を言い終わると、それぞれの自分の家の道を歩き別れてしまう。

「今日は大変でしたけど、楽しかったですね?」

「ああ」

「これからはずっとこんな日が続いて行くんですね♪」

「ああ」

「はやてちゃんも、シグナムさんも、シャマルさんも、ヴィータちゃんも、ザフィーラさんも、リインフォースさんも皆!幸せですよね?」

「ああ」

「…シグナムさん?」

先程から相槌しか打たないシグナムさんを私は不思議に思い歩みを止めシグナムさんを見上げる。

「どうかしたんですか?」

「ずっと気になっていたんだ。どうして彩に惹かれるんだろうと…」

「え?」

「主を月と例えるのなら、彩はきっと太陽の光なのだろうな…」

「私が、太陽ですか?」

「ああ、主は月の光の様に優しい光で私達を照らしてくれる。彩は太陽に光の様に暖かな光で私達を照らしてくれる」

「シグナムさん…」

「だから、もう一度言わせてくれ…」









「有難う、彩。私達に未来をくれて。もう一人の我が主よ」







シグナムさんはそう告げると私を優しく抱きしめた…。










あとがき

PCが故障した!SSのデータが!マイコレクションが!自作のCGのデータが!全て吹き飛んだああああああ!!!orz

こんばんは!&おはようございます&こんにちは!金髪のグゥレイトゥ!です。

ネギまとコードギアスはゆっくり、本当にゆっくり書いていたので内容が思い出せない。略一からの書き直しですオワタ…。

まぁ、次回作の予定では無いのですが、今までの時間が無駄になるのは辛いですね…。



[8923] 魔法少女リリカルなのはA’S ~盲目の少女は何を見るのか…~ 第十三話
Name: 金髪のグゥレイトゥ!◆60293ed9 ID:1667c937
Date: 2010/03/06 01:58
闇の書事件から一週間が経ち、あの慌ただしかった日常がまるで今は嘘の様に穏やかな日々が続いている。

はやてちゃん達はクロノさんが色々してくれたおかげで今も楽しく家で過ごしている。クロノさんの話では何度か本局に顔を出して貰う事になるかもしれないが今の生活は無くなる事は無いそうだ。

リンディさんやクロノさんは、事件の後始末やら色々と仕事が溜まっているらしく、暫くの間は本局の方に戻るらしい。でも、直ぐに帰ってくるそうだ。何か目的があるとの事。お嫁がどうとか言っていたが…。

フェイトちゃんは本局に戻らずエイミィさんとアルフさんとで海鳴に残るとの事。変わらず一緒に学校生活が送れるのは嬉しい限りである。

なのはちゃんは…何と言うか、不完全燃焼なのとか、暴れ足りないのとか、もっと暴れられる筈だったのシナリオと違うのとか、一人で良く分からない事を誰も聞こえない程の声の大きさで小さくぼやいていたのを、私は確かに聞いた。なのはちゃんは暫く魔法から距離を置いた方が良いのかもしれない。彼女の未来が心配だ。とても、とても心配だ…。

そして、私はと言うと…。

「母様。朝ですよ」

『彩。そろそろ起きる時間です』

「ふにゅう…おふぁようごじゃますぅ」

『しゃきっとして下さい。もう朝ご飯は出来ている様ですよ?』

「にゅぅ…ふぁい」

『…とりあえず顔を洗いましょう。彩』

「ふふ、母様らしいです」

「むぅ~…馬鹿にされてる気がします」

また新しい家族?加わって今日も幸せに過ごしています。

失われた者は帰って来ない。闇の書の犠牲者の遺族の方達は闇の書を、夜天の魔導書を許さないかもしれない。この事件の結末に納得しないかもしれない。奪われたから奪い返す。殺されたから殺す。憎しみの連鎖は消える事は無いだろう。

でも、クロノさんが「その連鎖をどうにかするのも僕達の仕事だ」と、誇らし気に言うのを聞いて少しだけ安心した。きっと、私の出来る事は本当に此処までだろう。でも、クロノさん達なら何とかしてくれる何となくそう思えた。

支度を終えるとタイミング良くなのはちゃん達の私を呼ぶ声が外から聞こえて来る。私はその声に返事をすると荷物を手に持ちなのはちゃん達が待つ外へと駆け足で向かう。

平穏な日々が戻ってきた。私はそう実感していた。


















第13話「平穏な日常 それを支える人、なの」














――――Side Sai Minaduki
    12月15日 AM 08:50
    学校:教室



何時もの変わらない授業風景。最近ではリインフォースさんも加わって色々状況は変わったが何ら問題無くこの一週間を過ごして来た。最初はリンフォースさんが色んな物に興味津々で、アイリスと一緒になって質問して来る事が多々あった。

『まさか、授業を受ける事が出来るなんて思いもしませんでした。ふふふ、机を並べて学業に励むと言うのも良いものですね』

頭に響くリインフォースさんの嬉しそうな声に微笑みながら賛同する。本当に、学校は素晴らしい場所だ。友と学び、友と遊び、友と思い出を作る場所で声以上の物は無いだろう。

『しかし…本当に目が見えないのですか?アイリスとの視覚も共有出来ないようですし』

『はい。これと言って身体に変化はありません』

『おかしいですね…私に周りの様子が見えているのですが…いえ、見えていると言うのは間違いですね。今の私には形が無いですから把握?と言うのでしょうか?感じるんですよ。見るのではなく』

『あの…アイリスの事でもクロノさんが言ってましたけど…普通なら見えるものなんですか?』

『今までの持ち主で目に障害を持つ人物は居ませんでしたから断言出来ません。それに、今の私はユニゾンデバイスでは無く感情や記憶の集合体…つまり魂みたいな物ですから。それが原因かもしれません』

ユニゾンデバイス。確か普通のデバイスとは異なり、持ち主と融合してサポートするタイプのデバイスだった筈。

『クロノさん曰く私自身に視覚と言う物が存在していないかららしいですけど…』

『そう言う考え方も出来ますね…まぁ、それは今は置いておきましょう。彩?』

『はい?何でしょう?』

『授業は既に終わりましたよ。バニングスさんが物凄い近くまで顔を近づけて睨んでます』

「ふえっ!?」

そ、それを早く言って下さいィ~っ!?

気付けばアリサちゃんの顔は息が私に触れる程近くまであり、私は思わず後ずさってしまう

「やっと気付いたわね!何度呼び掛けても反応無いから心配したじゃないっ!」

「はいっ!?すいませんっ!?」

ぴんっと背筋を伸ばして謝罪をする私。それにしても心配すると言うより怒っていると言った方が正しい様な気もするのだが…。

「最近気が抜け過ぎなんじゃない?妙にぼ~としてる時が多い様な気がするけど?」

ええっと…それは何て言うか…。

「平和ですから」

そう、一週間前の事を考えるとどうしても気が緩んでしまうのは仕方の無い事だろう。たぶん、一生分のサプライズを消費した気がする。たぶん…。

緊張が途切れちゃったんでしょうねぇ…。

「あはは~、彩ちゃんの言いたい事は分かるよ。うん」

「平和は良い事だよ。彩」

「何つい最近まで平和じゃ無かった様な言い方してんのよ?アンタ達…」

「「「あ、あはは…」」」

何と言うか、その通りなんですが…。

「アンタ、そんなにぼんやりしててクリスマスの準備は出来てるの?ホラ、プレゼントの奴」

えっと、何か彫ってあげるって約束しましたよね。

『プレゼント?』

『はい。クリスマスプレゼントに何か彫ってあげる約束をしたんです』

『それは凄いですね…そう言うのが得意なんですか?』

『はい。手は器用な方なんですよ?』

『そうみたいですね。この前の料理も慣れた手つきでしたし』

ですが、少し困っているんですよね…。

彫るための道具と木は準備できている。後は何を彫るかなのだが…。

「実は、何を彫ろうかまだ決めて無いんです…」

「アンタねぇ…それじゃ準備が出来てるとは言わないわよ」

あう、返す言葉もありません…。

「何か候補は無いの?」

「えっと…動物にしようかな?と思ってるんですけど」

「じゃあ、猫だね♪」

「猫さんですか」

可愛いですよね。猫さん。

「何言ってんの、犬よ」

「犬さんですか」

モフモフですよね。犬さん。

…って、どっちですか。ここはなのはちゃんかフェイトちゃんに聞いてみましょう。

「な、なのはちゃんは何か案はありますか?」

「ん~…私はフェレットかな?」

嗚呼、そこで新たな選択肢を出しますか…。

「フェ、フェイトちゃん…」

「彩の思うようにすれば良いと思うよ?」

そ、そこでそれを言いますか?一番困る答えなんですけど…。

出来ればこの三択の中から選んで欲しかったとは口が裂けても言えない。フェイトさんも私の事を思っての発言なのだろう。

『なら全てを混ぜ合わせて…』

それは色々と大変な事になりそうなので却下です。

猫と犬と鼠の混ぜ合わさった動物って一体…。

「と、とりあえず!その話は後にしましょう!ほら、そろそろ休憩時間も終わりますよ?」

10分間など話をしていれば直ぐに経過してしまう。周りのクラスメイトの皆さんも既に用事を済ませ、次の授業の準備をして自分の席に着いていた。なら私達もそろそろ話はお開きにするべきだ。

「…逃げたわね」

「い、いえ。そんなつもりは…」

無いですよ?多分…。

アリサちゃんは納得いかない様子ですずかちゃん達と自分の席に戻って行き、ドスドスと言う足を聞きながら私となのはちゃんは苦笑する。これは後でとても機嫌の悪いアリサちゃんが誕生してそうだ。

…しかし、どうしたものか。何時までも悩んでいる場合じゃない。そろそろ作業を始めなければクリスマスに間に合わなくなってしまう。

「う~ん…」

キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン♪

授業の開始を告げるチャイムが鳴り響いた後も、私は首を捻ってクリスマスプレゼントの事で悩み続けるのであった…。

…当然と言うべきか授業を真面目に聞いていなかった所為で先生に怒られたのは余談である。









――――体育の授業にて





私は授業を見学するついでに、勝君にクリスマスプレゼントについて訊ねてみる事にした。

「あん?プレゼントに何を彫れば良いか?」

「はい」

「そう言えばお前何か彫るって約束してたよな。俺はあの時会話に参加して無かったけど」

そう言えばそうですね。勝君とは…その、仲があまり良く無かった頃ですし。

「ん~…人によって彫って欲しい物は変わって来ると思うぜ?俺だって今出てる三択以外の物彫って欲しいしな」

されに選択肢が増えると言うんですか…。

「あの…例えば?」

一応参考に聞いてみる事にする。

「怪獣」

男の子らしい意見ですね。一応候補の中に入れておきましょう。

「でもよ。さっきも言った通り人によって意見は変わるから他人の意見は頼らない方が良いぜ?」

「でも…貰って嬉しい物を彫った方が…」

「別にそこまで気にする事ねぇだろうよ」

「あぅ…」

そう言われても、気にしてしまうんですよぉ…。

「…あ~…あのよ?」

しょんぼりしている私に勝君が少しだけ恥ずかしそうに話し掛けて来る。私はそんな彼を不思議に思いきょとんとした顔で首を傾げた。

「俺も一応聞いとくけどよ…お前は何が欲しいんだ?」

「何をですか?」

「く、クリスマスプレゼントだよっ!い、言っとくけど聞くだけだからなっ!?別にお前の為とかじゃないんだからなっ!?」

「…えっと?」

どうやら勝君は私にクリスマスプレゼントは何が欲しいか訊ねている様だ。

プレゼント…ですか。

「私は勝君がくれる物なら何だって嬉しいですよ?」

そう言って私は微笑んだ。

今まで友達からプレゼント何て貰った事ありませんでしたから…。

「だあああああっ!それが一番難しんだよっ!」

「え?」

「ちっくしょおおおおおおおおおおっ!!!!」

「ま、勝君っ!?」

突然勝君が大きな声で叫び出すと何処かへ走り去ってしまう…。

「何よ?アイツ…?」

「…さあ?」

此方へやって来たアリサちゃんがそう訊ねて来るが私も何が起こったか理解出来ずにポカーンとするしか無かった…。

「こらー!授業サボるんじゃありません!」

「ぎゃあああああっ!?」

あっ、先生に捕まってしまった様ですね。












――――12月15日 PM03:40
    風芽丘図書館





「…という事があったんですよ」

「そうかぁ、クリスマスプレゼント用のモデルかぁ…」

学校を終えた私は、なのはちゃん達と別れて、はやてちゃんに相談するために図書館へやって来ていた。今日は八神家勢揃いで来ていたらしく。図書館に着いた途端、ヴィータちゃんに抱き着かれて転げそうになったのは私とヴィータちゃんだけの秘密だ。

「動物と言っても沢山ありますもんねぇ…」

「だな…(チラリ」

「我は狼だ」

「イヌ科だろ?」

「狼だ。守護獣だ。そして今は人の姿をしている」

図書館は動物禁止のため、今はザフィーラさんは人の姿をしているそうだ。

そう言えば…八神家の皆さんが図書館に揃うには初めてですよね?

今まではシャマルさんやシグナムさん、そしてヴィータちゃんの誰かが護衛という形ではやてちゃんの傍に居たが、今は全員が護衛とは別の理由で此処に集まっていた。言うならば家族全員でお出かけと言った感じだろうか?

でも…皆さん楽しそうです。

そう、皆の声はどれも嬉しい、楽しいと言った感情の籠った物しか無く、悲しみにの含んだものは無かった。もう戦う必要も無い。平和に暮らせる事の喜びに満ちていた。

…一人を除いては。

『こんな穏やかな日々を送るなんて夢にも思いませんでした…』

リインフォースさん…。

嬉しそうな、悲しそうなリインフォースさんの声。その言葉だけで彼女がどれだけ辛い思いをして来たのかが伝わって来る。良からぬ事を企んだ持ち主の所為で本来の姿を奪われた夜天の魔導書。数多くの命を奪い多くの物を破壊尽くしたロストロギア。彼女は長い年月の中、その光景を見続け悲しんで来たのだろう…。

『もう…悲しむ必要は無いんですよ?』

闇の書はもう存在しない。過去の罪は消えなくても、もう夜天の魔導書さえ消えた今。彼女はもう悲しむ必要なんて無い。もう笑って良い筈なのだ。

『彩…』

『…ね?』

『…はい。ありがとうございます。彩』

私とリインフォースさん、繋がっている者同士だけが聞こえる心の会話に、彼女は微笑んで感謝の言葉を私に送って来る。

「アタシはウサギが良いと思う!ギガ可愛いし!」

oh…。

「あんなヴィータ。これ以上彩ちゃん困らせてどないするん?」

「お前は話を聞いていたのか?」

「ぐっ…」

「あははは…でも、どうせクリスマスプレゼントに使うならクリスマスにあった動物にすれば良いんじゃんないでしょうか?」

「クリスマスにあった?」

「動物?」

「何だよそりゃ?」

「それは…私もこの世界に来たのはついこの間の事ですし…」

確かにヴォルケンリッターの人達がクリスマスに詳しい筈も無い。はやてちゃんの話ではシグナムさん達がこの世界に訪れたのは今年。多分今回が初めてのクリスマスだ。

「クリスマスと言ったらトナカイとサンタクロースやろ。な?彩ちゃん」

「そうですね。それが一番に思い浮かびますね」

真っ赤なお鼻のトナカイさんと言えば有名だろう。サンタクロースとプレゼントを乗せた橇を引くトナカイさん。子供達にプレゼントを贈る素敵な存在だ。

「サンタクロースって何?」

「真っ赤な服を着た白髭のお爺さんの事です。クリスマスにトナカイさんの引く橇に乗って世界中の子供たちにプレゼントをくれるんですよ?」

「おお~~っ!すげぇ!」

「ですよね♪」

今年は何をプレゼントしてくれるんでしょう♪去年は手紙とカイロを枕元に置いておきましたが、今年はなにを差し入れしましょうか?食べ物は冷めてしまいますし…う~ん…。

「(それって…)」

「(御伽噺と言う奴か…)」

「(それを知って大人になるのだな…)」

「(私は知ってるけど彩ちゃんとヴィータには言わんでおこ。二人とも目をキラキラさせとる…)」

「「?」」

何故だろう。妙に温かな視線を感じる…。

「でもサンタさんですか…トナカイさんと一緒ならクリスマスプレゼントにはぴったりですね♪」

うん!素晴らしいチョイスです♪

これならクリスマスと言うイベントにも合う。男の子や女の子にも受けは良い筈だろう…たぶん。

「でもサンタさんなんて彫れるん?触った物しか彫れんのやろ?」

「大丈夫です!去年サンタさんに握手して貰いましたから!その時バッチリ記憶しています!」

もふもふしたお髭と服、帽子をお持ちでした♪

「「「「(お父さん(殿)ご苦労様です…)」」」」

「うおーーーっ!すげぇっ!?彩、サンタクロースに会ったのかよっ!?」

「はい♪とても優しい方でした♪」

眠らずに待ってた甲斐がありました♪

「(それは、ねぇ…?)」

「(お父上殿だからな)」

「(彩のお父上だからな…)」

「(彩ちゃんのお父さんやからなぁ…)」

「「?」」

あれ?また温かい視線が…。

「ん?彩ちゃんはトナカイは触った事あるん?私は鹿なら見た事あるけど、トナカイ無いなぁ」

「はやてちゃん。トナカイと鹿は同じ動物ですよ?」

トナカイは漢字で馴鹿と書き。家畜可能な鹿と言う意味がある。サンタさんがトナカイさんを使って橇を引けているのはそれが理由。野生の鹿は少々凶暴な動物なのだ。橇を引かせるのは無理があるだろう。

「へぇ~…そうなんかぁ」

「偶に耳にしませんか?奈良公園や宮島などで野生の鹿が餌を求めて観光客を襲うってニュース」

餌と言えば鹿煎餅などが有名ですね。本当は餌を上げちゃいけないんですけどね。ちゃんと餌を上げる役員の人が居ますから。

「あ~新聞とかで見た事あるなぁ」

良くある事なのでニュースでは余り聞く事は無いですよね。

「あっ!丁度新聞にも載ってますね。え~っと…修学旅行中の中学生が公園で昼食を摂っていた所鹿に襲われる。学生は逃げようとしたが鹿の脚力には敵わず追いつかれてしまい衝突してしまう。幸い怪我は無かった(作者の実話)…物騒ですねぇ」

怪我が無くて良かったですねぇ…。

「学生の名前は金髪のグゥレイトゥ!…偽名だな」

「誰もそんな情けない過去を新聞に残したくあるまい」

「折角の思い出がトラウマに変わって無ければ良いが…」

「ま、まあそんな話は終わりにして…プレゼントの話でしょ?」

あ、そう言えばそうでしたね。話が逸れてしまいました。

プレゼントの話から良くも此処まで話が逸れるものだ。

「モデルはサンタクロースさんとトナカイさん。これで決定と言う事で…」

「ん~♪楽しみやなぁ~♪あと十日かぁ♪」

八神家をクリスマスパーティ参加の許可はアリサちゃんから得ている。「問題無し!」と、快く了承してくれた。

「料理は女の子が集まって作る予定です♪はやてちゃんも来て下さいね♪」

「了解や♪腕に縒りをかけるでぇ~♪」

料理が得意なはやてちゃんが加われば鬼に金棒です!

「じゃあ、私も…」

「シャマルは見学やで?」

「シャマルは私と外の景色でも見ていよう。な?」

「頼むから何もしないでくれよ?」

「何も言うまい」

「うぅ…ぐすっ」

ああ…シャマルさんが泣いてしまいました…。とりあえず頭を撫でてあげましょう。

「よしよし、シャマルさんは出来る子ですよ?」

「うぅ、彩ちゃんだけが私の味方です」

そ、そんな事無いですよ…。

「料理は積み重ねですよ?一回や二回の失敗は誰だってあります。その失敗を繰り返さないようにするのが大事なんです」

私も何度も失敗してやっと今位まで作れるようになったのだ。最初から出来る人なんて居ない。

「そやで?シャマルも何時かは出来るようになるよ」

「半世紀ぐらい先だろうか…」

シグナムさん酷過ぎです…。

「せめて卵焼きでもまともに出来れば…」

「卵焼きを舐めるとはどういう事ですかーーーっ!?」

「ひぃっ!?彩ちゃんが怒ったーーーっ!?」

卵は全ての料理の原点ですっ!
















――――Side Chrono Harlaown
    12月15日 PM04:30
    時空管理局本局



「なんとか上層部の説得は上手く行きそうですね艦長」

此処は本局のある事務室。先程まで大規模な会議が行われ、僕と艦長はその会議に参加していた。その会議の内容は『闇の書』に関しての物だった。闇の書の消滅。八神はやてとヴォルケンリッター…そして、グレアム提督の処遇について。はやて達の件はどうにかなりそうで彩

彩の願いを裏切る訳にはいかないからな。

「そうね。このまま順調に事が進めば今週末には向こうに戻れそうね」

「そうなる事を願いますよ。やはり遺族の方達が納得いかない様で…」

闇の書により父を失っている僕が説得する事で納得している者も居るが、そうで無い者も居る。そう旨く話が進む筈も無いか…。

…家族を奪われた憎しみと言うのも分からないでも無いが。

遺族の中にはヴォルケンリッターとその主を極刑にしろと言う連中も居る。しかもそう言う人物に限って強い権力を持つ者だからやり辛い。

…不正でも見つけて黙らせてやろうか?

なんて少し黒い事を考えてみる。

「クロノ?顔が怖いわよ?」

「気のせいでしょう」

不正が発覚すれば法的処置を執務官として行うが脅迫するつもりは無い。まぁ、発言力は失う事になるだろうが。

それに、彼等が不正を行っている訳でも無い。これはあくまで僕の想像でしか無いのだから。

「不満は残る事になるでしょうね…」

「仕方ないでしょう。全ての人が私達の様にはいかないわ」

「…ですね」

だが、八神はやての身に報復の手が伸びない様に手を打って置く必要がある。考えたくは無いが復讐を企てる人間が居ないとは限らないのだ。

僕達の傍に置いておければ安全なのだが彼女にも今の生活が在る。平穏な日々を奪う訳にもいかないだろう。それに、それは彩との約束を破る事になってしまう。

「はやてさんを身元引受人を私にするって手もあるけどね。そうすれば迂闊に手を出せないでしょう?」

それも一つの手だが…。

「それは最後の…本当に最後の手段にしましょう」

それは必然的に管理局に関わってしまう事になる。それは平穏な日々を脅かす可能性にもなるのだ。その選択は出来るだけ避けたい。

「遺族の不満をどうにかする。まずそれからですね…」

それが一番の難題かもしれないが…。

…いや、彩が頑張ったと言うのに僕が弱音を吐く訳にもいかないか。

弱い身体と見えない目と言うリスクが背負っておきながらこの事件を最良の結果に導いた少女。彼女の努力を無駄にして良い筈が無かった。今度は僕達が頑張る番だ。

此処からは法で戦わなければならない。つまり僕の専門だ。

彼女が守ろうとした者を僕が守る。彩は僕を信頼してバトンを渡してくれたのだ。その信頼に応えなければならない。

「早く終わらせて彩達に良い報告をしたいものですね」

「そうねぇ。早く家に帰りたいわぁ」

向こうのは家と言う訳じゃないのだが…。

「何か用事でもあるんですか?」

クリスマスは間近だが僕達は彩の言っていたパーティに参加しない。別に急ぐ必要も無い筈なのだが…。

いや、まさか…。

僕は艦長…いや、母さんが前に発言した不吉な言葉を思い出す。

「彩ちゃんをクロノとくっつけないと♪」

やはりそれが目的かっ!?

僕はロリコンじゃ無い!ロリコンじゃないんだあああああああああっ!!!!

「次回!リンディママの『ドキドキ☆彩ちゃんお嫁においで大作戦!』お楽しみに♪」

「冗談でもそんな事言わないで下さいっ!?誤解されるでしょうっ!?特にどこぞの騎士と使い魔にっ!?」













あとがき

小学生の修学旅行は羊に襲われましたがね。何かに憑かれているのだろうか?

こんばんは!&おはようございます&こんにちは!金髪のグゥレイトゥ!です。

今回はシグナムに抑えて貰いました。毎回暴走は彼女のイメージを壊しかねないwえ?もう遅いって?

平穏な生活の所為か面白味の掛ける内容になってしまった…。

次回は『外伝エリキャロが家にやって来た!』か予告通り『ドキドキ☆彩ちゃんお嫁においで大作戦!』のどちらかにしたいのですがどっちが良いですか?
結果を見て書かないといけないので期限は一週間で。



[8923] 魔法少女リリカルなのはA’S ~盲目の少女は何を見るのか…~ 外伝 「エリキャロがやって来た!」
Name: 金髪のグゥレイトゥ!◆60293ed9 ID:1667c937
Date: 2010/04/08 15:31
※以下の内容が不快に思われる方は即ブラウザで『戻る』をクイック!

 ・原作の時間軸をかなり無視してます。
 ・六課設立前に既にエリオとキャロは出逢っています。
 ・御都合主義?ハハハ、こやつめwww









「子供を二人預かって欲しい、ですか…?」

中学を卒業してから本格的に管理局の仕事を始めた親友達の一人であるフェイトちゃんと久々に会い翠屋でお茶をする事になったのだが、急にフェイトちゃんが子供を預かって欲しいと言い出してきたのだ。

「うん。一ヶ月ぐらいどうしても外せない仕事が出来て…なのはもはやても仕事で忙しくて、もう彩にしか頼めないんだ…」

頼ってくれるのは嬉しい。3人共仕事の事は一切私生活には持ちこまないので、相談される事は殆んど無い。民間人側である私やアリサちゃん、すずかちゃんは少し寂しい想いをしているのも事実だ。

「エイミィ姉さんやクロノ兄さんに頼ろうと思ったんだけど、二人とも仕事や慣れない子育てで大変だろうし…母さんも仕事で…」

そうですね。この間あったエイミィさんなんて赤ちゃんの夜泣きで余り寝て無い様子でしたし…。

「彩のご両親も魔法の事は知ってるから、その関係でも安心なんだ」

まぁ、確かにそうですが…。

「と言うと、魔法関係の子なんですか?」

「うん…色々と訳ありな子達で…二人とも1年位前に保護したんだけど…」

沈んだ声を出すフェイトちゃんに、私も表情を歪めてしまう。フェイトちゃんの様子から察するに辛い境遇で育った子なんだと理解した。

「一応聞いておきますけど…施設などに預けると言う方法もあったのでは?」

言いたくは無いがそれ一つの選択だろう。勿論、フェイトちゃんが私を信頼しての頼みだと言うのは理解している。私だって出来る限りの事はしてあげたい。あの闇の書事件の時の様に…。

「その…二人とも酷い扱いを受けてたから…」

「…そう、ですか」

何があったかは聞かない。きっと、私では想像の出来ない程酷い事をされて来たのだろう。なら、私が出来る事は唯一つ…。

「分かりました。私が出来る事でしたら何でもしますよ。フェイトちゃん」

「…ありがとう!彩!」

私の手を両手で握って何度も感謝の言葉を送って来るフェイトちゃん。私はそんな彼女に何も言わず柔らかな微笑みだけを返した。

その傷付いた身体と心を癒してあげる。それが私に出来る事…。















外伝「エリキャロがやって来た!」













あれからフェイトちゃんに二人の子供を預かって欲しいとお願いされて一週間程が過ぎ、遂に今日その子供が家へとやって来る日となった。事前にお父様とお母様にお願いして客室にある程度必要な物は揃えて貰っている。着替え日用品などはあちらで準備しているそうなので必要無いとの事。もう迎える準備は万全だ。後はフェイトちゃん達を待つばかりである。

残念な事にお父様は今日、大事な仕事が在るとの事で家には居らず此処へやって来る子供達のお出迎えは出来ないそうだ。本人も大変残念がっていた。もしかしたら仕事が終わったら物凄い勢いで帰って来るかも知れない。…お土産付きで。

「どんな子かしらね♪」

「くすくす…フェイトちゃんの話ではとても良い子達らしいですよ?」

事前にフェイトちゃんから男の子と女の子については教えて貰っている。と言っても名前程度なのだが、それ以外の事は直接本人達に聞いてみようと私から断ったのだ。

待ち遠しそうにしているお母様の様子に小さく笑いながら答えると更にお母様はそわそわし始める。実は私もさっきから椅子から立ったり座ったりの繰り返しで落ち着きが無く、何度もアイリスに注意されていた。

「はぁ…か・あ・さ・ま?」

そしてこれで何度目か分からないアイリスの注意に私は「ごめんなさい」と舌を出して落ち付こうとお茶を飲む。

「ふぅ~…『Purururururu…』あ、電話ですね」

内ポケットから響く音に私は反応するとポケットから携帯電話を取り出し電話に出る。

「はい、もしもし?」

『彩?私だよ。フェイト』

「フェイトちゃん?」

電話の掛けて来たのは丁度話題になっていた張本人フェイトちゃんだ。電話を掛けて来たという事は海鳴に到着した頃なのだろう。

『うん。海鳴に着いたからもう少ししたらそっちに着く事を知らせようと思って』

「そうですか。事故の無いよう気を付けて下さいね?」

『うん。あ、お土産にケーキ買って行くけど何が良い?』

「翠屋ですか?」

『当然』

そう言いきるフェイトちゃんに私も小さく笑いながらそうですねと同意した。『ケーキと言えば翠屋』海鳴に住む人間にとっては常識と言っても過言ではないのかもしれない。

『ケーキの種類は適当に見繕うね?』

「はい、ありがとうございます」

『良いよこれ位。寧ろ無理なお願い聞いて貰ってるのにこれ位しか出来なくてごめんね?』

「それこそ気にしないで下さい。では、お話の続きは家に着いてからと言う事で…」

『うん、そうだね。じゃあ、また後で』

そう言い終えると、フェイトちゃんは電話を切り携帯のスピーカーからはツーツーと言う音だけが聞こえるだけとなる。

「もう少しで着くそうですよ?翠屋のケーキを持って♪」

「あらぁ♪紅茶淹れとかなきゃね♪」

「ケーキ大好きです!」

ぴょんぴょんと跳ね出しそうなお母様と…実際に私の隣で嬉しそうに跳ねているアイリスに私は微笑むと、アイリスの頭にそっと手を置いて優しく撫でてアイリスの言葉に頷いた。

「ふふふ、そうですね。私もですよアイリス」

色んなお店のケーキを食べて来ましたがやっぱり翠屋が一番ですよね。

海鳴に引っ越して着て各地を転々とする事は無くなったがそれでも私は多くの地方を周って来た。色んなお店をお菓子を食べて来てその中でも翠屋のケーキは群を抜いていると思う。

「そう言えば…管理局入りメンバーがこの家に訪れるのは久しぶりですね」

「そうですね。フェイトちゃんも先週は要件を話して直ぐミッドに戻っちゃいましたし…」

皆、無理して無いと良いんですが…。

中卒と言う学歴は友人として少し不安だったが、向こうで活躍していてそれなりの地位に就いているのなら安心だろう。でも、あの歳で頑張り過ぎるのは問題な様な気もする。なのはちゃんは特にだ。この間シグナムさんに頼んで休むように言うのを頼んだが大丈夫だろうか?







「あの…シグナムさん?そろそろバインドを解除して貰えないでしょうか?」

何重にもバインドに縛られ芋虫状態で医務室のベッドに拘束されているなのは涙目で地面に相棒であるレヴァンティンを突き立て仁王立ちで自分を監視しているシグナムに訴えるが、返って来るのは何度も聞いた同じ返答のみだった。

「シャマルの許可が下りるまで外さん」

「そ、それにしてもやり方と言う物が…」

「彩の頼みは絶対だっ!!口で言って駄目なら実力行使だっ!!!」

ジャキンッ!

レヴァンティンを手にまるで親の敵を見る様な目で威嚇して来るシグナムになのはは唯々泣くしか無く…。

「ひえ~んっ!!(;д;」

なのはの情け無い悲鳴だけが医務室に響き渡るのであった…。








…あれ?今、なのはちゃんの悲鳴が聞こえましたような?

きっと気のせいだろう。彼女は今ミッドで仕事をしている筈なのだから。

「桃子さんや士郎さんも複雑でしょうねぇ。可愛い娘の意思を尊重したにしても危険な仕事場に自分の子を送り出すだもの…」

管理局の仕事は決して安全な物では無い。時には命に関わる仕事に就く事だってある。そんな仕事場に喜んで我が子を送り出す親が居るだろうか…。

「クロノさんが言ってましたけど。ミッドでは職に就く年齢が低いためかそう言う感覚が鈍くなりつつあるそうですね」

…確かに、良くリンディさんの勧誘癖に悩まされれていると愚痴を聞いた記憶があります。

「私だったら絶対に彩をそんな危ない職に就かせないけど…」

「私も…この海鳴でお母様とお父様、アイリスと皆で静かに暮らすのを望んでますから…なのはちゃん達と会えないのは寂しいですけどね」

此処にはアリサちゃんやすずかちゃん、勝君達と言った幼馴染がいますから…。

「母様…」

「彩…本当はなのはちゃん達が管理局に入るのを反対したかったんじゃないの?」

お母様の問いに私は苦笑しながらフルフルと首を振り答える。

「皆ずっと一緒と言う訳にはいきません。それぞれ歩む道が在ります。必ず別れが訪れる。でも、切れない絆があると思うんです。例え違う世界に居たとしても…」

だって、ほら…。

ピンポ~ン♪

「彩~!着いたよ~!」

「は~い♪」

今もこうして会えるんですから♪

「母様、手を…」

椅子から立ち上がった私にアイリスが手を繋いで来る。どうやら私を気遣って玄関に連れて行ってくれるようだ。私は優しい娘に笑顔で感謝するとアイリスの手を握り返す。

「ありがとうアイリス」

アイリスに手を引かれて玄関へと向かい玄関を開ける。そして、ドアを開けて聞こえて来たのは幼い時からの大切な友達の声…。

「彩、一週間ぶりだね」

「そうですね。でも、それでも短い位ですが…フェイトちゃん達半年は戻らない時ありますし…」

「あははは…ごめん」

「いえ…その子達が?」

目は見えないが覚えの無い気配が私の目の前に2つあるのが分かる。きっとこの2つの気配がフェイトちゃんが言っていた子達なのだろう。しかし、私は一つ違和感覚えた。

…あれ?後一つ妙な気配がしますね?

今までに聞いた事の無い呼吸音。それに何やらゴソゴソと動く音。

…ペットでも連れているのでしょうか?

フェイトちゃんからはそんな事は何も聞かされていないのだが…。

「うん。ほら、二人とも御挨拶して?」

「「はい…」」

フェイトちゃんの声の後に続いて現れる2つの幼い声。2人がフェイトちゃんに押し出される様に前に出ると私はしゃがんで視線を合わせようとする。声の幼さから察して、しゃがんだ時の視線が丁度良い感じに2人に合うと考えたからだ。

私はしゃがみ込み微笑むと自分から先に名を名乗った。

「水無月彩です。短い間ですがよろしくお願いしますね?」

「…エリオ・モンディアルです」

「キ、キャロ・ル・ルシエです」

「はい♪良く言えました♪」

片やぶっきら棒に、片や不安げに挨拶する二人に、私は笑顔で頷く。

「母様、立ち話も何ですから中へ入って頂いては?」

「そうですね。私とした事が…さぁ、フェイトちゃん、エリオ君にキャロちゃんもどうぞ中へ」

「ありがとう、彩」

「「お、お邪魔します」」

「ふふふ、そんなに固くならなくて良いんですよ?これからしばらく此処で過ごすんですから。自分の家だと思って貰って構いません」

「で、でも…私は…」

「…っ」

二人とも何かを言おうとするがその言葉は口から外へは出る事は無く、唯心の中…影に隠されてしまい私には届く事は無かった。私はそんな辛そうにしている2人を見て悲しく思うと二人の手を取り優しく包み込む。

「私は、2人と家族の様な関係になりたい。短い時間かもしれない。でも、私は2人を家族と思いたいんです」

「彩…」

「母様…」

きっと使い事があったのだろう。悲しい事があったのだろう。その所為で他人に心を開けないのかもしれない。でも、此処を私は2人の心安らぐ場所にしたいのだ。







「二人ともね、出会った時はボロボロの状況だったの…身体も心も」

「…」

「今は幾分かマシになったけどエリオは始め私を受け入れてくれなかった。周りにある物全てを力で任せに壊して…。家族と思っていた人に捨てられて…この言い方は悪いね。切り離されて人間不信に陥っていたから」

「…切り離された?」

「うん。エリオもキャロも色々あって家族から強制的に切り離されたんだ。それで、施設に預けられた…2人とも人道的とは言えない扱いを受けてた…」






この場所を、二人にとって温かな場所にしたいから…。

「だから…怯えないで、ね?」

此処には貴方達を傷つける人は居ない。此処は貴方達に温もりを与える場所…だから。

「笑って下さい。時には怒ったり、泣いたりして下さい。私は何も咎めたりしませんから…ありのままの自分で居て下さい。自分で考えて、自分で行動して下さい。誰かがこうしろと言ったからでは無く、自分で導き出した答えに従って下さい」

もし、それでも駄目だと言うのなら…。

「自分の選択で、それでも此処を、私を受け入れられないと言うのなら私はもう何も言いませんから…ね?」

「貴女は、僕が…作り物だとしても同じ事を言えますか?」

「エリオッ!?」

「エ、エリオ君…?」

敵意を乗せてとんでもない事を明かすエリオ君にフェイトちゃんが驚きの声を上げてしまう。隣に居たキャロちゃんも知らされていなかったのだろうか驚いているのを声色で分かってしまう。

…試されているのでしょうか?

この場でこんな事を言うのは危険な事。キャロちゃんも居るのに今後の関係を崩してしまう可能性がある。それを覚悟で彼は私に問うているのだ。

「…」

『作り物』私はその事について何も聞かされていない。いや、正確のは私から二人の事情は詳しく聞こうとしなかった。本人達に話して貰いたかったから…。

『作り物…フェイトちゃんと同じ存在と言う事でしょうか?』

念話でアイリスがそう話し掛けて来るが私はアイリスに何も答えずエリオ君に向けて言葉を紡ぎ出す。自分の気持ちを全て明かす様に…。

「エリオ君が作り物かどうかは私は知らない。ううん関係無い…だって、今此処で私と話しているのはエリオ・モンディアル君でしょう?」

「え?」

「今こうして私の目の前に居るのはエリオ君でしょう?私は今目の前に居る『エリオ君』しか知らないし、それ以外の存在を知った所で私は貴方への態度を変えるつもりはありません」

「でも、僕は…」

「誰も、誰かの変わりにはなれないんですよ?エリオ君」

この言葉はある友人の境遇を聞いてからこそ言える言葉。知り合いに同じ想いをした者が居るからそこ言える言葉…。

「…っ」

私の言葉に明らかな動揺の色を見せて来るエリオ君に、私はこれ以上何も言わない事にした。今此処で分かって貰う必要は無い。限られているとは言えまだ時間はあるのだから…。

「彩…(ありがとう…)」

ふふ♪私がエリオ君をそんな理由で拒絶すると思いましたか?

エリオ君を拒絶すると言う事はフェイトちゃんを拒絶すると言う事。そんな事は私に出来る筈も無い。それに、それを除いても私はエリオ君を拒絶するなんて事はしないだろう。

「キャロちゃん」

「!は、はいっ!?」

「私は実際に貴女が体験した悲しい出来事に遭った事が無い、キャロちゃんの事を全て理解してあげる事は出来ないでしょう。だから、私を不快に思う事もあるかもしれない。嫌になるかもしれない。でも、私は貴女の家族になりたいんです。短い期間でも…」

「彩さん…」

「私もこんな体ですから色々と大変な事がありました。でも、辛いと思った事はありません。支えてくれる人達が居ましたから…」

お父様、お母様。はやてちゃんやシグナムさん、シャマルさんにヴィータちゃんにザフィーラさん。なのはちゃんやすずかちゃんにアリサちゃんにフェイトちゃん。それ以外にも多くの人達に私は支えられて今もこうして私は生き居る。

「私は、貴女達を支える一人になりたい。駄目ですか?」

「そんな、駄目だなんて…とても嬉しいです」

「ありがとう。そう言って貰えて私も嬉しいです」

「あの…さっきこんな体と言ってましたが何処か悪いんですか?」

…聞かされて無い?

「フェイトちゃん?」

「あ、うん。彩がエリオ達の事を訊ねなかったからこっちも話さない方が良いかなって…」

成程…。

「そうですか…実は、私は目が見えないんですよ。生まれた時からずっと…」

「っ!?」

「ぇ…ごめんなさい」

言葉を失う二人に私は苦笑して気にしないでと手を振る。

別に目が不自由な人は珍しくも無い。唯、関心が無いだけで外を出歩けば体の不自由な人はよく見かける。

「さっきも言った通り私はこの目を苦だと思った事はありませんよ。寧ろ、この目の御蔭でフェイトちゃん達に会えたんですから」

多分、目が不自由でなければ海鳴に来る事は無かった。それは、はやてちゃん達に出逢う切っ掛けを失うと同じ意味だ。

私は感謝している。この目の御蔭ではやてちゃんに出逢えた事を、なのはちゃん達に出逢えた事を、アイリスと言う家族に出逢えた事を、大勢の人達に出逢えた事を…。

「それに、私にはアイリスが居ますからね」

「はい。母様の目、手、足となり全ての外敵から母様を護ります」

今まで会話に参加せず、黙って私の背後で控えていたアイリスが初めて口を開き、静かだが力強くそう宣言する。

「えっと…」

「私はアイリスと申します。母様の使い魔です。以後、よろしくお願いしますね?キャロ、エリオ」

「あ、はい!よろしくお願いします!」

「…使い魔が居るのなら視覚を共有出るんじゃないんですか?」

「母様には、『見る』と言う感覚…視覚が元々存在していません。ですから、私の見る物を共有する事は出来ないんです」

「ふふふ、魔法関係者の方に会う度にこの事を説明しますね」

もう何度この説明をした事か。結局、詳しい原因は分かっていないんですよね。

「その分、それ以外の感覚が異常な程鋭いんだよね?」

「私より嗅覚が鋭いとは…犬としてのプライドがズタズタです…」

後ろの方でアイリスの心底落ち込む声が聞こえる。そんな最愛の娘に私は「あはは…」と苦笑するしか術は無く、私の背後でどんよりとしたオーラが漂い始めた。

「で、でも!ほら、アイリスだって戦闘能力は高いと思うよ?うん!…彩が護衛対象の時だけ」

フェイトちゃん、最後のは余計だと思いますよ?

