ニューズウィーク誌今週号の特集は、「Don’t Mess With Texas(テキサスをなめるんじゃないぞ)」だった。

政治的にますます右傾化するとともに、「唯我独尊」的に我が道を行くテキサスの自信たっぷりの様子を紹介していたが、同州の右傾化を象徴するのが来月正式決定が予定されている高校教科書改訂だ。

新教科書では、米国(特に資本主義)の優位とともに、アメリカは「キリスト教の精神」の下に建国された「史実」が強調されることになるというのだが、その一方で、建国時にトマス・ジャファーソンが史上初めて政治と宗教を分離した本当に偉大な業績は教科書からカットされることになってしまった。

と、テキサスの例を挙げたが、最近、米国では、テキサス以外でも右傾化の傾向が強まり、保守派の声がとりわけ大きくなっている。

その最たる物が、全米を席巻する「Tea Party」運動(独立戦争のきっかけとなった「ボストン茶会事件」にひっかけて「小さな政府(税の少ない政府)」をめざす運動)である。支持率わずか20%程度にしか過ぎない運動であるのに、声の大きさと主張の過激さでメディアに報道される機会が多く、まるで、米国世論の「主流」であるかのような扱いさえ受けている。

彼らの主張をもっとも端的に要約する言葉は、レーガンが言った「Government is the problem(政府こそが問題)」だろうが、政策的には、社会保障削減・規制緩和・民営化推進の「三点セット」がその中心となる。

読者の多くは、「この三点セットは小泉政権以降の日本と同じだ」とお気づきになられただろうが、日米とも、保守派の基本的思想は「政府は余計なことをせず、何事も市場原理に委ねればすべてがうまく行く」(いわゆる「新自由主義」)ということにある。そして、上記「三点セット」は、新自由主義の根幹を為す政策セットなので、日米の政策が同一となることに何の不思議もないのである(小泉政権下で、新自由主義の政策が推進されたのは「米国が強い圧力をかけたから」とする説を唱える向きが多いが、日本にも、財界を中心として新自由主義を自ら積極的に推進する勢力があることを忘れてはならない)。

ただ、米国保守派の場合、新自由主義に、米国優位主義・白人優位主義・キリスト教優位主義が加わるので、結果として「外国人・有色人種・異教徒を排斥する」という恐ろしい味付けが加わることとなる。

たとえば、423日、アリゾナ州で「移民法」が成立したが、警察官が「違法移民の疑いあり」と主観的に判断しただけで、身分証明書の呈示を求めたり、尋問したりすることができるようになった。しかし、現実問題として、外見だけで違法移民であるかどうかを判断しようとしたら、肌の色・髪の色に基づかざるを得ない。メキシコに隣接するアリゾナで違法移民の疑いをかけられ、取り締まりの対象となるのが、ヒスパニック系の住民となるのは火を見るよりも明らかなのである。

というわけで、同法は「人種差別を助長するだけでなく、違憲の疑いがある」と厳しく批判されているのだが、保守派の政治家にとっては、世論に逆らって正論に与すると選挙で落とされてしまう危険があるので、「違憲の疑いがある」とはわかっていても支持せざるを得ない。これまで、違法移民に対して同情的な立場をとってきたジョン・マケイン(アリゾナ選出上院議員、2008年の共和党大統領候補)でさえも、自分の選挙が危ないので、今回の移民法に賛成したほどなのである。

今年秋には中間選挙を控え、保守派の政治家にとって、民主党・オバマ政権と妥協・協力した途端に「裏切り者」扱いされて予備選(党の候補となるための選挙)で落とされる危険があるので、おいそれと妥協できない状況ができあがってしまっているのである。

かくして、左右対立が前例がないほど激化した結果、重要法案の議会通過が著しく滞る等、米国では政治が「麻痺」する状況となってしまった。こういった事態を根本的に解決する方策として、リベラル派の一部で「過激な案」が提案されているので以下に紹介しよう。

この案が初めて唱えられたのは、2004年の大統領選挙の直後だったが、まず、同大統領選の州別投票結果を見ていただこう。米国では民主党支持の(リベラルな)州は「青い州」、共和党支持の(保守的な)州は「赤い州」と色分けする伝統があるが、青と赤の地理的分布に注目していただきたい(サムネイルをクリックすると地図が拡大されます)。 

2004年大統領選結果

ハワイを除いて、「青い州」がカナダと地続きであることがおわかりいただけるだろうか?

根本解決を目指す過激な提案の第一は、「政党支持のこの地理的分布特性を利用、米国を青・赤で二分」し、第二は、「二分した後、リベラルな『青い州』すべてを、もともとリベラルなお国柄のカナダと合併させる」ことからなる。そして、合併後新たにできる国の国名は現行の国名を二つあわせて「United States Of Canada」にしようというのである。

そして、保守的な赤い州には別の国を作っていただいて、外国人排斥・同性愛者排斥・中絶非合法化など、これまでリベラル派と政治的に揉めてきた争点については、「どうぞご自由に」と、その勝手にしてもらうのである。

ちなみに、リベラルの本質は「広い心=open-mindedness」にあると私は思っているが、その反対に、保守派(特に宗教保守)の本質は「狭量な=ケツの穴の小さい」ことにある。言ってもわからないケツの穴の小さい連中と、これ以上不毛な議論を続けても疲れるだけなのだから、「好きにしていただく」のもしかたがないと割り切ってしまうのである。

さて、赤い州が集まって「好きにしていただく」新国家の国名であるが、その住民達が信じるところをそのまま忠実に表した国名が提案されているので、これは、添付の地図を見ていただこう(サムネイルをクリックすると地図が拡大されます)。United States Of Canada と・・・

422日、姉妹サイト「李啓充 MLBコラム」を更新、「ジェイソン・ヘイワードの勝負強さ」をアップしました。なお、講演・原稿等のご依頼は本サイトのコメント機能をご利用下さい)