「シグナムさんの方が凄いですけどね。母様が関わると騎士のプライドを捨てて相手をボコボコにしますし…」

剣、使ってませんでしたよねぇ…。

私が思い浮かべるのは闇の書事件の時のシグナムさん。アリアさんやロッテさんの戦闘時、後半から剣では無く拳に変わっていたのは今でも覚えている。

以前、ヴィータちゃんがそれについてシグナムさんに「騎士のプライドはどうした!」と文句を言ったそうだが、その時シグナムさんはこう言ったらしい。

―――騎士のプライド?お前は彩を傷つける塵屑以下の存在に騎士のプライドなどと大層な物を持ちだすのか?

「あ、あはははは!!…はぁ」

もう笑って誤魔化すしかないとフェイトちゃんが突然笑い出し、最後に深い溜息を吐く。その溜息は妙に疲れていた…。

「彩~?どうしたの~?」

何時まで経っても帰って来ない私に我慢の限界が来たのか、リビングからお母様の私を呼ぶ声が聞こえて来る。

「あっ…長話をしてしまいましたね。さぁ、今度こそ上がって下さい。荷物は後で部屋に運んで貰うので一先ず玄関に置いておいて下さい」

「あ、はい!」

「…あの」

「はい?何ですか?エリオ君」

「さっきの家族として、と言うのは…いえ、何でも無いです」

エリオ君が何か言いかけてやめるのを聞くと、私はくすりと笑い、エリオ君に心からの歓迎の言葉を贈る。

「水無月家へようこそ♪エリオ君。キャロちゃん」

「!…これからよろしくお願いします。彩さん」

「よ、よろしくおねがいしましゅ!」

さっきまでとはまるで態度が違い恥ずかしそうなエリオ君と焦って台詞を噛んでしまうキャロちゃんの声を聞き、私は満面の笑みを浮かべて…。

「「っ!?/////」」

「…はい♪よろしくお願いします♪」

優しく二人を抱きしめた…。











「初めまして、水無月由良です。一ヶ月って言う短い間だけど、自分の家だと思って自由に過ごしてね?」

「は、はい!よろしくお願いします!」

「お、お世話になります」

「ふふふ♪そんなに固くならなくても良いのに♪」

緊張している二人を見て微笑むお母様。

「由良さん。お久しぶりです。あと、これ…」

「あらあら♪翠屋のケーキね♪皆で食べましょうか♪待ってて、今お茶淹れるから」

「あ、手伝います」

お茶の準備をするためにリビングに向かうお母様に、自分も手伝おうフェイトちゃんが椅子から腰を上げるが、それはお母様によって阻まれる。

「良いから、フェイトちゃんは座ってて。お客さんなんだから♪」

「そんな、私が無理を聞いて貰っている側ですから…」

「良・い・か・ら♪彩とゆっくりお話知ると良いわ。滅多に会う事が出来ないんだし」

「…ありがとうございます」

申し訳無さそうに礼を言うと、フェイトちゃんは自分の座っていた椅子に腰を下ろす。

「こう言う時は素直に世話される物ですよ?フェイトちゃん」

「…彩にそれを言われるとはね」

「む!どういう意味ですか?」

フェイトちゃんの聞き捨てなら無い言葉に私はぷくりと頬を膨らませて非難の目を向けてフェイトちゃんが居るであろう方向をジト目で睨んだ。

「昔の彩は直ぐに遠慮して自分でやろうとしてたからね。ね?由良さん?」

「そうねぇ。今でもその癖は直って無いけど…ね?アイリス?」

紅茶を持ってキッチンから戻ってきたお母様がそんな事を言って来る。

「はい。私がしますと言っているのに無茶するんですもん。母様」

あ、あれ?何で私責められているんでしょう?藪蛇?藪蛇ですか?

「「あ、あはは…」」

場の空気に着いて行けず苦笑するエリオ君とキャロちゃん。どうやらこの場に私の味方は居ないらしい…。

「うぅ…あっ!そう言えば、キャロちゃん」

「はい?」

「荷物を大事そうに持ってますけど、その中は何でしょうか?」

会った時から私の耳に聞こえるごそごそという微かな音を発するキャロちゃんの荷物。フェイトちゃん達には聞こえてはいない様だが、私にはしっかりと聞こえていた。

「ほえっ!?ど、どうして分かるんですかっ!?」

キャロちゃんは目が見えない私が自分が荷物を持っている事に知っているのを驚いている様だ。

「だって、さっきから荷物からごそごそ音が聞こえてますから」

「え、ええっ!?」

私の指摘に驚いてキャロちゃんがぎゅっと荷物を抱きしめると、荷物からまた微かな悲鳴が聞こえた。

な、中の子には悪い事をしてしまいましたね…。

「まさか…キャロ?私が言った事覚えてるかな?」

「あ、あうあう…で、でも!置いて行くなんて可哀そうです!」

「私が責任持って面倒見ておくからって言ったよね?」

「うぅ…」

あぁっ!キャロちゃんが泣きそうです!?

此処は何とかキャロちゃんを庇わねばなるまい。

「え、えっと!別にペットを連れて来ても構わないですよ?家にはアイリスも居ますし!」

「私はペット扱いですか…いえ、間違ってはいないんですけどね」

あわわっ!?今度はアイリスが泣きそうですっ!?

「彩。キャロが連れて来た子はそんな犬や猫とか言うレベルじゃないんだよ…フリード。出ておいで?」

「クルゥ~…」

荷物の中から聞こえて来る気まずそうな鳴き声の後、ごそごそと後を立ててソレは出て来た…。

「キュクルゥ~ッ!」

「あらまぁ…成程。フェイトちゃんの言う事も理解出来るわね」

「ドラゴン…ですか」

驚くお母様とアイリスの声。

『ドラゴン』御伽噺で出て来る大きなトカゲに蝙蝠の翼を持ち、口から炎を吐き出す怪物。それが私が知っているドラゴンの知識。正直トカゲも蝙蝠も触った事は無いのでどういう形かは想像出来ないが…。

「ドラゴンなんて生き物この世界で見つかったら大変な事になっちゃう。勿論、管理局の法律でも禁止されてる事。キャロも知ってるよね?」

「…はい」

執務官としての立場か、普段のフェイトちゃんとは正反対とも言える厳しい雰囲気を持った言葉にキャロちゃんが悲しげに同意する。

…確かに、この世界でドラゴンなんて生き物を見られたりしたら大騒ぎになってしまう。唯一つ確実と言えるのはフリードは研究所送りになると言う事。世紀大発見なのだか当然だろう。

「なら、フリードは私が連れて帰「フリードちゃんおいでおいで~♪」って由良さんっ!?」

真剣な話をブチ壊す能天気なお母様の声にこの場に居る全員がガクリと肩を落とした。

「クルゥ?」

パタパタと音を立ててお母様の許へとやって来るフリード。そうするとお母様はフリードが手に届く距離にやってくると思いっきり抱きしめる。

「きゃ~♪可愛いわねぇ♪私ドラゴンなんて初めて見たわ~♪」

それはそうだろう。この世界には本物のドラゴン何て居ないのだから。

「あの、由良さん?今真面目な話をしてるんですが…」

あ…何となく次にお母様が何を言うか想像出来ました。

「別に良いじゃない。この子も此処に住んでも」

「由良さんっ!?」

やっぱり…。

「さっきの話聞いてましたっ!?他次元世界の生き物を他の世界に連れて来ちゃいけないんですよっ!?しかもこの世界は魔法技術の無い管理外世界ですっ!」

「バレなきゃいいんでしょう?なら家から出さなければ良いじゃない。フリードちゃんには少し窮屈な思いをさせると思うけど、人の以内場所なら出しても良い訳だし…」

「誰かに見られる可能性は0じゃないですっ!」

「水無月を舐めちゃいけないわよフェイトちゃん?プライベートビーチを所有してるわよ。ウチ」

「あ、この間すずかちゃん達と行った海って…」

「勿論♪水無月が所有するビーチ♪」

でも、海は時期が少し早い様な気がしますまだ3月の頭ですよ?。

恐らく海に行く事は無いだろう。

「私…行って無いよ?」

フェイトちゃん達仕事で居ませんでしたから…。

涙声で訴えて来るフェイトちゃんに申し訳ない気持ちで一杯になるが、これはどうしようもないだろう。フェイトちゃん達も仕事なのだからそれは理解して貰いたい。

ついでに付け加えると、勝君や他の子達も一緒だった。勝君妙に私から距離を取ったり、恥ずかしそうにしていたのは未だに分からないが…。

「ハラオウン家の皆さんも来てたわよ?」

「バーベキュー楽しかったですね♪」

「母さあああああああああああああんっ!!(怒」

お母様とアイリスの言葉を聞いて急に叫び声を上げるフェイトちゃん。その叫び声には妬みや怒りなどが包み隠さずダイレクトで伝わって来る。

何て言うか…すいません。フェイトちゃん。

今度行く時は一報くらい入れておこう。そう誓う私だった…。







「はぁ…仕方ないね。分かった。許可します」

あの後キャロちゃんの必死な説得に、遂にフェイトちゃんが折れてフリードを此処に住む事を認めてくれた。

「良い?人が居る時は出しちゃ駄目なんだからね?家から外に出しちゃ駄目だよ?」

「はい!」

「クルッ!」

はっきりと返事をするキャロちゃんとフリード。二人の返事からして心配はいらないだろう。

「…良いんですか?」

「何がです?」

「フリードが見つかれば僕達だけじゃ無い。彩さん達にだって迷惑を掛けるんですよ?」

まあ、そうですね。でも…。

「良かったね♪フリード♪」

「クルゥ♪」

私の耳に聞こえて来る一人の少女の笑い声と一匹の龍の嬉しそうな鳴き声。そう、キャロちゃんが笑ってる。それで良いではないか。きっと、フリードをキャロちゃんから引き離したらキャロちゃんはこの一ヶ月間フリードの事を気にして過ごさなければならない。そうなれば今の笑顔は見る事は無かっただろう。

「二人が笑ってるから良いじゃないですか♪…ね?」

「………彩さんって、凄いですね」

「え?」

突然のエリオ君の言葉に私は思わずきょとんとしてしまう。

「自分の事より他人の事を優先するんですから。凄いですよ…」

そうでしょうか?私は、周りの人が悲しんでいるのを見ていたくないだけなんですが…。

これは自己満足。自分が勝手に取った行動。これは決して褒められる事ではないと思うのだが…。

「私は別に…」

「そうやって、それが普通だと思えるのが凄いと思いますよ?」

う~ん…。

私はそうは思えないのだが…。

「そうだね。彩は凄いよ。その助けたいって想いだけで大切な友達の命を救ったんだから」

「や、やめて下さぃ。照れちゃいます…」

私は顔を隠す様に顔を伏せる。先程から褒められてばかりで顔が熱くなり火が噴き出しそうになってしまいそうだ。

「ふふふ…あっ!もう、こんな時間だ」

フェイトちゃん達が来てどれ程の時間が経過したのだろうか?フリードの事もあって慌ただしく時間が過ぎてしまい時間の流れをわすれてしまっていた。

「何か用事でも?」

「うん…もう、明日の仕事の準備に取り掛からないといけないから…ごめんね?」

「仕事なんですから仕方ないですよ…気を付けて下さいね?」

「大丈夫だよ♪今回はそんなに危ない仕事じゃないから。エリオ、キャロ。あんまり迷惑掛けちゃ駄目だからね?」

「はい」

「由良さんや彩さんに御迷惑を掛けませんっ!」

「別に私達は構わないけど?」

「ですね♪」

甘えてくれた方が私としても嬉しいですから♪

「あはは、本当に相変わらずだね彩は…じゃあ、またね?」

「はい。いってらっしゃい、フェイトちゃん♪」

「………行って来ます。彩♪」

私の言葉に少しの間を空けると、嬉しそうに返事を返してフェイトちゃんは家を出て行った…。

親友が居なくなったリビングにしばしの時間沈黙が訪れる。流石にこの場に慣れていないエリオ君とキャロちゃんに盛り上げさせるのは苦と言う物だろう。

「フェイトちゃん、さっき彩が行ってらっしゃいって言った時に嬉しそうだったわね♪」

「え?」

「行ってらっしゃいって言ってくれる人が居る。帰って来れる場所がある。それだけで嬉しい物よ?」

「…そうですね」

「分かる気がします」

エリオ君とキャロちゃんがお母様に同意する。二人にも思う所があるのだろう。

「さてさて♪新しい家族が増えたの事だし、二人をお部屋にご案内しましょうか♪」

「あ、はい。お願いします」

「荷物を持って二階に上がりましょうか。もう準備は済ませてあるから何時でも休めるわ。長旅で疲れてるなら今日はもう休む?」

「いえ、大丈夫です。大して疲れて無いですし…」

「長旅と言っても、此処まで来るのはあっという間でしたし…」

ほぇ~…ワープと言う物でしょうか?フェイトちゃん達にそう言う話はしないので興味深いです。

流石時空管理局。無限に広がる次元の海を管理するにはそれぐらいは出来て当然と言う事だろうか。

そんな事を思いつつも私達は玄関に置いてあった荷物を取りに行き二人の部屋へと向かった。部屋は一人一部屋ずつ割り当てられ、生活に必要な物は全て備えており特に困る事は無いだろう。

「この二つの部屋がエリオ君とキャロちゃんの部屋よ。どちらを使うかは二人で相談して決めてね。まぁ、どちらも中は同じなんだけど」

「えっ!?一人一部屋ですかっ!?」

「ええ♪」

「良いんですかっ!?僕達は別に二人で一部屋でも…」

「部屋は余分にありますから気にしなくても良いですよ♪」

「この家には3人でも大きすぎるからね♪二人が来てくれて丁度良かったわ♪」

お母様の言う通りこの家は3人で住むには少し大きすぎる。たぶん、この家の規模は6人で住むのが丁度良い程の大きさだろう。

お父様の仕事の都合上、会社の方も極偶にお泊りになられる事もありますからね。その関係でこういう設計にしたんでしょう。

「だから、気にしなくて良いんですよ?自分の部屋だと思って好きに使って下さい。…それじゃあ、私とお母様は夕食の支度があるので失礼しますね?何かあったら下に居るので声を掛けて下さい」

「夕食の時間になったら声を掛けるからそれまでゆっくりしててね」

「では、私も母様の手伝いをしなければならないので…」

私とお母様はそれだけ言うと一階へと降り、此処にはエリオ君キャロちゃんだけが残されてしまう。二人は目を合わせて暫し思考するととりあえず自分の部屋を決めて部屋の中に入るのだった。そして二人は更に驚く事になる。

部屋の中に入って視界に入った物。それは、ベッド、タンス、本棚、机、エアコン、テレビ、ノートパソコン、小さめの冷蔵庫と無駄に完備されていた部屋だった。とても世話になる立場の者が住む部屋とは到底思えなかった…。

「「す、凄い…」」

水無月家の財力に圧倒され、それぞれ別の部屋で二人は同じ言葉を呟くのだった…。










「ウフフ~ン♪今日は腕に撚りを掛けちゃいます♪」

鼻歌を歌いながら冷蔵庫から食材を取り出しテーブルに並べて行く私に、隣で同じく夕食の支度をしていたお母様がクスリと笑って話し掛けて来る。

「あらあら、嬉しそうね?彩」

「勿論です♪今日から賑やかになると考えるととても心が踊ります♪」

ですから、今日は二人の歓迎の御馳走を作らないといけません♪

「母様、私は久しぶりに母様のオムレツが食べたいです」

「そうですね!アレは欠かせませんねっ!任せて下さい!」

「ふふふ♪これはとても豪華な御馳走が出来そうね♪帰って来たお父さんが驚く顔が目に浮かぶわ♪」

きっと凄く驚くでしょうねぇ~♪さて、卵卵♪

「今宵も卵の声が聞こえて来ます…フフフ♪」

熱したフライパンに溶いた卵を垂らすと、卵の弾ける音を聞いて思わず頬が緩んでしまう。

「…母様って卵料理の時は人が変わりますよね?」

「卵の姫様だからねぇ♪」

周りの人達が何か言っている様だが、今の私にはまったく聞こえていなかった…。









――――Side Caro Ru Lushe
    




「う~ん…休んでてって言われても…」

私は今、宛がわれた部屋のベッドでフリードを頭の上に乗せ体育座りでちょこんと座っている。

何もする事が無いので視界に入ったテレビのリモコンに手を伸ばし暇つぶしにテレビを見てみたが余りこの世界の番組に興味を持てず直ぐに電源を落としてしまう。リモコンをベッドに投げ自分自身もベッドに身体を沈めると、頭の上のフリードを抱きかかえてぼ~っと天井を眺めていた…。

「フリード。私上手くやっていけるのかな?」

「クルゥ~」

「…うん。彩さんは優しい人だって事は分かってる」

フェイトさんの友達なんだもん。悪い人の筈が無いよね。

私は先程までフェイトさんが彩さんと楽しそうに会話していたのを思い出す。あんなに幸せそうにしていたフェイトさんを見るのは初めてだ。きっと、それだけ彩さんの事が大好きで、彩さんは素敵な人なのだろう。

「クルッ!」

「そうだね。お話してみないと何も始まらないよね?」

夕食の時にでもちゃんとお話をしてみようかな?

コンコンッ…

「?」

突然、ノックの音が響き来客が来た事を知らせてくる。

誰だろう?

「あの、僕だけど…」

「エリオ君?」

部屋に訪れた客は隣人のエリオ君だった。私は入口に向かいドアを開けると、廊下には気まずそうにしているエリオ君が立っており、私はそんな彼を見て察し、エリオ君を部屋の中へと招く。

「どうかしたの?」

「うん…」

何やら気難しそうにして椅子に座っているエリオ君に冷蔵庫に入ってあったジュースを手渡すと、エリオ君は「ありがと」と短く感謝してそれを受取る。

「何て言うか…する事無いなぁって…」

「あはは…エリオ君も?」

やっぱりと言うべきか。やはりエリオ君も暇を持て余していたようだった。

「料理のお手伝いしようとしたら断られちゃったし…」

「あっ!ずるいよっ!?」

「いや、多分キャロが行っても断られたと思うよ?彩さん曰く、『今日は二人の歓迎会』だからって言ってたし」

成程、歓迎する人に手伝わせる訳にもいかないと言う事なのだろう。

「そうなんだ…」

「うん…」

「…」

「…」

「「………はぁ」」

長い沈黙の後に重なる溜息…。

そう言えば…。

慣れない環境に忘れていたが、エリオ君には聞かなければならない事があったのだ。そう、この家に着いた時にエリオ君が彩さん言った言葉…。

―――作り物だとしても…。

「ねぇ、エリオ君…」

「何?」

「エリオ君、行ってたよね。自分の事作り物だって…」

「…うん」

「話してくれる、かな?あっ!で、でも!嫌なら別に…」

「…ううん。話す、話すよ。何時かは話さないといけない事だと思ってたから…」

「…ありがとう。エリオ君」












――――Side Sai Minaduki
    




「その料理はテーブルの端。そっちは真ん中ね。アイリス、お願い」

「お任せを」

「スープの味はこんな感じで良いですか?薄くないですか?」

「良いんじゃないかしら?とっても美味しいわよ♪」

「ありがとうございます♪」

「ただいま~!」

玄関の方から我が家の大黒柱の声が響き、帰宅した事を知らせて来る。私は料理の手を止め、タオルで手を拭いお父様のお出迎えをするために小走りで玄関へと向かった。

「お帰りなさい!お父様!」

「彩、ただいま。もう来てるのかい?」

「はい。今は上で休んで貰っています」

「そうかい。…ん~っ!良い匂いだなぁ~!」

くんくんと鼻を鳴らしてキッチンから漂って来る御馳走の匂いを嗅ぐお父様にくすりと微笑むと、私はお父様の荷物を預かる。

「ふふふ♪料理はもう直ぐ出来上がるので先にお風呂で汗を流すと良いですよ?」

「そうさせて貰おうかな」

「はい。エリオ君とキャロちゃんとの御挨拶は夕食の時にしましょう」

「うん、そうだね。じゃあ、先にお風呂を頂くとしようか」

「はい♪着替えは後でお風呂場に持って行きますので♪」

「すまないね♪」

そう礼を言うと、お父様はお風呂場へと歩いて行き、私もお父様から受取った荷物を置きに行くためにお父様の自室へと向かった。私達を見ている二つの視線に気付かないまま…。

「(どう見ても新婚夫婦の会話ですよね?今の…)」

「(もしかして小さい頃彩が言った『お父様のお嫁様になる♪』って約束いまだに信じてる訳じゃないわよね?アナタ…)」



ゾクリッ…

「ぬおっ!?何だ今の寒気はっ!?」

お湯に使っていると言うのにまるで氷を背筋に押し付けられた様な寒気に、一郎は一人湯船の中でブルリと身体を震わした…。





「ふぃ~…良い湯だったぁ(しかし、あの寒気は一体何だったんだ?)」

あれから半時程経過した頃だろうか、満足そうにお父様がリビングへと入って来る。

「あ!湯加減どうでしたか?」

「最高だったよ」

「それは良かったです。料理の方はもう直ぐ出来上がるのでテレビでも見て寛いで居て下さい」

「そうだね。そうしようか。…母さん」

「ビールは駄目よ?」

「…あ~…そうだな、我慢するか。麦茶麦茶~っと」

即答で返された禁酒発言にしぶしぶ納得するお父様。エリオ君とキャロちゃんの事を気遣ってか、お父様は文句を言わずに冷蔵庫麦茶を取り出すとソファーに座りテレビを黙って見始めるのだった。

「ふふ♪…さ・て・と!料理はお終いっと!後は盛り付けて…アイリス。出来上がった料理を向こうのテーブルに運んで貰えるかしら?」

「お安いご用です」

そう言うとアイリスは出来上がった料理を持ちリビングの方へと運んで行く。

私はそんなアイリスの微笑ましい光景…は見えないが。行動に笑みを浮かべ、そろそろ二人を呼ぶ頃合いだと思い私はお母様に訊ねてみる。

「お母様。そろそろ二人を呼んで来ますね?」

料理も既に完成し、テーブルは豪勢な料理で埋め尽くされている。リビングには美味しそうな香りで満たされお腹の虫を刺激してくる。二人がリビングに入ってきたらさぞ驚くだろう。その様子を想像すると思わず笑みが浮かべてしまう。

「ええ、お願いね」

「はい」

お母様の了解を得て、私はリビングを出ると階段を昇り二人の居る部屋へと向かう。

コンコンッ…

エリオ君の部屋のドアを軽く叩く。

「…」

しーん…

しかし、帰って来るのは沈黙のみ。幾ら待っても部屋の主からの返事はやってこない。

「…あれ?」

留守でしょうか?でも、此処に来たばかりなのに外に出ると言うのは…。それに、私が外に出たのに気付かない筈が…。

すると、困惑する私の耳にエリオ君とキャロちゃんの声が隣の部屋から響いて来た。

「あ…隣…キャロちゃんの部屋ですね」

私とした事がこんな近くの気配を見逃すとは…。

気を取り直して私はキャロちゃんの部屋のドアを軽く叩いた。

コンコンッ…

「…はい。どうぞ」

若干間を置いて返って来るキャロちゃんの声。今度はちゃんと返事が返ってきた。私は返事が返って来るのを確認するとドアノブを回しドアを開け部屋の中へと入った。

「お邪魔します。二人とも一緒だったんですね。エリオ君が部屋に居ないからビックリしちゃいました」

「あっ!ごめんなさい!何もする事が無いから退屈で…」

申し訳無さそうなエリオ君の声を聞いて私は優しく微笑んで首を振る。

「いいえ。そんな気にしないで下さい。私の方こそ気が付かないでごめんなさい。何もする事が無いと退屈ですよね?」

一応テレビやパソコンを用意していたんですが、やはり別世界の番組なんて面白くないですよね。

もう少し自分も同じ立場になって考えるべきだった。と言っても別世界の物なんて用意できる筈も無いのだが。

エイミィさん辺りに頼めば喜んで譲ってくれるでしょうけど…。

偶に『時空通販』とかなんやらで買った可笑しな商品を持ってくるのだが、それで良いのか時空管理局。

「…あら?」

何か二人とも、この短時間で雰囲気が変わりましたか?

何故だろうか?妙に声が軽くなったと言うか、若干明るくなったと言うか…二人から何か重しが降りた様に思えた。

「何かありました?」

「「え?」」

「あっ、いえ。何でもないんです。気にしないで下さい」

深く追求するのはやめておこう。

「あの…それで何か用事でも?」

「ああ、そうでした。二人ともリビングへどうぞ♪」

「「?…は、はい」」

楽しそうにしている私を不思議に思ったのか、戸惑った様子で返事をするのだった。







「これって…」

「凄い…」

リビングに入ったと同時に目の前に広がる光景に息を飲む二人。そして、その二人をクラッカーの音が歓迎する。

パンパンッ!

「「「ようこそ!水無月家へ!エリオ君!キャロちゃん!」」」

水無月家全員での歓迎言葉。それに二人は思考が停止したのか動かなくなる。

「えっと…その…?」

「これは、一体…?」

「あれ?言ってませんでしたか?二人の歓迎会ですよ?」

確かエリオ君がキッチンに来た時に言った筈なのですが…。

「い、いえ!聞いたんですけど…こんなに豪華だとは…」

「う、うん!凄く美味しそうな料理が一杯並んでて…とても驚いてると言うか…」

「うふふ♪驚いて貰って嬉しいわね♪ほらほら♪二人ともそこで立って無いで座ってちょうだい」

ずいずいと二人の背を押しソファーへ座らせるお母様に、私はクスリと笑みを溢しその後に続いた。

ソファーに腰を下ろすと、目の前でコトリと何かを置く音が。液体の跳ねかえる音が聞こえたのでジュースが入ったコップだろうか。

「母様。どうぞ、オレンジジュースです」

「ありがとう。アイリス」

「うん。全員に飲み物は行き渡ったかな?では、乾杯するとしようか。…水無月家に新しい家族が加わった今日と言う良き日に、かんぱーいっ!」

「「「乾杯!」」」

「え、え~っと…乾杯?」

「か、かんぱ~い」

ノリの良い水無月家とは反対に妙に高いテンションに乗り切れない二人。

「おいおい。元気が無いなぁ」

「もう、アナタ。二人とも慣れない場所で戸惑ってるんだから無理言わないの」

「それもそうだ。おっと!自己紹介がまだだったね。僕は水無月一郎だ。よろしく!」

「エリオ・モンディアルです!」

「キャロ・ル・ルシエでしゅ!」

「はははっ!元気だね。子供はそうでなくちゃ。…でもそう固くならなくても良いよ?自分の家だと思ってくれ」

もうその台詞は使用済みですよお父様。

「は、はい!」

「ありがとうございます!」

もうこのやり取りも何度目だろうか?まぁ、ああ言われて返せる言葉は限られているので別に可笑しくは無いだろう。

「クルッ!」

今まで大人しくしていたフリードが鳴き声を上げ、それを聞いたお父様が驚いてソファーから飛び上がった。

「うわっ!?…おおおっ!?ドラゴンかいっ!?凄いなっ!初めて見たよっ!」

「あの…驚かせてすいません。迷惑ですか?」

「いやいや!そんな事無いさ!むしろお礼を言いたいぐらいだよ!カッコいいなぁ~…僕も小さい頃は勇者やドラゴンに憧れてたよ」

やっぱり男の子ってそう言う物なんでしょうか?

昔のクリスマスパーティの件で怪獣を作ってくれって言われた事があるのを思い出す。

「それじゃあ、お楽しみの料理食べるとしようか!」

「はい♪エリオ君、キャロちゃん、フリード。好きな物食べて良いですからね?」

「はい!」

「頂きます!」

「クルゥッ!」

うふふ♪やっぱり子供は元気が一番ですね♪

目の前の御馳走を並べられて我慢出来なくなったのか、元気良く返事をする2人と1匹の声を聞いて嬉しくなってしまう。

「エリオ、キャロ。このオムレツをどうぞ。絶品ですよ?」

アイリスが私の作ったオムレツを二人に勧める。

「オムレツ?」

他にも豪華で美味しそうな料理があると言うのにオムレツを勧めて来るのに不思議に思ったのかエリオ君は少し戸惑うが、アイリスが更にオムレツについて説明を付足す。

「母様が作ったんです。母様が最も得意とする料理ですよ?まぁ、食べてみれば分かります。きっと驚きますから」

あはは…少し照れてしまいます。

誇り気に自慢するアイリスに照れつつも私はアイリス達の会話を黙って聞く事にする。

「彩さんの…えっと、頂きます」

「ふふふ、どうぞ♪」

「はむ………!?美味しいですっ!」

「本当だ!外はふわふわ、中はトロトロで…こんなの初めてだ!」

「クルーッ!」

「当然です!母様のオムレツなのですから!」

少し大袈裟の様な気もしますが喜んで貰えて嬉しいです。

「オムレツ以外にもありますので沢山食べて下さいね?」

「「はい!」」

ふふふ♪本当に美味しかったようですね♪頑張った甲斐がありました♪

夢中で料理を食べている二人と一匹の微笑ましい様子に笑みを浮かべて私は何も言わずそれを見守る。

こんな良い子達なのに…。

美味しそうに食事をする二人。こうしていれば幾ら特殊な事情がある子達であろうと何処でも居る子供とかわらないのだ。

理由があっての事なのかもしれない。でも、だからと言ってこの子達が何故辛い思いをしなければならないのか?私はどうしても納得出来なかった。一ヶ月が過ぎれば二人はフェイトちゃんの許へ、管理局へ戻って行くのだろう。それは魔法と共に生きると言う事。再び辛い思いをする事だろう。フェイトちゃんの事は信用している。彼女はきっと二人を護ってくれるだろう。でも、出来ればずっと此処に居て欲しかった。ずっと魔法も危険も無いこの温かい場所で…。









―――それから数日経ち…。


エリオ君とキャロちゃんが来て一週間程が過ぎた頃。二人ともすっかり此処の生活にも慣れ…とはは言い難いが、出逢った時の遠慮気な態度は最初に比べれば大分無くなり、水無月家に打解けはじめていた。今日も、お父様の出勤時に一緒に玄関で見送り、丁度今もエリオ君と私、アイリス、お母様で一緒に朝食を食べているのだ。

「ふぁ…おふぁようごじゃます」

「キュウ~…」

可愛らしい欠伸とまだ完全に起きて無い様子のキャロとフリードがリビングにやって来て朝の挨拶をして来る。私はそんなキャロちゃんとフリードに微笑むと、同じように挨拶を返した。

「ふふふ、おはようございます。キャロちゃん、フリード。今日は少し遅い御目覚めですね?」

「ふにゅ…布団の誘惑が…」

「分かりますよ、その気持ち。春とは言え、まだ朝は冷えますからね」

「うぅ…眠いです」

「あらあら」

「まだ頭は起きて無いようですね」

「顔を洗ってきなよ。目が醒めるから」

「ん~…」

ふらふらとした足取りで再びリビングを出て行くキャロとフリードを私達は見送ると、朝食を済ませて足元置いてある鞄を手に取り椅子から腰を上げる。

「キャロちゃんと朝食を摂れなかったのは名残惜しいですが、そろそろ登校の時間なので行きますね」

「行ってらっしゃい。気を付けてね?」

「彩さん行ってらっしゃい!」

「はい♪行ってきます♪」

二人とそう言葉を交わすと、私は玄関へと向かい皮靴を履き玄関のドアノブに手を掛ける。すると、そこでアイリスが小走りで私の許へとやって来た。

「学校までお供します。母様」

「ありがとう、アイリス」

アイリスと共に登校、それは中学を卒業する頃から日課となっていた。昔はアリサちゃん達が迎えに来てくれたのだが、歳を重ねる連れそう言うのは無くなりつつあった。しかし…。

「お~い!彩~っ!」

「彩ちゃ~んっ!おはよ~うっ!アイリスちゃんもおはよ~うっ!」

仲良く一緒に登校するのは変わらない。

「おはようございます!アリサちゃん!すずかちゃん!」







「フェイトのとこの二人はこっちには慣れた?」

「そうですね。今じゃ家事のお手伝いとかもしてくれてますよ?」

「ふ~ん」

「仲良さそうで良かったよぉ。慣れない環境で戸惑うかなって思ってたから…」

実際、その通りでしたけどね。

「って事はもう外に出掛けたりとかはしてるんだ?」

「ん~…フリードが居ますから、キャロちゃんは余り外には出てませんね。エリオ君の方は良く外で散歩とかしてますけど」

キャロちゃんはフリードと離れるて行動する事は殆んど無いので仕方ないのだが…。

「ちょっ!?じゃあその子は家の中で缶詰状態な訳っ!?」

「…そう言う事に、なりますね」

私としても大変心苦しいのですが…。

「それはまずいよぉ…」

「ちょっと彩!アンタ何やってんのよっ!?」

アリサちゃんの怒鳴り声にビクリと肩を震わす。明らかにアリサちゃんはキャロちゃんに対する扱いに怒っているご様子。

あうう。分かってますよぅ。だから近い内に何か企画を考えてるんですぅ…。

「え、えっとですね…。近々思い切ってフリードと一緒に外に出掛けようと思ってるんです」

そのために色々とお父様に手を回して貰ってるんです。そう、色々と…。

権力はこう言う時に使う物だと良くお父様が言って居た様な気がする。

「どこに出掛けるのかな?」

「もう直ぐ桜が満開の時期ですよね?だから公園にでもお花見に皆で行こうかと…」

「アンタねぇ…。桜と言ったらこの時期一番人が集まる場所じゃない!」

「大丈夫ですよ。アリサさん。そのための大父様です」

「水無月の小父様?」

「はい。母様が大父様に公園を一時的に貸切状態に出来る様に頼んだんです。昼間は他の利用者も大勢居るので、夜だけならと許可を頂いた様です」

えへん!どうですか!私だってやる時はやるんです!

「夜桜、か…ライトアップされた桜って綺麗よね」

「そうかな?私は月光に照らされる桜の方が素敵だと思うな」

そう色っぽくはふぅと溜息を溢すすずかちゃん。何故だろう?背筋の辺りがゾクリと来た様な…。アイリスの私の手を握る力も強くなった様な気がする…。

「でも花見って…彩はつまらないでしょう?その、目が…」

「花は見て楽しむだけじゃないですよ?香りを楽しむ物でもあるんです。それに、花見ですからお弁当を用意して皆でお食事すると楽しいじゃないですか」

「そう、ね…そうよね」

「気を遣って頂き有難うございます。でも、私は皆と一緒に居るだけで楽しいですから」

「彩…もう!アンタって子は何時まで経っても母性本能を擽るんだから!このっ!このっ!」

「きゃっ!?アリサちゃん、苦しいですぅ…」

急にアリサちゃんに力一杯に抱きしめられ、終いには私の身体ごと抱きしめた態勢でぶんぶんと振り回される。

「あわわわわわっ!?ア、アリサちゃんっ!?」

「アリサちゃんっ!落ち着いてっ!?彩ちゃんが目をまわしてるよっ!?」

「アタシが男だったら確実にお嫁に貰ってるのにな~♪」

「きゃああああああっ……きゅぅ」

パタリ…

「さ、彩ちゃんっ!?」

「母様っ!?しっかりして下さいっ!母さまっ!?」







キュピーンッ…

「むっ!?彩の危機の予感っ!?」

何かの電波を受信し、私は思わず声を上げて立ち上がる。

「いかん!今直ぐ彩の許へ向かわねばっ!」

「はいは~い。交代の時間やで~。シグナムは仕事に戻ってや~」

「ぐあっ!?主!後生ですっ!彩に危険が迫っているのですっ!」

「はいは~い。シグナムの後生はこれで何度目や~?良いから働こうな~♪」

いつの間にか背後に居た主にぐわしと頭を掴まれずるずると職場へ連行されて行く私。気分はドナドナだ。

ぬあ~!彩~っ!!!!!

「!(しめた!このまま此処から脱出するの!)」

ぶちりと自分を拘束していたバインドを引き千切りベッドから抜け出そうとするなのは。しかし、この世は無常である…。

「は~い♪なのはちゃ~ん♪シャマルクッキングの時間ですよ~♪」

「にゃああああああああああっ!?」

頭がパーンとなった…。







学校から帰って来ると、早速私はエリオ君とキャロちゃんに花見の件について話して見る事にした。

「花見?」

「はい。どうでしょう?」

「でも、フリードを外に出す訳には…」

「我が水無月家の力を見せて上げようじゃないか!」

そう自信満々でそう宣言するお父様。

普段は権力など振りかざすのを嫌うお父様ですが、こう言う時はとことん使いますからね。大丈夫ですよ。

人避け効果はきっと魔法の結界並みに出来ている事だろう。

「人の目を気にする必要はありませんよ?お父様が手を回して下さいましたから」

「そうなんですか?」

「流石に昼間は利用者が多いから無理だったけどね。夜なら元々人気も少ないし公園の周辺は封鎖するから誰かに見られる心配は無いよ?」

「うわぁ…水無月家って本当に凄いんですね」

プライベートビーチを所有したり、公園を簡単に封鎖するぐらいですもんね。

少なくとも、普通の家庭では無い。住居はお父様の性格か、それとも過去に何度も引っ越しを繰り返していた所為か別に豪邸と言う訳ではないのだが…。

「それじゃあ、お花見の件は決まりと言う事で良いですね?」

「はい!ありがとうございます!良かったね!フリード!」

「キュクルゥッ!」

余りの嬉しさにパタパタと私達の周辺を飛び回り始めるフリードとその後を追うキャロ。こんなに喜んで貰えるとこちらも準備した甲斐があったと言う物だ。

「あはは、良かったね。キャロ、フリード」

「うん♪」

「お花見は丁度明日彩も学校が休みだし明日にしようと思うんだけど、二人ともそれで良いかしら?」

「はい!問題ありません!」

「此処で用事も出来る訳も無いです、僕もそれで良いです」

苦笑しつつお母様の提案に賛成するエリオ君に私達はそれもそうだと苦笑で返す。この一週間で友人を作るのは難しいだろう。それに、一ヶ月と言う短い期間だ。此処で友人を作っても直ぐに別れてしまう定め。辛い想いしない様にしているのかもしれない。

何はともあれ、明日はお花見です。お弁当の準備をしないといけませんね♪

私はそう心の中ではしゃいで居ると、明日持って行くお弁当のおかずは何にしようか今から考えるのであった…。







―――お花見当日



「彩~!水筒って何処にあったかしら~?」

「そこのテーブルの上に置いてある筈です~」

「あら本当」

「お父様。ビニールシートは?」

「もう車に積み込んでるよ」

「アイリス。お弁当はどうですか?」

「それも既に鞄に入れて車の中に」

バッチリですね!

後は私達が車に乗り込んで現地に向かうだけである。念の為フリードはキャロちゃんが背負うリュックサックの中に入って貰う事にした。車で移動するのもそうだが、何処に人の目があるか分からないからだ。

「エリオ君、キャロちゃん。準備は出来ましたか?」

「はい。僕の方は大丈夫です」

「私もです…フリード、少しの間リュックの中に入っててね?」

「クッ…」

「じゃあ皆。準備も整った事だし車に乗ってくれ」

「「はーい!」」

「あらあら♪」

「元気ですね♪」

「昨日から嬉しそうにしていましたからね」

「よっぽど楽しみにしてたんだね。さっ、行こうか」

大はしゃぎで車へと乗り込む二人。そんな二人を見て心を和ませつつ私達も車へ乗り込み目的地へと出発する。







目的地はそう離れた場所じゃなく近くにある公園。その為か10分程度で到着した。

到着して車から降りそれぞれ荷物をトランクから出し運んで行く。

「…」

私は耳を澄まし辺りに人の気配が無いか調べる。流石と言うべきか、公園周辺には人の気配は私達以外は存在しなかった。人払いは完璧である。

「…流石ですね」

アイリスもそれについて気付いているのか、呆れを含んだアイリスの言葉に私も苦笑を洩らし同意する。

「さて、此処からは徒歩よ。目的地は丘を昇った所にあるから」

「よいしょっっと…お弁当もこの量だと結構重いですね」

「母様。私が持ちましょう」

「良いですよ。アイリスも荷物があるでしょう?

「しかし…」

「良いですから…ほら!早く行かないと時間が勿体無いですよ?」

「あっ!母様!先先行かない下さいっ!?坂道は段差が「はぎゅっ!?」あるから気を付けて下さいと言おうとしたのに…」

アイリスの制止を無視した代償か。私はアイリスの言っていた通り段差に足を引っ掛け盛大に前のめりで躓いてしまう。しかし、弁当だけは咄嗟に頭上に持ち上げ死守する事に成功する。その代わり顔面はノーガードで地面とキスする羽目になったが…。

「それでもお弁当を死守するのは彩らしいわね…大丈夫?」

「ふぁい…」

「両手が塞がってるのを忘れないで下さい。母様…」

「さ、彩!?怪我は無いかい?」

「だいじょぶでしゅ…」

少し鼻が痛いですけど鼻血が出ている訳でも怪我をした訳でも無く、全くの無傷だ。

「もう、顔を汚しちゃって…これで良し」

土で汚れた私の顔をハンカチで拭ってくれるお母様。その声は何処か嬉しそうだ。世話を焼けるのが嬉しいからだろうか?確かに、最近は殆んど自分で出来るようになったし、アイリスが居るので周りの世話をする機会が少なくなってしまったからかもしれない。

「ありがとうございます。お母様」

「うふふ♪どういたしまして♪」

お母様の温かな手が私の頭を撫でてくる。何故だろう?とても懐かしい気がした。そう言えば最後に撫でて貰えたのは何時の頃だったか…。

でも、親離れするのはもう少し先かもしれませんね♪

何れ遠くない未来。大切な人と一緒になって家庭を持ち、お父様とお母様とは離れて暮らす事になるのだろう。でも。まだ、まだ少しだけはこの温もりの傍に居たいから…。







――――Side Itirou Minaduki



「ははっ…」

何だか懐かしいな…。

目の前にある微笑ましい光景。母さ…由良が彩の頭を撫でるなど最後は何時だっただろうか?歳が経つに連れてそう言うのは少なくなっていった。これが成長と言う物ならば少し寂しい物がある。

まぁ、彩なら幾らと年が経とうが僕が頭を撫でても拒まないだろうけどね。…拒まないよね?拒まれたら生きていけないよ…。

「…仲良いですよね。水無月家の皆さんって」

突然隣を歩いていたエリオ君がそんな事を言い出す。

「それが水無月家の一番の自慢さ。勿論、エリオ君やキャロちゃんもそうだよ?」

「え?」

「家に来た時に言っただろ?ようこそ、水無月家へってさ。もう君達は僕達の家族だ。…馴れ馴れしいって思うかい?」

「…いえ。とても嬉しいです。僕は悪く言えば捨てられた子供ですから」

「…そうかい」

「その所為で人を信じる事が出来なかった。でも、フェイトさんや彩さん。水無月家の皆さんの様な人達が居るって知ったおかげで今も僕は人として生きていけるんです」

「…」

「だから、良ければですけど…これからも僕を家族の様に…」

まったく。この子は今さら何を言い出すんだ…。

「何を言ってるんだい?家族の様にじゃなく、『家族』だよ。君は」

「!…ありがとう、ございます!」

お礼を言われる事でも無いんだけどね。

涙を含むんだ瞳でこちらに感謝してくる少年を見て僕は苦笑すると、ぐしぐしと少し乱暴にその頭を撫でる。

息子かぁ…。欲しかったんだよなぁ…。

息子と酒を飲むのを楽しみにしているパパは結構いる事だろう。現に自分もそうなのだから。

でも流石に彩に酒を飲ませる訳にもいかないしなぁ…。

そんな事をすれば後で由良が怖い。正直僕はまだ死にたくないのだ。

「エリオ君が良ければ養子に来ても良いんだよ?勿論キャロちゃんも」

「えっ!?」

「子供二人を養う位難て事無い。寧ろ僕としては大歓迎なんだが?」

「えっと…」

僕の提案にエリオ君が顔を俯き悩み始め、それが暫く経過した頃漸く顔を上げると何やら真剣な表情で此方を見てハッキリとした口調で先程の返事を返して来た。

「とても嬉しい事ですが、お断りします」

「…何故だい?」

「僕は、フェイトさんに何も返す事が出来ていないんです。フェイトさんがいなければ僕はたぶんずっとあの場所に閉じ込められていた。人を信じられないでいた。だから、僕はフェイトさんに恩返しをしたいんです!」

「それは、管理局に入ると言う事かな?」

だとすれば僕は正直賛同は出来ない。彼の道だ。僕が口出しする事では無いがこんな小さい子を危険な目に遭わすなど…。

…いや、それもエリオ君は覚悟の内なのだろうな。

やはり、僕にはどうこうする事は出来ない様だ。

「…そうか。君が決めた事だ。好きにすると良い。でも、辛くなった時は何時でも家に帰って来なさい。もう此処は君の家なのだから」

「一郎さん………はい!」









――――Side Caro Ru Lushe



「んしょ、んしょ…桜って、どんなお花なんですか?」

一段一段階段を昇って目的地に目指す途中、私は昨日から気になっていた事を彩さんに訊ねてみた。すると、彩さんは普段の日常からずっと変わらない嘘偽りの無い笑顔を刻むその顔を此方へと向け、光を映さない筈の瞳をしっかりと私を捉えて説明してくれる。

「桜と言うのはですね。温かい季節、春だけに咲くピンク色の花びらをした花の事ですよ。一つの花はとても小さいですが、一つの枝にそれがたくさん咲いて木をピンク色で埋め尽くすんです。とっても綺麗ですよ」

最後に「私は見た事ありませんけどね」と付け足す所で、ぺろっと舌を出して笑っているのに見惚れてしまったのは私とフリードだけの秘密である。

「あと、フリード。もう出て来て良いですよ。この辺りに私達以外で人はいませんから」

「クルッ」

彩さんの言葉に直ぐに反応しフリードはリュックから飛び出して今まで身動き出来なかった分私達の頭上をパタパタと飛び回り始める。

あはは、こんなに狭い場所に閉じ込められればしょうがないよね…。

「ふふふ♪フリードはこの世界に来てから詰め込まれてばかりですね」

「キュクゥ~…」

「しょうがないよフリード。見つかったら大変なんだから…」

そう言うとフリードは情けない声で鳴き私の頭の上に乗り、プランプランと尻尾と長い首を揺らす。その長い首の所為か視界にチラつくフリードの頭の所為で少し歩き辛い。

「…キャロは、桜は初めてなんですか?」

「はい。ピンク色の花は見た事は沢山あるんですけど。彩さんの言ったような花は見た事は無いです」

もしかしたらミッドにも桜は別の名前で存在するかもしれないが、少なくとも私は知らない。

「桜はですね。出会いと別れの花とも言われてるんですよ。まあ、春は入学と卒業と言う物がある所為でしょうけど…」

「出会いと、別れ…」

「フェイトちゃんも、桜が咲く季節になのはちゃんと出逢ったそうです。なのはちゃんは知っていますか?」

「あ、はい。高町なのはさんですよね?教導隊の…フェイトさんから良く聞いてます。幼馴染で御親友なんですよね?」

「はい。フェイトちゃんは丁度桜が咲く頃になのはちゃんと出逢ったそうです。そして、別れの時も…二人にとって桜は特別な物なのかもしれませんね」

「特別、ですか」

「私にとっての特別はクリスマス…でしょうか?」

「クリスマス?」

「はい♪私が此処に引っ越して来た季節が冬。初めて友達が出来たこの街で、初めての友達と行ったクリスマスパーティ。今でも思い出します。あの時の事を…」

彩さんがとても幸せそうに語っている。懐かしむように、愛おしそうに。それだけで分かる。彩さんにとってそれはとても大切な思い出だと言う事が…。

「でも、また特別が出来ちゃいました♪」

「え?」

「キャロちゃんとエリオ君と出会ったこの季節。私にとってもう一つの特別です」

「彩さん…」

眩しい。温かい…。

ほんのり頬をピンク色に染めて微笑んでいる彩さんを見て思わず私は目を細めてしまう。今の彩さんはまるで太陽の様で私には眩し過ぎた。でも、彩さんの輝きは強すぎる日差しと言う訳では無く、私を暖かな温もりで優しく包み込む様な、そんな優しい輝きだった…。

「はい…私もです」

私も、特別な思い出が増えちゃいました。

フェイトさんと出逢ったあの雪の日。そして、彩さん達と出逢ったこの春の季節…。

私も、忘れません…。

「丁度滞在期間も折り返し。残り半分しかありませんが、楽しい思い出を沢山作りましょうね?」

思えばあっという間。一週間だ。短く感じて当たり前と言えば当たり前。でも、私が言いたいのはそう言う事じゃなくて、楽しい時間は直ぐに過ぎ去ってしまう物だと言う事。

残り半分、か…。

「…はい!沢山作ります!」

「ふふふ♪…キャロちゃん」

「?」

「あと半月もすれば貴女は元の世界に帰る事になります」

「はい」

「エリオ君もそうですが、キャロちゃんも管理局に入るんでしょう?」

「…はい」

私も、フェイトさんの役に立ちたいから…。

「…あはは、少し寂しいですね。皆、ミッドに行っちゃうんですもん」

そう言う彩さんの表情は先程までの笑顔とは反対の悲しみへと変わる。瞳には少し涙を潤まして…。

「なのはちゃん達…キャロちゃん達が選んだ道です。だから、私は何も言いません。言う事が出来ません」

「…」

「たぶん、辛い事が沢山あるでしょう。命に関わる事だってあります。その命は、自分だけじゃ無い。他人の命も含まれます」

彩さんの言う通りだ。管理局の魔導師は次元犯罪者から民間人を守るのも仕事の内なのだから。

「他人の命を背負う。それはとても、とても大きな重圧になることでしょう。もしかしたら、その重しに押しつぶされるかもしれません」

「…はい」

「だから、辛くなったら誰かに頼るんですよ?私の周りの人はどうも一人で頑張ろうとする人達ばかりですから」

「…ふふふ、そうですね」

苦笑する彩さんに私も苦笑で返す。

でも、それは彩さんにも言える事ですよ?

「辛くて辛くて、どうしようもなく辛くて、何かに逃げたくなった時は、何時でも帰って来て良いですからね」

『帰って来て良い』その言葉に目頭が熱くなる。まるで私の帰る場所が此処であると彩さんが言っている様だったから…。

「…はい!彩さん!」

「勿論、フリードもですよ?」

「キュクゥ~~~ッ!」

フリードが彩さんへと飛び込みすりすり彩さんの頬に顔を擦り寄せて甘える。今の喜びを身体の動きで表現しているのだ。

「きゃっ♪くすぐったいですよフリード」

「クルッ♪」

あはは、フリードも彩さんの事が好きみたいだね。

「彩さん…」

「はい?」

あの雪の中フェイトさんは私に『目的』をくれた。彩さんは私にもう一つ『帰る場所』をくれた…。

「ありがとうございます」

「…どういたしまして♪」

眩しい過ぎる程の満面の笑み。私はこの笑みを一生忘れない…。






――――Side iris



「私達は空気ですか」

存在を忘れられ背景と化していた私はやれやれと溜息をエリオとキャロ達の会話を後ろの方で黙って見守っていた。彼等の会話を邪魔するべきでは無いと判断したからだ。

「もう、アイリス。そんなに拗ねちゃ駄目よ?」

「拗ねていません」

「じゃあ、何でキャロちゃんを羨ましそうに見てるのかしら?彩を取られちゃって妬いてる?」

「そ、そんな事無いです!」

全然そんな事あるのだが…。

「わ、私は!家族である二人を真剣に見守っていただけです!羨ましそうな目で見ていません!」

「そう?ふふふ♪」

笑わないで下さいっ!

「…でも、管理局ですか。私は好きになれませんね」

「何で?」

「魔法技術の存在を発見すれば管理下に置く。また見つければまたそれを。それを延々と繰り返し唯でさえ管理が行き届いて居ないと言うのに管理領域を広げていく。それ故に人手が足りない。だから才能さえ在れば子供でさえ利用する。私は好きにはなれません」

はやてさんやなのはさん、フェイトさんは管理局員と言う道を選んだ。最初は魔法への関心の方が強かっただろう。だが、多くの事件に、多くの経験、多くの功績重ねるに連れて危険な事件を任されるようになる。

「…」

「もし、母様が管理局員の道を選んだと思うと…」

勿論、母様は争い事を嫌う性格だ。そんな有り得ないだろう。でも、もしなのはさん達に何かあり、自分に出来る事があったとしたら。母様は躊躇い無く危険な場所へと飛び込むだろう。そう言う性格なのだ。友達が自分の命より大切。そう考える人なのだ。

「正直、魔法に関わって欲しくなかった。でも、魔法に関わって居なければはやてさんにも出逢えず。私も生まれる事は無かった」

複雑ですね。本当に…。

この世はギブ&テイクとでも言いたいのだろうか?何かを得る為には同等の対価が必要になるとでも…。

魔法を否定するつもりは無い。でも、魔法が母様を不幸にするなら私はその存在を許さない。

「もし、なのはさん達に何かあれば母様は耐えられるでしょうか?母様は優し過ぎます」

「…そうね」

勿論、その為のシグナムさんだ。母様の願いで皆さんを陰から支えている。最近はなのはさんに付きっきりの様だが。

「今の平穏は母様の望んだ物でありなのはさん達が母様に望んだ物。母様がなのはさん達に管理局に入って欲しくないと願う様に、なのはさん達も母様に管理局に入って欲しくなかった。危険と言う理由もありますが、母様に戦いと言う場に居て欲しくなかったんでしょう」

理由は優しいから。優し過ぎるから。母様に管理局と言う場所は向いていない。母様には今この場所の様に暖かい場所の方が良く似合う。そして、もう一つの理由は…。

「言って欲しいんでしょうね。『お帰りなさいって』」

あの、暖かな笑顔で。争い事の知らない穢れの無い笑顔で。犯罪と向き合うと言う事は人の穢れと向き合うと言う事。癒して欲しいのだ。戦いに疲れた心と身体を。大切な友達に…。

「…無駄話をしている間についた様ですね」

視線を上げれば階段を登った先には階段が終わり丘の頂上が見えて来る。目的地はあの向こう側だ。

「今年も満開の様です」

鼻に届く噎せ返る様な桜に香り。きっと母様も感じている事だろう。この春特有の香りに…。

「お母様~!アイリス~!早く来て下さ~い!」

丘の上から愛しい人の私を呼ぶ声が聞こえて来る。私はそれに苦笑すると歩む速度を上げるのだった。










――――Side Caro Ru Lushe



「わぁ~………」

目の前の壮大な光景に思わず溜息を溢してしまう。凄い。もう私の口から言える事はこれだけしか無かった。

空はピンク色で覆われ、ひらひらとピンク色の花弁は雪の様に降り注ぎ私の頬に落ちる。公園の外灯と月明かりに照らされた桜のは幻想的でまるで今私は別世界に来てしまったのではないかという錯覚までしてしまう。

「凄い…」

どうやらエリオ君も私と気持ちは同じらしく、目の前の光景を唯唯呆然と眺めていた。

「気に入った?」

呆然としている私達の背後から由良さんがニコニコと嬉しそうに話し掛けて来る。

「はい…凄く綺麗です」

「そう、良かった。此処は海鳴で一番のスポットなのよ?」

そっか、そうだよね。こんなに綺麗なんだもん…。

「お~い!準備出来たぞ~!」

花見の準備を終わらした一郎さんが僕達を呼んでいる。僕達は桜から視線を一郎さんへと向けると、一郎さんの足元にはブルーシートが広げられ、彩さんとアイリスさんがお弁当を取り出しており、何時でも花見が開始できる状態だった。

「は~い!キャロちゃん、エリオ君。行きましょうか?」

笑顔で私達に言って来る由良さんに、私とエリオ君は頷き由良さんと一緒に一郎さん達の許と向かう。







「いや~!今日は絶好の花見日和だな!」

「運が良かったですね。明日から雨が続く様ですから桜は今日で見納めになるでしょうから…」

そうなんだ。残念だなぁ…。

こんなに綺麗だと言うのに散ってしまうのはあっと言う間なのだと言う。それも風流と言う物らしいのだが、何だか寂しい気持ちになってしまう。

「また桜が見れるのは来年ですね…」

そう隣で彩さんがポツリと呟く。それは何だか少しだけ寂しそうに私は聞こえた…。

来年…その時私は此処には居ないんだよね。

当然と言えば当然。私は来月にはまたミッドに戻るのだから。此処に、海鳴に居る筈が無い。次元世界の移動だって許可が無ければ出来ないしその許可もそう簡単には下りない。彩さん達は何時でも戻って来て良いと言うがそう簡単には此処には来れないだろう。彩さんもその事を知っているのかもしれない…。

「彩さん…あの…」

気付けば勝手に口が動いていた。別に何を言おうとして訳じゃ無い。ごく自然に、それが当たり前の様に、彩さんに話しけなければならないと思って勝手に口が動いたのだ。

「はい?何ですか?」

彩さんが笑顔で此方を向く。先程の寂しそうな顔を取り払って…。

「あ…いえ。何でも無いです」

「ふふふ、可笑しなキャロちゃんですね」

彩さん…。

結局、それ以降彩さんはあの寂しそうな顔を見せる事は無かった。出会いと別れの季節。何となく私はその意味に気付いた様な気がした…。








―――そして日々は過ぎていく…。





時間が経つスピードはまた急速に加速して行く。あの花見からエリオとキャロは水無月家の人々から色んな場所へと連れて行って貰い。また、いろんな経験をした。



―――時には山に行ってキャンプを。


「あ…着火マン忘れた…」

「ちょっと、アナタ!何やってるの!?」

「む~…このままだとバーベキュウが出来ないな」

「困りましたね…」

「クルゥッ!」

「母様。フリードが自分に任せろと言ってますよ?」

「フリードがですか?じゃあ、お願いしますね。フリード」

「クルッ!…クカアアアアアッ!」

「フリードッ!?それ強過ぎ…あぁ~…」

「肉が消し炭になっちゃったね…」



―――時には皆一緒に街に出掛けて買い物を。

「ドキドキ…」

「キャロちゃん。大丈夫ですよ。誰もフリードを本物だと思いませんから。精々良く出来た縫いぐるみですよ」

「で、でも…リュックから顔だけ出すのはちょっと危険じゃあ…」

「いつも鞄の中だからこれ位良いじゃない」

「ですね。大丈夫ですよキャロ。誰も気付きませんから…フリードが動かない限りは」


―――時には一緒に料理を。

「良い?キャロちゃん。女の子は料理が出来ると色々と便利よ?」

「便利ですか?」

「ええ♪料理が出来ると気になる男の子にお弁当を作ってあげられるからね♪『貴方のために作ったの♪』って言えば大抵の男はイチコロよ♪」

「そうなんですか?彩さん?」

「え~っと…偶に勝君に『ずっと俺のために飯を作ってくれないか?』って言われるだけで別にお母様の言う様な大袈裟な事はありませんよ?」

「そうなんですかぁ」

「…はぁ(この二人は鈍感とか言うレベルじゃないわね)」


「前途多難だね。エリオ君」

「えっ!?何で僕に言うんですかっ!?」

「とりあえず勝を狩りに行きましょうか」





その楽しい時間は直ぐに過ぎていき。そして、遂にその約束の期限はやって来てしまう…。









――――Side Sai Minaduki




「彩。一郎さんに由良さん。エリオとキャロを預かって頂いてありがとうございました」

今日はエリオ君とキャロちゃんとの別れの日。昼を過ぎた頃にフェイトちゃんが家に二人を迎えにやって来た。今日はお父様も休暇を取り、水無月家全員が二人を見送るために玄関へと出ていた。

「エリオ、キャロ。二人とも言う事があるでょう?」

「「はい…」」

沈んだ声で二人は私の前へとやって来る。

「この一ヶ月間。本当にお世話になりました」

「とても、とても楽しい一ヶ月でした。それもこれも全て水無月家の皆さんの御蔭です」

「…思い出は沢山作れましたか?」

私は笑顔で二人に訊ねる。そして返って来るのは…。

「「はい!」」

元気の良い偽りの無い返事だった。

「二人ともまたな?」

「また何時でも戻って来て良いからね?」

「さよならは言いません。また会えますから」

お父様達がそれぞれに別れの言葉を口にする。でもそれは『さよなら』じゃ無く『またね』と言う再会を信じている言葉だ。

「…はい!」

「必ず!」

「二人とも…身体には気を付けてね?キャロちゃんは好き嫌いが多いから心配です」

「あぅ…彩さぁん」

台無しの言葉にキャロちゃんが情けない声で非難して来る。私は小さく笑いながらごめんなさいと謝ると二人の手を取る。

「キャロちゃん…あの時の言葉覚えていますか?辛くなったら、何時でも帰って来て良いですからね?」

そう、此処は二人のもう一つの居場所なのだから。

「…はい」

「エリオ君もです。二人ともまだ幼いんですから。強がっちゃいけませんよ?」

二人はまだ幼い。甘えて良いんだ。誰かに支えて貰って大きくなって行くのだから…。

「はい。分かりました」






「二人とも…また、ね?」















あとがきと言う名の言い訳


アンケート取っておきながら余りストーリーを考えていなかったと言う愚か者の金髪のグゥレイトゥ!です!

外伝…と言うかエリキャロのstsの繋ぎと言った感じで書いてました。正直はっちゃけかシリアスかで迷いましたがシリアスを選択。二人のギャグは正直書き辛い。シグナムは恐ろしい程書きやすいんですがね(おい

次回はリンディさん出す予定です。本来これを書く予定でしたからね。じゃあアンケート取るなよと…。

あと、最近メッセで友人とこんな会話がありました。

友「感想でもあったけど、鬱書かないの?」

金髪「え?」

友「いや、お前と言えば鬱だろ?」

金髪「ヒドス…そんなに鬱がみたいかあああああああっ!?」

友「感想でも見たそうにしてるしさ…ぶっちゃけ考えてるんだろ?読者様は神様ですって信憑してるお前なら」

金髪「そ、そんな事無いよ?だってこの作品はのほほんで行く予定だし…」



…いや、ぶっちゃけ考えてました。とらハを知っている人なら知っているであろうあのネタ。アリサの立ち位置を彩に変更してみました。








※切り抜き的な意味で凄く短いです。彩が好きな人は見ない方がお勧め







―――12月25日


「クリスマス…か」

今年もこの日が来てしまった。この日が来るとどうしてもあの事件を思い出してしまう。あの忌まわしい悲劇を…。

水無月彩強姦殺人事件。私の初めての友達であり、世界で最も大切な人を奪った事件だ…。

「彩ちゃん…またクリスマスが来たよ…」

窓越しに見える灰色に染まる空を見上げぽつりと私は呟く。どうやら今日は雪の様だ。10年前のクリスマスと同じように…。

10年前のクリスマス。彩ちゃんはある犯罪者に誘拐され強姦の末に殺された。その犯罪者はある犯罪組織の人間だった様だがその組織のバックに更に強大な力を持つ人物がいた。

闇の書に家族を奪われ、残された遺族だ。その遺族は管理局で大きな力を持っており、闇の書事件で私達が八神家を無罪となる原因を作った水無月彩に復讐するために態々この世界の犯罪組織を利用したのだ。

逆恨みだった…。彩ちゃんは何も悪い事はしていないのに…。

事件当時もアイリスが彩ちゃんの傍に居た為まさかあんな事になるとは誰も思わなかった。しかし、アイリスの存在を知る遺族が何も考えている訳が無く…アイリスは数の暴力に勝てず殺された。

その後は…もう何も言わなくても分かるだろう。散々輪わされた挙句殺された…。死体が発見された時、彩ちゃんの死体は見るも無残な状態だったと言う…。

そして、その事件の発端となった遺族は捕まった。呆気無く。簡単に。何者かが裏で動いてあのレジアス中将に直接指令を下したそうだ。その事件実行犯もバニングス家、月村家、そして士郎さんや恭也さんによって始末された。社会的にも物理的にも…。

そして、10年の年月が経った今、私は管理局に所属している。犯罪者をこの世から撲滅するために…。

『八神三佐!都内でテロが発生!』

部下からの緊急通信に私は小さく溜息を溢すと、デスクの引き出しからデバイスを取り出し命令を下す。

彩ちゃん。私はがんばっとるで?

「…機動六課出動や」

塵は消し去らんとあかん…そうやろ?彩ちゃん。

心の中でそう呟く。しかし、その言葉の返事は返って来る筈も無かった…。



パチンッ

ジャスト3分だ。良い夢見れたかよ?

何という夢落ち



[8923] 魔法少女リリカルなのはA’S ~盲目の少女は何を見るのか…~第十四話
Name: 金髪のグゥレイトゥ!◆60293ed9 ID:1667c937
Date: 2010/04/22 16:20
此処はアースラの会議室。

何故か光を遮断され暗闇に包まれたこの部屋には今時裸電球の光のみが唯一の照明として僕達を照らしていた。達と言ってもこの部屋に存在するのは僕の母と…。

「それでは、指令を言い渡します」

「OK、とりあえずこの鎖を外そうか愚母」

鎖で座っている椅子に括り付ける僕のみだった…。

「まぁ愚母だなんて。母さん泣きそう?」

何故に疑問形。あとそのワザとらしいよよよとか言いながら泣く真似はやめて欲しい。イラっとするから…。

「それで?何で僕は縛られてるんです?指令って何ですか?」

そんなに急を要する仕事は無かった筈だが?闇の書の件は難とか軌道に乗り始め遺族の件を除けば順調に事が進んでいる。この件以外で仕事が入るのは考え難いが?…と言うより縛られる理由が分からない。しかも鎖で。

碌な事じゃない…。

この状況でまともな指令が下される訳も無く。先程から嫌な予感しかしない。首筋なんて何故かチリチリと疼く。死でも近づいていると言うのか…。

…そして、その予想は現実の物となる。

「貴方には事件解決のお礼と言う名目で、彩ちゃんとデートをして貰います♪名付けて!『ドキドキ☆彩ちゃんお嫁においで大作戦!』よ♪」

「やっぱりかああああああああっ!?」

そんな事だろうと思ったよっ!!!!

前回の話のアレは本気だったのか。いや、母の表情を見れば本気だと言うのは何となくは分かっていたのだがまさか本当に実行して来るとは…。

だが、僕がその命令に従う筈が無い。当然拒否させて貰う。じゃなければ僕は『ロリコン』というレッテルを貼られる事になるのだ。僕の守備範囲の年齢差は3歳までそれ以上も以下も認めない。

「お断りします!今は大事な時期なんですよっ!?八神はやての今後がどう決まるか僕達に掛かってるんです!」

「ん~…と言ってもねぇ。遺族とのいざこざは長引きそうじゃない。今回の事件の判決は今年中には決まりそうに無いわよ?」

「だからと言って!…大声では言えませんが遺族の人間で不審な動きが見られているとの情報もあります」

「…聞いてるわ。その件についてはレティに任せなさい。妙な動きをすれば即手を打てるようにしているから」

レティ提督は優秀な人間だ。信頼に足る人物だ。だが、もしもと言う可能性がある。やはり僕達も動くべきではないだろうか?

「私達は現地で八神はやてさんと水無月彩さんの護衛を担当するわ」

まるで心を読まれているかのように見事に丁度今考えていた事に艦長が答えて来る。顔に出ていたか?

「…今回の作戦はそれが目的で?」

「それもあるわ」

「…何割がそれで何割が趣味ですか?」

「8割が趣味で2割が仕事♪」

この野郎…。

「だ、大体!僕は彩の事を別に異性として見ていません!」

歳が離れすぎだ歳が!後数年早く生まれてたとしたら…考えなくも無いが…。

「まぁ…将来有望なのに彩さん。後数年もすれば誰もが振り向く美少女になるわよ?」

「肝心なのは今であって数年先も後も無いですっ!歳の差は埋まらないでしょうにっ!?」

将来美人になるから6歳の年下の女の子に手を出したなんて最低な黒歴史を作りたくない。

「そもそも!何故彩とデートをしなければならないんですっ!?」

「はやてさんには常にヴォルケンリッターが傍に居ます。ですが、彩さんは別よね?」

「?…彩は別に狙われる様な事は…」

「彼女は今の状況を作った原因と言っても良い。…考えたくないけど逆恨みで彼女が狙われる可能性があるわ」

先程までの楽しそうな笑みは真剣な物へと変わり、僕も気持ちを切り替える。

「…彼等が彼女を狙っているとの証拠は?」

「明確な証拠は無いけど遺族のある人物が、なのはさん達の世界のある犯罪組織にコンタクトを取った可能性があるの」

「犯罪組織に?まさか…」

犯罪者を裁けと言っている者達が犯罪者と手を組もうなどと…。そんな馬鹿な事があってたまるか。

「レティからの報告よ。嘘は無いわ。しかも、その遺族の中の一人は管理局で結構な力を持つ人物」

艦長の言葉にくらりと眩暈がした。

「…」

最悪だ…。

そこまで闇の書が憎いと言うのか。犯罪者の手を借りてまで、何よりも法の番人である管理局員が…。

管理局員も人間だ。だが、しかし…。

「彩さんの情報は彼等にも届いているわ。勿論、アイリスさんもね。だからあちらも何か手を打って来る可能性が高い。絶対に安全と言いきれないの」

アイリスの戦闘能力は並みの魔導師では太刀打ち出来ないだろう。だが、数で押されたり彩を人質に取られたりでもしたら…。

「今回の話は牽制の意味も?」

「ええ。彩さんに私達が警護している事を知らしめるためのね。そうすれば彼等も行動出来なくなるでしょう。その間に証拠を掴んで…」

「潰す…ですか」

「正解。そうなれば彼等の発言権なんて…ね?」

「成程…」

にやりと笑みを浮かべる艦長に僕もつられてにやりと笑みを作る。

艦長の言う通り、証拠を掴んでしまえば彼等を法で裁く事が可能となり、彼等は発言権を失う事となる。そうなれば今回の話は一気にけりを付ける事が出来る。しかも管理局の不穏分子も排除できて万々歳だ。

「でも彩ちゃんを嫁に貰うのが一番の目的よ♪」

「折角のシリアスな雰囲気が台無しだっ!!」

「ふふふ~♪(まぁ私はエイミィが思わぬライバルの登場に焦る所が見たいだけなんだけどね♪何時までも行動無しじゃ鈍感なクロノは振り向かないわよ~♪)」















第14話「ドキドキ☆彩ちゃんお嫁においで大作戦!」











――――Side Chrono Harlaown
    12月18日 PM01:10
海鳴市:商店街



「てな事があった訳だが…」

「はい?どうかしましたか?」

僕はぽつりと独り言をぼやくと隣を歩いていた彩がきょとんとした顔で首を傾げる。

…一々可愛らしい行動をするなこの子は…。

僕と彩は母の策略により、日用品のお使いと言う名の名目の下共に街道を歩いていた。…手を繋いで。彩とアイリスがでは無い。彩と僕とがだ。彩の手を超えたら危険だと言う理由(リンディ命令)で手を繋いでいるのだ。しかも二人っきりで。これではまるで…。

デートじゃないかっ!?

心の中でそうそう叫ぶ。母に対して怨みやらを籠めて…。

この状況。もしあの騎士や使い魔に知られたら…。


ギラギラギラッ…


「ひぅっ!?」

…何故だろう?この貫かんばかりの鋭い視線と殺気(×3)を感じるのだが…?

おそるおそる後ろを振り返る。しかし先程の視線や殺気を送る様な人物は誰も居ない。居るのは通行人のみだ。例の奴らかと思ったが僕の勘がそれは違うと言っている。

「…先程から様子が変ですよ?お身体の具合でも悪いんですか?」

「い、いや!何でも無いんだ!さ、さあ行こうかっ!」

き、気のせいだよな?

僕は声を裏返させながらも必死に誤魔化すと、彩の手を引いて急いでこの場を後にした…。





――――Side Out






この場から離れて行く二人の背中を見送る6つの瞳…。

「奴め…私の彩と手を繋ぐとは…しかもデートだと?フ、フフフフッ…」

「万死に値します。私と離れている隙に母様を連れだすとは…良い度胸です。その勇気を賞して8分割を16分割にして切り裂いてあげます」

「クロノ君年下には興味無いって言ったのにそれなのに…ブツブツブツ」

それぞれにどす黒いオーラを放ち何やらぶつぶつと呟いているが通行する人々は誰も目を合わせようとしない。パトロール中の警官すらも3人の殺気に恐怖し逃げ出してしまうのだ。

「そんなに男としての生命線を断ちたいのなら望み通り断ち切ってやろうではないか…文字通りになっ!」

ジャキンッ!!

「熱くなるのは結構ですが、今はこのデートを失敗させるのが目的です。無論、母様に危害を加えるのは論外ですよ?」

「大丈夫だよ。痛い目に会うのはクロノ君だけだから、ね?フフフフフ…♪」

「なら良いんです。…それにしてもハラオウン艦長は何を考えているのでしょうか。この件は確実に彼女が絡んでいる筈です」

普段からロリコンでは無い主張している彼が彩にデートを誘うとは思えない。とすれば、クロノとは別の人物が彩とクロノを引き合せたに違いないと少女は判断する。そして、そんな事を考える人物はリンディ・ハラオウン一人しかいない。

「母様に夫なんて必要ありません!娘の私が居ます!」

「そうだ!旦那には私が居る!」

ババンッと効果音が聞こえて来そうなくらいに堂々と宣言する二人。

「クロノ君執務官何だから…フフフ、犯罪は駄目だよね?」






――――Side Sai Minaduki
    12月18日 PM02:00
    海鳴市:商店街




「今日は寒いですねぇ」

冬の冷たい風に吹かれ私はブルリと身体を震わすと首に巻いてあるマフラーに顔を埋めて寒さに耐える。

「この世界では冬真っ盛りだからね。大丈夫かい?」

そう言ってクロノさんは私の空いている手を寒くない様に握ってくれる。でも、その手は人の体温とは思え無い程熱くて…。

「…カイロ?」

「うん。これなら寒くないだろ?」

「ありがとうございます」

実は内ポケットに一つ持って居るんですけど…言わない方が良いですよね?

私はそう思い忍ばせているカイロの事は黙っておいて、クロノさんの好意をあり難く受取る事にした。

「思えば、君とこうやってゆっくり話すのは今日が初めてかな?」

「そうですね。ついこの間までは闇の書の件で慌ただしい日々でしたから…」

その後は祝勝パーティなどで大騒ぎしましたけどね。ふふふ♪

「闇の書…か。君の御蔭で誰も悲しまずに済んだ。ありがとう」

「も、もう良いですよ!?これ以上感謝されると茹で凧になっちゃいますっ!?」

もう十分皆さんに感謝されちゃいましたから。

「ははは!君は本当に変わった子だな」

『ふふふ…』

「酷いですよぅ…」

リインフォースさんまで笑うなんて。うぅ~…。

変わった子とは流石に心外である。

私はぷくりと頬を膨らまして不満を訴えるが、クロノさんはそれが面白かったらしく更に笑い声が大きくなる。

う、うぅ~…っ!

止まない笑い声に、次第に顔が熱くなっていくのを感じる。きっと今の私の顔は恥ずかしさで赤く染まっている事だろう。それに、瞳も涙で潤み始めているのが分かる。

「な、泣かなくても良いだろうっ!?」

「泣いて無いですもんっ」

「わ、分かった!悪かったから…イタッ!?」

カコンッ

「…?」

何か甲高い音が響いた様な…?

「イタタタタ…空き缶?何処から飛んで来たんだ?」

空き缶…今の音は空き缶がクロノさんの頭にぶつかった音だったようだ。

「だ、大丈夫ですか?」

「ああ…誰が投げて来たんだこんな物?」

「きっと建物から落ちて来たんですよ」

「高い所から落ちて来た空き缶とか洒落にならない…というか有り得ないだろう。飛んで来た角度的に誰かが投げて来たのは明確だ」

「人を疑っちゃいけませんよ?」

「君は少し人を疑う事を知った方がいいと思うぞ?」

『確かに…』

「?」

どう言う意味でしょうか?

二人がが何を言いたいのか理解出来ず私は首を傾げる。この辺りはクロノさんの知り合いなんて居ない筈だから空き缶をぶつけて来るなんていたずらをする人はいない筈なのだ。だから今のもきっと事故なのだろう。そうに違いない。

「はぁ…嫌、良い。それが君の良い所でもあるんだからね」

「?」

隣で疲れた様な溜息を吐くクロノさん。一体どうしたと言うんだろうか?急に溜息など吐いて…。

「…君は、これからどうするんだい?」

「これから、ですか?」

クロノさんからの急な質問。これからとはどういう事だろうか?このお使いが終わってからと言う事だろうか?別にこの後の予定は無いのだが…。

「君は魔法の存在を知った。なのは達もだ。そして彼女達は管理局に興味を持ち始めている。何れ正式に管理局の魔導師として働く道を選ぶかもしれない」

「…」

確かに、なのはちゃんは店を継ぐ事より魔法の方に興味を持っていた。きっとクロノさんの言う通りになるだろう。

「君は…どうするんだい?」

『どうするのか』つまりクロノさんはこう言いたいのだ。管理局に入るのか入らずに普通の女の子として此処で平和に暮らすのかと…。

私は…。

答えは決まっている。魔法に関わった時も、私はそれを望んでいた…。

「私は、今のこの暮らしが好きなんです。普通に学校に行って、普通に友達と遊んで、普通に家族と暮らす…平凡で何処にでもある様な暮らしが…」

「管理局に入局するとこの世界に居る時間が少なくなる。なのは達となかなか会えなくなっても良いのかい?」

「それが私が望んだ事であり、なのはちゃん達が望んだ事ですから…」

だから、皆が守ってくれたこの平穏の中で私は生きて行きたい。そう思った…。

「そうか…」

「はい…」

「「…」」

長い沈黙が二人の周りを支配する。クロノさんは何も言わない。唯黙って何かを考えているようだった。『失望された?』私はそう思った。友達が危険な仕事を就こうとしてると言うのに自分だけ安全な場所を望もうとしている事に…。

しかし、それは無駄な心配だと直ぐに知らされる。

「…良かったよ」

「…え?」

私の答えに返って来たのは、嬉しそうに笑い、安心し安堵するクロノさんの言葉だった。

「魔法と…僕達と関わった所為で君の人生をめちゃくちゃにしてしまうかもしれない。僕はそれが不安だった」

クロノさん…。

「管理局の仕事は危険と隣合わせだ。今回も、勿論これからだって僕やなのは達はそれと立ち向かわなければならない。君は優しい。優し過ぎる。だからなのは達が心配で一緒について来るんじゃないかと不安だった」

…そうですね。私も何度かその選択を選ぼうとしました。

今回の事件で管理局の仕事は危険な事が多いと知った。そして、私にもこの指輪さえあれば皆さんの力になれるのも知った。でもそれは皆の願いを、シグナムさんの願いを裏切る事になるから…。

「シグナムさんの皆の…願いですから」

「…?」

「お前は平穏な世界に居て欲しい…それがシグナムさんの、願いですから」

「…」

「だから、シグナムさん達は私と接触を避けた。管理局の人達に私を疑わせないために…結局、つかまっちゃいましたけど」

最後にそう付け加えると私は苦笑する。

「あの時は本当にすまなかった…」

「良いですよ。沢山の命をクロノさん達は背負ってるんですから」

謝って来るクロノさんを笑って許すと、私は話を戻す。

「そんな人達の気遣いや、助けがあって私は生きている…だから、私はその人達の願いを叶えてあげたいんです。それが私の出来る事なら…」

「管理局に入らない…いや、平和な世界で幸せに暮らす事が彼女達の願い…か」

「はい。勿論、その世界で皆さんが笑って無いと私は幸せじゃないですけど」

なのはちゃんやフェイトちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん。はやてちゃんやシグナムさん達が不幸な思いをしていたら、それは私の幸せな世界じゃない。誰かが悲しい思いをしている世界なんて私は認めない。

「意外と我儘だね。君は」

「これだけは、譲れないんです…絶対に」

絶対に…これだけは…。

「そうか、それが君が選んだ道…覚悟と言う訳だね?」

「はい」

これは誰にも曲げられない道であり覚悟。そして私の願いでもある。

「…君は凄いよ」

「え?」

ボソリと呟かれるクロノさんの言葉。本人は聞かれて無いと思ったのかもしれないが私の異常聴覚の耳には確かに届き私はきょとんとして聞き返してしまい、クロノさんも聞かれていないと思っていたようで私の反応に驚き慌てて「何でも無い!」誤魔化す。

「コ、コホン…さ、さて!本来の目的のお使いを遂行しようとしようか!」

ふふふ、何だか任務みたいですね。

「了解です!執務官殿!…うふふ♪」

私はふざけて右手で敬礼しすると、ぺろり舌を出して笑う。

「っ!?///(か、可愛い…)…ってぇっ!?ウオオオオオオッ!?」

トスットスッドスッ!!!

また急にクロノさんが悲鳴を上げる。それに、今度は何かが刺さる様な音が聞こえた様な…?

『……やれやれ』






「チッ…」

「勘の良い事で…」

「駄目だよ。クロノ君。小さい子に手を出しちゃ…」







「どうかしましたか?」

「い、いや!何でも無いっ!(今度は串が飛んで来たぞっ!?しかも最後のはカッターとか本気で洒落にならんっ!?)」

「?」

何か慌てている様ですが…心臓がバクバク鳴ってますよ?

「あの…本当にお身体大丈夫ですか?気分が優れないのなら…」

「だ、大丈夫!ほら!早く店に入ろう!(店の中なら迂闊に手を出せまい!しかし、誰だ?こんな事するの…いや、大体想像はつくが)」

「あ、はい…」

何か焦っている様ですけど…どうしたんでしょう?

『まぁ、身が危険なのは確かですけどね…』

「はい?」







「そう言えば、今日は何を買う御予定で?」

「え?ああ、そういえば言って無かったな。え~っと…ん?」

「どうしました?」

「いや…出掛ける際に買い物リストを渡されたんだが…」

「何が書いてあったんです?」

「…何も書かれて無い」

「はい?」

「いや、書かれてはいるんだが…買う物が書かれて無いんだ」

「?」

どう言う事だろうか?書かれているのに買う物は書かれていない。私は文字が見えないのでそう言われても判断に困ってしまう。なぞなぞか何かだろうか?

「『好きに買い物して来い』…だそうだ」

『謀りましたね。リンディ提督』

それはまた変わったお使いですね…。

それにしてもリストを渡された時に一度目を通さなかったのだろうか?普通は最初にリストを見てから買い物に出掛けると思うのだが…。

「あの…出掛ける前に読まなかったんですか?」

「ああ、母さんにきつく店に着くまで読むなって言われてね…」

疲れた様なクロノさんの声に私は苦笑するしかない。リンディさんは何をしたかったのだろう?この買い物に何か意味があるとは考え辛いのだが…。

「えっと…どうしましょう?」

好きに買い物してくれてと言われても私は困るんですけど…。

「ふむ…このまま帰るのも馬鹿らしいし、折角くれたお金だ。あり難く使わせて貰うとしよう」

「え?」

普段の真面目なクロノさんからとは思えない言葉に私は思わず驚いてしまう。いつもの彼なら無駄遣いはいけないとか言ってお金を使わず帰ってしまいそうなのだが。今日に限ってそうな事が無かった。どういった風の吹き回しだろう?

「何か欲しい物は無いかい?結構貰ったから高い物は無理だが好きな物買ってあげるぞ?」

「いえ、私は…」

「そうか?お昼は食べて来たから昼食と言う訳にもいかないか…だが、外に出ると僕の命の危険が…」

「え?」

「いや、何でも無い」

「?」

命の危険ってどういう意味でしょう?

「ですが、買い物をしないと言うのならお店の中に居ても…」

「ぐっ…確かにそうだな。仕方ない。外に出るとしよう…」

心底嫌そうに言うクロノさん。何をそんなに恐れて…。

店を出た後、私とクロノさんは何も目的も無く適当にブラブラと街を見て回る事にした。私もクロノさんもこの街に来たばかりで知らない場所が多く、この機会に見て回ろうと言う事になったのだ。

騒がしい街道。町中の到る所からクリスマスの雰囲気を感じさせるメロディーが流れ、私の気持ちを高ぶらせる。もう少しでクリスマス。プレゼントの製作は順調に進んでおり形はもう仕上がっている。この調子でいけばあと2日程度で完成するだろう。プレゼントを貰った子の喜ぶ顔を想像する。するとどうだろう。今までにない程のわくわくする気持ちが胸の奥から溢れて来る。

クリスマス楽しみだなぁ♪

自然に笑みが浮かぶ。もう私の気持ちはクリスマスモードでウキウキ気分だ。

「楽しそうだな」

「はい♪もうすぐクリスマスですから♪」

「フェイトから聞いたが、クリスマスプレゼント用に何か彫ってるんだって?」

「はい!サンタさんを彫ってるんです!」

「サンタクロースか…成程、クリスマスにぴったりだな」

はい!私もそう思って選びましたから!

「どの位出来てるんだい?」

「大まかな形はもう出来てるんです。後は細かい部分を彫って鑢で磨いてニスを塗れば完成です」

流石に塗装は無理です。目が見えませんから…。

「そうか。頑張れ?」

「はい!」

友達にプレゼントするんですから完璧に仕上げて見せます!

「…それにしても賑やかだな。此処に来た頃はそんなに騒がしくなかったんだが」

クロノさん達が来たのは2週間程前でしたしね。まだ12月の初めですし街はクリスマス模様で染まり始める頃ですから騒がしくは無かったんでしょう。

師走とは良く言った物だ。クリスマスが終われば直ぐに大晦日にお正月。お店の人は模様替えに大忙しだ。勿論家庭でもそうだが。

「クリスマス目前ですからね。賑やかなのも当然と言えば当然ですよ」

「そうなのか?こっちではクリスマスなんて物は無いから分からないな」

まぁ、キリストさんの聖誕祭なのだからミッドチルダにある方が可笑しいだろう。どの世界でもあるといたらお正月くらいか。この世界でも各国共通にある物なのだから。

「クロノさんはクリスマスはどう言った御予定で?」

「ん?特に何も。溜まった仕事を片付ける位かな?」

「はわ…」

何と言う社会人。まだ親に甘えても良い歳だと言うのに…。

「色々とゴタゴタしていてね。手を付けていない仕事が色々とあるんだよ」

「執務官って大変なんですねぇ…」

エリート中のエリートだとフェイトちゃんに聞いた事がありますけど。此処までとは…。

「慣れればそうでもないさ」

仕事が恋人なんですねぇ。

ワーカーホリックと言う物だろうか?どちらせよ仕事熱心なのは良い事である。むしろそれぐらいで無いと執務官は務まらないのかもしれない。

「お身体には気を付けて下さいね?」

唯でさえ先程から様子が可笑しいのだから。

「心配無いさ。自分の身体くらい管理出来る。逆に言わせて貰うと君の方こそ無理するなよ?身体弱いんだろう?」

「最近は好調ですよ?」

「僕等の前で二度も倒れておいて良く言うよ…」

『彼の言うとおりですよ?彩』

「はわっ!?」

確かに、クロノさんの言う通りですが。アレは一回目は疲れが出ただけで、二回目も慣れない魔力を使っただけです!あ…そう言えばシグナムさんの時も…。

そうなると合計で3回に…何処が好調なのだと自分に問い詰めたい。

「まったく、君もそうだがなのは達は何時も無茶ばかり…」

『全くです。お願いですから自分の事も心配して下さい』

ああっ!?何だか説教モードに入ってますよっ!?

隣でクドクドと説教を始めるクロノさんとリインフォースさんに私はしまったと頭を抱える。どうやら話題を間違えてしまったらしい。

「彩!聞いているのかっ?」

『聞いていますか?彩?』

「ひゃいっ!?」

あぅ~…どうしましょう~…。

「あれ?水無月さん?」

困り果てていると、思わぬ所から助けがやって来た。聞いた事がある声に私は振り返ると、私の顔を見て確認出来たのか私の許へと先程の声の主はやって来る。

「やっぱり水無月さんだ!どうしたの?こんな所でなのはちゃん達と一緒じゃないなんて珍しいね!」

声の主はクラスメイトの宮本さんだった。買い物帰りなのだろうか?ビニール袋のガサガサと揺れる音が私の耳に届く。

「はい。今日は知り合いの方と一緒にお買い物に来てるんです」

「へぇ~…(ニヤニヤ」

「「?」」

え?何かおかしい事言いましたか?宮本さんの声が何か笑っている様ですけど…?

「…彼氏?」

「なっ!?」

「?」

宮本さんの質問に驚いたのは私では無くクロノさん。私は何の事か理解出来ず唯首を傾げるだけだった。

「…な~んて!そんな筈ないよね!水無月さんだし!えっと、お兄さんか何かですか?」

むっ?何だか馬鹿にされた気分です。

「私のでは無く、フェイトちゃんのお兄さんですよ?」

「え?テスタロッサさんの?」

「ん…まぁ、そんなところかな?」

フェイトちゃんは色々あって、今はリンディさんの家に引き取られているらしい。と言う事はクロノさんがお兄さんと言うのは間違っていないだろう。

「へぇ~!お名前聞いて良いですか?」

「クロノだ。よろしく。えっと…宮本、さん?」

「宮本 由紀です。こちらこそよろしくお願いします」

互いに自己紹介を終えると、話は振り出しに戻る。宮本さんも買い物に来ていたのか、私はそれを訊ねてみる事にした。

「宮本さんも買い物ですか?」

「うん。来週用にね♪」

来週…もしかして。

「クリスマスプレゼントですか?」

「ピンポ~ン♪正解です♪と言っても、大した物じゃないよ?」

「勿論中身は?」

「ひ・み・つ♪プレゼント交換で当たった人だけが分かるんだよ~♪」

むむむ!そう言われると物凄く気になっちゃいます。

「水無月さんはアレだよね?彫像だよね?もう完成したの?」

「半分程です。クリスマスには余裕で間に合いますのでご安心を」

「そっか。あっ!そう言えば向こうにある店で小林君が何か悩んでたよ?」

「え?勝君がですか?」

悩んでたって、何かあったんでしょうか?

「買う物を選んでたみたいだけど…小林君もクリスマスプレゼントを買いに来たんじゃないかな?」

来週はクリスマスだからだろうか。クリスマス前の最後の休日で皆プレゼントを買う予定なのかもしれない。

「それだけ悩むんですから、勝君もクリスマスが楽しみなんですね♪」

「ん~…たぶん違うと思うなぁ」

え?どう言う事ですか?

クリスマスパーティが楽しみだからプレゼント選びも必死に考えているのだと私は思うのだが…。

「しょうがないなぁ…。小林君を助けてあげるか」

「?」

ボソリと呟く宮本さんの言葉に首を傾げる。プレゼント選びを手伝うと言う事だろうか?確かに一人で選ぶより、他の人の意見も聞けてだいぶ楽になるだろう。きっと勝君も大喜びだ。

「ねぇ、水無月さんはどんなプレゼントを貰えたら嬉しいかな?」

突然の質問。そう言えば以前にも似たような質問をされた様な記憶がある。はて、誰だったか。

「私はどんな物を貰っても嬉しいですよ?」

「ああ、成程ね。小林君が悩むのも理解出来るよ…」

「彩、それは…」

私の答えに呆れる二人。私は何かおかしい事を言っただろうか?私には正直な気持ちを言っただけだと言うのに…。

「えっとね…何か好きな物とかは?」

「そうですね…料理と読書でしょうか?」

「本かぁ~。う~ん、何かインパクトが足りないなぁ~」

インパクト?

私の記憶が正しければ本に衝撃何て奔る物ではない筈だが?

「調理器具って言ってもクリスマスに調理器具もねぇ…」

うんうんと悩み出す宮本さんに私は付いて行けずに一人取り残される。いや、クロノさんも居るのだが彼は話題に参加しようとせずに傍観を決め込む様だ。友達の会話を邪魔しまいと言う気遣いだろう。

「水無月さんって目が見えないから縫い包みとかいらないよね?」

「いえ、頂けるのでしたら何でも「はい次々~」あぅ…」

私の意見は無視ですか…。

最後まで私の言葉を聞こうともせずに華麗にスルしてくる宮本さんに私はガクリと肩を落とした…。

そんな私を他所にぽむと手を叩く音が響く。何やらお隣では悩みは完結したようだ。

「水無月さんって鈴とか好き?」

「鈴、ですか?」

「うん。風鈴とか、音を楽しむ物とかあるじゃない」

「そうですね…好きかも知れません」

人々の生活の音を聞くのも良い物だ。のんびりしたい時、退屈な時、良くベランダに出て外のを音に耳を澄ませていた事もある。目が見えない以上、私は耳や、鼻などで楽しむしか方法が無いのだから…。

「良し♪それで決まり♪」

それを聞いた宮本さんは嬉しそうに声を上げる。私の意見が参考になったのなら何よりだ。

「それじゃあ、私。用事が出来たから!バイバイ!水無月さん!」

「はい。また明日。宮本さん」

別れの挨拶を言い終えた途端この場から走って離れて行く宮本さんの足音。私はその足音が完全に聞こえなくなるまで宮本さんの居た方へ向いて彼女を見送ると、ずっと待っていてくれたクロノさんに話し掛ける。

「すいません。お待たせして…」

「いや、構わないさ。それよりさっき言っていた小林と言うのもクラスメイトか何かかい?」

「はい!お友達なんです♪」

『(彼も苦労しそうですね…)』

「そう、か…(何故だろうな。その名前を聞いて他人とは思えないのだが。寧ろその人物とは気が合いそうな気がする。苦労人的な意味で…)」








「ぶえっくしょいっ…何だ?風邪か?勘弁してくれよ、来週クリスマスなのに…」

「それは私の台詞だよ。風邪うつさないでよね!」

「うるせいやい!て言うか何で此処に居るんだよっ!?」

「プレゼント選んであげるんだから文句言わないのっ!ほら、さっさと選ぶよっ!?」






「もう知り合いの方はいらっしゃらない様ですし、移動しましょうか?」

「そうだな。とりあえず此処から離れよう。出来るだけ安全な所に…」

「安全?」

「いや、何でも無い」

「ふふふ、変なクロノさん。事件なんてそう毎度毎度起こる物じゃないですよ?」

特に魔法関連なんてこの世界で起こるのはそれこそ極稀と言って良い筈だ。

「いや、今年の春にもこの街で大きな事件が起こってるからね?今回の事件規模と同じ位の…」

「あ、あははは…そうなんですか」

起こってましたよ。事件…。

案外、この世界は危険で一杯なのかもしれない…。










――――Side Signum
    12月18日 PM03:00 
    海鳴市:商店街




冬の冷たい風に吹かれながら、私達は建物の陰に隠れて二人の様子を窺いながら念話である人物に話し掛ける。

「此方、シグナム。配置についたか?」

『此方、ヴィータ。配置完了…ってか、何でアタシがこんな事しなきゃなんねぇんだ…』

「良し。では早速、あの変態執務官にキツイのお見舞いしてやれ」

『無視かよ…』

念話で文句を言って来るヴィータを華麗にスルーすると、あらかじめ伝えていた作戦の実行を命令する。報酬のアイスの分くらいは働いて貰うとしよう。ハーゲ○ダッツ一週間分は流石に財布に響く…。

『はぁ、気は進まねぇけど…悪いなクロノ。恨みはねぇが手ぇ出した相手が悪かった。行くぜアイゼンッ!』

念話越しでの咆哮と同時に、空から鉄球…では無くゲートボールがクロノに向かって降り注ぐ。

「グエッ!?」

流星の如く落下するソレは、見事クロノの腹部に直撃しクロノはカエルが潰れた時出す悲鳴の様な声を吐きながらクルクルと空中で回転し壁にへと激突。そしてピクピクと身体を痙攣させ地面にへと倒れ込んだ。

流石ゲボ子。見事な働きぶりだ。

『ゲボ子言うなっ!』

人のモノローグにツッコミを入れて来るな。

それにしても流石執務官と言ったところか。アレを喰らってまだ意識があるとは。伊達に執務官を名乗っていないと言う事か。

「ク、クロノさんッ!?大丈夫ですかっ!?今、凄い音がしましたけどっ!?」

「だ、大丈夫…とは言えない」

流石の彩も尋常じゃ無い事に気がついたのか、吹き飛んだクロノに慌てて駈け寄ると、倒れているクロノを抱き起こし介抱し始める。

むっ!?おのれ…彩に抱きかかえられてからに!なんと羨まし…いや、けしからん!

愚かな。これで意識を失い倒れていればこれ以上苦しまずに済んだものを。ならば次の行動に移る事にしよう。

「エイミィ、アイリス。私は移動する。二人から目を話すなよ」

「了解です」

「任せて」

「うむ…ん?」

この場から離れ、目的の場所へと移動しようとするが、不審な者が視線に入りその足を止める。

黒いスーツで身に包み、サングラスを掛けた怪しい人物。そして嫌なな雰囲気纏っているその人物はどう見ても真っ当な人間とは呼べる存在では無かった。まだ昼間。それにこの街は治安の良い筈。何故こんな所にあのような人物が居るのか不思議でならなかった。

私の視線に気付いたのか、黒いスーツの男はこの場から立ち去る。私は、先程の間で男が見ていた視線の先を目で追ってみると、するとそこには…。

「…彩?」

自分にとって大切な人の姿があった…。

…何だ?この嫌な予感は?

胸の中でざわめく不安。私は先程の男の後を追おうとしたがもうその姿は見当たらず、残るのは胸に残る不安とざわめきだけ…。

「まさか、クロノの急な行動はこれが関係しているのか?」

だとしたら彼には悪い事をした。彼は彩を護ろうとしただけなのに…。

私は視線を二人へ移すとそこにはとんでもない光景が広がっていた。

「クロノさん。痛い所はありませんか?」

「さ、彩っ!?大丈夫だからっ!抱きしめるのはやめてくれっ!?胸がっ!胸が当たってるからっ!?」

「?」

まるでカップルと思わせる光景に、私は先程の思いを取り消す。

よし、殺そう…。

今回の事は許してやろうと思ったがあのラッキースケベには死すら生ぬるい…。

「ぐあっ!?」

「ク、クロノさーんっ!?」

抱きかかえられているクロノの頭に辞典が直撃する。どうやらエイミィが投げた様だ。ナイスコントロール。そう私は心の中で賛辞を贈った。

歩みを止めていた足は再び目的の狙撃ポイントへと動き出す。意識はデートを邪魔する事に切り替わっていたがどうしても先程の男の事が心残りだった…。









「うおおおおおおおっ!シュツルムファルケンッ!!!」

「「ちょっ!?狙撃の意味はっ!?」」

「シ、シグナムさんっ!?」

「やっぱり君かっ!?街中で魔法使うなあああああっ!!!」

『(ヴォルケンリッターの誇りは何処に行ったのでしょう…)』

彼等の悲鳴と通行人の悲鳴、そして爆音が響き渡り街中は一時地獄と化した…。

追伸、幸い怪我人は一人も出ず(クロノ除く)、魔法の事はガスが爆発したと言う事で片付いた。勿論この後リンディに叱られたのは言うまでも無い…。








あとがき

何を書こうとしていたか忘れてしまいました。予定ではもっとギャグが多かった筈なのに…。メモっておけばよかったなぁ…。

こんばんは!&おはようございます&こんにちは!金髪のグゥレイトゥ!です。

それにしてもモチベーションが上がりませんね。PSPのリリカルなのは買おうかしら?でもあれ評判悪いんですよねぇ。

私としては暁の護衛の続編に金を取っておきたいんですけど…。





[8923] 魔法少女リリカルなのはA’S ~盲目の少女は何を見るのか…~第十五話
Name: 金髪のグゥレイトゥ!◆60293ed9 ID:1667c937
Date: 2010/05/08 13:05
シャリッシャリッ…

私とアイリスしかいない部屋に、木の削られる音のみが響き渡る。彫刻刀を一回動かす度に全神経を手に集中させ、削っては彫った所を指で揺れて確かめ、削っては確かめと、それを何度もひたすらに繰り返す…。

少しのミスをすれば、彫り物は絵や粘土と違ってやり直しがきかない。一か所を修正するとどうしても周りも直さなければならなくなる。そうすれば当然木は削られて、そうして作品は段々と小さくなっていく。一からやり直せばいいのだが、もうクリスマスまで時間が無い。やり直しは出来ないのだ。

「…」

「…」

『…』

シャリッシャリッ…

誰も口を開かない。沈黙と木の削る音のみがこの部屋を支配していた…。

目が見えない私にとって、少しでも油断すれば怪我をする危険がある。寧ろ本来ならこんな危険な作業はするべきでは無いのだ。現に私は過去に何度もお父様やお母様に止める様に注意された事がある。でも、私はこう言った細かい作業は好きだし、今回ばかりは誰に言われようと止める事は出来ない。これは大切な友達に送るクリスマスプレゼントなのだから。

シャリッ……

ピタリと手が止まり、彫刻刀を机に置き指で作品を慎重に撫でて行く…。頭、髭、手、お腹、足、プレゼントが入った大きな袋、隅々まで指で調べ何か不備は無いか調べて行く。そして、全て調べ終えると…。

「はふぅ~…」

「わふぅ…」

『ふぅ…』

これまでの緊張が一気に解けて、大きな溜息と共に身体を椅子に預けた。

「彫る作業は終了ですぅ~…」

『見てる私まで緊張しましたよ。ご両親方が心配する気持ちが良く分かります…』

「くぅん…(本当に、母様が怪我したらどうしようかと…)」

私と同じ位に緊張から解放され気の抜けたような声を出すリインフォースさんとアイリス。彼女はプレゼントの経緯を知っていたので決して口には出さなかったが、心が繋がっている所為か作業中ずっと心配そうな念が私に届いていた。

私はそんな彼女達に感謝の気持ちも込めて微笑むと手にしていた作りかけの彫像を机の上にそっと、大事そうに置く。

「ごめんなさい。見守ってくださってありがとうございます」

『正直、もうこう言うのはこりごりですね。心臓に悪いです』

「わふ(全くです)」

リインフォースさんは心臓と言うより、肉体すら無いじゃないかとそんな空気の読めない事は言わない。それに、リインフォースさんとアイリスは本当に私の事を心配してくれているのだからそんな事言うのは失礼だろう。

「大丈夫ですよ。後は鑢で表面を磨いてニスを塗るだけですから」

当然これもムラが出来ない様に細心の注意をしなければならない。あと、泡もそうだ。これは誰かに確かめて貰わなければならない。私が手で確かめようにも、触ったら指紋の後が残るし、乾いた後に確かめても泡は修正が難しく、どうしても後が残ってしまうのだ。こればかりはどうしようもない。

「申し訳無いですけど。アイリス、リインフォースさん。ニスを塗る作業の際、ムラや泡が出来てないか見ていてくれますか?」

『「お任せを」』

直ぐに返って来る返事。その声は何処か嬉しそうで、私はそれが気になり訊ねてみる。

「えっと、何か嬉しそうですね?」

『わんっ!(母様のお役に立てますからっ!)』

『ふふ、そうですね』

二人とも…。

嘘偽りの無いその言葉に私は嬉しくて涙が出そうになる。でも、私はそれをぐっと堪えて微笑んだ。今自分の気持ちを表現するように…。

「…ありがとうございます。でも、少し気が早いですよ?まだ鑢の作業が終わっていないんですから」

『わふ…う~わんっ!(あう、確かにそうです。母様!早く磨いちゃいましょうっ!)』

「残念ですが、今日は此処までです。疲れちゃいましたし、集中力の途切れちゃいました」

残りは明日ですねぇ…。

折角作るのだから慎重に、そして完璧に仕上げたい。友達にあげるのならなをさらだ。

「さてと…道具を片づけて今日はもう寝ましょうか」

明日は学校ですし、今日は昼間のクルノさんとのお買い物の件で少し疲れたので早めに休んでおきたい。そう言えばクロノさん達はあの後どうしたのだろうか?私はアイリスに手を引かれてあのまま家に帰ったのだが…。

怪我をして無いと良いんですけど…心配です。











15話「大掃除、なの」














――――Side Chrono Harlaown
    12月18日 PM07:40
    ハラオウン家:リビング






「まったく。そう言う理由があるのならそう言えば良いのだ」

「…最初の言う言葉が謝罪ではなくそれか」

ミイラ男の様に包帯をぐるぐる巻きにされた状態で、僕はシグナムの第一声の言葉に怒りでぷるぷると肩を震わす。

本来なら管理外世界での無断で魔法を使用した罪で罰せられる筈なのだが、ウチの上司が「お口にチャック♪」みたいな事をほざき無罪放免と言う事となった。これで良いのだろうか時空管理局…。

当然、艦長のキツイお説教はあった。あったのだ。僕とシグナムに…。

あれ?何だか泣きそうだ…。

そう言えば最後に泣いたのは何時だっただろう?もうゴールして良いよね?

「いや、本当にウチのシグナムがご迷惑を…」

まさかのヴィータの謝罪。普通なら逆だろう。見た目的に…。

「君も大変だな…」

「アリガト。ああ、何でだろう?今までこんな事無かったのになぁ…アハハ…」

何処か遠くを見て疲れた様に笑う少女に被害者である筈の僕まで同情してしまう。そうか、彼女も僕と同じで苦労人なのか…。

「本当にもう…それで、私達ヴォルケンリッターを呼び出したのは。過去に私達に家族を奪われた遺族の方達の報復が彩ちゃんに向けられる可能性があるから、と言う事で良いんですね?」

自分の仲間の行いに呆れながらもシャマルは話を本題に戻すと、真剣な表情を浮かべて僕達へと問う。

辺りがシンと静まり返り先程までの空気は一気に消え去る…。

「ああ。そして、シグナムの話を聞いて可能性が確かな物となった」

シグナムの話を聞く所。僕達のデート…では無く、買い物の様子をあやしい男が監視していたらしい。服装は全身を黒で統一したスーツ姿。そしてサングラス。明らかに自分は不審者ですと証明せんと言うばかりの怪しい姿。もうこれは確定だろう。

「でも、それは絶対と言う訳じゃねぇんだろ?良いのかよ?アタシ達を呼び出して?」

「一応、はやてちゃんにはザフィーラを傍に置いてますけど…」

「いや、その判断は正しいだろう。もしかしたらはやてから注意を逸らす罠の可能性だってある。はやての傍には必ず誰か一人は居てやってくれ」

彩の警護が厳重になった場合。はやてに標的が変わる可能性だってあるのだ。遺族達も彩よりも闇の書の主だったはやてを殺めた方が仇を取ると言う理由で都合が良いかもしれない。

「それは当然です。私達ははやてちゃんの守護騎士なんですから」

「ああ!ぜってぇはやてに指一本触れさせねぇっ!勿論彩にもだっ!彩はアタシの友達で恩人なんだっ!」

はは、頼もしいな…。

目の前で堂々とそう言いきる彼女達の頼もしさに少しだけ心に纏わりついていた不安が取り除かれた様な気がした。そして、ふと気になる事が一つ。何時もなら一番騒ぎ出しそうな騎士が先程から大人しく話を聞いているのだ。

「シグナム?」

シャマルもそれを不思議に思ったのかシグナムの様子を窺う。僕もそれに釣られて視線をシグナムに移すとシグナムは先程のふざけた様子と一変して真剣な物へと変わっていた。背後に静かな殺気を纏って…。

「クロノ執務官。報復と言ったがあの男には魔力を感じなかった。この世界の住民であるのは明らかだ。そんな男が遺族と関係を持つとは考えに難いが?」

「その件については遺族のある人物がこの世界のある犯罪組織に何らかのコンタクトを取ったと報告があった」

「でも、遺族の方はミッドの住んでるんですよね?依頼の際、恐らく偽名を使ってると思うんですけど…そんな人からの依頼を受けるとは考え辛いんですが?」

「そうだな。確かにその通りだ。でも、水無月彩はたった一世代で巨大な会社、水無月コーポレーションを創り上げた水無月一郎の一人娘、と言う事を忘れて貰っては困る」

この世界にだって社会の闇がある。暗殺、誘拐、闇取引、社会の裏ではそれらが行われているのは確かなのだ。

「ちょっと待ってクロノ君。まさか…他の人からも狙われてるのっ!?」

驚くエイミィに僕は苦痛の表情を浮かべて頷く。

「あくまで可能性…という範囲だ。何故なら、彩は今まで一人で行動する時が多かった。だと言うのに彼女は一度も命を狙われていない。…魔法関連意外だが」

最後にそう付け加えておく。

「もしかしたら、その犯罪組織もしくはその関係者が水無月コーポレーションに良くない感情を持っている可能性がある。だが、利益の無い殺しをするのは利益が無い…そこで遺族の依頼だ」

「まさにグッドタイミングと言う訳だね…」

ソレを聞いた途端バンッとテーブルを殴る音がリビング全体に響き渡る…。

殴ったのはヴィータだった。ヴィータは手が真っ白に成程拳を握り締め歯を剥き出し怒りを露わにして感情に任せて叫ぶ。

「ざけんなっ!彩が何をしたって言うんだよッ!?唯アタシ達を助けてくれただけじゃねぇかっ!?狙うならアタシ達にしろよっ!?」

彼女の言う事は尤もだ。しかし、この世は弱い物が狙われる。弱い物、つまり彩が狙われてしまったのだ…。

そしてまた僕はちらりとシグナムの方を見るが、彼女はまた黙って何も言わない。もう怒りの通り越して何も言えないのだろう。僕も彼女の気持ちは分かる。何故あの優しい彩が狙われなければならないのか。恐らくこの場に居る全員が同じ気持ちだろう。

「…話を戻そう。僕達の役目は彩とはやての護衛。そして、二人の命を狙う連中の拘束だ」

今日の奴らの行動は偵察が目的だろう。次は確実に命を狙って来る。それもそれなりの戦力で…。

実行犯を捕えた所で依頼人はその者を切り捨てるだけでなんの解決にはならないかもしれない。そもそもこの世界は管轄外で犯罪者をどうこうするのはこの世界の警察の仕事だ。管理局が表立って行動してはいけない。拘束し情報を聞きだしたら記憶を消去する必要がある。しかし、その組織はそう易々と行動出来なくなるだろう。それは一時的にだが二人の身の安全が保障される事になる。そうなれば依頼者である遺族は次に何らかの行動に出るに違いない。その時に…。

捕まえてやるっ!

執務官として、彩の友として、必ず彩を護り、犯人を捕まえてみせる。その決意と共に力一杯に拳を握り締める…。

「…クロノ執務官。一つ良いか?」

「何だ?…っ!?」

突然口を開くシグナム。しかし、僕は彼女を見て息を呑む。いや、正確には彼女から発せられる殺気に、だ。

「実行犯が複数いた場合は…一人だけ残して後は殺して構わんのだろう?」

―――なっ!?

凍える様なシグナムの言葉に、この場に居た全員が言葉を失う…。

何を…言っているんだ?

そんな事許される訳が無い。例えどんな犯罪者であろうと殺して良い筈が無い。罪は法で裁かれるべきだ。私刑など許される良い筈が無い。

「何を馬鹿な事をっ!」

「…馬鹿な事?私からしてみれば彩に逆恨みをする遺族の方が馬鹿な事をしていると思うのだが?」

否定はしない。だが肯定するつもりもない。犯罪は犯罪だ。遺族がやろうとしている事も、シグナムがやろうとしている事も…。

「もし君が人の命を殺める事をすれば今の状況が一気に悪い方へと傾く。それを理解出来ない君じゃないだろうっ!?」

「…」

シグナムは何も応えない。唯鋭く、そして冷たい目で僕を睨むだけ…。

「シグナムさん。貴女が彩さんの事を本当に大切に思っているのは分かります。ですが…」

「それを、彩ちゃんが望むと思うの?」

「…っ!望まない、だろうな」

艦長とシャマルの言葉にシグナムは表情を歪め、爪が喰い込む程強く力を籠めて拳を握り締める。そう、あの優しい少女がそれを望む筈が無い。むしろ悲しむだろう。彼女はどんな人間にも平等に優しさを振り撒くのだから…。

「アタシだってもしも彩に何かあったらそいつ等をゆるせねぇよ。生かしておく気もねぇ。…たぶん、なのは達も命を取るまでは行かなくても同じ気持ちだと思う」

なのは達にだって彩は大事な友達だ。恐らく命を奪うまでは行かなくても決して彼等を許しはしないだろう。

「でもよ。彩が無事だったってのにお前がそいつ等を殺したら、護るためじゃ無く主の命令でも無く復讐のために殺したら、お前はもう騎士でも何でもねぇ…唯の人殺しだ」

「彩のためなら騎士の誇りなど…」

君は何処まで彩に…。

最早酔狂の域まで達しているのではないのだろうかと思う位に彼女は彩に依存していた。

「剣の騎士とは思えない発言ね」

シャマルの鋭い視線がシグナムに向けられる。普段の柔らかなイメージを持った彼女からは想像の出来ない姿だ。

「他者のためなら自分の事など気にしない優しさを持つあの少女の命を狙う者に騎士の誇りを持ち出せと言うのか?」

「貴女の主は誰?はやてちゃん?それとも彩ちゃん?今の発言は私達の主である八神はやてを守護する騎士に有るまじき発言よ」

「「…」」

二つの視線がぶつかり合う。互いに譲れない物がある、そう言う事だろう。シャマルにとってもシグナムにとっても、はやてと彩は大切な存在だ。唯、お互いの考え方が多少違うだけで…。

だが、この光景を見たはやてと彩はどう思うだろうな…。

きっと悲しむだろう。こんな事望まない筈だ。自分の家族や大切な友達が争うなど…ましてやその原因が自分にあると知ったら…。

兎に角、今は言い争っている場合じゃない。二人を止めなくては…。

そう思い二人の間に割って入ろうとしたが、それは別の人物によって阻まれる事になる。この場に居るもう一人の守護騎士、ヴィータが僕より先に二人の間に割って入ったのだ。

「やめろよ。くだらねぇ言い争いはよ…」

「ヴィータ…」

「ヴィータちゃん…」

ヴィータの乱入に睨みあいは中断され、緊迫した空気が薄れる。

「はやても彩もアタシ達にとって大切な人だろうがよ…」

「「…」」

黙りこむ二人。そしてヴィータは口を止める事無くシグナムに言葉を投げかける。

「シグナム…お前は人を殺した血に濡れた手で彩を触れられるのかよ?」

「っ!?」

目を剥いて言葉を失うシグナムに更にヴィータは追い打ち掛ける。

「頭を撫でてあげるのかよ?抱きしめてあげるのかよ?手…繋げるのかよ?」

「それ、は…」

「アタシ達は過去に多くの人を殺して来たぜ?主の命令でさ。でも、もしお前がそれ以外の理由で人を殺したら…もう、彩には触れられないと思う」

「…っ!」

「お前はそれでも「もう良いっ!」…」

「もう、良い…」

「シグナム…」

…。

「分かっているさ…彩がこんな事望まないくらい…」

「「「「「…」」」」」

悲しみに歪むシグナムに僕達は何も言え無くなってしまう。この中で一番彩思っている彼女だ。そんな事分かっていて当然だ。だからこそ辛いのだろう…。

「だが…」

「?」

「彩に何かあったら絶対に私はそいつ等を許さない…絶対に…」

「…ああ」

きっと、僕も許さないだろう。でも、僕は時空管理局に属する者。彼女を止めなくてはならない。

全く…事件はまだ終わっていないんだな…。

此処に来てやっと僕はそれを心の底から思い知る事になった…。

「クリスマスも後少し、憂いは取り除かないとな…」

大掃除と行こうじゃないか…。













――――Side Sai Minaduki
    12月19日 AM07:50
    水無月家:自室







ん~…寒いです。

冬という寒い季節。その季節の中ベッドは強力な魅惑の魔法を放っており抜け出す事は困難である。現に私も起きる時間が近づいて来ている事が分かってと言うのにベッドの中から抜け出せないでいた。

『母様。母様!朝ですっ!しかも今日はちょっぴりピンチですよっ!?』

『彩!早く起きないと!』

ふにゅ…何で二人とも慌ててるんでしょう?

二人の慌てる声からして唯事で無いのは明らか私はベッドの中からじもじと顔を出すと起き切っていない状態で二人に朝の挨拶する。

「あふぁようごじゃいましゅ…」

寝起きの所為かうまく言葉に出来なかった。しかし、そんな事二人は気にも止めずに先程から慌てた様子で私に呼べ掛けて来る。朝から二人とも元気だなと私は呑気な事を考えていると、寝ぼけた思考を二人の言葉により一気に醒まされる事になる…。

『『遅刻しますよっ!?』』

…ほぇ?

「…」

ピタリと思考が止まる。

じわじわと頭から冷たい物が浸み渡り思考が回復して行き…そして…。

「あわわわわわわわーーーーっ!?」

水無月家全体に間抜けな悲鳴が朝から響き渡るのであった…。











「すみませんでした!」

最早定位置となったフェイトちゃんの脇に抱えられながら、私は謝罪の言葉と共に私の寝坊のとばっちりを受けてしまい必死に学校に向かって走っている友達方に深々と頭を下げる。

「はひぃ…はひぃ…良いよぉ…別に気にしないでぇ」

あう…息切れしながら言われるととても申し訳ないです。

辛そうなのを必死に堪えて笑おうとするなのはちゃんの声がとても痛々しい…。

『いつでも笑顔が絶えないのが彼女の良い所ですが…』

どうやらリインフォースさんも同じ気持ちの様だ。

「だーっ!これはギリギリ間に合うかどうかよっ!?」

「す、すみませ~んっ!」

怒鳴り散らしてくるアリサちゃんに涙目になりながら謝る。

うぅ…昨日は早めに寝たのにどうしてぇ?

それほど疲れが溜まっていたと言う事だろうか?確かに昨日は色々と騒がしかったりプレゼント作製したりと疲れてはいたが…。

「罰としてお昼のお弁当おかず一品没収!」

「ほぇっ!?今日もサンドイッチですよっ!?」

『それはまた…何と残酷な』

具ですかっ!?中身没収ですかっ!?それだと唯の食パンですよっ!?

何と言う嫌がらせ。私は流石にそれはひもじいと思いアリサちゃんに罰の変更を嘆願するが、聞き入れて貰える事は無くフェイトちゃんに抱えられ涙目で学校へと掛けて行くのであった…。









キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン♪

「セ、セ~フッ!」

「先生まだ来て無いよねっ!?」

「よ、良かったよぉ~…」

「皆お疲れ様♪」

チャイムが鳴り終わると同時に教室に滑る込む私達。皆息が絶え絶え(すずかちゃんを除く)で、間に合った事を知るとへなへなと地面に座り込んだ。

「…何やってんだ?お前等?」

「あはは…ギリギリだったね?おはよう、皆」

勝君と宮本さんが此方へやって来て、片方は呆れ、もう片方は苦笑しながら疲れ果てている私達に声を掛けて来る。

「さ、彩が…寝坊…したのよっ!」

「すいません!すみません!」

もう此処に来るまで何度謝ったか覚えて無いです…。

「間に合ったんだから良いじゃねぇか。まったく、朝から五月蠅い奴だな」

「うるさいうるさいうるさい!アンタの顔見て更に最悪の朝になったわよっ!」

ああっ!?勝君の言葉に火にガソリンが注がれたの如くアリサちゃんの怒りが大炎上ですっ!?

「何だとっ!?」

「何よっ!?」

犬猿の仲と言うのはこの二人の事を言うのだろうか?口を開けば必ずと言って良い程喧嘩になってしまう。

「ま、まぁまぁ二人とも…」

「け、喧嘩は駄目だよぉ~」

「落ち着こうよアリサ!」

「喧嘩は駄目ですよぉ~っ!?」

「仲良いよね二人とも」

宮本さん。それはちょっと違う気がします~っ!?

あの二人を仲が良いの或に入れるのは少しばかり難しい様な気がする。

「…HRはじめて良いかしら?」

「「「「「「「あ…」」」」」」」

『気付かなかったのですか…』

いつの間にか教室にやって来ていた先生より二人の喧嘩は止められるのであった…。












――――12月19日 AM01:20
    学校:教室





嗚呼…この時間が来てしまいました。

気分はまるで処刑台に立つ死刑囚の様。非が自分にあるのは分かって入るのだがこれは余りにも酷だと思うだ…。

「アリサちゃん…どうかご慈悲を…」

「駄目」

『諦めまょう。非があるのは彩なのですから』

「あぅ…」

私の願いを無慈悲に切り捨てられるアリサちゃんに、私はガクリと肩を落としすごすごと鞄からお弁当を取り出して捧げるのだった…。

「え?何の話?」

場の状況について行けない宮本さん。そう言えば一緒に宮本さんは登校していないのでお弁当の件は知らないのは当然だ。

「寝坊で皆を巻き込んだ罰としてお弁当のおかずを没収するって話になったのよ」

「私達は良いって言ってるのにねぇ?」

「ねぇ?」

「アリサ許してあげようよ。可哀そうだよ…」

「駄目!悪い事したら叱らないといけないの!」

まるで犬の扱いです…。

『可愛らしい子犬ですね。気持ちは分かります』

ひ、酷いです…。

「えっと…私の記憶が正しければ水無月さんって何時もお昼はサンドイッチとかそう言うのじゃなかったっけ?」

「はい…」

そうですよ~。サンドイッチのみですよ~…。

「つまり…具を没収?」

YESです…。

私は何も言わずコクリと頷く。そして没収されて行く私のおかずもとい具達…。

あはは…食パンですよこれ?あ、でも少し具の味が残ってます。これはレタスのですか?お母様、今日に限って卵やツナが無いんですね…。

卵やツナならまだ味が残っていただろうに…。

「鬼だ…鬼だこの女」

余りの残酷な光景に遠くで他の男の子達と食べていた勝君まで此方にやって来て話に加わって来る。

「何よ?あたしだって飴と鞭ぐらい使い分けてるわよ!彩、口開けなさい!」

「はい!?…あ~ん」

「…ほらっ///」

「むぐっ?」

アリサちゃんの言われたとおりに口を開けると、私の口の中に何かが押し込まれた。これは…唐揚げ?

「美味しい?」

「あ…はい!美味しいです!」

「アンタいっつもサンドイッチだからね。こう言うのも良いでしょ?」

「はい!…あ、もしかしてこれのために?」

「ふ、ふんっ!そんな訳無いでしょっ!?」

アリサちゃん…優しいです!

「じゃあ、私も卵焼き上げるね?」

「あ、私も」

「彩、あ~んして?」

『そんなにいっぺんにやると…』

「もごっ!?うむむむ~っ!?」

『ですよね…』

く、苦しいですっ!?そんなにいっぺんに詰め込まないで下さい~っ!?

なのはちゃん、すずかちゃん、フェイトちゃんと言う順番に、まだ食べ終えていないと言うのに次々と口の中におかずが詰め込まれて行き呼吸困難に陥る。

「ちょっ!?アンタ達、詰まってる詰まってるっ!?」

「少しは加減をしろよ馬鹿っ!?」

「水無月さんっ!ほら!お茶っ!」

「も…ご…」

『…彩?彩っ!?」

あ、愛が…苦しい…です。







「はふぅ~…死ぬかと思いましたぁ」

宮本さんにお茶を飲ませてもらい、難とか一命を取り留めた私はほっと安堵し胸を撫で下ろす。友達の思いやりで喉を詰まらせ窒息死なんて申し訳無くて死ぬに死ねない。

「見てるこっちも心臓にワリィよ…」

でもお腹は満腹です!

あれだけ沢山のおかずを詰め込まれたのだから当然である。

「でも、初めてお弁当のおかずを取りかえっこしました♪」

「命懸けだったけどな…」

「アンタはうるさいわよ。余計な事言わないで」

「…そろそろ決着をつけようじゃねぇか」

「上等よ…」

静かに椅子から立ち上がる二人…。

「にゃあっ!?食事中なのに喧嘩はやめてよぉっ!?」

「二人ともいっつもそうだよね」

「もう、アリサちゃんったら」

朝の続きのつもりか、また二人の喧嘩が始まってしまう。

「二人とも仲良いね♪」

こ、この状況を見てどうしてそんな事言えますかっ!?

「だって…本当に嫌いなら態々話しかけて来ないでしょ?」

『ふむ、確かに』

隣で驚く私の顔を見て察したのか、宮本さんは楽しそうに笑いを来れながら説明してくれる。確かにその通りなのだが…。

私は傍で口論している二人の声に耳を傾けてみる。

「この馬鹿犬っ!」

「うるせぇ!その台詞をその声で言われると何だかむかつくんだよっ!」

と、とてもそうには思えないんですけど…。

「喧嘩する程仲がいいんだよ~♪きっといずれ二人にもフラグが立つから♪」

フラグって何ですかっ!?

「あと、彩ちゃんにも色んな子のフラグが立ってるよ?」

「ふえっ!?」

良く分かりませんが。い、何時の間に…。

「電話してくれれば何時でも気になる子の情報と評価を…」

「あ、宮本さんってそう言う立ち位置なんだ」

す、すずかちゃんっ!?

普通に話に着いて来れてるすずかちゃんに私は驚く。もう私には何が何だか…。

「じゃあ、彩ちゃんの評価を…」

「何を言ってるですかっ!?」

『人気者ですね。彩は』

えええっ!?

「評価は大好きだけど、ときめき状態になるのはもう少し好感度を上げないと駄目だねぇ」

何処から取り出したのか、手に持った手帳か何かをペラペラと捲りながら答える宮本さん。その手帳には一体何が書かれているのだろう…。

こ、好感度…?

「まぁ、冗談はその位にして…二人ともそろそろやめよう?」

ど、どの辺りが冗談だったんでしょうか…?

急に話題を切り替える宮本さんはとことこと二人の間に割って入り易々と喧嘩を止めてしまう。

すずかちゃんもそうですが宮本さんも何だか只ならぬ物を感じます…。

「…そうね。こんな奴の相手してても時間の無駄だし」

「それはこっちのセリフだっての」

「あ~もう!二人ともやめようよ~」

「そうだよ。また喧嘩が始まっちゃうよ?」

「「…ふんっ」」

『まるで磁石ですね』

『?…くっ付くんですか?』

『いえ、そう言う意味では…それもある意味では間違ってはいないかもしれませんね』

『?』

リインフォースさんが何を言いたいのか分からず私は首を傾げる。間違っているのあっているというのはどう言う意味だろう?

すると、困惑する私を他所にいつの間にか話題は次へと移り変わっていた。クリスマスパーティについてだ。どうやらプレゼントの事では無く、会場の飾り付けの事についての話の様だ。

「と言う訳で、今日帰りに飾り付けの材料買いに行くから」

「了解だよ~」

「わ、私あまり飾り付けとかした事無いから…」

「大丈夫だよフェイトちゃん。私も一緒に作るから♪」

「…うん!なのは!」

楽しそうにはしゃいでいる皆の輪からポツンと一人取り残される。私は目が見ない。だから飾り付けなんて出来ないし手伝おうとしても逆に邪魔になってしまうだろう。そう思うととても寂しくなってしまう…。

「何寂しそうにしてるのっ!?アンタも手伝うのよっ!」

「きゃうっ!?」

ぺしんとアリサちゃんが私のおでこを軽く叩く。私は短く悲鳴を上げると、ひりひりするおでこを擦りながら涙目でぽつりと事実を呟いた…。

「でも…私は目が見えないから…」

彫像は何とか触って彫れますが、飾り付けなんて私には…。

「ていっ!」

「あうっ!?」

二度目の叩く攻撃。今度は少し強めでじわじわと痛みが頭に伝わって来る。私は涙目で非難の視線をアリサちゃんに送るがアリサちゃんはそんな事気にもせず私を叱って来る。

「またアンタは!もう少し周りに頼りなさいっ!」

うぅ…。

「私が手伝うよ彩ちゃん!」

「そうだよ水無月さん!皆と一緒にやれば良いんだよ!」

すずかちゃんと宮本さんの二人が私の手を取って笑い掛ける。

すずかちゃん、宮本さん…。

「勿論私もだよ♪」

「及ばせながら私も頑張るよ!彩!」

皆さん…。

「じ、じゃあ俺も「男子は飾り付けしなくて良いから。アンタは今日の買い物の荷物持ちでもしてなさい」…」

ア、アリサちゃん…。それはちょっと言い過ぎです…。

折角私に気遣って名乗り出てくれたのにそれではあんまりだ。

「あ、あはは…」

「ま、まぁ、小林君だけ除け者じゃないだけマシ…なのかな?」

「そ、そうだね!アリサならやりかねないもんねっ!」

「フェイト~?どう言う事よそれ~?私が鬼みたいな言い方じゃ無い~?」

「そ、そんな事無いよっ!?」

「本当かしらね~?このっこのっ!」

「イタイッ!イタイよっ!?アリサッ!」

「うるさ~いっ!その髪型アタシと被ってんのよ~っ!」

「思いっきり私情入ってるよねそれっ!?それに関係ないよね今の話とっ!?アイタタタッ!?髪引っ張らないでぇ~っ!」

「あ、あわわ…」

わ、私の見えない所で何だか凄い争いが繰り広げられているみたいです!

目の前に繰り広げられている見えない抗争にあわあわと戸惑いながらも二人のドタバタ騒ぎを見守っていた。

何はともあれ、放課後の予定は街に買い物と言う事で決定したようだ。私は放課後の買い物の事で胸を踊らせてのであった…。












――――Side Signum
    12月19日 PM 03:00
    学園:校門前






「…どうやら学校は終わった様です」

ぞろぞろと校門を潜って帰って行く子供たちを見て、先程の鐘の音が最後の授業を終了を知らせる物だったと言う事が分かる。だとすれば、そろそろ彩達も校門を出る筈だが…。

「出て来たみたいだな」

「ああ、なのは達も一緒の様だ。どうやら何処かに寄るらしい」

校門に出て来る彩達。中には知らない男子も居るがそれ以外の全員は見知った者達だった。それにしても、何故男子と一緒に…。

「「…」」

ゴゴゴゴゴゴッ…

「…こら、嫉妬オーラを出すなっ!あと手の力を緩めろ!電柱に罅が入ってるぞっ!?」

「これは失礼…」

…む、いかんいかん。

私とアイリスはは慌てて隠れていた電柱から手を離す。彩に悪い虫がついたんじゃないかと思いつい、力んでしまった…。

「はぁ…どうやら街に向かうらしい。行くぞ?」

「…ああ」

「分かりました」

クロノ執務官の言葉に頷くと、私とクロノ執務官は誰かに見られていないか警戒しながら彩達に気付かれないように後をつけることにした。本当なら彩には危険防止のため家に帰って欲しいのだが、彼女の自由を奪いたくない。だからこうして私達は少数で彩の見えない所から警護しているのだ。

…言い方を変えれば彩を囮にしているのだがな。

彩を監視していれば必ず奴等が出て来る。そこを押さえる事が出来れば…。







街にやって来て、彩達が入った店は大型デパートだった。店内の中となると監視が難しくなり奴等に気付かれる可能性が高くなってしまう。そして、最悪な事に私とクロノ執務官は顔を知られてる。迂闊に店の中に入るのは危険だ。此処は出入口に待っているのが無難だろう。

「僕は裏口の方に回って来るよ。あそこは関係者以外は使えない筈だが念を入れておく必要があるからね」

「分かった。此処は任せてくれ」

「何かあったり、合流する際は念話で連絡してくれ。じゃあ、また後で…」

クロノ執務官はそう言うと通行人に紛れ込み、目立たぬよう裏口の方へと向かった。

さて、私達も見張るとするか…っ!?さっそく出たな。

入口を見張り初めて早々、デパートの中へと入って行く黒尽くめの男。間違い無い。昨日彩を見ていた男だ…。

『クロノ執務官。さっそく釣り糸が掛かったぞ』

『何?早いな…』

『私がデパートに入って奴を取り押さえる』

『待て。仲間が居るかもしれない。そのまま待機だ』

『何故です?中で母様が襲われたらどうするんです!』

『フェイトも傍に居る。心配は無いだろう』

『魔法が使えないのなら普通の少女と変わらないでは無いですかっ!』

確かにその通りだ。こんな人が多い場所で魔法を使う訳にもいかない。大の大人をテスタロッサが相手出来ると思えない。

『もし、此処で逃げられたら更に警戒されて本気で来られてしまう可能性がある。大勢で来られたら少人数の僕達で彩を守れるのか?』

くっ…。

確かに、彼の言う通りだ。これ以上彩を危険な状態に追い込む訳にもいかない。此処は黙って従う事にしよう…。

『男を確認出来ただけで十分だ。後は、店から男が出て来た後をつけて隙を見て取り押さえる』

『そう上手く行けばいいのですが…』

とりあえず、今は待つ事しか出来ない訳だが…ん?待て、どう言う事だっ!?

私は入口の方を見張っていると有り得ない物が目に飛び込んでくる。あの黒尽くめの男が店から早くも出て来たのだ。脇に彩を抱えて…。

馬鹿なっ!?白昼堂々あんな目立った行動をっ!?テスタロッサ達と一緒では無かったのかっ!?

『テスタロッサッ!?』

『きゃっ!?シ、シグナム?どうかしたの?急に念話で話しかけてきて…』

『彩と一緒では無いのかっ!?』

『え?何で知ってるの?それが、人混みの所為で彩と逸れちゃって…』

っ!?

『クロノ執務官っ!彩が奴等に拉致されたッ!』

『何っ!?どう言う事だっ!?』

『人混みの所為でテスタロッサ達と逸れたんだっ!その隙に…っ!』

『ッ!?』

―――クリスマス目前ですからね。賑やかなのも当然と言えば当然ですよ。

『(っ!…何故気付かなかったっ!?)』

『母様を追いますっ!私なら何処まで離れていようと母様の居場所を把握出来ますからっ!』

『私も行くぞっ!』

『分かったっ!僕も直ぐに追いつくっ!…早まるなよ?』

何を早まるなとは彼は言わない。私はその言葉に何の返答もせずに念話を切った…。

保証は出来ん…。

そう。もう最悪の結果一歩手前まで来ているのだ。もしも彩に何かあったら…。

「殺してやる…」

騎士の誇りなどどうでも良い。彩を傷つける物は全て壊しつくしてやる…っ!

そんな、黒く禍々しい殺意に心を満たされて私はアイリスの後を駈けて行くのだった…。











――――Side Sai Minaduki
    12月19日 PM 04:00
    街外れの廃棄された工場







なのはちゃん達と逸れたかと思えば突然知らない男に人に抱えられて知らない場所まで連れて来られてしまった。両手両足はロープの様な物で縛られ身動きとられない状態で私は地面に座り込んでいる。

…此処は何処でしょう?

周りには街の騒がしい音が聞こえない。どうやら街から相当離れている様だ。空気は鉾ぽく、生活の匂いがしない。人が最後に此処に来たのは随分と昔の事なのかもしれない。

「あの…此処は何処ですか?」

「…」

あぅ…。

私の質問に返って来るのは沈黙だけ。どうやら教えてくれるつもりは無いらしい。それにしても、この男の人は誰なのだろう?

『まさか、こんな事になるとは…』

沈痛な声を出すリインフォースさん。しかし、私は今の状況が理解出来ずに、男の人に呑気な質問をしてみる。

「えっと…どちらさまでしょう?」

「…」

またも無言の返答…。

「よ~!水無月のお嬢さんの誘拐ご苦労さん!」

「遅いぞ…」

先程の男の人とは別の男性の声。今の会話からしてこの男の人の知り合いの様だが…。

「そうい言うなって。俺だって忙しいだからよ。でも思ったよりすんなり出来たな?」

「ターゲットの性格は調査済みだ。まぁ、想像以上に大人しかったがな…」

「へぇ、そうかい…それにしても」

ゾクリ…

っ!?何でしょう?妙な視線が…。

まるで、舐められている様な…そんな不気味な視線が全身に感じる。

『拙い事になりましたね…』

え?

「…ひゅ~♪随分と可愛い子ちゃんじゃないの。こりゃ、大人になりゃあかなりのべっぴんさんになったろうに」

「…」

「まぁ、今でもかなりイケるけどな」

「…また悪い癖か」

「はははっ!」

『屑が…』

…?

何を言っているんでしょうか?

私は目の前で行われている会話の内容が余り理解出来ずに首を傾げると、それを見た後からやってきた男の人が可笑しそうに笑いだす。

「プッ!アハハハッ!良いね~!その純情そうな顔!俺は好きだな~っ!」

「…ふぅ」

呆れる様に溜息を吐くもう一人の男の人。

えっと…。

「なぁ?やっぱ命令通りにしなきゃいけないの?」

「当たり前だ」

「勿体ねぇ~よ。飼うって手もアリだと思うんだけどなぁ~。これ、良い金になるぜ?」

飼う…?

「命令は絶対だ」

「はいはいそ~かい。なら、今だけでも楽しませて貰うとしようかねぇ~」

そう言うと男の人は私の前までやって来る。鼻をつく様な香水の匂いに少しだけ顔を歪めると私は男の人を見上げる。

「へへへ、本当に惜しいねぇ。絶対に美人に成長しただろうに…」

「えっと…ありがとうございます?」

「ぷっ!くくくっ♪」

「…」

『…彩、呑気な事を言っている場合ではありません』

「?」

私の言葉を聞いてまた可笑しそうに笑い出す男の人。私はさっきからそんなに可笑しな事を言っただろうか?リインフォースさんは男の人達とは反対に何だか深刻そうな様子だが…。

「それじゃあ…」

男の人の手が私の頬に触れ、伝う様に下へと移動して行く。頬から首、肩、そして服のボタンへ…。

…っ!

何故だろう。今まで何度もお父様やお母様、それにシグナムさんや色んな人に触れられた事があるのに、この人に触れられると気持ち悪くなってしまう。何なんだこの不快感は…。

い、嫌…。

『!…大丈夫です。彩』

「頂きますか♪」

嫌!

『貴方の騎士が、来てくれましたよ』

…!

誇らしげに語るリインフォースさんの言葉に、私はハッと目を見開き耳を澄ます。そして、それは現れた…。

「「させると思っているのか?(ですか?)この下衆が…」」

「「っ!?」」

建物内に響く凛とした二つの声。此処には自分達以外存在しない筈の声に男の人は私に触れていた手を引っ込める。

「誰だっ!?」

無口だった男の人が先程まで様子から想像出来ない程大きな声を上げ、二つの声に向けて吠える。しかし返って来るのは二つの足音のみ…。

でも、知っている。私は知っている。この二つの声の主を…。

そう、これは…。

私の大好きな人。私の大切な人。どんな時でも私を護ってくれる人…。

「彩から離れろ、屑が…」

「貴方達の様な下衆が触れて良い方ではありません。退きなさい下衆がっ!」

シグナムさん!アイリス!

「何だよ。驚かせやがって。女じゃねぇか。しかも片方は餓鬼かよ」

「目撃者は消す様に言われている。怨むなよ」

「殺されると言うのに怨むなとは無理があるのでは?」

「「っ!?」」

『…お見事』

急に風が吹いたかと思えば最愛の娘の冷たい声が耳元で囁かれる。気付けば、私はアイリスの腕の中に抱かれており、男の人から離れた位置まで移動し、私を拘束していたロープの解かれていた…。

「アイリス…」

「母様。心配させないで下さい」

「すいません…」

「良いんです。母様さえ無事なら…」

「怪我は無いか?彩」

シグナムさんが此方へ駈け寄って来る。

「シグナムさん…大丈夫です。怪我なんてしてません」

「そうか…アイリス。此処から急いで離れろ。こいつ等は私が相手をする」

「…分かりました。言っても無駄かもしれないですが、加減はする様にして下さいね?」

「…」

「…はぁ。では、母様行きましょう」

「え、でも…」

私を抱えてこの場から離れようとするアイリスに、私はシグナムさんの事が気に掛かり不安そうな表情でアイリスに訴える。

「シグナムさんなら大丈夫でしょう。寧ろ、相手の方が心配ですが…」

「え?」

「何でも無いです。では行きますよ」

アイリスはそう言うと、物凄いスピードで建物の出口に向かって走り出す。

「おい待てやっ!誰が逃がすって言ったグアッ!?」

「誰が後を追わせるかっ!」

物凄いスピードの風を切る音の所為で良く聞こえなかったが。後ろ方で何か鈍い音が響いた後、私達を追いかけようとしていた男の人の悲鳴が聞こえた様な気がした…。

シグナムさん…。

『大丈夫ですよ。彩』

アイリスの腕の中でシグナムさんの安否を心配しているとリインフォースさんが私に優しく赤ん坊をあやす様に語りかけて来る…。

『剣の騎士は負けません。彼女は貴女を護る騎士なのですから…』










――――Side Signum







「…さて、始めようか」

アイリスが彩を連れて脱出するのを確認すると目の前で私に殴り飛ばされ、地面に転がっている男に視線を落とす。

「どうした?何時まで寝ている?さっさと起きろ。別にそのままその腐った脳味噌が詰まっている頭を踏みつぶしても構わんのだぞ?」

「っ!」

そう告げてゆっくりと足を持ち上げると男は慌てて転がる様に立ち上がり、それと同時に持ち上げられた足が先程まで男の頭があった場所を踏み砕き私の足と同じ形の穴が出来上がる。

「…何、だぁ?」

「化け物が…」

目の前の光景に唖然と立ち尽くす二人の男。しかし私はそんな事など気にも止めずに沈んだ足を彼等に向けて進ませ一歩、また一歩と近づいて行く…。

「ちぃっ!?」

ちゃらちゃらした方の男が服の内側に手を伸ばす。胸の辺りに膨らんだ四角い物体…恐らく拳銃だろう。

私は恐れる事無く地面を蹴り一瞬で男の距離を詰めて拳銃に手を伸ばした腕を掴む。

「―――っ!?」

理解出来ないと言った男の目。なんて事は無い。唯こいつ等が私の速度について行けて無いだけだ…。

私は腕を掴んでいる手に思いっきり力を籠めると骨の軋む音と共に拳銃が地面へと落ちる。それをすかさず足で遠くの方まで蹴り飛ばし、空いた方の手を男の肩へと伸ばし…。

ゴキッ…

骨を砕いた…。

「ぎ、ぎゃああああああああああああっ!?」

骨を砕かれた痛みで地面に這い蹲り見っとも無く悲鳴をあげる男。だが、そんな物聞こえて無いかのように這い蹲る男の足に目掛けて足を持ち上げると…。

バキィッ…

今度は足の骨を踏み砕いた…。

「――――っ!?」

悲鳴も出ずに口をパクパクとさせて、涙を大量に流す瞳で此方へ嘆願の視線を送ってくるが、私はそれを言葉では無く行動で返答した…。

逃げられては困るからな。

メキィッ!

「―――――っ!!!!??!?」

もう片方の足が砕かれる。白目を剥く醜い姿を晒す男。口からは泡が吹き、最早戦意など欠片も残っていない。もうこいつは放置しても問題無いだろう。残るのはあの無愛想な男のみ…。

さて…と。

「うおおおおおおおおっ!」

殺意と言う気迫の籠った咆哮と共に、銃が無駄だと判断したのかナイフを持って襲い掛かって来るもう一人の男。確かにその判断は間違ってはいないのだが…。

私はゆっくりと姿勢を低く構える…。

世界がスローモーションの様に映っている。ナイフが私の首目掛けて迫って来ているのを私はそのナイフを持っている手の手首を掴み、此方に向かって来ている勢いを利用しそのまま腕を引くと使っていない片方の拳を掴んでいる腕の肘に目掛けて全力で打ち上げる。

コキッ…

嫌な音と共に有り得ない方向へと曲がる腕。誰が見ても明らかと言う程に見事に折れてしまっている。

「ぐううぅっ…」

後方に飛び退き折れた腕を抱えて蹲る男。額にぎっしりと浮かんだ脂汗から察して相当の激痛だと言うのに、悲鳴を必死に堪えている。どうやらこいつはあそこでのた打ち回っている馬鹿とは少しだけ違うようだ。

…まぁ、雑魚には変わりないがな。

だがどうする?肩腕は折れ、ナイフも手から零れ落ち私の足元に転がっている。もう獲物となる物は拳銃だけだがそれも通用はしないぞ?

「…があっ!」

…愚かな。

私は失望したと言う様に深く溜息を吐いた。男が捕った行動。それは懐に忍ばせてある拳銃を此方へ向けると言う物だった…。

「そんな物。私には…通用しないっ!」

「っ!?」

私が地面を蹴ると同時に放たれる弾丸。しかし、それは私に当たる事は無く私の頬をかすめ、男は顔面を蹴り飛ばされ宙へと浮き見事な曲線を描き地面へと落下した。

終わり…か。随分とあっけも無い。

浮き飛ばされた方は気を失い。肩手両足を砕かれた方も戦闘など不可能。

雇い主を聞かねばならないのだが…

まともそうな奴は気を失って聞けそうに無い。となれば残るのはあそこでに醜態を晒している男だけとなるが…。

「おい…」

「ひ、ひぃいいっ!?」

情けない。完全に心が折れている…。

「お前達を雇ったのは誰だ?」

「だ、誰が…」

「別にお前を殺しても構わんのだぞ?幸いもう一人情報源は居る」

そう言って親指を立てて向こうで伸びているこいつの相方を指差す。

「サ、サウダスって男だ!で、でも、恐らく偽名で名前で追った所で何にも出ねぇっ!」

「…偽名を名乗る男の依頼を何故受けた?」

「前金で依頼料の一部が振り込まれてた。それだけでも敵いの金額だったそうだ。それに…ウチの組織の関係者がターゲットの親の会社が邪魔だったらしい」

クロノの予想通りか…。

となれば、やはりこれ以上の情報はある事は不可能と言う事になる。何の手がかりも得る事が出来なかった。彩を危険な目に晒したと言うのにだ…。

「…最後の質問だ」

「っ!?あ、ああ…」

「貴様…彩に何をしようとした?」

男の頭を掴み少しずつ力を籠めて行く…。

「ひぃいいいいいっ!?」

この質問に意味は無い。私にもあの会話は聞こえていた。もし、私達が間に合わなかったら彩は恐らく、こいつに穢されていただろう。

許せん…。

ミシッミシッ…

骨の軋む音が響く。このまま砕いてしまおうか?そうすればこいつは死ぬ。彩を穢そうとしていたこいつは死ぬのだ…。

「ぎっ!?ぎぃいいいいいいいいっ!?」

そう、後少し力を加えればこいつは…。

「止めろ!シグナムっ!」

「…」

あと少しで既に痛みで気を失っているこの男の頭が握りつぶされる。そんな所で、それは仲間によって阻まれる。

私はゆっくりと後ろへと振り向いた…。

「何故…止める?」

「…君がその男を殺そうとしたからだ」

「こいつが彩に何をしようとしたか分かっているのか?まだ幼い少女を強姦しようとしたのだぞ?」

「…」

「後数分遅れていればどうなっていたか分からんのだぞ?」

「…」

「それでも殺すなと言うのかっ!?」

「僕だって、許される事なら殺してやりたいさ!だが!それは許され無い事なんだ!」

「納得できる筈が無いだろうっ!?」

彩を、彩を傷つけようとした奴等だぞ?死んで当然な事をしようとした奴等だぞ?そんな奴等を生かしておけと言うのかっ!?

「彩は生きているっ!…何もされていない」

「それは結果論だろうっ!私達が間に合ったからだっ!」

「君がそいつを殺して何がどうなるっ!?君の手が汚れるだけだぞっ!?」

「こいつを殺せるなら私はそれで良いっ!」

「彩が…彩がそれを望んでいるの言うかっ!?」

「っ!」

彩がそんな事望む訳が無い。そんな筈が無い…だが!

何故、こんな奴を生かしておく必要がっ!

「君の手は…そんな事で汚して良い物ではないだろう?騎士何だろう?主と、大切な者を護る存在なんだろう?」

「…」

くっ…ああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!

バキィッ!!

行き場を失った怒りと殺意が地面にへぶつけられる…。

「…っ!」

「警察の引き渡しや事後処理は僕がする。君は、彩に会いに行ってやれ」

「彩に…」

そうだ、彩は無事なのか…?

「無事なのは達と合流したそうだ。今は友達と買い物を楽しんでいるそうだよ」

「そう、か…」

へたりと地面に座り込む。

ははは…あんな事あったばかりだと言うのに。自分がどれだけ危険な目に遭いそうだったか理解していないんだな…。

「行ってあげると良い。きっと彩も心配している」

「…ああ」

私はこの場はクロノ執務官に任せ、急いで彩の許へと向かった…。











「…さてと、僕も始めるとするか」

この状態で警察に明け渡す訳にもいかない。まずは怪我の治療。そしてその後に記憶の消去か…。面倒が山住だなまったく…。

しかし、これで彼等も思い知っただろう。彩に手を出すと危険と言う事が…。

後は、自称サウダスとか言う男が慌てて動いてくれれば全てに片がつく。









「彩っ!」

「っ!?シグナムさんっ!」

嗚呼…嗚呼っ!無事だっ!良かった…本当に良かった!

私は彩の思いっきり抱きしめると彩の艶やかな美しい黒髪に顔を埋める。愛しい人の温もりが、香りが…確かに私の腕の中にあった。それを実感するだけで涙が流れそうになる。

「えっと…何事よ?」

「迷子になっただけ…だよね?」

「てか…誰だよあの人?」

「彩ちゃんの…お姉ちゃん的存在かなぁ?」

「…?(あの念話何だったんだろう?」

私の行動に驚く者達が居るが、私は気にせず彩をぎゅっと抱きしめ続けた。決して失わないと誓う様に…。

『まったく、私も母様に甘えたいのに…ですが今日だけは譲るってあげます』

アイリスの言葉に心の中で感謝すると更に抱きしめる力を強くするのだった…。






――――???





「何だとっ!?奴等が捕まったっ!?」

通信で水無月彩の暗殺失敗の事を知らされて男は戸惑いを隠そうともせず、慌てふためき始める。所詮は小物と言うべきか、凄い取り乱し様である。

「ええいっ!どれだけ高額の金を払っていると思ってるんだっ!?こうなった魔導師を送り込んで…」

「魔導師を…何だというんだ?」

「なっ!?」

突然響く自分以外の男性の声。しかし、男が驚いたのはそれが理由では無い。聞こえて来たその声に驚いたのだ…。そう、彼は知っているその声の主を。何故ならば、この声の主は嘗て自分達の仲間であった男…。

「グレアムっ!?」

「まさかこんな事を仕出かすとはね…それでも君は管理局に属する人間かい?」

「黙れっ!貴様とて同じだろうがっ!」

「言い逃れはしないよ。私は闇の書を葬るために一人の少女を生贄に捧げようとした…だが、君とは違う」

「何が違うっ!?結局は復讐だろうっ!?」

「復讐…確かにそうかもしれない。だが、水無月彩は何の関係も無い少女だ。彼女殺す理由が何処にある?」

「あの子供が居た所為で闇の書は軽い罰で済まされそうになっているっ!ふざけるなっ!家族を奪われた私達が納得できるはず無いだろうっ!?」

「…理解しかねる。水無月彩は関係無いだろう。そして、闇の書もこの世には存在しない」

「消えていないっ!奴等の罪はっ!殺してやる…闇の書も!私の復讐を邪魔する者もっ!」

「…連れて行け」

グレアムがそう言うと同時に扉から武装した魔導師が部屋に入って来て男拘束する。

「なっ!?」

「君の行いは許される事では無い。法の下、裁かれて貰うよ…私と共にね」

「グ、グレアムうううううううっ!!!」

「ああ、後。君がある組織に依頼した暗殺はキャンセルするように言っておいたよ。魔法とは便利なものだね本当に。姿を掛ける事が出来るんだから…」

「お、おのええええええええええっ!!」




こうして、水無月彩暗殺の件は最悪の結果とならずに決着するのであった…。









あとがき

ときメモ4はシリーズ最高作だと思う。最近、TINAMIの方の生息時間が多いです。

こんばんは!&おはようございます&こんにちは!金髪のグゥレイトゥ!です。

スランプですわぁ。ぶっちゃけ暗殺事件はこの物語ではどうでも良い話なので直ぐに終着しました。当然犯罪者にはそれ相応の苦しみを味あわせましたがw

この物語もあと3話くらいかな?外伝も考えているので4~5になるかもです。まぁ、未定なんで断定は出来ませんがw




[8923] 魔法少女リリカルなのはA’S ~盲目の少女は何を見るのか…~第十六話
Name: 金髪のグゥレイトゥ!◆60293ed9 ID:1667c937
Date: 2010/06/01 05:29
此処は八神家のリビング。水無月彩暗殺の未遂に終わり数日が過ぎ再び平和な日々が戻って来たのだが…。

「彩~♪彩~♪」

「シ、シグナムさ!わぷっ…く、苦しいですよぅ」

「シグナムさんっ!母様から離れなさいっ!」

『聞こえてませんね。何を言っても無駄でしょう…』

ピンクの巨乳が周りの目を気にせず病弱な幼女をその大きな胸で拘束し、その二人の周りを更に幼い使い魔がキャンキャンと喚く。平和。平和なのだが…。

何だこのカオスは…。

それが、今この場にやって来た僕の感想だった…。

先日のシリアスな話は何処へやら。平和な事は良い事なのだが、このまま放置しておけば別の意味で彩が危ないかもしれない…貞操的な意味で。

まったく、人が事件にケリを着けてミッドから戻って来たかと思えば何だこの光景は…。

普段は凛々しいその横顔は、今じゃ顔が緩みきって情け無い物となり彩をまるで小動物か縫い包みを可愛がるように抱きしめている。先日の人を殺すだの言っていた人物とは思えない姿だ。

「あ~…なんだ。色々とすまねぇな。本当に…」

「クロノ君いらっしゃい。アレの事はほっといて良いから」

「いや、君達も苦労するな。本当に…」

「…うむ」

目の前で僕を眼中に無いと言わんばかりに彩を愛でているロリコン騎士とは違い、他の騎士は僕の事を歓迎しソファーに座る様に勧めてくれた。僕はシグナムが作るピンク空間から距離を取りつつ二人から離れたソファーに腰を下ろした。

「クロノ君いらっしゃ~い。お茶飲む~?」

キッチンの奥からはやてが此方に挨拶しにやって来る。何かの料理をしていたのだろうか。はやては可愛らしい柄のエプロンを身に纏っていた。彩もそうだが、身体が不自由だと言うのに良く火事が出来る物だと僕は感心する。

「ありがとう。じゃあ頂こうかな?」

「了解や!」

「あっ!はやてちゃん。私も手伝います!」

「シャマルは座っててなぁ?お客さんのお腹壊させる訳にいかんから」

「大人しく座ってろよ」

「うむ」

「く、くすん。こんな扱いばっかり…」

あ、哀れな…。

誰もフォローしないとは。それだけ彼女の家事能力は低いと言う事だろう。

「それじゃあ、少し待っててな~?」

そう言ってはやては笑顔でまたキッチンへと戻って行った。やはりこう言うのが好きなのだろうか?普段の彼女の笑顔より今の笑顔の方が輝いて見える。

…今までは一人で料理を作って一人で食べていたんだ。でも今じゃ食べてくれる家族が出来てとても家事をするのが嬉しんだろうな。

ロストロギア。大き過ぎる力は不幸しか生まないと思っていたが。それは嘘なのかもしれない。現にこうして今一人の少女が幸せに暮らしているのだから…。

この世界に関わるようになって、僕も変わったのかもしれない。以前はエイミィに頭が固いと言われた事があったが今ではそれも少しは納得できる。まぁ、少しだけなのだが。軽すぎる艦長やエイミィに言われるのはちょっと癪だ。

変わったと言えば、エイミィが最近妙な行動が多くなった気が…。

最近の彼女は良くどす黒いオーラを背負っている事が多々ある様な気がする。以前はこんな事無かったと言うのに一体何があったと言うのだ。僕には見当もつかない。どちらにせよ被害に遭うのは僕だけなのが幸か不幸か…。いや、偶に殺されかけている訳で、それだけは勘弁願いたい…。

以前の飛んで来た包丁。シグナムかエイミィかアイリスかは知らないが、アレは洒落にならないぞ…。

寒気が奔りぶるりと肩を震わす。良く今まで生きていた物だ。自分の悪運とこの肉体を鍛えてくれた師匠二匹に感謝しておこう。

『それで、此方に来たと言う事は…』

シャマルからの念話。目の前に居るのに直接話して来ないのは彩とはやてを気遣っての事だろう。

『ああ。後、先日の事で話があったんだが…アレだからな』

ちらりと移した視線の先には未だに彩を解放せずイチャイチャ?しているシグナムの姿。まさか彩がはやての家に来ているとは思いもしなかった。はて?まだ学校は終わって無い筈なのだが…。

『今日は終業式だったそうですよ。それで早めに学校が終わったからクリスマスパーティの事も兼ねて家に寄って来たらしいんだけど。シグナムに捕まっちゃって…』

ああ、成程。それにしても捕まったって…。いや、間違って無いが…。

アレは彩の合意があっての物とは確かに言い辛い。現に彩はシグナムの胸に顔を強制的に埋められ、ジタバタしている。あの胸には殺傷能力もあったのか。彩の抵抗が段々と弱まって…。

…アレは酸欠状態になってるんじゃなのか?良いのか止めなくて…。

ちらりとシャマルの方に視線を送るがシャマルは困った様に苦笑して首を左右に振るだけで何もしようとしない。どうやら救出は不可能の様だ。まぁ、アイリスが傍に居るので大丈夫だろう。…多分。

『…話を戻そう。先日の件で、首謀者が馬鹿みたいに此方の思う通りに動いてくれてね。逮捕する事に成功したよ』

『良かった…じゃあ、彩はもう大丈夫なんだよな?』

『少なくとも此方側から命を狙われる事は無いだろう』

此方側。つまりこの世界外からの人間と言う意味だ。この世界の人間が彩の命を狙わないと言う保証は無い。今回の誘拐犯は利益の無い殺人はしないだろう。シグナムが重傷を負わせた二人組も記憶を消去したため報復の心配は無い。だが、水無月を良く思っていない者が居ると言うのは今回の事件で分かってしまった。残念な事に此処からは管理局が手を出して良い問題では無い。この世界の警察等と言った組織が何とかしなければならない問題だ。

大変歯痒い事なんだがな…。

僕も艦長も管理局から預けられた地位や人員等を個人の事で動かして良い筈が無い。今回は管理局の上層部が関わっていたから許された事だ。本来、あのような行為はあって良い物では無い。

勿論、僕個人だけならば彩に何かあった場合友として迷わず助けるだろう。僕に出来る事なら何だってするつもりだ。艦長だってそうするだろう。

『そして、先日の事件に関与していた遺族達の数人も芋づる式で捕まえる事に成功してね。裁判を優位に進めそうだよ』

『例えばどれ位?分かりやすくな』

『逆○裁判のラストステージがファーストステージになる位』

『…ラスボスがあのカツラとかそれ何てヌルゲー?』

実際にそれ位楽にあったのだから仕方が無い。あの事件に関与していた遺族がそれだけ大きな権力を持って居たのが影響しているのだろう。それを喜ぶべきか恥じるべきか管理局側としては複雑な心境だが…。

『まぁ、何はともあれ良い方向に向かって来てる。この様子だと裁判の方も何ら問題無く片づけられるだろう。君達は何も心配も無く今の生活を過ごしてくれて構わない』

『そうですか。ありがとうございます。何から何まで…』

『構わないさ。彩の頑張りに比べればこの位何とも無い』

「お待ちどう様や~♪皆も召し上がれ~♪」

丁度話が終わった頃にタイミング良くはやてがお茶と茶菓子をお盆に載せてリビングへとやってくる。

「おーっ!?いただきます~っ!」

「羊羹♪これ好きなの~♪」

おばさ…ゲフンゲフン。言わない方が良いか。

「ザフィーラにはこれやで?」

「…」

ザフィーラの前に置かれる白い棒状の物体。そう、それは…。

ほねっ○…。

はやてのザフィーラに対する認識は狼では無く犬の様だ。僕はテーブルの下で無言で口に咥える彼を見て心底同情しつつもお茶を頂いた。

「あ、ありがとう…ふぅ。やはり『何も入れて無い』緑茶は良いな。落ち着く」

ウチの母は緑茶に砂糖とミルクを入れるから困る。糖尿病にならなければ良いが…。

「そうか?抹茶アイスみたいな味してうめぇと思うんだけど…」

飲んだ事あるのか。何時の間に…。母と会う機会なんて数回程度しか無かった筈なのだが…。

「それは同意できないな…」

甘い緑茶は既に緑茶じゃ無い。黄緑色のナニかだ。それに、健康に良いとはとても思えない。

「…さて、そろそろ御暇させて貰うとしようか」

僕は空になった茶臼をテーブルに置くとソファーから腰を持ち上げゆっくりと立ち上がる。

「えっ!?今来たばかりやん!?」

「元々長居するつもりじゃ無かったし、用はもう済んだからね。お茶御馳走様」

要件は伝えた。此処に居て友達同士仲良くやっているのを邪魔するのもなんだ。僕は早々に立ち去る事にしよう。

「ふぇ~…クロノさん。もうかえるんですかぁ~?」

やっと解放されたのか、色々とボロボロになった彩が漸く僕に話しかけて来た。そんな彼女に僕は苦笑すると労わりの言葉を送くろうと口を開く。

「お疲れ様。すまない。まだ仕事が残ってるんだ。今度またゆっくり話そう」

「ほぅ…ゆっくり、だと?」

「聞き捨てなりませんね…?」

ゴゴゴゴゴ…

何気ない言葉に反応する二人。毎回先日の様な事をされると身が持たないので誤解を解いておこう。

「君達が考えている様な事は考えていないからな?『皆で一緒に』ゆっくり話そうと言う意味だからな?」

「どうでしょうか?男は皆狼だと聞きますから…」

黙れよマセ犬っころ…。

「む?」

「いや、確かに君は狼だがそれ以前に守護獣だろう…」

狼と言う言葉にテーブルの下でほねっ○を夢中でしゃぶっていたのをやめ、こちらに反応するザフィーラに一応ツッコミを入れておいた。














第16話「皆で準備、なの」









――――Side Sai Minaduki
    12月22日 PM02:30
    八神家:リビング








「冬休みかぁ。私は毎日が長期休暇やからなぁ…」

「はやてちゃん。それ何も知らない人が聞くと駄目な人に聞こえますよ?」

クロノ君が帰った後、私達はお菓子を摘まみながらリビングでおやつの時間を楽しんでいた。

「ふふふ。でも、はやてちゃんももう直ぐ学校に通えるようになるんですよね?そしたらもうそんな事言えませんよ?」

嬉しい事や楽しい事、時には悲しい事。サプライズが盛り沢山で毎日が慌ただしくなるだろう。

「どんとこいや!一日中家の中は退屈なんやで~?」

「酷いよはやて!アタシ達が居るじゃん!」

はやてちゃんの言葉に飛び付くヴィータちゃん。自分達と居ても退屈だと勘違いしたのだろう。

「勿論ヴィータ達が来てくれたおかげで毎日が楽しいよ?でも、その前はなぁ…買い物か図書館、病院位しか移動範囲なかったから。家の中も私しかおらんかったし…」

それは…辛いですね。私にはお父様やお母様が居て下さいましたし、此処に来るまでは良くお父様達とお出かけとかしていましたからそんな事は無かったですけど…。

「ほんま、皆に出逢えて良かったわぁ」

「それは我らも同じですよ。主」

「ええ♪はやてちゃんに会えて良かったです♪」

「おう!」

「我等、この命燃え尽きるまで主と共にある事を…」

『家族』。それは本来血の繋がった人達の事を示す言葉だと思っていた。しかし彼女達を見ているとそうでは無いのだと思い知らされる。家族と言う言葉は血の繋がりでは無く、絆なのだ。お互いが信頼し、思いやり、支え合う。そうすれば誰だって家族になれるのだ。

私やアイリスも…。

私の隣で座っているアイリスの手に自分の手を重ね、アイリスへと視線を向け微笑む。目は見えない。だが確かにそこに自分の愛する娘の温もりを感じる。

「?…母様?」

「ふふふ、いえ。何でも無いです♪」

「???」

何故笑っているのか理解出来ずきょとんとするアイリス。その可愛らしい様子に、アイリスには悪いと思ったが更に私は可笑しくなって笑ってしまった。

「え?え?私何かおかしな事しましたか?」

『ふふふ、さぁ?』

「むぅ…リインフォースさんは分かってるみたいです!卑怯です!説明を要求します!」

―――あははははっ!

可愛らしく抗議してくるアイリスを見て一斉にリビングが皆の笑い声で満たされる。すると、そこに来訪者を告げるチャイムの音が家中に響き渡った…。

ピンポ~ン♪

「およ?誰か来たみたいやな?」

『はやてちゃ~ん!なのはだよ~っ!』

『そんなに声大きくしないでも聞こえてるわよ…』

はやてちゃんの疑問に答える様に外から元気の良いなのはちゃんとアリサちゃんの声が聞こえてくる。私は学校の帰りに、アイリスと合流して直接はやてちゃんの家を訪ねたが、なのはちゃん達は一旦家に帰ってから此方に来ると言っていた。と言う事はもう家に一旦帰ったのだろうか?

「なのはちゃん達や!は~い!今出ま~す!」

なのはちゃん達の声を聞いて嬉しそうに玄関へと向かって行くはやてちゃん。

「…良いのか?アイリスの事は…」

「アリサちゃん達は一度犬のアイリスを見ていますから、子供の姿の方で会って貰います」

アリサちゃんにはアイリスは入院中と話してあるので犬の姿のアイリスを合わせる事は出来ない。親戚とでも説明すれば信じて貰える筈だ。大切な友達に嘘を吐くのは心苦しいが…。

「ええ、そうね。親戚って形で紹介しましょう。魔法の事を話す訳にもいかないし…」

「初めまして!八神はやてです!」

「アリサ・バニングスよ。よろしくねはやて!」

「宮本由紀です。よろしくね?八神さん」

あっ、宮本さんも来たんですね。

玄関から各々の自己紹介の声が聞こえてくる。そう言えばアリサちゃん、宮本さんとはやてちゃんは私の口からしかお互いの事を聞いていなかった筈だ。と言う事は今日が初対面と言う事になる。特に宮本さんはなのはちゃん達と比べて話す機会が少ないためはやてちゃんの情報は殆ど無かった様な…。

あわわ、こうなるんだったら事前に話しておけば良かったです…。

「おじゃましま~す」

「あっ!大きな犬!…でも、似たような犬何処かで見た様な…?」

「き、気のせいだよ。アリサ…」

「やほ~♪彩ちゃん!さっきぶり~♪」

「はい♪さっきぶりです♪なのはちゃん、フェイトちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん、宮本さん♪」

リビングへ来ると同時になのはちゃんの元気で明るい声が飛び込んで来たかと思いきや、すぐさま私へとダイブして私を抱きしめて来る。

「えへへ~♪」

むむ?今日は妙に甘えん坊ですね?

「どうかしたんですか?なのはちゃん」

「ん~?別に何でも無いよ~?」

いえ、それにしてはやけにテンションが…。

「明日から冬休みだからテンションが上がってるんでしょう?」

成程。

「あと、周りの雰囲気に中てられちゃったのかな?もうクラスの皆はクリスマスの事ではしゃいでたし」

「そうだね!私もクリスマスなんて初めてだから凄く楽しみなんだ!」

フェイトちゃんもウキウキ気分です。

「でも、アタシ達は主催者だからパーティの準備をしないといけないんだけどね」

「そうだね。だからこうやって…」

がさりと何かを取り出す音。そして、宮本さんが取り出したのは…。

「飾り付けの材料を持って来たんだけどね♪」

この間街に買いに行ったクリスマスパーティに使う飾り付けの材料だった。一旦帰ったのは家にソレを取りに行くためだったのだろう。

「今日はクリスマスパーティに参加させて貰うお礼と交流を兼ねて私の家で飾り作りをする事にしたんや♪」

そうだったんですか。でも私は初耳です…。

「材料が少し多いから彩ちゃんには黙ってたんだよ。言ったら彩ちゃんも着いて来たでしょ?」

当然です。私もお手伝いしたいです。

私はすずかちゃんの言葉にこくこくと何度も頷く。私だって役に立ちたい。足手纏いなのは分かるが…。

「一応言っておくけど。足手纏いとかじゃないからね?アンタいっつも自分の事そう思うから」

むぅ…。お見通しですか…。

流石はアリサちゃんと言ったところか。私の考えている事がバッチリピッタリと見抜かれてしまった。

「あはは。バニングスさんの彩ちゃんに対する愛が感じるねぇ♪」

「う、うるさいわねっ!」

「…む」

今まで黙って私達を傍観していたシグナムさんが急にソファーから立ち上がる。しかし立ち上がるだけでシグナムさんは此方に混ざる事はしなかった。いや、正確に言えばヴィータちゃんに押さえられて出来なかったの言うのが正解なのだが…。

「おめぇはややこしくなるから黙って自分の部屋の端にでも座ってろ。な?」

「お願いだから恥掻かせないでね~?」

「何をすr…うわ、やめr…」

あれ?ヴィータちゃんとシャマルさんがシグナムさんを引き摺って何処かに連れて行きます。どうしたんでしょうか?

「…何アレ?」

「何時もの事だから気にせんでええよ?」

「何時もなんだ…」

「か、変った家庭だね」

「シ、シグナム…」

「楽しく騒ぐのは良い事だと思うよ?」

そうですよね。楽しい事は良い事です♪

「えっと…それじゃあ、始めよっか?」

引き摺られて行ったシグナムさんによって停止していた時間がまた動き出し、飾り制作の作業に取り掛かり始める。私は色のついた紙を細く切って、切った紙の端をノリで塗り輪っかを作り別の色の輪っかを繋げて鎖の様にする作業だ。宮本さんとすずかちゃん、はやてちゃんとでやる事となった。

「彩ちゃんは色が分からんから私が見とかんとな」

「はい。よろしくお願いします」

「じゃあ、私は出来るだけ彩ちゃんがやりやすいように色分けしておくね?」

「はい♪」

「母さ…ごほん。彩姉様。私も「はいはい。アイリスはアタシとペアよ~」ちょっ!?何をするですかっ!?母様~っ!」

わぁ~。アイリス何時の間にアリサちゃんと仲良くなったんでしょう?さっき会ったばかりなのに。

それにしてもアリサちゃんは妙にアイリスを気に入っている様だ。本能がアイリスを犬だと感付いているのかも…。

「…母様?」

「あだ名ですよ」

嘘です。すみません。

「へぇ~…彩ちゃんがお母さんかぁ。優しいお母さんになりそう」

「そうなりたい、ですね」

既にアイリスと言う娘が居るのですが…。

「彩ちゃん母性溢れてるからなぁ…胸も大きくなりそうや(ボソ」

「「「え?」」」

胸が何ですか?

「なんでもあらへんよ~♪」

「宮本さんもすずかちゃんも有望やな・・(ボソ」

「「え?」」

「ん~ん~♪」

有望?何の事ですか?

『(私は主の将来が心配です…)』

「八神さんってちょっと変わってるね~」

「むっ?失礼な!私は己に素直なだけやで?」

素直な事は良い事ですよね♪

「そ、そうなんだ」

「時には自制する事も大切だよ?でないと犯罪者予備軍の仲間入りだから…」

すずかちゃんが凄い事言ってますがはやてちゃんの何処が犯罪者さん候補なんでしょう?

はやてちゃんはとても良い子だと言うのに理解出来ない。

「あっ!そう言えば気になる事があったんや!」

「誤魔化したね…」

「何?八神さん」

「それやそれ!その八神さんって他人行儀な呼び方!」

「え?でも何て言うか今更って感じだし…」

「友達なんやからそんなのあかん!と言うわけやから私の事ははやてって呼んでな!私も由紀ちゃんって呼ぶから!」

そう言えば、宮本さんだけですよね。名字の呼ぶの…。

「じゃあ、私もすずかって呼んでね?」

「え、えっと!私も彩で良いです!」

「じゃあ私もなのはって呼んでね!」

「わ、私もフェイトって呼んで欲しいな?」

「当然アタシも呼ぶわよね?」

あわっ!?他の作業をしていたなのはちゃん達も聞こえてたんですねっ!?

突然私も私もと便乗してくるなのはちゃん達に驚いてビクリと跳ねてしまう。

「え~と…じゃあ今度から下の名前で呼ぶね?はやてちゃん」

「OKOKや♪」

これで由紀ちゃんも仲良し組です♪

「正直私も気になってはいたんだぁ。小林君だって彩ちゃんに下の名前で呼ばれてるのに」

「あわ、すいません…」

「良いよぉ。気にして無いから」

「別にアタシはアイツをしたの名前で呼ぶ気ないけどね」

「あ、あははは…もう許してあげなよアリサちゃん」

「い・や・よ!」

「もう、アリサちゃんてば…」

何故かは知らないがアリサちゃんと勝君は喧嘩ばっかりしている。実際にアリサちゃんに勝君の事が嫌いなのか訊ねた事があるのだが、本人は「本能がそうさせるのよっ!」とか良く分からない事を言っていた。どう言う事だろう?前世がどうとか言っていたが…。今の私には理解出来ません。

「まぁまぁ、小林君だってクラスの中の男の子じゃ彩ちゃんを一番気に掛けてくれてるんだから」

「ふんっ!」

由紀ちゃんのフォローに聞く耳を持たないと言った感じのアリサちゃん。

「う~ん…仲が悪いとかそんなんじゃないんだけどねぇ?(ヒソヒソ」

「あれが二人のコミュニケーションみたいなものだしね(ヒソヒソ」

「彩ちゃんに過保護だからねアリサちゃん(ヒソヒソ」

「彩ちゃんを取られると思ってるのかも…(ヒソヒソ」

「何々?何の話や?(ヒソヒソ」

「…(小林勝、ですか。その名忘れません)」

???

なのはちゃん達のヒソヒソ話は丸聞こえな訳だが、話の内容が良く分からないかった。なので思い切ってアリサちゃんに訊いて見る事にする。

「…私は勝君に取られるんですか?」

「!…ぜぇ~ったいにアイツは認めないんだからねっ!?」

「わぷっ!?」

な、何で私を抱きしめるんですかっ!?

急に怒鳴り声を上げたかと思えば、私を抱きしめて来るアリサちゃんに私は大混乱だ。今の質問は聞いてはいけない事だったのだろうか?なのはちゃん達も「アチャ~…」と声を漏らしているし…。

「ん~独占欲?」

何がですかっ!?

「彩ちゃん病の第2期…いや、第3期やな。末期のシグナムよりマシやけど」

何の話ですかっ!?

「母様を放して下さいっ!」

アイリス。此処であまり母様と呼ばない方が…。

「やれやれ…ん?何だこの状況?」

カオスと化したこの状況中、シグナムさんを連れて行ったヴィータちゃんとシャマルさんがリビングへと戻って来る。何故か連れて行かれたシグナムさんが居ないのだが…。

「シグナムはどうしたん?」

そうです。どうしたんですか?

「邪魔になるとアレなんで、バインdゲフンゲフン…縄で縛って部屋に放り込んでおきました」

「「「「「(うわぁ…)」」」」」

シグナムさん…。

目は見えないが容易に想像できる悲惨な光景に思わず涙が滲んでしまう…。

「憑かれて…じゃなくて疲れてるんだよ、アイツ。気にしないでくれ」

そう言うヴィータちゃんだが、明らかにヴィータちゃんの方が疲れているご様子。私にはその原因がさっぱりだが後で身体には気をつける様に言っておこうと思う。

「まぁ、アイツの事はほっといて。アタシも準備手伝うぞ」

「私も、お手伝いさせてくれるかしら?」

「勿論♪じゃあ、なのは達と絵描こう?」

「なのはと…?アタシは彩と一緒が良いだけど…」

「ほぇ?」

私とですか?でも、もう私のグループは沢山いるんですが…。

「むぅ~!唯今彩ちゃん独占禁止令発令中なのっ!」

「ないないそんなの無い」

い、いつのまに…。

「いや、シグナムじゃあるまいし独占する気はねぇよっ!?ア、アタシだってたまには彩と遊びたいと言うかゴニョゴニョ…」

あぅ…確かにはやてちゃんの家に来ても殆どシグナムさんと一緒ですもんね。ごめんなさい…。

友達の筈なのにヴィータちゃんに寂しい思いをさせていたとは…。私は何て恩知らずで友達失格なのだろう…。

「むぅ。そう言われちゃうと駄目って言えなくなるの…でも、彩ちゃんのグループいっぱい居るしなぁ」

確かになのはちゃんの言う通り。私達のグループは十分と言える程人数が揃っており、その作業の内容も人手が要ると言う訳でも無い。

ん~…困りました。

「じゃあ、私が代わりになのはちゃんの所に行くから。ヴィータちゃんが代わりに入れば良いよ」

困っている私達を助ける様に自分から名乗りを上げる少女の声。由紀ちゃんだ。

「ほんとかっ!?えっと…?」

「宮本由紀。由紀で良いよ?」

「由紀!ありがとっ!」

「いいえ♪どういたしまして♪」

「良かったな。ヴィータ」

「うん♪」

「ほな、ヴィータは紙を切ってぇな?ちゃんと同じ幅で切るんやで?」

「任せてよ!」

元気の良い返事と素早く響くチャキチャキと言うハサミの音から、物凄いスピードで紙が刻まれて行ってるのが良く分かる。

「凄いねぇ。ヴィータちゃん」

「へへん!」

「でも、切った奴を散らかすのは頂けんなぁ。どないすんの?これ…」

「ぬおっ!?」

「あはは、まずは色分けだねぇ」









「ええか彩ちゃん?色違いで並べてあるから、右から順にとって繋げて行くんやで?」

「は、はい!お任せを!」

「いや、そんなに固くならなくてもよ…」

か、かかかか固くなって無いですよっ!?

「最初は私と一緒に作ろうか?まずは1枚紙を取って…輪を作るの」

そう言ってすずかちゃんは私の手を取り一つ一つ丁寧に教えてくれる。一枚紙を取り端にのりを着けて輪を作り、その輪にまた別の紙を通してその紙も同じようにノリを付けて輪を作る。作業はいたってシンプル。これなら色を間違えしなければ私でも簡単に出来る。

「そうそう!上手上手♪」

「…えへへ♪」

単純作業なら普通の人より早く出来る自信はありますよ♪

「これなら直ぐ終わるかもな」

「でも、会場が会場なだけあって結構な量が必要だからねぇ」

「え?どれだけでかいんだよ…」

「私一度だけすずかちゃんの家行った事あるけどす~~~っごく大きかったで?」

それを聞いてヴィータちゃんは「ゲッ」と小さく漏らすと、せっせと作業を再開し始める。私は話でしか聞いた事無かったがはやてちゃんの話から察するに相当大きいんですねぇ。

「彩も金持ちなんだよな?何で何処にでもある普通の家なんだ?まぁ、他の家と比べるとでかい方だと思うけど…」

「え?大きくする必要なんてあるんですか?」

「いや…うん…その…無いな」

ですよね。

「でも空いてる部屋は幾つかあるんですよ?」

本来はお客様用の部屋なんですけどね。だから常に綺麗な状態です。

家の家事は全てお母様が受け持って居る為か家全体は常に清潔を維持されている。流石私の師匠。家事で右に出る人は居ない万能お母様だ。

「ですから、住む場所に困ったら何時でも来て下さいね♪」

「「いやいやいや!(天然?天然なの?それとも本気!?)」」

「あ、あはは…(実際に一人や二人養えるくらいの財力があるから質が悪いよね…)」












――――Side Iris
    12月22日 PM03:30
    八神家:リビング





「む~…」

離れた場所で母様達の楽しそうな会話を聞きながら私は不満そうにプレートを切る作業に謹んでいた。

私も母様と一緒が良かったなぁ…。

「ほらほら、何時までもむくれて無いで頑張りましょう?」

途中から混ざって来たシャマルさんが私の様子を見て苦笑しながらそう言って来る。そうは言うが母様の方は気になって仕方が無いのだ。

「む~!む~!」

「こっちは刃物を使うんだから彩ちゃんを護ると言う理由じゃ満足できない?」

「む…」

シャマルさんの言葉に今まで不満そうな態度がピタリと止む…。

そう言われると言い返せなくなりますね…。

「アンタも彩に溺愛してるのねぇ…」

当然です。私の母様なのですから。

何を言っているんだと言った感じで、無理やり母様から引き離された所為かツンとした態度をとってしまう私。彼女は母様の大切な友達なので嫌いと言う訳ではないが何故か野生の本能が彼女を苦手の認識してしまうのだ。頭を撫でられると何故か力が抜けてしまうし…。

あの手慣れた手つき…恐ろしい。

「さ、さっさと終わらせましょう。そして母さ…彩お姉様のお手伝いをするんです!」

そう一人で意気込むと止めていた作業の手を再び動かして行く。

切ったプレートを骨組みに張り付けて…と。むぅ。飾りが無いと味気ない物ですね。

なのはさん達が描いている絵を貼れば完成なのだが、飾りが無いとが無いとまるでジャングルジムの様で不格好な物だった。やはり何事も見た目が大切なのだと感じてしまう。

と言うか、これは何に使うんでしょう?

「アリサさん。これは何に使う物なんですか?」

「クリスマスパーティって描いた看板を飾る物よ」

ああ、成程。道理で大きい…過ぎますねこれは。リビングの3分の1を独占してますよ?

「大きいですよね?クリスマスまで此処に放置ですか?」

それは流石にはやてさんの家に御迷惑じゃ…。

「そんな訳無いでしょ?ちゃんとウチの者に頼んですずかの家の物置に運んで貰うわよ」

自分の権力を使って部下を動かす訳ですか。やはり金持ちなのですね。性格は真逆ですが何処となく母様に似た気品を纏ってます。母様は自然に人を惹きつけますが、彼女はその強気な性格で人を引っ張って行くと言った感じでしょうか。母様もアリサさんも家系の姓なのか、上に立つ資質を生まれつき持ち合わせているのかもしれないですね。

「ん?何よ?じっとアタシを見て」

どうやら彼女を見つめてしまっていたようだ。私は視線を自分の手へと下ろすと短く「何でも無いです」と答えるのであった。

「そう言えばアンタもクリスマスパーティに参加するんですってね?」

「はい。御迷惑ですか?」

流石に犬の姿で行く訳にもいかないので親戚と言う名目でパーティに参加すると言う事になっている。

「いいえ。寧ろ歓迎よ。はやての家族も来る事だし、今更一人増えた所で変わりはしないわよ」

最後に「プレゼント交換の選択肢が増えるしね」と付け加えて彼女は笑う。プレゼントか…。私は用意していない。流石にお邪魔すると言うのに手ぶらと言う訳にもいかないだろう。母様に相談するべきか?

『明日にでも買いに出かけましょうね?アイリス』

流石です、母様。丸聞こえですか。

神がかったタイミングでの母様からの念話に私はクスリと笑みを溢す。本当に母様には敵わない。

ですが、プレゼントは何にすればいいのでしょう?やはり自分が貰えて嬉しい物ですよね?

「…」




「アイリス。この首輪(ロザリオ)、受取って貰えるかしら?」

「母さ…はい、彩お姉様///」




「…はぁうわあああっ!?///」

「きゃっ!?」

「な、何よ急に奇声を上げてっ!?」

へ、変な電波を受信してしまいました。シグナムさんに毒されてしまったのでしょうか?

「す、すいません。気にしないで下さい…」

私の奇声で驚かせてしまった二人に謝りつつ私はこめかみを押さえつつ電波を振り払うため頭ぶんぶんと大きく振る。

シグナムさんと言う感染源が居るこの家は長居するべきじゃないかもしれませんね…。

確かに私は母様を愛しているがシグナムさんは何か超えてはいけない領域まで行っている様な気がする。あれはイケナイ。大変よろしくない。あそこまで堕ちたら尊厳や色々な物を無くしてしまいそうだ。と言うより彼女の身に一体何があったのかと…。

聞いた話では昔はあんな感じではなかったとの事ですが…。

やはり原因は母様か。確か八神家で一番最初に出会ったのはシグナムさんらしいがそれが原因か?真面目な彼女をあんなの変貌させる母様…凄いお人だ。

「アリサちゃ~ん!絵が出来たよ~♪」

とてとてと絵の描かれているのであろう折りたたまれた紙を両腕で大事そうに抱えてこちらへとやって来るなのはさん。

「おっ!出来たのね。それじゃあ早速貼りましょうか」

「うん!」

畳まれた紙を一気に広げていくなのはさん。紙に描かれていた物はクリスマスパーティと言う文字とクリスマスを連想させるサンタクロースやツリーと言った可愛らしいキャラクター達だ。

「うんしょ、うんしょ…」

「歪んだり、空気を入れない様にね。見栄え悪くなるから」

「任せといてよ!こう言うの家でも良くやるから…よし!これで良いかな?」

不格好だったプレートにイラストが貼られ、先程と比べると大部見違える物へと変わっていた。

「うん。後は適当に飾りをつければOKでしょう」

「ラジャーだよ~!」

「では、やる事は?」

「そうねぇ、無いわね」

ならば私は母様の手伝いを!

「此方も終わりましたよ~」

なん…ですって…。

残酷な母様の言葉に私はガクリと崩れ落ちた。優しい母様の声は、今だけは世界の終焉を告げる鐘の音にしか聞こえなかった…。

「あ、あらら…」

「そんなに手伝いたかったのね…」









――――Side Sai Minaduki
    12月22日 PM06:30
    八神家





クリスマスパーティの準備も無事に終わった頃、気温がぐん下がり冷たい冷気が私の肌を突き刺す。どうやらもう日は暮れてしまったようだ。

「皆今日はお疲れさんや」

「随分と時間掛かっちゃったねぇ」

「わぁ~…真っ暗だ」

「もう6時過ぎだからね。しょうがないよ」

「寒ぅ~…。早く帰ってコタツに入りてぇ~」

「ばば臭いよ。ヴィータちゃん」

「うるせぇ!」

「うふふ。でも気持ちは分かります。早く帰って暖まりたいですね」

「そうですね。早く帰りましょう」

「アタシの家の車呼んでるから送ってくわよ。夜道は危ないしね」

「本当?ありがと~♪」

「そろそろ着く筈だけど…あっ来たわね」

此方に近づいて来る車の音。たぶんアリサちゃんが行っていた家の車だろう。私達の目の前で止まると静かにドアが開けられ誰かが車から降りて来る。足音からして男性だろうか?

「アリサお嬢様。お迎えにあがりました」

物静かで落ち着いた男性の声。声の低さから考えてお爺さんだろうか?

「御苦労さま。この子達も送って行くから」

「畏まりました。さ、どうぞお乗りくださいませ」

静かにドアが開けられアリサちゃんが一番に車の中へと乗り込んで行く。

「ほら、入った入った」

「おっきい車だねぇ。私初めて見たよリムジンなんて…お、おじゃまします」

緊張した様子で車の中へと乗り込んで行く由紀ちゃん。私はそんな彼女にクスリと笑うと車へと乗るのだった。

「皆またな~!」

「じゃあな!」

「うん!今度会えるのはクリスマスかな?」

「はやて!ヴィータ!おやすみ!」

「またね~!」

「風邪引いてクリスマス来れないとか言うんじゃないわよっ!?」

「バイバ~イ!」

「さよならです。はやてちゃん、ヴィータちゃん」

「彩!」

突然頭上から凛とした声が響いて来る。この声は、シグナムさんの声だ。

皆が居るので空は飛べない筈ですから…2階から呼んでるんでしょうか?

「シグナムさん?」

「また来い!約束だぞ!」

「…はい!約束です!」

「…それでは、発車します」

話が終えたのを確認すると、車が動き始める…。

家に着くまで私達は楽しく雑談をしながら残りの時間を楽しんだ。いよいよ明明後日はクリスマス今日の準備で高ぶる気持ちを押さえる事は私には出来そうに無い。早く来てくれないだろうかと願って微笑む。生れてきてこれ以上にクリスマスを待ち焦がれた事は無いだろう。


どうか、素晴らしい日になりますように…。











「そういえばシグナムさん。なんで芋虫みたいになってたんだろうね?」

ええええっ!?












あとがき

前回の※の少なさから察して不快に思われた方が多かったのかもしれない;いや、つまらないから※が少なかったのもあるかもですが;

こんばんは!&おはようございます&こんにちは!金髪のグゥレイトゥ!です。

次回が最終回予定…かもしれない。外伝書こうか迷い中です。

アンケート

最終回「メリークリスマス!、なの」

外伝「ようこそ機動六課へ!」

外伝「こうしてスバルは彼女と出逢った」

のどれかを書こうと思っています。まぁ、外伝は最終回後に書く予定ですが、完結した感で燃え尽きる可能性があるんですよね^^;



[8923] 魔法少女リリカルなのはA’S ~盲目の少女は何を見るのか…~最終回前夜
Name: 金髪のグゥレイトゥ!◆60293ed9 ID:1667c937
Date: 2010/06/06 03:55

最終回前夜「少年少女の想い」




遂にこの日がやって来た。12月25日。世間ではクリスマスと言ってカップル達が騒いでるが今の俺の心はそれ以上にざわめいていた。緊張、不安、それ以外にも多くの感情を含ませ俺はこの日を迎える。

やべぇ…ドキドキが止まらねぇよ…。

正直に言うとあんまり寝て無い。いや、寝れる訳が無かった。外がまだ日が昇って来る前だと言うのにベッドから起きてずっと時間が経つのを待つ位に今日のイベントを楽しみにしていたのだから…。

俺は机の引き出しを開け小さな箱を取り出す。『水無月のために買ったプレゼント』だ。

クリスマスパーティの基本はプレゼント交換。このプレゼントが水無月に渡る可能性は極めて低い。だからそのためにあらかじめもう一つのプレゼントを用意しておいた。所謂ダミーだ。これをプレゼント交換用に持って行き小箱の方はポケットに忍ばせておこう。

問題は、渡すタイミング…。

水無月は何時も誰かと一緒に居る。学校ではバニングス達と、外でも知らない同い年位の女子と一緒に居る。出来ればこのプレゼントは二人っきりの時に渡したい。となるとどう水無月を連れ出すかだ。

それが一番難しいんだよなぁ…。

たぶんバニングスが邪魔して来る。絶対に邪魔して来る。誓っても良い。だからバニングスの目が離れた隙を突くしか方法が無いのだが、それをどう作るかが問題なのだ。

案1:メールで水無月を呼び出す。却下。水無月は目が見えない。

案2:電話する。却下。バニングスが付いて来る可能性大。内緒にしろと言っても傍にいちゃ会話の内容駄々漏れ。

案3:もう家に直接訪ねて渡す。却下。何か嫌だ。

案4:宮本に協力して貰う。………採用。

正直アイツに頼りたくないが今はこれしか無いだろう。後で何を要求されるか怖くて想像もしたくない。せめて破産しない事を祈るばかりだ…。

「そうと決まれば早速電話だ!」









『…で?私の携帯に掛けて来た訳と?』

「おう」

『ふざけないでよ!今何時だと思ってる訳っ!?4時だよ4時!まだ寝てる時間だよ!何起きてんの!?緊張して眠れませんでしたか?嗚呼可愛いですねこちとら終業式から準備やら何やらで色々と疲れて眠いってのに青春を謳歌してて羨ましいわ!このヘタレ!』

携帯から飛び出した怒鳴り声が俺の鼓膜を突き刺しキィーンと言う耳鳴りでぐらんぐらんと俺は目を回した。

み、耳が…頭が…。

「わ、わりぃ…でもお前しか頼れる奴いねぇんだよ…」

俺は目の前に誰も居ないと言うのに深く頭を下げる。こんな事しても宮本には見える訳無いと言うのに…。

『……はぁ、まったく。仕方ないわねぇ。プレゼントに続いてもうひと肌脱いであげるわ』

「本当かっ!?ありがとう!バニングスの注意を惹き付けるだけで良いからよっ!」

長い沈黙の後、宮本の了解の言葉を聞いて俺は嬉しさの余り大きな声ロ上げてしまうが、その小さな希望は宮本の言葉によって脆くも崩れ去ってしまう。

『残念だけど、問題はアリサちゃんだけじゃないよ?』

「え?」

問題はそれだけじゃない?てか、何時から下の名前で呼ぶようになったんだ?

『八神はやてちゃんとその家族が来るのはクラスの皆には話したよね?あと彩ちゃんの親戚も…』

ああ、そう言えばHRの時そんな事言っていたな。その時先生が初めてクリシマスパーティの事知って凹んでたのを覚えてる…。

しかしそれが今何の関係があるのだろうか?月村の話だと八神家の人達は皆いい人達だって話だったが?

『はやてちゃんの家のシグナムさんって人なんだけど…彩ちゃんを溺愛してるの。あとアイリスちゃんって子も…』

あ~…話が読めて来た…。

『正直、小林君が彩ちゃんに何かすると命の保証が無いんだ。冗談じゃ無く…』

い、命の保証っ!?

確か今俺は水無月と二人っきりになる方法を話していた筈なのだが、何時から命に関わる話に変わったのだろうか…。

『あの人の行動は流石に予測できそうに無いよ。何でもしそうだから…』

一体そのシグナムって人は何もんなんだよっ!?

「じ、じゃあ、どうすれば良いんだよ?」

まさか、諦めろってのか!?

それは嫌だ。どれだけ今日の事を楽しみにして来たと思っているんだ。たぶん、今まで生きて来て今年以上にクリスマスを楽しみにして来た事は無いと言うのに…。

『ん~…そうだね。助っ人を呼ぼうか?』

「助っ人?」

誰だ?高町とかか?

「誰だよ?助っ人って」

『それは会場で話すよ。協力してくれるか私にも分からないし』

誰なんだよ本当に。クラスの連中なら面白がって協力してくれそうなんだが…。クラスの連中じゃないのか?

まぁ、逆にクラスの連中だと3学期から笑い話のネタにされそうだから嫌だが…。

『まぁ、それは会ってからのお楽しみだよ。じゃあ、夜にね!』

「おう、サンキューな。……なぁ?」

『ん?何?』

「何で、こんなに助けてくれるんだ?」

別に、俺と宮本は特別仲が良いと言う訳では無い。寧ろ接点は少ない方の筈だ。だと言うのに何故彼女は俺を助けてくれるのだろう?

『別に君を助けてる訳じゃないよ?』

「は?」

どう言うこった?

『私は、彩ちゃんが大好きだからこうしてるだけだよ』

ますます意味が分からない。水無月が好きだからって俺の協力をする事に何の関係があると言うんだろうか?

『彩ちゃん、身体が不自由だよね?』

「…ああ」

『今のクラスは彩ちゃんに優しい。でも、これから先はどう?クラス替えしたら?何も保障無いよね?』

確かにそうだ。クラス替えで新しいクラスになれば当然クラスメイトも変わる。それが全て水無月に優しく接してくれるとは限らない。前の俺みたいな奴が現れないと言う保証は無い。

『彩ちゃんを護ってくれる物が必要なんだ。勿論なのはちゃん達や私が彩ちゃんを見捨てる訳が無い。でも女の子だよ?男の子の暴力には勝てないだから君』

「…俺?」

『君は私達の学年の男子には顔が利く方だよね?クラスの中ではリーダ的存在だし。だから彩ちゃんと仲良くして欲しかった』

成程。つまりこう言う事だ。水無月を苛めれば水無月の友達である俺が黙っては居ない。つまり苛められる可能性が減ると言う訳か。

「何でそこまで…」

接点の少ないお前が水無月に拘るんだ…。

『彩ちゃんって不思議な子だよね?』

「?」

『体育の授業時、ボールを磨いてるんだよ?それも歌いながら!うふふ♪』

「…はぁ?」

『一生懸命に、皆が使うからってボールを必死に磨いてるんだ。嬉しそうに』

そんな事やってたのかアイツ…。

『私が話しかけたら嬉しそうにするんだ。本当に嬉しそうだったなぁ…。それで分かったんだよ。この子はあんまり話しかけて貰えなかったんだって』

「…」

その通りなのだろう。あの放課後、水無月の話を聞けばそんなの想像するのも容易い事だ。でも、宮本はその事は聞いていない筈…。

『その時だね。この子を守りたいって思ったのは。友達になりたいって…まぁ、既に苛めは始まってたみたいだけどね?』

「…知ってたのかよ?」

『うん。もう少し止めるのが遅ければきっと君は家から一歩も出れない不登校少年になってたよ?』

「ははは、こえーな…」

宮本の声は笑ってはいるが本気だと言うのが分かる。たぶんあの放課後の事が無かったらきっと俺は彼女の言う通りになっていたのだろう。バニングスが直接手を下していなくても…。

「でも、何で見逃してたんだよ?そんなに水無月が大切なら…」

『大切だから…かな?彩ちゃんの性格から考えて苛めは自覚していなかったぽいし』

凄い。それ以外に言葉が無かった。まさかそんな事まで分かっていたとは…。

『私のお母さんね。カウンセラーの仕事してるんだ。私もそう言うのに興味あってちょくちょくお母さんに話を聞いたりしてるの』

納得…。でもカウンセラーに興味ある癖に俺を不登校に追う詰めようとしてたのかよ?

女とは怖い生き物だって漫画で読んだ事があるが正にその通りであると心の底から俺は思った。

『話が逸れたね。私が小林君を手伝う理由は理解してくれた?』

「…まぁ、な」

『そっか。ふわぁ…じゃあ、私は寝るね?バイバ~イ』

「おう、お休み」

プツリと携帯が切れツーツーという音だけが俺の耳に届いて来る。最後まで人の話を聞かない奴だ全く…。

だが漸くも俺も安心出来た所為か眠気がだんだんと俺の身体を浸食し始めて行く。やっと俺も眠れそうだ。俺はベッドへと戻ると掛け布団を被り目を閉じた…。世間では小さなな物かもしれないが少年にとって大きな期待を胸に秘めて…。







「寝坊するとかどう言う訳っ!?」


「すまん!」




少年の運命はいかに?最終回に続く!





















~おまけ~

もしも、彩と詠が一緒に転校してきたら?そして、何度か同じ学校に出逢っていたら?



「…またアンタなの?」

これで何度目だろうか?もう馴染みになってしまった少女の顔を見て私は心底嫌そうに本当に嫌そうに溜息を吐く。だと言うのにこいつは…。

「はい♪よろしくお願いしますね♪工藤さん♪」

何故こうも笑って居られるのだろう?

…本当にイライラする。何なのよこいつは?

「別に宜しくする気も無いから。何時もの様に関らないでね?と言うか、アンタ、ストーカーか何か?」

「???」

はいはい分からないのね。そうだと思ったわよ。この純粋無垢な少女め…。

期待はしていなかった。寧ろ予想は出来た。この少女にはそういう用語は分からないのだと。頭は良いのに何でそう言うのは分からないのか。

「あの、お昼一緒にどうですか?」

「関らないでって言ったばかりでしょう?向こう行きなさいよ」

「ぁ…はい」

小さく返事を溢し悲しそうに彼女は表情を歪める。その何も映さない瞳には涙が滲んで…。

…ああ!もう!

「…最近は、カロリーメイトだけだと物足りなくなって来たわね」

「…え?」

「サンドイッチが食べたくなって来ちゃった。でもコンビニに行くのも面倒なのよね…」

わざとらしく一人事を言っているフリをしてみる。すると彼女はみるみる嬉しそうな笑顔に戻って行きはいっはいっと手を上げて声を上げて自己主張を始めた。

「ハイ!私のお弁当サンドイッチなんです!」

「そう。なら分けて貰えるかしら?」

「はい!喜んで♪」

「…アリガト」

「はい♪」

…こう言うのも、悪くないかもね。

人間に失望してしまった私。でも…不思議と、そう思えてしまう。たぶん、この子は人の汚れを知らないから。だから…。

悪くない。こう言うのも悪くない…。

これは、あったかもしれない。人の闇を知った少女と、人の闇を知らない少女の物語…。









あとがき

今回は短いです。徹夜でTINAMI投稿用の絵を描きながらだったので妙なテンションでした。

この話は本来最終回に入れる予定でしたが、最終回は彩メインの視点でやる『予定』と言う理由と、私の『個人的気分』と言う理由で書きました(オイ!
最終回前夜と書いてますが明日に投稿とかじゃないですよ?



[8923] 魔法少女リリカルなのはA’S ~盲目の少女は何を見るのか…~ 最終回
Name: 金髪のグゥレイトゥ!◆60293ed9 ID:ad0f1854
Date: 2010/06/24 03:40




シャンシャンシャンシャンッ♪

リズムに合わせて鳴らされる鈴の音と、その音に合わせて流れるミュージックが街中に流れている。

今日は街に待ったクリスマス。

恋人達は大切な人と共に楽しそうに寄り添い歩き、子供はケーキと御馳走。そしてサンタクロースのプレゼントを期待して家の中ではしゃいでいる声が彼方此方の家から私の耳に届いて来る。勿論、はしゃいでいるのは私も同じ。プレゼントを大事そうに胸に抱えて街中から聞こえてくるミュージックに合わせる様に鼻歌を歌いスキップするように軽やかに歩いていた。

「ジングルベ~ルジングルベ~ル♪鈴がなる~♪」

「今日は~楽しいクリスマス♪」

『…ヘイ!///』

私たちの歌声に恥ずかしそうにタイミングが遅れて続いて来るリインフォースさんの声に私とアイリスは笑う。周りから奇妙な物を見る様な視線を感じるが全く気にしない。

テンションは既に最高潮にまで達しており、今の私の表情はそれはもう満面の笑みとなっているだろう。実は昨日は今日のパーティの事が楽しみで全く寝ておらず、朝が来るまでリインフォースさんとお喋りしていたのは秘密だ。でもこのテンションの御蔭か今も全く眠気が来ない。それ程今日の事を楽しみにしていたのだ。

この日のためにお母様がお洋服を用意してくれましたし♪

目は見えないがふわふわでツヤツヤ、装飾も所々にあってとても素敵な洋服だと言う事は触ってみれば分かる。こんな素敵な洋服私が着て似合うのか不安だったがお母様がとても似合っていると褒めてくれたので大丈夫だろう。後ろでお父様が何やら泣ていて気になったが…。

結局、見送る最後まで泣いてましたね…。



―――その頃…。


「もう、何時まで泣いてるの?アナタ。彩はもう出かけたわよ?」

「うぉ~ん!彩が嫁入りする想像してしまったぁ~!」

「あらあら…まだ十年は先の事じゃない」

「彩ぃ~…」

「困った人ねぇ…あら?アイリスが居ない?彩が連れて行っちゃったのかしら?」





『少し気が早い気もしないですが、気持ちは分かります』

「無駄な心配ですよ。無駄な心配」

「?」

二人はお父さまが何で泣いているのか知ってるんでしょうか?アイリスは何だか怒ってますし…。

「あの…何でお父様は泣いていたんですか?」

『気にしなくて良いですよ?後十年は先の事ですから』

後十年先の事、ですか?

十年先と言ったら私は19歳で社会人か大学生だろうか?想像しようとするがどうもイメージが浮かばない。私には今を一生懸命に頑張っているので十年も先の事なんてさっぱりだ。

「彩ちゃ~ん!」

「彩~!」

「彩ちゃん!おはようさん!」

「…フッ」

遠くから私の名を呼ぶ元気な声、そして優しく微笑む声が私の耳へと届いて来る。私はそれを聞いてその声の許へと小走りで駈けて行く。

…一つだけはっきりしてる事があります。

「なのはちゃん!フェイトちゃん!はやてちゃん!シグナムさん!」

皆とはきっと…ずっと一緒です!

それは、確信でもあり願いでもあった。















最終話「メリークリスマス!なの」












――――Side Sai Minaduki
    12月25日 PM 02:00
    海鳴市:月村家へと向かう途中の歩道








「彩ちゃんその服可愛いね~!」

はやてちゃん達と合流して直ぐになのはちゃんが私のお洋服に気付いて褒めてくれる。

「そ、そうですか?変じゃないでしょうか?」

「全然だよ!ね!フェイトちゃん?」

「うん!凄く可愛いよ。お姫様見たい」

お。お姫様…///

フェイトちゃんの褒め言葉に恥ずかしくなって顔を伏せてしまう。

「い、言い過ぎですよぅ」

「そんな事無いぞ?いつも以上に輝いて見える」

シ、シグナムさんまで…///

「彩ちゃんがお姫様かぁ。凄く可愛いわぁ♪」

「も、もう!恥ずかしいです!///」

「あははは!照れとる照れとる!彩ちゃんリンゴみたいや♪」

む、むぅ~!

からかってくるはやてちゃん達にぷくりと頬を膨らませて私は怒ってますと主張するがそれは更に皆を笑わせるだけ。

「むむむ~!今日の皆は少し意地悪です!」

「あは♪ごめんごめん!彩ちゃん許して~な」

「知りません!」

『フフフ、どうやらウチのお姫様がご立腹の様だ』

「困りましたね。フフフ」

もう、二人まで私をからかって~…。

『しかし、他の騎士達の姿が見えない様だが?』

そう言われてみれば、確かにシャマルさん達が居ない。周りに気配が無いので離れた場所で待っていると言う訳でも無さそうだ。

「ん?ああ、シャマル達は先に主のご友人の家に向かった」

「え?本当ですか?」

「ああ、何やらやる事があるとか無いとか…」

珍しい事がある物だ。主を守護する事が勤めであるヴォルケンリッターは普段なら必ずと言って良い程はやてちゃんの傍にはシャマルさん達が居ると言うのに、今日ははやてちゃんの傍を離れるなんて…。

でも、何でシグナムさんは此処に居るのでしょう?

「まぁ、気にせんでええやん。きっと準備か何かやて」

だとしたら私達にも何か連絡があると思うんですが…。

「はやてちゃん何か知ってるの?」

「はやて?」

「うう~ん。私は何もしらへんで~?」

「「じ~っ…(怪しい…)」」

「?」

態々擬音を声を出して居る二人に私は首を傾げる。

「な、なんやのん?二人してその疑いの目は~?」

「本当に知らないの?」

「何だか怪しいよ?」

「シ、シラヘンヨ~」

何故カタコト?

「声が裏返ってますね」

『主、それではバレバレです…』

アイリスとリインフォースさんが追いうちを仕掛ける。それに耐えられなくなったはやてちゃんは…。

「あっ!目逸らしたっ!?」

「嘘吐いてるねはやて!」

「に、逃げるでシグナム!ダッシュやっ!」

「は?ちょっ主っ!?」

急な事に戸惑うシグナムさん。シグナムさんは何も知らされて無いご様子。

「ええから早く押すんやっ!」

「は、はいっ!?」

「「まて~っ!」」

「待てと言って待つ奴はおらへんで~っ!」

ドタバタッ…

言い逃れないと悟ったのか急にシグナムさんを使って泥棒さんが言う様な台詞を残して逃げ出すはやてちゃん。そしてそれを逃がすまいと追い掛けるなのはちゃんとフェイトちゃん。今日はこんなには寒いと言うのに元気いっぱいだと感心してしまう。

「きっと皆さんもパーティが楽しみなんですね♪」

『ど、どうでしょうね?』

「…何の悪巧みをしているのやら」

ぼそりとアイリスが呟いたが私にはその言葉の意味が何の事を指しているのかさっぱり分からなかった。私は気になって首を傾げるも最愛の娘はその不思議そうにしている私の顔を見ている筈だと言うのに何も言わず唯黙って私の手と繋いでいる手を少しだけ力を込めるのだった。

「(世間ではクリスマスはカップルにとって重大なイベントらしいです。母様に近づいて来ようとする男共から母様を死守します!)」

…何故だろうか?アイリスが以前私が襲われた時みたいに警戒心剥き出しで戦闘態勢に入っているのだが…。

『(…彩に春は来るのでしょうか?この二人が居る以上難しいですね)」

「…あわっ!?はやてちゃん達行っちゃいましたよぅ!?」

気付けば皆の足音は遥遠くまで行ってしまっており、私達は置いてけぼりを喰らってしまっていた。私は慌ててアイリスに手を引いて先導して貰い皆を追い掛ける。

あう~!歩いてでは追い付けません~!

「はやてちゃ~ん!皆~!待って下さ~いっ!?」

『…聞こえてませんね』

「母様の声は小さくて遠くまで聞こえないですしね…」

「あわ!だったら二人も呼びとめて下さいよ~!」

『私は人前では声出せませんし…』

「私が呼んでもあんなに離れてはもう手遅れですよ。と言うかもう姿も見えません」

あわわ!?打つ手なしですか!?こ、こうなったら私が走って…こ、この服走り辛いですね…。

慣れない服のためかどうも思うように走れない。そもそもこう言う服は見た目を良くするために運動とかそういう機能は無視した設計になっているのが基本。そんな服で走ろうとするのは正直お勧めできない。と言うか私が走っても普通の人の早歩き程度なのではやてちゃんに追いつける筈も無く…。

「の、望みは断たれました…」

折角、皆と一緒に行こうと思ったのに…しょんぼりです…。

「母様」

「?」

「念話を使えば良いじゃないですか」

『ですね』

「あ…」

すっかり忘れてました…。








――――Side Masaru Kobayasi
    同時刻
    






寝坊した!

コンクリートの地面を蹴り息を切らせながら俺はクリスマスパーティの会場である月村家へと向かっていた。

やばいやばいやばいやばいやばいやばい!

自分から相談して置いて寝坊で遅刻とか洒落にならない。唯でさえ宮本には電話で無理やり起こしてしまったというのに遅刻するのは大変よろしくない。しかもその理由が寝坊となれば宮本の言っていたシグナムとか言う危険人物に殺される前に俺が宮本に殺されかねない。俺の脳内でダークフォースに堕ちた宮本の姿を想像し顔を青くしつつも更に走る速度を上げる。

「ゼェ…ゼェ…ッ!こ、このままじゃ血染めのクリスマスになっちまう!(前作的な意味で」

言っている意味は自分でも良く分からなかったが何としてもそれは避けなければならない。年齢がまだ一桁で俺はまだ死にたくない。

「にしてもさっきから長い壁が続くな。ここら辺学校とかあったけ?」

いや、幾ら学校の塀でもこれは少し長すぎる様な…。

それにしても、もう月村の家に着いても可笑しくない筈なんだが…待てよ?

俺は走る足を止めてずっと続いている塀へと視線を向ける。

「ま、まさか…」

このずっと続いている塀は月村ん家の…もう既に俺は着いていたってのかっ!?

「金持ちとは聞いてたけどどんだけブルジョアなんだよっ!?」

まったく庶民の常識の範疇を超えてるぜこれは…。

こんなに広い場所に住んでも管理が大変だろうにと負け惜しみを吐きつつ再び走るのを再開する。この壁沿いに走って行けば何れ入口に辿り着くだろう。それにしても本当に何処まで続いているんだろうかこの塀は?

「お?向こう見えるのは!」

漸く見えて来たデカイ門とそしてその前でちょこんと立っている見慣れた女子の姿。俺はそれを確認するとその女子の名を大きな声で呼んだ。

「宮本~!すまん!遅れだぁあっ!?」

「何で遅れたのかな?納得のいく理由を要求するね?」

宮本の目の前へと辿り着いた瞬間、俺は何故か頭の激痛と共に地面へと沈んでいた。何が起こったのか理解出来ぬまま見上げてみると、そこには笑顔で二撃目の拳を振り上げている宮本姿があり、俺はそんな宮本の黒い笑み唯々に恐怖するのだった…。

「グッ!?えっと…寝坊しました」

「へぇ…」

「…」

あの…。

「ふぅ~ん…」

「…ガクガク」

冷たい視線が…。

「ほぉ~…」

「…ダラダラ」

とてもイタイだが…いえ、イタイですが…。

「寝坊するとかどう言う訳っ!?」

「すまん!」

宮本の怒鳴り声に俺は素直に土下座するのであった…。







「全く…もう助っ人の人達は来てるんだよ?」

「面目無い…それで、助っ人って誰だよ?」

「入れば会えるよ…すみませ~ん!」

『どちら様でしょうか?』

デカイ門にちょこん存在するスピーカーから女の人の機械的な声が響いて来る。

「すずかちゃんの友達なんですけど~?」

『少々お待ちを…どうぞお入りください』

そう言うと自動的に門が重々しく開いて行く。まさか自動ドアだったとは…。

唖然としている俺を他所に宮本は先々進んで行き俺も慌てて宮本の後ろをついて行く。もしかしたら俺は運が良かったのかもしれない。もし、宮本の約束が無くて一人で此処に来て居たら俺は茫然と門の前で立ち尽くしていた事だろう。

門を潜り大きな庭を通り過ぎるとやっと玄関に辿り着く。玄関の前には薄い紫色の髪をしたメイド姿の女の人が背筋を伸ばし綺麗な姿勢で此方を待ち構えていた。

「ようこそいらっしゃいました。すずかお嬢様は中でお待ちです」

深いお辞儀の後、玄関の扉が開かれ「どうぞ」と中に入る様に勧められる。

「お邪魔しますね!ノエルさん!」

「お、お邪魔します…」

ノエルって言うのかあのメイドさん…。

落ち着いた雰囲気を持ったメイドさんだ。水無月とは違った落ち着きが…いや、アレは唯の大人しいだけの天然だろうか?何故宮本があのメイドさんの名前を知っているのか気になったが、宮本はクリスマスパーティの準備を手伝っていたため恐らくその時に月村の家に行って面識があるのだろう。

てかメイドって存在するんだな。本屋漫画だけかと思った…。

流石金持ち(?)底が知れない。

「ほらノエルさんをじっと見ないの。失礼でしょ?」

「す、すいません!」

宮本の指摘にハッとすると俺は慌ててメイドさんに謝る。どうやらメイドさんをじっと見つめていたようだ…。

「ふふふ、気にしないで下さい。では、今日はお楽しみください」

そう言ってメイドさんは自分の仕事に戻ったのか、お辞儀をすると何処かへと去ってしまった。

う~ん…大人の女性って感じだな。

「何時までぼ~っとしてるの?時間が無いんだってば!」

「わ、悪ぃ…でもよ、パーティは夜からだろ?まだまだ時間あるじゃんか」

「そりゃ参加する子はまだ余裕はあるけどね。準備する子は当然早めに来るに決まってるでしょ?」

「…準備する子?」

「うん。彩ちゃんとかアリサちゃんとか…」

ばっ!?それを早く言ってばよ!?

水無月達が来ちまったら宮本が言う助っ人とやらと話が出来なくなってしまう。それはつまり何の手助けも無くバニングスやシグナムとやらの妨害を一人で何とかしなければならないと言う事。

「は、早くしねえとヤバイじゃんかっ!?」

「だからさっきからそう言ってるでしょ?」

今更慌て出す俺に宮本が呆れてながらもジト目で非難な視線を送って来るが今はそんな事気にしてる場合じゃない。早く助っ人とやらと会わなければ。

「あっ!由紀ちゃん!いらっしゃい!」

ホームの何やらテーブルの飾り付けやらしている月村を発見。その周辺にはさっきのメイドさんとは違った髪の長いメイドさんがあっちをうろちょろ、こっちをうろちょろと慌ただしく行ったり来たりしていた。雰囲気が幼く容姿が似ているのでさっきのメイドさんの妹さんかな何かだろうか?

「すずかちゃん!こんにちわ!ごめんね!遅れちゃった!」

「ううん。まだ皆来て無いから」

「うん。まぁ…来て貰っちゃこっちも色々と困るんだよね」

うんうん。

「え?」

「こっちの話♪」

「…あれ?小林君も一緒なの?」

「ああ、うん!会わせたい人がいるの!」

「会わせたい人?ヴィータちゃん達が早くから来てたけど関係ある?」

「うん!何処に居るかわかるかな?」

「えっとね。まだ準備が始まるのはもう少し先だから客間で待って貰ってるよ?」

「ありがとう!ごめんねすずかちゃん!話が済んだら直ぐに手伝うから!」

「いいよ~。そんなに急がなくて。楽なのを終わらしてるだけだから」

「それでだよ!…ほら!小林君も行こう!」

「お、おう!」

「…何時の間に仲良くなったんだろう?「きゃ~~~っ!?」ちょ!?ファリンっ!?大丈夫っ!?」

宮本に手を引かれホールを後にする俺達。ホールを出た後、背後から聞こえるドンガラガッシャーンという音と女の子の悲鳴を気にしつつも客室に向かうのだった。









コンコンッ

『は~い!』

「すいません!遅れちゃいました!」

ノックの後に部屋の中から返事があるのを確認すると宮本は勢い良くドアを開け中に居る人物達に謝罪する。

「由紀ちゃん。こんにちわ♪別に良いのよ。待つ間お茶美味しかったし♪」

「このお菓子ギガうめぇ!もぐもぐ!」

「…ヴィータ。少しは遠慮したらどうだ?」

「やらねぇぞ?」

「いらん…いや、お前のではないだろう」

入った部屋に待っていた者は、優雅に紅茶を飲むやんわかな雰囲気を持った金髪の女性と、夢中に皿に乗った菓子を食べている俺より一つ年下ぐらいの赤髪の女子。そしてその赤髪を見て呆れている巨漢の男。

…誰?

記憶の奥底から目の前の人物達を見覚えがあるか探ってみるが誰一人顔が一致する者は居ない。こいつらが宮本が言う助っ人なのだろうか?

「紹介するね?八神家のヴィータちゃんに、シャマルさん…ザフィーラさん?」

何故最後だけ疑問形?てか危険人物の家族かよっ!?

まぁ、確かにシグナムとか言う危険人物を抑えるにはそれ位の人物じゃ無ければ無理だろうが…だが、ザフィーラさんとか言う人以外強そうには見えないのだが…。

「ザフィーラさんだけ今日初めて会うんだぁ。あらかじめシャマルさんに今日来るって知らして貰ってたから名前は分かったんだけど…初めまして!ザフィーラさん!」

「ああ。よろしく頼む」

ザフィーラ…さんは、静かに挨拶を返す。にしても本当にデカイ。それに服からの上でも分かるガッチリとした身体つき。何かスポーツでもしてるのだろうか?

「…あれ?そう言えば、はやてちゃんの飼ってる犬もザフィーラって…」

「…偶然だ」

目を閉じて首を振るザフィーラさん。少し眉がピクリとしたのは俺の気のせい?

「そうなんですか」

え?納得していいの?良く分からんがそんなに簡単に済ませて良い事なのか?

「それで?今日は大事な話があるって聞いたんだけど?」

シャマルさんとやらが早速本題に入って来る。シャマルさん本人も時間が無いのを分かっているのだろう。

「あ、はい!実はですね…」





かくかくしかじか…





「成程…ようはそこに居る小林君を彩ちゃんと二人っきりにすれば良いのね?」

「はい!でもシグナムさんがきっと邪魔するだろうから…」

「俺達がシグナムを何とかすればいいのだな?…むぅ、簡単に言うがな」

正直乗り気じゃないと言った感じのザフィーラさん。何故か額には少し汗を浮かべている。これだけ強そうな人が恐れているとは…どんだけだシグナムと言う人物…。

「てか、何でアタシ達がコイツのためにそんな事しないといけないんだよ?」

「うぐっ…」

誠に御尤もな意見だ。見ず知らずの奴にそんな危険人物を相手にするなんて俺だったら御免だ。しかも折角のクリスマスをそんな事に費やしたくないだろう。

「もう、ヴィータちゃん!そういう言い方しないの!」

「だってよ。下心丸見えだしよ。コイツ…」

し、下心…。

「彩の仲を応援する気にもなれねぇし、何よりアタシは彩の友達だ。簡単な気持ちで彩に近づく奴は許せねぇ」

ヴィータの鋭く俺を睨んで来る。そして、コイツの目を見て分かった。コイツは水無月の事を心から大事に思っている事を…。

本当…アイツはいろんな奴に愛されてるよなぁ。

「…子供の付き合いなんだからそんな深く考えなくても良いのではないか?(ボソッ」

「シッ黙って見守りましょう(ボソッ」

「そもそもお前がヴィータに昼ドラ何て見せるから…(ボソッ」

「面白いじゃない!(ボソッ」

「子供の見る物じゃない。あれは…(ボソッ」

何やらシャマルさん達がこそこそと話している様だがヴィータはそんな事気にせず話を続けて行く。

「お前、彩の事どう思ってんだよっ!?」

「どうって…友達?」

どうなんだろう。正直分からない。友達だと思ってるし水無月もそれを認めてる。でも、俺が思ってるのとそれとじゃ何かが違う様な気がする…。

「ハッ!だったら直接渡せばいいじゃねぇか。二人っきりじゃなくてよ」

「は、恥ずかしいだろうが!それにムードってのもあるだろうがっ!?」

「友達の関係にムードとか求めんなバ~カッ!」

「ぁんだとっ!?」

「ヤンのかコラァッ!?」

こいつ、バニングスと似た感じのモン持ってやがるっ!てか八神家でもこれかよっ!?

「ほらほら二人とも!喧嘩してる場合じゃないでしょ?彩達そろそろ此処に来る頃よ?」

「そうだよ!小林君もヴィータちゃんも抑えて!」

「ぐっ…」

「ケッ…アタシには関係ねぇ。一人でやってろ」

こんのチビィ…ッ!

生意気なこの赤髪チビにプルプルと今にも爆発しそうな怒りを必死に堪える。

「そう言う訳にもいかないわよ?ヴィータちゃん」

「あん?」

「私達はどちらにせよシグナムの暴走を抑える必要があるもの」

「な、何でっ!?ほっとけばいいじゃんっ!?」

「シグナムを放置しておくと、彩ちゃんはクラスの子と楽しめなくなるかもしれないでしょ?ほら、シグナム彩ちゃんにべったりだし」

「いや、アイツも自重はするだろ…」

「クラスには男の子も居るんだよ?ヴィータちゃん」

「あぁ~…」

宮本の言葉に天を仰ぐヴィータ。

話に付いて行けねぇ…。

「私達は部外者で参加させて貰ってる立場。だったら彩ちゃんがパーティを楽しめるようにするのが私達の務め。分かる?」

「む~…アタシのパーティ楽しみたいのにぃ…」

「…諦めろ。俺はそのつもりで此処に来た。昨日なんてそれが気になって眠れなかったのだぞ…」

「シグナム無茶しないと良いけど…」

「あ、あははは…」

頭を押さえる二人に宮本は苦笑するしか無かった。シグナムと言う人物を知らない俺だって二人にどう声を掛けたら良いか迷ってしまう。それだけ二人は真剣に悩んでいるように見えた。

「てか、そのシグナムって人どんな奴なんだよ?」

俺が知っているのは名前とそいつがかなりの危険人物とだけしか聞かされていない。容姿とか性格とかはまだ知らないのだ。そう言うのはあらかじめ知っておきたい。

「あれ?たぶん小林君も見た事のある人だけど…」

いや、俺はしらねぇよ?

そんな危険人物会った事があるのならたぶん一生脳裏から離れないと思う。と言うか断言出来る絶対に忘れる事は無いだろう。

「ほら、この前買い出しに行った時の迷子になった彩ちゃんに抱き着いてたピンク色のお姉さん」

「…………あ~…あああああっ!?あの人かよっ!?すげぇ優しそうな人だったぜ!?」

俺の記憶が正しければあの日水無月を抱きしめていた女性の顔はとても優しいものだった。まるで娘を抱きしめる母の姿を重ねてしまうぐらいに。宮本の言う危険人物とは似ても似つかない存在だと思う。何かの間違いではないか?

「それは幻だろ」

「幻ね」

「幻だ」

八神家全否定!?

「シグナムは彩に際限無く甘いからなぁ。そう勘違いするのも無理ねぇよ」

つまり、俺が見た時のシグナムさんとやらは溺愛モードだったと良い訳か…。てか落差が激し過ぎねぇか?

「驚くのは暴走したシグナムを見てからにするんだな…色々とやべぇから」

顔に出てたのか更に言葉を付け足して来るヴィータ。しかも最後の方は何故か凄く疲れた様な声で、その声の本人はそれを隠そうともせずだらりと肩を落としている。どうやら本当にヤバいらしい。

「と言う訳でシグナムは私達が何とかしてあげるからね?」

「ほ、本当っすか!?」

「シグナムだけだかんな!アイリスの方はしらねぇ!自分で何とかしろっ!」

アイリス…。

確か水無月の親戚だったか?シグナムさんと言う存在がインパクトデカ過ぎてすっかり忘れていた。だが、俺はアイリスと言う人物の情報を全くと言って良い程持っていない。俺はちらりと宮本の方を見ると宮本はそれに気付いたのか丁寧に説明を始める。

「アイリスちゃん…シグナムさんと同じでクールで彩ちゃんを溺愛してる子なんだけど、シグナムさんと違って甘えるのには場所を考える子だね」

つまり常識はあると…。

「彩ちゃんと居る時は常に彩ちゃんの隣をキープ。手をガッチリ繋いでて絶対に彩ちゃんから離れないの」

…。

これまた厄介な問題が残ったものだ。シグナムさんだけでキツイのに更に難関待っているとは。ええい!水無月は難攻不落の要塞か何かか!?

「アリサちゃんは私が何とかしてあげるけど、アイリスちゃんは…うん、ガンバレ!」

おいいいいぃ~~っ!?

「此処まで来て残った難題を俺に押し付けるとかそりゃ無いだろっ!?」

「うるせぇ!アタシ達はシグナムだけでやっとなんだよ!てかシグナムの相手してやるだけ有り難く思え!」

「私もアイリスちゃんの事余り知らないし。テヘ♪」

つまり厄介事はポイっミ☆て事だろうが!てかテヘ♪じゃねぇ!!

コンコン…

「失礼します!なのはちゃん達が来ましたよ~!」

ノックから少し間を置いてからドアが開かれファリンさんが明るく元気な声で高町達が来たのを知らせに来た。

「げっ…」

タイムアップ。俺は頭を抱えて絶望する。その後も早めに来て何もしないと言うのも何なのでパーティ手伝いをしながらどうしたものかと足りない頭で考えるが結局、何の考えも浮かばないままクリスマスパーティを迎える事なった…。










――――Side Sai Minaduki
    12月25日 PM02:30
    月村家:ホール








置いてけぼりを喰らってしまった私は難とかはやてちゃん達に追いついて待ち合わせ場所で待っていたアリサちゃんと合流してすずかちゃんの家にやって来た。ノエルさんに門を開けて貰い屋敷に入ると慌ただしく駈けまわるファリンさんに挨拶しつつ先に準備をしていたすずかちゃんの許へと向かう。

「すずかちゃん!こんにちわ~♪」

「あっ!彩ちゃん!皆も!いらっしゃい♪」

「こんにちわ、すずか。もう先に始めてたのね」

「うん。簡単なのだけ先にやっとこうと思って」

「私もやるよ。あそこの棚にある飾りをテーブルに置いて行けばいいんだね?」

「うん。ありがとうフェイトちゃん」

「んじゃ、私達も始めよっか♪」

「そうですね!料理の仕込みとかありますし!」

私は料理担当です♪はやてちゃんと一緒です♪

「ほな、シグナムはなのはちゃん達の手伝いお願いな?重い荷物運んであげて?」

「了解です」

「アイリスは…」

「彩お姉様のお手伝いをします!」

私が言うより先にアイリスは声を大きく上げて自分から仕事を申し出て来る。必死になって私の手をくいっくいっと引っ張って自己主張するアイリスに一瞬キョトンとするが直ぐにそれは優しい笑みへと変わりクスリと笑いながら私は頷く。

「ふふふ、では、お願いしますね?」

「はい♪」

「と言うとで、料理の準備をするのは彩ちゃんとアイリスちゃんと私。残りは他の準備やな?」

「三人だけで大丈夫?人手足りる私も手伝ったほうが良いんじゃないかな?」

心配そうに尋ねて来るなのはちゃんに私は笑顔でふるふると首を振り大丈夫だと胸を張って答える。その件については事前にすずかちゃんやはやてちゃんと相談済みだ。ちゃんと心強い助っ人さんをお呼びしている。

「ノエルさんも手伝ってくれるようですから大丈夫ですよ」

あっちは本業さんみたいなものだからとても心強い。後は私達だけでも料理の準備は十分足りるだろう。

足りる足りないと言えば、そう言えばこの場に居る筈の人数が足りない事に気づく。由紀ちゃんが此処に居ないしシャマルさん達が先に来ている筈なのだが何処にも見当たらない。

「由紀ちゃんとシャマルさん達はどうしたんですか?」

「あっ!そうだよ!シャマルさんも先に来てるんだよね?」

「ホールには出て来て無いみたいだけど。別の場所で作業してるの?」

「シャマルさん達なら客室で待って貰ってるよ?後、小林君も」

勝君もですか?

『(…成程、そう言う事ですか。厄介な事にならなければ良いのですが)』

「…小林、勝」

隣でアイリスがそう勝君の名を小さく呟いていた。私はアイリスの様子が少しだけ変った様な気がして気になったのでどうしたのか尋ねようとしたのが、アイリスに声を掛ける前にアリサちゃんが勝君の名前を聞いて何時のも戦闘態勢に入ってしまい大騒ぎになり結局それどころでは無くなってしまう。

「何でアイツまで来てるのよ?」

イラつきを隠そうともせずにアリサちゃんはすずかちゃんにそう訊ねるが、すずかちゃんもそれを知らない様子。

「わからないよ。由紀ちゃんがシャマルさん達に小林君を会わせたかったみたいだけど…」

「…?何よそれ?シャマルさん達とアイツって知り合い?」

私の知る限りではそんな事は無い筈ですが…。

少なくともはやてちゃんやヴィータちゃんと話していて勝君の話題なんて聞いた事は無かった。知り合いと言う可能性は無いと思うのだが…?

「知らないよぅ。今日の朝急にはやてちゃんから電話が来て、シャマルさん達が早めにこっちに来るとしか教えて貰って無いもん」

「はやて、やっぱり…」

「にゃあ…何か企んでるの」

「は・や・て~…カモン♪」

わぁ、アリサちゃんからゴゴゴゴ…って音が聞こえます。

人間、気迫だけで音を出す事が出来るのかとその時思ったが、偶にお母様が同じ事していたのを思い出した。別に珍しくないのだろうか?

「さ~て♪準備始めよか~♪」

とぼけて準備を始めようとするはやてちゃん。でも当然そんな事アリサちゃんが許す筈が無く…。

「コラ逃げるな!吐きなさい!何企んでるのよっ!?」

ガッチリとはやてちゃんの車椅子を掴んで逃げない様に拘束するとはやてちゃんから何を隠しているのか聞き出そうとするアリサちゃん。

「黙秘権を行使するで!」

「却下!此処では私が法よ!」

お、横暴です…。

「此処…私の家なのに…」

一人しょんぼりとするすずかちゃんに私は何も言わずそっと肩に手を置いてあげた。

「…何やってんだお前等?」

「あっ!勝君。こんにちわ」

「おう、随分と早い…んだ…」

「はい?」

途中から言葉が止まってしまい、勝君は何も言わなくなってしまう。

「どうかしましたか?」

「おま…その服…」

「あ、これですか?どうでしょうか?お母様に選んで頂いたんですが…」

そう言って私はくるりと回ってお洋服を勝君に見て貰う。

やっぱり男の子の意見も聞いておいた方がいいですよね?

「あ、ああ…良く似合ってると思うぜ?(やべぇ…マジで可愛い)」

勝君のぎこちない返事に本当にそう思っているのか不安になる。もしかして私の事を気遣って無理に褒めているんじゃないのかとそんな考えすら過ぎってしまう。

「!?」

私は勝君に近づいてもう一度問う。

「本当に?」

「あ、ああ!本当だって!?」

「…何でぎこちないんですか?」

ずいっと顔を近づけると「う゛」言葉を詰まらせる勝君。

やっぱり…変なんでしょうか…?

「いや!…これはちがっ!?(何でこう言う時だけ信用しないんだよ~~っ!?)」

「うぅ~~…やっぱり変なんですね」

ぐすん…。

「貴様…彩を悲しませるとは良い度胸だ…」

「い、いいいいいいいぃっ!?(ぎゃあああっ!?何か出たぁっ!?」

「ちょっと…時間を頂けますか?」

「ぎゃああああああっ!?(こっちもかよっ!?)」

「「こっちに来い(なさい)」」



「お、お断りしますううううぅっ!?」

悲鳴に似た叫び声を上げて物凄いスピードで逃げて行く勝君をシグナムさんとアイリスがこれまた凄いスピードで追い掛けて行く。そして廊下の方でファリンさんの「あわわっ!?廊下を走らないで下さ…きゃあああああっ!?」と言う悲鳴の後にガシャーンッと盛大な音が此方まで響いて来る。

あ、あわわ…もしかして私の所為ですか?

「ファ、ファリンさん大丈夫かな?」

「何時もの事だし大丈夫でしょ?」

と、私達はきっと扉越しで悲惨な事になっているであろうファリンさんの心配ろしていたら、突然この場にさっきまで居なかった楽しそうに笑う女性の声が現れる。私の知らない人の声だ。でも…。

この柔らかな雰囲気と匂い、すずかちゃんに似てる…。

「はぁ~い♪いらっしゃい♪」

「忍さん!お邪魔してます!」

なのはちゃんが元気良く先程の声の主に挨拶をする。忍さん…確か、すずかちゃんのお姉さんだっただろうか?随分と前に互いの家族構成を話した時にお姉さんが居ると言う事とその名を聞いた記憶がある。

「は、初めましてフェイト・テスタロッサです」

「八神はやてです。今日はありがとうございました」

「水無月彩です。この度は此方の勝手な都合に許しを頂いて…」

「はいはい!固苦しいの無し無し!折角のクリスマスなんだから…ね?」

「は、はい!」

「ありがとうございます」

「ごめんねぇ。本当はもっと前から挨拶したかったんだけど、こっちも色々と忙しくて…ふんふん、君が彩ちゃんか♪」

顔を当たるんじゃないかと言うぐらいまで近づけて嬉しそうにしている忍さん。私がどうかしたのだろうか?

「あ、あの…?」

「いやね、すずかが楽しそうに貴女の話をするものだからつい私も気になっちゃって…そっか♪本当に可愛い子ね♪」

「あ、ありがとうございます///」

「もう!お姉ちゃんっ!」

「はいはい、分かりました。…じゃあ、私は出掛けて来るから」

「え、何処か行くの?」

「恭也のお・て・つ・だ・い♪」

とてもに嬉しそうに言う忍さん。

「ああ、成程。頑張ってね?」

「ええ♪じゃあね、皆良いクリスマスを♪」

「「「「「「は~い!」」」」」」

私達の元気の良い返事を聞いて満足したのか、忍さんは最後に「バイバイ」と言い残してこの場から去って行った。

忍さんが去った後、私達も準備を始める事にした。まずはグループに別れてそれぞれの担当する場所に向かう。私とはやてちゃんは厨房。残ったなのはちゃん達はホールにあるテーブルや壁の飾り付け。そして大きくて重たい物は…。

「…何だか騒がしいけど、もうアイツ何かやらかしたのか?」

「そうみたいね。さっきファリンちゃんが涙目で道具運んでたから」

「やれやれ…」

「ヴィータちゃん!」

グッドなタイミングで此処にやって来るヴィータちゃん達。重い荷物は大人のザフィーラさんとシャマルさん、今此処に居ないシグナムさんに任せよう。ヴィータちゃんは飾り付けのグループだ。

「おっ!皆揃ったみたいやな!じゃあ、ザフィーラとシャマルはシグナムと一緒に重い物よろしくな?シグナムは今居ないけど」

「はやてちゃん…一応聞いておくけど何処に?」

「小林君追ってった」

「「「…(もうっ!?)」」」

『(頑張りなさい。少年…)』







ダダダダダダッ!!!

「何で俺がこんな目にいいいぃいい~っ!?」

「待たんか~~っ!」

「その首置いて行きなさいっ!」

「死ぬよっ!?」







あっ…また勝君の悲鳴が…。

「…まぁ、シグナムが居らんでも大丈夫やろ。よろしく」

「は、はい…」

「…はぁ」

「はやて、アタシは?」

「ヴィータはなのはちゃん達と飾り付けや。詳しい事はすずかちゃんに聞いてや?」

「ん、分かった」

「なのは、一緒にやろ?」

「うん!」

「すずか、アタシ達も始めましょうか?」

「そ、そうだね~」

何事も無かったかのように勧めて行く皆さん。すずかちゃんは流石に気になるご様子。自分の家の中で走り回られれば当然と言えば当然。私もアイリスとシグナムさんが屋敷の物を壊さないか心配で堪らない。きっと高価な物が沢山あるだろう。大丈夫だろうか?

あ、勿論勝君も心配ですよ?









「んぎゃああああああああああああああっ!?」

「「「「「「「捕まった(んだ)(のね)(のか)…」」」」」」

クリスマスの昼下がり、少年の悲鳴が屋敷中に響くのであった…。












――――12月15日 PM05:30





陽が落ち始めもう外は暗くなり始めた頃だろうか?ホールの方ではどうやら準備は終わったらしくクラスの子達の声も段々と増えは始めていた。

そんな中、私はと言うと…。

「じっくりコトコト煮込んだス~プ~♪」

楽しそうに歌いながら料理をしていた。

私は歌を歌いながら御鍋に入っているスープをお玉を使ってゆっくりと優しく弱火でかき混ぜていく。かき混ぜなかったり強火でやると焦げてしまうのでNG。コーンスープは沸騰しないよう弱火でかき混ぜて時間を掛けて行くのがポイントである。

今は流石にあのお洋服は着ていない。汚れるといけないし動き辛いためノエルさんから貸して貰ったメイド服を着て料理している。

『いつもながら感心ですね。彩の手際は』

『慣れてますから♪』

「ん~味付けはこんな感じかな?彩ちゃんどやろ?あ~んして」

「あ~ん…」

隣で別の料理を調理していたはやてちゃんが味見であ~んを要求して来たので私は素直にあ~んと口を開ける。すると私の口の中に食べやすい様に小さく切られた肉が放り込まれる。

もぐもぐ…うん♪味が良くし見てておいしいです♪

「バッチリですよ♪はやてちゃん♪」

「そか♪」

やっぱりはやてちゃんは料理が上手ですね。流石八神家の家事担当です♪

「そろそろスポンジが焼き上がる頃やな。アイリスちゃん、どない?」

「えっと…良い感じにキツネ色ですね」

「それじゃあ、オーブンから出して粗熱取ってから冷蔵庫にポイや」

「ポイですか?」

「投げちゃあかんで?」

「分かってますよ」

「皆さん、手慣れてますね」

「ノエルさんも流石です!」

「ふふ、これが私の仕事ですから」

メイドさんって凄いんですねぇ…。

「んしょっと…これで6つ目のケーキですか。多いですね?」

「まだまだ焼くでぇ!10個はいく予定や!」

「そんなにですか。ケーキはあらかじめ用意しておくべきでしたね」

「そうですね。オーブン一つじゃ足りないです…」

オーブンは2つあるのだが片方は他の料理用に使用しているため一つしか使う事は出来ない。パーティ開始まであと1時間程度、ギリギリ間に合うかどうかだ。それに、ケーキ以外にも料理の事も考えると…。

う~ん…予定が少し狂っちゃいました。

「急ぎましょう!ノエルさんはケーキを!私とはやてちゃんは料理に集中です!アイリスは道具の出し入れをよろしくです!」

「おお!燃えとるなぁ彩ちゃん!私も頑張るで!」

「頑張ります!彩お姉様!」

「畏まりました。全力を尽くしましょう」

「「「お~~~っ!!」」」

『ふふ、頑張って下さい』

むん!頑張りますよ~っ!!タイムリミットまで料理を作って作って作りまくります!










準備で騒がしい中、ついに陽が完全に落ちて夜がやって来ました。



すずかちゃんの家にクラスの子達がそれぞれおしゃれな服を身に纏ってやって来ます。



ホールでは楽しそうに雑談している子や、プレゼントに何を持って来たのか教え合う子、大きな家にはしゃぎ回る子。皆それぞれ。


そして…。




『メリークリスマス!クリスマスパーティの始まりよ!』





待ちに待ったクリスマスパーティがやって来ました!











――――12月25日 PM7:00
    月村家:クリスマスパーティ会場




『メリークリスマス!クリスマスパーティの始まりよ!』

アリサちゃんのクリスマスパーティ開催の合図と共に、一斉にクラスの皆の歓声が上がりホールにクリスマスのメロディーが流れ始めた。

ふぅ…何とか間に合いましたぁ。

「ギリギリやったなぁ…」

「ですねぇ…」

「間に合って良かったですね。母様」

なんとかアリサちゃんの合図と共に会場入りし、パーティに間に合った私とはやてちゃんとアイリス。すると、私に気付いたのか幾つかの足音が私の方へとやって来るのが分かった。この足音はクラスの女子ですね。

「メリークリスマス!水無月さん!」

「はい♪メリークリスマスです♪」

「水無月さんその服可愛いね~♪」

「そうですか?お母様に見立てて貰ったんです♪」

「そうなんだぁ。あれ?そっちの子は?」

はやてちゃんとアイリスに気付いた女の子は私に訊ねて来る。

「八神はやてちゃんと、親戚のアイリスです」

「八神はやてです。よろしくお願いします」

「アイリスです」

「ああ、HRで言ってた子だね!さっきヴィータちゃんともお話したよ~!」

「元気があって良い子だったね」

「そうなんや~。ヴィータ共々よろしくな?」

「うん!」

「よろしくされました!あは♪なんてね!」

「「「あははは!」」」

一斉に女の子達の輪から笑い声が上がる。どうやらはやてちゃんは解けこめた様だ。

ふふふ♪良かったです。皆仲良くなれたようですね♪

「そう言えば水無月さん達何処に行ってたの?」

「えっとですね、厨房の方に行ってたんですよ」

「「厨房?」」

女の子達は声を合わせて不思議そうに返して来る。

「そや、料理の準備をしとったんや」

「えっ!?料理って水無月さん達が作ったのっ!?」

「えへんです。驚きましたか?」

むんっと胸を張って行ってみると「すごいすごい!」とパチパチと拍手と共に二人は私達を褒めてくれる。

「料理の方はもう少ししたら運ばれて来ますから、少しだけ待ってて下さいね?」

「うん!楽しみにしてるね♪」

「あ~…そう言われたらお腹空いて来ちゃったよぉ~」

「腕に縒りを掛けましたから期待してて下さい♪」

「「は~い♪」」

『んじゃさっそくゲームを始めましょうか!』

と、クラスの女の子と話していると。マイクを使いアリサちゃんの大きな声が私達の所まで届いて来る。どうやらゲームをやるらしい。すると、突然両手を別々の女の子に掴まれて引っ張られてしまう。

「ほら、水無月さん!ゲームだって!」

「行こう行こう♪」

「…はい♪」

私は突然の事にきょとんとし、数秒間を置くと元気良く頷き二人に引っ張られてクラスの皆の中へと入って行くのだった。

「…むぅ」

「ありゃりゃ。彩ちゃん取られてもうたな?」

「むぅ~!」

「八神さ~ん!早くおいでよ~!」

「は~い!今行くで~!…ほら、アイリスちゃんもいこ?」

「…はい」









――――Side Kobayasi Masaru





「げほっ…し、死ぬかと思った…」

『メリークリスマス!クリスマスパーティの始まりよ!』

ボロボロになった身体でよろよろとを歩いていると、マイクを使っているのかバニングスのデカイ声が会場であるホールからかなり離れている此処まで聞こえて来た。

ま、まじかよ…。

バニングスの言葉から分かる様にどうやらパーティは始まってしまったらしい。完全に出遅れてしまった…。

出だし最悪だなぁ~…。

最悪の出だしに先行きが怪しくなるのを感じ俺は溜息を吐き、ポケットに忍ばせて置いた水無月へのプレゼントを取り出した。

良かった。壊れて無い。

水無月のために悩んで買ったプレゼント。色々とボロボロだがプレゼントの方は無事で俺はほっと胸を撫で下ろしてまたポケットにしまう。さて、プレゼントが無事と分かれば何時までも落ち込んでいる訳もいかない。パシンと力一杯に両頬を叩き気合を入れしっかりと足に力を入れ歩き出す。

「気合だ気合!やってやるぜ!!」

気持ちを入れ替え再戦を挑むため俺は会場へ向かって駆け出だした。しかし、口ではどう言おうが心の中では…。

でも、二度とアレに追われるのは嫌だなぁ…。

二人の鬼と出会いません様にとそんな事ありえないと言うのに甘い事を考えていた…。









――――Side Signu





ホールを見渡せる位置にある2階の廊下で私はシャマルとザフィーラに挟まれ、不満そうなのを隠そうともせず会場で楽しそうにクラスメイト達と遊んでいる彩の様子を眺めながらぶつぶつと愚痴を呟いていた。しかもヴィータだけ彩と一緒に居るのが更に気に喰わない(もしもの時のために彩のために待機している)。何故私はあそこに行ってはいけないのか?

「おのれ、あの小僧彩と仲良さそうに…あ゛!?アイツ手を繋いでたぞっ!?許せんっ!」

「シ、シグナム。落ち着いて」

「これが落ち着いていられるか!彩の貞操の危機だぞっ!?」

「大袈裟だ馬鹿者」

「大袈裟な訳あるかっ!こうなったら私が…」

「きゃあ~っ!?ザフィーラッ!取り押さえてっ!」

「ぬぅっ!?いきなりこれかっ!?」

2階から飛び降りようと手摺りに足を掛け様とすると突然両脇にいた二人が私の手と足を掴み取り押さえられ、私は身動きが取れなくなってしまう。流石は私と同じヴォルケンリッター、物凄い力だ。この私でも振り解けない。

な、なにをするだああああああああっ!?

「は、放せっ!?は~な~せ~っ!!」

「シグナムっ!彩ちゃんの楽しみにしてたクリスマスを台無しにする気っ!?」

「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ…」

シャマルの言葉にこの日を指で数えて楽しみにしていた彩の姿が脳裏を過ぎる。この日のためにプレゼントを用意していた。数日前からは飾り付けなどの準備をしていた。この日のために可愛らしいお洋服を母上殿から用意して貰っていた。その光景はどれもこれも凄く楽しみにしていた様子だった。それを壊すと言うのか…?

出来る訳無いだろう…。

「ぬぅ…」

振り払おうとしていた身体の力を抜く。すると二人は私がもう暴れないと分かり安堵すると絡めていた腕を解放する。

「ほっ…落ち着いた?」

「ああ…熱くなり過ぎていた様だ」

「…本当にね」

「…私は此処で彩を見守るとしよう」

「そうしてくれ…」

「(これが我等のリーダーだと言うのか…)」

「(これじゃまるで…)」

「「(ストーカーじゃない(か)…)」」

「「はぁ…」」

「む?どうしたのだ?」

突然溜息を吐く二人に私はどうしたのか訪ねたが二人は唯疲れた様な視線を送って来るだけで何も言わず私は訳も分からず首を傾げるだけだった。











――――Side Sai Minaduki








『皆~班に別れた~?』

―――は~い!

アリサちゃんの指示に従って3~4人のチームに分かれてる。次のゲームは『宝探しゲーム』屋敷の何処か(すずかちゃんや忍さん達の部屋は除く)にアリサちゃんとすずかちゃんが宝を隠したのでソレを探せと言う物だ。

ルールは少し複雑で、最初に屋敷の見取り図とヒントの書かれたカード3枚がチーム毎に配られる。例えば『宝は○の○』や『食べ物が集まる場所』や『ホールには無い』等が書かれてある。でも、その内容は本当かもしれないし嘘かも知れない。情報を絞るためには他のチームと情報を交換すると言う方法しかない。出来るだけ自分に有利な情報を交換して宝物の在り処を探すと言う訳だ。あと、カードも屋敷の何処に隠されておりそのカードの内容は嘘は書かれて無いとの事。

私のチームははやてちゃん・ヴィータちゃん・アイリス・私と言うチーム。そして、配られたのは『あべこべの自分』『宝箱は大きな箱の中に入っている』『宝は広い場所には無い』の3つだ。この中に嘘が書いてあるかどうかは分からない。それを確かめるには他のチームの情報を照らし合わせてみる必要がある。だ。丁寧に点字も書かれてあるので助かる。アリサちゃんの心遣いに感謝。

う~ん…やっぱりこれだけじゃわかりませんねぇ。

『宝はこの赤い石!コレと同じ奴が何処かに隠してるから探すのよ?制限時間は一時間!それじゃあ…スタート!』

ゲーム開始の合図と共に一斉に皆が我先にと動き出す。とりあえず私達は慌てず騒がず作戦会議といこう。

「皆さ~ん。集合で~す…(ヒソヒソ」

「了解や~…(ヒソヒソ」

「お~…(ヒソヒソ」

「分かりました~…(ヒソヒソ」

『(逆に目立つ気が…いえ、あえて見守りましょう)』

私達はホールの隅に輪になってしゃがみ込み誰にも内容がバレない様小さな声でカードの内容について話し合いを始める。

「さて、分かっているとは思いますが。この広い屋敷の中を虱潰しに探すのは無謀です。ちゃんとヒントの内容を考えてから探して行きましょう」

「そやな。この屋敷の中を当ても無く探したんじゃ朝になってまう」

ですです。だからちゃんと考えて探して行きましょう。

私は渡されたカードをはやてちゃん達に渡し内容を確認して貰う。『あべこべの自分』『宝箱は大きな箱の中に入っている』『宝は広い場所には無い』この中に嘘が書いてあるかどうかは分からない。それを確かめるには他のチームの情報を照らし合わせてみる必要がある。

「私の予想では『あべこべの自分』と言うのはヒントの在り処だと思うんです」

その根拠は宝の場所を指定していない事だ。○○の○。○○のには宝は無い。と言った感じで『宝は○○に有るか無いか』の二択の選択肢が出てくる訳だが『あべこべの自分』と言うのにそう言う選択肢は存在しない。このカードは恐らくボーナスカード的な物なのだろう。

「あべこべの自分あべこべの自分…反対って事だよな?」

「そうですね。反対の自分…どう言う事でしょう?」

『リインフォースさんは分かります?』

『ゲームは大人のシグナム達が参加していない様なので私も黙っていますね。自力で頑張って下さい』

リインフォースさんに聞いて見たがどうやらゲームには参加しないとの事。確かに大人のシグナムさん達が参加すると直ぐに分かってしまうから仕方ないかもしれない。

う~ん…。

ヴィータちゃんとアイリスがヒントの内容に理解出来ず唸っている。それと反対にはやてちゃんはと言うと…。

「ふふ~ん♪ふ~ん♪」

自信有り気に鼻歌を歌っている。

もしかして…。

「はやてちゃん。分かったんですか?」

「勿論や!答えは鏡や!」

「「「鏡?」」」

「彩ちゃんは普段鏡使わんから気付かんやろうけど、鏡は映している物を反対に…つまりあべこべに映すんや。だからヒントは鏡のある場所と言う事やな」

「あ~!そう言えばそうだ!」

「成程…普段鏡を見ないから気付きませんでした」

あわわ!?凄いですはやてちゃん!私には全然分かりませんでしたよ~!

「鏡…ですか。何処にありましたかっけ?」

「トイレにあったぞ?」

「あとは洗面台くらいやな」

「では、行ってみましょうか」







「あったあった。鏡の裏に挟んであったで~!」

とりあえず洗面台の方に行ってみた所探し物はすんなりと見つかった。私達はカードを取りそそくさと此処から退散すると人気のない場所に移動しカードの内容を確認する。




『宝は12と0が同じ場所を指す箱に中にある』



「「「「???」」」」

12と0が同じ場所を指す場所。どう言う事だろう?明らかに違う数字なのだが…。

「12と0が同じ場所を指す…」

「なんのこっちゃよう分からんなぁ…」

「ですが、ボーナスヒントに嘘が書いてないのは確実です。これが宝の在り処を意味しているのは明らかですね」

「でもよ、12と0って全然違うよな?」

「「「「う~ん…」」」」

わかりません!

とりあえず今はこのヒントは置いておこう。何か手掛かりが見つかれば解けるかもしれない。となれば、他の二つ『宝箱は大きな箱の中に入っている』『宝は広い場所には無い』なのだが。前者の大きな箱の中と言うのはさっき手に入ったヒントと一致しているため本当と言う事になる訳なのだが…。

「逆に小さい小さい箱に入ってる可能性だってあるんですよね。これって…」

「だよな。一致してるのは『箱』だけだもんな」

箱…段ボール、タンスとかそんな感じの物だろうか?大きな箱となると後者のタンス類と言う事になる。12と0が同じ場所を指すタンス…。

タンスに数字って描いてるんでしょうか?

デザインによるが12と0が同じ場所を指すと言うのは説明出来ない気がする。

「情報が足りません。他のチームと交渉するとしましょう」

「やな。で、最後に『宝は広い場所には無い』やけど…」

「広い場所…中庭やホールとかでしょうか?」

「そもそもこの屋敷自体が広い件について」

ヴィータちゃん。それを言ったら話が進みません…。

「ホールとかそう言うとこやろ。たぶん」

「私もそう思います。…出来れば、これは本当であって欲しいですね」

ホールは広い。全部探すだけで制限時間が過ぎてしまう可能性がある。

「でも、アタシ達が準備してた時にはそれらしいもん無かったぜ?」

「すずかさんは私達よりも先に準備していたのを忘れていませんか?その時に隠したのかもしれません」

「どうする?彩ちゃん」

「…情報欲しいですね。判断するにはまだ早いです」

「了解や。それじゃ、なのはちゃん達のチームと情報交換しに行こか!」





ピョコピョコ(移動中)





「テメーのヒント寄こせっ!」

「にゃ~っ!?暴力反対なのっ!?」

「ヴィータッ!?」

「こらヴィータ!やめい!」

「よ~こ~せ~っ!」

「にゃ~っ!?始めて会った時と同じ状況なの~っ!」

「ヴィ、ヴィータちゃん止めてください~!?」

「あ、あははは…」

「当初の目的を忘れてますね…」

ルールを理解していなかったのかなのはちゃんに襲いかかろうとするヴィータちゃんを慌てて抑えるフェイトちゃんとはやてちゃん。大事には至らなかったがヴィータちゃんの暴走に無駄な時間を消費してしまった私達、気を取り直してなのはちゃんのチームと交渉する事に…。

「んにゃ~…それじゃあ気を取り直してヒントの交換をしようか?」

「そうですね」

さて、どれを渡しましょうか…?

「母様…(ボソ」

「アイリス?」

何やらアイリスが私の耳元でなのはちゃん達には聞こえない様に囁いて来た。

「先程手に入れたカードは見せないようにしましょう。ポケットにでも隠して置いて下さい」

「え?どうして?」

「ボーナスカードは嘘は書かれていません。ですが、なのはさん達のカードは違います。交換しても此方にあまり利はありません」

成程…。

「ボーナスカードは持っていると気付かれないようポケットに入れておくと良いでしょう。ボーナスカードを見せないと此方も見せないと言われれば厄介なので…」

アイリスの言う事は尤もだ。皆には悪い気もするがこれはチームの勝利のため黙っていよう。

「…はい。分かりました」

「じゃあ、私のチームはこれを見せてあげるね!」

「ん~…じゃあ私はこのカードを」

私はなのはちゃんからカードを受取り、こちらからも『宝は広い場所には無い』の書かれたカードを渡す。流石に既に取られたカードの在り処を書かれた『あべこべの自分』を渡す気にはなれなかった。

渡されたカードに私は指を触れて点字を読んでいく。カードの内容はこうだ。






『木を隠すには森の中。宝を隠すには?』





これはまた…。

カードに書かれていたのはまたよく分からない内容だった。とりあえず私ははやてちゃんにメモを取って貰うとカードをなのはちゃんに返し私も同じように渡したカードを返してもらう。

「う~ん…謎は深まるばかりや」

「分かるかっての!」

「にゃはは、良く分からないよね。」

「そうですね」

まさか森に隠してるなんて事は無いでしょうし…。

「なのはちゃん。そろそろ別の場所にいこ?」

由紀ちゃんが急かす様になのはちゃんに言う。時間が迫っているので焦っているのかもしれない。

「あっ!そうだね!それじゃあ、彩ちゃんはやてちゃんヴィータちゃんアイリスちゃん!また後でね!」

「はい。また後で」

そう言って他の場所へと探しに行ってしまったなのはちゃんチーム。私達もそろそろ移動するとしよう。時間は限られている。

「それじゃあ、移動しながらこのヒントの謎を解いていきましょうか」

「はい」

「そやな、ついでにありそうな所適当に探して見よ」

レッツ探索タイムです!

箱~。

「無いで~」

箱~…。

「…無いな」

は~こ~…。

「無いです」

あわわわ…やっぱり駄目です。

やはり何も考えずに探しても全然見つからない。ちゃんと考えて進もう。

えっと…『木を隠すには森の中。宝を隠すには?』ですか。宝を隠すには多くの宝の中に隠すって意味ですよね?これは…。

「宝が沢山ある場所って何処でしょうね?」

「宝…赤い石が沢山ある場所?そんなのあるのか?」

「…さぁ?」

「さぁって…お前よぉ」

そう言われましても…。

「宝は箱を意味してるのではないでしょうか?」

「「箱?」」

「宝は箱に入っている。これは確定な情報です。宝を箱に置き換えてこのヒントを考えてみるんですよ」

えっと、つまり…。

「箱を隠すには箱の中?」

それは何て言うマトリョーシカです?

「ちがいますよ母様。沢山の箱がある場所です」

ああ、そうですね。間違えちゃいました。

「箱が沢山ある所ですか…」

「私は知らないです…」

今日は殆ど厨房に籠りっきりでしたし、他の部屋に行く理由も暇も無かったですから…。

「あるで~。多分此処や」

「どこどこ?はやて!」

「ココ」

そう言って屋敷の見取り図の広げてぱしぱしと見取り図を叩く。

「物置や。段ボール箱沢山あるやろ?」

おお~!凄いです!はやてちゃん!今日2回目の大活躍です!

「待った。物置にある箱の中を全部探すのか?」

「え?はい」

「…まぁ、良いけどよ」

「「「?」」」

何にやら言い辛そうにしているヴィータちゃん。どうしてヴィータちゃんがそんな反応を示したのか私達はその時は分からなかったが、実際に物置へと移動しその現実を目の当たりにしてヴィータちゃんが何を言いたかったのか理解する。

山だ。段ボール箱の付き重ねられた幾つもの山が物置の殆どを埋めつくしていた…らしい。目の見えない私には埃っぽいと言う事だけしか分からない。

「これはまた凄い数ですね。これ全部探すんですか?」

唖然とアイリスがそう呟くが誰もそれに応えようとしない。この場に居る全員がそんなの無理だと分かっているのだ。もう残された時間は少ない。この場にある段ボール箱を全て調べるには余りにも時間が空くな過ぎる。いや、例え一時間あっても出来るかどうか…。

「此処にはねぇのかもな。この中から探すのは無理だろ。ぜってー…」

「はい…」

「そやなぁ。でも、もう他の場所探してる時間も無いで?」

『後10分~』

ホールの方からアリサちゃんのカウントダウンが聞こえてくる。もう10分しか無い。もうロクに探す事は出来ないだろう。もう既に皆からは諦めの空気が漂い始めている。

む~…諦めたくないです。

どうしても諦めきれない私。残された方法は唯一つ。ヒントから宝物の在り処を割り出すと言う方法だ。しかし…。

『宝は12と0が同じ場所を指す箱に中にある』

恐らくこれが重要な手掛かりを示していると言うのは分かる。しかし、どう言う意味なのか未だに全く理解出来ない。12と0が同じ場所を指す箱とは一体何なのだろうか?

12と0、12と0…う~ん…。どうして一緒の場所を指すんでしょう?

「だ~っ!やっぱ見つかんねぇぞ!?」

「隠すにしても奥に隠す事は無いでしょう。移動するのも一苦労ですし埃が被っている事から察して奥の方は動かして無い証拠です」

「でも、それだと前の方の段ボールも埃被っとるで?」

「やっぱり此処には無いんでしょうか?」

あう~…。

「もう時間ねぇぞぉ~…」

「はぁ~…後何分やろ?」

「さぁ?あ、此処に時計がありますね」

ピクリとアイリスの言葉に反応し身体の止まる…。

…時計?

「大きな柱時計やなぁ…2mとはあるで?」

柱時計…12と0が同じ場所を指す箱…。

思考が急速に回転してバラバラのピースを組み上げて行く…。

「でも止まってますね。壊れてるんでしょうか?」

「ほんまやな。12時丁度に…あれ?」

そして、全ての謎が解けた…。

「それです!」

柄にも無く大きな声を出してしまうが構わず私は人差し指をピンと立ててはやてちゃんの方へと向ける。

「うわっ!?何だよ彩?急に大きな声出して?」

「彩ちゃん。どないしたん?」

「謎は全て解けたのです!」

「解けたって…本当ですか母様っ!?」

はいです!

アイリスの言葉に私は大きく頷きはやてちゃん達に説明を始める。

まずはこの4つのヒントだ。

『宝は広い場所には無い』

『宝箱は大きな箱の中に入っている』


『木を隠すには森の中。宝を隠すには?』

『宝は広い場所には無い』と言う事は狭い部屋の中にあるとい事だ。そして『宝箱は大きな箱の中に入っている』『木を隠すには森の中。宝を隠すには?』の二つのヒントを重ね合わせて宝を箱に置きかえる。木を隠すなら森の中と言うのは木が多い森の中に隠せば見つかり難いと言う意味だ。つまり、箱を隠すなら箱が多い場所、つまり物置を意味する。そして、最後の4つ目の重要なヒント…。

『宝は12と0が同じ場所を指す箱に中にある』

これは時計を意味している。デジタル時計なら有り得ないがアナログ時計ならこのヒントと同じ現象が起きる。12と0は午後12時と午前0の事。そして、その時間になるとどちらの時間もアナログの時計の針は12を指しているのだ。

そしてまた出て来る『宝箱は大きな箱の中に入っている』ヒント。この大きな箱と言うのは2mはある柱時計の事で、宝はこの中に入っていると言う事になる。

「つまり、宝はこの時計の…」

私は柱時計の蓋を開けて手探りで中に何かないか探ってみる。すると、指先に何か当たりコトッと固い物が転がる音が響く。それを聞いて私はにやりと笑みを溢すとその指先に当たった何かを掴み取り皆に見せる様に掲げた。

「ありました!」

「「「お~~~っ!?」」」

パチパチパチッ!

皆の驚く声と拍手に物凄い達成感に支配され、どうだと言わんばかりに胸を張る。でも、内心ドキドキしていたのは皆には秘密だ。これで外れてたら凄く恥ずかしい。

「すげぇ!すげぇよ彩!」

「流石母様です!感動しました!」

「ホンマに凄いなぁ!まさか時計やったなんて…言われてみたらその通りやん」

ふふん!です!

「ほなさっそくホールにもどろ!」

「はい!」

うふふ♪皆驚くでしょうね!

赤い石を大事そうにぎゅっと両手で包みこむと私達は急いで皆が集まっているホールへと向かった。









ホールに着いて見れば既に集まっていたクラスの子達が「駄目だったー!」とか「みつからなかったよ~…」と殆どの子達が愚痴を溢しているのが確認出来る。その中を私達は悠々と歩いて行きアリサちゃんとすずかちゃんの前へとやって来た。

「あら?もしかして彩のチームが見つけたの?」

「はい!これを…」

誇らしげに頷き手に持っていた赤い石をアリサちゃんに渡す。

「…うん!確かにアタシが隠した宝ね。凄いじゃない!彩!誰にも見つからない様に本気で考えに考えて隠したのに」

―――ぶー!ぶー!そりゃねぇよバニングス!

アリサちゃんの言葉にクラスの男の子からブーイングの嵐が巻き起こる。しかしアリサちゃんはそれを威嚇だけで鎮めてしまう。

「彩ちゃんおめでとう♪」

「ありがとうございます!すずかちゃん♪」

そう言われると頑張った甲斐がありました♪

「…まぁ、景品は無いんだけどね」

―――無いんかいっ!?

クラスの全員が息を揃えて突っ込んだ。

「だって、見つかるとは思わなかったんだもん」

「ア、アリサ…それはないよ」

「しょうがないじゃないっ!私達だけ参加出来ないんだから憂さ晴らし位させなさいよね!」

「あ、あんまりなの…」

お、横暴です…。

自分達の苦労はとクラス全員がガクリと肩を落とすのだった…。

「それじゃあ、ゲームも終わった事だし!お待ちかねのお食事にしましょうか!」

―――おー!待ってましたー!

―――水無月さんの手作り料理だ~♪

先程の疲れた雰囲気とは打って変わってドッと喜びの声が上がる。そろそろ夕食の時間だし皆広い屋敷の中を歩き回ってお腹が空いていたのだろう。

そして、タイミング良くノエルさんとファリンさんがワゴンに料理を乗せてホールへと運んで来ると、料理をテーブルの上に乗せて行く。

「お~…」

「すっげぇ~…」

「凄く美味しそう!」

皆口々に料理を見て驚きの言葉を上げているのを聞いてはやてちゃんはくいくいと私の服の袖を引くと「やったね」と呟き私は「はい!」と返し互いに密かに喜ぶ。頑張った甲斐があったと言う物だ。

食事はバイキング形式で、クラスの皆に皿が配り終えると皆それぞれ自分と食べたい料理の許へと移動して行く。特に人気なのはやはりクリスマスと言う事でローストチキンだった。確かに、クリスマスの料理で殆どの人が想像する食べ物なのかもしれない。

「ぅんめええええええ~っ!」

「あむあむ…ああ、生きてて良かったぁ♪」

あちこちのテーブルから聞こえてくる「美味しい」と言う感想。料理を作った者としてはこれ以上に無い程の賛辞であり、自分が食べる事など忘れてニコニコと皆の美味しそうに食べている様子を眺めるのであった。

ふふふ♪喜んでもらえて良かったです。

「母様…じゃなくて、彩お姉様は食べないんですか?」

ゲームの時間は母様と呼んでいた所為か、つい母様と呼んでしまい言い直しているアイリスを愛しく思いつつも、笑顔のままふるふると首を振る。

「私は皆に食べて貰えるだけで嬉しいですから」

「いけません!ちゃんと食べなくては!それに、彩お姉様も楽しまないと意味無いです!」

私は十分と言える程楽しんでるんですけど?

「にゃはは、彩ちゃんはそう言う性格だからねぇ♪はい!適当に料理持って来たよ~♪」

「何でこんな所に居るのよ!ホラ!アンタも食べなさいっ!」

「彩ちゃん。美味しいよ?」

「彩!ケーキだよケーキ!美味しいよ!」

「これは私が作ったとっておきやで~!ほら召し上がれ!」

「彩!これギガうめぇぞ!食ってみろよっ!?」

「ほらほら彩ちゃん。沢山食べて?」

いえ、あの…そんなにいっぺんに持って来られても…。

ずいずいと全員が料理で皿一杯に載せられた物を押し付けられても小食な私には当然食べられない訳で、しかもどう考えても子供一人が食べられる量じゃない訳で。困った私は少し考えて、その結果私は一つの案を提示してみる。

「皆で食べませんか?」

それなら問題無くこの量の料理を食べられるだろう。皆さんもそれに賛成し空いてるテーブルに移動するのだった。










「今日のクリスマスパーティ。大成功だね!」

「はい♪」

自分とはやてちゃんで作った料理を頂いているとなのはちゃんが嬉しそうにそう言うと私もそれに同意しなのはちゃんんと一緒にクリスマスパーティの成功を喜んだ。しかしそれは私となのはちゃんだけでアリサちゃんは無邪気にはしゃぐ私達に呆れ、すずかちゃん達も苦笑している。

「アンタ達ねぇ。まだ終わって無いでしょ?プレゼント交換だってあるのに」

「それがメインと言っても良いよね」

おお!忘れてました!?

食事が終われば残るプログラムはプレゼント交換のみ。すずかちゃんの言う通りクリスマスパーティのメインに相応しいとも言っても良いだろう。私もこの時のためにプレゼントを頑張って作ったのだ。本当に肝心なイベントを忘れていた。

「む?此処に居たのか。探したぞ」

「シグナムさん?お料理食べて頂けましたか?」

「うむ。流石だな彩は。どの料理も美味しい」

「ありがとうございます♪」

「彩ちゃんだけかシグナム?私も料理作ったんやけどな~?」

「勿論、主の料理も何時も通り美味しいですよ?」

「ついでって感じな感想やな~…」

「そんな事無いですよ。はやてちゃん。とても美味しかったです」

「毎日主の料理が食べれて我等は幸せ者です」

シグナムさんに続いてどんどん八神家の人達がこのテーブルに集まって来る。周りは子供達しか居ないので必然的に大人グループは一緒に行動するしかないのだろう。ヴォ―タちゃんは何ら問題無くクラスの子達と馴染んでいるが…。宝探しゲーム以外の時は他の事達と楽しんでいたのを覚えている。仲良い事は良い事だ。

『おい。何でこっちに来たんだよ?』

『無理に引き離しても逆にシグナムに怪しまれるだろう?と言うか俺も腹が減った』

『そうそう。何事も適度にね♪後私もケーキ食べたいの♪』

『本音駄々漏れじゃねぇかッ!?』

『『自分だけ楽しんでおいて良く言う(わ)!』』

「む?どうしたお前達。睨みあって…」

『『『お前(貴女)の所為だ(よ!)』』』

「何故私まで睨むんだ?」

「…気にしないで」

「ああ…」

「だな…」

「いや、だから何故睨むんだと…」

何やら険悪なムードがあちらで漂っている様だが、何かあったのだろうか?会話だけではそう喧嘩をする様な内容では無かったと私は思うのだが…。

しかしそんな険悪なムードも露知らず。こちらはケーキを突きながら楽しい雑談を楽しんでいた。

「アリサちゃんは今日プレゼント何選んで来たの?」

「言う訳無いでしょ?ヒ・ミ・ツよ」

「ぶ~!すずかちゃんは?」

「うふふ♪私も内緒♪」

「なのは、私はね「フェイト。空気読みなさい」あう…」

ぺしんと軽い音が響きフェイトちゃん小さな悲鳴が上がる。どうやらアリサちゃんにおでこを叩かれた様だ。音からして痛くはなさそうだったが流石アリサちゃん突っ込み担当。素直に教えようとしていたフェイトちゃんを容赦無く叩くとは。私には到底出来ない。

「…てい!」

何故か私まで叩かれてしまう。

「あうっ!?何で私も叩くんですかっ!?」

「何かムカツク事考えてたっぽいから」

エスパーですかっ!?褒めたんですよっ!?

「フェイトちゃん。そう言うのは貰った人だけのお楽しみだよ?」

「あ、そうなんだ…」

「中身を知ってる時と知らないのとじゃ新鮮味が違うよね?そう言う事だよ」

「成程…」

由紀ちゃん説得力ある説明にフェイトちゃんは興味津々のご様子。逆にソレを聞いていた私は落ち込んでたりする…。

私…中身知られちゃってます…。

どんよりとしたオーラを背中に背負いガクリと肩を落とす私。私のプレゼントはクラスの皆に知られている訳で…。サプライズも微塵も無い訳で…。

「だ、大丈夫だよ彩ちゃん!誰もモデルまで知らないから!」

「そ、そうだよ彩!」

落ち込む私を見て慌ててフォローしてくれる二人も優しさが身に染みる。でも、肝心な事がもう一つ…。

「…なのはちゃん達は知ってますよね?」

「「あ゛…」」

どんよ~り…

更に落ち込む私。二人は慰めようとしてくれるが言葉が見つからず「気にしなくて良いよ」とか色々と言ってはくれるが私の周辺に漂っているどんよりオーラは消え去る事は無かった。すると、私達の会話を黙って聞いていたアリサちゃんが呆れた様子で話しかけてくる。

「…あのね?アタシ達は完成品を見た訳じゃないのよ?」

「そうですよ彩お姉様」

「それにね彩ちゃん。彩ちゃんのプレゼントが私達の所に来るか分からないんだよ?」

「そう、ですね…。そうですよね!」

ウチのクラスは30人強は居るのだ。その中でなのはちゃん達に来る可能性はそれなりに低い事になる。

「でも私は彩ちゃんのプレゼント欲しいなぁ」

「え?」

「手作りだと何かこう…暖かいって言うのかな?気持ちが籠ってるというか。そんな感じ」

「そうね。実はアタシも狙ってたり。こう言う言い方はアレだけど、欲しい物は大抵に入るからね。手作りとかそう言う物の方がアタシとしては嬉しいのよ」

「はぁ…そう言う物なんですかぁ」

「アンタだってお金持ちでしょうに…」

そう言うの自覚した事は無いですねぇ…。でも、手作りが嬉しいと言うのは分かります。一生懸命に作った物なら何だって嬉しいものですから。

「んー…っ!お腹いっぱい!皆もそろそろ食べ終えた事かしら?」

「ホントだ。もう殆どの皿が空っぽ」

気付けば料理は殆どん残ってはおらずノエルさんとファリンさんが空いた皿から片付けを始めていた。

「作った身としては嬉しい限りやな」

「ですね♪」

美味しいと褒めて貰って、残さず食べて貰えるのが料理人として何よりの喜びですから♪

「んしょ…それじゃあ、そろそろメインイベントといこうか?アリサちゃん」

「そうね。二人の片づけ手伝ってさっさとテーブル退けちゃいましょう」

「え?退けちゃんですか?」

折角皆さんが早く来て飾り付けしてたのに…。

「プレゼント交換はちょっと場所使うからね」

「そう言う事よ」

アリサちゃんの話によると、プレゼント交換は皆で大きな輪を作って隣の人にプレゼントを渡していって流している曲が止まった時に持っているプレゼントを自分が貰うと言うものらしい。確かにそれだとテーブルで半分が埋まっている今のホールでは出来そうに無さそうだ。

「ほら!シグナム達も!いつまでも睨み合って無いで手伝い!」

「「「は、はい!(う、うん!)」」」

「どっちが年上か分からないわね。あの家族…」

「八神家の食卓ははやてちゃん次第ですから」

「美味しい料理か漬物とごはんかははやてちゃんの気分次第って訳だね」

「「「(まぁ、それだけじゃ無いんだけどね(ですけどね))」」」

はやてちゃんが夜天の書の主というのが本当の理由なのだが、意外と由紀ちゃんの言う事もあながち間違っていないのかもしれない。何故ならはやてちゃんが料理を作らないとシャマルさんが料理を作る事になり、それはシグナムさん達の命に関わって来るのだから。シャマルさんの料理を食べた事が無い私ではその重大さは分からないがシグナムさん達の必死な様子から考えて本当に冗談じゃ済まされないレベルなのだろう。

でも、命が危ない料理って。毒を盛る訳じゃ無いのに…。

後日、以前約束した通りにシャマルさんに料理を教えた私が皆さんが必死になる理由を知ったのはまた別の話…。













――――Side Masaru Kobayasi









「ふぃ~…飯がうめぇ~…」

御馳走をたらふく食べたお腹をポンポンと叩くと満足そうにゲップし背凭れに身を預ける。始めに散々な目にあってゲームには参加は出来なかったがこんな御馳走が食べれのだから良しとしよう。

いや~、こんな美味しい飯は生れて初めてだぜHAHAHAHA!

「…」

あ~…何か忘れてる気が…って!?

「なんて言ってる場合じゃねぇじゃんかっ!?」

重要な事をすっかり忘れていた事を思い出し周りで食事中の友達の事など気にせず大声を上げ勢い良く椅子から立ち上がる。すると予期せぬアクシデントが…。

「うおおおっ!?」

あ、やべ…。

バンッと立ち上がる際にテーブルを叩いた振動で宙に浮かび料理達。それを見て慌てて受け止める友達達、中には両手が塞がり口でキャッチしている奴も居る。友達は落ちていない事にほっと安堵するとジト目で俺に文句を言って来た。

「何だよ勝!急に大声出して!」

「幾ら男子だけで食べてるからって少しぐらいマナー守ろうぜ!?」

「ふぉうだふぉうだ!(そうだそうだ!)」

「わ、わりぃ…」

今のは完全に俺に悪かったので素直に謝っておいた。

それは別としてどうした物だろうか?ゲームの時は確認して無いがアイリスとか言う奴は本当に水無月から離れる様子は無い。しかもさっき身を以って体験したがあの凶暴性は半端ない。本当に命がやばい。さっきの誤解だけでアレなのだから水無月と二人っきりになろうとしてるのがばれたら…。

『死』しかねぇ…。

と言うか成功しても失敗しても俺には後が無いんじゃないかと今更気付く。あの二人が長時間水無月から注意を逸らす筈が無いのだ。プレゼントを渡せたとしてもその後は地獄が待っているだけ…。

ならば、もう開き直るだけ。目的を達成するためなら何だってやってやろうじゃないか。どうせろくな作戦なんて無いんだ。大胆にいかせて貰うとしよう。一瞬、一瞬だけあの二人から注意を逸らす。その後は野となれ山となれだ。

ククク…やってやろうじゃんか。

何故だろうか。覚悟が決まると妙に気持ちが落ち着いて来た。今までに経験した事が無い位に…。

そして、俺の視線がある物に止まるのだった…。











――――Side Sai Minaduki








「それじゃあクリスマスパーティ最後のプログラム。プレゼント交換!皆!プレゼントはちゃんと手にあるわね?」

―――は~い!

「よろしい!それじゃあ、ラジカセの曲が流れ始めたら時計回りにプレゼントを回していってね!…ノエルさんスイッチお願いね」

「畏まりました」

アリサちゃんはノエルさんにラジカセの操作を任せると、自分もプレゼントを手にとって輪の中へと混ざり、ノエルさんはそれを確認してラジカセにスイッチを入れる…

ガチャンッ…

とその瞬間、がちゃんと屋敷全体に何かが落ちる様な音が響くのだった…。

クラスの子達がざわざわと不安そうに騒ぎ出す。周りの様子からして何か起こった様だが、私は何が起こったのか分からないでいた。音がしただけで周りにざわめき以外に異変は無い、匂いをかいでも耳を澄ましても何も変な所は無いので火事や何かの事件では無いとは思うのだが…。

「え?え?何?何!?」

「…停電?」

「ブレーカーが落ちたのかな?」

…どうやら電気が消えたらしい。それなら私には分からない筈だ。

「丁度良いわ。このまま続けましょう」

「よろしいので?」

「不正を防ぐにも丁度良いしね」

そう言ってアリサちゃんは気を取り直してプレゼント交換を再開する。

~♪~~~♪

明るいメロディーが流れ始め、右から流れて来るプレゼントが渡されてきた。私はそのプレゼントを左へ流していくとまた受取りまた渡す。そんな作業をくりかえしていく。すると、誰かが私の袖を引っ張って来たのだ…。

くいっくいっ…

「?…誰です「シッ…」もご!?」

私はプレゼントを回す手を休めずに、袖を引っ張ってくる人に誰か訊ねようとしたが口を塞がれてしまいそれは妨害されてしまう。

「もごっ!?(だ、誰ですかっ!?)」

「シッ…俺だ」

…勝君?

声で口を塞いでいる主が勝君だと分かった私は大人しく黙るのだった。

「どうしたんですか?」

「静かに…黙って俺に着いて来てくれ」

「でも、それじゃあプレゼントが此処で止まってしまいます」

今私が抜けると私の位置でプレゼントは止まってしまうことになる。それだと皆さんに迷惑が掛かってしまう…。

「代わりの人を置いて行くから大丈夫だ。ほら早く…」

そう言うと勝君は強引に私の手を引く。すると誰かが私に入れ替わる様に私に位置に座ってしまう。擦れ違い様、誰かが私を横切り小さく「いってらっしゃいませ~♪」と呟いていた。勝君と言っていた代わりの人と言うのはファリンさんの事だったのか。

何がどうなってるんでしょう?

私は今の状況について行けず混乱しながら勝君に連れられて何処かへと向かうのだった…。









「ふい~冷えるなぁ…」

勝君に連れられてやって来たのはラウンジ。盛り上がっていた会場の所為で火照っていた身体を外の冷気が急激に冷ましていく。でも、それが今の火照った身体には丁度良く。寧ろ心地良くも感じる。

「あの…それで、どうしたんですか?」

どうしてプレゼント交換の最中に私をこんな所に連れだしたのだろう?何か特別な用事でもあるんだろうか?連れだされたラウンジには何も無い。あるのは冷たい冷気と外の音のみ…。

「んっとだな…え~っと…メリークリスマス」

「え?」

急な事に私はきょとんとしてしまう。勝君が言って来たのは「メリークリスマス」と言う挨拶だったからだ。私は困惑したがとりあえず挨拶を返さないと失礼だろうと思い同じ挨拶を返す。

「えっと…メリークリスマス」

「ははは…何だよそれ」

むっ…ソレを言うなら勝君です!

「ム~ッ!勝君が言って来たんですよ?」

ぷく~と頬を膨らませて抗議する私に勝君は笑いながら「わりぃわりぃ」と謝って来るが、それからは謝罪の気持ちが伝わって来ない。どう見てもからかっているようだった。

「もう!知りません!…プイッ」

「悪かったって」

「謝ってるように見えません!」

「あちゃ~…」

「やり過ぎたか」と勝君が嘆いている。その様子からしてどうやら反省している様なので許してあげるとしよう。

「良いです。許してあげます」

「本当か?」

「はい。それで、何で私を此処に?」

話は振り出しへ。これを聞かないとどうも話は進みそうに無かった。

「…今日は楽しかったか?」

「はい。ずっと、憧れてましたから…」

大勢の友達と一緒に騒ぐ事。私にとってそれは憧れだった。前も、その前の学校でもそんな事は有り得ない事だったから…。だから、今はとても幸せで、とても楽しい。今までに経験した事無い程楽しいのだ。

「そっか…良かったな」

「私は、前の学校では友達が居ませんでした」

私に水を掛けて来る人。泥をぶつけて来る人。靴を、鞄を隠す人。それは遊んで貰っているんだ思ってた。こんな駄目な私と遊んでくれているのだと…。『友達』になってくれているのだと…。

「…」

隣で勝君は黙って私の言葉に耳を傾けてくれている。だから私は彼の気遣いに甘えて語りを止めない。

「此処に来て友達と言う言葉を知りました。だからあの人達は友達だと思ってました。でも、違いました…」

あれは、『友達』何かじゃ無かった…。

「それが苛めだと言うのを皆さんは教えてくれました。本当の友達と言う意味を皆さんは教えてくれました。壊れかけの私を救ってくれました…」

もし、皆さんに出会えなかったら。私はどうなっていたのだろう?あの頃以上に壊れていたのだろうか?それとも…。でも、そんな事は考えられない位に私は皆さんの御蔭で満たされている。幸せに…。

感謝の言葉なんて見つからない。どんな事をしたってこの恩は返せない。そして今も、その恩は募って行っているのだ。あの人達は、私の友達は今も私に幸せを与えてくれている。それをどうやって返せと言うのか。私にはその返す方法なんて分からない。

「私は…此処に来て良かった」

「そうか」

勝君はそう短く返すだけ。でも、何だか優しい雰囲気の声だった…。

「なぁ、水無月」

「はい」

「ごめんな…」

「え?」

突然謝って来る勝君に私は驚く。何か彼は私にしただろうか?別に私は何もされていないと言うのに。彼は私には謝る必要なんて…。

「あの時、ちゃんと謝って無かっただろ?お前を苛めてごめんな…」

「そんな、気にして無いですよ」

寧ろ、そんな事なんて忘れちゃうくらいに勝君には良くして貰っている。休憩時間に良く男の子に遊びの誘いが掛かるのも密かに勝君がクラスの男の子と仲良く出来る様に取り計らってくれているとすずかちゃんや由紀ちゃんから実は聞いているのだ。それなのに…。

「都合の良い事だって分かってるんだ。あんな事しておいて今更仲良くし様だなんて。バニングスが俺を気に喰わないのだって分かる」

「違います!そんな事ありません!」

私は、勝君の事を友達だと思ってます!アリサちゃんだって良く喧嘩はしているけど本当に勝君が嫌いって訳じゃないと思います!

本当に嫌いだと言うのなら話しかけはしない。無視をする筈だ。だから、きっとアリサちゃんも心の何処かで勝君を認めているんだと思う。そうじゃないと普段の生活での態度は説明がつかない。

「だと、良いんだけどな」

「きっとそうです!」

私は大きな声でそう断言する。確かな自信を持って。

「そっか…あの、さ?」

「はい?」

「本題なんだけど…これ」

勝君は私の手を取ると、何やら箱らしき物を私の掌の上に乗せて来る。箱は掌に入る程の大きさで大して重い物では無かった。これは一体…?

「えっと…これは?」

「クリスマスプレゼントだ。受け取れよ」

「えっ!でも…」

それならあの場で皆と一緒にプレゼント交換をするべきでは無いのか。私はそう思った。しかしその疑問は私の考えを察してか勝君が何も聞いていないと言うのに私が疑問を訪ねる前に答えてくれた。

「プレゼント交換用は向こうに置いて来てるよ。たぶん一つ余る筈だからそれが俺のって事になる筈だ。これはお前個人に渡したかったんだよ」

「私に…」

勝君が私のためにプレゼントを用意してくれた。それは本当に嬉しい。でも…。

「私は、勝君に何も用意していません。これを頂く訳には…」

「別にお返しが欲しくてソレをお前にやるんじゃねぇよ。ほら、開けてみてくれよ」

「でも…」

「いいから!」

「は、はい!」

箱を開けるように急かして来る勝君に私は慌てながらも慎重にかつ丁寧にリボンを解いて包み紙をはがしていく。

そして、箱の蓋を開けてみてそこに入っていたのは…。

チリンチリーン…

独特な音を発している何か鈴の様な物体だった。

風鈴。最初はそう思ったが吊るすための紐は付いておらず鈴の上に手でつまむ様な物が付いていた。とりあえず私はそれを摘まんで左右に振ってみると綺麗で心地良い音色がラウンジに静かに響いて広がって行く。

これは…。

「ベル、ですか?」

「おう。クリスマスベルだ。硝子のな」

「硝子…綺麗な音ですね」

そう言うともう一度ベルを鳴らして見る。

チリーン…

優しい音。風鈴とは別の意味で心地良い音…。

「これ、高かったんじゃ…?」

硝子細工って高価なイメージがあるんですが…。

「値段聞くなよ。それがマナーってなもんだ。あと大した値段じゃねぇよ。これはホント」

「…本当に?」

私は疑っていますと言った感じの視線を勝君が居るであろう方向へと送ると、勝君は必死に私に訴え掛けて来るが私のじとー…っとした視線は解除される事は無い。

「ホントだって!?」

怪しいです。お母様が「男の子は見栄を張る生き物なのよ♪」ってこの前言ってました。

「いや、そんな疑いの眼差しを向けられても困るんだが…。第一、今時じゃ百均だって硝子の置物あるぜ?」

「え?そうなんですか?」

「ああ」

それは意外でした…。

「でも、これは100円じゃないからな?」

「やっぱり高いんですかっ!?」

「話を振り出しに戻すんじゃねぇよ!?違うって!」

「でもでも!?」

「だーっ!良いから受け取れよっ!それで万事解決なんだから!」

「でも…」

「デモもストライキもねぇ!俺がお前にあげたいってんだからそれで良いじゃねぇか!」

『彩。貰ってあげましょう。少年が彩のために用意してくれたプレゼントですよ?』

今まで黙っていたリインフォースさんまで私の説得に加わってきてしまう。

勝君が、私に…。

なら、受取らなければ逆に勝君に辛い思いをさせてしまう。非礼になってしまうのでは…。

「…………はい。ありがとうございます」

長い沈黙の末、私は笑みを浮かべ精一杯の感謝の気持ちを込めて勝君のプレゼントを受取る。思えば、これが初めて友達から持ったプレゼントだった。初めての貰ったプレゼントがクリスマスの日。偶然にしては出来過ぎている。でも、それはとても素敵な事だと私は思う。

大事にしますね?勝君。

私はベルを両手で優しく、大切そうに包みこむ。これは私にとって大事な宝物…。

「さてと、プレゼントも渡せた事だしそろそろみn「ほう?そろそろ処刑の時間だと良く分かったな?」…へ?」

「あ、シグナムさん」

此方に近づいて来る足音が複数聞こえたのでもしかしたらと思ったが予測した通りの様だった。もう一つはアイリスだろうか?

「では、逝きましょうか?」

やっぱりアイリスでしたね。

「ちょっ…まっ!?」

「最後に良い夢が見れたな?」

「これで迷わず逝けますね?…こっちに来なさい」

「い、嫌だあああああああああああああああああぁぁぁぁ…」

『安らかな眠りにつかれん事を…』

ずるずると引き摺られて小さくなっていく勝君の悲鳴を唖然としながら見送り?ポツンと一人ラウンジに取り残されてしまった私。白杖も持って無いしどうした物かと途方に暮れてしまう。

「…くしゅん!」

うぅ、冷えてしましたね。どうしましょう…?

冷えてきた身体を抱いて困り果てる私。

「彩ちゃ~ん!」

私の名を呼ぶ声。私はその声を聞いて咄嗟に勝君から貰ったプレゼントをポケットに仕舞った。

「あっ!あそこに!」

「彩!こんな所に居た!」

「探したわよ!まったく!」

「寒いでしょ?中にはいろ?」

なのはちゃん達だ。どうやら居なくなった私を探しに来てくれたらしい。

「皆さん…」

「皆さん…じゃないわよ!急にファリンさんに代わってるからビックリしたじゃない!」

「ひゅ、ひゅみましぇん。ひたひれぇしゅ~…(す、すみません。痛いです~…)」

びよ~んと頬を引っ張るアリサちゃんに涙目になりながらも謝る私。冷えきって固くなった頬にそれはイタイ…。

「ア、アリサちゃん。止めて上げようよ…」

「あぅ~…」

「はいはい。しょうがないわね」

引っ張り攻撃から解放された私。ジンジンと痛む頬を擦り痛みを和らげようと試みるも全然イタイままである。

「あっ!そうや!彩ちゃん!」

頬を擦っている私にはやてちゃんが話しかけて来た。その声は何だか嬉しそうなのは気のせい?まさか私が涙目なのが嬉しいんじゃ…。だが、そんな考えも次のはやてちゃんの言葉で吹き飛ぶ事に。

「じゃ~ん!彩ちゃんのプレゼント。私に当たったで!」

「!本当ですか!?」

「ほんまや!ほら、これ!」

そう言うとはやてちゃんは私でも分かる様にプレゼントを手に当てて来る。私はそのプレゼントを撫でるとその形を確認していく。この感触、触り心地、そして形。間違える筈も無い。私が毎日必死で彫っていたサンタクロースの彫像だ。まさか、あの低確率の中ではやてちゃんに当てるだなんて…。

でも、凄く嬉しい…。

クラスの皆さんには悪いが必死で頑張って作ったプレゼントが親しい友達に、はやてちゃんに貰ってもらえるだなんてこれほど嬉しい事は無い。でも不安だ。はやてちゃんは喜んで貰えたのだろうか?私が作った彫像だなんて…。

「あの、はやてちゃん?プレゼント、喜んで頂けたでしょうか?」

「当たり前やん!一生大切にするからな!」

「ぁ……」

嬉しい…。はやてちゃんの言葉を聞いたら胸の奥から何か知らない暖かい物がいっぱい溢れていて、心臓がドキドキ鳴って…。

「…彩ちゃん?何で泣いとるん?」

え?…あ…。

気付けば私は涙を流していた。涙で滲むその瞳からはポロポロと涙が溢れ頬を伝って零れ地面へと落ちる。

何故だろう?喜んで貰えて…一生懸命に頑張って作ったプレゼントが喜んで貰えて嬉しいのに勝手に瞳から涙が溢れて来てしまう。慌てて袖で涙を拭ってもまた溢れてくる涙。何度拭ってもまた…。

嬉しいのに…どうして?

「彩ちゃん…ありがとな?」

嗚呼、そうか…。

「はぃ…はい!」

今までは、プレゼントを上げる人が居なかったから…。喜んでくれる人が居なかったから…。

記憶に過ぎるのは孤独な過去。何時も一人ぼっちだった辛い日々…。学校では味方は居なくて一人壊れた様に笑う日々…。

「彩ちゃん…また、クリスマスパーティしようね?」

でも、今は…。

「は…ぃ!また、皆さんで…!」

こんなにも暖かな友達が居る…。

私は泣くのを止め笑顔で笑った。幸せ一杯の笑顔で。すると、タイミングを合わせたかのように空から冷たい何かが涙で濡れた頬に落ちて来た。

「あっ!皆!雪だよ!」

そう、雪だ。

「あら?ホント…」

「ホワイトクリスマスだね」

「今日はツイとるなぁ~!」

「素敵だねぇ…」

ええ、本当に…。

私には皆さんと同じ景色は見えない。でも此処に一緒に居るだけで、共にこの時を過ごせるだけで私は幸せだと思う。例え皆と同じものが見えなくても…。



「「ねぇ、彩」」

「「「ねぇ、彩ちゃん」」」









―――同時刻
      ハラオウン家。






「あっ!クロノ君!雪だよ雪!」

「見れば分かるよ。何そんなにはしゃいでるんだ…」

「もうロマンチックな場面が台無し!ホワイトクリスマスだよ!?」

「僕達には関係ないだろう?」

「ぶ~~っ!」

「はぁ…良いから、仕事をしてくれ」

「つ~ん…」

「エイミィ?」

「…」

「はぁ…ほら、これ」

「え?」

「…クリスマスプレゼント」

「クロノ君…」

「これで満足か?なら仕事に戻ってくれ」

「…ねぇ!クロノ君!」

「ん?」







――――水無月家




「アナタ、雪よ雪」

「お?ホントだな…」

「ホワイトクリスマスか。素敵ね…」

「ああ…」

「彩も今頃は皆と一緒にこの雪を見てるのかしら?」

「ああ、きっとな…」

「今年のサンタさんは最高のプレゼントを彩にくれたみたいね」

「本当に…」

「ねぇ、アナタ」

「なぁ、母さん」















「メリークリスマス!!」

















あとがき



疲れたよぉ~…。もう書きたくないよぉ~…。でも外伝は書くぜヒャッハ~~~っ!!!

前作や公式のようにエピローグは書く予定は無いです。その後は外伝でと言う事で…。じゃあ、完結記念と言う訳で盲目と賢者の誕生秘話でも教えちゃいましょうか!

では!彩ちゃん詠ちゃんよろしく~!





「ど、どうも。水無月彩です」

「前作ぶりかしら?工藤詠よ」

「おまけでもお会いしましたよね?工藤さん」

「そうね。でもアレは私であって私じゃないから」

「そうなんですか?」

「そうなの。…それじゃあ、誕生秘話だったかしら?そんな大層な物じゃないけどお話しするわね?」

「よろしく願いします!」

「実はと言うと、工藤詠と水無月彩は本来は同一人物の予定だったのよ」

「ええ!?本当に!?」

「本当よ。物語のスタートは一般で言う無印から。病名不明の盲目の少女が親に育児放棄されるって話ね」

「それって、私の事ですか…?」

「さぁ?名前は決まって無かったら誰でも無いわね。設定なんて物語を書かなかったら妄想と同じよ」

「あ、あはは…」

「話を戻すわよ。そして自分の人生に絶望していた少女は病院である少女に出逢うの」

「はやてちゃんですね!」

「正解。『私が貴女の目になる。だから貴女は私の足になって』その言葉に少女は自分の人生に意味を見出し始めた」

「この台詞は『盲目の少女』でも使われる予定だったんですよね」

「ええ。でもA'Sでは既にヴォルケンリッターが居るのでこの台詞は使われる事は無かったわ。作者もかなり悔やんでたわね。厨二病丸出しの台詞だから」

「…(汗」

「でも、設定に色々と矛盾やらなんやらが出て来てこの話は闇の中に消えたって訳。それで良いとこだけ取って半分こにしたの」

「それが『幼き賢者』と『盲目の少女』ですか…」

「良かったわね。両作とも親が優しくて。元の作品は最低の屑が親よ?」

「わ、笑えませんね…」

「作者は鬱なのが好きだからね。しょうがないわ」

「…はい。これで誕生秘話は終わりです。またの機会にお会いしましょう!」

「案外私とはまた会うかもね。前回のおまけが評判だったから」

「その時はよろしくお願いしますね♪工藤さん♪」

「ふん!昼食代を浮かせるためよ…じゃあ、また会いましょう」

「では、皆さん!子供の私はこれで最後ですが外伝の大人の私をよろしくお願いしますね!」

ご愛読ありがとうございました~!


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